小鳥「うわっ…私の年齢、高すぎ…?」 (69)

http://i.imgur.com/DKbhvXQ.jpg

小鳥「……」


こ、こんなの遊びみたいなもんだし?

いったい私のなにがわかるっていうのかしらね? ふふん。


小鳥「婚期絶望……」


ふ、ふふ……。

ああ、悔しいよ! 悔しいですよ!

そこまで言われたら、結婚してやるっての!


そうよ、20代も残りわずか。いつまでもこんなことじゃいけないわ。

よし! 音無小鳥は生まれ変わる!

明日から本気を出す!


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律子「独り言はこっちに聞こえないようにお願いします」

小鳥「あ、あら……なにか聞こえましたか?」


心の声を聴かれるなんて……。

律子さんったらニュータイプなのかしら?


律子「いや、だから声に出てますって」

小鳥「え? あはは、失礼しました」

律子「なにに本気を出すつもりか知りませんけど、早く明日が来るといいですね」

小鳥「ぐぬっ……!」


ええ確かに、明日から明日からと言い続けて2X年、明日は来ませんでしたとも。

言ってるだけじゃダメだってことは、よ~くわかってます。

わかってからが難しいんですけどね。

小鳥「たとえばですよ」

律子「はい?」

小鳥「私が律子さんのメガネだったとするじゃないですか」

律子「はあ?」

小鳥「あ、近視用っていう設定で」

律子「はあ」

小鳥「もちろん片時も離れられないほど律子さんのことは大好きです」

律子「へー」

小鳥「でも律子さんは、ある日突然乱視になってしまった……」

律子「なってませんけど」

小鳥「メガネだって、そう簡単に生き方を変えることは出来ません」

律子「……」

小鳥「乱視なんて……今までそんな生き方はしてこなかったのに……」

小鳥「どうすればいいっていうんですか?」

律子「買い換えればいいんでは?」

小鳥「ひどい! 私を捨てるんですか!?」

律子「メガネですよね?」

小鳥「えっ」

律子「えっ」


なんでメガネを買い替えるなんて話に……?


あ、そうそう! 私が婚期絶望で明日から頑張るっていう話だった!

婚期絶望ってひどい言われようですね! あはは。


あはは……。

律子「なに急にたそがれてるんですか」

小鳥「いえ……」

律子「?」

小鳥「律子さん!」

律子「はい?」

小鳥「結婚してください!」

律子「お断りします」

小鳥「……」

律子「……」


あ、あははっ。律子さんってば素で返しちゃって~。

これじゃ私がバカみたいっていうか、危ない人みたいじゃないですか~。


小鳥「も~冗談ですよ~」

律子「冗談でも断固お断りです」

小鳥「ひどっ!」


冗談なのに、冗談のつもりだったのに……ふふっ。

おかしいわね、心が痛いわ……。

P「……」

小鳥「ぷ、プロデューサーさん!?」

P「……おはようございます」

律子「おはようございます」

小鳥「お、おはようございます! って、いつのまに?」

P「音無さんが律子にプロポーズしたあたりですね」

小鳥「」

律子「……」


あんなところを見られてたなんて、事務所内での私の立場が……。

あ、それは今さらか。


でも、よりによってプロデューサーさんに……。

変な誤解をされてなければいいけど。


P「モテモテで羨ましいな、律子は」

律子「なにバカなこと言ってるんですか」


そりゃあ律子さんのことは大好きですよ?

なんだったらマジで嫁に欲しいぐらい。

でもね、私だって女として生まれたからには、花嫁さんになってみたいわけで。


もしも、叶うなら……。


P「ん? なんですか?」

小鳥「え? な、なんでも!」

P「?」

律子「……」

律子「それじゃ、私はあずささんを迎えにいってきますね」

小鳥「あ、もうこんな時間なんですね」

P「気をつけてな」

律子「小鳥さん、ちょっといいですか」

小鳥「はい?」

律子「明日プロデューサー殿は出張で、事務所にいない予定ですよね?」

小鳥「ええ、そうですね」

律子「だったら、今日頑張っておいたほうがいいんじゃないですか?」

小鳥「は……?」

P「?」

小鳥「ちょっ、律子さん!?」

律子「ふふっ、それじゃいってきます」

P「おう、いってらっしゃい」

小鳥「い、いってらっしゃい……」

律子さんにだって話した覚えは無いんだけど……私の気持ち。


ちょっとだけお酒を嗜みすぎたときに、うっかり口を滑らせたとか……?

だとしたら文字通り記憶に、というか記憶が無いわね。

思い当たる節はたくさんあるけど。


って、それはひとまずおいといて、プロデューサーさんに今の……。


P「?」


うん、聞こえてなかったみたい。

ほっとしたような、ちょっとだけ残念のような……。


P「律子、なんですって?」

小鳥「べ、別に大したことじゃ」

P「そうですか?」

小鳥「あ、お茶淹れてきますね!」

P「? はい、お願いします」

落ち着け! 平常心よ小鳥!

私は事務員、みんなのスケジュールはもちろん把握してる。

今日、朝早く来そうな子は……いない。

社長は……出張。


あれ? しばらくはプロデューサーさんと二人っきり?

マジで!?


 パラパラ…

……ん?

待て! この筒は茶葉じゃない、きざみ海苔だ!


小鳥「ぎりぎりセーフね……」


ま、まあこのぐらいなら……。

ふぅ……危うく急須が磯臭くなるところだったわ。


事務所で二人っきりなんて、そんなに珍しいことじゃないし。

いつもなら、ちょっとうれし恥ずかしかったりするんだけど。


小鳥「……///」


ダメだ、顔が火照ってる……。

もー! 律子さんがガラにも無くあんなこと言うからですよ!


でも……。

うん、少しだけ頑張ってみようかな……?

小鳥「ど、どうぞ」

P「ありがとうございます」


湯呑みを持ってると、手の震えがよくわかる。
見られてなければいいけど。


P「いただきます……ん?」ズズ…

小鳥「?」

P「あれ、こぶ茶? 違うな……」ズズ…

小鳥「ぅ……」

P「磯の風味が利いてて変わった味ですね」

小鳥「そ、そうですか? あれ~?」

P「でも、これはこれで結構美味しいですね」

小鳥「え?」

P「雪歩に教えてやったら喜ぶんじゃないですか?」

小鳥「そ、そうですね~。あはは」


むしろ怒られるんじゃないかと思います……。

あ、ブチギレた雪歩ちゃんって、ちょっと見てみたいかも。

今度の日曜日は、プロデューサーさんも私もお休み。


もとより土日祝関係無しの職場で、彼は休日返上当たり前の多忙な人……。

ついでに事務所は慢性の人手不足。

一緒にお休みできる機会なんて、一年にそう何度も巡ってこない。


街で偶然出会って、そこから素敵なロマンスが生まれたりとか……。

花束を持った彼が突然訪ねてきて、そこから甘酸っぱい恋物語が始まったりとか……。

それはもう詳細な設定と具体的な人物像を元に、何度もシミュレートしたわ。


でも、そんなときですら私は受身。

自分からはなにも出来ない。


それでも待ってたら、素敵ななにかがある?

ありません。ソースは私の2X年の人生。

……って、私の人生、悪い見本かよ!


いや、大台に乗る前に気づいたのは、不幸中の幸いだったと思おう。

きっと、まだ手遅れじゃないから!

小鳥「あ、あの……」

P「はい?」

小鳥「プロデューサーさんは今度の日曜日、なにかご予定はあるんですか?」

P「日曜ですか? ん~……」


どうしたのかしら? ちょっと微妙な反応だけど。

なにか言いにくいこと?

って、まさか……。


小鳥「もしかして女性と会ったりとか……?」

P「まあ、そうだといえばそうなんですけど」

小鳥「えぇ!?」


私のターン、早くも終了!?

プライベートで女性と会うっていったら、やっぱり……。


小鳥「か、彼女さん……とか?」

P「残念ながら違います」

小鳥「え?」

P「逆に、彼女が出来ないことを心配されて、学生時代からの友人に合コンに誘われてるんですよ」

小鳥「合コン、ですか?」

P「ええ。大きなお世話ですよ、まったく」

小鳥「で、ですよね~」


わかります。

両親から事あるごとにお見合いお見合いと言われて、いいかげん辟易してますから……。

いや、私のことはいいんです。

そんなことより、とても重要な情報が!

今現在、プロデューサーさんはフリー! 仲間!


小鳥「……よしっ!」ボソッ

P「え?」

小鳥「な、なんでもないです。それより……」

P「?」

小鳥「もし……もしもですよ? プロデューサーさんのこと好きな女性がいたとしたら……」

P「いるんですかね?」

小鳥「だから、もしもですって!」

P「そうですね……」

小鳥「……」

P「良い縁があったら考えますが……難しいでしょうね」

小鳥「難しい?」

P「こんな仕事だと、寂しい思いをさせることも多いでしょうからね」

小鳥「ああ……」


この人ほどの仕事人間になると、確かにその点は大いに不安だけど……。

たとえばですよ?

同じ職場なら、一緒にいる時間の埋め合わせは出来ますよね? ね?

P「なにか口実があれば、合コンは断れるんですけどね」

小鳥「口実って言い方はどうかと……」

P「ははは。音無さんは、なにかご予定は?」

小鳥「わ、私のほうはなにも」

P「そういえば、音無さんと休みが一緒なんて珍しいですね」

小鳥「そ、そういえばそうですね」

P「……」

小鳥「……」


この沈黙にどんな意味があるかなんて、私にはわからない。

わかるのは、自分がどうしたいのか。

そうしなければ後悔するってこと。


よし、覚悟は今できた。

小鳥「あの」

P「はい」

小鳥「よかったら、日曜日……一緒にお出かけしませんか?」


言えたよね?

実は心の声でしたなんてことはないよね?


うん、言えたみたい。

プロデューサーさん、不思議そうな顔してるし……。


小鳥「だ、ダメですか……?」

P「ダメなんてとんでもない。まさか音無さんから誘ってもらえるとは思わなかったんで」

小鳥「え?」

P「デートってことでいいんですよね?」

小鳥「そうですね。デート……デート!?」

[デート]

デート(英: date)は、恋愛関係にある、もしくは恋愛関係に進みつつある二人が、
連れだって外出し、一定の時間行動を共にすること。逢引(あいびき)およびランデヴーとも言う。


具体的には、一般に食事、ショッピング、観光、映画や展覧会・演劇・演奏会の鑑賞、
遊園地・アトラクション、夜景などを楽しむ、といった内容であることが多いが、
これらの行為そのものよりも、それを通して互いの感情を深めたり、愛情を確認することを主目的とする。

お互いのことをより深く知ることで、交際を深めることができる。
事前に立てられた計画をデートプラン、事前に計画したデートの道筋はデートコース、
デートをする際に適しているとされる場所はデートスポットと呼ばれている。

2人で過ごす時間をただ楽しむためだけではなく、交際を順調に進めるための目的を一方が計画している場合もある。
まだ、お互いが恋人同士と認識していなくてもデートをするということもある。
デートの最中において、恋人同士と認識した交際をしたい旨を正式に申し込む、
初めてのキスをする、プロポーズをすることなどがある。

(引用元:wikipedia)


デートというと、やっぱりこれのことよね?

あまりにも聞きなれない言葉だから、思わず検索しちゃったじゃないですか。


最後のほうとか……いやいや! これはいきなり飛躍しすぎですよ。

私はすでに周回遅れなんで、飛躍してもらっても全然構いませんけど……。


プロデューサーさんの気持ちは……まだ全然わからない。

P「では日曜日は二人でデートということで」

小鳥「は、はい! ……あ、でも」

P「なんですか?」

小鳥「合コンのほう、ほんとにお断りしちゃって大丈夫なんですか?」

P「音無さんほど綺麗な人とのデートなら、みんな納得しますよ」

小鳥「ま……またまた! お上手なんですから、もー///」

P「ははは、日曜日が今から楽しみです」

小鳥「わ、私もです……///」


今日、頑張ってよかった。

明日からなんて言ってたら、きっとこうはならなかったもの。


律子さんが背中を押してくれなかったら……。

言葉だけじゃ足らないけど、ありがとう律子さん!

 同日・夕方 事務所


小鳥「いたたた……なにも、うっちゃらなくてもいいじゃないですか」

律子「いきなり抱きついてくるほうが悪い」

小鳥「それは、私なりの感謝の気持ちをですね……」

律子「気持ちだけいただいておきます」

小鳥「も~、素直じゃないんだから~」


そこが律子さんの可愛いところですけどね!

ああん、もう! やっぱり抱きしめたい!


律子「次は叩き込みますよ?」

小鳥「ちょっ!? 冗談ですよ、冗談!」

律子「まったく……」


[叩き込み]

叩き込み(はたきこみ)とは、相撲の決まり手のひとつである。
突きや押しの攻防の中で、体を開き、相手の肩や背中をはたいて倒す技。
引き落としは体を開かない点でこの技とは異なる。

立合いの際の変化 で叩き込みを決めるケースが多くあり、注文相撲と称されるが、
上位力士に奇襲を仕掛けるような場合でもない限り、あまり誉められた技とは言えない。

(引用元:wikipedia)

私の運動能力をなめないでください。

そんな技食らったら、顔面ダイブで大惨事ですよ。

私には春香ちゃんみたいな若さも特殊技能もないんですからね!


律子「その様子だと、少しは進展があったみたいですね」

小鳥「少し? ふふっ、私を見くびってもらっては困りますね」

律子「ほう?」

小鳥「ふっふっふ……聞きたいですか?」

律子「いや、別に」

小鳥「……」

律子「……」

小鳥「……聞きたくないなら、別にいいですよーだ」

律子「拗ねなくてもいいでしょ……」

小鳥「拗ねてませんよーだ!」

律子「あーもー、この人めんどくさい……」

律子さんってば、ほんとはどうしても聞きたい! って顔してるんだから。

仕方ないから、事細かに地の文付きで説明してあげましたよ。

ちょっと恥ずかしいですけど。うふふ///


小鳥「どうですか!」フフン

律子「うっわ、うざ……」

小鳥「もう律子さんったら、うざいだなんて///」

小鳥「……って、なんだと!?」

律子「いや、そのテンションがね」

小鳥「ぐぬっ……!」


そりゃ浮かれもするさ、2X歳だってな。

いや、むしろ2X歳だからな!


律子「まあ、お二人にしてはなかなかの結果だと思います」

小鳥「私は、やるときはやる女ですから!」フフン

律子「ああ、ドヤ顔はやめてください」

小鳥「ど、ドヤってなんかないですよ!」

律子「少しは安心しました」

小鳥「もっと素直に、祝福の言葉があってもいいと思うんですけど?」

律子「ぬか喜びになったら困るでしょ」

小鳥「縁起でもないこと言わないでくださいよ~」

律子「小鳥さんのことですからねぇ?」

小鳥「ぐぬっ……!」


なんだとこのツンデレ眼鏡っ娘!

きざみ海苔たっぷりの熱い磯茶を振舞ったろか!


律子「まあ、でも……」

小鳥「?」

律子「小鳥さんが幸せになってくれたら、私も嬉しいですよ」ボソッ

小鳥「え……」

律子「……///」

小鳥「ふふっ、もう……」

律子「……///」

小鳥「ありがとう、律子さん♪」

律子「は? なにか聞こえましたか?」

小鳥「いーえ、なにも!」

律子「ならいいです」

小鳥「うふふ♪」


もう、ほんとにツンデレさんなんだから。

大好きですよ、律子さん!

 翌日 事務所


プロデューサーさんは今日から出張で、帰ってくるのは明日の夜。

その分負担が増えて大忙しの律子さんも、一日出ずっぱり。

私も出来る限りフォローはしているので、朝から仕事に追われている。


うちの事務所ではよくあること。

いいかげん慣れたつもりだったけど……やっぱり一人だけ取り残されたみたいで寂しい。


 prrrr…prrrr…

小鳥「はいはい、お電話お電話と……」


忙しいのはいいことよね。

気が紛れるし、時間の経つのも早いから。


小鳥「はい…………はい、よろしくお願いいたします。失礼します」

 ガチャ


いつもだったら煩わしいだけの経理業務も、もうこんなに片付いてる。

少し手が空いたことだし、もう一回確認しておこうかしら。

気を抜くとどうしても……。


小鳥「うふ、うふふふ///」


いけないいけない、仕事中だってば。

集中集中!

二日もプロデューサーさんに会えないのは、もちろん寂しいけど……。

昨日の約束があるから大丈夫。

日曜日は……うん、今日だけで何度確認したかわからないけど、明後日よね。


小鳥「うはっ///」


もう、なに変な声出してるのよ。

誰もいないからって、ここは事務所なんだから……


亜美「……」

真美「……」

小鳥「亜美ちゃん、真美ちゃん!? いたの!?」

真美「う、うん。気づかなかった?」

亜美「おはよー、ピヨちゃん」

小鳥「お、おはよう! おかしいわね、電話中だったからかしら」

亜美「そっかぁ」

真美「あ、真美たちあっちで休んでるね」

小鳥「え、ええ」


見られちゃったみたい……。

あんなよそよそしい二人は初めて見たわ……。


亜美「ねえ、ピヨちゃんさ……」ヒソヒソ

真美「うん、とうとう……」ヒソヒソ


待って! 「とうとう」でも「ついに」でもないから!

それは誤解よ!

 翌日 事務所


プロデューサーさん、出張2日目。帰ってくるのは今日の夜。

状況は昨日とほぼ変わらない。

私の悪い癖で、一人ぼっちでいるとついつい余計なことを考えてしまう。


約束の日はいよいよ明日。

待ち遠しいけど……今になって不安にもなってる。


プロデューサーさん、楽しんでくれるのかな?

つまらない思いをさせて、愛想を尽かされないかな?

本当に……私なんかでいいのかな?


考えても仕方のないことだけど、やっぱりネガティブな性分はそう簡単に変えられない。

こういうとき、自信を裏付ける経験の無さを思い知らされる。


小鳥「はぁ……今日は仕事が捗らないわ」


それでも、やることはやらなきゃね。

プロデューサーさんもみんなも、それぞれの場所で頑張ってるんだから。


 ピンポーン

お客様? 来客の予定なんてあったかしら?

私しかいないんだから、厄介ごとは勘弁ですよ。


小鳥「はーい!」

 ガチャ

女性「失礼します……」

小鳥「あ、はい。どうぞ」


若い女の人ね。

年の頃はあずささんより少し上で、プロデューサーさんと同じぐらい?

おとなしそうな、とても可愛らしい人。


女性「こちらの事務員の方は?」

小鳥「はい、私ですが」

女性「あなたが……」

小鳥「?」


なんだろ? 一瞬だけだったけど、なにか言いたそうな?


顔見知り……じゃないわよね。

うちの取引先の人って感じでもないし。

そもそも、なんで私をご指名?


小鳥「どういったご用件でしょうか?」

小鳥「いえ、失礼ですがどちら様でしょうか?」

女性「私は、こちらでプロデューサーをしているPくんの……友人です」

小鳥「!?」

この女性はプロデューサーさんの学生時代の同窓生……というだけではもちろんなくて。

さすがの私でも、この人が彼に好意を寄せているのはすぐにわかった。

当時から、たぶん今でも。


女性「ずっと彼のことが好きでした。でも、伝えられなかった……」

女性「いい友達でいられれば、いつか振り向いてもらえるんじゃないかって……」


でも、卒業してから次第に同窓生が集まる機会もなくなり、彼が多忙なこともあって最近は連絡も取れなくなった。


女性「諦めようとはしたんです。でも、諦められなくて……」

小鳥「……」

女性「バカみたいですよね。悪いのは自分なのに」


自身を責める彼女の言葉が、私にも突き刺さる。

私も、彼女と同じ弱い人間だから。

女性「それで、彼と共通の友人が心配してくれて……日曜日に彼を呼び出すから、と」


それが件の『合コン』。

もちろん文字通りのものではなく、当事者二人のために用意されたものだ。


小鳥「でも、それなら普通に同窓会でいいんじゃ?」

女性「それだと、なかなか二人きりになれないだろう、って」

小鳥「ああ……」


同窓会なら、彼は迷わず参加していたと思う。

当然、私との約束は無かった……ってことになるけど。

ボタンの掛け違えだったとしかいえない。


女性「そんな騙すみたいなこと、最初は断ろうと思いました。彼だって迷惑だろうし」

女性「でも、そんな機会でもいいから彼に会えるなら……」


プロデューサーさんは知らなかったから仕方のないこと。

誰も彼を責められない。

そう思わないと私まで辛くなる。

小鳥「でも、なぜ私のところに?」

女性「彼から断りの連絡が来たときに友人たちで集まってて、その場に私もいたんです」

女性「それで、友人たちが理由を問いただしたら……」

小鳥「私のことが?」

女性「はい。こちらの事務員さんとデートされるからだと」

小鳥「……」

女性「実は、彼がこちらに勤めだしてから、一度だけ会う機会があったんです」

小鳥「え?」

女性「音無さん……のことは、そのときにも彼から聞いていました」

女性「聞いていたとおりの方ですね」

小鳥「ど、どんなふうにですか?」

女性「それは内緒です。ちょっとだけ悔しいですから」


悔しい? どういう意味かしら。

そういうのは私みたいなのが、あなたみたいな可愛らしい同性に感じるものだと思うけど。


女性「あ、すごく鈍感な人だとは言ってましたよ」

小鳥「えぇっ!?」

女性「ふふっ」


な、なに言ってくれてるのあの人!?

これは、ぜひとも問い詰めたい! ……けど。

まず、この状況が自分の中で整理できていない。

女性「今日はお仕事中に押しかけてしまって、ご迷惑をおかけしました」

小鳥「い、いえ」

女性「音無さんがどんな方なのか……どうしても一度お会いしてみたくて」

小鳥「こんなのでもうしわけないです……」

女性「いえ……お会いできてよかった」

小鳥「はあ」

女性「ふふっ、こんな素敵な人ならしょうがないかな」

小鳥「え?」

女性「音無さん」

小鳥「は、はい」

女性「Pくんのこと、よろしくお願いします」

小鳥「あ、あの……」

女性「それでは、失礼します」

小鳥「……」


声を掛けようとしても、言葉が見つからなかった。

私のほうが泣いてしまいそうだったから。

最後まで気丈に振舞った彼女の気持ちを考えたら、そんな失礼なことは出来ない。


時間が経って思い出話になったら……お酒でも呑みながら泣こう。

 同日・夜 事務所


それから結局仕事が手につかず……。

たっぷりと律子さんのお小言をいただいて、ついでに残業となりました。


今日ばかりは、早めに上がらせてもらうつもりだったのに。

明日のことを考えて……だったけど。


わからなくなっちゃった。

どうすればいいのか。

私は、どうしたいのか。


あの人……彼女はとてもプロデューサーさんとお似合いだと思う。

私なんかよりもずっと長い間、彼のことを想い続けて……。


私も彼女も、仲間から後押ししてもらった。

彼女のほうが、ほんの少し間が悪かっただけだ。

私が横から割り込まなければ、その想いは報われていたかもしれないのに。

私はそれでいいの?


いいわけがない。私だって彼のことが好きなんだから。

そうなっていたら、ひどく後悔していたと思う。

今の彼女が、きっとそうであるように。


それがわかるから、どうしても彼女のことを他人事とは割り切れない。

似たもの同士だから、同じ人を好きになったのかな……。


プロデューサーさんは、たぶんそろそろ帰ってくる。

今日のこと、話すべきだろうか?


ダメだ、考えても混乱するだけ。

自分の気持ちも整理できていないのに。


こんな気持ちのまま、明日を迎えても……。


 ガチャ

P「ただいま戻りました~」

小鳥「あ……」

P「あれ? 音無さん、こんな時間まで残業ですか?」

小鳥「プロデューサーさん……」


どうしよ……。

小鳥「おかえりなさい。出張おつかれさまでした」

P「まさか、待っててくれたんですか?」

小鳥「え? いや、仕事が残ったままなので」

P「そういうことなら手伝いますよ」

小鳥「いえいえ! お疲れのところ悪いですよ」

P「俺がいないぶん音無さんと律子に負担を掛けたんだから、そのぐらいはさせてください」

小鳥「でも……」

P「明日のこともありますから、あまり遅くなられてもね」

小鳥「明日の……」

P「どこから手をつければいいですか?」

小鳥「あ……じゃあ、そちらの書類を」

P「任せてください」

小鳥「……」


彼女のこと、明日のこと。

わからない……。


P「音無さん、こっちの資料は?」

小鳥「それは廃棄分なので、一箇所にまとめておいてもらえれば」

P「わかりました」


仕事をしいてれば、余計なことを考えなくても済む。

このまま終わらなければいいのに……。

P「ふぅ……あらかた片付きましたか?」

小鳥「そうですね。ありがとうございました」

P「どういたしまして」

小鳥「……」

P「どうしました?」

小鳥「え? いえ、なんでも……」

P「……」

小鳥「……」

P「昼間……彼女が来たそうですね」

小鳥「知ってたんですか!?」

P「合コンを持ちかけてきた友人から連絡があって、余計なことをしたと謝られました」

小鳥「?」

P「なんの話かわからなくて、問い詰めたら……」

小鳥「ああ……」


知ってたんだ……。

情けないけど、ちょっとだけ気が楽になった。

小鳥「あ、あの……」

P「はい?」

小鳥「プロデューサーさんは、彼女のことどう思ってるんですか?」

P「……」


聞くのは怖いけど、知らなければなにも決められない。

なにもしない、考えないじゃダメなんだ。


P「彼女の気持ちは?」

小鳥「聞きました」

P「俺もね、あの頃はずっと彼女のことが好きでした」

小鳥「……!」

P「……」

小鳥「だ、だったら両想いじゃないですか」

P「どちらかがもう一歩踏み出すことが出来たら、そうなっていたでしょうね」


なっていた?

今からだって、まだ遅くはないはずですよ。

あなたの気持ちが変わっていないのなら。

小鳥「明日……彼女に会ってあげてください」

P「……」

小鳥「このまま、すれ違ったままなんて……悲しすぎますよ」

P「明日は音無さんとの約束がありますよね?」

小鳥「わ、私のことは気にしないでください」

小鳥「こんなの慣れっこですから。あはは……」

P「……」

小鳥「……」

P「泣かないでください」

小鳥「泣いてません」


今日は泣かないって決めたんですから。


でも、これって彼女のためじゃなく自分のためか。

だったら、いいのかな……?

P「やっぱり彼女には会えません」

小鳥「どうして……ですか?」

P「泣いてる人をほうってはおけないでしょ」

小鳥「泣いてませんってば」

P「そうですか?」

小鳥「万が一泣いてたとしても、同情なんかされたくありません!」

P「同情じゃないですよ」

小鳥「だったらなんですか?」

P「今の自分の気持ちに嘘をついても、後悔するだけですからね」

小鳥「後悔?」

P「わかりませんか?」

小鳥「わかりません!」

P「やっぱり鈍感ですね」

小鳥「プロデューサーさんにだけは言われたくないです!」

P「ははは、たしかに」

小鳥「なにがおかしいんですか!」

小鳥「もう! そんなに泣け泣け言うなら泣きますよ」

P「俺が泣かしたみたいじゃないですか」

小鳥「そうです、プロデューサーさんのせいです」

P「そういわれても」

小鳥「プロデューサーさんのせいです!」

P「はい、ごめんなさい」

小鳥「わかったのなら、ちょっと隣に来て肩を貸してください」

P「かしこまりました」

小鳥「……」

P「さあ、ちょっとといわず遠慮なくどうぞ」

小鳥「どうも」


なんのために泣くんだったっけ?


…………

わかんないけど、まあいいや。

泣いてすっきりしちゃおう。


あはっ、プロデューサーさんの肩、あったかい……。


小鳥「うっ……うぁ……っ」ポロポロ

P「……」

───

──




P「落ち着きましたか?」

小鳥「はい、おかげさまで……」

P「それはよかった」

小鳥「ごめんなさい……肩、汚しちゃって」

P「別に汚れてませんよ」

小鳥「汚れてますよ」

P「汚れてません」

小鳥「汚れてますってば!」

P「……」

小鳥「……ぷっ」

P「ははっ」

小鳥「もう、強情ですね」

P「音無さんこそ」

小鳥「じゃあ、そういうことにしておいてあげます」

P「それはどうも」

小鳥「ふふっ」

P「ははは」

P「明日、楽しみですね」

小鳥「はい、とても」

P「待ち遠しくて、今夜ちゃんと寝付けるか心配です」

小鳥「ふふっ……私もです」

P「それじゃ、帰りましょうか」

小鳥「そうですね、もうこんな時間だし」

P「送りますよ」

小鳥「はい、お言葉に甘えます♪」

 同日・夜 自宅


目覚ましはセットしてあるわよね? OK!

今日のうちに準備できることは全てしておいた。

お気に入りの服を片っ端から引っ張り出して、部屋の惨状と引き換えにコーディネートも済ませておいた。


日付が変わる前だけど、デートに備えて今日は早めに就寝。

あとは明日を待つだけ……。


小鳥「……///」


って、眠れるわけねーーー!

 ジタバタ

今から心臓ドキドキしてるよ、もう。

いい年して異性と交際したことも無い生娘かっつうの。

ああそうだよ、悪かったなチクショー!


だがしかし! そんな自分とも今日でさようなら。

私にも、ついに明日が来る。


小鳥「明日、か……」


明日から始まる毎日は、どこに続いてるんだろう。

居心地のいい今日から一歩踏み出した先には、ちょっとだけ不安もあるけど……。


せっかく歩き出したんだから、信じて歩き続けよう。

同じ人を好きになった彼女に、せめて恥ずかしくないように。

 デート当日・駅前 10:30


P「遅く……なりました……」

小鳥「30分遅刻です」


もちろん事前に言い訳の連絡はいただいてましたよ?

例によって取引先からの急な問い合わせがあって、朝から対応に追われてたとか。


別にプロデューサーさんの落ち度じゃないですし。

息を切らせて駆けつけたあなたを見たら、怒る気にはなれませんけど。


P「ほんとに……ごめんなさい……」

小鳥「いえ……それより」

P「はい?」

小鳥「デートなのに、なんでスーツなんですか?」

P「ごめんなさい……」


電話対応に追われている間に、ついいつものクセでスーツを用意していた?

で、気づかないまま慌てて着替えて出てきた?

なるほど、プロデューサーさんらしいといえばらしいですけど……。

小鳥「……」

P「怒ってます?」

小鳥「いーえ」

P「ほんとに怒ってません?」

小鳥「どうでしょうね?」

P「う……」


スーツで来たのは大目に見ます。

どんなお洒落をするよりも、あなたにはこれが一番似合ってて、その……かっこいいですし。


でも、たった30分とはいえ待ってる間はすごく不安だったんですから。

もし来なかったらどうしようって……。

だから、少しだけ意地悪をしてあげます。


小鳥「今、私が一番言ってほしいことを言ってくれたら、許してあげます」

P「え?」


わかりますよね。

デートより、そっちが先でもいいくらいなんですから。

P「……ごめんなさい?」

小鳥「ほんとに怒りますよ?」

P「ああっ、今のは無しで」

小鳥「もう……」

P「ん~……」ジー


な、なんですかマジマジと。

私の表情を伺おうったって、そうはいきませんよ。


P「んん~……」ジー

小鳥「そんなにジロジロ見ないでください!」

P「あ、いや……音無さんの私服姿って滅多に見られないので」

小鳥「え?」

P「とても似合っていて可愛らしいなぁ、と」

小鳥「は?」


可愛らしいってどういう意味だったっけ?

ああ、あれだ。可愛いってことだ。


え?

小鳥「そ、そんな見え透いたこと言ってもダメです!///」

P「そんなつもりじゃないですって」

小鳥「……ほんとですか?」

P「とても可愛らしいですよ」

小鳥「……///」


く、悔しいけど、やっぱりこういう駆け引きじゃ私に勝ち目は無いかも……。

そんなふうに言われて、嬉しくないわけ無いですし///

頑張ってお洋服選んでよかった……ふふっ♪


P「許してもらえました?」

小鳥「半分ぐらいは……///」

P「半分ですか」

小鳥「半分です!」


だって、一番聞きたい言葉はまだ言ってもらってないですから。

あなたから言ってくれないと、私の気持ちが伝えられません。

P「困ったな」

小鳥「え?」

P「これは……今日の最後に言おうと思ってることなんで」

小鳥「最後に?」

P「ええ、最後に」

小鳥「それって、その……?」

P「たぶん、小鳥さんが許してくれるもう半分で間違ってないですよ」

小鳥「あ……」

P「……」

小鳥「そう、ですか……///」


今、音無さんじゃなくて小鳥さんって……。

もう、ほんとずるい人ですね///


そんなずるい人は信用できませんけど、仕方ないから今回だけは信じてあげます!

今回だけ特別ですよ!


信じて待ってて……いいんですよね?


小鳥「そういうことなら……半分は保留ってことでデートしてあげます」

P「光栄です」

P「それじゃ、手を繋いでいいですか?」

小鳥「はい、よろしくお願いします♪」



おわり

http://i.imgur.com/LZuVfBC.jpg

セルフ支援絵です
デート仕様の私服にしたかったけど、そのへんのセンスが絶望的なので諦めました

誰か、可愛い私服のピヨちゃんを……


最後にちょっとおまけ

おまけ


春香「うわっ…私の個性、無さすぎ…?」

http://i.imgur.com/qrAZeqH.jpg

千早「……」

春香「ねえ、千早ちゃんは?」

千早「え? ちょっ……」

春香「え~と……」

http://i.imgur.com/g4fRcNo.jpg

千早「……」

春香「……」

千早「くっ……!」

春香「こ、個性は大切だよね!」

千早「これならまだ無個性のほうがマシだわ」

春香「……」

千早「……」

春香「言っていいことと悪いことがあるんじゃないかな?」

千早「春香に言われたくないわ」

春香「千早ちゃん、必要なことは言わないのに余計なことは言うよね?」

千早「わかりやすい余計な一言をありがとう、春香」

春香「……」

千早「……」

春香「あ~……なんか納得いかないなぁ」

千早「同感だわ」

春香「今からゆっくり話し合おうか?」

千早「そうね。どちらが正しいか、はっきりさせておいたほうがいいわね」

春香「一緒にお菓子でも作りながらね♪」

千早「ふふっ、しかたないわね」



おわり

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