店長「お前もう来なくていいから」 女「えっ…。」(261)

店長「うんキミね 明日からもう来なくていいよ」

女「な、なんでですか!!」

店長「え、だから何度も言ってるじゃん?お前みたいなどんくさいのいらないんだって」

店長「お前じゃなくても代わりはいくらでもいるから さあもう帰って帰って」

女「…」グズッ

店長「…」

店長「あ、男くん? 今日は良い働きっぷりだったねえ どう?今からどっか食いに行かない?」

男「チーッスw」

公園

男「あーウマかったぜ たまにはそとでってもいいねー」

女「…」グズグズ

男「よー女じゃーん なんだよー こんなとこでめそめそしてんなよー どったのー?」

女「…グズッ 店長さんがっ、もう来なくていいって…」

男「なんだよーそんなことかよーくよくよすんなよーおれだってはじめはしっぱいばかりだったぜーヘヘヘ」ヘラヘラ

男「ほらみろよー」スッ

女「えっ…?」

男「おほしさまーきれいだろー?しごとなんてこんなほしのかずほどいっぱいあるさーおちこまずにほかさがせよー」

女「…うん」

男「おっともーこんなじかんじゃーん おれかえらなきゃあー」

男「じゃーなー女ー まあいろいろがんばれよー♪」

女「…」

>>1
1ヶ月まって続きがなかったら乗っ取っていい?

>>4
自分でスレ立てた方がはやくね

>>4だけど、なんかもう落ちそうだから このままもらってく
一ヶ月まってられなかった >>1スマン

女の自宅

女(はぁ…男くんに、みっともないとこみられたなぁ…)グズグズ

女(男くんはいつも前向きで、明るくて・・・)

女「まあ、正直ちょっと…ばかっぽいけど」ボソ

女(ぁっ、いけない…思わず口にだしちゃった)クス

女(あ、あれ? あんなに落ち込んでたのに、笑っちゃったや)

女(…よし。男くんのいうとおり、お星様でもみて、元気だそう!)スクッ

テテテテテ… ギィ、バタン

近くの小学校

女「んー…いい、天気。天体観測にはちょうどいいかも♪」

女(いつも、根暗だとか、狙いすぎな趣味だって言われるけど・・・)

女(やっぱり、お星様ってきれいだし。いいなぁ、あの星まで飛んでいきたいなー)スッ

女「なんて。えへへ、届くわけ無いよねー」ブンブン

男「あれー? 女じゃねー? チャーッスww」

女「」ビクゥッ!


男「ちょービビりすぎっしょー。おれおれー、男だってー」

女「あ、お、男…くん。え、なんで、こんなとこに…」

男「えー? まぁおれー、飼育委員だしー」

女「えっ、小学生!?」

男「うけるわー じょうだんとかつうじないんだー」

女(か、顔はウケてるように見えないけど…でも、相変わらずニコニコしてるなぁ)ジー


男「あー、なんかおれのかおについてるー? 超みられてるわーww」

女「えっ! あ、ごめんなさい! そ、それで、男くんはどうしてここに・・・?」

男「うーん なんかー、ヒマだったし? はなびでもしよーかなーっておもってー」

女「は、花火? おこられちゃいますよ!」

男「えー? だからーおこられないようにヒロイとこさがしてここにきたんじゃーん」アハハー

女「………っ、ぷ」

男「んー?」


女「ぷは、あははははは」グス

男「いやいやーわけわかんないっしょー女ー。それ、ないてんのーわらってんのー」

女「ご、ごめんなさいっ あはは…」

男「べつにーあやまることじゃないけどさー。女はなにしにここにきたのー?」

女「あ、はいっ、天体観測です」

男「てんたいかんしょくー?」


女「天体・カンソク。星を見にきたんです… あ、そうだ…あの、さっきはありがとうございました」

男「さっきー? なんのことだろー。おれなんかしたっけー」

女「あの。お星様を見てみろって。星の数ほど仕事なんかあるって、慰めてもらって…」

男「え」

女「え?」

男「すげーwww テキトーにはげましたら、ほんとうに星とかみにきちゃうとかすげーw」


女(あっ…そ、そうだよね! 私、何を真に受けて…!)カァァ…

男「やー。すげーなーw 店長はなんでこんなおもしろいこクビにすんだろーねーw」

女「え…え?」

男「なーなー それなに? そのもってるでっかいチクワみたいなやつー」

女「ち、ちくわ!?」

男「あー、マンゲキョーとかってやつー?」

女「こ、これは天体望遠鏡の小さいものです…けど」


男「へええええええ おれーそういうのホンモノはじめてみたー」

女「お、お父さんが…昔、かってくれて…」

男「かりていー? おれも星みてみたいー」

女「え? え、ええ?」

男「なんだよー意外とけちんぼなんだなー女はー」

女「あ、いえ、その! お、お貸しします!」

男「まじー!やったー!ありがとー!」

女(??? ば、馬鹿にしてたんじゃなかったの? スゲーって、褒め言葉だったの?)


男「あれー これこわれてんじゃねー? まっくらでみえないよー」

女「そ、それは キャップがつけたままになってて…! は、はずしますね」カチャカチャ

男「おー! すげー、星ちょうみえるわー やばいこれwwww」

女「…そ、そっちの空の…三角にあるのが、夏の大三角形ですね」

男「あ、きいたことあるわーそれー 小学校の社会でやったやつだなー」

女「り、理科だとおもいますけど」

男「うわ、すげー! ちょーひかってるーきらきら星だよ、きらきら星」

女「……」

男「なあなあー ながれぼしってどこにあるのー あ、あっちかなー ねぇじゃんなー」

女「……」クス


女「くすくすくすくす」

女「男さん!」ニッコリ

男「んー ちょっとまってーもーちょっとでーきっとながれぼしが…」

女「私、流れ星みつけちゃったかもしれません!」

男「まじでー!? おれまだなんだけどー 願いとかかなえてもらいたいのいっぱいあんのにー」

女「ふふふ」

女(大好きな星みたいに、きらきら輝いて、どっかに勝手にながれてっちゃいそうな…)

女(そんな、私のスターを、みつけちゃいました!)

----------------------------

中断。途中でsageが外れてたのに気づかずageちゃった…orz
こんな感じでもらっていきたいんだが >>1ってまだいんのかな

つまんね

やっぱりかー。ずばっと言われると嬉しいもんだな
よし んじゃ 方向かえてやらせてくれ
ぶっちゃけスランプなんだ、いろいろやって試したい

帰り道

女「あー!なんか、すっごくいい気分だぁ!」

女「男くん、いい人だったなー…。ほんとにバカだったけど」クス

女「…」ウズウズ

女「…て、手の届く星とかあったら、やっぱりほしくなっちゃうよね」ウズウズ

女「…よしっ! 『男くんGET計画』を練ろうっ!」キランッ

女「そうと決まれば…やっぱり、まずは店長に復職依頼だよね!」

女「ふふふ。本気だした私のこと、もうトロいなんて言わせないんだから!」

女「えいっえいっおーーー!!」

民家「うるさい!」

女「ごっ、ごめんなさいっ」ビクゥッ!

翌日 店

店長「いや、こなくて良いっていったよね」

女「すみませんでした!悪いところを改めますので、どうかもう一度使ってください!」

店長「ぐずだしのろまだし、トロい店員とかいらないから」

女「それ、鈍いとしか言われてないです! しゃっきりしますから!」

店長「あ、気付くくらいは冴えてくれたんだ。でも人ってそう変わらないしね」

女「じゃあ、試用ってことで1週間無給でいいですから!」

店長「mjd?」

女「お願いしますっ!」ペコリ

ウィーーン

男「はよーござーっすw」

女「!!」ピク

店長「ああ男くん!待ってたよ、今日もよろしくねぇ!」

男「あれー女じゃんークビになったんじゃなかったー?」

女「男くん。あのね、私もっかい頑張りたくて…店長に頼みにきたんです」ニコッ

男「へーそうなんだーがんばれー」

店長「参ったよねぇ、まあ無給でいいなら1週間くらい置いてもいいけど」

女「本当ですかっ!!」

店長「でもまた廃棄や損失だされたらやだし…どうしたらいいと思う?男くん」

男「そんならー廃棄だしたらかいとりしてもらえばいいんじゃないっすかねー」

女(さ、さりげにひどいですねっ)

店長「なるほど!さすが男くんだね!まあそれならいいかな、どう、君。それでもやってみる?」

女「は、はいっ! やらせてくださいっ」

店長「モノズキだねぇ。これだから若い子は何考えてるかわからんって言われるんだよ」

女「あ、あはは…(男くんのそばにいるためなら、労力と多少のリスクくらい!とか言えないよね)」

男「よかったじゃん女ーじゃあおれーバックヤードから荷出しするからー、陳列たのむわー」

女「はいっ♪」

店内

女「ええと、ツナツナツナツナ、鮭鮭、梅梅梅…」テキパキ

男「つぎーサラダのラックこっちおくねー」ガラガラ

女「は、はいっ」

女「照り焼き、粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩… って!粗塩おおすぎですっ!」

女「店長さーん!」

店長「なに」

女「あの。おにぎりなんですけど、粗塩多すぎませんか?」

店長「2列に並べればいいじゃん。相変わらず鈍いな」

女「そうじゃなくてですね。発注量見直した方がいいんじゃないかと…」

店長「発注に文句あんの?」

女「はい」

店長「……」

男「サラダのうえにー麺類おいとくねーってー…なにしてんのー?」

女「あ、男くん…。あの、男くんはこの粗塩のおにぎり、多いと思いませんか?」

男「あーこれー、塩気つよくておいしーよねー」

店長「だよねっ!男くんいつも買って帰るお気に入りだしね!おいしいよね!」

女「う…」

店長「」ドヤァ

男「でもまあ半分でもいいよねーこれ売れ行きはあんまよくないしー」

女「」ドヤァ

店長「ぅ…」

男「ていうかさーもうあと15分くらいで客いりふえるしー」

男「発注とかのはなしより、はやくならべたほうがよくねー?」

女「あ、そうですねっ!! とりあえず今日は並べておきます!」

店長「ふん。売れれば問題ないんだし、せいぜい綺麗に陳列しろよ」

女「はーいー」テキパキ

男「んじゃーおれー 雑誌のほうやってくるねー」

女「はいっ!」ニッコリ

店長「おい。返事のトーン違いすぎるだろ」イラ

女「粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩粗塩…粗塩ばっかだなー」ボソ

店長「嫌味かよ!昨日と今日で別人かよお前!」

女「変わるからもう一度雇ってくださいってお願いしたので」ニッコリ

店長「……ちっ」クルッ…スタスタ

夕方

女「見事に粗塩売れ残ってますね」チラ

店長「……」グサ

女「やっぱり、発注量見直した方が…」

店長「うるさいな!わかったよ!」

男「きゅうけーあがりまーっす…って」

男「なんかーギスギスしたくうきなんですけどー?」
店長「ああ、男くん。いや、こいつが生意気ばっかり言うんだよ」

女「私は発注に従業員としての忌憚ない意見をいっただけですよ」

男「まだそのはなししてたんだー あーほんとだー、20個くらい粗塩のこってんじゃーん」

店長「……」

女「もったいないですね。朝には廃棄ですよあれ」

店長「お前なんか、前におにぎりラックそのまま落として30個くらい廃棄させただろ!」

女「」グサ

男「そーいやーきょうは女ー、廃棄や損失だしてなかったねー」

女「は、はいっ!頑張りましたから!」

男「きょーの廃棄は粗塩おにぎりだけかなー」

店長「ぅ…」

男「まあ、女はあたりまえのことをようやくあたりまえにしただけだけどねー」

女「ぅ…」

店長「…わかったよ。発注みなおしてくる」クルッ

男「なんでー? 売れればいいって、てんちょーゆってたじゃーん」

女「この時間から、20個はさすがに無理じゃないですかね…?」

店長「そうだな…。男くん、フォローは嬉しかったよ、ありがとうね」トボトボ

男「そんなのーやってみなきゃわかんないじゃんーみてみろよーそとー」

女「外?」

男「ほらーまだひとはいっぱいあるいてるだろー?20人がいっこづつかってくれたらおわりだよー」

店長「…でも、店内にはさっきからあんまり人は入ってこないし…」

男「んじゃー外でよーぜー」

女「えっ…出るって…」

男「ほらほらー 店長はこの台だしてー 女はおにぎりとってきてー」テキパキ

店先

男「塩気のきいたおにぎりいかがですかー ビールと 焼き魚パックいかがですかー」

店長「……」

男「いまならセットで20円引きー 500円丁度でーす」
女「……」

男「ほらほらー てんちょーも女もこえだしてー」

店長「夏祭りの時みたいだな」

女「フランクフルトも売りましょうか…」

男「お茶漬けのりと紙皿のバラ売りもしてますよー。一袋40円、一皿20円、おにぎりとセット割引で150円でーす」

店長「いつの間に。さすが男くんだ!」

会社員「…ビールと焼き魚と握り飯…うまそうだな」

男「いらっしゃいまーせー。500円ですいかがですかー」

会社員「貰おうか」

男「お箸は1膳でいいですかー、袋においれしまーす、あざーっしたー」ガサガサ

学生「あの、そのお茶漬けセット…150円でいいんですか?」

男「はーい 店内ポットにお湯もありますよー」

学生「あ、じゃあ ください」

男「あざーっしたー」

女「うそ…いきなり二つもうれた…」

店長「男くんは本当にいつも頼りになるね!どう、帰りに飯でも食べに行かない?」

男「とりあえずちゃんとはたらいて売ろうかー」

うーん…何か普通に男×女じゃつまらないから店長が男なら、ここから店長×女に持っていくってどう?
ケンカップル的な

>>32
いらん。ゴミスレ化なる

両方の意見もらって
・普通に男と女くっつけるのはつまらない
・店長とのカップル化は絶対しない
でやってみよう
なんかワクワクしてきた ありがとう!

男「らっしゃーせー 晩酌セットにお茶漬けセットいかがっすかー」

女「500円と150円でーす」

店長「あと18セットで終了でーす!」

オッサン「お。残り物には福があるっつーし買ってみるか」

店長「ありがとうございます!」

男「おーてんちょーすげーじゃーん」パチパチ

店長「いやいや、たいしたことないよ」フフン

女「わ、私だって売れます!」ムム

女「! そこのスーツのおふたり、これからまだお仕事ですかー?」

スーツA「え あ、はぁ」

スーツB「そうですけど…なにか?」

女「大変ですね!お茶漬けセット売ってるんですけど…」

女「少し食べてもうひとがんばり、なんていかがですか?」ニッコリ

スーツB「あ、ああ…そういうことか」

スーツA「まぁ夜遅くなりそうだしなー。少し挟んどくか」

スーツB「だな。嫁が飯つくってるだろーからちゃんと食ってく訳にもいかないしな」

女「ありがとうございますっ!がんばってくださいねー!!」チャリンチャリン

二人組「「ははは…どーもー」」

男「おおーふたつどーじとは。やるなー」

店長「あんなの色仕掛けじゃないかっ!卑怯臭いんじゃないか!?」

女「い、いろじ…!? ちょっと応援しただけですよ!」

店長「どこが!ニッコリスマイルとかしたって可愛くねぇんだよ!」

女「なっ…! 悔しかったら店長もやったらいいじゃないですかっ!?」

店長「あたしがそんな下品な真似するわけないだろ!!君みたいなやつと一緒にしないでくれないかな!」

女「自信ないだけじゃないんじゃないですかー!?」

店長「んだとこのドンクサが!いつでもクビにしてやっていいんだぞ!」

ギャーギャー ワーワー

男「……いどうはんばいでーす 晩酌セットとお茶漬けセットいかがっすかー」テクテク

2時間後

女「…いつのまにか、男くんが居なくなってました…」

店長「残されたのは、おにぎり6つと、合わせの品々…」

女「10セットも男さんが一人で売って帰ってきて…」

店長「こっちはその半分量も売れてないと知れたら…」

店長「……」

女「……」

店長「キンキンの冷たいビールに、塩気の聞いたおにぎりに焼き魚!セットで500円でーす!!」

女「ちょっ…! 何一人だけ成果あげようとしてるんですか!?」

店長「うるさいな!店長だから仕事してるだけだろ、お前がどんくさいから売れないんだ!」

女「なっ! …勉強やお仕事のお供にお茶漬けセットはいかがですかー!150円で心も財布も冷やさせませーん!」

店長「おまっ…あたしが負けると思うなよ!店長の威厳ってもんを思いしれ!!」

イラッシャイマセー!!
ミテッテクダサーイ、オイシイデスヨー!

>>33
最初から既にゴミスレだが?
なんなら、>>32の意見貰って俺も店長と女がくっつく方が良いわ

1時間後

男「おつかれさーっしたー もどりやしたー」

女「おかえりなさい…」グッタリ

店長「おつかれさん、男くん…」グッタリ

男「いやーおれよりもーふたりのほうがつかれてるっしょー。なにがあったのー」

女「そ、それより…おにぎりは…?」

店長「男くんのもっていったおにぎり…10個、どうなった…?」

男「あー、駅前広場のほうにいったらー 焼き魚セットで7ことーお茶漬けで2こうれましたー」

女「と、いうことは…9個、ですね…」

店長「こっちは、全部で4個しか…」

男「おー でもちゃんと売ってたっすねー ふたりでうまくやれてたとかー すごいっすよー」

店長(売ってよかった!)

女(売れてよかった!)

女「あ… でも、ってことは3つはどうしても売れ残っちゃいましたね」

店長「まあいいだろう、元々は20個も余っていたんだ」

店長「それに焼き魚とかも売れたしな。今日の売り上げは普段よりいいと思うぞ」

男「あーでもー たしか女のコヨウケイヤクって、「損失分の賠償」ふくんでたっすよねー」

女「」グサ

店長「…ふん。今日の分は、女のせいとはいえないからな。免除だ、免除」

男「いやーかわせなきゃだめっすよー じぶんのぶんくらい」

女(うう! もしかして私、嫌われてるのかな?!)

男「それに、てんちょーも ちゃんとじぶんのぶんは かってくださいねー」

店長「え? あ、あたしの分ってなんだい、男くん?」

男「おれのぶんはー ちゃんとおれがかうっすー」

ヒョイ、ヒョイ、ヒョイ

男「ちょーどみっつっすよねー うれのこり、それぞれでかいとってー」

男「きょうの、おつかれさま会ってことでー しごとおわりに食いましょっかー」ニコニコ

女「あ…」

店長「…男くん、もしかしてわざと、自分の分を売れのこさせたりしたかい…?」

男「えー なんかいったっすかー?」

店長「…君は相変わらずだな。頼りにしてるよ」クス

店長「よし、男くん! 今日こそ夕飯を一緒に食おうじゃないか!」

男「きょうはー おれがさきにさそったはずなんすけどねー」

女「あ、あのっ! もちろん私も参加していいんですよね!?」

店長「ダメにきまってるだろう!」

男「もちろんいいっすよー はじめてー みんなでがんばったっすからー」

女「あ、ありがとう、男くん!」

男「でもまー 閉店は15分後なんで」

男「売り数ひくいふたりでー さっさとヘイテンさぎょー、しちゃってくださいねー」

店長「」

女「」

翌日

男「いらっしゃーせ… ってー 女かー はよーっす」

女「あ、男くん! おはよう、今日は早番だったんだね」

男「あー 女ー ちょっとシュッキンはやくねー?」

女「そ、そうかな! ちょっと頑張りたい気持ちだったの!(早く会いたいし!)」

男「おかげでー おれはそれだけはやくあがれるわー ありゃっしたー」

女「な」

店長「ニヤリ」

男「てんちょーがー 女きたらあがっていいよーってー いってたんだよねー」

女「ちょ、ちょっとまってください、いくら無給だからってそんな風に…!」

店長「なに、あたしの従業員のシフト配分にまで文句あんの?」

女「ありますよ! 悪意を感じます!」

店長「悪意ー? なんのことかなー? この時間帯に従業員2人もいらないよねー!?」チラ

男「そっすねー 朝のラッシュはこえたんでー 昼まではいらないっすねー」

店長「大丈夫! 昼前にはもう一人いつもの子がくるから!」

男「じゃーなんのもんだいも ないとおもうっすよー」

女「ぐぅ」

店長「とゆーわけだから、さっさと着替えて仕事しろよこのクズ!」

女「なっ…クズって! ひどいです、せめてグズっていってください!」

店長「グズならクズだろうが!」

女「そこらへんには随分ニュアンス的な違いがあるんですっ!」

ギャーギャー  ワーワー

男「んじゃー おつかれさまっしたー」テクテク ウィーン チャラリラリラーン♪

なんつーか、男に魅力を感じない

男の喋り方いちいちウザ過ぎ

保守

しばらく投下できませんで、すみませんでした
せっかく乗っ取ったのに・・・日にちかけちゃうとか反省します


>>49
男の喋り方は変えないぞ!ww 乗っ取った意味なくなるからな!w
でも読みやすいように 工夫はしてみたつもり
↓から投下を開始します
ちょっとまとめて話をすすめてみる
>>50
保守ありがとうね!

↓から投下していきます

店長「……」

女「……」

店長「……」

女「……」

チャラリラリーン♪

店長「いらっしゃいませー」

女「いらっしゃいませー ただいまMチキオススメしていますー♪」

店長「……」

女「……」

店長「ありがとうございましたー」

女「またお越しくださいませー♪」

店長「……」

女「……」

店長「……」

女「~~~あのっ!」

店長「なんだよ」

女「無言でレジに二人並ぶ必要ってありますかね!?」

店長「…じゃあおまえ、外で呼び込みしてこいよ」

女「……炎天下なんで…それは、ちょっと。店長こそ、シフト調整とか発注とかいいんですか?」

店長「店長室、エアコンが不調で冷えきらないんだよ」

女「……」

店長「……」


女「…っ。そ、それは」

店長「なんだよ」

女「…肌が、弱いんです。強い光に当たると、真っ赤に腫れてきちゃって」

店長「…あ?」

女「それで、就職浪人なんです。あちこちエントリーしても、夏場の日中の企業説明会とか一日行くと、翌日はいたがゆくてまともに動けなくて…」

女「間空けて、本命に絞って予約とっても、やっぱり欠席とか余儀なくされることがあって…」

店長「…それで?」

女「結局、20社くらい受けたんですけど。受かったのはゼロでした…あはは」

店長「昼に動き回れないとか、どうやって生活してるんだよ」
女「動き回れないわけでは。ちゃんと日差しをよけた衣類を着て、日に当たったら薬のんだり塗ったりして」

☆すみません、1レス飛ばしました。>>53>>54の間に入ります
------------------

女「はぁ…」

店長「ちっ。他のバイトくるまで、やっぱり男クン返すんじゃなかったな」

女「そうですよ! 私だって男さんと働くの楽しみにきてt…」

店長「あ゛?」

女「うっ」

店長「……なんだ、おまえやたら精力的に動くと思ったら。男クン目当てなのかよ?」

女「い、いいじゃないですかっ」

店長「ダメダメ、不釣り合い。月とスッポン。鷹とカエルくらいレベル違うっつの」

女「む…そうはいいますけど!  私だってやることはちゃんとやりますよ!」

店長「どこがー? 炎天下の呼び込みもやらないくせにー?」


店長「……そういやおまえ、夏でも長袖だな」

女「店内でも、日差しってはいってくるんで」

店長「……不便そうだな」

女「そうなんですよ。昔から、夜ばっかりしかまともに自由に外に出れなくて。友達と遊び歩いたりもできなくて」

店長「ついでにデートもできないから、いまだに彼氏もいたことありませんってか?」

女「黙秘します」

店長「沈黙は肯定なり」

女「……まあ、それで。大学の頃からは、天体観測とかが趣味になって」

店長「ぷ。天体観測とか…午前2時に踏み切りいっとけよ、クク」

女「あはは…。そういうの、高校の頃からよくいわれてました」


店長「…ちっ。つまんね」ガタ

女「すみません、愚痴るつもりではなかったんです。やりたくても、できないっていいたくて…」ギリ

店長(できるものならやりたいのに、って顔してんじゃねーよ。くそシケる)バタン

カチッ、カチッ… シュボッ

女「…ちょ、ちょっと、店長!? 一服するのやめてください?」

店長「いいだろう! 店長室なんだから! おまえの話聞いてたら胸糞わるくて吸いたくなったんだよ!」

女「だとしても! ドアあけてると、店内に煙が流れてくるんですよ!」

店長「むっ…」

女「なんですか! 正論ですよ!」


店長「てめぇ… ちょっと同情してやろうかと思ったけど。一回どうにかわからせてやったほうがいいみたいだなぁ、オイ!?」

女「や、やる気ですか…」

店長「貧弱女! 敵うと思うなよ、私が店長だ! 崇めて讃えて敬いやがれ!」

女「むぅっ!? 敬老の日にはまだはやいですけど! 敬いましょうか!?」

店長「てめ… 歳について触れようってのか、この若造が!」

女「触れられたくないような歳に、子供みたいな真似しないでください!」

ギャー
ギャー


チャラリラリラリン♪

男「わすれものしたんでー とりにきましたー・・・ってー」


ギャー
ギャース!

男「…てんちょー、女もー。 なにしてるんすかー?」

ギャンギャン!
キャンキャン!

男「聞いてないっすねー・・・ キャットファイトってやつっすかねー」

男「…ん?」

モクモクモクモク…

男「・・・・・煙?」

テクテク

男「っ!!」


男「おい! 火事!」

店長「え?」

女「男…さん? いつのまに?」

男「~~~っ! 店長、消防要請! 女! 店内確認と、避難誘導!」

男「それと、消火器・・・っ!」

店長「お、男くんが」

女「テキパキと・・・喋ってる?」

男「いいかげんにして動け! おまえらだって死にたくないべした! 最悪、避難だけでもさっさとしろは馬鹿! ~~っ、消火器、あった!」 

パキン、シュバアアアアアア

女「は、はい!?」


店長「…っ、あ、ああ! すまない! おい、女! 店内の客を確認、トイレとかバックヤード見て来い! その後 避難!」ピポパポ

女「は…はい!」タタタタッ

店長「……すみません、火事です! 消防お願いします! はい、はい、はい… 住所は…」タタタ


男「くっそ…! 店長室は…書類が多すぎて…」チラ

男「タバコ、か。 くそ、消火器だけじゃ…さすがに、火の手が…」

男「!! パソコンの電気系統が、近い… それに、エアコンも… これはさすがにまずいしょや…」

ダダダッ

女「来客、ゼロです! 男さん、はやく避難してください!」


店長「こっちも消防要請は済んだ! 近隣と店舗周りにも触れ回るぞ! 男、早く・・・」

ボワッ!

男「!」
 
ボゥゥゥゥウゥ!!! 



男「!!」グラッ

女「男さん・・・ッ!!」

店長「男ッ!!!」


・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・


病院

…パチ

男「・・・あ、ここ…は」

女「男さん! よかった!」
店長「心配はいらないといっただろう! 軽い火傷だ!」

女「だ、だって・・・すごい勢いの、火が、男さんの周りに…」グスッ、グスッ

男「あー… すんませんっした… なんか、かえってー 迷惑を…」

店長「いや。私が全面的に悪かった、すまんな、きちんと労災は降ろすから…」

男「…あざーす」

女「…あの。一応、目が覚めたら連絡して、再診察だそうですので…」

男「あー わかったー」

店長「私が呼んでこよう」

・・・・・・・・・・


会計

男「ほんとにー、軽い 火傷だったっすねー」

女「よかったです」

男「いやー なんでー 俺は倒れてたんすかねー」

店長「小さな爆風があった。エアコンのあたりからだと思うが…」

女「その時、すごい火が噴出したんです。男さんの顔のあたりに…」

店長「すれすれで避けたんだよ、男クン」

男「あー 面食らって、倒れたってーわけっすかねー」

店長「結果としては、最高だった。そのおかげで火傷もしなかったし、後ろにいた私たちが すぐに運び出せたから」


男「…店のほうはー どうなったっすかー?」

女「あ、はい。消防要請と迅速な対応のおかげで…近隣やヒトへの被害は男さんだけです」

店長「まあ、店の内装と、2階部分は ほぼやられたけどな」

女「基礎は大丈夫なんでリフォームすれば大丈夫、ってくらいです」

店長「リフォーム…。ほ、保険が…なぁ」

男「あー… こういうのってー いっそー 全壊のほうが 保障金額ってー 高いんでしたっけー」

店長「う、うう…」

男「まあー どっちにしろ、一回火事なんかおこしたら、再営業までいろいろ手間かかるっすよー」

女「気長にやりましょう、店長さん。生きてればなんとかなります!」

店長「…2階。私の家だったんだ…」


女「え」

男「あー そういえばー そうっしたねー」

店長「あああ… 水浸し、煤びたしの家で…ショートしまくった家電の中で…どう生きれば…」

女「一時的に、マンスリーマンションでも借りるとかどうですか?」

店長「…貴重品の類は全部持ち出しててな。店長室においたままだったんだ」

女「…金庫、無事だったはずですよね?」

店長「まあ、あれは建物やなんかの契約書やなんかだったから…強いて言えば店の定礎みたいなもんだったんだ」

男「それってー?」

店長「あの店は残ったが、現金などはレジにあって無事だった金くらいしか残ってない」

女「絶望的ですね」


男「……」

店長「…身分証明すらないのに、どうやって即日で家をかりれば…」

店長「ってか、通帳の類もきっと再発行するまでは降ろせないだろうし…現金が…」

男「あー…」

女「ご愁傷様です…」

男「怪我がなかっただけー よかったっすよー」

店長「え?」

男「店長だってー、オンナノコっすからねー。俺みたいな軽いやつでもー、ヤケドとか、しなくてよかったっすよー」

店長「男…くん」

男「はいー? なんすかー?」

店長「あ、いや… あ、ありがとうな!//」


男「どー いたしましてっすー」

女「わ、わたしは?!」

男「えー? どっかヤケドしたのー?」

女「いえっ、どこも怪我してな・・・ いや! 指を!」

店長「指?」

女「避難誘導のとき、あせってトイレのドアに指を挟みました!」

店長「…………」

男「……そーっすかー」

店長「……おまえな…」

女「~~~っ あ、あかくなってるんです!?」グイッ

男「あ ほんとだー」チラ


男「まあでもー、こんなのは舐めときゃなおるってー。 跡に残らないよー」ペロ

女「!!!!!!!!」

店長「!!??」

男「いたいのいたいのー とんでけー」テーイ

店長「……安心の天然…だけど」

女「……なにかこう、複雑なものが残りますね…」

店長「はっ! と、とりあえず おつかれさん! とりあえず連絡を入れるまでは休みだから!」

女「は、はい!」

店長「じゃ、じゃあ! 解散っつーことで! ゆっくり休めよ! 歯―磨けよ!」

女「え、って、店長・・・ 店長は、このあとどうするんですか!?」


店長「あー…ま、まあ。携帯はあるから、誰か知り合いに連絡して…」

男「もう、夜っすよー? とりあえずー 俺のところ きますかー?」

店長「い、いいのか!?」

女「!?」

男「いいっすよー。店長さえー いいならっすけどー」

店長「もちろん い…

女「よくありません! 男女七歳にして席を同じゅうせず です!」

店長「うるさいな! 大人同士だったら別にいいんだよ!」

女「大人同士だからこそよくないんでしょう!?」


男「あー そっかー。まあ2人とかはー 体裁、わるいよなー。あ、じゃあ 女もくるー?」

女「YES!」

店長「てめ」

男「よかったー。 部屋の掃除とかー 大変だったんでー」

女「え……」

男「片付けないとアレっすけどー 自由に使っていいっすからー」ニコニコ

店長「私たちって……」

――――――――――――――


男の家の前


店長「……で」

女「すごい…ですね。何ですか、この家…」

男「木造2階建て、築56年 風呂・トイレ・調理場 共同アパートー」

店長「ちょっとまて! あきらかにワンルームアパートだろ!?」

男「そうすねー。このアパート、全6部屋あるんすけどー、全部ワンルームっすー」

店長「どうやって今夜寝るつもりなんだ!?」

女「わ、私は・・・ 今日のパンツとブラは上下がッ!?」

男「女―? なにいってるんだよー」

女「はっ」


男「店長はー、2階のつきあたりの部屋 つかってくださいー」

男「女はー、一番手前でいいよなー? 間を一個あければー そんなに音も気にならないっすよー」

女「え?」

店長「…まさか、このアパート…」

男「そうっすー。アパート、まるごと借りてるんですよー。部屋はあまってるっすからー、安心してくださいー」

店長「いろんなことが、予想外だ……」

女「そ…そうだ! 男さんの部屋はどこなんですか!?」

男「俺―? 一番下のー、玄関はいって一番手前の部屋―」

店長「せっかくなら一番奥にすればいいのに…安全面からいっても」

男「部屋が遠いのとか、面倒っすよー。まぁとりあえず…」

ガチャ

男「…ようこそ 我が家へ」

-------------


・・・・・・・・
・・・
・・
店長用の部屋

男「いやー オンナノコ二人いるとー 片付けるのも早いすねー」

女「モノがほとんどないですからね… 掃いて、拭いてくらいでしたので」

店長「まあ、畳だしな。寝泊りするには十分だろう」

男「あ 客用の布団ならー 4組くらい 俺の部屋にあるっすよー」

店長「それはありがたい」

女「あ、じゃぁ 取りに伺ってもいいですか? お、男さんのお部屋に…」ドキドキ

男「そうしてもらえると助かるっすー」


男の部屋

・・・・・


男「じゃぁ… コレと、コレでー とりあえず使ってくださいっす」

女「えっと…シーツとか、どうしたらいいですか?」

男「あ。 ……おっきめのバスタオル、つかってー」

女「は、はい…」

店長「男がいいのなら、そうしよう」

男「あ、そうだー。 近くに弁当屋あるんでー 閉まる前に 夕飯と飲物、確保しにいくっすよー」

女「あ、そうですね!」

店長「まあ、それくらいの現金ならどうにでもなるな」

男「じゃあいくっすよー」

---------------


夜道

女「……それで、どういうことなんですか? あのアパートの件」

男「なにがー?」

店長「まあ、一棟まるごと借りるなんて普通じゃないのは確かだな」

男「…ここ、建物を壊すのもー 維持するのもー お金足りないらしくてー」

店長「ふむ。まあ、ずいぶん古い建物だし…大家も相当なご年配なのか」

男「そうっすー。なんでー まるごと借りうけたっすよー、土地の買い手が見つかるまでの間―」

女「…いいひとなのか」

店長「無謀なのか」

男「ちなみに月13.5万っすー」

店長「部屋の総面積や、立地や土地相場を考えればかなりの格安だけど…」

女「物件の状態を考えると高すぎますよね!?」

男「ま、ある程度の広さと、完全分室が欲しかったかんね……」ボソ


女「何か言いました?」

男「なんでもー」

店長「…しかし、13,5万…か。どうやって払ってるんだ? ほぼ、バイト代の全額じゃないか」

男「あー… 一応、他にも収入のアレがあるんでー、なんとか…」

店長「む。隠れて掛け持ちしてたのか」

男「まずかったっすかー?」

店長「いや、そんなことはないが。水臭いとおもってな」

店長「そうだ。よかったら、しばらく住まわせてくれないか。家賃は折半しよう」

女「て、店長!?」

男「…正直、ありがたいっすけどー 泊まるだけでも体裁がわるいって話だったんじゃー…」


店長「……女、おまえ 一人暮らしだったな」

女「そ…そうですけど まさか…」

店長「うむ。3人ならば、問題もなかろう」

男「…3人で割れば、4万くらいですむっすからねー。いや、もっと少なくてもいいっすね。残りは俺がもつっす」

女「ま、まあ…私も今住んでるところ、8.5万だから…半分以下ですし。正直助かりますけど…!」

男「いいのかー? 女― この家、ボロいぞー?」

店長「防犯については気になるが… まあ男くんが一緒だし、玄関前に暮らしてるしな」

女「防犯も何も、貴重品もロクに持ち合わせてないですしね、店長」

店長「グサ」

女「なにしろ、実質 お店つぶしちゃってますからねー」


店長「お、おまえだって…どうせ貯金を切り崩しきってギリッギリの生活してたんだろう!?」

女「ズキ」

男「……二人とも、貧乏なんっすねー」

店長・女「「ガンッ」」

男「あー じゃぁまあー とりあえず いままで通り、俺がはらうっすー」

女「すみません……」

店長「収入がおちついたら 必ずそれまでの分の家賃も分担することにするからな、男くん」

男「まー 期待せずにまっとくっすよー」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
――――――――――――――


男のアパート

店長「男くん…それにしても、こんなところにすんで不便は無いのか?」

男「……不便どころかー、便利っすよー」

女「便利?」

男「友達よんでー かくれんぼとかできるっすー」

店長「こんな古い家に誰か隠れてるとかすげー怖いじゃないか!」

男「まー、ぶっちゃけー、いるっすけどねー」ケロッ

女「」

店長「」

男「あー。きくっすかー?」

店長「い、いや……別に、そういうのは」


女「ききたいです! そういうのって逆に知らないほうが不安です!!」

店長「てめっ、女!」

女「怖いなら効かなきゃいいじゃないですか!」

店長「くっ・・・ 言え、男くん!」

男「あ、はいっすー。えーとー」

女「ゴクリ」

店長「~~っ」

男「友達を、何人か呼んで、酒盛りしてたんすけどね」

男「夕立に振られちゃって…友達、バイクだったんで、止むのまってたっすよ」

男「でもまあ 遊びつくして結構 ヒマで。ノリでかくれんぼすることになったっす」

店長「ゴクリ」

女「いい年した大人が、ノリでかくれんぼ……。 っていうか…?」


男「友達が隠れてたのは、1階の一番奥の部屋っす」

男「ここっすね いってみます?」

店長「いかない!」

女「い、いくかどうかは 話が終わってからきめます!」

店長「~~女、おまえはまたそうやって……!」

男「じゃあー、まあ 続けるっすけどー」

男「ええと、どこまで話したっすかねー… ああそうそうー」

男「部屋、片付いてるんで基本隠れる場所とかないんすよね」

男「なので、まあ暗めの場所をさがすしかないんですよ」

男「でもまああの時は暗くなかったんで、暗い場所さがしてたんっすかね?」

男「よりにもよって、そいつタタミめくって 床下にもぐったんすよ」


男「正確に言えば、真ん中のたたみの下には、床下収納を改造したような空間があるんすけどね」

男「……まあ最後まで みつからなくて」

店長「そ、それで……?」

男「……見つからないんっすよ、そいつ。……いまだに」

女「え?」

男「……見つから、ないんです」ニヤ

店長「怖い! 怖いよ!」


女「ま、まってください!? じゃあまだいるんですか!?」

男「いるっすねー 隠れたまんまの、ヒトが。どこかに」

店長「はは……ど、どこの部屋だって?」

男「一階のー 俺の部屋の、前っすー」


女「……」

店長「……」


男「あははー じょうだんっすよー?」ニッコリ


店長(絶対、いかない)

女(近づくこともやめておこう!)

―――――――――――――

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

その夜 女の部屋

店長「」

女「」

店長「おい」

女「なんですか…」

店長「不本意だ」

女「私だって不本意ですよ! でも仕方ないじゃないですか!」

店長「む、むぅ…」


女「正体のわからないようなヒトのいる家で いきなりひとりで寝ろって言われても・・・」

店長「た、確かにすこし 不気味だからな・・・ やむをえまい、か」

女「」

店長「」

女「……すごいところに、きちゃいましたね…」

店長「酒でも、飲むか……」

女「お、お付き合いします……」

店長「……せっかくなら、男くんも呼ぶかな! な、女!」

女「そ、そうですね! いいですね! 入居懇親会! 是非よびましょう! そうしましょう!」


店長「む。乗り気すぎる…さてはおまえ! 酔ったふりして しなだれかかろうとか、そういう姑息なことをまた考えてるんだろう!」

女「なっ、そういうのは思いついた人のほうがイヤラしいですよ!」

店長「なんだと!?」

女「言い出したのも店長さんだし! そのつもりなんじゃないですかー!?」

店長「んなわけあるか! 私のキャラでそんなんになったらキモチわるいだけだろ!?」

女「自覚があるなら良かったです! 相当みたくないですからね!」

店長「てめぇ! ケンカうってんのか!また!」

女「そっちこそ なにかとケンカを買おうとするのやめてくれませんか!?」

ギャー
ギャー

――――――――――――


同時刻 男の部屋

男「・・・・なんか、2階が うっつぁーしくね・・・?」

男「まあ、いいは」

男「……まあ、さすけね。 手―打っといてよかったべ。なんも無いに越したことない」

男「木を隠すのは森。どうやら信じてくったかんね」

男「・・・こんなん 見つかったら大変だべした。さすがに」

?「」

男「“こんなところにオンナノコが!!” みたいなこと がなったり」クスクス

?「」


男「うっかり、警察なんか呼ばったら 参っかんね」クス

?「」

男「な。おまえだって、見つかって好機の目に晒されっのは嫌だべ?」

?「」

男「…さて。そろそろ部屋にかえっかな…」

?「」

男「そうだ。もうすぐ、友達を二人、連れてきてあげっかんね」

?「」

男「ふたりとも まぁ きかないけど。あー…めんこいオンナノコだは。あ、でも」

?「」

男「・・・・・・・・・・・どっちから・・・人形に、すっかな・・・」


―――――――――――――――――――――


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

男の部屋の前

女「とりあえず、今日は単純な懇親会ですからね! 抜け駆けは無しです!」

店長「はいはい、最初から私にそんなつもりはねーよっと」

トントン

男「・・・はーいー? どっちっすかー?」

女「あ、あの。女です、あの 男さん…。今、大丈夫ですか?」

男「あー へいきー いま 出るー。まってねー」

店長「ああ、急がなくていいぞ」

男「あれ てんちょーもー いっしょっすかー めずらしいー」


店長「うむ 男くん、酒に付き合え。入居懇親会だ」

男「…そーいうのってー 招いた側がー ひらくもんじゃー ないんっすかねー」

店長「細かいことは気にするな!」

女「あ、あの! せっかくなので・・・よかったら、お願いします!」

男「・・・あー、と」ガチャ

女「あ」

店長「む? 何か作業中だったか? 何か妙な匂いがするな」

男「えー あー まあー。 …プラモっすよー」

店長「存外、子供っぽい趣味もあるんだな、男クン」

女「そうですか? なんかすごくよく似合ってますよ、あはは」


店長「…まあ、そうだな。いや、すまなかった。 邪魔をしたね」

男「いーっすよー かたづけたらー いくっすー 女― どこでやるのー?」

女「あ、わたしの部屋です・・・」

男「りょーかーい」

店長「うむ では待っている。ゆっくりでいいぞー!」

女「落ち着いたら、是非! 急に失礼しました、では!」

男「はいはーい」

バタン…


・・・・・


女「……は、はぁ。なんか緊張しました」

店長「まあ、この時間に 男クンとはいえ、男性の部屋に訪問するのはあまりない経験だな」

女「ハァ・・・ なんか、ちょっと酸素不足な感覚が…」

店長「緊張して酸素不足を感じるようじゃ おまえ相当危ないぞ。臓器年齢的に おばあさんだぞ」

女「スー ハー…」

店長「ほんとに深呼吸するほどかよ」クックック

女「スー…」フラ

店長「あ、馬鹿」

女「ひゃっ」グラ

ヨロ・・・ トットット ガタ、ガチャ

女「あ…ドアが。空き部屋、鍵あいてるんですね」


店長「っつか、私たちの部屋の鍵も後付けの南京錠だしな。そうじゃなくて、おまえここ…」

女「あ」

店長「な、なあ」

女「……」

店長「この、男くんのトコの向かいの部屋……。例の、あの部屋だよな?」

女「ちょ! 思いださせないでください!」

店長「おまえが深呼吸なんて馬鹿なマネして、さらに馬鹿みたいにふらついて、馬鹿みたいにドアノブ掴んでまわしたんだろ!?」

女「馬鹿バカって言わないでください! わざとじゃないです!」

店長「じゃぁ相変わらずのグズだな。ところでここ、別に、入るなとは言われてない…けど…」ゴク

女「ま、まさか…」


店長「モヤモヤしたままでいられるか! おまえみたいな馬鹿と同室もほんとはゴメンなんだ!」

女「・・・っ」

店長「ええい! 軽くのぞくだけだ! 何もなければ最高じゃないか!」グイッ 

女「ちょ!? 店長!」

ガチャ 

店長「……? お、おい…?」

女「て、店長…なんか変じゃないですか? この感じ……」

店長「な、なにが?」ヒクッ

女「あきらかに、ヒトの何年もはいってない部屋じゃないですよね」

店長「……」


女「生活痕とかはなんもないけど、確かに・・・ヒトの住まうような気配が…」

店長「ま、まさか 本当に 未だにヒトが隠れているとでも言いたいのかよ」

女「あの話…もしかして、本当だった、ってこと…ないですよね?」

店長「い、いや でも男くんが 冗談だっていってたじゃないか」

女「…店長。 あの時、男さん… おかしかったとおもいませんでしたか?」

店長「…なにがだよ」

女「男さん。喋り方、普段と違いましたよね」

店長「…え? そう、だったっけ?」

女「普段はもっと、のんびり喋るじゃないですか」

店長「あー… いや、まぁ。でも男くんの場合…方言が入るとたまに…」ゴニョゴニョ

女「口調は似てるけど、絶対いつもより早口でした」


店長「え? 口調が似てて、早口?」

女「思い出してください」


~~~~~

男「友達を、何人か呼んで、酒盛りしてたんすけどね」

男「夕立に振られちゃって…友達、バイクだったんで、止むのまってたっすよ」

男「でもまあ 遊びつくして結構 ヒマで。ノリでかくれんぼすることになったっす」

店長「ゴクリ」

女「いい年した大人が、ノリでかくれんぼ……。 っていうか…?」

~~~~~


店長「そういえば、そうだな。あんな喋り方をする男クンを見たことは無いな。…で? なにが言いたいんだよ」


女「…だ、だから…つまり、床下にかくれて見つからない人に乗っ取られてたりとか…」

店長「おま…。さすがに、オカルト話の見すぎ。なに考えてんだ…」

女「じゃ、じゃあ。本人、とか?」

店長「……本人?」

女「おかしいんですよね。作り話にしても、気づくべきですよね、あれ」

店長「…なにがだよ?」イラ

女「…床下にもぐったヒトが、いまだに見つからない。つまりどこに隠れたのかわからない」

店長「ああ」

女「床下に隠れたって、知ってるじゃないですか」

店長「…」


女「居るはずのない第三者の俯瞰でみるような怖い話なんて うそ臭いだけですよね?」

店長「……まあ。怖がらせるにしてはチンケすぎるな、言われてみると」

女「普通、そんな話するかな…事実ならしょうがないですけど」

店長「つまり?」

女「この家の 床下に隠れたのを知ってるのは 本人ですから。本人なら仕方ないですよね」

店長「…まさか?」

女「この話を、嘘なく リアルに語れるのは…見つからない本人なんじゃないかな、と」

店長「……いや、さすがに無理。それならいっそ、実は一緒に隠れてた友人、とかさ」

女「……一緒に隠れたけど、なにかの事情があって、もうひとり隠れていたことは隠したい友人、それが男さん?」


店長「よくあるサスペンスホラーだな。三流だ。友達が床下覗き込んで、落ちて死んじゃったとか?」ハハハハ

女「焦ったあまり、言い出せずにその遺体を隠しちゃった?」アハハ

店長「うっわー ベタ!」ハハハ

女「ネタ的に王道~! 隠すために続く連続殺人、ですね!」アハハハ

店長「そのうちに殺人は快楽に! 来客を招き入れては殺していく!」ビシッ

女「どんどん積み重なる遺体! 遺体の管理方法にマニアックな手法を!」ドーン!


店長「ははははははは!」

女「あはははははは!」


店長「……」ピタ

女「……」ピタ


店長「・・・・・・・やっぱり見てみよう」スタスタ

女「店長!?」

店長「覚悟、決めろ。キモチわるいだけだ、こんなの。どの畳だっけ?」

女「…手、震えてますよ 店長…」

店長「うっさい。さっさと答えろ、どの畳だっけ!?」

女「…っ。ま、真ん中です。一番、真ん中の畳です!」

店長「くっそ・・・どうにでもなれ!!!」ガッ

女「店長… や、やっぱりやめ・・・っ」

店長「おそい! いまさら、ひけるか……っ!」


グッ……ググ


ダガッ バタンッ

店長「……あいた、ぞ」


女「中… 中、は……」ソロー

店長「……さすがに、夜だし。相当 暗い、な」ソロー

女「ほんとに…床下が、くりぬかれてるんですね…」ゴクリ

店長「……話はまるっきりの嘘ではないっていうことだな」

女「……あ、だんだん…目が、慣れ」

店長「暗闇で瞳孔が慣れてきたんだろう。うっかり、いきなり光源とか振り返るなよ」

女「……なれ、なれて… なれっ」

店長「…どう、した」


女「…あ、あれ…あっち…あそこっ。なんか、ぼんやり…」プルプル

店長「………?」ジー


?「」


店長「………………ひっ!?」

女「……ああ、ああああ」

店長「あ、あ・・・ああ・・・・ひ、ひと・・・ヒト!?」ガタ

女「店長! っ や、やめてください からかうのは・・・っ な、なんかの影ですよね!?」

店長「馬鹿、おま、見えてるんだろ!? ちが、あん、あんな…ほん、ほんとに…ひ、ひとにしか…」

女「……う、ああ…だんだん。ちゃんと、シルエットが…みえ、みえて…」


店長「あ、ああ…はっきり… 四肢と…胴体と、頭部と…」

女「……こっちを、見つめるような “真っ黒な目”が…… 見え、た……っ」


ポンッ


女「!?」ビクンッ!
店長「!?」ビクンッ!


男『…みつかっちゃった……』クス


女「きゃあああああああああああああああああああああああああ!?」
店長「うわあああああああああああああああああああああああああ!?」


・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・

―――――――――――――――――――


パチッ

女「!? こ、ここは!?」

女「・・・・・はっ」

女「店長! てんちょ・・・」

店長「」グタリ

女「店長!」ガタッ ユサユサ、ユサユサ

バタン

女「!」ビクッ

男「あー おきてたっすかー… おはようっすー」

女「ひぃぃぃぃい!?!?」


男「そこまでー 大げさにー さわがないでほしいなー…」

女「だ、だって!?」

男「あー てんちょー? もう、朝をとおりこしてー、昼過ぎっすよー おきてくださーい」ユサユサ

店長「う、うう・・・・ひと、ひとが・・・」ウーン

男「うーん なかなかー おきないっすねー・・・」ハァ

女「お、男さん…。あの、あの…ど、どういうこと…なんですか? あの床下にあったのは…」

男「あー…」

女「か、隠してもだめですよ! 自首してください!?」

男「自首ってー」アハハ

男「しょうが、ないかなー。あれー、ドールなんだよー」 

女「…どぉ、る? 人形? あんな等身大の? マネキンにしてはリアルすぎですよ!?」


男「まあ…アレはー ラブのほうだしなー」

女「ラブ……? ラブラドール? 犬?」

男「『ラブドール』。 えーっと なんつーかー まあ、えっちな目的につかうー オンナノコの人形みたいなー?」

女「な、なんでそんなものがあの床下に……」

男「あー。 作ってるんだよー おれがー」

女「…は? い、いえ。だからって、なんで床下に… おかしいですよね!?」

男「見つかるとー、いろいろー 興味本位でいじられたりー?」

男「…触られたりー、汚されたりー…」シュン…

男「からかわれたりー…おれをイジられたりー キモちわるがられたりー… するからー…」ドヨーン

女(言ってて、どんどん凹んでいく…経験からの教訓で、徹底して隠してるんですね…)


男「んでー、それ以来― ここに来る人には ああやってドッキリをしかけてー 部屋にも、近づかせないようにー してるんだよー」

女「……悪趣味な…」

男「」ザク

女「い、いえ! 人形制作の趣味じゃなくて! ホラー話のことですよ!?」オロオロ

男「あー…いや 結構― 効果あったんだよねー いままではー」

女「まぁ…実際、私も あけるつもりなかったですからね…」

男「もうー、セリフも使い古しちゃってー。 みょ―に 説得力があるってー いわれるんだよねー」アハハ

女「はっ! 何度も言ってるセリフだから、いつもより早口だったんですか!?」

男「早口―? あ、そうかもしんないー」

女「……変な推測しすぎて…オチがあまりにも…」がっくり


男「オンナノコに仕掛けたのはー はじめてっすー」

女「二度と来客に仕掛けないでください! 寿命が縮みます!」

男「えー? 必要なんだよー 勘弁してー」

女「……それで、ここはどこなんですか?」

男「? もちろんー おれの へやだけどー?」

女「」

男「昨日も きたよねー?」

女「お、男さんの、部屋?」

男「そーだよー 2階までー 二人運ぶのはー 大変そうだったしー」

女「…気絶した女性を二人… 部屋に…」

男「? なんかー 問題あったかなー?」

女「自覚が無いほうがいっそ問題です!」

男「?」


女「店長! 店長、おきてください!」ユッサユッサ、バシンバシン

店長「う。 うーん」グラグラ

女「~~っ 店長! 男さんの部屋で、いつまでそんな はしたなく寝てるんですか!」

店長「え、え!?」ガバッ

男「あ。おはよーござーあっす」ニッコリ

店長「あうぇdrftgyふじこlp;@!? さ、さ、さ、殺人鬼ーーー!!!!」ズザザザザザ

男「……もう一度ー 説明 しなきゃー だめっすかねー」

女「……」ハァ


・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


その夜


男「あらためてー 入居こんしんかい? を するっすよー!」

女「改めるより、過去に遡ってやりなおしたいです…」

店長「あ、ああ。同感だな」

男「いろいろー すんませんっしたー… じゃあ かんぱーい」

女・店長「「かんぱーい……」」

カチーン

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


30分後

店長「ひゃはははっ! すっげーこわかったしなー!!」ヒャハハ!

男「うあー もー のまんにー」

店長「おー? およこー ほーげん でてるぞー?」

男「ああ? そんなん きにしらんな!」

女「二人とも…ハイペースの割に、弱いんですね、お酒…」

男「うあー。つまみ揃えすぎたー 腹くっちー」

女「…え、えっと。 すみません、理解困難なイントネーションの言語になってますけど…?」

店長「あー 女は しやないんだぁー。男くんは 酔うと 方言丸出しなんだよなー」ケラケラ


女「男さんって東京の育ちじゃないんですか?」

男「おれー、高校で東京来たかんね 言葉、矯正してっだ」

店長「関東近辺を全部“東京”っていってた頃の男くんが懐かしいね! 今もみたいだけど!」ヒャハハ

男「……なんもだ。なまってねべした」

店長「そこまで方言でてて どこが訛ってないんだよ!」ヒャハハ

女「どこの言葉ですか? 基本的には聞き取れるんですけど…所々わからないくらい?」

店長「普通の言葉も、微妙にイントネーションがずれるんだよなー」

男「そか? まあ 福島の中のほうだっけ、そんな訛りキツくないべした」

店長「うつくしま、ふくしまー!」ケラケラケラ

女「な、なんですか それ? 駄洒落?」

男「県のキャッチコピー。あんま言わんなや、それ」


店長「微妙に端々が理解できないって程度の、なんとも田舎になりきれない方言!」

男「うちのばっぱとかー 言葉90%以上わっかんにーかんね。おれらの世代とか標準語におもえっくらいにマシだべした」

女(~だべ、なら まあこっちでも使うしわかるけど… ~だべした ってなんだろう……)

店長「わたしはー 生まれも育ちも東京・千代田区 飯田橋!」

女「お店の所在地と同じですね」

店長「元・実家だからね! “後楽園遊園地で僕と握手“しまくって育ったな!」

女「後楽園…特撮ヒーローとかのイベントがあるんでしたっけ??」

店長「んー ライダーもあるけど、まあよく見に行ったのはスーパー戦隊系かにゃー?」

男「おっま、うちんとこなんか、そんなん来た記憶ないっつの」

店長「フラダンスんとこで ファイヤーショーとか見慣れてるほうがすごいけどな」ハッハッハ!

男「いやでもー 最近じゃー、♪○ッオーン が 一番の若者の遊び場らしーかんねー」ハハハ


女「…ずいぶん酔ってます? 男さん…」

店長「男くんは、酔わないと方言でないからね! これだけ出てるって事は相当酔ってるよ!」

男「酒のんでっときまで んーなん気にしっちくね?」

女「…あの! 男さんにいろいろ聞いてみてもいいですか!?」

男「んあ? んーなん断るようなことじゃないしょや、言ってみー?」


女「なんで、標準語に矯正しなかったんですか?」ズバ


店長「おお…切り込み隊長がいる!」ハハハハハ!

男「……普段、標準語だべした 俺」

女「いえ、いわゆるギャル男しゃべりっぽいというか… しかもスローペースというか…」

男「あー。遅いのは 考えながらしゃべってっかんねー それはしゃーねーべ?」


店長「男はなー 高校の時に、やっぱり言葉で悩む友人と一緒にこっちの言葉を覚えたらしいぞー」

女「へえ。地方出身の仲間ってやつですか? ちょっとした美談じゃないですか」

店長「いや、そうでもないんだ、これが」ケラケラケラ

女「? その友人さんは、どこの出身なんですか?」

男「……茅ヶ崎」

女「……え?」

男「茅ヶ崎。サザンオールスターズの故郷。神奈川県。江ノ島、湘南と続いて有名な、茅ヶ崎」

女「あ、単語でしゃべってもらえると、わりと言葉は普通なんですね、男さん」

男「どーでもいーとこ つっこまんな!」

店長「話が進まないから、私が替わりに話そう」フフフ

男「」ブスッ

女「あ…じゃあ、お願いします」


店長「友達は茅ヶ崎の子らしいんだけど、引越しでコッチくる時に、典型的な高校デビューを目指したらしくてな」クスクス

女「は、はあ… 高校デビュー、ですか?」

店長「かいつまんで言うと、悩んだ末に 湘南のイキがったヤツらのノリを参考にして、随分偏った言葉遣いを選んで使ってたらしい」

女「な、何に悩んでたんでしょう? 茅ヶ崎とか、特に方言もないし、普通でいいとおもうんですが…」

店長「悩みは暗い喋りだったそうだぞ。 単に、話術みたいなのがほしかったんだろうな」ケラケラ

女「…喋りを洗練させたい、って意味で共通したものの 似て非なる悩みだった、と…」

男「しゃーないべ。あっ頃はだって、東京っつったら 軽くて陽気でおっかい街と思ってたんだ。郷に入っては、っていうしょや」

女「でもあの普段のあの喋り方は 東京のイメージっていうか、神奈川とか千葉あたりのイメージに近いんじゃないでしょうか?」

店長「私もそう思う。ハハハ、でもほら、男にとって関東近辺はみんな“東京”だったからな!」

男「あーあー もう うっせ! この話はここでおわっかんね! 酔いもさめるべや!」


女「す、すみません。馬鹿にしたりしてないですよ!? いいです、方言で! 大丈夫ですよ!」

男「あー。でも、なんかー いまさらー 地元の言葉で喋るのもー… いや、福島のことはー 大好きなんっすけどー」

男「こっちのしゃべりもー すこし 癖になってるしなー」

女「じゃあ 普段は いままでどおりでいいですから…」

女「私たちと一緒の時は。方言でもいいですから、ラクに…普通にしてください」ニコ

男「……」

男「……まあー 善処、してみるー」フイ

女「はい!」ニコニコ

女「じゃあ、話を変えましょうか! せっかくなので、昔の男さんの話とか 人形制作の話とか聞きたいです!」


男「んー? おれー?」

女「人形制作…あれだけ大きいの、作った後どうしてるんですか? その…つ、つかう、とか?」

店長「男くん! そんなもんにいまから頼ってるのか!?」

男「ちがうっすよー!? あれはー、販売してるっすー!」

女「本職は、そっちなんですか?」

男「あー いや… 収入は店長のとことー、同程度だしー・・・本職ってわけでも・・・」

女「兼業ってやつですか」

男「んー… ただー どっちもー 趣味の範囲を 出てねってとこだしょや…」

店長「趣味の範囲? 本職にすればよかったのに。ニッチな技術職だろう」

男「…いろんな仕事― してきたっすよー」ハハ


男「どうせー、趣味を仕事になんかー できないっておもってたし… 諦めてたっすからねー」

男「どんな仕事でもいいならー そんなん星の数ほどー、腐るほどー…」

男「掃いて捨てるほど あるって おもってたかんね」ボソ

女「あ…私にも… 『星の数ほど仕事なんかある』って…言ってましたね…」

男「ん。ごめんなー 励ますとかー そんなエライことー いえてたわけじゃ ないんだー」

女「……」

男「ただー お金になればー… うん。 なんでも よかったんだー、俺」

男「だからー けっこうー いろいろ てんてんとー やってたかなー」

店長「確かに 男くんはいろいろ何やってもできたな。そういう経験からだったんだな」

男「でもー、てんちょーはー そんなおれでもー 必要としてくれたからー…」

店長「ああ。ずいぶん長いこと居てくれてる。助かってるよ」

男「……そっすねー いままでじゃ ダントツの長さっすねー」


店長「まぁ… 正直 店、再開できるか…… わからないけどな」

男「…………」

女「わ。私は…助けられましたよ? 男さんに」

男「…おれー?」

女「慰めるつもりじゃなかったのかもしれないですけど… 天体観測したあの日」

男「あー 花火しにー ガッコ いったときー?」

女「はい。あの日…なんか 軽くって、ちょっと抜けてるような男さんの態度みてて…」

女「いろいろ悩みすぎて、いっつも卑屈になってる自分がばかばかしく思えて」

女「日の下にでれない私でも、暗いトコでも 明るく居れるのかなーって思えて」

女「…お星様をみつけたような、気がしていました」

店長「ほ、ほし!?」


女「は、はずかしいけど! 夜でも、星空って明るいじゃないですか!」

店長「…おまえ、よくそんな恥ずかしいことを…」

女「う、うううううう」

男「星…」

男「いや… 星なんかじゃ、ないっすよー おれ…」

男「どっちかっつーと… でこぼこでー なんとなく浮いてー、地球のまわり 引っ張られてまわってるだけのー 月?」

店長「うむ! 星よりは月のほうがきれいだな!」

男「きいたことあるっすよー。月って じぶんじゃ 光ってないらしいっすねー」

女「あ、はい。あれは太陽の光を反射することで、あそこまで明るく輝くものですね。月だけじゃ光れないんです」

店長「お、おい」

女「あ」


男「はは… やっぱー おれは 月っすかねー」

店長「……」

女「……わ、わたしは! 月も好きですよ!」

男「ははー。ありがとーなー 女―」

店長「月でも いいじゃないか」

男「そっすねー。 すくなくともー あの店で くさってるようなことはー なかったっすからー…」

男「あそこで、ようやくー・・・ クズじゃなくて月になれたっすよー」

店長「男くんは、もともとクズなんかじゃ…」

男「事実っすー。 そっすね、太陽っていう てんちょーの おかげっすよー」

店長「いや。私が助けられたんだぞ? あの店があったのは男くんのおかげだからな」

女「助けられた?」


店長「ああ。実は私はあの店の2代目店長でな、転職して今に至るんだ」

女「そういえば実家っていってましたね? 前職は別の仕事だったんですか?」

店長「うむ。だがそっちは 退職してな」

女「あー… なにかご両親が続けられないわけでも?」

店長「万引きに悩まされてな。閉店に追い詰められてた」

女「そ、そんなにひどい万引きだったんですか?」

男「個人店にとってー 万引きって かなりー ダメージ でかいんだよー」

店長「うむ。それで私が経営をかわって、警察の警邏もふやしてもらったり、カメラ設置したり」

女「すごいですね、店長」

店長「…だが、まあ。監視を厳しくして、主犯格は捕まえたんだけどな。恨みをかって嫌がらせされた」

男「……」

女「……いやがらせって…?」


店長「客や店員に絡まれるようになってな。客も減ったが、まず店員がいつかなくなって 接客に無理が出て…負の循環だよ、あとは」

女「そんな…」

店長「まあでも そんなときに男くんがきてくれてから、嫌がらせもなくなったんだ。感謝してるよ」

男「てんちょーと おれでー、2人だけだったっすからねー 最初―」

店長「ああ。まあ なんだかんだで軌道にのってきたのに…、うっかり女みたいなカスを雇って…」

女「カスだのクズだの馬鹿だの、もうやめてくださいよー!!」

店長「事実だから仕方ないだろ!?」

男「まーまー ふたりともー けんかはやめるっすよー」

女「~~っ うぅ。 それで…男さん、嫌がらせの解決って…何をどうしたんですか?」

店長「男くんは、嫌がらせの主犯格と ひたすら だべってた」

女「……は?」


男「客も居なかったしー 時間はあったしー やることもないしー…」

店長「いや、あれは明らかに故意の懐柔だっただろ、男くん」

男「んー? まあー 昔のことなんでー いいじゃないっすかー」

店長「うむ…すまんな、男くん」

男「なにがっすかー?」

店長「せっかく 守ってもらったのに…私のせいであの店を駄目にしてしまったな」

男「あー…」

女「が、がんばって再開しましょうよ! リフォームすれば平気ですって!」

店長「いや…正直 利益率とかそれほど高くなかったしな。リフォーム代を借金して同じ店を出しても、採算が合わないとは思うんだ」


女「で、でも…一度は建て直した店なんですよね!?」

店長「前職で かせいだ給料を、だいぶ充当したからな」

女「そ…そうなんですか?」

店長「そういうのでプラスからのスタートをきっても、あの調子だったんだ」

店長「マイナスからのスタート…さすがに、厳しいと思う」

男「……」

女「……」

店長「…済まないな、二人とも。気弱なことを言ってるようだが、こういうのはシビアに割り切って考えんと…」

男「店長」


店長「……なんだ 男くん」

男「店長きめました。 付き合ってください」

店長「……は!?」

女「なんでこのタイミングで告白!?」

男「え? あー、 ちがうっす! そうじゃなくてっすねー!」

男「店、テナントとして貸してください。店長の腕、貸してください」ペコリ


店長「……どういうことだ?」

男「ドール売り。ちゃんと、やりたいです… 手伝ってほしいです」

男「店と 店長の腕が空いてるなら… 俺に 付き合ってもらえませんか」

女「すこしイントネーション訛ってるけど、きっちり硬く喋れば普通に喋れるんですね…男さん…」

店長「女、ちゃかすな」

女「す、すみません」


男「恩を、かえしたいのもあるけど。もっと、ちゃんとしたい…です」

男「店長みたいに いつかは自分で輝けるように、なりたいんです おねがいします」

店長「……店、やったとして…収入源は?」

男「ドール製作と、その販売でやります」

店長「詳しく話せ。ドールっていうのは どういうもので いくらくらいのものなんだ」

男「フィギュアから リアルドールまでなんでもありますけど…」

店長「だいたいでもいい、売り物を言ってみろ」

男「…安いものは1000円以内のフィギュア、高いものは50万程度のラブドールです。7万~からマネキンもいけます」

店長「どうやって売るつもりだ?」

男「ショールームみたいにして…並べて、ネットで宣伝出して」

男「受注販売と平行して 展示販売…ですかね」

店長「……駄目だな。まず、売れるとも思えない」

男「……」


女「な、なんでですか!?」

店長「取り扱いの範囲にある、モノがモノだ。メインの収入源にもなるもの…」

女「ラブドール…ですか?」

店長「それが欲しくて、顔を晒して足を運ぶ客なんて居るのか?」

女「…あ」

男「……そのとおりっす。業界でも、大手は社内に展示場を持ってるとこはあるけど…」

店長「だろうな。個人の店なんかじゃ厳しいと思うぞ。場所だって表通りではないが…向いてない」

男「でも、ネットじゃ…写真じゃ、その精密さとかは うまくつたわらないんです…」

男「なるべくなら、現物をみてもらいたいんです!」

店長「…見てもらったら、買ってもらえる自信があると?」

男「はいっ!」


店長「……わかった」

男「そ、それじゃあ…!」

店長「私が、売る」

男「え」

女「えええ!?」

店長「これはまだ、今うかんだだけの草案だが。リアルドールのいる食事屋さん、ってどうだ」

女「なんですかそれ!?」

店長「食事を提供するんだ。 リアルドールをみながらの喫茶スペースだ」

女「…いや、気持ち悪いですよ。食事とあわせちゃいけないベスト3ですよ…」

男「食事なんてー… 作れるっすかねー?」

店長「メインは人形販売だ。あくまで入りやすくするための 仮面としての飲食店だ」

女「つまり、軽食に限っちゃってもいいってことですか?」


店長「朝メニューは、粗塩おにぎりの御茶漬けセット。昼メニューは、パスタサラダとジンジャーエールセット。夜は缶ビールと焼き魚セット」

男「み、店の商品っすねー、完全にー…」

女「い、いやいや…さすがにそれは…」

店長「まあ、食事はおいおい 余裕ができたらもうすこし揃えてもいいかもしれんが」

女「…ああ…とりあえずって、ことですかね」

男「……食事場にしてしまってー 人形がー 汚されるのはー 勘弁してほしいっすー」

店長「もちろんだ。メニューに汁物などはさけ、グラスでのドリンクも取り扱わない」

店長「さらに、食事のとれるテーブルと 人形のある場所をわければいい」

店長「アンティークっぽく装ったかんじとかもいいかもな、まあレイアウトは悩むところだ」

店長「それでまあ 気に入ったら買取もOK。注文も受け付ける」


女「…誰がくるんです そんな気持ち悪いお店に…」

男「そうっす! 飾るって言ってもー、リアルドールもあるっすけどー、ラブドールもあるっすよー!?」

店長「日本なら なんとかなんじゃないか?」

男「えー…」

女「実際にやったら…“海外の反応まとめ”とかに載っちゃいそうな予感もしますよ、そんな店…」

男「なにー? それー」

女「なんでもないです…」


店長「まあ、どっちみちボロな店舗だ、うまく形をそろえよう」

店長「男は 人形の製作に専念しろ。そうでなければ収入の上限を叩けない」

男「…それはー… 確かに、集中できれば嬉しいっすけど…」


店長「女は 接客。私は 金銭管理と経営、食事類の用意をしよう」

男「?! てんちょー、女は…」

女「や、やります! やらせてください! 男さんのお店の手伝い!」

男「だぼ! 給料だって、まともに出せるか わがんねよ!?」

女「無給のバイトより、下がることなんてないです!!」

男「たしかにー」

店長「…まあ 今のは草案だ。実際には法手続きやなんかもある、時間をくれ」

男「てんちょー… ほんとに、いいんすかー?」

店長「建て直してもらった恩をかえしたい。受け取れ、久々に腕が鳴る」ニヤ

女「………(なんだか…私、おまけのポジションに…なってしまいましたね)」

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・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・

・・・・
オープン当日 ガラガラな店内の“人形喫茶”

女「……」

店長「……」

女「ヒト きませんね」

店長「……さすがに “人形喫茶”は まずかったかな」

女「どこか…日陰でよければ 呼び込みしましょうか?」

店長「うむ… あ、そうだ」

店長「カタカタカタカタカタカタカタカタ」

女「?」


プリンタ「ウィーン」

店長「コンビニいってくる 留守番してろ」

女「あ、はい…」

・・・・・・・・・20分後

店長「おい、女。これ、裁断手伝え」

女「…? チラシ? あ、クーポン?」

店長「そんなもんじゃない」ザックザック

女「『新規開店・人形喫茶 メニュー:お茶漬けセット150円 サラダパスタセット450円 焼き魚セット500円。インスタント味を補うだけの 刺激的な店構えをご賞味ください』」

店長「“謎チラシ”だ」


女「謎すぎますよ!? なんですかコレ!?」

店長「いいんだよ、とりあえずインパクト重視で 1人でも2人でも はいれば」

女「…これ、どこで配れっていうんですか…駅前とかキツいですよ…」

店長「おまえ、“すぐそこ”の大学の出身だったよな」

女「…ま、まさか」

店長「おう。いってこい。大学にはビラ配りの連絡しといてやっから。売店とか食堂とか、屋内を頼んどいてやるよ」

女「!?!? 母校で、ラブドール屋のビラ配り!?」

店長「がんばれ!」

女「いやあああああああ!?」

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・・・・・・・
・・・・

半年とすこし後 まばらな客足の人形喫茶


女「あの時はさすがに泣きました…」フゥ

男「あそこの大学でー… そんなビラー 配ってたのかー。 泣くなー…」

店長「卒業生が、近くで“雑貨屋兼飲食店“を開いたので、チラシを数枚配らせて欲しいといったら、意外と許可をあっさりだしてくれてな」

女「後輩に見つかるんじゃないかとヒヤヒヤしました…」

男(売ってるもんが売ってるもんなんでー そんな呼び込みさせるのはセクハラだべした…)


店長「まあでもこの半年。安く、空いてる店舗でとりあえず食事をとれるし、なんか“変な店”でおもしろいってんで 結構学生があつまるようになったからな」

男「コンビニで食うのとー かわんないのになー?」

女「それでも 学校じゃないとこで食べたいときってありますよね」

男「そんなもんかー」


女「サークルメンバーとかから 他校にうわさが広まって 隠れ家的な存在になって…」

店長「まあでも、そこそこ混みだしてから 人形の配置が難しくなって人数制限して」

女「客足が、遠のいちゃったんですよね…また寂しい店内、です」フム

男「…そうっすねー」

女「ひまですね・・・」ガタ、ガッタ

店長「はぁ… とりあえず こまかなフィギュアとかがポツポツ売れてたおかげで ぎりぎり採算を保てていたが…」

女「お客さんも ポツポツはいってますけど、ちょっと寂しいですね」ゴソゴソ

店長「…やり方をすこし改めないといかんな。考えてみる」

男「…おれは、何か商品に売れそうなものが無いか考えてみるっす。じゃぁ…」

店長「ああ! またな、男くん」

女「おつかれさまでしたー!」グッグッ


店長「……」カリカリ

女「よいしょっと…」ガタガタ

店長「……」カリカリ

女「うううう…」グググ…

店長「あー くそ! 販促どうしようかな!」

女「あのー・・・私にもなにか手伝えることあったら いってくださいね?」モゾモゾ

店長「え… 無理無理、おまえじゃーなー…」

女「…そう、ですよね…。でも…接客だけじゃなくて…なにか、もっとお役に立ちたいので…」ガタガタ


店長「…ところで おまえ、何してんださっきから…」

女「いや…なんかあまりにも寂しい店内だったんで…遊び心を…」ゴト

店長「遊び心って、おまえ…それ…」


女「テーブル、綺麗にふきあげましたから 大丈夫ですよ。下もマットひきましたし」

店長「だからって! なんで客席に ラブドール座らせてんだよ!」

女「お客さんみたいで、なんか店が華やぐかなーっと」アハハ

店長「ヘタにリアルな分、怖いっつの!!」

女「あ、ティーカップとか置いて見ましょうか。背もたれにバッグとか、手元にケータイとか」ゴソゴソ

店長「ひっ・・・」

女「…ラブドール…見た目がリアルで可愛らしいだけあって、こうすると恐怖ですね…」

店長「おま、恐怖とか演出してんじゃねえよ! 誰か来る前に早く――!」


カララン♪

客1「2名はいれますかー」

店長「このタイミングでくるかよ…」


女「い、いらっしゃいませ!」

客2「お、みてみて。あそこ…かわいい子いるじゃん」ヒソヒソ

客1「ここに客でオンナノコいるとか珍しくね…」ヒソヒソ

店長「お、おい女! こっち、はやく片付けろ!」

女「は、はい!」

客2「え? なに?」

女「よいしょっと…」ガタン ゴトッ  

客1「えっ」

女「よいしょ…よいしょ…」トテ…トテ…トテ…

ドール「」 ←運ばれてる間、目線が客と合っている

客1・2「「………!」」

女「あ…お好きなお席へどうぞ? すみません、ちょっと今 これはその…店内レイアウトの一部で…」

客1・2「「……あwせdrdrftgyふじじょkpl@;!?!?」」

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・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
その夜 男のアパート 女の部屋(3人の集会室)


店長「女・・・店内レイアウト、やってみるか?」

女「私がレイアウト…ですか…?」キョトン

店長「人形の服の調達とポージングとかと、テーブル上や壁の小物飾りとか」

女「…どうやればいいんです?」

店長「人形のイメージにあわせて。くどくならないように部屋の模様替えをする感じだな」

男「オンナノコらしい人形やー、かわいらしいのやー 色っぽいの、セクシーなのとー いろいろあるっすよー?」

店長「じゃあ、店内を四方でレイアウトをかえて配置してみようか…」

店長「壁で区切っては居ないが、4部屋つくってそこの部屋の模様替えを毎週する、ってかんじだな」


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

さらに、半年後 男のアパート 女の部屋


女「まあ、最初は大パニックになりましたけど…」

店長「ああ、まあ あれが予想以上にウケてよかったな」

男「客に扮したリアルドールにー、店員に扮したラブドールっすねー…」

女「店長が、レイアウトを まかせてくれたおかげです」

男「そうっすねー おれも さいしょはー これは無いだろーっておもってたけどー。 まさか、大当たりとは…」

女「あの時は、見直しちゃいました。前の店舗では、なんかいまいち冴えなかったような気がしてましたけど・・・」

店長「む?」

男「てんちょーはー まあ優秀な人っすからねー」

女「・・・そうなんですか?」


男「もともとー、販売系の営業をー やってたっすよねー?」

店長「うむ」

女「そうなんですか!? 前職はサラリーマン!?」

男「そーなんだよー 結構― ヤリ手だったらしいしー。 会社の名前もー すごくー 有名なところだしー」

店長「昔の話だけどな」

女「あの・・・今の話 本当なんですか?」

店長「おまえ本当に失礼なやつだよな。本当だぞ。っていってもメーカー商社だからなー」

女「メーカー商社?」

店長「作られたものを企業相手に売る・・って感じの仕事だ。一般知名度がそんなに高いわけでは…」

女「へえ・・・あ、よく派遣とか募集してるトコ…ってイメージで、合ってますか?」

店長「ああ、営業のアシスタントなんかは派遣もおおかったな。あと、事務とか」


女「そういうところの正社員かー。お給料とかも高いんでしょうねえ」

店長「30歳で 年収600だったかな」

女「ろ、ろろろろろ ろっぴゃくまん!?」

店長「ふふん」

男「ボーナスはー 不況のあおりでー ひくかったらしいっすよー」

女「ボーナス低くてその額!? 基本給が高いんですか!? そんなに高いんですか、正社員って!」

男「いやいやー 女のヒトでー その年齢でーって。かなりー 高給っすよねー」

店長「ま、あの年は特に残業や出張も多かったからな。手当てが色よくついたのだ」

女「す、すごい・・・私の過去の最高年収なんて・・・」

店長「・・・・どれくらいだ?」ニヤニヤ

女「うう…」


店長「・・・しかしまあ、女だからな。いろいろと、しがらみもあった。その給与は 男に負けないようにいろいろ割り捨ててきた結果だ。もらっても おかしくないだけの仕事をした」

女「店長」

店長「ほんと、それくらいもらってなかったら やってやれなかったろうな。つかもっと貰ってもいいくらいだ!」

女「そんな社会人生活を…。それで、そんなに男前な性格になったんですね・・・」ホロリ

店長「この性格はもとからだっ この馬鹿女!!!」

女「す、すみませんっ!?」


男「ま、まあー ともかくー 経営1年目とー、店長の英断にー カンパイ、するっすよー」

女「まさか店内の改装にちかいレイアウトまで 私にまかせてくれるとは…ありがとう、ございました!」

店長「適材適所だな。私にはそういうのは向いてない」

男「だんだんー 客足、増えてきたっすもんねー」

店長「ああ。だがまだまだこれからだ!」

女「がんばりましょうね!」

男「おーっす」

「「「カンパイ!」」」 

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・・・・・・・・・
・・・・・

さらに 1年後 

男「…もうー 開店から 2年っすかー…」


カララン…♪

女「いらっしゃいませー! …あ、男さん!」

店長「ああ、男くん。おつかれ」

男「…新しい人形―、できたんでー 上げにきたっすー」

ワイワイ…
ガヤガヤ…

男「…くるたびにー 人がこんだけいるのみるとー おどろくっすよー」


女「ですね…・まさか大学生の御用達になるとは 私も思いませんでした」

店長「うむ。最初のオープン当事は閑古鳥で覚悟したけどな。シャクだが、これは女の手柄だな」

女「えへへ。そんなこと、ないです。店長の経営や人使いがうまいんですよぉ」

男「女にー まさか こんな才能があるとはー おもわなかったっすねー」

女「店内に、本物のヒトのようにして人形をおくようになったら 今度は芸大や美大の学生が集まるようになって…スケッチしたり 観察したり」

男「もはや 黙々とエンピツや木炭をこすり付ける謎の空間に」

店長「写真撮影はお断りだけど、絵については公開自由だからな。結果、宣伝にもなった」

女「デッサン教室とかの貸切とかも増えましたねー」

店長「あれはいい金になる。やはり資金が潤沢であれば、何かと経営は楽だからな」


男「商品もー 20cmくらいの ラブドール風デッサン人形がー 飛ぶように 売れたっすー」

店長「明らかに間違った…フェチズムに駆られた購入者もいたように見えたがな」

男「ラブドールのー 縮小版なんでー 正しいっすよー」

女「・・・あはは」

男「意外だったのはー、アレっすよねー」

店長「む? 男性モデルver.のデッサン人形か?」

男「ネット販売のほうでー かなりの注文 はいってたすよー」

女「へえ…そうだったんですか?」

男「つくるのがー 数多くて キツかったんでー 途中から値上げしてー」

店長「ああ。それでも売れたからな。すごかったな、あれは」」

女(男さんのつくる男性人形… 同性なだけあって、細部のリアリティがすごいんですよね…)


店長「まあ あれのおかげで 店もかなり黒字になって。借金もまぁ最小限にしておいたおかげですでに0だし、私たちの収入もずいぶん落ち着いてきたからな」

女「そうですね! 男さんの商品、価格の低いものは 店頭でもポチポチ売れてます! すごいです!」

男「女だってー すごいよー」

女「?」

店長「まぁな。この、4方向の壁を対角線を中心に区切って、部屋を広く見せた壁紙とか…持込材料の写真撮影にこの背景を使わせてほしいって人、この1年で何回か来てたからな」

女「えへへ…でも、レイアウトに関しては 最初の時、はりきりすぎて大失敗しましたけどね…」

男「あー… もう いいっすよー、あれはー。 きにしないほうがいいっすよー」

店長「クックック… まさか新品のラブドールに 缶ビールぶっかけるとはな」

女「…レイアウトに懲りすぎて。店内の動線の確保に、目が回ってなかったんです…基本のはずなのに…」

店長「あの時は忙しかったからな。接客中のミスだ。まあずいぶん凹んでたが」

男「大泣きしながらー、何時間も 人形をふきあげてー…。しまいには 抱きついたままー 離さなかったっすからねー」

女「しばらく、店員が人形に呪われたって 噂になっちゃってましたね//」


店長「5日ほど使い物にならなかったな、おまえ」クックック

女「す、すみません…新品の、っていうか 男さんが仕上げた人形を駄目にしたかと思ったら、パニックになっちゃって…」

男「……そっかー」

店長「アレ以来、反省したのか すこしは素直になったからな! まあ弁済費用は先行投資とおもえばいいだろう!」

男「レイアウト専用としてー 店内にー 普通に 飾ってるっすからねー」

女「あはは・・・」


女(あの時…二人とも、真剣に慰めてくれて… 嬉しかったな)

女(すごく まじめな話をして… ああいうの、初めてだったし。なんだか、緊張もしたけど…)クス

~~~~~~~~~~~~~

支援

た、たまたまスレ開いたら男性人形って書いてあっただけなんだからねっ

>>154 ありがと
>>155 あ、ありがと…?

↓から投下します

・・・
・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・

回想 

男のアパート 店長の部屋


男「……ほらー おんなー? げんきだしてー のめよー」

店長「いつまでもクヨクヨしてると 不細工がさらに不細工になるぞ」

女「はい… 本当に、すみませんでした…」ドヨン

店長「まあ、反省はして欲しいが、そう落ち込むな。何、47万の新作ドールが一体だ。ええと、給与の何月分だ?」

女「……お金は…ちゃんと支払います…でも、そうじゃなくてっ」グスグス

男「…てんちょー」

店長「う? ううむ…調子狂うな。 女も、ケンカは買えよ。せっかく安売りしてやるのに、まったく」

女「う、うぅ・・すみ、すみません…」グスッ、グスグス


男「ほらー 女ー 空、見てみろよー? 女の好きなお星様―、いっぱいだぞー?」

店長「そうだぞ、ほら 男くんのような月もでてるぞ。む? なにやら今日の月は ふてぶてしいな」

男「どんな月っすかー、それー。 ……あ、ほんとだー…」

店長「だろう? いかにも、当然のように主張してる感のある月だ」

男「あんな月だとー 例えられるのー ちょっとイヤっすよー」

女「…ふふっ」

男「お わらったっすねー」

店長「泣き顔よりかは2%ほど ウザさがマシだ」


女「……すみませんでした。えへへ、昔も 男さんになぐさめてもらいましたねっ」

店長「あー なんか聞いた気がするな その話」

男「……星の数ほどー 仕事はあるってやつっすねー。黒歴史っすよー」トオイメ

店長「男くんの口から出る言葉にしては 珍しいな」

男「正直― あのころはー いろいろ ふてくされてましたからー」

店長「ははは。たしかに、あの頃は今とは違う ふてぶてしさがあったな、男くんには」

男「月とからめるのはー もう やめてほしいっすよー」

店長「すまん、すまん。しかし男くんも、ドールのほうが本職になってから すこし変わったよな」

男「そうっすかー?」

店長「うむ。 しゃべりは相変わらずだが “だらけた雰囲気”はずいぶん無くなった」

男「相変わらずっすよー、ドールはー 上手くーいかないこともー 多いっすー」」

店長「そうなのか? どれを見ても、感心しているがな」

男「うまくー 出来たのだけをー 上げてるっすからねー。失敗も 結構してるっすよー」


女「……わたしも」

男「んー?」

女「私も、なかなか うまくできないです。迷惑ばっかり…かけてます。がんばってるん、ですけどね」

店長「まあ確かに、レイアウトを任せても どうも凡ミスが目立つんだよな」

男「てんちょー? 女のテンションー、あげたいんすかー おとしたいんすかー?」

店長「す、すまん」

女「いえ、事実です。いまだに着せ替えや配置に 一体あたり3時間かかるようなことがザラですし」

店長「まあ 取り扱い要注意な商品だからな」

男「フルシリコンドールじゃないだけー、すこしマシなんっすよー、取り扱いー」

店長「そういうもんなのか?」


男「手作りでフルシリコンなんかー 値段、あがりすぎるっすー。無理っすよー。まず 製作環境から作りきれないっすね…」

店長「よくわかってないのだが、工程の一部は 外部依頼してるんじゃなかったか?」

男「そうっすー 塩ビとかも、なかなかー 自宅じゃムリっすからー。組み上げや仕上げは― ココで やってるっすけどねー」

店長「作業場を見たことが無いので なんともいえんな」

男「相当に荒れてるっすー」

店長「そうなのか? 片付けなど、言えば手伝うぞ」

男「それならー 在庫部屋ー お願いしたいっすよー」

店長「ほう。そんなのもあったのか。2階の2部屋以外はドール関係に使ってるってことだな?」

男「そうっすー。塩ビのフィギュアパーツのせいでー、バラバラ殺人事件っすよー。 たまにー ドールの目玉とかー 落ちてるんでー。 うっかり踏むと、痛いっすー」

店長「絶対、行かない。つかどこの部屋だ、それ!」

男「店長の部屋のー 隣の部屋っすー」

女・店長「「ひっ 隣室!」」


男「部屋数を考えるとー 当然の 配置っすよー」

女「う、うう… 1階の部屋の全て、特に仕切りの先と床下には気をつけていましたが…」

店長「まさか、2階にも伏兵がいたとはな…」

男「いまさらー なにを 言ってるっすかー」

女「…でも、すごいですよね、やっぱり」

店長「ああ、殺人事件もどきの部屋とかはさすがに勘弁して欲しいな」

女「そ、そうじゃなくてですね」アセアセッ

男「?」

女「…得意なことがあって、いろいろ遠回りしてたとしても…ちゃんと、それが出来てて。男さんが、すごいです。正直、すこし羨ましいです…得意な仕事が、できることが」

男「あー…いや、得意なわけではー ないっす…けどねー。 まぁ、はじめてから長いからー…」

女「私なんて 就職浪人だし。バイトだし。それに、レイアウトも…まかせてもらったのに、こんなだし。相変わらず、接客では凡ミス続き。苦手でもやるしか、他になくて。負け組を、実感しちゃいます」

男「……負け組…っすか」


店長「…女」

女「はい?」

店長「…ヒトには、確かに得意なことや不得意なことがある」

女「そうですね… 私も、得意なことを見つけて、仕事にしたいですけど…」

店長「得意なことだからって それができるからいいとは限らないぞ。それから、不得意なのにそれをやらされることも多いのが社会だから、負け組とかいうな」

女「……?」

店長「一度与えられた仕事なら、向き不向きを問わず、長い期間 それをしなきゃならないなんて のも、ザラだ」

女「はい…」

店長「でもな。不得意なことをがんばらさせられるからって それが負け組なわけではない。得意なことを出来るからって勝ち組ではない」

女「……でも、得意な事を頑張って、得意なことが出来るほうが、いいじゃないですか?」


店長「…ある仕事をすんのに、得意なヒトがやって 8割の成功をするとするだろう?」

女「は、はい」

店長「不得意なヒトも、がんばれば8割成功できる。だが、そのためにかかる労力っていうのはイーブンじゃない」

女「そうですね。だから、得意な人が 得意な仕事をやるほうが…」

店長「これの違いってわかるか、女。 社会で働く際、 労力とは、つまりなんのことだ」

女「……え?」

男「…時間、っすね」

店長「正解だ。時間が、かかるんだ」

女「??」


店長「たとえばコレが個人店とか…あるいは出来高制とか、個別報酬なら、給料はまあ、両者で同じだな。仕事として単体ごとに決められた成功報酬だから」

店長「それならば、時間がかかればかかるだけ損をする。単純に客数を捌けないとかはもちろんだが、期限があって、納品できなかったりしたらマイナスでは済まない。ならば得意に越したことは無い、と思うだろう」

女「そう、ですね」

男「……てんちょー… そういう話はー 今は…」

女「え?」

店長「男くんは 察しがいいな。私の言いたいことがもうわかったのか」

男「女にー 言っても 仕方ないっすよー」

女「あ、あの?」

店長「いつか、他で仕事に就くこともあるだろう。知っていたって構わん」

男「……そうっす、けど…」


店長「女、話の続きだ。作業個別ではなく、月や年で基本給に縛られる場合はどうだと思う」

女「それでも、得意なら 早く仕事が済んで… いいんじゃないですか?」

男「……それは、ちがうっすよー 女―」

店長「男くんは 卒業後、会社員だった時期があったな。履歴書に書いてあった」

男「…3年と、すこしっすけどねー」

店長「月給制だったか?」

男「……そうっすー。…でもー もたずに やめたっすー」

女「? 不得意なお仕事だったんですか?」

男「………」

店長「いや、男くんのことだから。器用にいろいろ こなしたんだろう?」

男「……どう、なんっすかねー」

女「?? それなのに、もたなくてやめるって、どうしてです?」

店長「社会に出たことがないんだ、わからなくても仕方ないかもしれないがな」


店長「得意なヒトが1日で終わらせる仕事を、苦手なヒトは4日かけてやるとしたらどうなる?
普通のヒトは2日くらいで仕上げるとしようか」

女「えっと…苦手な人は、他の人が終わっても その人だけ何日も何日も、仕事が終わらなくて…つらい、です」

店長「それはない。仕事にはたいてい、期限が存在する。終わらないでは許されない。さっきもいっただろう、マイナスもいいところだからな。信用問題に関わる」

女「あ、そっか。ええと…そういう時は残業して、埋め合わせとかするんですよね?」

店長「残業して、一人で片付けてくれればいいがな」

男「……上司かー …出来る人がー 手伝ってやったり するっすよねー」

店長「そうだな。じゃあ、この場合 “出来る人” とは?」

女「えっと…仕事に余裕があって、手が空いてる人?」

店長「そんなヤツが居たら とっくに、まわしてるだろう」

男「能力的にー…、その仕事の“遅れを取り戻せるだけの処理“が、できる人っすー…。仕事量が、埋まってても…関係、ないっすー…」


店長「そうだ。 それが積みかさなっていくと… どうなるか、わかるか?」

男「………」

女「…え、えっと… みんな、忙しくなるってことですかね?」

店長「みんな、ではない。もちろん多少の影響はでるだろうが、普通に仕事をするヤツは、普通の仕事をするんだよ」

店長「会社員の多くは、月給制、あるいは年俸制。出来がよければボーナスや昇給の査定に反映されるが」

店長「得意なヒトは 時間内に200%以上の仕事量を詰め込まされても、普通の100%をやったヒトと同じ…定められた、基本給の範囲でしか 給料は払われない」

女「……で、でも。出来がよければ昇給するって、今…」

店長「2倍の仕事をするやつは、2倍の金がもらえるのか?」

女「……」

店長「……昇給するより、残業代を切られないほうが、よっぽど儲かるだろうな」


女「……出来ないヒトの、せいで… 出来るヒトが苦労するって、言いたいんですか…?」

男「…それは ちがうっすよー」

店長「正直 私自身は、会社員だった頃にそう思っていた」

男「……てんちょー」

店長「 “仕事遅いくせに、当たり前のことするだけで、残業代をつけてもらったりしてんなよ!”って思っていたな」

女「で、でもそれは その人の配置とか 仕事内容をどうにか代えてもらえば…」

店長「ああ、そうも思ってたな。“人事の採用担当の無能!”とか “人材配置考えろよ!”とか」

男「……どこにいってもー 何してもー。…すごくデキるやつと すごくデキないヤツって 出てくるっすよー」

女「え?」

店長「人事も、もちろん完全な目利きなどできん。雇った以上はどこかに置くし、伸ばしたいからな。無謀としか思えない配置をすることもあるが」


男「…デキないコトとかー 人事がー わるいんじゃ ないんっすよー」

店長「ああ。今は、知ってる。いや、それがわかった。そういうやつが…ちょっとしたきっかけで、急に動けるようになったとかもあるしな」チラ

女「……え? え?」

男「……一度 陥っちゃうと… そうそう抜けらんなくなるだけっすよー。 誰が悪いとかじゃ、ないんっすー…」

女「あ、あの???」

店長「ああ… わかるよ。そのとおりだ、男くん」

女「あの…すみません。何のことか、私にはさっぱり…」

店長「ああ、話がそれたな」

店長「仕事のできる人間ってのはな。“得意”な人間ってのは、それを“使われる”と ヒトでもなんでもないんだ。羨ましいようなもんじゃない、軽々しく言われてはたまらん。そう、言いたかった」

女「えっと… ”使われる”?」

男「……もう、いいっすよー」


店長「仕事が出来るヤツ…“得意”なヤツは、仕事量200%、いやそれ以上のまま、どんどん仕事を詰め込まされるんだ」

店長「同じ残業をさせるなら、要領よく使える駒のほうが 会社側だって利潤がいい」

店長「仕事の出来ないヤツの仕事を、適度に残して再分配してでもな」

店長「出来ないそいつは定時ちょっとすぎに帰らせて、出来るやつには責任を与えて、出来ないヤツの育成も結果も、面倒まるごと押し付ける」

女「で、でも 働けば… 残業なら、やっただけのお金が、もらえるんですよね?」

店長「…残業代なんて上限をきっちゃえばいいからな。サービス残業なんて、嫌味な言葉だよ」

店長「2段階定額制、実質使い放題。む。ケータイの料金プランのようだな」

店長「まあ、そんなのが “得意な仕事をしているヤツ“の正体だ。羨ましいか?」

女「……」

店長「得意なことをできるからって幸せとは限らない。“好きな仕事“なら、最高だけどな」


女「でも… 不得意なことしかできないより…選択肢は、ひろがります」

店長「どっちも、どっちだ。極端な例を言おうか?」

男「てんちょー。 またー 変なこと言うつもりじゃー…」

店長「女。 …おまえ、『被害者』と『加害者』、なるなら どっちになる」

男「……。 はぁ。 そんなんじゃー、ないっすよー… やめるっすよ、てんちょー」

店長「む? 表現がわるかったか? だが、それが私の印象なんだ」

男「……言いたいことはー わかるんっすけどー…」

女「…仕事を、詰め込まされて利用される『被害者』と… 出来ないせいで迷惑をかける『加害者』ってこと…ですか…」

男「……逆、なんっすよー。 逆が、起こりえるんっすー…」

女「え?」


店長「おまえさ。もし、実際 プライベートな時間が無いほど…、睡眠時間すらまともに確保できないほど。…へたすりゃ体調くずすほど 仕事詰め込まされたらどうする」

女「え? ええーと… ご、ごめんなさい。うまく、想像できなくて…」

店長「愚痴るだろ。まず」

女「え? あ、はい。そうですね。きっとそれくらいは普通に…言っちゃうと思います」

男「……そんな、些細な愚痴がー、“出来ないヒトのプレッシャー”に かわるんっすー」

女「え? だ、だって そんなの その人のせいじゃ…」

店長「やってた仕事、出来ないからって減量されて」

店長「明らかに忙しそうなヒトが、その仕事をやって、それで愚痴ってたら 負い目も感じるだろ」

女「……で、でも。それを、バネにして、仕事できるように努力すれば…」

店長「理想論だな。新人のうちとか、あるいは上司とかがそんな風に言ったりするが」


男「…仕事はー まぁ、店長や俺のやってたようなー 営業職でいえばっすけどー…」

男「……努力で出来るコトに、限りがあるっすよー…。ある意味でー、人格そのものとか… センスや運にも左右されるっすー」

店長「よく、営業は“愛想笑いしてればいい”とかいうけどな。頭回して、口を回して。手を代え品を代え、時には私的な話すらもネタにして」

店長「…才能なんて言葉は嫌いだけど。努力じゃ、口先の器用さってのは身につかないな」

男「てんちょー。 口先でー 営業してたっすかー?」

店長「失敬な。もちろん、知識は前提だ。だが知識とか計算力は努力で身につく」

男「あ、でもー 脳内計算のアバウトさってー ヒトによってー 結構 差 つくっすよねー」

店長「あ? ああ… まあ、ああいうのも センスなのかもな」

店長「数字に慣れてきても、突発的に出すような“お勉強価格”の概算とか、見積もりの甘さは致命的な差をつけるからな」


女「そ、そういうのって 書面とか電卓とか使って、しっかり出したら駄目なんですか?」

店長「もちろん、最終的にはそうするさ」

店長「だが金の話は 営業にとっては仕事の本質だ。その場である程度の数字を提示してくる営業と、“持ち帰って後日”という営業、どっちが話が盛り上がる?」

女「それは…確かに、服を買うときもタグを見ないことには悩みもできないですし…」

男「ある程度はー もちろんあらかじめー 調べてー 金額出してからー 話しにいくっすけどねー」

店長「だが先方は 予定外の注文分まで一緒に 金額にあたりをつけてくるからな」

女「そういうものですか?」

店長「相手にとって予定外のものでも、会話の中から必要性や需要を掘り出して 商品を提示して、購買意欲を沸かせる。それこそが営業の仕事だ」

男「まあー 中にはちょっとー 悪どい売り方するヒトもー いるっすけどねー」

店長「まあ、そんなんだからな。向き不向き、得意不得意も 割と差が出る」

男「…なかなかー その差を埋めるのは キツイんっすよねー…」


女「……出来ないヒトは…努力しても 出来ない…なんて。そんなこと…」

店長「まて、勘違いするな」

男「8割はー、努力で どうにでも埋まるっすー。仕事に差し支えないっすよ」

男「だからこそー 営業職はー 世の中にー 多いんっすよー」

店長「つぶしの効く職だしな。誰にでも出来るといわれたら それまでだ」

男「てんちょー」

店長「む。 さっきから脱線しすぎだな。 まあ、なんというかな」

店長「得意なやつが “頑張って”10割を叩き出せた仕事があるとして…、苦手なヤツが同じ仕事をした時に、いくら努力しても同じ10割なんて結果は出せないだろう、というだけだ」

女「……すみません なんだか、要領を得ないんです…。その話が どうやって 被害者と加害者の話になるんですか?」

男「…どっちも 被害者でも ましてや加害者なんかでも ないっすよー… 店長の、負い目ってだけっすー…」

店長「負い目って。 まあ…、そうかもしれんが…」


男「…てんちょー」

店長「ああ…。仕事いっぱいで、もう嫌で。私生活で不便が生じて軽減したくても、それだけの仕事を いまさら他に変われるような人は、“同類”だけで。代わったら、相手がもう限界を超える」

店長「そんな中で、仕事が出来ないやつは、自分より4時間も5時間も早く退社していく」

店長「”ああもう仕事とか氏ね“ ”俺も帰りたい“」

店長「そんな言葉が 段々と ではじめて…」

男「……そう言いでもしないと 矛先がないっだけっすよー。別に 誰かにいってる言葉じゃー ないんっすよー」

店長「……ありがとうな。でも、仕事に負い目を感じているヤツは それが自分に向けられてるように思うんだろうな」

男「……そういうヒトってー 大人しくてー イイヒトってのもー おおいっすからねー」

女「……出来ないことからのプレッシャーと、出来るヒトへの負い目で… 追い詰められていっちゃうって ことですか…」

店長「そうだ」


店長「そんな中で軋轢が生まれて、お互いにどっかゆがんだ感情が生まれたりする」

店長「追い詰められて、暴走じみた仕事をするやつ。会社を辞めてしまうやつ。卑屈になりすぎるやつ。…ケンカっぱやく なるやつとかな」

男「…些細なことでー 行き違いになったりしてー、何かと トラブルに繋がるようになるっすよー」

女「と、トラブルですか!?」

店長「ドタバタみたいに目に見えればいいがな。厄介なのは2つ。1つは水面下の静かなトラブルだ」

女「静かな…? どういうのですか?」

男「…あー 職場のー フインキのー、澱みっすねー」

店長「男くん、“雰囲気”な。 そういうの、気になるから。本当は仕事できなかったろう、男くん」

男「」

店長「…冗談だ。あー ええと、そう。社内環境の悪化は 割と痛恨だぞ」


女「も、もうひとつは なんですか?」

店長「…まあ 普通に追い詰められちゃうってヤツだな」

女「……?」

店長「鬱とか。自殺とか。そういうトコに追い詰められてたのかと思うと、さすがに加害者意識も沸くな」

男「……そんなのー おかしいっす」

店長「ああ。こっちだっていろいろ犠牲にして仕事してんだ。さらに加害者にされるとか、たまらんよ」

女「…出来ないヒトは さらにその弱さが、出来るヒトに負担をかける…?」

店長「む。そういう考えが、いかんのだ」

男「そうっす」

女「え だ、だって そういう流れじゃ…」


店長「悪いのは誰だ」

女「え、えっと… 仕事が苦手で がんばってもうまく出来なくて…目指したいヒトには追いつけなくて、それどころか迷惑かけちゃってる そんな私・・・」

男「・・・・・・」

女「…私、じゃなくて。仕事が 苦手な、ヒト…? あ、あれ?」

店長「ハタで聞いてると、おかしいんだけどな。負い目があると、つい自責の念に駆られるよな」クックック

男「仕事が不得意なヒトにー 感情移入しすぎっすよー 女―」

女「す…すみません。なんだか、まるで私のことを言われてるような気がしていました…」

店長「仕事が苦手だって 頑張って仕事して、ちゃんと割り当ててもらえれば、努力で6~8割は出せる。業務としては本来差し支えるレベルではない。そんなヤツのどこが悪いんだ?」

女「……そう、ですね。どこでしょう…」

男「悪くなんかー ないっすよー」

店長「そう 悪いのは 会社だ。そして会社とはヒトの集まりだ。企業同士の繋がりだ」

男「…すごくー おっきーモノっすねー」


店長「うむ。本来、こういった議論をすること自体おかしいのだ」

女「? なぜですか?」

店長「議論がなりたつ。つまり、問題に違和感を持ってるヒトと、意図はどうあれ問題を肯定しているヒトがいるということだ」

女「??」

男「こういう議論がー バカバカしくて 出来ないようにならないとー 解決しないってことっすねー」

店長「うむ」

女「えっと…?」

店長「あまりに大きな問題だ。それゆえに当然のことを見失う。そのせいで、一部の者たちが おかしな自責に囚われる」

店長「もともと、一人当たりに配分される仕事量が過剰すぎるんだよ、今の日本は」

店長「どこかであふれるように仕組まれてる! そんな仕事ばっかりだ!」ウガー!

男「てんちょー おさえてー」


店長「出来なきゃ減給、出来たら基本給、よくできたら昇給! 仕事が出来ないペナルティーは給料に反映、ただそうすりゃいいだけなのに!」

男「会社だってー 生き残るにはー 仕方ないっすよー。潰れたら それこそ最後っすー」

店長「悔しいが、そうなんだ…そうなんだよ!」

店長「会社のせいとは言ったが、会社とはヒトのあつまり。会社とは交易の積み重ね。じゃあ誰のせいか。私は答えを見つけたぞ!」

男「おー。もうー グチでおわるのはー やめたっすかー」

店長「そうだ! つまりそれは 欲のせいなんだ!」

女・男「欲?」

店長「ニーズともいうな。それがふんぞり返ってる。供給者が、需要に対して低姿勢すぎる!」

男(ってか前もー コレ聞いたっすねー。前と変わってないっすー)

男(デフレとインフレのー 長話になるパターンっすねー…)

女「…?」


店長「“よりいいものを” “もっと安く” “もっと早く” “誰よりも” “どこよりも”」

女「あ よくそういう広告ありますよねー。 そういうキャッチコピーに弱くて、思わず近づいちゃうんです、私」テレテレ

店長「あれが、世の中の仕事をキツくしてるんだぞ」

女「……え゛」

店長「そういうものばかり要求する消費者」

店長「ニーズに応えて、そういうものを提供しようとする小売業者」

店長「そこに突っ込んで、一儲けしたいメーカー」

店長「活性化したメーカーにすこしでも多くのモノを買ってほしい上・中流産業の企業や商社…と」

店長「欲が 欲を助長して 後に引けなくなっている」

女「えっと… じゃあ、安くて早いのを、やめればいいんじゃないですか?」

店長「メーカーの人間も商社の人間も、外に出れば消費者だぞ」

女「……仕事がいそがしければ “早いもの”を要求しちゃうってことですか」

店長「仕事もそうだ。安く提供するために、仕入れにも安さを要求する」


男「……あー。てんちょーってー ほんっとにー 仕事 いやだったんっすねー」

店長「何をいまさら! 男くんは知ってるだろう! だいっきらいだ! 仕事なんて!」ドーン

女「む、胸を張るようなことでは… それにしても意外に立派な…」

男「……おんなー?」

女「はっ!」ドキッ

店長「あ?」

女「な、なんでもないです!」


店長「…まあ、ともかく そういうループにいるうちはダメなんだ。1抜けしたやつが、馬鹿を見るからな」

女「……えっと、つまり 高い買い物をするのは 馬鹿ってことですか?」

男「…物を買うのにー ひとつひとつは そんなことないっすー。いいものを、本来の価格で買うのはー もっともなことっすよー」

男「でもー 企業単位で、それをすればー ファンはついてもー、全体のシェアは 弱まるっすー…」

店長「うむ。高価に相応しい、付加価値というのはなかなか難しいからな。だからこそ“安く早く“という手段に大勢が頼ってしまった結果だな」


女「……あの。それで…誰のせいでもない、みんなが意識をかえなきゃ 解決しないような問題で…どうして、店長さんは 加害者なんですか?」

店長「む」

男「女、それはー…」

店長「いい。もっともな質問だ。私の負い目だと、男くんも言ったが、そのとおりだからな」

女「?」

店長「私は得意な事をしてきた。そう。好きではないが、得意だった。仕事なんて、出来ないヤツらのほうがわからないと、馬鹿にしていた」

店長「得意なことをしているから、得意な気になっていたんだ、私は。仕事をこなせる人間だった」

女「……だめなんですか?」

店長「最初は、よかった」

男「てんちょ…


店長「女。おまえは知らないだろうが、私はバツイチだ」

女「は?」

店長「子供もいるぞ。今年でもう11歳だ」

女「・・・・・・うぇ!?」

男「……あー。てんちょーはー 仕事がらみでー 離縁されたっすー」

女「え ちょ ま」

店長「元々、やり手だったのでな。出産後、3ヶ月とせずに復職したんだ」

女「え、だ、で? あ、赤ちゃんは!?」

店長「保育所に入れた」

女「そんな小さいうちから、預かってくれるものなんですか…」

店長「施設にもよるがな」


店長「まぁ、最初はよかったんだが…子供が1歳になる頃からかな。落ち着いてきた、といったのをきっかけに 仕事量もかなり増えて…残業もチラホラとでてきて」

店長「保育所に、決められた時間に迎えにいくことが出来なくなった」

女「…え ど、どうするんですか、そういう時?」

店長「最初の何回かは、保育士の人に怒られつつも、すこしの遅刻を許してもらっていた」

店長「だが、まあ “どうしても帰れない”コトが連続して、ついに3時間ほども迎えにいけなくて」

店長「…まあ、いろいろ話し合いがあってな。保育所のほうから、退所を言い渡された」

男「置き去りとかー ネグレクトとかー そういう 変な事件とかもー あったっすからねー」

女「…それで、仕事をやめたんですか?」

店長「いや。仕事をやめたのは、旦那のほうだ。正直、給料が私のほうが高かったのでな」

女「……主夫、ですかー」

店長「ああ。それでようやく“安心して”仕事が出来る、と思っていたんだが…」


女「あ… もしかして さっきの話。仕事をやってもやっても詰め込まされた…?」

店長「うむ。日付の変わる前に家にも帰れない。終電逃してタクシーなんてのもザラでな」

男「女性にはー そういうのー あんまりしないと思うんっすけどねー」

店長「まあ、私は結婚前からこんなだったしな。女扱いされるのを拒んでいたし、元々ちょっとブラックなりかけ気味な会社だったし」

女「そ、それで…どうしたんですか?」

店長「うむ。母親として、やはり子供が気がかりで…仕事に対して、ひどく愚痴っぽくなっていたんだろうな」

店長「それで…下にいた、デキないタイプの後輩が、病んでな。あてつけのような私への遺書を残して、自殺未遂で緊急入院っていうのをやったんだよ」

店長「まあ、そいつは鬱の診断で、1年ほどの療養休暇の後に退職したんだが…まあその遺書もどきのせいで、いろいろあってな」

女「そんな…それで、加害者だって…思ってるんですか?」

店長「私がどう思おうと、あいつが死を選ぼうと思った理由は、私と仕事が原因だった。それが結果だ」


男「…店長はー 仕事に終われて、平日は帰宅すら危うい状態だったらしいっすー…」

男「それでもー、休日が取れたら 一日中、おもいっきり子供の相手をしてー」

男「昼休みとかもー 時間が取れればー 後輩くんの フォローしてー…」

女「なっ!? ですがそれじゃあ 店長は休む間も…!」

店長「おう。倒れた」

女「」

店長「で、まあ…旦那がな。仕事やめるように進言もしてくれたんだが…」

店長「まあ “代わり“も見つからないような状況だったり。転職先も ”子持ち“の”営業“の”おばさん”を受け入れてくれるようなトコもみつからず。ガタガタのまま貫いてしまってな」

男「……てんちょー へんなとこでー マジメすぎるんっすよー…」

女「ど、どうにかなるもの…なんですか?」


店長「……旦那と義両親が 子供を引き取って、別れると提案してきたんでな」

女「な! ひどい・・・ そんな大ピンチに、奥さんを見捨てたんですか!?」

店長「いや。逆だよ。本当にいい人だった。…あの状況だと、私はとっくに家庭を見捨てていたようなものだった」

女「……だって、休みにだって 子供の相手をしたりしてたって…」

店長「当時、2歳半くらいの自分の子供だぞ。週に1度、遊ぶ時しか会わない母親って、なんだよ」

女「……だって、それは…」

店長「…正直、精神的にも、負担だった。せっかく休みをつぶして遊んでも、一日の終わりに、同じ家に暮らしているはずの子供に “まま、また来週くる?”っていうようなこと言われるのとか」

店長「それがわかってて、翌週の休みを確保するために仕事量を前倒しにしたりとか」

女「……それは、想像するだけで つらいです…」

店長「おう。だから、旦那が離縁を申し出てくれたんだ。私の負担を、減らすためにな」

店長「私は、家庭をだめにする原因も作ってしまった。やはり加害者だと思うよ」


男「……この話― 何回きいてもー 気が、滅入るっすよー…」

女「男さんは、知ってたんですか!?」

男「酔ってー 仕事の話するとー 毎回コレだよー。難しい言葉とかもー これでー 覚えたー」

店長「愚痴らずにやっていられるか!」

女「で、でも… よく考えれば、旦那さんが復帰して、店長が家庭に戻ればよかったのでは?」

店長「あー。まあ考えたよな。子供を一時保育所にいれて旦那はハロワいったりしたし」

女「何か、戻れない理由でも?」

店長「ぶっちゃけ、元々そこまで優秀でもなかった上に、2年も主夫してブランクあけたオッサンだからな。塾講師とかはいっぱいあったが…家族養っていけるだけの給料とれる就職先は、見つからなかった」

女「あー… 就職…厳しいですよね…わかります…っ」

店長「とまあ そういうわけでな。得意な仕事をしていたせいで、後輩を殺しかけて、離縁を選ばせることになったわけだ。羨ましいだろう。あ?」

女「……あの。その…事情も知らずに、得意なことができて羨ましいなんて、私は負け組だなんて勝手な弱音まで言って、すみませんでした」

店長「うむ」


男「女はー てんちょーの逆鱗をー 知らなかったんすからー しょーがないっすよー」

女「あ…そういえば、いまは旦那さんとお子さんは、どうなさってるんですか?」

店長「うむ!」ニカッ

男「あ、ちょっ!」ワタワタ

店長「聞きたいか! 聞きたいよな!」ググイッ

男「女! だめっすよー! それもー 触れちゃいけない 話題っすー!!」

女「え? え?」アセアセ

店長「あいつは仕事こそできないが、人間のよくできた男でな! 今でも毎日メールを送りあってるぞ!」

女「え? は?」

男「……離縁したとかー いってるっすけどー… 大恋愛してるっすよー…」

女「……はぁ?」

店長「最近は子供がすっかりマセガキでな! 大人の事情というのも理解せんと、すぐに復縁を持ち出して いろいろ画策してくるのには困ってなぁ」ニヤニヤ


女「…あ、あの、男さん… どういうことですか?」ヒソヒソ

男「仕事話が3時間ならー 旦那と子供話は5時間コースっすよー…」ヒソヒソ


店長「こう、遠距離で愛をはぐくむ美徳というのがまだ子供にはわからんのだろうな! 容姿こそいっちょまえになってきたが、なにしろまだ…」ナンタラカンタラ~


女「…火事になった時、旦那さんに助けてもらえばよかったじゃないですか…」ヒソヒソ

男「旦那さんー、実家で子育てしてるっすよー… それがイギリスなんっすよー」ヒソヒソ

女「国際結婚!?」

男「あっ」

店長「! 聞いてくれたか! そうなんだ、だからこそこっちでは仕事がなかなか見つからなくてなぁ、それでも私のためにと日本での生活を決意して結婚してくれて…」ウンタラカンタラ~

女「あ… え あ、はい」


男「まぁー それでー、火事のときはー うちに誘ったっすよー」ヒソヒソ

女「あー…。それで男さん あんなに気楽に男女での宿泊を…」ヒソヒソ

男「こんだけー 旦那への熱におぼれてる人― 女として意識できないっすよー」ヒソヒソ

女「…でも、店長はマンザラでもなさそうだったけどなぁ」ボソ

男「毎晩のようにー 酒と ノロケ話とー 愚痴にー 付き合わせるつもりだったっすよー、きっとー」ゲッソリ

女「」

男「いままでもー なんどもー そーやって食事や酒に誘われてはー クダを巻かれてきたっすー」ゲンナリ

女「……ご愁傷さまです。…あれ? じゃあどうして男さんは、私にまで そういうの意識しなかったんですか?」ヒソヒソ

男「………」

男(原型師として、そんなまったいらな体型、女に見らんかったとか…よう言えんべした…)」

女「お、男さん?」


店長「…~何しろあいつは私に告白してきた時だって情熱的でな、得意先の従業員だったんだが…~」ピーチクパーチク

男「……」ハァ

女「……?」


・・・・・・1時間後


店長「」 zzz… 


男「てんちょー、寝ちゃったねー」

女「そうですねー。ようやく寝ましたねー」

男「止めるのにー こんだけ呑まなきゃだめとかー 無いわーw」

女「今までは どうしてたんですか?」

男「えー? 最後までー きいてたけどー…?」

女(イイヒトだ)


男「…あのさー 変な話になっちゃったけどー。女はー、えらいんじゃねー?」

女「えらい、ですか?」

男「そー。 得意じゃないこと、がんばってるし…苦手だって言いながらもー、その中でもー楽しみを見つけてー それを支えにー やっていこうとしてるじゃんー?」

女「いえ…そうでもしないと、グダグダになりそうってだけで…」

男「グダグダに、なっちゃうことってーありがちなんじゃねー?」

女「そう、ですか?」

男「グダグダなままにー するんじゃなくてー、あるものを ちゃんとみつめてー、イイモノに 目を向けてー」

男「……そういうのが すげー」

女「……男さん?」


男「………」ゴクゴク・・・

女「………」コク、コク


男「…仕事って 難しいでしょや」

女「え? あ、はい… (男さん…酔ってる?)」

男「うん。仕事って 難しいもんだべ。今の俺は、かんなり幸運。ヨソに羨ましがられんのも仕方ねーぐらい、幸運」

女「……さっきの、私の失言…ですよね。その…あの、フォローしなくても、大丈夫ですから…」

男「違ェんだ。俺も いっこだけ 言いてーこと、あんだは」

女「……」

男「俺、羨ましがられっよーなこと できてんのは 本当だは。でもそれって、女や店長のおかげだべした」

男「女に、羨ましがられるようなことじゃないべ? …女も、羨ましがられっよーな仕事、してっべ?」

男「だで、そう思うって… たんだ、巻き込んでたんかね?」

女「あの…? そろそろちょっと…言葉が…イントネーションの訛りがひどくて…」

男「いまの状況、女に無理に しーちゃねーから…」

女(聞き取りづらいけど 真剣すぎてつっこみづらい)


男「あー…。居でごっちゃーいろ。居でぐねごっちゃーいんな?」

女「え? あ? えっと な、何語!?」

男「女、居んなんのはおっがねけんどなー。 んーなんしがたねべした。がおってもらんねっつの」

男「…こっちさやいでぇとか俺にはいわんね。考えんもかからしっつの」

女「!? あ、あのっ すみません! 日本語でお願いします!」

男「……いちおー 日本語だべ?」

女「そうでした。福島弁、わかりやすい方だと思ってたけど舐めてました。今となっては英語のほうが簡単に理解できそうです」

男「……」

女「いや、本当に…」

男「……」

女「なんか、すみません…」

男「……」

女「…水、のみます?」

男「……ん」コクン

ゴクゴク・・・


女「えっと…それで。……何を、言ってたんですか?」

男(素にかえっちゃ んーなん恥ずかしぐて いえねーよ?)


男「…俺は何を かすかだったことを…」ボソ

女(声の大小以前に、聞こえたところで意味がわからない場合はどうしたら…)


男「あー……。女は やめるー? 俺みたいにー、やめてさー。シゴト、いろいろやるのもー アリなんじゃねー?」

女「え」

男「それともさー 店長みたいに つづけんのー?」

男「まあー 苦労、するんじゃねー? …この先、どうなるかー わかんないままだしー」

男「俺のグッチャに どこまでも付き合ってさー ボロボロでおわったりもー ありえるよなー」

女「………」

男「………どっちえらんでもー いいと おもうよー」


女「……」

男「……」


女「…他にたくさんある どの仕事より…不得意なことも たくさんあっても…」

女「迷惑かけても…愚痴をいっぱいはかせてでも…この仕事、やっていきたい、です…」

男「……」


女「いまは… 得意じゃなくて、それが悲しいだけで。出来ないのが、悔しいだけで…」グッ…

女「でも…好きなことが 少しでもできるようになるだけのことが すごく嬉しくて」ニコッ

男「…うん わかるよー」

女「それが… 得意にできたらいいなって 思った、だけ、で…別に、不満とかじゃ…」ウルウル…

女「…あ、あれ? なんで泣いて… お、おかし…やだなぁ…あはは」ポロポロ

男「……あ、えーと」スッ… 

女「うっ、ひっく・・・」ポロポロ…

男(……あー…いや。…この手は、別に…、俺はなんも…)ヒラヒラ


・・・・10分後


男「……あー だいじょぶー? 女―」

女「は、はい。大丈夫です! シゴトも、もう ちゃんと、がんばれます!」

男「元気、でたのー?」

女「はいっ! 思い出しちゃいましたから!」

男「……? なにをー?」

女「えっと…前に、いったじゃないですか。恥ずかしいけど…なんか、ようやく星に出会えたというか」

男「…ああー」

女「全然だめでも、がんばれば 手に届くんじゃないかなって。そんな風に男さんを思って、バイト再開したって」

男「……」

女「そのキモチ、思い出しました。あのときなんて “なんかいいなあ”って。そんなおぼろげな風にしか思えないものにでも、必死に手を伸ばしていたんですよ、私」

男「うん……」


女「失敗したからって…せっかく近づけたのに、諦めてました。努力も結果も、無駄にするとこでした」

女「せっかく、すこしでも 星に近づけたので。こんども必死に、手を伸ばして 背伸びして、 がんばってみます!」

男「えっとー… あー… なんていうかー…」

女「ふふ。手が届けば、 猫の手か孫の手くらいには 役立てるかもしれませんよ! 期待しててください!」ニコッ

男「っ」

女「あっ、もちろん ドールの弁済は必ずしますから!! 将来に免じて許してください!」ペコリッ

男「・・・・・・」

女「・・・・・・」フカブカー

男「……星…かー…」

女「…はい?」ソロー


男「…俺じゃなぐて…… なって、くれっかな…」ボソ

女「え?」

男「なんも ない」スクッ…

女「?」

テク、テク… ギィ

男「おやすみ」

バタン

女「・・・・・・・・・? 男、さん?」ポツーン


店長「グー」zzz…


~~~~~~~~


女(そういえば… あれ、なんだったんだろうな…福島弁もわかんないままだし…)


店長「女ああああ!!! ぼーっとしてないで、接客ちゃんとやれ、こんのグズ! いつまでそんなとこにいるんだっ!」

女「え?」ハッ


女「…あ、あれ!? 私、そんなにボーっとしてました!?」

男「かれこれー 30分くらい つったってるっすよー。女もー デッサンされるっすよー?」

女「え、えええ!? それはちょっと! す、すみませんでした!」スタタッ


カララン♪

女「い、いらっしゃいませっ!」

女性「あの~ すみません、一日バイトお願いした  バイト女ですー」


女「……バイト? 店長 知ってますか?」

店長「ん? ああ、ようやく二人目がきたな」

女「? 何がです?」


男「 気付いてないっすかー? 3番のテーブルー」

女「3番…… あれ? 左はいつもの人形だけど 右は知らない…」

男「……」

女「新作ですか? いつのまに… ああ、でも帽子深すぎですよ、あれじゃあ顔が…」

スタスタ

女「よいしょっと」パサ キュ、グイ

女「これくらいじゃないと、せっかくの顔が… あれ?」

3番の右側「………」ジー

女「……ひっ!?」ビクゥッ!

3番の右側「………」 

スクッ

芸大生「ひぃぃぃぃぃぃ人形がっ!?」
客1「うわぁぁぁぁ 動いたっ」
美大生「ぎゃあっ!なんだっ!?」
美大生2「ひゃあああっ 呪いだぁぁ!!」

店長「うむ。こういうパニック風景も ここ2年で3回目だな、この店では」


女「あ、あわわわわ」

男「マジもんの人っすよー、彼女はー。バイト1さんです」

バイト1「普段はデッサンモデルやってます☆  はじめまして!」

女「え、あ、う…」

バイト1「デッサンモデルって、私みたいなフリーは単発で安定しないので…」

バイト1「少し安い代わりに、お客さんつけやすい場所と 食事や飲物を用意してくれるというので 開いてる日はここに居ることにしましたっ!」

常連客「リアルドール販売にマジもんいれないで!? 何考えてんだよ店長さん!」

店長「うむ。見分けがつかないほどのリアルさってのをアピールしたかったのでな」

女「…た、確かに開店から2時間もたつのに気が付かなかった…」

男「ついでにー ちょっとした売り上げや集客UP目的も兼ねてるっすー」

女「売り上げUP?」

店長「彼女にはお好みのポージングを依頼できる。 時給1500円」

バイト1「よろしくねー」フリフリ

店長「普段は、私が人形のフリを依頼している、と。まあそういうことだ」


店長「ああ、新しいバイトの君も、ちょっとこっちにきてくれ」

女性「えっと…はい」

店長「君は単純に、バイト1さんの居ない日、デッサンモデルの仕事をしてもらうか… あるいは、女の接客の仕事をてつだって貰うことになる」

店長「マルチ要員だ、今日は一日、ゆっくり過ごして 店の雰囲気とかを理解してくれ」

女性「え? 今日は何もしなくていいんですか?」

店長「まあ、見ててみろ。倣うより、慣れろとはいうが、空気を知るのが大事だ」


バイト1「普段はヌードなんかもやってるんだけどー、まあ、ここでは出来る範囲で、いろいろなご注文を受け付けるよ!」

常連客「まじ!?」
芸大生「あのっ!セクシーポーズもいいんですか!」

男「ちょっ ヌードはだめっすよー? いろいろ問題あるっすからー」

バイト1「服を脱ぐようなポーズ、とか ねっころがったポーズくらいならセーフかな。衣装用意してくれたらコスもやるよ!」

男「あちこちー しっかり動かせる分、人形より融通きくっすよー」


美大生「あのっ! …人形との絡みはセーフですか?! 人形のヌードは!?」

男「え」

バイト1「わぉ! なんか楽しそう!」

店長「なんてマニアックな…」

女「変わった美観や感性、フェチズムの固まりのような人たちですからね、ここにくるお客さんって…」

男「うーん… 人形を汚さない範囲ならいいっすよ。その代わり 人形使用として追加料金もらうっす、+1000円くらいで」

女「人形の時給が、私の前の店の時給より断然高い!?」

男「それってー 最低賃金の範囲っすよねー…?」

店長「し~らん ぺったん ご~りら♪」


美大生「のった! 俺、ヌード人形使用で一時間! 1時間3千円で実質2人専属とかなら、一度やってみたい! 軽めのスケッチになってもいい!」
客「なあ、でも 普通に友達に頼めばいいんじゃないの?」
美大生2「素人はすぐに動くからダメダメ。キツいポーズを10分維持するのがどれだけ大変か」
客「そうなの?」

バイト1「そうだねー。腕をあげといたり、前傾姿勢とったりとか…そういうのでも最初は厳しいよ。ポーズによっては 30分キープとかでも十分死ねる。だからもちろん休憩いれさせてもらうよー」
客「休憩とかするんだ。え、でも休憩で動いたらポーズ変わっちゃわない?」
美大生1「素人モデルさんとかは、同じポーズとれなかったりするよなー」
芸大生「だが、筋肉のまったく無いプルプルした二の腕はプロにはない良さがある」
美大生2「おまえ…」

芸大生「俺、友達つれてくるから明日、3時間! 時間貸しなら、何人かでやってもいいんすよね!?」

バイト1「3時間かー。休憩はーすこし多めに いれさせてねー」アハハ

店長「もちろんそれこそが集客の手法だからいいぞ。ただまあ常識の範囲内の人数にしてくれ、店が狭いのでな」

芸大生「あ、でもちょっとまって、確か卒制にモデル募集してる友達いた。合計で10時間とか取るとき、割引とか聞く? つか画材…油彩道具もちこんでいい?」

店長「絵の具… 一応飲食店なんだが…匂いとかどうなんだ…?」


芸大生「おねがいしますよー、灯油とかはもってこないっすからー!」

店長「灯油!? 油彩ってそんなの使うのか!?」

女「火事になりそうで怖いです! っていうか臭いの確実です!」

芸大生「持ってこない! 絶対持ってこないから! 普段から使ってないし!」

店長「あー…まあ、そうだな。確かに、時間貸しをするなら個別スペース作ろうか。そこでなら可、ということで」

男「料金はー そのままバイト1さんの給与なんでー 本人に相談してくださいっすー」

男「あ、人形分は俺のにするっすけどねー」


芸大生「バイト1さん! さっそくちょっと相談していいっすかね!」
バイト1さん「はいはーい♪」
美大生「あの、よかったら一緒にこっちでお茶を飲みながら」
美大生2「普通にナンパじゃんかよ、それじゃあ!」
バイト1「あはは、ペットボトルのお茶じゃ雰囲気でないかなー」
客「絵画かー なんか面白そう、聞くだけ聞いててもいい?」
芸大生「おお、絵と芸術作品を愛するものは同士!」
美大生2「おまえ、若干ウザキャラだよな」
芸大生「この美しき人形達を前にして、気分が高揚しないわけがない。仕方ない」
常連客「なになに、人形の話するならまぜてよ…」

ワイワイ……
アハハハ…



男「んー なんだか盛り上がっちゃったすかねー」

女性「な、なんだか 濃いんですね…」

店長「うむ。今日はまた格別な濃さがあるがな」


女「デッサンモデル、大繁盛ですね。これでまた、客層に広がりが出ますよ」

店長「まあ、話題性になったり、人が増えて、人形の精密さやなんかも一緒に宣伝してくれればいいんだが」

女「…でも、少なくとも いろんな人に見てもらう機会になります。よかったですね! 男さんっ!」ニコッ

男「……うん。 ありがとーなー 女」ニッコリ

女「え、あ はいっ//」

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・・・・・・・・・・・・・・
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その後 店はそれなりに盛況した。

物珍しさに、TV局や雑誌社などの取材がくることもあった。
人形をコンセプトに取り扱う雑誌社に、小さい枠ながら紹介されたこともあった。
あるいは特殊な服飾店からマネキンとしてのリアルドールを注文されたりもした。

また、店頭での販売を意識して、男は小物人形の製作にも力を入れた。
パーツさえ作ってしまえば、塗装と組み上げがメインだったので、結果的に主力製品のひとつになった。

個人で作っていることが強みに出て、
客の希望を聞いて「カップルでお互いをイメージした人形」を受注したのをきっかけに
ウェディング用の記念人形として、定期的に注文がくるようにもなった。
(原型がラブドールということもあり、安産・子宝という謎の願掛け効果がついたようだった)

また本来の収入予定であるラブドールも、数こそ多くは無いが注文がはいっていた。
そうして、店は小さいままながらも、売り上げはゆっくりと右肩上がりになっていた…

・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・

期待

期待


そんな、2年後


女「……どう、しましょう」

男「……どう、すんのー?」

女「とりあえず、店長に相談を…」

男「てんちょ― ようやく復縁きまってー、今 イギリスだよねー」

女「…そうでした……」

男「もどってくるまでー あと6日はあんよー?」

女「……店長、毎日のように顔を見ていたせいか、居なくても幻聴でドヤされるせいでつい…」


男「家、みんな バラバラにもどったのにー まだ 居ないことにー 慣れないよなー」

女「まあ… あのアパートは、ドール製作の要ですから… 2部屋潰すのはイタいですものね」

男「うん。まあ、元に戻ったおかげでー ドールのほうは はかどってるよー」

女「店長は また店の2階に…。 私は小さなアパートを借りて…」

男「昔のー バイト時代を おもいだすなー。 なつかしーw」

女「私は、みんなでワイワイと部屋にあつまらなくなって、すこし寂しいです」

男「…あー。 まー、そーだねー」

女「……家を、分けただけで寂しいのに… 仕事まで離れるとかは…」

男「でもー 悪い話じゃー ないとおもうよー? …つまり、引き抜き でしょー?」

女「そう、いうことなんだと 思います」


男「誘ってくれてるのってー イイトコなんじゃないのー?」

女「はい…前から、こちらの定休日にの度にお世話になってますから。とても親切にしてもらってます」

男「デザイニングスタジオのー、アシスタントのバイト、だっけー?」

女「…はい」

男「あんまりー 詳しくきいてなかったけどー 何してたのー?」

女「えっと…私のやったのは、基本的には やっぱりお部屋のレイアウト…ですね」

男「へー。 そんな仕事― あるんだー」

女「私がお手伝いしてたのは 不動産屋さんの、展示家屋の室内の小物と… ウェディング用の写真撮影用スタジオの、背景のレイアウトでした…」

男「ああいうのってー そういう業者がー やってたのかー」

女「自前でやるところも多いんじゃないでしょうか。私もあまり、詳しくは…」

男「それでー 出来とかをー 気に入られたってことー?」


女「ウェエィングのほうで、何かお褒めがあったらしくて。…それで、『見習いからだけど 写真背景の担当から、持ってみないか』 …と」

男「……まあー ここでずっとー WEB用の写真とんのにー レイアウトしてたしなー」

男「日常的にー 部屋ん中までー 絵にされたりしてたもんなー…」

男「いつのまにかー、それが“得意な事”になってたんだなー」

女「私はただ…出来るだけ、綺麗に ドールたちを魅せたかっただけなんですけどね?」

男「おー。 ありがとなー 女―」


女「……」

男「…女―?」

女「私…どうやって 断ればいいんでしょうか?」

男「……」


女「……」

男「断らずにー …行けばー?」

女「行きたく、ないです」


男「……女はー 今やってるような仕事― すき?」

女「好き、です。 というか、もはや最近は 趣味になりつつありますね」アハハ

男「そっか。……ならー やっぱり 行くべき、じゃないかなー」

女「……どうしてですか?」

男「昔、話したよねー。得意なことが出来るのがー 幸せとは限らないー ってさー」

女「そうです。それを聞いてるので、私は 得意なことができるからってそっちに流されたり…」

男「あのときさー」

女「…?」


男「あのときー 店長も 『それが、好きなことなら 最高なんだけど』って いってたでしょや?」

女「……は、い」

男「…好きなコトでー。趣味にも なっててー。しかもー 得意なことをできるってさー…」

男「どんだけ 幸せなことか わかる?」ジッ


女「…男、さん…」

男「俺さー、今すげー 幸せだからさー わかるんだわー」

女「……」

男「もしもー 得意なだけでー 好きじゃないってー 言うんだったらさー」

男「うん…タブン てんちょーみならってー やめろーって 引き止められたけどー…」

女「……やめろって、言ってくれないんですか?」

男「言えねーべした」ボソ

女「……なんで、ですか…?」


男「……あんときも 言ったけどー 俺のとこでやってても 先、わかんねーしなー」

男「生活は、大事っしょー。 安心なとこにー、身を 置いておきたいっしょー」

男「……俺はさー そんな風に思ってさー 大好きなドールを二の次にしてたからー よく、わかるんだよなー」

男「それがさー? 好きでー 趣味でー、しかも得意な仕事に 向こうから誘われて…とかさー」

男「……止められるはず、ないべ?」ニコリ


女「……」

男「……」

女「…男さんは…」

男「……?」

女「男さんは、ただ部屋のレイアウトや写真背景のセッティングすることが 本当に『私が好きなこと』だとおもってるんですか?」

男「……自分で、言ったんでしょや。 今やってる… レイアウトの仕事がー 好き、ってー」

女「ちがいますよ?」


男「ちがう…、のー? この仕事ー、本当は 嫌いだったー?」

女「好きです。ここのお仕事は まさに 私がやりたいことですよー」エヘヘ

男「……矛盾、してね?」

女「してないです」

男「……えー、っとー?」

女「私は… 男さんの、役に立ちたいんです。男さんの役にたてる仕事が、大好きなんです」ニコッ

男「!」

女「役に立とうと思っても いままでずっと うまく出来なくって…」

女「ようやく、すこしだけ仕事ができるようになったんです 得意になれたんです」

男「あ… いや。でもさー…」

女「店長が教えてくれたのは、『仕事は、得意なことが出来るのがいいわけじゃない』ってコトです。だから、誘ってもらったお仕事がいい条件だからって 行きたいとは思いません」

女「男さんが教えてくれたのは『すこしでも好きなとこみつけて、苦手なことでもがんばれたら えらい』ってことでした」

女「それだけでも、受け売りのトコだけでも 今の…男さんのとこのほうを選ぶ理由にできるかもしれないですけど……」


男「……ヒトの意見をー 鵜呑みにしちゃ よくない、よー」

女「ですよね? だから 私、考えたんですよ。どんな仕事ができたら、幸せなのかなって」

男「……どんなのがー 幸せなんだー?」

女「なかなか仲良くなれない上司がいて、気楽に話しかけてくれる仲間がいるけど、意外とシビアで守ってはくれなくて。…仕事もなかなかうまく出来なくて、何度もつまづいてはどなられるような仕事」

男「……いやー 環境も内容もー 向いてないんじゃねー…? そんな仕事」

女「それでも、なんかあったら『みんなで一緒』に考えて、がんばっていって」

女「ほんのすこしづつ…仕事を続ける中で、好きなものや、相手の好きなところが見つかっていって」

女「その、小さな好きを 追いかけて夢中になって、いつのまにか すこしづつ 苦手が『得意に変わっていく』ような… そんな仕事って すごくいいです。いつの間にか、幸せになってます」

男「女…」

女「えへへ…最初は なんとなく。ネガティブな私が、気楽でポジティブそうに見えた男さんに憧れたことから始まったんですけどねー」


男「……俺 べつにー ポジティブなんかじゃー…」

女「はい、知ってます。むしろ ネガティブで臆病で神経質で、意外に他人に無関心だったりもするくせに、自虐的な優しさはもってますよね」アハハハ

男「うぁ… そこまでいうー…?」

女「…やってみて、知ったことです。予想とちがくって驚いて、こんなはずじゃなかったのにーって思ったりもして…」

女「でもそれがすこし楽しいとおもったら…いつの間にか、それも好きになってて… そばに居てあげたくなってて」ニコ

男「え」

女「だめですかね。甘いですよね。何が出来るわけじゃないけど、何か自分に出来ることがないか、必死に探したくなるような場所にいたい、なんて」

男「……いやー。 モチベーションは… 大事、だからねー」


女「収入なんか、いつどうなるかは あてにならないけど。社会的な保障なんかなんにもないけど」

女「だめでしょうか? 好きなことをやりたいっていう好きなヒトを 応援したいってだけでは」 

女「できることをしながら ぐだぐだになることもあっても…… そういうのを幸せだと思ってたら、かえって迷惑でしょうか?」

女「そんなキモチになれる仲間のそばを離れたくない、なんて… 社会じゃやってけないですかね?」


男「それ、は…」

女「それは?」


男「普通、あんま 良くねーんじゃねか? プレッシャー与えんべした、相手にも」

女「」

男「ヒトなんか流れっかんに。そん相手が居んくなったら、おまも居なくなんのかっつー話しだべ」プイ

女「ああ…そしてまた方言。もしかして、その…怒ってます?」

男「んなコト、ね」

女(男さんが、険しい顔をしています…。 うう、店長がいたら 『甘い!社会を舐めるな!』ってどやされてそう…)ハァ

男「……おんなー」

女「……は、はい なんでしょーか…」ビクビク


男「…女の才能は、必要だしさー。 いてくれるならー…すごく うれしいー」

女「……そういってくれるなら… 私はやっぱり、ここに居ます。 向こうは、はっきり断ります」

男「でもー、 ほんっとーに どうなるかー わっかんねーよ?」

女「……いいです。好き、なんです。元々、フラれたり 追い出されたりしたら 路頭に迷う覚悟でしたから」アハハ

男「あー うん…。 仕事のこと…だけじゃ なくてー、そういう気持ちも 嬉しいとはー 思う、けどー…」

女「うれしいと思うなら……認めてください? そろそろ」

男「…なにをー?」

女「男さんの仕事。私の好きになった男さん自身のこと。本当は、大好きで自信を持ってもいいのに…どこかで卑屈になってやってきたこと」

男「……」

女「必要だからやりたくないことをやってきた今までの自分のこと、それでも守り続けてきたもの、そういう やりかた」


男「……ヒトに言える仕事じゃ、ねぇしょや」

女「どうしてですか?」

男「まず、いい歳して人形あそびかい。しっかもラブドール。気色悪いって何度言われたっけか。いぐら綺麗事ならべっでも、夢ばっかみてっかんに」

男「お金欲しくて仕事しちー、なんもやる気になれんくて いっぱい迷惑かけてきたかんね。駄目なやり方だは」

女「……駄目なんかじゃ、ないです」

女「やらなきゃ…続けてこなきゃ。好きなことが、できなかったんですから。それでやって…、今のこの状況なんですよ? 割と、成功してるんじゃないですか?」

男「うん… ここまで、出来るとはー 思わんかった…」

女「綺麗事だけじゃ… 好きなことを仕事になんか、きっとなかなかできないんです。やっぱり世の中はそこまで甘くないです」

女「でもだからって…、好きなことを仕事にしようと頑張るのが 悪いなんてことだけは ないはずです」


男「…物は言いよう、じゃね?」

女「誰に、何を言われようと。社会的な地位がどうのこうのといわれようと。いいじゃないですか」

女「本当に悪いことなんて してないんですから。あがいてるだけです」ニコ

男「……」

女「……」ニコニコ


男「…前にー、俺を 星だっていったのー、覚えてるー?」

女「もちろんですよ? でも、男さんは月だって言ってましたね」クス

男「そうー。んでー、店長が 太陽。 星はー…女かなーって」

女「あー。店長が太陽っていうのは 私も納得です」クスクス

男「俺さー よく女がー 天体のレイアウト つかうからさー。 自分でも調べたんだよねー」

女「何をですか?」


男「太陽ってさー。すごいんだよー。いろんなものの 生命の活力になるしねー。何億年も燃えてー 輝いているんだー」

女「…はい。 店長はすごいです。気がつくと、クヨクヨする気持ちまでもガーっと燃え上がらされて」

男「うん。その光を浴びてー、なんとなく輝いてるのがー、俺なんだー」

女「…月は自分だけでは輝けないってやつですね」

男「うんー…。太陽の光がないとー 輝けない。ぷかぷか浮いて、ぐるぐる回ってるだけみたいだなー」

女「……店長がいないと、だめってこと…ですか。私じゃなくて…星じゃなくて。輝くのに必要なのは、太陽だと… いいたいんですね?」

男「……んー」

女「……いい、です。えへへ。お役にあんまり立ててないのは、わかってましたし!」テヘヘ…


男「…店長はー 必要だけど」

男「やっぱり店長は… 太陽は、昼のものだからー。月とはー 一緒にいられないよねー」

女「…え?」

男「月のそばに 必要なのはー、小さくてたよりなくてもー、一緒にー 空を彩ってくれる星だからー」

女「男、さん…」


男「……俺と一緒にさー 真っ暗なトコロかも しれないけどー がんばってくれっかい?」

女「それって……」

男「うん」

女「男さん… あの…それって、つまり…」


男「女ー?」

女「は、はいっ」


男「俺と… 結婚しよう」キリッ

女「は?」


男「……」

女「……」


男「…『は?』 って……ひどくね?」

女「えええええええ?! 『付き合おう!』とかじゃないんですか!?」

男「あー。 そーいやー そうだねー」

女「ぶっとばしすぎですよ!? いろんな順序!!」

男「えー。だってさー なんかもうずっと一緒に居るしー・・・。付き合うとかいわれてもー これ以上どうするのー・・・?」

女「二人きりの甘い時間とか! 恋のいろはやABCとか!?」

男「ABC… …A…」ジー

女「や、Aじゃないもんっ// ってどこ見てるんですか!? ひどいです!」


男「あー。まあー、俺こんなんだしー? 大事にするならー、カタチから ちゃんとしないとー 駄目だと思うからさー」

女「」

男「結婚、して」

女「……一蓮托生、ですか?」

男「うんー そーゆーことだねー。 共倒れにならないよーにー がんばるけどねー」

女「…はい。望むところです。一緒に、がんばらせてください」

男「うん…。 ありがとなー 女」


女「男さん…」ジッ

男「女」ニコリ


女「……」ドキドキ…

男「……」

女「……」ドキドキ…

男「……」


男「さ。 じゃあさっそくがんばってー、受注分のー ドールの発送処理、してきますかー」クルン スタスタ

女「え゛。 ちょ、まってください!? せっかくのムードが!? 記念すべき夜が!」

男(んーなん 恥ずかしっぐて無理しょや//)スタタ…


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

――――――
後日 店長の帰国&復縁祝いパーティ


店長「うむ、無事に帰国! こちらも何事もなかったようで、なによりだ!」


男「あー 何事かはー あったっすよー」

女「そうなんですよ、店長」

店長「む? 何かトラブルか? たかだか2週間留守にしたくらいで…、おまえらには本当に任せておけんな」

男「いやー トラブルはー 解決したっすー。ちゃんと、引き抜きー 断ったもんなー?」

女「はいっ またバイトでだけ、お世話になることにしました!」

店長「? 引き抜き?」

男「まあ、そーゆー トラブルもあったっすけどー それより報告しとくことがあるっすよー」

女「私たち…結婚することにしました!」テヘ


店長「……」

店長「は?」


男「……『は?』って… なんでみんなしてー そーゆー反応なんっすかねー…」

女「クスクス」

店長「……あー。ちょっとまて、おまえら。今日はアレだよな、私の復縁記念パーティだったな?」

女「一緒に私たちの結婚祝いもしましょうかー」ニコニコ

男「え いや それはー…」

店長「ちょっとまて? なあ、待て? ……説明からしてもらおうか?」


・・・・かくかくしかじか・・・・


店長「なるほど、な。 それで、結婚ってか… しかし、本当にそれでいいのか、女?」

女「私も、最初はびっくりしましたけど… 男さんのそばで、出来る限りがんばりたいのは、本当ですから! 嬉しいです! ね、男さん!」

男「う、うんー そう言ってくれるならー…」

女「もちろん、男さんにもがんばってもらいますからねっ! 一緒にがんばりましょうねv」ニッコリ

男「は、はい、っすー…」


女「えへへ」ニコニコ

男「……」ビール カシュ ゴクゴク 

店長(男くん、自分で申し出たわりに どうしてこう はじめる前から尻にしかれてるのか…)ハァ


店長「……で? 結婚って… 具体的に何か話してあるのか?」

女「っていってもまあ 籍、いれるくらいしかできないんで…」

店長「? 式はあげないのか?」

女「はい。お金、そんなにないんで。がんばろう!って決意して、人形の製作用の素材とか機材かうのに…だいぶ手元にあったお金も割くことにしちゃったんです」

女「なので、まあ 結婚式とかキビしいかなって」

男「……あー、ごめん」

女「いいんですよ! ウェディングドレスとか別に興味ないです! 白マーメイド着たいとか、ブーケトスしたいとか思いませんし!」

男「……やっぱりー オンナノコだもんなー… そういうの、したかったよなー…」orz

女「あ、ちがっ!? 本当に大丈夫ですから!」


男「なんか… やっぱりー 俺なんかとー 一緒にさせるのー 申し訳ないようなー…」

女「ま、まあというわけで…! 破談を申し込まれないうちに宣言します! 私たち、結婚することにしましたのでよろしくお願いします!」

店長「それでいいのか、オイ。 男くん、さっきから視線が空中泳いでるぞ」

男「結婚 申し込んだもののー… その後のー テンションの高さに、ちょっとー やられっぱなしなんっすよねー…いろいろ予想外でー…」ゴクゴク…

女「む。Aとかいうから証明したくらいです!」

男「ゲフッ! グ、ゴフ、 ゴホゴホ!」

店長「………」

女「と、まあ…店長には、これからも一緒にお仕事していただきたく! よろしくおねがいします!」ペコリ

男「俺も おねがい、するっすー」ペコリ

店長「……」


店長「お前ら もう来なくていいから」

女「えっ……」

男「まじすか…」


女「い、いきなり太陽が消えた…闇夜からのスタートですか…」

店長「は? じゃなくて。うち…店の2階から通え ふたりとも。来なくていいってのは、そういう意味だ」

男・女「え?」


店長「お互いの理解も、やはり仕事仲間としては十分かも知れんが、男女ではまたその機微は違うもんだ」

店長「しばらく一緒に住んで、ちゃんとお互いが本当に夫婦として必要なのか確かめて…」

店長「それから結婚費用もためて。ちゃんと式あげろ。それまでは結婚なんて許さん」

女「…店長?」


店長「まあ 私は再婚が決まったからな。子供と旦那と、またマンションを借りて住む。旦那は購入を考えているようだしな、どちらにしろあそこにいつまでもヒトリで住むことはない」

店長「まあ、店の2階じゃ 新婚気分にもひたりきれなくてちょうどいいだろ。家賃節約になるしな」

男「てんちょー…」

店長「広さが足りるなら、男くんのアパートを解約して、あそこの2階を作業部屋にしてもいいぞ」

女「えっ な、なんでそこまで…」

店長「そのかわり祝儀はださん。 ぶっちゃけ祝いたくもないわ!」

女「えええ!? 祝儀はともかく、祝ってももらえないんですか!?」

店長「あたりまえだろ。そんな勢い任せで結婚きめたような状況じゃ、安心して祝えんからな!」

男・女「……」


店長「式、あげられるくらいの利益だせ。最低限でいい、生活基盤をつくれ」

店長「ちゃんと二人で暮らす家とか用意できるくらい…、それとなんかあった時の為に、すこしは貯金もするべきだ」

男「てんちょー」


店長「女ってのは、なにがあるかわからん。子供でも生まれたら、あっというまに大量の現金だって必要になるぞ。女、おまえ もしそうなったら 自宅で犬の子みたいに産む気か?」

女「う」

店長「…結婚なんて、そんな軽々しく出来るものじゃない。いや、出来るからこそ、しちゃいけないんだ」

店長「夢を追うのはかまわん、だが現実に生きていくために必要なものもある。おまえら…我慢なんて、いまさらだろう?」ニヤ

女「店長…」

店長「まあ、結婚費用なんて いまどきのは安いらしいぞ? ちゃんとしたやつじゃなくていいならな。どうせ、呼ぶような人間なんて そう居ないんだろう?」

男「は、はぁ… 身内くらいっすかね…」

店長「式についてはまあご両親ともよく相談して。身内で簡単なのですませるとしても、写真くらいちゃんと撮って」

店長「まあ友達なんかはココで簡易披露宴やればいいだろうから そこは省略するとして」

女「店長」

店長「ええい! おまえら、さっきから 店長 店長と うっさいわ! なんだ!」


男「あ、 いやー なんかー…」

女「店長が すごくマトモな社会人に見えて、驚いてました」

男「」コクコク

店長「おまえら……」イラ


店長「まあ、そうだな。結婚式費用で100万、新居の敷礼金で50万、貯金で150万、計で300万ためろ。 そういや…おまえら、貯金とか合わせていくらある?」

男「俺はー…人形制作の収入がー 最近増えたんで、そこそこっすねー…。でも、循環させないとー 製作できないんでー…それに支払い予定に組んじゃったんでー…」

店長「当たり前だ。必要投資なら別だ。余剰金というか、プールして置ける分はどれくらいか わかるか?」

男「あー 50万、くらいっすかねー…」

店長「女は?」

女「う。20万…くらい?」

店長「じゃあ、あと230万だな」

女「…結構な、額ですね」


店長「まあ、あくまで目安だ。それにそう難しいことじゃないだろう。女が今払ってる家賃分もなくなるんだぞ?」

女「あ、そっか… いま、9万くらい払ってますから・・・」

店長「単純に、それだけためても2年。ちゃんと収入を確保して、生活の基盤を整えろ」

男「・・・・・」

店長「本気で、ためてみろ。何、二人居るんだ、そう時間もかかるまい。できなくてやりなおしたとしても、それは今後にとってはプラスになるはずだからな」

女「か、簡単に言いますね? 230万って、すごい金額ですよ」

店長「私は、1年で150万貯金したぞ。2年で300万。会社員の頃だが、それで店を建て直したんだ」

男「・・・がんばります」

女「わ、わたしも! がんばります!」

店長「うむ。それくらいの気概じゃないとな。安心して祝えるように、しっかりと、仲睦まじくやってくれ」ニヤリ

女「えへへ、大丈夫です、店長! 仲のよさについては心配いらないですよー! ねっ、男さん!」ニコニコ

男「」

店長(男くん… ラブドールなんかつくってるくせに、そういうのに弱いのな)


男「あー… てんちょー。 その…  ありがとう、ございますー」

女「店長。 私…」

店長「なんだ ?」


女「私、明日も 明後日も 来月も来年も 毎日ずーっと いつまでもこの 店に来ますから!」ニコッ


店長「……来なくなったら、男くんに酒の相手をしてもらえる。なんだったら、おまえ明日から来なくてもいいぞ?」

女「ふふ そういうわけにはいきません! もう、追い出されたって離れませんよ!」

男「はは」

店長「ふん、グズでどんくさいくせに根性つけやがって、なんて面倒くさい!」

男「まーまー」


女「男さん! そこは否定してください!」

店長「…男くん、うっとうしいだけじゃないか?! 嫁としてどうなんだ、こんな女!!」

女「な、なんてこというんですかっ! 男さんも言ってやってください!」

男「……えー…」


男「まぁ… おほしさまはー… うっとうしいくらいあってもー… きれいだしねー?」ボソ

店長「…ふーん?」ニヤニヤ

女「? 男さん、フォローくらいはちゃんと聞こえる声で言ってください…?」

男(無理)ゴクゴク

・・・・・


店長「さ! じゃあ改めて カンパイしようじゃないか! 私の帰国と再婚を祝って…」

女「それと、私と男さんの結婚を祝って!」

店長「祝わないといっただろ!?」

男「あー じゃあー 今後の仕事の成功を祈ってー ってことでー」

女「はいっ! これからも みんなで、がんばっていきましょう! 幸せな仕事に、カンパイです!」

店長「仕事にカンパイって…なんか嫌なんだが…」

女「こういうときは、『カンパイ』じゃなく、『えいっえいっおー』ですね!」

男「おー…」

店長「間抜けだが… それでいくか、仕方ない」


女「じゃぁ…いきますよ! 今後も仕事、がんばるぞー!?」

女・男・店長「「「えい、えい、おーーーーー!!!!」」


民家「うるさいっ!」

女「ごっ、ごめんなさいっ」ビクゥッ!


シーン・・・

男「……ぷっ」クスクス

店長「あははは。叱られてやんの! 馬鹿っでー女!」

女「もおおおおおお! 締まらないじゃないですかああ!!」

店長「あはははは 『うるさいっ!』だってよ! 間違いない!」

女「ひどいーー!!」

ワーワー!
ギャーギャー


―――――――――――――


エピローグ

ここは東京 飯田橋
オフィスビルの立ち並ぶ 大きな街の 小さな建物に
不思議で楽しい 謎のお店が佇んでいます

そこの店では 今日もほら にぎやかな声が 窓の外まで聞こえてきて…



店長「女! 次、6番の油彩客のテーブルな」

女「は、はい…って! お、と。ととととととととと・・・・!?」

店長「あ、この馬鹿! イーゼルが… お、おい!」

ガッ、バタアアアアアアン!!!! ガラガラ…

店長「~~~~~~っ」プルプル

女「あ、あはは… こ、今回は ドールも絵も無事でしたよ~・・・」テヘ


店長「~~っ馬鹿かっ! 大丈夫なのか!? 病院いくか!?」

女「あ、はい。お腹は…だいじょうぶですー 守りましたぁ」ニヘラ ナデナデ

店長息子「女さんー 無理しちゃだめだよー? 男さんも心配してたよー?」

女「あ、息子くん… こっち来てたんですね。 えへへ、ありがとうございます」

店長息子「ようやく授かったんだから、大事にしなくちゃ。ね?」

女「えへへ。はい、すみません。それにしてもやっぱり店長の旦那さん似ですよねー、優しいですー」

店長息子「……あはは」

店長「~~~~だから何度も言ってるじゃん?! お前みたいなどんくさいのいらないんだって!」

店長「今はとりあえず お前じゃなくても代わりがいるから! さあもう帰って帰って!」

女「えええ! 店長ひどいです! しかもなんか微妙にデジャブなんですけどー!?」

店長「うっさい! 妊婦は妊婦らしく 家にひっこんでろ!!」

女「…えへへ… 妊婦…v 」

店長「うぜええええええ! 男くん! こいつなんとかしろおおおお!!!」

―――――――――――

店の二階


店長旦那「Hey Mr? Did you hear it? (男くん、今の聞いた?)」クスクス

男「…聞こえてたっすけどー 無理っす…」チャカチャカ

店長旦那「Why not? It's your job. Also the Husband's important part, is that wrong? (どうして? 君の仕事だよ、夫の大事な役目。そうだろ?)」

男「……」モクモク

店長旦那「You should manage your wife.(奥さんは、管理しなきゃ)」クスクス

男「旦那さんー。 日本語で はなしてほしいっすー。 簡単に しゃべってくれてるのはー わかるんっすけどー…」キュキュ

店長旦那「キミも ニホンゴで おはなししようヨ?」

男「福島弁はー 日本語っすよー… それにー いまは標準語っすー」カチャ

店長旦那「ニホンゴ むずかしいよネー」

男「そっすねー」キュキュ、


男「さ、できたっすー」フゥ

店長旦那「え。 Is it for sale?(…それ、売るの?)」


女ドール(小)「」


男「……はっ。 俺はまた 何っつーもん こしらえて…」


店長旦那「男サンはー 女サンのことー 大好きだネー」クスクスクス

女ドール(小)「」ニコー

男「……//」

店長旦那「……」ニヤニヤ


店長旦那「男サンのそのカンジー 女サン人形…初めてじゃないネー?」ニヤニヤ

男「う。 ……あ、いや」

店長旦那「ン?」


男「……あー その。すみませんー。ここまでじゃないっすけど… 身近な女性はー、つい いろいろとモデルにしちゃうっすー…」

店長旦那「……? ああ もしかしテー 僕のwifeも お人形になってるノー?」

男「…手とか… 耳とか、そういうパーツのイメージはー 参考程度に…」

店長旦那「そっくりなのはー 作ってないノー?」

男「…正直、最初は練習用に、そのつもりもあったっす… でも結局、作らなかったっすよー。ドール製作してること自体がー バレたんでー…」

店長旦那「そうなんダー」

男「なんか、そのー すみませんっした… 勝手に…」

店長旦那「いいヨー。…でも、僕だけには作ってネ、ちゃんとした my “love wife” doll♪」

男「え」

店長旦那「You’ll make it up to me, Don’t you? (償ってくれるよね?) 会社のデスクに 置けるサイズで ヨロシクネー♪」ヒラヒラ

ギィ… バタン


男「あの人は…寛容さが、ブラックホール…? もはや天体ですらないべ、それは…」

男「……っていうか…てんちょー人形…? マジで?」


<カラララン♪

男「お… また、お客さんがきたかなー」


<「「あ。 いらっしゃいませーー!」」
<「だから! おまえは帰れーーー!!」
<「えっ!? あっ ご、ごめんなさい・・・っ?」
<「あっ ちがっ! お、お客さんにいったんじゃないです!? 今のは私に…!」
<ギャー ギャー
<バタバタ…


男「……」ハァ


男「……まー 宇宙は広いしー? 空にはいろいろあって賑やかだからー」


男「だから… 月は まわりに恵まれてるからー…」

男「あんまり幸せすぎっから あんな風にぷかぷか浮いちゃってんのかもな?」クス


バターン!

男「」ビクッ


店長「…男くん。 女が、産気づいた。産院に連れて行くべきだ、はやく降りて来い」

男「え゛… って、まだー 臨月はいったばっかっすけどー…?」

店長「覚悟が足りんぞ、子供など どんなときだって親の都合なんかお構いなしだ!」

男「…あー」


男「…月って 地球に 振り “回されて” たんっすねー…どうりで…」

店長「は? 男くん こんなときに、何を… パニックか?」

男「なんでもないっす! こーなったら ぐるぐる回ってやるっすよー!」

店長「はぁ!? くそ、大事なときなのにわけわからんし、女を任せるのにあてにならん! ああもう、こうなったら私が行く! だから…」


店長「おまえもう来なくていいから!」

男「えっ…」

――――――――――――――
おわり

すごくよかった!

まずは>>1 へ
勝手に乗っ取ってすみませんでした。もしいたら どんなことでも言ってください

それから、 >>5 >>19 >>32 >>33 >>39 >>47 >>49 >>50 >>154 >>155 >>213 >>214 へ

レスありがとうございました
乗っ取りにも関わらず支援・期待、・保守をくれたのはもちろん 通りすがりも励まされました
それに 正直な感想をくれたレスの方 本当に嬉しかったです

途中長く間を空けて しかもまとめきれず250超えなんて長さになってすみません
最後に 他にもこのスレを開いてくれた方がいたら その方にも感謝を

ありがとうございました >>1に幸あれ

ごめん、投下前に更新しないせいで書き漏らしちゃったけど
>>255も ありがとー 

では

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