ジョジョととあるのクロスです。
何番煎じかは知りません。
独自解釈、亀更新。
世界観やキャラ設定などに度々矛盾が生じると思いますが、ご勘弁を。
ジョジョ、とあるの純粋なファンは、そっ閉じを……。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1395300448
怖い、怖いよ。
部屋の中で、あたしは一人、膝を抱えて座っていた。身体が震える。嗚咽が溢れる。
部屋の電気は消してある。視界を少しでも暗くさせるために。
なんでこんなことになったんだろう。これは、なにものねだりをした、あたしへの罰なんだろうか。
ヴー、ヴー。
携帯のバイブが、ずっとなりっぱなしだ。見なくても分かる。あたしの一番の親友が、何度も何度も、寝る間も惜しんで掛けて来てくれているんだろう。
でも、駄目だよ。
あたしに構わない方がいいよ。
あんたまで取り憑かれちゃうよ。
ここって、科学の街じゃなかったの?
どうして、こんなものが見えるのだろう。
佐天「助けてよ……誰か」
――【一週間前】。
佐天「もう夏休みだってのに、初春は今日も仕事大変だねえ」
初春「休みに入ったからって羽目を外すおバカさんが多いんですよ。おかげで連日かり出されます」
佐天「あ~あ、折角初春と一緒に行けると思ったのに、一人じゃつまんないよ」
初春「すいません、こればかっかりは……」
佐天「あ、違うよ、別に初春を責めている訳じゃないって」
初春「ふふ、分かってます。私の分も、楽しんで来て下さいね」
佐天「ん~、でも楽しむって言っても、そうそう楽しむ場所も無い所なんだけどね……」
――そう、これは【一週間前】の出来事。
このあたし、佐天涙子が出会う、奇妙な冒険の【序章】(プロローグ)ッ!
◆ ◆ ◆
あたしが訪れたこの町、『杜王町』はM県S市、紅葉区にある、特に変わった部分は無い、『普通』の町だ。けれどいくつか有名と言えば有名な場所もあり、観光地として、マイナーな人気を誇っているらしい。
年間に訪れる旅行者は、20~30万人。そのうちの一人にこのあたしも入ることになった。
今時の女子中学生であるあたしが、この、一見派手でも何でも無い、『町』へ訪れたのには、勿論『理由』がある。
それは、いつものように、ネサフして、見つけた『噂話』の一つ。
――杜王町では、『奇妙な』事件が相次いでいる。その記事何となく気になって、あたしは調べてみた。
驚いた、確かに『奇妙』としか言えない事件が度々起こっている。全国平均より五倍の行方不明者。目や耳の内部が破壊されて死亡する変死事件。
けれど、あたしが何より心を奪われたのは、それらの『現実的』な記事よりも、もっとゴシップめいたもの。
曰くそれは、『どんな傷でも治す男』だったり、『物体を重くさせることが出来る少年』だったり、『時を止める男』だったりした。
佐天「『時を止める能力』、かあ……」
勿論完全に信じたわけじゃあ決してない。けれど、学園都市に見放された、レベル0のあたしには、とても、とても魅力的な話だった。
なんせここは『学園都市』じゃない。もし、もしも、もしもこの人たちが実際に『居るの』であれば――、あたしも、不思議な力を持つことが出来るんじゃあないだろうか。
そんな、あたしの幻想が、自然と夏休みの旅行先を『ここ』にしていた。
お洒落な外観の住宅街に、聴こえる列車の音。うーん、まるで外国に来たみたい。
空も青いし、今日はいいことがありそうだ。
佐天「杜王町か……結構いい所かもね。うん、プチ旅行には丁度いいかも」
そう一人呟いてあたしは地図を広げた(駅前の売店で買ったものだ)。
佐天「あれ、でもどうしよっかな。よくよく考えるとあたし地図なんてあんま見ないし……。というかここが現在地で、あれ、どっち向きに歩けば……きゃっ!」
「わっ!」
どしん、と誰かにぶつかる。ああ、地図が飛んでっちゃった。
「ご、ごめん、余所見してた……」
佐天「い、いえ、あたしの方こそ地図見ながら歩いていたから……」
前言撤回、今日はなんかツイてないかも。
あたしに手を差し伸べてくれたのは、まだ中学生かなあー? と思うような、幼さが見られる少年だった。ってあたしも同じ中学生だけどさ。
「ごめんよ、大丈夫かい?」
佐天「う、うん、大丈夫。ああ、でも地図飛んでっちゃったかあ……」
「はい、これ」
佐天「えっ、嘘! これあたしの地図?」
信じられない、だって空高くに舞い上がったように見えたのに。
「すぐに落ちて来たんだよ、君、観光客かい?」
あたしがこの町に来て、最初に出会ったこの町の住人は(駅の売店員は数えない)、名を『広瀬康一』と言って、この町のぶどうヶ丘高校に通う高校一年生(なんとビックリ年上だったのだ!)だそうだ。
町を観光するならと、親切に道案内をしてくれ、数カ所の観光地を巡った後に、二人でカフェで休憩していた。
佐天「いやー康一さんに会えてよかったですよ! なんせ一人旅なんて初めてだから……」
康一「そんな、でも中学生で一人旅なんて凄いねぇー。でも、なんだってここに? 観光地なら他にもいっぱりあったと思うけど」
佐天「あ、そうだ、まだあたしがどこから来てたか言ってなかったですね。あたし、『学園都市』から来たんです」
康一「学園都市!? 凄いや、あの未来都市から来たのかい?」
佐天「あっ、やっぱり外でも有名ですよね」
康一「じゃ、じゃあ君も『能力』を――」
4部と5部の間?
そう康一さんが言いかけて、途中で言葉を切ったのは、あたしの『表情』がとても分かり易かったからのだろう。
あたしは俯いて口をつぐんだ。
康一「そっ、そっか、確か『誰にでもなれる』んじゃないんだよね、ご、ごめん」
佐天「いえ、いいんです、これも才能なんですから」
才能、才能。あたしはこの言葉が嫌いだ。けれど、多分この言葉を誰よりも使っている。きっと、他の誰よりも。そして、それを逃げの言い訳にして。
ああ駄目だなあ、負のスイッチ入っちゃってるよ。いかんいかん、あたしゃここに『希望』を見つけに来たんだから!
佐天「ま、まあそれはそれとしてですね!」
康一「う、う、うん」
佐天「あたしがここに来たのは――」
>>11
そうです、そのくらい、どっちかと言うと、4部が終わってすぐぐらいと考えて下さい。
「おお~い、康一じゃあねえ~かぁ!」
「お前も相変わらず学生服なんだなぁ~」
佐天「イッ! 不良!?」
康一「あ、億泰くん、仗助くん!」
佐天「あ、知り合いですか?」
康一「うん、ぼくの友達だよ」
そう言って紹介されたのは、康一さんと同じ高校に通っているらしい、『東方仗助』、そして『虹村億泰』と言う二人だった。
しかしまた古風な不良だなあ……。学園都市にも不良は大勢居るけど、こんなの見たの初めてだよ。
特に仗助さん、すごい頭してるな、似合ってるけど。
億泰「ところでよぉ~康一。オメー由花子が居るってぇ~のに、こんな所で女の子と二人でお茶してていいのかよぉ」
康一「ばっ、馬鹿なこと言わないでくれよ億泰くん! 僕は彼女に観光名所を案内してただけさ!」
仗助「わーってるよ康一。お前が浮気なんてするような男じゃねえーってのはよく分かってるさ。けど由花子の奴にみられたら、危ないのはそっちの子だぜ」
康一「う、た、確かに……」
佐天「あ、康一さん彼女持ちだったんですね。ちょっとショック……かな?」
康一「えっ、そ、そんなっ! ご、ごめん、でも僕には好きな人が居るからごめんっ!」
ありゃま、冗談で言ったのに。真面目な人なんだなあ。
億泰「康一~! なんで毎回毎回オメーばっかモテるんだよぉ~ッ! しかもこんな美少女によぉ~!」
仗助「泣くこたねえだろ、億泰」
佐天「あはは、面白い人たちですねー」
仗助「改めて、俺は仗助、よろしくな」
億泰「俺は億泰だぜ」
佐天「はい、あたしは佐天涙子です、よろしくお願いします!」
旅先で出会ったこの三人。見知らぬ地で出来た、友人たち。けれど、この『三人』と出会うことで、あたしの『運命』が大きく変わることは、まったく……予想していなかった。
そして、その根幹を大きく担う存在、
「ン、仗助たちか、賑やかだな」
仗助「あ、承太郎さんっ!」
承太郎「久しぶりだな」
後に知る、『時を止める男』、空条承太郎との出会いも、ここから始まった。
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< To Be Continued... |
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今回はここまでです、
上の「To Be Continued」は別のジョジョSSからお借りしました。
期待してくれる方、ありがとうございます。
火曜日まで更新が出来るか分からないので、とりあえずまた少し投稿します。
あやめ、と言うのは多分あやめ速報のことかもしれないです。そこに佐天さんSSがたくさんまとめてあったので…。
ちなみに>>1はこのSSが二作目の超初心者なので、他の佐天さんSS、およびジョジョクロスは別作者様です。
佐天さんで思いついてしまったので、佐天さんSSを書いてみようと思いました。
注意書きしてなくてすみません。
次レスより更新再開します。
億泰「承太郎さん、久しぶりっスねえ~っ……てほどでもないっスかね? どうしてまたここに?」
億泰さんが『承太郎さん』と読んだその男性は、190以上はありそうな身の丈で、おまけにプロレスラーみたいにがっちりした体格だっていうのが、厚手のコートの上からも分かった。
けれど不思議と怖いと言う感じではなく、なんと言うか……『荘厳』、と言う言葉が真っ先に浮かぶような、まるで山みたいな、静かな強さと知性を感じさせた。
佐天(でも今夏なのになんでこんなコート着てるんだろ……)
承太郎「ン、いや、ちょっと『調べ物』でな……。ところで、その子は何だ?」
佐天「あ、あたし佐天涙子と言って、今日この杜王町の観光に来た女子中学生です!」
承太郎「……悪いが、ここに何があるか見えるか?」
そう承太郎さんは空中――自分の背を指差した。別に変わったところは無いけど……。
佐天「え、えと、景色が見えます」
承太郎「そうか、なら」
康一「じょ、承太郎さんッ!?」
佐天「…………」
承太郎「…………」
佐天「あの、何か変なこと言いましたか?」
承太郎「いや……すまない、気のせいだった」
佐天「はあ……」
そう言えば、何か一瞬『風』みたいなものを感じたけど、何かしたのかな?
首を傾げているあたしに、承太郎さんは静かに言った。
承太郎「今日来たばっかりですまないが、早い所荷物を纏めて帰った方がいい。危ない目に遭いたくなければな……」
佐天「ええっ!?」
突然言われて、あたしは思わず大声を出してしまった。他のお客さんの視線が突き刺さって、声を潜める。
佐天「え、えと、どうしてでしょう?」
承太郎「この町は『行方不明者』が多いことや、『変死事件』があることは知っているか?」
佐天「は、はい。でも近年ではその件数も少なくなって来ているんですよね?」
承太郎「『少なく』なっていることは『ゼロ』じゃない。明日、変死体にとして新聞に載るのは君かもしれないんだ」
佐天「……ッ! こ、康一さ――」
拳寸止めかな?
康一さんを呼ぼうとして、あたしは絶句した。何故なら、この場に居た、三人が、酷く、酷く、『真剣な表情』をしていたからだ!
その三人の顔に、あたしも知らず冷や汗が流れていた。
佐天(何!? 何なの!? まるで、この人たちが、その事件について『何か知ってる』みたいじゃない!」
康一「る、涙子さん! 承太郎さんの言う通りだ。早く帰った方がいいよ」
仗助「そうだなぁ~、この町結構やばい奴が多いからよぉ~」
佐天「…………!」
正直、あたしも『ヤバい』と思った。この三人から感じ取ったのは、本物のヤバさだ。
学園都市で、あたしは何度も『ヤバい』目に遭って来た。その度にした『イヤな予感』ってやつが、今回もしたからだ。
いつもなら、ヤバい予感がしても、あたしは進んで来た。でも、それはあたしがどんなことになっても助けてくれた人たちが居たから。
けど、ここには、御坂さんも、白井さんも――初春も居ない。
佐天「……分かりました、名残惜しいですけど、ここは『大人』の言うことを聞きます」
康一「ご、ごめんよ、折角観光に来たばっかりだって言うのに」
佐天「そんな、康一さん達のせいじゃないですよ。でも、折角友達になれたので、よければまた連絡下さいね」
そう言ってあたしは自分の携帯番号を記したメモを渡した。
康一「う、うん、平和になったらまた連絡するよ!」
――『平和に』。それって、今はこの町、やっぱり平和じゃないってことだよね。
キャリーバッグを引き摺りながら、溜息。あたしは駅を目指した。
仗助「承太郎さん、『また』なんすか?」
承太郎「ああ……とんでもねえ『事件』だぜ」
◆ ◆ ◆
佐天「はあ~ぁ。折角友達も出来たと思ったのに、もう帰宅かぁ~。ま、死んだら元も子もないし、宿とか予約してなかっただけましかなあ」
佐天(でもこのまま帰るのもなんだし、少し町並みでも撮影しようかな)
そう思いハンドバックからデジカメを取り出す。青い空に、綺麗な町並み。
こんなにも美しい場所なのに、何か得体の知れない『恐怖』があり、それを生み出している『犯人』がいる。
……もし、もしもあたしに、御坂さんや白井さんみたいな『能力』があれば、その『犯人』と戦うことも出来るのに。
佐天「力が、欲しいな……」
呟き、シャッターを切ろうとした時、
ドンッ!
佐天「……え?」
突然に感じた衝撃。ぐらつく視界。数秒後に、痛みが背に走る。こぽっ、と口から吹き上げるものを感じた。
――血、だ……。
佐天「……嘘」
がしゃん、と音がしたのは、デジカメを落としたからだ。身体に力が入らず、膝から崩れる。背中に伝う温い液体。
嘘だよね、何か、刺さってる気がするんだけど。
ジャリ、と言う音が聴こえる。嘘、何? 『誰か』近づいてくる! けど、これは、あたしを助けるために近づいているんじゃあないッ!
『誰』だか分からない! けど、こいつはあたしを殺そうとしている! あたしに、止めを刺そうとしているッ!
逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ!
動いて、あたしの足! 動け! 動けェ―――――ッ!
佐天「がはぁっ!」
鋭くて、鈍い痛みと友に、血飛沫があたしの顔に飛んだ。『背中に刺さった何か』が、抜かれたのだと分かった。
佐天「あ……う……」
「血が出たか……。フン、外れだな。お前に『才能』は無かったと言うことか」
朧げな意識の中で、そんな声を聞いた。――『才能』。ああ、酷いよ神様。こんな所でも、『才能』だなんて。
そして、あたしの意識は闇に落ちた。
佐天「あれ、ここは……」
目が覚めたとき、見えたのは白い天井。薬品の独特な匂いがして、病院と言うことに気付いた。外の病院とは違った、近未来的なーー『学園都市』!?
「ふぎゃっ!」
勢い良く身体を起こしたとき、何かがずり落ちて、悲鳴が聞こえた。目を向けると、そこに居たのは……。
初春「さ、佐天しゃん……」
佐天「う、初春?」
初春「目が覚めたんですね! よ、よかったですよぉ~」
佐天「え、えと、どうしてあたしここに?」
初春「もうもう、どうして佐天さんはそうトラブルに巻き込まれ易いんですか!? その度寿命を縮める私の身にもなって下さいよぉ~」
泣いてる初春を見て、胸が痛くなって、温かくなった。
こんなに、あたしのこと心配してくれる親友が居るのに、あたしはまた同じ間違いをしようとしてたのかな。
でも……あたしは……。
冥土帰し「おや、目覚めたみたいだね?」
佐天(あ、リアルゲコ太先生)
冥土帰し「ちょうどよかった、話がしたい。悪いけど、席を外してくれるね?」
佐天「あ、はい……」
なんだろう、どこか先生の目が、いつもののんびりしたものじゃない気がする。得体のしれない不安が、あたしを包んでいた。
冥土帰し「さて、君にいくつが聞きたいことがある」
佐天「えと……その前に、現状を把握したいんですけど」
冥土帰し「そうだったね。まず、外に出ていた君が学園都市に戻って来た訳だが、匿名の電話があった」
佐天「匿名の電話……?」
冥土帰し「うん、君の親友にね。理由は、履歴に多く残っていたからだろう。彼女のもとに、君が倒れているからと電話があったんだ。それで、いくつかの病院を経由して、学園都市まで運んでもらったんだね」
佐天「そ、そうか、だから痛みも何も……。ありがとうございます、先生! 先生って本当に凄いですね!」
冥土帰し「僕は何もしていないね?」
佐天「え?」
冥土帰し「そう、僕が言いたいのはそこだ。運ばれて来た君の衣服……特に背の部分には、多量の出血跡があった。けれど、君自体には怪我どころか、かすり傷一つ無い、全くの健康体だったんだ」
佐天「そ、そんな、でも……あたしは……」
冥土帰し「念の為、衣類に染み込んでいた血を調べてみたけど、間違いなく『君のもの』だ。となると、君はなんらかの原因で怪我を負い、出血した。しかしその傷は無い。実に『奇妙』なことだと思うね?」
佐天「…………」
冥土帰し「よかったら、何があったか聞かせてくれるね?」
――まあ、話したくなったらいつでも聞くよ。とりあえず君自体に異常はないようだ。退院は認めるよ。
佐天「……結局、先生には黙って来ちゃったけど、よかったのかな……」
初春「佐天さん? どうしたんですかー?」
佐天「ふぇっ? ううん、なんでもないよ?」
あたしが話さなかった訳。それは、あたしの中に、まだ醜い願望があるからかもしれない。
あたしは確かに『誰か』に『何か』で貫かれた。あの痛みはようく覚えている。けど、傷はなかった。それが意味すること。
ネサフをしていた時にあった記事。
『どんな怪我でも治す男』。
その男がいる可能性が、グンと高くなったからだ。
佐天「あれ、そう言えば、デジカメどこにやったんだろ?」
初春「一緒に届けられた荷物には無かったですよ?」
佐天「ええ~、あれ結構したのになあ。これじゃああたしの『初春下着メモリー』が埋まらないよ~」
初春「佐天さん、ちょっと話し合いましょうか二人きりで」
――【杜王町】
億泰「承太郎さん、ま、まさか『コイツ』はッ!」
承太郎「ああ、『間違いない』……」
仗助「グレートですよ……。きっちり『涙子のカメラ』が写してやがった」
承太郎「またお前と戦かうことになろうとはな……。やれやれだぜ」
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< To Be Continued... |
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今回はここまでです。読んでくれている方、ありがとうございます。
>>32
そうです、寸止めです。
乙
仗助の能力なら服についた血液ごと「全部治り」そうだが、
仗助がやったんじゃなくて、スタンド使いになれたから自然治癒したってことでおk?
対吉良最終戦みたいに「血が完全に固まっていた」んじゃあないのか?
To Be Continued のAAってどこから持ってきたの?
読んでくれている方、ありがとうございます。とても嬉しいです。
>>48
>>49
その理由については、後述します。
理由と言う程のことでもないかもしれませんが…。
>>50
To Be Continued のAAは、
一方通行「ジョジョの奇妙な冒険?」
一方通行「ジョジョの奇妙な冒険?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370353185/)
と言うSSからお借りしました。
AAをお借りした以上、リンク先を貼付けておくべきでした。申し訳ありません。
少し時間が出来たので、更新させて頂きます。
AAなんてどこにでも出回ってるものなんだから借用書書くようなもんじゃないと思うが
注意書きですが、これから話はおもに佐天さん視点と康一くん視点の二つでやっていこうと思います。
少しややこしくなるかもしれませんが、よろしくお願いします。
>>57
そうでしたか、ありがとうございます。
次レスより更新再開します。
億泰「コイツが、涙子を襲ったって言うことですよねぇ~。ったく何の関係もねえ女の子を襲うってぇ、やっぱ狂ってやがるぜぇ~!」
そう億泰くんが、涙子さんのカメラが写した『写真』を見ながら吐き捨てた。それについてはぼくも同じ気持ちだ。
なんの関係もない、しかもかよわい女の子を襲うなんて、ぼくも許せない。けれども、同時に強い『不安』ってやつがぼくを襲っていたんだ。
承太郎「一瞬見ただけの傷口は刃物が突き刺さったような『穴』だったが……まさか……な」
康一「る、涙子さん大丈夫かなぁ~?」
仗助「俺が『クレイジー・D』で治しといたからなぁ~、大丈夫だろ」
康一「そ、そうなんだけどさ。凄く怖い想いをしたわけだし……」
違う、ぼくが感じているのはそんな話じゃあない。勿論彼女の怪我も気になるけど、ぼくが本質的に心配しているのはもっと『別』のことだ。
承太郎「なんにせよ、このままこの杜王町に近づいてくれないほうが都合がいい。そのために、わざわざ衣服に『血』を残しておいたんだからな」
仗助「そうッスよねぇ~。たしかに、目が覚めた時に綺麗さっぱり何もなければ『夢』でも見てたんじゃあないかって思うかもしんね~っすもんねえ~」
億泰「お、おい、ちょっと待てよ仗助ッ! 服がそのままなのに傷が治ってるってことは、オメーまさか『見た』んじゃあねえだろうなァ~ッ!」
仗助「『見た』? 何をだよ?」
康一「……ええっ! そうなの、仗助くんッ!?」
仗助「何言ってんだぁ、お前ら?」
億泰「だァ~かァ~らァ~よォ~! オメー涙子『裸』を『見た』のかって聞いてんだよォ~ッ!」
仗助「んなわけねぇーだろーッ! 服の穴から『クレイジー・D』の指を差し込みゃすむ話だろうがッ!」
承太郎「なんにせよ、これで彼女はこの町を怖がって、もう来ることは『無い』だろうな」
仗助「『スタンド使い』でも無い『無関係』の人間を、巻き込むわけにはいかねーっすね。これがベストですよ」
康一「…………」
なんだろう、何かぼくは『不安』を感じているッ!
心臓が、軽く手を当てただけでもはっきりと振動していることが分かるくらいにッ! けど、それは『言葉』にするにはとても難しい『不安』だ!
佐天涙子……何故か、彼女にはまた会いそうな気がする……。
億泰「でももうこの杜王町には来てくれないだろうなぁ~……グスン」
仗助「お前そんなにあの子のこときにいってたのかぁ?」
――【学園都市】
予定してた旅行もうやむやになっちゃったあたしは、とりあえずまあ学生らしく、フツーに夏休みを満喫することにした。
……表向き、は。
セブンスミストで軽く服とか見て、ゲーセン寄ってガンシューとかして、帰り道でアイス食べて……でも、全然満たされない。
佐天「何だろうなあ……この気持ち」
夕焼けにそまる学園都市を見て、なんだかセンチな気持ちになる。
ガードレールに腰掛けたあたしの前を、二人の女子生徒が通り過ぎた。
佐天(あ、あれって御坂さんとかと同じ……常盤台の制服。休みなのにホントに制服着用なんだなあ……)
あの制服は、あたしには絶対に手に出来ない勲章。レベル3が絶対原則となる、『才能』の証。
御坂さんは、レベル1から努力でレベル5になったと言っていた。
努力して、努力して、努力して――そして学園都市の、No.3を獲得した。
その話は、きっと、この学園都市の全ての『能力者』にとっては、とても、とても素晴らしい『希望』の話だろう。
けど、あたしみたいなのはどうすればいいの? この街に来るまで、ずっとずっと胸に抱いていた『希望』を――たった一回の身体検査で粉々に砕かれた、『無能力者』のあたしは。
努力をすれば、道は開けるのは、『低能力者』――レベル1から。レベル0のあたしには、『努力』と言う選択肢さえ――残っていないのに。
……なんで、なんで『才能』なんかあるんだろう。どうして、同じ人間なのに、ここまで違うのだろう。
羨ましいよ。妬ましいよ。
佐天「あ……」
気がつくと、手に持っていたアイスのコーンを握りつぶしていた。べっとりとした感触と冷たさが気持ち悪い。
佐天「何やってんだろ……あたし」
レベルアッパーのこともあってから、少しだけ、『能力』について踏ん切りがついた気がしたけど、でも、駄目だよ。
憧れは棄てられなくて……諦めきれなくて、だからあたしはネットにこもるんだなあ。
『無能力者』が、『能力者』になれる話を見つけるために。それが、あたしに出来る精一杯の『努力』。
そして、見つけたんだ。すくなくとも、手を伸ばせば届きそうな所に。それは、ある。
貫かれた痛みは今も覚えている。覚えているからこそ、それがあたしの『希望』になる。
それも『原石』みたいな『生まれつき』なのかもしれない。けれど、ほんのちょっぴりでも残っているなら、『可能性』は棄てたくない。
――佐天さん。
佐天「……ッ!」
初春の声が、頭に浮かぶ。
ごめん、ごめんね、初春。親友失格だよね。何度も何度も、寿命縮めるようなことして。
でも、追いつきたい。少しでも、ほんのちょっぴりでも、みんなと同じ目線に立ちたい。
その為なら――あたし、やっぱりなんでも――。
空を見上げて、ふっと笑う。
佐天「……なーんてね」
そして大きく伸びをした。ああ、気持ちいい。
佐天「もう怖いことはこりごりよ、命あっての物種だしね。てきとーに楽しんで、てきとーに生きる。それがあたしのモットー……あれ?」
視界が、急に回る。ああ、ガードレールから滑ったんだ。ドジだなあ、あたし。
……あれ、ちょっと待ってよ。車、来てない?
嘘だよね? このまま車にぶつかってとか――そんな、そんな下らないオチはないよね?
ここで終わりとか……嘘、だよね。
クラクションの音、人々の悲鳴。あたしが道路に落ちるまでのその時間。全てがスローに感じられる。そして、
――轟音。
「きゃあああああああ!」
「お、おい、事故だ事故――?」
「え……これって」
佐天「た、たた……あれ、あたし、生きてる?」
前を見ると、ぐしゃりとへこんだ車のボンネットが見えた。運転手の人も、何が起こったか分からない様子で口を開けている。
すぐに辺を見回した。――誰も、居ない。
「君、能力者だったのかい?」
そう声をかけられて、我に返る。
佐天「い、いえ、あたし、ただのレベル0で……」
誰か、あたしを助けてくれたのだろうか。じゃなきゃ、こんな『あり得ない』こと、起こる筈がない。
「そっ、そっか。誰か、高位能力者が近くに居たのかもね。ラッキーだったね」
佐天「そう、ですよね。……はは、ははははは。ははははははは……」
その後、どうやってかは分からないけど、あたしは自分の部屋に戻っていた。
あの車、あの後どうなったんだろう。間接的にとは言え、悪いことしたなあ。
部屋の電気を付けると同時に、ケータイのバイブが鳴る。
佐天「……もしもし」
初春『あっ、佐天さんですか? さっき第六学区で事故があって、佐天さんにそっくりな人が巻き込まれたって聞いたので……』
佐天「……大丈夫だよ、あたしは何ともない。ぜーんぜん平気だって」
初春『そ、そうですか。でも佐天さん、夏休みに入ってから、学生の補導件数も増えてますから、佐天もお世話にならないようにして下さいね!」
佐天「分かってるよ、今日もこれから御飯作って、シャワー浴びて寝るつもりだから……」
初春『……ならいいんですけど」
佐天「……どうしたの、初春?」
初春『あ、明日って空いてますか?』
佐天「うん、あたしはいっつも暇だよ?」
初春『じゃあ明日、久しぶりに四人で遊びませんか? 明日なら夕方まで私も白井さんも、風紀委員で非番を貰えるそうなので。それにパトロールの名目も立てられますし』
佐天「そっか……。じゃあ、そうしよっか」
初春『はい、じゃあまた明日』
佐天「うん、また明日」
通話を切ると、部屋がとても静かになる。初春は今もまだ、風紀委員のデスクで頑張っているんだろうな。それに比べてあたしは……。
……って駄目だって!
「あー、もう! なんでこんなことばっか考えちゃうかなあ! もー今日は寝よう! シャワー浴びて、寝て! 早起きして化粧して……初春に女子力の違いってもんを見せつけてあげますかっ!」
鼻歌を奏でながら、頭を洗う。
うん、黒い気持ちが流れて行くみたい。そうだよ、やっぱ辛い時は、こうしてお風呂に入るのが一番!
汚れと一緒に、悪いものは全部流さなくっちゃあね。
佐天「あ、あれ、ノズル、ノズル……届かないな」
でも目を開けるのも嫌だし……。
佐天「くっ……あとちょっ……あ、ありがとう」
同時に、熱いシャワーが降り注ぐ。
佐天「ふわー、やっぱこれだねー」
泡を洗い流して数秒、そして気付く。
佐天「……え?」
あたしは今、『何て言った』?
あたし、今、『ありがとう』って言わなかったか? ……違うッ! それだけじゃないッ! あたしは、シャワーのレバーを『引いて無い』ッ!
なのにお湯が出てくることは、太陽が西から昇らないのと同じように『おかしい』ことだったんだッ!
佐天「だ、誰!? 誰か居るの?」
あたしは今『ありがとう』って言った! それは、『誰か』にモノを手渡してもらう、あの『独特』な感じがあったからだ!
バスルームは狭い。人なんて居たら、すぐに気付く。そんなこと『あり得ない』。けれど、現実に今ッ! その『あり得ない』ことが起きている!
佐天「…………!」
しかし、構えてみても、なにも起こらない。部屋はぱちゃぱちゃと水が落ちる音が響いてるだけだ。
佐天「……マジで疲れてんのかな、あたし」
溜息をついて、椅子に座る。そして、正面の鏡を見た時――、
佐天「キャアアアアアアアアッ!」
そこに、『幽霊』を見た。
/└────────┬┐
< To Be Continued... |
\┌────────┴┘
今回はここまでです。
次回更新はまだいつになるか分かりませんが、のんびり待っていてくれると嬉しいです。
いいなこのスタンドが発現している事を自覚していくまでの流れ
乙
こういう得体の知れない雰囲気はジョジョの醍醐味の一つだよな。確かに何かが起きてる様なのに正体が掴めない
スタンドをよく知ってる人間でも「何かおかしいぞ、もしかして既に攻撃されてるのか」なんて事になり得る
とても良い出来っぷり
乙
乙
いくつか事件があって
やっと気づけるくらいじゃないとな
その点いいと思うわ
期待してる
>>75
>>76
>>77
>>78
ありがとうございます。励みになります。
今回も佐天さんサイドからです。
ジョジョサイドの場面を期待している方が居たらごめんなさい。この話は基本的にとある…と言うか、佐天さん寄りを予定しています。
遅くなりましたが、少し出来たので、次レスより更新します。
佐天「ハァーッ、ハァーッ……!」
息が切れる。心臓が痛いくらい鼓動している。
鏡の中に、映っている! 『何か』ッ! 『得体の知れないモノ』が、映っている!
佐天「や、やだ……なに……? なんなの……」
あたしの後ろにッ! 『何か』が居る! 『湯気』で曇っていてよく分からないけど、確実に『何か』が映っているッ!
佐天「う、嘘だよね。だ、だってここ、『科学』の街だよ? ゆ、『幽霊』なんてそんな――」
ガタンッ! と音がして、心臓が爆発しそうになる(その音はただタライが落ちただけってことだったけど)。
佐天「――あああああああっ!」
バスルームを飛び出して、裸のまま布団に潜る。
びしょ濡れだったけど、『身体を拭く』とか、『このままじゃ布団がぐっしょり濡れちゃうな』とか、そんなことはこれっぽっちも考えられなかった。
ただ、怖くて、恐ろしくて。あたしは布団の中に隠れて自分の身体をぎゅうと抱きしめた。
佐天「違う、違うよ。あれは、幻覚。疲れているだけだよ……。そんなもの、ある筈がないんだから……」
眠って、早く。眠って、何もかも考えられなくして欲しいッ! 早く、早く朝が来てッ!
何回同じことを繰り返し言っていたのだろう。気がつくと、『朝』になっていた。夏だからか、布団の中もさほど湿ってなくて、身体もすっかり乾いていた。
佐天「……なんだったんだろう」
もうどこから『夢』で、どこから『現実』なのかも分からない。そんなに【杜王町】でのことがショックだったのかな。
ホントに最近のあたし、おかしいよ。
佐天「へくちっ!」
夏でも、流石に濡れた身体で、しかも裸で一晩過ごしたのはまずかったみたいだ。
あー、もう、『マスク付けるなんて女捨ててる』なんて初春に言っちゃったけど、これじゃあたしもその二の舞になっちゃうよ。
おそるおそる、背を振り返る。そこには見慣れた部屋の壁が見えるだけだった。
佐天「……居るわけないよね、『幽霊』なんて。……ま、御坂さんたちに話す『ネタ』が出来たと思えばいっか。風邪引かないように、早く着よっと」
佐天「うーいーはるっ、おはよー!」
初春「あ、佐天さん、お早うございます」
佐天「しかし毎回毎回集合場所がセブンスミストって味が無いねえ」
初春「まあまあ、私も久しぶりの非番ですし、一杯遊びましょうね! セブンスミストで服買って、ゲームセンター行って、帰りにはやっぱりアイスですよね!」
佐天(その全部を昨日実行したとはとても言えない……)
佐天「ん、まあ珍しく初春の方から誘ってくれたんだし、今日はとことん遊ぼっか!」
初春「はい!」
佐天「でも御坂さんたちはまだ来てないんだね」
初春「はい……」
黒子「おね~さま、ちょっと待って下さいまし~」
御坂「もっと早く走りなさい! アンタのせいで遅れたんだから!」
佐天「お、噂をすれば……」
御坂「あーやっぱりもう来てた! ごめんね、佐天さん、初春さん!」
黒子「お、お待たせしましたの」
佐天「いえいえ、あたしも今来た所ですし」
初春「テレポート出来るんだから、息切れするほど走らなくてもいいんじゃないですか?」
黒子「そ、それが演算が困難になるほどお姉様に熱い愛を頂いてしまって……」
御坂「誤解生むようなこと言うんじゃないそこぉッ!」
佐天「あー、まあ何となく分かりますよ」
初春「白井さんも相変わらずですねー」
御坂「これからどうする? せっかくセブンスミストの前に集まったんだし、先に服とか見よっか?」
初春「そうですね、まだお昼までには時間ありますし」
黒子「決まりですの、ではこの黒子が、お姉様のために淑女たる衣服を選んで差し上げますわ」
御坂「うん、それはいいや」
服をみんなで選んで、(御坂さんだけは何故か若干挙動不審になってたけど)、お昼を少し過ぎたくらいに、あたしたちはいつものようにファミレスで適当におしゃべりをしていた。
佐天「それでですねー旅行先でいきなり友達が沢山出来ちゃったんですよ~」
御坂「凄いわねー、どんな人たちだったの?」
佐天「みんなちょっと不良っぽい感じなんですけど、いい人たちなんですよ。御坂さんとも気が合うかもしれませんね」
御坂「え、それってあたしが不良っぽいってこと……?」
黒子「まあお姉様はたしかに品行方正とは言い難いですの。この前も不良の群れに電撃を……」
御坂「あーっもう! その話はいいでしょー!」
佐天「あはは、御坂さんも相変わらずなんですねー」
ああ、楽しい。そうだよ、あれはやっぱり全部幻覚だ。休みに入って、友達と中々会えないから、きっと少しナーバスになってただけ。
こうやって、みんなと一緒に喋ってるだけで、黒いもの、みんな流れて行く気がする。
初春「あ、ちょっとドリンク取りに行ってきますね。希望があれば取ってきますけど」
佐天「あ、じゃああたしウーロン茶!」
御坂「えと、じゃあ私はアイスコーヒーお願いしていい?」
黒子「初春一人では持ちきれませんわね、わたくしも手伝いますわ」
黒子「あなたは本当に、友人思いですわね」
初春「何のことですか?」
黒子「今日わたくしたちを集めたのも、彼女のためなのでしょう?」
初春「…………」
黒子「あなたが佐天さんの異常を分かるように、わたくしもあなたが何を考えているかなんてまるっとお分かりですのよ? これでも長い付き合いですわ」
初春「……佐天さんは、本当に強い人なんです。自分の弱い所を、限界まで見せようとしないんです。だから、レベルアッパーの時も……」
黒子「過ぎたことを気に病むのはおやめなさいな。それに、もう随分調子を取り戻したように見えますわよ?」
初春「ええ、でも……」
黒子「何か気になることでもありまして?」
初春「ええ、何か、佐天さん、隠してることがあるみたいな……」
黒子「……人間ですもの、隠し事の一つや二つありますわ。大事なのは、常に信じることですわよ? さすれば近いうちに話してくれると思いますわ」
初春「……そうですね。白井さんなんかは、御坂さんに言えないことは軽く三桁くらいありそうですもんね!」
黒子「なるほど……初春は頭上に当分たっぷりマンゴージュースが欲しいと」
初春「ごめんなさい勘弁して下さい」
黒子「まあ冗談はほどほどに、戻りましょうか」
初春「ええ、ありがとうございます、白井さん」
初春(……そうですね、私は、何があっても佐天さんを信じますよ)
「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」
佐天「どもー」
ファミレスを出て、あたしたちはとりあえず、ゲームセンターに向かうことにした。
初春「そう言えば、佐天さんも中々やりますよねー。杜王町であった人たち、男の人だったんですよね?」
佐天「お、気になるかい、初春ー?」
御坂「え、女の人じゃないの? わ、私てっきり女の人だと……。え、見知らぬ地で、年上の男の人と? ……凄い」
黒子「お姉様、何を赤くなっているのですか……」
ああ、顔赤くなっちゃってる御坂さん可愛いなあ。こんなときだけは、やっぱり超能力者でも『同じ』なんだって思うことは出来る。
佐天「名前が、康一さん、仗助さん、億泰さん、あと……社会人だと思うんですけど、承太郎さんって言う男性です」
御坂「よ、四人でッ!? い、今時の中学生って……」
黒子「お姉様、何を考えているのですか!?」
御坂「……ってあれ? 承太郎?」
佐天「御坂さん知ってるんですか?」
御坂「もしかしてその人の名字って空条?」
佐天「あ、はい、確か……」
あーうん、確かに空条承太郎って言ってた気がするな。
御坂「へぇー、偶然だけど、ちょっと前にその人の論文読んだのよ。海洋生物とかの調査で有名な人よ」
初春「流石御坂さん……。とても中学生の口から出るとは思えないワードですね……」
へえ、結構凄い人だったんだなあ。言われてみれば、『研究者』みたいな落ち着きがあったかも。ふふっ、話のネタがまた一つ増えたかな。
御坂「それでそれで? どーゆう話したの? やっ、やっぱり旅先のテンションで……とか」
佐天「御坂さん凄い食いつきますね」
御坂「だっ、だってこーゆー話めったに出来ないし……」
佐天「いや、それがですね。あんまりゆっくり話が出来なかったんですよ。その、康一さんとは結構お話出来たんですけど、仗助さんや億泰さん、それに、特に承太郎さんとは会ってすぐに別れちゃったんで」
御坂「なーんだ、そうなのかぁー」
初春「会ってすぐに? 何か急ぎの用事でもあったんですか?」
佐天「いえ、ちょっと承太郎さんにこの街は危な――」
そこで、そこであたしの口が止まった。
……おかしい。何かおかしい。
正直、旅行のテンションと、その場の空気に呑まれて、あたしは素直に従っていたけど、彼らが話していた『内容』は、何かがおかしい!
――『少ない』ってことは『ゼロ』じゃない。
――明日、変死体として新聞に載るのは君かもしれないんだ。
――この町結構ヤバい奴多いからよぉ。
――うん、平和なったらまた連絡するよ!
おかしいよ! 『平和』になったらって。まるで、『平和』に出来るみたいじゃあないか?
その『犯人』を見つけて、自分たちがこの町を『平和』に出来るみたいじゃあないのか?
変死事件、行方不明者。
どんな傷でも――物体を重く――時を止める――……能力者。
佐天「まさか……」
初春「佐天さん?」
黒子「――はい、黒子ですの!」
突然白井さんが大きな声で言って、みんなの視線が集まる。
黒子「シャッターの閉まった銀行? ええ、今セブンスミスト近くのファミレスに……」
ドォン!
黒子「……ビンゴですわ、目の前ですの」
目の前の銀行の入り口が爆発した。黒い煙の中から、数人が忙しなく動いているのが僅かに見える。
黒子「全くこの街は……(七月の強盗を思い出しますわね)。すぐに片付けて参りますわ。初春は警備員に連絡、終わりましたら怪我人の確認を!」
初春「は、はい。……あ、もしもし、警備員ですか?」
御坂「黒子、私も――」
黒子「一般人は大人しくしていて下さいまし!」
そう叫ぶと、白井さんの姿が消える。あ、もう銀行の中に……。やっぱり凄いや。
初春「皆さん! 風紀委員です! トラブルがあったみたいですが、危険なので絶対に近づかないように! 離れて下さい!」
初春もすぐに……。凄いなあ、本当に。
御坂「まあ黒子なら大丈夫かな。もう足は封じてるみたいだし」
佐天「足?」
御坂「ほら、あそこ、多分逃げ足に用意したっぽい車、タイヤがテレポートされてる」
佐天「うわ、惨い……」
御坂「多分だけどハンドルも無くなってんじゃないかなあ」
佐天「あ、もう二人も……」
あっと言う間に白井さんは二人の屈強に見える男の人を地面に磔にしていた。
その姿は自身に溢れていて、とても、とても凛々しくて格好いい。
……何でだろう。友達がこうして活躍していること、本当なら凄く、誇らしく思う所なのに。
あたしは、どうしてこんな所を見るたびに、みじめな気持ちになるんだろう。
隣で何事も無いように、『高みの見物』をしている御坂さんも。楽しげとも言える表情を持っていられるのは、『自身』の表れ。
自分があの場に行っても、すぐに『解決出来る』と確信している顔。
『無能力者』のあたしはただ狼狽えるだけ。『一般人』のあたしはただ、怯えるだけ。
もしも、あたしも力があったら、こんな状況を見ても、御坂さん見たいに笑ってられるのかな。
佐天「って馬鹿みたいだなぁ……」
どうしてあたしはこうも『もしも』って使いたがるのかな。そんなこと、絶対に起こりえないのに。
佐天「……もう白井さんが全員捕まえちゃったみたいですね。どうしますか?」
御坂「んー、事情聴取とかあったら面倒だし、黒子もつれてとっとと移動しよっか。呼んでくるね」
佐天「あ、はい……」
御坂「黒子ー、終わったならもう――」
初春「逃げて下さい!」
初春の叫び声と同時に、御坂さんの表情が変わる。煙の中に、御坂さんが雷を飛ばした。
御坂「佐天さん逃げて! 中で爆弾を持ってるやつがいる!」
佐天「ば、爆弾!?」
御坂「レーダーで分かるのよ。今その一人を痺れさせたけど……。クソッ、中に居る人が予想以上に多い……! まだ仲間が居るのかも……」
初春「ふ、二人とも大丈夫ですか!?」
初春が息を切らしながら駆け寄って来て、未だに煙りが収まらない銀行内に目を向ける。
初春「拘束出来たのは、おそらく三人です。けれどこう煙が収まらないことには確認が……」
御坂「何かこの煙、『意図的』なものを感じない?」
初春「や、やっぱりそう思いますか?」
御坂「多分こいつら、七月の銀行強盗事件知ってたのよ。空間移動者ははっきりと場所が見えてない所――ましてや人が座標上に人と重なる恐れがあると、中々能力を使えないから……」
初春「――ッ! 駄目ッ!」
初春が突然叫んで、あたしを押した。地面に尻餅をついて、頭を上げると、初春の首にナイフを突き立てている男が一人――嘘でしょ。
初春「に、逃げて下さい、二人とも……」
御坂「初春さん! ――往生際が悪いわよアンタッ!」
坂さんが男を睨みつけると同時に、鋭い電撃の一閃が男の手だけに当たった。
男の短い悲鳴と同時に、初春が倒れる。男の手からナイフが落ちて、カランと、金属音が響いた。
御坂「初春さん早く離れてッ!」
初春「は、はい――」
「クソォッ――!」
男がそう狂ったように叫んで、胸元に手をやる。まだ何か――って嘘! あれ、爆……弾?
佐天「初春!」
気がつくとあたしは走り出していた。って、馬鹿なのあたし? 今走ってどうすんのよ。この場は御坂さんや白井さんに任せていた方が安心じゃない。
でも、それでも――。
佐天「やめて!」
男の身体を突き飛ばして、尻餅をついていた初春の手を取る。
佐天「初春、早く――」
「ふざけんなこのクソガキィッ!」
あ――。
間に合わない。まただ。またスローに見える。まるで時間が止まった見たいに。
御坂さんがポケットに片手をポケットに入れている姿。睨みつける先にある、男の右腕には、手榴弾みたいなのが握られている。
駄目だ。『間に合わない』。多分、爆発の方が一瞬早い。
佐天「初春……!」
それは声に出したのか、自分でも分からないけど、あたしは初春を抱きしめて目を瞑った。せめて、初春だけでも、守れるなら。
『無能力者』のあたしでも、『盾』になることが出来るのなら――。
その時、背中に不思議な『風』を感じた。
佐天「え?」
そして、時間が動き出した。
「オボァッ!?」
御坂「これ以上、悪足掻きはよしなさいッ――!」
聞こえたのは、何故か男の悲鳴。次に御坂さんの怒声。そして、凄まじい轟音。
御坂さんが、『超電磁砲』を撃ったのだと理解出来たのは、随分してからだった。
黒子「何ですの!? この轟音は――お姉様!?」
御坂「あ、黒子。一人逃げてたわよー。……あ、気絶してる」
黒子「こ、これはわたくしとした事が……二人とも大丈夫ですの?」
全身が震えていて、中々声が出せなかった。ただ、目の前の初春があたしに微笑みかけて来たのを見て、やっと終わったんだと思うことが出来た。
佐天「よかったぁ~。ホントに怖かったよぉ~」
黒子「まあ無事で何よりですの。一歩間違えれば大惨事になっておりましたから。特に爆弾を消し飛ばしてくれたお姉様には感謝が付きませんわ」
御坂「う、うん。それはいいんだけど……」
黒子「? 何かありまして?」
御坂(一瞬、男が空中で『何か』にぶつかったような、そんな反応をして爆弾を落とした。だからその隙をついて、爆弾だけ『超電磁砲』で飛ばせんだけど……)
黒子「さ、犯人は全員拘束しましたし。後は警備員に任せましょう」
佐天「そうですね、あたしも早く移動したいですし――」
そう言って、後ろに居る二人に振り返った時、
佐天「――キャアアアアアアアアッ!」
あたしはまた――
御坂「さ、佐天さん? どうし――」
佐天「いやっ! いや! いやあああああ!」
初春「佐天さん!」
御坂さんや、白井さん、初春の声が遥か遠くに聞こえる。自分自身の声さえ、まるで自分じゃない誰かが言っているように。
佐天「う……」
掠れるような声を上げながら、あたしは目を開けた。ぼやけた視界に、御坂さん、白井さん、初春の顔が映る。
みんなが一様にほっとした表情を浮かべたのを見て、また心配かけちゃったなと、心底申し訳ない気持ちになった。
初春「佐天さん、ごめんなさい!」
佐天「……どうして初春が謝るの?」
初春「私のせいで……佐天さんにあんな思いを……」
佐天「ち、違うよ! あんなの、この街じゃ日常茶飯事じゃん! 違う、違うよ……」
初春にそんな顔だけはさせたくなかった。だから必死に違う、違うと言い続ける。けれど、あたしが本当に『違う』と言いたいのは――。
初春「佐天さん……」
御坂さんが辛そうな表情で、あたしの手を握った。
御坂「怖かった……よね。ごめんなさい、本来なら、すぐにあの場を離れるべきだったのに……。私、自分の力を過信してた……」
佐天「ち、違います! 本当に……違うんです」
みんなに心配は掛けたくない。けれど、震える。腕が、唇が、全身が震える。背後に、あたしの背中に、常に、『誰か』がいるようで。
夏の日差しの中、『それ』は確かに見えた。あたしの後ろに、それは、はっきりと。
振り向きたくない。今も、そこに『見えて』しまったら、あたしはきっと正気じゃいられなくなる。
気まずい沈黙を破ったのは、やはりあの先生の、のんびりとした声だった。
冥土帰し「やあ、君もここの常連になりつつあるね?」
佐天「先生……」
冥土帰し「うん、彼女の身体には別段異常はないね? やはり強いショックを受けているのだろう。念のために、彼女と少し話をさせてもらっていいかな?」
先生がそう言うと、御坂さんたちが無言で頷き合って、部屋を出て行った。
冥土帰し「さて……今度は話してくれるね?」
佐天「…………」
佐天「……お世話になりました」
冥土帰し「うん、ここに来ないことに超したことはないけど、それでも来たくなったらいつでも来るといい。話はいくらでも聞くよ」
佐天「……はい」
病院を出ると、外は夕焼けに染まっていた。
黒子「申し訳ありませんが、わたくしたちは風紀委員の仕事があるので……」
佐天「分かってますよ。あたしなんかに構ってないで、二人は仕事に専念して下さい! ほら、あたしは全然大丈夫ですから!」
そう、無理にでも笑顔を作る。じゃなきゃ、一番壊れてしまいそうなのはあたしだと、自分でも分かったから。
二人のすまなそうな表情を見て、本当に胸が痛くなる。これは、本当にあたし個人の問題だと言うのに。
佐天「じゃああたしたちもここで解散しましょうか」
御坂「だ、大丈夫? 家まで送るわよ」
ここで断るのも悪いので、素直に送ってもらうことにした。それに、早く一人になりたい反面、誰かと話をしていたい気持ちも強かった。
御坂「……ここで大丈夫?」
佐天「玄関まで送ってもらって、これ以上駄目な部分があるんですか? あ、それとも、朝帰りが希望ですかぁ?」
御坂「……佐天さん」
佐天「冗談ですよ。送ってくれて、ありがとうございます。常盤台の電撃姫にエスコートしてもらったなんて、クラスのみんなに自慢出来ちゃいますよ!」
御坂「……ふふっ、光栄だわ。……あんまり、無理はしないでね」
佐天「してませんよ! あたしは元気なのがとりえなんですから! じゃあ、また」
御坂「うん、またね」
ドアを閉めると、途端に静かになる。会話が無くなると、同時に空気が冷えこむ。手にはまだ、御坂さんが手を握ってくれた温かさが残っていた。
一度も、ただの一度も、あたしは背を振り返れなかった。朧げだけど、確実に、あたしの後ろに、『何か』居るようで。
怖いよ。怖いよ。一体どうしてしまったのだろう。あたしの脳が、壊れてしまったと言うの? けれど、あの先生は『異常は無い』って言った。あたしの身体のどこにも。
だからこそ怖い。もし、脳や目に、『異常』があるのであれば、怖いけれど、納得出来る。
説明が付かないから、よけいに、あたしは恐ろしい。
佐天「う……う……」
身体が震える。嗚咽が溢れる。
真っ暗な部屋の中で、ベッドの上に、うずくまる。膝を抱えて、目を伏せた。
佐天「ぐすっ……。ひぐっ……」
涙が止まらない。嗚咽を堪えることが出来ない。なんで、なんでこんなことに。
あたしはそのまま、膝を抱えて、泣き続けていた。
そして、
ヴー、ヴー。
携帯のバイブが、ずっとなりっぱなしだ。見なくても分かる。あたしの一番の親友が、何度も何度も、寝る間も惜しんで掛けて来てくれているんだろう。
でも、駄目だよ。
あたしに構わない方がいいよ。
あんたまで取り憑かれちゃうよ。
ここって、科学の街じゃなかったの?
どうして、こんなものが見えるのだろう。
佐天「助けてよ……誰か」
――『あの日』から、【一週間】目の夜を迎えた。
涙なんか枯れたと思っても、すぐにまた目の奥から滲んでくる。
携帯に表示される、御坂さんや、白井さん、そして――初春の名前を見るたびに、心の底から嬉しくて、でも、それを取ることは出来なくて。
段々と分かって来た。
これは、『罰』だ。
いつまでも、諦めのつかないあたしへの『罰』。
そして、きっとこれは、『悪霊』なんだ。
だっておかしいよ。
こんな、こんな短い間に、二つも『事件』に巻き込まれるなんて。
これは、あたしに『悪霊』が憑いているからなんだよ。あたしが『呪われている』からなんだよ。
あたしが招いてしまったことなのに。あたしが悪いからこうなったのに。
もし、もしも、初春たちが、あたしのせいで酷いことになっちゃったら……。
ヴーヴー。
携帯のバイブが鳴り続けている。表示されているのは、初春の名前。この携帯に、一番多く表示される、親友の名前。
コールが終わって、留守電に変わる。
初春『佐天さん……聞こえてますか?』
聞こえているよ。
初春『佐天さん、会ってくれませんか』
会いたいよ、凄く、会いたいよ。
初春『前に……私が、言ったこと覚えてますか?』
なんだろう、色々ありすぎて、分かんないよ。
初春『佐天さんは、たとえ、力があってもなくても、いつも、私を引っ張ってくれる私の大切な『親友』なんです。だから……』
ああ、覚えてるよ。忘れる筈が無いよ。
初春『だから、いつでも、私を頼って下さい。私は、どんな時でも、佐天さんの味方ですから』
――初春!
初春『じゃあ、また掛けますね。明日、佐天さんの家に行きます。次は、会ってくれると嬉しです』
プツッ、と言う音がして、部屋が静かになる。
佐天「初春……初春……」
ぼろぼろと、涙が次から次へと溢れてくる。
佐天「会いたいよ……! 話したいよっ……!」
どんな時でも、あたしを心配してくれる、あたしの、一番の親友。
だけど、だからこそ、この言葉に応えることは出来ない。
もしも初春が、あたしのせいで酷い目にあってしまったら……。
それは、きっと死ぬより辛いことだから。
暗い部屋の中で、あたしはケータイを握り締めた。
/└────────┬┐
< To Be Continued... |
\┌────────┴┘
今回はここまでです。
話が進むのが遅くて申し訳ないですが、『無能力者』の佐天さんが『理解』をするまでには、結構な時間を費やすことになると思うので…。
まどろっこしいかもしれませんが、長い目で見てくれると嬉しいです。
トゥービーコンティニューズレズレだが大丈夫か
>>117
Macの画面では崩れているようには見えないのですが、使っているパソコンの状態によっては崩れて見えることもあると思います。すみません。
乙ん
しかし佐天さんこの精神でよくとり殺されんで済むな
佐天さんはやるときはやる性格だから(金属バット)
乙
テンポいいしまどろっこしくはないと思う
>>120
ありがとうございます。
あんまり闘争心が弱いと、逆にスタンドに侵されると言う設定でしたが、>>121さんの言うように、佐天さんは『やる時はやる』タイプだと思うので…。
>>122
ありがとうございます。
そう言って頂けると嬉しいです。
少し出来たので、次レスより更新再会します。
今回も佐天さんサイドからです。
佐天「なんでだろうなぁ……。あたしはただ、みんなに追いつきたかっただけなのに」
頭の中でぐるぐると言葉が回り続ける。
佐天「どうして、どうしてこんなことになったんだろうなぁ……」
どうして、そう、理由が知りたいよ。いや、違うか。理由はもう分かっているもんね。これはあたしへの『罰』なんだから。
『罰』……? でも、きっかけは何?
そうだ、あたしはあの時――。
そう、銀行が爆発する、その一瞬前、思い浮かべた、可能性。
忘れていた、そして、今思い出した。
彼らは、『能力』について、何か知っているのではないか。彼らに会えば、あたしも――。
佐天「……そんなこと、もういいか」
この期に及んで、あたしはまだ『能力』に固執している。なんて浅ましいんだろう。
それに、あたしが彼らに会った時、この『悪霊』が、何をするかも分からない。まさか、出会って少ししか経っていないからって、いいだろうなんて思うつもり?
親友の初春は駄目なのに、『彼ら』なら大丈夫と言える程、あたしは自分を誤魔化せないよ。
誰も傷つけたくない。誰も困らせたくないんだよ、あたしは。
そんなこと、もう無理だって分かってるのに……。
グウゥ……とお腹の音がなって、苦笑い。
佐天「こんなになっても、お腹は減るんだね、いやしんぼ」
ふらふらとした足取りで冷蔵庫を開けると、中はものの見事にすっからかん。ああ、やっちゃったなあ。
佐天「コンビニ……行こうかな。この時間なら……人も、少ないだろうし」
少し出かけるだけなのに、誰にと言う訳でもなく、言い訳をする。卑屈だね、あたし。
学園都市の夜は危ない。この街に見放された人たちが、必死に居場所を作ろうと、たむろし、そして、騒いでいる。
自分はここに居ると――誰かに、認めて欲しくて、伝えたくて。
あたしにも分かる。時々、全部、全部投げ出したくなるほどに辛くなる時がある。
だから、あたしは彼らを、見下すようなことは絶対に出来ない。
あれは、『未来の私』の、1ピースに違いないのだから。
コンビニを出て、少し歩くと、騒ぎが聞こえた。勿論そんなこと、この街では普通のこと。ほんの少し、横目で見て、通り過ぎる筈だったけど。
「――助けて!」
そう声が聞こえて、思わず立ち止まってしまう。三、四人の不良に、一人の女の子が囲まれていた。ナンパにしては、絵面が悪い。
コンビニの袋を持っているところを見るに、あたしと同じ理由で外に出て来たのだろう。
「誰か……」
そう、涙の滲む瞳でその子は言った。そして、あたしと目があった。
佐天「あ……」
動けない。だって、あたしには何も出来ない。だって、あたしは『無能力者』で、しかも、なんの力もない中学生で。
やめてよ、そんな目で見ないでよ。ちゃんと、警備員に通報はするから。
だから、そんな目で見ないでよ。
あたしだって、あたしだって、『力』があれば――
「――はい、ちょっとすんませーん!」
佐天「え?」
人懐っこい声で、手刀を作りながら、あたしの横を一人の男の人が通り過ぎた。
まあ承太郎さんも悪霊が取り付いたと勘違いして、牢屋で引きこもった上で胡散臭い本読み漁るレベルだからしゃーない
佐天「え、ちょっ……」
「おー、こんなこといたのか、探したんだぞー、全く」
「え……、あの……」
女の子も戸惑っている。誰の目から見ても、その男の人が、全くの『部外者』であることは明らかだった。――けど、
佐天「嬉しそう……」
その女の子の目には、確かに『希望』の光が灯っていた。
「あぁ? 何だよオマエ、知り合いじゃあネーんだろ?」
「オンナの前だからってカッコつけようとか、サムイんだよ!」
……そうだよ、一人でそんなところに行っても、ただ痛い目に会うだけだよ。カッコつけても、ボコボコにされたらカッコ悪いよ。
「いやーホントに知り合いなんですって、だから通して通して」
「……おい、このバカやっちまおうぜ、その方がてっとり早えよ」
……ヤバい! 本当に警備員を呼ばないと――。
そう携帯を取り出そうとした時、
「うわー、突然滑った!」
男の人が声を上げて、不良たちを押し倒した。
「うわっ!」
「にすんだよ!」
「――早く逃げろっ!」
男の人がそう叫んで、やっと女の子は現状が理解出来たみたいだった。ぎゅっと拳を握って、一目散に掛けて行く。
そして、あたしの横を通り過ぎた。
「あっクソ! てめえ、離れろっつーんだ、よっ!」
男の人の顔に、拳が飛ぶ。短く男の人が声を上げて、その場に倒れた。
「クソが、うさばらしにテメーをボコボコにしてやんよ!」
「泣いて謝ってももう許さねえからな!」
「ぶっ殺して――」
佐天「――あ、警備員ですか! こっちです、なんかケンカしてるみたいな――」
「っな!? チクショウ、誰かチクりやがったのか!?」
「チッ! 命拾いしたなテメェ!」
そう絵に描いたような捨て台詞を残して、その場から不良たちは逃げ出した。
「ててて……マジに殴りやがったな、あの野郎……」
佐天「あの……大丈夫ですか?」
そう言って、あたしはハンカチを差し出した。
佐天「血、出てますよ」
「ああ、悪いな」
そう言った男の人の顔は、殴られたにも関わらず、恥ずかしさとか、そんな感情は、これっぽっちも見えなかった。
佐天「……どうしてですか?」
思わず、口にした。
「? 何がだ?」
佐天「どうして、あの場に入って行けたんですか?」
「どうしてってそりゃあ――困っているように見えたからな。それ以外に、理由なんて無いだろ?」
意味が分からなかった。たしかに、どこから見ても困っているように見えたよ。
でも、だからってそこに入って行ける理由にはならない。
そこで、分かった。
佐天「……『能力者』なんですね、あなた」
だからだよ。余裕のある態度も、それなら納得出来る。
佐天「あれですか? 殴られたのも、『レベル0のパンチくらいたいしたことねーよ、ヘッ』、ってやつですか?」
自分でも、嫌なくらい卑屈だと分かっていた。見ず知らずの人に、こんな言葉をぶつけてしまうなんて。
怒るかな、そう思ったあたしの頭に、ポン、と手が乗せられた。
「そんなことねえよ、すげえ痛いぜこれ? レベル0の拳は痛いんだよ。分かるさ、俺だって『レベル0』だから」
佐天「……そんな、なら、なんで!」
おかしいよ、痛い目に会うことは分かってたじゃん! 自分にはどうすることも出来ないって、誰の目から見ても明らかじゃん!
「でも、出来ただろ? とりあえずは、さ」
佐天「……強いんですね、あたしなんか……」
「何言ってんだよ、お前だって、戦おうとしたじゃないか」
佐天「え……」
「必死に、どうしようかって顔してただろ?」
佐天「怖くて、何も出来なかっただけですよ……」
「でも、逃げ出さなかった」
佐天「……!」
幻想殺しを能力扱いしないのってズルいと思う
顔を上げたあたしの頭に、もう一度手が乗せられた。
「そういうことだよ。そもそも、お前があそこに立って、真剣な目をしていたから、俺が気付いたんだ。だから、あの女の子を救ったのは、お前でもあるんだよ」
もう一度、あたしは俯いた。じゃないと、今会ったばかりの人に、泣き顔を見られてしまうから。
「あ、ハンカチありがとうな、洗って返すよ」
佐天「いいですよ、あげます。勇気あるヒーローさんへのご褒美です」
「……そっか、大切にするよ」
その言葉、勘違いする人も出てきますよ?
佐天「ええ、じゃ、あたしここなんで」
「お、そっか、じゃあな。あんまり夜道歩くなよ」
佐天「ええ……」
「……『勇気』を持つってのは、難しいようで、簡単なんだ」
佐天「え?」
背を向けて、歩き出そうとする時、その男の人は言った。
「『守るもの』があれば、そんなもの、嫌でも出てくるもんなんだよ」
佐天「…………」
「なんて、説教臭くて悪いな。でも、そんなもんだ」
佐天「あの――」
「じゃ、また機会があれば会うかもな!」
佐天「……はい!」
「ってやべぇ、もうこんな時間かよ!? 夜食買うって言ったのに……。インデックスにまた噛み付かれるー!」
佐天「『勇気』……か」
走り去る、名前も聞かなかった男の人の背中を見ながら、ぎゅっと拳を握る。
その時、あたしの中に、小さな『決意』が生まれた。
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< To Be Continued... |
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今回はここまでです。
短くて申し訳ありません。
>>130
あの承太郎さんですらそのレベルだったので、中学生の佐天さんならもっと混乱するだろうなと思います。
>>138
そうですね、たしかに幻想殺しをもっている上条さんが、完全に『無能力者』の視点に立つことは難しいと思います。なのでここはいつもの『勇気』一つで頑張ってもらいました。
乙ん
幻想殺しは不良相手にゃ意味ないし、「無能力同士の喧嘩」って解釈は間違いではないけどね
幻想殺しよりも
一級フラグ建築士に負けなかった
佐天さんに拍手
乙
覚悟こそ幸福
もし能力者がいても何とかできるって安心感はある
でも上条さんならそんなこと関係なく助けに行くだろうけど
乙
スタンドの予備知識がないとそれが能力とは思わないよなぁ。スタンド使いの殆どは佐天さんみたいな感じだったのかもと思った。
承太郎は原作で描写されてるスタンド使いの中では特殊だよな。スタンドを知らなくても直感で自分の一部だと感付く奴が多い中で、
承太郎は理屈で定義付けようとしたようだ。スタンドが自分自身だという認識がないから暴走してたのだろうか?
ジョセフに教わらなけば「スタンド」ではない別の定義と意味と性質が生まれたかもしれんな。スタンドの定義って割と曖昧に思えるし。
幻想殺しはなんだろうな、上条的には「そういう体質」くらいの認識で「自分の能力」とは違うものだったんじゃないかな。
俺、帯電体質でドアノブでよくビリッとなるんだよなぁ、スマホのデータ飛ぶんだよなぁみたいな。
みんな黒板引っかく音が苦手だって言うけど俺は別になんとも思わないなぁ、程度の温度。それも右手だけ。
せ、せやな
>>1もつ
>>143
ありがとうございます!
ここで幻想殺しがパリィンってなったら全部台無しなので、ここは普通に無能力者の不良を相手にしてもらってます。
>>144
あくまでも、この中での上条さんは、佐天さんに『勇気』を与える『きっかけ』の一つと言う小さな存在にしたかったので、この扱いにさせて頂きました。
なのでこのSS内では名前も出ない、通りすがりのヒーローです。
>>145
ありがとうございます!
プッチ神父は……多分出ないでしょうね。
>>146
仮に能力者相手だろうが何だろうが、絶対に助けにいっちゃいますね。
ちなみにこのSSでは彼とスタンドが戦うことは無いと思います。
>>147
なるほど、そういう解釈もありますね。たしかに物心ついた時から幻想殺しを持っていたら、『能力』では無く、『体質』の一部くらいにしか思えないかもしれません。
寿太郎も多分ジョセフに教わらなければ、『理解』するまでにはもっと多くの時間を浪費したと思います。
そういう意味では何も知らない佐天さんがここまで追いつめられるのも不思議じゃない……よね?
>>148
ありがとうございます!
>>147
すいませんミスりました。承太郎です。
寿太郎って誰だ…
次レスより更新再会します。
すいません、書き忘れましたが、ここから更に、『第三者視点』を追加します。
◆ ◆ ◆
ピンポーン……。
ありふれたチャイムの音が、アパートの廊下に響く。
チャイムを押した少女は、暗い表情を抱えたまま、中からの返事を待っていた。けれど、何も反応は無い。
初春「……佐天さん」
身体の前に下げたハンドバックの中には、親友が食べたいと言っていた、ケーキの箱が入っている。
初春「このままじゃ、悪くなっちゃいますよ?」
そう悪戯っぽく笑ってみるが、扉の向こうから返事は無い。
ミーンミーン……。
夏の独特な空気が辺を包んでいる。蝉の鳴き声が妙にもの悲しい。その鳴き声だけが聞こえる世界は、寂しさに満ち溢れている。
黒子「……初春」
ヒュン、と言う風を切るような音と共に、一人の少女が現れた。その腕には、初春と呼ばれた少女と同じ風紀委員の腕章を付けている。
初春「白井さん……」
黒子「佐天さんから、返事はありませんの?」
初春「ええ……このままじゃ、ケーキ、痛んじゃいますね」
そう無理に笑みを作った友人の顔に、黒子は胸を痛めた。息を吸い込み、初春の手を取る。
初春「……白井さん?」
黒子「この暑さですわ。もしかしたら、中で倒れている可能性もなきにしもあらずですわよ? だから、これは風紀委員としての、『確認』ですわ」
その言葉に、初春が微笑む。そしてその手を握り返した。
初春「……佐天さん?」
黒子のテレポートで、佐天涙子の部屋に入ることが出来たのはよかった。けれど、肝心の彼女の姿が全く見えない。
黒子「……これは本当に留守だったのですね。どうします初春? ここで佐天さんの帰りを――」
初春「白井さん……これ」
初春の震える声を聞いて、すぐに黒子初春の持っていた『それ』に目を向けた。そこにあったのは一通の書き置き。
可愛らしい丸文字で、そこにはこう書かれていた。
『初春へ。この手紙読んでるってことは、あたしの部屋勝手に入っちゃったってこと? いけないぞー風紀委員なのに』
初春「こ、これは緊急の措置なんですよぅ!」
『ごめんね、何度も電話無視して。でも、初春たちを、絶対に巻き込みたくなかった』
黒子「……? 佐天さんは何を」
『ごめんね、でも、必ず帰るから。全部、『理解』して、必ず帰るから」
初春「佐天さん……?」
『その時は、あのケーキ、奢ってくれるとうれしいなー」
初春「もう買ってありますよ……佐天さんのバカ……」
黒子「こ、これは一体……」
狼狽する黒子の、携帯から着信音が鳴る。
黒子「く、黒子ですの! ……固法先輩?」
初春「?」
黒子「……ええ、今その彼女の部屋に居る所ですわ。……ええ、――何ですって!?」
初春「……白井さん?」
黒子「わ、分かりました、一度わたくしだけでもそちらに戻りますわ」
初春「……どうしたんですか?」
黒子「佐天さんが……『外出届け』を再び出したそうですの。この時期な上に、彼女が『レベル0』であることから、すぐに検査を終えて……今朝方『外』に出たと」
初春「……そんな。行き先は!? 行き先はどこなんです!?」
初春が掴み掛かるが、黒子は唇を結び、首を横に振った。
初春「そんな……そんな……」
黒子「落ち着きなさい初春ッ! とにかくわたくしは固法先輩の元へ行きます。……初春は……」
黒子の視線を受け、初春は一度部屋を見回す。そして、机の上にある、一台のパソコンに目を向けた。
初春「……私はもう少しここに残ります。もしかしたら、佐天さんの目的地が分かるかも……」
黒子「分かりましたわ。万が一を考え、わたくしは『外出』の申請もしてきますの。緊急事態扱いにすればあるいは……」
初春「お願いします、こっちも、携帯で佐天さんに連絡を取り続けてみます」
黒子「ええ、頼みますわよ、初春」
初春「はい、白井さん!」
ヒュン、と風が切るような音を残し、黒子の姿が消える。
残された初春は、真剣な表情で、机の上のパソコンのスイッチを押した。
初春「あーもう、起動時間が長い……。この間に佐天さんに連絡を……」
しかし向こう側からは、聞いた人間が一番苛立つであろう、『お掛けになった電話は、電波の届かない所にいるか……』と言う、あのテンプレートだ。
初春は無言で通話を切った。
パソコンの画面に光が灯る。そしてデスクトップに、ウイルスなどの影響が無いことを通知する文章が現れ――。
初春「……起動した!」
呟くと同時に、初春はマウスを回す。一番に確認することは、履歴だ。
佐天の性格からして、逐一パソコンの履歴を消去するなどしないだろう。
すぐにインターネットの履歴を見る。
そして、そこにあったもの。
初春「路線図……! 履歴の時間は昨夜、間違いない!」
行き先が外部であるなら、普段は使い慣れない外部の交通機関を使用するのだ、路線図を見ることは想像出来た。
初春「行き先は……」
開いたページを見て、初春は嘘、と呟く。
初春「【杜王町】……? なんで、またあの場所に……」
時間は、少し遡る。
◆ ◆ ◆
ガタン、ゴトンッ!
久しぶりに乗った、外の電車に揺られながら、あたしは景色を眺めていた。今回は前回のように、大層な荷物も持っていない。
やっぱりどこに出かけるにも、身軽が一番だね。
佐天「もっと時間掛かると思ったけど、案外すぐに出られるんだなぁ……」
それは、あたしがレベル0の、一般人だから。ほんの少しでも『能力』を持っていれば、出発は遅くなったのかな。
佐天「はは、レベル0でいることで、初めて得したかも」
なーんて自虐ネタももうお腹一杯だよ。けど、昨日程は心が重くない。
昨日会った、男の人が言っていた。
『守るもの』があれば、『勇気』は嫌でも出てくるものだと。
『守るもの』、それを思い浮かべて、一番に頭に浮かんだのは――。
だから、あたしも『勇気』を出さなくちゃあいけない。
そして、知らなくちゃいけない。あたしの身に起きている、この『奇妙』な出来事を。
それが、あたしの『決意』。
プシュー、と言う音と共に、ドアが閉まる。走り去る電車を背に、あたしは麦わら帽子を軽く上げた。
戻って来た……またここに――【杜王町】。
佐天「さて、と……」
地図はある。向かうべき先はどこだろう。
知ること、それは、彼らに会わなくちゃあいけない。けれど、それは同時に彼らを危険に晒すことでもある。
佐天「けど……それでも、進まなくちゃ行けないんだよね」
地図を畳む。息を吸い込む。そして、腕を上げる。
佐天「『理由』を突き止める、『友達も守る』、両方やらなくちゃあいけないのが、佐天さんの辛い所だけれども、『覚悟』は出来てるよ!」
そして笑う。戻った時も、同じ笑顔を作れるように。
佐天「――初春、待っててね!」
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短いですが、今回はここまでです。
少しずつですが、佐天さんも回復して参りました。
上条が自分で言っていた通り幻想殺しは超能力者の集まる学園都市や魔術師という「特殊な環境下」の中にいないと有るように見えない
そういう意味ではあの街もだいぶ特殊な環境だよね
2000号「精液がうめぇーんだよ精液があァァァァ!!!!!」
一方通行「実験参加は科学の惨禍ッ!!!!!こいつらシスターズは恐怖を知らん!ノミと同類よォ―――ッ!!!!!」
木原「やったッ!この音、いつも聞く生体電機が逆流する音だッ!北風はレベル6を作ったぞッ!!!!!」
たくさんのレスありがとうございます。
読んでくれる方が居ることがとても嬉しいです。
次レスよりまた少し更新再開します。
今回は初春サイドからです。
◆ ◆ ◆
初春「【杜王町】……? なんで、、またあの場所に……?」
佐天のパソコンの履歴から、その情報を見つけた初春は戸惑いを隠せないでいた。いい所だとは聞いた。プチ旅行にはちょうどいいかもね、と。
けれどここは彼女が襲われたと言う場所では無かったのか?
たしかに怪我は何一つ無かった。けれど、運び込まれた佐天の衣服にべっとりとついた血は、今でも夢に見る程生々しくて、恐ろしかったと言うのに。
何故、そんな場所に、また。
初春「……佐天さん」
履歴を再び表示させると、奇妙なページがいくつも並んでいる。クリックしてみると、都市伝説や噂話を集めたサイトのページが開いた。
曰く、『原石』の作り方や、能力を上げる裏技、超能力者の生産工場etc……。
どれもこれも、一目で下らないと笑える類いのホラ話。けれど、初春は瞳の奥から涙が滲んでくるのを来るのを感じた。
これは、全て親友の願望。決して『能力』者に辿り着けない、親友の足掻き。
それはまるで、『孫悟空に憧れる子供が、必死にかめはめ波を練習するよう』な、そんなものだ。
それは、どんなに願おうが、頑張ろうが、決して辿り着けないものへの憧れ。
けれど、彼女に絶対に辿り着けないものが、隣を歩く誰かには、いとも簡単に辿り着けてしまっているこの街で――どれほど、彼女は、いや、彼女のような『無能力者』は――苦しみ、悩み、そして羨んで来たのだろう。
レベルアッパーを乗り越えた親友は、もう大丈夫だとどこかで思っていた。けれど、何も分かっていなかった。
親友は今も苦しんでいて、そして、それは絶対に消えない苦しみだと言うことを。『能力者』の自分は――何も、分かっていなかった。
初春「――違う!」
そう叫んで初春は自分を頬を叩いた。今は、親友のアレコレにかこつけて、自分は駄目なやつだとか、そんな言い訳をする時じゃあ決して無い。
今、自分がすべきこと、それは一刻も早く、親友が、何をしようとしているのか、親友が、何を望んでいるのか、それを『理解』し、助けること。
初春「――待ってて下さいね、佐天さん!」
そして、マウスを回す。
◆ ◆ ◆
黒子「どういうことですの!」
風紀委員の支部で、黒子が叫ぶ。目の前では沈痛な表情を浮かべた固法が、腕を組んで俯いていた。
固法「今言った通りよ。風紀委員独自のルートで、白井さんの外出届けを申請してみたけど、やっぱりすぐになんて出られない。最速でも、レベル4となれば、三日は掛かるらしいわ」
黒子「それでは遅すぎますの! 佐天さんはもう外に居るのですよ!?」
固法「分かってる!」
固法が怒鳴り、黒子がびくりと身体を震わせた。
固法「分かってるけど……どうしようもないの」
黒子「……佐天さん」
携帯のバイブがなり、黒子が耳にあてる。
黒子「……もしもし――あ。お姉様ですか? ……ええ、やはり――何ですって!? ……ええ、分かりました、お待ちしてますわ」
通話を切り、黒子が顔を上げる。
固法「御坂さん、よね。何かあったの?」
黒子「ええ、一か八かですが、強硬手段ですわ」
その顔は、焦りを見せながらも、しかし不敵な笑顔を浮かべていた。
固法「強硬手段……? あ、こっちも。……初春さん? ええ、白井さんなら今通話をしていたから……ええ、分かったわ」
黒子「初春からですの?」
固法「ええ、一度こちらに戻ってくるみたい」
そして、やや苦笑いを浮かべ言う。
固法「そちらは学園都市最高峰の電子制御能力者、そして、こちらには学園都市最高峰のハッカー」
黒子「なるほど、つまり……」
固法「ええ。どうやら、『守護神』と『レベル5』の二人が、何かを起こすみたいね」
◆ ◆ ◆
初春「……おかしいですね」
パソコンのマウスを回しながら、初春は呟いた。佐天が杜王町へ向かった目的を調べていたが、どうも履歴から進むことが出来ない。
初春「『Not found』……。ページが閉鎖されて、完全に消されている……。他のページからのリンクも無効……」
顎に手を当て、初春は小さく唸った。
初春「佐天さんがこのページを見つけてから、僅か数日でこのページを丸ごと閉鎖したと言うこと……そんなこと、一個人が出来ることじゃ……」
息を吐いて、ウィンドウを閉じ、電源を落とした。携帯を取り出し、固法へと電話を掛ける。
初春「一般のパソコンのスペックでは難しい……なら、学園都市製、風紀委員の特殊なパソコンを用いるしかないですね」
その表情は心無しか笑っているように見えた。
そして、
黒子「お姉様、もう一度聞きますが、正気ですの?」
御坂「それはこっちが質問したい所だけどね。一応ここ、風紀委員の中なわけだし」
不敵な笑みを浮かべた御坂が、パソコンの前に座っている。その隣では同じように初春が座り、固法の顔を見つめている。
固法「共にこれから起こす行動は、外部と、そして、『学園都市』のプログラムへのハッキング。……とても正気の沙汰とは思えないわね」
黒子「けれど、お止めにはなさらないのですね」
固法「……私は何も見なかった……と言いたいところだけど、友達を救いたいのは私も同じよ」
その言葉に、初春と御坂に二人がにっ、と笑みを浮かべる。
固法「責任は私が持つわ。――二人とも、始めなさい!」
初春・御坂「はい!」
◆ ◆ ◆
佐天「さて、町を歩いてみたはいいけど、やっぱり一番に向かう先は『ぶどうヶ丘高校』かな? 夏休みとは言え部活とかで生徒は居るだろうし、康一さんたちの誰かにでも会えれば一番だけど」
地図を畳んで、麦わら帽子を被り直した。
佐天「しかしあっついなあ。一端日陰に行こう……。ついでにお茶とか買おっかな」
上手い具合に『日陰』になっているトンネルの横に、自販機があった。百五十円を入れて、ウーロン茶のボタンを押す。
佐天「んー、潤うねえー、やっぱ冷たいお茶が一番だよ!」
「羨ましいね、わたしもね、潤したいと思っているのだよ」
佐天「ぶふっ!」
突然トンネルの中からそう言われて、思わずあたしは口から盛大にお茶を吹き出した。
佐天「えあ、あ、す、すいません、すぐどくんでっ!」
「ふふ、構わないよ。なんせこのわたしが求めるのは君の……」
そうその人が言ったとき、あたしは悲鳴を上げそうになった。何故なら! その男性の腕から、あの『悪霊』が姿を見せたからだ!
佐天「うあ……そ、それ……!」
震える手であたしは『それ』を指差した。『理解』が追いつかない。なんで、なんでこんな所で……。
「ほう、これが見えるのか……」
震えるあたしと対象的に、その男性は、落ち着いた口ぶりでそう呟くと、ゆっくりとあたしに言った。
「君には……特別な『才能』があるようだ」
佐天「……え?」
ガン、と頭を殴られたような衝撃があたしに走った。手から、ペットボトルが落ちて、中身が飛び散る。
今、『才能』って言ったの? あたしに? 『才能』って?
レベル0で、何の力も無いあたしに今――特別な『才能』があるって?
佐天「あたしに……『才能』が……ある、の?」
「ああ……君にはこのわたしと同じように、普通の人間とは違う、特別な『才能』がある」
その声は甘美で、妖艶で――今すぐにでもかしずいてしまいそうな程に。
日の当らない暗闇に居るにも関わらず――その雪のような肌の白さがはっきりと見え、男の人とは思えないほど、それは美しかった。
何よりも、あたしの耳に届くその声は、あたしの焦燥を、悩みを、苦しみを、すべて取り払うように、静かな安らぎを与えてくれているのだ。
「わたしはまだ、『日の当たる場所』に出ることは難しくてね……」
佐天「ひ、日の当たる場所……?」
「一つ、このわたしと『友達』になってはくれないだろうか」
暗闇から伸ばされたその白い手の、キスでもしたくなるような美しいこと。
唇が震えた。今すぐにでもここから離れなくちゃあいけないと頭の中で警告する声と共に、跪いてその手を受け取れと言う声が重なって聞こえる。
「さあ、このわたしと共に……」
佐天「あ――」
その時、あたしの身体に『衝撃』が走った。そして、視界が暗転した。
◆ ◆ ◆
「な、何だこれはッ!? この娘の身体がまるで『本』のようにッ!」
暗闇から伸びた白い手に、佐天が触れる、その一瞬前に、彼女の身体が『本』となり、『日差しの下』へと飛ばされた。
そして、その身体を受け止めた男が一人。
「……名前は佐天涙子、13歳。スリーサイズは上から79、58、80。現住所は学園都市のアパート在住。男性経験は無し。家事全般を得意とし、特に裁縫には自信アリ。友達も多く、またどんな相手でも打ち解けられる裏表の無い性格だが、自信が『無能力者』であることの、強い『劣等感』を持っている。そして、今回自分の背後に『悪霊』が見えるようになったことから、原因を探りに【杜王町】へ来た、か。……おっと、一番新しい記憶があるぞ」
「…………」
「なになに……『突然妖しい男性に声を掛けられた。けれどあたしには『才能』があるって言われた! とても嬉しい! 今すぐにでも付いていってしまいそう!』……か」
そして暗闇の中の男に、目を向け言う。
「こう言っては何だが、出会ったばかりの女子中学生をくどくのは、条例としてまずいんじゃあないか?」
「……貴様」
「おっと、今君は『いきなり現れて誰なんだコイツは?』と思っているな。教えてやるよ」
『日の当たるアスファルトの上』で、腰に手を当て、その男は名乗る。
露伴「ぼくの名前は岸辺露伴――漫画家さ」
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短くて申し訳ないですが、今回はここまでです。
出来るだけ早く続きをかけるよう頑張ります。
いきなりの大物二人のお出ましにテンション上がりすぎて血管がヤバイ
さてんさんちょろちょろやん
乙
DIOの仲間になったやつもサテンさんと同じ感じだったんだろうな
先生カッコ良すぎぃ!!
男も例によって顔が影になって隠れてるような感じがありありと目に浮かぶぜ……
来てたのか
おつおつ
来てさっそくこんな危ないヤツに出会うとかこの街ソマリア並みに治安悪いな
行きたないわw
スタンド使い同士は引かれ合う云々
佐天さんの性格って先生の好みっぽいよね
しかしこれ佐天さんじゃなくて男の方をヘブンズ・ドアーすれば良かったのでは
>>201
露伴先生は絶対に出したかったので、喜んでくれている方が居ればなによりです。
>>202
あの冷静沈着な花京院が簡単に操られ、アブドゥルさんすらジョセフに話を聞いていなかったら操られていただろうとまで言わしめた存在なので、イマドキの女子中学生の佐天さんなんか超ちょろいと思うのです。
>>203
ありがとうございます!
上でも書いた通り、彼の仲間になった人間の殆どは、佐天さんみたいにあっと言う間に虜になってしまったんだと思います。
>>204
露伴先生の登場シーンはカッコ良く決めたかったので、そう言って貰えるととても嬉しいです。
『男』のイメージはその影がかかったまま想像してくれれば何よりです。
>>206
あろがとうございます!
>>207
トニオさんの御飯が食べられるだけでもこの町は来る価値がありますよ!
>>208
佐天さんと『男』、そして露伴先生が出会ったのもそれが理由と言うことで。
>>209
プロフィールを見ると、露伴先生好みな感じですよね。
>>210
ジョジョってそう言う場面が多いですよね。
理由は後述させてもらいます。
たくさんのレスありがとうございます。
次レスよりまた少し更新再会します。
――【学園都市】
御坂「第十ゲート、クリア! 第十一ゲート、クリア! 第十三ゲート――」
黒子「恐ろしい、ですわね……」
固法「ええ、これがもし敵だったらと思うと、ぞっとするわ……」
パソコンの前に座る二人を後ろで眺めながら、黒子と固法が言った。
初春が凄まじい早さで常人には理解不可能な数式文字列を打ち込み、その隣では目を瞑り、御坂が自身の能力で『学園都市のプログラム』の海へと自分を沈ませていた。
御坂「第五十三ゲートクリア――開いたッ!」
御坂が目を開くと同時に、正面のパソコンの画面が映り変わる。
固法「やったの!?」
御坂「ええ、バッチリ。あとはここの情報を……」
そこに映し出されていたのは、学園都市の『外出申請認可情報』。名簿一覧の中に、白井黒子の名前がある。
御坂「ここの『申請中』の箇所を……『許可』に変更ッ!」
固法「す、凄い……こんな短時間であっさりと……」
黒子「流石ですわ、お姉様」
得意げな顔で、御坂が黒子の頭を叩く。
御坂「さあ、牢獄の扉は開けたわ。あとは――」
初春「御坂さん、私のもお願いします」
パソコンの画面を見つめたまま、初春が言った。その手はまだ忙しなく動いている。
初春「私も直接……佐天さんを助けたい。力に……なりたいんです」
御坂「初春さん……」
初春「……本当は、御坂さんが行ければ一番なんでしょうけど」
固法「レベル4までならともかく、学園都市に7人しか居ない『レベル5』の管理は群を抜いて厳しい筈よ。いくらハッキングをかけても、バレてしまうわ」
御坂「ええ、悔しいけど……その改竄をしてしまったら、確実にここがバレる」
初春「だから、私が行きます。私が御坂さんの変わりなんておこがましいにも程がありますけど……」
御坂「そんな――」
初春「けど」
キーボードを叩きながら、初春がにこりと笑う。
初春「『一番の親友』である私が行ってあげなくて、『誰が行く』って話ですよ」
その言葉に、御坂も知らず微笑んでいた。頭上のアホ毛から、パリッ、と電磁波が走る。
御坂「OK! 1分で済ませるわ!」
初春「ええ、お願いします。こっちもあと少し……開いた!」
画面が移り変わり、そして出て来たものは――
初春「SPW財団……?」
固法「それって確か医療とか社会厚生で有名な……」
黒子「東京目黒にもたしか支社があった筈ですわ。しかし何故そのような機関が……」
初春「どうやらここから更にパスワードを持つ者だけが進めるページが存在するようですが……」
黒子「初春、分かりますの? ――とはもう愚問でしたわね」
初春「ええ、これで……Enterっと」
カチャカチャと初春が数式を打ち込むと、次のページが開いた。そして、
初春「……え?」
固法「これって……」
御坂「よしっ! 初春さんのデータも改竄完了! ……みんな、どうしたの?」
息を呑んで、画面を見つめていた三人に首を傾げた御坂が、同じようにその画面に目を向ける。
御坂「『〈矢〉により生まれる〈能力者〉についての報告……?」
固法「……どうやら、私たちは『とんでもない事』を知ってしまったみたいね」
――【杜王町】
「岸部露伴……なるほど、その力、君もわたしと同じ『スタンド使い』と言うことだね?」
露伴「おおっと、動くんじゃあないぞ。君はぼくのことを『いきなり現れたおかしな男』くらいの認識でしかないだろうが、ぼくは君のことを知っている!」
「ほう、このわたしを……知っているのかね?」
露伴「ああ、すべて『空条承太郎』に聞いているよ。君がこのさんさんと照りつける『太陽の下』へ来ることが出来ないこともな」
そう、露伴の身体は、暗闇に包まれたトンネルから十数メートル離れた、『日差しの下のアスファルト』に立っている。
露伴「これは絶対の『境界線』だよ。喉の乾きに耐えられなくなったか知らないが――わざわざ昼間に出てくるなんて、欲張りすぎじゃあないのかい?」
そう露伴が言葉を突きつけるが、暗闇の中からは、しかし低い笑い声が漏れて来た。
「『露伴』くんと言ったか……。素晴らしい。僅か一瞬でその『娘』をわたしの手の届かない場所へと助け、かつ自分は一方的な『安全地帯』に居る。いくら『承太郎』のやつからこのわたしのことを聞いているとは言え、素晴らしい判断力だ」
露伴「フン、100年前に生きていた奴に褒められても嬉しくも何とも無いな。この岸部露伴、ジョースターさんのような『人生を積み重ねて来た』人物なら、僅かながら敬意を表するが、お前のように『100年間もただ眠っていただけ』の奴には反吐が出るんでね……」
そう言いつつ、露伴が少しずつ佐天の身体を抱えながら足を引いて行く。その様子を見て、また暗闇の中で男がほくそ笑む。
「露伴くん……君は今こう考えているな。『たしかに自分は安全地帯に居る。向こう側から手出しは出来ない』」
露伴「…………」
「『しかし、コイツを確実に倒すには、やはりあの空条承太郎が必要不可欠だろう』……とね」
露伴「どうかな? 言っておくが、ぼくの『ヘブンズ・ドアー』を一度発動させるだけでお前は終わりだぞ?」
そう不敵に露伴は答えるが、その額には一筋、この暑さとは異なる理由で汗が流れていた。
絶対的な安全地帯に居るにも関わらず、露伴の中には一筋の『焦り』が浮かんでいたのだ。
「それでも君が自身の能力をこのわたしに対し発動しないのは、二つ理由がある。一つ目は君のスタンドの『〈射程距離と精密動作性〉から、暗闇の中に居るわたしを確実に狙うことが出来ないから』。そして二つ目は……」
露伴の額から、さらに一筋汗が流れ、熱を帯びたアスファルトの上に落ちる。
「それは『〈このわたしのスタンド〉の前では、君の能力は無意味だと知っているから』だろう?」
露伴「無意味かどうか、試してみなくちゃあ分からないだろ? もっとも、この場で試す必要は無い。またの機会にゆっくりと試せばいいさ」
「そうだな。それが『懸命な判断』だ。最も、『またの機会』があればの話だがね……」
その言葉に、露伴の心臓がドクン、と大きく鼓動した。
露伴(……なんだコイツはッ!? 『またの機会』があればだと!? どう考えても、コイツの『特性上』、この『ジリジリと照りつける太陽の下』へ出て来られる筈が無いッ!)
自分の足下へ目をやり、次にトンネルの中の『男』への距離を目測する。
露伴(目測で……十八メートル。『奴』が能力を発動しても、この日の下へ無傷で来ることは不可能。やはりハッタリか……)
「そう、ハッタリだ」
露伴「!」
「だが」
ドクン、ドクン、と露伴の心臓の鼓動がその音を増して行く。
「君が『確認』すべきは、ここの『空模様』だったんじゃあないのかな?」
ザアア……と、風が辺りの雑木林を静かにならした。
「人間とは凄いものだな、露伴くん。たった100年ぽっちの時間で、考えられないほど文明を進化させた」
露伴「何だと?」
「ここから見える、無数の建造物……こんなに『縦幅』が長いものだって簡単にいくつも作れてしまう」
露伴「…………!」
露伴が抱えていた、佐天の身体から『ヘブンズ・ドアー』が解除される。
佐天「あ、あれ……あたし……あれ、あなたは……?」
露伴「……いきなりで悪いんだが、ちょっと今、『何時か見て』くれないか? 生憎ぼくのスマホは充電が切れててね……」
額の汗は勢いを増し、心臓は痛い程に鼓動していた。それは、その原因はッ!
佐天「え、あ、電源切ってたっけ……」
寝ぼけたような顔つきで、佐天がポケットの中からスマートフォンを取り出し、電源を入れる。
佐天「ええと……今、二時半ですね」
「『気付いた』ようだな。どんどんこの場所に、『日陰』が多くなっていることを」
露伴「――ッ!」
佐天「日陰?」
バッ、と露伴が背後へ振り返る。そこには、少しずつ彼のもとへ迫ってくる『陰』があった。
空を見上げると、太陽が先程よりも傾いている。真上を少し過ぎた辺りにあった太陽は、少しずつ、西へ沈んでいる。
昼日中故に、気付くのに時間がかかった。そして『油断』もしていた。『太陽が顔を見せている昼間であるなら問題無い』と!
しかしッ! この場に『陰』を作るだけであれば、その時間は急激な早さ! 仮に時刻が『昼の二時半』だろうと関係は無かったのだッ!
露伴「こ、これがコイツの『狙い』ッ! 会話と威圧感でこの露伴を『足止め』し、自身が『活動可能なエリア』が広がるのを待っていたということかァ――ッ!」
露伴がその『事実』に気付いた時には、既に太陽はさらに傾きを続けている。
露伴「ま、マズいッ! どんどん『日陰の部分』が大きくなっているッ! このままじゃあすぐにこの『日陰』がトンネルまで届いてしまうぞッ!」
露伴(――だが、この『太陽の早さ』なら、全力で走ればトンネルに影が到達するより一瞬早いッ!)
佐天「日陰? トンネル? えと、あなたは何を――あ、さっきの!」
佐天の表情が輝き、足をその『男』へと走らせた。その行動は、この場において限りなく『アウト』。
露伴「!」
「おやおや、『佐天涙子』はわたしの方に気付いてしまったようだな。意識がわたしの方に向いている彼女を連れて、この場から『二人同時』に離れることが出来るかな? もっとも『君一人』ならこのわたしから『逃げる』ことは出来るだろうがね」
そしてその白い手を、再び駆け寄ってくる佐天に差し出す。
「さあ、改めてわたしと『友だち』になろう。選ばれた『才能』の持ち主だけの、素晴らしい世界が君をまっているよ……」
最早、その目に『岸辺露伴』は映っていない。
その『男』にとっては、ここで露伴が『どちらの選択』をしようが、自分が不利になる可能性は無かった。
このまま露伴が自分可愛さに『一人で』逃げ去れば、従順な下僕が一人増え、命の危険を冒して、この娘を助けにくれば、この場で『始末』する人間が一人現れる。
ただ、それだけだったからだ。
――しかしッ!
露伴「……一人で逃げる? 冗談じゃあない。それはつまり『敗北』ってことだろう? この岸辺露伴をナメるなよッ!」
ズズ……と露伴の背に、現れる、『ピンクダークの少年』を模した、小柄なスタンド。
露伴「ここで『二人同時』にこの場から離れることに『問題はない』
その『男』がそれに気付くのに、一瞬の時を要した。
露伴の性格を! その『能力』の本質を! 見抜くことが出来なかったその『甘さ』が!
露伴「全く、『問題はない』ッ!」
この場において――露伴に『勝利』をもたらすことになったッ!
露伴「『ヘブンズ・ドアァ――――ァァッ(天国への扉)』! 佐天涙子に命令するッ!」
佐天「!?」
ビシィッ! と佐天の頬に文字が飛ばされる。そこには、
「こ……これは……」
露伴「ぼくの能力の名前は『ヘブンズ・ドアー』」
「『何も見えなくなり、時速70キロで背後に吹っ飛ぶ』……だと!?」
露伴「対象に『命令』を書き込むことが出来るッ!」
ふわり、と佐天の身体が浮かび上がり、そして、
露伴「この場が『陰』に包まれる前に脱出するのにはそれくらいで十分だな。トンネルでこの命令……あのくそったれ仗助に助けられた時を思い出してムシャクシャするが……」
佐天「きゃ、きゃああ――ッ!」
露伴「いぜん、『問題は無い』」
背後に飛んだ佐天の身体が露伴の胴体に激突し、『日陰を飛び越えた先』に、二人の身体が『同時』に飛び出した。
露伴「グっ……!」
「…………!」
『照りつける日差しの下』で、露伴は起き上がり、そして言う。
露伴「この場は、とりあえず退かせてもらうよ。『戦略的撤退』と言うヤツだな」
「……やってくれたな」
初春飾利 ―― SPW財団にハッキング。衝撃の事実を発見。『レベル5』御坂美琴の協力により、白井黒子と共に『学園都市外出資格』をゲット。
岸辺露伴 ―― 自身の能力により『男』からの追跡可能エリアを脱出。このまま杜王グランドホテルに居る『空条承太郎』の所へ移動することに決めた。
佐天涙子 ―― この後、露伴にサインを貰った。
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< To Be Continued... |
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サインワロタ
ミーハー過ぎるわww
今回はここまでです。
>>224でケータイを使っていたはずの佐天さんが持ってるものがスマホになってますが……気にしないで下さい。
>>231
>>232
佐天さんもファンの一人だったと言うことで…
でもファンじゃ無くても佐天さんならきっとサインを貰おうとするでしょうね。
そういや武装錬金の主人公も露伴のファンだった。
佐天さん流石や…
素晴らしいオチだ
吸血鬼って大概の作品で強力な存在として書かれているから一方的に殺す吸血殺しでは使い勝手最悪だよね
姫神がDIO殺したところで誰特だしそもそも絵面からして話が盛り上がらない。
ssによっては吸血鬼の力が強すぎて能力がきかなかったり、酷い時には波紋使いになって姫神の面影残ってないっていうwww
吸血鬼が噛んだらゾンビなんですがそれは
どこぞのハンバーグって他スタンド使い見たらとりあえず敵認定するヤツだから御坂とは確実に話がこじれる
たぶん吸血鬼にも種類があるんだろう
佐天さんの愛されガールっぷり
頑張れば佐天勢力くらい作れそうだ
スピードワゴン財団、パッショーネ、ディオ一味
それなりに数が集まってるしスタンドサイドができてしまう
スタンドサイドwwww
マダー?
>>234
和月先生はジョジョシリーズの大ファンですもんね。
>>235
誰でもグイグイ行ける所が彼女の魅力の一つですね。
>>236
ありがとうございます、嬉しいです!
>>237
>>238
>>240
残念ながら姫神さんの出番はこのSSではありません。
とあるサイドの登場人物は多分現時点で出ているだけ……だと思います。
>>240さんの言うようにきっと色々な種類の吸血鬼居ると思うので、ジョジョ世界の吸血鬼は大丈夫なんじゃないかな…と思います。と言うか思いたい。
>>239
ドラララ不可避!
二人が出会ったらお互いに第一印象最悪になりそうですが、きっと康一あたりくんがフォローしてくれると思います。
>>241
その愛されっぷりはSS界においては非情に顕著に現れますね。
>>242
>>243
魔術サイド、科学サイド、そしてスタンドサイドッ(=観客席)!
>>244
お待たせしました。ものすごく短いですが、また少し更新します。
承太郎「……そうか、『現れた』か」
携帯を取った承太郎さんの言葉に、場の空気が変わった。
承太郎「……ああ、杜王グランドホテルの……いや、フロントに降りて行く」
承太郎さんの低い声が、相づちを打つたびに、ドクンドクンと心臓が激しく鼓動する音が頭に響いた。
承太郎「……何? ……そうか、まさかとは思ったが……いや、こっちでまとめて説明しよう。……ああ、仗助たちも全員ここにいる」
ピッ、と通話を切り、承太郎さんが息を吐いた。
億泰「じょ、承太郎さんッ!」
真っ先に声を掛けたのは億泰くんだ。その目つきは厳しい。
承太郎「ああ、『奴』が現れたそうだ」
億泰「……生きているんスね、『奴』は」
声と身体を震わせてる億泰くんを前に、承太郎さんは帽子をほんの少し深く被り直した。
承太郎「十年前、俺が間違いなく『殺した』筈だったんだがな。……すまない、億泰」
その震えが、何によるものなのか、ぼくには分からない。けれど、一つだけ分かることがある。
これからほんの僅かな時間の内に――この杜王町は、再び『戦場』となるってことが。
承太郎「行くぞ、露伴の奴がこっちに向かっている」
康一「露伴先生だけ……なんですか?」
ぼくの言葉に、承太郎さんはほんの少しの間を置いて、こう言った。
承太郎「『〈スタンド使い同士〉は惹かれ合う』……とは、よく言ったものだな」
康一「……ッ! そ、それは」
以前、仗助くんは言った。『スタンド使い』になることは、はたして『幸』か、『不幸』か。
勿論、ぼくはこの力を得たことを後悔したことなんて無い。この力を得たおかげで、ぼくは、みんなと共にこの町を守ることが出来たんだ。
康一「けれど……」
それは、凄まじい『運命』の糸が、身体に深く巻き付くと言うこと。それを、『彼女』はどう思うのだろう。
◆ ◆ ◆
初春「……佐天さん」
初春と黒子の二人は今、学園都市を離れ、外部の電車に揺られていた。隣でぎゅっと拳を握る友人の肩を、黒子が叩く。
黒子「しゃんとしなさい。あなたがそんな調子では、いざと言うとき彼女を誰が助けるんですの?」
初春「す、すみません……」
黒子「いえ……混乱するのも分かりますの。わたくし自身、『あの話』が事実だとは、未だに信じられませんわ」
初春「…………」
しばらく、無言の時間が過ぎる。窓の外では、久しく見る、外の景色がただただ過ぎて行く。
しかしその景色を楽しむ余裕も、二人には無い。
頭の中では、ぐるぐると、友人の現状や、理解困難な情報が錯綜し、初春の脳を蝕んでいた。
しかしそれでも、『心』には、たしかな一つの気持ちが灯っている。
初春「……佐天さんが、たとえどんなことになっても、どんな時でも、私は、ずっと、信じるって決めたんです……」
窓際に寄り掛かり、黒子が空を見上げた。
黒子「少し……降りそうですわね」
◆ ◆ ◆
佐天「いやー、まさかあなたが『ピンクダークの少年』の露伴先生だとは。どっかで見たことがあると思ったんですよねぇ~」
ハンカチに貰ったイラスト入りのサインを見て、あたしはちょっと、いや、かなり得した気分になっていた。
しかしさっきまでお茶を飲んでいたと思ったんだけど、いつの間に露伴先生と会ったんだろう?
露伴「…………」
露伴(『奴』について出会った記憶は一応消しておいた。出来ることなら『誘惑』に負けないくらいの『命令』を書き込みたい所だが……)
佐天「あ、あの、露伴先生? あたしの顔に何かついてます?」
露伴「いや、何でも無いよ(……追っ手は無し、やはり『奴』は単独か……?)」
どうしたんだろう、露伴先生。さっきから周りを注意深く見たりして。ああでも漫画家だから、常に辺りを『観察』してるのかな。それにしても、
佐天「でも本当にサインありがとうございます、ふふっ、御坂さん羨ましがるだろぉな~」
もらったサインを見て、あたしはまた頬が緩んだ。どんな旅になるかと思ったけど、今回は結構ラッキーかも。
露伴「サインくらいSPECIAL THANX! 代わりといってはなんだが、ぼくの『頼み事』を聞いて欲しいんだ」
佐天「『頼み事』、ですか?」
露伴「そう、君はあの『学園都市』から来たんだろう? 常々ぼくも、あの未来都市には『作品作り』のために行きたいと思っていたんだよ」
佐天「あー、たしかに外部の人にとっては未知の場所ですもんね。けど、いくら露伴先生みたいな有名人でも、入るのは厳しいと思いますよ? あそこ、内部の人間が出るだけでも結構厳しいのに、外部の人間なんて、生徒の親族以外なんてほぼ入れませんもん」
露伴「そこまで徹底しているとなると、なんとしても『見てやりたくなる』じゃあないか。君のツテでなんとかならないかな?」
佐天「あ、あたしのツテですか……」
ほんの一瞬、答えに困ったけど、正直にあたしは話すことにした。
佐天「あたし、実は学園都市でも最低辺の位置に居る『無能力者』ですから。……力があったら、もしかしたら何か出来たかもしれないですけど……ごめんなさい」
そう俯いたあたしの頭を、露伴先生が叩く。
露伴「冗談だよ、ぼくも一生徒がどうにか出来るなんて思っちゃあいないさ。このホテルにつくまでの世間話だ」
佐天「ホテル……? あ、ここあたしが最初泊まろうとして断念した……」
露伴「学生が宿泊するにはチョイと高めな場所だからな」
佐天「というか、なんであたしも一緒にいるんでしょう? いえ、そりゃ露伴先生みたいな人と一緒に行動出来て嬉しい限りなんですけど、流石に中学生をホテルにってのは色々まずくないですか?」
露伴「君の『性格』はぼくの好みだが、生憎子供にそんな感情は湧かないよ。ここに、『時を止められる男』が居るんでね」
さらりと言われた露伴先生の言葉に、あたしは息を呑んだ。
佐天「い、今……『時を止める』って言いました?」
聞き間違い? ――いや、たしかに言った。
佐天「そ、それって漫画を描く上での比喩、ですか?」
「いいや――『事実』だ」
そう言われた声。それは、あたしがほんの少し前に出会ったそれ。
厚手のコートが、夏の強風にたなびく姿。雄々しくも、荘厳な、その出で立ち。
佐天「承太郎……さん」
康一「……久しぶりだね、涙子さん」
仗助「なんでまたこのタイミングでこの町に来ちまうかなぁ~……」
億泰「…………」
佐天「こ、康一さん、仗助さん、億泰さん!」
分からない、今一体何が起こっているのか。いや、それよりも、『時を止められる』って。
やばい、たたでさえ普段から動いてくれないあたしの脳が、数秒の間にパンクしそうだ。
露伴「『奴』は、駅近くのトンネルに居たよ。今はまだ『三時前』。叩くなら……『今』しかないと思うがね」
承太郎「ああ、幸い今は『夏』だ。日が落ちるまでの時間が一番長い」
佐天「……?」
日が落ちるまで? トンネル? あたしには何を言っているのかよく分からない。
佐天「ろ、露伴先生、どういうことですか? 今、一体、何が起きているんですか?」
承太郎「……君は――」
その質問に答えたのは、承太郎さんだった。いや、正確には『答えようとした』所で――その口は閉ざされた。
承太郎「!」
佐天「承太郎さん? どうしたんですか?」
承太郎さんの顔つきが急に厳しくなり、空を見上げた。つられ、全員が同じ方向を見る。そして、
露伴「ま、まさかッ……!」
隣で露伴先生が息を呑む音が聞こえた。正面からは、仗助さんや、康一さんが酷く張りつめた顔をしている。
佐天「な、なんなんですか、皆さん。そんな怖い顔して……」
心臓が不意にドクンと鳴る。何とも言えない、『不安』な気持ちが胸を包む。
な、なんでみんなそんな顔してるの? だって、だって……。
佐天「――だって、『天気がチョッピリ悪くなってきているだけ』じゃないですか」
「――そう、それだけだ」
ホテルの影から、そう声が聞こえた。
「!」
全員の視線が、瞬間的に、その方向に向いた。
「なあ……承太郎よ。『支配者とは何か』を考えたことはあるか?」
薄暗い中、太陽は少しずつ、暗雲の中に飲み込まれて行く。その陰の中で、その人は言う。
「真の『支配者』とは、『あらゆるものを跪かせる存在』だと思うのだよ」
その話のリズムに合わせるように、あたしの身体に、ポツン、と一滴の雫が落ちた。
「まず『生命』と言う概念が頭を垂れ……」
ポツン、とさらに、鼻の頭に落ちる水。同時に、その人はゆっくりとその陰から足を進ませる。
「それらを包み込む『世界』さえもかしずき……」
ポツン、ポツンと落ちてくる水は、リズミカルな音となり、その勢いを増して行く。
「そして最後には……『運命』さえも、その足下に跪くのだ」
――豪雨。それは、あっと言う間にこの一帯を包み込んだ夏の夕立ち。
一瞬にして、アスファルトの色が黒く染まり、着ていた服は水浸しになった。
けれど、誰一人として、その場を動こうとしなかった。まるで背中に大きなツララを入れられたかのような――そんな感覚。
金縛りにあったみたいに、そこから身体が動かない。
ピシャン、と一筋の雷と共に響く雷鳴。薄暗い世界に、灯る光。
そして、
DIO「全ては、我が足下に跪く『運命』にあるのだよ」
雷に照らされた、その顔。金色の髪に、あらゆるものを凍てつかせるような、鋭い瞳。
それが、あたしが、横に立つ承太郎さんと――いや、彼の『一族』と、100年に渡る因縁の敵である――、
相変わらず、下らねえ寝言をほざくのが好きみたいだな……DIO」
――闇の帝王、『DIO』を目にした瞬間だった。
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< To Be Continued... |
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今回はここまでです。
やっとDIOが名前付きで登場です。
未だ佐天さんはスタンドを認知していませんが、次回でようやく理解することが出来る…かな?
乙
先が読めん
DIO大胆すぎだろ‥‥
スタンドの能力には差異はあっても厳密な優劣はないのに、能力がわれてるDIOは超不利なはず
承太郎がネズミに殺されかける世界でこの不敵さか
面白い
DIOって地味に催眠術スキル持ってるんだよな
あの異常なカリスマもその辺が一因しているのかもしれない
ついにちゃんと登場ってわけですか
やりあっても楽しみだし
学園都市勢がきて回避でも楽しみだな…
jojoアニメスタートによるしょこたんのツイッターがカオスwwwwwwwwwwwwww
チョコラータ呼べwwwwwwwwwwwwwwww
あの女には荒木もヒく
>>263
身体能力では圧倒的な差があるから・・・(震え声
実質、近距離パワー型スタンドが二体同時に襲ってくるようなもんだろうし、
時を止められるということがわかっていても対処なんてできないだろ。
承太郎みたいに誰かを庇うことなんて考えられないしな
しかし100年間負けまくっといてなんでこんなドヤ顔できるんだろうこいつ
いままでの敗因全部俺Tueeeeeeeとかいって調子こいたせいだろうに
帝王かなんか知らんが進歩ゼロだな
承太郎も>>260の辺りは半笑いで相手してたかもしれない
最後に勝てばよかろうなのだァー!
バカイザーなんだよきっと、帝王だけに
お前なんて最下位ザーだwwwww
乙
続き楽しみ
>>262
ありがとうございます!
この先の展開を読んでいる人が納得してくれかは非常に不安ですが…。
>>263
なんだかんだ言ってDIOは再生能力もあり、身体能力もハンパないので、能力割れくらいのハンデあってもいいかな、と思いました。
>>264
ありがとうございます、嬉しいです!
>>265
悪の心を持った人間なら否応無く洗脳出来る特技ですし、たしかに関係あるかもしれないですね。
>>266
名前付きで出せるのを楽しみにしてました。
願わくば黒子初春コンビもカッコ良く登場させてあげたいですが…。
>>267
>>268
しょこたんハンパないですね…。
ラテアートも完成度高くてビックリしました。
>>269
あんまり意識されてる部分って少ないですけど、吸血鬼って殴った余波でディオが垂直飛びするくらい破壊力を持った存在なんですよね。
>>269さんの言うように、DIOを相手にすると考えると、『強力なスタンド二体クラス+時止め』と言う状況なので、ある意味チート的存在だと思います。
>>270
いつの時代もテッペン目指す敵って言うのは調子に乗っちゃって、大抵それが原因で負けるんですよね…。
>>271
その可能性も否定出来ないですね。
実際は殺した男が立ってれば、承太郎さんと言えど動揺はハンパなもんじゃないと思います。
>>272
カーズ並のゲスっぷりを披露させてあげたいものですが…。
>>273
上半身だけならハダカイザーになりましたね。
>>274
ありがとうございます!
こんな時間ですが、次レスより更新再会します。
◆ ◆ ◆
初めてあの殺人鬼。『吉良吉影』の姿を見たとき――ぼくは、想像していたよりも、『普通っぽい顔をしている』と思った。
しかし奴はその顔の裏に、ドス黒く、おぞましい呪いを抱え――だからこそ『恐ろしかった』。
己の内にあるものを、表面に出さず、隠し、そうして生きて来た存在が居ることが、とても『恐ろしかった』んだ。
けれど、この時ぼくは悟った。『本当に恐ろしいのは、そんなちっぽけなもんじゃあ無い』ってことを。
雷の光を受けて現れたその目は、今までぼくが見て来た悪人のどんな奴よりも冷たく、鋭い目をしていて、その姿はまるで悪魔のようだ。
そう、ぼくらの目の前に立っている奴は、人間じゃあない。その昔、人智を超えた道具、『石仮面』を被り、『吸血鬼』へとその身を変えた、一人の男。
――『真に恐ろしい相手』とはッ! 人の身にならざる存在ッ! まさに、コイツのような『化物』のことだったんだッ!
ジャリ……。
一歩、DIOが足を動かす。その瞬間、ぼくらはほとんど『無意識』に、『反射的』に、自分たちの身体からスタンドを出した。
『恐怖』による『金縛り』を解いたのは、皮肉にも更なる『恐怖』だった。
不思議だ――そして『恐ろしい』ッ!
ぼくは今『恐怖』しているッ! この目の前に立つ男に! 蘇った吸血鬼『DIO』にッ!
初めて吉良と戦い、そして『敗北』した時。しかしぼくは、さほど『恐怖』を感じていなかった。
やるべきことはやった。『時間』も稼いだ。それに何より、ぼくは決して吉良に『負けた』とは思わなかったんだ。
だから、これから『殺され』、『死ぬ』ことに対する恐怖は、さほど……感じなかった。
そう――だからこそ、怖い。
このDIOを目の前にしていると――まるで背中にツララを入れられたみたいに、身体の芯から冷たい汗が出て来て震え上がる。
『死にたくない』、そして『殺されたくない』と言う思い。
この男は、見るものに――そう感じさせる力があるッ!
酷い雨音の中に居ると言うのに、ぼくの心臓はそれをかき消すくらいに激しい鼓動を続けていた。
ジャリ! と、ぼくらの方からも一歩踏み出す男が聞こえた。目を向けると、億泰くんが拳を握り締めてDIOを睨みつけている。
億泰「てめえが……『DIO』……か……!」
その声は小さくて、拳もよく見ると震えていた。
承太郎「よせ……億泰。不用意に動くんじゃあないッ1」
DIO「そう……このDIOを相手に不用意に動くこと――それは『愚行』と言うこと以外の何者でもないぞ、『虹村億泰』」
億泰「!」
仗助「こ、コイツ、億泰の名前をッ!」
DIO「億泰だけじゃあないぞ、そこのチビは『広瀬康一』、そして承太郎の横に居るのが『東方仗助』だろう?」
そう、口の奥から、鋭い牙を覗かせ、薄く笑う。
DIO「あの忌まわしき『ジョースター』の血族である……な」
承太郎「…………」
承太郎さんの額から、流れ落ちたそれは、もう汗なのか、それとも雨なのかも分からない。
今すぐにでも肺が潰れてしまいそうなほどの『緊張感』が、この場に張りつめていた。
億泰「くッ……こ、コイツ……」
DIO「震えている、震えているぞ虹村億泰。貴様はこのDIOに恐怖しているのだろう?」
承太郎「億泰、下がっていろ! コイツの『能力』は説明したが、分かっていて超えられるものじゃあないッ!」
億泰「『恐怖』……? 冗談じゃあねえぜDIO……! コイツは、『怒り』と『喜び』の震えだぜェ~ッ!」
億泰くんがDIOに向かい、拳を振り上げた。
億泰「こいつが『親父』をッ! 『兄貴』をッ! 俺たち家族を貶めた『原因』だってならッ! この俺がコイツを倒す『義務』があるッ!」
突き出されたその『右手』は、弧を描いてDIOに振り下ろ――されなかった。
康一「えっ!?」
次の瞬間、億泰くんの両手は地面に付いていた。その正面でDIOが乾いた拍手を叩いている。
DIO「素晴らしい、このDIOの『能力』を理解していながら、それでも向かってくる様は賞賛に値するよ。だが、それは人においては『蛮勇』でしかない」
そして膝を付き、億泰くんに言う。
DIO「お前の『父親』と同じ……後先を考えない、馬鹿ということだ」
億泰「……DIOォ――――ッ!」
億泰「ごふぁッ!」
康一「うわぁッ!」
仗助「お、億泰ッ……!」
康一「こ、拳を突き出した筈の億泰くんが、次の瞬間にここまで……」
DIO「人間は脆い……。我が拳の一撃で、殆ど……動けぬ身体となってしまう」
億泰「く……畜……生」
承太郎「DIOッ……」
DIO「『何故殺さなかったか』と思っているのか?」
承太郎「…………」
DIO「人の話は最後まで聞けと父親に教わらなかったのかな? 億泰」
億泰「く……この……!」
承太郎「億泰、冷静になれ。この状況何を考えているのかまだ分からないが、奴が『話をしたい』と言うならさせてやるべきだ」
露伴「なるほど……これは『夕立』だからか」
康一「!」
露伴先生の呟きで、ぼくも気付いた。そうか、この『雨』はDIOの能力ではなく突発的なもの。しかもこれは『夕立』ッ!
長くても、一時間ほどには雲間からまた日差しが差し込んでくる筈だ!
DIO「…………」
雨は依然、強くぼくらの全身を叩いている。けれど、それは、この雨が長く続かないってことを意味してることでもあるッ!
DIO「さて、ではまず……一つ」
DIOが人差し指を立て、ぼくらをぐるりと見回し、最後に承太郎さんと視線を合わせた。
DIO「承太郎、お前には何故『十年前、お前に殺された筈の』DIOが、この場に立っていることかを説明してやろう」
承太郎「ほお……。『奇跡』のネタばらしをもうするってのか? さんざんテメーを痛めつけた後に拷問してやるつもりだったがな」
DIO「勘違いするんじゃあない、承太郎。これはお前に更なる『絶望』と言うものを知って貰う為に話してやろうと言うのだ」
承太郎「『絶望』……だと?」
そこでDIOの着ていた服の襟が、スルリと剥け、水たまりに落ちた。
康一「お、億泰くんの『ザ・ハンド』がほんの僅かだけどかすっていたんだ……!」
承太郎「!」
DIOの首もとが露出したとき、隣に居た承太郎さんから漂う『空気』が変わったことが、ぼくにも分かった。
見上げるとその目は見開かれ、歯を割れそうなほどに喰い縛っていた。
薄暗い中に、再び雷の光が放たれる。その光に照らされ、見えた首筋にあった、『星形の痣』。
DIO「そう――星の痣。『ジョースター』の血の証だ」
承太郎「何故だ……? 俺の先祖、乗っ取られたジョナサンの身体はお前もろとも灰になった筈だ!」
DIO「そう……たしかに『ジョナサンの肉体』はこのDIOの肉体と共に灰になった……。しかしジョースターの血は最早『肉体』と言う垣根を超え、『魂』と言う糸でこのDIOと複雑に絡み合ってしまっているようだな」
承太郎「テメーのようなヘドの出るゲス野郎と『魂』で繋がっているなんて想像したくもねー事実だが……そいつは『説明』になってないぜ」
DIO「承太郎……いかなる時も、『支配者』というものは、常に『保険』を掛けておくのだ」
承太郎「『保険』……だと?」
DIO「かつて革命の際に、王宮の隠し通路から逃げおおせた、とある為政者の様に……このDIOもまた、『我が血』を保険としてばらまいておいたのだ!」
承太郎「……――まさかッ! DIOッ、貴様ッ!」
DIO「そうこのDIOが掛けておいた『保険』ッ! それはこのDIOの血の『全身輸血』ッ! このDIOが万が一『死んだ』時、その『起爆装置』は作動するッ!」
段々と、分かって来た。何故、十年前に殺された吸血鬼が、何故今、この場に立っているのか。その『真実』が、その『恐るべき真実』がぼくにもッ!
DIO「その瞬間――このDIOの『魂』は、『我が血』を求め彷徨い、そして、新たなる肉体へと宿り、『生まれ変わる』のだァ――ッ!」
承太郎「なん……だと……!」
康一「そ、それじゃあ、コイツは……」
十年前、コイツは『死んだ』んじゃあ無いッ! 肉体は滅びても、『魂』は滅びずに、新たに転生していたんだッ!
DIO「もっとも……『我が血を全身に輸血して屍生人にならなかった人間は居ない』……がッ! 首を撥ね、『我が肉より作り出したパーツ』と共に冷凍保存させればすむことよッ!」
承太郎「……! やろう、『何てこと』を思いつきやがるんだ……!」
康一「きゅ、吸血鬼は強力な再生力を持っているッ! そ、その『特性』と、何よりも、この『生』にしがみつくDIOの執念が成し遂げる業ッ!」
露伴「な、なんて奴だ! 『しぶとい』なんてもんじゃあないぞッ! こ、この話が本当ならッ! いや、もうここにこの男が立っている以上、『事実』として受け止める他ないがッ!」
康一「そ、それはつまり――」
それはつまり――『無敵』ッ! そして、その『事実』は、コイツは、『どんなことをしても葬れない』と言うことッ!
DIO「『理解』したか、承太郎? 真の『支配者』とは――『死』と言う『運命』すら跪かせるのだよ」
絶望――その言葉は確かに正しいかもしれない。『無敵』。いや、そんなもんじゃあない。
こいつは、殺しても、決して葬ることは出来ない。いや、殺すことが出来ない。それはまるで――。
激しい雨はまだ続いている。これから流れ出るであろう、『大量の血』を、全て――洗い流す準備をしているように。
承太郎「とんだ驚きの事実だがな。やれやれだぜ、またテメーをばらばらにしなくちゃあなんないとはな」
再び鋭い轟音と共に、雷が光る。この場に蠢く、いくつもの感情を表すように。
佐天「……あ、悪霊がたく……さん……?」
渦巻く『不安』。
立ちはだかる巨大で、強大な『邪悪』。
間もなく始まる、『戦争』の予感。
けれど、ぼくはまだ、ちっとも分かっちゃあいなかった。
このDIOと言う男の本当の恐ろしさと、その力を。
間もなく、杜王町は『戦場』となる。
/└────────┬┐
< To Be Continued... |
\┌────────┴┘
今回はここまでです。
DIO復活については盛大に突っ込みたい所だと思いますが…。
今回で佐天さんがスタンドを理解すると言ったが……スマン、ありゃ嘘だった。
でもまあDIO復活の話をかけたんだから良しとすることでさ……。
……本当にすみません、そこまでかけませんでした。
次こそは佐天さん活躍出来る……かな?
棺の中に入れて寝起きしている故郷の土さえあれば、
死んでも土の所に魂が移動して復活する~なんて吸血鬼も世の中には居ることだし
周到に本人の血肉を保存、準備していたなら復活くらいするかもしれん問題無い
もしくは魂を出し入れ出来るスタンド使いが部下に居て魂を運んだんだよ!な、なんだってー乙
いちおつ
もう期待としか言えないが
とにかく楽しみ
そして全員にコメを必ず返す優しい >>1
乙
支配者と保険て別に関係なくね?
支配者と保険はアレだよ、凄味なんだよ!
ちゃんと保険をかけるDIOwww
DIOが保険加入!!
保険と言う字面だけ見るとなにそれ弱腰不安なの?それとも弱気なの?って感じだけど
実際問題一切油断も慢心もしないDIOとかヤバくね倒せる気がしないんですけど
二重三重どころか十重二十重に布石打ち済でこうやって出てきて教えること自体が既に王手とかさ
支配者に生まれた者が支配者なのではない、支配者で居続けられる力を持つ者こそが支配者なのだッ
最悪レクイエムでどうにかするから大丈夫
アンジェロと一緒に石の中に詰め込んどけ
DIO(神)とアンジェロ(天使)でいいコンビだろ
ディアボロ(悪魔)も埋めようぜ
ゴミ箱と化すアンジェロ岩wwww
支配者と保険の関係はわからんが自分を上に見せたいという意図は伝わってくる
ドキワク
用心深い者が勝者になるというのはひとつの真理ではある
逆に保険をかけないタイプの奴は歴史上、世界を変えるほどの活躍をしても
オセロみたいに一気にひっくり返されたり一代限りの栄光で終わったりしやすい
>>292
ありがとうございます!
吸血鬼には色々な種類ありますし、魂を移動させるスタンド使いとかもこれから出てくる可能性もなきにしもあらずですね。
問題ないと言ってくれる人が居て内心凄く安堵してます…。
>>293
ありがとうございます!
期待してくれるのはとても嬉しいです。
コメントはしてくれることがとても嬉しいので、返せる内容であれば、まとめたりすることもありますが、全部返信させて頂きたいと思ってます。
>>294
ありがとうございます!
>>295
上に立とうとする人は、とりあえず何かしら絶望的な状況に立ったときのための策を用意している~的なことを書きたかったのですが、ちょっと苦しい感じになってしまいました。
>>296
そ、そう、凄みなんです!
>>297
>>298
保険会社に行く所を想像するとなんだかDIOが可愛く思えて来ますね。
>>299
字面は確かにマイナス的な感じもしますが、『敗北』を知った上で、DIOクラスの者ともなれば、それなりの布石は用意してるんじゃないかな、と考えてます。実際この方が超慎重に動いていたら、十年前も承太郎たちに勝ち目は無かったと思います。
>>300
描写はまだしていませんが、DIOはこの場に一本、『矢』を隠し持っています。
>>301
>>302
あ、アンジェロ岩に何の恨みが!
けどたしかに神、天使、悪魔と三拍子揃ってる、厨2心を大層刺激する観光名所になりますね。
>>303
アンジェロ岩の使い道がどんどん別のものへと変わって行きますね。
とりあえずこの場でその意図が伝わって頂ければ幸いです。
>>304
ありがとうございます!
>>305
慎重に動けばそれだけリスクを減らせますからね。
今回のDIOはどこまで慎重に動くことが出来るのかまだわかりませんが…。
たくさんのレス本当にありがとうございます。
次レスより更新再開します。今回は佐天さんサイドからです。
◆ ◆ ◆
何なのこれ、意味が分からないよ。
激しい雨を受けている彼ら全員の背後には、たしかにあの『悪霊』が見えている。
どういうこと? これは――、一体なんの冗談だというのだろう。
みんなが一心に睨みつけるその先には、威風堂々たる様で佇む金髪の男性が居る。冷たい目は確かに人を離れたそれを感じさせはするけれど。
吸血鬼? 蘇る? ――意味が分からないよ。
ドクンドクンと心臓が鼓動する。あまりの衝撃に声を出すことが出来ない。理解が追いつかない。
あたし、頭良い方じゃないんだよ。誰か、説明してよ。
今一体――ここで何が起こってるって言うの?
DIO「『また』……か。随分と余裕な発言じゃあないか、承太郎」
DIOと呼ばれた男の人は、口の奥から鋭い牙を覗かせながら、そう笑った。
康一「じょ、承太郎さん! 死んでもコイツを殺しきることが出来ないなんて、一体どうしたらッ!」
康一さんも動揺を隠しきれずにそう承太郎さんに言った。彼らの話を――信じられないけれど、けれど、信じると言うのなら、今、あたしたちの前に立っている、あのDIOと言う男は吸血鬼。
そして、十年前に、承太郎さんに殺されたけれど、再び蘇ったと言う存在。
あはは、バカみたい。そんな、お伽噺みたいな――けれど、それを声に出して笑い飛ばすなんて、あたしには出来なかった。
もう、あたしにも分かっていたのだと思う。全てがリアルで、彼らが話していることも、この男が人外のそれだと言うことも。
心臓の鼓動が、肌を切り裂くようなこの寒気が、全て、あたしにそう教えていた。
DIO「横の『康一』はよく分かっているじゃあないか。そう――このDIOはすでに葬り去ることが不可能な存在ッ! 万が一にも、お前がこのDIOに勝つ方法は――十年前からありはしなかったのだッ!」
そう言い切ったDIOに、しかし承太郎さんは帽子を少し深く被り直して、
承太郎「果たしてそうか?」
そう言った。
DIO「…………!」
康一「えッ! それって!」
仗助「な、何か! 何かあるんスか、承太郎さんッ!」
承太郎「ああ……。まず一つ、決定的に『おかしい』所があるのさ……」
静かに承太郎さんは、さっきDIOがしたのと同じように、指を一本、顔の前に立てた。
承太郎「仮にテメーを殺して、すぐに肉体が『復活』するってえなら、何故あのエジプトでの戦いから十年も掛かった?」
その言葉に、DIOの表情から笑みが消え、微かに苛立を覚えたそれに変わった。
承太郎「もしもすぐに以前の……それこそ俺とエジプトで戦った時のテメーの肉体に復活するんだったら、あの後、長くとも一年以内には俺やジジイを殺すことが出来た筈だ。しかしそれをしなかったのは……」
仗助「じょ、承太郎さんッ、それは、つまりッ!」
承太郎「ああ、理論はともかく……DIOが『俺たちの前に姿を現せるようになるほど活動可能』になるまでには、少なくとも、十年近くの年月を必要としたってわけだ」
露伴「成る程ね……。十年間、コソコソと水面下で力を蓄えていたって訳か。帝王が聞いてあきれるな」
DIO「……ふ、ふふふ、ふふふ」
パチパチと、再び乾いた拍手をDIOがする。その顔にはぞっとするほどに不気味な笑顔が浮かんでいた。
DIO「素晴らしいぞ、承太郎。この絶望的な話を聞いておきながら、瞬時にその考えに至れたことは、やはりこのDIOを一度殺しただけはあると褒めてやろう」
承太郎「ほざきな、死んで、復活するまでに十年。それだけあれば、テメーが何体『残機』を残していようが……その時間内に、全て粉々にしてやるさ……。二度と、この世界にコンティニュー出来ねえようにな……」
康一「た、たしかにッ! 十年近くの時間があれば、SPW財団と協力し、DIOが『死体』を保存している場所を洗い出せるかもしれないッ! 全てを破壊してしまえば、今度こそDIOはこの世に戻って来ることが不可能になるッ!」
す、凄い、承太郎さん、なんて冷静な人だろう。まだ、あたしは――いや、誰もこのありえない状況に付いて行けていない中、一人、『慎重』に、そして『冷静』にものを考えている!
承太郎「……おい、露伴、その子を逃がせ」
小声で承太郎さんが言ったのを聞いて、数秒してから『その子』があたしだと言うことに気付いた。
佐天「な、なんでですか」
承太郎「君はまだ状況が理解出来ていないだろうが……こいつは『人殺しなんかどうとでも思ってない奴』……と言えば、少しはここが危険って言うのは分かるか?」
佐天「……ッ」
うっすらと、だけど確実だと思っていたこと。目の前に人を殺した人間が居る。それだけで、やっぱりあたしは震えてしまう。
露伴「こいつに狙われていたから、ぼくが君を連れて来たんだけどね……状況が変わった。すぐに君はこの『夕立の圏内』から脱出するべきだ」
佐天「あの人が……『吸血鬼』だから、ですか」
露伴「……! 随分理解が早いようだな」
佐天「これでも『学園都市』の人間ですから、非日常なことは慣れっこなんですよ。最も、『吸血鬼』になんてあったことはありませんけど」
必死に軽口を叩いて気持ちを落ち着かせる。そうでなければ、すぐに身体ごと心が潰れてしまいそうな気がして。
未だに悪霊は見え続けている。幻覚なのか、現実なのか。
露伴「けど、理解が早いならそれでいい。『命令』を書き込む手間も無くなる。すぐにここから逃げるんだ。下手をすれば、君が奴に取り込まれる可能性も――」
DIO「勿論、ある」
露伴「!」
露伴先生が言葉を言い終わる前に、いつの間にかDIOがあたしと露伴先生の目の前にまで来ていた。
たった数メートル! その身が近づいただけだと言うのに、あたしの喉から声が消えた。
佐天「……っぁ」
露伴「くッ! ヘブンズ・ド――」
DIO「遅い」
そう一言、DIOが短く言う。次の瞬間、露伴先生の両手から――指が飛んだ。
佐天「――きゃあああああツ!」
仗助「ろ、露伴ッ!」
DIO「露伴くん……君の『ヘブンズ・ドアー』とやらは、相手に手で触れるか、もしくは手で書き込んだ命令を元に発動するんだろう? このDIOとは言え、そのスタンドで妙な命令を書き込まれてはたまらんからな。早々に君は……リタイアだ」
ドシャリ、と露伴先生が倒れると同時に、あたしの顔にピッ、と鮮血が僅かに飛んだ。目の前の景色が、赤く染まる。
仗助「てめェ――――ッ!」
聞こえたのは仗助さんの怒声。悪霊を背に纏いながら、全力でDIOに向かって行く。
承太郎「よせッ! 仗助、今はお前が――」
承太郎さんの言葉を裏付けるように、DIOの顔が邪悪に歪む。
DIO「仗助……沸点の低い貴様なら、仲間の一人でも傷つければすぐにこうして来るだろうと思ったぞ」
仗助「言っとくがなァ~! テメーの『能力』が連続使用出来ねえってことは知ってる! テメーが『能力』を使う前に、ボコボコにしてやれば済む話だぜェ―――ッ!」
DIO「ならば……やってみるがいい」
DIOの身体からも、他の人と同じように『悪霊』が現れ、仗助さんの身体から飛び出た『悪霊』と拳を交えている。なんなのこれは――あまりにも――現実味が無い。
意識が遠くは慣れ掛けた時、ぬるり、とあたしの手を濡らす感触。
目を向けると――そこにあったのは赤。あたしの手を赤く染める――露伴先生の血。
佐天「あ、ああああ……」
激しい雨が流れる血をどんどん流して行く。黒いアスファルトの上には、切り離された露伴先生の指が転がっている。ほんの僅かに口に感じた鉄の味が――これが現実以外の何ものでもないとあたしに教えてくれた。
目の前の惨劇も、見える悪霊も、何もかも。
佐天「ろ、露伴先生……」
露伴「逃げるんだ……」
佐天「え……?」
血が流れ続ける両手を抑えながら、本当は痛みで叫び出したくてたまらない筈だろうに、それでも露伴先生はあたしに言った。
仗助が奴の気を引いている今しかない。……再び奴が『能力』を使ってしまったら勝ち目が無い! その前に、なんとしても逃げるんだッ!」
佐天「そ……そんな……あたしは……」
露伴「くそ……これじゃあまたあのくそったれ仗助に『治療』を頼まないといけないじゃあないか。……まったく、ムカッ腹が立つよ」
仗助「うぐッ!」
佐天「!」
仗助さんの鈍い悲鳴が聞こえて、意識が帰る。そして、
佐天「嘘……」
そこには、全身から血が噴き出した承太郎さんの姿が見えた。
億泰「じょ、承太郎さんッ!」
身体を起こした億泰さんが駆け寄ろうとして、それを承太郎さんが右手を突き出して制止する。
承太郎「来るなッ! 何度も言うが、『世界』の射程距離の中では勝ち目が無いッ!」
DIO「ほう……我が『世界』が時を止めた世界で、このDIOより早く『仗助を殴り飛ばすこと』で、『射程圏内』の外に追いやるとはな……」
仗助「じょ、承太郎さん……」
DIO「しかしそれ故、我が攻撃を『無防備』に喰らう……想定内のことだが……そこが貴様の、そして『人間』の弱い所だぞ承太郎ッ!」
康一「じょ、仗助くんのの能力はたしかに一番失ってはいけない能力だ……。け、けれどッ! 承太郎さんが居なくちゃあそもそもの対向が……」
DIO「『無敵のスター・プラチナ』と呼ばれているそうだが……それは貴様が一人であった時、そしてこのDIOが居ないときの話だ。貴様ら人間はいつも無駄に仲間を『守ろう』とする、それが『弱さ』だッ!」
億泰「ぐ……『弱さ』だとォ~……!」
DIO「そう、それが貴様らの弱さ、しかしこのDIOは違う! 貴様ら人間の持つ『弱さ』は、このDIOには万が一にもありえんのだァ――ッ!」
露伴「状況は……思ったよりも悪くなっているようだ……。早く、早く逃げるんだ……」
露伴先生の意識も朦朧として来ている。当たり前だ、こんなにも多くの血が流れて、しかも雨まで降っている。
佐天「どうして……」
気がつくと、声が出ていた。
佐天「どうして、こんなヒドいことするのよぉ……」
それは、自分でも笑い出したくなる程弱々しくて、震えた声。それでも、言わずには居られなかった。
そんなあたしに、DIOは言った。
DIO「お前は家に現れた害虫を殺すことに理由を考えるのか?」
佐天「……え?」
DIO「せいぜい、『刺されたら危ないな』くらいの考えだろう? このDIOもまた同じことよ」
佐天「何を……言って……」
DIO「周りに集る虫相手を傷つけることに、罪悪の湧く人間がいるのかといるか? いや――いないッ!」
佐天「……!」
狂って……る。いや……それだけじゃあない。虫、あたしたちを、そんなちっぽけなものみたいに。
コイツは、人を、他者を傷つけることに、一切の気持ちなんて湧かないんだ。邪魔だから殺す。それだけの感情しか無い。
それをはっきりと理解したとき、全身が震えた。
佐天「こんなの……どうしようも無いよ」
守りたいと思った。全部、あたしの大切なもの。ここで知り合った友達のことも、みんな。
けれど、現実のあたしはとてもちっぽけで、弱くて――無力で。
今もこうして、泣くことしか出来なくて。
悔しいよ……初春。あたしにも、ほんの少しでも、『力』があれば――、
その時、携帯がなった。
佐天「うい……はる……」
ほとんど無意識に取り出したそれに表示されていたのは、親友の名前。それを見ただけで――涙がまた溢れてくる。
初春『佐天さんッ!』
佐天「初春……あたし」
初春『大丈夫ですか!? 今、どこに――』
「初春……あたし、駄目だよ。もう……」
初春『――違いますッ!』
佐天「……ッ!」
あたしの言葉を遮って、初春が叫んだ。
初春『佐天さんが何度でも言うなら! 私だって何度でも言います! 佐天さんは弱い人なんかじゃありません!』
なんでだろう、たったそれだけで。うじうじと、また同じことを繰り返そうとしていたあたしが。同じことを言う前に――それを否定してくれただけで。
あたしの心に、また、一つの力が灯ってくる。
初春『佐天さん――今、『悪霊』が見えているんですよね?」
佐天「――っな、何で――」
初春『落ち着いて聞いて下さい!』
佐天「……っ」
初春『私は、佐天さんの『悪霊』の正体を知ってます!』
佐天「――え?」
知ってる? あたしの後ろにも居る、この『悪霊』が何なのか?
初春『それは、『悪霊』であって『悪霊』でないもの! それは、佐天さんの生命エネルギーが作り出す、パワーある『像(ビジョン)』! 『傍に立つ』と言うことから、その『像』の名を――』
驚きのあまり、声が出せないあたしに、初春は言う。凛々しく、そして、はっきりとした声で。
初春『幽波紋――『スタンド』ッ!』
『学園都市』での出来事が、頭に蘇る。
――やめてよ、そんな目で見ないでよ。
――あたしだって力があれば。
――『勇気』を持つって言うのは、難しいようで簡単なんだ。
――『守るもの』があれば、そんなもの、嫌でも出てくるもんなんだよ。
佐天「守る……もの」
この町で出会った、あたしの友達。失いたくないもの。
守りたい。その想いが、『力』になると言うのなら。
あたしの背に、ひとつの『像』を感じる。ああ、そうか、『あなたは』――、
◆ ◆ ◆
承太郎「こ、これは……!」
康一「る、涙子さん、そ、それはッ!」
DIO「ほう、中々の『大きさ』……だが」
激しい雨の中で、佐天涙子は立ち上がる。その目には確かな『意志』が宿っていた。
『勇気』とは、『怖さ』を知ること! 『恐怖』を我がものとすること!
『覚悟』とは、暗闇の荒野に、『進むべき道を切り開く』こと!
ちっぽけな無能力者の少女がいた。
力に憧れ、自分を卑下し、何度もくじけた少女がいた。
けれど、彼女は一人では無かった。
何度倒れそうになっても、道を誤ろうとしても、必ず、その手を掴んで、支えてくれる『友』が居た。
だから、彼女は立ち上がる。
佐天「『全部守る』―-そう、『覚悟』を決めたんだッ!」
その背に現れる、一体の『スタンド』。それは、彼女の『勇気』の証。『覚悟』の姿。
――『勇気』と『覚悟』が交差するとき、物語は始まるッ!
/└────────┬┐
< To Be Continued... |
\┌────────┴┘
やべ、かっけえ
今回はここまでです。
ついに佐天さん始動。スタンドの姿は、承太郎やDIOと同じ人型を想像して頂ければ幸いです。
>>332
ありがとうございます、嬉しいです!
おつおつ
続き期待してます
いやー かっこいいね
乙
すごい良かったわ。かっけぇ。
佐天さんのスタンドどうなるんだろう…
この熱さたまらんな
>>1乙!
佐天さん康一君と一緒で矢に選ばれなかったところからのスタンド発現だから成長性めっちゃ高そう
覚悟を語るとこが鎌池っぽいな
あの人の文章はかっこいい、特に覚悟を語るシーンが
熱い展開……いいねぇ!
期待してます
楽しみなのん
DIOが姫神さんに出会ったらどうなるのっと
エターナル・フォース・出番無し=DIOは死ぬ
>>346
禁書の吸血鬼と、柱の男の餌として作り出された吸血鬼では
できからして違うから反応しないんじゃねーの?
dioさま無限コンテニューかよ
>>1は両作者のどの効果音が好きですか?
荒木は『グオッパン』鎌池は『ゴッキイィィィィ!!!!!』が好きです
二人の力の相乗作用で『グオッパァァァァァァァァン!!!!!』となりさらにキャラのかっこよさも二倍三倍になりそうだぜ
あの二人コラボせんかな
えー、かっこよくね?
ぶっちゃけ荒木の効果音も鎌池の効果音も似たようなもんだろ
しょこたんwwwwwwwww
毎週あのテンションでツイートするつもりかwwwwwww
ベリッシモ面白いSSを見つけてしまったッ!
続き楽しみにしてるから途中で投げ出すのだけはやめてくれッ!
これ読んでて思ったわ
ウェザーとDIOが組んだらヤバいな
そういやぁザ・サンは何でDIOに始末されなかったんだろうな
ある意味吸血鬼の天敵だろうに…
敵対している訳じゃなかったからだろ
それにスタンド製の太陽が紫外線を放つのか怪しいし
垣根だったら紫外線と同じ波長をもつ光くらい容易にできるだろうしその他応用で弱点つき放題、DIOの天敵だろうな
80年代と違って今はちょっと専門的な電気屋なら紫外線出す目的の電灯とか売ってんだよな
吸血鬼には生き辛い世の中だ
紫外線照射は
人工の物だと出力が足りないんじゃね?
まぁ垣根さんは…チートですし…
DIOの登場で間接的に一方さん敗北の可能性が微レ存
柱の男を石化させられるのに?
この時代ならますます強力な紫外線を出せるだろうな
最高のssだな
頑張ってくれ!!
偶然目にしたんだが拳銃自殺した人がドナー登録しててその心臓を移植した人が同じように拳銃自殺したり
ピーナッツアレルギーの人の心臓を移植した人が突然ピーナッツアレルギーになったりと
移植した臓器の影響で何かしら肉体に影響を及ぼす事例があったそうだ。>>1もそれを参考にDIO復活のネタが思い浮かんだのかね?
『記憶』とはッ!脳だけに宿るものではないッ!
って事か。角膜移植だかでドナーの目に焼き付いた死ぬ瞬間の風景が見えるって言うな
>>383テレビで見たことがあるが性格が変化した例があるらしい
大人しく、酒が飲めない女性が酒飲みで粗雑になったりな
>>335
>>336
>>338
>>343
>>345
>>378
ありがとうございます、励みになります!
>>337
>>339
ありがとうございます!
佐天さんのスタンドの成長性は高いと思ってます。
>>340
『覚悟』と言うテーマは多くの作品は勿論、とあるやジョジョでは特に大きく扱われる場面なので、是非使いたいものでありました。
>>343
改めてDIOってチートすぎるなあ…と書いていて思います。
地の文が多くて読みづらいかな、と不安だったので、そう言ってもらえるとうれしいです。
>>346
>>347
>>348
このSSでDIOと会うことはありませんが、やっぱり>>348さんの言うように、出来からして反応しないんじゃないかなと思います。
>>349
ぶっちゃけSPW財団と連携しても、どこにあるか分からない『死体』を探すことは難しいでしょうね。
でもハーミットパープル使えば行けるかな…?
>>350
ジョジョは普通に『┣¨┣¨┣¨┣¨』みたいな威圧感ある効果音が好きです。
とあるは…すみません、これといって好きと言える音はないです。
コラボした姿は絶対に無いでしょうが、実現したら是非見てみたいですね。
>>355
毎週やってくれたらそれはそれで楽しみですね。
>>357
ディ・モールトグラッツェ!
続き期待してくれる嬉しいです。完結まぜ頑張らせて頂きます。
>>358
たしかにどの時間でもどこでも行くことが出来てしまいますね。
>>359
>>360
もしスタンド製の太陽でも吸血鬼にダメージを与えられたらたしかに天敵になるとは思いますが、やっぱり敵対しているわけではないので、見逃されたんだと思います。
もしDIOと垣根が敵対したら、殺すリスト最上位に入ってしまう存在になりそうですね。
>>361
GANTZでも玄野くんが電灯で吸血鬼倒してましたし、たしかに吸血鬼には辛い時代ですね。
>>362
>>363
>>364
よくよく考えれば、世界一の技術を持つ国が、紫外線照射装置で次々と吸血鬼殺していたんですよね。
数十年前の時点で柱の男を石化出来ているので、その技術を使えば、今ならもっと手早く吸血鬼を倒せるような…。
>>383
>>384
>>385
そ、そんな話があったんですか!
>>1も、オカルト的な話が結構好きなので、似たような話などを聞いたことがあるかもしれませんが、それらの話からではありません。
DIO復活について考えたのは、承太郎がジョセフを生き返らせた際の、ジョセフの言った冗談と、ジョジョの世界では、『魂』と言う概念がはっきりとした形を持って描かれていることから、血などを輸血した上でならば、復活も出来るのではないかと思いついて、このように描かせて頂きました。
たくさんのレスありがとうございます、励みになります。
返せる内容のものは返信させて頂きましたが、抜けているものがあったら申し訳ありません。
土曜日を過ぎてしまいましたが、次レスより更新再開します。
◆ ◆ ◆
初春「幽波紋――『スタンド』ッ!」
その言葉を、一番に『親友』に伝えたかったその言葉を初春が言った次の瞬間――電話口の向こうから、親友の『意識』が変わったのを初春は感じた。
通話口の向こうでは、自分が考えるよりも恐ろしい事態が起こっているのだろう。けれど、親友は立ち上がった。その事実が、何よりも初春の心に力を与えた。
黒子「初春! 佐天さんは――」
初春「大丈夫です! けどッ……」
初春の言葉と表情を見て、黒子もまた全てを察した。連れ添ったパートナーの意志を、一瞬で察したのだ。
窓の外へ素早く目をやる。しかし先程から降り始めた激しい雨に叩かれ、景色を視認することさえ困難になっていた。
黒子「列車が動くのにもまだ時間が掛かりそうですわね……」
黒子がそう歯を喰い縛る。大雨の影響で、列車は杜王町を目の前に、緊急停止していた。
雨が窓ガラスを叩く音に包まれながら、白井黒子は考える。今、自分が行うべき最良の方法は――。
もう一度黒子は窓の外に目をやった。この雨の中で、どの程度自分の体力は持つのだろうか――否、『能力』を使うことが出来るのだろうか。
しかし――、
初春「佐天さんッ!」
黒子「!」
初春が電話に耳を当てそう叫んだ。その瞬間、黒子にもほんの僅かだが、佐天の短い悲鳴のようなものが聞こえた。
黒子の中の、『覚悟』と言う名の撃鉄を起こし、引き金を引くには――それで十分だった。
黒子「初春ッ!」
叫び、初春の前に手を差し出す。彼女が『覚悟』を決めたと言うのだ。ならば友人である自分もまた――『覚悟』を決めなければいけない。
暗雲の下。豪雨の中。見える景色はほとんどないだろう。演算も困難も極める筈だ。だが、だからと言って――それが『友人を助けに行けない理由』になど、万が一にもなり得やしないッ!
黒子「行きますわよ、初春! 濡れ鼠になることは覚悟なさいな」
凛々しくも美しい、パートナーのその笑みに、初春もまた同じ笑みを返す。そして、その手を受け取った。
初春「お願いします、白井さん!」
黒子「ええ、飛ばしますわよ、初春!」
そして、風を切るような音と共に、車内の中から二人の少女の姿が消える。
◆ ◆ ◆
承太郎「スタンド……! こうなる『運命』だったのか…『彼女』が、この【杜王町】に訪れたその時から……」
立ち上がった彼女の目には、先程までのそれとは全く違う、意志の力が、『生』の輝きが宿っていた。そんな彼女を見て、もう意識は朦朧としている筈だろうに、露伴先生は微笑んだ。
露伴「やはり君も……『康一くん』と同じだ……。『やる時はやる』。君には、その、『覚悟』がある……」
そう言った露伴先生の手に、彼女は自分のワンピースを少し切り裂き、止血をした。
白く、透明感のあるワンピースは、きっと以前、友達と長い時間を掛けて選んだ『お気に入り』のものなのかもしれない。
けれど、彼女はその高そうなワンピースを、『何の躊躇いも無く、切り裂き、露伴先生の指に巻き付け止血をした』。
その光景は、まるで『我が子を助けようとする母のように』慈愛に満ち溢れている顔だった。
彼女は……もう、『覚悟』を決めているッ……! この『戦場』に足を踏み入れる『覚悟』を決めた目をしているッ!
佐天「大丈夫です、露伴先生……。あたしが、必ず『助け』ます」
そして視線の先――DIOへと、鋭い目を向けた。
一陣の風がこの場を吹き抜け、ぼくらの――彼女の髪を大きくなびかせた。
DIO「『助け』る、だと? それはつまり――このDIOを、倒そうとしているってことかな?」
佐天「…………」
一瞬の沈黙。それは当然のことだ。彼女はまだ、『スタンド』に目覚め、その力を『理解』したのにも不十分と言っていい!
そんな『生まれたて』の状態で、万が一にも、承太郎さんを始めとする、『力』の使い方を理解している者が適わない相手と――戦えると言うのだろうか。
しかし――彼女の瞳から、逡巡は一瞬で消えた。
彼女の目に宿るそれは、誰かの言葉なんかでは、もう止めることの出来ない『輝き』となっているッ!
――今、自分は戦わなくてはいけない。そして、その『勇気』が今はある。『覚悟』もある! そう、自分に言っているんだ!
今、彼女の中に、限りなく、不思議な程に静かで、大きな力が宿っているのを感じるッ!。そしてそれをそれを生んでくれたのは、彼女自身の力だけじゃあない。生んでくれたのは――彼女の親友なんだッ!
佐天「――ああああッ!」
叫び、彼女が走る。けれどその様に、DIOは揺るぎもしない。
DIO「『勇気』、か。それは『弱き人間』にとっては素晴らしい言葉だろう。しかしだ、今君がやろうとしていること、それは勇気ではない。億泰にも言っただろう、それは――」
DIOのスタンドがその拳を振り上げる。
DIO「『蛮勇』と呼ぶとなァッ!」
承太郎「よせッ! DIO――」
康一「まっ、マズいッ! エコー――」
承太郎さんとぼくの声に、『世界』のラッシュが重なる。光速とも言える無数の拳が、彼女の身体に叩き込まれ――なかった。
DIO「何ッ!?」
仗助「こ、こいつは……グレートだぜ……」
驚くべきことに彼女の身体は無傷だった。その背より現れた『スタンド』が、無数の拳を全て受け止めていた。
佐天「それくらいなら……『見える』」
康一「す、スゴいッ! 『世界』の拳の速さは『クレイジー・D』や『スタープラチナ』に匹敵するものだと言うのにッ! それを、全て見切っている!」
しかしDIOの顔からは未だに余裕の表情は消えず、承太郎さんの顔には依然――いや、先程よりも強く焦りの表情が浮かんでいた。
その様子に、DIOがこう答える。
DIO「承太郎、分かるぞ、今お前は、『せめて彼女のスタンドが『遠距離型』であったなら』……と思っているのだろう?」
承太郎「……ッ!」
DIO「だが、今のこいつのスタンドの動きを見る限り、『近距離パワー型』であるのは間違いない。すると……このDIOに対してはほぼ無意味の存在と言うことだ」
康一「――!」
そこでぼくも理解した。確かにDIOの拳を見切れたのはスゴい。けれど、どんなにスゴいパワーを持っていようが、『近距離パワー型』である以上は、『時を止めるスタンド』である、『世界』の前ではほぼ無意味ッ!
DIO「『佐天涙子』……残念だな、そして今手を合わせてみて分かった。お前の『スタンド』の持つパワーは、このDIOの『世界』はおろか、仗助の『クレイジー・D』にも劣る……。このDIOにとって――」
佐天「ッ!」
DIO「なんの『脅威』でもないッ!」
佐天「ぐうッ!」
とっさに腕をクロスさせて防御を取った彼女の身体がそのまま後方に吹き飛ばされる。
康一「つ、強いッ! やはり『世界』の持つパワーは半端なものじゃあないッ!」
DIO「しかし……君はたしかに驚くべき『才能』がある……。どうかな、承太郎たちを始末した後、このDIOに付いてくると言うのであれば……君の命は保証するが」
康一「なっ……!」
それはまさしく甘言。悪魔の取引ッ!
その声は、言われていないぼくですら、ほんの一瞬安らいでしまうほどに甘く優しい言葉。かつてDIOに尽くした者は皆、こうして意のままに操られたということなのか!
億泰「な、何を言ってやがるテメーッ!」
億泰くんが全身の力を振り絞りDIOに向かおうとした所で、
DIO「動くな」
鋭く、短い威圧。億泰くんと対称の方向に動いていた仗助くんが足を止めた。
仗助「……ッ!」
DIO「フン、小賢しい奴だ。このDIOの意識が他に向いている隙を狙って、『岸辺露伴』の治療の為に動こうとするとは……。だが一歩でもそこから動いてみろ。次の瞬間――お前が見るのは『死体』となるぞ。誰のかは言わんがな……」
仗助「くっ……」
ぶわっと、体中から冷や汗が吹き出すッ! やはりDIO、今までぼくらが出会った敵のどんな奴よりも、恐ろしい『威圧感』を持っている!
この敵を正面から見て、彼女は平静でいられるのだろうか。そう思った時、倒れた彼女が小さく言った。
佐天「さっきまで……」
DIO「ム?」
佐天「さっきまでのあたしは……『深い』……『深い霧の中にいるようだった』……。けれど」
スタンドと共に、彼女が立ち上がる。その目には、一切の恐怖は無い。
佐天「『初春の声』が、あたしの目を覚まさせてくれたんだ……」
DIO「貴様……!」
佐天「――『霧は晴れた』ッ! だからこそ分かる! 今、はっきりと! あなたは、この場で倒さなくちゃあいけない『悪』だってことが、このあたしにもはっきりと分かるッ!」
億泰「……!」
仗助「涙子……やるじゃあね~か、お前!」
佐天「だからあなたの仲間になんかならないッ! あたしは、あたしの大切な『友達』を守るために『戦う』ッ!」
康一「……涙子さん」
ぼくはただ『感動』した。この子は……さっきまでスタンドの存在すら知らなかった、『普通』の中学生だった。涙を流して、『恐怖に怯える女の子だった』筈なんだ。
しかしその子は今――絶対的とも言える、強大な存在に! 悪に! 退くこと無く、進もうとしている! 『戦おうとしている』んだ!
そんな彼女の姿を、『覚悟』を突きつけられた時、ぼくの中で――その『恐怖』に抗う気持ちが生まれた。
◆ ◆ ◆
DIO「ならばやはり……この場で始末してくれるッ!」
仗助「や、ヤバい……『時を止める』気だッ! 止められたら最後――『涙子』の奴は――」
DIO「『世界』! 時よ止ま――」
康一「エコーズ! 『ACT3 FREEZE!!』」
DIO「何ッ!?」
瞬間――時は止まり、世界から音が消える。しかしその『時の止まった世界』で一秒後に響いたのは、DIOの右腕がアスファルトの上に叩き付けられた音だった。派手な音と共に、砕けたアスファルトの破片が飛び、そして制止する。
承太郎(康一くん……!)
時の止まった世界を、『認識』出来る承太郎だけはその動きを『理解』していた。彼の、広瀬康一と言う少年の『勇気』ある、その行動が!
DIO「こ……『康一』のヤツ……いつの間にこんな『近くに』……!」
射程距離は僅か5メートルの範囲。『近づけば近づく程』、殴ったものを『重く』させる力は、この場に置いてはまさしく『諸刃の剣』。近づかなければ発動しないこの力は、『距離』を開けて戦うことを前提とする『世界』の前では最悪の相性とも言える。
普通なら、たとえ攻撃を行おうにしても、自分が能力を発動出来る限界まで『遠ざかろう』とする。――しかしッ! 今、この場で、広瀬康一は、逆に、限界まで『近づいた』ッ!
常人ならば――このDIOと言う圧倒的悪の前に立つことすら困難だろう。しかし彼の『勇気』が! 『目の前の友人』から受け取った『勇気』がッ! 彼に、DIOの警戒を潜り抜けた一つの奇襲を放ったのだ!
DIO「『広瀬康一』ッ! こんなクソみたいな能力如きで我が『時の止まった』世界での足踏みを狙おうなどとはッ! しかもこのDIOが飛び道具を使用出来ないよう、完全にこのDIOの死角に身を置いているッ! この『腕』の重さがある以上動けないと予想した上での行動かァ――ッ!」
承太郎「流石だ。君は本当に頼もしい男だ、康一くん……」
その呟きに、DIOの表情が邪悪に歪む。
DIO「『頼り』になる、だとォ~? 教えてやろう承太郎ッ! どんなに人間如きが『小細工』を仕掛けようと、このDIOの前では全て『無駄』と言うことをなァ――ッ!」
次の瞬間、DIOは、何の躊躇いも無く、『自身の右腕を切り落とした』ッ!
承太郎「なっ!?」
DIO「ククク……承太郎、人間にはこんなこと出来るか? いや、決して出来ない! いかな方法を使おうが、このDIOを止めることなど――」
承太郎「て、てめぇ……DIO……!」
DIO「不可能よォ―――――――ッ!」
ブンッ! とDIOが自分の腕を後方に投げつける。そのゼロ距離で放たれた『腕』は、投げつけられるとほぼ同時に康一の肋骨を砕いた。
DIO「『そして時は動き出す』」
康一「うげッ!」
鈍い悲鳴と共に康一の身体が吹き飛ぶ。口から血を噴き出し、派手な音を響かせながら、杜王グランドホテルの壁を粉砕した。
康一「ぐ……げほッ……」
DIO「ほう、まだ生きていたか。ほんの僅かだがお前のスタンドに時間を取られたからな。しかし、もうその小細工も通用せん。結局、お前が行えたことは、ほんの数秒、この場の者の寿命を伸ばせただけだ……」
康一に投げつけた腕を拾いながら言ったDIOに、しかし康一は血に染まった顔で、笑みを浮かべて言った。
康一「そう、……確かにぼくの行動は『数秒』、時間を稼いだだけさ……。けど、『数秒』あれば、お前の気を引きつけるのには『十分』なんだッ!」
DIO「――!」
本能的にDIOは周囲に目をやる。始めに見えたのは、スタンドと共にニヤリと笑みを浮かべた億泰の姿。そして後方には――。
そこにいたのは『承太郎にぶっとばされた筈』の仗助。そして、既に『クレイジー・D』は露伴の『治療』を行っていた。
僅か『数秒』。しかしその間に、億泰の『ザ・ハンド』が露伴と仗助両方の身体を『瞬間移動』させていた。
DIOの額を流れる、水滴。それは雨ではなく一筋の冷や汗。『クレイジー・D』の治療が終わり、立ち上がった仗助がDIOに向かう。
仗助「『能力』……は連続使用出来ねえ……そして、今、テメーはマヌケなことに『自分の腕を自分で切り落とし』ちまってるからなァ~」
DIO「く……ぐっうう!」
仗助「『戦闘力』は『半減』ってことだよなァ~……」
DIO「なっ、舐めるな仗す――」
仗助「ドララララァ――――ッ!」
DIOが構えを取るよりも早く、仗助の『クレイジー・D』のラッシュがDIOの身体に叩き込まれる。
DIO「ぐお、おぐっ! がァッ!」
DIO(は、早いッ! さっき手を合わせたときよりも格段にッ! こいつの持つ『意志』の力がッ! スタンドに更なる力を与えているのかッ!)
仗助「ぶっとびやがれェ――ッ!」
DIO「ぐぶうううッ―――!」
血飛沫を上げながらDIOの身体が空中を舞う。
承太郎「終わりだDIO……」
そう呟いた承太郎の言葉。しかしその瞬間、DIOの目にあったのは敗北者の色ではない――。
自身の方向へと飛んで来たDIOに、射程距離へと入って来たDIOに、承太郎は拳を構えた。
承太郎「『スタープラチナ・ザ・ワールド』!」
性質は違いこそすれ――それは時の止まった承太郎の世界。あらゆるものの動きは止まり、世界からは音が消える。
DIO(……!)
飛び散る血さえも止まった世界でDIOはただ『待つ』。
時の止まった世界で、承太郎のスタープラチナが拳を握り、そして振りかぶる、その刹那――」
DIO「かかったな承太郎ッ!」
承太郎「何ッ!?」
その目にあったのは狡猾なる知恵を宿した感情。『勝利』への執着を露にした赤き瞳。その瞳から放たれるのは、圧縮されたDIOの体液。
承太郎「こ、これはッ……――うぐッ!」
かつてジョナサンの命を奪った、追いつめられたDIOが発現した吸血鬼の力。石柱をも切り裂くそれはスタープラチナのガードを貫き、承太郎の首を突き抜けた。
DIO「承太郎……忘れたのか、貴様と我がDIOは『同じタイプ』のスタンドだということをッ!」
口から血を噴き出し、承太郎は膝を付く。仗助を庇った時に受けた傷と合わせ、彼の足下にはすでにおびただしい血が流れていた。
DIO「十年前と同じではないッ! 貴様が時の止まった世界で一瞬動いたように、このDIOもまたその動きを会得したのだッ!」
承太郎「ぐ……まさか、こんなことになろうとはな……すまない、仗助」
そして時の動き出す世界。瞬間、世界に音が現れ、再び激しい豪雨が降り注ぐ。
DIO「この時を待っていたぞ……承太郎ッ!」
億泰「な、なんで承太郎さんがッ!」
康一「ああ、そんなッ! そんなバカな!」
DIO「礼を言うぞ承太郎……。貴様が『時を止め』てくれたおかげで、誰一人の邪魔が入ること無く貴様の血を吸えたのだからなァ――ッ!」
承太郎の首から伸びた二本の血管をDIOが握り締め、血を奪う。かつて、十年前、ジョセフを一度葬ったあの時のように。
DIO「そしてこれで……全てが終わる……」
力尽きた承太郎の腕が、水たまりに落ち、ばしゃりと水音が響いた。
億泰「な、なんでだ……承太郎さんが時を止めたんじゃなかったのか!? な、なんで……」
佐天「目です!」
混乱を極めた場に、凛とした一言が響いた。
露伴「!」
仗助「る、涙子……? お前、何言ってんだ……?」
信じられない様子で佐天に目を向けた仗助だが、その凛とした声を崩さず、佐天はDIOを指差した。
佐天「目です。あの人の目から、まるでビームみたいなものが出て、承太郎さんの首を貫いたんです!」
静まり返る場。DIOでさえ、動きを止め、佐天の姿を凝視した。
口を開いたのは、治療をされ、意識を取り戻した露伴だった。
露伴「る、涙子くん……、一つ訊きたいんだが――何故、君にはそれが『見えて』いるんだい?」
その言葉に、場の空気は更に張りつめた。響く鼓動は最早誰のものかも分からない。バシャ、と水を踏む音がする。
瞬間的に全員がその方向を向くと、DIOが凄まじい表情で佐天を睨みつけていた。
DIO「貴様……」
最早そこから意識を忘れたように、その手から承太郎の血管を離し、僅かに承太郎の首が弾む。
DIO「今……貴様、『何と言った』のだ」
佐天「…………」
その問いに佐天は答えない。じっと、強き『意志』を持った瞳で、DIOの瞳を見返している。
DIO「何と言ったと訊いているのだァ――ッ! 佐天涙子ッ!」
吸血鬼の跳躍が、時間停止など必要ともしない速度で佐天と自分の距離を詰めた。現れたスタンド、『世界』の拳が、佐天の顔面に飛ぶ。しかしその拳に対し飛ばされる拳。
佐天「ぐ……ッ!」
歯を喰い縛ってはいるが、佐天の背より現れたスタンドが、『世界』の攻撃を防御した。
DIO「そんなちっぽけな『スタンド』如きで、このDIOの『世界』が止められると思うなど、無駄無駄無駄ァ――ッ」
飛ばされる拘束のラッシュ。それは先程撃ったそれとは比較にならない強さッ! ――しかし、
佐天「うああああッ!」
同時に放たれるのは佐天のスタンドのラッシュ。それは間違いなく、『世界』の攻撃を相殺していた。――否!
DIO「ぐぅッ!」
一発! ラッシュを潜り抜けた一発が、DIOの右頬をかすめた。ダメージはほぼ皆無の一発――しかしッ! それが意味することは、この攻撃において、『世界』の速さと精密性を、一瞬にせよ、彼女のスタンドが超えたということッ!
DIO(こ、コイツ、強くなっているッ! 先程までより段違いにッ! 力も、スピードも! 少しずつ、この『世界』の喉元へ届こうとしているッ!)
億泰「お、おい仗助……今のパンチ、お前の『クレイジー・D』より早くなかったか……?」
億泰が、僅かに震えた声でそう言った。誰一人、二人の攻防に目を奪われ、行動を移すことが出来なかった。それほどまでに、彼女の、佐天涙子の『スタンド』は急激な『成長』を見せていた!
バックステップを踏み、DIOが佐天から離れる。僅かに右頬をかすめた拳の傷から流れた血を、ゆっくりと拭った。
DIO「まるで……『悪夢』でも見ているかのようだ……」
顔を抑え、ほんの少し、俯き、低い声でDIOは話す。
DIO「唯一、『時を止めた世界』に介入する承太郎を始末したと思った矢先……『我が』……『我が時の止まった世界』に……『入門』しよう者が現れるとは……」
ぴくぴくと、顔を覆う右手が震えているのが、仗助たちにも見えた。
DIO「貴様は、絶対に生かしておけんッ!」
その右手の下にあったのは、血管の浮き出た怒りの表情。あらゆる存在をブッち切りで超越した筈の自分の力を、今、同様に発現しようとしている者がいる。
しかもそれは――先刻『スタンド』を理解しただけの、ただの小娘なのだ! その『事実』は、DIOの持つ『自尊心』を、限りなく傷つけることになった。
――威圧ッ! 圧倒的なまでの殺気。それを向けられたのは、佐天涙子ただ一人だけだったが、そのオーラを感じた仗助たちの背からも、吹き出す程に冷や汗が流れた。
DIO「たった一人でなくてはならないッ! 止まった時の中、動けるのはこのDIOただ一人ッ! それを今証明してくれるわァ――ッ」
露伴「や、ヤバ――」
露伴が警戒の声を出し切る間も無く、DIOの『世界』が時を止める。瞬間、世界から再び音が消えるた。
佐天「……ッ!」
その中で、唯一反応を示した存在。さっきまでは気にも止めななかったその存在だったが、今たしかにその世界に置いて『反応』を示したことにDIOは気がついた。
DIO「フン……『時の止まった世界』に『入門』して来たことには驚きを隠せないが、所詮それだけだ」
一歩、DIOが再び佐天のもとへと足を踏み出す。
DIO「現世に復活した後は3秒ほどしか止められなかった時も、承太郎の血を呑んだおかげで今は更に時を止められる筈だ。肉体を失っても、やはりジョースターの血はよく馴染む。十年前も言ったが……つくづくジョースターの血はこのDIOに利用される『宿命』にあるのだな」
そして、五メートルほどの感覚を開けた位置でDIOは止まった。
DIO「そう――全ての『運命』はこのDIOに味方している。先程仗助の『クレイジー・D』を叩き込まれた時にはヒヤリとしたが、結局はこのDIOが『更なる力を得る結果』になった。そしてその矢先、こうして、このDIOにとって一番の障害になるであろう者を葬ることが出来るのだ」
膝をかがめ、そのもとへ手を伸ばす。そこにあったのは砕けたアスファルト。その破片をいくつか握る。
DIO「先程の奇襲を見られた以上、最早その技を使うことは安全性に欠ける。ここはやはり……かつて承太郎にやったのと同じように、貴様に引導を渡してやろう!」
そのアスファルトの『つぶて』を見た時、佐天は理解した。これから自分の見に起こる、恐るべき出来事が。
DIO「承太郎……まだ生きているのか? 生きているなら、見ているがいい。そして『理解』しろ。誰一人守れぬ――『己の無力さ』というものをなァ――ッ!」
まるで散弾銃の如く、雨あられとDIOが石つぶてを佐天へ一直線に投げつける。ピタリ、とそれらのつぶては佐天の目の前で制止した。
DIO「貴様ら人間がたとえ全力で投げようとも、それはせいぜい大怪我ですむレベルだろうが……『吸血鬼』が投げた時、アサルトライフルの銃弾にその威力は匹敵するッ!」
佐天「……!」
DIO「全く驚かされたぞ。しかし承太郎のように、完全に時を止められる前に、お前を殺せてホッとしているよ……」
そしてさらに無数のつぶてを投げつける。
佐天「くっ……う……!」
DIO「さよならだ、佐天涙子。――時は動き出す!」
世界に音が戻り、激しい水音が奏でられる。しかしその音を切るように、重なるのは佐天の声。
時が動き出すと同時に――『スタープラチナ』に匹敵する速度の拳が、次々とつぶてを撃ち落としていく。
しかし――十年前、承太郎が全力を注ぎ込んでも、攻撃を避けきれなかったように――佐天のスタンドもまた、その全てを撃ち落とすことは『不可能』だった。
佐天「がっ、あっ!」
撃ち損じたつぶてが、次々と佐天の身体を貫いて行く。その光景に仗助たちが気付いたのは、時が動き出してからさらにワンテンポ置いてからのことだった。
佐天「っつ、うっ……!」
一発一発、つぶてが身体を貫くたびに、佐天の身体を衝撃が襲う。そして、二つのつぶてが、佐天の胸に突き刺さった。
佐天「うぐっ……!」
DIO「終わったな、では、最後にもう一発」
鋭いつぶてが、佐天の額に飛んだ。それを防御する力は――最早彼女のスタンドには残っていなかった。
佐天「あ……」
着弾と共に、額から血が吹き出す。
DIO「これで……『時の止まった世界』に足を踏み入れるものは居なくなった」
掠れるような声を上げ、佐天の身体は大きくのけぞり、水音を立て、地面に倒れた。
仗助「……る、涙子ォ――ッ!」
康一「る……涙子……さん」
露伴「そ、そんな……」
億泰「嘘だろ……オイ……」
激しい雨が、倒れた彼女の身体を叩く。その身体はぴくりとも動かない。額から流れ出る血が、何よりそれを物語っている。
走り出そうとする仗助の方を、露伴が掴んだ。
仗助「離せ露伴ッ! 俺の『クレイジー・D』で治療するッ!」
しかしその手を露伴は離さない。
露伴「無駄に意識を別に向けるなッ! その一瞬が命取りになるんだぞッ!」
仗助「『無駄』だとォ~! テメェッ、涙子のことを『無駄』って――」
仗助の怒声は途中で消えた。自分の肩を掴んでいる露伴の腕が、微かだが、震えていることに仗助は気付いた。
露伴「今のを見れば分かるだろう……彼女は……『もう』……」
仗助「――ッ! 『もう』、何だ!? 言ってみろ、俺は、絶対に涙子を助けるッ!」
仗助の頭には、吉良との戦いが頭に蘇っていた。あの時も億泰は生きていた。死んだと思っていても、生きていたのだと。
しかし、露伴の言葉が、仗助を現実に戻す。
露伴「そんなことを言ってるんじゃあ無いッ! 承太郎さんを助けられるのはお前しか居ないんだッ」
仗助「な……承太郎……さん……?」
DIOの足下に倒れる承太郎。その指が、ほんの僅かに動いたのを仗助も捉えた。
目を見開いた仗助に、露伴が小声で続ける。
露伴「見えたか仗助。さっきの彼女の発言に気を取られ、DIOの奴、完全に承太郎さんを殺すことが出来ていない」
仗助「……ッ!」
露伴「『時を止められる』DIOを殺すことが出来るのは承太郎さんしか居ないッ! これは彼女が『切り開いてくれた道』だッ! それを不意にするつもりか仗助ッ!」
仗助「く、くそ……」
露伴「『合図』をしたら、お前が動くんだ。その時は確実に、奴はぼくを襲ってくる……もう、奴が再び『時』を止められるまで『時間』が無いッ」
仗助「なッ、ろ、露伴ッ!」
露伴「くらえDIO! 『ヘブンズ・ドア――ッ!」」
露伴が凄まじい早さで腕を動かす。書き込むのは命令。しかし攻撃ではない。それは『合図』ッ!
仗助(く、くそったれがァ――ッ)
歯を喰い縛り、仗助が走る。
DIO「ほう、そうか、たしかに君の『能力』ならば、一度当てればこのDIOすら太刀打ち出来ないものになるが……」
すでに余裕を取り戻したDIOは、緩やかな動作で『岸辺露伴へ狙いを付けた』。
露伴「くっ!」
歯を喰い縛り、焦りを浮かべた露伴の顔は、本物でありながらフェイク。狙い通りにDIOは仗助から露伴へと意識を移した
億泰「く、くそっ!」
同時に億泰が駆け出し、承太郎と億泰の間の距離を削り取り、少しでも早くその場所へと仗助を導く。動けるものはもう『三人』しかいない。
これが、正真正銘、彼らの最後の『賭け』だった!
ビュン、とDIOの顔面に『命令』の文字を飛ばす。しかしDIOの持つ圧倒的な身体能力の前に、その『命令』の文字は避けられ、空を切った。
DIO「所詮、人間の限界だよ」
露伴「うぐッ!」
DIOの『世界』が、再び露伴の両手を飛ばす。激しい痛みが、露伴に走った。
しかし飛び散る血飛沫の中――その隙間から、露伴は、仗助があと一歩の所で承太郎の元へ辿り着こうとしている光景を見た。
想いを託し、露伴はゆっくりと目を閉じる。
露伴(間もなくぼくは『死ぬ』。しかし、康一くんが、そして彼女がしたのと同じように、ぼくもまた、『道』を開いた。これでいい、これが、最良だ……)
DIO「――と、でも思ったのか?」
露伴「!?」
閉じた瞳を露伴が見開く。そこにあったのは、『絶望』。
あと一歩。承太郎のもとへ辿り着こうとしていた仗助の前に、DIOが腰に手を当て立っていた。
仗助「ぐ……DIO……!」
DIO「惜しい、惜しかったな仗助。あと一歩、早ければ『承太郎』を助けることが出来たのになァ~」
露伴(き、気がついていた。DIOは、こちらの出方を全て分かっていた……! お、終わりだ……もう……)
DIO「そしてこれで、ジョースターの血がまた一つ消える……。さらばだ東方仗助ッ!」
仗助に振り下ろされた拳。――それが、『空中で弾かれた』。
DIO「何ッ!?」
DIOが、その方向へと目を向ける。そして、信じられないものを見た。
仗助「る、涙子……!」
そこにあったのは、血の流れ出る額を抑えながら、しかし膝を付き、起き上がった佐天の姿。
DIO「ば、バカな……! 間違いなく、あのつぶては頭を貫いた筈…!」
足下をふらつかせながら、か細い声で、佐天は言う。
佐天「初春は……『傍に立つ』から、この力を、『スタンド』と言うって教えてくれた……」
DIO(あり得ないッ! 何故、コイツがここに立っている!?)
佐天「けど……それだけじゃあない……」
DIO(こ、コイツは、コイツは――)
だんっ、と両足を地面に付け、佐天涙子は『立ち向かう』。
佐天「『スタンド』は、大いなる意志ッ! 邪悪なる敵にッ! 強大なる悪にッ! 『立ち向かう』意志のことなんだッ!」
意識は朦朧としていた。身体には、至る所に穴が空いている筈だった。
それでも、彼女はそう言った。
DIO「こ。この……くたばりぞこないがァ――ッ!」
佐天へと飛ばされた『世界』の拳。その拳が、空を切る。
DIO「なっ!?」
満身創痍の筈だった。あと一撃で死ぬ。像が蟻を踏み殺すことよりも簡単な動作だった筈! 自分の『世界』の拳は、確かに佐天涙子の心臓を貫く筈だっただ。
DIO「な、何故……!」
「――佐天さん、あなたは本当に強いお方ですの。あなたの友人の一人で居ることを……とても誇らしく思いますわ」
DIO「!」
背後から聞こえた、佐天涙子のものとは違う、少女の声。
「これで……止血は出来ました」
さらに、前方には、先程まで影も形もなかった少女が一人、露伴の腕を止血していた。
DIO「な、何が……何が起こっている……!」
露伴「き、君たちは……」
そう問いかける、露伴に、二人の少女はほんの僅かに笑みを浮かべる。
「学園都市外なので、管轄外ではありますが――あえて、言わせて頂きますの」
腕に掲げるのは、『盾』の紋章。その腕章を握り、二人の少女は言う。
初春・黒子「風紀委員【ジャッジメント】です(の)ッ!」
/└────────┬┐
< To Be Continued... |
\┌────────┴┘
今回はここまでです。
ついに黒子初春コンビも参戦です。
今更だけどヘブンズ・ドアーって指で絵を描いて見せるだけで本にできるだろ
乙
やっぱりカッコイイな…
カッコイイ…
展開がちっとも読めなくて
すごい面白いんでその文才を下さい
やべぇ熱い
乙
乙
すごく見入るな
幻想殺しは生命エネルギーの塊である幽波紋との相性は最悪だね
もしこの後上条さん出て来ても、雨の日の大佐の如く何も出来ずに再起不能しそう
佐天の背後に「ゴゴゴゴゴゴ……」って文字が見えてきた。
佐天クッソ強いよ
電磁砲Sの最終回でパワードスーツ軍団相手に金属バット一本でヘイトコントロールしたりパイルバンカーロボ乗り回して敵の戦車スクラップにしたりここぞという時の爆発力ハンパない
>>1の他の作品あったら教えてほしい
内容も素晴らしいが、コメントに対して全レスする>>1に和む
>>432
生命エネルギーってだけで幻想殺しが通用しないなら、
理論尽くという設定であるあの世界の超能力にも幻想殺しは通用していないよ。
つまりはそれって単にJoJoの方におまいさんが思い入れがあるってだけの結論。
まあ、幻想殺しは右手だけ有効ってだけなんで、
「スタンド抜きの素手でも強いJoJoキャラに上条当麻が大幅に不利」
なんで「速攻再起不能に成りそう」というならガチだが。
追いついたぜっ!!
DIOは慢心してこそですよねー
やっぱり目ビームの不意討ちの攻撃翌力ヤバいな
ストレイツォ明らかに使い方間違ってるだろ
しかもパクった技に勝手に命名するセコさ
「お前は盗んだんだ、世界を、そこの住人を、盗み出した玉座の上で一人踊っていた泥棒の王だ!」
中の人つながりでパロったがあんまり間違ってないよね
因みにキリトはディオの取り巻きのそこに痺れて憧れた人だったりする
>>437
まあ、そもそも身長差約30cmで体重も約30kg前後の差がある上にスタンド能力抜きでも複数の不良やヤクザ相手の喧嘩で『掠り傷すら負わない』ような相手に正面から殴り勝つような実力は上条さんには無いからなぁ……
上条さんが殴り勝てる可能性のあるジョジョって誰だろ?
佐天さんまさかの時止めか
DIOや承りとほぼ同じタイプのスタンドだな
>>441
体格的にはジョルノなら・・・・とは言う物のやっぱ瞬殺されそうなんだよな。
パチモンであるところの「王様の仕立て屋」のジョナタ・ジャイオッティーにも瞬殺されそうだww
やたらと佐天を誘惑するDIO
もしかしてロリコンなのか?
いいえマザコンです
一部でもポコの姉口説いてたしな
次が早く読みてぇ……
佐天さんがかっこいいな、スタンドの名前と容姿の詳細が待ち遠しい
これは禁書側の時系列だとテレスティーナ倒す前くらいかな?
ふたりはジャッジメント rail☆GAN
DIOの女の子相手でも全力を出す姿勢すき
運命すら膝間づいた割にはやたら苦戦しとるな
スタンドに目覚めたばかりでラスボス戦って、かなりきついよな……
佐天さんステータスがレベル1じゃねぇ!!
初期勇者が魔王と張り合っちゃってるよ!!
冷凍しよう
赤ちゃんがパーティ全滅させかねないような世界だし
>>427
空中に絵を描いて見せた時の段階では、露伴が『波長の合う者限定』と言っていたので、今回はそれ以降に用いた『波長の合わない者』でも使用出来た『文字』を飛び道具として使うことにさせて頂きました。
でも今の露伴なら絵を見せただけで誰でも本に出来そうではあるので…そこは配慮が足りませんでした。
>>428
ありがとうございます!
拙い文章ですが、楽しめて頂けているなら幸いです。
>>429
>>430
>>431
ありがとうございます、嬉しいです!
>>433
そんな感じで威圧感ある効果音を想像して欲しいです。
>>434
金属バットでパワードスーツ破壊したのにも驚きましたが、その後の巨大ロボ操縦には最早度肝を抜かれましたね。
>>435
最初の方でも少し書きましたが、>>1はこのSSが二作目の超初心者でして…しかも一作目はマイナーゲームの無駄に長いSSであったので、このSSを見に来られている方の色には合わないんじゃないかなーと……。
>>436
ありがとうございます! チョイと返す内容が思いつかないものは、そのままにさせて貰ってますが、コメントしてくれるのは嬉しいので、出来るだけ返させて頂こうと思ってます。
>>438
ありがとうございます!
慢心のしていないDIOは想像出来ないので、むしろその慢心こそが彼の強さであり弱さでもあると思ってます。
>>439
非常に強力な技なのに、三部では吸血鬼の力がほとんど使用されなかったので、使わせてもらおうと思いました。
ストレイツォは内心、『石仮面被ったらこういう技名にしよう』、とかワクワクしてたのかもしれませんね。
>>440
す、すいません、SAO全然知らないんです…。
主人公クラスの人が、別作品ではモブの声もやっているんだなあ……と思いましたが、伝説に近いセリフを言う存在なので、間違いなくモブの扱いではないですね。
>>442
時止めをほのめかす描写はしていたので、明言出来る時を楽しみにしてました。
>>454
>>457
承太郎一行は絶対に引っかからない相手ですし、佐天さんなら簡単に引き込めると高をくくっているんだと思います。
絵面的にはロリコン以外のなにものでもありませんが…。
>>455
一部では母に対しては人並みに想っている場面もありますし、『環境で悪になった』と言うのも、僅かにあるかもしれないですね。
>>462
ありがとうございます! でも今回少なめです。
>>464
スタンドの容姿も名前も一応考えているのですが……出すべきかは悩んでいる所です。
禁書の時系列については、原作が夏はみっちり詰まっているので、あまり深く考えないで頂ければ幸いです。
>>465
その衣装を着た二人の姿もちょっと見てみたいですね。
>>467
老若男女構わず、、自分に邪魔な存在だったら全力で叩き潰す姿も、彼の魅力の一つですよね。
>>468
そ、それでも現在DIOはほぼ無傷で、承太郎側は康一、露伴、承太郎の三人がほぼ戦闘不能状態なので!
>>469
>>470
>>472
実際にこの方と渡り合えるステータスは並大抵のものではないでしょうね。
十年修行を積んだポルナレフが一撃で戦闘不能になるクラスの相手ですし…。
それに比べ、スタンドに目覚めて比較的日の浅い承太郎がDIOと渡り合えているのもジョジョの世界ならではだと思ってます。
>>471
しちゃいます。
たくさんのレスありがとうございます。
短めですが、次レスより更新再開させて頂きます。
DIO「『ジャッジメント』だとォ~? まさかこのDIOを裁くつもりじゃあ無いだろうなツ!」
本能的にDIOが警戒を強めたのは、自身の背後にいきなり現れたツインテールの少女(前方に現れた花飾りは、瞬間的に取るに足らない存在と判断した)。
DIO(突然現れたコイツの『能力』……瞬間移動のスタンドか? しかし……スタンド像は見えん)
一発、DIOが『自身の』拳を黒子に振り上げる。ブンッ、とそれは先程と同じように空中を切り、水滴を散らした。
DIO「ムウッ!」
DIOが声を上げ、周囲を見渡したとき、既に『世界』の射程距離を大きく離れた場所に、黒子と佐天が移動しているのを認めた。
DIO(やはり『瞬間移動』ッ! 理屈は分からんが、コイツは自由自在にある程度の距離を瞬間移動出来る『能力』を持っている。さらに今『佐天涙子』と共に自身を移動させていることから……『触れているもの』も共に移動させることが出来ると言うことか)
DIO「……面白い」
黒子「――ッ!」
DIOが白い牙を妖しく口の奥から除かせると同時に、反射的に黒子はさらに二回に分けてテレポートし、DIOとの距離を更に開けた。
黒子「し、白井さん……」
黒子に抱えられた佐天から、細い声が聞こえ、黒子はその手を強く握った。
>>479
すみません、佐天さんの表記黒子にしちゃいました。
黒子「あまり喋らないでくださいな。その傷……素人目に見ても重傷と言うことは丸わかりですの」
自分の呼吸が荒れたのを気付いたのだろう。しかし今、彼女に自分を気遣わせるわけにはいかない。気を奮い、あくまで冷静に黒子は努めた。
黒子が抱えた佐天の身体からは、未だにおびただしい量の血が流れ、身体中には痛々しい傷が出来ている。
思わず目を逸らしたくなるものであったが――しかし、その姿を白井黒子は自身の瞳に焼き付けた。
それは、友人の勇気の象徴であり、そして、戦って来た証拠なのだ。
黒子(佐天さんがここまでのことをやっているのに……『怯えて』どうするのですの、白井黒子ッ!)
歯を喰い縛り、ちらりと後方に居る初春に視線を送る。すぐに初春が頷いた。
白井黒子は考える。この場で行うべき最良の方法とは。
『予備知識』は可能な限り、脳に刷り込んで来た。
初春がSPW財団にハッキングを掛けなければ――『スタンド』を知っていなければ、今、自分は一瞬のうちに、何が起こったかも分からず、四肢をもぎ取られていたかもしれない。
目に通したDIOのスタンドの射程距離。しかし今――それを遥かに超える距離を無意識に『演算』したのは、圧倒的なまでの『恐怖』をこの場で味わったからだ。
威嚇にもならない拳だった。それは人間が振うものと変わらない――幾度も『学園都市』で捌いて来たそれと同じ。
この程度なら、と黒子の中に自信が生まれた。
仮に『時』を止められたとしても、その行動に入る前に、警戒を最大限にすれば、その前に射程距離の外に自分は飛べる筈だと――そう考えていた。
しかし、
――面白い。
そう呟いたDIOの顔を正面から見たとき、身体の奥底から、今まで、決して味わったことの無い恐怖が胸の内から込み上げて来た。
悪魔、そうとしか思えないその眼差しッ!
自身が今、向かい合っている相手は、人外のそれだと言うことを、心の底から理解させた。だが、それは――、
黒子「……上等、ですの。風紀委員の名にかけて、この白井黒子――極限まで、命を掛けて戦いますわ!」
同時に、それはッ! その恐怖は、黒子の魂の奥底に、それに『抗う』火を灯した!
ゆっくりと佐天の身体を下ろす。ほんの少しだけ、辛抱して下さいと囁き、DIOを睨みつける。
『時を止める』男。それは学園都市のどこを探しても居ない能力者。加えて、自分には認識不可能攻撃不可能の『スタンド』なる力を操る存在。
黒子(ですが、能力の本質が見えていないのは――)
黒子「お互い様ですことよ!」
肩に掛けたバッグより取り出したのは、A4ほどの大きさの冊子。
黒子「ええ……わたくし……少々、『甘すぎた』ようですの」
『覚悟』は決めていた。しかしそれはあくまでも、『友』を救う為のもの。しかしこの場で必要だったもう一つの『覚悟』は足りなかった。
しかし、今ッ! 絶対なる悪を! 人の道を外れた、文字通りの『化物』を前に、黒子の中で、もう一つの『覚悟』の灯火は燃え上がったッ!
黒子「……お分かりですか、ええ、何の変哲も無い。『スケッチブック』ですの。発売から半世紀たつ今も、様々な人に愛用されているツインリング式ですわ。ですがわたくしにとって――これ以上の武器はありませんの!」
DIO「!?」
黒子が右腕をそのスケッチブックの中に伸ばした瞬間、DIOの右腕が千切れた。
DIO「な、なに――」
声を上げる間もなく――左肩、右足、と次々と身体が切り刻まれて行く。
黒子「わたくしの能力は空間移動【テレポート】。読んで字の如く、空間と空間の間に『物体』を移動させる力。紙キレ一枚あれば――ダイヤモンドも切断可能の技ですわ!」
億泰「す、すげェッ! DIOの身体がどんどんバラバラになって行きやがるッ!」
そう歓声を上げた億泰の言葉に、黒子は微笑を浮かべる。
黒子「億泰さん――あなたの『ザ・ハンド』も『瞬間移動』を行えるようですけど、単純な早さ、精密性なら、わたくしの方が高性能ですわよ!」
しかしその内で、止まらないのは激しい心臓の鼓動。
一秒に満たない間に、切り刻まれるのはDIOの肉体。肉片となっていく男を前に、黒子は必死に理性の箍を押さえつけていた。
頭では、眼前の男が化物であることは理解している。しかし、彼女はまだ、十三歳の少女でしかない。
いかに誇り高い正義の心を持っていても、彼女はそのために、本当の意味で、『他者を傷つけた』ことなどない。
守るためにある力。しかしそれは、他者を傷つけることと紙一重。
億泰に軽口を叩いたのも、必死に自我を保つため。一歩間違えれば、自分もその『化物』の道に足を踏み入れることになるのだ。
人の姿をしたそれが、自分の力で少しずつその形を失って行く光景を前に、黒子の心は切り裂かれて行く。けれど彼女は攻撃を止めない。その『覚悟』を決めたのだ。
そう、もう一つの『覚悟』――それは、『命』を奪う、と言う常識を外れた行動のそれ。
DIO「ぐっ! ヌゥウウ……!」
黒子「仗助さんッ! 今ですの! 今なら『時を止め』ても貴方に手出しする術はありませんわ!」
黒子の言葉に仗助は我に帰る。突然に現れた少女。しかし彼女は、名も知らぬ少女は今――決死の思いで道を切り開こうとしているのだ。
仗助「ああっ、分かったッ! 誰だか知らね~が恩に着るぜッ!」
目的はただ一つ、『クレイジー・D』、東方仗助を、『スタープラチナ』、空条承太郎のもとへ導くこと。
黒子(奴に勝てるのは、同じ力を持つあの方のみッ! まだ生きているのであれば――)
その時、ヒュン、と風を切る音が聞こえた。その音に、違和感を抱いたのは黒子だった。自分のテレポートは無音では無い。しかし今の音は――自分が行っていたテレポートと、『タイミングが外れていた』。
黒子「今のは――」
そう黒子が口にした時、無意識に膝が崩れた。
黒子「……?」
仗助「なッ!」
初春「――白井さんッ!」
仗助の声、初春の悲鳴を聞いて、そこで黒子は自分の身体に起こった現実を認識した。
意識すると同時に走る堪え難い激痛。その細い身体の腹部に――、一つの穴が空いていた。
初春「い、いやぁああああッ! 白井さんッ! 白井さ――」
黒子「――黙りなさいッ!」
初春「……ッ!」
黒子「わたくしの心配などせず、あなたは怪我人を……げぼッ!」
初春の悲鳴を、懸命に止めようとした黒子の言葉は、吹き出た血にかき消された。視界は急に靄が掛かったかのように薄らいだ。
DIO「見えなかったか、ただ『石のつぶてを一つ、投げただけ』なのだが」
露伴「こ、これはッ! 切り刻まれたDIOの肉体が蠢いているッ! しかも腕にいたっては繋がっていた時と同じように動いているぞッ!」
DIO「こんなチンケな技で、チョイとでもこのDIOにダメージでも与えられると思うなど、無駄無駄無駄ァ――ッ!」
露伴「き、切り離された腕さえ自在に動かし、『つぶて』を投げてあの少女を攻撃したのかッ! 恐るべきは吸血鬼の人外の能力ッ!」
黒子(吸血鬼……ここまでとは……ッ!)
DIO「お前の目的は、その『力』を使い、承太郎と仗助を安全地帯まで『瞬間移動』させることだったのだろう?」
黒子「……ッ!」
消えかかる意識を、黒子は舌を喰い千切るほどに噛み、堪えた。
11次元演算は、ほんの僅かな衝撃で使用が出来なくなる危うげな剣。しかしその剣を振うために、友のために――自分はここに来たのだ!
しかし、その鋼の意志を砕くかのように、DIOの口から吐き出される『絶望』の言葉。
DIO「こいつはもう『死んでいる』」
黒子「え……」
億泰「な…に……?」
仗助「じょ、承太郎さん……!」
露伴「…………」
ザアアア……。
激しくアスファルトを叩く雨の音が嫌に耳に響く。それが意味することは静寂。誰しもが言葉を失くしていた。
そのうちにも、切り刻まれたDIOの肉片から伸びた触手は、少しずつ身体と身体を繋ぎ止め、肉体を再構成していく。
仗助「……そ、そんなバカなッ! まだ、承太郎さんは生きているッ!」
必死に頭に浮かんだ考えを取り払うように、仗助が叫ぶ。しかし聞こえるのは雨音に混じる――DIOの低い笑い声のみ。
承太郎の身体はもう――、指一本も動いていない。
仗助「嘘……だろ」
DIO「呼吸、心臓共に止まっている。脈拍も無い。今しがたコイツは――死んだのだ。残念だったな、仗助」
そして、切り離された右腕が、仗助の肩を叩く。
DIO「あと『ほんの一瞬早ければ』、承太郎を助けることが出来たかもしれないのにな」
その言葉に、仗助の瞳が燃える上がった。しかしその炎は我を失うものでは無かった。
承太郎は死んだ。そのことを脳内に刻み付けた今、仗助の心は、燃え上がる瞳とは対照的に水を打ったように静かになっていた。
その中で、沸き上がるのは静かな怒り。その怒りが、仗助の身体を、脳を、あるべき姿へと冷静に動かした!
瞳に焼き付けたDIOの姿は今、滑稽なほどにぐらつく肉片を繋ぎ止めているのだ。『時を止める』から何だと言うのだ。
承太郎が居ないから倒せない? ――馬鹿を言え!
仗助「――そんなことで、俺の『意志』はッ! 『クレイジー・D』はッ! 砕けねェ――ッ!」
長いように感じた一瞬の出来事。名も知らぬ少女が与えてくれた最大の好機。絶望に打ち拉がれて、この『時』を逃すなど――ただ敗北を待つなど誰がするものかッ! 今、自分が一番に行うべきことは――、
仗助「テメーの腐った脳みそに、拳をぶちかましてやることだァ――ッ!」
DIOの顔面へ飛ぶ、時速三百キロをゆうに超える高速の拳。その拳は、確実にDIOの肉体を粉砕する――『筈だった』。
仗助「な……なん……」
DIO「無駄無駄無駄ァ~ッ!」
露伴「ば、バカなッ! 『クレイジーD』の拳がッ! 腕がッ! 『凍っている』ッ!」
仗助「…………!」
一瞬ッ! 僅かな一瞬! それはあまりにも予想外の攻撃ッ!
仗助が『クレイジー・D』の拳を放ったその瞬間に――『切断されたDIOの右腕が、仗助の腕を凍らせた』のだ!
露伴(スタンドはスタンドでした触れることが出来ない! しかしッ! スタンドの使い手である本体の身に異常が起これば、スタンドもまたダメージを受けるッ! や、奴は一瞬で仗助の腕を凍らせ、『クレイジー・D』を無効化したのかッ!)
ピキピキと鳴る音と共に、仗助の身体は異様な速度で、拳からその肩に至るまでを氷づいた。
上末「こ、凍るッ! ま、まだ止まらねえッ! 身体が、『凍って行く』ッ!」
DIO「フン……切断された腕ではこの程度か……まあもうそのことは気にしなくていいぞ、仗助。すぐに楽にしてやる」
億泰「じょ、仗助ッ! くそッ! 『ザ・ハンド』ッ! DIOの腕を削り取れェ――ッ」
しかしその距離は瞬間移動を加えても足りない。
DIO「遅いわこのウスノロがァ――ッ! これで、完全にチェックメイトよッ! 『世界』ッ! 時よ止まれ!」
怒声を上げるつもりで開かれたであろう仗助の口からは言葉が出ない。その喉から現れるのは、数秒後、怒声ではなく悲鳴になるのだ。時が止まり、雨音は消え、静寂を極めた世界。
眼前で凍り付く仗助を前に、DIOは勝利を確信した。
DIO「承太郎にも言ったが、ジョースターの血統のものだけは手加減せずに一気に殺すッ! 我が運命に現れた天敵どもよ!」
そして繋ぎ止めた右腕の手刀を、
DIO「――さらばだッ!」
DIOは緩やかに――振り下ろせなかった。
DIO「何ッ!?」
まるで強力な力で身体全体を引っ張られているかのように、動きが鈍い。
DIO「こ、この感触ッ! ――ま、『まさか』ッ!」
ポタリ、音の消えた筈の世界で、背後から聞こえたのは、『血の雫の落ちる音』。
佐天「これが……『止まった時の世界』を歩く感覚、かぁ……」
DIO「……貴様ッ! 『佐天涙子』ッ!」
僅かに首を後ろへ動かしたDIOと、佐天の瞳が交差する。
佐天「あたしが『時を止めた』……」
おびただしい血の雫を落としながら、佐天涙子はDIOを指差し言う。かつて、十年前、承太郎が言ったように。
佐天「――ここからあなたを倒すのに、一秒もかからないッ!」
/└────────┬┐
< To Be Continued... |
\┌────────┴┘
乙MAX
今回はここまでです。
佐天さんついに時止め。
もうすぐラストバトルです。
>>500
ありがとうございます!
こんなにポンポン時止めて良いのかよ?!
待っておる
おっ…乙…
マジですごいわ
佐天さんかっこいいイケメン
いちおつ!
やべぇ、劇画調の佐天さんが脳内再生されるwww
最初から手加減するなよwwwwwww
吸血鬼の生命力も極めて脅威だがその領域に自力でたどり着いた病理って…
あいつ上半身潰されても別の脳を製造してなおかつ能力まで使ってくるんだぜ?発想のスケールが狂っとる
サテンサンはハガレンのラース的な「異常に良い眼」系能力で
あくまで視覚だけの入門限定かと思ってたら普通に自分から「時止め」できるのな…
「時間を止める能力(世界)」「光速越え(スタプラ)」以外の方法で
時間停止ってどうすればいいのかいまいち思いつかん。期待。
プチMIH+タスクACT4みたいな感じで無限の重力を利用して自身の時間を極限まで加速することで「静止した時の世界」に入ることができるとか。重力が云々っていえばジョジョ的には理屈付けはできそうだ。
話は変わるけどやっぱり佐天さんのスタンドの名前は作中で出してほしいな。ジョジョだと大体名前が明らかになるし。
スタンドと超能力って思考回路とか真相心理とういものが能力の方向性を決めるという点では似てるよな
スタンドを学園都市風に解釈するとエクトプラズムによる疑似物質といったところか
テレポートでも十分the worldのスタンドスキルに対抗できると思うがな
さすがの白井も人殺しはキツイか
>>513
全身バラバラにしたのに人殺しキツイとかギャグか?
相手が人型だし全身バラバラにしてまだ動けるなんて思えないだろ、人外について詳しく知ってる訳でもなしに
滝壺「体晶レロレロレロレロレロ!!最高にハイ!ってやつだァ―――――――ッ!!!!!」
>>516
吹いたw
>>503
DIOはタクシー代わりに襲った車の上院議員に、運転させるためだけに、何回も時止めを繰り返していたような方ですので。
案外解時止めって気安く使っちゃうものなのかもしれないですね。
>>504
>>505
ありがとうございます!
>>506
ありがとうございます! ジョジョ風佐天さんも見てみたいですね。
>>507
承太郎と戦ったときも、スタープラチナがどの程度強いのか、時止めを使わずスタンドだけで試していた人なので、仗助もそのノリで……ということで。
>>508
世界のテッペン狙う人は、このくらい『生』に貪欲な方がいいんじゃないかなと思いました。
>>509
>>510
佐天さんの時止めについては一応解説(らしきもの)を入れますが、そこまではっきり考えるものではないです。
前回佐天さんのスタンド名を出すかどうかと書きましたが、名前を出さないと説明が付かない流れになってしまったので、容姿とセットで今回出させて頂きます。
>>512
荒木先生曰く、『世界』は、DIOの、時の支配から逃れたいと言う潜在意識から、と言う話ですし、そのような意味では、スタンドも学園都市の超能力も根っこは同じみたいなものかもしれないですね。
>>513
>>514
黒子の性格から考えて、相手がどんな凶悪な存在でも、死なないと分かっていても、身体を切り刻むような行為を、何も思わず瞬時にやれるとは思えず、また、スタンドを理解していても視認出来ていない立場であるので、あくまでサポートに回るつもりでと、このような描写にさせていただきました。
>>516
>>517
浜面さん、一刻も早く止めて下さい。
たくさんのレスありがとうございます。
次レスより更新再開します。色々と気になる部分などあると思いますが…。
時の止まった世界。止めたのは自分では無かった。止まる時の中、僅かに動く力を会得したことが、その判断を鈍らせた。
DIO「まさかッ! この短時間でッ! 『時を止める』力を発現するとはッ!」
佐天「あなたが何度も見せてくれたおかげだよ……。おかげで、『コツ』を掴むことが出来た」
その言葉に、DIOは戦慄する。妙だとは思った。佐天の『スタンド』を、その背に現れた『スタンド』を見た時から、妙だとは思ったのだ。
近距離パワー型であることは一目で分かるそのフォルム。しかし、その姿は――僅かではあるが、自分の『世界』に似た形をしていたのだ。
それは、承太郎を始めとする他の人間には分からなかったであろう、微々たる類似点。しかしッ! その『スタンド』を持つ自分には分かったのだ。
その『スタンド』が、己の持つ『スタンド』と、不思議な関連を持っているであろうことに。
そして今ッ! DIOはその感覚を理解した! 彼女の持つ、『スタンド』と、自分の持つ『スタンド』の、『運命』とも言えるその糸の正体がッ!
DIO「こ、このDIOのスタンド、『世界』は、タロット大アルカナで表記される21番目の存在ッ! この世に同じカードは存在しない筈! し、しかしッ!」
時を統べる力を表した自身の黄金のスタンド。それに対するように、佐天の背に立っていたのは、その不屈の精神を表すかのような、黒鉄のスタンド。その手には――その力を表すかのように、時計の紋様が現れていた。
DIO「タロットには、『正位置』なるものに対極する、『逆位置』なるものが存在するッ! ま、まさかコイツのスタンドは――」
時を止める。それは数多あるスタンドの中でも並外れた特異な力。DIOでさえ、その力を理解するのに、幾分かの時を要した。
しかし! 学園都市で『二度』、彼女は『無意識』に時の止まった世界へ足を踏み入れ、そして、この戦場で、『完全な』時の止まった世界を『認識』した!
スタンドの力は想像のエネルギー!
目覚め始めた彼女のスタンドは、その世界を! その力を! はっきりと『認識』することで今、完全にその力が花開き――『時の歯車が、彼女のスタンドとかみ合った』のだった!
DIO「コイツのスタンドは我がスタンドの『対極』の存在ッ! 大アルカナ21番、『世界』の逆位置――『ザ・ワールド・リバース』ッ!」
佐天「ここで終わらせる……DIOッ……!」
DIOの首を掴んだ佐天の声に、DIOは口の端を歪め返す。
DIO「『終わらせる』……だと? 忘れたのかッ! このDIOは、時の止まった世界でも数秒動くことが可能なのだァ――ッ!」
与えられた数秒の時。止まりかけた腕を、再び仗助へと振り下ろす。
DIO「この仗助さえ始末すれば、時を止められようが、満身創痍の貴様など簡単に殺せるッ! この勝負、始めから貴様は詰んでいたのだッ!」
振り下ろされた右腕は、佐天のスタンドからは届かない筈だった。何よりも、佐天の身体は立っているだけでも限界の肉体である筈なのだ。『時を止め』ようとも、そのような小娘のスタンドなど、最早警戒するまでもない!
しかしその考えは、
DIO「がふッ!?」
側頭部に感じた痛みがかき消した。
DIO「なっなにが――ごふぁッ!」
信じられない状況であった。その拳の軌跡が、見えないのだ。あまりにも『速すぎる』拳。まるで風の如く打ち込まれる、速く、重い攻撃。
確かに佐天のスタンドの成長は目覚ましかった。『クレイジー・D』に届くかと言う速さの拳が、『スタープラチナ』に追いつき、『世界』の喉元に届こうとしたのだ。その成長性は認める。
DIO(――しかしッ! 今の拳は『普通ではない』ッ! 『成長』などと言う、生半可なものではないッ!)
そこで、DIOが耳にした、一つの音。
ヒュン、ヒュン、とまるで、『風』が吹くかのような、その音に、DIOは目を見開いた。
何故なら、その音は『する筈がないのだ』。
この時の止まった世界では、流れ落ちる雨は空中で制止し、揺らぐ炎はその形で止まるのだ。
耳鳴りがするほどの静寂を極めた世界で、『風の音』などする筈もない。
だが、そこでDIOは気付く。『おかしい』のはそれだけでは無いことに。
DIO(待て……それよりも、何故コイツはここに立っている!? このDIOの投げた『つぶて』は確実にコイツの頭を突き抜けた筈なのだ! それなのにコイツがここに立っているのは――)
風、その目に映る、空気の流れ。砕けたアスファルトから成る粉塵が、その軌道を、ほんの僅かだがDIOに視認させた。
それは彼女の身体を包むように、帯となって回るもの。
DIO「ば、バカなッ――うぐッ!」
言葉を言い終わるより速く、佐天のスタンドの拳は、DIOの胸を貫いた。同時に佐天の膝が崩れる。頭を狙った筈の拳は、数センチ下にずれ、とどめの一撃を与えるには至らない。
佐天「……あは、最後の最後で、カッコつかないな、あたし」
そして時は動き出す。
DIO「ぐおおおッ!」
仗助「!?」
億泰「な、なんだァ!? DIOの身体が、吹っ飛びやがったァ――ッ!」
DIO「ハァーッ! ハァ―ッ!」
荒い呼吸を繰り返すのは、DIOもまた同じだった。勝利を確信した筈の男の額には、紛れも無く焦燥の汗が浮かんでいる。
正面には、細い呼吸で命を繋ぐ少女の周囲に、異常な形をした風が廻っていた。
DIO「バカな……! 『風』、だと!? スタンドの能力は応用性はあれど、一人につき一つの筈ッ! 貴様のスタンドは『風』を操る力など持ち合わせていない筈だッ!」
仗助「か、風……? 何を言って……」
状況の掴めない仗助たちだったが、しかし、黒子は、初春は――『それ』が何なのか理解した。
仗助のもとに走っていた初春の目には、無意識に涙が流れていた。彼女たちには分かった。その力の正体が、彼女を包む、その『風』の正体が。
学園都市で、かつて親友と交わした言葉が、初春の頭に蘇る。
初春「佐天さん……」
――あたしも信じていれば、いつかレバルが上がるのかな。
――大丈夫ですよ、佐天さんは思い込みの激しい人ですから。
初春「あなたは……」
――あはっ、何気に酷いこと言うね、君は。
『奇跡』と言うものがあるのなら、きっと今、ここにはいくつもの『奇跡』が転がっているのだろう。
実に『奇妙』な光景ではないか。ここに居る誰もが、すぐにでも、命を落としかけないこの『戦場』で、しかしその、何よりも輝きを放つ『奇跡』は姿を現したのだ。
『あり得ない』筈だった。それは通常のカリキュラムでは、決して辿り着くことの出来なかった場所。そして、何よりも親友が求めていた、彼女だけの力の姿。
初春「ほら……やっぱり……私の言うこと、間違ってなかったじゃないですか……佐天さんなら、きっと……、きっとって……」
頬を次々と涙が伝い言葉を紡ぐことが出来ない。胸の内から、言葉に言い表せない想いが、苦しい程に溢れてくる。
親友が何よりもその力を欲したように、自分もまた、親友がその力を手にすることを望んでいたのだ。
憧れを追い続け、何度挫けても、それでも諦めなかった親友の隣を、自分はずっと歩いて来たのだから。
黒子「ふふ、DIOさん……あなた今、『バカな』、とおっしゃいましたけど……」
DIO「!」
地面に膝を付いていた黒子が、DIOに向かい、不敵な笑みを浮かべる。
黒子「『学園都市』には、あなたの知らない『力』が、まだまだ沢山あるのですのよ?」
ゴオッ! っと一陣の風が、彼女の周囲から吹き荒れる。身体を叩く、流れる雨すら渦にして。
気流の流れを、方向を、その手に掴む、エアロハンド。彼女の内に眠っていた、もう一つの力が、目覚めた瞬間だった。
DIO「くッ……『風』を操る力……。だから、だから何だと言うのだッ! カスがどれだけ『能力』を重ねようが、このDIOの前では皆無意味なのだァ――ッ!」
その怒声と同時に、切り刻まれた肉体は一瞬のうちに再生した。
貫かれた胸さえ、その穴が塞がり、僅かに血が流れるだけとなったその再生速度に、露伴が目を剥く。
露伴「な、なんて速さだッ! 彼女が与えたダメージが一瞬にしてッ!」
DIO「このDIOはッ! 全ての生物を超越した存在なのだッ! 『運命』に、選ばれし存在なのだッ! そのDIOに、貴様のようなカスが、対等に渡り合おうなど、無駄無駄無駄無駄無駄ァ――ッ!」
佐天を包む風を突き抜け、『世界』の拳が乱れ打たれる。同時に、佐天のスタンドが宙を舞い、空を飛んだ。
限界点を飛び越え、精神の力を振り絞り、佐天はスタンドを動かす。風を纏い放たれる佐天のスタンドの拳は、凄まじい速さで黒鉄の鉄槌を返した。一進一退! 僅か一コンマのゆらぎすら許されぬ肉弾戦! しかし、その合間を次々と『世界』の拳が貫いて行く。
佐天「ぐッ! ううッ!」
鈍い悲鳴を上げた佐天に、DIOが凶悪な笑みを浮かべた。
DIO「フフ、フハハハハハハッ! やはりッ! いくら貴様が『不屈の精神』を持っていようが、所詮小娘よッ! もうすでに、貴様のスタミナは――」
佐天「が……ッ!」
DIO「とっくに尽きていたのだァ――ッ!」
『世界』が大きく腕を払い、その攻撃を胴体にモロに受けた佐天は、スタンドごと吹き飛ばされた。
建物の瓦礫に埋もれながら、佐天が身体をよじり咳き込む。吐き出された唾は血が大量に混ざっていた。
佐天「うっ……ゲホッ……」
DIO「フン……、その奇妙な『風』でダメージを減らしたのか。しかし本当にお前には驚かされたぞ。正直……その『精神』は賞賛に値する……素直にこのDIOが『危険』だと感じたのだ。……だが、それもここまでだ!」
佐天「ハァ……ハァ……う、ぐっ……!」
DIO「『世界』ッ! 止まれいッ、時よ!」
音は消え、風は止み、雨は制止する。時間停止された世界。佐天は、本能的に、それが、『自分が最後に見るDIOの時間停止』だと思った。死ぬのは、果たして、自分か、それとも。
ジャリ、と言う音と共に、一歩一歩、DIOが歩みを進める。その足音を、佐天は死刑を執行される罪人のような気持ちで聞いていた。
自分のスタンドに――否、自分自身に、どれほどの『力』が残っているのか。
しかしそのようなことは考えるまでもなかった。自分の中に残っている力が、十だろうが、一だろうが、その全てを使い、ゼロになるまで与えられた『力』を振り絞る。ただ、それだけだったからだ。
DIO「さて、ここからお前を始末するのに一秒も掛からないだろうが、果たしてお前は何秒この世界で動くことが出来る? 一秒か? 二秒か? それとも他人が止めた時の中では動くことはまだ出来ないのか?」
佐天「……ッ!」
佐天(もう少し……もう少しで、動けるようになるはず……! DIOの時の歯車に、あたしの歯車を合わせることが出来れば……!)
DIO「まあ、そんなことはどうでもいい。先程は動けなかったのだからな。おそらくお前はまだ動けないのだろう。残り五秒――弱っている貴様を殺すのは、羽をもがれた蠅を潰すことより簡単だぞォ――ッ!」
佐天「く……う、あああッ!」
DIO「何ッ!?」
DIOが『世界』の拳を放った瞬間、風を纏った佐天のスタンドが飛ばした拳が、『世界』の頬をかすめた。その一発を最後に、佐天の動きは完全に制止する。
頬を僅かに流れる血を拭い、地面に飛ばす。
DIO「まさかこの土壇場でほんの僅かに『動ける』ようになるとはな……。この一発が、我が頭を砕いていたらと思うと少しヒヤリとしたぞ……! しかし所詮はイタチの最後っ屁のようなものよッ! 残り三秒、止まった時の中、ここで死ねいッ!」
ブンッ! それは、あまりにも頼りない空振り。
DIO「……?」
初め、DIOには何が起きたのか分からなかった。自身のスタンドの距離。腕の長さ。全てにおいて、そこに棒立ちしている佐天の胸を貫くことに、事足りる長さだった。――にも関わらず、
DIO「何故……今、このDIOは拳を外したのだ……?」
そこで気付く。自分の身体が、先程よりも、『後ろへ下がっている』ことに。
DIO「こ、これはッ! 一体――」
「気付いてないのか、DIO」
DIO「!」
それは、聞こえる筈の無い声。確かに、自分が殺した声。――否ッ! それだけでは無い。気がつくと、雨は流れ落ち、大気はその動きを続けている。世界に音が現れ、あるべき姿を取り戻している。
DIO「ま、まさかこれはッ! 『時は』――『動き始めていた』ッ!」
振り返り、そこに立つ男の姿を捉える。心臓は止まっていた筈だった。呼吸もしていなかった。脈拍すら消えていた!
にも関わらず――、
DIO「何故、貴様が生きているッ! 『承太郎』ッ!」
そこで気付く。承太郎の治療をしている、『クレイジー・D』の姿に! 東方仗助の姿にッ! その腕に血の気の引いた青さは無い。
DIO「ば、バカなッ! 貴様の腕は完全に氷付けにした筈ッ! 何故その腕が溶けているッ!?」
ニヤリと笑う仗助、その横で、息を荒げながらも得意げな笑みを浮かべる二人――初春と億泰。皮が裂け、血が流れる腕を握り、初春は言う。
初春「私の能力は定温保存【サーマルハンド】。能力の強度こそ、ほとんど役に立たないレベルですけど、ほんの僅かに『触れているものの温度を一定に保つ』ことが出来るんです。億泰さんの腕の温度を一定に保つことで、凍った腕を溶かさせてもらいました!」
億泰「もっとも、二人がかりでもカチコチに凍っちまった仗助の腕を溶かすのちはチョイと痛みを味わったけどよォ~! これが終わったらすぐに治療してもらうから関係ねぇ~ぜッ!」
DIO「くっうぅ……しっ、しかしッ! 承太郎は確実に死んでいた筈ッ! 流れ出た血も、あのままなら致死量だったは――ハッ!」
DIOは気付く。承太郎の頬。そこに刻まれ、そして今、消えかけているその『命令』をッ!
その視線を察し、答えたのは露伴だった。
露伴「言っただろう、ぼくの能力は『ヘブンズ・ドアー』。――対象に、『命令』を書き込むことが出来るッ!」
<――東方仗助が『クレイジー・D』を使用するまで、血が止まり、『仮死状態』となる>
DIO「そ、それはッ! その『命令』はッ! 貴様ッ! さっき、このDIOに向けて撃ったものは――」
露伴「お前を倒すためじゃあない、全てはこの場面を描くための伏線だよ」
そうッ! それは数分前、露伴が飛ばした『命令』の『合図』ッ!
書き込まれた命令は、承太郎の身体に残った僅かな血を止め、仮死状態へとさせた!
十年前ッ! DIOは一度、死んだフリをした承太郎から手痛い反撃を喰らった経験があるッ! つまり承太郎自身の『死んだフリ』に対する警戒はいわばMAX! しかしッ! 露伴が書き込んだ『命令』ならば、それは演技ではなく紛れも無いリアル!
故に、承太郎が『死んだ』と言う事実に対し、DIOが疑いを必要以上に掛けることはなかった!
それがッ! その最後の詰めの甘さが! 仗助を! 佐天をッ! 残りの人間を『始末』することに気を取られ、『死んだ』承太郎の『首を撥ねなかった甘さ』が――この、最後の大勝負の明暗を分けたッ!
DIO「じ、時間停止の時間が、『短くなっている』……こ、これは……ッ!」
承太郎「俺の血を吸うことで長くなっていたんだったら……生憎だな、八割型、『血』は、返して貰ったぜ」
そう、先刻、佐天が貫き、完全には塞がらなかった胸の傷。そして、黒子が切り刻んだ身体中の傷。
それはほんの僅かな切り傷ではあったが、その傷口が、承太郎の身体へと『血』を帰還させる、絶対なる『ルート』となった!
DIO「く、『クレイジー・D』ッ! まさかこのDIOの体内に流れる血液までも『治す』と言うのかァ――ッ!」
仗助「吸うんだったらよォ~……。俺の血にしとくべきだったな、DIO」
承太郎「さて……八割の血は返して貰った訳だが、ここで残りの二割の役目の時間だ」
DIO「な、何……?」
仗助「俺の『クレイジー・D』はよォ~、どっちかと言えば、『殴る』よりも『治す』力の方が強力なんだよなァ~。『治す』ってことは、物質と物質が『引っぱり合う』力ってことでもあるんだよなァ~……」
戦慄がDIOの身体を走る。まさか、自分が、自分の身体が後ろに下がり、佐天への攻撃を『外した』のは――、
DIO「ま、まさかッ! 仗助、貴様ァッ!」
仗助「テメーの中にある、承太郎さんの残りの血、『テメーの身体ごと』引っ張らせて貰うぜェ――ッ!」
DIO「ぐッ! お、うおおおおッ!」
ふわりとDIOの身体が浮かび、身動きの取れぬ状態で一直線に承太郎のもとへと飛んで行く。
承太郎「この時を……待ちわびたぜ」
DIO(ち、『力』がッ! 『力』が足りないッ! 承太郎のもとに『血』が戻っているせいかッ! こ、このDIOが、こんなところで――ッ)
DIO「くッ! 『世界』時よ――」
承太郎「オラァッ!」
DIO「ぐふッ!」
両手を広げたDIOの顔面に、スタープラチナの拳が飛んだ、間髪を入れず、宣言されるのは――、
承太郎「『スタープラチナ・ザ・ワールド』!」
これが、両者の間で起こる最後の時間停止だった。僅か二秒ほどの時間。光の速度を超えることで作り出される、承太郎の世界。
浮かび上がった姿勢のまま、DIOの身体が制止する。
承太郎「さて……たしかテメーも僅かだがこの世界の中で動けるんだっけな。だが……俺はテメーのように遠くからナイフや石ころを投げてトドメを刺す趣味はねえ……。この至近距離から、拳をブチ込むだけだ」
DIO「くッ……このDIOが――ぐああッ!」
首を承太郎へと向け、放つつもりであった瞳からの攻撃は、スターフィンガーのひと突きに止められた。DIOの両目から血が噴き出し、喉の奥から悲鳴を上げる。
DIO「じょ、承太郎、貴様ァッ!」
承太郎「知らなかったのか? 『ジョースター家の人間』に、この『空条承太郎』に、『二度』……同じ手は使えないってことをよ」
DIO「ぐ……ううッ……!」
承太郎「動けるのはそこまでみたいだな。では……遠慮なく行かせてもらうぜ」
DIO「く、じょ、承太郎ォ――ッ!」
承太郎「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァァッ!」
DIO「…………!」
DIOの身体に走る、鈍く、重く、無限にも等しい痛み。そして、
承太郎「『時』は動き出す」
DIO「うぐおおおおおあああ――ッ!」
スタープラチナの光速のラッシュを全身に受けたDIOの身体が勢い良く吹き飛ぶ。
カランッ、と言う音と共に、DIOの背から一本の矢が落ちた。しかしDIOが杜王グランドホテルの壁に叩き付けられた轟音がその音をかき消した。
砕けた身体からは血が吹き出し、最早動くことすらままならなかった。
露伴「……や、やった! ついにツ!」
仗助「ついに、承太郎さんのスタープラチナがッ!」
仗助「DIOの野郎をぶっとばしたぜェ――ッ!」
DIO「う、ば、バカな……このDIOは、『運命』に選ばれている筈なのだ。『運命』が、跪いた存在なのだ……!」
荒い呼吸を繰り返し、血反吐を吐きながら身体をよじらせるDIOのもとへと、承太郎が足を進ませる。
承太郎「うわ言を呟くのはそこまでにしな。雨も小降りになって来た……じきに太陽が差し込む。テメーの言う、『運命』の力ってやつも、最早ここまでのようだな」
いつしか雨の勢いは止み、辺りには静かに風が吹き始めた。あと数分のうちに、この雨は完全にあがり、この場には輝く太陽が差し込むのだろう。
満身創痍のDIOを前に、仗助は、億泰は、あの時の、早人の言葉を思い出していた。
――お前に味方する、『運命』なんて……お前が乗れるかどうかの『チャンス』なんて……今! ここにある『正義の心』に比べれば、ちっぽけな力なんだッ! 確実にここにある! 今、確かにここにある『心』に比べればなッ!
仗助「……早人、やっぱお前の言うことは正しかったぜ。……『運命』なんてもんは、ちっぽけなもんだ。ここに居るみんなの前じゃあ……そんなもん、『意味』なんかねえんだよな」
露伴「もう逃げられはしないぞ……」
億泰「すぐに引導を渡してやるぜェ~」
初春「ようやくこれで……」
黒子「決着、ですのね……」
康一「……! 承太郎さん……やった……んですね」
佐天「……DIO、あなたは……」
多くの仲間の『心』を背負い、共に戦い――今、承太郎は絶対なる巨悪を見下ろし立っていた。
誇り高き『意志』を持った瞳が、邪悪なる瞳と交差する。
承太郎「チェックメイトだぜ……DIO」
/└────────┬┐
< To Be Continued... |
\┌────────┴┘
今回はここまでです。
次回が最終回になると思います。
DIO様おいたわしや
乙!
レバルで噴いた
乙
乙
回復役を中途半端に潰さず最優先で真っ先に仕留めるべきだったな……
SSの類での佐天さんの圧倒的格好良さ
これからは佐天さんも
「オラオラオラオラ」とか
「無駄無駄無駄無駄」とか
「アリアリアリアリ」とか
「ボラボラボラボラ」とか言うようになるんだろうか・・・
佐天さん的にはワナビだと思う。
オモロイ
やっぱ勇者パーティには回復役の僧侶が絶対いるよな!
僧侶つうか破戒僧やけど
佐天さんザ・ワールド+ウェザー・リポートって感じなのか。
一気に強くなったな。
それはウェザーなめすぎ
乙乙
佐天さんのスタンドコピーかと思ってた。
クレイジー.Dの速さ、白金の精密制、世界の時止め入門的な。
佐天「神砂嵐!」
「世界」の逆位置…未完成…
成長性:Aみたいな?
史実のアレイ☆もタロット作ってたね
それだと世界は宇宙になってるんだっけ?
佐天さんはエアロハンドだったね、婚后さんとはだいぶ違う感じだけど、それとも作者さん的には違う名前があるのか。
そもそも風使いとも確定してるの?
操るだけならベクトル操作でもできますし
敵が主人公(上条)相手になるとバカになっちゃうのが禁書
主人公勢相手になると賢くなっちゃうのがジョジョ
吉良追い詰めた時みたいな大詰めテンションがヤバい
かっこよすぎる
はよはよ
>>553
書いていてDIO様可哀想…と流石に思ってしまいました。
>>554
ありがとうございます!
>>555
ありがとうございます!
その部分はそれだけでスレ立て直したい位本当に恥ずかしいミスでした…。
これじゃあ佐天さん台無しだよ…。
>>556
ありがとうございます!
優先順位的には、やっぱり仗助から確実にトドメを刺しておくべきでしたねー。
>>557
とあるSSではやっぱり佐天さんが一番性能強化されるキャラだと思います。
ここの佐天さんもカッコいいと思って頂けていたら嬉しいです。
>>558
>>559
どうするか迷いましたが、言うことにしました。
>>560
ありがとうございます!
>>561
殴ってからの『治す』が必殺技の僧侶って嫌ですね…。
>>563
>>564
流石にウェザーのような強さは無いです。
この時の佐天さんは、ザ・ワールド+エアロハンド3~4くらいと考えてくれると助かります。
>>565
ありがとうございます!
>>566
なるほど、そういう風にも見えてしまう流れでしたね。
あまりオリジナルすぎる名前も能力も考えられなかったので、ここは『逆位置の世界』と言うスタンドに決めさせて頂きました。
>>567
この時の佐天さんの状態はそれにちょっと近いかもしれないですね。
>>568
そんな感じで思ってくれば助かります。
>>569
アニメで描写されていた佐天さんのエアロハンドは、小さな風を渦にしてそよそよしていた感じだったので、婚后さんのとは違って、その力が強くなった感じ、と考えて頂ければありがたいです。
>>570
一応レベル0の空力使い(エアロハンド)と表記されていたので、その設定のまま使わせて頂いています。
>>573
ジョジョは単純な能力やパワーでなく、その能力から応用しての頭脳戦が顕著に現れる作品ですよね。
>>580
3部、4部、5部のラストの流れを浮かべながら書いているので、この部分でそう思って頂けていたのならとても嬉しいです。
>>581
おまたせしました。次レスより更新再開します。
今回で最終回となります。
DIO「フ、フフ……フハハハ」
承太郎「!?」
突然笑い出したDIOに、承太郎たちが構える。目の前に崩れているのは、全ての死力を絞り尽くした男。
にも関わらず、その笑い声には凍てつくような不気味さがあった。
億泰「な、何がおかしいんだ野郎~ッ!」
DIO「フ、フフ……。これこそ、このDIOが最も恐れていた場面だ。『仲間』などと言うクソみたいな者共が結託し、このDIOを追いつめる……。想像しただけで反吐の出るような場面だ」
承太郎「だが、今それが現実に起こっていることだ。誰一人……欠けちゃあいないぜ」
DIO「そう……、このDIOはまさしく今、『絶体絶命』の危機にある。だが……」
DIOの一挙一動に、全員の視線が、意識が深く集中する。身体を震わせながら、DIOは続ける。
DIO「承太郎……お前は今、『チェックメイト』と言ったな。このDIOは今、『詰み』の状況にあると……。だが、一つ、忘れているんじゃあないか? このゲームで絶体絶命の状況をひっくり返す――」
そこでDIOは血飛沫を上げながら立ち上がった。その目には未だ『敗北者』の色は無いッ!
DIO「『逆王手』と言うものをッ!」
承太郎「!」
その目にあるのは支配への欲求、ただ、『勝利』への執着のみを魅せる漆黒の意志ッ!
DIO「この『時』こそ、このDIOが『最も求めていた場面』なのだァ――ッ!」
億泰「なッ! こ、コイツ、まだ立てる力をツ!」
黒子「ち、違いますのッ!」
初春「ッ! あそこですッ! あの水たまりの中ッ!」
黒子の言葉に、いち早く反応したのは初春だった。指差した方角にあったそれは――、
仗助「……あ、あれはッ! 『矢』だッ! い、いつの間に『矢』があんな所にッ!」
そう仗助が叫んだ瞬間、『矢』がまるで発射されたピストル弾の如く、DIOへと『飛んだ』。
露伴「な、何ィ―――ッ! ば、バカな、『矢』がひとりでに飛び上がったぞッ!」
DIO「承太郎ッ! このDIOは『研究』していたのだ! 十年間、この『矢』の持つ真の力をッ! 『矢』は限界に立たされた存在の『意志』に反応するッ! 『目的』を達成すると言う、誰しもが抱える母なる『欲望』の意志にッ! そしてその瞬間、この『矢』は――」
仗助の頭に浮かんだのは、かつて早人から聞かされた吉良の最後の能力。その『無敵』とも言える『能力』を聞かされた時、そしてあの時、再び吉良がその力を使おうとした時は、『絶体絶命』だとすら思った。
吉良との決着が着いた後に、何故、吉良はあの短期間で、異質とも言えるその『能力』を身につけたのかと思った。それは仗助の中で、チクリと小さく刺さった棘のように残っていた疑問だったが――今、その謎は紐解かれた。
DIO「このDIOに、新たなるッ! 絶対なるッ! 『力』をプレゼントしてくれるのだァ――ッ!」
吉良の父親が仗助たちから奪い返した、一本の『矢』。その『矢』が生み出した最後の『運命』は――……。
仗助「じょ、承太郎さんッ! 『時』を止めろッ! 『矢』を奴に触れさせるなァ――ッ!」
DIO「無駄だッ! もう遅いッ! 『矢』のスピードの方が『上』だッ!」
飛び上がる『矢』。DIOのもとへ走る承太郎たち。しかし、それら全ては間に合わない。そして、
ドスリ。
『矢』の胴体が、DIOの腹部に突き刺さった。
DIO「WRYYYYYYYYYYYYYYYYY――――――ッ! やったぞ、『運命』は、『このDIOを選んだ』ッ!」
地面を踏みつけ、DIOは高らかに笑う。
DIO「頂点に立つのはこの『DIO』だッ! 貴様らは『運命』に負けたのだァ――ッ!」
だが、数秒後に気付く。
DIO「……?」
自分の身体に、『世界』に、何一つの変化が無いことに。
DIO「……な、何故だッ! このDIOの『研究結果』に間違いは無い筈……何故、何も――ハッ!」
その視線の先、見えたのは、『矢じりの形をした』、一つの『くぼみ』。
DIO「ま、まさか、これは……」
「……『運命』って奴がお前の味方なのか? 支配者って奴は、そんな不確かで曖昧なものが、味方だとでも言うのか?」
そう、聞こえる声は、自分が気にするまでも無いと思った、あの少年。
康一「ぼくが叩き付けられたこの『壁』の近くに――ぼくのスタンドの『射程距離』を『矢』が通過したことも、『運命』って奴なのか?」
DIO「き、貴様ッ! 『広瀬康一』ッ!」
肋骨が砕け、一息ごとに血が吹き出す身体を起こしながら、康一は笑う。その彼の前に浮かぶ一体のスタンド。
エコーズ「『ACT3 FREEZE!!』 射程距離、5メートルに入りました、S・H・I・T!」
康一「そう、お前に向かった『矢』の『先端』だけを『重くした』ッ! お前のハラに刺さっているのは、ただの『棒』だッ!」
ポロ、とDIOの腹から『矢』の胴体が落ち、水たまりに波紋を作った。
DIO「……こ、この、クソカスどもがァ――ッ!」
怒声を上げ、DIOがアスファルトの上に落ちた『矢じり』へ手を伸ばした時――
ヒュン。
そこに一瞬早く現れた『少女の手』。
DIO「なッ!」
黒子「ふ……ふ、これが、限界……最後の、テレポートですの……」
DIO「舐めるな小娘がッ! 貴様の貧弱な手ごと『矢』を奪ってくれるわァ――ッ!」
鋭く突き出された右手は黒子の小さな手を砕き、貫いた。しかしその先に掴んだものは、
黒子「……ッ! く、く……。DIOさん、何を『掴め』ましたか? その手に握られているのは――ただの砕けたアスファルトの筈ですわよ?」
その手にあったのは、黒子の血に染められた、砕けたアスファルトの破片。その場に『矢じり』は存在しない。そして、それが意味すること。
ドクン、ドクン。
鼓動する心臓の音は、誰のものでもない、自分のもの。そう、この時、DIOはたしかに『恐怖』していたッ!
あらゆる生命を跪ずかせ、『運命』さえも支配したと思っていたDIOは今、確かにッ! 背後に感じるその『存在』に恐怖を感じていたッ!
佐天「…………」
そこに居たのは、白井黒子に、大切な友人に託された『矢じり』を手に持つ、佐天の姿。ほんの数十分前まで、『普通』の少女であった筈の彼女は今、友人の託してくれた『想い』を片手に、凛とした瞳でDIOを見ていた。
自分が手にする筈だったその『力』。それを手にしているのは、歯牙にも掛けない筈であった、一人の小娘。
DIO「き、貴様ァァ――ッ! その『矢』を放せェ――ッ!」
十メートルと言う、近距離パワー型の中でも並外れた射程距離を持つ『世界』の拳が、佐天の持つ、『逆位置の世界』に降り掛かる。だが――、
佐天「ああああッ!」
叫び声と共に、佐天は『自身のスタンド』の胸に、その『矢じり』を突き刺したッ!
何故、この状況でその『矢』を自身の『スタンド』に突き刺したのか分からない。
あるいはそれは、彼女の『意志』では無かったのかもしれない。彼女自身、無意識だった。矢を握った『スタンド』の腕が、自分の腕を動かし、自らを刺したのだと感じた!
露伴「なッ!」
億泰「る、涙子ッ!」
自分たちに背を向けている佐天のその動作は仗助たちには見えない。『世界』の拳が『逆位置の世界』を襲うその瞬間だけが目に入る。
DIO「くたばれ、『佐天涙子』ォ――ッ!」
今度こそ拳は外れなかった。『世界』の放った拳は、佐天の『逆位置の世界』の胸を貫き、その身体に風穴を開けた。同時に、佐天が血を噴き出し、膝を付く。
初春「さ、佐天さんッ!」
仗助「涙子ォ――ッ!」
初春たちの悲鳴を背に、『世界』は『逆位置の世界』の落とした矢に手を伸ばす。
DIO「フン、矢を自身に刺そうとしたみたいだが、『矢』は支配者を『選ぶ』のだ。所詮、貴様はこのDIOを模倣しただけの、『影』に過ぎなかったと言うことよッ!」
ヒュン、ヒュン……。
風が貫かれた胸を通り抜ける『逆位置の世界』を見下ろし、DIOは笑う。
DIO「そして承太郎ッ! 次は貴様の番だッ!」
しかし、承太郎は動かない。その目は、DIOを見ていない。その視線の先にあったのは――。
承太郎の不自然な視線に、DIOも背後を振り返る。そこにあったのは、心臓を貫かれ、朽ち行くだけの『運命』を持った、『逆位置の世界』の姿があるだけ。
そう、思っていた。
ヒュン、ヒュン。先程から耳に聞こえていた、歪な『風』の音が大きくなっていた。何処から、その風の音がしているのか――その答えは、一瞬で解けた。
その『風』が鳴り響いているのは、貫いた風穴。『世界』の拳が貫き、風穴を開けた『その場所』から聞こえて――否、『生まれて』いるのだ。
DIO「……ま、まさかッ! コイツッ! 『生きて』いるのかッ!」
DIO(な、何が起こっている? 今しがた、コイツの心臓をスタンドごと貫いた筈なのだッ! コイツは血反吐をぶちまけながら確かに死んだ筈なのだッ! なのに、何故――」
鳴り響く『風』の音は、しだいに、少しずつ、しかし確実に大きくなり、嵐のように吹き荒れた。
そしてその黒き旋風が、集まり、佐天の『傍』に新たなる『スタンド』を形成していく。
何者にも阻まれぬ、迷い無き信念を彩る『オニキス』が如く、そこに現れた漆黒の姿に、光り輝く『正義』の心を写したかのような『黄金の瞳』。
『友達』を守る。それだけの、しかし何よりも輝きを放つその『意志』が――『矢』の持つ真の力を引き出したのだッ!
DIO「ば、バカな……なんだ、その『スタンド』は……! 何故、貴様如きが『矢』に……!」
ジャリッ! 佐天がスタンドと共に足を踏み出した時、無意識にDIOは身体を引いた。しかし瞬間的に唇を噛み締め、牙を剥き出し、佐天を睨みつける。
DIO(何を恐れているのだッ! このDIOは頂点に立つ存在ッ! 『運命』に選ばれし『支配者』なのだッ! 目の前に居るのは、瀕死の小娘にすぎないッ! あと一撃で――)
DIO「死ぬだけの存在なのだァ――ッ! 今度こそ死ねいッ!」
突き出された拳は、まるで降り掛かる火の粉を払うかのように緩やかな動作で、漆黒の腕に捌かれた。
DIO「なッ、なにィィ――」
驚愕の声を上げるDIO。しかしその叫びが終わる寄りも早く、
佐天「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――」
風を纏い放たれる漆黒の拳。その一撃一撃が、『世界』ごと、DIOの肉体を粉砕して行く。
露伴「や、やったッ!」
DIO「ぐがッ……この、クソガキがァ――ッ!」
佐天「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァァァァッ!」
DIO「ぐぼぉおおおォォ――ッ!」
肉片を転がしながらDIOが壁に叩き付けられ、四肢が飛んだ。
佐天「終わった……ね」
DIO「こ……こんなことが……ッ」
四肢は飛び、体力には限界が訪れていた。だが、それでもなお、DIOの目には『敗北』の色は訪れない。否、この場では『敗北』を味わっているのかもしれない。
この先、いかなることがあろうとも、目の前に立つ佐天を初め、承太郎を含めたスタンド使い全員を殺すことは、不可能だろうと思われた。
――しかしッ!
弾け飛んだDIOの右腕が、ピクリと動く。
このDIOには、『正々堂々』などと言う、便所のネズミのクソにも匹敵する考えなど無い。『目的』を達成させられればそれでいい。『佐天涙子』、貴様は、このDIOに取って、承太郎に匹敵する『脅威』だッ! このDIOが『次の肉体』へと移る前に、何としても消しておかなければならないッ! 『不意打ち』などと言う手を使っても――)
DIO「貴様を殺せればそれでよいのだァ――ッ! これで終わりだ、死ねいッ! 『佐天涙子』ッ!」
DIOの右腕が浮かび上がり、佐天の首を薙ぎに掛かる。その攻撃は、誰にも止められることの出来ない死角からの攻撃だった。
DIO「これで貴様の首を飛ばし、その吹き出た血で我が傷を癒してくれるわァ――ッ!」
が、
フンッ。
それは空振り、という言葉では表現出来ない、『奇妙』な感覚。
確実だった筈なのだ。切り離した自分の右腕は、確実に佐天の首を薙ぎ、大量の血を噴水のように上げる筈だったのだ。
DIO「な、何故、外れた……――ち、違うッ!」
そこで、DIOは気付く。外したのでは無い、自分の『手』が、『何にも触れていないこと』に。
DIO「ふ、『触れていない』ッ! このDIOは、こいつの『首』に触れてすらいないッ! ……す、透けるッ! この小娘の身体に、『触れることが出来ない』ッ!」
何度も手を動かすが、その手が佐天の身体に――否、その『手』が『何かに触れることは無い』。
DIO「な、何が起こっているッ! な、何故、このDIOの身体が透けているのだ……ま、まさか、これはあの『スタンド』の――」
次の瞬間、DIOの周囲に凄まじい風が吹き荒れた。その渦の中心から、あの漆黒のスタンドが姿を現す。
「コレガ、……ダ」
DIO「!」
風の音に交わり聞こえた漆黒のスタンドの声。その背に、DIOは異常な景色を見た。いや、そのような言葉では言い表せない『奇妙』な光景が広がっていたのだ。
そう――そこにあるものは、『何も動いてはいない』。『時』が停止しているのだ。否、それは『時間停止』なんてものではなかった。
その世界を認識出来る筈の承太郎、そして、目の前に立つその漆黒のスタンドを操る存在の佐天ですら、固まった蝋人形のようにまばたき一つ起こしていない。
この世界で動くものは、自身と、目の前の立つスタンドの二人だけ。雨は制止し、雲は固まっている。しかし、嵐とも呼べる『風』だけが、DIOの周囲に渦巻いていた。
「オマエの肉体ハ……既ニ死ンダ……。ソシテ、コノ先、オマエの魂がドコカニ行クコトハ決シテナイ!」
DIO「な、何だとッ!」
『それ』はただ静かに語る。誰も知らない、知る由もない、それはスタンドを超えたスタンドの姿。
吹き荒れる風の音。その『音』が奏でる一つの『歌』。それはまさしく、闇の帝王を、時の狭間へ、永遠なる眠りへ就かせるが為の鎮魂歌【レクイエム】。
レクイエム「命アル者の『時』を『永遠』に止メル。コレガ、ワタシの『能力』――『ザ・ワールド・R・レクイエム』!
◆ ◆ ◆
露伴「や、やったッ!」
仗助「涙子の『スタンド』がッ!」
億泰「DIOの野郎をブチ砕いたぜェ――ッ!」
佐天「終わった……ね」
佐天がそう呟くと同時に、雲間から日の光が差し込む。
露伴「た、太陽だッ! つまりッ!」
露伴が上げる歓声と共に、DIOの身体は太陽に焼かれ灰となった。叫び声を上げること無く、一瞬の内に肉体は死んだ。
億泰「ついにッ! ついにやったぜェ~ッ! 涙子、まさかお前がトドメを刺すなんてよォ~ッ!」
億泰がそう佐天の肩を叩く。途端、ペタリと佐天は膝を付いて崩れた。
初春「さ、佐天さんッ!」
佐天「うん……大丈夫だよ、ちょっと、血が流れすぎたみたい……」
仗助「待ってろ、すぐに治してやっからよォ~」
佐天「で、でも、あたしより先に白井さん達を……」
仗助「安心しろ、俺の『クレイジー・D』なら、一瞬で治せるからよ。すぐにみんな元通りだ」
黒子「その力、知っていなくてはあれほどの無茶は出来ませんものね……ふふ」
黒子「スタンド能力……実際、この目で目の当たりにすると凄まじい力ですわね」
仗助に治療された自分の手を見つめながら、黒子は呟いた。本来なら、冥土返しでも修復は出来ないであろうほどに粉々に潰された筈の片手が、何の不自由も無く動かせる現状。
今更ながら、背筋にぞっとするものを感じた。
億泰「ってものよォ~、黒子、だっけか? お前の『能力』だって不意打ちだったら相当オソロシー力だぜぇ? 人なんかあっと言う間にバラバラじゃあねえか」
黒子「わたくし普通の人間相手にそんなことはいたしませんの!」
露伴「要は使い方次第だ。『守る』為に使えば聖なる像であるが、『欲望』の為に使えばそれは邪悪の権化ともなる。それは君たちの持つ『超能力』も同じことだと……ぼくは思うがね」
初春「そうですね……私たちの街でも、その力を、いけないことに使う人たちは沢山居ますから……」
承太郎「……一息付きたい所だが、これからすぐにSPW財団に連絡を取らなくちゃあいけないな。一刻も早く、DIOが隠した『死体』を処分しなければならない」
康一「そ、そうかッ! いつDIOが『次の肉体』に乗り移るか定かではない今、すぐにでも『死体』を探さなくちゃ――」
佐天「いえ、その必要はありません」
「!」
佐天の言葉に、全員が視線を向ける。
承太郎「『必要が無い』……とは、どういうことだ?」
佐天「…………」
◆ ◆ ◆
DIO「レ、レクイエム……だと……?」
レクイエム「…………」
DIO「そ、そんなことがある筈が無いッ! このDIOは何度でも蘇るッ! このDIOは、決して死ぬことは無いのだァ――ッ!」
レクイエムの顔に伸ばされたその拳は、何にも触れることは無い。
レクイエム「ソウ……、オマエハ死ヌコトハ永遠ニナイ。コノ切リ離サレタ『時』の中デ……『永遠』ニ生キ続ケル……」
目の前に立つ、レクイエムが少しずつその色味を失くして行く。視界からその姿を消して行く。
DIO「ま。待てッ! ……くッ、こ、答えろ佐天涙子ッ! 承太郎ッ! さあッ早くこのDIOを殺してみろッ! 次の肉体に乗り移り、今度こそ貴様らを殺してくれるぞッ!」
しかし、その声が誰かの耳に届くことも、『永遠』に無い。
DIO「ば、バカな……ち、違うッ! そんな筈は無い、このDIOが、このDIOが、『敗北』するなど――」
そう、その目に浮かんでいたのは、支配への欲望を、勝利への執着を、全てを塗りつぶす『敗北』の絶望。
DIO「そ、そんな……ッ! このDIOは、いつ……いつ死ぬのだ!? 次の肉体はもう出来ているッ! 死ねば、死ぬことさえできれば――」
その『願い』が適うことも無い。切り離された『時』の中、朽ちず、死なず、この宇宙に終焉の来るその時まで、彼は孤独に生き続けるのだ。
DIO「――……うおおおおォォォォオ―――――――ッ!」
一人きりの世界の頂点に立った男は、一人、誰の耳に届くことの無い叫びを上げた。
皮肉にも彼は世界の支配者になった。
そしてその世界は、『永遠』に彼だけのものになる。
誰も彼に逆らわず、誰も彼を殺さない。
この世界に『生きる』者は、『支配者』を望んだ彼の帝王ただ一人だけなのだから……。
◆ ◆ ◆
佐天「……分かるんです。あの人の魂は、もう『どこにも行くことが無い』ってことが。あたしの『スタンド』が、そう言っているから……それが、あたしのスタンドの『能力』……」
康一「る、涙子さん、君は……」
佐天「……ふっ、う……う」
康一が話掛けようとしたとき、堰を切ったように彼女の目から涙がこぼれ始めた。
仗助「ど、どうしたんだ涙子ッ! まだ何か怪我している所があんのかッ!?」
仗助が駆け寄るが、初春にはその『涙』の理由が分かった気がした。
初春「佐天さん、あなたは、DIOのことを……」
佐天「分かってる……! 許せない奴だってのも、倒さなくちゃあいけなかった奴だってのも分かってる! でも、あの人は言ってくれた! あたしに、『才能』があるって言ってくれたんだよ……ッ!」
この僅かな時間、その戦場で見せた彼女の凛とした『意志』に呑まれ忘れていたが、彼女はまだ十三歳の少女なのだ。それを、承太郎たちは今、改めて理解することになった。
佐天「あ……あ……うあああああッ!」
勝利を収めた、黄金の精神を持つ彼らの中心に、しかし響くのは勝利の雄叫びではなく、一人の少女の慟哭だった。
初春「落ち着きましたか?」
佐天「うん、ごめんね、初春、最後の最後で、みっともないとこ見せちゃったなあ」
鼻水を垂らした佐天に、初春がハンカチを当てる。
初春「あはは、もうすっかりぐしょ濡れですね。明日はみんな風邪っぴきになっちゃうかもしれませんね!」
◆ ◆ ◆
初春の言葉に皆が笑って、それからあたし達はとりあえずホテルの中へ入った。まあ身体の方は治してもらったけど、流石にシャワーとか浴びたいしね。
承太郎さんはドアの向こうで怯えていたホテルの人に、「壁とかはの費用はここに請求してくれ」ってメモみたいのを渡してたみたい。
どうやらSPW財団と言う企業の人たちがすぐにやって来て対処してくれるみたいだ。
そう言えば服を脱ぐ時に自分の服がスッケスケになってるのに気付いた時は顔から火が出るかと思ったよ!
初春が若干赤い顔であたしを見ていたのはこれかッ!
もー、仗助さんたちに顔合わせづらいよ、あんなシリアスな場面じゃあそんなこと気にならなかったと思うけどさあ。
何てことを思いながらシャワーを浴びて、髪をとかして服を着替えて……。
――そうして、少ししてからまた皆でホテルの一室に集まった。
露伴「本当に、いいのかい?」
佐天「ええ、承太郎さんからも話を聞きましたし……これが一番だと思います」
露伴「そうか……本当は、君の『記憶』のリアリティを壊したくは無いが……仕方ないな」
佐天「あ、その前に、今『スタンド』を覚えているうちに、承太郎さんに伝えたいことがあるんです」
承太郎「……何だ?」
佐天「あたし、『学園都市』では、何の力もない無能力者でした。ずっとずっとずぅーと『力』が欲しくて、あたしみたいな奴でも、『能力』を手に出来る方法をネットとか見て探してたんです。そこで……あなたの持つ『能力』を目にしたんです」
露伴「時を止める力、『スタープラチナ・ザ・ワールド』……か」
佐天「学園都市には……性質こそ違いますけど、康一さんのように、物体を重くさせることが出来る能力者もいますし、億泰さんみたいに瞬間移動出来る人も、白井さんのように居ます。仗助さんのように、傷を治す能力者は居ないかもしれませんけど、どんな怪我でも治してくれる『医者』は居ます。……けど、あなたのような人だけは居ないんです」
承太郎「…………」
佐天「『時を止める』なんて、そんなマンガみたいな能力、学園都市の第一位だって使うことが出来ません。だから、だからこそ、あたしは、あなたの持つその『能力』に、心の底から憧れました。だから、あたしがこの力を持ったのも、結構、承太郎さんの影響だと思いますよ?」
承太郎「…………」
佐天「最後にDIOを殴った時も、承太郎さんのマネして『オラオラ』なんて言ってみちゃいました。でも、ああ言うと、何か力が出て来たりするんですね」
承太郎「君は……」
佐天「……『学園都市』では、能力者が持つ独自の感覚で、超能力を発動するための土台を『自分だけの現実』【パーソナルリアリティ】って言うんです。個人が持つ、妄想、信じる力が、自分だけの現実を今、見える世界に映し出す……ってことらしいんですけど。あたしの『スタンド』も、きっとそう言うことなんだと思います。『時を止める能力』、その力に惹かれたからこそ、あたしはこの町に来たんです」
だから、と一拍間を置いて、それから承太郎さんに微笑む。あたしをここに導いてくれた、その時は名前も知らなかった一人の男性に。
佐天「あなたのその『能力』が、あたしの『運命』を、ここまで変えてくれたんです」
承太郎「……いや、君の信じる心が、君自身の力を目覚めさせたんだ。俺なんかの影響じゃあ……無いと思うぜ」
佐天「そうですね、『スタンド』の名前からしても、DIOの影響も否定出来ませんし」
承太郎「……そいつは洒落にならないな……」
承太郎さんの言葉に、ふふっ、と微笑む。
佐天「伝えたいことは、それで全部です。じゃあ……露伴先生、康一さん、仗助さん、億泰さん、そして……承太郎さん、さようなら」
露伴「スタンドについて忘れても、ぼくたちことを忘れるわけじゃあない。目が覚めても、君とぼくらは友達だよ」
億泰「ああッ! 『スタンド』なんて見えなくってもよォ~、俺たちの友情に変わりはないぜッ!」
仗助「おうよ、俺たちはずっと友達だ!」
康一「うん、そうだよ!」
佐天「……はい!」
もう泣くことは無い。みんなとずっと友達で居られることが分かったのだから、もう、泣く必要は無い。だから、あたしは笑う。
そして、露伴先生に頷いた。
佐天「お願いします」
椅子に座ったあたしの額に、露伴先生が手を載せる。同時に、露伴先生の背後に、『ヘブンズ・ドアー』が姿を現す。これが、あたしが最後に見る『スタンド』の姿。
書き込まれる、一つの『命令』。
<佐天涙子は『スタンド』なんて知らないし、その『能力』を使うことも出来ない>
さようなら、でも、ずっと一緒に……。
そして、視界が暗くなる。
◆ ◆ ◆
黒子「わたくしたちへの記憶処理はよろしいのですか?」
承太郎「ああ、万が一のことがあった時に、すぐに状況を察してこちらへ連絡をくれる者が居た方がいい」
初春「佐天さん、ずっと、望んでいた『力』なのに……」
眠る佐天の姿を見下ろす初春の頭を、黒子が叩く。
黒子「ほら、しゃんとなさい。彼女は『力』よりも、わたくしたちとの平穏を選んでくれたのですのよ? あなたがそんな顔をしてどうしますの。……それに」
黒子の頭には、彼女が手にした『風』の光景が浮かんでいた。
黒子「佐天さんはもう、しっかりと『自分だけの現実』を創り始めていると思いますわ」
初春「……そうですね」
承太郎「すまない。詳しくは話せないが……彼女の『能力』は、『封印』しなければならないものなんだ」
黒子「そちらにも、色々あるのでしょうし、佐天さんが納得した上のことですもの。深くはお尋ねしませんわ」
承太郎「ああ、そうしてくれると助かる……」
承太郎(DIOの残したメモ……<必要なのは、『わたしのスタンド』である『世界』>……。まだあのメモに記されたことを解読出来た訳ではないが……彼女のスタンドが、DIOの代わりにならないとは言えない。彼女の持つスタンドも、『世界』を暗示しているのだから……)
そして、
◆ ◆ ◆
あの旅行から、一ヶ月後――【学園都市】
佐天「うーいはるーん♪ おっはよーん!」
初春「ぎゃあああッ! ま、毎度毎度のことながら止めて下さいよ佐天さんッ!」
佐天「んー、今日は普通かぁ……あんまり面白くないなあ」
初春「私の下着に面白さを求めないでくださいよう!」
佐天「あはは、ごめんごめん。ところでさ、次の連休さ、空いてる?」
初春「次の連休、ですか? えーと、多分大丈夫ですね。どうしてですか?」
佐天「露伴先生からメールが来てさ。何か『学園都市』取材の許可が出たみたいで、来週末に来るらしいからさ、案内とかしてあげられないかなーって」
初春「へえー、よく許可が取れましたね(過程はあまり想像したくありませんけど)」
佐天「出来れば御坂さんや白井さんにも一緒に来て欲しいんだけど……」
初春「そうですね、御坂さんなんかは特に喜ぶんじゃないですか?」
佐天「サイン羨ましがってたもんね~」
初春「これから合うんですし、二人の予定もそこで聞いてみましょうか」
佐天「そだね。じゃあ」
初春「次の」
佐天「連休に」
初春「ですね。了解です!。おっと、ちょっと約束の時間がマズいですね。急ぎま――」
佐天「初春ッ!?」
横断歩道を走る初春に、トラックが突っ込んでくる。ブレーキの音、人々の悲鳴、それらが全てスローに、時間が止まったとうに見えて――
初春「うひゃあッ!」
ぺたん、と尻餅をついた初春の目の前を、クラクションを鳴らしたトラックが通り過ぎた。
佐天「ああ、よかった! もう、危なかったねー」
初春「あはは、まるで『時を止められた』みたいでした。ちょっと走馬灯見ちゃいましたよ」
佐天「――……!」
初春「佐天さん?」
佐天「時を……」
その時、前にネットで見つけたあの記事を、頭の隅っこに置きっぱなしにしていたそのことを、ほんの少し、思い出した。
初春「……どうしました、佐天さん?」
佐天「ん、んーん、何でも無いよ、初春」
前を歩く初春を見て、それから、白い雲の過ぎる空を見上げる。学園都市の空は狭いけれども、その隙間から、こうして青い空は見える。ヒュン、と頬を撫でる風と共に、髪をかきあげて、それからふっと微笑む。
佐天「『時を止める』能力、かあ……」
そんなのあったら、素敵だね。
佐天涙子の奇妙な冒険 ――完――
まあまあ面白かった
というわけでこれで終わりです。
佐天さんちょいとチートすぎるなあ…と思ったでしょうが、それもSS界における彼女の魅力だと思います。
予想以上に長くなりましたが、ここまで読んで下さった方、支援してくれた方、ありがとうございます。
>>630
ありがとうございます、そこそこ楽しんで頂けたなら幸いです。
すばらしいssだった、ありがとう!
次回作はあるんすかねェ?(ゲス顔)
完結乙!
おもしろかったぜ!
このSSまとめへのコメント
良ssですな。
続きが待ちどおしい・・・