盗賊「勇者から装備を盗んだぜ」(66)

────夜道


盗賊「いやぁ、こんな真夜中にたまたま会った勇者から装備一式頂けるとはなー。景気が良いぜ」


盗賊「……しかし、まぁ。鎧はいらねぇな。重いし……あと、盾もいらねぇ、邪魔だし……それに兜に至ってはダサい。よくこんなの頭に乗っけて街を歩けるもんだぜ。なんで兜だけがこんな有様なんだ?」


盗賊「でも、この剣は使えそうだなー。勇者の力とやらが込められていて常人にゃその力を引き出せねぇらしいが、それでも十分な業物だぜ。………ま、これだけ持って後は金だけ抜いて置いてこ」




────草原


盗賊「そーろそろ街が見えてくるはずなんだがなぁ。捕った……いや頂いた物を替え金しないと、もう路銀もそんなにない………ん?ありゃあ……灯りだな。馬車か」



馬車〉ガタゴト ガタゴト ヒヒーン!


御者「おい!危ねぇだろうが!何、道の真ん中でぼさっと立ってんだ!!」


盗賊「……ふーん」


御者「な、なんだよ?」


盗賊「そいつぁ、申し訳ねぇや旦那。ここは同業者のよしみで許してくれないですかねぇ?」


御者「なにぃ?同業者?何、訳の分かんねぇ事を……」


盗賊「おとぼけなさんな。こんな真夜中に物騒にも馬車で移動する奴なんて夜逃げの貴族か、悪党って相場は決まってんのさ」


御者「………」


盗賊「例えば、この俺みたいになぁ」


御者「ふんっ、なら尚更どけ。同業者なら、お互いの仕事の邪魔はしない。それがマナーってもんだ」ニヤニヤ

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盗賊「……馬車から微かに呻き声がする。女か……オメーら人買いってヤツか」


御者「だったらどうした」


盗賊「容赦、しねぇ」


御者「…………………………はい?」


盗賊「この世の女を泣かしていいのは世界でこの俺ただ一人!お前らみたいなダサンピンが淑女に手を出すたぁ不届き千万!!」


御者「お前同業者だろ!?盗賊じゃねーのか!!」


盗賊「盗賊だ馬鹿野郎!さっきそう名乗ったろうがクソ野郎!!」


御者「あ、ごめんなさい」


盗賊「ふっ、盗賊は盗賊でも、ただの盗賊じゃねぇ。愛の盗賊だ!!」シャキーン


御者「ダメだ、お前が分からん!……えぇい!出てこい!!」


盗賊A・B・C・D・E「ヒャッハー!!」ダダダ


盗賊「ふん、出やがったな。ワラワラ、A・B・C・D・Eと出てきやがって。俺の立場がねぇだろうが」


盗賊「……ならば、俺は盗賊Ωだああああああ!!」シャリンッ!


御者「ふん、剣を抜いたところで多勢に無勢!一気に囲んで袋にしちまえ!」


盗賊A「だありゃあああ!」


盗賊「ふんっ!」ズパンッ!


盗賊B「なっ!?腕が」


盗賊C「腕が一太刀で斬れちまった!?」


盗賊A「ギャアアアア!」


盗賊「大丈夫?」


盗賊A「……マジやばい」


盗賊「トドメだぁ!!」


ブンッ!ズバッ!!



盗賊A「ぐっ……は」ドサッ



盗賊「……なんだこれ?随分切れ味がいいじゃねぇか。逆に焦るぜ」


盗賊B「オラアアアア!」


盗賊C「キェェェェ!!」


盗賊「はっ!だらぁっ!!」


ヒュン!ヒュン!


盗賊B・C「あ、あああ……」ドサッ、ドサッ


盗賊「おもさげながんす……ってか。今度はお前さんだぜ?」


御者「はっ?あと二人いるはず!?」


盗賊「奴らならとっとと逃げたぜ?」


御者「な、なんだとぉ!?」


盗賊「『元々真っ黒な仕事なのに雇い主がブラックとかやってられねーよ!』と叫んでいたなぁ……。やっぱり愛がなきゃ、部下も頑張りがいがないだろうに」


御者「上手い事言ったつもりかぁっ……な、なぁ、助けてくれよ!!金か?金ならやる!!」


盗賊「……」


御者「そうだ!俺と組まないか?あんたになら大金だせる!100、200はどうだ!?」


盗賊「……はした金なんていらねぇよ」


御者「え?」


盗賊「どんな金もいずれは酒と女に消える。……ならば、先立つ物を貰えりゃ満足さ」


御者「は、はぁ」


盗賊「お前さんは消えるこったな。この剣の届かねぇ場所に」


御者「は、はぃっ!!」タタタタタッ!!


盗賊「………………行ったか。さてと」


盗賊「随分と頑丈な馬車だなぁ。ちっとやそっとじゃ壊れねぇように出来てる。おっとここが扉だな……」


ガチャガチャ





『その術は魔法陣を特殊な術式で施してある………。簡単には開かない』


盗賊「この声、中からか。OK分かったよ。じゃ、こいつはどうすりゃ開くんだ?開けゴマって言おうか?」


『理屈は単純……その錠についている模様を削ればいい……。でも、その辺の剣なんかじゃ傷一つ付けられない………』


キィン!ギィ…



?「………びっくり」


盗賊「中から話かけてきたのはお前か?その節はどうも」


?「お気にならさず………」


盗賊「うん、表情に出して。なんか悪い事言ったみたいでへこむから」


?「努力する……」


盗賊「既にする気ないじゃねーか。まぁ、いいさ」


盗賊「今は……そちらのお嬢様方に用が」


女達「むーっ!むーっ!」


盗賊「全部で6人か。……皆口々に俺を見て幻の大陸の名前を叫んでいるぜ」


?「なんの話をしてるの?」


盗賊「可哀想に、さるぐつわ噛まされて、身体中を縛られて……なんか、こう」


盗賊「たまんねぇーな」


女「もがッ!?」


盗賊「安心しろよ。地獄に行くかわりに、俺が極楽にイカせてやろうってんだ。……あ、良い物持ってますね。皆さん」


女達「もがー!」


盗賊「頂きまーす」




ヒャーン!アァーン!


ソ、ソコハ!


ラメェー!


パンパン





盗賊「長い、戦いだったな……」


盗賊「一気に六人相手たぁ。俺もまだまだ若いってことかね」


盗賊「しかし、皆一様に笑顔で手を振りながら帰って行ったが、盗賊としちゃ間違ってるよな……。しかし、強姦にゃシットリ感がねぇし、最後にゃ和姦が一番」


?「あの………」


盗賊「あ、なんだまだ居たのかよ」


?「なんで私には手を出さなかったの……」


盗賊「いや、幼女には興味ないんで」


?「そう……私は吟遊詩人。助けてくれてありがとう」


盗賊「……そういう台詞はそんな物騒なモン構えながら言うもんじゃねぇな」


吟遊詩人「?、これはギター……」


盗賊「その俺に向けてる部分に空いてる穴から火薬の臭いがするぜ?」


吟遊詩人「……バレた」


盗賊「なんのつもりだ」


吟遊詩人「貴方は商売敵……」


盗賊「は?」


吟遊詩人「折角私が集めた『商品』を逃がしてしまった……」


盗賊「商品?……成る程ね、奴らが『人買い』ならお前さんは『人売り』ってとこか。見た目は幼気でも、とんだデンジャラスロリータだな」


吟遊詩人「ロリ……じゃ、ない……」


盗賊「ロリだよ?しかし、ならどうして馬車の中にいたんだ?」



吟遊詩人「私は、旅から旅への根なし草……次の町に行くために乗せて貰っていただけ……」


盗賊「んで行く先々、また人を売るってか、そのギターで何を歌うんだか。奴隷オークションで競りの口上でも吟じるのか?」


吟遊詩人「……それは、貴方の剣?」


盗賊「無視……まぁ、そうさな」


吟遊詩人「嘘、それは勇者の剣……。もしそうなら、貴方は勇者ということ……。……絶対違う」


盗賊「まぁ、嘘だからいいけどよ、別にいいんじゃねぇか?レイプする勇者がいても……価値観の押し付けは良くないぜ?」


吟遊詩人「そういう問題じゃない……でも」


盗賊「ん、もう銃を降ろすのか?」


吟遊詩人「貴方にはお金の臭いがする……。私を供にしてほしい……」


盗賊「金、ねぇ。そんな年頃でそんなもんに執着を抱いちまうか」


吟遊詩人「世の中、信じられる物はお金……」


盗賊「俺は、愛だと思うぜ」


吟遊詩人「……………貴方、本当に盗賊なの?」


盗賊「よく奪い、よく盗み、よく壊し、よく食べて、よく寝る!この内のどれか一つでもできりゃ盗賊語っても問題ないさ」


吟遊詩人「よく食べて、よく寝る、の前には『女を』がつくの……?」


盗賊「流石は悪党、話が早いぜ。よし、それじゃ好きにすればいい。お前さんの求めるもんが手に入るかどうかはお前さん次第だがね」





─────村


吟遊詩人「貴方と会ってから早3日は立つけど……まさかここまでとは思わなかった」


盗賊「すっかり惚れ込んじまったかい?」


吟遊詩人「……道中商人を襲って金を奪ったかと思えば、旅の女絵師を口説いて絵を大金はたいて買ってみたり……村についた途端に昼真から賭博に興じて全てスったり………。貴方は馬鹿なの?もはや『馬鹿』の語源を貴方と疑ってもいいレベル………」


盗賊「無表情で言われるとキツいね」


吟遊詩人「どうするの……?もう宿に泊まるお金どころか、食事代すらない……」


盗賊「うにゅにゅにゅ、こうなりゃ自棄だ。吟遊詩人、お前が頼りだぜ!」


吟遊詩人「私……?」


盗賊「あぁ、そうさ!お前の歌と、ギターで投げ銭を請おう!それである程度はもらえるはずだ!」


盗賊「ギャンブルより確実だぜ?」


吟遊詩人「……………分かった」


ガタン、ジャラーン


盗賊「おー」


吟遊詩人「………」


ペロペロ、ペッペッ


盗賊「……ちょっと待て、ちょっと待て!なんだ、その弾き方」


吟遊詩人「西方より伝わってきたスラップ奏法……カッコいい……?」


盗賊「カッコいいけど、なんか違うぞ。もっと、こう吟遊詩人なんだから気持ちを揺るがすような感じでさ」


吟遊詩人「気持ち……?善処する……では」


バーババッババ


盗賊「おぉ……腹の底から叫びたい気分に……」


吟遊詩人「同じく西方より伝わりし……チョッパー奏法……どう?カッコいい?」


盗賊「もう、お前が可愛い」ヨシヨシ


吟遊詩人「………ん」


盗賊「しかし、誰も見てねぇな」


吟遊詩人「………」


盗賊「もういっその事、愛の歌でもやりゃあいいじゃないか」


吟遊詩人「やだ。皆やってる……ダサい」


盗賊「やれやれ、愛が溢れすぎて食傷気味ってか?贅沢な世の中だ………あん?」


サワザワ ザワザワ


村人A「あぁ……大変だ……」


村人B「……マズい事になった」


村人C「だが、此れ程長く戻らないとなると……」




盗賊「なんだ、なんだ?」


吟遊詩人「村人が困ってるのは大体魔物絡み……こんな貧乏村、どうせ助けても薬草くらいしかくれない……。関わる必要ない……。それより、この混乱を利用して泥棒しよ……?」


盗賊「お前は根っからのクズだねー」ヨシヨシ


吟遊詩人「………ん」


村人D「ん、あれは!?おーい、皆!あれを見ろ!!」


盗賊「ん?俺?」


村人A「あ、あの背中の剣は!!」


村人B「勇者の剣だ!!」


ザワザワ ザワザワ


『勇者? 勇者だって!?』


『あぁ、勇者様良いところに』


盗賊「おいおい、まさか」


吟遊詩人「十分予測できる事態だったはず………」


村長「お願いします。我々を助けてほしい」

村長「我々は、普段から西の洞窟に住む魔物に日々脅かされる生活を送っておりました……」


盗賊「マジか」ポソッ


吟遊詩人「薬草……」ポソッ


村長「しかし、今日、たまたま我が村にやってきた勇気ある若き騎士が、話を聞き魔物退治をかってでてくれたのです……ですが……もうかれこれ半日は戻って来ない……お願いします。勇者様、魔物を倒して下さい!」


盗賊「やーよ」


村長「そうですか!やーよって、はい?!」


盗賊「やなこったってーの。まず、話がなってないな。その騎士が役立たずのポンポコピーだったんで、しょうがないんでかわりに行ってきてくださいって?失礼な話さ」


村長「そ、そのような事は」


盗賊「言ってる。それに魔物に襲われてるって言いながら村には警備もいなけりゃ、騒いでるわりには村人の誰も武装しちゃいない。これはただの怠慢じゃないのかな?」


盗賊「まぁ、魔物も全滅させるまではするつもりはないらしいし。随分と良識と常識はありそうだぜ。少なくともアンタ達より」



村人A「ふ、ふざけるなぁ!」


村人E「なんてこと言うの?この人非人!!」


村人B「ぶん殴ってやる!」


ギャー ギャー


コイツ、ホントニユウシャカ?


村長「勇者様!言葉が過ぎてますぞ!!」


盗賊「ちっ、うるせーな。反省してまーす」


少女「あ、あの……」


盗賊「あん?」



少女「ひっ……お、お願いします。騎士さんを助けてあげてください」


少女「き、騎士さん……、ここに来た時から私と遊んでくれて、初めて会った…私にも凄く、優しくしてくれて」


少女「私が魔物の話をしたら、「任せておけ」って言って……言ってたのに」ジワァ

少女「嫌だよぉ、また会いたいのにぃ……お願いします。勇者様、騎士さんを助けて下さい!お願いしますお願いします。……うぅ、うわあああん!」


吟遊詩人「………あーあ」


少女「え?」


盗賊「条件だ!この村で一番美しい物を俺に譲るというならば、この仕事を引き受けよう」


村長「美しい物?そんなもの」


村人A「くそっ、足元見やがって」


少女「え、えと、美しい物。分かんない……分かんないよぉ」ポロポロ


盗賊「泣いちゃいけない、お嬢さん。それに、もう貰ったぜ?」


少女「へ……どういう事?」


盗賊は指先でそっと少女の頬をつたう涙をすくいとった。


盗賊「この村で一番美しい物……それは君のなみってイタタタッ!?」


吟遊詩人「行く………」ギュー


盗賊「耳を引っ張るな!これから格好いい事を言おうとしてるんだぞ!?」


吟遊詩人「知らない……」ツーン


ギャー!



村人達(なんだ、あれは?)




─────西の洞窟


盗賊「こりゃ随分と入り組んでるなぁ……運が悪けりゃ魔物に行き着く前に飢えて死ぬな」


吟遊詩人「でも、その『飢えて死んだ人間』の死体が点々と転がっているお蔭で魔物までの目印にもなっている……と思う………」


盗賊「つまり、死体がない方が正解ってことか?」


吟遊詩人「それも不明……もう素直に勘だと言った方がいい……」


盗賊「そうだな、だがゴールは近いと思うんだよなぁ……って、あれ?なんか踏んだ?」


吟遊詩人「これは……?」


騎士「」


盗賊「死体か?」


吟遊詩人「いや、胸が上下している……。返事はないが屍ではない……」


騎士「う、うーん」


盗賊「女だな」キュピーン


吟遊詩人(盗賊の目が光った)


盗賊「哀れな……こんな重い鎧を纏って黄泉路を進むには辛いだろうに。さぁて、俺がその重荷、少しづつ剥ぎ取ってやろう」


吟遊詩人「何故、跨る必要がある………」


騎士「うーん……はっ!?」


盗賊「……」


騎士「……」


盗賊「ゆ、幽体離脱~」


吟遊詩人「それは向かいあってやるモノじゃない………」


騎士「何するかー!?」


盗賊「ガフッ!?」


バキッ ズサァッ


盗賊「す、すまん身体が勝手に」


騎士「き、貴様ァ!私を国王直属の騎士団隊長、女騎士と知っての狼藉か!?」


盗賊「ふん、甘いぜ。知っていても俺はやっていたさ!!」


女騎士「何を胸を張っている!?」

吟遊詩人「身体、大丈夫……?」


女騎士「あ、あぁ。心配させてすまない」


吟遊詩人「……傷がついてたら商品価値が下がる」ポソッ


女騎士「今、なんて?」


盗賊「おっと、お嬢さん!それより何より、どうしてこんな所ですっころんでいたんだい?見たところバナナの皮は落ちちゃいないが……」


女騎士「黙れ!貴様のような不審者に語る口など持たぬ!」


盗賊「不審者かも知れんが、少なくとも不親切ではない相手にその態度はないんじゃないですかい、騎士団隊長殿?」


女騎士「なっ」


盗賊「害を為すつもりはないさ」


女騎士「だ、だが、あんな覆い被さって……顔まで近付けて」


盗賊「あれは前戯……もとい善意だ。お前さんの身に何があったのかと確かめていただけ」


女騎士「……そうか、すまなかった。私の早とちりで恩人に危害を加える所だったな」


盗賊「ううん、全然気にしてない」


吟遊詩人「チョロイ……」ポソッ


女騎士「ん?今、そちらの方はなんと」


盗賊「アハハ、気にしないでくれ。ところで、俺達は村の女の子に頼まれてアンタを迎えに来たんだが、アンタの方の用事は済んだのかい?」


女騎士「そうか……あの娘が。……魔物はまだ倒していない」


盗賊「それじゃ今まで何を」


女騎士「分からん。覚えてるのは自分の作った弁当を食べようとしていた所までなのだ……」


吟遊詩人「盗賊……ちょっと来て……」ポソッ


盗賊「どうしたい……あ、これが弁当か暗くてよく分からんかった」


吟遊詩人「というより……弁当自体も黒いから周りの色に紛れて普通より見辛くなっている……」


盗賊「これは……石炭噛るようなもんだぞ。そりゃ倒れるよ」


女騎士「そこで何を話しているのだ?」


盗賊「いや、過ぎた事を気にしてもせんなきことさ。さて、ここまで来ちゃあしょうがない。奥にいらっしゃるここの家主さんに挨拶一つも無しで帰っちゃあ礼儀に反する!」


吟遊詩人「何故そうなる……」


盗賊「暇潰しだ。暇潰し」


女騎士「あ、あの」


盗賊「さぁて、行こうぜ!女騎士さんよぉ!」タタタッ


吟遊詩人「戻ったら礼金根こそぎ貰ってやる……」タタタッ


女騎士「ま、待たぬか!お前たち!!」タタタッ




────洞窟・最奥部


女騎士「ここが、この洞窟の一番、奥。そして、ここの『主』が住む場所だ」


盗賊「へぇ、今までずっと狭い道を通ってきたが、ここは随分と開けてるな」


吟遊詩人「つまり、ここに住む魔物はそこそこ………」


『何者だ?』


吟遊詩人「間違えた……『無茶苦茶』デカイ……」


女騎士「コイツが、ここに住まう魔物!ドラゴンだ!!」


『我を狩りに来たか人間よ!!』グォッ


女騎士「こっちに向かって飛んでくるぞ!避けろ!!」


盗賊「おわっ!?がぁっ!」ドサッ


女騎士「おい!?お前!!」


ドラゴン『他人の心配をしている場合ではないぞ!!』ガオッ


女騎士「しまっ!?」

ズガガガッ


ドラゴン『グアアアッ!?』


吟遊詩人「気を抜いちゃダメ……」ジャラーン


女騎士「あ、あぁ、感謝する。そのギター、仕込み銃なのか?」


吟遊詩人「旅は物騒……備えあれば嬉しいな……」


盗賊「憂いなしだぜ。エターナルロリータ」


吟遊詩人「永遠など存在しない……。訂正を求める……断じて、私はロリじゃない……!」


女騎士「訂正ってそこか!仲間にそんな物を向けるんじゃない!!……大丈夫なのか、お前」


盗賊「平気、平気、こんなんじゃ死なないぜ、俺は。俺の最後は『女』が決めるのさ。俺一人じゃ勝手に決められないんだよ」スランッ


女騎士「お前、その剣は……!」


盗賊「話は後だ。今はアイツをなんとかしなきゃな」タタタッ


女騎士「……そんな、あの男は」


吟遊詩人「……」タタタッ



ドラゴン『おのれぇ……人間風情がぁ……』


盗賊「そう言うなって、人間も悪くないもんだぜ?それこそ風情がある」


ドラゴン『貴様、その剣……勇者か!?』


盗賊「さて、どうでしょう?恨みもなけりゃつらみもない間柄だが、もう互いに後戻りはできないな」


ドラゴン『ならば、死ぬのは貴様だああッ!!』


盗賊(口を開けた……炎を吐く気だな……だったら)


盗賊「おおおおおッ!!」


ドラゴン(正面から突っ込んでくる!?こいつ気が狂ったか!!)

ドラゴン『カーーーッ!!』


ゴオオオオッ


ボンッ


ドラゴン『ふん、骨の髄まで燃え尽きろ……』


ドラゴン(……いや、待て。燃えるスピードがあまりにも早い、これは!)


吟遊詩人「さっきから隙だらけ……その図体なら仕方ないけど」


ズガガガッ


ドラゴン『なっ、しまった!?』


ドラゴン(翼に穴がッ!?落ちる……!)


盗賊「んじゃ、仕上げは俺が」


ドラゴン『!?』


ズダダダッ!ダンッ


吟遊詩人「あんなに高く跳べるんだ……」


盗賊「兜割り……」


ズバンッ!


ドスンッ……!


ドラゴン『ふ、ぐ……貴様…………』


盗賊「………死んだか?」


吟遊詩人「そうみたい………よいしょ」


盗賊「何してんの?」


吟遊詩人「ドラゴンの肉、皮、目、牙……どれをとっても高級品……」


盗賊「商魂逞しいねぇ。お前本当は商人なんじゃないか?まぁ、商人の前には『闇』がつくけど」


吟遊詩人「………冗談はそれくらいにした方がいい。彼女はどうやら貴方に用があるらしい………」


盗賊「ん?あぁ、そうだな」


女騎士「………貴様」ユラリ

盗賊「よぉ、取り敢えず服を貸してくれないかい?さっきの盗賊流生存術・トカゲのしっぽ(衣類編)のお陰で上裸になっ……とと」


キィンッ


女騎士「貴様……その剣をどこで手に入れた!!」


ヒュン!ヒュン!


キィンッ


盗賊「やっぱりな、この剣を見た時に顔色が変わってたしなぁ」


盗賊「そして何よりその瞳……『勇者』にそっくりだった」


女騎士「はぁッ!!」


ブンッ!


盗賊「うおわっ!?力強!!……何やら縁があったようだな」


女騎士「あいつはッ……あの子は、私の弟だ!!」


ヒュン!


盗賊「うおっ?!」


キィン


女騎士「殺したのか?……あの子を………」


勇者『大丈夫だよ。そんなに心配しないでくれよ。姉さん』


勇者『すぐに魔王を倒して、世界を平和にしてみせるから』


女騎士「優しい子だったんだ!!」


ブンッ


ズブン


女騎士「………え?」


盗賊「お、ぐ……ちと、キツいな」


女騎士「な、な、何で……無抵抗で……」


盗賊「お前さんの事情は分かったよ。それこそ痛い程に、だから、今度は俺の話も聞いてくれ」




────ちょっと前の話

俺が一人旅をしていた時の事、ある村に到着したとき勇者が立ち寄り、つい今しがた出立したって話を聞いたのさ。
良い稼ぎ話だ、そう思って俺は勇者の後を追った。


盗賊「おい、ちょっと、そこな兄さんは見て察するに、人・魔二界に名の知れた勇者殿とお見受けいたす」


盗賊「あっしの姿はこの通り名を体で表した盗賊でござんす。さぁ、ここまで言えばもう分かるだろう。金目の物を………?」


勇者「…………」


盗賊(なんだ?全然こっち振り返らねぇ。それに身体も震えて)


勇者「勇者………ははは、そう僕は勇者なんだ」


盗賊「ん?」


勇者「僕は勇者、それ以外の何者でもない。なのに!それなのに!こんなのって……いやだ……いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!」


盗賊「………おい、ちょっと落ち着け!!」


勇者「いやだあああ!!」


スランッ ズブン!


盗賊(自分の腹に剣を……!?)




突然の事で反応できなかった。
慌てて駆け寄った時にはもう遅く、勇者は息絶えていた。

盗賊「後はまぁ、死体からその他諸々をひっぺがして今にいたるって事でして」


女騎士「そんな話信じられるか!」


盗賊「まぁ、いいさ。アンタの弟さんからこの剣を盗んだ事には変わらないんだから」


盗賊「………俺の終わりは女が決める。それは、お前でもいいのさ」


女騎士「………ちっ」チャキン


盗賊「どうした?斬らないのか」


女騎士「お前の話、信ずるには足りん。だが、嘘を言っているとも思えない……だから、確かめる」


盗賊「確かめるだって?心理テストでもするのかい」


女騎士「お前の旅に同行させてもらう…」


吟遊詩人「断る……」


女騎士「なに?」


盗賊「お前さん、今までずっと俺をほっといてたくせに急に顔を出したな」


吟遊詩人「あなたのような人間に私達の旅についてこれるとは思えない………」


盗賊「無視……」


吟遊詩人「この人は盗賊……あなたは騎士団隊長、この先面倒な事になるのは目に見えている……」


女騎士「ええい、うだうだと分からぬ事を……盗賊?」


盗賊「あれ、名乗ってなかったっけ?俺、盗賊です」


吟遊詩人「私はこの男に捕まり利用されているだけのいたいけな町娘……」


盗賊「嘘吐きは泥棒の始まりだぜ?まぁ、もう手遅れだけど」

女騎士「や、やはり貴様、悪人ではないか!そこに直れ!!」


盗賊「?…前ならえ!」ビシッ


吟遊詩人「ならえ……」ピシッ


盗賊「いや、お前は腰に手を当てろよ。どうして当然のように俺の後ろに」


女騎士「話を聞けぇ!!」


吟遊詩人「別にいい……それに、盗賊もあなたの弟から無理に奪った訳じゃない……証拠もないし」


盗賊「それは違うぜ。この世のありとあらゆるしがらみ、せましい欲も、根こそぎ盗むがこの俺さ。俺の手に渡った物全てが盗まれた事になるんだよ」


吟遊詩人「馬鹿……」


女騎士「……もういい、疲れた。それよりお前、傷の手当てはいいのか?」


盗賊「傷?」


女騎士「その……私が刺した傷だ!」


吟遊詩人「何故気に病む……あなたは責められる事をしていない。彼は盗賊……殺されたって文句は言えない」


盗賊「そう。それに、ほれ」ベリッ


女騎士「肌が剥がれッ……て、これは肌色の鎖かたびら?」


盗賊「破けたと同時に血糊も噴き出る特別製!高かったぜ?」


吟遊詩人「何が、俺の最後は女が決める……よ。これっぽっちも死ぬつもりないじゃない……」


盗賊「いやいや、心がけてはいるぜ?ただ準備に余念がないだけで……備えあれば憂いなしだな」


女騎士「お前は……本当になんなんだよ」

盗賊「なんでもない、ただの盗人さ」



その後、村に戻った後、騎士は無事に女の子と感動の再会。
その隙に吟遊詩人は目一杯の難癖と誇張された苦労話で礼金をふんだくった。




─────街道


盗賊「いやはや、ここら辺の道は整備されていて歩きやすいもんだ。少なくとも文明の心配をする必要はないな」


吟遊詩人「…………」


女騎士「…………」


盗賊「どったの?」


女騎士「貴様らにはほとほと呆れ返った」


女騎士「道すがら、商人の馬車を襲おうとする。貴族の娘を手込めにしようとする……どこの蛮族なのだ!」


吟遊詩人「あなたの方が理解不能、どうしてついてこようと思ったの……盗賊の旅とはこういう事……嫌なら見るな………」


吟遊詩人「尽く仕事の邪魔をされたせいで、もうあなたと出会って一週間は質素な生活をしている………」


女騎士「それでいいのだ。この女騎士、目の前で起こる不正を見過ごしはせん!」


吟遊詩人「迷惑……ねぇ盗賊、こいつをここに捨てていこう……」


盗賊「──へぇ、その街ならこれから俺も行くとこだぜ?」


街娘「そうなんですか?」

盗賊「じゃあここでさよならなのか。ちょっと嫌だなぁ……俺も君と一緒に行っちゃおうかな~」


街娘「も~、だーめ。それにあなたには旅の御供さん達がいるじゃない。あのギター持ってる娘、可愛いよ?」


盗賊「えぇ、でもロリだぜ?ブラジャーだって2D画面ばりに平なんだぜ?ハハハ、ハ……うん、じゃそろそろ」


街娘「そうね。良い旅を」


盗賊「こちらこそ祈ってるよ……じゃね」


盗賊「…………さぁて、何をギターを構えているんだいお嬢様」


吟遊詩人「一応、弁解は聴く……」ガチャ


盗賊「2Dだって悪くねぇよ。いい作品が沢山あるじゃないか、ねぇ?」


吟遊詩人「死ね……」


ズガガガッ


盗賊「いやいやいや!危ねぇって!洒落にならんってこれは!!」アワワワッ


女騎士「分からんな……」


女騎士(こいつらを見ていると……本当に悪党なのか疑いたくなるな……だが、奴が犯してきた罪、裁判にかけるまでもなく縛り首であろう)


盗賊「お、おい!女騎士!そろそろHELPだ!助けてお願い!」


女騎士「ふぅ、どうしたものか……」


盗賊「俺を助ければいいと思うよ!!」






盗賊「」ボロッ


吟遊詩人「ふぅ、満足……」


女騎士「………」


吟遊詩人「どうしたの……帰りの算段を立ててるの………?」


吟遊詩人「路銀くらいなら出してあげるよ………?」


女騎士「よし、決めたぞ!!」


盗賊「何をだい?」


女騎士「うぉッ!?起きたのか、驚かせるな」


女騎士「決めたのは、我々の行動指針だ!」


盗賊「指針?針が指すまでもないだろう。盗賊の足は金と女がいる場所にコンパスなしでも歩いていけるんだよ」


吟遊詩人「右に同じ……」


女騎士「ちぃッ……いいか!このままでは私はいずれ、貴様達を本国に連行しなければならなくなる」


盗賊「あんたのお父さんに挨拶しに行くのか?」


女騎士「違う!然るべき罰を与えるためだ!!しかも盗賊、貴様に関しては勇者殺害、更には勇者の私物、よりにもよって剣を盗んだ罪に問われるのは間違いない!!」


盗賊「俺が殺してないのに?」


女騎士「……送り出した勇者が自害した。そんな事実が触れ回れば勇者を全面的に支援している王国の面目は丸つぶれだ……お前が隙をついて殺した。そんな筋書きになるだろう」


盗賊「ま、そっちの方が分かりやすいわな」

女騎士「もっと考えろ!貴様は極悪人として城の特別牢に入れられるのだぞ!?」


盗賊「この年でお城暮らしとは贅沢だな。どうする吟遊詩人、お前となら悪くない気がするぜ」


吟遊詩人「死ぬときは一人で死んで……」


女騎士「えいもう!そこでだ!私は考えた!」


女騎士「勇者の、弟の件でまだまだお前には聞きたい事がある」


盗賊「そうかい」


女騎士「吟遊詩人も、まだ幼い……きっと更正の余地はあるはずだ」


吟遊詩人「誰が……ロリだ……!」


女騎士「こうなったら、我々で魔王を倒し、その褒美として特例で減刑を王に頼み込むしかない!!」


盗賊「………」


吟遊詩人「………」


女騎士「な、なんだその顔は?」


盗賊「……そんな、ねぇ。盗賊が魔王退治なんて、ねぇ……俺にゃ大層な思想も目的もないからなぁ……モチベーションに欠ける」


女騎士「な、減刑だぞ!?減刑!死ぬよりずっとマシな刑が下るのに!」


盗賊「捕まって縄に吊されるのならそれでもいい。俺が何がに縛られるとしたらきっとその時だ。それまでは、俺の勝手さ」


吟遊詩人「そもそも特例なんかよりお金がいい……地獄のさたもそれで決まる……」

女騎士「なんなんだ!なんなんだ貴様らは!!」


盗賊「だぁから!モチベーションなの!それが無いから頑張りようがない」


女騎士「モチベーション……へ、平和な世界!」


盗賊「別に今だって平和だろ?戦争なんてどこにも起きてない」


女騎士「しかし、魔王軍の暴虐は!……貴様に言っても仕方がないか」


女騎士「ならば、名誉!魔王を倒せば貴様は悪党から一転英雄に」


盗賊「名誉なんて金にもならんもんに命をかけたくないね」


女騎士「……言うと思った。ならば金だ!貴様達の言う金額をいくらでも出して貰えるぞ!」


吟遊詩人「盗賊……お金って、お金って言ったよ……?」


盗賊「しっかりしろ」ガンッ


吟遊詩人「はっ!……そ、そんなもの………い、いら………いらない」


女騎士「な、ならば………女だ」


盗賊「えっ?」


吟遊詩人「ふん」ゲシッ


盗賊「馬鹿、お前爪先は……」


女騎士「お、お前は女が好きなんだろう?恐らく、国中一の美女がお前の相手をするはずだ」


盗賊「……でもそういう女って大概アバズレだろうさ、きっと他で食われてるに違いない」


女騎士「………………初めてならいいんだな?」

女騎士(こうなったらもう、やけくそだッ……!)


女騎士「私が相手をしてやる!私の初めてをあげるからーー!!」


らー らー らー……


盗賊「」


吟遊詩人「」


女騎士「……どうだ!」


女騎士(何がどうだ、だ私の馬鹿……)


盗賊「……いかな神であっても」


女騎士「へ?」


盗賊「処女を奪う事はできても、与える事はできなかった……だが、しかし求める事ならできる!」


盗賊「よし来た!魔王を倒したあかつきにはお前を抱くぞ女騎士!」


女騎士「そ、そうか!やってくれるか!……どうした?近づいてきて」


盗賊「これは契約代わりって事で……」チュッ


女騎士「は、はぁっ!?き、きききき貴様、何を!!」


盗賊「続きはいずれ、たっぷりと」


吟遊詩人「ふんっ」


ガンッ


盗賊「な、なぁっ!?頭が割れる!!」


吟遊詩人「黙れ、色キチガイ……」


盗賊「……す、素直って言ってくれよ」


女騎士(ほ、本当にするのか?あの男と?)


女騎士(は、初めてなのは本当だし、い、いったいどうすれば……ち、枕事の作法など知らんぞ!?)

女騎士「そ、その倒したらだぞ!いや倒すが、一生懸命倒すけど、でも決してお前としたいという事じゃなく……仕方なくだからな!」


盗賊「うん、もう全然理解できる!」


吟遊詩人「……ふんッ」


女騎士「さて、そうと決まれば後は必要なモノを集めなければ」


盗賊「必要な物?なら、この勇者の剣……はダメか。勇者じゃなきゃ真の力は引き出せないからな」


女騎士「うむ、そうだな。ならば必要なモノは仲間だ!」


盗賊「仲間?」


女騎士「今時、賢者も魔法使いも僧侶もいないパーティーなど……ってなんだその不服そうな顔は!」


盗賊「賢者はいらねぇだろ。必要とあらば俺がなってやるよ」


女騎士「なんと、お前は賢者の心得があったのか?」


盗賊「そういうタイムがあるんだよ……男には」


女騎士「魔法使いは必要だぞ?回復魔法を知っている者はいるだけで助かる」


吟遊詩人「魔法使いなんて男は根暗、女はインテリぶったビッチ………そんな奴ら、私は嫌……」


盗賊「だそうで」


女騎士「……一応聞いておくが、僧侶は?死んでも数回なら魂を戻せるぞ」


盗賊「命は一回きりだから大切なのさ。何度も死んじゃありがたみがないだろう?」




女騎士「………はぁ、ならもういい。仲間については追々考えよう」


盗賊「それがいい。焦っても確実な方法なんてのは見つからねぇ。なんせ、魔界の王に喧嘩を売ろうってんだからよ」


盗賊「ほれ、あそこに街が見える。目的地は近いぜ」



─────街


宿屋


盗賊「いやー、良かったなぁ。文明があればなんて言っていたが宿も飯屋も充実してるし、色街まであるらしいぜ」


吟遊詩人「色街についてはいつその情報を得たの……?」


盗賊「俺程の男になると大体そういうのは雰囲気で分かっちまうの」


吟遊詩人「無駄に研ぎ澄まされてるのね……」


盗賊「生きてく上で無駄な物はないさ。……ところで女騎士」


女騎士「な、なんだ」


盗賊「そんな部屋の端っこで何やってんだ?」


女騎士「気にするな!」


女騎士(な、何故男と女が相部屋なのだ!?普通こういうのは別々にするものじゃないか!)


女騎士(しかし、それを訴えたところで盗賊には笑われ、吟遊詩人には馬鹿にされるのは必至!耐えるんだ、私!)


盗賊「ここ数日まともな宿には泊まってねぇからな。疲れが一気に出たんだろう」


吟遊詩人「仕方がない……」


女騎士「……お前達」


女騎士(なんだ優しい所もあるじゃないか)


盗賊「んじゃ、女騎士は留守番しといてくれ!俺は盗賊としての勤めを立派に果たしてくるから!」


吟遊詩人「私も行く……」


ガチャ バタン ズダダダ


女騎士「………ふ、ふふふ、今のは私が馬鹿だったな」


女騎士「待たぬか貴様らー!!」


ズダダダッ


盗賊「おーおー、見事に追いかけてきやがる。さすが騎士団隊長、他とは違うな。主にスプリントが」


吟遊詩人「盗賊不味い……。このままじゃ追い付かれる……」


盗賊「追わせたままで捕まらねぇのが男の甲斐性、ここで捕まる訳にはいかない、な」ガッ


吟遊詩人「あ……」ビターンッ


盗賊「すまんなー、盗賊流・生存術トカゲのしっぽ(吟遊詩人編)発動させてもらったぜ。アハハハハ!」


吟遊詩人「こ、[ピーーー]……絶対に殺してやる……!」


女騎士「ふーふーふー」


吟遊詩人「はっ!?」


女騎士「まずは、一人目だな」





─────街


盗賊「お?もう追ってこねぇな」


盗賊「悪いね吟遊詩人、男にはどうしても女に意地悪をしたくなる時があるんだ。それがたまたま、こんな形で表れただけさ」


盗賊「さーて、仕事つっても何から始めるか。取り敢えず酒場にでも行って一杯引っかけるかね」タタタッ



────酒場


盗賊「ング、ング………ぷはぁッ!」


盗賊「いやぁ、いいねぇ、酒はいい。浮き世の義理も綺麗に洗い流してくれる」


酒場の娘「アハハッ、お客さん随分と面白い言い回しをするんですね。演劇でもされているんですか?」


盗賊「うーん、見たいなモノかな。冒険活劇の主役なんだ」


酒場の娘「えぇッ!?そうなんですか?」


盗賊「そうそう、でもとある酒場のお嬢さんとのラブストーリーも近日公開間近かな」


酒場の娘「ふふ、ダメですよ?私には彼がいますから」


盗賊「そりゃ残念」


山賊A「おいこら、そこの若造」


盗賊「ん?」


山賊B「ここらじゃ見ねぇ顔だな?」


盗賊「まぁね、こんな色男そうそういてもらっちゃ困るぜ」

山賊A「まぁ、いい。ここらは俺達の縄張りなんだ」


山賊B「余所者は帰ってもらおうか」


酒場の娘「いい加減にしてください!ここは皆が楽しくお酒を飲める場所。勝手に縄張りだのなんだの迷惑です!」


山賊A「うるせーぞ小娘!俺達に逆らうとどうなるか……あれ、剣がねぇ」


盗賊「あの、これですか?」


山賊A「あ!?てめ、いつの間に!!」


盗賊「酒の席での荒事より美味い酒の肴はないってな。楽しそうだから遊んでやるよ」


山賊B「舐めるな!」スランッ


キィンッ


盗賊「よっ!」ブンッ!


キンッ カランカランッ


山賊B「あっ!剣が……がふっ」


盗賊「どうだ、みぞおちキーック!」


山賊A「てめぇ!」


盗賊「みぞおちパーンチ!」


山賊A「ぐふっ!?」


盗賊「この椅子、頑丈そうだな。お前さんのペラい脳天にぶちこんだって大して壊れやしないだろうさ!」


ブンッ


酒場の娘「!」


酒場の娘「やめてください!その椅子は」


「そのくらいで許してやってくんろ」


盗賊「あん?」


「アンタ達も無闇に暴れちゃいけねぇ。周りに迷惑だ」


山賊A「ちっ、行くぞ」


山賊B「おう」


盗賊「……驚いたな。オークか」

オーク「ん?あんた旅の人だな。ここいらじゃ亜人なんて珍しくないかんな」


盗賊「おっと、失礼。俺は盗賊。しがない盗人風情さ」


オーク「盗人だろうが聖人だろうが、人んちのもんを勝手に使うのはよくねぇだ」


盗賊「OK、じゃ盗人らしくコイツは頂いていこうかしら」


オーク「あんだって?」


盗賊「さっきは気付かなかったが、中々良い細工が施してある。悪くない」


酒場の娘「それ、オークさんが作ったものなんですよ」


オーク「お、おう。おめ、怪我はねぇか?」


酒場の娘「はい、大丈夫ですよ!」ニコッ


オーク「そ、そうか。それはいい。いいことだ」


盗賊(へぇ、『彼』ねぇ)


盗賊「ウケケケ」


オーク「……あんだよ」


盗賊「別に。気にするこたないさ。それに、もう帰るとこだしな」


酒場の娘「え?でも、まだお酒一杯しか……」


盗賊「ニヤニヤしちゃって胸が一杯なの。それに、馬に蹴られたくねーしー?」


オーク「ぐっ」


酒場の娘「うふふ」


盗賊「そんじゃ、こいつは頂いたぜ」タタタッ





酒場の娘「本当に椅子持ってっちゃいましたね」


オーク「あぁ、変な奴だ……」





宿屋


盗賊「ただいまー」


女騎士「おかえり。この野郎」ウデクミ


盗賊「なんだよ。門限は守ったはずだぜ。母さん」


女騎士「誰が母さんだ」


盗賊「じゃあハニー?」


女騎士「殺してやろうか」


盗賊「本気だよ?」


女騎士「そこは『冗談』だと言え!……まぁいい。盗んだものを早く出せ。今なら拳骨百発か尻叩き百発で勘弁してやる」


盗賊「前者はひたすら嫌だが……後者にはなんらかの魅力を感じるぜ。だが、俺にはその世界の扉を開くには早すぎる」


盗賊「……って、あれ?そういや後一人くらい怒ってそうな奴がいるはずなんだが」


女騎士「彼女なら、そこだ」


吟遊詩人「………」


盗賊「え、泣いてね?」


女騎士「彼女は既に罰を受けている。その尻にな」


盗賊「おいおい……」


吟遊詩人「泣いてない……」

盗賊「泣いてるだろ」


吟遊詩人「泣いて、ないもん……」


盗賊「よしよし、分かった分かった」ナデナデ


吟遊詩人「うー……」


女騎士「ふん、随分と吟遊詩人には甘いじゃないか」


盗賊「そうかね。ま、あんまりイジメないでくれよ」


女騎士「なっ!私が悪いというのか!?」


盗賊「そうは言わないさ。でも、今回は俺がいの一番に逃げ出した訳だし、こいつは不問にして欲しかったなぁ、って」

女騎士「……言い方がズルいぞ」


吟遊詩人「……………………………べぇだ」


女騎士「んなっ!?」


女騎士(まさか、コイツ。盗賊の私への印象を悪くするために演技を……って何故私が盗賊の印象を気にする必要があるのだ?)


女騎士「むぅ」


盗賊「?」


盗賊「お、そうそう。盗んだ物、だったな。じゃーん、これだ!」


女騎士「これは……椅子?」


盗賊「どうだ?中々の代物だろ」


女騎士「え?いや、しかし、これは、椅子?」


吟遊詩人「あなたにはがっかりした盗賊……。どこに金や銀があるの?どこに宝石があるの?こんなの言ってしまえばただの木じゃない……」


盗賊「お前さんの目は金にならなきゃ加工品が原材料にしか見えないのかよ。それより、あの可愛らしい演技はやめちまったのかい?」


吟遊詩人「……可愛かった?」


盗賊「危うくブラボーって手を叩きそうになったぜ」


吟遊詩人「そう……」フフン


女騎士「何故こちらを見る」


盗賊「それはともかくとしてだ。俺はただの椅子を持ってきた訳じゃないぜ?土産話もあるんだ」


女騎士・吟遊詩人「土産話?」



盗賊説明中


盗賊「な?オークと酒場の少女との禁断の恋物語!凄いだろ?」


吟遊詩人・女騎士「…………」


盗賊「あり?」


吟遊詩人「で、その話はいくらで売れるの?」


盗賊「おいおい、とんでもねーこと言い出したぜ。この娘ったら。随分と御下衆いことで……」


女騎士「私をそいつと一緒にするな。私はただ亜人が嫌いなだけだ」


盗賊「嫌い?……あぁ、成る程、『亜人擁護法』か」


女騎士「よく知ってるな。そう、我々の国で数年前から制定・施行された法律だ」


盗賊「たーしか、歴史上常に差別と偏見の目に晒されてきた亜人達の人権を認め、また保護する。だとかなんとかご立派な名目があったようだが、実際には一部の左派大臣達が勝手に盛り上がって押し通したっつって一時期騒がれてたな」


盗賊「そんで、国を御守りする立場にあらせられる騎士団隊長殿としてはそりゃあ腹に据えかねるもんがあるっつーわけ?」


吟遊詩人「右翼集団の隊長だし……」


女騎士「人聞きが悪すぎるわッ!!」

女騎士「いいか!そもそも亜人の奴等は我々人間からの迫害を訴えてくるが、奴等だって我々人間への暴行事件を繰り返している!今もだ!」


女騎士「しかも、我々がそれを咎めれば現代の我らとは全く関係のない過去の事件を引っ張りだして逆に謝罪を求めてくるのだ!なんだあの厚顔無恥さは!?気は確かか!!」


女騎士「騎士団が動けば人権がなんだと言われる可能性もあるし、我々は一体どうすれば───」


盗賊「おーい」


女騎士「なんだッ!!」


盗賊「こっちむいて」チュッ


女騎士「うひゃあああ!?にゃ、にゃにをする!!」


盗賊「こんな所で怒るなよ。俺達は法律屋じゃないんだぜ?」


女騎士「また私が悪いと言うのか!」


盗賊「良い悪いじゃなくて、何が正しいのかだろ?こういう場合。お前さんの言ってる事は正しいさ。残念ながら正しい事は必ずしも間違いを正せる訳じゃないってだけで」


女騎士「お前のその言い草、ただ私を煙にまきたいだけだろ」


盗賊「その通り!そんな話が好きなのはアカデミー通いの左翼被れか、いい年むかえて独り身の自称右翼だぜ?」


盗賊「まだ若い俺達は、言葉よりも心を寄せ合うべきだ。触れ合うべきだ。温もりをべきだ。愛し合うべきだ───これもまた、正しい事だな」


女騎士「うひゃッ……み、耳に触るな……驚くじゃないか……」


女騎士(近づいてくる。また、キスされ)


吟遊詩人「ふんッ!」ガブッ


盗賊「いってーーーー!!」

吟遊詩人「がるる……」


盗賊「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!こら!離せ、離しなさい!離せば分かる!」


女騎士「……はぁ、ま、確かにただのストレスからくる八つ当たりの面も否定しない。だから、あまり関わりたくないんだ。差別ではなく区別する。そうやって上手く付き合うしかないのだ。今の時代ではな……」


盗賊「いったいっつーに!ったく、あ、歯形ついてる」


吟遊詩人「跡、ついちゃったね……」モジモジ


盗賊「うわっ、スゲーわざとらしい。でも、可愛いー!」ギュウッ


吟遊詩人「……ん」


女騎士「よし、お姉さんが斬ってやるからそこに立っていろ」チャキ


盗賊「なんてこった。これが今生の別れだ。吟遊詩人、存分に逢瀬を楽しもうぜ」


吟遊詩人「うん……今日は、寝むくないから……」


女騎士「そうだろうな。まだ日も暮れてないのだから、というかこんな時間から何やっとるかー!!」


盗賊「大丈夫だよ。幼女の身体には興味ねぇから」


吟遊詩人「ロリじゃない……」プクゥ


盗賊「む、アプローチを変えてきやがったか」


吟遊詩人「ふん……」ツーン


盗賊「安心しろよ。身体には興味ねーけど、お前さんの事はしっかりと愛してるから」


吟遊詩人「胡散臭い……」ジト


女騎士「そして嘘臭いな」ジト


盗賊「こいつぁ手厳しい」

温もりをべきだ×


温もりを知るべきだ○


失礼しました。

女騎士「いちいち気の抜ける男だ。犯罪者のくせに間まで抜けているようだ」


盗賊「どっかに穴でも空いてんのかもな」


女騎士「お前……何故、盗賊なんてやっている」


盗賊「ふむ……」


女騎士「家が貧しかったのか?何か仕事が頓挫したのか?何故そこまで身をやつしている。そうまでして、お前は何を欲するのだ」


盗賊「貧しかった、気もする。人生だって上手く行っていた訳ではなかったろう。しかし、それは理由ではないかもな」


女騎士「……」


盗賊「どんなに人が憎くても、人間は人間を中々殺さない。ご立派なお題目や免罪符があったとしても」


盗賊「しかし、殺しは起きる。盗みも起きる。それは、『理由』があるからじゃないからさ」


盗賊「手段も目的も同じ、殺したいから殺し、盗みたいから盗み、犯したいから犯し、騙したいから騙し、攫いたから攫い、謀りたいから謀る。──どっかの言葉じゃないが『仏に会ったら仏を殺せ』とかなんとやらさ」


女騎士(なんだ、この男……まるで謳うようにすらすらと罪を語る)


盗賊「誰しもが、手段のためには目的なんて厭わない。俺もそうさ。俺は盗賊、そうある事が目的で、そのために盗賊で在り続ける……分かるかな?」

女騎士(拒みたい……そんな考えは間違っていると突き付けてやりたい───でも、ずっと聴いていたい気もする。この男の言葉を……)


吟遊詩人「女騎士……」


女騎士「はッ!?」


吟遊詩人「しっかりして……この男は大した奴じゃない……。『盗賊』よ……。」


女騎士「そ、そうか、そう、だよな。……心を惑わせる事などないな」


盗賊「その通り、これは俺の了見で、お前さんの道理にはまるで沿わないし、そうである必要なんてないのだー。言いたい事もやりたい事も全部自分だけのものなのだー。」


盗賊「つまり大好きー!吟遊詩人!」ギューッ


吟遊詩人「はふぅ……」


盗賊「そしてチュウだけじゃ嫌だぜ女騎士ー!」ガバッ


女騎士「うわー!?来るなぁッ!!」


吟遊詩人「えい……」


バンッ


盗賊「ガフッ!?」


ドサッ


吟遊詩人「偉そうな事言ってもアナタのは所詮はフリ……根っこはただの発情期の駄犬」


女騎士「えっ?それ、銃……」


吟遊詩人「たまには鞭打つ事も必要……」


女騎士「いや、鞭というか、それ銃………………………………しっかりしろおおおお!!盗賊うううぅ!!」



─────数時間後


盗賊「いやー、流石に死んだと思った。突然目の前が真っ暗になったしな。そりゃあね、死を連想するよ。どっかの誰かは死の間際に『光を……』と言ったらしいが、実際そんな暇なかったな」


女騎士「だ、大丈夫か?妙に口数が多いが」


盗賊「喋ってねぇと心がもたないんだ。不安に押しつぶされそうなんだ。正直、無茶苦茶恐かったんだ」


吟遊詩人「大袈裟……たかだか麻酔銃で……」


女騎士「突然放つ奴があるか!流石に可哀想だろう!?」


吟遊詩人「その男に慈悲など無用……。甘やかして野放しにすると何をするか分からない……」


盗賊「愛が足りねー。野に放したって呼ばれれば尻尾ふりながら馳せ参じる自信はあるのに」


女騎士「もういい、取り敢えず時間も時間だ食事にしよう」


盗賊「時間?ってありま、もうお外は真っ暗じゃねぇの」


吟遊詩人「よく寝てた……」


盗賊「ちゃんと生きて起きれて良かった。明日からも早起きしよう。絶対に」


吟遊詩人「いい心がけ……」


盗賊「いい性格してるね。お前は」


吟遊詩人「ほめられた……」


盗賊「だめだ……やっぱ可愛いぜ」ナデナデ


吟遊詩人「ん……」

女騎士「ハイハイ、そこの悪党二人。食事だぞ」


盗賊「はーい」


吟遊詩人「はーい……」


女騎士「今夜は私が作ってみたんだ」


盗賊「………へぇ、こりゃ時間かかったんじゃねぇか?」


女騎士「?」


女騎士「いや、持ち合わせの物で作るしかなかったから手早く済ましてしまったんだが」


盗賊「まさか、これはもう凄い時間かけて煉度を高めた」


吟遊詩人「石炭……」ボソッ


吟遊詩人「煉度?……まったく卵焼き一つに何を大袈裟な」


盗賊「卵焼きなのか。そうなのか」


女騎士「さぁ、食べるがいい」


盗賊「そんな勿体ない。せっかくの女騎士の愛がつまった料理を食べるなんてできないぜ。なっ、吟遊詩人」


吟遊詩人「……」コクコク


盗賊「そうだ、飾ろう。ペンダントにして首にかけようぜ」


女騎士「馬鹿な事言ってないでとっとと食べろ」


盗賊「そんなごむたいな!!」


女騎士「どういう意味だ!」


女騎士「………しかし、いらないと言うなら……無理には言わないが」シュン


盗賊(いかん、そんな顔をされたら)


盗賊「あ、あー、お腹空いちゃったなー」

女騎士「な、なんだ。それならば早く食べろ!それが一番だからな!」ホッ アンシン


盗賊「そうだなー。んじゃ早いとこ食べちまおうか。なっ、吟遊詩人!」


吟遊詩人「zzz……」


盗賊「嫌ん」


盗賊「て、嘘つけ。起きろって、早く。お願いだから」


吟遊詩人「ムニャムニャ……」


盗賊「現実にそんな事言う奴見たことねぇよ」


女騎士「こら盗賊、寝たいというなら寝かせてやれ」


盗賊「嫌ん」


女騎士「ほ、ほら、食べろ」


盗賊「……思い出せ。昔読んだ本で主人公が演劇で美味いと言いながら泥団子食ってたあのシーンを思い出せ」ボソッ


盗賊「俺なら出来る。やればできる。塗り替えろ。ガラスの仮面を被るんだ」ボソッ


盗賊「いただきます」


ガリ ガリ ジャリ グチュ


盗賊「ゴチソウサマ」


女騎士「お、おぉ、どうだった?」オソルオソル


盗賊「いやー、凄いね。これ、本当に凄い。うん凄いや」


女騎士「そうか!そんなに凄いか!そうかそうか!」ニパッ


盗賊「うん、あと、なんだろう。とても眠いや」


女騎士「む、ならば早く寝るといい。ベッドはそこ……って、もう寝ているのか」


盗賊「」


女騎士「ぐっすり、だな。まるで呼吸も忘れているようだ」


女騎士「……お休み」

────翌朝


盗賊「おはよう!いやー、いい朝じゃないか。月も沈んだ事を地球の裏で後悔してるんじゃないか?」


女騎士「元気だな」


吟遊詩人「まるで生き返ったみたい……。文字どおり……」


盗賊「今日ってのはきっと俺達がなんでもなかった昨日でしっかりと勝ち取った宝物なんだぜ。きっと」


吟遊詩人「とうとうトイレの日めくりカレンダーみたいな事言い出した……。そんな詩、頭の悪いスイーツ女しか騙せないよ……」


盗賊「たとえ天才だろうが騙しきってみせるさってお前さん。昨日はよくもやってくれたな」


吟遊詩人「私は眠かった…。そして寝た…。それ以外に言う事はない……」ニヤ


盗賊「この狸娘め、本家に負けず劣らずの寝入りっぷりだったぞ」


吟遊詩人「ふん……それ以前にどっかの誰かさんのお人好しのせいだと思うけど……」


盗賊「違うぜ。『お人』が好しじゃなくて『女』にだけ好しなんだよ」


吟遊詩人「そこじゃない……」


女騎士「こら、なんの話をしている。朝早くから喧嘩をするな」


吟遊詩人「ねぇ、それとなく相手の気を引いて料理が下手だって伝える作戦だったのに全然気にしてくれないよ……?」ボソッ


盗賊「案外鈍感なんだろうな」ボソッ

吟遊詩人「知ってる……最近流行りの難聴主人公に違いない……。本で読んだ……」ボソッ


盗賊「難聴?……よし」ボソッ


盗賊「なぁ、女騎士」


女騎士「む、なんだ?」


盗賊「君のおっぱいが見たい──右フック!?」 バキィッ


女騎士「バ、ババババカ者!突然ふしだらな事を言うな!!」


盗賊「イツツツ、うーんどうやら難聴じゃないらしい」


吟遊詩人「バカ……」


女騎士「あぁ、もう!こんなバカ話はやめだ。盗賊、お前が今日は寄りたい場所があると言うから朝早くから街に出歩いているのだぞ?」


盗賊「ん、あぁ、そうそう。いやぁ、いいお店見つけてさー」


女騎士「店?カフェが何かか?」


盗賊「うんにゃ、バー」


女騎士「バー、って酒場か!?朝から何を考えている!酒は夜からにしろ」


盗賊「えー、朝ビールって美味しいんだぜ?あぁ、それとも」


盗賊「勇有る者の中でも最も豪傑である騎士団隊長殿がよもや酒の嗜みを知らぬと言うのかな?」


女騎士「なっ!?……い、いやいや乗せられてはならぬ」


女騎士「酒など飲まずとも騎士団としての誇りは守れる!そもそも酒など気品を失し、人を獣に堕する悪しき毒だ!」

盗賊「笑止、酒は古来より貴族・歌人・武人・果ては僧ですら味わい、風流または儀式の一環として伝わってきた由緒ある薬だ」


盗賊「それを否定するとは借りにもお城暮しの騎士様らしくねぇな」


女騎士「ぐっ、しかしならぬものはならぬ!」


盗賊「もーしーかーしーてー」


盗賊「結局、飲んだ事ないからびびってるだけとか?」


女騎士「なっ!?」


盗賊「いるいる。自分が飲めなくてノリ悪い性格してるくせに必要以上に酒を嫌ってるしょっぱい奴。ねー?」


吟遊詩人「ねー……」


女騎士「しょっぱ!?」


盗賊「ま、どうしても嫌なら来なくていいぜ。二人で行こっか吟遊詩人」


吟遊詩人「うん、分かった……」


女騎士「……待て」フルフル


盗賊「え、何だって?」


女騎士「私も連れていけ」


盗賊「いや全然無理しなくていいぜ」


女騎士「無理?誰に対して物を言っている。ごちゃごちゃ抜かすとたたっ斬るぞ貴様」


盗賊「おや」


女騎士「見せてやる。貴様に私の力を!豪を!!騎士のなんたるかを教え、酒など見事に打ち倒してやる!!」

───酒場


女騎士「見らか盗賊!まいろまいろ、きしゃまの思い通りにはいかぬぞ!」


盗賊「あ、そうっすね」


女騎士「ふははははは!!なんら?!何をそんなに縮こまっているのら!ちょっと隣に来い」グイグイ


盗賊「あの、すみません。やめて下さい。離して下さい。離して!」


女騎士「あ?私に逆らうのかお前」


盗賊「ごめんなさい。嘘です。今、そちらに行きます」


女騎士「よしよし。いーこいーこ」ナデナデ


女騎士「娘ぇ!酒持って来い!!」


酒場の娘「はいはい。朝から元気なお客さんですね」ニコニコ


酒場の娘「それにしても、盗賊さん。今日はとても大人しいですね。あんなに頭撫でくり回されても文句も言わずに」


吟遊詩人「あれは多少なりと自業自得……本人もよく分かってる……。そして何より怖いんだと思う……」


吟遊詩人「それよ、ごめんなさい……。騒ぎすぎた……」


酒場の娘「いいえ!こんなに朝から陽気な人達を見ると私も元気が出ちゃいます!!」


盗賊「すいません。俺、ウーロンハイを」


女騎士「は?」


盗賊「いや、だからウーロンハイを……」


女騎士「私の前でウーロンハイを頼んだ奴は皆この剣の錆になったぞ!!」


盗賊「やっば生で!」

酒場の娘「はいはい、分かりました!」


女騎士「『はい』を二回言うな!!」


酒場の娘「はいはいはいはい」


女騎士「そーゆーことじゃないわ!」


盗賊「おーおー、酔っ払いの相手に小慣れてるもんだ。それとも、酔ったコイツの扱いが楽なだけかな」


女騎士「む、にゃんか言っらか?」


盗賊「あ、いいえ。別に」


吟遊詩人「思いっきり持て余してるじゃない……。とっとと見捨てたら?……というかここに捨てたら?」


盗賊「持て余す程なら両手でしっかり抱き締めるさ。不思議だねぇ。女ってのはめんどくさけりゃめんどくさい程良い。人生の法則なんざこれっぽっちも当てはまらない」


吟遊詩人「じゃあ、めんどくさくない女はどうなっても良いの………?」


盗賊「ふむ……お怒りで」


吟遊詩人「……知らない」プイッ


盗賊「……ケケケ、美しい声で鳴くカナリアも、物言わぬ宝石も、どちらもおんなじさ。賛美の対象に変わりはない」


盗賊「盗人なら、どっちも奪う」


吟遊詩人「……あ」


チュ、チュパ、チュウ


吟遊詩人「んぅ、ふぁぐ、ふぁう、あふぅん」


チュパ


盗賊「離さないぜ。離すもんか。奪い尽くしてやるよ。お前を」


吟遊詩人「と、とうぞく……あ、あのね。私ね……」モジモジ

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