男「家賃1万5千円、駅から徒歩1分、敷金礼金無し、座敷わらしシリーズ付き」 (62)

不動産屋

男「――この条件でお願いしたいんですが」

「はぁい。ちょっと待ってくださいね」

男「……」

男(社宅ぐらい用意してくれもいいのにな……。まぁ、家賃や光熱費は会社持ちだし、文句はないけど……)

「いい物件、ありました」

男「本当ですか?」

「1LDKで家賃1万5千円。駅から徒歩1分。敷金礼金はいりません」

男「安いなぁ……」

「どうですか? お客様の条件である予算も駅までの時間もお部屋の広さも全て満たしておりますが」

男「……」

「えへへ、ここにしませんかぁ?」

男(怪しいな。安いほうがたしかにいいけど、これは安すぎないか……?)

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マンション

「ここです、ここです。ここの最上階です」

男「いいマンションじゃないですか」

「築年数は15年と少々経過していますが、少し前にリフォームしたところなんで、綺麗ですよぉ」

男「そうですか」

男(なのに安いんだな。全部会社持ちだから家賃は予算内ならどこでもいいけど、駅から近いしなぁ……)

「どうぞ」ガチャ

男「どうも、失礼します。――おぉ。家具もついているんですか?」

「ええ。前の入居者様が置いていったようで」

男「……」

「廃棄するときは私たちに言ってください。いつでも廃棄させていただきますので。えへへへ」

男「……あの、どうしてこんなに安いんですか?」

「え? どういうことですか?」

男「いや、だって何が悪いってなさそうですけど」

「では、ここにしましょうか。こちらの契約書にサインを」

男「待ってください。ここに決めるかどうかは」

「そんなぁ。こんな良い物件ないですよぉ」

男「他の候補も見てみたいんですよ」

「ここ以外だと駅から徒歩10分以上のところしかないですよ!! いいんですか!?」

男「予算内に納まるなら別に。徒歩5分は魅力的ですけど」

「でしたら、こちらにぃ」

男「……」

「分かりました。では、一応他のところも見に行きますか?」

男「当たり前です」

「ここで9割方決定なのに見るんですか? 時間の無駄ではないかと」

男「他の不動産屋に行ってもいいんですが」

「はいはい」

男(態度悪いなぁ)

「では、どうぞ。行きましょう」

男(絶対、何かあるな……)

不動産屋

「如何でしたか?」

男「うーん……」

男(他のところも特に悪いところはなかったな。値段も手ごろだし、建物も綺麗だし……)

男(ただ、駅から遠くなるのがな……。朝起きれるか心配だしなぁ……近いに越したことはないんだけど……)

「どうします? やっぱり、ここ以外にないですよね? ね?」

男「……鍵を貸してもらえますか?」

「鍵?」

男「ここの物件、夜はどんな感じなのか見ておきたいんで」

「……」

男「なにか?」

「いえ。では、どうぞ」

男「ありがとうございます」

「家具は盗まないでくださいね。すぐに警察に連絡しますよ」

男「しませんよ」

夜 マンション

男「……」

男「静かだな……」

男(近隣住民が騒がしいわけでもないか)

男(リフォームしたって言ってたし、誰か死んだのか?)

男(……それぐらいなら気にならないか)

男「……」

男(前の住人が家具を置いて出て行ってるんだよな……。それも気になるといえば気になるけど)

男「本当に静かだなぁ……」

男「……よし。ここにしよう」

男「……」ピッピッ

男「もしもし。はい、私です」

男「ええ。契約します。はい、お願いします。明日、伺います。はい。よろしくお願いします」

男「……これでよし」

男「さて、ホテルに戻るかな」

数日後 実家

男「決めてきたよ」

父「そうか。いいところなのか?」

男「割と。会社のほうも安くて助かるって言ってくれたし」

父「欲がないな。予算ギリギリで使ってやればいいのに」

男「狭いところでいいんだよ。広いと掃除も大変だしさ」

母「大丈夫? いるものがあるなら言いなさいよ」

男「大丈夫だって」

父「さぁ、今日は息子の門出を祝って乾杯といこうじゃないか」

母「そうね。ちょっと待ってて」

男「普通でいいよ。普通で」

父「なーにを言ってるんだ。しばらく会えなくなるんだ。これぐらいのことはさせろ」

男「……ありがとう」

父「なーに。……ところで向こうでは良い店あったか? ん?」

男「こっちは遊びにいくわけじゃないんだよ、オヤジ」

数週間後 マンション

男「……」

男(家具は揃ってるし、買うものが少なくて助かるな……)

男(それでも日用品は買ってこないとなぁ)

男「……」ガチャ

男「ただいまぁ。なんて」

『おかえりー』

男「……」

『帰ってきたのですねぇ』

『ひえぇ……』

『てめぇ!! 主様だからって数週間も家を空けるたぁ!! どういうつもりだぁはぁん!!!』

男「……」バタンッ

男「……」ピッピッピッ

男「もしもし。私です。今からそちらに行きます。は? いえ、行きますから。え、熱がある? 知らん」

男「とにかく行きます。待っていてください」

不動産屋

男「……」

「なにか?」

男「何か、じゃないですよ。あれはなんですか?」

「はぁ……なんですかといわれても……」

男「なんか、その、子どもが4人ほど部屋にいたんですが……」

「まさかぁ。それはないですよぉ」

男「いたんですよ!!!」

「気のせいです。気のせい」

男「前の入居者が家具を置いて出て行ったのはあれが原因じゃないんですか!?」

「……」

男「どうなんですか」

「……でも、あの、悪い幽霊とかじゃないですしぃ……多分……」

男「幽霊なんですか!?」

「あ……その……」

「実は、あのお部屋、10年ぐらい前までは評判がすごく良かったんです。噂も広がったのか入居希望者が殺到していたぐらいで」

男「噂って?」

「座敷わらしが住んでいるって噂だったんですよ。あの一室」

男「座敷わらし……。あの座敷わらしですか」

「はい。あそこに住んだ人の多くは社会的に成功している人も多くて」

男「へぇ。例えば?」

「……ですが、丁度5年前になりますか。座敷わらしが増えたという声が出てきまして」

男「……」

「それ以来、入居希望者も日に日に減っていき、ついには一日で逃げ出してしまう始末でして、はい」

男「住んでいられないほどの何かがあるってことですか?」

「そうかもしれません。でも、あれですよ。座敷わらしですから、きっと貴方も大成功間違いなしですよ、えへへへ」

男「……」

「出て行かないですよね?」

男「……荷物、取ってきます」

「えぇぇ……!!」

マンション

男「……」ガチャ

『あ、おかえりー』

『おまちしておりましたぁ』

『あわわわ……』

『どこいってだんでぇい!! このすっとこどっこいがぁ!!』

男「……よっと」

『あれ? もうお出かけですか?』

『いってらっしゃいませぇ』

『ふぅ……』

『主様ぁ!! オレたちに何かいうことがあんじゃねえのかぁい!? そうだぁ!! ただいまぁだ!! そしてぇい!! いってきますだろうがぁ!!!』

『ちょっと、ダメダメぇ。お館様の都合なんだからぁ』

『でもよぉ!!!』

男「……」

『あ、いつ戻ってきますかぁ? それぐらいは教えてほしいです、お館様』

男「……」

『あの……もしかして、出て行くつもりなんですか?』

『まぁ……何故……?』

『……』

『んだとぉ!? けっ!! 今度の主様は一日もたずかよぉ!! ぺっ! ぺっ!! でてけぇ!! そんな腰抜けぇ、こっちからねがいさげでぇい!!』

男「……」ピクッ

『はん!! やっぱりよぉ!! オレたちの主様に相応しいやつじゃねえんだ!! オレは初めからわかってたぜ!! なんでぇ、この貧相な顔はよぉ』

『やめて。失礼でしょ』

『身なりもだっせぇしよぉ。こいつ、絶対平地に住んでたような貧乏人だな。間違いねえやな。オレたちに相応しいのは高台にすんでるような、貴族だけなんだよぉ!!』

『落ち着いてぇ』

男「……」

『ほらぁ、いつまでそこにいるんだよぉ!! 目障りだから消えろ!! カス!! カス!! ドカスがぁ!!』

男「……おい。こら」

『な、なんだよぉ?』

男「お前、何様だよ」

『オレか? オレは座敷わらし第四の化身!! 座敷ぶらい様だぁ!! よーくおぼえ――』

男「ぶらい? 無頼ってことか?」グニーッ

ぶらい「いふぁふぁふぁふぁふぁ!!! いふぁい!!! やふぇろぉ!!!」

男「……触れるのか」

ぶらい「いってぇ……。こいつぅ、仮にも座敷わらしになんてことしやがるんだ……」

男「……君たちは?」

わらい「どうも。私は座敷わらいです。お館様」

男「わらい?」

わらい「はい。私の役目はここの主であるお館様の笑顔を守ることにあります」

男「……」

ぬらし「どうもぉ。お館様ぁ。私は座敷ぬらしですぅ……」

男「君にも何か役目があるのか?」

ぬらし「……もし、水道代が払えず、水の補給を絶たれたら、私から出るお水で潤してくださいましぃ……」

男「ど、どういうこと?」

ぬらし「私はいつでも濡れておりますゆえぇ……ふふふ……」

男(ホントだ。この子のところだけ水溜りが……)

『……』

男「あの子は?」

わらい「あの子は座敷てらしです」

男「照らしてくれるのか?」

わらい「はいっ。ね?」

てらし「……うん」

わらい「照れ屋さんなんです。ごめんなさい」

男「で、こいつは?」

ぶらい「すっぱぁー。んー? オレ様かぁ? オレ様は生ぬるい日常に刺激を与えるために生まれたのさぁ、ふふふん」

男「おい!! 煙草はやめてくれ!! 俺は嫌いなんだ!!」

ぶらい「あぁぁん!? どこに目ぇつけてんじゃぁ、主様ぁ!!」

男「だから、吸うなっていってるだろ!!」

ぶらい「オレの勝手じゃい!! すっ……ぱぁー……。ヤニうめぇぇ!!!」

男「……やっぱり、出て行こう」

わらい「ちょっと!! 出て行かれるよ!?」

ぶらい「しるかよぉ。あんな貧乏人なんざぁ、オレたちの主様には向いてないんだからいいじゃねえか」

ぬらし「でもぉ……」

てらし「うぅ……」

男「……」ガチャ

わらい「出て行く!! ホントに出て行くからぁ!!」

ぬらし「煙草はやめてぇ」

ぶらい「へっ。オレは無頼よ? 不良なんだよぉ。煙草ぐらいすわせろってんだぁ」

男「……」ギィィ

てらし「でていく……」

ぶらい「……」

男「……」

ぶらい「まてまてまてぇい!!! その扉を閉じるのははえぇよ!!」

男「……」

ぶらい「よく見ろ!! これ電子タバコなんだよぉーん!! 体に害はなっし!! いやぁ、時代は進んでるなぁ、主様もそうおもわねぇ!?」

男「前の住人が置いていったのか」

ぶらい「そうなんだよ。これなら吸っててもいいだろん?」

男「まぁ……」

ぶらい「よかった。んじゃ、心置きなく吸えるな。すっぱぁー、ニコチンが脳髄にひびくぜぇ」

男「……」

わらい「あの……」

男「ん?」

わらい「出て行くのだけは、やめてくれませんか?」

男「どうして?」

わらい「私たち、その……座敷わらしなんで……お館様がいてくれないと、存在が消えてしまうんです……」

男「そんなこと言われても。違うところに行けばいいんじゃないのか?」

わらい「それができればいいんですけど、移動は座敷わらしでないと……」

男「よくわらないな。君たちは座敷わらしなんだろ?」

ぶらい「頭のよえぇ主様だなぁ。がはははは」

男「……」イラッ

男「座敷わらしなのに座敷わらしでないと移動ができないって矛盾してないか?」グニーッ

ぶらい「いふぁふぁふぁふぁ!!!」

わらい「そのぉ……座敷わらしではあるんですけど、今は座敷わらいですので……」

ぬらし「私もぬらしなのぉ」

てらし「僕も……てらし……」

男「……とにかく座敷わらしだけど、今は他の家に移動できる状態じゃないってことか」

わらい「そうです。移動できるだけの力がないんです」

男「で、誰かが住んでいないと存在が消えるのか」

わらい「はい。ですので、お館様には是非ともここに残って欲しいんです。私たちのためにも」

男「といっても急に見ず知らずの子どもなんかと一緒になんて……。通報とかされたくもないし」

わらい「そんなこと仰らずに」

男「うーん……」

ぶらい「ぶらぁぁい!!!」

男「なんだよ?」

ぶらい「はっきりしやがれ!!! おたんこなす!!! こっちだって命がけなんだよぉ!! ぼけ!! はげ!!」

男「……」グニーッ

ぶらい「ふぁふぁふぁふぁふぁ」

わらい「あははは、ぶらい変なかおー」

ぬらし「ぬれちゃうわぁ」

てらし「あ……あ……」

男「……出て行けないのか?」

わらい「残念ながら」

男「どうしても?」

わらい「あの、お館様の笑顔は絶やさないように尽力しますから」

男「どうやって?」

わらい「誘い笑いとかで」

男「……」

わらい「あははははは。はい、ご一緒に。あははははは」

男(この様子だとここから出て行くことはなさそうだな。だったら俺が出て行くしかないけど、水道とかガスとか住民票とかまた手続きが面倒だしなぁ……)

わらい「あはははは。あれ? 面白くないですか?」

男「ま、いっか」

わらい「いいの!?」

ぬらし「ありがとうございますぅ」

男「とりあえず大人しくしていてくれればそれでいいから」

わらい「わかりました! みんな、聞いた? お館様のために大人しくしようね」

ぬらし「はぁい。するするぅ」

てらし「うん……」

ぶらい「ばぁろぉ! オレ様は無頼なんだよぉ!! 大人しくなんざぁできるかってのぉ!!! かーっぺっ!!」

男「えーと、まずは君……ぬらしだっけ?」

ぬらし「なんですかぁ? なんでもいってくださいねぇ」

男「床、拭いてくれ。水浸しだから」

ぬらし「やだぁ。私ったら、こんなに濡れちゃって……うふっ」

男「……」

わらい「私がやります!」

ぬらし「じゃ、やってみて。私が濡らしちゃったところ、ふいてみてぇ」

男「さてと……。こっちも準備しないとな」ゴソゴソ

わらい「ここも濡れてる!?」

ぬらし「やだぁ、びちょびちょぉ。こんなに濡れちゃって、私ったら……」

ぶらい「こんだけ濡れてれば大丈夫だろ」

わらい「なにが?」

ぶらい「これだよ。いくぜぇ!! ぶらぁぁぁぁい!!!!」ダダダダッ

わらい「え? え?」

ぶらい「これが全盛期の福本豊流スライディングじゃぁぁぁい!!!!」バシャァァァッ!!!

わらい「おぉー!! すごーい!!! あはははは!!」

ぬらし「私が濡らしたところで遊ばないでぇ。恥ずかしいわぁ」

ぶらい「いいじゃねえかよぉ。お前の利用価値なんざ、これぐらいしかねえだろ? 体売れ、体ぁ!!」

ぬらし「そんなぁ」

ぶらい「次、ジム・ブラウンばりのランをみせっから!! うっひょー!!! 滑り込みのタッチダウンきめてやっぜー!!!」ダダダダッ

男「……」イラッ

てらし「あ……あ……」オロオロ

男「……ここにいろ」

ぶらい「はぁぁぁ!? オレ様をクローゼットに閉じ込めるたぁ!! 良い度胸してんじゃねえかぁ!!!」

男「……」バタンッ

『てめぇ!! マジで閉じ込めやがったなぁ!! むかつきぃ!! もうゆるさねえ!!! てめぇが出ろっていってもオレはここにいてやるぅ!!! がっはっはっはっは!!!』

男「君はお風呂場にいてくれ」

ぬらし「まずはシャワーからなのですかぁ?」

男「君が浴槽の中にいれば勝手に水が溜まりそうだからな」

ぬらし「はぁい」テテテッ

男「……」

わらい「今、一生懸命拭いてます!!」ゴシゴシ

男「うん。頼むな」

てれし「……」

男「さてと、やることなっておかないと……。明日から始まるし……」

てらし「……」モジモジ

わらい「んしょ、んしょ」ゴシゴシ

>>33
てれし「……」

てらし「……」

男「んー……」

男(あれ、もうこんな時間か)

男「……」

わらい「あ、お館様。お仕事は終わりですか?」

てらし「……」

男「随分、静かだったな」

わらい「お館様が大人しくしていろといいましたから」

男「そうか」

わらい「あはー」

男(静かにしていれば問題はないかな……)

てらし「……」モジモジ

男「そうだ。お風呂はどうなってるかな」

わらい「お背中、お流ししましょうか?」

男「い、いや、いいよ」

わらい「なぜ? こっちは住まわせて頂いている身なのに!」

男「どちらかといえば俺が君たちの住処に上がりこんだってほうが合ってる気もするけど」

わらい「いえいえ。お館様がいて、初めて私たちが存在できてますから」

男「そんなこといってたな」ガチャ

ぬらし「お館様ぁ。もう私のお水が溢れてますけどぉ。はやくぅ」チャプチャプ

男「ホントに溜まってる……。水道代は浮くな……。会社持ちだからどうでもいいことだったけど」

ぬらし「追い焚き機能を駆使して、私のお水をもえあがらせてぇ」

男「……そうするか」

わらい「おっふろ! おっふろ!」

男「……」

男(なんだこれ……。前の入居者が一日で出て行ったのも分かる気がするな)

男(ま、仕事の邪魔にならないならいいか)

てらし「あ……の……」

男「なに?」

てらし「い……いえ……」ピカーッ

男「まぶしっ!」

浴室

男「ふぅー……」

男(近隣住人に通報されなきゃいいけど……)

男(でも、俺が下見に来たときはあの子たちどこにいたんだ? 押入れとかに隠れてたのか?)

男「……」

男「というか、あの子達は本当に座敷わらしなのか……?」

ぶらい「風呂ではこれやんねえとな」スパーン!!!

男「……何してんだ?」

ぶらい「あぁ? おぉ、主様じゃねえか。わりぃが出て行ってくれ。無頼でもよぉ、羞恥心ぐらいはあるんだぜ?」

男「……」

ぶらい「でてけっていってんだろぉ!! この変態やろぉ!!! ガキの裸に目がないタイプなのぉ!?」

男「……」イラッ

ぶらい「まぁ、オレの魅力に負けちゃうのは仕方ないけどなぁ」スパーン!!

男「それやめろ」

ぶらい「はぁん!? こうやって股座に手ぬぐいをスパーンってやんのが粋なんじゃねえかぁ!!! 江戸っこなめんじゃねえよぉ!!!」

リビング

『また監禁かよぉ!!! あー!! 仏の顔も三度までだぁ!!! もうこのクローゼットはオレが占拠したかんなぁ!!! 頼まれたって顔もだしてやんねぇよぉ!!! はっはーん!!』

男「風呂、入るのか?」

わらい「入る必要はないですけど、お館様が良いっていうなら入ります」

てらし「……」コクッ

男「なら、入ってきたら? 最後に浴槽のお湯を抜いておいてくれればいいから」

わらい「わーい!! いこ、てらし!」

てらし「う、うん」

男「はぁ……」

ぬらし「お館様ぁ?」

男「どうした?」

ぬらし「ケータイ電話、なってましたけどぉ」

男「出てないだろうな?」

ぬらし「はぁい。私が持つと機械が壊れてしまうのでぇ」

男「だろうな」

男「もしもし?」

母『もしもし。心配してたのよ。連絡がないから。荷解きは住んだの?』

男「荷物自体は少ないからすぐに終わったよ」

母『そう。あ、夕飯はもう食べた? ちゃんと考えて食べなきゃだめよ?』

男「うるさいなぁ。もう子どもじゃないんだから、そういう心配はいらないって」

母『そうは言ってもね』

男「また連絡するよ。ありがとう」

母『わかったわ。それじゃあね』

男「うん」

男「……」ピッ

ぬらし「お館様の母上様ですかぁ?」

男「ああ。心配性で今までもこういう電話が週に1回はある」

ぬらし「いい母上様じゃないですか」

男「まぁ、確かに母さんの料理は稀に恋しくなるときもあるけど」

『ブラコンかよぉ!!! きっめー!!!』

>>40
『ブラコンかよぉ!!! きっめー!!!』

『マザコンかよぉ!!! きっめー!!!』

わらい「あー、きもちよかったー」

てらし「……」コクッ

男「お前だけでも出て行け!!! このやろう!!」

ぶらい「なんだぁ!!! てめぇの指図はうけねぇよぉ!!!」

男「この……!!」

わらい「どうしたんですか?」

男「こいつが癇に障ることばっかり言うんだよ」

ぶらい「事実だろん」

男「この口かぁー!!」グニーッ

ぶらい「あふぇふぇふぇふぇふぇ」

てらし「あ……あ……」オロオロ

わらい「ぶらい!! 謝って!!」

ぶらい「なんでぇオレが叱られなきゃいけねえんだよぉ!!」

わらい「……」

ぶらい「お……おこんなよ……。オ、オレがわるかったぁい!!! これでいいんだろう!! ったくぅ!!! もう今日は寝る!!! ぷんぷん!!」

男「……」

わらい「お館様、ごめんなさい。どうにもあの子は口が悪くて。でも、本当はいい子なんですよ。ホントに。多分、きっと」

男「そ、そうなのか?」

『ばっきゃろぉ!!! オレは不良だい!!! 良い子じゃねえよぉ!!!』

わらい「ちょっと黙ってて!! フォローしてるんだから!!!」

『フォローされる謂れはねぇ!!!』

わらい「このっ!!」ガンッ!!!

『ひぃ』

男(この子、怒ると性格変わるのか……)

わらい「あ、ごめんなさい。はしたないところを」

男「いや。気にしてないから」

わらい「本当にすみません」

男(この子は4人の中ではリーダー的な存在なのか)

わらい「えーと、そろそろお休みになられますか?」

男「そうだな。初日から遅刻なんて目も当てられないし、もう寝るかな」

男「おい。クローゼットの中で寝るのか?」

『寝る!! ここがオレの領土だ!!! 誰も入ってくるんじゃねえぞい!!!』

男「分かった。君はお風呂場で寝ててくれ」

ぬらし「私もお布団がいいですぅ」

男「濡れるだろ」

ぬらし「いいじゃないですか。それで濡れたまま夜明けのコーヒーなんかを」

男「勘弁してくれ」

ぬらし「わかりましたぁ」テテテッ

わらい「あ、拭いておくから」ゴシゴシ

ぬらし「よろしくぅ。私が拭いても拭いたそばから濡れちゃうものぉ」

わらい「だよねー。あはははは」

男「よっと。今日はなんかすごく疲れた……」

てらし「……」

男「なに?」

てらし「な、なんでも……」

わらい「拭き終わりました!!」

男「ありがとう。それじゃ、電気消すけど、君たちはどこで寝るつもり?」

わらい「私はどこでもいいですよ。てらしもだよね?」

てらし「あ……うん……」

男「なら、好きなところで寝てくれ」

わらい「わかりました!」

てらし「……」コクッ

男(明日、寝坊だけはしないようにしないと)パチンッ

男「はぁー……つかれたー……」

わらい「おやすみーおやかたさまぁー」ギュッ

男「……」

てらし「あ……ぅ……」オロオロ

わらい「てらしもお館様にもっとくっつかないとぉ。隙間ができたらお館様が凍えちゃうし」

てらし「で、でも……そんな……でも……うぅ……」ピカーッ

男「まぶしっ!! ちょっと眩しいから!!! これじゃ寝れない!!!」

わらい「ああ、てらしはお布団の中に潜らないとだめだね。あははは」

てらし「うぅ……」ピカーッ

男「なんでこんなに輝くんだ!?」

てらし「ごめ……んなさい……」

わらい「あ、どこいくの?」

てらし「押入れで……ねる……」

わらい「えー?」

てらし「ご主人様……迷惑、してるから……」

男「……」

てらし「おやすみなさい……」

男「ああ、うん」

わらい「お館様、ごめんなさい」

男「別に気にしてないけど」

わらい「では、寝ましょうか」

男(好きなところで寝ろって言っちゃったし、今更文句を言う必要もないか)

翌朝

ピピピピピ……!

男「ん……」カチッ

男「ふわぁぁ……。朝か……」

男「……」

男(あの子がいない……。もしかして夢だったのか……?)

わらい「あはははははは!!」

男「……なにしてるんだ?」

わらい「あ、今ニュース見てたんです」

男「何かおかしい報道でもやってたのか?」

わらい「いえ、そんなことはないですけど。朝から笑い声があったほうがいいかなって思って」

男「ふぅん」

わらい「あはははははは!!!」

男「用意するか」

わらい「おでかけですか!?」

男「仕事だよ」

わらい「みんなー!! 出てきてー!!! お館様が出かけるからお見送りー!!!」

ぶらい「ざっけんなぁ!!! だぁーれが主様の見送りなんざするかぁ!!! 冥土に行くならその限りじゃねえがなぁ!!!」バーン!!!

ぬらし「お館様ぁ。朝から私もぬれぬれですけどぉ、お見送りしますぅ」

男「君は出てこなくて良かったのに……」

ぬらし「ひどい……やっぱり、いつも濡れているのがいけないのね……」

男「まぁ、そうだけど」

ぬらし「よよよ……」

わらい「わ、私が拭いておきますから!!」

男「ああ、うん。お願い」

てらし「んしょ……」ガラッ

男「あ」

てらし「ひゃっ!?」ピシャッ!!

男「……なんだ? また閉じこもったぞ」

わらい「急に目があったんで驚いちゃったんですよ」

男「今日は初日だし、早めに行くか」

わらい「朝食はいいんですか?」

男「パンかなにかコンビニで買っていくから」

わらい「そうですか」

男「……そうだ。一つ言っておくけど」

わらい「なんですか?」

男「貴重品は全部、この鞄の中にあるから」

わらい「……はい?」

男「だから、何かを盗もうとしても意味はないってこと」

わらい「何故、私が泥棒扱いなんです!? これでも座敷わらしなんですが!?」

男「いや、用心はしとかないとさ。物に触れられるってことは持ち出せるってことでもあるし」

わらい「そんなことしません!!」

男「なら、いいんだ」

わらい「失礼しちゃう!!」

男「一応だよ。一応。そんなことするなら、俺が寝ている間にしてるだろうしさ」

ぶらい「んだよぉ!! 最低の主様だなぁ!!! 座敷わらしを犯罪者みたいな目でみやがってぇ!!! 昨日はオレの裸体をなめるようにみてたくせにぃ!!!」

男「見てないだろ」

ぶらい「ロリコン!! マザコン!!! ファック!!」

男「……」グニーッ

ぶらい「あふぁふぁふぁふぁ!!!」

男「行ってくるけど、大人しくしてくれよ?」

わらい「はい! わかりました!!」

ぬらし「留守はまかせてぇ。誰かがきても居留守しちゃうからぁ」

ぶらい「はやく、いきやがれぇ!! けっ!! けっ!! 電車に引かれてペッタンコになって風に舞え!!!」

男「……」ガチャ

わらい「いってらっしゃーい!!」

ぬらし「いってらっしゃいませぇ」

ぶらい「二度と帰ってくんなぁ!! ハゲ!!!」

男「はいはい」バタンッ

男(朝から疲れる……)

会社

男「おはようございます」

課長「君か。待ってたよ。よろしく頼む」

男「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

課長「君のデスクは向こうだ。分からないことがあったら何でも言ってくれ」

男「はい。ありがとうございます」

課長「しかし、災難だったな。こんなところに来るなんて」

男「いえ。これも必要なことですから」

課長「はっはっは。それもそうか」

男「では、早速取り掛かります」

課長「そうか」

男(割と雰囲気がいいな……。本社より空気が重くない気がする)

「課長。業者のかたが到着されたようですよ」

課長「お、そうかそうか」

男(さて、やるか)

男「この資料は……」

先輩「よっ。後輩」

男「え? あ、おはようございます」

先輩「噂はきいてるぜ? 期待の若人らしいな」

男「さぁ、どうでしょうか」

先輩「ま、いつでも俺のこと頼っていいからな」

男「はい。そのときはお願いします」

先輩「……ところで」

男「なんですか?」

先輩「やっぱ、東京のほうは夜の店もすっげぇんだろ? 今度、いいとこあったら紹介してくれねぇ? 出張で行くこともあるかもしれないし」

男「はぁ……?」

先輩「どうなんだよぉ。意地悪しないでおしえろよぉ」

男(親父と似てるな……この人……)

業者「どうも、失礼します」

課長「こっちです。頼みますよ」

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