怪人「悪が示してくれた道」(43)

怪人「どこだ、ここは?」
怪人(手術台か何かの上? だが、この腕は、この脚は…)


「目が覚めたか」

「ようこそ、我らの組織ダイアークへ」

怪人「ダイアーク?」

怪人「なんだそれは? あんたは誰だ? 俺の…俺のこの、体はどうなったんだ?」

「一度に沢山質問するんじゃない、順番に答えてやる」

博士「まずワシのことは博士と呼べばいい。お前のような兵器を作ってる者じゃ」

博士「お前の名前は今回のプロジェクトに因んで、N1号でいいだろう」

博士「まあ、お前一体作った時点でこのプロジェクトは終わりなんじゃが」

博士「やたら金がかかるわ、資源は使うわで、上からは結構言われていて…」ブツブツ

怪人「…あんたの小言はいい。なんだその、ダイアークというのは? 兵器って、この機械の体は?」

博士「ああ、すまんすまん」ゴホンゴホン

博士「単刀直入に言う。我らダイアークの目的は世界征服」

博士「お前たち怪人はその為の兵士、兵器じゃ」

怪人「人間を改造して、ってことか」

博士「そういうことじゃ」

怪人「脳改造ってのもしたのか?」

博士「できればやりたくないんじゃがな。頭をいじらない方が優秀な兵器になる傾向があって…」ペラペラ

怪人「解説は後でいい、俺は、どうなんだ?」

博士「ああ、すまん」

博士「お前に関しては少しいじくっただけじゃ。最も、組織に反抗などしようものなら、隅々まで改造させてもらうがな」

怪人「……そうか」

博士「気分はどうじゃ?」

怪人「感謝するぞ、博士!」ガバッ

博士「のわっ」

怪人「俺は何をすればいい? 戦いか? 裏方か?」

怪人「なんでも言ってくれ、できることなら何でもやるぞ!」

博士「…やる気があるのはいいんじゃがの」

博士「お前はついこの前まで普通の人間だったのじゃ。まずは戦い方を学べ」

博士「『奴』との戦いで簡単に死んでもらっても困る」

怪人「『奴』…?」

博士「お前のように組織に従順でいてくれる者もいれば、組織に真向から刃向う者もいる」

博士「そういうことじゃ」

怪人「そうか」

博士「それに、敵は『奴』だけではない。警察や、時として軍隊を相手にしなければならんからな」

怪人「いいさ、分かったさ」

怪人「俺は怪人だ、N1号だ、やってやるよ!」

博士(この怖いほどのやる気)

博士(何が、こやつを動かしておる?)


第一話  始動

一週間後。


怪人「タアアアアアアアアアァァァァッ!!」

バキィ!!

「っ! やるな!」

怪人「テアッ! ハァッ! オラァ!」バシィ! シュバッ! ドンッ!

「だが、戦いは攻めるだけではどうにもならんぞ!」

ヒュパッ!

怪人「!!」
怪人(消えたっしまった!)

「デェェイ!!」

バキイイィ!!

怪人「ぐはっ!」
怪人(やっぱり、強い!)


教官「そこまでっ!」

教官「全く、二人とも熱を入れ過ぎだ」

教官「スパークリングで命を落とすような真似はしてくれるなよ」

「直前で止めるためにも、教官、貴方がいるんだろう?」

教官「お前も先輩なら少しは冷静になれ! 蜂女!」

蜂女「すまない、後輩の成長を見ているとつい、な」

教官「全く」

怪人「先輩! 教官! 俺はまだまだいけます!」

教官「アホ! 今日はもう終わりだ、休みを取れ」

怪人「しかし」
教官「しかしも何もあるか! これは命令だ」

怪人「っ……了解」

怪人「ありがとうございました」ペコリ

怪人「お先に失礼します!」

教官「おう」

蜂女「またな」


教官「現場で働いてる人間としては、どう思う? あいつを」

蜂女「正直に言うと、あの計画の産物ということで最初は期待も何もしていなかった」

蜂女「だが、あの成長だ」

「認めざるを得ないし、嬉しい。といったところか」

教官「蜘蛛人間…」

蜘蛛人間「情に振り回されなければいいがな、蜂女」

蜂女「お前こそ、気に入りすぎることのないようにな」

蜘蛛人間「くくく、厳しい言い方だ」

蜘蛛人間「朗報だ。あの新人を次の作戦で使うよう指示が出た」

蜂女「!」
教官「なに?」

蜘蛛人間「上もアレの成長に一定の評価を下してな。早く経験を積ませたいんだとよ」

蜂女「そうか」

蜘蛛人間「嬉しいのか?」

蜂女「隠さずに言わせてもらう、後輩の成長は嬉しいものだ。違うか?」

蜘蛛人間「否定しないさ」
教官「同意する」

蜂女「それで、次の作戦とは?」

蜘蛛人間「俺とお前にも出動命令が下っている。場所は――」


三日後。兵器開発工場にて


戦闘員「キィーッ!!」

蜂女「かき回せ! 抵抗する者は皆殺しにしろ!」

怪人「了解!」
戦闘員「リョウカイィー!!」



蜘蛛人間「場所はA市の兵器開発工場。ここに運び込まれた、新型ジェネレーターの奪取が目的だ」

蜘蛛人間「蜂女の部隊が突入する前に、俺の部隊がB市で陽動作戦を行い、警察と『奴』の目を引き付ける」

蜂女「なるほど、工場には何かいるか?」

蜘蛛人間「衛兵や、戦闘ロボットがいることは間違いないな。ジェネレーターについて悟られまいと、近頃は大きな活動をしていないが」

蜂女「そうか」

怪人「……」

蜘蛛人間「怖気づいたか? 新人」

怪人「いえ」

怪人「早く、行きたいです」ワクワク

蜂女(作戦は順調に進んでいる。蜘蛛人間率いる戦闘員も、私のデータによる改良で素早さは二割増しだ)

蜂女(問題は、こいつか)

怪人「……」ソワソワ

蜂女「私から離れすぎるなよ」

怪人「ですがね、先輩」

蜂女「お前のように、慣れ始めた頃が一番危ないんだ。お前も組織の大切な人材ということを忘れるな」

怪人「了解、しかし」

衛兵「くたばれ、化け物ー!」ダダダダダ!

怪人「向こうから来るなら」シュバッ

衛兵「あっ」

ズバァ!

衛兵「あっ、ぐっ」ドサッ

怪人「迎撃しても、いいですよね」

蜂女(脳改造については少しだけだと言っていたよな、あの狸爺)

蜂女(なのに、こうも躊躇いなく人殺しができるとは)

怪人「ハッ!」

衛兵「く、来るなー!」

ズバンッ!

衛兵「」ドサリ

怪人「脆いもんだ」

蜂女(あの計画は成功を、本当に結んだということか)

戦闘員「キィー!」

蜂女「なに? ジェネレーターの場所が移されていたのか」

怪人「どうします、先輩?」

蜂女「慌てるな」

バシュン!

衛兵「ぐああああっ!」

バシュン!

戦闘ロボ「!!!」バコンッ!

怪人(さすが、先輩のニードルは俺の攻撃なんかとは大違いだ)

怪人(いつか俺も、この人ぐらい強くなりたい…!)

蜂女「別働隊による陽動は順調に進行している。我々は焦らず捜索を」

ピピィー!

蜂女「通信? …蜘蛛人間から?」

蜂女「どうした?」

蜘蛛人間<……すまん、蜂女、新人。しくじった>

蜂女「なに?」
怪人「!?」

蜘蛛人間<作戦は…失敗だ…撤退しろ…>

蜂女「蜘蛛人間、しっかりしろ! 何があった!」

蜘蛛人間<……青い『奴』に、気を、つけ>

ブツッ

蜂女「……」

怪人「どういう、ことですか?」

蜂女「力尽きた改造人間からの通信は、自動的に途絶される。そのくらいは知っているだろう」

怪人「そんな…けど、作戦は!」
蜂女「向こうにどれだけの戦闘員が導入されたと思っている」

蜂女「そいつらまで『奴』にやられたのなら、『奴』がここに来るのも近い」

蜂女「撤退だ」

怪人「…けど、けど! それじゃ、蜘蛛人間さんは……!」

蜂女「分かれ、新人」

蜂女「こういうことが戦いだ。我々のやっていることだ」

ドコオオオオオオオオォォォォォン!!


怪人「!!」
蜂女「もう来たのか」


「まだいたか…」キョロキョロ

「よくも、またこんなことを…逃がさんぞ、ダイアーク!」


怪人(赤い、バイク)

怪人(間違いない、こいつだ。ダイアークを脱走し、ただ一人抵抗を続ける改造人間!)


ヒーロー「 変 身 ! 」


怪人(赤い、体…ヒーロー……!)

蜂女「新人、お前は十名戦闘員を連れて撤退しろ」

怪人「先輩はどうするんですか!?」

蜂女「戦うさ、私は」

蜂女「安心しろ、捨石になるつもりなどない。ただ、お前がこの戦いにはついて来れないから撤退しろと言っている」

怪人「け、けど!!」
蜂女「聞き分けろクソガキ!! 自惚れなど十年早い!!」

怪人「……りょう、かい」タッタッタッ……


ヒーロー「……」

蜂女「いけっ! 戦闘員!」

戦闘員「「「了解ィー!」」」

蜂女「ハァッ!!」シュバァッ!

戦闘員「イーッ!」

バキッ! ドカッ!

ヒーロー「…!」

蜂女(いける)

蜂女(バージョンアップした戦闘員と、私の速さならば!)

蜂女(相討ち程度には、持ちこめるさ!)

バキィ! ドカァ! ドコォ!

蜂女「終わりだヒーロー! 私の針で地獄に落ちろ!」

ヒーロー「フォームチェンジ!」


ピカアアアアァァァ!!


蜂女「なっ…!?」
蜂女(なんだこの…奴から放たれる、青い光は!?)

シュバァ!!

戦闘員「「「イイイィーッ!!」」」

蜂女(戦闘員たちが一撃で!? あれは…)


ブルーヒーロー「……」


蜂女(青い体に、青いロッド…蜘蛛人間が言っていたのは、こういうことだったのか!)

ブルー「おおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」

蜂女「ハアアアアアアアアァァァァッ!!」

バキィ! ドカァ!

蜂女(こいつ)

蜂女(ついてくる、私の速さに!)

ブルー「せやあああああああぁぁっ!」ヒュパッ!

ドコォッ!!

蜂女「がはっ…!!」

蜂女(すまない、蜘蛛人間、新人)

蜂女(作戦失敗の上に、捨石だ)

ブルー「……」

蜂女(強くなれよ、新人)

ブルー「ブルースプラッシャー!」

キイイイィィィィィン!!

蜂女「ダイ、アーク、ばん、ざ」


ドコォォォォォォォォォォォォォォォン!!





怪人「……」ドスッ ドスッ

教官「どこにもいないと思ったら、まだトレーニングしていたのか」

教官「改造人間だって休まなければ壊れるぞ。もう休め」

怪人「…蜂女先輩が最後にどうなったか、聞きました?」

怪人「人材だ、捨石にはならないだ、十年早いだ、言ってくれちゃって」

怪人「その結末が、戦死ですか」

教官「……」

怪人「くそおおおおぉぉぉっ!!」ドスッ!

教官「こうなることだって、予測できたはずだ」

教官「殺すこともあれば、殺されることもある。戦いはそういうものだ。違うか?」

怪人「…聞き分けますよ」

怪人「『正義』と『悪』の戦いですからね、これは」

怪人「だから、聞き分け」

怪人「…………」



怪人「 う お お お お お お お お お お お お お お お お っ ! 」


教官(吼えればいい、今は)

教官(そうやって強くなっていく改造人間もいる)

教官(お前もそうであればいい)


第一話 終

二週間後。


教官「どんな手段を尽くそうと、奴はその度に形を変え色を変え、こちらを返り討ちにしてきた」

教官「ならば、せめてもの対抗手段は」

怪人「全力で相手をして、傷を少しでも与えるか」

怪人「生き残ることを最優先にして撤退、のどちらかですか」

教官「そうだ」

「皮肉なものよね」」

「強力無比な改造人間を作ろうとした結果がこれとは」

「脱走された上に、独自の進化を遂げられるなんてね」

怪人「蛇人間先輩…」

蛇人間「胸糞悪い奴だぜ」

蛇人間「正義ってのはいつだってデカい力を持つんだなあ」

蛇人間「俺達もそれぐらい強ければよぉ」

怪人(俺は、この人が苦手だ)

怪人(一々、口が悪い)

怪人(こういう人も組織にはいる。仕方のないこと)

怪人(理屈は分かるが、自分がその人の部下として生きなければならないとは)

怪人(せめて、こき使われて死ぬ前に…ヒーローに一撃でも入れてやりたい)


第二話  衝突



怪人「市街地での試作機のテストですか」

蛇人間「複数の市で同時に、散らばってる連中ができるだけ派手に暴れるのよ」

蛇人間「いくらヒーローが強かろうと、結局は一人しかいない点を突くってこと」

蛇人間「実戦でのテストもできる、俺達のことを弱者どもに改めて認識させられる」

怪人「いい作戦ですね」

蛇人間「だろ? 進言してよかったぜ」

怪人(皮肉抜きに同意できる)

蛇人間「まあ、精々頑張ってくれよ」
蛇人間(無駄に金のかかった計画の分ぐらいはな)

怪人「全力を尽くします」
怪人(言われなくても分かってる)


――作戦当日。


蛇人間「…どういう、ことだ」

戦闘員「分かりません、E市の部隊とも、F市の部隊とも連絡が途絶えて」
蛇人間「それがどういうことだと聞いてるのだ無能!」グシャッ

戦闘員「」

怪人「…貴重な戦力に八つ当たりしている場合ではないでしょう」

蛇人間「黙れ黙れ! 今考えている!」

怪人(こいつ、口が悪いだけじゃなく、実戦での思考能力も悪いのか…!)



怪人「下部組織からの回し者?」

博士「うちも人材が不足してきてるからな。一応、戦力として使えるものは使っておきたい、ということじゃ」

博士「たとえそれが、実戦での力に疑問を残す者でも」

怪人「俺にもっと、力があればこんなことには」

博士「…すまんな。もう少し上手にお前を作ってやれれば」

怪人「博士を責めているわけじゃない」

怪人「感謝していると、あの時も言っただろう」

怪人「……俺は、この体が好きだ」



怪人(――すまん、博士)

蛇人間「あ、ああ」ガクガク

怪人(ああ言っておいてなんだが、この作戦から帰れたら、ワガママを言わせてもらう)

怪人(奴相手から生きて帰れれば、だが)


ヒーロー「……」


蛇人間「し、死にたくない…俺は死にたくないいいいいぃぃぃぃ!!」ダダダッ

怪人(案の定、逃げ出したか)

怪人「追わなくていいのか?」

ヒーロー「こちらの仲間が何とかしてくれる」

怪人(新しい戦力でも手に入れたか?)

ヒーロー「……お前は、何人殺した?」

怪人「たくさんだ、大人も子供も。大規模な作戦だけでなく、裏方に回っていた時もな」

ヒーロー「いつまで、続ける気だ。こんな、こんなことを」

怪人「死ぬまでだ。俺達と戦うのがお前の生き方のように、それが俺の生き方だ」

ヒーロー「ならば、倒す」ザッ

怪人(構えを取ったか)

怪人(なんて威圧感だ。これがヒーローの力か)

怪人(どう戦う、どう戦える?)
怪人(どう)

ドコンッ!

怪人「うわああああああああぁぁぁぁ!!」

ヒーロー「……!?」

怪人(み、見えなかった、拳が! 畜生、こんなの相手に先輩たちは戦ってたのかよ!)

怪人(駄目だ、俺の力じゃ、傷一つ負わせられない!)

怪人(だからって背を向けて逃げれば、どうなるか分からない!)

怪人(援軍が来るのを待つか? いや、奴の方にこそ援軍が)
ヒーロー「おい!」

怪人「…なんだよ?」

ヒーロー「お前、本当に、ダイアークの改造人間なのか?」

怪人「何を言ってやがる? 見れば分かるだろう!」

ヒーロー「…だが、この感触は」

怪人(なんだ、あの野郎? 戸惑ってる? 何に?)

ヒーロー「抜けろ、あの組織から」

怪人「何?」

ヒーロー「あの組織に、お前はいるべきじゃない」

怪人「…何を言い出すかと思えば」


怪人「これ以上否定されてたまるか!」ズアッ!

ヒーロー(腕から、刃!?)
ヒーロー「フォームチェンジ!」

ガシィン!

怪人「紫色の体に、剣!」ギチギチ

怪人「腕力に優れているらしいな! その形態は!」

怪人「だが、俺を否定する奴に、負けてたまるか!」

ギリギリッ!

パープルヒーロー「……」

怪人「どうした、ヒーロー! さっきまでの強さはどこにいった! 鍔迫り合いだけでは勝てんぞ!」

パープル「……」

怪人「お前が持っている正義とやらはこんなものか!」

怪人「俺を否定する正義が、こんなものか!」

「ヒーローさん!」

パープル「!」

ガキィン!

怪人(弾かれたっ…!)


「大変です、改造人間の大群がA市に現れて…」

パープル「状況はどうなっていますか?」

「パワードアーマー部隊が迎撃していますが、数が違いすぎます!」

パープル「分かりました、先に行ってください!」

「了解です!」

怪人(…奴は、警察か)

怪人(あの全身の鎧は、強化服といったところ)

怪人(他の市から連絡が途絶えたのは、アレが原因か)


パープル「フォームチェンジ」ギンッ!

ヒーロー「……」

怪人「どうした、俺を殺してみせろ!」

ヒーロー「今は、殺さない」

怪人「なにぃ!?」


ヒーロー「自分の体がどういうものなのか、よく考えるんだな」

ヒーロー「それさえ分からないお前を、殺すわけにはいかない」シュバァッ!


怪人「ま、待て!」

怪人「……見失ったか」



――二時間後。


怪人(撤退命令が出され、『再生人間』による攻撃が始まってから随分経つ)

怪人(例の試作機以外に、あんなものが造られていた…いや、甦っていたとは)


怪人「博士」

博士「おお、お前か」

博士「すまなかったな…あの回し者が、あそこまで無能とは」

怪人「いえ、再生人間部隊がああして間に合ったのです」

怪人「蛇人間に相応の罰を与えてくれれば不満は…」


怪人「と、言いたいところですが」

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