飛鳥「付き合っている?」 (19)
「そんな話は初耳さ。ボクがいつ、キミと付き合ったって言うんだい?」
――夜も竹縄。ひっそりと一フロアだけ明かりの灯った事務所には、まだ二人分の体温が残っていた。
そのうちの片割れ、二宮飛鳥は、もう一つの熱源に向かって問いかけた。
心外だ、と不満げに眉を顰めた表情で。
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「いつ、って言われると返答に困るけど……。でも、俺達は昨日、その、一緒に……」
「お互いの気持ちを確かめあった。たしかにそうだね」
恥ずかしげな様子で台詞に困ったのはプロデューサー。
飛鳥は、そんな彼の言葉を繋ぐように会話のバトンを奪う。
「そう。ボク達は昨日、お互いの気持ちを確かめあった。そして、同じ思いを抱いている事を確認した」
喋りながら、プロデューサーが座っているソファーに腰を落とす飛鳥。
現在、事務所には二人しかいない。したがって、当然、彼の他にソファーを使っている人はいないのだが、飛鳥が選んだ席は彼のすぐ隣で。
躊躇なくパーソナルスペースを共有するその行為から鑑みるに、二人の関係が単なる友人関係ではないのは明白だ。
夜に竹縄はあかん
不意に己の隣を占領する飛鳥に心を乱されながらも、プロデューサーは飛鳥に尋ねる。
「つまりそれは、俺らが付き合い始めたってことで……」
「いや、それは違うよ」
きっぱりと否定する飛鳥。
「――残念だな。まさかキミも、世界の理に捉われてしまっていたとはね。」
残念という単語とは裏腹に、口角を僅かに上げる飛鳥。
近しい者にしか分からないその表情は、彼女が饒舌に変わる際の青信号のようなもので。
それを知っているプロデューサーは、柔らかなソファーに身体を預けて考えを巡らせる。
そして、幾分かの沈黙のあとに、飛鳥が考えているであろう命題を口にした。
「つまり、単に恋仲である事と付き合う事は、別の問題ってことか?」
「……キミのその物分かりの良さは、本当に驚嘆に値するね」
>>3
ご指摘ありがとうごさいます。はずかし……
「まず、付き合うという行為について意見を一致させよう」
「付き合うっていうのはつまり……互いの関係を周囲の人間に知らしめる行為だと俺は思っているよ」
「ボクも同感だ。対して恋仲になるというのは、お互いがお互いに対して恋慕の情を抱いている状態を指す。つまり、今のボク達みたいな状態だね」
よくもまあ、歯が浮くような台詞をこうも無表情で言えるものだと、プロデューサーはある意味感心する。
もしコイツが男だったら、気障な野郎になるだろうな、と彼は心の中で苦笑した。
「付き合うという行為は、どういった目的の元になされるものだと思う?」
ふいにプロデューサーに質問をする飛鳥。
彼はしばらくうーん、と唸り、なんとか返答らしきものをひねり出した。
「周囲に対する優越感、かな。一般的に彼女を持っているというのは、自分が性的に魅力的な男性である事の証明になる。そして、相手が飛鳥みたいなアイドルという事になれば殊更にね」
つらつらと自分の考えを述べてみる。
それに対する飛鳥の表情は、冴えないものだ。
あ、短いのであっさり終わる予定です
「……つまりは、キーホルダー扱いって事だ。キーホルダーを持っている人は、持っていない人に対して優越感を覚えるし、綺麗な宝石のついたキーホルダーは価値があるという事だね」
ここまで言って、彼女は一旦言葉を切る。その表情はいつにも増して不安げなもので。
「……キミがボクを好いてくれるのは、ボクが綺麗なキーホルダーだからなのかな」
賢い彼女は、自らがいつまでも綺麗なキーホルダーではいられないことを理解している。
だからこそ、己の価値が時間の経過と共に薄れていく事を恐れているのだろう。
そんな飛鳥の様子を見て、プロデューサーは慌ててフォローを入れる。
「今の意見はあくまで一般論だよ! 俺は飛鳥を見せびらかしたい訳じゃないし、ましてや自分の優秀さの証明の為にお前と付き合いたいと思った訳じゃない。それに、ええと……」
慌てた様子の彼を見て、飛鳥は笑いを堪えられない。
「……フフッ、ありがとう、プロデューサー。……キミを疑ったわけじゃないよ。今のは、ちょっとだけからかってみただけさ」
「お前、そういうマジな冗談は止めろって……」
「――でも、キミがボクを大切に思ってくれている事が分かって、嬉しかったよ」
そう言う彼女は、僅かに頬を紅く染めていて。
普段の無表情さと相まって、それはとても魅力的な表情だった。
そんな彼女を見て、プロデューサーは一つの考えにたどり着いた。
それは、途方もなく実直で本能的で、それでいて彼の素直な感情。
「横取り、されたくなくてさ」
「……え?」
「飛鳥がとても魅力的だから、他の人に取られたくないんだ、絶対。……だから、付き合うという行為を通して、お前の所有権を声高に主張したかったのかもしれない」
飛鳥から目を逸らしながら、彼は早口で捲し立てる。
機嫌悪そうに眉を顰めてはいるが、それはどう見ても照れ隠しのためだ。
「付き合うという行為を通して、ボクとの間に鎖を繋ごうとした訳か……。その鎖は、ボク達の想いを縛る鎖になるかもしれない。――けれど、互いの絆をより強靭にするかもしれないね」
一人納得した様子の飛鳥。しかしそこで、今度は新しい不安が生じる。
「ボク達が付き合うとして、その鎖がいつまでも保たれるとは限らないだろう? 鎖はいずれ外的要因によって破壊されるかもしれない。はたまた、経年劣化で破損するかもしれない。鎖……一度得た繋がりを失うことになるのなら、そんなのボクは、嫌だよ」
先程までの大人ぶった様子はどこへやら、14才という年齢相応の振る舞いを見せる飛鳥。
そこにいるのは、恋愛問題に悩む、どこにでもいる少女だ。
「……失ってしまうのなら、それならいっそ」
「――初めから関係を作らなければいい、か?」
いたく感情的な少女の台詞に、プロデューサーが口を挟む。
その声色には、僅かに怒りの表情が混じっていて。
「それこそ、お前が俺の気持ちを信用していない事の証左になるぞ……?」
「……ごめん」
最初から、心配する事などなかったのだ。
飛鳥のこの想いが薄れることなどないだろうし、同じように、隣に座っている彼が飛鳥を見捨てる事もないだろうから。
納得した飛鳥を見て、プロデューサーはようやく話の本題に戻った。
「じゃあ、そういう事だ。――俺たちは、付き合ってるってことでいいよな?」
「……一つ、条件があるよ」
何かを決意したような、落ち着いた飛鳥の声。
「ボク達を縛る鎖は、屈強なモノかもしれない。でも、鎖にはメンテナンスが必要だと、ボクは思う」
「……どういう事だ?」
台詞の意味をよく理解できていない様子のプロデューサー。飛鳥の言葉は抽象的なものが多く、このように理解が困難な事も度々ある。
彼女は隣に座っている彼に正対し、僅かに腰を浮かせると、
「――こういう、事さッ」
不意にプロデューサーのワイシャツの胸元を片手で掴み、その手を起点にして、そのまま自身の上半身を彼に近づけた。
そして、唇を重ねる。
強引な行為。そして、触れるだけの接吻。
等身大の彼女を表すかのような、優しいキス。
「おまっ……!」
「――ボクは疑い深い性格なのさ。……だから時折こうして、鎖のメンテをさせてもらうよ」
そういって僅かに笑う彼女の表情は、これまで見たことのないような妖艶なものだった。
以上です。2時間くらいで適当に書いたものなのでクオリティは正直微妙ですが……
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