真美「亜美、あのね」 (58)


ピッ… ピッ…

真美「おはよ、亜美」

亜美「……」

真美「駐車場ににいちゃんがいるんだけど、仕事の電話で来られないって」

亜美「……」

真美「まあ、亜美も疲れてるだろうから、短めにね」

亜美「……」


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真美「んっふっふ〜、実は! 千早お姉ちゃんのソロライブが決まったんだよ!」

亜美「……」

真美「すごいよね! しかもね、ツアーライブなんだって!」

亜美「……」

真美「真美、東京公演観に行こうかなって思ってるんだけど……亜美も来る?」

亜美「……」

真美「まあ、目が覚めたら」


真美「後は……この間、みんな話しちゃったからなぁ」

亜美「……」

真美「ねー、亜美」

亜美「……」

真美「また一緒にゲームできるよね?」

亜美「……」


真美「またにいちゃんにイタズラできるよね」

亜美「……」

真美「また……手、繋げるよね」ギュッ

亜美「……」

真美「…………よし。じゃあ、また来るよ。亜美」

亜美「……」

真美「次に真美が来るときまでに、起きてなきゃ許さないかんね!」

バタン


 なーんか。
 毎回言ってるなぁ。次に起きてなきゃ許さないって。
 プリン8個分ぐらいは許してない気がするよ。

真美「……」スタスタ

P「おーい、真美」

真美「あれ、にいちゃん」

P「亜美はどうだった?」

真美「顔色は良かったよ?」

P「そっか」

 にいちゃんが迎えに来てくれた。
 病院の廊下を並んで歩く。


P「なあ、真美」

真美「うん?」

 駐車場で、にいちゃんが車の鍵を開ける。
 助手席に乗り込んだ。

P「亜美の病気について調べてみたんだけどさ」

真美「うん」

P「結構、いきなり起きたりするみたいだぞ」

真美「そうなの?」

P「ああ。だから、心配しなくていい」


真美「まぁ、こうなるのもいきなりだったからね」

P「あの日って、朝はなんとも無かったんだろ?」

真美「うん」

P「……悪いな、思い出させて」

真美「いいの。思い出さないと、亜美がフツーにいるって勘違いしちゃうから」

P「…………」

真美「事務所に戻るんだよね?」

P「ああ。今日はもう帰れるぞ」


真美「……事務所には泊まれない、よね」

P「そうだな……」

真美「ほら、ママとパパは病院が忙しいしさ」

P「うん」

真美「今まではそれでも平気だったけど、亜美がいないし」

P「……」

真美「家に帰ると、寂しくなっちゃって」


 見覚えのある道だと思ったら、765プロの道だった。

P「俺ん家に入れるわけにもいかないしな……」

真美「大丈夫、帰れるからさ」

P「そうか」

真美「うん」

 ……車が停まる。

P「駐車場に停めてくるから、ここで降りてくれ」

真美「分かった」

P「そのまま帰ってもいいぞ」

真美「ううん、事務所に入るよ」

P「そっか、分かった」


「私と伊織ちゃんで、ジュースを買いに楽屋を出たんです」

「戻ってくると、亜美ちゃんが眠っていて。亜美ちゃんの真横のテーブルにコーラを置いたんです」

「それでも、しばらく起きなくて。テレビ局を出る時間になって」

「律子さんが帰ってきても、亜美ちゃんが起きなくて……」

「おかしいな、って思ったのが遅れちゃって」

「揺すっても、伊織ちゃんが叩いても、動かなくて。おかしいな……って」

「律子さんと伊織ちゃんが真っ青な顔で亜美ちゃんに呼びかけたり、局の人を呼ぶのを、見ることしかできなくて」


 あずさお姉ちゃんがにいちゃんにした説明の言葉が、パッと頭の中に響く。
 階段を駆け足で登って、ドアを開けた。

真美「ただいまー」

小鳥「おかえりなさい、真美ちゃん」

春香「おかえり、真美」

 ソファに座った。

春香「亜美はどうだったの?」

真美「ん? 良い感じに寝てたよ」

春香「そう……」


伊織「ただいま」

小鳥「あっ、おかえりなさい、伊織ちゃん」

伊織「あれ、律子とあずさはまだ帰ってきてないの?」

春香「どうしたの?」

伊織「私、先に車を降りたのよ。律子とあずさが駐車場に行って」

真美「なら、にいちゃんと話してるんじゃないかな」

伊織「アイツも駐車場にいるの? そう……」

 いおりんがソファへと歩いてくる。真美の隣に座って、溜息。


真美「ねえ、いおりん」

伊織「なに?」

真美「竜宮の活動は今やってないんだよね?」

伊織「そうね。あくまでも私とあずさのコンビとして」

春香「竜宮の名前は使ってないんだ」

伊織「ええ。亜美がいなきゃ、竜宮小町じゃないもの」


真美「亜美のかわりに、真美がやるってのはどうかな。竜宮小町の仕事」

伊織「体をなしても、それじゃあ私とあずさと真美よ」

真美「……そうだよね」

伊織「アンタだって、仕事が忙しいじゃないの」

真美「……うん」

春香「真美……大丈夫?」

真美「だ、大丈夫だよ、へいき」

春香「そう……?」


春香「なんだか、今日は特に落ち込んでるな……って」

真美「そ、そうかな」

伊織「……来週の誕生日に、間に合うかってこと?」

真美「…………」

伊織「なに辛気臭い顔してるのよ、7日もあれば絶対に亜美は目を覚ますわ」

春香「そ、そうだよ! いつもみたいに、賑やかにしてくれるよ!」

真美「でも、もう5日もあんな状態だし……」


 明日の夜頃、投下できるかなと思います。
 お読みいただき、ありがとうございます。


 はるるんが手をつないでくれる。
 しっかりと力が入っている、温かい手。

 亜美の手もこれぐらい、あったかいのに。
 今は全然だよ。

ブーッ ブーッ

伊織「春香、電話」

春香「えっ? あっ、あわわっ」

 スマホを取り出して、電話を耳に当てる。

春香「もしもし? ……千早ちゃん?」


春香「えっ? うん、わかった。……真美、千早ちゃんがかわってって」

真美「う、うん」

 スマホを渡された。

真美「も、もしもし?」

『もしもし。ねえ、真美』

真美「なあに?」

『今日、うちに泊まっていかない? 春香も一緒なのだけれど』

真美「えっ? いいの?」


『最近、水瀬さんの家に泊まっているのでしょう?』

真美「そうだね……」

『明日、お休みが取れたのよ』

真美「オフ?」

『ええ。だから、春香を送った後、ふたりで過ごさない?』

真美「明日は、真美もお仕事ないけど……」

『どうかしら?』


真美「じゃあ、おコトバに甘えて……」

『ありがとう。それじゃあ、今から急いで事務所に戻るわね』

真美「うん、ありがと」

『じゃあね』

 電話が切れた。スマホをはるるんに渡して、なんとなく天井を見る。

伊織「千早の家に泊まるの?」

真美「そうなった」

春香「それじゃあ、今日は3人だねっ」

伊織「いいわねぇ、仕事がなかったら私も参加したいけど」

 はるるんが真美に抱きついてくるその温かさが優しくて、辛かった。


 千早お姉ちゃんがお皿を洗うその音が聞こえている。
 あの後、はるるんと3人でカレーを食べて、テレビを見て……。とっても楽しくて、そして辛かった。

 だって、分かっちゃうんだもん。気を遣ってくれている、って。
 はるるん、疲れて寝ちゃったし。それぐらい気を遣わせちゃったんだろうな。

千早「……真美も寝ていいのよ?」

真美「え?」

千早「私ももうすぐ寝るから」

真美「……うん」

千早「……なにかあるの?」


真美「いや、なんとなくだけど……」

千早「ん?」

 千早お姉ちゃんが、キッチンからリビングにやってくる。

真美「寝るの、怖くて」

千早「怖いの?」

真美「うん。……ほら、亜美も寝たまま……でしょ? だから、もう戻ってこれないんじゃないかってさ」

千早「……そんなことないわ、亜美だって絶対に目を覚ます」

真美「だけど」


 携帯が鳴った。画面をタッチすると、

真美「パパ?」

千早「……」

真美「もしもし」

『もしもし、真美! 急いで病院に来なさい』

真美「え?」

『時間がない、早く!』

真美「な、なにが——」

『亜美が危ないんだ!』

真美「……う、うそ」


『タクシーで来るんだ!』

真美「——」

『ま、真美? 真美っ』

真美「……」

千早「ど、どうしたの?」

真美「あ、亜美が」

千早「……まさか」

真美「はやく、いかないと」

千早「待って、真美。いまタクシーを呼ぶから」


真美「え……」

千早「こういう時は、落ち着かないと。私はタクシーを呼ぶから、あなたはプロデューサーに」

真美「あ、う、うん」

『真美?』

真美「あ……急いで行くよ」

 電話を切って、にいちゃんを電話帳で探した。

 千早お姉ちゃんがタクシー会社の番号を調べて、電話をかけている。
 その音で、はるるんが起きたようだった。

 結局真美達は、3人で病院に向かった。


 病室にはにいちゃんとりっちゃんとピヨちゃんが居た。
 社長さんもすぐに来ると教えてくれた。

亜美「……」

真美「ねえ、亜美」

亜美「……」

真美「返事してよぉ……」

亜美「……」

真美「なんで……」

 亜美は酸素マスクをつけて眠っている。
 規則的に胸が上下に動いている。亜美の手をつないで、目線が定まらない。


 お医者さんがベッドの横で、険しい顔をして亜美を見ている。

真美「お、お医者さん……お願い、亜美をたすけて」

P「真美……」

真美「にいちゃん、亜美をたすけてよ」

P「……っ」

真美「りっちゃん、ピヨちゃん……お願いだよ」

小鳥「……」

律子「っ……」


千早「真美……」

真美「千早お姉ちゃん……はるるん……」

春香「私だって……助けられるなら、助けたいよ……っ」

 規則的に響く機械の音が、ゆっくりのテンポに変わった。

真美「——っ!」

 お医者さんが亜美の周りの機械をいじっている。

春香「やだ……見たくないよ……っ」

P「……どうして……!」


真美「亜美、亜美っ!」

 亜美の手を握り直して、大声で呼びかける。
 お願いだよ、起きてよ。

 亜美がいなくなったら、真美はひとりっきりなんだよ?

 あのね、亜美。
 真美は左利きで、亜美は右利きだよね。
 二人で一つだから、そうなんだよ、って。言ってくれたよね。

真美「亜美……っ」

 —— キッ……ン

真美「っ……?」

 耳鳴りがする。


 —— キーッ……ン

真美「……っ……」

律子「真美?」

 —— キー……ン

小鳥「真美ちゃん?」

真美「あっ……」

 頭が殴られたみたいに痛くて、変な音がする。
 病室の床に倒れ込んだ。

「真美っ!」

「真美、どうしたの!?」

「お願い、亜美……2人とも、また元気で笑ってよ……」

 目の前がだんだんと見えなくなっていって。


 —— まみ ——

 さいご、あみのこえがきこえたきがした。

 あみだよね。


 もどっておいでよ。


真美「……!」

 目が覚めると、そこは見覚えのある場所だった。
 二段ベッド。勉強机。使わなくなったランドセル。制服。

 そして、真美が寝ているこの硬い床。
 そこは、亜美と真美の部屋だ。

真美「……あれ…………?」

 病院にいたのに。
 最近帰っていなかったその部屋は、どこか自室でないような気がした。

真美「あ……み……?」

 二段ベッドの下段を覗く。
 すうすうと眠っている亜美が、そこにいた。

真美「亜美っ!」

 気がつけば、思い切り亜美の身体を揺らしていた。


亜美「ん……」

真美「!」

 亜美が目を開ける。
 なんだか、それがとっても懐かしくて。

亜美「……真美」

真美「亜美、おはよう! おはようっ……!」

 泣いちゃったよ、亜美。
 やっと目を覚ましたんだもん。

亜美「……ごめんね」

真美「え……?」

亜美「真美まで、連れて来ちゃったのかな」


真美「連れてきた、って……」

亜美「…………亜美が目覚めたわけじゃなくてさ」

真美「……」

 部屋を見回す。壁掛け時計の下部には、日付がデジタルで表示されているはず。

真美「なに、これ……」

 エラーを表すであろう、Eの文字に埋め尽くされている。
 時計の針は、10時50分で止まっている。

真美「10時50分……」

亜美「もう、その時計は動かないよ」


真美「……まさか」

 ポケットの中のスマホを見る。
 着信履歴。

 パパからの電話は、10時13分。

真美「あみとまみ……しんじゃったの?」

亜美「……」

真美「うそ……うそだよ」

亜美「……」

真美「なんで」

亜美「だいじょーぶ」


真美「へ……?」

 大丈夫、ってさっき千早お姉ちゃんにも言われた。

亜美「亜美、このセカイのこと……ちょっと知ってるから」

真美「知ってる、って……」

亜美「だよね、お姫ちん」

真美「……え?」

 振り返ると、ドアのところに立っていたのは。

「その”お姫ちん”とは別人ですが……」

真美「お姫ちん……」

亜美「の、そっくりさん。このセカイの人なんだってサ」

 亜美がおどけて言う。


 お姫ちんのそっくりさんは説明をする。

「双海亜美は、自らの意思でこのセカイへとやってきたのです」

真美「え?」

亜美「……」

「その理由は、わたくしにも分かりません」

真美「……どうして?」

亜美「…………亜美も、わかんないよ」

「そして双海真美は、なぜだかこのセカイにやってきてしまった」

真美「亜美と真美は死んじゃった、ってことなの?」

「生と死の間です。貴方達の時計は止まってしまっていますが、また動かすことも出来る」


真美「ちょ、ちょっと待ってよ……何が何だか」

亜美「……」

「時計を動かすには、時計が止まった理由を解明しなければなりません」

真美「ね、ねえお姫ちん……止まった理由って?」

「亜美がセカイへやってきた理由です」

亜美「……わかんないよ」

真美「どうして起きないか、ってこと?」

「はい、そうです」

 お姫ちん……のそっくりさんは、手前にある真美の勉強机の椅子に座った。


真美「亜美……」

亜美「ずーっと考えてるんだ、ここで」

真美「え?」

亜美「なんで亜美、ここに来ちゃったんだろって」

「時計が動けば、貴方達は元のセカイへと戻ることができます」

真美「それは、亜美も真美も……2人で、戻れるんだよね」

「はい」

 


 そっくりさんが笑う。その笑みは、お姫ちんとは似ても似つかない。
 ……どっちかって言うと、ミキミキみたいな…………。

 お姫ちんの姿がぐにゃりと歪んで、光った。
 強い光に目を細めて、再び見直すと、

「……ここは、悲しいことを受け入れられなくなったヒトが、自分を見つめなおすために来る場所なの」

真美「……み、ミキミキ」

 ミキミキになっている。

亜美「お、お姫ちんは?」

「…………あれ? なんだか、変わっちゃったね。この人のこと、考えたの?」

 頷く。

「それじゃあ、多分ソレだね。ミキ、イメージに強く影響されるから」


「ねえ、亜美。悲しいこと、なかったの?」

亜美「悲しいこと……?」

真美「あの日のこと、思い出せる?」

亜美「えーっと……朝、真美とトースト食べて、家を出て」

 亜美がベッドに寄りかかって、考えている。

亜美「竜宮の仕事に行って、それで…………あれ?」

真美「え?」

亜美「りっちゃんが……」

真美「り、りっちゃんがどうしたの?」


亜美「——そっか」

 亜美の声が震えだして、涙を流す。

真美「あ、亜美っ」

亜美「……んしょ……ごめん」

真美「何があったのっ」

亜美「……亜美たち…………オーディションに、落ちちゃったんだ」

真美「……え?」

「それが、亜美の悲しいことなの?」

亜美「……うん」


亜美「竜宮のみんなで、絶対やりたい仕事だって頑張ってさ」

真美「……」

亜美「でも……収録が終わった後、りっちゃんが言ってきて……」

「…………それで?」

亜美「あ、うん……亜美、ボロボロ泣いちゃって……あずさお姉ちゃんといおりんが、ジュースを買いに行ったんだ」

「……その時かな」

亜美「……それで、気づいたらここにいた」

真美「……」

 亜美、きっと本気でそのお仕事、したかったんだ。
 でもそれが叶わなくて……そうして、このセカイに。


「それじゃあ——」

 ミキミキが光る。その眩しさが収まった時、そこにはひびきんが居た。

「——亜美、整理しよう」

亜美「……」

「亜美がやりたかった仕事は、出来なかったかもしれないけど」

真美「……」

「それでも、こんなとこに来ちゃダメだぞ。ここは、亜美たちみたいに未来が明るいヒトが来るところじゃない」

亜美「……でも」

「亜美はきっとすぐに目を覚まして、アイドルとして頑張るんだ。真美も同じ」

真美「……」


亜美「……分かった」

「よし、頑張れよ」

 ひびきんが亜美の頭を撫でる。

亜美「亜美、がんばる」

真美「ねえ、亜美」

亜美「ん?」

真美「もうすぐ真美たち、誕生日なんだよ」

亜美「……あっ」


「忘れてたの?」

亜美「……うん」

 真美は亜美の手をとって、

真美「年に一回だけなんだから、いっぱいお祝いしてもらおうよ」

亜美「……」

真美「ね?」

亜美「……うん」

真美「よーし、ひびきん! 後はよろしくね」

「分かった! もう、こんなとこに来るんじゃないぞ?」


亜美「……あっ、ねえ、ひびきん?」

「うん? 自分は”ひびきん”じゃないけど……なに?」

亜美「聞いてもいいかな」

「……?」

亜美「ひびきんは、誰なの?」

「…………そうだな、言葉に例えるとしたら」

 
 —— キッ……ン

 また、耳鳴り。

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