芳佳「夏といえば怖い話ですよ!」 (12)


ジリリリ、ジリリリ……

シャーリー「はい、こちら――」

坂本『もしもし。私だ、坂本美緒だ』

シャーリー「ああ、少佐ですか。どうかしましたか?」

坂本『いやな、懸念していたとおり今日中にそちらに帰れなくなってしまったんだ。今モーテルから電話をしている。今晩はミーナとここに泊まることになった』

シャーリー「嵐がきてますからねぇ、仕方ないですよ。にしてもお上も酷いですよね。視察に来るとか言っといて、結局自分たちはホテルに閉じこもってこちらを呼び出すなんていい根性してますよまったく」

坂本『しかも内容は愚痴と妬みやっかみのオンパレードだったからな。ミーナが途中から般若のような顔になっていたよ。ところでそちらは何か変わったことはないか?』

シャーリー「実を言うと妹のお見舞いに行ったバルクホルン大尉と付き添いでついていったハルトマン中尉が帰ってきてないんです。まあおそらく二人も足止めを食らってるんでしょうけど」

坂本『ああ、そのことなんだが、実は二人とはたまたま一緒になってな。合流してその二人も同じモーテルに泊まっている。だかた心配するな』

シャーリー「あ、そうだったんですか」

坂本『というわけでシャーリー、今日一晩基地と皆を頼むぞ。それではおやすみ』

シャーリー「任しといてください。では良い夢を」

チン…

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食堂


シャーリー「――というわけで、今日は隊長たちは帰ってこれません。そんな感じだから皆仲良くやろうな」

ルッキーニ「シャーリー司令!」

シャーリー「し、司令ってなんだかむず痒いな」

サーニャ「あの、シャーリーさん。私そろそろ夜間哨戒に行ってきますね」

シャーリー「いや、今日は中止でいいよ。そりゃまあ高高度までいけば嵐の影響はないだろうけどさ、こんなに荒れてちゃ安全な高度にたどり着くまでが危ない。無闇にけが人は出したくないし、今日はお休みでいいよ」

サーニャ「分かりました」

リーネ「それにしてもすごい天気だよね。まさかネウロイとかが関係してるのかな」

芳佳「そんなことはないと思うよ。扶桑でも台風なんかが来た時はこんな天気になるし」

シャーリー「欧州にこんなに強いハリケーンはそんなには来ないらしいからな。不安がるもの無理ないか。でももしネウロイが関係してるなら感知系の固有魔法を持つウィッチたちがとっくに察知して、今頃私たちも嵐の空の下に駆り出されてるよ」

サーニャ「そんな気配全然しないから大丈夫だよ、リーネちゃん」

ペリーヌ「それにしてもすごい嵐ですわね」

エイラ「うるさくてとても寝れそうにないんだナ」

ルッキーニ「うじゅー、なんだかワクワクするー!」

芳佳「何故か知らないけど、台風の時って妙にワクワクしちゃうよね」

シャーリー「それにしても蒸すなぁ(ヌギヌギ」

ペリーヌ「しゃ、シャーリーさん!いきなり服を脱がないでくださいまし!」

シャーリー「そう堅いこと言うなって。同じ女性しかいないし、堅物もいないんだし」

芳佳「暑いんですから仕方ないですよペリーヌさん(ギラギラ」

リーネ「よ、芳佳ちゃん……」

ルッキーニ「うじゅ!?」

芳佳「扶桑では夏の夜といえば怪談が定番なんです!何人かで集まって、自分が経験したり人から聞いた背筋が凍えるような怖い話を話して暑さを吹き飛ばす、なんてことをやったりとかもします」

シャーリー「そりゃ面白そうだな。どうせ嵐で外がうるさくてとても寝れそうにないし、やってみるか。まあ、そんなに怪奇現象を経験してる奴がいるのか分からないけど」

リーネ「えーっと、怪談って言うのはお化けを見たとかじゃなきゃ駄目なのかな?」

芳佳「ううん、そんなことはないよ。不思議話とかでも大丈夫だから」

リーネ「そうなんだ。だったら一つ、あります。不思議話になるかどうか分からないけど」

シャーリー「いいよいいよ。そんなに厳密に形式ばった話じゃなくていいんだろ宮藤?」

宮藤「はい!あっ、せっかくだから雰囲気出すために部屋を暗くしましょうか。明かりはロウソク1本だけで」

エイラ「まるで呪いの儀式みたいだナ」

スミマセン。一つ飛ばしちゃいました。こっちの文章の後に>>4が来る形です。


ルッキーニ「にゃはー!全然眠くならなーい!」

サーニャ「私も夜間哨戒のために寝てたから眠気が来ない……」

ルッキーニ「だったら私とおしゃべりしようよー?」

エイラ「そ、それは私が先に考えてたこと――」

サーニャ「みんなで話したほうが楽しいわよエイラ」

エイラ「そ、ソウダナ……」

芳佳「夏、お話……。あっ!」

リーネ「どうかしたの?」

芳佳「夏といえば怖い話ですよ!」

シャーリー「怖い話?ミーナ中佐に怒られた話とか?」

芳佳「そ、それも確かにものすごーく怖い話ですけどそうじゃないですよ!ホラーです、ホラー」

リーネ「じゃあ話しますね。あれはまだ私が小さい頃のことでした。ある日父が立派な甲冑を買って帰ってきました。そしてそれを廊下に飾ったんです。とっても立派な甲冑だったんですけど、なんだかどことなく不気味で私はあんまり好きになれませんでした」

リーネ「数日後、私は夜に目が覚めてしまいました。トイレに行きたくなったんです。ところがトイレに行くにはその甲冑の前を通らなきゃいけなかったんです。正直怖かったんですけど、トイレが我慢できなくなって仕方なくベッドを出ました」

リーネ「おそるおそる進みました。そして甲冑の置いてある場所の前まで来たとき私はホッとしてしまいました。何故なら そ こ に 甲 冑 が な か っ た か ら な ん で す 」

リーネ「でもすぐにそれはおかしいということに気が付きました。だって甲冑はそこになきゃいけないはずなんですから。それに気付いた途端、ものすごく怖くなってきました。じゃあ甲冑はどこにあるんだって。辺りをキョロキョロと見回すと、甲冑はすぐに見つかりました」

リーネ「 私 の 真 横 に 立 っ て た ん で す 」

リーネ「甲冑の置いてあった場所ばかりに気が取られてたせいで気付かなかった、ということなんでしょうか。でももう恐怖の限界で私は母の寝る部屋に飛び込んで助けを求めました。寝ぼけてただけよ、と母に説得されて二人でトイレに行ったんですがその時は甲冑は元の場所にありました」

リーネ「次の日の朝、母が念のためにと甲冑を調べだしました。そして中を覗いた途端、母の顔色が変わりました。次の瞬間には父を呼びつけ、今すぐこれを売り払うか遠くに捨てるようにと詰め寄りました。あまりの剣幕に父はすぐさまその甲冑を遠くの海へと捨てに行きました。その後私は母に聞いたんです。何があったのかって」

リーネ「母は私には話してくれなかったんですが、姉には一応話したみたいで姉から聞くことができました。それで母は一体何を見たのかなんですが、どうやら甲冑の中には 血 で 書 か れ た 呪 詛 の 言 葉 が び っ し り と 書 き 込 ま れ て た ら し い で す」

リーネ「以上が私が経験した不可解な怖い話です。まあ確かに寝ぼけてたかもしれないんですけど、それにしてはあまりにも鮮明に記憶に残っていて……」

シャーリー「呪いの甲冑か。初っ端からなかなか怖い話だったな」

芳佳「うんうん、そんな感じだよリーネちゃん」

シャーリー「なら私も披露するか。ま、リーネのほど怖くはないけどな」

シャーリー「これは私がまだただのバイク乗りだったときの話だ。ある日急に峠を攻めたくなってな。気付いたときには自慢のバイクに乗って峠を走ってた。夜だってのにな。自慢じゃないけどバイクの腕前には自信があって、そこらの奴には負けなかった。そんな私だったんだけど、あの日は私についてくるライダーがいたんだよ。いや、ついてくるどころか迫ってくる」

シャーリー「私についてこれる奴なんか久々だ。そう思うと俄然燃えてきてね。私も本気で走ったんだ。ところがそいつはなおも迫ってくる。そしてついにそいつと並ばれてしまった。悔しいけど、コイツ凄いな。どんな奴なんだと思って私は隣をチラッと見たんだ。でも次の瞬間には私は急ブレーキをかけていたよ」

シャーリー「だ っ て そ の ラ イ ダ ー は 骸 骨 だ っ た ん だ か ら」

シャーリー「もう不気味もなんのって。そのライダーはあっという間に遠ざかっていた。でもって私はしばらく放心状態だったんだけど、ハッと我に返って逃げ帰ったよ」

シャーリー「まあ今となってはひょっとして単に全身に骸骨が描かれたスーツを着たライダーだったんじゃないかと思ってる。ただあまりにもリアルな骸骨でさぁ、今でもたまに夢に出て来るんだよ」

芳佳「バイクに乗った骸骨かぁ……」

ペリーヌ「夜道では絶対に出くわしたくありませんわね」

ルッキーニ「うじゅじゅ……」

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