爽「出会いは噂で」 (55)

怜の北海道旅行というか何というか……

・怜「……悩み相談のアルバイト?」の一部から設定を引き継ぎ
・地の文多様


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爽「はぁ……何やってんだろ」

 彼女の名前は園城寺怜。
 インターハイでチャンピオンと戦っていたのを見て初めて知った。

 倒れたのまで込みで。

 ブロックの違う彼女と知り合ったのは私が噂になっていた怒鳴る店員がいる店へと足を運んだのがきっかけだ。

 ベッドの脇においてあるスマホに目を移した。
 どうやら、着信があったらしく、取り付けられたライトが点滅している。

 後輩からだった。
 珍しく部活に来なかったからどうしたのか。そんな内容のメールだった。

 私、獅子原爽が部活をサボった理由。

 それは私の隣で寝ている彼女が理由だ。

 ……全裸で。

 彼女の髪を撫でる。絹糸のような滑らかな髪が私の指の間をすり抜けていく。

 怜は私の手を逃れるように寝返りをうった。

怜「……りゅう、か」

 寝言だろう。だが、私の時間は凍りつく。

 覚えのある名前?
 いや、さっきまで忘れていた名前だ。

 だが、これから一生忘れることはないだろう。

 行為に及んでいる最中、怜が一度だけ口走った。

 ごめんなぁ竜華。と。

 それからだ。私と怜の行為が激しくなったのは。

 いや、私が激しくした。そう表現する方が正しいのか。

 今、怜は誰を見てるのか?

 今、怜は誰に抱かれているのか?

 ーー私だろう?

 そう思い知らせるように私はがむしゃらに動いた。

 罪悪感が無いわけではない。寧ろ、罪悪感しかない。

 半ば寝取ってしまった様なものなのだから。

 頭を抱えて、私は声には出さず、懺悔した。

 清水谷竜華さん。ごめんなさい。彼女さん寝取らせていただきました。と。

ーーーー
ーーーーーー

「ーーーーお……ろや、爽!」

爽「うる、さい……何?」

怜「いや、私が起きてるのに隣で寝てるのが何か腹立ったから」

 いつの間に私は寝てしまったのだろう。
 壁に掛かった時計に目をやると、時間は午前8時前。

爽「……おはよう。昨夜はお楽しみでしたね」

 からかうように私は怜にそう言った。

 怜は私から目を背け、頬を赤らめる。

怜「アホ言わんといてや」

爽「いいだろ。事実なんだから」

怜「事実やから困んねん」

爽「そんなものかね。ま、いいや。シャワー浴びておいで。この部屋も怜も私もすっげー臭いするから」

 元々の私の部屋の匂いと汗、その他もろもろが混ざりあって何とも表現し難い匂いになっている。

 怜はそうするわと言って、部屋から出ていった。
 
爽「掃除かぁ」

 窓を開け放ち、ベッドのシーツを剥がし、消臭スプレーを振りかけてお仕舞い。

「何やこれぇぇぇ!?」

 風呂場から怜の声が聞こえた。
 ああ、やっと気がついたんだ。

 ドタドタと廊下を走る音が聞こえる。

 それは部屋の前で止まり、勢いよく扉が開け放たれた。

爽「裸……何? 朝から盛ってるの?」

怜「んなわけあるかぁ! 何やねんこれ!?」

爽「ああ、それね。やっと気付いたか」

 怜の身体中に付いた痣。
 その身体中、無数のキスマークは私が付けたものだ。

怜「どないして隠せばええねん!? 首から太股まで付いてるやん」

爽「隠さなくていい。見せつけてやれば?」

怜「は? ちょっと待てや」

爽「何?」

 どうやら本気で怒っているようだ。肩が震えている。

 先日聞けなかった怒鳴りが聞けるのかと期待していたが、溜め息一つしか出なかった。

怜「……いや、何でもない。シャワー浴びてくる」

爽「……変なの」

 一体いきなり怒ったと思えば勝手に納得して何をしに来たんだ?
 反省をしろと言うのなら断る。絶対にしない。

 これから、どうするか。
 私の家でゆっくりしているのも悪くないんだけど、せっかく北海道まで来てくれたんだ。どこか連れていってあげたい。

 案外、誰にでも当てはまる事だと思うが、その土地に住んでいる人間はその土地の観光名所や特産品を行ったり買ったりはしない。

 少なくとも私はそうで、これからどこに行こうか頭を働かせる。

 有珠山高校?
 いやいや、部活に出たら私が帰れなくなる。

 そもそも、北海道なんて自然しかないんだ。

 ……函館でも行くか。

 部屋を出て、風呂場へと向かう。
 扉を開き、風呂場を覗きのんだ。

爽「おーい怜、今日は函館行くか」

怜「な、に見とるんやぁぁぁ!」

 古風にも桶を投げられた。

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ーーーーーー

爽「悪かったって。な?」

怜「ええよ。別に危害加えようってわけやなかったんやろ?」

 朝食は簡単に済ませた。
 ほんの少しお腹を膨らますだけの朝食だったが、それでいい。

爽「それじゃあ行こうか」

怜「ん」

 私が立ち上がった時、違和感に気づいた。

爽「怜、少し顔色悪くないか?」

怜「……昨日、爽が激しくするから疲れただけや」

爽「そっか」

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ーーーーーー

 天気予報では雨だとされていたが、運が良く、曇っているだけだった。

 函館の市場はまだ夏だが賑わっている。おそらく、大半の人間は内地の人だろう。

爽「はぐれたらダメだから手でも繋ぐ?」

怜「何言ってんねん」

 そう言って前を歩く怜に追い付き、手を握った。

怜「なっ……」

爽「私がやりたいからやってるだけ」

怜「……勝手にせえや」

 また、顔が赤くなった。
 それにしても柔らかく、温かい。まぁ、それは昨夜から知っていたことだが。

ともあれ、こうして市場を歩くのは久しぶりだ。不思議とテンションも上がってくる。

 露店で簡単に食べれる物を買って近くのベンチに腰を預ける。

怜「なぁ」

爽「ん?」

 怜から私に向かっての発言は基本的に暴言しかない。どれをとっても私が悪いのだから仕方がないが。

だからこのように普通に話しかけられると少し、ほんの少しだけ戸惑ってしまうし、ときめいてしまう。

怜「私らの関係って何なんやろな」

 改めて考える。
 店員と客の関係から始まった奇妙な縁について。

爽「……セフレ?」

怜「アホ言うなや」

 間違ってはいない。私と怜の関係を表現するならばこれ以上的を得たものはない。

 それに、体の相性も最高によかった。

 けど、怜が言っていることはそうではない。
 何を白昼堂々とそんなことを言っているんだ。そう言いたいのだろう。

爽「いや、だって考えてみ? 確かに誘ったのは私だけど、了承したのは怜やで?」

怜「……変なところで止めるからや。ええ。私らの関係もこのまま続く。これでこの話は終わりや」

爽「はいはい。次は何食べたい? 奢るよ」

怜「食べるのはいいわ。それより、お土産やな」

爽「了解」

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ーーーーーー

 函館から有珠山へと戻った私達は郵便局に寄り、怜の荷物を全て大阪に送った。

 今、怜の手持ちにあるのは財布とお土産だけだ。

爽「明日、帰るのか」

怜「せやな。あんまり長居も出来へんし」

爽「いっそのこと北海道に引っ越してきたらいいのに」

怜「んー……考えとくわ」

 家に戻った私達は晩ご飯の準備をしながらどこにでも転がっている会話を繰り広げていた。

 だが、面白いもので方言が違う相手と話していたら物凄く違和感がある。

怜「あー、せやせや」

爽「ん?」

怜「しょうもないことやねんけどな、悩み聞いたろかなって」

 思い出す。
 私が怜に言ったことだ。友達になれたら悩みを打ち明けると。

爽「あー考えてなかったわ」

怜「クスッ……何やそれ」

爽「……」

 初めて私は怜にーーいや、初めて同性に見惚れてしまった。

 儚くあどけない笑顔を見て、私は腹の底に黒いものが沸き上がってくる。

 性欲? 違う。確かに怜は抱きたいけどそんな簡単なものじゃない。

 ……分からない。

 今考えても答えは見つからないと結論付け、頭の片隅に追いやる。

爽「さて、晩ご飯食べようか。海鮮尽くしだけど、怜は大丈夫?」

怜「これだけ豪勢やったら無理言われても食べるわ」

ーーーー
ーーーーーー

 明晰夢。そう呼ばれるものがある。
 仕組みとかやり方とかは全く知らないが、夢を夢何だと理解できるのがそれらしい。

 これは夢なのではないのか。
 確かに私はそう感じた。ああ、明晰夢か、と。

 けど、現実。

 夢ならばどれだけ嬉しかったか。役満に振り込んだ時以上にそう思った。

 次の日、怜が倒れた。

 病院へ連れ込むと、ここの施設では対応できないと。掛かり付けの医者に診てもらえと言われた。

 不幸中の幸いか空港に着いた時間と次に飛行機が飛び立つ時間がほんの少しずれているお陰で、何とか怜を飛行機に乗せることが出来た。

 一人で有珠山まで戻ってきた私は公園のベンチに座り込んでいた。

 私の頬を伝うのは降り始めてきた雨なのか、涙なのか。私には分からない。

 友達も後輩も、私との繋がりのある人物は私なりに大切にしてきた。それはセフレでも同じだ。

 ああ、雨が本降りになってきた。帰らないと……。

 体が動かない。
 罪悪感といった足枷が私を縛っているのだろうか。

 自分にこれだけ腹が立ったのはいつ以来だろうか。
 怜は明らか無理をしていた。そもそも、顔色が優れないことに気付いたときに止めておけばよかった。

 勝手に舞い上がって、勝手に落ち込んでーーなんて自分勝手で情けないんだ。

爽「…………」

 思い出す。怜を抱いた日の夜を。

 別に初めは手を出す気などなかった。
 ただ、知り合って遊べる仲になればと思っていた。

 私の振った話題には面白おかしく返してくれる彼女に私はほんの少し好奇心を抱いてしまった。

 それが間違いだった。
 最初は悪戯のつもりだった。
 怜もそれは分かってくれていたのだろう。拒みはしなかった。

 次第にエスカレートしていった悪戯に拒んだ怜に対して私はギリギリのラインを見極めて寸止めした。

 後はなし崩し的にだ。

 昨日のことだが、どこか昔に感じる。それだけ濃密な時間だったんだ。

 全て諦めて帰ろう。
 もう、誰にも手は出さない。

 そう思い、立ち上がろうと前を向いたとき、傘を差し出された。

由暉子「何やってるんですか?」

爽「ユキか……私にだって黄昏たい日もあるんだよ」

由暉子「冗談言わないで下さい。友達から連絡がありましたよ。先輩に似た人を公園で見かけたけど部活来なかったのかって」

爽「悪い。明日は行く」

 ユキから傘を受け取って立ち上がろうとしたが、押されてベンチに逆戻りし た。

由暉子「来なくていいです。そんな顔して来られても迷惑なんで」

爽「言うね。そんな生意気に育てた覚えはないんだけど」

由暉子「先輩に育てていただいた覚えもないです。早く、終わらせて部活に来てください」

 クスリと笑い、立ち上がる。
 後輩に心配かけるなんて先輩失格だな私。

爽「ありがとうユキ。それと私の悩み聞かないんだ」

由暉子「聞いたところで話しますか? 弱味を見せたがらない先輩が」

爽「……そうだったな。それじゃあ行ってくるよ」

 ありがとうユキ。少しだけど楽になったし、私の進むべき道も見えたよ。

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ーーーーーー

 飛行機乗って大阪まで行った私だが、暑さにやられていた。
 夜でも蒸し暑いし人混みは多いし一体怜の病室に辿り着くまでにいくつ試練があったのか。

 受付を済ました私は怜の病室へ直行した。

 病院服を着て、静かに寝息をたてている怜を見てやっと力が抜けた。

爽「よかった……本当によかった」

 椅子を引っ張り出してベッドの脇に陣取る。
 怜の手を握りながら私は眠りに落ちていった。

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ーーーーーー

「さ……爽ーー起きろや」

爽「……おはよう。それとデジャブなんだけど……」

 何とも困った表情で私を見ている怜を見て私の頭は覚醒する。

爽「と、き……よかった……」

怜「えらい心配かけたみたいやな。何しに来たん?」

爽「お土産、忘れてたから」

 心配だから。なぜか恥ずかしくて嘘を吐いてしまった。

 喉の奥から熱いものが込み上げてくるし、目頭も熱い。

 視界が歪み、とうとう決壊してしまった。

 病室で怜を抱き締めながら大声をあげて泣く私を怜は優しく撫でてくれた。

怜「ごめんなぁ爽。心配かけて」

 怜の胸の中で首を振る。
 怜は悪くない。悪いのは全部私だ。

 だから、優しくしないで。

 怒ってよ。怒鳴ってよ。

 お願いだからーー

 私を突き放して。

 私の嗚咽だけが響いていた病室に一つ他の音が聞こえた。

怜「りゅう、か」

 怜の台詞に心臓が跳ねた。

 清水谷竜華。私が会いたくない人物ワーストワンだ。

 怜を抱き締めながら振り返る。

竜華「怜、その女だれや?」

怜「友達や。北海道出身の」

爽「どうも。獅子原爽です」

 清水谷は刺すような視線を私に投げかけている。
 当然だろう。私がこのような事態を招いたのだから。話を全く聞いていなくても見知らぬ人間が病室にいればそれくらいは察しがつくだろう。

竜華「……何やってんねん?」

爽「へ?」

竜華「怜に何やったって訊いてるんや!」

 素直な感想は怖い。
 ほんの少しその裏を見てみれば怜のことを大切にしているのだろう。

 ただ、私はその鬼か龍のような雰囲気に飲まれていることだけは確かだ。

爽「えっと怜と……セック「何もやってへんわ!」

 怜に遮られた。

怜「……何もやってへん。ただ、遊びに行ってただけや」

竜華「ふうん。ま、ええわ。大丈夫なん?」

怜「まぁ。いつも通りや。竜華も爽も急いできたんやろ? ジュースでも買って来るわ」

 そう言って怜がベッドから出た時に私は絶望した。

 私で隠れていたが半袖の病院服から見えていた。

 私が残したキスマークが。

竜華「……ちょっと二人で話しよか、獅子原爽」

爽「それは勘弁してほしいんですが……」

 本気で勘弁してほしい。まだ生きていたいし、生き残れる保証もない。

竜華「は? アンタに拒否権はないねん」

怜「竜華、止めて」

竜華「怜は黙っといて」

 静かに、けど有り余るほどの迫力を乗せた清水谷の一声で怜は止まった。

 ゆらりと怜から私に視線が移る。

 全身の毛が粟立ち、本能が逃げろと伝えている。

 けれど、私だって逃げるだけじゃない。

爽「いいから、行こうか」

竜華「ええ度胸や」

 椅子から立ち上がったとき、再び扉が開いた。

セーラ「竜華、少し落ち着けや。で、獅子原、ちょっと来い。俺とサシで話しようや」

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ーーーーーー

セーラ「ミルクティーでよかったか?」

爽「どうも」

 江口セーラ。第一印象としては清水谷よりも遥かに理性的。
 そんな印象だが、油断をしてはならない。

セーラ「怜を抱いたんか」

爽「まぁ、ほどほどには」

セーラ「何やねんそれ。それはええわ。俺は獅子原がそない悪い人間には見えん」

 江口からもらったミルクティーを一口飲んだ。
 北海道から飲まず食わずだったせいか、その甘さはホッとする。

セーラ「で、どうなん?」

爽「何が?」

セーラ「そこに愛はあったのかって訊いてんねん」

爽「……ほどほどには」

 何て便利な言葉なのだろう。全てを曖昧にできる。
 実際愛があったのかなんて訊かれても素直にあります。なんて答えられるはずがない。

 恥ずかしい。

セーラ「さよか。まぁ、ええ」

爽「それで、何が言いたい?」

セーラ「……怜を任せられるか?」

爽「は?」

 何か色々と誤解されている気がする。
 私と怜は付き合っているわけではない。ただのセフレだ。

 このことを打ち明けるのは得策じゃないんだけど、誤解は解かないと……どうすればいい?

セーラ「だから、怜を支えてやれるのか訊いてんねん」

爽「いや、その……」

セーラ「素直になれや。そのまんまの気持ちを教えてくれ」

 ……素直。

 ああ、そっか。

 私が怜に対して涙を流したのも、傷付けると分かってしまい、本気で拒絶してほしかったのも、怜が好きだからか。

 容赦のないツッコミも、その雰囲気も、不器用な優しさも全てに私は惚れていたんだ。

 幾重にも張られたバリケードは私自身も騙してたんだ。

 ーー何だか軽くなったなぁ。

セーラ「怜を支える自信があるんか?」

 しっかりと江口の目を見据えてーー

爽「さぁ、どうだろう」

セーラ「なら安心や」

爽「何で? 自信満々に大丈夫って言ってないけど」

セーラ「だからや。こんな状況で大丈夫なんてやっすいこと言うやつを俺は信用できへんわ」

爽「そっか。なら、遠慮なく怜はいただいていくよ」

セーラ「竜華は任せろ」

 嘘を吐いた。怜を支える自信はある。
 何でかは分からないが、確信している。

 なぜ、正直に言わなかったのか。
 理由は単純に気恥ずかしいからだ。

 けれど、落とし前は自分でつけるよ。

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ーーーーーー

 江口が清水谷を連れ出して病室には私と怜だけになった。

爽「……あのさ」

怜「どないしたん?」

 どうしてだろうか。いつも通り言えばいいのに、言葉が出てこない。

爽「いや、やっぱいいわ」

怜「何やそれ。そうや、私からも一つええ?」

爽「どうぞ」

怜「これからも友達でおってくれるか?」

爽「…………あ、ああ。勿論」

 ああ、振られたんだ。
 情けないなぁ。さっき江口と話してきたばっかなのに。

 駄目だ。まだ、私の気持ちは伝えていないんだ。涙なんて流してはいけない。

 それなら、せめて友達らしく笑ってあげよう。

怜「よかったわ。爽やったら嫌とか言いそうやし」

爽「嫌なわけないだろ……ごめん、少し外すわ」

 無理矢理笑ったけど、本当に笑えていただろうか。いまひとつ自信がない。

 病室を後にし、待合室に戻る。

 険しい表情をした江口と今すぐにでも私に襲ってきそうな清水谷が待っていた。

セーラ「その顔は……」

爽「振らてはない。ただ、言えなかった……ごめん」

セーラ「怜のことやから、先回りしたな」

竜華「ウチは認めてないで」

爽「だから、認めるも何も、さ?」

 清水谷がどうしてここまで私に対して敵意を剥き出しなのか、今になって分かった。

 怜のことが好きなのだ。likeでもloveでも。

 なんだ、簡単なことだ。

 恋は盲目とはよくいったものだ。こんな簡単なことにも気がつかないなんて。

爽「けどねーー」

 一呼吸置く。このまま話してしまえば取り返しのつかないことを言ってしまいそうだったから。

爽「アンタがどれだけ怜のことを思っていても、負ける気はしないな」

セーラ「おい! 獅子原!」

 私と清水谷の間に割って入った江口だか、清水谷は構わず私の方へと歩いてくる。

 息のかかる距離まで近付いてきた清水谷の瞳を見据える。

竜華「上等や……そう言われたら引き返せへんわ」

爽「怖い怖い。悪いけど、怜は私が貰っていくね」

 ドラマとかなら私が負け犬なんだろうな。
 けれど、そんな台詞を吐いて初めて分かった。

 主人公もこんな台詞を言う人も本当にヒロインが大好きなんだ。

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ーーーーーー

 それからというものの、怜は退院し、元気に学校に通っているらしい。

 私との関係は冬になった今でも続いている。

 たまに学校をサボってお互い体を合わせるだけの関係。

 一度、何故止めないのかと訊いたことがある。

 別に止めんでもええやろ。これも一つの友達との関係や。と、言われた。

 私が怜に、怜の温かさに依存しているように怜も依存している。それはない。
 ただ、私に気を使っているだけだろう。

 それに甘えてしまう私が本当に嫌だ。

 どうやら恋愛には不器用な私は他に繋がりを作る方法を知らないらしい。

 だから、甘える。
 この繋がりを。いつ、切れるのか分からない細い糸を手放さない。

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ーーーーーー

怜「何か悩んでんの?」

爽「え?」

 事後、押さえたホテルの個室で怜は私にそう言った。

怜「顔がな、辛そうやで」

爽「そうかな? 疲れたんだって」

 訝しげに怜はふうん。と言って、シャワーを浴びに行った。

爽「……はぁ。何やってんだろ」

 体を重ねるだけの関係がこれだけ辛いなんて知らなかった。
 江口ともかく清水谷は良くは思っていないだろう。

 正直なところ江口の方が怖い。
 清水谷の様に感情をぶつけられるより、冷静に状況を見極める人間の方がやっかいだ。

 戦うつもりもないんだけど。

 閑話休題。

 私がどうしたいのか、今、少し考えよう。

 最終目標は決まっている。
 怜を私に惚れさせて恋人にすることだ。

 その為にどうするのか。
 この柵を取っ払わないとならない。

 この爛れた関係に終止符を打たなければならない。

爽「…………」

 風呂場に直行し、怜の腕を掴む。
 濡れて肌に張り付く髪も、驚き見開かれた瞳も、華奢な体も綺麗だなぁ……。

怜「さわ、や?」

爽「来て」

 濡れたままの怜をベッドまで連れていき、押し倒す。
 怜の上に馬乗りになる。

爽「これで最後だから……許して」

 怜の唇に私の唇を重ねた。

爽「怜ーー」

 大好きだ。

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ーーーーーー

 再び事後。
 時間は午前5時。

怜「何のつもりや?」

爽「……終わりにしよう。な?」

 動揺しているのはどうやら私だけじゃないらしい。
 怜の視線は絶えず動いている。

爽「これで、終わり。これからは「嫌や」

怜「嫌や。そんなん認めんで」

 首を振って私の肩を掴む怜に私は驚いた。
 まさか、ここまで取り乱すなんて思っていなかった。

爽「怜、落ち着け。何ももう会わないって言ってるわけじゃないから」

怜「ならーー」

爽「いい。話さなくて」

 我ながら何て妥協だ。
 でも、それでいい。十を手にいれるのならまずは一からだ。

 これでいいんだ。

 私は間違った選択はしていない。

怜「会ってくれるん?」

爽「ああ。これからもよろしく」

 そう言い残して私は部屋を出ていった。

 部屋から出る刹那、意気地無しと聞こえたのは、聞かなかったことにするよ。

ーーーー
ーーーーーー

 このまま、自然消滅だけは避けたい。
 不透明な未来に期待するほど私は馬鹿ではない。故に勝負をかけるなら今日しかない。

 ホテルのロビーで清算をしながら私は算段を立てていた。

 どのタイミングで話を切り出すのか。

爽「あーあ。憂鬱だなぁ」

 呟きを落としながら、自販機でジュースを買って部屋へと戻っていく。

 部屋に戻ると静かに寝息を立てている怜。

 支払いは済ませたがまだホテルから出るのには時間がある。
 昨夜からぶっ通しだったんだ。少し、寝かしてあげよう。

 ベッドの脇に座り怜の頭を撫でた。

ーーーー
ーーーーーー

爽「怜、眠たくない?」

怜「少し」

爽「どうする? 帰る?」

怜「いや、いいわ。今日帰るんやろ?」

爽「まぁ、ね」

 無理をしなくてもいいのに。そんな言葉を飲み込んだ。
 一秒でも長く怜と同じ時間を共有していたい。

 私のエゴに怜を付き合わせる罪悪感は確かにある。
 だが、それよりも嬉しかった。

 ホテルから出た私達は大阪の街をぶらつく。
 私と怜が会ったらいつもそうだ。体を重ねて、残った時間を散歩にあてる。

 だが、今日はそんなことはやっていられない。

爽「ちょっと、付き合ってくれない?」

 タイムリミットは私が飛行機に乗る時間まで。
 二時間と少ししかない。

怜「ええけど、どないしたん?」

爽「……少しね」

ーーーー
ーーーーーー

 大阪のことなど私は知らない。
 いつも怜に連れていってもらっていた。

 私が怜を連れ回すなど北海道でなければできないが、それでも怜は黙って着いてきてくれた。

 川が眼前に広る河原に腰を下ろす。

 真冬に川。雰囲気も何もない。イベントもない。

 私はそれでいい。それが、お似合いだ。

爽「……なぁ、気付いてんだろ?」

 言ってしまった。
 これで後戻りは出来ない。元よりそんな選択肢は持ち合わせていなけど。

 怜は川を眺めながら静かに言葉を落とす。

怜「……当たり前やろ」

爽「ーー私には」

 こう語り出してから少し間を空けた。
 何を話そうかとか、どうしようとか、そんな下らないことの為ではない。

 これから物語は終局に入る。

 どんな結末を迎えても受け止める決意のためだ。

爽「私には何もない。地位も名誉も財力もそれこそ、怜を引っ張っていけるだけのものは何一つない」

爽「けれど……それでもこれから、ずっと、怜と同じ時間を生きていたい」

 あれ? 告白は告白でもプロポーズじゃないか?

 ミスに気付いた私は顔が火照ってくるのを感じる。
 一世一代の大勝負でミスを犯すなんて……。

怜「何やそれ。私と結婚するつもりかい」

爽「それも悪くないな」

 怜が何か思案するような表情で黙りこむ。

 冬の風がすり抜けていく。

怜「引っ張らんでもええ。支えてくれや」

 そう言って怜は笑った。

 やっぱり怜は笑顔が一番綺麗だ。

ーーーー
ーーーーーー

 見事に告白に成功した私は怜を家に返し、千里山へと向かった。

爽「ちわーっす。江口いる?」

セーラ「久しぶりやな。どないしたん?」

爽「やっと全部終わったから報告に」

セーラ「ああ、そっか。竜華には俺から言っておくわ」

爽「ありがとう」

セーラ「そうそう、怜のやつな、竜華に迫られた時にキッパリ断ってたで。竜華は私を満足させられんって」

爽「満更でもないね」

 江口は頑張れよと、一言だけ残して部室へと戻っていった。

ーーーー
ーーーーーー

 エピローグというか、プロローグというか……。

 新春。まだ北海道は寒い。
 大学へと進まず、実業団へと入団した私は一人暮らしを始めた。

 約1ヶ月の一人暮らしだが、それも終わりだ。

怜「久しぶりやな」

爽「うん。久しぶり。入ってよ」

 親に土下座までしたかいがあった。
 こうして、怜を迎え入れることが出来たのだから。

カン

あー終わった。爽さんの口調わかんねー

拝読ありがとうございました。おやすみなさい。

次は家出少女を匿う針生アナ

ただ、家出少女を誰にするか決まらないから

>>52お願いします

乙です 本内成香で…

成香ちゃん把握

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