男「俺、お前が」幼馴染「……うん」 (58)

A.D.1993

母「男ー、幼ちゃん来たわよー」

男「あーい」

幼「いこー、男くーん」

男「うん!いこー!いってきまーす」

母「気をつけてねー」

男、幼「はーい」





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男「幼ちゃん、絵のしゅくだいした?」

幼「したよ、男くんは?」

男「したー。ぼくはね、ロボットかいたんだー」

幼「ロボット好きだねー。わたしはキリンさんかいたの」

男「みせてみせてー」

幼「うんっ」バッグゴソゴソ
幼「はい!」

[芋虫のような胴体から、手足の十倍はある首を生やしたキリン(?)が書かれた絵]

男「……キリンさんってこんなのだっけ」

幼「うんっ」

男「んー……んー……いいや」

男は一つ大人になった。

A.D.1994

男「幼ちゃん!」

幼「ひゃっ! びっくりしたぁ」

男「ごめん……そうだ、見にきてほしいのがあるんだー」

幼「なにー?」

男「ヒミツキチ作ったんだよ!」

幼「ヒミツキチ?」

男「うん!ぼくと幼ちゃんだけのヒミツキチ!行こうっ」

幼「うんっ」

A.D.1994

男「幼ちゃん!」

幼「ひゃっ! びっくりしたぁ」

男「ごめん……そうだ、見にきてほしいのがあるんだー」

幼「なにー?」

男「ヒミツキチ作ったんだよ!」

幼「ヒミツキチ?」

男「うん!ぼくと幼ちゃんだけのヒミツキチ!行こうっ」

幼「うんっ」

接続の状況が悪く二連投してしまった。
なぜかロックされてたり解除されたりの繰り返しによるものなので、こういうことは度々あるかも、ご容赦くだせ。

幼「どこまで行くのー?」オロオロ

男「まだまだ向こうだよー」

ガサガサ ガサガサ
雑草生い茂る跡地を抜けて、雑木林の奥へ行き、四歳児の二倍はあるフェンスに到着。

幼「のぼるの?」タラ

男「うん」ガシャッ

幼「もうやめようよー」

男「あっれー、幼ちゃんもしかして、のぼれないの?」ニヤニヤ

幼「の、のぼれるもん!」ガシャ

男「気をつけておりるんだよー」

幼「う、うん……」ビクビク ...ガ...ガシャンッ!!

男「うわ!」

幼「きゃあ!」ヒュー

   ズドンッ

幼「いった……」
男「うう……」下敷き

幼「ご、ごめん! 男くん、だいじょうぶ!?」

男「うん……幼ちゃんは?けがない?」

幼「わたしはだいじょうぶだけど……あっ、血がでてるっ」

男「ん?あ、ほんとだー」肘からタラリ

幼「ごめん、ごめんね」グスッ

男「だいじょうぶだよ、これくらい。ぼくおとこのこだもん」

幼「でも……」

男「ほらっ! ぜーんぜんいたくないよ!」

特撮ヒーローの変身ポーズを取ってアピール。

幼「……うん」クスクス

男「あ、わらったー。かっこいいんだよ、花弁ライダー!」

幼「くすくす。わたしも好きだよ、花弁ライダー……かっこいいもんね」

男「だよね! よーし、ヒミツキチまであとすこし、しゅっぱーつ!」

幼「おー!」

男「ここだよ!」

幼「うわぁ」キラキラ

そこには古びた小屋があった。
木造の壁は傷んでいて、木々に囲まれた人気のない小屋。

陽の光が真っ直ぐに小屋だけを照らし、様相とは裏腹に心を揺り動かす神秘さがあった。

幼「すごい!」

男「なかはとってもきたないんだけどね……でも、すごいでしょ!」

幼「うん!」

男「だからさ、ここをきれいにして、ぼくたちのヒミツキチにしよう!」

幼「うん!」

そうして、二人はヒミツキチを作った。
二人だけの、大人が知らない秘密の場所。


子供心に男は、ずっとここで遊んでいられると考えた。
誰も邪魔しないこの場所で、幼馴染と楽しく過ごしていられると考えた。

けれど幼馴染は男よりも少しだけ成長を早くして、
いつかヒミツキチに集まらなくなる日が来ることを、なんとなく考えた。

それは嫌だな、と寂しくなったけれど、
それまでたくさん遊んでいよう、と心に決めた。

日を追う毎に小屋は綺麗になっていき、
捨てられた椅子や本棚等を拾ってきて、
ヒミツキチは立派な物となっていた。

そうして季節は巡り、二人は小学校へ入学する。

A.D.1997

幼「男くん、帰ろ」

男「うん」

幼「……どうしたの? 元気ない?」

男「んー、別に」テクテク

幼「……うそ、元気ないよ」

男「そんなことないって」

幼「友達、できないの?」

男「……うん」

幼「そっか……わたしもだよ」

男「ほんとに?」

幼「うん……なんでだろ」

男「わかんない」

と言いつつも、原因の一つに幼馴染は気づいていた。
入学してクラスは別になった。
それでも男と幼馴染は毎日一緒に帰っている。
ただそれだけのことだが、一緒に下校しないというのが一つの壁になっていると感じていた。

幼「ね、今度の土曜日さ……」

男「ん?」

幼「タイムカプセル作ろうよ。私達のヒミツキチに」

幼「おじゃましまーす」

母「あらいらっしゃい」

幼「こんにちわ」

母「男なら部屋にいるわよ」

幼「はーい」

トタトタトタ ガチャ

男「もうそんな時間?」

幼「そうだよ、ちゃんと書いた?」

男「うん、だいたい」

幼「もう、遅いなー」

男「幼ちゃんは書けたの?」

幼「もちろん!」

男「見せてよ」

幼「だーめ。これを見ていいのは、十年後の男くんだけだよ」

男「えー」

幼「だから男くんもはやく書いてね、十年後の私に」

男「んー……」プスプスプス

"ヒミツキチ"

幼「やっぱりここ、好きだなー」

男「うん」

この数年の間に男は物静かな性格になった。
逆に幼馴染は少しばかり活発な女の子になった。

ずっと二人で過ごしてきた証なのかもしれない。
活発だった男が幼馴染に合わせて、
消極的だった幼馴染は男に合わせて、
そうしてちょうどいい位置に収り会話は減った。

けれどそれは苦痛のない沈黙。

幼「宝物も入れるんだよ?」

男「幼ちゃんはなにを持ってきたの?」

幼「私はね、これ」

男「あ、幼ちゃんが一番好きな本だ」

幼「うん。男くんは?」

男「これ」

幼「花弁ライダーのリストバンド、いいの?」

男「うん、宝物だから」

幼「よし、じゃあ、穴を掘ろう。あの木の下に」

幼「これで、よし」パンパン

男「十年後かぁ」

幼「十年後、なにしてるかな」

男「わかんないけど……幼ちゃんとここで遊んでるよ、きっと」

幼「そっか……でも、それはないよ」

男「なんで?」

幼「私はもう、ここには来ないから」

男「え?」

幼「私ね、友達できたんだ。同じクラスの志依(しー)ちゃん。だからね、もう男くんと遊べなくなるの」

男「なんで……? たまには、遊ぼうよ」

幼「ほかにも、いっぱい友達できたんだ。だから、たぶん、無理なんだ」

男「そんなの……」グスッ

幼「大丈夫だよ、男くんにも、いっぱい友達できるから」

男「わかんないじゃんか」

幼「わかるよ。だって男くんは、花弁ライダーだもん」

男「……花弁ライダーなんて、いないよ」

幼「……これ」スッ

男「なにこれ」

幼「プレゼント」

男「花弁ライダーの、時計?」

幼「うん。変身はできないかもしれないけど……」

男「……」グスッ

幼「男くん」

男「なに」

   チュッ

男「……?」

幼「えへへ……じゃあね」タッタッタッタッタッ






一人取り残されたヒミツキチで、なにをされたのかも上手く理解できずに呆けていた。
幼馴染に貰った花弁ライダーの時計を眺め、ただぼうっと。

口に触れた口……その意味をまだ知らない男は、幼馴染と遊べなくなったこと、
それだけが悲しかった。



翌週学校に行く時、プレゼントされた時計を身につけていった。
昼休みになって、近くの男子生徒が男に寄ってくる。

「うお、花弁ライダーじゃん! かっけー! お前も好きなん? 花弁ライダー!」

おずおずと、うん、と男は答えた。
そうして男にも友達ができた。

一度できてしまえば連鎖していき、雪崩になって、数え切れない友達ができた。
たくさん遊び、笑い、時には喧嘩をし、また笑い。
意識的に封じていたのか、無意識か、次第に男はヒミツキチの存在を忘れた。


幼馴染のことも、薄らいでいく記憶の一つだった。

A.D.2005 "自室"

男「んー……」プスプスプス
ガチャ
英「よっ、遊びに行こうぜ!」

男「アポなしかよ……勉強中だ」

英「いいじゃんよ、たまには息抜きしようぜ。おばさんも言ってたぞ? ちょっと勉強しすぎみたいだからー、って」

男「勉強しすぎなくらいで丁度いいだろ、受験生だぞ俺達」

英「でもお前は根詰めすぎだって。そんなに厳しいわけでもないだろ? 頭いいんだし」

男「英より頭いいってだけで、頭いいわけじゃないぞ」

英「そりゃ大体の奴は俺より頭いいだろうからな! っておい!」

男「自虐ネタでノリツッコミって寒いぞ……」

英「まー俺はスポーツ推薦あるからな! ははっ!」ニカッ

男(この爽やか野郎はだから余裕あんだろうな)

男「わかった、わかったよ。んで、なにして遊ぶんだ?」

英「んー……なにしような」

男「何しに来たんだお前……」

英「はははっ」ペラッ

男(結局漫画読んでるし……まあ、ちょっとは気が楽になったけどさ)

英「お、そういえばさ」

男「ん?」

英「さっきおばさんに聞かれたんだけど、お前って幼馴染知ってるだろ?」

男「……ああ、知ってるよ、一応」

英「昔はよく遊んでたんだって?」

男「んなもん小学一年で卒業したよ」

男(したってか、させられたんだけど)

男「それが?」

英「いや、今同じクラスじゃん? なのに喋ってんの見たことねぇからさ」

男「……別にいいだろ」

英「でもおばさん心配してたみたいだし、あそこ、親が離婚したんだろ?」

男「……だったかな」


中学一年生の時に男は母から幼馴染家の事情を聞いた。
といってもそれは離婚をして、母親と二人で暮らすことになったということ。

母は「幼ちゃん大変だろうから、フォローしてあげるのよ」と言っていたが、
男は(いつまで幼馴染気分でいるんだ母さんは)と心の中で毒づいた。

ずっと幼馴染のことなど考えていなかったが、言われてしまえば鮮明に思い出す。
何故かキスをされ、花弁ライダーの時計を貰い、そして唐突に別れを告げられたこと。
すぐに友達ができたが、男は幼馴染をその時の出来事によって快く思っていない。

だから、幼馴染がその後……。


英「やっぱ親が離婚したりすると、グレたりすんだなー」

男「関係ないだろ、そんなん」


今では学年の問題児とされていることも、男にとってはどうでもいいことだった。

"教室"

教師「~~であるからして~~タコス~~になり~~ドセイ~~となった後~~」

男「……はぁ」

男(授業が頭に入ってこない……ただでさえこの先生の授業は頭に入らないのに)

男(……英のせいか。いや、英のせいじゃないか)チラッ

視線を黒板から外して、四列向こうの遠くの空席を見る。
そこにはいる筈の人物がいない。

男(……別にどうでもいいだろ、あんなやつ)

教師「~~だったわけだが~~萌エ~~の割に~~キセイ~~の線が強く~~」

男(……いい加減区切れよ)

キーンコーンカーンコーン

教師「ん、ではここまでを纏めておくように」

英「おー、元気ないな、風邪か?」

男「……そんなとこ」

英「じゃあ帰らねえと! 風邪悪化したら大変だぞ!」

男「いや待った、風邪であって風邪じゃないっていうか」

英「バカ野郎! 風邪を舐めんじゃねえ!」

男「いやだからおい」

クラスメイト「え、風邪?この時期にうつさないでよ」ボソッ
クラスメイト「勘弁してほしいわ」ボソッ

男「……え」

男「本当に早退しちゃったよ、いやあの空気は居づらいわ」トボトボ

男「っても滅茶苦茶元気だしな……まだ家に帰りたくないし」

男「勉強って気分じゃないもんな」

男「どうすっかなー……あ」

中学から男の家の道中にはゲームセンターがある。
まだ昼前だからだろう、人はあまりいなかった。
この時間帯にゲームセンターにいる人となれば、大人が大半だ。
子供であれば、真面目ではない割が高い。

だから余計に目がついた。

男「あれ……幼か」

茶髪でこそあったが、ガラスの向こうで佇む姿に見覚えがあった。
校内で何度か擦れ違ったこともあるが、それ以上に、
既に顔すら思い出せないというのにも関わらず、浮かんだ映像は出会った頃の幼馴染だった。

母親の足に隠れて小さく顔を覗かせた、あの頃。

男「いや、いやいや」

どうでもいいし、関係ないと男は思う。
なにせその頃と違って今の幼は、椅子にあぐらをかいて不遜に座り、仲間らしき者のプレイを眺めて、手には――。

男「ッ」

不思議と、それが男にはカチンと来た。

幼「……」スゥ 

幼「……ッ!?」ゲホッゲホッ

男「……」

幼「な、なに」

男「……やってんだよ」

幼「は?」

男「なにやってんだよ!」

幼「ちょっと待った、いきなり現れたかと思ったら、なに? うざいんだけど」

男「それ!」

幼「……これ?」モクモク

男「ちっ」スッ

幼「なにすんだよ」

男「煙草吸える歳じゃないだろ」

幼「……まじうざい」

不良「ちょいちょいちょい、おいこら」

男「なんだよ」

不良「うるせえんだよてめぇ、負けちまっただろうが」

男「知るか」

不良「はあ? なにこいつ。幼、お前の知り合い?」

幼「……昔のね。今は他人」

不良「あっそ、んじゃ」ヒュッ

   バキッ

男「いっ……」

A「なになに、なにこいつ」
B「喧嘩売ってきたん? 馬鹿じゃん?」
C「不良くんやっちゃえー」

 ワラワラ ゾロゾロ

不良「昔の知り合いがいきなり来て、煙草に注意って糞だっせーなお前。なに、騎士気取ってんの?」

男「……るせ」

不良「は?」

男「うるせえ!」ヒュッ

不良「おー」スッ 「おーこわ、恐い恐い。へっぴり拳恐いわー」ヒュッ

男「がっ」バキッ

不良「弱えー、弱すぎ。喧嘩したことないんじゃん?」

幼「ちょ、もういいじゃん、そのへんで」

不良「なに? 庇ってんの? お姫様すんの?」

幼「そんなんじゃないって! 昔の馴染みだしさ、やめてやってよ」

不良「ふーん」

男「う……」ヨロッ

不良「よかったなぁお前、女に守られてかっこいー。はっ、行こうぜ」ニヤニヤ

男「く……」トスン

幼「……」フイッ

男「……くっそ」

男(なにやってんだ俺)

英「お見舞いきたぜーってなんだそりゃあ!」

男「別に」ガーゼ&バンソーコー

英「なに、学校帰りに絡まれたのか? よーしお兄ちゃん切れちゃうぞ」

男「違うって。大体お前そんなんしたら推薦取り消しだぞ」

英「バレなきゃいいって、バレても別に、自力で入ればいいし」

男「そういう問題じゃないだろ! 俺のせいでお前が受験失敗したら、俺が困るんだよ!」

英「それが間違ってんだよ! ツレボコられて黙ってたら俺の股間に関わんだよ!」

男「……お前」プッ

英「な、なに笑ってんだよ」

男「気づいてないし……馬鹿だ」アハハッ

英「なんだよ言えよ」

男「股間じゃなくて、沽券な」

英「な……」カァ 「い、いいんだよ股間で! 股間は男の魂だ!」

男(ちょっと筋が通ってんな)

男「でもいいよ、ほんと。ありがとな。そんなんじゃないから」

英「……いつでも言えよ、ったく」

男「あんがと」

男「それとは別にさ」

英「ん?」

男「うちの学校って不良何人いんの?」

英「それほんとに別の話か?」

男「まあまあ」

英「怪しいな……不良な。そんなにいないぞ、数人ってとこだよ」

男「そっか」

英「うちの学校のやつなのか?」

男「かもな」

英「よし、解った」

男「余計なことすんなよ」

英「なんでだよ」

男「これは俺の問題だから」

英「……それずるいぞ」

男「頼る時は頼るから、そんとき頼むよ」

英「わかったよ。で、これ宿題のプリントな」

男「お、おう……なんか嫌なタイミングだわ」

男(あいつ……なんであんなとこにいんだろ)

ついさっきのことを振り返る。
そこに笑顔の幼馴染はいなかった。
楽しんでいないことがありありと伝わった。
暇で暇で仕方がない、といった風だった。

男(親が離婚して……それで?)

男(そういうもんなんかな)

仮に自分の親が離婚したとして、不良になる想像ができない。
きっと自分は嫌だろうし、落ち込むだろう。
そうなったとき、それでも道を外れない気がした。

不良を嫌悪しているから、ではなく。

男(そうなったらあのお節介がな……)

英がきっと自分の心配をするだろう。
今より遊ぶ回数も増えるかもしれない。
そうなれば不良になる道が浮かばない、そんな気がした。

男(あいつ、そういう友達いなかったんかな)

ろくに宿題のプリントが進まない。
シャーペンはくるくると回り、あ、と男が漏らして指に引っかかる。

男「志依、っつってたっけ」

"教室"

男(あいつ、だよな)

八年も前に一度だけ聞いたことだから、幼との繋がりをすっかり忘れていた。
沢山の友達ができたと言っていた中で、唯一名前が挙がった人物。

男(同じクラスだったのか)

志依「……」ジィ

物静かな女生徒は一心に本を読んでいた。
昼休みだからなにをしていてもいいのだが、誰も彼女に話かけることはない。

男(よし)

男「なあ」

志依「……」ペラッ

男「おい」

志依「……」ジィ

男「おいって」

   ビクッ

志依「は、はい」

男「聞きたいことがあんだけど……ちょっといいか」

志依「は、はい」


クラスメイト「え、あれって」
クラスメイト「あの二人って仲良かったっけ?」
クラスメイト「豚子に春がきたー」クスクス


男「……場所変えていい?」

志依「……はい」

楽しみに見てるけど英、英とむず痒い
男友とか女とか女友とか幼友とかじゃダメだったん?

志依「……あの、なんですか」

男「うん、えっと……豚子って呼ばれてんの?」
男(しまった!)

本当に聞きたいことをはぐらかすあまり最低なことを聞いてしまったと男は後悔した。

志依「……一年生の時、太ってたので」

男「そんな前のこと……ってごめん、今のは違うんだ。本当にごめん」

志依「……なにを聞きたいんですか?」

男「うん、その、あのさ……」

志依「幼ちゃんの、ことですか?」

男「っ。そ、そう。よくわかったな」

志依「幼ちゃんによく聞かされてましたから」

男「……俺のこと?」

志依「はい」

男「なんで、あいつが……」

志依「男さんのお陰で友達ができたって、言ってましたよ」

男「俺の……お陰?」

>>28
さーせん
ちょっとでもタイプする文字数減らしたくて
英(A)君
志依(C)ちゃんとしたら、おっこれ楽じゃねえまじ新発見!
とか馬鹿でしたねごめんさい
できたら脳内でA君Cちゃんと変換ください

志依「子供のころは暗くって、明るくしてくれたのは男さんのお陰だって」

男「あいつ、そんなこと……」

志依「だから、自分のせいで男さんに友達ができないのは悲しいって」

男「自分のせい? なんであいつのせいに?」

志依「自分と遊んでるから友達を作る時間がないんじゃないかって、言ってました」

男「そんなの関係ないだろ……」

志依「でも実際、小学生の時、幼ちゃんと遊ばなくなってから友達ができたんですよね?」

男「そ、うだけど……」

志依「本当にそれが原因だったのかは解りませんけど、でも、ありえないことでもないですし」

男(小学生の時って確かに、女子と遊んでる奴って敬遠されてた気がするな)

男(……もしかして……いや、考えすぎか)

志依「だから、嬉しそうでしたよ。男さんに友達がいるって話す幼ちゃん」

男「……あの馬鹿」

志依「それで、聞きたいことってなんですか?」

男「あ、ああ、それなんだけど」

男「あいつが不良になった原因って知らないか?」

志依「……なんで私が知ってるんですか、そんなこと」

男「ごめん、あいつの友達、あんたしか知らないんだ」

志依「……そうですか」

男「知らなかったならいいんだ、ごめん。ありがとう」

志依「……あ、あの」

男「ん?」

志依「私のせい、だと、おもい、ます」

とても心苦しそうに、震えた手を握り締めて、志依は言った。

志依「幼ちゃんの両親が離婚して……それは幼ちゃん、まだ大丈夫そうだったんです。辛そうだったけど。

  それから暫くして、離婚の話が広まって、多分、幼ちゃん目立つから、疎まれてたんだと思います。

  段々他の女子から虐められるようになって……虐めっていっても、影口とか上履き隠しとか、凄く小さな積み重ねで。

  幼ちゃん自身、こんなの平気だよって笑ってたんです。それで……。

  さっきも話した通り、当時私は太ってて、今みたいに陰気でした。

  私が虐められそうになると幼ちゃんが守ってくれたりしてたんです。

  ある時、虐めを扇動している女子が、私に持ちかけました。

  "私達のグループに入ったら、もう誰も虐めないって"

  それなら、今度は私が幼ちゃんを守れるって思って。

  ずっと守っててもらって、嬉しかったから……。

  だから、言う通りにしました。

  昼休みのご飯の時、幼ちゃんと一緒に食べずに、その人のグループでご飯を食べました。

  幼ちゃんは驚いていたけど、帰りに話したら解ってくれるって思ってたら……、

  その女子が大きい声で言いました。

  "あーあ、可哀想に、一人になっちゃったねー!"

  私が、馬鹿だったんです……」

男「でも、帰りにちゃんと話したんだろ?」

志依「話そうとしました! でも、帰りもその女子に捕まって……。

  帰ってから電話をしても誰も出てくれなくて……。幼ちゃんのお母さんは仕事でしたし、幼ちゃんは……。

  次の日もその次の日もチャンスが掴めなくて、それで、その次の日。

  幼ちゃんは髪を茶色にして学校に来て、朝、教室でその女子を見るなり、殴りました」

男(……それは噂で聞いた。なにしてんだあいつ、って思っただけだったな)

男「なにがあったんだ?」

志依「わからないんです、なにも。私はそのグループと一緒に登校しました。

   前日も一緒に下校しています。その間に二人が話してるとこ、見てないんです。

   でも、なにかあったんだと思います。

   女子は怯えていて、幼ちゃんは耳元でなにか言っていたと思います。

   泣きながら解った、って女子は頷いて。

   そのまま幼ちゃんが帰ろうとしたから、追いかけました。

   声をかけようとしたら、幼ちゃんが……"ごめんね"って、言って。

   それから学校では会ってません」

男「……なんだそれ」

志依「私のせいなんです。私があの時、あんな馬鹿な誘いに乗らなかったら……。

   きっと、本当は幼ちゃんの虐めがなくなればいいなんて、思ってなかったんです。

   私は、私が虐められないために、それで……」

男「待った」

志依「は、はい」

男「そういうのはいい。自分のせいとか、自分のせいじゃないとか、俺の役目じゃないわ」

志依「ご、ごめんなさい!」

男「でも……そういえば志依さんって、今は一人じゃなかった?」

志依「私から離れました。もう嫌だって」

男「……そんなことしたらまた虐められただろ?」

志依「それでもよかったんです。幼ちゃんに申し訳なかったから……。

   でも、虐められませんでした。あっそ、って。それで終わりでした」

男「……?」

男(それは、おかしいだろ。寧ろ虐めが酷くなるパターンだよな。幼に殴られて目が覚めたとか? いやいや、ないわ)

男(……それが原因?)

男「それから幼と話したことは?」

志依「ありません。たまに学校に来ても避けられてますし、電話をしましたけどすぐに切られてしまって」

男「……それが、原因」

男(なんか釈然としないな)

志依「あの、お願いします!」

男「な、なに」

志依「幼ちゃんを助けてあげてください!」

男「助ける? 大袈裟だろ」

志依「そんなこと、ないです。一度街中で幼ちゃんを見たことがありましたけど、凄く、辛そうでした」

男(ああ、あれはそうなのか。楽しんでないんじゃなくて……辛そうだったのか)

志依「私じゃ、もう……相手にしてもらえないから……」グスッ

男「……はあ。わかった、なんとかしてみるよ」

志依「ほんとですか!?」

男「でもな、別に俺スーパーマンじゃないからさ、なんともならないかもしれないのと、あと。

  志依さんにも頑張ってもらう」

志依「私にできることがあったらします」

男「うん、なにしてもらうか解らないけど、絶対に必要になるよ。その問題は二人しか解決できないと思う、多分。

  俺も避けられてるしな」

志依「ありがとうございます!」

キーンコーンカーンコーン

男「昼休み終わっちゃったか。ありがとな、色々」

志依「いえ、こちらこそ、すみません……」

男「んじゃ」


志依(……幼ちゃんの言ってた通りの人だね)

男「よし」

"幼馴染宅前"

ピーンポーン ピーンポーン

ガチャ

男「よっ、居てくれてよか」

幼「……」バタン

男「おい! 話ぐらい聞けよ!」

幼「帰って!」

男「帰れるか! まだ話もしてないのに!」

幼「話すことなんかない!」

男「俺にはあるんだよ!」

幼「いいから帰……ちょっ、あっち行っててよ!」

ガチャ

不良「あっれー、久しぶりじゃん、弱虫君」

男「またいんのかよ」イラッ

不良「当たり前じゃん? 俺ら付き合ってんだし」

男「付き合っ……んなこたどうでもいいんだよ」

不良「あっれ? お前って俺のんに惚れてるわけじゃねぇの?」

男「こいつはただの幼馴染だ!」

不良「ふーん……で、その幼馴染がなんの用よ」

男「お前に関係ない用だよ」

不良「はぁん? またボコられて女に守られたいわけ?」

男「邪魔だ」

不良「上等だ」イラッ ドンッ

不良「半殺しにしてやるよ、なあ?」

幼「……そうだね」

不良「今度は守ってくれねーってよ!?」ヒュンッ

男は喧嘩をしたことが数えるほどしかない。
その喧嘩も友達とした、他愛のないもの。
血を流すような喧嘩は一度もなかった。

だから、当たり前に殴られた。
好き放題に殴られた。
殴り返しても避けられて、気づけば地面に寝ている。

それでも立ち上がり、殴りかかる。
どうして自分が相手に苛立っているのか、理由の一つも浮かばない。
殴られすぎて、ぼんやりと揺らいだ意識では思考もたどたどしい。

そして男は派手に吹っ飛んだ。
いいのを一撃貰ったのだと感じた。
いよいよ足に力が入らなかった。

男(半殺しって、どんだけ殴られんのかな)

痛みが麻痺しているようで、していないようで。
ずきずきと唸る割には鈍く重い。

不思議と次はなかった。
立ち上がれない自分に興味を失くしたのか、と考えて。
強張っていた力を抜く。

子供の泣き声が耳についた。
それは幼き日の思い出が、静かに繰り返されたものだった。

思い出の中で泣く女の子と、宥める男の子がいた。
自分と幼馴染だと気づくのに時間は必要なかった。


なぜ幼馴染が泣いているのか解らなかったが、あの頃の幼馴染はよく泣いていた。
その度に俺は幼馴染の頭を撫でて、もう泣くなと泣き止むのを待った。

"だって、だって"

泣きじゃくる女の子を宥める方法を幼い自分は一つしか知らなかった。
というとまるで今では沢山知っているようだが、逆に今は一つもできないだろう。

思い出に浸りながら、男は思う。
あんな言葉は幼いから言えた言葉だ、と。
今ではもう、恥ずかしくって口にできない。

"もう泣くなって"

頭を撫でながら、泣き止まない幼馴染に対して。
大好きだったヒーロー、花弁ライダーと同じ台詞を。

"お前は俺が――"


そう、泣きじゃくる女がいた。
夢の続きは未来に飛んで、女の子は大きくなっても、まだ泣いていた。
ふと腕を伸ばせば刺すように痛み、気にせず肩を上げて頭を撫でた。

"また泣いてんのか"

やっぱりこれは夢の続きだ。
あいつはいつからか俺よりも強くなって、泣き虫じゃなくなったから。
大粒の涙をぼろぼろと零して、だって、だって、と言う様はあの頃そのままだ。

夢ならいい。

"お前は俺が――"

夢なら言える。
恥ずかしいことも、夢だったなら。

「お前は俺が守るから」

すると大きくなった幼馴染はわんわんと強く泣き始めた。
自分の胸に顔を埋めて泣き続ける幼馴染の下で、

おかしいな、たしか泣き止むはずなんだけど、と。

それが夢じゃないことに気づくのは、自分がコンクリートに寝ていると知った時だった。

"幼馴染宅内"

幼「……痛む?」グスッ

男「すっごい痛い」

幼「……ごめん」グスッ

男「もう泣くなって」

幼「……うん。守るんだもんね」

男「頼むから忘れてくれ」

幼「そういえば昔っからさ、それを言う時だけは"俺"で"お前"って呼んでたよね。なんで?」

男(花弁ライダーの台詞丸パクリとは言えない……)

男「かっこつけてたんだろ」

幼(花弁ライダーの台詞だって知ってるけどさ)クスッ

男「あいつは?」

幼「帰ったよ、つまんねーって」

男「……そっか。また止めてくれたのか」

幼「……気づいてたの?」

男「でなきゃ帰らんだろ、不貞腐れて」

幼「かな」

男「本題に入りたい、けど。くそ、ほんとに痛いな……」

幼「骨とか大丈夫? 病院行こう?」

男「病院は後。あいつ律儀に顔面しか狙ってきてないからな。鼻と目は平気みたいだからいいよ」

幼「……ごめん」

男「もう謝んなって」

男「でさ……お前……」

幼「うん……」

男「あいつとヤったの?」

幼「はあ!? なに言ってんの!?」

男「いや、彼女の家にいるって、もうそうかなって。不良だし」

幼「馬鹿言わないでよ付き合ってもないのに!」

男「え、あいつ付き合ってるって」

幼「あいつが言ってただけじゃん。言っとくけど他にも人いたからね? 帰ったけど」

男「なんだ、そっか。

  ……よかった」ボソッ

幼「なんかいった?」

男「なんも言ってない。そんでさ」

幼「今度はなに」

男「もう辞めたらいいんじゃないか、不良ごっこ」

幼「……なにそれ」

男「お前楽しくないだろ、いま」

幼「……」

男「まあ楽しいから不良やるってのも解らないけど、少なくともあいつら楽しそうだったぞ」

幼「別に、いいじゃん」

男「あいつらは好きでああなんだろうけど、お前は別に好きでやってるわけじゃないみたいだし」

幼「なんであんたがそんなことわかんの?」

男「志依さんが言ってた」

幼「……志依ちゃんが」

男「あと、お前を助けてほしい、だって」

幼「……別に助けなんていらないけど」

男「俺もそう言った、大袈裟だって」

幼「じゃあなんで来たの」

男「街でお前を見かけたんだと。凄く辛そうだったって。あの子な、今でも自分を責めてるよ。

  私が馬鹿なことをしたから幼ちゃんを傷つけたって、泣いてた」

幼「志依ちゃんのせいじゃないよ! 自業自得、だよ」

男「だからそういうのいいんだって。お前といい志依さんといい、懺悔されても困るから」

幼「……ごめん」

男「そういうの当人同士でしろよ、二人して同じことで悩んでんだからさ」

幼「同じこと?」

男「あの子な、いま友達いないぞ」

幼「なんで!? まさか、あいつ……っ」

男「……ははっ、やっぱそうか」

幼「なにが!」

男「お前、志依さんのために例の女子を殴ったのか」

幼「ッ!?」

男「おかしいもんな、どう考えても。

  志依さんな、お前が学校に来なくなってからそのグループ自分から抜けたんだよ。

  幼に悪いっつって。罪悪感からだろうけど。

  そしたら普通さ、虐められるだろ。

  今まで邪魔してきたお前はいない、虐められっ子が歯向かってきた。

  なのに、その女子は志依さんを虐めなかったんだって」

幼「……それがなに」

男「だから、おかしいだろ? なんで虐めないんだよ。

  虐めっ子の理屈なんて知らないけどさ、想像ぐらいつくわな。

  でも仮に、お前が志依さんのために女子を殴ったなら凄く簡単な話だ。

  お前がいなくなっても、幼によって志依さんは守られてるとしたら。

  辻褄は合うんだよ」

幼「……」

男「それからお前は順調に不良になったんだってな。

  不良になれば女子はよりお前を恐れるようになるからな」

幼「違う!」

男「そうなると今度はお前が女子を殴った理由だ。

  これは別におかしくない。殴る理由は山ほどあった。

  でも志依さんを守るためだとしたら……。

  その場合はまた別の矛盾がある。

  お前が殴った時、志依さんはそのグループにいたってことだ。

  仲良しだった、ってことだ。

  じゃあ志依さんのために殴る必要なんてない。

  でも志依さんを守るためだとしたら……そう考えたらありがちな話だよな。

  お前偶然かどうか知らないけど、聞いたんだろ。

  その女子が志依さんのことをグループ内で虐めるとか、そんな話」

幼「それ、志依ちゃんに話したの?」

男「してない。そんなことしたらあの子、不登校になるかもしれんだろ。ただでさえ悩んでんのに」

幼「そう……絶対に話さないでよ!」

男「話さない。だから俺には本当のことを話してくれ」

幼「……わかったよ。ってか、いつからあんたは探偵になったの?」

男「馬鹿、探偵って事件を解決する人だろ? 俺のは当てずっぽうだ」

幼「……は?」

男「だって今の話に証拠なんて一個もないだろ。点が何個かあったからいいように線繋げたらこんな話だった、ってだけで」

幼「でも、全部解ってるって感じだったじゃない」

男「その方が幼が引っかかるかなーって、思ったけど引っかかったな」

幼「あんたねぇ……」

男「でもよかったよ、ほんと。

  お前が嫌な奴になったわけじゃなくって」

幼「……馬鹿じゃないの」

男「そんで、全部話してくれるか?」

幼「全部って……なにを話したいいのかわからないけど」

男「そうだな……なんで不良になったのか、とか」

幼「……言っとくけど不良になったのは志依ちゃんのためだけじゃないよ。

  私が、学校にも家にもいたくなかっただけだから」

男(俺にとっての英みたいな存在が志依さんだったとしたら、それはやっぱ志依さんの責任な気がするけど……自業自得なのもそうなんだろうな)

幼「あいつを殴った理由はそのまま、あんたが言った通り。

  志依ちゃんをグループに入れた理由を話してたの、偶然聞いたの。

  だからあいつを殴って、志依ちゃんを虐めたら許さないって言った。

  虐めてないみたいだからよかったけど……」

男「でもそれなら別に学校にいればよかっただろ。なんで来なくなったんだよ」

幼「学校に行きたくなかったってのは本当だから。

  それに……」

男「なんだよ」

幼「私がいたら志依ちゃんに迷惑がかかるって、思ったのに……」

男(自分のせいで学校に来なくなった、と。

 自分がいたら迷惑がかかる、と。

 ……相思相愛かこいつら)

幼「でも、本当だから。私が不良になったのは私が馬鹿だったから」

男(そんで必死に自分が不良になった原因を志依さんに被せないようにするのか。

 ……なんかアホらしくなってきたな)

男「じゃあもういいだろ。学校来いよ」

幼「……」

男「お前が来ないから志依さんずっと悩んで一人だ。高校行くまでずっと一人かもな。

  もうそろそろ修学旅行だってのに。可哀想だな」

幼「でも……いいのかな、私」

男「いい加減に気づけ! 行かないってのを選んでる方が迷惑かかってんだよ!

  大事な友達なんだろ! 初めてできた、俺以外の!」

幼「……うん、そうだね、うん。よし」

男「よし」

幼「明日は学校行くよ、ほんと、ごめん」

幼「あれ? 初めての友達って、言ったっけ」

男「そんな気がしただけだから」

幼「あんたそればっかね」

男「散々考えさせられたんだよ、こっちは。なにがどうなってんのか解らないから」

幼「そんでさ」

男「うん?」

幼「病院行こ?」

男「……だな。実は凄い痛いんだって、泣きそうなくらい」

幼「いいよ、泣いても。あやしてあげるから、昔みたいに」

男「そんな覚えはない」

幼「……一年半ぶりか」

男「そういやおばさんと仲悪いのか?」

幼「ああ、うん。悪いって言っても、私が一方的にね」

男「やっぱ離婚したからか?」

幼「離婚の原因がお母さんにあったから……でも、それももういいよ。頑張ってく」

男「そっか」

幼「うん。お母さんもあれから反省してくれてるみたいだし、今日か明日にでもゆっくり話するよ」

男「……一人で平気か?」

幼「……もう大丈夫だよ、うん。ありがとう。一人で頑張ってみる」

男「わかった。なんかあったらいつでも言えよ。もうこんな面倒なのは懲り懲りだ」

幼「あんたが私を避けてた癖によく言うよ」

男「そりゃ、仕方ないだろ」

幼「うん、仕方ない。難しいね」

男「……だな」


結局、男の怪我は見た目より酷いものではなかった。
幸いにも打撲と裂傷のみで骨に異常はなく、といっても翌日は高熱が出たので学校を休んだ。

そのことも手伝って幼馴染が登校したのは結局翌々日。
献身的な介護のお陰か男の体調は通常通りに持ち直した。

男の母は、数年ぶりに会った懐かしい客の髪色に驚いた。
「話には聞いてたけど、派手になったのねぇ」
とそれだけだったのは、母の天然か器の大きさか。

男が熱にうなされ、しかし常にひんやりとした額の上のタオルに心地よさを得ていると、
自室の扉から入ってきたのは黒髪の幼馴染だった。

「おばさんがお風呂貸してくれたから、戻しちゃった」
帰って黒に戻すと話したらお風呂使う? と申し出てきたのに甘んじたようで、
いつまで幼馴染気分なんだよ、と男は毒づくことはなかった。

なにせ、お風呂上がりの幼馴染に見惚れてしまっていたから。

黒く染まった髪はまだ水気があって、
ぽかぽかと湯気立ち紅潮した頬には色気があった。

「な、なに」
照れて視線を逸らす幼馴染を見て、
こいつも女になったんだな、と男は思う。
同時にフラッシュバックのように映し出された脳内の映像は、
幼い頃は意味が解らなかったファーストキス、その時だった。

「べ、別に」

ともあれ、翌日二人は学校へ向かった。

クラスメイト「おい、あれって」
クラスメイト「ああ、だよな」
クラスメイト「あれ? 茶髪だって話じゃ」
クラスメイト「ってか男くんアンパンマンじゃね?」
クラスメイト「ジャムおじさん呼ばなくちゃ」
クラスメイト「バタコか!」

   ザワザワ ザワザワ

志依「幼、ちゃん……」

幼「志依ちゃん……ごめん!」

志依「え、え?」

幼「なんか色々、もう全部ごめん!」

志依「な、なんのことかわからないけど、謝るのは私だよ! ごめんね、幼ちゃん」

幼「いや、違うよ、私が悪いよ、本当にごめん!」

志依「違うもん、私だもん、ごめんなさい」

幼「でも~~」  志依「だって~~」

男「めんどくさいわお前ら!」

幼「でも……」

志依「だって……」

男「そのまま一生謝り続けるつもりか! なんのために学校来たんだ、幼!」

幼「……志依ちゃんとまた仲良くしたかったから」

志依「幼ちゃん……」ウルウル

男「だろ? もうたっぷり謝りあったんだし、お腹いっぱいだよ。終わらないし……」

英「なになに、なにこの展開。男を取り合ってんの?」ヒューヒュー

男、幼「違うわ!」

英「あー、なるほど。取り合う隙もないと」

男、幼「だから!」

幼「ちょっと、真似しないでよ」

男「してないっての、お前がちょっと黙ってろ」

幼「なにそれ、むかつく」

志依「ふふっ……」


志依(幼ちゃんの言ってた通り……、

  男さんは、花弁ライダーみたいなヒーローだね)クスクス


なんか最初の思惑とちょっと違う道に入ったけど、軌道修正できた気がします。
ただノスタルジックな、最初の方のレス通りあの花気分で書こうとしただけだったのに……。

ちょっと区切りがいいので休憩します、はい、まだ続きますごめんなさい。
読んでくれてる人が何人かいらっしゃるようでよかったです、嬉しいです。

ではまたあとで、です。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年10月06日 (木) 23:35:29   ID: qjFjjhI0

つまんな

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