善野「海に行きたい」 (41)
咲SS
立ったら書く
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赤阪郁乃・ヘッドコーチ「…なに言うてんの、一美ちゃん」
善野一美・監督「やから、海に行きたいって」
赤阪「あんた、病み上がりやで…」
赤阪「2か月前に退院したばっかしやん~」
善野「もちろん、泳がへんよ。泳ぎたいけど…」
赤阪「外、暑いで~…」
善野「大丈夫やて」
善野「最近は遠出できるようになったもん」
赤阪「…」
善野「せっかくの夏やもん。海が見たい」
赤阪「せっかくの夏て~…何度目やねん」
善野「うちは久々の夏やもん」
善野「波打ち際歩いたり、波の音きいたりしたい」
赤阪「そんな、可憐な乙女みたいなこと言うて~」
善野「うち可憐な乙女やもん。郁乃も乙女やろ」
赤阪「誰が悪魔芸人やねん~」
善野「んなこと言うてへんで」ケラケラ
…
……
………
ガタンゴトン...ガタンゴトン...
善野「zzz...」
赤阪「zzz...」
次はー、○×駅ー、○×駅ー
赤阪「次やな」
善野「うん、起きる」
ガタンゴトン...ガタンゴトン...
善野「なあ、郁乃」
赤阪「ん~?」
善野「いま、楽しいわ」
赤阪「まだ序盤も序盤やで~」ケラケラ
善野「せやな」ケラケラ
善野「よいしょっと」
赤阪「忘れもんない?」
善野「うん」
赤阪「鈍行やと、地味に時間かかるな~…隣県やのに」
善野「でも無駄に速いよりええよ」
善野「景色見るんも楽しいし」
赤阪「まあ、右を向けば畑、左を向けば田んぼやったけどな~」
善野「それも楽しいよ、畑のかかし見たりとか」
善野「遠くの雲見たりとか」
赤阪「何でも楽しいんやな~」
善野「何でも楽しいよ、夏やもん」
赤阪「こっからローカル線に乗り換えて、終点まで行くと海…」
赤阪「て、あれ~?」
善野「どしたん?」
赤阪「乗り場がない」
善野「…ほんまや、乗り場がない。物理的に」
赤阪「盗まれたんか~」
善野「電車の乗り場盗むんか、新しいな」
赤阪「線路はあるな~」
善野「ある…けど」
善野「めっちゃさびとるで。草ぼうぼうやし」
赤阪「…」
赤阪「これはあかんやつやな~」
善野「いわゆる、」
善野「廃線てやつ?」
赤阪「それやな~」
赤阪「地図には載っとるけど…」
赤阪「この地図、そんな古ないのに~…なくなったの、最近やろか」
善野「そうかぁ…」
赤阪「しゃーないな~」
善野「ほな、廃線沿い、歩いて行こか」ワクワク
赤阪「いや、代替バスかなんかあるやろ…」
善野「廃線ピクニックやで!」
赤阪「いけるんかいな~…」
善野「線路の跡、たどって歩いたらええねんで」
善野「大丈夫やて、海までそんな遠ないやろ」
赤阪「まぁ、せやな~…1時間ぐらいやな」
善野「いけるいける」
赤阪「元気やな~…」
…
……
………
テクテク
テクテク
赤阪「ほんま、すっかり廃線なっとんな~」
テクテク
テクテク
善野「静かやな」
赤阪「うん」
赤阪「線路のうえ歩いてると、ちょっと悪いことしとる気分」
善野「せやな」クスクス
善野「ここに昔、電車が走っとったんやで」
善野「なんか、不思議な感じ」
赤阪「うん」
善野「たくさんの人、運んどったはずやのに」
善野「この線路なくなったら、みんな忘れてまうんやろか」
赤阪「忘れてまうかもな」
赤阪「うちらが、覚えててあげんとな~」
善野「うん」
…
……
………
テクテク
テクテク
赤阪「あれ、駅の跡か~」
善野「わあ、すごい…」
赤阪「駅のホーム、駅舎、看板、時刻表…そのまま残っとるけど」
善野「だいぶ傷んどるな…」
赤阪「人がいなくなると、ほんの数年で滅びるんやな~…」
善野「うん」
善野「この駅、どんな人が使ってたんやろか」
赤阪「学校の近くやしな~、通学の学生でにぎわっとったんちゃうか」
善野「そか…」
赤阪「今はもう大人んなって、仕事して、結婚しとるかもな~」
善野「このへん、毎日にぎわっとったんやな」
赤阪「昔はな~」
赤阪「何年か前に、急にだれもおらんようになった」
善野「寂しかったやろな」
善野「でも、この駅はずっとここにおったんやな」
赤阪「うん」
善野「これからもずっとおるんかな」
赤阪「どうやろなあ」
…
……
………
テクテク
テクテク
善野「海、着いたで!」
赤阪「お~、ようやくやな~」
ザザーン
ザザーン
善野「きゃー、まぶしいわ」
赤阪「真夏やのに、まったく人おらへんな~」
ザザーン
ザザーン
善野「青い空、白い雲」
善野「広い海と、さらさらの砂浜」
善野「…郁乃、うち泣いてええ?」
赤阪「あかんて、気まずくなるやろ~」ケラケラ
善野「せやな」ケラケラ
赤阪「風、気持ちええな~」
善野「うん」
赤阪「海なんて、何年も来てなかったけど」
赤阪「眺めるだけでも、ええもんやな~」
善野「せやろ、うちのおかげや」ケラケラ
赤阪「はいはい」ケラケラ
…
……
………
善野「うち、お昼ごはんのお弁当もってきたよ」
赤阪「おお~」
善野「いっしょに食べよ」
赤阪「あんたのお弁当もらうの、高校生以来やで。何年ぶりやろか~」
善野「あんま、数えたくないな…」
赤阪「せやな~…」
赤阪「もぐもぐ」
善野「もぐもぐ」
赤阪「たまご焼きの味、なつかしいわ~」
善野「味、覚えとんの?」
赤阪「覚えとるよ~。おいしいよ」
善野「ほんま? ありがとう」
赤阪「仕事のときは、お昼は別々やからな~、さびしいわ~」ケラケラ
善野「ほな、今度からお弁当つくってこよか?」
赤阪「ええって~、人の世話になるの苦手やし」
赤阪「なにより部員にぶっ頃される気がして怖いわ~」ケラケラ
末原「!?」
…
……
………
善野「地元の子どもが遊んどる」
赤阪「フリフリ」
子ども「フリフリ」
善野「かわええなあ」
善野「わたしたち、どういう2人に見えたかなあ」
赤阪「怖い上司と気弱な部下。間違いないやろ~」
善野「誰が怖い上司やねん」ケラケラ
善野「…うち、怖いかな?」
赤阪「なに言うてんの~」ケラケラ
…
……
………
善野「…」ボーッ
赤阪「…」ボーッ
善野「…」
赤阪「…」
善野「海の景色と波の音、気持ちいい…」
赤阪「気持ちええな~」
善野「このまま、溶けたいわ」
赤阪「せやな~」
ザザーン
ザザーン
善野「あんな、郁乃」
赤阪「ん~?」
善野「また報告してもええ?」
赤阪「うん」
善野「いま、めっちゃ楽しい」
赤阪「夏やからやろ~」ケラケラ
善野「当然や」ケラケラ
善野「足だけ、海はいってくる」
赤阪「待って、うちも~」
…
……
………
赤阪「あれが今日泊まる民宿やな~」
善野「おお、ええ感じやん」
赤阪「ごめんください~」
赤阪「あ~、ええお湯やった」
善野「ほんまやなあ」
赤阪「ほな、電気消すで~」
善野「うん」
赤阪「おやすみ」
善野「おやすみ」
赤阪「…」
善野「…」
赤阪「…」
善野「…」
赤阪「なあ、一美ちゃん」
善野「ん?」
赤阪「今なに考えてるか、当てたろか~」
善野「うん」
赤阪「仕事のことと、結婚のこと」
善野「げっ、すごい、ようわかるな」
赤阪「独身女が夜に考えることなんて、考えんでもわかるで」ケラケラ
善野「仕事のことはな」
善野「なんも心配してへんねん」
赤阪「強気やな~」
善野「うん」
善野「今年の大会は勝てるよ」
赤阪「せやな~」
赤阪「ほな、次は結婚の話しよか~」
善野「さて寝るわ、おやすみ」
赤阪「たぬき寝入りはあかんで~」
善野「もう寝た。ぐーぐー」
赤阪「くすぐって尋問やで~」
善野「あかんあかん、それはあかん」
赤阪「あはは~」ケラケラ
善野「…うち、結婚できるんかなあ」
赤阪「?」
善野「と思うことは、ようある」
赤阪「なんで~?」
善野「身体弱いし、男友達おらんしなあ」
赤阪「なに言うてんの~」
善野「しかしやな…」
赤阪「一美ちゃん、こんなに美人さんやのに~」
善野「ほんま? うれしいわ」
赤阪「それだけやないで~」
赤阪「お料理うまいし、クールやのにかわいいし、甘えんぼやし、麻雀強いし~」
善野「あ、あかん…」
善野「恥ずかしいから、もうやめといて…」
赤阪「嘘は言うてへん~」ケラケラ
善野「郁乃は、結婚せえへんの?」
赤阪「うちは悪魔芸人やで~」
善野「郁乃も、かわいいよ?」
赤阪「なに言うてるんでしょうか~、イヤミでしょうか」
善野「ちゃうよー」
赤阪「まあ、ひとことで言うと、」
赤阪「結婚とか、死ぬほどめんどくさいし、激しく興味ない」
善野「まあ…」
善野「そう言うかな、とは思っとった」
赤阪「うちはうちがいちばん好きやねん~」
善野「ほんまやろか」クスクス
赤阪「将来は、麻雀牌を通貨とする一大国家を築く予定やからな~」
赤阪「結婚とかしとるヒマないねん~」
善野「なんやそれ」クスクス
…
……
………
赤阪「そろそろ起きるか~」
善野「うん、おはよ」
赤阪「たくさん歩いて、よう眠れたわ~」
赤阪「一美ちゃんも、よう眠っとったで~」
善野「え! 見とったん!」
赤阪「かわいい寝顔で、気持ちよさそうやったで~」
善野「ちょ! やめとって! 忘れえな!」
赤阪「冗談やて~」ケラケラ
善野「海みて、温泉はいって、おいしいもん食べて」
善野「幸せや、バチ当たりそ…」
赤阪「きょう帰るの、惜しいな~」
善野「うん、また来よ」
赤阪「また来たいな~」
善野「次は、泳ぎたいな」
赤阪「身体ようなってからやで~」
善野「うん」
赤阪「ほな、行こか~」
善野「うん」
善野「あんな、」
赤阪「ん~?」
善野「…」
善野「郁乃、ありがと」
赤阪「なに言うてんねん、はずいわ~」ケラケラ
善野「う、うん」
赤阪「海も山も、」
赤阪「うちも、ずっとおるで」
善野「うん」
赤阪「これからは、い~っぱい楽しい思いしてええんやで」
赤阪「夏は、まだたっぷり余っとるしな」
善野「うん」
カン!
今回のお話は↓のつづき
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