中島「磯野ー!野球しようぜー!」 (77)
中島「おーい!磯野ー!」
中島「磯野ー!!」
中島「磯野ぉぉぉ!!」
中島「磯野...」
ガラガラッ
サザ「ごめんね中島くん、カツオは、カツオは…、もういないのよ…。」
中島「そんな…僕はそんなこと信じられません。磯野と...もう...会えないなんて...」
サザ「大袈裟なのよ中島くんは。隣町に引っ越しただけじゃない。また一緒に遊んであげてね。」
中島「はーい。」
サザ「それよりね、中島くん。」
中島「なんですか?」
サザ「こうやって毎晩ウチの前に来て大きな声でカツオのこと呼ぶのやめてくれない?近所迷惑なのよ。もう夜中の2時よ。」
中島「つい磯野と野球したくなってしまって...すみません。」
サザ「いいのよ、分かってくれれば。じゃあもう寝るわね。寒いから体調に気をつけてね。」
中島「はい、おやすみさいお姉さん。」
中島「さて、磯野のとこにでも行くか。」
中島「おーい!磯野ー!野球しようぜー!」
中島「おーい!!」
中島「磯野ぉぉぉ!!」
ガラガラッ
花子「うるさいわよ中島くん!何時だと思ってるの!いつも夜中に騒ぐのはやめて!」
中島「やぁ花沢さん、いやもう磯野さんだったね。」
花子「そうよ、私はもう磯野花子。いや、そんなことはどうでもいいのよ。もうやめてよ、こんなこと。」
中島「磯野と野球したいんだよぉ。」
磯野「ふわぁぁぁ…何の騒ぎだい?あれ、また中島かー。」
中島「磯野ー!野球しようぜー!」
磯野「悪い、中島。おれ明日も朝早いんだ。大事な商談があってね。」
花子「そうよ、ウチの子も受験前で神経質になってるの。どうか分かって。」
中島「...。」
カニ「あれ!こんばんは、中島さん。」
中島「やぁカニちゃん、またちょっと大人っぽくなっったね。花子お母さんに似て可愛いよ!」
カニ「うふふ、中島さんったら!」
磯野「カニ!もう寝なさい!明日も模試だろ?しっかり寝ないと実力が出せないぞ!」
カニ「はーいパパ。じゃあね、中島さん!」
中島「ああ!また明日ね!」
花子「明日も来る気?いい加減にしなさいよ中島くん!」
磯野「なぁ中島。そろそろお前もちゃんと働いてさ、家庭も持って、落ち着いた生活を送ろうぜ。おれたち、もう45歳だぜ?」
中島「年齢なんて関係ないよ。そんなことよりさ、野球しようぜ!野球!」
磯野「もう寝ないと。それに近所迷惑だからもう帰ってくれないか?」
花子「そうよ中島くん。あ、そうだ、これあげるから今日は帰ってくれない?」
中島「うわぁー!すげぇや!王貞治のサイン入りボールじゃないか!ありがとう!磯野!花子さん!」
磯野「あぁ、気にするな。だなら今日はもう帰ってくれ。」
中島「いやぁ嬉しいなぁ。そうだ磯野!このボールを使って野球しようぜ!」
磯野「...。」
花子「早く帰りなさいよ中島くん!」
中島「わかったよぉ。ふたりとも冷たいなぁ。」
磯野「じゃあな。」
中島「じゃあ明日また空き地でな!」
ピシャッ
中島「なんだよ追い出すようにドア閉めやがって。まぁ、また明日来ればいいし今日は帰るか。…あれ?あれはカオリちゃん!」
カオ「(やっべぇやつに見つかっちまった!)
中島「こんばんはカオリちゃん!」
カオ「あらこんばんは中島くん。お久しぶりね。」
中島「いやぁ久しぶりだねー。どうしたのこんな遅い時間に?と言ってももうすぐ朝か。」
カオ「私、看護師してるの。夜勤明けで帰るところよ。(熟女キャバクラで働いてるなんて言えないわ。このキチガイニートよりはよっぽどマシだけど)」
中島「そうなんだー。偉いねぇカオリちゃん。僕なんかとは大違いだよ。」
カオ「そんなことないわよ。中島くんは今何の仕事してるんだっけ?(フフッ、ニートなのは知ってるぜ)」
中島「ぼ、ぼく?ぼくは…そうだなぁ、あれだよ!あれだ!総理大臣だ!」
カオ「ブホッ!」
中島「な、なんだよカオリちゃん!なんで笑うんだよ。」
カオ「だって中島くん。今の総理大臣は安倍さんよ。もうちょっとマシな嘘つかなきゃ!ふふふ。」
中島「キミみたいに?」
カオ「!?」
カオ「なななっ、何のことよ!」
中島「僕は知ってるんだよねー。」
カオ「なんで知ってるのよ…。私が中学校からみんなと違う私立に入って、キレイすぎるからって周りからイジメられるようになって、出会い系に自分の居場所を求めるようになって、おじさん達には1万円ぽっちで身体を売るようになって、そんな私みたいな女でも本当に愛してくれる彼氏ができたと思ったら騙されてシンガポールの金持ちの所に人身売買で売られて、20歳を超えたらすぐにまた今度は日本のヤクザに売られて、そのヤクザには風俗で働かされて、その店で最初のお客さんは磯野くんで、やっと助かると思ったら磯野くんに騙されて2億円の借金を背負わされて、そのお金で磯野くんは会社を立ち上げて今や従業員数1万人を超えるイソノホールディングスのCEOとしてメディアに取り上げられない日はないほどなのに私は借金返済の日々で...」
中島「そんなことは知らなかったなぁ。僕はキミがB型なのを恥ずかしがってO型だって周りに嘘ついてることを言ったんだけど。」
カオ「ガビーン!」
中島「よくそれで生きていられるね!信じられないや!すごいねカオリちゃん!」
カオ「本当はもう嫌よ、こんな人生。借金だってまだ1億9500万円も残ってるのよ。」
中島「全っ然返せてねーじゃんwww」
カオ「グスン」涙ポロッ
中島「お金ならあげようか?」
カオ「えっ?」
中島「磯野がね、ぼくのことをイソノホールディングスの役員として雇ってくれてるんだ。ぼくの就職先が決まるまでって約束で。」
カオ「そ、そうなの?」
中島「役員報酬として毎月手取りで1000万円貰ってるんだ。ハタチ過ぎくらいの時からだから、もう30億円近く貰ってることになる。まぁけっこう使ってるけど、貯金は5億円くらい残ってるはずだから、カオリちゃんの借金くらい返してあげてもいいよ。」
カオ「お願い!お願い中島くん!何でもするから!私に2億円ちょうだい!」
中島「何でも?」
カオ「何でもするわ!」
中島「ひとつだけ条件がある。」
カオ「どんなこと?」
中島「磯野を空き地に呼び出してほしい。野球がしたいんだ。」
カオ「磯野くんを空き地に連れ出せばいいのね?お安い御用よ!」
中島「さすがかおりちゃん。期限は今日中。すなわちあと15時間くらいだね。」
カオ「連れてきたよー。」
中島「早すぎやないか!!」
磯野「なんだよ中島。カオリちゃんがどうしてもっていうから来たってのに。またお前か。」
中島「へへっ、なぁ磯野、野球しようぜ!」
磯野「忙しいんだよおれは。もう商談が始まるんだ。タラヲ警備(株)との独占契約ができるかどうかってのは、これからのイソノホールディングスにとって本当に重要なことなんだよ。」
中島「じゃあさ、一打席だけ勝負しようぜ!王貞治のサインボールもここにあるし!」
磯野「バットがないじゃないか。」
中島「ここにあるじゃないか。こんなにカチカチになったおれのチンk…」
カオ「言わせねーよ!?」
カニ「あれ?パパ!それに中島さん!」
中島「やぁカニちゃん!相変わらず花子お母さんに似てとてもキレイだよ!」
カニ「もぉー中島さんったら!照れちゃうじゃない!でもあなたみたいなクズ人間に褒められても全然うれしくないわ!」
磯野「カニ!パパももう会社に行くところだから、カニも早く学校に行きなさい。」
カニ「ちぇっ、自分は中島さんと野球してたくせに。」
中島「ところがどっこい!カニちゃん、キミのパパは全然野球してくれないんだよ。どうかしてるよ。」
磯野「3日前に相手してやっただろ!しかも東京ドームを貸し切って。ダルビッシュやイチローだって来てくれたじゃないか!毎日毎日お前と野球をやってる暇はないんだよ!」
中島「3日も前の話をなんでそんな偉そうに話してるんだ?頭がいかれてるよ。全く理解できないや。」
磯野「それはすまなかった。」
中島「もういいよ、早く仕事に行けばいい。さっさとタラヲ警備(株)と契約を結んで、役員である僕に臨時報酬を支払えよ。」
磯野「ありがとう、じゃあ商談に行ってくるよ。お前も就職活動頑張れよ!」
中島「磯野に命令される筋合いはないよ。お前は本当に良いご身分だな。相手してられないよ。」
磯野「いつも気を悪くさせてすまないな。」
中島「まぁいいけどさ。」
カニ「じゃ、私は学校行ってくるね!」
磯野「ぼくも仕事に!」
カオ「私は借金返済に!」
中島「あーあ、一人だと暇なんだよなぁ。」
花子「あら、中島くんじゃない!アハハハッ!」
中島「またキミか。朝早くから何してるんだい?」
花子「見れば分かるでしょ?脇毛を剃っているところよ。」
中島「全く気がつかなかったよ。」
花子「自宅で剃るのはちょっと抵抗があるのよね。磯野くんに見られたりすると恥ずかしいし。だからこうやって早朝に空き地で脇毛を処理してるの!アハハハッ!」
中島「池沼かよ。」
花子「そういえば中島くん。なんでそんなに磯野くんと野球がしたいの?」
中島「あー、磯野のやつ、花子さんに言ってなかったんだ。」
花子「え?何も聞いてないわよ?」
中島「僕はね、花子さん。プロ野球選手になるのが夢だったんだ。高校では磯野とバッテリーを組んで、数々の強豪校を破って甲子園で優勝した。でも、もう僕のヒジは限界だった。手に全く力が入らなくなって、今でも鉛筆すら握ることができないんだ。」
花子「そうだったんだ...。」
中島「磯野は、甲子園でも全打席ホームラン。守っては全打者をキャッチャーフライでアウトに仕留めるという前人未到の記録を打ち立てた。そしてプロ野球全12球団から1位指名を受けた。でも…」
花子「入団拒否したのよね?」
中島「ああ。表向きには野球なんて飽きたとかいうめちゃくちゃな理由でね。」
花子「あれは嘘なの?」
中島「そうだよ。僕が野球できない身体になったのに、自分だけが野球を続けるわけにはいけない、僕がヒジを壊したのは自分のキャッチャーとしてのリードが悪かったからだ。あいつはそう言って僕にひたすら頭を下げるんだ。」
花子「そんなことがあったなんて...。」
中島「実際、あいつのリードがめちゃくちゃなせいで僕はヒジを壊したんだ。」
花子「!!」
中島「だってそうだろ?僕のストレートは100キロくらいしか出ないし、10球に1球しかストライクが入らない。そんなピッチャーでどうやったら勝てるんだよ。あいつの天才的なリードのおかげで、バッターはみんな打ち損じてキャッチャーフライになるんだよ。あいつの、常識では考えられないめちゃくちゃなリードに従った結果、甲子園では優勝できたけど、僕の野球人生はそこで終わりを迎えたんだ。僕は磯野に破壊されたんだ!」
花子「そんな…」
中島「僕はあいつを許さない。」
花子「そう…」
中島「こんなひどい仕打ちはないだろう?僕は一生懸命野球をやっていただけなのに。二度とボールを投げられなくなった!」
花子「ごめんなさいね中島くん。アタシ、何も知らなかった。」
中島「だけど...磯野がいたから...磯野のおかげで...僕は夢を見ることができた。そのせめてもの恩返しがしたくて...磯野を野球に誘っているんだ。磯野にとって野球が素晴らしいものであり続けるように!」
磯野「ありがとうございます!これから御社とともにお仕事をさせて頂けることを本当に嬉しく思います!」
タラヲ「カツオ兄ちゃんそんな堅くならないで下さいですぅー!僕も一緒に仕事が出来て嬉しいなぁですぅー!ねっイクラ専務!」
イクラ「バブゥー!」
プルルルルルルル…
磯野「あっ電話だ。もしもし?」
中島「磯野ー!野球しようぜー!」
完
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