ライナー「ぐああ!俺の膝が!」キース「苦しめ苦しめ」(61)

ある夜、宿舎の影。ライナーがベルトルトとアニを呼び出した。

「これをお前たちにやろう」

アニとベルトルトは、唐突なライナーの発言に対して疑問を感じながらも、
ライナーが差し出す袋を受け取った。

袋には何かやわらかいものが入っているようで、
指で袋越しに押すと、指が「何か」を潰しながらその「何か」に沈んでいく感触がして、少し気持ちが悪い。

その「何か」は冷たくはなく、どちらかといえば生暖かい、
どこか生ものを思わせる温もりをしていた。

「これはなんだい」アニは袋を揉みながらライナーに聞く。

「何か柔らかいものが入っているようだけれど」

「それは肉だ。お前たちの士気向上のための、俺からの支給品だよ。」

「何が支給品だ。あんたは私たちの上官にでもなったつもり?」

アニとベルトルトは、袋を開け中を確認してみる。

確かにそこには肉が入っていたが、それは通常の肉の形状を保っておらず、
挽き肉上になったものだった。

「しかも挽き肉じゃないか。……まさか人間の肉じゃないだろうね」

アニは袋の中の肉を見ながら、少し表情を強張らせる。

ライナーはアニの発言に意表を突かれたのか、少し驚いた顔をした。

自分たちの立場上、最もよく見てきた挽き肉は人間のものだ。

挽き肉は彼らに凄惨な現場を思い起こさせる。

その肉の正体を知っているライナーはともかく、
何の肉か知らないアニがたじろぐのも仕方のないことだった。

「それは豚と牛の合挽き肉だ。肉は高い。それを手に入れるだけでやっとだったんだ」
ライナーはアニを安心させるように笑う。

「まともな食事ができない俺たちだ。
それを食って来たるべき時のために力を蓄えておいてくれ」

ライナーはアニの表情がいつもと変わらないものに戻っていることを確認すると、
そのまま話を続けた。

「アニはハンバーグが得意だっただろ。ベルトルトは餃子でも作れ」

アニの表情は優れない。
アニは肉に興味がないのか、いかにも面倒くさそうな顔をしていた。

このままでは挽き肉を調理せずに放置させ腐らせるか、
それともサシャに挽き肉を発見され面倒なことになるかのどちらかだった。

おそらく後者の可能性のほうが高いだろう。
ベルトルトはぼーっとしている。

「それに肉を食えばお前の身長も少しは伸びるんじゃないか」
ライナー、ハハハハと豪快に笑う。

ライナーはアニに発破をかけた。

しかしその発破はライナーの想像するものとは違う効果をアニに与えたようで、
アニの身にまとう雰囲気が黒く熱いものに変わった。

アニは布団の中で寝返りを打った。

ミカサがうるさい。

ミカサは先ほどからエレンの名前を呟いては、
息を荒くさせ布団の中でもぞもぞと動いていた。

アニがミカサの布団に目をやると、
ミカサは布団の中でくねくねと身をよじらせていることが布団の動きでわかる。

何をやっているんだ。
アニは思わずため息をつく。

そのため息を聞き、クリスタがこっそりとアニの方に顔を向ける。

「アニも起きていたんだね」
クリスタはミカサに気付かれないように、声を潜めてアニに話しかける。

どうやらアニとクリスタ以外の訓練兵はもう寝てしまったらしい。

訓練が始まった始めのころは、
ユミルがミカサの所業に夜中にも関わらず声を荒げていたが、
今では環境音になってしまったようだ。

しかし、ピュアなクリスタはそう簡単には慣れなかったようで、
アニはミカサが呟くエレンの名前が気になり眠れなかった。

「さっさと寝な」
アニはクリスタにそう言うが、クリスタは意に介さない。

「ねえ、今日のミカサいつもより激しくない?」

クリスタは、ミカサを見ながらにやにやと笑う。
「何かあったのかな?」

アニは、ミカサの方を見てみた。

ミカサが中にいるのであろう布団は激しく動き、
アメーバのようにぐにゃぐにゃと形状を変えている。

アニがその様子を眺めていると、不意に布団の形状変化が止まり、
布団とベッドの隙間からひょっこりとミカサが顔を出した。

「何?」

「ミカサがなんだか機嫌がいいみたいだから、何でなんだろうなってアニと話していたの」

クリスタのその発言にミカサは待っていましたという顔をする。

「エレンはジャンに騙されて、今日の夕食が肉料理だと思っていた。
しかし、今日の夕食はいつもと同じスープとパンだった。
あの時の哀愁を帯びたエレンの表情は、私に新たな性癖を植え付けた。
この年齢にして新たな私の発見。
もちろん後でジャンの前歯を全部へし折って、エレンの敵も討った」
ミカサは今日の出来事を饒舌に話した。

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