千早「falldown」 (34)

春香「折角千早ちゃんと会えたのに、また行っちゃうのかぁ…残念だなぁ…。」

千早「ごめんなさい、春香。なかなかスケジュールが合わなくて…。」

春香「ううん、いいんだよ。次はニューヨークでレコーディングだっけ?」

千早「ええ、アメリカでのデビューシングルのレコーディングがあるのよ。」

春香「ついに千早ちゃんがアメリカデビューか…応援してるよ!」

千早「ふふ、ありがとう。」

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他愛のない会話をしながら空港の搭乗口へ向かう。

アメリカに行くのはこれで三回目くらいだけれど、飛行機に乗るというのはいつでも少し緊張してしまうものだ。

キャリーケースを転がしながら歩いて、そろそろ春香と居られる時間は終わりだ。

千早「行ってくるわね、春香。」

春香「うん、行ってらっしゃい!あ、どれに乗るんだっけ?」

千早「○○エアラインの592便よ。」

春香「じゃあ、飛ぶまで見送るね!」

千早「嬉しいわ。じゃあ、またね。」

春香「うん。…ちゃんと帰ってきてね。」

千早「心配しなくても、すぐ戻ってくるし、いつでも会えるわよ。」

そう言いながら、私は春香の手をぎゅっと握る。春香も、握り返してくれた。

春香は、そのままにっこりと笑って。

春香「そうだよね。えへへ。行ってらっしゃい!」

と、言ってくれた。

私は春香に見送られながら搭乗口へ向かう。

搭乗手続きはつつがなく進行し、スムーズに機内へと入れた。

千早(大体飛行機の真ん中辺りね…あ、窓側。)

ビジネスクラスはそこそこ座り心地がいいので好きだ。これが水瀬さんだったら、ファーストクラス以外あり得ない、と言い張りそう。

私は水瀬さん程席にこだわりはない…と言いたい所だけれど、初めてアメリカに行ったときに乗ったエコノミークラスは乗り心地が良くなかったので、

それ以来ビジネスクラスを取るようになった。その内アメリカでも売れたら、ファーストクラスに乗ってみよう。

なんて考えていると、シートベルトを締めるようにアナウンスがあり、飛行機は離陸を始める。

慣れない重力を身体に感じながら、飛行機は雲へと向かっていく。

暫くすると、雲を抜け、高度が安定したとの事で、シートベルトを外している乗客の姿がちらほらと見られる。

私は、備え付けのモニターで、映画を観る事にした。

音楽でも良いのだけれど、レコーディングに向かうのに音楽的イメージを崩されたくない。

ゲームはよく分からないので、何も考えずに見れる映画が丁度良い。

適当にチョイスした物は、ロボット物だった。

車がロボットに変形してアメリカの街を荒らす悪いロボットと戦うストーリーらしい。

アメリカ的な映画を観ていると、がくん、といきなり飛行機が揺れ出す。

その後、映画が止まり、機内アナウンスが流れ出す。

『お客様にお知らせ致します。当機はエンジントラブルの為、グアム国際空港に緊急着陸致します。』

機内がざわつき始める。私も、エンジントラブルに遭遇するのは初めてだから、少し戸惑った。

飛行機が徐々に下がっていくのが分かる。

なるべく平常心を保ちながら、折角だからグアムで何かを買っていこうか、なんて考えていると。



がくん、がくん。


飛行機が更に揺れ、飛行機が急激に落ちているのが分かった。

上から酸素マスクが出てきて、救命胴衣を付けるよう指示がある。私も指示に従って装着する。

機体は徐々に徐々に落ちていく。その落ちる速度は、かなり速かった。

つまり、この飛行機は…海に向かって落ちている。

シートベルトがお腹にきつく食い込んで、それが今、私には何も出来ない事を表しているかのようだった。

千早(墜落するの!?…嫌だ。私はまだ生きていたいと言うのに…!)

祈るように握った手には、春香のぬくもりがまだ残っているように感じられた。

千早(誰か、誰か…助けて…。神様、お願い…。)

神に縋るように祈るも、奇跡は起こらない。身体が死の恐怖で震え出す。

春香、美希、真、亜美、真美、律子、高槻さん、水瀬さん、萩原さん、四条さん、我那覇さん、あずささん、音無さん、高木社長。

千早「プロデューサー……。」

みんなに、たすけて、と祈る。

だけれど。飛行機は、無情にも、そのまま墜ちていく。

このまま、私は、死ぬのね。

そう考えながら窓の外を見る。

雲に囲まれた窓の外は、真っ白な地獄のように感じられた。

もしかしたら、助かるかもしれないけれど、この速さで、角度。そして、私の座っている席。

容易に想像できる。飛行機が真っ二つに折れ、衝撃で全身を強く打って死ぬ未来を。

私が生きる明日は、見えなかった。だから、こそ。

プロデューサーや、春香の同行を断って良かった。

千早(みんなを、巻き込めないものね……。)

飛行機は雲を抜け、海へと一直線に向かっている。

ああ、そろそろ時間なのね。もう私は、765プロのみんなと、会話をする事すら出来ないんだ。

春香のクッキーも、萩原さんのお茶も、美希の寝息も、真のフリフリの服も、亜美と真美の悪戯も、律子の小言も、高槻さんとのハイタッチも、

水瀬さんのわがままも、四条さんの食べっぷりも、我那覇さんとその家族達も、あずささんの迷子癖も、音無さんの妄想癖も、

高木社長の色黒な姿も、プロデューサーの頑張っている姿も。








全部、もう、見れない、感じられない。

私は、泣いていた。死にたくない。生きていたい。

もっと話したかった、もっと触れ合いたかった。

後悔しか沸いてこない。もっとみんなと関われば良かったのに。

そんな後悔すら嘲笑うように、ぐんぐんと墜ちていく速度が速くなるのが分かる。

…優、ごめんね。お姉ちゃん、もうすぐそっちに行く事になっちゃう。こっちで頑張るって約束、守れなかったね。

青く残酷な海が近づいてくる。飛行機はもう止まれない。

機内は、嗚咽で満たされていて、私も溢れる涙と声を抑えられない。


千早「うううううっ…!」

窓の外の海が間近に迫って。


そして、最後に見えたのは。














『臨時ニュースをお伝え致します。成田発ニューヨーク行の○○エアライン592便がグアム付近にて墜落し、乗客乗員あわせて290名が行方不明となっています。』

おわり

http://www.nicovideo.jp/watch/sm9382083

この楽曲をモチーフにさせて頂きました。
楽曲と合わせて聞くと多分やばい。書いてる時「曲掛けたら絶対泣きながら書くだろうな」って思ったのであえて歌詞しか読まないでやりました

このボカロPさんはボカロ苦手な自分でもかなり好きな人なので是非他の曲も聴いてみてください。
クドリャフカって曲も涙腺がやばくなります


見てくれてありがとう。

不謹慎かどうかと言われると、そう言えばとすっかりマレーシア航空370便の事故の事を忘れていました。
不快に感じられた方がいらっしゃるならそれは申し訳ない。最初に明記しておくべきだったかな。

まぁ、不謹慎とだけ言われてぶん殴られても釈然としないんでちょっとだけ言いますが、
このSS自体イメージは楽曲から得た物で、楽曲自身も過去の飛行機事故をどうこう、って言うものでは無い、筈です。

証明する手立てはないけど、俺自身がマレーシア航空370便で書いたならそりゃ不謹慎にも程があるけれど、
そうではないので思考停止の如く不謹慎と叩かれるのは百合shineと絡まれるより遥かに嫌かなーって。

あんま言い訳がましく言うのもどうかと思うのでこの辺りにしときます。

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