鳰/乙哉「大切な――を奪うには?」 (19)




※鳰(少し乙)春です。R-18要素多分にアリ。

・時間軸は『春紀が予告上を出さなかったら』というパラレルの9話前後です。乙哉は例の如く脱走してきます
・リメイク



<金星寮2号室>


 春紀「……あと1週間、か。」


伊介様とあたしが決めていた、晴ちゃんへ予告票を"順番に"送りつける予定日。その日は、刻一刻と迫っていた。

本来なら、あたしは学園祭の時に予告上を送りつけて暗殺するつもりだったのを、焦り過ぎてはいけないと伊介様に引き留められていた。

正直な所少しでも早く冬香達の元へと資金面で援助したいという想いが今でも燻っているが、それでも止めたのは正解だった。

何故なら、あの晴ちゃんの守護者である兎角サンの戦闘力はあたしが予想していたよりも遥かに高かったからだ。

もしあのまま暗殺に向かっていたら。……恐らく、叶わなかっただろう。でも、今は違う。


 伊介「は~るき❤ なに辛気臭い顔して突っ立ってんのよ、邪魔❤ 」

 春紀「お、ごめん伊介様。いや、そろそろだなって思ってさ。」

 伊介「な~んだ、そんな事。大丈夫よ、今のアンタなら必ずアイツを仕留められるから❤」

 春紀「……ホントに感謝してるよ。対策から有効な戦術、紛れもなくプロの戦い方を教えてくれて。」

 伊介「当たり前でしょ?❤ 場数が違うのよ、場数が❤」


クスクス、と笑う何時もと変わらない彼女の様子に妙な安心感を覚えたあたしも思わずつられて笑ってしまった。
此処まで来たのだから、順番をわざわざ譲ってくれた伊介様の為にも必ず成功させてみせる。

不意に、伊介様があたしの手を引き、よろめくようにして前のめりになると、すぐ目の前には長い睫毛と鋭い瞳があり、ふわりと香った彼女の香水の匂いに思わずドキリとしてしまう。やっぱり、良い匂いだ。


 伊介「伊助はあんたに同情したわけじゃないよ?……ただ、恋人に優しくするのは当然でしょ❤」

 春紀「んっ……」 


其処からはなされるがままで、唇を重ねたかと思えば強引に割って入ってくる伊介様の柔らかい舌の感覚を感じ、あたしも必死で絡ませる長く深い口付けをした。
……ヤバい、伊介様の匂いがどんどん入ってくるだけで、クラクラしそうになる。

どれくらい経ったか、息苦しさを感じた辺りでゆっくりと伊介様があたしの腕を離すと、まるであたしの唾液を味わうように、艶めかしい唇に舌を這わせる様子に、


 伊介「続きはお風呂に入ってから、ね?」

 春紀「……うん。」


柄にもなく、頬を染めて照れてしまった。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450725596





<金星寮鳰の部屋/鳰視点>

……そんな熱い口付けを交わす二人へと、無機質な視線を向ける者がいた。

ウチは愛用のパッド型端末に指を滑らせながらも、二号室で行われていた情事を見て、思わず息を呑んでいた。

だって、あの春紀さんがあんな蕩けた表情で甘い声を出すなんて、いわゆるこれがギャップ萌えという奴なのだろうか。

普段強気な人間が唐突に見せる弱い一面というモノは、とても興奮するし、それに……激しい嗜虐心を煽られた。

じんじんと痺れるような快感がウチの背筋を這いずり回った時、考えていたのは、そんな彼女を手中に収めたという妄想。

元々理事長の性格もあって受ける側に回り続けていたウチっスけど、自分の心の中にこんなドス黒く煮えたぎるような衝動が浮かんだのは初めてだ。

春紀さんに類似して、兎角さんでもそうだ。彼女が弱気な表情を浮かべた時にも、薄々と"コレ"に気付いていた。


 鳰「っ……ぁっ」


気付いた時には二人の情事を見つめながら、自分の股を弄る。思った以上に声を上げてしまい、思わずベッドの枕へと顔をうずめた。

二人が息も絶え絶えに重なり合ったところで、ウチもどろどろになった指をふき取った。

そして、身なりを整えながらも、『あと一週間』という彼女らの予告表提出期間を頭に入れつつ、ニヤリと笑みを浮かべた。


欲しいモノなら、どんな手段ででも手に入れるのが葛葉流っスから。




<学園屋上>

翌日。此処から七日間の間、伊介様もまた兎角サンに対抗する為や自分の計画を立てる為色々と調べ物をするらしく、別行動を取る事にした。

あたしはこれまで通り毎日トレーニングを欠かさず、特に重要なイメージトレーニングのために屋上に来ていた。

兎角サンの得物はナイフと自動拳銃。拳銃に関しては、ズルいかもしれないが事前に伊介様が上手く細工をするらしい。

問題なのは純粋な格闘術においても兎角サンは一級らしく、あれだけ場数を踏んできた伊介様でもまともにやりあって勝てる相手ではないとか。

そんな殺しのために生きてきたような化け物と一対一で相対するという事を考えるだけで、学園祭の時のあたしがどれだけ馬鹿やらかしそうになっていたのかが分かる。

軽いシャドウボクシング終えて、本格的にナイフを『捌き』『弾く』ための特訓や、また得意な力による柔道の様な投げ技もイメージする。
そう、まさしく、こんな風に相手が突き出して――――――――――――て!?


 春紀「うわっ!?っと……鳰サン、こんなところでなにやってるんだよ?」

 鳰「いやぁ~春紀さんが熱心にトレーニングしてたもんっスから、差し入れにと思いまして。スポドリいかがっスか?」


丁度ナイフが突き出してくると予想したところから本当にペットボトルが突き出されたのには驚いたモノの、其処に居たのは妙にツヤツヤとした肌で笑みを浮かべていた鳰サンだ。
正直なところ、この何かを見透かしている様な瞳はあまり好きじゃないけど、なるほど裁定者としてはメンバー全員の管理がどうこうとか言っていた気がする。


 春紀「ま、ありがたく受け取っとくよ。それで、他にはなんか用事でもあるんかい?」

 鳰「そんな露骨に嫌そうな顔しないでほしいっス! 流石の鳰ちゃんも傷つくっスよ! プチメロを要求するっス!」

 春紀「あたしにはアンタがそんなタマには見えないんだけど……」

 鳰「あ、そうそう、特に用事はないっスよ。」

 春紀「ないんかい!」
 
 鳰「春紀さんが最近特に兎角サン兎角サンってトレーニングしてるから、もしかしたらもしかすると?っていう、個人的な興味っスよ。」

 春紀「あぁ、そうかい」

 鳰「あ、ウチの事は気にしないで続けてください。こっちでプチメロ食べてるんで~」


小柄な体格な走りは、鉄柵とそれを支える土台の細いスペースに座ると、提げていたビニール袋からメロンパンを取り出してはむはむ食事を始めた。
……まぁ、いっか。

受け取ったスポーツドリンクを口にした後、先ほどまでと同じように宙に存在する兎角サンの幻を相手に動き続けた。




<学園屋上>

一発、締めのストレートを打ちこんで今日のトレーニングは終了した。

未だに不安感はあるが、しかし確かに掴めてはいる。あと一週間で、それを確かなモノに……。

そんな風に一人拳を見つめたまま黄昏ていると、何時の間にやらいくつもあったメロンパンを全て平らげていた鳰があたしのところにニコニコとした、意図の

つかめない笑みを浮かべながらも、背中で手を組んで歩いてきた。

妙に、フラフラと横に大きく揺れる様な。

ただ、そんな彼女の"歩き方"に違和感を覚えた途端、視界がグラグラと揺れ始めた。
疲労から来た立ちくらみだろうか、いや、にしては、明らかに……おかしい。なぜなら、すぐ目の前に、鳰、の―――――――

 
 鳰「……春紀さんに予告表は出させないっスよ。ウチのモノになるまでは、ね。」

 春紀「お前、の、モノ、だっ、てっ……?」


簡単な振り子による催眠術の一種、睡眠導入剤の効果もあるとはいえ、ゆらゆらと左右に揺れているウチの動きは疲労と緊張感から解放された無防備な春紀さんには充分な効果があった。



額を抑えながらも、何度も崩れそうになる両足でなんとか踏ん張ろうとしている春紀さんの姿は、まさしく生まれたての小鹿の様だ。

ウチはまだ幻術何ていう大層なモノは使ってはいない。やろうと思えば、いつだって幻術を掛けて彼女の身体を蹂躙出来るというのに。

ソレをしないのは、今こうしてこちらに向かって反抗的な視線を向けながらも苦しげな表情を浮かべる彼女の様子を見れば分かる事だろう。

それでは、奪う意味が無いからだ。


 鳰「(……あっさり堕ちて、ただの木偶なんかじゃあウチも相手してて面白くないっスからね。)」

 春紀「…ッ、て、めぇっ……質、問に、答え、ろッっ……」

 鳰「とはいっても人が来るとマズイので。さっさと済ませるっスよ、春紀さん。」


一度、パンと彼女の目の前で両手を叩くと、それまでの抵抗が嘘の様に糸の切れた人形よろしく春紀さんはその場に倒れ伏した。
気が強く姉御気質な彼女を象徴するかのような長い赤髪がしなだれかかっていく光景を、ウチは少し綺麗だなぁと思っていた。

倒れたとはいえぼんやりと意識は残っている……"あえてそうさせた"状態の春紀さんの顔元へ屈むと、彼女の顎を押し上げて視線を合わせて

 
 鳰「春紀さんはウチが柏手を打つと、全身の感覚が敏感になる。ほら、唇をなぞってあげるだけでも気持ちいいっスよね?」

 春紀「んぶっ……んぁ…」


体格差や力も、睡眠欲という人間の本能に訴えかけるウチの術によって全てが逆転してしまう。

程よい膨らみと艶のある薄ピンクの唇を、親指でなぞると、そのまま口内へと差し込み、ぐちゅぐちゅと唾液交じりの水音をわざと聞かせる様に激しく春紀さん

の舌を弄ぶと、それだけで彼女の身体がピクピクと震え始める。

じんわりと上気した頬に薄めでこちらを見つめる彼女の様子に、思わずこの場で襲い掛かってしまいたい衝動に駆られそうになるが、


 鳰「もう一つ、ウチが指を弾くと、それだけで全身が脱力して考える事を止めてしまう。」


パチン、と指を鳴らした途端、今度こそ春紀さんの全身から力が抜け落ちて眠りに落ちてしまった。
唾液が薄らと纏わりついた自分自身の手を一瞥しつつも、ウチは一先ずの目標を達成し、背中にゾクゾクとした心地よい感覚を感じた。




<鳰の自室>


 春紀「んん……」


程良い疲労も相まって、寝覚め良く目を覚ました春紀は、しかし見覚えのない部屋の様々な物にふと眠りに落ちる直前の事を思い出した。
大人しく寝ている暇は無い、さっさとここから離れないと―――――――――――そうして起き上がろうとした自分の首に、枷が嵌っている事に気付く。


 鳰「お目覚めっスか、春紀さん?」


ベッドのすぐそばに、肘をついて顔を乗せた鳰がにやにやと厭らしい笑みを浮かべてこちらを眺めている。

ギチッ……という音は、春紀の首に取り付けられた首輪から伸びるロープの音で、その手綱は走りの手に繋がっている。

見下ろした自分の恰好が下着にワイシャツだけ、というのは心許ないが、手枷や足枷といった拘束の類は無い。


 鳰「これなら、簡単に逃げられるって感じっスか?」


パン、と鳰が一度手を叩く。

その瞬間、シーツと身体が擦れただけなのに、全身にゾワゾワとした快感が広がっていく。
 

 春紀「っ~~~~~あっ!?」


びくっびくっと激しい痙攣と共に、じわりと下着を濡らした春紀は何が起こったのか分からないといった表情で鳰に視線を向け、脱力しながら沈んでいく。

その様子に、にやにやとした笑みを浮かべたまま、


 鳰「こんな甘い声、出せたんスね」

 春紀「っ、はっ、はっ……こ、んなッ、おかしッ」

 鳰「そりゃあおかしいっスよォ。だって春紀さん、うちの術に掛かり過ぎって位かかってくれるんスから」


つつっ、と指先を春紀の太ももに滑らせていき、その度にビクビクと身体を震わせる様子に酔い痴れる。

あの時の鋭い視線は、凛とした瞳は、今目の前でだらしなく蕩けている。






それだけで満足してしまいそうになってしまった。が、それだけでは、この黒々に燃え上がる炎は収まらない。

ボグッという重たい音と共に鳰の膝が春紀の無防備に晒された脇腹に突き刺さる。

 
 春紀「う、げぼッ……!」

 鳰「あぁ~、鍛えてる体は弾力がたまらないっスね」

 春紀「げほっ、げほっ」

 鳰「痛かったっスか? あーあー、凄い赤くなってるっスねぇ」

 春紀「うっ。おぇっ」

 鳰「吐き出したら、今度は直接肌を触るっスから」

 春紀「ひっ、ぐぶっ!」


必死に口元を抑え、込み上げる嘔吐感に耐えようとする春紀を見下ろしながら、両手を合わせようと近づけていく。

苦しい程の動悸と羞恥心からか、その仕草を見た途端に喉を鳴らして無理やり飲み込んでいく。

焼けるような痛みを感じ、目に涙を溜めながらも抑えた手の端から涎を零す。


 春紀「ハァッ、ハァッ……何が、目的、だ」

 鳰「そんなの、春紀さんのせいじゃないっスか」

 春紀「な、ぁっ」

 鳰「ウチ、やぁっと気付いたんスよ。自分のやりたい事、確かめたい事。全部ぜぇ~んぶ」


腹を庇いつつ、ベッドの端へとずりずりと下がっていく春紀を、首輪の手綱を引っ張り強引にこちらに寄せる。

至近距離で向かい合った表情、その恍惚とした笑みを間近で見た春紀は、獰猛さを湛えたワインレッドの瞳に釘付けになる。

ドクンドクンと激しく血管が脈打ち、心臓の鼓動が早くなる。互いの呼吸が交じり、熱を帯びた荒い春紀の息を感じながら鳰はそっと口付けする。

ぴちゃ、ぴちゃ……という水音と共に春紀の口内を舌で蹂躙していき、逃げようとする春紀の舌に無理やり絡めていく。


 鳰「んっ、ふふっ……逃げちゃダメっスよ?」

 春紀「ぷぁっ、うっ、やめ、んむっ」


抵抗する力は、続いている全身の感覚が敏感になる術で失われている。

されるがままに、引っ張られた首だけ差し出すようにして崩れぬよう四つん這いになっているのは、そのまま首が絞まる事を恐れているから。

時折舌が絡まるたびに腰を震わせる様子に、空いている右手をワイシャツの隙間から侵入させる。


 春紀「(ヤバ、い。触れられた所全部熱い、舌が、蕩けて、なくな、るっ……)」

 鳰「んっ、ぷはっ。あは、春紀さん、目がトロってとろけちゃってるっスよ? 夢中で舌、動かしてたっスね」

 春紀「はぁっ……はぁっ……う、あぁっ」


ビクビクと全身を震わせ、もう何度目か分からない絶頂を迎えた春紀は、だらしなく崩れた表情のままベッドに倒れ込みじわじわと染みを作る。

そんな彼女の様子に、もう一度バンッと手を叩いて術を解いた鳰は、びちゃびちゃになった口を袖で拭う。

目の前に伏している獲物の、無防備に伸びた程良い肉付きの太ももや美しいラインの首筋、スラリと伸びた腕が興奮を冷まさない。


 鳰「んっ♥ はは、ぐちゃぐちゃっスよ……」


自らの秘所に手をやり、タイツ越しにでもわかるほど濡れているそこを弄り、ゆっくりと熱を冷ましていく。




こ、ここから先は明日書きます……




<黒組教室/春紀視点>


翌日。


あの後、頭の中がかき混ぜられるような苦しさの後に失神してしまっていたらしく、目を覚ました時には汚れていたシーツや衣服が片付けられていた。

着ている服は……シャツにスカート、制服一式。昨日、コイツに連れていかれた時の恰好。

真新しいシーツのベッドから重たい体を起こしたアタシは、ぼやけた眼で目の前に立っている走りを睨み付ける。

が、昨日の態度は何処へ行ったのやら、清々しい程胡散臭い笑みを浮かべて湯立つコーヒーを差し出してきた。


 鳰「大丈夫っスか? 昨日は、お疲れ様っス」

 春紀「……白々しい」

 鳰「まぁまぁ、昨日の敵は今日の友って言うじゃないっスか!」


好き勝手に体を弄られた事実に対して、怒りよりも先に呆れが来るのは、コイツと会話している時くらいだろう。

飄々とした態度で立ち回るその姿は、狡猾を体現したかのような人間だとアタシは思う。いや、おそらく満場一致で同意を得られる自信がある。

一応、コーヒーは受け取っておいたけど。


 鳰「朝一にコーヒーを飲むとスッキリするっスねぇ~、この部屋陽当たりも良くて気持ちいいっスよ!」

 春紀「まぁ、確かに陽は当たってるけど……」


熱いくらいの陽射しに目を細めて窓の外を見やる。すると、不意に飲みかけのコーヒーカップを走りが強引に奪い取ってきた。

別に元より飲む気は無かったが、少し苛立ちを覚えてベッドから起き上がろうと力を込める。

が、上手く力が入らない。


 春紀「はぁっ、はぁっ―――お前、また何か入れたのか!!」

 鳰「あはははは!! 春紀さんったら、全く警戒せずに半分は飲んでくれたっスからねぇ。ちょろいちょろい」

 春紀「(胸が、苦しいっ……鼓動が早くなって、熱っぽくて。」


下腹がじわりとした快感に襲われている。


 鳰「簡単な媚薬っスけど、結構な量入れたんで中々辛いと思うっス。あぁそう、力を込めようとすると効果が増すんで気を付けてくださいね?」

 春紀「っく、あぁっ……」


必死に力を抑え、最小限の動きでベッドから足を出して綺麗に揃えられている革靴を履く。

じわじわと攻めてくる快楽に、僅かに震えながらも立ち上がり、荒い吐息を出しながらもなんとかショルダーバッグを抱える。

何よりも怒りと羞恥心を増したのは、その一連の動作をベッドに腰かけながらニヤニヤと眺めてくる走りの姿だった。

苛立ちを抑え、扉をゆっくりと押し開けると、そのまま教室へと向かっていく。


 鳰「"首輪"はいかなる時でも着けておかないと、躾きれてないペットはいつ脱走するかわかんないっスからねぇ。」


飲みかけていたコーヒーを一気にあおり、立ち上がった鳰もまた、タッチパッドを抱えて扉から出ていく。



※視点変更が無い場合は前回の続きです。




<黒組教室>


フラフラとふらつきながらも、何とか教室までたどり着いたアタシは入口の前で額を抑え、壁を背にして静かに呼吸を整える。

幸いにも、もう既に中には自分と走り以外全員揃っているらしく、既に去って行った神長・桐ケ谷・生田目・剣持………と、武智の筈だった。


 乙哉「はぁ~、久しぶり♪」

 兎角「っ、何でお前がここに居る!!」

 晴「武智、さん………」

 乙哉「晴っち~!! 会いたかったよ~……っとと」

 兎角「近寄るな!!」


明らかに怯えた表情で肩を竦める晴に、過去の事を全く気にもかけていないといった様子の武智が抱きつこうと近寄る。

割って入った兎角が武智を押しのける。バランスを崩した武智は、しかし持ち前のバランス感覚で机にぶつかりながらも立ち直る。

こちらを殺気立った瞳で睨み付けてくる兎角の姿を見て、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらホルダーからハサミを取り出し、器用に弄びながら、


 乙哉「ま、もう一回殺り合っても良いんだけどねェ♪」

 兎角「容赦は無いと思え」

 晴「駄目だよ兎角さん!!」


ビリビリという音が聞こえてきそうな程に視線がぶつかる最中、傍観しているのは英と番場だ。

というより、無理やりに番場の隣に席を替えたこともあってか、最近はぐいぐいと英が番場に近付いている気がする。


 純恋子「あらあら、また騒がしい人が帰ってきましたね、番場さん?」

 真昼「……で、も、あのひと、苦手、ます……」

 鳰「あー、"その辺に"」

 乙哉「っ……はいはーい」


入口前でたじろいでいると、背後から歩いてきた鳰がわざとらしくアタシの肩を叩き、悶絶しながらも押し殺して教室に入る。

そして、何をしでかすかと思えば、乙哉の横を通りながら何かを耳打ちし………驚くことに、それまでいつもの調子だった武智が素直にハサミを納めて席に戻って行った。

その表情は心底不満そうだったが、それにしても何か弱みでも握られているのだろうか。



 






 伊介「……なーにビクビクしてんのよ。もしかしてビビッてんの?」

 
そんな風に見えていただろうか、ぼーっとしたまま立っていたアタシの方を見て、何時もの調子で伊介が声を掛けてきた。

そういえば、昨日は何も言わずにあのまま夜が明けたんだった。何か、怪しまれていないだろうか。


 春紀「は、はは。ちょっと今日は熱っぽいかな」

 伊介「ふぅーん………昨日、何で部屋に戻ってこなかったわけ❤」

 春紀「ちょっと、トレーニングに熱が入っちゃってさ。あのまま寝ちまってた」

 伊介「それは風邪引くに決まってるでしょ馬鹿❤」


なんとか、誤魔化せた………訳は無いとは思うけど、伊介は何も言わずに知らないふりをしてくれたんだろう。

それ以上言及はせずに、後ろ髪を掻きながらぎこちない笑顔のアタシが座るとため息交じりに頬杖を突く。

大丈夫、今のところは、なんとか耐えられるレベルだ。問題はない。


  辺「え、えぇ~っと、ハサミは危ないから持ち歩かない様にしろよ~?」


丁度乱闘騒ぎが始まる頃にやってきていた溝呂木が苦笑いを浮かべながら教壇に出席簿を置く。


  辺「全員出席、と。……ってあれ、武智!?」

 乙哉「久しぶり、センセ♪ 今日からまたクラスメイトに戻ったから、よろしく~」

 兎角「チッ」

 晴「兎角さん、抑えて抑えて」

 伊介「ハァ~。また殺りにくくなっちゃうじゃない❤」

 春紀「……ふぅ、ふぅ……」

 鳰「(駄目っスよ、春紀さァん。もっと"見せつけないと")」


パチン、とわざとらしく大きく指を鳴らしたのは鳰。

その瞬間に、ガタガタッと激しく机を揺らし、ビクビクと絶頂の波を抑えようと声を出しそうになった口を無理やり塞ぐ。

マズイ、注目がッ……



日付変わっちゃいましたが、春紀誕生日おめでとう!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom