男「弟が、死んだ…?」 (97)
男「冗談、だろ?」
叔父「…事実だ。ついさっき、俺が最期を看取った」
男「何言ってんだよ…なあ、嘘なんだろ?からかってるんだろ?流石にその冗談は趣味が悪いよ叔父さん」
叔父「……」
男「だって叔父さんは外国から何度も誘いが来てるし、今までだって何十人もの人を救ってきた医者だろ?
皆が無理だって言ってたアイツの腕だって治した凄い医者じゃんか。なのに弟を救えないって、そんなわけが無いじゃんか!」
叔父「……男」
男「そうだよ、叔父さん以外誰が救えるんだよ。アイツは叔父さんにあんなに懐いてたし、叔父さんだってアイツのこと自分の子供のように思ってるって言ってたじゃんか。
だから、だから…!」
叔父「男、信じたくないかもしれないが…」
男「嘘だろ…なあ、嘘なんだろ!叔父さん!?」
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男「頼むから嘘だって言ってくれよっ!!」
そんな訳でひっそりと始めて行きたいと思います。SS初投稿なのでお見苦しいところがあるかもですがよろしくお願いします。
ってかもう既に2回目の投稿でミスってますね…下も改行するんだった。
~~~~~~~
「兄ちゃんはさ、主人公なんだよ」
「…うん、多分間違いない。そしてワシはモブキャラ、いやサブキャラかな?名前あるし」
「きっとワシはモブとして、あるいはサブキャラとして兄ちゃんを立てたり、助けになることが役割なんだと思う。
彼らの行動の全ては良くも悪くも主人公を際立たせるからね」
「だからさ、全然気にしなくていいんだ。ワシは…ううん、『俺』はもうとっくに受け入れてるんだから――」
~~~~~~~
男「……なんてことを言ってたけどさ。だからって何で死んでんだよ、お前は?」
「………」
男「主人公を立てたり救うサブキャラなんだってお前言ってたじゃんか。お前が死んで俺が喜んでると思ってんのかよ?」
「………」
男「…俺さ、ずっとお前に謝りたかったんだぜ?俺がお前にしたこと、気付かない間に傷つけてたこと。
全部謝って、昔みたいにまた……」
「………」
男「結局一言もお前に伝えることが出来なかった。兄貴なのにお前を傷つけてばっかで、助けられてばっかで…
何やってんだろうな俺は」
「………」
男「……チクショウ」
ガラッ
叔父「…もういいのか?」
男「うん…なあ叔父さん、ホントに弟は死んだの?」
叔父「…お前が目にした弟の姿、それが答えだ。認めたくは無いだろうがな」
男「そう、だよな。
普通の寝顔にしか見えなかったからさ、全然実感湧かなくて」
叔父「誰でも初めはそういうものさ。原形を止めないほどの大怪我でもしてれば別だけどな。
だが遺体はそのうち腐っていく。アイツが目を覚ますことは、もう二度とない」
男「うん。分かってる…」
男「…父さんたちに連絡は?」
叔父「お前がここまで来る間に既に伝えたよ。もう少ししたら来るだろうな」
男「そっか…」
叔父「…こんなときに聞くのも変かもしれないが」
男「何?」
男「兄さんもショックを受けてた。離れて暮らしてたとはいえ、アイツのことを大切に思ってたんだな?」
男「…うん。っていうより『思い出した』んだと思う。弟のことも愛していた自分たちを。
アイツの体が壊れて、家を出てった日をキッカケに」
叔父「そうか…なら少なくとも、愛されていなかったわけじゃなかったんだな」
男「あの日以来、結局顔を合わせず仕舞いだったけどね。父さんはたまに電話で話してたみたいだけど、アイツは家には一度も顔出さなかったし、面会も断ってたみたいだから」
叔父「なら、アイツの近況も…?」
男「俺は高校最後の大会で顔だけは合わせたし、それ以降は弟友君からたまに教えてもらってたから。というか試合したんだけどね」
叔父「ああ、そういえばアイツから聞いたな。なんでもアイツ、初めてお前に勝ったんだって?」
男「うん、強かった。あの試合だけは今でも鮮明に思い出せる。『あんなこと』があったのに、昔よりずっと強くなってて…」
叔父「そうか、本当に勝ってたのか。その割にはあんまり嬉しそうじゃなかったけどな」
男「…これでも個人戦では優勝したし、その前の年までは団体戦も優勝に引っ張ってた自信があったんだけどね。それでもアイツのほうが強くて、俺はアイツの期待より弱くて。だからきっとガッカリしたんだと…」
叔父「『最後のチャンスだったのに』」
男「!?」ビクッ
叔父「『試合には勝てたけど、俺は結局兄ちゃん超えは出来なかった。約束は果たしてもらえなかった』」
『約束じゃ、なかったのかよ…!』
男「……」
叔父「『結局俺との約束も俺も。兄ちゃんにとって』」
『主人公にとってモブキャラとの約束なんて』
叔父「『どうでもよかったんだ』」
『果たす価値もない、ゴミだったんだな』
男「違うっ!」
叔父「……」
男「違う!違う!違うっ!俺は…俺は!」
叔父「…違うだろ男」
男「!」
叔父「違うだろ、男。いや、『違わない』のかな。どちらにせよ、お前はアイツを傷つけたんだ」
男「叔父さん…」
叔父「お前だけは向き合ってやらなきゃいけなかったんだ。兄さんたちが出来なくても、他の誰が出来なくても。お前だけはアイツと向き合って、ぶつかって、受け止めてやらなきゃいけなかった」
男「俺、は…」
叔父「だけどお前は、最後までアイツと向き合ってやらなかったんだな。本気でぶつかってやらなかった」
叔父「――弟と、本気で向き合ってやらなかったんだ」
とりあえず今日はこの辺りで、一応トリもつけときます。
感想とか苦情、あるいは直したほうがいい点があったら教えてください。
弟が消えた弟が消えた僕の前から消えた
悪魔が突然やってきて弟を攫って行った
誰だ弟を殺したのは
誰だ弟を殺したのは
7の男の何?の次の男の台詞は叔父の台詞か?
どうしてJカスが湧いてるんですか(正論)
いつの間にかコメついてる、ありがたいです。夜に少し更新する予定です。
>>12 >>13 >>14
後々語りますが、弟の死因は悪魔関係ないし殺されたわけでもないです。悪魔とか神様とかの不思議要素があるかは…保留で
>>15
すいません間違ってますね。正しくは
>>7
誤・男「兄さんもショックを受けてた。離れて暮らしてたとはいえ、アイツのことを大切に思ってたんだな?」
↓
正・叔父「兄さんもショックを受けてた。離れて暮らしてたとはいえ、アイツのことを大切に思ってたんだな?」
です。指摘ありがとうございます!
>>16
Jカスってなんでしょう?
書き溜め少ないですが再開します。
――あの後、俺も叔父さんも何も言うことなく、病室の前でただ立ち尽くし続けていた。どのくらいの時間そうしていたのかは分からない。ただ気付いたときには大きな泣き声としきりに謝る声が聞こえていた。
父さんと母さん。親だからこそ、もしかしたら俺以上に弟に対して罪の意識を感じているかもしれない二人。『あの日』以来、顔を見ることすら出来なかった二人は最後まで弟に謝ることも、愛していたのだと告げることも出来なかったのだ。
叔父「すまないが、弟の遺体はまだ渡せない」
父「…どういうことだ?私たちは弟の親だ。死に目にはあえなかったとはいえ、息子を弔ってやる義務がある」
叔父「そんなことは分かってる。正直今更何を、という気持ちも少しはあるが、少なくとも今流した兄さんたちの涙は本物だろう。俺もそれは疑ってない」
母「ならどうして!?何の権利があって弟を…!」
叔父「弟がドナー登録をしているからだ」
母「ドナー、ですって?」
叔父「そう。分かりやすく言えば遺体から臓器等を摘出し、それを様々な怪我や病気で苦しむ患者たちに移植することで救うキッカケです。勿論生前の本人と遺された遺族の承認が必要ですが…」
父「バカな、一部とはいえ弟の、息子の体を売れというのか!?」
叔父「そうじゃない。弟の体は今も苦しむ患者たちの希望に成り得るんだ。弟は子供の頃からずっと、自分が死んだときは残った体を誰かに役立てて欲しいと言っていた。それは兄さんも知っているだろう?」
父「それとこれとは話が違う!認めない、私は絶対に認めない!」
母「そうよ!弟はこのまま、安らかに…眠らせ…ううっ」
叔父「ドナー制度を嫌悪する気持ちは分かる。でも弟がそれを望んでいた以上、俺はアイツの叔父として、第二の親として叶えてやりたい。そしてそれが誰かの救いとなるのなら…」
父「ふざけるな!何が第二の親だ、実の息子で無いからそんなことが言えるんだ!確かに5年前から弟の保護者はお前だった。しかしこの事についてお前が口を挟む資格等ないっ!」
叔父「ならどうする!?弟の意思は無視して自分たちだけが満足できればそれでいいのか!?兄さんたちが以前弟に対して行った仕打ちを忘れたとは言わせない。自分の意見も言えない、どんなに頑張っても親に振り向いてもらえない!あんたらがアイツの意思を無視して盛り上がってる間にどれだけアイツが苦しんだと思っているんだ!?」
父「貴様ああああああああああ!!」
ガッ
叔父「殴りたければ殴ればいい!だがそれは認めるということだ!今まで弟をいないものとして扱っておきながらアイツに取り返しのつかない事態が起こった途端に掌を返す。あの時も、今だってそうだ!」
父「お前に何が分かる!何度も謝ろうとしても取り合ってもらえない、顔を見ることすら許してくれなかった!最後まで謝ることもできなかった親の気持ちが、お前に分かるか!?」
叔父「分かるわけが無い!生憎俺には子供がいないからな!
だがな、兄さんが拒絶されていたのはそれまでの行いを考えれば当然のことだろう!?ずっと無視され続けていたのに、いきなり優しくされて心を開くヤツがどこにいる!?だから兄さんは…っ」
父「黙れ黙れ黙れええええええええええええ!!」
「止めてくださいここは病院ですよ!?」
「先生も離れてください!誰か、人を呼んで!」
男「……」
母「男…あなたからも反対して。このままじゃ弟の体が…」
気がつけばそんな泣き声と一緒に騒がしい修羅場に突入していた。
父さんと叔父さんが今にも互いを殺しかねない形相で睨み合いながら掴み合って、看護師さんたちがそれを引き剥がそうともがいていて、母さんは泣きながら俺に頼み込んでいて…
男(なんだよこの状況…ハハハ、見てるか弟。やっぱりさ、お前が死んだって誰も幸せになんかなりゃしないんだ)
男(でも、きっとそんなことも分からないくらい距離が離れてたんだよな、俺たち家族は…もし、お前のことを大切に思う人がたくさんいるって分かっていれば、お前は死なずに…)
男「なんて、今更だよな…」ボソッ
母「男…?」
男「…いいんじゃない?弟が望んだとおりにさせれば」
父・母「「なっ!?」」
叔父「男…?」
男「叔父さんの言う通りだ。ドナー制度は多くの患者さんの希望になりえる。取り出す相手が生きてるか死んでるかの違いだけで、献血とほとんど変わらない」
父「男、お前…本気で言ってるのか!?」
男「ああ。というか叔父さん、弟のヤツは本当に死後の臓器移植を承諾したんだよね?」
叔父「…ああ。こっちに来たときに俺に登録の手続きを頼んでいたし、最期の時にもそう言っていた」
男「そっか、ならいいんだ。俺は弟の意思を尊重する」
母「そんな、実の弟なのよ!?」
男「そういう問題じゃないよ、これは。ってかさ、俺も含めたここにいる全員。
――弟の意思を無視する資格なんて、持ってないでしょ?」
―――アパート・男の部屋
男(結局、父さんは折れたか…母さんは泣きながら喚いてたけど、後は父さんに任せるしかないしな。
叔父さんも他の人たちと一緒に弟を連れて行ったし、やることも出来ることも無いからアパートまで戻ってきたけど…)
男「もうすぐ日が変わる…アイツが死んで、もう何時間も経ったことになるのか。流石にこの時間だと彼らに伝えるには遅すぎるか…?」
男(確か彼のほうは親と一緒に暮らしているはず。俺が知る彼の連絡先は自宅しかない。今かけても迷惑にしかならないだろうし、明日の朝に改めて伝えれば…)
男「…いや。少なくとも弟友君とトンガリ君には伝えておくべきだよな。アイツの親友だった二人には伝えなきゃいけない」
男「けどトンガリ君の連絡先は知らないし、弟友君経由で…」
カンカンカンッ!
男(…なんだろうな。もう何年も顔を合わせてない、声も聞いてないからかな。アイツが死んだってことに実感が湧かない。涙も出ない。俺の生活に影響が起きるわけでもない)
カンカンカン……
??『ハア…ハア…ハア…』
男(つまり俺にとってアイツはもう大した存在では無かったってことなのか?だとすれば最低だな、謝りたいとか思ってたのは形だけってことか。本気で向き合うなんて以前の問題じゃねえか)
??『…ここに…でも…』
男(そのくせ「嘘だっ!」てなんだよ。悲劇の主人公でも演じてんのかよ?アイツにはあんなに否定してたのに?)
ドンドンドンッ
??『…ん…とこさん…!』
男(俺も父さんたちに何か言える立場じゃなかったのに…「俺も含めて資格が無い」とかどこの…)
ドンドンドンッ
??『男さん!いるんですよね?開けてください男さん!』
男「…?この声、俺の部屋の外か?」
男(声の感じからして女の子?いや、確かに女子の知り合いは何人かいるけどこんな夜に尋ねてくる知り合いなんて…!?)
男「まさか、誰が伝えたんだ!?」
??『男さん!開けてください!男さん!』
ドンドンドンッ!
男「っ、これ以上は近所迷惑になるか」ダッ
何故とか誰が教えたのかとか、疑問は色々ある。だけどこの時点で俺は扉の向こうに誰がいるのかほとんど確信していた。そこにいるのは多分、今の俺が最も会いたくない相手――
ガチャッ
??「キャッ」
男「……やっぱり、か」
??「あ…男、さん」
男「やっぱり君だったのか……幼ちゃん」
やはりそこにいたのは予想通りの人物。俺たちの…いや、アイツの幼馴染。アイツにとっての初恋で、誰よりも大切に思っていた少女で……
―――俺と同じく、『あの日』弟を壊してしまった一人だった。
以上で書き溜め終了、今日のところはこれで終了です。
それとあまり見ている人はいないかもですが、明日から月曜の夕方にかけて大学での泊り込み実習があるため更新が出来ません。次回更新まで落ちていなければいいのですが、次に更新できるのは早くても月曜の夜だと思いますので、よろしくお願いします。
予定より遅れましたが少し更新します。
幼「あ、あの…男さん!」
男「……」
男(…荷物は手提げ一つ。服装は乱れ、息が上がって髪もボサボサ。旧知とはいえ、とても年頃の女の子が人前に見せる格好じゃない。少なくとも幼ちゃんはこんな格好を人前に見せて平気な子じゃないはずだ)
男(なのにこんな夜遅くに、自宅から決して近いとはいえない他県まで急いでやってきて、肩で息をしながら真っ直ぐに俺を見ている。つまり…)
幼「男さん…あの、私!」
男「…とりあえず中に入って。近所迷惑になるし、喉も渇いたろう?話はその後だ」
男「ほら、どうぞ(コトッ)」
幼「男さん、そんなことより…!」
男「まずはお茶を飲んで落ち着いて。大分疲れてるみたいだし、焦ったままだと落ち着いて話が出来ない」
幼「でも!」
男「いいから。俺は逃げないから、ね?」
幼「…分かりました。ありがとう、ございます(ズズ)」
男「……」
幼「……」
男「……」
幼「…男さん」
男「…なんだい?」
幼「…………弟君が亡くなったというのは、嘘ですよね?」
男「……」
幼「……」
男「…ホントだよ」
幼「……ッ」
男「実を言うとね、俺もさっき帰って来たばかりなんだ。アイツの、弟の最期の姿をこの目で見てきた」
幼「じゃあ、本当に…?」
男「……(コクッ)」
幼「…そっか。本当のことだったんだ」
男「……」
幼「そうなんだ…本当に弟君は死んじゃったんだ…」
幼「………バカみたい」
幼「ほんとにバカだ、私。こんなことになるなら、もっと早くに会いに行けばよかった…謝って、本当の想いを伝えればよかった…!」
男「幼ちゃん…」
幼「弟君はいつも私のことを考えててくれてたのに。勘違いして傷つけて、裏切って…謝らなきゃいけなかったのに、伝えなきゃいけないことがあったのに、拒絶されるんじゃないかって怖くなって会いに行こうともしなくて…」
幼「バカじゃないの。最後まで自分のことばっかり…今だって弟君の中での私は最低な子のままになってるんだって思ってる。最低だ、最低だよ私…!」
男「……」
幼「どうして会いに行こうとしなかったの?どうしてもっと早くに謝らなかったの?どうして…どうして…!(ボロボロ)」
そのまま幼ちゃんは声を上げて泣き始める。そんな彼女の姿を見つめながら、俺は何をすることも出来ない。幼ちゃんは俺にとって妹のような存在であり、妹が泣いているのなら抱きしめて慰めてあげるくらいしても問題は無いのかもしれない。
だけどそれが出来なかったのはやはり俺も弟の死を悼んでいたのか、それとも幼ちゃんのことを最後まで好きだったでだろう弟に遠慮したのか。どちらにせよ幼ちゃんを慰めることは最後まで出来なかった。
あれから幼ちゃんは泣き疲れたのか眠ってしまった。と、いうより外を出歩かせるには危うすぎる状態の幼ちゃんを夜の外に放り出すことが出来なかった俺が半強制的に寝かしつけたという方が正しいが。
男「さて…(スッ)」
ピッピッピッ トゥルルルル…
男(幼ちゃんは弟が死んだことを知っていた…でも幼ちゃんが本来それを知れたはずが無い。誰かが彼女に伝えたことになる)
男(けど俺はそんなことはしていないし、時間的にも父さんたちも誰かに伝えられるほどの余裕は無かったはずだ。なら叔父さんか?それもあり得るけど恐らく…)
トゥルルル…ピッ
??『…はい、もしもし』
男「もしもし。こんな夜遅くにごめん。男だけど、今いいかな?」
??『ああ…ということは幼さんは着いたんですね。ま、時間的にもそろそろ電話がかかってくるだろうとは思ってましたけど』
男「ということは、やっぱり…君が伝えたいのか、弟友君?」
弟友『ええ。幼さんに弟君が亡くなったことを伝えたのは僕ですよ、『お兄さん』』
男「…その呼ばれ方は懐かしいね」
弟友『そうですか?』
男「ああ。昔は今でこそ『男さん』って呼ばれてるけど、昔はそう呼んでくれてただろ?例え皮肉として呼ばれたのだとしても、やっぱり懐かしいものは懐かしいよ」
弟友『……』
男「けどそれ以上に不思議だ。幼ちゃんに弟が死んだことを伝えられたということは君も知っていたってことになる。弟が死んだのは今日の…いや、昨日の夜でまだ時間があまり経ってないにもかかわらずだ。どうやって知ったんだ?」
弟友『…聞いたんですよ』
男「さっきも言ったけど時間はそう経っていないし、君がそのことを聞ける相手は俺か父さんか母さん。そして叔父さんの4人だけだ。だけど俺は違うし父さんたちも今は人と話せるような状態じゃない」
弟友『そうですね。ついでに言わせて貰えるなら叔父さんから聞いたわけでもありません』
男「なら益々不思議だね。考えてみれば確かに叔父さんも誰かと話す時間なんて無かったけど、だとすれば君が弟のことを知れる相手はいなくなる。それに幼ちゃんが俺の部屋を尋ねてきた時間もおかしい。君たちの県からここに来るまでにはそれなりに時間がかかるし、そう考えると君が誰かから弟のことを聞いてる時間なんて無いんだ。
何より、互いに一番の親友同士であったはずなのに、こうして電話で話す君はとても落ち着いてる。それが一番…」
弟友『…それで?まさか男さんは、
――僕が弟君を殺したとでも思ってるんですか?』
男「…いや、流石にそこまでは思ってないよ」
弟友『そうですか。けどまあ、そうですね。男さんからすれば今の僕の様子はおかしく見えるのかな』
男「ああ、正直不気味だと思う。『あの時』はあんなに感情を露わにしていた君が、どうして…」
弟友『それは…覚悟と言うか、心を落ち着ける時間なら十分ありましたから』
男「は?」
弟友『僕とトンガリ君は前から聞いてたんですよ、弟君が死ぬってことは。少なくとも今週のどこかで死ぬって』
男「ち、ちょっと待ってくれ弟友君!弟が死ぬと知っていたってどういうことだ!?」
思いがけない弟友君の言葉に思わず取り乱してしまう。「弟が死ぬことを知っていた」その言葉が本当なら弟友君は弟が死ぬことを予言されていたと言うことになる。それは、つまり…
男友『言葉通りですよ。僕らはそうなるって聞いたんです』
男「誰からだ!?そんな、人の死を予見できるなんて…」
まるで神様か、殺人予告のようじゃないか。いや、神様なんているわけが無い。だとすると、まさか弟は殺され…
弟友『――弟君ですよ』
男「……は?」
彼は、何を、言ってる……?
弟友『だから…弟君自身から聞いたんですよ。『自分は多分今週の金曜日から日曜日の間に死ぬ』、ってね』
有り得ないその言葉に、俺は何も反すことが出来なかった…
本日の更新はここまでです。明日も少しだけ更新する予定。
とはいえ多分誰も見てないだろうなあ~
色々仕事があって家とネット環境から離れていました。待ってる人がいるかは分かりませんが、更新します
~~~~~~
幼「本当にすみません男さん。勝手に泣き疲れて泊まっちゃっただけじゃなくて、こうして家まで送ってもらうなんて…」
男「いや、気にしないでよ。俺もあっちに戻らないといけない用があったし、女の子をあんな夜に放り出すわけにも行かなかったしね。それより大丈夫かな?親御さんに連絡は一応したし旧知とはいえ、幼ちゃんを男の家に泊めさせちゃって」
幼「大丈夫だと思います。お母さんは男さんのことを信頼してますから」
男「そっか。ならいいんだけど」
男(…違う。確かに俺も幼ちゃんのご両親に良くしてもらってはいたけど、それは弟が間にいたからに過ぎない)
男(……弟)
――昨晩の電話でのあの発言の後、弟友君は何を言うことも無く一方的に通話を切った。けどありえないことを聞いた俺はそれ以上何をすることも何を言うことも出来なかったから彼の行動を責めることは出来なかった。いや、あのまま話が続けることができたとしても俺は混乱して喚き散らしていただけだったかもしれないと考えると弟友君の行動にはむしろ感謝すら感じる。
そして一晩明けて、俺は帰省のための荷物をまとめて幼ちゃんとともに久々に昔住んでいた町に帰ってきた。大学進学にあたり一人暮らしを始めて早数ヶ月、初めての帰省だ。
男(こんな形での帰省はしたくなかったけどな…弟が死んだ後の両親の様子を見に行くためになんて)
幼「…男さん?」
男「ん、大丈夫だよ。車で今住んでる場所から帰るなんて初めてだから少し疲れてきただけさ」
幼「あんまり無理しないでください。ほとんどの学校は夏休みに入ってるから結構混んでますし。私のことならあまり急がなくてもいいので」
男「大丈夫。心配かけてごめんね」
男(全く、幼ちゃんだって辛いだろうに…心配かけさせてどうするんだよ。幼ちゃんだけじゃない、きっと父さん達だって…)
男(だからこそ俺が、俺だけはしっかりしてないといけないんだ…)
ガチャッ
幼「…ここまででいいです。まだお昼前だし、ここからなら歩いて戻れるので」
男「本当にいいの?家まで送るよ?」
幼「大丈夫です、心配しないでください。…ありがとうございました男さん。だから少しでも早くおじさん達に顔を見せてあげてください」
男「幼ちゃん…でも」
??「幼さんがこう言ってるんだから男さんは素直に帰って大丈夫ですよ。それでも心配なら僕が送りますから」
男「お、弟友君!?」
幼「友、君…?」
弟友「こんにちは、男さん。そろそろ来る頃だと思ってたので幼さんを迎えに来ました」
男「迎えにって…どうして君が?」
弟友「どうしてって、忘れたんですか男さん?僕は弟君から幼さんのことを頼まれてるんですよ、『あの日』からずっとね」
男「……」
弟友「何か?」
男「…いや」
――正直なところ、一晩経って頭が冷えた俺は昨日の電話での発現について弟友君に尋ねたかった。弟が自分が死ぬということを予言しそれを親しい友人達に伝えていた、それはどういうことなのかを詳しく。
しかし間違いなく弟友君は答えないだろう。特に幼ちゃんも交えたこの場では絶対に。彼は弟の親友であり一番の味方でもあったと同時に、俺と幼ちゃんを誰よりも嫌っていた。
幼「と、友君。私一人で帰れる、から…」
弟友「遠慮しなくていいよ。君を男さんのところに行かせたのは僕みたいなものだしね。義務感みたいなものだから」
幼「でも…」
男「…分かった。後は任せていいかい?」
弟友「ええ。『お兄さんは』ご両親を安心させてあげてください」
男「…ああ。それじゃあ幼ちゃん、またね」
幼「はい…本当にありがとうございました」
――――――
弟友「……」
幼「あの、友君…」
弟友「…弟君は本当に死んだんだって?」
幼「……」
弟友「そっか…死んじゃったのか。彼の言った通りになったんだね」
幼「友君、その…私」
弟友「それで幼さん?どんな気分だい?」
幼「え?」
弟友「だから弟君が死んでどんな気分か?って聞いてるんだよ。清々した?これで君は自分勝手な罪悪感やもっと早くに謝れば良かった、なんて欺瞞から開放されたわけだし」
幼「……」
弟友「一応おめでとうって言っておこうかな。弟君ほどの付き合いではないにせよ、幼馴染が幸せになれるんだから祝福はしてあげないとね。これで君は今日から自由だ、死んじゃった弟君に感謝だね」
幼「……て」
弟友「本格的に付き合うにはもう少しかかるだろうけど、これで男さんともきっと付き合えるよ。ずっと好きだったんだろう?公衆の面前でキスまでしてたくらいだもんね、良かったじゃないか」
幼「……めて」
弟友「あ、ひょっとしてもう既に男さんと慰めあって大人の階段登りあっちゃったかな?それは流石にどうかと思うけど、その辺りはどう」
幼「やめてッ!!」
弟友「……」
幼「お願いだから…もう、やめて…っ」
弟友「やめて、ねえ…否定の言葉じゃない辺りに君の人間性が垣間見えるね幼さん。ま、僕としては嘘は言ってないつもりだし否定されても信じないけれど」
幼「っ…」
弟友「というか、まさかこの程度の言葉に傷ついたのかい?こんなもの、君が弟君に吐き飛ばしたあることないこと混ざった暴言に比べれば可愛いものじゃないか。親しい相手にあれだけの暴言を吐いて傷つけて平気でいながら、いざ自分の番になると傷つくってどうなんだろうね?正直、男でも女でも僕はそういう輩が大嫌いなんだけど」
幼「私だってもっと早くに弟君に謝りたかった!弟君と昔みたいにまた…」
弟友「黙れよ」
弟友「謝りたかった?弟君と昔みたいに仲良くなりたかった?嘘をつかないでよ、この偽善者が」
幼「嘘なんかじゃない!」
弟友「ならもっと早くに会いに行けばよかっただろう?言っておくけど彼は自分を傷つけた相手でも、わざわざ尋ねてきたなら無碍に追い返したりはしなかったよ。彼のお父さんはあれから何度か会いに行って話もしてたみたいだしね。きっと男さんや君が相手でもそれは変わらなかったはずだ。仲直りできるかどうかは別としてね。だけど君は会いに行こうとはしなかった」
幼「それは…だって…」
弟友「だっても何もないだろう。本当に謝りたかったのなら、昔みたいに戻りたかったのなら例え拒絶されるとしてもちゃんと会いに行くべきだった。特に君と、男さんは!」
弟友「なのに君は拒絶されるのが怖いからって会いに行こうとはしなかった。手紙を書いて謝ろうとさえしなかった。先に弟君を拒絶したのは君だったくせにね。」
幼「私は…私は!」
弟友「君は行動が遅すぎる。後悔してばっかりで全く動こうともしない。何が謝りたかっただ、会いに行けばよかっただ?弟君が死んだことを僕に知らされてようやく動き出すような偽善者が。そんな君が弟君との思い出に縋りつくな、弟君を語るな。…君のその汚らわしい口から、弟君の名前なんて聞きたくもない」
幼「……ッ」
弟友「……そろそろ送るよ。昼前とはいえ人も増えてきた。今にも泣きそうなそんな顔を見られたくはないだろうし、僕も面倒になってきたからね。さっさと帰ろう」
幼「…いいよ、一人で帰れるから」
弟友「君も嫌だろうけど悪いね。弟君から頼まれてたから拒否は受け付けない。まあ安心してよ、今回は僕がけしかけたから最後まで面倒を見るってだけで弟君がいなくなった以上僕もお役御免だ。君を家に送り届けたら僕のほうから君に関わることは二度としないからさ」
幼「……」
弟友「それじゃ行こうか。ふふ、これで最後だと思うとなんか感慨深いものがあるなあ~」スタスタ
幼「……」
幼「………弟君(グスッ)」
――――――
とりあえずここでストップ。次はもうちょい早くに上げられるといいな…できたら後でもうちょい更新します
読んでる人はいないだろうが…って、一つだけど感想ついてる!?ありがとうございます、そして遅くなって申し訳ない…
書き溜め出来たんで更新します
―――男の実家
父「すまないな男…お前も忙しいだろうにわざわざ帰ってこさせてしまって」
男「気にしないでくれよ父さん。大学は夏休みに入ったばっかりだし後期の始まりも2ヶ月は先だ。ちょっと早くなっちゃったけど近いうちに帰ってくるつもりだったんだからさ。…それより、母さんは?」
父「…寝室で横になっているよ。弟のことは俺以上にショックを受けたからな…もうしばらくはそっとしておいてあげてくれ」
男「父さんは…大丈夫なの?」
父「大丈夫と言えば嘘になる。しかし昨日叔父の前で散々暴れてしまったし、私も長くは休んでいられないしな」
男「…強いな父さんは。正直二人共参ってるだろうから俺がしっかりしなきゃって思ってたんだけど」
父「強いんじゃない、年寄りなだけだ。それに落ち込む資格など私にはないからな」
男「……」
父「…なあ男。お前どのくらいこっちにいるつもりだ?」
男「いられるだけいるつもりだよ。なんなら夏休み全部こっちにいたっていい」
父「そうか…しかし男。お前の気持ちはありがたいが、そんなことはしなくていい」
男「え?」
父「無理をして一緒にいる必要はない。母さんには私がついている、お前も忙しいだろうし私たちに気を遣わなくていいんだ」
男「何言ってんだよ父さん?俺は全然無理なんかしてない。確かに弟が死んだから二人が心配になったって理由もでかい。けどここには俺が帰ってきたいと思ったから帰ってきたんだ」
父「……」
男「…ひょっとして、俺がいると逆に二人が辛いの?」
父「……」
男「父さん、答えてくれ」
父「…否定は出来ない」
男「…そっか」
父「…弟が死んだ今、普段以上に私たちが弟にしてきた仕打ちについて罪の意識に苛まれるのは確かだ。お前の顔を見ているとどうしたって弟の姿が浮かぶのも否定できない」
男「だろうね。アイツがこの家を離れる原因を作ったのは俺だし、兄弟だけに俺とアイツの顔は似てるし」
父「…すまない。勝手な親だと罵られても仕方がない」
男「そんなことしないよ。父さんと同じ…いや、それ以上にそんな資格は俺にはないし」
父「……」
男「けど…そういうことなら俺帰ったほうがいいのかな?俺がいると逆に父さん達が辛いなら…」
父「…いや、さっきはああ言ったが結局はこっちの勝手な都合だ。お前の好きにしたらいい」
男「いや、でも」
父「ただ、な。どうするにせよ今月中にはお前には帰ってもらうことになる。この家は来月に手放すことになっているからな」
男「……は?手放すって」
父「前々から決まっていたことだ。この家は来月に売りに出す」
男「ちょっと待てよ。俺はそれ初耳なんだけど?」
父「……」
男「ひょっとして、弟が死んだから家を」
父「それは違う。ずっと前から決めていたことだ。弟が死んだこととは関係がない」
男「じゃあなんで?どうして家を売るなんて話になるんだよ」
父「……」
男「何で俺に教えてくれなかったのかは別にいい。もう決まったことなら今更どうしようもないことだし。でもこの家を売る理由だけは教えてもらうぞ」
父「……」
男「父さん!」
父「…お前には話していなかったが、私は弟と何度か会っていた」
男「…は?」
父「あれからすぐではないがな。弟がこの家から去って約二年後、アイツが高校に上がる年の一月からだ。月に一、二度程の周期で弟に会いに行っていた」
男「…待てよ父さん。どういうことだ?その話も今初めて聞いたぞ!?」
父「当然だ。母さんにもこのことは伝えていない。最初から最後まで私だけで会いに行っていた」
男「なんで、そんな…」
父「お前達に伝えれば自分達もついていくと言い出すと思った。しかし初めて会いに行ったときでも『あの日』から二年は経っていたとはいえ、全員で押しかけると弟を困らせると思うとそうするわけにはいかない。事実、最後に会ったときでさえアイツはどこか気まずそうにしていたからな」
男「だからって、俺たちに何も言わずに一人でって…しかもアイツが高校に上がる頃ってまだ俺がこの家に住んでたときじゃないか。なのに」
父「だからこそだ。私は時間をかけて弟と和解し、そしてこの家に戻ってきてもらおうと思っていた。どんなに時間がかかったとしても…エゴかもしれないし今から思えば後悔しかないが、その日まで弟とお前たちを会わせるのは予想と思っていたんだ」
男「けど!」
父「アイツがこの家を出て行ってからこの家の空気は異常なほどに変わった。元々体が強くなかった母さんはそれまで以上に体調が悪くなることが多くなり、暴力こそ振るっていないつもりだが私も酒に溺れることが多くなった」
父「何よりお前が一番ひどかった。まるで何かに取り憑かれたように剣道に打ち込むようになって、心身ともにボロボロになっていったお前の姿はとても見ていられなかった……」
男「……」
父「しかしだからといってすぐにでも弟に戻ってきて欲しいなどとは口が裂けても言えない。そもそも弟が家を出たのは『あの日』だけが原因じゃない。本当なら一番に守ってやらなきゃならなかった私たち家族がアイツを苦しめていた…アイツを苦しめ、それに気付こうともしていなかったのに、いざ家庭が壊れそうなときになって弟に戻ってきて欲しいなどと誰が言える?」
男「それは…」
父「叔父のヤツにも言われたよ。『兄さんは昔と何にも変わっていない。アンタに弟の親を名乗る資格はない』ってな。事実その通りで言い返せなかった…だから弟のことは叔父に任せ、私はせめていつかアイツと和解し、帰って来れる日が来るようにと家庭を戻そうと努力した」
父「そしてお前と母さんの協力もあって、私たちは元に戻ることが出来た。まだどこかぎこちなく、弟もいないから完全に昔に戻ったわけではない。しかし家には少しずつ笑顔が戻り始めてきた。その頃にはお前は高校3年になり、弟も高校に入学するであろう時期になっていた」
父「さっきの話に戻るが、その時私は今こそ弟に会いに行くべきときだと考えたんだ。今なら弟を迎えられる、弟と和解するときだ、とな」
男「ひょっとして、たまに休日なのに朝早くから家を出て夜に帰ってきてたことがあったのって…」
父「ああ、弟に会いに行っていた。正直拒絶されると思っていたんだがな…アイツは逃げることなく私と向き合ってくれた。最初のほうは叔父も同席していたとはいえ、な」
父「とはいえ最初は互いにどうしようもなくぎこちなかった。『最近どうだ?』とか『元気にやってるか?』とか、まるで三流ドラマの安っぽい芝居のようだった。傍目からは親子には全く見えなかっただろう」
父「それでも何度か会ううちに互いに探り探りな言動から離れて、少しずつ打ち解けていった。叔父のやつも大丈夫だと思ったのか三回目頃からは同席しなくなってな。緊張もなくなったのか弟も私の前で笑顔を見せ始めてくれるようになった」
父「しかし、だからこそ私はふと疑問に思ったんだ。弟が笑顔で話す今の環境で出来た友人や生活、それは年頃の子供ならありふれた話題だったが、もう何年も私たちとはしなかった話だ。『弟が幸せそうにしている今、もしかしたら連れ戻そうとしている私の行動は無駄なのではないか?受け入れる準備が出来ているとはいえ、弟にとっては今の暮らしを続けるほうが幸せになれるのではないか?』、とな」
父「そんな想いを抱えながら、しかしそのことを弟に聞けないまま時間は流れていった。しかし弟が高校に上がって半年が経った頃、唐突に言ってきたんだ。『無理して会いに来なくていい』と」
弟『俺に悪いと思ってたり許して欲しいなんて思ってるならそんなことはしなくていいよ。俺は別に誰のことも恨んでないし。たまたまそういう風になっただけなんだからさ』
弟『でも、悪いけど家に戻るつもりは今はない。こっちにも気の合うヤツが出来たし、病院が近くにあるここの方が都合もいいから。それに絶対に守らなきゃ、やらなきゃいけないことがある。家に戻ったらそれは絶対に出来ない』
弟『だから…少し時間くれないかな。家に戻るにせよ戻らないにせよ、9月までに決めるから。だからそれまでは…会いに来ないでくれ』
男「9月までに答えが出る…?」
父「ああ、今でもよく覚えている。少なくとも家に戻ることを拒んでいるわけではない、それを知って嬉しかったからな。だがそれ以上に…弟が私に笑顔を見せてくれた本当に最後の日だったことのほうが強いからな」
男「……」
父「そして弟の言葉通り、それから二ヶ月と少し経ってから弟に会いに行った。驚いたよ、ほんの数ヶ月会わなかった間に弟は数年前と同じ、いやそれ以上に暗くなっていた。絶望していた、そう言いかえてもいいのかもしれないくらいに。だが私がそれについても何も答えてくれなくてな……ただ一言『家にはもう戻らない』それだけを言ったんだ」
弟『…父さん、やっぱり俺がいないほうが皆上手くいくと思う。父さんにとっても母さんにとっても…なにより兄ちゃんにとっても』
弟『あんな結果に終わるなんて少しも考えてもいなかった。あんな終わり方になるなら、俺は何のために…』
弟『…「あなた達」の家に俺の居場所はもうどこにもない。無理してスペースを作る必要もない。今まで通り俺はここでやっていく。その方が多分、どっちにとってもいいことなんだ――』
父「…そして弟はもう会いに来ないでくれと去って行った。その後も私は何度か会いに行こうとはしたが、もう会ってはくれなかったな」
父「それからというものの、私は弟が過ごしていたことを思い出すこの家が嫌になったんだ。弟を傷つけた自責、弟はこの家に二度と帰ってくるつもりはないという事実、それなのに三人だけが残ったこの家で私達は何事もなかったかのように過ごせるようになった時の流れ…それら全て含めて嫌になった。だからお前が大学に入り一人暮らしを始めたのを境にこの家を売り払って、母さんを連れて実家に帰ることを決めた」
男「……」
父「驚いたことに母さんはすぐに賛成してくれてな。私たちにはずっと言わなかったが、弟が出て行って以来、私以上にこの家にいることが辛かったらしい。それでも手続きや慣れないことが多かったからか、思ったよりも時間がかかってしまった」
父「それでもまだ諦められなかったんだろうな…私は最後にもう一度弟に会いたいと電話したんだ。当然それは断られたが、ならばせめて電話でいいからと頼むと弟は黙って聞いてくれた。これが最後のチャンスになる、そう思った私は弟に伝えたんだ。『この家を売ろうと思う』と」
父「結果はこの通りだったがな…『好きにしたらいい。そこはもう俺の家じゃないしあなた達がそれでいいならそうすればいい』そう言われてしまった」
男「父さん…」
父「…思い返せば、それが弟から聞いた最後の言葉になってしまったな…いや、母さんに比べれば私は幸せなんだろうがな――」
今回は以上。しかし他のSS作品と比べてなんか読み辛いな…もっと改行とかしたほうがいいんだろうか?感想以外にもそうした意見とかももらえるとありがたいです。
あと更新遅いくせに何言ってんだとか言われそうな気がしますが、また家を空けるのでしばらく更新できません。読む人いなくてもスレ埋められても完結はさせるのでよろしくお願いします
久々に帰ってきました、ハイ。そしてコメがいくつかついている事に感動。やはり誰かに呼んでもらえてるって嬉しいものなんですね、荒らしは勘弁ですが。
とりあえず朝早いけど更新。
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ガチャ…
男(……相変わらず綺麗にされてるな)
数年前まで弟が住んでいた一人部屋。ベッドの位置、本棚に置かれた小説の数々、カレンダーの日付。その全てが弟がこの家からいなくなったあの日から何一つ変わっていない。ただ一つ違うことがあるとすれば、部屋の主がいなくなったというのに埃一つ積もっていないことだろう。
男(アイツがいなくなってから、母さんは定期的に掃除してたからな。そのせいで内装が変わっていないとはいえ弟の名残は完全に残っちゃいないけど)
男(いや……母さんは弟がいつ戻ってきてもすぐに使えるようにしていたんだ。時が流れて弟の温もりが消えてしまっていっても、いつか弟が帰ってきてこの部屋を満たすと信じて)
男「だけどそんな未来も、もう絶対に有り得ないんだよな……」
男(ってなに悲劇ぶってんだ俺は。父さんの話が本当なら、完全に原因は俺じゃねえか)
男(「9月までに答えが出る」、父さんに言ったその言葉の意味は時期を考えればそれはあの大会以外に有り得ない。二年前に俺が弟と最後に会った、高校最後の剣道の大会…)
--『なあ弟、お前は高校を俺と別の所に入学しろよ。そんで剣道部に入ってレギュラーになって、団体戦で俺と戦おうぜ?最初で最後の真剣な兄弟対決、手抜きなしの本気の試合をさ!』
男(俺が一方的に持ちかけた約束。「あの日」が起きてアイツがいなくなって、俺も色々あってゴタゴタしてて……叶わないと思ってた約束)
男(だけどアイツはハンデを乗り越えて、約束を果たしに来てくれた。どんな血の滲むような努力をしたのか想像すら出来ないし苦しいことの方が多かった筈なのに…それでもアイツは耐え抜いて約束を果たしに俺の前に現れた)
男「すげえよなお前は…俺も天才だのなんだの言われまくったけどさ、俺に同じことが出来るとは思えねえよ。しかもあんな約束を守るためだけに…兄貴冥利につきるってもんだよ」
男「神様も粋な計らいしてくれたしな。二勝二敗一分で迎えた代表戦。最高に盛り上がるシチュで全力の俺を見事倒して…何が「俺はモブキャラ」だよ?あん時のお前は誰よりも輝いて」
――『約束じゃ、なかったのかよ…!』
男「ッ!」
――『弟と、本気で向き合ってやらなかったんだ』
男「違う、俺は全力で戦った。俺の持てる全部でアイツと向き合ったんだ…!」
――『あんな結果に終わるなんて少しも考えてもいなかった。あんな終わり方になるなら、俺は何のために…』
男「なんだよそれ…お前は俺に勝ったじゃんか。お互いに全力でやり合って、その上で俺に勝ったのに…!」
――『主人公にとってモブキャラとの約束なんて』
男「なのにお前はどうして…」
――『果たす価値もない、ゴミだったんだな』
男「どうしてあんな顔したんだよ…!?」
男「俺はどうすりゃよかったんだよ!?お互いに本気で試合して、その結果弟が勝って…それで全部解決でいいじゃんか!お前はそれが嫌だったのかよ!?」
男「ならどうすりゃ良かったんだよ!俺がお前に勝てばよかったのか?そしたらお前はここに戻ってきてまた昔みたいに戻って…死ぬこともなかったって言うのかよ!?」
男「もう分かんねえよ…お前は俺に何を求めてたんだよ…!どんな結果を望んでたんだよ!?」
男「…教えてくれよ。俺はあの時、どうすりゃよかったんだ?俺とアイツの約束はどんな風になればよかったんだよ…!」
男「俺は…俺は…!」
――――――
――病院・休憩室
叔父「ほら、飲みなさい」
弟友「ありがとうございます。すみません、こんな夜に尋ねてきたのにコーヒーまで頂いちゃって」
叔父「今は暇を持て余していたから気にするな。それに君は弟の親友だったんだからな、多少の無理は通すさ」
弟友「嬉しいです…うん、やっぱり美味しい」
叔父「それは良かった。私の数少ない特技だからな。…それで話っていうのは?」
弟友「話っていうより二つほど確認したいことがあって…いいですか?」
叔父「確認?それは構わないが何をだ?」
弟友「……」
叔父「弟友君」
弟友「…弟君が死んだ理由について、です」
叔父「……」
弟友「ほんの一週間前なんです。僕とトンガリ君と弟君が久しぶりに三人で揃って朝まで遊んで騒いで…そして最後に言われたんです。『俺来週辺り死ぬと思う』って」
叔父「分かっているとは思うが…」
弟友「ええ、弟君の死因は自殺じゃない。轢かれかけた子供を庇って死んだ…ある意味彼らしい最期だ。僕は実際には目にしていないけどそうだった聞いているし、そこに嘘はないでしょう」
弟 友「だけど僕は彼にどこか預言者めいたところがあったことを知っています。そんなところを見たのは一週間前を除けば『あの日』が最後でしたけど…結果的に今回も彼はピタリと言い当てました。『自分が死ぬ』という予言を」
叔父「…結果的にそうなっただけだ。きっとたまたまだろう」
弟友「彼は安易にそういうことは口走りません。それに叔父さんも知っているはずですよね?弟君が『持ってる』ってことに」
叔父「……」
弟友「…僕が知る限り、弟君がそんな予言を行うのは決まって男さんが関わっている。『あの日』も含めたそれまでの予言全てに。そしてその予言の結果は弟君と男さんに確実に影響を与えてきた」
弟友「でも今回は違う。単純に自分が死ぬって言っただけで他には誰も関与していないし、まだそんな二時間が経っていないとはいえ『誰にも影響を与えていない』。強いて言うなら悲しみに暮れているくらいですが、今までのことを考えればその程度で終わるはずがない」
弟友「そこで疑問です。彼は何故そんな予言をしたのか?そしてこの結果は誰に影響を与えるのか?…僕はずっとそれが不思議でならないんです」
叔父「…それで?」
弟友「…弟君は常々自分と自分の人生について『モブキャラ』か『サブキャラ』だと言ってました。男さんと言う『主人公』を引き立てるための。彼を輝かせるための存在に設定されているんだと」
弟友「だから正直、あの人と話すまで今回の予言にも男さんが何か関わっているんだと思いました。…だけど実際に話してみたらなにかが違う。それによく考えて見れば弟君と男さんの縁はあの大会の日に切れたはずだ。仮に男さんが関わっているとしてもこのタイミングはおかしすぎる」
弟友「なら予言が関わる対象が変わったことになる。でも、それはつまり弟君にとっての『主人公』が代わったことを意味する。ならその対象はこの数年で彼に大きく関わっている人物で彼の中で大きな割合を占めている人物だ。そう考えると該当する人はそう多くはないんですが…男さんが確実に関係ないとも言えない。ひょっとしたらこの結果の影響を受ける人物と男さんが繋がっていて、男団が間接的に関わっている可能性だってあると思うんです。だから僕が知りたいのは…」
――弟友「このどちらか、あるいは両方に該当する人物は誰か?ということです」
叔父「…なるほどな。弟友君、君の考えは分かったよ」
弟友「なら…」
叔父「しかし君は少し現実とフィクションをごちゃ混ぜにしすぎじゃないか?確かに弟にそういう面があることは認める。だがこの世界はゲームでも漫画でもないんだ。特殊な力なんて存在しないんだよ」
弟友「でも!」
叔父「弟友君。君はアイツの親友だったが、それだけにアイツのみに何かが起きると我を忘れて暴走してしまうことがままある。それだけ弟のことを大切に思っていたんだろうが、その結果が必ずしもいい結果を生むとは限らない」
弟友「叔父さん、でも弟君は…!」
叔父「弟が死んだのは運が悪かった。君達に何を言ったのかは知らないがそれは偶然に過ぎない。それで終わりだ」
弟友「……」
叔父「話はこれだけかい?…いや、確か二つあると言っていたか。だがもし今みたいな話なら協力は出来ないな」
弟友「…いえ、もう一つの方は本当にただの確認です。弟君が死んだことを既に知っているのは誰かという」
叔父「?」
弟友「僕とトンガリ君と叔父さん。僕が教えた幼さんに男さんたち家族…僕が知る限りこの位ですが、他に知っている人はいるんですか?」
叔父「いや…この病院の医師や看護師なら知っているものは多いかもしれないがそれ以外はいないはずだ」
弟友「じゃあ…『あの人』も知らないんですか?」
叔父「…ああ。実を言うと君達と最後に会ってから弟は親しい人物には挨拶に回っていたらしい。ただ彼女も含めて多くの人には『しばらく会えない』という旨の内容で伝えていたらしいからな、彼らは弟が顔を出さなくなってもあまり気にしないと思う」
弟友「そうですか…なら『あの人』と次に会うときは気をつけないといけませんね。僕やトンガリ君、叔父さんと同じくらい彼女は弟君と親しかったですから」
叔父「そうだな…正直私も彼女に伝えるのは少々心苦しい。隠し通せることではないんだがな…」
弟友「…じゃあ、そろそろ僕は帰ります。コーヒーご馳走様でした」
叔父「ああ、期待に添えずすまなかったね。しかし大丈夫かい?この時間帯ならもう電車はないし、何なら私の家に…」
弟友「大丈夫です。今日からしばらくはトンガリ君のところに泊まりますから」
叔父「そうか、なら気をつけてくれよ。もう夜遅いからな」
弟友「大丈夫ですよ。ただ…さっきの考え、僕はまだ下げるつもりはありませんから」スッ
叔父「…好きにするといい」
弟友「はい。では叔父さん、また」
叔父「……ああ。気をつけてな」
――――――
今回はこの辺で、そろそろ主要人物全員出揃いそうな気がする。
ところで人物まとめとかはしたほうがいいですかね?
――――――
ザワザワザワ……
ドウシテコンナコトニ…コドモヲカバッタンデスッテ…マダ18ニモナッテナカッタノニネエ……
男「……」
叔父「大丈夫か男?気分悪いなら吐いて来たほうがいいぞ」
男「…大丈夫。確かに吐きそうな気分だったけど、もう平気だから」
叔父「無理はするなよ。お前、見るの初めてだったんだろ?」
男「幸運なことに、ね…」
実家にもどってから数日後――臓器の摘出が終わったと言う知らせを受けて、遂に弟の葬儀をする運びになった。場所は今のアイツの居場所だった叔父の家の近く、そこで俺達は改めて弟の最期を見送ることになった。そしてついさっき、納骨まで全部終えて、
男「…にしても結構たくさんの人が集まったね」
叔父「意外か?」
男「正直、ね」
葬儀に参加したのは俺達家族や叔父を含めた親族だけではない。トンガリ君を初めとしたこちらの生活で出来たであろう友人たちとその家族。中学と高校それぞれの担任だったという人たちや、俺も何人か知った顔があるOBも含めた弟が所属していた剣道部の仲間たち。更には交流を持っていたという叔父の病院の医師や看護師など決して少なくはない人々が集まっていて、最後にまともに見た弟の姿が家を出ていった頃で止まっている俺にとっては不思議な感じだった。
叔父「私の同僚や看護師たちにとっても、弟は無関係じゃない。リハビリに付き合っていた者や、定期検診で顔を何度も合わせていた者。彼らは弟と親しかったし、アイツが怪我を乗り越えていく姿も側で見てきた。感じる悲しみは恐らく、私たちとほとんど変わらないだろう」
男「…多分それは、彼らも同じなんだろうね」
弟の学友や部活のOBたち。そのほとんどが未だに泣いており、そうでない人も辛そうな顔をしている。それを嬉しいと感じるのは、この場では不適切なんだろうか?
男「アイツ、こっちでは上手くやれてたんだね。何人か女の子もいたし泣いてたし、ひょっとしてモテてたりしたの?」
叔父「どうだかな、私の知る限り特定の誰かと付き合ってはいないようだったがそれ以上の詳しいことは知らない。とはいえトンガリ君以外にも親しくしてる子は大勢いたし、見ての通り女の子もチラホラいた。それなりにはモテてたのかもしれないな」
男「そっか…」
自分でふった話題とはいえ、さっきとは別の意味で気分が沈んでくる。ある意味この話題は俺たちにとって鬼門だったから。
男(もしあの頃俺たちが弟のことをちゃんと見ていてやれば…今頃アイツの隣にはきっと)
叔父「気分はまだ優れないか?」
男「…大丈夫。少なくとも吐くようなことにはならないよ」
叔父「なら戻ってやれ。お前がついていてやらないとあの子も肩身が狭いだろう。彼と違ってあの子はこちらでの知り合いは私くらいしかいないんだからな」
叔父の目は少し離れたところでポツンと一人佇んでいる幼ちゃんを見ている。彼女もまた俺たちと一緒に弟の最期を見届けに来ていた。
叔父「兄さんたちは誰かをケアできるような状態じゃないし、私は精々昔遊んでくれた顔見知り程度だろう。お前が側についていてやれ」
男「…そうだね。別に忘れてたわけじゃないんだけど、ちょっと配慮が足りなかったな」
叔父「そう思うなら側にいてやれ。あの子にとっても弟は思い入れが強い相手だろうし、恋人のお前が慰めてやれ」
男「そうす…はい?」
聞き間違いか?いや違う、叔父さんは今確かに…
男「…俺と幼ちゃんが恋人だなんて、誰から聞いたんだ?」
叔父「?どうしたんだ急に。大分前からお前達付き合ってたんじゃないのか?」
男「いいから教えてくれ。誰から聞いたんだ?」
叔父「誰って、数年前に弟から聞いたんだが…今でも付き合ってるんだろう?」
男「っ!」
男(やっぱりか…!いや、それよりもだ。アイツ、まさか最期まで…!?)
叔父「どうした男?今度は難しい顔して」
男「…なんでもないよ。じゃあちょっと幼ちゃんの所に行ってくる」
叔父「あ、ああ。分かった」
男「ありがとな、叔父さん。けどさ……俺と幼ちゃんは、恋人同士じゃないよ」
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叔父「……」
叔父「…嘘は言ってないようだったな。ということは弟のヤツ、本当にあの二人の間を引き裂いたのか?」
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