マリ「いやぁー、変な夢を見てました!」(164)

マリ「気が付いたら、すごいごっついコックピットにいるのよ。エヴァみたいなかっこいいのじゃなくて、もっとこう、武骨っていうかローテクな。あたし自身も、プラグスーツじゃなくて、ごてごてしたスーツ着てるのよ。それで、ふと前のほうを見たら、コックピットから、目の前にすごく大きな化け物がいるのが見えるのよ。周りのビルと比べたら、100mはあったんじゃないかな。あ、ビル街の中にいたのね。で、あたしの方も、何か知らないけどすごい高いところにいるのよ。目の前の怪物と目が合うぐらい。びっくりして、目の前にある操縦桿をグッて前に倒したの。そしたら、何に乗ってるのか知らないけど、それがグワーッて前に進んで、そいつに激突して……」

ミサト「……そこで目が覚めたってわけね」

マリ「うん」

ミサト「で、そんな夢を見てて、目が覚めたらエヴァがすさまじいダメージを受けてて、何もできないまま戦闘不能においやられたと、そういうわけね」

マリ「そういうわけであります! 委細、相違ありませ…」

ミサト「2週間謹慎」

マリ「」

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シンジ「そりゃそんなこと馬鹿正直に言えばそうもなるよ」

マリ「やっぱりそうか」

シンジ「なんでそんな馬鹿馬鹿しい夢の話までしちゃうのさ、マリらしくもないなあ」

マリ「いや、ちゃんと言ったんだよ。作戦行動中に急にそうなったの。気が付いたら、さっきの夢の中で、別にうつらうつらした覚えもないし、意識を失うきっかけもなかったはずなんだよ。なのに怒られてさあ」

シンジ「だからその夢が問題なんでしょ。そういうところだけ言っておけば、何か問題があったように思えるのに、夢の内容まで詳しく言ってちゃ、ただ気を抜いて寝てただけって思われても仕方ないよ」

マリ「だって、本当に気になる夢だったもの。何か、あたしの悩みとか気になることに関する夢ならわかるじゃん? もしくは突拍子もないギャグな夢でも納得できるじゃん? でも、あの夢、本当に、なんで見たのかわからないのよね。出てくるもの全部、初めて見るものばかりだし。そのくせはっきり覚えてるし」

アスカ「コネメガネでもそういうナイーブなこと言うのね」

シンジ「あ、アスカ」

アスカ「だけどさ、そういうことを相談する前に、戦闘中に沈黙した8号機の割を食わされた私とバカシンジに何か言うことがあるんじゃないの」

マリ「ごめん! 恥ずかしながら、ガラにもなくやらかしてしまいました」

シンジ「びっくりしたよね。作戦開始ってミサトさんが言ったのに、ボーッと突っ立ってるかと思ったら、いきなり倒れこむもんだから」

アスカ「援護射撃担当のくせにそういうことするのやめてよね、本当。前衛があたしだから良かったものの、バカシンジとかだったら死んでたかもしれないんだから」

シンジ「……そのバカが横でフォローしたから何とかなったとは意地でも言わないんだよなあ、もう」

アスカ「何?」

シンジ「なんでもない」

マリ「いやー、姫、ワンコくん、本当にごめん。面目ない」


アスカ「どーせ、何か映画でも見て影響されてそんな夢見ちゃったんでしょ?」

マリ「うーん、それならそうとわかるんだけどなあ」

シンジ「どんな怪物だったの?」

マリ「うーんと……全身紫色の、二本足の怪物。何か、ティラノサウルスをもっとどっしりさせた感じで。で、両肩に、真っ白な岩……っていうかなんだろう、結晶? クリスタル? 的なものがあった」

アスカ「うわ……いかにも低俗なデザインね」

シンジ「使徒じゃないの?」

マリ「うーん……あんなのと戦った覚えはないにゃあ」

アスカ「あたしもそうね……バカシンジも同じじゃない?」

シンジ「うん……たぶん、どっかで見たのを忘れちゃってるだけよ」

マリ「そうかなあ。あたし、これでも記憶力はある方なんだけどなあ」

アスカ「だったらなおさら。自分の意識してないところで覚えてるものがあるんでしょ」

シンジ「僕もそう思うよ。まあ、なんで寝ちゃったのかはわからないけど、マリ、このところずっと戦いっぱなしだったし、疲れてたんじゃない?」

アスカ「そーそー。ミサト達が話してたわよ。昏倒したとか言ってるけど、脳波的には完全に居眠りだったって」

マリ「くう……そういうところを責められると何も言い返せない」

シンジ「しばらく休むことだよ。たぶん、ミサトさんたちも、マリの体力を考えて謹慎にしたんじゃないの? もちろん8号機の修復にはそれぐらいかかるんだろうけど、放っておいたら、マリ、ずっとシミュレーショントレーニングばっかりしてそうじゃん」

アスカ「あたしもそう思うわ。気が抜けてるのよ。一度自己管理ってものを考え直した方がいいわ」




自室

マリ「あーあ、謹慎か……基地の中にいられるならともかく、これじゃ何もすることがなくて困り果てるにゃ…………さすがにあたしだって、自分の体力ぐらいはわきまえてるつもりなんだけどな。それに、戦闘中に眠るなんて、一度もなかったし。なんでかなあ……」

そのまま眠る。




?『……ラ……応…せよ……ゲラ……応答……』

マリ「え、何? 誰?」

?『だめ………全……返……』

?『応答し……モゲ……応答……』

マリ「何、この声。あたし、部屋で寝てたんじゃ……」

?『どういうこ……応答し……』

ミサト『埒が……貸しなさい! ……マァァァリィィィ!』

マリは、はい! はい! なんでしょうか!?」

青葉『応答ありました!』

ミサト『なんでしょうか、じゃない! 何のつもり!? 無線連絡を無視するなんて!』

マリ「へ?……あ、ここ……この前の夢と同じコックピット!?」

スイッチ類が並ぶコックピット。前方は大きな窓になっており、まるごとHUDとして機能している。目の前には青い空が広がっており、はるか下を市街地や森が通り過ぎていく。

青葉『クルーの体調に異常が……』

マヤ『いえ、バイタルに異常は……』

マリ「あ、あの、ミサト……だよね?」

ミサト『そう……この期に及んでなお寝ぼけるとはいい度胸ね』

マリ「え? あ、いや、あの、か、考え事してました! えーと、真紀波は、ただいま、えー、い、一件落着しました!」

ミサト『本当に?』

マリ「ビンビンです!」

ミサト『そう。まあいいわ。今から帰投させるわけにもいかないし。この件については、この任務が終わった後でお話ししましょう、たっぷりとね』

マリ「……何これ、なんでこんな怒られてるの?……あれ、待てよ何かデジャヴが」


日向『大丈夫ですか?』

ミサト『問題ないわ。今から帰らせてクルーを交代させる時間はないもの。バイタルに異常はないんでしょ? だったらこのまま行かせます』

マリ「このまま行くって何なのさ……」

青葉『司令室よりモゲラへ。目標まで残り31マイル。会敵まで4分。自動操縦解除せよ』

マリ「え、え、何?」

青葉『自動操縦解除。手動操作に切り替えて目標に接近せよ』

マリ「自動操縦……手動……あたし、今何に乗ってるの? L.C.Lの中でもないし、エヴァじゃないとしたらここは何なの?」

ミサト『マリ。いい加減にしなさい。自動操縦解除!』

マリ「は、はい!……え、あれ、出来ちゃった? なんで、あたし、これの操縦方法がわかるんだろ?」

ミサト『目標は名古屋市街地を抜けて、名古屋港方面へと南下中。周囲の避難は完了しているから、最初から火力を集中して一気にたたきなさい』

マリ「目標……何かわかんないけど、敵ってことね。いいや、とりあえずわくわくしておこう」

シンジ『マリ、本当に大丈夫?』

マリ「ん? うお、ワンコくん!」

シンジ『何驚いてるのさ……ミサトさん、僕本当に手伝わなくて大丈夫なんですか?』

ミサト『そりゃもう、私も不安になってきたわ、シンジ君。まあでも、とりあえずはまだスターファルコンのコックピットでナビゲートしてて。いつでも分離できるようにね。』

シンジ『でも、何か様子おかしいですよ。さっき通信が途切れたときだって、よっぽど様子見に行こうかと思いましたもん』

ミサト『たかだか10秒程度じゃない。安心しなさい』

シンジ『本当かな……言ってることがちぐはぐですよ』

マリ「え、何、ワンコくんもここに乗ってるの?」


シンジ『ねえ、ちょっとマリ、ふざけてるにしろ寝ぼけてるにしろ、いい加減本腰入れてよ。もう、すぐそこに敵がいるんだからね』

ミサト『シンジ君の言う通りよ、マリ。ま、とりあえずは無事に終わらせて帰ることね。すべてはその後……』

マリ「うう……墓穴を掘った。そっか、たぶんこの機体?には別のコックピットがあって、そこでわんこ君は待機してるってわけね」

日向『モゲラ、第二環状鳴海インター上空通過。目標まで約8マイル。まもなく視認可能範囲です』

ミサト『目標の現在位置は?』

青葉『名古屋高速4号線木場IC周辺を南下中、進行速度、時速60マイル』

ミサト『目標が確認できる、マリ?』

マリ「目標……? 目標、目標っと……うおぅ!? 何あれ!?」

モゲラのコックピットから見下ろせる先、名古屋高速4号東海線の出口、木場ICのあたり――名古屋城からちょうど10km南の港湾部を、北から南へと縦断していく巨大怪獣が見える。

ミサト『近くで見ると余計冗談みたいでしょ』

シンジ『趣味悪いですよね、背中がとげとげの亀って』

ミサト『亀じゃないのよ、あれはアンキラサウルスって奴の突然変異種なんだから』

日向『アンキロサウルスです。ラじゃなくて、ロ』

ミサト『どっちだって良いのよ、んなこた。マリ、まずは上空からプラズマレーザーで威嚇射撃を行って。出来ることなら海のほうへ追い立てて、対地攻撃のみで仕留めるから』

マリ「ぷ、プラズマレーザー……このトリガーかな?」

モゲラの両眼からレーザーが飛び出す。レーザーが怪獣の前方の地面に着弾し火花を上げる。
が、怪獣は少し動きを止めたものの、さして気にすることもなく移動を続ける。

マリ「おおおお……出た」

シンジ『うわ……興味さえないみたい』

ミサト『んー、まあ半田で陸自とやったときもこんな調子だったらしいし、こんなもんね。マリ、次は自動追尾レーザー砲』

シンジ『旋回して北側から回り込もう』

マリ「お、おうよ……えっと、たぶん、この操縦桿だよね……」

モゲラ、怪獣を飛び越した後、大きく右へ旋回。
北、熱田神宮方面から再び怪獣へ向けて接近する。

マリ「くうう、操作の記憶がおぼろげで怖い」

コックピットのHUDに菱形のポインタが表示され、怪獣をとらえてロックオンを知らせる。

マリ「自動追尾だから……たぶん、これでいいんだ。よし、だいたいわかってきた」

モゲラの両腕から青いレーザーが照射され、怪獣の背中に命中する。
さきほどより大きな火花が散り、怪獣は、ひるんで前のめりに体勢を崩す。

マリ「よっしゃ!」

モゲラ、北から南へ怪獣上空を通り過ぎ、再度右へ旋回して西から接近を試みる。

シンジ『あの怪獣、完全にこっちに気付いたね』

ミサト『マリ、そのまま旋回して怪獣をおびき寄せて。アンキロサウルスの手前に川が見えるでしょ?』

マリ「うん」

堀川である。

ミサト『そこまでおびき寄せて仕留めましょう。避難が完了してるとはいえ、まわりには工場が多いわ。できればそれらに被害が及ぶのは防ぎたいの』

マリ「了解!」

モゲラ、速度を落として旋回を繰り返し、怪獣を誘導する。
しかし、怪獣はモゲラを注視してこそいるものの、向ってくる様子はない。

シンジ『反応鈍いです、ミサトさん』

ミサト『かーっ、やっぱりもう一度おちょくるしかないか』

モゲラ、再度攻撃を加えて挑発を試みる。

マリ「よーし……もう一発このレーザーで」

ミサト『マリ、もうちょっと角度を深く取って攻撃してみて。そうしないとひきつけられないのかも』

マリ「了解。降下しつつ攻撃を加えます」

シンジ『……角度の問題じゃないと思うんだけど……』

モゲラ、西側から、激しく降下しつつ標的を定める。

シンジ『え……ま、マリ、ちょっと低すぎない?』

マリ「どうせ挑発するんだからこれぐらいやんなきゃ意味ないって」

ミサト『大丈夫よ、シンジくん。みたところ相手はかなりトロいわ。高度が低いって言ったって、飛んでる奴を仕留められるようには見えないもの』

マリ「そーそー! よっしゃ、いくぞ!」

モゲラ、再びレーザーで攻撃。しかし怪獣、体を丸め、甲羅のような背中で耐えしのぐ。

シンジ『あ、丸まって耐えてる……』

マリ「ふーむ、あの甲羅、耐久力が高いのね。別のところ狙ったほうが良さ……あ、え??」

モゲラが上空を通過しようとしたのを見計らって、怪獣、一気に跳躍し、とげの生えた甲羅で体当たりを敢行。命中。

マリ「うわっはあ!?」

怪獣は跳ね飛ばされるように落下。モゲラは火花を散らしながら盛大に体制を崩しつつ降下していく。

シンジ『うわあああ! もう、だから、だから言ったのに!』

マリ「あ、やばい、体勢保てない、緊急着陸します!」

シンジ『墜落だよこれ!』

モゲラ、木場ICの東を南北に走っている、国道247号線へ墜落。

ミサト『……きな……きなさ……応答を……応答……』

マリ「うーん……あ、あれ?」

コックピットのいたるところから火花が散っている。前方の窓は隅から隅まで青空しか見えない。

マリ「どうなったんだっけ……あ、そうだ、確かあの怪獣に体当たりされて……どうなってるんだろ、これ、あたし、あおむけ……?」

ミサト『起きなさい! 応答しなさい! 目標が接近中!』

マリ「うええ!? は、え、ど、どこどこどこ!?……あ」

コックピットの青空を遮って、大きな顎を持った怪獣の頭が覗き込んでくる。

マリ「……目の前っすか」

怪獣、横たわったモゲラを突き転がす。窓から見える景色が回転し、やがて住宅を何軒か押しつぶしてようやく停止する。

マリ「うおわあーーー!!?」

ミサト『やばいやばいやばい、これはやばいわ』

シンジ『マリ!』

マリ「うおお効いた……お、わんこ君」

シンジ『ごめん、僕も昏睡してたみたい。とにかく、あいつに接近されたままじゃ、そっちのコックピットまでいけない! なんとか体勢を立て直して、ランドモードに移行して!』

マリ「体勢を立て直す……無茶いうねぇ、旦那」

シンジ『そこをなんとかするんだよ! スターファルコンのユニットの損耗が激しくて、もう飛行も分離も無理なんだ。地上戦でけりをつけるしかない』

マリ「オッケー、オッケー。とにかく何とかしないとこのままスクラップにされるわけねえうおああ!?」

モゲラ、再び付き転がされる。再びコックピットから青空が見える。

マリ「うぐぐ……お、いい感じにあおむけになった……そうだ、これでまたさっきみたいにここを覗き込んで来たら……」

やがて、怪獣が再び現れる。期待通り、コックピットを覗き込んできた。

マリ「いまだ!」

プラズマレーザーがモゲラの目から放たれ、怪獣の顔面を直撃する。怪獣、もんどりうって視界から消える。

マリ「よし!……あれ? こ、この後は……」

ミサト『いい感じよ! そのままランドモードに移行しなさい、姿勢制御装置が生きてるから、自動で立ち上がるはずよ!』

マリ「ランドモード……あ、書いてある。このレバーか」

モゲラ、ホバー噴射で強引に立ち上がる。飛行形態から、二足歩行の地上形態へ移行し、体勢の立て直しに成功する。

マリ「うおおお……すごい」

コックピット後方の扉が開く。

マリ「んお? あ、ワンコくん」

シンジ「うう、体の節々が痛い。マリは大丈夫?」

マリ「え? ああ、うん、大丈夫みたい」

シンジ「だろうね……相変わらず頑丈なんだから」

マリ「……変な服着てるねぇ、何それ、ジーフォース?」

シンジ「こんな時までその話? もうやめようよ、僕にこのユニフォーム似合わないのはよくわかってるから」


マリ「あれ、ちょい待ち、なんでさっきまでは来なかったの?」

シンジ「なんでって……そりゃ僕はスターファルコン担当だもの」

マリ「担当ってどういうこと?」

シンジ「……ちょっと、真面目にやってよ。まさか本当に寝ぼけてるの? ブリーフィングの内容まで忘れてたんじゃあどうしようもないよ」

マリ「え? あ、ああ、冗談冗談、ごめんごめん」

シンジ「だから、こんな時に冗談いわないでy……うえっ!?」

怪獣の突進。モゲラ、転倒はしないものの、火花を散らしながら大きくよろめいて交代する。

ミサト『バカガキ共―! くだらない会話してないで臨戦態勢!』

マリ「ぐおお……すっかり忘れてた」

シンジ「うう、舌かんら……マリのせいらからね……!」

ミサト『あんたたちの足元にあるのが国道247号線! それにそって北上してまずは距離を取りなさい!』

マリ「……了解」

マリの操作で、モゲラ、国道を北上。怪獣から距離を取ったかと思うと、鋭く停止する。

シンジ「あがっ!?……うう、寝ぼけてたくせして操縦が荒いのはそのままじゃんか」

ミサト『マリ、さすがに目が覚めたでしょうね!』

マリ「も、もちろん!……本当はまだよくわかんないけど……」

ミサト『オッケー、この期に及んでまだ寝ぼけてたらどうしてやろうかと思ってたけど、それだけ荒い運転できるんなら任せたわよ! 作戦は変更なし! いつも通り、マリが操縦攻撃操作、シンジくんが機体・火器管制! こちらから都度支持は出すけど、基本的には対象の排除を第一目標として、マリの判断に任せるわ、いい?』

マリ「了解!……うふふ、まいっか、なんだか知らないけど面白くなってきたよ」

怪獣、モゲラの動きの素早さを警戒するかのように、唸りながら息を整えている。

マリ「……今のところ、様子見って感じね。ワンコくん、主砲の用意ってできてる?」

シンジ「主砲?……プラズマメーサーのこと?」

マリ「それ」

シンジ「いや、そう言ってよ……変形直後だからどの武器もエネルギーの充填がまだ終わってないよ。えっと、スタンバイ完了まであと20、ううん25秒」

マリ「完了次第、しゅh……プラズマメーサーをあいつに打ち込むよ」

シンジ「え、いきなり? あいつ結構素早いよ、躱されたらどうするの?」

マリ「だめでもともと、当たったら儲けもん。あいつの機動力をもう一度見ておきたいの」

シンジ「いや、それ流れ弾は……」

マリ「そこはほら、ワンコくんがいい感じに」

シンジ「いい感じってもう……じゃあ、メーサーの収束点をできる限り手前に寄せておくよ。これならたぶん、外れてもそこまでひどいことにはならないよ」

マリ「ありがとっ。で、問題は、あと15秒の間、やっこさんが動かないでいてくれるか、よね」

怪獣とモゲラのにらみ合いは既に10秒続いている。両者とも動かない。

マリ「……よっしゃ」

シンジ「え、え? マリ!?」

モゲラ、ゆっくりと前進を開始。しずかに怪獣との距離を詰めていく。
怪獣、モゲラの行動に警戒を強める。

青葉「も、モゲラ微速前進! 対象に接近していきます!」

ミサト「……なにする気、マリ」

モゲラの前進速度は決して早くない。
怪獣、先ほどとは打って変わった緩慢な接近に警戒心を強め、じりじりと後退する。
両者のにらみ合いが続く。

シンジ「……えっと、マリ、スタンバイ完了までカウントダウンするよ」

マリ「サンキュ」

シンジ「7……6……5……4……」

モゲラと怪獣、双方の距離は維持されたまま、じりじりと動いていく。

シンジ「3……2…………完了! ウェポンオールグリーン!」

マリ「プラズマメーサー発射!」

シンジ「発射!」

モゲラの腹部から巨大なメーサー砲頭が飛び出し、殺獣熱線を照射する。
怪獣、素早くこれをよける。
熱線、国道257号線と交差している国道23号線の高架に命中し、いびつな黒煙と共にこれを変形させてしまう。

マリ「あー、やっぱり!」

ミサト『あやっぱりなんて作戦がどこにあんのよ!』

怪獣、鳴き声を上げ、高架へ飛び乗ると、西へと逃走。

マヤ『目標、国道23号線を西へ逃走! すごいスピードです!』

ミサト『まったく……よけいな刺激与えただけだったじゃない! なんとかなさい!』

マリ「しますよぉだ!」

シンジ「ま、マリ、ちょっと待って、あんまり無茶な機動は」

マリ「にゃぁ!」

シンジ「やめてええ!! あがががっ!?」

モゲラ、変形した高架の近くまで移動し、ホバーの出力を上げて高架に飛び上がる。

青葉「モゲラ、23号線の高架に上りました! 追撃を開始します」

23号線を必死に駆ける怪獣。追撃するモゲラ。

マリ「うははは、車幅つかみきれなくて困るにゃー。脱輪したらどうしよ」

シンジ「ふざけてる場合じゃないよ! さっきの無茶なジャンプで脚部の噴射ノズルが悲鳴上げてる。このままこんなに飛ばしてちゃ足から吹っ飛ぶよ!」

マリ「うーん、ま、もしそうなったらそれこそ、おわりって奴だね、名古屋だけに」

シンジ「この期に及んでそんなくだらない駄洒落……!!」

マリ「いーからいーからワンコくん! ミサイル用意!」

シンジ「ミサイルって……スパイラルグレネードミサイル? なんで? あんな速さで逃げられたんじゃ当てられないよ」

マリ「いいからスタンバイして!」

シンジ「もう……スパイラルグレネードミサイル、スタンバイ!」

マヤ『目標、国道23号線を西へ逃走! すごいスピードです!』

ミサト『まったく……よけいな刺激与えただけだったじゃない! なんとかなさい!』

マリ「しますよぉだ!」

シンジ「ま、マリ、ちょっと待って、あんまり無茶な機動は」

マリ「にゃぁ!」

シンジ「やめてええ!! あがががっ!?」

モゲラ、変形した高架の近くまで移動し、ホバーの出力を上げて高架に飛び上がる。

青葉「モゲラ、23号線の高架に上りました! 追撃を開始します」

23号線を必死に駆ける怪獣。追撃するモゲラ。

マリ「うははは、車幅つかみきれなくて困るにゃー。脱輪したらどうしよ」

シンジ「ふざけてる場合じゃないよ! さっきの無茶なジャンプで脚部の噴射ノズルが悲鳴上げてる。このままこんなに飛ばしてちゃ足から吹っ飛ぶよ!」

マリ「うーん、ま、もしそうなったらそれこそ、おわりって奴だね、名古屋だけに」

シンジ「この期に及んでそんなくだらない駄洒落……!!」

マリ「いーからいーからワンコくん! ミサイル用意!」

シンジ「ミサイルって……スパイラルグレネードミサイル? なんで? あんな速さで逃げられたんじゃ当てられないよ」

マリ「いいからスタンバイして!」

シンジ「もう……スパイラルグレネードミサイル、スタンバイ!」

マヤ「も、モゲラ、スパイラルグレネードミサイルスタンバイ」

ミサト「なに考えてるの……追尾性能のないミサイルじゃ、あんな速度の目標に当てられるわけないじゃない」

怪獣、23号線の上を逃げる。やがて、23号線のさらに上を高く跨る、高速4号東海線が見えてくる。

シンジ「マリ……まさか、きみ」

マリ「ワンコくん、目標、あの高速道路!」

シンジ「えええ!? だ、駄目だよ! そんなことしたら……」

マリ「しゃーないしゃーない! 避難終わってるんだから、別に人死にが出るわけでなし。どうせあの高速の出口、さっきあいつが壊したじゃん」

シンジ「で、でも……」

マリ「だいたい、今さらそんなこと言ってる場合じゃないと思うよん。見てみ、後ろ」

シンジ「後ろ?」

16万tの巨体を持つモゲラ、両足のキャタピラーと強力なホバー噴射によって、高架道路の上を驀進している。
もちろん、その衝撃に耐えきれず、モゲラが通過するそばから、国道23号線が崩落していく。

シンジ「あ、ああああ……!?」

マリ「ほらね。今さらあの高速道路一つかばって何になるのさ。だいたい、あいつはあの高架ぐらい飛び越えられるだろうけど、こっちはジャンプもできないからつっこむか足止め食らうしかないよ。それに、このままじゃ追っかけてるうちにこっちのあんよがドカン、なんでしょ? だったら何とかして足止めするっきゃない!」

シンジ「うう……どうにでもなれ! ミサイルスタンバイ、目標、えーと……前方の高速道路?の橋げた!」

モゲラの右腕先端部が二つに割れ、中からスパイラルグレネードミサイルがその弾頭をのぞかせる。
怪獣、逃げるのに必死でそれに気づいた様子はない。

マリ「よぉし! あたしが合図したら撃ってね? まだよまだよまだよ……」

怪獣、23号線と高速道路の交差点に接近。

マリ「今!」

シンジ「ミサイル発射!」

スパイラルグレネードミサイルが発射され、マッハ1を超える速度にまで加速し、目標へと進む。
ミサイルは怪獣を追い越し、見事、橋げたに命中し高速道路を崩落させる。

マリ「よっしゃ!……あ、ありゃ?」

怪獣、崩落に巻き込まれるかと思いきや、速度を緩めず、体を丸めて球体になったかとおもうと、そのまま転がるような移動体勢へ。
止まるどころか加速し、雪崩れ落ちるがれきを強引に突き破り、突破する。

マリ「あっちゃぁ!? あんなの有り!? え、ボールみたいになって……あの子、体柔らかいね!?」

シンジ「あああ、予想以上にひどいことになった」

マリ「っきしょー、ワンコくん! もう一発!」

シンジ「えええ? なに言ってるの、今失敗したばかりじゃんか!」

マリ「大丈夫、次は絶対止めるから!」

シンジ「ダメだってば! み、ミサトさん、ミサトさん! マリがまた無茶なこと……あれ?」

マリ「あ、通信は切ってあるよん」

シンジ「バカなの!?」



ミサト「モゲラ、応答しなさい、モゲラ、応答……応答しろっての、マリ、ちょっと!」

マヤ「ダメです、あちらから通信を切ってるみたいです」

ミサト「ああもう……寝ぼけてたかと思ったら、いつも以上にごきげんになっちゃって、あのアホ娘!」

マヤ「どうしましょう……シンジくん、止めてくれるでしょうか?」

ミサト「無理ねー……あの子、押しに弱いから。ていうか最近、なんだかんだで自分も一緒になって暴れる癖ついてきちゃってるしね」

青葉「なんで組ませたんですかそもそも。歯止め役にもならないじゃないですか、これじゃ」

ミサト「誰もマリがここまでハッスルするなんて思わないでしょ!?」

日向「……確かにいつにもまして戦い方が無茶な気がする」

シンジ「………レフトハンドのミサイルはスタンバイしてあるよ、どこ狙うの?」

マリ「おっ、さすがワンコくん、話のわかる男だね!」

シンジ「どこだっつってんじゃんか、言ってよもう!」

マリ「怒るな怒るな。あ・そ・こ」

シンジ「はあ?……え??」

23号線を木場ICからさらに西進した先に、堀川が流れている。23号線はそこで、川をまたがる橋――港新橋になっている。

マリ「あの橋をいいタイミングで崩すんだよ。そしたら、あいつ、ボコッて川にはまってくれるはず」

シンジ「……正気?」

マリ「どうせ、このままじゃジリ貧でしょ? 動きをとめさえすれば、後は何とかなるって!」

シンジ「うぐぐ……ミサイルスタンバイ!」

マリ「おおう、威勢よくてかっこいい!」

シンジ「目標……えっと、あの橋! の、いちばんあっち側の部分!」

マリ「よーし、次もあたしの合図待ちでね」

シンジ「そっちにコントロール渡すよ、好きな時にトリガーひいて」

マリ「おぉう、気が利くねぇ!」

シンジ「ちょ、いいから前見て、前!?」

モゲラ、瓦礫の山に突入し、怪獣が崩した隙間をからくも通過。
両側を擦ってしまい、高速道路をさらにちょっと破壊。

シンジ「……あっぶな」

マリ「ねえ、ターゲッティングもこっちでやるの?」

シンジ「僕が合わせてるよ、マリは発射だけ」

マリ「ディモールト・ベネ!」

シンジ「いいから。もうすぐでしょ?」

マリ「おうよ。ふふ、見てなさいアンギラス」

シンジ「え、アンギラス?」

マリ「アンキロサウルスじゃ言いづらいでしょ。アンキロサウルスの怪獣なんだから、アンギラス! どう?」

シンジ「まあ、うん……どうでもいいよ」

アンギラス、丸まったまま、猛スピードで港新橋に差し掛かる

マリ「オッケー、ワンコくん、歯ぁくいしばって! よーしよーしそのまま………発射!」

モゲラの左腕から再びミサイルが飛び出す。
ミサイル、再びアンギラスを追い越し、橋と向こう岸の接触部分に命中、破砕。
アンギラス、勢いよく橋を飛び出し、そのままマリの思惑通り、堀川に落下、というより激突。

マリ「ビンゴォ! ワンコくんいい腕してる!」

シンジ「ありがとうマリ、でも僕、代わりにミスしちゃった」

マリ「え? なにそれ」

シンジ「今の二発で機体に余計な負荷がかかったみたい……ノズルの出力調整が利かなくなっちゃった」

マリ「それって……ははぁん、するってーと、これからあたし達は」


モゲラ、勢いを全く緩めず、橋の破砕部分から飛び出す。
そのまま、その巨体をアンギラスに向かって投げだし、勢いよく突っ込む。

マリ「きゃあああ!!」

シンジ「うわぁぁぁ!!」

アンギラスと激突し、モゲラの外装と、コックピットのコンソールから激しく火花が散る。





マヤ「モ、モゲラ、港新橋の崩落地点から、えーとダイブ?……いや、タックル?……」

ミサト「プランチャー」

マヤ「あ、はい、それ、プランチャー! 堀川に落下した目標に正面衝突しました!」

ミサト「ありがとう、でも見りゃわかるわよ」

青葉「いや、プランチャーじゃわかんねえだろ……」

日向「あれは、どっちかっていうとフライングボディプレスじゃないかなあ。相手寝てるし」

ミサト「うっさい。あんたらうっさい」

アンギラス、モゲラのプランチャー・スイシーダをまともに食らうも、丸まっていたのが幸いし、そのダメージは軽微。
やがて、感覚を取り戻すと、自らに覆いかぶさったまま沈黙しているモゲラをはねのける。
モゲラの巨体を宙に舞わせることこそできなかったものの、うつぶせに倒れていたそのボディは一気に跳ね上がり、堀川の水をまき散らしつつ仰向けに転げる。
アンギラス、水しぶきを払いながら体勢を立て直し、やがて怒りの咆哮。

日向「目標、威嚇行動をしつつ体制を整えています」

ミサト「ちっ……やばいわね……ん?」

アンギラス、唸り声を上げつつ、モゲラから一定の距離を保ち、じりじりとその脚部が向いている方へと回り込んでいく。

ミサト「そうか、さっき顔面にプラズマレーザーをもらったのを覚えてるのね。チャンスだわ、すぐには襲ってこない! マリ、シンジくん、今がチャンスよ! 体勢を立て直し……」

マヤ「モゲラ、依然として通信遮断状態です」

ミサト「……ああもう」

アンギラス、背中のとげを利用してモゲラにタックルを行う。
モゲラの体から火花が散る。体勢を立て直して反撃する様子はない。
アンギラス、タックルを繰り返す。
水しぶきの中で、モゲラがぼろぼろにされていく。
やがて、モゲラの右腕がもろにタックルを食らい、ひときわ激しい火花と共にもぎ取れる。

マヤ「モゲラ、ライトハンド破損」

ミサト「……マジにまずいわね。アスカとレイは?」

青葉「さっきから要請は出しているんですが……93式は相変わらず置物状態、75式は飛行中にバラバラになるのがオチだと」

ミサト「この際、ガルーダだけでいいから出撃準備」

青葉「了解……あ、目標がさらに攻撃しています!」

ミサト「……何とかしてみなさいよ、2人とも!」



アンギラス、ひときわ激しい火花を見て調子づき、モゲラに馬乗りになる。
モゲラ、なおも沈黙。
アンギラス、プラズマレーザーを発射してきた、モゲラの目部分にかみつき、その右目を破壊。反撃がないのを見ていよいよ勝利を確信したかのように、左目に食らいつく。

マリ「……今!」

シンジ「ドリル作動!」

モゲラの口元のドリルが回転し、アンギラスの大あごを迎え撃つ。
アンギラスの下あごを突き破り、破砕する。
アンギラス、悲鳴を上げながら飛び退く。


日向「も、モゲラ、ドリルで反撃! 対象の顎部分に甚大なダメージ!」

ミサト「ぃよっしゃあ! やればできるじゃない!」


口元から滝のように血を流すアンギラス。その下顎はもはや顎と呼べないほどずたずた。
モゲラ、火花を上げながらも再び立ち上がる。

マリ「うふふ、だから言ったでしょ、不意打ちが効くって!」

シンジ「いや、もうこれ、お互い様って言ったほうがいいよ」

マリ「いいのいいの、こっちの何倍ものダメージ、やっこさんに与えられたみたいだし」

シンジ「そうだね……でも、さっきの衝突で武装がほとんどいかれちゃってるよ、もう。ここからどうするのさ」

マリ「そりゃあもうこのドリルでいろいろと衝くしかないね」

シンジ「やめたほうが……だって、見てよ、ほら」

マリ「え?」

アンギラス、えぐられた顎を前足でかばいながら、苦しそうな声を上げ続けている。
モゲラに気づいてはいるものの、おびえたような目を向けるのみで、とびかかってくる様子はない。

マリ「あー、完全に心折れてるねぇ。あれがどうかしたの?」

シンジ「どうって……完全に戦意失っちゃってるじゃんか。やだよ僕、こんなのにドリルでとどめさすのって」

マリ「なんだよう、男らしくないなあ」

シンジ「マリは平気なの? 頭部のドリルなんてすごい小さいんだから、とどめさすまでに手間かかる上に、ものすごい飛び散るよ、たぶん。それでもいいの?」

マリ「うん。魚さばくようなもんでしょ」

シンジ「やめようよ。せめてメーサーが修復されるのを待ってよ。いっそ熱線で一思いに……」

マリ「その間にまた襲いかかってこられたら今度はこっちがやばいよん。いよいよ名古屋おしまいだよ?」

シンジ「そ、それはそうなんだけどさ……」

マリ「うーむ、埒が明かないね。あ、そうだ、こういうときこそ上の指示を仰ぐってのが日本人としての矜……」

マリ、通信を復活させる。

ミサト『ストップだっつってんでしょバカ娘ぇぇぇ!!』

マリ「うおわ!?……み、耳が、耳がキーンって……」

シンジ「み、ミサトさん! そ、そんなに怒鳴らなくても聞こえますよ!」

ミサト『あら、怒鳴らなくても聞こえるの、そう。じゃあ今まで無視してたのはどういうわけかしらねえ!! ああ!!?』

シンジ「それはマリが……」

マリ「ワンコくんが通信切ったの! あたし操縦担当だもん、管制してないもん」

シンジ「うええ!? マリ、ちょっとこういうときだけもう!」


ミサト『どっちだっていいんじゃあ!!!』

リツコ『ミサト、落ち着きなさい、ミサト!……うん、しばらく休憩室に………お水も………えっと、モゲラ、きこえる? マリ? シンジくん?』

マリ「はいはーい、それぐらいの音量がいいにゃ」

リツコ『よかった……えっとね、碇司令から発令された内容を伝えるわ。その怪獣は現在、戦意喪失が明白な状態にあり、周辺都市区域にとっての脅威性は低下、速やかに排除を要する状況を脱したと判断されています。緊急会議にて、その怪獣の排除の中止と、研究標本としての回収を新たな作戦目標として設定することが決定されました。つまり、やっつけるのをやめて、捕まえることにしましたってことね』

マリ「ありゃ、なーんだ」

シンジ「え、じゃあ怪獣ランド行きですか?」

リツコ『そう。良かったじゃない。うまく回収できれば、史上3体目の怪獣標本よ。名古屋の湾岸一帯のインフラをぼろぼろにしたことぐらい、おつりがくるわ。私としても、大歓迎ね。ご飯おごってあげたいくらい』

マリ「じゃあ、もう戦闘はなし?」

リツコ『いえ、完全にそう決まったわけじゃないわ。その怪獣を威嚇し、監視しておいて。今、駿河湾で輸送船が出港準備にとりかかっているから、このままいけば、4~5時間後にはそちらへ到着するはずよ。それまで怪獣を戦意喪失させたままそこに足止めすること。暴れだしたら、再び排除を優先してもらいます。いい?』

マリ「ああー、うん、それなら大丈夫そう。ね、ワンコくん」

シンジ「うん、たぶんね」

モゲラ、口元のドリルを回転させる。
アンギラス、おびえたように体を丸める。

マリ「やっぱり、ドリル怖がってる。やられたのが下あごだったのも大きそうね。もうこっちに歯向かう意欲なしって感じ」

シンジ「メーサー自己修復完了。もう一発ぐらいしか撃てないけど、いざとなったら、こいつで丸焼きにすれば大丈夫だね」

マリ「ワンコくんって優しいのか怖いのかわかんないこと言うよね、たまに」

アスカ『コネメガネ、バカシンジ、きこえる?』

マリ「んお? その声は姫?」

アスカ『ほかに誰がいるのよ』

シンジ「アスカ? 93式が修理中だから待機してたんじゃなかったの?」

アスカ『誰かさんと誰かさんが間抜けな戦い方してくれたおかげで、ミサトに引っ張り出されたのよ。ま、今の任務は、そいつを倒すことじゃなくて、監視することだけどね』

モゲラとアンギラスの上空を、多目的戦闘機ガルーダが勢いよく飛んでいく。そのパイロットは、もちろん、アスカである。

アスカ『どうせメーサーもレーザーもろくに動かないんでしょ。いざとなったらこっちからこのツインメーサーそいつにぶちこんだげるから』

シンジ「ありがとうアスカ」

アスカ『……もうちょっとスマートに勝ちなさい、お礼いうぐらいなら』

マリ「ふー、なにはともあれ、一件落着って感じ?」

シンジ「そうだね。一時はどうなるかと思ったよ。マリ、今日ずっと調子おかしかったからさ」

マリ「めんごめんご……って、結局私がなんでこんなことしてるかわかんないままだよね……」

シンジ「ん? なに?」

マリ「あ、ううん、えっと……あ、あのさ、ワンコくん、エヴァンゲリオンってわかる?」

シンジ「え……だ、大連王? マリって本当に古いロボットよく知ってるね」

マリ「やっぱり知らないか……てかむしろ君がよくそんな古いの知ってるよ」

シンジ「なに、マリ、またおかしくなったの?」

マリ「ううん、違う違う……にゃるほどにゃるほど、つまりこいつは、いわゆる明晰夢って奴? 何か、前にみたあの夢と似てる気がする……」


シンジ「なにぶつぶつ言ってるのさ」

マリ「……ワンコくん、もうひとつきいていい?」

シンジ「なに?」

マリ「なんていうか、えっと、紫色の、ティラノサウルスをもっさりさせたような怪獣って見たことある? すっごい凶悪な顔つきで、肩に大きなクリスタル的なものが乗ってるの」

シンジ「今度は何言うんだよ……えっと? 恐竜をもっさりさせた感じって……え、それって、ゴジラ?」

マリ「ゴジラ? なにそれ」

シンジ「え?」

マリ「え?」


マリ「ほあっ?」

マリ、起床。そこはコックピットではない。見慣れた自室の薄暗い天井がある。
おもむろに時計を確認すると、5時を指している。

マリ「……朝? いや、この光の入り方は……」

カーテンを開けると、外は赤い夕焼けに穏やかに照らされている。

マリ「うわぁ、夕方の5時か……変な時間に起きちゃったなあ。てか、私、どれだけ寝てたんだろう」

マリ、はっとなって服を確認する。いつも通りの制服のまま。

マリ「やっぱり、ただの夢? にしては何か、具体的っていうか……」

翌日。

マリ「おはよー」

シンジ「あ、マリ! どうしたの? みんな心配してたんだよ。なんで昨日一日うんともすんとも連絡しなかったの?」

マリ「いやー、面目ない……うう、我ながらまさか丸一日寝てたとは言えない……」

レイ「そうよ。2号機の人なんか、すごい心配して……」

アスカ「よけいなこと言わなくていいのエコヒイキ!」

マリ「ありゃりゃ、ごめんごめん姫ぇ、心配かけたにゃあ」

アスカ「うっさい! もう!」

シンジ「でも、ミサトさんたちの冷めっぷりはすごかったよね」

レイ「まあ、あの人たちは、マリのでたらめな生活ぶりに慣れてるから、これぐらいじゃ心配もしないわ」

マリ「ところで、ねえ、これどう!?」

シンジ「え?」

マリ、スケッチブックを誇らしげに取り出す。
8号機の絵。その口元に、ドリルが装着されている。

シンジ「なにこれダッサ」

マリ「ダ!? いやいや、……エヴァの新しい装備よ! どう? ドリル! ロマンでしょ? これでねぇ、相手に組み付いたときに至近距離でブイイイイインって」

シンジ「……君、これを考えてたってこと? 連絡もせずに一日中」

マリ「え? いやいやいやそうじゃないよ! 昨日、家で寝てたらこう、急にビビッと降りてきたのさ! これ、どうかなって……」

シンジ「寝てたんだ」

マリ「あ」

レイ「幻滅したわ」

マリ「え?」

アスカ「あーもー……心配して損した」

マリ「え、え、ちょっと待ってよ! ねえ、姫、ワンコくん!」

アスカ「うっさいうっさい」

シンジ「今度ばかりはちょっとね」

レイ「がっかりしたわ」

チルドレン、マリの周りから去って各々の友達のもとへ。



マリ「なんだよもう……まあ、どうせ信じてくんないだろうし、いっか。でも、楽しかったなぁ、あの夢。また見れたら楽しいなぁ」



教室の窓の外を、妙に大きめな蝶が飛んでいる。
マリ達の様子を眺めていたかと思うと、どこかへと飛んでいき、やがて消える。

一旦終わりです

2個目投下します、フハハ!




マリの自宅。
カチカチカチという音が響いている。

マリ「……よっ……ほっ……うおあ、すげえ近くにいた!?」

アスカ「……」

マリ「なーんつって! ふふふ、姫、余裕なのもここまでだよ。みなさい、最大加速状態での私の華麗な連置き…あ、ずれた」

アスカ「……」

マリ「あーっ! 土管の中に入って出ただけなのに、あたしの黒ボンがカーソルになっている!? いつの間に食らったんだろ?」

アスカ「……やめた」

マリ「あああっ、リセットボタン!?」

マリ「ちょっとちょっと姫ぇ、それは反則だよ」

アスカ「これ以上あんたがぼろ負けする前にやめてあげたんだから感謝しなさいよ。やっぱ無理、あたしゲーム苦手」

マリ「もー……本当に? これだけ強いのにゲーム嫌いって、わっかんないなー」

アスカ「こんな低俗な遊びぐらい、このあたしにかかれば余裕すぎるってのよ。楽しくないってこと」

マリ「えー、じゃあ何するー? ウノ? ババ抜き? 麻雀? あ、それは2人じゃ無理よね……」

アスカ「はあ……もう帰っていい? あんたと2人で部屋の中にいたんじゃつぶせる暇もつぶせないわ」

マリ「あ、そうだ! 立ち相撲やろ、立ち相撲! 知ってる? こう、2人で向かい合って立って、両手で押しあったりフェイントかけたりして、倒れたほうが負けっていう……」

アスカ「帰る」

マリ「待ってよぉー!! 姫ぇー!! ただの謹慎ならまだしも、学校ない日は自宅謹慎なもんだから、暇つぶせなくて死にそうなんだよぉ! いてよ、お願いだからさあ!」

アスカ「自業自得じゃないの。なんだってたまの休みにあたしがあんたに付き合う必要があるの?」

マリ「だって……今日、ワンコくんもいれものちゃんも、ネルフに呼ばれちゃってて、非番なのは姫だけじゃんか」

アスカ「あいつ呼べばいいじゃん、あの、ホモ」

マリ「どこにいて何してんのか全くわかんないものあいつ!」

アスカ「あーもー……」

マリ「うふふ……でもあたしは知ってるよ、姫! なんだかんだ姫は優しいからあたしのところに来てくれてるんだよねっっ?」

アスカ「あー! 暑い暑いくっつくなこの……離れろ!」

マリ「ああぅ!?」


マリ「すっごい綺麗に入ったよ姫。肘。人中に」

アスカ「うっさい、どうせ大して効いてないくせして」

マリ「ばれたか」

アスカ「……わかったから、何か飲み物持ってきてよ。暴れたら暑くなったわ」

マリ「おおう! やっぱり、さすが姫! おおせとあらば何ガロンでも! アクエリでいい?」

アスカ「うん、そんな感じで」

マリ「ほいほーい」

アスカ「……」


マリ「ふぅー……おいしー。どう? 姫」

アスカ「ん、まあまあ……」

マリ「良かった。さて、何する? ダウト? 大富豪? あ、あたし、カー消し持ってるよ、カー消し! これ知ってるかなあ、机の上においてさ、ボールペンのあの、飛び出すあれで飛ばして、ぶつけあって……」

アスカ「……あのさ、一つききたいんだけどさ」

マリ「ん、何?」

アスカ「あんたさ、あの時……居眠りした時、変な夢見たって言ってたわよね」

マリ「え? うん。よく覚えてるね、そんなの。もう忘れたと思ってた」

アスカ「いや……それがさ」

マリ「え、姫も見たの!?」

アスカ「いや、見たっていうかなんて言うか……あんたの言ってたようなものは見なかったのよ、なんだっけ、あの低俗な……紫色した怪物? あれは出てこなかったんだけどさ。どうも、あんたの夢と似た感じで」

マリ「おお……シンクロニシティ? あたしと姫……そっかぁ、やっぱりそれだけあたしのことを想ってくれてるってこと?」

アスカ「違う」

マリ「ふふ、でも、わざわざ切り出してきたってことは、話してみたいんでしょ?」

アスカ「うん……まあ、何もすることがないんだったらって感じだけどさ」

マリ「話してみてよ! あたしも、あの後同じような夢見たんだけど、もしかしたら、本当に関係あるかもよ? あたしと姫の夢。だって、姫が出てきたんだもの、この前の夢」

アスカ「え?……じ、じゃあ、わかったわよ。話してみるわ……言っとくけど、笑わないでよ?」


『スタンディングポジション……』
『リフトアップ急げ……』
『冷却液注入開始……』

アスカ「……え、ここどこ?」

アスカ、一人でコックピットに座っている。
プラグスーツではなく、ごついヘルメットとごわごわしたユニフォーム。内部のコンソールも、前時代的なデザインのスイッチやレバーでいっぱいである。

アスカ「何ここ? エントリープラグの中……じゃないわよね?」

『ヘッドアーム開け』
『ボディアーム開け』

アスカ「え、え? ちょ、ちょっと、なにこれ? ミサト? バカシンジ!?」

ミサト『何よ、出撃シークエンス中は余計なおしゃべりなしって言ったでしょ』

アスカ「ミサト?」

ミサト『ほかの誰かに見える?』

アスカ「み、ミサトだわ……でも、いつもと着てる服がぜんぜん違う気が……」

マヤ『アスカ、どうかしたんですか?』

ミサト『どうもしてないわ。そうでしょ?』

アスカ「え? え、ええ! そりゃもう」

ミサト『ほら。だいたい、すみません行けなくなりましたじゃすまないわ。何としても93式に出てもらわないと困るのよ』

アスカ「……勢いで返事しちゃったけど、何が何だかさっぱりなのよね……」

『リフトアップ開始!』


アスカ「え? なにこれ上がってるの? あたしどうなろうとしてるの、今?」

格納庫の巨大な天井が2つに割れて開く。
つくば山の一角が開き、巨大な発射口に変形する。
アスカを乗せた巨大な何かが、リフトにのって、格納庫内から外部へと上昇していき、発射体制へと移る。

『ボディアーム全開』

その巨体を囲んでいたアームがすべて開く。

アスカ「……」

マヤ『アスカ、どうしたの? 準備完了よ。早く発進しないと』

アスカ「……なにこれ」

ミサト『ちょっと、いいかげんになさい、アスカ! マリが死ぬかもしれないって時に!』

アスカ「……マリ……コネメガネ!?」

『メインエンジン始動。メカゴジラ、発進』

アスカ「え?……あ、め、メカゴジラ、発進!」

93式メカゴジラ、足部分のブースターを起動させ、空に向かって離陸する。

ミサト『やればできるんじゃない……』

マヤ『たぶん、焦ってるんですよ。マリが危ないってことは、アスカが一番わかってると思いますよ』

ミサト『気持ちはわかるけどそんなんじゃ困るのよ。マリを助けたいのなら、こういう時こそ冷静に対処してもらわなきゃ』

アスカ「……コネメガネが死ぬって……どういうこと? ていうか、あたし今何をどう操作したの? 何に乗ってるの、あたし!?」

アスカ、心ならずも勢いで93式メカゴジラを駆り、発射口を飛び立つ。

青葉『93式、オートパイロットへ移行。常総市上空を通過、東南東へ向けて飛行中。目的地富士市まで残り約220km、到着予想時刻、一四三〇』

アスカ「常総市……富士市……第三新東京じゃないの?」

ミサト『きこえた、アスカ? 20分ほどで到着だから、気抜かないこと』

アスカ「えっと……わかったわ」

ミサト『よろしい』

いったん通信が切れる。

アスカ「あ、そうだ。このマップを縮小してみれば、どこにいるのかわかるはず……」

コンソールに、緑色の線と点で描かれた周辺地図が表示されている。その中央には、ひときわ大きな青い点が点滅している。アスカ、ぎこちなくも地図を操作し、表示範囲を拡大する。

アスカ「あれ? なにこれ……東京、横浜、千葉……これって、セカンドインパクト前の日本地図じゃないの? じゃあもしかして富士市って……やっぱり。第三新東京の近くにあったっていう街の名前だわ。変なの。水没してるはずの街がちゃんと残ってる。少なくとも私、今、エヴァに乗ってるわけでも、あのジオフロントから出撃してきたわけでもないみたいね。ははぁん、これ、夢?……にしちゃ、なんていうか、いろいろ感覚がはっきりしてる気がするんだけど」

アスカ、コックピット前方から、眼下を見渡す。
水没していたはずの房総半島や三浦半島がはっきりと残っているのが見える。

アスカ「……夢にしちゃリアルすぎるわ」

目線を映してコックピット内を見渡す。
無骨なデザインのスイッチ・ディスプレイ・レバーがそこら中に並んでいる。手元のディスプレイの一つを見ると、怪獣のようなデザインのロボットの全身図が描かれている。
その横には、『UX-02-93 Mecha-Godzilla』と表示されている。

アスカ「……めか・ごじら? ダッサイ名前ねー。あ、でも、さっきあたしこの名前言ったわよね。聞いたことないのに……」

『機体のチェックを行いますか?』

アスカ「わっ、なに?」


『機体管制用コンソールが、認識できない操作を探知しました。機体の簡易自己検査を行う場合は、「CHECK」ボタンをタップしてください。その他の操作の場合は、もう一度入力してください』

アスカ「……なんだ、OSの音声か。キャンセルキャンセル」

『操作がキャンセルされました』

アスカ「なんか、今の声どこかで聞いたことある気がする……何かしら」

『本艦は現在八王子市上空を通過中。目標到着時刻まで残り約10分。搭乗者の防毒マスクを展開します』

アスカ「わぷっ」

アスカのヘルメットが変形し、頭部全体が覆われた形になる。

アスカ「……なにこれ、おせっかいなOSね」

ミサト『マスクの調子はどう、アスカ?』

アスカ「ミサト?」

ミサト『まあ、リツコのことだから、サイズが合わないなんておバカなミスは起こしてないでしょうけど、万が一ってこともあるからね』

アスカ「……ま、着けてて気持ちの良いものじゃないのは確かね」

ミサト『でしょうね。でも、いかに93式のボディをもってしても、今回ばかりは何が起こるかわからないわ。戦闘中にガスが機体内に浸透するかもしれないし、万が一行動不能に陥って脱出にまで追い込まれたりしたら大変だから。何とか我慢して』

アスカ「ガスって毒ガスよね? よくわかんないけど、コックピットに浸透するようなガスにこんなヘルメットで対処できるの?」

ミサト『あるからって生き残れるかはわからないけど、なかったら死ぬのは確実よ』

アスカ「……なるほどね」

ミサト『まあ、同じもの着けてたマリが生きてるんだし、少なくとも、ド突き合ったりしてるうちは大丈夫なんじゃない?』

アスカ「あ、そうだ! コネメガネ! あいつが死ぬってどういうことよミサト?」

ミサト『はあ? だからそれブリーフィングで……』

アスカ「あ、えっとそうじゃなくて……な、何か事態が悪化してたりするの?」

ミサト『ああ。別に今のところは、ブリーフィングで伝えた通りのままよ。マリを乗せたガルーダは富士市に墜落したっきり。マリとの連絡もとれないまま。当該地域一帯の電波状態が異常に悪いのよ。あれだけひどいことになってれば当然だけどね。緊急発進信号はまだ生きてるみたい。本当に途切れ途切れだけど、今もキャッチできてるから安心しなさい』

アスカ「……都心部に墜落したのに連絡がとれないって、どういうことよ」

ミサト『だからそれは……いえ、さっきは写真しか見せられなかったけど、もう直接見たほうが早いわね。そろそろ御殿場上空だから、富士市のあたりが視認できるはずよ』

アスカ「富士市……右に見えるのが富士山だから、左の、海沿いのところよね……………何あれ?」

アスカが再び下を見下ろすと、穏やかな晴れ模様がどこまでも続く中で、海沿いの一地点だけがくすんだ黒い霧に包まれている。
アスカ、ディスプレイでその位置を確認。富士市のあたりである。地図と見比べてみると、富士市一帯が丸々その霧にのまれてしまっているとわかる。その中心部に至っては何も見えない。

ミサト『やっぱり中は見えない? 衛星写真でも、周辺の自衛隊の観測でも、霧……っていうか亜硫酸スモッグだけど、その中心部で何が起こってるのか確認できずにいるわ』

アスカ「亜硫酸スモッグって……スモッグっていうかまるで竜巻じゃない、どんな濃度なのよ。じゃあ、あの中にいる人たちは?」

ミサト『残念だけど、避難が間に合わなかった人達はすべて死亡していると考えていいでしょうね。工場の煙突から出る煙と同じなんて思っちゃだめよ。陸自も沼津と清水港まで退避して、そこを観測しているわ。あのスモッグは確認できる限り半径2km程度の範囲を覆っているけど、有毒物質はさらにその数倍の距離まで飛んできてるみたいだから』

アスカ「ガス兵器でもばらまかれたとしか思えないけど?」

ミサト『いいえ、やっぱりマリが追跡していた何かが原因だと考えられるわ。無人機を飛ばしても、あのスモッグの中に入ってしばらくしたら撃墜されてるの。何かいるとしか考えられない』

アスカ「何かっていうかそれ……」

ミサト『そうね。私も同じこと考えてるわ。だから今回はなおさら、やっこさんの写真をばしっと撮って、こっちに送ってもらわないと。ナビする側としてもあんたが頼りってことよ、オッケー?』

アスカ「よくそんな頼りないこと堂々と言えるわね」

『富士山こどもの国上空通過。降下準備に入ります』

ミサト『聞いたでしょ、アスカ。降下に備えなさい』

アスカ「……了解」

メカゴジラ、減速し、降下を開始する。

ミサト『もしかしたら何か飛んでくるかもしれないし、注意してね』

アスカ「了解。えっと……何か、川の横に開けた場所があるから、とりあえずそこめがけて降下してみるわ。視界がきかないからコンソールで確認するしかないけど」

ミサト『こっちでも確認してるわ。そこは、富士市の中央公園よ。ガルーダの信号は、そこから東に3km進んだ、工場地帯から発信されています。着陸して周囲の安全を確認したら東進して』

アスカ「オッケー。着陸するわ……何だか知らないけど、やるしかないか、ここまできたら」

メカゴジラのコックピットからの視界が、黒ずんだ霧で覆われる。
キャノピーの前面が閉鎖され、そこに頭部メインカメラからの映像が大きく映し出される。
が、それも先ほどまでの風景と変わらない。

アスカ「本当に何も見えない。ひどいわね」

ミサト『機体の気密性は保たれています。現時点で、有毒物質の浸透は確認されていません』

アスカ「この霧、見るからに毒々しいけど」

『本艦周囲の大気の二酸化硫黄濃度計測中、14.0ppm、15.5ppm、17.0ppm……』

リツコ『超高濃度の硫酸ミストね。少なくともロンドンスモッグの30倍以上の濃度ってところかしら。喘息になるってレベルじゃないわ、肺も気道もずたずたにされるわね』

アスカ「気軽にいえるわよね、本当にそういうことを」

メカゴジラ、着陸する。

アスカ「視界が全く効いてない……フリアに頼るしかなさそう」

メインカメラの映像が、赤外線カメラの映像に切り替えられる。

アスカ「……映像確認してる? ミサト」


ミサト「高温大量のスモッグのせいでよくわからないことになってるけど、元のカメラに比べればまあ幾分マシってところね。上空部分と違って、地表部分は比較的スモッグの濃度はまだ薄いみたいね」

アスカ『機体外部の温度は……嘘、摂氏51度? ヘルメットつけてようが機密服着てようが外出はごめんこうむるわね。とにかく、言われた通り東に向かって進んでみるわ』

ミサト「機体の調子はどう?」

アスカ『今のところ何か異常が見えたって感じはないわね』

ミサト「さっすが93式。わかったわ、そのまま進んで」

アスカ『了解』

マヤ「……解析結果届いています。粉塵濃度9.3mg/m3、硫化水素濃度20.3ppm、メタンガス9.2%、ベンゼン濃度4.8ppm、ジクロロメタン濃度126.2ppm……」

ミサト「ああ、もう結構よ。聞いているだけで喉が痛くなる」

リツコ「有害物質の嵐とはこのことね」


日向「東進するにつれて各有害物質の濃度さらに上昇。やっぱり発生源に近づいているものと考えていいでしょうね」

ミサト「93式ってやっぱりハードなのねえ、たぶん75式とかだったら関節という関節がガリガリ言って止まっちゃってたかも」

リツコ「それはさすがに言い過ぎよ。でも、こんなものまき散らす怪獣がいるとしたら、確かにほかの機体は戦わせたくないわね」

ミサト「今からそんなこと言ってたらあとでひどい目に遭うかもよ。万が一の場合はまさにその「他の機体」を向かわせることになるんだから」

日向「93式、青葉通り沿いに東進し、富士市役所前通過。今のところ何かが接近してくる様子はなさそうですね」

青葉「うう……自分の名前がついているものがああいう風になってるのって、いい気持ちしないもんだな」

ミサト「ねえ、ガルーダの信号の正確な位置ってわからない?」

マヤ「難しいですね……あの自動車メーカーの工場地帯一帯のどこかだとは思うんですけど」

ミサト「……やっぱり、ガルーダ、何かに遭って落とされたのね……あれ?」


ミサト「ちょっとアスカ、映像が乱れてるわ。何か異常はない?」

アスカ『何? 別に周囲には何も確認できないわ。スモッグが濃くなってきたぐらいね』

ミサト「視界が悪いんじゃないわ、明らかに通信に異常が出てる。気を付けて。何がいるのかわからないわ」

アスカ『聞き飽きてるわ、そういうセリフ。えっと、現在、工場の手前にある駅まで500mの地点。止まらず行くわよ』

リツコ「一度退避させたほうがいいんじゃ?」

ミサト「…いえ、たぶん様子見したところで同じよ。アスカに任せるしかないわね」

アスカ『そーそー。あたしのことを信頼し……い……』

ミサト「アスカ?」

青葉「言わんこっちゃない……」

アスカ『……ょっと……音声がと……こえる?……』

ミサト「アスカ、通信が不安定になってるわ。異常事態よ、警戒しなさい、アスカ!」

リツコ「通信回復はできない?」

日向「無理です、あの辺一帯のスモッグの濃度が上昇しているようです」

アスカ『……た……おでまし……わよ……』

ミサト「なんですって? アスカ、今なんていったの!? 何か来てるのね!?」

アスカ『……泥の……いぶつ……山みた……』

青葉「……泥の怪物? やっぱり怪獣か!」

リツコ「映像の精度が低すぎる、ここからじゃ何が接近してきているのかわからないわ」

ミサト「アスカ!」


『熱源探知。前方400m地点。時速約23kmの速度で接近中』

メカゴジラの進んでいた青葉通りを、霧の向こうから、正対する形で大きな何かが進んでくる。
だが温度が高すぎるのか、メカゴジラの赤外線カメラには真っ白に表示されていて、アスカには何がなんだかわからない。

『電波強度低下。本部との通信が保てません』

アスカ「なるほど。面白くなってきたじゃない」

『周辺大気の有毒物質の濃度上昇。前方熱源との距離、300m』

アスカ「無遠慮に近づいてくるわね……可視光線用のノーマルカメラに一旦切り替え」

コックピットからの視界が、白黒の赤外線カメラから、灰色のスモッグに覆われた元のカメラのものに戻る。

『熱源との距離、200m。なおも移動中。音紋照合ならびに信号照会不可能。車両・航空機には該当しないと考えられます』

アスカ「でしょうね……つうか、もう目と鼻の先か。ずいぶんいい度胸してるじゃない」

やがて、灰色のスモッグの中から、それらしい巨体が徐々に見えてくる。

アスカ「……やっぱりあたしって天才みたいね、こいつの操縦方法がどんどん頭に浮かんでくるわ。各武装エネルギー充填開始。レーザーキャノン、メガバスター、照射用意」

『レーザーキャノン、メガバスター、充填開始。スタンバイ完了まで、残り20秒』

アスカ「さてさて、充填が完了することにはほとんど密着してることになるわね……まあ、これだけ密着して今さら退くってのも、癪よね。えっと何かないの何か……あっ、これいいじゃない」

メカゴジラ、咆哮。威嚇用の金属音発生機能である。
巨大物体、メカゴジラの前方100m程度のところで、ぴたりと停止。

アスカ「ふーん、堂々と近づいてきた割にビビリなの」

メカゴジラのカメラが物体を凝視する。
それは、ヘドロのような汚らしい色をした、まさに泥の山である。
一番高い部分ではメカゴジラの腰あたりまで盛り上がっており、幅40mほどの青葉通りをぎっちり占拠している。

アスカ「何これ……ナメクジ? それともスライム?」

泥の山、ぼふんと一際濃いスモッグを体から噴出したかと思うと、ボコリボコリと音を立てて変形を始める。
ナメクジのような姿をしていた泥の山が、巨大な水ぶくれのように盛り上がり、あっという間にメカゴジラと同じ高さにまで成長(?)する。



歪で巨大な目玉が、ぼこりとその上に浮かび上がり、ぎょろりとメカゴジラをにらむ。
アスカ、それをもろに目撃。

アスカ「」

泥の怪獣、咆哮のように、ゴボゴボという音を出す。
その体がどろどろと波打ち、ぎりぎり腕らしいものを伸ばして、メカゴジラに覆いかぶさってくる。

アスカ「……ぃぃいやあああ!! きしょい!!」

メカゴジラ、後退。怪獣の左腕が空を切るが、右腕がメカゴジラの左手を捉える。
じゅぶり、という音を上げて、ヘドラの腕がメカゴジラの手を覆う。

アスカ「な、何こいつ、見た目どおり泥みたいな体じゃない!」

『メガバスター、レーザーキャノン、スタンバイ』

捉えた左手に、怪獣の体の他の部分がぶくぶくと集まってくる。
左手にまとわりついた泥がどんどん膨れ上がり、手部分を飲み込んでいく。

アスカ「放せっての、変態怪獣!!」

『メガバスター発射用意』

アスカ「発射!」


『メガバスター照射』

メカゴジラの顎が開き、メガバスターが照射される。
虹色の熱線が、至近距離から怪獣の頭部(?)を襲う。その体組織が激しく焼け焦げ、黒煙が上がる。怪獣、悲鳴。
メカゴジラの左手を飲み込んでいた部分が、怪獣の本体(?)の方へと一気に戻っていく。

アスカ「……ただの泥ってわけじゃなさそうね……ヘドロの怪物だから、ヘドラってところかしら」

ヘドラ、ぐぶりぐぶりと音を上げる歪な歩き方で後退。
その足が地面を踏みしめる度、巨大なにきびが潰れるかのように、どすぐろいヘドロと灰色のスモッグが体のそこかしこから噴き出る。

アスカ「あああああもう、引き際までキモいとか救いようのない奴ね。この気色悪いガスを吐き散らしてるのはあんただったわけね」

ヘドラ、ある程度距離をとると再び停止。

アスカ「……損傷チェック」

『左腕部分に衝撃と加熱を確認。装甲、駆動機構共に損害軽微』

アスカ「へぇ、思ったよりタフなのね、さすが私の機体。それとも、あいつがただしょぼいだけかしら……」

ヘドラ、横に開く巨大な2つの目でメカゴジラを見つつ、体勢を立て直す。
そのうつろな目つきは、目として機能しているのかどうかさえ怪しい。


アスカ「見れば見るほど、とろいだけで気色悪い、どうしようもない奴ね。いいわ、飛び道具もないようだし、このメガバスターでこんがりと……ん?」

ヘドラの体表に、民家ほどの大きさはある泥の塊が瘤のようにぐじゅぐじゅと浮かび上がる。
ヘドラ、目を見開く。
ドロリ、という音とともに、泥の塊が発射され、メカゴジラを襲う。

アスカ「うわっ!?」

メカゴジラの右脚に命中。装甲が黒煙を上げて溶け、火花が散る。

アスカ「何あれ……」

『右脚部損傷。右脚部ジェットノズル、右脚部関節機動、操作信号への反応率、秒平均40%に低下。内部機構損傷の可能性あり』

アスカ「この……」

ヘドラ、再び瘤を生産しはじめる。

アスカ「汚いもの飛ばしてんじゃないわよ!……あ、あれ?」」

ヘドラ、再び瘤を発射。
メカゴジラ、回避機動をとるも、回避とは呼べないほどの鈍い動き。今度は腹部に命中。
コックピット内にひときわ激しく火花が散る。

アスカ「ああん、もう!……案外情けないのね、あんたって!」

『腹部損傷。プラズマグレネード照射部分に重大な損傷を確認。当該武装が使用不可能になりました』

ヘドラ、三発目の瘤を用意しはじめる。

アスカ「なめんじゃないっつうの!」

メカゴジラ、再びメガバスターを照射。ヘドラの右目?部分に命中。ヘドラ、先ほどよりも大きな悲鳴。

アスカ「レーザーキャノン用意。このまま照射しながら前進する!」

『レーザーキャノンスタンバイ。警告、これ以上の武装の連続使用は推奨できません』

アスカ「うるっさいのよコンピューターのくせして! レーザーキャノン照射!」

メカゴジラ、メガバスターとレーザーキャノンを同時に照射しつつ前進開始。
ヘドラの体がどんどん焼かれていく。ヘドラ、悲鳴を上げながらのっそりと後退。

アスカ「ほらほらほら! とっとと焼き殺されなさ……」

『友軍機の信号を確認しました。解析完了。UX-01-92 ガルーダの緊急信号です』

アスカ「は? な、何それ」

『本艦前方100mの位置から発信と推定。約20ノットの速度で東へと移動中』

アスカ「前方、東って……嘘でしょ」

コックピット内に警音が鳴り響く。

アスカ「うわっ、今度は何よ!」

『危険です。内部機構の耐熱限界値を超えました。内部機構の耐熱限界値を超えました。緊急停止措置をとります。緊急停止措置をとります』

アスカ「へ?」

メカゴジラ、武装の一切が停止し、移動も中止。その場に静止する。

『冷却中。冷却中。冷却完了まで残り時間44秒と推定』

アスカ「お、オーバーヒート!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ、今止まってどうするのよ! ちゃっちゃと動きなさいよ!」

ヘドラ、のそのそと後退を続け、メカゴジラの視界から次第に消えていく。メガバスターでえぐられた部分が、先ほどと比べかすかにではあるが復元しているようにも見える。

アスカ「この……動けっての、ポンコツ!」

『冷却完了まで残り35、34、33……』

アスカ「ああんもう、埒があかない!」

ヘドラ、完全にメカゴジラの視界から消える。

『冷却効率低下。低客効率低下。冷却液の漏洩の可能性あり。損傷箇所特定中』

アスカ「……ちっ。戦闘続行はまずそうね」

『冷却完了まで、34、33、33、32、33、32………』

日向「93式からの信号を確認!」

ミサト「場所は!?」

日向「えっと……信号消失地点から500mほど西、富士市役所前の辺りですね。通信まもなく回復します」

アスカ『……サト……ちら、メカゴ……して。ミサト、こちらメカゴジラ、応答して』

ミサト「アスカ? こちら本部。きこえる? アスカ?」

アスカ『オッケー、通信回復を確認。こちらメカゴジラ、このきしょいスモッグの大元っぽいきしょい怪獣と接触してきしょい戦闘に突入したわ。何とかダメージは与えたけど、こっちも損傷が激しいからいったん退避して自己修復中。あと……ああ、言わなきゃなんないことが多すぎるわね』

ミサト「いいから、落ち着いて報告しなさい。何か、泥の怪物みたいなものと接触したってあんたが言い出して、そこから通信がとれなくなったところまではこちらも把握してるわ」

アスカ『なるほど、じゃあそこからね。通信が遮断されたのは、たぶん空気中の粉塵濃度が急激に上昇したからよ。あたしが遭遇した怪物……まあてっとり早くヘドラと呼ばせてもらうけど、あいつがこのスモッグの発生源と思って間違いなさそう。赤外線カメラとレーダーの映像を送るわ』

ミサト達が見つめる巨大モニターに、至近距離でカメラがとらえたヘドラの姿が映し出される。

ミサト「うっわ」

青葉・日向・マヤ「うっわ」

リツコ「なるほど、ヘドラ……これ以上ないぐらいぴったりなネーミングね」

ミサト「……ごほん、解析はじめて」

マヤ「は、はい」

アスカ『見てのとおり、全高は大体60mってところかしら。横幅は20mぐらい。あぁ、最初は違ったけどね。ほんと、考えられないぐらい気持ち悪く変形して襲ってきたわ』

今度は、メカゴジラが最初に接触したときの、ナメクジのような姿の画像が本部に送られてくる。

アスカ『動きは緩慢。体の至る所からあのスモッグを吹き上げてるみたい。明らかにこっちを認識してたわ。自分からやってきて、こっちに攻撃してきた』

ミサト「攻撃?」

アスカ『気持ち悪い泥団子を体からひねり出してぶつけてきたのよ。まるで動物園のゴリラだわ。だけど威力は本物ね。右膝と、腹のプラズマグレネードをやられた。煙上げて溶けちゃった』

ミサト「93式の装甲を!? ありえないわ……NT-1装甲を人工ダイヤモンドでコーティングしてるのよ? 耐熱性に関してはその93式のボディは間違いなく兵器史上最高なの。それが溶かされるなんて」

リツコ「ちょっと待って。高熱の攻撃なら、赤外線カメラにはっきり映るはず……映像ここで止めて。これね……別に周囲と比べて温度が特に高いわけでもないわね。敵の噴出すスモッグの成分などから考えれば……硫酸などの物質を異常なレベルで濃縮したものかも」

アスカ『はぁ……外見が外見なら、攻撃も下品ね。つまりヘドロの塊をぶつけてきたってことでしょ?』

ミサト「まずいわね……93式の足じゃ、避けるのはとても無理よね」

リツコ「やはり、メーサー兵器で遠距離から焼き殺すしか」

アスカ『それよ、問題は』

ミサト「何?」

アスカ『あいつの……あたしはヘドラって呼んでるけど、ヘドラと一緒に、ガルーダの信号が移動していたのをかすかに確認したわ』

ミサト「何ですって?」

アスカ『ガルーダってのにあのコネメガネが乗ってるのよね? で、その信号はかすかにしか確認できない状態が続いているんでしょ?』

ミサト「怪獣が……いえ、ヘドラがガルーダと一緒に移動しているってこと? 信号が捉えられないのは、特にスモッグの濃度が高い領域にとどまっているから?」

アスカ『そうとしか考えられないわ。あいつ、その、へんな言い方だけど、メカゴジラを“飲み込もう”としたもの』

ミサト「はあ?」

ミサト『なるほどね……アメーバが餌を飲み込むのに似てるわね、アスカの話を聞く限りだと。まあ、下手にメーサー兵器で攻撃を加えることができなくなったのは確かね』

マヤ『でも、ありえるでしょうか……仮に、目標が93式やガルーダを見境なく自分の体に取り込もうとする習性があるとしても、あの大きさでは、ガルーダを飲み込んだだけでぎりぎりだと思いますけど』

ミサト『それぐらい貪欲なんじゃない? 節度をわきまえるって文化を知ってたらあんなきしょい育ち方しないわ。あるいは、敵とみなしたら自分の体に取り込んで無力化する、っていう戦略なのか』

リツコ『まあ、どちらにせよガルーダが吸収されているとして、ガルーダの装甲も93式と同じものを使ってはいるけど、もし戦闘で破損しているとしたら、メーサー兵器の熱に耐えられる保証はないわ』

アスカ「どうする、ミサト」

ミサト『……現状判明している事実から考えても、93式以外の機体を投入するのはリスクが大きいわね。一応、安全な距離……そうね、静岡市辺りで、シンジ君を待機させるけど、やっぱりアスカにもう一度トライしてもらうしかないわ』

アスカ「そうこなくっちゃ」

ミサト『あまり言いたくないけど、万が一ってことも考えなきゃいけないわね。有毒スモッグは現在も徐々にだけど周辺地域へ拡大中よ。解析を終えてみて、だけど、そのスモッグの除染にはかなり時間がかかるのは間違いないわ。もし風に乗って広がっていけば、富士市はもちろん伊豆半島全体が人の住めない場所になるかもしれない。見たところ、熱による攻撃はかなり効果的みたいだから、いざって時は、オールウェポンで一気に撃滅して』

アスカ「……それは、コネメガネのことは気にせずにってこと?」

ミサト『ガルーダとそのクルーの救出を最優先よ……現時点では、だけど』


『機体の簡易検査終了。プラズマグレネード、集光部分に著しい損傷有り、自己修復不可。プラズマグレネードは使用できません』

アスカ「はいはい。どうせ使わないでしょこれ」

メカゴジラ、自己修復を完了し、再び工業地帯へむけて東進開始。

アスカ「……コネメガネ、早めに連絡よこしなさいよ……これぐらいでくたばるあんたじゃないでしょ……いくらこれが夢だとしても、あんたを死なせるなんて、それこそ目覚めが悪いっつうの」

濃いスモッグに包まれた富士市を、メカゴジラが進撃していく。
足元をよく見ると、歩道に、人間らしきものが何個か転がっている。どれも骨だけの姿をしている。

アスカ「……確かにこんな目に遭った人を見るのもいやな気分だけど」

『メガバスターの最大出力での連続照射時間は3秒以内、次発照射までの間隔は5秒以上を推奨します。10秒以上の連続照射、あるいは30秒間で20秒以上の照射は、オーバーヒートの危険性があります。レーザーキャノンを最大出力で併用した場合、7秒以上の連続照射、あるいは30秒間で15秒以上の照射でオーバーヒートの危険性が生じます』

アスカ「わかったってば、しつこいっつの……でも確かに、さっきみたいなことになるとまずいわね。だいたい、メガバスターもレーザーキャノンも有効だったけど、そんなみみっちい撃ち方であいつを倒せるかっていったらわかんないし……うーん……他に武器ないの?」

メカゴジラ、歩行移動にて東進を続け、吉原本町駅を通過する。しかし、ヘドラの姿は見えない。

ミサト『アスカ、また通信が乱れてきたわ。たぶん、ヘドラが近いんでしょ。気をつけなさい。わかってると思うけど、通信ができない以上、こちらから指示を……することはできないわ。だから……の判断、つまりあんたに任せ……けど、外部から事態が悪化しているこ……明確に確認した場合……絡がつかないうちにこちらで……も十分あるから』

アスカ「了解。まああたしにかかればそんな心配の必要ないけどね」

ミサト『もうこちら……応答を確……ないわ……頼むから……だけはこっちも使いたく……使わせないで……今はあんたが……』

アスカ「頼り、ってんでしょ? わかってるって……ん?」

赤外線カメラの映像の中で、小さな白い点が遠くの空に揺らめくのが見えた。

アスカ「何今の……」

アスカ、カメラの映像を拡大する。スモッグが濃く確認しづらいが、白い点が徐々にその姿を大きくしている。

アスカ「……まずい! レーザーキャノン照射!」

メカゴジラの目からレーザーキャノンが照射される。猛スピードで飛んでくるヘドロ弾を間一髪で粉砕する。ヘドロ弾の破片が飛び散り、周囲の建造物にかかってそれを溶かす。赤い点は、メカゴジラめがけて発射されたヘドロ弾だった。

アスカ「やっば……リーチ思ったより長いわ」

再び赤い点が、今度は2つ揺らめく。

アスカ「ああもう。ジェット噴射!」

『ジェット噴射開始。ホバー移動を開始します』

メカゴジラ、ジェット噴射でわずかにではあるがその巨体を持ち上げる。
左方向=北へと移動し、ヘドロ弾をかわす。

アスカ「……勢いでまた新たな操作を開拓しちゃった。燃料食いそうな移動方法だけど、もう仕方ないか!」

メカゴジラ、ホバー移動で、北側から大きく回りこむようにして、ヘドロ弾の発射元を目指す。
何発かヘドロ弾が断続的に飛んでくるが、ホバー移動するメカゴジラをとらえられない。

アスカ「思ったより腕は良くないみたいね……これなら一気に!」

メカゴジラ、吉原公園、県道24号線、岳南原田駅を順に通過し、進路を南へ変更。
やがて、赤外線カメラが白く映し出すヘドラの巨体が、だんだんと大きくなってくる。ヘドラ、比奈駅の南に陣取っている。

アスカ「いた!」

メカゴジラ、ヘドラの北方から一気に接近。

アスカ「メガバスタースタンバイ!」

『メガバスター発射準備完了』

アスカ「照射!」

メカゴジラ、空からメガバスターをヘドラに見舞う。熱線がヘドラの頭頂部を抉り取る。
ヘドラ、悲鳴。

アスカ「いくわよ!」

メカゴジラ、強引に着陸。勢い余って建造物をなぎ倒しながら地面をすべっていくが、そのままメガバスターをさらに照射。
ヘドラの頭部がさらにえぐられていく。
ヘドラ、ヘドロ弾を発射。
メカゴジラ、メガバスター照射を止め、レーザーキャノンの一撃でこれを撃砕。

アスカ「さっきみたいにはいかないわよ……とにかく、ガルーダがどこにいるのか確かめないと、っと」

『UX-01-93の信号を検索しています……』

ヘドラ、なおもヘドロ弾を発射。メカゴジラ、同様にこれを撃墜。加えて、レーザーキャノンでヘドラに反撃。命中した部分が破裂しえぐられる。

アスカ「……マジで耐久度も泥人形レベルなのね。どんな生物なの」

『信号を確認しました』

アスカ「ん?」

アスカ、コンソールを確認する。
ガルーダを示す青い光点が、メカゴジラの前方300mの位置で点滅している。

アスカ「……やっぱり、発信源はあいつの体の中だわ! えっと……ボディチェック、ウェポンチェック? この項目じゃないわ……スキャン? これだ!」

『目標を指定してください』

アスカ「そりゃもう……」

なおも飛んでくるヘドロ弾を、レーザーキャノンが再び撃墜する。

アスカ「あいつに決まってるじゃないの!」

『指定された目標を確認しています……目標を確認、スキャンを開始します』

アスカ「……ばかばかしい考えだけど、あんな泥みたいな怪物だもの、ありえない話じゃないわ!」

メカゴジラ、レーザーキャノンでヘドロ弾を撃砕しながら徐々にヘドラの体を削り取っていく。
ヘドラ、徐々にヘドロ弾発射の間隔が長くなり、やがて沈黙する。

アスカ「………ちょっと、何するつもりよ。ああもう、スキャンはまだ?」

『解析終了まで20秒』

アスカ「あっそ……ん?」

ヘドラの体に、瘤がぼこぼこと何個も盛り上がってくる。
赤外線カメラの映像の中で、その体が一際白いぶつぶつに覆われていく。

アスカ「き、きもい……ちょっと待って、まさか」

ヘドラ、咆哮し、何個もの瘤をいっせいに発射する。

アスカ「こんのぉ……!」





メカゴジラ、メガバスターとレーザーキャノンでそれを撃砕する。
しかし、二発撃ちもらし、右胸と下腹部に命中する。先ほどまでのものと比べて一発辺りが小さいため、腹部や右脚部ほど重篤ではないものの、黒煙とともにボディが溶け火花を上げる。

アスカ「きゃあああ! ああんもう!」

『パラライズミサイル右発射孔、トランキライザーミサイル右発射孔損傷。これらの武器が使用できなくなりました』

アスカ「いいからスキャン続けろっての!」

『まもなくスキャン完了します。まもなくスキャン完了し……スキャンが完了しました。赤外線撮影で得られた画像と超音波探知で得られた画像を重ねて表示します』

手元のディスプレイに、赤外線カメラで捉えた、ヘドラの鮮明な画像が映し出される。
その醜悪な姿がよりはっきりと克明に捉えられている。機体中央部でちぎれており、右翼部分と右の主砲が見えない。
その下腹部?にあたる部分に、明らかに人工物らしき翼のようなものがうっすらと見える。
画面上の青い光点がそこで点滅している。

『UX-01-93、ガルーダを確認』

アスカ「コネメガネ……やっぱりあいつの腹の中にいるのね……間抜けなんだからもう!」

メカゴジラ、メガバスターとレーザーキャノンでヘドラの頭部を攻撃。今度は端ではなく、右目部分を大きく打ち抜く。
ヘドラ、悲鳴。

アスカ「待ってなさいよコネメガネ! ちゃっちゃとそこから引きずり出して、この気持ち悪いのを焼き殺してやるんだから!」

メカゴジラ、再び攻撃。しかし、頭部を打ち抜いたはずが、先ほどとは違って大きく火花が散る。

アスカ「えっ!?」

冗談じみて綺麗にえぐられたヘドラの頭部から、銀色の翼がその姿を見せている。

アスカ「あれって……ガルーダ!?」

アスカ「な、何でよ! スキャン結果と位置が違うじゃないの!……まさか、体内でガルーダを自由に動かせるわけ、あいつ」

メカゴジラ、足元を狙って再び攻撃、命中。
ガルーダがあったはずの部分だが、弾けたのはヘドラの体組織だけである。

アスカ「予感的中か……面倒くさいわね、ああもう!」

メカゴジラ、ガルーダの位置を避けるように攻撃。しかし、ヘドラ、咆哮をあげ、ずぶずぶと変形。
ガルーダが再び体内に沈んだかと思うと、まるで盾のようにヘドラの体の前面部に浮き上がる。

アスカ「……この……! 泥団子のくせして一丁前に頭使って!」

『UX-01-93ガルーダの信号を連続して確認』

アスカ「そうだ……コネメガネ! 応答しなさい、生きてたら! コネメガネ!! 寝てるんならおきろ!」

ヘドラ、ヘドロ弾を発射。メカゴジラの頭部に命中し、右目部分を溶かす。

『レーザーキャノン右部分損傷』

アスカ「ああもう! 応答するまで呼びかけて!」


ヘドラ、メカゴジラが攻撃できなくなったのを認識し、ヘドロ弾で攻撃を続ける。
メカゴジラ、一門しかなくなったレーザーキャノンとメガバスターで迎撃を続ける。

アスカ「このままじゃジリ貧もいいところだっちゅうの! コネメガネ、コネメガネ! 応答しろっての!」

マリ『……め……姫……』

アスカ「信号をつかんだ! 周波帯を絞り込んで、出力も上げて!」

『ガルーダからの通信をキャッチ。拡大します』

マリ『姫……姫、きこえてないの? こっち聞こえてるよ、姫!』

アスカ「コネメガネ! 生きてるの!?」

マリ『わーお、姫ぇ! 良かったぁ! 大丈夫、姫の声で元気百倍だよ!……まあ、実際そうでもないんだけど』

アスカ「あんた今、ガルーダのコックピットにいるのよね?」

マリ『うん。まずったわー、こいつとやりあったはいいけど、やばい攻撃食らってさ。緊急着陸したのは良かったんだけど、脱出する前にこいつがスモッグ撒き散らしながら覆いかぶさってきて、どうしようもないままこの様』

アスカ「大丈夫なのね?」

マリ『このままじゃ早晩押しつぶされるだろうけどね……こいつやばいよ、車やら重機やらどんどん取り込んで、吐き出そうとしないの。飛んでるときは20mぐらいしかなかったのに、地上に降りていろいろ飲み込んではその分どんどん大きくなってってる』

アスカ「わかったわ、どうすればいい?」

マリ『メーサー兵器が有効だった。それに、姫の93式ならショックアンカーでも大丈夫だと思う。こっちは任せて、コックピットはまだ無事だから、電流流されたくらいじゃへっちゃらだから!』

アスカ「ショックアンカー……」

マリ『それより気をつけて、こいつ、一気に焼き殺さないと、いくらでも元通りになるから! あと、私もやられたんだけど、泥団子よりもやばい攻撃が……』

アスカ「え?」

ヘドラ、周囲のスモッグを逆に吸い込み始める。周囲のスモッグが勢いよく、ヘドラの下腹部に吸い込まれていく。
スモッグの吹き荒れ方が一段とひどくなり、電波が乱れる。

マリ『……姫……また電波が……』

アスカ「コネメガネ!? こいつ何しようとしてるの!? いきなりスモッグ吸い込んで……」

ヘドラ、スモッグを吸い込み終わったかと思うと、咆哮とともに、毒々しい緑のスモッグをすさまじい勢いで噴出する。
緑色の津波が周囲を飲み込んでいく。それを浴びた建造物やメカゴジラのボディが、煙を上げて溶けていく。

アスカ「きゃあああ!!」

メカゴジラ、全身から白煙を上げる。

『ボディ全体にかけて損傷を確認。装甲のダイヤモンドコーティングが大部分にわたって消失した恐れがあります』

アスカ「……こいつのボディがどろどろになるなんて……なるほど、スモッグをさらに濃縮した、硫酸ミストってこと」

ヘドラ、硫酸ミストを吐き出し終わる。
その体表に浮かんでいるガルーダ、地面に近い部分が溶けている。
ヘドラ、全身から白煙をもうもうと上げるメカゴジラを見て、再び攻撃を繰り返そうとする。

アスカ「なめんなぁ!」

『ショックアンカー射出』

メカゴジラの両腕から、白煙を突き破って2本のワイヤーが飛び出し、ヘドラの下腹部に突き刺さる。

アスカ「コネメガネ、聞こえる!?」

マリ『…こえる…よ、姫!……』

アスカ「こっちはあんまり聞こえないけどね! あんたの言った通り、ショックアンカーで放電するわよ! 今のをもう一回食らったらこっちも終わりだわ、腹くくって!」

マリ『……ょうかい……』

アスカ「ショックアンカー充電開始!」

『警告。アンカー射出部分・両腕部に著しい損傷を確認。このまま放電した場合、機体に負荷が加わる恐れが……』

アスカ「うっさい!」

『充電開始。充電完了まで5秒』

ヘドラ、再びスモッグを吸い込み始める。

アスカ「この……」

『ショックアンカー充電完了』

アスカ「させるかぁ!」

2本のワイヤーを伝い、メカゴジラの放電攻撃が始まる。
ヘドラ、吸い込み始めていたスモッグを吐き出す。体のところどころから火花が散り、やがてその体表に気泡が現れ、破裂する。
ヘドラ、悲鳴。なおも放電は続き、まるで沸騰しているかのように気泡が現れては破裂を繰り返すようになり、だんだんとその体が崩れていく。

アスカ「よーし、きいてるきいてる! このまま押し切ってやるわ!」

ヘドラの体のいたる部分が次々にはじけ飛び、その体が徐々に崩れて小さくなっていく。
やがて、ガルーダを包んでいた部分が破壊され、機体が姿を現していく。
しかし、メカゴジラの両腕部からも大きな火花が散る。

アスカ「何!?」

『両腕部損傷。ショックアンカーの放電に耐え切れません。腕部全損の恐れあり。緊急停止措置をとります。緊急停止措置を……』

アスカ「ばかじゃないの!? 今さら、止められるかっつぅーの!!」

アスカ、コンソールを叩く。

『きk緊急・・・…冷却れれいきゃ…きんきゅ……てい……放電…続…放電限界値、ま、で、20秒。19,18,17……』

アスカ「それでいいのよ。ちょっとは融通が利くんじゃない」

ヘドラの体がいよいよ雪崩のように崩れ落ちていく。ガルーダもとうとう、ヘドラの体から剥がれ落ちたかと思うと、地面に倒れこむ。

アスカ「コネメガネ! 調子はどう!?」

マリ『……きいたぁ……ん、姫?……こっちは…………』

アスカ「よっしゃぁ! 応答する元気があるなら大丈夫ね」

メカゴジラ、全身から白煙を上げ、加えて両腕は激しくスパークしている。しかし、放電攻撃をやめる様子はない。
ヘドラ、悲鳴を上げながら泥の山と化していく。
だがとうとう、メカゴジラの両腕が、大きな破裂音と共に青白い火花を放ち、次の瞬間、両腕ともが爆発しワイヤーが溶けてちぎれ飛ぶ。

アスカ「きゃあ! ちょ、ちょっと何よ! なんなの!?」

『ショックアンカーの破損を確認。エネルギー循環回路に著しい損傷』

アスカ「ああもう……本体もワイヤーもいっぺんに限界ってこと。つくづく情けないわね!」

ヘドラ、もはや高さ10mほどの泥の山と化しているが、電撃攻撃が止んだのを認識すると、先ほどの攻撃のときにも増して強い勢いでスモッグを吸収し始める。

アスカ「芸がないのね、またあの攻撃?」

富士市を包んでいた硫酸スモッグが渦を巻いてヘドラの体へと収まっていく。

マヤ「す、スモッグ滞留地域に強力な気流の発生を確認! スモッグが……」

ミサト「まるで竜巻ね。どういうことかしら? アスカがうまくやったってこと?」

リツコ「あの渦の中心に向かってスモッグが流れ込んでいくみたいね。スモッグの減少が肉眼でも十分確認できる。通信回復も可能じゃないの?」

日向「やってますが、あれだけ激しいスモッグの渦では、中心部の電波状況は変わりません」

『きk緊急・・・…冷却れれいきゃ…きんきゅ……てい……放電…続…放電限界値、ま、で、20秒。19,18,17……』

アスカ「それでいいのよ。ちょっとは融通が利くんじゃない」

ヘドラの体がいよいよ雪崩のように崩れ落ちていく。ガルーダもとうとう、ヘドラの体から剥がれ落ちたかと思うと、地面に倒れこむ。

アスカ「コネメガネ! 調子はどう!?」

マリ『……きいたぁ……ん、姫?……こっちは…………』

アスカ「よっしゃぁ! 応答する元気があるなら大丈夫ね」

メカゴジラ、全身から白煙を上げ、加えて両腕は激しくスパークしている。しかし、放電攻撃をやめる様子はない。
ヘドラ、悲鳴を上げながら泥の山と化していく。
だがとうとう、メカゴジラの両腕が、大きな破裂音と共に青白い火花を放ち、次の瞬間、両腕ともが爆発しワイヤーが溶けてちぎれ飛ぶ。

アスカ「きゃあ! ちょ、ちょっと何よ! なんなの!?」

『ショックアンカーの破損を確認。エネルギー循環回路に著しい損傷』

アスカ「ああもう……本体もワイヤーもいっぺんに限界ってこと。つくづく情けないわね!」

ヘドラ、もはや高さ10mほどの泥の山と化しているが、電撃攻撃が止んだのを認識すると、先ほどの攻撃のときにも増して強い勢いでスモッグを吸収し始める。

アスカ「芸がないのね、またあの攻撃?」

富士市を包んでいた硫酸スモッグが渦を巻いてヘドラの体へと収まっていく。

マヤ「す、スモッグ滞留地域に強力な気流の発生を確認! スモッグが……」

ミサト「まるで竜巻ね。どういうことかしら? アスカがうまくやったってこと?」

リツコ「あの渦の中心に向かってスモッグが流れ込んでいくみたいね。スモッグの減少が肉眼でも十分確認できる。通信回復も可能じゃないの?」

日向「やってますが、あれだけ激しいスモッグの渦では、中心部の電波状況は変わりません」

間違えて連投してしまいました>>65は無視してください。

『エネルギー循環回路の自己修復を行っています。ウェポンスタンバイまで残り17秒』

アスカ「どの道こんな状態じゃよけられない……こうなったらこっちが先に準備完了するか、あっちが準備完了するか、賭けね。スタンバイ完了と同時にオールウェポンであいつに総攻撃を仕掛けるわよ。あの汚いげっぷを出す前に干物にしてやるわ」

『15,14,13,12……』

富士市全体の景色がおぼろげに見渡せるまでにスモッグが薄くなっていく。

『9,8,7,6……』

アスカ「早く……早く早く……あっ」

ヘドラ、スモッグ吸収を止める。

アスカ「準備完了か……ウェポンスタンバイまでこっちはあと4秒……ちきしょー、万事休すって奴ね……え、あれ?」

ヘドラ、咆哮し、足元?からスモッグを勢いよく吐き出す。
その色は緑色ではなく、吸い込む前と同じ灰色である。
それまでにも増して強い勢いのスモッグで、メカゴジラの赤外線カメラさえもその視界をとうとう完全に曇らせた。

アスカ「うわっ!?」

ヘドラ、いつの間にかエイのような形態になっている。スモッグの噴射でその体が浮き上がったかと思うと、猛スピードで上空へと上昇する。


静岡市にスタンバイしている自衛隊のカメラがそれを捉える。
幾分か薄くなったものの依然として内部の様子が見えないスモッグの塊の頂上部から、同じ色の気体を噴出して何かが――ヘドラが空へと飛んでいく。

青葉「富士市より正体不明の物体が飛翔! 大きさ約20mほどと推定! 推定速度、時速440km!」

日向「自衛隊より入電、富士市の硫酸スモッグと同色の気体を激しく噴射しながら飛翔とのこと! メインモニターに写しま……えっ?」

ミサト「何?」

日向「ふ、富士市より、先の飛翔体を追撃する形でさらにもう一体の物体が飛翔!」

メインモニターに、静岡市からの映像が映し出される。
灰色の尾を引きながら上昇していく物体が確認できる。そしてそれを追って、白い煙の尾を引く物体が、スモッグの塊を突き破り、さらに猛烈なスピードで上昇していく。

マヤ「信号照合! あの白い煙を上げている物体は93式です!」

ミサト「じゃあ先に飛んでいったのはやっぱり……!」

リツコ「そんな……93式の装甲が融解しはじめてる! だめよ、アスカ! そんな状態で飛んだら何が起こるかわからない!」


『警告。警告。損傷レベル8。クルーはただちに緊急脱出してください。クルーはただちに……』

アスカ「黙ってなさい! ここからが正念場! ここまできて逃がすもんですか!」

コックピット内の至るところで火花が散っている。

『緊急脱出してください。墜落の恐れあり。緊急脱出してください』

アスカ「ああもう……どうせ吹っ飛ぶんならあいつを殺してだっつの! メガバスタースタンバイ!」

『クルーは直ちに緊急脱出してください。クルーは直ちに……』

アスカ「いいかげんにいうこと聞け、この!!」

アスカ、絶叫と共にコンソールを打ち叩く。

『脱出…クルー…きん……レベル…………メ、メガバスター、レーザーキャノ、b、脱出し……レベル8、戦闘態勢ぞ、続行……メガバスタ・ター、スタンbバイ』

アスカ「それでいいのよそれで! 目標確認!」

『もm目標、確認、確認、前方飛翔体、メガバスター、レーザーキャノンロックオン』

アスカ「照射!」

メカゴジラ、メガバスターとレーザーキャノンを照射。上昇していくヘドラを捉える。
ヘドラ、断末魔の悲鳴。メーサーの熱で体がぼろぼろに崩れていく。

ミサト「アスカ!」

マヤ「これ以上は93式が持ちません!」

メカゴジラ、コンピューターの提言する時間を越えてもなお照射を続ける。
ヘドラ、その体がどんどんと崩れ、小さくなっていく。急激に上昇の勢いが弱まる。

アスカ「後ちょっと! 気合いれなさい、メカゴジラ!」

なおも続くメーサー照射。
そしてヘドラ、ぼろぼろの悲鳴を残し、とうとう空中で完全に消滅。スモッグを弱弱しくまき散らしながら霧散する。
同時に、メカゴジラの頭部が激しく火花を上げ、メーサー照射が停止。加えてジェット噴射も停止。

青葉「目標、富士市上空約4000mの地点で消滅!」

ミサト「アスカは!?」

マヤ「め、メカゴジラ、推力喪失! 墜落します!」

メカゴジラ、白煙と火花を散らしながら、推進力を完全に失い、墜落していく。

ミサト「アスカ、応答しなさい、アスカ!」

マヤ「クルーからの返答なし! メーサー装備を限界時間を越えて照射したのを考えると、メインバッテリーそのものがダウンしている可能性があります!」

ミサト「遠隔で予備電源に切り替え、およびクルーの緊急脱出措置!」

青葉「やってますが間に合いません!」

リツコ「あの状態じゃどの道、脱出は不可能よ……」

ミサト「アスカ、がんばって脱出しなさい! せっかく相手を倒したのよ! あんたが死んでどうするのよ!」

シンジ『僕が行きます!』

ミサト「……シンジくん!?」


『高度2700……2400……2100……1600……』

アスカ「……サブバッテリーへの切り替えも、脱出装置発動もぜんぜんだめ……これまでかぁ」

コックピットのメインモニターには、ぐるぐると回る空の景色が映っている。

アスカ「あーあ、もう、頑張ったのに。まあ、どうせ夢だしいっか……夢、よね、これ?」

『1300……900………アスカ……』

アスカ「え? やっぱりその声……きゃあ!?」

コックピットを激しい振動が襲う。しかし、しばらくの後に収まったかと思うと、墜落が止まり、メカゴジラは空中で静止している。

『高度500……高度500……』

アスカ「……止まった? どういうこと?」

シンジ『間に合ったみたい。聞こえる?』

アスカ「バカシンジ!?」

マヤ「さ、三式機龍、富士市上空500mで93式をキャッチ。墜落を阻止しました!」

ミサト「よっしゃぁ! やるときにやれる男って最高よシンジ君!」

メインモニターに、メカゴジラの巨体を背中で支えたまま空中で静止している三式機龍の姿が映っている。

アスカ「……あんた、何で……」

シンジ『ミサトさんから聞いてなかった? 静岡で万が一の場合に備えて待機してたんだよ。相変わらず無茶するよね』

アスカ「……こ、こんなぎりぎりじゃなくて、もっと余裕もってきなさいよ! もう!」

シンジ『せっかく助けたのに……仕方ないだろ、機龍は飛行能力高くないんだから。こっちだってあの怪獣が飛び出した瞬間に飛び立ってたよ……ってうわっ!』

機龍、空中でバランスを崩す。

アスカ「ち、ちょっともう! え、エスコートするんなら最後まできちんとしなさいよ男らしくない!」

シンジ『わ、わかってるよ! 僕だってこんなことしたことないんだから、だ、黙ってて!』

アスカ「頼むわよ、もう……!」

ミサト『シンジくーん、助けに入ったのはかっこよかったけど、最後まできちんとやりとおさないと逆にダサいわよ』

シンジ『同じこと言われましたよ今!』

ミサト『オッケー。アスカ、通信は回復したようだけど、そっちの調子はどう?』

アスカ「メインサブ共にバッテリーはダウン、予備のコンデンサだけは何とか生きてるわね。だけど、この体勢じゃ緊急脱出もできないわね」

ミサト『せいぜいシンジ君が地上まで無事に降ろしてくれることを祈るのね。しかし、無茶したものね、また今回は』

アスカ「仕方ないでしょ、あそこで逃したら悔しいじゃない」

ミサト『ま、あんたがそういう性格なのはわかってるんだけどね。何回直しても土壇場で結局あんたの言うことを優先させちゃうんだから、93式にも困ったもんよ。どういうことなのかしらね……』

アスカ「……え?」


アスカ「やっぱり、あんた、ただのコンピューターじゃないってこと? そういえば確かに、さっきから無茶な命令にもなんだかんだで答えてくれたし……それに、さっき私の名前を確かに呼んだわよね。どういうことなの? あんたは何なの?」

『音声認識中……コンピューターのバージョン確認を行います。UX-02-93 メインオぺレーションシステムソフトウェア 「KYOKO」 現在のバージョンは3-0-0 c です』

アスカ「……聞いた声だと思ったら、そういうことだったんだ」

ミサト『ん? 何が?』

アスカ「なんでもないわ、ミサト……あのさ、困ったものかもしれないけど、このメカゴジラ、あたしは大好きよ」

ミサト『……ええ、でしょうね』

アスカ「マリは?」

ミサト『スモッグの濃度が大幅に減ったおかげで、通信が回復したわ。ギリギリ無事みたい。自衛隊の特殊防護隊が救助に向かってるわよ』

アスカ「そう、よかった……はぁ、つっかれたぁ……」

シンジ『お疲れ様、アスカ』


アスカ「……で、何言ってんのよシンジのくせにって怒鳴ったら、自分の部屋だったわ」

マリ「……くふふふ」

アスカ「……何よ」

マリ「いやぁ……やっぱり姫の王子様は、夢の中でも姫の王子様なんだなって」

アスカ「言うと思ってたわよっ!」

マリ「おぐぁあっ!?」

アスカ「ったくもー、外が真っ暗になるまでこっちが必死になって話したってのに」

マリ「ごめんごめん……あー、尾てい骨が…・あー……」

マリ「だけど、確かに面白いね」

アスカ「何よ、まさかあんたの夢も、こんな感じだったの? あたしたちがエヴァの代わりにロボットに乗ってて、ミサト達が指示をしてるって?」

マリ「そうだにゃん。面白いよね」

アスカ「どうかしら……だってそれは、現実世界での光景や体験と同じ構図じゃない。私もあんたも、こんな感じの夢を見ても不思議のない環境にいるんだから、それが被ったところで」

マリ「多目的戦闘機ガルーダ」

アスカ「え?」

マリ「あたしの夢にも出てきたよ」

アスカ「……あんた、またそういう嘘でからかおうっての?」

マリ「こーれが嘘じゃあないんだなあ。ま、あたしの夢では姫が乗ってたけどね。まだあるよ。メーサー兵器とかいう光学兵器、海水面の上昇が起こっていない日本、それにゴジラとかいう言葉」

アスカ「ごじら?」

マリ「ね、姫もきいたことないでしょ。でも、2人ともこのキーワードが夢に登場してる。あたしの夢の中ではワンコくんが知ってた。姫の夢の中では、ロボットがその名前を冠してた」

アスカ「……」

マリ「名前だけじゃないよ。夢の中でワンコくんは、『恐竜をもっさりさせたような』っていう説明からゴジラを連想した。んで、姫の夢に登場したメカゴジラは、話を聞く限り、どうもそれと同じ形状をしてる気がするんだよね。思うにさ、メカゴジラって、ゴジラを模したロボットだからメカゴジラなんじゃないかな、あんまりそのまますぎるネーミングではあるけど。つまり、あたしも姫も、同じ『ゴジラ』が存在する世界の夢を見てる、と言っていいと思うんだけど、どうよ?」

アスカ「……くだらない、考えすぎよ。やめやめ、この話。あんたの話聞いてるとこっちまでおかしくなりそう」

マリ「えーっ! 何だよ、せっかく姫とあたしのシンクロニシティがいかに強固なものかを説明しようとはりきってたのに」

アスカ「そういうとこよ、そういうとこ、うざいのは! あーもう、うるさいうるさい! 帰る! あたしが乗らなきゃいけないのは、メカゴジラじゃなくてエヴァ! もっさい恐竜のロボットじゃなくて、汎用人型決戦兵器よ!」

マリ「あ、ちょ、姫ってばぁ」

マリ「もう暗いよ、一人で大丈夫―?」

アスカ「大丈夫よ、たかだか歩いて数分じゃない」

マリ「送ってこうかー?」

アスカ「不要! じゃあまた明日ねー」

マリ「ふむぅ、仕方ない。気をつけて帰ってよ、もう」



マリ「…………さてさてさて、いよいよただ事じゃないね。ワンコくんに続いてまさか姫まで、とは。この『ゴジラ』のスケッチ、やっぱり見せたほうがよかったかなぁ?」

マリが机から取り出した紙には、『ゴジラ』の絵が描かれている。

2個目投下終了です。
好き放題書いてたらいつの間にかどんどん風呂敷が広がってますよ、フハハ!

マリ「ふーむふむ、どーしよっかにゃー……このシリーズ7部作一気……はきついなぁ、5、6あたりが特につまんないんだよね。グロいだけだし……お、このアニメ、もうDVD出たんだ、じゃあこれにしよっかな……あ、でも1巻だけか。これじゃ、主人公が巨人に覚醒するところ止まりだろうなあ。外に調査に出てからのを見たいんだよね………うーん、やっぱり仁義なき5本を一気でいいかにゃ、っと」

シンジ「あれ、マリ」

マリ「んお? ワンコくんじゃん」

シンジ「何してるの、こんなところで」

マリ「あはは、自宅でひたすらじっとしてる暇ってのをいい加減もてあますようになっちゃってさ……」

シンジ「それで、レンタルDVDショップでやくざ映画?」

マリ「そー。まだ10日は謹慎残ってるからねえ」

シンジ「災難だったね」

マリ「ワンコくんは何でいるの」

シンジ「ああ……同じ感じかな、何か見たいってわけじゃないんだけど。ミサトさんは今日は遅くなるらしいし、アスカも今日は委員長のところでお泊りだっていうから、たまにはブラブラしようかなって」

マリ「へぇ? 姫がお泊りねぇ珍しい」

シンジ「楽っちゃ楽だけどね。料理も洗濯も自分の分だけで済むから」

マリ「……つまり暇ってことか。ぃよしっ、付き合え!」

シンジ「へ? 何に?」

マリ「カラオケ!」

シンジ「え、ちょっとDVDは?」

マリ「“男”よりも“男子”成分を補給したい気分になったの! つまり君の歌! きかせろ!」

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カラオケルーム

ttp://youtu.be/4g4QW6i-PXA

マリ「にゃはは、なんていうか、思ったよりかっこいいの歌うんだねぇ、声の出し方もすごいスタイリッシュ。ていうか、こんな歌よく知ってるね」

シンジ「……演奏停止、と……いや、マリが言うことじゃないよ。ていうか、マリにほめられたら居心地悪いよ、めちゃくちゃ上手いんだから」

マリ「おいおいなんだよぅ、ほめたって何も出ないよ?」

シンジ「本当に歌好きなんだね、マリ」

マリ「まぁねぇ……ま、一番好きなのはエヴァに乗ることだけどさ。それ以外のときは、カラオケで歌ったり、あとは、そうだねぇ、ゲーセンで体動かすゲームしたり、派手な映画見たりして、とにかくスカッとするのが好きなんだよね」

シンジ「そうなんだ……でも、いいの? 謹慎中でしょ?」

マリ「そうだね、「放課後は速やかに帰宅して自宅待機」って言われてるけど……あたしにとっての“速やか”っていうのは、自宅で発散できないストレスを発散しきってから、ってことだからね」

シンジ「そんな変な言い訳じゃあとでまた怒られるよ」

マリ「いいからいいから、怒られるのは別に君じゃないんだし! さ、あと40分、どんどん歌うよぉ……どれがいっかなー、最後の雨?……うーんもうちょっと派手なメロディのほうがいいかな、じゃあレイニーブルー?……いやいや、失恋の歌ばっかりじゃん。もっとラブラブな明るい……あ、はじまりはいつも雨?……あれ難しいんだよねぇ……長崎は今日も雨だった……これじゃワンコくんわからないか」

シンジ「どれもわかんないよ。ていうか何で全部雨の歌なの」

マリ「ええいまどろっこしい、全部歌っちゃおっと♪ 送信!」

シンジ「全部歌いたいんなら最初からそうすればいいのに」

マリ「お、始まった始まった………ごほん……さよーならー、つぶやーくきーみーがー……♪」

シンジ「……」

シンジ、演奏停止。

マリ「……おいかーけてー、ただ抱き寄せー、ひとーみー閉―じ……あ、あれ? ちょっとちょっと、ここからがいいところなのに、何するのさ」

シンジ「ごめん、ちょっといい?」

マリ「あああ容赦なく予約をすべてキャンセルしてるよこの子……と、それはおいといて、何? ワンコ君がこんなことしてまで話切り出すなんて、珍しいね」

シンジ「うん、せっかくだから、話したいことがあって」

マリ「……え、嘘、告白!?」

シンジ「ちょ、違うよ。夢の話だよ」

マリ「夢? 夢ってぇーと……」

シンジ「この前話してた夢。変なコックピットにのって、変な怪獣と戦ったっていう」

マリ「ああ! この謹慎のほかならぬ原因になったあれ?」

シンジ「そう。それが、ちょっと気になって」

マリ「どういうこと? あの時はにべもなく突っぱねてたのに」

シンジ「ねぇ……笑わないでね。僕も信じようとはしなかったけど、馬鹿にして笑ったりはしなかったんだから」

マリ「努力する」

シンジ「マリが戦ったっていう怪獣……こんなんじゃなかった?」

マリ「ん、スケッチブック?………え、これって」

シンジが取り出したスケッチブックに、恐竜をさらにどっしりとさせたような、二足歩行の黒い怪獣の絵が描いてある。
その右下には、ゴジラ、と書かれている。

マリ「……何これ」

シンジ「ゴジラ。夢に出てきたんだ」

マリ「……似てるけど、なんていうんだろう。ええと、大まかな形はこれであってるよ。これで、体が紫色で、両肩に水晶みたいな大きな角っていうか柱がついてたら、あたしの見た怪獣とほとんど同じになるんじゃないかなあ」

シンジ「……じゃあこれは?」

シンジ、スケッチブックをめくる。そこには、服のデザイン画のような絵が描かれている。
『G-Force』と書かれた、軍人のようなユニフォーム。それを着ているのは、綾波レイや碇シンジによく似た少年少女だ。

マリ「……あっ!?」

シンジ「夢の中で僕達が着てたユニフォームなんだ。思い出せる限り書いてみたんだけど、どう?」

マリ「え、えっと、似てる! ていうより見覚えある」

シンジ「本当?」

マリ「あっと、ごめん、そうじゃなくて、服のデザインまでは思い出せないんだけど、この『G-Force』って文句に確かに思い当たるんだよ! そうだなぁ……あたし自身がこれを着てた覚えはないんだけど……そうだ、君だよ。ワンコ君が私といっしょにコックピットに乗ってたのを覚えてる。そのときの君の服とか、コックピットのところどころに確かに『G-Force』って表示されてた!」

シンジ「僕が? ちょっと待って、僕がマリと一緒に乗ってたの?」

マリ「え、うん……その、君に話した夢とは違くて、別の日にみた夢で、だけど」

シンジ「……変だな。僕はそうじゃなかったんだけど」

マリ「おっと、ちょい待ちちょい待ち……ちょっと整理させてね……なんていうか、こいつぁ、面白くなってきた感じじゃない?」

シンジ「そう? 面白くはないと思うなあ」

マリ「考えてみて? その『ごじら』とやらの姿については、あたしが説明したのをワンコくんの脳みそがどこかで覚えていて、たまたま夢に出たのかもしれないけど、『G-Force』なんて言葉、あたし今の今まで思い出さなかったんだよ? まして君には話してない。だけど、君の夢には出てきた……それも同じシチュエーションで。絶対何かあるって!」

シンジ「僕はなんだか気味が悪いんだけど」

マリ「まぁまぁ! ここまで話したってことは、洗いざらい教えてくれるつもりなんでしょ? ほら、話してみ!」

シンジ「うん……」

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『八丈島の北東約50kmの地点で海水温上昇を確認!』

「何だとぉっ!」

『映像回復します……目標の浮上を確認!』

「おお……わ、我々の切り札が……」

「なんてことだ……化け物めっ!」

冬月「やはり、従来の兵器では無理か」

ゲンドウ「ああ……通常兵器は役に立たんよ」

シンジ「……あれ、ここって……」

ミサト「……ええ、心配ご無用。彼は最優先で保護してるわよ。そう、迎えにいくのは私が言い出したことですもの。ちゃんと責任は持つわよ。じゃあね」

シンジ「……ミサトさん?」

ミサト「ん? ええ、さっき言ったでしょ? 葛城ミサト、よ」

シンジ「なんで……ミサトさんと出会ったときの景色だ。どういうことだろう?」

ミサト「何よ、何をぶつぶつ言ってるの?」

シンジ「え、い、いえ、何でもないです」

「今から本作戦の指揮権は君に移った。お手並みを見せてもらおう」

ゲンドウ「了解です」

「碇君、われわれの所有兵器では目標に対し有効な手段がないことは認めよう。だが、君なら勝てるのかね?」

ゲンドウ「そのためのG-Forceです」

「……期待しているよ」

青葉「目標、なおも潜行中。速力約30ノットで北へと進行中。このままいけばあと2時間ほどで房総半島南部に到達します」

冬月「いよいよ自衛隊と在日米軍もお手上げということだ。どうするつもりだ」

ゲンドウ「機龍を起動させる」

冬月「機龍を……? 75式ではなく、か? しかしパイロットがいないぞ」

ゲンドウ「問題ない。予備がまもなく届く」

シンジ「G-Force……」

ミサト「そう。国連G対策センターに所属する、ゴジラ迎撃専門組織。名前ぐらいは聞いたことあるでしょ?」

シンジ「……ネルフ、じゃなくてですか?」

ミサト「へ、ねるふ? 何それ」

シンジ「あ、いえ、なんでもないです……えっと……父のいる所、ですか?」

ミサト「ん、まっねー。お父さんの仕事、知ってる?」

シンジ「人類を守る大事な仕事だと聞いてる、はずです」

ミサト「え? 変な子ね。自分のことなのになんでそんな言い方すんの?」

シンジ「……違う、何か違うよ……」

ミサト「ど、どうしたの?」

シンジ「えっと……あの、あそこに見えるのって、芦ノ湖、ですよね?」

ミサト「ええ!? ちょっとちょっとシンジくん、君中学生でしょ? ちゃんと勉強しなきゃ……あれは霞ヶ浦よ。芦ノ湖って言ったら、神奈川県じゃない、ぜんぜん違うわよ!……あれ、静岡だっけ、どっちだっけ」

シンジ「じ、じゃあここって、第三新東京じゃないんですか?」

ミサト「第三? な、なんですって? そんな長ったらしい街の名前聞いたことないわよ。ここはつくば市でしょ。あ、もしかしてそういう遊び流行ってるの? ごめん、あたしぶっちゃけそこまで若くない……じゃなくて、幼くないから、そういう遊びはちょっちわかんないかなぁ」

シンジ「つ、つくば市……筑波、霞ヶ浦……確か、茨城県の地名だ。どういうことだろう、やってることはあの時と同じなのに、いろいろ違うよ」

ミサト「……あー、もしかして、この子、結構痛い子なのかしら……」

シンジ「あ、あの!」

ミサト「な、なあに、シンジくん??」

シンジ「これから、父の所へ行くんですよね……?」

ミサト「あー、うん。そうなるわね。あっそだ。お父さんから、IDもらってない?」

シンジ「ID……あ、胸ポケットに何か入ってる。どうぞ」

ミサト「ありがと。じゃ、これ読んどいてね」

シンジ「G-Force……何か、するんですよね、僕。用もないのに……父さんが僕を呼ぶわけないですもんね」

ミサト「苦手なのね、お父さんが……私とおんなじだね」

シンジ「……同じだ……いろいろ違うのに、同じじゃなくていいところはちゃんと同じ……」

ミサト「さてと、もうすぐよ」

シンジ「あれ、トンネルとかに入るんじゃないんですか」

ミサト「トンネル? あはは、秘密基地みたいなの想像した? 残念だけど、もうちょっと現実的よ。でも、かっこいい建物なんだから」

シンジ「はあ。あ、もしかして、あの建物ですか?」

ミサト「そ。遠くからでも目立つでしょ? 筑波山のふもとに作られた、国連G対策センター本部! 世界中の英知が結集している、ゴジラ対策の要よ。まあ、見かけだけじゃなくて、中身もちゃんと世界的に見ても超一流の施設ばかりだから」

ミサトの車が、国連G対策センター本部の前に到着する。

シンジ「……僕は何に乗ることになるんだろう? まるで、別の世界にきたみたい……別の世界? もしかして、これって、セカンドインパクトが起こってない世界なんじゃないか? そうだ、だからたぶん、ここには使徒とかエヴァもない。よくわかんないけど、きっと、いつもの世界とは別の場所なんだ……」

ミサト「はい、降りて。ついてきて。エレベーターで地下に移動するから」

シンジ「そうか……多分これ、夢だ。夢の中で夢だって気づくなんて久しぶりだなあ……いったいどうなるんだろう、僕」

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格納庫

シンジ「……真っ暗な部屋に通された。あの時は、明かりがついたら、ここに初号機の顔があって、びっくりしたっけ。やっぱり、何かに乗せられることは間違いない。じゃあここには何があるんだ……」

格納庫の明かりがつく。

シンジ「うわあああっ!? な、なんだよこれ!!」

シンジの目の前に、銀色の巨大な頭が現れる。
初号機の紫色の頭部とは違い、鋭利な頭に巨大な顎を持った、肉食恐竜の頭部を思わせる、爬虫類のような形をしている。

シンジ「き、恐竜!? いや、怪獣!?」

ミサト「そう、怪獣よ。ただし、悪者じゃあないけどね」

シンジ「え……?」

リツコ「三式多目的戦闘システム。通称、三式機龍。ゴジラを模して作られた、対ゴジラ兵器よ」

シンジ「……これが、父の仕事ですか?」

ゲンドウ「そうだ、久しぶりだな」

シンジ「父さん」

ゲンドウ「準備しろ。出撃だ」

シンジ「……やっぱり、こう言うんだ……」

ミサト「出撃!? 75式は凍結中でしょ……まさか三式を使うつもりなの!?」

リツコ「ほかに道はないわ」

ミサト、リツコ、言い争いを始める。

シンジ「……わけがわからないよ……ゴジラってなんだよ、機龍ってなんだよ。よくわかんないけど、結局あの時と同じことをまたさせられてるだけじゃないか……」

ゲンドウ「何をぶつぶつと言っている。早くしろ、でなければ帰れ」

シンジ「……やっぱりそうだ……なんでこんなことをまた思い出さなきゃいけないんだよ……夢の中でも、結局僕はこのロボットに乗れるから呼ばれてるだけなんだ……あれ?」

『……賀水道へと侵入、観音崎の東3kmの地点で浮上!』

ゲンドウ「ふむ……やはり東京へ上陸するつもりだな」

シンジ「ちょっと待てよ……確か、あの時は、ここで……」

リツコ「シンジくん、時間がないわ」

ミサト「シンジくん、あなたが戦うのよ。何のためにここにきたのか考えなさい。逃げちゃだめよ、父さんから……」

シンジ「……あ、綾波は?」

リツコ「何ですって?」

ミサト「……今なんていった、シンジくん? 確かに、綾波って言ったわよね?」

リツコ「どういうこと、ミサト。なぜこの子がファーストの名前を知っているの? まさか、ここに来る前に話したの?」

ミサト「そ、そんなことしてないわよ! どういうこと? シンジくん、綾波っていうのは、誰のこと? 何で今その名前を出したの?」

シンジ「僕が行かなかったら、綾波が乗せられるんじゃないですか? ぼろぼろの体を無理に押して」

ミサト「……嘘、正真正銘ファーストのことだわ」

ゲンドウ「別に乗るわけではない」

リツコ「司令!」

シンジ「乗らない?」

ゲンドウ「三式機龍は遠隔操作型だ。75式……レイが乗っていたものとは違う。レイの体が著しく負傷しているとはいえ、操縦に影響はないはずだ」

リツコ「し、司令、話を折って申し訳ありませんが、遠隔操縦とはいえ操縦プロトコルは75式と同様です、体力の低下している今のレイでは耐えられない可能性が……」

ゲンドウ「今のこいつよりは使える」

シンジ「やっぱり、綾波をパイロットに使うつもりなんだ……でもどういうことだろう、だんだんあのときとは違ってきてる……」

ゲンドウ「レイをつれて来い」

初号機初出動のときと同様に、痛々しく包帯で体を覆ったレイが運ばれてくる。

シンジ「やっぱりレイだ……何か、プラグスーツとは別の服を着てるみたいだけど……あ、ちょっと待って!」

リツコ「え?」

レイを載せたストレッチャーが、急停止する。

ミサト「ど、どうしたの、シンジくん」

シンジ「……あれ、揺れない? あ、そうか、この近くに使徒がきてるわけじゃないのか……でも、やっぱりあの時と一緒だ……ぼろぼろで、怪我だらけだ……」

レイ「………?」

ミサト「シンジくん、何をさっきからぶつぶつ言ってるの……?」

ゲンドウ「………」

シンジ「……ぼ、僕がやります! 僕にやらせてください!」

『AC-3-01 支援戦闘機しらさぎ3号機、離陸準備完了、第七滑走路へ移動』

筑波山の中に作られたG-Forceの巨大格納庫の中を、支援戦闘機しらさぎが、離陸する滑走路へと運ばれていく。
しらさぎ2号機への搭乗口で、それを横目に見ながら、シンジとミサトが登場準備をしている。

シンジ「……やっぱり秘密基地みたいな基地があるんだ。ジオフロントじゃなくて山の中だけど……」

ミサト「シンジくん、時間がないから飛びながら説明するわ。次からはちょっと違うけど、今回はこのヘルメットを被って操縦してもらいます」

シンジ「はあ。何か、変に大きなヘルメットですね。あの、操縦って、どういうことをすればいいんですか?」

ミサト「ありていに言えば、この飛行機から、機龍を見下ろしつつ、ラジコンみたいに動かすってだけよ。その操縦は、コンソール、まあゲームセンターの機械のもうちょっとハイテクなものだと思えばいいけど、このレバーやボタンを使って行います」

シンジ「……やけに、あんな大きなロボットを動かすにしては、単純ですね」

ミサト「ふふふ、気づいた? そ。まあ細かい知識は追い追い勉強してもらうんだけど、さし当たっての操作はそれで十分。細かい機体管制は機龍が搭載しているDNAコンピューターが行ってくれるわ。そして何より! そのヘルメットが、あなたの脳波をキャッチして、機龍のコンピューターとリンクしてくれるの」

シンジ「えぇ?」

ミサト「信じられない? でも、安全な技術だから安心して。昔、メカゴジラに使われていた、人間の脳とメカゴジラの脳をリンクさせて操るっていう技術の流用なんだけど……まあ、そこはまた今度説明するわ。とにかく、このミサトさんを信頼して、安心して使いなさい!」

シンジ「何言ってるのか半分ぐらいしかわからない……えっと、被ればいいんですよね? よっと」

『脳波探知』

シンジ「わ!?」

『脳波簡易探知プロトコルです。装着者の脳波を探知しました。脳波パターンを解析の後、MFS-3の伝達システムと同調します。装着者はリラックスしてください、装着者はリラックスしてください』

ミサト「ほら、きいたとおりよ。リラックスリラックス」

シンジ「そ、そういわれてリラックスできる人って少ないと思うんだけどなあ……えっと、深呼吸、深呼吸」

『警告。このプロトコルは、装着者との神経接続に対応していません。装着者の脳組織に直接接続しない場合、伝達システムとの同調率は著しく低……』

ミサト「ふんっ」

『プッ』

ミサト「はい、リラックスリラックス」

シンジ「何ですか今の! 何なんですか!」

『AC-3-02 支援戦闘機 しらさぎ2号機、離陸準備完了。第七滑走路へ移動してください』

シンジ「……あれ、しらさぎって、この飛行機ですよね? これ1機じゃないんですか?」

ミサト「ああ、全部で6機あるのよ。基本的には1~3号機の3機編隊で行動するの。4~6号機は予備ね」

シンジ「何でですか?」

ミサト「それはね、何を隠そうこのしらさぎが、機龍を運ぶからよ」

シンジ「え、これでですか?」

ミサト「そ。これ、支援戦闘機って言ってるけど、輸送機としても働くってわけ。じゃ、ベルト確認して。ドア閉めるわよ」

『MFS-3 機龍、冷却液注入完了。冷却液ポンプ稼動停止』
『両腕駆動部・メインバッテリー冷却終了、冷却パイプ連結解除』
『メインバッテリー充電完了。メインケーブル連結解除。移送体勢へ移行』
『最終駆動点検完了』
『ボディアーム展開。脚部固定ボルト挿入。滑走路移送までカウントダウン』
『移送テーブル加圧開始。移送体勢』
『各部検査ケーブル連結解除。所定の者以外は、移送テーブルから退避。滑走路移送開始まで20秒』
etc etc etc etc…………

ミサト『どう、聞こえる? シンジ君』

シンジ「ミサトさん? どこから話してるんですか?」

ミサト『しらさぎ1号機よ。今回は、私がこっちに乗って指揮管制を担当するわ。気分はどう?』

シンジ「えっと……特に、今のところ気分が悪かったりはしないです」

ミサト『そいつは結構。ま、君みたいな素人の中学生を乗せるんだから、2号機のパイロットには安全運転を厳命しておいたわ。そんなに乗り心地悪くはないはずだから安心して』

シンジ「わかりました、頑張ります……」

ミサト『ちゃーんとエチケット袋も用意してあるからね』

シンジ「やめてください……」

ミサト『オッケー。リツコ、彼の状態はどう?』

リツコ『心拍数はちょっと上昇しているけど、まあよくある緊張の範囲ね。これなら大丈夫』

ミサト『へぇー、思ったより図太いのね』

リツコ『そうね。今のミサトの方がよっぽど緊張してるみたいよ、心拍数と呼吸を見る限り』

ミサト『ちょ、そういうことは言わないでいいの!』

シンジ「はは……」


機龍、巨大な油圧テーブルに乗ったまま、しらさぎのいる第七滑走路へと移送されていく。
第七滑走路は筑波山の8合目付近に作られた屋外滑走路である。

ミサト『機龍には飛行能力はあるけど、長距離航行能力はないの。今回は飛行までする必要も余裕もないから、気にしなくていいことだけどね』

シンジ「じゃあ、このしらさぎでワイヤーで吊って目的地まで移動して、そこで投下して戦うってことですか」

ミサト『そ。なかなか察しがいいわね。ほら、機龍のおでましよ。2号機の位置なら、キャノピーから見えるんじゃない?』

滑走路の一部分が開き、機龍を乗せた巨大なテーブルが浮き上がってくる。
やがて、機龍が滑走路の上にその全身を現す。

シンジ「……なんだあれ……エヴァとぜんぜん違う、まるっきり怪獣じゃないか……」

『機龍移送態勢終了。各員、輸送第一態勢へ移行。しらさぎ1号機、3号機、滑走路上より離陸し、上空80mの地点で待機』
『しらさぎ1号機、背部バックパック連結部分。3号機、尾部連結部分。各機は輸送ワイヤーのロックを解除』
『10秒後にワイヤー投下』

ミサト『1号機と3号機の2つで機龍を輸送するの。今君が乗ってる2号機は操縦専門。輸送が終わった後は基本的に、1号機は管制と指揮、3号機はマイクロ波での遠隔充電を担当するわ』

シンジ「はあ……」

『本部より2号機へ。機龍、接続態勢スタンバイ』

ミサト『ぃよっし……シンジくん、さあ、機龍と接続するわよ』

シンジ「接続ですか?」

リツコ『ふふ、怖がる必要はないわ。別に機龍がダメージを受けたら自分まで同じようにケガをする、なんて変なシステムじゃないから。さっきも言ったとおり、機龍と息を合わせるだけよ』

シンジ「えっと……どうすればいいんですか?」

リツコ『脳波の接続時には、なるべく思考をリラックスさせておくことが望ましいわ。機龍の視界を想像してみて』

シンジ「視界?」

リツコ『ええ。身長60mの機龍の目から見える風景を想像して。別に現実と剥離していても大丈夫。気張らずに、機龍に近い何かしらのことを考えていればそれでいいから』

シンジ「は、はい……いつもエヴァで見てるし、そんなに想像するのは難しくないはず……」

青葉「インターフェイス、碇シンジとの接続を開始します」

日向「おっ、脳波安定。脳波パターン探知完了まで推定40秒。早いですね……」

リツコ「すごいわね、シンジくん……適性が高いとはいえ、ここまでの順応性は予想外だわ」

マヤ「DNAコンピュータ、接続状態で安定。思考アルゴリズム・戦闘プロトコルの未挿入を確認」

リツコ「シンジくんの状態は?」

マヤ「心拍数がちょっと高いですね……でも、脳波はむしろ安定してます。指示に従ってかなり集中してるみたいですね」

リツコ「それは結構……ただの中学生じゃあないかもね」

日向「脳波パターン探知完了。接続アルゴリズム構築………終了しました。DNAコンピューターとの簡易接続準備完了」

マヤ「DNAコンピュータ、接続状態変わらず安定。簡易接続を行う上での問題は一切ありません」

リツコ「つなげて。シンジくん、ちょっと変な感覚になるだろうけど、我慢して」

シンジ『は、はい……うわっ!?』

ミサト『ふふ、接続完了。別に痛くはなかったでしょ? 私には感覚はわからないけど』

シンジ『は、はい、ごめんなさい大きな声出して。ちょっと変な感覚になっただけです……なんだろう、一瞬、変な風景が見えた気が……もっともっと古い、教科書でしか見たことないような古い町並みが……』

ミサト『しっかし、接続早かったわね。もしかしたら、君、なかなかやる男って奴かもね』

『しらさぎ1号機・3号機、共に接続完了』
『機龍脚部固定ボルト排出完了』
『機龍、メインバッテリー、冷却循環、正常』
『しらさぎ各機、最終チェック問題なし。離陸可能です』
『滑走路周辺、北東の風4km。離陸に支障なし』
『輸送第二態勢終了。機龍、しらさぎ、離陸準備完了』

ミサト『さてと、準備完了ね……』

冬月「……碇、これでいいんだな」

ゲンドウ「……」

ミサト『出撃!』

しらさぎ各機、高度を上げていく。
機龍、4本のワイヤーでしらさぎ1号機・3号機に吊られ、やがて滑走路を離れる。
機龍を輸送するしらさぎ2機と、シンジ・ミサトを載せた1機、スラスターノズルの向きを変え、一気に加速し筑波山を飛び立つ。

マヤ「機龍輸送班、およびしらさぎ2号機、離陸成功。目標へ向けて飛行を開始します」

冬月「……あれが首都圏の空を横切っていくのか。まったく冗談としか思えない光景だな」

日向「目標までの距離約70km。到着予想時刻、一〇一〇」

冬月「15分ほどか……奴の現在位置は?」

青葉「10分前に相模湾に進入。現在、三浦半島の西約20kmの地点。進路、依然北東」

冬月「何とか、首都圏からは逸らすことができたか……しかし、自衛隊の装備をこうもひどく使っては、後でなんと言われることやら……攻撃を仕掛けて奴の怒りを煽る、というのは確かに誘導としては有効だろうが、その度に巡洋艦や支援戦闘機を犠牲にしていては……」

ゲンドウ「従来の兵器ではそれが限界だ。メーサーを積んでいない兵器は、奴の誘導ぐらいにしか役に立たん」

冬月「しかし、誘導といっても、結局上陸することには変わりない。このまま行けば小田原だ。これで言い訳を立たせることがどれぐらい難しいか、お前にもわかるだろう」

ゲンドウ「上陸させるかどうか、ではない。どこへ上陸させるか、の問題なんだよ」

機龍、松戸市上空を通過し、東京都上空へ入る。
しらさぎに吊られて空を移動する機龍のカメラに、地上に広がる首都圏の風景が映る。
シンジの目の前のモニターには、それが映し出されている。

シンジ「……大きな街だなあ」

ミサト『そりゃあね……この首都圏には、日本の人口の4分の1が集中しているんだから』

シンジ「4分の1……じゃあ、もしこの街が壊滅したら」

ミサト『ええ。いやな言い方をすると、私や君の貧しい想像のさらに何十倍もの悪影響がこの国を襲うでしょうね。この国がどうなるか、それが今私たちと君にかかっているということよ』

シンジ「………私たちって……結局のところは僕や綾波だけじゃないか……」

ミサト『あ、そうそうシンジくん。脳波を同調したからって、別にモニターをガン見してる必要はないからね。あんまり今から気張ってると酔っちゃうわよ』

リツコ『そのとおりよ。眠りさえしなければ、眼を瞑って休んでいてもかまわないわ』

ミサト『ちょい待ち、そうじゃないわ。残念だけど、その前に、君がこれから戦う相手について、G-Forceが持っている情報に基づいて説明しておくわ、簡単にね。ああ、安心して。君がネットや本で調べたことあるかもしれない情報ばかりだから。ふがいないことにね』

シンジ「相手……?」


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日向「海上自衛隊第5護衛隊並びに第11護衛隊、三浦市から熱海市にかけての海上に展開完了。相模湾を封鎖しました」

リツコ「……あれ相手に、どこまで護衛艦での“封鎖”が効くか疑問だけどね」

青葉「目標、小田原海岸の南東約15km。速度維持。目標の上陸地点を小田原市沿岸部と推定。予想上陸時刻、一〇二〇」

冬月「くそ……やはり小田原の市街地か。1号線と東海道本線、新幹線が集中しているんだぞ。あそこが壊滅したら東海道のインフラがめちゃくちゃだ」

青葉「先ほどから何度か爆雷攻撃には成功しているんですが……当然、といっては残念ですが、目標にダメージは確認できず、進路にも影響は与えられていません」

日向「三浦半島の西で潜行したっきり、ただでさえ深い相模湾の海底ぎりぎりを進んでいますから……見える範囲から魚雷でも打ち込まない限り、反応しないのかもしれません」

冬月「わかっている。奴め、完全に標的を定めた、というわけだな」

マヤ「機龍、降下地点到達」

ミサト『予定通り、酒匂川河口で目標を迎え撃ちます』

マヤ「了解。機龍、降下作業を開始してください」

冬月「あと10分か……ぎりぎりだな」

機龍の体が酒匂川の河口に降ろされる。
その体からワイヤーがとりはずされ、しらさぎ1号機・3号機が回収していくる。
同時に、2号機の中で、シンジが操縦態勢に入る。

リツコ『いい、シンジ君。相手はまだ数キロ先の海上よ。いきなり移動したりなんて難しいことは考えずに、とりあえず、遠距離装備で攻撃することだけを意識して』

シンジ「は、はい……」

ミサト『シンジ君、今の説明で大丈夫?』

シンジ「ええ、さすがにもう慣れっこ……じゃなくて、ゲームとかでの指示と同じようなものだし」

ミサト『ゲーム、ねぇ。あーやっぱ最近の子はいうことが違うわ……あ、そうそう、大事なこと言うの忘れてた。火器管制は、今回は本部からしらさぎを中継した遠隔操作で行うから。場合によっては操作権をそちらに渡すかもしれないけど、とりあえず、シンジ君が移動担当、本部が攻撃担当、という調子ね』

リツコ『ねえミサト、これで本当にいいの?』

ミサト『中遠距離戦では、そっちと機龍の通信ラグは微々たるレベルだから大丈夫でしょ? もちろん接近戦になったらその限りじゃないけど……だいたい今から計画変更しようったって無理でしょ』

リツコ『まあね。それにそもそも無理よ、脳組織への接続を行っていない状態じゃ、至近距離でやりあうなんて。まあ仕方ないわね。今回の機龍は歩くメーサー砲台だと考えろって話だったものね」

シンジ「……また何か不穏な言葉が聞こえた。何だよ脳組織って……」

リツコ『ああ、シンジ君? さっきやったけど、視界移動のテスト、もう一度やってみてくれる?』

シンジ「は、はい。えっと……向きたい方向を見つめながら、首をちょっと動かすんだっけ」

機龍の首が滑らかに反応し、右上を向く。

リツコ『上出来。じゃあ、正面へ向き直って』

ミサト『うっはぁ、本当に生きてるみたいな動きね』

リツコ『ええ。操縦者の視線の動き、脳波の動き、筋肉信号の様子を同時に感知して反映するんだから、アナログ操縦じゃちょっと追いつけないレベルでしょうね』

ミサト『これならメーサー砲もちゃんと当てられるか……』

リツコ『……そうね、やっぱり、メーサー砲の操作だけ、シンジ君に任せましょうか』

ミサト『え?』

リツコ『他の武装はともかく、メーサーは、機龍の頭部の動きがそのままターゲッティングになっているから、レーダー誘導で操作してたら都合が悪いわ。他のミサイル武装なら兵器でしょうけど』

ミサト『ちょ、ちょっとちょっと大丈夫なの?』

リツコ『大丈夫よ。彼のこの調子なら、それぐらい』

シンジ「大丈夫です、ミサトさん」

ミサト『本当に?』

シンジ「はい。でも、あんまり長い間、撃ちっ放しでもダメなんですよね? えっと、オーバーヒートとかするんじゃないですか」

リツコ『ふふ、良く知ってるわね。でも、それは大丈夫。排熱制御とエネルギー充填は、機龍のコンピューターがやってくれるから。危なくなったら自動的にとまるようになってるし、次に撃てるようになるまでの時間とかもちゃんと画面に表示されるわ。こちらでもモニターはしておくけど』

シンジ『……それ、僕が操縦する必要あるんでしょうか』

リツコ『まあ、当然の質問ね。でも、答えはイエスよ。シンジ君、君に今回求める最も重要なことは、思考の安定よ』

シンジ「どういうことですか?」

リツコ『機龍に搭載されているコンピューターは高性能だけど、怪獣相手に戦闘を行えるほどの高度な思考ルーチンはとても構築できてないし、かといってアナログ的な操作で戦闘行動をすべて制御するには機構が複雑すぎるのよ、例えばさっきの首の動き一つにしたって……』

ミサト『リーツーコ。時間ないの、時間』

リツコ『あら、ごめんなさい、つい』

ミサト『もういい、私が言うわ。シンジ君、要は、君の脳と機龍のコンピューターを交感させて、姿勢制御だの移動だのをいっぺんに行ってるってわけ、わかる?』

シンジ「えっと、だいたいは、わかりました……要はエヴァの思考伝達と同じってこと、かな……」

ミサト『んまあ、そういうわけだから、君はずばり、機龍の気持ちになって、歩いたりあちこち向いたりすればいいわけ。オッケー?』

リツコ『ミサト、それはアバウトすぎ』

ミサト『しゃーないじゃん、もう時間ないんだから』

シンジ「つまり、慌てて転んだり、変な方向を向いたりしないようにすればいいんですね?」

リツコ『え? まあ、そうね……よくわかったわね、今のミサトの説明で』

ミサト『やっぱり私なんかよりあんたの方が、よっぽど説明が下手ってことよ』

シンジ「……どっちも、いきなりな上に理不尽、っていう点では同じようなものなんだけど……」

リツコ『さっきの頭部の動きの滑らかさを見る限り、思っていたよりはるかに筋はいいから、大丈夫だと思うわ。頑張ってね、シンジ君』

シンジ「は、はい、わかりました」

リツコ『本当、脳に打ち込まない簡易探知デバイスなのに、よくこれだけの動きを……』

シンジ「え??」

ミサト『げっ、リツコ、それはオフレコ!』

リツコ『あ……ごめんなさい、ミサト。シンジ君、今のは忘れて』

シンジ「だから出来るわけないですよ! 本当なら打ち込むはずなんでしょ、何か機械的なものを、頭に!」

ミサト『んもぉー、何言ってるのよシンジ君、そんなわけないじゃなーい』

シンジ「白々しいんですよ」

ミサト『ま、話をまとめると、君は姿勢制御・移動、口部メーサー砲の操作。本部が、その他ミサイルなどの兵器の操作。オッケー?』

シンジ「はぁ……まあ、他の人が手伝ってくれるだけ、あの時に比べるとマシ、かなあ……」

ミサト『ああ、後、君は機龍との思考交感のために機龍の視界を見てるけど、私はこのしらさぎのカメラを通して下を見ながら操作してるから、他の人が目を回したりするのを心配する必要はないからね。ま、そんな余裕ないでしょうけど』

リツコ「全くあの子ったら。説明しておきなさいよ、どうせゆくゆくはそうなるんだから、もう……」

青葉「機龍の火器管制機構としらさぎの操縦ブースとのリンク、完了。自己診断プログラム作動。問題なければまもなく、戦闘準備完了です」

日向「しかし、こんな複雑な操作のためのプロトコル、よく用意できましたね。姿勢制御は操縦者本人、FCSはこっちだなんて」

リツコ「別に今回みたいなケースが予想できなかったわけじゃないからね。右足を私が、左足をミサトが、右腕をマヤが……なんてごちゃごちゃした操縦態勢ならともかく、これぐらいの操作分業のためのプログラムなら、手間のかかる作業じゃないわ」

日向「なるほど……でも、レーダーで位置を特定して発射するだけとはいえ、なんていうか、ちょっと緊張してきますね」

リツコ「頼むわよ。中学生の男の子がしらさぎに乗って頑張ってるのに、この本部でぬくぬくと座ってる大人が怯えてちゃ、恥ずかしいどころじゃないわよ」

日向「了解です。頑張りますよ」

青葉「診断プログラムによる自己診断完了。異常なし。戦闘態勢移行までの全プロセスが完了しました」

マヤ「機龍、戦闘態勢への移行準備完了」

ゲンドウ「……戦闘態勢を許可する」

日向「よーし、いくぞ」

青葉「目標、現在、小田原市の南東約4kmの地点。なおも進路・速度に変化なし」

川の河口で湾に向かって直立している機龍。しらさぎ3機は、1000mほど上空を遠巻きに旋回しつつ待機している。

ミサト『オッケー、火器類ならびに各駆動部分の安全装置解除、と……ま、戦闘態勢移行っていっても、シンジ君はさっきまでとなんら変わらずリラックスしてればいいってわけね、結局』

シンジ「あはは、そうみたいですね」

ミサト『はぁ……確かに妙に慣れてるわねー、最近の子ってこんな感じなのかしら? やっぱりゲームとかで慣れてるからかな?』

シンジ「う……でも、それはえっと、こんなこと言ってるけど、いざとなったら全然歯が立たないかも」

ミサト『あはは、それは困るわね。ま、でも、もしそうなっても君が怪我するわけじゃないから、安心して』

シンジ「あ、それは安心できるんですけど……ここで相手を止められなかったら、どうなるんだろうって思うと」

ミサト『あー、さっきおどかしすぎちゃったか。あんまりハードルあげなくて大丈夫よ。もとより今回はあいつを倒せるとは思ってないもの』

シンジ「えっ、そうなんですか? だって、倒せなかったら、ここら辺だけじゃなくて、東京とかが大変なことに……」

ミサト『まあもちろん、倒せたら倒したいけど、結局は撃退すれば良いだけの話よ。要は、こういうおっかない兵器がいるぞって見せ付けて、あいつをビビらせて門前払いできればいいの』」

シンジ「そう上手くいくかな……あ、じゃなくって、そうだ、上手くいかなきゃだめなんだ」

ミサト『そうね。でも、君の後ろには陸海空の自衛隊がたっぷりいるし、レイも別のロボットで控えてるから、君ばっかり気負わなくても大丈夫よ』

シンジ「えっ、綾波は大丈夫なんですか?」

ミサト『ええ。さっきはまあ、ちょっち大げさに包帯巻いてたけど、その、点滴とか打ってがっつり休ませたからね』

シンジ「………ミサトさんって本当こういう嘘が下手だよなあ………」

ミサト『ん? どしたの?」

シンジ「い、いえ何でもないです」

青葉「……葛城特佐、嘘教えてますけど、いいんですか?」

マヤ「75式のパイロットが依然あんな状態で、気化爆弾も目標に通用しなかった以上、核兵器を除けば、もはや機龍が最後の砦なのに」

リツコ「そんな無理難題を中学生の、しかもあんなに線の細い男の子に背負わせられるほど、ミサトは図太くないわよ」

日向「ですが……もし、ここで奴を止められなかったら」

リツコ「それは……まあ、考えたくもない事態だけど……」

冬月「今さらそんなことを考えてもしかたないんじゃないか、諸君」

日向「……それもそうですね」

青葉「目標、酒匂川河口より南東2kmの地点。深度約200m。速度12ノットに低下」

ミサト『くるか』

リツコ「まっすぐ小田原の街に向かってるわね。単純計算ならあと5分……いえ、水深を考えると2分程度で浮上するわね」

ミサト『……オッケー、頑張りましょ、シンジ君。私が後ろにいるからね』

シンジ「が、頑張ります」

ミサト『リラックスリラックス! これが終わったら、ディズニーランドにでもつれてってあげるから』

シンジ「でぃずにーらんど?」

ミサト『ええ! ディズニーがダメなら、他のところでもいいわよ。お姉さんに任せなさい!』

シンジ「ランドってことは、それって遊園地か何かですか」

ミサト『へ?? ちょ、ちょっとちょっとシンジ君、せっかく人がご褒美のお話してるのに、変な冗談で腰折らないでよ』

シンジ「だって、本当に知らないんです……」

ミサト『何ですって?』

リツコ『ミサト、バカな話してないで! 海水温の急激な上昇を確認したわ。目標が浮上するわよ!』

機龍の前方で、海面がボコボコと沸騰しだす。

シンジ「うわ、な、何だあれ……!?」

リツコ『シンジ君の視界からなら見えるでしょうね』

青葉『深度、200、150、100……きます!』

沸騰していた海面が爆発し、巨大な水しぶきと共に割れる。

シンジ「うわっ!?」

ミサト『落ち着いて! ただ浮かんできただけ…………っと、おでましね』

シンジ「え?……あれが……!?」

大量の水を滴らせながら、巨大な黒い怪獣が立ち上がる。

シンジ「な……なんだよ……なんなんだよ、あれ」

ミサト『うはは……生で見るとやっぱりやばいわ、あいつ。よっしゃ、気合入れなさい、シンジ君』

シンジ「あれが……ゴジラ?」

機龍のカメラに、海上に姿を現したゴジラの姿が映っている。
ゴジラ、小田原の街並みと機龍をにらみつけ、咆哮。

ゴジラ、体を振って水を払うと、ゆっくりと海上を進行開始。

ミサト『オ、オッケー、オッケー、クールダウンクールダウン……大事なのは冷静になることよ、シンジ君』

シンジ「そういうミサトさんが一番ドキドキしてるんじゃ」

ミサト『たはは、ばれた? でも、シンジ君はそのモニターからあいつを見てるわけだから……多分私より怖いと思うの』

シンジ「……とても怖いです」

ゴジラの進路は、完全に機龍に向いている。一歩、また一歩と、あたりに地響きを起こしながら、ゆっくりと機龍へ向かってくる。

ミサト『ふむ、こちらに興味津々ってわけね、可愛げあるじゃない』

シンジ「ど、どうしましょう」

ミサト『落ち着いて。余計な刺激は与えたくないわ。首も動かさないで』

シンジ「え!? で、でも、どんどん向かってきてますけど……」

ミサト『確実に当てられる距離までひきつけて攻撃をぶつけるわ。具体的には……』

リツコ『ターゲッティングの精度・時間と、攻撃を受けるリスクを考慮すると、600mぐらいの距離がいいと思うわ』

ミサト『サンクス、リツコ。そんな感じ』

シンジ「だ、だいたいわかりましたけど、でもどういう風に……?」

ミサト『メーサー砲の撃ち方は覚えてる?』

シンジ「この、右の操縦桿のトリガー、ですよね」

ミサト『そ。エネルギー充填は完了してるし……熱源を一定時間画面の枠内に収めてロックオンすれば、あとはそれを引くだけよ』

シンジ「どれぐらい時間がかかるんですか」

リツコ『ロックオンには……その距離で的確にカメラで目標を捕捉できれば、約2秒ってところかしら』

シンジ「2秒……」

ミサト『そゆこと! じゃあシンジ君、あいつが近づくのを待って私が合図するから、そうしたら、ゆっくりあいつの方に頭を向けて。まあ、もともとこっちに向かってきてるわけだから、そんなに大きく動かさなくて大丈夫だと思うけど』

シンジ「わ、わかりました」


ゴジラ、ゆっくりと機龍に近づいていく。

ミサト「目標との距離800m……よし、シンジ君、お願い」

シンジ『は、はい』

機龍、頭部をわずかに動かし、ゴジラへと向ける。ゴジラ、それを察知し、停止。いぶかしげに唸り声を上げる。

ミサト「んー? 思ったよりビビリなのかしら」

シンジ『ミサトさん、えっと……ゴジラに『ロックオン』って文字が表示されました』

リツコ『こちらからもロックオンを確認したわ』

ミサト「オッケーそのまま。さて、どう出るかな……」

ゴジラ、しばらくの間、機龍をにらみ続ける。
だが、やがて、警戒しつつゆっくりと進行開始。

ミサト「よっしゃ、いい子いい子……そのまま来なさい」

ゴジラと機龍の距離が、徐々に縮まっていく。

青葉『目標と機龍の距離、750、700、650……』

ミサト「メーサー砲、発射用意」

シンジ『用意、完了』

ミサト『………………発射!!』

機龍、口部から橙色のメーサー光線を照射。ゴジラに命中する。
ゴジラ、悲鳴。体が黒煙を上げる。

青葉『メーサー命中!』

ミサト「限界まで照射続行!」

照射は数秒に渡って行われ、その間、ゴジラの体が煙を上げ続ける。
やがて照射が止まる。
ゴジラ、うめき声を上げながらもだえ、後退。メーサーの命中した部分がわずかながら変色している。

リツコ『効いてる……やはりメーサー砲ならいけるわ!』

ミサト「よっしゃ! シンジ君、そのまま! MPMとMLRで牽制し目標の行動を抑制する! 本部!」

日向『はい!』

機龍の肩の青いバックパックから、大量のMPM――470mm多目的誘導弾と、MLR――多連装ロケット弾が嵐のように噴き出す。
多目的誘導弾は緩やかに旋回し大きな弧を描き、ロケット弾は一直線に飛び、ゴジラを襲う。
大量のミサイルとロケット弾がゴジラに命中し爆煙を上げる。

ミサト『よーし、まずはいい感じね……シンジ君、画面上にカウントダウンが表示されてない?』

シンジ「えっと……残り12秒。メーサー砲の再充填ですか?」

ミサト『そうよ、それと再冷却。それが終わったら、またメーサー砲での攻撃を仕掛けるわ。相手が混乱してるうちが勝負よ、一気にいくからね!』

シンジ「は、はい……」

やがて、実弾攻撃の雨が止み、辺りに爆発の残響音と煙だけが残る。
煙にまみれているゴジラ、うめき声とも唸り声ともつかない声をかすかに上げる。

ミサト『……データリンクしているとはいえ、遠隔操作じゃ精密な攻撃には限界があるわね。何とかメーサー砲の命中した部分に当たっていれば、すこしはダメージになるかもしれないんだけど……シンジ君、どう?』

シンジ「僕のモニターだと今のところ、何も……ん?」

黒煙に包まれているゴジラ、かすかに、パリパリという音を立てて青く発光する。

シンジ「何だアレ……いや、確か、さっきミサトさんが見せてくれた資料に……」

ミサト『まずい!』

背びれの発光が、痺れを切らすかのように、だんだんと強く激しくなっていく。

青葉『目標周辺の気温が急激に上昇! 目標の発光を確認!』

ミサト『やばい! くるわよシンジ君!』


煙を割いて、ゴジラの口から青い巨大な熱線が迸る。

シンジ「うわあっ!?」

熱線、機龍に命中。

ミサト『うわっちゃ、直撃!』

機龍の体から激しく火花が散る。機龍、ぎこちなく数歩後退。

ミサト『しらさぎ各機距離をとって! 機体損傷チェック! 管制装置、駆動機……え シンジ君、今歩いた?』

シンジ「ご、ごめんなさい! つい……」

ミサト『ついって、君ね……あっ、やっば!』

ゴジラ、怒りのこもった咆哮を上げ、猛然と機龍へ突進。

ミサト『シンジ君、避け…無理か!』

機龍、正面からそれを食らい、はじき飛ばされ転倒する。

シンジ「うわあ!!」

マヤ『機龍、目標の突進を受け転倒!』

リツコ「信じられない……数歩とはいえ、つい、で歩行を行うなんて」

ミサト『それどころじゃないでしょリツコ!』

リツコ「わかってるわよ。機龍の損傷は?」

マヤ「計算中です!」

リツコ「シンジ君! 聞こえる?」

シンジ『は、はい!』

リツコ「左側の操縦桿の左の辺りに、大きな赤いレバーがあるのわかる?」

シンジ『えっと……あります!』

リツコ「よくきいてね、“まっすぐ立っている状態をイメージしながら”、それを引いて! 緊急用の姿勢制御装置よ、それを作動させれば、ジェット噴射で自動的に体勢を立て直すわ!」

シンジ『わかりまし……わあっ!!』

ゴジラ、大きく振りかぶり、尾を機龍に叩きつける。機龍、100mほど跳ね飛ばされ、沿岸部を走る西湘バイパスを叩き壊し着地。

青葉『も、目標、尾で機龍を攻撃! 機龍、跳ね飛ばされました!』

ミサト『嘘でしょあんなでかいのをまるでプロレスみたいに……』

リツコ『さすがにおとなしく姿勢を正させてくれそうにはないわね』

ミサト『感心してる場合じゃないでしょ、シンジ君、大丈夫?』

シンジ「が、画面見てると吐きそうです……」

ミサト『我慢して! 目標は?』

青葉『なお接近中! まずいですよ!』

機龍、ゴジラに背を向ける形で、酒匂川に転がっている。
ゴジラ、猛然と進撃し接近。
機龍に背を向けたかと思うと、尾をしならせて何度も叩きつけはじめる。
強烈な尾の攻撃を食らうたびに、機龍の体から悲鳴のような金属音と火花が飛ぶ。

シンジ「み、ミサトさん、このままじゃ!」

ミサト『3号機! バルカン砲でゴジラを攻撃して何とかひきつけて! 空自への支援要請も繰り上げて!』

しらさぎ3号機、大きく旋回しゴジラの方に向くと、バルカン砲でゴジラに攻撃を加える。
だが、ゴジラ、機龍への攻撃に夢中になっておりさしたる興味を示さない。

ミサト『ああもう、こんな豆鉄砲じゃ埒が明かないか……』

機龍、なおも尾を容赦なく叩きつけられ、さらに金属音の悲鳴と火花を上げる。


青葉『威嚇攻撃の効果なしと確認! 着弾角度を深く取り、再び攻撃します!』

冬月「……角度の問題ではないと思うが」

3号機、ゴジラから一旦距離をとり再び旋回すると、低空から猛スピードでゴジラに接近しながらバルカン攻撃を再度試みる。

青葉『しらさぎ3号機、高度500mまで降下、ヘッドオンで威嚇攻撃!』

ミサト「ちょ、ちょっと……近すぎる、危ないわ! 3号機を一旦離脱させて!」

青葉『間に合いません!』

1号機、北西方面――ゴジラの背後から接近し、その頭部にバルカン砲をクリーンヒットさせる。
ゴジラ、ようやく攻撃を感知。
1号機、猛スピードでその上空を通過し相模湾上空へ。

青葉『や、やった! 目標、攻撃を中止しました!』

ミサト「よ、よっしゃ! 上手いわよ!……ん?」

ゴジラ、いぶかしげに1号機の飛んでいった方向を見る。
大きく息を吸い込み、その体が再び青く発光し始める。

ミサト「まずい! 熱線よ!」

青葉『3号機、緊急回避!』

ゴジラ、体を振りかぶると、再び熱線を放射。
青白い熱線が相模湾の空へと延びていく。
3号機、大きく回避制動をとりこれを回避する。

ミサト「やった!……あ」

しかし、熱線が鞭のようにしなり、一度は避けたかに見えた3号機を容赦なく捉える。
3号機、一瞬で溶解し爆散。
細かい破片が炎を上げながら相模湾へと堕ちていく。

青葉『……3号機、ロスト』

日向『嘘だろ……? 何キロ離れてたと思ってんだよ、何キロで飛んでたと……』

ゴジラ、咆哮。

ミサト「この化け物…………え?」

機龍、背面からジェット噴射を行い、強引にゴジラのそばから離脱。
体を引きずりながら飛行し、川の南西、白鴎中学校の敷地に飛び込んだかと思うと、その場で起き上がり直立状態に復帰する。

ミサト『シンジ君!?』

機龍、酒匂川に背中を向けている状態で立ち直ったが、ぎこちないながらも、ゴジラの方へと向き直り始める。
ゴジラ、機龍の強引な離脱でバランスを崩していたが、体を立て直すと、機龍を確認する。

リツコ『嘘……こんな滑らかに姿勢制御を行うなんて!? 確かに方法は教えたけど、首を動かすのとは思考交感の複雑さが……』

ミサト『なんだかわかんないけど、思ったよりも全然“やれる”男みたいじゃない、シンジ君!』

シンジ「み、ミサトさん、これからどうすれば!?」

ミサト『オッケー任せて。ゴジラの方まで体を向けられる?』

シンジ「何とか……でも、画面が乱れてるし、右足が変なんですよ、漫画のロボットみたいにぎこちないっていうか」

ミサト『そりゃあれだけボコられればね。でも上等よ、そのままゴジラの方を向いて、ロックオン完了次第、もっかいメーサー攻撃よ!』

マヤ『機体損傷の簡易診断完了! 右脚部・尾部・右腕部の駆動機構に損傷確認、駆動効率30~50%低下! バックパック、MLR発射孔、2番から5番、8番から10番破損、発射不可! MPM発射孔……』

ミサト『時間がないわ! とにかくメーサー砲しか手がないってことね! シンジ君、そのまま行って!』

シンジ「はい!」

機龍、足を引きずりながら何とかゴジラの方を向いていく。
ゴジラ、咆哮すると、またしても機龍に突進するそぶりを見せる。

ミサト『ちっ、まずい……シンジ君!』

シンジ「し、視界に捉えました!」

機龍、ゴジラの方へと完全に向き直り、その視界にゴジラを捉える。
シンジの見ている画面の中に菱形のマークが現れ、ゴジラに重なり点滅をはじめる。

マヤ『メーサー砲充填率、70%! 撃てます!』

シンジ「ロックオン完了!」

ミサト『メーサー砲発射!』

機龍、口部からメーサー砲を照射。
ゴジラ、それを察知し、一瞬のうちに息を吸い、放射熱線で迎撃。
橙色のメーサー光線と青白い放射熱線が両者の間で衝突し、激しいスパークを起こす。

シンジ「うわああ!!」

ミサト『きゃああ!!』

衝突したメーサー砲と放射熱線は、互いにはじきあって、ゴジラと機龍の間の地面に激突する。
周囲に強烈な熱と衝撃が撒き散らされる。
激しいスパークが、両者の戦闘を捉えていたすべてのカメラに焼きつく。
しらさぎの映像も、機龍からの映像も、本部のモニターも、すべて真っ白く焼きついてしまう。

爆発が収まると、強大な熱と衝撃によって、両者の間に大きなクレーターが出現している。
クレーターはそこかしこがオレンジ色に白熱してどろどろになっており、激しい蜃気楼を発生させている。

ミサト『……じょ、状況は?』

シンジ「ミサトさん、モニターが真っ白で、何も見えません」

ミサト『あんなもの間近で見ちゃあ当然ね……こっちもモニターが焼きついてるわ。本部?』

日向『こちらでは既に予備のカメラに切り替えを行っています! まもなくそちらとのデータリンクを復旧します』

マヤ『機龍の頭部カメラ、自己復旧中です』

ミサト『早く早く早く……今どつかれたら、いよいよやばいわよ! ゴジラはどうなってる?』

青葉『目標……機龍の前方200mほどの地点。機龍をにらんだまま動きません。熱線放射の予兆も確認できず』

日向『本部よりしらさぎ各機へ、映像復旧します!』

しらさぎ1号機のモニターに、哨戒機からの映像が映し出される。

ミサト「……動いていない? どういうこと?」

ゴジラ、荒く息をつきながら、クレーターの向こうにいる機龍をにらみ続けている。

ミサト「まあいいわ、チャンスね! 機龍のメーサー砲の再充填が済み次第、攻撃をしかけるわ。シンジ君、機龍の体勢を調整し……」

シンジ『やってるんですけど、それが……』

ミサト「え?」

シンジ『き、機龍が反応しないんです。首も足も、さっきと同じように操作してるんですけど、全然動かないんです』

ミサト「何ですって?」

リツコ『落ち着いて、シンジ君。さっきまでが上手くいきすぎだったと考えなさい。本来なら、それぐらい反応が悪くて当然な状況よ。落ち着いて、深呼吸して』

シンジ「でも……」

リツコ『動かないからって慌てていても同じことよ。その間はバックパックからの実弾攻撃と、空自の航空支援でカバーするわ。そういう話だったでしょ、ミサト』


日向「いえ……変です。こちらのブースからの操作も受け付けません」

リツコ「え?」

日向「MPMもMLRも、再装填は完了しているのに、発射態勢へ移行しません。管制システムそのものに異常があるとしか……」

リツコ「そんな……ちょっと待ってて。原因を調べるわ」

マヤ「こちらも変です。シンジくんの脳波は変わらず安定しています。わずかに乱れはありますが、十分接続可能なレベルのままです」

リツコ「何ですって……じゃあ何で機龍は」

ミサト『ちょっと急いでよ! 航空支援は?』

青葉「百里から35が2機、たった今離陸しました!」

ミサト『今さら!? それじゃどう少なく見積もっても5分はかかるじゃない……ああもう』

シンジ『あっ、ミサトさん、カメラが復旧しました!』

ミサト『メーサー砲は使えそう?』

シンジ『えっと……さっき発射したときのままだから、ゴジラを捉えてはいるんですけど、あの菱形のマークが出ないんです』

ミサト『なーるほど、ロックオンも不可能か、素敵ねー、いよいよ故障かしら』

日向「メーサー砲も……くそっ、やはりレーダー誘導に切り替えようとしても無理です!」

ミサト『万事休す、ね。さてどうするか……ってあれ?』

ゴジラ、機龍を見つめ続けている。

ミサト「やっこさん、動く気配ないわね。息も荒くなくなったし。どうしたのかしら?」

リツコ『ミサト、聞こえる?』

ミサト「復旧終わった?」

リツコ『残念だけど、逆ね。全く異常が見つからないわ。信号の送受信にも、火器管制プロトコルにも異常が見当たらないの』

ミサト「ちょっと勘弁してよ……このままじゃ機龍もただのはりぼてじゃない」

リツコ『全力で原因究明中。すこしでも好転したら連絡するわ。それまで何とかして』

ミサト「了解……といっても、機龍は行動不能、航空支援はまだ来ない、これでどうしたもんかしらね、まったく」

シンジ『み、ミサトさん、ゴジラが!』

ミサト「ちっ、仕掛けてくるかしら」

シンジ『体を振りかぶって息を吸ってます、またさっきの……あれ?』

ゴジラ、大きく息を吸うと、大きく咆哮。遠吠えのように長く響き渡る。

ミサト「……熱線じゃあないの?」

何秒もの間長く咆哮し終わると、ゴジラ、きびすを返し、ゆっくりと海へと向かっていく。

青葉『も、目標転進! 湾へと戻っていきます!』

ミサト「うっそ、マジ?」

ゴジラ、機龍に目もくれず、まっすぐに海へと歩いていき、やがてその巨体を海に沈めていく。

青葉『進路南東……間違いありません、一直線に海へと入っていきます!』


ミサト「……撃退したってこと?」

マヤ『や、やったんでしょうか?』

ミサト「ちょっち考えさせて……機龍は……ああ、だめそうね。追撃は無理か。よし、海上の艦船と哨戒機に通達。目標、小田原市から相模湾へと逃走。追跡されたし』

青葉『目標小田原市から相模湾へと逃走、進路南東、海上の各艦船・哨戒機はこれを追跡されたし、了解!』

ミサト「油断は禁物だけど、ひとまずは上陸阻止ってところかしらね。空自の航空支援要請も取り下げておいて」

ゴジラ、とうとう完全にその体を海中に消し、海面にわずかな波を起こしながら、太平洋の方へと泳いでいく。

ミサト「あの様子を見るに、逃げる振りして不意打ちするようには見えないわね」

マヤ『さっきの熱線とメーサー光線の衝突で驚いたりしたんでしょうか?』

ミサト「だといいけどね……まあ、よしんば機龍相手にびびってくれたとして、海におとなしく逃げてくれればいいけど、茅ヶ崎あたりにでも再上陸されたらたまったもんじゃないわね」

マヤ『というか、その可能性は大きいですね……映像で確認する限りでは、たいしたダメージにはなってなさそうでしたし』

ミサト「そうね。なんとしても機龍を再輸送したいんだけど。6号機はどうなってる?」

日向『離陸まで後10分かかります』

ミサト「ああそう……3号機がやられた以上、遠隔充電も輸送もできないのに……まあ、10分なら急いでる方か。あ、そうそう、日向くん、お疲れ様」

日向『いえいえ。シンジ君に比べれば、僕なんて、全然……』

ミサト「君の働きあってこそよ、ありがと。さてと……6号機がきてもこれじゃあね……リツコ、機龍の調子はどう?』

リツコ『今連絡しようとしてたところよ。申し訳ないけど、最悪ね。完全にシステムそのものが応答を停止したわ』

ミサト「はあ!?」

リツコ『原因不明……さっきゴジラが長い鳴き声を上げた辺りでね。こちらからの操作を一切受け付けなくなったの』

ミサト「勘弁してよ……シンジ君からの操作でも同じ状態ってこと?」

沈黙。

ミサト「え、シンジ君?…………シンジ君?」

マヤ『そ、操縦者のバイタルに異常!』

リツコ『何ですって!?』

マヤ『心拍数は正常なんですが、脳波がどんどん……か、完全に昏睡しました!』

ミサト「そんな! シンジ君、シンジ君!? 応答しなさい!」

シンジ『……』

ミサト「近くに彼を回収できそうなところは!?」

青葉『6kmほど北の上府中公園に、陸自が臨時の司令所を設置しています』

ミサト「協力を要請して! 2号機はそこへ着陸、操縦者を回収!」

青葉『了解!』

2号機が旋回し、ミサトの指示した公園へと飛んでいく。

ミサト「……よーし、落ち着きなさい、私。これで上等、あのゴジラをたったこれだけの被害で退けられたんだもの。今までが上手くいきすぎただけよ……」

マヤ『これじゃあ、機龍の戦闘続行は』

ミサト「わかってるわ。止むを得ません、6号機が到着次第、このまま機龍を回収します」

マヤ『了解』

ミサト「目標は?」

日向『現在、上陸地点の沖約2kmの地点。方位1-5-0……南南東に進路をとっています』

ミサト「追跡続行。何か再上陸の動きがあれば直ちに連絡」

日向『了解です』

ミサト「ふぅ、こんなもんね……彼、どうしたのかしら?」

リツコ『言っておくけど、機龍のエラーで何かの影響を受けることはありえないわよ……さっきのスパークを画面越しに見て気分を悪くした、ってところじゃない?』

ミサト「そんなまさか、一昔前のアニメじゃあるまいし」

リツコ『彼、素人なのよ? 慣れない航空機のコックピットに押し込まれて、あんなことした後なら、あれぐらいのショックで気絶してもおかしくないわ』

ミサト「うーん……やっぱり働かせすぎたかしら」

リツコ『まあ、よくやった方じゃない? ともかく一旦機龍と彼を回収して、それから後のことを考えましょう』

ミサト「そうね。機龍は依然沈黙してるみたいだし……ワイヤーの取り付け態勢に移行して、6号機が着たらすぐに発てるよう……ん?」

リツコ『どうしたの?』

ミサト『ねえ、リツコ……今機龍が動いたように見えたけど』

リツコ「まさか。2号機からの信号は完全に遮断してあるし、こちらからは信号を送ってないのよ?」

ミサト『そうよね……気のせいかしら……えっ!?』

機龍、右腕を大きく振りかざし、下腕部に接続されたメーサーブレードを発射する。
橙色の細いメーサーの刃が、接近していた1号機に降りかかる。
1号機、すんでのところで緊急回避。

ミサト『きゃああああ!?』

リツコ「み、ミサト!? どうしたの、ミサト!!」

青葉「き、機龍、メーサーブレードで1号機を攻撃! 1号機、緊急回避しました!」

冬月「何!?」

リツコ「そんな!? ああ、なんてこと、本当だわ……武装のエネルギー充填率が変動してる」

冬月「武装の誤動作か!」

青葉「いえ、それにしては妙に狙いが……ああっ、ふ、再び攻撃! 確かに1号機を撃墜しようとしています!」

冬月「そんな馬鹿な……」

青葉「1号機、作戦空域を一時離脱します!」

ミサト『ちょ、ちょっと、どういうこと!? リツコ! なんで機龍がこっちを攻撃するの!』

リツコ「信じられない……機龍のメインコンピューターが勝手に動作してるのよ!」

ミサト『何ですって!?』

リツコ「こちらからの信号を一切受け付けない……全く独自の行動プロトコルが構成されて走っているとしか考えられない! ありえないわ!」

ミサト『ありえない、って、あんたね! 理屈がどうであれ機龍は今確かに…」

日向「ば、バックパックのMPMとMLRが発射態勢に!」

リツコ『嘘でしょ……そんな、機龍を止めて、早く!」

機龍、バックパックから誘導弾とロケット弾を一斉放射。周囲の建造物が吹き飛ぶ。

マヤ「こんなことって……」

青葉「機龍、MPMとMLRで、周囲に攻撃をしかけました!」

ミサト『ちょっと、周りを片っ端から吹き飛ばしてるわよ!』

冬月「すぐに止めろ! なぜ機龍が破壊行為を働くんだ!」

リツコ「げ、原因究明中です。非常用の緊急停止信号を、早く!」

日向「非常停止信号用意! 青葉!」

青葉「了解! こっちもキーの準備完了! カウントどうぞ!」

日向「1、2、3!………て、停止信号を受け付けません!」

冬月「そんな……」

マヤ「こちらからの信号に一切反応していないようです!」

青葉「ま、また同様の攻撃を仕掛けます!………何!? まずい、移動を開始しました!」

冬月「何だと!」

青葉「西に進路を、小田原駅に向かっています!」

ミサト『機龍を止めて! あれじゃあゴジラと変わらないわ!』

機龍、バックパックからの誘導弾とロケット弾、下腕部の0式レールガンを撒き散らし、周囲を焼け野原に変えながら進撃していく。

日向「冗談だろ……なんだよあれ」

リツコ「……運動、機体制御、火器管制。DNAコンピューターがすべての機能を完全に制御して行動してる。まるで完璧な思考交感の下で操縦されているみたいに」

マヤ「だ、誰かがハッキングして、操縦しているんでしょうか?」

リツコ「いえ、ありえないわ……外部からこんな大規模な信号のやり取りを、G-Forceのネットワークに潜入して出来るわけがない。誰も操縦しているはずがないの! だけど、今こうして機龍は、私達の推測する限り最高の……いえ、それを上回るパフォーマンスを発揮しながら行動している」

マヤ「ではどうして? ここまで高度な自律式の行動プログラムを、誰かが勝手に組んで、私達に隠れて潜伏させていたってことですか?」

リツコ「それもありえない。そんなものが作れるはずないもの……」

マヤ「それじゃあいったい……?」

リツコ「全く、問題は発生しない、なんて胸を張ってミサトに言ってたのが恥ずかしいわ。とにかく、何とかして信号に応答させましょう」

マヤ「はい!」

リツコ「それが出来なかったら……バッテリー切れまで待つことになるわね」

ミサト『このままだと機龍はどうなる?』

リツコ「確実なのは、いずれバッテリーが切れたら停止するということね。非常停止信号に応答させられれば止まるんだけど」

ミサト『それはいつになる?』

リツコ「このままの調子で行けば、約……95分後になるわね」

ミサト『……あと、1時間30分もこのままってこと? 冗談じゃないわよ!』

機龍、誘導弾とロケット弾を使い果たすと、直接体当たりすることでビルを破壊していく。

ミサト『どんどん街の中心部に向かってるのよ!』

冬月「どうにかして止められんのか……この際、攻撃を加えてもいいだろう!」

ゲンドウ「無理だ。ゴジラの熱線に耐える兵器をどうやって止めるのだ、通常兵器で。我々はゴジラのサイボーグを作ったんだ。これぐらいの事態は予想、いや、覚悟できていたことだ」

冬月「そんなことを言っている場合か! ジャミングでも何でもいい、何とかして少しでも行動を阻害すべきだ! あの様を見ろ、あれではゴジラを上陸させたのと何も変わらん!」

ゲンドウ「ゴジラはバッテリー切れを起こさない。だが機龍はあと2時間以内に間違いなく停止する。それまで暴れたところで、せいぜい小田原の街が壊滅するぐらいだ。あれがもしゴジラだったら、東京か名古屋が間違いなく壊滅していた。いや、あるいはその両方だったかもしれん」

冬月「しかし……」

ゲンドウ「目標の現在位置は?」

青葉「じ、上陸地点の沖、南東約6km。進行速度、30ノットに上昇。なおも遠洋へと向かっています」

ゲンドウ「ゴジラの撃退には確実に成功した。機龍の初陣としては十分な戦果だ」

冬月「……屁理屈をこねるな、碇。ゴジラを撃退すればいいというものではないだろう。今は上手くゴジラを撃退できたとしても、これではもう機龍は二度と出撃を許可されん」

ゲンドウ「しばらくはそうなるだろうな。だがそれだけだ」

冬月「しばらくだと?」

ゲンドウ「いずれ機龍はまた出撃を許されるさ……あれ以外にゴジラを抹殺できる兵器などないのだから。あれだけの被害など、ゴジラに立ち向かう力の代償としては安い」

冬月「お前の言いたいこともわからないでもない……しかし、現に小田原の街があんなことになっているんだぞ」

ゲンドウ「私の仕事は敵に勝つか負けるかだ。今、我々は機龍を持ってゴジラを撃退した。重要なのはそれだけだ」

冬月「碇……」

ゲンドウ「機龍のシステム復旧は赤木博士以下技術班の対応次第だ。我々の出る幕ではない。失礼する」

冬月「どこへいく?」

ゲンドウ「今説明したことを、上の連中にも聞かせてくるだけだ……後は頼んだぞ」

ミサト『はい、こちら葛城です』

冬月「……私だ。碇からの指示を伝える。帰還したまえ」

ミサト『はっ?? いや、し、しかし機龍が……』

冬月「機龍のシステム復旧は技術班に任せる。陸自にも今から撤収命令を出す。残るは君たちだけだ。碇の息子……シンジ君と、上府中公園の司令所で合流し、陸自のヘリを使って帰還するのだ」

ミサト『そんな……い、碇司令は?』

冬月「奴は今回の事態について、上層部と緊急会議を行っている。続けるぞ、遠隔操作による緊急停止が不可能な場合、機龍のバッテリー切れによる活動停止を待ちその後機龍を回収する」

ミサト『待ってください! それでは小田原の街が』

冬月「葛城君、私だって同じ気持ちだ。碇にも伝えた。だが……有効な方策がないのだ」

ミサト『いえ、今からでも陸自と空自に協力を依頼してください! 機龍を直接止めることは出来なくても、郊外への誘導ぐらいは……』

冬月「……自衛隊の今回の出動はあくまで、ゴジラ出現を受けての、防衛出動だ。G-Forceの兵器である機龍に対して武力を行使するには、改めて方々からの許可を得る必要がある。それにかなりの時間を要するであろうことは、君にもわかるだろう。それに、今回の出動において……ただでさえ我々は自衛隊に多大な戦力損耗を強いた。法的手続きが仮に首尾よく進んだとしても……省の方が素直には聞き入れないはずだ。もしそれが終わったとしても、その頃には……」

ミサト『……とっくに機龍は停止してしまっている』

冬月「そうだ。そして、よしんば許可が得られたとしても、小田原市を、よりにもよって自衛隊とG-Forceの内輪もめの戦場にすることは出来ない。人類同士で、それも仮にも同じ一国の中に存在する組織同士で、都心部を舞台に戦争じみた武力行使をするなど……あってはならない」

ミサト『……仮に、それを押し切って協力してもらうとしても、今から小田原市内に戦車大隊を再展開して機龍との戦闘態勢を整えるだけの時間は、ない』

冬月「わかってくれたかね」

ミサト『おっしゃることは、理解、しました……しかし、承服できません』

冬月「葛城君!」

ミサト『自衛隊を出動させることが出来ないとしても、他に方法はあります。出来る限り、被害を留めます』

冬月「私だってこんなことを言いたくはないが……これは碇からの司令なのだ。それを承服しない、ということはどういうことかわかっているんだろうね」

ミサト『承知しています。然るべき処分を受ける所存です。しかし、G-Force単独で事態の収集を図る努力をする、という上では、まだ私の裁量で幾分か行動できるはずです』

冬月「………葛城君」

ミサト『はい』

冬月「私からも……君たちの後の扱いについては、その、尽力してみる。頼んだぞ」

ミサト『ありがとうございます!』

リツコ『どうする気?』

ミサト「シンジ君の様子はどう?」

マヤ『陸自からの連絡によると、以前昏睡状態にあるものの、目立った外傷はなく、呼吸や心拍にも異常は見当たらないとのことです』

ミサト「大丈夫そうね……ヘリを一台出してもらって、御殿場か平塚辺りの病院に輸送して処置をしてもらって! つくばへの回収はその後にするわ」

マヤ『了解』

ミサト「2号機はまだ飛べるわよね」

日向『はい、一応』

ミサト「離陸させてこちらへ戻して。こうなればしらさぎで誘導するしかないわ」

リツコ『そんな! 危険よ』

ミサト「危険は承知。でも今はこれしか出来ることがないもの」

リツコ『考え直しなさい、ミサト。仮に誘導できたとしても、機龍の活動時間はあと80分も残っているのよ? その間ずっと攻撃を回避しながら、誘導を続けるつもり? しかも、どこへ?』

ミサト「ついてきてさえくれれば、手っ取り早く止められるかもしれないわ」

リツコ『………何か、考えがあるのね?』

ミサト「ロンモチ、よ」


数分後、シンジを降ろした2号機、作戦空域へ復帰。
小田原上空をゆっくり旋回しながら、だんだん機龍に近づいていく。
1号機、遠巻きに旋回しながら、機龍と2号機の様子を見ている。
機龍、酒匂川沿いに北西へ進み、東海道新幹線・東海道本線の線路を破砕し突破した後、西へ進路をとっている。

ミサト「いよいよ市の中心部に向かってるわね……2号機の準備は?」

日向『完了しています』

ミサト「オッケー……じゃあ、威嚇攻撃を行って」

2号機、大きく高度を下げると、機龍の背後から一気に接近し、バルカン砲を発射。
機龍の背部・後頭部に命中。

青葉『威嚇攻撃、成功! 目標に目立った損害確認できず!』

機龍、肩越しに飛び去っていく2号機を見る。
大きく息を吸うように、両手を広げて振りかぶる。

リツコ『あの動き……そんな!?』

ミサト「来るわよ、頑張って避けて!」

機龍、口部メーサー砲照射。2号機、鋭く旋回しこれを回避。
機龍、追撃するも、やがて照射が停止する。

マヤ『口部メーサー、冷却開始!』

ミサト「よっしゃ、そのまま旋回して海の方までお願い!」

2号機、メーサーブレードや0式レールガンの射程外を大きく旋回し、相模湾の方へと飛んでいく。
機龍、それを追って旋回する。

ミサト「食いついてくれたらうれしいんだけど……」

マヤ『……お願い……!』

機龍、咆哮を上げると、大きく方向を転換し、山王川沿いに南へと進撃開始。

青葉『機龍、転進! 2号機を追って湾岸部へと向かいます!』

ミサト「よっしゃあ!」



ミサト「そのまま湾上で待機お願い」

日向『了解、2号機、湾上で旋回しつつ待機します』

ミサト「このまま上手くいけばいいけど……」

2号機、相模湾上空で再び旋回をはじめ、機龍をおびき寄せる。
機龍、断固として進撃していく。JRの線路を再び北から突き破り、なおも海へと向かう。

青葉『機龍、中町通過。海岸まで約700m!』

ミサト「よーし、いい子、いい子……そのまま海までいきなさい」

マヤ『き、機龍、口部メーサー砲、冷却完了しました!』

ミサト「また来るわ、気をつけて!」

機龍、歩みを止めないまま、再び口部メーサー砲を照射。
はるか遠く、湾の上空を飛ぶ2号機を狙う。
想像を絶する射程を持つメーサーは、2号機のいる辺りの空域まで到達したものの、さすがに旋回を続ける2号機を捉えることはできない。

日向『2号機、回避成功』

マヤ『口部メーサー砲、照射限界到達! 冷却に入ります』

ミサト「よくやったわ!」

機龍、咆哮を上げ、さらに前進。
どんどん海へと近づいていき、やがて、とうとう国道1号線を乗り越える。

青葉『機龍、国道1号線通過! 海岸まで約200m!』

機龍、湾上の2号機をにらみつけたままさらに前進していく。

マヤ『スピードを緩める気配がありません……これならいけるかも!』

ミサト「よっしゃ、そのまま海に……ありゃ?」

機龍、西湘バイパスの手前、海までわずか100m足らずというところで停止。

ミサト「ああ、もう! あとちょっとなのに!」

マヤ『口部メーサー砲、エネルギー充填率80%!』

ミサト「また来るか……」

機龍、再びメーサー照射。
しかし、2号機は先ほどと比べてさらに距離を置いているため、やはり命中させられない。
何度か2号機を狙うも、すべて空を切り、やがて照射が収まる。

マヤ『口部メーサー砲、照射限界、冷却開始します!』

ミサト「ったくもう……動いて……くれなそう、ね」

機龍、高速道路の手前で歩みを止めたまま、ひたすら2号機を見つめている。

リツコ『メーサーの充填を待っているのかも』

ミサト「何としてもあそこから打ち落とすつもりってことか……」

青葉『これ以上機龍との距離を詰めての誘導は、2号機への被害が発生する可能性もあります』

ミサト「はぁ、しゃあないわね。腹くくりますか」

リツコ『ミサト、本当に行くの?』

ミサト「仕方ないでしょ? よりにもよってあたしが逃げることは、絶対に許されないわ」

リツコ『……気をつけなさい』

ミサト「わかってるって。ちゃっちゃと終わらせるから。誘導作戦をプランBに移行します」

機龍、湾上の2号機を見つめたまま佇んでいる。
その背後から、しらさぎ1号機が猛スピードで接近する。
機龍、それを察知して振り向くが、その瞬間、1号機はバルカン砲で機龍を攻撃しながらその頭上を通過。
2号機と同様に湾上へと去っていく。

ミサト「……上手くいったかしら」

機龍、咆哮し、足元の高速道路を突き破って進撃開始。

ミサト「うっしゃあ! そのまま来なさい!」

機龍、海へと足を踏み入れる。地上と比べて若干ペースは落ちるものの、一歩、また一歩と、どんどん深い部分まで進んでいく。

ミサト「止まらないわね。やっば。失敗?」

リツコ『まだよ。もうちょっと待ちなさい。さすがにすこし歩いたぐらいじゃ浸水は起こらないわ』

ミサト「頼むわよ……」

リツコ『……! 見なさい、ミサト!』

数歩進んだところで、バランスを崩し、水上で転倒する。

ミサト「ぃやった! どう?」

マヤ『……右脚部駆動機構後方を中心に激しい浸水を確認!』

リツコ『やったわ、ミサト! 下半身に浸水が起こって、運動系統に異常が起きてる! あんたの考えた通りよ!』

機龍、右半身を海中に没したまま、起き上がろうとするが、上手く動けない。

ミサト「よっしゃあ!」


機龍、尻尾を振り回して体勢を立て直そうとするが、成功しない。

リツコ「あの動き……やっぱり」

マヤ「変ですね。バックパックをパージしていない状態では、ジェット噴射でしか体勢の立て直しは利かないはずですが」

リツコ「ええ。あの状態でテールを振るなんて」

機龍、次第に動きがめちゃくちゃになり、もがくようになる。

ミサト『……何、あの動き』

リツコ「もうめちゃくちゃだわ。起き上がるためにあんな無駄な動きをするなんて」

機龍、水しぶきを撒き散らしながら、手足や尾をめちゃくちゃに動かすが、一向に効果は見えない。

冬月「信じられん」

リツコ「え?」

冬月「あれは……あの動きは」

リツコ「どうしましたか」

冬月「似ていると思わんかね。かつて東京湾で溺れ死んでいった、奴の姿に」

リツコ「……」

ミサト『り、リツコ、機龍が!』

機龍、動きを止めたかと思うと、巨大な咆哮。
怪獣を威嚇するための巨大な金属音を、長くあたりに響かせ、やがて、それっきり停止する。

ミサト『……ど、どういうこと?』

リツコ「システムを、チェックして」

マヤ「……でぃ、DNAコンピューターが一切の機能を停止しています。行動回路から基礎機能の維持に至るまで、一切の作動を確認できません」

ミサト『……止まったの?』

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青葉『…………機龍、機能停止からまもなく2時間が経過します。このままいけば、あと数分のうちに、バッテリー内の残存電力が完全に0になるはずです』

ミサト「何とかことは収まりそうね……はぁ、なっさけないわぁ、私達」

青葉『これっきり、今司令室にいる人間はみんなお払い箱でしょうね』

ミサト「それで済めばいいけどね。全員で首くくっても追いつかないわよ、こんなことしでかしちゃ」

日向『でも、結果的にゴジラの撃退には成功しました。機龍の調整にさえ成功すれば、次からは……』

ミサト「その“次”があると思う? こんな危なっかしいもの、使ってほしいって考える奴がどれだけいるかしら。少なくとも私なら、即刻廃棄を叫ぶわね」

リツコ『……残念だけど、同意ね』

ミサト「そっちはどう?」

リツコ『ふがいないけど、同じことよ。一切反応なし……完全にスタンドアローンで暴走してるわね』

ミサト「暴走か……まるでアニメね……ねぇ、リツコ」

リツコ『どうしたの?』

ミサト「やっぱり今回の暴走の原因って、ハッキングじゃないの? さっきからあんたの話を聞いてると、どうも、独自のシステムを機龍に忍び込ませた誰かがいるとしか考えられないんだけど」

リツコ『……笑わないで聞いてね……あの機龍の行動、何に見える?』

ミサト「何って、まあ……怪獣かしら」

リツコ『そうよね。じゃあ、怪獣そのもののような行動をとれる思考の持ち主がいるとしたら、それは誰だと思う』

ミサト「そんなの急に言われても……え? まさか」

リツコ『ええ。ゴジラそのもののように振舞える思考なんて、ゴジラしか持っていないわ』

ミサト「そんな……本気で言ってるの?」

リツコ『……さっき、口部メーサーを照射したときの機龍の動き、見た?』

ミサト「さあ……?」

リツコ『振りかぶったのよ。まるで息を吸って吐くように。メーサーを撃つのにそんな動作はいらないのに』

ミサト「それは……そう見えただけじゃないの?」

リツコ『まだあるわ。さっき海で転倒したあとの動き。ジェット噴射で体勢を立て直すべき状況にあって、機龍はかたくなに、手足と尾を使って起き上がろうとしていた。あれは、“機龍”というよりも、“モデルになった生物”の行動形態に即しているとしか思えない。副指令も指摘していたけど、あんたも気づいたんじゃない? さっきの動きは、かつて東京湾でオキシジェン・デストロイヤーによって溺死したゴジラが、死の間際に海上へと浮かび上がった、あの断末魔の光景に似ていたって』

ミサト「……」

リツコ『あくまで私の考えではだけど……独自の行動プログラムが機龍に潜んでいた、というあなたやマヤの指摘は半分正解だと思うの。もっともそれを忍び込ませたのは、ほかならぬ私達だったことになるけどね』

ミサト「だって……別に機龍のコンピューターは、ゴジラの思考を再現したものでもなんでもないはずじゃない」

リツコ『DNAコンピューターに使用されているゴジラの骨髄間質細胞、ボディ全体のフレームを構築しているゴジラの骨格……どちらも欠損が激しい不完全なものとはいえ、まぎれもなくゴジラのものでしょ』

ミサト「ありえないわ! いくら私でも、演算素子を構成しているDNAが、同族の生物に反応するなんて主張がばかばかしいことぐらいわかるっての!」

リツコ『でもね、機龍の異常発生のタイミングを考えると、ゴジラのあの咆哮に反応したかのようにも見えるのよ』

ミサト「……あんたには悪いけど、絵空事よ。機龍を回収して精査すれば、きっとちゃんとした原因があるはず」

リツコ『……そうね。ごめんなさい、私としたことが、憶測だけで変なことを語りすぎたわ』

ミサト「疲れてるのよ。だいたい、そういうアニメみたいな妄想は、あんたじゃなくて私の担当でしょ? とにかく、事態が収まったら休みましょう。いろんなことが起こりすぎたわ」

リツコ『そうね。とりあえず、彼を回収してあげなさい。きっと疲れてるわ』

ミサト「ええ」

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上府中公園 陸上自衛隊 臨時司令所

ミサト「ご苦労様です」

「はっ、ご苦労様です」

ミサト「突然の要請にも関わらず、ご協力いただき感謝します」

「いえ。彼ですが、医療所で休養させています。こちらで診断した限りでは、単なる過労だと思われます。ヘリでの移送にはなんら問題はないかと」

ミサト「そうですか……良かった。すぐに引き取ります」

「はい。現在は意識も回復していますよ」

ミサト「ありがとうございます……」

「こちらです」

ミサト「シンジ君? 私がわかる?」

シンジ「……ミサト、さん?」

ミサト「ああ……よかった、シンジ君、大丈夫?」

シンジ「何とか……ごめんなさい、大事なときにこんなことに」

ミサト「全然! 君はよくやったわ、なんたってゴジラ、逃げ出したんだから! 君のお手柄よ。いきなりこんなところに引っ張り出されたのに……ありがと」

シンジ「機龍は?」

ミサト「えっと、まあいろいろあったけど、とりあえずゴジラを追っ払って後は回収するだけって感じ?」

シンジ「そうですか……」

ミサト「ふっふっふ、シンジ君、頑張ったわね。ちょっち乗り物酔いしちゃった? ごめんね、あんな狭い飛行機で」

シンジ「いえ……変な風景が見えたんです」

ミサト「へ?」

シンジ「ゴジラが吼えるのを聞いた瞬間、何か……見たことない風景が頭にちらついたんです」

ミサト「……どういうこと?」

シンジ「わかんないです……最初は、水の中で、次に、すごい光と波に吹き飛ばされたような風景で、それから、水の上へ出ました。海の上でした、多分」

ミサト「シンジ君?」

シンジ「それから……泳いでいったら、どんどん陸が見えてくるんです。大きな街でした。夜で、えっと……それを、すごい高いところから見下ろしてました」

ミサト「何を言ってるの、シンジ君……そんなものが画面に映ったの?」

シンジ「違うんです、瞬きするごとにちらちらと見えたっていうか、なんていうか」

ミサト「そんな……あのスキャナーは脳波を読み取るだけのものだったはずじゃないの? こんな症状が出るわけ……幻覚だとしても、いくらなんでも具体的過ぎる……」

シンジ「その街を、歩いていきました。なんていうか、巨人になったみたいで気持ち悪かったです。足元を車や人が逃げていくんです……あの、ごめんなさい、変な話して」

ミサト「い、いえ、大丈夫よ。もしかしたら、君が気持ち悪くなった何かの原因かもしれないじゃない。話してごらんなさい、それでどうなったの?」


シンジ「それで……えっと……あ、足元を改めて見ると、右足が、確かに、人と車を何個か踏み潰したんです。それを見ると、怖くなって……」

ミサト「そこで、気持ちが悪くなって?」

シンジ「はい、気がついたら……ここに寝てました」

ミサト「……んーと……機龍の視点をイメージしろとかいったから、変な夢見ちゃったのかしら?」

シンジ「ミサトさん、変な話なんですけど、笑わないできいてくれますか?」

ミサト「え、ええ、大丈夫よ」

シンジ「その風景の中の街なんですが、見たことないって言うか、すごいふるい街並みで……まるで、50年ぐらい前のような感じがしたんです。教科書で見たような。すごい古い車と、古めかしい服の人ばかりで、街中にサイレンが響いていて。まるで、その、戦後みたいっていうか、白黒映画に出てくるみたいっていうか」

ミサト「何を、言いたいの?」

シンジ「ミサトさん、もしかしたら僕が見たのって、ご、ゴジラの……」

ミサト「ありえないわ! 気にしないで、シンジ君、それは単なる夢よ。気にしすぎ……気にしすぎよ」

シンジ「……」

ミサト「そうよ……気にしすぎなのよ、そんなわけ、ないもの。今は寝なさい、シンジ君。確かに君の夢はただごとじゃあなさそうだけど、今この場で話をきくのには限界があるわ」

シンジ「すみません……」

ミサト「いいの。私ったら、声を荒げて…ごめんね。ヘリでつくばに帰りましょう。今はゆっくり寝ること。お疲れ様」

シンジ「わかりました」

ミサト「あと、ゴジラ云々については忘れなさ……じゃなくて、気にしないこと。いい?」

シンジ「は、はい」

ミサト「よろしい!」


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マリ「……ふむふむ」

シンジ「で、もう一度寝て……起きたら」

マリ「見知らぬ天井……じゃなくて、勝手知ったる自室の天井だったわけだね」

シンジ「うん。何かすっごい疲れた……」

マリ「はぁー、なるほど。なんていうか、聞けば聞くほど、そっくりだね」

シンジ「僕がはじめてエヴァに乗ったときのことでしょ? それだよ、だから気にな……え、ちょっとまって、何でマリがあのときのことを知ってるの?」

マリ「んー? 前に、君の保護者さんから教えてもらいました! 酒の勢いで!」

シンジ「恥ずかしいからやめてよそういうの!」

マリ「あはは、まあまあ。でも、過去の体験を夢で追体験するっていうのは珍しいことじゃあないと思うけど」

シンジ「それはぼくもそう思うんだけど……問題は、ゴジラっていう怪獣だよ」

マリ「ふむ。君の体験と重ねて見ると、ゴジラは使徒、機龍は初号機、G-Forceはネルフ、に、それぞれ当たる……そんなとこかな」

シンジ「過去の体験がちょっと形を変えて夢に出るっていうのはわかるんだけど、にしては妙に設定が具体的って言うか……」

マリ「そうだねぇ、しかも私の夢とがんがん被ってるよ」

シンジ「G-Forceのこと?」

マリ「それもそうだけど、ゴジラのこと」

シンジ「え?」

マリ「君の話をきいてて思い出したんだよ。私、前に見た夢の中で、君とゴジラの話をしたの」

シンジ「僕と?」

マリ「君って言っても、それはもちろん私の夢の中の君だけどね。私が、あの紫色の怪獣の話をしたら、『もしかして、ゴジラ?』って応えてきたよ」

シンジ「えっと……本当?」

マリ「本当」

シンジ「……それはつまり、えっと…?」

マリ「ロマンだよ! これは絶対何かあるよ!」

シンジ「うわっびっくりした」

マリ「だって考えてもみなよぅ! 同じ、エヴァのパイロットとして戦う少年少女が、夢の中で、使徒じゃなく怪獣と戦う別の世界の自分達の姿を見たわけだよ!? これはもう間違いなく、パラレルワールドからの干渉って奴だね!」

シンジ「べ、別の世界? パラレルワールド?……並行世界の僕達ってこと?」

マリ「それ! 強大な敵である使徒と戦える唯一の存在として日々戦いに身を投じる少年少女達に、使徒ではなく巨大怪獣と戦う運命を背負うことになった並行世界の自分達の姿が、徐々に重なり始める……世界は彼らに何をさせようとしているのか!」

シンジ「マイク持って言わないでよ耳痛い!」

マリ「見上ーげるーほーしー! それーぞれーのー歴ー史がー! かーがーやいーてー!」

シンジ「やめてよ! な、なんか絡みづらいよ今日のマリ!」

マリ「にゃはははは、ごめんごめん」


シンジ「……で、マリ、本当のところはどう思ってる?」

マリ「んーと、可能性の高い順に、似たような映画だの漫画だのをどこかで見てた、か、集団催眠か、使徒からの精神汚染か、のどれかだね」

シンジ「だよね……えっ精神汚染?」

マリ「ほら、姫が一回、衛星軌道上の使徒と戦ったときにエライ目見てたでしょ? ああいう、精神面に攻撃してくる奴よ」

シンジ「ああ、ああいうの……でも、こんな攻撃ってあるかな? 別に疲れはしたけど、ダメージって言うほどのダメージじゃないよ?」

マリ「だから、それは一番可能性が低いって言ってるじゃんよ。一番可能性が高いのは、まあ、私達2人、覚えてないだけで実はどこかで同じ内容の映画かなにかを見ててその内容が夢に……あ、もしかして、だからビデオショップにいたの、今日?」

シンジ「うん。怪獣映画とかSF映画に、こんな感じのがなかったかなって思って。そしたらマリを見かけたから」

マリ「あーなるほどねー。うーむ、ワンコ君ってつくづく夢がない男だねえ。即断で映画やアニメの影響を考えるなんて」

シンジ「一番リアリストのマリにだけは言われたくない」

マリ「何を言いますか! 私ほどのロマンチストはいないよ! さっき瞬時に私達を取り囲むパラレルワールドの物語をくみ上げたのを聞いてたでしょ?」

シンジ「全然信じてないくせに……」

マリ「信じてなくても言うのは自由。ロマンチストとリアリストのいいとこ取りが一番楽しいんだよ、人生。で、実際どう? 心当たりのある映画あった?」

シンジ「うーん、なかった。少なくともあの店で見た限りでは」

マリ「そっか。私もさあ、いろいろ考えたんだけど、今のところやっぱりないんだよね」

シンジ「『ゴジラ』とか『G-Force』でネットで調べてもみたんだけど……こっちもだめ。仮にそんな映画とか漫画とかがあったとして、そんなに有名じゃないことは確かだね」

マリ「うーん、ネットで引っかかりもしないほどマイナーなものがあったとして、私とワンコ君の2人ともがそれを見た経験あったりするかな?」

シンジ「それだよね……」


マリ「かといって、集団催眠にかけられるようなことした覚えもないしねえ」

シンジ「うん……」

マリ「不思議だねぇ」

シンジ「その割りに軽いね、ノリ」

マリ「だって……別に、不思議ではあるけど、やばいことじゃなくない? 他人とはいえ、2人の人間の夢が被るっていうのは、まあ、ぎりぎりありえなくもない、だろうし、今のところ私達に何か大変なことが降りかかるよう前兆、みたいなものにも思えないよ」

シンジ「うーん、言われて見ると……確かに、そっか」

マリ「んまっ、これで例えば、姫なんかも同じような夢見てたりしたら大変だけどね」

シンジ「あはは、そうだね。出てくるとしたら、どんな役だろ」

マリ「んー? 私の夢には出てきたよ」

シンジ「えっ、本当? どんな怪獣だった?」

マリ「にゃはははは、なかなか言うじゃない、きかれてたら大変だよ?」

--------------------------------

マリ「わーっ、外真っ暗……」

シンジ「結構長く話しちゃったね。結局1曲しか歌わなかったし……これなら喫茶店とかの方が良かったかも」

マリ「しょーがない、しょーがない……あ、そうだ、ワンコ君、今度の土日開いてる?」

シンジ「残念、誰かさんが謹慎になった代わりにシミュレーションのシフトが増えてるんだよね。どっちの日も、本部でテストとシミュレーション」

マリ「うぐぅ……残念。いやだなぁ、平日はまだ学校あるけど、朝から晩まで一人で部屋にいるなんてもう、死にたくなる気がする」

シンジ「別に買出しにも行かずに引きこもってなきゃいけないわけじゃないんでしょ? じゃあ我慢しなきゃ」

マリ「うーむ、その日開いてるのって?」

シンジ「確か……本部に呼ばれてるのは僕と綾波だけだったと思うけど」

マリ「姫空いてるんだね!?」

シンジ「いや、アスカの予定がどうだったかは知らないよ、あくまでシミュレ」

マリ「大丈夫! 姫はなんだかんだであたしには優しいから……よーし、遊んでもらおっと」

シンジ「伝えとこうか?」

マリ「お願い! あ、あとさ、そのスケッチ借りていい?」

シンジ「え? この、『ゴジラ』の絵?」

マリ「うん。夢に出てきた紫色の怪獣がどんなだったか、あたしもあたしなりにそれ見て描いてみたいなって」

シンジ「ああ、そういうことなら、もちろんいいよ。はいどうぞ……まあ、マリの画力じゃ無駄だろうけど……」

マリ「ありがと。ん、今ボソッと何か言った?」

シンジ「何にも」

マリ「ふーむ、しかし見れば見るほど、凶悪な面構えだね……こう、いかにも怪獣です!って感じの」

シンジ「そうだよね」

マリ「……仮にさ、その夢の続きがあるとしたら、どうなると思う?」

シンジ「え? わかんないよ、そんなの……」

マリ「現実に即して考えて見たらこうなるよね。初出撃でワンコ君は初号機を駆って使徒と対決して、互角の戦いの末に何とか使徒を撃退したけど、その代わりに初号機を暴走させちゃって、使徒の代わりにこの第三新東京市で活動限界まで暴れつくした……」

シンジ「……殺されるよね、僕」

マリ「うん、そうなるね。んまあ、使徒を退治したという業績を考慮したとしても、無期限に拘禁されるとか」

シンジ「……考えるだけで頭痛くなってきた」

マリ「どうする? 碇シンジと真希波マリイラストリアス、2人はまだ、この夢が将来を暗示していることを知る由もなかった……なーんてことになったら」

シンジ「や、やめてよ! そうやって、ちょっと信憑性あること言わないでよ。眠れなくなるよ」

マリ「あはははは、ごめんごめん。まさか本気にするとは」



マリ「まっ、心配しない! あたしの夢の中の君は、ちゃーんとパイロットとして活躍してたから。仮に将来を暗示してるにしても、ひどい目に遭うばかりでもないと思うよ」

シンジ「何それ……あのさ、マリの夢の中身も気になるんだけど」

マリ「んー? まあそれは、今度時間のあるときにゆっくりと話したげるよ」

シンジ「何だよ、こっちは思い切って話したのに」

マリ「それは君が勝手に話したんでしょ? せっかく人がカラオケで思いっきり歌おうとしてたのに」

シンジ「うっ……」

マリ「ま、そういうわけだから、このお話はお預け! じゃ、また明日ねー」

シンジ「あ、ちょっと、もう遅いけど大丈夫なの?」

マリ「へーきへーき、すぐそこだから。じゃあねー」

シンジ「もう……気をつけてね」

マリ「おー」




マリ「……さーてと、ふふふ、これで姫まで同じ夢見てたら、本当に冗談みたいだにゃ。ま、それはないか。あー、明日姫と何してあそぼっかな。姫、ゲームどれもバカみたいに強いからにゃー。今からボンバーマンでも練習しておこっかな」

ということで3つ目の投下も終わりです。終わりが見えない。フハハ!

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