仮面ライダーぼっち(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。×仮面ライダー龍騎) (88)

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』と『仮面ライダー龍騎』のコラボ作品です。
八幡や雪乃達がライダーとなって戦います!
設定などはほとんど龍騎に準拠しますが、龍騎について知らない方でもわかるよう心がけて書きますので、「オレガイル」が好きな方は、ぜひ読んでみてください!




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『青春とは、嘘であり欺瞞である。

青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺く。

自らを取り巻く環境すべてを肯定的にとらえる。何か致命的な失敗をしたとしても、それすら青春の証とし、思い出の一ページにするのだ。

例を挙げよう。彼等は万引きは集団暴走などの犯罪行為に手を染めては、それを若気の至りという。試験で赤点を取れば、学校は勉強をするためだけの場所ではないという。

彼等は青春のニ文字の前でなら、どんな一般的な解釈も捻じ曲げてみせる。

彼らにかかれば、いかなる出来事も青春を彩るスパイスでしかない。

仮に失敗することが青春の証だというのなら、友達作りに失敗したものもまた、青春ど真ん中でなければおかしいではないか。しかし彼等はそれを認めないだろう。何のことはない。すべては彼らのご都合主義でしかないのだ。

なら、それは欺瞞だろう。嘘も欺瞞も、糾弾されるべきものだ。彼等は悪だ。

結論を言おう。青春を謳歌せし者たちよ、砕け散れ。』

「高校生活を振り返って」という作文の課題に対して以上の物を提出した俺こと比企谷八幡は、職員室で説教を受けていた。

「なぁ、比企谷。私が君たちに出した課題は何だったかな?」

現代文担当の教師平塚静が俺に詰問する。

「……はぁ、高校生活を振り返って、だったと思いますが。」

「それで、どうしてこんなものが出来上がるんだ?」

「どうしてといいましてもね……俺は素直に思った事を書いただけですよ?」

「君は素直になると犯行声明を書いてしまうのか?」

静がため息をつく。

「犯行声明って……ずいぶん物騒なことを言いますね。」

「物騒なことを書いたのは君なんだがな。……君の眼は腐った魚のような目をしているな。」

なんでいきなり俺の眼の話になるの?今までの流れとまったく関係ねぇだろ。

「そんなにDHA豊富そうに見えますか?賢そうですね。」

ぴくっ、と、静のこめかみに青筋が現れる。

おーこわ、怒りっぽい人だなぁ。

「比企谷、一応言い訳くらいは聞いてやる。」

「言い訳、ね。その時点で俺の意見を認める気がないじゃないですか。そんな人に言うことはありませんよ。」

「ほう、言うじゃないか。だがこういうときは普通、自分のことを省みると思うのだがな。」

「普通、ね。嫌いなんですよその言葉。俺いっつも集団からはじかれるような人間なんで。」

「屁理屈を言うな、小僧。」

「小僧って……そりゃあなたの歳からしたらゴフゥッッ!」

腹パンされた。なに?こいつ暴力教師かよ。

「何すんですかっっ!」

「言葉では伝えられないこともあるだろう。」

「あんた国語教師だろうが。早々に言葉の力をあきらめてんじゃねぇよ。」

「ふっ、国語教師だからこそさ。言葉にはできることとできないことがあると知っている。」

「わかりましたよ、書き直せばいいんでしょう書きなおせば。」

「当たり前だ。それと比企谷、きみに質問がある。」

「なんですか?」

不機嫌さを隠さずに俺は言う。もうこいつと話したくないんだけど。おっかない。

「君は、部活とかやっているのかね?」

「いいえ。」

「友達とかはいるのか?」

「平等を重んじるのが俺のモットーなんで、特に親しい人間は作らないようにしてるんですよ。」

「つまりいないんだな?」

「まぁ、そういう解釈もできますね。」

「やはりそうか!私の見立て通りだな!」

なんだこいつ。そんな俺を傷つけるだけの事実確認がしたかったのか?

「彼女とか、いるのか?」

とかってなんだよ。俺が彼氏いるって言ったらどうするつもりなんだこの人。

「今はいないですね。」

まぁいたことないけどね!

「そうか……よし、こうしよう。レポートは書き直せ。」

まぁ、異論はない。さっき自分で認めたしな。

「はい。」

「だが、君の心ない言葉に私が傷ついたのも事実だ。女性に年齢の話をしないのは常識だろう。」

「そっちは俺の体を傷つけたんだからお相子でしょう。」

「体の傷はすぐに治る、だが心の傷は一生治らないんだよ。」

知ったこっちゃねぇよんなもん。

「罪には罰を与えないとな。君には、奉仕活動をしてもらう。」

「奉仕活動……?」

なんだよ、面倒くせえな。こいつ俺の揚げ足とって自分の仕事手伝わそうとしてるんじゃねぇの。ま、いいか。今後は当たり障りのないことを書くようにしよう。

そう自分に言い聞かせる。

「付いてきたまえ。」

平塚先生に連れられて、俺は、我が総武高校の特別棟の廊下を歩く。

嫌な予感がする。というかこの人といて嫌な予感がしなかったことがない。まぁとても短い付き合いではあるけども。

階段を上り、ついに最上階の四階まで来た。

「着いたぞ。」

先生が立ち止ったのは何の変哲もない教室。プレートには何も書かれていない。

俺が不審に思っていると、先生はがらりとそのドアを開けた。

教室内には机と

椅子が無造作に積み上げられており、そのスペースの約半分が埋め尽くされている。

物置代わりか何かだろうか。特別な内装などは一切ない、普通の教室。

その中心に、彼女はいた。

座って本を読んでいる少女は、まるで世界の終わりが来ても彼女だけはそうしているんじゃないかと思わせるような、そう錯覚させるような雰囲気。

不覚にも俺は見とれてしまった。

彼女は来訪者に気付くと、本を閉じてこちらを見上げる。

「平塚先生、ドアを開ける時にはノックをお願いしたはずですが。いつになったらあなたには常識が身につくんですか?」

端正な顔立ち。しかしそこから放たれた言葉は刺々しかった。

「ノックしても君は返事をしないだろう?」

「返事をする前に先生が入ってくるんですよ。」

彼女は不満そうな顔をする。

俺は、この少女を知っている。二年J組雪ノ下雪乃。常に学年一位をとる秀才。その上容姿端麗で、この学校で知らない者はいないというほどの有名人だ。

「それで、そのぬぼーっとした人は?」

ぬぼーって、お前。俺は水地面タイプのポケモンじゃねぇッつーの。

「彼は比企谷八幡。入部希望者だ。」

「二年F組比企谷八幡です。って、おい、入部ってなんだよ。」

ここが何部かも把握していないってのに。

「君にはペナルティとしてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口答えは認めない。」

「そうですか……。」

俺はくるりと背を向けて歩き出す。俺は早々と帰ることにした。

「おい!どこへいく!」

「いや、口答えすんなっていったのはそっちじゃないですか。だから行動で示してるんですよ。」

「そんな言い訳が通じると思うのかね。」

「俺は別に悪いことしてませんからね。先生に年齢の話をしたからって理由だけで部活なんてまっぴらごめんですよ。」

「知らないのか?女性に年齢を聞くというのは、それだけでセクハラになるんだぞ?」

「別に聞いたわけじゃねーし。なら訴えるなりなんなりご自由にどうぞ。次は法廷で会いましょう。」

ったく。こんな茶番に付き合っていられるか。

「デス・バイ・ピアーシングッッ!!」

何故ブラックロータスの必殺技を?と聞く前に俺は勢いよく蹴り飛ばされていた。

「何すんだよ!」

「うるさいうるさい!口答えするな!いいからここで部活しろ部活しろ部活しろー!」

なんだこの人……子供かよ。

平塚先生に腕を掴まれ、再び教室内に引き戻される。

「というわけで、彼はなかなか根性が腐っている。そのせいでいつも孤独な哀れむべき奴だ。」

こいつ本当に殴ってやろうかな。

「人との付き合い方を学ばせれば少しは変わるだろう。」

暴力でしかコミュニケーション取れないあんたが言っても全く説得力ねーけどな。

「こいつを置いてやってくれ。彼の孤独体質の改善が私の依頼だ。」

「それなら先生が殴るなりなんなりして躾ればいいじゃないですか。」

なんてことを言いやがるんだこの女は。

「私だってそうしたいが最近そういうのはうるさくてなぁ。」

テメェさっき思いっきり俺に攻撃しただろうが。

「お断りします。その男の下卑た目を見ていると身の危険を感じます。」

雪ノ下が襟元をなおながら、俺を睨みつけながら言う。

「はっ!言ってくれるなぁ自意識過剰女。」

「自意識過剰、ね。仕方ないじゃない。私はあなたと違って美しいんだから。」

その通りなのが腹正しいところである。

「安心したまえ、その男は自己保身にかけては長けている。決して刑事罰に問われるようなことはしない。こいつの小悪党ぶりは信用していいぞ。」

「釈然としねぇ……。それは常識的判断ができるとか言えないんですかね。」

「小悪党……。なるほど。」

なんで初対面の相手にこんなに罵倒されなならんのだ。

「まぁ、先生からの依頼とあれば無碍にはできませんね。いいでしょう、その依頼、受けましょう。」

「そうか、なら後は頼んだぞ。」

あーああ、面倒事に巻き込まれちゃったよ。ポツンと取り残される俺。

なんだあいつは。もしかして美少女と二人で同じ部活をやっていれば、アニメやラノベよろしく人気者になる!とでも思っているのだろうか。だとすればとんだ見当違いである。訓練されたぼっちは甘い話など断じて持ち込ませない。

殺してぇー。

それに俺は、好きで一人でいるのだ。他人にどうこう言われる筋合いはない。
つーか俺は、ここでこの美少女様と何をすればいいんだろう。

「何か?」

俺の視線に気づいたのだろうか。雪ノ下が声をかけてきた。

「ああ、どうしたものかと思ってな。」

「何が?」

「いや、俺何も説明受けてなくてな。ここがなにする場所なのかもいまだにわかってない。」

俺がそういうと、雪ノ下は不機嫌そうに本を閉じ、こちらを睨みつけた。

こいつ睨まないと会話できねぇのか?

「では、ゲームをしましょう。」

「ゲーム?」

「そう、ここが何部かを当てるゲームよ。」

「あんた以外に部員は?」

「いないわ。」

ふむ、そうだな……。本物のぼっちには、常人にはない能力が一つだけある。それは、深い思考力だ。普段の生活で他人との会話にエネルギーや時間を使わないため、その分自分の中での思考は高度なものとなる。

特別な道具を必要とせず、一人でも活動が成り立つ。

ピカンと来たぜーッ!

「文芸部、だな。」

「違うわ。……[ピーーー]ばいいのに。」

なんでクイズに失敗しただけで死ななならんのだ。

「あー、お手上げだお手上げ。わかんねぇよ。」

「今私がこうしてあなたと会話していることが最大のヒントよ。」

なんだそりゃ?さっぱり正解に結びつかない。

「比企谷君、女子と最後に会話したのはいつ?」

……そう、あれは二年前の六月のことだ。

女子『ねぇ、ちょっと暑くない?』

俺『ていうか、蒸し暑いよね。』

女子『え?あ、うん。』

まぁ、俺に話しかけられてたわけじゃないんだけどね。俺の黒歴史の一つである。

「持つ者が持たざる者に救いの手を差し伸べる。これを奉仕というの。ホームレスには炊き出しを、もてない男子には女子との会話を。困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部活よ。」

「ようこそ奉仕部へ。」

ふむ、つまりはスケット団みたいなものか。

「優れた人間には、哀れな人間をすくう義務がある。あなたの問題を強制してあげるわ。感謝なさい。」

「憐れむべき人間……か。そんなふうに思っている奴には、誰も救うことなんかできねぇよ。」

「へぇ……口だけは立派ね。」

「つーかお前俺とあってから十分もたってねぇだろうが。俺が口だけかどうかなんてわからないんじゃねぇの?」

「……やはり、あなたの孤独体質はそのひねくれた考え方が原因のようね。それに、目も腐っている。」

こいつも俺の眼のこと言うんだ……。なに?俺の眼が腐ってるっていうのは人類の共通認識なの?

「目のことはいいだろ。」

「そうね、今さら言ってもどうしようもないものね。」

「そろそろ俺の両親に謝れよ。」

「確かにそうね。いちばん傷付いているのはご両親よね。」

「もういい、お前には罪を認めるということができないんだな。なら、これ以上話すことはない。」

「そうね、ある程度の会話シュミレーションは終了ね。私のような美少女と会話ができたのだから、大抵の人とは会話できるはずよ。」

雪ノ下は満足そうな表情を浮かべている。

「はいはいそれはどうも。」

「納得していないようね……。」

突如、がらりとドアが開けられる。

「雪ノ下、苦戦しているようだね。」

「この男がなかなか自分の問題を認めないんです。」

問題ね……。

「いい加減にしろよ、あんたら。さっきから変革だの問題だのと好き勝手に言いやがって。俺はそんなもの求めてない。あんたらの自己満足のために俺を巻き込むな。」

はたから見ればあなたの人間性には大きな問題があると思うわ。そんな自分を変えたいと思わない?向上心が皆無なの?」

「少なくとも、お前らよりはまともな人間だと思ってるよ。変わるだの変われだの、他人に俺の『自分』を語られ宅たくねぇンだよ。つーか、人に変われと言われた程度で変わるなら、そんなもんは『自分』じゃねぇ。」

「自分を客観視できないだけでしょう?」

「あなたのそれは、ただの逃げよ。」

「変わることだって、現状からの逃げだ。」

「それじゃぁ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない。」

「ああ、その通りだ。お前にはだれかを救うことなんてできない。」

俺と雪ノ下は激しく睨みあう。

「二人とも、落ち着け。」

険悪な状態の俺達を、平塚先生が止める。

「それではこうしよう。今から君たちのもとに悩める子羊たちを送り込む。彼らを君たちなりに救ってみたまえ。そして自分の正しさを証明するといい。スタンドアップ!ザ!ヴァンガードっ!!」

「お断りです。それと先生、年甲斐もなくはしゃぐのはやめてください。見ていて気分が悪いので。」

「と、とにかくっ!勝負しろったら勝負しろっ!お前らに拒否権はないっっ!」

俺達は表情を曇らせる。こんなとこだけは息ぴったりである。

「むぅ……なら君たちにメリットを用意しよう。勝った方がなんでも命令できる、というのはどうだ?」

なんでも……か。

「この男が相手だと貞操の危険を感じるのでお断りします。」

「貞操、ね。そんなもんじゃないさ。俺が勝ったらお前には、死んでもらう。」

「へぇ、おもしろいわね。いいわ、その勝負、受けてあげる。」

「決まりだな。」

はっ!しまった!いつの間にか乗せられてた!ちくしょーっ!

「勝負の裁定は私が下す。まぁ、適当に頑張りたまえ。」

そう言って、平塚先生は部室を去った。残された俺達は、それ行こう一切口を利かずに、読書をして、チャイムが鳴ると帰路に就いた。

ああ、面倒臭いことになっちまった。


お前…死にたいんだってなぁ…

さて、あんなことがあった次の日のことである。

今日もやっと、最後の授業が終わった。早く帰ること風のごとし!

部活?何それ。食べられるの?

教室のドアを開けるとそこには、悪魔がいた。

「やぁ、比企谷。今から部活かい?」

「……ええ、その通りです。」

「そうかそうか。それは良かった。逃げたらどうなるか、わかっているな?」

「わかってますよ。」

しぶしぶ俺は、奉仕部の部室へと向かう。その足取りは当然重い。

「ん?なんだこれ?」

三階から四階へとつながる階段で、俺は黒いバックルを見つけた。拾い上げてみてみるが、表にも裏にも何も書かれていない。真っ黒だ。

よく見てみると、バックルには2枚のカードが挟まれていた。

「SEAL」と書かれたカードと、「CONTRACT」と書かれたカードだ。

トレーディングカードか何かだろうか?まぁいいや。後で紛失物入れに入れといてやろう。

そう思い、ポケットの中にバックルを入れる。

部室に着くと、その鍵は開いていた。

椅子にすわり、一人読書をする。まぁ、こんだけでいいんならさほど生活に支障はないかな。

それは、突然の出来事だった。

「うっっ」

今までに味わったことのないような激しい頭痛に襲われた。

気持ちわりい。なんなんだこれ……。

次の瞬間、俺は自分の目を疑うことになる。

教室の窓から、突如糸が伸びてきて、俺の体に巻きついたのだ。そしてその窓の中には、巨大なクモの化け物が。

「が…はっっ…」

ものすごい力で糸に引っ張られる。

「や、めろ……くそ、ほんとに何なんだよ……」

そして俺は、

鏡の中に入った。

何を言っているんだと思うだろうが、事実なのだから仕方がない。

間違いなく、俺は鏡の中に入ったのだ。

その瞬間、重力が消えた。謎の浮翌遊感に見舞われる。頭痛はいつの間にか消えていた。

浮翌遊感が消え、目を開けるとそこは、先ほどと変わらぬもとの奉仕部の部室だった。

いや、変わらないわけではない。そこには、俺を引きずりこんだクモの怪物がいた。

「ひうっっ……」

俺は情けない声をあげてしまう。ふと、自分の手を見ると、それは先ほどまでの自分の物ではなかった。

灰色なのだ。手が、灰色。灰色で、金属質な感じがする。

「ああ?」

これは、夢だ。そうに違いない。いやだって鏡の世界なんて存在するはずがないし、俺の体おかしくなってるし。

すると、クモが巨大な脚で俺に攻撃を仕掛けてきた。

「ガァッ!」

痛い。めちゃくちゃ痛い。たとえ夢だとしても痛いのは嫌だ。俺は逃げようと思い、動こうとしたがその前に蜘蛛が糸を吐き出し、再び俺の体を拘束した。

身動きが取れない俺に、蜘蛛は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。

「ガキィン!」
その足が、俺の体を抉ろうとしたまさにその時。
何者かがその攻撃を止めた。
「驚いたわ。まだ契約していないライダーがいるなんて。」
どこか蝙蝠を連想させるような体の色をした、俺と同様金属で身を覆われたそいつは、俺にそう語りかけた。
「け、契約……?」
「どうやら何も知らずにきてしまっているようね。後ろで隠れてなさい。」
「Swword Vent」
そいつは俺が手にしたのと同じようなバックル(ただ、そいつのそれには中央に蝙蝠型のマークがあった。)からカードを取り出し、持っていた短剣にスキャンさせると、空から細長い槍が降ってきた。
その槍で蜘蛛に攻撃を繰り出す。
なるほど、あれで武器を出すのか。
「Swword Vent」
俺もバックルからカードを取り出し、(いつの間にかカードが一枚増えていた。)左手の機械にスキャンする。
同じように、空から剣が降ってくる。
「よしっっ!」
しっかりと剣を両手で握る。
「ウオオオオオオオッッ!」
「馬鹿、やめなさい!」
俺の振るった剣が、蜘蛛の足を切断する。
……そうはならなかった。無残にも砕け散ったのは俺の剣の方だった。
「ブランク体でモンスターが倒せるわけないでしょう!いいから下がってて!」
「す、すまん……。」
「キン!ガキィン!」
そいつは、蜘蛛と激しい戦いを繰り広げる。すげえ迫力だな。
「これで決めるわ!」
「Final Vent」
すると、どこからともなく蝙蝠が他のモンスターが現れる。
「ま、またモンスター!?」
「ダークウイングッ!」
そいつはそう叫び、高くジャンプする。すると、その体を蝙蝠が覆った。どうやらあいつは味方らしい。
蝙蝠と合体し、ドリルのような形で、敵に向かって急降下する。
「飛翔斬っっ!」
その攻撃は、蜘蛛の銅を貫いた。
大きな爆発を挙げて、蜘蛛が消滅する。
「すげぇ……」

戦いを終えたそいつが、俺の方に向かってくる。
「あなた、いったい何者?どうも巻き込まれただけのようだけど。」
「な、なぁ!これっていったい何なんだよ!教えてくれ!」
「本当に何も知らないのね。まぁ、いいわ。元来た道を戻りなさい。」
「元来た道?」
「鏡からこの世界に入ったでしょう。入ってきた鏡に体を触れれば、もとの世界に戻れるわ。」
「そ、そうか……グオッッ!」
突如空から、炎が降ってきた。見上げると、赤い龍のモンスターが空からこちらを見上げていた。
「無双龍、ドラグレッダー……。」
そいつはつぶやく。
「ハアアァァァッッ!」
叫び、龍のモンスターに向かっていく。
しかし、相手は空中にいるんだぞ?攻撃届くのか?
「Advent」
少女がカードをスキャンすると、再び蝙蝠のモンスターが現れる。
そして、そいつの背中にくっつくと、そのまま空中に飛び上がった。
なるほど、こうやって空中戦をするつもりか。
しばらくは力が拮抗していたが、敵は炎攻撃という遠距離技を持つのに対し、どうもあいつはそれを持たないようだ。
徐々に押されていた。
「グガァァッッ!!」
龍が頭からそいつに突進を仕掛ける。その勢いを殺しきれず、そいつは思い切り地面に叩きつけられる。
「ガァァーーーッ!」
追い打ちをかけるように、龍が空中から炎を吐く。
やばいだろ。このままじゃあいつやられちまうぞ。
俺はとっさにそいつのそばに駆け寄る。
「や、やめなさい。あなたでは何も……。」
いや、一つだけ可能性がある。おれがもっている「Contract」というカード。これは確か、「契約」とかそういう意味だったはずだ。
あいつが蝙蝠のモンスターを味方にしているのを見る限り、このカードを使えば、龍のモンスターを味方にできるかもしれない。
まぁ、この状況ではそれ以外に手はないだろう。
「おい!龍野郎!これを見ろっ!」
「ば、バカ……そんな事をしたら!」
龍が、俺に突進してくる。
くそ、無理だったか……?
しかし、俺が吹き飛ぶことはなかった。
龍のモンスターは、俺がかざしたカードに吸い込まれていった。
カードの絵柄が変わる。
先ほどまで渦が描かれていたそこには、赤き龍の絵が。
「Drug Redder」
「ドラグ……レッダー……。」
突如、俺の体に変化が起きる。
さっきまで灰色だったその体は、深紅の色に染まる。
力が、みなぎる。最後に、真っ黒だったバックルに、龍の紋章が浮かび上がった。
「仮面ライダー……龍騎……。」
そいつは静かに、つぶやいた。

「龍騎、ライダーになったからには、あなたは私の敵よ!」
そいつはいきなり、俺に攻撃を仕掛けてきた。
「な、何だ!何のつもりだ!」
「ライダーは、共存できないっ!」
「なに言ってやがる!」
「冥土の土産に聞きなさい。私は……仮面ライダー、ナイトっ!」
そいつ、いや、ナイトは、鋭敏な動きで槍を突き出す。
「くっそっ!とち狂いやがって!」
俺はバックルのカードを探る。契約したことで、そのカードは増えていた。
「何かないか……これだ!」
「Guard Vent」
龍の腕を模した楯2つを手に持ち、攻撃をしのぐ。
しかし、守るだけではジリ貧だ。
「この野郎、いい加減にしろっ!」
「Strike Vent」
龍の頭を模した武器を、左腕に装着する。
「くらえッッ!」
それを突き出すと、勢いよく炎が噴き出した。
「グウウッッ!」
敵がのけぞる。
ったく、こっちには戦う気なんかないっつーの!
「ちょっとだけ時間を稼いでくれよ、相棒。」
「Advent」
契約した龍が、敵に襲いかかる。
その隙に、俺は窓と俺の間にいたナイトを通り過ぎる。
「あばよっっ!」
入ってきた奉仕部の窓に飛び込み、俺は元の世界に戻った。

謎の世界から帰還した俺。夢オチかな?
そうだといいなぁ。
龍の紋章が浮かび上がったバックルを眺める。
「ガララッ」
そこに、雪ノ下雪乃が入ってきた。
「よお。」
「こんにちは、もう来ないと思った……え?」
「ん?どうした?」
「あなた、それ……」
「ああ、これか。俺もよくわかんねぇんだけどよ。」
「そう、ふふ。奇妙な縁もあったものね。」
「あ?何言って……」
雪ノ下はそう言って、ポケットに手を突っ込む。
「本当に、奇遇よね。」
彼女が手にしたのは、俺と同じようなバックル。そしてその中央に描かれているのは、蝙蝠のエンブレム。
「お前……。」
「そう、私は仮面ライダーナイトよ。比企谷君。いいえ、仮面ライダー龍騎。」
「お前!さっきは何なんだよ!いきなり襲ってきやがって!」
「当然でしょう?ライダーは共存できないって、言ったじゃない。」
「それが訳わかんねぇッつってんだ。何だよライダーって!」
「……そうね、別に教えてあげる義理はないけれど、何もわかっていない相手を攻撃するというのも卑怯かもしれない。いいわ、教えてあげる。」
「私も細かいところまでは知らないけどね。このバックルを手にして、モンスターと契約したものは、仮面ライダーと呼ばれる存在になる。そしてライダーは、モンスターや他のライダーと戦うのよ。」
「モンスターと戦うってのは、なんとなくわかる。だが、なんで同じ人間であるライダー同士が戦うんだよ。」
「最後に生き残ったライダーは、なんでも願いをかなえることができるのよ。」
「は、はぁ?なんでも願いがかなうって、お前それ本気で言ってんのか?」
「そうね、確かに普通ならあり得ないし、信じる方がおかしいんでしょう。でも、それでも、それにすがるしかない。そんな者がライダーになるの。どうしてもかなえたい願いがある者だけが。」
そうつぶやく雪ノ下の表情は真剣そのもので、とても茶化すことなどできなかった。
「仮面ライダーって、もっと単純な話だと思っていたんだがな。怪人を倒すとか、世界を救うとか。」
俺は毎週日曜日スーパーヒーロータイムを見ているが、そんなどろどろした仮面ライダー見たことない。クウガ、アギト、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ、フォーゼ、ダブル、ディケイド、ウィザード、鎧武……そんな重い話はなかったはずだ。

「さぁね、これを作った人の皮肉なんじゃないの?」
「そんなもんかね……。」
「まぁ、そんなこと私の知ったことじゃないわ。というわけで、ライダー同士が戦う理由はわかったかしら?それじゃぁ、戦いましょう。」
「ま、待てって!それで、負けたライダーはどうなるんだ?」
「死ぬのよ。」
いとも簡単に、彼女はそういってのけた。
「戦いに負けたら死ぬ。戦うことから逃げて、モンスターにえさを与えられなくなったら、契約モンスターに食い殺される。」
「えさ?」
「倒したモンスターやライダーのエネルギーが、契約モンスターの力になる。エネルギーを与えれば与えるほど、モンスターの力は強くなり、それに比例してライダーも強くなる。さぁ、もういいかしら?」
「だから待てって!俺は戦う気なんてない!」
「あなたになくても私にはあるのよ。それに昨日言ってたじゃない?勝負に勝ったら私には死んでもらうって。そんなことを言っていいのは、死ぬ覚悟のある人間だけよ。」
「あれは……それとこれとは話が……ウオッ!」
鏡の世界から、蝙蝠のモンスターが飛来し、俺を襲った。幸い回避できたが、一瞬でも遅れたら危なかった。
「なんのつもりだ?」
「わかっているでしょう?戦わないというなら、私はこうしてあなたを襲わせるわよ?」
「言ってもわかんねぇ奴だな。なら、一発ぶん殴って無理矢理にでも言うことを聞かせてやる。」
「その言葉を待っていたわ。」
俺達二人は鏡の前に立つ。
雪ノ下が、バックルを前にかざす、すると、鏡の中からベルトが出現し、彼女の腰に巻きつく。
「ミラーワールドに行く時はこするの。まぁ、あなたは今日で行くのが最後でしょうけどね。」
「変身!」
バックルをベルトに入れると、彼女の姿は雪ノ下雪乃から、仮面ライダーナイトへと変わった。
「まっているわ。」
そう言い残して、彼女は鏡の中に入って行った。
「くそ!やるしかないのか!」
バックれたいが、あんな化け物にしょっちゅう襲われてはやってられない。それに、家で襲われたら家族にも危険が及ぶ。
小町への危害は絶対に許さない。
雪ノ下がしたように、俺もバックルをかざす。
「変身!」
俺は再び、謎の世界へと入って行った。

「来たのね。しっぽを巻いて逃げると思っていたのに。
「あんなふうに脅されちゃあかなわんだろうが。こんなバカなこと、俺が止めてやる。」
「戦いを止めるために戦うライダー、ね。馬鹿なのかしら。」
「馬鹿はそっちだろうが。テメェにどんな願いがあろうと、絶対止めてやるからな。こんなこと、認めてたまるか。」
「なら、あなたは勝っても私を殺さないのかしら?」
「悪いかよ。」
「ふん、お人よしね。そんなことを言ったら私が手加減するとでも思っているのかしら?だとすれば甘すぎると言わざるを得ないわね。」
「別にんなこと思ってねぇよ。お前には昨日会ったばかりだが、そんなことをする奴じゃないということくらいはわかる。」
「そう、それはよかったわ。なら、そろそろ始めましょうか。」
「Swword Vent」
ナイトが再び槍を手にする。
「Swword Vent」
こちらも剣を手にする。先ほどのよわっちい武器ではなく、龍のしっぽを模した立派な剣だ。
「行くぞ!」
先に動いたのは俺だった。
「Nasky Vent」
ナイトが新たなカードをスキャンすると、契約モンスターである蝙蝠が飛来する。
「キィィィィィィィィィンッッ!」
とてつもなく高い音が、俺の耳を襲う。
平衡感覚を失う。何だ、これ……。
「ガキィ!ガキィ!ガキィン!」
まともに動けない俺を、ナイトが何度も槍で痛めつける。
剣で応戦しようとしたが、どうやらいつの間にか放してしまったようだ。
「ウアアッッ!」
最後に思い切り振りあげた彼女の攻撃で、俺は勢いよく吹き飛んだ。
「くそ……。」
「Strike Vent」
先ほど彼女を撃退した龍の頭型の火器を呼び出す。
「くらえええっっ!」
しかし彼女はジャンプして、軽々とそれをよける。
「Advent」
蝙蝠が再び現れ、彼女の背中に装着される。
そして、彼女は空高く跳びあがる。
くそ、空中戦?そんなのできね……いや、そうでもないか。
「Advent]
「ガアアアアアアァァァッッ!!」
けたたましい咆哮をあげ、ドラグレッダーが現れる。
その背中に乗り、俺も空中へと舞い上がる。
「頼むぞ!ドラグレッダー!」
龍のはきだす炎と、俺の左手から出す炎で、ナイトに遠距離攻撃を仕掛ける。
「そっちに遠距離武器がないのはわかってんだよ!」
彼女はさっきから、回避行動しかとれていない。
「蝙蝠が龍に勝てると思うなッ!」
「そっちこそ、あなたごときが私に勝てると思わないことね!」
「Final-Vent」
やべぇ、さっき見たあいつの必殺技だ。
ドリル状になって急降下する超威力の技だ。あんなもんくらってたまるかよ!
どうする?もうあいつは攻撃態勢に入っている。
俺はカードを取り出し、眺める。
これだっ!
龍のエンブレムが描かれた、他のカードとは少し使用が違うカード。
俺はそのカードを急いでスキャンした。
「Final-Vent」

そのカードをスキャンすると、俺は自然と高くジャンプした。
そのまま、キックの体制をとる。そんな俺の後ろから、ドラグレッダーが勢いよく炎を吐く。その炎が俺にあたったが、不思議と何の痛みも感じない。
「飛翔斬っ!」
「ドラゴンライダーキックっ!」
即座に命名したはいいが、何ともダサい。
俺とナイトが激突し、大きな爆発が起きる。
「グアアアアァァッッ!」
「うううううっっ!」
俺達二人は、無様に地上を転がる。
何とか立ち上がるが、完全に肩で呼吸している状態だ。
「はぁ……はぁ……まだ、やるつもりかよ。」
「そうしてもいいんだけどね。まぁ、いいわ。今日はこのあたりにしておきましょう。」
「へっ、そりゃよかった。」
俺とナイト、雪乃は元の奉仕部部室へと戻った。

「はぁぁぁ……酷い目にあったぜ。」
「ライダーになった以上、それは宿命ね。」
「けっ、戦いを仕掛けてきたお前のせいだろうが。」
「勝手に契約したあなたが悪いわ。」
さっきまで命がけの戦いをしたというのに、彼女の態度は昨日と寸分たがわない。
何というか、きもの座った女である。
そういう俺も、あんな戦いをしたというのに、彼女に対して悪感情は抱いていなかった。むしろ昨日よりも好感を持っているとさえいえる。
本気で戦ったら友情が芽生えるというあれだろうか。
なら、なら、俺と彼女は。
「なぁ、雪ノ下。俺と友達に」
「ごめんなさい。それは無理。」
「えー、まだ最後まで言ってないのに。」
この野郎、断固否定してきやがった。こいつ、全然可愛くねェな。
やはり、俺の青春ラブコメはまちがっている。

雪ノ下と戦いを終えた俺達は、昨日と同様チャイムと同時に解散した。
そしてその翌日である。
俺はしぶしぶ部室へと向かった。しかし、昨日ほど足取りは重くない。何故だろうな。俺にはさっぱり分からない。そういうことにして置いてくれ。
「よう。」
「こんにちは。」
にこりともせずに雪ノ下は挨拶をする。
「今日は戦おう、なんて言わないのか?」
「戦いたいの?私は別にいいけど?」
「勘弁してくれ。まだ体が痛むんだよ。」
「ま、今日は勘弁してあげるわ。」
「そりゃどうも。」
コンコン、と、ドアをノックする音が響く。平塚先生ではないだろう。あの人はノックなんかしないし。
「どうぞ。」
「失礼しまーす。」
緊張しているのか、少し上ずった声だった。
戸が開かれ、ちょっとだけ隙間が開いた。身を滑り込ませるように彼女は入ってきた。誰かに見られるのを嫌うようなそぶりだ。
肩までの茶髪に緩くウェーブを当てて、歩くたびにそれが揺れる。ちなみに胸も大きい。雪ノ下とは比べ物にならない。俺と目が合うと、驚いたような声を上げる。
「なんでヒッキーがここにいるのよ!」
「いや、俺ここの部員だし。」
ていうかヒッキーって俺のこと?
つーかこいつ誰だよ?正直言って全く覚えがない。
チャラそうな見た目。俺なんかとは全く接点がなさそうな奴だ。まぁほとんどの奴とは接点がないんだけどね!
「2年F組、由比ケ浜結衣さんね。」
「あ、私のこと知ってるんだ。」
由比ケ浜の顔がぱっと明るく輝く。
雪ノ下に名前を知られているというのは一種のステータスのようだ。
「お前良く知ってるな。何でも知ってるんじゃねえの?」
「なんでもは知らないわ。知ってることだけ。」
お前はどこの委員長だよ?何?猫になっちゃうの?
「それに、あなたのことなんて知らなかったし。」
「そうかよ……。」
「別に落ち込まなくていいのよ。あなたの矮小さに目をそむけた私の心の弱さがいけないの。」
「なぁ、それって慰めてるつもり?」
「ただの皮肉よ。」
「なんか……楽しそうな部活だね!」

由比ヶ浜がキラキラした目でこちらを見つめている。
「全く愉快ではないのだけれど。そう思われたことがむしろ不愉快だわ。」
雪ノ下は冷たい目をしていた。
「あ、いや、なんかさ。すごく自然な感じでいいなっておもって。」
「そういえば、比企谷君もF組だったね。同じクラスなのね。」
「え、そうなん?」
「まさか、知らなかったの?」
雪ノ下の言葉に由比ヶ浜がピクリと反応する。
「し、知ってますよ?」
「なんで目そらしたし。」
由比ヶ浜はジト目で俺を見る。
「そんなんたまから、ヒッキー、友達いないんじゃないの?」
腹が立つ馬鹿にしくさった目。リア充グループの一員だろう。つまり、俺の敵だ。
「……このビッチめ。」
「はあ?ビッチって何よ!私はまだ処……って、なに言わせるのよっ!」
由比ヶ浜は顔を真っ赤にして言う。
「別に恥ずかしいことではないでしょう?この年でヴァージ……」
「わー!なにいってるの、雪ノ下さん!女子力足りないんじゃない!?」
「下らない価値観だわ。」
「つーか、女子力って言葉がもうビッチ臭いな。」
「またビッチ呼ばわりした!ヒッキーマジキモい!」
「俺のキモさとお前がビッチであることは関係ないだろ。あと、ヒッキーって言うな。」
まるで俺が引きこもりみたいじゃねーか。あ、なんだ。これ悪口だったのね。なにそれひどい。陰口は良くない。だから俺は。正直に言ってやるんだ。
「このビッチめ。犯すぞ。」
「こんのぉっ!またいったな!ていうか犯すってなによ!最低![ピーーー]!」
「……簡単に[ピーーー]とか言うな。[ピーーー]ぞ?」
「あ、ごめん。そういうつもりじゃ……。えっ!?今言ったよ?[ピーーー]って言ったよ!?」

「それで、あなたは何をしにきたの?」
「あ、うん。実はね、助けて欲しいんだ。私の占いで、ここに来たらいいって出たから。」
「占い?」
「私の占いは当たるんだー。」
「まあ、いいけど。で、何をすればいいの?」
「うん、あのね、クッキーを……。」
言いかけて、ちらりと俺の方を見る。
ああ、俺がいたらまずいのか。
「比企谷君。」
雪ノ下が顎で廊下の方を示す。
失せろという合図だ。
ま、女子同士で話した方がいいこともあるのだろう。
「ちょっとマックスコーヒー買ってくるわ。」
さりげなく行動するとか俺優しすぎる。
俺が女子なら絶対惚れてるね。すると、雪ノ下も思うところがあったらしく、俺に声をかける。
「私はいちごミルクでいいわ。」
「……黙れよ。」
ナチュラルに人をパシるとか雪ノ下さん半端ねぇ。

特別棟の四階から一階までは、だらだら歩けば十分ほどはかかる。その間には彼女たちの話も終わるだろう。
どんな人間だろうが、これが初の依頼人だ。つまり、俺と雪ノ下の初の勝負だ。ま、あいつに死んでもらうとかは冗談だが、やるからには勝たせてもらおう。
購買の前にある怪しげな自販機には、そこいらのコンビニでは見かけられない怪しげなジュースがある。限りなく何かに似たそれらは、これでなかなかうまいから侮れない。
不気味な音を立てる自販機に俺は百円玉を入れる。マックスコーヒー、……あいつの分も買ってやるか。
三人中二人だけってのもあれだな。ボッチは俺のポジションだ。簡単に譲る気はない。
さらに百円入れて、スポーツドリンクを購入する。
しめて三百円。俺の所持金の半分が失われた。
俺金持ってなさすぎだろ。
「遅い。」
開口一番、雪ノ下が放った言葉がそれだった。
俺の手からいちごミルクをひったくる。この野郎……。
「おい、二百円。」
「は?」
「おい、お前自然に踏み倒す気かよ。」
「これは百円だったと思うけれど。」
「やられたらやり返す!倍返し!だろ?」
「はぁ……。みみっちい男ね。」
そう言って雪ノ下は俺に百円玉を渡す。どうやらパシった分の料金はくれないらしい。まぁ冗談だったからいいんだけど。
俺の手に残ったのはマックスコーヒーとカフェオレ。
それが誰の為のものなのか由比ケ浜も気づいたらしい。
俺は黙ってカフェオレを由比ケ浜に渡す。
「はい。」
由比ケ浜は俺に百円を差し出す。
「ああ、別にいいよ。」
「そ、そういうわけにはっ!」
雪ノ下はともかく、由比ケ浜の文は俺が勝手に買ってきたものだ。その分の金をもらうわけにはいかない。
かたくなに金を渡そうとする由比ケ浜だったが、俺が雪ノ下の方に歩いて行くのを見てあきらめたらしい。
「……ありがとう。」
小さな声で笑うと、由比ケ浜は微笑んだ。俺史最高の感謝の言葉だった。
満足して、俺は雪ノ下に話しかける。

「話は終わったのか?」
「ええ、あなたがいないおかげでスムーズに話が進んだわ。ありがとう。」
俺史最低の感謝の言葉だった。
「……そいつはよかった。」
「家庭科室に行くわ。比企谷君も一緒にね。」
「家庭科室?」
「なにすんの?」
「クッキー……。クッキーを焼くの。」
「はぁ、クッキーを。」
さっぱり話が読めん。
「由比ケ浜さんは手作りクッキーを食べてほしい人がいるそうよ。でも、自信がないから手伝ってほしい、と。」
「そんなこと友達に頼めよ。」
「う……、そんなこと、あんまり知られたくないし、占いでもやめた方がいいって出たし……。」
また占いかよ。最近の女子高生ってのはそんなもんなんかね。
由比ケ浜は視線を泳がせながら言う。正直言って他人の恋路なんてどうでもいい。
「はっ!」
「うう……。」
「へ、変だよね。私みたいなのがクッキーなんて……。」
「いや、変っていうか純粋に興味がないんだよ。」
「ひどい!ヒッキーまじきもい!あー、腹立ってきた。私だってやればできる子なんだからね!」
由比ケ浜が言ったその時だ。キーン、と、つんざくような高音が俺の頭に響く。
「由比ケ浜さん、では、先に家庭科室に行っててくれるかしら。私達は用意があるから。」
「うん、わかった。」
そう言って由比ケ浜は、教室を去った。
「雪ノ下?」
「モンスターが、来たわ。」
なるほど、あの音はモンスター襲来の合図ってわけか。
「「変身!」」

俺達が鏡の世界に着くと、すでに戦闘は始まっていた。
「……ライダー?」
モンスターと、別のライダーが戦っている。
赤とピンクの中間色のライダー。どこかエイを思わせる。
「Advent」
そのライダーが契約モンスターを呼び出すアドベントカードを使うと、予想通り赤いエイのモンスターが出現した。
エイはそのままモンスターに突進していく。
「グギャァァァッッ!」
断末魔を上げて、モンスターは消滅した。
「Swword Vent」
「はああああぁぁっっ!」
「ゆ、雪ノ下?」
槍を持った雪ノ下が、件のライダーに襲いかかる。
「え!?」
意表を突かれたライダーは、驚きの声を挙げる。
「ま、待って!私は戦う気はっ!」
その言葉を聞かず、雪ノ下は思い切り斬りつける。
「も、もう!待ってってば!」
しかし雪ノ下の攻撃の手が休まることはない。
「うう……もうっ!」
「Coppy Vent」
そのカードをライダーがスキャンすると、そいつの手に、雪ノ下が持つ槍と全く同じものが現れる。
「もうっ!人の話は聞いてよねっ!」
そう言い、ライダーが雪ノ下に斬りかかる。
「くっっ!」
「えいっっ!」
ライダーが突き出した槍に、雪ノ下の体が吹き飛ばされる。
「Final Vent」
え?これってまずいんじゃ……。
契約モンスターのエイに乗ったライダーが、すごい勢いで突進をかます。
「ああああああっっ!」
再び吹き飛ばされる雪ノ下。
しかし、根性でかすぐに立ち上がる。
「……あなた、わざと急所を外したわね。」
「だから、戦うつもりはないって言ってるでしょ!」
「こっちにはあるのよ!」
「Final Vent」
「む、無茶だよ!そんな状態じゃ……。」
そのライダーの言う通り、雪ノ下の走るフォームはめちゃくちゃだ。
「はぁぁっ!飛翔斬っ!」
放ったその一撃も、軽々とよけられてしまう。
「もう、やめてよねっ!」
そう言ってそのライダーは後ろを向いて走りだす。元の世界に戻るのだろう。
「おい、雪ノ下、大丈夫か?」
この状態で大丈夫もくそもあったもんじゃないだろうが。
「ほら、戻らねぇと。」
肩を貸そうとするが、彼女の意地なのか、よろめきながらも自分の足で歩いた。

俺達が家庭科室に着くと、当然だが由比ケ浜はすでにいた。
「ごめんなさいね、遅くなって。」
「ううん、私も今来たところ。」
そんなはずはないのだが。俺達は鏡の世界にきてからここに来たんだから。まぁ由比ケ浜はそういう奴なんだろう。
「そう、では、始めましょうか。」
「で、俺は何すればいいの?」
「あなたは味見をしてくれればいいわ。」
……それ絶対俺必要なかっただろ。
まぁいいか。働かなくていいんなら働かない。働いたら負けだ!
手早く準備を終えると、雪ノ下はエプロンをつける。
「曲がっているわ。あなた、エプロンもまともに着れないの?」
どうでもいいけど、エプロンってなんか響きがエロいよね。エロロン、みたいな。
「え、エプロンくらいきれるもんっ!」
しかし、由比ケ浜はなかなかに苦戦しているようだった。
「ほら、やってあげるからこっちに来なさい。」
「いいの、かな。」
「早く。」
逡巡した由比ケ浜の態度を雪ノ下がぶち壊す。想像はしてたけど、こいつ誰にでもこんななんだな。
「ごごごごめんなさい!」
ごごごってお前語ゴゴゴゴーレムかよ。なかなか堅いよね。
「なんか、雪ノ下さんってお姉ちゃんみたいだね。」
「私の妹がこんなできの悪いわけないけどね。」
ため息をつく雪ノ下。
「ムーーー、失礼なっ!見返してやるんだからぁっ!」
いよいよ調理が始まった。由比ケ浜の作業ペースは意外に早い。
「さて、と……」
ある程度作業が進んだところで、由比ケ浜がインスタントコーヒーを取り出す。
「コーヒーか。確かに飲み物はあったほうがいいよな。気が利いてんじゃん。」
「はあ?違うよ。これは隠し味。男子って甘いもの苦手でしょ?」
そうでもないと思うが。それに仮にそうだとしても、クッキーにコーヒーを入れるのは違うだろ。
そんなこんなで、由比ケ浜の調理方法はめちゃくちゃだった。
結論というか、今回のオチ。由比ケ浜には圧倒的に料理のスキルが欠如していた。できるできないの問題ではない。最初から存在していない。SAOで魔法を使おうとするとかそういうレベル。
不器用なくせに大雑把。下手くそなくせに独創的。どこかのラノベで「下手の一念」という造語があったが、料理は思いでどうこうなるものではない。
「理解できないわ。どうしてこんなことになるのかしら。」
「……見た目はちょっと残念だけど、食べてみなきゃ分からないよねっ!」
ちょっと?これをちょっとと言うのか?なんか炭みたいになってんだけど。あと、これを食うの?うわー、俺には無理だわー。
「そうね。味見役もいることだし。」
えー、これを俺が食うんですか?ちょっとひどすぎるでしょう。これもう毒味のレベルじゃん。しかも、最初から毒ってわかりきってるじゃん。
「ほら、早く。」
俺が逡巡していると、雪ノ下がせかしてくる。
「一個だけだぞ?一個だけだからな!」
迷いながらも、俺はそれを口に入れ、咀嚼する。
「……どうだった?」
由比ケ浜が不安そうに見つめてくる。
「……ちょっとしたウンコよりまずい。」
「はぁ!?何よそれっ!ていうかちょっとしたウンコってなんだし……。」
そう言って、由比ケ浜もそれを口に運ぶ。
「……うーん、ヒッキーのいうこと、ちょっとわかるかも。」
わかっちゃうんだ。自分が作ったのに。
ちなみに雪ノ下はさっきからおれたちに背を向けて窓の方を見ていた。
こいつ、自分だけ食べないつもりだ!

由比ケ浜のクッキーは何とか食べ終わった。ちなみに雪ノ下は食べようとしなかったが、無理矢理食わせた。あの時のうらみがましい目は忘れられない。言っとくけど同じことをお前は俺にしたんだからな!?
「さて、ではこれからの方針を考えましょう。」
「由比ケ浜がニ度と料理をしなければいいと思いまーす。」
「それで解決しちゃうの!?」
「それは最後の方法よ。」
「雪ノ下さんまでっ!?」
「やっぱり才能ないのかな……。占いでもうまくいかないって……。」
「なるほど。解決方法がわかったわ。」
「え?」
「あなた、まずその認識を改めなさい。才能がない?ろくに努力もしていないのにそんなことを言わないでほしいわね。それに、占い?そんなものが何になるの?何の科学的根拠もないわ。」
まぁ、科学万能主義者ではないが、今の意見にはおおむね賛成だ。占いでどうこうとか、俺にはちょっと信じられない。
「うう、でも、私の占いは当たるんだよー。それに、みんなこういうのやらないっていうし……。向いてないんだよ。」
へへっ、と、由比ケ浜は愛想笑いを浮かべる。
「……その周囲に合わせようとするのやめてくれないかしら。ひどく不快だわ。自分ができない原因を人に求めるなんて、恥ずかしくないの?」
雪ノ下の語調は強かった。正論だ。まごうことなき正論。しかしもう少し言い方というのがあってもいいと思う。
正しいからというだけで納得できる人間などほとんどいない。人は、感情で生きる生き物なんだから。
「……。」
由比ケ浜は黙りこむ。ここまで否定されたのだ。その心境は押しはかれば簡単にわかる。
それに、彼女はコミュニケーション能力が高いのだろう。だから、今まで人にここまで否定されることなんてなかったはずだ。
自分に迎合しようとする人間などめったにいない。
しかし雪ノ下はそんなことお構いなしだ。味方を作らず、しかもそれでいて、一人で乗り切れる能力を持った彼女は、人の痛みなどわからない。いや、わかっても気にしないというのが正しいのかな。だから彼女には、人が救えない。
彼女たちは、まったく正反対の存在なのだ。相入れなくて当然だろう。
俺には、由比ケ浜が怒って帰る未来が見えていた。
「か……。」
ほらね、やっぱり。帰るっていい出すんだろ?そのくらいわかってるわかって
「かっこいい……。」
「「は?」」
俺と雪の下の声が重なる。
「建前とかそういうの全然言わないんだ。そういうのって、すごくかっこいい!」
由比ケ浜が熱い目線で雪ノ下を見つめる。
雪ノ下は若干、いやかなり戸惑っていた。
「な、何を言っているのかしら。私、結構きついこと言ったと思うのだけれど……。」
「ううん!そんなことない!確かに言葉はひどかった。でも、本音って気がするの。」
違う。こいつは言葉をオブラートに包めないだけだ。
「ごめんなさい。ちゃんとやるから、力を貸してください。」
由比ケ浜は逃げなかった。どころか、あの雪ノ下が押されている。
雪ノ下にとっては初めての経験だっただろう。本音を言われてちゃんと謝るやつなんていない。少なくとも、今まで俺があった中ではいなかった。
「正しいやり方を教えてやれよ。」
「一度手本を見せるから、その通りにやってみて。」
「うん!」
彼女たちの表情は一様に明るかった。
ま、料理がうまくいくかどうかは別だけどな。

出来上がった雪ノ下のクッキーはとてもうまかった。
「もうこれを渡せばいいんじゃねぇの?」
「それじゃ意味ないじゃない。さ、由比ケ浜さん、やってみて。」
「うん!」
そして、二回目の彼女の挑戦が始まった。
「そうじゃないわ、もっと円を描くように……。」
「違う、違うのよ、それじゃ生地が死んじゃう。」
「由比ケ浜さん、いいから。そういうのはいいから。レシピ以外の物を入れるのは今度にしましょう。」
「うん、だからね、それは……。」
あの雪ノ下が困惑し、疲弊していた。額に汗が浮かんでいる。
何とかオーブンに入れた時には、肩で息をしていた。
「なんか違う……。」
焼きあがったクッキーを見て由比ケ浜が言う。食べてみると、雪ノ下が作ったものとは明らかにレベルが違う。
「どうすれば伝わるのかしら……。」
雪ノ下は持つ者ゆえに、持たざる者の気持ちがわからない。優秀な人間は教えるのもうまいというのはただのまやかしだ。あやかしだ。あやかしがたりだ。みんな買ってね!
「フッ!」
「あら、何かしら比企谷君。喧嘩を売っているの?」
「いやいや、お前らのやってることがあまりにもバカらしくてなぁ。思わず笑っちまったんだ。わりい。」
「なんかムカつく!」
「まぁ見てろよ。俺が本物ってやつを教えてやる。」
「そこまで言うからには、たいそうなものができるんでしょうね。楽しみだわ。」
雪ノ下が完全に冷たい目をしていた。
「ああ、十分後にここにきてくれ。格の違いを教えてやるよ。」
そして十分後、彼女たちが戻ってきた。
「ほら、由比ケ浜。食ってみろ。」
「ええ?あんだけ言ってたわりにはしょぼくない?形も悪いし色も変だし……。」
「ま、そう言うなって。」
「そこまで言うなら……。」
由比ケ浜は恐る恐るという感じでクッキーを口に運ぶ。雪ノ下もそれに倣う。
すると、雪ノ下の表情が変わった。どうやら彼女は察したようだ。
「別にあんまりおいしくないし、焦げててジャリってする!はっきり言っておいしくない!」
「そっ…か、おいしくないか。わりい、捨てるわ。」
「べ、別に捨てなくても。」
その言葉を無視して、俺はゴミ箱の方に向かっていく。
「まってったら!」
由比ケ浜が俺からクッキーをひったくる。
「捨てなくてもいいでしょ!言うほどまずくないし……。」
「そうか?なら、満足してくれたか?」
「うん。」
「ま、お前が作った奴なんだがな。」
「……へ?」
「比企谷君。説明してくれる?」
「男ってのはな……お前らが思ってる以上に単純なんだよ。自分のために女の子が頑張ってお菓子を作ってくれた、それだけで舞い上がっちまうもんさ。だから、手作りの部分を残しとかないと意味がない。雪ノ下が作ったような完璧な奴より、少しくらい汚くても、気持ちがこもってるってわかる物の方が、もらう側としてはうれしいもんだぜ?」
「今までは、目的と手段を取り違えてたってことね。」
「そういうこった。だから、あんまりうまくなくてときどきジャリってするクッキーでも、それでいいんだよ。」
「~~っ!うっさい!ヒッキー腹立つ!もう帰る!」
由比ケ浜が鞄を手に持つ。
「由比ケ浜さん、依頼の方はどうするの?」
「あ、ごめん。それはもういいや。ありがとね、雪ノ下さん。」
「またね。ばいばい。」
そう言って由比ケ浜は去って行った。
「……あれでよかったのかしら?自分ができるところまで、力をのばすべきだと私は思うけど。」
「それは違うだろ。あいつの目的は、うまいクッキーを作ることじゃなくて、相手に喜んでもらうことだろ?ならこれでいいんだよ。」
「そうかしらね。」
「ああ、そうさ。」
そう言って、俺は笑った。

「やっはろー!」
俺と雪ノ下が奉仕部の部室で読書をしていると、明るい声とともにドアが開いた。
由比ケ浜結衣だ。
「……何か?」
「あれ?あんまり歓迎されてない?ひょっとして雪ノ下さん、あたしのこと嫌い?」
すると、雪ノ下が顎に手を当てて、少し考えてから言う。
「……別に嫌いではないけれど、決して好きではないわね。少し苦手、といったところかしら。」
「それ、嫌いと同じだからね!この正直者めっ!」
由比ケ浜は雪ノ下戸の胸をぽかぽかと叩く。
「で、何か用かしら?」
「うん、こないだのお礼って言うの?クッキー作ってきたんだー!」
「え?」
雪下はけげんな声を挙げる。
しかし由比ケ浜は気にしている様子はない。
「いやー、料理って意外と楽しいね!今度お弁当とか作ろうかな!あ、それでさ。ゆきのんも一緒にお弁当食べようよ!」
「私はお弁当は一人で食べることにしているから。後、ゆきのんって呼ぶのやめてもらえる?」
「ええ、さびしくない?ゆきのん、どこで食べてるの?」
「ねぇ、話聞いてた?」
「あ、それでさ。暇なときはあたしも部活手伝うね!あ、気にしないで!これもお礼だから!」
「……話、聞いてる?」
由比ケ浜の連続攻撃に雪ノ下が困惑している。
と、その時だ。頭を裂くような高音が俺を襲った。
そして、奉仕部の窓からモンスターが飛び出してきて、雪ノ下を襲った。
「ゆきのんあぶない!」
由比ケ浜が雪ノ下を突き飛ばす。
攻撃をかわされたモンスターは、鏡の世界に戻っていく。
「大丈夫!?ゆきのん!……待っててね、すぐ戻るから。」
そう言って由比ケ浜は、ポケットから赤いバックルを取り出す。
こいつ、まさか!
「ゆきのんを危険な目に合わせるなんて、絶対許さないんだから!」
そう言ってバックルを前に突き出す。
「変身!」
由比ケ浜の姿が変わっていく。それは、昨日雪ノ下と交戦したライダーだった。
由比ケ浜が、鏡の世界に入っていく。
「驚いたわね……。こうしている、場合でもないわね。変身!」
雪ノ下が、仮面ライダーナイトに変身する。
こいつ、まさかまた戦うなんていわねぇよな?
とにかく、俺も黙って見てるわけにはいかないか。
「変身!」
俺達も、鏡の世界へと向かう。
由比ケ浜と戦っているのは、猿のモンスター。少し押されているようだった。
「Swword Vent」
雪ノ下が槍を持ち、走っていく。
そしてそのまま、モンスターを切りつける。
「あ!昨日の!あたしは戦う気なんてっ!」
「わかっているわ。由比ケ浜さん。」
「ほえ?どうして私のこと……。」
「仮面ライダーナイト。雪ノ下雪乃よ。」
「ゆ、ゆきのん!?あ、昨日はごめんね。」
「いいわ。私の方から攻撃したのだし。とにかく今は、こいつを倒しましょう。」
どうやら、雪ノ下に争うつもりはないらしい。よかった。なら俺も、思いっきり戦える!
「Strike Vent」
龍の頭の形をした、火器を右手に装着する。
「お前ら!どいてろ!」
「あれは、昨日ゆきのんと一緒にいた……。もしかして、ヒッキー!?」
「そう、仮面ライダー龍騎。比企谷八幡。」
「そうだったんだ……。」
「おい!さっさとどけって!」
「あ、ごめんごめん。」
二人はさっと左右に飛ぶ。
「デヤアアァァァッッッ!」
全力の一撃。巨大な炎がサルを飲み込む。
「ぐぎゃぁぁっっ!」
猿が爆発し、光の球が生まれる。モンスターのエネルギーだ。
俺の契約モンスタードラグレッダーが球を飲み込もうと向かっていく。
「待ちなさい!」
雪ノ下が、手にしていた剣をドラグレッダーに投げつける。回避のために横にどいたすきに、雪ノ下の契約モンスターダークウイングがエネルギーを吸収した。
「この野郎……なんのつもりだよ!」
「あなたが余計なことをしていなくても倒せていたわ。横どりはさせないわ。」
「それを言うならあれは由比ケ浜の物だろうが……。」
雪ノ下雪乃。案外ちゃっかりした奴だった。
「ま、まぁまぁまぁ。とりあえず、戻ろうよ。」
由比ケ浜の言葉に従い、俺達は部室へと戻る。

「しかし、驚いたな。由比ケ浜がライダーなんて……。」
「そうね。基本的にライダーは、どうしてもかなえたいと思う人間がなるはずだけど……。あなたにも、願いがあるの?」
「ううん、これはもともとあたしのじゃなかったの。あたしの、いとこの物だよ。その子はね、こんな戦い馬鹿げてるって言って、モンスターと契約しなかったの。そうしているうちにモンスターに襲われて……死んじゃった。」
「……そう。」
「うん、だから私がこれを受け継いでね、ライダーバトルを止めるんだ!」
「でも、他のライダーはあなたたちのようには考えていないと思うわ。」
「うん、そうだと思う。それでも、止めたい。って……え?達って?」
「そこにいる比企谷君も、ライダーバトルを止めようとしてる。あなたたち、わかってる?他のライダーは、あなたたちを[ピーーー]気で来るのよ?」
「わかってるさ。最後になったら、お前も俺と戦おうとするんだろう。それでも、止めたい。そうだな、それが正しいとかじゃなくて。それが、ライダーとしての俺の望みなんだ。」
「……フフ、なら、私には止められないわね。」
「そういうこった。」
「えへへ、これからよろしくね!ゆきのん!」
そう言って由比ケ浜は雪ノ下に抱きついた。
「ねぇ、ちょっと、暑苦しいのだけど……。」
んじゃ、俺は帰るとするか。ドアに手をかけた、その時。何かが飛んできた。
「ヒッキーもありがとね!お礼の気持ち!」
それは、黒々としたクッキーだった。ま、くれるっつーンならもらってやるか。
俺は廊下でクッキーを口にした。
「……にが。でもまぁ……ちったぁましになったんじゃねーの。」
俺はひとりごちた。

「ふう……。」
今日も長かった。授業が終わっても部活しないといけないとか地獄すぎる。
我ながらよくやっていると思う。
しかし!明日は土曜日!待ちに待った休日である。自然と家へ帰る足取りも軽くなる。
「キィィィィイイイン!」
ハァ……。休みの前にもう一仕事入ってしまった。冗談じゃないぜ、ったく。
「キャァァッッ!」見ると、蟹のモンスターに、一人の女性が首を絞められている。
「オラァッッ!」
蟹に向かってとび蹴りを放つ。その衝撃でカニはとらえていた女性を放した。
「早く逃げて!」
俺に言われて女性は逃げだした。モンスターは鏡の中へと戻っていく。
「変身!」
本当に、冗談じゃねーよな。こんなの。
憂鬱な気分で、俺は戦場へと向かう。
「ガァァァッッ!」
蟹のモンスターが、両手のハサミを使って攻撃を仕掛けてくる。
「Swword Vent」
「デヤッッ!!」
「キィン、キィン、キィンッ!」
「ブロロロロロロロ……」
しばらく戦いを続けていると、車の音が聞こえた。
ライドシューターの走る音だ。ライドシューターとは、俺達ライダーが鏡の世界へと向かう時に使う車のことである。
「来てくれたか……。」
雪ノ下か由比ケ浜か。どちらにしたって助かる。
「キィィィィッッ!」
俺と蟹の間で車が止まる。
そしてその中から出てきたのは……。
「え?」
蟹のモンスターと同じ黄土色をした不気味なライダー。右手には、カニのハサミを持っている。
「……やべぇな。」」
十中八九、このモンスターと契約しているライダーだ。
ていうかこいつ、モンスターに人間を襲わせてたのか!
「タァァッッ!」
ライダーが、その手に持ったハサミで攻撃を仕掛けてくる。
「オラッッ!」
俺も剣、ドラグセイバーで応戦する。
「グゴォォォッッ!」
背後からモンスターの方が攻撃を仕掛ける。
「ウアッッ!」
「ちっくしょ……。」
「Advent」
俺も契約モンスターを呼び出す。
「やれっ!」
空から巨大な炎を吐き出す。
「グッッ……。」
ライダーとモンスターがともに吹き飛ぶ。
「Strike Vent」
さらに俺が書きで追い打ちをかけると、ライダーは鏡から戦線離脱した。
「ふぅ……。」
まだ体の節々が痛む。冗談じゃないぜ、明日はせっかくの休みなのに気分が台無しだ。
……あいつ、モンスターに人を襲わせてたな。早く何とかしねェと、取り返しのつかないことになる。
いろいろと考えることにして、俺はサイゼリアに入る。考え事ならここですると中学時代から決めている。
「どうしたもんか、な。」
飯を食いながら考える。もちろん小町へ飯はいらないという旨の連絡もした。
「デート?」とか聞いてきたがそんなはずがないのである。毎度毎度あいつはそんなことを聞いてくるが、もはや嫌がらせかと疑うレベル。
「あれ?比企谷じゃん。レアキャラはっけーん!」
声をかけられ振り返ると、
「……お前……は。」
折本かおりが、そこにいた。

「好きです、付き合ってください。」
「友達じゃ、だめかなぁ?」
ふと、思い出がよみがえる。放課後の教室。俺が告白した女の子は、気まずそうな顔を浮かべる。
ちなみにその翌日には、クラス全員がその出来事を知っていて、俺は泣きそうになった。
中学時代の数あるトラウマの中でも屈指の一つである。
振られるだけなら、まだいいのだ。だが、好きだった女の子が、そのことを他人に言いふらす。これはかなり、来るものがある。
俺が女子を信用できなくなった一番の要因になった出来事かもしれない。
その少女の名こそが、折本かおりである。
その少女が、今俺の目の前にいる。
何故俺に声をかけたのか。その魂胆がわからない。ただの気まぐれ?ただ、そこにいたからか?どちらにしても、俺にとっては迷惑でしかない。
「よいしょっと。」
言って、折本は俺の前の席に座る。
は?なんなのこいつ。
「……ンだよ。なんかようか。」
「いや、別に用ってわけでもないんだけどさ。なんか懐かしいなーと思って。」
そうかよ。俺にとっては嫌な思い出でしかないけどな。
「ほら、比企谷って総武高行ったじゃん?あそこってうちの中学からあんまり行った人いないよね?」
「ほら」の意味が全く分からん。それに、そりゃあそうだろう。同じ中学の奴がいるとこには行きたくなかったんだから。
「……ああ、そうだな。」
「おーい、かおりー!」
店の入り口から、周りの迷惑を考えないような大声が聞こえる。

「あ、おーい。」
折本がそういうと、俺の席に一人の女子と二人の男子が寄ってきた。
男の一人には、見覚えがある。確か、俺の中学でバスケ部のキャプテンをやってたやつだ。永山、だったか。
「あれ?比企谷じゃね?うっわー、うけるわー!」
何が面白いんだ?俺の存在がかよ。
「え?これが噂のキモ谷君?うっわー、わかるー。」
……。何故初対面の女子からキモイといわれなあかんのだ。こいつら、高校でも俺を笑い物にしていたのか。
「ははっ、そういえばさ、比企谷って中学ん時、かおりに告ったよなー。あれ笑ったわー!ちょっと優しくされただけで勘違いするとか、脳内めでたすぎンだろ。」
「……昔のことだ。自分でも馬鹿だったと思うよ。」
皮肉を言ったつもりだが、彼らには通じなかったらしい。
「あれ、クラス中の奴らが知ってただろ?ごめんなー、あれ俺が言ったんだわ。あん時からおれたち付き合っててさー。面白半分でさー。でもま、自分の彼女が告白されたってんだから穏やかじゃねーよな。まぁ比企谷にはとられるなんて思わないけどさー。」
「そうだな。」
右手で契約モンスター、ドラグレッダーのカードを強く握りしめる。意思をしっかり持っていないと、今すぐにでもこいつらを襲わせそうになる。
「しっかし比企谷お前……うおっ!?」
鏡の中から突如出てきた何かに、永山が吹き飛ばされる。
あれは……あのモンスターは、雪ノ下の、モンスターだ。
永山はさっきの衝撃で体を思い切りテーブルに体をぶつけた。
窓の外を見ると、雪ノ下雪乃と由比ケ浜結衣が、こちらを見つめていた。

あいつらには、見られたくなかったな。
こんなところを。むかしの俺の、残像を。
茫然としている俺を置いて、彼女たちは店の中に入ってきた。
「うわ、何あの二人。すごく綺麗。」
折本の連れの女子が感嘆の声を挙げる。
彼等は、何が何だか分からないといった様子だ。
「んだよ。何か用か。」
「いえ、少し言いたいことがあってね。」
「え?この子達、比企谷の知り合い?」
永山が素っ頓狂な声を挙げる。
「あ、どうも。俺、永山智っていうんだ。比企谷の、友達です。えっと、バスケ部で、キャプテンやってるんだ。」
汚い笑みを浮かべて、さりげなく雪ノ下の肩に手を置こうとするのを、彼女はパシリとはじく。
「あなたの名前なんてどうでもいいわ。それと、彼をあまり馬鹿にしないことね。友達は少なくても、あなたのようなクズを味方にする人ではないわ。」
永山の笑顔が崩れる。
「それと、随分彼に言っていたみたいだけど……彼は、あなた達が見下していいような人じゃない。ねぇ、あなた。」
雪ノ下が折本へと話す対称を変える。
「自分に思いを寄せてくれた人を貶めるなんて、恥ずかしくはないの?でもまぁ、報いは受けているようね。こんなクズを恋人にしているんだもの。これ以上にない辱めだと思うわ。ご愁傷さま。見る目がなかったのね。彼を選んでいれば、もっとましだったはずなのに。でももう遅いわよね、今の彼は、本物を見分けることができるもの、あなたのような人を選ぶはずがないわ。」
「てんめぇぇぇっっ!!」
散々にこきおろされた永山が雪ノ下に殴りかかる。
「キィィィィッッッ!!」
再び現れた蝙蝠のモンスターが、主人への攻撃を止める。
「な、何だ今の!!ば、化け物だ!化け物が出たぞぉ!」
周りにいた客が騒ぎ出し、どたばたと店から去っていく。
あとには、俺達だけが残った。

「な、何なんだよお前ら。意味わかんねぇよ。」
すると、今まで黙っていた由比ケ浜が口を開いた。
「ねぇ、あなたたちは知らないと思うけど、ヒッキーはね、とってもすごい人なんだよ。自分が傷ついても、人を救っちゃうような、そんな人。普段はそっけない態度をとって、周りに興味なさそうにしてても、一度も会ったことないような人を、命をかけて守ってくれるような、そんな人。」
……。違う、違う。俺は、お前らにかばってもらえるような、そんな立派な奴じゃないんだよ。
……?命をかけて守る?そんなこと、後にも先にも一度だけだ。でも、それをこいつが知ってるわけないし……。
まぁ、今はそんなこと些細なことか。
「なんなのよあんたたち!突然現れて好き勝手言っちゃってさぁ!」
折本が激興する。
そして、ポケットからカードを取り出す。
蟹の、カード。
人を襲わせてたライダーは、こいつ、だったのか。
窓から蟹のモンスターが出現する。
由比ケ浜に襲いかかるのを、ダークウイングが止める。
「なんだ、ほんとに……。かおり、お前も、化け物なのか?」
永山はそう言い残すと、そそくさとその場を去って行った。残りの二人も同様だ。
「あんたらのせいで、全部台無しじゃないっっ!」
「それは、あなたの自業自得でしょう。」
「うるさいうるさい!あんたは、私が倒す!」
デッキを、かざす。
「変身!」
「……いいわ、けしてあげる。変身!」
二人が、鏡の世界へと向かう。
折本に誤算があったとすれば、この場にいたライダーが、雪ノ下一人ではないということだろう。
「ヒッキー、少しだけ、待っててね。……変身!」
由比ケ浜も変身する。
俺は一人、取り残された。

「……。はぁ。」
しばらく俺は、茫然としていた。なんとなくぼうっと、鏡の中を見ていた。
折本は、雪ノ下一人にも押されていたが、由比ケ浜が加勢してからは、もうまともな勝負になっていなかった。
「ああああっっ!」
二人とも、折本の叫びを聞いても、攻撃の手を緩めることはなかった。
それだけ怒っていたのだろう。
そうしたのが俺のせいだと思うと、何とも言えない気分になる。
どうして彼女たちは、出会ったばかりの俺の為にここまでしてくれるのだろう。きっと、とてもとても優しいのだろう。
折本が中学時代に俺にした偽りの、計算された汚い優しさではなく、本物の優しさ。
ならば、だからこそ、彼女たちの手を汚させてはいけないだろう。
「……変身!!!」
過去と決別する時が、きっと今なんだ。

「Trick Vent」
「Coppy Vent」
分身した雪ノ下と、その分身技をコピーした由比ケ浜、計十二人の彼女たちが、かおりを攻撃していた。
「はぁぁぁっっっ!!」
「とうっっ!!」
「グゥッッ……」
休むことなくかおりに攻撃を浴びせる。
「これで……」
「させないっ!由比ケ浜さん、耳をふさいで!」
「Nasky Vent」
「キィィィィィッッ!!」
「ウウゥゥッッ……。」
カードをスキャンしようとしたかおりを、超音波攻撃で雪ノ下が遮る。
「Advent」
「いけぇっっ!!」
「クァァァッッ!!」
由比ケ浜のエイのモンスターが、突進を仕掛ける。
「ああ…あ……。」
かおりはもう死亡寸前だ。
……。
「やめろ……。」
それは、お前たちがやることじゃない。
俺がこの手で、やらなきゃいけなかったんだ。
だから……。
「Strike Vent」
「やめろぉぉぉっっっ!!!」
俺の放った炎が三人に襲いかかる。
雪ノ下も由比ケ浜もほとんどダメージを受けていなかったので、この攻撃でどうということはないはずだ。
「え!?」
「ヒッキー!?」
二人はとっさに攻撃を避ける。
俺はかおりのもとへと駆け寄る。
庇うようにしてその前に立つ。
「比企谷君……、どういうつもり?まさか、その女をかばうというの?」
「ヒッキー……。」
「ひ、比企谷……。ありがと。私、ほんとはね、あなたのこと……好き…。」
「黙れ。」
「え?」
「勘違いするなよ折本。俺はお前を助けたんじゃない。ただ、お前は俺自身の手で倒したかった。他の誰かに手を汚させたくなかった。それだけだ。……雪ノ下、由比ケ浜、すまない。そういうわけなんだ。悪いが、手を引いてくれないか?」
「……そう、この件に関してはあなたの問題よね。いいわ。由比ケ浜さんも、それでいいかしら。」
「うん。ねぇ、ヒッキー、無理、しないでね?」
「わかってる。ありがとう。……折本、一週間後、この場所に来い。一対一で、決着をつけよう。三対一で狙われるよりは、ずいぶんいい条件だろ。」
「……わかった。」
「それじゃぁな。」
そして俺達は、鏡の世界を去った。

「雪ノ下、由比ケ浜、今日は、ありがとな。その、さ……すげぇ、うれしかった。」
こんなに自分を肯定してもらったことは今まで一度もなかった。
本当に、本当にうれしかった。涙が出そうになった。
まったく、これでもぼっちの道を突き進んできたつもりだったんだがな。
「別に。私はやりたいようにやっただけよ。……それでも、あなたが私たちに恩を感じているというのなら、絶対に勝ってきなさい。」
「そうだよ!また三人で部活やるんだからね!……応援してるから。」
「ありがとう。」
今までにない満たされた気持ちで、俺は帰路についた。
折本、あの時俺を振ってくれてありがとな。おかげで俺は、最高の仲間に出会えたよ。
しないなあ。ああ、しない。
「負ける気が……しない。」
約束の一週間後は、あっという間に来た。
「よう、折本。」
俺の呼び掛けに彼女は答えない。まぁ、今から殺し合いをするというのだから当然だろう。
「……あの二人は、来てないんでしょうね?」
「ああ、約束は守る。」
「そう……。なら、もう始めましょう。」
「そうだな。」
「「変身っ!!」」
黄土色の蟹のライダーと対峙する。
「そうだ、名前を、聞いていなかったな。教えてくれよ。」
なんとなくだが、ふと気になった。雪ノ下は仮面ライダーナイト、由比ケ浜は仮面ライダーライア。彼女にもきっと名があるのだろう。戦うための名が。
「シザース、仮面ライダーシザース。」
「そうか、シザースか、俺は、龍騎。仮面ライダー龍騎だ。」
「いくぞ!」
「Swword Vent」
「Strike Vent」
俺は剣を、シザースはハサミの武器を装備する。
「はぁっっ!!」
ガァン、キィン、キィィンッ!
激しい衝突。
純粋な力のぶつかり合いが20合ほど続く。

少しマンネリ化してきたので、俺は少し戦法を変えることにした。
「Trick Vent」
雪ノ下が使ったのと同様の分身技だ。5体の分身体とともに彼女に波状攻撃を繰り出す。
「はぁっ!」
「うっっ!」
6対1では多勢に無勢。分身体は、一撃でも攻撃を与えれれば消えるのだが、なかなかそれができない。
「やぁぁっっ!」
6人を円の形で囲み、いっせいに剣を振り下ろす。
「ぐうっ!」
彼女はその場に倒れ伏す。
それと同時に、役目を終えた分身体が消滅した。
「だぁぁっっ!」
無防備なその背に、剣で追撃する。
「ま、待ちなさい!」
「そう言われてやめると思うかっ!」
キィン!キィン!キィィンッッ!
「ぐはっっ…こ…れで……。」
「Advent」
突如、蟹のモンスターが出現する。
「お、おまえ……。」
蟹の両手に、一人の女性が捕われていた。
「こ、攻撃をやめないと、あの女がどうなっても知らないわよ?」
「お前……卑怯な真似をっっ!」
気を失っているその女性は、間違いなく俺の妹、比企谷小町だった。
「命がかかってんのよ。このくらい、当然よ!」
「……抵抗するんじゃないわよ。」
まずい、これは……どうしたものか。これじゃぁ俺は攻撃できない。
「ハァッッ!」
ザッ!ガッ!ガキィッッ!
鋭利な蟹のはさみが俺の体を抉る。
「がはぅぅっ!」
「ふんっ!マヌケね!あの時三人がかりでかかってくればよかったのに。」
どうする?一か八か反撃するか?どうせこいつは俺を倒した後で小町も始末するだろう。なにせモンスター強化のために一般人を襲わせているような人物だ。どう考えても小町を開放するとは思えない。
しかし、しかしだ。今俺が攻撃すれば、まず間違いなく小町はやられる。
そんなことは……
「ほら!ボサッとするなッ!」
ガキィィィッ!
攻撃は止まない。どうしようも、ないのか……。
「キィィィィィィッッ!!」
突如聞こえた、聞きなれた超音波。
「ううっっ……図ったな……。」
シザースが頭を押さえる。
「まったく、心配して来てみれば……。やはりあの時確実に始末するべきだったようね。」
「大丈夫!?」
雪ノ下が蟹のモンスターをおさえ、由比ケ浜が小町を救出する。
「由比ケ浜さん、この子を連れてもとの世界に戻って。」
「わかった!すぐ戻るからね!」
「ええ。でももう、その心配もないと思うわ。」
そして由比ケ浜は消えた。これでもう、俺を縛るものはない。
「ハァァッッ!」
強く剣を握り、シザースの胴を斬りつける。
「比企谷君、いえ、龍騎。助太刀するわ。」
「いや、俺にやらせてくれ。」
「でも、卑怯な手を取ったのは相手の方よ?」
「それでもさ。こいつは、俺だけの力で倒さないと。」
「…そう。わかったわ。まったく、以外と頑固なのね。」
雪ノ下はそう言って、後方に下がる。
「これで……終わりだ。折本かおり。」
「Final Vent」

「クッッ……」
「Final Vent」
シザース、いや、折本も覚悟を決めたらしく、必殺のカードをスキャンする。
高くジャンプし、ドラグレッダーの炎を浴びて急降下からのキック攻撃、「ドラゴンライダーキック」を繰り出す。
対して折本は、契約モンスターの蟹のハサミに持ち上げられ、クルクルと回りながら上昇しながらの攻撃、シザースアタックを放つ。
「ダァァアアアアアァァァァッッ!!」
「ハアアァァァァァァッッ!!」
「ドガッッッ!ガァァァンッッッ!!」
激しく衝突し、爆発が起きる。
「グオッッ……。」
着地するも、受けたダメージに耐え切れずその場に倒れる。
「フッッ……勝った。」
振り向くと、折本は着地し、その場にしっかりと立っていた。
その、次の瞬間。
パリィィィィィィインッッ!!
「え?何よ、何よこれっっ!」
彼女のバックルが、こなごなに砕け散った。
そう、これこそが俺の狙い。雪ノ下から聞いたのだ。このバックルとベルトがライダーの生命線、つまりこれを失えばライダーの力を失うと。
まぐれ?偶然?奇跡?違う、最初から狙ってた。
最初から、彼女のバックル、それだけを。
「アアアアアアァァッッ!」
ライダーの力を失った彼女が、もとの人間の姿に戻る。
「そんな……」
「ガァァァァッッ!」
すると、折本のすぐそばにいた蟹のモンスターが、彼女に襲いかかった。
「や、やめなさい!私よ!私がわからないの!?あっ、あっ、あああああああああああああああああっ!!」
断末魔を挙げて、彼女は捕食された。
「おおよそ、人間を見境なく襲うように命令していたのでしょう。自業自得ね。」
「グルアアアァァッッ!」
契約が解除され、野良モンスターとなった蟹が雪ノ下に襲いかかる。
「ボルキャンサー、ね。比企谷君。このモンスターは私が始末してもいいかしら?」
「あ、ああ。」
「ありがとう。それじゃ、早速決めましょうか。」
「Nasky Vent」
「キィィィッッッ!!」
「ガァァッッ!」
「Final Vent」
超音波によりまともに相手が動けないうちに、雪ノ下は必殺技を繰り出す。
「飛翔斬っっ!!」
ドリル状になった雪ノ下とダークウイングが、ボルキャンサーとかいう蟹のモンスターの堅い甲羅を突き破った。
ドガァンっ!というけたたましい爆発を残して、蟹のモンスターも消滅した。
そのエネルギーをダークウイングが吸収した。
ドラグレッダーには申し訳ないが、えさは少しの間がまんしてもらおう。
「……終わったわね。」
「そうだな。あいつを殺したのは、俺だ。だけどなんだか、すっきりした気分だよ。」
「そう。彼女も、命をかけて、そのリスクをわかった上でこの戦いに望んでいた。だからあなたが気に病むことは何もないわ。」
これが彼女なりのフォローなのだろう。
「ありがとな、雪ノ下。」
「……。戻るわよ。由比ケ浜さんが待ってるわ。」
「ああ。」

「ゆきのん!ヒッキー!そっか、終わったん、だね。」
「ああ、いろいろと心配かけたみたいで悪かったな。」
「ううん、気にしないで。」
「今日は、少し疲れた。俺、帰るわ。また、部活でな。」
「ええ、さようなら。」
「……ちょっと、待って。」
「どうした?」
「ヒッキーは、昔に、決着をつけたんだよね。」
「ん?あ、ああ。そうだな。そうなるんだろうな。」
「そう、だよね。……私も。」
「は?」
「私も、けじめをつけるよ。」
なに言ってんだ、こいつ。さっぱり話が読めない。けじめって何だ。指でも切るつもりかよ。
「私、ヒッキーに言わなきゃいけないことがあるの。」
「なんだ?」
「ねぇ、ヒッキー、入学式の日のこと、覚えてる?」
入学式……だと?
「キャン!キャンキャン!」
その日俺は、新たな生活に胸を躍らせ、本来よりも一時間早く家を出た。
それが運のつきだったのかもしれない。
どこかのバカな飼い主が犬のリードを放し、その犬が道に出た。
そこに運悪くいかにも金持ちが乗ってそうな黒いリムジンが襲来。その犬の窮地を、俺がその身を呈して守ったのだ。
そして俺はしょっぱなから三週間の入院。入学ぼっちが確定した瞬間である。
「いや、俺入学式でてねぇんだわ。その日は交通事故にあってな。」
「ごめんなさい。」
「は?」
「ヒッキーが助けた犬の飼い主って、私なの。」
「……。」
「ごめんなさい。本当は、もっと早く言わなきゃいけなかったのに、どんどん言いづらくなって……。」
彼女の眼に涙が浮かぶ。
「いいんだ。もう。あの事故がなくても俺はどうせぼっちだったしな。それに……いまは、お前らがいるから。」
恥ずかしい。なんて恥ずかしいセリフだろう。言ったあとで後悔する。こんなの俺じゃねぇぞ。
「ヒッキー……。」
だがまぁ、その笑顔が見れたんならよしとするか。
「ま、気にすんなよ。」
「ありがと。」
「……比企谷君、由比ケ浜さん。私もあなたたちに、言っておきたいことがあるの。」
「ん?なんだ?」
「由比ケ浜さんの犬、比企谷君を轢いてしまったのは、私の家の車なの。」
「雪ノ下……。」
そうだ、こいつのおやじ、建設会社の社長で、県議会の議員だったっけ。
「でも、それはゆきのんのせいじゃないよ!車道に走って行ったサブレが、、そのリードを放した私が悪いんだし。」
「だけど……。やっぱり、加害者は私よ。」
「それに、ゆきのんは乗ってただけで、運転してなかったんでしょ。なら、ゆきのんは悪くないよ。」
ああ、何という光景だろうか。普通に考えれば加害者と被害者の関係の二人が、互いをかばいあう。その光景は、これ以上になく美しくて。
「ねぇ、ヒッキーはどう思う?」
「雪ノ下も由比ケ浜も自分が悪いっていう。俺も、自分に悪いところがあると思ってる。なら、全員が同じように悪いってことでいいじゃねぇか。それで、これからやり直していけばいいだろ。これから過ごす時間の方が長いんだから。」
「ヒッキー……。」
「比企谷君……。」
「そういうことで、いいんじゃねぇか?」
「あなたが、そういうなら。」
「うん、わかった。」
「よし、んじゃぁそういうことで。さて、んじゃぁこれからどうする?三人でどっかいくか?」
「うん!そうしよう!」
「私、そういうのは経験がないのだけれど……。あなたたちとなら、楽しく過ごせそうでわ。」
「じゃぁ、決まり!」
なんだ、以外と俺の青春ラブコメも間違ってねぇじゃねぇか。

「おいーっす。」
「ヒッキー、やっはろー。」
「あら、今日も来たのね。」
「んだよ。文句あんのかよ。」
「よくわかったわね、その通りよ。」
あの日以来、俺の奉仕部へ向かう足取りは軽い。
俺が忌み嫌っていた青春なのかもしれないが、俺達は自分の気持ちを偽ったりしていないのでセーフだろう。由比ケ浜は人の顔色をうかがうところはあるが、本当に大切なことは言う奴のようだ。
居心地がいい。まさか学校でそんなふうに思える場所ができるなんてな。
キイイイイィィィン!
「モンスターか。」
「行きましょう。」
「がんばろう!」
モンスターが現れると、三人で討伐へ向かう。
学校にいる時はそのスタイルが確立しているので、随分楽に撃破できる。
しかし倒したモンスターのエネルギー配分、俺だけちょっと少ない気がすんだけど……。
基本的に雪ノ下はエネルギーに貪欲だ。あと、その雪ノ下がやたらと由比ケ浜に甘い。
結果的に俺の取り分が減っている。
いや、別にそれはまぁいいんだよ。ただ、ドラグレッダーがさぁ。あいつちょっとえさやらないと俺を食おうとしてくるんだよ。信頼関係も何もあったもんじゃない。
何とかならんのかなあのアホ龍は。
まぁ、今日は俺が貰おう。
「「「変身っっ!!」」」
敵は、ヤギ型のモンスターだ。
「Trick Vent」
「Coppy Vent」
これが一番の王道パターンだ。雪ノ下が分身してそれを由比ケ浜がコピーする。この技は、最大で8体まで分身できるので、計16人での袋叩きが可能になるのだ。
それを、
「Strike Vent」
「Advent」
俺が、ドラグレッダーと俺自身の一人と一体で火炎放射攻撃を行い、追撃をかける。
だいたいのモンスターはこれで倒せる。
生き残った場合は、俺達三人の誰かがファイナルベントを使ってとどめをさす。
エネルギー配分は前述のとおりだ。
「グギャァァァッッッ!」
今回は、これで倒せたようだ。
「ふう、他愛もないわね。」
「えへへ、三人なら負けなしだね!」
そう言って由比ケ浜が雪ノ下に抱きつく。
あれ?僕は?俺も戦ったよ!とどめ刺したよ!?
まぁ、抱きつかれても困るけどよ。困るけどいやじゃない。むしろ推奨。
「あのさー、今日は俺がエネルギーもらってもいいか?ドラグレッダーが荒れてる。」
「仕方ないわね。ペットは飼い主に似るというし。あの龍も比企谷君ににて欲求不満なんでしょう。」
おい、あのモンスターをペットと言うのか?あと俺は別に欲求不満じゃねぇ。性欲をもてあましたりなんてしてない。ほんとだよ?
「お前なぁ……。好き放題言いやがって。犯すぞ!」
「あら?強姦予告?最低ね。」
「ヒッキーまじきもい!」
「最初に言ってきたのはそっちだろうが……。まぁ、とにかくすまんがこれはもらうぞ。」
「ガァァァッァァァッ!」
ドラグレッダーがエネルギーを吸収する。
「んじゃ、そろそろ戻るか。」
「そうね、さっきの発言に対しての罰は戻ってから行いましょう。」
「それはもう忘れろよ……。」
「ヒッキーマジでキモイから!」
「うるせえ。お前も犯すぞ。」
「え!?ええー!?べ、別に嫌じゃないけど最初はちゃんとした場所でっていうかなんて言うか……。」
「いや、冗談に決まってんだろ。お前そんなこともわかんねぇのかよ。」
「むっ!そのくらいわかってるし!馬鹿にしすぎだからぁ!」
そんなくだらない話をしていた、その時である。
「ドガァァン!」
俺達三人の中心で、巨大な爆発が起きた。
「グアアアアァァァアッッ!」
「ウワアアアアアッッ!」
「きゃぁぁぁっっ!」
俺達はその場に転がる。
ドガァン!ドガァァァン!
連続で爆撃が怒る。
なんだ!?
「どこから攻撃してる!?」
「とりあえず防具を!」
「「Guard Vent」」
「Coppy Vent」
雪ノ下には契約モンスターダークウイングが変身してマントとなって装着される。俺は龍の足を模した盾ドラグシールドを出現させ、由比ケ浜は俺の盾をコピーした。
とりあえずの防御体制である。
爆撃は止まない。
「あそこよ!」
雪ノ下の指し示す方、少し高くなった建物の上に、ライダーが大砲を持ってこちらに向けていた。

緑色の、ごつごつしたシルエットのライダー。
ドゴォン!ドゴォン!ドゴォォン!
「とりあえず、接近するぞ!こっちにはあんまり遠距離武器がない。」
「わかったわ。」
「うん!」
三方向に分かれて敵に接近する。
それにしても、三人いるところに攻撃を仕掛けてくるとは。なかなかの自信家のようだ。
「Nasky Vent」
移動の際に、雪ノ下が超音波攻撃を仕掛ける。
その攻撃に、敵の攻撃の手が止まる。
「今のうちよ!」
どんどん彼我の距離を詰めていく。
「Shoot Vent」
敵の方に、新たな武器が装着される。キャノン砲だ。
キャノン砲と大砲。2つの高火力武器で攻撃を仕掛けてくる。
ドゴォォォ!ガァァァン!
その攻撃は苛烈を極めた。
俺たち全員基本的に近距離戦タイプのライダーなので、少々分が悪い。
「調子に、乗るなッ!」
雪ノ下が斬りかかる。
「ハァッッ!」
敵はその腹部に向けて、大砲を放った。
「クッッ!」
勢いよく吹き飛ばされる。
かなり高威力の技のようだ。
「ゆきのん!」
「ライア!名前を呼ぶな!」
敵に正体がばれてしまう。本名呼びはどう考えてもこのライダーバトルではタブーなのだ。
「オラァッ!」
横に回り、ドラグセイバーで斬りかかる。
俺の攻撃が、敵の右手をかすめた。
その衝撃で、敵は大砲を手放す。
「やぁぁぁっっ!」
「Swwing Vent」
由比ケ浜固有の鞭の武器、エヴィルウィップで追撃を仕掛ける。
「ガァァッッ!」

「チィッッ!」
大砲を手放した敵は、キャノン砲で迎撃を試みる。
俺も由比ケ浜もすんでのところでそれをかわす。
ドゴォォッッ!
敵は地面に向けて思い切りキャノン砲を放つ。
煙幕がたちこめ、視界が一瞬で悪くなる。
「くそっ!どこに行った!」
「もう!これじゃ見えない!」
「龍騎!ライア!遠距離攻撃に警戒して!」
「了解!」
「わかった!」
少しすると、煙幕が晴れた。
少し離れたところに、さっきのライダーが。
「これで終わりね。」
「Final Vent」
敵ライダーの前に、緑色の牛型の巨人が出現する。
敵の契約モンスターだ。
敵は、右手に持っていた銃を巨人に接続する。
「来る……。」
どんな技か細かいことはわからないが、今までのあいつの傾向を見るに、大火力遠距離技だろう。
「はい、おしまい。」
キュゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!
巨人の腹部にエネルギーが集まっていく。
「敵射線上から離れなさい!」
雪ノ下の警告は、しかしもう遅かった。
ドガァァァァァッッッ!!
それは、あまりに強力な技だった。
何本もの極太のビーム、無数のミサイル、爆弾、大砲攻撃……。ありとあらゆる遠距離攻撃。
それが一斉に、俺達を襲う。
無限とも思える爆発。
「うおあああああっっ!」
「わぁぁああああぁあっっ!」
「きゃぁあぁぁぁぁっっ!!」
とても防げるようなものではない。
「あれ?もう終わり?」
敵がつまらなさそうにこちらに寄ってくる。
「Advent」
最後の力で、契約モンスターを呼び出すカードをスキャンする。
「Advent」
「Advent」
同様に、雪ノ下も由比ケ浜も契約モンスターを呼び出す。
三体のモンスターが敵ライダーを襲う。
「今の、うちだ……。」
俺達三人は肩を組んで元来た道をたどる。
こんな状況でなければ胸躍るシチュエーションだが、全員死にかけである。
まったく楽しくはない。
「ハァ、ハァ、ハァ……。」
命からがら、もとの世界へと生還した。
「ヒッキー、ゆきのん、大……丈夫?」
「そういうあなたこそ、大丈夫なの?由比ケ浜さん。」
「え、へへ。うん、なんとかね。」
「嘘つけ。お前肩で息してんじゃねぇか。」
「あはは……。あの技、すごかったね。」
「遠距離戦が私たちにはできない。それを差し引いても、三体一でも押されるなんて……。」
「あのライダー……。なんとかしないといけないな。」
「そうだね。戦いを、止めないと。」
「ハァ……。殺されかけてもそんなことが言えるなんてね。」
「うん!初志完結ってやつだよ!」
「それを言うなら初志貫徹な。ま、お前はそれでいいんじゃねぇの。」





「ま、あなたたちがどんなスタイルでもかまわないけれど、早急に駆除しないと……。」
駆除って。さっすが雪ノ下さん!ぶち[ピーーー]気満々だ!
「おーい、やってるかねー。」
ノックもなしに入ってきたのは平塚先生だ。
「どうした君たち、三人で息を荒げて。……はっ!まさか3Pか!?」
「「3P?」」
「おいお前ちょっと黙ってろよ。」
思わず口調が荒くなってしまった。二人が意味を知らなかったからよかったものの……。
「まぁそうかっかするな。なにがあったんだね?」
しかしその質問に答えるわけにはいかない。
鏡の世界で殺し合いをしていました、なんて言ったら間違いなく精神科を勧められる。
いや、案外この人なら興味しんしんで聴くのかもしれないな。
「別に、大したことではありません。先生には関係のないことです。」
「私は顧問なのだが……。おいっ!私だけ仲間はずれにするなよぉっ!」
ちょっと涙目だった。何なんだこの人……。豆腐メンタルかよ。
思わず話してしまいそうになるが、事が事だからな。
「あ、あー。あたし、今日ちょっと用事があるんだったぁ。ば、ばいばーい。」
「由比ケ浜さん、私も途中まで一緒に行くわ。」
「うん!一緒に帰ろう!」
ヒシッ、と由比ケ浜がいつものように雪ノ下に抱きつく。
ふたりはナチュラルに教室を去ろうとする。冗談じゃない!
俺だけ残されてたまるか!
「お、おれも病院いかないと。」
「比企谷、今日は木曜日だぞ?」
木曜の午後はほとんどの病院は休診だ。
「知り合いの医者が特別に見てくれるんです。失礼しまーす。」
逃げるようにして教室を出る。
「ううう!もっと私にかまえよー!」
面倒臭い教師だなぁもう。誰かもらってあげて!

さて、平塚先生の魔の手から逃れた翌日のことである。
今日は来ないだろうな、と少し警戒しながら部室へと向かう。
すると、雪ノ下と由比ケ浜が教室の扉から中の様子をうかがっていた。
「どうした?おまえら?」
「ひゃぁっ!」
「きゃぁっ!」
「……比企谷君。いきなり声をかけないでくれるかしら。」
「はいはい、で、どうしたんだよ。」
「中に不審人物がいるの。」
「不審人物はお前らの方だろ。」
「いいから、そういうのいいから。」
雪ノ下は俺の背中をぐいぐいと押す。
この野郎面倒な役割を押しつけやがったな!
ていうかだいたいのことはモンスターがいるから大丈夫だろう。
自分で行けよ。
そう思いつつも仕方なく扉をあける。
その瞬間、フワサッ、と、白い紙が風に舞って部室中に散らばる。
「ククク、まさかここで会うとは驚いたな。待ちわびたぞっ!比企谷八幡っ!!」
な、何だと!?驚いたのに待ちわびた!?こっちが驚くわ。
そこにいたのは・……。知らない、こんなやつは知らない。材木座義輝なんて俺は知らないぞ!
もうすぐ初夏だというにもかかわらず汗かきながらコートを羽織って指抜きグローブなんてはめてるやつなんて俺の知り合いなわけがない。そんな奴は知ってても知らない。
「比企谷君。彼はあなたのことを知っているようだけど?」
雪ノ下がけげんな表情で材木座を見ながら言う。
「いや、こんなやつしらねぇよ。」
「まさかこの相棒の名を忘れるとはな……、見下げ果てたぞっ!比企谷八幡っ!」
フルネームを連呼すんなよ暑苦しいなぁ。
「相棒って言ってるよ?」
由比ケ浜が嫌悪の感情を隠さずに言う。
「クズはしね。」と、その目が語っている。
「そうだぞ相棒。あの地獄のような時を共に過ごしたではないま。」
「体育でペア組んだだけだろ……。」
「まったく、あのようなもの、悪習以外の何物ではないわ。我はいつ果てるともわからぬ身、好ましく思うものなど作らぬっ!あれが愛なら、愛などいらぬっ!」
「はぁ……。それはわかったけど、いや、わからないけど分かったことにしてやるけど。それで、お前が何の用だよ。」
「む、我に刻まれし名を読んだか、いかにも、我は剣豪将軍材木座義輝だぁぁっ!」
なんでこいつはいちいち大声を上げるんだよ……。
「なんでもいいけれど、あなた何か用があるのではないの?」
「ムハハハハハハ、すっかり失念しておったわ。時に八幡、奉仕部とはここでよいのか?」
「ああ。」
「そうであったか。ならば八幡よ、きさまには我の願いをかなえる義務があるな。時を超えてもまだ主従の関係にあるとは……。これも、八幡大菩薩の導きか。」
「別に、奉仕部はあなたの願いをかなえるわけではないわ。ただお手伝いをするだけよ。」
「ふむ、そうであったか。いやぁこれは失敬失敬!」
「比企谷君、ちょっといいかしら。」
「ん、どうした。」
「ねぇ、あの剣豪将軍って何?」
なるほどな、雪ノ下はこういうのを知らないのか。
「ああ、あれはな、厨ニ病っていうんだ。」
「ちゅーにびょう?」
由比ケ浜が首をかしげる。
「病気なのかしら?」
「別に本当の病気ってわけじゃない。」
厨ニ病。アニメやラノベのキャラにあこがれて、さも自分にもそのような能力があるようにふるまうこと。
基本的に、発病中よりも治ってから苦しむことが多い。
ざっくりと二人に説明する。
「つまり、自分で作った役になりきって演技をするということね。」
なんかそういうふうに聞くとちょっとカッコいいな。
さすがはユキぺディアさん。
一を聞いて十を知るとはこのことか。
「うー?」
そして、十聞こうが百聞こうが一も理解しない女、由比ケ浜結衣。
「あ、ヒッキー今私のこと馬鹿にしたでしょ!」
「馬鹿になんてしていないと思うわ。ただ、由比ケ浜さんの理解力は著しく劣っていると思ったのではないかしら。」
「それだめじゃん!もう!二人とも!馬鹿にしすぎだからぁ!」
「…材木座君、だったわね。」
「ふむ、いかにも。」
「あなたの依頼は、その心の病を治すということでいいのね?」
「…八幡よ。我は崇高な依頼を持ってここに来た。そのようなことではない。」
なんで俺に言うんだよ、雪ノ下に直接言えばいいだろ。いや、なんとなくわかるけどさ。

「話しているのは私よ?話す方の人を見て話は聞く。小学校で習わなかったのかしら?」
「モハハハハ、これはしたり。」
「あと、その喋り方もやめて。」
「クク、それはできぬ相談だなぁ。雪ノ下嬢。我の生き方を変えることなど、もう誰にも出来ぬわ!そう、今となっては我でさえもな。」
こいつなかなかやるな。雪ノ下相手に引けを取っていない。
「……仕方ないわね、それは百歩譲って許してあげましょう。それで、なんでこの時期にコートを着ているの?」
「ふむ。このコートは、障気から身を守るための外装だ。もともと我の体の一部だったが、この世に転生する際にこのような形になった。」
「じゃぁ、その指抜きグローブは?意味あるの?指先防御できていないじゃない。」
「これは我が前世より受け継ぎし十二の神器の一つ。プラチナムシューターが射出される特殊装甲で、操作性を保つために指先の部分は開いているのだ。モハハハハハハッッ!」
「……そう。やはり、あなたの病気は治した方がいいと思うのだけど。」
「そしてこれがっ!我が最強の武器だっ!」
そう言って材木座はコートからバックルを取り出した。
「「「!!!?」」」
「フフ、これから発せられるオーラに恐れを抱いているようだな。それも仕方ないことよの。見ておれい貴様ら!
変身っ!!」

そうして材木座は灰色の屈強な姿のライダーになった。
頭部には赤い角が付いている。体の色とつのから推測するに、おそらくサイのモンスターと契約したのだろう。
「モハッ!モハハハハはっ!これこそが我の真の姿!仮面ライダー、ガイだっっ!!」
「「「……」」」
「驚きのあまり声も出ぬか。これで分かったようだな、我は真の戦士であると。」
ああ、驚いたぜ、材木座。
その時、キィィィィッ、とモンスター襲来時独特の音が鳴る。
「見ておれ八幡よ。我の雄姿をっっ!」
そう言い残し、材木座は鏡の世界に入って行った。
「とりあえず、俺らも行くか。」
「ええ。」
「うん。」
「「「変身!」」」
襲来者は、熊のモンスターだった。そのモンスターは、走って材木座に接近し、そのまま攻撃を繰り出す。
「っ、あのバカ!なんでよけないんだ!」
材木座は回避行動を取ろうとしない。
「厨ニ、何考えてんの!?」
厨ニというのは材木座のあだ名なのだろうか。ちょっとひどすぎる。
さて、その厨ニこと材木座は……、がしっ!と、敵の振り下ろしてきた腕を掴んで攻撃を止めた。
「モハハハハハッッ!」
そして身動きが取れない敵に、とがった角がついた頭で頭突きを繰り出す。
「グルァァッ!」
「ゴラムゴラム、一気に終わらせるでおじゃる。」
「Strike Vent」
材木座の右手に装着されたのは、サイの頭を模した打撃武器だ。
ガァン!ガァン!ガァァン!
一撃の威力が相当大きいのだろう。敵は見る見るうちに弱っていく。
「これで終わりだ……。」
「Final Vent」
必殺のカードをスキャンすると、壁を突き破ってサイのモンスターが現れる。
サイの頭に足の裏をつけるようにして、材木座とモンスターが合体する。
そしてそのまま、すごい勢いでサイが突進を繰り出す。
「材木座クラッシャァァァーっ!」
とがった頭の角を敵に向けた態勢で、材木座が敵に激突する。
ドガァァアアッ、と、大きな爆発を立てて敵が爆発四散する。
「ダークウイング!」
材木座と契約した際のモンスターがエネルギーを吸収しようとするのを、雪ノ下の契約モンスターダークウイングが奪う。
ええええええええ……。それはさすがにないですよ雪ノ下さぁん。
「ム、ムムムムムムムッッ!なんだお主はぁ!それは我の物だったのだぞ!」
激興した材木座が雪ノ下に襲いかかる。雪ノ下も材木座の方に向かって走っていく。俺と由比ケ浜はとっさのことに判断できず、動けなかった。
「Swword Vent」
槍と材木座の武器が激しく衝突する。
「む、我のメタルホーンを受け止めるとは……。」
どうやらこの武器はメタルホーンと言うらしい。
「セアアッッ!」
パワーは材木座が上でも、スピードでは雪ノ下が勝る。一瞬でその身を引き、そして即座に槍を突き出す。
「やばっ!」
材木座が素に戻る。
「Confine Vent」
そのカードがスキャンされると、雪ノ下の槍が消滅した。
「な、なんなの!!?」
ガキィ!ガキィ!ガキィィ!
武器をなくして動揺していた雪ノ下に、材木座は容赦なく重い攻撃を見舞う。
「くぅぅっっ!」
雪ノ下は体勢を崩す。
「ま、まだよ。」
「Final Vent」
おい雪ノ下、お前!
契約モンスターダークウイングが飛来する。
雪ノ下の身をダークウイングが包んだその瞬間。
「Final Ventは、撃たせぬっっ!」
「Confine Vent」
再び使われた打ち消しのカードにより、ダークウイングが消滅する。
「なっっ!?」
ダークウイングの力で宙に浮いていた雪ノ下の体が落下する。
再び無防備になった雪ノ下に対し材木座は、
「これで終わりだ!盗人め!」
「Final Vent」
容赦なく、いや、彼にとっては当然なのだろうが、(自分が倒したモンスターのエネルギーを奪われ、自分を攻撃してきた敵なのだから。)もちろん俺はそれを見過ごすわけにはいかない。
「やめろぉぉぉっ!」
「Guard Vent」
楯を両手に持ち、雪ノ下と材木座の間に割り込む。
あの超威力の突進を受け止められるかは分からない。だが、やらないわけにはいかなかった。
「材木座、クラッシャー!」
ガキィィン!楯は割れ、材木座の体は吹っ飛んだ。
「ハァ、ハァ、ハァ……。何とか、セーフか。」
「なんなんだ貴様らはぁ!人の物を横取りしたと思ったら、次は二体一か!卑怯者どもめ!」
メタルホーン片手に、今度は俺に襲いかかってくる。

「落ち着け!馬鹿ぁ!」
「Advent」
由比ケ浜が召喚したエイのモンスターエビルダイバーにより、材木座の体は再び大きく吹き飛ばされる。
「げ、げほげほげほっっ!さ、三体一じゃとぉ!すみません僕が悪かったです許してください!」
材木座が驚くべき速度で土下座する。いや、それやられたからって見逃さないだろ普通。
「落ち着け材木座、俺だ。比企谷八幡だ。」
ちなみに相手が俺の声だけを聞いてもわからないのは、ライダーの仮面によって随分声質が変わってしまうからだ。
「八幡!?」
「そうだ、俺達は奉仕部の三人だよ。だから争う必要なんてないんだ。」
「むぅ……、しかしそちらの御仁は我のエネルギーを強奪したぞ!?」
「さっさと取らない貴方が悪いのよ。」
「いや、それに関しては完全にこちらが悪いんだけどよ、何とか穏便にさ。」
「む、仕方あるまい。以後気をつけてくれよ?」
「ああ、説得はしてみるよ。」
たぶん無理だけど。
「ゆきのん大丈夫!?」
由比ケ浜が雪ノ下に駆け寄る。
「え、ええ。」
「ちょっと宙に!女の子になんてことするのよ!」
「え!ええええええ!?先に襲ってきたのはそちらではないか!」
正論である。あの材木座が正論である。
「うるさい!もう!反省してよね!」
理不尽すぎる。材木座、ドンマイ。
「Final Vent」
俺の聞き間違いだろうか、どこからかそんな音が聞こえた。
周囲を見渡すと……
「おい!緑のがいるぞ!」
離れた高台に、いつの間にか昨日戦った遠距離戦ライダーがいた。
その前には、牛型の巨人が。
「あの必殺技が来るぞ!」
「…もう遅いんだよ。じゃぁね。」
ビーム、ミサイル、マシンガン、キャノン、大砲……。
全身武器でできたその体からありとあらゆる武器が射出される。
もう回避は無理だ!あの技は射程範囲が広すぎる!
しかし俺の盾は先ほど破壊された。
「おい材木座!あの消す奴は!?」
彼が使っていた「Confine Vent」とかならなんとかなるんじゃないか?
雪ノ下のファイナルベントも消してたし。
「あ、あれは二枚しかない!」
「つっかえねぇ!」
「Guard Vent」
「Coppy Vent」
雪ノ下が黒のマントを装備する。防御効果があるらしい。それを由比ケ浜も複製して装備する。
「ヒッキー私の後ろに隠れて!」
「すまん!」
「材木座君!」
「あ、ありがとう!」
雪ノ下に手を引っ張られる材木座。何だ、やっぱり優しいじゃないか、あいつ。
「ほら!こっちよ!」
雪ノ下は、材木座を自分の前に引っ張った。
「プギャ!?」
ゆ、雪ノ下……。材木座を楯に使いやがった。
と、そこで攻撃が俺達に到達した。
「「「「ウワァァァァァァァァ!!!」」」」

鼓膜を破るような轟音をたてて、緑色のライダーゾルダのファイナルベントが炸裂する。
爆発、爆発、爆発。
「「「「ウワアアアアアアア!!!」」」」
運が良かったのかどうなのか、俺達はその攻撃の衝撃で鏡に入ってもとの世界に戻れたので、それ以上の追撃を受けることはなかった。
「ぽふっ!もふぅ……。何なのだあの技は。リアルで死ぬかと思ったぞ。」
「ったく……。お前がコンファインベントとっとけばあんなことには……。」
「そうだよ!しっかりしてよね!」
「もふぅ!?そもそも我のエネルギーを横取りしてなければこんなことには……。」
「何かしら?財津君?」
「……。材木座です。」
「ま、過ぎたこと言ってもしゃーねーわな。んで、材木座。お前なんかようがあってここ来たんじゃねぇの?」
「もほっ!ゴラムゴラム。これは失念しておったわ。いかにも!これを……。」
言って材木座は、分厚い原稿用紙の束を渡してきた。
「なに……。これ?」
「小説の原稿みたいだな。」
「いかにも!これはライトノベルの原稿だ!とある新人賞に応募しようと思ったが友人がおらぬゆえ感想が聞けぬ。読んでくれ。」
「今とても悲しいことを言われた気がするわ……。」
なるほど、な。厨ニ病になるくらいだからそういうものを目指すのも当然と言えば当然か。
「なんで俺達?投稿サイトとかあるだろ。」
「それはできぬ相談だなぁ……。あいつらは容赦がないからな。」
メンタル弱ぇー……。
「でもなぁ……。」
ちらりと雪ノ下の方を見ておれはつぶやく。
「投稿サイトよりひどいのがいると思うんだけど……。」

俺達はそれぞれ原稿を預かり、家で読むことにした。
小説の内容は、学園異能バトルラブコメもの。何というか詰め込みすぎ感が出てた。文体も終始一貫してないし。
読むのが朝までかかったせいで、一日中授業に集中できなかった。由比ケ浜の奴は元気そのものだったのでどうせ読んでないんだろう。

俺が部室のドアをたたくと、雪ノ下は珍しく船をこいでいた。
「お疲れさん。」
俺のねぎらいの言葉にも反応を見せない。
そのほほ笑む表情は優しく微笑んでいて、普段とのギャップに驚かされた。
このままずっと見ていたいという思いに駆られる。
好きになっちまうぞ!
と、その時。雪ノ下がゆっくりと目を開いた。
「……驚いた、あなたを見ると一瞬で目が覚めるのね。」
ああ、俺も目が覚めたよ。永眠させてやりたい、この女。
「その様子だと、随分苦労したようだな。」
「ええ、徹夜なんて久しぶりよ。私、この手の物は好きになれそうにないわ。」
「材木座のをライトノベルのすべてだなんて思うなよ。面白いのなんていくらでもある。よかったら……」
「気が向いたら、ね。」
これ絶対読まないフラグだわ。
「やっはろー!」
「由比ケ浜さん、よくこれを読んでそんな状態でいられるわね」
「え?あ、あー……。いやー、あたしもマジ眠いからー。あー、眠い眠い。」
急いで目をこすりだす由比ケ浜これほど嘘が下手な奴も珍しい。
「たのもぉう!」
うっとうしい挨拶とともに材木座が入室してきた。
「さて、感想を聞かせてもらおう。好きに言ってくれたまへ。」
自信満々といった材木座の表情とは対照的に、雪ノ下が珍しく申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさい。私こういうのはあまりよく知らないのだけれど……。」
「構わぬ。俗物の意見も聞きたかったのでな。」
「そう。では……。つまらなかった。読むのが苦痛ですらあったわ。想像を絶するつまらなさ。」
「げふぅっ!」
一刀のもとに材木座を切り捨てた雪ノ下。
「ふ、ふむ……。参考までに、どこがつまらなかったのか教えてもらえぬか?」
「まず、文法がめちゃくちゃね。小学生よりひどいわ。てにをはの使い方知ってる?」
「ほふぅ……。それは読者に読みやすいよう平易な文章に……。」
「そういうことは最低限の日本語が使えるようになってから考えなさい。あと、ルビの誤用が多すぎる。『能力』に『ちから』なんて読み方はない。」
「わかっとらんなぁ。それが近ごろの流行というものよ。」
「そういういのをなんというか知ってる?自己満足よ。そもそも完結していない物語を人に読ませないで。文才の前に常識を身につけることから始めたら?」
「げべらぼらずッダガバディィガバディィ!」
何故突如カバディを始めた……。痛いところを突かれたらしく、材木座は床をごろごろと転がっている。
「まだまだ言い足りないけど、このくらいにしておきましょう。では、由比ケ浜さん。」
「え?えー……。難しい言葉をいっぱい知ってるね。」
「ゲロボェッ!!」
由比ケ浜……。それは作家志望にとっちゃ禁句なんだよ……。
だってそれ以外にほめるところがないってことだからな。
「じゃ、じゃあ、ヒッキーどうぞ!」
「は、八幡?お主はわかってくれるよな?我が文章の高尚さを……。
ああ、わかってるぜ材木座。俺が今、お前にかける言葉は……。
「で、あれって何のパクリ?」
「ゲヤボッサァァヌッッ!!!」
転がっていた材木座は壁にぶつかり、その動きを止めた。ピクリともしない。ただの屍のようだ。
「あなた、容赦ないのね。私より酷薄じゃない。」
「ま、大事なのはイラストだから、中身はあんま気にすんなよ。」

材木座はしばらくひぃひぃと肩で息をしていた。そして、
「……また、読んでくれるか?」
耳を疑った。何を言っているのか分からず俺が黙っていると。
「また、読んでくれるか。」
もう一度、そう言った。
「お前……。」
「どMなの?」
由比ケ浜が雪ノ下の後ろに隠れながら嫌悪の表情を浮かべている。
「お前、あんだけ言われてまだやんの?」
「無論だ。確かに酷評されはした。もう死のっかなー、とも思った。むしろ我以外[ピーーー]と思った。だが……。それでも嬉しかったのだ。誰かに感想を言ってもらえるというのはうれしいものだよ。」
そう言って材木座は笑った。それは剣豪将軍ではなく、材木座義輝の笑顔。ああ、こいつはもうかかっちまってるんだ、立派な作家病に。
書きたいものがあるから書く、それが誰かを少しでも笑顔にできたらなおうれしい。たとえ認められなくても書き続ける。それを、作家病というのだろう。
だから、俺の答えは決まっていた。
「ああ、読むよ。」
読まないわけがない。だってこれは、材木座が、白眼視されても病気扱いされてもやり続けてきたことの証なのだから。
「また新作が書けたら持ってくる!」
言い残して、材木座は去って行った。あんがいあいつの夢がかなうのも遠くないのかもしれない。
そう、材木座義輝は変わらなくていいのだ。
「ていやっ!せいっ!お主らに加護があらんことを!」
……あの気持ち悪い部分を除けばな。

あれから数日がたった。
「のう八幡、流行の神絵師は誰だろうな。」
「気が早い。まず賞とってから考えろアホ。」
体育の時間は相変わらずこいつと組んでいる。
「フム。まずはどこからデビューするかか……。」
「だからなんでしょう取る前提なんだ……?」
「売れたら声優さんと結婚できるかな……?」
「いいから。そういうのいいから。まずは原稿書け、な?」
こんな感じでグダグダやっている。きっと青春と呼べるものには遠いんだろうけど、それでも少なくとも、嫌な時間ではなくなった。
ただ、それだけの話だ。

チャイムが鳴り、四時間目の授業が終わる。
昼休みに突入し、一気に弛緩した空気が流れる。
ニ年F組の教室は、今日も喧騒に包まれていた。
いつもはぼっち飯のためのベストプレイスがあるのだが、今日は雨なので仕方なく教室でむしゃむしゃと飯を食っている。
しかし本当に昼休みの教室というのはうるさいな。
そして、そんな喧騒の中心にいるのが教室の後ろでたむろしている連中だ。
サッカー部の男子ニ名にバスケ部男子ニ名。そして女子三人。
その華やかな雰囲気から、彼らが上位カーストに位置する連中だと一目でわかる。
ちなみに由比ケ浜もここに属している。
その中でもひときわまばゆい輝きを放つ二人がいた。
葉山隼人。
それがあの連中の中心にいる人間の名だ。
サッカー部エースで次期部長候補。
眺めていて気持ちのいい人物ではない。女子の目線からすると、雪ノ下雪乃も同じように映るのかもしれない。
「いやー、今日は無理かな。部活あるし」
「別に一日くらい良くない?今日ね、サーティーワンでダブルが安いんだよ。あーしショコラとチョコのダブルが食べたい。」
どっちもチョコやないかーい!はっはっはっはは!ルネッサーンスッ!
声を荒げているのが葉山の相方三浦優美子。
金髪縦ロールに、風俗嬢かと思わせるほど着崩した制服。スカートなんて、履く意味がないほどに短い。
三浦の顔立ちは整っているが、その派手な格好と頭悪そうな言動のせいもあり、俺の嫌いなタイプだ。
「悪いけど、今日はパスな。それに優美子、あんま食いすぎると太るぞ?」
「あーしいくら食べても太んないし。」
そう言っていた某行列ができる女弁護士は今ぶよぶよに太ってるけどな。
三浦のそんな姿を想像すると、笑いが吹き出る。
「食べ過ぎて腹壊すなよ?」
「だーからー、いくら食っても大丈夫なんだって。ね、ユイ?」
「やーほんと優美子マジ神スタイルだからねー。足とかきれいだし。……で、あたしちょっと」
「えー、そうー?でも雪ノ下さんとかの方がやばくない?」
「確かに!ゆきのんはっ」
「……」
三浦の無言の圧力により、由比ケ浜が黙る。
何これ封建社会?こんな気使わないといけないなら俺一生ぼっちでいいわ。
「あの……あたし、お昼ちょっと行くところがあるから」
「あ、そーなん?じゃぁ帰りにあれ買ってきてよ。レモンティー。あーし今日飲み物買ってくるの忘れちゃってさー。パンだし、飲み物ナイトきついじゃん?」
そんぐらい自分で行けよ。
「けどあたし帰ってくるの五限の直前になるからちょっと無理っていうか……」
由比ケ浜がそういうと、三浦が飼い犬に手をかまれたような表情を浮かべた。
「は?ユイさー、この前もそんなこと言ってなかった?最近付き合い悪くない?」
「やー、やむにやまれぬ事情というか……」
由比ケ浜のその弁解も、三浦の怒りの炎に油を注ぐ結果となった。
「それじゃわかんないから。あーしら友達じゃん?隠し事とかよくないと思うんだよねー」
なんだそれは、友達どころか家族にだって言えないことはあるはずだ。三浦のそれは、ただの脅迫だ。
「ごめん……」
「だからごめんじゃなくてー、なんか言いたいことあるんでしょ?」

あほくさい。こんなの相手をいじめたいだけじゃねぇか。
普通ならスルーするところだが、由比ケ浜には借りがある。
それにあいつは、もう俺の仲間だ。
それから、もう一つ。
気にいらねぇンだよこの野郎。
「おい、そのへんで」
「るっさい」
だが俺も男だ。そう言われて引くわけにはいかない。
「いい加減にしろよ、三浦。お前は由比ケ浜の上司にでもなったつもりか?誰にだって隠し事の一つや二つあるだろうが。それともお前は聞かれればなんだってこいつらに話すのか?違うだろ?」
三浦の眼光が強くなる。俺を敵として認識したのだろう。
「何?あんたいきなり出てきて偉そうに」
「比企谷八幡。通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」
「ひ、ヒッキー。いいよ。あたしなら大丈夫だから。優美子……ごめんね?」
「はぁ、またそれ?あんたさっきから謝ってばっかだけど」

「謝る相手が違うわ。由比ケ浜さん」
キィィィっ!と、いつものけたたましい蝙蝠の鳴き声とともに現れたのは、雪ノ下雪乃だ。
すいません、登場シーンもうちょっと何とかなりませんか?
三浦も耳を押さえている。
「由比ケ浜さん、自分から誘っておいて待ち合わせの場所に来ないのは人としてどうかと思うけど。遅れるなら連絡の一本でもしたら?」
「ごめんね。でもあたし、ゆきのんの連絡先知らないし……」
「そうだったかしら?では今回は不問にしておきましょう」
「ちょっと!あーしたちまだ話し終わってないんだけど?」
「話、ね。これは笑わせてくれるわ。てっきり類人猿の威嚇だとばかり思っていたから」
「なっ!?」
「気付かなくてごめんなさい。あなたたちの生態系にくわしくないものだから」
「あんたねぇ……。もう許せない!行け!ベノスネーク!」
三浦の声に呼応して、鏡から紫色の蛇のモンスターが現れる。
そしてその口から毒液を放射する。
あの野郎っ……!
しかし流石は雪ノ下。とっさにその場で身を転がしてその攻撃を回避する。
毒液がかかった床が溶けた。
「驚いたわね。こんな芸当ができるなんて」
「……にするの……」
由比ケ浜がつぶやく。
「は?何よユイ。言いたいことあんなら言えば?」
「あたしの友達に、何してるのって言ってるのっ!」
それは言外に、もう自分と三浦は仲間ではないと言っていた。
「……へぇ、そういうこと言うんだ。なら、二人まとめてっ!」
ベノスネークが再び毒液を放射する。
「ドラグレッダー」
その蛇に向かって、ドラグレッダーが体当たりをくらわす。
「はぁ!?」
ドラグレッダーがそのまま三浦に攻撃する。
教室内が今までとは全く別の喧騒に包まれる。
大慌てで逃げ出すクラスメイト達。
あとには俺達三人と、三浦、葉山が残った。
「へぇ……。驚いたわ。この龍、誰のモンスター?」
「俺だよ。三浦」
「通りすがりの仮面ライダー、ね。あれ冗談じゃなかったんだ」
「冗談にしたかったんだけどな」
「だったらあんたも」
「やめろ」
唐突に口を開いたのは葉山だ。
「お前たちが何をしようとしてるのかは知らない。でも、危ないことだというのはわかる。やめろよ、そんなの。争う理由なんてないだろ!」
おいおい、この状況でそんなことが言えるのか。
「葉山君、関係ない人は黙っていてくれないかしら。それにね、戦う理由ならあるわ。私はこの愚かな類人猿に殺されそうになったのだから。あとね、私の大切な友達を傷つけた罪は、許せない」
「ゆきのん……」
「だ、だが。やられたからやり返すんじゃ、何も解決にはならないだろ」
「解決するわ。この女を、消せばいいのよ」
雪ノ下さんまじぱねぇっす!
「はぁ?偉そうなこと言ってるけどあんたに何ができ」
「できるわ」
ポケットから蝙蝠のカードデッキを取り出す。
「へぇ……。そういうこと」
「あなたの罪、償ってもらうわよ?」
「気に食わないんだよ。あんたみたいなやつ」
「「変身!!」」
氷の女王と煉獄の女王。長きにわたる争いの始まりであった。

鏡の世界ミラーワールドへ雪ノ下と三浦が飛び込む。
「比企谷君、これは一体……」
「葉山、……お前は知らない方がいい。これは、俺達の問題だ。由比ケ浜、お前はここにいろ。友達と戦うのはつらいだろ」
「ううん、友達だけど、友達だからこそ、止めないと」
「そうか、なら、行くとするか」
「うん!」
「「変身!!」」
ミラーワールドでは、二人が間合いを確認しながら、攻撃のタイミングをはかっていた。
三浦は、全身紫色で、どこまでも不気味な蛇を連想させるような姿だ。
「「Swword Vent」」
ほとんど同じタイミングで両者が武器を取り出す。
「あーしあんたみたいなの見てるとさー、イライラするんだよ」
コキコキと音を立てて首を回しながら、三浦が挑発する。
「そう。それなら私を消してみなさい」
「言われなくてもっ!」
二つの剣が激突して火花を挙げる。
「あーしこう見えてもさぁ、格闘技とかやってたんだよねー」
「あらそう、それにしては弱いのね」
雪ノ下はそういうが、三浦の強さは本物だ。まったく無駄の動き。
何合か斬りあい、両者が間合いを取る。
二人ともこっちには気が付いていない。奇襲をかけるなら今だ。
「Advent」
「グガァァァアーーッ!」
けたたましい咆哮を挙げながら、ドラグレッダーが三浦に襲いかかる。
「なっ!ヒキオの分際でっ!」
三浦は大きく吹き飛ばされる。
「これで終わりよ!」
「Finalvent」
「って、ちょっと待て雪ノ下!」
「やめて!ゆきのん!」
「悪いけど、この女に情けをかけるつもりはないわ!」
ダークウイングと合体して、空中からの急降下ドリル攻撃を放つ。
由比ケ浜が走りだすが、この距離では間に合わない。
「くっっ!」
まさに攻撃が直撃しようというその時、
「Freezevent」
機械音が響き渡ったと思った瞬間、雪ノ下の攻撃が止まった。
正確には、雪ノ下を包んでいたダークウイングの動きが。
「な、何なの!?」
「よくわかんないけど、ここは引いた方がいいっしょ!」
そう言い残し、三浦はミラーワールドを去って行った。
「今のは一体……」
「Finalvent」
またか!しかも今度はファイナルベント、必殺技の発動音声。
どこだ、どこにいる?
俺達三人が周囲を見渡していると、物陰から急に、青色の虎が襲いかかってきた。
その虎は俺の体勢を崩し、そのまま引きずる。地面で体が削られる。
「がっ!あっ!ああぁぁぁぁっ!」
「比企谷君!」
「ヒッキー!」
二人が虎の存在に気付き攻撃を仕掛けようとするが、その時にはすでに彼女たちの横を通り過ぎて行った。
引きずられていった先の物陰から、今度はライダーが現れた。
水色と白を基調とした猛々しい姿だ。
そのライダーは、両手に装備した巨大な爪状の武器で俺を突き刺し、高く掲げる。
「がっっ!はっ……」
痛みが全身を駆け巡る。
「比企谷八幡。君はこの世界に必要のない存在だ。死ぬがいい」
「てめぇ、いったい誰だ……」
「僕は仮面ライダータイガ。英雄になる男だ」
「Advent」
由比ケ浜の契約モンスターエビルダイバーがこちらに向かってくる。
「デストワイルダー!」
タイガの声に呼応して、虎のモンスターがエビルダイバーを迎え撃つ。
「Swwordvent」
「Swwingvent」
「あなた、覚悟はできているんでしょうねっ!」
「絶対に許さないんだからっ!」
二人がタイガに襲いかかる。
「おっと、君たちと戦うつもりはないよ」
タイガは彼女たちの相手をすることなくこの世界を去る。
「比企谷君!大丈夫!?」
「ヒッキー!しっかりして!」
「大、丈夫だ……。すまない、肩を貸してくれ」
「三浦さんだけではなく、あのライダー……」
「緑のライダーのことも解決してないのに……」
不安要素ばかりが増えていく。俺は改めて、ライダーバトルの恐ろしさを実感した。

「ずいぶん大変だったみたいじゃん。あーしに手ぇだした罰じゃない?ヒキオ?」
三浦がいやらしい笑みを浮かべる。ライダーベルト所持者は、鏡を通してミラーワールドを見ることができるのだ。
「るせぇよ……」
「あんたら、絶対つぶしてやるから」
「やれるものならやってみなさい」
「由美子」
由比ケ浜が口を開く。
「あたしは、ライダーバトルを止める。そして、由美子とももう一度友達になるから」
「あんた、それマジでいってんの?」
「うん、本気だよ」
「あっそ。なら好きにすれば。言っとくけど手加減なんてしないから」
「由比ケ浜さんに手を出したら私が許さないわ」
「へぇ、言ってくれんじゃん」
雪ノ下と三浦が懲りもせずに睨みあう。
「……ったく、お前ら……。あれ?葉山はどこいった?」
「逃げたんじゃないかな。モンスターとか見たら、仕方ないよ……」
由比ケ浜の表情は悲しげだ。
同じグループで親しくしてきた友人を失ったと思っているのだから当然だろう。
だが……。
「本当に、そうか……?」
「え?それどういう意味?」
「いや、なんでもねぇよ……」
「仮面ライダータイガ、ね」
「は?あんた何言ってんの?」
雪ノ下は俺の言わんとすることを察したらしい。
「いいえ、ただの独り言よ」
俺の見当違いであればいいんだがな……。
「あれ?ヒキタニ君達、戻ってたのか。みんな、どこに行ってたんだ?」
教室に入ってきた葉山が俺達に問う。
「……いや、別に」
「大したことじゃねーし。つーか女子の秘密聞くとか隼人らしくねーべ?」
「はは、それもそうだな」
葉山は真剣な表情を消し、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべる。
「昼食がまだだったわね。行きましょう、由比ケ浜さん」
「え?あ、うん!ゆきのん大好き!」
あんなことの後だというのにこいつらゆりゆり始めやがったぞ……。
「ハハハ、一件落着、かな?」
「ま、そういうことでいいんじゃねぇの?」
「そっか、でもやっぱり気になるな。……比企谷君のことは」
「気にすんなよ、英雄野郎」
「なんのこと?」
そう言った彼の笑顔は、先ほど以上に欺瞞に満ちあふれていた……。

気持ちを変えれば態度が変わる。
態度が変われば行動が変わる。
行動が変われば周りが変わる。
周りが変われば世界が変わる。
世界が変われば人生が変わる。
そして……月が変われば体育の種目が変わる。
我が校の体育は三クラス合同で行われ、男子総勢60名をにたつの種目に分けて行う。
今月からはテニスとサッカー、いかにもリア充といったスポーツだ。
「よーーし、それじゃ二人組作って練習やれ」
出たな、ぼっちに言ってはいけない言葉の代名詞!
だがそれは、逆にいえばいくらでも対応策を考える時間があるということでもある。
受けてみろ!我が奥義!
「すいません、俺調子よくないんで壁打ちしていいっすか?みんなに迷惑かけることになっちゃうんで」
そう言って、教師の言葉も待たずにさっさと歩きだす。
特にこの『迷惑かけたくない』が、集団行動を重んじる体育会系には有効だ。
「うわぁっ!今のやばくね!?マジやばくね?」
「マジやばいわー。激熱だわー」
一際大きい声のする方を見ると、そこには葉山たちの集団があった。
「うわ、隼人君すげー」
「やっぱ違うなー」
その集団は、葉山を目印にしてどんどん数を増していく。
その数はあっという間に二桁となった。
優に六分の一が葉山王国の国民だ。
あっという間に体育の授業は彼の王国に支配された。
彼らは一様に騒いでいるが、それ以外は反比例するように静かになる。
葉山グループにあらずンば人にあらず。
だが、歴史が語るように、そんなものは長続きしない。
英雄になる、などという男が王ではなおのことだ。
ふと、葉山と目があった。
その目が凍てつくような冷たさを一瞬持ったのを、俺は見逃さなかった。

昼休み。いつものように、マイベストスポットで一人飯を食う。
購買で買った大してうまくもないパンをもぐもぐと咀嚼する。
視界の隅に移るテニスコートから聞こえる打っては返すラケットとボールの当たる音が眠気を誘う。
レモンティーをすすっていると、ふと風向きが変わった。
天候にもよるが、海の近くにあるこの学校では、昼を境に風の方向が変わる。
この風を一身に受けながら過ごす時間が俺は嫌いじゃない。
「あれー?ヒッキーじゃん」
風に乗って聞きなれた声が聞こえる。
「なんでこんなとこにいんの?」
「普段ここで飯食ってんだよ」
「なんで?普通に教室で食べればよくない?」
……察せよ。
「つーかお前こそなんでこんなとこいんだよ」
「そうそう、それそれ。ゆきのんとの罰ゲームに負けちゃったんだー」
「罰ゲーム……俺と話すことがかよ」
「ち、違う違う!負けた人がジュースを買ってくるの!」
「そうか、よかった。危うく契約のカード破り捨ててドラグレッダーに食われるとこだったわ」
「ちょっ、でもそうなったらあたしがヒッキーを守ってあげる!」
「そりゃどうも」
俺がそつない返事を返すと、由比ケ浜が微笑を浮かべる。
と、そこに、とたとたと誰かの走る音が聞こえてきた。
「おーい、由比ケ浜さーん!」
「あ、さいちゃーん!」

「さいちゃん、練習?」
テニスウェアを着たその少女に由比ケ浜が問う。
見りゃわかんだろ……。
「うん。うちの部弱いから、いっぱい練習しないと……。お昼も使わせてくださいって申請して、最近オッケーが出たんだ」
「授業でもテニスやってるのに偉いねー」
「ううん。好きでやってることだから。そういえば比企谷君、テニス上手いよね」
なんでこいつ俺の名前知ってるんだ?
「そーなんす?」
ソーナンスって……お前はポケモンかよ。
「うん、フォームがとってもきれいなんだよ」
「いやー、照れるなー……。で、君は誰?」
「はぁぁっ!?同じクラスじゃん!ていうか体育一緒でしょ!?信じらんない!」
「いやお前あれだよ、俺はみんなの平和とか守ってるから一人ひとりの名前までは覚えられないんだよ」
「あはは。やっぱり覚えてないよね。同じクラスの戸塚彩加です」
「ごめんなー……。ほら、でも、クラス変わったばっかだし」
「一年の時も同じクラスだったんだよ……。えへへ、僕、影薄いから」
「いやそんなことないさ。俺女子とほとんどかかわりないし。何ならこいつの本名も知らないし」
言って由比ケ浜を指さすと、
「ファイナルベントォッ!」
思い切り方を叩かれた。
お前、そこはスイングベントくらいにしとけ……。いや、やっぱやめてください。
「由比ケ浜さんとは仲いいんだね」
「ええっ!?全然よくないよ!むしろ殺意しかない!ファイナルベントで殺した後にコピーベントで化けて悪評を立てまくるレベル!」
お前それガチの奴じゃねぇか……。
「ホントに仲いいね」
ぼそりとつぶやいて、戸塚は俺に向き直る。
「僕、男なんだけどなぁ……。そんなに弱そうに見える?」
ぴたりと俺の思考が停止した。
わお、びっくりドンキー。
由比ケ浜に目で問うと、うんうんとうなずいている。
マジかー……。
「とにかく、悪かったな。知らなかったとはいえ女扱いして」
「ううん、大丈夫」
「それにしても戸塚、よく俺の名前知ってたな」
「うん、比企谷君目立つから」
「どこが?」
由比ケ浜が真顔で問う。
ちょっと傷付くんですけど……。
「一人で教室にいたら目立つだろうが」
「あ!それは確かに目立……ごめん」
そういう態度の方が傷つくと彼女は学ぶべきだ。
「比企谷君、テニス上手だけど、経験者か何かなの?」
「小学生のころマリオテニスやったぐらいかな。リアルでは特に……」
「あ、あのみんなでやるやつだ!」
「は?俺は一人でしかやったことねぇぞ?」
「あ、あー……。ごめんなさい」
「お前わざとやってない?」
「わざとじゃないもんっ!」
と、その時昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「もどろっか」
戸塚が言って、由比ケ浜がそれに続く。
それを見て少し不思議に思う。
教室が同じなんだから一緒に行くのが当然なんだと。
そしてふと、自分たちのことを思う。
俺達奉仕部は、向かう方角は一緒なのだろうか……と。

数日の時を置いて、再び体育の時間がやってきた。
度重なる一人壁打ちの末、俺はすでにテニスをマスターしつつあった。(ただし一人専用)
今日もけなげに一人練習に打ち込んでいると、
とんとんと肩をたたかれる。
振り返ると、頬に誰かの人差し指が当たる。
「あはっ、ひっかかった」
可愛い笑顔を浮かべるのは戸塚彩加その人である。
えー、何この気持ち。恋かな?ピンときたら、セイ、恋かなえって!
これが男じゃなかったら告白して振られるとこだった。
よかった、戸塚が男で。
「どした?」
「うん、今日ね、ペアの子が休みだから、よかったら僕と組んでくれないかな?」
そう言われて断る理由は俺にはない。
「じゃぁ、始めよっか」
戸塚はテニス部だけあってそれなりに上手い。
壁相手に会得した正確な俺のサーブを受けて、正面に正確にレシーブしてくる。
何度もやっているうちに、単調に感じたのか戸塚が口を開く。
「やっぱり比企谷君上手だねー」
「相当壁打ちしたからなー、テニスは極めたー」
「テニスじゃないよー、それはスカッシュだよー」
他愛もない話をしながら、戸塚とのラリーは続く。
他の連中が打ちミスなどしてとぎれとぎれになる中、俺達だけが長いこと続いていた。
「少し、休憩しよっか」
「おう」
二人で地面に座る。なんでお前は俺の隣に座るんだ?なんか距離近くない?近くなーい?
「比企谷君に、ちょっと相談があるんだけど」
「なんだ?」
「うん。うちのテニス部って、すっごく弱いでしょ?それに人数も少なくて……。人が少なくて自然とレギュラーになるから、モチベーションも上がらないし……」
「なるほど、な」
頷ける話だ。弱い部活にはありがちなことだ。
休んでもさぼっても大会には出られて、試合をすればそれなりに部活をしている気分になれる。勝てなくてもそれなりに満足してしまう。
そんな奴らは決して強くならない。だから人が集まらない。
負の連鎖は止まらない。
「だから……比企谷君にテニス部に入ってほしいんだ」
「は?」
だからって何?なんでそうなるんだよ。
「比企谷君テニス上手いし、もっと上手になると思う。それにみんなの刺激にもなると思うし……」
なるほどね、俺をカンフル剤にしようってわけか。
だが……
「悪いな。それは無理だ」
俺は自分の性格をよくわかっているつもりだ。毎日部活に行くなんて意味がわからないし、集団の中にいることを苦痛に感じるような人間だ。
仮に入ったとしても一ヶ月経たないうちに退部する自信があるし、戸塚をがっかりさせてしまうこと請け合いだ。
「……そっかぁ」
戸塚は本当に残念そうな声を出す。
「まぁ、何だ。代わりと言っちゃなんだが何か方法を考えてみるよ」
「……ありがとう。比企谷君に相談してみて気が楽になったよ」

「無理ね」
雪ノ下は開口一番にそう言ってのけた。
「いや、無理ってお前さー」
「無理なものは無理よ。ブランク体でドラグレッダーに勝とうとしたあなたぐらい無理よ」
その話をほじくり返すなよ……。
ことの始まりは、俺が戸塚から受けた相談を雪ノ下に話したことだ。
「でもよぉ、俺を入部させようとする戸塚の考えはあながち間違ってないと思うぞ。要はテニス部の連中を、このままじゃ危ないぞ、って脅かしてやればいいんだから」
俺のその言葉を、雪ノ下は鼻で笑う。
「あなたという共通の敵を得て集団が団結することはあっても、それは排除するための努力で、自身の向上ぬそれが向けられることはないわ。ソースは私」
「確かにな……。ん、ソース?ソースならウスターが好きだが」
「そのソースじゃないわよ。あなた本当に国語学年三位?」
「ちょっとしたジョークだろうが」
「私、中学時代に海外からこちらに戻ってきたの。そこで転入先の女子たちは、私を排除しようと躍起になったわ。誰一人として私に勝てるよう努力をした者はいなかった。あの低能共、ダークウイングに捕食させたいわ……」
お前何折本みたいなこと言ってんだよ。
俺は話題を変えようと試みる。
「戸塚のためにも、何とかできねぇかな……」
「珍しい。あなたが誰かのために何かするなんて……」
「いや何、相談されたのなんて初めてだからな。うれしくってさ」
「そう、私もよく相談されたけどね」
雪ノ下が少しだけ胸を張って言う。しかしあれだな、貧乳の奴が胸を張るというのはそこはかとない滑稽さがあるな。
「久しぶりに戦いたいのかしら……?」
こちらをキッと睨んでバックルを取り出す雪ノ下。やめてくださいおっかないから。ていうかなんで俺の考えてることがわかんの?
「まったく……。言っておくけどね、人の価値はそんなものでは決まらないのよ」
「誰もそこまで言ってねェだろうが……。でもあれだよな、気にしなくていいもんでもないよな」
「なに?喧嘩売ってるのかしらゲス谷君?」
「だって考えてもみろよ。人間の雌のホルモンは胸から出るんだぞ?それが小さいってことは問題なんじゃないか?」
「それは科学的根拠でもあるのかしら?あるのなら早く言ってみるといいわ。断じて気になるなんてことはないけれど」
あれだよな、こいつ焦った時とかとにかくまくしたてるよな。
「普通の生物は尻からフェロモンが出るけどよ、人間は二足歩行だからそれを見れねェだろ。あ、ちなみにこれは視覚に訴えかけるホルモンだからな?
で、尻以外にそのホルモンを出す場所として、人類は胸を選んだんだよ。だからそれが小さいってのはほっといていいことじゃないと思う」
「……なら、どうしろって言うのよ」
雪ノ下はぼそりとつぶやき、そしてそれを隠すようにして続けてる。
「ああ、だから比企谷君はいつも由比ケ浜さんの胸をじろじろ見ているのね」
「そうだな、それも仕方ないことだよな。だからそんな非難の目で見られる覚えもないんだが」
「これは後で由比ケ浜さんにも教えてあげないと」
「好きにしろ。こちとら好感度なんてドブに捨ててんだよ。いまさら誰にどれだけ嫌われたって痛くもかゆくもないね!」
「やっはろー!」
そこに頭の悪そうな挨拶とともに由比ケ浜が入ってきた。
と、その後ろに不安そうな顔をした人物が目に留まる。
「あ……比企谷君っ!」
瞬間、透き通っていた肌に血の色が戻り、花が咲くような笑顔を浮かべる。
「戸塚……」
トテトテと俺に近づいてきて、そっと俺の袖口を握る。
「比企谷君、ここで何してるの?」
「ん、部活だけど。お前はどうしたんだ?」
「今日は依頼人を連れてきたよ!」
戸塚に代わって由比ケ浜が答える。
「やー、ほらなに?あたしも奉仕部の一員として?ちょっとは働こうと思ってさー。そしたらさいちゃんが悩んでるみたいだから連れてきたの!」

「由比ケ浜さん」
「ゆきのん、お礼なんて全然いいよー。部員として当たり前のことだから?」
そういう由比ケ浜は言葉とは裏腹に自信満々といった様子だ。
「由比ケ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど……」
「違うんだっ!?」
え!?違うの!?おいこら、思わずスリムクラブみたいな声出しちまったじゃねぇか。
「ええ。入部届けをもらっていないし顧問の承認もないから部員ではないわ」
「書くよ!そのくらい書くから仲間に入れてよっ!」
涙目になりながら由比ケ浜は「にゅうぶとどけ」とひらがなで神に書き始めた。そのくらい漢字で書けないのか……?
「で、戸塚彩加君だったかしら?」
「あ、あの……。テニスを強くしてくれるん、だよね?」
「由比ケ浜さんがなんて言ったかは知らないけれど、奉仕部は便利屋ではないの。強くなるもならないもあなた次第よ。信じるか信じないかも、あなた次第よ」
お前それ言いたかっただけだろ……。
「そう、なんだ……」
少し落胆したように肩を下げる戸塚。由比ケ浜が調子のこと言ったんだろうな……。当の由比ケ浜は、「はんこはんこ」と呟きながら鞄をごそごそと探している。なに、お前いつも持ち歩いてんの?
と、その由比ケ浜を雪ノ下がちらりと睨む。その視線に気づいた由比ケ浜は顔を上げる。
「ん?どったの?」
「どったのじゃないわよ由比ケ浜さん。あなたの無責任な発言で一人の少年の淡い希望が打ち砕かれたのよ?」
「んん?でも、そうした方がいいってあたしの占いでもそう出たし!あたしの占いは当たるんだー。
それに、ゆきのんとヒッキーなら何とかできるでしょ?」
由比ケ浜は何の考えもなしにあっさりと言った。それは受け取り方によっては「できないのか?」と挑発しているようにも聞こえる。
そして、そういう風に捉えるやつがここに入るのだ。
「……ふうん、あなたも言うようになったわね、由比ケ浜さん」
「え?えへへー。照れるなー」
別にほめられてはないぞ?
「いいでしょう。戸塚君、あなたの依頼を受けましょう。テニスの技術向上を助ければいいのね?」
「はい。そうです。僕がうまくなれば、きっとみんな頑張ってくれると思うから」
「ま、手伝うのはいいけどよ。具体的にはどうするんだ?」
「簡単なことよ」
にやりと笑って雪ノ下は告げる。
「死ぬまで走って死ぬまで素振り、死ぬまで練習よ」

翌日の練習から地獄の特訓は始まった。
テニスコートのは雪ノ下と由比ケ浜、戸塚がすでにそろっている。
「では、始めましょうか」
「よろしくおねがいします」
雪ノ下に向かって戸塚がぺこりと頭を下げる。
「まずは戸塚君に致命的に足りていない筋力を上げましょう。まずは腕立て伏せを死ぬ寸前までやって見て?」
「し、死ぬ寸前……?」
由比ケ浜が驚きの声をあげる。
「ええ。筋肉は痛めつければ痛めつけただけ強くなるの。これを超回復というわ」
「あー、つまりサイヤ人みたいなもんか」
「まぁ、すぐに筋肉がつくわけではないけれど、基礎代謝を挙げるためにもこのトレーニングはする意味があるわ」
「基礎代謝?」
「簡単に言うと、運動に適した体になるのよ。カロリーを消費しやすくなる、エネルギーの変換効率が上がるの」
「カロリーを消費しやすく……つまり、やせる?」
「……まぁ、そうなるわね」
「あたしも一緒にやる!」
戸塚と由比ケ浜は横ばいになってゆっくり腕立て伏せを始める。
「んっ……くっ、はぁ」
「うっ、はぁっ……んんっ!」
二人の吐息が聞こえてくる。薄く汗をかいて頬は上気している。
何というか……いけない気分になるな。
「……あなたも運動してその煩悩を振り払ったら?」
「はっ、笑わせるな雪ノ下よ。人間というのは煩悩あってこそだ。それをなくしたらもうそれは人間じゃねぇよ」
そう言って俺は二人の観察を続ける。
「はぁ……」
雪ノ下はため息をついて俺を睨み続ける。
……いや、なんてーの?これはあいつが怖いわけじゃないよ。ないけど、まぁそのなんだ?ライダーバトルには体力がいると思うし……?
俺は黙って昼休み中筋トレを続けた。

そんなこんなで日々は過ぎ、俺達の練習は実戦練習へと移行していた。
雪ノ下は一切容赦がなく、戸塚はもうへとへとだ。
雪ノ下が投げる球は不規則で一切予測ができない。それをとらえようと戸塚は走るが、途中でずざっと転んだ。
「うわ、さいちゃん大丈夫!?」
由比ケ浜が戸塚に近寄る。
戸塚はすりむいた足をなでながら、にこりと笑って無事をアピールした。
「大丈夫だから、続けて」
それを聞いて雪ノ下は顔をしかめる。
「まだやるつもりなの?」
「うん、みんな付き合ってくれるからもう少し頑張りたい」
「……そ。じゃぁ由比ケ浜さん、あとはよろしくね」
そう言って雪ノ下はくるりと背を向けてどこかへ行ってしまった。
「何か怒らせるようなこと、しちゃったかな?」
「いや、あいつはいつもあんな感じだよ」
「もしかしたら、呆れられちゃったのかな……。僕、ちっともうまくならないし」
「それはないよー。ゆきのん、がんばってる人を見捨てたりしないもん」
「ま、それもそうだな。由比ケ浜の料理に付き合うくらいだ。まだ可能性のある戸塚を見捨てたりしないだろうさ」
「どーゆー意味だっ!」
由比ケ浜が近くにあったボールを投げつけてくる。
足元に転がってきたボールを軽く放ってやる。
「そのうち戻ってくるだろ。続けようぜ」
「うんっ!」
そう答える戸塚の笑顔は輝いていた。
「あ、テニスしてんじゃんテニス!」
聞き覚えのあるいやな声が聞こえてきた。振り返ると、そこにいたのは三浦と葉山のグループだった。
「嫌なのが来やがった……」
「あ、結衣たちだったんだー」
三浦は俺と由比ケ浜を軽く無視して戸塚に話しかける。
「ね、戸塚ー。あーしらもここで遊んでいいー?」
「三浦さん、僕たちは別に遊んでるわけじゃ……」
「え?何?聞こえないんだけど?」
この野郎……。
ポケットのドラグレッダーのカードを握りしめる。
戸塚は怯えているようだったが、なけなしの勇気を振り絞ってもう一度告げる。
「練習、だから……」
だが、女王は民の声になどもとから耳を貸すつもりがない。
「へー、練習ねぇ。でも部外者混じってんじゃん。ならあーしらもやってよくね?」
「……」
戸塚は黙ってしまう。三浦のにらみが彼の抗弁を封じ込めている。もう黙って見てはいられない。
「悪いが、このコートは戸塚が頼んで使わしてもらってるもんだから、他の奴は無理だ」
「は?じゃぁなんであんたは使ってんの?」
「俺達は戸塚の練習に付き合ってるだけだ。業務委託っつーかアウトソーシングだ」
「なに意味わかんないこと言ってんの?キモいわ」
「気持ち悪いのは、自分のわからないことをすべて排除しようとするお前みたいな考え方だよ」
「は?やろうっての?」
「まぁまぁ、あんま喧嘩腰になんないでさ」
バックルを取り出した三浦を葉山が諌める。
「じゃぁこうしない?あーしとあんたが戦って、勝った方が戸塚の練習に付き合う。これなら文句ないっしょ?」
何故ライダーバトルの勝ち負けで決めるのかは理解できないが、こいつの態度には目に余るものがある。ここらで一度お灸をすえる必要があるだろう。
「いいだろう。じゃぁ、俺とおまえの一騎打ちでいいな」
バックルを取り出した俺の手を、誰かが後ろからつかむ。
「戸塚?」
「八幡、僕が戦うよ。ここは、僕の大切な場所なんだ」
言って、制服のポケットから白いバックルを取り出した。
「へぇ、戸塚。あんたもか」
そんな、戸塚がライダー!?
「八幡もだったんだね。でも僕、ライダー同士で戦うつもりはないんだ。少しでも男の子らしくなれたらと思って」
「そうか。でも、お前大丈夫なのか?」
「うん、今はきっと、無理してでも戦わなきゃいけない時だから」
なら、俺には何も言うべき言葉はない。
「勝ってこい」
「うん!」
「「変身!」」
「戸塚彩加、仮面ライダーファム、行きます!」

戸塚が変身したのは、真っ白なハクチョウのようなライダーだった。とても可憐で美しく、戸塚のイメージに合っていた。
仮面ライダーファム、か。
葉山達の方を見ると、誰も驚いた様子の者はいない。どうやら彼等はライダーバトルのことを知っているようだ。
「さいちゃん、大丈夫かな……」
由比ケ浜の声を聞き、俺も鏡の中に注意を向ける。
「Swword Vent」
「Swword Vent」
両者が武器を召喚する。
戸塚の武器は、槍に近い形状だ。
「はぁっ!」
「おらぁっ!」
数号切りあうと、徐々に力量の差が出てきて、戸塚が押され始めた。
「あっはっはっ!弱い弱い、弱すぎっしょ!もっと楽しませろって!」
「ま、まだだっ!」
「Guard Vent」
戸塚が盾を手にすると、ものすごい勢いで白い羽が舞い始めた。
「な、どこいった!」
大量の羽で視界を奪われ、三浦は戸塚を見失う。
「はぁっ!」
その三浦の背中を戸塚が思い切り斬りつける。
「くそがっ!」
「Advent」
三浦の契約モンスター、紫色の大蛇「ベノスネーカー」が現れる。
「甘いよ!」
大蛇が放出した毒液を楯で受け止める。
と、見る見るうちにその楯が溶けていく。
それと同時に羽の放出も止まる。
「ははははははっ!終わりだぁっ!」
「Final Vent」
三浦が高く跳びあがる。
「僕は、負けられないっ!」
「Advent」
戸塚の後ろに白鳥のモンスター『ブランウイング』が現れる。
その翼を思い切り動かし、突風を起こす。すると、その影響で三浦の攻撃が中断する。
「これで決める!」
「Final Vent」
ブランウイングが三浦の後方に移動し、もう一度翼をふるう。
そして三浦は空中をクルクルと回りながら戸塚の方に飛ばされる。
「はぁっ!」
戸塚は手にしていた剣で三浦を斬りつける。
「がぁぁぁっ!」
大ダメージを負った三浦は、そのまま現実世界へと戻ってきた。
「ちっ!今回は、引いてやるよ」
言い残して、三浦たちは去って行った。
「八幡!やったよ!」
「ああ、すごかったぜ。戸塚」
「うん。……依頼は、もう大丈夫」
「え?」
「今ので少し、自信がついたから。ここからは、自分ひとりの力で頑張って見るよ」
「そうか」
「がんばってね、さいちゃん」
「なら、これはもう必要ないかしら」
振り返るとそこには、救急箱を持った雪ノ下がいた。
「あ、雪ノ下さん」
「それで手当てをするといいわ」
「うん、ありがとう」
「ではこれで、今回の依頼は終わりかしらね」
「本当に、ありがとうございました」
そういった戸塚の笑顔は、今までで一番輝いていた。

朝からセミがミンミンミンミンと五月蠅い。
セミなのに蠅とかどういうことだよ……。
なんとなく見ているテレビからは、今日はこの夏一番の暑さだというレポーターの声が聞こえてくる。
そのセリフお前昨日も言ってなかったか?
なぜか毎年現れる十年に一度の逸材という奴か?
季節は少し流れ、今は夏休みだ。
最近ではモンスター以外と戦うことがなくなり、ライダーバトルも小休止の様子を呈している。
日常ではなかなか得られない自由を俺が満喫していると、突如携帯の着信音が鳴った。
俺の携帯が鳴るなんて珍しい。スパムメールか何かと思って画面をタッチすると、差出人には『平塚静』の三文字が。
あー、これ面倒臭い奴だー……。
俺は黙って携帯をテーブルの上に置く。
よし、あとは夜中にでも「ごめん寝てたー」とかうっとけば大丈夫だ。
ごろりと再びソファに横になると、またも携帯が鳴る。
んだようるせぇな。
ニ度目の無視を決め込むが、形態は鳴りやまない。どうやら電話のようだ。
一分ほどたつとその音がやむ。
ふう、やっとか。
すると次は、短期間で何度もメールが。
何この人怖っ!ヤンデレかよ。アラサーのヤンデレとか需要がないにもほどがある……。
恐る恐る最新のメールをチェックする。
『差出人 平塚静
 件名 連絡をください。
 本文 比企谷君、夏休み中の奉仕部の活動について至急連絡を取りたいので折り返し連絡をください。もしかしてお昼寝中ですか(笑) 先ほどから何度もメールや電話をしているのですが……。  ねぇ、本当はみているんでしょう? 
 でんわ でろ」
怖っ!マジで怖いよ!軽くトラウマになるレベル。軽くどころじゃねぇな……。
彼女が結婚できない理由の一端を知ってしまった。
過去のメールを見直すと、『長期休暇中のボランティアに参加しろ』とのことだった。
『ざけんじゃねぇ!』某ドラマの小学生や教師のように机を蹴っ飛ばさなかった俺は大したものだと思う。
こんなもの相手にしてはいられない。俺はそっと携帯の電話を切った。どうせほかには連絡など来ないのだ。ぼっち最高!
俺は背伸びをして、一回のリビングに降りる。
「およ?お兄ちゃん!」
そこでは可愛い妹の小町が一服しているところだった。
「おう、宿題はどうだ?」
「うん、大体終わったよ。小町は頑張っているのです!」
「そいつはご苦労なこって」
「さて、お兄ちゃん」
小町の顔つきが急にまじめになる。
「ん、どした?」
「小町はすごく頑張って勉強しました」
「まぁ、そうだな。受験生なら当然だと思うけど」
「がんばった小町には、自分へのご褒美が必要だと思うのです!」
「お前は今どきのOLかよ」
「とーにーかーくー、小町にはご褒美が必要なの!だからお兄ちゃんは小町と一緒に千葉に行かなければならないのです!」
「だからの前後の文章が意味不明なんだが……」
そう言うと、小町は顔を膨らませる。
うわ、面倒臭いパターンだ。
俺は黙って階段を上り、自分の部屋へ避難しようとする。
すると、肩をグイッとつかまれる。爪がくいこんでいたいんですけど……。
「お兄ちゃん!最近付き合い悪いよ!?」
ライダーバトルとかで結構精神持ってかれるからなぁ……。それに奉仕部の面々や戸塚と過ごす機会も増えたし。材木座……?誰それ知らない。
小町と過ごす時間が減ったのは事実だろう。


家族サービスができなくなるのも仕方ないことなのだ。
ライダーバトルのせいでかなり精神持ってかれるし……。
昨日なんて、風呂に入ってふと鏡を見たら、ドラグレッダーが俺のことガン見してたからな。
少しえさをやらなかっただけなのに……。
だが、それを言い訳にしてばかりもいられない。ここらで一つ相手をしてやりますか!
「わーったよ、付き合ってやるよ」
「やった!小町的にポイント高いよ!じゃぁ、動きやすい格好に着替えてきてね!小町も準備するから!」
動きやすい格好?スポーツでもするつもりだろうか。
ほどなくして、小町が戻ってきた。
「それじゃ、レッツラゴー!」
レッツラゴーって……古くないか?
「はいお兄ちゃん、これ持って!」
「えー……?」
言って小町は、大きなバッグを俺に手渡す。
「レディーに荷物を持たせるなんてポイント低いよ!」
「ヘイヘイっと……」
だがまぁ、妹のためにいろいろしてやるというのもやぶさかではない。
しばらく歩いて駅につき、改札へ向かおうとすると、小町に止められる。
「ん?どした?」
「お兄ちゃん、こっちだよ!」
「あ?千葉に行くなら電車だろ」
言って振り返る。すると小町が『あっちあっち』と指をさしている。
見るとその先には、行き遅れアラサー教師の姿が……。
うわぁ……。
「さて、電話に出なかった言い訳を聞こうか」
サングラスを外して俺に話しかけてきたのは、間違いなく平塚静その人だ。
「いや、そもそも電話をかけたら相手が必ず出るという前提がおかしいんですよ。俺と先生は仕事上の付き合いがあるというわけではないんですから、こっちが気が向いたときだけ……」
「ファイナルアタックライドォッ!」
「ぐぶぉっ!!」
言う途中で腹を殴られ、俺の発言は中断される。
「ふぅ、もういい。最初からまともな言い訳など期待していなかったからな」
「なら何故聞いた……」
「最近いらいらしててな」
「最低の理由じゃねぇか……。つーか俺、今から妹と千葉行くんすけど」
「心配するな。我々も千葉に行くからな」
「我々?」
何故一人なのに複数形?と疑問に持っていると、背後から声をかけられる。
「ヒッキー遅いし」

振り返ると、そこにはやたら布面積の狭い服を着た由比ケ浜が。
その陰に隠れるようにして雪ノ下もいる。
「え、なんでお前らいんの?」
「なんでって、部活じゃん。小町ちゃんから聞いてないの?」
なるほど、そういうことか。
「小町、お前俺を騙したな?」
「てへぺろ」
うっわー、すっげぇ腹立つわー。かわいさ余って憎さ百倍。でも結局かわいいから許しちゃうのが俺の甘いところである。
「はちまーん!」
すると、再び後ろから聞きなれた声が。
息を切らせて、朗らかな笑みを浮かべながら戸塚がやってくる。
「と、戸塚ぁぁあっ!」
さっきまでのイライラなんて一瞬で吹っ飛んだぜ!合宿最高!
「僕も呼んでもらえて……うれしいな」
「当たり前じゃねぇか!戸塚を呼ばずに誰を呼ぶんだよ!」
「我もいるぞっ!はちまーんっ!」
太った体でぜいぜい言いながら材木座義輝が走ってくる。
「お前、なんでいるの?」
「それは愚問だぞ八幡っ!八幡のいるところには、大体いるぞぉっ!」
「それほとんどストーカーじゃねぇかよ……」
「よし、これで全員そろったな!それではいくぞ、レッツラゴーだ!」
だからそれ古いって……。
俺達は七人乗りの大型車に乗って目的地へと向かう。
ちなみに一番後ろの後部座席に男子三人で乗った。
材木座、スペース取りすぎ……。
「戸塚氏、お主もライダーらしいな」
「え?うん。材木座君も?」
「うむ!だが安心せよ!お主の身は我が守って見せる故」
「あは、ありがとう」
「でも材木座君、かなえたい願いがあるんじゃないの?」
「うむ、ラノベ作家になりたいと願おうと思ったが、それは自分の力でかなえてこそだと思ってな。我は人を守るためだけに変身するのだ!」
「甘いな、材木座。そんなことでは生き残れないぞ?」
突如、平塚先生が口を開いた。
「平塚、先生……あんたは、いったい?」
その声はとても冷たくて。俺に嫌な予感を感じさせるに十分だった。

未だその正体がわかっていないライダーが、現時点で二人いる。
一人は虎のモンスターと契約した仮面ライダータイガ。だが、この正体は十中八九葉山隼人だ。
そして、一切見当もついていなかった緑のライダー。重火器を多用し、俺と雪ノ下、由比ケ浜の三人がかりでも圧倒された戦士、ゾルダ。
もしかして、その正体は……。
「人のためなんて、そんな心意気では作家なんぞなれんぞ?もっと積極的にいかないとな!」
そういった彼女の声はすっかりもと通りだった。
だがそれを、決して認可しない人物がこの中に入る。
「このようなものに見覚えはありませんか?」
言って雪ノ下は、バックルを取り出す。
「ばっ、お前っ!」
「なんだそれは?まったく見たことがないな」
「こんなくだらないやり取り、やめませんか?平塚先生、いえ、仮面ライダーゾルダ」
「仮面ライダー?ハハ、雪ノ下まで興味を持っていたとはね。驚いたよ」
「ダークウイング!」
雪ノ下の声に呼応して、平塚先生の目の前のガラスの中にダークウイングの姿が現れる。
「……」
「驚いた様子がありませんね。普通なら……」
「やめろ雪ノ下。今の君たちでは、私には勝てないよ」
「……っ。やはり」
「せんせー、なんでそんな……?」
「人にはいろいろ望みがあるということさ。だが、今私は君たちと戦うつもりはない」
平塚先生が仮面ライダーゾルダ、か。
「さっきから皆さん何の話をしてるんですか?」
ただ一人事情を知らない小町が口をはさむ。
「ハハ、ちょっと材木座の厨ニごっこに付き合ってただけさ。なぁ、雪ノ下?」
「……ええ、そうですね」
「えー、雪乃さんがそういうことに付き合うなんて以外ですねー」
「……たまには、ね」
何とも言えない空気の中、ライダー六人が同乗した車は進んでいく。
着いた先でさらにライダーと合流することになるだなんて、この時の俺にどうして予想ができただろうか。
車がついた先は、小中学生の宿泊学習などでよくつかわれる施設『千葉村』だった。
「千葉に行くんじゃなかったのかよ……」
「一体いつから千葉駅に向かうと錯覚していた?」
「いや、普通千葉っつったら……」
「残念!千葉村でした!」
まさに、G・E・D・O・U!
平塚先生の態度は既に元に戻り、俺達もこの件は一端忘れて、この合宿に専念しようということになった。
雪ノ下だけはけげんな表情を浮かべたままだったが……。
なにはともあれ、俺達は宿泊する本館へと向かう。
到着すると、そこには俺達以外の集団もいた。その中には、見覚えのあるやつらも……。
「やぁ、比企谷君」
「……葉山」
葉山と三浦にその取り巻きども。
この場にライダーが、八人だと!?

「平塚先生ですか、彼らをここに招いたのは」
「ああ、そうだが」
どういうつもりなんだ。あんたは。
「ここね、祭りの場所は。ほんと、楽しみだわー」
三浦がにやりと笑みを浮かべる。
「この間は戸塚君に負けたばかりだというのに、随分威勢がいいのね。仮面ライダー王蛇?」
「雪ノ下っ。何なら今からやってもいいのよ?」
「あら、望むところだわ」
「やめろ、雪ノ下」
「まぁまぁ優美子、ここは落ち着こうよ」
葉山になだめられて三浦も渋々引きさがる。
「……平塚先生」
「なんだね、比企谷」
「あんたの狙いは何だ、何を考えている」
「簡単なことだよ。ライダーバトルの加速だ」
「ライダーバトルの、加速……?」
「13人の仮面ライダーで戦うライダーバトルが始まってからすでに四カ月ほどがたった。なのにこの現状は何だ、いまだ脱落したライダーはたったの一人。その上君たちは不戦同盟のようなものまで作っている。ライダー同士は共存できないって、わかっているだろ?」
13人?仮面ライダーは、全部で13人なのか?何故この人は、そんなことまで知っている?
「そこで私は考えたのさ。ここらで誰かが刺激を与えなければ、とね。幸い仮面ライダー王蛇 三浦優美子は好戦的な性格だ。君たちが一堂に長い時間を連続して過ごせば、必然的にライダーバトルが起きる。ま、もし起きなければその時は私が」
「あんた、それでも教師かよ」
「勘違いするなよ比企谷。私は教師である前に一人の人間だ。自分の欲望を優先させるのは当然のことだ」
「……っ」
「そういうことなら平塚先生、自分が倒される覚悟も当然のありですよね?」
それまでこのやり取りには参加していなかった雪ノ下が口を開く。

「ああ、もちろんだとも。だが今は興が乗らない。それに運転で疲れていてね。またの機会にしよう。それよりほら、君達には自己紹介をしてもらわなければならない」
「自己紹介?」
「ああ、これから君達には三日間、小学生の宿泊学習のサポートをしてもらう」
「宿泊学習?」
「ああ。ま、総武高校としてのボランティアのようなものだよ」
少し進んでいくと広場にいると、確かにそこにはたくさんの小学生が騒いでいた。
動物園かよ……。
生徒たちの真ん前に教師がたっているが、なかなか収まる気配がない。
数分すると、やっとだんだんと静かになっていく。
「302秒。それがお前達の絶望への時間だ」
な、なんか変な奴が教師やってるなぁ……。
「絶望がお前達のゴールだ!」
最後にそう叫び、その教師は俺達の方へと向かってくる。
「今日はよろしくお願いします、私の名前は照井竜です。早速ですが、子供たちに自己紹介をお願いします」
「これから三日間、皆さんのお手伝いをします。困ったことがあったらいつでも言ってくださいね」
そう言って葉山はにこりと笑う。
女子どもはキャーキャーと騒いでいる。
流石は葉山といったところか。人心掌握が上手いというかなんというか……。
「お前も奉仕部の部長として、あいさつすれば?」
雪ノ下に声をかける。
「……いえ、遠慮しておくわ」
「あっそ」
こいつが嫌だというのなら、無理強いする理由もない。
そうして、オリエンテーリングが始まった。

「いやー、小学生マジ若いわー。俺ら高校生とかもうおっさんじゃん」
「ちょっと戸部、それだとあーしがばばあみたいじゃん」
「いや、ちげーって。マジ言ってねーって」
三浦に威嚇されて戸部が弁解を始める。
「あー、いいかね」
そんなこんなのくだらないやり取りをしていると、平塚先生がやってきた。
「このオリエンテーリングでの君たちの仕事だが、ゴール地点での昼食の準備などを頼む。生徒たちの弁当や飲み物の配膳なんかもな」
言い残して、自分は車でさっさと山頂へと向かって言った。
オリエンテーリングとは、フィールド上のチェックポイントを通過していき、ゴールまでのタイムを競う競技だ。
本来はかなり殺伐としたもののようだが、小学生がやるのだからもっとのほほんとしたものだ。
数人の班で山中を歩きまわってクイズに答え、その正解数とタイムを競う。
「ねー隼人。あーし意外と子供超好きなんだよねー」
はいはい、お前が好きなのは子作りの方だろ。このビッチ野郎が。
「そうなんだ」
「子供ってさ、超可愛くない?」
出た、可愛いって言ってる自分ってかわいいアピール。ほとほと嫌になる。
雪ノ下は三浦の声を聞くだけでも嫌らしく、先ほどからずっと顔をしかめている。
「ねーねー、おにーさんおねーさん」
しばらく歩き続けていると、一つの女子集団から話しかけられた。
ほとんどマンツーマン状態だ。
もちろん僕と雪ノ下さんにはだれも話しかけてきませんよ、ええ。
話を聞いていると、ファッション話やらスポーツの話やらもろもろだった。そしてそのまま話の流れで、一緒に近くのチェックポイントを探すことになった。
「じゃぁ、一個だけな?みんなには内緒だよ?」
葉山の声に、小学生達は一斉に元気のいい返事をする。
距離を縮めるにはいい手だ。秘密の共有は、人と人を強く結ぶ。いい意味でも、悪い意味でも、だが。
暇つぶしに小学生たちを観察していると、俺と雪ノ下同様、集団からあぶれている一人の子を発見した。
その子はみんなから一歩下がって、つまらなさそうにカメラをいじっていた。
すらりと健康的に伸びた手足、紫が混じった闇色の髪、綺麗に整った顔立ち。他の子たちよりも垢抜けて可愛い。わりと目立つ子のはずだ。
だが、誰も彼女の相手をしない。
時折そろって彼女の方を振り返っては、意地の悪い笑みを浮かべる。
「……はぁ」
雪ノ下が小さなため息をつく。

どうやらこいつもこの状況に気付いたようだな。
まぁ、別に悪いことではない。孤独でいることでしか学べないものというのは、少なからず存在する。
だが、問題なのは、おそらく彼女が悪意によって孤立させられていることだろう。
「チェックポイントは見つかった?」
その子に話しかけたのは葉山隼人だった。
「……いいえ」
その子は困ったように笑って返事をする。
「そっか、じゃぁみんなで探そう」
「鶴見留美」
「俺は葉山隼人、よろしくね」
言いながら葉山は留美をみんなの方に誘導していく。
……またくだらないことしてるな、あいつは。ま、英雄様にとっては自分のまわりすべてが順調じゃないと納得しないのかね。
「なんであんなことをするのかしらね」
雪ノ下が再びため息を漏らす。
留美は葉山につれられるまま、グループの真ん中にいた。が、決して楽しそうには見えない。
楽しそうでないのは何も留美だけではない。自分達の中に彼女が入ってきた途端、他の奴らの表情がけわしくなった。決してあからさまにさけたりはしない。とがめられるようなことはしない。
ただただ、空気で断罪を行う。
お前はこの空間にいらないのだと、その無言の圧力はある意味暴力よりもはるかにたちが悪い。
「本当に、くだらないわね……」
「それが人の本質だ。だから俺は、他人とのかかわりを極力排除してきたんだ」
「そうね」
「それでもあいつは、つながりを求めてるんだろうな」
「……どうかしらね。人の気持ちなんてわからないわ」
「そりゃそうだ。でも俺は、お前達といるのは悪くないと思ってるよ」
「そういうこと突然言わないでくれるかしら。怖気が走るわ」「ヘイヘイ、そりゃすいませんでしたね」
俺達が話している間に、チェックポイントの問題は解けたようだ。
振り返ると、またしても集団から一歩後ろを歩く留美の姿が見えた。
キャンプといえばカレーだ。
これは全国共通の認識といっても過言ではないだろう。
実際、ルーさえ入れてしまえばどんなものでもカレーになるのだから、すべての食材はカレーの材料といっても差し支えないはずだ。
だから、誰が作ってもある程度の完成度は見込める。
そんなわけで、今晩の夕食はカレーです。
小学生にのつけ方を教えるところから始まる。
「まずは私が手本を見せる」
言って平塚先生は新聞紙にさっさと火をつける。
その中に油をぶち込み、一気に火柱が上がる。
あっぶねぇな……。
唇にたばこをくわえ、ドヤ顔を浮かべる。
「ざっとこんなもんだ」
「慣れてますね」
「ま、大学時代にはよくサークルでキャンプやってたからな。私が必死に火をつけてる横であいつらイチャコラいちゃこらと……」
嫌なことを思い出したようで、静かにちっと舌打ちをする。
「男子は火の準備、女子は食材の用意をしてくれ」
大丈夫?個人的な恨みで男女を引き離してない?

なんとなくの分担ではあったものの、カレーの下ごしらえが終了した。
これで俺達の分は準備完了だ。
飯盒をセットし、野菜をいためていると、三浦グループの一人海老名さんが、「野菜ってやおいに似てる……卑猥」などと言っているのが聞こえた。
こいつ、腐ってやがるっ!
ちなみに彼女は三浦にぺちぺちと頭を叩かれていた。
周囲を見渡すと、煙が当たりにちらほらとみられる。
しかし、この段階になるともうやることがない。
「暇なら見周りでもして来い」
「えー……」
「いいですね、小学生と話す機会なんてほとんどないし」
「超面白そー」
なんでリア充ってこんなにアクティブなの……?
「でも、なべに火かけてるしな」
「そうだな、一か所だけにしとこうか」
な・ん・で・そ・う・な・る・の?
「じゃぁ俺なべ見てるから」
「気にするな。私が見といてやるから」
チッ、退路を断ちやがったな。
面倒臭い……。
小学生達のもとへ行くと、自分達のカレーがいかに特別であるかを熱心に語られた。
俺は早々に戦線を離脱したが、葉山達は和気あいあいとやっている。
さすが英雄様だな。
その英雄様は、橋でポツリと一人でいる少女に話しかけた。鶴見留美である。
「カレー、好き?」
「別に」
彼女はぼそりとつぶやく。そう、彼女はこうするしかなかったのだ。
肯定すれば『調子に乗ってる』となるし、すげなく答えても、『何様のつもり?』となる。
だから葉山が打ったのは悪手。
むしろあえてこのようなことをして留美を追いつめているトラ思える。
葉山は不穏な空気を今察したふりをして(俺の穿ち過ぎかもしれないが)、次はみんなに問いかける。
「じゃぁみんな、せっかくだから隠し味でも入れてみようか!」
聞いた者すべての注意を自分に向けるためのリア充特有のどこかうそくさい明るい声。
小学生達は、はいはいっ!と挙手しては思い思いの意見を言っていく。
「はいっ!オレンジ入れようよオレンジ!オレンジアームズ!花道オンステージ!」
なに言ってるんだあいつは……。
「あっ!レモンもいいかも!レモンエナジーアームズ!ミックス、ジンバーレモン!」
「あっ、でもパインも捨てがたい!パインアームズ!粉砕、デストロイ!」
先ほどからあほな発言を繰り返しているのは由比ケ浜だ。
さすがの葉山の笑顔もひきつっている。
「あのバカは……」
「ほんと、バカばっか」

そうつぶやいたのは渦中の人鶴見留美だ。
仲間外しにされてるんだから『渦中の人』はおかしいか。
「ま、世の中大概そうだ。早めに気付いてよかったな」
俺が言うと、留美は少し不思議そうな顔でこちらを見る。こいつ結構可愛いな。
しかし、値踏みするかのような視線はいささか居心地が悪い。
その視線に雪ノ下が割り込んでくる。
「あなたもその大概でしょ?」
「はっ、あまり俺をなめるなよ。大概やらその他大勢の中でも一人になれる逸材だぞ、俺は」
「そんなことを誇らしげに言えるのはあなたくらいのものでしょうね」
「そりゃお前だって同じだろうが」
俺達のやり取りを聞いて、留美が少し近づいてくる。
「名前」
「あ?」
「名前聞いてんの。普通わかるでしょ」
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」
俺のギャグを無視して、雪ノ下は口を開く。
「人に名前を尋ねる時はまず自分から、最低限の礼儀よ」
「……鶴見留美」
「私は雪ノ下雪乃。そこにいるのは、ヒキガエルくんよ」
「おい、なんで俺の昔のあだ名知ってるんだよ。初めてあだ名つけられてそんなのでも喜んじゃった当時の俺の残念さと一緒に思い出しちゃうだろうが」
「思った以上に悲惨な過去を持ってるのね……」
「で、結局あんたなんて言うの?」
「比企谷八幡だ」
このままでは小学生にヒキガエル呼ばわりされてしまいそうなので、俺はあわてて名乗った。
「で、こいつが由比ケ浜結衣な」
「ん?どったの?」
近くに来ていた由比ケ浜を指さす。
由比ケ浜は俺達三人の様子をして、大まかな状況を把握したようだ。
「そうそう。あたしが由比ケ浜結衣ね。よろしく、留美ちゃん!占いがしたい時は言って!あたしの占いはすっごく当たるんだー」
お前まだそんなこと言ってたのか……。
だが留美は、由比ケ浜にはあまり興味がないようだ。
「なんかそっちの二人はほかの人たちと違う気がする」
二人、というのは俺と雪ノ下のことだろう。
「私もあのへんのとは違うの」

「違うって、何が違うんだ?」
留美はかみしめるように告げる。由比ケ浜の顔つきが真剣なものに変わる。
「みんなガキなんだもん。私もその中で結構うまくやれてたと思うんだけど……。なんか、そういうのくだらないって思って。一人でもいいかなって」
「で、でもさ。小学校の時の友達とか大事だと思うなぁ」
「別に思い出なんかいらないし。中学で他の学校から来たこと友達になればいいし」
そういった留美の眼には、一筋の希望が宿っていた。
だが、現実はそうではない。
そんな希望は、まやかしだ。
「残念だけど、そうはならないわ」
留美のうらみがましい視線にたじろぐことなく、一切つくろわずに雪ノ下は淡々と告げる。
「あなたを仲間はずれにしている子たちも同じ中学に進学するのでょう?なら、その別の学校の子たちも一緒にあなたを仲間はずれにするわ。……敵が増えるだけよ」
少し間をおいて、彼女は告げる。
「そのくらい、あなたにはわかってるんじゃないかしら」
「……やっぱり、そうなんだ」
まるで過去の自分を哀れむかのようにして留美は続ける。
「ほんと、バカなことしてたなぁ」
「何か、あったの?」
由比ケ浜は優しく問う。
「誰かをハブるのは何回かあって、でも、しばらくしたら終わって。マイブームみたいなもんだったの。誰かがいい出して、なんとなくみんなそれに乗る」
くだらない。本当にくだらないが、人間という生き物がくだらない存在なのだから、それに乗るのも仕方ないこと、なのだろう……。
「仲良かった子がハブられた時は私も距離置いちゃって」
「そしたらいつの間にか、ターゲットが私になってた。私、その子にいろいろ話しちゃってたから……」
昨日の友は今日の敵。人の大切な秘密を、彼女達は仲良くなるためのツールとして使う。
言ってほしくないことほど言いふらされてしまう。
出川哲郎か上島龍平かなんかかよ。
信頼して相談した仲間が、敵として自分を攻撃する。
それは、悪夢以外の何物でもないだろう。
『戦わなければ生き残れない』とは、何の言葉だったか。
雪ノ下がこのライダーバトルについて教えてくれたときに言った言葉だったっけ。
確かにそうだろう。あの熾烈な戦いの中では、敵をつぶし、自分が生き残るために画策しなくてはいけない。
だが、それはこの現実世界にもいえることじゃないのだろうか。
自分の身を守るために仲間を売って……。
「中学校でも、こんなふうになるのかな……」
呟いた彼女の声はどこまでもはかなくて。
たかが十メートルも離れていない場所での賑やかな笑い声が、遥か異郷の地での出来事のように思えた。

「大丈夫かな……」
夕食を食べ終わった後、唐突に由比ケ浜が呟く。
何のことかなどとうまでもない。鶴見留美のことだろう。
彼女が孤立していることには、皆気づいている。
あんなのは、見れば誰にだってわかる。
「なにかあったのか?」
「少し孤立しちゃってる子がいまして……」
平塚先生の問いに答えたのは葉山だ。
「ほんと、かわいそーだよねー」
三浦は当然のようにその言葉を発したが、俺はそれを肯定できない。
「それはちげぇよ。孤立すること、一人でいることは決して悪いことじゃない。問題なのは、他人の悪意によってその状況を作りだされていることだ」
「は?何が違うわけ?」
「好きで一人でいる人間と、そうでない人間がいる。そういうことかなヒキタニくん」
「ああ、そうだ」
だから変えるべきは、彼女の周りの環境だ。
「それで、きみたちはどうしたいんだ?」
平塚先生に言われて、皆一様に口をつぐむ。
別に具体的にどうしたいというわけではないのだ。要は感動する映画を見て泣いて、いい話だったと話すくらいの、それだけのことでしかない。
俺にとっても三浦にとっても葉山にとっても。雪ノ下と由比ケ浜は違うかもしれないが、他の面々は同じように考えているはずだ。
自分達には関係ないが、知ったからにはせめて憐れむくらいは……。
という、一見高尚に見えて、これ以上になく汚い感情だ。
「できれば、可能な範囲で何とかしてあげたいです」
その言葉は実に葉山らしい。いや、偽善者らしいというべきか。誰も傷つかない優しい言い方。できなくても、誰にも責任を背負わせない、そんな欺瞞に満ちた言葉だ。
「あなたでは無理よ。そうだったでしょう?」
そんな言葉を一刀両断に斬り伏せて見せたのは言わずと知れた雪ノ下雪乃だ。
理由の説明などしない、確定した事実としてただ彼女はそう言ってのけた。
葉山は苦虫をすりつぶしたような顔を一瞬だけ浮かべた。
「そう、だったかもな。……でも今は違う」
「違わないわ。あなたは変わっていないのよ。あの時から、ずっと。英雄気取りの偽善者で……」
「あんさー、雪ノ下さん、あんた調子乗りすぎじゃない?」
雪ノ下の言葉に割って入って行ったのは、炎の女王三浦優美子。
「あら、私のどこが調子に乗っているというかしら?」
「……そういうとこだよ。いっつも人を見下したようなその態度、イライラするんだよ」
「見下している?そんなつもりはないのだけれど。劣っているという自覚があるからそう感じるだけではないの?」
「……っ、ベノスネーカー!」
三浦が契約のカードをかざし、紫色のコブラが現れる。
場の空気が一瞬にして緊張に包まれる。

「ダークウイング!」
雪ノ下の蝙蝠のモンスターも現れ、コブラと対峙する。
二体とも相手を激しく威嚇している。
他の面々も不測の事態に備えて、鏡の中に契約モンスターを呼んでいる。
葉山は何のアクションも起さなかったが……。
「ほんっとイライラする。あんた、今日で終わりなよ」
「あら。望むところね。あなたの汚い言葉を聞くのにはうんざりしてたの」
二人がバックルをかざし、変身しようとしたその時だ。
「ルァァァァッッ!」
けたたましい声をあげて、エイのモンスターが二体のモンスターの間を通り過ぎていく。
コブラと蝙蝠はそれぞれ少し後退し、わずかだが空間に余裕ができた。
「やめてよゆきのん!優美子!今はこんなことしてる場合じゃないでしょ!」
由比ケ浜の必死の声に、二人はしぶしぶバックルをしまう。
「……ちっ!」
「……命拾いしたわね」
重たい空気が流れ、自然と皆散り散りになる。
見上げた夜空は、今にも雨が降り出しそうな曇天だった。
風呂から上がった俺は今、バンガローにいる。
俺、戸塚、葉山、戸部の四人の男子の相部屋だ。
「いやー、さっきの雪ノ下さんと優美子激熱だったわー」
「戸部、楽しそうに話すことじゃないぞ」
「わーってるよー。はー、俺もそろそろかねー」
言いながら戸部は、一枚のカードをクルクルと回している。
「アドベントカード!?」
そのカードに移っていたのは、見間違いようもない契約のカード。一瞬見ただけだが、レイヨウ(牛と鹿の中間種のようなもの)のモンスターだった。
「あ、やべー。ばれちったか。ま、そういうことだから」
戸部はそう言ってへらへらと笑う。
これで、このキャンプ場にいるライダーは九人。
「いつかは比企谷君ともやるかもなー」
シュッシュッとシャドウボクシングをしながら、大したことでもないようにそう告げた。
「戸部君……」
戸塚も驚きを隠せない様子だ。
「ハハ、戸塚君もよろしく~」
「戸部、そうやって場をかき乱すようなまねはやめろ」
「うぃーっす」
何とも言えない空気のまま、俺達は床についた。
「なぁ、好きな人の話しようぜ」
電気を消した数分後、戸部が口を開いた。

「嫌だよ」
葉山が意思のこもった声ではっきりと拒絶した。英雄様が珍しいこともあるもんだ。
「あはは、恥ずかしいよね」
「なんで!?いいじゃん!じゃぁ俺からいきまーす!」
ああ、自分が言いたかっただけか。
戸塚と葉山も少し笑ってため息をついた。
「俺、実はさ……」
少しだけ間をおいて
「海老名さん、いいと思ってんだよねー」
「まじか!?」
思わず声を出してしまう。
海老名さんというのは、三浦のグループに所属する、ありていに言うと腐女子だ。
容姿はなかなか良く、ギャルゲーで言う図書委員タイプ。
「あ、ヒキタニ君聞いてたのかよー。寝てたかと思ったわー。罰としてアドベントカード没収~」
それイコール死だからな!?
「でも意外だな。戸部君は三浦さんのことが好きなんだと思ってた」
「いやー、優美子はちょっと怖いしなー。すぐ蛇出すし……」
確かに……。
「でも、よく三浦さんと話してるよね?」
「あー、それはあれだよ。将を討つならまず馬をってやつ」
将を射んと欲すればまず馬を射よ、な。
「まぁ、三浦の方が明らかに武将っぽいが」
誠に遺憾ながら、戸部の思いには共感できる。好きな子ほど話しかけられなかったり、いたずらしてしまったりするものあのだ。
「結衣もいいけどさ、あいつはアホだし」
お前も大概だと思うんだが……。
「それに結構人気あるしな」
まぁそうだろうな。あいつは誰にでも優しいから、勘違いしてしまう女子は多いはずだ。
アホなのに魔性の女、由比ケ浜結衣、恐ろしい子!
「その点海老名さんは、男子でも引いてるやつ多いから狙い目っつーか」
いけそうだから好きになるってのは人としてどうなんだろう。
「お前らはどうなんだよ!俺にだけ言わせるなんてずリーっしょ!」
お前は自分から言いたがったんだろうが……。
「好きな女の子は、特にいないかなぁ」
それでこそ俺の戸塚だぜ!
「隼人君はー?」
「俺は……いや、俺はいいや」
「それないわー。いるんでしょー。言ってよー」
「……」
「イニシャルだけでいいからさー」
ハァ、とため息をついては山は小さくつぶやく。
「……Y」
「Yってちょっ、Y・M・C・A!?」
それはヤングマンだろ……。
いつの歌だよ。
つーか、Yっつったら……。
「もういいだろ、寝よう」
その声にはどこか反論できない威圧感があった。

「八幡、起きてよ八幡!」
目を開けるとそこには、麗しい天使の顔が。
ああ、ついに俺も天に召される時が来たのか……。
「もう、朝ごはんなくなっちゃうよ!」
「って、なんだ戸塚か。天使かと思ったぜ」
「え?」
「あ、いや何でもない」
「八幡、夏休み不規則な生活してるでしょ」
少しだけ咎めるようにして戸塚が言う。
「え?ま、まぁそうかもな」
「運動とかしてる?」
運動……ライダーバトルならばっちりやってますよ?
「今度さ、一緒にテニスしようよ!」
「ん、ああ。そのうち適当に連絡くれ」
「うん!」
こう言ったらほとんど連絡されることはないのだが、どうやら戸塚は違うようだ。
「じゃぁさ、八幡の連絡先教えて?」
ついに、ついにこの日が!ついに俺の携帯に戸塚のアドレスを入れる日がぁっ!
僕の、僕の赤外線受信部は君の番号を入れるためだけにあるんだぁっ!普段の何気ないことを電話で話したり……
っといけない、興奮のあまりゴールデンボンバーの歌を思い出してしまった。
あのPV海老名さんが見たら鼻血出すかもしれない。
「アドレス、これな」
画面に自分のアドレスを表示させる。
すると、「ピコン」という音が、メールの着信を告げた。
『初めてのメールです、これからもよろしくね!』
思わず涙が出てしまった。
これは絶対に保存して、さらにバックアップも取っておかねば!
「じゃぁ、食べにいこっか」
そして俺達は二人で朝食を食べた。
他の奴らはすでに食べ終えてそれぞれどこかに行ったようだ。
俺は戸塚との楽しい朝食をゆっくりと終え、一人山の方へ向かった。
何故かだと?そこに山があるからさ!
いや、そんなもんじゃない。ただ何もやることがなかったというだけだ。
と、山の中腹に差し掛かったころだ。
キィィンと、突如頭痛に襲われた。
モンスターか!
「まいったな、ここらで鏡ってーと……」
あたりを見渡すが、当然そんなものはない。
「どうすっか……あ!」
俺はある考えを思い付き、水筒の水を地面に少したらした。
ミラーワールドへの移動は、なにも鏡を使わなくても、その役割を果たすものであればいい。
「変身!」
どこにモンスターが現れたかは知らないが、今この辺りにはたくさんの小学生達がいる。どこであってもとても危険であることは間違いない。
俺は急いでミラーワールドへと向かった。

ライドシューターを全力で走らせてモンスターを探す。
「くそっ、どこだよ……」
俺がつぶやいた次の瞬間、車体に衝撃が走ったので、急いでブレーキをかける。
すると、車の上から何者かが飛び降りた。レイヨウ獣のモンスターだ。
……戸部の仕業か!?
「って、今はそんなこと考えてる場合じゃねぇな……」
それは後に考えることと判断し、俺は戦闘モードに頭を切り替える。
「いくぞ!」
「Swword Vent」
俺の横なぎのひと振りを、モンスターは高くジャンプして軽々とかわす。
そしてそのまま俺の頭の上に着地し、からかうような声をあげる。
「このやろ……」
何度も剣をふるうが、なかなか当たらない。
というか相手には、あまり攻撃してくる意思がないように見える。俺の攻撃を受けながら少しずつ後退して、まるでどこかに誘い込むかのような……。
「ちっ、らちがあかねぇ」
「Strike Vent」
「グリャヤァッ!?」
炎が直撃し、敵が絶叫を上げる。
そしてそのまま、さらに勢いを増して逃走を図った。
「逃がすかよ」
モンスターが逃げ込んだのは、とても広い、古びた工場だった。
以前は稼働していたようだが、千葉村ができてからは操業を停止したらしい。
どこにいる……?
「リャォォッ!」
またも上方から、敵が飛びかかってくる。それを床に転がってかわすと、さらに二匹目のモンスターが飛び降りてきて、俺に強烈なけりをくらわせた。
「二体目……?」
色合いは違うが、同じレイヨウタイプのモンスターだ。
ライダーが契約できるモンスターは一体だけのはず。こいつらは、戸部のモンスターじゃないのか……?
「「リャゥゥッ!」」
二匹が前後から同時に杖上の武器で攻撃が来る。
「Guard Vent」
とっさに二つの盾を出してそれを防ぐ。
「龍騎!」
苦戦していた俺のもとに現れたのは、雪ノ下雪乃、仮面ライダーナイトだった。
「すまない!」
「あなたはそっちのを相手して!」
「わかった!」
一対一ならモンスターにそうそうひけはとらない。
徐々に俺達が押していく。
「ナイト!一気に決めるぞ!」
「わかったわ!」
「「Advent」」
同時にモンスターを呼び出す。
ドラグレッダーが火を吐き、弱った敵をダークウイングの翼で斬り裂く。
「「リャォォッッ!?」」
モンスターが爆発してエネルギーになり、それを吸収させようとしたその時、
「Return Vent」
その音声が響き渡った瞬間、エネルギーの球になったモンスターがもとの姿に戻った。
そして、物陰から出てきたライダーは……
「仮面ライダー、タイガ……」
「君はこの世界に必要のない存在だ。消えてもらうぞ、龍騎!」

「あなたは……」
「君にはこいつらの相手をしてもらう、やれっ!」
モンスターたちが俺と雪ノ下の間に割って入り、俺達は分断されてしまう。
「お前、今日で終われ」
「えらく嫌われたもんだな、俺も」
「いくぞっっ!」
「Strike Vent」
「Swword Vent」
ガキィ、という激しい金属の衝突音が響き渡る。
「Advent」
「Advent」
たがいに契約モンスターを呼び出す。
タイガは二体のモンスターが攻撃動作に入った瞬間を見計らって、
「Freeze Vent」
一枚のカードをスキャンした。
その瞬間、ドラグレッダーの動きが止まる。
「なに?」
その間に敵のモンスターはこちらにきて、その鋭い爪で腹部にきつい一撃を見舞ってくれた。
「モンスターの動きを止める技……?んなもん反則じゃねぇのかよ」
意味がないとわかっているのについつい口に出してしまう。
「お前の声は聞きたくない。……永遠に黙れ」
「Final Vent」
来たるべき攻撃に備えて体勢を立て直す。モンスターと戦っている雪ノ下も、固まったままになっているドラグレッダーの支援も望めない。
何とか自力で耐えるしかない。
「ググァガァッ!」
虎が飛びかかってきたその時、
「Final Vent」
「はぁぁぁああっ!」
エビルダイバーに乗った由比ケ浜が、虎の体を吹き飛ばす。
「デストワイルダー!」
必殺の一撃をくらったモンスターは、息も絶え絶えといった様子だ。
「くそ、またしても邪魔を……。ここは引くか」
言い残して、タイガは現実世界へと帰って行った。
「由比ケ浜、助かった。すまない」
「ううん、これも占いで出てたからね。それより、厨ニは!?」
「材木座が、どうかしたのか?」
「占いで出たの!このままじゃ次に消えるライダーは、厨ニなんだ!」

由比ケ浜結衣の口癖は、「私の占いは当たる」だ。
これまでも何度もその言葉を使ってきた。
雪ノ下も俺もそういった類の物を信じる方ではないが、確かに彼女の占いが外れたところを見たことがない。
それに加えて、彼女はこんな重大なことで冗談を言うような人物ではないということもわかっている。
つまりこの状況下において、由比ケ浜結衣のこの言葉は、十分信用に値するのだ。
「材木座が、やられるだと……?」
「うん!それも近いうちに!だから速く見つけないと……」
「また占いかしら、由比ケ浜さん?」
いつの間にかモンスターを倒した雪ノ下がこちらに来た。
「誰が何と言おうと、そんなものを私は信じない」
「ゆきのん、だけど……」
「でもね、私はあなたの言葉なら信じるわ」
「ゆきのん!」
「そうと決まれば急ぎましょう、時間がないのでしょう?」
「うん!」
最後にお互いの顔を見て、俺達は走りだす。
と、倉庫のどこかから爆発音が聞こえた。
しかしこの倉庫、広い上に入り組んでいて、なかなか場所の見当がつかない。音もあらゆる方向に反響してしまうのだ。
「ここは別れましょう」
「わかった!」
「了解だ」

「どこにいる、材木座……」
あいつは自分勝手で空気を読まなくて、すっげぇうっとうしい奴だけど、それでも、それでも決して悪い奴ではないのだ。
もしも俺に同性の友達と呼べる者がいるなら、それはきっと……。
「ぎがぁぁぁっ!」
突如、上空から声が響き渡る。
「このモンスター、また……」
レイヨウ型のモンスターだ。先ほどのとは色や姿が若干違うので別固体だろう。
「今はお前達にかまってる暇なんてないってのに……」
「Swword Vent」
「アアアァァァアッッ!!」
手にしたドラグセイバーで一心不乱に斬りつける。しかし、怒りにまかせた単調な攻撃は、いともたやすく敵の杖に受け止められてしまう。
「クキキッ!」
右足のけりが俺の鳩尾にヒットする。
「Advent」
凍結から復活したドラグレッダーが現れ、勢いよく炎を吐く。
しかしその攻撃も、高くジャンプすることでよけられてしまう。
さらにそのジャンプを利用した急降下キックをくらわせてきた。勢いよく吹き飛ばされた俺は、壁を突き破って隣の部屋(?)に出た。

そこでは、
「おらぁっ!」
「はぁっ!」
「ゴラムゴラムッ!」
「きぃぃっ!」
仮面ライダーファム 戸塚と、仮面ライダーインペラー 戸部が、そしてそこから少し離れたところでは、レイヨウタイプではない別のモンスターと仮面ライダーガイ 材木座が戦闘を繰り広げていた。
「はぁぁぁっ!」
「消えろ、雪ノ下ぁっ!」
さらにそこから少し場所を開けたところでは、雪ノ下と三浦が激闘を繰り広げていた。
もう一度見渡すが、由比ケ浜の姿はない。
「すごいことになってるな……」
だが、現状を見た限り、材木座に気球の危険が迫っているようには見えない。
「しかし、これは……」
憎しみの感情をあらわにして争いあう姿は、まさにライダーバトルの壮絶さを物語っていて……。
その光景に、思わず圧倒される。
でも、俺は……。
「そうさ、俺は、戦いを止めるためにライダーになったんだ。だから……」
ドラグセイバーを右手に強く握りしめる。
たとえお前たちにどんな戦う理由があっても!
戦闘を止めるため、割って入ろうとしたその時、俺は視界に不吉な赤い光をとらえた。
……なんだ?
目を凝らしてもう一度その光を見つけようと試みる。
「あれはっ!」

「こういうごちゃごちゃしたのは、嫌いだ。みんなまとめて行ってしまえ」
「Final Vent」
緑の牛の巨人が出現する。
「みんな、伏せろぉっ!」
「はい、おしまい」
耳を裂くような轟音とともに、大量の火器が放出される。
何度も死の淵へと追いやられた、最強の技。
「「「うわぁぁぁぁあぁっっ!!」」」
皆の激痛を訴える叫び声が、倉庫内に響き渡った。

倉庫内のあらゆる場所で爆発が起きる。
それは、その攻撃の強烈さをありありと物語っていた。
ゾルダから一番近くにいたのは、確か三浦だったが、大丈夫だっただろうか……。
そう思い、顔を上げると
「な、なぜ、我を……」
三浦につき放された材木座が倒れこんだ。
「あ、あいつ、材木座を楯にしたのか……」
ガイの体は、王蛇よりもいくらか大きい。どうやら彼女は材木座を利用して、被弾を免れたらしい。
「近くにいた、お前が悪い」
「く、こんな、事が……」
「ちょうどいい、お前、消えろ」
「Final Vent」
「や、やめろぉぉっ!」
だが、俺の叫びは届かない。
彼女達の近くには、皆先ほどの攻撃で吹き飛ばされたこともあり、誰もいない。
つまり、この攻撃を止められるものは……。
「い、嫌だ……」
三浦が回転しながら高く跳びあがる。
「ベノクラッシュ!」
毒液を体にまとって放たれたその攻撃を、無防備に受ける以外に、彼にできることはなかった。
「あっっ……はっ……ぐあぁぁぁっ!」
絶望に塗りつぶされたその叫びが響き渡り、彼の体が爆発四散した。
後には、砕けたベルトのバックルだけが残った。

E-mailの欄にはsagaって打つといいよ

これ確かどこかに投稿してあった奴じゃなかった?
ガハマライアとか折本シザースとか

改行するともう少し読みやすくなると思うよ

龍騎はモンスターごとに使えるカード決まってるからインペラーと蟹は外れなのよね
龍騎のようなフリーズやコンファインないけどバランス型が主人公タイプだな

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