エレン「ユミルのお料理教室?」(249)
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――
―――朝 食堂―――
ミカサ「そう。意外と上手い」
ユミル「まあ、確かに意外と思うだろうな」
クリスタ「あ、認めちゃうんだ」
ベルトルト「で、でも、そういうギャップも……///」
ユミル「んだよこのムッツリ野郎が///」
一同(なんだこいつら……)
過去作
エレン「バーバー・ブラウス?」
注意点
・ >>1は料理が出来ません。味覇信者です
・ ユミベル、アニエレ、クリアル要素あり
・ 前作同様説教系
エレン「そういや、野外演習の時、確かにユミル・クリスタのペアは手際よかったな」
アルミン「そうだね。それに、野草を取ってきて、猪肉の臭みを消したりとか、工夫もあったよね」
ユミル「ん……まぁ、ガキの頃から自炊しなきゃならなかったからな。しみったれた生活の知恵ってやつだ」
クリスタ「そんな事ないよ! お金をかけて贅沢するより、手間をかけて作った方が、美味しい料理になるよ!」
サシャ「そうですよ。肉だって、手間をかけて熟成させた方が美味しいんですよ?」
コニー「そのせいで、あの日の晩飯は野苺だけだったけどな……」
サシャ「いいじゃないですか。今度食べるんですから」
ユミル「珍しいな、お前が食い物をそのままにしているなんて」
サシャ「そんなことないですよ。食べ物が一番おいしい時に食べるのが、食べ物にとって最も敬意ある態度だと思ってますから」
サシャ「次の特別休暇頃には、酵母によって柔らかく、かつ甘みの増した、とんでもないお肉が出来上がるんですよ」ムフフ……
一同「……」ジュルリ
サシャ「皆さんと共同で狩りをしたんですし、分けてあげますよ? もちろん、私とコニーの取り分を取ってからですけど」
一同「!」
ライナー「ま、美味い肉の味を想像しながら、今は目の前の粗末な飯を片づけるとしようぜ」
ベルトルト「そうしようか。今日は馬術だっけ?」
ミカサ「そう。クリスタが張り切っていた」
エレン「んじゃ、クリスタに練習付き合ってもらうかな」
サシャ「馬なら私も得意ですよ!」
エレン「え? やだよ。 お前教えるのヘタクソだし」
サシャ「遠慮しないでいいですって! 狩猟民族仕込みの実戦的な馬術を叩き込んであげます!」
―――
――
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―
――
―――馬小屋―――
キース「ふむ……スプリンガー。この馬、どう見る」
コニー「ハッ! 右足に多少の震え有り! 近日中に怪我をしたものと思われます! 老馬でありますので、完治の見込みも少ないかと!」
キース「よろしい。貴様にしては良い返答だった」
キース「いいか貴様ら! ガスが無ければ、どんな優秀な兵士でも、巨人の餌となる! だが、馬術の心得があれば、巨人から生き延びることも不可能ではない!」
キース「生き延びれば、巨人を殺す機会もまたやってこよう。しかし、殺されてしまえば、そこで終わりだ」
キース「よって、馬の調子を見ることは、立体起動装置のメンテナンス以上に重要と知れ!」
一同「ハッ!」
キース「レンズ、訓練終了後にこの馬を屠畜場に連れていけ」
クリスタ「えっ……そんな」
キース「何か不満か?」
クリスタ「訓練に不適であっても、開拓地に移送すれば、まだ活躍できるはずです!」
キース「そうか、では貴様が開拓地に連れて行くか? 開拓地には馬の扱いに長けた者はそういない。負傷した馬の面倒をも見ることができる貴様は重用されるだろう」
クリスタ「……失礼しました」
ユミル「……」
クリスタ「……」ドヨーン
アルミン「クリスタ、凹んじゃったね……」
ライナー「憂い顔もいいな……なんて冗談は言えねえか」
サシャ・コニー「「なんでクリスタは凹んでるん」です?」だ?」
ユミル「……狩猟文化のあるお前らはわからねーかもしれねーが、馬を殺すってのは、なかなか気分悪いもんなんだよ」
ジャン「そういうもんか? 死に急ぎ野郎に同意するわけじゃねーが、弱いものから死んでいくのはこの世の理ってやつだろ。ましてや、家畜なんぞにかける情けなんてねェな。ハッ……いったいどこのお嬢様気取りだ」
ユミル「!」
ミカサ「ジャン……あなたは私より弱い……ので、あなたが私に殴られたとしても、文句は言えないはず」ドスッ
ジャン「グフッ!」
アルミン・ライナー(ナイスミカサ!)
エレン「まぁ、ジャンの言うことにも一理あるだろ。俺らだって、一緒に働いてきた牛や豚を殺して食ってたんだぜ? 馬だからって特別扱いってのもおかしいんじゃねーか?」
アニ「エレン、アンタはもう少し女の子の心情を汲み取るべきだね」
エレン「ハァ? お前の冗談は面白くねーな。お前にもわかるってのk――アニ「……」ゲシッ
エレン「」グデーン
サシャ「はぁ……クリスタの気持ちはわからないですけど、アニの気持ちは分かります」
エレン「なぁ、アルミン、お前にはわかるのか?」
アルミン「エレン、僕が女みたいだからっていう理由だったら一発殴らせてよ」
エレン「何言ってんだ。もうサシャに髪直してもらっただろ? お前が男子の中じゃクリスタと仲いいから聞いてんだろ」
アルミン「うーん……クリスタって、馬術と座学が得意じゃないか。だから、馬に対する思い入れっていうのは、人一倍大きいんじゃないかな。なのに、屠畜場に連れて行く役目を言い渡されたら、中々辛いものがあるんじゃないかな」
ユミル「間違いじゃねーが、完全な正解でもねーな」
エレン「どういうことだよ?」
サシャ「ま、本人を遠巻きにして心配したって、不安にさせるだけですよ。今日の訓練も張り切ってやりましょうよ」
エレン「それもそうだな。クリスタ! 俺に馬術を教えてくれ!」
ユミル「頭の切り替え早すぎだろ……」
クリスタ「ごめん、エレン。今日はあんまり調子が上がらないから、サシャに教えてもらってよ」
エレン「ん? そうか。悪かったな」
クリスタ「ごめんね……」
エレン「いいって。気にすんな……っても、無理だよな。なんて言えばいいか分からねーけど、俺はクリスタみたいな兵士がいても、いいと思うぞ」
クリスタ「!」
エレン「んじゃあな」
ジャン「いいのかよアルミン。美味しいとこ取られて」
アルミン「……傷心に付け込むようなマネはしたくないんだ。けど、ああいうことを何の気なしに言えるエレンが羨ましいよ。僕だったら、どうしても下心が含まれてしまう」
ベルトルト「なかなか言うじゃないかアルミン」
アルミン「いや、むしろ僕なんかより、ユミル、君はいいの? 真っ先に教官を殴りに行くと思ってたけど」
ユミル「私はあいつの……親友だからな。優しくするだけが、付き合いじゃねーだろ。上っ面しか見てねえ有象無象が優しい言葉を掛けてくれるさ」
ユミル「もっとも、それがクリスタに響くとも思えねーけどな」
ジャン「……遠まわしに俺を馬鹿にしてないか?」
―――
サシャ「エレーン! 違いますってばー! もっと馬と心を通わせるんです! 馬は見た目より賢いんですから!」
エレン「お前の言ってることは! ふわっふわっしてて分からねーんだよ! うおっ危ねぇ!」
コニー「まぁ俺らは天才だからな! 俺らも出来ねー奴のことはわからねー!」
キース「どうしたアルレルト! いつにも増して腑抜けているぞ! また女扱いされたいのか!」
アルミン「そのようなことはありません! 精進致します!」
ライナー「アルミン! 手綱で制御しようとするな! もっと鐙に重心をかけろ! 馬の腹を挟め!」
アニ「……」パカラッパカラッ
ミカサ「……」パカラッパカラッ
ベルトルト「君らは大概そつなくこなすね……」
ジャン「なぁ、俺はそこまで女心が分かってねぇのか?」
ユミル「知るか。私だってわからねーよ」
クリスタ「……」ポツーン
―――
リンゴォーン……ゴォーン………ォーン…………
キース「本日の訓練を終える! スプリンガー! 午後の水汲みを忘れるな! レンズは朝に言い渡した通りだ!」
コニー「ハッ!」
クリスタ「……はっ」
キース「どうしたレンズ! そんなに開拓地に行きたいか?」
キース「貴様には選択肢がある。開拓民として生きるか、兵士として生きるか……あるいは、巨人の餌となるのみだ!」
キース「迷いがある兵士は、剣にも迷いが出る。剣に迷いのある兵士は、ただ巨人の贄となるのみ。貴様が食われれば、より多くの仲間を迷わせることになるだろう」
キース「貴様は、この104期訓練生たちを道連れにしたいのか!」
クリスタ「……分かりました。負傷した馬を屠畜場に移送致します」
と思ったら中央線でも座れたので、とりあえず書きます。すぐ落ちますが。
キース「よろしい。特に役割の無いものは解散だ」チラッ
ライナー「……」
キース「ブラウン。馬の移送程度、レンズ一人でもできるだろう。助力するということは、私のレンズに対する評価に誤りがある、そう言いたいのか?」
ライナー「……とんでもありません! 失礼致しました!」グッ
アルミン(ライナー、君の気持ちは痛いほど分かる……)グッ
―――
――
―
―
――
―――夕方 食堂―――
ライナー「教官にあそこまでイラつくのは初めてかもしれねーな」
アルミン「僕も理解はできるけど、やっぱり、頭には来るね。その点、ユミルはすごいよ。よく我慢したね」
ユミル「あ? 言っただろ。優しい言葉を掛けるだけが、親友じゃねえって」
サシャ(血が出そうなほど硬い握り拳作ってましたけどね)
書き出しがバーバーブラウスっぽい人だなと思ったら、まさしくそうだったw
期待して待ってます
ジャン「だがよぉ、やっぱり今回はクリスタが悪いんじゃねーか?」
エレン「ああ。躊躇いながら戦うよりは、戦わずに逃げた方がいい」
アルミン「エレン、君はクリスタのこと認めてたじゃないか! 単にクリスタに声を掛けたかっただけなの!?」
エレン「おい、何騒いでるんだよアルミン。俺は、優しい兵士がいたっていいじゃねーか。そう言ってるんだ。一度馬を連れて行くって言ったのに、何時までも悩んでいるのは、兵士じゃない」
ライナー「……」
エレン「後悔はしたっていい。俺の故郷がなくなったのも、人類に力がなかったせいだ。
あの時、母さんを助けられなかったことは、悔やんでも悔やみきれねぇ。
けど、今、俺たちは死にもの狂いで巨人殺しの技術を学んでる。
俺はそこに、一分の迷いもない。一度決めたなら、終えるまでは迷っちゃならないんだ」
ベルトルト「エレン、良く考えてるじゃないか。君なら、『ぐずぐず迷ってる家畜共はそこで這いつくばってろ。俺一人でも、巨人を駆逐してやる……っ!』なんて言うと思ったんだけど」
エレン「そこまで酷くねーよ。同じ釜のメシ食ってるんだ。家畜なんて思わねーよ
エレン「それに……ここでみんなと過ごして分かった。俺一人じゃ何もできねぇ。前の俺は感情に任せて騒いでるだけのガキだ」
>>20
ありがとうございます。
今回はゆったり更新です。
エレン「アニからは格闘術を学んでる。これは、訓練だけじゃねぇ、アニがいなかったら手に入らなかった」
アニ「最初はライナーと一緒に無様な姿だったけどね」
エレン「ライナーからは、兵士としての心構えを学んだ」
ライナー「まぁ、アニのせいで台無しだったがな」
エレン「俺は今、多くの仲間に育ててもらってる。だから……クリスタも、何とかなんねーかな。俺だって、助けたくないわけじゃないんだ。あいつだって、仲間だろ」
ジャン「……どうだかな」
マルコ「ジャン?」
ジャン「エレンが俺のことを投げたのは、そこの氷の女に投げられたせいだ。技術を学ぶのは、それに興味を持っていれば簡単だ。
で、ライナーに触発されたのは、お前が単純バカってせいでもある」
ミカサ「……何が言いたいの?」ビキビキ
ジャン「クリスタ自身が、変わりたいと思ってなきゃ、変われねーんじゃねーのかってことだ。
俺は死に急ぎがどんな演説ぶち上げたって、憲兵団に行く気持ちを変えるつもりはねぇ。
それと同じで、結局のところ、周りがどうこう言ったところで、あのお嬢様が、馬を殺すことに嫌悪感を抱くってことは、変わらねえだろ」
ジャン「馬を殺すことに慣れちまう、そんなのがお前らの女神様なのか?」
ジャン「俺は別に、クリスタが馬一頭に感傷的になろうと、そんなことは問題じゃねえと思ってる。
そんなことより、明日の兵站訓練であいつがへばることの方が心配だ。
あいつがへばれば、俺たちの負担が増える。だから、それに備えて、とっとと寝るのが俺らの出来ることじゃねぇのか」
一同「……」
ユミル「物言いに腹は立つが、馬面の言う通りだな。私はもう寝る」
アルミン「ユミル!?」
ユミル「なんだよ、不満があるならそこの馬面に言いな。お前が苛立ってるなら、それを言えばいいだろ。私が抑えてるからって、お前が言わない理由にはならない」
ユミル「けどな、自分のことで他人が勝手に心配するのも憤るのも、クリスタにとっちゃ重荷になるだろうし……悔しいだろ」
ユミル「じゃあな。また明日。そろそろクリスタも来るだろ。辛気臭ぇツラしてっと、アイツなら感づいちまうぞ」バタン
アルミン「……」
ベルトルト「……確かに、今の僕らには何も出来ない」
ライナー「しかしなぁ……声を掛けるくらい……」
ベルトルト「ライナー、ユミルは優しい言葉を掛けないだけじゃない。掛ける言葉がないんだと思う。同情でも、義憤でもなく、クリスタに必要なのは、叱咤じゃないかな」
サシャ「けど、ユミルですら言えないのに、ライナーがそんな言葉かけたら、きっとクリスタは泣いちゃいますね」
ライナー「あ、あぁ……」ウツムキ
ミカサ「アルミン。あなたの気持ちも分かる。クリスタの性格を考えれば、何かしらの手助けだって必要」
ミカサ「ただ、それは今じゃない。理由は上手く言えないけど……これは……」
アニ「……女の勘」
ミカサ「珍しく気が合った……エレンには分からないけど、アルミンならわかるでしょう?」
アルミン「そう……だね……。歯がゆいけど、今一番辛いのはクリスタだ。僕らがどうこう言えることじゃない、か」
―――
――
―
―
――
―――夜 女子寮談話室―――
サシャ「ユミル、ちょっと」
ユミル「なんだよ芋女」
サシャ「いいんですか? クリスタのこと」
ユミル「……正直、わからねーな。クリスタの自己犠牲癖は抜けてきたが、あいつは優しすぎる。兵士として生きるなら、これからは馬だけじゃねぇ、人の死にだって直面するだろ」
ユミル「あいつには、「死」に実感がねーんだよ。私はここにくるまでに、何度も死にかけてるし、死にかけのやつを見た」
サシャ「私は狩人として生きてきて、捕食被捕食の様を見てきました。厳しいことを言ってしまえば、やはりジャンの言う通り、お嬢様気分でいるように見えます」
サシャ「だって、私たちが食べているお肉は……いえ、パンの一かけらに至るまで、あの馬と変わらず、生きていたんですよ」
サシャ「私たちは誰しも死体を食べて生きています。その事実を無視して、死にゆく馬だけを悼むのは、通らない道理ですよ」
ユミル「そうだな……よし、それで行こう。いいことを言った芋女」
サシャ「そうですか? 私にとって当たり前で、クリスタにとって当たり前ではないというだけのことだと思いますが……」
ユミル「よし、芋女。教官のところに行くぞ」
サシャ「え? こんな時間にですか? うーん……じゃあ、ちょっと寄っていきたいところがあります」
―――
――
―
―
――
―――夜 男子寮 談話室―――
サシャ「そういうわけで、お願いします!」
アルミン「ええと……調理室を借用する、今日処理された馬の肉を入手する、明日の兵站行軍中の自由時間申請……中々難しいけど、何とかなると思う」
ユミル「ああ。それがあれば、クリスタの調子も良くなるだろ」
>>36
そうなる板じゃないからな
なあに、童貞でもエロssは書ける
―――
エレン「らぁっ! せいっ!」ビスッ
アニ「遅い。いつものアンタなら、すぐに連撃に持ち込んだはず」パシッ
エレン「なら!」クイッ
アニ「この間合いじゃ、投げは通用しない。いい加減間合い位覚えな」クルッ
エレン「」ビターン
アニ「今日はこれで仕舞にしなよ。別のこと考えながら、体を動かすのは、為にならないと思う」
エレン「……悪かった。確かに訓練に付き合ってもらってるのに、別のこと考えてるのは失礼だな」
アニ「そういうことじゃない……いや、アンタをダシにしてるだけか。私だって、クリスタのこと考えてる。だから、今日の練習はあまり捗らないと思う」
エレン「……なぁ、アニはどう思うんだ? クリスタをこのままにしていていいのか?」
アニ「クリスタが甘ったれだって言えば満足するの? それとも、クリスタが優しいのはいいことだって言えばいいの?」
アニ「アンタはクリスタのことをどうにかしたいんだろう? あの子が正しいかどうかは別としてさ」
エレン「ああ。迷っていることは……良くないと思うけれど、だからといって、仲間が迷って苦しんでいるのに、それを放置することの方が、もっと良くないことだ」
アニ「そう。なら、周りがどう思っていようと、アンタが迷うこともないじゃないか」
エレン「俺は……迷ってないぞ。ただやり方を考えてただけだ」
アニ「はいはい」
エレン「そうだな。アニの言う通りだ。まだ何をすればいいのか分からないけれど、何かやってみるよ」
アニ「そう、それは良かった。けど、アンタだけすっきりするのは癪だ。私の話も聞いていきなよ」
エレン「え? ヤダy――アニ「え? なんだって?」
エレン「冗談だろ……」
アニ「……」ムッスー
エレン「悪かったよ。で、何だよ」
アニ「エレン、アンタの好物は?」
エレン「いきなりだな……そうだな、チーズハンバーグ」
アニ「! ……随分良い物食べてたみたいじゃないか」
エレン「シガンシナにいた時の話だよ。親父が医者だったからってのと、突出区は減税されてるからな」
アニ「ふぅん。羨ましい限りだね」
アニ「で、アンタの大好きなチーハンだけど、ある日突然、チーハンを好きであることは罪であるとされたら、どうする?」
エレン「何だよそれ。人肉食ならともかく、チーハン食べることのどこが悪いってんだ」
アニ「食べることじゃない、好きであることだよ」
エレン「どうするったって……」
アニ「そう、どうすることもできないんだよ。人から、”そうある”ことが罪だとされても、自分が”そう”なんだから、誰かがどうこうすることはできない」
エレン「遠回しな言い方だな。お前は、クリスタが悲しむのは、間違いじゃないって言いたいんだろ」
アニ「そうなるね。人はどうあるかより、どう行動するかじゃないの? クリスタが馬の死を悲しんでいても、クリスタは教官の命令を守った。それでいいんじゃない」
エレン「けどよ、クリスタが迷ってるのも事実だぞ? 教官も言ってたじゃねーか。迷う兵士は殺されるって」
エレン「クリスタが”そうある”ことは、確かに俺らがどうこうする話じゃない。どうこうしていい話でもない。他人に意思を捻じ曲げられて生きるってのは、家畜と同じじゃねーか」
エレン「でも、俺たちは兵士なんだ。馬は死んだ。けれど俺らは生きてる。なら、明日も明後日も生きるために、訓練に精出すしかないだろ。ただでさえ他地区では死者が出てるんだから、うじうじしてたって、身を滅ぼすだけだ」
アニ「……アンタはそうやって、兵士かそうじゃないかだけでしか判断できないの? アンタの話を聞いてると、兵士じゃない人間には興味がないように思えるんだけど」
エレン「なんだよそれ。今日はいやに突っかかるな」
アニ「いいから答えな」
エレン「……そんなことはねーよ。仮に、クリスタが兵団をやめることになったら、クリスタは仲間じゃない。守るべき人になるだけだ」
―――夜 教官私室―――
コンコン
アルミン「アルレルト訓練兵です」
キース「入れ」
アルミン「失礼致します。夜分に事前の断りもなく――キース「用件を話せ」
アルミン「ハッ。明日の兵站行進にて、一部訓練兵による課外訓練を行いたいと考えております」
キース「ほう? 訓練課程が物足りないと?」
アルミン「いえ。ブラウス訓練兵が山地の食文化に明るいため、調査兵団希望者を中心に、食糧の現地調達の可能性を検討したいと考えております」
キース「なるほど……続けろ」
アルミン「しかしながら、訓練課程の事を考慮したところ、明日中の調理は不可能と考えました。そのため、入手した食材は持ち帰り、来週の特別休暇まで、兵糧庫にて一時保管し、食堂をお借りして調理を行いたいと考えております」
キース「ふむ……良いだろう。食堂は自由に使え。話は通しておく」
アルミン「ありがとうございます! あと一点、よろしいでしょうか」
キース「何だ?」
アルミン「本日処理した兵馬の肉を、その調理において用いたいと考えております。壁外調査にて、馬が絶命した場合、その対処としては食用とすることが予想され、そのことを踏まえ課外活動の一環と致します」
キース「ふむ。それが本来の目的か。馬を失った場合、調理などしている余裕はない。アルレルト、貴様ならその程度の事はわかるだろう。しかし……多少強引ではあるが、及第点だ。肉を食べれば、そこにいるブラウスの悪癖も少しは収まるだろう」
扉|サシャ(!)
アルミン「ありがとうございます! では、失礼致します」
キース「待て……衛生管理の徹底を命ずる。食あたりで訓練に支障が出た場合、困るのは貴様らだけではない」
アルミン「ハッ! 夜分に失礼致しました!」
ガチャ
キース(壁外調査……か。訓練兵団志望の者など、イエーガー以外にそうおるまいに)
>>50 訂正。訓練兵団⇒調査兵団
アルミン「本日処理した兵馬の肉を、その調理において用いたいと考えております。壁外調査にて、馬が絶命した場合、その対処としては食用とすることが予想され、そのことを踏まえ課外活動の一環と致します」
キース「ふむ。それが本来の目的か。馬を失った場合、調理などしている余裕はない。アルレルト、貴様ならその程度の事はわかるだろう。しかし……多少強引ではあるが、及第点だ。肉を食べれば、そこにいるブラウスの悪癖も少しは収まるだろう」
扉/サシャ(!)
アルミン「ありがとうございます! では、失礼致します」
キース「待て……衛生管理の徹底を命ずる。食あたりで訓練に支障が出た場合、困るのは貴様らだけではない」
アルミン「ハッ! 夜分に失礼致しました!」
ガチャ
キース(壁外調査……か。調査兵団志望の者など、イエーガー以外にそうおるまいに)
―――夜 訓練場―――
エレン「結局、話が良くわからねえ。けど、俺の言うことも間違ってるんじゃないか、そう言いたいんだな?」
アニ「そうじゃない。間違っているか、正しいかなんて、誰かが決めることじゃなくて、自分自身で決めることだろう? ってこと」
アニ「あんたにはとても言いづらい事だけど、巨人が人間を食べることと、人間が家畜を食べること、そのどちらも、正しいんじゃないの?」
アニ「だから、クリスタが馬を悼むことを、間違ってるなんて、思いたくないんだよ。それに、迷っていたとしても、あの子は役割を果たした。そこに、私たちが口をはさむことじゃないと思うんだ」
エレン「う……そうかもしれねーけどよ、クリスタが悩んでるのは事実だろ? だったら、何とかしようってのは、間違ってないんじゃねーか?」
アニ「そうだね。けど、あの子があの子であることを、否定しちゃならない。そう……思う」
エレン「ん。分かったよ。心に留めとく」
アニ「いいよ。アンタはアンタの思った通りに行動すればいい。単に、私がそう思うってだけの話……いや、違うね、これは卑怯だ。私がこう思ってるってことを、アンタに知ってもらって、アンタの意識を変えようとした。結局、矛盾してるのさ。悪かったね」
エレン「? 俺はお前の言うことがもっともだと思ったから、心に留めようって思っただけだ。実際にやることは変わらないぞ?」
アニ「そうかい。私は、私の思う範囲で、クリスタをフォローするよ」
エレン「……アニ、クリスタのこと気遣ってるなら、もう少しストレートに出したらどうだ? そんな不機嫌な顔してるから、氷の女なんて言われるんだろ。アニは……優しいんだから、勿体ないだろ」
アニ「私は……ただ、自分の考えていることを分かって欲しかっただけだよ。あの子のことを特別どうこう思ってはないよ」
アニ(私が、私であるということは罪じゃない。そう……アンタに認めてもらいたいだけ)
エレン「随分長いこと話してたな。そろそろ寮に戻らないとまずくないか?」
アニ「そうだね。多分、男子寮じゃ作戦会議でもしてるんだろうけど」
エレン「そうだな。きっとアルミンが良いアイデアを出してくれてるさ。じゃあな」
アニ「ちょっと待った。明日の訓練、どうする?」
エレン「おう、明日もやってくれよ。今度こそ短刀奪ってやるからな」
アニ「そ。せいぜい頑張りな」
エレン「それと……ありがとな。アニの考えも、アルミンに言っておくよ」
アニ「それはいい。アンタだけ……アンタだから言った。お休み」
―
――
―――昼 野外訓練場―――
キース「これより、昼食とする。1500には帰還を始める」
一同「ハッ!」
ライナー「今回の行進はずいぶん楽だったな」
アルミン「僕でも大して遅れはなかったからね」
アルミン(課外活動のために時間を割いてくれた……? 考え過ぎかな)
クリスタ「……」
ユミル「ほらクリスタ、食っとかないと、帰れなくなるぞ」携行食モソモソ
サシャ「では皆さん、このイラストを基に、食材探しをしてきてください」
コニー「……何の絵だこれ?」
マルコ「なんだか不安定な気分になる絵だね」
サシャ「失礼な!」
ベルトルト「サシャは……画力が突き抜けてるね」
サシャ「ありがとうございます!」
一同(奇怪すぎる……)
ジャン「ま、うまい飯にありつけるならそれでいいか」
マルコ「素直じゃないなぁ。オレはクリスタのこと心配だよ?」
ジャン「勝手に言ってろ」
サシャ「お肉が待ってますからね、張り切っていきましょう」
コニー「サシャ、これはどうだ?」
サシャ「キノコ……ですか。なんだかちょっと形がいびつですね。傘が開いてしまっているので、あまりおいしくはないと思いますよ」
エレン「で、どうなんだよ。野草集めるったって、これがクリスタのためになるのか?」ブチブチッ
アルミン「そうか、エレンはあの時いなかったね。兵站行進の前日なのに、お疲れ様」ヨッコラ
ミカサ「エレン、強くなりたいのはわかる。けど、あの女とではなく、私とするべき」ポイッ
エレン「ミカサは技じゃなくて力で格闘するじゃねーか。学べるものなんてねーだろ」
ミカサ「……」ズーン
ライナー「アニ、エレンとはどこまでやったんだ?」
アニ「そろそろ蹴りだけじゃなくて、総合的に教えてるけど」
ライナー「そういうことじゃなくてだな……」
ベルトルト「ライナー、そこもアニの可愛いところじゃないか」
アニ「何?」キョトン
ミーナ「……」ハァ
ハンナ「フランツは何食べたい?」
フランツ「何でもいいかな」
ハンナ「ちょっと、それ興味ないってこと!?」
フランツ「違うよハンナ。俺は君が作るものならなんだって良い。そう言ってるんだ。けど、そんな質問させてごめんな……」ギュッ
ハンナ「フランツ……」ギュッ
ミーナ(あー、なんで私生きてるんだろう)
キース「定刻になった。異常は無いか」
マルコ「ハッ!」
キース「よろしい。全員宿舎に帰れ」
キース「それと、アルレルト。入手した食材は馬車に積め」
アルミン「よろしいのですか?」
キース「貴様は壁外で食材を現地調達し、それを背負いながら巨人から逃げるのか?」
アルミン「お心遣い感謝します」
―――
――
―
―
――
―――夕方 訓練場―――
キース「兵装を武器庫に返却後は自由行動とする」
キース「アルレルト。課外活動のレポートは次々回の兵站行進訓練までだ」
キース「解散」
マルコ「本日もありがとうございました!」
マルコ「サシャが最後だね……うん、傷もないし、駆動部に汚れもない。お疲れ様」
サシャ「はい、お疲れ様です! では、食材が待ってますので!」
アルミン「よろしくねー」
マルコ「うーん、やっぱり今日の訓練はいつもより軽かったね」
アルミン「マルコもそう思う?」
マルコ「うん。今日は隊列が伸びなかったからね」
アルミン「移動先がいつもより近かったのもそうだけど、先頭のペースを抑えてたみたい。エレンは不服そうだったけど」
マルコ「クリスタのこと、かなぁ?」
アルミン「……かもしれないね」
アルミン(あんなバカげた理屈に基づく課外活動を、本来の課程を縮減するレベルで認めるなんて……)
アルミン(理由があるとすれば、クリスタの一件しかない。教官はいったい何を学ばせようとしているんだ?)
マルコ「じゃ、最後に相互チェックだ」
アルミン「外装に少し傷が出てるね。腐食止め塗っておかないとね。駆動部は……ワイヤーの撚れが少し気になるけど、今の段階ならまだ大丈夫そうだね。次の立体起動訓練後に技工部に提出しよう」
マルコ「アルミンのは……射出口がすり減ってるから、アンカー射出の時に、変な癖がついてるのかも。ジャンに頼めばいいと思うよ。口は悪いけど、多分断らないと思う」
アルミン「あれでいて、なんだかんだ優しいよね」
マルコ「そう。歯に衣着せぬ物言いをする癖に、肝心なところは喋らないからね。あれでクリスタのこと、心配してるんだよ。みんなは誤解してるみたいだけどね」
アルミン「そうだね……みんながみんな、違う考えでクリスタのこと心配してるんだよね。何か行動を起こそうと思っているのが、サシャとユミルだったというだけで」
マルコ「よし、点検完了。僕らも寮に戻ろう。風呂に入りそこなっちゃう」
―――男子風呂―――
ザパーン
ライナー「おいコニー! 風呂に飛び込むな!」
コニー「あ、悪い」シュン
アルミン「ベルトルトを見習いなよ……」クイッ
ベルトルト「……フゥー」
ジャン「なんか悟りでも開きそうだな」
マルコ「安らいでるね」
アルミン「アレ? エレンは?」
ジャン「ああ、特訓があるってよ」
ライナー「……アイツ、水浴びもせず?」
ベルトルト「……アニもそうなんじゃないかな」
ライナー「くんずほぐれつ」
ベルトルト「ほのかに汗の匂い」
…
……
………
一同(……もう少し浸かっていよう)
マルコ「アルミン、先上がるよ。今日の分のレポート、手伝うよ」
アルミン「うん、ありがとう。紙とペン、談話室に用意しておいて」
マルコ「分かった。のぼせないようにね」
アルミン「ありがとう。また後で」
アルミン「……珍しいね、ジャンはカラスの水浴びだったと思うけど」
ジャン「時に、軍師様よ」
アルミン「何?」
ジャン「お前こそ、珍しいじゃねぇか。他人の案に乗っかるだけなんてよ。ましてや、愛しきクリスタ様がお困りなんだろ?」
アルミン「別に、クリスタだからって特別扱いなんてしたことないし、するつもりもないよ。ただ今回は……良い案がね、浮かばなかったんだよ」
ジャン「あー?」
アルミン「同性で、一番の友人のユミルだって、掛ける言葉が見つからない。なのに、僕が最善の案を出せるわけがない」
ジャン「じゃあ訊くけどよ、ほんとにあのそばかすと芋女の案が最善解だと……クリスタのためになると思ってるのか?」
ジャン「馬の死に慣れよう、命は等価だ、それは兵士としちゃ間違ってねえ。けどよ、それが納得できない人間にとって、馬肉を食べたら納得できるってのは、安直すぎるだろ」
ジャン「それに、本人に直接言いもしないで、クリスタのためだの、優しい言葉を掛けるべきじゃねえだの、どいつもこいつもほざきやがるが、それは"アイツらが思ってるクリスタ"のためじゃない、ってだけだろ」
アルミン「……そうだね。僕らは、現実のクリスタが何を望んでいるのか、知らない」
アルミン「クリスタがこの件で苦しんでいるのはわかる。けど、クリスタが助けてほしいのか、それとも自分で自分を助けようとしているのか、それさえも僕らは知らないのに、勝手な憶測で物事を進めてる」
アルミン「知らないことを知らない……こんな単純なことに気付かなかった」
アルミン「僕は……考えることを放棄してたのか……」
ジャン「で、自分が分からないことが分かった軍師様は何をするんだよ。ダイスは振っちまった。教官まで動いてやがる。もう『ユミルのお料理教室』は、止められねぇ」
ジャン「ユミル達が間違ってるかどうかは分からねえ。クリスタの性格なら、あれでも喜ぶかもしれねーな。けどよ、アルミン。お前はそれでいいのか? 考えないままに進んだ結果を、軍師様は受け入れられるのか?」
アルミン「……ありがとう、ジャン」
ジャン「で、自分が分からないことが分かった軍師様は何をするんだよ。ダイスは振っちまった。教官まで動いてやがる。もう『ユミルのお料理教室』は、止められねぇ」
ジャン「ユミル達が間違ってるかどうかは分からねえ。クリスタの性格なら、あれでも喜ぶかもしれねーな。けどよ、アルミン。お前はそれでいいのか? 考えないままに進んだ結果を、軍師様は受け入れられるのか?」
アルミン「……ありがとう、ジャン」
ジャン「なんだよ気持ち悪ィな。女顔のお前にそんなこと言われると、ライナーじゃなくても掘りたくなるだろ」
アルミン「やめてよ気にしてるんだから。ジャンも、そういうことを言うからミカサに相手にされないのに」
ジャン「あれは死に急ぎ野郎が突っかかってくるからだろうが!」
アルミン(どう考えても突っかかってるのは君なんだけどね)
アルミン「エレンが発端だとしても、落ち着いてそれをやり過ごせばいいじゃないか。大人な対応にミカサも関心を持つんじゃないかな。彼女はエレンのことを除けば大人だから、自分より大人な男性っていうのはアピールポイントになると思うよ」
ジャン「本当か!?」
アルミン「伊達にエレンに次ぐ幼馴染やってないよ」
ジャン「そうか、次は気ィ付けてみる。ありがとよ!」
アルミン(まぁ、嘘は言ってないよね)
―――訓練場―――
アニ「昨日よりだいぶ動きがいいじゃないか」パシッ
エレン「お前が鈍くなってるだけじゃねーのか?」ヒュッ
アニ「言ってくれるね」ガッ
エレン「うおっ」ズテーン
アニ「!?」ズテーン
エレン「なんでお前まで……」
アニ「うるさいな。アンタの言う通り、私だって行進で疲れてるんだ」
エレン「アニ、顔が近いって」
アニ「好きで近づけてるわけじゃない。アンタこそ顔そらしなよ……///」
エレン「俺だって体が動かねーんだよ」
エレン「……アニ、お前なんか匂うぞ」
アニ「!? あ、あ……アンタ、もう少し――エレン「なんか、ほっとする。けど、落ち着かない。なんだこれ」
アニ「……とんでもない変態だねアンタ」
エレン「なんだよ。けなしてるわけじゃねーんだから、素直に喜べよ」
アニ「褒められた覚えがないんだけど」
エレン「じゃあ……この匂い好きだぞ」
アニ「……アンタはもう少し、女心を学びなよ」
アルミン「……丁度休憩中みたいだし、ちょっといいかな」
アニ「ふわっ!?」
エレン「うおっ!?」
アルミン(ごめんね二人とも……)
アルミン「アニ、頼みがあるんだけど……」
アニ「……断る」
エレン「おい、アニ!」
アニ「分かったよ。アルミン……どうしたの?」
アルミン「クリスタのために……いや、僕のために、協力してくれないかな」
アニ「アンタのために……? 協力って言ったって、何をするの?」
アルミン「エレンから聞いたよ。アニはユミルとサシャの方針に反対だって」
アルミン「僕も……この計画を考え直そうと思う」
アニ「それは……ずいぶん無責任な話じゃない? 私もコイツと同じで、伝聞でしか聞いていないけど、アンタも深いところまで噛んでるんだろ?」
アルミン「そうだね。確かに教官に許可を得たのは僕だ。けど、ここで何もしなかったら、僕はもっと無責任な振る舞いをすることになる。僕は、この計画は間違っている、そう思うんだ。間違っていると考えているのに、何も行動しない。それは……」
アルミン「家畜と同じ、じゃないかな」
アルミン「サシャたちの行いは、僕は間違っていると思うけれども、彼女たちは正しいと信じて、その信念に基づいて行動している。
翻って、僕は一体何なんだ? 自分のやることに自信は持てないけれど、他人のやることにも否定的だ。
そのくせ表だって否定はしない。そんな卑怯なやり方で、クリスタが立ち直ったとしても、僕はもうクリスタに向き合えない」
エレン「……アルミン、俺はいつだってお前が出してきた答えは間違ってなかった。そう思ってる。だから、悩んでいるんだったら、行動すべきだと思う」
アニ「……アンタの言いたいことは分かった。何より、アンタの卑下はそのまんま私にも突き刺さるからね」
エレン「そうなのか?」
アニ「アンタはちょっと黙ってな」
アニ「アルミン」
アニ「いいよ。乗った」
アニ「と、言っても、私は何をすればいいの? 私も私なりに考えてはみたけれど、特にこれといって思い浮かばなかった」
アルミン「簡単だよ。クリスタを、連れ出してきて欲しい」
書き溜めが尽きたのと眠いのとで今晩はここまでにします。明日ゼミ呑みなので粗相出来ません。
今日あたり来るかな?
期待して待ってるぜ
>>94
とりあえず今日も途中まで更新です。
ご期待に沿えればいいのですが……
―
――
―――夜 女子寮―――
アニ「クリスタ、ちょっと」クイッ
クリスタ「何?」
アニ「王子様が呼んでるよ」
ユミル「あ? 氷の女王様を郵便に使うとは、大した王子様だな。けど、私がついてるのに行かせるわけねーだろ」
アニ「アンタらが盛ってるのは構わないけど、私にも私の役目があるんだよ。ユミル、ちょっとこっち来な」
アニ(あんたらの参謀だよ。アンタとサシャにとっても悪い奴じゃないだろ)ヒソヒソ
ユミル(なるほどな……あのゴリラだったらともかく、あいつならいいだろ)
アニ(ん? あいつのこと男色家だと思ってたんじゃないの?)
ユミル(だったらベルトルトが真っ先に掘られてるだろ)
アニ(……ウエッ)
アニ「というわけで、騎士様の許可が下りた。どうかお姫様王子様のもとへ」
クリスタ「さっきからどうしたのアニ?」
ユミル「乙女心に照れてるんだろ」
アニ「私のことはどうだっていいだろ。さっさと行ってくれ」
クリスタ「もう、寝間着に着替えちゃったのに……」ヌギヌギ
ユミル「そうだアニ、風呂行って来いよ。服も土埃にまみれてんぞ」
アニ「そうだね。じゃあ、クリスタ。女子寮前でアルミンが待ってるってさ。早く行ってあげなよ」
クリスタ「わかった。ありがと」カチャ
ユミル「それで? お前の王子様との訓練を止めてまで、わざわざメッセンジャーをやるとは思えねーんだが?」
アニ「……騙したようで悪かったね。といっても、そもそも騙されてくれる相手じゃない、か。あと、エレンはそういうのじゃない」
ユミル「いいから、言えよ」
アニ「アルミンは、アンタらのプランを修正するつもりだとさ」
ユミル「あぁ? アイツも乗り気だったろうが……まぁいい、とりあえずそこを退けよ」
アニ「……私の役目は伝言と、アンタの足止め」
ユミル「……愛しの王子様をボコボコにして悦に浸ってるみたいだけどよ、手ェ抜いてるのがお前だけじゃないって、わかるだろ?」
アニ「待った」
ユミル「……構えろよ。格闘術なら、構えが必要だろうが」
アニ「騙したことは悪いと思ってる。アンタのクリスタに対する気持ちも、分からないわけじゃない。私も死に急ぎも参謀殿も、アンタらの行いを全て台無しにするつもりじゃないんだ。それと、訓練はそういうつもりでやってない」
アニ「だから、聞いてくれない? 暴力じゃなくて、言葉でアンタの足を止めたい」
ユミル「分かったよ。どの道、クリスタはアルミンに会うだろうさ。ここでお前とやっても、私の苛立ちが少し軽くなるってだけさ」
アニ「ありがとう……アルミンは、クリスタが何に悩んでいるのかを聞く、らしい」
ユミル「はぁ!? 何って、そりゃ馬だろ」
アニ「そこ。アンタはクリスタから聞いたの?」
ユミル「いや……聞いてねーけどさ……状況とあの性格からすりゃ、そうだろう?」
アニ「私は他人がどういうことを考えているかなんて、わかるものではないと思う。アンタ、今私が何を考えているか分かる?」
ユミル「それは……いや、アンタが仏頂面なのと、アンタのこと大して知らねーからな。けど、クリスタのことは、お前より分かるつもりだ」
アニ「……例えば、エレンとアルミンとミカサ。アイツらは幼馴染だから、表情や仕草、そんな表面的なものじゃなくても、お互いがどのような考え方をするかは分かる……かもしれない」
アニ「けど、それも今までの経験から憶測した、傾向でしかない。その傾向に現状を当てはめて考えているだけ」
アニ「アンタとクリスタの過去は知らない。けど、アンタはクリスタの傾向を知ることが出来るほど、クリスタを知っているの?」
ユミル「……」
アニ「私は、今アンタが何を考えているのか分からない。『余計な茶々入れやがって』と、怒り狂っているのかもしれない」
アニ「それとも、『コイツの言うことにも一理あるな』とでも、冷静になっているのかもしれない」
アニ「とにかく、私がアンタの考えていることが分からないように、アンタも私の考えていることが分からないはずだ」
アニ「だから、アルミンはクリスタに訊こうとしているんだ」
アニ「アンタとその他との間に、どれだけクリスタのことを知っているかっていう格差があっても、それは関係ない」
アニ「大切なのは、『クリスタが何を言ったのか』、それだけだと思う」
アニ「私がそう思うってだけの話で、クリスタにとって大切なのは、何を言わずとも心配してくれる仲間なのかもしれない。だから、アンタが間違ってるとは言えない。私が正しいともいえない」
ユミル「……分かったよ。んで、参謀様と女王様は私に何をしてほしいんだ? 部屋の隅で膝抱えてろって言われても、今なら従えるぞ」
アニ「そのままユミルのお料理教室をやってほしい」
ユミル「はぁ!? 今の今まで何話してた? それが間違ってるって言ったんじゃないのかよ?」
アニ「違う」
アニ「私は、クリスタはそのままでいいと思っている。けれど、それを選択するのはクリスタだから、その選択肢を奪うようなことはしない」
アニ「アルミンは、クリスタが何に苦しんでいるのか知らないまま行動を起こすことは良くない……と思っていると思う。結局他人の考えだから分からないけど」
アニ「エレンは……クリスタが迷うことが良くないことであって、クリスタがどうあるかは今のままでいいと思ってる。けど、クリスタの悩みをどう解決するかは分からない」
アニ「だから、誰もアンタのやることが間違ってるとは言ってない。どうやるか、それだけ」
アニ「誰も正解なんて持ってない……クリスタ自身ですらね」
ユミル「……慰めは要らねぇよ」
アニ「慰めてなんかない。思ってることがあるのに行動しない私が一番間違ってる。慰めてほしいのは私の方だよ」
ユミル「ハッ……そうかい。じゃあアンタの王子様とその辺りで乳繰り合ってな」
アニ「さっきから言ってるけど、エレンは――」
ユミル「私は、さっきから一言も、『エレン』なんて言ってねーんだよ」
―――宿舎付近―――
クリスタ「アルミン、どうしたの?」
アルミン「クリスタ、まずは一言」
アルミン「ごめんなさい」
あれ?なんで名前欄消えたんだろう
クリスタ「えっ!? アルミンに謝ってもらうような覚えないけど……」
アルミン「君からしてみればそうかもしれないけど、僕からしてみたら随分と悪いことしてるんだよ」
クリスタ「そう……じゃあ、許してあげます」
アルミン「うん、ありがとう」
アルミン「来週『ユミルのお料理教室』があることは知ってるかな?」
クリスタ「うん。多分、そこでアルミン達が何かしてくれるんでしょう? ……私のために」
アルミン「やっぱり、気付いてたんだね」
クリスタ「だって、あれだけの女子が男子寮に行ってたり、女子寮に男子が来てたら、何かあるって思うもの。それに、私のことちらちら見てたし」
クリスタ「女子って、あなたたちが思ってるよりもずっと、視線に敏感なの」
アルミン「……どっちにしたって、変わらなかったってことか」
クリスタ「じゃあ、アルミンはそのサプライズの説明に来たってところ……かな?」
アルミン「そういうことになるね。端的に言って、ユミル達……いや、僕たちは、君に馬肉を食べてもらおうとしていたんだ」
クリスタ「ッ!」
アルミン「とても……残酷なやり方だと思う」
アルミン「馬の事で悩んでいるなら、馬を食べてしまえばいい、そういう発想だったんだよ」
アルミン「生きとし生けるものすべてが、他の命を食べている。なのに、馬にだけ情をかけるのはおかしい。これから兵士として生きるのに、馬一頭如きに神経を注いではいられない……大体がそんな意見だったね」
アルミン「だから、みんなはそんな残酷な方法を選んだ。君を騙して、受け入れさせる、そんなやり方を」
アルミン「僕も……いや、僕は、流されるままにそんな残酷なことを行った。言われたままにやっただけ、クリスタのためになる、そう自分をも騙していた。一番残酷なのは、他人のせいにして自らの汚れた手を見つめなかった僕なんだよ」
アルミン「だから……ごめんなさい」
クリスタ「ごめんなさい。私こそ、私の事情でみんなを振り回して、あなたを傷つけてた」
クリスタ「やっぱり、さっきのは撤回するね。あなたは許せない」
クリスタ「あなたを許すのは、私じゃない。私は、やり方がどんなものであっても、私を大切に思ってくれたことを感謝してる。だから、アルミン。あなたが、あなたを許してあげて」
クリスタ「……私がね、ここ最近落ち込んでいたのは、馬のことじゃない……ううん、馬の事は半分くらいなの」
クリスタ「馬の事は……もちろん悲しい。今まで一緒に頑張ってきた。今まで多くの兵士を育ててきた。」
クリスタ「それを間近見てきたのは、教官のはず。でも、現実にはあっさりと、馬を『処分』した」
クリスタ「命があんなに簡単に、淡泊に消えていく」
クリスタ「まだあの馬には、やれることがあったはず。その命に……まだ可能性はあったはず」
クリスタ「私は、誰かに褒めてほしいわけでもない、幸せな死に方がしたいわけでもない」
クリスタ「けれど、まだ役目を果たせていないのに死ぬことは……価値がないじゃない」
クリスタ「飛躍するけれど……他の命を食べて生きている、なら、馬の命も、人の命も等しく価値がない。そう言われてるようで……」
クリスタ「命は簡単に死ぬ。なら、どう生きるかが大切なことなんじゃないのかな」
クリスタ「だとしたら……その生き方を、他者に強制される生き方は、やっぱり生きてないんじゃないかな」
クリスタ「巨人がいなければ、人間はもっと自由になれる。貴族制が無ければ、民はもっと自由になれる。王政が無ければ……」
アルミン「クリスタ! それ以上は!」
クリスタ「あなたもそうでしょう? あなたのご両親は……もし、内地なんて考え方が無ければ、人の命が全て平等であれば、死ななかったかもしれない」
クリスタ「憲兵団がまともに機能していれば、横流しもなくなって、備蓄食料は難民にも行き渡ったはず。貴族や商会が既得権益なんて物を手放せば、生産も流通も改良されて、備蓄が底をつくころには、ローゼ内でも十分な食料生産が出来たはず」
クリスタ「でも、現実は違った。マリアの人々の大半は、口減らしのために命を散らした……憲兵団も、商会も、貴族も王政も、同じ人間でしょう? ただ、立っているところが違うだけ……なのに、なぜその人達のために死ななくてはならないの?」
クリスタ「私ですらそう考えられるのに、聡明なあなたが、そのおかしさに気付かないわけないじゃない」
クリスタ「あの馬はもっと活躍できた。もっと生きることが出来た。もっと……もっと、生きていたかったんじゃないかな」
クリスタ「なのに、私はあの馬を見殺しに……ううん、あの馬を殺した。苛立ちながら、悲しみながら、それでも、自分が生きるために他の命を殺めた!」
クリスタ「私は、私がなりたくないものになってしまった!」
クリスタ「それが、嫌だったの。そんな、誰もどうすることもできないことに、苛立って、悲しんで、周りを振り回して……」
クリスタ「いったい、私は何をしてるんだろう」
―――訓練場 井戸―――
ユミル「……クソッ」ガンッ
ベルトルト「足が壊れるよ」
ユミル「よぉベルトルさん。随分いいタイミングで出てくるじゃねーかあの氷の女王様からフォローしろとでも言われたのかだったら残念だったなどんな気休めも受け入れられる気がしねーぞつーか帰れよ」
ベルトルト「……随分久しぶりに聞いたね。『ベルトルさん』って」
ユミル「いいから……帰れよ。おホモだちのライナーとさっさと寝ろよ。どっちの意味でも構わねーからよ」
ベルトルト「まず一つ。君の居場所はアニから聞いたけど、それだけだ。特に何も言われてない。自分の意思で、ここに来た。次に、僕は同性愛者じゃない」
ベルトルト「そうだとしたら、君のこんな様を見て、君に罵倒されて、僕が帰らないということはあり得ない」
ベルトルト「君が悲しんでいることへの悲しみも、君にどんな言葉を掛ければいいか分からないもどかしさも、君をこんなに追い詰めてしまった自分への怒りも、持ち合わせているはずがないんだ」
ユミル「……帰れよ」
ベルトルト「嫌だ」
ユミル「…帰れよ」
ベルトルト「嫌だ」
ユミル「帰れ!」
ベルトルト「嫌だ!」
ユミル「ハァ……ハァ……」グスッ
ベルトルト「ユミル……」
ユミル「こっち来るな! こっち見んな!」
ユミル「いつにも増してブサイクなツラ……見られたくねーんだよ」ヒグッ
ベルトルト「そう? 僕は何とも思わないよ」
ユミル「ベルトルさんってさ……そっちの気があるのか?」
ベルトルト「だから、同性愛者じゃないって言ってるじゃないか」
ユミル「違う! とんだ変態サディストだなって言ってんだよ!」
ベルトルト「……まぁ、痛みを悦べる人間ではないと思うよ」
ユミル「クッソ変態野郎……」
ベルトルト「さて、そのサディストの変態さんは、どうしてこんなに罵倒されてまでここにいるんだと思う?」
ユミル「私の泣き顔見て喜んでるんだろクソが……」
ベルトルト「本当のサディストはね、自分でぶっ叩いてヒーヒー言わせないと喜ばないんだって。勝手に啼いてる雌豚をひっぱたいたって、何も面白くないじゃない。ちょっと生意気な子を煽てて、最高に調子に乗ったところでドン底に突き落とすのが楽しいんじゃないか」フフッ
ユミル「ヒッ」
ベルトルト「さて、冗談はともかくとしてもね、僕が君に付き合ってるのは」
ベルトルト「君が好きだからだ。多分」
ユミル「……あぁ!? 多分って何だよ!?」
ベルトルト「うん……まぁ、僕にはやらなくちゃならないことがある。だから、この気持ちをはっきりさせてしまうと、とても面倒なことになる。だから、多分ってことで」
ユミル「随分……軽いんだな。女癖が悪いとか、か?」
ベルトルト「まさか。男子だって上手く話せない時があるんだよ。ましてや、女の子を転がすような振る舞いが出来ると思う?」
ユミル「だったら……やっぱりホ――ベルトルト「違うよ」
ベルトルト「僕は、君を好きだと言ったんだ。多分って付いてたけどね。だから、その気持ちを、本人から馬鹿にされたくないよ」
ユミル「身勝手な理屈だが……悪かったよ」
ベルトルト「さて、大分持ち直したかな?」
ユミル「おいまさか……さっきのは、嘘か?」
ベルトルト「三つ目。僕は変態のサディストでもない。好きな子に意地悪をしたくなったりは、するかもしれないけどね。ま、顔を見られるのが嫌なら、顔洗えば?」
ユミル「こっち見てもいいぞ」
ベルトルト「顔、赤いよ」
ユミル「やっぱ見んな」
ベルトルト「月明かりで、顔色なんて分かるわけないじゃない」フフッ
ユミル「……クソが」バシッ
ユミル「私は……本気だったんだ。本気で、何の迷いもなく、これがクリスタのためになると思ってた」
ベルトルト「うん」
ユミル「ベルトルト、アンタはわかってたんじゃないの? 私が勝手に盛り上がってるだけだって」
ベルトルト「うん……いや、どっちだろう」
ユミル「なんとも曖昧だな……」
ベルトルト「僕がどうだったかなんて、関係ないだろ。君がどう思って、どう行動したか、だろ」
ユミル「いや、やっぱ気になるね。教えろよ」
ベルトルト「うーん、僕はね、あまり人と近づかない様にしてる。それはわかるよね」
ユミル「ああ、あのゴリラ以外には、自分から話しかけたりしてねーよな」
ベルトルト「だからこそ、周りがどうしても見えてくる。君のクリスタを助けたいって必死な想いや、アルミンの無責任な有能っぷりや、アニの身勝手な考えや、エレンの理不尽な優しさとか」
ベルトルト「だから、その中で唯一クリスタへの想いと行動が一致している君は、盛り上がっていたかもしれないけど、もっとも『勝手』からは遠いところにいたと思う。ジャンは別としてね」
ベルトルト「彼は……自分に素直だから、自分の思う最良の結果の為に行動していた。クリスタの問題はクリスタの事だから、積極的には解決しようとしなかった。けど、アルミンが整えたプランだから、それを信頼して行動した」
ベルトルト「まぁ、彼は置いといて、クリスタの為にって思って行動していたのは、君が一番だった。そう思うよ」
ベルトルト「だから、君が何を思って、どう行動したのか、僕は君の言葉で聞きたい」
ユミル「そうだな……クリスタは、自分がどうあるかっていうことに、すごく敏感なやつなんだよ……いや、だと思って行動してた。いいか、私が他人のことを話すときは、全部憶測だ。そう思って聞けよ?」
ベルトルト「うん。続けて?」
ユミル「だから、クリスタが馬の事で凹んだ時、アイツは『馬の事で凹んでいる自分はダメなんだ』って思った……と、思った」
ユミル「あぁ、わけ分からねーってツラしてんな。クリスタがそう思っただろうと私がそう思っていたって話だ」
ユミル「で、だ。クリスタは、自分が変わることに対しては、割と意欲的だ。自分がそうあることを強要されるのは嫌いだな」
ベルトルト「それって、誰でもそうじゃない?」
ユミル「まぁ、その他大勢と比べて特に強いって話だ。ああ、女王様もそんな感じがするな」
ベルトルト「……そう。ユミル、君の話を続けようよ」
ユミル「そうだな……クリスタは、今の自分を変えようとしている。そう思ったわけだ。そうじゃねーと苦しむことはねーだろうからな。だから、クリスタが変われるように、変わろうとしている方向に変える助けを作ろうとしたわけだ」
ユミル「さて、そこで悩むわけだ。私がクリスタの親友……いや、特に仲の良い友人だってのは、自称するとこでもあり、他称されるところだ。ところがそんな友人様には、アイデアが毛頭浮かばなかったわけだ」
ユミル「だからさ、サシャと話していた時にアイデアとも言えないものが出来上がって、アルミンがそれを整えた時、私の無力感はどこかに行ってたわけだ」
ベルトルト「ああ、やっぱりサシャだったんだね。けど、言う程悪くないんじゃない?」
ユミル「……いや、この案はな、クリスタが馬の死を受け入れられない、かつ、馬を食べれば馬の死を受け止められるという前提に成り立ってるんだよ」
ユミル「だから、この前提が崩れてる……いや、その前提が成り立つかどうか分からない今となっては、この案は全て無意味じゃねーか」
ユミル「で、そのことに気付かなかった自分にも、結局自分では解決できない自分にも、腹が立ったってわけさ」
ユミル「クリスタが何に悩んでいるのか、問われたら答えることが出来なかった」
ユミル「私の考えがあっていたか、そうでないかなんてどうでもいい。クリスタの親友を気取っていながら、クリスタに向き合わなかった」
ユミル「そんな、親友気取りが、親友どころか他人そのものじゃねーか、そんなことを実感したわけだ。すると、どこかに行ってた無力感が、一気に私のど真ん中に帰ってきたんだよ」
ユミル「いったい、私は何をしてるんだろうな」
そういうわけで、書き溜めが付きましたので今晩はここまでです。就活ふぁっきんです。
見ていた方いらっしゃるかどうかわかりませんが、お付き合いありがとうございました。次回は水~木あたりを予定中です。
むずかしすぎてよくわからん
>>145
私が文章力ないばかりに済みません
お久しぶりです
やっと書けましたので、投下します
―――訓練場―――
アニ「ユミルには……ひどいことをしたと思う」
エレン「ああ。アルミンはともかく、結局俺らは何もしてない。何もしてないのに、ユミルの事をどうこう言うのは、卑怯なことだろうな」
アニ「『家畜と同じ』……だっけ? アルミンも言ってくれるよ」
アニ「でも、私がユミルに言ったことは、もっと酷いことだと思う」
アニ「アイツのクリスタへの真摯な想い、それに基づく行いにも、泥を塗ってしまった」
アニ「私の考えが間違っているとも思わないけれど、ユミルの考えも間違ってはいないと思う。それでユミルに文句があるなら、私も何か行動しなければいけなかった」
アニ「与えられた餌が不味いと喚く、図々しい猫みたいなものだね」
エレン「猫か。似合ってるぞ」
アニ「からかうんじゃないよ」
エレン「褒めたつもりだけどな。猫かわいいし」
アニ「こんな時に褒められても嬉しくないよ」
エレン「……なぁ、アニ。アルミンの言ったことだけど、あんまり重く受け止めない方がいいぞ」
アニ「? アンタがアイツと違うことを言うなんて、珍しいね」
エレン「いや、いつも思ってる。言わないだけで」
アニ「そう。それで?」
エレン「上手く言えないけど、餌を与えることが出来るのは、それが強者だからだと思う」
アニ「……良く分からないね」
エレン「巨人から見れば、今の人類は家畜そのものだ。壁でできた生簀の中で、他の魚と餌を取り合ってる、みじめな生き物だ」
エレン「そして、あの日が収穫日だった」
エレン「母さんは、そこで食べられた。俺とミカサは、母さんを見殺しにした」
エレン「母さんが、何を思っていたのかは分からない。けど、母さんが死にたくないと思っても、巨人に憎悪を向けていても、それでも、食い殺されたんだよ」
エレン「俺は巨人を許せない。一匹残らず駆逐してやる」
アニ「……もう、やめて」
エレン「家畜として食われた母さんも、家畜として生きてる俺も、巨人に抗う手段なんて持ってない。それでも、この『生きようとする意思』は、誰にも汚されることのない、人としての最後の一線……だと思う」
きたー
エレン「嫌な話聞かせて悪かったな。けどさ、アニも俺も、考えることはしてたんだ。アルミンに比べて、考えが劣っていたとしても、その考えが間違っているとは言い切れないだろ?」
エレン「俺はいつも、アルミンに言い負かされてきた。結果的にアルミンの言うことが正しかった、そう思うことが大半だ。けど、その時俺が考えていたことは、やっぱり大切なものだ。考えることを放棄して、それに流される奴が家畜だ」
エレン「だから、アルミンの言う様な、代案を出せないのに不満を言う奴が家畜だとは、言えないと思う」
>>169
どうもお待たせしました。ありがとうございます
エレン「アルミンの言っているのは、強者の理屈だ。誰もがアイツみたいに頭良くないし、誰もがユミルみたいにクリスタの事を強く思っているわけじゃない」
エレン「誰もが、思っていることを行動に移せるわけじゃない」
エレン「それでも、考えている限りは、みんな人間だと……そう思う」
アニ「……アンタなりの慰めなんだろうけど、さっきのたとえ話、必要だった?」
エレン「あー……ごめん。やっぱり嫌な気持ちにさせただけだったな」
アニ「いいよ。アンタの事知れたし。それに……昨日は悪かったね。『巨人が人間を食べることと、人間が家畜を食べること、そのどちらも、正しい』なんて、本当に酷いことを言った……ごめんなさい」
エレン「いや……考えている限りは人間なら、人を食べるのが巨人なんだ。狼だって、熊だって、人を食べる。ただ俺の母さんが巨人に食われた。巨人を憎むのは、そんな自己中心的な理由だけなんだよ」
エレン「俺たちがユミルにしたことは、卑怯だと思う。けど、だからと言って、俺らが考えていたことは間違ってはいないし、クリスタじゃない人だったら、正解なのかもしれない」
エレン「俺もお前も、広く考えすぎてた。俺は兵士としての在り方を考えて、アニは自分としての在り方を考えていた」
アニ「そう……なのかな」
エレン「おう。けど、ユミルだって、悩みに悩んで出した行動だったんだから、今度謝らなきゃな」
アニ「アンタさ、案外バカじゃなかったんだね。アンタはすぐにキレなければ、ジャンとのばか騒ぎも減るんじゃないの?」
エレン「それは無理だろ。アイツが突っかかってくるんだから」
アニ「馬鹿じゃなくても、ガキだったってことか……」
エレン「んなこと、分かってるって。ガキだから、クリスタの事が分からないんだろ」
エレン「な、アニ。俺らは間違っちゃいないんだ。やるべきことをやらなかったってだけで。だから、ユミルに胸張って謝りに行こうぜ」
アニ「……そうだね。それに、どんなやり方をしても、どんな変わり方をするのか、そもそも変わるのか、選ぶのはクリスタ自身」
―――宿舎付近―――
アルミン「まず、僕は君が馬についてどう思っていようと、知ったことではないんだ。僕にとって問題なのは、君が暗い顔をしていることだけだ」
アルミン「君がどういうことを考えようと、考えることだけなら自由だ。僕や、ユミルや、この件に関わった全ての人たちが、それぞれに思うことがあったのと同じようにね」
クリスタ「……そう? だったら、私が馬の事を悼もうと、みんな放っておいてくれれば良かったのに」
アルミン「いや、馬の事で悲しむことを咎める人は、少なくともいなかった。それをからかう人はいてもね」
アルミン「でも……ユミルの行いは間違っていた。一つは君が馬の処分によって悩んでいると思い込んでいたこと。もう一つは馬の事で悩むことは、兵士としては悪いことだと考えていたこと」
アルミン「でも、ユミルは方法を間違えただけで、考えていたことは間違ってない……いや、誰も間違えてないんだと思う。みんなが考えていたことは、『君の悩みを解決したい』という、至極単純なたったそれだけのことなんだ」
アルミン「あ、もちろん正しいか間違ってるか、それを決めるのは僕じゃない。誰でもないと思うけど」
クリスタ「アルミンなのに、言ってることが滅茶苦茶だね。珍しい」クスッ
アルミン「そんな寂しい顔で笑わないでよ」
アルミン「……人間の感情って難しいね。座学みたいに、正解と不正解が決まりきっていればいいんだけど」
アルミン「誰かを大切に思っているのに、その思いが正しく行えるか、そんなことは誰にも分からない。後になったらわかるのかもしれないけど、正しく動きたいのは今の僕らなんだ」
アルミン「だから、教えて欲しい。君にとって、『ユミルのお料理教室』は間違っていないのか」
クリスタ「答えになってないけど……嬉しいよ? でも、馬が死んで悲しむことを克服させるために、馬肉を食べさせるなんて、やっぱり残酷だと思う」
クリスタ「さっきからアルミンが言っていることは、心さえあれば、何したっていい。そういうことになるんじゃない?」
クリスタ「それじゃあ、大多数のために一部の人を殺した、マリア奪還作戦だって正しいことになるじゃない」
アルミン「……ごめん」
クリスタ「意地悪なこと言っちゃったね。ユミル……ううん、みんなのしようとしていることは、間違ってないと思う」
クリスタ「だって、私のために何かをしてくれて、私がそれを喜んでいる。なら、それは私にとっては間違いじゃない」
クリスタ「だから、そんなに気にすることはないんだよ。私がそれを受け入れることを望まれているなら、私はそれを受け入れられる」
アルミン「……」ゾクッ
アルミン「……どんな言葉も君が選びとるもの以外は、届かないと思う」
アルミン「だから、届かないものだと思って言うよ。君が君を嫌おうと、僕は……僕らは君のことが大好きだ」
アルミン「君に振り回されるのは、君が好きだからだ。僕は、エレンとミカサによく振り回されたけど、それは僕が彼らを好きだからだ。好きじゃなかったら、騒がしい他人としか思えないよ」
アルミン「だから、君の考える、君の役目だとか、価値だとか、そんなものはどうでもいい。僕にとって、君が大切な人であることは、変わらないんだから」
クリスタ「……『僕』?」
アルミン「あっ! ち、違う……僕ももちろんそうだけど、僕ら104期生みんなってことで」
クリスタ「そう……ありがとう」クスッ
クリスタ「でも、やっぱり私は私の事が嫌いなまま」
アルミン「クリスタ……」
クリスタ「ちょっと、後ろを向いて座ってくれる?」
アルミン「え? う、うん……」クルッ
アルミン(!?)
クリスタ「やっぱり、男の子だね。背中、固いね」
アルミン(背中合わせで座ってるのか……小柄とわかってたけど、思った以上に軽いな)
クリスタ「あー、やんなっちゃうなぁ……」
クリスタ「私は誰かに必要とされる人になりたい……そう思って、そう変わろうとしてここに来たのに……今はみんなを振り回して、アルミンにもすごい意地悪を言っちゃってる」
クリスタ「みんなが心配してくれるのは嬉しいのに、それを嬉しく思ったら、誰かに迷惑をかける自分が好きってことになる」
クリスタ「私は、何になりたいんだろうね……」
クリスタ「変わる必要はあったけど、変わった姿は自分で選んだはず。なのに、私は今もわがままで、周りを振り回してる」
クリスタ「嘘で自分を塗り固めても、嘘の自分ですらいい人にはなれない。結局、どんな私であっても、私はとってもわがままなんだなって、そう思ったら、私は私の事がとても嫌い」
アルミン「君は、僕たちの事は嫌いなの?」
クリスタ「そんなことない!」
アルミン「だったらさ、僕らが好きな君を、好きになってあげてよ」
アルミン「それが嘘の君なのかもしれないし、偽り切れなかった君のことなのかもしれない。けど、どんな君でも、君が好かれてるっていうのは、紛れもない事実なんだから」
アルミン「君はそう変わろうとして、今の君になった。そこには、君の意思がある。だったら、君のその意思を作った本当の自分も、君の意思によって作られた、偽りの君も、僕らにとって大好きなクリスタ・レンズなんだよ」
アルミン「それじゃ、ダメかな」
クリスタ「……やっぱり、ダメ。今ここで、私を受け入れたら、私はもう変われない。私は嫌いな私をまとったまま」
クリスタ「だけどね。みんなに大切にされる私も、大事にしなくちゃいけないって思えてきたの。だから、悩みはいったん置いておいて、ユミルのお料理教室を楽しみに待ってるね。悩みながら調理しても、美味しい料理は作れないよね」
クリスタ「それに、ユミルがせっかく企画してくれたのに悪いもの」
アルミン「わかった。ユミルにも伝えておくよ」
クリスタ「あ……なら、ユミルにありがとうって伝えてくれるかな? 私の事を大切にしてくれてありがとうって」
アルミン「そうだね。僕ら同期の中で、君の事をもっとも大切に考えているのは、ユミルだと思う。彼女はやり方を間違えただけなんだ。想いの強さは、僕なんかと比べ物にならないよ」
クリスタ「ううん。アルミンもありがとう。聞いてもらって、ちょっとすっきりした」
アルミン「僕は……ただ、ユミルに便乗しただけだから。その分の気持ちを、ユミルにあげてよ」
クリスタ「誰がどう思おうと自由なんでしょ? 私が勝手にそう思ってるだけだよ」
―――訓練場 井戸―――
ベルトルト「何してたってさ、料理しようとしてたんでしょ?」
ユミル「……そういうことじゃねーよ」
ベルトルト「そういうことだよ。何を考えていたって、考えるだけで何かをどうこうできるなら、人類はとっくに壁の外で暮らしてるし、僕は故郷に帰ってる」
ベルトルト「だから、行動した人がもっとも偉いんじゃないかな」
ユミル「その行動が間違ってたって、凹んでるんだろうが。クリスタのため……なんてぶち上げといて、クリスタに向き合わなかったことがよ」
ベルトルト「だとしても、クリスタのためにと思って行動したのは君だけだろう? 欠けていたとして、行動したのは君だけだ」
ユミル「その理屈だと、クリスタのためにならなかったとしても、私が正しいってのか?」
ベルトルト「正しいとは思わないよ。ただ、行動できる勇気と、行動しようとした決意は誰にも汚すことはできないし、正しかったとして行動しない人よりもずっと尊い」
ベルトルト「だからね……ちょっとエレンもアニも卑怯だと思うよ。ユミルのやることが間違ってるって思うなら、そこで声をよげればよかったんだ。動き始めてから、自分で何も行動せずにあれこれ言ったって、結局クリスタのためにはならないじゃないか」
ユミル「やめろよ。あいつらを貶めたって、私のやったことがどうにかなるわけじゃねーんだから」
ベルトルト「絶対的に正しいかどうかなんて、誰にも分からない。だったら、相対的に計るしかないじゃない」
ユミル「だから、競争じゃねーんだよ! クリスタのためになるかどうか、そこだけが問題だろうが」
ベルトルト「……ごめん」
ユミル「あ……いや。悪かったよ」
ベルトルト「こういう時……なんて言えばいいのか分からないけど、とにかく、君のやったこと、やろうとしていることは間違ってない。少なくとも僕はそう思うし、君や他の人が間違っていると思ったとしても、僕は君の行いを尊敬する」
ベルトルト「それが、自分の意見を持たない僕の、数少ない自己主張だ」
ユミル「……ありがとよ」
ベルトルト「そうやって、自分の意思で考えて、それに基づいて行動する……そういう君のことを、僕は気になってるんだと思うよ」
ユミル「なんだよ藪から棒に」
ベルトルト「ライナーの腰巾着……なんて、陰で言われてることは分かってる。僕には主体的な意思はあまりないんだ。だから、君のそういうところは、とても尊敬してる」
ベルトルト「自分の意思を持たず行動することは、とても楽なことだと思う。木の葉の様に流れに身を任せるだけで、行いの責任は流れに負わせる」
ベルトルト「でも、ユミル。君はそうじゃない。流れに抗って、自分のやりたい様に生きる魚みたいだ」
ベルトルト「自分で責任を取らなければならない、勇気ある生き方だと思う」
ユミル「……買い被りすぎだろ。私は私のやりたい様にやってるだけだ。勇気なんてそんなものじゃない」
ベルトルト「だったら、僕も僕が思うように、ユミルを見てるってだけさ」
ベルトルト「さ、ユミル。そろそろ日が変わる。早く寝ようよ」
ユミル「あ、ああ……」
ベルトルト「クリスタの事は、謝っておけばいいじゃない。だって、友達なんだろ? たとえ間違ってても、やり直せる。そういうものじゃないか」
ユミル「そう、だな」
ベルトルト「じゃあ、おやすみ」
ユミル「……ベルトルト」
ベルトルト「何?」
ユミル「私も、アンタが気になってる……それだけだ。おやすみ」
―
――
―――特別休暇 調理室―――
ユミル「基本的に、ナイフの扱いも剣と同じだ。ただ直上から押すんじゃなくて、押しつつ奥に滑らせる」
エレン「こう、か?」
ミカサ「エレン、力を入れ過ぎ。食材によって力の加減を考えて」
サシャ「お肉は慣れてますが、野菜はまだまだ勉強することがありますね!」
ジャン「芋女! 野菜丸かじりしてんじゃねーよ!」
サシャ「美味しい野菜は、生でも食べられるらしいんですよ。ジャンも食べます? はい、人参」
マルコ「うわっ! アルミン、そのままだと指落としちゃうよ!」
アルミン「ほんとだ……ありがと。不器用なのもそうなんだけど、どうしても猫の手って出来ないなぁ」
ライナー「手が小さいから転がっちまうのかもな」
ベルトルト「親指と刃が並行になればそれでいいんじゃないかな」
ミーナ「アニ、代わろうか?」
アニ「いい……」グスグス
ミーナ(玉ねぎのみじん切りって、そんなに辛いんだ……)
ユミル「一通り説明は終えたから、あとはレシピ通りやってみろ。分からないところがあったらその都度言いな」
エレン「結構雑だな」
ユミル「うるせーな。結局自分の体で覚えるしかねーんだよ。基礎を覚えたら後は自分の感覚次第だ」
クリスタ「ユミル、お疲れ様」
ユミル「……本当に良かったのかよ」
クリスタ「なんとも思ってない……と言えば、嘘になっちゃうかな」
クリスタ「でも、見て? みんな楽しそうにしてる。私は、私の事でみんなに心配かけちゃった。けど、それを後悔して凹んだら、またあの人たちは心配してくれる。だから、精一杯……ううん、本心から『ユミルのお料理教室』を楽しもうと思ったの」
クリスタ「だからね、ユミル。本当にありがとう。今、とっても楽しいし、嬉しいよ」
ユミル「……私は、何もしてねえ。私を含めて、みんなでやったことだ。だから、気にすんな」
ユミル「あと……悪かった。最初からお前と話していたら、きっと、もっといい方法があったと思う。けどな、私の奇妙なプライドと臆病さがそれをさせなかった。お前の王子様に言われるまで、全く気付かなかった……」
ユミル「それでも、お前は許してくれるんだろ?」
クリスタ「もちろん。だって私たちは、友達、でしょう?」
ユミル「……やっぱ恥ずかしいな」ポリポリ
エレン「なんとかなったみたいだな」
アルミン「そうだね。僕らが引っ掻き回しておいて言うのもなんだけど、よかった」
ミカサ「何の話……?」
エレン「何でもねーよ。そんな気軽にペラペラ喋るような、面白い話じゃねーよ」
ミカサ「そう……そういうことなら聞かないでおこう」
エレン「アニもホッとしてるみてーだな。泣くほど安心してるぞ」
ミカサ「事情が変わった。あの女狐も絡んでいるなら、話してほしい」
エレン「ヤダって言ってんだろ」
ミカサ「嫌だとは言っていない」
エレン「揚げ足とるなよ!」
アルミン「み、ミカサ! 今は調理中だから、落ち着いたら今度話すから!」
―――
ユミル「えー……あー……その、何だ。お疲れ様でした」
ユミル「とりあえず、芋女が食い尽くす前に、一応料理の説明をしておく」
サシャ「そこまで意地汚くありません!」
ユミル「まず、エレンの班は前菜を担当してもらった。『馬刺し』というらしい。豆に酵母を混ぜて作ったソースと、ホースラディッシュのペーストをつけて食べるんだと」
ユミル「……生肉だから抵抗があるだろうが、タルタルステーキの元だとでも思えばいい」
コニー「そんな食べ方もあるのか」
ハンナ「東洋の料理?」
ミカサ「そう。魚も獣も、生肉で食べることは一般的だった……らしい」
ユミル「ついでにサラダもある……といっても、これは大して凝ったもんじゃねー上に、エレンが切ったものだから不揃いだ」
エレン「悪かったな」
ユミル「だが、食材は食糧庫の中からミカサが選び抜いたものだから、まぁはずれはないな。ドレッシングはビネガーベースだが、苦手なやつは後で私に言え。適当に作ってやる」
ユミル「次、サシャの班。『アンディーブとロールキャベツのポトフ』だ。ポトフは具とスープを一緒に食べる地域もあるらしいが、今回は分けて食べるように。スープにはシュペッツレを入れてくれ」
ユミル「これに入ってる肉は前にサシャが捕った猪で、脂が多いからその分甘みが出る。塩は高くて買えねーから、トマトの酸味で我慢しろ」
ジャン「アイントプフみてーなもんか?」
マルコ「それにしては随分あっさりしてないか?」
サシャ「ま、食べてみて下さいよ」
ユミル「最後にアニの班。『チーズハンバーグステーキ』だ。こっちはポトフと違って馬肉を使ってる。そもそも老馬だから焼いたら固くてくえねーが、こいつはミンチにしてあるからそんなこともねぇ。いい判断だと思う」
ミーナ「良かったね! 褒められちゃったよ!」
アニ「そうだね」
アニ(ホントはエレンが食べたいって言ってたからだけど)
ユミル「それと、飲み物はミードを用意した」
エレン「ミード?」
アルミン「蜂蜜から作ったお酒だよ。蒸留してないから、度数は低いはずだよ」
エレン「なんか甘そうだな」
ユミル「実際甘いから、とりあえず初めの一杯にして、後は飯食い終わってからだな」
ワイワイガヤガヤ
クリスタ「はい、じゃあみんな行き渡ったかな」
ユミル「みてーだな。じゃあ、私も食べるとすっかな」
クリスタ「うん。あそこが空いてるよ」
ユミル「あぁ……忘れてた。もう一つ、やることがあったんだ。先、食べててくれ」
クリスタ「? ……うん。分かった」
―――
ユミル「おい芋女、別にいーんだぞ。先食ってろよ」
サシャ「そういうわけにもいきませんよ。あの馬術訓練以降、みんなギスギスしてましたけど、その責任の一端って、私にもありますよね。きっと、教官にもバレバレだったんだと思いますよ。その中心に、クリスタがいることも」
サシャ「でも、それをそのままにして、私たちで解決する様に時間をくれた。そんな気がするんです」
サシャ「何かをしてもらったら、何かを返さなくてはならない……時間を頂いたんですから、その時間で作った料理を、返さなくてはならないと思うんです」
ユミル「これ、私らで食べるものじゃなかったのかよ」
サシャ「あ、私たちの分もありますよ。もちろん、教官方に召し上がって頂く方が大きいですが」
ユミル「……芋女、入団式にその気遣いがあれば、お前は芋女なんて名誉あるニックネームをつけられずに済んだんだぞ?」
サシャ「それから学んだんですよ」
ユミル「そうかい……そろそろ出来頃か?」
サシャ「ええ、良さそうですね。じゃあ、こっちをみんなに持って行って下さい。私は教官室行ってきますね」
ユミル「あ、ちょっと待てよ……その……ありがとな」
サシャ「……違いますよ。私はただ、料理をしただけです。最初に言った通り、私は、クリスタが甘えているだけ、そう思っていました。だから、クリスタがああやって笑顔で料理をしていたのも、ユミルが頑張ったからです」
ユミル「そうだとしても、やっぱり言わせろ。感謝するのは、私の勝手だろ」
サシャ「そうですね。クリスタがどう思うか、それがクリスタの勝手であるように、ユミルも勝手にすればいいと思います」
ユミル「ああ。ありがとな」
サシャ「じゃあ、私からも」
サシャ「ユミル、ありがとう。お疲れ様です」
サシャ「では、今度こそ行ってきますね」
―――
クリスタ「アルミン、隣座るよ? みんなも、いい?」
アルミン「うん、どうぞ」
エレン「好きなとこ座ればいいじゃねーか」
ミカサ「エレンの隣でなければ構わない」
エレン「お? ユミルがまた新しいの作ったのか? お前らの分ももらってくるよ」スッ
ミカサ「私は水をもらって来よう。ミードはエレンにはまだ早い」スッ
エレン「なんだよ、子供扱いするんじゃねーよ!」
ミカサ「それに、ミードは味が濃い。せっかく自分で作った料理の味を濁したくはないでしょう?」
エレン「……分かったよ」
アルミン「本当に二人は騒がしいなぁ……」
クリスタ「本当にね」クスッ
アルミン「クリスタ、前菜から馬だけど、大丈夫?」
クリスタ「うん、せっかくアルミンが作ってくれたんだもの。頑張って食べるね」
アルミン「……頑張らなければならないなら、食べなくてもいいんだよ? あ、嫌味とかじゃなくてね」
クリスタ「言い方が悪かったかな。食べたことがないから、ちょっと怖いの」
アルミン「ああ、僕も食べたことないや。牛や鶏なら、老いたのを潰してたけど、馬はなかったなぁ」
クリスタ「潰す?」
アルミン「ああ、年を取ると、若い家畜より力が出なくなったり、卵を産まなくなるんだ。でも、飼料には限りがあるから、年老いた家畜は殺して食べてしまうんだ……あ、ごめん。食事時にする話じゃなかったね」
クリスタ「……人間の判断基準で生き死にを決められるなんて、可哀想……って、思っちゃダメかな?」
アルミン「命に貴賤は無い……はずなんだけどね。どうしても、この世は強いものと弱いものがいる」
クリスタ「人間の社会の中でもそう、だよね」
アルミン「飛躍したね……最初から話したかったことはそれなの?」
クリスタ「うん、ごめんね。まだ、やっぱり私の中で、今回の事を全部受け止めきれてるわけじゃないの」
アルミン「君の中の何がそこまで悩ませているのか、僕には分からないけど……」
アルミン「僕は一度、諦めたんだよ」
アルミン「この世の理不尽も、残酷さも、何もかもどうしようもないと思って、仕方なく受け入れた」
アルミン「でも、そうしたら、開き直れたというか……自分が何をすればいいのか、分かった気がしたんだ」
アルミン「君はこの前、全ての人が平等であればいいと言ったよね」
アルミン「……それでも、現在の大多数の人間は、少数の犠牲の上に幸福を築くしかないんだよ。家族が亡くなった時、王も、貴族も、神さえも恨んだよ。けど、抗うことは、今の自分にも、昔の自分にもできない……力がないから」
アルミン「だから今、僕は兵士としての努力を積んで、未来を迎えようとしてる」
アルミン「巨人は明日にも壁を蹴破るかもしれない。けど、その明日を乗り越えて、幸せな明後日を迎えるためには、今日を生きなきゃならない」
アルミン「だから、今目の前にあるご飯を、美味しく食べよう?」
クリスタ「そう……だね。うん、そうだよ。 アルミンの言う通りだね」
クリスタ「それに、思ったの。どんな生まれ方をしても、ご飯を美味しく思うことは、全ての人に等しく与えられた、幸せな感情なんだって」
アルミン「そうだね。それに、これはユミルに教えてもらって、みんなで一生懸命に作った料理だから、美味しいはずだよ。じゃあ、食べようか」
クリスタ「うん……突然手を合わせてどうしたの?」
アルミン「これは、ミカサに教わったんだけどね、東洋の食前の祈りなんだって」
クリスタ「食前の祈り……」
アルミン「そう、僕らみたいに、神じゃなくて、殺した命に対して、感謝を捧げるんだって」
クリスタ「じゃあ、あの馬は……無駄な死じゃなかったんだね。死んじゃっても、感謝されるんだね」
アルミン「そうだね。さ、クリスタ、手を合わせて。祈りの言葉は『いただきます』っていうんだって」
クリスタ「分かった。それじゃあ……」
アルミン・クリスタ「「いただきます」」
―――教官室―――
サシャ「あ、あのぉ……」
キース「どうしたブラウス」
サシャ「はい、頂いた馬肉で作りました、ローストホースです。宜しければ、教官の皆様で召し上がって頂きたく……」
キース「……」
サシャ(ヒイィ……)
キース「月桂樹と赤ワインに付け込んだか。あとは……ローズマリーか? 付け合わせはクレソンだな。良くできている。だが……商店街より通報があったな……訓練兵が酒を買っていったと」
キース「調理時に用いた残りは没収だ。子供は酒を楽しめない」
サシャ「……(既に飲んでますが……)」
キース「しかし……卒団時の宴会には返そう。貴様らの給金では手に入らない様な等級のものでな」
サシャ「!」
キース「用件はそれだけか、ブラウス」
サシャ「は、はい! 失礼しました!」タタッ
キース「……」ガサゴソ
キース「お前ら、今日は上等な肴がでるぞ! お前らも上等な酒を持ってこい!」
教官室「うおおぉ!」ガヤガヤ
キース(アルレルトは私の行動を訝しんでいたな……)
キース(レンズの精神面の補強など、副産物でしかない)
キース(他者の考えを聞く)
キース(言葉にしてしまえば僅かなものだが、そう簡単にできるものではない)
キース(お互いの考えをぶつけ合い、尊重し、より良い結果を求めること)
キース(それは、座学では得られない、兵士としてでもない、人間として生きるための心だ)
キース(イェーガーとキルシュタインも、そろそろお互いを認め合ってもらいたいものだが……)
キース(……美味いな)モグモグ
くう疲。お終いです。
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