兎角「悪魔trick」 (690)

ミョウジョウ学園
 10年黒組・教室


溝呂木「よーしみんな、今日の生物の授業はDVDを見ながら勉強するぞー」

晴「晴、でっかいスクリーンでビデオ見るの初めてです!」ワクワク

兎角「そうか」

溝呂木「……あれっ」

晴「先生、どうしたんですか?」

溝呂木「授業に使う資料を職員室に置いてきてしまったみたいだ…」

溝呂木「ちょっと取ってくるからみんなは先にDVDを見ててくれ!」ダッ

伊介「ラッキー、今のうちに寝ちゃおうっと♥」ゴロン

春紀「伊介様、まーたサボりかよ」

香子「おい犬飼、寒河江、真面目に見ろ」

晴「あっ、はじまるみたい」ワクワク

画面『明日から高校生かぁ…私、ちゃんと友達できるかなぁ』

兎角「……ん?」

鳰「アニメ?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399984093

柩「アニメですね」

千足「アニメだな」

純恋子「アニメでお勉強だなんて…先生は私達を少し子供扱いしすぎなのではなくて?」

伊介「なーにこれ、つまんなそーう♥」

涼「香子ちゃん、このアニメの子達も高校生らしいぞ!おそろいじゃのう」

香子「…高校生向けの教材?なのか?」

鳰「それにしちゃーちょーっと絵柄が萌え~な感じっぽすぎる気がするッスけどねえぇ」

乙哉「『桜trick』だって、これって生物のDVDなの?」

しえな「……………」

画面『キス、キス、キス!もう夢中なのー♪』

みんな「!?」ビクッ!

画面『どーきどーきーしちゃうのよー♪』

鳰「……え、何スか今の、なんかめっちゃすっごいの映った気がするんスけど」

真昼「……………あぅ」カアァ

鳰「あっれぇ…?いやでも、うちの見間違いッスかねぇ?まさかそんな…」

春紀「いや…私も見たぞ、髪の毛ハネてる子と背低い子がキ……」

伊介「やだぁ気持ち悪い、止めてよそういうの」

春紀「えぇー…だって今!伊介様見てなかった!?」

晴「………?」

兎角(何だ今の…)

乙哉「……ある意味生物の授業、なのかな?」

しえな「保健体育じゃないか?」

春紀「なんでお前らそんな冷静なの?」

『私達は、他の子たちとは絶対にしない事をしようよ』

『じゃ、じゃあ……キス?』

『わ、分かった!しようじゃないかっ!!キス!!』

みんな「……………」

兎角(状況が掴めないな)

晴(はわわ…!?き、キスしてる!?女の子同士で!?)

鳰(あーぁ…やっちゃったッスねえぇ、溝呂木先生)

香子(ふ、不潔だ…)

涼(周りに誰もいないからって、最近の子は大胆じゃのう)

春紀「…………」チラッ

伊介「…………」Zzz

真昼(な、なに……これ…)ドキドキドキ

純恋子(ふむふむ!なるほど!こうすれば!)

しえな(二期まだなのか?)

乙哉(キス……ねぇ)

柩(すごい…これって、舌いれてるのかな…?)ドキドキ

千足(こういうのはまだ桐ヶ谷には刺激が強すぎるんじゃないか?)

溝呂木「みんな、お待たせー!じゃあ今から資料を配……」ガラッ

画面『こーのーひろーいせーかーいーであえたきーせーきー♪』

溝呂木「あ」

みんな「……………」

溝呂木「……………」

みんな「……………」





溝呂木「Noooooooooooooooooooooooooooo!!!」

溝呂木「なんて事だ、教材と趣味のDVDを間違えてしまうなんて…!」

兎角(趣味なのか)

晴(趣味なんですか)

鳰(趣味だったんッスねぇ)

溝呂木「いや違うんだみんな、これは…」

鳰「何が違うんッスかねぇ」

春紀「せんせー、言い訳はみっともないと思いまーす」

溝呂木「………」

溝呂木「……先生はこういうのが大好きだああああああああああああああああああ!!!」

鳰(言った…!)

伊介(うるさい…)Zzz



兎角(その後、溝呂木が改めて教材のDVDを取りにいっている間に授業は終わった)

金星寮C棟
 1号室


晴「うぅ~…」ゴロゴロ

兎角「どうしたんだ、一ノ瀬」

兎角「帰ってきてからずっとそんな調子で…体調でも悪いのか?」

晴「あ、うぅん!大丈夫だよ…」

晴「でも…」

兎角「なんだ?」

晴「なんていうか…その、あのアニメが衝撃的すぎて…!」ゴロゴロ

兎角「…そういうものなのか」

晴「そ、そういうものなのかって…!兎角さんは何とも思わないの?あぁいうの」

兎角「………」

兎角「よく分からない、な」

兎角「キスとかそういうの、した事無いから」

兎角「一ノ瀬はあるのか?」

晴「えぇ!?無いよそんなの…!」カアァ

兎角「そうか」

兎角「………」

晴「……」ドキドキ

兎角「…友達同士でも、特別な関係だったらキスするのか?」

晴「そう…なのかなぁ…?」

兎角「…お前と私は、友達?」

晴「え…?」ドキッ

兎角「………」

晴「な、なんでそんな事…聞くの?」

兎角「お前と私はターゲットと守護者だ」

兎角「普通に考えたらこれって、特別な…」

晴「………!」

兎角「………いや」

兎角「やっぱり、なんでもない」プイッ

晴「兎角さん…」

兎角「変な話して悪かった、あんなのフィクションだ」

兎角「……私はもう寝る」ゴロン

晴「う、うん…」



晴「………」

兎角『…お前と私は、友達?』

晴「………」チラッ

兎角「………」Zzz

晴(うん)

晴(晴と兎角さんは…友達だよ)

晴「おやすみなさい、兎角さん」ゴロン

つづく

あるよー

金星寮・C棟
 5号室


しえな「ふふ…」ニヤニヤ

乙哉「……しえなちゃん、顔気持ち悪いよ」

しえな「気持ち悪いとかいうな!!ただニヤけてるだけだろ!」

乙哉「いやそれが気持ち悪…まぁいいや、何してるの?」

しえな「本を買ってきたんだ」

乙哉「本……『桜trick』?あれ、これって…」

しえな「うん!あのアニメの原作だ!!」

乙哉「………え」

しえな「既刊全4巻!今から5巻が待ち遠しい…!」ワクワク

乙哉「え…ちょっとまってしえなちゃん、いつの間にそんなにハマったの」

しえな「いつの間にじゃない、ボクは最初からファンだぞ」

乙哉「……そうなんだ」

しえな「原作もアニメも、家に置いてきたけど…1話を見たらまた読みたくなっちゃって」

しえな「授業が終わってすぐ本屋にダッシュしてきた!」グッ

乙哉「もう持ってるのにまた買ったの…?キモ、いやすごいね」

しえな「………」ギロッ

しえな「…まぁいいさ、ポピュラーな趣味じゃないことくらい分かってる」

しえな「誰に分かって貰えなくったっていいよ、ボクは一人で楽しむから……ふへへ」ニヤニヤ

乙哉(あたしの知ってるしえなちゃんじゃない…)

乙哉「はぁ…花でも刻もうかな」ジャキジャキ

しえな「すみはる……」ブツブツ

乙哉「…………」ジャキジャキ

しえな「それはそれで……」ニヤニヤ

乙哉(集中できない……)ジャキジャキ

乙哉「しえなちゃん、あたし外出てくるね……」ガチャ

しえな「うん」ニヤニヤ

ミョウジョウ学園
 植物園


乙哉「…………」ジャキンジャキン

乙哉「……はあぁ、やっぱり切り刻むのって快感…!!」ゾクゾク

乙哉「そろそろ女の子も刻みたいなぁ…晴ちゃんとか、泣かせたい……!!」

真夜「なんだあの変態」

純恋子「触らないほうがいいですわね」

乙哉「ん…?なんだ、番場ちゃんと英ちゃんかぁ」

乙哉「昼のほうじゃなくて残念、真昼ちゃんとか結構あたしのタイプで…」

純恋子「ちょっとおやめなさい、番場さんが怖がるでしょう」

真夜「ビビらねーよ、真昼と一緒にするんじゃねー」

乙哉「で?二人はこんな時間にこんなとこで何してんの?」

純恋子「別に…散歩ですわ、ここは空気が綺麗で私の体に良いものですから」

乙哉「ふーん、そういえば体弱いんだっけ」

真夜「で?お前はここでなにしてるんだよ」

乙哉「なんか部屋に居づらくてさー…しえなちゃん、気持ち悪いんだもん」

純恋子「気持ち悪い…?」

乙哉「今日の授業で変なアニメ流れたでしょ?あれの原作の漫画読んでニヤニヤしてるの」

真夜(今日の授業…?何の話だ…)

純恋子「……原作!!あのアニメには原作がありますの!?」バッ

乙哉「!?」

乙哉「え?う、うん…そうらしいけど…?」

純恋子「……番場さん、ちょっと私用事を思い出しました!先に部屋に戻りますわっ!」ダッ

真夜「おう」

乙哉「………?」

純恋子「くっ!走ると息が苦し………!負けませんわああああああ」スタタタタタタ

真夜「…………」

乙哉「なにあれ」

真夜「わからん」

金星寮・C棟
 5号室


純恋子「失礼しますわ!!」バターン

しえな「!?」ビクッ

純恋子「け、剣持さん…少し、お話が…っ!!げほっ」ゼェゼェ

しえな「英…?珍しい客だな」

純恋子「貴女が…桜trickの原作本を持っていると聞いて」ハァハァ

しえな「!」ピーン

しえな「うん、あるぞ…4巻まで全部ある、読みたいのか?」

純恋子「……是非」

しえな(まさかこれは……そうなのか、そういうことなのか?)

しえな(今、黒組の中に桜色の風が吹こうとしている!)

しえな(こんな機会絶対に見逃せない!布教してやる…!黒組を百合色に染めてやる!)

しえな「ふふふ…!」ニヤリ

純恋子「早く……出来れば私が倒れる前に…」ゼェゼェハァハァ

次の日
 10年黒組・教室


晴「ふわぁあ……あふ」

晴(昨日はあんまり眠れなかったな…)

晴(兎角さんが変な事言うから…ターゲットと守護者で特別だ、なんて…)

晴(晴と兎角さんは友達で…それで、特別で)

晴(そうだったらなんだっていうの…!!)ドキドキ

兎角「おい一ノ瀬」

晴「はいっ!?」ビクッ

兎角「…顔が赤いな、風邪か?」

晴「えっ!?うぅん、大丈夫!何でもないから…」ソワソワ

兎角「……………」

兎角(明らかに様子がおかしい、まさか予告票が…?)

兎角(…いや恐らく違うな、昨日の放課後から朝まで一ノ瀬は外出してない…私の知らないところで予告票を受け取るのはありえない)

兎角(それにおかしいのは一ノ瀬だけじゃないみたいだしな)

兎角「………」チラッ

しえな「フフフフ……」ニヤニヤ

乙哉(相変らずしえなちゃんが気持ち悪い…)

柩「…………」ドキドキ

千足(昨日から桐ヶ谷の元気がないな、やはり昨日のは刺激が強すぎだったんだ…)

伊介「………」Zzz

春紀「………」ソワソワ

涼「なぁ香子ちゃん、わしと香子ちゃんって友達?」

香子「…?質問の意味が分からないんだが、多分そうじゃないか?」

純恋子「ふふふ…!すごい、画期的ですわ…!」ペラペラ

真昼「……?」

鳰「プチメロおいしいッスー」モグモグ

兎角「…………」

兎角(おかしいな…うんおかしい、明らかにおかしい)

純恋子(まさかこんな世界があったなんて…!世の中は本当に広いですわ!)

純恋子(他の子とは絶対にしない、秘密を共有した特別な友達…)

純恋子(ただの友達を超えた関係!これこそ私の求める形ですわ!)

純恋子(よし、思い立ったが吉日…さっそく行動にうつしましょう)ガタン

純恋子「……こほん、番場さん?少しよろしくて?」スタスタ

真昼「あ……え、えっと…あの、お茶会は…その…」オドオド

純恋子「ふふ、今日はお茶会の誘いではなくってよ…それもいつかしたいですけどね」ニコニコ

真昼「あ、あの…英さん…その、私は…お茶会は出れなくて…」オドオド

純恋子「番場さん、放課後の予定はあるかしら?」

真昼「え………な、ないです」

純恋子「そう、なら時間を空けておいて欲しいのですけど」

純恋子「……授業が終わったらまっすぐ寮に帰ってくること、約束ですわよ」ニヤリ

真昼「………?」

trick1「真昼と純恋子の桜色」


つづく

金星寮C棟
 6号室


純恋子「………」

純恋子(遅いですわね、番場さん)

純恋子(授業が終わったらすぐに戻って、と言ったのに…)ハァ

純恋子(早くしないと日が暮れてしまいますわ!そしたら明日まで真昼さんには会えなくなってしまう…!)

純恋子「もどかしいですわ!いっそ探しに…!」

真昼「お、遅くなりました…」ガチャ

純恋子「あら、噂をすれば…ですわね」

真昼「すっ、すいません…!」

純恋子「うふ、お帰りなさい番場さん」

純恋子「早速ですけど…番場さんに見て欲しいものがありますの」

真昼(見て欲しいもの…?)

純恋子「これですわ」スッ

真昼「漫画……?」

『桜trick』

真昼「………え」

真昼(こ、これって昨日の…!えっちなアニメの…!?)ビクッ

真昼「え……わ、私にこれを…!?」ビクビク

純恋子「えぇ!さ、これが1巻ですわ」スッ

真昼「無理です…!ほんとに、むり…!!」カアァ

純恋子「まぁまぁそう仰らずに…119ページまででいいですから」

真昼「わたすには早すぎて…!」オロオロ

純恋子「……番場さん、貴女何か勘違いしてませんこと?」

真昼「え…?」

純恋子「これは別にいかがわしい漫画ではありませんわ」

純恋子「昨日の授業中もずっと顔を伏せて…ロクに見てなかったですわね」

真昼「だって…」オドオド

純恋子「まぁ読んでみれば分かりますわ、はいっ」ヒョイ

真昼「は、はい……」オロオロ

真昼(四コマ漫画……)ペラッ

…数分後


純恋子「さぁ番場さん!次のページへ!さぁさぁ!!」ハァハァ

真昼「いやああぁ…!!無理です、だめです、やめてぇ…!!」

真昼(な、なんでこの漫画…!女の子同士でキスなんて!?)ドキドキ

真昼(昨日のも見間違いじゃなかった…やっぱりえっちな漫画です…)

純恋子「キスくらいなんてことないですわ!ほら春香さんと優さんもやり放題でしょう!?」

真昼「で、でも胸とかも揉んでるます…!!」

純恋子「胸くらいなんですの、それくらい生田目さんだって桐ヶ谷さんのを揉んでましたわ」

真昼「!?」ガーン

純恋子「きっと他の方たちも、番場さんが知らないだけでその漫画に載ってるような事をしてますわ」

真昼(え…そ、そうなの…!?)ガーン

真昼(他の子…一ノ瀬さんや、東さん……走りさんも、みんな…?)ドキドキ

純恋子「…………フフフ」ニヤリ

純恋子(私は気づいたのです……番場さんとお近づきになるには、押すだけでは足りない…)

純恋子(お昼に誘っても、お茶会に誘っても…誘うだけでは断られてしまう…)

純恋子(なら!誘うのではなく巻き込む!押してダメなら押して押して押しまくる!これしかないですわ!)

純恋子(この勢いで今日こそ、番場さんとレッツコミュニケーションですわ)

純恋子「……ねぇ?番場さん?」スッ

真昼「あ、は…はい…?」

純恋子「思うに、私達にはこういったものが足りないと思いますの…」ピトッ

真昼「え?あ、あの英さん…近……」

純恋子「せっかくのルームメイトなのに、交流が少ないと言うか…夜になったら真昼さんは寝てしまうから仕方ないですけど…」

真昼「あ、あのっ…ちょっと、近いです…」ドキドキ

純恋子「番場さん、『特別』には興味ありません?」

真昼「近………えっ?」

純恋子「………ふふ」

真昼「は、英……さん?」

真昼「特別って…どういう…?」

純恋子「いやですわ、今読んだばかりでしょう?」

純恋子「他の子とは絶対にしない事をする関係」

真昼「………」

純恋子「………番場さん、目を閉じて」

真昼「えっ…!?ちょ、ええぇ…!?」

純恋子「………」スッ

真昼(ち、近いっ…!英さんの顔がこんなに近くに……)

真昼(……綺麗、それにいい香りがする……)ドキドキ

純恋子「……目は開けたままのほうがお好み?」ニコッ

真昼「英さん…こういうのって…よくないと思う、ます……」ドキドキドキ

純恋子「大丈夫…何の問題もありませんわ」

純恋子「だって私達、お友達でしょう?」

真昼「…………」

純恋子「……………」

真昼「友達……なんですか…?」

純恋子「」ピシッ

真昼「………」

純恋子(………それって)

純恋子(友達とすら、思われてなかったってことですの?)

純恋子「ふ……ふふ、ふふふふ……」

純恋子「わ…私としたことがとんだ道化でしたのね…!」

真昼「英さん…?」

純恋子「一人で、こんな……調子に乗って、舞い上がって…」

純恋子「押せばきっとどうにかなるなんて思いこんで……その実、私は」

純恋子「貴女の隣にすら、立てていなかった……そういう事なんですのね」

真昼「え………あっ、ち、違っ…!そうじゃないです…!!」

純恋子「お気遣いは結構ですわ番場さん、悪いのは私ですから」

真昼「違うます…!は、英さんっ」

純恋子「……今までしつこくお誘いしてごめんなさい」

真昼「………!」

純恋子「………私、少し外に出てきますわね」

真昼「………」オロオロ

純恋子「ちょっと頭を冷やしてきますわ、帰りは遅くなりそうなので…先に寝ていてください」

真昼「あ、あの………待って……」

純恋子「それでは」スタスタ

真昼「英さん……」

純恋子「…………」ガチャッ

真昼「………ッ!!」ダッ バンッ!

純恋子「なっ…!?ば、番場さん?そこをどいて…!」

真夜「………」ギロッ

純恋子「!」

純恋子「し、真夜さん……ですの?」

真夜「待てって、言ってんだろ…!」

つづく

真夜「待てって、言ってんだろ…!」

純恋子「真夜さん…」

純恋子「…待ちませんわ、そこをどいてくださる?」

真夜「あぁ?」

純恋子「今は真夜さんと……番場さんと一緒にいたくありませんの」

純恋子「私…今日ほど自分を愚かしく思った事はありませんわ、だって…」

真夜「うるせぇ」ガッ

純恋子「え?」

真夜「ふんっ!!」ゴチーン

純恋子「っ!?」

純恋子「なっ……!!い、いたいですわっ!!いきなり頭を叩くなんて…!何するんですの!?」ジーン

真夜「お前が人の話も聞かないで出ていこうとするからだよ…」

真夜「ったく…二人とも、揃いも揃って大バカだな」

純恋子「二人…?」

真夜「真昼も、お前も…バカすぎて見てらんねぇんだよ」

純恋子「……見てましたのね」

真夜「まぁ…そろそろ起きようかと思ってたところだったしな」

純恋子「……私が愚かだったことくらい、言われるまでも無く自分が一番分かってますわ」

純恋子「私は真昼さんの事を一方的に友達だと思い込んで、調子に乗って…」

真夜「おらっ」ベキィ

純恋子「たっ…!!なんでぶつんですの!?」

真夜「はあぁー……」

真夜「まぁ、確かに…お前は少し頭冷やしたほうがいいかもな」

純恋子「……?」

真夜「お前は人の話を聞かねぇし、真昼は大事な事をしゃべらねぇ」

真夜「見ててイライラするくらい相性悪いな、お前ら」

純恋子「……………」ズキッ

真夜「…………」ニヤニヤ

真夜「仕方ねぇから…今回だけは俺が特別に手を貸してやる」

真夜「真昼には俺からキツく言っといてやるよ、だからお前はちゃんと頭冷やしとけよ」ガチャ

純恋子「どこへ?」

真夜「さぁ?どこだろうな?」

真夜「んじゃ…また明日な」バタン

純恋子「………?」



純恋子「…………」

純恋子(頭を冷やす……)

純恋子(自分で言っておいてアレですが…どうすれば)

純恋子「……先生にかけあって、部屋を変えて貰おうかしら」

純恋子「……ふふ」

純恋子(そんな事をしても意味なんてないのに)

純恋子(黒組にいる以上嫌でも毎日顔を合わせることになる)

純恋子(これからずっと、番場さんとの間に気まずさを抱える事になるのかしら)

純恋子「…………」

純恋子「嫌ですわ、そんなの…」



純恋子「………ん」チュンチュン

純恋子(朝…?いつの間に寝てしまったようですわね…)ムクリ

真昼「………」

純恋子「………あ」

真昼「お、おはようございます……英さん」ペコリ

純恋子「番場さん、戻ってらしたのね…」

真昼「は、はい…」

真昼「あの、私…英さんに、言いたい事があって…」モジモジ

純恋子「………私もありますわ、聞いてくださいます?」

真昼「はい…」

純恋子「えっと…昨日は、ごめんなさい」

純恋子「いきなり『特別』だなんて…私、ちょっとおかしかったみたいですわ」

純恋子「番場さんには嫌な思いをさせてしまって、本当に…」

真昼「…………っ」グッ

真昼「い、いやじゃないです…」

純恋子「……え?」

真昼「英さんが…私の事、友達だって…言ってくれて、嬉しかったです」

真昼「私、ずっと…英さんのお誘いを断ってばっかりで…」

真昼「だから…そんな私を友達だと思っててくれてたなんて、知らなかったから…」

純恋子「………」

真昼「…真夜に言われました、私がちゃんと喋らないのが悪いって」

真昼「だからっ、ちゃんと…言うます」

真昼「私は、その…英さんの言う『特別』なのはまだちょっと恥ずかしいけど…」

真昼「これからも…英さんに仲良くして欲しい、です…!」

純恋子「………!」

純恋子「そう…そういう事でしたのね」

真昼「ほんとに、ごめんなさい…私がすぐに言わなかったから…」

純恋子「いえ、私のほうが…番場さんの話も聞かずに一人で話を進めて…」

純恋子「私達、もっと互いにゆっくり話し合う事が必要だったんですわね」

真昼「はい……」

純恋子「………番場さん、手を握ってもよろしくて?」

真昼「は、はい……」

純恋子「………」ギュッ

真昼「………」ドキドキ

純恋子「……これからは、一緒にお昼ご飯食べたいですわ」

真昼「ダイエット中なので、控えめでよかったら……」

純恋子「ふふ、そうでしたの」

純恋子「じゃあお茶会も…甘さ控えめの茶菓子を揃えますわ、来てくださいます?」

真昼「行きたいです…」

純恋子「……大好きですわ、番場さん」

真昼「私も……です」

純恋子「…………」

真昼「…………」

純恋子「番場さん」

真昼「はい…」

純恋子「………ほっぺにキスまでならよろしくて?」

真昼「ええぇっ…!?」ビクッ

純恋子「……嫌かしら?」

真昼「えぅっ…!あ、あの、そのっ…!」アタフタ

純恋子「………」ギュッ

真昼「嫌、じゃない…ですけど…!その、恥ずかしいので…!!」プルプル

真昼「………頑張りますっ」グッ

純恋子「………番場さん、目を閉じて」

真昼「…………!」パチン

純恋子「………」スッ

純恋子「…………んっ」チュッ

純恋子「…………」

真昼「…………」

純恋子「……物足りませんわね」ハァ

真昼「ご、ごめんなさい…?」

純恋子「ふふ、でも…今はここまででいいですわ」

純恋子「私と番場さん、どっちが逸りすぎても…迷いすぎてもいけない」

純恋子「これからは二人で一緒に…同じ速さで歩いていく」

純恋子「それが私と番場さんの『特別』」

純恋子「ここから先はまたいつか……ね?」

真昼「……はいっ」


 金星寮C棟・6号室


純恋子「~♪」ニコニコ

真夜「な、なんだよ……」

純恋子「ふふふ、私…真夜さんには本当に感謝していますのよ」

純恋子「私が部屋を出ていく時に、真夜さんが起きてくれなかったら…きっと私、未だに誤解しっぱなしでしたもの」

真夜「………まぁ、真昼が泣くとうるせーからな」

純恋子「…本当にそれだけ?」

真夜「あぁ?」

純恋子「実は私の事も心配で…とか、そういうのはありませんの?」

真夜「ねーよ、寝言は寝て言え」

純恋子「そう…残念ですわね」

純恋子「私は真夜さんの事も特別に思っているのに」

真夜「……………あ?」

真夜「え…?ちょ待っお前……それはどういう…?」

純恋子「嫌ですわ、言ったじゃ……って、そうでした」

純恋子「朝だったから真夜さんは寝てらしたのね」

真夜「朝?お前真昼に何言って……」

純恋子「大好きですわ、番場さん♪」

純恋子「……って言ったんですのよ」

真夜「え……?」

純恋子「んもぅ、にぶいですわね!」ププンスカ

純恋子「真昼さんと真夜さん!!……どっちも番場さんでしょう!?」

真夜「…………!」

純恋子「ひとまず…真昼さんはほっぺまで」

純恋子「真夜さんは……どこまでOKですの?」ニコニコ

真夜「え、えっと……!お、俺はだな……」ドキドキ

真夜「そういうのはまだ早……いや、くそっ!俺は何言ってっ…!!」

純恋子「うふふ♪」

真夜「~~~~!!」

真夜「……ほっぺまでだっ」

trick1「真昼と純恋子の桜色」  おしまい


 10年黒組・教室


純恋子「はいっ真昼さん、あーん♪」

真昼「あ、あーん…」

純恋子「おいしい?」

真昼「おいひいでふ…」モグモグ

柩「……」ジーッ

鳰「何ッスか、アレ」

晴「な、なかよし…だね」

春紀「あいつらあんなに仲良かったっけ?いや、悪くはなかったろうけど…」

しえな「ふふん、半分僕のおかげだな」

晴「そうなの?」

真昼「あ、あの…純恋子さん、私のも…」ヒョイ

純恋子「いただきますわ♪あーん♪」

兎角「一ノ瀬、食堂にいかないのか」

伊介「ちょっとぉ、なにやってんの?伊介もうおなかペコペコなんだけど…」

晴「あ、はいっ!今行きます!」ダッ

春紀「へいへい、それじゃあ行きますか」バッ

純恋子(みなさん食堂に行くみたいですわね、これで教室は私達二人っきり)

純恋子(食べさせあいだけじゃなくて、もっと他の事も……)ニヤニヤ

真昼「………」チラッ

純恋子「?」

柩「…………」ジーッ

純恋子「……何かご用かしら?」

柩「へっ!?あ、す…すいません…!特に用は…」ビクッ

千足「桐ヶ谷、こんなところにいたのか」スタスタ

柩「千足さん!」

千足「姿が見えなかったから先に食堂に行ったのかと思って…探したぞ」

千足「じゃ、行こうか」

柩「はいっ」

純恋子「…あの二人も仲が良さそうですわねぇ」

真昼「そう…ですね…」

純恋子「………キスとかしてるのかしら?」

真昼「………」カアァ

純恋子「私達もしてみます?」

真昼「ご、ごめんなさ……まだ、その…!」ドキドキ

純恋子「ふふふ、冗談ですわよ」ナデナデ

純恋子「それにしても、桐ヶ谷さんはどうかしたのかしら?」

真昼「わたすたちのお弁当……見てたんでしょうか?」

純恋子「お弁当を?そうね、確かに…真昼さんのお弁当おいしそうですものね」

真昼「お、おいしそうなら…純恋子さんのお弁当のほうが…」

純恋子「まぁ真昼さんったらお上手♪もう一口いかが?」スッ

真昼「あ、あーん…」

金星寮
 金星食堂


柩「………」ボーッ

千足「桐ヶ谷…?」

柩「あ…はい、なんですか?千足さん」

千足「なんだか…最近元気がないみたいだな」

千足「何か悩み事でもあるのか?」

柩「そんな事…ないですよ」

千足「…その割には箸が進んでないみたいだが」

柩「え…あ、ほんとだ…」

柩「すいません、僕食べるの遅くて…」ムシャムシャ

千足「…………」

千足(明らかに様子がおかしいのだが…話してはくれなそうだな)

千足「なぁ、桐ヶ谷」

柩「はい?」

千足「……一ノ瀬のことか?」

柩「……?」

千足「前も言ったけど私は、一ノ瀬や桐ヶ谷みたいな子がこんなところにいるのは心配だ」

千足「出来れば何事も起こらず全て終わって欲しいと思ってる」

千足「…でも、桐ヶ谷がやるって言うんなら私は何も言えない、けど……」

柩「ぷふっ」

千足「?」

柩「違いますよ、予告票を出すつもりはないです……まだ」クスクス

千足「そ、そうか…すまない、早とちりしてしまって…」

柩「千足さん、ありがとうございます」

柩「僕のこと心配してくれてるんですね…嬉しい」

柩「でも、本当になんでもないから心配しないでください」

千足「桐ヶ谷……」

千足「ならいいんだ、余計なお世話だったな」

柩「…………」

柩(ごめんなさい、嘘です)

柩(でも僕の悩み、千足さんには言えないから…)

千足「そろそろ授業が始まるな…」ガタッ

柩「行きましょうか」ガタッ

千足「あぁ、行こう」ギュッ

柩「………」

柩(こうやって、千足さんはいつも手を繋いでくれる)

柩(あったかくって、優しくて……とっても嬉しい)

柩(でも……本当は、僕はそれだけじゃイヤなんです)

柩(もっともっと千足さんに触れてみたい)

柩(手だけじゃなく、もっと色んなところに……)ポッ

千足「………本当に大丈夫か?」

柩「あっ、すいませんボーッとしちゃって…」

放課後
 金星寮C棟・4号室


柩「………」ボーッ

千足「桐ヶ谷?」

柩「あ…なんですか?千足さん」

千足「いや、食事に行こうと思って声をかけたんだが…」

柩「ごめんなさい、またボーッとしちゃって」

柩「僕はもう少しあとでいいです、千足さんはお先にどうぞ」

千足「そうか、じゃあ行ってくる」スタスタ

千足「…調子が悪いなら、今日は風呂は止めておいて早く寝た方がいいぞ」ガチャ バタン

柩「いってらっしゃい…」

柩「…………」

柩「………はあぁ」

柩(千足さんは、本当に優しいなぁ)

柩(初めて会った時からそうだった…)

柩(手を引いてくれて、僕を導いてくれた)

柩(……でもきっと、優しいのは僕が弱いから)

柩(体が小さいから…道に迷いやすいダメな子だから…)

柩(だから世話を焼いてくれるだけなんだよね…)

柩(そこに、それ以上の気持ちなんて…)

柩「…………」

柩(もし、僕が本当の事を言ったら……千足さんはどんな顔をするだろう)

柩「…………」

柩(本当の気持ちを晒して、今の関係を壊してしまうくらいなら)

柩(それなら僕は今のまま…優しくしてくれるだけで、いい)

柩「…………千足さん」

柩(大好きです……)

trick2「柩と千足の桜色」


つづく

千足「桐ヶ谷、桐ヶ谷」

柩「むぅ……」Zzz

千足「桐ヶ谷、起きろ」ユサユサ

柩「……ちたる、さん?」Zz

千足「そのままじゃ風邪をひく、着替えてから……」

柩「ん……」ギュー

千足「?」

柩「ちたるさん……」Zz

千足「…………よしよし」ナデナデ

柩「……すきです」Z

千足「…………」

柩「………んっ?」パチン

千足「あ……」

柩「………」ポケーッ

千足「お、おはよう…桐ヶ谷」

柩「あ…おはようございまふ、ちたるさん…」

柩「……………」

柩「………!?」ボッ

柩「ひゃあああっ…!な、なんでぼくっ…!千足さんにだ、抱き着いてっ…!?」バッ

千足「おぉ!?落ち着け桐ヶ谷!」

柩「ごめんなさいっ!僕、こんなつもりじゃ…!」カアァ

千足「ははは…寝ぼけてたんだな」

柩(いつの間に寝て…!そうだ、部屋で考えごとしてて、それで…!)

柩(うわああああ、よだれとか出てないよね…?寝言とかも…!)

柩「ちっ、千足さん…!僕、変な寝言とか言ってないですよね…!?」

千足「寝言…?」

柩『ちたるさん……』Zz

柩『……すきです』Z

千足「………」

千足「いや、何も」

千足「それより桐ヶ谷、寝るなら着替えた方がいい…風邪をひくからな」

柩「あ、いや…ちょっとうたた寝しちゃっただけだから…」

柩「…僕、ご飯食べてきますねっ」スタタ ガチャ バタンッ

千足「…あぁ」


金星寮
 金星食堂


柩「はぁ…」

晴「柩ちゃん、どうしたの?」ヒョコ

柩「あ…一ノ瀬さん、東さんも」

兎角「生田目はいないのか…珍しいな」キョロキョロ

柩「…僕だって、いつも千足さんと一緒なわけじゃないですよ」

晴「そうなの?二人はとっても仲良しに見えるけどなぁ」

柩「確かに仲良しですけど、だからっていつも一緒なわけじゃ…」

柩「東さんだって、いくら好きだからってカレーばっかり食べてるわけじゃないでしょう?」

晴「兎角さんいつもカレーだよ」

柩「マジですか」

兎角「何が悪い、カレーは完全…」

晴「もう聞き飽きたよっ、それっ」

兎角「むっ……」

晴「でも気持ちは分からないでもないけど…好きな物は好きなだけ食べたいもんね」

兎角「そうだろ、カレーは完全食だから好きなだけ食べてもだいじょ…」

晴「野菜っ!!」

兎角「むぅ……」

柩「………いいなぁ」

とかはる「?」

柩「僕も好きな物、好きなだけ食べたいです」

兎角「食べればいいだろ、別に誰が怒る訳でも……」

晴「…………」ゴゴゴゴ

兎角「……まぁ、好きにしろよ」

柩「えへへ、好きにしたいです」

兎角「……?」

晴「兎角さん、ちょっと来てっ!」グイッ

兎角「な、なんだ…」

晴「せめてサラダも一緒に食べて!ほら買いに行こうっ!」グイグイ

兎角「くっ!離せ…一ノ瀬…!!」ズルズル

柩「………」

柩「………はぁ」

柩(現実は好き放題なんてできない、我慢しなくちゃいけないこと…いっぱいある)

柩(さっきだって千足さんに抱き着いたりして…つい、気が抜けてたから…)カアァ

柩(あのアニメの女の子達みたいに、どこでだって、いつだって千足さんに触れられたら……)

柩(好きにできたら、どれだけ幸せで……どれだけ楽か)

柩「…………」

柩(こんな事考えちゃうの…あのアニメのせいだ)

柩(あんな、恥ずかしいシーンなんて見せられたら…そういうこと考えちゃう……)

柩(いや、違う…そうじゃない)

柩(そう考えてしまったのは……僕の心の中に最初から千足さんがいたから)

柩(あの時、僕は…背の高い女の子を千足さんに、低い女の子を僕に当てはめて見てた…)

柩(アニメのせいなんかじゃない、僕は最初から……)

柩「…………」

柩「いっそ、離れたら楽になるのかな」ボソッ

柩(いつも一緒だから…ずっと隣にいてくれるから、つい触れたくなる)

柩(でも最初から手を伸ばしても届かない距離にあるのなら…まだ諦めて我慢できるのかもしれない)

柩(そうだ、どうせ言えないなら…そうしたほうがいい)

柩「……よしっ」グッ

兎角「桐ヶ谷が何かを決意している…」モグモグモグモグ

晴「兎角さん、サラダも食べて」

兎角「……………」モグモグモグモグ

晴「兎角さんっ!」

つづく

次の日
  金星寮C棟・4号室


千足「………」Zzz

柩「………」ガチャ バタン

千足「……ん?」パチン

千足「朝……か」ムクッ

千足(今、扉の開く音がしたような…)キョロキョロ

千足「あっ」

千足「……桐ヶ谷がいない」

千足(先に行ったのか?)

千足(こんな早い時間に、何か用事でもあったのか)

千足「…………」

千足「…久しぶりだな、一人っきりの朝は」

10年黒組
 教室


千足「……おはよう」ガラッ

千足「……あ」

鳰「それでー、兎角さんったらサラダ食べないで晴に怒られたんスよ」

兎角「…なんでお前が知ってるんだ?」

柩「結局食べなかったんですね…」

兎角「余計な栄養は必要ない、カレーは完全食だからカレーだけあればいいんだ」

柩「って言ってますよ、一ノ瀬さん」

晴「もう知らないもんっ」ププンスカ

千足「桐ヶ谷、やっぱり先に行ってたのか」

柩「あっ千足さん、おはようございます」

鳰「あれー生田目さん?桐ヶ谷さんが先に来たからてっきりお休みなのかと思ったッスよ」

晴「調子でも悪いんですか?」

千足「いや…そんな事はないが」

千足「起きたら誰もいないから心配したぞ…」

柩「ごめんなさい…一言置いていくべきでしたね」

千足「何かあったのか?」

柩「え……えっと」

千足「?」

柩「…東さん達と、食生活についてお喋りしたくて早起きしちゃいました」

千足「そ、そうか」

鳰「ほら兎角さーん、桐ヶ谷さんにも心配されちゃってるッスよぉ」

兎角「なんでだ…カレーの何が悪いんだ?」

晴「悪いのは兎角さんだよ…?」

柩「ふふふ」クスクス

千足「ならいいんだ、何かあったんじゃないかと心配してしまった…」ホッ

柩「…………」

柩(心配かけてごめんなさい、千足さん)

柩(でも、このほうがいい…お互いのためなんです)

…休み時間


千足(ふぅ、終わった)

千足(のどがかわいたな、桐ヶ谷と一緒にお茶でも…)

千足「桐ヶ谷、一緒に…」クルッ

鳰「しかし兎角さんのカレー好きは異常とも言えるレベルッスねぇ」

柩「そうですね」

兎角「別に好きなわけじゃない、私は効率を重視してるんだ」

晴「じゃあ定食でもいいよね?兎角さん、今日は晴と一緒にバランス定食食べよう?」

兎角「……いや、カレーだ」

晴「なんで!?」

鳰「最早中毒ッスね」

兎角「そんな事はない」

柩「もう止められないんじゃないですかね」クスクス

千足(…話題に入れない)

千足(まぁ、こういう時もあるな)

…お昼休み


食堂のおばちゃん「いらっしゃい」

兎角「……チキンカ」

晴「バランス定食2つください!」

兎角「一ノ瀬!!お前…!」ガーン

鳰「おーっとぉ!晴がここで強硬手段にでたぁーーっ!!」

柩「チキンカレーください」

鳰「あ、うちはプチメロ!」

兎角「おい一ノ瀬…!走りもメロンパンばっかり食べてるぞ…いいのか?」

晴「まずは兎角さんの食生活を矯正します」ゴゴゴゴ

鳰「あれ…?『まずは』って事はうちもそのうち矯正されちゃうんスか…?」

晴「………」ニコニコ

柩「カレーおいしそうです」ニコニコ

兎角(くっ…!私の目の前でカレーを…!!)

千足「………」ポツン

千足(食堂のテーブルは四人掛け…か)

…放課後


溝呂木「よーし、じゃあ今日はここまで!」

柩「………」

千足「………」

柩(しまった…放課後のこと、考えてなかった…)

柩(このまま部屋に帰ったら千足さんと二人っきり…どうしよう…)オロオロ

千足「……なぁ、桐ヶ谷?」

柩「は、はい…なんですか?千足さん」

千足「その…放課後は何か、予定はあるのか?」

柩「………」

千足「無いなら少し、私に付き合って欲しいんだ」

柩「………」

千足「……忙しいか」

柩「そ、そんなことは…ないです」

柩(どうしよう)

金星寮C棟
 4号室


千足「………」ガチャ バタン

柩(寮?)

柩「あの…千足さん?」

千足「ん?」

柩「どこかへ行くんじゃないんですか?付き合って欲しいって…」

千足「あぁ…うん、そんな大した用じゃないんだ」

千足「二人で部屋で、ゆっくりしたくて」

柩「………」

千足「なんだか今日はなかなか桐ヶ谷と一緒にいれる時間がなかったからな」

千足「一日時間が取れなかっただけで…なんだかすごく長い時間会えなかった気分だ」

千足「それに…桐ヶ谷に聞きたいことがあって」

柩「僕に…?」

千足「………やっぱり何か悩んでないか?」

柩「………!」

千足「余計なお世話かもしれないけど、最近の桐ヶ谷は何か抱えてるように見える」

千足「私でよかったらなんでも助けになる、だから…」

柩(なんで…!)

柩(なんであなたはそんなに、優しい)

千足「……桐ヶ谷?」

柩「………っ」

柩「…悩み事、あります」

千足「やっぱりか、なら…」

柩「もう僕に優しくしないでください」

千足「………え?」

柩「……辛いんです、千足さんに優しくされるのが」グスッ

柩「千足さんが僕の事を思ってくれるほど、僕は辛い」

柩「きっと僕の想いは千足さんには伝わらないから…だから…!」ポロポロ

柩「だから、しばらく一人にしてください」

千足「きりが…」スッ

柩「……っ」ダッ ガチャ バタンッ!

千足「桐ヶ谷っ」

千足「………」

千足(想い、か……)

千足「………」

柩『ちたるさん……』Zz

柩『……すきです』Z

千足(きっと、あの時の寝言のこと……だよな)

柩『……辛いんです、千足さんに優しくされるのが』グスッ

千足(つまり…それは、そういうこと……か)

千足(そうだとしたら…)

千足「…大丈夫だ、桐ヶ谷」

千足「君の想いが伝わらないなんてこと、ない」

千足(行かなくては、桐ヶ谷を探しに…!)ザッ

つづく

ミョウジョウ学園
 屋上


柩「うぅっ……ぐすっ」メソメソ

柩(言っちゃった……千足さんに)

柩(我慢するって決めてから、まだ一日も経ってないのに…!)

柩「僕は……ダメな子だ」

柩「弱すぎる……」

千足「そんな事ないんじゃないか?」

柩「………ちたる、さん」グスグス

千足「意外と早く見つけられたな…さ、帰ろう」

柩「イヤです」

千足「………」

柩「もう放っておいてください…僕に優しくしないで…」

千足「それは出来ない相談だな」

柩「………」

千足「なぁ、桐ヶ谷……」

柩「………」

千足「実は、昨日の夜の事なんだが」

千足「……桐ヶ谷の寝言を聞いてしまったんだ」

柩「……?」

千足「桐ヶ谷は寝言で…私の事を好きだと言ってくれた」

柩「!?」

柩「な、なんでっ…!!そんな…!?」

千足「桐ヶ谷の、想いって言うのはつまり…そういうことだろう?」

柩「うぅっ……!」バッ

千足「…………」

柩「…………」

千足「……顔を上げてくれ、桐ヶ谷」

柩「…………」

千足「…………」

柩「もう、帰って下さい……」

千足「…………」

柩「お願いですから、僕に構わないで…!」

千足「構うさ、桐ヶ谷が泣き止むまでそばにいる」

柩「なんで……どうして……」グスグス

千足「…私も、桐ヶ谷の事が好きだから」

柩「!!」

千足「優しくされるのが辛いと言われても…私は桐ヶ谷に優しくせざるをえない」

千足「桐ヶ谷の事が好きだから優しくしたくなってしまうんだ」

千足「好きな人をこんなところに置いて一人で帰るなんて私には出来ないよ」

柩「ほんと……ですか…?」

千足「本当だ」

柩「…………」

柩「考えていたんです…なんで千足さんが僕に優しくしてくれるのか」

柩「それはきっと僕が弱いからで…放っておけないから、だから優しくしてくれるんだと思ってました」

柩「それはただ純粋な優しさで…僕だけが特別なわけじゃないって」

柩「だから僕が…千足さんの事を好きになっても、想いは届かないって…そう思ってたんです」

千足「それで、優しくされるのが辛いって……」

千足「……大丈夫だよ桐ヶ谷、私は特別桐ヶ谷にだけ優しいんだ」

千足「それと、私は桐ヶ谷のこと…弱いだなんて思ってない」

柩「……?」

千足「たった一人で、泣くほどに苦しいのを我慢する桐ヶ谷が弱いわけないだろう?」

柩「…………!!」

千足「……おいで」スッ

柩「…………」スタスタ

千足「………」ギュッ

柩「………ふぐっ」

柩「うっ……うぅ、うわあああああああん!!」ギュー

千足「………よしよし」ナデナデ

柩「ひっぐ、ぐすっ…!ふえぇ…!!」

柩「すきです、ちたるさん…!!」

柩「だいすきですっ…!」

千足「……私も大好きだ、柩」

柩「………」グスッ

千足「………」ナデナデ

柩「……泣いたらすっきりしました」

千足「そうか、それはよかった」

千足「戻ろう、日も暮れた……じきに冷える」

柩「………」ギュ

千足「柩?」

柩「あ、あの…千足さん」

柩「僕……千足さんにお願いしたい事があるんです」

千足「なんだ?」

柩「……キス、しませんか」

千足「…………え」ドキッ

千足「き、キスって…!あの、あれか?マウストゥマウス?」アタフタ

柩「はい」

千足「そうか……困っ…いや困りはしないが……」アセアセ

千足「………」

柩「…………」ジー

千足「わ…分かった、しようか…」ドキドキ

柩「!」パアァ

千足「ただ……あの、その……なんだ」

柩「?」

千足「私は…その、そういう経験が無くて……だな」モジモジ

千足「うまく出来るか分からないというか…歯と歯がぶつかったら痛いって言うし…」

千足「もしかしたら柩を傷つけてしまうかもしれないというか…だからだな…」

柩「……ふふ、いいですよ」

柩「千足さんになら僕、何されたって平気ですから」

柩「だから…いっそ、千足さんがしたいなら乱暴にされたって……」ポッ

千足「そ、そんな事できるわけ……」

柩「ふふっ」ワクワク

千足「………出来るだけ、丁寧に出来るように気を付ける」スッ

柩「はい……」

千足「…………」ドキドキ

柩「…………」ドキドキ

千足「んっ………」チュッ

柩「ん………」ビクンッ

千足「こ、これでいいのかな……」スッ

柩「………」ドキドキ

柩「もっと、して欲しいです……」ギュッ

千足「分かった……」

千足「………」チュッ

柩「ん………」

千足「ん……くっ」

柩「ん、んむっ……あっ…」

柩(嬉しい……)

柩(千足さんの唇に…体に触れてる)

柩(本当に、幸せ……)

柩「……ずっと、千足さんとこうしたいって思ってました」

千足「そうか…」

柩「千足さんの『特別』になりたいって…」

柩「でも、最初から僕は特別だったんですね」

千足「うん…初めて出会った時から、そうだった」

柩「ふふ…やっぱりこれって、運命ですかね」

千足「……そうだと嬉しいな」

柩「……これからもずっと、こうしていたい」

柩「千足さんと手を繋いで、一緒に…」

千足「…それくらい、お安いご用だ」ギュッ

柩「…………」ギュー






(それから…僕たちはしばらく、二人っきりで屋上で星を見上げていた)

(静かに…黙ったまま、時折キスをしながら…手を繋いで)

trick2「柩と千足の桜色」  おしまい

千足「…………」

柩「…………」










晴「……………!」ジーッ

晴「は、はわわ……!」プルプル

つづく

土曜日
 金星寮C棟・1号室


晴「……………」

兎角「…一ノ瀬?起きてるのか?」

晴「……………」

兎角「……寝てるのか」

晴「……………」

兎角「…………」

兎角「…………」スタスタ ガチャ バタン

晴「…………」モゾモゾ

晴「………はぁ」ゴロン

晴(うぅ…ごめんなさい、兎角さん)

晴(今はどうしても兎角さんと顔を合わせられなくて…)

晴(……晴はすこし、おかしいんです)

晴(昨日、あんな事があったから…)

trick3「晴の桜色」

…昨日
  放課後
   ミョウジョウ学園・10年黒組教室


晴「あれ?あれー…?ないなぁ…?」ガサゴソ

晴「晴のふでばこ…机の中に入れっぱなしかと思ったのに」ガサゴソ

晴(早く戻らないとまた兎角さんに怒られちゃう…)

晴(って言っても、今は予告票も来てないし大丈夫だと思うけど)

晴「う~ん…やっぱり部屋のどこかかなぁ?」ガサゴソ

晴「一旦寮に戻って…」

柩「…………っ!!」ズダダダダ

晴「?」

晴(今…廊下を走ってたのって、柩ちゃん?)

晴「ど、どうしたんだろ…あんな柩ちゃん、見るの初めて…」

晴「何かあったのかな…?」

千足「こっちか…!?」スタタタタタ

晴「わっ」ビクッ

晴「い、今のは千足さん…速いっ!」

晴(柩ちゃんを追いかけてた…のかな?)

晴「やっぱり何かあったのかな」

晴「どうしよう、追いかけた方が…?」

晴「でも何があったのかよく分からないし、晴が行っていいものか…う~ん」

晴「…………」

晴「行こうっ」ダッ

晴(何か困ったことがあったんなら、晴だって力になりたい)

晴(きっと兎角さんなら晴が困ってたら、助けてくれる)

晴(だから晴も友達の助けになろう!)スタタタタ



晴「はぁ…はぁ…!」ゼェゼェ

晴「二人とも…足、速っ…!!」ハァハァ

晴「どこ行ったんだろ、見失っちゃったな」

晴「……ん?」

柩『………!……!!』

千足『…………!』

柩『………!!』

晴(柩ちゃんと、千足さんの声?)

晴(階段の上から…そっか、屋上だ!)ダッ


ミョウジョウ学園
 屋上前・階段


晴(二人の声聞こえる…やっぱりここだ)

晴(何してるんだろう?もしかしてケンカしてたりとか…)

柩『……キス、しませんか』

千足『…………え』

晴「…………えっ?」

千足『………出来るだけ、丁寧に出来るように気を付ける』

柩『はい……』

晴(えっ、ええぇ!?二人とも何してるの!?)ドキドキ

晴(そんな、まさか…柩ちゃんと千足さんが…!)

晴(あのアニメの女の子達みたいなこと…)

晴(見ちゃだめだ、早く帰らなきゃ…!)

晴(……でも)ドキドキドキ

柩『もっと、して欲しいです……』

晴「…………」ドクンドクン

晴(ふ、二人とも……)

晴(……ごめんなさいっ)コソコソ

千足『ん……くっ』

柩『ん、んむっ……あっ…』

晴「……………!」

晴「は、はわわ……!」プルプル



晴(……その後の事はあんまり覚えてない)

晴(なんとか二人に気づかれる前に寮に戻ってきた……んだと、思う)

晴(気付いたら晴は部屋にいて……)

金星寮C棟
 1号室


「……瀬!返事しろ、一ノ瀬!!」

晴「………」ハッ

兎角「しっかりしろっ!……晴!!おいっ!!」

晴「あ…とかく、さん?」

兎角「どうした!?何があった…!誰にやられた!?」

晴「……へ?」

兎角「予告票が届いたのか?いつだ、どこで受け取った!?」

晴「よ、予告票?」

晴「予告票なんて来てないけど……」

兎角「…………え?」

兎角「……はあぁ」ガクッ

晴「と、兎角さん!?大丈夫!?」

兎角「なんなんだ、まったく…!」

晴「どうかしたの…?」

兎角「どうかも何もあるか!いきなりお前が部屋に飛び込んできたと思ったら…!!」

兎角「しゃがみこんで、動かないで…一言も喋らない…!!」

兎角「誰かに襲われたのかと…心配するだろ」ハァ

晴「え、あ……あぁ」

晴「ごめんなさい、でも大丈夫だから…」

兎角「そうか、それならいいが……じゃあ何があった?」

兎角「あんなに切羽詰ったお前は初めて見たぞ」

晴「…………」ドキドキ

兎角「?」

晴「な、なんでもないよ…何にも、なかったから」

晴「晴は平気…心配してくれてありがとう、兎角さん」ニコッ

兎角「…………ふぅ」

兎角「まぁ……いい、何もなかったなら」

晴「………」

…今
 金星寮C棟・1号室


晴(晴の隣で、冷や汗をたくさんかいて溜め息をつく兎角さん)

晴(その姿を見た時…何故か晴は、顔が熱くなるのを感じていた)

晴(兎角さんが、晴のためにこんなに必死になって心配してくれているんだって分かったら)

晴(…兎角さんがこの前言った言葉が頭に浮かんできて)

兎角『…友達同士でも、特別な関係だったらキスするのか?』

兎角『…お前と私は、友達?』

兎角『お前と私はターゲットと守護者だ』

兎角『普通に考えたらこれって、特別な…』

晴(……晴は忘れてた)

晴(晴は、忘れようとしていた)

晴(忘れたふりをして、なかったことにしようとして、そして…思い出した)

晴(晴の内側から、身体を叩き揺らす鼓動)

晴(兎角さんの横顔を見つめていると響くそれが、確かに胸の中にあることを)

晴(あれ以来、晴の中で兎角さんは…とても特別な存在になっていたことを)

trick3「晴の桜色」  おしまい

月曜日
 10年黒組・教室


香子「…………」

鳰「神長さーん、おはよざいあーッス」

香子「………あぁ」

香子「………」チラッ

真昼「純恋子さんのお弁当…楽しみです」

純恋子「うふふ、真昼さんったら…まだ朝ですわよ?」

香子「………」チラッ

しえな「コトしずの薄い本…ふへへへへへ…!」ハァハァ

香子「………」チラッ

乙哉「はあぁ…!足りない、もっとぉ…!」ジャキンジャキンジャキンジャキンジャキン

香子「………」チラッ

柩「千足さん……」ピットリ

千足「教室じゃダメだよ柩…」

香子「…………」イライラ

…昼


溝呂木「よーし、じゃあ午前はここまでー」キーンコーンカーンコーン

春紀「はー、終わった終わった……ほら、伊介様起きろって」ポンポン

伊介「んむぅ…♥」Zzz

千足「食堂に行こうか」ギュッ

柩「はいっ♪」ギュ

香子「………」イライライラ

涼「さて今日のお昼は何を食べようかの…だいぶ暑くなってきたし蕎麦でも…」

涼「香子ちゃんはどうする?」

香子「………」イライライラ

涼「…香子ちゃん?」

純恋子「待ちに待ったお昼ですわ、はい真昼さん♡あ~ん♪」

真昼「あーん…♪」

香子「」ブチィ

香子「いいっ……加減にしろぉ!!お前らぁ!!」バーーン!!

すずにおはるひつちたおとしえすみまひとかはる「!?」ビクッ

伊介「……うるさぁい」ムクッ

香子「はぁ…はぁ…!!」ゼェゼェ

涼「ど、どうしたんじゃ香子ちゃん…いきなり…」

香子「いきなりじゃない…最近ずっと思っていたんだ…」

香子「黒組の風紀が…乱れている!!」ドーン

晴「風紀?」

しえな「そうかな?ボクはそうは思わないけど」

香子「お前も乱れの一部だぞ剣持しえな!!」ビシィ

しえな「えぇっ!?なんで!?」ガーン

香子「教室で漫画を読むな!!」

しえな「うっ…べ、別にいいだろ……休み時間しか読んでないし…」オロオロ

乙哉「しえなちゃん怒られてるー、かっわいそー」

香子「武智、お前は教室で鋏を振り回すのを止めろ」

乙哉「え゛っ…!?」ガーン

乙哉「な、なんで…!?」オロオロ

香子「危ないからだ!いいか、お前が鋏を持っている手の高さは桐ヶ谷の目線の高さで…」

鳰「それ煙草じゃないッスか?」

春紀「まぁどっちにしろ危ないな」

柩「僕そこまで小さくないですけど…」

千足「大丈夫だ、柩は私が守る」

柩「千足さん…!」キューン

香子「そういうのも風紀の乱れの一部だ!」ビシィ!

千足「何…?」

香子「なんだか知らんが最近…よく教室の中で必要以上に密着している奴が何人かいる」

純恋子「………」ピクッ

香子「この際だから言っておく、学校とは勉強するための場所だ」

香子「イチャイチャしたり漫画を読んだり花を切り刻んだり…ましてや寝る場所ではない!」

伊介「………」ピクッ

香子「みんなにはもっと学生としての自覚を持って行動してもらいたいものだな」

伊介「なにそれ?伊介にケンカ売ってるわけ?」ガタンッ

春紀「お、おい…伊介様、やめとけよ」

純恋子「聞き捨てなりませんわね、個人の行動にまでとやかく言われる筋合いはないですわ」ガタン

真昼「す、純恋子さん…」オロオロ

乙哉「ふーん、そんな事言うんならさぁ?神長さんが代わりに切り刻まれてくれるの?」ジャキッ

しえな「武智!」

香子「…………」ギロッ

いすおとすみ「…………」ゴゴゴゴゴ

晴「や、止めようよみんな…ケンカってよくないよ…」

兎角「一ノ瀬、私の後ろにいろ」バッ

香子「文句があるんなら……」

涼「ていっ」ベシィ

香子「痛っ」

涼「一ノ瀬の言うとおりじゃな、ケンカはよくないぞ香子ちゃん」

香子「なっ…!?なにするんだ首藤!」

涼「落ち着けと言ってるんじゃ、ほれみんなも」

乙哉「チッ……」スタスタ

春紀「ほら伊介様、メシ食いに行こうぜ…な?」

伊介「……フン、やる気なくなっちゃったぁ♥」プイッ

真昼「………」グスッ

純恋子「ごめんなさい真昼さん、お見苦しいところを…」

香子「…………」

涼「香子ちゃん、委員長として頑張ってるのは分かるが…もう少し肩の力を」

香子「別に、そんなんじゃない…私はただやるべきことをやっているだけだ」プイッ

涼「どこへ?」

香子「お昼ご飯だ」スタスタ

涼「………」

涼「ふーむ……ピリピリしてるみたいじゃの」

涼「……ここはひとつ、お姉さんが揉みほぐしてやるとするかの」ニヤリ

trick4「涼と香子の桜色」


つづく

放課後
 金星寮C棟・3号室


香子「………はぁ」ガチャ

涼「おっ?香子ちゃん、遅かったの」

香子「あぁ…少しね」

涼「…その様子だと何かあったようじゃな」

香子「………」

香子「ちょっと武智に追い掛け回されてた」

涼「そ…それは災難じゃの…」

香子「まったく、なんなんだあいつは…!危なすぎるぞ」

涼「んーまぁ、あやつはあの性分じゃからの…溜まっとるんじゃろ」

香子「溜まるって…何が」

涼「…自分で言っといて何じゃが、乙女の口から言わせる気か?」

香子「……?」

涼「武智は快楽殺人者じゃろう、だから…」

香子「…………」

香子「………っ!」カアァ

香子「ふ、ふざけるなっ…そんな理由で殺されてたまるか!!」

涼「んーむ…難儀な性分じゃの、武智…」

香子「はた迷惑な奴だな…自制とか出来ないのか…?」

涼「…まぁ無理じゃろうな、人の欲とはそう簡単に抑えきれないモノ」

涼「特に自分のなら尚更…本能には抗えんものじゃ」

香子「………私は、違う」

涼「ほう?」

香子「みんなみたいに色恋で浮かれたりしない、やるべき事があるから…」

涼「……ま、それも大事なのは分かるが」

涼「時には息抜きも必要だと思うぞ、香子ちゃん」

香子「…大きなお世話」

涼「まぁまぁ、今日はちょっと一休みと行こうではないか」

涼「香子ちゃんのために素敵な物を用意してあるでの」

香子「素敵な物…?」

涼「そうじゃ、さ…こっちに」

涼「っと、その前に…言い忘れておった」

涼「おかえり、香子ちゃん」

香子「……?ただいま」

涼「ご飯にする?お風呂にする?それとも……わし?」

香子「………は?」



涼「と言うわけで、お風呂をたてておいたぞ!」ジャーン

香子「はぁ」

涼「わしお気に入りの入浴剤入りじゃ、さっ!存分に日頃の疲れを落としてくれ」

香子(まぁ…確かに今日は疲れたな)

香子「じゃあ、お言葉に甘えて…ありがたく浸からせてもらうとしよう」

涼「ふふふ、ごゆっくり」

香子「うん」スタスタ ガチャ バタン

涼「…………」ニヤリ

涼(作戦成功!面白くなってきたの!)ニヤニヤ

香子「………ふぅ」カポーン

香子(いい気持ち……流石首藤一押しの入浴剤なだけある)

香子「特にこの香りが…落ち着く」バシャ

涼「ふふん、そうじゃろ?そこがわしのお気に入りでの」ガチャッ

香子「あぁ…」

涼「いい事があった日に使うと決めてるんじゃが…今日は香子ちゃんのために特別じゃ」ペタペタ

香子「そうか、それはありがたいな…」

涼「ちょっと詰めてくれ、入りにくいでの…」

香子「あぁ、すまない」バシャ

涼「ふう……」ザバー

香子「………」カポーン

涼「………」カポーン

香子「………なんで首藤まで入ってるんだ!?」ザッバーン

涼「お約束の反応、流石香子ちゃん」

香子「くっ…!鍵を閉め忘れたか…!!」

涼「たまには裸の付き合いも、って事でここは一つ」

香子「まぁ……いいけど」

香子(でもなんだか落ち着かないな…)

香子(一緒に入るって言っても、大浴場と部屋の風呂じゃ勝手が違うし…)ソワソワ

涼「まぁまぁ香子ちゃん、そう硬くならずに」モミュモミュ

香子「ひゃあぁっ!!」ビクッ

涼「む…やはり、結構こってる…」モミュモミュ

香子「んっ…!な、何してるんだ首藤!」ビクッ

涼「肩もみ…香子ちゃんを労ってやろうと思って」モミュモミュ

涼「言ったはずじゃ、息抜きも必要だとな」モミュモミュ

涼「ほれほれ、わしの腕はなかなかじゃろ」モミュモミュ

香子「ん~…!」ビクッ

涼「遠慮せず声を出してもいいぞ、どうせわししか聞いておらんしな」モミュモミュ

香子「だ、だめだって…!首藤…!」

涼「ほれほれほれほれ」モミュモミュ

香子「あっ、や、んっ…!あっ…!」

香子「うぅ……」ゼェゼェ

涼「こ、香子ちゃん……大丈夫?」

香子「ちょっと、まって…!ほんとに…」ヒィヒィ

涼「敏感なんじゃの、これはいい事を知った」

香子「首藤!お前なっ…!」ザバァ

涼「うおっ!?ちょ待っ香子ちゃん落ち着け!」

涼「もうしないから…ほれ、深呼吸深呼吸」

香子「まったく…」スーハー

香子「…………」スーハー

香子「……ふぅ」

涼「落ち着く香りじゃろ」

香子「うん……これは何の香りなんだ?」

涼「桜じゃ」

香子「桜……」

涼「香りの効果は主に気分の鎮静…今風に言うとリラックスかの?」

香子「…桜はこんな香りがするんだな」

香子「私の育った施設の周りには桜は無かったから、知らなかった…」

涼「うん…まぁ植わっていたとしてもきっと知らないままだったと思うがの」

香子「え?」

涼「今日本でよく見る事の出来る桜……主に染井吉野じゃが」

涼「それらは香りが弱いでの、普通に見ていて香りを感じられる事はまずない」

涼「嗅ぎたいならそれなりに強い香りの品種を探さなくてはの」

香子「…詳しいんだな、桜が好きなのか?」

涼「………」

涼「香りは好き…だけど、花は」

涼「複雑じゃの」

涼「たくさんの桜の季節を数えて、今まで生きてきた」

涼「その間には楽しい事も、辛い事も…色んな事があったから…」

涼「……ま、それは何も桜の季節に限った話じゃないが」

香子「たくさんって、せいぜい十数回くらいだろうに」

涼「ふふふ」

香子「?」

涼「まぁ春は好きじゃよ、うん」

涼「出会いの季節だからの、寂しがり屋のわしにはありがたい」

香子「……出会い、ね」

香子「出会いは…あまり好きじゃない、みんな浮かれて…騒がしくなる」

涼「…そのみんなと言うのは黒組のみんなのことかの?」

香子「………」

涼「人と人との出会いはいつだってそう、騒がしいものじゃと思うがの」

涼「加えて、この前の授業の事件は衝撃的だったからの…みんなが触発されるのもまぁ、無理はない」

涼「少なくとも、仲がいいのはいい事だとわしは思う」

香子「案外、肯定的なんだな」

涼「剣持じゃないが、見てて可愛いからの」

涼「番場と英、桐ヶ谷と生田目なぞ、もう見たまんまじゃな」

涼「一ノ瀬と寒河江もなにやらそわそわしておるし…ふふ、青春じゃの」

涼「いい時代になったと思うよ、自由とはすばらしいものじゃ」

香子「……そんなの、一時の気の迷いだ」

涼「?」

香子「好奇と蔑みの目に晒されて、幸せになれるはずがない…」

香子「女と女じゃ、一緒にだってなれないのに…籍だって…」

涼「香子ちゃん…」

涼「…そんなに自分を責めてもいい事なんて無いぞ」

香子「!」

涼「………」

香子「…なんで」

涼「……長く生きているとつい、どうでもいいことでも知ってしまいたくなるでの」

香子「調べたのか…?」

涼「…ごめん」

香子「………」

涼「…養護施設クローバーホームの職員が巻き込まれた爆発事故」

涼「その事故の実態は…」

香子「……そうだ」

香子「イレーナ先輩は、私が殺したんだ」

涼「……」

香子「好きだった…!先輩の存在だけが私の居場所だった…」

香子「でも、先輩は私のせいで……!!」グスッ

涼「………のう、香子ちゃん」

涼「わしは一時の迷い、なんて恋はこの世に無いと思う」

涼「遠い昔を振り返って、あの恋は一時の迷いだった…と思う事はあるかもしれない」

涼「それでも、恋をしていた間に抱いた想いは間違いなく本気のはず」

涼「香子ちゃんがその先輩に抱いている思いも、そうじゃろ?」

香子「………」コクリ

涼「…自分の気持ちに嘘をつくのはよくない」

涼「……辛かったの」ナデナデ

香子「首藤…!」

涼「おいで」スッ

香子「………っ!」ギュッ

涼「………」ナデナデ

香子「……辛かった、みんな…幸せそうなのに、どうして私は…!」

涼「うん」

香子「私のせいだったと分かっていても、どうしても…やり場のない怒りが湧いてくる」

涼「うん」

香子「忘れたかった、けど…忘れられない…」

香子「自分の気持ちに嘘をついて『幸せになれるはずはなかったから』と言い聞かせても」

香子「ダメなんだ…どうしても忘れられなかった…」

香子「私はまだ、こんなにも…先輩の事を愛している…!!」

涼「…それでいいと思う」

涼「忘れなくても、いい…むしろ忘れてはいけない」

涼「そんな風に自分を捻じ曲げたら、絶対に幸せになんてなれないからの」

香子「でも…辛いんだ」

涼「……分かるよ」

香子「首藤、私はどうしたらいい…?」

涼「…そのままの香子ちゃんでいればいい」

涼「居場所はわしが作る」

涼「わしが香子ちゃんの、新しい居場所になる」

涼「辛いのは辛いままで…その代わりに、それ以上に香子ちゃんを幸せにしてみせる」

涼「それじゃ…ダメかの」

香子「………」

香子「本当か…?」

香子「本当に、私を受け止めてくれるのか」ポロポロ

涼「うん…香子ちゃんさえよければの」

香子「首藤……」

香子「…………」

香子「……ありがとう」

涼「香子ちゃん」

香子「ん…?」

涼「…目を閉じて」

香子「えっ…」ドキッ

涼「………」

香子「ちょ、ちょっと待ってくれ…その、心の準備が」ドキドキ

涼「………」

香子「あの、嫌ってわけじゃないんだ…でも、初めてだから…!」

涼「なら、お姉さんに任せておけばいい」クスッ

香子「お姉さんって…お前一体いく」

涼「黙って」スッ

香子「つ…」

涼「ん……」チュッ

香子「………!」

涼「んっ…、香子ちゃん…」

香子「あっ…んむ、ちょっ…しゅとう…!」

涼「ん…?なんじゃ?ん…」チュッチュッ

香子「んっ…ちょ、ちょっと待っ…!首藤っ」

涼「……涼、って呼んでほしい」

香子「う……す、涼…」

涼「……香子ちゃん」チュッ

香子「んっ……あっ、んくっ…!」

香子「すずっ…、待って、これ以上はだめ…」

涼「……どうして?」

香子「そ、その…アレだ」ドキドキ

香子「……は、はじめてはベッドの上がいいから…!」カアァ

涼「……香子ちゃん」

涼「いや、別にそこまでしようとは思ってないがの」

香子「!?」ガーン

涼「わし、香子ちゃんのそういうお堅いところ、大好きじゃよ」

香子「からかうなっ!ばか…!」カアァ

涼「ふふふ」

金星寮C棟・3号室
 香子のベッド上


涼「どうじゃ?ちょっとは色々ほぐれたかの」

香子「うん…心が軽くなった気がする」

香子「ありがとう、涼」

涼「……ふふ、どういたしまして」

涼「これからはわしに思う存分甘えていいぞ」

涼「わしは香子ちゃんの全部を受けとめてあげるから」

香子「……うん」

香子「……じゃあ、早速なんだが」

涼「おっ?なんじゃなんじゃ!?」ワクワク

香子「……今日は、一緒のベッドで寝ないか?」

涼「うん、いいぞっ!どっちのベッドがいい?」

香子「じゃあ、涼のベッド」

涼「了解じゃ」

涼「一緒だと、暖かいの」ゴソゴソ

香子「そうだな…」

涼「香子ちゃん、桜の香りがする」クンカクンカ

香子「そういう涼こそ、桜の香りだ」

涼「お揃いじゃ」

香子「うん……」

香子「……涼」

涼「ん?」

香子「私、涼に出会えてよかった」

涼「…わしも、香子ちゃんに出会えてよかったよ」

香子「…おやすみ、涼」

涼「……ふふ」

涼(今年の桜は、文句なしに…いい思い出じゃの)

涼「おやすみ、香子ちゃん」

trick4「涼と香子の桜色」  おしまい

金星寮C棟
 5号室


乙哉「………」ジャキンッ ジャキッ ジャキジャキ

乙哉「…………」ジャキンジャキン ジャキッ ジャキィン

乙哉「足りないよ…花なんかじゃ、全然……足りない」グシャッ

乙哉「もう何日もしてないんだもん…!我慢の限界…!!」

乙哉「刺したい、切り刻みたい…殺したいよ…!!」

乙哉「…………」

乙哉(性、と言うものを意識し始めたのはいつだったっけ)

乙哉(周りのみんなが、少女漫画の主人公のキスにきゃーきゃーと悲鳴をあげている時)

乙哉(あたしは…人の体から流れ出る赤い血に魅せられていた)

乙哉(…誰かと付き合うとか、キスとか、セックスとか、あたしにはどうでもいいことにしか思えない)

乙哉(胸がどきどきして、身体が熱くなって、とっても気持ちいいこと)

乙哉(それを求めるなら人を切り刻めばいいのに…みんながそうしないのが、よく分からなかった)

乙哉(……今でも、よく分からない)

乙哉「はぁ、はぁ…!」

コンコン

乙哉「………?」

純恋子「失礼いたしますわ」ガチャッ

乙哉「あぁ、英ちゃん…どうしたの?」

純恋子「あら…剣持さんはいらっしゃいませんのね」キョロキョロ

純恋子「……これ、は?」

乙哉「しえなちゃんなら今いないよ、どっか行ってるみたい」

乙哉「……あぁこの部屋?ごめんねー、散らかっててさ」

乙哉「ちょっと花…切ってたところなんだ」

純恋子「……そうでしたの」ニコニコ

純恋子「武智さん、これを剣持さんに渡して頂きたいのですけど」スッ

乙哉「…本?」

純恋子「お借りしていたものですの、読み終わりましたから…返しに」

乙哉「うん、いーよー」ヒョイ

純恋子「それでは、失礼いたしますわ」

乙哉「………」

乙哉「ねぇ、待ってよ英ちゃん」

純恋子「………」

乙哉「もっとゆっくりしていけば?お茶くらい出すよ?」

純恋子「……あいにくですが、真昼さんが部屋で待ってますから」

純恋子「それでは、また」ガチャ バタン

乙哉「うん、まったねー」

乙哉「…………」

乙哉「…………チッ」

乙哉「本かー…しえなちゃん、何貸してたんだろ?」ペラッ

乙哉「……『桜trick』」

乙哉「あたし、こういうの本当によく分からないなー」

乙哉「しえなちゃんは好きみたいだけど…面白いのかな」

乙哉「…………」

乙哉「読んでみよっかな」

trick5「しえなと乙哉の…色」


つづく

『すっ、好きって言いながらキスしたら何か分かるんじゃないかと思って』

『もう一度してみよう、今度は私から』

『優ちゃん……好き……』

乙哉「…………」ジーッ

しえな「ただいま」ガチャッ

乙哉「しえなちゃん…おかえりー」

しえな「ん?なんだこの部屋…っておい武智、それ」

乙哉「あー…この本?英ちゃんが持ってきたよ」ペラッ

しえな「勝手に人の本を…あと、花を切ったら片付けろっていつも言ってるだろ」スタスタ

乙哉「んー」ペラペラ

しえな「……面白い?それ」

乙哉「………」ペラペラ

しえな「お、面白いならアニメのDVDもあるけど…」ゴソゴソ

乙哉「つまんない」ポイッ

しえな「!?」ガーン

しえな「投げるな!!」プンスカ

乙哉「だってさ…意味分かんないんだもん」プイッ

乙哉「しえなちゃん、そんなの読んで面白いの?」

しえな「前にも言ったと思うけど、ボクは…誰にも分かってもらえなくても」

乙哉「だからさ、教えてって言ってるの」

乙哉「キスって何か意味あるのかな」

しえな「……?」

乙哉「みんな、好きな人とはキスしたがったりエッチしたがったりするけど」

乙哉「それって、なんで?」

しえな「え……っと」

しえな「そ、そんなのボクに聞かれても…困る」

乙哉「なんで?」

乙哉「女の子同士の本とか好きなんでしょ?教えてよー」

しえな「…………」

乙哉「…?」

しえな「ふんっ」プイッ

乙哉「えーなにその態度ー!教えてよー!」ギャーギャー

しえな「う、うるさいっ!離せ!そんなの自分で考えろ!」

乙哉「そんな事言って、本当はしえなちゃんも分からないんじゃないの?」

しえな「っ!」ビクッ

乙哉「…………あれ?」ニヤリ

乙哉「あれあれあれあれ?どうしたのしえなちゃん」

乙哉「もしかして…図星?」

しえな「……し、仕方ないだろ」

しえな「だってボク、そういうのした事……ないし」

しえな「百合は好きだけど、誰かと付き合ったりとかの経験もないし…そんな事聞かれても…」

乙哉「ふーん…そうなんだ、しえなちゃん……かわいい♪」

しえな「かっ!?かわいいってなんだ!自分だってした事ないクセに!」

乙哉「え?あたしはあるけど?」

しえな「えっ」

乙哉「経験だけなら豊富だよー、今まではえーっと…1人、2人、3……あー、たくさん」

乙哉「黒組に来る前に付き合ってたおねーさんは『乙哉はキスが上手ね』って褒めてくれたし」

乙哉「………全員切り刻んだけどね」

しえな「……」ポカーン

乙哉「……みんな、あたしと付き合うと同じ事してきた」

乙哉「二人っきりになりたがって、抱き着いて、キスして、エッチするの」

乙哉「それが普通だってことは分かるんだけど…あたしはイマイチ興奮できなくて……」

乙哉「これってやっぱり、あたしがおかしいだけなのかな…」

しえな「そ…そうなんじゃないの、たぶん」プイッ

乙哉「ふーん…そっか……」

しえな「…………」ドキドキ

しえな(な、なんだろ…ボクおかしいぞ)

しえな(なんでこんな、武智なんかにドキドキしてるんだ)

しえな(話聞いたら…急にあいつの顔見れなくなって…!)

しえな(しっかりしろ、相手は殺人鬼だぞ!)

乙哉「はー…考えたらおなか空いちゃったな…」

しえな「………」

しえな(あの唇で、誰かとキスしたんだ…)

しえな(武智が、おねーさんとやらの前で服を脱いで…キスして、それで……)ドキドキ

しえな(って、なに変な妄想してるんだボクは…!)カアァ

乙哉「しえなちゃん、ごはん食べに行こっか」

しえな「へっ?あ……うん!」ビクッ

乙哉「………」ジーッ

しえな「な、なに…?」

乙哉「しえなちゃん、顔赤いよ」ピトッ

しえな「っ!!」

乙哉「熱いね……風邪ひいた?」

しえな(ち、近い近い近いっ!)ドキドキドキ

乙哉「…………」

乙哉「…………」ニヤリ

乙哉「んっ♪」チュッ

しえな「!!!!!」ビクッ

乙哉「えへへ…奪っちゃった♪」

しえな「お、おまっ…!なにしてっ…!!」ガタガタガタガタ

乙哉「いや、しえなちゃんとキスしたら何か分かるかなーって」

しえな「この……!馬鹿ッ!!」ベキィ

乙哉「おうっ!?」ズドン

しえな「武智の変態!!もう近寄るなっ!!」ダッ

乙哉「痛…!!ちょ、おなかはキツいよ…!!しぬ……」プルプル

しえな「死ね!!」ガチャ バタン

乙哉「……………」プルプル

乙哉「……………」

乙哉「……………ふぅ」スクッ

乙哉「……ふむ」

乙哉「……なんとなく分かった、かも?」

金星寮
 金星食堂


しえな「はぁ……」

しえな(武智のやつ…悪ふざけが過ぎるぞ!!)

しえな(……はじめて、だったのに)

鳰「どもっ、こんばんわーッス!」ヒョコッ

しえな「……走りか」

鳰「鳰ちゃんッスよぉ、一緒に座っていいッスか?」ガタン

しえな「えー…」

鳰「兎角さんに席追い出されて他にいくとこ無いんスよおぉ、お願いしますっ」

しえな「……何したのさ」

鳰「うちは何もしてねーッスよ!うち、兎角さんに嫌われてるんスかねぇ…とほほ」

しえな「まぁいいけど、座りなよ」

鳰「恩に着るッス!」ガタンッ

鳰「剣持さんはいつも一人なんスか?」

しえな「まぁ…一人の事が多いかな」

鳰「武智さんとごはん食べたりしないんスか?同室なのに」

しえな「シリアルキラーと一緒にご飯食べたいと思うか…?」

鳰「まぁそれもそーッスね」モグモグ

鳰「プチメロうんまー…!」パアァ

しえな「………」

鳰「でもせっかく同じ部屋なんだし、仲良くしたほうがいいんじゃないッスか?」

しえな「嫌だ、大体僕はここに仕事をしに来たんだ…そんな必要ないだろ」

鳰「でも最近、黒組のみなさん…すっごい仲良くなってると思いません?」

しえな「………思う、けど」

鳰「生田目さんと桐ケ谷さん、英さんと番場さん、それと首藤さんと神長さん!」

鳰「仲睦まじくて羨ましいかぎりッスねえぇ」

しえな「……お前、ぼっちだもんね」

鳰「言い方ひでーッス!!」ガーン

鳰「ふー、おなかいっぱいッス」

しえな(こいつメロンパンしか食べてないな…)

鳰「うちは行くッス、それじゃまたー」ヒラヒラ

しえな「あぁ、またな」

鳰「~♪」ダッ

鳰「あっ、晴ー」シュタタ

兎角「近づくな!」バッ

しえな「………」

しえな(武智と仲良く、か)

しえな「いやいや、無理…付き合いきれない」

しえな「鋏振りまして危ないし、部屋片付けないし、そもそも殺人鬼だし…!」

しえな「…………」

しえな(絶対無理、やっていける気がしない)

しえな(……だけど)

しえな(今、ボクの心の片隅にあいつがいるのはなんでだろう?)

金星寮C棟
 5号室


しえな「………」ガチャ

乙哉「あっ、おかえりー」ジャキジャキ

しえな「また花…」

乙哉「ちゃんと片付けるってば」シャキンシャキン

乙哉「最近溜まってるんだよねー」ジャキンッ ボトッ

しえな「…………そう」

乙哉「しえなちゃん、お風呂行く?」

しえな「もう入ってきたよ、っていうかもう寝るから」ゴソゴソ

乙哉「ふーん、じゃあ静かに切るね」チョキチョキ

しえな「お前、寝る前に絶対片付けろよ」

乙哉「わかったー、おやすみー」チョキチョキ

しえな「……おやすみ」ゴロン

しえな「…………」Zzz

乙哉「…………」

…朝


時計「ピピピピピピピピピピピ」

しえな「………うぅ」Zzz

乙哉「しえなちゃーん、朝だよー」ユサユサ

しえな「んー…」Zzz

乙哉「ほら起きて起きて」バサッ

しえな「んぅ…」Zz

乙哉「しえなちゃん、おはようっ」

しえな「………あぁ」Z

乙哉「ん♪」チュッ

しえな「…………」パチン

しえな「…………は!!?」ビクッ

乙哉「早く着替えないと遅刻するよー?」

しえな「た、武智…!お前、今…!何…!?」アタフタ

乙哉「ん?おはようのキスだよ?」

しえな「な、なんで……」オロオロ

乙哉「あたしさー…昨日、しえなちゃんとキスしたでしょ」

乙哉「その時、少しだけ何か分かったんだ」

しえな「何、か?」

乙哉「うん、しえなちゃんとのキスは今までのキスと何か違う感じがしたの」

乙哉「なんで人はキスしたがるのか、もしかしたら分かる気がして…」

乙哉「だからさ、しえなちゃん」グイッ

しえな「…………!」ビクッ

乙哉「あの漫画みたいにさ、あたし達もキスする仲になろうよ」

しえな「……!」

乙哉「しえなちゃんこういうの好きでしょ?あたしは何か分かるかもだし、一石二鳥だよね」

しえな「ぜ……!」

乙哉「ぜ?」

しえな「絶対イヤだ…!!」

つづく

ミョウジョウ学園
 10年黒組・教室


千足「おはよう」ガラッ

柩「おはようございます」スタスタ

涼「おはよう二人とも、相変らずお熱いのう」

鳰「そうッスねぇ、朝っぱらから手繋いで登校だなんて見てるこっちが恥ずかしいッス」

千足「茶化すな」キリッ

涼「茶化してなどおらん、ただ少し羨ましいだけじゃ」

香子「………羨ましい、のか?」

涼「朝から手を繋いで登校…正に青春って感じでいいと思うがの」

香子「そ、そうか…涼は、あぁいうのが」

純恋子「……真昼さんはお熱いのはお好き?」

真昼「純恋子さんの、なら…」

純恋子「あらそう、嬉しいですわ♪」

真昼「………♡」

春紀「なんか、このクラス……暑いな」

兎角「あぁ…そうだな」

晴「………」ドキドキ

乙哉「毎朝毎朝似たようなことして、よく飽きないよねーホント」

鳰「いつの間にやら首藤さんと神長さんも熱々ッス、どーなってんでしょーねー」

春紀「……まぁ一部、なんか冷えてるやつもいるみたいだけど」チラッ

しえな「…………」ズーン

しえな(なんてことだ、黒組に百合色の風が吹き抜けているって言うのに…)

しえな(今日は純粋に楽しめない……)

しえな(唇に、さっきの感触が残っていて……)ドキドキ

乙哉「どしたのしえなちゃーん、いつもみたいにハァハァしないの?」

しえな「ハァハァなんてしてない!」バーン

兎角(してる)

しえな「大体っ…!だ、誰のせいだと…!」

伊介「うるさぁい…」ムクッ

鳰「伊介さんのお目覚めッスー」

伊介「人が寝てる横で騒がないでくれなぁい?」ムニャムニャ

晴「い、伊介さん?もうちょっとで先生来るよ?」

伊介「知らなぁい♥眠いからもうちょっと寝る…」ゴロン

伊介「…………」Zzz

晴「また寝ちゃった」

兎角「よく寝る奴だ…」

鳰「寝る子は育つ!兎角さんもたまには居眠りしてみたらどうッスか?胸が…」

兎角「………あ?」ギロッ

鳰「……冗談ッスよ、冗談」

晴「春紀さん、伊介さんって夜更かしさんなの?」

春紀「伊介様?寝てるよ、夜は」

しえな「………はぁ」

乙哉「しえなちゃん、元気出して!」

乙哉「あたし、しえなちゃんが元気ないとさみしいなー」

しえな「………」イラッ

…お昼


キーンコーンカーンコーン

溝呂木「よーし、それじゃあ午前はここまでー」

伊介「ふわぁあ…♥」

春紀「メシになると起きるんだな」クスクス

伊介「うるさいわね…」

兎角「行くぞ一ノ瀬、早く行かないと混むからな」

晴「う、うん……」

鳰「うちも行くッスよー」

乙哉「あたしは何食べよっかなー…」ガタン

しえな「……おい、武智」

乙哉「ん?なぁに?しえなちゃん」

しえな「…ちょっと来い」

ミョウジョウ学園
 空き教室


しえな「………」キョロキョロ

乙哉「何?こんなところまで連れてきて」

乙哉「みんなの前じゃ出来ない話?あ、もしや恥ずか…」

しえな「武智っ」

しえな「お前は……一体、何がしたいんだ」

しえな「ボクにあんなことしておいて、なんでそんなに普通にしてられるんだ」

乙哉「あんなこと?」

しえな「とぼけるなっ!」

しえな「ボクはお前にキス、されて…こんなに普通じゃなくなってるのに」

しえな「なんでお前はそんなに普通に、ボクに話しかけるんだ」

乙哉「……言ったでしょ?あたしは知りたいだけだよ、キスの意味をね」

しえな「じゃあボク以外の奴とやってくれ、ボクは…」

乙哉「え?やだよ」

乙哉「流石に他の子は、手出したら殺されてもおかしくないのが何人かいるし」

乙哉「黒組には、あたし好みの子もいるけどさ…余計な事して痛い目見るのはごめんだもん」

乙哉「それに…」スタスタ

しえな「な、なに…」ビクッ

乙哉「あたしは、しえなちゃんがお気に入りだからね」ニコッ

しえな「………っ」

乙哉「……空き教室か、見覚えあるシチュエーションだよね」

しえな「知らないっ…!」バッ

乙哉「あたしは知ってるよ?昨日読んだもん」クスクス

乙哉「しえなちゃん、顔上げて」

しえな「い、嫌だ」

乙哉「上げて」クイッ

しえな「あっ…!?」

乙哉「んっ…」チュッ

しえな「んっ…!?ん、んんっ」グイグイ

乙哉「…………」チュー

しえな「やっ、やだっ、たけちっ…やだぁっ」グイッ

乙哉「…もうちょっとだけ、我慢して」チュッ

しえな「う、うぅんっ…んむっ…!」

乙哉「……ぷはっ」

しえな「…………」ドキドキ

しえな(やだ……)

乙哉「…どうだった?」

しえな「なに、がっ…」ドキドキ

しえな(こいつ、ほんとに……上手い)

乙哉「ふふ」ニコニコ

乙哉「あたしはまた、何か分かった気がするな」

乙哉「やっぱりしえなちゃんとのキスは今までのとは違う」

乙哉「………ごはん行こっか」

しえな(ごはんは、のどを通らなかった)

しえな(ボクの体の中は武智で埋められてしまったみたいだった)

しえな(胃の中も、頭の中も…心の中も)

しえな(武智を見る度にキスを思い出すようになった)

しえな(ボクの目の前でクラスメイトがイチャイチャしているのを見ると、キスがフラッシュバックするようになった)

しえな(百合漫画を読んでもそうなるようになっていた)

しえな(……しばらく、桜trickは読めそうになかった)

ミョウジョウ学園
 屋上


乙哉「…………」

しえな『ボクにあんなことしておいて、なんでそんなに普通にしてられるんだ』

乙哉「普通なんかじゃ、ないよ」

乙哉(だってこんな気持ち初めてだもん、しえなちゃん)

乙哉(キスなんて、今までたくさんのおねーさんや女の子としてきたよ)

乙哉(でもこんな気持ちは知らない)

乙哉(キスをしてる時のしえなちゃんを見てると湧き上がってくるこの気持ちはなんだろう?)

乙哉(たとえしえなちゃんが嫌がっても、もっとしてあげたい…もっとしたいって思うんだよ)

乙哉「………嫌がってるのに、したがるなんて」

乙哉「これってしえなちゃんが大っ嫌いなイジメってやつかな?」

乙哉「…………」

乙哉(いや、たぶん違うな)

つづく

…数日後
 金星寮C棟
  5号室


時計「ピピピピピピピピピピピ」

しえな「………うぅ」Zzz

乙哉「しえなちゃーん、朝だよー」ユサユサ

しえな「んー…」Zzz

乙哉「ほら起きて起きて」バサッ

しえな「んぅ…」Zz

しえな「ん……」ムクリ

乙哉「おはよう、しえなちゃん」

しえな「………」Z

しえな「………ぐー」バタッ

乙哉「ちょっと!?なんで起きたのにまた寝るの!」

しえな「………」Zzz

乙哉「まったく…しょうがないなぁ」スッ

乙哉「ん……」チュッ

しえな「!」

乙哉「起きないと……んむ、こうだよ…」チュー

しえな「ん、んっ…む…」ビクッ

乙哉「しえなちゃ……むぐっ」ガッ

しえな「…もう起きた」

乙哉「痛た…舌噛んだよ、しえなちゃん」

しえな「ってもうこんな時間か、着替えなきゃ」ダッ

乙哉「聞いてる?」

しえな「お前も早く支度しろよ」

乙哉「………」ムカッ

しえな「早くしな……うわっ」グイッ

乙哉「……しえなちゃん」

しえな「……なに?」

乙哉「おはようっ♪」チュッ

しえな「…………」

しえな(武智とはじめてキスした日から何日か経った)

しえな(ボクの日常は、変わった)

しえな(隙あらばキスをしてくる武智と、付き合わされるボク)

しえな(それこそ漫画の中の世界みたいな事を毎日、隠れてやっている)

しえな(最初こそ嫌で、武智を拒絶したりもしたけれど)

しえな(何回も何回も、舌を武智の口の中で転がされているうちにボクはどうやら言葉を食われたみたいで)

しえな(『嫌だ』って言葉が使えなくされてしまったみたいだった)

しえな(抗えなくなってからは体が諦めてしまったようで)

しえな(気付けば僕は武智のされるがままになっていた)

しえな「…………」

しえな(なんとも思わなくなっているのは、ボクがとっくに諦めてしまったからなのか)

しえな(それとも武智の毒に侵されて、頭の中が麻痺してしまったからなのか)

しえな(ボクにはもうよく分からない)

…夜
 金星寮
  大浴場


千足「そろそろ出ようか」ザバァ

柩「はいっ」ギュ

千足「それじゃお先に」ペタペタ

しえな「うん」

ガララ ピシャッ

春紀「…風呂でまで手繋いでるのね、あの二人」

伊介「はぁーぁ♥お風呂の温度が上がってイヤになっちゃう」ザバァ

伊介「伊介もあがる♥それじゃーね」ヒラヒラ

乙哉「まったねー」

春紀「しかし…武智が大浴場来るなんて珍しいな」

乙哉「あたしだっておっきいお風呂くらい入るよー」

乙哉「でもあんまりここ来ると…さ」

春紀「え、何かあんの?」

乙哉「みんなの事斬りたくなっちゃうからさ…!」ハァハァ

春紀「出るわ」ザッバァ スタタ ガラガラッ ピシャッ

乙哉「あっ!?待って待って!今は大丈夫だからー!」

真夜「なんだぁアイツ、あんなに急いで…」ガラッ

乙哉「あっ」

真夜「…………あ」

真夜「…………」ガラガラ ピシャッ

乙哉「ひどくない!?」ガーン

しえな「いや…今のはどう考えても武智が悪いよ」

乙哉「ちょっとショックだよ今のー…」

しえな「そりゃあんなこと言えば誰でも逃げるって…」

乙哉「………じゃあさ」

乙哉「しえなちゃんはなんで逃げないの?」

しえな「……!」

乙哉「ん?」

しえな「それ、は…」

乙哉「…しえなちゃんもさぁ、なんか慣れてきたよね」ガシッ

しえな「お、おいちょっと待って…」

乙哉「大丈夫だよ、他に誰もいないもん」

乙哉「それに誰か来ても足音で分かるし…ほら、目閉じて」

しえな「…………」パチッ

乙哉「ふふ…」

乙哉「かわいいなぁ、しえなちゃん」チュッ

しえな「はぁ……ん、ふぅ…」

乙哉「んっ…く、ん…」

しえな(……なんかボク、ほんとに流されてるなぁ)

しえな(こんなとこ誰かに見られたらヤバいのに…)

金星寮C棟
 5号室


しえな「はぁ……」

乙哉「どうしたの?のぼせちゃった?」

しえな「いや…そうじゃないけど…なんかだるくて」ゴロン

乙哉「もう寝ちゃうの?つまんないなー、遊ぼうよ」ユサユサ

しえな「暇なら一人で遊んでろよ…」

しえな「…………」

しえな(そういえば、こいつ最近…花切らなくなったな)

乙哉「ねぇしえなちゃん…?本当に寝ちゃうの…?」

しえな「あー…」

乙哉「ねぇねぇ」ポンポン

しえな「…んー」

乙哉「………」グイッ

しえな(あ)

しえな(これ、またキスされる……)

コンコン

しえな「!」ビクッ

乙哉「あ、はーい」

香子「武智、剣持…二人ともいるか?」ガチャッ

涼「点呼じゃ」

乙哉「うん、いるよー」

しえな「…………」ドキドキ

香子「…剣持はどうしたんだ?」

乙哉「んー、なんかだるいって言って寝てるよ」

香子「風邪か?」

涼「よくないの…こういう時はねぎを首に」

乙哉「なんかおばあちゃんみたい…」

涼「おばあちゃん…ふふふ…」

香子「まぁ…とにかくお大事にな」

乙哉「はーい」

しえな「…………」ドキドキ

乙哉「………」

しえな「………」

乙哉「じゃ、あたしも適当に寝よっかな」

しえな「………え?」

乙哉「おやすみー、しえなちゃん」ゴロン

しえな「た、武智…?」

乙哉「ん?なに?」

しえな「えと、あの……その」

しえな「…しないのか?」

乙哉「何を?」

しえな「何をって…!」

乙哉「?」

しえな「………」

しえな「…………キス」

乙哉「………したいの?」クスッ

しえな(う、うわ…!何聞いてるんだ、ボク…!)カアァ

しえな(しないならしないで、それでよかったのに)

しえな(わざわざ聞くなんて、そんなの)

しえな(まるでボクがキスされたいみたいな…!)ドキドキ

乙哉「しえなちゃん」

しえな「っ」ビクッ

乙哉「…………ごめん、今日は止めとくよ」

乙哉「しえなちゃん風邪っぽいし、あたしに移ったら二人ともダウンしちゃいそうだしさ」

乙哉「今日はゆっくり休んだほうがいいよ、おやすみ」スタスタ

しえな「あ……」

しえな「お、おやすみ…」

しえな「…………」

しえな(そうか)

しえな(みたいな、じゃない…)

しえな(ボク、武智にキスされたがってたんだ)



しえな(次の日の朝、ボクは本当に風邪をひいていた)

しえな「げほっ…ごほっ」

乙哉「…大丈夫?」

しえな「だ、大丈夫じゃない…かも…」ゼェゼェ

乙哉「うん…なんかもう見ただけで分かるよ」

しえな「じゃあ聞くなよ…!」ハァハァ

乙哉「こりゃ今日はお休みだねー、無理だよそんなんじゃ」

しえな「うん、起きたくない…休む」ハァハァ

乙哉「先生にはあたしが言っとくよ」

乙哉「寝なきゃ治らないからねー…お大事にね」ナデナデ

しえな「ん……」ゼェゼェ

乙哉「何かあったらあたしに電話してね、すぐ行くから」

しえな「………」ゼェゼェ

乙哉「それじゃ、行ってくるね」ガチャッ バタン

しえな「…………うっ」ドサッ

しえな(あぁ、頭痛い……鼻詰まって苦しい…暑い…)ハァハァ

しえな(風邪なんて引くのいつぶりだろう……)ハァハァ

しえな(……とにかく寝るしかない)

しえな(武智の言うとおり寝なきゃ治らないからな……)

しえな「うぅ……」Zzz



「……じゃな」

「……なのか」

「……だよ!……なのに…!」

「……にしろよ」

しえな「………?」パチン

しえな(人……だれ…?)

しえな「たけち…?」ゼェゼェ

晴「あっ、剣持さん…!起きちゃった…?」

兎角「だから、静かにしろって言ったんだ」

香子「大丈夫か?」

涼「ほんとに風邪とはたるんどるのう」

しえな「…………?」

しえな「…なんでお前らが」ムクッ

香子「私は委員長だからな、お見舞いだ」

涼「ねぎを持ってきてやったぞ」ニョキッ

晴「晴はお手伝いに来ました!」

兎角「………」

しえな「そうか、ありが…げほっ」

香子「寝てた方がいい…薬は?何か食べたか?」

しえな「なにも……」

晴「そうだと思って晴がいろいろ買ってきたよっ」ガサガサ

涼「辛そうじゃな…今ねぎを巻くからの」グルグル

兎角「………臭いな」

しえな「うん……くさい」

香子「…涼、それご飯のあとじゃダメか?」

晴「あはは……」

香子「…うん、ご飯も食べたし水分も摂ったし薬も飲んだ、これで平気だと思う」

涼「ねぎも巻いたぞ!」バーン

しえな「あ、ありがと……う…?」

晴「剣持さん、早く元気になって学校来てねっ」

しえな「……うん」

兎角「……終わったんなら帰るぞ、一ノ瀬」

晴「う、うんっ」ドキッ

香子「そうだな、剣持も寝かせてあげたほうがいいし」

涼「もうこんな時間か…おなかすいたのう」

しえな「………あ、あのさ」

兎角「……なんだ」

しえな「……武智は?」

晴「武智さん?」

しえな「あいつ、帰ってこない…」

しえな「どうかしたのかな?」

香子「武智……見たか?」

晴「さぁ…?」

涼「知らんのう」

兎角「…あいつなら授業が終わってすぐ出ていったぞ」

しえな「え…」

兎角「てっきり寮に帰ったんだと思ったが…帰ってきてないのか」

しえな「……多分」

しえな「あっ、でもいいんだ…別に用事あるわけじゃないし」

しえな「今日はありがとう……ボク、もうちょっと寝るよ」

兎角「そうか」

涼「じゃ、わしらは帰るとしよう」

晴「お大事にね、剣持さん」

しえな「うん…」

香子「それじゃ、また明日」ガチャッ バタン

しえな「……………」ゴロン

しえな「……………」ゴロゴロ

しえな「…………」

しえな「…………」

しえな「…………」

しえな「…………」

しえな「……」

乙哉「ただいまー」ガチャッ

しえな「!!」

乙哉「あれ?しえなちゃん起き……なにそれねぎ?」

しえな「た、武智」

乙哉「誰か来てくれたんだ?よかっ…くさっ!ねぎくさっ!!」

しえな「!?」ガーン

乙哉「そんなの首に巻いて寝てたの!?ヤバいよ!しえなちゃんの枕ヤバいって絶対!」

しえな「う、うるさいな!!あんまりくさいくさい言うな……げほっ!げほ!!」

乙哉「ちょっとしえなちゃん!ダメだよ暴れちゃ」

しえな「誰のせいだよ…!!」

乙哉「ほら寝た寝た、よくなったっぽいけどまだ顔赤いよ」ポンポン

しえな「うん…」

乙哉「……ね、しえなちゃん」

しえな「なに?」

乙哉「…じゃーん!はいこれっ!!」バッ

しえな「何これ…花?」

乙哉「うん、植物園で見繕って…活けてきたんだよ」

乙哉「しえなちゃんにあげる、お見舞いって言ったら花だよね」

しえな「……ボクに?」

乙哉「うんっ、そうだよ」

しえな「……ボクのために、今まで?」

乙哉「……あーうん、いや帰りに溝呂木先生に捕まっちゃってさぁ」

乙哉「なんか植物の話いっぱいされちゃったよ…」

乙哉「…遅くなってごめんね、しえなちゃん」

乙哉「ただいまっ」

しえな「……おかえり、武智」

しえな「………」プイッ ゴロン

乙哉「あれ?寝る?」

しえな「うん……」

乙哉「じゃあ花は飾っとくねー」スタスタ

しえな「……うん」

しえな(どうしよう)

しえな(すごく、嬉しい…)

しえな(武智がボクのために活けてくれた花が、嬉しい)

しえな(武智が帰って来てくれたことが嬉しい)

しえな(心臓がすごくうるさくなって、顔がニヤける)

しえな(こんな顔武智には見せられない…!)

しえな(どうしよう、まさか、こんな)

しえな(いつの間にボク、こんなに)

しえな(武智の事を好きになってたんだ)

つづく

…朝
 金星寮C棟
  5号室


しえな「………」Zzz

乙哉「………」Zzz

時計「ピピピピピピピピピピピ」

しえな「ん……」パチン

しえな「朝か…」ムクリ

しえな「……風邪は、よくなったみたいだな」

乙哉「ふわぁ…朝かぁ」ムクリ

しえな「あ…」ドキッ

乙哉「ん?おはよっ、しえなちゃん」

しえな「うん…おはよう」

乙哉「風邪治った?」

しえな「うん…」

乙哉「そっか、よかった」ニコッ

乙哉「でも念のためにもう一日休んだほうがいいよ、病み上がりが一番危ないって言うし」

しえな「………武智」

乙哉「ん?」

しえな「あ、あの…その」

しえな「ボク、風邪治ったぞ」

乙哉「…?そうだね?」

しえな「もうせきも出ないし熱もない」

しえな「だから…う、移らないと思うんだけど」

乙哉「…………」

しえな「………」

乙哉「ふぅん、そっか」ニヤリ

乙哉「そうだよね、おととい…おあずけにしっぱなしだったもんね」

乙哉「でもちょっと意外だな、しえなちゃんから誘ってくるなんて」

しえな「……!」カアァ

乙哉「いいよ、しよっか」

しえな「………」グッ

しえな(武智がキスしてくる時は、ボクは絶対顔を上に上げさせられる)

しえな(そして、上から覆いかぶさるように唇を重ねてくる)

しえな(もう何回もキスしてるから、する前はどうすればいいか体が覚えてるんだ)

しえな(でも…)

乙哉「しえなちゃん……」スッ

しえな(何回キスしても胸のどきどきは収まらない)

しえな(むしろ…どんどん鼓動は早くなっていってるみたいだった)

しえな「…………」ドキドキ

しえな「…………」ドキドキ

しえな「…………?」パチッ

しえな「武智?」

乙哉「…………」

乙哉「………しえなちゃん、ねぎくさいよ」

しえな「なっ…!!」ガーン

乙哉「ごめん、流石にそれだとちょっと…」

しえな「あっ…!ねぎ巻きっぱなしだった…!」バッ

乙哉「またおあずけだね」

しえな「……」シュン

乙哉「…そんなにあたしとしたかったの?」

しえな「!」

しえな「そ、そんなわけ」

乙哉「あるよね?」ニコニコ

しえな「……ある」

乙哉「いいよ、帰ったらいっぱいしてあげる」

乙哉「だからそれまでにねぎ取っといてね」

しえな「もう取ったよ!」ポイッ

乙哉「そのうち匂い取れるよ!多分おそらくきっと」

乙哉「だから、安静にしてなきゃダメだよ」

しえな「分かってるよ…」

…昼


しえな「………」ポケー

しえな(健康なのに休みって、ヒマだな)

しえな(…安静に、か)

しえな(食堂行ったりするのは安静の範囲に含まれるのかな…?)

しえな(…いや、たぶんダメだな)

しえな(仕方ない、大人しく寝て……)ゴロン

しえな「…くさっ!ボクの枕ねぎくさっ!!」ツーン

しえな「あぁもう…!これ、布団ごと干しとかなきゃダメだな…!」

しえな「おのれ首藤…!」



しえな「………」

しえな(さて、布団は干したし…)

しえな(どうやって寝よう)

しえな(流石に布団なしのベッドで寝るのはまた風邪ひきそうだし)

しえな「…………」

しえな「…………」チラッ

しえな(……武智の、ベッド)

しえな「………」ドキドキ

しえな「し、仕方ない…よね、うん」

しえな「だってボク病み上がりだし、寝てないとまた風邪ひくし」

しえな「布団がこれしかないなら仕方ない」

しえな「元はと言えばねぎ持ってきた首藤が悪いんだし…」

しえな「だから…」

しえな「…ボクが武智のベッドを使うのは、別に悪いことじゃない」

しえな「………」

しえな(誰に言い訳してるんだろ?ボク…)

しえな「………」ゴソゴソ

しえな(こ、ここで武智が毎日寝てるんだよな…)ドキドキ

しえな「………」モゾモゾ

しえな(なんか…すごい落ち着かない)

しえな(布団の中、全部武智の匂いで…)

しえな(こんなんじゃ逆に寝られない…!)

しえな「はぁ…」

しえな「………武智」

しえな「早く帰ってこないかな…」

しえな「………」

しえな(武智は、ボクの事どう思ってるのかな)

しえな(あいつはあくまで、人がなんでキスとかしたがるのか知りたいだけで)

しえな(ボクは都合のいい相手ってだけ…なんだよね)

しえな(もしあいつが納得する答えが見つかったらその時は)

しえな(ボクとの関係は……たぶん)

しえな「………はぁ」

しえな「こんな事考えちゃうなんて、もう…ヤダな」

しえな「辛いよ…武智」

しえな「お前のせいだ…」

乙哉「しえなちゃん、ありがとね」

しえな「……何が?」

乙哉「……あたし、分かったよ」

乙哉「人がなんで人に触れたがるのか」

乙哉「×××××××だったからなんだね」

乙哉「分かってみれば簡単だったって言うか…そりゃそうだよね、って感じだけど」

乙哉「でも前までのあたしじゃ…絶対に分からなかった答えだよ」

乙哉「全部しえなちゃんのおかげ、ありがと」フフッ

しえな「………」

乙哉「……でもやっぱりあたしは切る方が好きだなぁ」ジャキッ

しえな「え」

乙哉「みんなは分からないだろうけど、切るのって最高に気持ちいいの」

乙哉「あたしって×××だからさ、へへっ」

乙哉「だからしえなちゃん、あたし行くよ」

しえな「行くって…どこへ?」

乙哉「……晴のとこ」

しえな「…!」

乙哉「予告票も書いたよ、もう出しちゃったけど」

しえな「それじゃ、お前…!」

乙哉「うん、兎角さんと戦うよ」

乙哉「きっと強いんだろうなー…勝てるかなー、あたし」

乙哉「でも…そういう子を叩きのめして、涙でぐしゃぐしゃになった顔を切るのも…好きだよ」ニヤァ

乙哉「…しえなちゃんとはお別れだね」

しえな「…待ってよ、武智」

乙哉「勝っても負けても、あたしはここからいなくなる」

乙哉「それじゃあまたね、しえなちゃん」

しえな「待って…!」

乙哉「さようなら」

しえな「待ってよ…!武智、待ってって…!」

しえな「行くなよっ…!そんな、なんで…!」

しえな「武智いいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

…夕方
 金星寮C棟・5号室


しえな「………はっ!!」パチンッ

しえな「はぁっ…!はぁ…!!」ガバッ

しえな「…………!!」キョロキョロ

しえな「………夢?」ハァハァ

乙哉「たっだいまー♪」ガチャッ

しえな「!」

乙哉「しえなちゃん、いい子にし」

しえな「武智っ!!」バッ

乙哉「わっ!?」

しえな「………!」ギュー

乙哉「ちょ、ちょっと…どうしたの、しえなちゃん」オロオロ

しえな「………」ギュー

乙哉「……?」

乙哉「ど、どしたの本当に…汗、すごいよ?」

しえな「………」ハァハァ

乙哉「……調子悪いの?」

しえな「………」ドキドキ

乙哉「しえなちゃん、心臓の音すごいよ…どくどく言ってる…」

しえな「…………!」ドキドキドキドキ

乙哉「え、ちょっとこれ…大丈夫?」

しえな「……大丈夫じゃない」

しえな「夢、みたんだ」

乙哉「……?」

しえな「すっごいリアルな夢、本当に起こりそうな……怖い夢」

乙哉「な…なんだ夢かぁ、あたしどうしたのかと思っ」

しえな「でも、それだけじゃないんだっ…!」

しえな「武智…ボク、おかしいんだ」

しえな「お前のせいだ、お前のせいでおかしくなっちゃったんだ」

乙哉「………」

しえな「お前なんか、嫌いだったはずなのに」

しえな「勝手に人のファーストキス奪って、しかもシリアルキラーで…最悪だって思ってた」

しえな「嫌いなとこならもっと言えるぞ、部屋散らかすし、いじめっ子だし!」

しえな「その後も、ところ構わずキスしてくるようになってボク本当に嫌だったんだ」

しえな「……でもそのうち、嫌じゃなくなってった」

しえな「最近じゃ、もっとキスして欲しいって思っちゃうんだ」

しえな「ボク、お前のこと好きになっちゃったんだ…」

乙哉「………嘘」

しえな「う、嘘でこんな事…言わないっ」グスッ

しえな「武智、ボクどうすればいいんだよ」ポロポロ

しえな「お前がキスばっかするからこうなったんだ」

しえな「お前がキスしてくれないと…お前がいないと、ボク…!」

乙哉「………しえなちゃん」

しえな「責任とってよ…!」

乙哉「なんか…ごめん」

しえな「………」ポロポロ

乙哉「な、泣かないでよしえなちゃん…!あたしのせい?だよね…?」オロオロ

しえな「そうだって言ってるだろ!!!」

乙哉「………」オロオロ

乙哉「うー…しえなちゃん?顔上げて?」

しえな「………っ」グスッ

乙哉「………」チュッ

しえな「……!」

しえな(武智の、唇…)

しえな(……柔らかくて、それで…あったかい)

しえな(それに武智の香りもする…)トロン

乙哉「ふふ…泣き止んだね?」

しえな「………たけ、ち」

乙哉「……その顔、好きだな」

乙哉「ねぇしえなちゃん、あたしね…ちょっとだけ分かったよ」

しえな「何が…?」

乙哉「人は、なんで人にキスしたがるのか」

しえな「………」ビクッ

乙哉「キスされてる時の…人の顔、キスした人に夢中になってる顔」

乙哉「たぶんみんな、好きな人のそんな顔が見たくてキスするんじゃないかなって…思うよ」

しえな「………」

乙哉「あたし、しえなちゃんがあたしに夢中になってくれてる顔が好き」

乙哉「ここ何日かずっとしえなちゃんとキスして…そう思うようになったよ」

しえな「……!」

乙哉「……あたしも好きだよ、しえなちゃん」

乙哉「だから……これからもキスして、いいかな」ギュッ

しえな「………うんっ」ギュッ

乙哉「………」

しえな「………」

しえな(ボク達は、ちょっと間何も言わずに見つめ合った)

しえな(そして、いつもみたいにボクがちょっとだけ顔を上げると武智の顔が近づいてきた)

乙哉「……好き、しえなちゃん」チュッ

しえな「ん……」

乙哉「んっ、ふ、ぅ……」チュッチュッ

しえな「はぁ……ん、あ…んっ」ビクッ

乙哉「……へへ、その顔」

乙哉「すごい顔してるよ、とろけてる…」

しえな「だから、武智のせいだって…」ハァハァ

しえな「……武智は、とろけてないね」

乙哉「そうかな?結構これでもかなりヤバいテンションになってるんだけど…」ハァハァ

乙哉「ほら、触ってみて……胸…」スッ

しえな「あ……」ドキドキ

しえな(心臓の音、すご…)

乙哉「………」ドキドキ

しえな(……でっかいな)ゴクリ

乙哉「………ね?」

しえな「……ん、すごい」

乙哉「……しえなちゃん、あたしもっとしえなちゃんの事とろけさせたい」グッ

しえな「え、えっ…?武智?」ビクッ

乙哉「……いいよね?」グイッ

しえな「だっ…ダメに決まってるだろ…!何考えてっ…!!」

乙哉「……ダメ、なの?」シュン

しえな「……だって、ボク汗かいてるもん」

しえな「下着だって変えてないし…汚いよ」

乙哉「あたしはそんなの気にしないよ!」

乙哉「ね?いいでしょ?お願いっ」

乙哉「一緒に気持ちよくなろ?しえなちゃん」

しえな「………」

しえな「……分かった」

しえな「………いい、よ」

つづく

しえな(夕焼けが射しこむ、薄暗い部屋の中)

しえな(ボクは武智のベッドの上で寝転んでいた)

しえな(…上から武智が覆い被さってボクの顔を覗き込んでいる)

しえな(真っ直ぐにボクの瞳を射抜く視線が、部屋の暗がりの中で青く光って見えるような気がした)

乙哉「それじゃ…脱がすよ」シュルッ

しえな「………っ」ドキドキ

乙哉「……汗すごいね」

しえな「だ、だだだからっ…言ったのにっ…!」

乙哉「……ぷっ、しえなちゃん声震えてる」クスッ

しえな「ししし仕方ないだろ…!ボク、はじめてだもん…!!」ガクガク

乙哉「よしよし♪じゃあ、あたしが優しくしてあげるからね」

しえな「ほ…ほんとに優しくしろよ…?」

乙哉「分かってるよ」

乙哉「……」シュルシュル

しえな(うぅうう…!恥ずかしい…!!)ドキドキ

しえな「た、武智…」

乙哉「………」ジーッ

しえな「あんまり見ないで、恥ずかしいから…」ドキドキ

乙哉「…なんで?しえなちゃん、綺麗だよ」

乙哉「白くて、すべすべで……柔らかくて」

乙哉「しっとりしてて……すごく、素敵」スリスリ

しえな「ひゃんっ…!」ビクッ

しえな(な、なに…!今の…!)ゾクゾク

しえな(ぞくってなって、勝手に声出て…)

しえな(自分で触るのと全然違う…!)

乙哉「……♪」ハァハァ

乙哉「その顔もっとよく見せて…!」バッ

しえな「ひゃ…!」

乙哉「すごいよ、キスしてるときよりずっとかわいい顔…!」モミュモミュ

乙哉「あは…なんだか楽しくなってきた…♪」

しえな「あ、ちょ待っ…!はげしぃ…!」ビクッ

乙哉「しえなちゃん…可愛いよ」

しえな「あ…はぁ…んっ……!」ギュゥッ

乙哉「…っと、しえなちゃん?そんなぎゅってされたら動けないよ」

乙哉「力抜いて…ね?」ニヤッ

しえな「だ、だってっ…!声でちゃうし…!」ハァハァ

しえな「ぎゅってしてないと、気持ちよすぎて…怖い…!」

乙哉「…じゃあ、布団の中に潜っちゃおう?そしたらちょっとくらい声出したって平気だよ」

乙哉「それで、キスしてあげる♪そしたらきっと怖くないよ」

しえな「たけ……うわっ」バサッ

乙哉「えへへ……暗いね」

乙哉「んっ…」チュ-

しえな「ん…!はぁ…!んっ……く…!」

乙哉「………」ゾクッ

しえな「………」ハァハァ

乙哉「……しえなちゃん」

乙哉「下、触るよ…?」

しえな「………ん」コクン

乙哉「……」ゴソゴソ

しえな「………ん」ビクッ

乙哉「……ふふ、まだ触ってないって」

しえな「な、んか…腰のあたりが、もう……だめ…」ガクガク

しえな「武智が触っただけで、びくってなる…」

乙哉「じゃあ、直接触ったらどうなっちゃうのかな……っと」グイッ

しえな「っ!!」ビクンッ

しえな「あっ……!!た、たけちっ…だめぇ…!!これ…」

乙哉(すご…超濡れちゃってるよしえなちゃん……)ゴクリ

しえな「やぁっ…!たけちぃ、きっ…!キス、して…!」

乙哉(顔もとろとろになっちゃってるし…エロすぎでしょ、ちょっと…)

乙哉「……痛くない?」チュッ

しえな「へいき…がまんする…」

乙哉「………」ゴクリ

乙哉「……ねぇしえなちゃん」

乙哉「あたしも……いいかな…」

しえな「へ……?」

乙哉「……あたしも、したい」モジモジ

乙哉(しえなちゃんのとろけちゃった顔が、好き)

乙哉(キスしてる時ですら危なかった、その顔だけでもっとキスしたくなっちゃうから)

乙哉(だから…今はもっとヤバい)

乙哉(こんな顔を見せられちゃったら、あたしはもうあたしを抑えられない)

しえな「す、するって……ボクが?」ドキドキ

しえな「その、ボクが……たけちに、するの…?」

乙哉「い…一緒に気持ちよく、なりたい」

乙哉「しえなちゃんはそのまま寝てればいいよ、あたしがするから…」

乙哉「一緒に気持ちよくなろ、って言ったよね?だから…」

しえな「………」

しえな「…うん、いいよ」ニコッ

乙哉「………………」

乙哉「………やったあ」

乙哉「ずっと、ずっと我慢してたんだよ」ガサゴソ

乙哉「でももう我慢できなかったの」

乙哉「しえなちゃんがいいよって言ってくれなかったら…きっと無理やりにでもしてたかも」

しえな「…そんな事言わないよ」

しえな「正直、かなり恥ずかしいけど…武智が一緒なら、大丈夫」

乙哉「しえなちゃん……」キュンッ

しえな「きて、武智……」

乙哉「………」コクリ

乙哉「……しえなちゃん」

乙哉「大好きだよ」ヒュッ

ドスッ

しえな「…………え」

乙哉「……………あは♡」

しえな「…………っ!!」ブシュッ…

しえな「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ…!!」

しえな「あっ…!ぐ、うぐううぅ…!!」ドクドク

しえな(な、なに…!?)

乙哉「…………やっぱ最っ高♡」ペロッ

しえな(刺された……!)

しえな「武…!!」

乙哉「あはははははははははははははははははは!!!」ヒュッ!

しえな「あっ!」ザクッ!

しえな「うっぐ…!!うあああっ…!!」

乙哉「ダメだよしえなちゃん、そんなに大きな声出しちゃ」

乙哉「この寮…鍵ないんだからさぁ」

乙哉「あんまりうるさくしてると誰かが様子見に来ちゃうかもよ?」

乙哉「今ドアが開いたらどうしようか?困っちゃうよね?あははははは」

乙哉「あははははははあははははははははははあははははは」

しえな「げほっ…がふっ…!」ドシャッ

乙哉「…………誰もこない」

乙哉「…みんなご飯かなぁ?それともお風呂かな?どっちでもいいけどね」

乙哉「しばらく二人っきりみたいだよ、しえなちゃん」

しえな「はぁ、はぁ…!」ゼェゼェ

しえな「武智、なんで…!」

乙哉「……ごめんね、しえなちゃん」

乙哉「でもやっぱりあたしはこうじゃなきゃダメなんだよ、切るのが最高に気持ちいいの」ジャキッ

乙哉「あたしってちょっと変わってるからさぁ、えへへ…!」

乙哉「……続き、しよっか!」グイッ

しえな「あっ!?」

乙哉「……しえなちゃんのここ、ぬるぬるしたのと血でわけ分かんなくなっちゃってるね」ヌルッ

しえな「あんっ…!?」ビクンッ

乙哉「えいっ!!」ジャキンッ! 

しえな「ぎゃあああっ!!」ブシュッ

乙哉「はぁああぁあぁあ…!!しえなちゃん、すっごく素敵…!」キュンキュン

乙哉「刺したり入れたりするたびに、痛そうな顔ととろけた顔…両方見せてくれる」

乙哉「楽しすぎ…!最っ高!!しえなちゃんかっわいー…!!」ジャキンジャキンッ

しえな「あ゛っ…!!た、たけち、やめてっ…!!」

乙哉「あははははははあははははははははは」

乙哉「大丈夫、殺さないよ……一緒にって言ったもんね」

乙哉「しえなちゃんのして欲しいこと…なんでもしてあげる」

乙哉「だから、しえなちゃんはあたしのしたい事させて?」

乙哉「それで、一緒に気持ちよくなろ?ね?」

しえな「………」ハァハァ

しえな(………武智)

しえな(今まで見たこと無い顔だ…)

しえな(目がギラギラしてて、頬が真っ赤で…)

しえな(すごく、気持ちよさそうな……)

しえな(………これが)

しえな(とろけた顔ってやつか)ゾクッ

しえな「………いいよ」

しえな「武智がしたいなら、ボクのこと…切り刻んだっていい」

しえな「……だから」

しえな「だから…お願い」スッ

しえな「もっとその顔を見せて」ギュッ

しえな「いっぱいボクのこと抱きしめて、たくさんキスして…」

しえな「ボクを離さないで」

乙哉「……うん」

乙哉「絶対、絶対離さないよ」ギュッ

乙哉「これからもずっと一緒だよ」

しえな「…………」

乙哉「……お風呂場いこっか、しえなちゃん」

乙哉「ここよりかは声も出せるよ」

乙哉「後処理も楽だしね」

金星寮C棟・5号室
 風呂


乙哉「…………」

しえな「…………」

しえな「……ボク、生きてる?」

乙哉「殺さないっていったじゃん、急所は外してあるよ」

乙哉「……かなり貧血になるだろうけど」

しえな「じゃあボクまた学校休み?」

乙哉「そうなるかなぁ…」

しえな「勘弁してよ…またねぎ巻かれるかも」

乙哉「いやきっと今度はレバーとか持って来てくれるかも、あはは」

しえな「生臭いものばっか」

乙哉「……今だって十分生臭いよ、血だらけだもん」

しえな「……悪かったな」

乙哉「あっ嘘嘘!嘘だよー、すねちゃった?」

しえな「別に、そんなんじゃないけど…」

乙哉「………」

しえな「………」

乙哉「ね、しえなちゃん?顔あげて」

しえな「………」スッ

乙哉「んっ♪」チュッ

しえな「……なに?」

乙哉「大好きだよ、愛してるよ」

しえな「……ボクも」

しえな「………」

乙哉「………」

乙哉「今日どこで寝ようか、あたしのベッドも血だらけだよ」

しえな「……そういえばボク、布団干しっぱなしだった」

乙哉「よし!じゃあ今日は二人で一緒にしえなちゃんの布団だね」

しえな「こんな時間まで出しっぱなしだし…冷たいだろうなぁ」

乙哉「大丈夫大丈夫、二人一緒ならきっと暖かいよ」

しえな「………それもそうか」

trick5「しえなと乙哉の…色」  おしまい


つづく

…数日前
 ミョウジョウ学園
  10年黒組・教室


『私達は、他の子たちとは絶対にしない事をしようよ』

『じゃ、じゃあ……キス?』

『わ、分かった!しようじゃないかっ!!キス!!』

兎角「………」ジーッ

晴「わ…!」ドキドキ

春紀「………」

春紀(桜、か)

春紀(そういえば伊介の髪ってピンク色だよなぁ)

春紀「…………」チラッ

伊介「…………」Zzz

春紀(……うん)

金星寮C棟
 2号室


伊介「ただいまぁ」ガチャッ

春紀「はいはいおかえり、ただいまー」スタスタ

伊介「はーぁ、今日も疲れたぁ♥」

春紀「疲れたって、伊介様ずっと寝てたじゃんよ」

伊介「ずっとじゃないわよ、たまには起きてるわよ」ムッ

春紀「ふーん、そっかぁ」

春紀「……生物の時間って起きてた?」

伊介「ちょっと起きてたわよ、アンタがうるさかったからね」

春紀「最近のアニメってすごいのな、あんなのテレビで流してんのかな?」

伊介「知らなぁい、って言うかどーでもいいし」

春紀「………伊介様はあぁいうのは、嫌いだった?」

伊介「は?」

春紀「気持ち悪いとか言ってたし…」

伊介「嫌いじゃないわよ、ママとパパだってそうだし?」クスッ

春紀「え…?」

伊介「伊介のパパとママは両方男なのよん♥ラブラブすぎて伊介困っちゃう」

春紀「え、じゃあ何が気持ち悪いって…」

伊介「アンタの顔よ」

春紀「なにっ」

伊介「キスくらいで、バカなガキみたいにニヤニヤしてはしゃいじゃってさ…」ニヤニヤ

春紀「そんなに騒いでないだろ!ゴチャゴチャ言ってたのは鳰だって!!」

春紀「って言うか、キスくらいって…」

伊介「伊介は慣れてるもん♥ママとパパは、伊介ともラブラブなの♥」

春紀「……そういうのって経験に含むの?」

伊介「キスはキスよ」

春紀「…そういうもんかね」

春紀(………ママとパパ、か)

春紀(あたしの場合…まぁ家がアレだしな)

春紀(ちょっとうらやましいな)

春紀「家族仲、いいんだな」

伊介「まぁね♥」

春紀「…………なぁ」

春紀「…家族以外と、キスしたことは?」

伊介「?」

伊介「……まぁ、そりゃあるけど」

春紀「………」

春紀「ふーん、そっか」

春紀(…そりゃそうだよな、伊介って美人だし)

春紀(恋人の一人や二人くらいいたっておかしくないし…仕事のほうもかなり場数こなしてるみたいだし)

春紀(そっちの経験も結構なもんなんだろな)

春紀(……なんだろ)

春紀(なんか分かんないけどちょっと、ムカつく)

伊介「……なによぉ、なんでむくれてんの?」

春紀「……別にぃ」

伊介「なにその口のきき方、伊介の真似?」

春紀「いや、そんなつもりはないけど」

伊介「ふーん…?」

伊介「……あ、もしかして♥」

伊介「アンタ、キスしたことないんでしょ」

春紀「………」ドキッ

伊介「あは♥その反応、そーなんだ」

春紀「い、いや…あの、そのね」ドキドキ

伊介「伊介が経験者だから、先越されたから悔しいんだ♥」

春紀(悔しい…?)ハッ

春紀(そうなのか?あたし…悔しがってるのかな?)

伊介「………ちょっとぉ、なんで黙るのよ」

春紀「………」

伊介「……別にそんな心配しなくていいんじゃない?」ハァ

伊介「アンタなら恋人の一人や二人くらいすぐ出来るわよ」

伊介「……結構かわいいし、ね♥」ニヤリ

春紀「………」

春紀(先越されたから、悔しがってる?)

春紀(……まぁ確かに)

春紀(今まで誰とも付き合ったことないの、気にしてないって言えば嘘になるけど)

春紀(別にいますぐ誰かと付き合いたい!ってわけじゃないし…っていうかそれどころじゃないし)

春紀(悔しいってのとは違うような)

春紀(でもじゃあ、なんであたしムカついてるんだ…?)

伊介「……なんとか言いなさいよぉ」

春紀「え?なに?」ハッ

伊介「もういいっ、バーカ」プイッ

春紀「あ、ごめんごめん!ちょっと考え事しててさ!」

伊介「知らない知らない、伊介出かけてくる」ガチャ バタンッ

春紀「あー…」

春紀「…………ふぅ」

春紀(しょーがない、ポッキー用意しとかなきゃな)

春紀「…………」ビリッ

春紀「…………」モグモグ

春紀(一番近いのは、ジェラシーかな)

春紀(仕事の腕、お金、コスメ、見た目)

春紀(伊介はぜーんぶ、あたしよりいいもの持ってるしな)

春紀(………この学園に来てからしばらく平和だったしなぁ)

春紀(あたしも…なんつーか、周りを見る余裕が出来ちゃったな)

春紀(そして、周りを羨む余裕も…)

春紀(家にいた頃は生きるのに必死だった)

春紀(だから周りなんて見ちゃいなかった)

春紀「………皮肉だね」モグモグ

春紀「そんなのにイライラしてられるほど暇じゃないってのにさ」

春紀(………晴ちゃんを殺れば、もうこんな仕事しなくたってみんなを食わせてやれる)

春紀(…母さんだって)

春紀(すぐそこなんだ……もう少し、あとちょっと)

春紀「………」モグモグ

春紀(伊介、遅いな)モグモグ

春紀(でもまぁそろそろ帰って…)モグモグ

伊介「…ただいまぁ」ガチャッ

春紀(きた)

春紀「お帰り伊介様、ポッキー食べる?」スッ

伊介「………食べる♥」ヒョイ

春紀「………」モグモグ

伊介「………」モグモグ

春紀「さっきはごめんな」

伊介「……別にぃ」

春紀「なんだその口調、あたしの真似?」

伊介「そんなんじゃないわよ」

春紀「へへへへ」

伊介「何が面白いの?ばっかみたい」

春紀「いや、なんかこういうの…いいな、って思って」

伊介「ふーん」

春紀(本当はしたくないけど、するべきこと…しなくちゃいけない事)

春紀(伊介といるとちょっとだけ忘れられるような気がするんだ)

春紀(もし、あたしにもっとお金があって…みんなで落ち着いて暮らしていたとしたら)

春紀(きっと、家族ってこんな感じなのかな)

春紀「……はーぁ」

春紀「伊介様みたいなねーちゃんとか、欲しかったなぁ」

伊介「!」ビクッ

伊介「……お姉ちゃん?」

春紀「うん」

伊介「……………」ジーッ

春紀「………?」

伊介「………お姉ちゃん」

春紀「………伊介様?」

伊介「春紀…」スッ

春紀「?」

伊介「………」ナデナデ

春紀「わっ?い、伊介様?」

伊介「………あ」ハッ

伊介「な、なにさせるのよ…!意味わかんない」バッ

春紀「いやそっちがしたんだろ…」

春紀「………」

春紀(頭撫でてもらうなんて、何年ぶりだろう)ニヤリ

伊介「……………」

伊介(……お姉ちゃん)

伊介(春紀が……妹?)

伊介「…………」ドキドキ

春紀「?」

trick6「春紀と伊介の桜色」


つづく

…数年前
 某所


×××「………」

???「おねえちゃん…」

×××「………」

???「パパとママ、かえってこないね…」

×××「……いいんじゃない」

×××「いたって、いなくたってかわらないわよ…どうせ…」

???「でもぼく、パパとママにあいたいよ」

×××「……わたしはあいたくない」

???「おなかへったよ…」

×××「………」

???「おねえちゃん…」

×××「………」

???「ねちゃったの?」

×××「………」

×××「…………」

×××「…………」

×××「…………」

×××「ねぇ……」

???「…………」

×××「へんじ、しなさいよ…」

???「…………」

×××「わるかったわよ、むしして」

???「…………」

×××「しかたないじゃない、しゃべるとおなかすくのよ」

???「…………」

×××「へんじしてよ」

???「…………」

×××「…………」

×××「ねぇ」

英介「俺は、犬飼英介」

×××「…………」

英介「お前今日から犬飼伊介な、お前今日から俺の娘な」

×××「い、すけ…?」

英介「……アレ、お前の親かも知れないけど、お前をもう少しで死なせるところだった」

英介「現に、そっちの小さいのは…もう死なせてる」

×××「………!」

英介「…だからこうした、俺はアレよりお前を選んだ」

英介「意味分かるか?こんなところ出ていこうぜ」

英介「……来いよ、ぎゅっとしてやるよ」

×××「………」ギュッ

英介「俺を助けてくれ、俺の仕事を手伝って…俺の後を継いでくれ」

×××「おしごと…」

英介「そうだ、大事な仕事だ」

英介「職業暗殺者」

英介「殺し屋のことだよ」

恵介「俺は、犬飼恵介」

×××「…………」

恵介「お前今日から犬飼伊介な、お前今日から俺の娘な」

×××「い、すけ…?」

恵介「……アレ、お前の親かも知れないけど、お前をもう少しで死なせるところだった」

恵介「現に、そっちの小さいのは…もう死なせてる」

×××「………!」

恵介「…だからこうした、俺はアレよりお前を選んだ」

恵介「意味分かるか?こんなところ出ていこうぜ」

恵介「……来いよ、ぎゅっとしてやるよ」

×××「………」ギュッ

恵介「俺を助けてくれ、俺の仕事を手伝って…俺の後を継いでくれ」

×××「おしごと…」

恵介「そうだ、大事な仕事だ」

恵介「職業暗殺者」

恵介「殺し屋のことだよ」

深夜
 金星寮C棟・2号室


伊介「……ッ!!」ガバッ

伊介「………!」ハァハァ

伊介(夢……!!)

伊介「はぁ、はぁ……!」ガタガタ

伊介(嫌だ、なんで…あんな夢…)

伊介「………はぁ」

伊介(携帯……)ガサゴソ

伊介(こんな時間…ママもパパも寝てる、わよね…)

伊介「……声、聴きたかったのに」

伊介(なんで今更、あんな夢見るのよ…)

伊介(伊介はもう×××じゃない…犬飼伊介なのよ)

伊介(名前だって忘れたはずなのに)

伊介「………」チラッ

春紀「………」Zzz

伊介(コイツのせいね…)

春紀「………」Zzz

伊介「………」ベシッ!

春紀「うぉっ…!?」ガバッ

伊介「………」ゴロン

春紀「な、なんだ…?今の…」キョロキョロ

伊介「………」シーン

春紀「伊介?」

伊介「………」

春紀「……気のせいか」ゴロン

春紀「………」Zzz

伊介「………ぷっ」クスクス

伊介(暗殺者の癖に寝込み襲われて気づかないとか…!)クスクスクス

伊介「はーぁ…♥」

伊介「………」

伊介(あいつ、一人の時は『伊介』って呼ぶんだ…)

春紀「………」Zzz

伊介「………ふふふ」

伊介(ゆるい寝顔、やっぱり結構可愛いわね♥)

春紀「……ん」Zzz

伊介「?」

春紀「………んふふ」Zzz

伊介「なーに笑ってんのよ♥こいつ」ツンツン

春紀「うぐっ……」Zzz

伊介(面白い♥)クスクス

春紀『伊介様みたいなねーちゃんとか、欲しかったなぁ』

伊介「………」

伊介「………妹、か」

伊介「…ねぇ春紀」

伊介「アンタが変な事言うから、お姉ちゃんイヤな夢見ちゃったじゃない」ツンツン

春紀「うぐぐ……」Zzz

伊介「………」

伊介(伊介、なにやってんのかしら…)

伊介(春紀を、『あいつ』の…弟の代わりにしようとしてるの?)

伊介(……違うわよ、何のためによ)

伊介(今の伊介は『犬飼伊介』でママとパパがいる)

伊介(今のママとパパが伊介の本当のママとパパ)

伊介(×××の家族の代わりなんかじゃない、伊介は伊介よ)

伊介(だから、春紀も代わりなんかじゃない…!伊介は春紀を…!)

伊介「………」

伊介「……春紀を」

伊介「春紀をどうしたいの?」

春紀「………」Zzz

伊介「………えい」ツンツン

春紀「おぅっ…」Zzz

伊介「……つまんない、寝る」スタスタ

伊介「おやすみぃ…」ゴロン

伊介「………」

春紀「………」Zzz

伊介「………」ジーッ

春紀「………」Zzz


伊介(結局、この夜は…外が明るくなり始めるまで寝つけなかった)

伊介(別に、寝たらまたイヤな夢を見そうだから…とかじゃなく)

伊介(ベッドに寝転がって、なんとなく隣の春紀を見ていたら朝になっていた)

伊介(……ただ、それだけ)

つづく


 10年黒組・教室


兎角「おい一ノ瀬…顔が赤いな、風邪か?」

晴「えっ!?うぅん、大丈夫!何でもないから…」ソワソワ

春紀(…どうしたんだ晴ちゃん、いつもと雰囲気違うな)

春紀(まぁ…違うのは晴ちゃんだけじゃないけどな)チラッ

しえな「フフフフ……」ニヤニヤ

乙哉(キモっ…)

純恋子「ふふふ…!すごい、画期的ですわ…!」ペラペラ

柩「…………」ドキドキ

春紀(テンション高いやつもいるし、なんか挙動不審な奴もいるし…)

春紀(まぁ無理もないか、昨日のアレ…結構衝撃デカかったし)

春紀(それに引きかえ、あたしのルームメイト様は…)チラッ

伊介「………」Zzz

春紀(いつも通りだなー)

春紀(…いや違う、一番いつもと違うのは伊介だ)

伊介「……」Zzz

春紀(今寝てるのだって、たぶんいつもの居眠りじゃない)

春紀(だって、昨日…)



春紀「………」Zzz

伊介「…ねぇ春紀」

伊介「アンタが変な事言うから、お姉ちゃんイヤな夢見ちゃったじゃない」ツンツン

春紀「うぐぐ…」Zzz

春紀(な、なんだ…?さっきから…)Zzz

伊介「………」

伊介「伊介は…春紀をどうしたいの?」

春紀(……?)Zzz

伊介「……おやすみぃ」ゴロン



春紀(って事があったしな…)

春紀(お姉ちゃん…?とか言ってたよな、半分寝てたからあんま覚えてないけど…)

春紀(……ねーちゃんって、昨日の放課後の…あの話のことだよな)

春紀(そういや、あの話の後から伊介はなんかヘンなような…)

春紀(まさか…伊介、本当にあたしのねーちゃんになろうと…!?)

春紀(なんだそりゃ…!ありえな、いやでも…まさか…そんな…!?)ソワソワ

春紀(伊介があんな話、真に受けるわけ…!だけどお姉ちゃんとか言ってたし…!)ソワソワ

春紀(あ゛ーーーっ!!あたしにどうしろってんだ!!)ソワソワソワソワ

兎角「………」ジーッ

兎角(おかしいな…うんおかしい、明らかにおかしい)

昼休み
 金星寮・金星食堂


春紀「………」ボーッ

伊介「……ちょっとぉ」

春紀「………んあっ?なに?」パチン

伊介「いや、なに?じゃなくて…」

伊介「……ごはん、めっちゃこぼしてるんだけど」

春紀「へっ?……っあ、うわぁ…」ボタボタ

春紀「ご、ごめん…ちょっとボーッとしてた…」アタフタ

伊介「まったく、仕方ないわね」フキフキ

春紀「あ……ごめん、ありがと」

伊介「いーわよ、別にこれくらい」

伊介「…明日の洗濯、全部アンタがやってくれるなら、ね♥」ニヤリ

春紀「げ…ちゃっかりしてんな、伊介様」

伊介「まーね♥」

春紀「………」

春紀(なんかやけに優しい気がする…)

春紀(いつもなら『早く拭けー』とか『汚ーい♥』とか言いそうなとこだけど)

春紀「………」ボーッ

伊介『アンタが変な事言うから、お姉ちゃんイヤな夢見ちゃったじゃない』

春紀(ま、まさか…伊介、本当に)

春紀(あたしのねーちゃん気取ってるつもり…なのか…!?)ドキドキ

伊介「それより早く食べなさいよ、昼休み終わっちゃうじゃない」

春紀「おおぉ!?おう!食べる食べる!」ビクッ

春紀(ささささ流石に考えすぎだろ!あたし!!)ガツガツ

伊介「……食べ方汚ーい♥」

春紀「ご、ごめっ…ごふっ!!詰まった…!!」

伊介「…………♥」ニコニコ

春紀「げふっ、ごふん…!」

春紀「…………」

放課後
 ミョウジョウ学園・屋上


春紀「はぁ……」

春紀「………」

春紀「確かに、伊介みたいなねーちゃんが欲しいって言った……あぁ言ったさ」

春紀(でも本当にそんな態度取られたらあたし、どーしたらいいか分かんないって!!)

春紀(伊介は一体何のつもりなんだ!?なんか裏でも…あるような気しかしない!!)

春紀「あーもう!!ゴチャゴチャ考えるのは性に合わない!!」

真夜「うるせえな…」ガチャッ

春紀「!?」ビクッ

真夜「なんだ?誰かいやがると思ったら…寒河江かぁ」スタスタ

春紀「番場……?あ、真夜か?」

真夜「よぉ、おひさー」

春紀「よぉ…」

真夜「お前こんなとこでなにしてんだ?」

春紀「いや、別に……ちょっと考え事だよ」

真夜「お前が?……似合わねぇ!!」ヒヒヒ

春紀「うるっせーな、ほっとけ!」

春紀「んなこと…あたしだって分かってる」

真夜「ひひひ……!いや、悪ぃ悪ぃ、どいつもこいつもゴチャゴチャ悩んでやがるから…ついな」

春紀「どいつもこいつも?」

真夜「真昼」

春紀「ふーん……真昼はどうかしたのか?」

真夜「教えてやんねーー」

春紀「そうかい…」

真夜「英も、真昼も…どうでもいい事で悩んでやがんだよ」

春紀「………」

真夜「ちゃんと話せばお互いに分かりあえるっつーのにな…バカだぜ本当」

春紀「……話す、か」

春紀(……そうだな)

春紀(迷わなくても、伊介に直接聞けばいいのかもな)

春紀「よっと」スタッ

春紀「真夜、あたし行くわ」

真夜「…んじゃ、俺は真昼と二人でじっくりお説教タイムといくか」

春紀「?」

春紀「まぁいいや、んじゃ……またな」スタスタ

真夜「じゃあにぃー」

春紀「………」チラッ

真夜「…………」シーン

春紀(……寝てる、のか?)

春紀(英と番場も何かあったのかな…)

春紀「……いや、あたしはあたしのことに集中しないとな」スタスタ

春紀(伊介、部屋にいるかな…)

金星寮C棟
 2号室


春紀「ただいまー…」ガチャッ

伊介「あ、帰ってきた♥」

春紀「ん…ちょっと野暮用がね」

伊介「ふーん…まぁ別にどうでもいいけど」

春紀「もうこんな時間か…伊介様、メシ食った?」

伊介「まだよ」

伊介「アンタが帰ってこないから…帰ってきてから行こうと思って♥」

春紀(やっぱり)

春紀「……優しいんだな」

伊介「………」ハッ

伊介「そ、そう…?」

春紀「…なぁ、伊介様」

春紀「聞きたい事があるんだ」

伊介「……なによぉ」

春紀「……昨日の夜、さ」

春紀「あたしに話しかけてたよな」

伊介「!!」ビクッ

伊介「そ、そう…起きてたんだ」アセアセ

春紀「いや半分寝てたかも、だから…もしかしてと思ってさ」

春紀「でもその反応は…そっか」

春紀「あれ、夢じゃなかったんだ」

伊介「………」

春紀「あれは、さ」

春紀「あたしが、ねーちゃんが欲しいとか言ったから?」

伊介「………」

春紀「だから、優しくしてくれてんのかな」

伊介「………」

春紀「伊介様」

伊介「………そんなの」

伊介「伊介にだって、分かんないわよ」

伊介「……あんたのせいで変な夢見たの」

伊介「思い出したくもない…クソみたいな夢」

伊介「あんたが…あたしのこと、お姉ちゃんだなんて言うから」

伊介「そのせいで伊介、ヘンなのよ」

伊介「だからよく分からない…」

春紀「…なんかごめん」

伊介「……」

春紀「…やっぱ、ねーちゃんだなんてダメかな」

春紀「あたしは結構マジで、伊介様がねーちゃんだったらなって思ってる」

春紀「伊介様があたしに優しくしてくれると…嬉しいんだ、楽になるんだ」

春紀「でも伊介様が嫌ならもう言わない、だから…」

伊介「………待ってよ」

春紀「!」

伊介「だ、誰も嫌だなんて言ってないじゃない…!」

伊介「ただ、分かんないって言っただけで…!」

春紀「……じゃあ、いいの?」

伊介「………」

春紀「あたし、伊介様に頼っていいのかな」

伊介「………」

春紀「伊介様が優しいの、あたしが都合よく解釈していいのかな」

春紀「伊介様のこと、ねーちゃんだって思っていい?」

伊介「………」

春紀「…伊介様?」

伊介「……さいよ」

春紀「え?なんて?」

伊介「お姉ちゃん、って…呼びなさいよ」

春紀「!」

春紀「……へへっ」ギュッ

伊介「あ、ちょっ…何よっ、何抱き着いてんのっ」

春紀「…嬉しいよ、ねーちゃん」

伊介「………」

伊介「………もう♥」

つづく

金星寮
 金星食堂


春紀「~♪」モグモグ

伊介「……♥」モグモグ

鳰「あっれー、お二人さんなんかごきげんッスねー」スタタ

春紀「おー鳰、メシか?」

鳰「うっす!今日もうちはプチメロッスよ」ガタン

伊介「ちょっとぉ、なんでここに座るのよ」

鳰「他にいくところないッスよ」

伊介「あそこに東さんと晴ちゃんがいるじゃない」

鳰「もうとっくに追い出されたッス!」

春紀「………」

伊介「ふーん♥じゃあ伊介も追い出しちゃおうっかな?」

春紀「おいおい、ねーちゃ…もがっ」

伊介「!」バシッ!!

鳰「?」

春紀「いって…」

伊介(バカ!)コソコソ

鳰「…?どうかしたッスか?」

伊介「なんでもない♥黙ってろ」ニコニコ

春紀「おい何すんだよ、舌噛……」

伊介(なに人前で呼ぼうとしてんのよ!?)コソコソ

春紀「呼ぶ…?あぁ、ねーちゃごふっ!?」ベキィ

伊介「っ!!」ズドン!

伊介(人前でお姉ちゃんって呼ぶなっての!!)コソコソ

春紀「悪い悪い!でも大丈夫だって…ほら」チラッ

伊介「………」チラッ

鳰「プチメロはおいしいッスねえ」モグモグ

春紀「な」

伊介「…………まぁ」

伊介(…とにかく、次呼んだらマジでキツいの食らわせるわよ)コソコソ

春紀「へいへい、分かったよ」

鳰「内緒話ッスか?」

伊介「うるさい♥」

春紀「ねー…じゃなかった、伊介様のご機嫌がななめって話だよ」

鳰「そうッスか?うちにはごきげんに見え……うわ、いつの間にななめってるッス…」

伊介「あんたが来たからかしらね…♥」ゴゴゴゴ

鳰「……うち、嫌われてるんスかねぇ」ホロリ

春紀「好きではないな」ズバアァ

伊介「大嫌い♥」ズバッ

鳰「………おぅふ」

鳰「…ちぇー、みーんなそうやってうちの事いじめるんスから!神長さんに言いつけちゃうッスよ」

鳰「さて、そろそろうちは行くッスかね」ガタン

春紀「おう、またなー」

伊介「二度と来んな♥」

鳰「……馬に蹴られたくないですし」ニヤリ

伊介「!?」ドキッ

鳰「んじゃ!また明日ー!!」シュタタタ

伊介「てめっ…!どういう意味よ!!」ガタン!

春紀「お、落ち着け伊介様!」

伊介「そんなんじゃないっての…!!」ムカムカ

春紀「はは…ま、あんま気にすんなよ」

春紀「あたし達は姉妹、だもんな」ポンポン

伊介「………」

伊介「…ふんっ」バシッ

春紀「おっと」

伊介「…………」スタスタ

伊介(姉妹…)

伊介『お姉ちゃん、って…呼びなさいよ』

伊介(さっきは、あぁ言ったけど…伊介は…)

伊介(本当は…)


 金星寮C棟・2号室


春紀「はー、いい風呂だった」ガチャッ

伊介「スキンケアもばっちし♥」スタスタ

春紀「いいなぁねーちゃんは、お肌もちもちで」

伊介「………」ジーッ

春紀「……ん?な、なんだよ…」

春紀「人前じゃなければねーちゃんって呼んでいいんだろ?」

伊介「…まぁ、ね」

伊介「かわいい妹が、呼ばせてー♥って頼むんだから仕方ないわよね♥」

春紀「あれそうだっけ?ねーちゃんが呼べって言った気がするんだよなー」ニヤニヤ

伊介「…どっちでもいいのよ、そんなの!」

春紀「………」ニヤニヤ

春紀(なんか幸せだなぁこういうの)

春紀(甘えられるっていいなぁ)

春紀(家では弟と妹に囲まれて、誰かに甘える機会なんて無かったし)

春紀(あいつらがあたしに甘える気持ち、今なら分かるな)

春紀(ねーちゃんねーちゃんって寄ってきて、夜は寝かしつけてやったりして……)

春紀「…………」フト

春紀「なぁ、ねーちゃん」

伊介「なに?」

春紀「……あの、さ」

春紀「……その」

伊介「…なに」

春紀「……今日、一緒に寝ない?」

伊介「……」

春紀「あ、いや…ふと思いついて…!言ってみただけなんだけど…!」アタフタ

春紀「流石にワガママ言いすぎだよな、ベッド狭くなるし…!」

伊介「…春紀」

春紀「ごめん変な事言って…!あたし、もう寝る…!」

伊介「春紀っ!」

春紀「……はい」ビクッ

伊介「おいで」

春紀「えっ」

伊介「…伊介が来いって言ってんのよ、お姉ちゃんの言う事聞けないわけ?」

春紀「…いいの?」

伊介「いいからさっさと来い♥」

春紀「う、うんっ」アタフタ

伊介「まったく…甘えん坊なんだから」ゴロン

春紀「ははは…お邪魔します…」ガサゴソ

伊介「………」

春紀(うおお…!?すごいな、この布団…!めっちゃねーちゃんの香りするぞ)

春紀(一緒に暮らしてんのにあたしとこの差…なんだ、シャンプーの違いか)クンカクンカ

伊介「…ちょっと、何嗅いでんの?」

春紀「あ…」ハッ

春紀「いや、つい」

伊介「変態♥」

伊介「それじゃ、あかり消すわよ」

春紀「おやすみー」

伊介「…おやすみ」カチッ 



伊介「………」

春紀「………」Zzz

伊介「…ねぇ、もう寝た?」

春紀「………」Zzz

伊介「……寝たんだ?」

春紀「………」Zzz

伊介「……」ギュッ

春紀「むぐ…」Zzz

伊介「……春紀」

伊介「お姉ちゃん、少しおかしいのよ」

伊介「……あんたのせいじゃ、ないけど」

伊介(……あんたが伊介をお姉ちゃんって呼んで、伊介はそれを受け入れた)

伊介(それは、よかったと思う)

伊介(あんたの事結構好きだし、頼って貰えるのは嬉しい)

伊介(だけどね…)

伊介(心のどこかでそれが嫌だって思ってる伊介もいるの)

伊介(…あのイヤな夢のせい)

伊介(伊介の中で、イヤな気持ちと嬉しい気持ちが混ざって…わけ分かんなくなってるのよ)

伊介「……どうしたら忘れられるの?」

伊介「伊介は春紀をどうしたらいいの?」

伊介「伊介はこのまま春紀のお姉ちゃんでいたい…」

伊介「だって…」

伊介「春紀のこと、好きだから」

伊介「………」

春紀「……」Zzz

伊介「……ふふ」ナデナデ

伊介「おやすみ、春紀」


伊介(きっと今日もまたあの夢を見る)

つづく

春紀「ねーちゃーん」スタタ

伊介「なぁに?」

春紀「ポッキー買ってきたんだ、一緒に食べようぜ」スッ

伊介「あら、なかなか気が効くじゃない♥」ヒョイ

春紀「へへっ」

伊介「でもいいの?春紀、ポッキー好きじゃない」

春紀「いいんだよ、あたしはねーちゃんもポッキーも両方好きなんだから」

伊介「………ふふっ」ナデナデ

春紀「へへ、ねーちゃーん」スリスリ

伊介「よしよし」ナデナデ

春紀「ねーちゃんねーちゃん」スリスリ

伊介「なぁに?」

  「おねえちゃん」

伊介「ん?」

  「おねえちゃん、おねえちゃん」

伊介「……春紀?」




???「おねえちゃん」

金星寮C棟
 2号室


伊介「………ッ!!」ガバッ

伊介「あ…!」キョロキョロ

春紀「………」Zzz

伊介「………夢」ホッ

伊介「………」ナデナデ

春紀「ん……」Zzz

伊介(……あの日以来)

伊介(春紀が伊介の事をお姉ちゃんって呼んだ日からずっと…あいつの夢を見ている)

伊介(その度にこうやって飛び起きて、眠れない夜を過ごしている)

伊介「………はぁ」

伊介(…まだこんな時間か)

伊介(ママ…起きてるかな)

伊介「……」プルルルルプルルルル ガチャッ

恵介『もしもし?』

伊介「あ、ママ?おひさー♥」

恵介『久しぶりだな伊介…なにかあったか?』

伊介「んーん別に、ちょっとママの声聞きたくなっちゃった♥」

恵介『伊介は相変らず甘えん坊だな…いいぞ、ママの声でいいならいくらでも聞かせてやる』

伊介「やーん♥ママやさしい♥」

恵介『……随分帰りが遅いじゃないか』

伊介「……まぁね」

恵介『犬飼伊介は速攻なんじゃなかったのか?それとも…』

恵介『案外、難しい仕事だったかな』フッ

伊介「うぅん、お仕事はかーんたん♥」

伊介「でも、邪魔なのが一人…」

伊介「……いや」

恵介『?』

伊介「…邪魔なのが一人と、可愛いのが一人いるの♥」

恵介『…へぇ、興味あるな』

伊介「どっちに?」

恵介『そりゃもちろん可愛い方だよ』

伊介「……浮気?パパに言いつけちゃおうっかな…?」

恵介『おいおい…待て、ママがパパ以外の人に手を出すと思ってるのか?』

伊介「まさか♥」

恵介『まったく…』

恵介『ただ単純にね、伊介に気に入られてるその子が…気になるんだ』

恵介『伊介がママとパパ以外の人にそこまで言うなんてね』

恵介『友達か?』

伊介「うーん…?友達?とは違うけど…」

恵介『じゃあ恋人かな』

伊介「……なに言ってんのっ!!」

恵介『はは…図星か』

伊介「そ、そんなんじゃ…ない…」モジモジ

伊介(っていうか伊介、なんでこんな照れてるのよ…!)ドキドキ

恵介『伊介』

伊介「なに?」

恵介『…ママは今まで伊介の口から、色んな人の話を聞いてきた』

恵介『ターゲット、依頼人、知り合い、友達、恋人…』

恵介『でも、お前がそこまで反応するほど特別な人の話は聞いたことないぞ』

伊介「だから、そんなのじゃないってば…」

恵介『その子のこと大事にしろよ』

伊介「………」

恵介『それで、いっぱい大事にされろ』

伊介「……うん」

恵介『……さてそろそろいいかな、パパが待ってるんでね』

伊介「相変らずラブラブなのね♥」

恵介『まぁな、たまにはパパにも電話してやれよ』

伊介「うん♥」

恵介『それじゃ…おやすみ、伊介』

伊介「おやすみなさいママ♥」

伊介「………」ブツッ

伊介「……あ」

伊介(夢の話…し忘れた)

伊介(……まぁいいか、あの頃の話はママにしづらいし)

春紀「…ねーちゃん?」ムクッ

伊介「あ」

春紀「ふわぁ~あ…なにやってんの、こんな時間に」

伊介「ごめん♥起こした?」

春紀「いや、別にいいけど…」

伊介「……」

恵介『その子のこと大事にしろよ』

恵介『それで、いっぱい大事にされろ』

伊介「……ねぇ、春紀」

春紀「ん?」

伊介「今日はあんたが、伊介のことぎゅってして寝なさい♥」

春紀「……うん、いいよ」フッ

春紀「ん」ギュッ

伊介「…♥」

春紀「でも珍しいじゃん、どうかしたの?」

伊介「伊介だってたまには甘えたい時だってあるの」

春紀「…そうだよな、いつもあたしが優しくしてもらっちゃってるもんな」

春紀「じゃあ今日はあたしがねーちゃんのこと、ずっとぎゅっとしててやるよ」ギュー

伊介「やん♥くすぐったい♥」

伊介「……」

伊介(伊介はもう大丈夫)

伊介(優しいパパとママがいて…可愛い妹もいる)

伊介(こんなに幸せな気持ちで寝れば大丈夫)

伊介(今日はもうあの夢は見なくてすむ、きっとそうよ)






伊介(でも、また伊介は悪夢を見た)

…数日後
 10年黒組・教室


伊介「………」Zzz

伊介(……むにゃむにゃ)Zzz

乙哉「しえなちゃーん、いつもみたいにハァハァしないの?」

しえな「ハァハァなんてしてない!」バーン

伊介「………」Z

伊介「うるさぁい…」ムクッ

伊介「人が寝てる横で騒がないでくれなぁい?」ムニャムニャ

晴「い、伊介さん?もうちょっとで先生来るよ?」

伊介「知らなぁい♥眠いからもうちょっと寝る…」ゴロン

伊介「…………」Zzz

晴「…春紀さん、伊介さんって夜更かしさんなの?」

春紀「伊介様?寝てるよ、夜は」

春紀「………」

春紀(寝てるはず、だよな…?)

伊介「……」Zzz

春紀「……」

春紀(居眠りしてるのはいつもの事、なんだけど)

春紀(なんていうか、最近はマジで寝てるような…?)

春紀(あたしの考えすぎか…?)

溝呂木「おはよう諸君っ!」ガラッ

晴「ほ、ほらっ伊介さん!先生来たってば…!」ユサユサ

伊介「んー…」Zz

春紀「あ、あのさ…晴ちゃん」

春紀「伊介様、そのままにしといてやってよ」

晴「え?で…でも…」

溝呂木「よーし、出席とるから席についてくれー」

春紀「ほらほら、晴ちゃんも自分の席に戻った戻った」

晴「おっと…」スタタ

春紀「………」

伊介「………」Zzz

…放課後


伊介「………」Zzz

春紀「伊介様…授業終わったぞ」ユサユサ

伊介「………」Zz

春紀「………」キョロキョロ

春紀「…ねーちゃん、起きろって」ポンポン

伊介「ふあっ…」ビクッ

伊介「……ふぅ、よく寝た♥」

伊介「おはよ♥春紀♥」

春紀「………あぁ」

春紀「……あのさ、伊介様」

伊介「?」

春紀「あたし、伊介様に聞きたい事があるんだ」

伊介「聞きたい事…?」

春紀「…………」

つづく

伊介「聞きたい事って、なによ」

春紀「…伊介様、なんか悩み事とかないか?」

伊介「!」ドキッ

伊介「そ、そんなの…別にないけど?」

春紀「最近居眠り多いみたいじゃん」

伊介「授業なんて、ダルくて真面目に受けてらんないのよね」

伊介「それに居眠りなんて前からじゃない♥」

春紀「それは…そうかもだけど」

伊介「っていうか、伊介が居眠りしてたらなんなの?」

春紀「……」

春紀「もしかして…だけどさ」

春紀「伊介様、最近夜眠れてないんじゃないかって…思って」

伊介「………」ピクッ

伊介「何言ってんの?昨日も一緒に寝たじゃない♥」

春紀「それは、そうだけど」

伊介「とにかく伊介はだいじょーぶ、春紀が心配してるような事なんてないから♥」

春紀「………」ジーッ

伊介「………」ニコッ

春紀「…ならいいんだ、ごめん変なこと聞いて」

伊介「ん♥それじゃ帰るわよ」ガタッ

春紀「うん」スタスタ

伊介「んー…伊介、おなか空いちゃった♥」

春紀「部屋にポッキーあるよ」

伊介「やった♥」

春紀「半分こだからな…この前買ってきた時、伊介様全部食っちゃうんだから」

伊介「だっておなか空いてたんだもん♥」

伊介「………」スタスタ

伊介(春紀には絶対話せないわ、こんなの)

伊介(もう忘れたこと、もう伊介に関係ないことに怯えて眠れないなんて)

伊介(春紀には絶対知られたくない)

…夜
 金星寮C棟・2号室


伊介「…春紀、おいで♥」

春紀「ん」ゴソゴソ

伊介「んー♥春紀あったかい♥」ギュー

春紀「そりゃ風呂あがりだしな…っていうかねーちゃんもあったかいだろ」

春紀「…いつの間に、一緒に寝るのが当たり前になっちゃったな」

春紀「あたし最近、自分のベッド使った覚えがないや」

伊介「…そうね」

春紀「…こんな幸せがずっと続けばいいのに」

伊介「……?」

春紀「………」ギュッ

伊介「なに?」

春紀「…今日はねーちゃんと手繋いでいたいんだ」

伊介「……いいわよ」

春紀「おやすみ、ねーちゃん」

伊介「おやすみ、春紀♥」

春紀「………」Zzz

伊介「………」ジーッ

春紀『…こんな幸せがずっと続けばいいのに』

伊介(……本当に、ね)

伊介(晴ちゃんが殺されたら黒組は終わる)

伊介(今は誰も動いてないけど…きっとそのうち…)

伊介(伊介だって本気出せば、東なんかに負けないし♥)

伊介「………」

伊介(黒組が終わったら、伊介はママとパパのところに帰る)

伊介(春紀も…家族のところに帰る?)

伊介(そしたら…伊介たちは……)

伊介「………」ギュッ

春紀「………」Zzz

伊介「ずっと一緒にいれたら、ずっと幸せなのにね」

伊介(もし伊介が春紀を家に連れて帰ったら…)

伊介(ママとパパ、どんな顔するかな)

伊介(ママは喜んでくれるかな、春紀に興味あるって言ってたし)

伊介(パパは…きっと驚くわね♥)

伊介(伊介が仕事を終わらせたら春紀と一緒にここを出るのもいいかも)

伊介(……でも今はもう少しだけここにいるってのも、アリかな)

伊介(どーせまだ誰も動く気配ないし、ちょっとくらい休憩挟むのも大事よね♥)

伊介(ふふ、犬飼伊介は速攻!のはずだったのに)

伊介(でもまぁしょうがないわよね)

伊介(春紀のこと、好きなんだもん♥)

伊介「ふふっ」

春紀「………」Zzz

伊介「………」

伊介「………」ウトウト

伊介「………」Zzz

春紀「ねーちゃん」


伊介「……?」


???「おねえちゃん」


春紀「ねーちゃーん」


???「おねえちゃん」


???「おねえちゃん…」




???「おねえちゃん」

「……ちゃん、おいっ、ねーちゃん」

伊介「ううぅ…!」Zzz

春紀「ねーちゃんってば、しっかりしろって」ユサユサ

伊介「………!」ハッ

伊介「あ…は、春紀…?」

春紀「大丈夫か?うなされてたぞ…」

伊介「あ…うん、変な夢見て……」ムクッ

伊介「悪いわね、でも大丈夫だから…」

春紀「………」

春紀「大丈夫じゃないだろ」

伊介「……」ギクッ

春紀「やっぱり夜眠れてなかったんだな」

伊介「……何言ってんの?」

伊介「別に、今日は…たまたまだから、たまたま寝つきが悪かっただけで…」プイッ

春紀「…………」ジーッ

春紀「うそつけ」

伊介「は?」

春紀「嘘ついてるだろ」

伊介「…なんでよ」

春紀「うちのチビと同じなんだよ、目そらして…こっちを全然見ない」

春紀「嘘ついてる時の反応」

伊介「…なにそれ?伊介を子供と一緒にしないでくれる?」

伊介「もう寝るから、伊介眠いし……」

春紀「ねーちゃんっ」ガッ

伊介「痛っ…!」

春紀「あ、ごめんっ…!」バッ

伊介「……馬鹿力」

春紀「……ごめん、でも」

春紀「話してよ」

伊介「………」

春紀「あたしたち姉妹だろ?」

伊介「………」

伊介「…なにお姉ちゃんみたいな事言ってんのよ」

春紀「まぁ、これでも家ではねーちゃんだしな…」

伊介「………夢、見るの」

春紀「…うん」

伊介「ずっと昔の夢、伊介が伊介になる前の夢」

春紀「…?」

伊介「…伊介ね、ママともパパとも血が繋がってないのよ」

伊介「ママと出会う前の、伊介の…血の繋がった家族も勿論いた」

伊介「……思い出したくもない、サイッテーの家族」

伊介「母親と、父親と……それと、弟」

伊介「弟は親に殺されたようなもんなのよ」

春紀「………!」

伊介「親は伊介たちの事をいないものみたいに扱った」

伊介「……ごはんも食べられずに、弟は死んじゃったわ」

伊介「……伊介だけは、ママに見つけて貰って助かった」

春紀「………」

伊介「……弟がね、夢に出てくるの」

伊介「おねえちゃん、おねえちゃん…って伊介を呼ぶのよ」

伊介「………それだけ」

春紀「……伊介」

伊介「笑っちゃうわよね?たったそれだけの夢なのに、この犬飼伊介が眠れないほど…」

春紀「伊介っ!」

伊介「!」ビクッ

春紀「もういいよ……もういいから」グスッ

春紀「ごめん…イヤなこと聞いて…」ポロポロ

伊介「ちょっ…なんで春紀が泣くのよ…」

春紀「だって…だって!!」

春紀「ひどいだろ、そんなの…!!」

春紀「家族なのに…!!」

伊介「春紀……」

春紀「くそっ…!」メソメソ

伊介「………」ナデナデ

春紀「………はぁ」グスッ

伊介「落ち着いた?」

春紀「まぁ…」

春紀「……ずっとそんな夢見てたんだ」

伊介「……まぁ、ね」

伊介「長い事ずっと忘れてた…」

伊介「『犬飼伊介』になった伊介には、もう全然関係ないことだし」

春紀「……でも、最近になって夢にみるようになった」

伊介「うん」

春紀「……それ、あたしのせいだよな」

伊介「………」

春紀「………」

伊介「………」

春紀「……もう、止めよっか」

伊介「え…?」

春紀「あたし達、姉妹止めよう」

伊介「………は?」

春紀「あたしが伊介のこと…ねーちゃんだなんて呼んだから、弟さんの事思い出させちゃったんだ」

春紀「だったらもう、これ以上こんな事続けない方がいい」

春紀「……ほんと、ごめんな」

伊介「……なによそれ、勝手なこと言わないでよ…!」

春紀「でもあたしが伊介のそばにいたら、きっとその夢を見続けることになる」

春紀「だからもう止めよう」

伊介「…そうだけど!でも!!」

伊介「伊介は……春紀のこと…!」

春紀「…どっちみちさ、ずっと続けてられることじゃなかったんだ」

春紀「……いい機会だし、あたしも話しておかなきゃな」

伊介「え……?」

春紀「………あたし、予告票出すことにしたんだ」

春紀「晴ちゃんを、殺す」

伊介「!?」

春紀「……うち、大家族の上に母さんが病気でさ」

春紀「とにかくお金が無くって…だからあたし、こんな仕事してるんだ」

春紀「でもさ…イヤになっちゃったんだよ」

春紀「誰かを殺した金で生きるなんてもうイヤなんだ」

春紀「……もう、止めたい」

春紀「晴ちゃんを殺して…家族が一生暮らしていける分のお金を貰う」

春紀「そんであたしは……もう休むことにしたんだ」

春紀「……疲れちまった」

春紀「だから最後に……伊介に甘えちゃったのかな」

伊介「止めるって、最後って…あんたまさか…!」

春紀「………」フッ

春紀「本当に…ごめんな、あたしのわがままに付き合わせちまって」

春紀「明日にでも予告票を出す」

春紀「それでさよならだ」

春紀「……今までありがとう」

伊介「………!!」

伊介「はる…!!」

春紀「今日は自分のベッドで寝るよ」スタスタ

春紀「……おやすみ、伊介様」

伊介「春紀!!」

春紀「………」ゴロン

伊介「………!」

伊介「……馬鹿っ!!」

つづく

夜明け前
 ミョウジョウ学園・校庭


春紀「…………」スタスタ

『出席番号6番 寒河江春紀』

春紀(予告票って、これでいーのかね)

春紀(これを晴ちゃんに渡して…殺す)

春紀(それで全部終わりだ)

春紀「………」スタスタ

春紀「!」ピクッ

鳰「どーもー春紀さん!おはよざいあーッス!!」

春紀「…よう、鳰」

鳰「予告票出すんッスか?名前書いてたッスよね?」

春紀「……どこで見てたのお前」

鳰「うちは裁定者ッスから!なんでもお見通しッスよ」

春紀「……やっぱあたし、お前のこと嫌いだな」

鳰「おぅふ…傷つくッス…」

春紀(まぁいいさ、どうせあたしが動くのはもうちょっと後だしな)

春紀(教室に行って、予告票を晴ちゃんの机に仕込む)

春紀(仕掛けるのは、夜)

春紀(予告に怯えて、疲れたところを狙う)

春紀(隠れて忍び寄って…ワイヤーで一撃だ)

春紀(でも、そううまくは行かないんだろうけどな)

春紀(晴ちゃんには東がいる、きっと戦いに…)

春紀「………!」

伊介「…………」

春紀「……よっ、伊介様」

伊介「…………」

春紀「…早起きだな、っていうかあたしが部屋出た時寝てたはずなのに…」

伊介「…………」

春紀「……あたしに何か用?」

伊介「………晴ちゃんに死なれちゃ困るのよね♥」

伊介「……だから、邪魔しにきたの♥」ジャキンッ

鳰「ルールの確認するッスよ、制限時間はその予告票を晴ちゃんが受け取ってから48時間」

春紀「それまでに殺せなければ退学、だろ」

鳰「そうッスー」

春紀「……聞きたいことあんだけどさ」

鳰「なんッスか?」

春紀「……もしあたしが死んでも、報酬は家族のとこに届くんだよな…?」

鳰「………春紀さんの希望する報酬はお金だったッスよね」

鳰「問題ないッスよ、任務成功の暁にはちゃーんと家族のところに届くッス」

春紀「……ならいいんだ」フッ

春紀「………」スタスタ

鳰「……春紀さーん!」

春紀「んー?」

鳰「頑張ってくださいねー!」

春紀「…………?」

鳰「んじゃ、うちは帰って二度寝するッスー」スタコラ

春紀「……二度寝って」

春紀(いいのか?裁定者がそれで)

春紀(まぁいいさ、どうせあたしが動くのはもうちょっと後だしな)

春紀(教室に行って、予告票を晴ちゃんの机に仕込む)

春紀(仕掛けるのは、夜)

春紀(予告に怯えて、疲れたところを狙う)

春紀(隠れて忍び寄って…ワイヤーで一撃だ)

春紀(でも、そううまくは行かないんだろうけどな)

春紀(晴ちゃんには東がいる、きっと戦いに…)

春紀「………!」

伊介「…………」

春紀「……よっ、伊介様」

伊介「…………」

春紀「…早起きだな、っていうかあたしが部屋出た時寝てたはずなのに…」

伊介「…………」

春紀「……あたしに何か用?」

伊介「………晴ちゃんに死なれちゃ困るのよね♥」

伊介「……だから、邪魔しにきたの♥」ジャキンッ

春紀「………いいぜ」

春紀「そういう仕事だもんな、早い者勝ちだ」

春紀「誰か邪魔してくるかも…とは思ってたんだ」

春紀「……死んでも文句言うなよな」ビッ

伊介「死ぬ?伊介が?なにそれ?」ヒュンヒュン

伊介「伊介はあんたなんかに殺されないもん♥」ジャキッ

春紀「…………」

伊介「…………」

春紀「おらあぁっ!!」ダッ

伊介「………!!」シャッ

春紀「らぁっ!!」バッ!

伊介(くっ…!!この…馬鹿力!!)ガキン!

伊介(拳をナイフで受けきるのは無理……なら…)

伊介「……ふっ!!」バキッ!

春紀「ぐあっ…!」ドシャッ

伊介「ごめんねぇ♥伊介も殴るのは得意なの」

春紀(カウンター…!)ボタボタ

春紀「くっそ…鼻折れたらどうしてくれんだ」バッ

伊介「……もう諦めたら?」

伊介「あんたじゃ伊介に勝てるわけないのよね」

春紀「……できないね」

春紀「おらぁ!」バッ

伊介「……」ヒョイッ

春紀「……かかったな!」ビシィッ

伊介(……ワイヤー!?く、首にっ…!)

春紀「悪いな…しばらく寝ててくれ」ギリギリギリ

伊介「がっ…!かはっ、あ……!!」

春紀(早く落ちろ…!)

伊介「うっぐ……ああぁ…!!」

春紀(早く…!!)

伊介「あ……!」

春紀(そんな苦しい声、あたしに聞かせんな…!!)

伊介「げほっ…!!ぐ…」

伊介「あんた…やる気、あんの…?」ゼェゼェ

春紀「!!」

伊介「伊介を落としたいならっ…!もっと強く、絞めなきゃ…ダメ…なのよね…♥」

伊介「こんなんで…晴ちゃんを殺す…なんて…なにそれ?ギャグ?」

春紀「………!」

春紀(もっと、強く)

春紀(もっと強く腕に力を込めて、ワイヤーを引っ張らなきゃ)

春紀(まだ弱かったんだ、もっと本気で絞めろ)

春紀(そうしなきゃこいつは黙らない)

春紀(伊介を黙らせるんだ、そうしなきゃあたしの邪魔になる)

春紀(もっと、もっと…!)

伊介「くっ……!」ギリギリギリ

春紀「…………!!」

春紀「………っ」

春紀「……くそっ!!」バッ

伊介「っ!!」ドシャッ

伊介「かっは…!!げほっ、げほげほっ…!あっ…!!」ゼェゼェ

春紀「………」ハァハァ

伊介「あー…死ぬかと思った…♥」ゼェゼェ

春紀「………」

伊介「………」ゼェゼェ

伊介「………なによ」

伊介「泣くくらいなら最初からやらなければいいのに」

春紀「だって…!」グスッ

春紀「伊介が、本当に…!死んじゃうかと思ったから…!!」ポロポロ

春紀「あたしが伊介を殺すなんて…!」

春紀「そんなの出来ない…!!」

伊介「………」

伊介「……あんたってこの仕事、向いてないのよね」

春紀「……」グスッ

伊介「………」ナデナデ

伊介「あんたの頭、撫でるの何回目かしらね…」

伊介「すっかり慣れてきちゃった」

春紀「………」

伊介「………」

春紀「あたし…もう、ダメだな」

伊介「………」

春紀「もう人殺しなんてできない」

春紀「東に勝つどころじゃない、晴ちゃんもきっと殺せない…」

伊介「……伊介は、そのほうがいいと思うけど」

伊介「やりたくないこと、できないことなんてやらないほうが自分のためなのよね…」

春紀「……でも、あたしには家族がいるんだ」

春紀「みんなを助けられるのはもうあたししかいないんだ…!」

伊介「……ほんと、甘いっていうか…なんていうか」

春紀「だって、家族は見捨てられない」

伊介「………まぁね」

伊介「もし伊介が同じ立場だったら…絶対に家族を、ママとパパを見捨てたりしない」

伊介「でも伊介は死なない」

春紀「………」

伊介「死んだらママとパパが悲しむし」

伊介「…やりたくないなら、もうしなくていいのよ春紀」

伊介「でも死んじゃダメよ」

伊介「殺しが嫌ならそれ以外の方法でお金稼ぎなさいよ」

春紀「でも、みんなを食わせてやれるほどの大金なんて、どうやって…」

伊介「……伊介が助けてあげる♥」

春紀「………は?」

伊介「伊介、結構お金持ってるし♥ちょっとくらいならよゆーよゆー♥」

春紀「え、いや…ちょっと待って、何言ってんだ…?」

伊介「何が?」

春紀「いや、なんであたしの家族の事に伊介が口出すんだって!」

春紀「お金なんて貰えないよ…それに…」

伊介「……殺しで稼いだお金は嫌?」

春紀「………」

伊介「……じゃあ伊介、学校辞めよっかな♥」

春紀「は!?」

伊介「それでバイトとかしてみよっかなー、春紀と一緒に♥」

伊介「勿論暗殺は止めないけどね…ママの跡継がなきゃだし♥」

春紀「なんでそこまで…」

伊介「…さっき春紀が言ったじゃない」

伊介「家族は見捨てられないのよ」

春紀「………もう姉妹やめたろ」

伊介「伊介は別に姉妹じゃなくてもいいんだけど?」

春紀「……?」

伊介「…春紀、伊介の家族になっちゃいなさいよ♥」

春紀「……え、それは」

伊介「………♥」

春紀「つまり……」ドキドキ

伊介「…………」

春紀「あの……!」ドキドキ

伊介「結婚しない?伊介と」

春紀「…えええええええええ!?」

伊介「………」ドキドキ

伊介「春紀のお姉ちゃんになって、分かった」

伊介「伊介…春紀のこと好きなのよ」

伊介「姉妹じゃなくて、家族がいいの」

春紀「いいいいきなり何言ってんだよ…!」

伊介「……それに、春紀に死んでほしくない」

春紀「!」

伊介「…春紀は、家族を残して死ねるの?」

春紀「………死に、たくない」

伊介「………」

春紀「死にたくない……けど、でも」

春紀「…人を殺しておいて、あたしが生き続けるのは…苦しい…」

伊介「……伊介が、支える」ギュッ

伊介「伊介がずっとそばにいてあげる、春紀のこと助けてあげる」

伊介「泣きたくなったら胸を貸してあげるし、頭だって撫でてあげるから…」

伊介「死なないでよ、春紀…」

春紀「………止めてよ、そんな事言われたらさ…」

春紀「また、甘えたくなっちゃうじゃん…!」ギュッ

伊介「……いいんじゃない、甘えちゃいなさいよ♥」

伊介「ただし、今度からは……お姉ちゃんじゃなくて」

伊介「伊介、って呼びなさいよ♥」

春紀「……伊介」ギュー

伊介「………♥」

春紀「………」ビリビリ

春紀「予告票…破いちゃった」

伊介「うん」

春紀「はー……なんか」

春紀「肩の荷が降りた……って感じかな」

春紀「全然降りてないのにな」フッ

春紀「むしろこれから大変だぞ…バイト、いくつ掛け持ちしなくちゃかな」

伊介「伊介、バイトしたことなーい♥」

春紀「……本当に大丈夫かな、これから」

伊介「…まぁなんとかなるんじゃない?」

春紀「なんとか…なればいいけど」

伊介「なるわよ、多分ね」

伊介「とりあえず帰って寝ない?まだこんな時間だし…」

春紀「……そうだなー」

春紀「二度寝、しようか」

金星寮C棟
 2号室


春紀「……なんであたしのベッド?」ゴソゴソ

伊介「いいじゃない、こっちのほうが安心して寝れそうなの♥」

春紀「夢は、平気なのか?」

伊介「……さぁね?手のかかる妹はいなくなったし、もう思い出すこともないかも」

春紀「……」

伊介「別に…いいわよ、そのうち見なくなるわ」

春紀「……もし起きちゃったら、あたしのこと起こせよな」

伊介「……うん♥」

春紀「………」

伊介「………ね、春紀」

春紀「ん?」

伊介「おやすみのキス……しない?」

春紀「……いいよ」

春紀(……状況は何も、変わってない)

春紀(あたしは相変らずお金がないし、伊介だってまたきっと夢を見る)

春紀(時が経てばどうにかなる問題……かは分からないけど)

春紀(弟と妹たちが手のかからなくなる時まで…伊介が弟のことをまた忘れられる日まで)

春紀(過去のこととか、今のこと、これからのこと…たくさん背中に載せて)

春紀(まぁ頑張ってみようかなってまた思えるようになったのは)

伊介「…おやすみ、春紀」

春紀「うん、おやすみ伊介」チュッ

春紀(大切な家族がすぐ隣にいてくれるから、かな)

春紀「………♪」Zzz

伊介「………♥」Zzz

trick6「春紀と伊介の桜色」  おしまい


つづく

金星寮C棟
 6号室


純恋子「真夜さん…」ギュッ

真夜「~~~~っ!!」カアァ

純恋子「…ねぇ、こっちを向いて?」

真夜「……あ、あの、その」ドキドキ

純恋子「……真夜さんたら、まるで真昼さんみたいですわね」クスクス

純恋子「…可愛い」ボソッ

真夜「なななな何言ってんだよお前っ…!」

純恋子「…お前、じゃなくて純恋子、って呼んでほしいですわ」

真夜「す、純恋…子…」ドキドキ

純恋子「はい、真夜さん♪」

真夜「うぅ…」ドキドキ

純恋子(……真夜さんともっと仲良くなるには、真昼さん以上に時間がかかりそうですわ)

純恋子(まぁ…照れてる真夜さん、可愛いからそれはそれでいいのですけど♪)ピトッ

真夜「ひっ!!」ビクー

カメラ『…………』ジーッ

金星寮C棟
 4号室


柩「………」ジーッ

千足「…柩?どうしたんだ?」

柩「あ…千足さん、すいませんボーッとしてて」

柩「ちょっと窓から、星を見てたんです」

千足「星か…」

柩「ここは高層だから星が良く見えますね」

千足「あぁ、そうだな」

千足「柩は星が好きなのか?」

柩「特別好きだったわけじゃないですけど…でも」

柩「あの夜のこと思い出せるから今は大好きです」ニコッ

千足「……柩」キューン

千足「……目、閉じて」

柩「あ…千足さん…」ドキドキ

カメラ『…………』ジーッ

金星寮C棟
 3号室


香子「………」カリカリ

涼「香子ちゃん、風呂入る?」

香子「私はまだいい、涼が先に入ってくれ」

涼「…勉強熱心じゃのう、テスト前でもないのに」

香子「勉強は日々の積み重ねが大事なんだ」

涼「それは分かるが…一息いれん?」

香子「キリのいいところまで終わらせたいんだ、気にしないで」

涼「………今日の入浴剤は、桜にしようと思ってるんじゃが」

香子「!」ピクッ

涼「……うふ」ニヤリ

香子「…一緒に入りたい、ってことか?」

涼「ふふふふふ」ニヤニヤ

香子「……分かった、行こうか」

カメラ『…………』ジーッ

金星寮C棟
 5号室
  お風呂場


しえな「んっ…!た、たけちっ、はげしっ」

乙哉「しえなちゃんがっ…!可愛いのが悪いっ…!」ハァハァ

乙哉「治りかけの傷なぞった時のしえなちゃん…!すっごい色っぽいんだもん」

しえな「あっ…!だ、だってぇ…!」ビクッ

しえな「なぞられながらされると…くすぐったくて…!き、気持ちいいんだもん…!」

乙哉「……!」キューン

乙哉「なにその顔!!反則だよしえなちゃああぁああん!!斬っていい!?いいよね!?お願い!!」ハァハァハァ

しえな「…キスしてくれるなら」ポッ

乙哉「…んーっ♪」チュー ザクッ

しえな「っ……!!」ブシュゥッ

乙哉「好きっ、好きだよ…しえなちゃん!んっ…!」チュッチュ

しえな「はぁ、んっ…!ボクもぉ…!!」ドクドク

カメラ『…………』ジーッ

金星寮C棟
 7号室


鳰「かーっ!!みなさん平和ッスねえぇぇ」

鳰「みんな暗殺のこと忘れてんじゃないッスか?」

鳰「特に5号室…完璧に二人の世界ッスね、これは」

鳰「……下水に流れた血とか、誰が処理すると思ってんスか」

鳰「まあうちじゃないッスけどね」

鳰「さーて、次は1号室のチェックでも…」ポチッ

ドア「コンコン」

鳰「んっ?」

春紀『鳰、ちょっといいか?』

鳰「……春紀さん?」

鳰「はいはーい、今出るッスよ!」スタタ

鳰「お待たせしたッスー」ガチャ

春紀「よっ」

伊介「はぁい♥」

鳰「あれえぇ、珍しいお客さんッスねぇ」

春紀「ちょっと話したい事があってさ…」

鳰「話…ッスか?」

伊介「そのわざとらしい声ムカつくー♥何言いに来たか大体分かってんでしょ?」

鳰「んーまぁ、実を言うと大体分かってるッス!」

鳰「辞めるんスね、黒組」

春紀「………あぁ」

春紀「予告票も無いし、これ以上ここにいたって仕方ないしな」

春紀「途中でドロップアウトしてもいいか聞きに来た」

鳰「ぜーんぜん問題ないッスよ!お疲れ様でした、春紀さん!」

鳰「上の方にはうちから報告しとくッスよ」

伊介「あと、伊介も辞めるから♥」

鳰「えええぇっ!?伊介さんもッスかぁ!?びっくりーッスー!!」バーン

伊介「……………」ブチブチ

鳰「あ…すいません、もうしないッス」

鳰「…お二人は自分の道を行くんスね」

伊介「まぁね♥」

春紀「あぁ」

鳰「………」

鳰「それじゃ、うちは報告に行ってくるッス」スタタ

春紀「あぁ、それじゃあな」


ミョウジョウ学園
 理事長室


一「…寒河江さんと犬飼さんがリタイアね、よくてよ」

一「それにしても今回の黒組はなかなか予想外のことばかり起こるわね」

鳰「そうッスね、うちもびっくりッス」

一「……ふふ、見てて本当に面白いわ」

鳰「みーんな晴ちゃんのことなんてもう眼中にないッス、このままじゃ何事もなく終わっちゃうッスね」

一「鳰さん…それは少し違うわね」

一「みんなじゃない…一人だけ、一ノ瀬さんをずっと見つめている人がいる」

鳰「…………」

鳰「兎角さん、スか」

金星寮C棟
 談話室


晴「えぇっ!?春紀さんと伊介さん…辞めちゃうの!?」

春紀「あぁ…もうここにいる意味、無くなっちゃったからな」

香子「急な話だな…いつ?」

伊介「んー…荷物まとめ終わったらすぐ行くけど♥」

乙哉「そっかー…二人ともいなくなっちゃうんだ…」

純恋子「さみしくなりますわね…」

春紀「おいおい…お前らそんな事言うキャラじゃないだろ?」

乙哉「あ、バレた」

純恋子「見抜かれましたわね」

柩「急なのもそうですけど、二人一緒なのも…驚きました」

千足「部屋が一緒で辞める時まで一緒とは」

涼「駆け落ちでもするのかの」ニヤニヤ

伊介「んー、半分正解♥」

晴「え」

伊介「伊介たち、結婚するの♥」

とかはるすみしんひつちたすずこうおとしえ「…………」

とかはるすみしんひつちたすずこうおとしえ「……えっ!!?」

しえな「えっ…ちょっ…!え!?ええええぇぇ!?」

伊介「二人で幸せな家庭を築きまーす♥ね?春紀♥」ギュー

春紀「んー、まぁそういうこと」テレテレ

しえな「せ、籍入れられるのか…!?」

兎角「入れられるわけないだろ、アホか」

しえな「アホっ…!?」ガーン

伊介「伊介は気にしなーい♥ママとパパも入れてないし♥」

春紀「あたしも気にしないな」

晴「そ、そうだよね…女の子同士だもんね、晴びっくりしちゃった…」

晴「………」

晴「…でもそれって、ちょっとだけさみしいね」

伊介「晴ちゃん?」

春紀「……そう思う?」

晴「…だって、せっかく好きになった同士の二人なのに」

晴「どんなに好きになっても、『夫婦』にはなれないって思ったら…ちょっと」

春紀「……あたしはそうは思わないな」

伊介「籍なんて入れても入れなくても…一緒にいられる事に変わりはないし♥」

春紀「晴ちゃん、本当に好き同士ならさ…関係になんてこだわらなくていいんじゃないか」

春紀「夫婦だとか籍だとか、見かけ…形式なんて気にしなくていい」

春紀「お互いがお互いの特別である、それで十分」

春紀「そうやって好き同士が一緒に生きていけばそれでもう結婚みたいなもん…ってあたしは思うな」

すみまひ「!」ピーン

ひつちた「!」ピーン

すずこう「!」ピーン

おとしえ「!」ピーン

晴「……うんっ、そうだね!」

伊介「だから晴ちゃんも頑張りなさい、ね♥」ニコッ

晴「ええぇっ!?は、晴は別にそんな…!」カアァ

晴「…だって、せっかく好きになった同士の二人なのに」

晴「どんなに好きになっても、『夫婦』にはなれないって思ったら…ちょっと」

春紀「……あたしはそうは思わないな」

伊介「籍なんて入れても入れなくても…一緒にいられる事に変わりはないし♥」

春紀「晴ちゃん、本当に好き同士ならさ…関係になんてこだわらなくていいんじゃないか」

春紀「夫婦だとか籍だとか、見かけ…形式なんて気にしなくていい」

春紀「お互いがお互いの特別である、それで十分」

春紀「そうやって好き同士が一緒に生きていけばそれでもう結婚みたいなもん…ってあたしは思うな」

すみしん「!」ピーン

ひつちた「!」ピーン

すずこう「!」ピーン

おとしえ「!」ピーン

晴「……うんっ、そうだね!」

伊介「だから晴ちゃんも頑張りなさい、ね♥」ニコッ

晴「ええぇっ!?は、晴は別にそんな…!」カアァ

涼「まぁなんにせよめでたいのう、お祝いしなくてはの」

真夜「っしゃあぁ!!メシもってこい!!騒ぐぞ!!」ガタッ

純恋子「お茶会の準備ならいつでも出来てますわ」カチャカチャ

香子「おい待て!もうこんな時間だ、日を改めて…」

真夜「うるせぇ!!結婚のお祝いをするのが真昼の夢なんだよ!!」

乙哉「わーいパーティー!しえなちゃん、踊っちゃう?」クルクル

しえな「お、おい…今ボク血足りてないから…」

柩「ぼく、途中で寝ちゃうかもしれません…」

千足「大丈夫、そしたら私が部屋まで運ぶよ」フッ

春紀「溝呂木ちゃんも呼んでこーい!!」

乙哉「こーい!!」

晴「あれ、そういえば鳰は…」

伊介「いらない♥」

晴「そ、そんなっ」

兎角「…………」

兎角(………特別、か)

兎角(…みんな、誰か特別な奴がいるんだな)

兎角「…………」

伊介『だから晴ちゃんも頑張りなさい、ね♥』

晴『ええぇっ!?は、晴は別にそんな…!』

兎角「………」

兎角(一ノ瀬にも、いるんだな)

兎角(一ノ瀬の特別……って…?)

trick7「兎角の桜色」


つづく

溝呂木「そうかー…寒河江と犬飼が…さみしくなるなぁ」

春紀「ごめんな溝呂木ちゃん、でもあたしお金なくってさ」

溝呂木「家庭の事情なら仕方ない…先生、すごくさみしいけど…寒河江のこと応援してるからなっ!」

溝呂木「ところで…犬飼はどうして退学してしまうんだ?」

伊介「飽きた♥」ズッバァ-

溝呂木「……すまんっ!先生が教師として未熟なばっかりに…!」プルプル

春紀「いや…伊介は最初からやる気なしだったよ」

晴「先生、飲み物でも飲んで元気出してください」

溝呂木「おぉ…ありがとう一ノ瀬、それじゃ一杯頂こうかな」スッ

真夜「一杯と言わずもっと飲め!!祝いだろーが!!!」ガッ!

溝呂木「ごっふぉ!!」

乙哉「おっまたせー!!売店でお菓子いっぱい買ってきたよー!!」

兎角「食堂からカレーも持ってきた」スタスタ

香子「……夜にこんなに食べたら体重が」

涼「まぁまぁ、今日くらいそういうの気にするのはナシじゃよ香子ちゃん」モグモグ

乙哉「えーっと…それじゃあ……!!何て言おうか?」

千足「門出?」

乙哉「それだっ」

乙哉「二人の門出を祝って!かんぱーーい!!」

みんな「かんぱーい!!」



柩「ぐぅ」Zzz

千足「……やっぱり眠ってしまったか」ナデナデ

真夜「夜にめっちゃメシ食うのも真昼の夢だったんだよ」ムシャムシャ

純恋子「……それ、真夜さんがダイエットを命じてるせいなのでは」

伊介「春紀ーーっ♥だいすきいぃ♥ひっく♥」ダキッ

春紀「おおおおい誰だ!?伊介に酒飲ませたの!?未成年だぞ!?」ドキドキ

溝呂木「ははは、ほほえましいなぁ」

涼「ヒューヒュー!」

しえな「首藤って言葉のセンス古いな」

兎角(うるさいな……外に出るか)スタスタ

晴「……兎角さん?」

金星寮C棟・1号室
 ベランダ


兎角「………」

晴「兎角さん」ガラッ

兎角「……一ノ瀬か」

晴「どうしたの?眠くなっちゃった?」

兎角「いや…騒がしいのはあんまり得意じゃなくて」

晴「そっか…でもちょっとしたら顔出そう?せっかくのお祝いだし…」

兎角「分かってる、少ししたら行く」

兎角「だから一ノ瀬は先に戻ってろ」

晴「……いや、晴もちょっとここにいるよ」

晴「今は兎角さんと一緒にいたくて」

兎角「…………」

晴「……びっくりだね、春紀さんと伊介さんのこと」

兎角「……あぁ、そうだな」

晴「…幸せそうだったね、二人とも」

晴「みんなで一緒に卒業できなくなっちゃったのは、ちょっとさみしい…けど」

晴「それでも、晴はなんだか嬉しいな」

兎角「………確かに暗殺者が減るのは好都合だ」フフン

晴「もう!兎角さん!そういうことじゃないよ!!」ププンスカ

兎角「……もう私は必要ないのかもしれないな」

晴「……え?」

兎角「…最近、黒組の中の空気が…匂いが、変わった」

兎角「もうみんな…一ノ瀬の事は見えてないみたいな…」

晴「……そう、だね」

晴「みんな、心の中に大切な誰かが出来たみたいだね」

兎角「お前を狙ってくる奴らがいないのなら、もう守護者も…」

晴「そんな事ないよ」

兎角「?」

晴「もう誰も晴を狙ってこないとしても、兎角さんに守ってもらわなくても平気になったとしても」

晴「……晴には、兎角さんが必要だよ」

兎角「………一ノ瀬」

晴「……ね、兎角さん」

晴「もし……もしだよ?晴が……」ドキドキ

晴「兎角さんに、ずっと一緒にいて欲しいって言ったら……どうする?」

兎角「…?それは、どういう……」

晴「…もしかしたら覚えてないかもしれないけど」

晴「前に兎角さん、晴に聞いたよね」

晴「『晴と兎角さんは特別?』って…」

兎角「………」

晴「晴と兎角さんが、ターゲットと守護者じゃなくなったとしても晴は……兎角さんのこと」

晴「兎角さんのこと、特べ……!」

千足「東、一ノ瀬…いるか?」ガチャッ

晴「ひゃっ…!?」ビクッ!

兎角「ん?」

千足「あぁ、いたか」

兎角「どうした?」

千足「いや、二人の姿が見えなかったんでな…どこにいるのかと」

千足「そろそろお開きなんだ、疲れてなければ顔を出さないか」

兎角「あぁ、今行く」

兎角「行こう、一ノ瀬」

晴「あ、はい…」



しえな「うーん…」Zzz

柩「すぅ…すぅ…」Zzz

伊介「春紀……♥」Zzz

春紀「……ダメだなこりゃ、完全に寝ちゃってる」

鈴「それじゃ、この辺りで解散かの」

香子「そうなるな」

溝呂木「いやー楽しかった、先生も誘ってくれて嬉しかったよ」

溝呂木「それじゃまた明日!遅刻しないように早寝するんだぞー」スタスタ

兎角「なんだ…もう終わってたか」スタスタ

しえな「あ、二人とも…どこ行ってたんだ」

乙哉「ちょっと生田目さん、二人の邪魔しちゃったんじゃないー?」クスクス

兎角「…そんなんじゃない」ムッ

晴「あはは……」

晴「…………」

春紀「……はー、楽しかったな」ナデナデ

伊介「………♥」Zzz

香子「……これから二人はどうするんだ?」

春紀「まずは…一回うちに帰るよ」

春紀「そんで落ち着いたら伊介のうちに挨拶しに行く」

春紀「それで…二人でどこかで一緒に働いて、なんとか生きていこうかなって思ってるよ」

千足「……足を洗うのか」

春紀「あぁ、あたしはな」

しえな「そのほうがいいと思う…向いてなさそうだもん、寒河江って」

春紀「…伊介にも同じこと言われた」ニッ

涼「二人で一緒に……か、いいのう」

涼「実はな、わしも近いうちにここを出て香子ちゃんと一緒に暮らそうと思うんじゃ」

乙哉「おっ?」

兎角「そうなのか」

香子「………え゛!?」

香子「お、おいちょっと待て涼!そんなの聞いてないぞ!?」

涼「言ってないし」

香子「お前な…!」

涼「…言ってないだけで、実はずっと考えてた」

涼「もうわしも、香子ちゃんもここにいる意味はないからの」

涼「香子ちゃんは居場所を見つけた……だからもうホームに帰る必要もない」

涼「……香子ちゃん、わしと一緒に暮らしてくれないか」

香子「え………え、ええぇ…っ!?」ドキッ

しえな「おぉ…!」

春紀「大胆…!!」

香子「な、何言ってっ…!」カアァ

涼「…言ったじゃろ、わしが香子ちゃんを幸せにするって」

涼「だから…もし、香子ちゃんさえよければ……」

香子「~~~~!!」ドキドキ

香子「そ、そんなの…っ!」

香子「………断れるわけ、ない」

涼「……ありがとう、香子ちゃん」ニコッ

春紀「………ひゅー♪」

しえな「ふう…なんだか物凄く良い物見せてもらった、そんな気分だ!」

香子「……次からは、いきなり言うのは止めてくれ」ドキドキ

涼「うん♪」

涼「ふふふ、うちは広いぞ…庭付きじゃし、きっと香子ちゃんも気にいる」

晴「………」

晴「すごいな…みんな、もう先のこと考えてるんだね……」

晴「春紀さんと伊介さんは学校を辞めて働いて…」

晴「神長さんと首藤さんは一緒になって…」

晴「……未来のこと色々考えて行動してるんだね」

春紀「あたしらは…やるべき事をやってるだけさ」

真夜「………未来、か」

真夜「オレ達も……いろいろ考えねーといけねーのかな」

純恋子「無理に考えなくとも…それより私達に今必要なのは、単純に時間だと思いますわ」

純恋子「もっともっと、二人の時間を重ねてお互いの事を分かりあわないと…そうでしょう?真夜さん♪」ギュッ

真夜「……そ、そうだな」ドキドキ

乙哉「あたしはもう少しここにいないとかなー…外出たら捕まっちゃうし」

乙哉「うん!卒業するまではここにいる!ここ安全だしね♡」

しえな「……卒業したらどうするんだよ」

乙哉「卒業したら……しえなちゃんがあたしの事守ってよー」

乙哉「暗殺者なんだからあたし一人くらい守れるでしょ?お願いっ!」

しえな「……仕方ないなぁ」

柩「………」Zzz

千足「……私も、柩と一緒にもう少しここにいる」

千足「私は探し物をしているんだ…柩もそれを手伝うと言ってくれている」

千足「幸いミョウジョウ学園は色々と調べ物をするのに最適だからな…ゆっくりさせてもらうさ」

晴「晴は……!」

晴「……晴は、どうしようかな」

兎角「…一ノ瀬は、学校生活を楽しめばいい」

晴「兎角さん…」

兎角「普通に話したり、遊んだりして…卒業したいって言ってたじゃないか」

晴「……うん、そうだねっ」

千足「東はどうするんだ」

兎角「……私もしばらくここにいる、元いた学校の先生嫌いだからな」

晴(うん、そうだよ…晴は、学校生活いっぱい楽しんで卒業するっ!)

晴(それから…!)

晴(………それから)

晴(……晴は、自由になったら……どうすればいいのかな…)

柩「………」Zzz

千足「……私も、柩と一緒にもう少しここにいる」

千足「私は探し物をしているんだ…柩もそれを手伝うと言ってくれている」

千足「幸いミョウジョウ学園は色々と調べ物をするのに最適だからな…ゆっくりさせてもらうさ」

晴「晴は……!」

晴「……晴は、どうしようかな」

兎角「…一ノ瀬は、学校生活を楽しめばいい」

晴「兎角さん…」

兎角「普通に話したり、遊んだりして…卒業したいって言ってたじゃないか」

晴「……うん、そうだねっ」

千足「東はどうするんだ」

兎角「……私もしばらくここにいる、元いた学校の先生嫌いだからな」

晴(うん、そうだよ…晴は、学校生活いっぱい楽しんで卒業するっ!)

晴(それから…!)

晴(………それから)

晴(……晴は、自由になった後は……どうすればいいのかな…)

金星寮C棟
 1号室


兎角「………」

晴「………むにゃむにゃ」Zzz

兎角(寝たか)

兎角(今日は…色々騒いで疲れたからな、私ももう休むか…)

兎角「ふう……」ゴロン

兎角「…………」

晴『……ね、兎角さん』

晴『もし……もしだよ?晴が……』

晴『兎角さんに、ずっと一緒にいて欲しいって言ったら……どうする?』

兎角「………」

兎角(……そんなの)

兎角(私の答えは、一つだ)

つづく

千足「あぁ、いたか」

兎角「どうした?」

千足「いや、二人の姿が見えなかったんでな…どこにいるのかと」

千足「そろそろお開きなんだ、疲れてなければ顔を出さないか」

兎角「あぁ、今行く」

兎角「行こう、一ノ瀬」

晴「あ、はい…」



柩「すぅ…すぅ…」Zzz

伊介「春紀……♥」Zzz

しえな「うーん…これは…」

春紀「……ダメだなこりゃ、完全に寝ちゃってる」

鈴「それじゃ、この辺りで解散かの」

香子「そうなるな」

溝呂木「いやー楽しかった、先生も誘ってくれて嬉しかったよ」

…数日後
 放課後
  金星寮C棟


晴「あー、今日も疲れたー」スタスタ

晴「兎角さん、今日はご飯とお風呂どっち先に行く?」

兎角「そうだな、私は…」

晴「………」フト

兎角「…一ノ瀬?」

晴「………」ジーッ

『2号室』

兎角「2号室…」

兎角「寒河江と犬飼の部屋か」

晴「……もう、二人ともいないんだね」

兎角「…あぁ、そうだな」

晴「二人とも元気にしてるかなぁ」

兎角「さぁな」

兎角「二人とも今はどこかで一緒に…まぁ仲良くやってるだろ」

晴「……どこか、か」

晴「そういえば晴、二人のこと何も知らなかったな…」

晴「どこから来たのかとか…どこへ行くのとか…」

晴「メールアドレスとか、電話番号とか…いろいろ」

晴「………もう会えないのかな」

兎角「………」

晴「さみしいな」

晴「……ねぇ、兎角さん」

兎角「なんだ?」

晴「卒業したら、やっぱりみんな…離れ離れになっちゃうのかな」

兎角「まだ先の話だろ」

晴「まだ先だけど…絶対来る日の話だよ」

晴「卒業したら晴は、何をすればいいのか分からないの…」

兎角「何を…?」

晴「黒組は晴の最後の試練…これが終われば晴は自由になれる」

晴「でも晴は今までずっと命を狙われてきて、生きることが精いっぱいで…それしか考えてなかった」

晴「だから生きるのを赦されたら晴は……どうしたらいいんだろう」

兎角「何をしたっていいんじゃないか、一ノ瀬の好きなように……って」

兎角「…それが分からないんだったな」

晴「あはは…うん」

晴「…本当のことを言うとずっと黒組にいたいな」

晴「みんなで一緒に…ずっとここで、今みたいな時間を過ごしていたい」

晴「……でもそれは無理だもんね」

晴「みんなはみんなのやるべき事、したい事がある」

晴「だからいつか離れ離れになっちゃうのは仕方ない事なんだよね」

晴「……分かってる」

晴「分かってる、けど」グスッ

兎角「一ノ瀬…!」

晴「ご、ごめんねっ…兎角さん…」ポロポロ

晴「ちょっとさみしくなっちゃった、すぐに止まるから…」ポロポロ

晴「ぐすっ…!ひぐっ…!」

兎角「…………」ギュッ

晴「!」

兎角「……落ち着け、ゆっくりでいいから」

晴「……うん」

晴「ごめんね…ありがとう…」グスッ

兎角「………」ポンポン

兎角(……とっさに抱きしめてしまった)

兎角(何をしてるんだ私は…)

晴「……兎角さん」

兎角「ん?」

晴「……晴ね、したい事…分からないって言ったけど」

晴「本当は一つだけあるんだ」

兎角「なんだ?」

晴「晴がしたい事…一つだけ」

晴「……晴、兎角さんとずっと一緒にいたいよ」

兎角「………」

晴「黒組を卒業しても、大人になっても…ずっとずっと、兎角さんと一緒にいたい…!」ギュッ…

兎角「………」

晴「兎角さんは、晴が黒組に来てからはじめての友達で」

晴「寮のルームメイトで、晴を守ってくれる大切な人で…」

晴「………特別な人」

晴「………はじめて、好きになった人だから」

晴「……」ドキドキ

兎角「………」

晴「もし兎角さんがイヤじゃなければ晴は、兎角さんのそばにいたい」

晴「晴は兎角さんのそばにいると幸せなの……だから…」

晴「卒業した先の日に、何も無かったとしても」

晴「晴は兎角さんがいてくれたらそれでも……いい」

兎角「………一ノ瀬」グイッ

晴「は、はいっ…」ドキッ

兎角「………私は」

兎角「お前がそばにいるのは、イヤだ」

晴「…………!!」

兎角「ずっと一緒にいるなんて、そんなの無理だ」

兎角「私には私の人生がある」

兎角「それと同じで、お前にはお前の人生がある」

兎角「いきなり自由の中に放り出されたとしても、その先に何も無いなんてことは…ない」

兎角「何があっても笑っていられるお前ならきっと大丈夫だ」

晴「とかく、さん……」

兎角「だから…もう」

兎角「私を頼るな」

晴「…………」

晴「……そっか」

晴(そっか……そうなんだ)

晴(晴はもう命を狙われない……だから)

晴(兎角さんは、守護者じゃない)

晴(もう晴は…兎角さんの特別じゃないんだ……)

兎角「………」

晴「……ごめんなさい」

兎角「謝らなくていい…帰ろう」

晴「……うん」

晴「………」

晴(兎角さん)

晴(ターゲットと守護者じゃなくなったとしても、兎角さんは晴の特別なんだよ)

晴(……これからもずっと)

晴(兎角さんがイヤならもう言わない、けど…)

晴(この想いをずっと心の中にしまっておくのは晴の自由だよね…?)

晴(………兎角さん)

晴(大好き…)

ミョウジョウ学園
 理事長室


画面『謝らなくていい…帰ろう』

画面『……うん』

鳰「………」

一「………」

鳰「……あれー、意外ッスねえぇ」

鳰「てっきり晴と兎角さんはくっついちゃうと思ったのに…」

一「そうかしら」

鳰「だって、他の子達はみんな誰かしらとくっついたじゃないッスか!」

鳰「一組なんて結婚までして出てっちゃう始末だし!」

鳰「理事長だって言ってたじゃないッスか!兎角さんは晴の事好きだって!」

一「……東さんはずっと一ノ瀬さんの事を見ていた」

一「だけど二人の距離はあまりに遠すぎたのかもしれないわね」

鳰「………?よく分からないッス」

鳰「同室じゃないッスか…距離なら近すぎるほどだと思うッスけどねぇ」

一「………」

鳰「とにかくもうちょっと1号室を見張ってみるッス…!理事長!今日泊まってっていいッスか!?」

一「あらあら鳰さんったら…裁定者の仕事が暇になった途端、随分くだけた態度になったわね」クスクス

鳰「……ダメっスか?」

一「……ご飯を2人分用意しないとだわ」

鳰「うちは二人を見張るッスー!」ジーッ

一「鳰さんはメロンパンばっかりだからたまには野菜でも」スタスタ

鳰「………おぅふ」

一「…………」

一(そろそろ窓の外は肌寒くなる季節ね)

一(じきに冬になる…それを越したらまた春がきて……それを幾度か繰り返した時…)

一「………ふふ」

一「来年は、どんな桜が咲くのかしら」

一「今から楽しみね」

つづく

伊介「あんたさぁー、ちょっとは夜の方見習ったら?」デコピン

真昼「ひゃっ……ぅう…」ジワ

純恋子「!…ちょっ「伊介さま」

純恋子「!」

春紀「あんまイジメてやんなよなぁー。可哀想だろ」

伊介「イジメじゃないですぅーだ」プクー

申し訳ない
スレ間違って誤爆しました!!
申し訳ない!

金星寮C棟
 1号室


兎角「………」

晴「………」

兎角「……なぁ、一ノ瀬」

晴「……ごめんなさい」

晴「今は…そっとしておいてください」

兎角「………分かった」

兎角「私は…少し出てくる」

兎角「何かあったらすぐメールをくれ」

晴「…………」

兎角「…………」スタスタ ガチャッ バタン



兎角「………」

兎角「………くそっ」

兎角(………いや、いいんだ)

兎角(これでいい…私が選べる答えは、はじめから一つだった)

兎角(それが唯一で、最良)

兎角(一ノ瀬ためなら………私は)

兎角「これで……いいんだ…」

涼「とてもいいって顔には見えんがの」

兎角「………?」

涼「…改めて見てもひどい顔じゃの」

兎角「首藤…」

涼「…すまん、二人の話を聞いた」

涼「なんというか…その、わしらの部屋は隣じゃから、聞こえてしまったというか」

兎角「いや……構わない」

涼「……東、本当にそれでいいのか?」

兎角「……それでも何も、これしかない」

兎角「今は苦しくても…一ノ瀬はいつだって笑ってられる奴だ、きっと大丈夫…」

首藤「わしが言ってるのはお主のことじゃ」

兎角(………いや、いいんだ)

兎角(これでいい…私が選べる答えは、はじめから一つだった)

兎角(それが唯一で、最良)

兎角(一ノ瀬ためなら………私は)

兎角「これで……いいんだ…」

涼「とてもいいって顔には見えんがの」

兎角「………?」

涼「…改めて見てもひどい顔じゃの」

兎角「首藤…」

涼「…すまん、二人の話を聞いた」

涼「なんというか…その、わしらの部屋は隣じゃから、聞こえてしまったというか」

兎角「いや……構わない」

涼「……東、本当にそれでいいのか?」

兎角「……それでも何も、これしかない」

兎角「今は苦しくても…一ノ瀬はいつだって笑ってられる奴だ、きっと大丈夫…」

涼「わしが言ってるのはお主のことじゃ」

涼「……本当は一ノ瀬と、一緒になりたいんじゃないのか」

兎角「私は……」

涼「…………」

兎角「…………」

涼「……立ち話も、なんじゃな」

涼「お茶にでも付き合わんか?東」

兎角「…………」


金星寮C棟
 3号室


涼「ゆっくりしてくれ、今は香子ちゃんも留守での…」

兎角「……」

涼「……ふぅ」

涼「これは、香子ちゃんにも言った話じゃが」

涼「自分の気持ちに嘘をつくのは、よくない」

兎角「…………!」

涼「そうやって自分、をっ!?」グイッ

兎角「黙れっ」

兎角「お前にっ…!何が分かる…!!」グググ…

兎角「私と一ノ瀬の、何が……!!」

涼「……分からん」

涼「わしは…精々、経験則で物を言うことしかできんからの…」

涼「でも…東、お主は…」

涼「……分かって欲しかったんじゃないのか」

兎角「………そんなこと、ない」

兎角「……私は!」

涼「……なら何故、ついてきた?」

涼「……分かって欲しいから、話したいから、理解されたいから…」

涼「わしの誘いに乗ったのではないのか?」

兎角「…………!」パッ

涼「………けほ」

兎角「………私、は」

兎角「自分の気持ちに嘘は……ついてない」

兎角「一ノ瀬は…私のそばにいてはいけない」

兎角「私には私の、一ノ瀬には一ノ瀬の人生があって…」

兎角「……私の人生は、日陰の人生だから」

涼「…………」

兎角「一ノ瀬は、陽の当たる場所に帰るべきなんだ」

兎角「私と一緒にいることを選んだら…あいつの本当の願いは叶えられないから…」

兎角「だから私は…」

涼「……そう、じゃったな」

涼「わしと香子ちゃん、英と番場、寒河江と犬飼、武智と剣持、生田目と桐ケ谷、走り…」

涼「誰とも違って…一ノ瀬は表の世界の人間じゃった」

涼「だからお主は…」

兎角「………」コクッ

兎角「私は、一ノ瀬のそばにはいられない」

兎角「………」

涼「……うん」ポンポン

兎角「……すまない、急に掴みかかったりして」

涼「大丈夫じゃ、こう見えてけっこう鍛えておるでの」

兎角「…………」スタスタ ガチャッ

涼「東……」

兎角「………邪魔したな」

兎角「………」バタンッ

涼「…………」

涼(……歳だけは誰よりも重ねてきた)

涼(幾つもの年月を重ねて、様々な事を見知ってきたが)

涼(こんな時、何をしてやったらいいのかは…分からない)

涼「………辛いの」

涼「わしも知っておるよ、うん……知っている」

香子「ただいま」ガチャッ

涼「香子ちゃん…おかえり」

香子「何かあったのか?今東とすれ違ったんだが…」

涼「……何もしてやれなかった」

香子「?」

涼「………香子ちゃん」ギュッ

香子「わ…!ど、どうしたんだ?」

涼「……しばらく、こうしててくれんか」

香子「…分かった」ギュッ

涼「……はがゆい」

香子「………?」ナデナデ

ミョウジョウ学園
 10年黒組・教室


兎角「………」ガラッ

兎角(………まぶしい)

兎角(夕焼け……か)

兎角(……この教室ではじめて一ノ瀬に会ったんだ)

兎角「…………」

兎角「はじめて会った時は、こんな事になるなんて思わなかった…」

兎角「…余計な事は考えない、殺すべきを殺すだけ」

兎角「私が今殺すべきは……」

兎角「自分だ」

鳰「自殺ッスか?教室でスプラッタは勘弁ッスよー」

兎角「……お前、いたのか」

鳰「今来たッス!」

兎角「……何しに」

鳰「いや~今の兎角さん、ほっといたらマジ死んじゃいそうな顔してるッスからねえぇ」

鳰「心配になって飛んできちゃったッスよ」

兎角「……誰が死ぬか」

兎角「私はまだ死なない、私は…」

鳰「分かってるッスよー、晴の守護者!ッスもんね」

兎角「……そうだ」

鳰「………ふー」

鳰「辛い選択をしたんスね」

兎角「…………」

鳰「ここで晴に出会わなければ…きっと兎角さんはそんな気持ちにはならなかったはずッスよ」

鳰「後悔してるッスか?」

兎角「してない」

鳰「………」

兎角「私は、晴に出会えてよかった」

兎角「心の底から…そう思ってる」

兎角「………晴に出会って」

兎角「………晴を好きになって」

兎角「………そして、元いたところに戻るだけ」

兎角「私の黒組はそれで終わり、でも私はこれで幸せだ」

鳰「…………」

鳰「………うち、帰るッス」

鳰「おいしいごはんがうちを待ってるッスよー」スタタ

兎角「………」

兎角「なにしにきたんだ、あいつ」

兎角「………」

兎角(きっと、はじめて会った時から晴は私の特別だった)

兎角(……これからもずっと)

兎角(私達は一緒にはいられない、けど…)

兎角(お前が自由になること、幸せになること…遠く離れたとしてもずっと願ってる)

兎角「………」

兎角(……大好きだ、晴)

…三年後
 ミョウジョウ学園・卒業式


ミョウジョウ学園
 12年黒組・教室


溝呂木「みんな、卒業おめでとう」

溝呂木「僕は教師として、この日を無事に迎えられたことを心から嬉しく思う」

溝呂木「…この後講堂で式を執り行う、みんな移動してくれ」

千足「…卒業、か」

柩「あっという間だった気が…しますね」

鳰「そうッスかねー、うちには結構長く感じたッスよ」

純恋子「きっと…両方ですわね」

純恋子「長く感じるほどに密度の濃い、あっという間の三年間でしたわ」

兎角「………」

晴「…兎角さん、行こう?」

兎角「………あぁ」

つづく

ミョウジョウ学園
 通路


兎角「………」スタスタ

晴「………」スタスタ

乙哉「あっ、ねぇねぇ見てみて!」

しえな「どうした?………おっ」

乙哉「桜、すっごいよ!」

晴「わぁっ!満開だね!」

千足「今年の桜は随分早咲きだな」

柩「卒業式の日にこんなに咲いてると…入学式の日には散っちゃってるかもしれませんね」

鳰「新入生には気の毒ッスねー、今年はうちらが桜を独り占めッス」

純恋子「……本当に見事ですわ」

真昼「……きれい」

兎角「…………」

鳰「桜と言えば~思い出すッスよねええぇ」ニヤニヤ

しえな「……桜trick事件?」

鳰「どうやったらアニメと教材間違えるんだよっ!って感じでー」

純恋子「そんな事もありましたわね」クスクス

しえな「いやでもアレはいい作品だぞ!みんなも原作読んでアニメも見返すべきだ!」ハァハァ

乙哉「うわ…しえなちゃんが変なモード入っちゃった…」

純恋子「私はちゃんと連載を追いかけて単行本も買ってますわ、OVAだっていつまでも待ってますわよ」ニヤリ

乙哉「……番場ちゃん、英ちゃんすっかりしえなちゃんに毒されちゃってるけどいいの」

真昼「……笑顔の純恋子さん、素敵です」ポッ

鳰「いいんスか…」

柩「でも…ぼくはいい思い出だなって思います、色々と」

千足「私もだ、色々とな」

乙哉「んー、あたしも嫌いじゃないけどさー」

純恋子「ふふふふ」

晴「晴もあの時はびっくりしたけど…楽しかったなぁ」

晴「…思えば、あの頃からみんな仲良くなりはじめた気がする」

兎角「……そうかもな」

晴「…こんな話ができるのも、今日が最後なんだね」

晴「卒業したらみんな、離れ離れ…」

晴「晴…ひとりぼっちになっちゃうなぁ」

しえな「……別に、いつだって会えるじゃないか」

柩「そうですよ、メールだって電話だって…」

晴「…ダメだよ、だって晴は」

柩「あ……」

真昼「………」

晴「…みんなの邪魔になっちゃうもんね」

兎角「…………」

晴「えへへ、ごめん…変な空気になっちゃったね」

晴「晴は大丈夫!きっとこれからもうまくやっていける!」

晴「……晴」

晴「黒組でみんなと一緒に生活できて…本当によかったなぁ…」

兎角「………」

晴「………」スタスタ

兎角「…………」ピタッ

乙哉「……着いちゃった」

純恋子「講堂……この扉を開けたら」

千足「私達の高校生活もおしまい……か」

鳰「……この講堂とm」

兎角「行くぞ」ガチャッ

鳰「ちょおおおおおおおおお!?空気読んでくださいよ兎角さん!」

兎角「だって時間おしてるだろ…」

鳰「そうッスけど!そうッスけどおおおおおおおお!!」

溝呂木「おっ、みんな来たな!」

溝呂木「こほん…それでは、卒業生入場!!」


パチパチパチパチパチパチ

晴「…………!」

春紀「おっ、みんな久しぶりー!!」パチパチパチパチ

伊介「伊介がお祝いに来てあげたわよ♥」パチパチパチパチ

香子「卒業おめでとう、みんな」パチパチパチパチパチ

涼「しばらく見ないうちにみんな、随分いい顔になったようじゃな」パチパチパチパチパチ

晴「えええええええみんな!?」

しえな「どうして!?」

春紀「溝呂木ちゃんが連絡くれたんだ、今日が卒業式だからみんなを見に来てやってくれって」

涼「先生、よくわしらの住所分かったの」

溝呂木「理事長に頼んだんだ…やっぱり黒組はみんな揃ってこそだからな!」

鳰「理事長ー!いいんスか?部外者呼んじゃって!」コソコソ

一「…いいんじゃないかしら、元関係者なら特に問題はなさそうだし」コソコソ

溝呂木「よし……じゃあ、理事長お願いします」

一「………こほん」

一「それでは今より……ミョウジョウ学園卒業証書授与式をはじめます」

一「…出席番号1番、東兎角さん」

兎角「…はい」

一「出席番号4番、桐ヶ谷柩さん」

柩「はい」

一「出席番号5番、剣持しえなさん」

しえな「はいっ!」

一「出席番号8番、武智乙哉さん」

乙哉「はーい」

一「出席番号9番、生田目千足さん」

千足「はいっ」

一「出席番号10番、走り鳰さん」

鳰「はーいッス」

一「出席番号11番、英純恋子さん」

純恋子「はい」

一「出席番号12番、番場真昼さん」

真昼「は、はひっ…」

一「出席番号番13、一ノ瀬晴さん」

晴「はい!」

一「……以上、9名」

一「高等教育の終了を認め、卒業とします」

一「…出席番号1番、東兎角さん」

兎角「…はい」

一「出席番号4番、桐ヶ谷柩さん」

柩「はい」

一「出席番号5番、剣持しえなさん」

しえな「はいっ!」

一「出席番号8番、武智乙哉さん」

乙哉「はーい」

一「出席番号9番、生田目千足さん」

千足「はいっ」

一「出席番号10番、走り鳰さん」

鳰「はーいッス」

一「出席番号11番、英純恋子さん」

純恋子「はい」

一「出席番号12番、番場真昼さん」

真昼「は、はひっ…」

一「出席番号13番、一ノ瀬晴さん」

晴「はい!」

一「……以上、9名」

一「高等教育の終了を認め、卒業とします」

ミョウジョウ学園
 12年黒組・教室


溝呂木「うおおおおおおーーん!!」メソメソ

晴「せ、先生…そんなに泣かないでください…」

溝呂木「す、すまない…でも僕のはじめての生徒たちが卒業すると思うとっ…!」

伊介「あー暑苦しい♥」

鳰「そんなに泣かれるとこっちの涙が引っ込んじゃうッスよ」

春紀「お?鳰、こういう時にちゃんと泣くタイプなんだな」

鳰「違うッス、物の例えッスよ」

純恋子「鳰さん、恥ずかしがらずに」

鳰「違うッスよ」

香子「私は…少し心を打たれたな、自分が卒業する側だったら泣いていたかもしれない…」

涼「ふふ、泣いてもいいぞ香子ちゃん…わしの胸にどーんとじゃな」

乙哉「泣きそうといえば…晴は泣くタイプだと思ったなぁ」

晴「晴?」

晴「晴は泣かないよ、笑ってみんなとお別れするって決めてたから!」ニコッ

兎角「……そのほうが一ノ瀬らしい」

伊介「そうかもね♥」

晴「えへへ…」

千足「すまない、遅れた……」スタスタ

柩「………」グスッ

春紀「お、やっと来たか」

柩「……すいません、もう大丈夫です」メソメソ

真昼「……大、丈夫?」

千足「ん…まぁ…さっきよりは」

柩「大丈夫ですっ」

溝呂木「ううう…!!お…みんな揃ったな…!」メソメソメソメソ

千足(先生、柩よりすごいな)

柩(先生、ぼくよりヤバいですね)

溝呂木「それじゃあ…最後にみんなで一緒に写真を撮ろう」

溝呂木「13人一緒に撮れる最後の写真だから…きっと思い出になる」

香子「よし全員二列に、前列は中腰で後列はそのままだ」ビシィ

しえな「……神長はすっかり委員長っぷりが板についたな」

乙哉「もう学校辞めてるのにね…」

涼「わしは香子ちゃんの隣じゃ」スタスタ

千足「ほら柩、私の前においで」スタスタ

柩「はい…」

真昼「………」コソコソ

兎角「…………」

兎角(スミでいいか)スタスタ

晴「兎角さんっ」グイッ

兎角「うわっ…一ノ瀬?」

晴「晴の隣で…一緒に映ろう?」

兎角「………」

兎角「……あぁ」フッ

溝呂木「よーし、じゃあ撮るぞー」

溝呂木「タイマー…10秒っと」スタタ

溝呂木「…………3、2、1」


カシャッ


溝呂木「……うん、よく撮れてるな!」

涼「最近の技術はすごい、撮った写真をメールですぐに全員に…」

鳰「そんな驚くことッスかね」

伊介「あんた機械にうとすぎでしょ…」

兎角「…………」ジーッ

晴「兎角さん、緊張した顔になっちゃったね」

兎角「あんまり慣れてないんだ、こういうの…」

兎角「……一ノ瀬はいい笑顔だ」

兎角「まぶしいよ」

晴「………兎角さん」

ミョウジョウ学園
 校庭


鳰「……これでお別れッスねぇ」

春紀「んじゃ、これからも全員…頑張りましょうってことで」

涼「みんな、風邪には気を付けてな」

柩「ぼく、みんなのこと忘れません…絶対」

千足「楽しかったよ、ありがとう」

香子「元気でな」

伊介「んじゃ、また♥」

乙哉「……ねぇ、校門の向こうにいっぱいパトカーいるんだけどアレあたし待ちかな」

しえな「すぐダッシュだぞ、マジダッシュだからな」



「…………」






「それじゃあ、さよなら」

兎角「……………」

兎角「……………これで、終わりか」

兎角「………」ガサゴソ ピッピッピッ

兎角「………」プルルルプルルル ガチャッ

カイバ『よぉ兎角、卒業おめでとさん』

兎角「……任務終了」

兎角「一ノ瀬晴は、生存」

兎角「詳しくは帰還後、報告書を提出する」

カイバ『はいはい…ごくろーさん』

カイバ『とりあえず帰ってこい、迅速にな』

兎角「……報告、以上」

カイバ『……なぁ兎角』

兎角「……?」

カイバ『お前…なんか、変わったなぁ』

兎角「…………」

兎角「……そうかな」フッ


ピッ

兎角「…………」スタスタ

兎角「…………」スタスタスタ

兎角「…………」ピタッ

兎角「…………」

晴「……兎角さん」

兎角「一ノ瀬…」

晴「…ちょっとだけ時間、ある?」

兎角「……あぁ」

晴「よかった…晴、兎角さんと話したかったんだ」

晴「………」

晴「……まずは、ありがとう」

兎角「…考えてみれば、お礼を言われるようなことは何もしなかったな」

兎角「守護者とか言っておいて…結局誰も予告票を出さなかった」

晴「それでも、ありがとうだよ」

晴「兎角さんが守ってくれて嬉しかった」

晴「ずっと兎角さんに守られて特別でいたかった、もっと一緒にいたかった」

晴「本当はこれからも一緒にいたいけど…」

兎角「それ、は……」

晴「……分かってるよ、もう答えは聞いたもんね」

晴「……晴はこれから自由に生きます」

晴「日のあたる場所で、いつだって笑って…自由に」

兎角「……そうしてくれ」

兎角「出来れば、私のことも忘れてくれ」

兎角「これからきっとお前は幸せになれる、だから…」

晴「……それは嫌だな」

兎角「一ノ瀬…」

晴「晴は兎角さんのこと、一番の友達…大切な人のこと、絶対に忘れないよ」

晴「……好きだったことも忘れない、これからもずっと晴は兎角さんのこと、大好き」

兎角「…………っ」

兎角「……私も、だ」

晴「!」

兎角「私もずっと、一ノ瀬のこと…!」グスッ

兎角「~~~…!!」ポロポロ

晴「兎角さん…!」

兎角「っ…!!」ゴシゴシ

兎角「………すまない、こんなつもりじゃなかった」

晴「……うぅん」

晴「兎角さんの気持ち聞けて、嬉しい」

兎角「………でも、これでさよならだ」

晴「………うん」

兎角「……じゃあな、一ノ瀬」

晴「………最後に、もう一つだけいいかな?」

兎角「ん?何か………っ!」グイッ

晴「んっ…」チュッ

兎角「……………」

晴「………えへへ、しちゃった」

兎角「……ひどいやつだな」ドキドキ

兎角「こんなことしても、後が辛いぞ」

晴「分かってる…けど、きっと辛いだけじゃないから」

晴「いつかいい思い出に出来るよ、ここで…桜の木の下で、兎角さんとキスできたこと」

兎角「………そうかもな」

晴「……兎角さんっ」ギュッ

晴「ありがとう、さよなら……大好き」

兎角「うん……ありがとう一ノ瀬」

晴「それじゃ、晴は…行くね」

晴「…またね、兎角さん」

兎角「………さよなら」


兎角(…私達はそのまま、何秒かだけ見つめ合った)

兎角(…先に背を向けたのは一ノ瀬)

兎角(ひらひらと舞い落ちる桜の花びらの向こうに、一ノ瀬の背中が消えていく)

兎角(すぐに手が届かなくなって…どんどん小さくなって…やがて…消えた)

兎角(気がつけばもうそこには、桜のカーテンがあるだけだった)

兎角(これが、私と一ノ瀬の最後の思い出)

兎角(卒業式の日の、桜色の思い出)

trick7「兎角の桜色」  おしまい


つづく

 
 
 
trick8「晴と兎角の桜色」

 
 
 

某所


プルルルル プルルルル

ピッ

兎角「もしもし」

兎角「………お前か」

兎角「……そんな事どうだっていい、何の用だ」

兎角「と言うか、なんでお前私の携帯……いや、いい」

兎角「聞くだけ無駄だからだ」

兎角「で?…仕事の話か?」

兎角「………なんでだ」

兎角「……!?おい待て!もっとちゃんと説明……!」プチッ

兎角「…………」

兎角「切れた…」

兎角(……行くしかないのか?)

ミョウジョウ学園
 金星寮
  金星食堂


晴「えっと…」キョロキョロ

鳰「あ、晴ーっ!!こっちッスよー!!」ピョンピョン

晴「鳰!久しぶり!!」

鳰「いやー…晴、大人っぽくなったッスねえぇ」ニヤニヤ

晴「そういう鳰……は、そんなに変わってないかも」

鳰「見た目はともかく、中身は変わったッスよ!頭の中がしっかり詰まってるッス!」コンコン

晴「そうだ、ミョウジョウ学園の先生になったんだよね!おめでとう!」

鳰「いやー照れるッス」

晴「それにしても鳰が先生…想像できないなぁ…」

鳰「よく言われるッスよぉ、みんなにも『お前が!?』って言われたッス」

晴「そっか、鳰はみんなと連絡取ってるんだね」

鳰「つってもほぼこっちから一方的にッスけどねぇ」

晴「晴、みんなの話聞きたいな」

鳰「いいッスよ!でも長い話になるし…」

晴「うん、座ろっか」



晴「…懐かしいなぁ、食堂」

晴「ここで毎日ごはん食べてた」

鳰「うちは今でもここで毎日プチメロッス」

晴「他の物も食べなきゃダメだよ…ちゃんと野菜食べてる?」

鳰「さて…何から話したもんッスかね」

晴「野菜は?」

鳰「最近連絡取ったのは…」

晴「………」

鳰「英さんと番場さんッス」

鳰「お二人は今、一緒に暮らしてるんッスよ」

鳰「それで、今は……」

英財閥
 重役室


純恋子「…分かっていますわ、その件は貴女に任せます」

純恋子「何かあったら連絡を、それでは」ピッ

真昼「あの…純恋子さん…」

純恋子「真昼さん、なにかしら?」

真昼「そろそろ会議の時間です…」

純恋子「あら、もうそんな…それでは行きましょうか」スタスタ

真昼「はいっ…」スタスタ

純恋子「今日のこの後の予定は?」

真昼「えと、報告書が提出されるので…届きしだい確認と…」

真昼「現場に移動して視察と、指示…」

真昼「……そのあと二人でお昼ごはん、です」ポッ

純恋子「ふふ、今日のお弁当は何かしら?」ニコッ

真昼「純恋子さんの好きなおかず、つめますた…」

純恋子「それは楽しみですわね」ニコニコ

…夕方
 

純恋子「………」テキパキ

純恋子「…真昼さん、先方からの連絡はまだかしら」

真夜「さぁ?」

純恋子「あ…もうこんな時間でしたのね」

真夜「つっても、俺も今起きたばっかだけどな…代わりの秘書呼んでくる」スタスタ

純恋子「…私としては、真夜さんが秘書の仕事を覚えてくだされば、代わりなんていらないのですけど」

真夜「んな事言われてもな、俺はそんなに頭よくな…」

純恋子「真夜さんも秘書になってくれれば、昼も夜もずっと一緒にいられるのに…」ポッ

真夜「……!!」ドキッ

純恋子「……頑張って下さいね?」ニコニコ

真夜「お、おう…」

純恋子「よし!私ももうひと頑張りですわ!」

純恋子(真夜さんとは、夜にしか会えない…残業なんてやってられませんわ!)バリバリ

真夜(秘書…)ドキドキ

鳰「…ってな感じで仲良くやってるらしいッスよ?」

晴「英さん、忙しそうだね」

鳰「お金持ちはお金稼がないといけないッスからねえぇ」

晴「でも幸せそうでよかった♪」

鳰「…仕事中も一緒とか羨ましい限りッス」ボソッ

晴「?」

晴「あ、鳰も誰か…」

鳰「で!!その次に連絡とったのは生田目さんと桐ヶ谷さんッスよ!!」

晴「わっ」ビクッ

鳰「お二人も今は同居してるッス、あの二人はそれしか考えられないッスけどね」

晴「うん、学生の頃からずっと一緒だったよね」

鳰「それでッスねー、最近は…」

某所
 千足の家


千足「…………」

柩『千足さん、入っていいですか?』コンコン

千足「あぁ柩、いいよ」

柩「……また調べ物ですか?」ガチャ バタン

千足「あぁ、私の探し物は…そう簡単に見つかってくれないからね」

柩「ぼくも、お手伝いします」

千足「いいのか?」

柩「はい、今日はお仕事お休みなんです」

柩「それにぼくは千足さんのお手伝いがしたくて、一緒にいるんですから」

千足「いつもありがとう、助かるよ」

柩「気にしないでください、資料分けて貰っていいですか?」

千足「それじゃこっちの分をお願いしようかな」

柩「はいっ」

千足「……柩」

柩「はい?」

千足「…いつも、すまない」

千足「私のために柩の時間を使わせてしまっているのに、何もしてやれなくて…」

千足「柩は何かしたい事とかあったり…」

柩「ないです」キッパリ

千足「……え」

柩「言ったじゃないですか、ぼくは千足さんのお手伝いがしたくてここにいるんです」

柩「それに一緒にいられれば、ぼくはそれで…」ドキドキ

千足「柩…」

柩「あ…でもやっぱりたまには、本当に二人だけの時間…欲しいですけど」

千足「……」

千足「…柩の部屋に行こうか」ガタッ

千足「今日は私もお休み、って事にしておこう」

柩「千足さん…」

千足「……ずっと一緒にいてくれるかな、これからも」

柩「…はいっ♪ずっと一緒です」

鳰「つーわけで、二人はあんまり変わらずって感じッスかね?」

晴「二人は、ずっとこのまま変わらなそうだね」

鳰「ずっと?」

晴「うん、ずっと一緒なんじゃないかな」

晴「学園で手を繋いでいたみたいに…ずっと」

鳰「どうッスかね?もしかしたらそのうちひっでー大ゲンカやらかしたりして…!」ニヤニヤ

晴「もう、鳰!」

鳰「冗談!冗談ッスよ!!」

鳰「でもいいッスよねぇ、ずっと一緒…」

晴「………」

鳰「……あ!ごめっ…!」ハッ

晴「うぅん、大丈夫だよ」

晴「大丈夫、だって晴は…」

鳰「……」

晴「……もっとみんなの話、聞きたいな」

鳰「そうッスね…お次は…」

鳰「神長さんと首藤さんッスかね」

某所
 涼の家


香子「…お邪魔します」ガラッ

香子「……涼?いないのか?」キョロキョロ

香子(おかしいな、確か外から何か音が聞こえて…)スタスタ

涼「おぉ香子ちゃん!よく来たよく来た!」ドタバタ

香子「あ、いたのか」

涼「うん、今ちょっと取りこんでおっての」

香子「取り込み?用事か?……人を呼んでおいて」

涼「んーと、そうじゃの…説明するより見せた方が香子ちゃん、びっくりしそうじゃな」ニヤリ

香子「?」

涼「こっちこっち!」グイグイ

香子「わ…!ちょっと、引っ張るな…!」

涼「こっちじゃよー、ほら庭……じゃーん!!」バッ

香子「………!」

香子「桜、だ…」

涼「ふふん」

香子「え、ちょ…これ、どうしたんだ?こんなの前まで無かったのに…!」

涼「買った」

香子「買った!?高かったんじゃ…!?」

涼「…だって香子ちゃん、わしの家来てくれないし」

香子「そ、それは…すまない」

香子「私もホームを説得しようとはしているんだけど…難しくて」

涼「…まぁ大変なのは分かる、結構な組織じゃしの」

涼「でもこれがあれば香子ちゃん、もっとわしの家に来たくなるじゃろ?」

香子「うん…すごく、素敵だ……」

香子「……ずっと眺めていたくなる、涼と一緒に」

涼「………♪」

香子「涼、私は…絶対にホームから抜け出してみせる」

香子「そしたらここに来るから……その時は」

涼「うん…そしたら」

涼「結婚、じゃな♪」

晴「庭に桜!!」

鳰「思い切った事するッスよねぇ、首藤さんも」

晴「す、すごいな…」

鳰「まぁ思うほど高くはないみたいッスけどね!でも流石に真似できないッス」

晴「いいなぁ、春は自分の家でお花見できるなんて」

晴「………」チラッ

鳰「ん?…あぁ、今年もミョウジョウの桜は綺麗に咲いてるッスよ」

鳰「今年はうちらの代の時と違って新入生も見れたッス」

晴(……あの桜、まだある)

晴(…綺麗に咲いてる)

晴(兎角さん……)

鳰「……晴?」

晴「あ、ごめん…」ハッ

鳰「あの桜、確か…」

晴「続けて?」

晴「……次は、伊介さんと春紀さんッスかね」

某所
 春紀の家


春紀「…おらー!!お前ら起きろって!!遅刻するぞ!!」ガンガンガン

弟「ねーちゃん、ねみー」

春紀「顔洗ってこい!」

妹「おねーちゃーん、おなかすいたー」

春紀「ごはんは机の上!早く食べないと遅刻だって!」

妹「ねーちゃーん!!教科書なーい!!」

春紀「昨日、ランドセルにいれとけっつったろーがー!!」



春紀「はぁ…よし……全員起きたな、二度寝してる奴は…」チラッ

伊介「………」Zzz

春紀「………起きろ」ゲシッ

伊介「いったっ…!!……あ、おはよ春紀♥」

春紀「うん、おはよ伊介♥……じゃねーよ!!伊介も起きて手伝ってくれ!!」

伊介「だってぇ、昨日夜勤だったんだもん♥」

春紀「それは分かるけどさぁ…朝、ちょっとくらいは…」

伊介「それにいい夢見てたし、起きたくなくなっちゃったのよねぇ」

春紀「……いい夢?」

伊介「うん♥すっごくいい夢♥」

春紀「……そっか、よかったな」フッ

弟「ねーちゃーん、醤油なーい」

春紀「あれ!?昨日買ったはず…!ちょっと待ってろー!」

春紀「伊介!ちょっと起きて、チビたちの様子見てて!」ドタバタ

伊介「はいはい、分かったわよ」

伊介「…………ぐぅ」Zzz

伊介(ごめんねぇ春紀、伊介…今日はちょっとお疲れなの♥)Zzz

伊介(たまにはいいわよね、二度寝も♥)Zzz

弟「おねーちゃーん、おれのはしどこー?」

春紀「あぁもう!伊介!ちょっと見てやっ……伊介ええええええええええええええ!!!」

鳰「ってぇー感じでぇ、春紀さんすっかりオカンッス」

晴「あはは…大変そう」

鳰「ま、でも小っちゃいのも小学生になって少しずつ手がかからなくなってきたって言ってたッスよ」

鳰「……うちが最近連絡とったのは、このくらいッスかね」

晴「ん?でも…」

鳰「……武智さんと剣持さんは、連絡とれてないんス」

晴「え?」

鳰「完全に音信不通ってわけじゃないッスけど…最近はあんまし応答してくれない事が多いッスね」

鳰「どこにいるのかも分からないし…ま、元気でやってはいるみたいッスけど」

晴「そう、なんだ…」

鳰「……それよりも、もうそろそろ時間ッスよ」

晴「あ…うん」

晴「……ありがとう、鳰」

鳰「いやぁ、これくらいお安いご用ッス!」

鳰「友達のためッスから、ね」ニコッ

某所


乙哉「しえなちゃん、こっち!」グイッ

しえな「う、うんっ…!!」

しえな「……っ」ハァハァ

乙哉「…!しえなちゃん、平気!?」

しえな「…ごめん、ちょっと辛い」

乙哉「……貧血?」

しえな「…大丈夫だから、少し休めば……」ハァハァ

乙哉「………」

しえな「…警察の姿も見えない、ちょっとだけ休憩しよう」

乙哉「……うん」

しえな「大丈夫だって、別に見つかったわけじゃない…ちょっと隠れてれば」

乙哉「うぅん…そうじゃなくて…」

しえな「?」

乙哉「………」

乙哉「ごめんね、しえなちゃん…」

乙哉「あたし、しえなちゃんのこと…大好きだよ」

乙哉「しえなちゃんの笑った顔が好き、泣いてる顔も、怒った顔も、とろけた顔も……斬られた時の顔も」

しえな「……」

乙哉「でもね、そうやって…おでこにしわ寄せて、汗いっぱいかいて…」

乙哉「それでも『大丈夫だよ』って言ってる顔は……好きじゃない」

乙哉「そんなに辛そうな顔はあんまり見たくなかったよ」

乙哉「……あたしのせいだよ、ごめん」

しえな「………ボクも、武智のそんな顔は好きじゃない」

乙哉「え?」

しえな「ボクは、いつもへらへら笑ってる武智の顔が好きだ」

しえな「……だから笑ってよ、そしたらボクも笑うから」ニコッ

乙哉「……ありがとう、しえなちゃん」

乙哉「あとでいっぱいキスしてあげるね」

しえな「!?」ドキーン

ミョウジョウ学園
 金星寮・玄関


鳰「時間ッス」

鳰「……うちは部屋に戻るッス」

晴「うん…晴は、行くね」

晴「………それじゃ、また」

鳰「……また会えるッスかね」

鳰「もしかしたら、もう二度と……」

晴「…大丈夫、晴はまた戻ってくるから」

晴「そしたら今度は…黒組のみんなで集まって、また話をしたいな」

鳰「……でも!」

鳰「もし、いなかったら……!」

鳰「うちは、不安ッス……」

晴「……晴は、信じてる」

晴「それじゃあ、行ってくる」ダッ

鳰「晴……」

晴(……この道、やっぱり懐かしいなぁ)スタスタ

晴(あの頃はいつも、この道を通って教室に行ってた)

晴(隣にはいつも)

晴(兎角さんがいた)

晴「…………」スタスタ

晴「…あっ」

晴「こっちは、校舎だ」

晴「………へへ、やっぱり体が覚えてるんだな」

晴「ついついこっちの道を選んじゃった」

晴「でも今日、晴が行くのは…こっち」スタスタ

晴(校庭に続く道)

晴(…校庭には、あれがある)

晴(晴と兎角さんの…思い出の桜)

晴(そこに……きっと、あの人はいるはず)

兎角『もしもし』

鳰『もしもし?お久しぶりッス!鳰ちゃんッスよ!』

兎角『………お前か』

鳰『あ、覚えててくれたんッスねぇ…!てっきり兎角さんのことだし、うちのことなんて…』

兎角『……そんな事どうだっていい、何の用だ』

兎角『と言うか、なんでお前私の携帯……いや、いい』

鳰『ん?なんスか?どうして聞くの止めたんスかああぁ』

兎角『聞くだけ無駄だからだ』

兎角『で?…仕事の話か?』

鳰『……単刀直入に言うッスよ、今日の13時にミョウジョウ学園の校庭に来て欲しいッス』

兎角『………なんでだ』

鳰『来れば全部分かるッス!そんじゃうちはこれでー』ガチャッ

兎角『……!?おい待て!もっとちゃんと説明……!』プチッ

兎角『…………』

兎角『切れた…』

ミョウジョウ学園
 校庭


晴(お別れした時、兎角さんは言ったよね)

晴(これからは自由に生きろって)

晴(晴は、自由に生きるって決めた)

晴(兎角さんも、そうしろって言った)

晴(だから晴は…晴の好きなように、自由に生きる)

晴(晴は自分のやりたい事をやる!)

晴(晴は、ひなただから……)

晴(兎角さんのところに陽の光を射しに行くよ!!)

晴「………!」

晴(あれ、は)

晴「…………っ!!」ダッ

晴(あの桜の木の下にいるのは…!)

晴「兎角さんっ!!」

兎角「!」

 
 
 
 

晴「………また、会えたね」

 
 
 
 

おしまい

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年06月05日 (木) 23:58:57   ID: ju-drp0A

good

2 :  SS好きの774さん   2014年06月09日 (月) 21:43:28   ID: qwgngeRs

素晴らしい

3 :  SS好きの774さん   2014年06月13日 (金) 22:12:01   ID: WjNUm9oA

はよ、つづきはよ

4 :  SS好きの774さん   2014年06月16日 (月) 21:57:01   ID: oJGp7w8Q

俺の二時間返さなくてええよ
ちょくちょくのミスがあったけど、修学旅行をこす作品ですわ
リドルは平和が一番だな1254125785367782122565点

5 :  SS好きの774さん   2014年06月17日 (火) 00:19:19   ID: o1bjXfus

タイトル見てネタだなって軽い気持ちで開いたら
内容詰まっててほっこりした
読んで良かった

6 :  SS好きの774さん   2014年06月18日 (水) 01:00:52   ID: f29dvxWa

いすけさまかわいいなあ

7 :  SS好きの774さん   2014年06月21日 (土) 22:36:21   ID: dlrs7tnN

感動した

8 :  SS好きの774さん   2014年06月22日 (日) 21:51:20   ID: K2FJpFY1

何回見てもいいなぁ!
12回目でございます

9 :  SS好きの774さん   2014年06月25日 (水) 02:04:14   ID: TNSLyy7q

悪魔の数字、666レスで終わらせてるところもいいw

10 :  SS好きの774さん   2014年07月24日 (木) 16:51:37   ID: la-j_tt5

・:*:・感(*丿∀`*)動・:*:・

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom