<阿笠博士の家>
コナン「博士……なんだよ、バキって」
阿笠「週刊少年チャンピオンで連載していたギャ……格闘漫画じゃよ」
阿笠「長年チャンピオンの看板を張っておっての」
阿笠「まぁ……サンデーでいうワシらのような存在じゃった」
阿笠「ちなみにワシが一番好きなキャラは鎬紅葉じゃ」
阿笠「若い頃のワシにそっくりでのう、ホッホッホ」
コナン「よく分からねーけど、くれるっていうんならもらっておくぜ」
阿笠「くれぐれも悪用するんじゃないぞー」
<学校>
歩美「ねえねえ、元太君、光彦君、トランプやらない?」
光彦「あっ、ダメですよ歩美ちゃん! 学校にトランプなんか持ちこんじゃ!」
元太「いいじゃねーかよ、ちょっとぐらい。やろうぜ!」
光彦「しょうがないですねえ……」
灰原「あら江戸川君、そのスイッチはなに?」
コナン「なんでも光彦をバキキャラっぽくするスイッチだってよ」
灰原「ああバキね。私も博士に借りて全部読んだわ」
灰原「ちなみに、私が一番好きなキャラは柳龍光よ」
灰原「やっぱり毒を扱う者同士、親近感がわくのかしら……」クスッ…
コナン「出会った頃みてーな目つきになってるぞ、灰原……」
コナン(ま、せっかくだ……押してみるか)ポチッ
元太「よし、じゃあ光彦トランプ切ってくれよ」
歩美「お願いね!」
光彦「もう……先生が来たらすぐしまいますからね!」
光彦「…………」ウズ…
ピッ!
元太「うおおっ!?」
歩美「重なったトランプの真ん中だけをちぎり取った!」
光彦「あっ、しまった……つい……」
コナン「オイオイどんな握力だよ……」
灰原「あれは花山薫がやっていたパフォーマンスね」
歩美「トランプが台無しだよ~」
元太「オイ、歩美に謝れよ光彦!」
光彦「すみません……」
光彦「どうか……これで許して下さいっ!」ババッ
元太「うおおっ!?」
歩美「床に寝そべるなんて!」
コナン「トランプ破ったぐらいで、なにもあそこまでしなくても……」
灰原「土下寝……敗北のベスト・オブ・ベストだわ」
小林先生「さぁ、授業を始めるわよ」ガタガタ…
小林先生「でも、どうしてかしら」ガタガタ…
小林先生「震えが止まらないわ……」ガタガタ…
児童A「ボクもでーす」ガタガタ…
児童B「アタシもー」ガタガタ…
歩美「でも、光彦君だけは無事だね」ガタガタ…
元太「なんでだ?」ガタガタ…
光彦「ボクに聞かれても困りますよ」
コナン「これはどういうことだよ、灰原?」ガタガタ…
灰原「円谷君の戦力を、クラスのみんなが本能で感じ取ってるのでしょうね」ガタガタ…
小林先生「ふう、やっと震えが収まったわ」
小林先生「じゃあ気を取り直して、算数の授業を始めましょう!」
光彦「先生! 質問してもいいですか?」バッ
小林先生「かまわないわよ、円谷君」
光彦「チョークをお借りします」カリカリカリ…
光彦「…………」カリカリ…
0.99999999999999999999999999999999999999
9999999999999999999999999999999999999999
9999999999999999999999999999999999999999
小林先生「つ、円谷君……!?」
光彦「先生……どうして1にならないんですか!?」カリカリ…
光彦「近づきはすれど、なぜ1にはならないんですか!?」カリカリ…
小林先生「円谷君、ちょっと落ちついて」
小林先生「まだ小数なんて習ってないはずのに、どうして……」
光彦「先生! なんで1にはならないんですか!?」カリカリ…
光彦「1にする方法を教えて下さい!」カリカリ…
プゥ~ン……
光彦「あっ、蚊が入ってきましたね!」ビュッ
ペチィッ!!!
小林先生「きゃあっ!? ──なに、今の破裂音は!?」
光彦「菩薩の拳……そうか、これが1だったんですね!」
光彦「先生、ありがとうございます!」
コナン「菩薩の拳? なんだそりゃ?」
灰原「人が最初に作る拳の形よ。だから、殺気を発さずに正拳を放てるの」
コナン(へぇ……あとで蘭に教えてやるか)
小林先生「さあ、給食よ~」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
元太「いただきまぁ~す!」ガツガツ…
歩美「早食いは体に悪いよ、元太君!」
コナン「やれやれ……」モグモグ…
コナン「あれ、光彦? 手ぇつけてないけど、食欲ねえのか?」
光彦「…………」
コナン「こ、これは!?」
コナン(す、すでに……食い終わってる……!)
コナン(学校給食をたったの10秒で……ッッ!)
光彦「先生ッッッ!」
小林先生「な……なにかしら?」ビクッ
光彦「ボクは一日10万キロカロリー食べないと、身が持たないんです!」
光彦「給食室にステーキとワインを用意させて下さいッッッ!」
光彦「今すぐッッッ!」
小林先生「わ、分かったわ!」
スクッ……
モニュ…… モニュ……
光彦「…………」スク…
光彦「…………」モニュモニュ…
光彦「…………」スクッ…
光彦「…………」モニュッ…
歩美「すっごぉ~い、光彦君」
元太「もう50皿は食ってるぜ……」
コナン「いったい何キロ食べたんだよ……人間じゃない……」
灰原「ミスター、適量かと……」
光彦「そうですね!」
光彦「ごちそうさまでした!」
昼休み──
<校庭>
元太「よーし、遊ぼうぜ!」
歩美「歩美、鬼ごっこがいい!」
光彦「鬼ならこのボクに任せて下さい!」
ベリベリッ!
元太「うおっ! 光彦の服が破れたッッ!」
歩美「光彦君の背中に、鬼が……ッッ!」
光彦「どうですか? これが鬼(オーガ)の正体ですッッッ!」
コナン「すげえ背筋だ……」
灰原「バーベルトレーニングなどで造った不自然な筋肉とは一線を画す……」
灰原「あれこそ格闘(グラップリング)の結晶よ!」
光彦「…………」モゾモゾ…
元太「しかも、光彦のそばかすが動いて……」
歩美「そばかすが鬼みたいな顔になってるッッ!」
光彦「そうです、鬼のそばかすですッッッ!」モゾモゾ…
元太&歩美「~~~~~ッッッ!」
コナン「すげえってのは認めるが、ちょっと不気味だな……」
灰原「なにいってるのよ、工藤君!」
灰原「あれこそ雀卵斑(ソバッカスィング)の結晶よ!」
コナン「オイ、やっぱ鬼ごっこはやめにしようぜ!」
元太「なんでだよ、コナン!」
コナン(この光彦と鬼ごっこなんかしたら)
コナン(下手すりゃオメーらが死んじまうからに決まってんだろ!)
コナン「ドッジボールやろうぜ、ドッジボール!」
歩美「コナン君がそういうなら!」
光彦「仕方ないですねぇ」
元太「でもよ、ボールがどこにもないぜ?」
歩美「ホントだ! さっきまであったのに!」
コナン(あたりめーだ。ついさっき隠しておいたんだからよ)
コナン(このままボール探しで、昼休み終わりまで時間を稼ぐ!)
光彦「ボールがないなら、作ればいいんですよ!」
コナン「へ?」
光彦「ちょうどここに、巨大な黒曜石があります」
光彦「これを削ってボールにしましょう!」
光彦「キャオラですッッッ!」
ザクッ! ガキッ! ガッ! ガシュッ! シュバッ!
歩美「光彦君の鍛え抜かれた拳足が……」
元太「頑丈な黒曜石をまるでバターのように削っていく……ッッ!」
光彦「完成です!」
ツルーン……
コナン「すげえ……あのゴツゴツした岩を、完全な“球体”にしやがった!」
灰原「みごとな打岩だわ……今すぐにでも海王になれるわね」
灰原「いいえ……円谷海皇にだってなれるッッッ!」
キーンコーンカーンコーン……
コナン(お、ちょうど昼休みが終わった……よかった……)
<通学路>
元太「よーし、帰ったら博士んちでゲームやろうぜ!」
歩美「うん!」
光彦「博士のゲームはよくできた技術体系ですが、遊戯の域は出てませんよね」
主婦「きゃあっ! ひったくりよぉーっ!」
ひったくり「へっへっへ、あばよ!」ブロロロ…
歩美「あっ、ひどい!」
元太「追いかけようぜ、コナン!」
コナン「いや……さすがにスクーターには追いつけねえよ」
コナン「だが、ナンバーはバッチリ覚えた。すぐ警察に──」
光彦「急ぐのだからこそ──奔(はし)りますッッッ!」ダッ
ドドドドド……!
光彦「追いつきましたッッッ!」
ひったくり「~~~~~ッッッ!」
光彦「ここはコナン君を見習って、キックで止めるとしましょう!」ブンッ
バキャアッ!
ひったくり「オワッ!」ドサッ ゴロゴロ…
ボワァァァッ!
ひったくり「──って、蹴りの摩擦熱かなんかで壊れたスクーターに火がついた!」
光彦「オオオオオ~~~~~ッッッ!」ボワァァァッ
ひったくり「俺を追ってきた子供に引火した! ──だ、大丈夫か!?」
光彦「…………」プスプス…
光彦「フゥ~~~~~……当分、葉巻はいりませんね」ニッ
ひったくり「じ、自首します……ッッ」ジョボボボ…
一方、その頃──
ブロロロロ…… キキィッ……!
佐藤「あら、カーナビがズレちゃってるわ」
佐藤「しょうがないわね……」
佐藤「なにかカーナビに使われてる人工衛星が」
佐藤「緊急作動しなきゃならないような事態でもあったのかしら?」
高木「佐藤さん!」
高木「たとえカーナビがずれようと、ボクの佐藤さんへの愛はズレません!」
高木「絶対に!」
佐藤「やだ、高木君ったら……」ポッ…
高木「佐藤さん……!」ガバッ
佐藤「ダ、ダメよ、勤務中よ……ああもう……あんっ……」
<事件現場>
光彦「皆さん、ひったくりを自首させてきましたよ!」
光彦「ところで、どうしたんです?」
コナン「お、光彦」
コナン「オメーがひったくりを追いかけてる間、俺たちも事件に出くわしちまってよ」
歩美「密室殺人だって! おうちでおじいさんが殺されちゃったの!」
元太「俺たちで犯人を捕まえてやろうぜ!」
灰原「いつもの二人は、あそこで一生懸命悩んでるわ」
灰原「例によって、あまり期待できそうにないけどね……」
小五郎「う~ん……」
目暮「う~ん……」
光彦「ドアに鍵がかかったこの部屋で、おじいさんが殺されてしまったわけですね?」
コナン「ああ」
コナン「まあ、だいたい侵入経路の目星はついた」
コナン(床を叩いたら、反響があったからな。おおかた床下に抜け穴でもあるんだろ)
コナン(あとはおっちゃんを眠らせるか、ヒントでも与えて──)
光彦「簡単ですよ、こんなの!」
コナン「へ?」
光彦「ドアに鍵がかかっていたなら、犯人は壁を壊したんです!」
コナン(なにいってんだ、コイツ……)
コナン(いや……今の光彦ならやれるッッッ!)
小五郎「なーにいってやがる。そんなことできるわけねーだろ?」
コナン(余計なこというな、おっちゃん! このアホウがッッッ!)
名探偵、毛利小五郎氏(38)は当時のことをこう述懐する──
小五郎「ああ……ガキに壁を穴をあけるなんて無理だってタカをくくってたぜ」
小五郎「だが、あの小僧が壁に拳を叩き込んだ瞬間──」
小五郎「すげえ音がしたんだ。ドンッ……ってな」
小五郎「てっきり爆薬(エクスプロシブ)かと思ったぐれえだ」
小五郎「んでおそるおそる目を開けると……」
小五郎「壁にこれくらいの穴がぽっかり空いてたってワケだ」
小五郎「俺も昔は刑事として、色んな凶悪犯と対峙したからワカるが──」
小五郎「あんなデカイ穴は、たとえ爆薬を使ってもなかなか作れるもんじゃねえ」
小五郎「まったく近頃のガキってのは、恐ろしいもんだぜ……」
ボロッ……
光彦「ね?」
コナン(ね? じゃねーよ!)
小五郎&目暮「~~~~~~~~~~ッッッ!」
元太「か、壁が……」
歩美「穴があいちゃった……」
灰原「さすが、アンチェイン(繋がれざるそばかす)ね」
歩美「でも壊しちゃった壁はどうするの?」
元太「そうだぜ、俺たちがここに来た時には壁は壊れてなかったぞ?」
元太「このままじゃ、密室とはいえねーぞ」
光彦「こうすればいいんです!」
ギュウゥゥ……!
コナン「~~~~~ッッッ!」
コナン(砕けた破片を腕力だけで溶接し──壁を修復してやがる……ッッ)
光彦「修復完了ですッッッ!」
小五郎「どうしますか、警部殿」
目暮「ふ~む、被害者の知人にこういう芸当ができる人間がいないか洗ってみるか……」
被害者「その必要はないぞよ」ムクッ
元太「オワッ!?」ビクッ
歩美「おじいさんが生き返った……ッッ!」
被害者「武術の勝ち、ですじゃ」
被害者「あ、ちなみに犯人は床下にある抜け穴からやってきましたですじゃ」
被害者「犯人は隣人ですじゃ」
目暮「感謝ッッッ!」
灰原「ゲームから殺し合いまで、相手が死すれば勝負なし」
灰原「死んだフリは、まさに究極の護身だわ……」
灰原「バキでは郭海皇がやっていたわね」
歩美「なんでも知ってるね、灰原さんってッッッ!」
元太「人体ってスゲーな!」
コナン(いや、待て待て! なんか色々おかしいぞ!)
コナン(なんでただの一般人であるおじいさんに、バキの技が使えんだよ!?)
コナン(──まさか!)
コナン(光彦をバキキャラ化した影響で)
コナン(俺たちも少しずつバキに侵食され始めてるんじゃ……ッッ!)
コナン(そういや俺の言葉や思考にも“小さいツ”が増え始めてる……ッッ!)
コナン(さっきもおっちゃんに、心の中でアホウとかいってたし……)
コナン(だとしたら、やべぇ!)
コナン(これ以上は危険すぎる!)
コナン(もうバキキャラ化はやめだッッッ!)ポチッ
ザッ……!
京極「空手道、京極真! この場で立ち合いを申し込みたいッッッ!」
光彦「かまいませんよッッッ!」
京極「破ッッッ!」
光彦「邪ッッッ!」
ドギャッ! メキィッ! ギャドッ!
歩美「すっごぉ~い、あの人光彦君と五分ってる! ワッショイ、ワッショイ!」
元太「あの人、園子姉ちゃんの彼氏だろ?」
灰原「たしかに彼なら、地下闘技場でも十分通用する実力を持っているわね」
コナン(スイッチを押したのに元に戻らねえ……ッッ!)
コナン(──っていうか、ひどくなってねえか!?)
コナン(こうなったら、博士のところに行くしかねえ!)
<阿笠博士の家>
阿笠「ああ、一度押すともう元には戻らんぞ」
阿笠「ワシは元に戻す方法がある、とは一言もいってないじゃろ?」
コナン「マジかよ!?」
コナン「くそっ……どうすりゃいいんだ!」
コナン「このままじゃ“凶器が見つからない、なぜなら素手でやったから”とか」
コナン「“アリバイトリックの正体が、すごい速さで走った”とか」
コナン「“ありえない場所にある死体、犯人が力で放り投げただけ”とか」
コナン「“捕まえた犯人が、次の日には脱獄してる”とか」
コナン「推理もクソもねえ世の中になっちまうッッッ!」
阿笠「……こうなったら、新一」
阿笠「受け入れるしかないんじゃよ、変革しつつあるこの世界をな……」
コナン「やっぱ、それしかねーか……」
<小学館よりお知らせ>
突然ですが、諸事情により2013年7月をもちまして
『名探偵コナン』は終了いたします。
なお8月7日発売、『週刊少年サンデー』36・37合併号からは
青山剛昌先生・板垣恵介先生合作による『グラップラー光彦』の連載が始まります。
引き続きご愛読のほど、よろしくお願いいたします。
完
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません