ヒストリア「夜会」(23)

コンコン...

「はい」

ツカツカ...カチャカチャ...ガチャ

「おい。誰かも確認せずに鍵開けんじゃねぇクリス...ヒストリア」

ヒストリア「だってそろそろ見張りの交代の時間だったから...」

ヒストリア「ジャンだって無言でノックすること無いでしょう?」

ジャン「ためしにやってみたんだよ」

ジャン「お前もエレンも狙われてんだ。もう少し危機意識持てよ」

ジャン「ほら、銃よこせよ。交代だ。とっとかわったかわった」ファーァ..アクビ。

ヒストリア「そうだね。...みんなには迷惑だよね」

ジャン「別に迷惑とかそんなんじゃねぇ。俺が言いたいのはなぁ、賊が入り込んでもしもの時は、結局最後は自分に頼るしかねぇってことだ」

ヒストリア「...」シュン

ジャン「まぁ...ミカサと兵長がいる限りは、そこら辺のヤツが何人束になろうがどうこうなるとは思ってねぇけどな」


ヒストリア「ねぇ、ジャン」

ジャン「あん?」

ヒストリア「もう少し...居ていいかな」

ジャン「はあ?」

ジャン「駄目だ。みんなに余計な誤解されると困る。部屋に戻って寝ろよ」

ヒストリア「最近さ、夜...眠れないんだよね...」

ヒストリア「邪魔しないから...窓から離れて部屋の隅に座ってるから」

ジャン「...」ウーン。

ジャン「仕方ねぇ...。クリ...ヒストリアにはいつか助けて貰った借りがあるからな。眠気が来たら部屋に戻れよ」

ヒストリア「ありがとう。ジャン」ツカツカ...ストッ

ジャン「...」ゴトッ...ストッ

ヒストリア「...」ウツムキ。

ジャン「...」マドノソトミテル。


ヒストリア「...」

ジャン「...」

ヒストリア「...」

ジャン「...なぁ」

ヒストリア「...なに?」

ジャン「この前の...食卓でのあの話...本当だよな?」

ヒストリア「ええ。本当よ」

ジャン「そ..そうか」

ジャン「かなり衝撃的な話...だったからよ。サシャですらスプーンが一瞬止まったからな」

ヒストリア「...」

ジャン「悪い。変な確認しちまって」

ヒストリア「いいの」


ヒストリア「気持ち悪いでしょ?こんなのが仲間内にいるなんて」

ヒストリア「素性を隠して別の自分を演じて...」

ヒストリア「それが原因で友達まで失って...」

ジャン「まだ失ったわけじゃねぇだろ。ユミルが死んだところでもお前は見たのか?」

ヒストリア「!...」ハッ

ヒストリア「ごめん。変なこと...言ったね」

ジャン「は?変に気をつかうんじゃねぇよ。マルコの事なら...とっくに気持ちの整理がついてる」

ジャン「だから俺はこうして自分の決めた道を進んでるんだ」

ヒストリア「...」

ジャン「それで?」

ジャン「お前はこれからどうするんだ?」

ヒストリア「わからない」

ジャン「?」

ヒストリア「自分でも何をしていいのかわからない。だって...私は実は空っぽで外側の自分だけで生きて来たから...どうすればいいのかわからない。」


ヒストリア「クリスタなら明るく前向きに生きて行けるかもしれないけど...今の私はヒストリアだから」

ジャン「何言ってんだ」

ヒストリア「え?」

ジャン「ヒストリア、お前はお前だろ?クリスタなら...とかそんなの関係ねぇだろうが。自分の意思で有りのままの自分で生きて行くって決めたんだろ?」

ジャン「コニーに聞いたが...ユミルはお前に本当に生きて欲しかったんだと思うぜ。自分の身を呈してまでお前を生かそうとしたんだからよ」

ヒストリア「...」

ヒストリア「ジャンには...わからないよ。私の気持ちなんて」

ジャン「ああ。当たり前だ。そんなもん普通に感じとれるならな、誰も苦労はしねぇよ」

ジャン「...ただな、お前も俺も、他の奴だってそうだ。自分の意思を相手に伝えたきゃそいつに対峙して話でもしなきゃわかって貰えないんだよ」

ジャン「悩んでるならはっきり言えよ。何をなやんでるのかを。そうすりゃ誰か良い案を導くヒントぐれぇくれるかもしれないだろ?」

ヒストリア「ジャン...」


ジャン「こんだけ頭数いるんだぜ?まぁコニーとサシャは例外だけどよ」ハッ

ヒストリア「それ..二人が聞いたら怒るよ」フフッ

ジャン「かもな」ハハ

ヒストリア「そう言えば、あまりジャンとは喋ったこと無かったね」

ジャン「まぁな。訓練兵時代は...ユミルがベッタリだったからなぁ。他の男どもも大抵そうなんじゃないか?」

ジャン「それに..毎日、訓練訓練でそれどころじゃなかっただろ?」

ヒストリア「そうね。こうして話が出来るのも、なんか不思議な感じだね」

ジャン「そうだな」

ジャン「卒業後からこうも修羅場続きじゃあな...生きてるのが不思議なくらいだ。命が幾つあっても足りねぇよ...」

ジャン「お互いにってとこだけどよ」


ヒストリア「ええ。...ジャンって結構喋る人なんだね」

ジャン「俺は前からこうだ。お前もそんなに心の中に自分の意見をため込んでるヤツだとは思わなかったよ」

ヒストリア「だって...あの頃は」

ジャン「あー、わかったわかった。さっき聞いたことの繰り返しになっちまう」

ヒストリア「ごめん」

ジャン「謝る事じゃねぇさ」

ヒストリア「...」シュン..

ジャン「...」チラッ

ジャン「そう言えば最近元気ねぇなヒストリア」

ヒストリア「私?」

ジャン「お前だ、お前。他に誰がいるんだよ?」


ヒストリア「...」

ヒストリア「元気が無いわけじゃないの。ただ...いろんな事が頭の中をグルグル回ってるだけ」

ジャン「例えば?」

ヒストリア「例えばと言われても...表現しづらいわ。断片的というか...自分でも整理がつかないの」

ヒストリア「考えれば考えるほど断片的な部分が増えていく感じで...もう考えるのが疲れちゃった...」ハァ..

ジャン「...」

ジャン「そうか。聞いて悪かったよ」

ヒストリア「いいの。...気にしないで」

ジャン「...」

ヒストリア「...」

ジャン「...」

ヒストリア「...」

ジャン「そう言えばよ...」
ヒストリア「あのさ...」


ジャン「なんだ?先に言えよ」

ヒストリア「ジャンこそ先に言ってよ」

ジャン「...」

ヒストリア「...」

ジャン「じゃあ俺から」
ヒストリア「私から」

ジャン「あのなぁ...人が譲ってやってんだ。素直に最初から喋りやがれ」

ヒストリア「でも、一回は相手に返すのが礼儀でしょう?」

ジャン「ハッ...バカばかしい。」ハハ

ヒストリア「...本当ね」フフッ

ジャン「それでいいんじゃねぇか?」

ヒストリア「何が?」

ジャン「こんな状況下でこんなこと言ってんのもどうかしてると思うが」

ジャン「...もう少し肩の力抜いて過ごしてもいいんじゃねぇかと思ってよ。」


ジャン「そのほうがヒストリアらしい部分が増えて、頭ん中もその内整理がつくだろうと思ったんだよ」

ヒストリア「...」

ヒストリア「気持ち悪いよ...それ」

ジャン「なっ!?...お前なんて事言いやがる!人がせっかく心配してやってるのにその言い方はねぇだろうが!」ガタッ!!クルッ

ジャン「大体なんだよ!そんなことぐれぇで隠れてウジウジ悩みやがって!そんなんだからいつまでも心の整理がつかねぇまんまなんだろうが!てめぇで決めた事ぐれぇてめぇでカタつけやがれ!!」ハァ...ハァ...

ヒストリア「フフッ」クスクス

ジャン「何笑ってやがる」イラッ

ヒストリア「今のは冗談。...そっちの方がジャンらしいよ」クスクス

ジャン「...」


ヒストリア「ごめんねジャン。私がここに居るから心配してくれてるんでしょう?無理に言葉を探してるのがわかっちゃったから...」

ジャン「べ..別に俺は...」

ヒストリア「ありがとう。ジャン」

ヒストリア「なんだか少し楽になった気がする」スクッ

スタスタ...

ヒストリア「おやすみなさい。見張りがんばってね」ガチャ...

ジャン「...ああ」

ジャン「な、なぁ…さっきは何を喋ろうとしたんだ?」

ヒストリア「それはまた今度話しようよ。ジャンが言いたかった事も聞かせてね」フフッ

ジャン「ああ。わかったよ。ついでに別の話題でも考えとくさ」

ヒストリア「じゃあまたね」

ジャン「あ...ああ。またな」

ギィ...バタン。...ツカツカ


ストッ...

ジャン「またか...」ボソ

ジャン「またがあるといいが...」ボソ

ジャン「しまったな...さっきのあれ、謝るの忘れちまった」ボソボソ

ジャン「明日にでも謝っとくか...」ボソ


ジャン「...」

ジャン「...」

ジャン「それにしても...」ボソ

ジャン「やっぱ...可愛いよな」ボソ

ジャン「同期の連中が聞いたら...死ぬほど羨ましがるだろうな...」ボソボソ

ジャン「...」

ジャン「......//」

ジャン「//!...いかん!」ハッ...ガタッ!!

ジャン「俺にはミカサが...」

ジャン「そんなことより見張りだ!見張り!...」






ーおしまいー

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