男「催眠術?」女「そうだ」(20)

男「この、手作り感満載のレジュメ的な紙束に書いてある通りにすれば催眠術が使えると?」

女「だから、そうだと言っているだろう」

男「いや、胡散臭いよ」

女「どこが」

男「ぜんぶ」

男「まず、俺にこのテキストを渡す意味がわかんない」

女「君は昔から催眠術に興味しんしんだったからな」

男「俺のパーソナルデータを勝手に改竄しないで」

女「幼稚園のころから、『俺は催眠術師になるんだ~』と言って聞かなかったものな」

男「無視しないで。というか、催眠術師になりたい幼稚園児ってなに」

女「君だよ」

男「だから勝手に決めつけないで」


女「ともかく、早く催眠術を使ってみるんだ。本当に使えるか、私にもわからないからな」

男「いや、じゃあ自分で使えばいいじゃんか」

女「この催眠術は性別が男でないと使えないんだ。注意書きにそう書いてある」

男「意味がわからない」

女「具体的に言うと、女が使うと爆発する」

男「怖いよ……もしそれが本当なら、俺は全人類の半分を爆死させることができる代物を手にしてるってことになるからね」

男「百歩譲って催眠術を試すことにしたって、相手がいないじゃんか」

女「ここにいるだろう」

男「……なんで自ら実験体に? 本当に意味がわからないよ」

女「それだけの覚悟があるというわけだ。……男、君の夢を叶えるためならな」

男「だから俺の夢を改竄しないで」

男「……うーん、わかった。じゃあかけてみるよ?」

女「どんとこい」

男「えーっと……」パラパラ

男「『紐にくくりつけた五円玉を、対象者の前で揺らす。そして「アナタハ、ダンダン、ネムクナル」と唱えれば』――って! えらく古典的じゃないかなあ!?」

女「催眠術なんて、総じてこんなものだ」

男「ホントかなあ……」

女「ほら、ここに紐にくくりつけた五円玉がある、これを使え」

男「用意いいなあ……」

男「えーっと、じゃあやるよ? アナタはだんだん眠くなるー、アナタはだんだん眠くなるー」ユーラユーラ

女「……」ジー

男「アナタはだんだん、眠くなるー」ユーラユーラ

女「……」ボー

男(あれ? なんかぼーっとしてきてる?)

男「アナタはだんだん、眠くなるー」ユーラユーラ

女「……」トローン

男「アナタは……って女? 女?」

女「……」トローン

男「これはもしかして、成功してる!?」

男「おーい」ブンブン

男「起きてるー?」トントン

男「朝だよー?」ペチペチ

男「…………っ!」ピコンッ

男「これは……成功してる……!」

女(……うむ、幼馴染が馬鹿で良かった)


男「えっとじゃあ! 手を上げて! あ! 右手ね!」

女「……」ソォー

男「おお! 本当にに上げた!」スゴイ!

女(なぜ、こんな簡単に騙される。お姉さんは心配だ)

女(しかし、この状況においては好都合だ)

女(奥手な男とはいえ、催眠術にかかってる美少女を前にして、やることは一つだろう……!)

男「……これなら……いや、でも……」

女(ふふっ、葛藤を始めたぞ)

男「たぶん、できる……だけど、女は、こんな如何わしいことのために、催眠術を教えてくれたんじゃない……」

女(いや、そんな如何わしいことのために、私はこの催眠術をでっち上げたんだ)

女(さあ早く! 催眠術にかかった美少女に命令を下せ!)

男「……しょうがない、うん、そう、しょうがないんだ!」

女(よし! 覚悟を決めたか!)

男「よし! じゃあ女! ここで待ってて!」

女(ん? 待ってて? あ、いきなり道具ありのプレ――)

男「今から単位落としそうな授業の教授に催眠術かけて、単位もらってくる!!!」

女「待ちたまえ!!!」


男「ぅわあ! お、女! なんで!?」

女「君の発言に驚いて、思わず催眠が解けちゃったんだよ!」

男「そ、そうなんだ……催眠は驚かすと解けるんだ……」

女「馬鹿を言うな! あんなテキトーなやり方で、催眠術にかかるわけがないだろう!」

男「ええ!?」

女「『ええ!?』じゃない! こっちが、ええ!? だ!」

女「なんだ、『催眠術をかけて教授に単位をもらってくる』って! なんなんだ!」

男「いや、だって、あのおじさん教授の授業、単位落としそうだったから……」

女「こんな美少女を置いて、おっさんに催眠術をかけに行こうとしたのか!? 君はホモか!!!」

男「え!? いや? えええ?」

女「なんだその煮え切らない反応! やはり君はホモなのか!?」

男「いや、ホモじゃないよ!? ……なんで教授に催眠術かけようとしたらホモになるのさ……?」

女「催眠術はエロいことのために使うわものだろうが! たわけ!!!」

男「え、ええー……?」


女「こんな美少女に催眠をかけたんだぞ!? こんなチャンスもう二度とない! さすれば、エロい命令をするのが当然だろうが!」

男「当然、かなあ……?」

女「当然だ! 健全な青少年ならばな!!!」

男「いや、それはどうだろう……」

女「ホモの君にはわからないだろうがな!!!」

男「ホモではないからね、さっきから言ってるけど」


女「じゃあなんでエロいことを命令しない!!!」

女「……いや、だって、女は大切だし、そんな催眠術なんて状況下で襲いたくはなかったんだ」

女「え……?」

女「俺は、女、君のことが好きだ……」

女「私も、君が……」

女「って展開じゃなければ許さないぞ!!!」

男「え、ええー……」


女「さあ! はやく!!!」

男「いや、もうさっきの小芝居やられた時点で、その展開に持ち込むのは至難の業だと思うんだけど……」

男「ていうか、女って、俺のこと好きなの?」

女「……あ、いや、これは」

男「俺も女のことは好きだけどさ、こんな勢いなまま告白してもしょうがないでしょ?」

女「あ、ああ、まあ、そうだな。そうしよう、では日を改めて……」

女「……ん?」

女「君は、今、私にさらっと告白しなかったか?」

男「え? ああ、まあ、そうだね。さらっとしちゃったね」


女「ちょっと待ちたまえよ、男……」

女「私はテンション高く、勢いのまま告白してしまったし、君も冷めたテンションでさらっと告白してしまった」

女「これは、どう収拾をつければいいんだ?」

男「どうって? 付き合えばいいんじゃない」

女「だから待ちたまえよ、男よ」

男「はい」

女「私もね、君が私を好いてることは知っていたよ。私は美少女だからね」

男「さすがだね」

女「でも、ほら、こういうのは男から告白するものだと思うのだよ。だから、私は君からの告白待っていたんだ」

男「俺は女ほど察しがよくないから、女が俺を好きだなんて知らなかったもん」

女「そうだ、私の好きな君はそんな奥手な男だ」

男「どうも」

女「だからこんな強行手段に出たんだ。ロマンチックな告白は捨てようと思ったんだ。君から想いを告白してくれるなら、それで妥協しようと思ったんだ」

男「うん」

女「その結果がなんだ? なんかよくわからないうちに、私が君に告白してしまい、君もさらっと返してしまった」

男「だね」

女「私の頑張りはなんだったんだ……?」


男「うーん……」

男「そうだなー」

男「とりあえず、単位落としさそうな授業のレポートやっていい?」

女「……私はそんなマイペースな君が大好きだよ」ハァ‥

男「俺もー」



おわらないからおわる

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