以前企画スレにて予告させて頂いたものです!
概要説明
安価を使いオリキャラ(主人公)を作製
または他作品のキャラ(主人公)どちらかは後に選択安価だします
そいつを使って万年パシリ京太郎を補佐する
闘牌あり
>>1の麻雀レベルはMJ5にて九段程度のものです
あまり期待はしないでください…
基本地の文(1が台本形式書けないため)
行動安価あり(ほとんど選択肢 稀に自由)
目標:
1:京太郎インターハイ全国個人戦入賞
2:京太郎、彼女GET
上記二つの達成にてクリアとさせていただきます
>>1はss初挑戦です
それなりに見て頂ければ幸いです
説明不足の点があれば問題時事に追記していきたいとおもいます
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1356969692
まずは主人公作成安価です
次の内から数字でお願いします
1:完全オリジナルキャラ
2:田中権左ェ門(兎-野生の闘牌-より)
3:涼樹(麻雀無限会社39ZANKより)
>>1の技量で動かせそうなキャラがこれくらいなんです…
これぐらいしか咲にフィットしそうな他作のキャラが思いつかなかったんです…
アカギや凍牌、鳴きの竜など考えましたが咲って麻雀漫画っていうより超能力闘牌漫画だと理解しているものですから…
他に超能力系で合いそうなのあったら教えて下さい
次回機会があったら採用したいと思います
長々と失礼しました
では安価>>+2で
1
>>5より
主人公は完全オリジナルキャラになりました
オリキャラの名前を決めます
次の内から数字で安価です
1:風見鳥 花月(カザミドリ カゲツ)
2:裏山 竜太郎 (ウラヤマ リュウタロウ)
3:四方院 一郎 (シホウイン イチロウ)
この名前によって主人公の能力が違います
では安価>>+3でお願いします
主人公の名前が決定しました
『裏山 竜太郎』になりました
因みに能力については名前に隠されています(3はわかりにくいか…)
次に主人公のイカサマレベルを設定します
1:イカサマ出来ない
2:そこそこできる
3:一流
4:神(鳥(バード))レベルwwwww
安価は>>+3でお願いします
イカサマレベルは『神レベル』になりました
主人公の設定は終了しました
それでは本編へ行きましょう
安価が必要の際はよろしくお願いします
更新が切れたら寝オチだと思って下さい
「ツモ。裏は…」
黒髪短髪の少年は手牌を晒し
細長い腕を延ばし、細長い指でドラ表示牌を下ろした後
人差し指で裏ドラをひっくり返す
「裏3…3000、6000!」
宣言後、少年は席を立ち
「ありがとうございました」少年は同席している三人に微笑んだ
「決ーっまったー!
インターミドル男子の部
優勝は裏山竜太郎選手!
これで裏山選手は前人未踏のインターミドル三連覇達成だー!」
アナウンスルームではその光景をモニターで確認すると、マイクを握りしめ茶髪の女性アナウンサーは叫んだ
アナウンサーはハイテンションで続ける
「ところで小鍛治プロ
この裏山選手の三連覇という偉業をどのようにみますか?」
彼女から見て右手に座っている小鍛治と呼ばれた黒髪短髪の女性は、彼女のテンションに戸惑いつつも冷静に問いに答える
「そうですね
下馬評でも三連覇は確実と言われていた裏山選手ですが
去年までは放銃率が高く精彩に欠けていましたが今年は大会平均放銃率が9.4%と低く不安要素が無くなったことが大きな要因では無いでしょうか」
さらに、黒髪の女性、小鍛治健夜は続ける
「今年は去年に比べて持ち味だった得点力に加えて、加速力にも磨きがかかっていましたね
今の彼は既にプロレベル…
それもトッププロレベルに達していると言っていいでしょう
そう考えれば今回の優勝は必然に近いと言っていいと思います」
そう評価した小鍛治に対し女性アナウンサー福与恒子は悪戯顔で小鍛治に問いかける
「つまり、『彼を止められるのは現在九冠保持者の私しかいない!』ということですか?」
「そんなこといってないよ!」
小鍛治は予期もせぬ言葉に声を裏返しながら反論するが
「以上!
福与恒子と解説の小鍛治健夜プロでお送りしました
続きまして表彰式の様子を御覧ください!」
福与はそれを流した
インターミドル個人戦から一週間後
裏山は週間雑誌『ウィークリー麻雀TODAY』の取材を受ける為とあるテレビ局の会議室にいた
テレビ局の会議室というのは裏山は取材の三時間後にゴールデンのテレビ対局のゲストとして招かれており
その直前の心境も聞きたいとの事が理由だそうだ
会議室といっても部屋は大きく無く
十五六畳の部屋に一畳の長い机が二つ上から見て正方形を作るように部屋の中央に並び、それに合わせて椅子が二つずつ向き合うように計四つならんでいる
裏山はそのうちの一つに腰掛け鞄を椅子の下に置いた
そして、深くため息をつく、テレビ局に来るのは初めてでは無い
いや初めてインターミドルで優勝した時からちょくちょくテレビ局からオファーはきていたし
二連覇して以降は月に平均2回は様々なテレビ局に顔を出すようになっていた
取材も同じだ
取材をうけた回数はそろそろ三桁に達する頃では無いだろうか…
しかし、その両方を一日にうけるというのは意外にも初めての経験だ
試合の後に取材をうける事など当然あるがそれらは五分から十分程度のものだ
しかしこの手の取材は一時間から二時間は行われる
一つ一つは慣れているがかなり体力を使う
それが連続で来るとなった時の疲労等を考えるとそれなりにくるものがある
そんなことを考えていると部屋の扉が開いた
テレビ局のスタッフに誘導されてそこから姿を覗かせたのは見覚えのある少女だ
長い髪に整った顔、そしてかなり大きなバスト
確か、今年インターミドル個人戦女子の部を優勝した
「始めまして、高遠原中学三年の原村和と申します」
部屋に入って来た少女、原村和は頭を下げた
それを見た裏山は椅子から立ち挨拶する
「ども、裏山竜太郎です」
彼女が此処に現れる事は予め知っていた
何せこの取材は今年インターミドルを優勝した二人に同時に行われるというものだと予め聞いていたからだ
原村が反対側の椅子に手を掛けようとしてるのを見て裏山が声をかける
「多分そっちは取材者が座るだろうから
原村さんはこっちじゃないかな」
裏山は自分の隣の席を指差す
言われると原村は手を引っ込め裏山が指差した席に回り込む
失礼しますというと原村は椅子に座る
「すみません、こういうの慣れてないモノで…」
「いや、別に問題無い」
それ以降会話が途切れた
裏山は彼女について思い出す
たしか、長野の無名校の人でデジタル打ちが得意なプレイヤー
だが、牌譜を見て正直ミスが多く下手だとおもった
が同時に一つ引っ掛かる事があった
能力は 1.ローカル役の花鳥風月 2.裏ドラ 3.国士無双?
バードレベルなら 京太郎にイカサマ教える話になりそうだな
ネット麻雀界にとあるプレイヤーがいる
『のどっち』
正確無比のデジタル打ちでネット麻雀界の頂点に君臨するプレイヤーである
あまりの強さに『運営の用意したプログラム』とまで言われている
裏山はネット麻雀を打たないため直接対局したことはないが牌譜を見たことがある
原村の牌譜からはこの『のどっち』の影が見えかくれしているのだ
名前は似ている
だが根拠と呼べるモノは一切ない
軽い気持ちで裏山は原村に尋ねた
「原村さんって『のどっち』って知ってる?」
原村は虚を衝かれ裏山の顔をみるが
すぐに真顔に戻し答える
「はい?
ええまぁ…
知ってるも何も、私が『のどっち』ですし…」
裏山に衝撃が走る
まさか自白されるとは思わなかった
ネット麻雀のプレイヤーは基本身元を隠したがる傾向がある
回し手を使って徐々に詰めていきそれで判明しなければシロとする手筈だった
「やっぱりそうなんだ…」
「やっぱりと言うのは?」
「いや牌譜が似てるところがあるなと思ってね」
「そうですか」
「もう一つ聞いていいかな?」
「何ですか?」
そうした時一つの疑問が残る
裏山は真剣な顔で尋ねる
「かなり失礼なことを言うけど
君の現実(リアル)のデジタル的打ち筋にはイージーミスがかなり多い
でも、『のどっち』には全くミスが無いんだこの差はなんなのかな?」
問われた原村は少し困った顔をし、少し悩んでから答えた
「それについては少し私も頭を悩ませているんです
何故か自宅のネットで打つ時より、外で打つ時明らかにミスが目に見えて多い事には私も気づいていました
別に緊張していた等の理由では無いと思うのですが…」
なるほど、裏山は思った
確かに自宅、というより居慣れている場所の方がそうでない場所よりリラックスできる。当然だろう
彼女の場合そのリラックスの差が打牌に影響しているのだろう
裏山は合点がいった
「ああ、なるほどね
ごめんね?失礼な事聞いて」
「いえ、事実ですので」
原村が返す、そのタイミングを計らったかのように扉が開く
そこから現れたのは西田とかいったか、ウィークリー麻雀TODAYの女性記者と
髭を生やしたこちらは初見のカメラマンだ
裏山、原村はその姿を確認すると席を立つ
「大変お待たせしました
ウィークリー麻雀TODAYの西田です」
「カメラマンの東野です」
二人は裏山達の反対の席の後ろに立つ
「今日は宜しくね二人とも」
西田が笑顔でいう
「どうも」
と裏山は数㎝頭を下げ
「宜しくお願いします」
原村は深くお辞儀をした
裏山からすれば取材自体は退屈なモノだった
どこかでうけた様な質問を西田がし
どこかで答えた様な答えを裏山が淡々と返し
原村は取材に慣れていないのか初々しく少し悩みながら答え
二人の返答を西田が一々メモし
東野はひたすらカメラを撮影していた
何度か東野のレンズの焦点が原村の胸にいっていたのは気の所為だと思っておくことに裏山はした
そんな退屈な取材の中で裏山にとって少し興味のある質問がされた
「お二人とも今年三年生だけれども進路は希望は既に決定しているのかしら」
考えたことも無かった
確かに中学でそのようなアンケートを取らされたが裏山は第一希望欄に『未定』とだけ書いて提出していた
そろそろ真面目に考えねばなるまいか…
「いえ、まだ特には決めてないですね」
裏山が当然のように最初に答える
もっとも、明らかに取材慣れしていない原村の考える時間を稼ぐために裏山がこのような流れを序盤で作ったのだが
「裏山君の場合、推薦の話がいっぱい来てるんじゃない?」
「まぁ、確かに色んな高校の監督から声はかけて貰ってますけど
そこまで真面目に考えた事も無かったもので…」
裏山は苦笑気味に言う
実際西田の言った通り推薦の話は多くあり
さらに偏差値は60半ばほどある
故に進学先には困らないし
最悪中卒プロデビューというのも面白いのではないだろうか
「それじゃあ、原村さんは?
貴女もインターミドル優勝して声をかけてくる高校もかなりあると思うのだけれど?」
西田は今度は原村に尋ねる
「私は既に決まっています」
何?裏山は耳を疑った
自分と同じ年の原村が明確な進路希望が決まってるだと?
もっとも、夏も終わりを迎えるこの季節進路希望は大方固まっていて当然なのだが
「へえ、聞いてもいいかしら?」
勿論西田は食いつく
原村は頷いた
「私は地元の県立清澄高校に進学希望です」
その言葉に原村を除く三人は硬直した
そして三人は同じことを考える
『清澄高校…どこだ?』
最初に言葉をだしたのは裏山だ
「清澄って今年何処までいったところ?
確かに長野は龍門渕とかいう新星が現れて話題になったけど」
取材者として知らないとは言えないのだろう
困っている西田への助け舟だ
「いえ、ここ数年団体、個人、どちらにも出場していないはずです
麻雀部はあるはずですが…」
原村は表情一つ変えずに答える
「えーと、清澄高校を希望する理由を聞いてもいいかしら?」
今度は西田が尋ねる
原村は今度は一変恥ずかしそうな顔をし何かを言いかけたがやめ、少し悩んでから
「…家から近いんです……」
とだけ答えた
「そっ、そう家から近いのは大切よね」
西田は明らかに『家から近い?無名高校にインターミドル優勝者が?考え直せ!』といいたげだったが
そこは他人がとやかく言える領域ではないので控えた
「それでは、次の質問に移らせてもらうわね
次の質問は…」
それから退屈な時間が再び始まったが裏山が考えていたのは進路、そして先ほどの原村の進路希望についてだ
『家から近い』ではなく
『インターミドル優勝者が無名高校に進学する』ということについてだ
なるほど、面白い!面白い!実に面白い!
メディアが喜びそうなネタだ
例えば原村が清澄に進学し団体でインターハイに出場したとしよう
その場合確実にメディアは原村和の活躍を担ぎ上げるだろう
それが例えいくら良い成績を残していなくてもだ
予選敗退しても同じだ
『原村和善戦するも清澄予選敗退』
等と書き担ぎ上げるだろう
個人戦も同様だ
これが有名校だと話は変わる
有名校の場合有力選手が揃っているだけに一年でレギュラーになれるとは限らない
なってインターハイに出たとしても正直インパクトに欠ける
面白い事は大事な事だ
裏山はそう考える
人生に最も大事なエネルギーは面白さだと
仮に『去年のインターミドル優勝者二名同じ無名高校に進学』となったらどれ程面白いだろう…
そうして裏山の進学希望は決まった
これでプロローグ終了です
次回から京ちゃん達登場!
うーん駄文だなぁ
文書上手くなりたい…
ということで文書表現についてのアドバイスや感想など大歓迎です
どんどん書き込んでください
名前のネタばらしします
2は勿論秘密です
1は>>22さんのいうとおり『花鳥風月』というローカル役が活躍します
3は主人公の自風によって能力が変わるというモノでした
それでは次回の更新も宜しくお願いいたします
とりあえずこいつらは高一最強さん謝るべき
第二戦
東一局 起家 片岡
ドラ四
三巡目
「親っ
リーチいっくじぇー!」
片岡が気合いを入れながら立直宣言
片岡捨て牌
北白六R
「手牌が残り一枚で上がりの時、捨てる牌を横にして千点棒を場に出す
そうすると『リーチ』っていって
それ以降ひいてきた牌をアガリ牌以外を全部捨てる代わりに上がった時の点数を1ランク上げる事ができるの」
竹井が須賀に説明する
「リーチ…ですか
なるほど」
『最初だ…『アレ』を見せるのはまだ早い…』
裏山はオリる
「一発ツモ!
8000オールだじぇー!」
片岡手牌
三三四四五五②②⑦⑧567 ツモ⑥
裏ドラ發
「はいっ
ちょっとストップね」
竹井がストップをかけ
須賀を連れて片岡の元に連れていき上がった役の説明をする
それを見て少し長引きそうなのを確認すると染谷が席を立つ
「そうじゃ
忘れとったわ」
染谷はそのまま部屋の隅に置いてある電子ポットに向かい少し作業すると
茶道具一式を持って戻ってくる
「あそこに茶道具おいてあるけー
対局前に用意して自由に使いなさいな」
そう言って各サイドテーブルの上にお湯の入ったティーカップと紅茶のティーバッグを置いて周り
竹井と京太郎にすでにティーバッグが入っているカップを手渡す
ちょうど説明も終わり竹井らが裏山の後ろに戻って来る
「ありがとう
再開してちょうだい」
東一局 一本場
ドラ五
親片岡手牌
一五五①⑥⑧3689南西發 ツモ白
『うぅっ
絶対今度からタコスを持ってくるじぇ』
打西
二巡目
裏山手牌
三五八九③③1568東北發 ツモ北
『さて出目が5だったからここから俺の山な訳だが…』
少し考えると
「京太郎、予告しよう
誰も鳴かなければ
今から七巡後にアガる!」
この宣言に一同が驚く
「なっ!」
「さて御覧あれ!」
打つ五
それを見て後ろから見ていた竹井が二度驚く
『ドラを切ってカンチャン処理!?
他にも不要牌はあるのに!?』
三巡目
ツモ北 打つ三
四巡目
ツモ東 打つ8
五巡目
ツモ七 打つ發
六巡目
ツモ⑨ ツモ切る
七巡目
ツモ東
裏山手牌
八九③③1567東東東北北北
打つ1 立直せず
八巡目
ツモ四
「さぁ!
一発自摸予告立直!」
裏山はそのままツモ切り立直
九巡
原村手牌
五六七七②③④⑤⑥23567 ツモ⑦
『三色確定テンパイ…
リーチがかかってますが…
この手は立直をかければ最低でも8000
跳ねる期待値も高い
一発予告などといいますがツモがわかるなんて…』
「立直です!」
『…そんなオカルトありえません!』
七切り立直
これは裏山の当たり牌
しかし裏山、手を倒さず
そして裏山の九巡目
「一発ツモ!」
ツモは七
裏は③
「3000・6000だ!」
それを見た同卓の三人が思わず立ち上がる
「そんな!なんで!?
私の七切り見逃してツモ狙い!?
点数は変わらないのに!!」
皆の反応があまりにも予想通りで思わず裏山は少しニヤつく
「なんでってあらかじめツモる予定だったし
宣言通りのほうがカッコイイだろ?」
そう言うと裏山は振り返り
「どうよ予告通り!
カッコ良くね?俺!
輝いて見えるだろ!?」
周囲の反応がよかったので気分を良くした裏山のテンションに少し引きながら須賀は
「おっおう!」
とだけ答える
しかし実際に麻雀がわからなくとも今裏山がやった事がいかに凄いかは須賀にも十二分に伝わった
「ねっ、ねえ裏山君…
解説して貰ってもいいかしら?」
竹井は続ける
「なんで来る牌が分かったのかしら?」
「もちろんですよ
する予定でしたし」
真顔に戻して裏山は自分の点棒箱を開く
そこから五千点棒を片岡に千点棒を二本ずつ原村と染谷に渡すと立ち上がり
口を開く
「簡単に言うと…
イカサマしました!
すみませんでした!!」
そのまま土下座する
周囲は突如の発言とあまりのそれの美しさに言葉を失った
本日の更新分は終りです
昨日は宣言通り来れず大変申し訳ございませんでした
>>74なのですが少し改行の仕方を変えて見ました
従来のものとどちらが見やすいでしょうか
感想をお待ちしております
最後に
『イカサマはダメ!絶対!!』
早くも落丁が…
二回戦は席替えをして
起家 片岡
南家 原村
西家 裏山
北家 染谷
になっているという説明が抜けてました
脳内補完お願いします
「ということで解説しまーす」
「軽ッ
今の土下座はなんだったんだ!?」
体勢を直した裏山は須賀のツッコミを華麗にスルー
自動卓の牌の回収口の開閉ボタンを開き席に着く
「今のアガリはイカサマ使ったんでチョンボ扱いでいいですよ
あぁ、片岡さん千点バックね」
片岡は千点を渡すと
「チョンボってことはまた親番って事だな?」
再び自分の親番のボタンを押す
「まぁ
今回は解説だから理牌はいりませんよ」
出目は10
「今回の出目は10
さっきは5だったので
先程と同じく自山は全部残ってます」
そういうと裏山は自山の中央に両手を置く
「これを皆が取りやすいように前にずらす前に…」
その両手を目にも止まらない速さで両端に移動させる
「お分かり頂けたでしょうか?」
問い掛けた裏山は周囲に反応が無いことを確認すると軽く溜息をつき
自動卓の洗牌の音がしなくなったのを確認すると
「じゃあ今度は『音あり』で…」
と言ってもう一度両手を中央へ移行させる
行うのは先程と全く同じ動作
相変わらず手の動きは見えない
しかし今度は一瞬『カチャッ』という音が聴こえるた
それは確認出来たが周囲は核心には至っていないようだ
「まぁ、確かに『音』でばれちゃイカサマとは呼べない訳ですが…
二回見て分かりません?」
裏山は決して皆を見くびっている訳では無い
ああ、そうか
裏山は思いだす
彼女らはこのような事とは無縁な世界で生きて来ているのだった
思い直し
「ではスローでやりますよ?
では刮目あれ…」
自山の中央に置かれた両手を手前にずらす
そうすると上の山の手に触れている部分がすべてズレる
下山の背が半分以上見えている状態だ
「ここから手を移行させます」
右手を右方向に、左手を左方向に移動させていく
それと同時に両手の小指と薬指で触れた牌を手前側にずらす
中指と人差し指でズラした牌の列を綺麗に整えている
「ああ、あああ!!」
周囲はようやく気づいたようだ
「この際に両手の親指で上山はすべて盲牌で確認できます」
そして両端までたどり着くと
上山はすべて綺麗に下山から四分三程手前にズレた状態
そして両手を少し押し込むと上山は元に戻る
「すべて確認出来るといっても盲牌は半分しかしていないため
牌の向きによっては
萬子の九種、⑥と⑦、2と3、7と9は判別出来ませんが
いづれかであるという特定は出来ます
先程は、たまたま全牌の確認が可能な向きだったので七もその前に引いた7も断定出来ました」
再び両手を中央に手に置く
先程の動作を高速で行う
再び『カチャッ』という音がする
「高速で行う関係上牌をズラす際に今みたいな牌の擦れる音がしますが
開始直後は自動卓の洗牌の音に掻き消されます
さらに他家は理牌中ですのでさらにこちらの手の動きには注意がきません」
そして自山を前に突き出す前に数ミリほど浮かせて一瞬奥に傾ける
下山の牌がほんの一瞬だけ確認できた
「これだけで下山も確認完了
自山は全て把握できます」
山を卓につけ前に突き出す
「この一連の動作をもう一度行うと…」
先程解説した上山を確認する動作と今回下山を確認する動作を続けて行う
その所要時間一秒未満
「いかがでしょうか?
その名も『光速サーチ』」
その一連の動作に思わず竹井は拍手する
更新終了です
更新開始が遅かったせいで体験入部編終わらなかったorz
申し訳ございません
そしてまたミスを見つけてしまいました…
>>73
五巡目
ツモ七 → ツモ7です
ミス多すぎ…
明日こそ!
明日こそ体験入部編を終わらせます
それでは失礼します
「でも下山を見るのは
ほんの一瞬でしょ?
それで…」
「ガキの頃から毎日一時間…
三年でこのランクまで持ってきました…」
竹井の言葉を遮った裏山はそのまま続ける
「この『自山がわかる』これは色んな事に応用が出来ます…
例えば…」
そういって右手を原村の山に伸ばしその上山の内の一枚を無作為に選び表にする
牌は②
「これが俺のツモ牌だとします」
それを裏に戻し手に取り裏山の自山の上を通過させ手元に持ってくる
目にも止まらぬ速さだ
そして牌を表に
牌は東
それを見てさらに周囲は驚愕
②であるはずの牌が東にすりかわっている
右手を次山の右から四番目に伸ばし上山をひっくり返す
②である
「自分の山が分かっていればツモ牌と自分の山のなかにある必要牌をすり替える
『ツモ交換』
だけで
全部牌が残っている状態なら長くても8巡までにアガれます
もっともさっきの対局では『高速サーチ』しか使いませんでしたけどね」
溜息をつき竹井をみる
「一応解説を終了しますが質問はありますか?」
「えーっと…
じゃあ他にもイロイロ出来るのかしら?」
竹井が問う
顔には少し戸惑いがある
「はい出来ますよ」
そこから約小一時間の裏山によるイカサマのお披露目大会
といっても実際はレパートリーの十分の一も披露していないのだが
「あっ、あらかじめ言っておきますけど公式戦では一度も使ってませんからね!?
そこは知っておいて下さいね?」
それらを見た周りの反応はというと
竹井はとんでもない男がいたものだ。と考えこれからの部活に楽しみを見出だしていた
染谷は興味津々に解説を聞いていた
片岡と須賀は突如、超次元の解説が始まり置いてけぼりをくらっていた
原村は解説中俯いていた顔をようやく上げた
「なぜ…ですか…?」
問い掛けるのは原村
「なぜイカサマなんて…!」
その言葉には明らかな怒り悲しみが込められていた
「覚えたのか。か?
答えは単純
『必要だったから』だ」
裏山は続ける
「君には一生縁がない世界だろうが覚えておくといい
この世にはいくら実力があっても『綺麗な麻雀』では勝てない世界がある
実力足す今見たいな『セコい麻雀』をしないと勝てない世界がな…」
「…っ!そんなもの!」
「ああ、認めなくていい。
だが確かに『ある』」
「っ!」
原村は言葉を失う
少し場の空気が悪くなったのを裏山は感じていた
「まぁ、とにかくこんな感じです」
無理矢理締めくくる
いや、この場を部長である竹井に全て丸投げした
『この空気どうにかしろ!』と
半分、いや約七割はお前の責任だろと竹井は思うが
ここで部長としての裁量を見せておくのも悪くないと考え
「じゃあ、そろそろいい時間だしお開きってことでいいかしら?」
そういうと竹井はパソコンの置いてある机から紙を四枚取り出し一年四人に配る
「入部届けよ
ここに入ってくれる気になったら必要事項を書いて此処に持ってきてちょうだい」
笑顔でいう
それを聞いた原村は失礼しますというと荷物を持って扉へ向かう
「ちょっ!のどちゃん待って!」
それを片岡が追う
原村は扉前に立つとこちらに一礼し出ていった
片岡も同様
裏山は二人が出ていったのを確認すると
「もしかして俺…
嫌われた?」
誰も答えない
一年が去った部室
残っているのは竹井と染谷だけとなった
「いやー
幸先良いんじゃか悪いんじゃか…」
椅子を逆に座りながら背もたれに腕をかけうなだれるように座る染谷に、部屋の隅にあるベッドで紅茶を飲む竹井が答える
「あら、悪いことなんて何も無いじゃない」
それを聞いた染谷は少し驚き
「確かに最初は四人も入部希望者がきとーくれてラッキーと思っちょったが…
一年ドーシで喧嘩別れみたいになってもうたし…
いや誰に非があるいう訳ではないんじゃがのー?」
カップの中身を飲み終えた竹井がそれに続けるように尋ねる
「あの子達もう来ないんじゃないか?って?」
「来るゆーんか?」
「ええ来るわよ四人とも」
「なぜじゃ?」
「だって…」
竹井は立ち上がる
「その方が他の可能性に比べて『分が悪い』でしょ?」
とりあえず体験入部編終了です
予定より時間が大幅に掛かった…
そして相変わらずの駄文にお付き合いくださっている方々に感謝です
次回からなんと
『裏山君バイトする』の巻
です
「え?俺の咲ちゃんは?」
と思っている方御安心下さい
出ます!しっかり出ます!
ダイジェストでなくしっかりでてきます
ただし咲ちゃんの入部はまだ先です
次回から裏山君とそれに巻き込まれる形で京太郎君がバイトを始めます
なぜって?
高校生といえば部活とバイトだからですよ
勉強?………
さーてここでアンケート安価です!
ずばり次回から京太郎達がバイトを始める場所は?
1.本屋さん
2.ファンシーでゴスロリなお店
3.タコス屋さん
4.雀荘『roof-top』
5.日常備品や学園祭に必要な物など
なんでも揃って
とにかく安い
業務用スーパー
>>+1から>>+9までで多数決です同着は先にその数字に達した方にいたします
それではまた明日
失礼いたします
五票2に固まったので
2に決定しました
それではまた夜お会いしましょう
それから一週間後
体験入部期間が終了し
最初の放課後の麻雀部の部室
そこには卓を囲む四人の男女
一人は裏山
「リーチ」
裏山捨牌
赤⑤⑦①2⑥⑨
8西北R
その下家に座るのはようやくルールを覚えた須賀だ
『リーチには現物だよな…』
覚束ない手つきで⑤を切る
裏山の対面に座るのは竹井
竹井手牌
②②④⑥⑧四赤五六六七東東東 ツモ⑦
『リーチ直後に④切りでテンパイ…』
竹井は裏山の捨牌を確認する
『第一打の赤⑤切り
そして筒子のバラ切り…
普通に読めば萬子の染め手…またはチャンタなのだけれど…』
「失礼…」
長考する
場は東四局のオーラス、ドラは③
トップは裏山で45700
それに対し竹井は22700点で二着目
東三局まで断トツトップだったが
親の裏山が、三リー相手に喰タンのノミ手をアガりで流れを掴み、棒攻めからの裏ドラで一気に点数を稼ぎ
先程須賀がラッキーとも言える三巡目のカンチャン役無しリーチをツモり今に至る
『さっきの裏山君の親番…
私は一度満貫に振込んでそれ以降何も出来てない…
言ってみれば運気が下がっている状態…
その状態の私がこの⑦ツモ
この意味って…?』
竹井は六切りを敢行
裏山は驚く
「すごいところ切りますね」
「こっちも勝負手なのよ」
『間違いなくこの⑦は私に対する刺客!
こんなあからさまな④は切れないわ!』
そして裏山から見て上家に座るのは原村だ
原村手牌
四五五六七④⑤⑥⑦⑦567 ツモ⑦
『理想形でのツモ
私とトップとの点数差は二万点差以上ありますが直撃または裏ドラ次第ではツモでもトップです
最悪上がれれば二着…』
「リーチ!」
『しかもこの牌は上家のほぼ安牌です!』
原村自信を持って④切りリーチ
「ロン一発!」
その声に原村は戦慄する
裏山が牌を倒す
裏山手牌
一二三三四五六七八④④南南 ロン④
「裏山は南で8000だ」
「なんで筒子があるんだ!?」
「リュータローは一打目からありえない打ち方だったじぇ」
須賀に続いたのは裏山と原村の間に椅子を陣取りながらタコスを食べていた片岡だ
「配牌で④④赤⑤⑦ってくっついてたのを赤⑤⑦って落としたんだじぇ
普通考えられないじぇ」
裏山は④を指で弾いて言う
「いや、最近ハメ手を研究しててな?
断トツトップだったから試して見た訳よ」
牌を指で叩きながら裏山は続ける
「でもこれ一発と裏がなければ1300か…
つまんない手だなー」
「『アガれない手よりアガれるノミ手』ってことでいいんじゃない?」
答えたのは竹井だ
「そろそろ良い時間だし今日はここまでね
各自、忘れ物無いようにね」
一年生四人は返事をし
帰り支度を始める
「和ちゃん、さっきの俺の手になんか感想ある?」
裏山はあくまで純粋に技術的な質問として原村に問い掛ける
それに対し原村は少し怒り気味に
「…イカサマを使う人らしい手だったと思います」
と答え離れていった
「やはりまだ拒絶されてるか…」
手を口元に当てていると背後から声が来る
「今の、単純に厭味にしか聞こえないわよ」
竹井だ
「そうですか?
厭味ゼロの技術的な質問のつもりだったんですけど」
彼女はため息をつき、いい?と付け加える
「和はただでさえ貴方に拒否反応起こしてるのはわかるでしょ?
それなのに、その相手ににハメ手に振込んでその感想を求められたら厭味にしか聞こえ無いわよ?」
ああ、と裏山は頭を抱える
「『だから俺はダメ』なんだろうな…」
「少し考えればわかるでしょうに…」
「…昔から俺、人の気持ちを理解するってのが苦手…
って訳では無いと思うんですが
麻雀と天秤にかけた時にいつもそいつが二の次になるんですよね…
…そうかだから『アイツ』も…」
「アイツ?」
ハッ、として裏山は少し取り乱しながら慌てて手を振り
「いやなんでも無いですよ
京太郎!帰るぞ!」
「あいよ!」
お疲れ様です
といって須賀と裏山は部屋を後にした
原村と片岡はその前に部屋を出ており
残ったのは竹井だけとなった
「『なんでも無い』と言って
『なんでも無い』なんてことは有り得ないのよ
裏山君…」
そう呟くと竹井も帰る支度を始めた
更新終了です
昨日は更新出来ずすみませんでした
急に部活の練習試合があると知らされ寝る事になってしまいました
重ねてお詫び申し上げます
さて『バイト開始編』が始まりましたが
とりあえず無事一年四人とも入部することになりました
しかし裏山と原村の深まる溝や裏山の裏のある発言などありますが
あらかじめ言っておきます
裏山×原村という構図にはなりません
それこそSOAです
まぁ最終的に普通の友人関係くらいにはなるでしょうが…(そこらへん考えて無いなんて間違っても言えない…)
ということで『バイト開始編』のプロローグでした
明日はバイトが深夜なので
次回更新は明後日の夜とさせていただきます
それでは失礼します
『この牌は上家のほぼ安牌です!』 → 『この牌は下家のほぼ安牌です!』
でした
脳内補完お願いします
修正を…
>>96
「裏山は南…」 → 「裏ドラは南…」 です
長野の夜は涼しい
季節は春で初夏が始まろうとしているが
まだ冬の名残を感じる気温である
そんな長野の夜の街を裏山はさ迷っていた
いや、さ迷うというのには少し語弊がある
「これで五件目か…」
五件
これはこの日に裏山が入ったレート有りの雀荘の数だ
同時に追い出された数でもある
裏山は麻雀界ではそこそこ有名人だ
無論年齢も知られている
ほとんどのレート有りの雀荘は高校生以下の立ち入りを禁止している
今日入った雀荘では
入るなり裏山であることがバレすぐに追い出された
「クソッ!」
悪態をつく
都会にいた頃は限られてはいたが金さえあれば打つことができた
しかし田舎はそうでも無いらしい
「まずいな…」
金はそれなりにある
なにもせずとも三ヶ月
切り詰めれば五ヶ月はもつかもしれない
しかしそれ以降が問題だ
訳あって裏山は親権者からの仕送りを断っている
家賃光熱費はさすがに払って貰っているが
本来、それすらも裏山からすれば不本意なことだ
「ある程度は覚悟してたがな…」
考えが甘かった
地元での生活には困らなかった
家賃の心配はもとよりなかったし
小遣いも雀荘に入ればいくらでも手に入れることができた
しかし今、それが出来ない
道路を挟んだ向こう側にパチンコ店がみえる
そちらに足を向かわせようとするが
「控除率が悪すぎだ…」
思い直す
麻雀はある程度腕でカバー出来るがパチンコは別だ
こちらでの賭博路線は消滅したと言って良いだろう
そのまま帰路につく
もっともそのまま帰るつもりもないが
もう深夜零時を迎える
下手すると補導…
などと考えたがこのような土地だ
心配もないだろう
だが、このまま宛てもなくさ迷うのも考え物だ
ふと通りすがったコンビニを見る
ショーウインドーのガラスには『バイト募集』のチラシ
「…『高校生時給:760円』って
労働基準法違反してるんじゃないのか!?」
田舎など、こんなものか…
この思考を長野にきてから何度行ったかわからない
もっといい条件のバイトはあるかも知れないが
まだ土地勘のないこの土地でそれを探すのは一苦労だ
思考を巡らせる
たどり着くところは
「持つべきものは土地勘のある友人、先輩か…」
翌日の昼休み
裏山は友人二人と学食にいた
一人は須賀、もう一人は、
「それにしても咲ちゃんはイイ嫁さんだなァ」
宮永 咲、裏山と須賀のクラスメートである
「ですから!
中学で同じクラスなだけですから!
嫁さん違います!」
「まっこうから否定されると俺も傷つくぞ咲」
須賀が学食に入りショーケースのレディースランチの食品サンプルを見るなり
どこかから拉致ってきたのだ
その所要時間、実に三分
近年のカップ焼きそばの待ち時間よりも早い
「まったく…
京ちゃんは人使いが荒いんだから」
宮永がレディースランチの野菜を口に運びながら文句を垂れる
そういいながらも
須賀と同じものを頼み
須賀の隣の席で食事をするのは
決して幼なじみだからという理由だけではないだろう
「だって
今日の日替わりのレディースランチ
めちゃくちゃうまそうだったんだもん」
そんな夫婦漫才をみながら微笑ましく思いながら
唐揚げカレーを口に運ぶ裏山は
ふと思い出したずねる
「ああ、イチャついてるところ悪いんだけど…」
「ですから…!」
咲の言葉に
裏山は両手を頭の高さまであげ横に振りながら
「悪かった、悪かった
クラスメートなだけ
だったな…
…で本題いい?」
翌日の昼休み
裏山は友人二人と学食にいた
一人は須賀、もう一人は、
「それにしても咲ちゃんはイイ嫁さんだなァ」
宮永 咲、裏山と須賀のクラスメートである
「ですから!
中学で同じクラスなだけですから!
嫁さん違います!」
「まっこうから否定されると俺も傷つくぞ咲」
須賀が学食に入りショーケースのレディースランチの食品サンプルを見るなり
どこかから拉致ってきたのだ
その所要時間、実に三分
近年のカップ焼きそばの待ち時間よりも早い
「まったく…
京ちゃんは人使いが荒いんだから」
宮永がレディースランチの野菜を口に運びながら文句を垂れる
そういいながらも
須賀と同じものを頼み
須賀の隣の席で食事をするのは
決して幼なじみだからという理由だけではないだろう
「だって
今日の日替わりのレディースランチ
めちゃくちゃうまそうだったんだもん」
そんな夫婦漫才を見て微笑ましく思いながら
唐揚げカレーを口に運ぶ裏山は
ふと思い出したずねる
「ああ、イチャついてるところ悪いんだけど…」
「ですから…!」
咲の言葉に
裏山は両手を頭の高さまであげ横に振りながら
「悪かった、悪かった
クラスメートなだけ
だったな…
…で本題いい?」
本日は睡魔に勝てないので落ちます
明日はフリー(かつ雪らしい)なので自宅警備員をする予定です
よって早くから更新できると思います
それでは失礼します
「で、本題って?」
須賀が尋ねる
宮永はまだもの言いた気だったが諦めることにしたようだ
「いやな、バイトを始めようかと思ってな?」
カレーを口にしながら切り出す
「俺まだこっちにきてから間が無いから
どこか条件良いところ知ってたら教えてくれないかな?」
「バイトねぇ…」
須賀は味噌汁を口にしながらつぶやく
「俺はバイトしてないからなぁ…
考えた事も無いし…」
そういえば、と何かを思い出したのは宮永
「私がよく行く本屋さんが求人募集出してたよ」
「本屋か…
条件覚えてる?」
「条件ってお給料だよね?」
えーっと
と少し悩みながら
「たしか…
高校生は770円とかそんな感じだったような…
…あまり覚えてないや
ごめんね?」
「いやいや、全然
ありがとう」
笑顔で答える
「で、君は?」
須賀に尋ねる
須賀は不意に尋ねられ
えっ?と反応する
「いや、え?じゃなくて
Please give me informations!」
「無駄に発音いいな…」
悩む須賀の姿を見て
「あー、オッケーオッケー
須賀君、ダメな子と…」
「おいっ!
ちょっと待て!レッテル張るの早くない!?」
そんな二人のやり取りをみながら宮永は笑っていた
「で、だ…」
部活後、裏山は竹井に連れられて竹井が言うところの『紹介出来る場所』に向かっていた
しかし、その場にいるのは裏山、竹井だけではなく
「何で俺まで…」
「須賀君、この後用事ないんでしょ?
だったら付き合いなさい」
須賀の姿もあった
「確かに問題はありませんけど…
俺が行ってもなにもないでしょうに…」
「で、どこら辺なんですか?」
学校を出てかれこれ30分ほど歩いただろうか
ようやく街まで出て来たが一向に竹井が紹介先について話さないので裏山が尋ねる
「ああ、そこの十字路右に曲がったらすぐよ」
竹井が指差した十字路を右に曲がる
そこは道一帯が商店街でどの店が件の店だかわからなかった
「どの店ですか?」
「ここよ」
竹井が親指で指差す
そこは曲がって中央にある道路の右側の商店街を入って最初の店
「ここ…ですか……?」
裏山は明らかに戸惑っていた
それもそのはず
その店のショーウインドーにはぬいぐるみが並んでおり
ガラス越しに見える店内の様相は明らかに世間で言うところの『ファンシーショップ』であったからだ
「『Fancy Shop 幻想館』…」
須賀が看板の文字を読みあげる
「……あー、いけね!」
須賀が明らかに棒読みで言い出したのを裏山はその胸倉を掴み制する
「何だ!?
急用でも思い出したか!?
ん!?
言ってみろ!」
「…あれ?なんだけ?」
昔の人は言った
『旅は道連れ世は情け』
しかし、今この場に『情け』はいらない
いますぐ帰りたい
須賀は裏山に店内に引っ張られながらそんなことを考えた
扉を開くとカランカランと添え付けの鐘が音を鳴らす
三人が店内に入ると
「いらっしゃいませ~」
と砂糖菓子にさらに砂糖を塗したかのような甘い声が響く
奥から現れたのは
身長150cm前後
白と黒のフリフリの服にフリフリのカチューシャを付けた所謂ゴスロリファッションの少女だ
「あらら~
ひささんじゃないで~すか~」
声だけでなく喋り方まで甘い少女だ
言葉のところどころからハートマークが見えてくる
聞いているだけで口の中が甘くなりそうだ
裏山は思う
「ハロー、カナ
頑張ってるみたいね」
「は~い
かなは~げんきいっぱいで~すよ~」
カナと呼ばれた少女は自分の言葉を体で表現すべくぴょんぴょん跳びはねる
「…ウッ!」
突如須賀がカエルが潰れたような声をだす
「どうした?」
裏山が尋ねると須賀は
「…素晴らしいものをおもちで……
おもち…」
と口を押さえながらつぶやいた
須賀の視線の先は跳びはねる度に大きく揺れる少女の豊かな胸
ああ、そういえばこいつ
しょっちゅう和ちゃんの胸に目がいってるな…
裏山は友人の性癖を思い出した
まずはしばらく放置していた事について大変申し訳ございませんでした
理由は先日書いた通りでございます
さて今日の更新が少ない理由ですが先ほどタイトルにしましたが
『一度打ち込んだものを間違って消してしまい精神的大ダメージを受けたため』
です
どういう状況かといいますと
かなり書き込む→『そ』と打ちたい→3を五回押そう→間違って上のパワーボタン連打→打ち込んだもの全滅→\(^^)/
という感じです
これだからガラケーは…
それもこれもPCが死んでるのが悪い!
ということで本日は失礼します
「あらら~?
そちらは…
ひささんのかれしさんで~すか~?」
カナと呼ばれた少女はようやく両名に気付いたようだ
「かなにかくれてふたりもはべらかすなんて~
ひささんもあくじょで~すね~」
イヤンイヤンと言い両手で頬を押さえながら身体をクネクネさせる少女
しかし、甘ったるい上にこの独特の喋り方は本当にどうにかならないのだろうか
裏山は思う
「あー、違う違う
彼らは部活の後輩
バイト先探してるって言うから連れてきた
黒い方が裏山君で、金色が須賀君ね」
「ども…裏山です」
挨拶する
それに続いて尚も口と鼻を手で被いながら須賀もつづく
「…須賀京太郎です」
そんな須賀を不思議そうに見ながら少女も自己紹介する
「ごていねいに~ありがとうございま~す
なかいかな(中井香奈)なのです~
ひささんのおともだちで、くらすめーとなので~すよ~」
二人は驚愕するこの生き物が自分達よりも年上であるというのか…
冷静に考えてみれば労働をしている時点で自分達の年齢以上であることは明白なのだが端から見れば小中学生がお手伝いしているようにしか見えない
「ところでヤスコはいるかしら?」
「てんちょ~ですか~?
はいは~い
いますよ~」
こっちで~す
といって中井は奥に進む
それについてく三人
店内はそこそこ広い
部屋の大多数の棚はファンシーなぬいぐるみで埋め尽くされている
他は手鏡やシュシュといった小物などだ
壁際には一般的な洋服店のようなコーナーがあり中井が着ているようなゴスロリ服も扱っているようだ
しかし、京太郎がいてくれて本当に助かった
男一人でこの空間には堪えられない
もし、ここで働くとしたら
如何なる策を労じようともコイツを道連れにしよう
店を見渡しながら裏山は企んでいた
レジの近く『Staff Only』と掛かれた扉の前にたどり着く
「てんちょ~
ひささんがきてますよ~
てんちょ~」
扉を叩きながら中井がやや大きめの声で言う
「ああ!?久が?
少し待て!」
部屋の中から声がする
少しすると扉が開き中から女性が現れる
再度裏山は驚く
その女性に見覚えがあったからだ
「藤田靖子!?」
「君は…
裏山竜太郎!?」
向こうもこちらを知っているようだ
それもそうか、親善試合やテレビ対局で何度か対局したことがある
しかし、少しの驚きを見せたがすぐに
「まぁ、とりあえず入れ
カナ、引き続き店を頼む」
はいは~い
中井はもどっていった
スタッフルームに入り横長の机に並んだ椅子に座らされる
椅子は横に三つ反対側に三つずつ向かいあって設置してある
片側に竹井、裏山、須賀
反対側ね真ん中の席に藤田だ
出されたお茶を飲み心を落ち着かせる裏山
そして、考える
なぜこんなところに藤田靖子がいるのかと
いや、答はすでにでている
「もしかしなくても、ここあんたの店なのか?」
裏山が問う
「正確には私の母の店だがね
だが、実質私が切り盛りしている」
藤田はキセルを取り出したが何かを思い出したかのようにそれをしまい直した
そして、机に両肘を付き顔の前で指を絡ませながら藤田は言う
「私としては君が久と行動を共にしていることの事に驚きだよ」
「お互い聞きたいことはあるでしょうけど終わりが見えなくなりそうだから
イロイロ飛ばして本題に入っていいかしら?」
竹井が割って入る
「ああ、すまない
で…御用件は?」
「裏山君をここで雇って欲しいのよ」
>>24にでてくるカメラマンですが名前わからなくて適当に『東野』としましたが
『山口大介』という名前があったらしいです…
ということで以降『山口』と言うことでお願いします
m(__)m
「え?
京ちゃん達、バイトはじめたの!?」
野菜を挟んだ宮永の箸が止まる
「ああ、今日が研修最終日らしい」
須賀はパンを口にしながら答える
五日間の研修期間も今日が最終日だ
「なんで突然バイトなんて始めたの?」
「コイツに巻き込まれたんだよ」
須賀は1Lパックの紅茶をそのまま飲んでいる裏山を指指す
「ふふふふふふんふふ…」
「飲み込め!」
「人聞き悪い事言うなよ
決めたのはオマエだし、今じゃオマエだってノリノリで『いらっしゃいませ~』だろうが!」
「接客業なの!?」
宮永がさらに驚きの顔を見せる
それを確認した須賀は不服そうに尋ねる
「なんだよ
なんか問題あるか?」
「京ちゃんをみてお客さん逃げない?大丈夫?」
それを聞いた須賀は左手で宮永の頭をロックし右手人差し指を宮永の頬に捩込む様にグリグリと押し込む
「どういう意味だ~!?
さ~き~?」
「いふぁい、いふぁいお
ひぉーひゃん」
その光景を裏山は微笑みながら見ていた
『もー…
イタいわー!リュータ』
そういいながら『アイツ』は膨れていた
『ったくっ、自業自得だ!』
そういってやや突き放し気味に言ってもあの頃の『アイツ』は笑顔ですぐに引っ付いてきた
そんな『アイツ』に確かに
惚れていた
「…竜太郎君もそう思うよね!?」
宮永の言葉に我に帰る
「あ…あぁ
まぁ、京太郎は端から見たらヤンキーかチャラ男の二択だからな」
「竜太郎まで!?
くそっ!味方は!?援軍はいないのか!?」
「バイト先でカナさんに慰めて貰え」
「えっ、カナさんって誰?」
女性の名前を聞いて宮永の顔に一瞬だが焦りの色が伺えた
「バイト先で京太郎と仲の良い小動物系巨乳美少女先輩だ」
敢えて無駄な説明をする
それを聞いた宮永は動揺を隠せないまま須賀を問い詰める
「ちょっ、京ちゃん!
どういうこと!?ちゃんと説明して!」
「いや、だから…」
どう見ても浮気が知れたカップルの口論である
おまえら、さっさと付き合えよ
微笑ましい光景である
そんな目の前の光景と過去の情景が再度重なる
あの頃の自分達は端からこのように見られていたのだろうか
そういえば『アイツ』は今頃どうしているだろうか…
そんな事を考える自身を裏山は鼻で笑った
そんな事考えるだけ無駄だろう…
『アイツ』は今頃、自分の事なぞ忘れてどこかの麻雀部で青春を謳歌しているだろうし
何より『アイツ』との関係に終止符を打ったのは他でも無い自分自身なのだから
「ツモ…4100オール」
少女が手牌を倒す
手は綺麗な純全三色手
「上がり止めです…」
自分の中に張り詰めた空気を変えるために部室の外に出る
部活中とはいえ名門となると部員は相当数だ
一人部室から出ても見向きもされない
「ふぅ…」
溜息を付き廊下の壁に寄り掛かりペットボトルの水に口をつける
「溜息吐くと幸せ逃げるで」
少女は関西弁の声の主を確認する
「監督…」
「調子良さそうやな」
「調子自体は平均ですよ」
監督と呼ばれた女性は少女の隣まで来ると腕を組み壁に寄り掛かる
「さすが『牌に愛された人間』は言うことが違うわ
うちら一般人からすればバカヅキ以外の何物でも無いっちゅうんを『平均』や言うんやからな」
「別に『牌に愛されてる』わけじゃないです
『牌が吸い付いて来る』んですよ」
「?よう分からん」
少女の説明が理解出来ないまま女性は本題に入る
「…今回もトップやて?」
「はい」
「次もトップで部内リーグのレギュラーマジック点灯やな
途中参加のくせにようやるわ」
「このままレギュラーとる気ですから」
少女は稟と答える
それを聞いて満足そうな顔をし、壁から離れる
「うちの部で一年生ながらレギュラーなったんは永い部の歴史においてもほんの一握りやからな
頑張りや」
女性は部室の中に入って行った
「頑張り…か」
無論…
レギュラーになってインターハイ個人、団体双方とも総ナメにする
そうして初めて『復讐』が成し遂げられるのだ
自分から『彼』を奪ったあの女狐、そして自分を捨ててあの女狐にヒョイヒョイついて行った『彼』も許せない
「私を捨てて原村を選んだ事、後悔させてやる…
リュータ…」
呟いた少女の手に持たれたペットボトルはへこんでいた
「お疲れ様でした!」
須賀と裏山、両名の声が重なる
「おっつかれ~さま~」
歌うかのような甘い声が返ってくる
声の持ち主は中井だ
時刻は午後九時
商店街はほとんど閉まっており
この時刻まで開いている店は居酒屋と雀荘くらいである
事実ここ幻想館も閉店は八時であるが
清掃と雑務に一時間用いるため仕事終わりが現時刻となった
「いや~
おふたりの~そのすがたも~なじんできたのですよ~」
スタッフルームの椅子に座りながら中井が笑顔で言う
「かなり動きづらいんですけどね…」
そう言う裏山の服装は燕尾服
黒の上着にズボン
赤のシャツ
そして白の蝶ネクタイ
中井のゴスロリ服と並ぶと異国を連想させられる
「竜太郎はまだいいだろ!」
声の持ち主は須賀だ
しかし声の方にいたのは須賀ではなく
「どうした?
エトペン君?」
巨大で青と白の球体だった
正確には球体ではなく球状の体に三角形の二つの手
白く円い目
白い腹
楕円の嘴
青い足の着いたペンギン…らしい…
「はやくチャック下ろしてくれ!」
ペンギンは裏山らに背中を見せて両の手を上下させる
背中の毛で隠れた一部に銀のファスナーが見える
小さな三角形はそれに手を伸ばそうとしているが圧倒的に足りない
「清掃もそれでやった訳だし、いっそそのまま帰れば?」
「ふざけるな!」
尚も絵本の主人公はぴょんぴょんと跳びはねる
「とても~なごむのです~」
中井は笑顔で呟く
「助けてくださいよ!
カナさん!」
「しょうがありませんね~
あ~っ、うごかないでくださ~い」
中井はペンギンの背中のファスナーを下ろしてやろうとするが締具が約165cm地点にあり身長150cm程度の中井は背伸びをしながらなんとか締具を掴もうとし、四回目の挑戦でようやく締具に手が届き締具を下ろすことに成功する
「ふぁーっ!」
着ぐるみから須賀が姿を現した
「…三時間これはきつい!」
呼吸を整えながら須賀が愚痴る
「おうおう、お疲れ」
裏山は笑いながら声をかける
「今日でその姿が三回目か…
そろそろ楽しくなって…」
「くるか!」
着ぐるみから脱出した須賀は学生ズボンにタンクトップという姿で椅子に腰掛ける
タンクトップの所々が汗で濡れている
「本当代わってくれよ…」
汗を持参したタオルで拭いながら弱音を吐く
「断る!」
「てんちょ~が~いうには~
らいしゅ~には~
すがくんの~せいふく~
とどくそうで~すよ~」
そう、須賀がこのような格好をしているのは店の制服でもなければ何かのキャンペーンでもなく
ましてや断じて須賀の趣味ではない
理由は至極単純、制服の発注ミスである
「逆に言えば来週まではこのままか…」
しかし発注ミスで制服がないため働けないなどというのはあまりにも理不尽なので藤田が数年前に用意していた着ぐるみを着ることになったのだ
藤田曰く
「数年前、『絵本の主人公の着ぐるみを使えば売上上がるんじゃないか』
と思って一つ外注したはいいのだけれど
さぁ使おうって段階で『誰が着るのこれ?』
ってことになったのよ…
私は着る気無かったし
そもそも女性に着ぐるみは辛いって話になってね
…ぶっちゃけ君達がうちの店の初めての男性店員だし…
というわけでいままで梱包されたまま倉庫に眠っていたのだけれど
無駄にならなくてよかったよ」
とのこと、ちなみにこのペンギン
『エトビリカになりたかったペンギン』
という絵本の主人公だそうだ
選択がこれになった理由は
「このグッズ結構売れるんだよ」
とのこと
ちなみに現在中井と裏山が着ている制服のデザインについては完全に藤田の趣味らしい
破天荒な店主である
「ほらほら!
クッチャべって無いでガキ共はさっさと帰った帰った!」
スタッフルームの奥
仕切りで区切られている部分から金髪ロングのやや背の高い女性が姿を現す
「たっかぴ~!」
出て来た女性の姿を確認すると中井は女性に跳んで抱き着く
「チッ!
コラッ離せ!
中井ィィ!」
「お疲れ様です!
久保さん!」
裏山、須賀は挨拶する
「たっかぴ~!たっかぴ~!」
「おう、お疲れ…
っていい加減ッ!」
金髪女性、久保貴子は首に抱き着き、ほお擦りをしている中井を力付くで剥がそうとするが全く離れる様子は無い
「ったく…
家まで車で送ってやるからさっさと着替えろ!」
それを聞くと中井は手を離す
すると抱き着いていた時は地に着いていなかった足が床に着く
「は~い」
甘ったるい声を出しながらドレスルームに入ってく中井を見ながら
少しばかり顔が緩む
今の光景を自分がコーチしている高校の部活の後輩達が見たらどう思うだろうか
などと考える
「わたし~
く~るけ~の~
じょせ~にあこがれてるんです~
たかぴ~は~
わたしの~りそ~なんですよ~」
などと言って慕われるのは悪い気はしないが…
緩み掛けた気と顔を引き締め直し
鋭い眼光を男二人に向ける
「何ボサッと突っ立ってんだ!
テメェらも仕度しろ!
店閉められねぇだろぉが!」
「はいっ!」
その声に弾かれる様にして両名も空室のドレスルームに各自入る
まったく藤田さんも面倒を押し付けてくれる
「私がプロの仕事がある日だけでいいから店長代理をしてくれ」
などと
実際仕事が『無い日』など週に三日、あるか無いかではないか
しかし、部活の後輩達からは鬼コーチなどと陰口叩かれている一方で面倒見の良さ、人の良さが災いして引き受けてしまったが…
しかしまさかこんな仕事をしていてメリットが出て来たのは良い意味で予想外だ
それは裏山竜太郎である
彼とコネクションを持てたことは大きい
彼は麻雀の事ならなんでも相談に乗ってくれる
藤田プロと腕は同等
いや、もしかすると…
とにかくそのような人材に巡り会う機会はそうそうある事ではない
今年こそ『彼女ら』には全国の舞台に立ち
そして頂点に立って貰いたい
そのためのサポートはかかせない
彼には申し訳ないが利用…
「たっかぴ~!」
そんなシリアスな思考は甘ったるい声と首に跳びついてきた中井によって掻き消された
着替え終わり今は清澄の制服だ
「チッ!
だから…!」
先程の再現のようなやり取りをしていると野郎達も出て来た
「それじゃあ
お疲れ様です!」
そういって部屋を出て行こうとする二人を久保は呼び止める
「おい
帰るなら送って行くが!?」
「あぁ、大丈夫っす」
裏山は振り向いて答える
そして須賀を指差し
「この後、部活の先輩の所行ってコイツの特訓しなきゃいけないんで…」
「そうか
お前達明日は昼からINしてるんだから遅れるなよ!」
「うーっす」
両名が出ていく
それを確認すると
「じゃあこっちも帰るぞ!」
「は~い!」
店の明かりを消した
>>149
「今日でその姿が三回目か…」
とありますが
正しくは
「今日でその姿も五回目か…」
です
失礼しました
裏山、須賀は目的地に到着したのは22時時になろうとしている頃だった
雀荘『roof-top』
裏山が『CLOSE』とかかれた表札の立て掛けられた店の扉をなんの躊躇いもなく開く
店の中にいたのは見知った顔が二人
「おぉ、よう来たのぉ」
一人は染谷だ
「先輩…
なんでメイド服なんですか?」
須賀が尋ねる
「あぁ、ウチはノーレートのメイド雀荘なんよ
これは制服じゃ」
秋葉原か!
このようにツッコミたくなる感情を裏山は抑える
「こんばんは…」
もう一人が頭を下げ挨拶する
原村だ
「あれ…?
なんで和ちゃんが…?」
予定では竹井が来るはずであったのである
「LINE見とらんのか?
部長、急用でこれ無くなったんじゃよ」
言われて確認する
確かに部活のグループLINEが知らない間にかなり貯まっていた
竹井 久『マコ、裏山君、須賀君
今日ちょっと野暮用で行けなくなっちゃた
ごめんね』
眼鏡メイド『そうかい
まぁ、こっちは大丈夫じゃどうにかするわ
最悪サンマかの』
竹井 久 『苦労かけるわ』
一日五食タコス『京太郎の為にそこまでしてやる必要は無いんだじぇ!
私が部活でボッコボコにして鍛えてやるじょ
(`・ω・´)』
原村 和 『ゆーき、それは鍛えると言わないのでは?』
一日五食タコス 『男は敗北を知って強くなるんだじょ!
m9(`・ω・´)』
竹井 久 『すべての男性がそうという訳ではないのではかしら?』
………などなど
グループLINEが更新されている
後半部
原村 和 『僭越ですが
よろしければ私が代わりに行きましょうか?』
眼鏡メイド 『来てくれるんは嬉しんじゃが
朝まで打つ予定じゃけぇ
親御さんの許可はおりるんかい?』
原村 和 『今日は両親共に出払っており
さらにPCを修理に出してましてネト麻ができなくて困ってたんです』
眼鏡メイド 『そんじゃあお願いしようかの
明るい道通って来いな』
原村 和 『はい
これから向かいますので20分ほどで到着するかと思います
それでは失礼します』
これらが一時間半ほど前
「なるほどね
現状は理解した」
裏山が呟く
「今日はわざわざありがとうございます
染谷先輩、和」
須賀が礼を言う
「構わんて」
「私も全く問題はありません
むしろ打つ場があり感謝してるくらいです」
「まぁ、挨拶もこの辺にして卓に付きな、おしぼりと飲み物は?」
染谷が尋ねる
「ありがとうございます
あつしぼと、ホット無し無しで」
裏山は答え、卓上の隅に集められた牌から東南西北を一枚ずつ取り出し裏にして掻き混ぜる
「それ何語?」
須賀が尋ねる
どうぞ、裏山は手を退けると原村に一声かける
原村は席を立ち
そこから一枚ひっくり返す
北家
「日本語だ
『あつしぼ』は熱いおしぼり
『ホット無し無し』はホットコーヒーに砂糖ミルク両方無しって意味
雀荘用語だ
ほら引きな」
なるほど、といい須賀は
「同じ物をお願いします」
残りの三枚から一枚を手にとる
仮東
「これってどこ座ってもいいんだろ?」
「てか、お前が席を決めないと他の人が座れ無いんだよ」
須賀は少し考えると原村が先程まで座っていた席の下家に座る
「ここなら和が移動する必要無いしな」
「ありがとうございます」
原村は礼を言うと席に座る
「待たせたのー」
染谷がワゴンの上にカップやら茶具やらを積んで戻ってきた
「いちいち取りに行くのが面倒じゃけえ
纏めて持ってきたわー」
三人は各々が礼を言う
「次はうちか?」
染谷は残された牌から一枚をめくる
西家だ
「ということは俺が…」
裏山は残りの空席に座る
南家
「で?
ルールはどうするんじゃ?」
席に着いた染谷が尋ねる
「今日は京太郎の基礎能力向上が目的ですから
25000点持ちの30000点返しアリアリの半荘戦トビ無し
でやろうと思います
そして一局終了事に全員の手を開いて京太郎の打ち筋について検討したいと考えていますがどうでしょうか?」
「なるほどなー
時間はかかるが確実性はあるのー」
「解りました」
染谷、原村は合意する
「え?
どういう意味?」
須賀だけが話についていけてなかった
「あー…
とりあえずお前は好きに打っていいぞ
こっちでフォローする」
大変お待たせしました
明日更新します
「んじゃあ、次行くぞ!次!」
東二局
「で、なんの話だっけ?」
うちながら先程の会話が再会される
「裏山君なら、名門校からかなりの数の勧誘が来てたはずなのに何故わざわざ清澄に来たのか?
とたずねたんです」
原村が先程の言葉に補足、言い直す
裏山は集中の一切を麻雀に向けつつ表情を変える事無く答える
「…一言で言うと『面白かった』からだなー」
「『面白かった』…?」
「俺には二つの道があった
一つは名門に進学しインハイ個人団体の双方で優勝を目指す
まぁ王道だな
もう一つが無名校に入りインハイ出場、優勝を目指す
前者ほど楽ではないが成功すれば世間に俺は『無名校をインハイ出場校に変えた男』として認められる
それが例え俺の力で無いとしてもな」
「ですが清澄の現状では男女双方とも団体戦に出ることはできません
個人だとインパクトは薄いのでは?」
「それが今の悩み所
何せそこんとこ調べ無いで入学したものでね」
自嘲の混じった苦笑しつつ続ける
「清澄を選んだのは原村さんから清澄に入学するって聞いたのが理由かな」
「私…ですか?」
「覚えてるかな?
初めて和ちゃんに会った日…
ウィークリー麻雀TODAYの取材を受けた時に進路の話があったんだけれど…」
あぁ、そんな事もあった
原村は思い出す
「その時に和ちゃんが清澄に進学すると聞いた時、西田さんらは微妙な顔をしたけど
俺は、実に面白いと思った
ミドルチャンプが無名校をインハイに導く
さっきも言ったがこれに成功すれば社会的に認められる
とは言え前例が無いわけじゃない
しかしだ…
男女両ミドルチャンプが同じ無名校に入りインハイに出て見ろ!?
史上初だ!
間違いないマスコミは騒ぐ」
ここまで、今までの話を聞いて原村は裏山が如何なる人間かを部分的に理解する
本人が認めるかはわからないが裏山は『認められたがり』なのだ
己の力を他者に見せつけたい。
『自分は凄いだろ!?』と
しかし、それでいて決して他者を見下している訳ではない
『認められたがり』には二種類いる
一つは周囲に自分の力を誇示し、周囲を見下す事により優越感に浸り、それを悦とする者
もう一方は周囲に自分の能力を認めさせ自己主張する者
これらは、一見同じ様に見えるがそれぞれ己を高める目的が違う
前者は周囲とは自分は違うという言わば『特別』扱いを受ける事を目的とし
それを『愉悦』として努力する
後者は『飽きを満たす』為である
後者の人間にいえる事は自覚があるかは別として、現状に飽きているのだ
故に新しい刺激を求める
『自分はこんな事ができる』
『確かにすごいな
しかし、その程度で満足しているか
オマエのやっている事にはまだ上がある』
『自分はこんな事ができる』
『やるな
しかし、そんな事できるやつは山ほどいる
ほら見ろ!あそこにはオマエより凄いヤツがいるぞ』
『自分はこんな事ができる』
『そんなところまで究めたか
ならばもっと上を提示しよう』
とどのつまり、上り詰めたいのだ
高い山を登り頂上まで着いたとしてもそれで満足しない
更に高い山を求めるのだ
それこそ際限なく
限界などない
いらない
意味ない
無限に探し求める
一つ一つを登り続け、頂上まで辿りついては『愉悦』を感じるが
すぐに飽き次を求める
裏山はそんな人物なのだろう
彼は決して他者を見下している訳ではない
でもなければ、染谷に頭を下げてまで須賀の為にこのような場を用意したりしないだろう
真意はわからないが間違い無く、今日のこれらは須賀の為のものであり
裏山の能力の誇示の場ではない
友達を高めてやりたい
そのような感情に卑下といった意思があるわけがない
裏山は友情のため動いている
原村は麻雀が好きだ
麻雀が自分のアイデンティティの一部であることは間違いない
だから『イカサマ』という『不正』、大好きな麻雀を『汚す』行動は許せない
そして、それを堂々と恥ずかし気もなく
いやむしろ、それを誇りとするかのような先日の裏山の『イカサマの披露会』
それに対して嫌悪感を抱いたし軽蔑もした
裏山に対して苦手意識を持った事も確かだ
しかし先程の事を考えてみれば『イカサマ』を覚えたのも己を高める事の延長線上にあったものなのかもしれないし
『そんなこと』が友達を高めようとする裏山に協力しない理由にはならない
いや、それ以前に自分も須賀も裏山も同じ部の『仲間』なのだ協力しない理由はないのだ
「…リーチ!」
そこまで考えた時
須賀の立直宣言
捨牌は完全に筒子の染め手示している
しかも、自摸ってから立直宣言までかなりの間があり須賀は何度も手の形を並べ直していた
かなりの多面待ちのようだ
しかし、もうすでに十四巡目
手牌は一向聴、安牌は沢山ある
原村手牌
三三四四五23457⑧⑧⑧ ツモ6
テンパイ
しかし⑧は筒子であり危険牌
四を切り一応テンパイをとる
須賀がツモに力をこめるのが端からでもわかる
「ウオーッ!」
須賀が唸る
「ツモ!」
須賀手牌
②③④⑤⑤⑥⑦③④⑤⑦⑧⑨ ツモ②
「えーっと
立直…一発…ツモ…メンチンで…」
須賀が指を折りながら数える
「…9個で倍満だ!」
「おおっ!」
須賀の高らかに宣言に対し、裏山は拍手する
しかし、
「でも残念ハズレッ!」
突然の言葉に須賀の頭に?が作られる
続けるのは染谷、立ち上がり須賀の隣まで来ると牌を並び変える
「ここをこーして、こんすれば…」
手牌
②③③④④ ⑤⑥⑦ ⑦⑧⑨⑤⑤ ツモ②
「これで平和もイーペーコーも付くけー
二本増えてトリプル、三倍満じゃ!」
「おーっ!」
再び須賀が唸る
確かに自分も初めて三倍満や役満をアガった時は興奮したものだ
原村はさらに思いを馳せる
須賀を見ていると麻雀を覚えたばかりの頃の純粋な気持ちを思い出す
興奮する須賀を微笑ましく見ながら注意点を促す
「チンイツなどの多面待ちは他の複合役を見逃し易いので慣れていきましょう」
「応!」
須賀は興奮のあまり
満面の笑みでそれに応える
その笑顔に原村は己の胸がドキッとしたの感じた
半荘終了
ここまで来るのに一時間半掛かった
無論理由は一局毎に見直しを行ったからである
結局須賀の見せ場は東二局のみ
東二局の三倍満で得たアドバンテージを吐き出し結果5800点のラス
三着の原村とも10000以上の差がある結果となった
「ラス…」
須賀は椅子の背もたれに深く寄り掛かる
「まぁ…頑張った方だろ」
裏山が声をかける
「てか、オマエなんでそんな裏ドラがノルの?
ずるい!」
裏山を抗議する
「どうだっ!
うらやましいか!」
須賀が妬ましそうな顔で裏山を見る
「しかし、ホントに裏ドラノルのー」
染谷の言葉に裏山はドヤ顔で
「因みに俺の公式戦での裏ドラがノッてる確率は100%ですよ」
「なに、その特殊能力
その時点でもう有利じゃん」
特殊能力…
『そんなオカルトありえません』
少し前の原村ならそのように即座に反論しただろう
しかし、その証明例が目の前にいる
最近、原村はオカルト、ジンクスを否定する持論に一部例外がいる事を認め始めた
いや、認めさせられた
先日、原村はこの裏ドラのノリ方の異常性にイカサマを疑い裏山に問い詰めた事がある
それに対する裏山の反応は
「じゃあ、証明しよう」
そういって裏山は卓に着いた
裏山は対局の際に原村を自分の隣に立たせ
自分の代わりに牌の操作をするように原村に指示した
それなら一切裏山は牌に触れる事は出来無い
イカサマは不可能だ
しかし、結果はそのようになったのだ
「京太郎、言っておくが
俺の『神聖領域からの刃』は…」
「何そのムカつく程中二なネーミング!」
須賀のツッコミが裏山の言葉を遮る
「俺に言うな!
俺がつけたんじゃねーっ!因みに命名主曰く
王牌は中国麻雀においては一切使わない(中国麻雀にはドラはなくリンシャン牌も次のツモからツモる)為神聖な牌とされていて
そこからくる攻撃だかららしい」
「なんだそれ」
須賀が呆れ顔をする
「言っておくが命名主はもっと凶悪な能力者だぞ!?
なにせ、特定条件を満たすと配牌で四暗刻をテンパイしやがる」
「チートもいいところだろ…」
「他には…
ドラを独占するヤツとか、フリテンリーチを一発でツモるヤツ、配牌が常に三暗刻確定してる化け物もいるしな
それに比べれば俺なんてカワイイもんだろ…」
「もう言葉がでねぇよ…
俺もそういうの欲しいぜ」
須賀は背もたれに全体重を預け、不可能な夢を見ながら天井を仰ぐ
「不可能じゃないぞ」
天の声
「えっ!」
須賀が勢いよく食いつく
「だから、不可能では無いではないぞ?」
裏山がコーヒーに口を付けながら言う
「てか、こういった能力のほとんどは後付けだからな」
平然といいのける裏山
流石にこれには、
「なっ何を言ってるんですか?」
原村も食いつく
そんな二人に見向きもせずコーヒーを一気に飲み切る
「ホットってどれですか?」
複数あるポットを指差し染谷に尋ねる
「コーヒーはむこうなんじゃよ
うちは本格派コーヒーが売りでのー
基本は水だしでホットは湯煎で温めとるんじゃよ
だからポットには入れとらん」
「なるほど、どうりでおいしいわけだ…」
「少し待っとれ」
そういうと店の奥に染谷は消えていく
ふーっ、と一度息を吐くと裏山はようやく二人の方を向き話し出す
「こういった能力を持ってるヤツらを多く知ってるが
その中で、俺が知ってる限り先天的…、最初から能力をもってたヤツは一人しかいない
他は俺を含めて皆、後天的に発現…目覚めてる」
「つまり俺にも…」
須賀の言葉に裏山は頷き
「可能性はある
これは能力を研究してる大沼ってプロが立てた仮説なんだが…
『アイデンティティ』って言葉知ってるか?」
須賀が首を傾げたのを確認すると原村が応える
「精神分析学者エリクソンが提唱した言葉です
日本語で『自己同一性』などと言われます
社会において自分がどのような存在なのか
自分がどのような役割なのかという…」
「あー、和ちゃん
理屈説明してもこいつのミニマムオツムじゃ理解は無理だ」
須賀の理解の追いつかないという顔を見て裏山が言葉を遮る
「京太郎クラスにもわかるようにいうと
『アイデンティティ』っていうのは『妄想』とか『空想』だ
例えば自分がこの世界に置いて『神』だと固く信じて、そうあろうとし、それを自分の中で確立すれば
それがそいつの『アイデンティティの確立』って訳だ
大沼さん曰く、『能力は麻雀世界に置ける自己のアイデンティティを確立した結果』なんだと」
「ということは私の場合だと…」
「『0と1のデジタル』
流れや、オカルトなんて物を否定し、確率だけを真とする
ってところか
オカルト否定してオカルト能力使える訳ないわな
最も、和ちゃん『らしい』っていえばその通りだな」
「つまり、俺もその『アイデンティティの確立』をすれば…」
「100%ではない…むしろ確率は低いらしいけどな
ただ、その前にオマエは…地力だ!」
能力にときめいていた須賀に現実を突き付ける
須賀が不満をあげるが、
「麻雀の理解してないヤツが麻雀の世界に置ける自分の役割なんて確立できる訳無いだろうが!
それに何度もいうが発現する確率は低いんだ
何せ確定した方法がある訳では無いからな
だから…」
牌を拾いあげ須賀に突き出す
「今日は徹マンで地力の底上げだ!」
染谷が戻って来た
そして再び闘牌が始まる
因みにこれ読んでくださってる方っていらっしゃるのでしょうか…
カキコミないと不安に…
あとコテって付けた方がいいんでしょうか?
気が付けば朝の9時半
結論からいえば今回の徹マンは中々の収穫だった
部活では一人を集中して特訓するという事が出来ないため須賀の基礎能力の向上を計れなかったが
約半日の集中特訓で守備面がかなり強化されていた
「リーチ」
原村のリーチ
須賀手牌
三四六2234②③④⑤⑦⑧ ツモ⑥
好形とはいえ一向聴
数時間前の須賀なら六をノータイムで切っていただろう
しかし
原村捨牌
西一白發27④五R
須賀は現物の2を切る
須賀がこの特訓で学ばされたのはズバリ『守備』
麻雀は四人でするゲームであり三人から攻撃がくるゲームである
故に『攻撃』より『守備』の方が大事なのだ
麻雀がわからない方々は想像して頂きたい
身をガッチガチに鎧で固めた敵と
強力な武器を持っているが鎧一つ纏っていない敵
真っ先に潰すのはどちらであるかを
更にいえば麻雀は競技という枠にありながら常に1位である必要は無い
むしろ逆、4位を取らない事の方が大事
そこを踏まえた上で須賀が教わった技術は二つ
一つめは、リーチ宣言牌の『付近』(俗にいう裏スジ)は切らない
初歩過ぎる技術だが
これが以外と馬鹿に出来ない
麻雀に置いて雀士が考えることは
『どの不要な牌を捨てるか』である
細かい技術などを無視すれば基本はこれのみだ
つまり捨牌の始めは『完全に浮いて不要な牌』であり
捨牌が後ろになるに連れて『必要であったが不要になった牌』となる
特にリーチ宣言牌の付近と来た時にはその危険度は計りしれない
付近牌を切るということは、地雷原を裸足で走り回るようなものなのだ
先程『付近』と強調したのは『二重』の意味を持たせたからだ
もう一つの意味は『リーチ宣言牌の前、数牌の付近の牌』
原村の捨牌でいえば7④五の部分
先程も述べたが『捨牌は後ろほど危険』なのである
これから解ることは牌の危険度
図式化すれば
三四六七>②③⑤⑥>5689
となる
『リーチ牌の前、数牌』の『数牌』の基準は『手出した牌の内の三割程度』
これらの付近牌はかなり危険
現物でなければこれらは絶対切らない
ちなみにこの『三割』という数字に明確な理由は無い
あえて言うなら基準が欲しかっただけのこと
初心者に安全圏と危険地帯の見極めは難しい
もっとも、数を重ねれば感覚的に理解するようになるのだが
打ち方を『ぶれさせない』という意味で明確な基準が必要なのだ
因みにこの技術は近年否定されつつある
裏山も否定派であり『スジや裏スジ、間4軒なんて牌譜の統計取って見ればジンクスに近いものだ』とまで言っているが初心者の技術として一応教えた
染谷の『いきなりベタ読みとか高度なこと教えるよか、基準のあること教えた方がええじゃろ』という言葉によるものだ
二つ目は役の見極め
これは一つ目の応用
日本の麻雀はアガるには必ず役が必要になる
その役の見極めが出来れば振込み率はかなり下がる
この項目についてはまた後に詳しく語られるだろう
原村の一人テンパイで終了
「また…ラス……」
須賀は四位
しかし…
「いや、上々だろ」
裏山はそのように評価する
「えっ?四位だけど?」
「それは結果だ
中身を見てみると、この半荘アガリ振込み共に0
今日のテーマは『守備』だから全く問題無い
しかもラスっつったて17800のラスでたいして削られて無いからな…」
「オリるだけでなく、しっかり攻めるべき場所では攻めてましたから
今回は合格点でしょう」
「結果なんちゅーもんは出すべきところでだせば十分じゃ
今のうちに、いやっちゅー程ラス取っときんしゃい」
原村、染谷、両名からも高評価だ
「そろそろ、いい時間だから俺らは、おいとまさせていただきますか」
裏山が京太郎に声をかける
「早くないか?」
「軽く家でシャワー浴びてスタッフルームで軽く睡眠とって仕事が一番楽だろ
あそこなら『たかぴ~』がいるから寝坊を防げる」
「『エトペン』の準備もしなきゃいけないないしな…」
「エトペン!?」
そんな会話の中に偶然出た『エトペン』という言葉に急に立ち上がり反応したのは原村
「エトペンって『エトピリカになりたかったペンギン』の主人公のあの『エトペン』ですか!?」
原村にしては珍しい興奮に須賀らは驚きながら須賀が応える
「…あっああ、そうだけど…」
「お二人の働いてるお店にエトペングッズがあるんですか!?」
原村の興奮に裏山は察し一ついたずら事を考える
「…更にいえば
うちの店にはエトペンが『いる』ぞ」
「いるってどういう事ですか!?」
「じゃあ…」
須賀は携帯を取り出し操作する
「今LINEに店の住所載せたからきてよ」
「行きます!」
パンと染谷が手を叩く
「そんじゃあ解散としようかのー」
「おふたりとも~だうんしてるのですよ~」
中井だ
裏山と須賀はスタッフルームの机に突っ伏して爆睡していた
「中井、30分前になったら起こしてやれ」
後ろから聞こえたのは久保の声
「ちょっとはやくないですか~?」
「『須賀の準備』に時間がかかるだろう」
着ぐるみというのは以外と着るのに時間がかかる
裏山、中井の手伝いがあっても毎回15分程度の時間を要している
今回もその程度かかるだろう
「たかぴ~
きょ~も、せ~ふくきないんですか~?」
「…それはどっちのことを言ってるんだ?」
「もちろんだんせ~よ~ですよ~」
「ふざけるな!」
従業員である以上久保にも制服はある
女性用の制服(ゴスロリ)は始めて着た際に「素材はいいのに目付きで台なし」と評価され
且つ本人の趣味の相違もあり却下
ならばと用意された男性用(燕尾服)は着た際、藤田に「結婚してくれ」と本気で迫られ
それが少々トラウマになったため遠慮
ということで久保は基本高校に母校のコーチに行く時と同じ服装でこちらの仕事にも来ているのだが、藤田から話を聞いたのだろう
事あるごとに中井はそれを見たがる
「でも、きょ~はてんちょ~いませんよ~?」
その通りだが、そういう問題ではないのだ
「た~か~ぴ~」
ついに駄々をこね始めた
いつもなら怒鳴って沈めるところだが
ちらりと寝ている二人を見る
この気持ち良さそうに寝ている二人を起こすのは忍びない
基本、久保貴子という女性は面倒見が良く、気配りの出来る人間だ
二人を起こしてはならないという状況と目の前の駄々っ子
ついに久保が折れた
「…はぁ
着替えてくる」
「やった~」
中井は跳ねて喜び
久保は奥の部屋へと入って行った
「…どちら様でしょうか?」
中井に起こされてみれば室内には見慣れない麗人がいた
「私の事を言っているのか?」
この声には聞き覚えがあった
「久保さん!?」
男二人の声が重なる
「んだよ」
裏山が男装(服装のみ)した久保をまじまじと観察し
「美人って男装しても美人なんだな…
なんかずるい!」
「うっせっ!」
褒め言葉にやや顔を赤めながら久保はそっぽを向く
「あ~、りゅ~たろ~くん
たかぴ~は、わたしのむこだがらくどいたらだめですよ~」
中井は久保の腕に抱き着く
「ええい!うっとうしい!」
そんな中井を振り払おうと腕を振り回す
「でも実際、久保さんってかなりの美人だよな」
須賀が裏山に小声でふる
「なんだ、おまえチョモランマ派じゃなかったのか?
美人は認めるがホライゾン…まではいかないか
いっても赤石山脈ってところだろ」
「確かに双山は残念だ
しかし、それを差し引いても…ゴフッ」
「てめぇらは何話してやがる!」
続きは久保の鉄拳によって遮られた
投下終了です
様々なご意見ありがとうございます
なにも評価されないよりは「こんな糞みてぇなSS見たことねぇwww」
と書かれた方がはるかに嬉しいので投下終了毎になにか感想頂けると嬉しいです
台本形式にしたらどうかという意見を頂きましたが
>>1にも書いた通り台本形式ってどうやって書けばいいのかわからない為やらないと思います
闘牌とか台本でどうやってやればいいか、わからないですし…
京太郎についてですが物語中盤(雀風が決まった頃)から活躍させる予定ですので御容赦下さい
それでは次回投下まで失礼します
ファンシーショップ『幻想館』
本日の従業員は6人
先の4人に加え女子大生が二人である
配置はレジカウンターにJDが一人と久保
店内整理(所謂サジェスト係)にJDと中井
そして外周り(客引き)に裏山とエトペン(須賀)である
日曜日の昼時
商店街はカップルや親子連れで賑わう時間だ
その中に着ぐるみを出すと多大な客引き効果がある
事実これが店前に出るようになって売上が二~三割増加したらしい
(これにともない秘密裏に須賀の制服の『遅れ』が検討されているとかいないとか)
そんな中、裏山は店の宣伝をしながら風船を子供たちに手渡す
「『一度入ればそこは夢の国』幻想館でーす
よろしくお願いしまーす」
この台詞、最初は
『ファンシーショップ幻想館
よろしくお願いしまーす』
であったが『捻りがない』と久保にダメ出しをし久保が考案したものだ
『五十歩百歩』と評価したペンギンがその後数分に渡り理不尽な暴力にさらされたのは闇に葬り去られた事実だ
そのペンギンはというと子供達に囲まれて動けなくなっていた
アタフタとしていると悪ガキが隠れたファスナーに触れようとする
それを阻止するのも裏山の仕事だ
「ごめんねー
エトペンはギックリ腰だから腰に触らないであげてねー」
そんな適当なことをいいながらファスナーを守るため子供達とエトペンの背中の間に体を無理矢理割り込ませる
が、多勢に無勢、子供の一人一人の力は弱くとも集まればそれは驚異ともいえる力になる
子供達のうちの一人が無理矢理、裏山とエトペンの間に入ろうとすると
それに続けとほかの子供達もなだれ込もうとする
まずい…
裏山は考える
現状を打破する策を思案する
そして閃く一つの案
イケル!
「みんなー!
これからエトペンが特技を披露するよー
ちょっとはなれてー」
それを聞いた子供達は少し離れ始める
しかし、突然の無茶振り
それに須賀は喋ることができない代わりに腕をパタパタ動かし体を使って抗議する
『ちょっ!聞いてない!』
それを見た裏山は一度頷く
『伝わったか!?』
しかし、現実はいつも残酷なのである
「やる気満々マンだね!エトペン!
それじゃあイッてみようか!」
退路は断たれた
『糞っ、覚えてろよ…!』
さぁどうする
自分は着ぐるみ、出来る事は限られている
須賀はこれといって特技はない
あえていうならば家事と体力自慢な事くらいである
しばらくの沈黙
須賀の頭に一筋の閃き
ピキーンッという効果音まで一緒に過ぎった気がする
追い詰められた者に与えられる閃き
エトペンがステップを踏む
その動きは軽快で着ぐるみとは思えないものである
しかし、これは始まりではない
いうならば裏山への一つの暗号、メッセージ
『頼む気づいてくれっ!』
裏山にも最初の10秒程何をしているか解らなかったが
その動きには見覚えがあった
そうか『アレ』か!
気づいた裏山の動きは速かった
駆け足で店の中に戻り必要なものを揃える
久保や他の従業員が何事かと声をかけるがそんなものは耳に入らない
スタッフルームに入り急いで自分の鞄から必要なものを揃える
取り出すのは携帯音楽機器と専用のスピーカーとそのリモコン
前日は学校→バイト→染谷宅で鞄に入れっぱなしでその後一度は家に帰ったものの
睡魔のあまり抜く事まで頭に回らなかったためそのままになっていたのだ
電気は店の外に外部コンセントがある問題無い
それを手に取りすぐに店の外に戻る
戻るとすぐに準備をする
出来た
エトペンがタップを始めてからここまで2分以内の出来事
「よっしゃーっ!
そんじゃあ、エトペン!
いっちょイッてみっか!」
そう言うと裏山はエトペンの隣に立ち
リモコンにてスピーカーを操作する
スピーカーから音楽が流れ始める
それと同時に二人が動く
その腕、足、腰全ての動きにキレがあり、見る者を魅力する
最も凄いのはエトペンである
一頭身でありながら人間の裏山と一糸乱れず全く同じ動きである
一頭身が跳ねながら空を蹴り上げ
曲の間奏にはタップダンスのごとき高速ステップを踏む
人間と一頭身のペンギンのダンス
通常ならばシュール以外何物でも無いが
それを感じさせないほどの完成度である
最後にはターンをして両者は背中を合わせながら観客にポーズを決める
沸き起こる拍手喝采
気が付けば観客は子供保護者だけでなく
この時商店街にいたほとんどにまで及んでいた
それの大きさに両者は驚きお互いの顔を見ると満足し、観客にお辞儀をした
これを機に店は観客で賑わい
エトペンは子供達に写真撮影をせがまれ、ちょくちょく女子中高生から握手や写真撮影をせがまることになっていた
裏山、須賀は15:00になると休憩のためスタッフルームに戻っていた
「疲れたーっ!」
両者は隣あって椅子に深く腰をかけながら
同時に同じ台詞を放つ
「てか竜太郎、本気で恨むぜ?」
無論先ほどの『特技披露』のことである
「ああ!?
うまくいっただろうが!?
それともガキ共に着ぐるみ剥がされたかったか?」
「もっとまともな選択肢なかったのかよ」
「今考えてもあれ以上はねぇよ
てか、よく『あれ』思いついたな」
「あぁ、もっと褒めてくれ…」
「それにしても、まさか『授業の合間の遊び』がこんな時に役に立つとはな…」
「全くだ…」
三週間程前から須賀のクラスの男子数名で授業の合間の暇な時間を使ってダンスを行っている
動機は単純
クラスの仲の良くなった男子が
「文化祭の中夜祭で出し物やろうぜ」
と言い出し、かなり早いが暇つぶしも兼ねて行っている事である
最初に須賀が行っていたタップは彼らがウォーミングアップとして行っている動作である
故に裏山は気づく事ができた
「いやーっ!
俺もよくこれ持ち歩いてたよなー」
裏山がステレオスピーカーを指で弾きながら呟く
「それはマジで助かった」
はぁーっ、と再び同時にため息を吐く
不意にスタッフルームの扉が開く
入ってきたのは久保だ
「おお、ご苦労ご苦労」
「どうも」
「おかげで売上も中々だぞ
」
「それは上々ですね」
「なんだ、暗いじゃないか」
「疲れてるんですよ」
最後の一言が被る
「そうか、因みに後半戦もやって貰うからな」
死刑判決にも聞こえたその言葉
「やる…というのは…?」
勘違いであって欲しいと聞き直す
「先程愉快なことをしていたそうではないか
客から聞いたぞ?
後半も外周りよろしく頼んだぞ」
それだけいうと久保は部屋を後にした
それを見届けると二人は机に突っ伏した
「エトペーン!」
裏山の目の前には異様な光景が広がっていた
エトペン(須賀)に抱き着いている純白のゴスロリ服を着た原村和である
裏山は普段は見せない原村の子供な一面に動揺していた
おそらく抱き着かれている須賀はそれ以上だろう
最も実際は
『クソッ!なんで俺は今着ぐるみなんだ!
和が、あの和が俺に抱き着いているというのに!』
と心の中で念仏を唱えていたのだが
それは裏山の、他人の知れる所ではない
「あー…和ちゃん…?」
「あっ裏山くん、写真!写真いいですか!?」
「あっ…ああ…」
携帯を手渡される
「はーい、いきまーす
3、2、1…」
合図をだし、シャッターをきる
「ありがとうございます」
満面の笑み
ところで…と原村が続けながら辺りを見回す
「…須賀くんはお店の方ですか?」
「ああ…、京太郎?
京太郎は…」
あなたの隣にいる物体の中身がそうですとは言わない
言えるはずも無い
「…ちょっと別の仕事で今はいないんだよね
なにか伝える事ある?」
「いえ、特になにもありません」
真顔でバッサリと切り捨てる
その瞬間、原村の隣の表情を変えるはずのない人形から明らかな落胆の意思を裏山は感じとっていた
「まぁ、楽しんでってよ…」
そういうと演技混じりに右足を下げ左手を背中に右手を左胸に当て一礼する
「ようこそ、幻想館へ」
一時間半後
原村は大きな袋を片手に店から出てきた
「おっお帰り?」
気づいた裏山が声をかける
「はい!
私の好みに合う物が沢山あって
このお店気に入りました
リピーターになります!」
本当に気に入ったのだろう
徹マン明けとは思えないほどツヤツヤした顔である
それを確認した裏山も腕を組み頷く
「それは上々
またのお越し、心よりお待ちしております」
先ほどと同じく、演技混じりの礼
「須賀くんはまだこちらにはいらっしゃらないのでしょうか?
挨拶していこうかと思ったのですが…」
あーっ…、とエトペンを見る
テコテコと近づいてくる
紹介しろということだろうか
周囲に子供はいない
「…これ、京太郎」
そういってエトペンを指差す
「はい?」
突然のことに理解できていないようだ
「これの中身が京太郎なんだよ」
裏山がそういうとエトペンが言葉を発する
「はーい、須賀京太郎でーす」
そういってピコピコと腕を動かす
「…………」
しばらくの沈黙
そして見る見るうちに原村の顔は赤くなっていく
「…失礼します」
一礼すると走り難そうに走り去っていった
再びの沈黙
「痛っ」
沈黙を破ったのはエトペンの悲鳴
原因は裏山の蹴り
「このっ!
いたいけな少女の夢を壊しやがって!」
「俺のせいかよっ!?」
責任の大半は裏山にあるが棚上げする
家に戻り自室に入ると原村は買ってきた物を机上におき、ベッドに倒れこんだ
考えるのは先程のこと
しかし、内容は裏山らが察したものとは違った
『男の人に…
抱き着いてしまいました…
私はなんてはしたないことを…』
そう心の中で呟きながらベッドの中で悶絶する
着ぐるみだったとはいえ、抱き着く前に、少し冷静になればその可能性に辿り着く事が出来たはずだった
『しかもよりによって須賀くんに…』
これまで全くといっていいほど男という生き物に接して来なかった原村にとってこれは大事件なのである
「うぅ………っ」
原村はこの日の間
呻きながらベッドを転がり回るのだった
投下完了です
後半かなり駆け足になってしまいましたがようやくプロローグが終了しました
ようやく、物語は6月へ
つまり…
咲ちゃんとのどっちが邂逅します!!
やっとですよ!
三月にはここまで書き終わってる予定だったのに何故こうなった…
さてさて、次回から様々な人達が現れます
『彼女』の正体も判明することでしょう
次回からもこの駄文にお付き合いください
今回はこれにて失礼いたします
六月、初夏とも呼ばれる季節
裏山にとってその日は特別な日であった
学校、及び部活に欠席の旨を連絡すると朝の早いうちに裏山は制服で最寄の駅へ向かった
駅に着き時間を確認する
次の電車まであと15分ほどあった
構内のベンチに座り、鞄から一冊の本を取り出す
『リーチに対する対処法』著書 永安 守(ナガヤス マモル)
彼は現在麻雀界の五指に入るトッププロだ
本の内容はタイトル通りリーチに対するオリ方や読み方等について書かれたものである
黙々と熟読していく裏山
やがて電車が到着し、乗車してからも裏山の行動は変わらない
朝も早いせいか車内はサラリーマン風の男性が二人いるだけでガラガラであった
『ふーん…
『親リーチに対して明カンするケース』ねぇ…』
世間一般においてリーチが掛かっている状態でのカン、特に大明カンは愚行とされている
暗カンなら
・相手の待ちを潰す
・こちらもリーチで引き合いに持ち込む
など理由はあるが大明カンの場合
・自分はリーチを掛ける事ができない
・それによって勝負に出ても役が限定されるため待ちもバレやすい
・加カンの場合チャンカンの危険がある
暗カンと明カンの差といえば大まかにすれば大胆これだ
項目として書き出してみればその差は歴然として見れるだろう
『あえて明カンをするなら
全ツするタイミングであるか、そうでなければ四カンツ流れによる流局を狙うかだが…』
本の内容としてはまずその二つに触れていた
その二つだけならば誰でも想定できる
裏山の目を引き付けたのはその次から数ページ
やがて岡谷駅に到着し新幹線に乗り換え数時間後新宿駅に到着したが
本はそれ以降開かれていなかった
電車を乗り継いで辿り着いたのは足立区のとある墓地
足慣れた様子で立ち入っていく
そして一件の墓の前に立つ
しゃがみ込み手を合わせる
「ただいま
父さん、母さん、兄貴…」
裏山家ノ墓
視線は墓回りにいく
裏山がここを訪れるのは年に一度この日だけ
しかし、
「きれいだな」
墓回りは良く清掃されており花は新しかった
「そりゃあ俺が毎週掃除してるからな」
裏山の呟きに答える背後からの声
裏山にとって既に聞き慣れた声
それに振り向かずに答える
「毎度感謝してるよ
永安さん」
「バーローッ
親父と呼べ」
身長は181cm痩せ型の俳優を匂わせるホストと言っても通じるだろうやや濃い顔立ち
永安と呼ばれた男性は裏山の隣にしゃがむと持参した花を備え手を合わせる
「しばらく来ないものかと思っていたがな」
「今日は特別だろ?
確かにこんな事したって何の意味はない
死者に感情ない以上誰かが喜ぶわけじゃない
魂の救済なんて存在しない
そんなことはわかっている
所詮は自己満足だよ」
「明久達の目の前で良く言えるな」
「何度も言うが死者は物を言わない
感じない
毎年ここに来てるのは自己救済なんだよ」
ドライだな
と呟くと永安は立ち上がり、懐から煙草を取り出し火をつける
「ふぅーっ、いつまでこっちにいるんだ?」
裏山も立ち上がると答える
「明日は学校あるから深夜にはかえるよ」
「そうか…」
返し、懐から一つの封筒を取り出すと裏山に手渡す
中身を確認すると中には万券の束
50万ほど入っていた
「これは?」
「入学祝いだ取っとけ」
「…受け取れない」
そういって突き返す
「あんたには学費だけでなく家賃、光熱費まで払って貰ってる
これ以上…は」
「あのなぁ…」
頭をかきながら永安はつづける
「成り行きとはいえ今の俺はお前の『親』だ
親が子供の面倒を見るのは当たり前だろうが
「長野の高校に行きたい」
なんて
お前を引き取って以来
今まで我が儘一つ言わなかったお前が始めて俺に我が儘を言ったんだ
素直に嬉しかったんだぜ?
それに…」
タバコに口をつけ紫煙を吸い込み肺まで入れたところで吐き出す
「…明久の前で俺に恥をかかせるな」
そういってニヤリと笑った永安を見て裏山も表情を緩める
「よく恥ずかしげもなくそんな台詞吐けるな…」
そういいながら封筒を制服の内ポケットにいれる
「バーローッ
んなわけあるか
今日寝る前に思い出して布団の上で悶絶するだろうよ」
言い切ると永安は高笑いした
つられて裏山も笑い出す
『嗚呼、父さん、あなたの親友は本当にいい人だよ…』
「靖子ちゃんだろ?
もちろん知ってるよ」
「バイト先の店長なんだ
あの人」
墓地を出て最寄の駅まで歩いて行く
そんな中で行われる近況報告
「バイト始めたのも初耳だし
靖子ちゃんが店持っているのも始めて聞いたよ」
永安の顔は楽しそうである
「母親の店らしいけどね
その名もファンシーショップ『幻想館』」
「靖子ちゃんがファンシーショップか…
ハハッ彼女基本ツンツンしてるけど可愛いところあるな」
「口説くなよ?44歳」
「まだまだベッドの上でも現役だぞ?」
「息子の前で白昼堂々下ネタやめろ!」
「『ムスコ』だけに?
…グフッ!」
突如右足を襲った鋭いローキックに永安は悶絶した
端から見れば親子というより友人同士に見られるだろう
いや実際、永安はどうか知らないが裏山からすれば父というよりそちらの方が感覚としては近いかもしれない
「つまんねぇんだよ!」
悶絶している永安を放置して先を歩く
「ちょっ!待て!竜太郎!」
痺れる痛みの続く足を引きずりながら裏山を追う
「靖子ちゃんだろ?
もちろん知ってるよ」
「バイト先の店長なんだ
あの人」
墓地を出て最寄の駅まで歩いて行く
そんな中で行われる近況報告
「バイト始めたのも初耳だし
靖子ちゃんが店持っているのも始めて聞いたよ」
永安の顔は楽しそうである
「母親の店らしいけどね
その名もファンシーショップ『幻想館』」
「靖子ちゃんがファンシーショップか…
ハハッ彼女基本ツンツンしてるけど可愛いところあるな」
「口説くなよ?44歳」
「まだまだベッドの上でも現役だぞ?」
「息子の前で白昼堂々下ネタやめろ!」
「『ムスコ』だけに?
…グフッ!」
突如右足を襲った鋭いローキックに永安は悶絶した
端から見れば親子というより友人同士に見られるだろう
いや実際、永安はどうか知らないが裏山からすれば父というよりそちらの方が感覚としては近いかもしれない
「つまんねぇんだよ!」
悶絶している永安を放置して先を歩く
「ちょっ!待て!竜太郎!」
痺れる痛みの続く足を引きずりながら裏山を追う
あっ、そういえば
裏山は急に立ち止まり鞄から一冊取り出す
そうしてる間に追いついた永安にそれを突き付ける
「これ読んだよ」
『リーチに対する対象法』自分の著書を見せられ相変わらず楽しそうな表情で感想を求めた
「感想?
今回は中級者向けの戦術書としての完成度としてはかなりの出来じゃないか?」
再び歩きながら答える
「まだ俺より弱い若造が偉そうに」
「麻雀が一対一で戦えるものだったら俺が勝つ」
「残念だが麻雀は四人でやるものだ
他者を利用して強者に勝つ
これが真理だ
『他力本願』って言葉知ってるか?
『自分の力を過信せず他者の力を大いに借りよう』って意味だ」
そんな言葉を裏山は鼻で笑う
「そんなものは所詮は弱者の免罪符だろ?
覇者とは、真の王者とは自が力で道を切り開くものなのだよ」
それを聞いた永安も笑う
しかし、それは裏山のものとは違う
「そうだ…!
お前はそれでいい!
明久が今のお前の言葉を聞いたら泣いて喜ぶぞ!
いや、俺も嬉しいよ
何せ自分の息子が覇道を進むと言っているんだ
父親冥利に尽きるってもんだ!」
溜息混じりに返す
「普通、親の生き方を真似るのを喜ぶものじゃないの?
親って生き物は」
バーローッ
裏山を指差し諭す
「いいか?
男子たるもの頂点目指してこそなんだよ
それを王道で掴もうってんだ
それ以上はねぇよ
それにな『他力本願』なんてのは俺みたいな現実を見てしまった汚い『大人』がやることだ
その道を進むってんなら間違っても真似するんじゃねぇぞ?」
ふっ、と再び鼻で笑う
しかし、今回は別の意味
「あいよ
じゃあここに書いてある項目は参考にならないな」
そういって開くのは問題の数ページ
・あえて明カンを行い他家をリーチへ誘導同士打ちさせる
「…ああ、そんなものは俺みたいな小物がやるテクニックだ
王道を行く者はそんなもんに頼るな」
本をしまう
「りょーかい」
そうこうしているうちに駅に辿り着く
「夏は帰って来るんだろ?」
「インハイだよ!」
「ということは帰ってくるんだな?」
「オーイ、まだ何も言ってないぞー」
そして、分かれ道
永安と裏山は別の道だ
「大人数入れる様に準備しておくからな?
絶対帰ってこいよ!?」
そう残し永安は早々に背を向け、それ越しに手を振り去っていった
「ったく…」
残された男は悪態をつく
そんな事を言われたらどうしてもインハイに出場しなければならないではないか
「アンタはホントにすごい人だよ
親父…」
先程、裏山は永安に対して一対一なら勝てると言った
しかし、実際はそんな自信はない
現に裏山は永安に勝った試しが無い
勿論永安と同じ卓に着きも一位を取った回数は数知れないが
日の総合で勝った事はない
永安のプレイスタイルは相手の癖や超高度の読みから敵同士を殴り合わせる様に場を支配し、いつの間にかトップを取るというものだ
同じ事を裏山も行ってはいるし、そのレベルは十分に一流と呼ばれるものではあるが
しかし、それでもは彼の足元にも及ばない
さらに先程の『あえて明カンを行い他家をリーチへ誘導同士打ちさせる』にしたってかなりの技量が必要になる
最低でもリーチ者以外の二人の押し引きを察知するだけでなく
自分は残り9枚の手牌で相手のリーチを避け切らなければならないのだ
相当な読みと勝負感が必要となる
先の言葉を否定せず受け入れる様に肯定したのは
トッププロとしての余裕か
そうあって欲しいが故の希望か
はたまた本心か
裏山にはわからない
それでも、物心ついてすぐに肉親を失った裏山にとって
自分を養ってくれた永安守という男は間違いなく
『父』であり
『師』であり
尊敬をするに十二分な人物であることは確かだ
そんな男の背中が見えなくなるのを確認するとようやく裏山も動き出す
もうひとつの予定のために
東京港区赤坂
かつて多くの大名屋敷や旗本屋敷が存在した地域はいつしか軍人やブルジョア階級家庭からなる
都心部有数の邸宅街へと発展
戦後昭和中期から後期になると銀座と並ぶ高級繁華街として栄華を極める
その流れは現在も引き継がれ
新宿区の暴力団排除条例によって新宿からその関係賭博場が排除されたことも重なり
現在ではブルジョア階級の非合法な娯楽場が数多く存在する
とある高級ホテルのワンフロア
『特別会議室』と名付けられたフロアもそのうちの一つだ
完全会員制のそこはフロントに会員証であるライターを見せ、従業員の先導があって始めて足を踏み入れる事ができる
『特別会議室』はフリー、セット兼用の非合法な完全個室雀荘
フリーの場合は最低レートはデカ5ピン~、卓上で合意がなされればそのレートは天井知らずに膨れ上がる
しかし、客層は大変優良で金が払えず回銭する者も破産した者もいないという
そんな超が付くほどのブルジョア達の集まる遊戯場の一室
セット用の一室に裏山は誘導される
室内に入るとそこにいたのは見慣れた面々
「よぉ竜太郎、卒業式以来だなぁ」
白いスーツで装い
髪を軽めに紅く染めた青年が、飲んでいたカクテルグラスから口を話すと声をかける
しかし、視線は鋭くとても友人に対するものとは思えない
「痛い痛いっ!
おい!政樹(マサキ)眼光が鋭過ぎ!
顔に穴が開いちまうって」
裏山はそんな青年の視線を手で阻みながら軽口を叩く
「ほっとけ、生れつきだっつぅの
それと…」
政樹と呼ばれた青年の言葉を阻んだのはもう一人の青年
「お久しぶりです竜太郎
長野の空気はいかがですか?」
黒髪は美しく長く知らない者が見れば確実に女性と勘違いするほど女性方向に整った顔
そしてそれらをさらに魅せるネックレスにピアスそして赤スーツ
「ああ、空気だけはいいよ
空気だけはな…
てか政樹はともかくとしても、花月お前もスーツかよ」
「いや、僕としましては竜太郎が制服であることの方が驚きなのですが?」
その微笑みは聖母を感じさせるほど美しくものである
「いや、だって学生のフォーマルスーツはせ…」
「シカトすんじゃねーっ!」
「なんだ政樹?
かまちょ?かまちょなのか?」
「どうかしましたか?
タミフルの服用のしすぎでついに頭が沸きましたか?」
「かまちょでも、タミフルでもねーっ!」
どうどう、と裏山が騒ぎの原因を宥める
「おーけー、おーけー
話だけなら聞いてやろう」
「あぁ!?
なんで上から目線なんだ!?捻り潰すぞ!?」
「なんでって、インターミドルの結果忘れたか?
俺が一位、お前は二位
俺のが上だわな?」
「クッソ!
インハイで覚えてろよ!?」
不毛な言い争いこれが彼らのいつものスタイルだが話が先に進まないので花月が間に入る
「それで政樹、本題は?」
花月に言われて思い出したかのように一度咳ばらいをすると、いつになく真面目な顔をする
「ええーっとだな
私こと、『古河泉(コガイズミ)政樹』
先日、第七代『四方院太郎』を襲名させていただきました
ということで、俺のことはそっちで呼んでくれ」
聞いた両名は「おお」と声をあげる
「おめでとう太郎!」
「よっ俺達の太郎!」
「ありがとう!」
「じゃあ、今日の場代と飲食代は太郎持ちだな」
裏山の提案に即座に待ったをかけるのは勿論四方院だ
「いや、それとこれとは…」
しかし、畳み掛ける
「まさか、関東最大組織、元禄会秋津組の最強の代打ちに与えられる『四方院太郎』を襲名した男が
自分の襲名発表の場で必要になった金を他の奴に払わせるなんてことしないよな?」
「いやですねー
彼は仮にも『四方院太郎』を名乗る男ですよ?
まさか、人にお金を払わせるなんてそんな『セコい』ことをするわけないじゃないですか」
「だよなー」
「わーったよ
出すよ出します出せばいいんだろ?」
「っしゃ!」
勝利の雄叫びをあげると裏山は室内の固定電話を手に取りフロントに連絡する
そんな姿を見て溜息を吐きながら卓に着く四方院
「花月、お前だって『風見鳥』の家から金かなり出てるだろうが…」
「僕は節約家ですから」
「かーっ
名家、『風見鳥』の御曹司から節約なんて言葉が出るとはな…」
「っしゃ!食うぞ!打つぞ!」
欲望全開で裏山が戻ってきた
そんな姿を見て二人は、しかし、笑みを浮かべながら溜息をつくのであった
「それでは打ちましょうか」
卓に着くのは昨年の男子インターミドルの一位、二位、三位だ
しかし、彼らは全開では打っていない
いいところ7割、8割といったところだ
理由はいくつかある
一つは彼らは今『遊び』で打っているということ
レートはウーピンと一般的には高いレートではあるが
もっと上のレートで、幾つもの修羅場を潜ってきた彼らには、どうという話ではない
二つ目は彼らが今『敵同士』であるということ
昨年まで彼らは同じ中学校で同じ学年であった
故にお互いを高める意味でも当時は全力で打っていたものだが
しかし、今は三人とも違う高校に進学した
次に会う時は恐らくインハイの舞台で敵同士になる
お互いの手の内は知っているが
しかし、それは卒業までの実力それから二ヶ月たった今
三者とも実力の底上げがなされているだろう
そこは見せてはならない
三つ目は四人目の存在
現在、卓上にいるのは裏山、四方院、風見鳥、そして四方院の付き人の磯野だ
磯野とは他の二人も面識がある
四方院、中学当時、古河泉は家柄からボディーガードとして付き人がいた
それが磯野だ
身長は2mあり筋肉隆々の
最早、肉達磨と謂うに相応しい無口な男である
彼の麻雀の腕は一流と二流の間といったところであり
他の三人と比べると圧倒的とまでは言わないが劣る
そんな彼が潰れないためのハンデともいえた
よって麻雀中は主に近況報告である
というよりそれが今回の集まりの目的であった
「太郎は白糸台だっけ?高校」
裏山が確認する
「そっ、まぁ、あそこ設備はいいんだけどさ…」
言い吃る四方院を見て風見鳥が尋ねる
「名門ではありませんか
何か不満でも?」
「いやさ、あそこ今女子団体が二連覇してるだろ?」
白糸台高校、高校麻雀界の名門校
一昨年、現女子インターミドルチャンピオン宮永照の加入によって悲願の団体優勝を達成
そして昨年、インターミドル連覇によって現在の地位を確立しつつある
「で、男子は去年団体戦地区予選敗退だったわけよ
その差のせいか
やたら男子麻雀部不遇な扱い受けてんだよね」
「ああ、確か去年の地区予選の決勝
中堅戦で役満自摸の親被り受けて
大将戦で天和くらったんだっけ?」
「うわぁ、交通事故以外の何物でもないですね
あっ、それカンです」
四方院がきった①を風見鳥が大明カンする
「でたっ!
とりあえず『条件1クリアー』か…」
四方院が呟く
「…でだな
今年俺が入ったからインハイ出場はまぁどうにかなるとして…」
「ずいぶんな自信だな…
…リーチ!」
裏山のリーチ
「そりゃそうだろ
俺の実力は言うまでもないとして
インハイ個人11位の芥川達也に
21位の前田卓麻(タクマ)
地区予選5位佐々木健一がいるんだ
今年は白糸台の男子麻雀部史上最強のメンバーだよ…」
「…怱々たるメンバーだな
ツモ…裏が2+2で3000:6000
花月は?
大阪って言ってたけど高校何処だっけ?
梅田?」
尋ねられた風見鳥は3000点を裏山に渡すと答える
「千里山高校ですよ
梅田高校と迷いましたけどね
そうそう、『いずみん』と同じですよ」
『いずみん』その名を聞くと裏山は徐に苦虫を噛み潰したような顔をした
「…そうか」
素っ気ない言葉で返す
しかし、風見鳥はそれが不満らしい
「それだけですか?」
「…何が言いたい?」
「彼女と貴方は…」
「あれと俺はもう何の関係はない…
あれが何処でどうしようと知らんな」
それを聞いた風見鳥と四方院の再度の溜息
「テメェも頑固だな
鍋に焦げ付いたカレーかよ」
「なんだ、その例え
それに別に頑固なんじゃない、事実だろうが…」
「貴方達が別れた理由だって別にどちらが悪いって訳では無いでしょう
彼女の言い分は十分分かりますし、貴方の考えも十分分かります
言ってる事はどちらも正ろ…」
「しつこい!
他にネタはないのか?」
裏山が話を無理矢理終わらせる
風見鳥はそれ以上続け無かった
話題を続ければ本気でキレるだろう事が予想されたからだ
「…そうですね……
こちらは、男女…」
「リーチ」
「まさ…太郎のリーチですか…
現物で
男女の両麻雀部は仲は言いですよ
男子麻雀部は去年インハイベスト8に入ってますし、女子は2位でしたからね
後援会もかなり支援してくださっているようで」
「ほう、うらやましい事だな」
「男子も、あの石鍋兄弟に、部長で個人2位の赤堀景丸(カゲマル)さんがおられますから
インハイ出場は鉄板かと」
「そっちも中々の面子だな」
そうそう、風見鳥が何かを思い出す
「同じ一年で麻雀初心者の方が入部したのですが…」
風見鳥が言葉を詰まらせる
「なんだよ、勿体振って」
四方院が催促する
風見鳥が伝えようとした情報は二つ
「…『絶対強運』の持ち主かもしれません」
牌を切ろうとした四方院の手が止まる
「『1000万人に一人の逸材』か…」
「おそらくは…」
沈黙
「…太郎切らないと始まらないぞ」
「あっ、ああ」
沈黙を破ったのは裏山だ
「驚かないんですね」
「いや?驚いているぞ
ただ…」
風見鳥、四方院は裏山の言葉に注目した
「…今年のインハイは熱くなりそうだな」
とりあえず投下終了です
書いてて思ったこと
きょーちゃん かげうすい
…仕方ないんや!
イロイロ伏線張ったらこうなってまうんや!
次回投下で語り麻雀を終わらせて
次次回で京太郎サイドに入りたいと思います
ということで今回はこれにて失礼します
「まぁ、今年のインハイは決勝は『彼』と僕等三人になりそうですね」
先程躊躇ったのは、二つ目のためだが
敢えて口にしなかった
すればまた、裏山が機嫌を損ねるだろう
そのように考えた
「『絶対強運』か…
当たってみたいな…
強いのか?」
「そうですね…」
だから話題は、これだけにしておく事にした
「…まだまだ垢が抜けない感じはしますが
やはり攻撃力だけなら既に部内でも随一ですね」
それを聞くと満足そうに裏山は頷く
「そいつが決勝までくれば
去年のインターミドルみたいにならずにいい」
その言葉に四方院も言い吃る
「ああ、去年の決勝は……な…?」
昨年のインターミドル
つまり裏山が三連覇した大会
決勝は裏山、古河泉、風見鳥、そして、松井という少年であった
しかし、
「何つったっけ?
えーっと、……まっ…松…松田?
…あれを跳ばさないようにするんで一苦労だったもんな…」
ようやく、口から言葉が出た
「ああ、松井君ですよ。松井健太
まぁ下手ではありませんでしたが…」
「…てかあいつ、俺らが差し込んでやった以外に確かアガリ無かったよな?」
そんな風見鳥と四方院の会話を裏山がキョトンとして言う
「いや、俺は跳ばす気満々だったが?」
「そりゃお前は東三で花月がスッタンをアガった時以外
ずっとトップだったからな!」
「まさ…太郎は松井君が跳ばないように差し込むので手一杯でしたからね」
風見鳥は苦笑気味に言う
「ふーん…
てかお前ら団体どうすんの?」
唐突に裏山が尋ねる
「どうするとは?」
「いや、『二松学舎大付属』対策」
「ああ、『KINGs』か…」
「正直きついでしょうね
恐らく僕は先鋒に置かれそうですから『冥王』になりそうですが
仮に競り勝っても後が続かないと思います」
風見鳥は半ば諦め気味に答える
「あれ?『絶対強運』君は?」
「彼は選抜されるとしたら大将戦でしょうからね
『帝皇』ということになるのでしょうが…
『大将戦』ですから、『出番』がくるかどうか」
風見鳥は開き直ったのか表情を変えず打牌する
「こっちは俺が副将だろうな…」
四方院は続ける
「俺の『北家時の能力』で『魔王』を封殺できることに期待って感じだ
正直、白糸台の今の面子じゃあ他は無理だろ
めざせ!ベスト8!が現実的だな
おっ!リーチ」
「竜太郎のところはどうなんですか?」
裏山の語り番
「清澄か…
こっちは男女あわせて麻雀部は6人だからな
因みに、内訳は男2女4
故に団体戦は現状出れないんだよ…
今『ゲスト』として部員の友達呼んで勧誘してるところだよ」
「竜太郎
ロン5800な」
「ゲッ!
…今の三年の部長が団体戦にどうしても出たいらしくて
勧誘を頑張ってるところだよ」
「ふーん…
面子はどうなのよ」
「……正直、強いよ…」
その一言に場が凍りつく
「おい…花月…いまの聞いたか?」
「はっ、はい…
紫式部の如く、人をけなす事は出来ても人を褒める事をしない…
あの竜太郎が…」
一瞬のタメ
「…人を褒めた!!」
風見鳥、四方院、両者の声が重なる
「酷い言われようだな
それに紫式部だって人褒めたことあるだろ!?
…赤染衛門とか」
「だれ!?」
無知を自ら晒す馬鹿
「藤原彰子に使えた歌人ですね
褒める…ありましたっけ?」
「ほら…たしか『たいそう味わいがあり慎みもある』みたいなのあったじゃん」
「なにそれ!?知らない!」
更に自らの恥態を晒す馬鹿
「…確かあれ『大した身分じゃないが』って一回落としてますよね?」
「だからそういうインテリ会話やめろ!!」
「バカがいるから話を戻すぞ
女性陣は原村和を始め、部長は勝負感が強いし
オールラウンダーの先輩に、爆発力のあるタコス…」
「タコス?」
突然の言葉に首を傾げる二者
「…うちの学校には常にタコスを食べてるチンチクリンがいるんだよ
もう一人の男子も正直飲み込みが早いしな
しかも『アレ』の才能に近いものを感じる」
そう裏山は最近須賀の才能を感じていた
まだ麻雀を覚えて二ヶ月
しかし、すでに防御についての先に述べた感覚を身につけ始めていた
それは異常とも言える早さだ
通常これは毎日打っていたとしても半年以上かかって然るべきなものだ
「…ったく、俺の回りには才能のあるやつが集まるな…」
そんな裏山の呟き
風見鳥は知っている
裏山が『アレ』と呼び、指すのは一人しかいないことを
そして、その人物を裏山がそのように呼ぶようになったのは……
時間は18時を既に回っていた
既に千里山の仲間は部活も終わり帰宅しているだろう
勿論、『彼』も『彼女』も…
部活の終礼を終え、少女は帰り支度を始める
回りの同学年の少女達は牌磨きやら部室清掃の準備を始めていた
千里山高校女子麻雀部
ここにおいて、掃除や牌磨き、買い出しといった雑務はランキングの低い一年の仕事だ
とはいっても一学年50人を越えるかなり大きな部活だ
つまり、相対的に一人辺りの仕事量は、それほど多くない
が、それは面倒な仕事であり時間もそれなりに取られるものである
今年の一年で唯一それが免除されているのが彼女『二条 泉』であった
千里山高校女子麻雀部の部員は完全にランキング付けされている
そのランキングは4月の中頃、つまり部活の本入部より始まり、全員持ち点0から始まる
半荘一回毎の得点と順位によって持ち点が加減算されていく仕組みである
その内訳はウマとして一位が+30、二位が+10、三位が-10、四位が-30
それと、二万五千点持ちの三万点返しの対局で得た収支
つまりは、それらの収支を合算した総合得点によって決まる
ここで一旦、話を変えよう
麻雀は運が七割、実力が三割と一般的に言われている
故に自己と他者の間に実力にかなりの差、それこそ天と地程の差があったとしても実力が上の者が一位を取るとは限らない
どんなに実力差があっても一位を取れる割合はだいたい四割~五割だ
六割、七割に達しようものなら、それは最早『人外』と言っても差し支えあるまい
千里山高校女子麻雀部のレベルは高い
去年のインハイにおいて4位という快挙を遂げたことからもそれは伺えるが、全体のレベルが高い
よく勘違いされやすいが
インターハイの上位=レベルの高い学校とはならない
その典型例として東東京で現在15年連続でインターハイ出場を果たしている臨海女子高校が上げられる
臨海女子高校の部の平均的なレベルは良いところインターハイに出場出来るかどうかといったところだが
世界大会に名を残す程の留学生を引き入れる事により現在の地位を獲得した程である
しかし、千里山はそもそも全体のレベルが高い
レギュラー入りしていない選手も他校では即エースになれるレベルが山の様にいる
そんな中で彼女、二条の現在のランキングは一位、それも断トツでだ
現在の彼女の得点は歴代スコアを現在進行形で更新中である
更に驚くべきは彼女のトップ率だ
参考までに去年までのエースでランキング一位であった
現在三年、現ランキング二位の『江口 セーラ』の現在のトップ率が三割三分であるのに対し
二条のトップ率は九割五分
因みに残りは全て二位である
彼女は周囲から『人外』を越えて最早(本人は否定しているが)『牌に愛された者』と呼ばれている
「泉!」
声に反応し、ゆっくり振り向く
声の主は、縁なしの眼鏡を掛けた茶髪の少女、『船久保 浩子』だった
「…船久保先輩……
…何か御用ですか?」
問われると船久保は二条の顔を、目を見る
暫しの見つめ合い
ため息をついて目を逸らしたのは船久保だ
「…今日も『目が死んどる』なぁ」
そう、二条の目は死んでいる
すでに、この世に見切りを付けた、絶望した、そんな目だ
はぁ、相槌をつく二条
そんなのは、今に始まった事では無いではないか
何が言いたいかわからない
そんな感じだ
「中学の時は目がいつも輝いてたっちゅー話、聞いたんやけど?」
なるほど、二条は思う
「…花月君ですか?」
「せや、彼から聞いたで?
中学時代の話をいろいろ」
「…そうですか……」
船久保が知る二条は基本的に感情を顔に出さない
だからそれを知るには言葉から読み取るしかない
「見てみたいわー、泉の生きた目」
かばんを持つと出口
つまり船久保の方に歩みだす
「…無理でしょうね……
少なくとも、ウチの目的を果たすまでは…」
すれ違い際に囁く
去ろうとする二条を追い掛けるように追従する
大型新人『二条 泉』
趣味が人を調べる事である船久保は二条を調べた
彼女はインターミドルに出場していた
だがその時は現在程の凄みを、覇気を、そして目の前にするだけで分かる『禍々しい何か』を宿していなかった
調べていくと男子麻雀部に今年入部した風見鳥と同じ中学であったことが判明したのでそこからも情報を得た
といっても風見鳥から聞き出せたのは表面的な事
つまり船久保がその気になれば調べられたような情報だけだった
彼は話の奥、船久保が本当に知りたい部分、二条の変わるに至ったきっかけ
それについては黙秘した
代わりにと言って3つのキーワードを伝えた
二条が変わったきっかけ
『両親』、『覇道』、そして、『裏山 竜太郎』
「目的ゆうんは、裏山竜太郎に関係すること…」
言葉の途中で
二条が歩みを止めた
裏山竜太郎、その名に反応を見せた
「…花月君もおしゃべりになりましたね……」
ゾクッときた
畏怖や殺気といった感覚を船久保は感じた事が無い
しかし
たった今、二条の言葉と共に感じたものは恐らく、それらのどれかに属するものなのだろう
足を止め、二条は何を思うのか
船久保は思案する、次の言葉を待つ
だが、二条は何も言わず
再び歩を進める
船久保はそれ以上は問わなかった
船久保の本能とも云うべきものが警報を鳴らしたのだ
『それ以上踏み込んでは行けない』
確かに人の過去と云うものは、むやみやたらに詮索して良いものではない
それが例え、知的好奇心であっても
力を持ちすぎたが故に、(アンニュイな性格も重なり)部内でも孤立してしまった彼女の状況を改善する為であっても、だ
現在、部内において積極的に二条に声をかけるのは、船久保と江口くらいだ
部長の清水谷や同じく三年の園城寺を含む、数人もそれなりにコミュニケーションをとろうとしているが
中々どうして、うまくいっていないようである
江口は、天真爛漫、気宇壮大、豪放磊落
そのような性格の為、相手がどのような者であってもうまくやってしまうし、
自分は、温厚篤実…は違うか…、あえていうなら、洒洒落落
あっさりした性格な為、相手の性格に難があろうとも、その者に研究的興味が湧けば、このように付き纏う
二条とうまくやるには極端なまでに、(やり方には違いがあれど)こちらから受け入れ引っ張るような性格であった方がいいということなのだろう
船久保の推測だ
千里山高校は全校完全土足である
故に下駄箱というものは存在しない
階段を下り、そのまま校舎の出入口を目指す
「なぁ、泉
アイス食べに行かへん?」
「お断りします
早く家に帰ってこれを読みたいので」
取り出したのは
永安 守著
『リーチに対する対処法』
「おっ、永安プロの新刊やん!
ウチまだそれ買うて無いわ…
…やなくて!
本ならいつでも読めるやんか!
なぁ、泉ー!」
駄々をこね始める
船久保は知っていた
二条の本質は人当たりが良い人間なのだと
これは風見鳥から聞いたのでは無く
船久保が自ら二条を観察した結果にたどり着いたものだ
「…はぁ、わか…」
「アイスならオレも連れてってーや!?」
遮る声と同時に泉の肩に腕を回す人物、短髪の学ランを着た少女
江口 セーラだ
「っ!…先輩、まだ行くとは…」
突然、両肩に掛かった負荷に堪えながら泉は反論しようとするが
「ほな!そうと決まれば、はよ行くで!?泉!フナQ!」
泉と船久保を引っ張るようにして江口は校舎を駆け出す
江口に腕を引かれ、二条と船久保は校門までたどり着いた
江口の足がそこで止まったのは、既に見慣れてしまった『彼』が校門で待ち伏せていたからだ
『彼』に対し警戒心を表に
二条を自分の背に隠すようにしながら口を開く
「…悪いなぁ、『薫(カオル)』
泉はうちらが先客やねん」
言われると少年は背にしていた門から離れ
江口の、二条の前に立つ
「やだなぁ、そんな警戒心全開にしなくても良いじゃないですか…」
髪を茶色く染めた、ガタイの良い体つきをした少年、『鴉木(アギ) 薫』はそのように言う
「…そりゃあ、警戒もするやろ
本人が断ってるのに、付き纏ってくる男やで?」
江口は尚も睨みを利かせながら言い放つ
それに対し鴉木は、怯みもせず
堂々と放つ
「俺は一度や二度、断られた程度で諦めるような男ではないんですよ」
「一度や二度ちゃうやろ」
返したのは船久保だ
腕を組みながら続ける
「ウチが知ってる限り18回は振られてるで?」
「俺はゾッコンなんですよ
そう…」
鴉木は江口達に近づき
やがて手の届く距離まで近づくと跪き
「…オマエに心底惚れている
俺と結婚してくれ!泉!」
「嫌です」
告白から粉砕までノータイム
間にはコンマ一秒も存在しない
恰も一人の人間が続けて発したかのような流れだった
「19回目の玉砕か…」
「30から面倒になったので数えてません
先月の話です」
船久保の呟きに二条が答える
ふふっ、鴉木がよろよろと立ち上がりながら笑いだす
「フフッ、ハハッ、ハーッハーッハーッ!」
天を仰ぎ、全身で空を感じるように大の字を作りながら
突如高笑いを仕出す鴉木
「うわーっ…」
それを見た江口、船久保は端から見ても分かる程引いていた
二条はまるで家畜小屋の家畜を見るような視線を鴉木に向けていた
「ハーッハーッ!
これだ!
これこそ俺の愛した女!
その漆黒の闇とも言える瞳の奥に鉄の決意を持っている!
それでいながら、孤独の苦しみ、悲しみ、痛みを知りながらその道を突き進む覚悟を持ち
さらにこうも美しい!
つまり俺が何が言いたいかと言うと…!」
ここまで早口で言うと二条を指差す
「…泉、おまえを必ずや俺の女にしてみせる!」
さぁーて、江口は再び二条の手を取ると敷地の外へ、校門に向かう
「無駄な時間を使うてもうた
はよ行くで!」
「そうですね気が付けばこんな時間ですわ」
船久保も続く
どうやら彼女達は今までの事を無かった事にする気らしい
それを感じた鴉木は再び、全力で彼女らの前に立ち塞がる
「まぁ、待ってくださいよ」
尚も優雅さを気取りながら静止を呼び掛ける
それに江口は吐き捨てる様に
「ええかげんにせーよ!?
そろそろ、先生、警察、その他諸々呼んたるで!?」
船久保は苛立ちを表しながら
「退学、逮捕、有罪判決は確定やな?
主にストーカー規制法違反、迷惑防止条例違反、名誉毀損なんかも含まれるけどな?」
しかし、鴉木という男はそれでも引かない、媚びない、省みない
「今日でしばらく泉の顔が見れなくなるんですから許してくださいよ」
「…どういう意味や?」
「ご存知では無いんですか?
男子麻雀部は明日から県大会まで特別合宿に入るんですよ
そこで朝起きて麻雀を打ち、授業を受けて、終わったら、寝るまで麻雀を打つっていうね」
再度鴉木は二条に寄る
そして、囁く
「そこで俺はあの男、『裏山 竜太郎』を越える力を身につける」
裏山の名に肩をピクリと反応させる二条
それに、静かなる闘志を、嫉妬の炎を胸に男は宣言する
「そして、全国の舞台で誰が最強かを…
誰が泉に相応しいかを見せ付ける!」
そこまで言うと鴉木は去っていった
自分を抱くように肩を両手で押さえながら動かなくなった二条
それに心配した江口と船久保は声をかけるが
二条の耳には届いていなかった
二条は一人考える
何故あの男がリュータの事を知っているのか…
疑問に思ったが直ぐにそれは理解できた
…全く本当に『彼』はおしゃべりになったものだ
少し『彼』には罰を与える必要がありそうだ
それに…
「……アンタ如きにリュータがやられる訳ないやろが……」
本当に小さくボソッと呟く
もちろん江口らには聞こえない
「……リュータを倒せるのは……
…殺すのはウチや!」
漆黒の瞳に炎を燈し
周囲を、江口を、船久保を怯ませる程に覇気を無意識に溢れ出す
「うおっ!」
裏山は何やらゾクリと来るものを感じていた
「どうした?」
四方院の問いに
「…いや?」
言葉を濁した
しかし、裏山は知ってる
この寒気の正体を
この背中を刺す様な鋭い感覚を
確かに裏山は知っているのだった
ということで今回の投下は終了です
駆け足気味ではありますが
ようやく物語も序章に入りました
(色んな意味で)竜太郎のライバルが登場しました
『鴉木 薫』
彼のように一途にガンガン女性にアタックしていくキャラは大好きです
彼はどのような闘牌をするのか
原作には無い能力を持つキャラの闘牌も、本作の目玉に出来れば良いなと思っています
次回から京太郎パートです
やっと咲ちゃん入部ですよ
という訳で今回はこれにて失礼します
「うわぁ、腕太くなったな…」
朝、目が覚ますために、おぼろげな意識の中でシャワーを浴び
意識を取り戻した際に気づいた腕の質量感
鏡で確認すると一昔前(といっても中学卒業時だが)と比べて腕が確実に一回り太くなっていた
バイト先での重労働、部活での買い出し、思い当たる節はかなりある
しかし、それは悪い事ではない
特に思春期真っ盛りの男子にとって、適度な筋肉とは異性に対するアピールポイントであり、自己の自信への源でもある
そんな自信と共に学校へ向かう
最中、そういえば昨日、竜太郎が用事があるから学校休む等と連絡を寄越したな
等と思いだした
朝のSHR(ショートホームルーム)での出席の際も担任がそのような事を告げた
何を言っているかわからない古文が終わり
一学期ということもありそこそこ簡単な数Aが終わり
想像もつかない600年代の日本史が終わり
ルソーやらリバイアサンやら中二心を擽る言葉満載の世界史が終わり
午前の授業が終わる
その日は午前のみの授業で午後は無し
特に用事の無い生徒はそのまま帰宅し、またある者は周囲の人間と、この後の予定について話していた
そして、須賀の様に部活のある生徒は学食で食事をしてそれに望む
クラスの友人と食堂に向かいショーケースを除く
清澄高校の学食には日替わりメニューが三種類ある
一つは日替わりラーメン
これは日替わりといっても、曜日別に中身が変わるだけ
二つ目はメンズランチ
主に肉と丼物がコラボした物だ
例として、カツ丼、カルビ丼、馬刺し丼、ジンギスカン丼、アボカドキムチ鶏肉丼など
安さ、肉、量
これらを揃えた男子運動部に人気のメニュー
そして、レディースランチ
こちらは主に野菜がメインの栄養バランスの良い定食といった物
何故かこのレディースランチ、パッと見が時々異常なまでに美味しそうな事があり、それ目当てに男子が女子に声をかけ、恋が生まれた。等という、都市伝説のある逸品
そして、今日はその日だった
ショーケースに並んだ見本の中で一際、須賀の目を引いた商品
「…悪い!咲を探して来る!」
「おい!待て!京太郎!」
一緒に来た友達にそう伝えると周囲の声を振り切り京太郎は走りだす
「それぐらいならここら辺にいる女子に頼めば…」
少年の声は京太郎には届かなかった
須賀は宮永を探して走る
教室、図書室まで探して思い出す
そういえば咲のやつ
今日の授業の合間、いつもなら前の授業の復習をしているのに
今日はずっと本を読んでたような…
幼なじみの行動パターンから、そろそろ本の貸出期限だと推測できる
つまり、彼女は早く本を読破したい
しかし、図書室にはいない
となると…
彼女を学校を出て少しした場所にある橋の付近で見つけた
その橋は須賀達が普段から使う新校舎と、部室のある旧校舎の間に存在するので、須賀も知っている
そこはこの時間、適度な日差しと、心地好い風が吹き抜ける
なるほど、読書には持って来いの場所だ
「咲~!」
やや大きめの声で彼女の名を呼ぶ
「京ちゃん」
宮永は焦ったような驚いたような顔で、寄ってきた須賀を確認する
須賀はすかさず本題を切り出す
「よっ
学食いこうぜ」
「これ、今日返却日だから
読まないと…」
宮永は戸惑いながら本を先程まで読んでいた本を見せる
「学食でも読めますよ?」
両手を顔の前で合わせながら食い下がる
「日替わりのレディースランチが、めちゃくちゃうまそうでさ
どうしても食べたいんだよね」
えー、と言いながら宮永は一応抗議する
「そのためだけに食事に誘うってどうなの?」
普通、男性が女性を食事に誘うというのは気を引くためなのではないのか
文学少女は夢見る
それなのにこの男ときたら…
軽い反感は覚えるが
しかし、それでも押し切られてしまう
そもそも、自分に彼の頼みを断ることなぞ出来ないのだ
理由は明確としては無いが…
そう……理由は…
明確してはいない…
そのはずだ…
宮永を学食に連れて来る頃には京太郎の友人達は既に食事を終えていた
確かに戻って来るのに20分ほどかかったので当然といえば当然か
宮永に金を渡すと友人達のいる席に近づく
「おまえ、本当に咲ちゃん連れて来たのか…」
友人の一人が呆れ混じりに言う
「もちのロンだ
あれを食べる為なら俺はどんな苦労も厭わん!」
「ハァ…
そんじゃあ、俺らは部活だから」
呆れながら他の友人達は去って行き
彼らと入れ違いに宮永がトレーを持ってやって来た
「はい
レディースランチ」
少しだけ、本当に少しだけ、一般にはわからない
そんな程度で乱暴にトレーを机の上に乗せる
「おおう」
須賀が期待の声をだす
わざわざこれだけの為に連れて来られた宮永を見て
一緒にいた友人が須賀の肩に腕をまわしながら囃す
「咲ちゃんはイイ嫁さんだなァ」
「中学で同じクラスなだけですから!
嫁さん違います!」
即座に静止を指示するかのように手の平を相手に向け否定する
「まっこう否定ですか…」
そんなやり取りをしていると残っていた友人も部活があるからと行って去って行った
そうこうして、現在食事中
須賀は携帯で麻雀のアプリを起動
プレイしながら惣菜を口にする
そんな須賀の姿が気になったのか宮永が尋ねる
「メール?」
「いや」
携帯のディスプレイを見せる
「麻雀?
京ちゃん、麻雀するんだ…」
確認した宮永は僅かににうろたえていた
しかし、須賀は気付かない
「最近やっとルール覚えたばっかだけどな!」
再び画面に目を戻しながら箸を惣菜に移す
「麻雀ておもれーのな」
そんな須賀の言葉に宮永は暗い表情をしながら
「私…
麻雀キライ」
と呟く
須賀は驚いた
まさか自分ですらこの間まで知らなかった麻雀ができるかのような口ぶり
「えっ、咲
おまえ麻雀できんの?」
「できるっちゃできるケド、キライ
いっつも家族麻雀でお年玉巻き上げられてたん…」
「ほーぅ」
宮永の言葉をさえぎる
「咲は何やらせともダメだからなァ」
今日は裏山がおらず
染谷も実家の手伝いで部活を休み
となると部員は四人
元より少ない部員だ
『ゲスト』の一人も欲しいところだが
基本スペックが方向音痴のダメダメ少女の宮永を連れて行っても……
「でも、いないよりはマシか」
うん
自己完結をすると目の前の食事をすべて胃に流し込む
「なに一人で完結してるの」
きもちわるいよ
そんな宮永の言葉を聞き流し
須賀は宮永に提案する
「ついでに、もひとつ
つきあってよ
メンツが足りないんだ」
「え…?」
唐突に言われた言葉に宮永は戸惑いを見せる
それを行き先についての不安ととった須賀は付け足す
「麻雀部」
結局本人の同意を得ずに宮永を連れていく
「旧校舎の屋根裏に部室があるんだ」
足慣れた様子で旧校舎へ向かう須賀について行く宮永
旧校舎へは未だに行った事が無かったが
実際に入ると予想以上にボロボロの校舎に恐怖する
離されない様にアヒルの子供の如く須賀に追従する
「ようこそお姫様」
須賀の演技のかかった挨拶
そして、辿り着いた『麻雀部』の表札のある扉
「いや、私…
麻雀キライだって…」
何が姫だ
しかし、そんな言葉は無いかの様に勢いよく扉を開く
「カモつれてきたぞーっ」
須賀京太郎の麻雀部に入って言ってみたかった台詞トップ10の一つがここで達成される
因みに三位は『あンた背中が煤けてるぜ』
二位は『震えてるよ?』
そして一位は『御無礼』
である
部室にいたのは卓で牌を磨いていた原村だけだった
「お客様…?」
「さっきの―」
原村を見た宮永が反応を見せた
「えっ
おまえ和のコト知ってんの?」
須賀は驚きの表情をする
「先ほど橋のところで
本を読んでいた方ですね…」
原村の言葉に顔を赤めて恥ずかしそうに宮永は
見られてたんですか…と呟く
なるほど、先ほど須賀が宮永を見つけたのは新校舎から旧校舎へ行く途中でもある
原村がこちらへ向かう途中に二人は出会ったのだろう
「和は去年の全国中学校大会の優勝者なんだぜ」
須賀はまさに自分の事のように誇らしげに原村を紹介する
「それはすごいの?」
当たり前だろう
そのように言おうとした瞬間
背後からの声
「すごいじょ!」
どーん!と口で言いながら元気良く部室に入ってきたのは片岡だ
「ちはーす
学食でタコス買ってきたじぇー」
ややハイテンションなのはいつも通りだが
それに慣れてない宮永は明らかに対処に戸惑っていた
「またタコスか」
「お茶入れますね…」
原村が気を利かせお茶の準備をする
「のどちゃんはホントにすごいんだじょ!」
いつの間にか片岡は宮永に解説しだす
「インターミドル――
全中優勝ってことは最強中学生だったわけで!」
「はぁ」
依然として慣れる事はできず勢いに呑まれているようだ
「しかも御両親は検事さんと弁護士さん
男子にもモテモテだじぇ」
「誰かさんとは大違いだな!」
「む」
そんな須賀の言葉に宮永は少し拗ねて見せた
確かに京ちゃんと竜太郎君以外の男子とは滅多に話さないけども…
確かにそういう異性がいた訳でも、告白を受けたり、したことも無いけれども…
卓につき
原村が煎れた紅茶を飲みながら須賀は周囲を確認する
「部長は?」
答えたのは原村
「奥で寝てます…」
私が来た時には既に…
と付け加えた
そういえば先日、議会の仕事が忙しいとか言っていたような…
「じゃ、うちらだけでやりますか」
「そうですね…」
「25000点持ちの30000点返しでウマ(順位点)はなし!」
須賀が部内でのルールを確認を込めて宮永に説明する
「…うん」
未だ宮永は乗り気で無いらしい
半荘一回目
東一局
起家原村
九巡目
片岡捨牌
4中九一白8四13
鳴き牌
③チー②④
北北ポン北
⑥チー⑤⑦
三巡目、五巡目にそれぞれ鳴いた形
典型的混一の形容を見せている
宮永の③切り、自摸切りだ
「ローン
2000混一」
「えぇっ」
片岡のあがり
しかし、須賀が驚いたのは片岡ではない宮永に対してだ
「振り込むか?フツー
筒子集めてるの見え見えでしょ
これは…」
初心者から毛が生えたとはいえ
さすがの須賀もこれには振り込まない
当の本人は愛想笑いをしていた
宮永手牌
二三四九九九②④23467
③を手中に納めていればメンピン三色確定の手
宮永これを放棄
九が他家の危険牌であった訳ではない
それ以前に他家が張っていない事に宮永は気づいていた
この場にいる他の三者は気付かなかった
いや、気付くはずがなかった
宮永が見ていたのは目先の点棒では無く
もっと先にあるものであることに…
点数計算の話
麻雀は点数を競うゲームである
麻雀の点数計算の性質上
結果としての点数の計算はやや特殊である
まずルール決めの段階で『持ち点』と『基点』が決まる
それの最もメジャーなものが『25000点持ちの30000点返し』である
この場合、各プレイヤーは25000点ずつ配られ点数を取り合う
『基点』は上の場合30000点
これはゲームに置いて基準となる数字
つまり、0となる数字だ
そして、ゲーム終了時の得点計算は千位を1として計算する
例えば30000点返しで
最終点数が32000点だった場合は+2
19000だった場合-11となる
百位は五捨六入して計算される
例えば35200点の場合
それは35000点としてみなし+5となり
25600点の場合
26000点としてみなし-4となる
ここまでの知識で+-0は30500点~29600点となる
しかし、トップ、一位のプレイヤーには『オカ』が与えられる
オカは(基点-持ち点)×プレイヤーの人数
四人麻雀で『25000点持ちの30000点返し』の場合
(30000-25000)×4の20000点、つまり+20がトッププレイヤーに与えられる
一位の点数が37700の場合
+8からさらに+20が加算される為+28となる
ようするに+-0は『トップ以外の29600~30400点』となり
+-0とはつまり『一位にも四位にもならない点数』
言い換えれば『勝ちも負けもしない点数』なのである
半荘一回目
オーラス
親 須賀
『残り6200点
一位の和が今32600で俺との差が+26400か…
一発でまくるなら跳直か…』
須賀手牌
三四五七八九①①③66南南南
『もう九巡目、本当なら手変わり待ちたいけど…
場に④は二枚見えてるし
竜太郎が『親で先制したらノータイムでリーチしろ』って言ってたっけ…
6は俺から3枚見えてるし①は四枚見えてる
でも②はまだ一枚も見えてない』
「よーっし
テンパったァ!!」
思案の末①を曲げる須賀
「リーチ!」
「ごめん
それロン 1000点」
「なんですとォ」
宮永手牌
二三四②③④⑤⑥11234 ロン①
「三色捨ててそれ(平和のみ)ってどうなん!?
しかも順位変わらないじゃん!」
須賀が八つ当たりも込めて
ぷにぷにと
柔らかく心地の良い、宮永の頬を突っつき始める
「ごめ」
宮永に一切抵抗は無い
いやむしろ、楽しそうにすら見える
「素人にもほどがあるよっ!」
そんな距離感の近い二人を
どのように扱って良いか解らず
原村は何処か羨ましそうな
しかし、少し冷めたような目で二人を見ていた
「おかげさまで、私がトップですね」
このままだと何時までもやっていそうなので
そう言って流れを断った
一回目結果
原村+23
片岡+2
宮永+-0
須賀-25
半荘二回目
一回目の勢いをそのままに原村が安定したあがりを続けていた
原村があがり続け
たまに須賀や片岡、そして宮永があがる
「あ…
ツモです 2000 3900」
オーラスに宮永が60符3飜の手をツモり終局
「今回も和の圧勝か…」
「ありがとうございます」
ぎゃー、と片岡が背もたれにうなだれる
二回目結果
原村+31
宮永+-0
片岡-12
須賀-19
半荘三回目
「しかし、咲の麻雀はパッとしませんなー」
唐突に須賀がぼやく
実はまだ宮永は跳満以上のあがりをしていない
裏山や片岡などの高火力の打ち手を見慣れてしまった須賀にはそのように映るのだろう
「点数計算はできるみたいだけどねい」
それで初心者では無いことは伺える
しかし、そのように言ってる二人を余所に原村は違和感を感じていた
何なのだろうかこの感覚は
須賀は宮永の打ち方を『パッとしない』と評したが原村に言わせれば少し違う
どちらかと言えば『ぼやけた打ち方』
何か『ごまかしながら打っている』ような感覚
最近、裏山は部活で打つ際『縛り』を自分に掛けながら打っている
満貫縛りだとか、出あがり禁止とか、鳴き禁止とかそういうものだ
本人は『様々な状況に対応出来る様にやっている』などと言っているが
原村から言わせれば手を抜かれているようなものであり不愉快だ
そう、その時の
『縛り』を掛けながら打っている裏山を相手にしているかのような感覚である
しかし、そのような考えは払拭する
彼女にはそのような事をする理由がない
考え過ぎだ
そのように結論付けた
窓の外で突然ゴロゴロという音がする
「雷!」
「夕立きましたね」
原村が窓を見て確認しながら報告
「うそっ
傘もってきてないわ!」
部室に設置されている簡易ベッドから這い上がるようにして手を伸ばし
宙にある何かを掴むかの様にしながら起き出した人物を確認して宮永が驚く
「あれって…
生徒会長!?」
「んー?」
聞き慣れない声に反応しそちらを確認した竹井は
寝ぼけた頭を掻きながら訂正する
「この学校では生徒会長じゃなくて学生議会長ね」
「おはー」
片岡が竹井に挨拶し
「麻雀部のキャプテンなんですよ」
と原村が宮永に説明する
「なんで麻雀部に…」
宮永の質問とも一人言とも思える言葉に
「麻雀が好きだからに決まってるっしょ」
と答え
「あなたが今日のゲストね」
確認し宮永の手牌を見る
宮永手牌
六七八③④⑥⑦⑧22678
『綺麗な手張ってるじゃない
タンピン三色確定の最低でも出アガリ7700点…』
そして、竹井は部員達の様子を見るために部室に置かれているPCへ向かう
このPCは自動卓と連動しており点数の移動が逐一記録される様になっている
専用ソフトを立ち上げると現在までの結果を閲覧する
『和がダントツトップ…
まぁ、あの面子ならそんなものか…』
このように逐一、対局結果が確認出来るようになったことによって
六人しかいない部活においても強さのランク付けが出来上がりつつあった
完全に順位を固定するには、まだまだ局数が足りていないが
あえて順位付けをするならば
1位.裏山
2位.竹井
3位争いに原村と染谷がいい勝負をしており
5位.片岡
6.須賀
である
原村クラスの打ち手がそこらにホイホイいる訳がないのでゲストの彼女も原村より格下だろう
そのように考えればやはり原村の連勝も順当だろう
『優希が東場で稼げてないわね…
あまり調子がよくなさそうね
ん?
宮永 咲
あの子ね
…あれ?連続+-0珍しいこともあるものね』
「ロン」
発声元は宮永
「1000点です」
竹井に走る衝撃
『せ…1000点……!?
そんな…!!』
急いで宮永の手牌を確認する
宮永手牌
七八九③④⑥⑦⑧22678 ロン②
『九ツモって六切り…!?
何故そんな…
わざわざ三色と断幺九を消して点数を下げるマネを―――』
他の三人の捨牌を確認する
このようなケースで九を引き入れ止める理由は少ない
代表例は他家に国士気配があるとき
しかし、他三人はそうではない
いや、むしろ原村からテンパイ、ヤミテン気配があり
三六のスジは、かなり際どい
暴牌といっても良いだろう
『――みたところ九は危険牌でもない
わからない…
この子の打ち方が理解できない…!』
「三回目終わりました」
須賀が報告する
「今回ものどちゃんがトップかー」
そんな片岡の言葉を聞いて
竹井の思考に一つの筋が走る
しかし、それは…
「今回の宮永さんのスコアは!?」
「プラマイゼロっぽー」
片岡の返答に驚愕
『三連続プラマイゼロ――!?
だったら
さっきのは、やっぱり…』
「会長起きてメンツも足りてるようですし
抜けさせてもらいますね」
そこまで考えると宮永が席を立った
「えっオィ」
「もう帰っちゃうのー?」
「図書館に本返さなきゃ」
そう言って宮永は逃げるようにして部室を去って行った
「のどちゃん、やっぱ強すぎだじぇ」
宮永が逃げるようにして出て行った様子を見て
原村の本気で打ったのが原因と片岡が指摘する
「圧勝って感じだね」
須賀も菓子を口にしながら同意する
それらの言葉を聞いて竹井が頭を掻きながらクスクスと笑いだす
「圧勝?
なに甘いこといってんのよ」
「え」
須賀と片岡が反応する
原村は竹井の次の言葉を待つ
PCデスクまで近付くと対局の集計画面を見せながら
「スコア見て気付かんの?」
スコア変な所があるとすれば
「宮永さんの三連続プラマイゼロが
故意だと言うんですか…?」
「えっ
んなバカなたまたまっしょ」
「そうだじょ――」
須賀に同意を示したのは片岡
「麻雀は運の要素があるからプロでもトップ率3割いけば強い方
ましてやプラマイゼロなんて勝つことより難しい
それを毎回なんて―――」
「不可能ってかい?
でも…」
片岡の言葉を遮り凛として問い掛ける
「圧倒的力量差だったら?」
言葉が終わると同時に窓外で雷が鳴る
光と音がほぼ同時、かなり近くで落ちたらしい
雨足も強くなってきたようだ
原村は席を立ち、駆け出した
今の竹井の言葉の真偽を確かめずにはいられなかった
「のどちゃん!」
片岡が声をかけるが原村の耳には入っていないのかそのまま部室を走り去る
その様子を見届け
竹井は再び笑い出す
「なに笑ってるんスか
気持ち悪い」
須賀はカップに入った紅茶を口にしながら指摘する
「キサマ会長になんて事を」
「いや…」
竹井は須賀の手にしていたカップを優しく取り上げると
そのままそれを口にする
それを見た須賀は何を思ったか少し頬を赤らめる
「…あの子がうちの部に入ってくれないかな――っておもってさ」
「え」
「あの子が入ってくれれば
まこをいれて女子は五人
全国狙えるかもよ?」
原村が部室に戻ってきたのはそれから20分程してからだ
「っ!のどちゃん!?」
全身ずぶ濡れの原村を見て焦りながら片岡が部室に常備しているタオルを取り出し駆け寄る
「…すみません
今日は帰ります…」
差し出されたタオルに触れもせず、体を拭こうともせずに
下を向いたまま何かに導かれるように鞄に向かい手に取ると足早に部室を後にする
片岡は手にしていたタオルと既に閉められてしまった扉を交互に見た後、自分も鞄を手にして後を追う
須賀にはこの数十分の間、原村が何をしていたかわからなかった
須賀はどうして良いかわからず竹井の顔を伺う
竹井はというと何かを考えるような仕草をしていた
「…須賀君」
「はい?」
腕を前で組み、続ける
「宮永さんは放課後どこにいけば会えるのかしら?」
「咲ですか?
用があるなら声かけますけど」
「いえ、私の個人的な用件だから…」
須賀は竹井の意図がわからないまま答える
「あいつ、基本的に学放課後は校の図書室に出没するはずですよ」
「そう、ありがとう
それじゃ、私達も帰りましょうか」
食器類を纏めて部室無いに設置されている全自動食器洗い機に入れ電源をつける
須賀宅にすらない食器洗い機だが
これが部内に設置されているのを初めて見た時何かを負けた気になったものだが、既に使い慣れたものだった
「和、大丈夫ですかね…?」
須賀の心配に卓の整備を行いながら答える
「あの子もこれまでキャリアを積んできてるのよ?
目の前に壁が一つ現れたくらいで人に心配されるような状態に成る程柔じゃないわ」
「壁…ですか」
壁とは恐らく宮永の事だろう
「でも本当に咲がそんな凄い奴だなんて
俺は今だに信じられないんですが…」
椅子に座り須賀の言葉に微笑を浮かべる
「人はそんなものよ
人は誰しも何かを隠して生きているものだし
そうでなくても、自分の才能に気付いていない場合だってあるわ」
「そもそもアイツ、本当に連続プラマイゼロを意識的にやったんですかね」
はぁ、と溜息をついて竹井は頭を三度掻く
「和が何の為にこの雨の中走り回っていたと思ってるの?」
しかし、尚も須賀は合点がいかないようだ
「…確認しに行ったのよ
和の態度から恐らく肯定、若しくはそれに近い回答をされたのでしょうね」
兎に角、彼女は続ける
「明日…ね」
翌日、須賀が登校すると教室には自分の席の机で突っ伏している裏山の姿があった
それは珍しい光景だ
彼は基本自分の体調管理には気を使っており、徹夜が確定している場合はあらかじめ昼寝で睡眠を確保していると話していた
事実、彼は授業中は英語以外は寝ない(既に準一級を取得済みで高校レベルには対応出来るため、授業は出席だけしているとのこと)
昨日、東京に戻ると言っていた
やはり長距離の移動は疲労があるのだろうか
「どうだった?東京」
それも含めての質問だった
裏山と知り合いたての頃に都会に憧れる若者の性からか、多くを尋ね、多くを教わったが、それでも尚興味は尽きない
「どうつってもな…
墓参りして、親父にあって、ダチにあっただけだぞ?」
「その割には疲れてるな」
あぁ、そっちか
彼は友人の気遣いに心中で感謝する
たまには彼に愚痴を零すのもよいだろう
「いやな?その久方ぶりにあった奴らと麻雀打ってたんだけどさ
終電前に帰るって話だったのが延びに延びて結局、タクシー使う事になって、長野に、こっちに着いたの二時間前…」
そう本来、裏山と風見鳥は終電前には帰るつもりだったのだ
しかし、後半から負けが混み出した古河泉、もとい四方院が『泣きの一回』を使ったのだが、『一回』が『十回』になり、結局タクシーで帰ることになったのだ
もちろんタクシー代は負け分とは別に四方院から押収したのだが
慣れない移動で眠る事も出来ず
家に着いた時間が時間だったため眠る事も出来ずシャワーだけ浴びて登校したのだ
「…ってことで今日は一日寝てるからノート頼んだ…」
そう言い残すと裏山は顔面を両の腕に隠し完全に沈黙した
一つ溜息を吐くと、たった今教室に入って来たクラスメイトに目を移す
中学からのクラスメイトである彼女は真っ直ぐ自分の席に移動し、鞄の中から文庫本を取り出すと読書を始めた
須賀は、そちらに足を進め昨日の事について、イロイロ尋ねようとしたが、やめる
もともと、彼女は麻雀が嫌いだと話していた
それについて聞かれたくはないだろう
さらに言えば竹井が恐らく放課後、若しくは近いうちに接触するだろう
そのように考え自分の席に戻ることにした
そろそろホームルームがはじまる頃だ
結論から言うと午前中の全授業において裏山は爆睡していた
その間ピクリとも動かず、まさに不動
クラスメイトが途中から死んでるのではないかと心配した程である
各授業前の起立礼も教員の目に止まったものの、中間テストにおける裏山の成績、日頃の印象の良さも相まって不問とされていた
そんな昼休み
尚も動き出す気配の無い裏山を起こす
さすがに昼ご飯を食べそこなうのは厳しいだろう
「竜太郎、昼休み」
ツンツン肩を突っつきながら最低限の単語で知らせる
「ンーンッ…」
唸りをあげながら遂に動き出す
その姿はまるでヌーのようである
「…ハーロロー?」
クラスがざわめく
長時間の睡眠からの寝起きによる油断からか
普段はクールな人間が、少し可愛い声を出したのだ
それはそうなる
教室の須賀達がいる位置の反対から黄色い声が上がる
この野郎、『また』女性ファンを増やしやがった
須賀は心中毒づく
「…キャラぶれてるぞ」
どうやら寝起きはかなり弱いらしい
裏山の新たな一面を見知る
「…あー…、今何時?」
「12時40分昼休みだよ
昼飯食い行くぞ」
裏山は顔と髪を手の平で抑え擦りながら目を覚ます
「…他の連中は?」
「学食の席確保の為に先に行って貰ったよ」
「…そか…」
席を立つと背を伸ばす
関節が鳴る
「…うわーっ、死ぬーっ」
「死なない死なない
おら、行くぞ」
須賀が教室を後にし、それに裏山が続く
食堂に続く廊下
裏山が隣に付いたのを確認すると昨日の話しをした
「昨日、咲を部活に連れてったんだ」
「咲ちゃん、麻雀打てたんだ」
「俺も驚いた、で聞きたいんだけどプラマイゼロって故意に出来るもんなのか?」
「?それが咲ちゃんの話とどう繋がるかわからんが…
…やろうと思ったこともないからな…
んーっ、そうだな…」
少し考え、続ける
「…実力のある四人で協力して点数調整すれば出来るだろうな」
「昨日、咲がやったんだよ
しかも、三連続で」
「ほう…」
裏山の目つきが変わる
「…一人で点数調整するとなると、それは難しいなんてもんじゃないぞ?
…今日やってみようかな?」
「偶然とは考えないのか?」
「確認の為に聞くけど
誰か後ろから見てなかったのか?
てか面子は?」
「面子は俺、咲、和、優希
途中で寝てた部長が起きて、ちらっと咲の手を見てたけど」
「部長はなんて?」
「部長が言い出したんだよ
圧倒的実力差があるんだって」
「部長が言うなら間違いないだろうな
咲ちゃんは本物だろう
放課後、また誘えるか?
俺も見たいんだけど」
「難しいと思うぞ?
アイツ、麻雀嫌いだって言ってたし」
「ふーん、もったいない」
食堂に辿りつき辺りを見渡す
先に来ていたクラスメイトがこちらに気づき手を振る
「ひとまず、その話は中断だ
飯食うぞ」
「切替が早いな」
彼等はそうしてクラスメイトのもとに駆け寄る
放課後になり旧校舎の屋根裏にある部室には四人いる
須賀、裏山、原村、片岡だ
須賀はお茶の準備をしており
片岡はテラスに設置されているパラソル付きのビーチチェアに横たわり優雅を気取り寛いでいる
原村は裏山と牌を手積みで山を作っていた
「…今はどこ行っても自動卓だから必要性はかなり無くなったけど、これは手積み時代は誰もが練習した最低限の技術らしい…」
そう言いながら自分の前に作った山の上ツモをすべて伏せたまま下ツモの手前に降ろす
「といっても、技術なんて大層なものでもないが…」
降ろした上ツモりの右端の牌に人差し指を掛けて
「③」
そのままひっくり返す
「赤五、発、9、2…」
ひっくり返された牌はすべて直前に裏山が宣言した牌
上ツモがすべて終わり
下ツモもすべて宣言通り
「自分の山の作ったはすべて覚えるのが最低ラインだな」
そういうと裏山はすべての山を崩す
耳を傾けていた須賀が卓に着く
お茶の準備は終わったらしく、原村と裏山の各席に中身の入ったティーカップ
「で、これが『読み』にどう繋がるんだ?」
須賀が洗牌を手伝いながら尋ねる
裏山が先ほどの『技術』を見せたのは何も暇潰しという訳ではない
原村が珍しく、というより、初めて裏山に指導を仰いだのだ
『読み』のやり方を教えて欲しいと
「『読み』と一言で言っても範囲が広いんだよ
前に京太郎に教えた危険エリアの範囲分けだって『読み』の一種だし
鳴き方一つから役や周辺牌を推理するのも『読み』だ
正直、今の和ちゃんの読みのレベルは中々だ
下手なプロよりは確実に上だし、高校生としては『上の下』はある
まぁ、ネト麻で身につけられる限界までは、いってると断定できる
でもそれより上を目指したいなら『ベタ読み』を身につける事だな」
黙って聞いている原村の代わりに須賀が再度尋ねる
「『ベタ読み』?」
「ようは相手の手牌を断定する為の読み
他の読みより、かなり精度が高くて、難易度はトップ」
「それで…」
遂に原村が口を開いた
「…それが今回の『これ』と、どのように繋がるんですか?」
「今も言ったけど『ベタ読み』は難易度が高い
それは必要となる情報が多いからだ
相手の視線は当然、指の動かし方から
切られた牌に対して不意に見せる肩の動きまで確認して推理する
しかも三人分だ
これはほとんど実戦で見につけるしかないのだが『一般人』が、普通に見に付けようとしたら最低十年はかかる
だが、時間は限られている
ならば、どうするか?」
そう前置きをして再び洗牌をしながら言葉を続ける
「少しズルをする」
先程と同じように山を作っていく
「あらかじめ山にある牌を覚えて、他家の手牌も照合、他家が牌をツモる度に相手の反応、牌の仕舞い方等を逐一観察して、パターンを覚える
実際は個人差があるから修正しつつになるが…
これを…そうだな……
俺は牌の暗記は一日7時間を毎日欠かさずやって半年で覚えた
ベタ読みは…この訓練をして、かれこれ一年くらい経った辺りから
的中率は、ケースバイケースだが…
局の十二順目以降で大体八割
七順目辺りなら六割ってとこだったな
因みに今の俺は十二順目までいけば待ちはよっぽど捨牌に迷彩を施されてない限りは二パターン程度に限定できる」
一通りの解説を終え椅子の背もたれに深く腰を掛け直し一息吐く
原村はぽつりつぶやく
「半年……ですか…」
「入口まで…な…
だが絶対じゃない」
原村、須賀は再び裏山を見る
「これをやれれば早いってだけで
ベタ読みの練習の基本は実戦だ
いつもの対局でもそれを意識するだけで十分練習になる」
「…わかりました」
裏山の言葉に頷き
原村が早速、伏せ牌の暗記の練習を始めようとした時だった
部室の扉が勢いよく開く
「待ち人来たる!」
言葉と共に入室してきたのは竹井だ
その背後に二人いる
染谷と宮永だった
投下終了です
最後コテが変わってますが気にしないでください
投下ペースが遅いですが途中で投げ出すことはないので最後まで見てくだされば幸いです
それでは失礼します
宮永は部室に入り一度原村と目を合わせる
しかし、何か気まずいものがあったのか目を反らす
しかし、今度は裏山を見つけ驚く
「裏山君!?」
そんな宮永に裏山は片手を上げて挨拶する
「よぅ、咲ちゃん」
「なんで…ここに?」
「あれ、言わなかったっけか?
俺の趣味・特技は麻雀なんだよ」
そこまで言うと裏山は席を立ち、宮永に近付いていく
擦れ違うようにして横に着くと、宮永の方に手を乗せる
「話は聞いたよ
なかなかの腕の持ち主だとか…」
その手を離すと裏山は軽く腕を組み
「『勉強』させて貰うよ」
宮永は戸惑いながらも、何も答える事は出来ず、視線を原村に戻す
「須賀君、優希呼んできて」
そんな彼らのやり取りを見て頃合いを窺っていた竹井が指示する
「あっ、はい」
竹井達の分のお茶請けの準備をしていた須賀は
訪問者、宮永に何処か心配するかのような視線を送る
いや事実、心配しているのだ
先日、そうした自分が言えた事ではないが
今日も様子を見る限り、自主的に麻雀部に来たわけでは無いだろう
彼女には、あまり主体性と言うものが無い
勿論、好きな物は好き、嫌な事は嫌だ、と言うぐらいは出来るが、かなり周囲に流され易い部分があるのは事実だ
それなりに親しい仲の身としては、やはりその辺りは心配になる
そんな思い、考えは心中に仕舞い込み
外にいる片岡を呼ぶ
「優希、部長から御指名だ」
「あぃ、今いくじぇー」
片岡が室内に戻ると竹井がメンツを指名していく
「宮永さん、和、まこ、優希
この四人で、まず一戦ね」
「会長やらないんすか?」
「俺は!?
俺も打ちたい!」
須賀が尋ね、裏山が抗議する
「私か、裏山君が入ったら、みんなトンじゃうでしょ?」
しかし、裏山は納得のいかない表情
「……裏山君には次の局に入って貰うわ」
竹井が折れた
その言葉を聞いてYES!とガッツポーズを取る
こういうところ子供だよな…と須賀は思考する
「ルールは東風、赤4枚のアリアリ
25000点持ちの30000点返し
ウマは無しよ」
「やった!」
ルールの説明を聞いた片岡が歓喜する
「赤ドラ4枚?」
須賀が疑問の声をあげる
「ああ、ここはいつも3枚だからな…
赤⑤が2枚になるんだよ」
染谷が牌の準備を行っている間に
最早、部の恒例と成りつつある裏山による雑学講座が始まる
「中途半端だな、なんなら6枚にしちゃえばいいのに」
「地方によっては、そういうローカルルールもあるみたいだけどな
赤牌の成立の説は沢山あるが一番有力なのは、1970年代初頭の大阪ってのだな
元々はブー麻雀が主流だった大阪でゲームの決着を速めるために店側が導入したらしい」
「ブー麻雀?」
「簡単に言えばトビの他に天井…
つまり、規定の点数に到達した地点で勝ちってルールの麻雀だ
実際は場ゾロが無かったり、役無しであがれたり、いろいろルールが違うから
俺らが、いつもやってる
通称リーチ麻雀とは別物と考えな
話を戻すと赤牌誕生当初、赤は⑤だけだったそうだ
それも2枚」
「それまたなんで?」
「さぁ、それは知らんが…
筒子…、得に⑤は『花』に形容されることもあるくらいだから『赤くしたら見た目が映えるんじゃね?』とかそんな理由じゃねぇの?
知らんけど…
それが関東に導入される段階で五と5も赤くなったって話らしい
ちなみに枚数が3または4枚なのはそれぐらいが満貫、跳満クラスが出やすくて
盛り上がりやすいかららしいぞ」
「なら赤を2枚×3種類で6枚で良くないか?
更に倍の12でも良いと思うんだが」
「さぁな、そこら辺はプロ連盟やら協会やら雀荘経営者が考える事だからな
まぁ、少なくとも赤12枚には個人的に反対だがな」
「というと?」
「使用する牌136枚中、通常のドラ4枚に足して赤12でドラが16枚
つまり8.5枚に1枚はドラになる計算だ
ってことは配牌13枚+ツモ回数は通常17枚だから
最終ツモまでに単純計算でドラが三枚から四枚は簡単に手に入る訳だな
つまり満貫、跳満が『出やすい』通り越して『当然』になるわけだ
それに伴い、少し手作りすれば倍満は疎か、三倍満も簡単にでる
そうなりゃ『東一局、親の三倍満直撃で一半荘終了』なんてのが頻繁に横行するだろ?
最初の持ち点を増やせばそれも防げるが
平均飜数増やした意味無くなるし」
「なるほどな…」
あらかたの説明を終えた頃には染谷の準備も終えたらしい
「それじゃあ始めてちょうだい」
竹井の一声で東一局が始まる
起家は片岡、その下家に染谷、対面に宮永、そして上家に原村だ
竹井と須賀は宮永の後ろに付き
裏山は、部のPC横にある紙の束の上から四枚取る
懐からボールペンを取り出し、ツモ番の者の後ろに付き書き込みながらツモ番が変わる度にそれに合わせてグルグルと自身も移動していく
牌譜を取っているようだ
二巡目
「親っ、リーチいっくじぇー!」
速いな…
須賀は思う
裏山を始めとした部員から麻雀を教わる様になり
『運』というものについてつくづく考えるようになった
何だかんだ言っても麻雀は『運』のファクターが大半を占める
これは反論の予知が無いだろう
しかし、その『運の使い方』は雀士によって違う
少なくても須賀はそのように考えるようになった
「ドーン!
リーチ一発ツモドラ3親っ跳ね」
例えば、この片岡優希
彼女の『運』の量は東場、特に東一局から二局がピークだ
それ以降は『運の量』が下降しているようにみえる
序盤に一気に突き放して後半に逃げ切るタイプ
しかし、彼女は己が『運の増減』や『運の流れ』について考えた事が無いだろう
意識した事も無いかもしれない
それでいて、『運の変動』が彼女の麻雀のスタイルの根源といえるだろう
そんなタイプだ
東一局一本場
「ロン8300です」
原村が手を倒す
「えぇ!?
今、染谷先輩が捨てたのじゃん」
「直撃狙いです」
それと別のタイプが原村だ
彼女は『運の変動』、『牌の流れ』
そういったものを偶然、牌の偏りと認識し、麻雀に置ける不純物として切り捨て
牌効率こそ麻雀における最も重要な構成物質として自分のスタイルの主体としている
「くっ!
こうなったらリュータロー
のどちゃんの後ろについて、私にローズ送れ!」
そんな片岡に苦笑いしながら牌譜をつける裏山が答える
「お前、ローズのサイン何パターンも覚えられないだろうが」
そして、さらに別のパターンが裏山だ
先日、彼に尋ねた事がある
「『運がどのような物か』って…
なにを突然、藪からスティックに」
バイト帰りのファミレス
での事だった
「いやっさ、よく『強運』とか『流れ』とかいうだろ?
でもさ、イロイロ考えてみたんだけど
よくわからないんだよな」
須賀の言葉に、ピザを食べながら耳を傾けていた裏山は、口の中のものを紅茶で流し込むと答える
「…そもそも、『運』だとか『流れ』なんて曖昧なもんを論理的に考えようとするのが間違ってんだよ
そもそも、『運』なんてもんは、存在しないに等しいんだからよ」
「というと?」
「例えば麻雀な?
親Aがいて以下子のB、C、Dがいるとする」
そのようにいいながら取り付けているペーパーナプキンとポールペンを手に取り
ナプキンに図示しながら説明していく
「そこでAが…そうだな…天和…でいいや
席決めして直ぐ、東一局の頭に天和を上がったとしよう
その時に人々は『強運だな』とか『流れ持ってかれた』等と言うわけだ
でもさぁ、実際的な話『たまたま』天和のセットされていた席に座ったのがAだっただけで
B.C.Dにも『その席に座る可能性は等しくあった』訳だな
所詮、どの席に座るかなんて1/4だからな…
つまり、結論として何が言いたいかと言うと…」
そこまで述べると紙に『運=たまたまを掴む力』と書く
「こういう事になる『らしい』」
「『らしい』ってのは?」
パスタをフォークにクルクルと絡ませながら須賀が返す
「今のは、昔、人から聞いた話を結論を変えずに解りやすくアレンジしただけだからな
ただ、なんだよ『たまたまを掴む力』って、俺は思うけどな
別の人間に言わせれば『運』を『統計学的特異点』なんて言うやつもいるしな
結論に結論を重ねて悪いが、結局は『運』なんて考える人間によって違う訳だ
だから『これ』と断定できないんだ
さっき、存在しないに等しい。って言ったのは
人によってその形が違うんだから…ってわけだ」
上手く言葉に出来なかったのだろう
しかし、言わんとしてることは須賀にも理解できた
要は『捉え方』ということなのだろう
パスタを口に入れ咀嚼し、飲み込むと再度質問する
「竜太郎はどう考えてるんだ?」
「俺は『運』の定義については持論は持ってないよ
どちらかと言えば『流れ論者』だし…
あぁ、流れもわからないって言ってたっけ?
流れってのは『川の水』をイメージするんだよ…」
そこまで回想したところで気が付けばオーラス
宮永が聴牌したところだ
①②②③③④⑥⑦⑨⑨西西西
『咲が門前混一テンパイ
咲は24500点の二着か
出アガリ5200でプラマイゼロか…』
「とおるかな」
そんな事を考えていると片岡が⑤を出す
『出た!優希は32600点
これで10400点ひっくり返るから
咲がトップだ!』
しかし、宮永、ロンせず
これに須賀、竹井、そして、牌譜を取っていた裏山も驚愕する
その次巡、原村から赤⑤が出るがこれも無視する
須賀には何が起きているかわからなかったが
隣の竹井と牌譜を取る裏山は何かを悟ったように見える
竹井になるべく小声で尋ねる
「何で和了らないんスかね」
「おそらく、あの子には…
あの子にはプラマイゼロしか見えてないのよ
優希の⑤で和了れば1位でウマがついて+20
和の赤⑤で和了れば2位だけど点数があがって満貫で+2になる…」
「リーチ」
竹井の話に納得した矢先、原村のリーチ宣言
この局面、流石の須賀も理解する
「場に1000点増えたってことは…」
須賀の呟きに答えるように竹井が続ける
「…こうなるとプラマイゼロにできるのは4100点から5000点
その条件に合うのは70符2翻のみ」
「70符って…」
基本的に麻雀の符点は、ほとんどが20~50だ
事実、麻雀を打つようになって、まだ日が浅いとはいえ
今だに須賀は70符を見た覚えが無い
70符を作る為には
基本符の20点を引いた
41~50符を自力で作る必要があるが
現段階での宮永の符点は西の暗刻で8符のみ
ツモで30符
出和了でも38符、切り上げ40符で
大幅に足りていない上に
そもそも、現在の宮永の手は門混、3翻役だ
『リーチをかわしながら
40符3翻(これ)を70符2翻に変えるってのか!?』
不可能だ
須賀は断定する
…もし……
宮永、2をツモ、⑥切り
…仮にそんな事をできるとしたら……
宮永、⑨をツモ、⑦切り
…咲(コイツ)の運の量(才能)は……
宮永、西をツモ
「カン」
宣言した宮永は嶺上牌に手を伸ばす
それは先程までと同じはずなのに
須賀には、とても遅く
まるでビデオのスローを見ているかのように感じられた
「ツモ、70符2翻は1200・2300」
宮永が倒した牌の上にツモった牌を並べる
索の2
20(基本符)+32(西暗カン)+8(⑨暗刻)+2(ツモ和了)=62
切り上げ70符
門前清自摸1翻+嶺上開花1翻=2翻
何度見ても、何度計算しても、このようになる
かつて、まだ麻雀を覚えて間もない頃の須賀なら、宮永に駆け寄り、その功績を褒めただろう
しかし
今の須賀には、それが出来ない
なぜなら、今、須賀が宮永に対して抱いている感情は
称賛ではなく
称揚ではなく
戦慄であり
畏怖なのだから
投下終了です
プロットは全て出来ているのに、この遅筆
頭の中の事を文章にする事の難しさを、つくづく思い知らされます
さて、今回の京太郎の回想で裏山が自分の運についての捉え方について論じてるシーンがありますが…
…解りにくいですね
とても解りにくいと思います
もっとも、この回想は今後
またストーリー中に再び出てきますので、その際に解りやすく書ければいいなと思います
そして、次は、ようやく
咲ちゃんVS裏山です
どのような決着を迎えるか楽しみにしていただければ幸いです
「咲ちゃんはまたプラマイゼロ…
昨日のを入れて4連続…
ありえないじぇ」
片岡が呟く
「残念だが有り得ちゃうんだなこれが
牌譜見るか?」
裏山は、手にもっていた牌譜を片岡の頭に乗せるようにして渡す
それに目を通し始める片岡
目が動く度に『うおっ』とか『じょっ!?』等といったリアクションが見られる
それにクスリと笑みを浮かべ、竹井は宮永に向き直り
「宮永さん
麻雀は勝利を目指すものよ」
「え……」
「次は勝ってみなさい!」
言い放つ
一瞬の動揺、いや、躊躇いか
その後、宮永の答えは
「わ…わかりました」
だった
当然、周囲がざわめく
「な――わかりましたって…」
「うちらに確実に勝てるっちゅうんか!!」
片岡、染谷と違い言葉は発しないが
原村の動揺は手に持つティーカップの中身の波紋が表していた
そんな中、宮永は言葉を繋げる
「勝つ…って、トップってことですよね
でも…
プラマイゼロじゃ
トップにはならないですよ」
その言葉に場が凍り付く
須賀は思う
『やっぱり、咲は咲なのかも知れない』
「じゃあ…
自分は1000点
他の3人は33000点もっている…
そう思ってやってみたら?」
竹井の提案に
はぁ、と相槌をうち
「それをプラマイゼロにするように打てば『勝てる』んですね」
そのように返答した後
「大変そうだ………」
そう呟いたのを裏山は聞き逃さなかった
「そんじゃあ、染谷先輩は俺と交替ですね」
しかし、裏山の言葉に当の染谷は不満げだ
「なんでわしなんじゃ!」
「ラス抜けっすよ」
そう言われてしまったら返す言葉も無い
「『頼んだ』わ」
染谷は片手で頭を欠きながら反対の手で裏山の肩を叩く
それには『敵を取ってくれ』
そして、『自分の代わりに入る以上、負けたら解ってるな?』
という二重の意が
それには含まれている事を裏山は理解した上で
「『翻弄』しましょう」
と返した
裏山が座るのは先程まで染谷が座っていた席
つまり、宮永の対面だ
着席した裏山は宮永の目を真っ直ぐ見据え
「よろしく」
とだけ紡ぐ
刹那、宮永は感じた
宮永だけが感じた
宮永だけが感じることが出来た
『竜太郎君…?
この感じ――!!』
『それ』に伴い
宮永は自身の体が震えるのを感じる
『『これ』…ちっちゃい頃のおねーちゃん並かそれ以上…!?』
「うんじゃあ、始めよう!」
飽くまで冷静に、闘志の片鱗も見せず、裏山が合図する
東一局 親片岡
咲、第一打
北を横向きに晒し、河に捨てる
「リーチ」
「はぃ?」
「うはっ、ダブリーかよ」
裏山は苦笑する
『『あの程度の威圧感(プレシャー)』なら問題無い訳か…』
裏山、安牌の北切り
そして、宮永のリーチ後の第一ツモ
「ダブリー一発ツモ
2000・3900」
宮永手牌
一二二二三⑤⑥⑦⑦⑨777 ツモ⑧
そのツモに裏山以外の全員が驚愕する
「そそそーゆーの
うちのお株なんですケド!」
「積み込みか…ッ!?」
「自動卓です
てか、後ろから見てるんですから、わかるでしょ」
『前局から強運続くわね』
竹井も言葉には出さずに驚いていた
『強運?違うだろうよ…』
竹井の顔を見て何を考えているか察した裏山は、心中でそれを否定する
『『俺というサンプル』が近くにいるのに気付かないものかね…』
とはいえ
『とりあえず様子を見せてもらおうか…?
俺も俺で『試したい事』があるしな…』
東二局は全員ノーテンで流局
東三局 親は原村
端から見て明らかな『運任せな打ち方』の宮永
しかし、その『運任せ』な打ち方を嫌うのが原村
『そのようなものは一時の運――
単なる偶然――!!』
「ロン3900」
まずは一本、宮永から討ち取る
『そして――』
東三局一本場
「ロン
3900は4200です」
二度の宮永からの直撃
『私に偶然はいらない――』
東三局二本場
『この親でさらに突き放す
この親で勝つ!!』
「とおらばリーチ!!」
片岡のリーチ宣言
しかし
「とおしません
ロン11600は12200」
「ひぃっ」
『走るな…和ちゃん
だが『サービスタイムは次まで』だぜ!?』
好調の原村を余所に
裏山は一人、不適に笑みを浮かべる
東三局三本場
「ツモ2300オール」
四連続で原村の和了り
原村はここで点数を確認する
片岡6000点
宮永22500点
原村60200点
裏山20700点
『これで37700点差…
突き放した!!』
『――とか思ってるんだろうな……』
先程から宮永の方しか見ていない原村の思考を裏山が読む
『ったく、惚れた男を見る一途な乙女かよ…
…だが和ちゃんGJだ
『この点差』は素敵だぜ?
…これで俺の目標を八割消化してくれた…』
東三局四本場 親は依然、原村 ドラ三
原村配牌
一四七④⑤⑨⑨12東西北白 ツモ一
『この点差でこの配牌
親番とはいえ、これはまず和了れない
この局はオリ切る』
打2
そして一を手中にいれる
それを確認した裏山
『悪いが和ちゃん
俺は、この局『君から三倍満を直撃しなくてはいけなく』てね』
裏山、打三
ドラ切りに一瞬場の空気が変わる
そして毎日の様に彼と打っている部員達が察する
『コイツ、何か仕掛けて来る』
すぐに竹井と染谷が裏山の後ろに付く
裏山手牌
一二二三三五六七九九赤⑤⑨發
手は完全に萬子の配牌
此処から三切りは通常有り得ないだろう
しかもドラである
『一二二三三三とあるところからドラを切っていったの!?』
もちろん竹井、染谷の驚きはここで終わらない
二巡目、ツモ八 赤⑤切り
三巡目、ツモ九 ⑨切り
四巡目、ツモ四 發切り
裏山手牌
一二二三三四五六七八九九九
四巡目にして無駄ツモ無くテンパイ
『一四七五八待ち
高めの一で三倍満
最低でも倍満ね…
しかもこの捨て牌…』
裏山捨牌
三赤⑤⑨發
『…ドラの三を最初に切った事により萬子からマークが外れるようになってる!?
これを普通に読めば索子の染め手
捨て牌が気持ち悪いから
違和感が無いとは言えないけれど
これは高めが早い段階で出てもおかしくない!』
しかし、竹井の読みは外れ、場は膠着していた
巡は巡り河も三段目に差し掛かった頃に変化が起きた
裏山の下家、片岡が一を捨てたのだ
これを平然と見送る裏山
『高めをスルー!?』
リーチをかけずダマを選択したのは確実に和了るためのはずであったはずだ
しかも、それに合わせてオリ打ちをしていた原村も一を手放す
『何を狙っているの…
裏山君…!?』
そんな竹井の思考は裏腹に裏山はこれを待っていた
そう、原村の第一打
『ツモった何かを一番左に引き入れた』あの時から
否、正確には理牌の際、から…
裏山はツモった牌をそのまま切る
そして、遂にやって来る原村のツモ番
原村手牌
一四五六七八④⑤⑥東東白白 ツモ六
『オリていたら、張りましたね…
東は一枚見えてますが白は二枚生きている…
といっても誰かが抱えてそうですが…』
「失礼します」
長考
ちらりと裏山の河を見る
裏山捨て牌
三赤⑤⑨發東六
發西南2①發
西
『四巡目の發以降はすべてツモ切り
普通に読めば索子なんですが問題は十巡目の2
索子の染め手ならこれを引き入れるはず
考えられるケースは
Ⅰ.すでに張っている
Ⅱ.一向聴あたりで有効牌で無かった
Ⅲ.プラフ
いずれにせよ、先程切ったこの一は確実に通ります!』
二度に渡り放たれる一
しかし、
「ロンだ25200」
倒される手牌
門清平和一盃口一気通貫ドラ2
三倍満である
「なっ!?」
信じられないものを見たかの様な原村の顔
いや、原村だけではない
片岡も、染谷も、竹井も、須賀ですらも
この異常に気付いていた
弁解するように裏山は嘯く
「いやー優希ちゃんの一を『見落とした』時は内心焦ったが
よかったよ直ぐに出てきて」
もちろん嘘である
皆も気付いているだろう
しかし、一応の言い訳がある以上、これ以上の追求は出来ない
納得していなくとも
無理に納得せざるを得ない
『さてさて、これで目的は果たした
次は咲ちゃん『君の番』だ
期待外れなんてやめてくれよ?』
オーラス 親裏山 ドラ白
片岡 6600
宮永 22500
原村 25000
裏山 45900
『このまま宮永さんは負けたまま―?
トップ条件は倍満ツモか出和了三倍満
裏山君からの直撃なら跳満だけど…』
宮永の後ろに竹井はもどる
宮永配牌
三四四122358⑧⑧西發 ツモ西
『…七対子の二向聴
ドラも無いし跳満は無理ね
となると…』
『…満貫を作ればゼロ子はプラマイゼロじゃが
リーチ七対子ツモじゃあ6400
赤でもツモらんと満貫にはならんのー』
そんな冷静に状況を見る外野とは別に
内野で一人、原村が闘志を燃やしていた
『このオーラス速攻で流して
宮永さんのトップもプラマイゼロも両方防ぎます!』
そんな原村を見て裏山は内心嘲笑する
『若い…若すぎるぜ?
本気でプラマイゼロを防ぎに来るんだったら
ノーテンリーチをかけて無理矢理場に1000点増やせば良いだけだってのに……
…ラフプレイはイカサマでもなんでもない、戦術だ
それが理解出来ない内は、お子ちゃまだ……
それにもう君に出番は無い
なぜなら、この局は『咲ちゃんが役満をツモって終局』なんだからな…!』
かつて人は言った、『天才とは1%の才能と99%の努力によって創られる』と
しかし裏山は、この言葉を鼻で笑う
彼は知っている
否、麻雀に魅入られた多くの者達は知っている――
「…今日はコレ和了ってもいいんですよね――」
14巡目、宮永はそのように前置きをし
「――カン」
西カン
それに周囲が驚くなか
裏山は一人笑顔だ
宮永手牌
四四四22288⑧⑧ 暗槓(西) ツモ⑧
「ツモ四暗刻!」
――『真の天才は、努力と何ら関係の無い所から生み出される』事を彼等は知っている
「私…役満和了ったの初めてだ…
いつもはできても崩してたよ…」
うっすらと嬉しそうな表情を浮かべる宮永は、そして続ける
「…でも勝つって難しいですね
またプラマイゼロになっちゃった」
「はぃ?何言ってますか咲ちゃんは…」
片岡には本当に何を言っているのかわからないのだろう
「だって竜太郎君のひとり勝ちじゃないですか」
いや、片岡だけではない
須賀も、竹井も、染谷も、原村もそのようだ
それらを見て『あれ?私何か間違ってます?』と言いたげな顔で補足する
「私は1000点スタートだから2位ですよ
点数結果ってこうですよね?」
1.裏山 37900 +28
2.宮永 30500 +- 0
3.原村 25000 - 5
4.片岡 6600 -23
「いやいや、宮永さん」
竹井が即座に訂正に入る
「1000点と思えって私は言ったケド
実際は全員25000点からよ?フツーに」
「え?
じゃあ」
宮永は混乱している様なので片岡が代わりに解説する
「実際の点数はこんなだじょ」
1.宮永 54500 +44
2.裏山 29900 +- 0
3.原村 17000 -13
4.片岡 -1400 -31
「じゃあ…」
「あなたの勝ちよ」
竹井の宣言を皮切りに周囲が宮永を褒める
「咲にも取り柄があったんだな」
「しかもまたゼロにしょぉったなんて…」
「すごいよ咲ちゃん」
「最後の四暗嶺上自摸は見事だったよ」
しかし、尚も宮永は自身が何をしたか、わかっていないようだ
「勝ったー?」
まるで子供が初めて知った言葉を復唱するかのようにその言葉を呟いた
「そう
よくやったぞ」
その言葉でようやく自体を飲み込んだらしい
宮永は須賀も見たことが無い程の笑顔を浮かべる
それを見て、悔しそうに俯き、スカートの裾を力強く握り
原村は震えていた
「のどちゃん?」
それに気付いた片岡が声を掛けると
原村は荷物を手に部室を飛び出した
「またですかっ!」
飛び出した原村を見送ると片岡が
「泣いてた?」
と確認する
「まさか」
答えたのは染谷だ
心配そうに既に閉ざされた扉を見つめる宮永に
竹井が何かを思い出したように告げる
「そうそう宮永さん
約束の本はここにあるから
待ち時間の読書本棚」
本棚のカーテンを開く
麻雀関連は勿論、文庫本やハードカバー、なぜか絵本までもが所狭しと列んでいる
「麻雀部に入れば読み放題!」
それに反応を示さなかった宮永に竹井は悪戯顔で
「和が気になる?」
と尋ね、宮永がピクリと体を震わせたのを見て取ると
「いってらっしゃい
本は泣いて逃げたりしないから」
と紡いだ
宮永が部室を後にした後、しばらく訪れた沈黙
それを破ったのは竹井だ
「…それで?
裏山君、今回の解説は?」
「…何の事ですか?」
「惚ける気?」
「…いやホントに『どの事』を言っているのかサッパリで」
「『どの事』……なるほど…
可能なら全部聞きたいのだけれど?」
突如始まった問答
須賀と片岡だけがこの空間において話題について行けず首を傾げている
「会長
何の話ですか?」
須賀の問いに竹井は含み笑いで返す
「裏山君のスコア見て、気づかん?」
へ?と間の抜けた顔でスコアを見直す
「竜太郎のスコアは+-0…
――プラマイゼロ!?
これって…」
本日何度目か、わからない須賀の驚き顔
もはやコイツ、リアクション要員なんじゃないか
と考えながら
やれやれ、といった様子で須賀に指摘する
「おいおい、京太郎は驚くなよ
昼休みに言っただろうが『今日やってみようかな?』って」
思い返す
言われて思い出す
言っていた
確かに言っていた
昼休み、宮永の話をした時に、彼は言っていた
独り言のように
まるで、自販機に飲み物を買いに行くと言うような気軽さで―
―軽いジョークを言うように
しかし、まさか本当にやるとは思わなかった
そして、もう一つ思い出す
毎日の様に一緒にいて忘れていた事を
いや、忘れていた訳ではない
意識しなくなっていた
そのように感じなくなっていた
そう、この男、裏山竜太郎という男も
事、麻雀において
化け物、怪物であるという事実を
経験、能力、格の違いを改めて思い知らされる
「いや、確かに言ってたけども…」
「…とはいえ、俺も出来るとは思って無かったよ
…いや、俺一人じゃあ無理だっただろうよ」
その言葉に皆が疑問を持つ
「±0(アレ)が出来たのは、咲ちゃんがいたからだ」
尚も、疑問は解消されない
むしろ疑問は増えていく
「ちょっと待ってちょうだい
順を追って説明してくれないかしら?」
竹井が告げる
「そうですね…」
裏山は頷き説明する
「今回の俺の対局目的は咲ちゃんの観察と、それを利用したプラマイゼロの実験でした
まず、今日の第一局目に気付いた事があります
それは咲ちゃんのプラマイゼロは、自己完結…
つまり、オーラスまでは他家に好きに打たせて、オーラスに自分が和了ってプラマイゼロにするっていうスタイルだということ
それまでに彼女が和了るのはプラマイゼロに出来ない点差にされない様にするための和了のみ…
…必要最低限だけです
多分、昨日の対局もすべて最後の和了りは、咲ちゃんだったんじゃないかな?」
そう、そうだった
確かに昨日の三局
そして、今日の二局すべて宮永がオーラスに和了って終局となっていた
「でも、考えて見ればそれは当然なんだ
いや、プラマイゼロをやるための必要条件とも言えるだろう
例えば、32000点と28000点では±0まで同じ2000点差だが
後者の方が±0を作るには楽だ
前者は2000点を失わなくてはならないが
後者は2000点を和了すれば良いんだからな
それを踏まえて
さっきの二戦目、東三局四本場を見て欲しい…」
そこまで言うとホワイトボードに
東三局四本場開始時の点数を書いていく
片岡6000点
宮永22500点
原村60200点
裏山20700点
「この時点で『咲ちゃんの±0条件は+32000(役満和了)』なんだ」
それに異議をだしたのは片岡
「何をいってるんだじぇ
プラマイゼロは29600~30500だから
咲ちゃんのプラマイゼロ条件は7100~8000点(110符2翻or60符3翻or満貫)のはずだじぇ!」
裏山は頷く
「本来ならな
だが良く思い出して欲しい
この二戦目が始まる前の部長と咲ちゃんの会話を…」
『「勝つ…って、トップってことですよね
でも…
プラマイゼロじゃ
トップにはならないですよ」
「じゃあ…
自分は1000点
他の3人は33000点もっている…
そう思ってやってみたら?」
「それをプラマイゼロにするように打てば『勝てる』んですね」』
ある者はハッと察し
ある者はいまだに気づかないようだ
「そう、咲ちゃんは『自分の中の勝利条件』を
『25000点をプラマイゼロにする事』から
『1000点をプラマイゼロにする事』に置き換えたんだ」
「なんでそんな事を…」
「さぁ?
正確には解らないが彼女にとって麻雀は±0にするもの『だった』んだろう…
少なくとも、俺はそう考えた
そして、この時点で彼女の最終和了が役満だと言うことも察しがついた
しかも、この点数状態
俺が三倍満を原村さんから出和了って宮永さんが役満をツモれば俺は+-0
当初の予定通り『翻弄』したことになる」
「待って、なんで和からの出和了り限定なの?
しかもあの見逃しは和が一を二枚持っている事を知っているようだったケド」
「あの局面で、ツモと咲ちゃんからの出和了りは不可能なんですよ
あの時は圧倒的に彼女が卓を『支配』していた
現にその両方出来ませんでしたしね
優希ちゃんからの出和了りは優希ちゃんがトンでしまうので不可
やってしまったら当初の目的は達成出来ない上に2着
俺からすれば完全敗北だったんですよ
よってあの局面で俺がやることは『和ちゃんからの三倍満直撃』に限定されてしまう訳です」
「じゃあ、あの局開始時に貴方は三倍満を和了れる事を確信していたの?」
「そうですね…
此処にいる人達からすれば理解しにくい話でしょうが
『卓の支配権』を持っている『俺達』は『そういう存在』なんですよ
それに、あの時は『俺の支配』と『咲ちゃんの支配』がたまたま『対立していなかった』ので100%とはいいませんが
九割方、和了れると踏んでましたよ
後、なんでしたっけ…?
あぁ、そうそう、和ちゃんが一を二枚持っていることは分かってましたよ
彼女は理牌に傷…
癖があるので」
「癖?」
裏山は卓に着き、洗牌ボタンを押し、牌をすべて穴に落とすと
今度は配牌の操作を行う
「彼女の癖はいくつかあるんですけど
一つは牌を左から萬子、筒子、索子、字牌の順に、しかも数字順、果ては上下も整える癖があるんですよ
彼女も含めて、理牌から手牌を読まれる危険を一切考慮してない人が最近は多いですね
これだけで牌を捨てる時の牌の出所から、その周辺牌が読めてしまいます
因みに優希ちゃんも、この癖がある」
指摘された片岡が「じぇ!」と妙な言葉を放って固まる
「…一応俺も牌譜を取ることがあるから、部活中は理牌してるけど
公式戦を含めて雀荘なんかでは理牌は一切しない
さて、彼女の癖のもう一つは
彼女は理牌の時、配牌された牌を少し奥にずらして牌をある法則にしたがって手元に並べる癖がある
問題はその法則…
例えばこの配牌…」
そう言って先程、卓から配られた配牌を表にする
配牌A
9西④6⑧三白46⑤①六7
「これを彼女の場合、理牌する時この順番で手元に並べる」
三六①④⑤⑧46679西白
ⅡⅥⅠⅢⅤⅩⅣⅦⅧⅨ111213
・上部理牌後
・下部理牌順
「次にこの配牌」
配牌B
①⑦5二⑤63⑨③④三2①
「何だ…この好配牌…
これだとこの順」
二三①①③④⑤⑦⑨2356
ⅢⅤⅠⅡⅥⅧⅨ1213ⅣⅦⅩ11
「次にこれ」
配牌C
南⑨二發一①北③1東9九三
「これなんかは、分かり安いな」
一二三九①③⑨139東南北發
ⅠⅣⅤⅧⅡⅥⅨⅢⅦⅩ11121314
「…なるほど、言われて見れば、あの子そんな感じだわ」
竹井は法則に気付いたようだ
「流石ですね部長」
裏山は、表には出さないものの竹井を高く評価している
麻雀に置ける知識レベルは高く
裏山の読みを外して来る技術もある
全国レベルで話題にならないのが不思議な程だ
何故これ程の人間が廃部寸前であった清澄にいるのかは知らないが…
「…ゴメン全くわからん」
須賀だ、様子を見る限り片岡もそのようだ
染谷は、まだ開いていない配牌に手をつける
配牌D
南8⑥58南6⑤1⑦⑧八7
「これは…こうなる訳じゃな?」
八⑤⑥⑦⑧156788南南
ⅧⅡⅣⅥⅨⅠⅢⅤⅦⅩ111213
それに裏山は頷き
「御明察です」
と返答し、続ける
「さてと、いまだに理解出来てないダメな子達の為に解説しようか」
「ダメな子言うな!」
「ダメな子じゃないじょ!」
これぞ阿吽の呼吸と言うやつか
そんな事を考えながら苦笑しつつ
解説を始める
「原村さんの癖ってのは
さっきも言ったけど手元に牌を持ってくる時の牌の順番
彼女は牌を手元に持ってくる牌に優先順位を付けてるんだ
それはこんな感じだ」
一>①>1>二>②>2>三>③>3>四>④>4>五>⑤>5>六>⑥>6>七>⑦>7>八>⑧>8>九>⑨>9>東>南>西>北>發>白>中
「貴重面な性格が滲み出てるな…
…時に京太郎
俺が咲ちゃんや部長、染谷先輩が来る前に
何の講義をしていたか覚えているか?」
指名された須賀は少し考える仕種をしながら
「たしか『ベタ読み』だろ」
「そう、正にそれだ
今回和ちゃんの手牌を読む際に使用した技術が正にそれだ
よし、前置きも済んだ所で本題に入ろう
まず和ちゃんの理牌の順番は、これ」
?????????????
ⅠⅣⅦⅤⅥⅧⅨⅡⅢⅩ111213
・不明牌=?
「和ちゃんの第一打の2切り出しは此処」
????????2????
ⅠⅣⅦⅤⅥⅧⅨⅡⅢⅩ111213
「そして、それにより
Ⅰは一or二or①or②が確定した
だが彼女はⅠの上下を整えていた
この中で上下非対象の牌は一or二
よってⅠは一or二に限定される
そして第一ツモをⅠの左に入れた
つまり第一ツモも一or二に限定された
そして、第二ツモで彼女が捨てた牌はⅡにあった1だった
よって…」
一??????12????
ⅠⅣⅦⅤⅥⅧⅨⅡⅢⅩ111213
「これが成り立つ
よって第一ツモも一となり
彼女が一を二枚持っている事が事前にわかります」
驚いていた
皆驚いていた
簡単にさらりと言ってのけたが
麻雀を打った事があれば、裏山が述べた事を実践する事が如何に難しい事か理解できるだろう
「こんなところですかね
解説するとしたら
何か質問はありますか?」
無言だった
質問が無いのか
または、まだ驚きが抜けないのか
はたまた、その両方か
それを気にもせず
窓から空を仰ぐ裏山
そろそろ梅雨明けだろうか
しかしそれは、夏の訪れと県予選が間近であることを表している
…時間が無い……
「…これで女子は五人
団体戦に出れる
これは祝うべき事でしょうね」
裏山の言葉に答えたのは染谷だ
「?
ゼロ子のことか?
あれは入部希望者だったんか?」
「…あれは完全に麻雀に『魅入られている』人間です
賭けても良いですよ
必ず彼女は此処の門戸を叩きに来ます…
…そうでなくてはならない……」
あまりにも小さく呟いた最後の言葉は誰にも聞こえなかった
裏山は尚も外を、空を仰いでいる
その表情はよく読み取れない…
いや、須賀には
この中で最も長く共をしている須賀には、僅かに読み取れた
それは羨望、憧れ
かつてから、自分が欲しかった物を持っている者に出会った
出会ってしまった
そんな表情
しかし、それには嫉妬や絶望、そんな負の感情が含まれているのも須賀は見逃さなかった
翌日の放課後、部室
片岡はタコスを食べていた
染谷はパソコンで部のホームページを更新していた
竹井は紅茶を飲んでいた
裏山は牌を磨いていた
原村は読書をしていた
須賀は替えの飲み物を用意していた
そんな時にドアがノックされる
「失礼します」
その言葉と共に入室してきたのは
黒髪短髪のまだ幼さの残る顔立ちの背の小さい少女
「宮永さん!」
誰かが彼女の名を呼んだ
「麻雀部(ここ)に入れてもらえませんか…」
彼女は早々に本題を伝える
「私…」
何かを決意するように
いや
「麻雀をもっとたくさん打ちたいんです」
決意表明をするように言い放った
「もっと麻雀で勝ちたいんです…!!」
今回分投下完了です
ようやく原作の第0局までたどり着きました
1/1に始めたこのSSですが
皆様の声援でここまで(スタート地点)までこれました
皆様のありがたいコメントをモチベーションに無事完走させたいと思っていますので
どうかこれからも暖かく見守っていて下さい
さて次回は久しぶり
京太郎強化プロジェクト
第二弾です
次回現れる京太郎に麻雀を教えてくれる仲間を安価で決めたいと思います
>>+2の人に来ていただきます
1.宮永
2.原村
3.片岡
4.竹井
それでは今回はこれにて失礼いたします
世界の麻雀競技総人口が5億人を超えた21世紀現在
日本式の麻雀競技人口は1億人を突破
我が国 日本でも大規模な全国大会が毎年開催され
プロに直結する成績を残すべく高校生麻雀部員達が覇を競っていた
これは、その頂点を目指す少年少女の軌跡
六月も中旬に差し掛かりようやく梅雨も折り返しといったところだろうか
しかし、今年は降水量が少ない
全く降らないというほどではないが日中降り続く雨は少なく
夕立がほとんどだ
この日も、それに漏れず朝から心地好い日差しと、柔らかな風が身体を撫でる
授業の無い日曜日は、朝九時より麻雀部は活動する
時間を決めているとはいえ、厳格な部活ではないので実際は人数の集まりで前後する
裏山は活動開始時間通りに部室に入室する人間だ
理由は簡単、朝に弱く起きれないからだ
生真面目な原村は大抵30分前に入室しているようだが
他の部員も裏山と大差ないようなので30分近く部室に一人でいるらしい
頭が下がる
そんな事を考えながら歩いていた自宅から旧校舎への道中、見知った顔があった
待ち伏せていたのだろう
二人の男女も裏山を確認したらしい
眼鏡を掛け、額を晒す様に頭頂部で髪を左右に分けたセミロングヘアーの女性が声を掛ける
「裏山くん、久しぶりね
『ウィークリー麻雀TODAY』の西田です
取材いいかしら」
「あぁ、どうも」
一定の距離を置いて立ち止まり軽く会釈する
「長野にいるなんて
俺、公表してないはずなんですけど
よくわかりましたね」
髭を蓄えた細目の男
カメラマン山口は裏山にカメラのレンズを向けるとシャッターを切りはじめる
それを横目で確認すると西田が裏山の問いに答える
「古河泉君…
…今は四方院君だったわね
彼を先週取材した際に聞いたのよ
それまで貴方の進学先がわからなくて取材しようにも出来なかったから助かったわ」
「そうすっか…」
別に居場所がバレた所で私生活において困る事はない
いや、どうせあと三週間もすれば個人戦の予選が始まる
いずれはそこで露呈する事実である
しかし可能ならば、バレたくなかった
予選で対策を練られる可能性があるからだ
長野では女子麻雀部といえば風越女子が代名詞と言えるほどの有名校だが
男子麻雀でそこまで突き抜けた強豪校は存在しない
まさかそんな地区に裏山程の人間が現れるとは誰も夢にも思うまい
対策されたところで、その程度の付け焼き刃、覆す実力もキャリアも自信もあるが、危険は少ないに越したことは無い
これで仮に予選に置いて苦戦するような事が合ったなら
今度会った際、出会い頭に奴の鼻っ面に一発かましてやろう
そう誓いながら話しに戻る
「それにしても
まさか裏山くんも原村さんと同じ清澄高校だなんてね
何か理由があったのかしら?」
「いや、別に…
あえて言うなら学食にケバブがあったからですかね」
勿論嘘である――
そもそもケバブの存在は入学してから知ったことだ
初見時は違和感しかなかったが実際食べてみるとこれがなかなか
それまで本でしか見たことのなかった裏山はメニュー表にチリソースとヨーグルトソースが無いことに酷く裏切られたものだった
因みに裏山のオススメはガーリックミックス味だ
プレーン味でも十分美味しいがやはりオススメこちらだ
片岡にはタコスを薦められるが裏山の好みはケバブだ
閑話休題
―――間違っても『原村さんが進路希望として選んでいたからです』とは言わない
言えるはずもない
それではまるでストーカーではないか
正直に『話題作りのため』とも言わない
世間に、メディアに構って欲しい様に見られてしまうではないか
この一件はあくまで自分が楽しみたいが為に行っていることだ
他者に知られる必要は無い
「ケバブ…!?」
西田も裏山が真面目に返答するつもりが無いことを察したが尚も食い下がる
「わざわざ、そのために東京から長野に?」
「まぁ……
そういう事にしといて下さい」
これで『ケバブ雀士』なんてあだ名がついたらどうしようか
『清澄のケバブ雀士』
トルコ人ではあるまいに
格好悪い上に語呂も悪く、言いにくい
何処かのタコス娘、果てはカツ丼好きのゴスロリ店の長まで連想されそうだ
「そっ…そう…
じゃあ、そろそろ本題に入らせて貰おうかしら
毎年裏山くんの記事が評判良くってね
全国中学生大会個人戦三連続優勝!
春の選抜も二連覇してるから実質五連続優勝かしら?」
「枠の広いスプリングなんて勝っても誇れませんよ」
「王者ならではの台詞ね
2週間後に行われる県予選だけど個人戦で注目している選手はいるかしら?」
「さぁ…特に予選は気にしてないんで
通過して当然だと思ってますし
そもそも長野の選手詳しくないですし」
予め用意した台本を読み上げるように返答する
あえて大口を叩く
その方がマスコミが、彼らが喜ぶのを知っていての裏山のサービス精神だ
サービスついでにカメラに向かって幾つかポーズを決めてみせる
余談だが裏山は某波紋幽波紋漫画の熱狂的ファンである
「原村さんと同じ様なこというのね」
原村の名に首を傾げる裏山
「さっき原村さんにも同じ内容を取材したのよ
でもね…」
故意にか、タメをつくる西田
「…彼女は決して口には出さなかったけど
意識している選手がいるみたいなのよ
心当たりないかしら?」
なるほど、確かにそれには心当たりがある
「…一人覚えがありますね」
「誰かしら!?」
当然食いつく、しかし
「『誰』といってもわかりませんよ
『まだ』無名の選手ですし
まぁ、すぐにわかりますから『女子団体予選』に期待しててくださいよ」
そこまで言うと裏山は再び歩みを始め
すぐに西田の隣を通り過ぎる
「あっ!取材ありがとう!」
彼女らを背にヒラヒラと片手を振る
裏山が見えなくなると山口が溜息混じりに口を開く
「相変わらず大物ですね…
ホントに15歳ですか…!?」
「絶対的な自信があるのでしょうね
それにしても…彼までもが…」
西田が思い馳せるのは、まだ名も姿も知らない存在
裏山は『女子団体予選』と言っていた
つまり『それ』は『女子』だ
原村や裏山ほどの人物が目を付ける人物がこのような辺境の地にいる
西田は言い難い高揚感を感じながらまだ見ぬ『彼女』に『想い馳せていた』
「ハーッロロー」
裏山が部室に入ると既に四人が卓で打っていた
「よーっ!」
「遅かったなリュータロー!」
「おはよう竜太郎くん」
「おはようございます」
辺りを見渡し一年勢しかいないのを確認すると須賀の後ろに椅子を移動させながら問う
「お二人は?」
「遅れてくるそうです」
答えたのは原村
その原村の席に起家マーカー
マーカーは東場を印しておりその上に百点棒が置かれていた
『東一の一本場か…』
そのまま点数状況を見る
どうやら片岡が原村に親跳を振込んだらしい
『優希ちゃんも、もう少し守る事を覚えれば強いんだがな…』
須賀の後ろに立ち打ち筋を後ろから見る
『…そこは三枚出てる南じゃなくて
先に二枚見えてる發…
見逃したか?』
口にはださない
立直に備えて安牌を残しながら打つ姿勢は良いのだがまだ場をしっかり見れていない傾向が見られる
こればかりは数を積むしかない
一本場も原村が2700オールを和了り更に周囲を突き放す
続く二本場13巡目
「カン」
宮永の①の暗カン
「ツモ 4200・8200」
「相変わらず太いな咲ちゃん」
宮永が入部してすでに一週間がたった
宮永の剛腕には裏山も驚かされている
麻雀の技術(スキル)はお世辞にも高いとは言えないが
それを補って余りある最高級の潜在能力と直感(シックスセンス)
総合能力で言えば原村より上、竹井と良い勝負だろう
しかし唯一の懸念材料を上げるとすれば…
「ラストー」
須賀の一声
半荘が終わったらしい
順位は宮永、原村、須賀、片岡の順
卓にうなだれる片岡
「後のことは頼みます
京太郎には一日4回エサをあげてください
私はもうダメだ」
そんな片岡の台詞
「俺はペットかよ…
しっかし、和と咲はつえーなぁ」
「勝てないからつまんないじょー」
片岡は頬を膨らませている
片岡の手に優しく手を重ねた原村が
「次は勝ちましょう」
と優しく声をかける
「和ちゃん…
そういう事は言うべきじゃない」
しかし、気に入らないと言わんばかりに裏山が口を挟む
突然の悪く言えば空気の読めていない言の葉に皆がお茶を入れ直している男を見た
裏山は一口ティーカップに口をつけると満足そうな顔を一瞬浮かべるが
すぐに真顔で四人に向き直る
「和ちゃん、『優しさ』ってのは確かに大事だ
だがそれは『甘さ』とは違うんだぜ?
今の優希ちゃんの言葉に向けた和ちゃんの言葉は
『優しさ』でも『友愛』でも『励まし』でもない
『甘さ』だ」
目を閉じ再びティーカップの中身を啜り離す
悠然と紡ぐ
「優希ちゃん
『勝てないからつまらない』じゃないんだ
ならば努力しろ
厳しい事を言うが
優希ちゃんと京太郎は今、部内でドンケツ争いをしてるんだぜ?
その自覚を持った方がいい…」
そうなのだ
実は片岡と須賀は現在
部内での総合成績で言えば似たり寄ったりになりつつある
純粋な実力だけなら片岡の方が圧倒的とまでは行かないが、それに近いほど上だろう
しかし他の部員はその更に上を行っていた
純粋な実力関係だけを図で現せば以下の通り
裏山≧宮永>竹井>>原村=染谷>>>片岡>須賀
片岡もトップを取っている
しかし、その割合は8.1%
更に、ラス(4位)率は41.4%だった
原因は、後半に行くに連れて衰えていく勢いだけでなく
余りに攻撃に重視したスタイルであるが故の放銃率22%という守りの薄さと
得意の東場でも鳴きによって失速してしまう傾向にあった
既に他の部員にそれを見切られている―(宮永は気付いていないが実力差が大きいので問題無い)
―為に狙われる風景が良く見られる
一方、須賀は全くトップが無いといっても良い
脅威のトップ率0.93%と言う記録ホルダーだが
放銃率は低く12%
ラス率はなかなかに低く21%
これは片岡とは対極的に守りの基礎が出来ており
原村や裏山のような綺麗さは無いものの
不器用ながらもキッチリとオリることが出来ている事に起因している
勝てないのは攻撃力が無い故なのだが
まだ攻撃については全然教えていないので仕方ないと言っては仕方ない
そういった要因が重なって現在の部内での成績ワースト争いが熾烈を極めていた
―グッと片岡が押し黙る
原村が片岡を庇う様に体を割って入れる
「裏山君言い過ぎです!」
明らかに敵意のある目つきだ
「そうは思わんね、事実だ
和ちゃん…
甘やかしてもラス率四割という事実は揺るがないんだよ?
数字は絶対じゃないが正直だ
君は嫌と言うほどその事実を理解してるはずだ」
そこまで言うと、裏山は席を立ち、押し黙る原村の横を過ぎ、片岡の下まで歩み寄る
「…俺は『優しさ』という名の毒に『甘え』、出来る努力をしなかった奴らの末路を飽きるほど見てきた
諸君にはそのような事になって欲しくないのだよ…」
涙を堪えながらしかし裏山を見つめる事が出来ず目をそらす片岡
「甘え、成長を止めるか
苦しみながら夢を追うか
優希ちゃん…
君はどうしたい?」
先程までの凛とした口調とは打って変わった優しいそれ
言われると一瞬の迷いも無く片岡は目に溜まっていたモノを腕で拭い取り、真っ直ぐ力強く裏山を見据え、はっきりと
「―やるじぇ!」
宣誓する
それに満足そうな表情を浮かべた裏山は優しく手を片岡の頭に乗せ、しかし、乱暴にワシャワシャと頭を撫でる
「よーし、良く言った!」
「止めるじょーっ!」
兄妹のやり取りの様な風景
周囲は、さっきまで怒りを現にしていた原村さえも、それを微笑ましく見守る
「よし!次行ってみようか次!」
しかし、瞬時に切り替える裏山
「切り替えはえーよ!」
「いや、時間勿体ないし…」
「せっかく良い話みたいに纏まって、その余韻に浸ろうって時に!」
「そうは言うがな京太郎
お前がドンケツ争いのもう一人なんだぞ?
まさかと思うが、まだルーキー気分でいる訳ではあるまいな?」
「え!?」
「…全国行くんだろ?」
もともと、須賀には全国に行く目的や理由に
コレと言える大層なビジョンはない
しかし、それは性(さが)
種族人種国籍年齢職業性格
それらは一切関係なく
雄に生まれながらにして与えられた感情、本能
『自分が頂点(最強)だ』
生まれながらにしてこの感情を持つものこそ
男(これ)であり漢(これ)であり雄(これ)である
当然、須賀もこれに漏れない
表面上いくら謙虚な事を言っていても、内心ではこれを持っている
裏山はそのことを重々承知していた
決して口には出さないが須賀には、裏山はかなり期待していたりする
言うなれば須賀は裏山にとって初めての弟子と言える存在だ
成長も著しい、それこそ、そのうち自身にとっての脅威、ライバルになるのではないかと思える程に……
例え才能が無くとも
努力とその時の運次第で
数多の天才達を跳ね退け
全国優勝をする事は十二分に可能だ
断言しよう
何せその実例が
此処にいるのだから……
「――ほらっ!
さっさと卓に着いて打つ!」
2回目の東二局
それは起きた
三巡目
「リーチ!
調子が出てきたじぇー!」
片岡捨牌
一西8R
下家の宮永は小考の末ツモ切り
牌は⑤
「ローン!12000!」
「はい…」
『無筋の⑤をツモ切り…?』
明らかな暴牌
「なんでそんな牌切ってんだ?」
これには流石の須賀も疑問に思ったか宮永の手を倒す
宮永手牌
一九①19東南南西北白發中
国士無双 聴牌 ⑨待ち
場の全員が目を見開く
「あー…こりゃ突っ張るわな…」
「三巡目にコレって人間ですか」
などと口にする須賀に片岡
しかし、裏山は気づく
いや、険しい表情から察するに原村も気付いたようだ
片岡のリーチの直前、須賀が切った牌は⑨
宮永はこの地点で本来は当たっていた
つまり…
『わざと見逃したか…
なるほど…確かにそれは『空気を読んだ』打ち方だし『間違ってもいない』
だが……
『正解』でもないな!』
2回目結果
片岡 +26
原村 + 2
宮永 ±0
須賀 -28
「やたじぇ!トップ!」
無邪気に喜ぶ片岡
「咲は…
プラマイゼロか…」
しばらく黙っていた原村が重たい口を開く
「今日は帰ります」
それだけ言うとそそくさと帰る準備をしだした
「え」
「あ、私も一緒に―」
そういって宮永も一緒に出て行ってしまった
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか…」
裏山は目を閉じて誰にも聞こえない様に呟くと
『影から見守りたいところだが
俺が行っても何も出来ないし
―彼女らの確執は当人達に任せて――』
目を開き片腕を回しながら卓に着く
「よーし、それじゃあ三麻で俺が扱いてやろう!」
「えっ!?」
殺る気、もといやる気、十分と言わんばかりに指をポキポキと鳴らす裏山
あからさまに二人は嫌そうな、恐ろしそうな顔をした
『――俺は俺で出来る事をするか!』
投下終了です
最近『初音ミク ProjectDIVA-f』にはまって
ただでさえ遅い更新がさらに滞っていますが
一応、今年中を目処に原作一巻地点(合宿)まで終わらせたいと思っています
近い内に投下できると思いますのでそれまで失礼致します
翌日
裏山、須賀は登校時の校舎入口で見慣れない光景を見た
宮永と原村が仲良さそうに話しながら登校していたのだ
須賀は突然の事に固まり
裏山も予期していたことではあったが、まさか昨日の今日で、とは思ってはおらず同様に固まっていた
「…竜太郎……」
口だけが動いていた
「…なんだ?」
裏山も同様
「これ予想してたか?」
「いや、してなかったと言えば嘘になるが
流石に此処まで…
昨日の今日とは…」
「相変わらず、お前はスゴイヤツだな…」
やがて、彼女達は昇降口まで辿り着くと行き先が違うのか
「じゃあ、お昼一緒に食べようねー」
手を振る宮永
原村は、それに答える様に片手を上げて応じると
校舎に消えていった
「咲……」
「京ちゃん」
誰も気づかない内に須賀は、宮永の隣に立っていた
「おまえ…
和と仲良くなったのか…?」
「うんっ」
「お…オレも
お昼ご一緒してよろしいですか?」
「なんで敬語?」
裏山は一人、溜息を吐き、頭を抱えた
昼休み
「おっそーい!
もう、はらぺこだじょっ」
学校の敷地の開けた空間
そこは得に何があるというわけでも無く
日当たりと風通しの良い場所だ
田舎という事で土地が安いのか清澄高校には、このような敷地が数多く存在し、そのおかげで体育会系の部活も不自由無く活発だ
そんな一画に片岡がレジャーシートを敷いて陣取っていた
「なんだタコス娘もいるのかよ」
「なんだとはなんだ」
そこそこな時間を待っていたのだろう
片岡は足を伸ばして今にも横になりそうなほどリラックスしていた
各自シートに座り
各々が弁当を広げる
原村、須賀は弁当
片岡は学生食堂で買ってきたのだろうタコス
宮永は学生食堂のおにぎり
裏山は学校に来る前にコンビニで買った菓子パンと野菜スティック
「竜太郎はいつもどおりとしても
咲は学食のおにぎりだけか?
めずらしいな」
「作るの忘れちゃって…」
正確には原村とのいざこざが無くなり今日からの部活、学校生活が楽しみで
浮かれていたら作る時間が無くなっていたのだが
それは口にしない
すかさず原村が自分の弁当を差し出す
「よろしければいかがですか
多めに作ってきました」
「ありがとう」
宮永は礼を言うと原村から箸を借りて弁当の中身をつまみ口にする
「おいしい原村さんは料理上手だね!」
宮永の褒め言葉に顔を赤らめると少し視線を落として口を開く
「く…空腹で負けられても困りますから…」
取って付けた様な言い訳である
裏山は内心『ツンデレ乙』と切り捨てる
確かに照れた表情が可愛かった事は事実ではあるが…
「のどちゃんは私の嫁だからな!」
片岡が突拍子も無い事を言い出す
「よ、嫁?」
須賀は何を妄想し出したか、鼻の下が伸び出す
それを面白くなさそうに見る宮永
裏山はそれを微笑ましく見ながらビニール袋から野菜スティックのケースを取り出し輪の中心に置く
「空腹を満たすのは良いことだが栄養バランス…得に野菜は大事だぞ?
これを君達にやろう」
「えっいいの?」
宮永が尋ねる
「ああ」
答えながら皆にビニール袋の中身を見せる
それと同じものがあと二つあった
「どんだけ野菜好きなんだじぇ…」
「野菜さん馬鹿にすんなよ?
しっかり野菜をとってボディケアしないと…」
そういって須賀の頭を無理矢理掴み左を向かせ
彼女達の前に突き出し一点を指差す
「…こうなる!」
彼女達は指差指された場所に目をやるとそこは小さく赤いデキモノが出来ていた
ニキビだ
「うわっ!京ちゃんニキビ出来てる!」
「うっそ!?」
須賀は宮永に差し出された手鏡を奪う様にとり確認する
「うわーっ
またかよ!
最近増えたんだよな……」
須賀は患部を指でツンツン突っつく
「不規則な生活してるからだ」
「仕方ないだろ?
最近は染谷先輩の家で朝まで打つ事が増えたんだから
てか、いつも竜太郎もいるのになんでお前は大丈夫なんだよ!?」
「しっかりケアしてるからな」
野菜をボリボリとかじりながら懐を漁るとチューブを一つ取り出し須賀に手渡す
「ほれ」
手渡されたのはニキビ治療の塗り薬
「くれてやるから
それ使え
ちゃんと未開封だぞ?」
「サンキュッ
てか、いつもこんなの持ち歩いてるのかよ?」
「ああ
泉の奴…
元カノが、こういうのにうるさかったんだよ……
………!!」
言い切ってからハッと気づく
別に口にするつもりなど毛頭無かった
それは極々自然に出た言葉だった
しかし、一度唇から外に出た言葉を引っ込める事は出来ない
「えっ!?
リュータロー…キサマ彼女いるのか……?」
聞き流してくれるという
都合の良いわずかな期待は打ち砕かれた
他の三人も興味の目を光らせている
それもそうだ
そのような恋愛沙汰には興味の尽きない年頃だ
裏山は溜息を吐き観念し、重く感じる口を割る
「……元って言っただろ?
…いまはフリーだよ……」
言質が取れたら後はお祭り状態
やんややんやと質問攻めが繰り出される
後の祭という言葉を体で感じながら
それらの質問に
「ああ」とか「どうだろうな」とか言うような曖昧な言葉で返す
「なんだ!リュータロー全然核心について答えてくれないじゃないか!」
「そうだよ竜太郎君!
どんな子だったかとか…そう!写真!写真無いの!?」
「俺に彼女の作り方のレクチャーを!」
片岡や須賀はともかくとして
宮永までも、ここまで食いつくとは予想外だった
冷静を装いつつも原村も好奇とも、期待とも見える何かキラキラした視線が裏山を刺す
「出来ればこれ以上触れないで貰いたいんだがな…」
苦悶を浮かべながら
裏山は苦笑とも自嘲とも思える顔をする
それを見た各位は此処からはデリケートゾーンと判断追求をやめた
放課後
麻雀部部室
「はい、ちゅーもーく
タコス食ってる子も
ケバブ食ってる子も
寝てる子も集まれー」
竹井がホワイトボードの前集合をかける
「む」
口いっぱいにタコスを頬張る片岡
「ん」
リスの様にケバブで口を膨らませる裏山
「ふわ…」
可愛らしく、しかし何処か気品すら感じるベッドを出る原村の欠伸
一年生、五人は竹井の前で横に一列に並ぶ
「なにその…
エトペン?」
原村が抱えるそれは須賀と裏山には見慣れた形をしたものだった
「マイ枕です」
まだボケが抜けていないのか虚ろな眼差しのまま原村は答える
「わかっているとは思うけど
来月頭に県予選があります」
そこまで言うとレジュメの小冊子を配布していく
「これはルールと県強豪校の牌譜
PCにも入ってるから目を通しておくように」
「PC使うじえ」
即座にPCのソフトを立ち上げる
「全員で10万点もち」
「5人で交代?
なんだこれ」
「質問は後で聞くから各自確認しといて」
暫しの沈黙
それを破ったのはPCソフトを閲覧していた片岡だった
「ちょっ…」
その表情は恐怖、戸惑い、畏怖、疑念、それらが入り混じったものとなっていた
「…ワケわかんないんですケドこのひと…」
そのPC画面を確認すると頭を掻きながら竹井が相槌を打つ
「ああ…龍門渕高校の天江か」
「咲ちゃんより変だじょ」
牌譜をスクロールさせる度に片岡は目を白黒させていく
「6年連続県代表だった風越女子が
去年は決勝で龍門渕に惨敗したのよ
天江を筆頭とした
当時の新1年生5人に手も足も出なかった!!」
しかし、片岡は飽くまで前向きだ
「だが今年は
のどちゃん擁するウチの一年がそいつらを倒す!!
歴史はくりかえす!!」
「咲もいるしな」
宮永、原村も浮かれているようだ
裏山を除く一年は四人、何処か、良く言えば前向き、悪く言えば県予選を嘗めているようだった
竹井、裏山は、それを見逃していなかった
やはり、そのような反応になったか…
……予想通りだ……
「染谷先輩は今日は来ないんですか?」
須賀が尋ねる
「おぉ忘れてた」
あざとさを見せずに竹井が続ける
「まこの家は雀荘をやってるんだけどね
今日はバイトが病欠らしくて人手が足りないらしいのよ
というわけで」
視線を宮永、原村に向ける
「和と宮永さんで行ってきて?」
「!?
は?」
突然の展開に思考が追い付いていないようた
「部長は行かないんですか?」
須賀の問いにエッ?と冷や汗をかきながら必死に言い訳を並べる
「ほらっ、私18歳になってないから
学祭の準備もあるし…」
「私…15歳ですけど…」
「部員以外の打ち方を見るのも勉強よ?
県予選に向けての特訓ってコトで!!」
押し切る形で宮永と原村が部室を後にした部室
「部長…
ごまかすの下手過ぎです…」
先程の自分を省みて
そして、改めて裏山に指摘され
しばらく頭を抱える事になった竹井だった
「ロン、7700です」
清楚でありながら
可愛らしく纏められた白とピンクを基調としたメイド服
ミニスカートと膝上5cmまで延びる白のニーソックスが作り出す絶対領域は、なまめかしく有りながらも、メイド服特有の清楚さ、ピュアさを失っておらず
肘を超えて延びる純白の手袋も合わさり印象よりも遥かに皮膚の露出は、かなり抑えられている
まだ幼さの残る印象の宮永と、それはマッチしている
「ここでは8000じゃ」
染谷に頭を小突かれ訂正を受ける
「そうだった…」
そんなボケを見せつつも同じ服装の原村と共に同卓でワンツーフィニッシュを繰り返した
ノーレートのメイド雀荘
かつて一人の男に『秋葉原か!?』と連想されたそこは
本日も全卓回転とまでいかないまでも、かなりの客入りだった
何度目だっただろうか半荘が終わると同卓の二人の客が抜け
宮永が一息吐いた刹那
ゾクッと体中を走る電流にも似た感覚
そして、威圧感
宮永が威圧感のする方を振り向くとそこには一組の男女
とあるファンシーショップの店長と俳優を匂わせるホスト風の中年が来店したところだった
投下終了です
明けましておめでとうございます
そして、祝?スレ一周年
去年このスレを立てたとき一年後にまだ時系列が一巻地点とは誰が想像したでしょうか
そして、謝罪を去年中に一巻終了させると書いておきながら
このていたらく
大変申し訳ございません
ちっ、ちゃうねん!
書き溜めが全て一回全て滅びたんですよ
せっかく合宿宣言まで書いたのに…
と言う言い訳でした
それでは今年も応援よろしくお願いいたします
m(__)m
はぁ
あいつら…大丈夫かな」
男は夕暮れの空を見上げ一人黄昏る
「和のコスプレ見たかったなァ…」
「最後のがなければ友人思いのいい奴だったのにな」
竹井と共にカッコいいツモ和了りの仕方を考案していた裏山は顔を向けることなく評価する
「そんなコトもあろうかと??」
声に導かれて振り返る須賀
「服を借りてきてあるじぇ??」
メイド服を着た片岡
何か違う
それが須賀の感想だった
「なんのためだ?」
問われた片岡は己が服を見せつけるようにクルリと一回転すると
「最下位の罰ゲームで貴様に着せるためさ」
「誰が得するんだ?それ?」
パタパタと手牌を親指の腹で倒していく『蛍返し』を行いながら裏山は呟く
「…まぁ、心配無用だじぇ!
あの二人のことだから雀荘でも勝ちまくってるじょ」
「だな」
そんな二人の言葉を竹井は意味深にククッと笑う
「それじゃ特訓にならないでしょう
知り合いのプロがあの雀荘の常連でね
『二人をヘコませてね』
ってお願いしてあるの」
外もすっかり暗くなり時間も既に19時を過ぎていた
「あぁ??五連勝阻止された??」
「やっと一勝ですね」
連勝を阻止されたホスト風の男は頭を抱えた
女の方は何処か満足そうだ
「でも脇から直撃狙っちゃう??大人気ない」
「何度もサポートしてるように見せかけて手が短くなった所で直撃狙ったり、私の立直に自分は勝負しないくせに他に行かせるような人に言われたく有りませんよ」
彼らと同卓した二人の少女達は呆然としていた
1 2 3 4 5
咲:-34 -18 -24 -31 -22
和:-17 -27 -34 -24 -28
宮永、原村、両者は全く相手に成らなかった
いや、されなかった
終始この男女のトップ争い
二人は便利なATMよろしく点棒を取られ続けた
数時間前までの自信、過信は既に跡形もなくなっていた
茫然自失、現在の二人の状態を表すのに
これほど適した言葉はなかろう
「藤田さんと永安さんはプロなんじゃよ」
そんな二人を見兼ねたのか染谷が種明かしをする
「こっちのチャンネーは実業団時代「まくりの女王」って呼ばれてた人間だ」
男は親指で藤田を差して染谷の説明に補足する
「やめて下さい
トッププロにそんなコト言われてもレベルが違いすぎて笑われてるようにしか聞こえません
だいたいそんなコトいったら永安さんは
高校時代、あの『KINGS』の創設メンバーで、今では『日本麻雀界の参謀』じゃないですか」
「実業団時代は『嘲る刃』なんて通り名がついたコトもあったな…」
「ふぁ…なんだァ」
気が抜けた様子の宮永
「プロなんだ…
じゃあ仕方無いよね…」
仕方無い、そんな諦め、妥協、それに原村はピクリと反応する
「高校生の私がプロに負けるのは当たり前…だよね…」
「当たり前じゃないですよっ??」
バンドと卓を叩き立ち上がる原村、傍から見てもわかる
キレていた
「そうそう…」
その様子を見て思い出した様に口を開いたのは藤田だ
「去年プロアマの親善試合があってねぇ
半荘18回戦って、私は2位だった
けど…
優勝したのは当時15歳の高校生
龍門渕高校の天江衣??」
「何?靖子ちゃん負けたの?
ねぇ?アマチュアに負けたの?」
わざとらしさを隠そうともせず藤田を煽るように質問攻めをする
そんな永安に少し苛立ちながら、それを押しとどめようとキセルで一服し
「平均順位なら私の方が上でした
総合収支で4ポイント負けだっただけです」
プロを倒した高校生がいる
それだけでも二人を驚愕させるには十分だったが
さらに驚いたのは
「龍門渕って…
県予選に出てくる相手じゃないですか…」
原村の呟き
それを聞いた藤田は意地の悪い顔をする
そして、言う
「あら
あなた達も県予選に出るの?
残念ね
わかってると思うけど
絶対勝てないわあなた達」
これが決定打
その言葉に二人は打ちのめされのだ
「店長が??」
「あぁ、快諾してくれたよ
『可愛い娘を虐めるのは大好きよ』
とか言って
あの人異常性癖の持ち主だったんな」
須賀は自分の知らない所で行われていた計画に驚いていた
「いつの間に」
「無論
貴殿の気づかぬうちに」
「何キャラだよ」
「別に隠すつもりも無かったけどな
話す必要が無かったってだけだ」
卓についた須賀はお茶を口に含んで喉を潤し気持ちを落ち着かせる
「でも、あいつらだって相当だぞ??
いくらプロっていったてそんな一方的にはやられないだろ」
「須賀くん、それはプロを嘗めてるわ
『プロ』っていうのはそんな甘っちょろいもんじゃないわよ?」
「そもそもプロ相手に『善戦』出来るほどに実力があればこんな企画建ててねぇよ」
両名の言葉に須賀は衝撃を受ける
そして、自覚する
自分はまだまだ、この世界について知らないことだらけなのだと
「そういえば部長『件の話』どうなりました?」
「しっかり抑えたわよ
今週末??」
なんの話が全容が見えない片岡と須賀
察したのか竹井はホワイトボードへむかうとさらさらと、企みを描いていく
麻雀部超強化合宿
日時:週末
場所:校内合宿所
「今週末に合宿やるわよ??」
「なっ、なんだってーー??」
片岡、須賀の咆哮は夜の闇に消えて行く
闇は更に濃くなり数メートル置きに設置されている街頭では心もとない長野の夜
生徒は既に殆どが下校してしまった20時20分
部室のある清澄高校の旧校舎はこの時間にもなると何かが化けて出そうな貫禄をもっている
実際、夏休みになるとオカルト研究部主催の肝だし大会が催される
テーマは毎年変わらず『清澄高校旧校舎七不思議』であるがその七不思議の内容がその年によってコロコロ変わるというのはこの辺りの地域では有名で
仕掛けを作るオカ研のクオリティも高く何度かテレビで取り上げられたこともあるほどである
それを知ってか知らずか完全下校時刻を過ぎた校舎の正面玄関の戸を開き足を踏み入れる女子生徒が二人
一階の昇降口
かつては多くの生徒がここで外履きから上履きに履き替え、時にはラブコメのような展開もあったであろう玄関先
そこには下駄箱が当時のまま残っているが現在は使われておらず金具も所々錆びている
とて付けが悪い場所があるのか隙間風がカタカタと下駄箱の戸を鳴らす
それは一つでは無いらしく風の入り方で鳴るところ、鳴らないところがあり、ときどきによって変わる音の位置が彼女達の恐怖心を駆り立てる
下駄箱が過ぎると、正面には昇り階段、左右は長い廊下だ
廊下の照明はあるものの、これが中途半端な明るさでいいところ照明の真下が見える程度で、薄い明かりが一本の道を作っていた
しかし、その節々に存在するはずの教室の扉は見えない
光の道以外は、それこそ深淵に堕ち行く穴すも見える
日中誰かが使っていたのだろう
今は見えないが確かに存在する給水用の蛇口から水の滴る音が下駄箱の音と合わさり、偽りの人の気配を作り上げる
耐え切れなくなり、早足で目的地を目指し階段を上ろうとするが、それがまずかった
木造の校舎は階段も木造
しかも、この階段、掃除はされているものの手入れという手入れは数年に一度なのだろう
傷は勿論、今にも音を立てて折れそうな部分が所々にある
決して重くは無い、むしろ軽いといえる彼女達の体重でも早足による負荷の増加でミシミシと悲鳴をあげる
日中は平気な音も薄暗夜の中では恐怖の源にしかなり得ない
短髪の少女は遂にもう一人の少女の腕にしがみつくことになった
しかし、もう一人、長い髪の少女は予想外だったのか「ヒッ??」と短い悲鳴をあげる
それにしがみついた少女も釣られる形となる
「おっ、驚かせないでください…」
「ごっ、ごめんね…」
しかし、しがみつく腕はそのままだ
因みにこの時、彼女が粗相を漏らさなかったのは奇跡以外の何物でもない
恐怖心に対抗しながら階段を上る
文学を愛する短髪の少女はこの時ふと、とある話を思い出す
『魔の十三階段』
超メジャーな日本の怪談話の一つだ
なんでも、通常一辺の階段の数は10だが一カ所だけ12になっている場所があり、夜中になるとそこは13になり首吊り用のロープが現れ上った者の首を括る。という話である
思い出してしまい頭では否定しつつも本能的に数えてしまうのは人の性なのだろうか
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十
一階と二階の中間にたどり着く
この角を曲がる度に新たに現れる闇は(実際は明かりがあるが)なぜこうも恐ろしく感じるのだろうか
再び上る
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十
二階
目的地は三階の屋根裏部屋
つまり、ようやく半分だ
実際は校舎に入って五分にも満たない時間である、もしかしたら三分も経っていないかもしれない
しかし、彼女達には既に一時間にも、二時間にも感じられていた
ここで文学少女はもう一つ思い出す
階段の怪談のもう一つの種類
三階建ての校舎に夜中になると四階に続く階段が現れ、上ると黄泉に拐われるというものだ
何故こんな事を思い出してしまったのか
生まれて初めて、自分の趣味を恨んだ
正面は教室、かつては生徒が多くを学び将来を夢見たそこは、今は物置部屋となっていたはずだ
窓のガラスが光を反射し鏡のようにこちらを写す
暗闇に映る自分達、毎日鏡で見ているそれ
今この時だけは見るまいと急いで階段をのぼる
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十
もう少し、もう少しだ
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十
やった??階段が終わった…??
安堵した、まだ終わりではないが山を一つ終えたのだ
そこには確かに達成感があった
そして一歩を踏み出す
そこには闇の中でも希望が、輝きにがあった
例えるならそう
ずっと我慢していたトイレに入ったあの瞬間の様な
行為はまだだが、もう目の前というあの達成感にも似た感覚の
それとこれは酷似していた
………十一………
!?
希望が絶望に変わった瞬間だった
頭が真っ白になった
階段は終わっていなかったのだ
長髪の彼女は尚も上ろうとする
「これ以上、上ったらだめ??」
そう言いたいのに声が出ない
舌が、顎が、身体全てが硬直していた
自分の腕にしがみつく少女が動かないのに不審に思ったのか声を掛ける
「どうかしましたか?」
彼女は怪談なぞ信じていない
科学的に証明されないものなど
オカルトなんてありえない
しかし、怖いものは怖い
そう彼女も恐怖しているのだ
そんな中で自分の腕にしがみ付いている者が動かなくなったら何かあったのか不安になるではないか
返事は無い
しかし、腕に伝わる振動から彼女は読み取る
恐怖に耐えられなくなったか。と
彼女は微笑み少女の手の甲に自らの手を重ねる
「大丈夫、後少しです」
彼女の微笑みは言うなれば聖女や、聖母のそれにも感じられた
見方によっては天からの使いにも思える
天への使いのようにも…
しかし、少女の足はそれにつられて動くのだ階段を上ってしまうのだ
………十二…………
階段はそこで終わっていた
この一歩で、途方もない疲労感が少女を襲った
少女が苦手な持久走を終えた後のような感覚だった
彼女が顔を覗き込む、少女は笑顔でそれに答えた
三階既に目的地の部室が見える
完全下校時刻を過ぎているにも係わらず、扉の隙間から明かりが見えた
それこそが、その中に入った時初めて少女達は安心を、安らぎを得ることが出来るのだ
歩み出す
少女はふと彼女をみる
彼女の目は真っ直ぐ部室を見据えていた
ここで少女の心臓が止まる
視界の端に見えたのだ
見えてしまったのだ
遂に焦点がそれに定まったのだ
三階建ての建物の三階にもかかわらず
『さらに上に続く階段』を見た瞬間
甲高い悲鳴を上げずにはいられなかった
それが契機となり二人は同時に走り出す
あの光が漏れ出す扉へ
光溢れるあの場所へ
我先にと走り出す
自らの足音が背後から何かが迫り来る音にも感じられた
恐怖の中、二人はようやく扉に手をかけ開いた
勢い良く開かれた扉に三人は驚いた
そこから現れた宮永と原村は行き切れ切れで、膝に手を付き呼吸を整えている
「おおう!どうした??」
須賀が尋ねる
察するに先ほどの悲鳴も彼女達だろうが、心配よりも先に驚きが表れた
「部長…」
原村が口を開く
「ん…?」
心配そうな目で二人を見つめる竹井
原村から出た言葉、それは……
「…強化合宿やりましょう??」
今にも溢れんばかりの涙目でそう言ったのだ
投下終了です
ガラケーからスマホに変えて初の投稿でした
今回投稿した各所に??がありますが
これは!?の半角が何故かこのように表記されているものです
こういうこともあるのですね
各自脳内変換をお願いします
m(_ _)m
さて、なぜか後半に『咲ちゃんアンドのどっちのドキドキ☆肝試し』がありますが
なぜこんなもの書いたか自分でもわかりません
もう少し可愛く彼女達を書きたかった…
そのうちリベンジするか(決意)
それでは今回はこれにて失礼しますノシ
「はぁ」
当の須賀はなにを言われているか理解していないようである
「そりゃあそうだろ」
こたえたのは須賀の後ろで座っていた裏山
「こいつには、まだ守備しか教えて無いからな」
「なんだそりゃ
普通攻撃から教えるものだろ?」
「たしかに、ある程度のレベル迄なら素人でも攻撃特化なら殴り合いに持ち込んで、後は運勝負にも出来るんだが
一応は全国出場を目標にしてる以上
総合力が無いと万に一つもそれは無理だと判断した」
「だが守備型になっちまった以上攻撃の選択肢は狭いぞ?
麻雀は結局攻めなきゃ勝てないし、全国予選は総合成績上位が勝ち抜けるルールだからそれなりに火力も求められる」
「下手に攻撃型にしちまうと選択肢が多すぎるんだよ
素人のコイツにはそんなに幾つも攻撃パターン扱い切れないからちょうどいいんだよ」
「なるほどな」
「それに今日あんたがここに来てくれたのは幸運だった」
「ほほう…」
永安が興味を示す
「…というと?」
「今日俺はコイツに『あの打法』を仕込もうと思っていたんだ
ほら、あんたが高校時代に編み出した打法だよ
開発者ご本人が居るんだ
俺の代わりに教えてやってくれよ」
永安の顔が険しくなる
「…彼にそれだけの素質があるとでも?」
「少なくとも俺はそう思ってるがな
あとは実際に打ってみた、あんたの判断に任せるよ
無いと思うなら断ってくれ」
「はぁ」
当の須賀はなにを言われているか理解していないようである
「そりゃあそうだろ」
こたえたのは須賀の後ろで座っていた裏山
「こいつには、まだ守備しか教えて無いからな」
「なんだそりゃ
普通攻撃から教えるものだろ?」
「たしかに、ある程度のレベル迄なら素人でも攻撃特化なら殴り合いに持ち込んで、後は運勝負にも出来るんだが
一応は全国出場を目標にしてる以上
総合力が無いと万に一つもそれは無理だと判断した」
「だが守備型になっちまった以上攻撃の選択肢は狭いぞ?
麻雀は結局攻めなきゃ勝てないし、全国予選は総合成績上位が勝ち抜けるルールだからそれなりに火力も求められる」
「下手に攻撃型にしちまうと選択肢が多すぎるんだよ
素人のコイツにはそんなに幾つも攻撃パターン扱い切れないからちょうどいいんだよ」
「なるほどな」
「それに今日あんたがここに来てくれたのは幸運だった」
「ほほう…」
永安が興味を示す
「…というと?」
「今日俺はコイツに『あの打法』を仕込もうと思っていたんだ
ほら、あんたが高校時代に編み出した打法だよ
開発者ご本人が居るんだ
俺の代わりに教えてやってくれよ」
永安の顔が険しくなる
「…彼にそれだけの素質があるとでも?」
「少なくとも俺はそう思ってるがな
あとは実際に打ってみた、あんたの判断に任せるよ
無いと思うなら断ってくれ」
「はぁ」
当の須賀はなにを言われているか理解していないようである
「そりゃあそうだろ」
こたえたのは須賀の後ろで座っていた裏山
「こいつには、まだ守備しか教えて無いからな」
「なんだそりゃ
普通攻撃から教えるものだろ?」
「たしかに、ある程度のレベル迄なら素人でも攻撃特化なら殴り合いに持ち込んで、後は運勝負にも出来るんだが
一応は全国出場を目標にしてる以上
総合力が無いと万に一つもそれは無理だと判断した」
「だが守備型になっちまった以上攻撃の選択肢は狭いぞ?
麻雀は結局攻めなきゃ勝てないし、全国予選は総合成績上位が勝ち抜けるルールだからそれなりに火力も求められる」
「下手に攻撃型にしちまうと選択肢が多すぎるんだよ
素人のコイツにはそんなに幾つも攻撃パターン扱い切れないからちょうどいいんだよ」
「なるほどな」
「それに今日あんたがここに来てくれたのは幸運だった」
「ほほう…」
永安が興味を示す
「…というと?」
「今日俺はコイツに『あの打法』を仕込もうと思っていたんだ
ほら、あんたが高校時代に編み出した打法だよ
開発者ご本人が居るんだ
俺の代わりに教えてやってくれよ」
永安の顔が険しくなる
「…彼にそれだけの素質があるとでも?」
「少なくとも俺はそう思ってるがな
あとは実際に打ってみた、あんたの判断に任せるよ
無いと思うなら断ってくれ」
「はぁ」
当の須賀はなにを言われているか理解していないようである
「そりゃあそうだろ」
こたえたのは須賀の後ろで座っていた裏山
「こいつには、まだ守備しか教えて無いからな」
「なんだそりゃ
普通攻撃から教えるものだろ?」
「たしかに、ある程度のレベル迄なら素人でも攻撃特化なら殴り合いに持ち込んで、後は運勝負にも出来るんだが
一応は全国出場を目標にしてる以上
総合力が無いと万に一つもそれは無理だと判断した」
「だが守備型になっちまった以上攻撃の選択肢は狭いぞ?
麻雀は結局攻めなきゃ勝てないし、全国予選は総合成績上位が勝ち抜けるルールだからそれなりに火力も求められる」
「下手に攻撃型にしちまうと選択肢が多すぎるんだよ
素人のコイツにはそんなに幾つも攻撃パターン扱い切れないからちょうどいいんだよ」
「なるほどな」
「それに今日あんたがここに来てくれたのは幸運だった」
「ほほう…」
永安が興味を示す
「…というと?」
「今日俺はコイツに『あの打法』を仕込もうと思っていたんだ
ほら、あんたが高校時代に編み出した打法だよ
開発者ご本人が居るんだ
俺の代わりに教えてやってくれよ」
永安の顔が険しくなる
「…彼にそれだけの素質があるとでも?」
「少なくとも俺はそう思ってるがな
あとは実際に打ってみた、あんたの判断に任せるよ
無いと思うなら断ってくれ」
しばらくの間
永安の目は裏山を、裏山の目は永安を捉えている
その中で永安は思い出す
黒子のような打ち方
そのように須賀の打ち方を揶揄したが
言うなればそれは麻雀に参加していないということを指している
私はいないものとしてどうぞ貴方達で戦って下さい
しかし、そんな打ち方を一生懸命にこなす
そう、ゲームの中にいながら一生懸命、参加しない
そんな矛盾を感じる打ち方
それに苛立ち、何度も須賀から直撃を取ろう捨牌を読めないような細工をしたり、嵌め手を何回も仕込んだが
須賀はそれを全て避けた
普通の素人なら何度嵌ったかわからない罠を回避し続けた
たしかに、そんな彼は非凡な才の持ち主なのかもしれない
ならばそんな彼の成長を見てみようではないか
それに、何より、彼の息子の頼みだ。断る理由がない
「オーケー
引き受けよう!」
「頼んだ!
ということで京太郎
喜べ!トッププロからマンツーマン指導だ」
よろしくお願いしますと、須賀は頭を下げると早速、指導が始まった
永安がいたのは嬉しい誤算だ
これなら自分は今日のもう一つの目的のほうに集中できる
須賀、永安とは別の少し離れた卓に裏山、宮永、染谷は陣取る
染谷は既に回復していたが宮永は深刻で未だに消沈していた
いままで勝ちも負けもしない麻雀をうち続けて来た宮永にとって
勝つことを覚えて初の敗北、それも先のプロ二人を相手にした時を含めれば一日で二桁の敗北をきっしていた
「竜太郎君……」
そんな彼女は何を思うのか
重い口を開く
「どうすれば麻雀って強くなるのかな?」
深刻に、儚げに、そしていまにも泣き出しそうな顔で宮永は言った
彼女の言葉は本心なのだろう
本気でその答えを求めている
求めて、裏山に問いた
「…さぁな、それは俺が聞きたいよ」
宮永は予想外の言葉に裏山の顔を見る
彼の顔は哀愁が漂っており、そんな人の表情を宮永は文字の中、本の中以外で初めて見た
「それが分かったら俺だってここまで悩んでないさ」
意外だった
宮永も染谷も、そしてこの場にいれば須賀もそのように思っただろう
彼女達にとって裏山竜太郎という男は、麻雀においては最早、プロ、いや、正確にいえば学校の先生のように、質問すれば正しい答えを教えてくれるようなそんな存在であり
すこし、大げさな言い方をすれば、麻雀において分からない事などない
そのような認識であった
「多分あの人に聞いても同じ答えが返ってくると思うぜ?」
後ろ指で、須賀と向きあって、わかるか?とたずねる永安を指す
「どうやったら麻雀が強くなるかって、その答えをみつけるのが雀士にとっての永遠のテーゼなんじゃないか?」
さらにこの男はトッププロを捕まえてそのようにいうのだ
「だったら私…どうすればいいの?
このままじゃ全国に…お姉ちゃんに会えない…!」
悲痛なまでの魂の叫び
「そもそも麻雀テクってのはたった2、3日でどうにかなるもんじゃない
どうすれば思い通りの展開になるかを…」
しかし、今の彼にはそれをどうにかすることは出来ない
「トコトン考えて、トコトン打ち込むしかない
俺なんざ今でも夢の中でさえ麻雀打ってるんだ
寝ても覚めても考えることといえば麻雀のことだけだ
それでちょっとでもふとんから飛び出して牌を握るんだ
10個思いついたアイデアのうち一つ使えるのがあれば良い方
それでも懲りずに打ち続けるんだ
強さってのは、そういうもんだと俺は思ってる
教えられて打ち筋や、考え方は身に付いても
それだけは、教えられて身に付くもんじゃない、それらを自分でアレンジ、もしくは、一からつくるもんなんだ」
それでも彼はどうにか救いの手を、導きを与えようと努力する
「…都合の良いことに…」
自分が未熟と知りながら目の前の人間に構うだけの余裕が無いにも関わらず
「君の周囲にはレベルが高い人間が揃ってる…」
それを見捨てて自分のことに専念出来ない彼のそれは
「幾らでも利用してやれ」
優しさか、それとも甘さなのだろうか…
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