キョン「犬?」 (19)

 最近、何故かは知らんがハルヒの様子が少しおかしい。元々おかしいのは百も承知だが、
それに輪を掛けておかしいのだ。具体的な例を挙げると、とにかく処構わず俺にくっついてくる。
少々誤解を招きそうな言い方なのだが、事実だったりするわけで致し方ない。

 休み時間などはあまり動き回るということはないので、何時もと同じと言えばそれまでだが、
一度移動教室ともなると確実に俺と行動を伴にしようとする。その意図はまったくもって不明なのだが、
谷口が冷やかしてきたり、クラスメイトの生暖かい視線を感じるのは俺の精神衛生上よろしくない。
止めさそうとはするのだが、ハルヒは聞く耳を持たないから困ったもんだ。

 ハルヒの目を盗んで古泉にいろいろ原因を訊ねてみるのだが、上手くはぐらかされて結局はわからず仕舞い。
一つだけ言えるのは、古泉もクラスメイトと同じ生暖かい視線を投げ掛けてくるってことぐらいだ。

 さて、そんなハルヒなのだが、この二、三日でさらにその行動が不可解になってきた。
昼休みだろうが、授業中だろうが、時と場所を考えずに構って欲しいオーラを発散している。
特に具体的な要望などがあるわけじゃないが、少し隙を見せると構って欲しそうな視線が突き刺さる。
それを無視すると実力行使と言わんばかりに、俺に触れようとしてくる。
授業中にそれをやられるとたまったもんじゃない。授業に集中している時はもちろんのこと、
夜更かしをした日が特にひどい。

 体は睡眠を欲しているのに、意識はハルヒのせいでめくるめく夢の世界へ羽ばたくことは不可能だ。
頼むから寝かしてくれと言ったところでハルヒが俺の意見に耳を傾けることはない。
そして、夢と現実の狭間を漂いながらハルヒの相手をすることになる。

 なら、そんなものは無視し続ければ良いと思う奴がいるかもしれない。俺もそう思って、一度実践してみたことがある。
ハルヒの構って欲しいオーラを無視し続け、さらにその後の構って欲しいとつついてくるのを無視し続けた。

 てっきり「ちょっと!団長のあたしが呼んでるんだからこっち見なさいよ!」と、
怒鳴られることを予想していた俺は、ハルヒの次の手がまったくの予想外だった。
怒鳴られた時のために、言い訳やら非難やらをあれこれ考えていたのがどれもこれも役に立たない。
なんせ、あのハルヒがショボーンという擬音語がぴったりな落ち込みを見せたからだ。

 怒鳴るわけでもなく、文句を言うわけでもなく、ただ落ち込んでいる。
その哀愁すら漂っている様子を見て、俺の良心がズキズキと痛んだ。そして、
とうとうハルヒを構ってやることにしたのだ。

vさて、少々前置きが長くなってしまったが、これで近況はわかっていただけただろうか。
とにもかくにもハルヒの様子がおかしい。それ以外は比較的穏やかな日々が続いていたある日のことだ、
今日も元気だご飯が上手い!なんてわけのわからないフレーズが頭の中をぐるぐると回っている俺は、
何時も通り文芸部の部室へと向かっていた。もちろん、ハルヒを引きつれてな。

「ほい、王手っと」

「む…。待ったとかはなしですかね?」

 残念ながら無しだ。

 俺と古泉は将棋で、長門は読書。朝比奈さんは部室内の掃除をしていらっしゃる。
代わり映えのしない団活風景なのだが、その中で異彩を放っているやつがいる。
言わずもがな、我らが団長のハルヒである。座ってぼんやりとしている分には何の問題も無さそうだが、
座っている場所に問題がある。それはどこだ?俺の膝の上だ。

 右手で駒を動かしつつ、空いた左手でハルヒをそっと撫でている。
何も訊くな。何も言うな。言いたいことはわかっている。
しかし、古泉に「世界平和のためです」なんてことを言われると、
俺はそれに逆らうことなんて不可能だ。朝比奈さんの泣き顔や長門に迷惑を掛けることなんてできやしないからな。

「ハルヒ、ポッキー食べるか?」

 古泉が長考している間、ハルヒにそう訊いた。

「別に欲しくないけど貰っといてあげるわ!」

 なんてことを目を輝かせて言われて、誰がそれを信じるというのだろうか。
苦笑しつつ、カバンの中を漁って今朝コンビニに買ってきたポッキーを取り出す。
それは直ぐ様ハルヒに奪い取られ、俺の許可もなくバリバリと封を開け始めた。文句を言うわけじゃないが、
そんなに焦る必要もないだろう。誰も取ったりなんてしないさ。

 ポリポリとポッキーを齧るハルヒを撫で続けながら、まるで子犬みたいだななんて思う。
性格にもよるが、たいていは甘えたがりで、人懐っこい。少し遊んでやると、
こちらの都合など考えずに構って欲しそうにする。まさに、今のハルヒそのものだ。
そう思うと、ハルヒがどうしようもないくらいに可愛く感じられた。

「何よ?」

 そんな俺の視線に気が付いたハルヒが、ポッキーをくわえたままで顔をこちらに向けた。

「何でもない」

「あっそ。構って欲しいとか思ってないから。ポッキー食べるのが忙しいんだから邪魔しないでね」

「はいはい」

 適当な相づちを打ち、俺はさらにハルヒを撫でてやる。気持ちよさそうに目を細めるハルヒに、
俺は何とも言えない満足感と幸福感を抱くのだった。

終わり

すまんな、短くて

キョン「Are you jhon?」

「ねぇ、ジョン。宇宙人とか超能力者に知り合いはいないの?」

 ジョンって誰だ?俺だ。

 まったく、どうしてこんなことになったんだろうね。北高に入学してまだほんの一週間程である。
それなのに、俺の後ろに席を陣取っている涼宮ハルヒはそんな電波な内容の話題を俺に振ってくる。
そもそも、ジョンってなんだよジョンって。中学の時から使われているあだ名であるキョンなら判らないこともないが、
何故か涼宮ハルヒは俺のことをジョンと呼ぶ。その理由を訊ねたところ、

「ジョンが自分でそう名乗ったんでしょ」

 という御言葉が返ってきた。わけがわからん。俺がそう名乗ったと涼宮は言ったが、
俺は涼宮とは北高に入ってから知り合ったわけであって、事実に矛盾する。他人の空似ってオチだろう。
涼宮みたいな頭のネジがぶっ飛んでいる、インパクトの強い奴に出会っていれば、きっと忘れようもないだろうさ。

「で、どうなのよ?」

何がだ?

「だから、宇宙人とか超能力者の知り合いはいないのかって訊いてるの」

目を輝かして、俺のことをジッと見つめる涼宮。普通にしていればかなり可愛いのだが…。

「いるわけないだろ。どこをどう見てもただの一般人だ」

やれやれと肩を竦める。貴重な昼休みをこんな無駄な問答のために浪費しているかと思うと、げんなりだ。
こんな調子じゃ友達を作ることすらままならない。それどころか、大半の男子からは羨みと怨みの籠もった視線に晒され、
少数の男子からは――谷口とか言う奴を筆頭に――憐れみの視線を投げ掛けられる。
その憐れみの視線を向けてくる連中に共通すること。それは、全員涼宮と同じ東中出身だということだ。

 谷口の話を聞く限り、涼宮は中学の頃から少々――いや、かなりぶっ飛んでいたらしい。
しかし、今みたいに明朗快活というわけではなく、いつも不機嫌そうだったという。
高校デビューなんて言葉をよく耳にするが、きっとそれに近い何かなんだろうね。理由が何であれ迷惑な話だ。
いや、理由が俺らしいという話も出ており、迷惑さ倍増だ。

「実はいるんでしょ?誰にも言わないからあたしだけにこそっと教えなさいよ!」

 そんなバカでかい声で話していたら隠すも何もないだろう。というか、俺の話を聞いてなかったのだろうか。

「何よ?」

「いや、別に…」

 目の前にいる年中晴れハレな感じの涼宮が、中学の頃は今とは全然違うと言われてもいまいち想像できない。

「そういえば、ジョンの不思議な能力っていったい何なの?三年前に今と同じ格好で出会ったから、やっぱりタイムトラベル?」

 俺の思考はさて置き、涼宮が有りもしない俺の能力について考察を始めた。涼宮のトンデモ話によると、
どうやら涼宮は三年前の七夕に今の俺と出会ったらしい。その話は確実に真実ではないのだが、仮にそうだと仮定すると、
今涼宮が言ったとおり俺は時間を跳ぶことができるらしい。実は隠れた能力がある日突然芽生えて、
時空間を跳べるようになったと考えればつじつまは合う。

 つまり、今の俺は休眠状態で、そのうち何かの拍子に覚醒なんかして超能力に目覚めるのだ!
…馬鹿馬鹿しい。そんなのはアニメや小説の中で十分だ。
いや、今時のアニメや小説だってもう少しまともな設定だったりするだろうよ。
しかし、『事実は小説より奇なり』なんて格言もあるわけだし、もしかすると俺は――いかん、
どうやら俺の脳細胞も涼宮ハルヒという猛毒に冒され、妄想がはびこるようになってしまったようだ。

「あ、やっぱりそうなんだ」

 俺が脳内で客観的意見を論じあっている様を見て、涼宮は何故か一人で納得したようだ。困る。
それは困る。そんなことを言い触らされてみろ、確実に俺は涼宮の仲間入り決定だ。
涼宮が一人でそういうことに興味を持つことは結構なことだと思う。そういうのは個人の自由であって、
他人があれこれ口出しするようなことでもないだろう。しかし、だ。その中に俺も含まれるとなったら話は別だ。
俺は一般人であるわけで、そんな奇妙なことには正直言って関わりたくはない。変人・奇人は涼宮だけで十分だ。
だから、断固として否定しなければならないのだ!

「あのなぁ。俺の話を聞いてたのか?頼むから俺を巻き込まないでくれよ」

「ジョンのくせに生意気よ」

 いったい何様のつもりだろうか?

「あのね、ジョンが居るかもしれないと思ったからあたしは北高を選んだの。
そしたら、その読みはばっちり当たったわけ。これって運命じゃない?あ、運命とかあたしは信じるほうよ。
理由は、そっちのほうが面白そうだから。話が少し逸れたわね、戻すわよ。で、何が言いたいかってことなんだけど。
せっかくあたしとジョンは廻り合ったんだから、二人で協力して世界を大いに盛り上げないとダメなのよ。だから、
あたしを失望させないでね」

 涼宮の中では、もう既に俺はよくわからん計画に組み込まれているらしい。まったくもって勘弁願いたいところだ。

「まずは名前よね…」

 ぶつぶつとあーだこーだと呟いている涼宮はやけに楽しそうで、
尚且つ誰にも止められないんじゃないかっていうオーラすら纏っている。迷惑極まりない。

「そうよ!世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団で、SOS団よ!あたしが団長で、ジョンは団員その1よ!」

 突っ込みどころ満載過ぎて、どれから突っ込みを入れたらいいのやら…。とにかく、これだけは、はっきりさせておかないとな。

「俺はパスだ。涼宮だけでやってくれ」

「却下よ。もう、さっき言ったでしょ。失望させないでって」

 爛々と目を輝かせている涼宮にきっと何を言っても無駄だろう。
不本意ながら、俺はSOS団だなんて活動内容が一切不明な団に入団させられた。
これで、安らかなる俺の高校生活は泡となって消えたわけだ。まったく、やれやれだ。

「まずはジョン以外に団員を集めるのと、場所の確保ね」

 萌えキャラは重要だとか、クールキャラも必要だとか、謎の転校生も欠かせないだとか、
今後の予定を立てている涼宮のことを見て、俺はこう思うのだった。



――ポニーテールが似合っているとな。

終わり

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