貴音「べりある・あっと・ざ・しぃ」 (35)

かちゃり、と錠前が音を立て、私を扉の中へと立ち入る権利を与えます。

「ただいま戻りました」と、声を掛けると、皆がやってきました。

「慌てなくてもご飯は逃げませんよ」と告げて私はすぐ台所に立ち、皆の夕食を作ります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399913192

書き置きが残っているので、私でも作るのは苦労しません。

暫くして皆の夕食が出来上がり、皆に配膳します。

全員に行き渡ると、食事の始まりです。

私も、自分の夕食を作る為に再度台所に戻ります。

料理を作りながら、今日の出来事を振り返って、私、蛇が苦手な事で世間では通っている事に思い至ります。

一年も接していると、もう慣れてしまう物ですね。

……ここは、響の部屋。響の部屋で、響が居ない日常を過ごしております。

響は一年前、私の目の前で命を落としました。

信号無視の車に撥ねられ、病院に搬送されるも、息を吹き返す事は無かったのです。

泣き喚く私に、響は優しく「泣いたら美人が台無しになる」と言って、それから。

「家族を頼む」と言い残し、この世から去ってしまいました。

響は、私にとってかけがえのない友人であり、競い合う仲であり、家族同然の仲だったのです。

……少し思い出に浸ってしまいましたね。

一年も経つと、記憶の中の響が薄れてきます。思い出そうとしても、出てこない。そんな事も増えてきました。

響の目はどんな色をしていたのか。響の声はどんな音をしていたのか。

響が背伸びして香水を付けた時の香りも、忘れかけています。

考えている間に料理が出来上がっていました。

食卓について手を合わせ食べ始めます。味は、普通です。

響に泊めて頂いた時の食卓は、とても幸せで、楽しかった。

今は、辛いと思う事も無くなってきました。無味乾燥の世界。

ああ、響が居ないだけでこんなに世界が一変してしまうとは。

……食事を終え、食器を食器洗い機に投入します。

着替えを済ませ化粧を落としたら、そのまま布団に潜り込み、目を閉じます。

今日はもう寝てしまいましょう。おやすみなさい。

―――
――


『貴音、なんで貴音は月が好きなんだ?』

『焦がれても手が届かない、そのような佇まいに私は魅了されているのですよ。』

『へぇ、佇まいね。貴音らしいな、あはは。』

『私らしいとはなんですか、響、ふふ。』


――
―――

幸せな頃の夢を見て、目を覚ましました。と、丁度携帯が鳴っています。

電話に出ると、聞き慣れぬ声。聞き返すと、響のお母様からでした。

「貴方に娘の遺灰を受け取って欲しい」、そう響のお母様は仰いました。

「そちらに伺います」とだけ告げ、電話を切ります。

身支度を済ませ、私はすぐに空港へと向かっていきます。

沖縄は東京から遠く離れた地、辿り着くまでに暫く掛かります。

空港に着くと、すぐ航空券を買い、搭乗時間まで待ち飛行機に乗り込みます。

椅子に座ると、少しだけ眠気がやってきます。

身の回りの確認だけして、私はその眠気に身を委ねる事に致しました。

―――
――


『響、ひびきっ!!』

『泣くなよ……、貴音……、美人が、台無し、だろ……?』

『喋らないでください!響!!まもなく救急車が来ますから!それまでの辛抱ですよ!!』

『分かるよ、自分で……自分は、助からないよ……。』

『嫌です、そんなのは嫌です!!』

『たかね……ハム蔵たちを、よろしくな……。』

『ひびきっ!!ひびきぃっっ!!!』


――
―――

頬に伝っていく涙で目を覚ましました。既に飛行機は着陸態勢に入っています。

そして、私には毛布が掛かっていました。

細やかな気遣いに感謝をしつつ、涙を拭き取り、着陸まで待ちます。

飛行機を降りると、出口には既に響のお母様がいらっしゃっています。

お互いに会釈をすると、会話もそこそこに遺灰の入っている壷を手渡されます。

受け取ると、私はそのまま響の故郷まで伺う事にしました。

少しだけ気まずい空気の中、辿り着いた響の故郷は、以前響と行った時と変わりがありません。

私は、響のお母様と別れると、灯台の元に向かいます。

ここは少し高い崖になっていて、海を望むには丁度良い場所です。

灯台に辿り着くと、まずは灯台にある響の落書きを探します。

程なくそれは見つかり、私は頬を緩ませます。小さい頃からやんちゃだったのですね、響。

私は、崖に立つと、壷の蓋を開けます。

そして、手に遺灰を取って、そのまま風に流しました。

私は、歌を口ずさみながら、風に響の遺灰を乗せていきます。

「ゆう、らぶど、しーず、えんど、ゆう、びかむ、あ、ぱーと、おぶ、ざ、しぃ」

貴方は海が好きでしたね。

「逢えて、良かった」

だから、貴方を海に還します。

いつまでも好きな海で泳いでいられるように。

そして、海に行けばいつでも逢えるように。

貴方は、最高の友でした。

逢えて、良かった。

さようなら、響。今まで、ありがとう。


おわり

http://www.nicovideo.jp/watch/sm13501015

←PのBurial At the Seaを題材に書かせて頂きました

見てくれてありがとう

言い訳をしにきました
しかし、ドヤ顔しているつもりはないのだけど…そうみられるのは悲しい

言い回しは翻訳された文章でもない限り分かりやすいのが好みなのでそう書いただけです
好みもあるけど、浅学がバレるので回りくどく書けないのもありますが

まあ、みなさまを満足させられる文章が私には書けないようですので、
しばらくは見る側にもどります。ゴミ屑ですいませんでした

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom