男「……春ノ国?」(269)

初めての投稿です。
スローテンポな物語ですがよろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367745394

ピピピピッと枕元から携帯のアラームの電子音が鳴り響いた。

午前7:30、携帯を手に取り時間を確認する。

そして、ひとつため息をついて再び枕元へそれを追いやった。

頭上の窓から朝日がカーテンの隙間を通って1LDKのこじんまりとした部屋を照らす。



男「よしっ」



もう一度、携帯に写った時刻を確認しベッドから起き上がった。

―――
――


大学へ通うためにここへ越してきて1年が経った。

初めは見知らぬ土地で一人暮らすことに抵抗はあった。

友人なんかできるのであろうか?

困ったことがあれば誰に助けを求めれば良いのか?

考えれば考える程不安は募るばかりだった。

だが、そんなことも気付けば考えなくなっていた。

大学へ入学すれば普通に友人ができ

隣に住む人も同じ大学の他学部の先輩で良くしてくれた。

つまり、出だしは好調だったのだ。


この1年、平凡で何も変わる事のない日常をずっと過ごしてきた。

大学へ通い、そして寄り道もせず帰宅し

自宅で講義で出された課題やレポートをする。

そんな定型化した日々を退屈でつまらないとは思わなかった。

何かイレギュラーな予定が入ってしまう方がかえって面倒だと感じてしまうのだ。

朝食をさっさと食べ終え

昨日から机に出しっぱなしだった教科書やら筆記具などをカバンに入れ

洗面台へと向かった。

歯を磨きつつ今日の予定を頭の中で確認する。

午前中に講義を終えて、大学の食堂で昼食を済ませてさっさと帰宅。

バイトは今日はなし。

男「」クチュクチュ

男「」ペッ

男「午後から暇だなぁ」

鏡に写るくしゃくしゃの髪見てそれを手櫛で整えようとするも

すぐくしゃくしゃに戻ってしまう。

ここへ来たばかりの時は近所を散策したり

自転車を宛もなく漕ぎ続けていたりしていた。

見知らぬ景色を眺めるのは心地が良かった。

ゆっくりと進む時間。何かに追われることもなく自分のペースで

流れに身を任せ生きていく感じ。

男「帰ってから散歩でもするか」

寂しい生き方だと思う人もいるだろう。

大学生は毎日、飲み会であったりと忙しくも楽しい日々を過ごすのが普通だと

思う人もいるだろう。

だが、そういうのは自分には合わないのだ。

一人とぼとぼと散歩道を歩いていても人恋しい、隣に話す相手が欲しいなどと

は思わない。

人と接するのが苦手だというのではないが。

大学へは電車で通っている。

ここから徒歩五分のところに駅がある。

この辺の下宿生は皆その駅を使うので時間をずらさないと当然混んでしまう。

だから、いつも朝は少し早めに家を出て駅へ向かうようにしている。

それでも、電車はいつも満員で座席に座れたことはないのだが。

雰囲気が良いですね

玄関を出て階段を少し小走りに降りた。

2階建ての小奇麗なアパートは太陽の陽を浴びて白色を反射させていた。

アパートを後にして緩やかな傾斜の坂道を下る。

あとこの坂を何往復するのだろうとふと思う。

住宅の隙間から桜の木がちらちらと見え隠れしていた。

風で飛ばされたピンク色の迷子が道や家の屋根を微かに飾る。

4月の中旬、もう二回生なのだ。

時間割以外に何か変わっただろうか?

二回生としての学生生活が始まって何日か過ぎたが

何も変わっていない気がする。

去年の今頃感じていた初々しさがなくなったくらいか。

どうでもいいことを考えているうちに駅が見えてくる。

こうして変化のない新しい一日がどうでもいい考えと共に始まっていくのだ。

駐輪所の近くの桜の木が風に揺られ花びらをその流れに任せ宙に漂わせている。

吸い込まれるかのように学生やスーツをきた社会人が駅の階段へ向かう。

そして、自分もその流れに身を任せるのだった。

>>9
ありがとー!

―――
――



午前の授業も終わり食堂でご飯を食べることにする。

昼時の食堂はいつも混む。早めに講義を終えて場所取りをしておかないと

テーブルを確保することはできない。

そこで、1限講義が早く終わる友人に席をとっといてもらっている。

男「お、サンキュー」

友人はテーブルのカバンをどけ席を譲ってくれた。

友「新一回生はなぜか挙って食堂に来るからなぁ」

友「この時期は場所取りも大変だよ」

男「ゴールデンウィークがすぎればぼちぼち人も減るだろう」

友「どうだろうなぁ」

友「あ、そうだ。今度また飲み会があるんだけどさ」

男「うん」

友「来るか?」

男「考えとくよ」

友「詳しい日程はまたメールするよ」

男「ありがと」

今日はここまでで

昼食をさっさと食べ終え席を立つ。

友人はまだ座ったまま。

友「相変わらず帰るのも早いなぁ。もう少しゆっくりしていけばいいのに」

男「別にここにいてもすることないし」

友「家でも、だろ?」フフッ

男「まぁそうなんだけど」

友「それじゃぁな」

男「あぁ、また明日。席よろしく~」

友「おう」

食堂に残る友人に手を振り出口へと向かった。

時刻は13:30くらい。

太陽と新一回生の弾けたテンションのおかげでキラキラまぶしい。

昼下がりのキャンパスを人混みを掻き分け進む。

サークルの勧誘や新入生歓迎会の集合なのでいつもより人が多い。

「よかったらどうぞ。明日の夕方から歓迎会やりまーす」

すっとサークルのチラシを手渡される。

ありがと、と受け取り歩きながらチラシを眺めた。

男「一回生じゃないんだけどね」

チラシには”二回生、三回生も歓迎”と書いてある。

なんのサークルかわからないままそれをポケットにしまいこんだ。



今はどこのサークルにも部活にも所属していない。

友人にどこか入ろうと勧められたりもしたが

やはりそういうのは自分には合わないと思ったのだ。

男「今年から……入ってみようかな」

春の季節は突然、何か新しいことをしたい、あるいはしなければならないという感情が

こみ上げてくる。

もちろん後々、後悔してしまうのだが。

男「いや、やっぱりやめておこう」

人混みから左に逸れて身長より少し高いくらいの

木の敷居で覆われた空間に入る。

ふぅ、一息ついて買いたての緑色の小さな箱をポケットから取り出した。

そこから、タバコを一本掴みとり口に咥え火をつけた。

肺に煙を吸い込み吐き捨て当たりを見渡すと

三人ほどの学生が手に握る筒から出る煙を見つめたり

スマートフォンを眺めているのが見える。

誰も座っていない三人がけのベンチにカバンを置き

そこに腰掛けた。

大学へ入りすぐタバコに手を出すようになった。

隣の部屋に住む先輩の影響もあるだろう。

タバコを吸う先輩がかっこよく見えた。きっかけはただそれだけだった。

だが、暇つぶしにはちょうど良くこうして習慣付いてしまったのだ。

先輩は自分にタバコを薦めたりはしなかったが

初めて先輩の前で吸った時、申し訳無い、というような事を言ってた。

あくまで自発的に吸ったので先輩は気にしないでくださいとは言ったが。

先輩は知らぬ間に後輩に喫煙を促すようなことをしていたのではと思っていたのだろう。

フィルターから三分の一ほど残ったタバコを

ベンチの隣においてある灰皿スタンドに押し付けて

喫煙所を出た。

そして、再び人混みに入り駅へと向かった。

今日はバイトもない。課題やレポートもない。

午後はのんびりと過ごそう。

暖かい春の風が人の間を透き通って静かに吹き抜けた。

―――
――


「新入生にアンケートを書いていてもらってるんですけど」

大学を出てすぐに声をかけられた。

だから、新入生ではない。

大学側が路上でアンケートを実施することはない。

が、春はいつもこうして何処ぞのサークルやら部活が新入生を捕まえて

こうしてよくわからないアンケートを非公式に答えてもらっているのだ。

男「えーと」

「大丈夫ですよ。すぐ、終わりますから」

アンケート用の鉛筆と紙をこちらの同意を得ず差し出す。

男「は、はぁ」

「個人情報とかそういうのは書かなくて結構ですよー」

この子結構可愛いな、なんて思いつつも相手のペースに引き込まれ

アンケートに目を通した。

正確には目を通すふりをして

五つほどの簡単な質問に適当にチェックをつけた。

文字など読んでない。

男「はい、どうぞ」

ペンと用紙を可愛い女の子に渡す。

「わぁ、ありがとうございますー。あ、ペンは差し上げますよー」

とノックも付いていない使い道のないペンを返された。

男「どうも」

ペンをポケットにしまい再び駅を目指した。

アンケートに答えたところでその子と恋の発展なんてなかった。

当たり前だけど。

大学近くの駅は朝ほど混んではいなかった

喫煙所へ寄ったのとアンケートに答えたおかげで電車を

一本逃したのだろう。

相変わらず学生たちが楽しそうに会話をしながら駅の入り口を目指し歩いている。

携帯を取り出して時間を確認した。

次の電車が来るまでもうちょっとある。



さっさと駅の階段を登り、定期入れを出そうと左手をズボンのポケットに入れた。

……その時、ピリッとした電撃のような感覚が薬指の先に走った。

男「いてっ!」

慌ててポケットから手を出す。

どうやら、さっき入れたペンの先端が運悪くも爪の間にぐさっと侵入してしまったようだ。

爪の間から血がにじみ出てくる。

改札付近のゴミ箱にペンを投げ捨て定期入れを再び取り出しホームへ入った。

じんじんと指が痛むのを感じる……

そのたびにあのアンケートの女の子の営業スマイルを思い出す。

第一印象の可愛いとは、打って変わって今は苛立ちと怒りしかこみ上げてこない。

全く……ついてない。

電車の最後尾がくるあたりで立ち止まった。

駅名が掛けられた柱付近でスーツ姿の男が何やら探しものをしている。

「あれ?おっかしいな。あれ?」

切符でも無くしたのだろうから

スーツの上ポケットそしてズボンのポケットに手を出し入れするが

見つからない様子だ。

その男性足元に置いてある。アタッシュケースから紙切れが下敷きになっているのが見えた。

男性はそれに気付いていない様子。

男「はぁ……仕方ない」

男「探しものですか?」

スーツの男に近づいた。

折角、一番前に並んでいたのに自分がその列から抜けると

後ろの人は一歩前へ進んだ。

「小さな紙なんだけどね。大事なものでね」

あははと笑いながら答えるも明らかに焦っている様子。

近くで見て気づいたがその男性は自分より少し背が高くあごひげをちょっと生やしている。

自分もまぁまぁ背の高い方だったのでこの人はきっと180ちょっとはあるのだろうか。

天然パーマなのか自分であてたのかわからないちょっとうねった髪をかいて

「やばいなぁ……まずいなぁ」

とつぶやいてる。

男「このカバンの下敷きになっているものじゃないですか?」

「え?」

男「だから、これですよ。これ」

アタッシュケースをどけて千円札より少し小さいよくわからない

紙切れを左手で拾い上げ男性に渡した。

「これだよ!これ!!ありがとう!!」

もうちょい書いていきます

男「いえいえ」

スーツの男性は小さく一回お辞儀をして前の方へ歩いて行った。

男「そもそもなんでカバンに下敷きになってるんだよ」

元のいた位置に戻ると二人組の列が3つほどできていた。

そして、その最後尾にならんだ。

携帯を眺めながら電車を待っていると

まもなく電車が参ります、とアナウンスがホームに鳴り響いた。

―――
――


大学の駅からアパートのある駅まで三駅ある。

この電車その途中の駅全てに止まる。

ガタンガタンと電車は自身の車内を揺らす。

その振動が座席に腰掛ける自分の背中を通して伝わる。

午後の日差しが少し眩しい。

陽の光が向かいの窓から住宅の隙間を通って顔を照らした。

男「ふぁあ」

小さくあくびをして目を閉じた。

とても心地が良い。

目を閉じていても陽を浴びているのがわかる。

次第に意識が遠のいていくのがわかった。

周囲の喋り声や電車の揺れる音も微かに小さくなっていく。

……一眠りしよう。

……乗り過ごせば、その時はその時だ。

―――
――


はっと目が覚めた。

電車は止まっているようだ。

うとうとしながらどの駅なのか確認しようとする。

……おかしい。

この車両には自分以外誰も載っていないのだ。

それどころか車内の様子もさっきまで乗っていたものとまるで違う。

頭上の広告も見たことがない古びて黄ばんだ広告に変わっている。

男「ね……寝過ごしたか?」



寝過ごしたどころの騒ぎではなかった。




この電車は自分乗っている車両一つしかない。

慌てて飛び起きて電車の外に出た。

向かいにはホームと海が見える。

男「海?どこだ!?ここは!」

電車で寝てしまうんじゃなかった後悔した。

”乗り過ごせば、その時はその時だ”

時間を巻き戻して電車に揺られ気持ちよさそうに寝る自分を引っぱたいてでも起こしてやりたい。

男「」スーハー

深呼吸して気持ちを落ち着かせ辺りを見渡した。

とても小さい駅で3両編成の電車が入る程度だった。

屋根を支える柱も少し錆びついて人の気配も感じない。

男「駅名…駅名」

振り返ると木でできたベンチが2台置いてある。

そして、その上に大きく駅名が掛けられていた。

男「……春ノ国?」

聞いたこともない地名。少なくとも自分の乗っていた電車がここに停まることはありえない。

男「……夢でも見てるのか?」

このままでは家へ帰ることができない。

とりあえずこの駅を出て誰か人に尋ねることにした。

ホームを出口に向かって歩いているといくつかの看板を目にした。

どれも昭和風のレトロな看板で少し黄ばんだり縁が錆びついたりしている。

改札はないようだ。

切符の販売所らしいものも見当たらない。

出口付近に張り紙がしてある。

その髪には桜の木とその下遊ぶ着物を着た女の子の絵が書かれていた。

”春ノ国へようこそ 永遠の桜 咲く街”

と縦書で書かれている。

駅を出て道に出た。

男「……すごい」

満開の桜が道路に沿って植えられていた。

花びらの一つ一つが雪のようにひらりと舞い落ちている。

建物は皆すこし古びていてそれでも人が暮らす活気を感じた。

遠くの方には緑の美しい山々が見える。

そしてその緑の中にも淡いピンクがちらりとちらりと顔のぞかせていた。

日本にこんな美しい場所があったとは……

どこの田舎だろうか。

うきうきしながら歩きはじめた。

男「ちょっとした旅行だな」

右ポケットに携帯を入れているのを思い出した。

現在位置を調べよう。ある程度家から近ければもう少し散策するのも悪くない。

男「……どんだけ田舎なんだよ」

画面には圏外のマークがうつっていた。通話もできないネットやGPSも繋がらない。

男「はぁ……諦めてここの人探して早く帰ろう。」

どんどんと海や駅から遠ざかり町中へと入っていく。

小さな川が流れていてそこを沿ってずっと歩いていた。川には橋が掛かっていて下を除くと

川水と共にはピンクの花びらが流れているのが見えた。

男「……」

もう今日中に帰れるとは思っていなかった。

その原因が遠くに見える塔だった。

この町のどこからでも見ることのできるであろう高さの塔。

あんな塔が日本にあるはずなんてなかった。

男「……死んだのかな俺」

ここはきっと異世界なんだ、でなければ天国だそう思っていた。

男「はぁ……」

さっきまでの元気は完全に消え失せていた。


「ちょっと!あんた!」

後ろから女性の声がする。

振り向くとエプロン姿のいかにも友達のおばちゃんという感じの女性が立っていた。

男「はい!なんでしょう!」

やっと!人を見つけた!聞きたいことは山ほどあった。これで帰ることができるかもしれない。

「いいから!早くこっちへ来なさい!!!」

女性に近づくとぐいっと腕を引っ張られた。

男「あ、あの!俺!帰りたいんすけど」

「わかったから!」

そう言って腕を引っ張られ帰ることができるという期待を胸に

その女性に付いて行くのだった。




今日はここまでです

読み返して気づいたけど
誤字脱字がかなり多い。
読みづらかったらごめんね。
今日の夕方にかけたらまた続き書きます

川沿いにある淡い赤色をした転落防止柵からからどんどん遠ざかる。

男「どこに連れて行くんですか?駅ですか?」

「違う」

数分ほど引っ張られ着いたのは駅でも無く交番でも無かった。

2階建ての木造の少し古い建物。2階の窓の下に立てかけられた丸い看板には

一文字ずつ”駄” ”菓” ”子” ”屋”と書かれている。

男「え?」

この女性……おばさんが何を思ってここへ連れてきたのかまるで理解できない。

「中に入りな」

言われるがまま駄菓子屋と書かれる建物の中へ入った。

店の中は駄菓子屋と言うだけあって色鮮やかにお菓子で飾れていた。

白と赤と黄色の渦を描くキャンディー。壁には知らないキャラクターのお面が掛けられている。

他にも見たことのない駄菓子がかごの中や棚にぎっしりと詰まっていた。

少し薄くらいが出入り口から光が差し込みなんとも言えない落ち着いた雰囲気を醸し出している。

男「駄菓子屋かぁ。近所にこういう店ないなぁ」

きょろきょろと店内をうろつく。

「店の奥に上がって」

おばさんはそう言って奥を指さした。


その先には小さなカウンターがあった。そしてその更に先に部屋が見える。

男「お、おじゃましまぁす。」

カウンターに置いてある瓶の中のカラフルな飴玉が目に入った。

後で買って帰ろうか、などと今後の小さな予定を考えつつ靴を脱いで部屋に入った。

部屋の床は畳で中央に丸いテーブルが置いてある。

そして、部屋の隅に丸みを帯びた角の少し錆びついた機械が置いてった。

その機械からアンテナのようなものが一本斜めに生えている。

ラヂオだろうか。

「それで……ここへ来る途中、誰かに見られたりした?」

おばさんも部屋に入ってくる。

男「いえ」

「ふぅ…。ひとまず安心ね」

男「あのぉ」

「とりあえず、そのよくわからない服。」

男「え?」

上着のパーカーを指さし一言。

男「?」

「そして、そのカバン!」

「外から来たことが一発でばれるじゃない。はい!脱いだ脱いだ」

そう言ってこちらに手を伸ばした。

男「ちょ!ちょっと!!」

ちょこんと正座していたが慌てて立ち上がった。

新手のかつあげか何かであろうか?

男「な、何なんですか!?」

「服を貸して上げるって言ってるのよ!」

もうわけがわからない。ここに泊まる気なんてさらさらないわけで……

丸いテーブルを挟んでおばさんと睨み合う。

……出口は完全に塞がれている。

「はぁ…」

おばさんはため息をついて腕組をした。

仁王立ちでじっとこちらを睨む。

「あんたねぇ、自分の置かれている状況理解してる?」

男「さっぱりわかりません。俺は早く家に帰りたいんです。」

男「ここの人なんでしょ?駅ってあそこしかないんですか?」

「駅?」

男「そうですよ。海の近くにある」

「……」


「旧春ノ国駅。あそこはもうずっと昔に廃止されてるのよ」

男「そんなはずないですよ。現にあの電車でここへ来たんですから」

「……」

男「じゃぁ、今電車が動いてる駅教えてくださいよ。明日も学校があるんです!」

「ここの電車に乗ってもあんたは帰れないよ……」

男「いやいや……」

「もう気づいてんだろ?ここはあんたのいた世界とは別の世界だって」

男「……」

あぁやっぱり……

異世界ではないかとはずっと思っていた。

それでも、この人に会った時まだ帰れるという小さな希望を

胸に抱いていたのだ。

男「……俺はどうすればいいんですか?」

「だから、とりあえず着替えろって言ってるんでしょ!」

異世界に迷い込んでしまったという不安。

帰ることができないという絶望。

そんなどす黒い泥でべたべたに塗りたくられた心を抱えるた自分に

どうでもいい指示をするおばさん。

気休めでもいいほんの僅かでも希望を持たせてほしいものだ。

「ちょっとそこで待ってなさい」

そう言っておばさんは部屋の奥の引き戸を開け

廊下をどこどこと歩いて行った。

見知らぬ部屋に一人残され

急に不安になってくる。

男「やばい…やばい……」

これからどうなってしまうのだろうか。

家族や友人にはもう会えないのだろうか。

男「向こうでは行方不明扱いになるんだろうな……」

両親や友人が悲しむ姿が目に浮かぶ……

男「はぁ……」

どこどこと足音が聞こえてくる。

「ほら!どう?お父さんのだけど」

着物のようなシャツのようなよくわからない黒字に小さく花がらの入った服と

七分丈のズボンを持ってきた。

男「……」

「多分、寸法は合うと思うんだけどねぇ」

「少し小さいか、まぁとにかく来てみなさい」

男「……いや、あの」

「あぁ、ごめんごめん。ちょっと奥にいるから着替えたらよんでね」

服のサイズなんてどうでもいい。

自分の今後についてもっと話を聞かなくては!!

男「ちょっ!ちょっと!」

おばさんはピシャリと戸を閉めてどこどこと歩いて行った。

テーブルにぽんと置かれた服をぼーっと眺める。

男「……」

男「着替えりゃいんでしょ……着替えりゃ」

とりあえず、与えられた服を着てみた。サイズが合っているかどうかなんてわからない。

ズボンのポケットに入れてあった定期入れや携帯そしてパーカーのポケットに入れてあった

タバコとライターをテーブルの上に並べ脱いだズボンや服を綺麗に畳んで自分の隣に置いておいた。

男「……」

男「どうぞ」

引き戸に向かって声を投げかけた。

……返事はない。

男「……」

男「着替えましたよー!」

もう一度さっきより大きな声を出す。

「はいはーい」

またどこどこと足音を立てておばさんがやってきた。

「あら、似合ってるじゃない。ちょっと立ってみたて」

言われるがまま腰を上げる。

「いいわねぇ背が高くて」

男「そういうことはどうでもよくて」

「わかってるわよ。とりあえず座りな。色々と教えるから」

「いいかい?さっきも行ったけどあんたは元の世界へ戻ることはできない」

男「……。駅が廃止されたからですか?」

「いや、あんたは電車に乗って来た訳じゃないんだよ」

男「どういうことですか?」

「飛ばされたのさ。偶然駅にね」

男「はぁ、テレポートしたってことですか」

「まぁ、そんなところ、なのかねぇ……」

そこはおばさんもよくわかっていないようだ。

男「なんで俺はここに飛ばされたんですか?そもそもここは何なんですか?」

「何故、あんたがここに飛ばされたのかはわからない」

「外の人間がこうやって町をふらつくこと自体ありえないことだからね」

質問したところで無駄だったか。まぁ駄菓子屋のおばさんがそんなこと知っているはずもないか。

「そして、ここについてだね」

「ここは春ノ国。見ての通り桜舞い散る綺麗な街さ」

男「はぁ」

「年中ずっと春なんだよ。すごいだろ」

男「年中?どうして?」

「なぜならこの世界は魔法で創られた世界だからだよ」

男「魔法ねぇ」

信じがたいことだが何故か驚くことができない。

ありえないことを立て続けに言われたせいで感覚が麻痺しているのだろうか。

「他にも夏ノ国、秋ノ国、冬ノ国があるんだよ」

男「季節を国ごとにばらばらに分けたのか。どうしてそんなことをしたんですか?」

「それは先人の魔女たちの好みだろう」

男「好みですか……」

「春の季節が好きならずっとここにいればいいし。夏が恋しくなったのなら夏の国へ行けばいい」

「そんな自由でのんびりとした世界なのさ」

男「……」

「心配ないさ。あんたもすぐ慣れるよ。元の世界よりここの方がずっと居心地がいいと思うね」

男「……いや、その、家族が心配してるだろうなって……」

「……そうだろうね。」

「もうもどれない以上割り切るしか無い……あたしからはそれしか言えない」

男「俺はこの世界でずっと生きていくことになるんですか?」

「……選択の余地はないよ」

男「……」

「家で暮らすといい。部屋もひとつ空きがあるんだ。2階にね」

男「いいんですか?どうして見ず知らずの俺に」

「困ってる人がいりゃぁ助けてやるしかないだろう?」

思っていたよりとてもいい人だった。

最初に自分を見つけてくれたのがおばさんでよかった。

男「あ、ありがとうございます!!」

「その代わり」

男「なんですか?」

「ひとつだけ約束してほしいことがある」

男「は、はい」

「外界の人間だと言うことを他人にバレないようにしなさい」

初めに会った時も同じようなことを言っていた。

何故、バレてはいけないのだろうか?

その顔はさっきの穏やかな顔とは打って変わって真剣そのものだった。

男「わかりました。ばれないように注意します」

「まっ、こっちにも色々と事情があるんだよ」

何故かという問には答えてくれなさそうだ。

「よし、じゃぁ部屋に案内しようか」

男「はい!」

新しい生活が始まる 初めてあのアパートへ来た時のように

気がつけば胸をわくわくさせていた。

家族や友人のこと

元の世界のこと

そんな不安を隠すかのように……

男「あ、荷物」

テーブルの上の携帯やタバコに手を伸ばした。

「あぁだめだめ。全部没収」

おばさんは自分の手がとどく前にテーブルの上のものを全て回収した。

男「え、でも」

「ここでじゃ何の役にも立たないよ。あたしが責任持って預かっとく」

男「そんな……せめてタバコは」

「こんなもん持ってたら外から来たのがバレるでしょ」

はぁ……タバコやネットのない世界

ちょっぴり寂しいな

――


2階には2つ部屋があった。

階段を上がるとそのまま奥まで廊下が続いてて

右側に引き戸が2つ少し薄い壁を挟んでついてある。

その内の奥の引き戸から入る部屋が自分の部屋になった。

部屋の中は使われていない家具や棚が置かれていた。

どうやら物置として使っていたらしい。

おばさんとふたりで綺麗に部屋を掃除すると

アパートの部屋ほどではないが十分なスペースを確保することができた。

窓を開けると駄菓子屋の丸い看板の”子”の部分がすぐ下に見える。

敷居が低いため乗り出せばすぐ落ちそうだ。

畳に寝そべり窓を前回にして空を舞う桜の花びらをずっと眺めていた。

時たま中を舞う花びらがそのまま部屋に入ってきたりした。

今は何時くらいだろうか。空はオレンジ色に染まり

遠くの方で子どもたちの遊び声が聞こえてくる。

明日から自分は何をすればいいのだろうか。

ふとそんな疑問が頭をよぎる。

男「アルバイトとか募集してるのかな」

ぼそっとつぶやいたその時だった。

ただいまーっと下から声が聞こえてきて

階段を駆け上がる足音がした。

男「ここの家の人かな。挨拶しなきゃ」

よっと立ち上がり戸を開け廊下に出た。

声の主が階段を登り終えたのとそれはほぼ同時だった。

男「あっ」

少女「えっ」

オレンジ色の軽そうな着物。その着物には色とりどりの桜の模様が浮かび上がっている。

髪は肩より長く、少し茶色がかった白色で光の色をそのまま反射してしまいそうでとても美しかった。

その綺麗な容姿に魅了され言葉を発するのを忘れてしまっていた。

男「あっ、えっと」

彼女がきょとんと首をかしげたのを見て

ようやく、何故自分が廊下に飛び出したのかを思い出す。

男「は、初めまして!今日からお世話になります!男です!」

今日はここまでです

昨日と同じ時間くらいに
続き書こうと思います。

随分と誤解させてしまったようで
申し訳ないです。
一応オリジナル作品です

少女「」

男「」

少女はじっとこちらを見つめている。

しーんと静まり返った廊下、漂う気まずい空気。

お互いぴくりとも動かない。

先に動いたのは少女の方だった。

少女「お母さん!!お母さん!!」

踵を返し廊下を駆け下りていった。

>>81訂正:階段を駆け下りていった。

驚かせてしまっただろうか。

自分も後に続いてゆっくりと階段を降りる。

少女「お母さん!あの人誰!?」

母「お父さんが帰ってきたら説明するから」

さっきまでよくしてくれたあのおばさんはこの少女の母親らしい。

少女「お世話になるって言ってたけど!」

母「だから、後で説明するから」

おばさんはうとうとしながらカウンターに肘をついている。

少女「なんで家にきたの!?」

母「後で説明するって言ってるでしょ!!!!!!!!」

こちらに振り返る振り返るおばさんの表情は完全に怒っている。

少女「はーい……」

弱々しい声を発して少女は階段の方へ戻ろうとする。

少女「あ」

男「……ど、どうも」

廊下に棒立ちだった自分と目が合う。

少女「とりあえず、上に戻りましょうか」

はい、と返し階段の方へ歩く。

少女は後ろをだまってついてくる。

階段を静かに上がっていく2人。

後ろにいる少女の表情が少し気になる。

階段を登り終えたところで振り向いた。

男「えっと」

少女「とりあえず、私の部屋に来てください。」

少女「色々、お話聞きたいし」

少女はにこっと笑って見せた。

そして、戸を開けどうぞと部屋に招き入れた。

少女の部屋はとても片付いて物が少ない分こちらの部屋よりも少し広く見える。

本棚は教科書や漫画らしいもので詰まっていてところどころに

お菓子の入った瓶が置かれていた。

勉強机のようなものも置いてありその上にもお菓子の履いた瓶や缶が置いてあった。

さすがは駄菓子屋の娘。

部屋を眺めている自分に少女が声をかける。

少女「どうぞ、座ってください」

言われるがまま座る。

考えてみれば女の子の部屋に入るのは初めてかもしれない。

中学、高校と色々な女の子に恋するもことごとく振られ

数えるほどの女の子にアプローチされるも興味が沸かなく

こうして部屋に招き入れてもらえることができるほどの関係を異性と築けた試しがない。

少女「おひとついかがですか」

机に置いてあった瓶を手にとってその中から赤い飴玉を手に取り口に含んだ。

男「あ、いえ、お構いなく」

少女はそうですかと瓶を机に戻し

ちょこんと正座してこちらを見つめた。

少女「それで、何ものなんですか?」

とても失礼な言い回しだと思ったがここは普通に答える。

男「えっと、俺は」

”外界の人間だと言うことを他人にバレないようにしなさい”

ふと、おばさんの言葉を思い出した。

ここはおばさんの言葉に従わなくては

男「いや……ちょっと答えることができません」

目線を少女から逸らす。結局、答えることができなかった。

少女「え?なんでですか?」

膝に置いてある手に力が入る。

男「色々とわけありで……あはは……」

思わず愛想笑をしてしまう。今思えば少女がしてくるであろう質問には

何も答えることができない……。

だったら

男「何歳ですか?俺は19で今年20になるんです」

こちらから質問を投げかけてこの場を乗り切ればいいのだ。

少女「17歳です」

男「そうなんですかぁ。今までどちらに?」

少女「学校です」

やはりこの世界にも学校はあるのか、何を学ぶのだろうか。

男「いやぁ、こことっても居心地がいいですね。俺、桜好きだし」

少女「他の国の人なんですか?」

男「いや……ちょっと言えないです」

再び目を逸らす。



男「すみません……」

少女「別に謝らなくてもいいんですけどね。ふふっ」

ふと窓の景色を眺める。

外の景色は暗くなる一方だ。

オレンジに焦げた空は徐々に深い青へと変わっていく。

自分は一体何をしているのだろうか。

そんな自問がよぎる。

心に漂う不安が見え隠れする。

少女「窓、開けましょうか」

少女は立ち上がり窓を開けた。



静かで涼しい風が部屋を弱く吹き抜けた。



同時に数枚の花びらが部屋に舞った。


俺はただ僅かになびいた彼女の茶色がかった白い髪に目を奪われるのだった。

今日はここまでです。

展開遅いですが明日も書きますので
よろしくおねがいします。

少女「?」

少女「どうしましたか?」

男「い、いやぁ。何も……」

少女「何か辛いことでも会ったんですか?」

男「……」

少女「……」

少女「あっ」

少女は部屋の隅においてある桃色の小さな刷毛とちりとりを手にとった。

少女「窓を開けるとたまにこうして桜の花びらが入ってきちゃうんです」

少女はくすっと笑って窓の近くに落ちた花びらをちりとりへ運んだ。

少女「迷子みたいで可愛いでしょ」

そう言って窓の外へさっと花びらを撒く。

それをじっと見つめているとまた少女が話しかける。

少女「ぼーっとしているのが好きなんですね」

嫌味に見も聞こえるその言葉

彼女なりにこちらから何も話すことができなくなった自分を気遣ってくれているのだろう。


男「……いきなり世話になるとか言ったりしたのにあんまり警戒しないんですね」

おばさんにしてもそうだった。赤の他人にここまで気を遣ってくれて

いくら困っていたからといっても……

正直に言うと彼女らの優しさが信じがたい。

少女「警戒?」

男「はい。それにこうして部屋にまで招き入れて」

少女「?」

少女は首をかしげた。

少女「お母さんの知り合いなんでしょう?」

男「えっ、まぁ……」

彼女からすればおばさんの知り合いだと思うのも当然か

少女「えへへ、とにかく!これからよろしくね」

男「よろしくお願いします」

座ったまま深くお辞儀をした。

警戒どうこうの話を有耶無耶にされた感じだ。

少女「あっ!えっと”男”さん……でしたっけ」

微妙に名前を間違えているので訂正する。

男「いえ、”男”です」

少女「そうでしたね。えへへ」

少女「私は”少女”っていいます。ここの駄菓子屋の母の娘です」

少女「えーと。他に何を言えばいいかな」

人差し指を唇にあて考える。

少女「そうだ♪」

少女「一応、駄菓子屋の娘なのでおすすめのお菓子でも紹介しちゃいましょうか」

彼女は立ち上がり本棚に置かれた瓶を一つ手に取った。

その時、下からおばさんの声が聞こえてきた。

母「二人ともー!夕飯だよ!」

少女「はーい!」

少女は廊下に向かって返事をして手に持っている瓶を棚に戻した。


少女「あらら……おすすめのお菓子の紹介はまた後でですね」

少女「ふぅ、お腹すきましたねぇ」

そう言って少女は廊下に出た。

窓を閉めて自分もそれに続く。

少女「今日はきっとお魚ですよ。香ばしい臭いがするし」

振り返りながら階段を下りる。

さっきの店へ続く部屋に入るとメガネをかけた男性がすでに座って待っていた。

少女「おかえり!お父さん」

少女の父親らしい。

父「ただいまぁ。おっ、今日はお客さんが来てるんだね」

とても、穏やかな笑顔をこちらに向ける。

どうも、会釈をして少女にここに座ってねと言われて座布団の上に腰を下ろした。

短いですが今日はここまでです!
ごめん!

おつ
ここのお菓子食べるとなんかやばいの?

>>102
普通の駄菓子屋ですよー

普通か
上手い具合に回避してるから、千と千尋的なフラグかと思ったww

>>104
駄菓子屋は普通ですが
色々と謎は作ってあるので
引き続き読んでいただければ嬉しいです

おばさんが奥から料理を持ってくるために

部屋を行ったり来たりしていた。

少女はそれを見かねて母を手伝う。

母「じゃぁ、急須と湯のみお願いね」

台所は廊下を出て左に行ったところにあるらしい。

父「母さんから聞いたよ。色々たいへんだったんだね」

おばさんはどこまで話したのだろうか。

親切に話しかけてくれるもやはり、何を答えていいのかわからない。

母「さぁ、食べましょうか」

おばさんと少女が戻ってきて腰掛ける。

少女「それじゃぁ」

と少女が一声

それに続いておばさんとおじさんが手を合わせいただきますと合唱。

遅れて自分をぼそっといただいきますと言った。

>>107
訂正:自分を→自分も

ですね。申し訳ない

夕飯は彼女の言っていた通り焼き魚であった。

魚の他にお浸し、お味噌汁それに白米が

テーブルを飾っている。

母「では、新しい我が家の一員を紹介します」

食事には手を付けずおばさんが切り出す。

少女の父と少女はそれを聞いて小さく拍手をした。

――


静かな夜だ。

窓から月の光が微かに部屋を照らしていた。

今は自室、かつての物置部屋で布団の上に座り込み窓の外を眺めている。

街頭の灯りが桜の木の影から顔を覗かせていた。



夕飯の時、おばさんは自分がここにたどり着いた経緯を全て少女やおじさんに伝えてくれた。

――外界から来たのだということも。

おじさんはそれをうんうんと聞いて

困ったことがあれば相談してね、と言ってくれた。

少女は自分が外界から来たという事を知るやいなや

目をキラキラと輝かせ色々な質問を投げかけた。

その勢いに押される俺を見かねて

おばさんがあまり質問攻めするなと一言言い放ち

おじさんがはははと笑った。

――とても暖かかった。

自分の不安を少しでも
拭いさろうとしてくれている

この家族の和気藹々とした姿を見て

そう感じた。

あんまり更新出来ませんでした。
ごめん!

こんこんと部屋の戸を誰かがノックする。

少女「お風呂、入ってきてくださいね」

引き戸越しに少女の声が聞こえる。

男「わかりました。すぐ行きます」

廊下に出た時、ちょうど彼女が自室に戻る姿が見えた。

そのまま彼女の部屋をよこぎる。

階段を降りてまっすぐ歩いて突き当たりを左に曲がったところにお風呂場がある。

浴槽は五右衛門風呂のようなもので

人が2人入れるくらいの大きさだ。

ちゃんとシャワーも備え付けられている。

母「着替え、おいとくわね」

ちょうど頭を洗っている時だった。

風呂場の外からおばさんの声が聞こえた。

男「ありがとうごさいます!」

シャワーの音に掻き消されぬよう大きめに声を出す。

母「ごゆっくり?」

体を洗い終え湯船に浸かった。

浴槽の縁に腕を置いてはぁ、と息を吐いた。

ぽつぽつと何処から水の滴る音が聞こえる。

疲れが溜まっていたのだろうか

ずっとこうしていたい気分だ。

風呂から上がりおばさんが置いてくれていた寝間着に着替え部屋へ戻った。

少し風呂場に長居したせいか体がほてってむしむしとする。

部屋の窓を全開にして緩い風を浴びる。

涼しくて気持ちがいい。


窓辺に座り外の景色を眺めた。

このまま寝てしまうのもいいだろう。

落ちなければいいけど

寝ます、

ガラガラと隣の部屋の窓が開く音が聞こえた。

よいしょっ、と声と共に少女が窓辺に身を乗り出した。

少女「あっ、どうも~。えへへ」

男「どうも」

少女は膝を窓の外に出しぱたぱたと揺らしている。

落ちるのでは無いかと思えて少し危なっかしい。

少女「涼しいですね~」

少女はそう言って伸びをした。

少女「窓辺にもたれかかってたら危ないですよ」

男「ふふ、それは君も同じだろ?」

少女「私は慣れっこですから。えへへ」

この子の口癖はえへへなのだろうか、そんなどうでもいい事が頭に浮かんだその時だった。

少女「やっと笑いましたね!」

男「えっ」

――ドラマやアニメでしか聞いたことのないような言葉

ここへ来て自然と笑顔がこぼれたのは初めてだった。

今でも不安はある。元の世界の人を思う気持ちも忘れていない。

―――だけど

なぜだろうか

少し心に余裕を持てた気がした。

長い髪を頭の後ろに束ねた彼女の横顔は月明かりに照らされ

白く輝いて見えた。

この世界が魔法によって創られたのなら

彼女もきっと魔法を使えるのだろう。

そして、俺は彼女の美しさという魔法で彼女の虜になったのかもしれない

少女「お~い」

男「まさに……魔性の女」

少女「ねぇ~」

男「えっ」

少女「なんか言ってた?ぼそぼそって」

男「いやぁ別に」

少女「そう」

少女「それにしても、ほんとにぼーっとしてるのが好きなんですね」

男「ただ、ぼーっとしてるわけじゃないよ」

男「好きなんだよ。もともとこうして景色を眺めるのが」

少女「ふーん」

少女は足をぱたぱたとさせた。

少女「気に入りました?この町」

明日からそして、この先も

自分はこの世界でずっと生きていかなくてはならない。

元の世界のことを決して忘れること無く。


男「そうだね。まだ、来たばっかりだから何もわからないけど」


戸惑いや不安だってまだまだ自分の心からはなれることはないだろう。

だけど、こうして自分は新しい居場所を見つけることができた。

そして自分を家族として迎えてくれる人とも出会えた。


何が言いたいのかというと



男「でも、少なくともここから見える景色はとても気に入ったよ」



つまり、出だしは好調だったのだ。

今日はここまでです。
相変わらずスローテンポでごめんね

次の日

少女「おはようございま~す!!!!!!!」

耳元で少女が叫んだ。

男「うわぁあああああ!!!!!!!」

慌てて飛び起き何事かと少女を見た。

彼女が部屋に侵入してきたことに全く気付かなかった。

少女「朝ごはん、ですよ~」

男「えっ」

今なん時なのだろうか。

この部屋には時計がないので時間がわからない。

少女「さっ、早くしてください。私、遅刻しちゃいますよ」

そう言って彼女は俺の手を掴み引っ張った。

そう言えばこの子は学生なんだっけ

男「あぁ、学校があるんだね。ごめんごめん」

下へ降りるとおばさんがすでにテーブルに朝ごはんを並べてくれていた。

母「おはよう。二人とも」

男「おはようございます」

少女「おはよー」

朝は以外にもパンであった。

どこで買ってきたのだろう。

少女はテーブルに置いてあるジャムの瓶を手に取り

赤いジャムをパンに塗り頬張った。

父「おはよう~。ふぁぁ」

髪を掻きながらおじさんが遅れて登場。

朝はみんなばらばらに食事を取るらしい

母「早く食べて着替えなさい。余裕を持って家を出なさいね」

少女「は~い」

父「眠いねぇ」

おじさんは眠そうにパンにジャムを塗っている。

母「お父さんもっ、頭がまだ寝てる!」

父「ふぁぁ……朝はやっぱる苦手だよ」

母「お仕事遅れても知りませんよ」

父「それは大丈夫」

少女「ねぇねぇ」

男「?」

おじさんのように自分もうとうととパンを頬張っていると少女が

話しかけてきた。

少女「男さんは今日、何するの?」

男「えっ」

何をすればいいんだろう。それは今日に限ったことではない。

今日から明日から自分は何をすればいいのか。

男「まだ、何も……」


母「観光でもどうだい?」

男「観光?」

母「適当にぶらぶらしてこの街に慣れるといいよ」

母「お小遣いもあげるから」

男「え?いいんですか?」

ここへ来たばっかりでしかも、外から来た人間なのに

一人で観光でもするといいと言ってくれるということは

この世界はやはりとても平和な場所なのだろう

少女「お小遣い!?ずるい!」

少女「私も!」

母「ダメ。なんでアンタにまであげなきゃいけないの」

男「でも、お小遣いなんかもらえないですよ」

母「町中までいけば色々と美味しいもんが売ってるから買って食べるといい」

母「それに」

おばさんが近づいて耳打ちにする

母「煙草も買ってくるいいよ」

男「えっ…」

少女「なに?なになに?」

母「なんでもないわよ」

少女「なによー」

母「早くしないと遅刻するわよ」

少女「むぅぅ」

観光か

とても楽しみだ。

散策はしてみたいとずっと思っていたし

そして、春ノ国のこともある程度知ることができるだろう。




―――あわよくば




元の世界へ戻る方法も

次回は春ノ国観光編です

毎度レスありがとうございます。
完結させれるようにがんばります

少女「いってきま~す」

少女は支度を終えて手提げかばんを持って店を出た。

母「いってらっしゃい」

少女「~♪」

父「行ってくるよ」

母「いってらっしゃい」

おじさんと少女をおばさんと2人で見届ける。

母「さぁ、あんたも支度しなぁ」

そう言って踵を返し店を戻った。

春ノ国、一体どんな町なんだろう

おばさんから着替えを渡してもらい部屋へ戻った。

とりあえず、敷きっぱなしの布団にごろんと転がる。

男「観光ねぇ」

一体どこをまわればいいのか

だが、宛もなくふらつくのは嫌いではない

男「さて、と」

体を起こして服を着替えた。

男「折角なんだから思う存分観光して楽しもう」

と独り言をつぶやいて部屋を後にした。

母「はいこれ、お金」

お札のようなものと小銭が数枚入った財布を渡された。

男「ありがとうございます」

母「あ、あとこれ。困ったことがあれば連絡しておいで」

おばさんはそう言って漢数字の書かれたメモを渡した。

男「電話番号ですか?」

母「そう、さすがに帰ってこれなくなると困るでしょ?」

男「そうですね」

母「ま、楽しんでおいで」

肩をぽんと叩く

男「えっと、どこへ行けばいいんですかね」

母「どこへでも行けばいいさ。大丈夫、めったに迷うことはないから」

俺が迷わないという自信はどこから出てきたのだろう。



母「いってらっしゃい。暗くなる前には帰っておいで」

男「はい!お小遣いありがとうございます」

空は青々しく眩しい

そして、桜の花びらが相変わらず雪のように舞う

歩いているだけで心地が良くなんだか清々しい気分にさせられる。

男「どこへ行こうかな」

せっかく、お小遣いをもらったんだ。

お店が多く並ぶ場所でも探すか

どうやら、この辺りは住宅街のようだ。

木材が目立つ色とりどりの一軒家が立ち並んでいた。

まるで時代が昭和でストップしているかのようだ。

ちらほらと人ともすれ違う。

もちろん自分が外界の人間だと気づいている人はいないだろう。

家の壁にはたまに張り紙などが貼ってあった。

飲料水の広告だろうか?張り紙には瓶に入ったジュースを飲む男の子が描かれている。

他にも桜の絵と文字が書かれていたり”○○商店すぐそこ”と書かれた張り紙などもあった。

そのどれもが破れかけたり黄ばんだりしている。

男「風情があるねぇ」

駄菓子屋を出て少し歩いた後

左へ曲がりそこからずっとまっすぐ歩いていた。

なんとなく人がそっちへ流れている気がしたから。

そして少し開けた道に出た。どうやら住宅街を抜けだしたようだ。

喫茶店や雑貨店だろうか、店から突き出た看板がたくさん見える。

人の数もさっきより多くなった気がした。

何か大きなアーチが見えてきた。

”春ノ国商店街”

と大きく書かれている。

多くの人がそこをくぐり、奥のアーケードへ入っていく。

とても活気ある商店街だ。

アーチに近づくに連れて美味しそうな食べ物の臭いも漂う。

うむむ…色々と省くべきか否か

別に何スレいってもいいんだから、面白く長くやろうよ。

>>150
ありがとう。長期戦になりますがよろしくおねがいします。

男「さて、せっかくだしどこか店に入ろうか」

色々な店が立ち並ぶがいまいちに何の店なのかわからない。

しばらくは店の前に飾れる晴衣やアクセサリーのようなものを眺めながら歩いていた。

男「あっ」

”たばこ”と書かれた看板を見つけた。

男「決まりだな」

前を横切る自転車を待って早速、早歩きで店に近づいた。

店の入り口には大きなキセルの形をした看板が立っていた。

そして、先端から煙のようなものがもわもわと立ち込めている。

不思議と煙たくない、これもまた魔法なのだろうか。

開けた入り口から店内に入ると

色々な置物のようなものが天井からぶら下げてあったり

棚に置かれて売られていた。

入って正面の奥には段差があり畳が敷かれている。

奥から店主らしき人が自分を見つけて出てきた。

「いらっしゃい。」

男「どうも」

軽く会釈する。

「珍しいねぇ。若もんが来るなんて」

男「そうなんですか」

「買いにくるのは決まって年寄りやおっさんだからなぁ」

はっはっはと笑う店主。あなたも十分なお年でとは言わないでおこう。

「それに、買いに来る客もほとんど変わらない顔ぶれだしな」

男「はぁ」

「で、何を買いに来たんだい?」

銘柄なんて決まっていなかった。

棚に煙草の箱が並んでいるがどれも見たことのないものばかり

男「えっと、おすすめとか……ありませんか?」

「お前さん、初めてなのかい?」

男「え、まぁ……」

とりあえず、質問をしやすくするために初めてだと答える。

「若ぇのに、体壊すぞ~」

そう言って店主はまた笑う。

「どれ、ちょっとまっとれ」

店主は棚の方へ行き迷いもなくいくつか箱を持ってきた。

「まぁ座りな」

そう言って畳の上に箱を置いて座った。

自分もそれに続いて座る。


「どれ、とりあえず、一本ずつ味見してみるといい」

男「はい、ありがとうございます」

店主は全体が濃い青色で覆われ真ん中に海と書かれた箱から

一本、煙草を取り出しマッチと一緒に渡してくれた。

男「えっと、いただきます」

とりあえず、吸ってみる。

……苦く渋い濃い味が口の中に広がる。

男「……」

一言で言えば自分には合わないタイプの味だ。

喉がきついと言うわけでもなくいがいがすると言うわけでもなく

ただただ濃い……

「どうだ?」

店主はにやにやしながら尋ねる。

男「これは……ちょっと」

「そうか。おすすめなんだがねぇ」

続いて真っ白の箱に墨汁が飛び散ったようなデザインの箱から

煙草を一本取り出した。

「これはちょっと癖が強いぞ」

「そうなんですか」

さっきも癖が強い気がしたけど

そう思いながら煙草に火をつけた。

「!?」ゲホゲホッ

なんだこれ!?喉に引っかかるようでまともに吸えたもんじゃない。

そして、なんだか少し甘い

「やっぱりきついかぁ」

むせる自分を見て店主はあっはっはっはと笑い出した。



そして、最後に残ったのは淡い赤と黄色の箱だった。

店主に渡されて早速吸ってみる。

これが一番、合うかもしれない。

というより自分好みだった。

少し薄い味で後味が良い感じだ。

男「これください」

「おっ、やっと気に入ったのが見つかったか」

男「とりあえず、3箱くらい」

あまり、もらったお小遣いで煙草を買いたくはなかったのでそのくらいに

「はいよ」

いくらなのか全くわからがとりあえずお札を一枚渡す。

「はい、おつりね」

「あ、今開けたその三箱もやるよ」

男「いいんですか?ありがとうございます!」

男「でも、他の2つは吸わないかな……」

思わず苦笑する

「そうかい。そんじゃ置いていきな」

男「すいません」

「気にすんな。俺が吸うからな」ハッハッハ

「そういやぁ、お前さんどこから来たんだい?」

男「えっ」

「少なくとも近くには住んでないんだろう?」

男「この間越してきたんです」

適当にごまかす。

「ほう、当ててやろうか?」

男「は、はぁ」

「夏の国だろ?」

男「え、えっと……あたりです」

親切におまけしてくれた店主に嘘をつくなんて

「だろ!!?やっぱりそうか!」ハッハッハ

当てて喜ぶ店主を見て心が痛い。

だがそれ以上に

”外界の人間だと言うことを他人にバレないようにしなさい”

という言葉が自分を何かから守ろうとしている気がした。

――


それから、おまけでもらった開けた煙草を吸いながら

店主と話をしていた。

ほとんどは店主の自慢話だとか愚痴だとかだが

「でよぉ!俺が夏ノ国の海岸でだな!」

せっかくこれだけ話をすることができたんだ

自分もこの世界について何か質問したいという衝動に駆られた。

しかし、下手に質問をしてしまっては……

”外界の人間だと言うことを他人にバレないようにしなさい”

帰っておばさんから色々と話を聞いてもいいだろう。

だけど……何故か他の人からも情報を聞きたいと思うのだ。

何故だろう?

心の奥底であの家の人が他とは違うと思っているからだろうか?

どうして?

そういう考えを抱いてしまう?

「ん?どうした?」

男「え?いやぁ!あの塔って本当に大きいですよねぇ」

言ってしまった。初めて見た時、ここが異世界であると自分に決定づけたあの塔。

「塔?あぁ、春ノ城のこったっろ?」

男「そうです!」

「なんだよ。そんなんも知らねーのかよ」ハッハッハ

男「何せ田舎者でして」

うまく切り抜けた?

「お前さんとこ夏ノ城も立派なもんじゃないか」

男「はい、そうですね」エヘヘ

「そういえば、お前さんとこ。そろそろ何だろ?」

男「?」

「選定だよ。お姫様の」

男「え?えぇ!そうですよ!」

「女の特権だからなぁ」

「あの城のてっぺんに住むってのは」

「まぁ、俺は何十年もあそこに住まわせるんじゃ退屈だって逃げ出すかもな」

男「ですよねぇ」

「でも、娯楽施設は全部あるらしいんだ。それでも、俺は逃げ出すと思うが」

「実際、密かにお姫様が城下にお忍びで出歩いてたりしてるらしいが」

「まぁ噂だけど」

男「春ノ国の選定はまだ何ですか?」

「さぁないつになることやら。夏ノ国だってこの前の選定はもう何十年も前の話だろう?」

男「はい、不定期ですよね」

「生きている間に見ておいたほうがいいぞ選定は」

男「見たことあるんですか」

「ずうっと昔にな、まだ物心ついたばかりのガキだった時だ」

そう言って手に持った煙草に火をつけた。

「春ノ国中が祭りに騒ぎになるのさ。選定で決まったお姫様が町を練り歩いて最後に城へと行ってしうまう」

「あぁ、あの時のお姫様…べっぴんだったなぁ。みるからに豪華な着物を着てだな。化粧もしてそりゃもう」

男「それ以来、選定はないんですか」

「あぁ」

男「俺も見てみたいです。べっぴんなお姫様」

「はっはっは!あぁ!あれは死ぬまでに絶対に見るべきだな!」

煙草を口元に持って行きゆっくりと吸いそして吐き出した。

何十年かに一度の選定。選ばれた女性は城で一生を過ごす。

何故だろう?

男「選定の理由ってなんなんですかね」ボソッ

「仕事があるんだよ。お姫様にも色々と」

「詳しい内容は知らんが重要なことなんだと」

「だからこそ、任せることのできる優秀な魔女を選定するのさ」

――


店を出るときもう一つ店主に質問をした。

男「あ、そういえばこの置物ってなんですか?売り物?」

色々と置いてある中から緑と白の水玉模様のケースのようなものを指さした。

「あぁ、それは灰皿だよ。外で吸殻を捨てる輩がいると困るだろ?」

「あっ、お前さん初めてだったな。1個持ってきな。それもおまけだ」

男「えっ、でも一箱おまけでいただいたんだし」

「遠慮するな。お前さんと話せて楽しかったしな」ハッハッハ

男「ありがとうございます!!」

「また来な!待ってるからよ」

そして、俺は何度も店主に頭を下げて

店を後にした。

>>152
訂正:晴衣→晴着

今日はここまでです

三箱の煙草と携帯灰皿を抱えて商店街を歩く。

頭の中で”春ノ城”、”選定”という言葉が何度も浮き沈みしている。

夏ノ国ではもうすぐ選定が始まると店主は言っていた。

”あれは死ぬまでに絶対に見るべきだな”

それほどすごいものなのだろう。

自分も見てみたいという好奇心に駆られる。

男「べっぴんなお姫様かぁ」

もう少し歩けば商店街を抜ける。

他にも何か買っておこうか。

そう思い立ち並ぶ店をちらちらと眺める。

男「あっ」

抱えている煙草の箱に目をやりあることに気づいた。

男「袋、もらってないなぁ」

道行く人は皆手提げのカバンやらと何かと入れ物を持参している。

買い物をしている人も店員から買ったものを受け取った後、

そのままカバンに品物を詰めていた。

買い物袋というものはこの国にはないのだろうか。

とりあえず、このままでは両手が塞がって何かと不憫だ。

商店街の出口付近で小さな雑貨屋を見かけた。

そこで店前に吊るしてあった。黒に白のよくわからない模様の入った

手提げカバンを購入した。

財布は小銭だらけになってしまったがまだまだ使えそうだ。

商店街を出た後、そのまま人の流れにそって宛もなく歩き続けた。

ここからでも、あの大きな塔、”春の城”を眺めることができる。

男「あのてっぺんにお姫様が居るのか」

城下まで行ってみたいとも思ったがここからは少し遠いように思えた。

商店街を抜けてからの景色は色々とごちゃごちゃとしていた。

三階建ての家や二階建ての家

駄菓子屋の近くとは違って建物の大きさが皆ばらばらだ。

もちろん、お店も立ち並んでいる。1階がお店でその上が常居であったり

建物の横に階段がその上が食べ物屋になっていたりしている。

基本的にどこの家も窓は開いているようで生活の一こまが覗けてしうような感じだ。

道を挟んでベランダから向かい側の人と大きな声でおしゃべりする人など

とても賑やかだった。

そんな景色を眺めながらゆっくりと歩いていると

ガタンガタンと大きな音が聞こえてきた。

高さの揃わない建物の隙間から高架線が見えた。

そしてそこを淡い赤色と白の色をした電車が徐々に速度を下げて走っている。

どうやらこの近くに駅があるらしい。

男「お金もまだあるし、アレに乗ってみようかな」

さっきより少早めに歩いて駅を探した。

――


横に長く、少し古く見える建物が見えた。

あれが駅のようだ。

大きな階段があってそこを人々が昇り降りしている。

自分もその階段へ足を運んだ。

駅の中は元の世界とあまり変わらない気がする。

だけど、どこか古くて懐かしい空気が立ち込めている。

自動券売機はあるようだ。

すこし錆びついた機械に適当に数枚の小銭を投入口へ入れた。

横一列に並ぶボタンがオレンジ色に光った。

左から3つまでのボタンが光っているがそれ以降は光っていない。

男「えーと」

ボタンには駅名らしきものが書かれている。

ボタンの一番左がここからひと駅のところなのだろう。

とりあえず、光っている一番左のボタンを押した。

一枚の切符とジャラジャラと小銭が同時に出てきた。

小銭を財布へ入れて切符を手に持ってすぐ後ろにある改札口へ向かった。



改札口の両端には受付のようなものがあって

その前に駅員らしき人が立っている。

ホームへ向かう人はみなその駅員に切符を見せて

そこを抜けている。

自分も後ろに並んで切符を見せた。

駅員はちらっとその切符を見て

どうぞと微笑んで通してくれた。

ホームではすでに電車が止まっていた。

慌ててその電車に飛び乗って座席に座った。

この電車で良いのだろうか。

券売機にはボタンの列が2つあった。

そして、ホームに線路は2つあった。

自分はどちらへ向かう切符を買ったのか

もう一度確かめようと思った時、

電車のドアは駅員の扉が閉まりますというアナウンスとともに

閉まってしまった。

そして、電車はどこへ向かうのかもわからない自分を乗せたまま

ゆっくりと動き出した。

今日はここまでです。

――

今、俺はベンチに腰掛けている。

空を見上げると青空にてんてんと色々な色の風船が浮かんでいる。

そして、その空を囲むように高い建物がそびえ立っていた。

そこはまるで大きなショッピングモールのようで、

三駅前の雰囲気とはまるで違う。

無事に駅の改札を抜けることができ

ここにたどり着いたのだ。

わたあめやアイスクリームを手に持って楽しそうに歩く人々、

そんな彼らの会話があちらこちらから聞こえてくる。

男「なんか、すごいとこにきてしまったな」


一体、何階まであるのだろうか


建物のあちらこちらに橋が掛かっており

買い物客であろう人々は皆そこを歩いて別の建物へ移動している。

立ち止まって下を見下ろしている人もいた。

男「まぁ、一人で来るようなところではないよなぁ」

ベンチから立ち上がりつぶやく。

さぁ、お昼ごはんでも食べに行くか

適当に建物の中へ入り、目についた階段を登って行った。

4階ほどまで駆け上がり、再び建物の外へ出た。

そして、手すりに持たれかけ下を見下ろす。

男「ちょっと、休憩……」

最上階まで行ってみたいがずっと階段を登り続けるのはさすがに疲れる。

上を見上げてもまだまだある。

ふと隣の建物を見るとガラス張りの大きなくぼみが見えた。

そして、そこをエレベーターらしきものが登っていく。

男「あるのかよ……エレベーター」

橋を渡ればエレベーターまで辿り着けそうだが

せっかくだからもう少しこの階を散策しよう。

さっきとは別の入口から建物へ入ると

大きな看板が壁に掛けられているのが目に入った。

どうやらフロアマップらしい

四階お食事処と書かれている。

これはラッキーだ。

確かに、いい匂いがどこからか漂ってくる。

さらに建物の中へと進んでいくと

暖簾や看板がたくさん見えてきた。

お昼ごはんはこの辺りで済ませよう。

「わぁい!!」

「こらぁ!まちなさぁい!」

小さな男の子が綿菓子を片手に通路を駆けまわる。

そして、その後ろから母親らしき女性が追いかけている。

「かわいいねぇ」

それを見て女の子たちが友達同士で話をしている。

やっぱり、一人で来るようなところではない。

辺りを見渡しても一人で歩いているのは自分だけのような気がした。

男「あいつをここへ連れてきたらきっと馬鹿みたいにはしゃぐんだろうなぁ」

ふと友人の事を思い出した。

――




大学1年の春。

食堂

男「」モグモグ

友「となり、空いてる?」

男「え?うん」

友「よかった。みんなぁ!こっち席空いてる!」



友「悪いねぇ。暑苦しいのいっぱい連れてきて」

男「いえいえ」

友「君も一回生だよね?」

男「そうだけど」

友「やっぱり!オリエンテーションで見たもん!俺、同じ学部の友っていうんだ」

友「んで、こっちが」


彼とは食堂で知り合った。入学したばかりで一人でご飯を食べているところに

空いた席を求めて彼らが来たのだ。

友「君って下宿生」

ごめん、みすった

友「君って下宿生?」

男「春から一人暮らししてるんだ」

友「へぇ、いいなぁ。俺は電車で通ってるよ。またこれが通学時間長くてさぁ」

友「いいなぁ、一人暮らし」

男「そうでもないさ。不安ばっかりだしね」

友「不安?あぁ、だよなぁ。憧れも多いけど面倒なことも多そうだし」

男「ほんとにそれ」

友「なぁ、今度遊びに行っていい?」

男「えっ」

「おいおい、初対面でそれはねぇだろう」

友「そうか?じゃぁ、これから仲良くしてこうぜ!それで、今度家あそびにいくよ!」

彼の第一印象はあまりいいものではなかった。

一人で食事しているところにいきなり割ってきて色々と話しかけてきたのだから

だが、あの時の自分はとにかく何もかもが不安で仕方がなかった。

そして、その不安を解消してくれるのはやはり話し相手だったのだ。

一人で抱え込むというのは終わりのない迷路をひたすら彷徨うようなもの。

彼は迷路で座り込んでしまった俺にむけて手を伸ばしてくれたのだ。

――


その後、友人は宣言通り自分のアパートに遊びに来た。

夏休みにはみんなで旅行に行ったりもした。

――出だしは好調だった。

それはほとんど彼のおかげだったのだ。



――一人とぼとぼと散歩道を歩いていても人恋しい、隣に話す相手が欲しいなどとは思わない。

それは、本当は一人ではなかったから。

友人たちがいてくれたから

だから、一人でいられたのかもしれない

ずっと一人と言うわけではない。

永遠に孤独ではないからこそ、孤独を楽しめるのかもしれない。





もう二度と友人と会うことはない。

母親に追いかけられはしゃぐ子供とすれ違って

そして、周りを見渡して

今、少し

人恋しいと感じた自分に気づいたのだった。

今日はここまでです

――


同じ階にある中華料理屋でお昼ごはんは済ませた。

どこにでもあるような至って普通の店であったが

カウンター席から中を覗くと女の店員が指先から丸い小さな火の球体を出し

そして、その球体が独りでにコンロの方へ飛んでいき火をつけるという不思議な光景を目にした。

ここは魔法の国。魔法がごく当たり前のように使用され生活の一部と化している。

人が魔法を使うのを見たのはこれが初めてだった。

いつか、自分も使えるようになるのだろうか。

ちょっとした期待を抱くのだった。

――


空はもう澄んだ青からオレンジ色へと変わっていた。

今日は一日中歩きまわったせいで足の裏が少し痛む。

昼食を済ませた後も、あの大きなショッピングモールのようなところを

ずっと散策していた。だが、最上階へは行かなかった。

やはり、一人で行くようなところではないと思ったからだ。

もし、俺にこの世界で友人と呼べる存在ができたのなら

その時、彼らと一緒に行ってみたいと思った。


元の駅に戻った後も少し散策した。

夕方に見る景色と朝に見る景色とではまた違った見え方、感じ方がする。

商店街も朝の活気とは打って変わって穏やかな賑わいを見せていた。

これから、夕飯の献立を揃えに来る人でまた活気づくのだろう。

行きとは違う道を歩き続けていると小さな公園を見つけた。

小さな遊具がいくつか備え付けられているがどれも錆び付いている。

子供もいない。もう、遊び疲れて帰ったのだろうか。

公園のベンチに腰掛けて

買いたての煙草をカバンから取り出しマッチで火を付けた。






これ以上、散策するのはやめよう。

何故、歩くのをやめ公園で立ち止まったのか。

それはたんに休憩したかったわけではない。

迷ってしまったのだ。

もともと、知らない道をぐいぐいと進んで行ってしまった、それも行き帰りとでは全く異なる道。

迷うなんて当然の結果だ。

男「はぁ……、どうしようか」

宙に消えていく煙をぼーっと眺める。

男「そうだ!電話!」

出かける前におばさんから家の電話番号の書かれた紙を受け取ったのを思い出した。

ポケットから漢数字の書かれたメモを取り出した。

男「よし……」

だが、肝心の携帯電話はおばさんに預けたままだ。

男「意味ないじゃないか!!この紙!!」

そもそも、おばさんが携帯を預かったと言うことはこの世界には

携帯電話が存在しない、ということなのかもしれない。

だとすると……

煙草を携帯灰皿に押し付けて閉まって

ベンチから立ち上がった。

あった!!

公園を出てすぐのところにそれはあった。

”でんわ”と書かれた四角い何かが電柱の近くに備え付けられていた。

男「公衆電話からかけろってことだよな。やっぱり」

錆びついた受話器を取り小銭を入れてメモに書かれた番号を打った。

プルルルと電子音が鳴った後、誰かが電話に出た。

母「はい」

男「あ、あのぉ」

母「あぁ、どうしたんだい?」

男「迷ってしまいました……」

母「ぷっふ…はっはっはっは!!本当かい?」

男「はい…」

母「安心しな!迎えに行くから。で、どこからかけてきてるんだい?」

その後、おばさんに周りに見える景色をできるだけ詳細に伝えた。

母「だいたい、わかった。ベンチにでも座って待ってなぁ」

男「はい!ありがとうございます!」

再び公園のベンチでたばこをふかす。

桜の花びらは相変わらず宙を漂っている。

手を伸ばせばすぐ掴めてしまいそうだ。

目の前の錆びた滑り台が夕陽を微かに反射させ、

地面に自らの形を黒く染み込ませている。

このままずっとベンチに座っていると寝てしまいそうだ。

ゆっくりと吹く風が肌に触れる。

そして、右手に持った煙草の煙を流す。



――


チリン チリーン

どのくらい座ってただろうか。しばらくして、自転車のベルの音に気付いた。

少女「いたいた!」

ベルの音の方を向くと少女が自転車にまたがっていた。

少女「どーもっ!」

その姿に少し驚いた。てっきり、おばさんが迎えに来てくれるものだと思っていたから

彼女は降りて自転車を押し

並んで帰り道を歩いた。

少女「どうでした?楽しめましたか?」

男「え、まぁ」

少女「どこに行ったんですかぁ?」

男「商店街と、ここから三駅のところにある」

少女「あぁ!それはいいですねぇ」

男「歩き疲れたよ。あはは」

少女「ふふ、ご苦労さまです」

少女「あっ、その鞄買ったんですか?」

男「うん、そこの商店街で」

少女「素敵な模様ですね!色々と何が入ってるんですか?」

男「お土産だよ。せっかくお小遣いをもらったんだから、何かお礼しなくちゃって思ってね」

少女「わぁ!ありがとうございます。」

男「そういえば、今日は学校だったんだよね」

少女「え、まぁ」

少女「私もどこか遊びに行きたいですね~」

男「休みはないの?」

少女「いや、あるんですけどね。えへへ」

なんだそれは

遠くに見える春ノ城が夕陽を浴びているのが見える。

男「……夏ノ国ではもうすぐ選定、っていうのがあるらしいね」

少女「そうなんですよぉ!見に行きたいですよね!」

男「そんなにすごいの?」

少女「私もお姫様になりたいなって思ってますから」

男「どうして?」

少女「だって、綺麗な着物も着ることができるし、可愛くおめかしできるし」

男「でも、ずっと城の中で暮らさなきゃいけないんでしょ?」

少女「そうですねぇ、だけどお姫様になるってことはそれだけ名誉なことなんです」

少女「春ノ国の、みんなの役にも立てるんですし」

男「役に立つ?」

少女「国の決め事の最終決定はすべてお姫様が担っていると聞いています」

少女「他の国との関わりをそうです」

男「なるほどねぇ」

少女「私、まだ見たこと無いんですよね!選定!」

少女「はぁぁ、お姫様見てみたいなぁ」

男「商店街の人がお姫様はたまにお忍びで町に出歩いてるらしいって言ってたよ」

少女「ほんとですか!!」

男「噂らしいけど」

少女「ですよね~…」


「……あっ」

前から歩いてきた女の子が俺たちを見て立ち止まり声を漏らした。

長い髪を両サイドにわけて後ろも上げて首が見えるようにしている。

髪飾りがとても美しい。

「……あぁ!?」

再び声を上げる女の子。

男「な、なに?知り合い?」

少女「えへへ……まぁ」

そして、女の子はこちらに険しい顔で近づいてきた。

今日はここまでです。

「少女が男と一緒なんて……珍しい」

少女「こんばんわ!」

「しかも見たこと無い男!」

女の子は鋭い目で俺を捉えた。

男「…あ、どうも……」

少女「あ!あぁ!この人はですね!ええっと」

男「親戚」ボソッ

少女「そう!親戚なんですよ!とっても遠い!」

「へぇ、少女に親戚なんていたんだ」

少女「はい」ニコッ

少女「春の国の端の端の方に住んでたんですけどね!ちょっと用があってこっちにきたんですよ!」

「ふ~ん」

男「初めまして、男って言います」

「どうも」

可愛いらしい外見だが威圧がすごい。他人を受け付けないというか

少女「そちらは?何か用事でも?」

「まぁ、そんなとこ」





「なぁんだ。てっきり、彼氏か何かかと思ったわ」

男「そんな、彼氏だなんて。あはは」

「……」

再び鋭く睨めつける女の子。

「この子に手を出したら許さないから」

男「は、はい……」

少女「え、えっと。それじゃぁ私たちはこれで!」

「あぁ、引き止めてごめんね!それじゃね」

女の子は颯爽と俺たちと別れ反対の方へ歩いて行った。

少女「どう?可愛い子でしょう?えへへ」

男「うん。ちょっと怖いけど」

少女「あぁ、えへへ。慣れれば平気だよ。ちょっと、知らない人と接するのが苦手なだけで」

男「へぇ、学校の友だち?」

少女「はい!小さい頃から仲良くしてるんです」

”この子に手を出したら許さないから”

さしずめ、少女の護衛役といったところか。

少し話してそういう感じがした。

少女「でも、心をひらいてくれるととても可愛いんですよ!」

男「ほう」

少女「本当ですよー!」



――これが彼女との出会いだった。

頭の両側につけた美しい髪飾り

蒼くも黒い髪

たった少しの会話であったが、彼女の表情、仕草が今でもフラッシュバックされる。

”心をひらいてくれるととても可愛いんですよ!”

出会うべくして出会った。これは運命だったのか。

――心を開く

全てを受け入れるということがどういうことなのか……

他人から信頼を得る責任が俺にはあったのか……

この時の俺は知る由もなかった。

ただ、永遠の春を感じていた。

ずっと、続くはずの春の暖かさを

短いですが今日はここまでです!

男「いらっしゃい」

カウンターに肘をつきながら目の前に置いてある飴玉の入った金魚鉢のような瓶を

眺めていると少年たちが楽しげに会話をしながら店に入ってきた。

「ちぇっ!また兄ちゃんかよ」

一人の少年が俺にむかって悪態をつく。

「お姉ちゃんはぁ?」

男「お姉ちゃん、まだ学校」

お姉ちゃんとは当然のことながら少女のことである。

男「お姉ちゃん、まだ学校」

お姉ちゃんとは当然のことながら少女のことである。

この少年たちはなぜか少女に凄くなついてるようだ。

残念だがここ数日は何もすることのない俺がこうして店番をしている。

初めはおばさんが買い物に行く間だけ店番をしていたのだが

家でただ、だらだらしているのも申し訳なく思っていたので

働かせてくれと頼んだのだ。

朝と昼は客が殆ど来ない。たまに、小さい子を連れた親子が

来る程度。

働かせてくれと頼んだものの2階でごろごろしているのと

あまり変わりない気もする。

ただ気持ちはこっちの方がよく思えた。

何もしないでいるより、少しでもこの家族の役に立ちたいと思っていたから。

夕方になるに連れて徐々に学校帰りの子どもたちがここへ寄ってくる。

初日は皆、口をそろえて”兄ちゃん誰?”と言いまるで不審者を見るかのような目で俺を睨んできたのだが。

数日間ずっと店番をしていたので顔を覚えてもらえたようでそのような目で見られることはなくなった。

そして、彼らと話をするのは暇つぶしにはもってこいだった。

「じゃぁ、待ってようかな」

そう言って少年たちは店を出て

店の前で座り込んだ。

どれだけ少女のことを気に入っているのか。

子どもながらあの美しさに魅了されてしまったのだろうか。

「あっ!!!お姉ちゃん!!!」

外で少年声が聞こえた。

少女「あら、いらっしゃ~い!」

遠くで少女の声だけが聞こえてくる。

そして、しばらくして入り口から少女が入ってきた。

少女「ただいま!えへへ」

男「おかえりなさい」

「ねえ、お姉ちゃん!あれ作って!作って!」

少女「うん!ちょっと待っててね!」

そう言って少女はカウンターを抜けて部屋へ入っていく。

男「あれって何?」

「お兄ちゃん、駄菓子屋のくせにお姉ちゃんの知らないの?」

男「うん、まだここへ来たばかりだしね」

「すごいんだよ!」

だから何なんだ。

少年たちはみな目を輝かせて待っている。

少女「はぁい!お待たせぇ~♪」

奥から少女が大きな瓶を抱えて現れた。






今日はここまでです!
更新遅れ気味で申し訳ないです

>>220
もしかして毎回レスしてくださる方ですか?
毎度ありがとうございます

少女と少年達は店の外へ出た。

俺も何をするのか気になったので彼女らの後ろをついていく。

少女「はい、男さん。蓋を開けて持ってください」

そう言って瓶を俺に手渡した。

そして、少女は割り箸を少年たちに配っていく。

なるほど、水飴か。

瓶の中を除くと透明の液体が入っているのが見えた。

少し揺らしてみてもびくともしない。

少女「それじゃぁ、何を作って欲しいですかぁ?」

「鳥!!」 「犬!!」 「お花!!」

少年たちは我先にと自分の作って貰いたい何かを象徴する。

少女「だいたい、わかったわ!えへへ」

少女「それじゃぁ、始めるね」

少女は目を閉じ一回深く深呼吸をした。

そして、勢い良く右手をすっと上げると

俺が抱える瓶の中から透明な水飴が空へ向かって1mほど飛び上がった。

それはまるで小さな花火が空へ打ち上がるようだった。

飛び上がった水飴は宙舞う龍のように長い体をうねらせ

少女の方へ移動した。

少女は何かを包むように両方の手の平を胸元に近づけた。

そこへ、龍が渦を巻いて入っていき手の平の中で3つの玉に分離した。

少女「えっと、鳥さんとお花とわんちゃんだったね」

少女「あっ、いっけない!」

そう言って少女は左手を店の方に伸ばすと

店の奥から三枚の小さな紙の袋が彼女の左手にめがけて飛んできた。

少女「よし!」

少女は左手に入った3つの袋をそのまま自身の真上にぽんと投げた。

投げ上げられた袋は重力と加えられた力が釣り合い一瞬、空中で静止した。

そして、ぱんっと乾いた音を上げて中から三種の色をした、粉が舞った。

桃色、赤色、そして青色。それぞれの粉が一粒余すこと無く

少女の手の平に浮かぶ3つの玉の中へ練入っていく。

少女「いくよ」

少女は再び芽を閉じ深呼吸をする。

3つの玉が徐々に歪んでいく。

そして、それぞれ、鳥、花、犬の形へと変わっていった。

男「す、すごい……」

形作られた水飴は少年たちが持つ割り箸へふわふわと飛んでいった。

「お姉ちゃん!ありがとう!!」

割り箸に刺さった見事な青色の鳥を見て少年は目を輝かせながら礼を言う。

少女「いえいえ、えへへ」

男「今のって…」

少女「どうですか?すごいでしょ!」

男「魔法?」

少女「はい!」

水飴が花や鳥へ変貌していく様はとても美しかった。

少年たちが少女をわざわざ待つ理由がわかる。

何度見ても飽きない、そう思った。



「兄ちゃんってお姉ちゃんの夫?」

男「は?」

友人、恋人その他の関係を通り越してとんでもない勘違いしやがる。

男「そ、ち、違うわ!!!」

しかし、そう言われてもまんざらでもない。

少女「違いますよー。この人は遠い親戚の方なんです」

少女の優しい説明が入る。

「へーそうなんだ。なぁんだ」

「心配して損した」

何故、俺が夫なら心配するんだ少年。

「お姉ちゃんは誰にも渡さないからなぁ」

そうだ、そうだと他の少年も右手に持った割り箸を掲げる。

少女「えへへ、ありがとう」

水飴を食べ終わった割り箸でちゃんばらごっこをする

少年らを二人で眺める。

少女「店番ご苦労様です」

男「いえいえ」

男「学校お疲れ様。そういえば、最近少し帰りが遅い気がするんだけど」

少女「はい、ちょっと忙しくて、えへへ」

少女は地面に落ちた桜の花びらを見つめる。

男「試験でもあるの?」

少女「えへへ、そんなところです」

少女「それに、今日は健康診断もありましたし」

男「健康診断ねぇ」

少女「注射で血を抜かれちゃうんですよぉ!!泣いちゃいそうでした!!」

男「へぇ、そんなこともするのか」

少女「おまけに、体重はちょっと増えてるし」ボソッ

男「あははは、それはお菓子ばっかり食べてるから」

少女「そんなに食べてないですよー!」

男「そうかな?毎回、おばさんに店のお菓子をもらっていいか聞いてる気がするけど」

少女「毎回ではないですよ!」

少女は前へ歩きだし川の転落防止柵にもたれ

水面を眺めた。

男「……」

なんだか、少し元気が無い気がする。

体重が増えたことをそこまで気に病んでいるのだろうか。

それとも、学校で何かあったのだろうか。

彼女はあまり学校の話をしてくれない気がする。

こちらから話題を振ってみても突っ込んで話をしてくれたことはなかった。

男「あのさぁ」

川を眺める少女の隣へ近寄った。

男「何かあった?」

少女「いえ、何も。ちょっとつかれちゃったんです。えへへ」

そう言って顔をこちらに向け笑って見せたが

頬を無理やり上げ唇を引っ張っている、そんな感じがした。

後ろでわいわいと少年らの声が聞こえる。

そして、目の前では川のせせらぎが微かに聞こえてくる。

川を漂う桜の花びらを目で追いながらそれらの音に耳を傾けていた。

いただきます。

我が家の夕食の時間が始まった。

母「あんたもすっかり子どもたちに懐かれたようだねぇ」

男「そうなんですかね」

母「いいかい、その内にあの子たち、ちょっかいかけてくるから気をつけなぁ」

そう言っておばさんは笑った。

父「だけど、ずっと店番なんて退屈じゃないかい?」

男「いえ、少しでもお役に立てればと思ってるので」

母「それでも、やっぱり面白く無いだろう」

父「どこか、雇ってくれそうなところあるかなぁ」

母「この辺りじゃぁどこも暇だと思うけど」

父「うぅむ」

少女「また、観光でも♪」

母「何回も行ってりゃぁただの散歩だよ」

父「そうだ!!」

珍しく、おじさんが声を大きく張り上げた。

少女「な、何?びっくりしたぁ」

父「君も学校へ行くといい!!」

男「いや、俺…今年で二十歳で」

母「いい!それはいい案!」

少女「えっ」

母「歳なんて関係ないよ!大丈夫!大丈夫!」

男「そんな、思いつきで通えるようなところなんですか?」

母「電話一本で通えるよ」

少女「お母さん!いくらなんでも」

母「あんたもこの国について色々学びたいだろ?」

男「はい、それはもちろん」

母「外界から来たこそさえばれなければ何も問題ない」

母「どうだい?行ってみるかい?学校?」

この世界の事を学べる。それに少女とも一緒にいることができる。

悪くない!

男「行きます!!!」


今日はここまでです
次回は春ノ国学校編です

――


街灯に照らされた桜はピンクと黒の陰影を浮かび上がらせて

その枝先から花びらを宙に放っていた。

風呂から上がった俺は窓辺にもたれ座り小さく吹き抜ける風を浴びていた。

……明日は学校。

本当に自分が行って良いものなのだろうか。

おばさんたちは外界の人間だとバレなければ問題ないと言っていたが……

そうそうバレないものなのだろうか。

この世界について知らないことはまだまだ多い。

もちろん、この世界の常識についてもだ。

確かに”学校”という場所にはとても興味がある。

魔法、春ノ国の歴史、そして……少女。

好奇心を掻き立てる要素がそこには十二分にあった。

だが……

――あまり、踏み入るべきではない。

どこかそんな感じがしてならない。

余所者は余所者らしく静かにしているべきではないのだろうか。

ここへ来て、帰れないことの不安…それ以外に

新しい何かが心の奥底に芽生えた気がした。

それはまるで黒い霧のように形を持たず

闇の中に入ってしまえば見ることさえできない。

男「やっぱり…ことわ」

少女「こんばんわぁ!」

離れた隣の窓から少女が顔をのぞかせた。

男「こ、こんばんわ」

少女「明日が楽しみで眠れないですか?」

さらに身を乗り出す。

男「ま、まぁそんな感じ」

少女「えへへ、きっと楽しく感じると思いますよ!」

男「そう、だといいね」

少女「さて、私は明日も早いし寝ますね!」

男「おやすみ」

少女「おやすみなさい」

そう言って少女は窓から体を引っ込めた。

少女「男さんも早起きですよー」

隣の部屋から少女の声が聞こえる。

さて、俺も寝るか。

折角、学校へ行くことを勧めてくれたんだ。

断るなんてことはよそう。

おばさんが問題ないと言うのなら

問題ないのだろう。

短いですが今日はここまでです

目の前には宮殿建築を思わせる巨大な建物がいくつも立ち並び

淡い黄色の大きな柱が朝日を反射させていた。

その建物の一つが俺達が向かう”学校”なのだ。

朝、いつもより早起きをして…と言うより少女に起こされ

彼女が今まで歩いてきたこの通学路を今、二人で歩いている。

男「少し歩いただけでこんなにも景色が変わるなんて」

少女「この地区には春の国の”学びの場”が集ってできているんですよ」

男「学びの場ねぇ、じゃぁ何年もずっとここへ通ってるってこと?」

少女「はいっ!小さい頃から。あっ!ほら!あそこの建物!小さい頃はあそこへ通ってましたよ。えへへ」

彼女の指差す先を見ると赤い色をした小さな門に母親らしい人が子どものを連れて入っていくのが見えた。

男「保育園?みたいなもの?」

少女「えっと、はい!そういう感じですね」

彼女が言うには外界で言う大学、高中小学校などの”学びの場”は全てこの地区に建造されており

さらには各々の建物が空中廊下で繋がっており道路に一旦でることなく行き来することが可能なのだそうだ。

彼女に連れられて早速中に学校の中に入る。

入り口の向かい側には運動場があるとのこと。

男「外で魔法の練習とかするの?」

少女「いえ、運動場はその名の通り!!運動するために使うのです!」

男「そうなんだ。」

少女「それに、規模が大きい魔法って言うのは学校では扱い方までは教えてくれないんです」

男「どうして?」

少女「それは危ないからですよ!でも、人の役に立てる魔法って案外、危険なものが多いんです」

男「例えば?危険だけど人の役に立てるっていまいちピンと来ないなぁ」

少女「そうですねぇ。簡単にいえば瞬間移動?とか?」

男「そんなこともできるの!?」

少女「私はできませんけどね。えへへ」

少女「他にもあります。魔法を電気や火に変えるのも比較的簡単なのですが」

少女「その威力の大きさが大きければ大きいほど危険なものになるんです」

少女「だから、専門的な訓練と勉強が必要になってくるんですよ」

男「それじゃぁ、みんなどこでそういうことを教えてもらうんだ?」

少女「この地区には専門的な分野を取り扱う教育施設があります。」

少女「熱心な方はそこへ通われているのでしょう。」

何階くらいだろうか

廊下の左には大きな柱と柵が並んでいるだけだ。

それはまるで長い長いベランダのようで

外の景色が丸見えなのだ。

廊下ですれ違う人に少女が挨拶する。

とりあえず、それを見て自分も小さく会釈をする。

右側に並ぶ戸から漢数字で教室の番号らしきものを書かれた木のプレートが

扉の上から突出している。



少女「つきましたよ!ここが私の教室です!」

そういって戸の前で少女が立ち止まった。

人生二度目の高校生活

俺は上手くやっていけるのだろうか

心の準備をさせてもらう暇もなく

少女が勢い良く戸をがらっと開いたのだった。






今日はここまでです

気づいたのですが”威力の大きさ”って変な文ですね

すみません

教室は元いた世界とあまり変わりないようだ。

しかし、時代が少し古い、そんな気がした。

教室に入った瞬間、皆見知らぬ自分に注目して

気まずい雰囲気になってしまうのではないかと思っていたが……

いざ、入ってみると皆席から立ち歩き楽しげに談笑している

どこの学校にもある普通の光景が現れた。

少女「えっと、男さんの席はどこになるんでしょう」

少女が教室をきょろきょろと見回す。

「おっはー!!」

教室の扉の前に立つ俺達に大声で挨拶しながら

両腕を地面に水平に伸ばし飛行機のような格好をして

女の子が走ってきた。

少女「おはようございます!」ニコッ

男「ど、どうも」

「聞いてるよ!君が転入生だね」

男「は、はい」

少女「あの、男さんの席はどこかな」

「そりゃもちろん!少女ちゃんのとなり!」

少女「えっ」

「ふっふっふ、そっちの方が君も安心でしょ?」

男「はい」

「う~ん…緊張してるんだね!」

女の子は俺の顔を覗きこんだあと

肩をポンポンと叩いた。

少女「良かったですね。隣同士になれて。えへへ」

「私の粋なはからいなのです」コホンッ

教室の後ろの片隅にある席に俺と少女は腰掛けた。

男「――ここが俺の席」

居場所、そんな言葉が浮かんだ。この世界は俺を受け入れようとしてくれているのだろうか。

――余所者とは知らずに。

周囲を欺いてまでこの世界の更に奥へ踏み入ることになんの意味があるのだろうか。

おじさんとおばさんは俺に学校へ行くように薦めた。外から来たことがバレないようにという

条件付きで。

――なんだ?この違和感は

この条件がどれほどリスクになるのか計り知れない。

人との接触の多い学校へなんて通わせないのが妥当ではないか?

……もしかして、多少バレても問題ない、その程度のものなのだろうか。

いや、しかし初めて言われた時のあの真剣な眼差しは

少女「男さん!聞いてます!?」

男「へっ?」

少女「だからっ!さっきの女の子!」

男「それが?」

少女「あの子は学級委員長なんですよ」

男「そうなんだ」

少女「だから、席を隣同士にしてもらえたんですよ!感謝しなくちゃ」

男「また、お礼を言っておくよ」

「おはよう」

がらがらっと後ろの戸が開き女の子がすたすたと歩いてきた。

……ん?

どこかで見たことのある顔だ。

両サイドにわけた長い髪

美しい髪飾り

「……あっ」

女の子は俺を見ていつか見せた鋭い視線をおくった。

この威圧感……

思い出した。

観光へ行った帰り道の

「あぁ!?」

驚きの声なのか怒鳴り声なのか

よくわからない声が教室中に響き渡った。

ズカズカとこっちへ向かって俺の胸ぐらつかみ

無理やりに立たせた。

男「な、なに…」

「なんで!!お前が!!ここにいる!!説明しろ!!」

さっきまで賑やかだった教室は一気に不穏な空気に包まれ静まり返った。

帰りたい……切実にそう願った。

男「えっと…」

あまりに突然の事だったので言葉が浮かばなく目を逸らす。

少女「もう、落ち着いて落ち着いて。えへへ」

手慣れた感じで少女が女の子に近づく。

「なんで!席が隣同士なのよ!!」

少女「えっと、それはだね~」

「はいはい、私ですよー。犯人は」

そう言って学級委員長が俺と女の子の間に割って入った。

委員長「この子は転入生。で、少女ちゃんと親しいらしいから隣の席にしてあげたの」

委員長「そのほうが気が楽でしょ?多分、この学校こともよくわかってなさそうだし」

「……親しい?」

男「親戚という意味!」

変に誤解される前にびしっと答える。

「はぁ…なんなのよ朝から」

そう言って女の子は何事もなかったように自分の席へと向かった。

学校のこともよくわかってなさそうだし、か。

朝、学校へ行く前におばさんからこんなことを言われた。

母「いいかい?設定は春の国の端のど田舎で暮らしていたけど諸事情でこっちに引っ越してきた。」

母「実家の農家の手伝いで今まで学校なんて通ってなかった。どう?完璧でしょ?」

男「義務教育ではないんですか?ここって」

母「大体の子どもは学校へ通うけど、田舎だと結構自由でね」

母「読み書き程度さえ覚えたら後は……ってなる子が多いんだよ」

男「そうなんですか」

母「まじめに勉学に励みたいって子はうちの少女が通ってるとこまで出向くね」

男「それってすごく頭のいい学校って」

母「というよりも、環境が一番整ってるって感じだね。まぁ行ってみればわかるさ」

――


大きな窓から美しい建造物がそびえ立つのが見える。

そして、そのどれもが教育施設であったり学校であったりするのだろう。

国中から知識や技術、教養を求めて人々が集まる

まさに”学びの場”なのだろう。

男「そういえば、教科書とかないんだけど大丈夫なのかな?」

少女「はい!問題ないですよ」ニコッ

「はい!みなさん!席についてくださ~い!」

前の戸が開くと同時に女の人が声を上げて入ってくる。

このクラスの担任なのだろう。

学級委員長が号令をかけた。

そして、着席したところで担任らしき人物が一言

「今日はみなさんに新しいお友達を紹介したいとおもいま~す!!」

今日はここまでです

容赦なく飛び交うであろう質問に如何に端的に整合性を合わせ答えるか

頭の中で想定される質問の答えを幾つか考えていたのだが

俺の自己紹介は生徒からの質問は何一つ無くものの数分で終わってしまった。

「はい!じゃぁ席に戻ってね!」

男「あ、はい」

転校生にあまり興味がないのだろうか。それとも転校生が来るというこういう状況に慣れてしまっているのだろうか。

席に着くと何とも言えぬやりきれない表情を露わにする俺を見て少女が口を開いた。

少女「えへへ、みんな男さんに関心がないってわけじゃないんですよ?」

男「いや、いいよ気にしなくて。質問攻めをくらいよりはマシだったし」

少女「朝の時間を無駄に使いたくないというか」

無駄に……

少女「時間が足りてないんですよね!最近」

時間が足りてない?どういうことだ?

担任「それじゃぁ!皆さん!解散です!がんばってくださいね」

担任の先生がそう言うと生徒たちは皆立ち上がりぞろぞろと教室の出口へと向かった。

男「え?なに?移動教室?」

少女「ちょっと違いますかねぇ」ニコッ

俺はどうしていいのかわからずとりあえず、少女についていく。

そして、廊下に出てた時だった。

「あぁ、君!君!」

男「俺ですか?」

振り向くと眼鏡をかけた男が腕を組んで立っていた。

眼鏡「君はこっちだよ」

そう言って少女の行く方向と逆の方を指さす。

その方向には男の子たちが歩いている。

眼鏡「まぁ、魔法を使えるんならそっちに言っても構わないが?なーはっはっはっは」

男「いや、使えないです」

眼鏡「だろうな。よし行こう!」

男「は、はぁ…」

長いベランダのような廊下を眼鏡の背中を追って歩いていた。

委員長「ごめん!ごめん!予め説明しておけばよかったねぇ」

男「どこに向かってるんだ?」

委員長「運動場だよ!」

男「体育でもするの?」

委員長「へっへっへ、違うんだなぁ。まぁ付いたらまた教えるよぉ」

予め説明しておけばよかったというのは何処へいった。

男「そういえば、大体の女の子は逆の方へ向かってたみたいだけど」

委員長「あっ…うん、そうだねぇ。それも付いたら説明するよ!」

運動場で何をするんだろう。

そして、少女は何処へ向かってたのだろう。



眼鏡「君たち!遅いぞ!」

委員長「はいよー!」

今日はここまでです

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