アセム「蒼を受け継ぐ者」 (82)
前作
フリット「戦慄のブルー」
フリット「戦慄のブルー」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396694564/)
の続編です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1397688856
地球の静止衛星軌道上に位置する、巨大な要塞がある。
地球連邦軍総司令部、通称“ビッグリング”である。
その中枢部、要塞の心臓部に最も近い広大な部屋に、一人の男が座っていた。
男の名は、フリット・アスノ。
今や連邦軍の司令官であり、かつて“ブルーディスティニー”と呼ばれるモビルスーツを駆り、当時、少年という身でありながらも、コウモリ退治戦役を戦い抜いた稀代の英傑である。
今、彼の眼差しは、膨大な情報が表示されるモニターに向けられている。
そこに映し出される情報は、フリットが所有する門外不出のメモリーユニット、“EXAMデバイス”から得られたものだ。
母親からこのEXAMデバイスを手渡されてから30余年は経過したが、未だその構造は完全に解き明かされていない。
しかし、解析を進めていくにつれ、旧世紀に活躍したと思われる数々の兵器群のデータや設計図が次々と発掘されており、研究を重ねれば重ねるほど、新発見があるというのは非常に興味深いものでもあった。
そして現在、EXAMデバイスから見つけ出したモビルスーツの設計データを基にそれを再現しながらも、既存のモビルスーツにそれらの技術を統合して連邦の戦力増強を図る計画、“統合整備計画”が実行されつつある。
EXAMデバイスそのものが、ロストテクノロジーの塊であるからこそ、成し得ることであった。
フリット「……どんなことをしても」
かつて少年だった男の手が、巌のような拳をつくる。
今も昔も忘れはしない、あの日の悲劇と、誓い。
フリット「ヴェイガンを殺し尽くす。みんなのために……!」
蒼い運命とEXAMが、新たな血を求め始めていた。
STORY 5「馬小屋のブルー」
A.G.(Advanced Generation)140年。
コウモリ退治戦役から25年という月日が流れ、新たな世代へと“蒼い運命”は受け継がれていく。
地球連邦軍と、かつてUE(アンノウン・エネミー)と呼ばれていた敵“ヴェイガン”との戦争は、未だ終わることなく続いていた。
連邦軍司令官となったフリット・アスノは、17歳の誕生日を迎えた息子アセム・アスノに、EXAMデバイスを託す。
そんな時、アセム達が住むコロニー“トルディア”が、ヴェイガンの襲撃を受ける。
アセムは、ヴェイガンからコロニーの人々を守るため、隠されたブルーディスティニー1号機を起動する……。
-BRIEFING-
コロニー“トルディア”が、ヴェイガンの攻撃を受けている。
敵の目的は定かではないが、このまま放置すれば被害は拡大する一方である。
秘匿されてきたブルーディスティニー1号機を駆使し、これを迎え撃て。
成功条件:敵モビルスーツの撃破
失敗条件:自機の大破
使用機体:ブルーディスティニー1号機
使用装備:なし
※
視界を、炎が埋め尽くしていた。
学校を飛び出したアセムは、熱気に身を晒しながら燃え盛る道路をバイクで走っていた。
これまで何度か戦闘を想定した避難訓練は経験していたが、いざ現実のものになると、恐怖や不安が一気に押し寄せてくるものだということを、初めて知った気がする。
アセム「……酷いな」
立ち並ぶ家屋はことごとく潰され、焼かれ、崩れている。
空中では塵灰と黒煙が巻き上げられ、漏れ出したガスの臭いが鼻腔を刺激する。
やがて、顔をしかめながら進んで行くと、路上にへたり込む人の姿が目に留まった。
アセム「……あれは、ロマリー!?」
その人影は、間違いなくアセムの同級生ロマリー・ストーン本人のものであった。
アセム「ロマリー! 何だってこんな所にいるんだ、ここは危険だぞ!」
ロマリー「アセム……!」
栗毛の少女が、アセムの声に思わず反応する。
ロマリー「私、足を挫いちゃって……それで歩けなくて……」
アセム「そうなのか……。とにかく乗って! こんな所に居続けたら、命がいくつあっても足りない。 早く行くよ!」
ロマリー「行くって……どこへ?」
アセム「一旦、俺の家へ帰る。家族のみんなとも連絡がとれないんだ」
一人用の座席の僅かな隙間にロマリーを座らせ、アクセルを踏み鳴らし、急いで自宅のある方角へ向かった。
※
居住区では、既に戦端が開かれていた。
紫色のヴェイガン製モビルスーツ“ドラド”が二機、連邦軍の“陸戦型ジム”のミサイルランチャーによる攻撃を難なく躱しながら、撃破する。
連邦軍の“統合整備計画”は着実に進んでいるものの、その多くは低コスト帯のモビルスーツの生産が主流であり、数だけ水増しされた感が否めないのが現状である。
この陸戦型ジムも、EXAMデバイスから採取したデータを基に復元された旧世紀の量産型モビルスーツの一つなのだが、ヴェイガンのモビルスーツ相手では足止めが精一杯と言ったところだろう。
とうとう最後の一機となった陸戦型ジムが、ビームサーベルを引き抜いて突撃した。
ドラドの掌からビームサーベルが伸びて、突っ込んできた敵モビルスーツの両手を切り払い、直後、もう一機のドラドから放たれたビームが陸戦型ジムのコックピットを焼く。
ゼハート「……あれが連邦の新型か? あまりにも歯ごたえがなさそうだな」
自軍による一方的な戦いを、ゼハート・ガレットは遠くの草原から双眼鏡で眺めていた。
彼が“トルディア”に来たのは、このコロニーのどこかに隠されたあるモビルスーツを手中に収めるためである。
ゼハート「(……蒼い死神。ヴェイガンの兵士達を幾度となく震え上がらせた伝説のモビルスーツ……。兄さんも、そのモビルスーツにやられたと聞いていたが……)」
数多くのヴェイガンのモビルスーツを撃墜した“蒼い死神”ことブルーディスティニーの名は、ヴェイガンの兵士なら誰もがその鬼神の如き戦いぶりを語るという。
ゼハートに与えられた任務というのは、連邦軍が所持していると思われるブルーディスティニーを、奪取もしくは破壊することだった。
ゼハート「雑魚は放っておけ。それよりも、ブルーが先だ」
無線で遠方のドラドに指示を出しながら、ゼハートはただ一人、煙の上がる住宅街を無表情で見つめていた。
怪我をしたロマリーを担ぎながら、アセムはバルガスに先導されて馬小屋の地下にある整備場に足を踏み入れた。
アセム「馬小屋の地下に、モビルスーツの整備スペースがあるなんて……!」
そこでアセムは、メンテナンスベッドに横たわる一機のモビルスーツを見た。
アセム「バルガス、これってまさか……」
自分は、このモビルスーツを知っている――。
蒼い装甲を持ち、数多の敵を殲滅せしめた禁断の兵器。
父が精魂込めて設計し、母と曾祖父が欠かさずメンテナンスをした、アスノ家の誇りとも言うべき機体。
バルガス「そうじゃ。フリットが作り出した最強のモビルスーツ、“ブルーディスティニー”じゃ」
アセム「父さんのモビルスーツが、どうしてこんな所に?」
フリット「フリットの奴が隠しておいたのじゃ。このコロニーを守るためにな」
ふと、今置かれている状況でどうして自分がここにいるのか、アセムは考えた。
アセム「これで……戦えっていうの?」
バルガス「……それは、お前が決めることじゃ」
ポケットからEXAMデバイスを取り出し、見つめる。
アセム「(……俺も、父さんのように……?)」
自分や、自分の大切な人を守るために、父がこのEXAMデバイスを託してくれたのだとしたら――。
今、自分の成すべきことは一つしかない。
アセム「……わかった。やるよ、バルガス。ブルーディスティニーには、俺が乗る!」
バルガス「……よく言った、アセム。」
怪我をしたロマリーをバルガスに預け、蒼いモビルスーツへと歩き出す。
また一人の少年が、壮絶な運命への扉を開こうとしていた。
>>21 訂正
※
怪我をしたロマリーを担ぎながら、アセムはバルガスに先導されて馬小屋の地下にある整備場に足を踏み入れた。
アセム「馬小屋の地下に、モビルスーツの整備スペースがあるなんて……!」
そこでアセムは、メンテナンスベッドに横たわる一機のモビルスーツを見た。
アセム「バルガス、これってまさか……」
自分は、このモビルスーツを知っている――。
蒼い装甲を持ち、数多の敵を殲滅せしめた禁断の兵器。
父が精魂込めて設計し、母と曾祖父が欠かさずメンテナンスをし続け大切にしてきた、アスノ家の誇りとも言うべき機体。
バルガス「そうじゃ。フリットが作り出した最強のモビルスーツ、“ブルーディスティニー”じゃ」
アセム「父さんのモビルスーツが、どうしてこんな所に?」
フリット「フリットの奴が隠しておいたのじゃ。このコロニーを守るためにな」
ふと、今置かれている状況でどうして自分がここにいるのか、アセムは考えた。
アセム「これで……戦えっていうの?」
バルガス「……それは、お前が決めることじゃ」
ポケットからEXAMデバイスを取り出し、見つめる。
アセム「(……俺も、父さんのように……?)」
自分や、自分の大切な人を守るために、父がこのEXAMデバイスを託してくれたのだとしたら――。
今、自分の成すべきことは一つしかない。
アセム「……わかった。やるよ、バルガス。ブルーディスティニーには、俺が乗る!」
バルガス「……よく言った、アセム。」
怪我をしたロマリーをバルガスに預け、蒼いモビルスーツへと歩き出す。
また一人の少年が、壮絶な運命への扉を開こうとしていた。
※
アセム「EXAMデバイス、セット!」
メインモニターが点灯し、機体の各所がその機能を取り戻す。
蒼い死神が、その息を吹き返した瞬間だった。
アセム「う、動いたのか!?」
バルガス『ある程度、オートで機体を動かすように初期設定してあるのじゃよ。心配はいらん。落ち着いて、システムの言う通りに動かしてみるのじゃ』
アセム「やってみる……!」
レーダーに映し出された敵位置のマーカーを頼りに、スラスターを吹かして上昇、そのまま高速移動。
アセム「ぐうぅぅっ!!」
初めて経験するGは凄まじいものだが、リニアシートがその負荷を軽減してくれているおかげで何とか耐えられた。
アセム「(こんな所で参るわけにはいかないよな……!)」
額の汗を袖で拭いながら、アセムは初の実戦の緊張に身を委ねていた。
アセム「……! あれだな!」
紫色のモビルスーツが二機、街を蹂躙しているのが見える。
アセム「やらせるかよ!」
ビームサーベルを取り出し、一番手前に映る機体に向かって急降下する。
こちらに気付いた敵がビームバルカンを撃ってきたが、その弾道はブルーを掠めるにも至らない。
素人同然のアセムがここまで見事な回避をしてのけるのは、一故に25年間アップデートを繰り返してきたEXAMシステムが成せる賜物と言えよう。
アセム「うおおぉぉッ!!」
着地と同時に、ブルーのビームサーベルが下方にいるドラドの頭部を貫いた。
すぐにその場を離れ、もう一機向こう側に離れているドラドに向かって突進する。
アセム「やれる……やれるぞ!」
敵もビームサーベルを伸ばし、アセムのブルーディスティニーと切り結ぶ。
メガ粒子の衝突がスパークを上げ、眩い光がコックピットを照らし出す。
アセム「……くッ! これでも喰らえ!」
咄嗟に、ブルーの腹部に搭載された有線ミサイルランチャーを発射した。
爆発の衝撃で敵の体勢が大きく崩れる。
アセム「今だ!」
間髪入れずに、ビームサーベルを敵の頭に突き立てた。
爆発に巻き込まれないように、後退をかける。
アセム「……や、やった……!」
初の実戦で、しかも初の勝利に安堵と喜びを感じたアセムではあったが、彼はまだ、この先に待ち構える壮絶な戦いの運命を、想像することはなかった。
STORY 6「卒業式の戦闘」
MSクラブに所属し、学園生活を謳歌するアセム。
そんな時、転入生のゼハート・ガレットがクラブに入れて欲しいとやってくる。
謎の多いゼハートを、アセムは親友として迎え入れ、ゼハートもまた、アセムとの友情に安らぎを得ていくのであった……。
そして、月日は流れて卒業式の日。
アセムとゼハートは、ともに青春を過ごした友との別れを惜しんでいた。
しかし、式の途中にコロニーがヴェイガンの襲撃を受け、状況は一変。
激しい戦いが繰り広げられ、ウルフ・エニアクルの新型モビルスーツ、ゲルググJ(イェーガー)も参戦する。
アセムもまた、ブルーディスティニーに乗り込み、ヴェイガンのモビルスーツに対抗すべく戦いに向かう。
もつれ合う戦闘の最中、アセムは敵のパイロットを目撃する。その姿は……。
-BRIEFING-
ヴェイガンのモビルスーツが、コロニー内部で確認された。
現在、コロニー外部からもヴェイガンの攻撃を受けており、これ以上の被害拡大は何としても避けねばならない。
貴官は、直ちにモビルスーツにて出撃し、これを迎撃せよ。
成功条件:敵モビルスーツの撃破
失敗条件:自機の大破
使用機体:ブルーディスティニー1号機
使用装備:ロケットランチャー
{機体解説}
[RX-79BD-1]
ブルーディスティニー1号機
フリット・アスノが設計・開発したEXAM搭載試験機1番目の機体。
本機に搭載された「EXAMシステム」は、機体の各種リミッターを強制解放して限界を超えた戦闘能力を引き出し、常人では不可能な機体制御をサポートするものである。
しかし、その発動条件は未だ不明であり、システムの誤動作による暴走事故が発生するなど、問題点も多い。
とはいえ、ヴェイガンを圧倒できる唯一のモビルスーツとして、その有用性は高く評価されている。
数多くのヴェイガン製モビルスーツを撃墜したことから、地球では英雄視され、ヴェイガンからは「蒼い死神」の名で恐れられている。
[MS-14JG]
ゲルググJ(イェーガー)
地球連邦軍の「統合整備計画」によって復元された、旧世紀のモビルスーツの一つ。
長射程・高出力の大型ビームマシンガンやビームサーベル、腕部に固定されたビームスポットガンなど、多彩な武装を装備。
旧世紀の機体とはいえ、その基本性能と完成度は高く、A.G.世紀でも改修強化を兼ねて運用できる程である。
なお、ウルフ・エニアクル少佐が搭乗する機体は白くカラーリングされているが、これは旧世紀に本機に搭乗していたと思われるパイロットの専用機が白く塗装されており、それをそのまま流用したものであると思われる。
※
『こちらイェーガー2。ヴェイガンのモビルスーツが三機、コロニーに近づいて来ます!』
ウルフ「着任早々お出ましとはな……。ヴェイガンも気が利くじゃねえか」
“トルディア”の外周を警備していたモビルスーツ隊が全滅したとの報告を受け、ウルフ・エニアクル率いる小隊は、ヴェイガンの迎撃に向かっていた。
ウルフ「イェーガー1より各機へ。異星人野郎にナメられんじゃねえぞ。ゲルググの力を見せてやれ!」
『了解!』
『了解です!』
二機の“ゲルググJ”が、ウルフ専用の白い機体に先導されながら、ビームマシンガンを連射する。
一方のウルフは、ビームサーベルを抜刀してヴェイガンのモビルスーツ目掛けて急加速をかけた。
味方が敵モビルスーツを牽制しつつ、自分は得意の格闘戦に持ち込むという算段である。
ウルフ「まず一匹!」
素早い動きで翻弄し、ビームサーベルを敵の頭に突き刺して沈黙させる。
ウルフ「遅い遅い!」
残った二機はウルフに攻撃を集中させるが、如何せんゲルググJのスピードにはついて行けず、接近されては“白狼”の餌食となっていった。
ウルフ「呆気ないな……。もうちっと楽しめると思ってたんだが」
余りにも呆気ない結果に拍子抜けしながらも、ウルフはゲルググJの性能に満足しているようだった。
ウルフ「(流石だぜフリット……! 確かにコイツは良い機体だ)」
全ての敵を片付けた後、コロニー内部でヴェイガンに応戦しているモビルスーツ隊を援護すべく、ウルフ以下三機のゲルググJは颯爽と宙域を離れていった。
※
アセム「ヴェイガンは、出て行けぇ!」
ロケットランチャーを連射しながら、突っ込んでくる蒼い機体。
ゼハートの乗る“ゼダスR”は、飛んでくる榴弾をことごとく避ける。
ゼハート「ブルーディスティニー……!」
ゼダスRの掌から、ビームの刃が伸びた。
それに応じたのか、火器をかなぐり捨てたブルーもビームサーベルを抜き、ゼダスRの繰り出す斬撃を受け止める。
アセム「くそッ! 絶対に倒してみせる!」
振り回されたビームの刃が、二度、三度とぶつかり合う。
メガ粒子の奔流が衝突し合い、目を焼くほどの凄まじい光がモニターの画像を歪ませる。
ゼハート「ちいっ、反応が遅い……!」
敵から繰り出される斬撃は何度も防いでいるものの、パイロットの反射神経に機体の操縦系がついていけないようで、ゼハートは度々冷や汗をかいた。
そのせいか、ゼハートのゼダスRは徐々に押し込まれ、ブルーの連撃を許してしまっていた。
アセム「よし、このまま……!」
一撃を決めようとしたブルーが、ビームサーベルを大きく振り上げた。
ゼハート「……! 今だ!」
がら空きになった胴体目掛けて、光波推進による瞬発的な加速をかけた。
アセム「うあああっ!?」
黒い機体に組み付かれ、そのまま押し倒される。
コックピットを揺らした衝撃から目を覚ますと、ブルーの喉元に黒い鋭利な刃が突き立てられていた。
ゼハート「終わりだな、アセム」
アセム「その声は……ゼハート!?」
聞き慣れた声が、アセムの耳朶を打った。
ゼハート「(……これも、何かの運命なのかもな。お互い、違う世界で生まれてしまったからには……)」
ゼハートはゼダスRのハッチを開き、その生身の姿を晒した。
対するアセムも、ブルーのコックピットから姿を現し、上から見下ろす親友と対面する。
アセム「……どうして、どうしてお前が、ヴェイガンに!?」
ゼハート「俺には、戦士としてやるべきことがある。成さねばならない使命があるのだ! そのためなら、お前を敵に回すことなど……!」
アセム「ゼハート……!」
ゼハート「お前のような優しい奴は、戦いに出てくるべきじゃない。敵が俺であると知って、お前は撃てるのか?」
アセム「それは……!」
ゼハート「! あれは……」
対峙する二人を、遠くの木陰からロマリーが見ていた。
ロマリー「アセム……ゼハート……!?」
少女の目は、怯えていた。
今の今まで同級生として接してきた男子生徒二人がモビルスーツの上で睨み合う構図など、年頃の女子にはいささか刺激が強すぎたのかもしれない。
アセム「ロマリー……! 見ていたのか?」
ゼハート「!!」
敵のモビルスーツが三機、こちらに近づいている。
一機は白いモビルスーツ、もう二機は赤いカラーリングのモビルスーツだ。
ゼハート「(連邦の新型か……?)」
アセムやロマリーのことなど気にもかけず、急いでコックピットに戻る。
こんな所で、後ろを取られてやられるわけにはいかない。
ゼハート「さらばだ、アセム」
それだけ言い残して、ゼハートは光波推進を全開にしてコロニーを離脱して行った。
アセム「……ゼハート」
木陰でうずくまるロマリーを横目に、アセムは何とも言い難い虚しさに胸が絞められるような感覚を覚えた。
STORY 7「蒼を受け継ぐ者」
地球連邦軍へ入隊したアセム。
そこには、多くの仲間たちとの出会いがあり、家族との別れもあった。
一方、ゼハートは地球制圧軍の司令官となり、地球制圧へ向けた本格的な侵攻を始めていた。
それと同時期に、アセムやロマリーらを乗せた宇宙戦艦ディーヴァは、連邦軍総司令部ビッグリングへと旅立っていく。
その行く手を阻む、ヴェイガンのモビルスーツ部隊。
交戦状態になったアセムは、EXAMシステムにより進化を遂げた新たなるEXAMマシン“ブルーディスティニー2号機”を駆り、出撃する。
蒼い運命、そしてEXAMは、次の世代へと受け継がれたのだった……。
-BRIEFING-
航行中の宙域にて、ヴェイガンのモビルスーツ部隊を捕捉した。
このまま放置すれば、我々のビッグリングへの航路の妨げになるのは目に見えている。
貴官は、配備された新型のモビルスーツにて出撃し、これを撃破せよ。
成功条件:敵モビルスーツの撃破
失敗条件:自機の大破
使用機体:ブルーディスティニー2号機
使用装備:ビームライフル
※
アセム「これが……ブルーディスティニー?」
アセムは、ハンガーに横たわる蒼いモビルスーツに目を向けていた。
ディケ「そうだ。回収したお前の今までの戦闘データを基にEXAMデバイスが構築した新しい機体、ブルーディスティニー2号機だ」
全身の装甲が蒼く塗装されているのは変わらないが、一際アセムの目を引き付けたのは、メインカメラがある機体頭部の造形だった。
1号機の頭部とは違い、V字のアンテナ、人間の眼を模したようなツインアイカメラが、2号機にはあった。
アセム「今までのブルーとは、顔の作りが違うようだけど?」
ディケ「どうやら、旧世紀に存在していたと言われている伝説の機体、“ガンダム”というモビルスーツの顔を真似て作られているらしい。1号機も2号機も、EXAMデバイスの中に眠るデータを参考に開発したもんだから、その通りに作るしかないんだよな」
アセム「ガンダム……」
ディケ「ま、後はEXAMシステムの最適化作業が終われば直ぐにでも出せるんだが……これがまたかなり面倒でな。もう少し時間は掛かるだろう」
そう言って、ディーヴァの整備士長ディケ・ガンヘイルは、EXAMデバイスからのデータ解析に再び取り組み始める。
ちょうどその時、艦内のアラート音が鳴り響き、モビルスーツデッキに多くの人が集まり始めていた。
※
オブライト「オブライト・ローレイン、ジェノアスⅡ、出る!」
オブライトが乗る“ジェノアスⅡ”がカタパルトから射出される。
アリーサ「アリーサ・ガンヘイル、ツヴァイ2、出ます!」
マックス「マックス・ハートウェイ、ツヴァイ1、発進します!」
続いて、二機の“リック・ドムⅡ”が発進。
ウルフ『アセム、しっかりついて来いよ。遅れるな!』
アセム「はい!」
ウルフの機体が、射出体制に入る。
ウルフ「ウルフ・エニアクル、ゲルググJ、出るぞ!」
射出ケーブルを切り離し、白色のゲルググJが発進した。
それに続くべく、アセムもブルーディスティニーをカタパルトへ移動させる。
ディケ『本当は、安全のためにリミッターを取り付けるはずだったんだが……』
アセム「大丈夫です! それに、もう敵がそこまで来ています。待ってる時間もありません!」
ディケ『……やむを得ん。気を付けてな!』
本来ならば、パイロットの安全を考慮してEXAMシステムには時限式リミッターを設けている。
だが、EXAMシステムの最適化作業は思っていたより時間を要し、ウルフ隊の他のメンバーは皆、既に戦闘宙域へと向かってしまった。
加えて、敵の攻撃は想定よりも激しく、先程から艦砲射撃の轟音が絶え間なく鼓膜を揺さぶり続けた。
そういうわけで、自分も早く出なければと思い、アセムは無理を言って出撃を願い出たのだ。
アセム「アセム・アスノ、ブルーディスティニー2号機、行きます!」
新たなブルーディスティニーが、戦場へと飛び立つ。
蒼い死神、そして、EXAMに選ばれた者の戦いが、再び始まる。
{機体解説}
[RX-79BD-2]
ブルーディスティニー2号機
1号機で得られた戦闘データを基にEXAMデバイスが構築した、EXAM搭載試験機2番目の機体。
実験機としての色合いが強かった1号機とは異なり、2号機は実戦想定の汎用型としての性能調整が施されている。
そのため、1号機からの仕様変更を受けた改良型である本機は、基本性能と完成度共に1号機を上回る。
尚、搭載するEXAMシステムは不完全なままである。
[MS-09R-2]
リック・ドムⅡ(ツヴァイ)
地球連邦軍の「統合整備計画」によって復元された、旧世紀のモビルスーツの一つ。
復元前の設計を改良し、ジェネレーターの強化によって高出力のビームバズーカを標準装備している。
宇宙用に開発された本機は、特に空間戦闘で高い性能を発揮する。
パイロットは、アリーサ・ガンヘイルとマックス・ハートウェイ。
※
敵味方問わず発射されるビームとミサイルの火線が飛び交う戦場は、眼も眩むばかりで、どちらに回避しても被弾するのではないかと思ってしまう。
新兵同然のアリーサとマックスは、戦場の空気に完全に呑まれていた。
マックス「こ、こんのォ!」
半ばヤケになったマックスが、ビームバズーカを放つ。
しかし、当然のことながら、まともに狙いもつけていない弾が当たるはずもなく、逆に敵のモビルスーツ“ドラド”の注意を引きつけてしまう結果となった。
アリーサ「く、来る!?」
紫色のモビルスーツが二機、アリーサとマックスへ近づいて来る。
アリーサ「来るな、来るなァ!」
マックス「こいつ!」
狙いを定めているはずだが、当たらない。
発射した弾道はことごとく避けられ、敵から繰り出されるビームの反撃が自分達の機体を掠めていく。
そしてついに、敵のビームサーベルが眼前に振り上げられ、
アリーサ「(や、殺られる……!!)」
と、思ったが、横から割り込んできた白いモビルスーツが、その手に握られたビームサーベルをドラドの胸に突き刺し、黙らせた。
ウルフ「落ち着け! どんなヤツが相手だろうと、ちゃんと目で見ていれば当たるし斬れる! 要は気合いだ!」
マックス「そんな無茶な……!」
オブライト「敵は、俺と隊長で仕留める。お前達は援護に徹するんだ」
ウルフ「そういうことだ。当たらなくていい、とにかく撃ちまくれ! そして動きを止めろ! 行くぞ!」
ウルフの“ゲルググJ”とオブライトの“ジェノアス?”が、、虚空から沸き出す炎の嵐へ飛び込んでいく。
その後を、心の中で悲鳴を上げながら、アリーサとマックスは追って行った。
※
ビームライフルから放たれる光の矢が、二機のドラドの頭を貫いた。
アセム「当たった!」
僚機をやられたヴェイガンのモビルスーツ群が、アセムに追いすがろうとする。
しかし、敵の動きはブルーに追いつけず、翻弄されては墜とされてゆく。
アセム「これが、ブルーの力……!!」
アセム自身の類い希なる戦闘センスもさることながら、1号機の発展型である2号機の性能は予想以上のものがあった。
それを知らないヴェイガンのパイロット達が次々とその身を蒸発させられるのは、自明の理と言えるだろう。
アセム「そこだ!」
敵機ロックオンを示す赤いマーカー。
躊躇なくトリガーを引き、敵モビルスーツが火の玉へと生まれ変わる。
アセム「……やらせはしない、誰だって!」
アセムの頭をよぎるのは、己の死よりもむしろ、仲間を殺させない――、という強い意志だった。
その確固たる意志が、ブルーを突き動かし、恐怖を忘れさせる。
アセムの意のままに、蒼い死神が虚空を舞い、光が放たれる度にヴェイガンはその姿を消していった。
※
友軍を示すフリップ・マーカーが、また一つ消えた。
ゼハート「……やはり、ブルーか」
コックピットの中、ゼハートは何とも言えない溜め息をつく。
ゼハート「(アセム、今度お前が私の前に現れるのなら……)」
自分の顔に装着した仮面に、手を触れる。
それは、彼にとってかけがえのない人間、つまり、初めての親友に刃を向けるために、必要な仮面だった。
ゼハート「私は、お前を……殺す!」
暗礁宙域のデブリの中から、真紅のモビルスーツが姿を現す。
光波推進の輝きを帯びて、ゼハート専用のXラウンダー機体“ゼイドラ”が、彗星の如く加速をかけた。
※
急接近する“ゼイドラ”に最初に気が付いたのは、第一線で奮戦するウルフだった。
ウルフ『気をつけろアセム! 速いのが一機、お前ンとこに向かってるぞ!』
アセム「何……!?」
ロマリー『アセム、注意して! 通常の敵の三倍の速度で近づいてるわ!』
その動きは、まるで真紅の稲妻――。
鋭角的な軌道を小刻みに繰り返し、アセムを翻弄する。
アセム「早い……! 何なんだあの赤いモビルスーツは!?」
ゼイドラのビームライフルから火線が伸び、ブルーの手にしていたビームライフルに直撃した。
射撃武器を失ったアセムはビームサーベルに持ち替え、急加速で赤いモビルスーツを追いかける。
その姿勢に応じたのか、ゼイドラもビームサーベルで近接戦に持ち込もうとする。
アセム「はあッ!」
袈裟切りにしたブルーの斬撃を、赤いモビルスーツは紙一重で回避してみせた。
その挙動はまるで、こちらの動きがあらかじめ見えているような動きだった。
そして、その動きには見覚えがあった。
アセム「まさか……ゼハートか!?」
とっさに音声回線を開き、叫び続ける。
アセム「ゼハート! ゼハートなんだろ! 答えてくれ、ゼハート!」
ゼハート「…………だとしたら、何だ!」
ゼイドラの斬撃が、アセムの眼前に飛び込む。
アセム「友達に、刃を向けられるわけないだろう! それとも、友達だって思っているのは、俺だけなのか!? ずっと、俺を騙してきたのかよ!?」
敵の斬撃を受け止め、眩い光がコックピットを照らす。
ゼハート「ここは戦場だ! あるのは敵と味方、それだけだ!」
アセム「そんな理屈!」
紅と蒼――。
お互いに相反するモビルスーツが、その剣を握り何度もぶつかり合う。
ゼハート「私は、火星の兵士をいたぶる“蒼い死神”を墜とすためにここにいる!」
アセム「ゼハートォ!」
ゼハート「戦いたくないのなら、貴様が戦場から消えればいい! 退く覚悟すらない者が、私に!」
赤いモビルスーツが、光に包まれる。
アセム「なっ、何だ!?」
ゼハートのゼイドラが、光波推進を全面開放した。
稲妻のように速く、そして重い一撃の蹴りが、ブルーの腹部、すなわちコックピットの部分に直撃する。
アセム「……ッ!! がハッ……」
蹴り飛ばされた蒼い機体が後方に吹き飛び、デブリに激突。
リニア・シートがうまく作用してくれたものの、それによって発生するGの衝撃は凄まじいもので、全身の骨格と内臓が打ちつけられたような痛みが走る。
たまらず、アセムは鼻から血を噴き出した。
ゼハート「……終わりだ、アセム」
朦朧とする意識の中、親友と思っていた者の冷やかな声だけが、はっきりと聞こえた。
遠くに見える赤いモビルスーツが、光の刃をこちらに向けて突っ込んでくる。
アセム「……ゼ、ハート……」
もう、ここまでか――。
アセム「(……いや、まだだ。俺は、こんな所で終わるわけには……!!)」
その思いが、蒼い死神を呼び覚ます“熱”となり、ブルーの全身を駆け巡る。
ディスプレイ・モニターに<EXAM SYSTEM>の文字が表示され、視界が赤に染まった。
アセム「こ、これは……何が起こって……?」
狂気が、少年の身と心を支配しようとしていた。
≪EXAMシステム、スタンバイ。≫
ゼハート「なっ……!?」
一瞬、ゼハートは我が目を疑った。
仕留められると思っていた蒼いモビルスーツが目の前から消え、敵機の装甲を貫くはずだったビームサーベルはデブリに突き立てられて砂塵を噴き上がらせるだけの結果になるなど、思ってもいなかったからだ。
ゼハート「どこへ行った……アセム!」
“ゼイドラ”を反転させ、蒼いモビルスーツを捜す。
すると、微かではあるが、赤い線を描きながら高速で動く物体が見えた。
ゼハート「速い……!」
物体は徐々に大きくなり、ゼハートに近づいて来る。
赤い炎を身に纏い、迫りくる蒼い機体――。
間違いなくそれは、ゼハートにとって唯一無二の親友が乗るモビルスーツであり、彼がヴェイガンのために真っ先に倒さなければならない敵だった。
ゼハート「アセムゥ!」
ビームサーベルを構え、突っ込んで来る敵機を迎え撃つ。
が、このままつばぜり合いに持ち込むのかと思いきや、敵のモビルスーツはまたしてもゼハートの視界から姿を消した。
ゼハート「何ッ!?」
刹那、鈍い衝撃がゼハートの身体を揺さぶった。
気づけば、モニターには自機の脚部損壊を示すマーカーが点滅していた。
ゼハート「馬鹿な……!! あの距離で切り返したのか!?」
ブルーディスティニーが、ゼイドラとぶつかり合うギリギリまで距離を詰め、即座に機体を下に滑り込ませて両脚を切り取った後、離脱したのだ。
Xラウンダーたるゼハート自身も全く予想だにしていなかったことと言うよりかは、あまりにもブルーの動きが速すぎて、彼の動体視力が追い付かなかったと表現する方が正しいだろう。
アセム「おあああッ!!」
人が発するとは思えない雄叫びをあげながら、アセムは機体を動かす。
目の前に見える赤いモビルスーツには親友が乗っているというのに、そんなことはどうでも良かった。
ただ、全身を支配する“熱”に身を委ね、無心で敵を殲滅するのみ――。
アセム「ああああっ!」
ビームサーベルを振り上げ、ゼイドラの左腕を切断する。
しかし、それで黙っているゼハートではない。
ゼハート「こんのォ!」
ゼイドラの右手から伸びたビームの刃がブルーの右腕を切り払い、蹴りを相手の脇腹へ打ち込む。
姿勢を崩したブルーだったが、瞬時に腹部の有線ミサイルランチャーが火を噴き、今度はゼハートの機体を大きく仰け反らせた。
ゼハート「ぬおっ!?」
アセム「あっははは!」
回線越しに響く笑い声と共に、ブルーの左拳が迫る。
ゼハートもまた、ゼイドラの右手を握り締めて拳を振り上げる。
ゼハート「何ィ……!!」
拳と拳がぶつかり合ったが、その結果は余りにも虚しいものだった。
ブルーの鉄拳はゼイドラの右手を砕き、ゼハートの全身が収まるゼイドラの頭部――コックピットへ手が伸び、鷲掴みにしていた。
徐々にブルーの手に力が込められ、握りつぶそうとしているのがわかる。
ゼハート「(やられる……。この私が……?)」
ゼハートは、生まれて初めて敗北による死を実感した。
それも、まさか親友の手によって殺されるとは――。
ゼハート「アセム……!」
しかし、ブルーの動きは静かに止まり、紅く染まった双眸は元の緑色に光っていて、機体がガクンとうなだれていた。
ゼハート「……何だ? 一体どうしたのだ……」
何はともあれ、敵の動きが止まった所で脱出の機会を得られたゼハートは、両腕を失ったゼイドラに出せる限りの加速をかけ、戦線を離脱していった。
遅くなって申し訳ありません
諸事情あって長らく書く暇がなかったもんで……
絶対に三世代編まで続けるので支援お願いします
サイドストーリーズ発売を糧に、頑張ります
STORY 8「THE BLUE DESTINY」
地球軌道に浮かぶ連邦軍総司令部『ビッグリング』に到着したディーヴァ。
そこでアセムは、司令官である父・フリットと再会する。
軍人として立派な父にコンプレックスを感じる一方、前の戦いでEXAMの力に呑まれていたアセムは、自身の力を鍛えるべく、軍の『次世代パイロット訓練プログラム』に参加する。
しかし、Xラウンダー適正においてはD判定を受け、自分の力不足に苦悩するアセム。
そんなとき、ウルフが現れ、アセムをある場所に連れて行くのだが…。
-BRIEFING-
ジオン公国軍地上部隊最大の拠点、カリフォルニアベースへの攻撃が開始された。
激戦の末、敵の残存モビルスーツ部隊を壊滅、基地一面の制圧は完了したが、正体不明の敵モビルスーツが接近、多くの友軍機が撃破されている。
恐らくは、以前交戦したジオンのEXAMシステム搭載型モビルスーツと思われる。
貴官はブルーディスティニーに搭乗し、敵のモビルスーツを迎え撃て。
成功条件:敵モビルスーツの撃破
失敗条件:自機の大破
使用機体:ブルーディスティニー1号機
使用装備:100mmマシンガン
※
医務室のベッドで点滴を受けながら、アセムは椅子に腰掛ける父と対面する。
目立った外傷は無いものの、先の戦闘でのEXAM発動による凄まじいGが、アセムの体内からかなりの血量を搾り取っていた。
そういうわけで、今は医務室に通いつめて定期的に診療を受けている。
フリット「体は大丈夫なのか?」
アセム「うん。まあ……」
フリット「EXAMシステムが暴走したと聞いてな。私も25年前に経験して酷い目に遭った」
アセム「……父さんは、アレに何年も乗っていたの?」
フリット「ああ。とは言え、今は技術がだいぶ進歩してるから、耐G負荷は昔に比べればかなり軽減できる。ここ数年で特に苦労することは無かったよ」
整備士長のディケから聞いた話によると、父は今の自分より年下の身分にありながら、あのブルーディスティニーを乗りこなし多大な戦果を挙げたという話である。
自分もまだ成人していないとは言え、改めて父の偉大さ、類い希なる才能を知った気がした。
アセム「俺はあの時、システムに呑まれていた。敵を倒したとは言っても、自分がこんなんじゃいつかボロを出すかもしれない。それに、俺には父さんと違ってXラウンダー適性も無いし……」
フリット「……元々、EXAMシステムはXラウンダーのような対超人用に開発されたシステムだ。EXAMを扱いきれるようになれば、Xラウンダーなどどうとでもなる」
アセム「……そうなの?」
フリット「その為のEXAMだ」
立ち上がり去って行こうとするフリットは、最後に一言だけ添えた。
フリット「ともかく今は、ゆっくり体を休めることだ。力をつけたいのなら、今度ウルフ隊長に会ってみるといい。きっと、お前の力になってくれるだろう」
※
リハビリを順調に終えたアセムは、早速、ウルフに父からの話を持ち掛けた。
そこでウルフがアセムを連れて行った先は、トレーニングルームの一角にある巨大な球体型のマシンだった。
アセム「ウルフ隊長、これは……?」
ウルフ「ああ、こいつはモビルスーツ戦を想定したシミュレーションゲーム、通称“セガサターン”だ。機体の挙動により体感するGも再現されてやがるし、実際のコックピットと何ら変わりは無い」
アセム「……でもこれ、ゲームですよね? 本当にこれで強くなれると……」
ウルフ「まあやってみろ。フリットがお前のために作ったマシンだ。効果はあると思うぜ?」
アセム「父さんが……」
父がこのようなものを作っていたのは以外だとは思いつつ、半信半疑でマシンの操縦席に座る。
ウルフ「準備はいいなアセム? ゲームを起動するぞ」
アセム「あ、はい! お願いします」
モニターが光を帯びて、コックピット内部の各種ランプが点灯していく。
その再現度はとても精密なもので、本物のモビルスーツに乗っている時と全く変わりは無いように思えた。
アセム「(ゲームだろうと、俺はやってみせる!)」
作り物の操縦桿を握り、メインモニターの中枢を見つめ、表示される作戦概要に目を通した。
※
《見つけたぞ、連邦の蒼いモビルスーツ!》
アセム「な……何だアイツは!?」
ゲーム画面の中に映るモビルスーツを目にして、アセムは思わず息を呑んだ。
全身の装甲は蒼く、しかしその肩はまるで返り血を浴びたように真っ赤に染め上げられた、中世の騎士を彷彿とさせる武骨な機体――。
ロックオンマーカーに表示された〈MS-08TX[EXAM]〉の型式番号 “イフリート改”が、アセムの前に立ちはだかる。
《貴様ごときにEXAMは扱えるものか! 私とお前……どちらが真にEXAMに認められし騎士か、勝負だ!!》
アセム「EXAMだと……!? シミュレーションの相手は、EXAMマシンだって言うのか!」
〈MISSION START〉の合図と共に、アセムのコックピット周りが赤く変色する。
ブルーディスティニーもEXAMを起動し、それはまるで相手の機体に呼応するかのようだった。
《EXAMシステム、スタンバイ。》
《ユウ! EXAMシステムが勝手に発動しやがった! 機体がオーバーヒートする前に、あいつを仕留めろ!》
アセム「制限時間……3分しかないのか!」
考える間もなく戦闘は始まり、仮想敵であるイフリート改がアセムに肉迫する。
アセム「速い……速すぎる! あ、あれがEXAMの力なのか!?」
ウルフ『集中しろよアセム! 相手はお前と同じEXAMを積んだモビルスーツだ。同じ性能の機体で、同じ性能の機体に勝たなきゃ、お前はいつまで経っても強くなれん。ましてや、EXAMなんて扱いきれねぇぞ!』
アセム「(それくらい、俺だってわかってる! わかってるけど……!)」
今まではEXAMを使う立場だからわからなかったが、いざ相手にしてみるとこれほど恐ろしい存在だと思い知らされる。
アセムの射撃はことごとく外れ、しかし敵の攻撃は近接武器が主体にも拘わらず、ブルーの体力を根こそぎ奪っていく。
イフリート改から繰り出される二対のヒートソードの斬撃は、その一撃一撃が重く、あっという間にライフゲージが数ミリほどの長さに縮まってしまった。
アセム「(コンピューターの方が、上だって言うのか……!? EXAMを使う人間の俺が、ただのコンピューターにこうも負けるなんて、認めてたまるかよ!!)」
何度もコックピットに揺さぶられ、ゲームオーバーを幾度となく繰り返しながら、アセムはイフリート改に勝つために、その全身全霊をゲームに注ぎ込んでいた。
アセム「QDCハメ殺しおいしいです」
フリット「ちょっと青葉区行ってくる」
ウルフ「マツナガBUはよ」
まったく絆廃人はこれだから…
※
ダズ「ゼハート様、本当によろしいので?」
ゼハート「ああ……。こうでもしなければ、私はあの蒼い死神に勝てん」
モビルスーツの格納デッキで、ゼハートは側近のダズ・ローデンに自身の“ゼイドラ”のチューンアップを頼んでいた。
実際の問題点として、現段階でのゼイドラでは全力のゼハートのXラウンダー能力を受け止めきれない。
そこで、半ば強制的に機体のポテンシャルを底上げし、あのブルーディスティニーに対抗する必要があるとゼハートは判断したのだ。
ダズ「確かに、ゼハート様のXラウンダー能力を最大限発揮するのであればこれ以上無い方法ですが……。機体にこれまで以上の負荷がかかり、最悪の場合、行動不能になる恐れもあります。お勧めはできません」
ゼハート「構わない。その前に墜としてみせよう。機体の不完全な部分は、パイロットの腕前で補うくらいじゃないとな」
仮面の制御デバイスを外しながら、ゼハートはその手に力を込める。
ゼハート「(もはや仮面など不要……! ヴェイガンの戦士として、貴様の敵(とも)として、今度こそアセム……貴様を討つ!)」
どうしても思うように時間がとれなくて……
少しずつですが投下は続けます。
STORY 9「ビッグリング絶対防衛線」
連邦軍総司令部『ビッグリング』侵攻に向けて動き出したヴェイガン。
ゼハートは地球制圧軍の司令官として、全軍を挙げた戦いを展開しようとしていた。
対するビッグリングの司令官であるフリットは、ヴェイガンの大規模な攻撃に備えて試作段階の最新鋭兵器“ソーラ・システム”の使用を断行。
しかし、ヴェイガン側も攻撃部隊としてXラウンダー部隊“マジシャンズ8”を投入、ゼハート自身も参戦し、一刻も早くビッグリングを制圧しようとする。
そして、そのヴェイガンのモビルスーツ部隊を迎え撃つのは、EXAMに適応せんと訓練を積み上げたアセムであった……。
-BRIEFING-
ヴェイガンの大規模艦隊が、我が軍の本拠地“ビッグリング”へ侵攻中である。
今回の作戦は防衛戦ではあるが、同時にヴェイガンへ大打撃を与えられるまたとない機会でもある。
本作戦の概要は、侵攻するヴェイガンからビッグリングを防衛しつつ、敵戦力がビッグリングへ集中している間に、衛星軌道上に配置された“ソーラ・システム”を照射し、敵モビルスーツ諸共ヴェイガンの艦隊を撃滅する、というものである。
諸君らには、ソーラ・システムの発射準備が整うまで敵ヴェイガンを限界まで引きつけてもらいたい。
なお、ソーラ・システムには複数のコントロール艦が配置されており、これを破壊されれば発射は不可能になる。
敵に悟られないのはもちろんのことだが、気付かれた場合には何としてももコントロール艦を死守せよ。
各員の健闘を期待する。
成功条件:制限時間経過
失敗条件:自機の大破
コントロール艦の全滅
使用機体:ブルーディスティニー2号機
使用装備:ビームライフル
>>78の訂正
-BRIEFING-
ヴェイガンの大規模艦隊が、我が軍の本拠地“ビッグリング”へ侵攻中である。
今回の作戦は防衛戦ではあるが、同時にヴェイガンへ大打撃を与えられるまたとない機会でもある。
本作戦の概要は、侵攻するヴェイガンからビッグリングを防衛しつつ、敵戦力がビッグリングへ集中している間に、衛星軌道上に配置された“ソーラ・システム”を照射し、敵モビルスーツ諸共ヴェイガンの艦隊を撃滅する、というものである。
諸君らには、ソーラ・システムの発射準備が整うまで、敵ヴェイガンを限界まで引きつけてもらいたい。
なお、ソーラ・システムには複数のコントロール艦が配置されており、これを破壊されれば発射は不可能になる。
敵に悟られないようにするのはもちろんのことだが、気付かれた場合には何としてもコントロール艦を死守せよ。
各員の健闘を期待する。
成功条件:制限時間経過
失敗条件:自機の大破
コントロール艦の全滅
使用機体:ブルーディスティニー2号機
使用装備:ビームライフル
※
ロマリー「アセム……どこか疲れてない?」
アセム「そんなことないさ。俺はこの通り元気だぜ?」
レスト・ルームで出撃命令を待つアセムにドリンクを持って行ったロマリーは、彼の顔つきを見て心配になった。
顔が以前よりかなりやつれていて、身体も痩せ細っているように見える。
実のところ、アセムはこの数日間食事や睡眠も忘れてシミュレーションゲームに没頭し、ひたすらEXAMとの仮想戦闘訓練に打ち込んでいたため、以前のような健康的な肉付きは完全に失せていたのだ。
ロマリー「……そんな体で出撃して本当にいいの?」
アセム「良いも悪いもない。俺はただ、みんなを……この艦の人達を守らなきゃならない。ロマリーだって……」
そう口にした後、アセムは少し笑ってみせた。
彼女を、ロマリーを心配させないように取り繕った笑顔だった。
ロマリー「(ア、アセム……?)」
しかし、その笑みの中にロマリーは何か異質なものを感じていた。
人を安心させるような、そんな類の笑顔ではない。
血を求め、獲物を探して牙を剥き出しにする猟犬のような笑みだった。
※
8機の“ゼダスM”が、光波推進の輝きを帯びながら次々と発進する光景を、ゼハートは戦闘ブリッジから眺めていた。
ゼハート「あれか……」
メデル「我が軍選りすぐりのXラウンダーで構成された特殊部隊です。さしもの“蒼い死神”も、彼らにかかれば……」
数あるヴェイガンの兵士からエリートのみを集めた精鋭部隊、通称“マジシャンズ8”。
物量で劣るヴェイガンが地球連邦軍を打倒するために温存していたこの切り札を、今回のビッグリング攻略戦で運用することになったのだ。
ゼハート「油断はできない。あの“ブルー”は、私でも対処しきれなかった相手だ」
メデル「まさか、Xラウンダー8人がかりでも倒せない……と?」
ゼハート「そうはあって欲しくないな……。いや、そうはさせない。あの蒼い死神は私が倒す。彼らに面倒はかけまい」
メデル「ゼハート司令……」
ゼハート「ビッグリング制圧の指揮は、あなたに任せます。私は、あの蒼い死神を……ブルーディスティニーを墜としてみせましょう」
メデル「……ご武運を」
副司令のメデル・ザントに作戦指揮の引継をし終えたゼハートは、自身の“ゼイドラ”が格納されているモビルスーツデッキへ向かう。
今度こそ確実に、あの蒼い死神を、親友が乗っているモビルスーツを沈めるために――。
ゼハート「(待っていろ、アセム……!)」
※
アルグレアス「司令。第7エリアを中心に、友軍の被害が著しく増加しています。まさか、これが例の……」
フリット「……ああ。報告にあった、Xラウンダーで構成された部隊だろうな」
アルグレアス「本部の護衛につくモビルスーツには、まだかなりの数があります。彼らを援軍として送り、救援に向かわせますか?」
しかし、フリットはアルグレアスの進言を受け入れず、あくまで淡々と答えた。
フリット「いや、その必要はない。それよりも、第7エリアに残るモビルスーツに撤退の合図を出せ。あのXラウンダー部隊は、“ブルー”単機で対処する」
アルグレアス「! む、無茶です司令! いくらブルーディスティニーと言えども、相手は複数のXラウンダーなのです! それに、2号機のパイロットは司令の……!」
ブルーディスティニーの操縦者がフリットの息子、アセム・アスノだということは、アルグレアスも知っていた。
が、まさか、実の父親が自分の息子を乗せたたった一機のモビルスーツに、Xラウンダーが駆るモビルスーツ8機を相手にさせるなど、思ってもいなかったのだろう。
アルグレアスは、自分が珍しく動揺していることに気づいた。
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