恵美「ホームレス拾って洗ったら魔王だった」(83)


※「はたらく魔王さま!」のSSです。
※2chの同名スレから発想を得てますが、こまけぇこたぁいいんだよ!
 の精神でお読み下さいお願いします。
※魔王さまは現代社会に打ちのめされました。
 はたらけない魔王さまがいたっていいじゃない。

そんな感じでよろしくおなしゃす!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372083251


エミリア「はぁあああ!!!魔王!覚悟!!」

魔王「ぐうぅ!!勇者めぇ!」

全身全霊を込めた一太刀に確かな手応えを感じる。
今や魔族軍は劣勢、人間の勝利は間近、誰もがそう思っていた。

だが。


魔王「人間共よ!今はこのエンテ・イスラをお前らに預けよう!」

魔王「だが忘れるな!力を蓄えた後、俺は必ず帰ってくる!!」

魔王「それまで、束の間の平和を精々楽しむ事だな!」

そう言って大魔元帥アルシエルと共に、背後のゲートの中へ消えて行く。
ここまで来て逃げられる訳にはいかない。

エミリア「く!そう簡単に逃げられてたまるものですか!!」

私は全力でゲートに向かう。父の敵、なんとしてでも果たす。
地の果てでも追い掛けてやる――――!!









恵美「――なんて意気込んだのは良いものの」


ふと、1年前の顛末を思い出し、私は一人言を呟いた。
宿敵魔王を追い、ゲートを抜けた先は聖法気も魔翌力もない平和な世界、日本。

もちろん魔翌力の気配なんて微塵にも感じない。
自身の聖法気も著しく弱体し、早々に魔王との決戦を諦めた事は今や笑いの種である。

最初は勿論大変なんてもんじゃない経験をしたけど、
今となっては私も何とか社会に順応して、この日本で暮らしている。
友達も出来て、何かと充実した日々を送っているのではあるけど
仕事に追われ、中々時間を上手く取れないのもまた事実。

はっきり言って魔王の捜索は、二の次になっていた。

何よりもオルバが間に合わなかった事が何よりも痛かった。
増幅器もなく、単身でゲート術で操れるのは大神官であるオルバのみ。
彼がいない時点で、言わば異世界難民になるのは当然の事だったのである。

恵美「まぁ、今更悔いても仕方ないわよね…。あら…。雨?」

先程から怪しい気配だったが、とうとう降り出した。
しかも雨足はすぐに強くなり、今日の天気予報の7割に掛けた自分の愚かさを呪う。
こんな日に限って折り畳み傘もない。

丁度信号の脇に大きな木があって、私はその下に駆け込んだ。
ハンカチを広げて頭を覆うが、葉の間からポタポタと水が垂れる。
どうやら気休めにしかならなそうだった。

どこかコンビニで傘を…。そう思って私は辺りを見回す。

恵美「……?」

恐らく閉店してしまったであろうテナントの軒下。
閉まったシャッターの真下、誰かが座り込んでいた。

体育座りで顔を覆っている。
着ている服も小汚く、靴はボロボロ…。行き場のないホームレスだろうか?
顔をよく確認出来ない…。が、その風貌は若かった。
よくガード下で、ダンボールで寝ているような中高年とは違うのは明らかだった。

恵美「…若いのに大変よねぇ」

いくら豊かに見えるこの日本でも、生活に苦しむ人はいる。
私もあの時、一歩でも間違えていれば今の生活はなかったのかもしれない。

そんな思いがふとよぎるが、いかんせん私は日本に慣れすぎていた。
迫る出社時間には逆らえず、信号が青になった瞬間
私は向かいのコンビニに、ビニール傘を求めて駆け出す。


雨は退社の時間になっても降り続いていた。
しかも風も強くなって来ている。
どうやら逸れる予定だった台風が、進路を変えて接近しているらしい。
夕方になってから見た天気予報ではそんな事を言っていた。

とりあえず、電車が止まってしまう前に帰らなければ。
駅に向かう人波の中、私も足早く歩を進める。

そして、昼間、急に雨が降り出したあの交差点に差し掛かった時だった。
信号は赤で、人波は倣って止まる。

恵美「……あの子、まだいるんだ」

閉店テナントの軒下。
昼間見た、そのままの姿勢、恰好で、座り込んでいた。

しかも風が強くなってきているせいで、雨が横殴り気味だ。
彼にとって軒下にいる意味はない。
今晩から明日にかけて台風だって言うのに、いつまでああしているつもりなのだろう。

恵美「………」

通り側の信号が点滅を始める。

恵美「………」

そして、信号が青に変わる。
それに倣い、また人波が動き出す。

恵美「………」




恵美「……!」

私は――

人波から翻す。


私も女の身でありながら、本当に最初は何もわからないで公園で夜を過ごしたりした。
言葉は何とかなったものの、文字の習得にとても苦労して仕事にありつけず、
みじめな思いもした。悔しくて泣いて過ごした晩もあった。

恵美「ねぇ」

気が付いたら、私は座り込む彼に近づき、話かけていた。

「……」

反応はない。
コホン、と咳払いし、少し大きめの声を出す。

恵美「これから、台風だって。こんなとこいたら本当に風邪引いちゃうわよ?」

男「っ……?」

自分に話しかけられている事に気付いたのか男はゆっくりと顔を上げた。

恵美「……!」

その顔は予想以上に若かった。
いくら若そうな風貌とは言え、私と同じ程度の年齢だとは予想外だったのだ。

男「……ほっといてくれよ」

今にも消え入りそうな声色で、彼はそう言った。いや、なんとかそう聞こえた。
そして、また顔を伏せる。

恵美「帰るとこ、ないの?」

男「………」

私の問いに、彼は伏せたまま首を少しだけ沈ませる。
どうやら拝呈と受け取っていいんだろう…。が

ザァァァァァ!!

この瞬間、雨は一段と強くなる。
最早テナントの軒下の意味などなく、雨が思い切り入り込む。

このまま彼を放っておいたら、本当にどうなってしまうのか…。
私は意を決して生唾を飲み込んだ。

恵美「……今晩だけでもウチに来なさい。その様子じゃご飯も食べてないんでしょ?」


※ちと早いが書き溜め終了。






男「!………」

私の言葉に男は顔をまた上げて、驚くような表情を見せる。

が、少しだけ私を見た後、また顔を伏せてしまう。

恵美「ああもうじれったい!」

男「…お、おい!?」

恐らく問答を続けていても拉致があかない。
私はソイツの腕を掴んで思い切り引っ張り上げる。

恵美「良いから来なさい!アンタだってこんなとこで死にたくないでしょう!?」

無理やり立たされた男は、バツが悪そうに顔を背けながらも
さしたる抵抗もせずにおとなしく着いてくる。
そして少し歩いた所で、こんな事を言った。

男「…わかったよ。今日だけ世話になるから、手、離してくれよ。
 お前だって、こんな汚い男の手繋ぐの嫌だろ」

恵美「……最初から素直になりなさい」

そう言われ、私はゆっくりと手を放す。
覚悟はしていたが、不快な臭いは感じなかった。

恐らく台風のせいだろう。


――

うん。それは本当に台風のせいだった。

手早くタクシーを拾って隣で俯くコイツをさっさと放り込み、永福町の自宅を告げて発車させてから
やはり隣人からの、何とも形容し難い臭いが漂って来るのだ。
饒舌なイメージのタクシーの運ちゃんが、何も語りかけて来なかったのは
無言の抗議であったと捉える。
まぁ濡れネズミの男に乗られた時点で、運ちゃんからしたら十分不快だろうが。

ホームレスの男を正直なめていた。

そんな訳で、途中でコンビニ寄って弁当でも先に食べさせてあげよう。
という私のほのかな親切心は見事に消え失せ、渋滞で遅れた末にようやく自宅に着くと
私はそのままの意味でソイツをバスルームに放り投げ、

「仕方ないからシャンプーとリンス、ボディーソープは私の使っていいから!
 その間、バスタブにお湯張ってお風呂に入っても構わない!
 と・に・か・く―――」


全身を隈なく洗う事を厳命した。


そして、その間に買い物を済ませてくるから、
私が帰ってくるまでバスルームから一歩も動くなと。

コンビニで下着類とタオルと弁当と飲み物…、そして帰り際にふと思い出し
男用の髭剃りとシェービングクリーム、ハブラシを追加で買い、満を持して自宅に戻ったのだった。


「ただいまー。戻ったわよぉ」

念のため、少し大きめに声を出す。
バスルームの方に向かって見ると、彼は律儀に私の言いつけを守っていた。

すり硝子の向こうには、お風呂に入ってるソイツの姿が見える。

恵美「とりあえず、下着とか買って来たから置いておくわね。
 バスタオルはその隣に畳んであるのを使って。
 そんで、上に掛けたあるスウェット着ていいから。 
 最後に、ハブラシと髭剃り買って来たから、ちゃんと歯ぁ磨いて
 そのヒゲを全部剃ってから私の前に姿を表す事!」

捲し立てるようにここまで言い切って

恵美「いいわね!?」

最後に念を押す。

男「…わかったよ。ありがとう」

ふむ、どうやらお礼ぐらいはちゃんと言えるらしい。


そしてようやく落ち着けた私は、リビングを軽く片付ける。
飲み物は冷蔵庫に。買って来たお弁当を電子レンジにセット。

まだアイツがバスルームにいる事を伺いつつ、私も手早く着替える。
あ、化粧も落としたい…。が、今は諦める。しょうがないから後ででいいだろう。

そんな感じで細々とした事をこなしつつ、
電子レンジのあたためボタンを押して、それがチンと音を鳴らす頃。

ソイツはとうとう私の前に姿を表した。



そして、その変貌振りに私は心底驚く事となる。



恵美「あ、あれ……?」

ん?んん?コイツはいったい誰なんだ?

男「……フロ、悪かったな。なんつーか、久しぶりにすっきりした」

あ、ああ。私が拾って来たホームレスだ。この証言は間違いない。うん。

恵美「い、いや、まぁ私もおせっかいだったろうし気にしないで」

なんというか、拾って来たホームレスはなかなかイケメンだった。
某掲示板でそんな話があったらしいが、本当だったらしい。何せ私が今経験している。
現在進行形で。驚天動地とはこの事ね。日本語とは奥が深い……!

じゃ、じゃなくて!

恵美「とりあえずお弁当で悪いけど、買って来たから食べて。
  てか、食べなさい。どうせ何も食べてなかったんでしょ?」

レンジからお弁当を取り出して、ローテーブルの上に置く。

恵美「ほら、そこ。座っていいから」

男「……本当に悪い。なら、頂くわ」

恵美「うん……」


彼は無言でどんどん食べ物を放り込んでいく。
緊張しているのも感じられるが、それ以上に空腹だったのだろう。

そんな時では、どんな食べ物でも美味に感じるんだろう。
特に日本のコンビニ弁当はよく出来ているし。
そういえば、私が日本で初めて食べたのもコンビニ弁当だった。
エンテ・イスラにはない味付けに感動したものだった。

すぐに知る事になったのだが、その味付けの正体は『醤油』
お陰で、今の私はお寿司が大の好物である。

男「うっ……!」

どうやらがっつき過ぎて喉に詰まらせたらしい。
なんというか、予想はしていたが

恵美「そこまで慌てる事はないでしょう。ほら、お茶」

男「す、すまない…」

手渡したお茶をグイっと飲み込み、ゴホゴホと咳き込む。
というか弁当の減りが早すぎる。もう1つ買ってくるべきだったか。

そういえばコイツの名前も知らないし、今さらだが自己紹介というのも良いだろう。
コイツの咳が収まるのを見計らって、私は口を開く。


恵美「ねえ」

男「ん?」

恵美「私、遊佐恵美って言うの。貴方は?」

男「……あ、な、名前か。う、うーん」

恵美「別に嫌なら名乗る必要はないけど……」

男「あ、いや。そんな事はないんだ。えっと…」

男「……まおう」

恵美「は?」

今、コイツはなんて言ったのだ?まおう?……魔王!?

真奥「俺は、真奥貞夫」

まおう、さだお…?
ああ、そうかそーゆー事か。あまりの名字に私は慌てる。

そんな私の表情を察したのか、真奥と名乗った男は不機嫌そうに

真奥「貞夫だなんて変な名前だと思ったろ?俺もわかってるんだよ」

恵美「い、いや、別にそんなつもりじゃないわよ?ただちょっと珍しい名前だからつい…、ね」

私にとって問題なのはなのは名字の方なのだが、彼に知る由もないだろう。





魔王、か。
間違いなく私の宿敵は日本にいるはずなんだけど

今頃奴は何をしているのだろう。


今日はここまで。
とりあえず、1巻終了までを目途にストーリーは考えてます。

あ、芦屋は生きてるよ。ご安心を

ではまた明日。

素朴な疑問だがなんでホームレス拾ったの?

>>19
一人称で割りと心情を真面目に描写している分、やっぱりそこは気になるな
ホームレスに同情→お金を渡してシャワーつきのネカフェなり、銭湯なり、ホテルに連れて行く→勇者、金なくてその日は飯抜き涙目就寝
みたいな展開かと思ったら、有無を言わせず自宅に連れ込んじゃったから驚いた

まぁ、いきなり自宅に連れ込んだ理由は後ほど語られるだろうけど

若いとは思ってたけどエミリアの想像以上に若かったから、保護欲でも掻き立てられたんじゃない?

エンテイスラではお金渡してポイーより家で保護してやろうって文化だったんじゃね?

>>27
エミリア視点で小学生か中学生に見えたなら分かるけど、同年代と認識したホームレスの男性相手にお持ち帰りしたいほどの保護欲が擡げるかは疑問だ

>>28
お金渡して「ホテルいってこい」じゃなく、タクシーでそう言う場所まで連れて行き身奇麗にさせつつ世話をするでもよくね?
自宅で保護するのが鉄則という文化って設定ならそれでいいか

魔王に対して感づかないまでも無意識の内になにか感じるものがあったので気づいたらそうしていた、くらいに思っとけば

>>31
文章中に『意を決して』ってあるから、無意識のうちに出た発言ともちょっと思えない
自宅にこいと言われたときに魔王がその理由を問う場面があればこんなにも気にならなかったんだけど

自分が日本に来たばかりの姿と重ね合わせたからほっとけなかった……って解釈して普通に読んでた

>>34
それは分かる。それが理由でホームレスに同情して、世話を焼いてやろうとしたのは理解している
でも、そこから自宅にこいが良く分からない。しかも、女性だし
大切な描写がごっそり抜け落ちてるような感じ

台風で臨時の客が増えてるだろうホテルが浮浪者受け入れてくれるとでも思ってんのか

>>37
タクシーでホテルまで行き断られたから、仕方なく自宅へ招くっていうのならまだ分かるし
エミリアが台風だからホテルは満室だなぁっと思案している描写があれば納得
それでも24時間の銭湯なり、ワンコインシャワー施設とかもあるから清潔にしてからホテルにとりあえずは向かわせたほうがいいと思うが
何故、ホームレスの男を自宅に泊まらせるという考えを真っ先に採用したのか知りたいだけだ

まあ普通の男に襲われたって、瞬殺できるくらいの力は残してるんだから身の危険の問題は無いしな。
それ言ったら本編だって、たかが1日無一文で帰れないからって、男二人(魔王と側近)の所帯に
泊まる描写のほうが不自然だろう。

つまりねちっこく粘着される筋合いはないってこった。

>>44
あれは家に帰れない状況になっただけじゃなくて、何者かに狙われているからっていうのもあったじゃん
ホームレスを自宅に招くよりは理にかなってるぞ


なんでこんな伸びてんだよwwwwwwww
乗っ取りを危惧しちまいましたよwwww

こんばんは>>1です

何はともあれ、自分の建てたスレが伸びるってのは嬉しい事です。
ご支援の数々感謝します。

書き溜め2レス分程度
後は筆が進む分だけ投下してきます。


「まおう」だなんてフレーズを聞いてしまえば否応なしにも思い出す戦いの日々。
その結果、今、私はこの日本で暮らすはめになったのだ。
冷静に考えてみると超展開そのものである。まさに現実はフィクションより奇なり。

今目の前にいる、ホームレスが私の部屋で弁当を平らげるその様も含めて。

そんな感じにもの思いに耽りつつ、
自分の分の弁当をゆっくり箸を進める内、ソイツは早くも平らげたようだった。

真奥「……ごちそうさま。久々にまともな飯食ったよ」

まるで最初から食材など無かったかのように綺麗なプラスチック容器。
ここまでだと逆に清々しくも思う。少なくとも今この瞬間は奢った甲斐があった。

恵美「足りないんじゃないの?もう一個買って来ようか?」

真奥「いや、なんか胃もちっちゃくなったみたいでなんかもう腹いっぱいだよ
 まぁ、食いたい気持ちは山々なんだけど、はは……」

そんな風に自嘲気味に乾いた笑いを寄越す。
当然なんだろうが、相当参っている様子が見てとれた。

だから、なんと言うか、
色々身の上話を聞いてみようだとか。そんな野暮ったい気持ちはなくなった。

恵美「そう。だったらもう寝ちゃいなさい。
  そこのソファー、使って良いから」

真奥「あ、ああ…。でも、本当に良いのか?」

恵美「私が言うのもなんだけど、ここまでしといて今さら放り出したら後味悪すぎるわよ。
 だから今日の所はもう変に遠慮しないで。ね?」

真奥「本当に悪い。明日になったらすぐ出てくから……」

恵美「………」

彼の言葉に、私は何も返す事が出来なかった。


自分の分のお弁当も食べ終えた私は、時折泊まる事もある友達用の毛布を出し
それをソファーの上に放る。

恵美「はい、これ使って寝て良いから」

真奥「すまん…」

恵美「あと、私は今からお風呂入ってくるけど、念のため言っとくわね」

恵美「…覗いたら[ピーーー]わよ?」

真奥「わ、わかってる。恩人にそんな事はしない!絶対に!」

わざとではあるが、睨みを効かして言った言葉に
彼は心底ビビったらしく、首をブンブンと横にふる。

まぁ万が一にも私の身に危険が及ぶなど考えてはいないけど。

投稿中で悪いけど「saga」でフェルター剥がれるよ
「sage」じゃなくて「saga」だからね

>>62
そうなのか。ガチで気付かなかった…。
Jane使ってるもんで、失礼しました。



――

恵美「ふう……」

お湯を温度を数度上げ、熱めのシャワーを浴びる。

今日は流石に疲れた。なんでこんな事をしてしまったのか

よくよく考えてみると、いくら若い男で、
一人でいる姿が昔の自分とダブって見えたからって
ここまでの事をしてしまったのは、きっと異常だったのかもしれない。

自分自身に問い詰めたい気分である。

私は勇者さまなんだから善人でいて当然なのよ!
なんて言葉は流石に言えないし…。

アイツは言った。
「明日になったら出て行くから」と。

「ここまでして追いだしたら後味悪いから」って言って、私は彼を泊める。
でも明日になって出て行かれたって、それはきっと同じ事。

「……ほんと、なんでこんな事しちゃったのかしら」

らしくない事をしてしまったと感じる。
いや、やっぱり私は勇者だから「らしい」のか?

もうなんだか目茶苦茶だった。

しかし、「ホームレスを拾った」だなんて職場の梨香に言ったらどうなるのか。
まぁどうなるかなんてはっきりと予想は出来ないが、
間違いなく面倒な事態になるのは目に見えている。梨香には黙っておこう…。

一通り体を洗って、ふと気付いてバスタブの蓋を捲ってみると
やはり、お湯は先ほどアイツが使ったままだった。

お湯は綺麗なように見えるが……



やっぱり止めておこう。



恵美「……やっぱり寝てるか」

お風呂から上がると、真奥貞夫はソファーの上で毛布を被り、静かに寝息を立てていた。

恵美「とりあえず、私も寝よう。明日も仕事だし」

思う所はいくらでもある。
考えなんて何もまとまっていない。

それでも私は明日に備えなければならないのだ。
現代人とはなんとたくましい事か。


――翌朝、

ジリリリリリリリ!!!

恵美「……ん」

今朝も憎たらしい程正常に可動する目覚し時計は、私を安息から遠ざける。
ゆっくり体を起こし、ソファーの方を見てみると。

真奥「……」

恵美「……寝てるし」

朝になったら出て行くのではなかったのだろうか。
まぁ、まともに寝る事さえ出来なかった日々が続いていたはずだ。

恵美「はぁ……」

そんな奴を叩き起こしてやれるほど、私は邪悪にはなれなかった。

恵美「とりあえず、朝ご飯ぐらいは食べるわよね……、ふわぁぁああ~~……」

大きな欠伸を一つして、私はのっそりと立ち上がった。。



―――



恵美「おおい。そろそろ起きなさいよ」

一通り、といっても簡単に朝ご飯の準備を終えた私はコイツに声を掛けて見る。

真奥「……」

へんじがない。ホームレスはくたばっている。
てか、顔は布団に被っていて見えないんだけど、まさか狸寝入りではなかろうか。

恵美「朝ご飯、作ったんだけどいらないの?」

真奥「……」

ホームレスがご飯という言葉に反応しなければ、それは本当に寝ているのだろう。
まずいまずい、今のは流石に偏見か。

一先ず作ったご飯はラップに包む事にする。



―――


恵美「ねぇ!私そろそろ仕事に行かなきゃいけないんだけど!!」

真奥「……」

恵美「いい加減に起きなさいっての!!」

これは流石に参った。昨日は早くの時間に寝ていたし
こんな時間になるまで起きないとは流石に予想外だった。

ああもう、こんな奴なんで私は連れて来たんだ!?

せめてまだ家にいる事を100歩譲って許すとしても
コイツが私の部屋で好き勝手しないように釘を刺しておかなければならない。

出社までのリミットは刻一刻と近づいている。

恵美「うーん、どうしようもないか」

私は強行手段に出る事に決めた。


恵美「い・い・か・げ・ん・に~~、起きろぉぉ!!!」


一際大きな声を出しながら、私は毛布は剥ぎ取る。…が。

真奥「……はぁ、はぁ……。うぅ……」

恵美「……え?」

毛布の下から出て来たコイツの様子は、明らかにおかしかった。
苦しそうに荒い呼吸をしていて、顔も赤い。

まさかとは思いつつ、額に手をあてる。

恵美「うわ、凄い熱……!」

軽く39℃は超えてそうな勢いだった。

うう、コイツはずっと野晒しで生きていたホームレス……。
よくよく考えたらこの事態は想像出来た事だった。

恵美「参ったなあ…、これは流石に放っておく訳にはいかないじゃない……」

おもむろに携帯電話を取り出す。
そして、電話帳を検索。

恵美「連続無欠勤記録が消えたわよ。まったくどうしてくれるの」

とりあえず、会社に連絡したら薬局に行って来なければいけない。

昨晩から今朝にかけて、もう何度後悔の感情を覚えたかわからないが
これからも更にそれは増えて行きそうな未来を感じ、私は頭を抱えるのだった。



そんな事よりさっさと病院連れて行けよ。
と自己レス。

スレの伸びに慌てて投下しちゃいましたが
一端切ります。

少しの間、書き溜めしますね。

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