シンジ「君が、葛城ミサトちゃんだね」 (844)

放送「本日、12:30、東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました」

放送「住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難してください」


放送「繰り返しお伝えいたします…」



シンジ「…よりによってこんな時に見失うだなんて、まいったな…!」



シンジ「ミサトちゃん!ミサトちゃーん!」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1606056122

電話「特別非常事態宣言発令のため、現在すべての通常回線は不通となっております」

ミサト「…だめか」

手元にシンジの写真と父親からの手紙

ミサト「…やっぱり、来るんじゃなかった…」


ミサト「……シェルターに…行ったほうがいいわよね」

爆風

ミサト「あぅ…っ、」

使徒が歩いている

ミサト「な……!」

オペレータ「正体不明の移動物体は依然本所に対し進行中」

ケンスケ「目標を映像で確認。主モニターに廻します」

カヲル「15年ぶりだね」

葛城「間違いない……使徒だ」



国連軍「目標に全弾命中!……ぐわあっ!」

激しい戦闘

ミサトの前に車が止まる


シンジ「ミサトちゃんっ!怪我はない!?」

ケンスケ「目標は依然健在。現在も第3新東京市に向かい、侵攻中」

オペレータ「航空隊の戦力では足止めできません!」

司令官「総力戦だ!厚木と入間も全部挙げろ!」

司令官「出し惜しみは無しだ!なんとしても目標を潰せ!」

攻撃をものともしない使徒。

司令官「なぜだ!直撃のはずだ!」

司令官「戦車大隊は壊滅、誘導兵器も砲爆撃もまるで効果なしか」

司令官「ダメだ!この程度の火力では埒があかん!」

カヲル「やはり、A.T.フィールド…」

葛城「ああ…使徒に対して、通常兵器での攻撃は通用しない」

司令官「分かりました、予定通り発動いたします」

カヲル「……連中、痺れを切らしたようだね」

シンジ「まさかっ、N2地雷を…!?」

シンジ「伏せて!!!」



司令官「やった!」

司令官「残念ながら、君たちの出番はなかったようだな」

オペレータ「衝撃波、来ます」



シンジ「……けほっ…大丈夫だった…?」

ミサト「……はい、なんとか…」

シンジ「よし…怪我も…、ないね。良かった」

シンジ「ちょっと待っててね、今、これを…!……」

横転した車。

シンジ「ふぐ…っ!」

シンジ「んぐ…っ!」

シンジ「はぁ…はぁ…」

ミサト「……」

ミサト「……あ、あの…手伝います」

シンジ「ご…ごめんね…!じゃあ…」

シンジ・ミサト「…せーのっ!」



シンジ「…ハァ、ハァ…ありがとう、ミサトちゃん。助かったよ」

ミサト「いえ、わ、私の方こそ。その、碇さん」

シンジ「…シンジでいいよ。…あらためて、よろしくね。葛城ミサトちゃん」

ミサト「はい!…し、シンジさん」

司令官「その後の目標は?」

オペレータ「電波障害のため、確認できません」

司令官「あの爆発だ。ケリはついてる」

ケンスケ「センサー回復します」

オペレータ「爆心地に、エネルギー反応!」

司令官「なんだとぉっ!」

ケンスケ「映像、回復します」

司令官「おお…」

司令官「われわれの切り札が…」

司令官「なんてことだ…」

司令官「化け物め!」

(通話)

シンジ「……うん。なんとかなったよ…はは…ありがとう心配してくれて。うん、ミサトちゃんも無事」

シンジ「うん…え…悪いよ……確かに、そのほうが早いけど……あ、ごめんそれは……途中で車が……うん、うん……分かったよ…じゃあよろしく。また本部で」

シンジ(はぁ…大切に乗ってたのになぁ…ボコボコだ……。長く乗った車だから愛着があるけど…修理はもう無理かな…)


シンジ「…買い換えどきか…」

ミサト「えっ?」

シンジ「あ…なんでもないよ、別に…!はは」

ミサト「……」

シンジ「あれっ、ミサトちゃん…」

シンジ「擦りむいてるじゃないか、ここ」

ミサト「あ…いえ、平気です!ほんとに少しですから」

シンジ「そういうわけには…。ちょっと待ってね、確かここに…」ガサゴソ

シンジ「あった!…はい、絆創膏」


ミサト「あ……ありがとう、ございます…」


シンジ「……ごめんね。来て早々、嫌な思いばかりさせちゃって」

ミサト「そんなこと……私より、シンジさんが…」

シンジ「はは……僕は、これが仕事だから」

ミサト「……」

シンジ「優しいね、ミサトちゃんは…」

ミサト「えっ」

シンジ「ありがとう、心配してくれて」

カヲル「予想通り、自己修復中か…」

葛城「そうでなければ単独兵器として役に立たない」

カヲル「ごらんよ…機能増幅まで可能なようだ」

葛城「…知恵をつけてきたな…」

カヲル「再度進攻は、時間の問題だね」



アナウンス「ゲートが閉まります。ご注意ください。発車いたします…」

ミサト「…特務機関、ネルフ…」

シンジ「うん。国連直属の非公開組織なんだ」

ミサト「父のいるところですよね…」

シンジ「そう…お父さんから仕事のこと、聞いてる?」

ミサト「人類を守る大事な仕事だ、って……おじさんから」

シンジ「…そう……」

司令官「今から本作戦の指揮権は君に移った。お手並みを見せてもらおう」

葛城「了解しました」

司令官「葛城君、われわれの所有兵器では目標に対し有効な手段がないことは認めよう」

司令官「だが、君なら勝てるのかね?」

葛城「そのためのネルフです」

司令官「期待しているよ」

オペレータ「目標は未だ変化なし」

トウジ「現在迎撃システム稼働率7.5%」

カヲル「国連軍もお手上げのようだ…どうする?」

葛城「…初号機を起動させる」

カヲル「初号機を?パイロットは不在では?」

葛城「……じき到着する」

ミサト「…これから父のところへ、行くんですか…?」

シンジ「…そうだね、すぐには…会えないかもしれないけど」

ミサト(…お父さん…)

シンジ「あ、そうだ、お父さんからIDは貰ってない?」

ミサト「あ、はい、あります…」

シンジ「…うん、確かに。じゃ…ミサトちゃんには、これを」

ミサト「ネルフ?お父さんの仕事場で…何かするんですか?私が?」

シンジ「……」

ミサト「…そう、ですよね…用もないのに…手紙なんてくれるわけない」

シンジ「…用もないのに、手紙のやりとり」

ミサト「えっ?」

シンジ「してみたいよね。……大したことじゃなくたっていい…とにかく元気か、くらいの言葉があれば…」

シンジ「僕の父も、そういう人だったから。もういないけど」

ミサト「……」

シンジ「……必要、なんだと思うよ。きみの力が」

ミサト「必要……」


ミサト(…捨てられた私が?)

ミサト「……!すごい…ジオフロント…!」

シンジ「うん…これが僕たちの秘密基地、ネルフ本部…世界再建の要、人類の砦となる場所…」



シンジ「ちょっと待っててね……確か…内通は…っと…」


アナウンス「セントラルドグマの閉鎖通路は現在…」

シンジ「ごめんね、まだ慣れてなくて」

ミサト「いえ……」



アナウンス「技術局第一課E計画担当の綾波レイ博士、綾波レイ博士、至急作戦部第一課碇シンジ一尉までご連絡ください」

レイ「……」

シンジ「あ……ごめん綾波、泳いでたの…?」カァ

レイ「15分の遅刻」

シンジ「うっ……ごめん…!」

レイ「…例の女の子ね」

ミサト「あ…うん、マルドゥックの報告書による、サードチルドレン」

レイ「よろしく」

ミサト「は、はい…よろしくお願いします…」

シンジ「コミュニケーションに概ね問題はなさそうだよ……しっかりしてるし」コソッ

レイ「……」

シンジ「…何?」

レイ「似てなくてよかったわね」

シンジ「な…、何も言ってないじゃないか…!」

レイ「あなた司令が苦手だものね……」

シンジ「……」



葛城「渚……後を頼む」

カヲル「3年ぶりの対面か…」

トウジ「目標が再び移動を開始」

カヲル「…よし、総員第一種戦闘配置」

アナウンス「繰り返す、総員第一種戦闘配置。対地迎撃戦用意」


シンジ「…上はどうなってるの?」

レイ「やっとこちらに指揮権を渡したそうよ」

シンジ「…今、初号機は?」

レイ「B型装備のまま、現在冷却中」

シンジ「あれを使うの? まだ一度も動いたことないじゃないか」

レイ「起動確率は0.000000001%」

シンジ「…オーナインシステムか……本当に動くの?」

リツコ「可能性はゼロではないわ」

シンジ「……どの道…もう、動きませんでした、では済まされないか…」

ミサト(う…わ、何も見えない…)


ミサト「えっ、顔…?ロボット……!?」

レイ「探しても、載ってないわ」

ミサト「えっ?」

レイ「人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。建造は極秘裏で行われた」


レイ「私たち人類の、最後の切り札」

ミサト「……これが、お父さんの…仕事……?」

葛城「そうだ」

ミサト「……!」

葛城「……よく来た」

ミサト「お父さん…」

葛城「出撃だ……」

シンジ「出撃!?そんな…!零号機は凍結中のはず…まさか、初号機を…?」

レイ「……ほかに道はない」

シンジ「でも!リツコちゃんはまだ…!無理だよ!あの状態では、とても…!」

レイ「……新しいパイロットは到着した」

シンジ「な…っ」

レイ「葛城ミサトさん」

ミサト「え……」

レイ「あなたを、エヴァンゲリオンの正式なパイロットとして、ここに迎えます」

ミサト「は……」

シンジ「そんな!!……ミサトちゃんは今ここに着いたんだよ!?リツコちゃんでさえ、エヴァとシンクロするのに7ヶ月もかかったっていうのに…!この子には無理だよ!!!」


レイ「座っていればいいわ。それ以上は望まない」

シンジ「でも…!」

レイ「今は使徒撃退が最優先事項。そのためには誰であれ、エヴァとわずかでもシンクロ可能と思われる人間を乗せるしか、方法はない」

レイ「分かっていたはずよ、碇一尉」

シンジ「……っ」

ミサト「…っ、お父さん…なぜ呼んだの…?」

葛城「……話は聞いたはずだ」

ミサト「お父さんからは聞いてないわよ……!私に…これに乗って戦えって言うの?さっきの化け物と!」

葛城「…そうだ」

ミサト「………いやよっ!そんなの……!何?なんでそうなるのよ、今更、いまさら……私を捨てたんじゃなかったの!!?」

葛城「……捨てた覚えはない」

ミサト「なぜ、私なの?」

葛城「お前にしかできないことだからだ」

ミサト「……無理よ…っ!そんなの…見たことも、聞いたこともないのに、できるわけない!」

葛城「……綾波博士」

レイ「はい」

ミサト「嫌っ!いや…!触らないで…!絶対に乗らない……!」

葛城「ミサト…説明を受けるんだ」

ミサト「嫌よ!!できっこない…こんなの乗れるわけない!!!死ぬなんて嫌よ!!!」

葛城「……」

葛城「………分かった」

ミサト「えっ…」

葛城「配属は取り消す」

ミサト「…!」

葛城「帰りなさい」

葛城「ここにお前の居場所はない」


地響き。


葛城「ここに気付いたか…」


ミサト(……)

ミサト「……、…!」

レイ「混乱は分かるわ。でも迷っている時間はないのよ」

ミサト「でも………そんな、だって…わたし…」

シンジ「………無理だよ、綾波…!この子は本当に…何の訓練も受けてない、普通の…!」

レイ「では、赤木リツコを向かわせる?」

シンジ「………!」

レイ「二つに一つよ」


ミサト(居場所がない……また、失うの…?)

ミサト(でも……できるわけ……)

葛城「渚、リツコを」

カヲル「……繋がってるよ」

葛城「リツコ」

リツコ「…はい」

葛城「悪いが、もう一度だ」

リツコ「はい」



レイ「初号機のシステムを赤木リツコに書き直して、再起動!」

ヒカリ「了解。現作業中断。再起動に入ります」

ミサト(……私が……逃げ出したから…)

ミサト「また………捨てられる」

運ばれてくる少女

衝撃。鉄骨が落下する

シンジ「ミサトちゃん!!」

ミサト「きゃあぁっ!」


オペレータ「エヴァが動いた!どういうことだ!?」

オペレータ「右腕の拘束具を引きちぎっています!」

レイ「まさか、ありえない…!エントリープラグの挿入もなしに…!」

シンジ「………!守ったのか……?彼女を…インターフェースもなしに……これなら…!」

シンジ(いけるかもしれない…!)

少女に駆け寄るミサト

リツコ「………ぅ、……」

ミサト「………!!」

ミサト(……ちゃ…だめ…、逃げちゃ駄目…泣いちゃ駄目、甘えちゃ駄目…っ!)

ミサト「…やります、私が乗ります…!」

オペレータ「冷却終了」

オペレータ「右腕の再固定完了」

オペレータ「ケイジ内、すべてドッキング位置」

ヒカリ「停止信号プラグ、排出終了」

オペレータ「了解。エントリープラグ挿入」

オペレータ「脊髄連動システムを解放。接続準備」

オペレータ「プラグ固定終了」

オペレータ「第一次接続開始」


ヒカリ「エントリープラグ、注水」

ミサト「…う、わっ…!何ですか!?これ」

レイ「大丈夫。肺がL.C.L.で満たされれば、直接血液に酸素を取り込んでくれる。すぐに慣れるわ」

ミサト「うぷ………」

シンジ「……」

オペレータ「主電源接続!」

オペレータ「全回路、動力伝達」

レイ「了解」

ヒカリ「第二次コンタクトに入ります」

ヒカリ「A10神経接続、異常無し」

レイ「思考形態は、日本語を基礎原則としてフィックス。初期コンタクト、すべて問題なし」

ヒカリ「双方向回線開きます。シンクロ率、41.3%」

レイ「逸材ね…」

ヒカリ「ハーモニクス、すべて正常値。暴走、ありません」

レイ「いけるわ」

シンジ「うん……発進、準備!」

オペレータ「発進準備!」

オペレータ「第一ロックボルト外せ!」

オペレータ「解除確認、アンビリカルブリッジ、移動開始」

オペレータ「第二ロックボルト外せ!」

オペレータ「第一拘束具除去。同じく、第二拘束具を除去」

オペレータ「1番から15番までの安全装置を解除」

オペレータ「内部電源、充電完了」

オペレータ「外部電源用コンセント、異常無し」

ヒカリ「了解、エヴァ初号機、射出口へ」


ヒカリ「進路クリアー、オールグリーン!」

レイ「発進準備完了」

シンジ「了解」

シンジ「本当に…いいんですね…?」

葛城「…使徒を倒さぬ限り、われわれに未来はない」

カヲル「お手並み拝見といこうか…」


シンジ「発進!」

ミサト「…ぐっ、う…っ」


シンジ(ミサトちゃん……死なないで…!)






壱話分終わり

シンジ「ミサトちゃん、ここからは…君の意思で動かしてもらうことになる」

ミサト「は、はい…!」

シンジ「最終安全装置、解除!」

シンジ「エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」

レイ「…聞こえる?ミサトさん、今は歩くことだけに集中して」

ミサト「歩く、…!」

レイ「歩いた…!」

ミサト「歩、く…!」

ミサト「………う、わ……っ!」

シンジ「…ミサトちゃんっ!」

ミサト「………!……は…っ!」

シンジ「ミサトちゃん!!!起き上がって!!!」

ミサト「うっっ」

使徒に腕を掴まれる

ミサト「あぁ…っ!ぁ…!」

シンジ「落ちついて!落ちついてミサトちゃん!!!本当の腕じゃないんだよ…!」

レイ「エヴァの防御システムは?」

ヒカリ「シグナル、作動しません」

トウジ「フィールド、無展開!」

レイ「いけない!」

ミサト「あぁ……っ!」

ヒカリ「左腕損傷!」

トウジ「回路断線!」

シンジ「ミサトちゃんっ、よけてっっ!!」

ミサト「!」

ヒカリ「頭蓋前部に、亀裂発生!」

レイ「装甲が、もう、持たない…!」

ケンスケ「頭部破損、損害不明!」

ヒカリ「制御神経が、次々と断線していきます!」

トウジ「パイロット、反応なし!」

シンジ「ミサトちゃんっ!!」

蝉が鳴いている


ミサト「………知らない天井…」


回収される初号機


人類補完委員会

委員「使徒再来か。あまりに唐突だな」

委員「15年前と同じだよ。災いは何の前触れも無く訪れるものだ」

委員「幸いともいえる。われわれの先行投資が無駄にならなかった点においてはな」

委員「そいつはまだ分からんよ。役に立たなければ無駄と同じだ」

委員「左様。今や衆知の事実となってしまった使徒の処置、情報操作、ネルフの運用はすべて適切かつ迅速に処理してもらわんと困るよ」

葛城「…その件については対処済みです。ご心配なく…」

テレビ「昨日の特別非常事態宣言に対する政府発表が今朝、第一…」

テレビ「今回の事件には…」

テレビ「在日国連軍の…」

ヒカリ「はい。爆心地における汚染の心配はありません。使徒のサンプルはエヴァに付着していたもの以外はまだ何も。そうです、模擬シミュレーションの通り、その99.9%が蒸発したものと思われます」


シンジ「…発表はシナリオB-22か…」

レイ「広報部はやっと仕事ができたって」

シンジ「…成功しても隠蔽。失敗すれば存在ごと抹消…僕たちのやってることって…」

レイ「…表向きの顔は必要よ…。本当はみんなも恐いんじゃないかしら…」

シンジ「……僕も、恐いよ…」

委員「ま、そのとおりだな」

委員「しかし葛城君、ネルフとエヴァ、もう少しうまく使えんのかね?」

委員「零号機に引き続き、君らが初陣で壊した初号機の修理代。国が一つ傾くよ!」

委員「聞けばあのオモチャは君の娘に与えたそうではないか」

委員「人、時間、そして金。親子そろっていくら使ったら気が済むのかね?」

委員「それに君の仕事はこれだけではあるまい。人類補完計画、これこそが君の急務だ」

委員「左様。その計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ。我々のね」

キール「いずれにせよ、使徒再来における計画スケジュールの遅延は認められん。予算については一考しよう」

委員「では、後は委員会の仕事だ」

委員「葛城君、ご苦労だったな」


キール「葛城、後戻りはできんぞ」


葛城「分かっています…人間には時間がない」

病院の廊下。すれ違うミサトとリツコ

ミサト「……」




シンジ「ミサトちゃんが?」

レイ「ええ、気が付いたそうよ」

シンジ「容体は?」

レイ「外傷は無し。少し記憶に混乱が見えるそうだけど」

シンジ「まさか…」

レイ「…精神汚染の心配はないそうよ、検査済み」

シンジ「そう…そうか……良かった…」

レイ「安心するのはまだ早いかもしれない…脳神経にかなりの負担がかかったから」

シンジ「……」

シンジ「心の傷か…」

作業員「オーライオーライ!」

作業員「よーし、そのまま!」


シンジ「…エヴァとこの町が完全に稼動しても、まだまだ問題は山積みだね…」

レイ「…ずいぶんと後ろ向きね。やっとエヴァが動いたのに」

シンジ「初号機が動いたのは大きな前進だよ、使徒も倒した。でも……」

レイ「希望的観測も必要よ、ある程度はね」

シンジ「うん……ありがとう…」

シンジ「……」

レイ「……どうしたの…?」

シンジ「……代わってあげれたら、いいのにね……いや」

シンジ「僕ならきっと逃げ出してる…」

シンジ「世界再建の要、人類の砦………でも実状は」

レイ「……」

シンジ「あんな小さな子どもを戦わせてる…」

アナウンス「第一内科のウガイ先生、ウガイ先生、至急、第一外科のアズマ先生までご連絡ください」

アナウンス「E事件の医療会議は予定通りに行われます。担当者は第2会議室へ集まってください」


エレベーター前。鉢合わせる親子、見つめるシンジ。




カヲル「…それで、彼は適任ではないと?」

レイ「……有事の際には非情な決断を迫られる立場でもあります、碇一伊は、あまりにも…」

カヲル「優しすぎる。…そうだね、分かっているよ」

レイ「では、なぜ…」

カヲル「彼が苦悩しているのも知っている。でも、だからこそなんだよ…彼の心は繊細で、ガラスのように壊れやすい…」

カヲル「戦いに出る子どもたちの…「心」を痛んでやれるのは彼だけだ。冷徹な上官だけが有能なわけじゃない…分かってくれるね…?」

レイ「……出すぎたまねを」

カヲル「いや…いいんだ。彼を支えてあげてほしい」

カヲル「…それも、君にしかできないことだ」

レイ「はい……」

シンジ「……一人で、ですか…?」

ネルフ職員「そうだ。彼女の個室はこの先の第6ブロックになる。問題は無かろう」

ミサト「はい」

シンジ「え……それでいいの?ミサトちゃん」

ミサト「…いいんです、一人のほうが。慣れてますから」

シンジ「…………」

(通話)

レイ「…何を言ってるの?」

シンジ「だから…ミサトちゃんだよ。いくら仲が悪いからって、あんなことがあった後に一人には…だから、僕のところにと思って。上の許可は下りてるんだ。心配しなくてもうまくやるよ」


レイ「……あなた、どこまで……。背負いきれなくなるわよ?」

シンジ「でも………放っとけないよ…」

レイ「ハァ…その歳の女の子を一人暮らしの男性の家になんて、どうかと思うけど…碇くんじゃなきゃ、許可は下りなかったでしょうね…」

レイ「いいわ。くれぐれも間違いのないように」


シンジ「間違いって…?………なっ…!あっ!当たり前じゃないか!!」


シンジ「もう…冗談が分かりづらいよ…!」

ミサト「あの…?」

シンジ「あっ、ああごめん、今車出すから!」

主婦A「やっぱり、引っ越されますの?」

主婦B「まさかここが本当に戦場になるとは思ってもみませんでしたから」

主婦A「うちも主人が私と子供だけでも疎開しろって」

主婦B「疎開ねぇ。いくら要塞都市だからと言ったって、何一つ当てにできませんものね」

主婦A「昨日の事件!思い出しただけでもぞっとしますわぁ」


シンジ「……少し寄りたいところがあるんだけど、いいかな…?」

ミサト「えっ?構いませんけど…」

シンジ「ふふ…きっと驚くよ」

ミサト「……?」

シンジ「着いたよ」

ミサト(…なんだか寂しい街……夕日を楽しめってことかしら…?)

シンジ「…時間だ」

ミサト「……あっ…!」


ミサト「すごい…!ビルが生えてく…」


シンジ「…これが使徒迎撃専用要塞都市、第3新東京市。僕たちの街」

シンジ「そして…ミサトちゃん、君が守った街だ…」

シンジ「ありがとう、ミサトちゃん、僕たちを、街を…守ってくれて」

ミサト「………」

シンジ「ミサトちゃんの荷物はもう届いてると思うけど…実は僕も先日この町に引っ越してきたばかりなんだ。さっ、入って」

ミサト「あっ、あの…おじゃまします…!」

シンジ「そんな…緊張しないで。今日からここはミサトちゃんの家でもあるんだから…」

ミサト(家……私の、)


ミサト「…た、ただいま…」

シンジ「…お帰りなさい」



シンジ「ごめんね、散らかってて…」

ミサト「いえ………とっても綺麗です…」

シンジ「そう? 今夕飯の支度するね。なにか苦手なものとかある?」

ミサト「い、いえ。何も」

シンジ「そう、良かった」

ミサト「…? あの、あっちの冷蔵庫は…?」

シンジ「あ、後で紹介するよ。今はまだ寝てるだろうから」

ミサト「寝てる?」


「サクサクサク」「トントントン」「チーン」


シンジ「ごめんね、在り合わせのものしかなくて…」

ミサト「すごい…!」

シンジ「あはは、ありがとう。ほんとは水につけておくとね、もっと美味しいんだけど。これも冷やす時間があったらなぁ…また明日食べようね」

ミサト「は…はい」

シンジ「? どうしたの?…あ、ごめん…多すぎたかな?女の子の食べる量ってよく分からなくて…それとも食欲がなかった?」

ミサト「い、いえ!あの、そうじゃなくて…こういう食事…慣れてなくて…」

シンジ「……」

ミサト「いや、あの、違うんです。食べたくないわけじゃ…!」

シンジ「落ち着かない?」

ミサト「え?」

シンジ「僕もね、ほんと言うと久し振りなんだ…誰かとこうやって食卓を囲むの。だから、何話せばいいのかなって…考えてたら、料理もこんなに作っちゃって」


ミサト「……」


シンジ「…でも、ミサトちゃんも同じだってわかってほっとしたよ。はは…駄目だね。僕のほうが大人なのに、全然気のきいたこと言えないや」

ミサト「いえ!そんなこと…!…その…慣れないですけど、誰かと、し…シンジさんと、食事するの、…あ、安心するっていうか、…」

ミサト「楽しい、です…」


シンジ「…!そう…良かった」

シンジ「家事?いいよ~そんなの。今までだって一人でやってきたんだし」

ミサト「あ、あの、でも…私も、その…一員、ですから、公平に…」

シンジ「…ふふ、そうだね。じゃあジャンケンしよっか」

ミサト「はい…!」



シンジ「あはは…結局…」

ミサト「す…すいません…なんか…」

シンジ「いいよいいよ!公平にジャンケンで決めた結果だし…元々ひとりでやるつもりだったんだから。月曜と火曜はよろしくね」

ミサト「はい!…あ…でも…」

シンジ「?」

ミサト「私あんまり料理とか、得意じゃなくて…その、シンジさんみたいに美味しくできないかも…」

シンジ「そんなこと。気にしなくていいよ。作ってくれるだけでも、十分ありがたいよ…それに、分からないことがあったら、聞いてくれれば…」

ミサト「……」

シンジ「料理なら…ちょっとは自信あるんだ。大体のことは分かると思う。だから、その…遠慮しないでなんでも聞いてね」

ミサト「…はい!そうします」

シンジ「……うん。このくらいかな。当面はこの割り当てで様子みよっか」

ミサト「はい」

シンジ「よっと」カチャ

ミサト「あっ…手伝います」

シンジ「いいよ、作りすぎちゃったのは僕だから。それより今日は疲れてるだろうし。お風呂湧いてるから、ゆっくり入っておいでよ」

ミサト「…ありがとう、ございます…」



皿洗い中のシンジ

シンジ「フンフフーン」カチャカチャ

ミサト「!!!!!????しっ、ししし、シンジさんっ!!!!」

ミサトに背を向けたままのシンジ

シンジ「ミサトちゃん?早かったね…ゆっくり入ってよかったのに」ジャブジャブ

ミサト「お、おお、お風呂に、ど、ど、ど、動物…!!!」

シンジ「あはは。ペンペンに会ったの?大丈夫だよ。ペンペンは新種の温泉ペンギンなんだ」ジャー

ペンペン「クワッ!」

ミサト「ペン…ギン…」

シンジ「驚かせちゃってごめんね。紹介するの、忘れて…」クルッ…

シンジ「エッ……うわっ、み、ミサトちゃ…っ!!!!!」

ミサト「!!!!!!!」


ミサト「きゃーーーーーーー!!!!!」バタバタ


シンジ「……………意外と、おっちょこちょい、なのかな…」


シンジ「……」カァ

ミサト「……やっちゃった…!引っ越し早々…!」ブクブク

ミサト「………」

ミサト(……でも…碇シンジさん、か……良い人みたいで良かった…)

(シンジ「なんでも聞いてね」)

ミサト(……ウソみたい……あんなことがあって、死ぬ思いをしたのに……美味しいご飯食べて、お風呂に浸かって…)

ミサト「生きてるのね…私」

ミサト(ここで生きていくの…?本当に?)


(葛城「ここにお前の居場所はない」)


ミサト「………!」ザプンッ

ミサト(でも、他に行く場所もない……)

(レイ「赤木リツコにデータを書き換えて!」)

(リツコ「……ぅ、……」)


ミサト「……赤木、リツコか…」

葛城「……リツコの様子はどうだ」

レイ「身体の傷は20日もすれば良くなります」

葛城「そうか……ではそれまでに凍結中の零号機の再起動を取り付ける」

レイ「心のメンテナンスもなしに、ですか?」

葛城「……私の出る幕ではない、その件に関しては碇一伊に一任している……」

葛城「いかに倫理的な問題があったとしても、エヴァを動かせる人間は他にはいない」

レイ「………分かりました」

(通話)

シンジ「激励の言葉…?「この仕事に誇りを持て」なんて言えないよ、まだ自分の夢も見たことないような子どもに…」

レイ「夢を見るのに、明日の世界は必要よ。あの子には前を向いてもらわないと…」

シンジ「そうだよ…だけど…分からないんだ。何を言う権利がある…?世界のためだ人類のためだと言って僕たちは子どもを利用してるんだ」

レイ「……」

シンジ「…道具みたいに……」


レイ「あなたがそれでは…無敵の要塞も形無しよ?」

レイ「……しっかり胸を張って。「碇作戦部長」」


シンジ「………」

ミサト(ここも、知らない天井……当たり前か。この街で知っているとこなんて、どこにも無いんだから…)

(シンジ「ミサトちゃんの家でもあるんだから…」)

(葛城「ここにお前の居場所はない」)

ミサト(………)

ミサト(本当に…なんでここにいるんだろ……)

(回想)

ケンスケ「頭部破損、損害不明!」

オペレータ「活動維持に問題発生!」

シンジ「状況は!?」

ヒカリ「シンクログラフ反転、パルスが逆流しています!」

レイ「回路遮断、塞き止めて!」

ヒカリ「だめです、信号拒絶、受信しません!」

シンジ「ミサトちゃんは!?」

トウジ「モニター反応無し、生死不明!」

ケンスケ「初号機、完全に沈黙!」

レイ「碇くん!」

シンジ「……っ…作戦中止!パイロット保護を最優先、プラグを強制射出して!」

ヒカリ「だめです、完全に制御不能です!」

シンジ「そんな……!!」

オペレータ「エヴァ、再起動!」

ヒカリ「そんな、動けるはずありません!」

シンジ「……まさか…!」

レイ「暴走!?」


咆哮する初号機


カヲル「勝負…あったね」


レイ「A.T.フィールド!」

シンジ「……だめだ!A.T.フィールドがある限り」

レイ「使徒には接触できない!」

ケンスケ「左腕復元!」

シンジ「これは…!?」

ヒカリ「初号機もA.T.フィールドを展開…位相空間を中和していきます!」

レイ「いいえ、侵蝕している…」

シンジ「あのA.T.フィールドをいとも簡単に…!」


使徒の腕を折る初号機。コアを叩く

変形した使徒が初号機を抱き込む


シンジ「!!自爆…!?」

ヒカリ「エヴァは…!?」

レイ「あれがエヴァの…」

シンジ「本当の姿…」

葛城「……」

ケンスケ「回路、接続」

オペレータ「システム回復、グラフ正常位置」

トウジ「パイロットの生存を確認」

レイ「機体回収班、急いで!パイロット保護を最優先に!」


ミサト「……ふ、ぅあ…っ」

建物のガラス越し。初号機と目が合う

ミサト「あああああああっっ!」

シンジ「ミサトちゃん……?もう寝た…?」


シンジ「いきなり…こんな街に連れてこられて、使徒と戦わされて…ぶつけようのない感情があると思う」

シンジ「僕たち大人を…恨んでくれて構わない」


シンジ「逃げないでくれてありがとう…、戦ってくれて、ありがとう…だけどこの先、立ち向かえない現実があったとしても、」

シンジ「ミサトちゃん…君自身のことは、嫌いにならないでほしい」

シンジ「…立派なことをしなくても……君は、君でいていいんだから…」

シンジ「おやすみ…」

ミサト「………」







弐話分終わり

レイ「おはよう」

ミサト「おっおはようございます…!」

レイ「昨日はよく眠れた?」

ミサト「あっ昨日は…その、はい。眠れました」


レイ「そう…良かったわ。くれぐれも無理はしないように。気分が悪くなったらすぐに言ってね…では、エヴァの出現位置、非常用電源、兵装ビルの配置、回収スポット、おさらいしておく?」

ミサト「お…お願いします…」


レイ「通常エヴァは有線からの電力供給で稼動しています。非常時に体内電池に切り替えると、蓄電容量の関係でフルで1分、ゲインを利用してもせいぜい5分しか稼動できない…」

レイ「これが私たちの科学の限界。あとはパイロットの技量にかかってる」

ミサト「はい…!」


レイ「…では昨日の続きから。インダクションモード、始めて」

レイ「目標をセンターに入れて」

レイ「スイッチオン」

レイ「もう一度。落ち着いて、目標をセンターに…」

ミサト「目標をセンターに入れて、スイッチ…!」

レイ「次」

ヒカリ「しかし、よく乗る気になってくれましたね、ミサトちゃん」

レイ「…覚悟を決めてくれたなら助かるけど。まだ揺れている、でしょうね…」


ミサト「目標をセンターに入れて、スイッチ…!目標をセンターに入れて、スイッチ…!目標をセンターに入れて、スイッチ…!目標をセンターに入れて…!」

テレビ「それではスタジオから、松崎のシノハラナツコさーん!」

テレビ「はい、おはようございます、シノハラです!今朝は何と、西伊豆の松崎へ、ダイビングに来てるんですよ!本日も西伊豆地方は今日も快晴!予想最高気温は…」


ミサト「…シンジさん、帰ってたんですか」

シンジ「ウン…さっきまで当直で…ごめん、朝ごはん作れなくて…。ふわぁぁ…ちょっとゴミ出してくるね」

ミサト「そんな…私が持っていきますから、寝ててください」

シンジ「そんな、悪いよ。僕が当番なのに…」

ミサト「いいですから、ほら!」

シンジ「ありがとう……ミサトちゃん、学校で変わったこととか、ない…?」


ミサト「…大丈夫ですよ」

シンジ「そう…行ってらっしゃい」

ミサト「行ってきます」

シンジ「…ハイ、もしもし、あぁ、綾波か…」

レイ「どう?その後彼女とは」

シンジ「うん…。転校して2週間なんだけど、まだ電話も掛かってこなくって…」

レイ「電話?」

シンジ「うん。必須アイテムだから随分前に携帯渡しておいたんだ。だけど自分で使ったり、誰かから掛かってきた様子がなくて…ひょっとしてうまくいってないんじゃないかな…」

レイ「…近づくのが恐いんじゃないかしら。ヤマアラシのジレンマね」

シンジ「ヤマアラシ?あのトゲトゲの?」

レイ「…ヤマアラシの場合、相手に自分の温もりを伝えたいと思っても身を寄せれば寄せるほど体中のとげでお互いを傷つけてしまう。人間にも同じことが言えるわ…。今のミサトちゃんは心のどこかで痛みに怯えて、臆病になってるんでしょうね…」

シンジ「…痛みに怯えて、か…。結局寂しさに耐えられなくて、また近づくのにね…丁度いい距離が掴めればいいんだけど。大人になった今でも分からないくらいだから…ミサトちゃんくらいの歳の子には、もっと難しいだろうね…」

教室。ホウキをかき鳴らす青葉

青葉「ギャギャギャ、ギャーン。チュイーン…何? マヤちゃん」

マヤ「…昨日のプリント、届けてくれた?」

青葉「あ、あぁ…いや、なんかマコトの家、留守みたいでさ」

マヤ「もう。青葉君、日向君と仲良いんでしょ?二週間も休んで心配じゃないの?」

青葉「…怪我でもしたのかなぁ」

マヤ「えっ、例のロボット事件で?TVじゃ一人もいなかったって…」

青葉「まさか。鷹ノ巣山の爆心地見ただろ?入間や小松だけじゃなくて三沢や九州の部隊まで出動してるんだ。絶対、十人や二十人じゃすまないさ。死人だって…、マコト!」

マヤ「日向君」


日向「…なんだか、見ないうちにガランとしちゃったな」

青葉「まぁ…街であれだけ派手に暴れられちゃな…疎開ってやつだろ」

日向「…喜んでるのはお前ぐらいだろうな。男のロマンとか言って」

青葉「ははっ…それよりお前はどうしてたんだよ?えーと…二週間も休んで。騒ぎの巻き添えでも食ったのか?」

日向「…妹がな。倒れてきた瓦礫の下敷きになったんだ。幸い、大したことはなかったんだけど…医者が念のためにってね。俺のところは二親が研究所勤めだから、長く病院にはいられないだろ?…でも一人にするのは可哀想だから、ずっと俺が付いてたんだ」

日向「…しかし、変だよな。まるで暴走していたようだって話じゃないか。仮にも市民の安全を守る機関のロボットがだぞ?全く…しっかりしてほしいよ」


青葉「それなんだけどさ、お前聞いたか?転校生のうわさ」

日向「転校生?」

青葉「お前が休んでる間に転入してきたんだよ。…あの事件の後にだぞ?おかしくないか?ほら、あの娘さ」



マヤ「起立!」

教員「あー、このように人類はその最大の試練を迎えたのであります。二十世紀最後の年、宇宙より飛来した大質量の隕石が南極に衝突。氷の大陸を一瞬にして融解させたのであります。海洋の水位は上昇し…」


「 葛城さんが あのロボットのパイロットというのはホント? Y/N」


教員「だが、あれから15年。わずか15年で我々はここまで復興を遂げる事が出来たのです」


「 ホントなんでしょ? 」


「 Y/N 」


教員「それは私たち人類の優秀性もさることながら皆さんのお父さんお母さんの血と汗と涙と努力の賜物といえるで有りましょう」


「YES」


生徒達「えーー!!!」

教員「その頃私は根府川に住んでましてね、今はもう海の…」

マヤ「ちょっともう、みんな!まだ授業中よ!席について!」

生徒女「あー、またそうやってすぐ仕切る~」

生徒男「いいじゃんいいじゃん」

マヤ「良くない!」

生徒女「ねぇねぇ、どうやって選ばれたの?」

生徒女「テストとか有ったの?」

生徒女「怖くなかった?」

生徒女「操縦席ってどんなの?」

ミサト「いやっ…あの、そういうのは、秘密で…」

生徒女「あのロボットなんて名前なの?」

ミサト「…み、みんなは、エバーとか、初号機って…」

生徒男「エッ、必殺技は?」

ミサト「何とかナイフって言って振動が…えと、超音波?みたいに…」

生徒女「でも凄いわ。学校の誇りよね~」


教師「で、ありますから…あぁ、では今日はこれまで」

マヤ「起立、礼!…ちょっとみんな最後くらいちゃんと……!」


日向「………」ポロッ

シャーペンを落とし、固まる日向


青葉「おいマコト?授業終わったぞ?おーい」

ミサト「ごめんなさい」


日向「」


青葉「悪いね。とめたんだけどさ。言いだしたら聞かなくて、コイツ…ほら、だから言ったろ…」



ミサト「………にも………いくせに…」



青葉「……?」




リツコ「葛城さん…非常召集よ。…先に行ってるわ」



放送「ただいま東海地方を中心とした関東中部の全域に特別非常事態宣言が発令されました。速やかに指定のシェルターへ避難して下さい。繰り返しお伝えいたします。…」

ケンスケ「目標を光学で捕捉。領海内に進入しました」

カヲル「…総員、第一種戦闘配置」

オペレータ「了解、滞空迎撃戦用意」

トウジ「第三新東京市、戦闘形態に移行」

オペレータ「中央ブロック収容開始」


オペレータ「中央ブロック及び第1から第7管区まで間で収容完了」

ケンスケ「政府及び関係各省への通達終了」

オペレータ「現在対空迎撃システム稼働率48%」

シンジ「非戦闘員、及び民間人は?」

ケンスケ「すでに退避完了だそうだよ」

放送「小中学生は各クラス、住民の方々は各ブロック毎にお集まりください」


青葉「くっそー!またかぁ」

日向「また文字だけか…報道管制ってやつだな」

青葉「俺ら民間人には見せてくれないってのか?どうして!身の上のことだろ?」



シンジ「第4の使途…まさかこんなに早く来るなんて…葛城司令のいないときに…」

トウジ「前は15年のブランク、今回はたったの3週間やからなぁ」

シンジ「…こっちの都合はお構いなしか」

ケンスケ「女性に嫌われるタイプだね」


カヲル「…税金の使い道が組織の面子、体裁のためとはね…」

ケンスケ「委員会から再びエヴァンゲリオンの出動要請が来てるよ」

シンジ「了解。…言われなくても出撃させるさ」

オペレータ「エントリースタートしました」

ヒカリ「L.C.L.電荷」

オペレータ「圧着ロック解除」

ミサト(……また乗ってる……恐くて……逃げ出したいのに)



(学校の誇りよね)



(付き合ってほしいんだ)

(君の支えになりたい)



ミサト(そんなんじゃない。私は…)


ミサト「何も……知らないくせに……」

青葉「なあ?ものは相談なんだけどさ」

日向「何だよ」

青葉「ちょっと、さ。ほら」

日向「…物好きな奴だなぁ」


日向「マヤちゃん」

マヤ「何?」

日向「俺ら二人、ちょっと野暮用」

マヤ「野暮用?」

青葉「催したんだよ」

マヤ「…もう。早く行ってきなさいよ」

青葉「死ぬまでに一度だけでも見たいんだよ」

日向「本物のロボットをか?」

青葉「そうさ。次が何時になるのか、次があるのかも分からないんだ。このチャンスを逃したくない」

日向「逃すもなにも…命のほうが大切じゃないのか?」

青葉「…お前だって、本当は見たいんじゃないのか!?外ではミサトちゃんが戦ってるんだぞ!?応援しなくていいのか?」

日向「……」

青葉「…なぁ、頼むよ。ロック外すの手伝ってくれ。この通り!」

日向「…こんなとこで死ぬのは御免だぞ…?」

青葉「なぁに。あそこに居たってロボットが負ければ人類滅亡だ…どうせ死ぬなら見てからがいい」

日向「俺が言ってるのは流れ弾に当たりやしないかってことだよ。それに、人類滅亡なんて…それを阻止するためにネルフがあるんだろ」

青葉「そうさ。そのネルフの決戦兵器は何だ?…あの転校生のロボットだよ。この前もあの娘が俺達を守ったんだ。俺らが模試の結果に一喜一憂してるようなそれとはスケールが違うのさ…!抱えているもんが違う。…そんな相手にお前は…」

日向「……」

青葉「普通に手順を踏めばいいものを、いきなり「付き合いたい」だの「支えになりたい」だの…だいぶショッキングだよな。…精神に多大なストレスを与えたかも」

日向「ど…どうしろって言うんだよ」

青葉「応援するんだよ!!あの娘がやってくれなきゃ、俺達は死ぬんだぞ?俺達にはあの娘の戦いを見守る義務があるのさ」

日向「……まったく…乗せられる俺も俺だけど、お前のその情熱はいったい何処から来るんだよ…」

青葉「ははっ」

シンジ「ミサトちゃん…準備はいい?」

ミサト「…はい」

レイ「…敵のA.T.フィールドを中和しつつ、パレットの一斉射撃。練習通りよ、大丈夫?」

ミサト「はい…!」

シンジ「発進!」



青葉「おおおぉ!凄い…!本物が…!ロマンだ!!良いフレーズが浮かぶ気がする!!!」

日向「お前、それが本音か!?」

青葉「出たっ!」



ミサト「目標をセンターに入れてスイッチ…」

ヒカリ「A.T.フィールド展開」

ミサト「目標をセンターに入れてスイッチ…」

シンジ「作戦通りに。いいね?ミサトちゃん」

ミサト「…はい…!」

シンジ「まずいっ!爆煙で敵が見えない!」

ミサト「アッ!」



日向「ちょっ…!大丈夫なのか、あれ!?」

青葉「大丈夫さ…。ん?大丈夫だろ…?」



シンジ「予備のライフルを出すから、受け取って」

シンジ「ミサトちゃん?…ミサトちゃん!?」



青葉「これは…思った以上に告白がショックだったかな…」

日向「もうよせよ…!」

ミサト「ハッ…!」

トウジ「アンビリカルケーブル断線」

ケンスケ「エヴァ、内臓電源に切り替わりました」

ヒカリ「活動限界まで後4分53秒」

ミサト「きゃあっ!!」


青葉「こ、こっちに来る!」

青葉・日向「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」



シンジ「ミサトちゃん、大丈夫?ミサトちゃん!…ダメージは?」

トウジ「問題無しや」


ミサト「…痛ぅ……ハッ!」

シンジ「ミサトちゃんのクラスメイト!?」

レイ「何故こんな所に…!」

ミサト「……っ!」


青葉「な…なんで戦わないんだ」

日向「俺らがここに居るから……自由に動けないんだ」


ヒカリ「初号機活動限界まで後3分28秒」

シンジ「…ミサトちゃん!そこの二人を操縦席へ!」

シンジ「二人を回収した後、一次退却。出直すしかない…!」

レイ「許可の無い民間人をエントリープラグに入れることはできないわ」

シンジ「だけど!あそこは危険だよ!」

レイ「…越権行為よ、碇一尉!」

ヒカリ「初号機活動限界まで後3分」

シンジ「くっ…エヴァは現行命令でホールド、その間にエントリープラグ排出。急いで!」

シンジ「そこの二人、乗って。早く!」

日向「なんだ!?水…!?」

青葉「おあぁ…っ!カメラがっ…!ごほっ、かはっ」


ヒカリ「神経系統に異常発生」

レイ「異物を二つもプラグに挿入したからよ。…神経パルスにノイズが混じってる」

シンジ「今だ!ミサトちゃん、後退して!」


シンジ「回収ルートは34番、山の東側へ!」

日向「か…葛城さん、後退って…」

ミサト「……、ちゃだめ、逃げちゃ駄目…!逃げちゃ…」


トウジ「プログレッシブナイフ装備!」

シンジ「みっミサトちゃん!!!退却だよ!言うことを聞いて!!!」

ミサト「…あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

シンジ「ミサトちゃん…!」

ミサト「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!あああぁぁぁぁっ!!!!」

ヒカリ「初号機活動限界まで後30秒、28、27、26、25」

ヒカリ「14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」

ヒカリ「エヴァ初号機活動停止」

トウジ「…目標は完全に沈黙」


ミサト「ハァ…ハァ…ハァ…」

ミサト「……うっ、うっ……っ、う……」

日向「……」

青葉「……」

日向「…今日でもう三日か」

青葉「俺らがコッテリと絞られてから?」

日向「…あの娘が学校に来なくなってからだよ…」

青葉「あーあの娘ね…」



日向「…葛城さん、あれからどうしてるんだろ…」

青葉「お前…諦めてないのか?」

日向「悪いかよ…」

青葉「いや、好きにすればいいさ。まったく…普段は冷静なくせに思い込んだらとことんだな、お前ってやつは。ほれ」

日向「?」

青葉「転校生の電話番号だ…だが!うまく使えよ?間違ってもまた告白なんてするんじゃないぞ」

日向「…恩にきる」







参話分終わり

シンジ「…ミサトちゃん?」

シンジ「…今日も具合が悪いの?…行きにくいと思うけど、学校はちゃんと行ったほうがいいよ…もう五日だし。きっとみんな君のこと心配して…」

シンジ「ミサトちゃん…?開けてもいい…?」

シンジ「……」ガラッ

シンジ「いない……。…当然か…」


「ピンポーン」


シンジ「ミサトちゃんっ?」

日向「…?いえ。クラスメイトの日向です」

青葉「青葉です」

シンジ「…日向君と青葉君…」

シンジ「…あ、この間初号機のエントリープラグに入った…」

日向「…!そっ、その節はご迷惑をおかけしました!」

青葉「あの…葛城さんは?」

日向「…このところずっと休んでいらっしゃるので…様子見に」

シンジ「わざわざありがとう。でも…ミサトちゃんは…今ネルフの訓練施設にいるんだ」

日向「そう…なんですか…」

シンジ「ごめんね。せっかく来てもらったのに…」

青葉「いえいえ。どうせ俺たちの家もこの辺ですから」

日向「あの…これ、プリント類です」

シンジ「ありがとう。渡しておくね」

日向「じゃあ…僕らはこれで。葛城さんに宜しくお伝えください」

シンジ「伝えておくよ。気をつけてね」



日向「なんなんだ…さっきの人…大学生くらいに見えたぞ?」

青葉「…葛城の彼氏かな?」

日向「そんなわけないだろ。…俺たちのことを知ってた。ネルフ職員さ。…保護役か何かだろ…」



シンジ「友達いたんだ…ミサトちゃん…」

シンジ「…いったい何処に…」

放送「次は瀬能峠、長尾方面です。お出口右側に変わります」


放送「本日は第3新東京市第七環状線をご利用いただき真にありがとうございます」

放送「この電車は当駅にて回送電車となります。どちらさまもお忘れ物の無いように御降車ください」

ミサト「帰らなきゃ…」

ミサト(あの場所へ?それとも…)


「お兄さん、ちょっとそこのお兄さんお兄さん。よってこうよ。安いんだから…」

「超疲れたあなたを極楽へとご案内…」

(映画)

「キャーー」

「本当に探知できなかったんですか?」

「そうだ。直径数十ミリの物体が光速の何十倍という速度で南極に激突したのだ…」

ミサト「………」

さ迷い歩くミサト

ミサト「……」

シンジ「…やっぱり、僕らが間違ってたんだ」

シンジ「14歳の子どもに、こんな重荷を…人類の存亡を背負わせるなんて…」

レイ「…でも、乗れるのは彼女たちだけ。…私たちはエヴァの操縦を14歳の子どもたちに委ねる…それしか方法はない」

シンジ「…分かってる」

レイ「ミサトちゃんから連絡は?」

シンジ「…何も。…このまま帰ってこないかもしれない…」

レイ「どうするつもり?」

シンジ「どうしようもないよ。帰りたくないなら、そのほうが…」

レイ「何故?」



シンジ「…こないだの戦闘の後…」

シンジ「…どうして指示を無視したの…?」

ミサト「ごめんなさい」

シンジ「…謝ってほしいわけじゃないんだ。その…理由が聞きたくて。混乱してたなら、それも仕方のないことだし……僕らは、君の身体状況に合わせて適切な処置を…」

ミサト「……疲れていたので、指示を聞き間違いました」

シンジ「………君に命をかけさせて、申し訳ないと思ってる…だけど、君だけじゃないんだ。ネルフにいる全員が、恐怖と戦ってる。ほんの些細なミス、誤った情報伝達が、戦況を左右する」

シンジ「僕らは……共有していかなければならないんだ。同じものが見えていないと、倒せるものも倒せない…」

シンジ「だから……」

ミサト「…もう、いいじゃないですか…」

シンジ「…ミサトちゃん……?」

ミサト「勝ったんだから……っ!そんな、私は立派にはなれない…!なにも…!共有なんてできない…、私はよそ者だから…!!」

シンジ「ミサトちゃ…」

ミサト「戦わなきゃ……前の生活に逆戻り…嫌なんです、でも、戦うのも嫌…!」

シンジ「………」

ミサト「でも、私が逃げ出したら…あの娘がまた一人で戦うことになって…!それも嫌、もう、嫌で嫌でたまらないのに……ここに残って…でも見渡すと、私は一人なんです」

シンジ「……!」

ミサト「私だけが恐がってる、私だけが覚悟してない!ただ言われるままにエバに乗って…」

シンジ「ミサトちゃん…!」

ミサト「うっ……う、う…っ」

レイ「そう…」

シンジ「…ミサトちゃんにとって、エヴァに乗ることが苦痛でしかないのなら…もう乗らないほうがいい。自暴自棄になって戦っても…使徒には勝てない。死んでしまうよ…」

レイ「…エヴァが動かなければ、同じことよ」



空き地。

青葉「フンフーン…ざーんーこーくな…んん、違うかな…?ざーんーこーくーな…これかな…」ジャカジャカ

青葉「これでよし、と。…ん、転校生…?」

青葉「葛城!」

青葉「…マコトのことさ、忘れてやってくれよ。普段はあんな奴じゃないんだ…なんと言うか…思い込んだら止まらない奴でさ…あいつ妹がいるんだけど、その妹にも叱られたらしい。初対面で告白するなんて気持ち悪い、ってさ。はは、その通りだよな?」

ミサト「そんな…ことは…」

青葉「……」

青葉「……夜は静かで良いよな。あの五月蝿い蝉が鳴かないし」

ミサト「生態系が戻ってるんだって…シンジさんが言ってた」

青葉「…あの男の人か。…ほんとに一緒に住んでるの?」

ミサト「…?ええ…」

青葉「そっか…しかし大変だよな…まだ14歳で、しかも女の子なのに…あんなでかいロボットに乗らなきゃならないなんて。…代われるもんなら代わってやりたいよ」

ミサト「…それはやめたほうが…。お母さんが心配するし…」

青葉「あぁ、それなら問題ない。俺そういうの居ないからさ」

ミサト「ご…ごめんなさい」

青葉「気にするなよ。それより、飯食うだろ?」

ミサト「ありがとう…」

ミサト「…いつもこんな事してるの?」

青葉「ん?うん…そうだな。ここなら近所迷惑にもならないし」

ミサト「…プロを、目指してる?」

青葉「はは。まさか…そんな時代じゃないだろ?好きでやってるだけさ」



黒服男「…葛城ミサトちゃんだね?」

ミサト「…はい」

黒服男「ネルフ保安諜報部のものだ。保安条例第8項の適応により君を本部まで連行する。いいね?」

ミサト「はい…」



日向「それで、お前はそれを黙って見てたって言うのか?」

青葉「見てたさ。しょうがないだろ?向こうはプロだ、勝てやしない」

日向「くそ…そこにいたのが俺なら…!」

青葉「…今ごろまた校長室だろ?」

シンジ「ミサトちゃん…」

ミサト「…すみませんでした」

シンジ「いや…心配したよ…どこにいたの?二日間も…」

ミサト「……」

シンジ「……」

ミサト「私乗ります、エバに」

シンジ「ミサトちゃん…」

ミサト「乗って、戦って、死ぬまで続けます…きっと、何回も乗れば恐くなくなる」

ミサト「あの娘…リツコちゃんみたいに、落ちついてやれるようになる、シンジさんやレイさんみたいに強くなれる」

ミサト「そしたら人の顔も…気にならなくなって、きっと仲良くなれる、学校のみんなとも…」

ミサト「………お父さんも、きっと私を認めて…!」

シンジ「ミサトちゃん!……ミサトちゃん…もういい、もういいよ…」

ミサト「…え…?」

シンジ「もういいんだ…無理してエヴァに乗る必要なんてない。僕たちのことは…気にしなくていい。元々巻き込んだのは僕らのほうなんだ。謝るよ…」

ミサト「でも…」

シンジ「いいんだ。僕らは…僕らは市民の安全を守るのが仕事で…君もその一人なのに。君をたくさん傷つけてしまった…」

ミサト「……」

シンジ「ミサトちゃん」

シンジ「僕も恐くてたまらないよ…覚悟が決まってるなんて嘘だ。前なんて見えてない、ただそう繕うのに必死で………」

ミサト「……シンジさん…」

シンジ「ごめんね…勝手な大人ばかりで」

レイ「サードチルドレンは明日第3新東京を離れます」

葛城「…では、初号機のデータはリツコに書き換えろ」

レイ「しかし」

葛城「…零号機の再起動実験の結果の如何によらず初号機での実験に移る」

葛城「マルドゥック機関の報告によるとフォースチルドレンはまだ見つかっていない」

レイ「…パイロットの補充は効かない、と言う事ですね」

葛城「……」

ミサト「あの、シンジさんはどこですか?一言お別れを…」

黒服男「君はもうすでにネルフの人間ではない。どのような事も教えられない」

駅。

青葉「葛城!忘れもんだぞー!」

日向「葛城さん!」

ミサト「あっ…」


ミサト「あの、ちょっといいですか?」

ミサト「あの…ありがとう」

青葉「…なんか喋れよ。ホラッ!」

日向「かっ、葛城さん…この前は、その、急にあんなこと言ったりして、ごめん」

日向「でも、正直な気持ちだったんだ。実は…その、最初のロボット騒ぎで、妹が怪我をして…いや!全然大した怪我じゃなかったんだけどさ。頭にきてたんだ、誰かも分からないパイロットに」

日向「でも、君の悲しそうな顔を見て、変わった」

ミサト「……!」

日向「教室でさ。クラスの連中に囲まれてるのに…ひとりきり、みたいな…寂しそうに見えて、もっと知りたいと思ったんだ。支えたいと…あの時は、つい熱くなって、ああいう事を言ってしまったけど。その、今でも、葛城さんさえ良ければ、友達として…」

青葉「おい…」

日向「いや…その…ごめん。今から引っ越すのに、こんなこと…」

ミサト「ううん、……ありがとう」

日向「……!」

ミサト「…どうしてここが?」

青葉「勘だよ。ここんとこ何十人って同級生を見送ってきたからな」

日向「…葛城さんが出ていくなら、いずれ俺らも出ていくことになるだろうな…。だけど…ほっとしてるよ。…エヴァの中で、あんなに苦しんでる姿を見たんだ。葛城さんがエヴァから解放されて…良かった…」

ミサト「………!」

青葉「…おいおい。二人ともそんな辛気臭い顔するなよ」

日向「向こうでも…元気で」

青葉「ガンバレよ?」



ミサト「あのっ…」

黒服男「時間だ」


黒服男「オイ、コラッ…」


ミサト「謝らなきゃいけないのは私よ…!何も…!何も知ろうとしなかったのは私のほう…!殻にこもって、拒絶して…、勝手に、思い込んでただけで…っ!」


黒服男「これ以上手を焼かせるな」

レイ「本当にこれでよかったの?」

シンジ「……ミサトちゃんが帰ってきたとき…なんて声をかけていいか分からなかったんだ…」

シンジ「………僕の見栄が彼女を追い込んでた…本当のことを言っても、彼女を救えたかどうか……」

レイ「…ヤマアラシのジレンマ」

シンジ「……」

レイ「まだ時間はあるわ」

放送「二番線に厚木行き特急リニアが参ります。危ないですから黄色い線の内側までお下がりください」


放送「二番線の電車は4時20分発厚木行き政府専用特別列車です。一般の方は柵の内側には入れません」

放送「なお許可の無い方の御乗車は硬く禁じられております。くれぐれもご注意ください」



(シンジ「今日からミサトちゃんの家でもあるんだから」)



青葉「…おい、あの人って」

日向「葛城さん家の…」

シンジ「はぁっ、はぁ…」


シンジ「……」

ミサト「……!」

放送「まもなく4番線に強羅行き各駅停車が参ります。危ないですから黄色い線の内側までお下がりください」

放送「小さいお子様をお連れの方は特にご注意ください」


放送「4番線の電車は4時32分発強羅行き折り返しの各駅停車です。ご利用の皆様はご乗車になってお待ちください」

放送「はい、まもなく電車入ります。黄色い線の内側まで下がってください」



ミサト「たっ、ただいま…」


シンジ「……おかえりなさい」





四話分終わり

続きは明日

22日前

ネルフ本部・第2実験場


葛城「起動開始」

レイ「主電源全回路接続」

ヒカリ「主電源接続完了。起動用システム作動開始」

ヒカリ「稼動電圧後臨界点まであと0.5、0.2、突破」

レイ「起動システム第2段階に移行」


オペレータ「パイロット接合に入ります」

オペレータ「システムフェーズ2スタート」

オペレータ「シナプス挿入。接合開始」

オペレータ「パルス送信」

オペレータ「全回路正常」

オペレータ「初期コンタクト異常なし」

オペレータ「左右上腕筋まで動力伝達」

オペレータ「オールナーブリンク問題無し」


ヒカリ「チェック2550までリストクリア」


レイ「第3接続準備」


ヒカリ「2580までクリア。絶対境界線まであと0.9、0.7、0.5、0.4、0.3、パルス逆流!」

オペレータ「第3ステージに異常発生!」

オペレータ「中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」


レイ「コンタクト停止。6番までの回路開いて!」

ヒカリ「駄目です!信号が届きません」

ヒカリ「零号機制御不能!」


葛城「実験中止。電源を落とせ!」



レイ「はい!」


レイ「零号機、予備電源に切り替わりました」



オペレータ「完全停止まで後35秒!」

レイ「危険です、下がってください!」

ヒカリ「オートエジェクション作動します」

葛城「……!」

オペレータ「完全停止まで後10秒」

レイ「特殊ベークライト急いで!」

オペレータ「8、7、6…」

葛城「リツコ!」

ハッチをこじ開ける

葛城「………が……っ、ぐぅ……っ!」

葛城「リツコ、大丈夫かっ?」


葛城「リツコッ?」


小さく頷く


葛城「そうか…」

レイ「赤木リツコ14歳。マルドゥックの報告書によって選ばれた最初の被験者、ファーストチルドレン。エヴァンゲリオン試作零号機専属操縦者。過去の経歴は白紙、全て抹消済み」

レイ「……」


シンジ「…それで、事故の原因は何だったの?」

レイ「未だ不明。ただし、推定では操縦者の精神的不安定が第一原因と考えられるわ」


シンジ「精神的に不安定…」

レイ「……結局、何も話してもらえなかったから…そう言うほかないの」

シンジ「……やっぱり、エヴァに乗ることが…」

レイ「分からない。でも、…」

シンジ「なに…?」

レイ「……いいえ、何でも無い…」

アナウンス「B3ブロックの解体終了」

アナウンス「全データを技術局1課分析班に提出してください」



ミサト「…これが私達の敵…」


レイ「コア以外は殆ど原形を留めている…。本当に、理想的なサンプルね…ありがたいわ」

シンジ「解析結果は?」


レイ「…これ」

シンジ「…何?これ」

レイ「…解析不明を示すコードナンバー」

シンジ「…駄目か…」

レイ「分かったこともあるわ。使徒は粒子と波両方の性質を備える、光のようなもので構成されている…」

シンジ「動力源は?」

レイ「…そこはサッパリ。らしきものはあったんだけどね…」

シンジ「…まだまだ多くは未知のままか…」

レイ「…とかくこの世は謎だらけよ。例えばほら、この使徒独自の固有波形パターン」

シンジ「ん?」


シンジ「な…これって…!」

レイ「そう、構成素材に違いは有っても信号の配置と座標は人間の遺伝子と酷似している…99.89%ね」

シンジ「99.89%…」

レイ「…改めて思い知らされるわ。私達の知恵の浅はかさを」

葛城「そこだ、止めろ」

カヲル「これがコアか…。残りは?」


研究員「それが劣化が激しく資料としては問題が多すぎます」

葛城「構わない、他は全て破棄しろ」

研究員「はい」

ミサト「…、……」

シンジ「…どうかした…?」

ミサト「い、いえ…あの…お父さん、手に火傷してるみたいなんですけど…」

シンジ「火傷?」

ミサト「どうしたのかなって思って」

シンジ「…綾波は知ってる?」

レイ「あなたがまだここに来る前、起動実験中に零号機が暴走して…その話は?」

ミサト「聞いてます」

レイ「その時パイロットが中に閉じ込められたの」

ミサト「パイロットって、リツコちゃんですよね」

レイ「ええ。葛城指令が彼女を助け出したの…加熱したハッチを無理やりこじ開けて」

ミサト「お父さんが?」

レイ「手のひらの火傷はその時のものよ」

女子「行け行け行け行けー!」

女子「行けヒデコー!」

女子「負けんなー」



男子「させるかー」

男子「ったぁ!」

男子「次決めてくぞー!」

男子「オー」



青葉「眩しいなぁ…」

日向「やめろよ、あからさまに。みっともない」

女子「なんか青葉って目つきヤラシー」


ミサト(リツコちゃんは…また見学か…そうよね…まだ完治してないみたいだし…)


マヤ「葛城さん、どうしたの?」

ミサト「えっ?」

マヤ「ああ…赤木さんね。ほんと心配になるわよね…細いし、色白だから」

マヤ「私もああなれたらなぁ…赤木さんって、何でもそつなくこなすし」


ミサト「そうね…羨ましい」

日向「よせよ、女子たち、こっち見てるぞ?」

青葉「いいじゃないか。見せてくれてるんだろ」

日向「お前な…」

青葉「ふん…なーに淡泊ぶってるんだ?お前だってさっきから葛城ばっかり見てるじゃないか」

日向「なっ、み、見てない!」

青葉「おいおい。今さら隠すなよ、好きなんだろ?」

日向「それとこれとは別だろ!」

青葉「…葛城の胸、葛城の太もも、葛城のふくらはぎ…」

日向「よせよ!」



青葉「それにしても…赤木はいつも一人だよな…」

日向「赤木リツコか?」

青葉「ああ…マヤちゃんがちょいちょい声かけてる以外は。友達いないのかな」

日向「…作る気がないんじゃないのか?一人で寂しいってふうでもないし…」

青葉「それもそうだな…」

アナウンス「エヴァ初号機は第3次冷却に入ります。第6ケージ内はフェーズ3までの各システムを落としてください」

ヒカリ「先のハーモニクス及びシンクロテストは異常なし。数値目標を全てクリア」

オペレータ「了解。結果報告はBALTHASARへ」

ヒカリ「了解」

オペレータ「エントリープラグのパーソナルデータはオールレンジにてMELCHIORへコピー。データ送ります」


ミサト「……」

リツコと父親が親しげに話している

ミサト「…、……」


オペレータ「MELCHIOR了解。回路接続」

オペレータ「第3時冷却スタートします」

ヒカリ「CBL循環を開始」

オペレータ「廃液は第2浄水システムへ」

オペレータ「各タンパク壁の状態は良好。各部問題無し」

オペレータ「零号機の再起動実験までマイナス1500分です」

シンジ・ミサト宅

レイ「これは?」

シンジ「カレーだよ。市販のルーは使ってないんだ」

レイ「相変わらずね…」


レイ「…お肉はよけてくれる?」

シンジ「相変わらずだなぁ…」


シンジ「ミサトちゃん、つぐよ?」

ミサト「あ…いえ、大丈夫です。私は自分で…」ドヴァーッ

カップラーメンにカレーを投下するミサト


シンジ「えっ」

レイ「本気…?」

ミサト「えっ?あ…すいません…この食べ方が好きで…」

シンジ「い…いや、いいと思うよ。人それぞれだし」

レイ「…じゃあ」

ミサト「いただきます!」


レイ・ミサト「ンッ!」


ミサト「~おっいしい!」

レイ「おいしい…」

シンジ「はは…照れるな…」



ペンペン「クワッ」

レイ「……」

ペンペン「クワックワ~」

レイ「……」


ミサト「あの…レイさんってペンペン苦手なんですか…?」

シンジ「ん?いや。はは…あれが綾波なりの愛で方なんだよ」

レイ「はじめて見たときは驚いたけど…慣れると可愛いわ…」

ミサト「そうですよね、私もはじめて見たときは、……」カァ

シンジ「……」カァ

レイ「…碇君、あなた何かしたの?」

シンジ「なっ、何もしてないよ!何言い出すんだよ綾波」

レイ「じゃあ今何を思い出したの?」

シンジ「なっ…何も思いだしてないよ!」

レイ「…ミサトちゃん、やっぱり引っ越したほうがいいわ。いくら碇君でも自分の性には抗えないもの」

ミサト「い…いえ…その…あれは本当に…」

シンジ「もう!やめてよ綾波!ほんとに何もなかったったら!」

レイ「そうなの?ミサトちゃん」

ミサト「……」コクン

レイ「……そう…何もないならいいのだけど」

シンジ「だから最初からそう言ってるじゃないか…!」

レイ「確認は必要よ」

レイ「……そう言えば。ミサトちゃん、ひとつ頼まれてくれないかしら」

ミサト「はい…?」

レイ「リツコちゃんの更新カード。渡しそびれてしまって…悪いんだけど、本部に行く前に彼女のところに届けてほしいの」

ミサト「わかりました」

シンジ「…リツコちゃんとはもう仲良くなれた?」

ミサト「いえ…ほとんど口聞いてなくて…」

シンジ「そっか…リツコちゃんあんまり喋らないもんな…」


ミサト「…リツコちゃんって、どんな子ですか?」

レイ「いい子よ……とても。ただ愛情表現が苦手みたい…その点はあなたのお父さんと似ているかもね」


ミサト「……父と……」

シンジ「……………」

ミサト「ごめんください…」

ミサト「ごめんください、あの、いますか?…リツコちゃん?」

ミサト「………」

机の上に置かれた眼鏡

ミサト「…リツコちゃんのかしら…?」


ミサト「…?」クルッ

ミサト「うわ…ごめん、いたの…」

リツコ「ええ。何か?」

ミサト「あの…カードが、新しくなったの。えと…だから、レイさんに頼まれて、渡しに…」

リツコ「そう」

ミサト「えっと…(目のやり場に困るわ…)」

リツコ「そこに置いておいてちょうだい…着替えたら行くわ」

ミサト「…待っててもいい?その…一緒に行っても」

リツコ「別に…構わないわ」

アナウンス「セントラルドグマは現在改装中です。技術班は第4直通ゲートを利用してください」


ミサト「…今日は再起動の実験よね。…今度は、上手くいくと良いわね」

ミサト「ねぇ、リツコちゃんは怖くないの?またあの零号機に乗るのが」

リツコ「なぜ?」

ミサト「なぜって…前の実験で大怪我したって聞いたから。その…平気なのかなって思って」

リツコ「…あなたは葛城指令の子どもでしょ?」

ミサト「? ええ…」

リツコ「信じられないの?お父さんの仕事が」

ミサト「……信じられるわけないわよ、あんな父親なんて」

ミサト「…だいたい、私たちみたいな子どもをあんな危険なものに乗せて、平気な顔してるのが分からないわ。それに私を遠くへやったときだってろくな説明もしないで…」

リツコ「……」

ミサト「ここに呼ぶときだって手紙で「至急来られたし」たったそれだけよ?」

ミサト「信じられるわけ…ちょっと、リツコちゃん聞いてる?」

リツコ「……あなたはよく喋るのね…」

(葛城「大丈夫か、リツコ?」)


(レイ「その時パイロットが中に閉じ込められてね、葛城指令が彼女を助け出したの。加熱したハッチを無理やりこじ開けてね」)


(レイ「手のひらの火傷はその時のものよ」)



葛城「リツコ、聞こえるか?」

リツコ「はい」

葛城「これより零号機の再起動実験を行う。第一次接続開始」

レイ「主電源コンタクト」

ヒカリ「稼動電圧臨界点を突破」

レイ「了解、フォーマットフェーズ2に以降」

オペレータ「パイロット零号機と接続開始」

オペレータ「回線開きます」

オペレータ「パルス及びハーモニクス正常」

オペレータ「シンクロ問題無し」

オペレータ「オールナーブリンク終了、中枢神経素子に異常なし」

オペレータ「再計算、誤差修正なし」

ヒカリ「チェック2590までリストクリア。絶対境界線まで後2.5、1.7、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、突破。ボーダーラインクリア」


ヒカリ「零号機起動しました」

リツコ「了解、引き続き連動試験に入ります」

カヲル「…葛城君、未確認飛行物体が接近中だ…恐らく第五の使徒だろうね」

葛城「テスト中断。総員第一種警戒態勢」

カヲル「…零号機はこのまま使わないのかい?」

葛城「まだ戦闘には耐えない。初号機は?」

レイ「380秒で準備できます」


葛城「出撃だ」

レイ「はい」


葛城「リツコ、再起動は成功した。戻れ」


リツコ「……」

ケンスケ「目標は遠野沢上空を通過」

トウジ「初号機発進準備に入ります。第一ロックボルト、外せ」

ミサト「解除確認」

トウジ「了解。第二拘束具外せ」

オペレータ「了解」


ケンスケ「目標は芦ノ湖上空へ侵入」

トウジ「エヴァ初号機、発進準備よろし!」

シンジ「発進!」

ケンスケ「目標内部に高エネルギー反応!」

シンジ「そんな…っ!?」

ケンスケ「円周部を加速、収束していきます!」

レイ「まさかっ!?」



シンジ「ミサトちゃん!!!!避けてっ!」


ミサト「えっ?」


ミサト「アアアアァァァァッッッッ、アアアァァァァ!!!」



シンジ「ミサトちゃん!!」






伍話分終わり

ケンスケ「目標内部に、高エネルギー反応!」

シンジ「そんな…っ!?」

ケンスケ「円周部を加速!収束していきます!」

レイ「まさかっ!」


シンジ「ミサトちゃん!!避けてっ!!!」


ミサト「え!?」

ミサト「…ぁぁあああああ!」


シンジ「戻してください!早く!」


ケンスケ「目標、完黙!」

シンジ「ミサトちゃんはっ?」

トウジ「まだ生きとる!」

ヒカリ「初号機回収、第7ケイジへ!」

シンジ「ケイジへ行ってくる。後は頼むよ!」

ヒカリ「初号機、固定完了!」

トウジ「パイロット、脳波乱れとる、心音微弱!」

レイ「生命維持システム最大、心臓マッサージを!」

トウジ「心臓マッサージ!」

トウジ「パルス確認!」

レイ「プラグの強制排除、急いで!」

レイ「L.C.L.緊急排水!」

ヒカリ「はい!」



シンジ「…早く、早くハッチを開けて!」

シンジ「ミサトちゃん…!」


処置室へ運ばれるミサト


シンジ「……」

ケンスケ「敵、荷粒子砲命中、ダミー蒸発!」

シンジ「次!」

ケンスケ「12式自走臼砲消滅!」

シンジ「…なるほど…」

職員「これまで採取したデータによりますと、目標は一定距離内の外敵を自動排除するもの、と推測されます」

トウジ「エリア侵入と同時に荷粒子砲で100%狙い撃ち…こりゃあ、エヴァによる近接戦闘は危険過ぎるなァ」

シンジ「A.T.フィールドは?」

職員「健在です。相転移空間を肉眼で確認できるほど、強力なものが展開されています」

トウジ「誘導火砲、爆撃やらの生半可な攻撃じゃあ、泣きを見るだけやな…これじゃあ」

シンジ「攻守ともにほぼ完璧…まさに空中要塞か…それで、問題のシールドは?」

職員「現在目標はわれわれの直上、第3新東京市ゼロエリアに侵攻、直径17.5mの巨大シールドがジオフロント内、ネルフ本部に向かい穿孔中です」

トウジ「…敵さん、ここへ直接、攻撃を仕掛けるつもりやな」

シンジ「…到達予想時刻は?」

職員「あ、明朝午前0時06分54秒、その時刻には22層全ての装甲防御を貫通して、ネルフ本部へ到達するもの、と思われます」

シンジ(後10時間足らず…)

ケンスケ「敵シールド、第一装甲版に接触!」

シンジ「こちらの初号機の状況は?」

レイ「胸部第3装甲板まで見事に融解。機能中枢をやられなかったのは、不幸中の幸いね」

ヒカリ「後3秒照射されていたら、アウトだったけど…」

ケイジ作業員「3時間後には換装作業、終了予定です」

シンジ「了解。ありがとう…零号機は?」

ヒカリ「再起動自体に問題ないけど、フィードバックにまだ誤差が残ってるわ」

レイ「実戦は…」

シンジ「まだ無理、か…」

シンジ「…ミサトちゃんの容体は?」

トウジ「身体に異常はあらへん。神経パルスが0.8上昇しとるくらいで、あとは許容範囲内や」

ケンスケ「敵シールド到達まで、後9時間55分!」

シンジ「状況は芳しくない、か…」

トウジ「白旗でも揚げるか?」

シンジ「…その前に、試してみたいことがあるんだ」

カヲル「目標のレンジ外、超長距離からの直接射撃…?」

シンジ「…そうです。目標のA.T.フィールドを中和せず、高エネルギー収束帯による一点突破しか…方法はないと思います」

カヲル「成功するのかい?」

シンジ「………MAGIは」

カヲル「いや。君の見立てだよ…作戦部長としての」

シンジ「…残り9時間以内で実現可能、かつもっとも確実な方法かと思われます」

カヲル「ふふ…頼もしいね」

葛城「…反対する理由はない。実行してくれ」

シンジ「はい!ありがとうございます」

レイ「しかし、よく通ったものね…こんな作戦が。MAGIは何と言ってるの?」

シンジ「…賛成2、条件付き賛成が1」

レイ「勝算は8.7%か…」

レイ「でも…うちのポジトロンライフルじゃ、そんな大出力には耐えられないわよ。…どうするの?」

シンジ「…耐え得るのを借りてくるよ」




シンジ「……以上の理由により、この自走陽電子砲は、本日15時より、特務機関ネルフが徴発いたします」

戦自の人「かと言って、しかし、そんな無茶な…」

シンジ「申し訳ありません…可能な限り、原形をとどめて返却するよう、努めますので。…では、ご協力、感謝します!」ペコッ

シンジ「…リツコちゃーん!持って行ってー!精密機械だから、そーっと、そおっとね!」

戦自の人「……………」

シンジ「……はは…」

トウジ「けどなぁ、A.T.フィールドをも貫くエネルギーっちゅうのは、最低1億8千万キロワットやぞ、それだけのもんを、どっから集めてくるんや?」

シンジ「…日本中だよ」

TV(日向邸内)「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えいたします」

TV(伊吹邸内)「本日、午後11時30分より」

TV(街頭)「明日未明にかけて、全国で大規模な」

ヘリコプター「停電があります。皆様のご協力をよろしくお願いいたします」

放送「繰り返しお伝えいたします。本日午後11時30分より、」

宣伝カー「明日未明にかけて、全国で大規模な」

放送「停電があります。皆様のご協力をよろしくお願いいたします」



オペレータ「敵シールド、第7装甲版を突破」

シンジ「…エネルギーシステムの見通しは?」

オペレータ「現在予定より3.2%遅れていますが、本日23時10分には、何とかできます」

シンジ「ポジトロンライフルは?」

作業員「技術開発部第三課の意地にかけても、後3時間で形にして見せますよ!」

シンジ「…みんなありがとう。それで…防御手段は」

レイ「盾で防ぐしかないわね」

ヒカリ「これが…盾?」

レイ「そう、SSTOのお下がり。二課の保証書付きよ?見た目はひどくても、もともと底部は超電磁コーティングされている機種だし、あの砲撃にも17秒はもつ」

シンジ「分かった。狙撃地点は?」

トウジ「目標との距離、地形、手頃な変電設備も考えると…やっぱりここやな」

シンジ「…うん…。これで理論上はいけるはずだ…」

シンジ「狙撃地点は二子山山頂。作戦開始時刻は明朝0時、以後、本作戦を、ヤシマ作戦と呼称します!」

トウジ「了解!」

シンジ(後は、パイロットの問題か…)



職員「初号機パイロットの意識が戻ったそうです。検査数値に問題なし」

シンジ「ありがとう。では、作戦は予定どおりに」

職員「了解」


レイ「…彼女、もう一度乗るかしら?」

シンジ「……」

ミサト「ん?あぁ…?リツコちゃん…?」

リツコ「明日、午前0時より発動される、ヤシマ作戦のスケジュールを伝えます」

リツコ「葛城、赤木の両パイロットは、本日1730、ケイジに集合」

リツコ「1800、初号機および零号機起動」

リツコ「1805、発進」

リツコ「同30、二子山仮設基地到着」

リツコ「以降は別命あるまで待機」

リツコ「明朝日付変更と同時に作戦行動開始」



リツコ「これ…新しいものよ」

リツコ「寝ぼけて、その格好で来ないでね」

ミサト「ん?…きゃっ!……」

リツコ「食事は?」

ミサト「…何も、食べたくないわ…」

リツコ「60分後に出発よ」

ミサト「…また、あれに乗らなきゃならないの…?」

リツコ「ええ」

ミサト「私は……嫌よ…リツコちゃんみたいに、強くなれない、逃げ出したい……」

リツコ「………」

ミサト「リツコちゃんは…!なぜ平気なの、暴走したんでしょう…!?前の実験で……。もう嫌…私は…もうあんな痛い思いは…!」

リツコ「…なら寝ていたら?」

ミサト「ね…寝ていたら、って…?」

リツコ「初号機には私が乗るわ…。綾波博士が初号機のパーソナルデータの書き換えの用意をしてる」

ミサト「レイさんが?」

リツコ「じゃあ、碇一尉と綾波博士がケイジで待っているから」

リツコ「さようなら」

ミサト「……」

日向「ずいぶん遅いな…。もう避難する時間だぞ?」

青葉「親父のデータをちょろまかして見たんだ。この時間に間違いない」

日向「…だが、出てこないぞ?」

青葉「ん?」

男子生徒「おおっ?」

日向「…山が、動いてる…!」

青葉「エヴァンゲリオンだ!」



男子生徒「おおっ!」

男子生徒「すっげーっ!」

男子生徒「ミサトちゃーん!」

男子生徒「頼んだぞー!」

男子生徒「好きだーっ!」

男子生徒「エヴァンゲリオ~ン!」

男子生徒「頑張れよー!」

ケンスケ「敵シールド、第17装甲板を突破!本部到達まで、後3時間55分!」

トウジ「四国および九州エリアの通電完了」

オペレータ「各冷却システムは試運転に入ってください」

レイ「精密機械だから、慎重にね」

ミサト「でも、こんなヘンテコな兵器、役に立つんですか?」

レイ「仕方ないわよ、間に合わせなんだから」

ミサト「…大丈夫ですよね」

レイ「理論上はね。でも、銃身や加速器がもつかどうかは、撃ってみないと分からないわ。こんな大出力で試射したこと、一度も無いから」

シンジ「本作戦における、各担当を伝達します」

シンジ「ミサトちゃん」

ミサト「はい」

シンジ「初号機で砲手を担当」

ミサト「はい」

シンジ「リツコちゃんは零号機で防御を担当して」

リツコ「はい」

レイ「これは、ミサトちゃんと初号機の方が、シンクロ率が高いからよ。今回はより精度の高いオペレーションが必要なの」

レイ「陽電子は地球の自転、磁場、重力の影響を受け、直進しません。その誤差を修正するのを、忘れないでね」

レイ「正確に、コア一点のみを貫くのよ」

ミサト「えっ、ど、どうやって…」

レイ「大丈夫、あなたはテキストどおりにやって、最後に真ん中のマークがそろったらスイッチを押せばいいの。後は機械がやってくれるわ」

レイ「それと、一度発射すると、冷却や再充填、ヒューズの交換などで、次に撃てるまで時間がかかるから」

ミサト「じゃあ、もし外れて敵が撃ち返してきたら…?」

レイ「…今は余計なことを考えないで。一撃で撃破することだけを考えて」

ミサト(大ピンチ、ってワケね…)


リツコ「…私は初号機を護ればいいのね」

レイ「そうよ」

リツコ「分かりました」


シンジ「…時間だ。2人とも、…無事を祈ってるよ」

ミサト・リツコ「はい」

ミサト「これで死ぬかもしれない…」

リツコ「なぜそう思うの?」

ミサト「……」

リツコ「あなたは死なないわ」

リツコ「私が守るもの」

ミサト「……」


明かりの消えた街。見下ろすミサト、リツコ


ミサト「…リツコちゃんはなぜこれに乗るの?」

リツコ「…これしか出来ることがないから」

ミサト「そんな…」

リツコ「そうよ。それに、恩もある…」

ミサト「…お父さんに?」

リツコ「みんなによ」

ミサト「やっぱり……強いのね、リツコちゃんは…」

リツコ「……」

リツコ「…ほかに何も無いだけよ」

ミサト「……!」

ミサト「ほかに何も無いって…」



リツコ「時間よ。行きましょう」


リツコ「じゃあ…さようなら」

時報「ただいまより、0時0分0秒をお知らせします」

トウジ「作戦、スタート!」


シンジ「ミサトちゃん、日本中のエネルギー…君に預けるよ」

シンジ「頑張って…!」


ミサト「はいっ!」


シンジ「第一次、接続開始!」

トウジ「第一から、第803管区まで、送電開始!」

オペレータ「電圧上昇中、加圧域へ!」

トウジ「全冷却システム、出力最大へ!」

オペレータ「温度安定、問題なし!」

オペレータ「陽電子流入、順調なり」

シンジ「第二次、接続!」

オペレータ「全加速器、運転開始!」

ヒカリ「強制収束器、作動!」

オペレータ「全電力、二子山増設変電所へ!第三次接続、問題なし!」

シンジ「最終安全装置、解除!」

トウジ「撃鉄起こせ!」

オペレータ「地球自転、および、重力の誤差修正、プラス0.0009。電圧、発射点まで、後0.2」


トウジ「第七次最終接続、全エネルギー、ポジトロンライフルへ!」

トウジ「8、7、6、5、」

ヒカリ「目標に高エネルギー反応!」

トウジ「4、」

レイ「早い…っ!」


トウジ「3、2、1!」

シンジ「発射!」

ミサト「ぅううううッ!」


レイ「あぁっ!」

シンジ「…まずいっ!」


ケンスケ「敵シールド、ジオフロントへ侵入!」

シンジ「第二射、急いで!」

トウジ「ヒューズ交換!再充填開始!」


オペレータ「銃身、冷却開始」

ヒカリ「目標に再び高エネルギー反応!」

シンジ「まずい…!」



ミサト「う…っ!」


シンジ「ミサトちゃん!」

ミサト「……はっ…!リツコちゃ…っ!」

リツコ「………っ!」



レイ「盾がもたない!」

シンジ「時間は!?」

トウジ「後10秒!」


ミサト「早く…」


ミサト「早く!」


第二射発射


シンジ「やった!」

ミサト「リツコちゃんッ!」


ハッチを抉じ開ける


ミサト「うぅ……ぐぅぅぅ…うぅぅぅぅ…っ!」

ミサト「……ちゃん、…リツコちゃん…!」

ミサト「リツコ……!大丈夫!?」

リツコ「……………」

ミサト「自分には…自分にはほかに何も無いなんて、そんなこと言うんじゃないわよ…!別れ際に、さよならなんて…っ、うっ…言うんじゃ、ないわよ…!」

リツコ「…泣いているの…?」

リツコ「……ごめんなさい、でも、私にはああするしか……」

ミサト「馬鹿……っ!」

ミサト「……無事でよかった……」ギュッ

リツコ「………」

リツコ「……」キュ…

六話分終わり

25話辺りか
気長に待っててくれ
2週間以内には終わらせる

(通話)

葛城「…また君に借りができたな」

アスカ「いーですよ。どうせ、返すつもりもないんでしょ?それと…あいつらが情報公開法をタテに迫っていた資料、ダミーも混ぜてあしらっといたから」

アスカ「政府は裏で法的整備を進めてるけど…近日中に頓挫の予定よ。で、どうするの?例の計画もこっちで手を打つ?」


葛城「いや、君の資料を見る限り、問題はない」

アスカ「そう。…なら、シナリオ通りに」

ミサト「…おはよう、ございます…」

シンジ「おはよう。よく眠れた?」ジュワッ

ミサト「ふわぁ…はい…」

シンジ「あはは…はい、半熟」

ミサト「ありがとうございます……あ」

シンジ「うん?」

ミサト「す…すいませ…今日の食事当番…!」

シンジ「ああ。いやいや、いいよ。僕も勘違いして起きてきちゃったんだ」

ミサト「………シンジさんって、どうして独身なんですか…?」

シンジ「ぶっ、…どうしたの、急に…」

ミサト「いえ、だって。とってもいい人なのに」

シンジ「そんな…買いかぶりすぎだよ」

ミサト「そんなことないです!ご飯だって美味しいし!」

シンジ「あはは…お粗末さま」

ミサト「今日…ほんとに学校くるんですか?」

ミサト「うん、進路相談だからね…あ…やっぱり嫌かな?でも綾波は今日…」

ミサト「ち、違います!…仕事で、忙しいのに…」

シンジ「なんだ。そんなことか。気にしなくてもいいよ、これも仕事のうちだから」

ミサト「仕事…ですか…?」


「ピンポーン」


シンジ「はい?…ああ、わざわざありがとう。うん、少し待っててね」

シンジ「ミサトちゃん」

ミサト「わ、わかってます…!」


シンジ「ふふ。気をつけてね?」

ミサト「いってきます!」

日向・青葉「あっ…おはよ~葛城さん!」


ミサト「…!(ちょっと!声、大きいから!)」シーッ


青葉「…ん?静かにしろってさ」

日向「しまったな…姿が見えたから、つい…」


日向「あ」

シンジ「ミサトちゃんをよろしくね~」フリフリ

青葉「は~い!」


ミサト「はっ、早く行きましょ!」




シンジ「…やっぱりモテるんだろうな…ミサトちゃん…可愛いし。変な奴に付きまとわれなきゃいいけど……。まぁ、あの二人とは仲いいみたいだし…安全かな?」

電話「はい、もしもし」

シンジ「今家を出たので、後のガードお願いします」

青葉「お、シンジさんだ」


女子「誰あれ!大学生?」

女子「え!?葛城さんの保護者!?」

女子「どこどこ!?」

女子「なんか、さわやか美青年、って感じ!」

女子「キャー!こっちに手を振ったわよ!」



青葉「…女子はああいうのがいいのか…」

日向「どうだろうな。年上の男が珍しいんだろ?」

青葉「お前…やめとけよ」

日向「何が」

青葉「男の嫉妬は見苦しいぞ?」

日向「…嫉妬なんてしてない」

日向「…でもまぁ」

青葉「うん?」

日向「あの歳でネルフの作戦部長ってのは…確かに凄いよな」

青葉「だな」

ミサト「そうなの…?」

青葉「んん?あぁ…まぁ…」


青葉「…マコト、やっぱりシンジさんは敵じゃないんじゃないのか…?」ボソッ

日向「そう断じるのはまだ早いさ…」

ミサト「…? (なにコソコソ喋ってるんだろう…)」

女子「え!?料理に、掃除洗濯まで得意なの!?」

女子「なにそれ~!完璧じゃん!」

女子「なんで独身なんだろ~。普通ほっとかないよね~?」

ミサト「…うん。わたしもそう思う」



日向・青葉「!!!」


日向「ほらな…」

ヒカリ「初号機、冷却値をクリア、作業はセカンドステージに移行してください」

ミサト(また乗ってる……でも、最初よりは慣れたかな…)

ミサト(…エバー。ネルフの秘密兵器、世界再建の要。……エバーって何なのかしら。なぜ動いてるのか…乗っていても分からない…血の匂いがするエントリープラグ。なのに、どうして落ち着くんだろう)

ミサト(考えても無駄か……科学の結晶だもんね…)


レイ「零号機の胸部生体部品はどう?」

ヒカリ「大破だったから、新作するけど…追加予算の枠、ギリギリね」

レイ「…ドイツから弐号機が届いて、少しは楽になるといいけど」

トウジ「逆かも分からんなァ。なんせ地上でやっとる使徒の処理も、タダや無いんやし」

シンジ「…本当、どうにかしてほしいよ…。人類の命運がかかってるのに…」

レイ「…仕方ないわ。人はエヴァのみで生きているわけではない。…生き残った人たちが生きていくにはお金がかかるのよ」

シンジ「予算、か。じゃあ司令はまた会議?」

レイ「ええ、今は機上の人よ」

ヒカリ「司令が留守だと、ここも静かね…」

男「失礼。便乗ついでに、ここ、よろしいですか?」

男「サンプル回収の修正予算、あっさり通りましたね」

葛城「委員会も自分が生き残ることを最優先に考えている。そのための金は惜しまないだろう…」

男「使徒はもう現れない、と言うのが彼らの論拠でしたからね」

男「ああ、もう一つ朗報です。米国を除く全ての理事国がエヴァ六号機の予算を承認しました」

男「まあ、米国も時間の問題でしょう。失業者アレルギーですしね、あの国」

葛城「君の国は?」

男「八号機から建造に参加します。第二次整備計画は、まだ生きてますから」

男「ただ、パイロットがまだ見つかっていないという問題はありますが」

葛城「…使徒は再び現れた。われわれの道は彼らを倒すしかないだろう」

男「私も、セカンドインパクトの二の舞は、ごめんですからね」

ミサト「…じゃあ、南極大陸が蒸発した、セカンドインパクトって…」

レイ「そう。歴史の教科書では大質量隕石の落下による大惨事となっているけど……事実は往々にして隠蔽されるものなのよ」

レイ「15年前、人類は最初の「使徒」と呼称する人型の物体を南極で発見した」

レイ「でもその調査中に原因不明の大爆発を起こした…それがセカンドインパクトの正体」

ミサト「じゃあ、私たちのやっていることは…」

レイ「予想されうるサードインパクトを未然に防ぐ、そのためのネルフと、エヴァンゲリオンなのよ」


レイ「ところで例の件……明日、予定通りやるそうよ」

シンジ「…分かった」

ペンペン「クワァッ!」

シンジ「おはよう」


ミサト「お、おはようございます」

シンジ「…今日はちょっと仕事で遅くなるから、先に食べちゃってていいからね」

ミサト「あっ、はい…」


シンジ「じゃあ、戸締りよろしくね」





シンジ「ここがかつての大都会か…なんだか寂しいところだね…」


レイ「着いたわ」


シンジ「何もこんな所でやらなくってもいいのに。…それで、その計画、戦自は?」

レイ「今回は介入してこないそうよ」

シンジ「…道理で自由がきくんだ…」

時田「本日はご多忙のところ、わが日本重化学工業共同体の実演会にお越しいただき、まことにありがとうございます」

時田「皆様には後程、管制室の方にて、試運転をご覧いただきますが、ご質問のある方はこの場にてどうぞ」

レイ「…はい」

時田「これは、ご高名な綾波レイ博士、お越しいただき、光栄のいたりです」

レイ「…質問をよろしいでしょうか?」

時田「ええ、ご遠慮なくどうぞ」

レイ「先ほどのご説明ですと、内燃機関を内蔵とありますが」

時田「ええ、本機の大きな特長です。連続150日間の作戦行動が保証されております」

レイ「しかし、格闘戦を前提とした陸戦兵器に、リアクターを内蔵することは、安全性の点から見てもリスクが大きすぎると思われます」

時田「5分も動かない決戦兵器よりは、役に立つと思いますよ」

レイ「……遠隔操縦では緊急時の対処に問題を残します」

時田「パイロットに負担をかけ、精神汚染を起こすよりは、より人道的と考えます」

シンジ「やめてよ…張り合わなくてもいいよ、綾波…」

レイ「…人為的制御の問題もあります」

時田「制御不能に陥り、暴走を許す危険極まりない兵器よりは、安全だと思いますがねぇ」

時田「制御できない兵器など、まったくのナンセンスです。ヒステリーを起こした女性と同じですよ、手におえません」

客「ハッハッハッハッハッ」

レイ「そのためのパイロットとテクノロジーです」

時田「まさか。科学と人の心があの化け物を押さえるとでも?本気ですか?」

レイ「もちろんです」

時田「人の心などと言う曖昧なものに頼っているから、ネルフは先のような暴走を許すんですよ」

時田「その結果、国連は莫大な追加予算を迫られ、某国では2万人を超える餓死者を出そうとしているんです」

時田「その上、あれほど重要な事件に関わらず、未だにその原因が不明とは。せめて、責任者としての責務は全うしてほしいもんですな」

時田「良かったですねえ。ネルフが超法規的に保護されていて。あなたがたはその責任を取らずに済みますから」

レイ「…なんとおっしゃられようと、ネルフの主力兵器以外、あの敵性体は倒せません」

時田「A.T.フィールドですか?それも今では時間の問題に過ぎません。いつまでもネルフの時代ではありませんよ」

客「ハッハッハッハッハッ」

シンジ「…大丈夫?綾波…。…あの人も、あそこまで言わなくてもいいのにね」

レイ「…大丈夫よ、問題ない」

レイ「自分を自慢し、誉めてもらいたがっている…健全な子どもよ」


シンジ「…でも、なんであの人たちがA.T.フィールドのことまで…」

レイ「極秘情報がだだ漏れね」

シンジ「諜報部に呼びかけておかないとね…」

時田「これより、JAの起動テストを始めます。何ら危険は伴いません。そちらの窓から安心してご覧ください」

オペレータ「起動準備よし」

時田「テスト開始!」


オペレータ「全動力、開放!」

オペレータ「圧力、正常」

オペレータ「冷却器の循環、異常無し」

オペレータ「制御棒、全開へ」

オペレータ「動力、臨界点を突破」

オペレータ「出力、問題なし」

時田「歩行開始!」


オペレータ「歩行、前進微速、右足、前へ!」

オペレータ「了解、歩行、前進微速、右足、前へ!」

客「おお!」

オペレータ「バランス正常」

オペレータ「動力、異常無し」

オペレータ「了解、引き続き、左足、前へ!」

オペレータ「よーそろ!」


シンジ「すごいね。ちゃんと歩いてるよ。確かに自慢するだけのことは…」


レイ「……」

時田「どうした?」

オペレータ「変です、リアクターの内圧が上昇していきます!」

オペレータ「一次冷却水の温度も上昇中!」

時田「バルブ開放、減速材を注入!」

オペレータ「だめです、ポンプの出力が上がりません!」

時田「いかん、動力閉鎖、緊急停止!」

オペレータ「停止信号、発進を確認!」

オペレータ「受信されず!」

オペレータ「無線回路も、不通です!」

オペレータ「制御不能!」

時田「そんなバカな!」

客「うわぁぁぁぁ!」

シンジ「ごほっ、ごほっ、ごほっ、ごほっ、…まずい、あっちには…!」

オペレータ「加圧器に異常発生!」

オペレータ「制御棒、作動しません!」

オペレータ「このままでは、炉心融解の危険もあります!」

時田「信じられん…JAにはあらゆるミスを想定し、全てに対処すべくプログラムが組まれているのに…このような事態はありえないはずだ…」

シンジ「…時田さん、落ち着いてください。炉心融解の危機が迫っているんです…!」

時田「こうなっては、自然に停止するのを待つしか方法は…」

シンジ「…自動停止の確率は?」

オペレータ「0.00002%。まさに奇跡です」

シンジ「…そんなものを待つわけにはいきません。教えてください…停止手段を!」

時田「方法は全て試した!」

シンジ「……まだすべてを白紙に戻す、最後の手段が残っているはずです。そのパスワードを教えてください」

時田「全プログラムのデリートは最高機密。私の管轄外だ!口外の権限はない!」

シンジ「だったら命令を貰ってください!」

シンジ「人の命がかかってるんです!早く!!!」

時田「あ、私だ。第2東京の万田さんを頼む。そう、内務省長官だ」

万田「ああ、その件は矢杉君に任せてある。彼に聞いてくれ」

矢杉「そういう重要な決定事項は口頭ではねぇ。正式に書簡で廻してもらえる?」

時田「では、吉沢さんの許可を取ればよろしいんですね?ええ、ウィッツ氏の承諾は得ておりますから!はい、では!」


シンジ「くそ…たらい回しか…」


時田「今から命令書が届く。作業は正式なものだ」

シンジ「そんな、間に合いませんよ!爆発してからじゃ、何もかも遅い!」


オペレータ「ジェットアーロンは厚木方面に向かい、進行中」

シンジ「時間が無いんです。…これより先は、僕の独断で行動します」

シンジ「もしもしトウジ?」

シンジ「厚木にナシつけといたから…うん、ミサトちゃんと初号機をF装備でこっちに。うん。緊急事態なんだ」

レイ「無駄よ…碇一尉。どうやって止めるつもりなの?」

シンジ「人間の手で、直接」




時田「本気ですか?」

シンジ「はい」

時田「しかし内部はすでに汚染物質が充満している!危険過ぎる!」

シンジ「うまく行けば、みんな助かります」

オペレータ「ここの指揮信号が切れると、ハッチが手動で開きますから、」

オペレータ「バックパックから進入できます」

時田「…………」

時田「希望…プログラム消去の、パスワードだ」


シンジ「……ありがとうございます」

シンジ「目標はJA、5分以内に炉心融解の危険があります。ですから、目標をこれ以上人口密集地に近づけるわけにはいきません」

シンジ「トウジ」

トウジ「なんや」

シンジ「エヴァを切り離した後は速やかに離脱、安全高度まで上昇して」

トウジ「…了解」

シンジ「ミサトちゃん」

ミサト「はい」

シンジ「目標と並走し、僕を背後部に取り付けて。以後は可能な限り目標の移動を塞き止めてね」

ミサト「えっ…乗るんですか?シンジさんが?」

シンジ「そうだよ」

ミサト「そんな…無茶です!」

シンジ「分かってる…だけど他に方法がないんだ」

ミサト「…でも!危なすぎます!」

シンジ「大丈夫、エヴァなら万が一の直撃にも耐えられるよ」

ミサト「違います!私じゃなくて、シンジさんが!!!」

シンジ「……やれることはやっておきたいんだ。後悔は、したくないから」

トウジ「目標を肉眼で確認!」

シンジ「…さぁ、行こう」

トウジ「エヴァ、投下位置!」

シンジ「ドッキングアウト!」

ミサト「了解!」


ミサト「追いついた!」

シンジ「後4分も無い…このまま乗り付けて!」

シンジ「ミサトちゃん!乗りつけるんだ!」


シンジ「うっ、……っ!」

ミサト「シンジさん!」


ミサト「気をつけて!」


シンジ「凄い熱だ…長くはもたない…!」


ミサト「止まれ!こンのぉーッ!」

JAを押さえつける初号機

ミサト「…シンジさん、急いで!」



シンジ「ここか……」

シンジ「…エラー?何だこれ…」

シンジ「間違いない……プログラムが変えてあるんだ…」



オペレータ「動力炉、臨界点まで後0.2!」

オペレータ「制御棒、作動しません!」


シンジ「…後には戻れない…やるしかない」


シンジ「ぐぅぅぅぅ!」


ミサト「シンジさん!逃げてっ!」

シンジ「…うぅ、動けーっ!このぉーっ!」


ミサト「シンジさん…!」


シンジ「ぐぅっ!」

オペレータ「臨界まで、後0.1!」

オペレータ「だめです、爆発します!」


時田「駄目か…」


ミサト「シンジさん!」

シンジ「ぐぅ、ぅう……っ!」

オペレータ「やった!」

オペレータ「内圧ダウン!」

オペレータ「すべて正常値!」

オペレータ「助かったぞ!」

オペレータ「やった!やった!やった!」


レイ「……無茶して…」

ミサト「シンジさん、大丈夫ですか、シンジさん!」

シンジ「…はは、うん。なんとか…」

ミサト「良かった、無事なんですね!良かった、本当に良かった…!すごいです、シンジさん。本当に奇跡を起こすなんて…!」

シンジ「うん……ありがとう、皆のおかげだよ」

シンジ(違う…奇跡は用意されていたんだ。誰かの手によって……)




レイ「……初号機の回収は無事終了しました。汚染の心配はありません。…碇一尉の行動以外は、全てシナリオどおりです」

葛城「……そうか」

シンジ「そろそろ来るころだね」


ミサト「んぐ、もぐ、んぐ、んぐ、ごほっ」

シンジ「はは…落ち着いて食べなよ」



日向・青葉「か~つら~ぎさ~ん!」


シンジ「あ…ごめんね。ミサトちゃん、今日寝坊しちゃって…ちょっと待っててくれるかな?」

青葉「はは。ゆっくりでいいって伝えてください」

日向「始業までまだ時間がありますから」

シンジ「うん…ありがとう」



ミサト「いってきます…!」

シンジ「いってらっしゃい」

日向「…いいよなぁ、シンジさんは」

ミサト「? どうして?」

青葉「葛城と暮らせてってことだろ?」

日向「そうじゃない!」

ミサト「で…でも、迷惑掛けてばっかりよ?私、シンジさんに」

日向「………」

ミサト「ず…ズボラだし、がさつだし…昨日だって食事当番忘れて……」

青葉「そういうとこだろ」

ミサト「えっ?」

青葉「迷惑掛けて、頼って、甘えて…本当の姿を見せられる」

ミサト「…!」

青葉「家族じゃないか?そういうのが」



七話分終わり

葛城「そうだ。その問題はすでに委員会に話は付けてある。荷物は昨日佐世保を出港し、今は太平洋上だ」





青葉「わっはっ…!こいつは凄いな…!」

日向「よせよ、子どもみたいに」

青葉「いやいや、子どもだろ。お前こそもっとはしゃげよ」


日向「なんだか…すみません。関係ない俺たちまで連れてきてもらって」

シンジ「あはは。賑やかなほうがいいかなと思って」

ミサト「どうして私たちを?」

シンジ「毎日同じ景色だと、息が詰まるだろうから。ここなら…気分転換できるかと思って。…船、苦手だった…?」

ミサト「い、いえっ!誘ってもらえて…その、嬉しいです…」

シンジ「よかった」

日向「……」



シンジ「ミサトちゃん、そんな帽子持ってたんだ」

ミサト「あ…はい…へ、変ですか…?」

シンジ「そんなこと。すごく似合ってるよ」

ミサト「あ…ありがとうございます…!」カァ



日向「………」

青葉「お前、顔怖いぞ」

ミサト「で…どこ行くんですか…」

シンジ「あはは…流石にただのクルージング、ってわけにはいかないかな…」

青葉「おお…あれ空母か?でかいなー」

日向「できるのか…?気分転換…」


青葉「葛城様様だな…普通こんなとこ来れないぞ」

ミサト「でっか…」

シンジ「…こんな古いのによく動いてるなぁ…」

青葉「すげー…壮大だ…今なら良い詩が書けそうな気がする…」



OTR艦長「ハッ…、いい気なもんだ。オモチャのソケットを運んできよったぞ。ガキの遣いが!」

青葉「見渡す限り戦艦だな…あれいくらするんだろ」

日向「関係ないさ、俺たちには」

青葉「一生遊んで暮らせるんだろうなぁ…」

日向「……」


ミサト「あっ…帽子がっ」


加持「……ん?」



加持「これ、君のかい?」

ミサト「あ…どうも」

シンジ「あっ…加持くん!」

加持「やあ、シンジさん。しばらく」


シンジ「ホントに…久し振りだね。…また背、伸びたんじゃない?抜かれるのも時間の問題かな…」

加持「まぁね。こちとら成長期さ」

シンジ「ああ…紹介するね。彼はエヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、セカンドチルドレンの…」


加持「加持、リョウジだ……よろしく。サードのお嬢さん」チュッ

ミサト「!!!」


日向「なっ、何して…!」

加持「…あいさつさ。こっちじゃやらないのか?」

日向「……!」

青葉「…こりゃ強敵だ…」

加持「…いやはや。女の子だとは聞いていたが、まさかこんなに可愛いとは。…で、そっちの彼らは?ファンクラブの子たちかい?」

日向「な……」ワナワナ

青葉「よせって…半分本当だろ…」


シンジ「もう。違うよ。ミサトちゃんの友達だよ」

加持「…なるほど、「友達」ね。そりゃ羨ましい」

日向「……」ピキピキ

艦長「おやおや、ボーイスカウトの引率かと思っていたが、それはどうやらこちらの勘違いだったようだな。」

シンジ「……ご理解いただけて幸いです、艦長」

艦長「いやいや、私の方こそ、久しぶりに子供たちのお守りができて、幸せだよ」

シンジ「このたびはエヴァ弐号機の輸送援助、ありがとうございます」

シンジ「こちらが非常用電源ソケットの仕様書です」

艦長「ハッ、大体この海の上であの人形を動かす要請なんぞ、聞いちゃおらん」

シンジ「…万一の事態に対する備え、と…理解していただけないでしょうか…」

艦長「その万一の事態に備えて、われわれ太平洋艦隊が護衛しておる。いつから国連軍は宅配屋に転職したのかな?」

OTR副長「某組織が結成された後だと、記憶しておりますが」

艦長「オモチャ一つ運ぶのにたいそうな護衛だよ。太平洋艦隊勢揃いだからな」

シンジ「ですが…その…エヴァの重要度を考えると、足りないくらいで…」

シンジ「…あの、この書類にサインを…」

艦長「まだだ!エヴァ弐号機および同操縦者は、ドイツの第3支部より本艦隊が預かっている。君らの勝手は許さん!」

シンジ「…では、いつ引き渡しを…?」

副長「新横須賀に陸揚げしてからになります」

艦長「海の上は、われわれの管轄だ。黙って従ってもらおう」

シンジ「う…分かりました。ですが…有事の際は、われわれネルフの指揮権が…その、最優先であることを…」


青葉「うーんなんだか…」


ミサト「カッコ悪い…」

アスカ「相変わらず、鈍っ臭いわね」

加持「あ、アスカ先輩」


シンジ「……!!!」


艦長「惣流君!君をブリッジに招待した覚えはないぞ!」

アスカ「入ったらどうだって言うのよ?子どもと年寄りがいるだけじゃない」

艦長「なんだとっ!!!」


シンジ「でっでは!!!これにて失礼します。新横須賀まで輸送、よろしくお願いします…っ!」


日向「…これが気分転換…?」


青葉(すごい美人だ…)

艦長「チッ、子供が世界を救うというのか?」

副長「時代が変わったのでしょう。議会もあのロボットに期待していると聞いてます」

艦長「あんなオモチャにか!?バカどもめ!そんな金があるなら、こっちに廻せばいいんだ!」





シンジ「……なんでアスカがここにいるんだよ…!」

アスカ「あら、悪い?加持の随伴よ、ドイツから出張」

シンジ「…それにしたって、なんでアスカが…」

アスカ「あーもうゴチャゴチャうっさい!」

シンジ「うわっ!…やめてよ、狭いんだから…!」

アナウンス「第3小隊は予定どおり発艦、到着の第7小隊は、第2デッキに上がってください」


アスカ「ちょっと。バカシンジ」

シンジ「その呼び方やめてよ…」

アスカ「今、付き合ってる奴、いるの?」

シンジ「な…っ、そんなの、アスカには関係ないだろ…!」

アスカ「ふーん?偉くなったもんねぇ…どうせいないくせに」

シンジ「あ…アスカだって…その性格直さないと、次は無理だと思うよ?」

アスカ「ハア?言ったわね…私が奪ってやらなきゃ、ファーストキスもまだだったくせにっ!!!」


ミサト・日向・青葉「…えぇ~っ!!!」


シンジ「なっ、なっ、なっ、何言ってるんだよ!」

アスカ「…ふん!慌てちゃって馬鹿みたい。何よ、キスくらいで」

シンジ「やっ、やめてよ、もう…!子どもたちの前で…!」

アスカ「子ども…ああ、あんたね?葛城ミサトって」

ミサト「えっ、ええ…あの、どうして私の名前を?」

アスカ「そりゃあ知ってるわよ。この世界じゃ、アンタは有名だもの。何の訓練もなしに、エヴァを実戦で動かしたサードチルドレン」

ミサト「いや、そんな…偶然です…」

アスカ「偶然なんてない。アンタの才能よ。…そんなことくらい自覚させときなさいよね、バカシンジ!」



アスカ「じゃ、また後で」

ミサト「はい…」

シンジ「はぁぁあ……こんなことなら…綾波に…」




アスカ「葛城ミサト、か……あんたはどう見る?」

加持「……良い子だね。口説き甲斐がある」

アスカ「ばーか。余裕ぶっこいてんじゃないの。いきなりの実戦でシンクロ率40パー出してんのよ?」

加持「へぇ…そりゃ凄いな」

青葉「しかし高圧的な艦長でしたね」

シンジ「…きっと、プライドが高い人なんだよ。皮肉くらいで済むなら…まぁ良しとするよ」

ミサト「何ていうか…はっきり物を言う人ですね、アスカさんって」

シンジ「…はっきり言いすぎだよ、まったく、昔っから…」


青葉「せっかく綺麗なのにな」

日向「あんなに口が悪くっちゃな…」



加持「葛城!」


ミサト「えっ」


加持「…ちょっといいかな?」

ミサト「…赤いんだ、弐号機って。知らなかった…」

加持「…珍しいかい?俺には馴染みの色さ…」


加持「…初めての実戦で、シンクロ率40%を叩きだしたんだって?しかも訓練なしで」

ミサト「や…それは、…あの時は、必死だったから…」

加持「誰にでも出来ることじゃない…誇っていいことさ」


加持「…俺も誇りに思ってる…。初めて作られた実戦用のエヴァンゲリオン、そのパイロットである自分…」


ミサト「…あの…なんでここに?」

加持「君に見せたかったのさ。俺と、その相棒をね」

爆音

ミサト「なっ、なに!?」

加持「水中衝撃波…!」

加持「近いな…」


ミサト「あれ…!」

ミサト「まさか…使徒!?」

加持「…あれが…!」


ミサト「どっ、どうしよう、シンジさんのところに戻らなくっちゃ…!」


加持「…ついてるぞ…!」

アナウンス「各艦、艦隊距離に注意の上、回避運動!」

副長「状況報告はどうした!」

無線「シンベリン沈黙、タイタス・アンドロニカス、目標、確認できません!」

艦長「くそぉ、何が起こっているんだ」


シンジ「…!おそらく、使徒です。エヴァの出動許可を!」

艦長「戦闘中だ!見学者の立ち入りは許可しておらんぞ!」

シンジ「…そんな!他に敵なんて…!」


艦長「全艦任意に迎撃!」


シンジ「無理です、使徒相手じゃ…!」



加持「この程度じゃ、A.T.フィールドは破れない、か」



シンジ「でも…なぜ使徒がここに…まさか、弐号機?」

ミサト「ねぇ、どこ行くの!?」

加持「エヴァの所にね。…ここにいてくれ。すぐ戻る」

ミサト「えっ、ちょっと…」



ミサト「…ねぇ?何して…」

加持「おっと。今ちょっと障りがあるんだ。失礼」

ミサト「ごっ、ごごごごめん!」

加持「かまわないさ。…男性用で悪いが、君もこれを」バサッ

ミサト「えっ…」


加持「俺は向こうに行ってる…終わったら来てくれ」



加持「…行ってくるよ…みんな」

艦長「なぜ沈まん!」

青葉「やっぱエヴァじゃないと、太刀打ちできないな」

艦長・副長「ぐっ!」




ミサト「ねぇ、エバーに乗るの?」

加持「そうさ。…弐号機で敵を倒すんだ」

ミサト「でも…シンジさんの許可もなしに?」

加持「そんなものは、勝ってから貰えば良い」


加持「…なぁに。どの道エヴァには出撃命令が下る。使徒はエヴァでなければ倒せないからな。それなら早いほうがいい。軍のためにも…俺のためにもね」

ミサト「あなたのため?」

加持「見せ場が増えるだろ?」

シンジ「変だな…まるで何かを探しているみたいだ…」


(通話)

アスカ「…こんな所で使徒襲来なんて、話が違うわよ?」

葛城「そのための弐号機だ……最悪の場合、君だけでも脱出しろ」

アスカ「…了解」





加持「L.C.L. Füllung, Anfang der Bewegung Anfang des Nerven anschlusses.Ausulösung von Rinkskleidung.Synchro-Start.」

ミサト「えっ…? 英語……?」

加持「あ…すまない。ついいつもの癖で…ごほん。思考言語切り替え、日本語をベーシックに!」

加持「…動け、と念じてくれるかな。…一緒に使徒を倒そう」


ミサト「……」コクン


加持「…エヴァンゲリオン弐号機、起動!」

無線「オセロウより入電、エヴァ弐号機起動中!」

艦長「なんだと!?」

シンジ「よしっ!」

艦長「いかん、起動中止だ、元に戻せ!」

シンジ「なっ…何言ってるんですか!相手は使徒ですよ!?」

艦長「黙れ!エヴァおよびパイロットは、われわれの管轄下だ!勝手は許さん!」

シンジ「…っ、かまわない、加持くん!発進だ!」

艦長「おい!」


副長「しかし、本気ですか?弐号機はB装備のままです」


艦長・シンジ「えっ!?」

ミサト「…海に落ちたらまずいんじゃない?」

加持「落ちないようにやるさ」


シンジ「え…ミサトちゃんも乗ってるの!?」


ミサト「す…すいません!必ず勝ちます…!」


艦長「子供が2人…!」


シンジ「これは…いや…でも…」

シンジ「二人とも、出して!」

ミサト「……来たっ!」

加持「行きます!」


加持「どこ行った?」

ミサト「あっち!」


ミサト「後58秒しかない!」

加持「オーケー、十分だ。…シンジさん!甲板に非常用外部電源の用意を!頼む!」


シンジ「分かった!」


艦長「何をするつもりだ!」


加持「さぁ…跳ぶぞっ」


ミサト「跳ぶ?」

甲板作業員「予備電源出ました!」

甲板作業員「リアクターと直結完了!」

甲板作業員「飛行甲板待避!」

甲板作業員「エヴァ着艦準備よし!」

副長「総員、耐ショック姿勢!」


艦長「でたらめだ!」


加持「エヴァ弐号機、着艦します!」


青葉「うわぁ、もったいない…」


アナウンス「目標、本艦に急速接近中!」


ミサト「来るわ…!左舷9時方向!」

加持「外部電源に切り替え!」

加持「…切り替え終了!」

ミサト「でも、武装が…!」

加持「プログナイフがある」



加持「はは、近づくとデカいな」

ミサト「どうするの!?」


加持「受け止める…!」



艦長「どうするつもりだ!?」


シンジ「…使徒を倒すには、近接戦闘がベストです」


シンジ「…止めたっ!」


艦長「冗談じゃない、飛行甲板がめちゃめちゃじゃないか!」

艦長「……落ちたじゃないか!」


シンジ「…加持くん!B型装備じゃ水中戦闘は無理だ!」


加持「…やってみるさ。フォローよろしく!」


青葉「はぁぁぁぁ、もったいなぁい…」


シンジ「ケーブルの長さは!?」

副長「残り、千二百!」

艦長「どうするんだね!?」

シンジ「何とかします…!」

ミサト「何とかしなくちゃ…」

シンジ「二人とも!ケーブルがなくなるから衝撃に備えて!」

加持「! まずいっ」


アナウンス「エヴァ、目標を喪失!」

青葉「まさかまた機会が巡ってくるとはなぁ…」




アスカ「おーいバカシンジぃー!」

シンジ「あっアスカ!?」

アスカ「私、先に抜けるから。後はちゃんとやりなさいよ~!」

シンジ「なっ…なんだよそれ…!」

アスカ「急ぎの届け物があんのよ!…さっ、出してちょうだい」


日向「…逃げた…」


アナウンス「目標、再びエヴァに接近中!」

ミサト「来た!」


加持「さぁ来い…今度こそ…!」

停止する弐号機

加持「? おっと…やっぱりマズかったか…」

ミサト「ど!どうしよう…!」

加持「来るに任せる…しかないだろ?」

ミサト「そんな…!何か考えがあるんじゃ…!」

加持「生憎と、ね。…大丈夫、エヴァの装甲はそんなにヤワじゃない…」

ミサト「……」

加持「はずだ…」


ミサト「…来たっ!」

加持「口っ!?」

加持・ミサト「うわぁあああっ!」

アナウンス「エヴァ弐号機、目標体内に侵入!」


青葉「それって、食われたってことじゃないのか!?」

日向「なっ、だ、大丈夫なんですか!?」

シンジ「ミサトちゃん!加持くん!!」


ミサト「やば…使徒に食べられちゃったわよ!?私たち」

加持「そのようだ…さてどうするか…」

ミサト「…何とか、離れないと…!」

加持「まずいな。面子的にも」

加持「このままじゃ餌になるために来たようなもんだ」


ミサト「餌……」

シンジ「加持くん!ミサトちゃん!聞こえる!?」

ミサト「!シンジさん!聞こえます、私たち…!」

シンジ「分かってる。今は落ち着いて、こちらから何か作戦を…」

ミサト「あの!使徒を…釣り上げることって出来ませんか!?」


シンジ・加持「使徒を」

青葉・日向「釣り上げる???」

シンジ「なるほど…釣りか…」

青葉「よく思いついたもんだな、敵の腹の中で」

ミサト「加持くんが…餌って言ったのを聞いて…」


シンジ「…確かに、それならエヴァが動けなくても…」

日向「それで、使徒を引き上げた後は!?」

シンジ「それはこちらでなんとかする。…ミサトちゃん、加持くん!」

シンジ「ミサトちゃんの案を使う。こちらの状況を整えるから、それまで…なんとか持ちこたえて!」

ミサト・加持「はい!」




シンジ「艦長」

艦長「なんだ」

シンジ「ご協力をお願いします」

艦長「生き残った戦艦2隻による、ゼロ距離射撃!?」

シンジ「そうです。アンビリカルケーブルの軸線上に無人の戦艦2隻を自沈させ、罠をはります」

シンジ「その間に、エヴァ弐号機が目標の口を開口、そこへ全艦突入し、艦首主砲塔の直接砲撃の後、さらに自爆、目標を撃破します」

艦長「そんな無茶な!」

シンジ「無茶かもしれませんが…無理ではないと思います」


艦長「……分かった」




アナウンス「総員退艦、繰り返す、総員退艦!各フリゲートは、漂流者の救助を急げ!」

艦長「しかし、エヴァはどうする?」

シンジ「心配ありません。あの2人なら…」

加持「驚いたな。一応俺の弐号機なんだが…」


シンジ「2人とも、用意はいい?合図を送るから、それまでに使徒の口をこじ開けて」

加持「…できなきゃ、一緒にドカンってわけか…」

シンジ「決して無理はしないで。開口が不十分な場合、砲撃は出来ない。でも…その中にいることも危険なんだ。なるべくなら…一発で仕留めたい」


ミサト「やってみます…!」


シンジ「ありがとう…!頼んだよ」

アナウンス「全艦、キングス弁を抜きました。Z地点に対し沈降開始」

シンジ「了解、ケーブル、リバース!」

アナウンス「エヴァ、浮上開始!接触まで後70!」


加持「…これは、ヤバいことになってきたな…!」

ミサト「…早く口をこじ開けないと、私たち…!」


アナウンス「接触まで後60!」

シンジ「使徒の口は!?」

艦長「まだ開かん!」


アナウンス「戦艦2隻、目標に対し沈降中!」

アナウンス「エヴァ、浮上中!接触まで後50!」


ミサト「…開かない!」


加持「くっ…」

アナウンス「目標はテンペストの艦底を通過!」

シンジ「限界か……!」


加持「美少女と心中も悪くないが…まだ命は惜しいな」

ミサト「な…変なこと考えないでよ!」

加持「とにかく、意識を集中するんだ。この口を開くことだけに!」

ミサト「分かってるわよ…!」


アナウンス「接触まで後20!」


アナウンス「接触まで後15!」


ミサト・加持「開け、開け、開け、開け…っ!」




シンジ「撃てッ!!」

レイ「…よく無事だったわね…」

シンジ「ごめん…」

レイ「責めてるんじゃないわ…はい、これ」ペラッ

シンジ「…?」

レイ「その時の数値よ」

シンジ「! これって…」

レイ「ええ」



青葉「おおぉ…ペアルック…」

日向「……」



レイ「シンクロ値の記録更新ね」

シンジ「…でもたった7秒間か…火事場のバカ力ってやつかな」

加持「あれ、アスカ先輩は…?」

シンジ「…先に帰ったよ…!ほんとに…信じられないよ…!」

アスカ「まったく…こんなに疲れる船旅は初めてよ…。原因はこれでしょ?」

アスカ「…ここまでの復元には成功したわ…。硬化ベークライトで固めてるけど、間違いなく生きてる」

アスカ「…人類補完計画の要ね」


葛城「そうだ。最初の人間…アダムだよ」






日向「…ほんと、キザったらしくて、嫌な奴だったよ」

青葉「ま、そうカッカするなよ。もう会うこともないんだし…」

日向「俺たちは、だろ!…それがまた不愉快なんだよ…!奴はネルフで…」

日向「! なっ…!?」


加持「どもっ」

加持「ドイツから日本に越してきました、加持リョウジです。よろしくっ」

八話分終わり

続きは土曜

山寺ボイスの中学生か

女子生徒「ねぇ、見た見た!?」

女子「見た!すっごいイケメン!」

女子「何が?」

女子「あんた知らないの?転校生よ!」

女子「2年A組に転校してきたんだって!先週!」

女子「かっこいいわよねぇ」

女子「加持リョウジくん、っていうんだって」

女子「あたし声かけられちゃった!」

女子「なんか大人っぽいしぃ…やっぱり外国って進んでるのかな?」

女子「やだぁー!」

青葉「しっかし…女子たちは大騒ぎだな…」

日向「まったく…この前までシンジさんにキャーキャー言ってたのに…」

青葉「しかたないさ…あの顔で帰国子女のおまけつきだ…おっ、毎度あり!」

日向「…お前、そういうのやめろよ…」




加持「やぁ、かわいいお嬢さん」

ミサト「…やめてよ、その呼び方…」

加持「本当のことを言ったまでさ…じゃあ、葛城?ちょっと聞きたいことがあるんだが」

ミサト「どうしたの?」

加持「ファーストチルドレンのことさ。いるんだろう?この学校に」

ミサト「ああ、リツコなら…」 チラッ

加持「おっと…これは驚いたな。エヴァのパイロットは容姿端麗なのも条件か?」

ミサト「よしなさいよ。リツコはそういうので笑わないから」

加持「そりゃ残念。笑った顔も見たいとこだったけどな…」

リツコ「……」

加持「はじめまして、ファーストのお嬢さん」

加持「弐号機パイロット…加持リョウジだ。よろしく」

リツコ「……よろしく」




日向「…普通、自分で言うか?容姿端麗って…」

青葉「まいどーっ」

アスカ「あーい変わらずね。学者バカ。男っ気ゼロ」

レイ「…いたの?」

アスカ「いたわよ!失礼ね」

レイ「…碇くんに謝ったほうがいいんじゃないの?」

アスカ「なに…アイツまだ怒ってんの?」

レイ「…そんなに昔のことかしら」

アスカ「はぁーっ!もう!これだから嫌なのよ日本人はぁ!終わったことをいつまでもウジウジウジウジ……あ…」

シンジが睨んでいる

レイ「…今のはアナタが悪いわ…」

アスカ「うげぇ…」

レイ「…ちゃんと謝ったら?」

アスカ「謝ったわよ!それなのにこいつが…」

シンジ「なっ!悪いのはアスカじゃないか!」

レイ「相変わらずね…昔を思い出すわ」

ミサト「ふん…どうせその様子じゃ、お酒も強くなってないんでしょうね?」

シンジ「う…」

レイ「そうそう体質は変わらないわ」

アスカ「ちょうど良いわ。今晩空けときなさいよね!3人で飲むわよ!」

シンジ「それはいいけど…もう吐かないでよね…」

アスカ「ハア!?私がいつ吐いたってのよ!!」


警報。


シンジ「敵襲!?」

ケンスケ「警戒中の巡洋艦、「はるな」より入電、「ワレ、キイハントウオキニテ、キョダイナセンコウブッタイヲハッケン。データオクル」」

トウジ「受信データを照合…波長パターン青、使徒と確認!」

カヲル「総員、第一種戦闘配置!」




シンジ「先の戦闘によって第3新東京市の迎撃システムは、大きなダメージを受け、現在までの復旧率は26%。実戦における稼働率はほぼゼロ」

シンジ「したがって今回は、上陸直前の目標を水際で一気に叩きます!」

シンジ「初号機ならびに弐号機は、交互に目標に対し波状攻撃、近接戦闘で行くよ」

ミサト・加持「了解!」

加持「さぁて。日本でのデビュー戦だ…気合い入れていくかなっ」

ミサト「もう船の上で動かしたじゃない」

加持「あれは二人で入ってたしな…大丈夫、今度はヘマはしないよ」ウインク

ミサト「………」(…どうも加持くんのノリは軽いのよね…)


加持「…しかし、2人掛かりか…ま、相手は未知数だし…当然か」

シンジ「正攻法とは言ってられないよ。君たちを死なすわけにはいかないんだ」

加持「はは、人類もね」


ミサト「…来た!」

シンジ「攻撃開始!」


加持「俺が行く!援護を頼む!」

ミサト「えっ援護!?」

加持「レディーに危険な仕事はさせたくないんでね!」

ミサト「ちょ、ちょっとぉ!!」

加持「行ける!」

ミサト「えっ!?」

加持「よっ!」ドカーン


ミサト「すごい…!」

加持「ははっ、見直しただろ?これでも向こうでみっちり仕込まれたプロだ」


再生する使徒


シンジ「なっ!?どうなってるんだ!?」

ヒカリ「本日午前10時58分15秒、2体に分離した目標甲の攻撃を受けた初号機は、駿河湾沖合い2キロの海上に水没、」

ヒカリ「同20秒、弐号機は目標乙の攻撃により活動停止。この状況に対するE計画責任者のコメント」

レイ「残念」


加持「悪い。また…ヘマやっちまって…」

ミサト「いや…でもまぁ…ああなるのは誰にも分からなかったんだし、仕方ないわよ」

加持「はぁ…葛城に会ってからこの方、どうも格好がつかないな…」

ミサト「無理しないでよ…エバーは3体あるんだから…」

加持「……ん…そうだな…悪い。突っ走っちまって。……それにしても、これは…」


ミサト「犬神家……」

加持「…きっついなぁ…」

ヒカリ「午前11時3分をもって、ネルフは作戦の遂行を断念、」

ヒカリ「国連第2方面軍に指揮権を譲渡」

カヲル「まったく…ついてないね…」

ヒカリ「同05分、N2爆雷により目標を攻撃、」

カヲル「…また地図の描き直しか…」

ヒカリ「構成物質の28%を焼却に成功」

加持「目標は沈黙?」

カヲル「いや、これは足止めに過ぎない…再度侵攻は時間の問題だよ」

アスカ「ま、建て直しの時間が稼げただけでも良しとすべきね…」

カヲル「…君たち、自分の仕事が何だか分かっているかい…?」

加持「…使徒に勝つことです」

カヲル「その通りだよ。確かに相手は未知数だが…負けることは許されないんだ…分かるね?」

ミサト・加持「はい…」

カヲル「…下がっていいよ」




加持「あちらさんカンカンだな…」

アスカ「聞き流せばいいのよ、あんなホモの言うこと…次はしっかりやんなさい」

ミサト「あの、シンジさんは?」

アスカ「後片付け。あいつはそのためにいるよーなものよ」

レイ「関係各省からの抗議文と被害報告書。これがUNからの請求書、広報部からの苦情も」

シンジ「う~」

レイ「ちゃんと目を通しておいてね」

シンジ「…読まなくても分かるよ、喧嘩をするならここでやれ、でしょ?」

レイ「ええ。概ねは」

シンジ「言われなくったって…できればやってるよ」

レイ「…副司令官もあれでご立腹よ。あなたが左遷されるってことはないでしょうけど」

シンジ「……司令が留守だったのは不幸中の幸いだったね…」

レイ「そうね…これを見ることもなく解任されていたかも」

シンジ「あはは…首の皮一枚の状態か…。何かいいアイディアは…」チラッ

レイ「あるにはあるわ」

シンジ「ほっ本当!?よかった、本当、どうなることかと…!ありがとう綾波…!」

レイ「でもこれは私のアイディアじゃない」

シンジ「えっ」

レイ「アスカの案よ」

ミサト「ただいまー、って言ったって誰もいない、か…」

ミサト「…あれ、何この荷物…」

加持「失礼。レディーの部屋に踏み込むのは無粋かと思ってね」


ミサト「なっ…なんで加持くんが…」

加持「葛城こそどうして、まだここに?」

ミサト「? まだ?」

加持「今日から配属されたんだ、ここに」

ミサト「え?」

加持「俺がシンジさんと暮らすことになった。まぁ…それが妥当だろうな。若い男と女が暮らしてるよりかは」

加持「…ま、俺としては葛城と二人でも良いんだがな」ウインク

ミサト「な、な…!」カァ

加持「…しっかし、あちらでずいぶんいいとこに住ませてもらってたからなぁ…これは中々…質素と言うか倹約と言うか…」

シンジ「あはは…ごめんね」


ミサト・加持「シンジさん…」


シンジ「お帰り。加持君の荷物はそれだけ?…ならなんとか入りそうだね」

ミサト・加持「えっ?」

シンジ「今度の作戦準備だよ」

ミサト・加持「どうして?」

シンジ「現時点で確認しうる第7使徒の弱点は1つ」

シンジ「分離中のコアに対する二点同時の荷重攻撃、これしかないんだ」

シンジ「つまり、エヴァ2体のタイミングを完璧に合わせた攻撃」

シンジ「そのためには2人の協調、完璧なユニゾンが必要なんだよ」

シンジ「それで…古典的な方法だけど、呼吸を合わせるために…二人にはこれから一緒に暮らしてもらうことになったんだ」



ミサト(えぇ~っ!?なにそれぇ!!??)


加持「はは、こりゃ役得だな…」

ミサト「ほ…他に方法は…」

シンジ「使徒は現在自己修復中。第2波は6日後…時間がないんだ」

加持「なるほど。…無茶だが、やるしかないか」

シンジ「それでなんだけど…無茶を可能にする方法」

シンジ「二人の完璧なユニゾンをマスターするため、この曲に合わせた攻撃パターンを体に覚え込ませるんだ」

シンジ「6日以内に、1秒でも早く!」


ミサト「はぁ…」

加持「よろしくな」ニコッ

ミサト「……」カァ

日向「もう三日か…」

青葉「葛城の欠席がか?心配するなよ。訓練か何かだろ?」

日向「あいつと一緒に、だろ!だから心配なんだよ…」




青葉「あれ?マヤちゃん?」

ヒカリ「日向君に、青葉君…」

日向「…なんだか、嫌な予感が…」




青葉「なんでここで止まるんだ?」

マヤ「なんでここで止まるの?」

日向「……」

ミサト・加持「はーい!」

日向「なっ……」

青葉「おぉ…またしてもペアルック…」

ミサト「ち、ちがうのよ!これは訓練の一環で…」

加持「心を合わせる練習さ。互いの呼吸を感じながらね」

日向「こきゅ…」

マヤ「不潔…」

ミサト「ち、違うのよ!!!もう!加持君は黙ってて!!」

日向「……」ワナワナ

シンジ「あ、いらっしゃい」ヒョコッ

青葉「えっ?シンジさん…?これはいったい…」

青葉「なーんだ。そうだったんですか。いやぁ、よかったなぁマコト」

日向「何がだよ」

マヤ「…それで、そのユニゾンはうまくいってるんですか?」

シンジ「はは…それが…」


加持、ミサトのダンス


『75点』


青葉「なんだ、高得点じゃないですか」

マヤ「なにがいけないんですか?」

日向「……」ムッスー

シンジ「…リツコちゃん」

リツコ「はい」

シンジ「もう一回…いいかな?」

リツコ「はい」

ミサト「……」


加持、リツコのダンス


『85点』



日向・青葉・マヤ・シンジ「おぉお……!」

シンジ「…シンクロ率で言うとミサトちゃんのほうが高いんだけど…」

マヤ「すごいわ!赤木さん…ダンスもうまいなんて…!」キラキラ


ミサト「……」ズーン

日向「でっでも!75点だって十分すごいよ!なぁ!?」

青葉「あっああ!そうさ!練習すればきっと…」

シンジ「まだ時間はあるから…ね?やってみよう、ミサトちゃん」

ミサト「ありがとうございます…、みんなも…」


ミサト「でも……私、ちょっと……気分転換に、出てきます…すいません!」ダッ

日向「あっ…!」

青葉「葛城!」

シンジ「ミサトちゃん!」

日向「葛城さ…」

加持「ここは俺が」ザッ


ガチャン


日向「な……」ポツーン

青葉「…お前にもそのうちチャンスが回ってくるさ…たぶん」

マヤ「あっ赤木さんのせいじゃないと思うわ…!」

リツコ「……」

加持「……葛城に暗い顔は似合わない」

ミサト「…! 加持君…」

ミサト「ごめんなさい…私…子どもっぽいことしてるわよね…」

加持「俺たちはまだ子どもだ」

ミサト「ううん、子どもでいちゃいけないのよ、もう子どもでいちゃ…だってみんなの命を背負ってるんだもの…」



ミサト「私たち…エバーに乗るしかないのよね…」

加持「…模範的な、回答ってやつか…でも」グイッ

ミサト「あっ!?」

加持「こうすれば誰にも見えない……葛城の子どもの顔も」

ミサト「……加持君だって、子どものくせに…」

加持「はは…そうだな…。じゃあ俺が泣くときは…葛城の胸を貸してもらうよ」

ミサト「バカ…」

ミサト「ありがとう…」グスッ

ミサト「やるわ、私」

ミサト「こーなったら、とことんやってやるわ!あんな曲、ノーミスでクリアしてやるわよ」

加持「こりゃまた、大きく出たな…」

ミサト「まだ時間はある…!シンジさんも言ってた!なんとかなるって!」

ミサト「でも100点には…まだ遠いわ、さっきだって」


加持に向き直るミサト


加持「……」

ミサト「次からは本気を出してくれて構わない。死ぬ気でついていくから…!」

加持(これは……うかうかしてると俺のほうが抜かれそうだな……)

加持「あれ、シンジさんは?」

ミサト「仕事。今夜は徹夜だって、さっき電話が」

加持「…じゃあ、今夜は二人っきり、ってわけか」

ミサト「!!!!なっ、な…!」

加持「冗談。なにもしないさ…それとも何か期待されたかな?」

ミサト「!!!ばかっ!!!」

加持「はは、悪かったよ。…葛城は反応が可愛いから、ついからかいたくなるんだ」

ミサト「もう…!」




加持「…とは、言ったものの…」

加持「寝顔くらいは拝見しても…っと」ソ~

ミサト「ぐぅ……くぅ~…」グチャア…

加持「…おお…これは……」(人は見かけによらないな…)パタン

エレベーター内。

シンジ「むっ…っむぅ…っ!」

アスカ「…っと」

シンジ「なっ、なっ、なっ…なにするんだよぉ!!!???」カァァ

アスカ「してやった、のよ……あんた、ぜーんぜん進歩してないじゃない。…もしかしてあれからやってないの?」

シンジ「あっ…アスカには関係ないだろ…!!」

アスカ「フーン、やってないってわけね…絶対あいつが手ぇ出してると思ってたけど」

シンジ「あいつ??」

アスカ「こっちの話よ」

シンジ「もう…」ブツブツ

レイ「はい」コトッ

シンジ「あ、ありがとう…」

レイ「……なにかあった?」

シンジ「い、いや、ちょっと、ね…」

レイ「アスカ?」

シンジ「えっ!!!!い、いや…」

レイ「相変わらず隠すのが下手ね…」

シンジ「ち、ちがうよ、そんな…」

レイ「まだ好きなのかしら」

シンジ「なっ!な、なんでそうなるのさ!もうアスカとは…!」

レイ「私が言ったのはアスカが、よ。…動揺させてしまった?」

シンジ「あ、綾波…!」

レイ「…今はフリーだそうよ。良い機会なんじゃない?昔に戻る」

シンジ「……無理だよ、そんなの…」

レイ「……」

シンジ「もう…昔みたいには、戻れないよ…。いや、三人でいるのは楽しいよ?昔みたいに。でも…」

レイ「……」

シンジ「…僕は一度…アスカを傷つけてるから……」

レイ「…碇く」

電話が鳴る

シンジ「わあっ!…は、はい、もしもし…はい、い、今ですか!?いえ……、すぐに提出します…!」

電話口を押さえるシンジ

シンジ「綾波、何か言った?」

レイ「いいえ。……お疲れ様」パタン



レイ(…後悔、か…)

レイ(まだ引きずってるのね…)

レイ「……変わらないのは私も同じか…」

ケンスケ「目標は、強羅絶対防衛線を突破」

シンジ「…よし」

シンジ「音楽スタートと同時に、A.T.フィールドを展開。後は作戦通りに。ミサトちゃん、加持くん…健闘を祈ってるよ」

加持「ええ、今度こそ」

ミサト「勝ちます!」

ケンスケ「目標は、山間部に侵入」

ミサト「スタートからフル稼動、最大戦速で!」

加持「オーケイ、62秒あれば十分だ」

ケンスケ「目標、ゼロ地点に到達します!」

シンジ「外電源、パージ」

シンジ「発進!」


華麗なる戦闘。使徒撃破

マヤ「エヴァ両機、確認!」

シンジ「うわぁ…」

レイ「残念……着地失敗ね」


加持「いたたたた…悪い、最後のタイミングが…」

ミサト「ごめ…最後、気ぃ抜いちゃったわ…」

加持「それにしても…いたた、凄い体勢になったな…まるで葛城の寝相…」ハッ

ミサト「なっ!!!なによ、私の寝相って!!!???」

加持「い…いや、襖が開いてたから、閉めに行ったら、たまたま、な…」

ミサト「部屋に入ったの!?」

加持「い…いや!入ったと言うか、隙間から見えたと言うか…」

ミサト「~~~エッチ!バカ!ヘンタイ、何してんのよ!!」キーッ


発令所職員「アハハハハ…」


加持「悪かった!もうしないよ、葛城」

ミサト「当然でしょ!!!」

カヲル「やれやれ…」




九話分終わり

女子「加持くんはウチの班が先に誘ったのよ!」

女子「ずるーい!私たちだって声かけてたのにー」

女子「ねっ、ねっ?ウチの班がいいでしょ~?」

女子「も~やめなよ~加持くん困ってるじゃん」

女子「加持くんの気持ちが優先でしょ!まず聞きなさいよー!」

女子「加持くんはどの班がいいの?」


加持「いやぁ…俺もみんなと行きたいのは山々なんだが……」

シンジ「ごめんね……上に掛け合ってはみたんだけど……」

ミサト「そ、そんな!気にしないで下さいよ…!掛け合ってもらっただけでも、十分…!」

加持「ま、分かってたことですよ。俺たちはパイロットだ。…使徒は待ってちゃくれない、ってね」

ミサト「そ、そうです!しょうがないですよ!シンジさんは悪くないです!!」

シンジ「ありがとう…二人とも優しいね」

ミサト「そ、そんな!」カァ

加持「……ま、ダイビングの機会を逃したのは惜しかったけどな」

ミサト「やったことあるの?」

加持「一応は。アッチにいたころにね。良い筋だ、ってインストラクターからのお墨付き」

ミサト「へぇぇ…」(やっぱ帰国子女は違うわね…)

加持「シンジさんは、ダイビングの経験は?」

シンジ「やったことないよ。機会があったら加持くんに教えてもらおうかな」

加持「はは、お安いご用」

ミサト「シンジさんは修学旅行、どこ行ったんですか?」

シンジ「ああ…僕らのときはね、なかったんだ」

加持「…サードインパクトの影響で?」

シンジ「うん。本当に直後だったから」

ミサト「ご、ごめんなさい」

シンジ「そんな!気にすること…当時はそれどころじゃなかったから。…みんなの世代でここまで復興が進んで良かったよ。修学旅行も普通に行けるようになったし……あ」

加持「はは…」

シンジ「ごめん……」

ミサト「もう!いいですってば!」

青葉「葛城の分まで楽しんでくるからな!」

日向「……」(俺も残りたい…)

マヤ「赤木さん!お土産買ってくるからね!」


女子たち「加持くぅ~~~ん!お土産買ってくるからね~!」

女子たち「やっぱり加持くんがいないと寂し~い」


加持「はは…」


日向「…かっ葛城さん!お土産何が」

女子「葛城さ~~~ん!抜け駆けしちゃ駄目よ~!」


ミサト「はーいはい、分かってるわよー!」


日向「……」


ブロロロ…

オペレータ「浅間山の観測データは、可及的速やかにバルタザールからメルキオールへ、ペーストしてください」

ヒカリ「……」

トウジ「わはっ…くくく!」

ケンスケ「ヒューーーーン、┣¨┣¨┣¨┣¨ド!ズパーンッ」



レイ「私たちのときには無かったわね、修学旅行」

シンジ「うん…少し羨ましいね」

加持「何してるんだ?」

ミサト「…理科の勉強」

加持「勤勉だな。どれどれ…、うーん、分からないな…」

ミサト「? …休み時間、あの子たちに教えてなかった?」

加持「女の子たち? それなら分かりそうだ…これは何て読むんだ?」

ミサト「膨張、だけど…もしかして日本語読めないの?」

加持「漢字はまだちょっとね。皆よくこういう複雑な形の見分けがつくな」

ミサト「じゃ、じゃあテストで点数が取れないのって…」

加持「ご明察。なぁに…その内追いつくさ」

ミサト「……はぁ~ああ」(勉強だけは勝ってると思ってたのに…)

加持「ん?どうした?」

ミサト「通りで…点数が低いわりにアドバイスは完璧だったわけね」

加持「ま、音読してくれれば何とかな。…こっちは何て読むんだ?」

ミサト「熱よ、これは熱膨張の問題」

加持「熱膨張か…懐かしいな」

ミサト「え、」

加持「…モノはあたためれば膨らんで大きくなるし、冷やせば縮んで小さくなる、ってことだろ?」

ミサト「いやいやいや、ちょっと、」

加持「ん?」

ミサト「懐かしいって?」

加持「…ああ、前にやったことがあったから。どれくらいだったか…確か大学入る前…」

ミサト「い、いま大学生なの?」

加持「いや。去年卒業した」

ミサト「…たはは…」(こりゃ次元が違うわ…)

ミサト「…ね、加持くんってさ」

加持「うん?」

ミサト「…苦手なものとかって、ないの?」

加持「これは…嬉しいな。やっと俺に興味を持ってくれたのか?」

ミサト「馬鹿。真面目に聞いてんのよ」

加持「そりゃまた、どうして?」

ミサト「…ぜーんぶ、負けてるなぁって」

加持「葛城が?俺にか?」

ミサト「そーよ。学校の授業なんて聞いてて退屈なんじゃないの?」

加持「…まぁ、そりゃあるが…」

加持「知識だけの差なら、そんなものは大した差じゃないさ。大切なのは発想力だ。…その点、俺は葛城に負けてると思うけどね」

ミサト「発想力?私が?」

加持「そ。機転を利かせた発想力。土壇場でピンチをチャンスに変える力…」

ミサト「あ、あれは…加持くんが呟いたから」

加持「俺はぼやいてただけで、そんなこと思いつかなかった。それに、まだあるぞ」

加持「ユニゾンの練習のとき、葛城は一度は逃げ出したが……帰ってきた」

加持「しかも「ノーミス」「100点」と意気込んでた…落ち込む前よりも落ち込んだ後のほうが前を向けるってのは、成長の証だ。そしてそれは誰にでも出来ることじゃない」

ミサト「あれだって……加持くんが…」

加持「俺はちょっと胸を貸しただけさ。いいか葛城……相手に弱さを見せれるってのは「強さ」だ」

加持「どれだけ相手が手を差し伸べても、その手を取るかどうかは、葛城しだいだからな。俺は手を取ってもらえて嬉しかったよ…葛城が強かったからできたことだ」

ミサト「……」

加持「それにだ、実質の戦績は葛城のほうが上…立派なエースパイロットだ。俺は二度も助けられた。…これでもまだ俺に負けてるって思うのか?全部?」

ミサト「……」

加持「……葛城はよくやってるよ…葛城自身が気付いてないだけで…」

ミサト「…なんだか、べた褒めされてるみたい…」

加持「…もちろん。葛城は魅力的な女性だからな」

ミサト「馬鹿…あの子たちに言いつけるわよ?」

加持「女性を傷つけるのは本意じゃないが、この場合はしょうがないな」

ミサト「どこまで本気なんだか…」

加持「全部さ」

ミサト「はいはい…」

カヲル「これじゃあよく分からないな…」

ケンスケ「しかし、浅間山地震研究所の報告通り、この影は気になります」

カヲル「無視はできないね」

レイ「…MAGIの判断は?」

ヒカリ「フィフティーフィフティーです」

カヲル「現地へは?」

ケンスケ「すでに、碇一尉が到着しています」

所員「もう限界です!」

シンジ「あ、後500だけ…お願いします」

アナウンス「深度1200、耐圧隔壁に亀裂発生」

所員「碇さん!」

シンジ「…しょうがない。引き上げ…」

トウジ「壊れたらうちで弁償したる!後200や」

シンジ「と、トウジ…!」

トウジ「モニターに反応!」

シンジ「かっ解析開始!」

トウジ「よっしゃあ!」


アナウンス「観測機圧壊、爆発しました」


シンジ「解析は!?」

トウジ「ギリギリセーフや。パターン青!」


シンジ「使徒」


シンジ「……回線は?」

トウジ「今やっとる…ええで」


シンジ「…これより当研究所は完全閉鎖、ネルフの管轄下となります。一切の入室を禁じた上、過去6時間以内の事象は、すべて部外秘とします」


シンジ「葛城司令当てに至急、A-17要請を!」

委員「A-17?こちらから打って出るのか?」

葛城「そうです」

委員「駄目だ、危険過ぎる!15年前を忘れたとは言わせんぞ!」

葛城「…これはチャンスです。これまで防戦一方だった我々が、初めて攻勢に出るための」

キール「リスクが大きすぎるな」

葛城「しかし、生きた使徒のサンプル…その重要性は、すでに承知の事でしょう」


キール「失敗は、許さん」


カヲル「失敗か…その時は人類そのものが消えてしまうことになる…。本当にいいのかい?」

葛城「……」

ミサト「これが使徒?」

レイ「そう…まだ完成体になっていない蛹の状態みたいなものよ」

レイ「今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします。できうる限り原形をとどめ、生きたまま回収すること」

加持「できなかったら?」

レイ「即時殲滅。異常事態の場合は躊躇わず目標と認識して」

ミサト・加持・リツコ「了解」

レイ「作戦担当者は…」

加持「俺が行く」

ミサト「えっ」

加持「いよいよ実戦用の出番ってわけだ」

ミサト「でも…」

レイ「…加持くんが弐号機で担当して」

加持「そうこなくっちゃ」

リツコ「私は?」

ヒカリ「プロトタイプの零号機には、特殊装備は規格外なのよ」

レイ「リツコちゃんと零号機は本部で待機。よろしくね」

リツコ「はい」


ミサト「……」

加持「心配いらない。温泉みたいなもんさ」

レイ「A-17発令後は速やかに収拾…すぐに支度して」

ミサト・加持「はい!」

加持「…耐熱仕様のプラグスーツと言っても、見た目は変わらず、か…」

レイ「右のスイッチを押してみて」

加持「…うわっ」

レイ「弐号機の支度もできてるわ」



加持「…いやはや…なんともこれは…」


レイ「耐熱・耐圧・耐核防護服。局地戦用のD型装備よ」

加持「…弐号機まで…」


加持「どうも恰好がつかないな…いや、喜ぶべきか? レディー二人にはさせたくない恰好だ」

アスカ「似合ってるわよ中々」

加持「……そいつはどうも」

ミサト「あの…やっぱり私が…」

加持「いや、いいんだ葛城」

ミサト「でも」

加持「こいつは俺の相棒だからな…俺が行くよ」

リツコ「………」

アナウンス「エヴァ初号機、および弐号機、到着しました」

シンジ「両機はその場にて待機、レーザーの打ち込みとクレーンの準備を急いで」

トウジ「了解」



加持「あれ?アスカ先輩は?」

シンジ「…ごめんね。とめたんだけど、また勝手に…」

加持「いや、いいですよ。…先輩もいろいろ忙しそうですし」

シンジ「……」

謎の男性「A-17発令か…現資産の凍結も含まれている」

アスカ「上は大騒ぎでしょうね」

男性「なぜ止めなかった?」

アスカ「理由がないわよ。発令は正式なものなんだから」

男性「だがネルフの失敗は、世界の破滅を意味するんだぞ」

アスカ「……あいつらはそんなに傲慢じゃないわよ…」

ミサト「何ですか、あれ」

レイ「UNの空軍が空中待機してるのよ」

ヒカリ「この作戦が終わるまでね」

ミサト「手伝ってくれるんですか?」

レイ「…いいえ、後始末よ」

ヒカリ「私たちが失敗したときのね」

加持「…なるほど。後処理、ね…」

ミサト「なに?どういうこと?」

レイ「使徒をN2爆雷で熱処理するのよ。私たちごとね」

ミサト「え…そんな…!」

ミサト「そんな命令、いったい誰が…」

レイ「…誰かがしなきゃいけない決断なのよ…今は葛城司令が」


ミサト「……」

アナウンス「レーザー、作業終了」

アナウンス「進路確保!」

アナウンス「D型装備、異常無し!」

トウジ「弐号機、発進位置」

シンジ「了解。加持くん、準備はどう?」

加持「いつでもどうぞ」

シンジ「くれぐれも、無茶はしないで…」

シンジ「発進!」

加持「おっと…こりゃあ、すごいな。熱気が」

ヒカリ「弐号機、溶岩内に入ります」


加持「潜るのは何年ぶりかな…っと。よーし」


ミサト・シンジ「?」


加持「ジャイアントストライドエントリー!」ザブーン


シンジ「…??」

ミサト「馬鹿…真面目にやんなさいよ…!」

加持「現在、深度170、沈降速度20。各部問題なし。視界は…ゼロ。目視は不可能。CTモニターに切り替えます」

加持「これでも透明度120か…」


ヒカリ「深度、400、450、500、550、600、650」

ヒカリ「900、950、1000、1020、安全深度、オーバー」

ヒカリ「深度1300、目標予測地点です」


シンジ「加持くん、何か見える?」


加持「反応なし…いないようだ」


レイ「思ったより対流が早いわね」

トウジ「目標の移動速度に誤差あり。再計算中」

シンジ「急いで。作戦続行。再度沈降、慎重に」

ヒカリ「深度、1350、1400」

オペレータ「第2循環パイプに亀裂発生」

ヒカリ「深度、1480、限界深度、オーバー!」

シンジ「く…、加持くん!」

加持「まだだ!まだやらせてくれ、もう少し…!」

加持(……俺が駄目なら次は初号機が…)



シンジ「目標との接触は……!?」

トウジ「モニター、反応なし」

シンジ「………!」

ヒカリ「限界深度、プラス120」

加持「!」

オペレータ「エヴァ弐号機、プログナイフ喪失」

ヒカリ「限界深度、プラス200」


シンジ「……これ以上は…!」


トウジ「まだいける」


シンジ「トウジ!今度は加持くんが乗ってるんだよ!?」

トウジ「…って言うとるで運転手」

加持「シンジさん、行かせてくれ…大丈夫だ」


ヒカリ「深度、1780。目標予測修正地点です」



加持「…………いた…」

トウジ「…目標を映像で確認」

シンジ「捕獲準備…!」

レイ「お互いに対流で流されているから、接触のチャンスは一度しかないわ、気を付けて」

加持「了解」


トウジ「目標接触まで、後30」

加持「相対速度2.2。…軸線に乗った」

加持「電磁柵展開、問題なし」



加持「目標、捕獲しました」



トウジ「……っはぁ~…!」

シンジ「よかった……!」

加持「捕獲作業終了、これより浮上します」

シンジ「加持くん、大丈夫?」

加持「少し…いやかなり蒸すけどね。やっぱりダイビングは海に限る」

シンジ「ダイビングって…ああ、あれダイビングの潜り方だったの?」

加持「気がつかなかった?まったく…魅せがいがないな」

シンジ「あはは」


レイ「…緊張がいっぺんに解けたみたいね」

レイ「お疲れさま。碇作戦部長」

シンジ「ありがとう。……良かった。無事に終わって…」

レイ「悪ければセカンドインパクトの二の舞だものね」

シンジ「ふー…温泉にでも浸かりたい気分だよ」

トウジ「! 目標に動きあり!」

加持「これは……っ!?」

レイ「まずいわ、羽化を始めた……!計算よりずっと早い!」

シンジ「キャッチャーは!?」

トウジ「もう持たん!」

シンジ「捕獲中止、キャッチャーは破棄!」

シンジ「作戦変更!使徒殲滅を最優先、弐号機は撤収作業をしつつ戦闘準備!」


加持「最後はこうなるか…!」

加持「…しまった、ナイフは…!」

加持「正面!バラスト放出!」

加持「早い…っ!」

加持「まずいな、見失った…!」

シンジ「加持くん!今のうちに初号機のナイフを落とすから、受け取って!」

加持「了解!」

加持(…しかし、分が悪すぎるな…このままじゃ…!)

加持「う…っっ、シンジさん!ナイフは!」


ミサト「お…りゃあっっっ!」


オペレータ「ナイフ到達まで、後40」

トウジ「使徒、急速接近中!」

加持「…ぐっ…!」

加持(まだか…ナイフは!)

加持(まだ……ハッ)

加持「しまった!」

レイ「まさか、この状況下で口を開くなんて!」

ヒカリ「信じられない構造です!」

加持「う…ぐっ」

ヒカリ「左足損傷!」

加持「……耐熱処置!」

加持「……そう、易々とっ…!」


レイ「高温高圧、これだけの極限状態に耐えているのよ。プログナイフじゃ駄目だわ」

トウジ「方法はないんか!?」

ミサト「…そうだ!」


加持「やられるわけにはいかないね…!」

加持「…………っ!」

レイ「! 熱膨張!」

加持「冷却液の圧力をすべて三番に!早く!」

加持「……破裂しろっ!」

加持「はっ……はぁ……、使徒は倒したが…」

加持「……万事休す、か…」

加持「…………」


加持(みんな……、俺は許されたか……?)


加持「!…葛城…?」


加持「……はは」

加持「いい女だよ、まったく」

宅配屋「ごめんくださーい、ネルフの人、いますかー?」

ミサト「はーい!」

宅配屋「では、ここにサインをお願いします」

宅配屋「はい、どうもありがとうございました」

ミサト「アスカさんから??何だろ…?」

加持「はぁ~。まさか、近くにこんな秘湯があったとはね」

シンジ「綾波が教えてくれたんだ…ゆっくりしてこいって」

加持「マグマはもうごめんだが、ここならまた来たいね」

シンジ「ふふ…気に入ってもらえて良かった」

加持「……」

シンジ「……どうかした?加持くん…」

加持「…いや、こうして見てると…肌が白くて線も細い、それに顔も…中性的な美人だと思ってね」

シンジ「か…加持くん…?僕は男だよ……?」

加持「ノープロブレム。愛に性別は関係ないさ……」

シンジ「わっっっ、ちょっ………、待っ…!」

ミサト「ちょっとー!バカ加持ぃ!!!」


加持「おっと」

ミサト「シンジさんに変なことしてないでしょうねー!??」

シンジ「…ミサトちゃん?」


ミサト「シンジさーん!大丈夫ですかー?」

ペンペン「クエックエ~~~ッ!」

シンジ「えっ…ペンペンもいるの!?」


ミサト「はい…さっき届いて…アスカさんから」

シンジ「アスカから!??」

ミサト「はい、宅急便で…こら!ペンペン!」

ミサト「じっとしてないと洗えないでしょ……いたっ!」

ミサト「……も~へんなとこ噛まないでよ~!」


ミサト「あっ、こら……!」




シンジ・加持「………………」


加持「前言撤回……シンジさんも「男」だね…」

シンジ「ち、ちがっ!違わないけど……これは…!」

加持「分かってます分かってます、同じ男なんだから。苦労しますよね」

シンジ「もう…!大人をからかって…!」

ミサト「ぷはぁ~ぁ、極楽極楽…」

ミサト「風呂がこんなに気持ちいいものだなんて、知らなかった…」

ミサト(………空が、綺麗…)

ミサト「………風呂は命の洗濯ね…」




シンジ「加持くん、はさ…」

加持「ん?」

シンジ「聞かないんだね。この傷のこと…」

加持「あぁ…まぁ、お互い様ですよ」

加持「話して楽になる類いのことじゃない…目に見える傷も、見えない傷も」

シンジ「そっか……」

加持「……」



拾話分終わり

子供「わーい、当たった当たったぁ~!」


レイ「これじゃあ毎回のクリーニング代も、バカにならないわね」

ヒカリ「せめて自分でお洗濯できる時間くらい、ほしいわよね」

トウジ「重とーてかなわんわ」

ヒカリ「それは溜め込むのが悪いんでしょ」

トウジ「なんやとぅ!?」


レイ「あら、副司令」

レイ・ヒカリ「おはようございます」

トウジ「おはよーさん」

ヒカリ「コラ!敬語!!」

トウジ「うるさいのぉ、またお小言かいな」

ヒカリ「そうやってすぐ崩すから!戦闘中にも出ちゃうんでしょ!」

カヲル「ふふ…おはよう。相変わらず賑やかだね」

レイ「今日はお早いですね」

カヲル「葛城司令の代わりに上の町だよ」

レイ「ああ…今日は評議会の」

カヲル「定例だよ……つまらない仕事さ。昔から雑務はみんな僕に押し付けるんだ、断らなかった僕も悪いんだが。ふふっ…MAGIがいなかったらお手上げだったよ」

レイ「そう言えば、市議選が近いですよね。上は」

カヲル「あれは形骸に過ぎない…ここの市政は事実上MAGIのものだよ」

ヒカリ「あの3台のスーパーコンピューターが…」

カヲル「3系統のコンピュータによる多数決だからね…民主主義の基本に乗っ取ったシステムではある」

ヒカリ「じゃあ、議会はその決定に従うだけですか?」

カヲル「最も無駄の少ない、効率的な政治だよ」

ヒカリ「…凄い時代ですね。何でも科学でやれちゃうなんて…」

トウジ「いけすかんのぉ、機械に踊らされとんのと違うか?」

ヒカリ「また!そういうこと言って!!」


カヲル「……そう言えば、零号機の実験だったかな、そっちは」

レイ「ええ、本日1030より第2次稼動延長試験の予定です」

カヲル「朗報を期待してるよ…それと」

カヲル「シンジくんにもよろしく…」

レイ・ヒカリ・トウジ(……)

レイ「実験中断、回路を切って」

ヒカリ「回路切り替え」

オペレータ「電源、回復します」

レイ「問題は…ここね」

ヒカリ「はい、変換効率が理論値より0.008も低いのが気になります」

オペレータ「ぎりぎりの計測誤差の範囲内ですが、どうしますか?」

レイ「もう一度同じ設定で、相互変換を0.01だけ下げてやってみましょう」

ヒカリ「了解」

レイ「では、再起動実験、始めるわ」

アスカ「ちょっとそこのエレベーター!私も乗るわ!」

シンジ「えっ?うわっ、わ、あっ」

アスカ「うらっ」ガッッ

アスカ「……サイッテー。あんた今「閉」押したでしょ」

シンジ「ご…ごめん…間違っちゃって…」

アスカ「はぁーあ、ショボくれてんわねぇ相変わらず」

(通話)

オペレータ「はい、しばらくお待ちください」

葛城「なんだ?」

ミサト「あ、あの…お父さん…?」

葛城「そうだ」

ミサト「あっあの…今日、学校で進路相談の面接があることを父兄に報告しとけって、言われて…」

葛城「……そういう事はすべて碇君に一任してある。用件はそれだけか?」

ミサト「いや、えっと…」ブツッ

ミサト「あら?」

シンジ「うわっ…!」

アスカ「停電…?」

シンジ「そんな。ありえないよ」

シンジ「…変だな。何か事故かな…」

アスカ「あの研究バカがやらかしたんじゃないの?」



ヒカリ「主電源ストップ、電圧、ゼロです」

オペレータ達「……」

レイ「……私じゃないわ」



シンジ「綾波が?」

アスカ「でもまぁ、すぐに予備電源に切り替わるでしょ」

オペレータ「だめです、予備回線つながりません」

カヲル「……そんなはずはない。生き残っている回線は?」

職員「全部で1.2%、2567番からの9回線だけです!」

カヲル「生き残っている回線はすべてMAGIとセントラルドグマの維持へ廻して。最優先だ」

オペレータ「全館の生命維持に支障が生じますが…」

カヲル「背に腹は代えられない…」

ケンスケ「まったく…気ぃ使うよなあ…あの二人。いつになったらくっつくんだか……アレ??」




加持「単に忙しかっただけじゃないのか?」

ミサト「いや…そういう感じじゃなくて…こう、ブツッと……」

加持「ま、考えてもしょうがない。本人に直接聞くのが早いさ……ん?」

リツコ「?」

ミサト「どうしたの?」

加持「いや、カードキーが……故障か?」

ミサト「そんな」シャッ

ミサト「ほんとだ……」

ミサト「またIDが変わったのかしら」

加持「いや…それにしてもおかしい。エラー音もならないなんて」

レイ「とにかく、発令所へ急ぎましょ。7分たっても復旧しないなんて…」




シンジ「…ただ事じゃない」

アスカ「ここの電源は?」

シンジ「正・副・予備の3系統。それが同時に落ちるなんて、考えられないよ」

アスカ「ってことは…」




葛城「ブレーカーは落ちたと言うより落とされた、と見るべきだ」

カヲル「原因はどうであれ、こんな時に使徒が現れたら一巻の終わりだよ」

戦自「索敵レーダーに正体不明の反応あり!予想上陸地点は旧熱海方面!」

戦自司令官「おそらく、8番目の奴だ」

司令官「ああ、使徒だろう」

戦自「どうします」

司令官「一応、警報シフトにしておけ。決まりだからな」

司令官「どうせまた奴の目的地は、第3新東京市だ」

司令官「そうだな。俺達がすることは何も無いさ」


戦自「使徒、上陸しました!」

戦自「依然、進行中」

司令官「第3進東京市は?」

戦自「沈黙を守っています」

司令官「一体ネルフの連中は、何をやってるんだ!」

レイ「備えあれば憂いなし、とはよく言ったものね…」

ヒカリ「まさかこの時代にタラップを使うことになるなんて…」




加持「…駄目だ、ここも動かない」

リツコ「どの施設も動かない…異常ね」

ミサト「下で何かあったってこと!?」

リツコ「恐らくは」

加持「とにかく、ネルフ本部へ連絡してみよう」

アスカ「駄目。非常電話もつながらない」


トウジ「77号線も繋がらん…!」


リツコ「駄目ね、繋がらない」

加持「こっちもだ、有線の非常回線もイカれちまってる」

ミサト「どうしよう…」

リツコ「……」ゴソ…

加持「おっ、その手があったか」

ミサト「何?」

加持「緊急時のマニュアルだよ」

リツコ「…とにかく本部へ行きましょう」

加持「だな」

リツコ「こっちの第7ルートから下に入れるわ」

ミサト「…手動、ドア…?」

加持「俺の出番かな?」

戦自司令官「統幕会議め、こんな時だけ現場に頼りおって!」

司令官「政府は何と言ってる?」

司令官「フン、第2東京の連中か?逃げ支度だそうだ」

戦自「使徒は依然健在、進行中」

司令官「とにかく、ネルフの連中と連絡を取るんだ」

司令官「しかし、どうやって?」

司令官「直接行くんだよ」



セスナ「こちらは第3管区航空自衛隊です。ただいま正体不明の物体が本書に対し移動中です。住民の皆様は速やかに指定のシェルターに避難してください」


ケンスケ「ヤバイな…!急いで本部に知らせなきゃ!でもどうやって…」

選挙カー「こういった非常時にも動じない、高橋、高橋覗をよろしくお願いいたします!」

ケンスケ「ナ~イスタイミング!」

アスカ「それにしてもあっついわねぇ…」

シンジ「たぶん…残った回線を全部MAGIとセントラルドグマに使ってるんだ…」

アスカ「~~~~あ~ッもうっ!」バサッ

シンジ「うわ!?あ、アスカ!!何してんだよ!??」

アスカ「仕方ないでしょう!?暑いんだからぁ!」

シンジ「な…っ、な…」

アスカ「誰が見ていいって言ったのよ!変態!あっち向いてなさいよ!」

シンジ「ぬっ脱ぐ前に言ってよ…!」


アスカ「はぁーっ。こういう状況下だからって、変なこと考えないでよ?」パタパタ

シンジ「考えないよっ!もう…!」

レイ「…空気がよどんできた……近代科学の粋を凝らした最大施設も、こうなると形無しね…」

ヒカリ「でも、さすがは司令と副司令、この暑さにも動じないわね」



カヲル「……ぬるいね」

葛城「ああ…」




ウグイス嬢「当管区内における非常事態宣言に伴い緊急車両が通ります…って、あの、行き止まりですよぉ!」

ケンスケ「止まるな止まるなぁっ!今は非常時!すべて私が許可するッ!」ビシッ

運転手「リョーカイッ!」

ウグイス嬢「いやぁ、もう止めてぇ!」

カヲル「このジオフロントは外部から隔離されても自給自足できるコロニーとして作られている。そのすべての電源が落ちると言う状況は、理論上はありえない」

レイ「…誰かが故意にやったと言うことですね」

葛城「おそらく目的はここの調査だ」

レイ「復旧ルートから本部の構造を推測するわけですか」

カヲル「連中、小癪なマネをしてくれるよ」

レイ「MAGIにダミープログラムを走らせます。全体の把握は困難になると思いますから」

葛城「頼む」

レイ「はい」

カヲル「…本部初の被害が、使徒によるものではなく同じ人間からのものになるとはね…」

葛城「……同じ人間などいない。だがこのやり方は不当だ」

加持「…路が左右に別れてる」

ミサト「右じゃないの?」

リツコ「…左」

加持「じゃ、左だな」

ミサト「ちょっと!なんでよっ」

加持「さっきから二回も行き止まりを選んでるだろ?」

ミサト「う~…」

加持「ははっ、明るくったって葛城にとっちゃここは迷路だからなァ。この前だって…」

ミサト「ア~ッ!リツコには言わないでよっ!」


リツコ「シッ」

ミサト「えっ?」

リツコ「人の声がするわ…」


ミサト「?」

ケンスケ「使徒、接近中!繰り返す!使徒、接近中!」

ミサト・加持「相田さんだ!」

ケンスケ「使徒、接近中、繰り返す、現在、使徒、接近中!」

ミサト・加持「使徒接近!?」


リツコ「時間が惜しいわ。近道しましょう」

加持「分かるのか?」

リツコ「確信があるわけじゃないけど…だいたいの構造は頭に入ってるから」

加持「頼もしいな」

リツコ「あなたたちより少し長くここにいるだけよ」

シンジ「……ねぇ、アスカ」

アスカ「なによ」

シンジ「…使徒って何なのかな…」

アスカ「…!」

アスカ「はぁ!?なに言ってんのよ、こんな時に」

シンジ「いいだろ別に……どうせ何もできないんだから…」

シンジ「使徒。神の使い。天使の名を持つ僕らの敵…」


シンジ「でも遺伝子上ではたった2%の違いしかないんだ。…栄えるはずだったもうひとつの人類…」

シンジ「なぜ戦わなければいけないんだろう…」

アスカ「……あんたバカぁ?訳わかんない連中が攻めてきてんのよ、降りかかる火の粉は払い除けるのがあったりまえでしょ!?あんたそのもうひとつの人類とやらに立場を譲って、人間が滅びてもいいっての!?」

シンジ「……そうじゃ、ないけど…」

アスカ「あぁ、もう!あんたのそういうウジウジしたとこ、いい加減直んないわけェ!?」

シンジ「ウジウジって……アスカだってその沸点低いのどうにかしたら?ただでさえ暑いんだから…」

アスカ「あ~ッもう我慢ならないわっ!」

シンジ「うわっごめん言い過ぎたよ!」

アスカ「シンジっ!肩貸しなさい!」

シンジ「えっ」

アスカ「漏れそうなのよッ」

ケンスケ「現在、使徒接近中!直ちにエヴァ発進の要有りと認む!」


ヒカリ「…大変!」

葛城「渚、後を頼む」

カヲル「どこへ?」

葛城「…ケイジでエヴァの発進準備を進めておく」

カヲル「手動でかい?司令直々に?」

葛城「緊急用のディーゼルがある」

カヲル「ふふ…分かったよ。ここは任せて」

加持「次は?」

リツコ「右よ」

ミサト「それにしてもスッゴいわね…私もう帰り道分かんないわよ」

加持「大丈夫さ…帰りはちゃんとした道を通って行ける」

ミサト「リツコっていつからここにいるの?」

リツコ「覚えてないわ。ただこの下の道は実験でよく通るから…」

ミサト「実験って…零号機だけでやるあの実験よね?…プロトタイプにしかできないことなの?」

リツコ「……ごめんなさい。答えられないわ」

ミサト「……」

加持「赤木を問い詰めたって仕方ないだろう?ここはネルフなんだ。情報漏洩は命取りになる」

ミサト「…そうね。ごめんリツコ、つまんないこと聞いたわ」

リツコ「…………」

作業員「いよーいしょ、よーいしょ、よーいしょ、よーいしょ!」

作業員「了解、停止信号プラグ、排出終了」

葛城「よし、3機ともエントリープラグ挿入準備」

作業員「しかし、いまだにパイロットが」

レイ「大丈夫。きっと来るわ…あの子達なら」



加持「ここは……手じゃ無理だな」

リツコ「仕方ないわ。ダクトを破壊してそこから進みましょう」

ミサト「…リツコって普段は大人しいのに、使徒が絡んでくると大胆よね」

リツコ「命に関わるもの」

加持「はは…そりゃそうだ」



作業員・葛城「いよーいしょ、よーいしょ、よーいしょ、よーいしょ!」

ヒカリ「プラグ、固定準備完了」

レイ「…後はあの子達ね」

加持「危ないから少し離れて」

加持「じゃあいくぞっ」


ガンッ ガンッ


レイ「……?」


ガンッ


加持「おわっ」ドスンッ

ミサト「だっ大丈夫?加持くん…あっ」

リツコ「……」


レイ「あなたたち!」

葛城「各機、エントリー準備」

作業員「了解、手動でハッチ開け」

ミサト「エバーは…?」

レイ「スタンバイできてるわ」

ミサト「何も動かないのに、どうやって…」

レイ「人の手でね。あなたのお父さんのアイディアよ」

ミサト「父の…」


作業員・葛城「ふぬーっ、ふぬーっ、ふぬーっ…」

レイ「葛城司令は、あなたたちが来ることを信じて、準備してたのよ」

ヒカリ「プラグ挿入」

レイ「全機、補助電源にて起動完了」

葛城「第一ロックボルト、外せ」

作業員「2番から32番までの油圧ロックを解除」

ヒカリ「圧力ゼロ、状況フリー」

葛城「構わん。各機実力で拘束具を除去、出撃しろ!」


ケンスケ「目標は直上にて停止の模様!繰り返す!」


レイ「作業、急いで!」

オペレータ「非常用バッテリー搭載完了!」

レイ「行ける…!」

レイ「発進!」

加持「マグマの次は排気口……平時の戦闘が懐かしくなるな」

リツコ「縦穴に出るわ」

加持「お次は山登りか……」

加持「!」

リツコ「いけない、よけて!」

加持「おわっ」

ミサト「きゃあっ」


リツコ「……目標は、強力な溶解液で本部に直接侵入を図るつもりのようね」

ミサト「どうすんのよ…!?」

加持「やるしか、ないだろうな」

ミサト「やるったって…!ライフルは落としちゃったし、背中の電池は切れちゃったから、後3分も動かないし…!」

加持「待て待て、落ち着くんだ…作戦はある」

ミサト「作戦?」

加持「…ここにとどまる機体がディフェンス。A.T.フィールドを中和しつつ奴の溶解液からオフェンスを守る」

加持「バックアップは下降。落ちたライフルを回収しオフェンスに渡す。そしてオフェンスはライフルの一斉射にて目標を破壊……簡単だろ?」

ミサト「簡単って…守りは誰が」

リツコ「いいわ。ディフェンスは私が」

加持「却下。発案者は俺だ…危険な役は俺がやる」

ミサト「いえ……私がいくわ!弐号機はまだ前回の傷が…!」

加持「そう言うなよ。たまにはいい格好させてくれ」


加持「大丈夫。…うまくやるよ」

ミサト「…………」

加持「じゃあ確認だ」

加持「葛城がオフェンス、赤木がバックアップ、俺は守りに徹する」

ミサト「…分かった」

リツコ「了解」



加持「それじゃあ、いくぞっ!」


ミサト「リツコっ!」



ミサト「! 加持くん、よけてっ!」


加持「うぐっ、ぅ…!」



加持「……惚れ直しただろ…?」


ミサト「馬鹿……無理しちゃて」

加持「じゃあ確認だ」

加持「葛城がオフェンス、赤木がバックアップ、俺は守りに徹する」

ミサト「…分かった」

リツコ「了解」



加持「それじゃあ、いくぞっ!」


ミサト「リツコっ!」



ミサト「! 加持くん、よけてっ!」


加持「うぐっ、ぅ…!」



加持「……惚れ直しただろ…?」


ミサト「馬鹿……無理しちゃて」

ガンッ ガンッ ガンッ

アスカ「も~ぅ、何で開かないのよ~!非常事態なのよ~!はぁっ、もう、もれちゃう!こら、もう!上見るな、って言ってるでしょ!」

シンジ「あ…アスカ!暴れないでよ、重いんだから…!」

アスカ「ぬわんですって!?」

シンジ「わっ、わ、わあっ!」ガタン


レイ「……」

ヒカリ「…不潔…!」

ミサト「電気…人工の光が無いと、星がこんなにきれいだなんて、皮肉なもんね」

加持「葛城は星が好きなのか?」

ミサト「んー? 最近は、ちょっちね…」

加持「ロマンチストだな…俺はどうも暗闇が落ち着かない」

ミサト「………」

加持「光があったほうが……」

リツコ「…人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきた」

加持「おっ、なんかの詩かい?」

リツコ「習ったの。綾波博士から…」

ミサト「続きは?」

リツコ「分からない…」

ミサト「そう…」

加持「……作ればいいさ」

加持「人がこの先、何を使い、どうやって生きていくのか…」

ミサト「…まずは「生」を掴み取らないとね」

加持「その通り」

リツコ「……負けないわ」

加持「ああ。負けないさ、俺たちは」




拾壱話分終わり

加持さんアンタ自分が中学生って自覚無いだろ…

シンジの過去。南極で起きた爆発


シンジ「…母さん…?」

ユイ「……」



シンジ「……」

青葉「悪いな、葛城。雨宿りさせてもらって」

日向「……シンジさんは…?」

ミサト「うーん、まだ寝てるかも。最近徹夜の仕事が多いみたいで…」

日向「…そっか」ホッ


加持「残念。俺がいるよ」

日向「」

加持「雨宿り、って口実も悪くはないが。アプローチするんならもっと相手に「特別」を意識させないとな?」サワッ

ミサト「ちょっと!ふざけないでよっ」バシッ

加持「あたた…」

青葉「はは…」

日向「……………」

シンジ「あれっ? 青葉くんに、日向くん」

青葉「すいません、雨宿りで」

日向「お邪魔してます」

シンジ「そっか…外雨降ってるのかぁ…」

ミサト「もう出るんですか?」

シンジ「うん。今日はちょっとね…2人とも、今夜はハーモニクスのテストがあるから、遅れないようにね」

ミサト「はい…」

加持「了解」

シンジ「じゃあ、いってきます」

ミサト「いってらっしゃい」

ミサト「………」

日向「…どうかした?葛城さん」

ミサト「いや…シンジさんの服、いつもと違ったような…」

青葉「ええ?同じだったろ」

ミサト「襟のところの線が、二本になってたような…」

加持「へえ。そりゃすごいな、シンジさん」

青葉「なんだ?なんか違うのか?」

加持「そりゃ、襟章の線が2本になってたんなら、一尉から三佐に昇進したってことだからな」

ミサト「そうなんだ…」

加持「…どうした?まだ何か気になることが?」

ミサト「…シンジさん、全然嬉しそうじゃなかったな、って…」

青葉「…きっと忙しかったんじゃないか?徹夜続きだって話だし」

日向「どうだろうな…あの若さで三佐なら、プレッシャーも大きいだろうし」

加持「ま、ともあれ目出度いことだ。サプライズパーティでも開くか?」

ミサト「……」

ヒカリ「0番2番、ともに汚染区域に隣接。限界です」

レイ「1番にはまだ余裕があるわね……プラグ深度を後0.3下げてみて」


ヒカリ「汚染区域ぎりぎりです」

レイ「それでもこの数値……凄いわね…」

ヒカリ「ハーモニクス、シンクロ率も加持くんに迫ってますね」

レイ「……才能ね…」

オペレータ「まさに、エヴァに乗るために生まれてきたような子供ですね」

シンジ「…………」

レイ「3人ともお疲れさま」

レイ「特に…ミサトちゃん」

ミサト「えっ?」

レイ「ハーモニクスが前回より8も伸びてる。とても良い数字よ」

ミサト「いえっ…そんな…まだまだです…!」

加持「そんなことないさ!10日で8だろ。たいしたもんだよ」

レイ「その通りよ。もっと自信を持って」

ミサト「は、はぁ…」

加持「じゃあ俺は「準備」があるから。お先に!」

ミサト「あ、あの、シンジさん……昇進おめでとうございます」

シンジ「はは…気付いてたの。ありがとう、嬉しいよ」

ミサト「………本当に嬉しい、ですか?」

シンジ「…!…はは…ダメだな。ミサトちゃんには敵わないや」

シンジ「…本当言うとね、複雑だよ…僕自身、何をしたってわけじゃないんだ。ただ流れに身を任せただけ…」

シンジ「目的はある。でもそれも最近は忙殺されて……遠いんだ。…何やってるんだろうって…疑問に思うこともある」

ミサト「…あの、疑問って…?」

シンジ「…(君たちを、エヴァに乗せてること…)」

ミサト「……?」

シンジ「いや…いいんだ。ごめんね、心配かけちゃって」

シンジ「僕がこんなじゃ、失礼だよね。勇気を持って乗ってくれてるミサトちゃんに対して。他のみんな…加持くんや、リツコちゃんにも……」

ミサト「……」(シンジさん…)

ミサト・日向・青葉・加持・マヤ「おめでとうございまーす!」

シンジ「ありがとう…わぁ、すごい。よくこんなに作れたね」

加持「クラスに凄腕の先生がいてね。ご教授いただいたんだ」

マヤ「す…凄腕ってわけじゃ…」


シンジ「…こ、これは…?」

ミサト「そ、それは…わたしが」

青葉「みっ見た目じゃないよなあ!?料理はなぁ!?」

日向「そ、そうさ!旨いんだから!問題ないよ!」

シンジ「ぱくっ」

ミサト「…!」

シンジ「…ありがとう、ミサトちゃんも。おいしいよ」

ミサト「……いえ!そんな…」カァ

リツコ「……私は作戦会議だと聞いたのだけど」

加持「…親睦を深めるってのも作戦のうちさ。それに、祝いの席には華が多い方がいいだろ?」

リツコ「花?」

マヤ「あっ赤木さん!よかったらこのスープ…」

リツコ「…いただくわ」


ミサト「それにしても…アスカさん遅いわね」

シンジ「!? ごほっ、あっ、アスカもくるの!?」

加持「誘ってはみたんですけどね。最近忙しいみたいで、色々と」

シンジ「………」

マヤ「アスカさんってどんな人なの?」

青葉「顔はいいよ…顔はね」

日向「性格がな…」

シンジ「あはは…」

加持「顔で渡ってこれる世界じゃない。腕は確かさ。でもまぁ……当たりが強いのは、感情の裏返しだろうな」

ミサト「裏返し?」

加持「…好きでも素直になれないってこと。俺はストレートに表現してるけどな?」サワッ

ミサト「ちょっと!やめてったら!」

加持「つれないなぁ」

日向「………」ムカムカ

青葉「…祝いの席だぞ、一応…」

マヤ「加持くんと葛城さんってやっぱり…そうなの?」

ミサト「違うわよぉ!全然!!そんなんじゃないから!!!」

シンジ「あはは」

シンジ「……ミサトちゃん、最近表情が豊かになったね」

ミサト「す、すいません…はしゃいじゃって…」

シンジ「謝ることなんてないよ、嬉しいんだ。ミサトちゃんが笑ってくれて」

ミサト「え…」

シンジ「みんなが笑ってくれて。昇進自体に思うところがないわけじゃないけど、こうやってみんなが集まって……なんて言うのかな、僕のために喜んでくれることが、嬉しい…」

ミサト「…わかります」

シンジ「……」

ミサト「…私も、エバには乗りたくないけど……みんなが、応援してくれるから…」

シンジ「…ミサトちゃん…」

ミサト「大切なんです、きっと」

加持「おっ、先輩かな?」


加持「先輩。よく来れましたね?」

アスカ「本部から直。仕事の虫もついでだから連れてきたわよ」

レイ「おじゃまします…」

シンジ「…あ、いらっしゃい…」

アスカ「なーによちったあ嬉しそうにしなさいよー?せっかく進展を手伝ってやろうってのに」

シンジ「そっそんなこと頼んでないだろ!」

レイ「碇くん、この度は昇進、おめでとう」

シンジ「あっ綾波…ありがとう。ごめんね、忙しいのに…」

レイ「いいの…きりのいいところだったから」

アスカ「あたしもすごぉ~く忙しかったんですケド?」

シンジ「アスカは普段サボってるからだろ」

アスカ「ぬゎ~んですってえ!??」

加持「こりゃ一番やっかいなのはシンジさんかもな…」

アスカ「はぁ~あ!無敵のシンジ様は?昇進でお偉くなられたようで!これからは私たち敬語をつかうべきかしらねえ~?」

シンジ「そ、そういうのやめてよ…」

レイ「…でも、司令と副司令がそろって日本を離れるなんて、今までなかったことだわ。それだけ碇くんを信頼してるってこと…」

アスカ「ちょっとレイ!!こいつを調子に乗らすんじゃないわよ!」



ミサト「…お父さん、ここにいないんですか?」

レイ「葛城司令は今、南極に行ってるわ」

カヲル「いかなる生命の存在も許さない、死の世界、南極…」

カヲル「いや、地獄というべきかな?」

葛城「……我々はまだここに立っている。人類として、生物として生きたまま」

カヲル「科学の勝利といいたいのかい?」

葛城「傲りだよ……だが全滅は免れた」

カヲル「…15年前の悲劇、セカンドインパクト……それを引き起こした人間の罪、か…」

カヲル「だがもう罰は十分に与えられた。目下の死海もそう、人々の心にも…」

葛城「まだだ。人は背負うべき業を負った。…やつらは、浄化された世界を望んでいる」

カヲル「…未だ赦されず、か…。赦されぬと分かったとき、はたして罪人は頭を垂れたままでいるかな…?」



オペレータ「報告します。ネルフ本部より入電。インド洋上、空衛星軌道上に使徒発見」

トウジ「二分前に突如出現」


オペレータ「第6サーチ、衛星軌道上へ」

オペレータ「接触まで後2分」

ケンスケ「目標を映像で捕捉」

職員「おおっ…」

トウジ「なんじゃこりゃあ…」

シンジ「……!」

ケンスケ「目標と、接触します」

オペレータ「サーチスタート」

オペレータ「データ送信、開始します」

オペレータ「受信確認」



シンジ「…A.T.フィールド?」

レイ「……今までにない使い方ね」

シンジ「……これだけの質量を…」

ヒカリ「落下のエネルギーをも、利用しています。使徒そのものが爆弾みたいなものです」

レイ「…初弾は太平洋に着弾。2時間後の第2射がそこ。…後は確実に誤差修正してる」

シンジ「学習してるのか…」

トウジ「N2航空爆雷も、効果なしや」

ケンスケ「以後、使徒の消息は不明」

シンジ「…次は、多分…」

レイ「来るわね、ここに」

シンジ「被害予想範囲は?」

レイ「富士五湖が一つになって、太平洋とつながる。本部ごとね」

シンジ「葛城司令との連絡は?」

ケンスケ「使徒の放つ強力なジャミングのため、連絡不能」

シンジ「MAGIの判断は?」

ヒカリ「全会一致で撤退を推奨しています」

シンジ「………」

レイ「……碇三佐、今の責任者はあなたよ」

シンジ「……日本政府各省に通達。ネルフ権限における特別宣言D-17。半径50キロ以内の全市民は直ちに避難。松代にはMAGIのバックアップを要請」

トウジ「ここを放棄するんか?」

シンジ「そうなるかもしれない。でも、その前に……考えがある」



放送「政府による特別宣言D-17が発令されました。市民の皆様は速やかに指定の場所へ避難してください」

放送「第6、第7ブロックを優先に、各区長の指示に従い、速やかに移動願います」

放送「市内における避難はすべて完了」

放送「部内警報Cによる、非戦闘員およびD級勤務者の待避、完了しました」

レイ「普段のあなたからは考えられない、危険な賭ね」

シンジ「……賭にも、なってるかどうか…」

リツコ「勝算は0.00001%……本当にやるの?」

シンジ「綾波は…反対…?」

レイ「いいえ、従うわ…碇くんがそう言うなら」

シンジ「……」

シンジ「……アスカなら…とめに入ったかな…?」


レイ「……あんたバカ?」

シンジ「…え?」

レイ「彼女ならそう言ったかも。ただ……確率で言うなら…人類には滅ぶ道のほうが多い」


レイ「アスカも…最終的には奇跡に賭けたはず」


シンジ「そっか…」

レイ「………」

レイ「あなたを変えたのは……、あの子…?」

シンジ「え…?」

レイ「サードチルドレン…葛城ミサト…」


シンジ「…そうかもしれない。僕は使徒を恨んでた。失ったものを追いかけて…でも今は…違う気がするんだ」

シンジ「…今はもうこの手に「ある」から…だから失いたくない」

レイ「碇くん…」

シンジ「もう誰にも、失ってほしくないんだよ」

加持「手で」

ミサト「受け止める!?」

リツコ「……」


シンジ「そう。観測上最大級の使徒がA.T.フィールドを張ってここに落下してくる……。対抗できるのはA.T.フィールドを持つエヴァ三機だけ」

シンジ「ただ…予測される軌道、衝撃、何もかもが未知数なんだ。無理強いはしないよ、やめたければ…」


加持「……これが作戦といえるのか?」

シンジ「えっ」

加持「先輩なら、そう言ったかもな。でも俺はそういうの、嫌いじゃない」

加持「こちとら何千の候補から選ばれた「チルドレン」…」

加持「勝利の女神も、微笑ませてみせるさ」


シンジ「加持くん…」

リツコ「……私も、やります」

シンジ「リツコちゃん」

リツコ「ここがなくなると困るもの」

ミサト「わ、私も…!」

ミサト「みんなを…!守りたいから」

シンジ「……ミサトちゃん」

加持「勝利は確定だな。すでに女神が二人ついてる」

ミサト「すぐふざけるんだから…」

リツコ「……」

シンジ「…ふふ」

加持「……規則だっていう「家族・友人への手紙」、書いたか?」

ミサト「ぜーんぜん」

リツコ「書いてないわ」

加持「だよなぁ…こりゃ、まんま遺書だもんな」

ミサト(なぜだろう……おじさんの家では…出せなかった手紙が…お父さんに対する、怒りが…山ほどあったはずなのに…今は何て書けばいいのか…)トン…トン…

ペンを迷わせるミサト

ミサト「……不思議」


加持「? なにか言ったか?葛城」

ミサト「ううん…加持くん、リツコ」

ミサト「絶対に奇跡を起こしましょう、…この手で」

加持「…おう!」

リツコ「ええ…」

ヒカリ「使徒による電波撹乱のため、目標を喪失」

シンジ「正確な位置の測定ができないけど、ロスト直前までのデータから、MAGIが算出した落下予想地点が…これ」

加持「あちらさんの攻撃範囲ってわけか」

ミサト「こんなに広く…これじゃ、エバ三体でも…」

レイ「目標のA.T.フィールドをもってすれば、そのどこに落ちても本部を根こそぎえぐることができる」

シンジ「うん。だからエヴァ全機はこれら三個所の配置についてもらう」

リツコ「この配置の根拠は?」

シンジ「……勘、かな……はは……」

ミサト・加持「……カン?」

リツコ「……」

シンジ「確率の高い場所、というのがないんだ……どの地点にも落下しうる」

加持「……はは。こうも運頼みだと笑えてくるな」

加持「なーに。大丈夫さ、きっとなんとかなる。なんとかなったら……その時は碇三佐殿、奮発して頼みますよ?」

シンジ「ありがとう……約束するよ」

ミサト「ねぇ」

加持「うん?」

ミサト「なに見てるの?」

加持「……3つ星レストランのパンフレット」

ミサト「……加持くんって、図太いわよね。神経が」

加持「胆が据わってるって言ってくれよ…死ぬときのこと考えたってしょうがないだろ?」

ミサト「そりゃそうだけど…」

加持「…生きているんだから、楽しまなきゃな」

ミサト「……加持くんは…どうしてエバーに乗ってるの?」

加持「……自分のためだな。生きている自分のため」

ミサト「そう……」

加持「……おっ、この海鮮料理なんてどうだ?珍しいし」

ミサト「…私は…シンジさんの手料理のほうが…」

加持「……」

ミサト「…あ」

加持「妬けるねえ…」

ミサト「そ! そういうのじゃないわよ!バカ!」

オペレータ「落下予測時間まで、後120分です」

シンジ「みんなも避難して。ここは僕一人でいいから」

ケンスケ「なーに言ってんだよ碇」

トウジ「子供らぁとセンセーだけ残して行けるわけないやろ!」

シンジ「はは…僕は、ダメかもしれないけど、ミサトちゃん達にはA.T.フィールドがあるから…」

トウジ「アホゥ!尚更や!」

ケンスケ「ネルフ期待の作戦部長様を死なすわけにはいかないだろ?あと人類もね」

ヒカリ「私たちもできることはやっておきたいのよ……最後まで」

シンジ「みんな…」

(回想)

夕暮れの街を見下ろすミサト、シンジ。

ミサト「シンジさん…」

シンジ「…なに?」

ミサト「昨日…シンジさんが言ってた…ネルフにいる目的、って…なんですか」

シンジ「そうか…昨日は話さずじまいだったね」


シンジ「僕の両親はね、研究者だったんだ。僕の身代わりになって死んでしまった…」

シンジ「不器用な人だった…父さんは、いつも言葉が足らなくて。でも…母さんが笑っていたから、憎めなかった」

シンジ「幸せだったよ。…泣いてばかりだった僕を、母さんはよく研究室に連れていってくれた」

シンジ「…愛されている気がした。たぶん気のせいじゃない…。心地よかった。敬愛する両親、その仲間からの称賛が誇らしかった」

シンジ「でも…」

シンジ「一夜にしてすべて失った。家族も…生きる希望も」

シンジ「セカンドインパクトの……直後の記憶はあまりない。ただ亡霊のようになってしまった自分と、反芻する母さんの言葉……「生きてさえいれば」と……それだけ」

シンジ「母さんの言葉通り、また希望と出会った。…父さんに似て不器用で、母さんのように聡明な人だった。愛しかった。でも、いつからか…」

シンジ「想像の中の、彼女を愛しているんだと気づいたんだ。目の前の彼女じゃなく…!」

シンジ「僕は誰も愛してなかった。すべて過去の、「あの頃」を準えているにすぎない」

シンジ「そう思えてからは遠ざけた、人も、自分の心も……何が悪いのか分からなくて」

シンジ「…使徒を恨んだ。僕の人生を狂わせた使徒を」

シンジ「使徒を倒さなければ、二度と現実の理想は語れない、って」


シンジ「そう思い込もうとしてたんだ…」

ミサト「…シンジさん…」

シンジ「でも今は…違うと思う」

シンジ「ミサトちゃん…」

ミサト「……!」

シンジ「僕もきみが大切だよ」

シンジ「加持くんに、リツコちゃん…ここにいるみんな…、過去の何とも重ならない「今」が…!」



シンジ「だからネルフで迎え撃つ、人類の敵…使徒を」



ミサト「………」

ミサト(大切だから…「守る」)

ミサト(逃げるんじゃなく、「迎え撃つ」)

ミサト(「奇跡」を……起こす…!)

ケンスケ「目標を最大望遠で確認!」

トウジ「距離、およそ2万5千!」

シンジ「…エヴァ全機、スタート位置!」

シンジ「目標は光学観測による弾道計算しかできない。MAGIによる距離1万までの誘導ののちは、各自の判断で行動。これが現時点で出せる指示のすべて…」

加持「へへ…腕の見せどころ、ってね」


ケンスケ「使徒接近、距離、およそ2万!」

シンジ「……作戦開始!」

ミサト「行きます!」

加持・リツコ「…」

ミサト「……スタート…っ!」

ケンスケ「距離、1万2千!」

ミサト「フィールド、全開!」

ミサト「うっ、ぐ、うう…っ」

リツコ「弐号機、フィールド全開!」

加持「まかせろっ!」

ミサト「…今!」

加持「でやあああっっっ!」


使徒撃破


加持「………ははっ……命あったか……」

ケンスケ「電波システム、回復。南極の葛城司令から、通信が入っています」

シンジ「繋いで」

ケンスケ「了解」

シンジ「申し訳ありません。自分の勝手な判断で、初号機を破損してしまいました。責任はすべて自分にあります」

カヲル「……構わないよ。使徒殲滅がエヴァの使命……君たちも無事で良かった。幸運を引き寄せたね」

シンジ「いえ…それは子どもたちが…」

葛城「よくやってくれた、碇三佐」

シンジ「ありがとうございます」

葛城「……初号機のパイロットはいるか?」

ミサト「は、はい…!」

葛城「…よくやったな、ミサト」

ミサト「えっ………はい…」

葛城「では碇三佐、後の処理は任せる」

シンジ「はい!」




加持「さぁシンジさん、お約束のディナーだ」

シンジ「ふふ、こう見えて貯金はあるんだ。どこのお店にするか決まった?」

加持「それがね……」

シンジ「あはは…こんなのでいいなら、いつでもご馳走するのに」

加持「葛城たっての希望でね。それにリッちゃんもこのほうが好きなものを選んで食えるし」

リツコ「…おいしい」

シンジ「はは、たくさん食べてよ、まだあるから」

葛城「……なによ、「リッちゃん」って…」

加持「…砕けた愛称のほうが、氷の美少女に微笑えんでもらえるかと思ってね。妬いたかい?」

葛城「ばーか。…私は見たことあるわよ?リツコの笑顔~」

加持「なんだって?いつ?」

葛城「おしえな~い!ねっ?リツコ」

リツコ「このポテトサラダ…おいしいわ」

シンジ「あはは」

ミサト「…ねぇ、シンジさん…」

シンジ「なに?」

ミサト「……私のお母さんは…泣いてばかりいたの。お父さんと喧嘩して。…泣くお母さんも泣かせるお父さんも嫌だった…」

シンジ「うん…」

ミサト「でも、今は……お父さんは不器用だったんじゃないか、って。……シンジさんのお父さんと同じように」

ミサト「そう思う……そう、思える…」


シンジ「そう……」

加持「……」

加持「多少口下手でも、あの顔だ。女性のほうが放っとかなかったんじゃないか?」

ミサト「なに?」

加持「喧嘩の理由だよ」

ミサト「真面目に話してるのよ?」

加持「こっちだって真面目さ。ポーカーフェイスはモテるからな」

リツコ「……私は見たことあるわ、葛城司令の笑顔」

ミサト・加持・シンジ「えっ…」






拾弐話分終わり

続きは明日

オペレータ「エヴァ三体のアポトーシス作業は、MAGI-SYSTEMの再開後予定通り行います」

オペレータ「作業確認。450より670は省略」

トウジ「発令所、承認」

レイ「さすが洞木さん、早いわね」

ヒカリ「それはもう。綾波博士直伝ですから」

レイ「…あ、待って、そこ。A8の方が早いわ。ちょっと貸して」

ヒカリ「…さすが、東洋の三賢者の弟子……」

シンジ「MAGIの診察は順調?」

レイ「大体ね。今日のテストには間に合わせるわ」

シンジ「ごめんね…急がせて。同じ物が3つもあって、大変なのに」

レイ「ちゃんと休憩は取ってるわ。ご心配なく」

シンジ「どうだかなぁ……この紅茶、冷めてるじゃないか」

レイ「そうね…いれ直さなきゃ。碇くんも飲む?」

シンジ「綾波は座ってなよ。僕がいれてくるから」

レイ「………」

レイ「ありがとう…」

オペレータ「MAGI-SYSTEM、再起動後、自己診断モードに入りました」

ヒカリ「第127次、定期検診異常無し」

レイ「了解。お疲れさま。みんな、テスト開始まで休んでちょうだい」




レイ「不思議ね…歳を取っているはずなのに」

レイ「ちっとも変わった気がしない…」

レイ「可笑しいと思うでしょう?……先生」

ミサト「…うげぇ。また無菌室…?」

レイ「ごめんなさいあなたたち。ここから先は超クリーンルームなの。17回ほど垢を落としてもらうことになるわ」

ミサト「じゅ、17回ィ!?」

レイ「時間はただ流れているわけじゃない…エヴァのテクノロジーのためなのよ。新しいデータは常に必要なの…こらえてちょうだいね」

ミサト「……は~い」




ミサト「17回は…やっぱ…」

加持「きついな…」

リツコ「……」

レイ「お疲れさま。では3人とも、この部屋を抜けてその姿のままエントリープラグに入ってちょうだい」

ミサト「ええっ!?このまま!?」

レイ「大丈夫。映像モニターは切ってあるから…プライバシーは保護してるわ」

ミサト「何も着ちゃだめなんですか…?」

レイ「このテストは、プラグスーツの補助無しに、直接肉体からハーモニクスを行うのが趣旨なのよ」

シンジ「ごめんね、ミサトちゃん」

ミサト「しっシンジさん!?そこにいるんですか!???」

レイ「……隠さなくても、映ってないわよ」

オペレータ「各パイロットエントリー準備完了しました」

レイ「テストスタート」

オペレータ「テストスタートします。オートパイロット、記憶開始」

オペレータ「シミュレーションプラグを挿入」

オペレータ「システムを、模擬体と接続します」

ヒカリ「シミュレーションプラグ、MAGIの制御下に入りました」

シンジ「すごい、早い…!嘘みたいだね。初実験のときは一週間もかかったのに」

オペレータ「テストは約3時間で終わる予定です」

レイ「気分はどう?」

リツコ「…何か違うわ」

ミサト「う~ん、何か変な感じ」

加持「なんというか…右腕だけはっきりして、後はぼやけた感じなんだ」

レイ「リツコちゃん、右手を動かすイメージを描いてみて」

リツコ「はい」

オペレータ「データ収集、順調です」

レイ「問題はないようね…MAGIを通常に戻して」


レイ「ジレンマか…作った人間の性格が伺えるわね」

シンジ「? それって、綾波のってこと?」

レイ「…いいえ…私はシステムアップしただけ。基礎理論と本体を作ったのは、先生なのよ」

シンジ「……赤木、ナオコ博士か…」

カヲル「確認しているんだね?」

ケンスケ「ええ、一応」

ケンスケ「3日前に搬入されたパーツです。ここですね、変質しているのは」

カヲル「第87蛋白壁か…」

ケンスケ「拡大するとシミのようなものがあります。何でしょうね、これ」

トウジ「浸蝕やないか?温度と伝導率が若干変化しとるし。無菌室の劣化はよくあることや」

ケンスケ「工期が60日近く圧縮されてますから。また気泡が混ざっていたんでしょう。杜撰ですよ、B棟の工事は」

カヲル「…あそこは、使徒が現れてからの工事だったか…」

トウジ「無理ないわ、みんな疲れとるからな」

カヲル「…明日までに処理しておいてくれ。司令に知れるとうるさいからね」

トウジ「了解」

レイ「また水漏れ?」

ヒカリ「いえ、浸蝕だそうです。この上の蛋白壁」

レイ「…テストに支障は?」

ヒカリ「今のところは何も」

レイ「では続けて。このテストはおいそれと中断するわけにいかないわ」

ヒカリ「了解」

ヒカリ「シンクロ位置、正常」

オペレータ「シミュレーションプラグを模擬体経由でエヴァ本体と接続します」

オペレータ「エヴァ零号機、コンタクト確認」

オペレータ「A.T.フィールド、出力2ヨクトで発生します」

エラー音。

レイ「どうしたの?」

オペレータ「シグマユニットAフロアに汚染警報発令」

オペレータ「第87蛋白壁が劣化、発熱しています」

オペレータ「第6パイプにも異常発生」

ヒカリ「蛋白壁の浸蝕部が増殖しています。爆発的スピードです!」

レイ「実験中止、第6パイプを緊急閉鎖!」

ヒカリ「はい!」

オペレータ「60、38、39、閉鎖されました!」

オペレータ「6の42に浸蝕発生!」

ヒカリ「だめです、浸蝕は壁伝いに進行しています!」

レイ「ポリソーム、用意!」

レイ「レーザー、出力最大!侵入と同時に、発射!」

ヒカリ「浸蝕部、6の58に到達……来ます!」

一同「……」

リツコ「……ああぁっ、う…!」

レイ「リツコちゃん!?」

ヒカリ「赤木リツコの模擬体が、動いています!」

レイ「まさか!」

ヒカリ「浸蝕部、さらに拡大、模擬体の下垂システムを侵しています」



シンジ「リツコちゃんは!?」

ヒカリ「無事です!」

レイ「全プラグを緊急射出!レーザー急いで!」


シンジ「A.T.フィールド!?」

レイ「まさか!」

シンジ「これは…!」

レイ「分析パターン、青。間違いなく……使徒よ」

カヲル「…使徒?使徒の侵入を許したのかい?」

レイ「申し訳ありません」

カヲル「………セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離だ!」


ケンスケ「セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離します」

シンジ「ボックスは破棄します!総員待避!」

シンジ「…急いでください!早く!」

アナウンス「シグマユニットをBフロアより隔離します。全隔壁を閉鎖、該当地区は総員待避」

葛城「分かっている。よろしく頼む」ガチャ

葛城「…警報をとめろ!」

ケンスケ「け、警報を停止します!」

葛城「日本政府と委員会には「探知機のミスによる誤報」と、そう伝えろ」

ケンスケ「は、はい!」

トウジ「汚染区域はさらに下降!プリブノーボックスからシグマユニット全域へと拡大!」

カヲル「場所がまずい…!」

葛城「アダムに近すぎる……。汚染はシグマユニットまでで抑えろ!ジオフロントは犠牲にしても構わない。エヴァは?」

トウジ「第7ケイジにて待機、パイロットを回収次第、発進できます」

葛城「パイロットを待つ必要はない。今すぐ地上へ射出だ」

ケンスケ・トウジ「え?」

葛城「三機すべてだ」

ケンスケ「しかし、エヴァ無しでは、使徒を物理的に殲滅できません!」

葛城「その前にエヴァを汚染されたらすべて終わりだ。急げ!」

ケンスケ・トウジ「はい!」

アナウンス「シグマユニット以下のセントラルドグマは、60秒後に完全閉鎖されます。真空ポンプ作動まで、後30秒です」


アスカ「あれが使徒か……これは、仕事どころじゃなくなったわ…」

アスカ「ね、っと!」




オペレータ「セントラルドグマ、完全閉鎖。大深度施設は、侵入物に占拠されました」


カヲル「…さて、エヴァ無しで、使徒に対し、どう攻める?」

レイ「ほら、ここが純水の境目、酸素の多いところ」

ヒカリ「好みがハッキリしてますね」

ケンスケ「無菌状態維持のため、オゾンを噴出しているところは汚染されていません」

シンジ「つまり、酸素に弱い、ってこと?」

レイ「そのようね」

トウジ「オゾン注入、濃度、増加中」

ケンスケ「効いてる効いてる」

カヲル「いけるかい?」

ヒカリ「0Aと0Bは回復しそうです」

ケンスケ「パイプ周り、正常値に戻りました」

トウジ「やっぱり真ん中やな。強いのは」

カヲル「よし、オゾンを増やすんだ」

レイ「おかしい…」

ケンスケ「あれ?増えてるぞ」

トウジ「あかん…また発熱しだしとる」

ケンスケ「汚染域、また拡大しています!」

ヒカリ「だめです、まるで効果が無くなりました」

トウジ「今度はどんどんオゾンを吸っとる!」

レイ「オゾン止めて!」


レイ「すごい…進化しているんだわ」

シンジ「! これは…!?」

ケンスケ「サブコンピューターがハッキングを受けています!侵入者不明!」

トウジ「クソッ!こんな時に!Cモードで対応!」

ケンスケ「防壁を解凍します!疑似エントリー、展開!」

オペレータ「疑似エントリーを回避されました」

ケンスケ「逆探まで18秒!」

オペレータ「防壁を展開!」

オペレータ「防壁を突破されました!」

オペレータ「疑似エントリーをさらに展開します!」

トウジ「…こりゃあ人間技やないな…」

ケンスケ「逆探に成功…この施設内です…B棟の地下……!プリブノーボックスです!」

ヒカリ「光学模様が変化しています」

ケンスケ「光ってるラインは電子回路だ。こりゃあ…コンピューターそのものだ」

トウジ「疑似エントリー展開……失敗、妨害された!」

シンジ「メインケーブルを切断!」

オペレータ「だめです、命令を受け付けません!」

シンジ「レーザーを打ち込んで!」

ヒカリ「A.T.フィールド発生、効果無し!」

ケンスケ「保安部のメインバンクにアクセスしています。パスワードを走査中、12桁、16桁、D-WORDクリア!」

トウジ「保安部のメインバンクに侵入!」

トウジ「メインバンクを読んどる…!解除できん!」

カヲル「何が目的だ…!?」

ケンスケ「メインバスを探っています…このコードは…やばい、MAGIに侵入するつもりです!」

葛城「I/Oシステムをダウンしろ」

ケンスケ「カウント、どうぞ!」

トウジ「3、2、1!」

トウジ「電源が切れん!」

ヒカリ「使徒、さらに侵入、MELCHIORに接触しました!」

ヒカリ「だめです!使徒にのっとられます!」

ヒカリ「MELCHIOR、使徒にリプログラムされました!」

アナウンス「人工知能、MELCHIORより、自律自爆が提訴されました。否決、否決、否決、否決」

ケンスケ「こっ、今度は、MELCHIORがBALTHASARをハッキングしています!」

トウジ「くそぉ、早い!」

ケンスケ「なんて計算速度だ!」

レイ「…、……!」

レイ「ロジックモードを変更!シンクロコードを15秒単位にして!」

ケンスケ・トウジ・ヒカリ「了解!」


シンジ「! とまった…!」


カヲル「……どのくらい持ちそうだい?」

ケンスケ「今までのスピードから見て、2時間くらいは」

葛城「MAGIが、敵に廻るとはな…」

レイ「……」

レイ「彼らはマイクロマシン、細菌サイズの使徒と考えられます」

レイ「その個体が集まって群を作り、この短時間で知能回路の形成にいたるまで、爆発的な進化を遂げています」

カヲル「進化か…」

レイ「はい。彼らは常に自分自身を変化させ、いかなる状況にも対処するシステムを模索しています」

カヲル「…まさに、生物の生きるためのシステムそのものだね…」

シンジ「…そんな。それじゃあ……もうMAGIは」

レイ「いいえ。MAGIを切り捨てることは、本部の破棄と同義。物理的消去はできない」

カヲル「…では、司令部から正式に要請することになる」

レイ「拒否します。技術部が解決すべき問題です」

シンジ「あ、綾波…!」

レイ「碇くんは黙ってて。……私のミスから始まったことなのよ」

シンジ「綾波……」

レイ「…使徒が進化しつづけるのなら、勝算はあります」

葛城「…進化の促進か」

レイ「そうです」

カヲル「なるほど…進化の終着地点は自滅、死、そのもの」

シンジ「…じゃあ、進化をこちらで促進させれば…?」

レイ「使徒が死の効率的な回避を考えれば、MAGIとの共生を選択するかもしれません」

トウジ「できるんか。そんなことが」

レイ「…目標がコンピューターそのものなら、CASPERを使徒に直結、逆ハックを仕掛けて、自滅促進プログラムを送り込むことができます。が…」

ヒカリ「同時に使徒に対しても防壁を開放することにもなります」

葛城「CASPERが早いか、使徒が早いか…勝負というわけか」

レイ「はい」

カヲル「そこまで言い切ったんだ。そのプログラム、間に合うんだろうね?」

レイ「間に合わせます…!」

アナウンス「R警報発令、R警報発令、ネルフ本部内部に緊急事態が発生しました。D級勤務者は、全員待避してください。」


ヒカリ「な、何これ…」

レイ「…開発者の悪戯書きね…」

ヒカリ「こんなに沢山……MAGIの裏コードが…」

シンジ「すごい…!こんなところがあったなんて」

ヒカリ「わっ…こんなの、見ちゃっていいのかしら…すごい、intのC……!」


ヒカリ「…これなら、意外と早くプログラムできそうね!」

レイ「ええ……ありがとう、先生…確実に間に合うわ」

レイ「レンチを取って」

シンジ「…大学のころを思い出すね…」

レイ「25番のボード」

シンジ「……ごめん、綾波…さっきは、MAGIを…[ピーーー]ようなことを言って」

レイ「……」

レイ「…いいのよ。私こそ、ごめんなさい。当たったりして」


シンジ「ねぇ、MAGIって何なの…?」

レイ「……」

シンジ「……いや、綾波がこんなに物に執着するのは珍しい、から……」

シンジ「言いたくなかったら、いいんだ。その……ごめん」

レイ「レンチを取って」

シンジ「…大学のころを思い出すね…」

レイ「25番のボード」

シンジ「……ごめん、綾波…さっきは、MAGIを…殺すようなことを言って」

レイ「……」

レイ「…いいのよ。私こそ、ごめんなさい。当たったりして」


シンジ「ねぇ、MAGIって何なの…?」

レイ「……」

シンジ「……いや、綾波がこんなに物に執着するのは珍しい、から……」

シンジ「言いたくなかったら、いいんだ。その……ごめん」

レイ「……物じゃないわ」

シンジ「えっ?」

レイ「人格なのよ。……人格移植OSのことは?」

シンジ「えっと……確か、第7世代の有機コンピュータに、個人の人格を移植して思考させる…っていう、エヴァの操縦にも使われている技術だよね…?」

レイ「MAGIがその第1号らしいわ。…先生が開発した技術なのよ」

シンジ「じゃあ、赤木博士の人格を移植したの?」

レイ「そう」

レイ「言ってみれば、これは先生の脳味噌そのものなのよ」

シンジ「……それで、MAGIを…」

レイ「そうね……たぶん、そんなところ」

トウジ「きたっ!」

トウジ「BALTHASARが、乗っ取られた!」

アナウンス「人工知能により、自律自爆が決議されました」

シンジ「始まった…!?」


アナウンス「自爆装置は、三者一致の後、02秒で行われます」

アナウンス「自爆範囲は、ジオイド深度マイナス280、マイナス140、ゼロフロアーです」

アナウンス「特例582発令下のため、人工知能以外によるキャンセルはできません」

ケンスケ「BALTHASAR、さらにCASPERに侵入!」


カヲル「押されている…!」

ケンスケ「なんて速度だ!」

アナウンス「自爆装置作動まで、後、20秒」

カヲル「まずい!」

ケンスケ「CASPER、18秒後に乗っ取られます!」

アナウンス「自爆装置作動まで、後、15秒」

シンジ「…綾波!」

アナウンス「自爆装置作動まで、10秒、」

レイ「大丈夫、一秒近く余裕があるわ」

アナウンス「9秒、8秒、」

シンジ「一秒って…!」

レイ「ゼロやマイナスじゃないのよ」

アナウンス「7秒、6秒、5秒」

レイ「洞木さん!」

ヒカリ「行けます!」

アナウンス「4秒、3秒」

レイ「押して!」

アナウンス「2秒、1秒、0秒」

アナウンス「人工知能により、自律自爆が解除されました」


ケンスケ・トウジ「いよっしゃぁーッ!」


アナウンス「なお、特例582も解除されました。MAGI-SYSTEM、通常モードに戻ります」



アナウンス「R警報解除、R警報解除、総員、第一種警戒態勢に移行してください」


ミサト「…外はどうなってんのかしら?」

リツコ「……」

加持「……裸じゃあどこにも出れないしなぁ…」

アナウンス「シグマユニット開放、MAGI-SYSTEM開放まで、マイナス、03です」


レイ「…前は眠らなくても仕事ができたのに。体はしっかり歳を取っているのね…」

シンジ「本当にお疲れさまだったね…。はい、紅茶」

レイ「ありがとう…」


レイ「…碇くんがいれてくれる紅茶、いつも美味しいわ……なにかコツがあるの?」

シンジ「うん?あはは…そんな…コツなんて。でも綾波が喜んでくれるなら、良かった」

レイ「……」

レイ「……先生が言ってたの、MAGIは三人の自分なんだって…」

レイ「科学者としての自分、母としての自分、そして女としての自分なんだ、って。その3人がせめぎあってるのが、MAGIなのよ」

レイ「人の持つジレンマをわざと残して…」


シンジ「……そう」

レイ「先生は私を娘のように可愛がってくれたわ……科学者としての先生も尊敬してた。でも…女としての先生のことはよく分からなかった…」

レイ「…とても情熱的な人だったの。「恋はロジックじゃない」って…口癖みたいに言ってた…」

レイ「研究で忙しいはずなのに、いつも男の人を連れ込んで……でも誰とも本気じゃなかったみたい」

レイ「本当に好きな人はもういないんだ、って言ってたわ…」


シンジ「なんだか…寂しい話だね…」

レイ「そうね…その点私は恵まれてる」

シンジ「えっ?」

レイ「ふふ…いいの。こっちの話…」


レイ「CASPERには、女としてのパターンがインプットされていたの…最後まで女でいることを守ったのね。ほんと、先生らしいわ…」




拾参話分終わり

(中略)

委員「いかんな、これは」

委員「早すぎる」

委員「左様。使徒がネルフ本部に侵入するとは、予定外だよ」

委員「ましてセントラルドグマへの侵入を許すとはな」

委員「もし接触が起これば、すべての計画が水泡と化したところだ」

葛城「委員会への報告は誤報、使徒侵入の事実はありません」

委員「では葛城、第11使徒侵入の事実はない…と言うのだな」

葛城「はい」

委員「気をつけてしゃべりたまえ、葛城君。この席での偽証は死に値するぞ」

葛城「……MAGIのレコーダーを調べてくださっても結構です。その事実は記録されておりません」

委員「笑わせるな。事実の隠蔽は、君の十八番ではないか!」

葛城「タイムスケジュールは、死海文書の記述通りに進んでいます」

キール「まあいい。今回の君の罪と責任は言及しない。…だが、君が新たなシナリオを作る必要はない」

葛城「分かっています…。すべてはゼーレのシナリオ通りに」

リツコ「エントリープラグ、魂の座」

リツコ「私にあるものは命、心。その入れ物…」

(ミサト「リツコ!」)

(加持「リッちゃん」)

(レイ「リツコちゃん」)


(?「リッちゃん……」)


リツコ「……これは誰? これは私。私は誰?私は何、私は……」

リツコ「私は自分。この物体が自分。自分を作っている形。目に見える私…」

リツコ「でも、私が私でなくなる感覚…違和感。体が融けていく感じ。私が分からなくなる」

リツコ「私の形が消えていく。私でない人を感じる。誰かいるの?この先に。…葛城司令?それとも別の誰か……」

リツコ「ミサト。加持くん。綾波博士。碇三佐。みんな。クラスメイト。葛城司令」

リツコ「あなた誰」

リツコ「あなた誰、」

リツコ「あなた誰……」

レイ「どう、リツコちゃん。初めて乗った初号機は?」

リツコ「……、」

リツコ「…ミサトの匂いがします」



レイ「シンクロ率は、やはり下がるわね…零号機のときと比べると」

ヒカリ「それでも凄いですよ。起動には十分な数値です」

レイ「そうね…助かるわ」

ヒカリ「誤差、プラスマイナス0.03。ハーモニクスは正常です」

レイ「赤木リツコと初号機の互換性に問題点は検出されず」

レイ「では、テスト終了。リツコちゃん、あがっていいわよ」

リツコ「はい」

オペレータ「弐号機のデータバンク、終了」

オペレータ「ハーモニクス、すべて正常値」

ケンスケ「パイロット、異常無し」

加持「良好良好、っと」




オペレータ「エントリープラグ挿入完了」

レイ「零号機のパーソナルデータは?」

ヒカリ「書き換えはすでに終了しています。現在、再確認中」

レイ「被験者は?」

トウジ「若干緊張しとるが、神経パターンに問題はない」

シンジ「初めての零号機。ほかのエヴァだもんね…」

加持「うちのお姫様は繊細だな」

レイ「あら。弐号機以外には乗りたがらない、乗せたがらない繊細な子は誰だったかしら」

加持「それを言われると痛いなぁ」

シンジ「はは…いいじゃないか、加持くんと弐号機の調子、最近いいみたいだし」

加持「さすがシンジさん。分かってるね」

レイ「あまり甘やかしては駄目よ、互換性の問題もあるんだから…」

シンジ「互換性か…ミサトちゃん、大丈夫かな…」

加持「大丈夫さ。俺の弐号機だって動かしたんだ」

シンジ「でもあの時は、加持くんもいたし…」

加持「乗ってる身としては、葛城の意思を強く感じたがね…」

シンジ「……」

ヒカリ「エントリー、スタートしました」

オペレータ「L.C.L.電荷」

ヒカリ「第一次接続開始」

レイ「どう、ミサトちゃん。零号機のエントリープラグは?」

ミサト「なんだか…変な感じです」

ヒカリ「違和感があるのかしら?」

ミサト「いえ、ただ、リツコの匂いがする…」

加持「それは……興味深いな」

ヒカリ「データ受信、再確認。パターングリーン」

オペレータ「主電源、接続完了」

オペレータ「各拘束具、問題なし」

レイ「了解。では、相互間テスト、セカンドステージへ移行」

ヒカリ「零号機、第2次コンタクトに入ります」

シンジ「どう?」

レイ「やはり初号機ほどのシンクロ率は、出ないわね」

ヒカリ「ハーモニクス、すべて正常位置」

レイ「でもいい数値だわ、十分ね」

レイ「これであの計画が遂行できる…」

ヒカリ「…ダミーシステムですか?綾波さんの前だけど、私は、あんまり…」

レイ「……納得は、私もしてないわ…」

レイ「それでも必要なのよ。戦うための、……」

ヒカリ「……綾波さん…?」

レイ「…いいえ、続けましょう…」


ヒカリ(……)

オペレータ「第3次接続を開始」

トウジ「セルフ心理グラフ、安定しています」

レイ「A10神経接続開始」

ヒカリ「ハーモニクスレベル、プラス20」

ミサト「!?…何これ、頭に入ってくる…直接…何か…」

ミサト「リツコなの…? 赤木リツコ? この感じ……違うの…?」

シンジ「これは……!?」

オペレータ「パイロットの神経パルスに異常発生」

オペレータ「パルス逆流」

マヤ「精神汚染が始まっています!」

レイ「まさか!このプラグ深度ではありえないわ!」

ヒカリ「プラグではありません、エヴァからの侵蝕です!」


ヒカリ「零号機、制御不能!」

レイ「全回路遮断、電源カット!」

ヒカリ「エヴァ、予備電源に切り替わりました」

オペレータ「依然稼働中」

シンジ「ミサトちゃんはっ?」

トウジ「回路断線、モニター不能!」

レイ「これは、拒絶…? 零号機が…!」

ヒカリ「だめです、オートエジェクション、作動しません!」

レイ「…まさか! ミサトちゃんを取り込むつもり?」

コントロールルームに手を伸ばす零号機。

シンジ「リツコちゃん、下がって!」

レイ(……!)

リツコ「……、…」

ヒカリ「零号機、」

シンジ「リツコちゃんっ!!」

ヒカリ「活動停止まで、後10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」



ヒカリ「零号機、活動を停止しました」

シンジ「パイロットの救出を! 急いで!」


シンジ「まさか、僕らを殺そうとした…? 零号機が…?」

シンジ「……この事件、前の暴走と関係があるの?リツコちゃんが精神的に不安定だったときの」

レイ「…今はまだ何も言えないわ。ただ、データを赤木リツコに戻して、早急に零号機との追試、シンクロテストが必要ね」

シンジ「……」

シンジ「もし零号機が……僕らの手に余るようなら、その時は考えなきゃならない。…よろしく頼むよ」

レイ「分かっているわ。碇三佐」



レイ(零号機が殴りたかったのは…私ね)

レイ(当然だわ。……これじゃ約束と違うもの)

ミサト「はっ……!」


ラジオ(TV)「それでは、次の万国びっくりさんは、何と、算数のできるワンちゃんの登場です!」

ラジオ(TV)「おお、それはすごい!」

ラジオ(TV)「ワン!」


ミサト「……またこの天井…」




トウジ「葛城ミサトの意識が戻った。汚染の後遺症はなし。何も覚えてないそうや」

シンジ「そう……」



ラジオ(TV)「はーい、私は元気にやってんだけど、世間では南沙諸島をめぐってのテロが…」



加持「パイロットの代用テストに…零号機の暴走か」

加持「こりゃ一波乱くるかな」

カヲル「予定外の使徒侵入。その事実を知った人類補完委員会による突き上げか…ただ文句を言うことだけが仕事とは…くだらない連中だよ」

葛城「切り札はすべてこちらが擁している。彼らにできることはない」

カヲル「だからといってじらすこともないだろう……今、ゼーレが乗り出すと面倒なことになる」

葛城「すべて、われわれのシナリオ通りだ。問題ない」

カヲル「零号機の事故は?少なくとも僕の予想を越える事態ではあったよ」

葛城「支障はない。リツコと零号機の再シンクロは成功している」

カヲル「……アダム計画はどうなんだい?」

ゲンドウ「順調だ。2%も遅れていない」

カヲル「では、ロンギヌスの槍は?」

葛城「予定通りだ。作業はリツコが行っている」




槍を運ぶ零号機。

リツコ「……」




拾四話分終わり

カヲル「第2、第3芦ノ湖か。これ以上増えない事を望むよ」

カヲル「昨日キール議長から、計画遅延の文句が来たよ。僕のところに直接ね」

カヲル「あれは相当苛ついていたな…仕舞いには君の名前も出して。解任を仄めかしていたよ」

葛城「……アダムは順調だ。エヴァ計画もダミープラグに着手している。連中の不満は何だ?」

カヲル「肝心の人類補完計画」

葛城「……」

カヲル「それが遅れているように見えるんじゃないのかい」

葛城「…全ての計画はリンクしている。問題はない」

カヲル「……綾波博士のことも?」

葛城「……」

カヲル「まあいいさ」

カヲル「…ところで、彼女はどうする?」

葛城「…手出し無用だ。いずれ真実に辿り着く」

カヲル「もうしばらくは、様子を見るか…」

アスカ「16年前、ここで何が始まったってのよ…」



謎のオバサン「私だ」

アスカ「ああ、あんたね」

オバサン「シャノンバイオ。外資系のケミカル会社。9年前からここにあるが、9年前からこの姿のままだ」

オバサン「マルドゥック機関と繋がる108の企業のうち、106がダミーだったよ」

アスカ「で…ここが107個目、ってわけね…」

オバサン「この会社の登記簿だ」

アスカ「…分かってるわよ。取締役でしょ?」

オバサン「もう知っていたか」

アスカ「知ってる名前ばかりだしね…マルドゥック機関。エヴァンゲリオン操縦者選出のために設けられた、人類補完委員会直属の諮問機関。組織の実体は未だ不透明」

オバサン「お前の仕事はネルフの内偵だ。マルドゥックに顔を出すのはまずいぞ」

アスカ「百も承知よ。何事も自分の目で確かめないと気が済まない質なの」

マヤ「…あの、加持くん、ちょっといい?」

加持「ん…?もちろんさ。珍しいな、マヤちゃんから話しかけてくれるなんて。…デートのお誘いかな?」

マヤ「うん…そうなんだけど…」


青葉「なァにィ~~~~ッ!??」

日向「うるさいな…っ!」


マヤ「いやっ、違うの、私じゃ、ないんだけど…友達がね」

加持「おっと…そりゃあ、残念だが。美人の頼みを断るわけにはいかないな。明日の昼でどうだい?」

マヤ「ありがとう…!助かるわ」

加持「いいさ…マヤちゃんとのデートは、後日俺から申し込むよ」


青葉「なァアにィ~~~~~ッッッ!??」

日向「………」


ミサト「軽いやつ…」

リツコ「…? 彼、重そうよ」

ミサト「明日、お父さんに会わなきゃなんないのよ」

ミサト「何話せばいいと思う?」

リツコ「……なぜ私に聞くの?」

ミサト「…だって、いつも楽しそうにしてるじゃない。お父さんと話してるとき」

ミサト「ねぇ、お父さんって、どんな人?」

リツコ「…分からないわ」

ミサト「そう…」

リツコ「それより手、動かして。掃除が終わらないわ」

ミサト「……かっんじわるぅ~い」

リツコ「……」

ミサト「しっかし……こうやって見ると不思議な感じよね…リツコが雑巾絞ったり、塵取り持ってたりするのって」

ミサト「料理とかも違う気がするし…家庭に入ってるイメージが沸かない?のよね」

リツコ「……」

リツコ「ミサトには負けるわ…」

ミサト「ぐっ!」

ヒカリ「ネクローシス作業、終了」

オペレータ「可逆グラフ、測定完了」

オペレータ「3機とも、シンクロ維持に問題なし」



シンジ「明日の結婚式、二次会まで行く?」

レイ「…もうそんな時期?考えてなかったわ」

シンジ「もう……仕事の虫なんだから」

レイ「……キヨミに、コトコに……明日のはコウジくんのだったかしら?」

シンジ「コウジと、ユミちゃんのだよ。一緒に内輪のパーティーも行ったじゃないか」

レイ「あれは碇くんが誘ってくれたから……」

シンジ「…………あ、アスカは今回は来るのかなあ?」

レイ「……ドレス、新しいの買わなきゃ…」

シンジ「…え?いつものでいいんじゃないの?似合ってるし」

レイ「アスカに、言われてるから…もうそのドレスは見飽きたって」

シンジ「そう…なの」

レイ「でも……どれも同じに見えて…」

レイ「碇くん、選んでくれない?」

シンジ「えっっっ」

レイ「三人とも、あがっていいわ」


レイ「お疲れさま」

加持「こうもテスト続きだと退屈だな」

リツコ「不謹慎ね」

加持「言葉のアヤだよ。もちろん平和が一番さ」

ミサト「………」



レイ「そう言えば、今日は元気ないわね、ミサトちゃん」

シンジ「ああ…明日なんだよ」

レイ「……お墓参りか…」

シンジ「ただいま」

加持「おかえりなさい」

シンジ「あれ? まだ寝てなかったの。明日デートなんじゃなかった?」

加持「昼からね。…シンジさんこそ、こんな遅くまで。残業かい?」

シンジ「ん? ん~、うん、そんなトコロ…」

加持「……」

加持「はは~ん。シンジさんもスミに置けないね」

シンジ「なっ何がっ?」

加持「アスカ先輩に報告だな」

シンジ「アッアスカは関係ないじゃないか」

加持「と、すると相手は綾波博士か」

シンジ「……」

加持「はは。冗談冗談、報告なんてしないよ」

シンジ「……ミサトちゃんは? 部屋?」

加持「…こんちご機嫌斜めみたいでね。帰ってから籠りっきりさ。…よほど父親に会うのが嫌らしい」

シンジ「嫌、って言うわけでもないんだよ…きっと。それが問題なんだろうね」



(葛城「お前の居場所はない」)

(葛城「よくやったなミサト」)

シンジ「ミサトちゃん?」

ミサト「!」

シンジ「開けてもいい?」

ミサト「だっ、駄目です、今…!き、着替えてますから!」

シンジ「クス……緊張しなくても大丈夫だよ、ミサトちゃん。自分でも言ってたじゃないか、お父さんは不器用なだけかもしれない、って」

ミサト「………」

シンジ「……案外、緊張してるのは向こうも同じかもしれないよ? 娘と何を話そうかって。ミサトちゃんがリードしてあげれば、少しは……」

ミサト「なっ、なんで私がリードしなきゃなんないんですかっ!」

ミサト「もういいですから!!寝てください!」

シンジ「…頑張ってね。ミサトちゃん」

シンジ「分かり合えなくてもいい…ただそれを確かめるのが大事なことなんだ」

シンジ「応援してるよ……おやすみ」


ミサト「…………」





加持「…で?綾波博士をどう口説いたんだ?食事?ショッピング?」

シンジ「いや……綾波とは、そういうんじゃないんだよ。ちょっと買い物に付き合っただけだよ」

加持「なーんだそうだったんだ、となると思うかい?」

加持「子どもじゃあないんだ。この時間までデートとなると……それ相応の進展を予想するね。帰りはもちろん送ってったんだろ?」

シンジ「………まったく」

シンジ(ちょっとは子どもらしくしてほしいよ…)

シンジ「じゃあ」

加持「行って」

ミサト「きます…!」

ペンペン「クギュウッ!」




スピーチ「三つの袋と言うものを心に…」

挿入歌「てんとう虫のサンバ」

司会者「では、しばしご歓談のほどを」

シンジ「綾波、飲み物取ってきたよ」

レイ「ありがとう……来ないわね、アスカ」

シンジ「……遅刻なんじゃないかな?案外忘れっぽいとこあるから。ガサツだし」

アスカ「だぁれがガサツ、ですって!?」

シンジ「うわっ」

レイ「来てたのね」

アスカ「今来たとこよ。たまたま仕事が立て込んでてね」

シンジ「どうだか……僕は2時間待たされたことがあるよ…」

アスカ「大~昔のことを蒸し返してんじゃないわよ!くだらない男ねぇ」

シンジ「…そのくだらない男を待たせてたんだろ?」

アスカ「なんですってぇ!?」

レイ「…夫婦みたいよ、あなたたち」

シンジ・アスカ「だっ誰がこんな奴と!!」

レイ「ふふっ」

シンジ「……」

アスカ「……」


アスカ「…あら?レイあんた、ドレス新調したんじゃない。中々いい線いってるわよ」

レイ「……ああ、これは碇く」

シンジ「あっあっアスカのドレスも!すっごく似合ってるよね!!」

アスカ「何よ?今さら。当然じゃない」

シンジ「…………」

葛城「8年ぶりだな…2人でここに来るのは」

ミサト「……納骨に来て以来だから…たぶん、そう」


ミサト「…お父さん、怒ってる…?私が離婚に賛成したこと」

葛城「……昔の話だ」

ミサト「そうね……でも私はよく覚えてる。離れてからも、お母さん泣いてばかりだったわ。やっと自由になれたのに」

ミサト「そう思ってたのに…。今度は、病気で…」


ミサト「苦しんでるお母さんを見てるのは辛かった。鎮静剤を射っても、泣き叫んで…病院のベッドに縛り付けられたようなお母さんを見るのは…」

葛城「………」

ミサト「だからホッとしたの。遠くにいるはずのお父さんが…急に現れて、お母さんを拐っていったとき。……おじいちゃんとおばあちゃんは、大騒ぎだったけど」

ミサト「なにかしたんでしょう?…戻ってきたとき、お母さんはもう、体の痛みも心の痛みも感じていないようだった」

ミサト「…死ぬときも、まるで笑ってるみたいな顔で…」

葛城「……ミサト。母さんの心は、いつもお前と共にある」

葛城「肉体が滅んだとしても。…それは同じことだ」

ミサト「…………うん」


葛城「……時間だ。先に帰る」

ミサト「あ……お父さん!」

ミサト「あの、今日は嬉しかった。お父さんと話せて」

葛城「そうか…」

チェロを弾く加持


ペンペン「クゥ~クッ…クゥゥゥ…」

加持「んん……結構覚えてるもんだな」

ミサト「……あんたそんなことまでできるの?」

加持「才能かな?なんてね……最初は下手だったんだ。先生にもボロクソ言われて…それで意地になってさ」

ミサト「……継続は力なり、か」

加持「パイロットには必要ない技術だし。すぐやめてもよかったんだが…」

ミサト「じゃあ、なんで続けたのよ」

加持「女の子にモテるから」

ミサト「……あんた、ほんとにそればっかね」

加持「それより、夕飯食べないか?待ってたんだ」

ミサト「? デートで、夜まで食べてくるんじゃなかったの?」

加持「本命は葛城だからな。舞い戻ってきたよ」

ミサト「ったく、もう……どこまで本気なんだか」

加持「本気さ。信じられないか?」

加持「それじゃあ……」

シンジ「うぅ…僕、ちょっとトイレ」

アスカ「とか言って、逃げんじゃないわよ!」

シンジ「逃げないよ!」


レイ「とばしすぎじゃない?このままじゃ碇くん、ほんとに倒れるわよ…」

アスカ「ふんっ!こんなのまだ序の口よ!」

レイ「変わらないわね…あなたのそういうところ。今度は碇くんをどうするつもりかしら?」

アスカ「……あんな姑息な手はもう使わないわよ」

レイ「でも、素面で言える? 碇くんに、好きって」

アスカ「ごほっ」

アスカ「なんでそういう話になるのよ?……なんなら、今回は譲ってあげたっていいのよ?いい具合に酔っぱらってるし」

レイ「遠慮しておくわ」

アスカ「……言っておくけど、長期戦に持ち込むつもりなら、無駄よ。あいつタオル一枚で出ていったって何もしなかったんだから!」

レイ「ふふ…さすが、一緒に暮らしてた人の言うことは違うわね」

レイ「でも駄目。私の出る幕じゃないわ」

アスカ「なんでよ。あいつのこと好きなくせに」

レイ「碇くんが好きなのはあなたよ、アスカ」

アスカ「……」

アスカ「……あんたはそれでいいわけ…?」

レイ「私の気持ちは…変わらないわ…」

レイ「碇くんのそばに居られれば、それで…」

アスカ「………」

アスカ「あんたって、昔っからそうね。ほんと、闘志が沸かないったらないわよ」


シンジ「ただいま……何?二人とも、ケンカ?」

アスカ「あんたがぜぇんぶ悪いのよっ!バカシンジ」

シンジ「うわっ、なんだよもう」

シンジ「松代土産?」

アスカ「そ。レイはラーメン好きでしょ?」

シンジ「だからって、なんで僕のまで…」

アスカ「貰っといて何ぶつぶつ文句言ってんのよ、いらないなら返しなさいよっ!」

シンジ「い…いらないとは言ってないだろ!まったく…すぐ怒るんだから…全然変わってないよ…」

アスカ「失礼ね!変わったわよ!!」

レイ「ふふ…ホメオスタシスとトランジスタシスね」

アスカ「何よそれ?」

レイ「今を維持しようとする力と変えようとする力。その矛盾する二つの性質を一緒に共有しているのが、生き物なのよ…」

シンジ「へぇ…」

レイ「そろそろおいとまするわ…仕事も残ってるし」

シンジ「えっ?」

アスカ「……また顔出しなさいよ?」

レイ「ええ。それじゃあ、また」

シンジ「うん…」

アスカ「いい年して、戻すんじゃないわよ」

アスカ「自分の限界くらい、知っときなさいよね!バカシンジ」

シンジ「うぅ……大きな声出さないでよ…」

アスカ「…ほんっと馬鹿ね…」

シンジ「……馬鹿バカ言わないでよ、もう…」

アスカ「…ふん。だったらシャキッとしなさいよ?もうすぐ三十路なんだから」

シンジ「……それはアスカもだろ…」

アスカ「なんか言った!?」

シンジ「な……なんでもないよ…ふぅ」

シンジ「もう一人で歩けるよ…ありがとう」

アスカ「ん。」

シンジ「アスカ……僕、変わったかな……?」

アスカ「……変わってないわよ。相変わらずバカ」

シンジ「そう、だよね……僕は馬鹿だ…」


シンジ「ミサトちゃんがね……僕らを守りたいって言ってくれたんだ。勇気を持って乗ってくれてる、加持くんも、リツコちゃんも…」

シンジ「なのに、僕はミサトちゃんたちを哀れんでるんだ…まだ子どもなのにって」

シンジ「でも本当に救いたいのはミサトちゃんたちじゃない、そうやって、人を哀れんでる自分自身だ」

シンジ「偽善なんだよ…!そうやって、自分だけが綺麗なふりをして…」

アスカ「………」

シンジ「……あの時、アスカと別れたときだって…」

シンジ「きっと誰でも良かった。僕の心を埋めてくれる人なら…だから怖かったんだ」

シンジ「僕は過去に囚われてる、」

シンジ「過去が、僕を人にすがらせる」

シンジ「すがった相手の魅力も、人格も、何も関係なく!」

シンジ「……中途半端が…一番だめなんだよ…こんな愚痴だって、」

シンジ「本当は「そんなことないよ」って言ってもらいたくて、優しくしてもらいたくて、言ってるんだ」

シンジ「でもアスカは違うから。僕にそんなこと言わないって、分かってるから…言うんだ」

アスカ「………」


シンジ「……僕は卑怯で、臆病で…ずるくて、弱虫で…っ」


アスカ「…………ほんと、バカね…」

加持「それじゃあ、キスするか? 俺と」

ミサト「……は?」

加持「そしたら分かるだろ。俺が……本気だって」

ミサト「なっ、何言ってんのよ!ふざけないで!」

加持「ふざけてなんかいないさ。葛城とキスしたいんだ」

ミサト「ど……どうしてよ……?」

加持「好きだから」

ミサト「…好きだからって、そんな…」

加持「葛城は嫌いか? 俺のこと」

ミサト「………嫌いじゃあ、ない、けど…」

加持「それとも、恐い?」

ミサト「こ、恐かないわよ…!」

加持「じゃ、いいじゃないか……目、つむって…」

ミサト「えっ……、わ、ちょ…!」

ガチャンッ


ミサト「!!!!!」バシンッ

加持「いてっ」


アスカ「ほら、着いたわよ……もー!立ってるくらい自分でできるでしょ!」

加持「……アスカ先輩」

アスカ「ああ、あんたね。……どうしたのよ、その頬」

加持「……別に」

ミサト「わっ、シンジさん…!大丈夫ですか!?」

アスカ「飲みすぎてノビてるだけよ。ほら加持!介抱する!」

加持「えー? 俺が?」

アスカ「つべこべ言わない!」

加持「へいへい…」

ミサト「あのアスカさん…もう遅いですし、泊まっていかれたらどうですか?お布団ならありますから…」

アスカ「ありがたいけど、却下。着替えがないし、明日も早いのよ」

ミサト「そうですか…」

アスカ「気持ちだけ貰っとくわ」

シンジ「…うぅん……」

アスカ「じゃあそのバカのこと、頼んだわよ」

加持「は~い」

ミサト「お休みなさい」


ガチャン


加持「………するか? 続き」

ミサト「バカッ」

加持「あらら……」

老教師「えー、では、続いて女子」

老教師「赤木…おお? 赤木は、今日も休みか?」



ネルフ地下、セントラルドグマ

葛城「……」

リツコ「……」

アスカ「……だいぶ早かったじゃない?昼まで寝込むと思ってたのに」

シンジ「ふざけないでよ……!」

アスカ「心配してやってんのよ」

シンジ「アスカ……アスカは、どっちの味方なの…?ネルフ?それとも…」

アスカ「……今度はなんて言ってほしいのよ」

アスカ「特務機関ネルフ特殊監査部所属惣流アスカ? それとも、日本政府内務省調査部所属、惣流アスカって?」

シンジ「教えてよ……!」

アスカ「あんたはまだ知らなくていい。おとなしく作戦部長やってなさいよ」

シンジ「教えろ……!」カチャ

アスカ「……私を撃つ気? 馬鹿ね、できもしないのに」

シンジ「……なんだよ、分かんないよアスカ、どうして……っ」

アスカ「…………」

アスカ「………ハァ。まったく、タイミング悪いわね…あんた私を、信じられるの? 自分の意志もグラグラのくせに」

シンジ「…なんだよ、それ、どういう…」

アスカ「……あんたが囚われてる「過去」の、その正体を暴いてやろうってのよ…」

シンジ「正体…?」

アスカ「ついて来なさい」




シンジ「これは……!?」

シンジ「エヴァ?…いや、まさか…」

アスカ「…セカンドインパクトからその全ての要であり、始まりでもある…アダムよ」

シンジ「アダム? あの第一使徒がここに…?」

アスカ「あんたが考えているほど、ネルフは甘くないってことよ」

シンジ「…………」


拾伍話分終わり

加持「……あれ? シンジさん、これ、いつもと違う?」

シンジ「うん。カツオだし。綾波から貰ったんだ」

ミサト「ふぁ~ぁ、おふぁようございます…」

加持「相変わらずギリギリだなぁ」

シンジ「今、よそうね」

ミサト「あっ、いいですいいです!自分でやりますから…」

ミサト「あっ熱っ!」ガタッ


シンジ「だっ大丈夫?ミサトちゃん」

ミサト「あはは…大丈夫です…ちょっとヤケドしただけ」

加持「すぐ冷やしたほうがいい、ほら」グイッ

ミサト「あ……」ジャー

加持「こういうのは初めが肝心だからな」

ミサト「ちょ……いつまで触ってんのよ!」

加持「は?」

ミサト「手よ!」

加持「手? 別にどってことないだろ、手くらい…」

ミサト「ひ、ひとりでできるから!離しなさいよっ!」

加持「……はいはい」

ミサト「……もう…!」


シンジ「…………」

シンジ「加持くん、ミサトちゃんとケンカでもしたの?」ボソッ

加持「いや、その逆というか……」


伝言メッセージの音


アスカ「あんたが行きたがってた店、予約取っといたから。今晩空けときなさいよ!」


加持「シンジさんこそ、どうなってんだ?そこんとこ……」

シンジ「いや、これは……」

加持「まったく。両手に花とは、羨ましいよ」


シンジ「………」

ヒカリ「B型ハーモニクステスト、問題なし」

オペレータ「深度調整数値をすべてクリア」

トウジ「センセ、なんか疲れてへんか?」

シンジ「ちょっとね」

レイ「アスカ?」

シンジ「ちっちちち違うよ!」

トウジ「………」

レイ「………」

シンジ「み、ミサトちゃんの様子は?」

ヒカリ「すごいですよ、ほら」

シンジ「?」

シンジ「………わ……ほんとだ…」

シンジ「聞こえる? ミサトちゃん」

ミサト「シンジさん!今のテストの結果、どうでした?」

シンジ「ふふ、おめでとう。新記録達成だよ!」






ミサト「それでねぇ。なにかってーとすぐ女の子、女の子でしょお?私もどうかと思ったんだけどサ。あんまり真剣に言うもんだから…ちょっとは付き合ってあげよっかな?って」

ミサト「でも格好つけたがりだから。なんでもかんでも、男の仕事ー!なんて言っちゃってさ、まぁ…気遣われて、悪い気はしないけど。そのくせドジ踏むから、格好つかないのよね~」

リツコ「…彼、戦い方は悪くないわ」

ミサト「ね~!?まぁね~、あいつも、その点は馬鹿にできないっていうか、なんせ本場仕込みでしょ?ま…シンクロ率は私のほうが上だけど。安心してちゃ駄目よね。うん、頑張らなきゃ!」

リツコ「…私、帰るわ」

ミサト「えっ」

ミサト「ちょっとー!待ちなさいよ、リツコ!」

バスのアナウンス「次は、セイショウカノセ、次は、セイショウカノセ。古本、中古ソフトの店、バシャール前」

加持「……」

加持「…あっさり、抜かれちまったな…」

子供たち「ケッケッケ…」

加持「……はっ」

オペレータ「西区の住民避難、後5分かかります」

オペレータ「目標は微速で進行中。毎時2.5キロ」

レイ「遅刻よ」

シンジ「ごめん!…どうなってるの?富士の電波観測所は」

ケンスケ「探知してない、直上にいきなり現れたんだよ」

トウジ「パターンオレンジ、A.T.フィールド反応無し!」

シンジ「どういうこと?」

レイ「新種の使徒?」

ヒカリ「MAGIは判断を保留しています」


シンジ「参ったな…葛城司令のいないときに…」

シンジ「みんな聞こえる?目標のデータは送った通り。今はそれだけしか分からないんだ」

シンジ「慎重に接近して反応をうかがい、可能であれば市街地上空外への誘導も行う」

シンジ「先行する一機を残りが援護。いい?」

加持「先行は俺がやるよ。お姫様を守るのはナイトの役目だからな」

ミサト「ぶっ!だっ、誰がお姫様よ!??」

加持「別に誰とは言ってないが」

ミサト「……むうっ!」

ミサト「シンジさん!私に行かせてください!」

加持「おいおい、敵がどう出るか分からないんだぞ?」

ミサト「それはあんただって同じでしょ!同じリスクなら、より低いほうを選ぶ!シンクロ率一番は私なんだから!私が先行!」

シンジ「……分かった。先行はミサトちゃんでいこう」

シンジ「だけど本当に気を付けて。慎重にね」

ミサト「はいっ!」

加持「……ふぅ。弐号機、バックアップに回ります」

リツコ「零号機も、バックアップに」

シンジ「……」

レイ「…ミサトちゃん、ずいぶん前向きになったじゃない?」

シンジ「言い出したらきかないんだよ。それがミサトちゃんのいい所でもあるんだけど……帰ったらよく言って聞かせないと」

レイ「ふふっ…碇くん、お父さんみたいよ」

ミサト「加持くん、リツコ!そっちの配置は?」

加持「もう少しだ!」

リツコ「もう着くわ」


ミサト(………よしっ!姿が見えた!)

ミサト「接近し、様子を見ます!」

パレットを撃ち込む初号機


レイ「…消えた!?」

シンジ「何だ…!?」

トウジ「パターン青、使徒発見!初号機の真下や!」

ミサト「はっ!か、影が…!」

ミサト「何よこれ、体が……!」


シンジ「ミサトちゃん、逃げて!」

加持「葛城っ!」

リツコ「ミサト!」


ミサト「シンジさん!? どうなってるんですか!シンジさん!加持くん、リツコ…どこなの!? シンジさん!聞こえますか!? シンジさん!」

シンジ「プラグを強制射出!信号送って!」

ヒカリ「だめです!反応ありません!」

ミサト「シンジさんっ、シンジさん!」

シンジ「ミサトちゃん!」

シンジ「加持くん、リツコちゃん!初号機を救出!急いで!」

加持「っ!救出ったって…!」

リツコ「………!」


ヒカリ「また消えた!」

レイ「加持くん、気をつけて!」

加持「影!?」

加持「! おわっ…!!」



加持「街が…!」

シンジ「加持くん!リツコちゃん……後退して」

加持「なっ…」

リツコ「……まだ、初号機を救出していません」

加持「……」

シンジ「命令は、取り消すよ……戻ってきて」





ヒカリ「碇くん、辛いでしょうね」

レイ「…アンビリカルケーブルを引き上げてみたら、先はなくなっていたそうよ」

ヒカリ「それじゃあ…」

レイ「内臓電源に残された量はわずかだけど、ミサトちゃんが闇雲にエヴァを動かさず、生命維持モードで耐える事ができれば、16時間は生きていられるわ」

ヒカリ「……」

オペレータ「第二戦車小隊、配置完了」

オペレータ「了解、現在位置のまま待機」

オペレータ「サブレーザー、回線開きます。情報送る」

オペレータ「確認、C回線にて発信」

ケンスケ「国連軍の包囲、完了しました」

シンジ「影は?」

トウジ「動きなしや。直径600mを超えたところで停止したまま。……地上部隊なんて役に立つんか?」

ケンスケ「プレッシャーかけてるつもりなんだろ、俺たちに」

シンジ「……」

加持「俺が……あの時止めていれば……」

リツコ「結果は同じよ。立場が逆になるだけ」

リツコ「ミサトは自分で行くと言ったんだから…それはあの子の責任よ」

加持「だが…!」

リツコ「…もし落ちたのがあなただったら」

リツコ「ミサトはあなたを救う方法を考えたはずよ」

加持「………」


シンジ「その通りだよ…今はミサトちゃんを救う方法を考えよう」

シンジ「それに…ミサトちゃんに行けと言ったのは僕だ。責任は僕にある」

シンジ「だから、加持くんが自分を責める必要はないんだよ…」

加持「……」

シンジ「ミサトちゃんを助けて、またみんなでご飯を食べよう」

ミサト「眠る事がこんなに疲れるなんて、思わなかった…」

ミサト「やっぱり真っ白か…レーダーやソナーが返ってこない。空間が広すぎるんだわ…」

ミサト「生命維持モードに切り替えてから12時間…私の命も後4、5時間か…お腹空いたな…」




シンジ「じゃあ、あの影の部分が?」

レイ「そう、使徒の本体。直径680メートル、厚さ約3ナノメートルのね。その極薄の空間を、内向きA.T.フィールドで支え、内部はディラックの海と呼ばれる虚数空間」

レイ「多分、別の宇宙につながっているんじゃないかしら…」

シンジ「あの球体は?」

レイ「本体の虚数回路が閉じれば消えてしまう。上空の物体こそ、影に過ぎないわ」

シンジ「初号機を取り込んだ、黒い影が目標か…」

加持「そんな…どうすれば…」

ミサト「水が…!濁ってきてる……浄化能力が落ちてきてるんだわ…!」

ミサト「うっ!…生臭い!血?血の匂い…!」

ミサト「……嫌っ!ここは嫌!なんでロックが外れないのよっ!」

ミサト「開けて!ここから出して!シンジさん、どうなってるの…?シンジさん!加持くん!リツコ!…レイさん………お父さん…」

ミサト「お願い、誰か、助けて…」

シンジ「エヴァの強制サルベージ?」

レイ「現在、可能と思われる、唯一の方法よ」

レイ「992個、現存する全てのN2爆雷を、中心部に投下」

レイ「タイミングを合わせて残存するエヴァ2体のA.T.フィールドを使い、使徒の虚数回路に1000分の1秒だけ干渉するわ」

レイ「その瞬間に、爆発エネルギーを集中させて、使徒を形成するディラックの海ごと破壊する」

シンジ「でもそれじゃあエヴァの機体が…ミサトちゃんがどうなるか…!救出作戦とは言えないよ」

レイ「…作戦は初号機の機体回収を最優先とします。たとえボディーが大破したとしても」

シンジ「な…っ!」

シンジ「なに言ってるんだよ!綾波!」

レイ「……今初号機を失うわけにはいかないのよ、碇三佐」

シンジ「そんな…!ミサトちゃんだって!同じじゃないか、そんな作戦は認められない!」

レイ「…パイロットの補充はきくわ」

シンジ「……綾波…!」

レイ「あなたも分かってるはずよ…冷静になって」

シンジ「僕は……!冷静だよ、…綾波こそおかしいんじゃないのか!?」

シンジ「………そこまで初号機にこだわる理由って何、エヴァってなんなんだよ!」

レイ「…あなたに渡した資料が全てよ」

シンジ「嘘だ…!」

レイ「………」

レイ「…碇くん、私を信じて」


レイ「これ以降、本作戦についての一切の指揮は、私が執ります」

レイ「関空には便を廻すわ。航空管制と空自の戦略輸送団にも連絡を」


シンジ「………」

シンジ(セカンドインパクト。補完計画。まだ…まだ僕の知らない秘密があるんだ…)

ミサト「…誰?」


ミサト「誰?」

ミサト「…葛城ミサト」

ミサト「それは私よ!」

ミサト「あなたは私よ。人は自分の中にもう一人の自分を持っている。自分というのは常に2人でできているものなの」

ミサト「2人?」

ミサト「実際に見られる自分とそれを見つめている自分。葛城ミサトという人物だって何人もいる」

ミサト「私の心の中にいるもう一人の葛城ミサト、碇シンジの心の中にいる葛城ミサト、加持リョウジの中のミサト、赤木リツコの中のミサト…お父さんの中のミサト」

ミサト「みんなそれぞれ違う葛城ミサトだけど、どれも本物の葛城ミサト。あなたはその他人の中の葛城ミサトが恐いのよ」

ミサト「人から嫌われるのが恐いんでしょ?」

ミサト「弱い自分を見るのが恐いのよ」

ミサト「よい子にならなきゃいけないの」

ミサト「パパがいないから。ママを助けて私はよい子にならなきゃいけないの」

ミサト「でも、ママのようにはなりたくない。パパがいないとき、ママは泣いてばかりだもの」

ミサト「泣いちゃだめ、甘えちゃだめ。だから、よい子にならなきゃいけないの。そしてパパに嫌われないようにするの」


ミサト「……でも父はいなくなった。私を置いて」

ミサト「だから恨んだ。お母さんと同じに…」




ミサト「悪いのは誰?」

ミサト「悪いのはお父さんよ!私を捨てたお父さん!」


ミサト「悪いのは私よ!」

ミサト「疑問?」

シンジ「君たちをエヴァに乗せてること…」


ミサト「で、自分を大切にしろ、って言うんでしょう?」

ミサト「みんなそうなのよ。そうして、仕事に、自分の世界に行ってしまうんだわ。私を置き去りにしたまま」


ミサト「お父さんと同じなのよ」

ミサト「辛い現実から逃げてばかりなのよ」

ミサト「辛い現実?私のことか…」



ミサト「嘘よ!私は必要とされてる!」

日向「付き合ってくれないかな」

シンジ「僕も君が大切だよ」

加持「好きだから…キスしよう」

葛城「よくやったな、ミサト」


ミサト「お父さんが、私の名前を呼んだのよ。あのお父さんが誉めてくれたのよ!」

ミサト「みんなも優しくしてくれる。私が必要なのよ!」

ミサト「その喜びを反芻して、これから生きていくんだ?」

ミサト「その言葉を信じてれば、これからも生きていけるわ!」

ミサト「自分をだましつづけて?」

ミサト「みんなそうよ、誰だってそうやって生きてる」

ミサト「自分はこれでいいんだ、と思いつづけている。でなければ生きていけないのよ」

ミサト「私が生きていくには、この世界には辛い事が多すぎる」

ミサト「そう。辛かったら逃げてもいいのよ」

ミサト「そうよ。嫌なことから逃げ出して、何が悪いって言うのよ!」

日向「こないだの騒ぎで、妹が怪我しちゃって」

加持「両手に花とは、羨ましいよ」

葛城「ここにお前の居場所はない!」


ミサト「嫌!聞きたくない!」

ミサト「ほら、また逃げてる」

ミサト「楽しいことだけを数珠のように紡いで生きていられるはずが無いのよ、特に私はね」

ミサト「楽しいこと見つけたの。楽しいこと見つけて、そればっかりやってて、何が悪いのよ!」

ミサト「楽しいことだけ、やっていたいの」

トウジ「エントリープラグの予備電源、理論値ではそろそろ限界や」

ヒカリ「プラグスーツの生命維持システムも危険域に入ります」

レイ「12分予定を早めましょう」

レイ「…ミサトちゃんが生きている可能性が、まだあるうちに」





ミサト「お父さん、私はいらない子なの?お父さん!」

ミサト「自分が追い出したくせに」


女「父親の実験だか何かのせいで母親が犠牲になったっていうじゃない」

女「恐ろしいわよねえ、自分の奥さんを実験台にするなんて…」

ミサト「違う!お母さんは…笑ってた…」

シンジ「立派じゃなくてもいい」

加持「誰にでもできることじゃないさ」

シンジ「頑張ってね……応援してるよ」

葛城「お前の心と共にある」



ミサト「ここは嫌……一人はもう、嫌…!」



ミサト「保温も、酸素の循環も切れてる…寒い…だめだ……スーツも限界…ここまでね…。もう、疲れた…ぜんぶ…」

光が体を包む

ミサト「…、……!」



ミサト「お母さん…!?」



(ほら、こうするの…)

(あなたにもできるわ……)

ケンスケ「エヴァ両機、作戦位置」

ヒカリ「A.T.フィールド、発生準備よし」

レイ「了解」

トウジ「爆雷投下、60秒前」


使徒に亀裂。


加持「何が起こってるんだ!?」

シンジ「状況は?」

トウジ「分からん!」

ヒカリ「全てのメーターは、振り切られています!」

レイ「まだ何もしていないのに!」

シンジ「まさか、ミサトちゃんが!」

レイ「ありえないわ!初号機のエネルギーは、ゼロなのよ!」

影を突き破って現れる手

オペレータ「おおっ!」

咆哮する初号機

加持「……これが、エヴァなのか…?」

リツコ「……」


レイ「何て物を……何て物をコピーしたの?私たちは…」

シンジ(エヴァがただの第1使徒のコピーなんかじゃないのは分かる…)

シンジ(でも、ネルフは使徒をすべて倒した後、エヴァをどうするつもりなんだ…?)


降り立つ初号機

レイ「……!」

加持「……、…」

リツコ「……」

シンジ「ミサトちゃん…ミサトちゃん!ミサトちゃん!」

シンジ「ミサトちゃん、大丈夫!?ミサトちゃん!」


ミサト「…ただ会いたかったの、もう一度…」



加持「…はぁ」

加持「よかった……」

リツコ「…あなたもそんな顔、するのね」

加持「ん?はは…葛城には内緒で頼むよ」

リツコ「ええ…」

レイ「私は今日ほど、このエヴァが恐いと思ったことはありません」

レイ「本当にエヴァは私たちの手に負えるのでしょうか」

レイ「私たちは、憎まれているのかもしれません……エヴァに」


レイ「碇三佐の疑心も、そろそろ限界です」

葛城「そうか、今はいい…」

レイ「……彼らがコアの秘密を知ったら……許してもらえないでしょうね」

葛城「……」

リツコ「今日は寝ていて。後は私たちで処理するわ」

ミサト「うん…でも、もう大丈夫よ?ほら」ブンブン

ミサト「うっ…痛…!」

加持「強がるなよ、寝てろって」

リツコ「…あなたも、格好がつかないわね…」

ミサト「ぐっ…」

加持「? 何の話だ?」

ミサト「あっあんたには関係ない話よ!」

リツコ「ふふ…」

ミサト「…もうっ!分かったから、作業に行きなさいよ!」

加持「はいはい、お姫さま」

リツコ「また来るわ」

ドアが閉まる

ミサト「………もう。バカにして…」

ミサト「………」


ミサト「取れないわね…血の匂い」




拾六話分終わり

続きは土曜

加藤純一(うんこちゃん) Twitch

APEX(PC) シーズン7
ランクマ Part24

『プラチナ1行きます』[プラチナⅡ]
(7:10~放送開始)


http://www.twitch.tv/kato_junichi0817

キール「今回の事件の唯一の当事者である初号機パイロットの直接尋問を拒否したそうだな、碇三佐」

シンジ「はい。彼女の情緒はとても不安定な状態です。今ここに立つことが良策とは思えません」

委員「では聞こう、代理人碇三佐」

委員「先の事件、使徒がわれわれ人類にコンタクトを試みたのではないのかね?」

シンジ「…分かりかねます。被験者の報告からはそれを感じ取れません。イレギュラーな事件だと推定されます」

委員「彼女の記憶が正しいとすればな」

シンジ「……記憶の外的操作は認められません」

委員「エヴァのACレコーダーは作動していなかった。確認はとれまい」

委員「使徒は人間の精神、心に興味を持ったのかね?」

シンジ「それは…。使徒に心の概念があるのか、人間の思考が理解できるのか、まったく不明ですので……返答できかねます」

委員「今回の事件には、使徒がエヴァを取り込もうとしたという新たな要素がある。これが予測されうる第13使徒以降とリンクする可能性は?」

シンジ「これまでの例から、使徒同士の組織的なつながりは否定されます」

委員「さよう。単独行動であることは明らかだ。これまではな」

シンジ「…それは、どういうことなのでしょうか?」

キール「君の質問は許されない」

シンジ「…はい」

キール「以上だ。下がりたまえ」

シンジ「はい」




キール「どう思うかね、葛城君?」

葛城「使徒は知恵を身につけ始めています。残された時間は…」

キール「後わずか、と言うことか」

看護師「12号室のクランケ?」

看護師「例のE事件の救急でしょ?ここに入院してからずいぶん経つわね」

看護師「なかなか難しいみたいよ、あの怪我」

看護師「まだ小学生なのに」

看護師「今日もきてるんでしょ、あの子」

看護師「そうそう。週2回は必ず顔出してるのよ、妹思いのいいお兄さんよねぇ」

看護師「ほんと?今時珍しいわね、あんな男の子」

葛城「リツコ、今日はいいのか?」

リツコ「はい。明日、綾波博士のところへ行きます。明後日は学校へ」

葛城「…学校はどうだ」

リツコ「問題ありません」

葛城「そうか…ならいい」




マヤ「起立、礼、着席!」

老教師「あ、ああ…今日の休みはいつもの赤木と、青葉か。後、今日は小池先生がお休みで、4時限目の現国が自習となります」

ミサト「青葉くん、どうかしたの?」

日向「さぁ…またどっかで路上ライブじゃないかな……あいつのことだし」

老教師「日向!」

日向「は、はい!」

老教師「後で、赤木にプリントを届けておくように」

日向「はい!」

トウジ「とにかく、第一支部の状況は、無事なんやな!?かまわん!計算式やデータ誤差はMAGIに判断させる!」



カヲル「消滅!?確かなのか!?第2支部が」

ケンスケ「はい、すべて確認しました。消滅です」



シンジ「…なんてこと……」

トウジ「上の管理部や調査部は大騒ぎ、総務部はパニックや!」

シンジ「それで、原因は?」

レイ「未だ分からず。手がかりはこの静止衛星からの映像だけで、後は何も残ってないの」

ヒカリ「10セコンド、8、7、6、5、4、3、2、1、コンタクト」

シンジ「……ひどい」

ヒカリ「エヴァンゲリオン四号機ならびに半径89キロ以内の関連研究施設はすべて消滅しました」

レイ「数千の人間を道連れにね」

シンジ「………」

ケンスケ「…タイムスケジュールから推測して、ドイツで修復したS2機関の搭載実験中の事故と思われます」

ヒカリ「予想される原因は、材質の強度不足から設計初期段階のミスまで、32768通りです」

シンジ「妨害工作の線も…あるか」

トウジ「せやけど爆発やなく消滅なんやろ?つまり、消えた、と」

レイ「多分、ディラックの海に飲み込まれたんでしょうね、先の初号機みたく」

シンジ「じゃあS2機関も?」

レイ「……夢は潰えたわね」

レイ「訳の分からないものを無理して使った…その報いね」

シンジ(…それはエヴァも同じだ……)

シンジ「…残った参号機はどうするの?」

レイ「ここで引き取ることになったわ。米国政府も第1支部までは失いたくないみたいね」

シンジ「そんな。参号機と四号機はあっちが建造権を主張して強引に作ってたんじゃないか!いまさら危ないところだけうちに押し付けるなんて、虫がよすぎるよ」

レイ「あの惨劇の後じゃ誰だって弱気になるわ…」

シンジ「…それじゃあ、起動試験はどうするの?例のダミーを?」

レイ「…これから決めるわ」

レイ「試作されたダミープラグです。赤木リツコのパーソナルが移植されています」

レイ「…ただ、人の心、魂のデジタル化はできません。あくまでフェイク、擬似的なものです」

レイ「パイロットの思考の真似をする、ただの機械です」

葛城「信号パターンをエヴァに送り込む。エヴァがそこにパイロットがいると思い込み、シンクロさえすればいい」

葛城「初号機と弐号機にはデータを入れておけ」

レイ「まだ問題が残っていますが」

葛城「…エヴァが動くことが先決だ」

レイ「はい…」

葛城「機体の運搬はUNに一任してある。週末には届くだろう」

葛城「後は君のほうでやってくれ」

レイ「はい。調整ならびに起動試験は、松代で行います」

葛城「…テストパイロットは?」

レイ「ダミープラグはまだ危険です。現候補者の中から、」

葛城「4人目を選ぶか……」

レイ「はい。一人、速やかに……コアの準備が可能な子供がいます」

葛城「…すまないな」

レイ「いいえ…」


レイ「……リツコちゃん?」

リツコ「…はい」

レイ「お疲れさま。もう上がっていいわよ」

リツコ「はい」

葛城「……」

マヤ「起立!礼!」



ミサト「さってぇと~ご飯ご飯♪」

ミサト「…って、あら?」

マヤ「葛城さん……ずいぶん大きなお弁当ね」

ミサト「そ、そうよね、これは…」

加持「悪いな、葛城。玄関で取り違えちまったみたいだ」

ミサト「げっ」

加持「これで元通り、っと」

女子「お弁当の交換~!?」

男子「イヤ~ンな感じ~!」


ミサト「ちっ、違うのよ!?これは…!」

女子「いいわよね~、家ではシンジさん、学校では加持くん」

女子「どっちか譲りなさいよ~!」

女子「どっちが本命なのよお!」

ミサト「やっ…やあねえ!そんなんじゃないわよ!」


日向「………」

シンジ「どうしたの?…改まって」

レイ「松代での参号機の起動実験、テストパイロットは4人目を使うわ」

シンジ「4人目?フォースチルドレンが見つかったの?」

レイ「昨日ね」

シンジ「…マルドゥック機関からの報告は受けてないよ」

レイ「正式な書類は明日届くわ」

シンジ「それで……選ばれた子って?」

レイ「……この子よ」

シンジ「……そんな、よりによって」

レイ「候補者を集めて保護してあるのだから…仕方ないわよ」

レイ「話しづらいでしょうけど……頼むわね」

シンジ「…加持くんや、リツコちゃんは大丈夫だと思う、エヴァに乗ることにプライドも持ってるし。でも…ミサトちゃんは…」

シンジ「加持くんやリツコちゃんとは、パイロットとして出会った、初めから戦闘員として。でも…今回は一般人…クラスメイトだ。今まで守っていた対象。それに…先の事件もある」

シンジ「一番エヴァに対する恐怖心が強いのはミサトちゃんだから……辛いんじゃないかな。誰かを巻き込むのは」


レイ「…これ以上辛い思いは、させたくない?」

シンジ「それは……もちろん」

レイ「でも、私たちにはそういう子供たちが必要なのよ、みんなで生き残るために」

シンジ「……分かってるよ」

レイ「あなたが弱気だと、全体の士気に関わるわ……頑張ってね、碇作戦部長」

シンジ「……」

シンジ「うん……」

男子「じゃぁな~」

女子「明日ね~」


マヤ「……日向くん、これ」

日向「? プリント?」

マヤ「赤木さんのよ。先生に頼まれてたでしょ?」

日向「ああ、赤木のか。ありがとう、わざわざ」


日向「……でも女の子の家に一人でってのは、ちょっとなぁ……」

マヤ「そ!それなら私が一緒に…!」

日向「葛城さん!…これから時間ある?」

マヤ「……」

ミサト「リツコの家?いいわよ」

ミサト「リツコ~!入るわよぉ!」

日向「い、いいの? 黙って上がって…」

ミサト「いいのよぉリツコは。防犯意識ゼロなんだから」

日向「そ、そういう問題じゃ…」

ミサト「あら?リツコ?リツコ~?いないみたいね…」

日向「なっ」

日向「なんだ、この部屋は!」

ミサト「……勝手にイジると、さすがのリツコも怒るんじゃない?」

日向「いいや。これは……放っておけないよ。ゴミだけでも片付ける…!」

ミサト「…マメねぇ……」

日向「……イメージと違ったよ。赤木って…もっと完ペキな奴かと」

ミサト「意外と抜けてるとこあるわよ?リツコって」

日向「へぇ…」


ミサト「…あら。噂をすれば」

リツコ「……何してるの?」

日向「ごめん、勝手に片づけたよ。ごみ以外は触ってない」

日向「それと、これ。休んでた間のプリント」

リツコ「あ…」

リツコ「ありがとう…」

ミサト「しっかし、意外だったわね~。リツコが照れるなんて。珍しいもん見たわ」

日向「えっ?真顔じゃなかった?」

ミサト「チッチッチ~よ!あの頬の赤みは照れよ、照れ!」

日向「そ、そうかな…」

ミサト「ま。私とリツコくらいの仲になんないと、分っかんないでしょおね~」

日向「…葛城さん、変わったね。なんていうか…明るくなった」

ミサト「……」

ミサト「そうかもね。シンジさんや…みんなが支えてくれて。エバにも慣れてきたし…」

ミサト「ちょっとは変われた、かな…」

日向「……」

カヲル「街。人の作り出したパラダイスだね」

葛城「かつて楽園を追い出され、死と隣り合わせの地上と言う世界に逃げるしかなかった人類」

葛城「そのもっとも弱い生物が、弱さゆえ手に入れた知恵で作り出した自分達の楽園だ」

カヲル「自分を死の恐怖から守るため、自分の快楽を満足させるために自分達で作ったパラダイスか…」

カヲル「この街がまさにそれだね…自分達を守る、武装された街」

葛城「…敵だらけの外界から逃げ込んでいる臆病者の街だよ」

カヲル「臆病なほうが長生きできる。それでいいじゃないか」

カヲル「第三新東京市、ネルフの偽装迎撃要塞都市、遅れに遅れていた第7次建設も終わる。いよいよ、完成だね…」

カヲル「四号機の事故、委員会にどう報告するつもりだい?」

葛城「原因不明だ」

カヲル「事実の通り、か……。ここにきて、大きな損失だね…」

葛城「…S2機関のデータはドイツに残っている」

葛城「ここと初号機が残っていれば、ことは成せる…」

カヲル「どうかな…委員会は血相を変えていたよ」

葛城「……」

カヲル「死海文書にはない事件だ……ゼーレも、慌てて行動表を修正しているだろうね」

カヲル「……老人たちにはいい薬か…」

シンジ「アスカ!」

アスカ「あら、ネルフの作戦部長様が、息を切らしてなんのご用?」

シンジ「…地下のアダムとマルドゥック機関の秘密、教えてよ。…知ってるんでしょ?」

アスカ「……何の話よ?」

シンジ「とぼけないでよ!」

アスカ「…あんたバカ?ここをどこだと思ってんのよ…まず落ち着きなさい」

シンジ「…落ち着いてられないよ…!消滅した第2支部に、移設される参号機…」

シンジ「そして都合よくフォースチルドレンが見つかる……こんなのおかしいよ。誰かが、裏で…!」

アスカ「……」

アスカ「…これだけは言えるわ。マルドゥック機関は存在しない。影で操っているのは、ネルフそのものよ」

シンジ「ネルフそのもの…葛城司令が?」

アスカ「そ。…あとは自分でやんなさいよ。コード707」

シンジ「707…ミサトちゃんの学校?」

アスカ「ったく。こっちは命懸けだってのに…べらべら喋らせてくれちゃって」

アスカ「コーヒーくらい奢んなさいよね?」

ミサト「シンジさん…どこかしら。レイさんも携帯使えばいいのに……よりによって私に頼むなんて……」

ミサト「あれっ?加持くんと……リツコ…?」


アナウンス「第三管区の形態移行ならびに指向兵器試験は予定通り行われます。技術局3課のニシザイ博士、ニシザイ博士、至急開発2課までご連絡ください」

ミサト(……って、なんで隠れてるのよ私!!)


聞き耳を立てるミサト

加持「せっかくここの迎撃システムが完成するのに、祝賀パーティーの一つも予定されていないとは、ネルフってお堅い組織だねぇ」

リツコ「司令がああいう人だもの……」

加持「リッちゃんはどうなのかな?」

リツコ「私にそんな権限はないわ」

加持「君の気持ちが知りたいんだよ」

リツコ「人がたくさんいるのは…苦手」

加持「どうして?」

リツコ「分からないわ」

加持「人を寄せ付けないのは……悲しい恋をしたからかな?」

リツコ「なぜそう思うの」

加持「…涙の通り道にほくろのある人は…一生泣き続ける運命にあるからさ」

加持「ま…俺なら、そんな思いはさせないが」

ミサト「……………」


ミサト(なんだ…)


ミサト(私ばっかり本気だったのか………馬鹿みたい)



シンジ「あれ?ミサトちゃん」

ミサト「……シンジさん…」

シンジ「どうしたの?」

ミサト「あ……レイさんが…、明日からの出張の打ち合わせだって…シンジさんに」

シンジ「ああ…そっか。ありがとう」

ミサト「それじゃあ…」

シンジ「……?」

シンジ「ミサトちゃん、どうかしたのかな…」

アスカ「あんたホントに、鈍くてバカね」

アスカ「先いってなさいよ。こっちは私が渇入れとくから」

シンジ「ちょっと、あんまり手荒なマネは…」

アスカ「するわけないでしょ。いいから、行きなさいよ」





ミサト「……」

アスカ「ちょっとー!葛城ミサトっ!」

ミサト「…?」

アスカ「時間あるでしょ?付き合いなさいよ」

ミサト「……………」

アスカ「……ビクつくんじゃないわよ。取って食やしないわよ」

ミサト「…あの、どこ行くんですか……?」

アスカ「行けば分かるわ」

ミサト「……」





ミサト「なんですか?この、…草……?」

アスカ「ハーブよ!あんた何にも知らないのねぇ」

アスカ「シンジの作った料理に、時々乗ってるでしょ?パセリとかバジルとか」

ミサト「…シンジさんのために作ってるんですか?」

アスカ「べっつに。ただの趣味よ」

アスカ「でも…まぁそうね、あいつの料理、まあまあ悪くない味でしょ?こういうの持ってくと、喜ぶのよね…店で買ってるとバカにならないからって」

アスカ「だから!あたしはシンジに料理を作らせて、食べる!「自分のため」にやってんのよ!」

ミサト「自分の……ために」

アスカ「あんたはどうなのよ?」

ミサト「えっ」

アスカ「なんで乗ってるのよ?エヴァに」

アスカ「違うか。乗せられてんのね…あいつの口車に」

ミサト「そんな、シンジさんは!いつも優しくしてくれてます…!」

アスカ「あんたのためじゃないわよ?あいつは誰にでも優しいの、優しい自分が好きなのよ。「自分のため」にやってんのよ、あいつも」

アスカ「誰かのために…なんて思ってるなら、今すぐエヴァを降りるのね。押しつぶされて、その内自分を無くすわよ」

ミサト「私は……!」

ミサト「今いる場所を、失いたくないんです…シンジさんや、ネルフのみんな…加持くんや、リツコ…学校の友達も」

アスカ「………」

ミサト「エバに乗るのは恐い…だけど、みんなを…居場所を失いたくないから…!だから、誰かのためじゃない!…自分自身の望みのために、乗ってるんです…!」


アスカ「…上出来ね」

ミサト「え…?」

アスカ「誰かのためにやるってのは…聞こえはいいけど、心情的には見返りを求めるものよ。自分のためにやってることなら…やり遂げれば、それで満足できる」

アスカ「変なこと聞いて悪かったわね。…あんた向いてるわよ、エヴァのパイロットに」

ミサト「あ……」

ミサト「ありがとう、ございます…」

アスカ「バカ。お礼なんていらないのよ、こっちも「自分のために」やってんだから。あんたに潰れられたら後味悪いのよ」

ミサト「……ふふ、アスカさんって」

アスカ「なによ?」

ミサト「思ってたより、真面目ですね」

アスカ「……」

電話の音

アスカ「はい、もしもし」



アスカ「シンジからよ。今から、シンクロテストですって」

ヒカリ「プラグ深度は3.2で固定。L.C.L.濃度は現状を維持。ハーモニクスレベルはマイナス1.2、1.5、1.6、1.8、1.9、限界指数は0.2。 データはレベル3を消去。以下はMELCHIORに保存されます」

レイ「やはり間違いないわね…。ミサトちゃんのシンクロ率、落ちてきてる」

シンジ「どういう事?」

レイ「何とも言えないわ。ただ、先の事件のとき何かがあったんでしょうね。あるいは…精神的な問題が生じたか」

シンジ(アスカ…何か変なこと言ったのかな…?)

レイ「何か思い当たる?」

シンジ「いや……これでますます、参号機のパイロットの件、話しづらくなったなと思って…」

レイ「…本人には明日、正式に通達されるわよ」

シンジ「うん…」

マヤ「きりーつ、気を付け、礼!」


放送「2年Aクラスの日向マコト、日向マコト、至急、校長室まで」


日向「…何だ?」

青葉「なんかやったのか?お前」

日向「するわけないだろ」

ミサト「…?」




日向「日向マコト、入ります!」

レイ「……日向マコトくんね?」

マヤ「葛城さん、ちょっと…いい?」

ミサト「?」

ミサト「いいけど…」



マヤ「ごめんね。こんなとこに呼び出して。ちょっと気になることがあって…」

ミサト「気になることって?」

マヤ「エヴァ参号機のこと」

ミサト「……エバ参号機?」

マヤ「そう。アメリカで建造中だったっていう……完成したんでしょ?」

ミサト「…知らないわ。エバ参号機なんて…」

マヤ「…隠さなきゃならない事情も分かるけど、お願い、教えて!」

ミサト「ほんとに聞いてないのよ!」

マヤ「…じゃあ、松代の第2実験場で起動試験をやるって噂も知らないの……?」

ミサト「知らないわよ。何?松代でやるの?」

マヤ「そうらしいわ。…それでなんだけど、パイロットはまだ決まってないんでしょう?」

ミサト「分からないわよ、そんな…」

マヤ「私にやらせてほしいのよ!ねぇ、葛城さん。葛城さんからも頼んでくれない?シンジさんに。乗りたいのよ、エヴァに!赤木さんの…みんなの力になりたいの!」

ミサト「ほ、ほんとに知らないのよ…そんなこと言われても」

マヤ「じゃあ、四号機が欠番になったって言う話も?」

ミサト「何それ?」

マヤ「……ほんとにこれも知らないのね……。第2支部ごと消滅したって、母さんのところは大騒ぎだったのに」

ミサト「消滅…?」

マヤ「…跡形も残らなかったそうよ」

ミサト「…シンジさんからは、何も聞いてない…」

マヤ「……」

マヤ「ごめんね、変なこと聞いて。…でも、羨ましかったんだ……好きな人と、支え合えるのって…」

ミサト「好きな人?」

マヤ「な!なんでもない!それじゃ…!」


ミサト「………」

老教師「われわれはセカンドインパクトと言うこの世の地獄から再び立ち上がったのです。今、年々子供の数も減ってきています」

日向「遅れて、すいません…」

老教師「話は聞いてる。席に着きなさい。あー、これからの時代をになう君たち若い世代が…」



日向「………」

青葉「何だよ?そんなにこってり絞られたのか?」

日向「…別に。何でもない」

青葉「………?」

放送「下校の時刻です。教室に残っている生徒は、早く帰りましょう」


青葉「なんだ、帰らないのか?」

日向「当番だからな」

青葉「サボっちゃえよ。十分綺麗だろ?」

日向「お前じゃないんだよ…」

青葉「マメだねぇ…」

日向「……」

日向「…葛城さん、変わったよな」

青葉「ん?ああ…明るくなった」

日向「……」

青葉「おいおい、どうしたんだよ?」

日向「いや……最近、パイロット同士の絆…みたいなものを感じることがあってさ」

日向「加持……あいつも、いけすかないけど、葛城さんを支えてるんだよな…」

青葉「……」

青葉「なに弱気になってるんだよ、お前はお前だろ? そりゃ、赤木や加持みたいにはいかないさ」

青葉「お前のいいところで勝負していけよ。何を選ぶかは、葛城次第だろ?」

青葉「それに、だ」

日向「それに?」

青葉「諦めろったって、無理な話だろ?それなら無理矢理にでも、前向いて行くしかないじゃないか」

日向「……それも、そうだな…」

青葉「しっかりしろよ?」

日向「はは…まさかお前に説教される日がくるとはな」

青葉「…時々思うけど、お前って俺をなめてないか?」

日向「少しな」

青葉「おいおい」

日向「ははは」

加持「おっ…アスカ先輩」

アスカ「加持? 今忙しいから。用があるならそこで待ってて」

加持「…相変わらず仕事、仕事か。そんな調子で、シンジさんに愛想つかされないか心配だね…」

アスカ「馬鹿。子どもが大人の問題に首突っ込んでんじゃないわよ」

加持「どれどれ…」

アスカ「こら!」

加持「…………」

加持「…これは決定事項?」

アスカ「……明日、あんたたちにも正式に通達されるわ」

加持「…この人選の根拠は?」

アスカ「…根拠かどうかは知らないけど。こいつの妹が難しい怪我してて、その優先治療が約束されたそうよ、ネルフで…」

加持「……」

アスカ「ちょっと、加持!どこ行くのよ!」

ミサト「見返りを求めない、か……」

ミサト「私は…加持くんとどうなりたいのかしら…」




台所で奮闘するマヤ

マヤ「……、…!」



校庭で佇む日向

日向「……」




拾七話分終わり

加持「…よっ。ずいぶん早いな」

日向「……」

加持「時間はあるんだ…ちょっと遠回りしてかないか?」

日向「……」

日向「俺は男だぞ…?」






ミサト「あの、加持くんは…?」

シンジ「ああ、なんか用事があったみたいでね。朝早く出てったよ」

ミサト「…用事って?」

シンジ「さぁ…ミサトちゃんも聞いてないの?」

ミサト「いえ…」

シンジ「そうか…昨日帰ってきてからも元気なかったし…どうかしたのかな…」

ミサト(……リツコのとこかしら…)

ミサト「あの、」
シンジ「ところで、」

ミサト「あっ…」

シンジ「あはっ。いいよ先に」

ミサト「あの…四号機が欠番っていう噂、本当ですか?何か事故があって爆発したって」

シンジ「…うん、本当だよ。四号機はネルフ第二支部と共に消滅したんだ。S2機関の実験中に…」

ミサト「……」

シンジ「ごめんね。伝えるのが遅れて…でもここは大丈夫だよ?3体ともちゃんと動いてるし、パイロットもスタッフも優秀なんだから」

ミサト「…でも、アメリカから参号機が来るって。松代でやるって聞きました、起動実験」

シンジ「うん…ここは4日ほど留守にするけど、その間のことはアスカに頼んでるし、心配ないよ」

ミサト「でも実験は…」

シンジ「大丈夫だよ、ミサトちゃん。綾波も立ち会ってくれるんだし、それに…」

ミサト「パイロットは…?パイロットはどうなるんですか?」

シンジ「……」

シンジ「その、パイロットなんだけど…」


チャイムの音


ミサト「あっ、私がでます」


ミサト「えっ」

マヤ「おっおはようございます!今日は、シンジさんにお願いがあって来ました……!」

シンジ「えっ、え?」

マヤ「私を……私をエヴァンゲリオン参号機の、パイロットにしてください!」

シンジ「………」

レイ「じゃあまだミサトちゃんは知らないの?」

シンジ「なかなか言い出すきっかけがなかったんだよ…それに、最近なんだか少し暗いんだ、ミサトちゃん」

レイ「…父親役が板についてきたと思ったら、もう弱音?まだまだ先は長いのよ」

シンジ「それはそう…なんだけど…」


シンジ「それで……いつ呼ぶの?パイロット」

レイ「そうね…明日になるわ。準備もいろいろあるし」

シンジ「…日向くんが自分で言ってくれたりは、しないかな?」

レイ「……期待しないほうがいいわ。人に自慢するほど、喜んでなかったもの。入院中の妹を本部の医学部に転院させてくれっていうのが彼の出した例の条件だったのよ」

加持「……妹さんが、入院してるそうだな」

日向「……」

加持「良くないのか?」

日向「……関係ないだろ」

加持「…あるさ。これからはパイロット同士だ」

日向「!」

日向「知ってるのか……葛城さんは?」

加持「葛城はまだ知らない。恐らくな」

日向「……それで?降りろって言いに来たのか?悪いけど俺は…!」

加持「「覚悟はできてる」?」

日向「……! そうだよ」

加持「……」

加持「……はぁっ。どうにも……駄目だな。俺は」

日向「…?」

加持「いや……すまない。嫌味のつもりはないんだ、…ただ……」

加持「仲間が死ぬのは見たくない…」

日向「……!」

加持「パイロットになるかどうかは…それぞれが決めることだ。決めたんなら……俺にあれこれ言う資格はない」

加持「覚悟結構。死ぬ気でやらなきゃいけないのは事実だ…。全人類とパイロット、天秤はどうあっても人類に傾く」

加持「ただ俺個人としては……仲間に死なれると後味が悪い」

加持「それに……葛城も悲しむしな…」

日向「……!」

加持「それだけ、言いに来たんだ」

日向「……」

日向「…分かった」


加持「…ま。ただでさえ少ないパイロットだ、これからよろしく頼むよ」

日向「ああ…」

加持「……」

加持「…治るといいな、妹さんの怪我…」

日向「……?ああ…」

マヤ「あ~!きっと変な子だと思われたわよね?でも、居ても立ってもいられなくて……シンジさん、上に掛け合ってくれると思う??」

ミサト「どうかしらねぇ…」

マヤ「予備としてでもいいから使ってくれないかしら。やる気ならあるのになぁ…」

ミサト「……あ、」

マヤ「ちょっと葛城さん、聞いてる?」

ミサト「聞いてる聞いてる」


ミサト(加持くん…私より先に出たはずなのに…)


教室の入口、笑いあう女子と加持

青葉「さーて、飯メシ…あれ?マコトは?」

男子「さっき出てったよ」

青葉「ふぅん……」

青葉(……)




リツコ「…日向くん」

日向「ああ……赤木か。どうしたんだ?こんなところで」

リツコ「……」

日向「……操縦のコツでも教えに来てくれたのか?…知ってるんだろ、俺が乗るって」

リツコ「ええ…」

日向「……知らないのは葛城さんだけか」

リツコ「そうなの?」

日向「たぶんな」

日向「……赤木ってさ」

日向「……死にそうになったことってあるか?エヴァに乗ってて」

リツコ「……」

日向「いや……ごめん、こんなこと聞いて。赤木ってパイロットになってもう長いんだろ?」

リツコ「ええ」

日向「……」

日向「加持にさ…言われたんだ、死ぬ覚悟はしていい……でも死ぬな、って……」

日向「無茶言うよな…赤木には分かるか?」

リツコ「……」

リツコ「……私が、死にそうになったとき、ミサトは泣いてたわ」

リツコ「……私は、人のために死ねればいいと、思ってたけど……」

リツコ「その時は、ミサトを悲しませたくないと思った」

リツコ「だから、加持くんの言ってることは…分かるわ」

日向「……」

日向「はは…葛城さんはみんなに愛されてるんだな…」

リツコ「? あなたもでしょ…?」

日向「…!」

日向「その通りだ…」

日向「よろしく頼むよ、これから」




教室の窓から、マヤ

マヤ「………」

レイ「遅れること2時間。ようやく到着ね」

シンジ「いくら慎重にって言っても限度があるよ…!こんなに待たせるなんて」

レイ「デートのときは黙って待ってたんでしょ?」

シンジ「……」





老教師「でありまして、これが世に言うセカンドインパクトであります」

老教師「私はそのころ根府川に住んでいたのですが、南極大陸の溶解に伴う水位の上昇により、今では海の底になってしまいました…」


(日向「付き合ってほしい…」)

(日向「葛城さんの支えになりたいんだ」)

日向「……」

マヤ「ごめんね葛城さん。いつもなら加持くんと一緒に帰ってるのに…」

ミサト「い…いいのよぉあんなやつ!どうせ帰ってもいるんだから。マヤちゃんとは外でしか話せないじゃない。…それで、何?悩み事って」

マヤ「……」

ミサト「……また、エバのこと?」

マヤ「ううん、それはもういいの…」

マヤ「いいえ…よくは、ないんだけど……今日は赤木さんのことで」

ミサト「リツコのこと?」

マヤ「うん…赤木さんと、日向くんって……付き合ってるのかな…?」

ミサト「ぶっ!!」

ミサト「は!?なんて?」

マヤ「二人、付き合ってるんじゃないかって。…だって、お昼休み、とっても仲良さそうにしてたのよ?」

マヤ「…日向くん、笑ってたし…」

ミサト「……」

マヤ「確証はないんだけど……日向くんって、赤木さんのことが好きなんじゃないかしら…」

ミサト「…う~ん」

ミサト(これは…リツコの赤面事件は伏せといたほうがいいわね…)

ミサト(それに……日向くんが好きなのはたぶん、まだ私だし……)

ミサト「大丈夫よ!日向くんが好きなのはリツコじゃないって!」

マヤ「……どうしてそう言えるの?」

ミサト「う……ちょっとガサツで、ほんのちょっとズボラなくらいがタイプらしいから。リツコじゃないわよ」

マヤ「なんでそんなこと知ってるの?」

ミサト「かっ加持くんに聞いたのよ!」

マヤ「そっかぁ……加持くんか…」

ミサト「……」

マヤ「加持くん……家で、何か赤木さんのこと言ってない?」

ミサト「なんで?」

マヤ「だって……最近よく赤木さんに声かけてるのを見るから…」

ミサト「き…気にしすぎよぉ!同じエバのパイロットなんだし…それに、あいつは女の子なら誰彼かまわずじゃない」

マヤ「そうだけど…」

マヤ「赤木さんは、綺麗だし…何でもそつなくこなすし」

ミサト「……」

マヤ「優しいから…」

マヤ「加持くんも、本気になっちゃうんじゃないかと、思って……」

ミサト「……」

ミサト「…そうね…」

ミサト「リツコは、いい子よね…」

ミサト「ねぇ…加持くん」

加持「なんだ?」

ミサト「………」

(マヤ「赤木さんは、綺麗だし…」)

ミサト「…さ、参号機のことって聞いてる?新しいパイロットの話とか」

加持「…さぁ、どうだかね…」

加持「なんにせよ、少ないパイロットだ。仲良くやるさ…」

ミサト「…………」

加持「……ん?」

加持「葛城…?」

アスカ「ふーっ!さっぱりしたっ!お風呂、空いたわよ」

加持「あ……先輩」

アスカ「なによ、あんたたち…まだくっちゃべってんの?スッとろいわねぇ」

アスカ「さっさと片付けて、さっさと風呂入って、寝る!明日も早いんだから」

ミサト「か、加持くん、先に…」

アスカ「加持!あんたは最後!レディーファーストよ」

加持「へーいへい」

アスカ「ミサト!とっとと入っちゃいなさい!」

ミサト「はっはいっ!」

ミサト「……アスカさん、もう寝ました?」

アスカ「…まだ起きてるわよ」

ミサト「………」

アスカ「…なによ。言いたいことがあんなら言いなさいよ」

ミサト「……加持くん、って…どんな子でした?向こうで…」

アスカ「加持?唐突ね……あんたあいつが気になるの?」

ミサト「気になるっていうか…最近」

アスカ「……」

ミサト「よく…分からなくて」

アスカ「……あいつはあいつよ。私の口から言ったって、それは私の中の加持でしかない。気になるんなら、自分で見つけなさいよ……あいつがあんたにとっての、何なのか」

ミサト「そう……ですよね…やっぱり」

アスカ「それにしても…ふぅ~ん?あんたがねぇ…」

ミサト「…な、なんですか……」

アスカ「べつに。聞かれるんだったらあんたの父親のことだと思ってたから。拍子抜けしたのよ」

ミサト「……お父さんのことは…いつか、聞きます…副司令とかに」

アスカ「ゲッ……あのホモに関わると、ロクなことないわよ…?」

ミサト「? ホモ?」

アスカ「いや……なんでもないわ」

ミサト「……」

ミサト「…アスカさんにとってのシンジさんって、何なんですか…?」

アスカ「……それが分かりゃあ、苦労しないわよ」

ミサト「ふふっ…同じですね」

アスカ「バーカ。こっちは腐れ縁。あんたたちなんてまだペーペーよ」

アスカ「…ほら、お喋りはおしまい。もう寝なさい」

ミサト「はーい」

アナウンス「参号機、起動実験まで、マイナス、300分です」

アナウンス「主電源、問題なし」

アナウンス「第二アポトーシス、異常無し」

アナウンス「各部、冷却システム、順調なり」

アナウンス「左腕圧着ロック、固定終了」

レイ「了解。Bチーム作業開始」

アナウンス「エヴァ初号機とのデータリンク、問題なし」

レイ「これだと即、実戦も可能だわ」

シンジ「そう……」

レイ「…複雑そうね」

シンジ「…この機体が納品されたら、エヴァは全部で4機になる…」

レイ「…その気になれば世界を滅ぼせる戦力ね……」

シンジ「……」

レイ「パイロットの件…ミサトちゃんには話したの?」

シンジ「実験が終わったら……話すよ」

アナウンス「フォースチルドレン、到着。第2班は、速やかにエントリー準備に入ってください」

マヤ「ねぇ……赤木さん、お弁当、一緒に食べない?ちょっと作りすぎちゃって…」

リツコ「…いただくわ」

マヤ「良かった!お肉は苦手だって聞いてたから、お野菜中心にしたのよ」

ミサト「あのぉ~…私もいい?」

マヤ「葛城さん?…でもいつもは…」

ミサト「今日、シンジさんいなくて。お弁当…失敗しちゃったのよね」マルコゲ

リツコ「あきれた…」

マヤ「……」



マヤ「…参号機って、もう日本に到着したの?」

ミサト「うん…昨日着いたみたいよ」

マヤ「いいなぁ。誰が乗るのかしら…日向くんかな?今日休んでるし」

ミサト「まさかぁ!」

リツコ「………」

オペレータ「エントリープラグ、固定完了。第一次、接続開始」

オペレータ「パルス送信。グラフ正常位置。リスト、1350までクリア。初期コンタクト、問題なし」

レイ「了解。作業をフェイズ2へ移行」

オペレータ「オールナーブリンク、問題なし。リスト、2550までクリア。ハーモニクス、すべて正常位置」

オペレータ「絶対境界線、突破します」


突破直後、異変。


レイ「実験中止、回路切断!」

オペレータ「だめです、体内に高エネルギー反応!」

レイ「まさか…」

レイ「使徒!?」

ケンスケ「松代にて、爆発事故発生」

オペレータ「被害、不明!」

カヲル「救助、および第3部隊を直ちに派遣!戦自が介入する前にすべて処理するんだ」

トウジ「了解!」

ケンスケ「事故現場に未確認移動物体を発見」

トウジ「パターンオレンジ、使徒とは確認できん」

葛城「…第一種、戦闘配置」

ケンスケ「総員、第一種戦闘配置!」

トウジ「地、対地戦用意!」

ヒカリ「エヴァ全機、発進!迎撃地点へ緊急配置!」

オペレータ「空輸開始は20を予定」

ミサト「松代で事故?そんな、じゃあ、シンジさん達は!?」

リツコ「分からないわ。連絡が取れない」

ミサト「そんな、どうすれば…」

加持「……今俺らが心配したってしょうがない。無事を祈るしかない……まずは目先の問題だ」

ミサト「…でも…使徒相手に、私たちだけで…」

リツコ「今は葛城司令が、直接指揮を執っているわ」

ミサト「お父さんが?」

ケンスケ「野辺山で映像を捉えました。主モニターに廻します」


職員「おおっ…」

カヲル「…やはりこれか」

葛城「活動停止信号を発信。エントリープラグを強制射出」

ヒカリ「だめです、停止信号およびプラグ排出コード、認識しません」

葛城「パイロットは?」

トウジ「呼吸・心拍の反応はありますが、おそらく…」

葛城「…エヴァンゲリオン参号機は現時刻をもって破棄。目標を第拾参使徒と識別する」


トウジ「しかし!」

葛城「予定通り野辺山で戦線を展開、目標を撃破しろ」

ケンスケ「目標接近!」

トウジ「全機、地上戦用意!」

ミサト「えっ?まさか、使徒…?これが使徒なの?」

葛城「…そうだ。目標だ」

ミサト「目標って……これはエバじゃないの…」

加持「…乗っ取られたのか、使徒に……!」

ミサト「やっぱり、人が…子供が乗ってるんじゃ…!同い年の…」

加持「………っ」

加持「二人とも、下がれ!ここは俺がやる」

ミサト「加持くん!?」

加持「援護を頼む!」

加持(…足、動きを封じて、エントリープラグだけでも…!)

加持「だぁああっ!」

(アスカ「こいつの妹が、難しい怪我してて…」)

加持「くっ…!」

ミサト「加持くんッ!!」

トウジ「エヴァ弐号機完全に沈黙!」

ヒカリ「パイロットは脱出、回収班向かいます」

ケンスケ「目標移動、零号機へ」

葛城「リツコ、近接戦闘は避け、目標を足止めしろ。今初号機をまわす」

リツコ「了解」

リツコ(乗っているのは、彼…)

照準を合わせるリツコ

突如、襲いかかる参号機

リツコ「あぁ…っ!」

ヒカリ「零号機、左腕に使徒侵入!神経節が侵されて行きます!」

葛城「左腕部切断。急げ!」

ヒカリ「しかし、神経接続を解除しないと!」

葛城「切断だ!」

ヒカリ「…はい!」

リツコ「ひっ…!」

ヒカリ「零号機中破、パイロットは負傷」

ミサト「そんな…」

葛城「目標は進行中。後20で接触する。聞こえるな?…ミサト」

ミサト「……!」


葛城「お前がやるんだ」


ミサト「……でも」

ミサト「でも、目標って言ったって…!」



ミサト「人が乗ってるんじゃないの…?」

ミサト「同い年の子供が…!」

葛城「……」

咆哮する参号機

ミサト「エントリープラグ…やっぱり、人が乗ってる…!」

ミサト「あっ!」

初号機を締め上げる参号機

ミサト「はっ、ぁ、う…っ!」


トウジ「生命維持に支障発生!」

ヒカリ「パイロットが危険です!」

カヲル「いけない、シンクロ率を60%にカットだ!」

葛城「待て!」

カヲル「しかし!このままではパイロットが…!」

葛城「……ミサト、なぜ戦わない」

ミサト「……!」

ミサト「だって、だって人が乗ってるのよ、お父さん!!」

葛城「…そいつは使徒だ。われわれの敵なんだ」

ミサト「でも…そんなの、できないわよ…!…助けなきゃ…人殺しなんてできない!!」

葛城「お前が死ぬぞ!」

ミサト「…いいわよ、人を殺すよりはいい!死んだほうがマシよ!!」

葛城「………!」

葛城「パイロットと初号機のシンクロを全面カットしろ」

ヒカリ「カットですか?」

葛城「そうだ。回路をダミープラグに切り替えろ!」

マヤ「しかし、ダミーシステムはまだ問題も多く、…綾波博士の指示もなく!」

葛城「このままではパイロットが死ぬ!急ぐんだ!」

ヒカリ「はい…!」

ミサト「はぁっ、は…!」

ミサト「なに…? 何をしたの、お父さん!」


トウジ「信号、受信を確認」

ヒカリ「官制システム切り替え完了」

オペレータ「全神経、ダミーシステムへ直結完了」

オペレータ「感情素子の32.8%が不鮮明、モニターできません」

葛城「構うな…システム開放、攻撃開始」

参号機を捩じ伏せる初号機

ヒカリ「これが、ダミープラグの力なの…?」

オペレータ「システム正常!」

オペレータ「さらにゲインがあがります!」

参号機の頭部を踏み潰し、身体を抉る

ヒカリ「ひっ!」



ミサト「やめてよ!!!!!」

ミサト「お父さん、お願い、やめてよ、こんなのやめさせて!!!!!」

ミサト「嫌…!止まってよ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!止まれ!」

エントリープラグが軋む

ミサト「はっ!これは…!」


ミサト「やめて!!!!嫌っ!やめてぇっ!!!!!!!!!!!!!!」



ケンスケ「エ、エヴァ参号機、あ、いえ、目標は、完全に、沈黙しました…」

男「こっちにもいたぞーっ!生存者だ!息はある!急いで救護を廻してくれ!」

男「そうだ。レコーダーのプラグは、ペースト作業終了後、すべて、焼却処分にしろ!」


シンジ「生きてる……。…アスカ?」


男「いいから!…の封鎖を解除しろ!」


アスカ「……良かったわね、命があって」

シンジ「綾波は…?」

アスカ「…あんたよりは軽傷よ。まったく…心配させんじゃないわよ、バカシンジ」

シンジ「…はっ!…エヴァ参号機は!?」

アスカ「……使徒、として処理されたそうよ。初号機に」

シンジ「そんな……」


男「……は破棄だ!ベークライトを注入してくれ」

男「地下800mの…」

シンジ「……僕、まだミサ

男「こっちにもいたぞーっ!生存者だ!息はある!急いで救護を廻してくれ!」

男「そうだ。レコーダーのプラグは、ペースト作業終了後、すべて、焼却処分にしろ!」


シンジ「生きてる……。…アスカ?」


男「いいから!…の封鎖を解除しろ!」


アスカ「……良かったわね、命があって」

シンジ「綾波は…?」

アスカ「…あんたよりは軽傷よ。まったく…心配させんじゃないわよ、バカシンジ」

シンジ「…はっ!…エヴァ参号機は!?」

アスカ「……使徒、として処理されたそうよ。初号機に」

シンジ「そんな……」


男「……は破棄だ!ベークライトを注入してくれ」

男「地下800mの…」

シンジ「……僕、まだミサトちゃんに何も話してない…」

(通信)

シンジ「ミサトちゃん…?」

ミサト「シンジさん…!良かった。無事だったんですね…?」

シンジ「ごめん……ミサトちゃん、僕は……君に伝えなきゃいけなかったのに、こんなことに…」


ミサト「シンジさん…私は…私は、人を…!お父さんが、私、嫌だって、…やめてって頼んだのに…!」

シンジ「ミサトちゃん、ごめん、本当に…」

ミサト「シンジさん……?」

ヒカリ「エントリープラグ回収班より連絡。パイロットの生存を確認」


ミサト「生きてる!?」


男「了解。変形部はレーザーで切断」

男「L.C.L.の変質サンプルは最優先で…」

シンジ「あの参号機のパイロットは…フォースチルドレンは…」


女「付着している生体部品は破棄処分、熱処理を準備!」

ミサト「え…?」



シンジ「…ミサトちゃん?…ミサトちゃん、ミサトちゃん…!ミサトちゃん!」

ミサト「嫌、」


(絶叫)


拾八話分終わり

ヒカリ「…初号機の連動回路、カットされました」

カヲル「射出信号は?」

ヒカリ「プラグ側からロックされています。受信しません」

トウジ「聞いとるか?…ああでもせなんだら、お前がやられとったんやぞ!」


ミサト「そんなの関係ない……」


トウジ「それでも、それが事実や」

ミサト「………」


ミサト「そんなこと言って…これ以上私を怒らせないでよ…」

ミサト「初号機に残されている後185秒、これだけあれば、本部の半分は壊せる…!」

ケンスケ「今の彼女なら、やりかねませんね」

ヒカリ「ミサトちゃん、話を聞いて!」

ヒカリ「葛城司令の判断がなければ、みんな死んでいたかもしれないのよ!」

ミサト「関係ない、そんなの」

ヒカリ「ミサトちゃん……!」


ミサト「関係ないって言ってるでしょ……!」


ミサト「殺そうとしたのよ…!?日向くんを、初号機が……私の手が!!」




葛城「お前ではない」

ミサト「な……」

葛城「あの少年を殺そうとしたのは私だ」

ミサト「……っ」

葛城「お前は死を選んだ。私はダミープラグを」

葛城「初号機を動かしたのはダミープラグだ」

ミサト「……!」

ミサト「そんなの……!そんなの関係ないわよ!!乗ってたのは私でしょ!?」

葛城「お前は戦うことを放棄したんだ」

ミサト「違うわよっ!!!」

葛城「……」

葛城「L.C.L.圧縮濃度を限界まで上げろ」

ヒカリ「ええっ?」

葛城「…やってくれ。ここを破壊されては困る…」

ミサト「まだ直結回路が残っ…がはっ!」

ミサト「チクショウ…チクショウ…チクショウ…」

作業員「ライトブレストの溶解処理、完了しました」

作業員「体液の洗浄は予定通り、30から始めます」

作業員「第6パーツは熱処理されます。エリア内の作業員は待避してください」

レイ「…もういいの?」

シンジ「仕事ができれば、問題ないよ」

シンジ「それに、休んでられないよ。こんな非常時に…」

シンジ「ミサトちゃんは…?」


レイ「…あの後、レーザーカッターで非常ハッチを切断。強制排除されたらしいわ」

シンジ「……参ったな…、今回ばかりは」

加持「…立ち直れないかもしれないな」

リツコ「ミサト?」

加持「…ああ、葛城もだし」

加持「俺もだ…」

リツコ「…あなたの先行で、使徒との接近戦が危険と分かったんだから…無駄ではなかったわ」

加持「ははっ…優しいじゃないか。いつになく」

リツコ「そうかしら…普通よ」


加持「……葛城は、今ごろ夢の中かな?」

リツコ「夢?」

加持「ああ……悪夢じゃないといいが…」

リツコ「……」

日向(……どこだ…ここは…妹の病院か…?なぜ俺は寝てるんだ……?)

日向(何だ……葛城さんじゃないか…それに、赤木…)


リツコ「なぜあんなことをしたの?」

ミサト「許せなかったのよ、お父さんが。私の気持ちを裏切ったお父さんが…」

ミサト「せっかくいい気持ちで話ができたのに、あの人は私の気持ちなんか分かってくれないんだわ」

リツコ「あなたは分かろうとしたの?お父さんの気持ちを」

ミサト「…分かろうとした」

リツコ「なぜ分かろうとしないの?」

ミサト「分かろうとしたわよ!」

リツコ「司令はあなたに死んでほしくなかっただけよ」

ミサト「……っ」

ミサト「私は……!」


日向(…なんで喧嘩してるんだ…二人…)

看護師「面会は特別だから、5分だけよ」

加持「はい、ありがとうございます」

日向「なんだ……お前か」

加持「悪かったな…葛城じゃなくて」

日向「いや…良かったよ。今はまともに顔を見れそうにない」

加持「……大丈夫か?」

日向「…生きてはいるみたいだな…」

加持「……」

日向「……葛城さんと、赤木がいたような気がしたんだがな…ちょうどそこに」

加持「…葛城は昨日退院したよ。リッちゃんは…何度か顔を見せてたようだが。おたくは丸三日寝てたんだ…夢でも見たんじゃないのか?」

日向「そうか…3日も……」

日向「……」

日向「なぁ……ひとつ、頼んでいいか…?」

加持「何だ?」

日向「妹には…知らせないでくれ。俺は何でもないって…少し忙しいだけだからって…伝えてくれないか…?」

加持「……」

加持「分かった…」

ネルフ職員「出たまえ、葛城ミサト君。総司令がお会いになる」


葛城「命令違反、エヴァの私的占有、恫喝…」

葛城「これらはすべて犯罪行為だ」

葛城「…何か言いたいことはあるか」

ミサト「……」

ミサト「私はもう、エバに乗りたくありません。…ここにもいたくありません」

葛城「どうするつもりだ」

ミサト「おじさんのところへ戻ります」

葛城「…それで逃げられると思うのか」

ミサト「……!」

葛城「…お前だけは、お前自身から逃げられない」

葛城「お前の戦闘離脱も、同級生の怪我も、すべて事実だ。向き合わない道はない…「演じる」ことで隠すことはできても。…ミサト」

葛城「…もうここへは帰ってくるな」

ミサト「……っ!言われなくても、そうするわよ!!!」




葛城「私だ。サードチルドレンは抹消、初号機の専属パイロットはリツコをベーシックに、ダミープラグをバックアップに廻せ」




(伝言メッセージ)


マヤ「葛城さん? 大丈夫…? わたし、何て言ったらいいのか…」

マヤ「ごめんなさい。勝手なことばかり言って…乗りたいとか、羨ましいとか。私、自分が幻想を見てるんだって気づいたのよ、出ていくあなたを責められないわ……日向くんがエヴァの事故に巻き込まれたって聞いて、私…!」



オペレータ「この電話は盗聴されています。機密保持のため回線を切らせていただきました。ご協力を感謝いたします」

シンジ「…加持くんが、悪かったって。…ミサトちゃんに」

ミサト「……みんな私に謝ってばっかり。悪いのは私なのに」

シンジ「ミサトちゃん…」

ミサト「やめてくださいよ!!いらないですよ、同情なんて…!」

シンジ「………」


ミサト「もう聞きあきたわ……私はかわいそうなんかじゃない……!」

ミサト「………」

ミサト「エバに乗ることも、ここに残ることも…」

ミサト「自分で選んだ……だから今度も、自分で出ていくんです…」

シンジ「…ミサトちゃん…」

ミサト「…最後に、ひとつだけ教えてください。なぜ日向くんだったんですか?フォースチルドレンが」

シンジ「……第4次選抜候補者は、全てミサトちゃんのクラスメートだったんだよ……ごめん、こんな大事なことが、今まで言えなくて……」

ミサト「……全部、仕組まれてたってことですか?クラスのみんなが……」

ミサト「なんなんですか……?お父さんが……あの人がやろうとしてることは…!」

シンジ「……」

シンジ「ごめん……うまく言えないんだ。でも僕らが戦ってるのは、人類を救うためで…!……それだけは、嘘じゃ、ないから…」

ミサト「……もういいです。どうせ私には関係のなくなることですから」

シンジ「ミサトちゃん…」

ミサト「私のパスコードは破棄してください。部屋の荷物も…」

シンジ「……」

ミサト「すみません、最後までご迷惑をおかけして」

ミサト「それじゃあ……さようなら」

警報。

放送「ただいま東海地方を中心に、非常事態宣言が発令されました。住民の皆さまは、速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返します、ただいま…」



ミサト「使徒だ…」





オペレータ「総員第一種戦闘配置、地対空迎撃戦用意」

カヲル「目標は?」

ケンスケ「現在、侵攻中です。駒ケ岳防衛線、突破されました!」

オペレータ「第1から18番装甲まで損壊!」

トウジ「18もある特殊装甲を、一瞬で…!」

シンジ「……エヴァの地上迎撃は間に合わない!弐号機をジオフロント内に配置、本部施設の直縁に廻して!」

シンジ「加持くんには目標がジオフロント内に侵入した瞬間を狙い撃ちさせて!」

シンジ「零号機は?」

ヒカリ「A.T.フィールド中和地点に、配置されています」

レイ「左腕の再生がまだなのよ」

シンジ「戦闘は無理か…」

葛城「リツコは初号機で出せ」

シンジ「…!」

葛城「ダミープラグをバックアップとして用意」

シンジ「はい…!」

オペレータ「エントリースタート」

ヒカリ「L.C.L.電荷」

レイ「A10神経、接続開始」

異変。

リツコ「うっ…だめなのね、もう…」

オペレータ「パルス逆流!」

ヒカリ「初号機、神経接続を拒絶しています!」

レイ「まさか、そんな…」

カヲル「……葛城君」

葛城「ああ…私を拒絶するつもりか」

葛城「…起動中止、リツコは零号機で出撃させろ。初号機はダミープラグで再起動」

シンジ「しかし零号機は…!」

リツコ「構いません。行きます」

シンジ「リツコちゃん…!」

リツコ(私が死んでも代わりはいる…もう気づいて泣く人もいないわ)

火柱が立ち上る。市街地。


ミサト(……私はもう、乗らないって決めたのよ…!)

男「君、何をしている!早くシェルターに避難しなさい!」




ケンスケ「だめです!後一撃ですべての装甲が突破されます!」

シンジ「…頑張って、加持くん…!」




加持「来たな……こちとら傷心中だってのに」

加持「ま……いいさ。スパッと勝ちどきを上げて、」

加持「英雄の凱旋といこうじゃないか……!」

連射。

加持「このっっ!!」

加持「チッ……次!」

加持「なぜだ!? A.T.フィールドは中和しているはず…」

加持(なぜ通じない!?)

なおも撃ち込むが、通じない

加持「ははっ……笑えない冗談だ」

加持「何…っ!」


加持「がっっ」

腕を切り落とされる

加持「……っああ、あぅ……!」


加持「……でやあああっ!」


シンジ「弐号機の全神経接続カット!早く!!」

(加持「避難訓練?……まぁ、俺たちパイロットには関係ない話だろうな」)

揺れる避難所。

ミサト「……うわっ!」

男「第8区に直撃!」

男「第6シェルターは放棄、生きてるものは第3シェルターへ急げ!」

目前に弐号機の頭部。

ミサト「……!!」



ケンスケ「弐号機大破、戦闘不能!」

シンジ「加持くんは!?」

トウジ「無事や!生きとる!」



加持「はは…」

加持「…首、ついてるよな……?」

加持「………」

ケンスケ「使徒、移動開始!」

シンジ「初号機の状況は?」

オペレータ「ダミープラグ、搭載完了!」

ヒカリ「探査針、打ち込み終了!」

レイ「コンタクト、スタート!」

ヒカリ「了解!」

エラー音

レイ「何っ!?」

ヒカリ「パルス消失、ダミーを拒絶、だめです!エヴァ初号機、起動しません!」

レイ「ダミーを、赤木リツコを、」

カヲル「受け入れないのか…!」

葛城「……」

葛城「渚、少し、頼む…」

男「怪我人は第6ブロックへ!」

男「無事なものは第3シェルターへ集合しろ!」

男「こっちだ!」

男「早く!」

男「急げ!」

男「早く!」

男「おい君!何をしている!死にたいのか!」


立ち尽くすミサト


ミサト「加持くん…」



アスカ「ミサト!」

ミサト「アスカさん…、どうしてここに…」

アスカ「それはこっちの台詞よ。何やってんのよ、サードチルドレン、葛城ミサト」

ミサト「もうパイロットじゃありません。…自分のために決めたんです」

アスカ「自分のため?聞いて呆れるわね…あんた逃げてるだけじゃないの」

ミサト「アスカさんこそ……何してるんですか」

アスカ「…アルバイトが公になったからね。戦闘配置に私の居場所はなくなったの。だからここで水を撒いてるってわけ」

ミサト「だからここで?意味が分かりません」

アスカ「分からない?何してたって同じってことよ。エヴァが負ければみんな死ぬんだから」

ミサト「……みんな、死ぬ…」


アスカ「そうよ。使徒がここの地下に眠るアダムと接触すれば、人は全て滅びる…サードインパクトで」

アスカ「あたしはここで水を撒くことしかできない…あんたは違うでしょ?」

アスカ「使徒を止められるのは、使徒と同じ力を持つエヴァンゲリオンだけ」


ミサト「リツコっ!?ライフルも持たずに!」

レイ「やめなさいっ!!」

葛城「リツコ!」


リツコ「A.T.フィールド、全開…!」

爆発。

ミサト「うっ!……!」



トウジ「零号機は…!」


爆煙の中から、使徒

零号機の頭部を切り落とす


シンジ「リツコちゃんっ!」

レイ「何てこと…!」

アスカ「後悔なんて誰だってするわよ。誰だって今が一番辛いの。時間は巻き戻せない、一瞬一瞬を積み重ねたものが人の歴史なのよ」

アスカ「選択できるのは「今」だけ…」

アスカ「その一瞬で何を選択するか……少なくともそれで、未来(さき)の後悔は変えられるわ」

ミサト「……」


アスカ「あんた本当に後悔しないの?こんなところに突っ立ってて」

ミサト「………!」





ケンスケ「第三基部に、直撃!」

トウジ「最終装甲版、融解!」

シンジ「まずい、メインシャフトが丸見えだ…!」

レイ「初号機はまだなの!?」

オペレータ「ダミープラグ、拒絶」

オペレータ「だめです、反応ありません!」

葛城「続けろ。もう一度108からやり直せ」



ミサト「乗せてください!」


ミサト「私を、私をこの……っ、初号機に乗せてください!」

葛城「……!」

ミサト「お父さん…」

葛城「…なぜ帰ってきた」

ミサト「私は…!」


ミサト「私は、エヴァンゲリオン初号機のパイロット、葛城ミサトです!」

ケンスケ「目標は、メインシャフトに侵入、降下中です!」

シンジ「目的地は!?」

トウジ「そのまま、セントラルドグマへ直進!」

シンジ「ここに来る…!総員待避!急いで!」

トウジ「総員待避!繰り返す、総員待避!」


目前に迫る使徒。


シンジ「……!」

突進する初号機

シンジ「エヴァ初号機!?…ミサトちゃん!?」


ミサト「ぐ…っ!」

ミサト「ああああああっ!」

拳を振り上げる初号機。腕を切断される

ミサト「……っ、あああああああ!」

射出リフトに使徒を追いやる。

ミサト「シンジさんっ!」

シンジ「5番射出、急いで!」

ミサト「あああああっ!」

ミサト「やあああああ!」

絶叫し使徒を撲つ。

突如、停止する

ミサト「エネルギーが切れた!?」


ヒカリ「初号機、活動限界です!予備も動きません!」

シンジ「ミサトちゃん…!」

刻まれ、爆撃を受ける初号機。

シンジ「ミサトちゃん!!」


ミサト「動け、動け、動け!動け、動いてよ!今動かなきゃ、何にもならないのよ!」


シンジ「あれは…っ」

露呈したコア。

ミサト「動け、動け、動け!動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動きなさいよ!」

ミサト「今動かなきゃ、今やらなきゃ……みんな死んじゃうのよ…!もう…もうそんなのは、嫌なの…!」

ミサト「だから……動いてよ…っ!!」



鼓動。



覚醒する初号機。攻撃を受け止める

アスカ「……!」

ヒカリ「エ、エヴァ、再起動…」

使徒の部品を押し当てる。腕を再生。

シンジ「すごい…」

ヒカリ「まさか…信じられません、初号機のシンクロ率が400%を超えています!」

レイ「目覚めたのね……彼女が」


咆哮する初号機。使徒を圧倒する


シンジ「使徒を……食べてる…」

レイ「S2機関を自ら取り込んでいるというの…?エヴァ初号機が…」

ヒカリ「……うぅっ!」


レイ「拘束具が…!」

トウジ「拘束具?」

レイ「そうよ…あれは装甲板ではないの。エヴァ本来の力を私たちが押え込むための、拘束具」

レイ「その呪縛が今、自らの力で解かれていく…私たちにはもう、エヴァを止めることはできない…」

アスカ「……初号機の覚醒と開放。こーなりゃゼーレが黙っちゃいないわよ」

アスカ「これもシナリオの内?……葛城司令殿」





カヲル「始まってしまったね…どうする?」

葛城「最善を尽くす…選ぶ道はひとつだ」




拾九話分終わり

シンジ「使徒を……食べてる…」


レイ「拘束具が、今自らの力で解かれてゆく。私たちにはもう、エヴァを止める事はできない…」


アスカ「初号機の覚醒と開放。こーなりゃゼーレが黙っちゃいないわよ?」



ゼーレ「エヴァシリーズに生まれいずる筈のないS2機関」

ゼーレ「まさかかのような手段で自ら取り込むとはな」

ゼーレ「我らゼーレのシナリオとは大きく違った出来事だよ」

ゼーレ「この修正、容易ではないぞ」

ゼーレ「葛城。あの男にネルフを与えたのがそもそもの間違いではないのかね?」

キール「だがあの男でなければ、全ての計画の遂行はできなかった。葛城、何を考えている?」




カヲル「始まってしまったね…どうする?」

葛城「最善を尽くす…選ぶ道はひとつだ」

ヒカリ「エヴァ両機の損傷は、ヘイフリックの限界を超えています」

レイ「時間がかかるわね。全てが戻るには」

ヒカリ「幸い、MAGIシステムは移植可能です。明日にも作業を開始します」

レイ「でも、ここはだめね」

ケンスケ「破棄決定は、もはや時間の問題だな」

レイ「そうね…とりあえずは、予備の第2発令所を使用するしかないわね」

ヒカリ「MAGIはなくとも、ですか?」

レイ「…そうね。埃を払って、午後には仕事を始めるわ」

ヒカリ「椅子はきついし、センサーは硬いし、やりづらいのよね…ここ」

ケンスケ「見慣れた第1発令所と造りは同じなんだがな」

ヒカリ「違和感あるわよね」

レイ「使えるだけでも良しとしましょう」


レイ「使えるかどうか分からないのは、初号機ね…」

拘束された初号機

シンジ「…何か反応は?」

トウジ「内部に熱、電子、電磁波ほか、化学エネルギー反応無し。S2機関は完全に停止しとる」

シンジ「にもかかわらず、この初号機は3度も動いた…」

シンジ「目視できる状況だけじゃ、迂闊に触れないね」

トウジ「……」

トウジ「迂闊に手ェ出すと何されるか分からん。…まるでセンセを尻に敷いとる、あの女やな」

シンジ「…トウジも、人のこと言えるの?」

トウジ「なんやとっ!」

キール「だが事態はエヴァ初号機の問題だけではない」

ゼーレ「さよう、零号機と弐号機の大破、本部施設の半壊、セントラルドグマの露呈。被害は甚大だよ」

ゼーレ「われわれがどの程度の時と金を失ったか、見当も付かん」

ゼーレ「これも、葛城の首に鈴を付けておかないからだ」

ゼーレ「鈴は付いている。ただ、鳴らなかっただけだ」

キール「鳴らない鈴に意味はない。今度は鈴に動いてもらおう」

アスカ「…どーなってんのよ?この展開は」

アスカ「ゼーレにどう言い分けつけるつもり?」

カヲル「……初号機はわれわれの制御下ではなかった。これは不慮の事故だよ」

葛城「よって初号機は凍結。委員会の別命あるまでは、だ」

アスカ「あくまで演じ通すってわけね…。いいわ。でもどうするの?パイロットは取り込まれたままなのよ」

葛城「……」

ヒカリ「やはりだめです、エントリープラグ排出信号、受け付けません」

レイ「予備と疑似信号は? 」

ヒカリ「拒絶されています。 直轄回路もつながりません」

トウジ「プラグの映像回線が繋がった。主モニターに廻す」


シンジ「……何だ、これ……!」


レイ「…これがシンクロ率400%の正体」

シンジ「そんな……!ミサトちゃんは一体…!?」

レイ「…エヴァ初号機に取り込まれてしまったのよ」

シンジ「……!」

シンジ「……何だよそれ…どういうことなの? エヴァは対使徒用の、決戦兵器なんじゃなかったの!?」


シンジ「あの時南極で拾った……それをコピーした、人が戦うために作った兵器なんじゃ…」

レイ「ただのコピーとは違うわ。人の意思が込められているもの」

シンジ「これも誰かの意思だって言うの…?」

レイ「……あるいは、エヴァの」

シンジ「!」

シンジ「…なんだよそれ…!エヴァって何なんだよ…!」


レイ「…人の作り出した、人に近いカタチをした物体、としか言いようがないわ」


シンジ「……」

テレビ(ラジオ)「…であり、南沙諸島の問題に対し、政府と内務省はこれを公式に否定しました」

テレビ(ラジオ)「次のニュースです。第2東京市で起きたセクトによるテロ事件から一ヶ月が過ぎた今日、新たなテロ行為に対し再発防止を第一に政府による…」


リツコ「…まだ生きてる…」



(通話)

加持「リッちゃんが無事?それは…よかった…俺は大丈夫、ああ、大したことないよ、それじゃあ」



加持「…大したことないか…」

加持「弐号機、大破…」

加持「……」

加持「…荷が重いな…」

シンジ「ミサトちゃんのサルベージ計画?」

レイ「そう。ミサトちゃんの生命と言うべき物は、まだ存在しているわ」

シンジ「言うべき物?」

ヒカリ「ミサトちゃんの肉体は、自我境界線を失って、量子状態のまま、エントリープラグ内を漂っていると推測されます」

シンジ「つまり…ミサトちゃんは僕たちの目では確認できない状態に変化している?」

ヒカリ「そう。プラグの中のL.C.L.成分は、化学変化を起こし、現在は原始地球の海水に酷似していて…」

レイ「言うなれば、生命のスープね」

レイ「ミサトちゃんを構成していた物質は、すべてプラグ内に保存されているし、魂と言うべき物もそこに存在している」

シンジ「……なぜそう言い切れるの?」

レイ「現に彼女の自我イメージが、プラグスーツを擬似的に実体化させているわ」

ヒカリ「つまりサルベージとは、彼の肉体を再構成して精神を定着させる作業です」

シンジ「そんな事が可能なの?僕たちの力で」

レイ「MAGIのサポートがあればね」

シンジ「……」

レイ「結果どうなるかは……やってみなくては分からないわ」

ミサト「…なに、これ…?どこなの…?エントリープラグ?初号機の?…でも誰もいない。私もいない…」



ミサト「なに…これは…?よく分からない…」

ミサト「この人達…そう、私の知っている人たち、私を知っている人たち」


ミサト「そうか、みんな私の世界なんだ」



ミサト「これは? 私の世界のはずなのに、よく分からない、外からのイメージ、嫌なイメージ」

ミサト「そうよ、敵!」

ミサト「敵、テキ、てき、敵!使徒と呼ばれ天使の名を冠する私たちの敵!」

ミサト「エバの…そしてネルフの目標…シンジさんの両親の仇…」

ミサト「なんで私が戦うんだろう…こんな目に遭ってまで…」

(アスカ「誰かのためってのは聞こえはいいけど、心情的には見返りを求めるものよ」)

ミサト「自分のため……自分のため?」

ミサト「私はこんなに傷ついているのに……」


ミサト「敵、テキ、てき、敵、みんな敵!私を…私たちを脅かすもの、つまり敵」

ミサト「そうよ、自分の命を……心を守って、何が悪いのよ!いいことじゃないの!」


リツコ「いい子でいたいの?」


ミサト「何よ!私と母さんを捨てたくせに!」

リツコ「あなたが逃げ出したんでしょう?」

ミサト「違う、違う、違う、違う!お父さんが捨てたのよ!日向くんを傷つけたのよ、お母さんを殺したのよ!」


リツコ「お母さんが、あなたを殺していたんじゃないの?」

ミサト「嫌……っ!」

母「ミサト……ミサトはお母さんの味方よね…?」

母「ひどい…、ひどいわ…何も分かってないのよ、あの人は」

母「家庭より仕事を取ったのよ!愛してないんだわ、私たちのことを」

ミサト「……」

母「あなただけは、お母さんの味方よね?」

母「あなたがいてくれれば……他になにもいらないの」

母「ミサト…!」

リツコ「だから嫌いなの?」

ミサト「そうよ……父も母も嫌い。自分だけがかわいいのよ」

リツコ「だから逃げ出したのね」

ミサト「一人になって当然よ!お父さんは私たちを愛してなかったんだから!」

リツコ「だから私を愛すの?」

ミサト「そうよ!実の子が恐いから…!他の子で誤魔化してるのよ」

リツコ「あなたは違うの?」


ミサト「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!お父さんがみんな悪いんじゃないの!あの時だって、ほんとはお父さんに嫌いだって言うつもりで…!」

ミサト「私に…これに乗って戦えって言うの?さっきの化け物と!」

葛城「…そうだ」

ミサト「……いやよっ!そんなの……!何?なんでそうなるのよ、今更、いまさら……私を捨てたんじゃなかったの!!?」

葛城「……捨てた覚えはない」

ミサト「なぜ、私なの?」

葛城「お前にしかできないことだからだ」

ミサト「……無理よ…っ!そんなの…見たことも、聞いたこともないのに、できるわけない!」




ミサト「そう、私は何も知らなかった」

ミサト「それなのに、飛び込んだのよ」

ミサト「エバに乗ることを選んだ」


ミサト「お父さんに近づきたかったから…」

アナウンス「現在、L.C.L.の温度は36を維持、酸素密度に問題なし」

アナウンス「放射電磁パルス異常無し。波形パターンはB」

アナウンス「各計測装置は正常に作動中」


ヒカリ「サルベージ計画の要綱、たった一ヶ月でできるなんて。さすが綾波さんね」

レイ「原案は私じゃないわ…先生が残したものに手を加えたの。10年前に実験済みのデータよ」

ヒカリ「そんなことがあったの?エヴァの開発中に?」

レイ「私が入ってすぐの出来事よ」

ヒカリ「…その時の結果は…?」

レイ「……失敗」

ミサト「冷たい…さびしい…」

ミサト「おかしいな。…前は一人でも平気だったのに」

リツコ「サビシイってなに?」

ミサト「一人が嫌ってこと。誰かといたいってことよ」

リツコ「シアワセってなに?」

ミサト「好きってこと。心が満たされることよ」

リツコ「誰かと一緒にいれば、幸せ?」

ミサト「……分からない。お母さんといるときは…息苦しかったから」


母親の遺体の前に立つミサト


ミサト「死を悲しめない自分がいるのよ」

ミサト「切り離されてほっとしている自分がいる」

ミサト「…でも、自分からは逃げられない」


(葛城「お前自身から逃げられない」)

ミサト「自分のために優しくしてきたわ!」

ミサト「自分のためにいい子でいた!」

ミサト「なのに……なぜなの?」


ミサト「嬉しくないのね」

ミサト「嬉しくないわよ」

ミサト「こんな……偽物の自分…」


ミサト「自分なのか分からない自分…」

ミサト「誰か…」


ミサト「汚して!」




ミサト「めちゃくちゃにしてよ!」

日向「意外だったな…葛城さんにこんな一面があったなんて」

シンジ「かわいいよ、ミサトちゃん」

加持「魅力的だよ」



ミサト「気持ち、いいの?」

日向「気持ちいいよ」

ミサト「気持ち、いいの?」

シンジ「気持ちいいよ」

ミサト「気持ち、いいの?」

加持「君は最高だ…」

日向「君が必要なんだ」

シンジ「君が必要だよ」

加持「君しかいらない…君だけでいい」


リツコ「嘘ね」

ミサト「はっ」


リツコ「一時の感情に身を任せて、刹那的に自分を傷つけているだけよ。罰を与えて、誤魔化しているだけ」

ミサト「それの何がいけないのよ!私は汚れたいの!もういい子は嫌…!私はあんたじゃないのよ!!」


リツコ「私はいい子じゃないわよ?」



(加持「涙の通り道にほくろのある人は…」)

(加持「ま、俺ならそんな思いはさせないが」)

(アスカ「あたしにとってのシンジ?…それが分かりゃあ、苦労しないわよ」)

シンジ「アスカは特別なんだ」


加持「笑った顔が見たい」



ミサト「やめて!!!やめてよ!!!!私だけを見て!」

ミサト「私だけを愛してよ…!」



日向「愛しているよ」

シンジ「愛してるよ」

加持「………」



葛城「お前の居場所はない」



ミサト「ひ…っ!」

オペレータ「全探査針、打ち込み終了」

オペレータ「電磁波形、ゼロマイナス3で固定されています」

ヒカリ「自我境界パルス、接続完了」

レイ「了解、サルベージ、スタート」

トウジ「了解、第1信号を送信」

ケンスケ「エヴァ、信号を受信。拒絶反応無し」

ヒカリ「続けて、第2、第3信号送信開始」

オペレータ「対象カテクシス異常無し」

オペレータ「デストルドー、認められません」

レイ「了解、対象をステージ2へ移行」

シンジ「…ミサトちゃん…!」

ミサト「はっ」

(加持「葛城!」)

ミサト「はっ!」

(シンジ「ミサトちゃん!?」)

ミサト「はっ!」

(マヤ「あら、葛城さん!」)

ミサト「はっ!」

(リツコ「ミサト!」)

ミサト「はっ!」

(日向「葛城さん」)

(青葉「葛城~!」)

(レイ「ミサトちゃん?」)

(加持「お姫さま」)

(シンジ「ミサトちゃん…」)

(日向「葛城さん?」)

(リツコ「ミサト」)

(レイ「ミサトちゃん!」)

(マヤ「葛城さん?!」)

(青葉「葛城?」)

(加持「おい、葛城!」)

(日向「あっ、葛城さん!」)

(リツコ「ミサト」)

(シンジ「ミサトちゃん!」)

(加持「葛城!」)

(日向「葛城さん!」)

ヒカリ「だめです、自我境界がループ上に固定されています!」

レイ「全波形域を全方位で照射してみて!」


レイ「だめね…発信信号がクライン空間に捕われている…」

シンジ「どういう事?」

レイ「つまり、失敗」

シンジ「えっ…」

レイ「干渉中止、タンジェントグラフを逆転、加算数値をゼロに戻して」

ヒカリ「はい!」

ケンスケ「Qエリアにデストルドー反応、パターンセピア」

トウジ「コアパルスに変化あり!プラス0.3を確認!」

レイ「現状維持を最優先、逆流を防いで!」

ヒカリ「はい!」

ヒカリ「プラス02…0.8、変です!塞き止められません!」

レイ「これは…なぜ…帰りたくないの?ミサトちゃん…」




ミサト「分からない、分からない…私は…私は…」


シンジ「何を願うの?」

加持「何を、願う?」

日向「何を願うの?」

葛城「何を願う?」

ヒカリ「エヴァ、信号を拒絶!」

ケンスケ「L.C.L.の自己フォーメーションが分解していきます!」

ケンスケ「プラグ内、圧力上昇!」

レイ「現作業中止、電源落として!」

ヒカリ「だめです、プラグがイクジットされます!」

溢れ出るL.C.L.

シンジ「ミサトちゃん!!!」





ミサト「はっ…」

ミサト「ここは…」


ミサト「エバの中よ」

ミサト「エバの中?私はまたエバに乗ったの…?どうして…」

シンジ「もうエヴァには乗らないの…?」

ミサト「破棄してください。パスコードも、部屋の荷物も…」

アスカ「でもあんたは乗った。エヴァンゲリオン初号機に」

ミサト「はっ!」

アスカ「一瞬一瞬の積み重ねなのよ、人の歴史は」

シンジ「僕らは人を守るのが仕事で…君もその一人なのに」

アスカ「後悔しないの?そんなとこに突っ立ってて」

シンジ「僕たち大人を……恨んでくれてかまわない」

アスカ「あんた逃げてるだけじゃないの」

シンジ「ごめんね……勝手な大人ばかりで」

アスカ「サードチルドレン!」

シンジ「この先…立ち向かえない現実があったとしても……君自身のことは、嫌いにならないでほしい」


ミサト「……シンジさん!」

シンジ「う…っ、う、ぅ……!」

シンジ「何が科学だよ……!…人一人、助けられなくて…!」

シンジ「返してよ…!ミサトちゃんを…!」

シンジ「返してよ…っ」




ミサト「匂い…人の匂い…」

ミサト「シンジさん…?」

ミサト「リツコ…?」

ミサト「いや、違う…」

ミサト「そうだ、お母さんの匂い…」



母「……ふふ、可愛いわね、きっと世界で一番、可愛い子よ…」

葛城「ああ…そうだな」


ミサト「お母さん…」

母「抱いてあげて?」

葛城「…抱き方が分からない」

母「こうするの…ほら」

母「優しく…」

母「支えてあげるのよ」

母「あなたにもできるわ」

母「ほら…」

葛城「……」


ミサト「……お父さん」


パシャッ


シンジ「…!」

シンジ「…ミサトちゃん!」

カーラジオ「そりゃ分かるんだけど、オーラルステージの…心理学者が…つまり、母親といつまでも一緒にいたがる… 」



レイ「初号機の修復、明後日には完了するわ」

シンジ「結局、めでたしめでたしか…。科学…人間は不滅なのかもしれないね、神様の力まで利用しちゃうんだから…」

レイ「…どうかしらね…。委員会では凍結案も出ているそうよ」

シンジ「不安要素が大きすぎるって?今さらだよ…やめるんなら初めから手を出すべきじゃなかったんだ」

レイ「……」

シンジ「人造人間、エヴァンゲリオン……ミサトちゃんが助かったのも、エヴァの意思かな?それとも、人の力?」

レイ「少なくとも……私の力じゃないわ、あなたの存在が大きかったんじゃないかしら。彼女の深層心理において」

シンジ「僕が?」

レイ「人は傍らの存在に温もりを感じるものよ。それにあなたは…愛を持って彼女に接してる。影響がなかったとは思えないわ」

シンジ「そうかな…?なんだか綾波にそう言われると、照れるな…」

レイ「素直な感想よ。感謝してるの、あなたにも…ミサトちゃんにも」

シンジ「綾波……」

レイ「一杯奢らせてくれない? サルベージ成功のお祝いに」

シンジ「あ…」

レイ「?」

シンジ「…ごめん!今日は、…約束があって」

レイ「そう… 」



シンジ「それじゃ…!」





レイ「……あれだけ泣いていたのに」

レイ「ミサトちゃんが無事だと分かったら、今度はアスカのところか…」

レイ「……」

レイ「忙しい人ね…」

アスカ「あいつは今ごろ、いやらしい女だって軽蔑してるわね。きっと…」

シンジ「誰…っ、あいつって…」

アスカ「…馬鹿ね。さすがにあいつに同情するわよ…」

シンジ「…あ、アスカ、もう…っ」

アスカ「だーめ。あんたまだ言ってないでしょ?」

シンジ「…言えないよ…!こんな、ところで…っ」

アスカ「あたしには言わせたクセに」

アスカ「人類補完計画…人を滅ぼすアダム…あんたの知らないこと、ほらぁ…聞き出しなさいよ、それが仕事でしょ?」

シンジ「アスカ…っ、言わないでよ。信じるから。僕はアスカを信じるって、決めたから…」

アスカ「……」

シンジ「……もう危険な橋を渡るのはやめてよ…アスカ」

シンジ「まだやめてなかったんだ…たばこ」

アスカ「だったら何?もうお小言はウンザリよ、耳にタコ」

シンジ「体に悪いのに…」

アスカ「……こういう事のあとにしか吸わないんだから、セーフよ」

アスカ「それともなぁに?シンちゃん、物足りなかったのかな?」

シンジ「あ、アスカ…!」

アスカ「……。…あんたってホンットに、昔っからこういうとこは…」

アスカ「……んっ」

ベッドが軋む音


シンジ「!」

シンジ「ちょっ…!アスカ…!」

アスカ「…あによ?こっちイジられんのも、好きなくせに…」

シンジ「やめてよ……変なもの入れないでよ」

シンジ「……? なに、これ」


アスカ「プレゼントよ、8年ぶりの」

シンジ「?」

アスカ「最後かもしれないから。…大事にしまっときなさいよ」





弐拾話分終わり

続きは明日

シンジ(留守番電話)「はい、ただいま留守にしています。発信音の後にメッセージをどうぞ」

アスカ「最後の仕事か…」

アスカ「まるで血の赤ね」




シンジ「拉致された!?副指令が?」

諜報部員「今より2時間前です。西の第8管区を最後に、消息を絶っています」

シンジ「うちの署内で…!?消えようがないじゃないか」

諜報部員「身内に内報、および先導したものがいます。その人物に裏をかかれました」

シンジ「身内に内報……?…まさか!」

諜報部員「惣流・アスカ・ラングレー。この事件の首謀者と目される人物です」

シンジ「………!」

諜報部員「首謀者とあなたの過去の経歴を考えると…致し方ない処置かと思われます。作戦課長を疑うのは、同じ職場の人間として心苦しいのですが…」

シンジ「いいよ…。それが諜報部の仕事だもの…」

諜報部員「ご協力感謝します。お連れしろ!」

カヲル「……お久しぶりです、キール議長。ずいぶんと手荒な歓迎ですね」

キール「非礼を詫びる必要はない。君とゆっくり話をするためには、当然の処置だ」

カヲル「相変わらずですね……僕の都合はおかまい無しですか?」

ゼーレ「議題としている問題が急務なのでね。やむなくの処置だ」

ゼーレ「分かってくれたまえ」

カヲル「やれやれ…委員会ではなく、ゼーレのお出ましとは」

ゼーレ「われわれは、新たな神を作るつもりはないのだ!」

ゼーレ「ご協力を願いますよ、渚先生」

カヲル「……」

カヲル(渚先生、か…)

学生「先生!渚先生!」

カヲル「ん?ああ、君たちか」

学生「これからどないです?鴨川でビールでも」

カヲル「またかい?学生の本分は勉学じゃなかったのかな」

学生「そない言わんと。リョウコらが先生と一緒なら行くゆうとりますんや」

学生「教授もたまには顔出せゆうてはりましたで」

カヲル「……ああ、分かったよ」

教授「たまにはこうして外で飲むのも良かろう」

カヲル「えぇ…まぁ…」

教授「…君は優秀だが、人の付き合いというものを軽く見ているのがいかんな」

カヲル「恐れ入ります」

教授「ところで渚君、生物工学部の葛城という生徒を知っているかね?」

カヲル「? いいえ、存じませんが」

教授「成績はいいのだがね…色々と悪い噂を耳にする。君のことも嗅ぎ回っているようだ」

カヲル「僕のことを?」

教授「おそらく…君の後ろにある組織にくみいろうという魂胆だろう。気を付けたまえ」

カヲル「……」

カヲル「肝に銘じておきます」

ゼーレ「S2機関を自ら搭載し、絶対的存在を手にしたエヴァンゲリオン初号機!」

ゼーレ「われわれには具象化された神は不要なのだよ」

キール「神を作ってはいかん」

ゼーレ「まして、あの男に神を手渡すわけにはいかんよ!」

ゼーレ「葛城。あの男、信用に足る人物かな?」

論文に没頭するカヲル

カヲル「……おっと」

カヲル「すっかり時間を忘れていたな…」

カヲル「……」

カヲル「…この時間なら、学食も空いてるか…」




葛城「B定を」

カヲル「B定食を」

葛城・カヲル「………」

おばさん「すみませんねぇ、B定こちらの学生さんで終わりなんですよ」

カヲル「そうですか……ではA定食を」

おばさん「すみません」

葛城「………」

葛城「あの……取り替えましょうか?」

カヲル「え?」

葛城「迷っていたんです。だから…どちらでもよくて」

カヲル「ああ……定食のことか。気にしなくていいよ、僕もそんなに拘って決めたわけではないんだ」

葛城「そうですか……それじゃあ…」

カヲル「……おや、君は…」

葛城「?」

カヲル「その資料、生物工学部の子かい?」

葛城「はい、まぁ…」

カヲル「では、僕の講義は?」

葛城「…取っています」

カヲル「ちょうどよかった。意見を聞かせてくれないかな」

葛城「…自分のですか…?」

カヲル「そう。論文で行き詰まっててね、新しい風を入れたいんだ」

カヲル「君、名前は?」

カヲル「そう…彼の第一印象は、不思議な男だった…」

カヲル「影のあるようにも見えるが…どこか人を惹き付ける」

カヲル「言葉少なで、人と距離を置きたがるために…誤解されることも多いが、少なくとも僕の目には善人に見えた」




カヲル「そしてあの時はこの国に季節、四季があった」

カヲル「いいことじゃないか。…パートナーの存在は人生をより良いものにしてくれるよ」

葛城「…しかし」

カヲル「何か問題が?」

葛城「彼女を……幸せにできる自信がありません」

カヲル「……」

カヲル「…ふふ、葛城君。そういうことは直接本人に聞くべきだよ」

葛城「?」

カヲル「自信があるとか、ないとかは関係ないんだ。人を変えるのはいつだって変わりたいという人自身の意思だからね」

葛城「…人自身の、意思…」

カヲル「彼女が君を愛しているならば、彼女自身が君の隣を選ぶだろう。それが幸せの道だからね」

葛城「……」

カヲル「そして君自身が選ぶ、幸せの道でもある」

カヲル「…彼らは籍を入れた」

カヲル「その直後だった」


カヲル「セカンドインパクト。20世紀最後の年に、あの悲劇は起こった」

カヲル「そして、21世紀最初の年は、地獄しかなかった…他に語る言葉を持たない年だ」

2年後、南極調査船内


カヲル「これがかつての氷の大陸とはね。見る影もない…」

カヲル「…君があの日、帰国していなかったらと思うと…ゾッとするよ、葛城君」

葛城「…自分は、難を逃れましたが……多くのものを失いました」

カヲル「そうだね…その通りだ」

カヲル「何も取り戻せはしないが…少しでも情報を得ないと。二の舞だけは御免だからね」

葛城「……先生」スッ

カヲル「? …なんだい?」

葛城「…これを。妻からあなたへ渡すように言われています」

カヲル「これは、奥さんと…息子さんの写真かい?」

葛城「…娘です」

カヲル「なぜ僕に?」

葛城「…妻は、よく溢しています…自分たちより渚教授が大切なのか?と」

カヲル「はは…それは…一度怒られに行かなくてはね」

カヲル「…最近、ゼーレについて良くない噂を耳にするよ。…力で、理事会を押さえ込んだとか」

葛城「………」

カヲル「たしかに、口利きをしたのは僕だが。情報はすべて入れるという約束じゃなかったかな?」

葛城「……すみません」

カヲル「……まぁ、いいさ…こんな時代だ。綺麗なだけの組織では生きていけないだろう」

葛城「…おっしゃる通りです。今回のセカンドインパクトの正式調査、これも…ゼーレの人間だけで調査隊を組めば、いろいろと面倒な事になります」

カヲル「僕たちはそのための間に合わせというわけか…」

葛城「…気を悪くされましたか…?」

カヲル「いいよ。……他ならぬ君の頼みだ」

葛城「…ありがとうございます」

暗闇で膝を抱えるシンジ


シンジ「暗いとこは、まだ駄目だな…いやな事ばかり思い出す…」






カヲル「……彼は?」

男「例の調査団ただ一人の生き残りです。名は、碇シンジ」

カヲル「碇?碇博士のご子息か…!」

男「はい、もう2年近くも口を開いていません」

カヲル「なんて…むごい…」

男「ええ…それだけの地獄を見たのです。体の傷は治っても、心の傷はそう簡単には治りませんよ」

カヲル「……」

カヲル「……あとは本人の生きる意思の問題か…」


カヲル「…こちらの調査結果も、簡単には出せそうにないな。この光の巨人…謎だらけだよ」

カヲル「その後国連は、セカンドインパクトは大質量隕石の落下によるものと正式発表した」

カヲル「だが、僕の目から見れば、それは…あからさまに情報操作をされたものだった」

カヲル「その裏にはゼーレ、そして、キール議長の姿が見え隠れしていた」

カヲル「疑いたくなかった。葛城君を。彼の背中は、僕が押したのだから…」

カヲル「だが衝動は抑えきれず…」

カヲル「僕は、あの事件の闇の真相を探った」

カヲル「なぜ巨人の存在を隠すんだい?…セカンドインパクトを知っていたんじゃないのか、君らは。その日、あれが起こる事を…!」

葛城「……」

カヲル「君は運良く事件の前日に引き揚げた……では、全ての資料を一緒に引き揚げたのも、幸運の内かい?」

葛城「……」

カヲル「…君の資産、いろいろと調べさせてもらったよ。子供の養育にお金はかかるだろうが、個人で持つには額が多すぎる」

葛城「……」

カヲル「……何か言ってくれ…!このままでは…セカンドインパクトの裏に潜む、君たちゼーレと、死海文書を公表することになる。あれを起こした人間たちを、許すわけにはいかない」

葛城「……お怒りはごもっともです。ですが…お別れの前に、お目にかけたいものがあります」

カヲル「随分潜るんだね…」

葛城「心配ですか?」

カヲル「得体が知れないからね」



カヲル「これは…!」

葛城「われわれではない、誰かが残した空間です。89%は埋まっていますが…」

カヲル「もとはきれいな球状の地底空間か…」

葛城「…あれが、人類がもてる全てを費やしている施設です」



ナオコ「あら、渚先生」

カヲル「赤木君……君もなのか」

ナオコ「ええ、ここは目指すべき生体コンピュータの基礎理論を模索する、ベストな所ですのよ」

カヲル「これは…」

ナオコ「MAGIと名づけるつもりですわ」

カヲル「MAGI?東方より来たりし三賢者か…見せたいものというのは、これかい?」

ナオコ「いいえ、こちらです」

カヲル「これは…まさか、あの巨人を…!?」

ナオコ「あの物体をわれわれゲヒルンではアダムと呼んでいます。が、これは違います。オリジナルのものではありません」

カヲル「では…」

ナオコ「そうです。アダムより人の造りしもの、エヴァです」

カヲル「エヴァ…!」

葛城「われわれのアダム再生計画、通称E計画の雛形たる、エヴァ零号機です」

カヲル「神のプロトタイプか…!」

葛城「…先生、力を貸していただけませんか。…人類の、新たな歴史のために」

カヲル「……」

レイ「……」

ヒカリ「綾波さん?」

レイ「あぁ、ごめんなさい、リツコちゃんの再テスト、急ぎましょう」

ヒカリ「今日……碇くん、見かけないわね」

レイ「…そうね」





レイ「碇くん?」

シンジ「うん。碇シンジっていうんだ…よろしく」

(手紙)

レイ「先生、先日碇くんと言う子と知り合いました」

レイ「他の人たちは私を遠巻きに見るだけで、その都度先生の名前の重さを思い知らされるのですが、なぜか彼だけは私に対しても屈託がありません」

レイ「彼は例の調査隊ただ一人の生き残りと聞きました。一時失語症になっていたそうです。そのせいか…今も言葉少なですが、どこか優しさを感じます。彼の一挙一動から、心の内側が暖かくなるような、何かを…。これがロジックじゃないということでしょうか?」

ナオコ「レイちゃん、あなたにもとうとう春がきたんですね。こっちは相変わらず、地下に潜りっぱなしの男日照りです。支給のお弁当にも飽きました」

ナオコ「上では第二遷都計画による第三新東京市の計画に着工したようです」

レイ「このところ碇くんが大学に来ないので、理由を問い詰めたら、呆れてしまいました。ずっと彼女とアパートで寝ていたそうです」

レイ「飽きもせず、一週間もだらだらと。彼の意外な一面を知った感じです」

レイ「今日紹介されました。可愛い子ですが、気性が荒く、私はどうも好きになれません」



ナオコ「恋に嫉妬…、順調ね。勉強以外でもあなたの成長が見られて嬉しく思います。たくさん悩んでください。大丈夫、あなたは気づいてないでしょうけど、周りの男の子はみんなあなたを気にしています。あなたがその気になれば、きっと碇くんをあなただけのものにすることもできるはず…」

ナオコ「…駄目ね、恋愛観を押し付けるのは。あなたの思う通りにやってみてください。決して後悔のないように。あなたのことを娘のように思っています。いつでも相談してください」


ナオコ「……」


ナオコ「…娘か…」


机の上、碇調査隊の写真

電話中の葛城

葛城「ああ、分かった……手続きは明日、お互いの弁護士を通してやろう」

葛城「ああ……それじゃあ」

カヲル「……」

カヲル「…これで良かったのかい」

葛城「彼女が決めたことです…自分はそばにいてやれなかった」

カヲル「しかし…」

葛城「…先生、幸せの道ですよ。彼女の道は、きっとまたどこかに続いている…」

カヲル「………」





レイ「先生、MAGIの基礎理論、完成おめでとうございます。そのお祝いと言うわけでもないのですが、私のゲヒルンへの正式入所が内定しました」

レイ「来月から、E計画勤務となります」

ナオコ「レイちゃん、おめでとう。これであなたも一人前ですね。優秀な助手を持てて嬉しく思います」

ナオコ「私もあなたに伝えたいことがあるのだけど…それは研究所で。きっと驚きますよ」

零号機、機動実験日

オペレータ「L.C.L.変化、圧力、プラス0.2」

オペレータ「送信部にデストルドー反応無し」

オペレータ「疑似回路、安定しています」



カヲル「なぜ、実験に零号機を?」

ナオコ「そのことですが、われわれは考えを改めました。初号機だけでは使徒には勝てない…」

カヲル「それは…」

ナオコ「使徒との戦闘は必ず厳しいものになります。そのためには…この子にも動いてもらわないと」

傍らの子どもを見つめるナオコ

ナオコの視線を追うカヲル


カヲル「……その子は…?」

レイ「赤木先生のお子さんです」

カヲル「赤木君の…?」

ナオコ「リツコといいますのよ」

ナオコ「ほら、リッちゃん。ご挨拶して?」

リツコ「…こんにちは」

カヲル「こんにちは」


カヲル「…どういうことだい?君は独身のはずでは?」

ナオコ「あら。今時分、父親がいないことなんてそう珍しくはないでしょう?」

カヲル「それは…そうだが、今日は…」

ナオコ「大丈夫です。ちゃんと言って聞かせますから。ねっ?リッちゃん」

リツコ「はい」

カヲル「赤木君……君の実験なんだよ?」

ナオコ「だからこそですよ。この子には明るい未来を見せておきたいんです」

レイ「先生…」

ナオコ「レイちゃん…葛城所長に、渚先生も」

ナオコ「…私に、もしものことがあったときは…その時は娘を頼みます」

リツコ「ママ…」

ナオコ「大丈夫よ。…必ず帰ってくるから」





レイ「それが先生の最後の言葉でした。イレギュラーな事件は、先生をこの世から消し去ってしまった…」

レイ「先生の右腕となって、先生を支える…」

レイ「そんな願いとは裏腹に。私だけではない…いったい誰が組織の頭脳を失うことを望んだでしょうか。ゲヒルンは一時騒然としました」

レイ「ただ…葛城所長だけは、平静を保っているように見えました」

内線「所長、弁護士の方からお電話ですが。お繋ぎしますか」

葛城「繋いでくれ」

葛城「……」

葛城「…!」





レイ「何をおっしゃっているんですか…!先の事件で先生を失ったばかりなのに…、あまりに危険すぎます!」

葛城「時間がないんだ、どいてくれ…!」

レイ「あっ…!…渚教授、教授からも言ってください!」

カヲル「……」

レイ「教授!」

葛城「本当にいいんだな?」

妻「いいわ…あの子といられるなら…」

葛城「……」

妻「それに…今度は、あなたの仕事場だもの…」

妻「きっともう、寂しくない…」

葛城「…!」

葛城「すまない…」




レイ「そして…「無事に」事件を起こすことに成功した葛城所長は、姿を消した」

カヲル「…ずいぶんと長かったじゃないか。赤木君もいない、所長の君もいないでは、ここは回らないよ」

葛城「…分かっている」

カヲル「…それで?話はつけてきたのかい」

葛城「ああ…今日から新たな計画を推奨する」

カヲル「始めるのか…あれを」

葛城「連中はもう止まらない。我々も止まるつもりはない…」

カヲル「…かつて誰もが為し得なかった神への道」

カヲル「人類補完計画か…」

ゲヒルン本部

レイ「おはようございます」

リツコ「おはようございます」

葛城「ああ、おはよう」

レイ「所長…今日は面会の日では?」

葛城「いいんだ…私に会う資格はない」

葛城「……リツコ。調子はどうだ?」

リツコ「…げんき、です…」

葛城「そうか…」

レイ「………」




カヲル「赤木リツコに関する全ファイルが、抹消済み?どういう事だ…」

レイ「その件については、私からお話しします」


(ナオコ「MAGI-CASPER、MAGI-BALTHASAR、MAGI-MELCHIOR。MAGIは三人の私。科学者としての私、母親としての私、女としての私」)


レイ「その3つがせめぎあっている…」

レイ「3人の先生か…。後は電源を入れるだけね」



レイ「あら…リツコちゃん、どうしたの?」

リツコ「…ママは迷子なの…?」

レイ「……!」

リツコ「どこにもいないの…ママはどこへ行ったの」

レイ「……リツコちゃん。私も、ずっと前にママがいなくなって…ママを探してたの」


リツコ「…あやなみ博士も?」

レイ「そう。ママは見つからなかったけど…赤木先生…あなたのお母さんと出会えたわ。私のママの代わりになってくれたのよ」

リツコ「ママが…?」

レイ「そうよ。リツコちゃん、あなたのママは本当に素晴らしい人だったの…姿は見えなくても、今もこの場所を支えてる。科学の礎となって、隅々にまで存在しているのよ」

リツコ「……いるのに、会えないの」

レイ「リツコちゃん…。今はまだ分からないかもしれないけど、必ずお母さんの存在を感じるときがくるわ…」

レイ「……それまで、私がママの代わりじゃ、ダメかな…?」

リツコ「……」

リツコ「…いい。……ママは、ママひとりだから」

リツコ「会えるまで…まつ」

レイ「そう……」

レイ「そうね……先生は、ひとりよね…」

リツコ「……」

リツコ「泣いてるの…?」

レイ「え……?」

リツコ「……だいじょうぶ、だいじょうぶ」

レイの手を撫でるリツコ

レイ「リツコちゃん…」

リツコ「泣いてるとき、ママがこうしてくれると、悲しくなくなるのよ」

(ナオコ「大丈夫よ、あなたなら…」)

レイ「リツコちゃん…!」

リツコ「だいじょうぶ…だいじょうぶ、」

レイ「うっ…う、う…っ」

リツコ「…だいじょうぶ」



カヲル「……」

カヲル「キールローレンツを議長とする人類補完委員会は、調査組織であるゲヒルンを即日解体。全計画の遂行組織として特務機関ネルフを結成した」

カヲル「そしてわれわれは、そのまま籍をネルフへと移した。二人の女性の魂を宿した、エヴァ零号機、初号機と共に…」





監禁を解かれるカヲル

カヲル「君か…」

アスカ「ご無沙汰ね。少し痩せたんじゃない?」

カヲル「…さすがに老体には堪えるよ」

アスカ「外の見張りには、眠ってもらってるから。逃げるんなら今よ」

カヲル「分からないな……僕を拐っておいて、また助けるのかい」

アスカ「こっちにも色々と都合があんのよ。どうやらゼーレや委員会より、ネルフのほうが真実に近いみたいだし」

アスカ「私はそれが知りたいだけよ」

カヲル「真実か…しかし、この行動は君の…」

アスカ「もとより、覚悟の上よ」

諜報部員「ご協力、ありがとうございました」

シンジ「……もういいの?」

諜報部員「はい、問題は解決しましたから」

シンジ「そう…」

シンジ「……彼女は?」

諜報部員「存じません」

諜報部員「ご協力、ありがとうございました」

シンジ「……もういいの?」

諜報部員「はい、問題は解決しましたから」

シンジ「そう…」

シンジ「……彼女は?」

諜報部員「存じません」






アスカ「遅かったじゃないの。…さっさと済ませなさいよ」


響く銃声

シンジ「ただいま…」

ミサト「……」

シンジ「……!」


留守電の再生音


アスカ「…シンジ?あたしよ。あんたがこれを聞いてるときは…ずいぶん迷惑かけた後でしょうね。まぁ、あんたのことだから、自分より私の心配してるんでしょうけど」


アスカ「大丈夫よ、後悔はしてないわ…自分のためにやったことだもの。だから…シンジ、あんたもうじうじしてんしゃないわよ?」

アスカ「あんたが胸張らないから…あたしが叱らなきゃいけないんじゃない」

アスカ「次会うときくらい、優しくさせなさいよね」

アスカ「……」

アスカ「信じてるって言ってくれて…嬉しかった。…それじゃあ」


電話「午後、0時、2分、です」

シンジ「………うっ」

シンジ「うっ、く……アスカ…!どうして…」

ミサト「……」



ミサト「その時私は、シンジさんから逃げる事しかできなかった。他には何もできない、大人になったつもりでいても…大切な人を支えることもできない、子どもなんだと…私は分かった」



弐拾壱話分終わり

「兄ちゃん!」


「任せろ…ここで待ってろ」


「言え!コソ泥め」



「……坊主。仲間の居場所を言え。そうすれば…」




「加地リョウジくん、ですね?」



「605号室の患者。あなた知らないの?」

「…お兄さんがよくお見舞いに来られてますよね。それが?」

「もう長くはないでしょう……衰弱しきってる」




「……おれのせいだ」

「民間から?信用できるのかね」

「ですがコアとのシンクロ率は基準値を上回っています」

「…連中か。まったく得体の知れない…」

「気味が悪いよ」


「無理はしてないかな?君の心のケアも私の仕事の内だ」

「必要ない。必要のあるやつはみんな死んだ…」

「俺は生きるんだ 俺が殺した分も…」



「我々も誇らしいよ」

(「お前すげぇな」)

「頑張ってね」

(「頼むぞー!」)


「俺が必要なんだ…」

「………」

レイ「聞こえる?加持くん。シンクロ率が低下してるわ。いつも通り、余計な事は考えずに…」

加持「ああ……分かってる」


ヒカリ「シンクロ率8も低下…加持くん、最近調子悪いですね」

レイ「ええ…困ったわね…この余裕のない時に。やはりリツコちゃんの零号機を優先させましょう、今は同時に修理できるだけのゆとりはない」

アナウンス「弐号機左腕のマイトーシス作業は数値目標をクリア」

アナウンス「ネクローシスは、現在0.05%未満」

アナウンス「アポトーシス作業、問題ありません」

アナウンス「零号機の形態形成システムは、現状を維持」

アナウンス「各レセプターを第2シグナルへ接続してください」



シンジ(…あのアダムより生まれし物、エヴァシリーズ…)

シンジ(セカンドインパクトを引き起こした原因たるものまで流用しなければ…僕たちは使徒に勝てない)

シンジ(逆に…生きるためには、自分たちを滅ぼそうとしたものをも利用する)

シンジ「それが人間なんだ……」


トウジ「センセ!」

シンジ「……エヴァ13号機までの建造開始?世界七個所で?」

トウジ「上海経由の情報や。ソースに信頼は置ける」

シンジ「…なぜこの時期に量産を急ぐの?」

トウジ「……エヴァを過去に2機失い、現在は2機も大破…。第2次整備に向けて予備戦力の増強を急いどるんやないか?」

シンジ「どうだろう…ここにしてもドイツで建造中の5・6号機のパーツを廻してもらってるから…。最近、ずいぶんお金が動くね」

トウジ「ここに来て予算倍増やからな。それだけ上も、せっぱ詰まっとる、って事やろ」

シンジ「……委員会も焦ってるんだ…」

トウジ「…ほなら、今までみたいな単独やなく、使徒の複数同時展開のケースを設定した…?」

シンジ「そうかもしれない…でも、非公式に行う理由がないよ。何か別の目的があるんだ…」

シンジ「あ……煮付け、どうだったかな? いやっ、失敗したってわけじゃないけど。今日味見してなくて」

加持「すごく旨かったよ。いつも通り、な?」

ミサト「……うん」

シンジ「…あ、よかった……」


シンジ「……」

電話がなる

ミサト「あ、」

シンジ「あっ、いいよいいよ。僕が出るから」

加持「先輩かな?最近ご無沙汰みたいだし、ここいらで…」

シンジ「……」

ミサト「ごっ、ごちそうさま!あたし、部屋に…」

シンジ「……加持くん」

ミサト「!」

加持「うん?」

シンジ「電話だよ…お母さんから、国際電話」ニコ

ミサト(………ぅ…、)


ミサト(シンジさん……)


加持「はいはい。母さんね…」

加持「(外国語)」

ミサト(…浮いている。加持くんの明るい声だけ…)

ミサト(違う。浮いているのは私。シンジさんも加持くんもいつも通りにしようとしてくれてる。情けないのは私…)

ミサト(私の知っている加持くん、知らない加持くん…)

ミサト(家族と話す彼。…家族? 相手がお母さんなのに)

ミサト「……嬉しくないのね」

加持「ん? 何か言ったか」

ミサト「ううん、電話、終わったの?」

加持「ああ」

ミサト「…お母さん?」

加持「向こうでのね。血は繋がってないが、ずいぶん良くしてもらってる。たまに恋しくなるよ」

ミサト「嘘ばっかり…」

加持「……なんでそう思う?」

ミサト「分かるわよ」

加持「……」

ヒカリ「シンクログラフ、-12.8。起動指数ギリギリです」

レイ「……昨日より更に落ちてる」

シンジ「ごめん、綾波。最近気を遣わせることが多くて…疲れてるんだよ」

レイ「シンクロ率は表層的な身体の不調に左右されない。気のほうでしょうね…問題があるのは。ただしもっと深層の部分…」

レイ「…変更もやむを得ないわ、弐号機のコア…」

レイ「加持くん。上がっていいわよ」

アナウンス「第8動力システムの復旧作業は、本日18:00より再会の予定です」

レイ「酷く傷ついてるみたいね……彼の心」

アナウンス「第1発令所処理問題に関する定例会議は、定刻より行われます」

シンジ「昔のことは…もういいみたいに話してたのに。どうしたんだろう、加持くん…」


レイ「……暴かないことと、治すことは違うわ」


アナウンス「総務担当者は第2会議室にお集まりください」

シンジ「離れたほうがいいんだろうか……彼らにとって負担なら…」


レイ「…あなたもよ」

シンジ「え…?」


レイ「顔色が悪いわ…ここのところずっと」

シンジ「……」

シンジ「……ごめん、もう少し考えてみる」

加持「ウッ……」(吐瀉)

加持「………」


加持「……すまない、みんな…」





エレベーター前。

アナウンス「第7環状ルートは現在事故のため閉鎖中です。迂回ルートは12号線を利用してください」


加持「おっと、」

加持「調子はどうだい?って…俺が聞くことじゃないか」

リツコ「……」

加持「はは…」

リツコ「あなたは悪いみたいね、調子…」

加持「まぁね。スランプってやつかな? 望むところだよ」

リツコ「何か悩みごと」

加持「……なんで、そう思う…」

リツコ「元気がないみたい、あなたも、ミサトも…」


リツコ「エヴァは………いえ」

加持「なんだよ、気になるじゃないか」

リツコ「エヴァには心がある」

加持「何?」

リツコ「心があるから…心を開かなければ、動かないわ」

加持「……馬鹿な。あれは俺たちが動かして…」

リツコ「分かっているはずよ」

加持「………リッちゃん、君は…」

加持「…ウッ」

口許をおさえる加持

リツコ「大丈夫、」

加持「大丈夫、大丈夫だ……すまない、」

加持「……聞こえないんだ。昔は聞こえていた声が…」

加持「自分の声が煩くて…」

リツコ「……」

リツコ「聞こえるはずよ」

加持「……!はは…厳しいな」

リツコ「……」

加持「そんな顔で見ないでくれ……泣きたくなってくる」

リツコ「……、」

リツコ「いけないの」

加持「……ッ」

リツコ「泣いてはいけないの?」


リツコ「あっ、」

リツコに抱きすがる加持。

抱き返そうとするリツコの手が回る前に加持が体を離す

加持「すまない。……また」

閉じるエレベーター

リツコ「………」



加持「ないさ…そんな資格はない」

加持「……」

青葉「葛城、今日も来ないな。赤木はいつもの事として…」

マヤ「それに加持くんも…。日向くんもまだ退院できないみたいだし」

青葉「…学校どころじゃないんだな、今や」




アナウンス「エヴァ弐号機のシグナル、問題なし」

アナウンス「VAの接合および融合は正常。増殖範囲は予定通りです」


加持「さぞ憎んでいるだろう……俺を」

加持(お前のせいで死んだ、お前が殺した)

加持「お前は俺の誇り…生きる意味」

弐号機 (沈黙)

加持「………もう誤魔化しはきかないな」

(沈黙)

ケンスケ「総員、第一種戦闘配置。対空迎撃戦用意!」

加持「…お出ましか」

ケンスケ「使徒を映像で確認、最大望遠です!」

トウジ「衛星軌道から動かん」

ケンスケ「ここからは、一定距離を保っています」

シンジ「ということは、降下接近の機会をうかがっているのか、その必要もなくここを破壊できるのか…」

トウジ「こりゃ迂闊には動けんな」

シンジ「…どの道目標がこちらの射程距離内にまで近づいてくれないと、どうにもならない。エヴァには衛星軌道の敵は、迎撃できない…」

シンジ「リツコちゃんは?」

ヒカリ「零号機共に順調。行けます!」

シンジ「了解、零号機発進、超長距離射撃用意、弐号機、加持くんはバックアップとして…」

加持「待ってくれ」

シンジ「加持くん」

加持「射撃は俺が。」

リツコ「……」

加持「………シンジさん。最後にチャンスをくれ」

シンジ「……分かった…」

トウジ「…ええのか」

レイ「本人がそう言うのなら。…覚悟があるのはありがたいわ」

シンジ「……」

ヒカリ「そんな……これまで、ってことなの…」

レイ「失敗したときは。…弐号機パイロットの変換、考えておかなくてはね」

ヒカリ「…ええ…」

トウジ「初号機は?出さんのか」

シンジ「凍結なんだよ、葛城司令の絶対命令で」

シンジ(…無理ないか、あんな事の後じゃ…)


待機する初号機、ミサト。

ミサト(……加持くん…!)

加持「これで駄目なら、所詮俺はそれまでの男…」

加持「……よくやったさ。もういいだろう」


ケンスケ「目標、未だ射程距離外です」

加持「…………」


加持「来る…!」



天から光線が注ぐ。



加持「……!」



シンジ「これは…!敵の指向性兵器…?」

ケンスケ「いや、熱エネルギー反応無し」

ヒカリ「心理グラフが乱れています、精神汚染が始まります!」

レイ「使徒が心理攻撃…まさか、使徒に人の心が理解できるの…?」

加持「…ッグ!アアアアッ!」


オペレータ「陽電子消滅」

ケンスケ「だめです、射程距離外です!」

ライフルを乱射する弐号機

ケンスケ「弐号機、ライフル残弾ゼロ!」

シンジ「光線の分析は!?」

トウジ「可視波長のエネルギー波!A.T.フィールドに近いが、詳細は不明!」

レイ「加持くんは」

ヒカリ「危険です、精神汚染、Yに突入しました!」

加持「っぐ、ぅ…ア……!」


加持「…め、ろ…」

加持「やめろ…ッ」


加持(!)


加持「やめろ!」


加持「駄目だ、そこは…嫌だ!!!」


加持「ぐ…ッ」


加持「…やめろ、それは…!」

加持「暴かないでくれ、」

加持「それだけは」



加持「俺を見るな!!!!」

シンジ「加持くん!!」


ヒカリ「心理グラフ限界!」

レイ「精神回路がズタズタにされている…これ以上の過負荷は危険過ぎる」

シンジ「加持くん!戻って!!」


加持「うっ、う、ウッ……」


シンジ「加持くん!!加持くん!命令だ、撤退して!」


加持「……ォ、ア……」


シンジ「加持くん!!!」

オペレータ「加速器、同調スタート」

オペレータ「電圧上昇中、加圧域へ」

オペレータ「強制収束機、作動」

オペレータ「地球自転および重力誤差、修正0.03」

オペレータ「薬室内、圧力最大」

トウジ「最終安全装置、解除!全て、発射位置!」


リツコ「くっ…!」

弾道は使徒を捕らえるが、A.T.フィールドに阻まれ、分散する

ケンスケ「だめです!この遠距離で、A.T.フィールドを貫くには、エネルギーがまるで足りません!」

トウジ「すでに最大出力や、これ以上はない…!」

ヒカリ「弐号機、心理グラフシグナル微弱!」

レイ「L.C.L.の精神防壁は」

ヒカリ「だめです、触媒の効果もありません!」

レイ「生命維持を最優先、エヴァからの逆流を防いで!」

ヒカリ「はい!」


レイ(…この光は、まるで…加持くんの精神波長を探っているみたい……まさか、使徒は人の心を知ろうとしているの?)

加持(泣いている……)

加持(泣いているのは誰だ?俺か…)

加持(弟か……)



加持「どうしたんだ?男の子だろう…泣いてちゃだめだ」

加持「泣いてたって誰も助けちゃくれない。自分で何とかするんだ。でもお前は…」

加持「俺が守るから。待ってろ。食い物をとってくる」



加持「……どうした?泣いてちゃ分からないだろう…」


加持「はっ」



加持「泣かないんだ。死人は泣かない」


加持「俺が殺した…死ぬはずだった俺が」

加持「俺の…身体だけが大きくなる。仲間たちを置き去りにして」

加持「大きくなりたかったはずだ…その権利があった、」


加持(俺が置いてきた)



加持「……死人じゃない」


加持「これは俺だ…」


膝を抱えている加持。

オペレータ「弐号機、活動停止!生命維持に問題発生!」

ヒカリ「パイロット、危険域に入ります!」

ケンスケ「目標、変化無し、相対距離、依然変わらず!」

トウジ「零号機の射程距離内に移動する可能性は、0.02%」

シンジ(零号機を空輸、空中から狙撃するか…?いいや駄目だ、接近中に撃たれたら、おしまいだ…)

ミサト「……!」

ミサト「私が初号機で出ます!」

カヲル「いけない、目標はパイロットの精神を侵蝕するタイプだ」

葛城「今、初号機を侵蝕される事態は、避けねばならない」

ミサト「やられません!」

葛城「確証がない」

ミサト「でも、このままじゃ加持くんが!」

葛城「……」

葛城「構わん。リツコ、ドグマを降りて、槍を使え」

カヲル「ロンギヌスの槍を…?葛城君、それは…」

葛城「A.T.フィールドの届かぬ衛星軌道の目標を倒すには、それしかない。急げ!」

シンジ「しかし!アダムとエヴァの接触は、サードインパクトを引き起こす可能性があります!あまりに危険です、葛城司令、やめてください!」

葛城「……」

シンジ「……!」

シンジ(なぜ…危険はないのか…?セカンドインパクトは使徒の接触が原因ではない…?)


アナウンス「セントラルドグマ10番から15番までを開放、第6マルボルジェ、零号機、通過。続いて、16番から20番、開放」


シンジ(嘘…欺瞞だったんだ。そんな事でサードインパクトは起こらない……だったら、セカンドインパクトの原因は…?)

カヲル「…早計なんじゃないかい」

葛城「抵抗手段はひとつではない」

カヲル「しかし…」

葛城「…渚。時計の針は止まってはくれないんだ」

カヲル「……」

葛城「今セカンドを失うわけにはいかない」

カヲル「老人たちが黙っていないよ」

葛城「ゼーレが動く前にすべて済ませる」

カヲル「かと言って、ロンギヌスの槍をゼーレの許可なく使うのは面倒だ」

葛城「理由が存在すればいい」


カヲル「…そううまく丸めこまれてくれるかな」


槍を引き抜く零号機

リツコ「……」

トウジ「弐号機のパイロットの脳波、0.06に低下!」

ヒカリ「生命維持、限界点です!」

ケンスケ「零号機、二番を通過、地上に出ます!」


シンジ「……!」

シンジ「あれが、ロンギヌスの槍…!」

ケンスケ「零号機、投擲体制!」

トウジ「目標確認、誤差修正よし」

ヒカリ「カウントダウン入ります、10秒前、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」


リツコ「…、……っ!」

投擲。

ケンスケ「目標、消滅!」

ヒカリ「エヴァ弐号機、開放されます」

カヲル「ロンギヌスの槍は…」

トウジ「第一宇宙速度を突破、現在、月軌道に移行中」

カヲル「回収は不可能に近いな…」

トウジ「…今のところは。あの質量を持って帰る手段はない」





ヒカリ「弐号機健在、グラフ正常位置」

ケンスケ「機体回収は、2番ケイジへ」

オペレータ「第67番ルートを使用してください」


シンジ「加持くんは?」

トウジ「パイロットの生存は確認。汚染による防疫隔離は解除されとる」

シンジ「……そう」

回収される弐号機

加持「………」


ミサト「良かった、加持くん。本当に…」

加持「……ああ…」

ミサト「…加持くん…?」


加持「悪い。少し…休ませてくれ」


ミサト「……」





加持「…これは俺だ」

加持「死人じゃない……」



弐拾弐話分終わり

アスカ「…シンジ?あたしよ。あんたがこれを聞いてるときは…ずいぶん迷惑かけた後でしょうね。まぁ、あんたのことだから、自分より私の心配してるんでしょうけど」

アスカ「大丈夫よ、後悔はしてないわ…自分のためにやったことだもの。だから…シンジ、あんたもうじうじしてんしゃないわよ?」

アスカ「あんたが胸張らないから…あたしが叱らなきゃいけないんじゃない」

アスカ「次会うときくらい、優しくさせなさいよね」

アスカ「……」

アスカ「信じてるって言ってくれて…嬉しかった。…それじゃあ」




シンジ「…鳴らない電話、か…」




ミサト(シンジさん、今日も部屋から出てこない…)

ミサト(……加持くんも…)

ミサト「…今日も帰らない気かしら…」

加持(学校にも行かず、家にも帰らず、ずっと…)


「んっ………ねーえ、」

「うん?」

「寝よっか?」

「…お望みとあらば」

「ふふっ」

携帯のバイブ音

「ごめんね…私、邪魔かな?」

「そんなことないさ。こうやって俺を置いてくれてる」

「…それだけ?」

「どうかな…」

「…あっ…」


加持(……ここに俺はいない)

加持(いるのは誰でもいい、誰か…)

(通話)

レイ「そう…いなくなったの、あの子…」

レイ「そうね……猫ってそういうところ、あるもの…」

レイ「でもまだ分からないじゃない。いつもの場所は探したの?…うん、うん…」

レイ「分かったわ…時間ができたら一度帰るから…。それじゃ、また」



レイ「……そう、あの子が…」

レイ(…嫌な予感がする…)

ゼーレ「ロンギヌスの槍……回収はわれらの手では不可能だよ」

ゼーレ「なぜ使用した」

ゼーレ「エヴァシリーズ。まだ予定には揃っていないのだぞ」

葛城「使徒殲滅を優先させました。やむを得ない事情です」

ゼーレ「やむを得ないか。言い訳にはもっと説得力を持たせたまえ」

ゼーレ「最近の君の行動には、目に余るものがあるな」


葛城「…渚、審議中だぞ」

葛城「……分かった」

葛城「使徒が現在接近中です。続きはまた後ほど」


ゼーレ「その時君の席が残っていたらな」

キール「葛城、ゼーレを裏切る気か?」

車を走らせるシンジ

シンジ「後15分でそっちに着く。零号機を32番から地上に射出、弐号機はバックアップに廻して」

シンジ「そう……初号機は葛城司令の指示に。僕の権限じゃ凍結解除はできない」

シンジ「……!」

シンジ「使徒を肉眼で確認、か…」



オペレータ「零号機発進、迎撃位置へ!」

トウジ「弐号機は現在位置で待機!」

葛城「いや…発進だ」

トウジ「司令…!」

葛城「必要があるときにいなかったでは遅い。発進だ」

トウジ「…了解」

オペレータ「エヴァ弐号機、発進準備!」


加持(また乗っている…どうして?)

加持(誇りであるはずのエヴァ。自分であるはずの身体…)


ヒカリ「弐号機、第8ゲートへ。出現位置決定次第、発進せよ」


加持(発進…なんのため?)


ケンスケ「目標接近、強羅絶対防衛線を通過」


加持(俺のため…人類のためか どっちだったか…)

加持(……)

ケンスケ「目標は、大涌谷上空にて滞空。定点回転を続けています」

トウジ「目標のA.T.フィールドは依然健在」


レイ「遅いわ」

シンジ「ごめん、状況は!」

ケンスケ「膠着状態が続いています」

トウジ「パターン青からオレンジへ、周期的に変化しとる!」

シンジ「どういう事…!」

ヒカリ「MAGIは回答不能を提示しています!」

ケンスケ「答えを導くには、データ不足か」

レイ「ただあの形が固定形態でない事は確かだわ」

シンジ「先に手は出せないか…」

シンジ「リツコちゃん、しばらく様子を見よう」

リツコ「…いえ、来る……!」


変形する使徒


シンジ「リツコちゃん!応戦して!」

トウジ「間に合わん…!」

応戦する零号機。

ライフルを撃ち込むが、効かない

リツコ「……!」

ケンスケ「目標、零号機と物理的接触!」

シンジ「零号機のA.T.フィールドは?!」

ヒカリ「展開中、しかし、使徒に侵蝕されています!」

レイ「使徒が積極的に一次的接触を試みているの?零号機と…!」


リツコ「……っ、う……っ!」

ヒカリ「危険です!零号機の生体部品が侵されて行きます!」

シンジ「エヴァ弐号機、発進、リツコちゃんの救出と援護を!」

ヒカリ「目標、さらに侵蝕!」

レイ「危険よ…!すでに5%以上が生体融合されている」



シンジ「加持くん!後300接近したらA.T.フィールド最大で、パレットガンを目標後部に撃ち込んで!」

シンジ「エヴァ弐号機、リフトオフ!」


シンジ「…加持くん…!どうしたの、加持くんは…?!」

ヒカリ「だめです、シンクロ率が二桁を切ってます!」

シンジ「まずい…!」



加持「動かない…」


加持「死体だ。死体は俺……」




シンジ「駄目だ!このままじゃ餌食にされる」

シンジ「戻して!早く!」

リツコ「誰…?」

リツコ「私。エヴァの中の私」

リツコ「いいえ、あなたは私じゃない…」

リツコ「あなたは誰?…使徒?私たちが使徒と呼んでいるヒト…?」

使徒「私を抱いて。私とひとつにならない?」

リツコ「嫌よ。あなたとは繋がりたくない」

使徒「そう。でもだめ、もう遅いわ」

使徒「あなたを抱いてあげる。抱き返してあげる…私の心を分けてあげるわ」

使徒「温かいでしょう、ほら、心がポカポカする…」

リツコ「温かい…?違うわ、寂しいのね」

使徒「サビシイ?分からないわ」

リツコ「寂しいから隙間を埋めようとするの」

リツコ「隙間が埋まったら、心も埋まった気がするから…」

リツコ「それを、寂しい、というのよ」

使徒「それはあなたの心よ。悲しみに満ち満ちている。あなた自身の心よ」

リツコ「私の心…?」

リツコ「……あ、」

リツコ「泣いているのは、私…」


変容し膨れ上がる零号機


シンジ「リツコちゃんっ!」




葛城「…初号機の凍結を現時刻をもって解除、直ちに出撃させろ」

シンジ「え…」

葛城「出撃だ」

シンジ「…はい!」




加持「……声なんてない」

加持「…死人は口を利かないんだ…」

シンジ「A.T.フィールド展開、リツコちゃんの救出急いで!」


ミサト「はい!」



リツコ「…ミサト…!」


シンジ「ミサトちゃんっ!!」

使徒が初号機を襲う

シンジ「プログナイフで応戦してっ!」

ミサト「はっ!」

悲鳴を上げる使徒

リツコ「これは、私の心…!」

リツコ「ミサトを…?」

リツコ「だめ…っ!」

ヒカリ「A.T.フィールド反転、一気に侵蝕されます!」

レイ「まさか、使徒を……!」

シンジ「駄目だリツコちゃんっ!機体は捨てて、逃げて!」

リツコ「いいえ……私がいなくなったらA.T.フィールドが消えてしまう…!」

レイ「……!」

シンジ「リツコちゃん!!」

ヒカリ「コアが潰れます、臨界突破!」



リツコ「!」

走馬灯。人々の温かな笑顔

光の輪を宿す零号機

消滅。辺りが光に包まれる


ミサト「……、…」



ケンスケ「目標、消失…」

シンジ「……現時刻をもって、作戦を…終了します。第一種警戒態勢へ移行」

トウジ「了解、状況イエローへ、速やかに移行」

シンジ「零号機は……?」

ヒカリ「エントリープラグの射出は、確認されていません…」

シンジ「…生存者の確認と救出、急いで」

レイ「……」

男「綾波博士…」

男「レベルCの…は、南西方向に広がっています」

レイ「…この事は極秘とします。プラグは回収、関係部品は処分してください」

男「了解」

男「作業、急げ!」

レイ「……」

ゼーレ「ついに第16の使徒までを倒した」

ゼーレ「これで、ゼーレの死海文書に記載されている使徒は、後一つ」

キール「約束の時は近い。その道のりは長く、犠牲も大きかったな」

ゼーレ「左様。ロンギヌスの槍に続き、エヴァ零号機の損失」

ゼーレ「葛城の解任には十分すぎる理由だな」

ゼーレ「渚を無事に返した意味の分からぬ男でもあるまい」

ゼーレ「新たな人柱が必要ですな、葛城に対する」

キール「そして事実を知るものが必要だ」




レイ「……」

机の上。ゲヒルン時代の写真

シンジ「ミサトちゃん、入るよ…」


ミサト「……シンジさん。涙、出ないんです……どうしてだろう とても悲しいのに…」


ミサト「…もう嫌、もう忘れたい…シンジさん」

ミサト「忘れさせて…」


シンジの手に自分の手を重ね、身体を預けるミサト

シンジ「っ、」


シンジ「……ミサトちゃん…!」

ミサトの肩を押し身体を離すシンジ

シンジ「ミサトちゃん…自分を捨てちゃ駄目だ」

シンジ「…僕には何もできないよ。ごめん……」


ミサト「……」

ミサト(アスカさんのことがあるから?違うわね。私がいけないんだわ…)

ミサト「ペンペン、おいで…」

ペンペン「……」

ミサト「……最低だ、私って…」






ネルフ地下、3号分室

散乱した書物。倒された机


カヲル「……綾波博士か…」

カヲル「…愛する者を失った今…彼女の心は深い絶望の底だろう」

葛城「……」

カヲル「……話してはやらないのかい」

葛城「彼女が望んだのは…ここで生きた赤木リツコの未来だ」

カヲル「……」

カヲル「希望の依り代とはならないか…」

シンジ「はい…もしもし………えっ…!」

シンジ「ミサトちゃん!」



アナウンス「第一内科のウガイ先生、ウガイ先生、至急、第二会議室へご連絡ください」




ミサト「リツコ!」

リツコ「……」

ミサト「ばか、バカァ!心配したじゃないのよ…!」

ミサト「良かった。本当に良かった…」ギュ

リツコ「……」

ミサト「…あ、ごめん…まだ体キツいわよね」

リツコ「……」

ミサト「他は誰も来てないの?薄情ねえ みんな忙しいのかしら…」

リツコ「……」

ミサト「……まだ、ちゃんとお礼言ってなかったわね」

ミサト「ありがとう、助けてくれて」

リツコ「…何が」

ミサト「……何が、って…零号機を捨ててまで助けてくれたじゃない」

リツコ「私が?」

ミサト「そうよ!……覚えてないの…?」

リツコ「…いいえ、知らないの」

リツコ「多分私は二人目だと思うから」

リツコの部屋。

リツコ「……」

眼鏡を手に取るリツコ

リツコ「これが、涙…?初めて見たはずなのに、初めてじゃないような気がする。私、泣いてるの?…なぜ、泣いてるの…?」





葛城「そうだ、ファーストチルドレンは現状維持だ。新たな拘束の必要はない。セカンド、サードに関しても同様だ。監視だけでいい」

カヲル「赤木リツコが生きていると分かれば、議長らが黙っていないだろうね」

葛城「………」


カヲル「それで……彼女を代わりにか。つくづく君は…敵を作る」

カヲル「だが恨んではくれないだろうね」

葛城「……」

キール「われわれも穏便に事は進めたい。君にこれ以上の陵辱、辛い思いはさせたくないのだ」

レイ「私は何の屈辱も感じていません」

ゼーレ「気の強い女性だ。葛城がそばに置きたがるのも分かる」

ゼーレ「聞けば…君は自ら名乗り出たそうじゃないか。代理人として」

ゼーレ「零号機パイロットの尋問を拒否…では、君なら応えてくれるのかね?」


レイ「私で……代わりになるのなら」

アスカ「あんたが欲しがっていた真実の一部よ」


アスカ「他に36の手段を講じてあんたに送ってるけど、そっちはたぶん駄目ね」

アスカ「確実なのはこのカプセルだけ」

アスカ「これは私のすべてよ。あんたに託す。好きにしなさい」

アスカ「パスコードは私たちの最初の思い出」

アスカ「それじゃ、しっかりやんなさいよ」




シンジ「鳴らない電話を待つのはもうやめだ…」

シンジ「アスカの心は無駄にしない…」

ゼーレ「良いのか?綾波博士の処置」

ゼーレ「渚とは違う。彼女は返した方が得策だ」

ゼーレ「さよう…まだ利用価値はある」

ゼーレ「いま少し役に立ってもらうか。われわれ人類の未来のために…」

ゼーレ「エヴァンゲリオン、すでに八体まで用意されつつある」

ゼーレ「残るは後四体か」

キール「第3新東京市の消滅は、計画を進める良き材料になる」

キール「完成を急がせろ」

キール「約束の時は、その日となる」

ミサト「はい、もしもし」

レイ「そのまま聞いて。あなたのガードを解いたわ。今なら外に出られる」

ミサト「レイさん……」




ターミナルドグマ入り口。カードキーを差し込むレイ

レイ「……、…!」

シンジ「無駄だよ。僕のパスがないと」

レイ「……そう…アスカの仕業ね」

シンジ「綾波博士。…ここの秘密、見せてもらうよ」

レイ「…いいわ。ただしこの子も一緒に…」

ミサト「……」

シンジ「…分かった」

ミサト「……まるでリツコの部屋…」

レイ「…彼女の部屋よ。生まれ育ったところ」

ミサト「ここが?」

レイ「そうよ、一人目のね」

ミサト「…、……!」


レイ「リツコちゃんの深層心理を構成する光と水は、ここのイメージが強く残っていたのでしょうね…」

シンジ「何を……!言ってるんだ、綾波…!目的の場所はここじゃない!」

レイ「…分かっているわ」

ミサト「エバ…?」

レイ「その失敗作…。10年前に破棄されたの」

ミサト「…エバーの墓場…」

レイ「……そうね」


レイ「あなたのお母さんが消えたところでもあるわ」


レイ「あなたも見ているはずよ…あなたのお母さんが、魂を亡くした姿を…」

ミサト「……!」

シンジ「…、綾波!」


レイ「……こっちよ」

シンジ「……」


レイ「あなたが知りたかった真実…」



レイ「……」

ミサト「赤木…リツコ…?」

ミサト「……!!」

シンジ「まさか、ダミープラグの…!」

レイ「そう、ダミーシステムのコアとなるもの……その生産工場よ」

シンジ「これが…?」

レイ「ここにあるのはダミー。そして赤木リツコのためのただのパーツに過ぎない」

レイ「……人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だから罰が当たったの。それが15年前…」

レイ「せっかく拾った神様も消えてしまった」

レイ「……でも今度は神様を自分たちで復活させようとしたの。それがアダム」

レイ「そしてアダムから神様に似せて人間を作った。それがエヴァ…」

ミサト「ヒト…人間なんですか…?」

レイ「そう、人間なのよ。本来魂のないエヴァには、人の魂が宿らせてあるもの」

レイ「みんな、サルベージされたものなのよ」

レイ「魂が入ったのは赤木リツコ、一人だけだった……あの子にしか魂は生まれなかったの。ガフの部屋は空っぽになっていたのよ」

レイ「ここに並ぶ赤木リツコと同じ物には魂がない。ただの入れ物なのよ」

レイ「だから壊すの」

レイ「怖いから…」


リツコたち「……」


シンジ「……! やめるんだ、綾波!そんなことしたら…!」


レイ「したら、何…?入れ物が壊れるだけよ。この中には何もないの。ただ人の形をしたもの…」


レイ「……これ以上ない生命に対する侮辱よ…」


レイ「代わりはいくらでもいる。…そんなことはもう、言わせないわ…」

レイ「あの子が優しいんじゃない、私が愚かだった……」

レイ「…私たちのために死んだあの子は、もういないの」


レイ「…初めから、こんなもの……っ、作るべきじゃなかったのよ…!」


レイ「うっ、うぅ…うっ…」

ミサト「……」

シンジ「綾波…」




シンジ(エヴァに取り憑かれたヒトの悲劇……)

シンジ(僕も…同じか…)




弐拾参話分終わり

「リョウジ、お手柄だな!」

「ちょろいさ、こんなもん」

「よくやったな加持くん」

「当然です。それが俺の役目」

「フルスコアだ。その調子で頼むよ」


(リョウジ!)

(加持くん)

(兄ちゃん!)

病室


(沈黙)


古い倉庫


(沈黙)


仲間に駆け寄る加持

抱き上げる。血が滴っている


加持「はっ」

廃墟のバスタブ

加持「分かったんだ。俺は誰も守っちゃいない。守りたかったものはもういない。置いてきた……」


諜報課員「加持リョウジだな」




トウジ「諜報二課から。セカンドチルドレンを無事保護したそうや」

シンジ「……そう。ずいぶん…遅かったね」

トウジ「いけ好かん奴らや。地味な嫌がらせしくさって…」

シンジ「……」

シンジ(……そして今日、加持くんの代わりのフィフス到着…話が出来過ぎてる、これもシナリオ通りか…)





ミサト(ダミープラグ…赤木リツコ…魂の入れ物?父はいったい何をしているの…?)

過去の記憶。病室の母。安らかな寝顔

ミサト(何をしたの…!)

レイ「葛城司令…」

葛城「……」

レイ「猫が…死んだんです。家で飼っていた……。とても可愛がっていたのに。突然、もう二度と会えなくなるんですね」


葛城「……君には、辛い役割を負わせた…」

レイ「いいえ…いいえ。私が望んだんです。後悔はありません」

葛城「……赤木リツコの容態は」

レイ「落ち着いています。記憶に…混濁は見られますが……」


レイ「……う…っ」

泣き崩れるレイ

レイ「……あの子をよろしく、と…!そう言われた日に破壊すべきだった!」

レイ「彼女は人間なんです!…代えのきく人形じゃない」


葛城「……すまない」


(ナオコ「…所長。お話があります」)


葛城「いつか君には真実を話す」

葛城「もう少しだけ……耐えてくれ」


閉まるドア

レイ「…う…っ、先生……」

レイ「教えてください…」

(通話)

カヲル「…そうだ、拘束だ。形式上のものでいい。…誰にも知られるな」

カヲル「ああ、頼んだよ」


葛城「……」

カヲル「…名目は破壊行為への懲罰…。不満だったかい?」

葛城「……いや」

葛城「そのほうが安全だろう…」

ミサト(どこに行ったんだろう…加持くん…)

ミサト(でも会ってどうするんだろう…リツコの話でもする…?)


ミサト(日向くんも青葉くんも…みんな家を失って他のところへ行ってしまった。友達は…友達と呼べる人はいなくなってしまった…誰も…)


ミサト(……リツコには会えない…その勇気がない。どんな顔をすればいいのか、分からない。加持くん、シンジさん、お母さん…私はどうすれば…どうしたらいいの…?)




マリ「しっあわせは~あるいてこ~ない」

マリ「だ~からあるいていっくんだねぇ~」

ミサト(…なに、この子…)

マリ「歌はいいよねぇ」

ミサト「……」

マリ「いいよね?」

ミサト「……」

ミサト「…私に言ってる?」

マリ「君しかいないジャン!」

ミサト「あぁ、そうね…まぁ…」

ミサト(なんなのこの子…)

マリ「……辛いから明るく歌うの。面白い文化だよね。せつな~くてあったかくてさぁ…」


マリ「君はどう思う?葛城…ミサトちゃん」


ミサト「なんで、私の名前…」

マリ「なっんででしょ~~~?」

ミサト「……まさか、あなた。新しいパイロット?」

マリ「そ。真希波マリ。よろしくねん♪」

ミサト「……」

マリ「…あっ!ちょっとー!」

マリ「待ちなってば」



(加持「最後のチャンスをくれ」)

ミサト(……)

トウジ「フィフスチルドレン…到着したそうや」

シンジ「真希波マリ…過去の経歴は抹消済み。リツコちゃんと同じ…」

トウジ「……ここが気になるな。生年月日、セカンドインパクトと同日…」

シンジ「…委員会が直接送ってきた子どもなんだ、必ず何かある…」

トウジ「マルドゥックの報告書も、フィフスの件は非公開になっとる。せやから……ちーとばかし、諜報部のデータに割り込んだ」

シンジ「なっ…、トウジ、そんな危ないこと…!」

トウジ「お小言はあとや。確かに危ない橋やったが…その甲斐はあった」

トウジ「…綾波レイの居場所」

シンジ「……!」


トウジ「フィフスのシンクロテスト。どないする」

シンジ「…小細工してもしょうがない…。見せてもらおう。彼女の実力がどの程度のものなのか…」

カヲル「…後、0コンマ3下げて」

ヒカリ「はい」

カヲル「……」

カヲル「このデータに間違いは…?」

トウジ「全ての計測システムは、正常に作動しとります」

ヒカリ「MAGIによるデータ誤差、認められません」

カヲル「……まさか、コアの変換も無しに弐号機とシンクロするとはね…」

ヒカリ「しかし、信じられません!…いえ、システム上、ありえないです…」


シンジ「それでも…事実なんだ。事実をまず受け止めてから、原因を探ってみて」

マリ「君がリリスの器?」

リツコ「私は……赤木リツコ」

マリ「ん~。やっぱ似た匂い…」

リツコ「……あなたは?」

マリ「私? ヒ・ミ・ツ」

リツコ「……」




カヲル「…フィフスが赤木リツコと接触したそうだよ」

葛城「…そうか」

カヲル「今、フィフスのデータをMAGIが全力を挙げて当たっている」あらっている



シンジ「にもかかわらず、未だ正体不明。何者なんだ…?あの子は…」


シンジ「ミサトちゃんも未だ戻らず、か……ダメだな…」

シンジ「……父親役が…聞いて呆れるよ…」

ヒカリ「現在、セントラルドグマは開放中。移動ルートは3番を使用してください」



マリ「おっまたー♪」

ミサト「…待ってないわよ。……ついて来ないで!」

マリ「な~んでさぁ。仲良くしよ~よ~」

腕を回そうとするマリ。振り払うミサト

マリ「……」

ミサト「……」

マリ「つれないにゃ~…なんで?」

ミサト「……」

ミサト「…知らない子だもの…」

マリ「……ふぅ~ん?」


ミサト「……ついて来ないでよ」

マリ「あたしもそっちに用があるの~」

マリ「…なんか、悩みごと?」

ミサト「……」

マリ「私でよかったら、聞くよ~?」

ミサト「……」

マリ「……加持くんのことかな~」

ミサト「…っ」

マリ「それとも、赤木リツコ?」

ミサト「なんで…っ」

(加持「俺は手を取ってもらえて嬉しかったよ…」)



ミサト「……あんたには、関係ないでしょ…!」


シャワールームを出るミサト

マリ「……」

マリ「…なるほど。繊細だねぇ」

マリ「ちゃんと乾かさないと、風邪引いちゃうよ?」

ミサト「…ついて来ないでって、言ってるでしょ」

マリ「…心配しなくても加持くんの居場所とったりしないよー」

ミサト「……、いいかげんに…っ」

ミサトの口に人差し指を立てるマリ

マリ「続きはさっ、私の部屋で話そーよ」

マリ「一人だと退屈なんだよね」

マリ「ほらっ!早く早く~」


促すマリ。立ち尽くすミサト

ミサト(……)

ゼーレ「ネルフ。われらゼーレの実行機関として結成されし組織」

ゼーレ「われらのシナリオを実践するために用意されたモノ」

ゼーレ「だが、今は一個人の占有機関と成り果てている」

ゼーレ「さよう。われらの手に取り戻さねばならん」

ゼーレ「約束の日の前に」

キール「ネルフとエヴァシリーズを本来の姿にしておかねばならん。葛城、ゼーレへの背任、その責任は取ってもらうぞ」




初号機のケージ。

葛城「われわれに与えられた時間は残り少ない…」

葛城「希望であるロンギヌスの槍は手を離れた」

葛城「まもなく最後の使徒が現れる。今はそれを消すことだ」


葛城「……信じている」

葛城「…お前も、そうだろう…」

リツコ「私は…なぜここにいるの」

リツコ「なぜまた生きているの」

リツコ「何のために」

リツコ「誰のために…」


リツコ「フィフスチルドレン…」

リツコ「…あの子から、私と同じものを感じた…」

リツコ「なぜ…?」

シンジ「ここが街外れで良かった…。ペンペンが巻き込まれずに済んで…」

シンジ「…でも、この次の保証はないんだ…だから、明日からは伊吹さんちのお世話になるんだよ…」

シンジ「…しばらく、お別れだね…」

ペンペン「クワァッ」

シンジ「ペンペン……」ギュ…

ミサト「……こういうのって、普通お客が上なんじゃないの…?」

マリ「知らない子だも~ん」

ミサト「……」

マリ「…それで、居づらくなって逃げ出してきたんだ?」

ミサト「あんたが無理やり誘ったんでしょ」

マリ「そりゃあ、君の中に逃げたいって気持ちがあったからデショ」

ミサト「……」

マリ「…図星?」

ミサト「知らないわよっ。もう寝る」

マリ「え~」

マリ「……」

マリ「とりゃっ」

ミサト「ちょっ…!自分のとこで寝なさいよ…!」

マリ「ん~?寒いから。ここで寝る」

ミサト「…パーソナルスペースってもんがあるでしょっ」

マリ「い~じゃんい~じゃん~。袖振り合うも多生の縁、って言うし」

ミサト「意味分かんないわよ、もう」

ミサト「だったら、私は上に…」

マリ「うにゃっ!」

ミサト「!、ちょっと…!」

マリ「い~じゃん。あったかくて、やわらかいし…」

マリ「あたしも柔らかいっしょ?うりうり~」

ミサト「ちょっと……、もう…」

マリ「お? 大人しくなった」

ミサト「……馬鹿らしくなっただけよ。まともに取り合うのが」

ミサト「……はぁ…」

マリ「ん~…ぬくぬく」

ミサト「……」


ミサト(誰かと寝るなんて、いつぶりかしら…)


ミサト(生温かい…人の呼吸、落ち着かない…)

ミサト(いや、落ち着くの…?誰かの体温)


ミサト(鼓動……)


ミサト(……)


ミサト「……おかぁ、…さん…」

マリ「……」

シンジ「どうだった、あの子のデータ」

トウジ「これや。イインチョに借りた」

シンジ「これは…!」

トウジ「…公表できんのも納得や、こんなもん…」

シンジ「理論上ありえない…エヴァとのシンクロ率を自由に設定できるなんて」

シンジ「それも、自分の意志で…!」

トウジ「謎やな…探れば探るほど」


シンジ「……もう、正攻法ではいかないか…」

レイ「……よく来られたわね」


シンジ「…聞きたいことがあるんだ」

レイ「…ここでの会話は録音されるわ」

シンジ「構わないよ。あの子の…フィフスの正体は何なの?」

レイ「……」

レイ「……おそらく、最後のシ者…」

マリ「さ…行くよ、アダムの分身。そしてリリンの僕…」


空中に踏み出すマリ。



トウジ「エヴァ弐号機、起動!」

シンジ「そんな…!? 加持くんは!」

ケンスケ「303病室です。確認済みです!」

シンジ「じゃあいったい誰が…!」

ヒカリ「無人です、弐号機にエントリープラグは挿入されていません!」

シンジ(誰もいない?フィフスじゃないのか……!?)

トウジ「セントラルドグマに、A.T.フィールドの発生を確認!」

シンジ「弐号機!?」

トウジ「…いや、パターン青!間違いない!使徒や」

シンジ「使徒……!」

シンジ「あの子どもが…!」

オペレータ「目標は第4層を通過、なおも降下中!」

ケンスケ「だめです、リニアの電源は切れません!」

オペレータ「目標は第5層を通過!」

カヲル「セントラルドグマの全隔壁を緊急閉鎖!少しでも時間を稼ぐんだ!」

アナウンス「マルボルジェ全層緊急閉鎖、総員退去、総員退去!」

カヲル「……まさか、ゼーレが直接送り込んでくるとはね…」

葛城「連中は予定を一つ繰り上げるつもりだ。われわれの手で…」

ゼーレ 02「最後の使徒がセントラルドグマに侵入した。現在降下中だ」

ゼーレ「予定通りだな」

キール「葛城。君はよき友人であり、志を共にする仲間であり、理解ある協力者だった。これが最後の仕事だ。初号機による遂行を願うぞ」





ケンスケ「装甲隔壁は、エヴァ弐号機により突破されています!」

トウジ「目標は、第2コキュートスを通過!」

葛城「……!」

葛城「エヴァ初号機に追撃させろ」

シンジ「はい!」

葛城「…いかなる方法をもってしても、目標のターミナルドグマ侵入を阻止するんだ」

シンジ(……使徒はなぜ、弐号機を…!)


カヲル「まさか…弐号機との融合を果たすつもりなのか」

葛城「あるいは破滅を導くためか…」





ミサト「あの子が、使徒……?」

ミサト「…嘘よ。だってあの子は…」

シンジ「本当なんだ。ミサトちゃん」

シンジ「出撃の準備を」

ミサト「……」

シンジ「ミサトちゃん…!」

マリ「おっそいな~」

マリ「…ちょっとからかいすぎちゃった、かな」



オペレータ「エヴァ初号機、ルート2を降下!目標を追撃中!」


(マリ「加持くんの居場所とったりしないよー」)


ミサト「……!」

ミサト「馬鹿にして…!」

ミサト「汚させやしない、加持くんの、弐号機を…!」

ケンスケ「初号機、第4層に到達、目標と接触します」



ミサト「…いた!」

マリ「おっそ~い。待ちくたびれたよ」


ミサト「マリ…ッ!」

マリ「あー。はじめて!名前呼んでくれたね」

ミサト「ふざけんじゃ、ないわよ…っ!」


にらみ合い、掴みあう弐号機と初号機


マリ「今さら向き合ったって。許してあげないよ!誰でもよかったくせに」

ミサト「…! じゃあ、あんたはどうして…ッ」

ミサト「私に近付いたのよっ!」

プログナイフで斬りかかる

弾かれる

ミサト「うっ」

マリ「無駄だよ」

マリ「弐号機は今、誰とも会いたくないって。」


ミサト「これは…!A.T.フィールド…!?」


マリ「驚くこたないじゃん。誰だって持ってる。A.T.フィールドは心の壁」

ミサト「心の壁…!?」

マリ「そう。こうやって、土足で上がることだって…!」

ミサト「グッ」

マリ「できる!」

ミサト「アアアッ」

オペレータ「エヴァ両機、最下層に到達」

オペレータ「目標、ターミナルドグマまで、後20」


シンジ「……く…っ!」

シンジ「……初号機の信号が消えて、もう一度変化があったときは…」

トウジ「分かっとる。その時は…ここを自爆させるんやな」

シンジ「…トウジ、僕は…!」

トウジ「このワシがセンセ一人置いていくわけないやろ。死ぬときは一緒や」

ケンスケ「はは。俺はできれば死にたくないかな」

トウジ「アホ!何をウジウジ言うとんのや。ちゃんとタマンキついとんのか!?」

ヒカリ「ちょっと!やめなさいよ、こんなときに…」

トウジ「もとより覚悟の上や!…ついて行くで」


シンジ「……ありがとう、みんな…!」

マリ「…ヒトの宿命か…。いじけてたって何にも楽しいことないのに…」

ミサト「…なんなのよ…!」

マリ「遺伝子レベルでの欲求に対する疑問…ヒトの限界だよ…」





シンジ「いったい、これは…!」

トウジ「これまでにない強力なA.T.フィールド…!」

ケンスケ「光波、電磁波、粒子も遮断しています!何もモニターできません」

シンジ「結界…!?」

ヒカリ「目標およびエヴァ弐号機、初号機、共にロスト、パイロットとの連絡も取れません!」

最深部に落下する両機


ミサト「んっ…!う、うぅ…っ!」

ミサト「待ちなさい、よ…っ!」

弐号機に足を掴まれる

ミサト「!」

マリ「……」

マリ「諦めちゃいなよ」

ミサト「……!」

マリ「もう無理だって」

ミサト「無理じゃない……!」




ケンスケ「最終安全装置、解除!」

トウジ「ヘヴンズドアが、開く…!」

シンジ「……!」

シンジ「たどり着いたのか、使徒が…!」

シンジ「みんな…」

トウジ「……」


猛攻。


ミサト「……ぁああああっ!」


弐号機に掴みかかる初号機


ミサト「はっ!」


シンジ「…状況は!」

トウジ「A.T.フィールドや!」

ケンスケ「ターミナルドグマの結界周辺に先と同等のA.T.フィールドが発生」

ヒカリ「結界の中へ侵入していきます!」

シンジ「まさか、新たな使徒…!」

ケンスケ「だめです、確認できません!…いえ、し、消失しました!」

シンジ「消えた?!使徒が?!」

マリ「…おまたせ。アダム…ようやく会えたね…」

マリ「……!」

マリ「違う、これは…!」

マリ「…なるほど。」

マリ「リリンの狙いはこれか…」


横たわる弐号機。


マリ「悔しいなあ……」


初号機の手がマリを捕らえる


マリ「……あとちょっとで勝てると思ったのに。」


ミサト「あんた…っ!なんで、こんなこと…!」


マリ「生きることに……理由なんていらない。ただ生きていたいじゃん?」


マリ「生み落とせば次が待ってる。できるからやればいい。そうやって繰り返し、生命は巡ってきた…」

マリ「疑問なんて…持ってるみたいだからサ、面白くって。もうちょっと見ていたかったけど…」

マリ「でももう終わり。今回は生命に懐疑的なほうが生き残る」

ミサト「…なに、言ってんのよ…」


マリ「…ま。それも面白いか…」


ミサト「わけ、分かんないわよ…!どうしろって言うのよ、私に…!」



マリ「受け取ってよ、リリンの代表として」

ミサト「……」

マリ「私のキモチ」


ミサト「…!」



ミサト「なによ…なんなのよ、ずっと!最初から…」

ミサト「勝手なことばっかり言わないでよ、あたし、あたしは…!」

マリ「知ってるよ?」


ミサト「!」

マリ「最初から好きじゃなかった…気に入らなかった。だよね?」


ミサト「…ッ」

マリ「殺しなよ。そうすれば君たちの世界はそのまま」


マリ「…このまま死んで、心に残るのも悪くない……」

ミサト「……」

マリ「…悪かったね。パーソナルスペース汚しちゃって」

ミサト「……、」

ミサト「馬鹿…!」

洗浄される初号機

葛城「……」

リツコ「……」





ミサト「あの子は…」

ミサト「マリは……使徒じゃなかった」

ミサト「温もりがあったもの…」

ミサト「好きじゃなかった…でも、嫌いでもなかった…」

ミサト「……何も違わなかった。私たちは…っ」

シンジ「……彼女は死を望んだんだ。ミサトちゃん、君は生を…」


ミサト「違う!」

ミサト「違う、違う、違う違う!私は逃げただけ…!」

ミサト「何も選びたくなかった…だから、あの子の言うことを聞いた…そのほうが、自分が傷つかないもの」

ミサト「嘘ばっかり…知ってるなんて、ぜんぶ嘘…!」

ミサト「あの子も生きたかったんだわ……」

シンジ「……」


扉を閉めるシンジ

布団に踞るミサト

ミサト「……寒い…」




弐拾四話分終わり

続きは明日

>>317

>>212

大人ぶってる少年、でなんとか(脳内山寺に)演ってもらうしかないな…

期待コメもありがとう 読むほうも乙!

あと少しなので付き合ってくれ

修正

>>248

サードインパクト×

セカンドインパクト○

修正

>>351

葛城「……なによ、「リッちゃん」って…」×

ミサト「……なによ、「リッちゃん」って…」○


他にもあると思うが各自で補完頼む

すでにまとめてくれてるサイトの管理人さん、ありがとう

第一脳神経外科。


ミサト「……」

アナウンス「東棟の第2、第3区画は本日18時より閉鎖されます。引き継ぎ作業は本日16時30分までに終了してください」


ミサト「加持くん…、ねぇ」

ミサト「起きてよ……こわいの。シンジさんも、リツコも、みんな…!」

ミサト「どうして平気なの…?あんな…!」

ミサト「……起きて…起きてよ…!分かって、私を見てよ…!」

ミサト「おかしいって、言ってよ…!こんなの変だって…!」


(マリ「…悪かったね」)

(ミサト「馬鹿!」)

(シンジ「彼女は死を望んだんだ」)

(ミサト「違う!」)

(ミサト「寒い…」)

ミサト「……もう分からないの。他人も、自分も…」

ミサト「…ねぇ。加持くん…!加持くん…」

ミサト「起きて、また…いつもみたいに、好きって、言っ……」

加持の上に泣き崩れるミサト

ミサト「うっ、う…っ」


ミサト「う…っ、加持くん…」



ミサト「私を助けてよ…!」

加持。夢の中。

「大勢で行くと目立つ」

「大丈夫さ…うまくやるよ」


「こいつらか、最近この辺を荒らしてる」

「殺せ。どうせ足もつかない」

「やめろ…」

「やめろ?やめろって?坊主…」


「やめてやってもいい。…仲間の居場所を吐きな」

「そうすりゃ助けてやる」

「……あ、」


加持「……あぁ……っ」

ミサト「加持くん…?加持くん!」

加持「あ、ああああっ!」

ミサト「…や、ぁ!」

ミサト「か…加持く、離し…!」

(「仲間の居場所を言え」)

加持「……ろ…してやる…!」


加持「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる…っ!」

ミサト「い…い、や…」

ミサト「だれかあっ」

加持の身体から計器が外れる。電子音。

看護師「…何をしてるの!」

看護師「先生!」

医師「鎮静剤だ、」

医師「押さえろ!興奮している」

加持「うぅ、あぁ…!」

加持「……っあああッ!」

看護師「…っ、落ち着いて!ここは病院よ」

加持「ふーっ、ふーっ……」

加持「……、……」

加持「…」



ミサト「………」

看護師「大丈夫?怪我はない?」

ヒカリ「本部施設の出入りが全面禁止…?」

トウジ「解せんな。第一種警戒態勢のままっちゅうのも…」

ヒカリ「最後の使徒だったんでしょう?あの子が…」

ケンスケ「ああ。全ての使徒は消えたはずだよ」

トウジ「なんや。ほんならめでたしめでたし、ってことなんか?」

ヒカリ「じゃあここは…エヴァはどうなるの?綾波さんも今いないのに…」

ケンスケ「……ネルフは、組織解体されると思う。俺たちがどうなるかは…見当もつかないよ」

トウジ「補完計画の発動まで、自分らで粘るしかないか」





シンジ「…出来損ないの群体として既に行き詰まった人類を完全な単体としての生物へ人工進化させる補完計画。理想の世界、か…。」

シンジ「そのために委員会はまだ使うつもりなんだ…」

シンジ「アダムやネルフではなく、あのエヴァを」


シンジ「アスカの予想通り…」

キール「約束を違えたな……葛城」

ゼーレ 02「我らに背き 滅びを拒むとは」

ゼーレ 05「滅びの宿命は新生の喜びでもある」

ゼーレ 04「神も人も全ての生命が死を以てやがて一つになる為に」

キール「だがロンギヌスの槍を失った今、リリスによる補完は出来ぬ」

キール「それが可能なのはリリスの分身たるエヴァ初号機のみ」

キール「速やかな遂行を願うぞ…」


葛城「死は何も生みません」


キール「死は君達に与えよう」


カヲル「人は生きていこうとする所にその存在がある」

カヲル「それが自らエヴァに残った彼女の…いや」

カヲル「彼女たちの願いだからね」

夜。

目を覚ますリツコ

リツコ「……」


目を閉じるミサト

ミサト「……」



明け方。

キーを叩くシンジ

シンジ「…これが…セカンドインパクトの真意…」

シンジ「はっ」

シンジ「気付かれた…!」

シンジ「…いや、違う…!」

シンジ「始まったのか…」

シンジ(始まってしまった。こんなにも早く…)

葛城「……結局、最後まで頼ることになってしまった」

葛城「…行ってくれるか」

リツコ「……」コクン…





警告音。

オペレータ「第6ネット、音信不通」

カヲル「左は青の非常通信に切り替えろ。衛星を開いても構わない…そうだ。右の状況は?」

オペレータ「外部との全ネット、情報回線が一方的に遮断されています!」

カヲル「目的はMAGIか…」

ケンスケ「全ての外部端末からデータ侵入。MAGIへのハッキングを目指しています!」

カヲル「やはりか…侵入者は松代のMAGI2号かい?」

ケンスケ「いえ、少なくともMAGIタイプ5」

ケンスケ「ドイツと中国、アメリカからの侵入が確認できます!」

カヲル「…ゼーレは総力を挙げているな…彼我兵力差は1対5…分が悪い…」

オペレータ「第4防壁、突破されました」

トウジ「主データベース閉鎖…駄目や、進行をカットできん!」

ヒカリ「更に外郭部へ侵入、予備回路も阻止不能です!」

カヲル「まずいな…MAGIの占拠は本部のそれと同義だ…」

アナウンス「総員、第一種警戒態勢。繰り返す。総員、第一種警戒態勢。D級勤務者は可及的速やかに所定の配置に付いてください」



レイ「解ってる…、MAGIの自律防衛でしょう…」

諜報員「はい、詳しくは第2発令所の洞木二尉からどうぞ」

レイ「ここもいよいよね…。最後の敵は人か…」




アナウンス「現在、第一種警戒態勢が発令されています」

(通話)

シンジ「状況は!」

トウジ「今しがた、第2東京からA-801が出た」

シンジ「801?」

トウジ「特務機関ネルフの特例による法的保護の破棄」

トウジ「及び、指揮権の日本国政府への委譲…最後通告やな。ああ、そうや。今MAGIがハッキングを受けとる…かなり押されとる」

ヒカリ「碇くん?洞木よ。今、綾波さんがプロテクトの作業に入ってくれてる」

ヒカリ「あ…!」

シンジ「綾波が…?」

レイ「……先生、私。待てませんよ、もう…」

レイ「疲れました……そっちへ行ってもいいですか…?」


レイ「…駄目ね、私…弱気になってる。こんなことじゃ先生に叱られてしまうわ」

レイ「先生……」




オペレータ「強羅地上回線、復旧率0.2%に上昇」

オペレータ「第3ケーブル、箱根の予備回線、依然不通」

シンジ「後、どれくらい…?」

トウジ「ギリギリ間に合いそうや…綾波博士様様やな」

シンジ(MAGIへの侵入だけ……それで済むはずがない。おそらく……!)

カヲル「MAGIは前哨戦に過ぎない。彼らの狙いは本部施設、及び残るエヴァ2体の直接占拠だ」

葛城「ああ。リリス、そしてアダムさえ我らにある」

カヲル「老人達が焦るわけだ……」


ヒカリ「MAGIへのハッキングが停止しました」

アナウンス「フリーズ、フリーズ、フリーズ、フリーズ…」

ヒカリ「Bダナン形防壁を展開。以後62時間は外部侵攻不能です」




レイ「先生……今度は一緒ですよ…」

ゼーレ 09「葛城はMAGIに対し、第666プロテクトを掛けた。この突破は容易ではない」

ゼーレ 07「MAGIの接収は中止せざるを得ないな」

キール「出来うるだけ穏便に進めたかったのだが、致し方あるまい。本部施設の直接占拠を行う」


山道に蠢く影。


隊員「始めよう」

隊員「予定通りだ」

被弾するネルフ本部。


オペレータ「第8から17までのレーダーサイト、沈黙」

ケンスケ「特科大隊、強羅防衛線より侵攻してきます」

トウジ「御殿場方面からも二個大隊が接近中」


カヲル「…最後の敵が人とはね」

葛城「…総員、第一種戦闘配置」

ヒカリ「戦闘配置…?相手は使徒じゃないのに…同じ人間なのに…」

トウジ「…敵さん、そうは思うてくれんようやな」

ネルフ本部ゲート前

職員「…、……」

職員「う、……!」

開放されるゲート

警報。

職員「おいどうした!おい!」

職員「なんだ?」

職員「南のハブステーションです」

着弾。


オペレータ「台ヶ丘トンネル使用不能」

オペレータ「西5番搬入路にて火災発生」

オペレータ「侵入部隊は第1層に突入しました!」

シンジ「西館の部隊は…陽動だ」

シンジ「本命がエヴァの占拠なら、パイロットを狙うはず…至急ミサトちゃんを初号機に退避させて!」

トウジ「了解」

シンジ「加持くんは」

ケンスケ「303号病室」

シンジ「…そのまま弐号機に乗せて。あそこだと確実に見つかる…!エヴァの中のほうが安全だ」

ヒカリ「…了解、パイロットへの投薬を中断、発進準備!」

シンジ「加持くん収容後、エヴァ弐号機は地底湖に隠して」

シンジ「…すぐに見付かるけど、ケージよりマシだ…!リツコちゃんは?」

ケンスケ「所在不明。位置を確認できない」

シンジ「こんなときに…!捕捉急いで!」




迷いなく進むリツコ。その手にはアダム

リツコ「……」

トウジ「弐号機射出!8番ルートから水深70に固定」

シンジ「続いて初号機発進!ジオフロント内に配置して」

ケンスケ「駄目だ…!パイロットがまだ…!」

シンジ「そんな、」

シンジ「ミサトちゃん…!」


アナウンス「セントラルドグマ第2層までの全隔壁を閉鎖します。非戦闘員は第87経路にて待避してください」


ケンスケ「地下、第3隔壁破壊。第2層に侵入されました」

カヲル「戦自約一個師団の投入か…占拠は時間の問題だね…」

葛城「……渚先生、後を頼みます」

カヲル「…解っているよ。彼女に伝えてくれ、すまなかったと」

葛城「……」

侵攻、破壊。

オペレータ「第2グループ、応答なし」

オペレータ「77電算室、連絡不能」

ケンスケ「52番のリニアレール、爆破されました!」

トウジ「なんて奴らや…、使徒のがよっぽど可愛いげがあったな」

シンジ「無理ないよ。今までとは相手が違う。人を殺すなんて…!」



瀕死の同僚を運ぶ職員

職員「っっん、っっん…!」

銃撃。


隊員「赤のケーブルから優先して切断…」


火炎放射機。

職員「あぁぁ…」

オペレータ「第3層Bブロックに侵入者!防御できません!」


ケンスケ「Fブロックからもです!メインバイパスを挟撃されました」

シンジ「第3層まで破棄します。戦闘員は下がって」

シンジ「803区間までの全通路とパイプにベークライト注入」

ケンスケ「ベークライト注入!」


アナウンス「第703管区、ベークライト注入を開始。完了まであと30。第730管区、ベークライト注入を開始。完了まであと20」


シンジ「これで、少しは…」

トウジ「センセ!…ルート47が寸断されてグループ3が足止め食っとる。このままやと、葛城ミサトが」

シンジ「……、」

シンジ「…非戦闘員の白兵戦は極力避けて。向こうはプロだ。ドグマまで後退不可能なら投降した方がいい…!」


シンジ「…ごめん、ここは任せる」

トウジ「…シンジ、…」

シンジ「大丈夫。…死なないよ」

無線「二子山はもういい、長尾峠に回れ」

戦闘団長「以外と手間取るな…」

隊員「我々に楽な仕事はありませんよ」




トウジ「……まったく。無茶しよるわ。こっちは本格的な対人要撃システムもないっちゅーのに…」

ケンスケ「だな。精々テロ止まりだ」

トウジ「…戦自が本気出したら、この施設なんてイチコロなんやないか?」

ケンスケ「イチコロなんてもんじゃないさ。骨も残らないと思うね」

トウジ「アホ!嘘でもそんなことないて、言わんかい!」

爆撃。

トウジ「が……っ!」

トウジ「……!!」


トウジ「イインチョ!」

ケンスケ「ロック外して!」

ヒカリ「嫌……私…鉄砲なんて撃てない…!」

ケンスケ「訓練で何度も撃ったろ…!」

ヒカリ「その時は…!その時は人なんて、いなかったもの…!」

トウジ「…く…っ、」

トウジ「委員長!伏せとれ!」

無線「第2層は完全に制圧。送れ」

無線「第2発令所、MAGIオリジナルは未だ確保できず。左翼下層フロアにて交戦中」

無線「5thマルボルジェは熱冷却装置に入れ」


無線「エヴァパイロットは発見次第射殺」

無線「非戦闘員への無条件発砲も許可する」

無線「柳原隊、新庄隊、速やかに下層に突入」


隊員「サード発見。これより排除する」

隊員「悪く思うなよ…!」


銃声。倒れる隊員


ミサト「……!」

葛城「立つんだ…ミサト」

倒れた隊員の無線を聞くシンジ

無線「紫の方は確保しました。ベークライトの注入も問題ありません」

無線「赤い奴は既に射出された模様。目下移送ルートを調査中」

シンジ「ミサトちゃんと初号機の物理的接触を断とうとしている…。ミサトちゃん、無事なのか…!でもどうやって…」


無線「ファーストは未だ発見できず」

シンジ「……うかうかしてられない。どっち道初号機までのルートを確保しなきゃ…」


(通話)

シンジ「トウジ、聞こえる?」

ミサト「たすけて…加持くん、助けてよ…」


葛城「……セカンドは弐号機の中だ」

葛城「ミサト。お前もすぐに…」

ミサト「やめてよ…!」

ミサト「もう、嫌なの…!もう誰も殺したくない!行きたくない!」

ミサト「もう嫌……なんでなのよ」


葛城「……すまなかった」

ミサト「………!」

ミサト「なに…よ、なん…今さら!何なのよ!」

ミサト「こんなところに呼んで!ずっと来てくれなかったのに、急に、エバーに乗せて、私から奪って、また…!」

カヲル「構わない!ここよりもターミナルドグマの分断を優先させるんだ」

トウジ「あちこち爆破されとるのに、やはし此処には手を出さんか…」

ケンスケ「一気に片を付けたい所だろうが、下にはMAGIのオリジナルがあるからね…」

トウジ「はん。できるだけ無傷で…ちゅうわけか」

ケンスケ「ただ、対BC兵器装備は少ない。使用されたらヤバイよ…」

トウジ「N2兵器もな…」


爆発。激しい揺れ。


ケンスケ「あ~、言わんこっちゃない…」

トウジ「奴ら加減ってもんを知らんのか!」

カヲル「無茶をする…」

さらに降り注ぐ

ヒカリ「ねぇ、どうしてそんなにエヴァが欲しいの!」

葛城「奴らは……ゼーレはサードインパクトを起こすつもりだ。使徒ではなくエヴァシリーズを使って…」

葛城「15年前のセカンドインパクトは、人間に仕組まれたものだ」

葛城「だがそれは、他の使徒が覚醒する前にアダムを卵にまで還元する事によって被害を最小限に食い止める為のものだった…」

葛城「…ミサト、われわれ人間も、アダムと同じリリスと呼ばれる生命体の源から生まれた18番目の使徒だ。他の使徒達は別の可能性だった…。人の形を捨てた人類の」


葛城「……私は16年前、この事実を知った。ゼーレにおもねることで計画を絶つ気でいた。だが…それも失敗だ」

葛城「人間同士で争う形となってしまった…」

ミサト「……」



葛城「……生き残るにはエヴァシリーズを全て消滅させるしかない。ミサト…」


葛城「それが叶わなくても、お前なら…」

ミサト「……?」

葛城「…いや。来るんだ」

首相「電話が通じなくなったな」

秘書官「はい、3分前に弾道弾の爆発を確認しております」

首相「ネルフが裏で進行させていた人類補完計画。人間全てを消し去るサードインパクトの誘発が目的だったとは…とんでもない話だ」

秘書官「自らを憎むことのできる生物は人間くらいのものでしょう」

首相「さて、残りはネルフ本部施設の後始末か」

秘書官「ドイツか中国に再開発を委託されますか?」

首相「買い叩かれるのがオチだ。20年は風地だな。旧東京と同じくね」

無線「表層部の熱は退きました。高圧蒸気も問題ありません」

無線「全部隊の初期配置完了」

隊員「現在、ドグマ3層と紫の奴は制圧下にあります」

戦闘団長「赤い奴は?」

隊員「地底湖の水深70にて発見、専属パイロットの生死は不明です」




加持(………、)

加持(生きてる…)

加持(…また、夢の中か…?)

加持(…うっ、)

加持(何が起きてる…?)

加持(いたい…痛い、身体が…)

加持(殴られている、強い、力で…)

加持(上から…)

「兄ちゃん」

「リョウジー!」

「兄ちゃん」

「リョウジ」

「兄ちゃん」

「リョウジ」

「兄ちゃん!」

「リョウジー!」

「兄ちゃん……」


加持「はっ…」


(「教えろ…」)

(「仲間の居場所を吐け」)

爆雷。


加持「死ぬのか…?俺は…」

(「仲間の居場所を言えば…」)


加持「死ぬのは俺、死ぬのは俺…?死ぬのは俺…。死ぬのは俺、死ぬのは俺…!死ぬのは俺、死ぬのは俺、死ぬのは俺、死ぬのは俺、死ぬのは俺…」


(「兄ちゃん……」)

(「もうここは出よう」)

加持「死ぬべきなのは俺、」

(「俺たちは自由なんだ」)

加持「あの時死ぬはずだったのは俺」

(「軍の倉庫を見つけた」)

加持「俺が死んでさえいれば、」

(「これで当分は…」)

加持「みんなは助かった…」

(「あっこら、はは」)

加持「死ぬのは俺」

(「兄ちゃん!」)



(「加持くん」)

加持「死ぬのは俺……一人だ!」

閃光。

隊員「こっ、これは!?」

隊員「やったか!?」



護衛艦を押し上げ、現れる弐号機

戦自の攻撃を蹴散らしていく



加持「……大切だった」

操縦桿を握る加持

加持「大切だ…!」


空を翔る。




車内。

ヒカリ(無線)「エヴァ弐号機起動!加持くんは無事です。生きてます!」

ミサト「加持くんが……!」

隊員「ケーブルだ!やつの電源ケーブル、そこに集中すればいい!」

爆撃。

加持「……チイッ!」

加持「アンビリカルケーブルが、無かろうと……ッ!」

加持「こちとら1万2千枚の特殊装甲と!」


加持「A.T.フィールドがある…!」


攻撃機を凪ぎ払う


加持「うぉぉぉぉぉ…っ!」




キール「忌むべき存在のエヴァ。またも我らの妨げとなるか…やはり毒は、同じ毒を以て征すべきだな」


輸送機からエヴァシリーズが投下される


加持「エヴァシリーズ…!完成していたのか」


カヲル「S2機関搭載型を9体全機投入とは…大げさすぎるな。ここで起こすつもりか…!」

降り立つエヴァシリーズ

無線。電話越しに。

シンジ「司令…!よかった、ミサトちゃんは無事なんですか!」

葛城「無事だ」

シンジ「そのまま非常用のルート20へ向かってください」

葛城「電源は」

トウジ「三重に確保しとります。3分以内に乗り込めば第7ケージに直行できます」

葛城「分かった。……セカンドに繋げるか」

トウジ「どうぞ」

葛城「…エヴァシリーズは必ず殲滅させるんだ。初号機もすぐに上げる」

葛城「それまで耐えてくれ」

加持「必ず殲滅、ね…。司令も、病み上がりに軽く言ってくれる」

加持「…残り3分半で9つ。一匹につき20秒か……ははっ」

加持「望むところだ…!」



加持「うお、お…!」

9号機の頭を潰し、背骨を折る



加持「Erst!」

ルート20。

葛城「……ここだ」

銃撃。逃れる葛城、ミサト。


隊員「逃がしたか」

隊員「目標は射殺出来ず。追撃の是非を問う」

無線「追撃不要。そこは爆破予定である。至急戻れ」

隊員「了解」

ミサト「え……?」

葛城「……っ…、」

ミサト「ちょっと…!」

葛城「電源は……生きている」

葛城「行って初号機に乗るんだ」

ミサト「……お父さんは…!?」

葛城「……」

ミサト「ねぇ……!」

葛城「……ミサト」

何かを手に握り込ませる

葛城「 」

扉が閉まる

手のひら。血のついた十字架

ミサト「う……っ」

ミサト「くぅ…、っ、う、う…っ」

加持「だああああっ」

11号機を地底湖に沈める

加持「あああ…っ!」

11号機の頭にプログナイフを突き刺し沈黙させる

加持「これで4つ…っ!」


加持「次ッ!」


加持「でやあああああッ!」


プログナイフが砕ける

加持「チイッ!」


弐号機の顔面を掴まれる

加持「ウッ」


加持「…ゥオアアアッ!」

ターミナルドグマに辿り着くリツコ


リツコ「……」

リツコ「……!」


レイ「……待っていたわ。司令は一緒じゃないのね…」

レイ「嘘ばっかり。結局……真実なんて教えてくれなかった」

レイ「……でももういいの…」カチャ…


リツコに銃口を向けるレイ


レイ「……あなたはトリガーとなる。だったら殺すのが確実……」

リツコ「……」

レイ「ずっとあなたを守ってきたつもりだった。先生と自分を重ねて。…それをあなたが重荷に感じていたのも知ってる…」

レイ「……もう、終わりにしましょう。家族ごっこは終わり」

リツコ「……」

リツコ「…あなたは私を撃てない」

レイ「……!」

レイ「……そうね。でももう遅い。さっきMAGIのプログラムを変えてきたわ」

レイ「一緒に死にましょう…先生も……あなたのお母さんも一緒に」カチ…

レイ「……」

レイ「……!、なぜ……!」

レイ「は…っ」



レイ「BALTHASARが……!」

レイ「う……っ、」


レイ「……なぜなの!母としての先生がそう望むならいったい、私は…!」

トウジ「どうなっとるんや外は!」

ヒカリ「活動限界まで1分を切ってる!このままじゃ加持くんが…!」


シンジ「ミサトちゃん、急いで……!」




加持「葛城は、せめて葛城だけは」


加持「守ってみせる…!」


加持「アアアアアッ!」



加持の声が鳴り響いている。第7ケージ。


ミサト「……いや…!」

ミサト「もう失うのはイヤ…!」

ミサト「どうしてなの…ッ」

埋もれている初号機。

ミサト「こんなときにッ!」

ミサト「動けないで何が世界の希望よ」


加持「だああああっ」


ミサト「動いてよ…!」

ミサト「私の初号機なら、動いて…!」


壁が軋む。

ミサトに手を伸べる初号機


ミサト「アッ……」

ミサト「……!」

ミサト「まさか…!」


初号機「………」


ミサト「お母さん…?」






25話分終わり

肩を貫かれ、よろめく。

加持「…ッグ…!」

右腕を引き裂かれる。

加持「ォア…!」

加持「…………!」

加持「ダアアアアッ!!!」


なぎ倒して後ずさる

加持「……ハァ、ハァ…!」


加持「………、」

加持「ここまでか…!」

ヒカリ「内部電源終了…っ!予備電源に切り替わります、活動限界です…!」


シンジ「加持くん…!」


加持「……はぁ、は……」

加持(………よく、やった…)


加持「へへ…」

加持「…よく、ここまでもったな…」

加持「ありがとう」

加持「俺もすぐに行くよ」

加持「…今度は、一緒に…」

目を閉じる加持。

刃が迫る。


大きな影。

初号機が飛びかかる

ヒカリ「……!」

ヒカリ「エヴァ初号機、起動!」

加持「葛城……!?」


ミサト「……ごめん、遅れちゃって」


加持「………、」

加持「……締まらないな…」


残った機体をなぎ倒していく初号機

加持「………」

レイ「…欠けた心の補完」

レイ「不要な身体を捨てて、全ての魂をひとつにする…それが人類補完計画の全容」

レイ「…なぜ先生は、あなたを行かせようとするの…!」


レイ「復讐のためだったと言うの…?すべて、私を育てたことも…」

リツコ「…違うわ」

リツコ「確かに母さんは、セカンドインパクトで愛する人を失った」



リツコ「でもこれは、私が決めたこと…」

レイ「……!」

ミサト「…加持くん、腕、大丈夫…?」

加持「…どってことないさ、これくらい…」


加持「…葛城、俺のことは気にするな」

加持「いや…しないでくれ」

ミサト(…………、)


加持「俺は弟たちを身代わりにして生き残った」

加持「悔いることも恐れていた…でも今は分かる」

加持「俺が悪かったんだ」

加持「もうこれ以上、俺は……!」


ミサト「加持くんのせいじゃない」

加持「……、」

ミサト「大人が悪いのよ……いえ、セカンドインパクトが。あれが世界を変えてしまった。加持くんたちを苦しめた…」

ミサト「背負う人が違っただけ。あなたを身代りにしても…しなくても、必ず誰かが背負うことになるのよ」

加持「葛城…」

ミサト「………」

ミサト「生きろ、と…言われたの、お父さんに」


ミサト「そう望まれたの…。だから生きるの。私も望んでる。加持くん、あなたに」

ミサト「生きていてほしい、って…」


ミサト「……絶対に生き残るのよ。生き残って、それでも死にたかったら、その時死ねばいい…!」


ミサト「今、死に急ぐような真似したら…!一生許さないから…!」



加持「……、…」

加持「敵わないな…」

ヒカリ「エヴァシリーズ、すべて沈黙!」

トウジ「ィヨッシャー!」

ヒカリ「ミサトちゃん!加持くんを安全な所へ運んで」

ミサト「はい!」


加持「………」

加持「葛城、………帰ったら」

ミサト「?」

加持「あの時の続きをしよう」

ミサト「……、!」

ミサト「バカ…!」

ヒカリ「……待って」

ヒカリ「…なに、これ……」


加持「!」

加持「葛城、後ろ…!」


シンジ「倒したはずのエヴァシリーズが…!?」


飛び立つエヴァシリーズ

狙いすまされる。乱れ打ち。

加持「ッグ、」

ミサト「加持くん!」

対抗するミサト


ミサト「ああああっ!」


ミサト「うぐ…っ!」

腹部を貫かれる

加持「葛城!」

ミサト「…ぅああああああっ!」

加持「……っ」

引き抜いて突き刺す

ミサト「あああああっ!」

加持「葛城……っ」

ミサト「…ぁあああぁ!」

ミサト(加持くんは)

ミサト(私が守る、絶対に)

ミサト(話したいことが沢山あるのよ)

ミサト(自分で決めたの)


ミサト(……お父さん、お母さん…!)

ミサト(私が決めたのよ、守りたいと、思ったの)


ミサト「ぐ…っ!」


ミサト(力を貸して…!)


光が天を貫く。

光の羽を纏い、初号機が立ち上がる


隊員「エヴァンゲリオン初号機…!」

隊員「まさに悪魔か…」



加持「葛城…!」

隊員「大気圏外より高速接近中の物体あり!」

隊員「なんだと…!」



カヲル「ロンギヌスの槍…!」



加持「ロンギヌスの槍…!?」


シンジ「ミサトちゃん!」


ミサト「ッア……!」

飛来した槍が初号機の喉元に止まる

キール「遂に我らの願いが始まる」

ゼーレ 04「ロンギヌスの槍もオリジナルがその手に還った」

ゼーレ 02「葛城の娘を乗せたままだが」

キール「神が時を選んだのだ」

ゼーレ 03「方舟の行き先は決まっている」

ゼーレ 09「いささか数が足りぬが、やむを得まい」

ゼーレ(全員)「エヴァシリーズを本来の姿に」


全員「我ら人類に福音をもたらす真の姿に」

全員「等しき死と祈りを以て、人々を真の姿に」

キール「それは魂の安らぎでもある」


キール「では、儀式を始めよう」

エヴァシリーズが初号機を空へと運ぶ

トウジ「エヴァ初号機が拘引されていく…!」

ケンスケ「高度12000!更に上昇中!」


カヲル「ゼーレめ、初号機を依り代とするつもりか…」


ミサト「…………!」


キール「エヴァ初号機に聖痕が刻まれた」

ゼーレ(全員)「今こそ中心の樹の復活を」


キール「我らが僕、エヴァシリーズは皆この時の為に」

光を放つエヴァシリーズ

ケンスケ「エヴァシリーズ、S2機関を開放!」

トウジ「次元測定値が反転、-を示しとる!…観測不能!数値化できん!」

カヲル「…アンチA.T.フィールドか…」

空に図象が浮かび上がる

ヒカリ「全ての現象が15年前と酷似している…じゃあこれってやっぱり、サードインパクトの前兆なの…!?」

隊員「S2機関、臨界!」

隊員「これ以上は、もう…」


戦闘団長「作戦は、失敗だったな…」


辺り一帯が赤く染まる。爆発。


ケンスケ「直撃です!地上堆積層が融解!」

トウジ「第2波が本部周辺を掘削中……外郭部が露呈していく…!」

カヲル「まだ物理的な衝撃波だ。アブソーバーを最大にすれば耐えられる!」




ゼーレ 08「悠久の時を示す」

ゼーレ 09「赤き土の禊を以て」

ゼーレ 11「まずはジオフロントを」

キール「真の姿に」




カヲル「……人類の、生命の源たるリリスの卵…黒き月…今更、その殻の中へと還る事は望まない……」

カヲル「だが、それも…リリス次第か…」

遠くで響く爆音。


レイ「終わらせると言うの?この世界を…」

リツコ「……そうじゃない」

リツコ「……手に」


リツコ「触れたいと思ったの」

リツコ「だから掴みにいく」


レイ「そんな……!」


リツコ「さよなら……母さん」

レイ「…、……!」


レイ「リ……!」

ケンスケ「ターミナルドグマより正体不明の高エネルギー体が急速接近中!」

トウジ「A.T.フィールドを確認!分析パターン青!」

ヒカリ「まさか、使徒!?」

トウジ「いや、違う…人! 人間…!」


上昇していくリリス。ネルフメンバーの目の前を通り過ぎていく


地中から現れる白い手。

ヒカリ「ひっ…!」


(ヒカリの悲鳴)

ミサト「なんなの、これ…」



ミサト「どうなったの…!加持くんは、みんなは…!」

ミサト「はっ」


巨大化したリリス。

ミサト「リツコ…!」


マリ「知らない子だも~ん」

ミサト「マリ……!?」

マリ「………」

ミサト「いや…!」

マリ「…」

ミサト「嫌…っ!」

ケンスケ「エヴァシリーズのA.T.フィールドが共鳴!」

トウジ「さらに、増幅しています!」

カヲル「…赤木リツコと同化を始めたか」


(ミサトの悲鳴)


ケンスケ「心理グラフ、シグナルダウン!」

トウジ「デストルドーが形而化されていく…!」

カヲル「…これ以上はパイロットの自我が持たない…」



ゼーレ「エヴァンゲリオン初号機パイロットの欠けた自我をもって人々の補完を」

キール「三度の報いの時が、今」

ミサト(はっ)


ミサト(ここは、どこ)


ミサト(私はどうなったの…)



マリ「こーっちだよーっ」

ミサト(…あれ。私……)

リツコ「こっちよ」

ミサト「あ…」

加持「遅れるぞ?」

ケンスケ「ソレノイドグラフ反転!自我境界が弱体化していきます!」

ケンスケ「A.T.フィールドもパターンレッドへ!」


コアに槍が刺さり、初号機との同化が始まる


カヲル「使徒の持つ生命の実と、人の持つ知恵の実。その両方を手に入れたエヴァ初号機は神に等しき存在となった…」

カヲル「そして今や生命の胎芽たる生命の樹へと還元している。この先にサードインパクトの無から人を救う方舟となるのか…人を滅ぼす悪魔となるのか」

カヲル「未来は子どもらの手に委ねられた……」


ヒカリ「ねえ!私たち、正しいわよね?」

ケンスケ「分かるもんか」


生命の樹となる初号機。

ミサト(ここはどこ、)

ミサト(私は…?)


ミサト(なんだろう…とても、重い…)


リツコ(それは私たちが負った柵)

リツコ(託された望みなのよ)




マリ(重いなら、捨てれば?)

リツコ(とても重い)

ミサト(だけど、必要……)

ミサト「リツコ?」

リツコ「はっ」

ミサト「リツコ……どうしたのよ、早く乗っちゃいましょ」

アナウンス「列車が発車します 黄色い線の内側までお下がりください」

リツコ「私は……」


(リツコ「代わりはいる…」)

(リツコ「もう気づいて泣く人もいないわ…」)


リツコ「……なぜ戻ってきたの」



リツコ「ミサト…」

ミサト「さ~ねん」

ミサト「忘れちゃったわ」

ミサト「…きっと、そうしたかったから。」


リツコ「自分勝手ね」

ミサト「自分を殺しているよりかはいいわ」


ミサト「……」


リツコ「……私にはできない」


リツコ「私は捨てても平気」

リツコ「でも、私の体は…」

ミサト「……」

ミサト「嫌になったら、捨てればいい」

リツコ「また欲しくなったら?」

ミサト「また拾えばいいのよ」


リツコ「……もう手が届かなかったら?」

ミサト「届く範囲で探すのよ」

リツコ「忘れられなかったら?」

ミサト「……」

(ミサト「加持くんっ」)

リツコ「あなたは怖くないの?一度関わりを持ったら…」

ミサト「手を離すのが怖い?」

リツコ「……」

ミサト「簡単よ、リツコ」

ミサト「嫌になったら、離せばいいのよ」



(リフレインする意識)



リツコ「嫌になったら…?」

(葛城「リツコ」)

(レイ「リツコちゃん」)

不幸な人を見たくないのよ

私がいないと不幸になる人


幸福が誰かの存在に依存していることが


リツコ「嫌だった、ずっと……」


ミサト「自分がかわいいのね」

リツコ「そうよ」



リツコ「私のせいにしてほしくないの。それだけ」

「それ」無しでは生きられない人の

「それ」になりたくないのよ


私で何かを埋め合わせようとしている


捨てきれない人の

捨てられないものになりたくないのよ

私なしでは可哀想になってしまう人たち

私を縛る人たち


リツコ「煩わしいのよ!」

リツコ「優しさと保身を一緒にしないで!」

リツコ「自分がどうあるかなんて、」

リツコ「そんなもののために、私を使わないでよ!」

トウジ「パイロットの反応が限りなく0に近づいていく…!」

ケンスケ「エヴァシリーズ及びジオフロント、E層を通過。なおも上昇中」


アナウンス「現在、高度、22万キロ。F層に突入」


トウジ「エヴァシリーズ全機健在!」

ケンスケ「リリスよりのアンチA.T.フィールドさらに拡大、物質化されます」


巨大化したリリスがジオフロントを抱く


トウジ「アンチA.T.フィールド臨界点を突破!」

ケンスケ「駄目です!このままでは固体生命の形が維持できません!」

リリスが羽を広げる

カヲル「…ガフの部屋が開く。世界の始まりと終局の扉が遂に開いてしまうか…」

リツコ「愛しさが私を満たしていく…空しさが私を埋めていく……そうか…心地よかったのね、私…」

リツコ「誰かの心に蓋をするのが…」



ネルフメンバーの周囲に現れるリツコ(リリス)


カヲル「……シンジくん…」

カヲル「すまない。僕は…」

カヲル「あの時彼女をとめるべきだった…。彼女にその覚悟があっても、君にはないと…分かっていたはずなのに…彼女をとめられなかった」

微笑むシンジ(リリス)


カヲル「シンジくん、君は…」

カヲル「幸せになれたのかい」


融ける

トウジ「あ、あぁ…!」

ヒカリ(リリス)がトウジにキスをする

融ける


ケンスケ「ひ、ひぃ……っ!」

大量のリツコ(リリス)がケンスケに迫る

融ける


ヒカリ「…A.T.フィールドが、みんなのA.T.フィールドが消えていく。これが答えなの。私が求めていた……はっ!」

トウジ(リリス)がヒカリを抱き締める


ヒカリ「鈴原……私、わたし……っ!」


融ける

レイ「碇くん……?」

微笑むシンジ(リリス)

レイ「いいえ。私の中のあなたなのね…こんなときまで」


レイ「私も嘘つきね…」


手を握る

融ける



アスカとシンジ

シンジ「アスカ……!」

シンジ「……僕たち、これで良かったよね…?」




キール「始まりと終わりは同じところにある。良い。全てはこれで良い」

葛城とその妻


「……君か」

「ようやく会えたな…」

「……」

「…会わせる顔も、ないが…」



「…バカね」

「あなたはよくやったわよ…」

「分かるわ…」

「ずっと、側にいたんだもの…」

「これが…」

「生命の理に背いた…報いか」



「ええ…でも、これで終わりじゃない」

「あなたと私の子どもが、私たちの分まで未来を紡いでくれる」



「……」

「本来なら…私が望むはずだった…人との共存を」

「だが、私は逃げてばかりだった…君からも、仲間からも」

「結果…巻き込むまいとして遠ざけた我が子に、全てを託す形となってしまった」

「……」

「私に望みはない」

「今際の際に、何を望むか分からない。私の幸せの道は過去にしかない」


「信じている……」

「あの子らの、望む力を」



「……」

「ええ…」

自らのコアを貫くエヴァシリーズ

光の群れがリリスの手に向かう

リリスの額に生じた亀裂

初号機が取り込まれていく


(シンジ「…買い換えどきかな……」)


リツコ「大切なものは二度と帰ってこない」

大切なものが何もないから、どこででも生きていけると思った

(本当に?)

疲れるの、人を好きになるのって。

構ってもらえないと悲しいから

失うと心が欠けるから

だからもう一人になって、

一人のままで生きようと思ったのよ



ミサト「馬っ鹿ねぇ」

ミサト「そんなこと考えてたの?」

マリ「だからなるだけ遠ざけて?」

加持「そう。縁のない場所に自分を追いやる」

マリ「自分がかわいーんだ」

加持「悪いか?」

マリ「いんやー。自然なことじゃない?」

マリ「誰だって自分が一番かわいいでしょ」

(リフレイン)

リツコ「…心が、落ち着かないのよ」

弱い人間が傷ついているのを見ると

脆い人間が俯いているのを見ると

健常で、笑っている人だけを見ていたいのよ

それは人間の一面にすぎない

私は人間が苦手なのよ

ひどく憂鬱になるの、見てると…

加持「これ以上誰かに自分の存在を脅かされたくないんだ」

べき、べきじゃないの姿をこれ以上増やしたくない

俺は天の邪鬼だからな

愛せない存在を、わざわざ生むことはない

傷つけると分かっていて関わるのは暴力だ

溺愛したって、それが相手の重荷にならないとも言えないんだ



ミサト「意地でも幸せになって、そうなるために生まれてきたことにするのよ」



加持「意味なんてないさ。ただ欲しいものを欲すだけ…」

リツコ「そうすれば…」


リツコ「私は幸せになれるの?」

ミサト「あなたが望むのよ」

加持「きみが望めばね」

電車が揺れている


リツコ「……」

ミサト「…ね、この戦いが終わったらさ、みんなで旅行しない?」

リツコ「旅行?」

ミサト「そ。青葉くんとかマヤちゃんとか、ほかのみんなも誘ってさ」

リツコ「……」


ミサト「お金はネ、なんとかなるわよ。なんたって私たち、世界を救うスーパーチルドレンなんだから」

リツコ「……」

ミサト「ね!」

リツコ「……温泉」

ミサト「ん?」

リツコ「温泉、私はあのとき一緒じゃなかったから」

ミサト「…それじゃあ、決まりね」

リツコ「……」

リツコ「欲しいものは、別にいい。私はいらないものの話がしたいの」

リツコ「捨て方が分からないのよ」

ミサト「……手を離せばいいんじゃないの?」

リツコ「繋がれていたら?向こうが離さなかったらどうするの?」

ミサト「どっかに逃げ込むことね…今は無理でも。大人になれば…」


電車が止まる



ミサト「でも、寂しいわね。解放されることでしか幸せを得られないなんて」

リツコ「そうね。でも」

リツコ「私にはそれが一歩なの」

ミサト「……リツコ」


ミサト「…行きましょう、一緒に」

手をのべるミサト

リツコ「……、」


リツコ「……そう、手を…。」

ミサト「……」


リツコ「あの時はじめて…」


(ミサト「馬鹿…!」)

(加持「すまない…また」)


リツコ「…引き留めたいと思った」

ミサト「それでいいのよリツコ」

ミサト「掴みたいときに掴んで、嫌になったら離せばいいのよ」


リツコ「我儘ね…」


ミサト「我儘でいい」

ミサト「我儘でいてほしいと思うときがあるのよ」


リツコ「それは少し……分かる気がする」

リツコ「私に自由を望む人たち」

リツコ「私を愛する人たち…」


血を噴き出すリリス

(水滴が落ちる音)

あたりが真っ白になっている

リツコ(……)



リツコ「他人の存在を今一度願えば、再び心の壁が全ての人々を引き離すわ。また、他人の恐怖が始まるのよ」

ミサト「分かってる。……それでいいのよ」


ミサト「私はきっと逃げ出しても良かった……でも、逃げたところにも良いことはなかった。だって私がいないもの。誰もいないのと、同じだもの」

マリ「再びA.T.フィールドが君や他人を傷付けても良いの?」

ミサト「構わない。でも、私の心の中にいるあなたたちは何?」

リツコ「可能性なのよ。分かり合えるのか、諦めるのか……どちらにも伸びる道のひとつなの」

マリ「過去の痼。分かり合えないという形の」


ミサト「…でもそれは見せ掛けのもの。自分勝手な思い込み。希望だってそう。ずっと続くはずない……」


ミサト「後悔と自己嫌悪の繰り返し。でも…その度に、前に進めた気がするから…」



ミサト「もう一度望むわ。会いたいと。」

ミサト「……たとえ分かり合えなくても」

ミサト「それを確かめに行く」


倒れるリリス

人々の魂が解放されていく

マリ「現実は知らないところに。夢は現実の中に」

リツコ「そして、真実は心の中にある」

マリ「人の心が自分自身の形を作り出しているからね」

リツコ「そして新たなイメージがその人の心も体も変えていくわ。イメージが、想像する力が、自分たちの未来を、時の流れを作り出しているもの」

マリ「ただ人は、自分自身の意思で動かなければ何も変わらない」

リツコ「だから、見失った自分は自分の力で取り戻すのよ。たとえ自分の言葉を失っても、他人の言葉に取り込まれても」

槍が消滅する

リツコ「……自らの心で自分自身をイメージできれば、誰もが人の形に戻れるわ」

父と母

「…生きろ」

「生きなさい」



ミサトとシンジ

「生態系が戻ってる?」

「うん…少しずつだけど。本当は、夏だけじゃなくて…四季があったんだけどね」

「冬、とか?」

「そう。ミサトちゃんは雪って知ってる?」

「ええ、見たことは、ないですけど」

「…見せてあげたいな。本当に綺麗なんだ、秋も、春も…」

ミサトとリツコ


ミサトがリツコを抱き締めている

ミサト「…大丈夫」

リツコ「……」

ミサト「そう…」

ミサト「もういいのね」


リツコ「ええ」




「……待ってる」

「また、あなたが」

「あなたたちが……還ってくるのを」

○○年。居酒屋


一同「ハッピバースデェーイディーア」

一同「ミサト~~~~」

一同「ヒューヒュー」



加持「……あっちの席やけに賑やかだな」

男「誕生会だろォ。加持オイ!俺の話聞いてるかァ?」

加持「飲みすぎだぞ、お前…」

一同「ハッピバースデェートゥーユー!」

一同「イエーッ」

ミサト「ふーっ、ちょっち、休憩…っと」

加持「…いいのかい?主役がいなくなって」

ミサト「いーのいーの、みんな騒ぎたいだけなんだから!」

ミサト「……あれ、あなた…どっかで会ったことある?」

加持「……あったら、忘れたりしないさ。こんな美人のこと」

ミサト「ブーッ、ちょっともぉ、やめてよ!」

男「おいっ、リョウジずりーぞ!」

ミサト「キザーッ!」

ミサト「……ねぇっ、一緒に呑みましょーよ!」

男「呑もう呑もう!」

加持「……はは」

ミサト「ったくもー!あいつまだ来てないのォ?!」

ミサト「んっとに仕事の虫ね~」

一同「カンパ~イ」

ミサト「プッッッ……」

ミサト「…………ハァァァ~~~~~!」

女「ミサトォ!」

男「ペース早すぎだよ」

ミサト「こォの一杯のために生きてるようなもんよねェ~」

加持「……この一杯のために生きてる、か」

ミサト「そォよお?ヤ~なことがあったって、楽しいことがあれば明日も頑張れる!」

ミサト「でしょ?」


加持(……!)

女「ま~たミサトォ!」

女「知らない子にお酒あげてるー」

ミサト「いいじゃないのよォ!今日くらい」

ミサト「サービスサービス♪」トクトクトク…

加持「……はは」

加持「頂くよ」

ミサト「そーぉこなくっちゃ!」

加持「………」

「葛城さん…ッ、俺と…!」

「おーっとぉ!これは3度目のォー?!」

「……ごめんッ!」

「ダメだったァーッ」

「ギャハハ」





一同「カンパ~~~~イ」

加持「……、…」


加持「頑張ろう……明日も」





THE END

以上です


原作知らんが面白かった

原作知らないのによく最後まで付き合ってくれたな…!
ありがとう


時間があるときにゆっくり読む


投稿日時に愛を感じた

>>839
原作もよろしくな


>>841
ありがとう ゆっくり読んでくれ


>>843 にありがとう
ミサトにおめでとう

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