剣士「自分は勇者を――」(236)



―― 咎人は裁かれねばならない

   たとえ正義があろうとも ――



-
関連:

男「魔王拾っちまった」

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 初めは英雄だった。


 故郷からは盛大にお祝いされて見送られたし、聖都でも歓迎されて、注目された。

 偉い人に見込まれてすぐに出世できて、勇者候補の剣術指南役にも抜擢されて、
 指導していた子が勇者になった時は、付き人の一人として指名された。

 今思えば、自分は聖都を――いや、故郷を離れるべきじゃなかったんだろう。

 聖都を出て半年後、今から二ヶ月ほど前。

 自分は勇者と決別することになった。

 その時の顛末は……思い出したくもない。


 それから、いつしか自分は反逆者になっていた。


 そして、決別から一ヶ月後……。



‐大陸を四分する巨大な谷『十字大渓谷』‐

‐最南端‐


「おい、そっちはいたか」

「ダメだ。足跡も見つからねえ」

「これ以上は東の領地に入っちまう、引き上げよう」

「くそっ、次こそとっつかまえてやる!」

「行くぞ」

 タッタッタッタッタッタッ...


 …………ガサッ

剣士 「………………」

剣士 「はぁ……」


剣士 (神童と呼ばれた自分が、今や逃亡者だなんて……)

剣士 (これじゃ故郷にも帰れない……)

剣士 (……どうしよう)

 ……ザァァァァァァ…………

剣士 (? 水の音?)



‐清流‐


 ザァァァァァァ……

剣士 (こんな所に川があったんだ)

剣士 (魔物の気配もない。――よし)


剣士 (水浴びできるなんて久しぶりだ)

剣士 (追っ手の心配はあるけど……)

剣士 (そうだ、髪を切ってしまおう)

剣士 (予備の服に着替えれば遠目にはわからないはず)

剣士 (……声を変える練習もしておこうかな)

剣士 「あ……アー、あ゙ー。いろはにほへと」

剣士 「うん、大丈夫だ。無理なく出せるな」

剣士 (口調も気を付けなければ)

剣士 (一応前の服は洗っておこう)

剣士 (目立たないところに干して……)

剣士 (乾くまでは釣りでもしてみようか)


 ザァァァァァァ……

剣士 「……のどかだな」

剣士 (こんな穏やかな時間は久しぶりだ)

剣士 (いや、油断はいけない。いつ追っ手や魔物が現れるかわからないんだ)

剣士 (……でも)

剣士 「正直……疲れちゃったな……」 ハァ...


 ザバンッ


剣士 「ん?」

 ザパッ ザパッ ザパッ …

ボロ舟 < コワレル…コワレル…ッ

大人? 「」 グッタリ

子供? 「」 グテーン


剣士 「えっ、何事!?」

 グイッ

竿 < オオット!?

剣士 「うわっ、引っかかった! この……っ!」 ググ...

ボロ舟 < チョ、ヒッパラレ…

 ザパ――ゴンッ

ボロ舟 < …ノリアゲチマッタ

剣士 「………………釣り上げちゃった」

大人? 「」 グッタリ

子供? 「」 グテーン

剣士 「…………」

剣士 「……どうしよう」


大人? 「いやあ、助かったよ」 アッハッハ

剣士 「はぁ」

剣士 (結局介抱してしまった……こんなことしてる場合じゃないのに)

剣士 (それにしても、やけに綺麗な人だな……)

大人? 「妖刀も無事か、錆びないかなこれ」 ズブヌレダ

剣士 (髪の毛も長いし、女の人みたい。体つきと格好で男だってわかるけど) ジロジロ

子供? 「…………」

剣士 (……そしてこっちは無言無表情)

剣士 (この子もすごい美少年……少女? どっちだろう)

剣士 (でもなんか、何でかな、ちょっと怖いな) ジー…

剣士 (あ。無表情だからか)


大人? 「えっと、何かな?」

剣士 「あ、いえ」

剣士 「いけないいけない、ついつい他人を観察する悪い癖が……」

剣士 「なかなか直らないな、この癖……」

大人? 「……思いっきり声に出てるけどいいの?」

剣士 「はうあ!?」 ガビーン!

剣士 (し、しまった! 初対面でいきなりやってしまった!)

大人? 「あー、ごめん、大丈夫?」

剣士 「こ、こほん。すみません、どうにも昔から時々考えたことが口から出てしまうらしく……」

剣士 (あああ、変な人だと思われてないだろうかっ)

剣士 (いや間違ってないけど、なんだかショックだ……ッ)


大人? 「あはは、苦労してそうだねー」 ケラケラ

子供? 「おもしろい」

剣士 「おもっ!?」 ガーン!

大人? 「うおい!」 ズビシッ

子供? 「とても いい」

剣士 「え、あ、あれ……ほめられてる?」

大人? 「いやいやいや」 チガウチガウ

子供? 「滑稽」

剣士 「」 ガンッ

大人? 「失礼すぎだろお前、ちょっと黙れ」


 ――第一印象は、明るい大人と性格の悪い子供。


大人? 「僕はオーマ。しがない旅人だよ、よろしくね」

剣士 「あ……すみません自分は名前は、ちょっと……」

旅人 「ありゃ、そうか。じゃあ何て呼ぼう」

剣士 (! 察してくれた……?)

剣士 (…………)

剣士 「自分は剣士です。ですから、そのように呼んでいただければ」

旅人 「ほいほい、そんじゃ剣士君って呼ぶけど」

剣士 「はい。よろしくお願いします」

旅人 「うん、よろしく」 ニコッ

剣士 (この人は……)


子供? 「ノーム」

剣士 「はぇ?」

旅人 「……」

剣士 「……」

子供? 「……」

旅人 「いやそんだけかい!」 ビシッ

子供? 「?」 クビカシゲ

剣士 「え、あの……??」

旅人 「ごめん、今のこいつの名前ね。ノームっての」

剣士 「あ、はぁ、はい」

剣士 (わかるかッ!!)


旅人 「お前自己紹介くらいちゃんとしようよ」

ノーム 「面倒」

旅人 「」

剣士 「マイペースな人ですね……」

旅人 「非常識なだけだと思う」 ハァ...

剣士 「あはは……」

剣士 (常識を問われるとこっちも耳が痛いッ!)



 ――この時は、この二人と一緒に旅するなんて想像の余地もなかった。

 しかしながら、縁は異なもの味なもの、とはよく言ったもので。

 この日出会ってからひと月。

 自分達は三人で、今も旅を続けている。

 ……まだ、何もかもを打ち明けるとまではいかないけれど。


 ~現在~


‐大陸 南東部‐

‐最大貿易都市 『海ノ都』‐


剣士 「さあて! 買い物に行きましょう、お二人とも」

旅人 「剣士君は元気だねー、おじさんは休んでるから行っておいで」

剣士 「何言ってるんですか全然若いくせに。ノーム君なんてピンピンしてますよ」

ノーム 「だらし ない」

旅人 「失礼な。……まいっか、少し見て回りたいし」

剣士 「そうですよ。せっかく久々の街なんですから、じっとしてるなんて勿体ない」


旅人 「と言ってもやることも山ほどあるけどねー」

ノーム 「情報 装備 道具」

剣士 「それだって街に出なくちゃ始まらないですよ。さ、行きましょう行きましょう」

旅人 「そんな背中押されなくっても歩けるってば」

ノーム 「剣士 はしゃぎ すぎ」

剣士 「いいんです、たまには!」


 ギィ… パタン


 ――きっとこの二人には、いつか自分の全てを伝える日がくる。

 “私”の中に、そんな予感が芽生えていた。

本日ここまで

ではまた。


 ◆ 旅人、オーマ・ジンの場合


 僕のことを語るにあたって、時間を一ヶ月ほど遡ることにしよう。

 僕にはいくつかの目的があって、剣士君と出会ったのは本当に単なる偶然だった。

 それが必然だったと気付くのは、まだまだずっと先の話になる。

 なんて、まあ大した話じゃないんだけどね。


 僕はオーマ・ジン。

 千年前の英雄の名を受け継ぐ者。

 そして、僕は――。


旅人 「ぬえっはー―――っ!!」 ヨコットビ!!

ドラゴンっぽい魔物 「ゴアアアアアアアアア!!」 ブンッ

 ゴガァン!!

地面 < ギャース!!

旅人 「あぶねえかすった! 死ぬ死ぬ死ぬ!!」 超ダッシュ!

剣士 「オーマさん、木の陰に!」 チャキッ

魔物 「ガアアアアアアアアア!!」 カミクダク!!

 メギョッ!!

木 < アベシッ!!

旅人 「どぅーはあーっ!!」 ウラメニデタヨ!!

剣士 「オーマさぁー―――ん!?」

ノーム 「狙われ て いる!」 キリッ

旅人 「ドヤ顔すなー―――っ!!」


旅人 「こんにゃろ! これでも喰らえ!」 キィィィィン...

旅人 「『爆炎弾!』」 ヴンッ!

 ぼふっ

火の玉 < フウゼンノトモシビヨー

 ひょろひょろひょろ…… ぺちっ

魔物 「……」

旅人 「……」

剣士 「……」

ノーム 「……」

三人 (((不発した……)))


ノーム 「恥ずかしい」

剣士 「あはは……」

旅人 「笑ってないでヘルゥゥゥゥプ!!」

魔物 「グアアアアアアアアアア!!」 ズン ズン ズン ...

旅人 「うわたたたたた!」

岩 < チョ、コッチクンナシ

魔物 「ギアアアアアアアアアア!!」 ブンッ

 ズガァン!!

岩だったもの < アッ…

魔物 「ゲアアアアアアアアアア!!」 ブォンッ

旅人 「だァらっしゃあああああい!!」 超ヨケル!!


 びりっ


旅人 「あ」

剣士 「あ」

ノーム 「あー」


股間のボブ < Hello!

剣士 「…………」 ゴクリ

旅人 「きゃー! 剣士君のえっちぃー!」

ノーム 「キモい 黙れ」

旅人 「はい」

旅人 「――って、魔物……は……」


魔物 「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ……」 オエォ…


旅人 「」

ノーム 「…………どんまい」

旅人 「なんて失礼なやつだ……」

剣士 「…………」 ジー…

旅人 「……剣士君?」


旅人 「なんとか倒せた……」

ボブ < ブラヴォー!!

ノーム 「しまえ」 ゲシッ

旅人 「オフッ、すんません」

剣士 「あははは……緊張感ないなぁ……」 チラッ チラチラッ

旅人 「そんなチラチラ見ながら言われましても」

剣士 「あ、す、すみません……」 ジー…

旅人 「…………」

 くいっ

ボブ < ユラッ

剣士 「ッ!」 ビクッ

ノーム 「止めろ」 ゲシッ

旅人 「オフッ、すんません」



 ・ ・ ・


剣士 「怪我がなくてなによりです」

旅人 「回避力には定評があるんだ」 キリッ

ノーム 「……」 バシーン!!

旅人 「背中痛ァ!? 何すんの!?」

ノーム 「避けろ」 バシーン!!

旅人 「いや近、痛ァッ!! なんなの!?」

ノーム 「……」 スッ

旅人 「」 ビクッ

剣士 「……仲良いなぁ」

旅人 「どこが!?」

ノーム 「……」 ゲシッ

旅人 「ダウッ!」 グハッ!!


旅人 「それはそうとズボンか何か下さい」

ボブ < HA-HA-HA-!

ノーム 「隠せ」 スッ...

旅人 「うん、わかったから爪先で股間を狙わないで」

剣士 「着るものって言ってもサイズが……あ、これならどうでしょう」 ゴソゴソ


小さな袋 < オエッ

 ずるっ

袴 < コンチャーッス


旅人 「…………」

ノーム 「…………」


旅・ノ ((どうやって入ってたんだろう……))


旅人 「少しつんつるてんだけど大丈夫そうだねー」

剣士 「オーマさん大きいですからね……一体何食ったらそんなになるんですか」

旅人 「うーん、種族的にみんなデカいからなー」 フム

旅人 「なんせ鬼人族だし」

剣士 「はぁ」


剣士 「…………」


剣士 「えっ?」

旅人 「ん? 僕なんか変なこと言った?」



 ・ ・ ・


剣士 「お二人とも魔族だったんですか」

旅人 「まあね。僕は鬼とエルフのハーフで、ノーム君は」

ノーム 「土 の 化身」

剣士 「なんと……」

旅人 「隠してるつもりはなかったんだけどなー、ツノ出てるし」

剣士 「……あ、ホントだ」

旅人 「気付いてなかったんかい」

ノーム 「鈍い」

剣士 「ぐはっ!」 クリティカルヒット!!

旅人 「ノーム君さ……君結構無礼だよね」

ノーム 「持ち味」 キリッ

旅人 「そんな味は棄ててしまえ」


剣士 「あ。でもエルフの方々は魔法を使えるのでは?」

旅人 「使えるよー。さっき思いっきり不発したけど……」 アハハ

旅人 「どうも今の姿になってから魔力制御がうまくいかないんだよねぇ」 ハァ...

剣士 「はぁ」

剣士 「…………今の?」

旅人 「そ。今の」

旅人 「僕ホントはもっとゴリマッチョのタフガイなんだよ」

剣士 「え゙」


剣士 「変身魔法……」

旅人 「が、どういうわけか失敗しちゃってねー。

 ツノだけ残して別人になっちゃったのさ」

旅人 「しかも何故か戻れないというね」 ハハハ...

剣士 「呪いみたいな感じですか」

旅人 「あー、まさにそんなかんじだねぇ」

ノーム 「間抜け」

旅人 「失礼な。不慮の事故だよ」

剣士 「風変わりな事故ですね」

旅人 「風変わりて……まあ、ね」


剣士 「うーん……」

旅人 「? どしたの?」

剣士 「いえ……今の内に戦力の確認をしておいたほうがいいのかな、と」

旅人 「あぁ、さっきけっこう危なかったもんね」

ノーム コクコク

剣士 「連携がうまくとれれば、多少魔物が強くてもなんとかなりますから」

ノーム 「重要」

旅人 「って言っても、僕まだあんまりこの体に慣れてないんだけど」

剣士 「動き回る分には問題ないですよね?」

旅人 「まあ一応」

剣士 「じゃあ、まずオーマさんの現状から調べてみましょう。

  ノーム君、見張りお願いします」

ノーム 「了解」 コクッ


 ~一時間後~


旅人 「とりあえず、低級魔法と回復魔法は問題ないみたい」

剣士 「動きのほうは速さはかなりのものですね、自分の剣が追いつきませんし。剣術には自信があるんですが」

旅人 「元はもっと速いけどねー。パワーは全然足りないや」

剣士 「……元々どのくらいなんですか?」

旅人 「魔法と組み合わせて音速超えるくらい。素手でオリハルコン叩き割るくらい」

剣士 「は!?」

旅人 「鍛えに鍛えたからねー」

剣士 「いやいや鍛えた程度じゃそんなんなりませんって! 勇者もビックリですよ!?」

旅人 「今じゃ過去の栄光状態だけどねー」 ケラケラ

剣士 「笑うことですか……」


剣士 「そういえば、剣は使わないんですか?」

旅人 「使えることは使えるよ、一応習ったし。素手のほうが強かったけど」

剣士 「どんだけですか……。

   でも、今は使った方がいいのでは? 飾りってわけじゃないですよね」

旅人 「あぁ、これのこと?」 チキッ

妖刀 < …………。

旅人 「これ、ちょっと曰く付きだから使うに使えないんだよね」

剣士 「曰く付き……」

旅人 「妖刀って言えばわかるかな?」

剣士 「あぁ、なるほど」


旅人 「妖刀『クロガネ』って言ってね。

   まあ真名はもっと長いんだけど、かなり危ない呪いを持ってるから、余程のことがない限りは抜けないよ。

   こいつを使うのは最後の手段……まあ要するに切り札だね」

旅人 「――って、このへんはどうでもいいかな?」

剣士 「いえ、参考になります」

剣士 「それに……」

旅人 「うん?」

剣士 「いえ……なんでも」 クスッ

旅人 「??」 キョトン

ノーム 「終わり か?」

剣士 「あ、はい」

旅人 「もう日が落ちきるかなー」

剣士 「今日はここで休みましょうか」 ゴソゴソ...


小さな袋 < ゲロッ

 ずるっ

テント < ヤァ


旅・ノ ((どうやって入ってるんだ……))


旅人 「見張りとかどうする?」

剣士 「結界石があるので大丈夫です」 ゴソゴソ...

旅人 「またレアなもの持ってるね」

剣士 「故郷に魔導細工師が多くて。自分の剣にも強化の細工が施してありますし」

旅人 「へー。あぁ、それでさっきの魔物もさっくり斬れたんだ?」

剣士 「はい。普通の剣だと大型の魔物には刃がたちませんから」

旅人 「おかげで今日の夕餉は肉尽くしです」

剣士 「爬虫類ってあんまり食べたことないです」

旅人 「鶏肉に近いよ」

剣士 「経験者ですか……」

旅人 「野生の哺乳類は筋っぽくてさー」


剣士 「――あ、そういえば気になってたんですけど」

旅人 「うん?」

剣士 「魔族の方でも魔物とは争いになりますよね? 両者につながりはないんですか?」

旅人 「あー、そっか。普通は一緒くたにされるか……」

旅人 「細かく言うと長くなるから要約するけど、まず魔族と魔物は別だよ」

剣士 「やっぱり」

旅人 「まあ教団から見ればどっちも人間の敵って認識みたいだけど」

剣士 「……はい」

旅人 「一番の違いは理性の有無、かな。稀に頭のいい魔獣とかいるけど、そのあたりになると判断が難しいんだ」

旅人 「まあ、話が通じなかったら魔物だと思っていいよ」

剣士 「なるほど……」


ノーム 「鍋 煮えた」

剣士 「あっ、すみません任せっきりで」

旅人 「剣士君が肉、僕が野草、ノーム君が調理でバランスとれてるっしょ」

ノーム コクコク

剣士 「野草の知識はないので助かります」

旅人 「受け売りだけどね。毒があるやつとまぎらわしいのは避けたから、ちょっと足りないかも」

ノーム 「充分」

旅人 「そう? それじゃ」

剣士 「はい」


三人 「「「いただきます」」」




剣士 「ん、ほんとに鶏肉っぽいですね。ちょっと臭みがありますけど」

旅人 「香草がもっとあればよかったんだけどねー、野生にそこまで期待はできないから仕方ない」

ノーム 「美味」

剣士 「あまりの肉はどうします?」

ノーム 「燻製」

剣士 「なるほど」

旅人 「骨とかは何かに使えないかな」

剣士 「商会まで持っていけば売れますよ」

旅人 「売れるの?」

剣士 「武具や装飾品の素材に使うとかで。冒険者の収入源の一つですし」

ノーム 「キノコ いただき」

剣士 「あ! ずるい!」

旅人 「まだあるんだから慌てんでも」


旅人 「ところで魔物の骨どうやって運ぶの?」

剣士 「この袋に入れられますよ」 スッ


小さな袋 < マカセテ


旅・ノ ((……もはや何も訊くまい))


更新 >>20-40

基本はだらーっといきます
ではまた。


 ◆ 土の精霊、化身、ノームの場合


 静かに燃え続ける焚き火が、パチパチと音を立てている。

 辺りは暗闇に沈み、見える光は目の前の炎のそれと、頭上に煌めく星々の輝きだけ。

 耳に届くのは二人分の寝息と、風が木の葉を揺らす音。
 少し澄ませば、離れた所を流れる川のせせらぎや、動物達の命の音が聞こえてくる。

 静寂に近くも、けして無音ではない夜の時間。

 私は、千年ぶりの夜空を見上げていた。



ノーム 「…………」

 月は僅かに欠け、しかし眩いほどに強く光ってみえる。
 星々はゆらゆらと瞬き、ゆっくり、ゆっくりと天を廻る。

 何度となく思い返し、何度となく諦めた、私の最も愛した空。

 この空だけは、千年前と幾ばくも変わりなく……、

ノーム 「…………」

 ――否。変わりないものなどない。

 ただ時を重ね脈々と続いてきた、それだけだ。

 千年もあれば、文明が幾度か滅びていてもおかしくはないのだ。

 それを思えば、私達の変容などなんと些末なことか。



 むしろ、あるいは。

 千年前の誓いを未だ果たさんとする私達こそが、異質なのではないか。

 それは、固執、か……、

ノーム (止めよう……)

 考えすぎれば歩みを止めてしまう。

 止まってしまえば、千年待ち続けた意味を失ってしまう。

 それは、だめだ。


 無意味な思考を切り捨て、瞼を下ろす。

 ゆっくりと、意識を闇に沈めていく……。


   ――――
  ―――
 ――





 これは夢だ。


『ねえオウマ』

『なんだ?』

『全部終わった時、もしも僕達が生き残れていたら、どうしたい?』


 けれど、これは僕の夢じゃない。

 僕はこんなやりとりを知らない。


『そうだな……まずは故郷を直したいな』

『故郷を?』

『ああ。そしてそれが終わったら……どこか山奥にでも家を構えて、畑でも耕しながら死ぬまでのんびりと暮らすさ』

『ぷっ。なにそれ、お年寄りみたい』

『悪いか』

『まさか。……いいね、そういうのも』


 笑い合う二つの影。僕はただ、間近でその二人を見上げていた。


『……だが、……は――』


 不意に声が遠退く。

 軽い浮遊感と共に、意識の覚醒を感じ取る。


『うん――から――……』


 夢と現の境界で、最後に『僕』の声が響いた。



「せめて、夢くらいは見ていよう」



 ――――――

 ――――

 ――



旅人 「朝だ」

 夢が途切れると同時に (かどうかは分からないけれど) 、スパッと目が覚めて現実に引き戻された。

 寝覚めの良さは僕の数少ない取り柄のひとつだ。

旅人 (またあの二人の夢かぁ……) ムクリ

ボブ < グッモーニン、ダディ!

旅人 「おうふ……顔洗ってこよ」

 剣士君とノーム君はまだ寝ているようだ。
 まあまだ辺りは薄暗いし、一般的に見れば単に僕が早起きすぎるだけだろう。

旅人 「川は向こうかな……迷わないようにしないと」

 はぐれたら洒落にならないし。

妖刀 < ………………。

旅人 「おっと。こいつは持っていかないとね」



 ~ 森の中の小川 ~

 パシャ、パシャ、パシャ、

旅人 「ぷは。水冷てー」

 さてさて。

 未練がましく残っていた眠気も飛ばしたところで、夢について考えてみようかな。

旅人 (と言っても、大体見当は――) チラッ

妖刀 < ………………。

旅人 (……ついてるんだけど、ね)

旅人 「『妖刀』、『鬼神の畏』、『千人狩り』、『血染め御前』……随分色んな名前がついたもんだよねぇ」

旅人 「あれはもしかして、君の記憶なのかな?」

旅人 「ねぇ、『クロガネ』」

妖刀 < ――――……。


生存報告……だけ orz
書く暇をくれ……


旅人 「さあて、元気出して行こーっ!」 コブシヲソラニ!

ノーム 「……おー」 ナゲヤリ

剣士 「お、おぉーっ!」 オソルオソル

旅人 「剣士くーん、もう一度ッ!」 ビシッ!

剣士 「はっ、はい!」

旅人 「元気出して行こーっ!」 リョウテヲソラニ!

ノーム 「……おー」 ダラダラ

剣士 「おおーっ!」 ヤケクソ

剣士 (……何だろこれ) イミワカンナイ…


旅人 「よっし。つーぎーのーもーくーてーきーちーはぁー~~~……」 ゴソゴソ

旅人 「ありゃ? 地図と磁石どこやったかな」

剣士 「訊かれても……昨日はどこにしまったんです?」

旅人 「えーと」

ノーム 「ズボン の ポケット」

旅人 「そうそうズボンの……」

旅人 「ズボンの……」

剣士 「ズボン……」

ノーム 「あー……」


ズボンだったもの < ボローン

地図だったもの < チーン

コンパスだったもの < ゴリンジュー


旅人 「……」

剣士 「……」

ノーム 「……」


旅人 「……マジでごめんなさい」


剣士 「どうしましょうか……」

旅人 「こうなったら」

ノーム 「なったら」


旅人 「――――勘だッ!!」 ダッシュ!


剣士 「ちょっ!?」 イキナリ!?

旅人 「為せば成ぁーる! 僕に続けえー―――っ!!」 ダダダダダダ!!

剣士 「無茶苦茶だあの人ッ!」 オイカケル

ノーム 「考え なし」 タッタッタッ


   :
   :
   :

旅人 「そして迷いに迷うことなんと、

    一  ヶ  月 !!」 キリッ

剣士 「ほんと迷いましたねぇ……」 シミジミ

ノーム 「……」 コクコク

旅人 「いやもうホントごめん。よもやこんなことになろうとは」 ドゲザエモン

剣士 「あはは……」

ノーム 「自重」

旅人 「はい」

剣士 「まあまあ。ようやく街が見えたんですし、早速行ってみましょうよ」

旅人 「そだね。今日こそベッドで寝たいし」 スクッ

ノーム 「飯」

旅人 「なんか名物とかあるのかなー」


警備兵 「許可証がないと通せないよ」

旅人 「えっ」

剣士 「えっ」

ノーム 「えっ」


旅人 「なんという……」

剣士 「困りましたね」

ノーム 「予想 外」

剣士 (聖都からの手配が回ったとかかなぁ……)

旅人 「許可証ってどうすれば手に入るの?」

警備兵 「なんだあんたら、そんなことも知らずにこの街にきたのかい」

剣士 「えっ、じゃあ許可証を貰える方法があるんですか?」


警備兵 「一応うちは貿易都市なんでね。
  ほら、北の高台にデカい屋敷が見えるだろ」

旅人 「……ホントだ」

警備兵 「あそこがうちの領主の別邸なんだよ。そこに裁定員がいるから、後は彼女に聞きな」

剣士 「裁定員ですか」

警備兵 「誰彼構わず通したら治安が悪くなる一方だからな。
  ま、無理難題ふっかけられるかも知れないが、頑張んな」

ノーム 「把握 した」

旅人 「まあ可能性がないよりは助かるかなー」


剣士 (自分のせいじゃなかったかぁ、よかった) ホッ

旅人 「よっし、それじゃ早速行こっか」

警備兵 「道中お気を付けて」 ヒラヒラ

剣士 「どうも」 ペコリ

旅人 「あ、そうだ」

警備兵 「ん?」

旅人 「ちょっと道の確認なんだけど……」


旅人 「一本道でよかったよ」

剣士 「また迷ったりしたら流石に笑えないですからね」

旅人 「その節は本当に申し訳ありませんでした」

ノーム 「でも 遠い」

剣士 「日が暮れる前には着くと思いますけど、そもそも入れて貰えますかね」

旅人 「今度は『招待状がないと受付できないよ』とか言われたりして」

剣士 「うわ……嫌なこと言わないで下さいよ」

旅人 「めんご」


 ~ 『海ノ都』北西 領主別邸前 ~


剣士 「でっか……!」

旅人 「まるで城だね。正門は閉まってるみたいだ」

ノーム 「横 に 兵士 が いる」

剣士 「あの人に話せばいいんでしょうか」

旅人 「まあ声かけてみよう。すみませーん」

門番 「はいぃ~?」

剣士 「あれ、女の人?」

門番 「はいぃ~、そうですよぉ~。何かご用ですかぁ~?」


旅人 「……なんだろう、なんか」

ノーム 「ゆるい」

門番 「あははぁ~、よく言われますぅ~」 ニヘラ

門番 「ここはぁ~、みぃんな女の子なんですよぉ~」

剣士 「は、はあ……」

旅人 「安全性大丈夫なのかな……」

門番 「平気ですよぉ~、わたしこう見えても魔術師ですからぁ~」

門番 「安心、安心ですよぉ~」 ニコニコ

旅人 (不安が増したのは何故だろう……)


剣士 「…………」 ジー…

門番 「?」 ニコニコ

おっぱい < タユンタユンデスヨー

剣士 「むぅ……」


旅人 「あっ、用件忘れるところだった」 ハッ

門番 「はいぃ~?」

旅人 「麓の町に入る許可が欲しいんだけど」

門番 「そうなんですかぁ~」

旅人 「うん」

門番 「……」 ニコニコ

旅人 「……」

剣士 「……」

ノーム 「……」

門番 「ふぁいなるあんさー?」

旅人 「いや何言ってんの君」 ビシッ

今回ここまで
読んでくれる方、待ってくれる方ありがとうございます。

ではまた。

おおう……すまない
今読み返しと見直ししながら書きためしてる
投下は未定なのだが……

待たせてばかりで面目ない、そしてありがとう


 ~ 邸内 応接室 ~

使用人 「では、領主代理をお呼びしますのでこちらでお待ち下さい」 ペコリ

旅人 「メイド服久しぶりに見たなぁ」

剣士 「見たことあるんですか」 チョットビックリ

旅人 「家庭の事情です、はい」

剣士 「お金持ちなのかな……」

旅人 「そういうわけじゃないけどね」

剣士 「あわ、今声に出てましたかっ」

旅人 「うん」 バッチリ

剣士 「すみません、不躾なことを……」

旅人 「いやまあいいけどね。というか気にしすぎ」


旅人 「なんかそうやってすぐ謝られるとさー」 ウーン

剣士 「?」

旅人 「寂しいにゃー」 ウン

剣士 「は……はぁ」

旅人 「僕としてはもーちょい剣士君の笑い顔とかも見てみたいわけで」

剣士 「笑い顔……ですか?」

旅人 「そ。スマ~イル」 ニマ~

剣士 「はぁ……」

旅人 「ほら剣士君も」 ホッペムニッ

剣士 「ひゃひ?」


旅人 「はい復唱! スマ~イル」

剣士 「ひゃろ、いひゃひんりぇふへふぉ……」

旅人 「スマ~イル」

剣士 「……ひゅ、ひゅみゃーうぃう」

旅人 「はい笑って笑ってー」

旅人 「スマ~イル」

剣士 「……しゅま~いりゅ」


旅人 「オーマ☆スマイル!」 キラーン☆


剣士 「ぶっぷフォァ!」 ブーッ!!

旅人 「バルス!?」 目ガッ!!


剣士 「あははははははははははっ!! はははははははははははっ!!」

旅人 「目がーっ! 目がああああああっ!! あああああああっ!!」 ゴロンゴロンゴロゴロゴロゴロロ…

テーブル < オイニイチャン、アンマリコロガルト…

  がんっ!

旅人 「スネぇっ!!」 ビターン! ビターン!!

剣士 「あはっははは! ひ、ひーっ、ひーっ!」 ケラケラケラ

旅人 「畜生テーブル風情が生意――」 ガバッ


  ごいーん


旅人 「気ナ゙ッ゙!!」 脳天クリティカル!!

テーブル < ホンマモンノアホヤデ…

剣士 「あははははっ、だっ、大丈夫ですかっ!!」 クスクス…

旅人 「――~~~~!!」 ←声が出ない


剣士 「はぁー……、すみません笑っちゃって」 クスクス

旅人 「まさか目潰し喰らうとは思わなかったよ」 フキフキ

旅人 「でもやっとちゃんと笑ったねー」 ニッ

剣士 「あんな至近距離で急に変顔されたら無理ですよ」

旅人 「渾身の笑顔のつもりだったんだけど……」

剣士 「すごい顔でしたよ?」

旅人 「嘘ぉん……」


  ガチャ

ノーム 「戻った」

女の人 「あー……」 ズルズル…

剣士 「」

剣士 (なんか引きずってるぅぅ!?) ガビーン

旅人 「おーおかえり。何してたのさ?」

ノーム 「連絡」

剣士 (えっ、スルー!?)

旅人 「あぁ……完全忘れてた」

剣士 「ええっと、ご実家かどこかですか?」

剣士 (正直それより女の人が気になって仕方ありません!)

旅人 「んにゃ、元々一緒してた仲間んとこ。だよね?」

ノーム 「そう」 コク


旅人 「前に話したっけ。剣士君と会う少し前までいた仲間なんだけどさ」

剣士 「聞いたようなないような……」

剣士 (それよりもノーム君に張り付いてる女の人は!?)

ノーム 「術師 と 僧侶 と 案内人」

旅人 「あ、今そう名乗ってんの? 案内人ってノーム君の身内?」

ノーム 「そう」 コク

女の人 「おー……」 グデー…

剣士 「どんな方達なんですか?」

剣士 (そしてその女の人はなんなんですか!?)

旅人 「んー……、まあ一言で言うと……」 ポリポリ

旅人 「どSコンビ」

剣士 「えっ」

ノーム 「と、ドM」

剣士 「え……えぇぇー……?」

区切ります
次回は変態にご注意下さい

ではまた。

1ヶ月経ってたとか嘘だろ!?
誠に申し訳ない、生存報告です……

9月を過ごした記憶がガチで無い……


 ◆ 「ど」の付く自由人共


 やあどうも、初めましての方もそうでない方もこんにちは。
  ゲシッゲシッゲシッ!!

 私(わたくし)、他称は案内人、本名は御座いません。
  ガッゴッゴガッ!!

 淑女の方も幼女の方も親しみを込めて「ナビ助」とでも呼んでね☆
  バシーン!! バシーン!! バシーン!!

 ああ、何の音かって? それはね、

案内人「アイムスパンキングナウ!!」カッ!!

術師「うるせえ!!」ドゴォッ!!

案内人「あはんっ!」ズサアァァァァッ!!

僧侶「おー、すごく滑った」パチパチパチ

 こういうわけさ!

 え? わからない? やれやれ困った子猫ちゃんだぜ。


 では簡潔に箇条書きで。

・案内人(私)=簀巻き状態、豚

・術師様=女王様の一(貧乳美人)

・僧侶様=女王様の二(幼女。繰り返します、幼女です)


 わかったかい? ←ドヤ顔

術師「クソ、コイツ懲りてねぇ……」ゲンナリ

僧侶「むしろいい顔になってるよ」ツンツン

案内人「あっ、足の裏はつつかないで。こそばいこそばい」ゴロゴロ


 ~大陸 中央部~


術師「で、結局ここはどこなんだよオイ」イライラ

案内人「まず簀巻きを解いていただけないでしょうか女王様」

術師「 却 下 だ! 質問にだけ答えろ」ギロッ

案内人「嗚呼、突き刺さる視線が心地良い……」ゾクゾク

僧侶「飛ばない黒髭ゲームいく?」ニコッ

案内人「やめてください、しんでしまいます」

案内人「方角を間違えていなければリバースフォールの麓付近の筈ですね」

術師「りば……何? なんだって?」

僧侶「リバースフォール。グランドクロスケイブ(十字大渓谷)の真ん中だね」

案内人「Year. 天空穿つ、世界で最も高い岩。別名『空に落ちる島』」

術師「空に落ちる……島ァ?」


案内人「大陸を四分する巨大渓谷の交錯点。

  その中心にそびえる岩は成層圏を突き抜けるほどの高さを誇ります。
 
 しかしながら不可思議なことに、その岩は『宙に浮いている』のです」

術師「んなアホな……」

僧侶「それは初耳」

案内人「普通は近付くこともできない場所ですので。

  我々ノームが管理する秘密の地下道を通って、初めて真下まで潜り込むことができます」

術師「あーん? 秘密のってことはそこに何かかんのか」

案内人「それは着いてからお話ししましょう」

案内人「というわけでそろそろ解いていただけませんか。竜車を駆れません」

僧侶「むしろ引き摺ろっか」

案内人「とうっ!」タンッ

 全身のバネを使い高々と舞う体!

 空中で華麗に三回宙二回捻りを決め、正面を下にその身を叩き付ける!


  びたーん!

案内人「勘弁して下さぁい!!」カッ!!

 これぞ秘技、しゃくとり五体倒地である!!


 っていうか引き摺られるのは痛いだけだからマジで止めてほしい。

 いくらどマゾでも限界はあるのよ。



術師「次着替え覗いたら指先から1mmずつ削ぐからな」

案内人「」キュン

僧侶「もしくは生きたまま竜の餌で」

案内人「」ガタガタブルブル

 怖ぇぇぇええええええ!!

 勃●しそう!!(喜)

 でも実際やられたら再生に時間かかるから気を付けようと心に決めた千飛んで二十八(実年齢)の冬。

 ええ、気を付けるだけですとも。

術師「先に不能にしとくか」

僧侶「いいね」

案内人「 や め て !!」


 ~場所は戻って、『海ノ都』領主別邸~


旅人「ありゃー、まだそんなとこなんだ」

ノーム「道 が ない から」

旅人「それにしたって遅くない? 下手したら合流できそうかなと思ってたんだけど」

ノーム「行き方 に 条件 が ある」

旅人「ふーん……」

女の人「難しい話してますなー」ズズー…

剣士「はぁ」

剣士(普通に紅茶飲んでる……)

旅人「ところでこの人は? 知り合い?」

剣士(あ、やっとつっこんだ)

女の人「ドリアードですが何か」キリッ

旅人「へー……え?」

剣士「え?」

女の人「え?」

旅人「え?」


剣士「精霊!」

ドリアード「ですです。よく見ると手足とか木ですんよ。ほれほれ」グイグイ

剣士「ちょ、押し付けられても……」イタイ…

旅人「意外な所で見つかったなぁ」

ドリアード「海ノ都はあっしらがセイレーンを抑えるのに創った国ですたい」

剣士「セイレーン?」

ドリアード「悪い亡霊だーね。船沈めたりすんの。もー邪魔で邪魔で」ケラケラ

剣士「笑うところかなぁ……」

ノーム「ドリアード」

ドリアード「わーかってるにょ」

旅人(にょ?)

ドリアード「海ノ都への入国許可証はすぐに発行させて頂きます。ただし、条件を一つ」

剣士「急に真面目な喋り方に……」

ドリアード「裁定員の仕事は重要なものですので」

剣士「っとあ! 声に出てました!?」ワタワタ

ドリアード「構いませんよ。……それで、条件についてですが」

おお、字下げミスってら
中途半端だけどここまでで。しかし変態度が足りないな……
唐突に重要げなキャラが出てくるのはよくあること。

次回からクエストに突入ゥ。ではまた。

1ヶ月過ぎてたとか何これ怖い
時間の感覚が日に日に狂ってきてる気がする……

行きます。


 ~海ノ都 近海、海上~


  ザザーン ザザーン …

旅人「方角は大丈夫?」

ノーム「問題 なし」

剣士「方位磁石なくさないで下さいね」

旅人「海の上で迷子はヤバいよねー」

剣士「それにしても、なんでわた……我々に依頼されたのでしょうか」

ノーム「ドリアード は 海水 に 弱い」

旅人「あ、そっか。陸上の植物だから下手に近付けないのか」

ノーム「そう」コクリ

剣士「はぁ。しかしそれでは海ノ都は何故……」

旅人「逆なんじゃない? 海水に弱いから、海が乱れると危ないとかさ」

旅人「住んでる人まで彼女達と同じってわけでもないだろうし」

剣士「うーん……いまいち納得いきませんが……」


 根本の理由は曖昧なままに、私達は波に揺られる。

 目指す先にあるのはひとつの小さな孤島だ。

 それが視界に映る頃には早くも太陽が傾き始め、上陸できたのは日が沈んだ直後。

 ぎりぎり周囲が見える程度の薄暗さの中で、私達三人は、その祠を見上げた。



 ~海領ノ霊宿~


旅人「意外とでっかいなー」クビツカレル

剣士「聖都付近のものに近い建築様式ですね。祠というより神殿のように見えます」

旅人「どっこい中にいるのは怨霊ってね。悪い冗談だわ」

ノーム「セイレーン」

剣士「すぐ乗り込みますか? 照明くらいなら魔法で出せますが」

旅人「というか、セイレーンが出るとしたらこれからだろうね。幽霊は夜中にこそ動き回るっていうし」

ノーム「事故 の 被害 も ほとんど 夜」

剣士「では……『lighting』」ヴゥン…


 りんごほどの大きさの光球を三つ、一人ひとつとして構築する。


剣士「こうやって指先でついっとやれば動かせます」ツイッ


 説明しつつ、光球のうち二つをそれぞれの正面へ。

 手を止めると慣性に従って僅かに指先から離れ、光球が停止する。

 許可を受けた人物が触れない限りその場で停滞するため、光源の不必要な移動が避けられるのが利点。

 逆に、動かしたい時は手作業になるのがこの魔法の難点だ。


剣士「誤って衝突した場合は、動くものを追いかけるようになっていますので立ち止まって手で払って下さい」

旅人「へぇー、僕の見たことのあるのとはちょっと違うや」ツイー…

光球 < フヨフヨ...

剣士「あと、思いっきりぶん投げて『emit』で爆発的に発光します。一発限りの眼眩ましですが」

旅人「投げなかったら?」

剣士「目が潰れます」

旅人「oh...」


 エミットスペルは基本的に逃走用の非常手段だ。

 使わずに済むのが一番いい。


 ~海領ノ霊宿 内部~


旅人「広いなぁ。その上階段やら扉やら横路やらだらけときた」

剣士「まるっきりダンジョンですね。『mark light』」ヴゥン…


 通った後にひと回り小さな光球を残しながら、奥へ奥へと進んでいく。


旅人「っと、こっちは行き止まりか」

剣士「戻りましょう」

ノーム「ん」コク


 間違えた場合は途中の光球を消しつつ別れ道まで。


旅人「マップくらいくれればいいのに」カキカキ

剣士「でもマッピングってちょっと楽しくないですか?」

旅人「それは同意せざるを得ない……」

ノーム「緊張 感 なし」

旅人「生き物の気配もなし、罠もあるわけじゃなし」

剣士「辿り着くまでは完全にただの探索ですね」

旅人「歩くのは慣れてるからいいんだけど、暇だなー」

剣士「何もないのが一番ですよ」


  カツーン カツーン カツーン …


剣士「……大分降りてきましたね」

旅人「上と比べて道は単純だけど……深いな」

ノーム「じめじめ」

剣士「もし崩れたら生き埋めですね……」

旅人「それは考えたくないなぁ」

剣士「一応緊急離脱用の転移陣は用意しておきましたけど」

旅人「へー、そんなのもあるんだ。なんか手慣れてるね」

剣士「……まあ、色々ありまして」


 備えあればなんとやら。

 気配がないとはいえ、警戒も怠らない。


  カツーン カツーン カツーン カツーン ……


旅人「…………あのさぁ」

剣士「……はい」

旅人「この階段ってどこまで続いてると思う?」

剣士「……さぁ」

旅人「どんだけ地下深くだよ! うちの地下とどっこいどっこいだよ!?」


  ダヨ… ダヨ… ダヨ……


剣士「ちょ、叫ばないで下さい、響くんですから」

旅人「めんご」

ノーム「…………」

剣士「っていうか、オーマさんの家ってダンジョンの上に建ってるんですか?」

旅人「あー、まあ似たようなも」
ノーム「静かに」

剣旅「「?」」

ノーム「音」


 顔を見合わせ、耳を凝らす。


  ――――ァァァァァァ……

  ――ザァァァァァァァァァァ……


旅人「水?」

剣士「地下水脈、でしょうか」

旅人「ほとほと水に縁があるなぁ……」

剣士「あー……」

半端ですが。
次こそもっと素早く仕上げたい……
毎度お待たせするばかりで面目ないです

ではまた。

日曜日って何それ武器?状態でしたすみません、どうも>>1です
カレンダー見るまで年末だということすら忘れていました
部屋の大掃除すら済んでいないというのに……

今しばらくお待ちいただければ幸いです。面目ない

ここ半年まともな休日を過ごした記憶がない>>1です
手際の悪さと体力のなさが悪循環しております……

要するにまだなんです、ほんとにごめんなさい

生存報告だけでも
う、腕が上がらない……!

上司「GWは普通に休めそうだねぇ」
社員「あーもうそんな時期……」
一同「「「GW!?」」」ガタッ

ガチでこんな状態に陥る愉快な会社
まだ3月だと本気で思ってたよ社長……

どうも>>1です。情けないことに未だに生存報告のみです
PC起動すらできないレベル。この一年マジ異常
こんな酷い有り様でも書くのを諦めない諦めの悪い私。問題は成果が出ていないこと

ともあれ明日可能な限り書いて見せます
倒れてばかりいられない

 水の音を追うように歩き続け、数分後。


旅人「扉、だねぇ……」

剣士「扉、ですねぇ……」

ノーム「扉……」


 階段が途切れ、開けた空間に出たと思ったら、目の前に巨大な扉が現れた。
 鉄製のようですっかり錆に覆われ、錠は鎖落ちて僅かに隙間が開いている。

 水音はその向こうから響いているようだ。


旅人「どうしようか?」

剣士「開けるしかないと思いますけど」

旅人「だよねぇ。よっ」グイッ


  ギギギギギギィィ……

  パラパラパラ…


旅人「うわっ、埃が錆が!」ペッペッ

ノーム「案 の 定」

旅人「わかってて手ぇ出さなかったなこの野郎」

剣士「あれ?」

旅人「? なしたん?」

剣士「あ、その……妙に明るくないですか?」

旅人「うん? ……あら確かに」


 揃って顔を見合わせ、扉を抜ける。
 短いトンネルと、その先の光に包まれた空間が目に入った。


剣士「……どうします?」

旅人「うーん……」

ノーム「……」


 地下という場所にそぐわない光量に、さすがに足が止まる。
 そも目的は亡霊セイレーンの討伐であり、そういった類の存在が明るい場所にいるとは考えにくい。

 その前提で考えるなら、どこかで道を間違えた可能性が高い。
 ここまで降りて無駄足というのも笑えないけれど、


旅人「とりあえず、行くだけ行ってみようか」

剣士「違ったら夜が明けてしまうかもしれませんよ?」

旅人「いやーでもほら、別に急いでるわけでもないし、気になるじゃない」

剣士「…………そういえばそうですね」


 どうも無意識に急いでしまっていたらしい。
 考えてみれば特に期限を言われたわけでも、危機的状況というわけでもない。

 折角ここまで来たのだし、探索してみるのも悪くないだろう。
 そう結論付けて同意を示すと、オーマさんは少しテンション高めに歩き出した。私とノーム君はその後を追う。

旅人「う……ゎ……」


 トンネルを抜けた先に広がった景色に、私達は言葉を失った。


  ┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛……


旅人「滝、つーかもはや水柱!?」

剣士「え、なんですか、聞こえません!!」

ノーム(……耳が痛い)


 まず視界に入ったのは、空間の中心を落ちる巨大な水の柱。

 正直うるさすぎてまともに会話が成り立たない。

 上も下も予想以上に高く深く、天井は何か光源があるのか光っており、底はぼんやりとしか見えないものの湖があるようだ。

 また、高低差のためか水柱の外周が途中で霧となってしまっているらしい。

 それでも水面を打つ音がここまで聞こえるあたり、想像以上の量の水が流れ落ちているのだろう。


旅人「剣士君、なんかこの状況で会話できる魔法とかない!?」

剣士「だから聞こえませんって!!」

ノーム『もう面倒だから念話使いましょうよこれ』

剣士「ほぁっ!?」

旅人『あ、これがあったか』ポン

剣士「うわなんですかこれ頭の中に直にお二人の声が!?」ワタワタ

旅人『おお、久々の新鮮な反応』

ノーム『戯言抜かしてないでさっさと使い方教えてあげて下さい』

剣士「ノーム君が流暢に喋ってる!?」ガビーン

ノーム『元々使ってる言語が違うんで普通に喋るとどうやっても片言気味になるんですよ』ハァ…

剣士「しかもなんかこっちの声聞こえてるっぽい……」

旅人『チャンネルオープンでテレパシー使ってるからねぇ。人の多い所で使うと頭痛で大惨事さ!』キリッ

ノーム『ウザい』ゲシッ

旅人『あだっ! 蹴ることなくない!?』

ノーム『いいからさっさと使い方教えてやれよこのウスノロ、蹴り落とすぞ』

旅人『やだこの子超口悪い! 普段の丁寧な態度はどこに!?』

剣士「いや普段から似たような扱いのような……」

旅人『そういえばそうだね』

ノーム『早くしろっつーの』


 結局私がテレパシーを教わったのはそれから十分後になった。


  ~水底の廃都~



 改めて空洞内を見回す。

 目算で直径2kmはありそうな円筒形の巨大な空間と、中心を落ちる水柱。

 それを囲む形で、ところどころから突き出した足場の上や外壁に無数の建造物が建っている。

 空洞の上3分の1ほどの壁面と天井にはびっしりと苔のようなものが生い茂っており、それが強い光を放っているため、非常に明るい。


旅人「あれはマヒカリゴケだねぇ。とっくの昔に化石しか出なくなったとか聞いたんだけど」

剣士「よく御存知ですね」

旅人「ちょっと知り合いに植物とか詳しいのがいてさ。確か、光合成なしで酸素を作れる人造された苔で、何故だかずーっと光りっぱなしなんだって」

剣士「情報がものすごく中途半端なんですがそれは」

ノーム「先文明時代の産物だから仕方ないでしょう」

剣士「ってことは、千年以上前ってことですか……」

旅人「そうすると、ここもそのくらい前の街ってことになるのかなぁ」


 外壁に沿ってくるりと下る緩やかな階段を歩きながら、人の姿の見えない町並みを見下ろす。

 殆どの建造物は苔や蔦に覆われ崩れ落ち、形を保っているものもいつ崩れてもおかしくない有り様だ。

 人の手を離れてかなりの時間が経っていることが容易に想像できる。


旅人「こう、不謹慎だけどさ」

剣士「はい?」

旅人「なんかこれだけ見事な廃墟があると、ちょっとワクワクするよね」

剣士「…………」


 ……ちょっと共感してしまった。


剣士「でも、住んでいた人達はどうなったんでしょうか」

旅人「そりゃ、外に出たんじゃない? 上への道は繋がってたわけだし」

旅人「なんでここに引っ込んでたのかまではわかんないけどさ」

剣士「うーん……」


 仮にここが先文明終期に作られた場所だとするなら、恐らく戦禍を逃れるためのものだろうとは予想できる。

 それがどんな技術によって成し遂げられたのかは見当もつかないけれど、少なくともここで人々が暮らしていたことは間違いないんだろう。


旅人「っと、街に出たねぇ」


 階段が途切れ、代わりに外壁から水平に突き出した広い足場がぐるりと回る。

 ここから下は似たような構造の階層が底まで続いているらしく、よく見ると足場の裏面(下から見れば天井になる部分)にもマヒカリゴケが茂っているようだ。

 下の方には水田や畑だったと思われる場所も見えた。しかし、今ではすっかり植物に埋め尽くされてしまっている。


旅人「やっぱ誰もいないか。白骨とかも転がってないね」

剣士「しれっとホラーなこと言わないで下さい」


 朽ち果てた街並みを見回しながら、下へ降りる階段を探して歩く。

 オーマさんが途中で壺や樽の中を覗き込んで回っていたのは全力で無視。何か入っていても使い物にならないでしょうに……。

 それから一時間近く歩き、最下層まで辿り着くと、周囲の光景が一変した。

 まず、建造物が全て壊れ、一切形を遺していない。そこはただ平らなだけの開けた空間だった。

 中央の水柱の下は広い湖で、底が見えないほど深い。

 しかも水が溢れることもなく、ただ無尽蔵に落ちてくる水を受け止めているようだ。

 不思議さと不自然さが相まって、いっそ不気味だ。


旅人「……なんか、どうも一度水没してるっぽいね、ここ」

剣士「水没ですか?」

旅人「ほら、階段の上のほうまで苔が生えてるし、水草が生えてたっぽい痕跡もあるし」

旅人「後は、湖の周りに建物の残骸っぽいのがあるけど……ちょっと量が足りない気がするのが引っかかるかな」

剣士「…………」


 瓦礫を見回す。

 円柱形の石造りの柱や、屋根と思われるものの破片。

 湖の外縁に柱の根本がかろうじて残ってはいるけれど、横たわる柱がとても大きいことと屋根がある点を見ると、ただ湖を囲んでいたとは考えにくい。

 なにより石畳が抉り取られたかのように崩れ、湖に飲み込まれている。

 ……つまり、そういうことなんだろう。


剣士「この水柱は意図したものじゃなかったってことですか」

旅人「たぶんね。推測だけど、この真ん中にあった建物がこの街の中心だったんじゃないかなぁ」


 原因までは想像もつかないけれど、

 きっとこの街はそれが決定打となって崩壊したんだろう。

 考えてみればそうおかしくもないのかもしれない。上は海で、下はおそらく空洞か、未知の地下水脈か。

 どんな技術で作り上げたにせよ、地面を掘った以上は土を掻き出すための道があったはずだ。

 もしかしたらそれがちょうど天井の真ん中で、その綻びから海水が流れ込むようになり、この水底の街を襲ったのかもしれない。

 そのうちに水柱が底を打ち貫いて水が抜けるようになり、再びここが立ち入れるようになるまでそれほど時間はかからなかったんだろう。

 海の底にありながら、未だ水没していない理由まではさすがにわからないけれど……。


旅人「うーん……これ以上は何もなさそうかなぁ」

剣士「そうですね、戻りましょうか」

旅人「そろそろ朝になりそう?」

剣士「結構歩きましたからね……えっと時計時計……」ゴソゴソ


  ── ゴ ゴン …


ノーム「……?」

旅人「? どったのノーム君」

ノーム「いえ、何か重い音がしたような気が」

旅人「この状況でよく聞こえるね」


 耳栓をしてテレパシーで会話しているのでわかりにくいものの、ここでは打ち付ける水の音が激しすぎて完全に他の音が聞こえない。

 栓を外したら多分鼓膜が破れる。そのくらいうるさいのだ。

 仮にそんな音がしても聞き取れるとは思えない。

 しかし、何故だかひどく危険な予感がした。



 何気なく、本当に何気なく、天井を仰ぐ。

 光の中心から流れ落ちる、あまりに巨大な水柱。



 その中に、ふと、黒い影が映った。



 黒い影は水流よりもなお早く落ちてくる。

 つまり、こっちに向かって来ているのだと理解するのに、数秒。



 それが間近に迫った時、強烈な悪寒が全身を駆け巡り、事態の急変を知らせた。



剣士「二人とも、早く上へ!!」

旅人「へ?」

剣士「とにかくはや──」



 水煙がいっそう高く上がる。

 湖の水が瞬間的に溢れ、津波のように押し寄せてくる。

 その勢いは速い。


剣士(呑み込まれる──!)


 階段は遠い。間に合わない。

 咄嗟の判断で剣を地面に深く突き立て、近くにいたオーマさんと共に流されないようしがみつく。

 体をできるだけ伏せ、水の勢いを受け流せるように姿勢を整えた直後、衝撃が全身を襲った。


剣士(く……っ!)


 流されかけたオーマさんが私の体にしがみつき直し、腕にかかる負担が増す。

 水の量が多すぎる。ここから想定できる最悪の展開は……、


剣士(一度流れが途切れるまでに何か考えないと!)


 周囲は囲まれている。

 外に押し出された水が行き場を失えば、次にどこに向かうかは考えるまでもない。

 しかもこの水の量なら、疲弊した状態では間違いなく引きずり込まれる。

 どうする、どうすればいい?

 瞬間的に思考が加速し、記憶がフラッシュバックする。


剣士(ッ! これだ!!)


 ふと自分の持ち物と、この場所との繋がりが閃きを呼んだ。

剣士(水に行き場がないなら──!)


 行き場を作ってやればいい──!



 勢いが弱まった隙に剣から片手を離し、自分の腰を弄る。

 よかった、流されていなかった。

 口と片手で紐を解く。

 本来の使い方とは違うけれど、非常事態である以上は四の五の言っていられない。

 それは小さな袋。

 無限に物を収納できる、世界でも希少な魔法の袋。


剣士(これで水を……吸い込む!)


 口を開く。

 その途端、水の動きが変わり、袋の中に向かって一気に流れ込み出した。



  ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ……!!



 ……十数秒後、周囲からは水が消え、私とオーマさんはようやく息をついた。


剣士「はぁぁ……危なかった……」ヘナヘナ

旅人「……マジでその袋どうなってんのさ」

剣士「……実のところ自分も詳しくは知らないんですよね」


 冷静に考えると怖いのでやめておく。


剣士「あっ、ノーム君は……!」


 はっとして周囲に目を向ける。

 しかし、どこにも姿がない。


剣士「探さないと!」

旅人「…………そんな場合じゃないみたいだよ」


 聞きなれない真剣な語調に思わず目線を向けると、オーマさんは湖の中心を睨んでいた。

 その奥から、黒い巨大な影がせり上がってくる。


旅人「ここまで来たのはあながち間違いでもなかったみたいだね」


 やがて、影がその正体を現した。



 多種多様な海洋生物をひとまとめにしたような異形。巨大すぎるその体躯は水柱の勢いを物ともせずに浮かび上がる。

 その頂点には、妖艶な女性の姿。


旅人「セイレーンじゃなくて、スキュレーみたいだけど……!!」


 岩となって最期を迎えたとされる海の怪物が、今私達の目の前に存在していた。

レス数少ないけど一旦ここまでで

生存報告です
気付いたら6月とかもうなんなの……

……俺、生きてる?
生きてるよな、うん

一応今週のどこかでは更新できる予定ですというお知らせです



 「キュアアアアアアアアアア……!!」


旅人「うおっち! 耳栓してんのにうるっせぇえ……!!」

剣士「スキュレー……まさか実在するだなんて……!」

旅人「いや今更そこにつっこむの君」オイ

旅人「ドラゴンや精霊がいるんだから、そりゃあスキュレーくらいならいるでしょ」

剣士「あ」


 それはそうだ。


旅人「それにしても──」


 オーマさんと共にスキュレーを見上げる。

 クジラや大王イカ、アンモナイトのような大型の巻貝や珊瑚礁の塊、正体不明の巨大甲殻類などなどなど。

 一見しただけでは最早なんなのかすらわからないほどの塊と化したそれは、ちょっとした砦のような大きさだ。

 というか、


旅人「なんぼなんでもでかすぎでっしゃろがぃ」

剣士「何がどうなったらこんなことになるんでしょうか……」

旅人「船まで呑み込んでるし……いやあれは刺さって取れなくなっただけかな」

剣士「そんなトゲみたいに」

旅人「見た感じ難破船っぽいから、たまたまこいつの棲家に沈んだんじゃないかなぁ」

剣士「はぁ……」



 「キュアアアアアアアアアア……!!」


剣士(……? 上に向かって吼えてる?)

旅人「んー、こっちは眼中になし……というか、そもそも気付いてないっぽいね」

剣士「そういえば、海難事故の原因って」

旅人「違うんじゃない? セイレーンとスキュレーを見間違えるとは思えないし──」


 私達が見守る前で、スキュレーの巨体が動き出す。

 イカの足らしき部位が暴れ出し、水面を叩き、石畳を削り壁面へと叩き付けられる。

 「キュアアアアアアアアアアアアアア……!!」


旅人「……間違えるにしても、こいつならむしろクラーケンとでしょう」

剣士「言ってる場合──うわわわわわ!?」


 衝撃で空洞全体が大きく揺れ、上層から瓦礫が降り注ぐ。

 水勢に抗うように巨体を持ち上げたスキュレーが、空洞内を力尽くで登ろうとしているのだ。


剣士「ちょっと、どうするんですかこれ!?」

旅人「どうもこうも──」


 スキュレーが動くたびに無数の瓦礫が落下し、階層の所々に大きな亀裂が走っていく。


旅人「このままここにいたら生き埋めになるんじゃない?」

剣士「」

剣士「やややヤバいじゃないですかどうするんですかどうするんですかどうするんですかぁああ!!?!?」ガクガク

旅人「ちょ、襟掴んで揺らすのやめっ」カックンカックン

旅人「とりあえず外に出るしかないでしょうや……」オエェ…

剣士「外に、って言っても……」

旅人「それともやりあってみる? 多分勝てないけど」


 「キュアアアアアアアアアアアアアアア…………!!!!」

  ── ドゴォォォン!! ガラガラガラ……


剣士「逃げましょう」キリッ

旅人「決断早いねぇ。それじゃ」

剣士「急がないと足場がなくなっちゃいますよ、早く!」

旅人「え? うん」

剣士「ってあ! ノーム君!」

旅人「今更!?」

剣士「や、あ、早く探さないと! あと逃げないと! えっと、えっと!!」ワタワタ

旅人「テンパってる所悪いんだけどさ……」



  ピシ……ゴゴゴゴ……!


旅人「さっさとここ動かないと、押し潰されるよ?」

剣士「どぅえええええええええええええ!!?!?」

旅人「ほらもうこっち来て! はい走る!」

剣士「は、はい!」


 強引に空洞内を登っていくスキュレー。

 その触手(?)がそこら中に衝突し、空洞を揺らし、階層が次々と大きく崩れていく。

 それに巻き込まれ、廃墟の街が無残にも破壊されていく。


 ……が、それを気にする余裕はない。


旅人「うわこっち来た! 伏せれ!」

剣士「うきゃあ!?」


 屈んだすぐ上をクジラの尾のようなものが通り過ぎた。


旅人「ヤバいヤバいヤバいかすったかすったかすった!!」

剣士「あわわわわ! 今ので足場が……!」

旅人「全速力ゥゥゥウウウウ!!」

剣士「はいぃぃぃいいいい!!」


 崩壊していく足場を駆け抜け、迫り来る瓦礫を潜り抜け、全速力で上を目指す。

 出口まではまだ遠い。


 乱暴に振り回した触手で全身を引き摺るようにして、スキュレーが空洞内を登っていく。

 そしてその重さと衝撃に耐えきれず、頑強なはずの岩盤に深い亀裂が走り、次々と崩れていく。


旅人「真横から見るとやっぱ異常にでかいなぁ、あれ」

剣士「呑気に眺めてる場合ですか!」

旅人「いやぁ、足場がちょっと悪いくらいなら慣れてるから……あ、そっち崩れかかってるよ」

剣士「っとぉう!?」

旅人「ほらこっちこっち」

剣士「そうは言いますけど、と、とととっ!」

旅人「! 剣士君、右!」

剣士「え」


  ゴ ──

     ズ ドン!!

 ガラガラガラガラ…


旅人「」

旅人(逝ったァー───!?)ゴーン



 「キュォォォー─ン……」


剣士「あ、あばばぶあぶあばば……!」ガクガクブルブル

旅人「あ、生きてた」

剣士「目のっ、目の前を、蟹の爪がずごーんって……あはははは……」カタカタ

旅人「しかし精神的ダメージはきついようだ」

剣士「正直に死んだと思いましたよ!!」

旅人「それは僕もそうだけどね」ウン


      ── ザザザザザザザザ……


旅人「まあ命があるようで何よりだよ。立てる?」

剣士「なんとか……痛っ!」

旅人「ありゃ、ちょっと診せて。……あらら、足首やられたみたいね」

剣士「このくらいなら別に」

旅人「てい」グリッ

剣士「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!?!?」

旅人「無理いくない。とりあえず治──」


 ピシッ ビシビシビシ……


旅人「……す前に逃げようか。上落ちてきそうだし」

剣士「~~~っ、そんなのん気に!」

旅人「よいしょっと」ヒョイッ

剣士「ひょわぉ!?」フワッ


旅人「落とすのやだから暴れないでね、っと!」ダッ!!


 ── ガラガラガラガラ……ズゥゥン…………!


旅人「よっ、ほっ、とう!」

剣士「な、わ、あ、ちょ、うわわわわわ!?」

剣士(おおおお姫様抱っこ!?)

旅人「次々崩れてくなぁ。ちょっと飛ばすよ」

剣士「──はっ!? あ、いや、走ります! 自分で走りますってば!!」

旅人「女の子が無理しようとしないの」

剣士「はぇ!? え、あの──」

旅人「それと黙ってないと舌噛むよ! どぉぉぉぉぉりゃあああああああ!!!!」


 ギュン──、と一気に加速する。その直後、背後にスキュレーの体の末端が足場を抉り飛ばした。

 大きすぎる体を持て余しているのか、スキュレーの進行はそれほど速くはない。

 しかし大きすぎるが故に、その負荷を受ける足場はひび割れ、崩れ、瓦礫となって下層に積もっていく。


旅人「っととと、こっちの階段は無理か」

剣士「こんなほうまで崩れてきてるなんて……」

旅人「まあ別の階段まで行ければ──って、あれ?」

剣士「?」

旅人「……なんか、水面上がってきてない?」

剣士「え」



 ……ザザザザザザザザザザァ……


剣士「…………」

旅人「…………」

剣士「ここ、確か下から三層目ですよね」

旅人「うん、三階」

剣士「湖があったのは一階ですよね」

旅人「確かめるまでもなく」

剣士「…………」

旅人「…………」

剣士「水が上がってきてるっていうことはつまり」

旅人「詰まったってことじゃないかなぁ」


 ── ザアアアアアアアアアア……!!


剣士「つまりこのままいくと」

旅人「まあ、水没するよね」



二人「「……………………」」



二人「「急げええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」





 ──── ゴポッ ……



ノーム(……………………)


 沈んでいく。

 流れに任せ、水の奥底へ落ちていく。

 今頃上はどうなっているだろうか。

 確認することはできるが、面倒だから後にしておこう。

 今はこの下を確かめるのが先だ。

 幸いにして、先程デカブツが落ちてきた際に底の瓦礫が動いたのか、流れが弱まっている。

 この水の流れる先に、一体何があるのか。

 確かめておかなければいけない。

 そして、場合によっては、────……。


ノーム(……と、考えていたのだけれど)

ノーム(これは想定外)


 落ちていく。

 というか、落下している。

 言い換えると空中に投げ出されている。

 トンネルを抜けたら、そこは大空洞。

 冗談のような現実。は、まあ、いいとして。


 ただ異常なのは、

 
ノーム(天井がない。あるいは見えない?)

ノーム(一緒に落ちてきた水は霧……いや、雲になっているし)

ノーム(通ってきた穴も見えない)

ノーム(そして下に見えるのは──)

ノーム「……どうやら、戻った方がいいようですね」ボソッ


 器を放棄する。

 人の姿を失い、ただの土くれとなって崩れ、それはやがて消えるだろう。

 私は土の化身。

 私は大地の欠片。

 ここに在り、ここに無い者。



 意識を切り離す直前、

 視界の端、地の底の空の上、

 雲の海を泳ぐように、一頭の白銀の竜が飛んでいた。

気付いたら2ヶ月って……

すみません色々あって軽い鬱状態でした
とりあえず生存の報告だけさせていただきます

毎度お待たせするばかりで申し訳ありません

迂闊にももう片方のスレを落としてしまった……
>>1自身は生きてます

が、このままズルズルとスレだけを残した状態を続けていても完結まで行くのがいつになるかわかりません
ですので、最初に書いた部分までは進めますがそこで一旦落とさせて下さい
後日両スレとも改めて書き溜め後に建て直しを行います
それこそいつになるかわかりませんが……

不甲斐ない書き手で申し訳ありません
再開は週末の予定です

再開



  ・ ・ ・


旅人「唸れ僕のアキレス腱とかァー───ッ!!」


 走る走る走る。

 滅びた街の隙間を縫うようにして、オーマは剣士を抱えたまま全速力で駆け抜ける。


旅人「──ってぬぉうっふ!?」


  ── ドガァン!!


 しかし、暴れ回るスキュレーの触手が建造物を弾き飛ばし、進路を塞いでしまう。

 寸での所で急停止し踏み止まり、新たに積み上がった瓦礫の山を呆然と見上げた。


旅人「あっぶなぁ……この街丸ごとぶっ壊す気かい」

剣士「オーマさん、こっちの通りが行けそうです!」

旅人「おおっと、よっしゃ!」


 剣士が指差すほうへ進路を変え、再び走り出す。

 お姫様抱っこのままで。


剣士「ってその前に一回下ろしてくださいよ! おぶさりますから!!」 

旅人「だが断る!!」 キリッ

剣士「何故に!?」 ガーン!!

旅人「ノリだ!」

剣士「ノリぃ!?」


 意味不明である。


剣士「! オーマさん、前、前っ!!」

旅人「うぇい? ──ゲェッ、関羽!」

剣士「関羽!?」

旅人「あ、間違えた。足場が崩れきってる!」

剣士「ストップ! ストップですストップですストップですってば!!」

旅人「るっさい! 一か八かじゃあああああああああ!!」


  ── ダンッ!!


剣士「にゃあああああああああああああああああ!!?!?」
旅人「ちょいやああああああああああああああああ!!!!」


 果敢な跳躍。




旅人「──あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
剣士「」


 ……も虚しく、二人は落下した。




 ──かと思いきや、


  ボゴンッ!


旅人「おお、足場が生えた!」

旅人「華麗なる着地!!」


  どずん!!


旅人「」 ビリビリビリ...

足 < ォ ォ ォ ォ ォ ォ ... !!

腰 < ノ ォ ォ ォ ォ ォ ... !!

旅人「──っぶはぁ!! こ、あ、足腰が……っ!」

剣士「……はっ! 賽の河原!?」

旅人「いや死んでない死んでないから」

ノーム「何してんですか全く」

剣士「あ、ノーム君」

旅人「ナイスフォロー」 イェーイ

ノーム「さっさと上がって下さい。置いていきますよ」

剣士「いつの間に先回りを……」


旅人「んや、彼はほら精霊だから何処からでも出てこれんのよね」

ノーム「地面とつながっている場所で土があれば、ですけど」

剣士「なにそれずるい」

ノーム「というか何をわざわざ逃げて回ってんですか」

剣士「だってこのままだと生き埋めですしあんなの倒せませんし逃げるしかないじゃないですか!」

旅人「えっ?」

剣士「えっ?」

ノーム「……」

ノーム「脱出魔法は?」

剣士「……」

剣士「あっ」 ハッ

旅人「単に忘れてただけなのね……」

剣士「気付いてたなら言って下さいよもぉおお!!」

旅人「いやぁ、何か考えやら理由やらあるもんだと思ってて」


「キュアアァァァァァァァァァ……!」


旅人「ってうわやばこっち来た!」

ノーム「慌てんなハゲ」

旅人「ハゲではないよ!?」

剣士「言い合ってる場合ですか!?」


 懸念を余所に、スキュレーの巨体が三人の目の前を通り過ぎ、上層へと上がっていく。

 こちらに気付く様子はない。


剣士「気付かれなかった、んですかね」

旅人「そういえばなんかひたすら登ってるだけだよねあれ」

ノーム「海に戻ろうとしてるんですよ」

旅人「あー、そっかここ海の下なんだよね。忘れてた」

剣士「ってことは誤って落ちてきたと?」

ノーム「いや──」




 その時、空洞の天井部分に突如大きな亀裂が走った。




「──ギュォアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 怪物が咆哮を上げる。

 天井が砕け、崩落する。

 大量の海水と共に崩れた岩盤が落下し、


ノーム「──事故じゃない。叩き落されたんですよ」


 降り注ぐ濁流の奥に、また別の影がその目を光らせていた。




 歌が、聴こえた。




久々なのに分割して5レスという…
続きはまた次回に

生存の報告
日曜日に書けたらいいなぁ…

休日が逃げた

生存のお報せ、です
生きてたらこの書き込みが適用されてるはず…
待たせてばかりですみません

最初期の速力は一体何処へ消えてしまったのだろう……

またも一ヶ月……しかし今回の一ヶ月はちょっと違う

なんかこのスレ一番下にあるらしいので、折角なので上げずに行きますがまあ問題はないですよね
早くて今日中、遅くて明日投下になります

可能なら区切り所まで一気に終わらせるつもりです
といっても量的には大したものでもないのですが……。


剣士「オーマさん、あれって……!」

旅人「流石にこれは予想外」アララ…

ノーム「今更ですが、セイレーンのお出ましですね」

旅人「半人半鳥……ハルピュイア型ってことはかなり古い個体だねぇ」

剣士「しみじみ言ってる場合じゃないですよ! どうするんですか!?」

旅人「どうしよう? というかどうすればいいの?」

ノーム「目的は彼女を鎮めることなんですが、大分トサカにきてるみたいですね」

旅人「それってやっぱスキュレーのせい?」

ノーム「おそらくは」

剣士「ええええええ……それじゃやっぱりあれと戦うんですか!? 無理ですよ流石に!」

旅人「うーん……どうしたもんやら」

ノーム「それより水、足下まで来てますよ」

剣士「うひゃあっ!?」ギュウッ

旅人「ちょっ、腕絞めないで首がバランスがっ!」

ノーム「…………」

旅人「そのシンクにこびりついたしつこい汚れを睨む主婦のような視線はやめて」

剣士「どんな目ですかそれ!?」

旅人「っていうか一回下ろしていい? そろそろ腕がヤバい」

剣士「あ、はい」

ノーム「……あ」


旅人「うん?」

ノーム「ちょっともう逃げないと死にますねこれ」

剣士「えっ?」


 振り返ると、スキュレーの巨体が宙を舞ってこちらに迫っていた。


スキュレー「ギュアアアアア────!!」

剣士「んなああああっ!?」

旅人「ノーム君!」

ノーム「はいはい」


 それに狼狽えもせず、ノームが手のひらを地面に押し付ける。


  ドンッ!!


 そしてその直後、足下から巨大な石柱が猛烈な勢いで伸び、スキュレーに直撃した。

 が、


ノーム「あ、駄目ですね折れます」


 スキュレーの全体重を受け止めた石柱は彼女の勢いを殺しきれず、ベキベキと音を立てて粉砕していく。

 さらに悪いことに、石柱によって負荷が一点に集中したことによって、足場にも大きく亀裂が走った。


旅人「剣士君こっち!」グイッ

剣士「わわわっ、は、はいぃ!!」

ノーム「もうこのまま落とした方が早そうですね」

旅人「君冷静だなぁ!!」

ノーム「いいからさっさと脱出して下さい。時間稼ぎ程度ならできます」

剣士「で、でもセイレーンは……」

ノーム「事態が事態ですので後で考えましょう。……おっと」


 スキュレーに巻き込まれる形で、ノームの目の前の地面が崩れる。

 それを追うように、上方から閃光が放たれた。


セイレーン「──♯──♭────♪──」

ノーム「歌声を集束させた音波振動砲ですか……余程腹を立てているようですね」


 閃光の直撃を受け、スキュレーの巨体が水中に沈む。

 その勢いで波が高く上がり、三人に迫った。


旅人「ノーム君!」

ノーム「足場を上げます! 動かないで!」

剣士「え、うわっ!」


 地面がせり上がり、三人を水面から引き離す。


ノーム「早く! 脱出魔法を!」

剣士「っ、わかりました! オーマさん、掴まって下さい!」

旅人「へい!」ガシッ


  むにゅん


剣士「ふひぇ!?」

旅人「おお、想像以上のボリューム」モミモミ

剣士「ひ、にゃ、や!」ワタワタ

ノーム「……」シュッ


  どごぉっ!


旅人「バルサンッ!」ズシャァァァァァァァァァッ!!

ノーム「後でやれ馬鹿」フー…

剣士「後でもやめて下さいよっ!!」ゼー、ゼー、…

剣士「っていうかオーマさんいつから私が女だって気付いてたんですか!?」

旅人「え? 最初からだけど」

剣士「なんですと!?」

ノーム「二人とももう一発ずつ殴りましょうか?」

旅人「ごめんやめて。今の姿だと結構痛い」

ノーム「全く……」ハァ…


剣士「と、とにかく行きます! オーマさん、手を!」

旅人「はいはいー」ギュッ

剣士「『脱出』!!」


  ──しかし何も起こらなかった。


剣士「あ、あれ……」

旅人「なしたん?」

剣士「もう一度……『脱出』っ!!」


  ──しかし何も起こらなかった。


剣士「な……なんで……!?」

旅人「え、まさか不発?」

ノーム「……しまった」

旅人「?」

ノーム「セイレーンの歌声のせいです。彼女の声は魔力を拡散させてしまう」


 スキュレーは水中に身を潜めたまま、水面から無数の触手を延ばし、セイレーンを攻撃している。

 それらを迎撃するために、セイレーンは空洞内を飛翔し、閃光を幾度も放つ。

 時に閃光に穿たれた触手の破片が飛び、時に逸れた閃光が空洞内の足場や建造物を容赦なく吹き飛ばした。


旅人「それじゃどうすりゃいいのさ……」


ノーム「セイレーンの声の届かないところまで、逃げるしかないですね」

剣士「ノーム君の力で壁に穴を開けたりはできないんですか?」

ノーム「……」フルフル

ノーム「足場を作る程度ならできますが、そこまで干渉する権限は私には与えられていません」

剣士「干渉……権限?」

旅人「よくわかんないけど無理ってことか。そうなると……」


 見上げる。

 その視線の先にあるのは、


旅人「あそこまで行くしかないわけだ」

ノーム「そういうことです」

剣士「え……ええ!? この戦いの中を突っ切ってですか!?」


 水中から砲弾が飛ぶ。恐らくはスキュレーに取り込まれた船に積まれていたものだろう。

 その一つがセイレーンの翼を掠め、わずかに姿勢を崩したところに巨大な吸盤だらけの触手が叩きつけられる。


旅人「おわっ! やられた!?」


 しかし、水面に叩きつけられる直前で身を翻し空中へと逃れ、水中に向けて閃光を放った。

 閃光を避けるように水に穴が開き、スキュレー本体へと直撃する。


スキュレー「ギュオオオオオオオオオオオ!!!!」


 悲鳴を上げ、スキュレーがその身を晒す。

 同化したクジラの胴体に風穴が開き、大量の血が水面を濡らした。

 頂点に在る女性の表情は芳しくない。

 しかし、その瞳は赤く怪しく輝いている。


ノーム「とにかく上を目指します。掴まって!」

旅人「よしきた!」

剣士「……!」


 地面を隆起させ、上層階へと昇る。

 目指す先は未だ遠い。


 その一方で、セイレーンの閃光がスキュレーの頂点へと放たれた。


セイレーン「────♪──♭────♪──♭────♪──♯──」


 だが、


  ──バキィィィィン!!


 直撃すると思われたそれは、寸前で何かに阻まれ、届かない。


旅人「障壁!?」

剣士「まさか……いくら伝説の魔物だからって」


ノーム「彼女も元は人間です。魔法を用いる知性程度は残っているでしょう」

旅人「あっ、そうか! 人間が呪いで怪物になったのがスキュレーなんだ!」

剣士「そんな……」


 ノームの言葉を裏付けるように、スキュレーの周囲に魔法陣が浮かぶ。

 しかしそれらは霧散し、発動には至らない。


旅人「……無条件に使えるわけじゃないのか」

ノーム「単純な障壁は体内の回路だけで発動可能ですから」

剣士「でも、これってもしかして、セイレーンのほうが不利なんじゃ……」


 剣士の認識は正しい。

 相手の魔法を封じ、閃光で攻撃を仕掛けるセイレーンに対し、スキュレーは巨体に有する生物や物体の能力を利用する。

 魔法を使えないようにはできても、単純にスキュレーのほうが巨大だ。先程までは閃光が通じていたからこそ勝機があったが……。


 触手がセイレーンを狙う。セイレーンはそれを迎え撃とうと閃光を放つ。

 が、そこにも障壁が張られており、食い止められない。

 やむなく上空へと退避するセイレーンを追い、スキュレーの巨体がまたも空洞内を這い登る。


剣士「なんとか助けられないんですか!?」

ノーム「言葉は悪いですが、今は貴方達が邪魔です」

旅人「つまりノーム君ならなんとなできるわけか」


ノーム「とはいえよくて生き埋めにする程度です。倒すまでは流石に……」

剣士「それでも相当だと思いますけど……」


 会話を交わしながらも、着々と上層階へと昇っていく。

 既にスキュレーからは大分離れはしたが、水もまた恐ろしい速度で迫っている。

 立ち止まる暇はない。


ノーム「……っ、…………」ハァ…ハァ…

旅人「ノーム君、大丈夫?」

ノーム「とりあえずは。次が最上階層です、行きましょう」

剣士「ノーム君……」


 地面がせり上がり、三人を最上階層へと運ぶ。

 今やスキュレーとセイレーンを見下ろす高さだ。


ノーム「……出口は反対側ですか。今地面を…………」フラッ

剣士「っ、ノーム君!」

旅人「ちょっ、大丈夫じゃないじゃん!? うわ何この熱、あっつ!!」

ノーム「問題ありません……お二人を運ぶまでは……」グ…


 そう言ったノームの足首が、ぼろり、と砕け落ちる。


ノーム「っ、まだ、この程度なら……」


剣士「────」

剣士「オーマさん、ノーム君を背負って下さい」

旅人「了解! よっと」ヒョイッ

ノーム「私なら平気です……」

旅人「何言ってんの、魔力使い切って消滅する気? あとは昇るだけなんだから休んどきなよ」

ノーム「…………すみません……」

剣士「急ぎましょう!」

旅人「あいよっ!」


 駆け出す。階段までは比較的近いものの、廃墟を抜け外壁まで行かねばならない。

 そこから外壁をぐるりと回る階段を上っていかなければ、出口には辿り着けないのだ。


旅人「剣士君、足は?」

剣士「なんとか走れるくらいです」

旅人「無理だけはしないようにね」

剣士「はいっ」


 ──セイレーンの体が宙を舞う。

 飛んだのではなく、弾き飛ばされて。


セイレーン「────ッ!!」

スキュレー「ギュアアアアアアアアア!!」


剣士「! セイレーンが!」

ノーム「……オーマさん、壁際に」

旅人「駄目だよ」

ノーム「しかし……」

旅人「君は今は回復優先。今無暗に力を使うべきじゃない」


 追撃とばかりに大砲が轟音を上げるが、セイレーンはそれを紙一重で躱し、飛翔する。

 しばし砲撃が続いたものの、砲弾が尽きたのかスキュレーは触手を振り回し始めた。

 対するセイレーンはスキュレー本体ではなく、しがみついている足場を狙って閃光を放つ。

 衝撃と荷重で足場が崩壊し、再びスキュレーの巨体が水中に沈んだ。


 その一方で旅人はノームを背負ったまま、剣士を伴って階段を駆け始める。

 視野が開け、視点が高くなったことにより、空洞中心部で戦う二体の怪物の姿をはっきりと捉えることができるようになった。


旅人「改めて見てもデカすぎるなありゃ……一体何年生きてるんだか」


 スキュレーの体長は100mを超えている。対するセイレーンは人間の大人とさほど変わらない程度の大きさでしかない。

 見ると、スキュレーの体に瓦礫が取り込まれている箇所もあった。どうやら、今もなお肥大化を続けているらしい。


旅人(ノーム君が回復したとして、生き埋めにする程度でなんとかなるのか……?)


 最悪それすらも取り込んで、さらに巨大に成長する可能性すらある。

 思考しながら、オーマは腰に携えた妖刀のことを思い出した。


旅人(他に可能性があるとしたら、これか……)


 けれど、それは正真正銘の最後の手段だ。

 柄に触れる、ただそれだけでも、そこにある呪いを強く感じる。

 真名を、『昏鉄守 鬼切(クレカネノカミ・キキリ)』。

 山神とも呼ばれた、黒鉄竜という魔獣の角から鍛え上げたという、旧世界の遺物。

 元は誰かを守る為に作られ、そして今は──。


スキュレー「キュオォォォォォ────……!!」

剣士「あっ!!」


 スキュレーの触手のひとつ──魚のヒレに似た形の何かが、セイレーンに接近する。


セイレーン「──♪────♭──♯──」


 それに対し、セイレーンは衝突する寸前で閃光を放ち、迎え撃った。


  パキィィィィン!!


 ──ガラスが砕けるような音が響き、ヒレが閃光に切り裂かれる。


剣士「通じた!?」

旅人「っ、そうか! 障壁と体の間にはほんの少し隙間があるはずなんだ!」

旅人「剣士君、ノーム君を頼む!」


ノーム「何をするつもりですか?」

旅人「走り回っててすっかり忘れてたけど、これ、まだ消えてないんだよ」


 そう言ってオーマが手にして見せたのは、光球だった。


旅人「必殺ぅぅ……大リーグボールゼロ号!!」


 構え、投げる。狙うはスキュレーの頂点に在る、怪物の元となった女性。

 ヒレを千切られ、わずかに動きを止めていたその正面に光球が届き、


旅人「『emit』!!」


 瞬間、光が爆発した。

 エミットスペルは魔法の解除コードを事前に登録しておく技術であるため、魔力のやり取りを必要としない。

 また、セイレーンの魔法無効化はあくまで発動を阻害するものであり、既に起動している魔法を無効化することはない。

 以上の条件により、オーマの閃きは成功。

 スキュレーに、一瞬とはいえ、大きな隙ができた。


 それを見逃さず、セイレーンがスキュレーに取りつく。


セイレーン「──♯───♪──♭────」


 そして、閃光。

 気付いたスキュレーが障壁を張るも、ゼロ距離での攻撃を防ぐことはできず、その巨体を大きく切り裂かれた。


スキュレー「────!!」


 声にならない悲鳴をあげ、倒れる。空洞が揺れる。


旅人「ぃよしっ! 今の隙に急ごう!」

剣士「はい!」


 再びノームを背負い、駆け出す。

 倒れながらもスキュレーはセイレーンを振り払おうと触手を振り回し、

 セイレーンは距離を離されまいと鳥のそれに似た足でスキュレーを掴む。

 三度ゼロ距離の閃光。

 不利を悟ったスキュレーが、穿たれ傷付きながらもセイレーンを逆に捕らえ、押し潰そうと触手を伸ばす。


旅人「剣士君!!」

剣士「はあぁ──っ!!」


 剣士が光球を投擲する。


剣士「『emit』!!」


 次いで、爆発。

 再び視界を奪われたスキュレーの隙を突き、セイレーンが攻撃を躱す。


剣士「ノーム君の分は!?」

ノーム「すみません、前の体を放棄してしまったので……」

旅人「ないものねだりはしても仕方ない、とにかく上へ!」


 四度、ゼロ距離の閃光がスキュレーの巨体を刻む。

 それでもなお巨大な体が、セイレーンを捕らえようと乱暴に振り回される。

 切り刻まれてなお、いや、むしろ、その動きは速くなっているように見えた。

 強引に引き剥がされ、セイレーンの体が壁面に叩きつけられる。

 それを追い、スキュレーが突進する。


旅人「くそっ、何か他に──そうだ! 剣士君、袋!」

剣士「あっ! はい!」


 袋を取り出し、紐を解く。


剣士「うわっ!?」


 途端に噴き出した大量の水が、スキュレーへと凄まじい勢いで直撃した。

 突然降ってきた水に驚いてか、スキュレーの意識がオーマ達へと向けられる。


旅人「こっちを向いた……やばいかな」

剣士「とっとっと……! 痛っ!」ズキッ

旅人「! 剣士君!」


 よろけながら袋を閉じた剣士がうずくまり、足首を押さえる。


旅人「腫れがひどいな……治療もできないし、仕方ない、肩に掴まって!」

剣士「すみません……」

ノーム「オーマさん、危ない!」

旅人「へ? ──どわっ!?」


  ドゴォン!! ゴォン!!


 瓦礫片が壁面に突き刺さり、ガラガラと砕けて崩れる。

 見ると、スキュレーが三人に向けて、取り込んだ瓦礫を砲弾のように射出してきていた。


旅人「なんでもありかよあいつ……! くそっ」


 ノームを背負い、剣士を支え、階段を上る。

 出口までの距離が、見た目以上に遠い。

 しかも標的を変えたのか、スキュレーが壁面に触手を突き立てながら、強引に三人の元へと登ってこようとしていた。


旅人「マジかよ、セイレーンは……!?」


 動かない。

 気を失っているのか、それとも……。


旅人「剣士君、しっかり!」

剣士「すみません……」

旅人「これ以上謝るのはなし!」

ノーム「私を下ろして二人で逃げて下さい。私には、変わりがいくらでも」

旅人「嫌だ!!」


 叫んだ。


旅人「ヤバいってのはわかってる! でも、だからって仲間を犠牲にするのはもうたくさんだ!!」

旅人「僕はもう、二度と誰も犠牲にしない……絶対に……!!」

剣士「……オーマさん……?」

ノーム「…………」


 瓦礫が舞う。

 触手が襲い掛かる。

 負荷を受けた壁面に亀裂が走り、階段が所々崩れかかる。

 出口まではあとわずか。

 ほんの少し走れば届く距離で──。


スキュレー「ギュアアアアアアアアア!!!!」


 五度、閃光がスキュレーを貫いた。


ノーム「セイレーン!」


 退路を断とうと振り下ろされかけた触手が貫かれ、千切れ落ちる。

 またもスキュレーに取りついたセイレーンは、しかし、見るからに満身創痍だ。

 取りつきはしたものの、触手諸共壁面に叩きつけられ、その身が壁に深くめり込む。

 走った亀裂が、階段まで届く。

 三人の立つちょうど真下まで。


剣士「きゃあっ!」

旅人「おあっ! 剣士君!!」


 そして、崩れた。

 旅人の手から剣士がするりと抜け落ちる。

 互いに手を伸ばすも、届かない。


剣士(あ、これ、死──)


 その真下に、スキュレーはいた。

 同化した巨大な生物の口を開き、まるで餌が落ちてくるのを待っているかのように。



 すり抜けた手、

 落ちていく仲間を見て──、











旅人「────あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」



 旅人は、刀を抜いた。




























 



   :
   :
   :


旅人「オレサマオマエマルカジリィイイイイ!?」ガバッ!!

ノーム「やかましい」ゴンッ

旅人「アルフッ! いっつぁ~……!」

剣士「あっ! オーマさん、起きたんですね!」

旅人「えー、そりゃ起きるよ寝起きの良さだけが僕の数少ない取り柄だもの……いたたた……」

剣士「身体が痛むんですか? どこかまだ怪我を……」

旅人「いやこれは今さっきノーム君にアゴぶん殴られただけ……まだ?」

剣士「……覚えてないんですか?」

旅人「えーっと? ……あれ?」キョロキョロ

旅人「……ここどこ?」

ノーム「海ノ都の領主別邸ですよ。地下から脱出して、無事帰ってきたんです」

旅人「地下? 地下かー、ふむふむ、地下ね……」

旅人「……………………」

剣士「……?」

旅人「セイレーンは!?」バッ

剣士「うひゃあっ!? 急に大声出さないで下さいよ!」

旅人「おっと、めんごめんご。つか剣士君、無事だったんだね。よかったよかった」


剣士「あ、はい。オーマさんがスキュレーを倒してくれたお陰で……」

旅人「…………はい?」

旅人「倒したの? あれを? 僕が?」

剣士「えっ、はい。なんだかこう、一瞬のことでよくわからなかったんですけど、ズバァンッ! と一太刀で……」

旅人「……剣士君が落ちたところから記憶がないんだけど」

ノーム「まあ、相当な無茶をしたようでしたから、仕方ないでしょうね」

旅人「よくわかんないけど、丸く収まった感じ?」

ノーム「一応は。あの地下の空間は水没しましたが、セイレーンは無事に棲家へと帰って行きました」

旅人「ならまあ、一件落着、でいいのかな?」

ドリアード「その通りでござーい!」バターン!!

ドア < ベキンッ!!

ドリアード「あ、力入れすぎた」

ノーム「何してんですか貴女……」

ドリアード「ん? ほら、許可証発行したからそれ届けにきただけなんだけどさ。あとセイレーン助けてもらったからお礼しに」

剣士「……悪い亡霊だとか邪魔だとか言ってませんでした?」

ドリアード「覚えていませんなぁ!!」

剣士「言い切った!?」

旅人「まあよくよく思い出したら途中で完全にセイレーンの味方になってたけどね僕らも」

ドリアード「って言っても実際暴れられると邪魔なんだけどもね。大人しく仕事しててくれりゃありがたい存在だから微妙っちゃ微妙?」

剣士「結局助けるのが正解だったんですか?」


ドリアード「理想の結果でっせー。ま、ノームがいるからそうそうブッ殺☆したりはしないとは思ってたけど」

旅人「そのセイレーンは?」

ドリアード「霊宿で寝てますよ。今回たまたま厄介なのが領海に入り込んだせいで荒れてただけで、基本的に大人しい子ですし」

剣士「そういえば、一昨日見に行った時にはいなかったみたいですけど」

ドリアード「仕事してたんじゃない? 一応近海の主だからねー」

旅人「……ん? 一昨日?」

剣士「あ。オーマさん、三日間も寝込んでたんですよ」

旅人「あらま」

ドリアード「リアクションうっすぅ~」

旅人「正直疲れたからねぇ……」

ノーム「ドリアード、本題」

ドリアード「あ、そうだった」

ドリアード「それでこれが許可証です。これを警備兵に見せれば海ノ都で自由にできます」

ドリアード「ただし、貴方達三人以外を招く場合は事前にこちらへ申請して下さい。紛失しても持ち主以外には使えないようになっていますので、再発行は遠慮なくどうぞ」

旅人「わりとしっかりしてんのね」

ドリアード「でなければ許可証の意味がありませんから。今日にでも出発なさいますか?」

旅人「そうしようかなー、結構お世話になってたみたいだし」

剣士「身体の具合は大丈夫なんですか?」

旅人「アゴ以外はね……」

ノーム「……」フイッ


旅人「そういう剣士君は? 足とか」

剣士「はい。こちらの門番さんに治していただきました。ノーム君とオーマさんの怪我も彼女が」

旅人「そっか、後でお礼言わないと。よっと」スタッ

旅人「んー……ん?」ググッ グリグリ

剣士「?」

旅人「……なんだろう、ちょっと窓開けてもらっていい?」

剣士「え、はい。……?」カチャ キィ…

旅人「んー……せーの」トットット… タタタタタ…

旅人「そいやァッ!!」ダダダダンッ!!

剣士「ちょっ!?」バッ


<ヒィィ──ヤッハァアアアアアアアアアアア!!!!


剣士「」

剣士「すっごい跳んでるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?!?!」

ドリアード「あらら、飛びすぎですねぇ」

ノーム「あの速度と角度だと、海まで行くんじゃないですか?」

剣士「うわあリアクション薄い!? 何でそんな普通のことみたいな反応してんですか!?」

ドリアード「え、そりゃああの方は元の能力なら跳躍だけで大陸の三分の一程度は移動できますし」

剣士「!?」


ノーム「あ。落ちた」

ドリアード「落ちましたねぇ」

ノーム「おお、溺れてる溺れてる」

ドリアード「溺れてますねぇ」

剣士「そんなのん気な!? あわわわわわ……どどどどうしたらどうしたら!!」ワタワタオロオロ

ドリアード「おやセイレーンが」

ノーム「足で足を掴まれて運ばれてますね」

剣士「逆さ吊り!? うわほんとだなんか酷い!!」

セイレーン「──♪────♭──」

旅人「」プラーン…

セイレーン「♪」ポイッ

旅人「すだちっ!」ズベチャッ

旅人「うーん、跳びすぎた」ヨロヨロ

ノーム「おかえり」

旅人「うんただいま。セイレーン、ありがとうね」

セイレーン「♪ ♪」クルクル ヒューン…

旅人「行っちゃった」

剣士「おかえりなさい……今のジャンプどうやったんですか一体……」

旅人「ん? うん。なんか前より体が軽い感じがしたから跳んでみたら跳びすぎちゃって」

剣士「は、はぁ……」


剣士(いや普通そんな跳べるもんじゃないと思うんですけど……!?)

ドリアード「…………」ジリジリ

旅人「どしたのドリアードさん?」

ドリアード「いや貴方おもっきし海水被ってるんでちょっと……」

旅人「あ、そっか。ごめんすぐ着替えるわ」ヌギッ

ドリアード「ぬうぇっ!?」

剣士「ちょおっ待っ!?」ガシッ

旅人「おおぅ?」

ノーム「女二人いる目の前で脱ごうとするんじゃありません!」

旅人「おおっと!!」



   :
   :
   :



旅人「そんじゃ、お世話様でした」

門番「いいえぇ~。またいらしてくださいねぇ~」

ドリアード「特にノームだけでも来てねー♪」

ノーム「断固 拒否」

剣士「あ、テレパシー止めたんだ」

ノーム「ずっと 使うと 疲れる」




警備兵「はい、確かに。ようこそ、海ノ都へ」


  ギギギギギィィィ……


旅人「おおー……」


 重く大きな扉が開くと、目の前に石畳の広い街道が広がる。

 店や露店、行き交う多くの人々で賑わう街並み。


旅人「立派な街だなぁ、さすが最大貿易都市」

警備兵「街道をまっすぐ行けば中央広場に出ます。そこからさらにまっすぐ進むと宿街がありますから、そこで宿をとるといいでしょう」

剣士「ありがとうございます」

警備兵「では、いい商売を」

旅人「いや別に商人じゃないんだけども」

警備兵「ははは、決まり文句みたいなもんなんであんまり気にせんで下さい」

旅人「なるほど」

ノーム「行く」

旅人「だね。まずは宿を決めなきゃ」

剣士「その後は買い物ですね」


旅人「観光もしてみたいなー」

ノーム「ゆっくり 休む」


 三者三様の考えを口にしながら、石畳の道を歩く。


旅人(…………)


 歓談しながらも、その手は腰の妖刀へ。


旅人(あの時──)


 記憶がないと言ったのは、嘘だ。

 妖刀を抜いた瞬間、思考が何かに黒く塗り潰されるのを感じた。

 スキュレーだけを倒せたのは、偶然にすぎない。

 自身が疲弊していたから、それ以上が不可能だっただけだ。

 もしも万全の状態でこれを抜いていたなら──。


旅人(まだまだ問題は山積みってことかね)


 思えば、ノームに導かれて始めたこの旅の目的も、実の所はっきりとはしていない。

 こちらの目的は明確だが、それが果たしてあちらの目的と繋がるのか。

 それに、剣士のこともある。

 正体を隠している以上、何らかのトラブルを抱えているのは間違いない。


旅人(……けどまぁ)

旅人「なるようになるかぁ」

剣士「? 何がですか?」

旅人「いんにゃ、なんでも」


 とりあえず、ひと区切り。

 今はゆっくり休んで……いやさんざ寝てたわけだけども、

 英気を養って、これから先に備えよう。





 続く

待たせてばかりでしたが、ひとまずはここでひと区切り
お待ちいただいた方々、本当にありがとうございます

この先はどうなるかわかりませんが、ある程度修正などした上で結末まで書き溜めての投下か、1エピソード毎でのスレ立てを想定しています
このスレッドはこれで終了です

無事にまた書き上げられたとき、もしも目にすることがあれば、その時はどうぞよろしくお願いいたします

それでは。

現行のものはないです

チマチマとした書き溜めならこのスレの世界が話を広げる余地がかなりあったので、その絡みがありますね
中断してしまったものを入れて5つほどです
具体的には今スレの話と、元スレの後の話、過去編が2つ、それと初代勇者・魔王の物語になります
が、はたしていつ書けるのか……

その他では「マジヤバい」シリーズがあります
息抜きに書いた雑談系のファンタジー要素がほぼ迷子な魔王勇者モノです
SS深夜VIPで2作書いて完結しています
こちらもネタ自体は残っているので、いずれ書くかもしれません
トリップは共通のものを使用しています

それだけですね

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