モバP「アイドルの卵」 (28)

【モバマスSS】です

短いです


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 一人で目を覚ます朝。
 一人で身支度をして。
 一人でご飯を食べて。
 誰もいなくなる家を出て。

 仕事に行って、働いて。
 仕事を終えて、
 一人の家に帰る。

 一人でご飯を食べて。
 一人でお風呂に入って。
 一人でテレビを見て。
 一人で布団に入って。
 一人で眠って。


 これって、もしかして。

 ああ、一人って寂しいんだ。
 気付いてしまった。

 気付かなければやり過ごせたのだけれど。
 気付いてしまうと寂しくて。

「アイドルの卵は、いかがですか?」

 はい? と立ち止まり尋ねたのは、一人の家に帰る途中。


「お譲りしますよ、お金はいりません」

 アイドルの卵? と聞き返す。

「はい、アイドルの卵です」

 寂しさが紛れそうだと思った。
 そう思ったら、欲しくなった。
 欲しくなったから、財布を取り出す。

「ですから、お金はいりません」

 しかし。


「成長して、要らなくなったら連絡してください。引き取りますよ」

 そんな無責任な。

「それを無責任だと感じる人だからこそ、お譲りできるんです」

 そういうものなのか、と不思議に腑に落ちる。

「では、この袋の中に卵と説明書がありますから」

 丁寧に受け取ると、存外に軽い。いや、重さがないと言った方が正しいのか。

「それでは、また」


 そして一人で家に帰る。
 今夜は卵と一緒に。

 一人でご飯を食べる前に、卵を布団の中に入れる。
 一人でお風呂に入る前に、卵の様子を見る。
 一人でテレビを見ていても、卵の様子が気になる。
 
 一人で布団に……
 ああ、布団の中には卵がいるじゃないか。

 そうだ。今日はコタツで寝てしまおう。
 それがいい。

 目を覚ますと、一人でないことに気付く。


「にょわ?」
「ボク、カワイイ?」
「ふーん」

 三人の小さな子。
 幼児体型の小ささではない。
 体型の比率は少女のそれを縮小したような存在。
 中の一人は他の二人に比べるとちょっぴり背が高いけれど。

 卵が孵ったのだと理解して、袋の中の説明書を確認する。
 昨夜の内に一応目は通していたのだけれど、現物を見ると不安になるのもまた仕方のないことで。

 一人は、嬉しそうににょわにょわ笑っている。
 一人は、褒めて欲しそうなドヤ顔で仁王立ち。
 一人は、「アンタが卵を孵したの? ふーん」とでも言いたげに見上げてくる。

 間違いないのは、三人ともとても愛らしいこと。


 小さなアイドルを育てよう。

 四人で目を覚ます朝。
 三人に身支度をさせて。
 四人でご飯を食べて。
 三人に見送られて家を出て。

 仕事に行って、働いて。
 仕事を終えて、
 三人の待つ家に帰る。

 
 四人でご飯を食べて。
 四人でお風呂に入って。
 四人でテレビを見て。
 四人でゲームをして。
 四人で布団に入って。
 三人に絵本を読んで。
 四人で眠って。


 とても忙しい日々。
 だけど楽しい日々。

 
 小さいアイドルは小さいままで。
 いつまでも自分だけのアイドルで。

 過ぎていく忙しい日々。
 過ぎていく楽しい日々。

 だけどある日気付いてしまう。

 
 


 テレビを見ている三人が、とても羨ましそうだった。
 テレビの向こうで唄っているアイドル。
 如月千早とか、天海春香とか、星井美希とか
 三人はとても眩しそうにアイドルを見ていた。
 それがとても寂しそうで。
 それがとても哀しそうで。
 それは憧れで、もしかすると諦めで。
 
 諦めさせているのは自分だと、気付きたくなくて。
 だけど、気付かずにはいられなくて。

 皆は、アイドルになりたいんだね。
 尋ねる声が泣いていた。
 
 応える声も、泣いていた。


 
「こんにちは」

 泣き声が届いていたのだろう。
 訪れたのは、あの日卵をくれた人。

「モバPと申します」

 そうか。
 そうなのか。
 貴方がそうなのか。
 貴方がこの子達をアイドルに、本当のアイドルに。

 それなら、この子達をアイドルにしてください。
 この子達をあの世界に連れて行ってあげてください。


 自分は寂しくてもいいんです。
 自分は一人でもいいんです。
 
 この子達が寂しくなければ。
 この子達がアイドルになれるなら。
 
 それで満足できます。
 
「そうですか、それでは」

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 一人で目を覚ます朝。

 一人で身支度をして。
 一人でご飯を食べて。
 誰もいなくなる家を出て。

 仕事に行って、働いて。
 仕事を終えて、
 一人の家に帰る。


 一人でご飯を食べて。
 一人でお風呂に入って。
 一人でテレビを見て。

 そこにはあの子達がいた。

 
「みんな、はぴはぴしてゆ~!」
「ボクは、カワイイですからね」
「残して行こうか、私たちの足跡」

 あの日々は夢じゃなかった。
 三人はきっとここにいた。
 ここに、四人でいた。
 あれは夢なんかじゃない。
 誰も知らない日々だったけれど。

 良かったね。
 アイドルになれて良かったね。
 貴女達は、とても輝いているから。

 
 
 ああ、寂しいなぁ。

 あの子達にはもう会えないけれど。

 だけど……

 
 
 
 
 

 
 
 
「また、会いましたね」


「新しい卵はいかがですか?」

 そして、日々が始まる。

 
 以上お粗末様でした

 
 解釈は、ご自由に

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