ハルトマン「風が吹くとき」 (19)



風が吹いたら、揺りかごがゆれる。
枝が折れたら、揺りかごが落ちる。
坊やも揺りかごもみな落ちる。




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―カールスラントのとある山間部?

ブロロロロ……

ハルトマン「!」

コンコン

ハルトマン「……やっと来た!」

ガチャッ

ハルトマン「トゥルーデ!」

バルクホルン「ただいま」

ハルトマン「……おかえりなさい、トゥルーデ!」ムギュー

バルクホルン「遅れてすまない。なかなか解放してもらえなくてな」

ハルトマン「いいよ。少佐にもなれば、忙しいに決まってるんだから。それに、ウーシュもこっちに着くのは明日になるみたい」

バルクホルン「ウルスラも……まさかとは思っていたが、やはりか」

ハルトマン「……とにかく上がって! 疲れてるでしょ」

バルクホルン「まあな……ん、随分きれいにしてるじゃないか」

ハルトマン「へへ。私だって、いつまでも怒られっぱなしじゃないんだよ?」

バルクホルン「そうだな。もう私が面倒を見ることもなさそうだ」

ハルトマン「……」

バルクホルン「……すまん。そんなにむくれるな」

ハルトマン「いじわるなこと言わないでよ……長いこと会えなくて、寂しかったのに……」

バルクホルン「私もだ、エーリカ」

ハルトマン「トゥルーデ……」

ハルトマン「クリスの様子はどうなの?」

バルクホルン「すこぶる順調だ。最後に体調を崩したのは、もう2年も前になるか」

ハルトマン「良かった。じゃあ、明日はここに来れるね」

バルクホルン「うむ。今夜は泊まり掛けで定期検診だが、明日の昼には終わるはずだ。迎えに行ってやらないと」

ハルトマン「……そういえば、ウーシュとクリスが会うのは初めてかな?」

バルクホルン「そうだったか? まあ、クリスならすぐに打ち解けるだろう」

ハルトマン「クリスはね……心配なのはウーシュだよ」

バルクホルン「そこはお前が姉としてリードしてやらないといけないな」

ハルトマン「そうだね」

ハルトマン「ところで、さっき『ウルスラも遅れるのか』みたいなこと言ってたけど、何かあったの?」

バルクホルン「聞いていないのか? おそらくネウロイの『核攻撃』についてだ」

ハルトマン「ふーん」

バルクホルン「……ちょっと待て。なんだその反応は……はっ! まさかハルトマン貴様ッ!」

ハルトマン「……トゥルーデぇ、そんな怖い顔しないでぇ」

バルクホルン「猫なで声を出してもダメだ! あれほど忠告したのに、まだ核シェルターを作っていないのか!」

ハルトマン「う……」

バルクホルン「はぁ、私は情けないぞハルトマン。栄えあるカールスラント空軍のトップエースが、こうも『民間防衛』に関して無頓着だとは……」

ハルトマン「ち、違うよ。ほら……私一人じゃ上手く作れないかもしれないしさ、トゥルーデが来るのを待ってたんだ」

バルクホルン「……」

ハルトマン「私も手伝うからさ。久しぶりにトゥルーデに甘えたいなー、なんて」

バルクホルン「……はあ、仕方ない奴だ。今すぐ作業に取りかかるぞ」

ハルトマン「え、もう暗くなるよ?」

バルクホルン「いつ攻撃があるか分からん。やれることはやっておかねば」

ハルトマン「そっか……じゃあ、何から始めようか」

バルクホルン「まずは避難部屋の」

ぐうぅぅ?

バルクホルン「選定を……」

ハルトマン「……ご飯の支度、かな?」

バルクホルン「……すまん」

ハルトマン「すぐに準備するからね」

バルクホルン「こちらもやれるところまでは進めておこう」

ぐぅぅぎゅるるる……

ハルトマン「ぶふっ」

バルクホルン「ええい! 忌々しい腹の虫め!」

―?



バルクホルン「ハルトマン、ドライバーとか無いか?」

ハルトマン「ドライバー? どこだったかなぁ」

バルクホルン「ドアを外したいんだ。力ずくでもぎ取ってもいいが」

ハルトマン「ちょ、ちょっと、なにする気?」

バルクホルン「やれやれ、何も知らないんだな。これを見ろ。政府の発行した民間防衛のパンフレット、『核攻撃とあなた』だ」

ハルトマン「核攻撃とあなた……で、これとうちのドアとどう関係があるの」

バルクホルン「パンフレットによると、『避難部屋を決めたら、その中に避難場所を作る。核攻撃後14日はその避難部屋ないし避難場所に留まる』とあるな」

バルクホルン「避難部屋はこのリビングが最適だ。避難場所は、壁に木の板を立て掛けて固定した後、クッションや土嚢などで覆うことで作れる。核攻撃から身を守るためにはこれくらいしないとな」

ハルトマン「ふーん……って、14日もこの部屋にいなきゃならないの!?」

バルクホルン「そのようだな」

ハルトマン「そんなに食べるもの無いよ。水は? トイレは? お風呂は? ケガしたらどうするの?」

バルクホルン「落ち着け。とにかく避難場所を用意しないことには意味がない」

ハルトマン「……えっと……あった、ドライバー。ドアをバラすんだよね」

バルクホルン「ああ。お前とウルスラの分だと、3枚もあれば足りるだろう」

ハルトマン「傷付けるなよなー。ウーシュが怒るから」

――


バルクホルン「さあ、完成だ! 見てみろハルトマン!」

ハルトマン「へー、こういう感じなんだ。秘密基地みたい」

バルクホルン「パンフレットの手引きに従って、手順通りに作ったからな。質は保証するぞ」

ハルトマン「……ねえ、これ床に釘打ち付けたの? 穴あいちゃってるよなー、修理代請求していい?」

バルクホルン「お前……」

ハルトマン「冗談だよ。ありがと、やっぱりトゥルーデは頼りになるね」

トゥルーデ「……むぅ」

バルクホルン「あとはここにクッションでも被せて、マットレスを敷いて、食料と水を……そこのクッションとか丁度良さそうだな」

ハルトマン「え、これはダメ。お気に入りだから」

バルクホルン「そんなこと言ってる場合では……まあいい。なら、大きなバッグを持って来てくれ。砂を詰めて土嚢にする」

ハルトマン「やだよ、汚れるじゃん!」

バルクホルン「……なら、本でも入れておくか。それなら汚れたりしないぞ」

ハルトマン「本ていうと、ほとんどウーシュのだけど……後片付けがめんどくさいし、あんまり持って来たくないなぁ」

バルクホルン「あのなぁ……」

ハルトマン「うう、分かってるよ……うーん……じゃあ、クッション……」

バルクホルン「よし」

ハルトマン「待った! ちゃんとビニールに入れて汚れないようにして。向こうのやつも持ってくるよ」

バルクホルン「……昔のお前なら、考えられないセリフだな。『汚れないようにして』とは……」

ハルトマン「トゥルーデと約束したもん
ね、しっかりするって」

――


ハルトマン「トゥルーデ、あーん」

バルクホルン「や、やめろ。私は赤ん坊じゃないぞ」

ハルトマン「いいからいいから。あ、それとも……口移しの方が良かった? んー……」

バルクホルン「ごほっ! げほっ、んん゛っ!」

ハルトマン「あはははは! 可愛いなぁ、トゥルーデ」

バルクホルン「ぐぬぬ……」

ハルトマン「おっと、『ザントメンヒェン』の時間だ。テレビ点けなきゃ」

バルクホルン「お前、まだアニメなんて見ているのか」

ハルトマン「これもカールスラントの文化だよ。ああ、トゥルーデには分かんないかもしれないけど」

バルクホルン「分からんで結構だ! もぐもぐ……」

ハルトマン「やれやれ、すねちゃった……っと、始まる」

『本日は、番組内容を一部変更してニュースをお送り致します』

ハルトマン「は?」

『今日午後5時ごろ、政府は国民へ向けた緊急記者会見を開き……』

ハルトマン「……なんだよもー、ニュースなんていつでも放送出来るのに……はぁ」

バルクホルン「ふっ、これもカールスラントの文化といったところだな。なになに……」

『……今後2、3日以内にネウロイとの戦闘状態に突入する可能性が極めて高いと発表しました……』

レイモンド・ブリッグスのあれか……

とりあえずここまで

>>14
縺昴≧縺昴≧

え、なにこの文字化けは(困惑)

>>14
そうだよ

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