男「もうかりまっか」(8)
「もうかりまっか」
男「?」
「もうかりまっか」
男「はい?」
「あきまへんか」
「ぼちぼちでっか」
男「何だ…?」
ある日の朝
道端に店を構える行商人が掛けた言葉
これがきっかけで俺の人生は終わることのない旅を迎える
ここはよくある田舎……とは少し違う
都会じゃまず見掛けないような奴が多い
この男もその一人だろう
「もうかりまっか」
「あきまへんか」
「ぼちぼちでっか」
この時俺は妙な感覚に囚われていた
親近感が沸くようでそうでない
まるで俺が目の前にいるような感覚
男「いや……金欠だけど」
「さいでっか」
男「……?」
大学受験に失敗して浪人
だけどまた失敗
やる気も金も無くしかけていた俺は暇潰しにこのおっさんの相手をすることにした
男「あんたここで何やってるの?」
男「珍しいとは思わないけど、変なしゃべり方だね」
「さいでっか」
男「行商人だよね?」
「せやで」
男「何を売ってるんだ?」
「時間」
男「?」
「せやけどあんたには売れへん」
男「?」
何だこのおっさん……頭おかしいのか?
時間を売るって何なんだ
「兄ちゃん、売れるものはあれへんけど、見てくかい」
男「じゃあ少し」
行商人は謎の風呂敷に手を入れガサゴソと探る
すると砂時計を1つ取り出した
「これは時間を巻き戻す砂時計や」
「1回しか使われへんけどな」
男「へぇ」
胡散臭い、誰がその話を信じるか
「まぁ、無理もないわな」
「これは大事なものやから、使われへんけど、他のものを試しにつこてみよか」
「これは時を止める薬」
「ってなもんはあれへん」
「回りの時間を遅くするんや」
男「へぇ」
「信じられへんやろな」
「せやけどその内……」
その内?
「あかん、時間や」
「ほなおおきにな」
そう言うと荷物をたたみふらふらと歩いていく
男「ああはなりたくないな」
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