モバP「防犯ブザー?」 (86)
ちひろ「ええ。最近、物騒ですからね」
ちひろ「小学生のアイドルには、プライベートでも防犯ブザーを持たせるようにしました」
モバP「へー、そうだったんですか」
モバP「まあ、いいことだと思いますよ」
モバP「防犯ブザーの効果は折り紙つきですからね」
モバP「見やすい位置に提げておけば、よからぬ輩も近づきませんよ」
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早苗「へー、詳しいね、君」
モバP「早苗さん!」
早苗「もしかして、防犯ブザーを鳴らされた経験があるとか?」
モバP「うっ……実はスカウトの際、何度か」
モバP「警察ってすごいですね。どこでもすぐに飛んできますから」
早苗「あっはっはっ! 日本の警察は優秀だからね!」
ちひろ「気をつけてくださいよ、プロデューサーさん」
ちひろ「留置場に迎えに行くのは、もうごめんですからね」
モバP「は、はい。すみません」
<アハハハハハ……
千枝「……」
モバP「さーて、今日も仕事だ、仕事」
モバP「小道具を探してこいって話だったけど……」
モバP「この倉庫、いい加減に整理しないといけないな」ゴソゴソ
ギギー、バタン
モバP「ん? 扉が勝手に……って、千枝じゃないか」
モバP「どうしたんだ、こんなところで」
千枝「……」
千枝「……」スッ
モバP「っ!?」
モバP「そ、それは防犯ブザー……!」
モバP「いったい、何を……!?」
千枝「プロデューサー……」
千枝「これ、鳴らしたらどうなりますか?」
モバP「け、警備の人が来る」
モバP「俺は捕まって、警察に引き渡されてしまう!」
千枝「ですね」
千枝「だから、下手な動きはしないでくださいね」
千枝「プロデューサーはじっとしててください」
千枝「抵抗、しちゃダメですよ?」
モバP「な、何を……!?」
千枝「……」カチャカチャ
モバP「や、止めっ!?」
千枝「……」ブザー
モバP「っ!?」ビクッ
千枝「……」
千枝「……」カチャカチャ
モバP「うう……」
ギシギシギシ!
パンパンパン!
ギシギシ……
ギシギシギシギシ!
アアーッ!
……
千枝「ふうっ」ツヤツヤ
モバP「ううっ、ううう……」ゲッソリ
モバP「……間違っている」
モバP「千枝、どうしてこんなことを……」
千枝「……」ブザー
モバP「っ!?」ビクッ
千枝「……」ニッコリ
モバP「……」ガタガタ
千枝「大丈夫ですよ」
千枝「プロデューサーが変なことをしなければ」
千枝「防犯ブザーなんて押しませんから」
千枝「安心してください」
モバP「し、しかし!」
千枝「それでは、また」
モバP「……くぅっ!」
モバP(その日から俺は、千枝のいい玩具にされてしまった)
千枝「プロデューサー、んっ、早くしないと人が来ますよ」
モバP「く、くそっ!」
モバP(防犯ブザーの甲高い音を恐れ、千枝の言いなりになる日が続く)
千枝「上手ですよ、プロデューサー……」
モバP「う、ううう……!」
モバP(防犯ブザーにかけられた指を恐れ、俺は坂道を転がり落ちていく)
モバP(俺はいったい、どこまで堕ちていくのか)
モバP(底の底をはいずり回っているような感覚)
モバP(だが、それは地獄の釜の縁に過ぎなかったのだ)
ありす「プロデューサー」
モバP「おう、ありすか。どうしたんだ?」
ありす「……橘と呼んでくださいって、私、言いましたよね?」
モバP「そうは言っても、名字って何だか余所余所しいしなあ……」
ありす「そうですか。では」スッ
モバP「っ!? そ、それは……!?」
ありす「そうです、防犯ブザーです」ブザー
モバP「ううく……!」
ありす「ほら、橘って呼んでください」
モバP「や、止めるんだ、ありす」
ありす「橘って呼んでください!」ブザー
ア、アリス! ヤメルンダコンナコトハ……
タチバナ!
ア、アリスゥー!
タチバナァー!
ブザー……
ありす「ふう」ツヤツヤ
モバP「う、うう」ゲッソリ
モバP「橘……こんなこと、よくない」
モバP「いけないことだよ、橘」
ありす「そうですか」
ありす「では、また明日。同じ時間に、ここで待っていますからね」
ありす「必ず来てくださいね」
モバP「ダ、ダメだ!」
モバP「俺は行かない! 俺は、俺は……!」
ありす「……」ブザー
モバP「っ!?」ビクッ
ありす「逃げたら押しますからね」
ありす「公衆の面前で、これを」
モバP「そ、そんなことをしたらっ!」
ありす「そうです、プロデューサーは困ってしまいます」
ありす「そうなりたくなければ……分かりますね?」
モバP「……は、はい」
ありす「よろしい」
ありす「それでは、プロデューサー」
ありす「また、明日」
ガチャ、バタン
コッコッコッコッ……
モバP「……」
モバP「……くそおおおおおお!!」ダンッ
モバP(逆らえない)
モバP(逆らえない)
モバP(大人は防犯ブザーに逆らえない)
モバP(どこかポップなあのシルエットに……)
モバP(身も心も、凍りつく)
モバP(子どもを無敵の『被害者』に変える武器)
モバP(大人をか弱い『加害者』に変える兵器)
モバP(防犯ブザー)
モバP(あれは確かに、子どもを守るものだ)
モバP(他の何を犠牲にしようとも)
モバP(子ども『だけ』は、守られるだろう……)
~数か月後~
雪美「P……いっしょにお昼寝する……」ブザー
モバP「はい……」
莉嘉「Pくん、Pくん! 明日、デートに連れてって!」ブザー
モバP「はい……」
桃華「Pちゃま。ここに判子を押してくださいませ」ブザー
モバP「はい……」
こずえ「おふく……きせて……」ブザー
モバP「よろこんでー……」
モバP(今の俺は、プロデューサーじゃない)
モバP(小学生アイドルの奴隷だ)
モバP(防犯ブザー一つに怯え、子どもに服従する召使いだ)
モバP(拒否は許されない。辛く苦しい日々が続く)
千枝「ゴムなんて外しましょうね?」クスクス
モバP「だ、ダメだ。それだけは、それだけは」
舞「あれー? もう一枚、何か被ってますよー???」
モバ「止めるんだ……止めろ、止めてくれ……」
ありす「ほら、もっと橘って呼んでください!」ハァハァ
モバP「た、橘ァーッ!」
………………
…………
……
ザアアアアアア……
モバP「……」
モバP「……」
モバP「……何の用だ、晶葉」
晶葉「……」
モバP「……」
晶葉「助手、これを使え」スッ
モバP「これは……?」
晶葉「小型EMP装置。強力な電磁パルスで、機械を狂わせることができる」
晶葉「これを使えば、防犯ブザーも無力化できるはずだ」
モバP「お、おおお……!?」
晶葉「遅くなってすまなかった」
晶葉「だが、小学生たちに悟られるわけにはいかなかったのだ」
晶葉「他の研究を行うふりをして……この数ヶ月、必死に小型化に取り組んだ」
モバP「うん……うん……!」
晶葉「よくここまで耐えてくれた」
晶葉「これからは、もう大丈夫だ」
晶葉「これさえあれば、防犯ブザーなど恐るるに足りない」
モバP「うん……!」
晶葉「さあ、行け! 助手よ!」
晶葉「あんなちゃちな『おもちゃ』など、全て粉砕してしまえ!」
晶葉「そして、中学生以上のアイドルとの時間を取り戻すのだ!」
モバP「ああ!」
モバP「俺は、もう、迷わない」
モバP「歪んでしまった小学生たちは――」
モバP「この俺が正す!!!!」
~事務所・ちびっこルーム~
ありす「おやおや、プロデューサー。どうしました?」
千枝「約束の時間はまだですよ?」
桃華「それとも、もう我慢できなくなりまして?」
雪美「P……節操なし……」
モバP「……」
舞「どうしたんですか、プロデューサー。黙ってばかりじゃ」
モバP「――お前たち」
アイドルたち「!?」
モバP「俺はお前たちを愛している」
モバP「憎んじゃいない。恨んじゃいないんだ」
モバP「いけないのは、防犯ブザー」
モバP「お前たちに与えられた、過剰なまでの力だったんだ」
ありす「……それで? プロデューサーは私たちをどうしたいのですか?」
モバP「言っただろう?」
モバP「俺は、お前らをどうこうするつもりはない」
モバP「防犯ブザーだ」
モバP「俺は防犯ブザーを壊しに来たんだ」
千枝「――ふふっ」
千枝「プロデューサー」
千枝「それ、どうやるのですか?」
千枝「防犯ブザーはここにいるみんなが持っています」
千枝「それを一つ一つ? 不可能ですよ」
モバP「いや、不可能じゃない」
千枝「……?」
モバP「この――小型EMP装置があれば」
アイドルたち「っ!!!!」
千枝「だ、誰か! プロデューサーを止めて!」
ありす「は、はい!」
モバP「――遅い」
モバP(これで、全てが終わる)
モバP(防犯ブザーが招いた過ちを止める)
モバP(俺たちはみんな、昔みたいな関係に戻る)
モバP(これはそのための――)
モバP(幕引きだ)
――カチッ――
………………
…………
……
ビーッ! ビーッ!! ビーッ!!! ビーッ!!!!
モバP「!?!?!?」
モバP「そ、んな……!?」
モバP「この装置から、お、音が……!」
モバP「EMP……こ、これはブザーを止めるための装置で……!?」
早苗「ブザー音はここね!」バァン!
モバP「っ!?」
早苗「P君……君、ついにやっちゃったのね」
早苗「神妙にお縄につきなさい」ガシッ
モバP「そ、そんな! 違う!?」
千枝「いやあ! プロデューサー! プロデューサー!」
早苗「来なさいっ!」グルグル
モバP「むぐうっ!?」
ありす「プロデューサー!? プロデューサーにひどいことしないでください!」
瑞樹「もういいのよ。もう大丈夫だからね」
茄子「あの人はちゃんと遠いところへ連れていきますから」
桃華「そんな!?」
ワーワーワーワー
ワーワー……
晶葉「ふふふ、しょせんは小学生だな」
晶葉「餌を与えればすぐに飛びついて……」
晶葉「後先考えずに、欲望のままに使用してしまう」
晶葉「『本当に使えば、プロデューサーと永遠に離れ離れになる』」
晶葉「そのようなもの、猿でも使わないぞ」フフフ
早苗「戻ったよー」
晶葉「首尾はどうだ?」
早苗「ばっちし。これで、P君は法的に小学生に近づけなくなったよ」
早苗「これからは、中学生以上のプロデュースしかできないってさ」
晶葉「ふふふ、そうかそうか」
茄子「うまくいきましたね」
瑞樹「そうね。あの子たちには悪いけど……」
早苗「色恋沙汰は、小学生にはまだ早いって」カラカラ
晶葉(露骨に助手に接近する小学生たち)
晶葉(それをパージして、ライバルを減らす)
晶葉(分かりやすい策だけに、みながこぞって協力してくれた)
晶葉(くくく……次にパージされるのは、自分たちだとも知らずにな)
晶葉(助手との時間は、私だけのものだ)
晶葉(誰にも渡さんぞ。たとえ、どんな手段を使おうともな)
早苗(――なんて、考えているんだろうな)
茄子(ふふふ、でも、甘いです)
瑞樹(誰が脱落するかは――)
アイドルたち(まだ、誰にも分からない)
おしまい
手ごわそうという意味では、やはり茄子さん一強か
まゆが反則技を使うか、はたまた小学生組が復活するか
モバPの明日はどっちだ
このSSまとめへのコメント
モバP救われてないやん・・