伊織「小川町で食べたつけ麺980円」 (28)

特に山も落ちもありません。
孤独のグルメを意識していることは言うまでもないが、響のグルメの人とは別人です。
女の子が一番可愛いのは食事中だと思うの。
とりあえず超短編なのでご容赦を。

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私は密かにラーメンにハマっている。事務所の誰にも言っていない、秘密の楽しみだ。
仕事帰りに一杯引っ掛ける、などというとオヤジ臭いことこの上ないが、疲れた体にカロリーと塩分が染みわたるのだ。
もちろん私は貴音のような人外の体の作りをしていないから、ラーメンを食べるための我慢をして臨んでいる。

「生憎の天気だけど、ある意味でラーメン日和なのよね♪」

古本屋街を紹介するロケの帰り、有名なつけ麺屋があると聞いたので少し足を伸ばしてみた。

30分ほど並ぶことは覚悟していたが、小雨のせいか客足は鈍くすんなりと中に通される。
店内は正方形状でカウンターがグルっと配置されている。
麺を茹でる熱気と小麦の香り、芳醇なスープの匂いに食べる前から腹の虫が騒ぎ出す。

「二代目つけ麺、おまたせしました!」

出てきたのは丼が2つ、片方にはタレ、もう片方には麺が入っている。

「半分ほど食べましたら、麺の方にすだちを絞ってお召し上がりください。あと、お好みでこちらの黒七味をどうぞ!」

ごゆっくりどうぞ。と店員が下がっていく。

麺に添えられたすだちの緑が鮮やかだ。これを絞ったらどんな味になるのかワクワクする。
それに黒七味、京都の特産品だがまさかラーメン屋で出会えるとは思わなかった。

「ふーふー……はむっちゅるちゅるっ」

軽く麺をタレに付け、一気にすする。
空気と一緒に麺が口腔内に入り込み、タレの香りと麺の香りが暴力的に押し寄せる。

「豚骨ベースに鶏ガラと、魚介の味もするわね……」

複雑な味が全く互いを殺すこと無く同居している。いい仕事。
中太の麺は噛みしめるほどに甘く、香ばしい小麦の味わいが増す。
タレの絡みもいい感じ。

「あら、そろそろすだちを加えないと」

気がつけば半分ほど麺を食べていた。
ぎゅうっとすだちを回しかけ、麺をよく混ぜる。

「チャーシューと味玉はこのタイミングでいただきましょ♪」

いわゆる全部のせ系ではないのでチャーシューはぶつ切りだが、熱々のタレの中に浸かっているおかげで口に入れた時に凝固した油を感じることはない。
味玉も同様にしっかり温まっていて良い。

「もぐもぐ、うん、このチャーシュー、真面目な味」

タレの旨味と肉の旨味が合わさって最強に見える。

「お次は麺ね……はむっ」

水でしめられた麺をつけてきたことでタレの温度は熱すぎないヌルさ。じっくりと味わうことができる。

「このタイミングですだちは正解ね。鼻に爽やかな香りが抜けていくわ」

お腹も膨れてきて味にマンネリを感じるタイミングでのこの変化は嬉しい。
さらに京都名産の黒七味をタレにトントンと二三回。

「ちゅるっずずずずっ……んー!ピリ辛っ!」

スープの個性に負けない繊細な薬味に舌鼓を打っていたら麺がなくなっていた。

他の客を見ると「スープ割りお願いします」という声。
何が出てくるのかと思ったらつけダレをだしで割ってくれるようだ。コレは飲むしかない!

「あの、す、スープ割りお願いします!」

「スープ割り一丁頂きました!少々お待ちください!」

言うなり私のタレをカウンター内へ。

しばらくするとだしが追加されて熱々になったスープが戻ってきた。
早速レンゲで一口、ごくり。

「さっきと全然味が違う!美味しい!」

つけ麺特有の甘さが息を潜め、さっぱりとした口当たりの飲みやすいスープに生まれ変わっている。
さっきまでも十分美味しかったのに、こんな楽しみがつけ麺にあるなんて、二度美味しい。

「ごくっごくっ……ぷはー!」

一気に飲み干し完食。店主に礼を言い立ち去る。

つけ麺、ラーメンと大して変わらないと思っていたが麺の温度やそれを見越した味の変化、そしてスープ割りと奥深かった。
今後はつけ麺もチェックしていかねば。

ここは大当たりだ。
通販もやっているようなのでやよいの家に贈るのもいいかもしれない、そう思う昼下がりであった。

「だけど、この私のサインを要求しないのは少しいただけなかったわね!」

私の負け惜しみが昼のビジネス街に虚しく響いていた。

くぅ疲

スレタイでわかった人もいるかと思いますが名店「二代目つじ田」をモデルに書きました
ほんとうに美味しいつけ麺屋さんなので東京近郊の方は一度行くことをおすすめします
いおりん誕生祭に何とか間に合ったかな

続きは別スレで、今度は何話かまとめて投下するつもりです

ではまたどこかでお会いしましょう!

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