少年「300年言えなかった言葉。」(46)

少年は少女の幸せを願った
少女は少年の幸せを願った
星が紡ぐ物語の中で
終わらない命を願った少年のお話


人類の滅んだ惑星で。
僕と少女は星を見ていた。
誰もいない河原で、ただ二人。
「星、綺麗。」
僕の隣で少女がポツリと呟く

少女というのはあだ名だ。
本当の名前は忘れてしまった。
…まあざっと300年ぐらい生きてるからね。
僕は少女から少年と呼ばれている。
これもあだ名だ。
本当の名前は僕自身思い出せない。

「星とは岩、金属やガスの塊だ。
あんなものを『綺麗』だなんて僕には理解出来ないよ。」
クシュンとくしゃみを一つ。
「寒っ。なんで冬に星なんて見にこなきゃいけないんだ。
早く家に帰りたいんだが。」
ああまた言ってしまった。
つくづく夢のない奴だと思う。

「でも、綺麗。」
「だから?」
そもそも僕は星が嫌いだ。
少女と一緒でなければまず星なんてわざわざ見にこない。
「それだけ。」
「…そっか。」
素っ気なく返す。
僕のボキャブラリーが少ないため、
気の利いた事が言えない自分を恨む。

「ねえ少女。もし、僕が少女に『死んで欲しい』って言ったらどうする?」
何言ってんだ。僕は。
少女が僕を見る。
自然と目をそらしてしまう。
「勿論死ぬに決まってる。当たり前の事。そんなこときいてどうしたの?少年。」

凛と僕の方を見て、力強く言い放つ少女。
…分かっていたけど。
嬉しい。
僕は少し変みたいだ。
心臓がドキドキする。
「じゃあ逆に。

少女の女の子にしては少し低くて、よく通る声。
「私が少年に『死んで欲しい』って言ったらどうする…?」
何故だか頬を赤く染めながら、俯き加減に言う少女。

「少女を殺して僕も死ぬよ。」
「なんで?」
驚いた様子で少女がたずねてくる。
「ひとりぼっちは淋しいから、
かな。」
「…何故?」
まだ問うか、少女。

「質問が多いね。僕は少女が望むのであれば喜んで心臓を差し出すよ。
でもね。」
少女の眉がピクリと動く。
「…でも。僕が死んだら少女はひとりぼっちじゃないか。僕は少女に一瞬でも淋しい思いをさせたくないからね。」
あ、今ちょっと少女嬉しそうだった。

「少年優しい。惚れる。」
僕の大好きな笑顔で、心底嬉しそうにいう少女。
「…ありがとう。」
苦笑いしながら答える。
「でも少年は死ぬことは出来ない。」
え?
「え?」

思っていたことをそのまま声に出す。
「私は少年に死ねなんて言わない。」
「そっか。」
なんだ、そういう事か。
「それに、少年は、どんなに苦しくても、死ぬことが出来ない。」
「やめて、少女。」
「歳をとることも、出来ない。」
「やめて。」
「…私と少年は、世界から弾かれてしまっているのだから。」
「やめろ!!」
「勿論私も。」


淋しそうに、…何かを悔しがるように
少女は言いきった。
少女の瞳が少し潤んでいたことは、
気づかないふりをしてやる。
「少年。」
「何?少女。」
「私は少年が幸せならそれで良い。
私は、死んだって構わない。」
「さっきも聞いた。」
「だから私が不必要になったらいつでも言って。」
なんて献身的なんだ。
…僕はふと少女を試したくなった。

「じゃあ消えてみてよ。」
静かな世界に重く響く。
「……え?」
驚愕の目で僕の顔を見る。
改めてみると少女って綺麗な顔立ち
してるなー。こんなにまつげ長かったんだ…おっといけない。思わず魅入ってしまった。
「ほら、僕の為なら出来るでしょ?」

「え…で、でも……。」
「…さっきの言葉は嘘だったん
だー。ふーん、そっか。」
何か言いたげな少女を無視して
僕はおもむろに立ち上がり、
「もう、少女は必要ない。
じゃあね。少女。もう会うことはないと思うけど。」
吐き捨てるように昔、テレビで聞いた
セリフを唱えてみる。

「ぁ……あぅ…ぁ……。」
少女は弱々しく立ち上がり何を
つかむわけでもなく、ただ手をワナワナと開閉させている。
あのときの少女の顔ったら傑作だ。
僕は踵をかえし、“僕ら”の家へと帰った。

僕らと言うのは少女と僕の事だ。
僕たちは一つ屋根のしたで暮らしている。
一つ屋根のしたといっても、アパートの一室なので人類が滅ぶ前はたくさんの人と暮らしていたから一つ屋根のしたとは言わないよな…なんて屁理屈は辞めて、少女の帰りを待つ。

部屋に入り、ハンガーにコートをかける。あんなに寒いのならマフラーも付けていけば良かった。
チラッと時計を見る。
今の時刻は8時32分。
さっきはあんな態度をとってしまったが、僕は少女の笑顔が好きだ。
少女が、じゃなくてあくまで少女の笑顔が、だ。
少女が笑うと心が温かくなる。
ずっと見ていたいほどだ。


自分でいうのもなんだけど、少女は僕に惚れている。断言できる。
きっと、いや絶対、少女は帰ってくる。
目を真っ赤に腫らして、申し訳なさそうに
「さっきはごめん。お詫びに少年の好きなもの、なんでも作ってあげる。」
と最高の笑顔で。
うん。きっとそうだ。
今の内に不機嫌な顔の練習でもしとくか。

ーーー遅い。
遅い。遅過ぎる。
帰ってきたのが8時32分で今は
11時ジャスト。
もう不機嫌な顔のバリエーション、40は突破したぞ。
ごろんと寝っころがる。
「何やってんだよ…少女……。」
なんで泣きそうになってるんだ僕は。

「…っと!」
足を上に上げ、勢いよく振り下ろし起き上がる。
コートを羽織り、マフラーを付ける。
勿論少女を探しに、だ。
「大丈夫だとは思うけど。」
ボソッと言ってみる。
そんな言葉とは裏腹に勢いよく部屋から飛び出す。

久しぶりに全速力で走ったわ。
「っ…はぁ!」
唐突に思い出したが、家の鍵閉め忘れた。
「まぁ、いい、かぁ…っ!」
息がきれて途切れ途切れになってしまう。
今一番大切なのはーー
「…少女ぉおっ!!!」
少女を見つけて、謝ることだ。

河原の近くまできたとき、とても遠く電灯の
下にぼんやりと人影が見えた。
「少女っ!少女ぉっ!!」
速度を増して走る。
人影が近くなる。
胸が高鳴った。



ーーそうだ、伝えてしまおう。
僕の想いを少女に。
「君の笑顔が大好きだ。」って。
きっと少女は
「笑顔だけ……?」
と不安そうな顔をするだろう。

「勿論少女の事も好きだよ。」
なんて。
本当は笑顔が見たいだけだけど。
まってろよ、少女。今いくから。
もうハッキリと人影が見える位置まで来た。

どれぐらい走っただろうか。
とにかくたくさん走った。
僕の足は棒のようになってしまった。
速度を落とし、ゆっくりと、着実に少女へ近づく。



ーーーおかしい。
少女の足が地面についていない。
風が吹くたびにゆらゆらと揺れている。
まるでてるてる坊主みたいに少女の首から一本の紐が伸びている。
少女の顔は生気がなく、足元には泥のようなものが水たまりを作っていた。

「少女っ……??」
少女は。
少女は。

ーーー首を吊って死んでいた。

ヘナヘナと座り込む。

頭ではわかっているのに。
少女と話すことも、少女の名前を
呼ぶことも、少女に名前を呼ばれることも、少女と星を見ることも。
もう出来ないってわかっているのに。
「ほら、少女。星が出ているよ。」
ふと横を見ると少女がいるような気がして。

あんなに嫌いだった星が、凄く綺麗に見える。
夜空に浮き出たシミのような。
「綺麗だ。」
気がつくと僕の上だけに雨が降っていた。
冷たい雨が僕の頬を伝って行く。

「ああ。」
やっと気付いた。これは雨なんかじゃなくて、僕の“涙”だ。
なんだ。そうだったんだ。
僕は。

「僕は少女のことが好きだったんだ。」

笑顔が好き”なんて。
少女が好きって事を誤魔化して。
気付くのが遅すぎた。
「ごめんね。志保。」
そうだ。少女の名前。
思い出した。少女の名前。
志保だ。

僕はおもむろに立ち上がり、もう動かない少女だったものをおろした。
僕がもっと早く自分の気持ちに気付いていたら。
愛の言葉の一つや二つ、言えたかもしれないのに。

僕は愛の言葉の代わりに
「今いくね。」
とだけ呟いて少女が踏み台に使ったであろう台にのぼる。
「今いくね。志保。」
もう一度確かめるように呟く。
今まで少女がぶら下がっていた縄に首を通し、勢いよく台を蹴り飛ばした。
「ーー!ー!!」

少女の声が聞こえた気がした。





僕は死んだのか…?
「ーーじ!ーんじ!ーーー健二!!」
幻聴。死んでもなお僕は少女、いや志保のことを諦め切れてないみたいだ。

「……。」
右頬に衝撃。
少し遅れて痛みがやってくる。
「いッ!?」
どうやら叩かれたらしい。
ガバっと起き上がるとそこには

ーーー志保がいた。

「あれ……?僕、死んだはずじゃ…??」
僕が素っ頓狂な声をあげた刹那。


抱きしめられた。

「っ…健二のバカ…!」
「え?え?志保??」
そうだ。僕の名前は健二だ。


「300年も待ってたのに気付くのが遅い…!」

きっと志保は僕が好きって言わなかったことを怒ってるんだな。

「あ…ごめん……。」
「私もすっかりおばあちゃんになった…!」
「いやいや見た目は変わらないよ?」
「そういう意味じゃない!!」
「てか、なんで僕たち生きてるの??
あれ??」
「話をそらさないで!」

僕が状況を理解できずにいると

「…忘れたの?私たち、お互いの幸せを願った……///」

ニコッと笑う志保は可愛かったです。

お互いの幸せを願ったから、力(?)が
発動して生き返ったという解釈でいいのだろうか。

何にしても。
「志保。」
「なに?健二。」
300年言えなかった言葉。


「大好きだよ。少女。」


おわり

くぅ~w疲れましたw
がやりたくてss書き始めたけど、だんだんシリアスになったンゴwww
処女作です。
つまらなかったらすいません。

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