勇者「正義のために戦おう」の続編です。
前スレ 勇者「正義の為に戦おう」 - SSまとめ速報
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簡単なあらすじ
正義のために戦う心の弱い勇者は自分が信じる正義を探すため旅をしていた。
その中で多くの敵に負け、やられ、罵倒されながら少しずつ成長していく。
そんな時魔王が人間を滅ぼそうとしているのを知り、それを止めようと魔王と戦うも敗北。
人間と魔物との全面戦争が始まる。
最初に狙われた和の町で防衛戦をするも肉体的にも精神的にも巨人にボコられ負ける。
一方で勇者の仲間の魔法使いには不穏な気配が近寄っていた。
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登場人物紹介
勇者 男
主人公。
正義の為に戦っているが芯がぶれやすく(というか芯がほとんど無い)また壊れやすい弱点がある。
剣の腕前は達人級だが魔力が上手く使いこなせていないので今一つ。
あと心の弱さが剣にも出ている。
童貞。
正義 刀
勇者の刀。
人間時の姿は銀髪の美少女。
勇者の最大の理解者。
読み方はせいぎ。
まさよしじゃない。
魔法使い 女
勇者の仲間。
魔法が使えない魔法使い。
今は呪いが使える。
ネガティブで自分に自信が無いタイプで傷つきやすい。
スタイルはいい。
鍛冶屋 男
勇者の仲間。
勇者の事はそこそこ尊敬している。
魔法使いの事をよく気にかけている。
巨乳好き。
魔法使いに勝ったらおっぱいを揉む約束をしている。
英雄 女
勇者と同じく人格を持つ剣の使い手。
火を操る。
自分の仲間の為に剣を振るい、その他がどうなろうと気にはしない。
魔王には半端者と呼ばれている。
読み方はえいゆう。
勝利 剣
英雄の剣。
人間時は美形の金髪。
性格は多分作中で一番まとも。
逃亡者 男
勇者と同じく人格を持つ剣の使い手。
性格は適当でマイペース。
一人の大切な人の為に全てを失う覚悟がある。
剣の腕前は化け物級で魔力の使い方もうまい。
ただ戦闘中に気を失うのが弱点。
白髪。
貧乳好き。
非童貞。
信義 剣
逃亡者の剣。
人間時の姿は褐色に金髪の美女。
露出の多い踊り子の様な服装をしている。
ただ外見とは裏腹に献身的で逃亡者の事を気遣ったりもしている。
スタイルはめちゃくちゃいい。
読み方はしんぎ。
武人 男
勇者と同じく人格を持つ剣の使い手。
強さを求め孤高に生きる事を望んでいる。
リーダーシップがある。
頭で想像した事を具現化できる。
戦闘は羽が生えたり怪狼になったり這い寄る混沌になったりとやりたい放題。
他にも見せてない技がたくさんある。
真理 剣
武人の剣。
人間の時の姿は短い黒髪の少年。
古風な話し方をする。
剣らしく強さを求めている。
姫 女
逃亡者の大事な人。
父親が殺されて以来おかしくなっている。
普通なら殺されてもよかったがとある理由で生かされていた。
今は逃亡者に助け出されて一緒に行動している。
非処女。
珍しくか弱い女性。
性格は謙虚でおしとやか。
あとおっぱいも謙虚。
不幸属性。
数少ないか弱い系ヒロイン。
魔王 女
ラスボ……ヒロイン。
ストレートロングの長い髪に切り揃えられた前髪のお嬢様系美少女。
能力は不明。
魔王らしく人間を殺そうとしている。
剣の腕前は怪物級。
一個大隊くらいなら一人で潰せる。
多分一番強いヒロイン。
老人 男
竜の山に住むおじいさん。
RPGで言う何処に行くのか教えてくれる占い師的なポジション。
呪い師で人生経験豊富。
次から本編です。
~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「……」
武人「目が覚めたか」
勇者「ここは?」
武人「和の町の一角だ」
勇者「……巨人は!?」
武人「撤退した。町はほぼ全壊。当分はとてもじゃないが武器は作れないだろうな」
勇者「すまない」
武人「別にいいさ。四人とも巨人に負けてるんだ」
逃亡者「武人は仕方ない。俺達が不甲斐無かったんだ」
武人「終わった事を悔いても仕方ない」
勇者「……すまない」
英雄「……悪かった」
逃亡者「みんな負けたんだし誰も悪くない」
武人「それよりももっと大事なことがある」
勇者「なんだ」
武人「個人の弱さだ」
逃亡者「ああ、嫌ってくらいに分かったね」
武人「少しでも全員修行をした方がいいと思うんだ」
勇者「……」
武人「勇者、あと英雄。お前達は竜の山の老人の所に行って来い」
勇者「……」
英雄「な、なんでだ!!」
武人「お前達は心的な問題が大きい。少しあそこの老人のありがたい話を聞いて来た方がいいと思う」
英雄「ふ、ふざけるな!!」
武人「俺はいたって真面目だぞ」
英雄「私は弱く無い!!」
武人「……俺も修行する。逃亡者も修行する。勇者も修行する。ならお前も修行するのが普通だろう」
英雄「何故竜の山なんだ!!」
武人「嫌か?」
英雄「ああ、嫌だ」
武人「何故」
英雄「……」
勇者「嫌なら別の場所でいいんじゃないのか?」
武人「理由が無い嫌なら困る」
英雄「……理由はある。だが言いたくない」
武人「ダダをこねても変わらんよ」
英雄「変えろ!!」
逃亡者「わがままだま」
英雄「うるさい」
武人「……じゃあこうしようか。今から勝負してお前が勝ったら考える」
英雄「……いいぞ」
武人「言っておくが剣の勝負じゃないぞ。危ないから」
英雄「じゃあ何でやるんだ」
武人「ゲームだ」
英雄「ゲーム?」
武人「ああ」
逃亡者「なら俺もやっていい?」
武人「当たり前だ。四人でやってお前がトップだったら変えるって事だ」
勇者「俺も頭数に入ってるのか」
武人「それくらいの息抜きはしておけ」]
勇者「わ、分かった」
武人「サポートは自分の剣にしてもらえばいいだろ」
逃亡者「楽しそう」
勇者「……」
逃亡者「で、何やるわけ?」
武人「人生ゲームだ」
英雄「子供のおもちゃじゃないか!!」
逃亡者「いいじゃん。楽しいし」
勇者「何と言うか……いいのか?」
武人「俺達が遊んでいる二時間で世界は滅ばないから大丈夫」
勇者「……まあ、お前の言うとおりだが」
武人「二時間ってのは意外と短いから」
勇者「……」
英雄「……」
逃亡者「楽しそうだ」
武人「楽しめればいいんだ」
勇者「もう一度聞くがいいんだな?」
武人「いいんだよ。細かいこと気にするな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「じゃあ始めるか」
正義「ねえ、どういう成り行き?」
勇者「俺にもよく分からん」
勝利「細かいこと気にしててもどうしようもないんじゃない?」
真理「くだらんな」
武人「そう堅苦しい事言うなよ」
信義「で、誰が最初?」
勇者「俺からだ」クルクル
正義「2ね」
大怪我する。マイナス20000ゴールド
勇者 マイナス10000ゴールド 職業無し 独身
勇者「……」
正義「あなたらしいって言えばあなたらしいかもしれないけど……」
逃亡者「次は俺だな」クルクル
信義「4よ」
お金を拾う プラス100ゴールド
逃亡者 10100ゴールド 職業無し 独身
信義「うーん。微妙ね」
逃亡者「勇者よりはマシなんだからいいだろ」
勇者「すまん、正義……」
正義「いや、だから別にいいんだけどね」
勇者「……俺が弱かったから」
正義「運だから、このゲーム」
勝利「次だよ」
英雄「……」クルクル
勝利「9か」
結婚する 結婚資金を払う マイナス5000ゴールド
英雄 5000ゴールド 職業無し 既婚
英雄「……」
勝利「うん、うん……うん……いいんじゃない?」
信義「フォロー下手くそ過ぎでしょ!!」
今日はここまでです。
正義「もう少しいいフォローは無いの?」
勝利「ごめん。限界……」
武人「次は俺か」クルクル
真理「7だ」
武器屋になる。
武人 10000ゴールド 武器屋 独身
逃亡者「安定した職業に付けたな」
勇者「そうか?」
英雄「少なくとも死にはしないな」
真理「だがどうなんだ? やはり剣士の方が――――」
逃亡者「ゲームくらい剣士以外の職業をやらしてくれよ」
真理「……」
正義「勇者よ」
勇者「ああ、知ってる」クルクル
正義「10ね」
悪党を倒す プラス5000ゴールド
勇者 マイナス5000ゴールド 職業無し 独身
逃亡者「勇者らしいな」
信義「ええ、悪党って辺りが物凄くらしいわね」
勇者「……」
正義「ごめんなさい。私もそう思う」
勇者「別に謝ってくれなくていい」
逃亡者「じゃあ回すよ」クルクル
結婚する マイナス5000ゴールド
逃亡者 5100ゴールド 職業無し 既婚
逃亡者「もう結婚か……」
武人・勝利・正義・信義・勇者(絶対姫様の事考えてる)
英雄「……」クルクル
逃亡者「無言で回すなよ」
英雄「うるさい」
子供が生まれる
英雄 所持金5000ゴールド 職業無し 既婚 子供あり
英雄「……」
勝利「え、英雄?」
英雄「皮肉だな」
勝利「え、あ、うん」
正義「……何この微妙な感じ」
信義「つっこんでいいの?」
逃亡者「多分ダメ」
武人「まわしていいか?」クルクル
逃亡者「どうぞ」
正義「聞きながらまわしちゃってるけどね」
初収入 3000ゴールド
武人 13000ゴールド 武器屋 独身
武人「を、初収入だ」
勇者「安定した仕事だな」
真理「そんな風に老いていいものか……」
武人「だからゲームだってば」
英雄「私には大事な戦いだ!!」
勝利「熱くならない」
逃亡者「ゲームなんだから楽しもうぜ」
英雄「……」
勇者「ただゲームでも負けるのは嫌なんだ」
正義「それは分からないでもないけどね」
武人「俺も負けたくは無いな」
逃亡者「俺だって」
勝利「結局みんな負けず嫌いじゃん」
信義「そんな事最初っから分かってたでしょ」
勝利「まあ、そうかも」
逃亡者「あ、勇者。まわしていいよ」
勇者「ああ」クルクル
剣士になる。
勇者 マイナス5000ゴールド 剣士 独身
真理「ほう、いいじゃないか」
勇者「ありがとう」
真理「例えゲームであっても剣士にならねばな」チラッ
武人「なんでこっち見るんだよ」
正義「でも結局マイナスなのよね」
勇者「四人の中で唯一な」
逃亡者「まだ序盤なんだし逆転の可能性は十分あるよ」
勇者「そ、そうだな」
信義「でもこの差ってそんな簡単に引っくり返せるの?」
逃亡者「俺と英雄は無職だから」
信義「あ、そうだったわね」
勝利「英雄は主婦みたいなもんじゃな――――」
正義「勝利?」
英雄「……誰が主婦だ?」
勝利「いや、その、あの……」
逃亡者「でも実際尽くしそうだよな」
武人「ああ、そんな感じだな」
英雄「そんな訳ないだろう!!」
信義「そこ二人。なんで火に油を注ぐ」
勇者「いや、本心からだろう。お前はいい奥さんにも母親にもなるぞ」
英雄「……」
正義「よ、予想外な所から予想外な台詞が……」
勝利「そ、そんな事言うキャラだったっけ?」
英雄「……ぜ、絶対違うからね!!」
武人「おい、大丈夫か」
信義「いろんな意味でね」
英雄「う、うるさいうるさい!! みんな嫌い!!」
逃亡者「これはこれでいいんじゃないかな?」
武人「賛成」
勇者「むしろこっちの方がかわいらしいかもしれんな」
正義「それ以上言うのはやめてあげたら?」
勝利「え、英雄。落ちついて」
英雄「うう……」ウルウル
逃亡者「なんか……ごめん」
武人「少しおちょくり過ぎた。反省してる」
勇者「別に本心なんだから――――」
正義「空気を読みなさい」
勇者「……」
信義「ゲームなんだから楽しみましょう」
勇者「そうだな」
逃亡者「じゃあ回すか」
漁師になる
逃亡者 5100ゴールド 漁師 既婚
今日はここまでです。
信義「なんで漁師?」
逃亡者「こっちが聞きたいよ」
武人「何とも言えない職種だな」
正義「漁師って実際はどうなの?」
勇者「魚がとれればいいがとれなければ最悪だ」
正義「ようは博打?」
勝利「実力も多少はあるんじゃないか?」
武人「ああ、長年の勘や技量も大切だ」
逃亡者「あとは英雄だけだよ」
英雄「分かってる」
武人「どうぞ」
英雄「ああ」クルクル
音楽家になる
英雄 所持金5000ゴールド 音楽家 既婚 子供あり
勇者「何とも言えんな」
正義「なんで口にしちゃうの?」
勇者「あ、すまん」
信義「遅いわよ」
英雄「……合う合わないは別にいい。音楽家はこのゲームの職としてはどうなんだ? 有利か?」
勝利「勝ちに行く事にしたんだね」
英雄「ああ」
武人「完全に運だと思うよ。実力もあるけど八割運だと考えていいと思う」
英雄「……」
逃亡者「運がよければ大差を付けて勝てるぞ」
英雄「そうだな。それくらいしなければ一位にはなれない」
真理「勝利にこだわる事はいい事だな」
正義「ゲームなんだから楽しみなさいよ」
真理「ゲームだからこそ本気で戦うのが面白いんじゃないか」
信義「そう言うタイプは相手をドン引きさせる可能性が高いって知ってた?」
逃亡者「辛辣だな。生理中か?」
信義「んな訳無いでしょう」
逃亡者「はは。すまんすまん」
勝利「今のはギャグでもダメだよ」
逃亡者「ああ、悪かった」
正義「で、次は?」
武人「俺だ」クルクル
こうしてゲームは続き
~~~~~~~~~~~~~~~~~
中盤
勇者 マイナス3000ゴールド 剣士 独身
英雄 7000ゴールド 音楽家 既婚 子供二人
逃亡者 30000ゴールド 商人 既婚 子供一人
武人 25000ゴールド 武器屋 独身
英雄「くそ、このままでは……」
勇者「……」
正義「結局プラスにはならないのね」
勇者「すまない」
正義「別にいいんだけどね」
逃亡者「なんだかんだでトップか」
武人「でもすぐに引っくり返せるぞ」
勇者「お、俺は……」
信義「九割の確率で不可能ね」
勇者「……」
正義「落ち込まないの」
勇者「……」
英雄「一攫千金を狙うしか無いな」
勝利「そう簡単に出来るとは思えないけどね」
英雄「そんな事は分かってる」
勇者「じゃあ回すぞ」クルクル
職を失う
勇者 マイナス3000ゴールド 無職 独身
正義「波乱万丈ね」
勇者「好きでやってる訳じゃない」
正義「知ってるわよ」
逃亡者「絶望的だな」
信義「ええ、片手で崖に掴まってるくらい絶望的ね」
勝利「別の言い方では絶体絶命って言うね」
勇者「……」
正義「とにかくマイナスを無くしましょう」
勇者「あ、ああ……」
英雄「次は私だ」クルクル
子供が生まれる。
英雄 7000ゴールド 音楽家 既婚 子供三人
逃亡者「子だくさん……」
英雄「……」
逃亡者「いや、別に茶化してはないよ」
英雄「わ、私だって……」ウルウル
逃亡者「分かってる分かってる」
勇者「いい家庭が――――」
正義「空気!!」
勇者「すまん」
信義「なんで空気が読めないの?」
正義「頭が固くて正論と真実しか言えないからよ」
信義「嘘がつけないって罪ね」
正義「そうね」
武人「逃亡者。早く回せ」
逃亡者「ああ」クルクル
怪我して職を失う マイナス5000ゴールド
逃亡者 25000ゴールド 無職 既婚
逃亡者「職を失うのは二回目だ」
信義「かわいそうにね」
逃亡者「ずいぶんと楽しそうな口調だな」
信義「そう? きっと気のせいよ」
逃亡者「……嫌な笑顔」
真理「武人。少し寝ていいか?」
武人「飽きてきた?」
真理「ああ」
勝利「正直だね」
真理「では、寝る」ゴロン
信義「いいの?」
武人「真理は剣以外の事にはあんまり興味を示さないから。こんかいはもった方だと思うよ」
今日はここまでです。
正義「いいの? それで」
武人「いいのいいの」
武人「じゃあ回すぞ」クルクル
本を買う マイナス1000ゴールド
武人 24000ゴールド 武器屋 独身
逃亡者「今の所俺がトップだね」
武人「たった1000ゴールドの差だろ?」
勇者「俺は……」
正義「数えない方がいいわよ」
英雄「負けられん。負けられんぞ」
勝利「少し肩の力抜きなよ」
英雄「……」
勝利「熱くなりすぎ」
英雄「ならどうしろと!!」
逃亡者「冷静にならなくちゃ勝てる試合も負けるって事」
勝利「そ、そう言う事」
英雄「……」
勇者「深呼吸するといいぞ」
武人「気分転換にお茶でも飲んだらどうだ?」
信義「なんだかんだで優しいのねあんた達」
正義「根はいい奴ばっかりだからじゃない?」
勇者「じゃあ回すぞ」クルクル
お金を拾う 自分の前の人から2000ゴールドもらう
勇者 マイナス1000ゴールド 無職 独身
武人 22000ゴールド 武器屋 独身
勇者「すまんな……」
武人「ゲームだから」
正義「ゲームで謝るのは怪我させた時くらいよ」
勇者「そうだな」
武人「まあたった2000ゴールドだしな」
勇者「差はいまだに広いな」
信義「大陸一つ分くらいあるわね」
勇者「……」
正義「うん。実際それくらい逆転は絶望的よ」
英雄「勝利。私はどうだ」
勝利「大陸半分くらいかな」
英雄「……」
英雄「負けるわけにはいかん」クルクル
こうして戦いは続き
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
終盤
勇者 マイナス6000ゴールド 無職 独身
英雄 27000ゴールド 音楽家 既婚 子供三人
逃亡者 32000ゴールド 戦士 既婚 子供一人
武人 30000ゴールド 武器屋 独身
勇者「結局プラスにはならなかったな」
正義「とりあえず逆転は無理なんだからゴールまでに資金をプラスにしましょう」
勇者「ああ、そうだな」
英雄「あと少しだ」
逃亡者「よくあそこから逆転したね」
英雄「なめるな」
逃亡者「いや、別になめたつもりは無いんだけどな……」
信義「うかうかしてると逆転されるわよ」
逃亡者「分かってる」
信義「勇者。あなたよ」
勇者「ああ……」
正義「回さないの?」
勇者「少し深呼吸してただけだ」クルクル
無職だった場合化け物に変化する
勇者 マイナス3000ゴールド 化け物 独身
勇者「化け物?」
正義「もはや職業じゃないわね」
逃亡者「いや、昔はモンスター職ってのがあったらしいから別に普通なんじゃないか?」
正義「何、そのモンスター職って」
逃亡者「そのモンスターの気持ちになるんだってさ」
正義「どうするとどうなるの?」
逃亡者「そのモンスターになれた連中もいたらしいよ」
正義「給料は?」
逃亡者「さあ、そこまでは書いてなかったからな」
正義「ほとんど無職みたいなもんでしょ」
武人「でもなんで無職のままだと化け物になるんだろうな」
逃亡者「あれだろ捨てるものが無くなったからだろ」
勇者「ああ……そう言う事か」
勝利「納得していいの?」
正義「本人がいいならいいんじゃない?」
勝利「まあ、そうだね。正義は?」
正義「納得してる訳ないでしょ」
勝利「だよね」
英雄「……回していいか?」
逃亡者「どうぞ」
英雄「……」クルクル
仕事が軌道に乗る プラス10000ゴールド
英雄 37000ゴールド 音楽家 既婚 子供三人
英雄「やっ――――!! 当たり前だ」
正義「よく我慢できたわね」
英雄「あ、当たり前だ」
逃亡者「まあ、時々素が出てたけどな」
英雄「……なんとでも言え。逆転だ」
武人「まだ終わってない」
英雄「残り数ターンだろう」
武人「まあ、でも最後までやってみないと」
逃亡者「行くぞ」クルクル
仕事が成功 プラス4000ゴールド
逃亡者 36000ゴールド 戦士 既婚 子供一人
逃亡者「ああ、残念」
信義「あと1000ゴールドね」
英雄「……」
逃亡者「今ホッとしただろ」
英雄「気のせいだ」
信義「顔がゆるんでるわよ」
英雄「……」
信義「何さりげなく自分の顔を触ってんのよ」
英雄「き、気のせいだ」
正義「もう動揺しちゃってるじゃない」
今日はここまでです
武人「じゃあ次は俺か」
英雄「……」
信義「顔怖い」
英雄「……」
信義「もはや無視?」
武人「回すぞ」クルクル
商品が無くなる マイナス5000ゴールド
武人 25000ゴールド 武器屋 独身
武人「しまったな」
英雄「……」グッ
正義「小さくガッツポーズしないの」
英雄「してない」
正義「見えてないと思ってるの?」
英雄「……」
勝利「もう言う事は無いよ」
英雄「……」
勇者「俺か」
英雄「ああ、さっさとしろ」
正義「完全に眼中にないって感じね」
勇者「仕方ないだろう」
正義「ええ、いまだにマイナスだからね」
勇者「とにかくマイナスを無くすぞ」
正義「ええ、そうね」
勇者「いくぞ」クルクル
お金を拾う 次の人から6000ゴールドもらう
勇者 0ゴールド 化け物 独身
英雄 31000ゴールド 音楽家 既婚 子供三人
勇者・武人・勝利・逃亡者・正義・信義「……」
英雄「貴様ァァァァ!!」
勇者「すまん……本当にすまん」
武人「もはやギャグの領域だな」
逃亡者「神様が舞い降りたんだろ。笑いのな」
武人「だろうな」
英雄「殺す!!殺ォォォす!!」
英雄は勇者の胸倉を掴み大きく揺さぶる。
勇者「悪かった。だからあんまり揺するな」
英雄「許せるか!!」
勝利「英雄。気持ちは痛いくらいに分かる、だから一旦落ちつこうよ」
英雄「落ちつけるか!!」
英雄は左手で勝利の胸倉を掴み大きく揺する。
勝利「ええー……」
勇者「悪い。俺のせいで」
勝利「いや、いいんだよ。これで英雄の気が済むなら」
逃亡者「大人だな。あの二人」
信義「大人って言うか。なんか違うんじゃない?」
正義「みんな馬鹿なのよ。私達を含めて」
信義「ああ、納得」
真理「……おはよう」
武人「ああ、おはよう」
真理「なんだか騒がしいが、何かあったのか?」
武人「ただの遊びだよ」
真理「そうか」
逃亡者「……」
信義「どうしたの?」
逃亡者「いや、別に」
信義「あんたの言いたい事は分かってるわ」
逃亡者「そうか」
信義「今を楽しみましょう?」
逃亡者「ああ、そうだな。その通りだ」
武人「じゃあ明日には竜の山に向かってくれ」
正義「ええ、分かったわ」
真理「我等はどうする」
武人「俺達も修行だ」
真理「了解した」
信義「私達は?」
逃亡者「俺達も修行だよ。各地をまわっていろいろ知ろうと思う」
信義「そう」
武人「やる事は決まった訳か」
正義「そのようね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次の日 馬車の中
英雄「……」
勇者「いつまで拗ねてるんだ」
英雄「うるさい」
勇者「今更何を言ってもあの老人の所へは行くんだ。もう腹を決めろ」
英雄「一体どこの誰のせいだと思ってるんだ」
勇者「それは悪かったが――――」
英雄「……もういい。疲れた」
勇者「……」
正義「ゆ、許してくれたの?」
勇者「わ、分からん」
勝利「許すも何も、ゲームなんだし怒る訳ないだろ?」
勇者「それはそうか……」
英雄「……」
正義「絶対違うでしょ。だってあんなに睨んでるんだもん」
勇者「そ、そうだな」
勝利「英雄も子供じゃないんだからゲームくらいで怒らないでよ」
英雄「怒ってない」
勝利「ならその仏頂面やめてよ」
英雄「……」
勇者「……すまん」
英雄「……」
勝利「ごめんね」
正義「いいのよ」
勇者「そろそろ着くな。準備をしたほうがいいぞ」
勝利「はい」
正義「分かったわ」
英雄「……」
勇者「英雄。大丈夫か?」
英雄「お前に心配される筋合いは無い」
今日はここまでです。
明日からは本格的に本編をやっていきます。
勇者「……」
英雄「……」
勇者「老人と何かあったのか?」
正義「あなたはなんでそうやって無自覚に地雷を踏み抜くのかしらね」
英雄「……言う気は無い」
勇者「……すまん」
英雄「ただ、お前はもう私の秘密を知っている訳だからな……」
勇者「……?」
英雄「いや、何でも無い」
正義「え、勇者何か知ってるの?」
勇者「え、い、いや……」
勝利「着くよ」
勇者「ああ、そうか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
老人の家
勇者「お久しぶりです」
老人「はい。久しぶりです」
勇者「今回は修行の為に来ました。よろしくお願いします」
老人「聞いてますよ。あとお仲間さんが来ていますから後で会って下さい」
勇者「え、あ、はい……」
老人「いろいろ大変そうですから」
勇者「……はい」
英雄「……」
老人「何年ぶりで――――」
英雄「初めまして、老人様。短い間ですがお世話になります」
老人「……」
英雄「よろしくお願いします」
老人「……はい。英雄さんでしたか? よろしくお願いします」
英雄「はい」
勇者「老人。あの双子は?」
老人「戦争が始まりましたから少しの間はここに来ません」
勇者「そうですか」
英雄「……」
老人「まあ、あの二人は今の元気ですし問題は無いでしょう」
勇者「……そうですか。ならいいんです」
老人「勇者さんはまず鍛冶屋さんに会って来た方がいいと思いますよ」
勇者「仲間って鍛冶屋ですか?」
老人「はい。早く行ってあげた方がいい」
勇者「じゃあ会ってきます」スタスタ
正義「……」
勇者「どうする?」
正義「……私は待ってるわ」
勇者「ああ。分かった」スタスタ
勇者「入るぞ」ガチャ
鍛冶屋「ああ、勇者」
勇者「何かあったのか?」
鍛冶屋「まあな……」
勇者「何があった」
鍛冶屋「魔法使いが消えた」
勇者「……」
鍛冶屋「それで魔法使いがいなくなったと同時に町の荒くれ者が一人いなくなったらしい」
勇者「……それで?」
鍛冶屋「さあ。関係無いかもしれないし、関係あるかもしれない」
勇者「……」
鍛冶屋「何にも分かんねえんだ」
勇者「……すまん」
鍛冶屋「別に謝らなくていいよ」
鍛冶屋「老人なら何か知ってるんじゃないかって思ったんだけど、何も分かんないってさ」
勇者「……」
鍛冶屋「何か分かんないか?」
勇者「……すまん」
鍛冶屋「……いや、悪い。魔法使いの近くにいたのに気付けなかったんだ……」
勇者「鍛冶屋……」
鍛冶屋「とりあえずお前が来るって聞いたからここで待ってたんだ」
勇者「そうか」
鍛冶屋「で、そっちはどうだった?」
勇者「和の国がやられた。重要な武器の拠点がやられたんで今頃各国の王が話し合って作戦を練っている所だろう」
鍛冶屋「……」
勇者「戦況としてはあまり良くないな」
鍛冶屋「分かってるよ」
勇者「魔法使いがいないか……」
鍛冶屋「……どうしよう」
勇者「……俺には分からん」
鍛冶屋「……」
勇者「魔王は関わっているのか?」
鍛冶屋「わ、分かんない」
鍛冶屋「その男と魔王が関わってたかも分かんないし、魔法使いがその男と関わってたかも知らないんだ」
勇者「……とりあえず少し調べてみない事にはどうしようもないな」
鍛冶屋「そうだな」
勇者「頼む」
鍛冶屋「分かった」
鍛冶屋「じゃあ俺ちょっと行ってくるよ」
勇者「何処に行くんだ?」
鍛冶屋「辺境の村で少し聞いてみる」
勇者「ああ、分かった」
鍛冶屋「……」スタスタ
勇者「……」
勇者「老人はどうお考えですか?」
老人「さあ、私にも詳しくは分かりませんよ」スタスタ
勇者「……この一件は鍛冶屋に任せようと思います」
老人「いい判断だと思います」
勇者「少し前に言っていた話覚えていますか?」
老人「はい」
勇者「今がその時なんだと思います」
老人「私もそう思います」
今日はここまでです
老人「勇者さん。少しいいですか?」
勇者「はい」
老人「あなたと英雄に少し行ってきてほしい所があるんです」
勇者「行ってきてほしい所?」
老人「はい。ここから少し奥に行くとリンゴの木があるのでリンゴをとってきてほしいんですよ」
勇者「……構いませんが」
老人「後、道中は絶対に剣を抜かないで下さい」
勇者「え?」
老人「木刀を渡しますから敵はそれで倒していって下さい」
勇者「あ、はい」
老人「ではお願いします」
勇者「は、はい……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
辺境の村
鍛冶屋「……」スタスタ
正義「大丈夫?」
鍛冶屋「……正義」
勝利「お久しぶり」
鍛冶屋「なんだよ二人して」
勝利「心配だったんだよ」
鍛冶屋「別に大丈夫だよ」
正義「……」
勝利「手伝おうか?」
鍛冶屋「いや、いい」
正義「……本当にいいの?」
鍛冶屋「ああ」
勝利「……」
正義「勝利、行きましょう」
勝利「ああ、何かあったら呼んでくれ」
鍛冶屋「分かった」
鍛冶屋「……」
鍛冶屋「……」スタスタ
魔法使い「鍛冶屋さん」
鍛冶屋「……魔法使い?」
そこにいたのは黒いローブを深くかぶった魔法使いだった。
魔法使い「お久しぶりです」
鍛冶屋「……何処行ってたんだ?」
魔法使い「町を転々としていました」
鍛冶屋「……そうか」
魔法使い「鍛冶屋さんがここにいるって聞いたから来たんです」
鍛冶屋「誰に」
魔法使い「魔王さんに」
鍛冶屋「……」
魔法使い「……」
鍛冶屋「なんで魔王と顔見知りなんだよ」
魔法使い「町で知り合ったんです」
鍛冶屋「ま、町って」
魔法使い「はい。山の町です」
鍛冶屋「……俺が気付かなかっただけなのか」
魔法使い「……」
鍛冶屋「聞いていいか?」
魔法使い「はい」
鍛冶屋「お前は魔王の味方なのか?」
魔法使い「仲間……ではないです。ただ情報交換をしているだけですから」
鍛冶屋「……じゃあ俺の情報と引き換えに何かを魔王にあげたって事か?」
魔法使い「そう言う事です」
鍛冶屋「……」
魔法使い「……」
鍛冶屋「何をしたんだ」
魔法使い「武具を提供しただけです」
鍛冶屋「本当にか?」
魔法使い「はい。いい武器を買って彼等にあげました」
鍛冶屋「……なんで――――」
魔法使い「なんで私が人を救わないといけないんですか」
鍛冶屋「……」
魔法使い「私を嫌っている人達をなんで命懸けで助けなきゃいけないんですか!!」
鍛冶屋「……」
魔法使い「答えて下さい」
鍛冶屋「……」
魔法使い「答えて下さい!!」
魔法使い「ありがとうとさようならを言いに来たんです」
鍛冶屋「待てよ」
魔法使い「……」
鍛冶屋「戻ってこいよ」
魔法使い「……私は人を殺しました。もう戻れません」
鍛冶屋「あの、男か」
魔法使い「あの荒くれです」
魔法使い「もう戻れないんです」
鍛冶屋「別に――――」
魔法使い「もう決めた事ですから」
鍛冶屋「お前は何がしたいんだよ」
魔法使い「分かりません」
鍛冶屋「分かりませんって何だよ」
魔法使い「でも勇者さん達といるよりも魔王さんといた方がいいと思うんです」
鍛冶屋「……」
魔法使い「じゃあ、もう会う事は無いです」スタスタ
鍛冶屋「……」
鍛冶屋「……クソ」
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「……」スタスタ
英雄「……」スタスタ
勇者「……」スタスタ
英雄「……」スタスタ
勇者「なあ」スタスタ
英雄「なんだ」スタスタ
勇者「……いや、何でも無い」スタスタ
英雄「……最後まで言え。中途半端に言うのが一番イラつく」
勇者「老人との間に何かあったのか?」
英雄「……もう予想が付いてるんじゃないのか?」
勇者「いや……」
英雄「……別に聞いても面白い話じゃない」
勇者「……じゃあ聞かないでおく」
英雄「そうしろ」スタスタ
勇者「……」スタスタ
英雄「少しいいか?」
勇者「あ、ああ」
英雄「私は魔法使いの気持ちが少しだけ分かるんだ」
勇者「……」
英雄「あいつは呪い師になったんだろう?」
勇者「なんでそれを」
英雄「老人から少しだけ聞いたんだ」
勇者「そうか」
英雄「なんで自分の事を嫌いな人間を命懸けで救わなきゃいけないんだ?」
勇者「……」
英雄「別にお前を責めている訳ではない。ただどう思うのか聞きたいんだ」
勇者「俺にも分からん。俺の正義だって分からないのに他人の事なんて分かる訳が無い」
英雄「私はそんな他人は助ける気は無いと思ったんだ。自分の仲間だけ助ければいいと」
勇者「……昔の俺なら怒ったかもしれんな」
英雄「ははっ。確かにな」
勇者「……ありがとう」
英雄「な、何がだ」
勇者「話してくれてありがとう」
英雄「べ、別にお前の為に言った訳ではない」
勇者「でも少しお前や魔法使いの気持ちを分かる事が出来たんだ。ありがとう」
英雄「……私の気持ちより魔法使いの気持ちを理解してやれ」
勇者「いや、お前も仲間だ。お前の気持ちもしっかりと理解する」
英雄「……」
英雄「か、勝手にしろ」
勇者「ああ」
英雄「……」
勇者「……」
英雄「そ、そろそろだ。行くぞ」スタスタ
勇者「え、ああ」スタスタ
英雄「……」///
勇者「?」スタスタ
英雄「お前、私の背中を見なかったのか?」
勇者「見たぞ」
英雄「……」
勇者「それがどうした」
英雄「お前、馬鹿なのか?」
勇者「いや、自覚は無いが……」
英雄「ふ、はははは!!」
勇者「!?」
英雄「お前なかなか面白いな」
勇者「そ、そうか」
英雄「ああ、嫌いじゃない」スタスタ
勇者「……」
英雄「……ここだ」
勇者「……ずいぶん大きいな」
英雄「そりゃあな」
それは五メートルほどある大きな木だった。
勇者「これがリンゴの木か?」
英雄「まさか。リンゴの木は向こうだ」
勇者「じゃあこの木は?」
英雄「これは墓だ」
勇者「墓?」
英雄「ああ。私も知らないが昔の人の墓らしい」
勇者「……名前とかは分からないのか?」
英雄「さあな。探せば何処かに彫ってあるんじゃないか?」
勇者「……」スタスタ
英雄「探すのか?」
勇者「ああ、少し気になる」
英雄「……」
勇者「先行っててくれ」
英雄「手伝ってやる」スタスタ
勇者「ありがとう」
英雄「礼はいい」
『伝説の戦士たる男 ここに眠る』
勇者「……」
英雄「あったのか?」
勇者「ああ」
英雄「伝説?」
勇者「なんで伝説なのにこんな所に?」
英雄「さあな」
勇者「伝説の戦士と言われているくらいならもっといい場所に埋葬されるはずなのに」
英雄「いい伝説かどうかは分からんぞ」
勇者「悪い伝説なら墓すら作られないだろう」
英雄「……そうだな」
勇者「なんなんだ……」
英雄「伝説の戦士か……」
勇者「……本当に伝説の戦士だとしてもなんでこんな所に……」
英雄「さあな」
勇者「……」
英雄「いいからリンゴを取るぞ」
勇者「あ、ああ」スタスタ
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
砂漠の城
逃亡者「久しぶり」
砂漠の女王「お久しぶりですね」
砂漠の女王「ご用はなんでしょうか」
逃亡者「分からない?」
砂漠の女王「だいたい予想はついています」
逃亡者「だよね」
逃亡者「姫様はどう?」
砂漠の女王「お元気ですよ」
逃亡者「そうか」
砂漠の女王「そちらはどうですか?」
逃亡者「いろいろな場所回ってるけど、まあ普通かな」
砂漠の女王「そうですか」
逃亡者「そっちはどう? 何か進展はあった?」
砂漠の女王「一応全ての国と協力体制になりました。一応はどの国も協力は惜しまないと言っています」
逃亡者「そりゃよかった」
砂漠の女王「はい」
格闘家「失礼します」ガチャ
格闘家「来てたのか」スタスタ
逃亡者「ああ、格闘家か」
砂漠の女王「何でしょうか」
格闘家「いや、谷の国の王からの手紙を届けに来たんだ」
砂漠の女王「ありがとうございます」
逃亡者「あいつはなんだって?」
格闘家「最大限の協力をするそうだ」
砂漠の女王「協力は惜しまない、ですか」
逃亡者「……変わったもんだな。あの屑が」
格闘家「……まあな」
逃亡者「……」
格闘家「姫に会えるか?」
砂漠の女王「いいですか?」
逃亡者「ああ、構わねえよ」
砂漠の女王「奥の部屋です」
格闘家「ありがとう」ガチャ
格闘家「じゃあチラッと見て来るよ」スタスタ
逃亡者「……」
砂漠の女王「多少はああやって人と会っておくのも大切ですからね」
逃亡者「そうかもな」
砂漠の女王「……武人はどうですか?」
逃亡者「ん、別に変わった様子は無いぞ」
砂漠の女王「そうですか」
逃亡者「何かあったか?」
砂漠の女王「いえ、ただまさか和の町が壊滅するとは想像していませんでしたから」
逃亡者「まあ、多少ショックを受けてただろうな。あいつは絶対見せないけど」
砂漠の女王「武人はそう言う事を隠しますから」
逃亡者「知ってるよ。で、あいつは剣の修行をしてるのか?」
砂漠の女王「はい。さらに剣技を研ぎ澄ますと言っていました」
逃亡者「一筋だね」
砂漠の女王「あなたもですよ」
逃亡者「間違い無い」
砂漠の女王「……」
逃亡者「……」
逃亡者「谷の王は何を何を考えてるか分からんから注意した方がいい」
砂漠の女王「そうですね」
逃亡者「……」
砂漠の女王「……」
砂漠の女王「魔王は人間の仲間もいると聞きます。注意して下さい」
逃亡者「分かってるよ」
逃亡者「じゃあそろそろ行くよ」
砂漠の女王「はい」
逃亡者「じゃあ」スタスタ
逃亡者「……」ガチャ
信義「姫様の所に行く?」
逃亡者「いや」
信義「……」
逃亡者「その前に谷の王を見に行く」
信義「……確かに怪しいわね」
逃亡者「あいつは強い奴に付くタイプだからな。魔王側についててもおかしくない」
信義「言えてる」
信義「一人で行く気?」
逃亡者「ああ」
信義「……」
逃亡者「何?」
信義「別に、さっさと行きましょう」
逃亡者「ああ」
格闘家「待てよ」
短いですが今日はここまでです。
逃亡者「……なんだ」
格闘家「俺も手伝うぞ」
逃亡者「別にいい」
格闘家「昔の仲間だろ」
逃亡者「ああ、前の王の時代のな」
格闘家「……お前はいい兵士だった」
逃亡者「昔の話はいいよ」
格闘家「どうせ何言ったって一人で行くんだろ?」
逃亡者「分かってるだろ?」
格闘家「ああ」
信義「逃亡者?」
格闘家「少しの間はここにいる。今度飲もうや」
逃亡者「そうだな」
~~~~~~~~~~~~~~
老人の家
勇者「……」
正義「……またたそがれてる」
勇者「別に好きでやってる訳じゃない」
正義「そんな事知ってるわよ」
勇者「……」
正義「何かあったの?」
勇者「まあな」
正義「それは英雄と? それとも他の何か?」
勇者「……」
正義「別にあなたが英雄と何をしようと別に何も言う気は無いわ」
勇者「……」
正義「何? 怒ってる?」
勇者「いや、考え事だ」
正義「結局何があったの?」
勇者「墓があった」
正義「墓?」
勇者「ああ。墓だ」
正義「誰の?」
勇者「伝説の戦士の墓らしい」
正義「伝説の戦士の墓がなんでそんな所に?」
勇者「さあな」
正義「で、あなたはそれが気になる訳ね」
勇者「ああ、そう言う事だ」
正義「……」
勇者「分かるか?」
正義「分からない」
勇者「……」
正義「あなたは……」
勇者「?」
正義「あなたはその人の事を知っているの?」
勇者「いや、知らない」
正義「有名じゃないのに伝説の戦士……」
勇者「不思議だな」
正義「でも」
勇者「ん?」
正義「いえ、何でも無い」
勇者「最後まで言ってくれ」
正義「ええ。わかった」
正義「その人がどんな事をしたとしても墓を立てた人にとってはその人は伝説の戦士だったんでしょ?」
勇者「ああ……」
正義「……」
勇者「……」
正義「何か思う事があった?」
勇者「多少な」
正義「……」
勇者「なんだ」
正義「あなたがどんな思想をもってどんな事をしても私はあなたの味方よ」
正義「だから信じられる答えを見つけなさい」
勇者「……言われなくてもそのつもりだ」
正義「ふふっ」
勇者「……」
正義「いや、予想通りの答え過ぎてね」
勇者「……」
正義「勘違いしないでね。別に悪い意味じゃないのよ」
勇者「分かってるさ。そこそこ長い付き合いだ」
正義「……まだ数カ月の付き合いだけどね」
勇者「俺には物凄く長く感じたがな」
正義「私もよ。何年分の出来事が詰まったみたいな数か月だった」
勇者「……」
正義「……」
正義「頑張りましょう。勇者」
勇者「そうだな。正義」
今日はここまでです。
申し訳ありませんが今日は休みます。
鍛冶屋「……」ガチャ
勇者「ああ、お帰り」
鍛冶屋「魔法使いがいた」
勇者「……そうか」
鍛冶屋「なんだよ」
勇者「一緒にいないと言う事は何かしらあったんだろう?」
鍛冶屋「こういう無駄な所で鋭いんだな、お前」
勇者「褒められたと思っておく事にする」
鍛冶屋「ああ、そうしとけ」
勇者「で、どうだったんだ?」
鍛冶屋「魔法使いは魔王と繋がってた」
勇者「……」
鍛冶屋「驚かないのか?」
勇者「驚いてる」
正義「驚き過ぎると声も出ないものよ」
勇者「身をもって実感したな」
鍛冶屋「ああ、俺もついさっき実感してきた」
勇者「魔法使いはお前に任せる」
鍛冶屋「……」
勇者「言っておいただろう」
鍛冶屋「ああ、分かったよ」
勇者「出来るか?」
鍛冶屋「やってやるよ」
正義「どうするの?」
鍛冶屋「分かんねえよ」
正義「……大丈夫?」
鍛冶屋「何とかする」
勇者「ああ」
鍛冶屋「少し稽古してくれ」
勇者「分かった」
正義「……脳筋ね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
鍛冶屋「おりゃァァァァ!!」
勇者「……」
鍛冶屋の木刀を勇者は簡単に回避する。
英雄「なんだ?」
正義「特訓よ」
英雄「……特訓?」
正義「魔法使いをもう一度仲間にするために頑張るんですって」
英雄「いたのか?」
正義「みたいよ」
英雄「そうか」
英雄「で、なんで特訓なんだ?」
正義「私に聞かないで、あの二人が始めたんだから」
英雄「まあ、そりゃそうか」
正義「ああやって戦ってると頭の中が整理できるのかもね」
英雄「どうなんだろうな」
正義「少なくとも私には分からないわ」
勝利「一つ聞きたいんだけど、あの鍛冶屋って子ボコボコだけど大丈夫?」
正義「いつもの事だから心配いらないわ」
勝利「……あれって特訓になってるのか?」
英雄「効率はお世辞にもいいとは言えないな」
正義「でしょうね」
勝利「でしょうねって……」
正義「後で稽古付けてあげたら?」
英雄「私に出来る事なんて無い」
勝利「簡単な事だけでも教えてあげればいいじゃん」
英雄「……」
勝利「嫌なの?」
英雄「構わない」
勝利「じゃあ教えてあげなよ」
英雄「……仕方ない」
正義「あ、終わったみたいね」
勝利「ボコボコだね」
正義「いつもの事よ」
勇者「少し休んでくる」
正義「ええ、分かったわ」
鍛冶屋「……」ハァハァ
英雄「振りが大振り過ぎるな。もう少しコンパクトに振れば当たる確率もあがる」
鍛冶屋「え?」
英雄「お前の攻撃は大振りなんだ」
鍛冶屋「そ、それを治せばいいのか?」
英雄「多少はマシになるだろうな」
鍛冶屋「あ、ありがとう」
英雄「……」
勝利「あと攻めの踏み込みがちょっと甘いね。もう半歩踏み込むと丁度いいかも」
鍛冶屋「そ、そうか」
英雄「頑張れ」
鍛冶屋「あ、ありがとう」
正義「うん、いいんじゃない?」
英雄「な、何がだ?」
勝利「……そう言う英雄もいいって事だよ」
正義「そう言う事」
英雄「……」
鍛冶屋「なあ、一試合頼んでもいいか?」
勝利「そんなボロボロでまだ戦うの?」
正義「少し休んだ方がいいわよ」
鍛冶屋「時間が無いんだ」
勝利「……」
正義「……」
英雄「先に言っておくが手加減は出来んし一試合だけだぞ」
鍛冶屋「ああ、分かってる」
今日はここまでです
~~~~~~~~~~~~~~~
魔法使い「……」
旅人「元気が無さそうですね」
魔法使い「……」
旅人「もしかして何かあったんですかね?」
魔法使い「どうせもう気付いているんでしょう?」
旅人「へへへっ。その辺は言わない事にしておきます」
魔法使い「……」
旅人「魔王様から伝言です」
魔法使い「なんですか」
旅人「そろそろ始まる。お前はどうする?」
魔法使い「……私は私で動きます」
旅人「へへっ。そうかですかい」
魔法使い「勘違いしないで下さい。私はあなた方の仲間ではありません」
旅人「ええ、そうでしたね」
魔法使い「……」
旅人「後もう一つ」
魔法使い「……伝言ですか?」
旅人「いいえ。これはあっしが個人的に話す内容です」
魔法使い「……」
旅人「聞きますかい?」
魔法使い「……はい」
旅人「魔王は総攻撃を開始します」
旅人「川の町はあっしの担当でしてね。あっしの仕事はあそこを制圧するんでさぁ」
魔法使い「……」
旅人「嬢さんの実家のある町です。どうしますか?」
魔法使い「……それはどういう意味ですか?」
旅人「いえ、別に深い意味はありませんよ。本当に」
魔法使い「……」
旅人「では、そろそろ行きますかね」
魔法使い「……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
老人「元気ですね」
勇者「おかげ様で」
老人「鍛冶屋さんも元気そうで」
勇者「はい」
老人「……で、どうでしたか?」
勇者「……あの墓ですか?」
老人「ええ」
勇者「あれは何なんですか?」
老人「それはあなたもご存じでしょう?」
勇者「……伝説の戦士の墓、ですか?」
老人「そう書いてあったでしょう?」
勇者「はい。書いてありました」
老人「それが全てです」
勇者「で、でも、ならなんであんな場所に墓を作ったんですか?」
老人「……」
勇者「……」
老人「それはご自分で考えて下さい」
勇者「……はい」
老人「何か分かるといいですね」ニッコリ
勇者「そうですね」
老人「……魔法使いさんの話は聞きました」
勇者「……」
老人「鍛冶屋さんに任せるんですよね?」
勇者「はい。そのつもりです」
老人「……」
勇者「鍛冶屋は魔法使いの一番の理解者ですから。彼に任せるべきでしょう」
老人「ええ、私もそう思います」
勇者「……少し前の話はこの事を言っていたんですか?」
老人「ええ、まさかここまでになるとは思っていませんでしたがね」
勇者「それはやはり……」
老人「呪い師の宿命、かもしれません」
勇者「……」
老人「特に魔法使いさんはそう言うのを気にするタイプでしたから」
勇者「そう、ですね」
老人「……」
勇者「……」
老人「なたは今の最優先をお忘れない様に」
勇者「……はい」
老人「答えは見つかりましたかね?」
勇者「見つかった様な、見つからなかったような……」
老人「……まあ、そんなものですよ」
勇者「いいんですか?」
老人「そんなにすぐに答えが見つかると思いますか?」
勇者「いえ」
老人「ですが見えかけているんですから後少しですよ」
勇者「そうでしょうか」
老人「コンパスがある旅と無い旅は全然違うでしょう?」
勇者「……」
老人「そう言う事です」
勇者「……」
老人「……もう一度魔王やあなたの他の仲間と対峙すれば何か見えてくるかもしれません」
勇者「……」
老人「ご武運を」
勇者「はい」
老人「明日には戻るんでしたね」
勇者「はい。ですが有意義な一週間でした」
老人「英雄は成長できたんですかね……」
勇者「彼女なりに何かを感じ取っていますよ」
老人「……だといいんですが」
勇者「……」
老人「……」
老人「では、また会いましょう」
勇者「ええ、また」
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
夜
カンカン
勇者「……」ガチャ
鍛冶屋「……」
勇者「……」
鍛冶屋「ああ、どうした?」
勇者「何してるんだ?」
鍛冶屋「ああ、刀を打ってるんだ」
勇者「ああ、そういえば鍛冶師だったな」
鍛冶屋「最近あんまりやってなかったからな」
勇者「そうだな」
鍛冶屋「戦士兼鍛冶師だと思っといてくれ」
勇者「ああ、そうしておく」
鍛冶屋「……」カンカン
勇者「……お前の腕前はどの程度なんだ?」
鍛冶屋「……うーん、そこそこかな」
勇者「そこそこ……」
鍛冶屋「だいたい鍛冶師の腕前っていろいろあるからな」
勇者「そうなのか?」
鍛冶屋「俺はとにかく攻めに特化した刀が専門だな。切れ味とか軽さとかそういうのに重点を置いてる」
勇者「ほう」
鍛冶屋「俺の父親はとにかく堅くて強い剣を作るタイプだから俺とは正反対だな」
勇者「お前はなんでそっちを作らなかったんだ」
鍛冶屋「合わなかっただけだよ。俺は基本的に受け身じゃないし」
勇者「……」
鍛冶屋「俺の刀は攻めが強い分防御が脆い。衝撃を受け流すのにも普通以上の技術が必要になる」
勇者「?」
鍛冶屋「刀って言うのは力を受け流す為に柔軟さが必要になるんだ」
鍛冶屋「んで俺はそれを捨てて斬れ味と軽さをさらに強化してるんだ」
勇者「そうなのか」
鍛冶屋「完璧な刀ってのは存在しないよ。新しい金属でも発見されない限りな」
勇者「正義はどうなんだ?」
鍛冶屋「正義か……」
勇者「……」
鍛冶屋「ちょっと見せてくれるか?」
勇者「ああ」
鍛冶屋「……」
勇者「どうだ?」
鍛冶屋「うーん、どちらかと言えば俺の刀に似てるかもな」
勇者「そうなのか?」
鍛冶屋「ああ、そこそこ軽いし、切れ味もいい。まあその分柔軟さとかがちょっと無いけどな」
勇者「……」
鍛冶屋「なんだよ」
勇者「いや、正直お前がそこまで凄い鍛冶師だとは思わなかった」
鍛冶屋「基本だよ。これくらい出来ないと」
勇者「そうなのか」
鍛冶屋「俺なんてまだまだだよ」
勇者「……」
鍛冶屋「悪いんだけど気が散るから出てってくれないか?」
勇者「あ、ああ」ガチャ
勇者「……」スタスタ
英雄「……なんだ」
勇者「いや、別に通りかかっただけだ」
英雄「……」
勇者「……」
英雄「……」
勇者「……」
英雄「なんでここにいるんだ」
勇者「いや、深い理由は無い」
英雄「さっさと行け」
勇者「……お前に聞きたいんだが、正義の勇者と言うのは愚かなのか?」
英雄「愚かだな」
勇者「何故だ」
英雄「正義も勇者も英雄も全部曖昧で人によって様々だからだ」
勇者「……」
英雄「何度も言うが人の為にと正義の為には違うぞ」
勇者「ああ、分かってる」
英雄「まあ、私や魔法使いはその人の為にもも好きじゃないんだがな」
勇者「ああ」
英雄「正義も偽善的で独善的だから嫌いだ」
勇者「じゃあ俺が嫌いか」
英雄「ああ、嫌いだ」
勇者「……」
英雄「……」
英雄「冗談だ」フフッ
勇者「……そうか」
英雄「お前は逆に清々しくて嫌いじゃない」
勇者「なんだそれ」
英雄「自分で考えろ」
勇者「……」
英雄「お前はとことん正義に執着してるからな」
勇者「……」
英雄「別に変わるなとは言わないぞ」
勇者「……そうか」
英雄「お前がどうなるのかも見てみたいからな」
勇者「あ、ありがとう」
英雄「じゃあまた明日」スタスタ
勇者「ああ」
今日はここまでです
勇者「……」
正義「勇者」
勇者「……なんだ」
正義「楽しそうだったわね」
勇者「……聞いてたのか?」
正義「ええ、少しだけね」
勇者「……」
正義「別に盗み聞きする気はなかったの。悪いわね」
勇者「別に怒っては無い」
正義「そう。ありがとう」
正義「英雄も英雄で少し変わったのね」
勇者「そうか?」
正義「ええ、いい意味で少し変わったわ」
勇者「……」
正義「あなたも変われるわよ」
勇者「……」
勇者「俺は変わるべきなのか?」
正義「なんで?」
勇者「いや、別に意味は無いんだが」
正義「じゃあ聞くけど私が言ったらあなたはそうする?」
勇者「……いや、分からん」
正義「でしょう」
勇者「……」
正義「自分で考えればいいのよ。変わりたいと思えば変わればいいし、変わらない方がいいと思えば変わらない方がいい」
正義「何度も言ってるけど、私はどうなってもあなたの味方よ」
勇者「……」
正義「あなたは難しく考え過ぎなのよ。もっと単純に自分の感情に素直に生きてみたら?」
勇者「だが……」
正義「だから、あなたがその結果どうなっても私はあなたの味方よ」
勇者「……」
勇者「なんで、そこまでしてくれるんだ」
正義「聞きたい?」
勇者「ああ、相棒だからな」
正義「……そうね。あなたが私が人間だった頃に似てるから、かしら」
勇者「……」
正義「それも、聞きたい?」
勇者「ああ」
正義「……」
勇者「俺はお前の相棒だ。俺もお前の事は知りたい」
正義「……そうね、少し長くなるから今度でいい?」
勇者「ああ、別にいい」
正義「じゃあ、私も寝るわ」
勇者「おやすみ」
正義「ええ。おやすみ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
砂漠の町
勇者「……久しぶり」
武人「久しぶりだな」
英雄「……」
勇者「逃亡者は」
武人「まだ来てない。後で合流するだろう」
勇者「……そうか」
武人「勇者と英雄は城の護衛を頼む」
勇者「ああ」
英雄「わかった」
武人「俺達は表を固めておく」
勇者「敵の部隊は見えるか?」
武人「今の所はそこまで来てない。でも今日中にはここに攻めてくる」
勇者「……」
武人「……俺と逃亡者。あとその他の者達でここは守る。お前等は城の護衛を頼む」
勇者「ああ」
逃亡者「遅くなっちゃったね」スタスタ
武人「いや、いい」
英雄「……」
武人「じゃあ頼むぞ」
勇者「ああ」
逃亡者「で、お前等はどうだった?」
英雄「さあな」
勇者「分かった様な分からんような感じだな」
武人「まあ、そんなもんだろうな」
勇者「……」
武人「一日そこらで分かったら苦労しないだろうしな」
勇者「そうかもしれんな」
逃亡者「武人はどう?」
武人「そこそこ。まあ少しは成長したと思う」
勇者「お前はどうだった?」
逃亡者「……俺もお前等と変わらんよ」
勇者「結局そんなもんか」
英雄「一日二日で強くなれれば苦労しないだろうな」
勇者「そうだな」
武人「じゃあそろそろ行ってくれ」
勇者「ああ」スタスタ
英雄「……」スタスタ
逃亡者「敵が来そうに無かったら少し行くよ」
英雄「何のためだ」
逃亡者「姫様見に行くんだよ」
英雄「ああ……」
逃亡者「なんだよその反応」
英雄「……」スタスタ
勇者「気にするな」
逃亡者「……気付かないうちに仲良くなったな」
勇者「気のせいだ。気のせい」スタスタ
今日はここまでです。
勇者は何かをを殺した時にしか痛みを感じません。
あと勇者が罪悪感をほんの少しでも感じれば夜に激痛が襲います。
なのでそこら辺の虫を間違って踏んでも大丈夫です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
砂漠の城
砂漠の女王「お帰りなさい」
英雄「久しぶりだな」
勇者「お久しぶりです」
砂漠の女王「どうでしたか?」
英雄「くだらなかった、と言ったら?」
砂漠の女王「ならば仕方の無い事です」
英雄「……」
勇者「非常に有意義な時間でした。私にとっても英雄にとっても」
砂漠の女王「そうですか。それはいい事です」
勇者「ありがとうございます」
砂漠の女王「いえ、お礼は武人に言って下さい」
勇者「……私達のいない間に何かありましたか?」
砂漠の女王「全ての国の同盟の話は聞きましたか?」
勇者「はい」
砂漠の女王「他には何を聞いていますか?」
勇者「いえ、特には」
英雄「敵がここを攻めようとしている事を聞いただろう」
勇者「ああ、忘れてた」
英雄「……」
勇者「それくらいだな」
砂漠の女王「……その情報には足りない部分が少しありますね」
勇者「え?」
砂漠の女王「他の場所にも軍が向かっているそうです」
勇者「な……」
砂漠の女王「もちろん、ここにくる兵士がのが最も多いはずです。ですが、今回は主要な町をほぼ襲撃しようとしているみたいです」
勇者「……困ったな」
砂漠の女王「敵にも、何か考えがあるんでしょうか」
英雄「さあな。ただ敵の動きに翻弄されてもいい事は無いだろう」
砂漠の女王「はい。その通りです」
勇者「で、どうするんですか?」
砂漠の女王「ここ以外の場所は対策済みです」
勇者「ここは?」
砂漠の女王「作戦はすでに立ててあります」
英雄「大丈夫か?」
砂漠の女王「ええ、きっとうまく行きます」
英雄「……」
勇者「……」
砂漠の女王「優秀な兵士たちは各町に配置してあります」
勇者「そうですか」
砂漠の女王「この町にも兵士達はいます。武人と逃亡者もいます。心配はありません」
英雄「……私達は何故ここなんだ」
砂漠の女王「……あなた方二人は囮です」
勇者「囮?」
砂漠の女王「はい。あなた方二人を隠す事によって敵はここが手薄だと感じるはずです。ですから多少多くの兵を投入し無茶な攻め方をしてでもここを落とそうとするはずです」
勇者「……そこで俺達が出れば、敵を潰せる訳か」
砂漠の女王「はい」
英雄「……つまり私達はギリギリまで出てはいけないのか?」
砂漠の女王「そうなりますね」
英雄「そんな事見透かされるに決まっているだろう」
砂漠の女王「それも想定済みです」
英雄「……」
砂漠の女王「確かに作戦としては穴だらけです。ですがこうしなければいけないんです」
英雄「……」
勇者「了解しました」
砂漠の女王「ありがとうございます……」
英雄「……正気か?」
勇者「策が無いんなら仕方が無いだろう」
英雄「……」
逃亡者「だからこそ、この無茶な作戦を成功させて戦況を引っくり返すんだよ」
勇者「……」
英雄「……」
勇者「いつの間に……」
英雄「……」
逃亡者「もしこの作戦が成功すれば、魔王軍はかなりの兵を無駄に浪費する羽目になるからな」
英雄「バカバカしい。そんなにうまく行くか」
逃亡者「そう思いたいなら思えばいいんじゃない?」
勇者「……」
逃亡者「正直四の五の言っていられる場面じゃないんだよ」
砂漠の女王「はい。恥ずかしながらその通りです」
英雄「……」
勇者「だろうな」
逃亡者「敵の兵力も分からない。こっちは最大の武器生産地を潰されてる。兵だって多いとは言えない。どう考えてもこっちが不利だ」
勇者「ここで何かしら巻き返さないと厳しい訳か」
砂漠の女王「はい」
英雄「で、敵兵力は?」
砂漠の女王「わかりません。ですが私が思うに想像を超える大軍勢だと思います」
英雄「……」
勇者「……」
逃亡者「とりあえず激戦だね」
勇者「ああ」
砂漠の女王「優秀な兵士もいます。あなた方ほどではありませんが頼りにはなるでしょう」
英雄「ふん、所詮は一兵士だ」
砂漠の女王「……」
英雄「勝率は」
逃亡者「やってみない事には分かんないだろうね」
英雄「……」
逃亡者「とにかく準備はしっかりしておいた方がいい」
勇者「ああ」
英雄「そんな事分かっている」
砂漠の女王「……」
勇者「……」
逃亡者「出来る限りの事はするよ。成功の保証は出来ないけどな」
勇者「何とかしてでも成功させて見せます」
砂漠の女王「お願いします」
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「……」
正義「どう?」
勇者「何が?」
正義「正直この作戦危うくない?」
勇者「ああ、実際誰もが気付いているだろう」
勇者「作戦が漏れている可能性も高い。それも見越しての作戦だろうな」
正義「つまりかなりの量の敵が押し寄せてくるのも十分に考えられるって事?」
勇者「ああ」
正義「……他の場所に敵が行く可能性は無いの?」
勇者「薄いだろうな」
正義「そうすれば裏をかけるんじゃないの?」
勇者「それはこちらも想定済みだろう」
正義「どういう事?」
勇者「勝つ戦いでは無く守る戦いをすればいい事だ」
正義「?」
勇者「援軍を待つ戦いかたをするつもりなんだ」
正義「……籠城戦って事?」
勇者「ああ、ここ以外はその準備をしているはずだ」
勇者「籠城戦は守る側が非常に有利だ。しかも主要都市を落とそうとすれば必然的に援軍が来る早さも上がる」
正義「それだと魔王側の方のリスクが大きそうね……」
勇者「ああ、そう考えればここで少しでも無茶をして俺達四人を殺した方がいいと考えるだろうな」
正義「……」
勇者「お互いにここが正念場だ」
正義「あなたはどう立ち回るの?」
勇者「兵士達を援護しながら動こうと思う。下手に前には出過ぎない様にする予定だ」
正義「いいの?」
勇者「ああ、逃亡者や武人達が前線に出るはずだ。俺が出過ぎても困るだろう」
逃亡者「まあ、妥当な判断だね」
勇者「またか……」
逃亡者「またかってなんだよ」
正義「まあ、間違っては無いわね」
逃亡者「勇者は兵士を助けながら入り込んだ敵を狩っていってくれ」
勇者「分かった」
コンコン
逃亡者「どうぞ」
勇者「俺の台詞だ」
???「夜遅くに申し訳ありませんわ」
そこに立っていたのは薄桃色の長い髪をした女性だった。
糸目に柔らかそうな物腰は安心感を抱かせるが、何故かそれが違う様な気がしてならない。
兵士の服に身を包んだその姿は言い知れぬ恐怖を覚えさせた。
正義「あなたは?」
狩人「私は狩人。ここ二いる兵士達の長だと思っていただいて問題ありませんわ」
勇者「……」
狩人「あら? なんです、その人を疑う様な目は」
勇者「いや、別に」
狩人「ああ、私の武器を見たいんですわね?」
勇者「ね、別にそう言う訳では……」
狩人「私の武器は弓。これよ」
それは大きめの何の変哲もないボウガンだった。
勇者「では、あなたは遠距離からの支援ですか?」
狩人「いえ、私も前線です」
勇者「え、ですが……」
狩人「弓兵が前線に出てはいけないというルールはありませんでしょう?」
勇者「え……」
狩人「実際そういう弓兵がいてもおかしくない。そうでしょう?」
勇者「……」
狩人「わかりまして?」ニッコリ
勇者「わかりました」
逃亡者「あんたの腕前は?」
狩人「そこそこ、と言ったところでしょうか」
逃亡者「無難な答えだな」
狩人「ええ、ナルシスとではありませんから」ニッコリ
逃亡者「……」
狩人「では、また戦場で」ガチャリ
逃亡者「……」
勇者「……食えない奴だな」
狩人「声が少し大きいですわよ」
勇者「……」
逃亡者「食えない奴の方が多いんだ。今更気にすんな」
勇者「そうだな」
逃亡者「さてと、じゃあ俺もそろそろ――――」
勇者「ちょっと待ってくれるか?」
逃亡者「?」
勇者「前の戦争の事を教えて」
逃亡者「聞いてどうする」
勇者「どうするって……」
逃亡者「別に話してもいいが、どうするかだけ教えろ」
勇者「……そ、それは……」
逃亡者「さすがに興味本位、なんて答えは無しだぜ?」
今日はここまでです。
勇者「分かってる」
逃亡者「……じゃあちゃんと話してくれよ」
勇者「……墓を見つけたんだ。で、その墓がもしかしたらと思ってな」
逃亡者「墓ね……で、それの正体を知りたい訳だ」
勇者「いや、そう言う訳では無いんだが」
逃亡者「……面倒臭いな」
勇者「……」
逃亡者「まあいいや、で、その墓にはなんて書いてあったんだ?」
勇者「……伝説の戦士が眠るとだけ」
逃亡者「知らないな……多分俺達には関係ない」
勇者「そうか」
逃亡者「なんでその墓が気になったんだ?」
勇者「伝説の戦士と書いてあるのに山奥の人も来ない様な場所にあったんだ」
逃亡者「……分かんないな。悪いね」
勇者「いや、別にいい」
逃亡者「別にそいつの正体を知る気はなかった訳だ」
勇者「……」
逃亡者「じゃあなんでわざわざ俺に聞いた訳?」
勇者「お前もその伝説の戦士と同じだと思ったんだ」
逃亡者「……」
勇者「お前も英雄になれたんだろう?」
逃亡者「……タイミングが悪かったんだよ」
勇者「ああ」
逃亡者「お前はそれを理解した訳か」
勇者「……」
逃亡者「英雄も勇者も成りたくてなるものじゃないって分かったんだろ?」
勇者「ああ、嫌と言うほどに理解できた」
逃亡者「そうか。そりゃよかった」
勇者「……」
逃亡者「いい事だな」
勇者「……」
逃亡者「……そろそろ時間だ。話は生き残ってからにしようや」
勇者「……」
逃亡者「じゃあ行ってくるかな」
勇者「死ぬなよ」
逃亡者「大丈夫だよ」
信義「私が付いていれば大丈夫よ」
逃亡者「死亡率三割増しだ」
信義「怒るわよ」
逃亡者「ごめんごめん」
正義「気を付けてね」
逃亡者「ああ、分かってる」
逃亡者「俺は死ねないから」ニッコリ
すいません。
凄く短いですがここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
見渡す限りの砂の海。
それはまるで死後の世界にいる様な感覚を覚えた。
それはあながち間違っていないだろう。
そう武人は考えていた。
実際にこの場所はそうなるのだ。
死後の世界よりもひどい、狂気と殺戮がこの場所に襲いかかる。
その地獄にも似た光景を頭で思い浮かべるのは彼が思っていた以上に簡単なことだった。
耳を澄ませば風の音に混じってサクッ、と言う音が聞こえる。
答えは単純で明快。
千を超えるほどの敵兵の足音だ。
『出来る限り敵を狩る。だが無茶はしないようにな』
「分かってるさ。その程度の分別は俺にだってある」
武人の声には自嘲の色も混じっていた。
一体何を自嘲したいのかは彼にも分からない。
ただ彼のその言葉には紛れもなくその意思が込められていた。
剣の柄に手を伸ばし、そのままゆっくりと鞘から刀を抜く。
刀身はまるで獣の牙の様に鈍く凶悪に光っていた。
英雄になりたい訳ではない。
勇者になりたい訳ではない。
ただ己の為。
己の腕を試すために彼は一本の刀を持ち、敵に挑む。
それが剣士として生きる事を望んだ彼生き様なのだ。
「真理。一つだけ聞いていい?」
『なんだ』
「勇者は使えると思う?」
『……さあな。ただ顔つきは違ったと思うぞ』
「ああ、俺もそう思う」
彼はそう呟き、僅かに笑った。
敵が僅かに見え始めた。
小さな黒い点が地平線のあたりに見える。
「行こうか」
『ああ』
まるで雪の様に純白の翼が彼の背中に生える。
その翼は大きく羽ばたかせ、彼はふわりと浮きあがった。
天使にも似たその姿のまま彼は低空を駆けていく。
それはさながら獲物の群れに突進していく鷹の様だった。
眼前の敵の怒鳴り声を聞きながら、彼はその手の刀を振るった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
音は無い。
ただ風の音が聞こえて来るだけだ。
ただ微かに、ほんの微かにだが戦いの気配を感じる。
もちろん普通の人間だったら感じられないだろう。
ただ彼は、逃亡者は感じ取ることが出来た。
それは彼が戦いの中で生きていた根っからの戦士だからだ。
魚が水の気配を察知できるように、彼も戦いの気配を察知できる。
彼にとっての戦いとは魚にとっても水と同義と言ってもそこまで問題は無いだろう。
無表情のまま彼は剣を右手に立っていた。
ただ自分の出番を待つ。
それは獲物を狡猾に待ち続け、仕留めるハイエナの様だった。
「あら? あなたも分かるの?」
「狩人……何の用だ?」
「あら、私は戦いに来たのよ」
その笑みは整っていた。
整い過ぎているほどに整っていた。
まるで演技染みたほどに、それ以上に。
彼女はにこやかに笑いながらボウガンを構え、何も無い砂漠に標準を合わせ始める。
だがその顔は大真面目だ。
「何やってんだ」
「狙ってるのよ。少しでも援護してあげた方がいいでしょ?」
「……そうだな」
逃亡者の言い方は何処か冷めた言い方だった。
もちろんその反応が正しいのだろう。
見えない敵が見える。
それこそ魔法か変な冗談だ。
「もちろん見えてるわ」
心を呼んだかのような彼女の言葉に逃亡者は無言で返事をした。
別に否定する気は無い。
だがそれを全て信じられるほど彼女の事を知ってはいないのだ
「だいたい距離は三キロとちょっとって所かしらね……十分私の射程範囲内よ」
彼女は更に続ける。
その言葉には絶対とも言えるほどの自信に満ち溢れていた
「じゃあお前の射程ってのはいくつだよ」
「……五キロ先なら余裕で当てられる」
今日はここまでです。
彼女は標準を合わせ、引き金を引く。
その一連の動作はまるで何かの機械のように滑らかで的確だった。
ヒュン。
矢が空を斬る音は聞こえた。
だが肝心の矢を逃亡者の目は捉えられなかった。
「……」
「命中」
相変わらずその笑顔は病的なほど整っている。
それは背筋が凍えてしまいそうなほどに。
「お前は……」
「私は矢を撃つ時、そして人がその矢に当たる時が一番嬉しいの」
酔った様な彼女の目は何処か虚空を眺めていた。
多分同じだろう。
そう逃亡者は感じ取っていた。
彼も彼女も同じようなものだ。
戦いの中でしか生きられない。
魚が水の中でしか生きられないのと同じように。
『でもあなたには姫様がいるでしょう?』
「ああ、だから死ねないんだよ」
「ええ、私だって死ねないわ」
彼女はその笑みを崩す事無く、淡々と続ける。
「そろそろ敵が来る。私達で食い止めましょう?」
「ああ、最初からそのつもりだよ」
逃亡者の言葉を聞き彼女はまた笑う。
相変わらず病的なほど整った笑みだ。
「じゃあ、俺は行く」
「裏切り者には気を付けてね」
彼は何も答えない。
それを彼女は肯定と捉えた様だった。
「私は目がいいの。だからいろいろ見える。気を付けてね」
彼女の言葉を聞き終わるよりも先に、彼は走り出していた。
~~~~~~~~~~~~~~~
骨が軋む。
筋肉が悲鳴を上げる。
全身が壊れそうになりながらも逃亡者は走る。
ブチッ、と言う嫌な音と共に足の腱に強烈な痛みがはしる。
だがそれもほんの一瞬の事。
次の瞬間にはその痛みは消え、足も今まで通りに悲鳴を上げながら動いていた。
余りの痛みに視界が霞み、意識がとびかける。
だが更なる痛みによってそれさえ中断させられる。
「おォォォォォォォ!!」
風のように駆けながら、まず一人目の敵兵の首を刎ねた。
きっとその兵士は逃亡者の存在に気付かなかっただろう。
そして斬られた事も。
加速し過ぎた体を急停止させるため、地面に両足を突き刺す。
地面は大きく抉れ、辺りを覆う様に砂煙がまき上がった。
まるで壊れた操り人形のように両足があらぬ方向に曲がり、腰が砕けていた。
だがそれもあっという間に元の姿へと戻る。
彼は素早く剣を横に振り、目の前の敵兵を片付ける。
そして体を半回転させ、背後の敵の心臓を貫いた。
深紅の液体が彼の頬を濡らす。
獣の唸り声の様な、敗者の叫び声の様な声が聞こえた。
彼は笑っていた。
狩人のそれと同じように。
歪なほど整ったあの笑顔で。
『まずは敵を殲滅するわよ』
「分かってる」
剣を片手にニヤリと笑うすの姿は魔王のそれにそっくりだった。
殺意の炎が目に灯る。
その目は水を得た魚のように生き生きとしていた。
逃亡者は大きく一歩前に踏み出し、剣を大きく振り下ろすと、敵兵を真っ二つにする。
返り血も一切気にせず、彼は次の敵に剣を振るった。
「生きて帰るぞ。信義」
『ええ、姫様の為にね』
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「始まったか」
正義「そうね」
勇者「……」
正義「まだ出番じゃないわよ」
勇者「分かってる」
正義「ならなんでそんな顔してるの?」
勇者「どんな顔だ」
正義「戦いたくて仕方ないって顔」
勇者「……」
正義「本当よ」
コンコン
勇者「入ってくれ」
兵士「どうも」
勇者「……お前は?」
兵士「はい。姫様の護衛に参りました」
勇者「なら姫様の部屋に行け」
兵士「はい。ですが姫様が何処にもおらず……」
勇者「姫様は階段の傍の部屋にいると思うが?」
兵士「も、もう一度探してきます」
勇者「ああ、そうしろ」
兵士「ありがとうございます」ガチャ
勇者「……」
正義「なんだったのかしら」
勇者「さあな」
正義「……姫様の護衛って事は敵が来てる?」
勇者「まさか、早過ぎるだろ」
その瞬間、勇者目掛けてナイフが飛んで来る。
勇者「!?」
勇者はそれを刀で弾き飛ばす。
勇者「誰だ……」
それは全身黒ずくめの男だった。
背中には刀を背負っている。
忍者「……」
勇者「……」
忍者「お主を暗殺しに来たでござる」
勇者「忍者か」
正義「……いや、黒服とござるだけで判断するのはどうなの?」
忍者「その通りでござる」
正義「合ってるんだ」
勇者「……何故ここにいるのか、を聞くのは無粋だな」
忍者「さようでござる」
勇者「……」
忍者「……」
正義『勇者、行けるわよ』
勇者「いいのか? 忍者は忍ぶものだろう?」
忍者「それだけで生きていくには世知辛い世の中でござる。多少の戦闘も出来ねば忍者は務まらんでござるよ」
勇者「そうか」
忍者「魔王様の姪によりお主の命、頂戴するでござる」
勇者「……来い」
勇者は忍者の刀を身を翻して回避すると、素早く刀を構え直した。
少しだけ上がった呼吸を調える。
勇者は一歩前に踏み込むとそのままの勢いで大きく刀を振り下ろす。
金属音。
刀と刀がぶつかり合い、火花を散らす。
忍者と勇者の顔はぶつかりそうな位近づいている。
鍔迫り合いの状態が続く。
一瞬でも気を抜けば死ぬ。
そう動物的な何かが叫んでいた。
「お、ォォォォォ!!」
獣の様な方向を上げ、前に進む。
刀がギチギチと悲鳴を上げる。
しかしそんな事は気にせず、更に前に進んだ。
こんな所で時間をとっている暇は無い。
勇者の頭の中には下がって態勢を立て直すと言う選択肢は端から無いのだ。
金属が弾けるような音が響き、まるで磁石が反発しあう様に二つの影が離れる。
「悪いが、力押しはあまり得手ではないのでな」
そう呟いた忍者の表情は無表情だった。
勇者はそれに何も答えず素早く跳ぶ。
まるでそれが答えだと言わんばかりに。
銀色の閃光が光る。
それと同時に耳を貫く様な金属音が響く。
だが勇者はそんな事は気にも止めず更に刀を振るった。
二度、三度と刀がぶつかり合う音が響く。
剥き出しの殺意が幾度となく激突し合う。
今日はここまでです。
勇者の刀が横に薙ぎ払われる。
その瞬間、忍者の目が獲物を見つけた獣の如く光ったのに勇者は気付いた。
だが、すでに刀は振り払われている。
鮮血が散る。
勇者の右肩が血に濡れた。
忍者は追撃の為に前に跳ぶ準備をする。
しかし、それは彼のミスだ。
「が、あァァァァァァ!!」
勇者は獣だ。
彼は、退かない獣だ。
例え腕をもがれ様が、彼は刀を持っている限り、そして勝機がある限りは退かないのだ。
勇者の刀が忍者の肩の肉を喰らう。
肉を斬る感覚。
ぬるま湯の様な生温かい液体が顔に飛び散る感覚。
だが勇者の刀が致命傷になるよりも前に忍者は後ろに跳び、距離を置く。
「いい判断でござる」
「ありがとう」
「お主とは違う形で会いたかったでござる」
「俺もそう思う」
互いの距離は二メートル弱。
狭い部屋で武器を構えたままお互いに敵の動きを探り続ける。
「お前の名前は」
「忍者に名前は無いでござる。拙者は忍者。それ以上でも以下でもない」
「そうか」
勇者の目の色が変わる。
それは会話が終わったと言う合図でもあった。
風を刀に纏わせる。
まるで何かが渦巻く様なギュルギュルと言う気味の悪い音が鳴り響いた。
しかし勇者は前には出ない。
ただじっと相手が動くのを待ち続ける。
無音。
静寂。
まるで時間が止まってしまったかのようにあらゆるものが一ミリたりとも動かない。
忍者の体がほんの僅かに動く。
それが引き金だった。
そう、まるで盆に入った水が溢れる様に、一度溢れだせばそれは止められなくなる。
それどころか更に溢れだす。
忍者は一歩踏み出し、刀を大きく振り下ろす。
それに対応する様に勇者も刀を振り返した。
何処かで見た光景。
勇者の剣技は燕返しの亜流だ。
二本の刀は激突する事も無ければ擦れ合う事も無く、するりと互いを避け、進んでいく。
赤い液体が飛び散る。
それが誰のものなのかは勇者も分からなかった。
忍者と勇者は同時に一歩下がっていた。
いや、正確にはよろめいて後ろに下がってしまっただけだ。
「今のは、効いたでござる」
「ああ、俺もだ」
どちらも醜悪で不敵な笑みを浮かべる。
それはまさしく戦いを純粋に楽しむ鬼のそれだった。
勇者は右肩から、忍者は左腕からおびただしい量の出血をしている。
だがどちらもそんな事は毛ほども気に止めていない。
「拙者も、本気を出せてもらうでござるよ」
忍者はニヤッと笑うと何かを詠唱し始める。
それはすぐに起こった。
消えていく。
彼の腕が、足が、体が消えていっていく。
まるで何かに溶けていくようにゆっくりと体が消えていった。
「な……」
「拙者の秘技、楽しむでござる」
何も無い場所から声が響く。
すでに彼の体は溶けきり、もはや欠片すらどこにもなかった。
『ど、どうなってるの!?』
「俺に聞くな」
「消える事ぐらい忍者のたしなみの一つでござるよ」
楽しそうな、歌う様な声が響く。
だがその声が何処から発せられたのかを特定するのは至難の業だ。
それこそ部屋にある酸素を掴むのと同じくらいに。
「これが忍者の真髄でござる」
ヒュッ、と音が鳴る。
微かに地面を蹴る音が聞こえる。
体を冷たい風が駆け抜けていくのが分かった。
勇者は素早く刀を斬り上げる。
金属音が響いた。
見えない刃を受け止められたのはもはや野生の勘でしか無かった。
気配も無い足音もほぼ無い。そんな相手とこのまま戦い続けるのは至難の業だ。
『正義、策は無いか?』
『不可能よ。あんなのどうやって……』
今日はここまでです。
すいませんが2日ほど留守にするので更新できなくなります。
後ろに一歩下がる。
策は無い。
だが、このままその場にいてもなぶり殺しだ。
視界が霞む。
血を流し過ぎている。
刀を構え直し、何も無い場所を眺める。
「拙者を見つけられるでござるか?」
勇者は答えない。
無言のままじっと耐え続ける。
タンッ、と言う足音が響いた。
そしてすぐに空を切る音が響く。
強烈な痛み。
一瞬間があり、赤い液体が飛び散った。
「さすがでござる」
「……ありがとう」
勇者の左手には見えない剣が刺さっていた。
左手を盾にするのが限界だった。
いや、それさえも間に合うかどうか怪しいかった。
だが、それでもこうなればどうにかなる。
退かなければ、策はある。
『勇者!!』
「……捕まえたぞ」
勇者の目が光る。
殺意を超えた笑みが美しく輝いていた。
彼の刀が大きく振り上げられる。
ゴウッ、と音をたて、刀が振り下ろされた。
金属同士がぶつかり合う音。
「まさか、そんな事をしてくるとは……予想外でござる」
「……俺の勝ちだ」
勇者が歯を見せて笑う。
それとほぼ同時に彼の刀が強烈な風を纏った。
「ぬ……!?」
忍者の刀が弾き飛ばされる。
予想外のそれは彼に隙を生ませた。
銀色の風が集束。
勇者の刀が巨大な風の刃と化す。
「消し飛べ」
彼の刀が振り下ろされた。
風は刃となり、目の前のあらゆるものを切り裂き、蹂躙し尽くす。
それはまさに天災のように塵一つ残さない。
部屋が砕ける音。
飛び散る破片。
その中に赤黒いものが混じっているのを勇者はしっかりと見ていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あァァァァァ!!」
体を激痛が走る。
胃をすり潰される様な痛みが襲い、強烈な吐き気が体を襲った。
だが彼の剣は敵を切り裂き続ける。
生きて帰る。
姫の為に戻る。
ただそれだけを心の柱として彼は戦い続ける。
逃亡者の剣が敵の首を跳ねる。
血に濡れ、狂喜とも苦悶ともとれる表情を浮かべるその姿は悪魔と見間違えてしまいそうだ。
息を吐きだし、意識を高める。
剣を持つ力が自然と強くなった。
今日はここまでです。
『後少しよ』
『そうだな』
奥歯を噛み締め、体を百八十度回転。
そのまま背後にいた敵の心臓を突き刺す。
今現在彼が目で確認出来ている敵は三人。
逃亡者は体を大きく前に傾けるとそのまま跳躍した。
低空を高速で跳ぶその姿は弾丸に似ていた。
その勢いを殺す事無く最初の敵の上半身と下半身を分断する。
血は噴水のように飛び散り辺りを赤く染める。
まずは一人。
地面に着地し、体の素早く反転させる。
足の骨が軋む。
全身の血が熱湯のように熱い。
だがそんな体の悲鳴を無視し、剣を構える。
『だ、大丈夫?』
『さあ、そんな事分からん』
『無茶すれば本当に死ぬわよ』
『そりゃ死ぬだろうな』
信義はそれ以上何も言わなかった。
きっとこれ以上言っても無駄だと悟ったんだろう。
「もし俺が死んでもお前は絶対に安全な場所に送り届けるよ」
『……当然よ』
疾駆の如く宙を駆ける。
目の前の敵の首を一撃で撥ねとばした。
あと二人。
意識が薄れる。
気を抜けば眠る様に意識が無くなるはずだ。
敵の剣が逃亡者目掛けて振り下ろされる。
しかし彼は体を僅かに捻じり無理矢理にかわすと、そのまま左手で相手の顔面に拳を叩き込む。
「あ、がァァァァ!!」
激痛が脳を支配する。
とんだ意識を激痛が引き戻す。
もはやそれは戦いと言うより拷問に近かった。
あと、一人。
だがそれと同時に足がもたつき、体が大きく傾く。
『逃亡者!! しっかり!!』
返事をする気力さえ残っていなかった。
もはや自分が何をしているかさえ忘れてしまいそうなほど意識は混濁しきっていた。
だが、それでも彼は剣を構えると大きく振った。
鮮血。
それが相手の血だと言う事も確認しないまま、彼は大きく跳びその場を後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
武人「……」
真理「終わったな」
武人「ずいぶん逃がしたな」
真理「まあ、逃亡者や勇者や英雄がいるんだ。大丈夫だろう」
武人「……」
真理「戻るか?」
武人「ああ」
魔王「中々いい戦いっぷりだったぞ」
武人「!?」
魔王「別にお前を殺す気は無い。安心しろ」
武人「……」
武人は剣を振るうがそれは何かによって停止させられる。
忍者「短気は損でござるよ」
武人「!?」
今日はここまでです。
このままいけば400か500くらいで終わるんじゃないかと思います。
魔王「別に防ぐことなど出来る」
忍者「そうでござったな。申し訳ない」
魔王「右手はどうした」
忍者「少し経てば生えて来るので安心するでござる」
魔王「そうか」
武人「……」
魔王「オレは勇者に会いに来たんだが、丁度お前がいたんでな」
真理「ここの戦いは我等の勝ちだ」
魔王「ああ、そうだな」
武人「……興味が無さそうだな」
魔王「別にここを落とせるとは思っていない」
武人「……」
魔王「目標は別にあるんだよ」
武人「お、お前……」
忍者「そろそろ終わった頃でござるよ」
魔王「そうか。じゃあそろそろ行くかな」
武人「待――――」
魔王「今回のお前は観客だ。俳優じゃない」
忍者「……もしやる気なら拙者が戦うでござるよ」
武人「別にいい」
忍者「いい判断でござる」
真理「いいのか?」
武人「こんな状況で戦って勝てるか」
忍者「……では」ピョンッ
武人「……」
真理「どうするのだ」
武人「戻るに決まってるだろう」タタタッ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
町中
勇者「……」
正義「……」
魔王「元気そうだな、勇者。そして正義」
勇者「……なんでお前が」
魔王「会いに来たんだよ」
正義「わ、私達に!?」
魔王「当たり前だろう」
英雄「……」
魔王「お前は呼んでないぞ」
英雄「黙れ」
魔王「……」
英雄「お前は私が殺す」
魔王「もう一度言う。お前はここでの登場人物では無い。消えろ」
英雄「断る」
勇者「英雄」
英雄「私はこいつが嫌いだ」
魔王「奇遇だな。オレもだ」
英雄「……お前のその何でも知ってるふうな口振りは本当に不快だ」
魔王「貴様も変わらんだろう。自分だけが不幸だと思うな。そしてそれを他人のせいにするな」
英雄「な……」
魔王「世間が悪い。あいつ等が悪い。そんなのは子供の言い訳だ」
英雄「……」
魔王は英雄の剣を素早く交わすとそのまま彼女の腹に突きを喰らわせた。
英雄「う……」
魔王「愚かだな」
英雄「だ……まれ」
魔王「……ここで殺してしまってもいいんだぞ」
勇者「魔王!!」
魔王「……お前は関係ないだろう」
勇者「……俺が戦う」
魔王「……いい目だ」
魔王はゆっくりと剣を抜く。
魔王「怒りと殺意の混じったいい目だ」
勇者「……」
魔王「来い」
正義「……一つだけ聞いていい?」
魔王「……なんだ」
正義「なんで勇者なの?」
魔王「……似ているからだ」
今日はここまでです。
正義「誰に」
魔王「オレにだ」
勇者「……」
魔王「昔のオレを見ているようだ」
勇者「……」
魔王「戯言はもういいか?」
勇者「ああ、もういい」
魔王「では始めようか」
勇者「ああ、お前はここで殺す」
魔王「出来ればいいがな」
お互いの距離は五メートル。
どちらも獲物を構えたままピクリとも動かない。
それが何かを狙って動かないのか、それともただ単純に動かないだけなのか、動けないのかは勇者には判断できなかった。
ただただ漠然と時間だけが無意味に消費されていく。
そして集中力も同様に無益に消費されていった。
「どうした、攻めないのか?」
楽しそうな魔王の声が響く。
その笑顔はまさしく無邪気な子供のそれだった。
勇者は無言のまま魔王との距離を推し測る。
一番いい攻め時をただひたすらに待ち続ける。
今までの彼なら怒りにまかせて突進していただろう。
だが今の彼は怒りの炎の中にもしっかりと冷静さをもっていた。
「つまらんな、ならこちらから行かせてもらうぞ」
軽快な足音が響き、魔王が前に跳ぶ。
それは勇者にとっては想定内の行動だ。
しかしわかっとしてもそれが避けられるかどうかは微妙だった。
体を僅かに斜めにし、魔王の一撃に備える。
彼女は勇者の一歩手前に着地し、そのままの勢いで剣を大きく振り下ろした。
強烈な一撃はまるでかまいたちの様な強烈な飛ぶ斬撃を生み出す。
得物同士が激突し、火花を散らす。
勇者の両手に強烈な痛みがはしった。
「う、ぐ……」
両手の痺れに耐え、魔王を押し戻すと、勇者はそのまま地面を蹴った。
お互いの距離は一メートル。
『勇者。無茶よ』
『分かっている』
そう、そんな事は分かっている。
ここで跳ぶのは最善なんかでは無い。
むしろ悪手に近い。
だが攻めなければ確実にジリ貧、もしくは不意を突かれ一瞬で殺される。
長期戦になればなるほど実力差が露呈するだけなのだから。
体を傾け出来るだけ加速する。
切っ先を魔王に向けたまま一直線に魔王目掛けて突進する。
魔王の剣が横に薙ぎ払われた。
だが、勇者は下がる事無く。それを刀で受け流すと、右手を引き、そのまま突きを繰り出す。
勇者と魔王の剣が高らかに鳴く。
火花を散らしながら鍔迫り合いの状態になる。
「いいぞ、やはり攻めて来なければ面白くない」
「ああ、そうだな」
勇者は歯を剥いた獣染みた顔で笑った。
魔王は無邪気な子供の様な笑みで答えた。
得物同士が凶悪な音をたて擦れ合う。
剥き出しの殺意がぶつかり合う。
「楽しんでいるな、勇者」
「……」
沈黙
彼は答えなかった。
今日はここまでです。
このままラストまで一直線で突っ走ったらの予定ですから、多分もう少し遅くなると思います。
ですがこのスレ中には完結する予定です。
すいませんが今日は休みます。
だが魔王は更に続ける。
「お前は戦いを楽しんでいる。そうだろう?」
「……ああ。そうだな。その通りだ!!」
下から上へ、勇者の刀が斬り上げられる。
銀色の閃光が真っ直ぐな軌道を描いた。
魔王は一歩下がり、その一撃を下げる。
その顔は満面の笑みを浮かべていた。
残忍な、凄惨な、見る者の肌を粟立たせる様な笑みを。
「……魔剣を知っているか?」
澄んだ声は良く通った。
「……ああ、秘剣の上を行く剣技だろう?」
魔王の突然の問いに勇者は数秒遅れで答えた。
彼女の意図はよく分からない。
その言葉に魔王は僅かにまた笑う。
「その通り、ではお前は魔剣をどのようなものだと思う?」
「……人の手で造られた決して人が防御できない剣技だ」
「ああ、だからこそ才能のよって生まれた業ではなく、努力によって生まれた業なのだろう?」
「そうだ、抽象的な何かではなく具体的に理詰めによってつくられたものこそが魔剣だ」
勇者の言葉に魔王はにやりと笑う。
その笑みの意味は分からなかった。
だがそれを見た瞬間、勇者は体がゾワリと恐怖するのを感じた。
「そうだ。その通りだ。だが」
魔王はそこでわざと言葉を切る、そして吐き出すようにこう言った。
「それじゃ面白くないだろう」
魔王の体が宙に浮く。
まるで風船のようにゆっくりと上昇しながらも勇者の方へと近づく。
理由は分からない、ただ勇者は危機を感じていた。
第六感の様な何かが危険だと警告を鳴らし続ける。
地上約六メートルほど上に魔王はいる。
ただそこでごく自然に立っていた。
魔剣とは理詰めによってつくられた完成された剣技だ。
力や才能をふんだんに使った理不尽で無骨な攻撃では無く、努力によってあらゆる隙や無駄を省いた洗練されたが魔剣と呼ばれる技なのだ。
「魔剣。『フォールダウン』」
声が聞こえた時にはすでに魔王の姿は消えていた。
刹那、勇者の背筋を何かが駆け抜ける。
それが危機だと気付くよりも早く、彼は頭の上で刀を盾にした。
轟音。
激痛。
両足が地面に沈み、全身を強烈な痛みがはしる。
骨が軋む様な音を彼は確かに聞いた。
「……さすがにまだまだ無駄が多いな」
「お、お前は……」
魔剣とは理詰めの技だ。
洗練されきってこその魔剣。
だが彼女はそれを才能と力で無理矢理洗練しきった。
無骨で無駄だらけの秘剣にも満たない一撃を才能と力だけで魔剣まで昇華したのだ。
それほどまでの才能と力を彼女は持ち合わせていた。
勇者は無理矢理に魔王を押し返し、そのまま追撃の為に前に跳ぶ。
「攻めて来ないと面白くないもんな」
魔王の無邪気な声を聞きながら彼は刀を振るった。
鋭い音と共に火花が四散する。
だが彼はそのまま力で魔王を弾き、更に刀を振り、追撃を始める。
上段、下段、突き、斬り上げ。
攻撃の隙さえ与えない怒涛の猛攻を魔王に浴びせかける。
『ゆ、勇者……』
『ここで退けば、勝ち目は無い』
この攻めがいかに無駄かは勇者が一番知っていた。
だが退かない。
退けない。
もしここで防御に転じればあの魔剣によって負ける。
勇者はそれを本能で理解していた。
「あァァァァァ!!」
今日はここまでです。
咆哮と共に刀を振り下ろす。
風によって大剣と化した刀は轟音を立てながら魔王の頭目掛け襲いかかった。
だがそれすらも魔王は受け止めてしまう。
その表情は笑顔すらないものの危機と言うものがほとんど存在しなかった。
勇者はそのまま体と腕の向きを変え、突きの態勢を取る。
そしてそのまま風の槍に形を変えたそれをを前に突きだした。
魔王は防御しなかった。
しかしその代わりに体をくるりと翻し、その一撃を紙一重で回避した。
「な……」
そのまま魔王の剣が振られる。
その瞬間攻守が完全に入れ替わった。
勇者は素早く魔王の剣を打ち払いながら後退する。
だが魔王は勇者と一定の間合いを保ち、剣を振り続ける。
勇者が一歩退けば魔王は一歩前に出る。
だからといって勇者が前に出るのは自殺行為でしか無い。
しかしこのままの状態でもジリ貧だ。
大きく一歩下がる。
だが魔王はまるですっぽんか何かの様に喰らいついて来た。
決して離れる事無く、隙の無い攻撃を何度もうち込み続ける。
体を屈め出来る限り体の面積を少なくする。
ほとんど焼け石に水だがやらないよりはマシだ。
魔王の剣が彼の頬を僅かにかすめる。
まるで詰め将棋の様にゆっくりとしかし着実に追い詰められていた。
すでに手の内は全て見せているこちらに対し、魔王はまだいくつ隠し玉があるのかすら分からない。
『正義、魔力は後どれくらいだ』
『半分って所よ。大技は二発か三発が限界』
『了解』
今のこの状態での大技は無意味以外の何ものでもない。
ダメージを与えるどころか態勢を立て直すこと自体出来るかどうか怪しい。
だが、タイミングさえ合わせれば態勢を立て直す程度なら可能なはずだ。
とにかく一度戦闘を仕切り直すタイミングを探り続ける。
魔王の剣が勇者の右肩を切り裂いた。
強烈な痛みがはしり、血が吹き出る。
一瞬視界が白一色に塗りつぶされた。
痛みによって生み出された一瞬の隙。
視界が戻った時には魔王の剣が目の前に迫っていた。
全神経を切っ先に集中。
魔力の風を刀に纏わせる。
世界の音が消えた。
無音。
映像はまるで絵の様に現実味が無くなった。
血が飛び散る。
だが痛みは無かった。
風が音をたて集束。
巨大な竜巻を発生させた。
「切り裂く」
轟音。
巨大な風の渦がまるで槍の様に直進。
勇者の正面にあるあらゆるものを破壊し尽くした。
風の斬撃は勇者の目の前にあったもの全てを飲み込みあらゆるものを吹き飛ばしていた。
だが。
「正面で意味が無いだろう。上がガラ空きだ」
ニヤリと笑う魔王と目があった。
魔王が剣を構え直す。
その構えを勇者は知っていた。
「『フォールダウン』」
声が聞こえた。
冷めた声は地面から這い出る異形の様な何かを連想させた。
体が凍えた。
そのくせ全身は焼けつく様に熱い。
素早く刀を頭の上で盾にする。
一際巨大な音が響いた。
今までとは全く違う。
鈍い音が。
今日はここまでです。
「折れたか」
魔王の声が響く。
冷めた様な、呆れた様な、何とも言えない語り口調。
「正義?」
勇者の刀にはひびが入っていた。
鍔付近に大きな亀裂がはしり、もう一度得物同士をぶつけあえば確実に折れてしまうはずだ。
「おい、正義……」
「無駄だ。今の正義は仮死状態。今のお前はただの腕の立つ剣士だ」
「……」
だが勇者は無言のまま刀をしまうと素手のまま構える。
その目は正真正銘本気の目をしていた。
擦り足のまま前に進む。
素手の両手を顔の辺りで構え、ゆっくりと魔王に近づいていく。
だがその前に英雄が割り込む
「下がれ」
「……英雄」
「そんな状態で何が出来る。下がれ」
「貴様が出て来る必要は無い。貴様が下がれ半端者」
その言葉に英雄は笑う。
それに対応するかのように魔王の顔は険しくなった。
英雄は剣を抜き、切っ先を魔王に向け、中段で構える。
「どうやら、どうしても死にたい様だな」
「死ぬのはどっちかな」
魔王が宙に浮く。
まるで風に舞い上がるこの葉の様にゆっくりと。
しかしまるで階段を上がっていくようにしっかりと。
上と下。
英雄と魔王が対峙する。
「お前はここで退場だ。安心しろ。特等席は用意してやる」
澄んだ魔王の声。
「もう一度聞く――――」
「くどい」
静寂。
まるでそこだけ時間が凍結してしまったかのようにあらゆるものがピクリとも動かない。
だが、肌を刺すような殺気はそこには確かに存在している。
「『フォールダウン』」
声。
魔王の姿が消え、英雄の目がきらりと光る。
鮮血。
真っ赤な血が床を濡らす。
「……」
「残念だ。だが多少の誤算も仕方が無いのかも知れんな」
魔王の剣は英雄の胸を貫いていた。
それは英雄を貫き、剣先は床に刺さっている。
「オレが剣を振っていたら負けだった。だが、突きだ」
「英雄!!」
勇者の声が響いた。
その叫び声は乾いた大地にすぐさま消えていく。
彼女は英雄の胸から剣を引き抜くと勇者の前へと進んだ。
そして少し微笑む。
「仇を打ちたかったら竜の山に来い。オレはそこで待っている」
「お前は何がしたい!!」
「言っただろう。オレは人間を滅ぼしたい。そしてそれを楽しみたい」
魔王は言葉を切り、剣を抜く。
そして勇者の顔に剣先を向け、微笑んだ。
「いい目だ。オレを殺しに来い。お前なら楽しめそうだ」
魔王は言い終わるとまるで階段を駆け上がるかのように空を駆けて行った。
今日はここまでです。
勇者「英雄!!」
英雄「……なんだ」
勇者「……」
英雄「私は負けた。ただそれだけだ」
勇者「……すまない」
英雄「……別にお前が謝る必要は無い」
英雄「私が勝手に戦って勝手に死ぬだけだ」
勇者「……」
勝利「……」
英雄「悪いな」
勝利「いや、大丈夫。こっちは気にしなくてもいいよ」
英雄「そうか……」
勝利「……」
英雄「私が死んだら。お前はどうなるんだ?」
勝利「少しの間はこのまま。でも三日くらいでただの剣に戻る」
英雄「……そうか」
勝利「楽しかったよ」
英雄「ああ、私もだ」
勝利「……」
英雄「勝利、勇者は?」
勝利「どっか行ったよ。あいつなりに気を利かせてくれたんじゃない?」
英雄「ふん。くだらん」
勝利「言うと思った」
英雄「……勇者の事を頼む」
勝利「そうだね。あいつは最後の希望だ」
英雄「……」
勝利「それと英雄の個人的な感情もあるのかな?」
英雄「……」
勝利「ごめんごめん」
英雄「……」
勝利「お休み、英雄」
英雄「ああ……」
英雄は目を閉じる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数分後
武人「勇者!!」タタタッ
勇者「……」
勝利「……遅かったね」
逃亡者「……なんて言えばいいか分からないけど――――」
勝利「別に誰のせいでもないよ」
勇者「……」
勝利「それより正義はどうしたの?」
勇者「分からん。ひびが入ってからは……」
鍛冶屋「勇者。大丈夫か!!」
勇者「俺は大丈夫だ……」
鍛冶屋「……」
勝利「……正義と英雄がやられた」
鍛冶屋「正義が?」
勇者「刀にひびが入ったんだ」
鍛冶屋「……」
勇者「……」
鍛冶屋「俺が直すよ」
勇者「え?」
鍛冶屋「俺が直せば何とかなるだろ」
武人「……直せるのか?」
鍛冶屋「俺だって鍛冶師の端くれだ。何とかなる。いや、何とかする」
勇者「……すまん」
勝利「それより戦況は?」
武人「一応はこっちの勝ちだ」
逃亡者「でもこっちのダメージもそこそこ大きいかな」
勝利「そうか……」
武人「一旦城に戻ろう」
勝利「そうだね。英雄は……勇者、頼む」
勇者「俺が運ぶのか?」
勝利「ああ。頼む」
勇者「……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
砂漠の城
砂漠の女王「……そう、ですか」
武人「申し訳ありません」
砂漠の女王「いえ、こちらこそ無茶な作戦を……」
勝利「いいんですよ。魔王が出て来るなんて誰も思わないじゃないですか」
砂漠の女王「……」
勝利「だから誰のせいでもないでいいじゃないですか」
勇者「……」
勝利「勇者……」
砂漠の女王「ゆっくり休んで下さい」
勇者・武人「はい」
勇者「……」スタスタ
武人「じゃあ、また明日」
勇者「ああ」
今日はここまでです。
武人「……」スタスタ
勇者「……」スタスタ
勇者「鍛冶屋」ガチャ
鍛冶屋「勇者。英雄の亡骸の傍に居なくていいのか?」
勇者「……ああ。大丈夫だ」
鍛冶屋「……」
鍛冶屋「正義を呼んでみてくれ」
勇者「……正義、聞こえないのか?」
勇者「……」
鍛冶屋「……ダメか?」
勇者「ああ。ダメみたいだな」
鍛冶屋「……」
勇者「直せるのか?」
鍛冶屋「直すだけなら俺でも何とかなる。あとは正義の材料が分かればなんとかなるんだけど……」
勇者「材料?」
鍛冶屋「ああ、違う金属じゃあ直せないだろ」
勇者「そ、そうだな」
鍛冶屋「分からないか?」
勇者「悪い……」
鍛冶屋「……」
鍛冶屋「正義を貸してくれるか? 少し調べてみようと思う」
勇者「ああ、頼む」
鍛冶屋「ありがとう」
鍛冶屋は正義を受け取る。
勇者「頼む」
鍛冶屋「ああ、わかった」スタスタ
勇者「……」
信義「ねえ、姫様知らない?」
勇者「知らない」
信義「……そう」
勇者「どうしたんだ?」
信義「いや、姫様がいないのよ」
勇者「……いない?」
信義「ええ、部屋にもいないし……」
勇者「だが護衛の兵士がいたんだ。敵に連れていかれた訳でもないだろう」
信義「え?」
勇者「?」
信義「護衛の兵士って誰?」
勇者「どういう事だ」
信義「城に兵士はいるけど姫様を護衛する兵士はいないはずよ」
勇者「……」
信義「……」
勇者「じゃああいつ等は?」
信義「少し砂漠の女王の所に行ってくる」タタタッ
勇者「……」
勝利「結局勝った様に見えていろいろ裏でやられてたって事かな」スタスタ
勇者「勝利」
勝利「残り少ない時間くらい何か手伝った方がいいだろう?」
勇者「そう、だな」
勇者「……」
勝利「……」
勇者「……」
勇者「英雄の遺体はどうするんだ?」
勝利「……任せるよ」
勇者「……」
勝利「心臓が傷ついてた。逃亡者なら回復できたかもしれないけど英雄はそう言うタイプじゃないから」
勇者「そうか……」
勝利「どうしようもなかった。それ以外の何ものでもないよ」
勝利「不幸に不幸が重なった。とでも言えばいいかな」
勇者「……」
勝利「……」
勝利「あんまり気に病まない方がいいよ」
勇者「ああ」
勝利「……」
勇者「……」スタスタ
今日はここまでです。
すいませんが今日は休ませてもらいます。
時間はあったんですが心がバッキバキに折れたので……
クリスマスなんてくたばればいいのに!!
彼女とか出来なくても生きていけるんだよ!!
今日が最初で最後なんで大目に見てください。
久々にバッキバキになっちゃったんです。
明日からはいつも通りssだけを更新するように頑張るので今日だけはお休みさせてください。
今日休むのとどうでもいい俺の話に付き合わせてしまってすいません。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
武人「……」
真理「……」
真理「悲しくないのか?」
武人「悲しいに決まってるだろ。仲間がやられたんだ」
真理「他の奴もそう思っているんだろうな」
武人「さあな……」
真理「……」
武人「だが勇者も逃亡者もそう強くは無いからな。少なからず心に引っ掛かってるだろうな」
真理「……」
武人「俺がもう少し早かったらもしかしたら――――」
真理「仮定の話は辞めた方がいい。悲しくなるだけだ」
武人「……」
真理「それに結論は結局変わらない」
武人「……」
真理「なら考えない方が絶対いいだろう?」
武人「そう、だな」
真理「ああ、そうしろ」
武人「……」
真理「それよりも正義もやられたんだ。そっちの方を考えた方がいい」
武人「そ、そうだな……」
真理「どうするんだ?」
武人「さあな」
真理「……」
武人「俺達は駒だ。作戦を考えるのは俺達の仕事じゃないだろう」
真理「ああ、そうだな」
武人「……」
真理「……何を考えてるんだ?」
武人「今竜の山に行ったら――――」
真理「魔王は勇者を指名した。お前が行っても魔王の部下と戦うだけだ」
武人「……」
真理「分かるだろう?」
武人「じゃあ俺はどうすれば英雄に償えるんだ」
真理「たら、ればの話は辞めろと言っただろう」
武人「分かってる!! 分かってるんだけどな……」
真理「……」
武人「やっぱり俺は人間なんだよ」
真理「……そうだな。お前はただの人間だ」
武人「……」
真理「戦士として生きるのは難しい。仕方の無い事だ」
武人「……」
真理「悔し涙を流してしまうようでは尚更な」
武人「な……」
真理「知らないとでも思ったか?」
武人「……」
真理「別に悪いとは言ってないだろう」
武人「泣きたくなかったんだけどな」
真理「……」
武人「やっぱり無理だった」
武人「……」
真理「少し休め。楽になる」
武人「……」
真理「……」
武人「そうする」
真理「そうしろ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者の部屋
勇者「……」
コンコン
勇者「どうぞ」
勝利「正義はどう?」
勇者「鍛冶屋に任せてある」
勝利「そう」
勇者「ああ」
勝利「……」
勇者「……」
勝利「目が赤いよ」
勇者「……」
今日はここまでです。
昨日は見苦しいところをすいませんでした。
ちなみに逃亡者は心の傷は治せません。治せるのは体の傷だけです。
勝利「泣いてた?」
勇者「仲間だからな」
勝利「……ありがとう」
勇者「礼を言うのは俺の方だ」
勝利「……」
勇者「助けてくれてありがとう」
勝利「……」
勇者「そしてすまなかった」
勝利「……」
勝利「やめてくれ」
勇者「……俺が不甲斐無いばっかりに」
勝利「やめてくれ!!」
勇者「いや、俺が悪いんだ。俺が弱かったから……」
勝利「……」
勇者「俺はダメだ……正義も英雄も……」
勝利「正義は悩んでもいい。でも英雄は関係ない」
勇者「……いやどっちも俺のせいだ……」
勝利「……」
勇者「謝っても謝りたりない。すまない」
勝利「……いい加減にしろよ」
勇者「……」
勝利「英雄は自分の意思で戦って死んだ!! それだけの事だ!!」
勇者「だが……」
勝利「お前のせいでも誰のせいでもない!! 英雄はそう言う同情が嫌いなんだよ!!」
勇者「……」
勝利「百歩譲って英雄に申し訳ないと思うなら仇を取れ!! うじうじくだらない事言ってんじゃねえ!!」
勝利は勇者の胸倉を掴む。
勇者「……」
勝利「その顔やめてくれよ」
勇者「すまん……」
勝利「……」
勇者「悪い。部屋に戻らせてくれ」
勝利「……」
勇者「じゃあ」スタスタ
勝利「ああ」
勇者「……」スタスタ
勝利「……」
勇者「頭を冷やす」
勝利「分かった」
勝利「後で行っていい?」
勇者「ああ。夕方に来てくれ」
短いですが今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
逃亡者「……」
砂漠の女王「すいません」
逃亡者「いや、別にいいよ」
砂漠の女王「……」
逃亡者「薄情だよな」
砂漠の女王「?」
逃亡者「勇者も武人も英雄が死んだのを悲しんでるのに俺だけ悲しんでない」
砂漠の女王「いえ、姫様が攫われたのでは……」
逃亡者「理由にはならないよ」
砂漠の女王「どういう意味ですか?」
逃亡者「悲しむのに理由は無い」
砂漠の女王「……」
逃亡者「どんなに切羽詰まった状況でも悲しい時は悲しいもんだ」
砂漠の女王「……そう、ですか?」
逃亡者「そうだよ」
砂漠の女王「あなたは悲しくないと?」
逃亡者「そうだな。間接的とは言え姫様をあんな風にしちまった国の兵士だ」
砂漠の女王「ですが――――」
逃亡者「仲間だよ。あいつがどう思っていたかは別にしてね」
砂漠の女王「……」
逃亡者「……」
砂漠の女王「ですが、あなたが薄情だとは思いません」
逃亡者「何を根拠に?」
砂漠の女王「薄情な人は自分を薄情だと言いません」
逃亡者「……確かにそうかもね」
砂漠の女王「……」
逃亡者「励ましてくれてありがとう」
砂漠の女王「いえ」
逃亡者「……」
砂漠の女王「相手は谷の国の王ですか?」
逃亡者「多分。そうだろうな」
砂漠の女王「行きますか?」
逃亡者「ああ、一応武人達に話してからだな」
砂漠の女王「……お気を付けて」
逃亡者「大丈夫」
砂漠の女王「……」
逃亡者「多分、格闘家も何かしら関わっていると思います」
砂漠の女王「……私もそう思います」
逃亡者「あいつの手引きで兵士が入ってきた。と考えれば辻褄が合うからな」
砂漠の女王「谷の王の命令でしょうか?」
逃亡者「十分にあり得る話だな」
砂漠の女王「ですが、そうだとするとあなたは裏切られた事に――――」
逃亡者「そんなの人が死ぬのと同じくらい日常茶飯事だよ」
砂漠の女王「……」
逃亡者「それに俺が何回裏切られたと思ってるの?」
砂漠の女王「そうですね」
逃亡者「武人の所に行ってくる」
砂漠の女王「はい」
逃亡者「……」
砂漠の女王「どうしました?」
逃亡者「いや、聞きたいんだけど谷の王に会ったのっていつだ?」
砂漠の女王「つい先日会いましたよ。わざわざ兵を出す事を告げに」
逃亡者「そう」
砂漠の女王「はい」
逃亡者「ありがとう、んじゃまた後で」スタスタ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「……」
コンコン
勇者「勝利か?」
武人「いや、俺だ」
勇者「……」
武人「入っていいか?」
勇者「ああ」
武人「……」ガチャ
勇者「何か用か?」
武人「少し心配でな」
勇者「大丈夫だ……」
武人「姫様が攫われたらしい」
勇者「やっぱりか」
今日はここまでです。
武人「逃亡者は谷の国に行くそうだ」
勇者「そうか」
武人「お前は竜の山に行くのか?」
勇者「……ああ。行く」
武人「……」
勇者「お前はどうする」
武人「俺は守りに徹するつもりだ」
勇者「……」
武人「お前と逃亡者がオフェンスなら俺と狩人はディフェンスだ」
勇者「大丈夫か?」
真理「我等をなめるな。そんな簡単に死ぬわけ無かろう」
武人「ははっ。そう言う事だ」
コンコン
勇者「勝利か?」
勝利「ああ、入っていいか?」
勇者「武人と真理がいるがいいか?」
勝利「いいよ。それに二人に会いに行く手間が省けた」ガチャ
武人「……俺達にも用があったのか?」
勝利「うん。ちょっとした用がね」
勇者「……」
勝利「武人と真理にも聞いてほしい事だ」
真理「……」
武人「ああ」
勝利「知ってると思うけど、あと二日もすればこの体は消える」
武人「ああ、知ってるよ」
勝利「……その前に頼みがあるんだ」
武人「なんだ」
勝利「正義を直すのに俺を使ってほしい」
勇者「……」
真理「……」
武人「……」
勝利「俺と正義は同じ鉄で作られてる。直すのに問題は無いよ」
武人「だが、お前は……」
勝利「どの道消えるんだ。問題は無い――――」
勇者「やめろ」
勝利「……」
勇者「英雄も失って、お前まで――――」
武人「好きにすればいい」
勇者「武人!!」
武人「勝利の要望だ。それに正義をすぐ直せるんだ」
勇者「だが、そうすれば勝利は……」
勝利「だからどの道消えるんだ」
武人「戦力は多い方はいい」
勇者「なら使い手を見つければ――――」
勝利「別にいいよ」
勇者「……」
勝利「それにそんな簡単に見つかると思ってるの?」
勇者「……」
勝利「……」
武人「何でそこまでするのかだけ聞かせてくれ」
勝利「そうだね……正直深い理由は無い」
勇者「なら尚更」
勝利「でも、このまま退場するのは嫌なんだ」
勇者「……」
勝利「それに英雄を殺したのは俺自身だ」
勇者「……」
真理「……償いの為に自分を犠牲にするのか?」
勝利「そうかもね」
真理「それは償いではなく自己満足だぞ」
勝利「知ってる」
真理「……」
勝利「でも自分がそれで満足できるならいいんじゃないの?」
真理「……」
勝利「他人が満足しても自分が満足できなきゃ意味が無い」
真理「お前がそれでいいんならいいさ」
勇者「……」
武人「俺も真理も賛成だ。お前はどうする」
勇者「……」
勝利「お前の為じゃない。ただの自己満足だよ」
勇者「……」
勝利「じゃあ一つ条件を付けていい?」
勇者「なんだ」
勝利「英雄の仇を取ってくれ」
勇者「……」
勝利「これでいい?」
勇者「……」
勇者「……わかった。悪いな、勝利」
勝利「いいよ。別に」
今日はここまでです。
勇者「……鍛冶屋を呼んで来る」ガチャ
勇者「……」スタスタ
武人「本当に、いいんだな」
真理「武人。その言い方はどうかと思うぞ」
武人「分かってる。でも勝利の意思はこれくらいの事で揺るがないし、揺るぐのならやらない方がいいだろう」
真理「……」
勝利「いいんだよ。それが俺の償いだ」
真理「……償いか」
勝利「無駄だって言いたいんだろ? でも――――」
真理「わかってる」
勝利「……だよね」
武人「ありがとうな」
勝利「いいんだよ。けど勝ってね」
武人「ああ」
勝利「……」ニコッ
勇者「……」ガチャ
鍛冶屋「……」
勝利「ほら、使いなよ」
勝利は鍛冶屋に剣を投げる。
鍛冶屋「……本当にいいのか?」
勝利「みんな同じことを言うね」
武人「仲間だからじゃないのか?」
勝利「仲間ね。安っぽい言葉」
武人「知ってる」
勝利「……じゃあそろそろ剣に戻ろうかな」
勇者「……」
武人「……」
勝利「勝ってくれよ」
真理「心得た」
勝利「ふふ……」ニッコリ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
正義「……あれ?」
勝利「おはよう」
正義「私、どうしたんだっけ?」
勝利「魔王の一撃を受けて折れたんだ」
正義「私が?」
勝利「そう」
正義「……」
勝利「思い出せそう?」
正義「……ごめん。無理」
勝利「ははは。仕方ないよ。突然だったし」
正義「もう少し詳しく教えてくれない? あとここは何処?」
勝利「魔王の魔剣を受け止めた時に折れたんだ。そんでここが何処かは俺にも分かんない」
正義「ゆ、勇者は!?」
勝利「無事だよ。でも英雄は死んだ」
正義「え、じゃあ……」
勝利「ああ、俺はもう少ししたら消えるはずだった」
正義「だ、だった?」
勝利「ここは正義の意識の中なのかな?」
正義「え、ど、どういう事?」
勝利「君を直すために勝利を使ったんだ」
正義「……でも、じゃああなたは」
勝利「どうなるんだろうね。消えるのか、溶けるのか、誰にもわからない」
正義「い、いいの?」
勝利「魔王に勝ってくれるって約束したんだ。いいんだよ」
正義「……」
勝利「お前に前会ったのは何十年前だったかな」
正義「な、何の話?」
勝利「覚えてないよね。俺だって曖昧だもん」
正義「……」
勝利「長く生き過ぎるってのも問題だな……」
正義「……」
勝利「もう少ししたら目が覚めると思うよ」
正義「そうね」
勝利「負けるなよ」
正義「分かってる」
勝利「じゃあ……」
正義「ええ」
勝利「……」
正義「……」
正義「ありがとね」
勝利「いいよ」
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
砂漠の女王「お久しぶりですね」
王「元気そうで何よりだ」
砂漠の女王「そちらの国の様子はどうでしょうか」
王「まずまずだな。今の所敵が攻め込んでくる気配もなさそうだ」
女秘書「砂漠の国は大丈夫ですか?」
砂漠の女王「痛み分けと言った所です」
海辺の王「まあ、どの国も大差ないだろう」
砂漠の女王「……」
海辺の王「……なんだ」
砂漠の女王「英雄が戦死しました」
海辺の王「……そうか」
王「英雄はお主の国の兵士だったな」
海辺の王「ああ」
砂漠の女王「遺体は我が国にあります。戦争が終わったら――――」
海辺の王「もし引き取り手がいないなら共同墓地に埋葬してくれ」
砂漠の女王「何を言っているんですか」
海辺の王「それが俺の国の方針だ」
砂漠の女王「……」
王「その話は後にしてくれ。今は戦況の話をしたい」
砂漠の女王「谷の王は」
王「欠席だと手紙が届いておる」
砂漠の女王「……」
王「では話を始めよう」
砂漠の女王「はい」
王「やつらが次に狙うと思われる場所は川の町だ」
海辺の王「根拠は?」
王「海辺の町を落とせば山の国と海辺の国を攻めるのにうってつけだ。それにあそこは魔術師が多い場所だ」
砂漠の女王「武器の次は魔法を、と言う事ですか?」
王「そんな所だな」
海辺の王「あそこには俺の国の兵士がいるが、不安か?」
王「一応こちらの国の兵士も増援として送っておこうと思う」
海辺の王「だがそんな防戦でどうする」
女秘書「我々は守りです。攻めは勇者様達が行う予定ですので」
海辺の王「ほう……そうか」
砂漠の女王「私からもよろしいですか?」
王「なんだ」
砂漠の女王「谷の王が怪しい動きをしている事はご存知ですか?」
海辺の王「まあ、確かにらしくない動きを何度もしているな」
砂漠の女王「はい。それで少し前なのですがお姫様が何者かにさらわれました」
海辺の王「谷の国の前の王の娘か?」
砂漠の女王「はい」
海辺の王「それが谷の王の仕業だと?」
砂漠の女王「はい」
海辺の王「……それは無い」
砂漠の女王「な、何故そう言い切れるのですか」
海辺の王「あの王はそんな事しないぞ。あいつは自分の身が一番かわいいんだ。そんな危険な事はしない」
砂漠の女王「……」
海辺の王「現に逃亡者を捕まえようとしていないだろう」
砂漠の女王「……確かに」
王「だが、万が一という可能性もある」
砂漠の女王「はい。それで逃亡者が谷の城に向かうそうです」
海辺の王「危険な行為だな」
砂漠の女王「もしそれで不穏な事があったのなら、それを何かしらの方法で知らせると言っていました」
海辺の王「それで?」
砂漠の女王「谷の城の近くに兵士を置いておいていただきたい」
王「……無断でか」
砂漠の女王「はい」
王「だが、もし違ったらどうする気だ?」
砂漠の女王「……」
女秘書「そうなった場合、この戦いの後も血が流れる事だって十分にあり得ます」
海辺の王「あの王なら特にな」
砂漠の女王「……」
王「この件はまた後で話そう。今回はこの辺りにしようか」
女秘書「そうですね」
王「女秘書」
女秘書「はい」
王「砂漠の女王について行け」
女秘書「……はい」
砂漠の女王「……」
王「近いうちにもう一度会いに行くと思う」
海辺の王「俺の所にはこないのか?」
王「もちろん行く」
王「そろそろ終盤だ。この辺りでいい加減纏まっておいた方だいいだろう」
女秘書「私は何をすればいいですか?」
王「勇者達に会っておいてくれればいい。あ奴等の策も聞いておいて損は無いだろう」
女秘書「分かりました」
~~~~~~~~~~~~~~~~
正義「……」
勇者「正義」
武人「おはよう」
鍛冶屋「良かった……」
正義「ありがと、鍛冶屋」
鍛冶屋「あ、ああ……」
逃亡者「……良かったね」
狩人「……これで全員ね」
信義「ええ」
真理「そうだな」
正義「私は何日寝てたの?」
勇者「三日だ」
武人「よし、じゃあ始めるか」
正義「……どういう事?」
逃亡者「反撃の始まりだよ」
正義「え?」
武人「魔王達に反撃するんだ」
今日はここまでです。
正義「……」
逃亡者「で、その作戦を決めようって訳」
正義「そ、そう」
逃亡者「とりあえず俺は谷の国に行く」
勇者「俺は竜の山に魔王を倒しに行く」
武人「ああ、知ってる」
狩人「私達はどうしますか?」
武人「他の国の動きを見て決めようと思う」
鍛冶屋「俺達は守るのか?」
武人「ああ、だがお前は魔法使いを止める仕事があるだろう」
鍛冶屋「……」
女秘書「勇者様」コンコン
勇者「お、女秘書!?」
女秘書「お久しぶりです」
勇者「あ、ああ。久しぶり」
武人「どうしたんだ?」
女秘書「一応今後の方針が決まりましたので、その説明を」
武人「他の国は何と?」
女秘書「次に襲われるであろう場所は川の町ですので、そこを重点的に守りを固めていくと言う事になりました」
武人「じゃあ俺と狩人、あと鍛冶屋は川の町で待機だな」
女秘書「勇者様と逃亡者様についての話は聞いています」
勇者「そうか」
女秘書「ご武運を」
勇者「ああ」
鍛冶屋「ま、魔法使いの情報はないのか?」
女秘書「残念ながら……」
武人「どうするんだ?」
鍛冶屋「武人達と一緒に行くよ」
武人「そうか」
逃亡者「これで全員行動決定かな?」
狩人「そうね」
武人「各自出発はいつの予定だ?」
逃亡者「俺は明日かな」
勇者「俺もそれくらいの予定だ」
武人「じゃあ俺達も明日辺りに川の町に行くか」
狩人「ええ」
鍛冶屋「そうだな」
女秘書「頑張りましょう」
勇者「ああ」
武人「そうだ」
鍛冶屋「死ぬなよ」
逃亡者「お前こそ」
正義「……」
信義「こういうのもいいんじゃない? 面白くて」
正義「そうね」
信義「死なないでね」
正義「ええ、あなたこそ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
夜
勇者「……」
鍛冶屋「……」
鍛冶屋「大丈夫か?」
勇者「何が」
鍛冶屋「何がって……深刻そうな顔してるじゃん」
勇者「まあ、魔王と戦う訳だからな」
鍛冶屋「だよな」
勇者「お前だって魔法使いと戦うかもしれないんだろう?」
鍛冶屋「うーん。多分戦う事になると思うな」
勇者「……」
鍛冶屋「だってそうしないと分かんないだろ。あのバカ」
勇者「魔法使いと一番よく居たのはお前だからな。お前が一番よく分かっているだろう?」
鍛冶屋「そうだな」
勇者「……」
鍛冶屋「……」
勇者「よし、風呂行くか」
鍛冶屋「そうだな」
正義「あなた達本当に好きね」
勇者「別にいいだろ」スタスタ
鍛冶屋「ああ」スタスタ
勇者「……」
鍛冶屋「久々だな」
勇者「ああ、そう言えばそうだな」
勇者「……」ガチャ
逃亡者「あ、お前等も風呂入りに来たの?」
勇者「ああ」
鍛冶屋「逃亡者も?」
逃亡者「まあね。お前等も風呂好きだよな」
勇者「まあ、よく入っていたからな」
鍛冶屋「……」
今日はここまでです。
勇者「初めて会ったのも風呂だったしな」ヌギヌギ
逃亡者「ああ、そう言えばそうだったね」ヌギヌギ
鍛冶屋「なんか凄い前の出来事みたいだよ」ヌギヌギ
勇者「……」スタスタ
逃亡者「勇者は魔王と戦うんだろう?」スタスタ
勇者「ああ」
逃亡者「あいつの能力知ってるか?」
勇者「能力?」
鍛冶屋「でも魔王って基本的に何でも出来るんだろ?」
逃亡者「その中でも魔王がよく使う能力があるんだ」
勇者「あの浮いたりするやつか?」
逃亡者「そう、あれあれ」
勇者「風か?」
逃亡者「いや、あれは重力だ」
鍛冶屋「じゃあの浮いてるのって重力を無効化したりしてるの?」
逃亡者「まあ、詳しくは分かんないけど、重力の向きとか力を操作してるんだと思う」
勇者「……覚えておく。ありがとう」
逃亡者「いいっていいって」
逃亡者「で、鍛冶屋は魔法使いを助けに行くんだろ?」
鍛冶屋「……助けに行くって言うか……」
逃亡者「惚れてるんだろ?」
鍛冶屋「ん、まあ」
逃亡者「……若いね」
勇者「お前だって若いだろ」
逃亡者「心はおっさんだよ」
勇者「……俺もそうなのか」
逃亡者「これで童貞はお前だけになるな」
勇者「……」
逃亡者「可哀想に」
勇者「別にどうでもいい」
鍛冶屋「逃亡者の初めては姫様?」
勇者「鍛冶屋。そういう質問はあまり良くないぞ」
逃亡者「……そういう事いきなり聞いてくる?」
鍛冶屋「あ、ゴメン」
逃亡者「その辺はノーコメントで」
鍛冶屋「うん。そうして」
逃亡者「まあ、お前等ならうまくいくと思うよ」
鍛冶屋「根拠は?」
逃亡者「別にないけど、なんとなく?」
鍛冶屋「……」
武人「楽しそうだな。お前等」スタスタ
勇者「うるさかったか?」
武人「いや、別に」
逃亡者「恋バナってやつだよ。一緒にやる?」
武人「……別にいいけど」
勇者「恋人はいるのか?」
武人「意外な所から意外な質問だな」
逃亡者「ガツガツした質問し過ぎだね」
武人「恋人はいない」
鍛冶屋「ふーん。今までは?」
武人「いない」
逃亡者「よかったな、勇者」
勇者「なんだ、その言い方は」
逃亡者「女の友達とかはいないのか?」
武人「……友達かどうかは分かんないけど、一応いる」
勇者「……」
逃亡者「勇者は?」
勇者「正義がいる」
鍛冶屋「なあ、それなんか違わないか?」
勇者「女だろ」
逃亡者「うん。それはなんか違う」
勇者「……」
鍛冶屋「でも意外だな。武人って頭硬そうなイメージあったから女友達なんていないと思ってた」
武人「まあ、女の知り合いなんてその一人だけだからな」
逃亡者「どんな人?」
武人「どんなって……時々飯を作って持って来てくれたりする感じかな」
鍛冶屋「めっちゃいい人やん」
逃亡者「凄くいい人だな」
武人「そ、そうか?」
鍛冶屋「大事にしろよ」
逃亡者「ああ、そう言う人は大事にした方がいい」
武人「あ、ああ……」
逃亡者「勇者。そんなに落ち込むなって」
勇者「別に落ち込んでない」
武人「何の話だ」
勇者「何でもない」
武人「……」
逃亡者「武人も死ねない身だね」
武人「いや、あの子には俺なんかよりもっといい男が現れるさ」
鍛冶屋「別に好きじゃないのか?」
武人「……俺よりもふさわしい奴がいるって事だ」
今日はここまでです。
武人の女友達は事前に出す予定だったんですが、いろいろタイミングが無くて、出せませんでした。
そのうちだします。
鍛冶屋「寂しい事言うなよ」
武人「真実だ」
武人「それに俺はこれから戦うんだぞ。そんな事言えるか」
勇者「生きて帰ってこればいいだろう」
武人「……」
逃亡者「無事帰ってこればいいんだって」
武人「そうかもしれないな」
逃亡者「全員無事で帰って来れるようにね」
武人「……そうだ」
鍛冶屋「……ああ」
勇者「誰も死なずに勝つ。それが目標だな」
武人「戦争が終わったら集まれるといいな」
勇者「ああ」
鍛冶屋「大丈夫だよ」
逃亡者「だといいんだけどね」
武人「出来る限り頑張ればいいんだよ」
勇者「ああ、そうだな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
女湯
正義「思ったより騒いでないわね」
信義「そりゃあ子供じゃないんだからそんなにギャアギャア騒がないでしょ」
正義「いや、あのメンバーなら有り得るんじゃない?」
女秘書「一理あります」
正義「でしょ?」
狩人「戦場に行く前だから気分が高揚しててもおかしくないと思うんだけどね」
信義「それはあんただけよ」
狩人「そうかしら?」
信義「当たり前じゃない。そんなふうになるのは戦闘狂だけよ」
狩人「私が戦闘狂って事かしら?」
信義「そう聞こえなかった?」
正義「あなたも逃亡者に似てきたね」
信義「え?」
正義「そういう言い方とかよく似てる」
信義「……嫌だ嫌だ」
正義「ふふっ」
信義「きっとあんたも知らないうちに勇者に似てきてるんじゃない?」
正義「かもしれないわね」
女秘書「でも、悪い事だとは思いませんよ」
狩人「お互いがお互いを理解してるともとれるんじゃない?」
信義「だといいんだけどね」
正義「……」
信義「何?」
正義「いや、関係無いけど、大きいなと思って」
信義「何が」
正義「え、胸が」
信義「当たり前じゃない。あんたと一緒にしないでよ」
正義「私だって人並みにはあるわよ」
狩人「人並みって言うのは普通にって事?」
正義「た、確かにこのメンバーの中では後ろから数えた方が早いけど……」
女秘書「……」
正義「あ」
信義「最下位ね」
狩人「ええ」
女秘書「貧乳好きだって多くいます。問題ありません」
狩人「ポジティブね」
信義「でも一理なくもないわね」
正義「え?」
信義「意外とそう言う人多いらしいわよ」
正義「でも勇者と鍛冶屋は……」
信義「あの二人はただの巨乳バカでしょ」
正義「ええと、うん。そうね」
信義「あの二人は基準にしちゃ駄目よ」
正義「じゃ、じゃあ逃亡者は?」
信義「あいつも駄目ね」
正義「じゃあ誰?」
狩人「武人とかいいんじゃない? 頭が固そうだけど一番普通じゃない?」
女秘書「ええ、そうですね」
短いですが今日はここまでです。
二日間も休んでしまってすいません。
今日はクリスマスイブ。明日はクリスマスです。
皆さんがいいクリスマスを過ごせるように願っています。
メリークリスマス。
正義「ちょっと聞いてみようかな」
信義「気持ちがられるからやめといた方がいいわよ」
狩人「ええ、それじゃあただの変態だから」
信義「そう言えばあなたのあの視力ってなんなの?」
狩人「単純に目がいいのよ。生まれつきね」
信義「……でも数キロ先も見えるって凄いわよね」
狩人「ええ、だからそれを最大限に行かせるボウガンを使ってるのよ」
信義「あのボウガンはどういう仕組みであんな遠くまでとぶの?」
狩人「単純に魔力で加速させて更に速度維持もしてるだけよ。で、その速度維持の魔力がきれる頃には敵に着弾してるか外れてるかの二択」
正義「そんな事してたんだ」
女秘書「出来なくはないですが、よくそんな事を思いついたものです」
狩人「やっぱりイメージが深ければ深いほどいいのよね」
正義「でも、何がどう違うのかよく分からないんだけど、なんでなの?」
狩人「単純に無駄な部分に魔力を消費しないから。あとイメージがしっかりしていればその分だけ不安が減るでしょ」
狩人「不安は戦闘で命取りになってもおかしくないわよ」
信義「へえ。勉強になった」
正義「覚えておくわ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
川の町
旅人「……来てくれると信じてましたよ」
魔法使い「……」
旅人「なぁに、そう緊張する必要はありませんよ」
魔法使い「私は私のしたい事をするまでです。協力するつもりはありません」
旅人「ええ、構いませんよ」
魔法使い「……」
旅人「そう怖い顔しなくてもいいじゃねぇですか」
魔法使い「別に――――」
旅人「自然と顔が怖くなっちまうのも理解できなくは無いんですがね」
魔法使い「……」
旅人「ひっひっひ。別に嫌みでも何でもないですから気にしなくて結構ですよ」
魔法使い「嫌な性格していますね」
旅人「あっし自身はそう感じた事はねぇんですけどね。へへっ」
魔法使い「……」
旅人「黙らんで下さいよ。楽しい会話はこれからですよ」
魔法使い「あなたと話す気はありません」
旅人「ひどい嫌われ様だ。ひひひひっ」
魔法使い「本当に嫌味な――――」
旅人「いい加減無駄な躊躇いを無くした方がいいと思いますよ」
魔法使い「な……」
旅人「分かってないとでも思いましたかい?」
魔法使い「……」
忍者「遅かったでござるな」
魔法使い「だ、誰ですか!?」
忍者「忍者でござる」
旅人「あっしらの仲間ですよ。気にしねぇで下さい」
魔法使い「……」
忍者「……にしても、どうしてお主みたいなものがこんな所に?」
魔法使い「……」
忍者「いや、気を悪くしたなら謝るでござる」
魔法使い「私はあなた達の仲間ではありません。ただ利害が一致しているから一緒にいるだけです」
忍者「……そうでござるか」
魔法使い「……」
忍者「別に裏切っても構わんでござるよ。お主が武器を向けて来るなら向かいうつだけでござる」
旅人「相変わらず素晴らしい考え方で」
忍者「嫌みでござるか?」
旅人「いえいえ、単純に尊敬の念でごぜぇやす」
魔法使い「……」
旅人「作戦開始は明日だ。よぉく覚えておいてくだせぇ」
魔法使い「ええ」
忍者「彼女はどうなんでござるか?」
旅人「さあ。あっしにはどうでもいい事です」
忍者「雑でござるな」
旅人「あいつはそんなに好きじゃねぇんでね」
忍者「何故でござるか?」
旅人「中途半端な所」
忍者「……まあ、確かにそうでござるな」
旅人「巨人は後で合流するとの事です」
忍者「了解でござる」
旅人「じゃああっしも休ませてもらいますよ」
忍者「そうだな。拙者も寝かせてもらうでござる」
旅人「じゃあ明日」
忍者「また明日」
今日はここまでです。
楽しいクリスマスを過ごせたでしょうか。
メリークリスマス。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
武人の家
武人「……」
真理「呼吸が乱れているぞ」
武人「……」スーハースーハー
真理「そうだ。そのまま心を無にしろ」
武人「……」
真理「……よし」
武人「やっぱり辛いな」
真理「一分が限界か」
武人「一分ね」
真理「それで勝負が決められなければ負けだぞ」
武人「分かってる」
真理「ならいいんだ」
武人「この時ならあれが作っても維持できる」
真理「ああ」
武人「……」
真理「安心しろ。放てるのは一発。よくても二発が限界だ。もちろん間隔が必要だがな」
武人「せっかく修業したのにな」
真理「間隔が必要とはいえこの数週間で二発も放てるようになるのは大したものだ」
武人「……」
真理「自信を持て」
武人「ああ」
コンコン
武人「……どうぞ」
少女「こ、こんばんは」
それは十二歳ほどの少女だった。
髪は綺麗に切りそろえられており、顔は年相応の幼さが残っている。
武人「どうしたんだ?」
少女「え、ええと。お腹空いてるだろうと思って」
武人「ありがとう」
少女「はい。サンドイッチ」
武人「ああ」モグモグ
少女「大丈夫?」
武人「……何が?」
少女「勝てるの?」
武人「……さあね」
少女「ちゃんと帰って来てよ」
武人「出来る限り頑張るよ」
少女「……」
武人「……」
少女「おいしい?」
武人「ん? ああ」
少女「そう。よかった」
武人「……」
少女「何?」
武人「いや、何でも無い」
少女「……?」
武人「ちゃんと帰ってくる。待ってろ」
少女「う、うん」
武人「……」
少女「じゃ、じゃあ帰るね」///
武人「ああ」
少女「……」タタタッ
真理「希望をもたせてどうする」
武人「知ってる」
真理「バカたれが」
武人「……」
真理「もしお前が死んだ時、一番後悔するのはお前自身だぞ」
武人「分かってるよ。でも言っときたかったんだ」
真理「孤独が怖いか?」
武人「怖いね」
真理「……」
武人「……」
真理「寝る」スタスタ
武人「……」
真理「出来る限りは努力してやる」
武人「……」
武人「ありがとう」
真理「勝ってから言え」スタスタ
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次の日
勇者「……じゃあ行ってくる」
逃亡者「俺も」
鍛冶屋「行ってらっしゃい」
武人「死ぬなよ」
狩人「無事に帰って来れるようにね」
勇者「お前等も死ぬなよ」
鍛冶屋「ああ」
武人「安心しろ」
逃亡者「じゃあそろそろ行くかな」
勇者「途中まで一緒に行くか」
逃亡者「最初からそのつもりだよ」
武人「じゃあ」
逃亡者「終わったらここに集合な」
武人「ああ」
狩人「ええ」
鍛冶屋「じゃあまた後で」
勇者「また後で」スタスタ
逃亡者「後でね」スタスタ
武人「俺達もそろそろ行くぞ」
狩人「ええ」
鍛冶屋「そうだな」
狩人「一体何人帰って来れるのかしらね」
武人「目標は全員だ」
狩人「立派な目標ね」
武人「ああ。そう言ってくれるとうれしい」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「死ぬなよ」
逃亡者「お前の方こそな。お前の相手は魔王だろ?」
勇者「ああ」
逃亡者「ならお前の方が危険だよ」
勇者「そうか?」
逃亡者「ああ。それに俺のは私欲の戦いだ。お前みたいに立派な戦いじゃない」
勇者「姫様を助けに行くんだ。立派だよ」
逃亡者「……」
信義「何話してるの?」
勇者「別に何でもない」
信義「……」
勇者「面白い話じゃない」
正義「それはいいけど、そろそろ別行動よ」
勇者「ああ、そうだな」
信義「大丈夫?」
逃亡者「勇者は大丈夫に決まってるだろ」
信義「あんたの事よ」
逃亡者「俺だって大丈夫だよ」
信義「じゃあ、また後で」
正義「ええ」
逃亡者「んじゃ、お互い無事にね」
勇者「ああ。無事帰って来いよ」
勇者「行くぞ、正義」スタスタ
正義「ええ」スタスタ
正義「……これで最後。なのよね」スタスタ
勇者「ああ」スタスタ
正義「負けられないわね」スタスタ
勇者「勝利と英雄の為にもな」スタスタ
正義「ええ」
勇者「あと、お前の為にも」
正義「……え?」
勇者「お前は最初から最後まで俺について来てくれただろ」
正義「え、ええ……」
勇者「お前だけだ」
正義「……」
勇者「お前がいたからここまで来られたんだ」
正義「……」
勇者「俺はお前の為に、正義の為に戦おう」
正義「……ありがとう」
勇者「最後だ。行くぞ」
正義「ええ」
今日はここまでです。
風邪になってしまったので少しの間ですが更新が不定期になります。すいませんがよろしくお願いします。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
川の町
武人「俺は正面。狩人は町の中。鍛冶屋は魔法使いだ」
狩人「了解」
鍛冶屋「分かった」
武人「無茶するなって言いたいが多少なら無茶をしろ」
狩人「ええ。そのつもりよ」
鍛冶屋「俺の場合はそうしなくちゃいけないからな」
武人「死ぬ気で戦うぞ」
狩人「死んだら誰かが骨は拾ってくれるわ」
鍛冶屋「……そうだな」
武人「自分の目的を遂行できるまで戦え。途中で諦めるのは無しだぞ」
鍛冶屋「分かってるよ」
狩人「死ぬな。とは言わないのね」
武人「ここでそれは無しだ」
狩人「まあ、当然ね」
武人「さて、じゃあ俺は行く」
鍛冶屋「頑張って」
狩人「頼むわよ」
武人「ああ」
狩人「あなたの動きが一番重要なんだから」
武人「十分わかってるよ」
武人「鍛冶屋。お前は他の事は気にしなくていいからな」
鍛冶屋「わかった」
狩人「もし、チャンスがあったら手伝ってあげるわ」
鍛冶屋「いいよ。俺一人でやる」
狩人「あくまでアシストよ。そこまでのチャンスは無いと思うから」
鍛冶屋「……」
狩人「まあ、一回きりだけだし気付かないと思うわよ」
武人「狩人。お前もそろそろ持ち場に行っておけ」
狩人「はいはい」
鍛冶屋「……」
狩人「あなたも出来るならアシストしてあげるわ」
武人「出来ればな」
狩人「ふふっ……」
狩人「あの子が悲しむでしょ?」
武人「……」
狩人「あんな小さい子狙ってるなんて、本当に変態ね」
武人「お前には関係無い」
狩人「他人の恋に口を出すのはよくないものね」
武人「……」スタスタ
狩人「……」スタスタ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
兵士たちは原っぱを歩いていた。
部隊の数は総勢500人前後。
いずれも人間の姿をしているが、身体能力だけを見れば人間より数倍強かった。
彼等の目的は一つ。
人類の滅亡。
そのために彼等は戦っていた。
別に彼等が戦うのに深い理由や思想がある訳ではない。
ただ理由は無くても人間にとって魔族とは嫌悪する様に彼等も人類を嫌悪しているのだ。
「止まれ」
兵士達の動きがその声で止まった。
背中には天使の様に羽が生え、両手に刀を構えたその姿は人間と言うより魔族に近く感じた。
「邪魔するなら戦うまでだ」
「ああ、そのつもりだ」
男はにやりと笑いながら両手の刀を構え直した。
兵士達の背筋に悪寒がはしる。
それが殺気だと気付いた時にはすでに彼等のの上半身は宙を舞っていた。
まるで花が咲く様に血が舞い散り、上半身はクルクルと回りながら地面に叩きつけられる。
もちろん斬られたのは数人。
部隊の損失的に見ればまだまだ気にする程度でもない。
だがそれはあくまで時間の問題だろうと兵士達は感じていた。
歴戦だからこそ分かる相手の能力。
歴戦だからこそ分かる圧倒的な力の差。
それは戦力すらそぎ落とすほどだった。
「誰も逃がさない。逃げたいやつだけ逃げろ」
男は笑う。
獣の様に。
悪魔の様に。
しかし、永遠の安らぎを与える天使の様にも。
今回はここまでです。
タイミングがあれば更新していきます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
巨人「……兵士共はどうした」
武人「かかってきたやつは殺した。逃げた奴は知らん」
巨人「……」
武人「お前は一人か」
巨人「少し遅れたんだ」
武人「……他の連中は」
巨人「他の場所で他の連中と戦っている頃だろう」
武人「お前はどうする?」
巨人「……」
武人「……」
巨人「ここで俺を倒すか?」
武人「お前がここで逃げて、この先絶対に攻めて来ないならな」
巨人「……ならお前を殺すだけだ」
武人「ははっ」
巨人「くくく……」
巨人は静かに刀を抜く。
それは刃の部分だけでも武人の身長より大きいものだった。
銀色の刃は血を求めて鈍く光る。
武人は左の手に握った刀を捨て、真理を両手で握った。
背中の翼はまるで崩れるかのように散り散りに消えていく。
その顔には恐怖は無く、しかし殺意もない、冷静そのものだった。
武人の体が跳ぶ。
刀は下段の構え。
切っ先は地面すれすれを進む。
対する巨人は刀を大きく振り上げた冗談の構えで迎え撃つ。
その刹那、地面に当たるか当たらないかを滑空していた切っ先が持ち上がり、綺麗な縦の閃光を描いた。
一閃。
金属音。
両手が痺れ、全身に強烈な衝撃がはしった。
土と靴が擦れ合う音が響く。
巨人の振り下ろした刀を武人が頭の上で受け止める様な形で静止する。
「どうする?」
「何が」
武人は素早く後ろに跳び、そのまま間合いを開けると、刀を構え直した。
「子供騙しだな。二度目は無いぞ」
そんな事は分かっている。
今だってもし見透かされていれば体は真っ二つなっていたのだ。
もう手がバレている二度目などどうなるかは明白だ。
体がピクリと震える。
ただの想像でも恐怖が全身を駆け抜けていくのが分かった。
巨人が刀を肩に担ぐように構えた。
カチャリ、と刀が音を鳴らした。
武人と巨人の目があった。
悪寒に似た恐怖が体を襲う。
膝が笑うのが分かった。
『落ち付け。まだ始まったばっかりだ』
『ああ、そうだな』
魔力を刀に加える。
形をイメージ。
全てを貫くほど鋭いそれを強く思い続ける。
巨人の体がまるで弓矢の様に加速し、武人へと進む。
肩に担いだように構えた刀がもう一度鳴った。
だが武人は刀の柄を両手で持ち、魔力を更に加える。
まるで制水の様に心を落ちつけ、頭の中の邪念を消滅させる。
純銀の様に輝く刀身が黄金の槍先に変わる。
彼が今持っている柄の部分が細く長く変化した。
短いですが今回はここまでです。
彼の刀が黄金の槍へと姿を変える。
いや、それはもはや槍と言うにはあまりに美し過ぎた。
金色に包まれた全体に所々にちりばめられた宝石の装飾。
それは血なまぐさい戦場より美しい王宮の一室にある方がよっぽどそれらしかった。
「全てを貫く。その伝説は健在だ」
黄金の槍は彼の右手でクルクルと回る。
美しく輝くそれはライオンの様な気高さと気品を兼ね備えていた。
槍先を寸前まで近づいた巨人に向ける。
そしてそのままそれを巨人の心臓向けて突き出した。
刀と槍の擦れ合う音が響く。
巨人の刀が武人の左肩を切り裂き、武人の槍が巨人の脇腹を貫く。
ほぼ同時に血が四散し、辺りに飛び散った。
武人の肩に焼ける痛みがはしる。
左手の握力が一瞬無くなる様な感覚。
だが退かない。
痛みに耐え、そのまま槍を深く突き刺した。
「あぐ……」
『武人。退け』
刀が更に傷口を広げる。
赤い血が腕を伝い肘から滴り落ち、地面に赤い花を咲かせた。
心臓が早鐘をうつ。
呼吸が乱れる。
体が急激に冷えていくのがわかった。
苦痛に歪んだ巨人の顔がチラリと見えた。
「退かないのか?」
「人間相手に退いたら、格好がつかないだろ」
歪んだ巨人に歪んだ笑みで答えた。
呻き声を飲み込み、更に歪んだ笑みをもう一度浮かべる。
左手の感覚が無い。
槍はほぼ右手だけで持っているのに等しかった。
巨人が一歩下がり、距離を置く。
その下がり方は一切の余裕の無い、敗残兵の様な隙だらけの下がり方だった。
辛うじて背を向けていないだけで戦意と言うものは無に等しい。
『武人』
そのまま槍を構え直し、一歩前に跳――――。
「が……」
だが武人は両膝を地面につき、そのまま前のめりに倒れそうになった。
槍を地面に突き立て、倒れるのを防ぐ。
そして槍を杖にしながらまるで生まれたての仔馬の様におぼつかない足取りで何とか立ち上がる。
理由は単純。
血の流し過ぎだ。
すでに辺りは血の水溜りが出来ている。
二人分の血だと言ってもこれだけ流れれば危険な域だ。
ましてこんな状況で素早く動けるはずが無いのだ。
「真理。傷を塞いでくれ」
柔らかい風が肩を包む。
左手に握力が戻ってくるのが実感できた。
だが寒気と目まいは消えない。
『大丈夫か?』
「ああ」
『なら集中しろ。来るぞ』
途切れかけた意識を繋ぎ直す。
まるで水中の様に歪んだ視界の中で必死に目を凝らす。
今回はここまでです。
少し自覚していましたが誤字多いですね。特に変換が。
目に余るものじゃ無ければ脳内変換してください。
巨人が前に跳んだ。
その巨体はまるでウサギの様に軽く、そして速かった。
間合いはこちらの方が上だ。
意識を前に集中。
そのまま槍を前に突き出した。
だが金属音は無かった。
そして肉を貫く音もない。
彼が槍を放った瞬間、巨人は視界から消えていた。
素早く辺りを見渡す。
右側にそれはいた。
刀が突き出される。
ヒュン、と言う空を切る音が嫌に耳に残った。
見ているもの全てがスローになる。
視界が白黒へと変化した。
「お前の負けだ」
声が聞こえた。
まだだ。
まだ、終わりではない。
「まだ、終わってない」
想いを言葉に出す。
それは自己暗示にも近い精神強化だ。
精神を右手の槍に集中。
彼の知りうる最強の武器をイメージしそれを形作る。
『落ちついてイメージしろ』
鈍い痛みが脇腹にはしる。
脇腹に刺さっている刀が更に奥深くへと刺さったのだろう。
だがそちらへの意識を無くし、意識を武器の創造だけに費やす。
槍先が三つに割れる。
槍が細く短く変化し投げ槍へと変わった。
その武器の名は雷霆
オリジナルはあらゆる敵を炭化させられる最強の武器だ。
もちろん所詮劣化の更にコピーである彼の雷霆の威力は低い。
だがそれでもただの巨人相手なら十分、それ以上の武器だ。
ほとんどゼロ距離である事も気にせず、雷霆を構える。
狙いすらも定めない。
ただただ素早くそれを放つ事だけを意識する。
「消し飛べ!!」
武人の右手の雷霆が巨人目掛け飛ぶ。
飛んでいくその姿は雷光と言う以外に表現方法が無い。
雷鳴。
閃光。
視界が真っ白に塗り潰され、音が消えた。
ただただ視力と聴力が回復するのを待ち続ける。
視界が回復し、目の前の光景が鮮明になる。
そこには巨人がいた。
右手は無くなり、体は所々焦げ、半死に近いと言ってもおかしくないほどに傷ついていた。
だが彼は意識を保ち、その場に立っていた。
それがどういう意味なのか。
そしてそれが何をもたらすのかを彼は知っていた。
外した。
その事実が理解出来た頃には彼の顔は焦りと恐怖の色が浮かんでいた。
死と言う圧倒的な恐怖がまるで鎖の様に彼の体を縛り付ける。
まるで全身を舐め回される様な寒気が襲った。
「惜し……かったな」
巨人が笑う。
嬉しそうに。
苦しそうに。
今日はここまでです。
逃げようと足を動かすが動かない。
いや、動けない。
今の一撃は文字通り最終兵器。
全ての力を込めたその攻撃は後の事など考えてはくれはしない。
そして今の彼の右手に武器は握られていなかった。
今更になって狙いを定めなかった自分を恨む。
だがそんな事をどんなに考えても意味は無かった。
「死ね」
巨人が左手で刀を振り上げる。
ゴウッ、と到底刀とは思えない重たい音が響き渡った。
死が目の前に迫るのが分かった。
思考すら出来なくなっていくのを全身で感じる。
まるで魂が抜けていくかのように精神と身体が分離していく様な感覚。
『武人!! 何を捨ててもいい!! 命だけは守れ!!』
それは雑音だらけの武人の耳に嫌にやけに響き渡った。
意識が薄れる。
それが血の流し過ぎなのか、それとも死の恐怖のせいなのかは今の彼では分からなかった。
『意識を引き戻せ。思い出せ』
……ノイズ。
『武人。しっかりしろ。』
やけにクリアに聞こえていた声も雑音へと変わる。
『お前が死ねば誰が悲しむか忘れたのか?』
刀が振り下ろされる。
それは無慈悲に武人の頭目掛け振り下ろされた。
血が四散。
ただでさえ血で汚れた地面に更に真新しい赤が上塗りされた。
「死ねないよな……そりゃ死ねないよ」
右手は血に濡れ、もはや原形は保っていなかった。
魔力で補強したとはいえ所詮はごく普通の人間が操れる限界量、とてもじゃないがあの一撃は防御しきれない。
だが右手は無くなっても生きていれば十分だ。
後ろに跳び、距離を置く。
ふらつく足でのそれは跳ぶと言うより倒れるに近かった。
両膝を地面につき、それでもふらつく。
一瞬でも気を抜けば途切れてしまいそうな意識を繋ぎ止める。
呼吸は調える事が出来ないほどに乱れていた。
だが戦意と生きる意志だけは完全に回復していた。
「武器も無いのに何が出来る」
「さあな」
口端から血が流れ出る。
きっと臓器に傷が付いたのだろう。
巨人と武人が向きあう。
お互いに満身創痍ながらも戦意だけは一切失っていなかった。
武人が左手を構え巨人が刀を構えた。
戦況は圧倒的に不利だ。
だが勝機が完全に無いわけではない。
武人が前に跳ぶ。
自分の体重すら耐えられず、呼吸が苦しくなる。
巨人の刀が振り抜かれる。
ザシュッ、という軽い音が響き、武人の右手が宙に舞った。
だが武人は止まることなく巨人の横を通り抜け、真理を拾う。
「いらない右手なんて捨てた方がいいだろう?」
武人は笑う。
自虐にも似た笑みがこぼれる。
巨人が跳んだ。
左手で巨大な刀を軽々と構え、大きく振りかぶる。
『傷を塞ぐぞ』
「いや、それより先に巨人を倒す」
魔力を集中しイメージを固める。
作り上げるものはさっきと同じく、最強の武器。
刀が槍へと変化し、槍先が三つ又に割れる。
チャンスは一瞬。
外せば死ぬ。
ならば外さなければいいだけの事だ。
お互いの距離は一メートル
巨人の刀の間合いだった。
お互いに目が合う。
巨人の刀が振られるのと武人の左手の槍が放たれたのはほぼ同時だった。
今日はここまでです。
視界が白く染まる。
強烈な雷鳴が鳴り響き、聴覚が機能しなくなる。
「げほっ……!!」
そのまま地面に膝をつき吐血する。
右肩の辺りがやけに生温かかった。
勝利に繋がったもの。
それは技量でも勝利への執念でもなく体格の差だった。
自分よりも大きい敵を狙うのか自分よりも小さい敵を狙うのか。
それが判断の差を生ませ、そしてそれは攻撃までのほんの僅かな時間を生んだ。
それは一瞬。
だかそれは勝敗を分けたのだ。
「やった……のか?」
『ああ、傷を塞ぐぞ』
「……頼む」
全身を温かい空気が包む。
それは何処か安心感を与える優しい空気だ。
「巨人は……」
そこには何も無い。
死体も血も無い。
炭化した何かがあるだけだった。
『武人。右手も一緒に炭化してしまった。我は繋げる事は生やす事は出来ないんだ』
「いいよ。別に」
彼はそのまま地面に仰向けに倒れた。
そしてそのまま目を閉じ、つかの間の休息を取り始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~
魔法使い「……」スタスタ
鍛冶屋「止まれ」
魔法使い「……来るなって言いませんでした?」
鍛冶屋「覚えてないな」
魔法使い「……」
鍛冶屋「今から何する気だ」
魔法使い「関係無いです」
鍛冶屋「姉と母親でも呪うのか?」
魔法使い「……それがどうかしたんですか」
鍛冶屋「……」
魔法使い「……」
鍛冶屋「もうやめろよ」
魔法使い「な、何を……」
鍛冶屋「くだらないって言ってんだよ」
魔法使い「な、何が分かるんですか!?」
鍛冶屋「お前は何がしたいんだよ」
魔法使い「……」
鍛冶屋「使命でも復讐でも宿命でもない。ただ単純に気にいらないから呪うのか?」
魔法使い「……」
鍛冶屋「理由もないのにそんな事するのはくだらないって言ってんだよ」
魔法使い「ふ、復讐です」
鍛冶屋「何に対するだよ」
魔法使い「……」
鍛冶屋「そんな無意味な事やめとけ。まだ復讐に燃えてるバカの方が有意義だ」
今日はここまでです。
>>410の真理のセリフは「つなげる事は出来ても生やす事は出来ないんだ」です。すいません
魔法使い「あはは……」
鍛冶屋「?」
魔法使い「やっぱり鍛冶屋さんは何にも分かってない」
鍛冶屋「どういう意味だよ」
魔法使い「鍛冶屋さんは私の気持ちなんて分かってない!!」
鍛冶屋「……」
魔法使い「退いて下さい。殺しますよ」
鍛冶屋「相手になってやるよ」
魔法使い「……本気です」
鍛冶屋「俺だって本気だよ」
魔法使い「殺しますよ」
鍛冶屋「勝手にしろ」
魔法使いが右手に持った杖を捨て、その場で攻撃の態勢に入る。
それが彼と彼女の戦いの合図だった。
言葉はもう無い。
それほどにお互いがお互いの事を嫌と言うほど理解していた。
かつて仲間だったからこそ分かる事。
敵になってしまったからこそ分かる事。
その両方が分かってしまうからこそ必要以上に二人は繋がっていた。
鍛冶屋が剣を抜く。
それは正真正銘、彼がこの為だけに作った剣だ。
鍛冶屋の体が先に動く。
もしその相手が武人や勇者だったならその一瞬で勝負はついていただろう。
多少の向上はあるものの鍛冶屋の戦闘能力など底が知れていた。
だが魔法使いも鍛冶屋と同じく戦士では無い。
だからこそそのほんの僅かな向上が僅かながらの勝算を生むのだ。
魔法使いが体を翻し鍛冶屋の一撃を避ける。
そしてそのまま反撃に移るが、その時には鍛冶屋は後ろに跳んでいた。
お互いの間合いは一メートル。
半歩前に出れば鍛冶屋の間合いだが、一歩進めば魔法使いの間合いでもある。
お互いに動けない。
そんな間合いだ。
「な――――じゃ――――」
魔法使いの口が僅かに動いていた。
だが漏れる言葉はあっという間に消え去り、ほとんど聞きとれなかった。
しかし鍛冶屋は理解する。
それは予想でも想定でもなくただ単純に彼女の心を理解していたからこそ彼女の言いたい事が理解できるのだった。
「まだ間に合う」
彼の言葉は彼女にとって禁句だった。
だがそれを知った上で彼はその言葉を発する。
「何言ってるんですか。私はもう一人殺してしまっているんです!!」
鍛冶屋は何も言わない。
ただ彼女の方をじっと見ていた。
「なら一人殺しても二人殺しても――――」
「それは違う」
「な、何が違うんですか!!」
「最初の殺しは防衛だ。理由がある。でも今のお前の殺しには理由が無い」
「……」
「理由の無い殺しは三流以下だ」
それは彼が自分の周りにいる者達を見て行き着いた答えだった。
勇者も英雄も逃亡者も武人も皆理由は違っても全員敵と戦う理由を。
敵を殺すための理由をもっていた。
勇者は自分の正義と言う大きな理由が他人を殺すだけの理由になるのかで悩んでいた。
皆理由をもって戦い殺し合っている。
理由もなく他人を殺すものは三流以下の屑。
それが彼が導き出した答えだった。
今日はここまでです。
「まだ間に合う。ここでやめろ」
「鍛冶屋さんは……」
彼女の体がほんの僅かに動く。
「鍛冶屋さんに何が分かるんですか!!」
跳躍。
そのまま鍛冶屋の脇腹に一撃を入れた。
逃げる暇もなく彼の体は後ろに吹き飛び、毛糸の玉の様に地面を転がっていった。
「次は呪いをかけます。消えて下さい」
鍛冶屋は剣を構え直し、息を吐いた。
その目には戦意とも違う闘志が灯っていた。
一歩前に進み、剣を大きく振りかぶった。
魔法使いが横の跳び回避。
そのまま右手を構える。
しかし鍛冶屋の剣は振り下ろされなかった。
鍛冶屋も同じように右に跳び、魔法使いの真正面に立つ。
お互いの状況が全く同じなら鍛冶屋はこの瞬間敗北が決まっていただろう。
同じ状況なら魔法使いが彼の一撃をすんなりと凌ぎ、呪いをかけていたはずだ。
しかし彼の手には剣。
対する彼女は素手、しかも防具は布の服とローブだけだった。
彼女にとっての防御とは回避。
それ以外の回答は無いのだ。
鍛冶屋の剣が振り下ろされる。
ヒュン、と言う風を切る音が響いた。
地面に少量の血が飛び散る。
血が剣をゆっくりと伝っていった。
魔法使いが後ろに跳び間合いを取る。
お互いに構えたまま静かに向かい合った。
「……分かりました。あなたが本気なら私も……」
彼は答えない。
ただ無言で剣を構え、無言で前に跳んだ。
切っ先を魔法使いの方へ向け、構えを突きの形へ変化させる。
一閃。
銀色の一撃が放たれる。
だが彼女はそれを読んでいたかのようにほとんど体を動かす事無く回避した。
鍛冶屋と魔法使いの体が接近する。
その距離は顔がぶつかり合いそうなほどに。
「しま――――」
鍛冶屋の体が後ろに跳ぼうとするがそれはあまりに遅かった。
魔法使いの右手が鍛冶屋の首を掴む。
その細い指に力がこもる。
メキリ。
メキリ。
嫌な音が聞こえた。
息が苦しい。
呼吸が出来ない。
だが今はそれどころでは無かった。
彼女の口が僅かに動く。
朗読する様に、唄う様に呪いを唱える。
「がっ……はっ!?」
言葉にならない言葉が響く。
ゾクリ、と背筋が凍る。
今日はここまでです。
がむしゃらに暴れて彼女の右手を振り払い、そのまま無様に後ろに転がった。
息を整えようとするが戻らない。
体がビクビクと震えていた。
「体の回復能力を下げました」
呼吸の乱れは治らない。
「気にするかよ。さっさと来い」
息が苦しい。
肺が焼けつく様に熱い。
だがそんな事で止まってはいられない。
前を見続ける。
ただ、それだけだ。
頭の中を空っぽにし、相手の動きだけに精神を集中する。
回避は考えず、攻めの事を考え、上段の構えで待機する。
静寂。
無音。
それは肌を刺す様な緊張感に包まれた嫌な時間。
精神を削り取る様な苦痛の時間。
ギリギリと精神が音を立てて崩れていく。
肌を刺す様な緊張感が心の平静を壊していく。
その緊張感が呼吸の乱れを助長させる。
「……言っておきますが、カウンターで一撃を入れられるなんて考えないで下さいね」
「……お前こそ、そんな事言えば俺が攻めてくれるなんて思ってんじゃないだろうな」
また無音。
お互いに時間が止まっているかのようにピクリとも動かない。
その静寂を破ったのは魔法使いだった。
大きく一歩踏み込み、そのまま大きく前に跳ぶ。
右手を引き、右ストレートの構えをした。
鍛冶屋の体が反応した時にはすでに彼女は目の前で右手を大きく振り上げていた。
彼の剣がそのまま振り下ろされる。
それに対応する様に魔法使いが右の避けた。
「が……」
声が響く。
それは唸る様な喘ぐ様な声。
「なめんなよ。俺は剣士じゃねえんだ。剣だけが全部じゃねえ」
荒い息で鍛冶屋が言った。
目の前で体を僅かにくの時に曲げた魔法使いが睨んでいた。
何を偉そうに。
そう聞こえてきそうな視線だ。
鍛冶屋が剣を握る。
追撃はしない。
それをして相手を倒す事が出来ない事を彼は知っていた。
己の強さを相手の強さを、彼は知っていた。
魔法使いが立ち上がる。
右拳を握りしめ、怒りとも悲しみとも何とも言えない顔で睨みつけてくる。
だか彼は静かにその場で剣を構えた。
僅かに一歩だけ下がり、間合いを取り直した。
自分が得意な戦い方ではなく、相手が苦手な戦い方を考える。
彼女の戦いは超近距離戦。
ならば間合いを取り彼女の攻撃を迎撃する戦い方が最も効率的だ。
またお互いに動きを止め、相手の出かたを窺う。
魔法使いはただひたすらに攻めるタイミングを探し、鍛冶屋は彼女がとんで来るのを待ち続ける。
彼女が動いたのは鍛冶屋が僅かに足を動かそうとした、その一瞬だった。
タンッ、と軽やかな音が響く。
だがそんな軽い音とは裏腹に魔法使いの体はまるでバネが伸びる様に恐ろしい速度で跳んで来る。
「しま―――」
そんな事言っている暇は無い。
そう分かっているはずなのにそんな言葉が喉から出ていた。
だがそんな声も彼女の攻撃でかき消される。
今日はここまでです。
お詫び
今までもときどきそうなのだったんですが最近は特にいろいろな事が立て込んでいてssにほとんど時間が割けない状態です。
なので更新がかなり不安定になると思います。申し訳ありません。
メキリと骨が軋む音がした。
肺から酸素が吐き出される。
体が後ろに吹き飛ぶような感覚。
だがそんな状況でも彼女の呪いの詠唱は気味が悪いほど鮮明に聞こえた。
体が吹き飛ぶ。
音を立てながら体が地面を転がった。
足に力を入れるが立ち上がれない。
どう頑張っても芋虫のように地面を這いずるだけだった。
「痛みは感じさせません。殺しもしません。寝てもらうだけです」
彼女の言葉は何故か温かみを帯びていた。
きっとそれは今の彼女が出来る最大の優しさなのかもしれない。
右手の握力は死んでいる。
多分さっきの呪いは握力を失わせるものだったんだろう。
近づいてくる彼女の右手を振り払う。
握力が無いだけで振る事は出来る。
「ふざけんなよ」
低い声。
それは今までとは比べ物にならない位怒りに満ちていた。
倒れた状態のはずなのにその目は魔法使いを畏怖させた。
全身を恐怖が舐め回した。
「殺さない? どんだけ中途半端なんだよ。テメェ」
魔法使いは答えない。
「お前ここに親を殺しに来たんだろ」
「……はい」
「外道なら外道を通せよ。中途半端な事してんじゃねえ!!」
魔法使いが鍛冶屋を睨みつける。
その目もまた怒りに満ちていた。
「何も知らない癖に偉そうに。そんなに殺してほしいなら殺してあげますよ!!」
鍛冶屋と魔法使いが睨み合う。
お互いに全く視線をそらさなかった。
鍛冶屋はふらつきながらも立ち上がると一歩後ろに下がる。
左手に剣を持ち、荒い息づかいだ。
魔法使いが跳ぶ。
それに対応する様に鍛冶屋も前に跳んだ。
「うおぉぉぉ!!」
自然と声が漏れた。
獣に似た咆哮が辺りにこだまする。
左手に持った剣を振りかぶる。
不安定ながらもしっかりと握りしめる。
魔法使いも驚きながら右手を構える。
空を切る音。
しかしその先に肉の切れる音と血飛沫は無い。
次の瞬間、鍛冶屋の脇腹に想像を絶する痛みがはしっていた。
音が消え、色が褪せる。
視界は真っ白に聞こえるのはノイズだけになっていく。
無の世界。
それがその一瞬後の彼を包み込んでいた。
今日はここまでです。
話をしましょう。
昔話を。
私の昔話を。
それは面白くもないし、大したオチもない話です。
それでもいいのなら最後まで聞いて下さい。
……いいですか?
私の家は代々女の子が生まれると魔法使いのする家系でした。
ですから私の家では女の人が圧倒的な権力を持っていました。
私の父も婿養子です。
私の母親は今でも魔法の教師をしています。
私の姉も一流の魔法使いとして仕事をしています。
我が家の女性と魔法は切っても切れない縁で結ばれていました。
縁と言えば聞こえはいいかもしれませんが、別の言い方をすれば呪いの様なものでもあります。
我が家に女として生まれたのなら魔法使いの、しかも一流の魔法使いにならなければいけない。
そんな呪いをかけられるのです。
私もその一人でした。
私は三歳の頃から魔法の勉強を始めました。
もちろん実技的な事ではなく、簡単な知識です。
母と二人で簡単な魔法の仕組みを学びました。
母は私を褒めてくれました。
よく出来たと。
よく覚えたと。
私の頭を撫でてくれました。
今思うと、母が私に優しかったのはあの時期だけでした。
六歳になると本格的に実技の勉強を始めました。
まあ小さな火の玉を作る程度の簡単な魔法です。
でも、私は出来なかった。
私は小さな火の玉一つ作れなかった。
母は怒りませんでした。
ただゆっくり練習すればいい。
と言って私の頭を撫でてくれました。
母の想いに応えようと私は頑張りました。
でも駄目だった。
何回やっても何回やっても私の小さな手のひらには決して火の玉が生まれなかった。
優しかった母もだんだん怒るようになっていった。
頭を殴るようになっていった。
私は母さんに褒めてもらえるように必死に勉強もした。
家の手伝いもした。
料理も作った。
魔法に必要の無い知識も手当たり次第に勉強した。
でも、駄目だった。
母さんはもう、私の事は褒めてくれなかった。
魔法の使えない娘はいらない。
母さんは私にそう吐き捨てた。
悲しかった。
私は一体何なの?
母さんにとって私はなんだったの?
優しかった姉さんも私に辛く当たるようになっていった。
仕方ない。
私は出来そこないだから。
火の玉一つ作れないがらくただから。
それでも私は必死に勉強したの。
必死に。
どんなに小さな魔法でも使える様に、必死に勉強したの。
小さい子に混じって、魔法の学校にも通った。
周りの人に馬鹿にされながらも、毎日練習もした。
それは母さんと姉さんに認めてもらうため。
あの人は無駄だって私の事を笑った。
ある人は可哀想だって哀れみの目を向けた。
でも頑張れたのは母さんと姉さんが優しかったあの頃に戻りたかったからなんだよ。
勇者さんと旅をしたのももしかしたら魔法が使えるようになれるんじゃないかって思ったから。
世界を回れば答えがあるんじゃないかって思ったから。
私は呪いしか使えない。
それを聞いた時、私は母さん達にやっと認められるって、やっと優しくもらえるって思ったの。
魔法は付かなくても呪いは使える。
呪いが使えるなら昔のあの時みたいに優しく撫でてくれるって思ったの。
……でもそんな事無かった。
現実は私は呪い師。
最低の魔法を使う魔法使い。
屑中の屑。
認めてもらえる訳、無かったんだ……。
ならこんな世界はいらない。
家族の優しさなんていらない。
私はもう誰の優しさももらえない。
でも他の誰かは優しさをもらう事が出来る。
そんな事不公平!!
そんなの平等じゃない!!
なら他の人から優しさを奪えばいい。
そうすれば同じでしょ?
だから私は魔王の側に付いた。
ただそれだけの事。
鍛冶屋さんに言われたとおり私は中途半端だし、理由だって不純過ぎる。
でも鍛冶屋さん。
あなたには家族もいる。
厳しいながらも優しい父親もいる。
そんなあなたに私の気持ちがわかるの!?
きっとあなたは鍛冶師として人々に助けられ、人々を助けて生きていく。
でも私はそんなの無理なの!!
そんなふうには生きられない!!
今日はここまでです。
私は他人を助ける事はあっても他人から助けられる事は無い!!
そんな気持ちがわかる!?
……分からないよね。
それでいい。
鍛冶屋さんは私とは違う世界の人間だからそれでいいの。
結局私はあなたを殺せなかった。
中途半端だって思うかもしれない。
臆病者だって思うかもしれない。
でも私には無理だった。
出来なかった。
あなたの事が好きだったから。
あなたから優しさを貰っちゃったから。
殺せなかった。
ありがとう。
優しくしてくれて。
私を仲間だと思ってくれて。
気遣ってくれて。
叱ってくれて。
そしてさようなら
もう会う事は無い。
きっと。
いえ、絶対に。
覚えておいてほしいなんて言わない。
嫌いにならないでほしいなんて言わない。
私は何も望まない。
嬉しかった。
楽しかった。
今まで本当にありがとう。
土埃の匂い。
鉄錆の匂い。
そして血の匂い。
かちゃり、と音をたてボウガンが狙いを定めた。
その刹那、ヒュン、と言う音が鳴り一人の兵士の頭に矢が刺さる。
心の奥底を揺さ振られる様な恍惚な快感。
それは背筋をゾクゾクとさせた。
「……出てきたらどうかしら?」
「さすがでござる」
影の奥から人影が現れる。
それは全身黒装束の男だった。
「あなたはどこの流派?」
「……すまぬが破門された身ゆえ、流派は明かせぬでござる」
忍者が答える。
その声は何処か物悲しくもあった。
「あなたは、敵ね」
「お主がやる気が無いなら敵にはならないでござるよ」
「……帰ってくれるなら、手は出さないわ」
不敵な笑みで互いに見合う。
悪魔の様な笑顔。
残忍で狡猾な、ハイエナの様な目だ。
「殺すわね」
「上等でござる」
狩人は真後ろに、忍者は右斜め後ろへと跳んだ。
互いに距離が大きく開く。
忍者がクナイを構える。
それに対応する様に狩人もボウガンを構えた。
今日はここまでです。
キンッ、と音が鳴る。
それと同時に数本のクナイと一本の矢が宙を舞い、地面に落ちた。
互いにさっきまで居た場所には居ない。
狩人は更に後ろに跳び距離を開け、忍者は地面を蹴り、距離を詰めに行っていた。
間合いは四メートル弱。
クナイが鈍く光る。
ボウガンが忍者の眉間を捉える。
数秒後の光景はさっきとほぼ同じだった
無数のクナイと一本の矢が地面に落ちる。
「さすがでござる」
「まさか矢を落としてくるとわね」
互いにニヤリと笑う。
相手の攻撃を全て叩き落としてかつ敵に一撃を加える。
彼も彼女もそう考えて行動していた。
結果は相殺。
実力はほぼ同じだった。
「ははは。いい腕でござる」
楽しそうな声。
まるで跳びはねて遊ぶ子供の様な口調だった。
狩人はにこやかに笑う。
右手にはボウガン。
左手は二本の矢を持っていた。
忍者が背中の刀を抜く。
銀色の光が鈍く輝いた。
それは遠距離戦を捨てると言う意味であり、このまま距離を詰めると言う意味であった。
空を切る音。
銀の一閃。
その瞬間、一本の矢は真っ二つに叩き斬られていた。
「さすがね。あなた」
「ありがとうでござる」
皮肉でも自虐でもない、正真正銘の讃えあい。
互いに相手の力を理解したからこそ出来る行為だ。
互いの間合いは一メートル半程度。
あとほんの少し近づけば、十分に忍者の間合いだ。
忍者の刀が大きく振られる。
その一撃は忍者の前の地面を扇状に大きく削る。
「いい技ね。後ろに跳んで無かったらやられてたわ」
「さすがに、ボウガン使いにこの攻撃は失敗でござったか」
その言葉に狩人はにこやかに笑う。
口端のつり上がったその顔は見た者に恐怖を与えかねない。
「でも、どちらかって言うと大勢の敵を倒すための技よね」
「……癖、でござるよ」
彼が笑う。
自嘲の様な、悲しそうな笑顔。
忍者が刀を構え直した。
彼の足がもう一度地面を大きく蹴り、前に跳ぶ。
距離が詰まる。
音も無く、僅かに揺れた。
「残念だけど、私の方が速い」
ヒュンッ、と言う鋭い音。
それは矢の音。
だがその音が聞こえた頃にはすでに矢は着弾する。
飛び散る血。
白い矢は忍者の右腕を貫いていた。
「くっ……」
「忍者は忍者らしく忍んでいればいのよ。真剣勝負なんてもってのほか」
忍者は無言だ。
静かに右手に突き刺さった矢を無理矢理引っこ抜くと刀を構える。
「拙者は忍者でござる。しかし、忍者にはなれないんでござる」
「破門の理由はそれ?」
ゴウッ!! と刀が空を切る。
鋭い一撃は狩人の後ろのあった建物までも縦に真っ二つに叩き割った。
狩人の顔に喜びの色が表れる。
それは恐ろしく歪で、他人に恐怖を与える笑みだ。
僅かに声が漏れる。
くく、と言う嘲笑めいた声が忍者の耳にも届いた。
今日はここまでです。
「忍術が使えない訳では、ないでござる!!」
忍者の口が僅かに動く。
それは聞き慣れない言葉。
それを聞いた瞬間。一瞬ではあるが狩人の背中にゾワリとした感覚がはしった。
恐怖ではない。
動揺でもない。
ただただ動物的な何かが危険を察知している様な気がした。
忍者の顔がゆっくりと消えていく。
まるで溶ける様に、静かに姿が無くなっていく。
「姿を消した?」
「忍者の真骨頂でござる」
その言葉はひどく滑稽に聞こえた。
忍者ですらなれない男が忍者を語る。
それは恐ろしい矛盾だと彼女は思う。
「やっぱり、愚かね」
「拙者も分かっているでござるよ」
破門の話をしている時と同じ、自嘲気味の声が響いた。
声は建物に反響する。
「確かにこれじゃあ見えないわね」
地面に落ちた小石を拾いながら呟く。
しかしその言葉とは裏腹にほとんど動揺していなかった。
彼女の右手が動く。
右手に魔力を集中。
そのまま思い切り投擲する。
「何処に投げているのでござるか?」
「約束は守ったわよ」
微かに足音が響く。
だがそれも周りの雑音によってあっという間に消え去ってしまう。
……はずだった。
彼女が左手に持ったボウガンが僅かに動く。
それは確かに忍者の方を向いていた。
「な……」
彼女の目は瞑られていた。
「見えないのに視力に頼ろうとするから失敗する。なら視力は捨てればいい」
彼女の声は忍者の頭に嫌と言うほど響き渡る。
そう見えないなら見ようとしなければいい。
視覚以外の五感を使い。
敵の位置を探ればいい。
見えないのに目に頼ろうとするから、失敗が生まれるのだ。
一瞬。
忍者が気付くよりも先に、彼の体は目に見えない衝撃によって吹き飛ばされていた。
「痛っ……」
鈍い痛み。
こめかみ辺りに焼ける様な痛みがはしった。
顔を横に向けると小石が転がっている。
どうやらそれがこめかみに当たった様だった。
……あれ?
頭の中の記憶を探る。
ミキサーで掻き混ぜられたようにぐちゃぐちゃになった記憶の残骸を拾い集め大まかな記憶を形成していく。
そうだ、魔法使いに……。
「痛っ!!」
何故かは分からないが聞いた事も無い記憶が頭の中に現れる。
それはまるで棘の様に覗こうとすると痛みを運生んだ。
俺の記憶じゃない。
こんな事、あいつから聞いた事無い。
じゃあなんで俺が……。
今日はここまでです。
土曜日まで用事で出かけるので更新できません。
申し訳ないです。
痛みが酷くなる。
何時しか痛みは頭を内側では殴られているかのようになっていた。
これは呪いだ。
彼女が最後の言葉を残すためにこんな痛みを伴う様な記憶を俺の頭に刻み込んだのだ。
嫌な記憶だ。
それが正直な感想。
あいつは同情してほしいのか、そうじゃ無ければ慰めてほしいのか。
どちらにしろ不幸自慢の延長線上のものだ。
くだらない。
結局あいつは忘れてくれなんて言っておいて、俺の中に記憶を置いて行った。
「バカ野郎が……」
怒りと苛立ちで胃がキリキリと痛んだ。
怒りに身を任せ、立ち上がると、足を引きずりながらも前へと進む。
行先は……分かるだろう?
自分自身に問いかける。
答えは知っていた。
いや、俺の中に最初からあった。
分かる。
あいつが何処にいるのか。
何をしようとしているのか。
そして、どんな心境なのかも。
「魔法使い」
彼女はそこにいた。
ただぼんやりと燃えている家を眺めていた。
……可哀想な顔。
可哀想に見える顔か。
「もう、遅いですよ」
彼女の顔がこちらを向く。
その顔は正真正銘、苦しそうな顔だった。
「どうして、起きてきたんですか。いえ、起きられたんですか」
「さあ?」
「なんで……」
「お互い、細かい面倒な話は抜きにしようぜ。言いたい事だけ言わせてもらう」
自分でも驚くくらい冷めた口ぶりだ。
内心は煮えたぎった鍋の様に沸騰しているのに。
「好きでしたって何だよ。なんで過去形なんだよ!! ふざけんじゃねえぞ!!」
心の底にたまった怒りを吐きだす。
奥歯が擦れ合ってギリギリとなった。
「忘れて下さいって言ったじゃないですか!!」
「じゃあなんでわざわざ俺の中に記憶を植え付けたんだよ!!」
彼女が黙る。
……やっぱりか。
「こ、来ないで下さい!! 私はもう――――」
うるさい。
「もう、戻れないんです!!」
嘘付け。
臆病者の癖に。
中途半端な癖に。
結局家に火をつけただけで相手を見て殺せないんだろ。
「だから――――」
「うるせえ!! 中途半端野郎が!!」
魔法使いの目に怒りの炎が灯る。
その目は真っ直ぐに俺を睨んでいた。
きっと今の俺も睨んでいるんだろう。
一歩踏み込み、そのまま跳躍。
そのまま魔法使いに殴りかかる。
衝撃。
右手がビリビリと痺れた。
「もう一回勝負だ」
腰にさした刀を抜く。
静かに、しかし、狂った様な怒りを込めて。
今日はここまでです。
僅かに口元を釣り上げ笑う。
魔法使いの顔は固まったまま動かない。
「来いよ。半端野郎」
魔法使いの目に殺意が宿る。
まるで真っ赤な血の様な、鮮やかな殺意が。
そう。
それでいい。
後は、俺があいつに勝つだけだ。
魔法使いが跳躍。
だが真っ直ぐでは無く、小刻みに地面を蹴り軌道を変化させる。
その動きを目で追い、迎撃態勢を整える。
剣を腰のあたりで構え、横に薙ぎ払う態勢をとる。
ギリギリまで敵を引きつける。
魔法使いとの間合いは一メートルの半分も無いだろう。
だがまだ早い。
焦ればかわされる。
その事はすでに分かっている。
だから、同じ失敗は犯さない。
彼女が間合いに入る。
回避も不可能。
防御も間に合うかどうか怪しい。
だが、それは彼女も同じ事だ。
肉を叩く鈍い音が響いた。
「ぐ……」
「う……」
音は二つ。
呻き声も二つ。
脇腹に鋭い痛みがはしった。
剣を持っていない左手の拳が痺れる。
剣も使えた。
でも、使わなかった。
「何のつもりですか!!」
……何のつもり?
決まってるだろ。
彼女が前に跳ぶ。
一瞬にして間合いが詰められ、彼女の右足が振り抜かれる。
両腕に強烈な痛みと痺れがはしった。
その痺れは指先まではしり、剣を落としそうになった。
「言っただろ。まだ戻れるって」
俺はお前を殺しに来たんじゃない。
お前に殺意を向けに来たんじゃない。
俺はお前を救いに来たんだ。
まだ戻れるって事を教えに来たんだ。
「何を、何を偉そうに……!!」
結局俺もお前と同じでお前を忘れられなかったんだ。
お前を殺せなかったんだ。
互いの間合いはゼロ。
魔法使いの右足を俺の両腕が止めている状態で静止している。
防御も回避も出来ない状態で俺達は向かい合い、話している。
「何を偉そうに!!」
彼女の右手が俺の首を掴む。
メキリ、と骨が軋む様な音が聞こえた。
今日はここまでです。
憤怒。
憎悪。
殺意。
そんな負の感情がこちらにまで伝わってくる。
でも、やっぱり。
どうしてもそこには悲しさが混じっていた。
苦しみが入り混じっていた。
その証拠に彼女は呪いを詠唱せず、首を絞め続けるだけだ。
呪いをかければ簡単に殺せるのに。
「……ようはお前の気持ち次第だって事だよ」
魔法使いの横腹に回し蹴りを叩き込む。
彼女のか細い体は簡単に吹き飛び、ぬいぐるみの様にゴロゴロと地面を転がった。
「でも、私は――――」
「罪なら俺も背負ってやるよ」
ホントに臭い台詞。
馬鹿馬鹿しいくらい。
自分でも笑っちまいそうな位。
でも、その気持ちは本物だ。
前に跳ぶ。
剣を構え、間合いを殺す。
体を恐怖と興奮が同時に駆け抜けていった。
だが、そんな体に冷水をかける様に、精神を押し留める。
これがどちらに転んでも最後だ。
答えは二つ。
俺が死ぬか。
俺があいつを助けるか。
分が悪いよな。
ホントに。
「……けど、それでいい」
魔法使いの右ストレートが見えた。
まるで抜き身の刀身の様な鋭い一撃が襲いかかってくる。
その一撃は俺の脇腹を抉る。
吐き気が襲いかかり、体全体が粟立った。
だが、退きはしない。
「あ、おアァァァァァァ!!」
剣を離し、右拳で彼女の顔面に殴りかかる。
柔らかい何かを叩いた感覚。
まるで腐ったトマトを潰した様な湿っぽい音。
まるで竹トンボの様に彼女の体が宙を舞った。
重い音をたて、彼女は地面に落ちる。
何処を殴ったのかは分からないが、顔は血まみれだ。
その表情は何処か虚ろで危なげだった。
静かに戦意を失った彼女の方へと歩み寄る。
彼女は目を閉じ、自嘲気味に笑っていた。
「俺の勝ちだ」
右手で彼女の頭を撫でる。
まるでガラス細工を扱う様に優しく、繊細に。
もちろん俺のを求めてない事は知ってる。
でも、俺がしたいと思ったからしたんだ。
「か、鍛冶屋、さん――――」
声が上擦る。
まるで子供の様に唇を噛んで涙を我慢する。
無理すんな。
もちろん口には出さない。
そう言った所で、そんな事無いです、と否定されるのがオチだ。
「……約束覚えてるか?」
「え?」
「約束だよ。約束」
彼女は泣きそうな顔で首を横に振った。
自分で提案しといて忘れたってのはないな。
でも、まあ俺が覚えてるし無効では無いだろ。
「勝ったら胸揉ましてくれるって約束だろ?」
俺は笑った。
魔法使いも泣きながら笑った。
今日はここまでです。
距離感についてですが、かなりアバウトに決めていました。
だいたいこれくらいかな、みたいな感じで決めてたので違和感が出来たんだと思います。すいません。
元々距離感や大きさは苦手なのでそこまで大きく改善は出来ませんが、極力努力します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
竜の山 魔王の城の内部
勇者「本当に城があったのか」
正義「……びっくりした」
旅人「幻惑の魔法か何かで隠してるんだそうですよ」
勇者「……」
旅人「そう怖い顔しないで下さいよ」
正義「やっぱり嫌い」
旅人「へっへっへ。そりゃ残念」
正義「……」
勇者「魔王は――――」
旅人「そう焦らないだくだせぇよ。すぐに来ますから」
カツン
魔王「遅かったな」スタスタ
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竜の山 魔王の城の内部
勇者「本当に城があったのか」
正義「……びっくりした」
旅人「幻惑の魔法か何かで隠してるんだそうですよ」
勇者「……」
旅人「そう怖い顔しないで下さいよ」
正義「やっぱり嫌い」
旅人「へっへっへ。そりゃ残念」
正義「……」
勇者「魔王は――――」
旅人「そう焦らないだくだせぇよ。すぐに来ますから」
カツン
魔王「遅かったな」スタスタ
勇者「魔王……」
魔王「遂にクライマックスか。勝つのは人か、魔物か」
勇者「人間だ」
魔王「鍛冶屋と武人の出番は終わった。残るは逃亡者と、オレ達だけだ」
勇者「……」
魔王「国を願う気持ちと一人の少女を願う気持ち。どちらも美しいと思うだろ?」
勇者「……」
魔王「どちらが勝つのか、楽しみだ」
勇者「何をした」
魔王「旅人。少し頼む」
旅人「了解」
勇者「答えろ!!」
魔王「鍵はあのお姫様。さて、どうなる」スタスタ
勇者「……」
旅人「あっしが相手です」
勇者「退け」
旅人「すいませんね。こっちも頼まれた身なもんで」
勇者「なら斬るだけだ」
旅人「うへっ。物騒だ」
勇者は刀を抜く。
それに応える様に旅人も剣を抜いた。
旅人「くへへ」
勇者「……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
信義「逃亡者」
逃亡者「なんだ」
信義「本当に格闘家と戦うの?」
逃亡者「あいつが裏切り者だったらね」
信義「……」
逃亡者「……分かってるだろ?」
信義「……ええ、そうね」
逃亡者「……」
信義「悲しく――――。ううん。何でもないわ」
逃亡者「仲間だったんだ。残念だよ」
信義「……」
逃亡者「……あいつと谷の王に何があったのかは知らない。でもあいつは裏切ったんだ」
信義「そうね。ごめん」
逃亡者「……」
今日はここまでです。
信義「……」
信義「行くわよ」
逃亡者「死ぬなよ」
信義「あなたこそ」
信義と逃亡者は扉を開く。
格闘家「遅かったな」
逃亡者「姫様は」
格闘家「ん?」
逃亡者「姫様は何処だ!!」
格闘家「姫様はあそこだ」
信義「……変なことしてないわよね」
格闘家「ああ、あくまでお前達を連れてくる口実だよ」
逃亡者「……王に言われたのか?」
格闘家「……」
逃亡者「……王は――――」
格闘家「そこだよ。姫様の檻の横だ」
そこには豪華な服を着、胸に剣の突き刺さった谷の王が椅子に座っていた。
逃亡者「……」
格闘家「あいつは死んだよ。ずいぶん前に」
真理「……」
逃亡者「……」
格闘家「俺は俺の為に動いたんだ」
真理「逃亡者……」
逃亡者「予想外、だな。正直全く予想してなかった」
真理「王が死んだのはいつ?」
格闘家「ずいぶん前だ。影武者は魔物に頼んだり、下の兵士達に頼んだりいろいろだ」
逃亡者「……」
真理「……」
格闘家「もうここは谷の王の国じゃない。俺の、俺達の国だ」
逃亡者「魔王の力を借りたのか?」
格闘家「……」
逃亡者「どうなんだ」
格闘家「国を変えるには力がいる。それを借りただけさ」
逃亡者「……なんで姫様をさらった」
格闘家「魔王は手を貸すのと引き換えに姫様を要求した」
逃亡者「……それで姫様を?」
格闘家「ああ」
逃亡者「……」
格闘家「革命に犠牲は必要だ」
逃亡者「……ああ、そうだな」
信義「……」
格闘家「……」
逃亡者「姫様は渡させない」
逃亡者は静かに剣を抜いた。
格闘家にとって国とは自分の住む家だった。
長年この国に住んでいた彼にとって国が悪い方向に変化していくのをただただ見ているのはあまりにも心苦しかった。
前の王の作った国に戻す。
昔の美しい国を守る。
何時しかそれは彼の目標へと変化していた。
それに対し、逃亡者にとって国とは確かに家だが、それはあくまで家でしか無かった。
彼にとって守るべき者は家では無く家族。
すなわち姫だった。
互いに守るものが正反対だった訳ではない。
全く別のものだった訳でもない。
ただ少し。ほんの少し違っただけだった。
「国は」
「姫様は」
二人の言葉が重なる。
「「俺が守る!!」」
互いの影がぶつかり合う。
逃亡者と格闘家の右手がぶつかり合い、互いに四散した。
赤い血飛沫と肉塊が辺りに散らばる。
だが、互いに右手はすぐに再生し、数秒前までと同じように回復した。
「魔王からもらった力はそれか」
「生身じゃまともにお前に勝てないのは十分分かってる」
「化け物の相手は化物って言う訳か」
「ああ、お前の言うとおりだ」
彼は、彼等は守るべき者の為に代償として大切な何かを捧げている。
互いに決して口には出さないが、互いにその事は知っていた。
今日はここまでです。
二人が同時に地面を蹴る。
逃亡者の剣が格闘家の肉を断ち、格闘家の腕が、足が逃亡者の肉を抉る。
その光景はあまりにも滑稽で不気味だった。
幾度となく血が飛び散り、辺りはまるで虐殺が行われたかのように血塗れになっている。
それなのに死体は無く、そこにいるのは少しだけ服が破れた無傷の二人の男だけなのだ。
「どうした。こっちは素手だぞ?」
「お互いしぶといな。さっさと楽になればいいのに」
互いにニヤリと笑う。
その笑みは相手への嘲りでもあり、自嘲でもあった。
逃亡者の右足が地面を蹴る。
右足全体に痺れる様な痛みがはしり、その痛みが全身へと伝わった。
格闘家の右足がこめかみ目掛け振られる。
それを紙一重でかわし、彼の心臓目掛け剣を突いた。
ザクリ、と肉を貫く音が聞こえた。
その音が聞こえた瞬間に逃亡者の脇腹に強烈な衝撃がはしる。
重なっていた二つの影が別れる。
片方は地面に落ち、もう片方も地面に着地すると僅かにふらついた。
「右手の一本くらいならくれてやる。すぐに元に戻るからな」
格闘家は右手を見ながらそう呟く。
すでに傷口は閉じ始めていた。
「そうだよな。お互い楽にはなれないもんな」
「ああ。楽になるって事は守れないって事だ」
逃亡者の言葉に格闘家は苦笑いで答える。
それはまるで食卓でテーブル越しにかわされているかのような温かく優しい会話。
「姫様を渡さなければ町に紛れこんだ魔物共が町を襲う。それを止めるためには必要な犠牲なんだ」
「同情を誘ってるのか?」
「いや、そんな気は無い。ただお前が勝てばどうなるかを知っておいてほしいだけだ。お前は姫様の為に数百人を殺す事になるんだとな」
「……昔から変わらないよ」
それはまるで氷の様に冷たい言葉だった。
まるで心の底の汚泥を吐きだす様に彼は続けた。
「俺は姫様の為に何百人と言う人間を殺した。今回も同じ事だ」
「……それがお前の答えか」
「ああ。俺は姫様を守ると誓ったんだ。それで何百人を見殺しにする羽目になっても」
格闘家の目の奥に悲しみの光が灯る。
分かりあえない。その事を知ってしまった彼の目はあまりにも物悲しかった。
トンッ、と言う軽やかな音が響く。
だがそんな軽やかな音とは裏腹に逃亡者の体は人とは思えないほどの速度で前に跳んでいた。
銀の一閃。
それは音速主超える一撃であり、己の右手をも潰す一撃。
まるで重い石に押しつぶされた様に右手は潰れ、大量の血を流していた。
赤い川は腕を伝い、指先からぽたぽたと地面に落ちる。
「うっ……」
『逃亡者!!』
その激痛に耐えかね、地面に膝をつく。
腕は元に戻っているはずなのに、何故か痛みは消えない。
痛みは消える事無く体へと蓄積され続けるのだ。
背後で風を切る音が響いた。
それと同時にこめかみに強烈な衝撃が襲いかかる。
轟音。
暗闇。
右手に持った剣が地面に落ち、甲高い音を立てた。
今日はここまでです。
今日はここまでです。
自分が吹き飛ばされた事に気付くのに、いやに時間がかかってしまった。
「どうした。もう終わりか?」
逃亡者の右手が地面に転がった剣を掴む。
それが彼の答え。
格闘家がもう一度両手の拳を握りしめ、構える。
それが彼の答え。
「「おォォォォォ!!」」
二人の咆哮が部屋を満たす。
二匹の化け物の影が激突し、夥しい量の血を撒き散らせる。
逃亡者の剣が格闘家の右足を斬り落とした。
格闘家の拳が逃亡者の肋骨を砕いた。
それでも獣は止まらない。
牙を剥いた化け物はまるで貪る様に相手の体の一部を抉り、斬り落とす。
床が赤く染まり、肉片が飛び散った。
だがその傷はすぐに回復し、再び同じ光景が繰り返される。
超再生者を倒す方法。
魔力を空にするか相手の心臓か脳を潰す。
その二つなのだ。
逃亡者の左手が文字通り弾け飛ぶ。
その瞬間、逃亡者に僅かな隙が生まれた。
横腹への衝撃。
もう一度視界が黒くなり、音が消える。
「さすがに死なないか」
「はは、そう簡単に……死ねるか」
肋骨が折れているのが分かる。
燃える様な痛みが横腹を襲っていた。
視界が霞む。
蓄積された痛みが体を襲っているのだろう。
「どうした? 体が限界か?」
こめかみに強烈な痛みがはしった。
まるで子供に投げられた人形の様に宙を舞う。
壁が崩れる音が響いた。
「ははっ。これは不味いかもね……」
消えていくダメージよりも蓄積されていくダメージの方が圧倒的に多い。
胃の中に入っている物体がせり上がってくる様な感覚がした。
頬を冷や汗が伝っていく。
「シロ……」
「姫様。すぐに助けますから……」
彼は彼女を見ながらはっきりと答えた。
彼は彼女を救えなかった。
その罪滅ぼしだと言われればそうかもしれない。
だが今の彼は他の誰でもなく彼女を救うために命を削っていた。
『まだ蓄積された痛みが全部とれてない!!』
「そんな暇、無いだろ」
逃亡者は剣を構える。
確かに彼の体には今も強烈な痛みがはしっている。
だが、それは格闘家も同じ事だ。
すでに逃亡者目掛けて跳んでいた格闘家が回し蹴りの態勢に入る。
逃亡者の剣がそれに対応する様に振られた。
格闘家の右足の膝から下が斬り落とされる。
だがそれでも衝撃は殺せない。
両腕が痺れ、指先の感覚が薄れるのが嫌でも分かった。
「く……あ……」
どちらが発した声かは分からない。
もしかしたら両方が発した声かもしれない。
足の力が抜け、そのまま地面に倒れる。
まるで水の中にいるかのように呼吸が異様に苦しい。
「真理。回復を……」
『無茶言わないでよ!!』
視界が薄暗くなる。
「シロ。あなたなら、出来るでしょう?」
「姫様?」
今日はここまでです。
あと真理じゃなくて信義です。申し訳ない。
透き通った声。
それは逃亡者が聞きなれた、聡明な声。
「姫様!!」
「……お花」
目の前の姫は彼の知っている壊れた姫だった。
『逃亡者。どうしたの?』
「どうなってるんだ……」
幻聴なのか分からない。
幻想なのか分からない。
何が本当で何が嘘なのか分からない。
意識も途切れかけた彼にはそれすら分からない。
透き通った声。
それは逃亡者が聞きなれた、聡明な声。
「姫様!!」
「……お花」
目の前の姫は彼の知っている壊れた姫だった。
『逃亡者。どうしたの?』
「どうなってるんだ……」
幻聴なのか分からない。
幻想なのか分からない。
何が本当で何が嘘なのか分からない。
意識も途切れかけた彼にはそれすら分からない。
「行きなさい、シロ。あなたなら勝てるでしょう?」
また声が聞こえる。
やはりそれは紛れも無く壊れる前の姫様の声だった。
頭の中に昔の記憶が蘇る。
「私を、守ってくれるんでしょう?」
それは美しい声。
その瞬間、色が消え、音が消えた。
まるで自分だけが取り残されてしまったかのような白の世界。
ここが何処か?
どれが本物か?
何が真実か?
……そんな事はどうでもいい。
あの声は。
あの言葉は……。
「あ、ああ……あァァァァァァァ!!」
それは断末魔の様な慟哭の様な咆哮。
まるで魂を削り取る様な悲痛な声。
「俺は、俺は……」
おぼろげな感覚の両手を構える。
もはやまともに体重も支えられない両足に力を入れる。
決して彼女を守るための気力が戻ったんじゃない。
決して死にたくないと思った訳じゃない。
その姿はいつまでもくだらない者にすがる愚か者の姿。
過去に囚われた愚か者の姿。
愛する者を救えなかった者の末路の姿。
「思い、出しました」
心の奥底。
最深部に眠る記憶。
思い出した。
思い出して、しまった。
蓋をした記憶を。
決して思い出してはいけないと思っていた記憶を。
思い出してしまった。
「シロ。私はあなたを信じています」
「やめて……やめてください」
彼の頭の中を疑問が埋めつくす。
その疑問は全て同じく、何故、今なんだ、だった。
地面を蹴った格闘家が真っ直ぐにこちらに跳んでくる。
それは速く、鋭い。
彼の右足が振られた。
メキリ、と骨が折れる音が響いた。
逃亡者の口からおびただしい量の血が溢れだす。
だが、その両手は格闘家の右足をがっちりとおさえていた。
痛みは無い。
体の感覚も無い。
ただただ蘇った記憶が彼の心をゴリゴリとすり潰していた。
格闘家は素早く足を引き抜こうと動く。
だがそれはあまりにも遅すぎた。
「あ、あァァァァァァ!!」
彼の前蹴りが格闘家を貫く。
彼の足は彼の腹を破り、背中から出ていた。
紅蓮の血は二人の体を赤く染める。
その紅蓮の血はまるで涙の様に地面に落ちる。
彼の右手が剣を構えた。
今日はここまでです。
残る戦闘も少なくなってきたので、おまけの番外編でやってほしい事を聞いておこうと思います。
参考程度に聞かせてください。
銀の閃光。
それはまるで雨の様に書く投下に降り注いだ。
彼の両手足が落とされ、全身に大量の切り傷が出来上がった。
「……後は心臓を突くだけだろ? さっさとしろよ」
「……う、あ……」
「早くしろよ……守りたいんだろ」
彼の心がその言葉に反応する。
守りたかった。
それは紛れも無い真実。
彼の本心だ。
だが、だが守れなかったのも事実。
彼は守れなかった、救えなかった姫様を助けただけにすぎないのだ。
「アァァァァァァ!!」
一撃はあまりにもあっさりと彼の命を奪っていった。
残ったのは彼と彼の剣。
そして彼が救えなかった彼女だった。
逃亡者「……」
信義「どうしたの?」
逃亡者「俺は姫様を助けられなかった」
信義「え? だって――――」
逃亡者「あの時姫様は俺に言ったんだ!! なのに、なのに……」
信義「突然動きが変わったのって……」
逃亡者「怖くなったんだ。姫様は、俺を恨んでいるんじゃないかって……」
信義「何言ってるの?」
逃亡者「俺は……約束したはずだったのに……」
姫「……シロ」
逃亡者「俺は……俺は……」
信義「逃亡者……」
逃亡者「あァァァァァァ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔王「……」
勇者「魔王」スタスタ
魔王「……丁度あちらが終わって退屈していたんだ。丁度いいタイミングだ」
勇者「……」
魔王「旅人はどうしたんだい?」
勇者「落とした。もしかしたら生きてるかもしれない」
魔王「よほど急いでいたんだな。そんな剣士にあるまじき決着をつけるなんて」
勇者「俺の目的はお前だ、魔王」
魔王「ふふふ。オレは嬉しいぞ」
正義「一体何が」
魔王「お前達と戦えるんだ。こんなに嬉しい事は無い」
勇者「……」
魔王「幸せは雨じゃないんだ。誰の元にも降る訳じゃない」
勇者「どういう意味だ」
魔王「そのまま受け取ってもらえれば結構だ」
魔王「彼は最高の踊りを披露してくれたぞ」
勇者「……お前」
魔王「せっかく整えてやった舞台だ。あれくらい狂って踊ってくれないと面白くないからな」
勇者「逃亡者に何をしたんだ!!」
魔王「……昔を思い出させるようにしただけだ。忘れていた記憶を呼び覚ませるようにな」
勇者「……」
魔王「過去に囚われた人間はそう簡単には解放されない」
勇者「……貴様」
魔王「そして人間は壊れやすい」
勇者「……」
魔王「どうなるんだろうな?」ニヤリ
勇者「……」
魔王「……」
勇者「逃亡者はその程度でおかしくなったりしない」
魔王「ほう?」
勇者「俺は逃亡者を信じている」
今日はここまでです。
明日はお休みします。すいません
魔王「ほう?」
勇者「あいつなら大丈夫だ」
魔王「……」
勇者はゆっくりと刀を抜く。
勇者「俺はお前を殺す」
魔王「楽しみだ」
勇者「……」
魔王が剣を抜く。
魔王「お前を生かしておいてよかった」
勇者「……」
魔王「遂に最終幕だ。存分に暴れよう」
勇者「ああ」
魔王「……来ないのか?」
勇者「最後に聞きたい事がある」
魔王「……」
勇者「そこまで俺に肩入れしたのはなんでなんだ?」
魔王「言わなかったか?」
勇者「俺は何も無い。馬鹿みたいに正義を振りかざす愚か者だった。なのになんでだ」
魔王「だからだ」
勇者「?」
魔王「お前がそうだからだよ」
勇者「……どういう事だ」
魔王「始めよう」
勇者「……」
魔王「オレもお前も同じなんだ」
勇者「……」
魔王「始めよう」
勇者「……そうだな」
勇者は刀を地面と水平に構え、大きく横に薙ぐ。
それに対し魔王は剣を地面に垂直に構え、その一撃を防御した。
一瞬のうちに攻守が入れ替わり、魔王の剣が地面を抉りながら勇者に襲いかかる。
下から上へ、剣は進んでいく。
勇者は刀を振り下ろし、その一撃を正面から止めると、そのまま攻撃の構えに移る。
「さすがは人間の運命を担う者だな」
彼女の歪んだ笑みが見えた。
その顔には不安も動揺も無く、ただただ戦いを楽しんでいた。
ガキッ。
得物同士が激突し、火花を散らす。
お互いに防御を忘れたかのように体重を前にのせ、攻めだけを考え得物を構える。
勇者と刀と魔王の剣が悲鳴の様な音を立てる。
擦れ合い、火花が僅かに輝いた。
だが退かない。
互いに意味の無い意地の張り合いを続けていた。
意味の無い意地の張り合いは続く。
一歩も退かず、それどころか魔王も勇者も前に進もうと足を前に踏み込んでいた。
より一層互いの体が近づく。
気付けば魔王の顔にあった嫌みな笑顔は消えていた。
魔王が後ろに跳び、意地の張り合いが終わりを迎える。
案外あっさりと終わったそれを気にも止めず、二人はまた得物を構え、攻撃のタイミングを計り始めた。
音は無い。
体を一ミリたりとも動かさず、ただただタイミングを探り続ける。
それは獲物の隙を窺う肉食獣を連想させた。
一瞬、それこそ呼吸をしただけの隙でも彼女は逃す事無く攻めてくるだろう。
そして彼も同じようにその隙を逃さずに攻めるつもりだった。
勇者の足が地面を蹴る。
もちろん我慢の限界になった訳では無く、攻めるタイミングを見つけたからだ。
魔王の剣が反撃のために振り下ろされる。
だが勇者はすでに彼女の前にはいなかった。
彼女の剣が振り上げられるのと同時に斜めに跳び、丁度彼女の真横に着地する。
短いですが今日はここでです。
すいませんが少しの間更新が不定期になります。
意識を切っ先に集中。
風を切っ先に纏わせる。
刀が重くなる感覚。
腕の動きが遅くなる。
金属音が響いた。
研ぎ澄まされた二つの得物がぶつかる音は恐ろしく澄んでいた。
「やはり、お前が敵だ」
魔王の楽しそうな声が辺りに響く。
「お前は人間の敵だ」
「ならお前は魔物の敵だな」
得物同士が擦れ合う。
ギチギチと嫌な音が辺りに響く。
魔王の顔はまるで無邪気な子供の様だった。
眩しいほどに輝く笑顔が勇者を見ていた。
その光景は何処か歪で不安定。
まるで戦っている事を忘れてしまいそうなほどだ。
「オレ達は鏡だ。立場は全く逆だが、本質は同じ所にある」
彼は何も答えない。
ただ刀を持つ手に力を入れるだけだ。
「俺はお前の敵だ。それ以外の何でも無い」
彼が言い終わると共に腹部に衝撃がはしった。
体がふわりと浮き、後ろに吹き飛ばされる。
まるでボールの様に壁にぶつかり跳ね返った。
「あが……はっ!?」
魔王が牙を剥く。
彼女の剣が追撃の為、更に振られた。
振り下ろされた一撃と横からの一撃を回避。
最後の斬り上げを刀で弾く。
「ほう?」
「なめるなよ。魔王」
正直に言えば、防御するだけで手一杯。
とても攻撃のタイミングなど見出せる状況では無かった。
だがそれを見せる訳にはいかない。
あくまで強気に。
あくまで冷静に。
焦りや動揺を押し殺し、心におこる波風を極限まで少なくする。
彼の刀が攻撃に転じる。
それは強引な割り込みに近かった。
その一撃はいとも簡単に弾かれた。
だがそれも想定のうちだ。
とにかく相手を動揺させ、冷静さを失わせなければ勝ち目は無い。
実力差は今でも天地の差ほど差があるのだ。
感情の迷いは剣の迷いを生み、そして大きな隙を生む。
そしてその隙が生死を分けるのだ。
強さとは文字通り心技体が揃ってこそその強さを発揮するのだ。
鈍く輝く銀の閃光。
それが魔王の一撃だと気付くのには時間が要った。
防御をするものの僅かに遅れ、頬が僅かに斬れる。
「浅いな。その程度でオレを殺せるとでも思ったのか?」
ああ、知っている。
この程度では殺せない事も、このままじゃ俺が負けると言う事も。
勇者の心はまるで氷の様に冷めきっていた。
心の天秤はピクリとも振れる事無く、静止している。
前に跳躍。
魔王目掛け、まっすぐに跳ぶ。
魔王の顔が僅かに曇り、両手に持った剣が反撃の為に振られた。
勇者も刀を構え、それを振り下ろす。
どちらも一撃。
鮮血は染める。
壁を。
床を。
天井を。
そして、二匹の化け物を。
勇者は脇腹に、魔王は肩に一撃を受けていた。
互いに多くはないものの、決して少なくはない量の出血をしている。
「俺は人々の為にお前を殺す」
「オレは魔物達の為にお前を殺す」
今日はここまでです。
バレンタインはどうだったでしょうか。
知っていた。
彼は彼女を知っていた。
そう、今目の前にいる彼女は――――。
「正義。回復を頼む!!」
『え、あ、うん』
勇者が魔王目掛け走る。
血を撒き散らせ、目を血走らせながら刀を構えて。
それは魔王にとって予想外の行動だったのだろう。
彼女の顔にほんの少しだけ驚きの表情が窺えた。
当然だ。
今の状況で前に進む事は正真正銘命がけの賭けなのだ。
失敗すれば相手が回復し、自分が更にダメージを喰らう可能性も十分にあるのだから。
魔王が剣を横に薙ぎ払う。
それは勇者の想定通りだ。
それは心の一瞬の動揺だった。
動揺した剣は何の考えもない単調な攻撃になる。
ならばかわすのも簡単だ。
彼は地面を蹴り、跳ぶ事でそれを回避した。
互いの距離はほぼゼロ。
そして魔王は剣を振り切っていた。
「おォォォォ!!」
勇者の刀が、魔王を捉えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
旅人「……」
旅人「あーあ。負けちまったみたいですね」
旅人「さて、あいつがどうなってるか……」
魔物「……」
旅人「ああ、どうしたんですか?」
魔物「魔王様が勇者と戦っている」
旅人「まあ、でしょうね」
魔物「伝言だ」
旅人「魔王からですかい?」
魔物「ああ」
魔物「忍者と合流しろとの事だ」
旅人「……逃げろって事ですかい?」
魔物「さあな。俺には魔王様の気持ちは分からない」
旅人「……」
魔物「だが魔王様のお言葉には従ってもらうぞ」
旅人「もし従わなかったら?」
魔物「……」
旅人「冗談ですよ。そんな怖い顔しないで下せぇ」
魔物「人間風情が。魔王様のお言葉が無ければ殺しているのに」
旅人「魔王を信頼してるんですねぇ」
魔物「……魔王様は負けない。あのお方は我々の為に魔物である事ですら捨てる覚悟なのだ!!」
旅人「勇者と、同じって訳ですかねぇ」
魔物「なんだと」
旅人「いえ、何でもありませんよ」
魔物「……」
旅人「それじゃあ。あっしは逃げますよ」
魔物「勝手にしろ」
今日はここまでです
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「うぁぁぁぁぁ!!」
血が壁に飛び散り、首が床に転がる。
返り血が体に大量にかかるが、彼は全く気にしている様子は無かった。
まるで何かから逃れるかのように剣を振り回し、手当たり次第に兵士達を斬り殺していく。
「お前等が!! お前等が!!」
口から呪文のように言葉が零れた。
それはまるで鎖の様に彼の体を縛る呪いの言葉だ。
どんなに逃げても追いかけてくる、死よりも重い呪いなのだ。
『逃亡者!! もうやめて!!』
信義の声が聞こえた様な気がした。
だが、彼の体は止まらない。
止められない。
止まってしまったら、彼の体をまたあの呪いが襲ってくるのだから。
もはや彼の口から出るのは叫び声だけ。
思考も一つだけしか無かった。
目の前に兵士が二人現れる。
だがそれも彼にとっては敵ですら無く、ただの獲物にすぎなかった。
「あァァァァァ!!」
今の彼はただの獣。
理性も無く。
ただいたずらに命を狩る、最底辺の獣だった。
牙を剥いたその顔は邪悪に歪んでいた。
逃亡者の剣が兵士達の首を切り裂く。
兵士達の顔は斬られた事すら気付いていない様な驚きも恐怖もない、怒りだけの表情をしていた。
ゴトリ。
重い音が廊下に響く。
赤い絨毯に真っ白な壁と言ういかにも城と言う廊下は今や血の赤一色に染まっていた。
荒い息が廊下にこだまする。
血塗れの獣が一匹、獲物を求めて徘徊していた。
「逃亡者」
彼の目の前には一人の褐色の女性が立っていた。
彼女の名を彼は知っている。
だが、思い出せない。
「……邪魔だ」
逃亡者の剣が彼女に振り下ろされる。
だが剣は彼女の頭上ぎりぎりの所でぴたりと静止する。
まるでその間に見えない壁があるかのように剣がピタリと動かなくなった。
彼女の目は逃亡者を睨んでいた。
だが、その目には怒りは一切無かった。
「逃亡者。落ちついて」
「信義……」
彼女の声が彼の耳に届く。
だがそれでも彼から狂気は取り除かれてはいない。
彼から狂気を取り除ける者はもうこの世界には居ないのだから。
「姫様……」
まるでコップから溢れだした水の様に彼の口から言葉が溢れだす。
溢れだす言葉は留まる事を知らず、それどころか勢いを増し続ける。
「すい……ません……すいません。すいません。すいませんすいませんすいませんすいません」
それは懺悔の様な呪いの様な言葉。
「俺のせいだ俺のせいだおれのせいだおれのせいだおれのせいだ。おれの……」
「逃亡者!!」
狂気が蘇る。
それは彼にとっての唯一の逃げ道なのだ。
自我を失える唯一の方法なのだから。
自我が狂気に溶けていくのが分かった。
それと同時に恐怖が消えていくのも分かった。
今日はここまでです。
どうでもいい話ですが。
かわいい女の子を見て翼が生えてたら最高なんだろうなと素で思っていた自分がいました。
「前を向いて……逃げないで……」
「邪魔だ……」
「なら殺せばいい」
「……」
逃亡者が剣をしまい、両手を構えた。
「やっぱりあんたは馬鹿ね。自分の武器を殺そうとする剣士なんて、あんたくらいだもの」
彼女の言葉が耳に届く。
だが狂気に溶けた彼の耳にはその言葉は届かなかった。
二つの影が同時に地面を蹴る。
そして、ぶつかり合った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者の刀が魔王の体を切り裂いた、はずだった。
心臓も一緒に切り裂いた。
そのはずなのに魔王は彼の目の前に立っていた。
「悪いな。ここで死ぬわけには、いかんのだ」
彼の目の前にいたのは大量の血を流し、左腕は醜悪な触手と化した魔王の姿だった。
「どういう……事だ」
『重力で無理矢理心臓を動かしたのかも……心臓をずらして致命傷を避けた……でも』
「超回復はやはり魔力の消費が莫大だな……もう腕を綺麗に再生する余力はない」
魔王は二人の会話に割って入ってくるかのようにそう呟いた。
息は荒く、もはや生物としての原形を保っているのかも怪しいその生き物はにやりと笑う。
彼女の体の傷が再生する。
だがその皮膚は完全に元に戻る事無く、蚯蚓腫れの様な醜い痕が残っている
「それがお前の答えか」
「俺とお前は鏡なのだ。お前にも分かるだろう?」
彼女の左手が蠢く。
それはまるで巨大なミミズの様に気色の悪い動き方だった。
彼女が地面を蹴る。
地面が蜘蛛の巣状にひび割れた。
勇者も同じく前に跳んだ。
背筋を冷たい汗が伝う。
死の恐怖が全身を覆っていた。
だが、それを殺し、冷静さを保ち続ける。
魔王の一太刀をギリギリでかわす。
頬の横を剣が通っていくのが嫌に鮮明に分かった。
勇者の刀が魔王の心臓目掛け突かれる。
ゴウッ、と言う音が勇者の耳にも響いた。
しかし、魔王の剣がそれを素早く弾いた。
「しま――――」
魔王がニヤリと笑う。
右頬には大きな蚯蚓腫れは出来ていた。
左足を前蹴りの様な形で前に突き出す。
狙いは魔王の脇腹。
もちろんそれは攻撃の為ではない。
勇者の左足が吹き飛んだ。
膝から下が綺麗に無くなっている。
『勇者!!』
「足の再生を頼む」
「さすがだ。迷わず足を犠牲にするとはな」
刀が間に合わないのなら、足で攻撃する。
例え足を無くしても、死ぬよりはマシだ。
不思議と足の痛みは無かった。
一瞬で斬られたせいなのか、それとももう痛みすら感じられなくなってしまったのか。
今日はここまでです。
そんな些細な事は気にするつもりは無かった。
残った右足を軸に右に体を回転させる。
体を捻りながら刀を大きく薙ぎ払った。
魔王が後ろに跳ぶ。
互いの距離が離れ、戦闘が仕切り直しになった。
吹き飛んだ足が再生する。
両足を地面につけ、大きく息を吸い込んだ。
彼は知っていた。
彼女は知っていた。
お互いが鏡なのだと、お互いが全く同じで真逆の存在なのだと知っていた。
だからなのかもしれない、と彼は思う。
だから戦うのかもしれないと思う。
魔王の体が宙に浮く。
口端をつり上げて笑う彼女の体はまるで羽の様にふわりと宙に浮き、静止した。
理論では無い、天性の才能と天性の力によって無理矢理に生まれた魔剣。
『フォールダウン』。
彼の刀を壊した魔剣。
彼女の命を奪った魔剣。
彼にとって越えなければいけない、最後の壁。
「正義」
『何?』
「……いけるな」
『ええ。あなたは?』
「いける。今の俺にはお前がいる」
彼の言葉に正義はクスリと笑った。
それにつられて彼も笑う。
今の彼には正義がいるのだ。
「『フォールダウン』」
彼女の言葉と共に、彼女が落下した。
勇者の肌が粟立つ。
一瞬にして冷や汗が噴き出た。
風を纏った刀が、重力を纏った剣を受け止める。
得物同士がぶつかり合う音はもはや爆発音に近かった。
体全身の筋肉が硬直する。
骨が軋む様な音が聞こえた様な気がした。
「さすがだ。英雄とは違うな」
「英雄は強い!! 俺なんかよりもずっとな!!」
「いや、あいつは――――」
魔王が言い終わるよりも前に彼女を弾き飛ばす。
地面に足が付いていない彼女は簡単に弾き飛ばす事が出来た。
彼女の不敵な笑みはこちらを見ていた。
嫌味な笑みは彼と彼女を嘲っている様な笑みに見えた。
「自分が不幸だと嘆く者は、弱者だ。強者は不幸だと嘆く前にその不幸から抜けだそうとするからな」
魔王が一歩前に進み、剣を振るう。
その一撃を受け止め、勇者は牙を剥いた。
怒りと言う感情が彼の心を支配する。
「英雄は弱くない。弱いのはお前だ!!」
『勇者。落ちついて』
だが勇者は怒りを抑える事無く、更に吼える。
「英雄は俺とお前とは違う。英雄は強い!!」
「ほう……そうか」
魔王の体が宙に浮く。
ふわりと浮きあがった体が二メートルほど上がり、静止した。
「なら見せてみろ。あの半端者の強さをな!!」
「黙れ!!」
魔王が落ちる。
亜音速を超えた速度で落下するそれはもはや剣技と呼ぶよりも一つの災害に近かった。
勇者は刀を構える。
だがそれは防御の構えではなく、攻めの構え。
『勇者!!』
正義の言葉に耳を貸す事無く、刀を構える。
そして二つの化け物が激突した。
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「俺は姫様を守るための力が欲しい」
逃亡者が私に言って来た言葉はそれだった。
今思うと、私は逃亡者のそういう性格に惹かれて協力したのかも。
他のものなんか見ずに、自分が守りたいものだけを見続ける。
そんな性格に興味を持ったからかもしれない。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
胸のあたりに強烈な衝撃。
そのまま真後ろにとばされ、地面にたたきつけられる。
息をするのが苦しい。
頭がぼんやりとしていた。
「今のあんたは……本当に格好悪い……」
息が乱れる。
ヒュー、ヒューと喉がなる音が聞こえる。
「過去に逃げるあんたは……馬鹿にしか見えないわ」
「黙れ、黙れ!!」
逃亡者が地面を蹴る。
魔力の無いその挙動は、全部遅くて、見苦しい。
自分の体を犠牲にしている時の方が、よっぽど速くて、格好良かった。
まあ、動けない私は避ける事も出来ないけど……
鈍い音が響く。
強烈な吐き気と、痛みが襲った。
背中から壁に激突し、焼ける様な痛みが全身にはしった。
意識が遠のく。
視界が薄暗くなりはじめた。
「……それくらい?」
無理に頬をつり上げ笑って見せる。
悪魔染みた笑顔を向けながらケタケタと笑った。
「……」
「格闘家は倒したんだから、姫様を連れて帰りましょう」
「姫様は……姫様は……」
「助けられなかったわよ。一年くらい前にね」
それが禁句だと言う事は私が一番よく知っている。
でも言わなければ前に進めない。
なら、その現実を理解してもらう以外の答えは無い。
「いい加減目を覚まして……」
「い、嫌だ。俺は、俺は――――!!」
脇腹に衝撃がはしる。
今度こそ完全に体が動かない。
意識は、気を抜けば失うかな。
「ホントに、格好悪い……」
全く、一年経って未練が消えるんじゃ無くて、更に強くなるなんて。
女よりも面倒臭い性格よね。
女々しいと言うか、なんと言うか。
足を引きずり去っていく逃亡者の背中はやっぱりみすぼらしい。
……。
…………。
……………………。
どのくらい時間が経ったんだろう。
短い気もするし、物凄く長い気もする。
「信義……」
誰?
凄く懐かしい声。
でも、誰だったっけ……?
「信義。元気だった?」
幻覚でも見てるのかな。
それともいつの間にか意識が無くなってるのかも……。
「信義」
「姫、様?」
掠れた声が喉から響いた。
やっぱり、幻覚?
でも、それにしては鮮明で……。
「信義。逃亡者は?」
透き通った声が耳を打った。
逃亡者の愛した女性の、正真正銘姫様の声だった。
「これは、幻覚?」
「違うわ、信義」
姫様の右手が私の頬に触れる。
ああ、姫様だ。
やわらかい手のひらの感触。
温かなぬくもり。
私の目の前に、一年前の姫様がいる。
「元に、戻ったのですか?」
私の声に姫様は首を横にふった。
その表情は悲しそうで、苦しそう。
じゃあ、やっぱり幻覚?
それとも――――。
「理由は分からない。でも、きっと三十分もしないうちに私はあの私に戻るわ」
「姫、様」
現実は残酷だ。
そう心の底から思う。
きっとこれは奇跡。
この奇跡は逃亡者の心に希望を与えるはず。
でも、それと同時に絶望も与える事になる。
「だから頼みがある」
「……はい」
「私を逃亡者のところまで案内してくれない?」
今日はここまでです。
姫様が何を考えているかは分からない。
でも、私にそれを拒否する権利は無かった。
だってこれは姫様と逃亡者の問題であって、私は関係がないんだから。
「王様の部屋の方に行きました」
「そう。一緒に行くわよ」
汚れた服を着た姫様が歩く。
でもその足取りは美しく、気高い。
そう、とても私とは比べ物にならない位。
「姫様」
「逃亡者の事お願いね」
「え?」
姫様が私を抱きしめる。
痛く、苦しいくらい、強く抱きしめる。
なんで泣いてるの?
笑ってよ。
そうじゃないと、逃亡者が――――。
「ありがとう。頼むよ」
耳元で、消え入りそうな声が聞こえた。
なんでか、その声は悲しそうだ。
「行きましょう。姫様」
「ええ」
王の部屋に入る。
そこは赤く染まった壁と床と天井。
壊れた家具。
そして剣を持った逃亡者と大量の死体が転がっていた。
逃亡者の目が姫様を捉える。
でもその目は何処か虚ろで、どこか危なげな、廃人染みた目をしていた。
「逃亡者」
「姫、様」
「ありがとう。そしてさよなら」
逃亡者の目が見開かれた。
希望と絶望が入り混じった様な表情。
でもその次の瞬間には、一年前のあの表情に変化する。
「姫様……」
一年前のあの時。
そう、私達が戦場に行く前の日の、柔らかくて悲しそうなあの表情。
いつの間にか忘れていた、あの顔。
懐かしい顔。
前はいつ見たっけ……。
「嬉しかったよ。あんな風になっても守ってくれて」
姫様が窓を開け、外を眺める。
赤が飛び散った純白のカーテンが風でひらひらと揺れた。
「私は、お前を縛ってしまった」
ああ、やっぱりこの人には敵わない。
こんなに優しくて、気高くて、美しいんだもの。
逃亡者が惚れない訳が無い。
「姫、様」
私の声と逃亡者の声が重なる。
私の声も彼の声もいつの間にか悲しそうな声になっていた。
それが何でかは分からない。
きっとこれから彼女がどうするかを薄々分かっているんだと思う。
「信義。逃亡者。ありがとう」
姫様の体がカーテンに隠れる。
そして、一瞬のうちに消えていた。
今日はここまでです。
もう少しの間はこんな感じになってしまいますが、三月の中旬くらいまでには今までどおりの毎日更新にしたいと思います。
逃亡者「姫、様。姫様!!」
信義「姫、様……」
逃亡者「あ、ああ……」
信義「逃亡者」
逃亡者「……」
信義「逃亡者!!」
逃亡者「信義……」
信義「……ええ」
逃亡者「姫様が、姫様が」
信義「ええ。知ってるわ」
逃亡者「俺は、守れ、なかった」
信義「知ってるわ。あなたは守れなかった。一年前に」
逃亡者「……」
信義「言っておくけど後を追おうなんて思わないでね」
逃亡者「……」
信義「私はあの人にあなたを頼まれた。だから私はあなたを勝手に死なせない」
逃亡者「でも、俺は――――」
信義「前に進みましょう」
逃亡者「……」
信義「う、うう」
信義は逃亡者に抱きつく。
信義「ごめんなさい。私はあなたの願いを叶えられなかった」
信義「私は、私は」
逃亡者「……お前のせいじゃない」
信義「え?」
逃亡者「俺が未熟だったんだ。お前のせいじゃない」
信義「……」
逃亡者「……結局俺は昔に縋りついてただけだった」
信義「ええ、私もそう」
逃亡者「……うう」
信義「ごめんね。逃亡者」
逃亡者「いや、いいんだ。いいんだ……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
兵士「がはっ……」
武人「悪いな」
真理『お人好しだな。わざわざこんな所に来るなんて』
武人「逃亡者が心配だったんだ」
真理『……その予想は当たったようだな』
武人「らしい」
兵士「お前達何者だ!! いいからそこをどけ!!」
武人「他人の部屋に土足で入ろうなんて性格が腐ってるとしか考えられないな」
兵士「黙れ!!」
武人「俺は逃亡者と違って殺しはしない。けど、痛いぞ?」
兵士「……」
武人「いいから下がってくれ。ここにいると泣き声が聞こえて仕方ないんだよ」
兵士「……」
真理『まったく。損な役回りだな』
武人「たまにはいいだろ」
兵士「退け!!」
武人「四人の中で俺が一番恵まれてるんだ。少しくらい損でも構わないだろ」
真理『まったくだ』
武人「じゃあ、こっちも本気で守らせてもらうぞ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
血が四散する。
まるで薔薇の様な赤が視界に入る。
頭を思い切り殴られた様に頭がくらくらとしていた。
『勇者!!』
意識が飛ばない様に喰らいつく。
無様に、醜く、未練たらしく必死に。
「大丈夫だ」
「酷い傷だな。よくそれで生きていられる」
肩から胸にかけて巨大な傷が出来上がっていた。
そこからはとめどなく血が溢れだしていた。
魔王の魔剣。
その一撃を受け止める、はずだった。
しかしそれは勇者の行動をよんでいたように彼の刀をするりとかわし、彼に致命的な一撃を浴びせていた。
魔王の邪悪な笑みが目に入る。
もはやそれに笑みで返す余裕すらも今の彼には無かった。
傷は治っても、血とダメージは回復しない。
そして彼はすでに何度も、致命的なダメージを負っているのだ。
すでにいつ倒れてもおかしくはない。
今彼が立っていられるのは彼の正義と復讐心のおかげだった。
視界は霞み、音は遠い。
底冷えする様な冷たさが体を襲っていた。
だが、そんな絶望的な状況のはずなのに、頭は冴えきっていた。
それはきっと極限の状態に身を置いた人間が悟りを開くのに似ているのかもしれない。
それは彼の求める答えの最後の欠片を与えてくれた。
「魔王」
「なんだ。遺言なら聞いてやる」
魔王の邪悪な笑みを見ながら、勇者は一呼吸置く。
そしてはっきりと淀みない声で言い放った。
「俺は、勇者なんかじゃない」
その言葉は反響する事無く、壊れた魔王城に吸収された。
彼の言葉に魔王の笑みが消えた。
だが、その次には今度は今までとは違う感心の笑みを浮かべた
「今までの俺は勇者だった。だが化け物を倒せるのは化物だ。なら俺もお前と同じ化け物だ」
「つまりお前が化け物になると言うのか?」
「そうだ。俺は化け物になり、お前を殺す」
「いいのか、正義の勇者?」
「魔王を倒した勇者の話は伝承として伝えられる。鍛冶屋や魔法使い。逃亡者や武人。多くの人間が語ってくれる。そこに俺は必要ない」
世の人間達が知っている勇者や英雄は綺麗な話を並べ、汚い話を隠した伝承の中でしかない。
結局は現実の事実を元にした作り話めいたものでしかないのだ。
ならば、と、彼は思う。
「勇者である俺は必要無い。いや、存在してはいけないんだ」
真っ白の世界に黒が必要無い様に、正義の物語に悪が無い様に、綺麗な物語に汚い部分は無い。あってはならないのだ。
勇者と言う存在がそこにあってしまったらその綺麗な物語は汚れてしまう。
それがお前の答えか。
と魔王は笑った。
どこか呆れた様な乾いた笑みに潜んだ感情は分からない。
その一言の数秒後に、魔王の体が宙に浮いた。
その顔には相変わらず笑みが張り付いている。
それはこの戦いの終結へのカウントダウンでもあり、この戦争の終結へのカウントダウンでもあった。
「魔剣の無いお前に、二度目は無い」
「ああ」
彼に勝算は無かった。
だが、負ける気も無かった。
なぜならそれは勇者が勇者であり、正義の味方であるから。
『勇者!!』
「魔剣『フォールダウン』!!」
魔王曰く。
魔剣とは天才が才能と力によってひらめき的に突然生み出された一撃である
それに対し秘剣とは凡人が度重なる努力によって理論的に構築された一撃。
『フォールダウン』は重力の力によって体を急速に加速させ、亜音速を超える速度で敵に接近し、亜音速を超える一振りで敵を仕留める一撃だ。
しかもその一撃を防御できたとしてもその重さによって常人なら潰され、魔力で強化された勇者であっても万全の態勢で受け止められなければ骨折しかねない。
文字通り、魔の剣技、魔剣だ。
しかし勇者は知っていた。
突発的に天才が生み出した天才的なその一撃には無数のほころびがある事を。
例え凡人が生み出した一撃であっても、長い間理論に理論を重ね何十何百と改良を重ねられた秘剣にはかなわない事を。
勇者の刀が静かに動く。
それは魔王が来るよりも先に、動き始めていた。
彼は秘剣を持っていない。
魔剣も持っていない。
けれど、彼は一つだけ秘剣を知っていた。
一つだけ秘剣を目にした事があった。
「正義。魔力を全部俺にくれ」
『え? ええ。分かったわ』
魔王が亜音速で接近する。
魔王と勇者が激突するのは、きっと刹那よりも速いのだろう。
勇者の体を包み込むように風が渦巻く。
巨大な竜巻は彼の刀に集束し、圧縮され、風の力の塊へと変化した。
『フォールダウン』の弱点は二つ。
一つ目はそれを放つためには時間が必要なため、こちらも準備が出来てしまう事。
もう一つは、その速度の性質上、相手の攻撃を見て、太刀筋を急激に変えられない事。
つまり太刀筋がよまれていた場合に、相手の出かたを見てから手を変えられない事だ。
「秘剣『風撃燕返し』」
この秘剣の理論は簡単だ。
相手の技を読み、それをかわしつつ一撃を加える。
イメージとしては居合切りに近い一撃だ。
相手の予備動作と今までの戦闘での癖を読み、相手に致命の一撃を加えるまさしく秘剣。
その理論はあらゆる秘剣よりも簡単で、あらゆる秘剣よりも奥が深いと言われている。
彼がその技を見たのは、そう昔では無い。
何時だったかは詳細に覚えてはいないが、その秘剣の使い手は嫌と言うほど覚えていた。
英雄の秘剣。
彼はそれを見て、そして喰らっていた。
だからこそ、その秘剣の事はよく知っていた。
魔王の手を予想するのは至難の技だろう。
だが、至難の技であって、決して不可能ではないのだ。
魔王の剣が銀色に輝く。
鈍いその閃光を、勇者の目は捉えていた。
勇者の体が僅かに揺れる。
体を右にずらし、刀を突いた。
金属音は、無く、肉を貫く鈍く、醜い音が二つ響いていた。
勇者が咳き込み血を吐く。
「馬鹿、な……」
魔王の小さな声は勇者の耳に届いた。
魔王の剣は、勇者の体を貫いていた。
それは右の胸を貫き、肺を貫いているのだろう。
勇者の呼吸は荒く、木枯らしの様にヒューヒューと鳴っていた。
勇者の刀も魔王を貫いていた。
その刃は綺麗に心臓を貫いていた。
英雄を殺す時、彼女は英雄の心臓を貫いていた。
なら、きっと彼女は同じ事をしてくると彼は読んでいた。
特に彼女の様な舞台を調える様な人間は特に、同じ殺し方をすると。
「結局お前の力を借りたな。英雄」
ずるり、と魔王の体が勇者から滑り、地面に落ちる。
重く固い音が、聞こえた。
「楽しかったぞ……勇者」
「そうか」
「これで、お前は……正真正銘の化物だ」
「ああ、魔王以上の最凶のな」
「ははっ」
魔王の目が閉じ、聞こえていた呼吸音が消える。
唄う様な魔王の笑い声ははどこかに吸い込まれ、消えていった。
あれだけうるさかった騒音もいつの間にか消えていた。
勇者が糸の切れた操り人形の様にその場に崩れ落ちた。
胸から流れ出る血はあっという間に水溜りを作っていた。
『ゆ、勇者!!』
「後は、勝手に魔王を殺した勇者の物語が出来る。俺は不要だ」
荒い呼吸で呟く。
意識はゆっくりと薄れ始めていた。
戦いは終わった。
戦争は終わる。
平和がやってくる。
そこに彼等は必要無いのだ。
そこに戦士達は必要無いのだ。
彼は目を閉じた。
「悪かったな正義。散々振り回して」
『いいのよ。私はあなたに惚れてあなたに付いて行ったんだから』
風の音だけが聞こえた。
『「ありがとう」』
二人の声が重なった。
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
子供「やっぱり勇者はかっこいいよね」
少年「当たり前だろ。なんたって正義の勇者なんだから」
少女「正義の勇者?」
少年「知らないのかよ。魔王を倒した伝説の勇者だよ。俺達のヒーローだぜ?」
子供「かっこいいよね。今も正義の為に戦ってるって話だよ」
少女「す、凄いね」
少年「ああ。俺もあんな風になってみたいな」
子供「僕も僕も」
少女「あなた達じゃ無理よ」
少年「俺たちだって正義の心は負けないぜ」
子供「そうそう。僕達も正義の為に戦うんだ」
少女「はいはい」
魔法使い「……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
鍛冶屋の家
鍛冶屋「……」カンカン
魔法使い「ただいま」
鍛冶屋「あ、お帰り」
魔法使い「また今日も子供たちが勇者さんの事話してましたよ」
鍛冶屋「うん。俺も聞いた」
魔法使い「ずいぶんかっこ良くなってますね。勇者さんの話」
鍛冶屋「美化され過ぎなんだよ。逆に胡散臭くなってんじゃん」
魔法使い「皆さん信じてますよ」
鍛冶屋「ま、まあな」
コンコン
武人「久しぶり」
魔法使い「お久しぶりです」
鍛冶屋「一か月ぶりだな」
武人「ああ。少し忙しくて来れなかったんだ」
鍛冶屋「少し前まで毎週来てたからな」
魔法使い「鍛冶屋さん」
武人「仕方ないだろう。勇者も逃亡者も英雄もいないんだから」
鍛冶屋「……すまん」
武人「俺だって寂しいんだ。これくれいは許してくれ」
魔法使い「べ、別に大丈夫です。どんどん来てください」
武人「別にどんどん来る気はないけどな」
鍛冶屋「勇者の情報は無いのか?」
武人「残念だが」
魔法使い「……」
鍛冶屋「もう一年だぜ」
武人「こっちはやっと人が住める程度には回復したよ」
鍛冶屋「どこもそんな感じか」
魔法使い「傷痕は深いですね」
武人「ああ」
鍛冶屋「……」
魔法使い「もし勇者さんの情報があったら教えて下さい」
武人「ああ。そうするよ」
武人「また来るよ。それじゃあ」
鍛冶屋「そんなにすぐ来なくていいからな」
魔法使い「素直じゃないですね」
鍛冶屋「素直な気持ちだよ」
魔法使い「はいはい」
武人「……なんだかんだでうまくやっていけそうだな。お前等」
鍛冶屋「……ありがとう」
武人「照れるなよ」
鍛冶屋「照れてない」
魔法使い「素直じゃないですね」
武人「ははは。じゃあまた来るよ」
鍛冶屋「勝手にしろ」
武人「勝手にするよ」
魔法使い「また今度」
武人「ああ。また今度」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
英雄の墓の前
勇者「……」
逃亡者「ああ、勇者」
勇者「逃亡者……」
逃亡者「命日は明日だろ」
勇者「明日来れば他の奴等と会う事になる」
逃亡者「そうか」
勇者「そういうお前はどうして今日なんだ」
逃亡者「まあ、お前と同じかな」
勇者「そうか……」
武人「一年ぶりだな」スタスタ
勇者「武人か」
逃亡者「久しぶり。あれ? 方腕は?」
武人「落とした」
逃亡者「ああ。そう」
武人「二人ともちゃんと生きていたんだな」
逃亡者「なんとかね」
勇者「ああ」
武人「どこにいたんだ?」
逃亡者「世界中をフラフラしてた。今も何のために生きてるのか分かんないよ」
武人「……」
逃亡者「俺は姫様を守る事だけが生きる理由だったんだ。姫様がいない今はどうしたらいいだろうな」
武人「……なら、なんで今必死に生きているんだ?」
逃亡者「姫様に生きろって言われたからかな」
武人「勇者は、どうだ?」
勇者「俺は戦いの中に生きている人間だ。平和の中には生きられない」
武人「俺だってそうだ。けど、ゆっくり慣れて行けば何とかなる」
勇者「無駄だ」
武人「……」
勇者「俺はどうやっても平穏は無理なんだ。息苦し過ぎると言うか、辛くなってな」
逃亡者「分かる気がするよ。平穏は優し過ぎるんだろうな」
武人「そんな事分かっていただろう」
勇者・逃亡者「?」
武人「俺達は戦士だ。戦いの中が全ての俺達に平穏が向いていない事なんて最初から分かっていただろう」
逃亡者「じゃあなんでお前はそこにいるんだ」
武人「お前等がいつでもこられるようにだ」
武人「居場所が無いと面倒だろう」
逃亡者「……いつそっちに行くかも分からないし、死ぬまで行かないかもしれないよ」
武人「それならそれでいいさ」
勇者「……」
武人「安心しろ。俺だけ幸せになろうなんて考えてないさ」
勇者「別にいいんだぞ」
逃亡者「ああ。お前の人生なんだ。お前の好きなように生きればいい」
武人「ならこの生き方だよ。これ以外は無い」
逃亡者「……」
勇者「……」
武人「たら、ればの話はしないようにしててもどうしても考えるんだ」
武人「あの時こうすれば、あの時ああしていればって」
勇者「結果は変わらなかったかもしれない」
武人「そんな可能性の話は誰にも分からないさ。そんな事分かってる」
武人「でも、英雄とお前等にどうしても償いたいんだ」
逃亡者「……」
武人「だから俺は待たせてもらう。何時でもここに来れるようにな」
勇者「……」
武人「自己満足だって事は分かってる」
勇者「俺も逃亡者もやってる事は自己満足だ」
逃亡者「その通り」
勇者「魔法使いと鍛冶屋にだけ生きてると伝えてくれ」
武人「会いに行かないのか?」
勇者「今の所は会いに行く気はない」
逃亡者「なんで、行けばいいじゃん」
勇者「もし会いに行けば確実にあいつ等の迷惑になる」
武人「迷惑?」
勇者「旅の途中でも俺は俺の正義の為に戦って人を殺してる。もし俺と鍛冶屋達との関係が知れればあの二人にも危険が及ぶかもしれない」
武人「……そうか。でもいつかは会いに行った方がいいぞ」
勇者「ああ、分かってる」
逃亡者「じゃあ。来年も俺は来るよ」スタスタ
勇者「俺もだ」スタスタ
武人「何年だって待っててやるよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
草原
勇者「少し休むか」
正義「ええ」
勇者「……ここはどこだろうな」
正義「相変わらず計画性の無い旅ね」
勇者「ああ」
正義「まあ、今に始まった事じゃないけどね」
勇者「慣れたか?」
正義「嫌でもなれるわよ。どれだけ一緒にいると思ってるの?」
勇者「一年半。と少しか?」
正義「だいたいそれくらい」
勇者「どこか行きたい所はあるか?」
正義「どこでもいいわよ。とりあえず今日の宿を探さない?」
勇者「……同感だ」
正義「決まったら行きましょう」スタスタ
勇者「そうだな」スタスタ
本編はこれで完結です。
全体的にグダグダした所もあったし、後半の失速感はひどかったと思いますが最後まで読んでくれた方はありがとうございます。
設定だけ思いついて、ストーリーは後から思いつくだろうと思ったら、痛い目を見る破目になりました。
今までもそうだったんですが、思いつきで作ったキャラを生かし切れていない感があるのでもっと努力していきたいです。
次からは後日談、またはサイドストーリーをやっていきたいと思います。
後日談、もしくはサイドストーリーをやってほしいキャラがいたら教えてください。
あれから数年後
とある村
勇者「今日はここで寝るか」
正義「そうね」
カップル「……」イチャイチャ
勇者「……正義」
正義「何?」
勇者「……恋愛って何なんだろうな」
正義「……突然何?」
勇者「恋愛って何なんだろうな」
正義「うん。聞いた」
勇者「……」
正義「突然どうした訳?」
勇者「今二十三だ」
正義「ええ、そうね」
勇者「……このまま独りぼっちで老いていったらどうなるのかと思ってな」
正義「ああ、老後の不安ってやつね」
勇者「一人で生活知るのは寂しいからな」
正義「……私がいるじゃない」
勇者「まあ、そうだな」
正義「単純に彼女が欲しいんでしょ?」
勇者「そういう訳じゃないんだが」
正義「そういう訳よ」
勇者「……」
正義「二十三で少し焦ってるのよ」
勇者「そうか?」
正義「そうよ」
勇者「……」
正義「……彼女が欲しいならまずは女と仲良くなる事ね」
勇者「……ペットを飼うのはどうだろうか?」
正義「逃げたわね?」
勇者「犬は旅の仲間としても優秀だと思うんだ」
正義「彼女は?」
勇者「旅の仲間としてどうなんだ?」
正義「だから逃げないでよ」
犬「わんわん!」
勇者「よしよし」
正義「本当にそれでいいの?」
勇者「素直な生き物の方がいいだろう」
メス犬「ワンワン」
犬「わん!!」タタタッ
勇者「……」
正義「本当に欲に忠実な生き物ね」
勇者「……」
正義「で、ペットはどうするの?」
勇者「……宿屋に行こう」
正義「……ああ、そう」
勇者「……」
正義「犬も恋人がいるんだからあなたも頑張れば行けるんじゃない?」
勇者「ははっ……」
正義「え……何の笑い?」
勇者「別に」
正義「……」
正義「じゃあ少し夕食の食材買ってくるからその辺フラフラしてて」
勇者「分かった」
正義「女の子とでもしゃべってて」スタスタ
勇者「……」
勇者「……」
勇者「行くか」スタスタ
美人「ねえ」
それは勇者があった中ではかなり上位の美人だった。
勇者「なんだ?」
美人「あなた旅人?」
勇者「そ、そうだが?」
美人「二時間二万ゴールドでどう?」
勇者「……」
美人「いろいろサービスするわよ」
勇者「ちょっと待ってくれ」
美人「いいわよ」
勇者「……」
美人「……」
勇者「……」
美人「……」
勇者「分かった」
美人「え?」
勇者「行こう。宿屋でもいいか?」
美人「べ、別にいいわよ」
最初は勇者と正義の後日談をやりたいと思います。
その後で逃亡者と信義。鍛冶屋と魔法使いとやっていこうと思います。
武人とか英雄とかもやれればやろうと思います。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
宿屋
美人「……先シャワー浴びていい?」
勇者「いや、いい」
美人「え?」
勇者「少し聞きたい事があったんだ」
美人「き、聞きたい事?」
勇者「ああ。女は何をもらったら嬉しいんだ?」
美人「え? プレゼントって事?」
勇者「ああ」
美人「う、うーん……アクセサリー、とか?」
勇者「アクセサリーか……」
美人「そうね」
勇者「ありがとう」
美人「じゃ、じゃあ」
勇者「……」スタスタ
美人「ちょっと待って!!」
勇者「ん?」
美人「何やってるの!?」
勇者「何って、買い物に」
美人「私は!?」
勇者「ああ、二時間後に戻ってくる。金もちゃんと払う」
美人「いやいやいや。私まだ何もやってない」
勇者「俺の相談に乗ってくれただろう。その相談料でいい」
美人「あ、あなた……」
美人「本気で言ってるの?」
勇者「ああ」
美人「……なんで私を選んだのよ……」
勇者「俺は女の知り合いが少なくてな。丁度声をかけてきたから聞いた」
美人「……それでも私が納得できない」
勇者「こんな話を知っているか?」
美人「は?」
勇者「とある国の王様が隣の国からやってきた王からある料理をもらった」
美人「……」
勇者「とある王は初めて見る料理に驚いたが、実際食べてみると非常においしく大喜びした」
美人「それで」
勇者「王はその料理が忘れられずお忍びで隣の国に行き、とある店で料理を食べた。だが一口食べると何も言わずに出ていってしまったそうだ」
美人「……意味が分からない」
勇者「その王が食べた料理は最高級の食材を最高級の料理人が調理した最高級の料理だったんだ」
美人「……で?」
勇者「その王は最初に最高級の味を知ってしまった。だから王にとってその料理の味は最高級の料理の味以外考えられない訳だ」
美人「……何が言いたいの?」
勇者「確かにお前は恐ろしい美貌を持っている。胸も大きい。そして経験も豊富だ。だからこそ、ダメなんだ」
美人「……つまり私を抱くと今後抱く事になるかもしれない女じゃ満足できなくなるかもしれないって事?」
勇者「まあ、そうかもしれない……」
美人「はっきり言いなさいよ」
勇者「貴様は童貞の敵だ!!」
美人「はっきり言い過ぎよ!!」
勇者「はっきり言えと言っただろう!!」
美人「そうだけど、そうだけど何かが違う!!」
勇者「とにかく。俺はいい」
美人「……本当に私の意見でいいの?」
勇者「ああ」
美人「娼婦だけどいい訳?」
勇者「それがどうした」
美人「……」
勇者「じゃあ行ってくる」
美人「ちょっと待って!!」
勇者「ん?」
美人「私も、手伝ってあげる」
勇者「……いいのか?」
美人「二万も貰うんだから。それくらい協力してあげるわ」
勇者「……ありがとう」
美人「あ、でもアクセサリーのお金は別よ」
勇者「分かってる」
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「どれがいいと思う?」
美人「これとかどう?」
勇者「……ピンクか」
美人「不満そうね」
勇者「似合わなそうでな」
美人「へえ。あげる相手はどんなタイプな訳?」
勇者「どんなタイプ……頭が固い奴と」
美人「と? 二人に上げるの?」
勇者「ああ」
美人「彼女、じゃないの?」
勇者「ああ」
美人「……っは」
勇者「ん?」
美人「そうよね。あなた童貞だもんね。ごめんなさい」
勇者「……」
美人「頭が固いのか……なら地味目で、でもワンポイントあるのがいいのかな?」
勇者「これとかどうだ?」
美人「少し地味過ぎるわね。ワンポイントがあるといいんだけど……」
勇者「難しいな……」
美人「奥が深いって言って」
勇者「ああ……」
美人「これとかいいんじゃない?」
勇者「……」
美人「どう?」
勇者「何が違うんだ?」
美人「ここにワンポイントがあるでしょ? さっきのは何にも無いただのブレスレットだったけどこれにはワンポイントあるの」
勇者「へぇ」
美人「分かってないでしょ」
勇者「……すまん」
美人「いや、別に謝らなくてもいいんだけど」
勇者「そういうのは少し苦手でな」
美人「……だから童貞なの」
勇者「……言いかえす言葉も無い」
美人「言いかえす言葉なんて考えればいくつでも出てくるでしょ」
勇者「……」
美人「……」
勇者「ダメだ」
美人「そういう所も含めて童貞ね」
勇者「あんまり童貞と言わないでほしいんだが」
美人「ごめんね」
勇者「……」
美人「で、もう一人の子はどんな感じ?」
勇者「いつもお世話になっているんだ。性格は……世話を焼くのが上手? なのか?」
美人「私にそんな事言われても知らないんだけど」
勇者「すまん……」
美人「別に謝らなくていいんだけどね」
勇者「そ、そうか」
美人「私はこのピンクの奴が好きなんだけどな。でも似合わない子なんでしょ?」
勇者「な、なんでそう思うんだ?」
美人「勘」
勇者「……」
美人「まあ、娼婦の勘ってやつよ」
勇者「それを言うなら女の勘だ」
美人「……女なんて言ったら他の女の人に怒られちゃう」
勇者「お前は女だろう。なら女の勘と言っても別にいいだろう」
美人「……そうね」
勇者「これとかどうだろう」
美人「……うん。控えめだけど可愛さもあるし、意外とセンスいいじゃない」
勇者「褒めても何も出ないぞ」
美人「知ってる」
勇者「すまない。ほしいものがあるんだが」
店主「どれだい?」
勇者「これとこれと、あとこれをくれるか?」
店主「あいよ」
美人「え、そのピンクの奴はいらないんじゃない?」
店主「包んだ方がいいかな?」
勇者「頼む」
店主「はいよ」
美人「ねえ」
勇者「少し待っててくれ」
店主「はい。ありがとよ」
勇者「どうもありがとう」
勇者はアクセサリーを受け取る。
勇者「付き合ってもらったお礼だ」
勇者はピンク色のアクセサリーを手渡す。
美人「え?」
勇者「嫌なら別にいいんだが」
美人「う、ううん。ありがとう」
勇者「行くぞ」
美人「あ、うん」
勇者「……」スタスタ
美人「さっきの言葉訂正するわ」
勇者「どれをだ?」
美人「ずっと童貞のままの原因はその鈍感さだと思う」
勇者「俺は鋭いぞ」
美人「気のせいよ」
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~
宿屋
勇者「付き合ってもらって悪かったな」
美人「いいのよ。楽しかったし」
勇者「そうか」
美人「そろそろ時間ね」
勇者「ほら」スッ
美人「ありがとう」
勇者「……」
美人「でもなんか悪いわね。ただ買い物手伝っただけなんだし」
勇者「俺がいいと言っているんだ。別にいいだろう」
美人「おっぱいだけでも触っとく?」
勇者「嬉しい限りだが遠慮させてもらう」
美人「なんで?」
勇者「理性を保てる自身が無いんだ」
美人「……ああ、そう」
勇者「もしもそうなったら困る」
美人「……」
勇者「……」
美人「かっこいいんだか悪いんだか……」
勇者「じゃあな」
美人「お金はいいわ」スッ
勇者「……?」
美人「だってあなたにはこれもらってるし」
勇者「……いいのか?」
美人「ええ」
勇者「……いや、持って行け」
美人「……なんでそこまで?」
勇者「俺がそうしたいからだ」
美人「お人好しなのね」
勇者「ああ」
美人「ちょっとは否定しなさいよ」
勇者「悪いな」
美人「……」
勇者「じゃあな。頑張れよ」
美人「はいはい。じゃあね」ガチャ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数時間後
正義「ただいま……あれ?」
勇者「なんだ?」
正義「……」
勇者「ちゃんとここにいると連絡しただろう」
正義「ええ、でも……なんでいるの?」
勇者「いちゃいかんのか?」
正義「別にいてもいいんだけど、何の変化も無いから」
勇者「?」
正義「だって綺麗な女の人と歩いてたじゃない」
勇者「ああ、見てたのか」
正義「てっきりあれなのかと」
勇者「悪いが俺はそういうタイプじゃない」
正義「ええ、思い出したわ」
勇者「それはよかった」
正義「で、そろそろ行くの?」
勇者「ああ、そろそろ行こうと思う」
正義「もうだいぶ経つのよね」
勇者「ああ」
正義「……早いわね」
勇者「正義」
正義「ん?」
勇者「ほら」
勇者は正義にアクセサリーを渡す。
正義「何これ」
勇者「プレゼントだ」
正義「……ありがとう」
勇者「……」
正義「そっけないわね」
勇者「元々だ」
正義「……」
勇者「……」
正義「はあ……」
勇者「なんだ」
正義「いいえ。あなたは変わらないなって」
勇者「そうだな」
正義「ま、悪い事だけじゃないんだけどね」
勇者「……」
正義「じゃあ明日の朝市で行くんでしょう?」
勇者「ああ、その予定だ」
正義「ならさっさと寝ましょう」
勇者「ああ……」
正義「嬉しかったわ。ありがとう」
勇者「……」
~~~~~~~~~~~~~~~
二日後 とある町
勇者「悪い、遅くなった」
正義「英雄の墓に行ってたんでしょ?」
勇者「ああ」
正義「で、これからはどこに行くの?」
勇者「……特にはないが……お前の行きたい所はあるか?」
正義「うーん。のんびりできる所?」
勇者「……難しいな」
正義「……」
勇者「……」
正義「……なんて、冗談よ」
勇者「……」
正義「あなた言ってたじゃない。年老いて一人だったらどうしようって」
勇者「ああ」
正義「あなたが私を捨てない限りは私はあなたの剣でいる。だから安心しなさい」
勇者「……」
正義「……」
勇者「正義――――」
女「きゃぁぁぁぁぁ!!」
勇者「!?」
正義「行きましょう?」
勇者「そのつもりだ」
正義「……」タタタッ
勇者「正義……」タタタッ
正義「え?」タタタッ
勇者「…………付き合ってもらうぞ」
正義「……ええ」
勇者編はいったんここまでです。
次回からは魔法使いと鍛冶屋編です。
~~~~~~~~~~~~~~~
とある町
少女「マジカルアタック!!」
少女は少年の顔面を殴りつける。
少年「テメェ!! 何やってんだよ!!」
少女「うるさい!! 母さんを馬鹿にするな!!」
少年「しかもマジカルアタックってただ殴ってるだけだろ」
少女「あんたを殴る為の魔法だからいいの」
少年「お前もお前の母さんと――――」
少女「マジカルパンチ!!」
少女のパンチが少年の顔に直撃する。
少年「もはやただのパンチじゃねえか!!」
少女「……まだやる?」
少年「もういいよ!!」タタタッ
少女「……」スタスタ
少女「ただいま」
鍛冶屋「ん、おかえり」カンカン
少女「あれ、母さんは?」
鍛冶屋「買い物に行ったよ」カンカン
少女「そう」
鍛冶屋「……お前また殴っただろ」カンカン
少女「何の事?」
鍛冶屋「町の子供だよ」カンカン
少女「わ、私は悪くない」
鍛冶屋「先に殴ったのは誰だ?」カンカン
少女「……」
鍛冶屋「謝って来い」カンカン
少女「……」
鍛冶屋「……」
少女「父さん嫌い!!」タタタッ
鍛冶屋「……」
~~~~~~~~~~~~~~~~
爺さんの部屋
爺さん「……」
少女「……」タタタッ
爺さん「……また喧嘩したのか」
少女「私は悪くないから」
爺さん「鍛冶屋そっくりだな」
少女「似てない」
爺さん「……」
少女「私は母さんが馬鹿にされたから殴ったのに、なんで謝りに行かなくちゃいけないの」
爺さん「理由はどうあれ手を出しちゃ駄目だ」
少女「……」
爺さん「分かるだろ?」
少女「父さんは母さんを馬鹿にされて悔しくないの?」
爺さん「……そうか、知らないのか」
少女「何が?」
爺さん「あの二人の結婚の話だ」
少女「……何それ?」
爺さん「……鍛冶屋に聞きなさい」
少女「え、教えてよ」
爺さん「あいつかお前の母さんに聞いた方がいいぞ」
少女「……」
鍛冶屋「ここにいたのか」ガラガラ
爺さん「終わったか?」
鍛冶屋「終わった」
爺さん「じゃあ少女の相手をしてやれ、俺は出掛ける」
鍛冶屋「何しに」
爺さん「ジジイの集まりだよ」スタスタ
鍛冶屋「……」
少女「ねえ」
鍛冶屋「ん?」
少女「母さんと父さんの結婚の話って何?」
鍛冶屋「……何ってどういう事?」
少女「お爺さんが父さんに聞けって言ってたから」
鍛冶屋「……」
少女「教えて」
鍛冶屋「まだ早い」
少女「ええー」
鍛冶屋「まだ早い」
少女「……教えてくれたら謝りに行ってくる」
鍛冶屋「……」
少女「……これでどう?」
鍛冶屋「いい性格してるな」
少女「教えて」
鍛冶屋「……わかった。その代わり今後手を出さない。それも守るんだ」
少女「……」
鍛冶屋「どうだ?」
少女「分かった」
鍛冶屋「……じゃあ、話したくないけど……」
今回はここまでです。
魔法使いと鍛冶屋編は少し長くなるかも
~~~~~~~~~~~~~~~~~
現在から大体八年くらい前
おじさん「で、鍛冶屋くんはそろそろ帰ってくるかね?」
爺さん「さあな。連絡の一つもしてこないからな」
おじさん「そのうちフラっと」
鍛冶屋「ただいま」
おじさん「ほ、ほらね」
爺さん「……何処行ってた」
鍛冶屋「旅」
爺さん「……」
鍛冶屋「……」
爺さん「まあ、中々悪くない顔つきにはなったかな」
おじさん「うんうん。よかったよかった」
魔法使い「あ、あの……」
爺さん「鍛冶なら今度だ。今日は終わり」
鍛冶屋「いや、違う」
爺さん「ん?」
おじさん「え、えっと、誰?」
鍛冶屋「俺の結婚相手」
爺さん「……」
おじさん「な、ん?」
魔法使い「は、初めまして。魔法使いと申します」
爺さん「鍛冶屋」
鍛冶屋「何?」
爺さん「お前は鍛冶の修業の為に旅に出たんじゃないのか!!」
鍛冶屋「そうだよ!! その途中で魔法使いに会ったんだ!!」
爺さん「ふざけるな!! 結婚!?」
鍛冶屋「結婚だよ!!」
おじさん「ま、まあまあ二人とも落ち着いて。お茶でも飲も? ね?」
爺さん「俺は認めん。だいたい相手の家には――――」
鍛冶屋「行った」
爺さん「なんて?」
鍛冶屋「勝手にしろってさ」
爺さん「……俺は認めん!!」
鍛冶屋「……」
爺さん「俺は認めん」
鍛冶屋「それしか言えねぇのか!!」
おじさん「お茶どうぞ」
魔法使い「ありがとうございます」
鍛冶屋「……」ズズズッ
爺さん「もっと熱くてもいい」
おじさん「ごめん」
鍛冶屋「何が気にくわねぇんだよ」
爺さん「……」
おじさん「おじさんは賛成だよ。可愛いし」
魔法使い「い、いえ……」
爺さん「まともに剣も打てないお前に――――」
鍛冶屋「ほら」ポイッ
おじさん「いい剣だね」
爺さん「……」
鍛冶屋「文句あるのか?」
爺さん「……」
魔法使い「……」
鍛冶屋「……」
おじさん「……」
おばさん「あ!!」
鍛冶屋「ん?」
爺さん「?」
おじさん「ふぁ!?」
おばさん「あんた!? 呪い師だろ!! なんでこの町に!?」
鍛冶屋「文句あるのか?」
おばさん「爺さん。おじさん。そいつ呪い師だよ!!」
爺さん「ほう?」
おじさん「え、ええと。お茶入れようか?」
鍛冶屋「もうある」
おじさん「ごめん」
鍛冶屋「……」
爺さん「……」
おばさん「だから――――」
爺さん「それがどうした?」
おばさん「は?」
爺さん「この人は鍛冶屋の婚約者だが?」
おばさん「……悪い事言わないから――――」
爺さん「呪い師なのがいけない事か?」
おばさん「いけない事かって……人を呪う様な人間がこの町にいられちゃ嫌なんだよ」
爺さん「鍛冶屋が選んだ人がそんな事をするとは思えん」
おじさん「おじさんもそう思うよ。だって鍛冶屋くんが選んだんだから」
おばさん「……」
おじさん「帰ってもらっていいかな?」
おばさん「もしその呪い師が――――」
鍛冶屋「でりゃぁぁぁぁ!!」
おばさん「うぎゃ……」
おじさん「いいラリアット……」
鍛冶屋「次魔法使いの事悪く言ったらキャメルクラッチな」
おじさん「おじさんはドロップキック」
おばさん「……」タタタッ
魔法使い「え、あの……」
爺さん「あんな奴気にするな。言いたきゃ言わせておけ」
鍛冶屋「……」
爺さん「まあ、認めてやる。ただ勘違いするな」
鍛冶屋「……」
爺さん「あくまで結婚を認めただけだ。お前達の事は認めてない」
魔法使い「が、頑張ります」
鍛冶屋「……」
おじさん「おじさんは認めてるからね」
鍛冶屋「ありがと。そう言えば店はいいの?」
おじさん「宿屋かい? うん。別に大丈夫。お客なんて一組しかいないし。今日は出掛けるって言ってたから」
鍛冶屋「あ、そう」
今日はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔法使い「じゃあお買い物に行ってきますね」
鍛冶屋「ああ、頼む」カンカン
魔法使い「行ってきます」
爺さん「……」カンカン
鍛冶屋「……」カンカン
おじさん「元気?」チラッ
爺さん「まあ、そこそこ」
おじさん「そう、ならいいんだけど」
鍛冶屋「いいのかよ」
おじさん「うちの包丁直った?」
爺さん「直ったが、一応刀鍛冶だからな」
おじさん「包丁も刀の一種って事で」
爺さん「……」
鍛冶屋「終わったぜ」
爺さん「ん……」
おじさん「鍛冶屋くんもずいぶんそれっぽくなってきたね」
爺さん「まだまだ、そんなに褒めちゃ駄目だ」
おじさん「素直じゃないねえ」
爺さん「嘘はついてない」
鍛冶屋「……」
おじさん「で、魔法使いさんは?」
鍛冶屋「買い物」
おじさん「一人で?」
鍛冶屋「……ずっと家にいるって訳にもいかないだろ」
おじさん「まあ、そうだけどね」
鍛冶屋「文句がある奴は言わせとけばいいんだよ」
爺さん「その通り」
鍛冶屋「……」
爺さん「間違った事言ったか?」
鍛冶屋「別に」
おじさん「お互い素直じゃないな」
爺さん・鍛冶屋「うるさい」
おじさん「似た者親子だね」
爺さん「誰がこんな奴と」
鍛冶屋「ホントだよ」
おじさん「そう言う所も似てるね」
鍛冶屋「……」
おじさん「それじゃあそろそろ帰ろうかな」
爺さん「帰れ帰れ」
おじさん「……長年の付き合いとは言えお客だよ?」
爺さん「……文句があるなら包丁を持って帰ってくれていい」
おじさん「接客業をやってる人間とは思えないね」
鍛冶屋「あと数年もしたら俺に変わるから大丈夫だよ」
おじさん「魔法使いさんを馬鹿にしてた町の人に飛び蹴りしたんだって?」
鍛冶屋「……」
おじさん「同じようなもんだよ」
鍛冶屋「……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔法使い「ええと、人参と肉ですかね」スタスタ
魔法使い「すいません」
食材屋「……なんだい?」
魔法使い「肉と人参と、あと何か野菜もらえますか?」
食材屋「……」
おばさん「呪い師に売るものは無いってさ」
魔法使い「……え」
おばさん「さっさと帰ったらどう?」
魔法使い「ほ、本当ですか……」
食材屋「悪いなあ。売ってあげたいんだけど、評判とかいろいろあって」ヒソヒソ
おばさん「ほら、早く――――」
???「そう言うのはよくないんじゃない、おばさん?」
???「ああ、そうだな」
魔法使い「!?」
おばさん「はあ!?」
逃亡者「どうも」
信義「久しぶりね」
魔法使い「逃亡者さん、信義さん。なんでここに?」
信義「まあ、フラフラとね」
逃亡者「懐かしい奴に会いに来ただけ」
おばさん「何、あんた達!?」
逃亡者「あなたみたいな立派な人間とは一切接点の無い敗北者です」
信義「その敗北者の相棒よ」
おばさん「……つまりクズって事?」
逃亡者「だいたい合ってるかな」
信義「全部あってるの間違いじゃない?」
おばさん「……」
信義「そんな嫌そうな顔しないでよ」
おばさん「あんた達には関係ないでしょ!?」
逃亡者「まあ、うん。そうだね」
信義「え?」
今日はここまでです。
更新遅くて申し訳ないです。
もっと頑張らないと。
おばさん「え?」
逃亡者「魔法使いとは知り合いだけど、正直これは関係ないよ」
信義「……」
逃亡者「だって俺みたいな奴と関わってたら評判悪くなるだろ?」
魔法使い「え、あ……」
逃亡者「いいっていいって。俺も信義もほとんど浮浪者みたいなもんだから」
信義「みたいじゃなくて浮浪者よ」
逃亡者「やっぱり?」
信義「ええ。残念ながら」
魔法使い「……」
逃亡者「だから俺は魔法使いじゃなくてそっちのおばさんに用があるんだよ」
おばさん「は!?」
逃亡者「ってな訳で少し俺の話に付き合ってもらえるかな? おばさん?」
おばさん「は、何!?」
逃亡者「いやいや、あなたの様な立派な人間の考え方を少しでも知っておこうと思いましてね」
おばさん「ちょっ、離しなさいよ!!」
逃亡者「だから話すって言ってるじゃん。だからこっちに来てって」
おばさん「その話すじゃなくて!!」
信義「鍛冶屋によろしくね」スタスタ
おばさん「ちょっ、待っ――――!!」
魔法使い「あ、はい」
信義「頑張ってね」
魔法使い「ありがとうございます」
逃亡者「信義。早く」
信義「はいはい。じゃあね」
魔法使い「はい」
魔法使い「……」
食材屋「……」
魔法使い「すいません。お、お願いですから――――」
食材屋「ああ、わかってるよ。で、何がいるの?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔法使い「ただいま戻りました」
鍛冶屋「お帰り」
爺さん「お帰り」
鍛冶屋「大丈夫だったか?」
魔法使い「え、あ、はい。少しいろいろありましたけど」
爺さん「いろいろ?」
魔法使い「あ、いえ、でも逃亡者さん達に助けてもらって」
鍛冶屋「逃亡者がいたのか?」
魔法使い「はい」
鍛冶屋「どうだった?」
魔法使い「元気そうでした。信義さんとも仲良くやってるみたいです」
鍛冶屋「ふうん。ならいいんだけどさ」
爺さん「誰なんだ? それは」
鍛冶屋「俺達が旅に出てる時に会った仲間だよ」
爺さん「お前が仲間ねえ……」
鍛冶屋「仲間がいない訳ねえだろ」
爺さん「性格最低のお前がか?」
鍛冶屋「あぁ!?」
魔法使い「二人とも落ち着いて」
おじさん「お、喧嘩してるね?」ニコニコ
魔法使い「なんで笑ってるんですか!?」
おじさん「あの二人はああやって楽しんでるんだよ」
魔法使い「……」
鍛冶屋「楽しんでなんかねえ!!」
爺さん「こんな奴を相手にしても面白くもなんともない」
鍛冶屋「ああ!?」
爺さん「なんだ?」
魔法使い「……」
おじさん「あ、来週なら空いてるよ」
鍛冶屋「何の話?」
おじさん「爺さんが知ってるから聞いてみたら?」
鍛冶屋「何の話?」
爺さん「……結婚するんだろ。だったらやるべき事があるだろう」
鍛冶屋「?」
おじさん「分かって無いみたいだよ?」
爺さん「結婚式だ。まあ、結婚は認めるがお前達は認めてないからな。お前等の為じゃなく、世間体とかの為だ」
魔法使い「……でも」
爺さん「言いたいやつには言わせとけ」
鍛冶屋「……」
爺さん「不満か?」
鍛冶屋「ありがとよ」
爺さん「……ふん」
魔法使い「ありがとうございます」
爺さん「ちゃんと準備はしておけよ」
魔法使い「はい」
おじさん「じゃあそろそろ行くね」
鍛冶屋「もう?」
おじさん「伝えに来ただけだから」
鍛冶屋「ありがとな」
おじさん「いやいや。それじゃあね」
鍛冶屋「……ちょっと行ってくる」
魔法使い「あ、お気をつけて」
鍛冶屋「……」スタスタ
逃亡者「あ、いたいた」
鍛冶屋「悪かったな。いろいろ」
逃亡者「いいっていいって」
信義「そうそう。なんだかんだ言っても楽しめたしね」
鍛冶屋「……」
逃亡者「懐かしい奴等にも会えたしな。んじゃあな」
鍛冶屋「あ、ああ……」
おばさん「……」
鍛冶屋「あ」
おばさん「あ、ご……」
鍛冶屋「?」
おばさん「ごめんなさいィィィィ!!」
鍛冶屋「は?」
おばさん「許して下さいィィィィ!!」タタタッ
鍛冶屋「……」
今回はここまで。
次回で鍛冶屋魔法使い編は終了。
もし出来たら英雄さんの天国での話を少しの予定です。
~~~~~~~~~~~~~~~~
現在
鍛冶屋「ま、こんな感じだな」
少女「え、結婚式は?」
鍛冶屋「普通だよ。魔法使いの親は来なかったけどな」
少女「じゃあそのおばさんは?」
鍛冶屋「知るかよ。あのせいで一カ月くらい露骨に避けられてたし」
少女「ふぅん」
鍛冶屋「これでいいか?」
少女「……」
鍛冶屋「何か不服か?」
少女「結婚式の事もう少し詳しく」
鍛冶屋「だから普通だったって。特に問題も無かったし」
少女「……」
鍛冶屋「分かったらさっさと遊びに行って来い」
少女「はぁい」
鍛冶屋「喧嘩すんなよ」
少女「分かってる」タタタッ
少女「……」タタタッ
少女「きゃっ!!」ドンッ
逃亡者「あ、ごめん。大丈夫?」
少女「大丈夫。それに私が悪いし」
信義「ううん。ぼさっと歩いてたこいつが完全に悪いのよ」
逃亡者「……ごめんね」
少女「いいよ」
信義「優しいのね」
逃亡者「ひどいなあ」
少年「あ、暴力女!!」
少女「魔法少女よ!!」
少年「呪い師少女の間違いじゃねえの? はははは!!」
少女「……」ギリリッ
少年「おい、どうし――――ぐえっ」
逃亡者「あ、ごめん。石を蹴ったら偶然当たってしまったよー」
少年「テメェ!!」
逃亡者「偶然だよー。偶然だよ―」
少年「この野郎!!」
石を投げつける少年。
しかしそれを誰かが受け止める。
勇者「人に石を投げてはいけないと親から教わらなかったか?」
少年「悪いのはそっちだ!!」
逃亡者「俺は教わらなかったな」
信義「育ち悪そうだもんね」
逃亡者「そこの痴女。うるさい」
勇者「……」
正義「馬鹿ね」
勇者「ああ、同意見だ」
逃亡者「よく言うよ。結婚式に乱入しようとしてた町の馬鹿共をボコボコにして回ったのはどこのどいつだよ」
勇者「半分はお前だ」
逃亡者「もう半分はお前だろう」
少年「……」
正義「勇者。逃亡者。あの子ほったらかし」
勇者「悪い」
少年「お前等も呪い師の仲間かよ」
勇者「悪いか?」
少年「お前等も殺人者だ!!」
勇者「……そうだな。だが俺は一度でも間違った事をしたとは思っていない」
逃亡者「かっこいい!!」
勇者「やめろ」
少年「うるさい!! 殺人鬼!!」
逃亡者「露出狂も追加で」
信義「寝取られ野郎も追加ね」
逃亡者「寝取られては無いんだけどなぁ……」
勇者「……」
逃亡者「殺人鬼にそんな事言っちゃっていいのかな?」
少年「え?」
信義「知ってる? 殺人鬼って執念深いから逃げてもすぐに追いかけてくるのよ?」
少年「……」
逃亡者「顔覚えたよ? 名前は……なんて言うのかな?」
少女「少年だよ」
少年「おい!!」
信義「あらら。名前もバレちゃったわね」ニコッ
少年「……」
信義「夜の帰り道は気をつけた方がいいわよ。ね?」
逃亡者「後ろを見たら……」
少年「う、ひィィィ!!」タタタッ
勇者「……」
逃亡者「どう?」
勇者「大人げない」
信義「分かりきってたじゃない」
勇者「そうだな」
少女「あ、あの……」
逃亡者「怖がらせちゃったのなら謝るよ」
少女「……ありがとう」
勇者「……」
少女「……」
勇者「自分を信じろ。自分が信じた事をしろ」
少女「え?」
勇者「他人に流されるな。と言う事だ」
少女「は、はい」
逃亡者「それじゃあ。元気でね」スタスタ
勇者「……」スタスタ
正義「どうしたの?」スタスタ
逃亡者「性格は鍛冶屋に似てるね」スタスタ
勇者「ああ、そっくりだ」スタスタ
逃亡者「で、これからどうするの?」
正義「またどっかをフラフラする予定よ。ね?」
勇者「そうだな」
信義「鍛冶屋達には会わなくていいの?」
勇者「ああ」
逃亡者「相変わらず頭が固い」
勇者「お前も極力関わらないようにしているだろう」
逃亡者「そりゃあ、負け組だし」
信義「寝取られちゃうしね」
逃亡者「だから寝取られた訳じゃないって」
勇者「……」
正義「まあ、あなた達が元気ならそれでいいんだけどね」
逃亡者「元気でな」
勇者「ああ、元気で」
信義「……どうせまた会えるんだし、そう暗い顔しないの」
逃亡者「そうかもね」
勇者「そうだな」
ここからは英雄編です
英雄「……」
勝利「あ、おはよう」
英雄「……ここはどこだ」
勝利「さあ? 僕は知らないよ。でもあそこに看板っぽいのが――――」
『この先天国』
英雄「……」
勝利「……」
英雄「……」
勝利「ああ、思い出した。僕も英雄も死んだんだったね」
英雄「……私のせいで、お前まで」
勝利「いいよ。気にしてない」
英雄「……」
勝利「それより行こうか」スタスタ
英雄「ああ」スタスタ
ドンッ
英雄「あ、すまない」スタスタ
強者「こちらこそ。申し訳ない」スタスタ
英雄「……」スタスタ
勝利「あの人も死んだのかな」スタスタ
英雄「だろうな」スタスタ
天使「……こんにちは」
英雄「こんにちは」
天使「お名前を教えていただいてもよろしいですか?」
英雄「英雄だ」
勝利「勝利です」
天使「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」ガチャ
そこには数十人の老若男女が椅子に座っていた。
天使「あちらで座ってお待ち下さい」
勝利「……」
英雄「ここは天国なのか?」
勝利「でも、天国って感じじゃない様な気もするんだけど」
強者「……」
英雄「……あ、お前は」
強者「先程は申し訳なかった。我は強者。貴公は?」
英雄「英雄だ。お前も死んだのか?」
強者「まあ、そうだな」
英雄「……」
強者「……」
ガチャ
天使長「大変長らくお待たせしました。これより天国の説明会を行いたいと思います」
勝利「説明会?」
天使長「皆さままだ天国のシステムをあまりご存じないかもしれませんので、ゆっくり説明させていただきたいと思います。質問があればお気軽にどうぞ」
勝利「そりゃあ、天国なんて普通来た事無いし、システムなんて分かる訳ないよね」
英雄「そうだな」
天使長「まずは資料をお配りします」
天使「……」スッ
英雄と勝利は天使の差しだした封筒を手に取る。
天使長「まず天国の労働時間は午前九時から午後五時まで。お昼休憩は一時間。土日休みです」
天使長「また有給は年に十日程度です」
英雄「……業務内容は」ペラペラ
天使長「それぞれ生前の職を考慮し配属先を決めさせていただきます」
英雄「……」
天使長「資料には地獄との労働時間の違いが明記されていると思いますので確認して下さい」
勝利「地獄は午前十一時から午後八時まで。お昼休憩は二時間で休みはシフト制だってさ」
英雄「きちんと週休二日は貰えるんだな」
天使長「地獄も閻魔様により労働革命によってだいぶ労働環境がよくなったと言えますね。ただそれでもまだ休日出勤や一時間弱のサービス残業が多く見られます」
天使長「また地獄は夜勤や早朝出勤も月に一度から二度やってもらわなければいけません」
英雄「大変だな」
天使長「また、これは地獄も天国も共通して言える事ですが、この二つでは多次元の世界の人間との交流が可能な所が評価されています」
戦士「多次元の世界?」
天使長「つまりはまったく違った他の次元。つまり人種、文化、環境のまったく違う住人と交流できる訳です」
英雄「……面白いな」
勝利「でもそんなのどうやって分かるの?」
天使長「文化も生き物も、何もかも違う訳ですから、話してみればすぐに分かります」
英雄「……」
天使長「多次元についての説明は少しややこしいので省略させてもらいます」
天使長「ここからは天国と地獄の違いについてお話しさせていただきます」
天使長「一番の違いはキャリアアップの早さです。地獄だと現世に戻るのに平均約十年地獄で労働してもらわなければいけませんが、天国は半分の五年で現世へ戻る事が出来ます」
勝利「拒否する事は?」
天使長「ええ、もちろん可能です。天国でも地獄でも」
戦士「どうやったら天国に行けるんだ?」
天使長「まずは書類審査。そこで合格された方が集団面接。その後神様と閻魔様による最終面接となります」
強者「生前の行いで決まるのではないのか?」
天使長「そこも考慮いたしますが、大切なのは今ですから。しっかり反省して、悔いているならそれはむしろプラスになります」
戦士「へへ……」
天使長「もちろん反省しているかどうかはすぐに分かりますので」
英雄「どれくらい時間がかかるんだ」
天使長「全て通して二週間前後ですかね。その間はあそこの宿屋で寝泊まりしてもらいます」
天使長「他に質問は?」
勝利「……」
英雄「……」
強者「……」
戦士「……」
天使長「以上で説明は終了です」
天使長「書類審査については封筒の中に入っている紙を記入して提出して下さい」
天使長「生前の学歴職歴。死亡理由。自分の長所。短所。次の現世で頑張りたい事。生前の後悔。生前の思い出をしっかりと記入して下さい」
天使長「提出期限は明後日までです。では解散」スタスタ
勝利「だってさ。どうする?」
英雄「書くか」
勝利「そうだね」
今回はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
宿屋 食堂
英雄「書けたか?」モグモグ
勝利「まだ。英雄は?」
英雄「いや」モグモグ
勝利「それにしても、あれだけ居たのにここには誰もいないんだね」
英雄「そうだな」モグモグ
勝利「楽しそうだね」
英雄「何が」
勝利「さっきからケーキばっかり食べてるじゃん」
英雄「……知っているか? 頭を使っている時は糖分摂取が一番いいんだ」
勝利「何百回も聞いたから知ってるよ」
英雄「……そうか」
勝利「いいから次の生前の思い出と生前の後悔書きなよ」
英雄「分かってる」カリカリ
『生前の思い出
勇者に会った。勇者と戦った。勇者に負けた。勇者と人生ゲームをした。勇者のせいで負けた。勇者が――――』
英雄「うがァァァァ!!」グシャグシャ
勝利「!?」
英雄「ダメだ駄目だ駄目だ!!」グシャグシャ
勝利(何があったかは知らないけど聞かない方がいいかも)
英雄「勝利はどう書いたんだ」
勝利「僕は簡潔に分かりやすく書いたよ」
英雄「……普通だな」
勝利「悪かったね」
英雄「……そんなふうでいいのか?」
勝利「下手に気取るよりはよっぽどいいと思うよ」
英雄「……そんなもんか」
勝利「そんなもんだよ」
魔王「元気そうで何よりだ。半端者」
英雄「魔王?」
魔王「奇遇だな。こんな所で会えるとは。嫌な運命だ」
英雄「死んだ分際で偉そうに」
魔王「ははっ。お前の仇は勇者がとったぞ」
英雄「……そうか。今度会ったらお礼を言っておかなければな」
魔王「……ずいぶんと丸くなったものだ」
英雄「天国まで来て殺し合う気はない」
勝利「……偉いね。英雄は」
英雄「当たり前だ。いつまでも子供でいられるか」
姫「言い心構えね」
勝利「姫様?」
姫「覚えていてくれたのね」
勝利「そりゃあ……」
勝利(一応敵国のお姫様だし……)
姫「壊れていた頃の記憶は天使の方達が見せてくれた。あなた達には苦労をかけた。だからお礼が言いたいの」
魔王「そんな気を使う必要はない」
英雄「お前は関係無い。さっさと地獄に堕ちろ」
勝利「英雄。大人の対応じゃないよ」
姫「改めて、ありがとう」
英雄「的にお礼を言ってどうする」
姫「例え敵であっても、助けてもらったのならお礼を言うのが道理でしょ?」
英雄「ふん」
魔王「大人な対応はどうした?」
英雄「どういたしまして」
勝利「何か違う気がするけど……まあいいや」
姫「じゃあお互い頑張りましょう」
魔王「別に地獄でも構わんがな」
英雄「ならさっさと堕ちろ」
勝利「……英雄」
魔王「……まあ、こんな事書いている人間が大人の対応なんて」
英雄「おい!!」
魔王「捨てるなんて勿体ないぞ」
勝利「魔王。お願いだからやめて。泣いちゃう」
英雄「……た、頼む……」ウルウル
姫「だ、大丈夫。ちゃんと返してくれるから」
英雄「ほ、本当に?」
姫「うん。本当」
魔王「……」
勝利「さあ、どうする?」
魔王「冷めた。返す」
姫「ほら、返してもらえたよ」
英雄「あ、ありがとう……」
魔王「集団面接は五人だそうだ。一緒だといいな」
英雄「誰がお前なんかと」
勝利「もう復活したんだ……」
英雄「私を誰だと思っている」
魔王「ケーキが好きでメンタルが弱い勇者大好きな半端者だろう?」
英雄「……」
勝利「そうかもしれないけど行っていい事と悪いことがあるよ!!」
魔王「……」
姫「合ってはいるのね」
勝利「当たり前だろう」
英雄「勝利もそんなふうに思ってたのか……?」ウルウル
勝利「……」
姫「と、とりあえず今日はもうこれくらいにしたら?」
勝利「う、うん。そうだね。英雄も限界寸前だし」
魔王「……では、また会おう」スタスタ
勝利「もう来ないでほしいな」
姫「まったくね」
英雄「……」
勝利「傷は深いね……」
英雄「うん」
今日はここまでです。
天国の話が終わったら残りスレ数に関わらず落とそうと思います。
忙しく、話を考えるのにもかなりの時間が必要になるので、こんなダラダラでやっていくより、終わらせた方が思ったのでそうさせていただきます。
ある程度時間に余裕が出来て、新しい話が思いついたらまた別の話をやるかもしれません。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
英雄「頼む」
勝利「お願いします」
天使「はい。確かに受け取りました」
勝利「次はいつ?」
天使「遅くて一週間。短ければ三日くらいですかね」
英雄「不合格だったものはどうなるんだ?」
天使「閻魔様の手下の方達に地獄に連れていかれます」
勝利「それで?」
天使「閻魔様に地獄での労働環境をレクチャーされた後、全部の部門の仕事を一週間ごと研修。その後で一番合う部門に正式に配属。こんな流れでしょうね」
英雄「天国は?」
天使「天国も初めはそんな感じですね。ただ天国は見た感じむいて無さそうな部門の研修は飛ばす事が多いですね」
勝利「ありがとうございます」スタスタ
天使「もういいですか?」
英雄「ああ。もう大丈夫だ」スタスタ
英雄「……」スタスタ
勝利「英雄?」
英雄「う、うまくいくだろうか……」
勝利「考え過ぎちゃ駄目だよ」
英雄「そうか?」
勝利「うまく行く時はうまくいくし、いかないときはいかない。そんなもんだよ」
英雄「うまくいかないときは、どうやっても無駄なのか……」
勝利「間違っては無いけど、そこまでネガティブに考えなくても……」
英雄「……」
勝利「英雄。まだ分からないじゃん。まだこれからがあるかもしれないだろ」
英雄「ある、かもな……」
勝利「……」
英雄「何だろう。何をしてもうまくいかない様な気がする……」
勝利(完全に鬱になってるなあ……でも何言っても無駄だろうし……)
姫「元気?」
英雄「……ああ」
姫「何か悩んでるのか?」
英雄「わ、分かるのか!?」
勝利「バレバレだよ」
姫「え、ええ。まあ」
勝利「ごめんね。迷惑ばっかり書けて」
姫「私も生前にたくさん迷惑かけてたからお互いさまね」
英雄「姫はもう書類は出したのか?」
姫「ええ。出したわ」
英雄「じ、自信はあるのか」
姫「さあ?」
英雄「……」
姫「一応出来る限りの事はしたから後は結果を待つだけ」
勝利「……失敗しても?」
姫「その時はその時よ」
英雄「……」
勝利「英雄。見習った方がいい」
英雄「……」
姫「これからご飯食べに行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」
英雄「……ああ、行く」
姫「今日はデザートがいつもより多いそうよ」
英雄「行こう」スタスタ
勝利「……英雄がスイーツ好きなの知ってる?」
姫「ええ」
勝利「ああ、やっぱり」
姫「考えても仕方ないんだし、その方がいいんじゃない?」
勝利「同感だね」
英雄「勝利、姫。早く」
姫「ええ」
勝利「……」スタスタ
姫「一つ聞きたいんだけど。なんでスイーツ?」
勝利「ほら、英雄って乙女だから」
姫「……」
勝利「多分ベタベタな恋愛小説とか大好きだと思うよ」
姫「なんとなく分かる気がする」
~~~~~~~~~~~~~~~~
宿屋 食堂
英雄「……」モグモグ
勝利「幸せそうだね」
英雄「……そうか?」モグモグ
姫「なんか。凄くうれしそう」
魔王「さすが乙女だな」
英雄「……」
魔王「別に何もしない。ただ見に来ただけだ」
英雄「来るな」
魔王「まったく。まるで私に親か何かを殺されたかのような嫌われ様だな」
勝利「親どころか本人殺されてるからね」
英雄「仲良くできるか」
魔王「残念だ」
英雄「……」
魔王「そうだ。いろいろな者たちと話して来たか?」
英雄「いろいろな人間?」
姫「ああ、私は話して来たわ。変わった学者さんの方だったわ」
勝利「僕が話したのは格闘家って人かな」
英雄「……」
魔王「英雄はどうだ?」
英雄「何時の間に話してたんだ……」
魔王「時間なんてあまるほどあるだろう」
英雄「……」
勝利「残念だけど魔王の言うとおりだよ」
英雄「……」
姫「いろんな人の話を聞くのは大切よ」
英雄「ちょっと行ってくる」
勝利「行ってらっしゃい」
姫「面白い人に会えるといいわね」
英雄「ああ」
今回はここまでです。
出来る限り期待に添えるように頑張ります。
英雄「……」スタスタ
戦士「弱い奴は何もせずに黙って従ってればいいと思うんだよ」
強者「弱いのは罪。それは認めよう。だが弱い者を甘く見ていると痛い目を見るぞ」
戦士「そうか?」
強者「自惚れは己を滅ぼす。だからこそ我は死んだのだ」
戦士「それじゃあなんだ……俺が死んだのも自惚れって事か?」
強者「貴公の事は知らん。ただ己を強いと考えるのは例外無く自惚れだと言う事だ」
戦士「……」
英雄「お前は自惚れて死んだのか?」
強者「……我の場合は死ぬべくして死んだのかもしれんな」
戦士「どういう意味だ?」
強者「因果応報。自分がした事は自分に返ってくる」
戦士「その理論に当てはめると何人の人間が殺される事になるんだよ」
強者「死ぬだけの悪事を我はして来たという事だ」
英雄「じゃあお前は自分がやって来た事は間違っていると思っているのか?」
強者「まさか。我は我が正しいと思った事しかしていない。ただそれが正義か悪かは分からん。それだけだ」
戦士「……」
英雄「迷いが無いんだな」
強者「あっても邪魔なだけだ」
英雄「その通りだ」
戦士「迷ってても仕方ねえからな」
英雄「お前達とは気が合うな」
天使「お話し中の所失礼します」
強者「なんだ?」
天使「英雄さん。強者さん。戦士さん。皆さまは書類選考を合格されましたのでその後報告に
戦士「早いな」
天使「ええ、あなた方は特に調べるのが楽でしたのですぐに」
強者「?」
天使「書類選考はあなた方の正直さを見るために行ったものです」
天使「ですので嘘が無ければ合格となります」
戦士「調べるのが楽ってのはどういう意味だ?」
天使「生きている時の知名度が高かったので調べるのが簡単だったのです」
英雄「悪い意味でだろう?」
天使「はい」
戦士「否定もしないんだな」
天使「事実ですので」
戦士「まあ、そうだけど」
天使「次の日程が決まりましたのでお伝えいたします」
英雄「ほう」
天使「英雄さんと強者さんは同じグループですね」
強者「他は誰なのだ?」
天使「魔王さん、勝利さんですね。四名で閻魔様と神様に会ってもらいます」
英雄「神様と閻魔様……」
天使「どちらも優しい方なのでご安心ください」
強者「閻魔が優しいというのは変わっておるな」
天使「今は地獄も怒られるとすぐ嫌になってしまう人が多いので……。昔の様なスパルタは今は行っていないんですよ」
英雄「嘆かわしいな」
強者「まったくだ」
戦士「地獄なんだからビシバシやればいいんじゃねえのか?」
天使「地獄はあくまで更正施設ですから」
天使「では、また連絡がありましたら」スタスタ
英雄「ああ、すまないな」
強者「……集団面接か」
戦士「俺は別に地獄でもいいんだけどよ」
強者「我もだ」
英雄「本当にいいのか?」
戦士「自分で言うのもなんだけど、悪い事してきたしなぁ……」
強者「一通り犯罪もしてきたからな」
英雄「……」
戦士「んじゃ、そろそろ部屋に戻るわ」
強者「我も戻るとしよう」
英雄「ああ、ありがとう」
戦士「また機会があったらな」
強者「お互い頑張る事だ」
英雄「……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大浴場
英雄「……」
姫「元気無いわね」チャプ
英雄「いや、皆覚悟はしているのだと思ってな」
姫「覚悟?」
英雄「地獄に行ってもいいと覚悟しているんだ」
魔王「当たり前だろう」スタスタ
英雄「……」
魔王「世の中には自分でどうにかできる事とどうにも出来ない事がある。これは後者だ。泣こうが喚こうが自地獄に落ちる時は落ちる」
英雄「今回はお前の言葉が重いな」
魔王「生きてきた年月が違う」
姫「人間と魔族じゃそりゃあ違うわよね」
魔王「当たり前だろう。胸は無いが頭はあるんだな」
姫「セクハラで訴えましょうか?」
魔王「褒めているんだがな」
姫「人のコンプレックスをさらっと抉っといて何言ってんの?」
魔王「コンプレックスと考えるからそうなるんだ。むしろ特徴と考えればいい」
姫「……あなたずっとそうやって考えてたの?」
魔王「当たり前だろう」
英雄「ポジティブだな」
魔王「ヘタレとは違うんだ」
英雄「何?」
魔王「違うか? 結局勇者に想いを伝えてないんだろう?」
英雄「う、うるさい!!」
魔王「図星か?」ニヤニヤ
英雄「別に勇者の事は何とも思っていない!!」
魔王「書類には勇者との思い出がいっぱいだったが?」
英雄「あ、あれは……。勇者以外に友達がいなかったんだ!!」
魔王「……」
姫「……」
今回はここまでです。
なんとなく次やりたい事が思いついたのでこちらが書き終わったらやっていきたいと思います。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
会場
強者・英雄・勝利・魔王「……」
天使「それではこれから面談を始めていきます」
神「よろしくお願いします」
勝利「よろしくお願いします」
魔王「よろしく」
英雄「よろしく」
強者「よろしく頼む」
閻魔「あなた方は皆、生きている頃に有名人でしたから思ったより早く選考が終わりましてね。少し早めに面談を始めていきます」
閻魔「別に緊張なさらなくても大丈夫ですよ」
神「じゃあまず最初に簡単に自己紹介をお願いします」
英雄「英雄だ。生きている頃は戦士として戦っていたが魔王に殺されてしまい死んだ」
魔王「魔王だ。生きている頃は魔族の王として人間を滅ぼそうとしたが勇者と言う男に殺されてしまった」
勝利「勝利です。僕は元々は剣で英雄の剣をしてたんだけど勇者の刀が折れた時に僕を使ったので僕はここに来たんだ」
英雄「英雄だ。生前は力を追い求めて様々な事をやっていたがとある男に殺されてしまった」
神「ありがとうございます。ではまず英雄さん。あなたは幸せでしたか?」
英雄「分からないな。ただ少しばかり不幸なことが多かったような気がする」
神「そうですか。ありがとうございます。魔王さん。あなたは王としての自分はどうだと感じますか?」
魔王「魔族の王としては正しいと考えている。民の為に尽力してきたと言えるぞ」
神「では次に強者さん。あなたは人生に悔いはありますか?」
強者「ある。けれどそれは俺の弱さが原因だったのだ。あの時我が強ければと思う時もあるな」
神「……そうですか。では次に勝利さん。あなたは英雄さんの剣として生きてきた事をどう思いますか」
勝利「僕は誇りに思ってるよ。英雄は本当にいい戦士だった。それはずっと変わらないよ」
神「ありがとうございます」
閻魔「次は私から質問を、皆さんは一つのクラスにいると考えて下さい
閻魔「昼食の時にデザートが余ったのですがそのクラスの半分の数しかデザートはありません。けれどあなたを含めた全員がそれを欲しがっているとしたら、どうします?」
勝利「半分にしてみんなに分ければいいんじゃない?」
英雄「とりあえず自分と自分の仲間の分は確保する。その後は知らん」
強者「強いものがそれを手に入れ弱いものは涙をのむ。それだけだろう」
魔王「劇的なゲームにしてその勝者に景品として与えればいいのではないか?」
閻魔「皆さん。面白い意見ですね」
勝利(みんな思考回路が滅茶苦茶過ぎるよ……)
神「では次に皆さんにとっての正義を教えて下さい」
勝利「武器に正義はいらないと思ってるよ。持ち主の考えを尊重すればそれでいい」
英雄「自分とその仲間が幸せならそれでいい。それを冒すものは悪だ」
魔王「別にどうでもいいかな。面白ければ問題は無い。正義や悪などはくだらないな」
強者「強き者は正義だ。力こそ正義、とも言えるかもしれぬな」
神「ほう、では魔王さんあなたは正義や悪は存在しないと?」
魔王「そんなものは個人的な恨みなどでしか無い。悪と正義など所詮は偏見でしか無い」
神「ありがとうございます。では勝利さん。あなたは持ち主が女子供も殺す様な極悪人でも正義や悪の事は言わないと?」
勝利「その極悪人にも彼なりの考え方があって彼なりの正義があるんじゃないかな。それすら無くて単純に殺人を楽しんでるんだったらすこし考えるけど」
神「では次に強者さん。強いものが正義なら弱いものは悪ですか?」
強者「別にそうとは言っていない。ただ強いものは正義になれて弱いものは正義になれない、と言う事だな。正義が勝つのではない、勝った方が正義なのだ」
神「ありがとうございます」
閻魔「最後に、質問します。皆さんの今会いたい人は誰ですか?」
英雄「勇者だ」
魔王「勇者だな」
勝利「僕は正義かな」
強者「……我の昔の知り合いの女だ」
神「ありがとうございます。では結果はまた後日に」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
英雄「……はあ」
姫「疲れてるみたいね」
英雄「そりゃあ、まあな」
勝利「質問の返しがみんなすごかったね」
姫「そんなに?」
勝利「うん。本当にひどかった」
英雄「酷いとか言うな」
勝利「いや、実際にひどかったし」
英雄「……」
勝利「まあ、それでも別にいいんだけどさ」
姫「明日は私か……」
英雄「いつも通りやれば問題ないだろう」
勝利「少し前までビビりまくってた癖に」ボソッ
英雄「何か言ったか?」
勝利「別に」
勝利「あ、ちょっと飲み物とってくる」スタスタ
英雄「姫は会いたい人はいるのか?」
姫「会いたい人?」
英雄「ああ」
姫「うーん……会いたい人は、逃亡者かな」
英雄「やっぱり」
姫「え、何、やっぱりって」
英雄「いや、そうだろうと思っていたからな」
姫「……そう。そう言うあなたは勇者?」
英雄「え、ん、あ、ああ。そうだ」
姫「なんでちょっと恥ずかしがってるの?」
英雄「そ、そんな訳ないだろう。べ、別にや、やましい話などし、していないんだから」
姫「噛み過ぎ」
英雄「……」
姫「どうせ告白してないんでしょ?」
英雄「ああ、当たり前だ!! それに勇者とは……」
姫「勇者とは、何?」
英雄「別に、何も無かったし」
姫「……言いたい事があるなら言っとかないと損よ」
英雄「姫は会いたい人はいるのか?」
姫「会いたい人?」
英雄「ああ」
姫「うーん……会いたい人は、逃亡者かな」
英雄「やっぱり」
姫「え、何、やっぱりって」
英雄「いや、そうだろうと思っていたからな」
姫「……そう。そう言うあなたは勇者?」
英雄「え、ん、あ、ああ。そうだ」
姫「なんでちょっと恥ずかしがってるの?」
英雄「そ、そんな訳ないだろう。べ、別にや、やましい話などし、していないんだから」
姫「噛み過ぎ」
英雄「……」
姫「どうせ告白してないんでしょ?」
英雄「ああ、当たり前だ!! それに勇者とは……」
姫「勇者とは、何?」
英雄「別に、何も無かったし」
姫「……言いたい事があるなら言っとかないと損よ」
英雄「……」
姫「……」
英雄「姫はどうなんだ?」
姫「あるに決まってるじゃない」
英雄「そうか」
姫「死んだ人間なんて多かれ少なかれあるに決まってるじゃない」
英雄「そ、そうだな」
姫「私が言えた言葉じゃないけど、あなたは少し頑張った方がいいと思うわよ」
英雄「……う、うるさい……」
姫「あと素直になった方がいいかも」
英雄「……」
勝利「ただいま……、ってあれ? 何かあった?」
英雄「別に何も無い」
姫「ええ、何も無いわ」
勝利「あ、そ、そう……」
姫「うん、頑張って」
英雄「……」
勝利「え、絶対なんか会ったでしょ」
英雄「うるさい!! 少し黙ってろ!!」
勝利「……」
今日はここまでです
~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日後
英雄「今日はマンゴープリンだそうだ」
勝利「良かったね」
英雄「ああ」
勝利「ここでも太るのかな」
英雄「……さあな」
勝利「……」
英雄「なんだ」
勝利「うん、なんて言うかさ、英雄太った?」
英雄「……」
勝利「気のせいかもしれないけど、少しだけふっくらした様な……」
英雄「筋肉じゃ無くてか?」
勝利「うん、別にデブって訳じゃないけど、ふっくらと言うか、なんと言うか……」
英雄「……なんだ。はっきり言え」
勝利「うん。太ったね」
英雄「……」
勝利「ごめん、そんなに睨まないでよ」
英雄「……」
勝利「だから謝ってるじゃん」
英雄「別にいい」
勝利「そ、そう?」
英雄「……やる」
勝利「え?」
英雄「もういい。食べていいぞ」
勝利「え、もしかして気にしてるの?」
英雄「してない!!」
勝利「でもさっきまであんなに楽しんでたのに」
英雄「いいから食べろ!!」
勝利「怒ってる? 怒ってるよね?」
英雄「気のせいだ」
勝利「絶対気のせいじゃない」
英雄「……」
天使「お取り込み中すいません」
英雄「別に取り込んでない」
勝利「だいぶお取り込み中だと思うけどなあ……」
英雄「で、なんだ」
天使「最終面談の日取りが決まりましたのでお伝えしに」
勝利「二人とも?」
天使「はい。お二方ともです」
勝利「やったね」
英雄「そうだな」プルプル
勝利(あ、嬉しいけど、動けないから変なふうに震えてる)
天使「勝利さんは明後日、英雄さんは四日後になります」
英雄「そうか」
天使「また最終面談が終了した瞬間に天国か地獄に送られますので注意して下さい」
勝利「じゃあ最終面談が始まったらもう英雄達に会いにここには来れないの?」
天使「はい。そう言う事になります」
英雄「……」
天使「以上になりますが、質問はありますか?」
英雄「今回の集団面談の基準はなんだったんだ?」
天使「自分の事を理解しているか、生きていた頃の悪行を悔いているか、後は神様と閻魔様にお任せしてあります」
英雄「……」
天使「正しい事とは人それぞれです。中途半端な信念なら落ちますが、しっかりと芯を持った信念なら問題はありません」
天使「もちろん、限度と言うものはありますが」
英雄「だろうな」
魔王「元気そうだな。半端者」
勝利「初っ端から暴言吐くのやめてくれないかな」
魔王「別に暴言を吐いてるつもりは無いぞ」
勝利「英雄からすれば暴言以外の何物でもないよ」
英雄「子供じゃないんだ。煽られてキレるほど短気じゃない」
魔王「勇者馬鹿」
英雄「うるさいなあ!!」
魔王「期待を裏切らないな」
勝利「お約束だね」
英雄「何!? 喧嘩売ってる訳!?」
勝利「英雄。落ちついて」
天使「……」
魔王「おい、なに帰ろうとしてるんだ」
天使「え、もう伝える事は無いですし……」
魔王「天使なら困っている者を助けなくていいのか?」
勝利「困らせてるのは魔王だけどね」
英雄「もう嫌だよ……」
勝利「英雄。泣かないで」
天使「……あの」
魔王「ダメだ」
勝利「楽しそうだね。魔王」
魔王「ああ、凄く凄く楽しいぞ」
勝利「そう、なら良かった」
英雄「良くない!!」
勝利「うん、そうだね。だからとりあえず落ちつこうよ」
英雄「……」
勝利「深呼吸して」
英雄「……」スーハースーハー
勝利「……」
英雄「もう大丈夫だ」
魔王「そう言えば、少し太――――」
勝利「うん。もう言ったからやめてあげて」
今回はここまでです。
少し早いですが次スレの紹介をします。
次は仮面ライダーっぽい話を書いていきたいと思います。
戦闘シーン多め、登場人物多め、厨二要素多めでやっていきたいと思います。
もしよければどうぞ。
タイトルは『青年「変身!!」』です。
~~~~~~~~~~~~~~~
二日後
勝利「それじゃあ行ってくるね」
英雄「ああ、頑張れよ」
姫「応援してるからね」
勝利「ありがとう、それじゃあ」スタスタ
姫「……」
英雄「……」
姫「英雄は明後日だったっけ?」
英雄「ああ」
姫「大丈夫?」
英雄「大丈夫だ」
姫「……そう」
英雄「……っう」
姫「分かった分かった。あっちで話聞いてあげるから行こ?」
英雄「わ、わかった」スタスタ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
英雄「なんだかんだ言っても勝利には迷惑をかけ続けていたからな」
姫「そうなんだ」
英雄「……」
姫「ずっと一緒に居た訳ね」
英雄「ああ」
姫「それで不安になったと?」
英雄「出来るなら勝利と一緒にいたい。そのために頑張りたいんだが……」
姫「そんなに難しく考えちゃ駄目よ」
英雄「だが……」
姫「あなたは少し真面目過ぎる気がするわ。もっとてきとうでいなくちゃ」
英雄「……」
姫「肩の力を抜いて楽に生きた方がよっぽどいいわよ」
英雄「肩の力を抜いて……」
姫「そうそう、肩の力を抜いてね」
英雄「すまない」
姫「後はそう言う気持ちがあるならきちんと伝えるべきよ。分かった?」
英雄「あ、ああ」
姫「……大丈夫」
英雄「少しだけ。楽になった」
天使「すいません」
英雄「?」
天使「勝利さんから伝言があります」
英雄「……教えてくれ」
天使「天国に行く事になったから、待ってる。だそうです」
英雄「……そうか」
姫「伝えられたらでいいから、おめでとうって伝えといて」
天使「了解しました」
英雄「……」
天使「では」
英雄「勝利に、すぐ行く。とだけ伝えておいてくれ」
天使「……はい」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
二日後
英雄「じゃあ、行ってくる」
姫「頑張ってね」
英雄「ああ」
天使「では、どうぞこちらへ」スタスタ
英雄「ああ」スタスタ
天使「皆さんにお伝えしている事ですが、一つだけアドバイスを」スタスタ
英雄「……」スタスタ
天使「ここから先はあなたが試されます。自分の正直に頑張って下さい」スタスタ
英雄「ありがとう」スタスタ
天使「いえ、お礼を言われる様な事ではありません」スタスタ
英雄「……」
天使「それでは頑張って下さい」ガチャ
英雄「ありがとう」スタスタ
神「どうぞ、座って下さい」
英雄「ああ」
閻魔「よろしくお願いします」
英雄「よろしく」
神「自己紹介などは前回しましたので省略させてもらいますね」
英雄「構わない」
神「あなたにする質問は一つです」
英雄「……」
神「あなたが今一番合いたい人に会わせてあげましょう。」
英雄「な……」
神「もちろん条件があります」
英雄「なんだ」
神「天国に行けなくなります」
英雄「……」
神「あなたが会いたいなら、すぐに勇者さんに会えます」
英雄「……」
神「どうなさいますか?」
英雄「……」
今回はここまでです。
英雄「勇者に、会わせてくれ」
神「では、天国には行かないと?」
英雄「ああ」
神「勝利さんはどうするんですか?」
英雄「……」
神「いいのですか」
英雄「勝利は私を知っている」
神「……」
英雄「勝利に言いたい事はもう言ってある。けれど、勇者には言えていない。謝れてもいない」
神「そうですか」
英雄「……」
神「では、あなたは勇者に会うと」
英雄「ああ、一言、謝っておきたい」
神「分かりました」
英雄「……」
神「そこの奥の扉の中に入って下さい」
英雄「分かった」
神「天国と地獄は繋がっていますが、会う事は叶いません。もちろん他の方も天国に行ってしまえば会う事は出来ませんよ」
英雄「……」
神「よろしいのですか?」
英雄「ああ、構わないさ」
閻魔「どうしてそこまでその勇者と言う男に気持ちを入れ込むんですか?」
英雄「ずっと本当の事を言えなかった。特に勇者には本心を伝えていないんだ」
神「そうですか」
英雄「……」
神「では、どうぞ」
英雄「ああ」ガチャ
バタン
英雄「……」
英雄「……」
勇者「……ここは?」
英雄「勇者!!」
勇者「……英雄?」
英雄「ああ、そうだ」
勇者「……これは夢か?」
英雄「勇者……」
勇者「……」
英雄「お前には謝らない事がたくさんある」
勇者「俺もだ」
英雄「……」
勇者「俺もお前に謝りたい事がたくさんある。あの時の事、勝利の事。謝らなければいけない事はたくさんある。すまない」
英雄「え、あ……」
勇者「俺のせいで、お前は」
英雄「……別に、気にしてないよ」
勇者「……」
英雄「たくさんの人を殺したんだ。殺されても文句は言えない」
勇者「だが……」
英雄「それにあの時私は勇者の言葉を無視してた。だから自業自得」
勇者「……」
英雄「それに勝利も怒って無い」
勇者「な……」
英雄「だから、気にしなくていいよ」
勇者「……」
英雄「……」
勇者「ありがとう」
英雄「いいのよ」
勇者「……」
英雄「……」
英雄「ゆ、勇者!!」
勇者「いきなりどうした」
英雄「わ、私は、あ、ああ、あなたのおかげで救われた、かもしれない」///
勇者「……」
英雄「だ、だから、お礼は言っておくわ。あ、ありがとう」///
勇者「……お礼を言うのはこちらだと言うのに……」
英雄「……これからも頑張ってね」
勇者「ああ」
英雄「それじゃあ、行くわね」
勇者「そのうち俺もそっちに行く。その時はよろしくな」
英雄「待ってるわ」
英雄「それじゃあ」ガチャ
勇者「……」
英雄「……好きよ。勇者」
勇者「え……」
バタン
英雄「……」
英雄「……」ガクン
英雄「ああああ!!」///
神「も、戻ったようですね」
英雄「もしかして、見てた!?」
神「いや、そりゃあ、神ですから」
英雄「あがァァァァ!!」///
閻魔「……」
英雄「……ありがとう」
閻魔「どうしてお礼を?」
英雄「これでもう心残りは無い。もう大丈夫だ」
神「そうですか。では右の扉の方へ」
英雄「ああ」ガチャ
神「それでは」
バタン
勝利「英雄!!」
英雄「え?」
勝利「良かった。合格したんだね」
英雄「じ、地獄しゃ無いのか?」
天使「質問の件は謝らせていただきます」
英雄「……」
天使「最後は神様と閻魔様二人によって天国行きか地獄行きかが決まります」
英雄「なら、あの質問は?」
天使「どちらを選ぶかではなく、そこにどんな感情があるのか。どんな決意があるのかを見るのです」
勝利「僕の場合は正義と会うか。天国に行くか。だったよ」
天使「もちろん。場合によっては質問が変わりますが。基本は二択。そして質問は一つのみです」
英雄「……そうか」
天使「天国へようこそ。詳しい話は後日させていただきます」
英雄「ああ」
女性「あ、あの」ウロウロ
英雄「どうした?」
女性「人を探しているんですが、性格のちょっと変わった男の人で……口調が少し古風な……」
英雄「見てないが」
女性「ここに来るって聞いて……」
英雄「……」
ガチャ
女性「あ!! 来ました。すいません」
英雄「そうか。ならいい」
女性「う……」ポロポロ
女性「……強者さん!!」タタタッ
勝利「じゃあ、僕達も行こうか」
英雄「ああ、そうだな」
英雄編は終了です。
勇者の話をすると丁度いいくらいかなって考えてます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とある町
勇者「……」
武人「……」
逃亡者「久々にこうして集まったんだしさ。近況報告でもしようよ」
勇者「俺は普通だ。何も変わりは無い」
武人「俺もだな」
逃亡者「お前等もいいおっさんじゃん。結婚とかいいのか?」
武人「お前も変わらんだろう」
逃亡者「俺は最初っから結婚する気なんて無いんだよ」
武人「お前と同じだ」
勇者「俺も結婚する気などない」
逃亡者「……はあ」
勇者「自分だけ幸せにはなれないだろう」
逃亡者「その気持ちは分からなくもないけどさ」
武人「多くの人間が死んだ。死んでいった仲間もいる。多くの敵も殺した。それなのに幸せにはなれない」
逃亡者「……ある種呪いだな」
勇者「かもしれないな」
武人「逃亡者はまだ姫様の事を気にしてるのか?」
逃亡者「……まあ、ね。俺は自分だけ幸せとか別にどうでもいいけど、好きな人とか居な」
武人「……そうか」
逃亡者「何年かぶりに集まったんだしなんか話は無いのかよ」
勇者「無いな」
武人「無い」
逃亡者「……俺も無いけどさ」
勇者「武人はまだ町に居るのか?」
武人「ああ。子供に剣術を教えている」
武人「中々面白いぞ。子供達の相手は」
勇者「それはよかった」
武人「逃亡者はどうなんだ?」
逃亡者「俺は相変わらずだよ。てきとうに町を転々としながらのんびりやってる」
武人「どこかに落ち付く気は無いのか?」
逃亡者「今の所は無いかな」
武人「贖罪の為か?」
逃亡者「……昔はね。でも今は違う。単純にいろいろ知りたくなったんだよ」
武人「……」
逃亡者「勇者はどうだ?」
勇者「俺も旅をしている。己の正義を信じてな」
逃亡者「変わらないねえ」
勇者「ああ」
逃亡者「何人殺したんだ?」
勇者「……さあな。とりあえず覚えられない位、だな」
武人「……」
勇者「後悔は無いさ」
逃亡者「そうでなくちゃ」
武人「……」
逃亡者「……」
勇者「……」
武人「そろそろ終わりだな」
勇者「次はいつ会える事になるんだろうな」
逃亡者「さあな」
武人「……」
逃亡者「またいつか会えるさ」
勇者「……」
逃亡者「そうだ、お前英雄に会ったか?」
勇者「?」
逃亡者「ああ、悪い。そう言う意味じゃなくて、その夢でって言う意味だ」
勇者「一度だけだが、見た」
逃亡者「……」
勇者「どうした?」
逃亡者「俺の夢に一度だけ姫様が出て来てさ。もしかしたら英雄も出てるんじゃないかと思ってさ」
勇者「……俺は英雄に謝られたよ」
逃亡者「俺は生きろって言われた」
勇者「……そうか」
逃亡者「だから俺は頑張るよ。少しだけ」
武人「いい事だ」
勇者「……」
逃亡者「もうおっさんなんだし、無茶はすんなよ」
勇者「お前こそ」
武人「お前に言われたくない」
逃亡者「はは……」
武人「勇者は特に気をつけるべきだな」
勇者「自分の事は自分が一番分かっている」
逃亡者「嘘付け」
武人「お前はよく無茶をする」
逃亡者「昔からずっとね」
勇者「……」
逃亡者「じゃあ、そろそろ行くかな」
武人「ああ、そうだな」
勇者「お互い気をつけてな」
武人「ああ」
逃亡者「じゃあまたどっかで会おうぜ」
勇者「そうだな」
武人「ああ」
今回はここまでです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日後
辺境の村 村のはずれ
少年「……」
勇者「……」
そこには一人の死体と一人の少年が立っていた。
勇者「お前が、殺したのか?」
少年「うん。僕が殺した」
勇者「……何故?」
少年「この人が人を殺したから」
正義「……何なの、この子」
勇者「さあな」
少年「人を殺した者は殺されなければならない。そうしないと殺した人間が浮かばれない」
勇者「それがお前の正義か」
正義「でもそれじゃああなたが殺した人間はどうなるの?」
少年「僕が全て引き受ける。僕にはその義務がある」
勇者「……」
少年「全てを平等に愛し、全てを平等に殺す。それが僕の正義だ」
勇者「それを否定する気も肯定する気も無い」
少年「だから僕には特別な人間なんて存在しない。皆同じ、友達も家族もね」
勇者「お前は親でも仲間でも殺すと」
少年「少し違う。僕には仲間なんていない。敵もね。相手が人を殺したのかどうか、それが僕にとっての判断基準だ」
勇者「……脆い正義だな」
少年「あなたがそう思うなら、そうなんでしょうね」
正義「怒らないの?」
少年「怒る理由は無いでしょう? 別に僕は理解してもらいたい訳じゃない」
勇者「……お前は」
少年「何ですか?」
勇者「……何人殺した」
少年「山賊共も合わせれば二十ほど」
勇者「……」
少年「理解できないだろうね。でも構いません」
勇者「俺は他人の正義に干渉する気は無い」
少年「そう」
勇者「……じゃあ――――」
少年「少し、待ってくれない?」
勇者「……」
少年「あなたも、僕と同じだね」
勇者「ああ。そうだ」
少年「何人殺した」
勇者「たくさん、だな」
少年「……」
勇者「別にお前を悪人と呼ぶ気は無いし、殺す気も無い」
少年「僕には理由がある」
勇者「お前にとって俺は悪か」
少年「人を殺したのなら、その罪を償うべきだ。因果応報。殺したのなら、殺されても文句は言えない」
勇者「……やるなら相手になってやる」
少年「……ええ」
勇者「……」
正義「ちょっと、本気?」
勇者「殺す気は無い」
正義「……大丈夫?」
勇者「正義、魔力を頼む」
正義「分かったわ」
勇者が風を纏う。
それは近づく者をすべて吹き飛ばす、鉄壁な盾でもある。
勇者「お前は強いんだろう。だがこれを突破出来ない」
少年「やってみろよ」
少年が剣を振るう。
だがその剣はいとも簡単に弾き飛ばされ、少年も吹き飛ばされる。
勇者「まだやるか?」
少年「……」
勇者「俺は村に居る。興味があるなら何回でも殺しに来い」スタスタ
正義「……昔のあなたに似てるかも」
旅人「ええ、そっくりですよ。ホントに」
正義「今更何?」
勇者「……」
旅人「いえいえ。別に殺し合おうって訳じゃない。ただ話しかけた。それだけですよ」
勇者「何をしているんだ?」
旅人「そうですねぇ……。何もしてない、ってのが一番正しいんじゃないですかねぇ」
正義「はあ?」
旅人「すいませんね。それ以外に適切な表現が無いんですよ」
勇者「……」
旅人「そんじゃあ、また何処かで会えたら会いましょうか」フラフラ
勇者「……」
旅人「ただ気楽に敵も味方も無く生きるってのも悪くねぇ」フラフラ
正義「何、あれ」
勇者「さあな」
正義「結局何が言いたかったのかしら」
勇者「別に何も言う気は無いんだろう」
勇者「あいつの目に俺はただの昔に会った男くらいにしか映っていないんだろう」
正義「……」
勇者「あれがあいつの答えなんだろうさ」
勇者「行こう」
正義「ええ」
今回はここまでです。
夏も終わりが近づいてきました。
今年も終わりが見えてきましたね。
この季節はカップルがよくできると噂で聞いた事があります。
寒くなり始めて、人肌が恋しくなるのでしょうか。
残り僅かな今年を有意義に生活していきましょう。
このスレを見ている皆さまに幸運があらん事を。
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