春香「千早ちゃんがマグロだった…」(29)

春香(それは、冬のある日…)

ビュオォォォォ

春香(私達は、何故か海岸で水着撮影をさせられていました)

春香「さ…寒いね、千早ちゃん…」ガタガタ

千早「え、ええ…何故このような時期に…」ブルブル

春香「千早ちゃん…く、くっついてもいい…?」

千早「えっ、それは…」

春香「ねぇ…いいでしょ…?」スリスリ

千早「だ、駄目よ春香…こんなところで…」

春香「ちょっとだけ、ちょっとだけだから…」サワサワ

千早「んあああー!!」

カッ

春香「!?」

ゴゴゴゴ…

春香「千早ちゃんの体が…」

ゴゴゴゴゴゴ…

春香「変化していく…」

マグロ「」ドスッ

春香「ぐえっ」

マグロ「」ビチビチ

春香「お、重い…」

マグロ「」ビチビチ

春香「これは一体…千早ちゃんが魚に…?」

P「春香!」

春香「プ、プロデューサーさん…」

P「大丈夫か、今どかしてやる!」グイッ

マグロ「」ゴロン

春香「ふぅ…ありがとうございます」

P「話は後だ、千早を海に!」

春香「へ…? なんでです?」

P「早くしろ! 間に合わなくなる!」

マグロ「」ビチビチ

春香「は…はいっ!」ガシッ

ポーイ

マグロ「」バッシャァァ

スイーッ

P「ふぅ…これで一安心だな。ロケ地が冬の海岸でよかった」

春香「なんで、千早ちゃんを海に…?」

P「千早の姿を見ただろ? あれはマグロだ」

春香「マグロ…」

P「マグロは回遊魚…泳ぎ続けなければ死んでしまうんだ」

春香「泳ぎ続けなければ、死んでしまう…」

春香「それって…」

P「そう、まさに千早の在り方だ。千早はマグロそのものじゃないか」

春香「千早ちゃんがマグロだった…」

春香(千早ちゃんがマグロになり、海に帰ってから数日が経ちました)

ガヤガヤ…

春香(事務所はいつも通り明るい雰囲気です。でも、そこには…)

春香「………」

P「どうした春香、険しい顔をして」

春香「プロデューサーは、何も思わないんですか。千早ちゃんがいないこの風景…」

P「仕方ないよ。マグロの養殖には直系50m程度の生簀が必要だ。この事務所にそんなスペースはない」

春香「そんなの、関係ないですよ! 千早ちゃんは、千早ちゃんは…」

P「春香、千早は母なる海に帰ったんだ。俺達が余計なことをすべきじゃない」

春香「そうかもしれません…」

春香「でも、私、やっぱり…千早ちゃんを放っとけない」

P「どうするつもりだ?」

春香「千早ちゃんを…釣り上げに行きます」

P「バカな。素人がマグロを釣り上げるなんて無理だ」

春香「だったら、素人じゃなくなるまで! 何年かかっても、絶対にやってみせます!」

P「春香…」

春香「止めないでください、プロデューサーさん。私、もう決めたんです」

P「いや、止めはしない。その代わり…」

春香「?」

P「俺も着いていく」

春香「プロデューサーさん…!」

P「そうだな、千早は俺達の…」

P「仲間だもんげ!」

春香「そうと決まれば、早速…」

??「あの、春香、プロデューサー」

P「ん?」

千早「私もご一緒していいでしょうか」

P「なんだ、千早も来るのか?」

千早「はい。興味もありますので」

春香「それじゃ、千早ちゃんも一緒に行こう!」

千早「しかし、マグロ漁など素人の私達にできるのでしょうか…」

P「安心しろ、俺はプロデューサーになる前にマグロ漁船で働くのに憧れWikipediaで調べていたことがある」

春香「流石プロデューサーさん!」

ブロロロロ…

春香(こうして、私達は千早ちゃんを釣り上げるため、地元の漁師さんに船を借りました)

コォォォォ…

春香「わぁっ、風が冷たい…」

ザアアァァァ

春香「海の水が凄い勢いで割れてく…」

千早「春香、あまり身を乗り出さない方がいいわ。落ちたら大変よ」

春香「あ、そうだね。ありがと、千早ちゃん」

春香(待っててね、千早ちゃん! 今、釣り上げに行くから…)

数十分後…

春香「うえ…はきそ…」

P「春香、大丈夫か? 待ってろ、今酔い止めの薬を…」

千早「背中、さすりましょうか?」

春香「は、はい…すびばせん…」

そして…

P「春香、もう大丈夫か?」

春香「はい、だいぶ…」

ユラユラ

春香「それにしても、随分陸から離れちゃいましたね…」

P「よし、この辺でいいだろう。針にマグロの餌になるイカをくっつけて…」

ポーン

春香(プロデューサーさんが、餌を投げ込みました)

P「あとは、千早ちゃんが食いつくのを待つだけだ」

春香(海は深くて、底が見えません。千早ちゃんが餌に近付いてるかどうかすら、私達にはわかりません)

春香(だから、私達にできるのはひたすら待つ事だけでした…)

千早「プロデューサー。マグロ漁というのはどれくらいかかるものなのですか?」

P「えーと…一般的に、1年は海の上って聞くな」

春香「い、1年!?」

P「まぁ、一般的なマグロ漁船がそうってだけで、俺達は別に何匹も釣るわけじゃないから。1匹…千早が釣れれば帰れるよ」

千早「では、1匹釣り上げるにはどれくらいかかるのですか?」

P「さぁ…マグロ次第としか言いようがないな。それこそ1時間後にかかることもあれば、1ヶ月何も釣れないかもしれない」

春香「気が遠くなりそうですね…」

P「どうしても釣れないようなら、陸に戻ればいいさ」

千早「しかし…」

ユラユラ…

千早「何もせず待っているのは、少々退屈ですね…」

P「それなら、船室で休んでればいい。俺が見てるから」

千早「そんな、悪いです」

P「いいからいいから。何人も集まっても釣れるようになるわけでもないしな」

千早「そう、ですか。では…」

春香「それじゃ、千早ちゃん。船の中で楽しもうか…うふふ…」

千早「ちょ、ちょっと春香…」

P「ほどほどにしとけよ」

春香(そして、私達は船室の中で色々と、色々とやりながら過ごしました)

春香(時々見張りを交替しながら、代わりばんこで休んで夜を明かします)

春香(そして、変化が起きたのは次の日の朝でした…)

ガコン!!

春香「うひゃあ!?」

千早「な、何?」

春香「外に出てみよう!」

リリリリリリリ…

春香「あっ、リールが動いてる…」

P「春香! 千早! ちょうどいいところに来た!」

春香「プロデューサーさん、これは…」

P「ああ、かかったぞ!」

グラグラ

千早「きゃ…!」

春香 「ひゃ、揺れる揺れる!」

P「マグロはでかいのだと3m以上あるからな! 凄い力だ…」

ギギギギギギ

千早「プロデューサー、竿が凄く軋んでますが…大丈夫なのでしょうか」

P「大丈夫、弾力があった方が折れにくいんだ!」

リリリリリリリ…

春香(電動リールが竿の動きを感知し、自動で糸を巻く…)

P「よし…この調子だ…」

春香(竿の位置を調整しながら、千早ちゃんが上がってくるのを待っている)

春香(プロデューサーさん…頑張って…!)

P「くっ、千早め…釣れない奴だ!」

スチャッ

P「だが、こんなこともあろうかとショッカーを用意しておいた!」

春香「ショッカー? 秘密結社ですか?」

千早「ぷっ…」

P「電気ショックを与える装置だ! これで千早の体力を奪い、確実に捕まえる!」

春香(プロデューサーさんは、糸に鉄製の輪っかをつけ、海の中に落としました)

P「春香! 俺は手が離せない、スイッチを押してくれ!」

春香「は、はい!」

春香(言われるがままに、私は装置のスイッチを押します)

ビーッ!!

春香「わ!?」

P「放せ!」

春香「はい!」

春香(数秒でブザーが鳴ったので、すぐ放しました。マグロを弱らせるにはもっと短くても充分なんだそうです)

春香(そして…)

マグロ「」ユラユラ

春香(ついに、千早ちゃんがその姿を現しました!)

春香「プロデューサーさん、もう海面まで来てますよ!」

P「わかってる!」ゴソゴソ

キラ…

千早「それは…?」

春香(プロデューサーさんはバールのようなものを取り出しました)

P「どいてろ、春香!」

春香「は、はい!」サッ

P「行くぞ…」グッ

春香(プロデューサーさんは、私がどくとバールのようなものを…)

P「オラァ!!」ブスッ

マグロ「」ビクッ

春香(千早ちゃんの目にブッ刺した!!)

P「フンッ!!」

ゴロン

春香(そして、船の上まで引っ張り上げました!)

マグロ「」ビチビチ

春香「やった! 釣り上げましたね!」

千早「釣り上げた…と言うか、引き上げたという感じですね…」

春香「これで千早ちゃんも…」

P「セイ!!」

グバァ!!

春香「え…?」

グッ グッ

P「よし、血抜きだ…」

春香「あ、あの…プロデューサーさん…」

P「マグロは引き上げたらすぐに息の根を止め、血抜きしなくては質が落ちてしまう…」

春香「で、でも…」

P「春香…これは、仕方のないことなんだ…」

千早「容赦ないですね」

春香(プロデューサーさんの作業を、私は複雑な気持ちで見ていました)

春香(いくらマグロになってしまったからと言って、千早ちゃんを…)

P「春香、クーラーボックスと氷を用意してくれ」

春香「へ?」

千早「そんなもの、積んでいませんが…」

P「なんだって? 参ったな…」

春香「少しくらいなら、放っといても大丈夫なんじゃないですか?」

P「そうもいかない。マグロは低温にしておかないと、すぐに身が黒くなってしまうんだ」

P「近年の冷蔵冷凍技術の発達により、マグロも高級食材として扱われるようになったが…」

P「昔は身焼けもして、陸に上がるまでにはもう身が真っ黒になってしまうマグロは、食べ物にならなかったそうだ」

P「漬けにして安い寿司ネタになるか、ツナフレークみたいにするしかなかったらしい」

P「一説によるとマグロという名前の語源は『真っ黒』から来ていると言われているとか」

千早「へぇ…」

P「仕方ないな…あれをやるか」

千早「どうするんですか? プロデューサー」

春香(プロデューサーは、千早ちゃんの口に針をくくりつけ…)

P「こうするんだ!」ポイッ

ザパーン

春香「ええっ!?」

春香(プロデューサーさんは、せっかく釣り上げた千早ちゃんを、海に投げ捨てちゃいました!)

マグロ「」ユラユラ

P「こうして、海水で冷やしながら陸に運ぶ」

P「水温が高い夏場には身焼けの原因にもなるんだが…幸い、今は冬だ。海水は冷たいくらいに冷えている」

P「岸に冷蔵トラックを呼んで、事務所まで運んでみんなで千早を食べよう」

春香「はい…その方が、千早ちゃんも喜んでくれますよね…」

千早「しかし、そのままでは事務所に運んでも食べる事はできないのでは? 解体しなくては」

P「安心しろ。俺は十年くらい前にテレビでマグロの解体作業を見た事がある」

春香「さっすがプロデューサーさん!」

そして…

春香「ただいまー!」

律子「おかえり」ゴゴゴ

P「げ、律子…」

律子「この数日間、三人揃って、どこで何をしていたの? ん?」

千早「そ、それは…」

P「は、春香! あれを出してくれ!」

春香「わかりました! はい、これ!」ドスン!!

律子「そ、それは…?」

春香「マグロですよ、マグロ!」

美希「あっ、千早さんだ!」

やよい「千早さん、本当にマグロになっちゃったんですね…」

千早「ええ…そうみたいね」

P「よっと…できた。なんとかなるもんだな」

春香(それから、台所でプロデューサーさんが千早ちゃんを解体して…)

あずさ「みんな、おまたせ~」

小鳥「ふぅ、こんなに気合い入れたの久しぶり…」

春香(あずささん達と一緒に、料理を)

雪歩「あの、運ぶの手伝います!」

響「わぁ! すっごいいい匂い!」

真「刺身に、グリルに…すごいなぁ…」

伊織「庶民的だけど、こういうのもいい感じね」

真美「ねーねー、これなに?」

あずさ「マグロカルパッチョ、美味しいわよ~。た~んと召し上がれ」

春香「それじゃ、みんな手を合わせて…」

いただきます…

貴音「あぁ、口の中に広がるこの風味…美味!」ビシッ

やよい「………」プルプルプル

真「や、やよい…?」

響「大変だ、やよいが固まってるぞ!」

真美「あっ、ゆきぴょんさっきからトロばっか取ってる!」

亜美「ずるーい!」

雪歩「あ、あぅ…その…ごめんなさい…」

伊織「そんなのいちいち気にしなくていいでしょ。たくさんあるんだからケチケチするんじゃないわ」

あずさ「う~ん、おいしいわぁ…やっぱり天然物は違うのね~」

小鳥「あずささん、刺身と言えば…やっぱこいつでしょ」カラン

律子「小鳥さん、昼間からビールなんて勧めないでください!」

美希「あふぅ…幸せなの…」

P「みんな、いっぱいあるからもっと食べたかったら言ってくれよ!」

春香(みんな、笑顔になってくれている…)

春香(母なる海に帰った千早ちゃん…こうして、無理矢理連れ帰って…そして、料理にされちゃったけど…)

春香(でも、千早ちゃんはみんなの血肉となって…みんなと一緒に生き続ける…)

春香(私たちはずっと…でしょう?)

春香「だよね、千早ちゃん…?」

千早「そうね」モグモグ

終わり

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom