□
どこで道を間違ってしまったのだろうか…。
おれは四つん這いで尻を野郎に向けながら自問した。
野郎の呼吸は荒く、酷く興奮してることを伺える。
その下卑た顔に生理的嫌悪を覚えるが…もう慣れたものである。
その嫌悪感をおくびにも出さず、おれはニコリと笑って尻を振り、誘う。
そして野郎の理性が切れたのか、それともやはりあっちも演技なのか…。おれの尻を乱暴に掴み、準備を整えている。
野郎の逸物は既に離陸体制。恐らく次の瞬間、おれは飛んでしまうのだろう…。
高校を卒業して、三年が経過。長野を離れ上京したおれは今。
ーー女性向けAVに出演していた。
男優「うぉおおおおおおお!!!」パンパン
京太郎「んっほおおおおお!!!」パンパン
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■
「お疲れさまでした!」
「お疲れさまっす!」
「また今度も頼むよ!君はなかなか映えるからな!」
京太郎「うっす」
数時間の撮影が終わった後、形式的な挨拶を終え解散となった。
さっきまで俺と相手をしていた男優も気さくな方で話して見れば善い人だった。
こういう撮影後のみんなの雰囲気は嫌いじゃない…むしろ好きだ。
やはり皆プロなのである。俺みたいな歴の浅い素人当然の男にも分け隔てなく接してくれている。
京太郎「…遅いな、マネージャー」
ふと時計に目をやると既に深夜。
撮影の後はマネージャーがいつも送ってくれるのだが…珍しい今日は遅い。
撮影後は酷く疲れるので、早く家に帰宅してボラギノールを塗って寝たいのだけど…。
「すみません。遅くなりましたね、須賀くん」
後ろから丁重な、それでいてはっきりした強い声が聞こえた。ーーマネージャーだ。
京太郎「もう…遅いですよ。ハギヨシさん」
ハギヨシ「ふふ、すいません。今日は少し立て込んでしまって」
京太郎「? もしかして忙しかったんですか? なら連絡さえくれれば今日はタクシーで帰ってたのに…」
ハギヨシ「気にしないでください。男優のアフターケアもマネージャーの仕事です」
柔らかい笑みを浮かべながら、ポケットから何か取り出し、俺に渡してきた。
ーーボラギノールである。
ハギヨシ「さて、それでは車を回してきますので。そこで」
はい、と頷く前にハギヨシは颯爽去っていった。
このやり取りも慣れたものである。そろそろ半年ほどになっただろうか…。
京太郎「半年…か」
三年前の自分に、今の自分の姿を見せたらどうおもうのだろう。
そして、彼女にもーー。
京太郎「やめよう…。もう済んだことだしな!」
□
京太郎「……」
ハギヨシ「……」
車内は無言で包まれ、聞こえてくるのはエンジン音と夜の街の雑音のみ。
今日は何故かよく昔のことを思い出す。柄にも無くセンチな気分に浸ってしまった。
ハギヨシさんもそんな俺の雰囲気を察してか言葉は少なめである。
ただ、この沈黙は気まずいものではないので気楽になれる。
ハギヨシ「ーー明日。」
京太郎「……?」
ハギヨシ「須賀くんに会わせたい人がいるのですが」
京太郎「…新人さんですか?」
ハギヨシ「新人…ではありませんね。別の事務所からこっちに来た子ですね。毛色が少し違いますが上から、これも経験だ。と押し付けられてしまい…その子の担当になってしまいました。ーーあ、別に君の担当から外れたわけではないのでご安心を」
京太郎「はは、それは安心っすね!」
軽口を叩きながら、笑い合う。
実際気心知れたハギヨシさんが担当から外れてしまうと、正直困るのだ。
京太郎「…今日は、よく昔のことを思い出すんですよ」
ハギヨシ「そういう日もありますよ」
ふふ、と横顔が笑ってみえた。
たしかにハギヨシさんの言うとおりそういう日もあるのだろう。
おれは瞼を閉じて、ゆっくり思い出してみた。ーー昔のことを
□三年前□
「別れよっか? 京ちゃん」
高校卒業の日、恋人にそう告げられた。
おれは笑みを浮かべながらそう告げて、去って行く彼女を追えなかった。
呆然とただ立ち尽くして、見送るしか出来なかった。
「ーーやっぱり、追ってきてくれないんだね?京ちゃん」
そんな言葉が聞こえた気がするが、よく覚えていない。
彼女を、咲を追えなかった理由はなんなのか。
大学受験に失敗した自分。プロの道を歩み始めた彼女。
麻雀の弱い自分。麻雀の強い彼女。
努力をしなかった自分。努力をした彼女。
彼女が、おれに黙って誰かと夜に会っていたことを知りながら
何も行動せず、ただ受け入れてた自分が…酷く醜かった。
だからなのか。咲と一緒にいることが苦痛になってしまったのは。
咲に別れを告げられたとき、安堵してしまったのは。
それから、おれは逃げるようにして長野を出た。
思い出は全て故郷に置いて、全てを忘れる為に…。
「そこの君、ちょっといいかな?」
昼間の公園で声を掛けられたのは、上京して数ヶ月経ったある日のこと。
上京すればなんとかなる。と、ほぼ無計画のまま飛び出したのが仇となった。
バイト先で小さな諍いを起こし、居づらくなったおれは自分から辞めて新たにバイトを探す。いくつかの面接経て届くのは不採用通告。ーー今思えばやる気がなかったのかもしれない。
「わたしは、こういう者なんだが話でもどうだろうか?」
渡された名刺には、覚えのない事務所名と名前のみ。
なんのことやらさっぱりわからない上、あからさまに怪しいスカウトに訝しむも「稼ぎたくないかい?無論法には触れない。お小遣い感覚で得られる」
この言葉に揺れてしまい、話を聞くことになった。
実際今の現状はまずかった。家賃を払える目処も立ってないこの状態。
半ば藁にも縋るような。いや、やけっぱちだったのだろうか。
近場の喫茶店で、話し合うことに。
そこでAV関連の事務所と聞き、流石に忌避感が出始めた。
はじめは撮影程度…が、今の時代はカラミも必要なのでその辺は覚悟してほしい。
と、真顔で言われ。悩みに悩み抜いたのを覚えている。
とりあえず事務所の住所とスカウトの人の連絡先で教えてもらいその日は解散。
彼が言うには、AV男優は女優に比べて雀の涙以下程度のお給金とのこと。
その為、数をこなす必要があるらしい。まあエロい思いも出来てお金も貰えるというのは一般人からすれば理想なのかもしれないが実際はそれほど甘くないらしい。
金に困窮してる自分は正直汁男優などやってチマチマ小金を得ている場合ではない。
それならば普通にバイトを探したほうが賢明である。
だけど、男の俺が取れる選択肢がもう一つ。ーーホモ男優である。
三日三晩悩みに悩み抜いた結果。
俺の足はある事務所へと向かっていた。
「いらっしゃい」
ここから全ては始まった。
□
ハギヨシ「須賀くん、須賀くん」
京太郎「んん…。あ、おれ寝てましたか?」
ハギヨシ「はい、それはもうぐっすりと」
窓を覗くと自宅のアパートが。
どうやら回想中に眠ってしまったらしい。
ハギヨシ「歩けますか?」
京太郎「…昔の夢を見てました」
そうですか、と微笑みながら答えるハギヨシさん。
京太郎「事務所に入った時のことですね…。担当者を紹介された時は心臓が飛び出るかと思いましたよ!」
ハギヨシ「懐かしいですね。あの時は正直わたしも内心ではパニックでしたよ?」
京太郎「マジですか!?ピクリとも表情が動いてなくて事務的に説明始めた時は無視されてるのかと…」
ハギヨシ「個人的に面識のある、ということを事務所には知られたくなかったんですよ。変に勘繰られると厄介ですしね」
なるほど、と頷きながら車から降りる。
おそらく関係を追及されるとハギヨシさん的には困ることがあるのだろう。
ハギヨシ「それではまた明日に事務所で」
そういい残し、車は音を立てて去って行った。
……寝るか
寝るか
あとこのSSはホモじゃないから
純愛だからな
□
「今日からこの事務所にお世話になる、宮永照です」
目ん玉が飛び出るかと思った。
撮影の翌日。事務所でおれを待っていたのは彼女ーー宮永照。
おれのーー元恋人の姉だ。
京太郎「…ハギヨシさん。あの、この人は…」
ハギヨシ「須賀くんとある意味同じ特色。主にレズAVでの出演が多いですね」
照「……」ジッ
おれの声を半ば無視しながらも、紹介を続ける。
「察せ」「ここでは言及するな」と、言われてるようで黙るしかなかった。
おれのパニック気味の内心とは真逆に。
宮永照は、ずっとおれのことを冷めたと言ってもいいほど冷静な目で見つめていた。
ハギヨシ「今日から二人の担当になります、事務所も同じなので必然的にお二人も顔を合わせる機会があると思いますので仲良くおねがいしますね?」
ニコっ、と笑った後にハギヨシさんはつぎの説明に入った。
そこから先は正直覚えていない。
おれもずっと対面に座る宮永照を見つめるしかなかったから。
■
照「久しぶりだね。須賀君」
京太郎「…はい。三年以上会ってませんでしたから」
照「…というか、こうしてまともに話すのは片手で数えられるくらい」
京太郎「ははっ。たまに咲の家でバッティンクした時にしか話しませんでしたし!」
照「…別に避けてたわけじゃないよ?むしろ君が私を避けてたように見えてーー」
京太郎「さて、世間話はこの辺にしてっと!」
逃げた…。と、呟くのが聞こえたが気にしない。
事務所の応接室で交友を深めるという意味で、彼女と話す機会を得た。
ハギヨシさんなりに気を利かせたのだろう。
あの人には、おれと咲の関係を話しているから。
まったく、お人好しな人だな。ホント。
せっかくの機会なので、ずっと気になってたことを聞かせてもらおう。
京太郎「……咲は、元気ですか?」
照「ーー本気で聞いてるの?」
冷えた声が、聞こえた。
ーー地雷だったか。これは下半身が吹き飛ぶな。
咲と照さんは全国決勝後に和解?してるはず。
詳しくは知らないが、少なく咲とは良好な関係。
可愛い妹と別れた男が今更どのツラ下げて、とでも思われてーー
照「ニュース見てないの? 若手雀士が日本代表に選ばれたって騒がれてるのに」
京太郎「……え?」
照「連日うんざりするくらい咲のことを取り上げられてるよ…」
京太郎「に、日本代表!?」
照「うん」
思わず声を上げてしまったおれを、呆れたような顔で見てくる。
だがそんなものに構ってる余裕はおれにはない。
ーー日本代表。プロに進んだのは聞いているが、もうそこまで。
京太郎「……ーー」
おれは、なにをやっているんだろうか。
元恋人が、麻雀界を背負っての日本代表入り。
おれはバイトを掛け持ちしながらのAV出演。
彼女とはもう縁がないので、比べること自体おこがましいのかもしれないが。
やっぱり……キツイな。
照「……」
あれ? でも何でこの人はおれと同じくここにいるんだろう。
照さんの麻雀の腕は咲にだって決して劣るものではなかったはず。
というか宮永照といえば、プロの道へ。
というイメージが強すぎて……。
京太郎「……」
照「……」
……なんとなく無言になってしまった。非常に気まずい。
京太郎「いい天気、ですね」
照「うん」
京太郎「お腹、すきません?」
照「別に」
だから?、と言わんばかりに即答される。
彼女のここにくるまでの経歴は確かに気になる。
だがそこまで深く突っ込んだ質問はとてもできそうにない。
おれだってその手のことは聞かれたくないんだから。
京太郎「……」
照「…咲とは」
京太郎「え?」
照「咲とは、もう何年も会ってないよ。ここにいる理由は、咲とは関係ないから」
京太郎「そう、ですか」
正直安堵した
なんとなくだが、この人からおれの現状が咲へと伝わることはなさそうだと。
照「なんで別れたの?」
次はこっちの番、と言わんばかりに質問された。
京太郎「…音楽性のちがい、ですかね?」
照「次ふざけたら叩くよ?」ニコ
目が笑っていない、怖すぎである。というか正直ぶるってしまった!
なにか右手から威圧感を感じるあたりガチな気がする…。
京太郎「…正直、わかんないです」
照「わからない…?」
京太郎「振られたのはおれのほうなんで。もしかしたら咲はおれ以外に好きな人が出来たのかも。それとも…」
単純に、おれのことが嫌いになったのかもしれない。
その言葉が何故か出なかった。
照「…咲はね」
京太郎「……」
照「君と別れた後、しばらく泣いてた」
京太郎「…はい」
照「君のことがホントに嫌いなら、泣かないとおもうから…」
それだけ、と呟いて立ち上がった。
照「…あと。わたしがこんかこと言ってたのは内緒だからね?」
京太郎「…はい、二人の内緒です」
くすっ、最後に微笑んで照さんは出て行った。
あの内緒、という言葉にはいろんな意味を含んでたのを察してくれたのかな。
京太郎「…帰って、寝るか」
今日は、少しだけいい夢が見れそうだ。
横線は―のが良いんじゃ
>>47なるほど
一旦おわりどす
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