伊織「チロルチョコ」 (35)

・アイマス、伊織誕SSです。
・いおりんお誕生日おめでとう!!!
・書き溜めてあるのですぐ終わります。

ではよろしくお願いします。

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チロルチョコ、みんなは食べたことあるだろうか。
あの、どこにでも売っているらしい、小さいチョコ菓子。

私は今までそんな物食べた事どころか、食べたいと思った事すらも無くて。
ただ型に流し込んだだけの、味気も無い安物のチョコだと思っていた。

律子「…………よし! 今日のレッスンはここまでにしときましょうか。 お疲れ様!」

伊織「…………ゼェ……お、お疲れ様なんて、モンじゃ、ない、わよ……」

亜美「休憩……挟まない……亜美……みんな……つらい……」

律子「何言ってるの! 今こうしてる間にも、ライバルである他のアイドル達は上を目指そうとしてるんだから」

伊織「だからって……、ノンストップって何よ……! クールダウンってものを、っ知らないワケ……!?」

律子「それを今からやるんでしょ、ほら立って! あずささんはもう立ってるわよ!!」

あずさ「」

伊織「あれは立ってるんじゃなくて「立ったまま気絶してる」んでしょ!! あまりにハードすぎて!」

亜美「水……亜美……水……欲しい……命……尽きる……」

律子「水が欲しいんならまず立ってクールダウンしてからよ!」

伊織「鬼かアンタ!!!!!」

・ ・ ・ ・ ・ 


伊織「…………まったく、律子のスパルタには困ったわ……」

あずさ「でも、それだけ律子さんも真剣って事じゃない?」

伊織「そりゃぁ、私だって解ってるわよ……!」

亜美「いおりん、ツンデレ、亜美、わかる」

伊織「亜美はいい加減それやめなさいよ!!!」

亜美「てへ☆」

伊織「まったく…………。 ……ん」


男の子「おばあちゃーん! これちょーだい!!」

おばあちゃん「はい、10円ね。 90円のおつりだよ」

女の子「あ、いいなぁ。 お金あったんだ」

男の子「うん、お皿洗い手伝ったら100円ももらった!!」

女の子「いいなー…………」

男の子「………………おばあちゃん、もう一個これ!!」

おばあちゃん「50円じゃなくて10円で良いよ」

男の子「あ、そっか……。 はい!」

おばあちゃん「はい10円ちょうどね」

男の子「………………ほら、やる!」

女の子「え、いいの!? ……ありがとう!」



伊織「……………………」

亜美「どったのいおりん? 駄菓子屋なんて見てさ」


女の子「チロルチョコ、おいしーね!」

男の子「……そんなんで良いんなら、もう一個買ってやるよ!」

女の子「これより食べたら虫歯になっちゃうからいいよ~」

男の子「そっか」



伊織「…………チロルチョコですって」

亜美「あのぼいずんがるず? うん」

伊織「チロルチョコって、美味しいのかしら」

亜美「う~ん……、そういや最近食べてないかも」

あずさ「私は好きよ? チョコでも、色んな味で工夫されてあって飽きないもの」

伊織「あの子、100円貰ったって言ってたわ。 きっと今のあの子の全財産なのよ」

亜美「あ~…………、いおりんにはあり得ない世界かもね」

伊織「少ないお金なのに女の子にも買ってあげて……。 たった100円で二人も幸せになってる」

あずさ「……………………?」

伊織「しかも、あんな安物で」

亜美「…………いおりん?」

伊織「私も、チロルチョコ買ってみようかしら」

あずさ「伊織ちゃん、駄菓子屋はカードじゃ買えないわよ?」

伊織「にひひっ、そんな事百も承知よっ!」

亜美・あずさ「???」


・ ・ ・ ・ ・

伊織「と言う事で」

新堂「はぁ」

伊織「私今日お手伝いのお手伝いするから」

新堂「あの、伊織お嬢様」

伊織「なによ?」

新堂「お休みになられた方が……」

伊織「別に疲れて参ってるワケじゃないわよ!!!!!」

新堂「いえ、ですが伊織お嬢様にそのような事をさせる訳にはまいりません!」

伊織「……ん、まぁそう言うと思ってたわ。 けどね、新堂。 これは必要な事だと思うのよ」

新堂「……と、言いますと……?」

伊織「下々の者の仕事を理解する事で、より良い信頼関係を結べるかもしれないわ」

新堂「ほう…………」

伊織「って、アメリカの番組でやってたわ」

新堂「お嬢様、ベッドメイクも終了しておりますので」

伊織「だから寝ないっての!!!」

新堂「…………解りました。 お嬢様がそこまで仰るのであれば、この新堂、これ以上何も言いません」

伊織「……何よ、急に物分り良いじゃない」

新堂「ただ」

伊織「……ただ?」

新堂「教えて欲しいことが一つ。 何故突然このようなお戯れをされたのかが、気に掛かって仕方なりません」

伊織「………………チョコを」

新堂「チョコ?」

伊織「チロルチョコを食べたいな、と思って。 それだけよ」

新堂「そのような物でしたら、私めに言ってくだされば……」

伊織「それじゃ、ダメなのよ多分、多分だけど」

新堂「お嬢様…………」

・ ・ ・ ・ ・

伊織「さてと、じゃあ始めるわよ!」

新堂「あぁ、頭巾にエプロン、ゴム手袋にマスクまで完璧防備な伊織お嬢様。 おいたわしや……」

伊織「もう、新堂は自分の仕事をしてなさい! 私は私でやっておくから」

新堂「ですが、お嬢様にもしもの事がありましたら!」

伊織「大丈夫に決まってるでしょ? 今日び掃除で大怪我する人間なんて居ないわよ」

新堂「………………かしこまりました」トボトボ

伊織「ぃよし、先ずははたき掛けね! 埃一つも見逃さないわよ!!」

大人しそうなメイド「あ、伊織お嬢様…………」

伊織「さぁ……………………、…………」

大人しそうなメイド「はたき掛けは、もう……」

伊織「………………」ツゥー

大人しそうなメイド「私が…………」

伊織「…………なによ、埃一つも見逃してないじゃない…………」



伊織「さぁ、気を取り直して部屋の掃除よ! メイド達の寝室に赴くわ!!」

凛としたメイド「あ、伊織お嬢様おはようございます」

伊織「えぇ、おはよう。 ちょっと申し訳無いんだけど、部屋に入っても良いかしら?」

凛としたメイド「事情は新堂様から伺っております。 どうぞ」

伊織「物分りが良くて助かるわ。 じゃあ早速…………」ガチャ

凛としたメイド「あ、新堂様から、「伊織お嬢様の負担にならない程度に仕事を与えるように」と、言伝を預かりまして」

伊織「………………何も散らかってないじゃない」

凛としたメイド「…………一応、ベッドは起きた時のままに……」

伊織「……そう。 だったらアンタ、寝相かなり良いみたいね」

凛としたメイド「申し訳御座いません……」



伊織「ま、まだまだ私の戦いは始まったばかりよ! いざ、厨房の手伝い!!」バァン

シェフ「い、伊織お嬢様!?」

伊織「ごきげんよう、何か手伝う事は無いかしら?」

シェフ「あー…………。 あ! そうですね、大事な仕事があるんですが……」

伊織「良いじゃない! そういうのが欲しかったのよそういうのが!!」

シェフ「そうしましたら、そちらのテーブルでお待ちください」

伊織「任せなさい!」

シェフ「少々お待ちくださいませ」

伊織「さーて、ようやくマトモな仕事が来たわねー……! どんな仕事なのかしら」

シェフ「伊織お嬢様、大変お待たせ致しました」

伊織「ありがとう。 それで? どんな仕事……なの、かしら……」

シェフ「メニューに追加しようか悩んでいるメニューが御座いまして、それの試食を伊織お嬢様にして頂きたいなと」

伊織「…………あ、あぁそう……」

シェフ「ホロホロ鳥のローストなのですが、香草にも拘りを利かせ、通常よりも時間を掛けて仕上げた物になっておりまして」

伊織「……………………」パク

シェフ「…………いかがでしょうか」

伊織「悪くは無い……、むしろ良いわ…………」

シェフ「本当ですか! あぁ、安心しました」

伊織「けど…………けど………………!」

シェフ「でしたら、これはメニューに追加させていただきますね!」

伊織「これは………………、手伝いじゃない……!!!」ダッ

シェフ「あっ!? 伊織お嬢様!? 伊織お嬢様ーッッ!!」

・ ・ ・ ・ ・

伊織「………………はぁ、手伝いって案外難しいものね……」

伊織「やよいって凄い。 それを痛感した一日だったわ……」

伊織「はーぁー、もう大人しく部屋でシャルルのお洋服のデザインでもしようかしら…………」

コンコン

伊織「……? 入って良いわよ」

弱気なメイド「し、失礼します…………」

伊織「どうしたの? 何か用?」

弱気なメイド「あの、今日伊織お嬢様が手伝える事をお探しになられてると聞きまして……」

伊織「あぁ……。 まぁ一度も見つかってないんだけどね……」

弱気なメイド「それで、あの、伊織お嬢様に手伝って頂きたいと言うか、聞いて頂きたい事がございまして……」

伊織「悩み相談? 得意じゃないけど……、話してごらんなさいな」

弱気なメイド「は、はい。 実は………………」

・ ・ ・ ・ ・

伊織「それは相手が悪いわ、さっさと別れちゃいなさい」

弱気なメイド「で、でも……」

伊織「その「でも」はずっと続くの? 考えてみなさい、ソイツの傍にこれからもずっと居られるの?」

弱気なメイド「………………」

伊織「私だって、そういう経験無いから全部がそうとは言えないけど、アンタはこのままだと幸せになれないと思う」

弱気なメイド「そう、でしょうか」

伊織「えぇ。 我慢した分、もっと幸せになりたいと思わない? 新しい出会いを見つけるのも良いと思うわよ」

弱気なメイド「…………わかりました、私がんばってみます……!」

伊織「私は別に、率直な感想を述べただけに過ぎないわよ」

弱気なメイド「いいえ、お陰で勇気が持てました。 失礼します、有難う御座いました!」

伊織「良い知らせを期待してるわ」

バタン

伊織「…………………………ふぅ」

伊織「まさかこんな事になるなんてね……。 スーパーメディカルカウンセラー伊織ちゃんのお悩み相談ってとこかしら」

伊織「こんなので勇気持ってくれたなんて、私ってもしかして才能あるかも?」

伊織「なーんてね…………」

コンコン

伊織「………………今日は来客が多い日ね、どうぞ?」

大人しそうなメイド「失礼します」

伊織「あら、アンタは今朝の……。 どうかした?」

大人しそうなメイド「あの、ここで悩み相談をやってると聞いて……」

伊織「………………へ?」

大人しそうなメイド「私も皆が噂しているのを聞いて、まさか、と思ったのですが……」

伊織「そう……。 ……ん、ちょっと待って。 皆?」

大人しそうなメイド「はい、既にメイド達の間では噂になっています。 もうすぐ他のメイド達も来られるかと……」

伊織「………………う、嘘でしょ……」

・ ・ ・ ・ ・



大食らいなメイド「運動しても運動しても痩せなくて……」モグモグ

伊織「まずそのつまみ食いをやめなさいよ!!!」



黒縁眼鏡なメイド「眼鏡=知的って印象を水瀬財閥の力でなんとかしてください……」

伊織「まずその望みそのものがインテリジェンスの欠片も無いわね……」



軽口なメイド「伊織お嬢様って、太陽光でエネルギー生成出来そうですよね」

伊織「そうそうこのデコでってやかましいわ!!!」



やつれたメイド「伊織お嬢様の髪留めをカパカパするだけの仕事に就きたい……」

伊織「……や、休み申請してあげるわ……」




腐りかけメイド「伊織って、男の名前でもあるんですよね……。 ということはワンチャン……」

伊織「ある訳無いでしょうが!!!!」



メンヘラメイド「私、ジュピターの大ファンなんですけど、冬馬君の髪の毛一本で良いんで取ってきてくれませんかぁ?」

伊織「」



メイドっぽい新堂「最近、疲れが取れませんで……」

伊織「出てけぇぇええぇ!!!!!!」

・ ・ ・ ・ ・

伊織「…………今日は散々な目に合ったわ…………」

伊織「多分、うちのメイド全員来たんじゃないかしら……。 休みの子以外……」

コンコン

伊織「あら、まだ居たみたいね……。 どうぞ」

新堂「失礼致します、伊織お嬢様」

伊織「出てっ……! なんだ、普通の新堂じゃない」

新堂「はて」

伊織「紛らわし方腹立つわね、どうかしたの?」

新堂「今日は大変お疲れ様で御座いました。 メイド達も感謝しております」

伊織「……そう、かしら? 私は言いたい事だけ言っただけよ」

新堂「例えそうであったとしても、皆憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとしています。 事務的に言えば、士気の向上にも役立っています」

伊織「だったら、やった甲斐はあったのかしらね」

新堂「はい。 今日は伊織お嬢様のお陰で助かりました。 私個人と致しましては、伊織お嬢様の手伝いは価値あるものと思っております」

伊織「……もったいぶらずに言いなさいよ」

新堂「朝、お嬢様はチロルチョコが欲しいと」

伊織「そうね、けど拒否したわ」

新堂「はい。 ですが、それでも私は伊織お嬢様のその望みを叶えたいと……」

伊織「新堂」

新堂「……? はい」

伊織「今日の私は、どれくらいの働きをしたのかしら」

新堂「それはもう、目覚しいほどの……」

伊織「…………本当に?」

新堂「………………どういうことで御座いましょうか」

伊織「殆ど手伝いも出来なかったし、出来たのは悩み相談だけ。 これだけで新堂の提案に従えるほど働いたとは言えないわ」

新堂「そのような事は」

伊織「私自身がそう言ってるのよ。 それとも新堂、貴方は私よりも私を理解しているの?」

新堂「…………申し訳御座いません。 差し出がましい真似を……」

伊織「解ってくれればいいわ。 その代わり、一つお願いがあるの」

新堂「何なりと」

伊織「十分な働きは見せられなかったけど、一応働く事が出来たのは事実。 それで、お給金を頂きたいのよね」

新堂「お給金、ですか? 伊織お嬢様にそのような物は必要無いのでは……」

伊織「いえね、偶々良いなと思ったお店が、カードお断りだったのよ」

新堂「ははぁ成る程、そういう事でしたら。 で、お幾ら程ご所望で御座いましょうか?」

伊織「100円」

新堂「…………………………は?」

伊織「だから、100円よ100円」

新堂「………………お湯殿の用意は既に……」

伊織「だからそれやめなさいよ!!!!」

・ ・ ・ ・ ・

あずさ「今日の律子さんも、スパルタだったわねぇ……」

亜美「亜美、足、パンパン、あずさお姉ちゃん、太さ、一緒」

あずさ「亜美ちゃん?」

亜美「ヒィッ」

伊織「何よ、アンタたちだらしないわねー。 根性が足りないのよ根性が」

亜美「おぉ? そういういおりんは余裕シャクシャクのようですな?」

あずさ「何か良いことでもあったの?」

伊織「流石ね、ご明察よあずさ」

あずさ「うふふ、正解しちゃった?」

亜美「して、いおりんや、その良いことはどんな良いことだったんですかいのう?」

伊織「今に解るわ。 …………ほら、あそこ」

亜美・あずさ「…………駄菓子屋?」

伊織「おばあさま、ここにあるチロルチョコ、三つくださいな」

おばあちゃん「はいはい、30円ね」

伊織「はい100円」

おばあちゃん「じゃあ70円のお釣りだね、有難うよ」

伊織「有難う、お元気で。 …………はい、アンタ達にも。 感謝しなさいよねっ」

亜美「…………チロルチョコ?」

あずさ「ありがとう……。 伊織ちゃん、現金持ってたの?」

伊織「えぇ、ちゃんと働いて貰ったお金よ! あと70円あるわ!」

亜美「70円でえばるお嬢様初めて見た……」

あずさ「でも、嬉しそう」

伊織「幸せのおすそ分けよ。 有難く頂きなさいっ!!」

チロルチョコ、みんなは食べたことあるだろうか。
あの、どこにでも売っているらしい、小さいチョコ菓子。

私は今までそんな物食べた事どころか、食べたいと思った事すらも無くて。
ただ型に流し込んだだけの、味気も無い安物のチョコだと思っていた。

だが、少し考えを改めなければいけないのかもしれない。
不覚にも私は、美味しいと感じてしまったのだ。 たかが10円のチョコに。

何故そう感じたのかは解らない、この謎はどんな冒険をしても見つけられないかもしれない。
けれど、私はあの男の子のじれったい優しさと、
それを受け取る女の子の幸せの味が、少しだけ解った気がした。

真ん中に穴の開いた銀色の硬貨一枚と、うち二枚が黒く汚れた赤銅色の硬貨二枚を見つめながら。
「にひひっ♪」と笑うとつられて二人も笑ってくれた。





おしまい

ここまで読んでくださり、どうも有難う御座います。
いおりんお誕生日おめでとう!!!

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