美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」4(729)

・初SSです

・学園都市のレベル5、トップ3が主役です
その中でもメインは垣根と美琴

・時系列? なにそれ美味しいの?
完全なパラレルワールドだと考えてください

・上条さんはびっくりするくらい空気
登場するけど本筋には一切絡まない

・キャラ崩壊・キャラブレあり

・脳内補完・スルースキルのない方はバック推奨

・独自解釈・捏造設定あり

・ストーリーが無理やり

初めてなので文章の拙さ、設定の矛盾などあると思いますが読んでいただけると嬉しいです。


垣根「俺の前スレに、常識は通用しねえ」

前々々スレ
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1342448219/)

前々スレ
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」2
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1350814737/)

前スレ
美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1364896548/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1374308676

とりあえずスレ立て 夜に投下するかも

前スレ
>>948
垣根「俺に常識は通用しねえ。……素人童貞、だ」

>>949-951
乱数さんの人気に嫉妬

>>957
南条ってのは誰か知りませんが、シギンを超える出オチはそうないんじゃないでしょうかww
物語開始時点で既に脱落してたとか……

>>972
光を掴んだというのはあくまで自身の希望を掴んだという意味であり、善人になったということではありません
ていとくんに切れたのもていとくんが美琴を殺した(死んでなかったけど)ことに対して怒っていただけで、善人が悪党に説教したという構図ではありません

このSSでは一方通行のキャラは美琴や妹達に対しては手を加えています、だからこの一方通行は妹達を人形と呼んだりはしません
ですが原作から変えたのはそれだけ(のつもり)です
つまり一方通行→御坂DNAに改変はあっても、一方通行→黄泉川や芳川、グループの面々に対しての態度は原作通りです
美琴たちに対して態度が柔らかくなったからといって、グループメンバーに対しての態度も変わったわけではないです
喧嘩している友人Aと仲直りしたからと言って、また別の理由で喧嘩している別の友人Bとの関係は何ら変わらないのと同じです

それにグループは利害関係だけの繋がりであり、目的のために必要ならば使い捨ても辞さない集まりです(そしてそれを本人たちも了承している)
この場合一方通行は第三次製造計画を潰す(妹達のため)に戦っているのであり、そのためならば何でも利用します
新約7巻を読んだのなら分かると思いますが、土御門も舞夏のために必要なら一方通行なんて一切の躊躇いなく使い捨てるでしょう
更に言えばグループのメンバーも第三次製造計画を潰そうとしているため、どちらにせよ恋査は撃破しなければなりませんでした

長々と語りましたが、要するに『グループへの』距離感や態度は原作通り・妹達のため ということです

夜、多分11時頃に投下します

僕は幼少期から特殊な投下術を仕込まれている……家庭の事情でね

超電磁砲S上条さんがイケメンすぎて濡れた
しかし「姉だから」をぎりぎりのところで来週まで引っ張るとは……これが高度な焦らしプレイか

科学という名の闇の底。

垣根帝督がいたのは巨大なゴミ処理場だった。
表向きはともかく、裏ではクローン生産といった後ろ暗いこともしているここでは多くのゴミが発生する。
一般的なゴミから『ちょっと変わったゴミ』まで。
そういったものを一手に引き受けて処理するのがここだった。

「くっさ……くはねえな」

学園都市の無駄な力か、鼻を突くような臭いはほとんどしない。
ゴミを溜めておくためだろうタンクがいくつかあるが、見える限りではどれも空だった。
もしかしたら全部纏めて処分した直後なのかもしれない。
垣根の右手にはクレバスのような暗い穴がぽっかりと口を空けている。
その下に放棄されたゴミが溜まっているのだろう。

そんな場所で、垣根はさてどうしたものか、と思案する。
はっきり言えば迷子だった。というかどこに行けばいいのか分からない。
美琴と合流しようにももう互いがどこにいるかすら分からなかった。
かといって先に進もうと思ってもどこに親玉がいるか分からない。

「適当に暴れりゃひょっこり顔出すかね」

そんな冗談なのか本気なのか、非常に判断しづらい物騒なことを呟いた直後だった。
キコキコという金属が軋むような音が聞こえてきた。
嫌な音だった。聞き覚えのある音だった。珍しくもない音だった。
そしてその音を発する主が姿を見せた。

「久しぶりーですねー。覚えてますかね? 忘れられてたら真剣にショックなんですが」

薄い緑のパジャマを着た女性だった。車椅子に乗っているところを見ると、足が悪いのかもしれない。
しかしそんなことなどどうでもよかった。
垣根の表情が、目つきが次々に変化していく。
最初は疑問。驚愕。敵意。そして殺意。
目の前にいる相手を正しく理解して、垣根帝督は獰猛に笑った。

「ああ、覚えてるぜ。その捻り潰したくなる笑顔。
まさか本当にテメェだったとはな、木原ァ……!!」

学園都市暗部の底を蠢く『木原』一族の一人、木原病理。
それがこの女性の名前だった。そして垣根帝督の能力開発を担当した科学者でもある。
だが垣根に木原病理に対する感謝の念など微塵も持ち合わせてはいない。
木原病理はただのマッドサイエンティスト。外道でしかない。
一方通行が木原数多に対して持ち合わせている感情とほぼ同じ、と言えば分かりやすいか。

「第三次製造計画。テメェがこれに加担する旨味は何だ。
マジで世界の軍事バランスをひっくり返そうとか思ってんのか?」

「いえいえ、そんな大層なものじゃなくてですね。
純粋な科学者としての興味ですよ。第三位のクローンはただの劣化品でしかなかった。
でもそれが今では比較にならない完成度になっています。
一体どこまで行けるんだろう。どこに行き着くんだろう。
そういう好奇心をどうしようもなく擽られるのは、科学者として当然なのでは?」

そのために国際法で禁止された人間のクローンを作って。
好き勝手にその体をいじくって、脳にまで手を加えて。
それらをただの興味本位で行う木原病理はやはり。

「……相変わらずのクソっぷりで安心したぜ木原。
悪ぃがここで潰されてくれねえか。個人的な気持ちとしても殺しときてえんでな」

言葉とは裏腹に全く悪びれていない調子で、垣根は笑う。
美琴に聞かせた幼きころの話。
その中で殺されたと語った人間の何人かは、他でもないこの木原病理の手によるものだ。
故に垣根帝督は感謝の念も敬意も感じることはなく。あるのはただ憎悪と殺意だけだった。

「それがー、そういうわけにも行かないんですよねぇ。
むしろあなたの方こそ『諦め』てほしいというか、死んでほしいというか。
ぶっちゃけ脳だけ残していってくれません?」

「……上等だ。そんなに死にてえなら望み通りにしてやるよ」

「垣根帝督という器だからこそかと思ったんですがね。
何か聞いた話では一方通行との戦いでおかしな進化をしたとか。
それに関してだけは全くと言っていいほど情報がないんですよ。
ええ、気になって気になって仕方なくてね。そこまで行けば十分ですから、そろそろ『調べ』させてもらわないと」

折角そうなるように誘導したんですから。
そう笑う木原病理に、垣根帝督の表情が一瞬固まる。

「……待て、どういう意味だ。答えろ」

その垣根の反応を楽しむように、木原病理は昏くくっくっと笑うのだった。










御坂美琴が立っているその空間は、一言で言えば学校の体育館。
明らかに天井が高く、広く場所が取られていて何らかの実験用の部屋であることを窺わせる。
ただ学校の体育館というのは流石に誇張表現で、実際はそこまで大きくはない。
その半分にも満たないだろう。それでも見上げてみればこの空間を一望できる位置に大きめのガラスが張られていた。
おそらくこの部屋より一階上のフロア。そこから覗き窓のようなガラスを通してここを見下ろせる作りになっている。

おそらく、いや間違いなくそこからここで行われる何らかの実験を観察するためのスペース。
巨大なフラスコの中に閉じ込められたような錯覚を覚えて、美琴は嫌悪感を感じずにはいられなかった。
ここまで案内してくれた男はもういない。どこかへ去ってしまった。
結局何だったのかは分からないが、案内されたここには誰もいない。
明らかに実験用の一室であるここを考えると、

(……罠? いや、あんな笑っちゃうような罠があってたまるかい)

その美琴の予想は果たして正しかった。
罠などではない。あの男は正しく道案内をしていた。
それを証明するように、頭上のガラスの向こうに見覚えのある人影が一つ。

「ま、さか……アイツ、……まさか……ッ!!」

長めの茶髪。まるで就職活動中の学生のような紫色のスーツ。
眼鏡をかけている。見覚えのある顔だ。どこかで見た顔だ。二度と見たくなかった顔だ。

『よう、久しぶりだなぁ超電磁砲ッ!!』

その声は。もはや最初から本性を隠そうともしていないその荒い声は。
どう考えても。

「テレスティーナ=木原=ライフライン……ッ!!」

テレスティーナ=木原=ライフライン。
学園都市を這いずる『木原』一族の一人。
木原幻生の孫娘であり、能力体結晶の被験者となっていた過去を持つ。
能力者に対して絶大な効果を発揮するキャパシティダウンを開発したのもテレスティーナである。
また超電磁砲を模した兵器を個人で作り上げ、それを小型化するなど『木原』の名に恥じない才能を持つ。

御坂美琴とテレスティーナの間には、ある因縁があった。
それはとある子供たちを巡る戦いであり、能力体結晶を巡る戦いであり、絶対能力者を巡る戦い。
完成された体晶に絶対能力者への道を見出し、ある子供たちで実験しようとしていたテレスティーナ。
その野望を打ち砕いたのが御坂美琴だった。

たしかにあの時テレスティーナは美琴らの手によって倒された。
だが、殺してはいない。
学園都市最暗部で蠢く『木原』が、真っ当に罰せられるはずもなく。
そうしてテレスティーナ=木原=ライフラインは御坂美琴への復讐だけを誓って舞い戻ってきた。

『わざわざ殺されにきてくれて感謝してるぜぇ?
テメェはグッチャグチャにすり潰して刻んで抉って壊して殺してやらねぇと気が済まねぇんだからよぉ!!』

だからテレスティーナが美琴に対して憎悪と殺意を抱くのは当然で。
ついでに最大の苦痛を与えて、出来る限りに屈辱に悶えさせてモルモットにしたいと思うのも当然で。
生きたまま四肢を切断したいと思うのも、生きたまま臓器を抉り出して泣き叫ぶ顔を堪能したいと思うのも。
目玉を抉り取って左右を入れ替えてから再度埋め込み手術をしたいと思うのも。
『木原』としては、極自然な感情だった。

「アンタ……ッ!! 何でアンタが自由になって……!!
いや、それより第三次製造計画の首謀者はアンタね!!」

第三次製造計画を企てているのは『木原』。
そう聞いた時、真っ先に頭に浮かんだのはこのテレスティーナ=木原=ライフラインだった。
この女は人間を人間とも思っていない。スキルアウトをモルモット呼ばわりしたこともあった。
たしかにスキルアウトというのは他人に迷惑をかけるような奴らばかりだが、全員が全員そうではない。
仮にそうだったとしても彼らもスキルアウトである前に学生であり、子供であり、人間だ。
実験動物扱いなどしていい存在ではない。

人として踏みとどまるべきラインを、高笑いながら踏み越えていく。
テレスティーナ=木原=ライフラインとはそういう女だった。
故にそんな人間がクローンである『妹達』を人間として見るはずもなく。
つまりは、そういうことだった。

『あぁ? あんな人形共のことなんてどうでもいいだろうが。
所詮は薬品と蛋白質で合成された出来損ないの乱造品だぜ』

「―――ふざけんなッ!!!!」

その言葉は、禁句だった。
妹達をそう言ったのはこれで二人目。
白い悪魔に次いで、二人目。

美琴の怒りを誘う上ではこの上なく有効な言葉。
そして同時に効き過ぎる可能性も秘めた言葉。

「撤回しろッ!! あの子たちは人形なんかじゃない!!」

たしかに、ボタン一つで量産できる存在なのかもしれない。
太古から脈々と続く生命の系譜から外れた異端なのかもしれない。
御坂美琴より能力は格段に劣っているのかもしれない。

だがそれがどうしたと言うのだ。
何万人いようと全く同じ妹達は一人として存在しない。
彼女たちには笑顔があって、感情がある。決して人形などではない。
目玉焼きハンバーグに感動する素直な一〇〇三二号。
天真爛漫な笑顔で無邪気にはしゃぐ打ち止め。
誰よりも感情豊かな一九〇九〇号。

世界が汚く歪んだものにしか見えない連中とは違って、世界の美しさに感動できる素直な感性の持ち主。
真っ白で、純粋で、無垢で、真っ直ぐ。
そんな彼女たちを、大切な妹たちを侮辱することは誰が許しても御坂美琴が決して許さない。

だがテレスティーナ=木原=ライフラインは。
そんな風に怒りに震える美琴を見て。
その滑稽で何よりも笑いを誘う想いとやらを見て。

『ぎゃっは、ははっ、はははははははっ!!!!!!』

その顔を醜く歪め。内に秘める狂気を、『木原』を隠しもせずに露にして。
高らかに、面白そうに笑った。

御坂美琴の下らない正義感を、笑った。
妹達の存在を、笑った。
御坂美琴と妹達の馬鹿らしい姉妹愛とやらを、笑った。

「……何笑ってんのよアンタ」

美琴の声に、僅かに黒いものが混じる。
チリチリと肌を焼くような焦燥感。
七人しかいない超能力者の発する威圧感。

それを受けて、尚テレスティーナは揺らがない。
むしろ分かりやすいほどに分かりやすく反応する美琴がおかしくてたまらないと言った風に笑い続ける。

『こっれが笑わずにいられるかっつうの!! ひゃはははははは!!
ご立派なお姉ちゃんですねぇ~? よく出来ましたって褒めてほしいでちゅかぁ~?』

僅かに。ほんの僅かに、御坂美琴はこの時殺意を覚えた。
自分が馬鹿にされるならば構わない。
だが妹達を引き合いに出し、侮辱してコケにするのだけは許せない。

「―――黙れ。焼くわよ」

だが美琴が怒れば怒るほど。
憎悪を感じれば感じるほど。
テレスティーナは満足し、哄笑を増していく。

『さぁってと。それじゃそんなお優しいお姉ちゃん……くくくっ、やっぱ駄目だ。
どうしても笑っちまう。……お姉ちゃんにぃ、サプライズプレゼントを用意してやったからありがたく受け取れよ!!』

ガァー、とこの自動ドアの開く音。
この部屋への出入り口は美琴が入ってきた一つしかない。
だからこの音は美琴の背後にあるドアが立てた音で間違いない。
誰かが、入ってきた。

「誰よ」

その人物はぴっちりとした白い戦闘用の衣服に身を包んでいた。
仮面のような、顔全体を覆う特殊なゴーグルをかけている。
だから、顔は見えない。目や鼻、口の位置も分からない。
あくまで第一印象としては高校生程度の少女のように見える体格だった。

チリチリと。妙な緊張感が走る。
顔は、見えない。そう、顔は見えない。
けれど仮面の横から僅かに漏れる耳の肌の白さや、肩まである茶色い髪の揺らめきに、美琴は覚えがあった。


具体的に言えば。
御坂美琴の―――自分のものに、異常に似通っている気がする。


「アンタは誰」

白い人影は、静かに手を仮面にかけ。
もったいぶることもなく一息に仮面を取り払った。
目が、鼻が、口が。肌が、髪が、空気に触れる。
美琴の視界に、映る。

瞬間、美琴の喉が干上がり。ひゅ、と酸素を求めて喘ぐような、掠れた声が漏れる。
確実に。確実に、一瞬美琴の呼吸が止まった。
見たことのある顔だった。記憶にある顔だった。毎日見る顔だった。

そんな美琴を気にすることもなく、少女は白い戦闘服を脱ぐ。
その下に着ていたものは見慣れた常盤台中学の制服。
何かが、ドス黒い何かが美琴の中で膨れあがり、浸食し、食らい尽くしていく。

「―――あ、あ……あ……」

そして御坂美琴は理解した。この少女が何者であるかを。
何のためにここにやって来たのかを。『木原』を舐めていたことを。
テレスティーナ=木原=ライフラインの抱えるあまりにも莫大な狂気を。

ただ。少女の左足が切断されていて、一目でそうだと分かる義足をつけていること。
常盤台のブレザーの端に見覚えのあるゲコ太の缶バッジがついている意味だけは、理解し切れなかった。

悪意と狂気の結晶たる少女は美琴そっくりの唇を妖艶に吊り上げる。

「第三次製造計画って言えば、ミサカのことは分かるかな?」

御坂美琴の心臓が、破裂してしまうのではというほどに、早鐘のようにバクバクと暴れる。
ここまで。テレスティーナ=木原=ライフラインは、美琴を苦しめるためだけにここまでする。
だが自らをミサカと名乗った女は、更に続けてこう言った。

「やっほう。殺しに来たよ、第三位。ミサカは超能力者と『木原』のこの戦いの行方なんか興味ない。
そういう風なオーダーはインプットされてない。ミサカの目的は第三位の抹殺のみ。
ミサカはそのために、そのためだけに、わざわざ培養気の中から放り出されたんだからね」

美琴の動揺や震えなど一切無視して少女はニヤリと笑う。

「それではただ今より『実験』を開始します」




地獄が、幕を開けた。













一般のビルではてんで珍しくもない。
だがこんな研究施設にあると逆に異質な感じさえする。
何の変哲もない、どこまでも普通のオフィス。
本棚や事務机、作業用のデスク。特に変わったものはない。
強いて挙げるなら激しく動作して排気ファンがうるさいノートパソコンと。
壁に取り付けられている巨大なスクリーンのようなモニターくらいか。

そんな普通すぎるオフィスで、彼らは対峙していた。
一方通行と木原数多が、向き合っていた。

「オマエが差し向けた恋査とかっつゥ野郎はスクラップにしてやった。
もォオマエの身を守るモノはなンもねェ。そろそろ年貢の納め時だなァ、木原くン?」

木原数多は非常に優秀な科学者だ。
一方通行の、学園都市第一位の能力開発を担当したということからもそれは明らかだ。
だが同時に木原数多がどれだけ優秀だろうとどこまで行っていようと、所詮は科学者でしかない。
『一方通行』、『未元物質』、『超電磁砲』のような強い能力を持っているわけではない。

木原数多はただの人間だ。身一つでは一方通行相手に出来ることなどない。
勿論兵器類は扱えるだろうが、それこそ恋査クラスのものでないと一方通行には意味がない。
つまり。こうして一方通行と木原が対峙しているという状況そのものが、既に木原の敗北を、死を決定づけていた。

「そういう寝言は寝て言えよ一方通行。つかテメェ恋査相手に何した?
なぁんかよく分かんなかったんだよなぁ、あの現象。まあテメェを殺した後でゆっくり調べるか」

木原が分からなかったのも当然だ。
恋査を致命的に追い詰めたのは、魔術という神聖なる力。
科学を極めた『木原』でさえ、おぼろげにその形こそ見えど未だ踏破せし得ぬ未知の領域なのだから。

「ずいぶン余裕だなァ木原。分かってンのか?
今オマエが呼吸できてンのは俺の気まぐれによるものだぜ」

「第二位との戦いで開花したっつぅヤツか?
いやぁそんな感じはしなかった。つか情報なさすぎて何ともなぁ」

木原は一方通行を無視して、何か思案するようにぶつぶつと呟き始めた。
一方通行がオイ、と声をかけると木原はまだいたのか、といった風に顔をあげる。

「おお、どうした? いや悪ぃな、あまりにアウトオブ眼中過ぎてよ。
分っかるかなぁ? テメェなんて所詮その程度ってことだよ」

殺す。一方通行の口が声には出さずそう形を変化する。
どのみち第三次製造計画を潰すためにもこの男には死んでもらわなくてはならない。
木原の根拠のない自信は気にはなるが、それでも自分を打倒できるとは思わない。
妹達の命を弄んだこの男を許すわけにはいかないし、個人的感情としても殺したいと感じているので一石二鳥だ。

「まぁまぁ、そう早まるなって」

臨戦態勢を取る一方通行を宥めたのは敵対する木原数多。
その顔には相変わらず腹が立って仕方のない、どこまでも人を馬鹿にした笑顔が張り付いている。

「ンだァ? まさか命令されただけなンで助けてくださいなンて命乞いするつもりじゃねェだろォな」

「馬っ鹿かテメェは。なんで俺が命乞いなんかしなきゃならねぇんだ。
顔面涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして命乞いすんのはテメェの方だろが。
そうじゃなくてよ、テメェのために手厚いもてなしを用意したっつっただろ」

「リボンでも付けてプレゼントしてくれンのか?
オイオイ、やめてくれよ。あまりに嬉しすぎてつい殺しちまいそォだ」

「ま、見てみれば分かるさ。嫌でも、脳の奥までな」

不気味な一言と共に、木原はノートパソコンで何か操作する。
エンターキーを一回押す。木原の取った行動はそれだけだった。
それに反応して、壁に取り付けられた大きなテレビのようなモニターのスイッチがつく。

最初はぼんやりとした映像。何が映っているのかは読み取れない。
だが数秒もすると映像は鮮明に何かを映し出した。監視カメラか何かの映像だろうか。
左上に『LIVE』と表示されているところを見るに、これは録画ではなくリアルタイムの映像らしい。

そこに映っているのは二人の人間。
どちらもひどく見覚えのある人間だった。
片方はまず間違いなく御坂美琴だろう。常盤台の制服が画面越しにもはっきりと読み取れる。
対峙している人間は仮面をつけ白い特殊な衣装を身に纏っていて、誰なのかは分からない。
何故だろうか、それなのに一方通行はその人物に強い既視感を覚えた。

『誰よ』

映像とセットで音声も流れた。
聞き間違えるはずもない。御坂美琴の声だ。
その言葉は目の前の白い服装をした人物への問いだろう。

『アンタは誰』

その問いに答えるためか、その人物は変わった形をした仮面を一気に取り払う。

「は……?」

思わずおかしな声が漏れた。しかしそれも無理もないことだ。
だって、その仮面の下から現れた顔は。その少女の顔は。
どうしようもなく見てきたもので、何度も何度も見てきた顔で。
そしてその少女が白い服を脱ぎ捨てると、そこから現れたのは同じく常盤台の制服で。

『―――あ、あ……あ……』

画面の中の美琴もそれが分かったのだろう。
痛々しいほどに震える声を絞り出している。

「オ、マエ……」

一方通行は木原数多を射抜くように睨む。
だが木原は相変わらずの笑顔でそれをやり過ごし、ただただ愉快そうにしている。
一方通行は理解した。木原数多が用意した“もてなし”の正体を。
こいつが自分に何を見せつけたいのかを。『木原』を舐めていたことを。
木原数多の抱えるあまりにも莫大な狂気を。

『第三次製造計画って言えば、ミサカのことは分かるかな?』

木原数多のイカレっぷりを、知っていた気になっていた。
どれほどの外道かを分かったつもりになっていた。

『やっほう。殺しに来たよ、第三位。ミサカは超能力者と「木原」のこの戦いの行方なんか興味ない。
そういう風なオーダーはインプットされてない。ミサカの目的は第三位の抹殺のみ。
ミサカはそのために、そのためだけに、わざわざ培養気の中から放り出されたんだからね』

だが木原はそんな想像できる領域を振り切って、更に先へと飛んでいた。
一方通行は『第三次製造計画のプロトタイプとやらが自分に差し向けられる可能性があることは理解していた』。
木原数多という腐れ外道ならそれくらいはやるだろうと思っていた。

「オマエ……ッ!!」

ただ。今一方通行の眼前で広がっている光景は、想定外だった。
木原数多の狂気を、理解し切れていなかった。
それが『誰に差し向けられるか』という一点だけを、読み切れなかった。

『それではただ今より「実験」を開始します』

木原数多は楽しそうにニヤニヤと笑う。
画面の中の少女がそんな言葉を吐き。
そして御坂美琴は―――。

「オマエェェェェえええええええええええええええええええええええッ!!!!!!」

ちょ、ちょっと待ってくれッ!! 今日のところはこれで投下を……

美琴に番外個体は読まれたくなかったのでミスリードを入れてきましたが、それでも分かっちゃいましたかね?
いつか言った美琴に用意した三つの落としの最後の一つはこれでした

次は軍覇サイドから

「何でそんなところに留まってるんだ。良いことなんてないだろう」
学園都市第七位の超能力者(レベル5)―――削板軍覇




「甘いね。甘すぎて虫歯になる」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――坂状友莉




「学園都市の『闇』に、『白鰐部隊』に対してそんな言葉が出てくる時点でさ。
アンタ、どうしようもなく甘くて無知だよ第七位」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――和軸子雛




「『闇』から抜けたければ抜けられる? 希望すれば『表』に戻れる?
そんな簡単な場所ですか? まさかとは思いますけど、辞表一つで辞められるとでも思ってんですか?
だとしたらあなたの脳内は本当に笑っちまうくらいお花畑ですよ」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――相園美央




「妹達が殺されるのを止めたければ、ミサカを殺さないと。
でも優しい優しいお姉様はミサカに手を出せないんだっけ?
じゃあどうする? ここで大人しくボコボコにされちゃう?
でもその後に待っているのは現行の全妹達の『処分』だって分かってるよね。
……あれぇ? ミサカを殺さなければ妹達が死ぬ。
でもこのミサカを殺しても結局『ミサカ』は死ぬ。困ったね。ぎゃははははははは!!
―――どっちにしろアンタの心はここで死ぬ。
人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!」
『妹達(シスターズ)』・第三次製造計画(サードシーズン)で作られた美琴のクローン―――番外個体(ミサカワースト)




「あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「ムカついた。ああ、ムカついたぜ最ッ高に。
ムカつきすぎて……テメェを殺さなくちゃ気が済まねえよ、オイ!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「誰があなたの力を発現させたと思ってるんですか?
たしかに『未元物質』はこの世の物質ではありません。その性質も全く異なります。
ですが……そんな『未元物質』でさえも、ある一つの性質からは逃れられないんですよ。
まぁ、そんなわけだからそろそろ諦めろよ垣根帝督」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理




「おいおい、どうする正義のヒーロー気取りの一方通行くん?
超電磁砲がテメェの代わりに痛めつけられてんぞ? 代わってやれよ冷てえなぁ」
一方通行(アクセラレータ)の能力開発を担当した『木原』一族の一人―――木原数多




「―――ふざけンな。なンで、俺じゃねェンだ。なンで、オリジナルなンだ。
な、ンで……なンでだよ、木原ァァァァァあああああああああああああああああああッ!!!!!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)

と・う・か・か・く・て・い・ね

原作通り一方通行に番外個体が行くと思ったかたわけめ!
……まあ、ちゃんと意表を突けたようでそこは安心しました
大変なことになってますがミコっちゃんは大丈夫でしょうか?

絶望の始まり。

「ぬんッ!!」

削板軍覇が両手を高く掲げる。
するとどういうわけか謎の爆発が巻き起こり、激しく迫る五人を弾き飛ばした。
解析不能。説明不能。それがナンバーセブンの力だ。
とはいえこの爆発も念動力で吹き飛ばされたと考えれば、やはり現象としては念動力として処理できるのかもしれない。

だがそれには怯まず、続けて五人は可燃性オイルを組み合わせたミサイルのようなものを発射する。
対する削板はどういう理屈か「超すごいガード!!」と叫んで防御すると、本当に防御できてしまった。
意味不明。この街の研究者たちが匙を投げた理由も分かろうというものだ。

「お前ら、暗部の人間だろう?」

削板が五人に問いかける。

「何でそんなところに留まってるんだ。良いことなんてないだろう」

その問いは馬鹿げたものだった。
所詮は学園都市暗部を正しく理解できていないから出てくる言葉。
『白鰐部隊』からすれば一笑に付すにも値しない戯言。

「甘いね。甘すぎて虫歯になる」

「何だと?」

学園都市の『闇』は底の見えぬ深淵。
一度でも踏み込めばずぶずぶと沈み、柔らかいから止まらずどんどんと堕ちていく。
何かを求めて足掻いたところで決して何かを掴むことはなく。
許されるのはただただ更なる深淵へと堕ちていくことだけ。

「学園都市の『闇』に、『白鰐部隊』に対してそんな言葉が出てくる時点でさ。
アンタ、どうしようもなく甘くて無知だよ第七位」

削板軍覇は学園都市の暗部を知っている。
だが一方通行や垣根、麦野らと比べれば格段に浅いのも事実。
本人の性格も相まって、そんな疑問を抱いてしまう。

「『闇』から抜けたければ抜けられる? 希望すれば『表』に戻れる?
そんな簡単な場所ですか? まさかとは思いますけど、辞表一つで辞められるとでも思ってんですか?
だとしたらあなたの脳内は本当に笑っちまうくらいお花畑ですよ」

「抜けたいのに抜けられない連中がどれほどいると思ってんスか?
者とか物とか、枷をつけられてる人間が何人いると?」

「……そうか。オレは無神経な言葉でお前たちを傷つけちまったようだな。根性が足りてねぇ」

「いやいや。私らはそういうヤツじゃないから。
私たちは好きでここにいる。学園都市のヘドロみたいな『闇』の中にさ」

そう笑う友莉に、削板は疑問を覚えた。
彼女たちの口ぶりからして、彼女らも何か首輪を嵌められているのだろうと思ったが。
どうやら違うらしい。だとするなら当然疑問が湧いてくる。

「じゃあお前たちは何でそんなところに行ったんだ?」

「だからさ。アンタ根本から間違ってるよ。
あたしらは“堕ちた”んじゃない。“最初からそこにいた”のさ」
『白鰐部隊』ってのはそういうことなんだよ」

『白鰐部隊』。少女たちの精神を押しつぶし、思うがままに書き換えるシステム。
その『教育』を受けた者は反抗しようと思うことさえなくなるという。
故に『白鰐部隊』である彼女たちに『闇』から出ようなんて意思はなく、発想もなく。
ただ従順に使い潰されるのを待っているだけ。

「私らは『闇』の方が居心地もいいスからねぇ」

そう、思い込むように誘導されているだけ。
人間性を喪失した彼女たちが人間というものを取り戻すのはまず不可能。

「ちょっと待て、それはおかしくないか?」

そこで削板が割って入る。
今の彼女たちの話には明らかな矛盾点が一つあった。

「何で暗部の方が居心地が良いなんて言えるんだ」

彼女たちは『表』を知らない。
堕ちたのではなく最初からそこにいた以上知るはずがない。
片方を知らなければ比較などできるはずがない。
知らないものの感想など言えるはずがない。

「どうして『表』は居心地が悪いと思うんだ」

食べたことのないものの味は分からない。
罹ったことない病気の苦しみは分からない。
彼女たちの言っていることは、食べたことのあるカレーと食べたことのないハヤシライスを比較し。
ハヤシライスの味を知らないにも関わらずカレーの方が美味しい、と言っているようなものだ。

「知らなくても分かるのさ。私たちみたいなクズは底辺を這いずり回ることしかできないんだから」

「食べてみたら美味しいのかも知れないですけど、私たちの口に合わないのは明らかですから。
辛いものが食べれない人は、わざわざ食べてみなくてもハバネロが食べれないことは分かるでしょう?」

「それでも食わず嫌いは良くねぇぞ。根性なしがやることだ。
よし、ならオレがお前たちに食べさせてやるよ。意外と美味いかもしれねぇぞ?」

つまり自分がお前たちを引き摺りあげる。
その上でどうするか判断しろ。削板軍覇はそう言っていた。
どっちが良いかは両方を経験してみなければ分からない。

「余計なお世話だっつの」

「よし、そういうことなら仕方ねぇ。人助けだもんな。
本来なら趣味じゃねぇんだが、お前らのためだ。手ぇ出させてもらうぞ!!」

「性的な意味で?」

「何言ってんだ友莉。一応アンタ女だろ自重しとけ」

「こんな熱血根性馬鹿に尻振っても仕方ないでしょー」

「行くぞぉぉぉおおおおお!!」

「人の話聞かねえなこいつ!!」

「第二位も言ってたでしょ馬鹿なんだよこいつは!!」

そんな緊張感に欠ける会話をしながらも。
個としての大戦力である超能力者。
それを打倒するために作られた安定戦力としての群の大能力者。

ナンバーセブンと『白鰐部隊』がトップスピードで激突した。










「……どういう意味だ、テメェ」

垣根帝督は不気味に笑う木原病理に問いかける。
今この女が言った言葉は無視できるものではなかった。
嫌な予感。だがそれを捻じ伏せて垣根は進む。

「『絶対能力進化計画』は知ってますよね?
七人の超能力者の内、一方通行だけが絶対能力者になれるかもしれない。
だから一方通行をそこまで導こうという実験です」

「んなこたぁ今更講釈垂れてもらわなくても分かってんだよ阿婆擦れ。
それが何の関係があるってんだ」

「じゃあ七人いる超能力者の内、どうして一方通行だけが絶対能力者になれる可能性があると分かったんでしょう?」

いまいち話が見えなかった。
そんなことは今更にもほどがある話で、この世界では有名な話だ。

「『樹形図の設計者』の予測演算の結果だろ。……何が言いたい」

「せっかちですねぇ。結論を急ぐのはよくありませんよ?」

一瞬。この瞬間にその首を刎ね飛ばしてやりたいという欲求が生まれる。
こっちの心境を分かっていて、あえていちいち人の神経を逆撫でしてくる。
それでも話を聞くために今殺すわけにはいかない。
何とかその衝動を理性で抑え付け、垣根は黙って先を促した。

「そう、『樹形図の設計者』です。世界最高のスーパーコンピューター。
地球上の分子一つ一つを計算して事象を弾き出すオーバーテクノロジー。
これを使って七人全てを予測演算したんです。ただそこには一つ面白い結果が出たんですねー」

あくまでマイペース。
募る苛立ちを表すように垣根はタンタンと靴底で床を何度も叩く。
踵はつけたままつま先を上げ、下ろして床を叩く。
一定の早めのテンポで繰り返されるその動きは、垣根の心境を如実に表している。
そしてそんな様子を見ていながらも全く自分のペースを崩さない木原病理に、一層苛立ちが募っていく。

「まず一方通行。これはあなたも知っているように絶対能力者への適性が弾き出されました。
対して他の超能力者は進化の方向性が全く違うか、途中でバランスを崩して崩壊するものばかり。
ただ、一人。第二位のあなただけは違った。あなたは正しく絶対能力者への道を進んでいました」

「絶対能力者になれるのは一方通行だけだろ。おかしくねえか」

絶対能力者へ手が届くのは、垣根帝督ではなく一方通行ただ一人。
その事実に思うことがないわけではない。
だが今重要なのはそんなことではないので、ひとまず捨て置く。

「たとえばの話です。今あなたたち七人は同じ位置―――〇地点にいるとします。
一〇がゴール。そこまで行ければ絶対能力者になれます。
第七位は全く逆方向に進んでしまい、ろくに進化はしません。第六位は三辺りで完全に止まってしまう。
第五位は少しズレた方向へと進み、第四位はすぐに崩壊を起こしてしまいます。第三位は三か四か、少しだけ進んでやはり崩壊するようです。
一方通行はそのまま一〇まで直進。一方あなたは七か八までは進むことができる」

……分かりにくい。垣根は率直にそう思った。
本来たとえ話というのは物事を分かりやすく伝えるために用いるものなのだが、逆に混乱する。
勿論言いたいことは分かるが、それにしても遠回りだ。
なので垣根は木原病理の言葉から意味を理解するのではなく、脳内で自分の言葉に置き換えて理解する。
こいつは教師には向いていない、と垣根は確信した。

「つまり、俺は途中までは絶対能力者に至る道筋通りに成長するってことか」

そして一歩か二歩か三歩か、届かずに終わる。
そう言われると酷く複雑な気分だった。

「まぁ、そういうことです。当然他の科学者たちは一方通行だけに注目しました。
私も科学者として絶対能力者には興味津々だったのですが、同時にあなたのことも気になったんです。
一体『未元物質』はどこまで進めるのか、とね。もしかしたら想定の範囲を超えてくれるかもしれないなんて期待もありました」

「そりゃどうも」

「ですからー、『樹形図の設計者』に再演算させたんですよ。第二位の進化に関して」

『樹形図の設計者』。毎日ひっきりなしに使用申請が出されるそれを私的に使えたのは、やはり『木原』故か。
統括理事会の潮岸でさえ『木原』には怯えていた。
無理もない。権力が通用する相手ではないし、敵に回せば本当にどうなるか分からない。
一人を殺すために世界を壊しかねない連中だ。誰も止められないだろうし、止める必要もなかったのかもしれない。

「『精神的・肉体的に極限まで追い詰められること』。それが『樹形図の設計者』の結論でした。
肉体の方は最後の仕上げのようなもので、精神的にってのがかなり重要らしいです。どうやら感情の昂ぶりがキーのようでして」

「……待て。テメェまさか、」

くっくっと笑う木原病理に、垣根は一つの可能性に行き着く。
だがそれは耐え難い。もしそうだとしたら―――。
ドロドロに溶かしたコールタールのような、どうしようもなく気持ち悪いものが一滴。
まるで化学反応を起こすようにそこからジワジワと音もなく広がっていく。

「その具体的な方法を演算させてみたらですね―――」

第三位の超電磁砲。彼女が適任だったんです。
だから第三次製造計画の件も兼ねてあなたを動かした。

木原病理は淡々とそう言った。
言葉の意味を咀嚼して脳が理解するまで、幾許かの時間が要った。
そして垣根帝督は予想が当たってしまったことを知る。
嫌な予感だけは、本当によく当たる。この現象は一体何なのだろうか。

「あなたは自分がクズであることを自覚している。
一部の人間は自分がクズであることさえ分かってませんからねぇ」

たとえば馬場芳郎。
そういう種類の下衆は確かに存在する。

「そういったものも含めてあなたの性格に適切だったんでしょうねー。
流石は『樹形図の設計者』、やってみたら結果は大成功。
よく知らない無能力者の人間が更にそれを後押ししたらしいですが……まあそれはいいでしょう。
あなたはガリガリとその温度差に精神を磨耗していった」

垣根帝督と御坂美琴。
同じなのに、違う二人。
同じ超能力者なのに、正反対の二人。
だからこそ垣根帝督は苦悩する。
そう『樹形図の設計者』は予言した。

「そして一方通行とぶつけてやれば、私の予想通りの展開になったようで。
あなたは見事更なるステージへと登った。情報が全くないので、一秒でも早くあなたを調べたいのですが」

「――――――」

つまり、何か。
『スクール』に御坂美琴を監視しろという仕事が下ったのも。
垣根帝督と御坂美琴が出会ったのも。
御坂美琴の持つ性質に当てられて精神が揺らぎ、崩壊しかけたのも。
一方通行と衝突し、敗北したのも。自分の弱さを突きつけられたのも。

全てが機械仕掛けの神の頭脳と、目の前にいる木原病理の筋書きだったということか。

(そうだとするなら―――)

これまでの経験は一体何だったというのだ。
一方通行の言葉も。垣根帝督の再起も。御坂美琴の挑戦も。
これまでの全部が、茶番ではないか。

それぞれ自分の意思で行動していたつもりで、ただ木原病理の作り上げた舞台の上で木原病理の脚本通りに物語を演じていたということか。
垣根の葛藤も、美琴の意思も全てはシナリオ通りの展開でしかなかった。
それはただ木原病理の知的好奇心を満たすためだけに。

「ははっ、ははははは。何だぁそりゃあ」

乾いた笑い声をあげる。
ずっと利用されていた。木原病理に、こんな女の思いのままになっていた。
何だ、それは。

「色々と『諦め』てもらえました? では脳だけは無事な形でいただきますね。
電気信号に従って能力さえ吐き出してもらえれば問題ないので」

実は木原病理の筋書きには、一つだけ誤算があった。
脚本通りに動くだけのコマがアドリブで脚本を変えてしまった部分が、一つだけ。
本来ならば垣根帝督は一方通行に殺され、グチャグチャにされるはずだった。
そこから脳だけを回収するのが木原病理の計画だったわけだが、木原病理はそんなことは口にしない。
他人を『諦め』させるのが大好きな彼女はそんな希望を持たせるようなことなど言いはしない。

「ムカついた。ああ、ムカついたぜ最ッ高に。
ムカつきすぎて……テメェを殺さなくちゃ気が済まねえよ、オイ!!」

白い翼を生成、即座に躊躇なくそれを木原病理へと叩きつける。
そこに遠慮などなく、手加減などなく。あるのはただ濃密に凝縮された純粋なる殺意。
一瞬で殺す。それは瞬きほどの刹那の動き。

(テメェの脚本がどんなもんかなんて知ったこっちゃねえが。
少なくとも今ここでテメェが俺に殺されるってのは脚本にねえだろ、なあ木原ァ!!)

学園都市第二位、『未元物質』。
その牙を止められる人間などこの学園都市に数えるほどしか存在しない。
唯一垣根より上位に立つ一方通行と、幻想を食らい尽くす一人の少年くらいのものだろう。

木原病理が如何に優秀な科学者であれ、所詮は科学者。
木原数多と同じで自身に特別な戦闘能力は備わっていない。
故に垣根がそう決断した時点で木原病理の辿る末路は決まっており。
ただ先の見えた、予定調和のつまらない展開が再生される。
超能力者の絶対的な殺意と暴虐に愚かしい希望など入り込む余地は存在しない。

そのはずだった。

「な―――ッ!?」

笑っていた。垣根帝督の攻撃をその身に受けて、木原病理は尚もその不気味な笑みを絶やさなかった。
いや、その言い方は正しくない。垣根の攻撃はそもそも届いてすらいない。
何故ならば。第二位の誇る『未元物質』が、不自然に消滅してしまったからだ。

白い翼が、『未元物質』が。虫に食われるようにあっという間に消えていく。
演算は正しく組めている。『自分だけの現実』にも揺らぎはない。
見たことも聞いたこともない現象だった。第二位の頭脳に空白が生まれる。

「―――んだ、これは……ッ!!」

木原病理は笑う。不敵に、大胆に、不気味に、昏く笑う。
ただ笑って、こう言った。

「誰があなたの力を発現させたと思ってるんですか?
たしかに『未元物質』はこの世の物質ではありません。その性質も全く異なります。
ですが……そんな『未元物質』でさえも、ある一つの性質からは逃れられないんですよ。
まぁ、そんなわけだからそろそろ諦めろよ垣根帝督」










部屋を飛び出そうとした。
だが既にロックされていて、開かない。
壊すことはできただろうがそんなことをしている暇はなかった。


逃げていた。


御坂美琴が。学園都市第三位の絶対的な実力者が、ただ逃げ出すために走っていた。

恐ろしい。美琴は素直にそう思う。

テレスティーナ=木原=ライフラインよりも。
木原幻生よりも。
麦野沈利よりも。
一方通行よりも。

すぐ後ろにいるこの敵は、御坂美琴の根本的な価値観を支える柱を一撃で砕くほどに、恐ろしすぎる。

第三次製造計画。二万+αとは別物のシリーズ。
テレスティーナ=木原=ライフラインと、木原数多の狂気によって実行されてしまったプロジェクト。

「差し詰め番外個体(ミサカワースト)、と言ったところかな」

少女は自らをそう呼んだ。
誰にも望まれていない、存在そのものが禁忌であること。
脈々と続いてきた生命の系譜から外れた異形であることを、おそらくは自覚した上で。

バチッ、と紫電の弾ける音。
他の妹達と比べれば格段に大規模だが、オリジナルたる美琴に比べれば小規模なものでしかない。
二センチほどの鉄釘がコイルガンのように放たれる。
音速を超える程度の速度。美琴からしたらチャチな攻撃。
避けることも、防御することも、対応策なら複数ある。

だが。それでも。迷った。
自分は、この少女に対して反撃をしていいのか。
そんなことが許されるのか。考えずにはいられなかった。
反撃はせずとも、防ぐことはできる。だがそんな無為な思考が時間を奪い。
少女から放たれた鉄釘が美琴の左腕を射抜く。

「が、ァァああああああああッ!!」

思わず叫ぶ。鋭い激痛が全身を駆ける。
そんな中で美琴は少女の攻撃を頭の中でどこか冷静に分析していた。

(使用電力的に私の超電磁砲とは別物か。
もっと単純に、電磁石を使って鉄製の弾を撃ち出してる)

そんなどうでもいいことを考える。
まるで目の前の現実から目を背けるように。
現実逃避するように。

御坂美琴には自身に課したルールがある。
『妹達』をどんなことがあっても傷つけない。
何があっても、何を敵にしてでも必ず守り抜く。
それが美琴が己に立てた誓いだった。

そのために大覇星祭では奮闘したし、一方通行との決着もつけた。
一〇〇三二号や打ち止め、一九〇九〇号とも親交を深めた。
勿論一〇〇点満点だなんて言えるはずもないが、それでも多少なりとも『姉』でいられたと思っていた。
姉らしいことなんでほとんど出来ていないけれど、そんな中でも彼女たちは自分をお姉様と呼んでくれる。
ならばこそ、ほんの少しであってもお姉様らしくいられたのだろうと思っていた。

だが。よりにもよってテレスティーナ=木原=ライフラインは。
そこを、そこだけをピンポイントで砕く策を用意してきた。
世界全てを敵に回してでも守りたいものがあるという想い。
御坂美琴の原動力をへし折るための戦いを。

(狂ってる……)

美琴は素直にそう思った。
イカレてる。これまでもそう思ったことは何度かある。
たとえば『量産型能力者計画』。たとえば『絶対能力者進化計画』。
だが、それにしても、これは。

(第三次製造計画? この状況を作るために、私のトラウマを刺激するためだけに。
私の心を折るためだけに、そんな下らない理由でまた作ったっていうの!?
ちくしょう、学園都市は、『木原』はまともじゃない!! 
馬鹿げてる。『こっち』側から改めて見てみてよく分かった。
この街の連中は―――『木原』は根本的なところがブッ飛んでる!!)

まともな思考ができない。
普段の行動パターンが成立しない。
聞こえてくるテレスティーナの馬鹿笑いさえ耳に入らない。
それほどにこの少女は、美琴にとって恐ろしい敵だった。

「おやおや。もしかしてミサカたちのことを守ってあげてるとか思ってんの?
誰も頼んでないっつーの。そもそも一万人も殺しておいてそれでチャラになるって思ってるのが既に傲慢なんだよ。
分かるかなぁ、『お姉様』?」

声は全く同じ。妹達の声。打ち止めの声。自分の、声。
だがそこに込められた感情が全く違う。
思わず怯んでしまうほどに黒いものがまっすぐに突き刺さる。
呼び方にしても同様。同じ『お姉様』であっても、白井や妹達の親愛と敬愛の込められたものとはまるで違う。
悪意と皮肉。そういったものをこれでもかと詰め込んだ呼び方だった。

御坂美琴はそこで初めてその少女の顔をはっきりと視界に捉えた。
僅かに自分より成長しているようにも見えるものの、ほとんど顔は同じ。
年齢にして自分より一つ上、一五歳ほどだろうか。
それどころか仕草までもが自分そっくりだった。

「アンタさ、自分が一万殺しの大罪人だってこと理解できてるわけ?」

気だるげに髪をかきあげ、前髪からバチバチと紫電が走る。
見た目。一部の言葉遣い。仕草に至るまでが自分と同じ。
妹達はたしかに美琴そっくりだ。美琴の生体クローンというだけあって、判断できないほどに同じだった。

だがそれはあくまで見た目だけの話。
口を開けば美琴ではないことは明らかだし、性格や仕草も美琴とは違う。
しかし今目の前にいる番外個体は、それらに至るまでが美琴そっくりだった。
強いて言うなら美琴より多少目つきが悪いくらいか。

これは番外個体がよりオリジナルに近づいたためだった。
垣根帝督を通して得られた美琴の演算パターンなどを組み込んだ結果。
オリジナルに近づくことに成功したために能力は格段に上昇した。
そして副次的にその他の部分までが妹達より圧倒的にオリジナルに近いものとなったのだった。

かつて妹達と初めて会った時とは違う。
あの時は見た目こそそっくりで驚愕したものの、少し話してみればまるで別人だった。
そこに呆然とさえしたものだが、番外個体は本当に生き写し。
美琴の奥底に僅かに芽生えた恐怖感。それさえテレスティーナの計算通りなのだろうか。
しかし今はそんなことを考えている場合ではない。

(ど、どうする、どうする……ッ!?)

この少女を倒すか。このまま殺されるか。
ここで自分が死ねば、障害はなくなりそのまま第三次製造計画は本格稼動を始めるだろう。
そうしてまたもたくさんの妹達が作られる。
戦わせるために。コストパフォーマンスの良い軍隊として。
そんなことは、絶対に許容できない。

「ちなみに第三次製造計画が本格的に動き出したらどうなると思う?」

そんな問いをかけられた。
決まっている。今考えた通りだ。
ただ戦わされるためだけに。利用されるためだけに。
世界に命が産み落とされる。ただの道具として。

―――本当に、それだけ?

「結論から言うと、ただミサカたちが作られるだけなんてことは絶対にない」

ゾワッ!! と。
美琴の中で嫌な予感が一気に膨れ上がった。
思い出す。妹達の能力のレベル。
かつて見た『量産型能力者計画』のレポート。
妹達のスペック。先ほど番外個体の放った鉄釘。
学園都市という土壌。この街に巣くう研究者共。

「ま、さか……」

否定してほしかった。何を言っているんだ、と一蹴してほしかった。
だが美琴を壊すための番外個体がそんなことをするわけがなく。

「現行の妹達は全ての面で第三次製造計画のものに遥かに劣る。
なら今の妹達は必要ないと思わない? ぜーんぶまとめて綺麗に『処分』するに決まってるよね。
上位個体だって例外じゃあない。新しく第三次製造計画の上位個体が置かれるんだから」

クソッ!! と美琴は思わず吐き捨てそうになった。
あまりにも想像通り。最低最悪の想像を学園都市は平気で肯定する。
そんなことを許すわけにはいかない。妹達の生活を奪わせることはできない。
天真爛漫な打ち止めを始めとする妹達。たしかに能力は弱いのかもしれない。
美琴の一パーセントにも満たないのかもしれない。だがだからって死ななければならないなんて認めない。

上層部の勝手な都合で生み出され、勝手な都合で『処分』される。
一体奴らは人の命を何だと思ってるんだ。
そんなに命を弄びたいならまず自分の命を使えと怒鳴ってやりたかった。

だが。問題はそこだけではない。
番外個体が言っているのは、要するに―――

「妹達が殺されるのを止めたければ、ミサカを殺さないと。
でも優しい優しいお姉様はミサカに手を出せないんだっけ?
じゃあどうする? ここで大人しくボコボコにされちゃう?
でもその後に待っているのは現行の全妹達の『処分』だって分かってるよね」

―――こういう、ことだった。
どっちに転んでも、妹達が死ぬ。
一万回以上繰り返された事象でありながら、美琴の悪夢そのもの。

「あれぇ? ミサカを殺さなければ妹達が死ぬ。
でもこのミサカを殺しても結局『ミサカ』は死ぬ。困ったね。
ぎゃははははははは!!」

「ぁ、う……」

嘘だ。何か、あるはずだ。どちらも助ける方法が。
こんなの、嘘だ。何か、何か―――……。

「どっちにしろアンタの心はここで死ぬ。
人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!」





絶望的な言葉と共に、戦闘が始まった。

御坂美琴がようやく作り上げてきた、心の柱を徹底的に砕くための戦いが。





「あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

御坂美琴の泣き叫ぶような悲鳴を肴に、テレスティーナ=木原=ライフラインは顔の形が変形するほど凄絶に笑った。










一方通行の取った行動はシンプルだった。
木原数多に確実な死を贈るためにその手を振るう。
血と肉を炸裂させる悪魔の腕を。

(今すぐに死体決定だクソ野郎!!)

もとより容赦するつもりなどなかったが、その殺意は更に強固な形を得る。
ただの人間である木原数多には反応できない速度。
防げない攻撃。回避できない死。

そしてその手が木原に触れるか、と言ったところで。
ガンッ!! という衝撃が突然頭部を襲う。
だがこれはおかしい。一方通行は常時『反射』を展開している。
ならばへし折れるのは木原の手のはずなのに。

殴られた、とすぐに分かった。
この痛み、この衝撃。つい最近味わったばかりのものと同じだった。
第七学区の鉄橋で、御坂美琴に力の限り殴られた時と似た感覚だった。

「ごっ、ぶ!?」

一方通行の『反射』は完璧ではない。
これまでに破られたことだってあるし、それは一方通行本人もよく分かっている。
だが、だからといって。何の力もない木原数多に突破できるわけがない。
『反射』が絶対ではないとはいえ、破った者がいるとはいえ。
だからといって一方通行の『反射』が弱体化するわけではないのだ。

疑問。木原はどのようにして一方通行に攻撃を適用させたのか。
第一位の頭脳を以ってしても答えは見つからなかった。
以前の一方通行ならば。『反射』を突破された事実に動揺し、致命的な隙を晒していたかもしれない。
だが今は違う。そこを超えられた経験もあるし、殴られたこともある。
だから一方通行は決してパニックにまでは陥らず、倒れることもなかった。

そもそもが、木原数多の拳は軽かった。
単純な威力でいえば木原の方が上だっただろう。
衝撃の強さでいえば木原の方が勝っていただろう。

だが、それでも。
木原数多の拳は、鉄橋でもらった御坂美琴の拳に比すればどうしても見劣りした。

「ぎゃははははは!! いつまで最強気取ってやがんだ、このクソガキィ!!」

続けて木原に猛烈に蹴り飛ばされ、一方通行が倒れこむ。
どうやって『反射』を無効化しているのか。考えられるのは、

「どうしたよ? 鼻血が出てんぜ? みっともねぇ」

「オマエ……まさか自分の体に、能力を開発……」

的外れな回答をする一方通行がおかしかったのか、木原は盛大に笑った。

「く、ははっはははははは!! 違げぇ違げぇ。そうじゃねえよ。
そういうのはモルモットの仕事だろうが。なんで俺がそんな真似しなきゃいけねぇんだ。
んなことしなくてもテメェ一人潰すのに苦労なんかしねぇんだよ。
誰がそのつまんねー力を発現させてやったと思ってんだぁ!?」

楽しそうに木原は笑う。
床に倒れ込んでいる一方通行を見下ろして、ニヤニヤと笑う。

「いやー、害虫駆除は気分が良い! 害虫は害虫らしくさっさと壁の染みにでもなっててくれ。な?」

どういう理屈か木原数多に『反射』は意味を成さない。
だがそれがどうしたというのだ。『一方通行』という力に変化はないのだ。
たとえその防御壁を突き崩されようと、一方通行の手札はまだまだある。

「ナメ、てンじゃ……」

無風状態の室内に僅かな気流の乱れ。
それは一瞬で莫大な戦乱となり、圧倒的な暴虐の牙を剥く。
明らかな指向性を持った大気の砲弾は、風速一二〇メートル、竜巻としても最高のM7クラス。
何もかもを根こそぎ破壊し尽すそれを一方通行は躊躇いなく木原に放つ。

「……ねェぞ三下がァァァああああああ!!」

局地的な嵐が吹き荒れる。
だがその烈風の槍が完全に力を得る前に、

「駄目なんだよなぁ」

ピーッ、と軽い音が鳴り響く。
そんな程度の雑音で必殺だったはずの暴風があっさりと四散していく。
『反射』を殺されたことはあっても、こんなことは今まで一度もなかった。
一方通行は間抜けなほどに呆然としていた。

「テメェの能力はベクトルの計算式によって成立してる。
ならそいつを乱しちまえばいい。だから風を操んのも無駄なんだわ」

ガンッ!! と金槌で殴られたような衝撃。
顎を蹴り飛ばされた一方通行の体が僅かに床から離れた。
木原が持っているのは笑い袋のような小さなもの。
どうやら押すと音が鳴る仕組みらしく、あんなちっぽけなものに己の力を封じられていると思うと情けなくなった。

「ただの『反射』に比べて『制御』はより複雑な演算を必要とする。
プログラムのコードと同じだな。処理する量が多ければ多いほど、バグは発生しやすくなる。
勿論、人為的な介入もな。だからテメェの演算式の死角に入り込む波と方向性を持った音波を放ちゃあ全部ジャミングできんだよ」

とはいえ、こんなものを作れるのは木原数多ただ一人だ。
誰よりも一方通行を知り尽くしているからこそ、その特徴や死角を突くことができる。

「だから死んどけって、な?」

またも衝撃。木原の攻撃は面白いほどに『反射』を潜り抜けてくる。
風の制御を崩されるのは理解できる。だがこれはどうやっているのか全く想像もできない。

「がっ、は……っ!! オマ、エ、どォやって……!!」

「んー? そんなに自慢の『反射』が通用しないのが不思議か?
別につまんねえタネだ。要はテメェの『反射』の膜に触れる瞬間に拳を引き戻してるだけだ。
言っちまえば寸止めの要領だな。テメェは戻っていく拳を『反射』して自分から当たりにいってるってわけだ。
分かってくれたかなぁマゾ太くん? ガキの頭にゃ難しかったかぁ!?」

何だそれは、と一方通行は思った。
木原が自分の能力の裏を突いているのは分かる。
だがそれがどういうことなのか、現実問題可能なのか、実感として感じられない。
困惑する一方通行の耳に聞きなれた声が飛び込んできた。

『差し詰め番外個体(ミサカワースト)、と言ったところかな』

そんな声が、突然モニターから聞こえてくる。
少女の声。妹達の声。打ち止めの声。御坂美琴の声。
それに反応して一方通行はモニターにその紅い目を向ける。
そこでは番外個体と名乗る少女と美琴が戦っていた。

いや、その表現は正しくない。
美琴は一切番外個体に手を出していない。
ただ、逃げる。無様に逃げ回っているだけ。

当たり前だ、と一方通行は思う。
あの御坂美琴が、お姉様が妹達に手を出せるわけがない。
もし自分があの立場だったとしても全く同じ行動を取るだろう。
だが対する番外個体には躊躇いがない。

『が、ァァああああああああッ!!』

番外個体の何らかの攻撃を受けたのか、画面の中の美琴が悲鳴をあげる。
だがこれは耐え難い。御坂美琴が、痛みに叫んでいる。
何故だ。何であの優しい妹達の『お姉様』があんな目に遭っているんだ。

(……何かが、)

おかしい。

『おやおや。もしかしてミサカたちのことを守ってあげてるとか思ってんの?
誰も頼んでないっつーの。そもそも一万人も殺しておいてそれでチャラになるって思ってるのが既に傲慢なんだよ。
分かるかなぁ、「お姉様」?』

一方通行の内に生まれた僅かな引っかかり。
その違和感は急速に膨張し、弾けた。
まるで電子レンジで温められた純水が衝撃によって突沸するように。

何故、御坂美琴なんだ。
何故、自分ではないんだ。
“それらの言葉は全て自分に向けられるべきなのに”。

御坂美琴にではなく、自分にだ。
全部全部、自分に叩きつけられるべき悪意だ。
なのにどうして美琴がこんな地獄を経験しなければならない。

「おいおい、どうする正義のヒーロー気取りの一方通行くん?
超電磁砲がテメェの代わりに痛めつけられてんぞ? 代わってやれよ冷てえなぁ」

分かっていた。
自分ではなく美琴が標的にされたのは、目の前でニタニタと笑うこの男の策略だと。
番外個体を一方通行に直接差し向けるより、美琴に差し向けてやる方が一方通行は苦しむ。
それが分かっていたから、木原数多はこの方式を採用した。

「―――ふざけンな」

つまり、美琴は。一方通行を少しでも苦しめたいという木原の考えによってあんな目に遭っている。
見なくてもいいはずの地獄を経験させられている。

『アンタさ、自分が一万殺しの大罪人だってこと理解できてるわけ?』

自分が対象となるべき言葉が美琴に向けられる。
美琴に対してそれらの言葉は筋違いのはずで。
けれどそんなことは関係なく、美琴の心はガリガリと削られていく。

『妹達が殺されるのを止めたければ、ミサカを殺さないと。
でも優しい優しいお姉様はミサカに手を出せないんだっけ?
じゃあどうする? ここで大人しくボコボコにされちゃう?
でもその後に待っているのは現行の全妹達の「処分」だって分かってるよね』

おかしい。決定的に、致命的に歪んでいる。

「なンで、俺じゃねェンだ」

どうして、

「なンで、オリジナルなンだ」

ああして非難されて、地面を這いずって、痛めつけられるべきは自分なのに。
妹達を殺したのは一方通行だ。決して美琴ではない。
むしろ美琴は妹達を懸命に守ろうとしていた。
それらの事実と目の前の光景が、噛み合わない。

『どっちにしろアンタの心はここで死ぬ。
人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!』

「っハ、ァ、あ、」

掠れたような声が漏れた。
声が震える。全身を貫き殺すような何かが走り抜けた。

「な、ンで、」

その言葉に何の意味があるのだろう。
答えなど既に分かっている。分かりきっていることだった。
それでも、

『あ、ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』

それでも、問わずにはいられない。
鼓膜を打ち、全身に浸透し、精神を壊すほどに揺るがす美琴の悲鳴。
美琴だって守るべき人間なのに、自分と違って絵に描いたようなヒーローなのに。
自分のせいで、またも苦しんでいる。聞いているこっちが壊れてしまうような痛々しい叫びをあげている。

「なンでだよ、木原ァ!!」

そんなこと、分かっているのに。
一方通行は御坂美琴を救えない。代わってやることはできない。
故に一方通行は理不尽に美琴が傷つけられ、精神を抉られ、壊れていくのを黙って見ていることしかできない。

そもそもが。
その悪夢のような光景を一方通行に見せ付けるために、木原は番外個体を美琴に差し向けたのだから。
そこにはテレスティーナ=木原=ライフラインとの考えの一致、『木原』二人分の狂気があって。

「さぁなぁ。知らねえよんなこと。まあ超電磁砲は」

全てを仕組んだ木原は楽しそうに、愉しそうに笑って。




「―――運でも悪かったんじゃねぇの?」




そう答えるのだった。

そしてその瞬間。
一方通行の中で何かが決定的に弾けた。
こいつは、こいつだけは、絶対に、何があっても、何と引き換えにしてでも。

「……ふッざけンじゃねェぞ、木原ァァァァァあああああああああああああああああああッ!!!!!!」

コロス。

関係ねえよ!! カァンケイねェェんだよォォォ!!
テメェらSSなんざ指一本動かさなくても百回投下終了できんだよぉぉぉぉッ!!

みなさん的には誰サイドが重要なんでしょうか? やっぱり美琴でしょうか?

次は垣根サイドから

「では諦めてもらいましょうか」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理




(やはり能力は消えるか。イイね、ずいぶんつまらない展開になってきやがった)
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「誰も望んでないんだよ、そんなこと。よく考えてみろよ。
一万人もミサカたちを殺しておいて、全ての元凶の癖に何ほざいてんの?
結局アンタはそうやって自分に酔ってるだけだよ。自分が楽になりたいだけ。
本当に分かってんのかな。一万人が死んだんだよ、アンタのせいで。
アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上殺してきたんでしょう?」
『妹達(シスターズ)』・第三次製造計画(サードシーズン)で作られた美琴のクローン―――番外個体(ミサカワースト)




(……当然よね。あの子たちは私が殺したんだから)
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「いい拳だ。だがまだ根性がちっとばかし足りてねぇ」
学園都市第七位の超能力者(レベル5)―――削板軍覇




「お命頂戴ってね!!」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――和軸子雛




「テメェさあ、もしかして自分で自分のこと凄げぇかっこいいとか思ってんのか?
たった一人で学園都市の暗部に立ち向かって、哀れな人形共を助けるために奔走してよぉ」
一方通行(アクセラレータ)の能力開発を担当した『木原』一族の一人―――木原数多




「けどよォ、それでも足掻き続けるって誓ったンだよ……。
地獄に落ちるンだとしてもそこへ行くのは俺たちみたいな奴だけでいい。
そこにオリジナルを巻き込むンじゃねェよッ!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)

畜生!!
続きが気になりすぎて、夜しか眠れねえじゃねえかドチクショー!!


レベル6になれるとか
垣根がチートすぎてヤバイと俺の中で話題に

上条ちゃーん。馬鹿だから投下でーす

>>70
生活リズム崩れるからそれでいいと思いますよw
>>1のは完全に崩壊してるけどな!!

>>73-74
あくまで理論上の成長限界ですし結局レベル6にはなれません
未元体は……相当にぶっ飛んでますが、あれはまた方向性の違う進化だと思います

かつてない苦境。

何が起きたのか分からなかった。
ただ気がついたら『未元物質』の白い翼は完全に消滅していた。
木原病理が何かをしたことは理解できる。
だが一体どんな方法を使ったのか、どんな科学が根付いているのかが分からない。

「では諦めてもらいましょうか」

一体どうやって収納していたのか、車椅子の背もたれから突然ギミックが飛び出した。
軽機関銃と人間の腕を丸々飲み込むほどの大口径散弾銃。
その銃器の側面にはそれぞれこんな文字列が印字されていた。

『Made_in_KIHARA』

その文字があるかないかだけで、その兵器の恐ろしさは天と地だ。
たとえただのスタンガンであっても、それが『木原』製であるなら本気で警戒すべきなのだ。
ドガドガドガドガッ!! という爆音。銃自体が内から弾けるのではと思えるほどの銃撃。
それらは無慈悲に垣根帝督に食らいつき、鮮血の花を鮮やかに咲かせるはずだった。

だがその瞬間に白いのっぺりとした物質が盾のように出現。
銃弾を全て防ぎ、垣根を鉛球の雨から守り抜く。
しかしそれも一瞬のこと。すぐにその『未元物質』は虫に食われるように消滅していった。

「クッソが……!!」

かつてない出来事に垣根は焦燥を隠せない。
珍しく、本当に珍しく、垣根帝督は本気で焦っていた。
いくら垣根が木原病理を殺したいと思っていても、現実問題としてこのままでは逆に殺される。
死ぬにしてもこれ以上あの女の筋書き通りになってやるのは御免だった。

第三次製造計画をきっかけに始まった第一位、第二位、第三位の学園都市トップスリーの超能力者と『木原』の戦い。
双方共に科学を極め、科学の頂点に立つ者たち。違った形で科学を統べる怪物。
その戦いは第一位も第二位も第三位も、『木原』に圧倒されるという最悪の展開を迎えていた。

(やはり能力は消えるか。イイね、ずいぶんつまらない展開になってきやがった)

咄嗟に垣根は隠し持っていた銃を抜く。
念のためのものだったが、まさか本当に使うことになるとは思ってもいなかった。
木原病理の銃撃をゴミを溜めておくためだろうタンクの陰に滑り込むことで回避。
入れ替わるように引き金を引く。狙い違わず木腹病理へと突き進む銃弾は、しかしギャリギャリギャリィ!! という金属音と共に無効化された。

木原病理の車椅子があり得ない風に回転した。
そこまでは分かった。けれどその先何が起きたのか分からない。
あまりにあの車椅子がぶっ飛びすぎていて、垣根の想像が及ばない。

「あらあらまあまあ。すっかり崖っぷちみたいですねぇ」

「クソ野郎が。言っとくが降参してやる理由なんて微塵もねえぞ」

考える。今自分が劣勢に追い込まれているのは『未元物質』を使えないせいだ。
それさえ取り戻せば木原病理など瞬時に五回はバラバラに出来る。
だからまずはそこだ。木原病理が『未元物質』を封じ込められているのには必ず科学的理由がある。
木原病理は魔法使いなどではない。科学者だ。ならば自分にもそれは解明できるはずだ。

(考えろ)

木原病理の車椅子の足が蜘蛛の足のように複数に分かれる。
もはや何でもありかと言いたくなるその車椅子で木原病理は飛び掛ってきた。

「どう考えても車椅子に座ってる野郎の動きじゃねえな、っおい!!」

その場から身を投げるようにして離れる。
その直後、一秒前まで垣根がいた位置に車椅子に乗った木原病理が降り立った。
ガン!! という嫌な音がその衝撃を教えている。

「その辺は日本の文化でしょう。そもそもここは学園都市ですよ?」

木原病理の砲撃を『未元物質』で防御、舞い上がった煙に紛れる形で的確に頭を狙って発砲。
しかし鳴り響いた金属音で木原病理の命を奪えなかったことを悟る。

(気になるのは『未元物質』が使えないわけじゃあねえってこと。
使用そのものは出来る。ただどういうわけかすぐに『未元物質』が消滅する)

粉塵が視界を遮っている内に垣根は物陰に身を潜める。
今はとにかく時間を稼ぎたい。
木原病理の策を見抜き打ち破るための時間を。

(能力自体は使えるってことはキャパシティダウンやAIMジャマーとはまるで別物だな。
ああいった類の物なら使用そのものを封じようとするはず。
だがこれは違う。『未元物質』が消えるんだ。まるで何かに吸い取られるみてえに)

木原病理は垣根を探しているのか、車椅子の立てる金属音と木原病理の声だけが垣根の耳を打つ。
やはりあの車椅子にも流石にレーダー機能はついていないらしい。

(何だ。一体どんな仕掛けだ。木原はどんな科学を運用している。
テメェの頭をフル回転させろ。何のための第二位だ)

「かくれんぼですかー? 別に構いませんが普通のかくれんぼだとつまらないですよねぇ。
ですので少々斬新な探し方をさせてもらいますね」

……待て。そういえば木原は何と言っていた)


    ――『ですが……そんな「未元物質」でさえも、ある一つの性質からは逃れられないんですよ』――


(ある一つの性質? ……『未元物質』のだと)

第二位を誇る頭脳が猛烈に回転する。
あらゆる情報・記憶を引き出し、分類し、振り分ける。

(ある一つの性質。『未元物質』。この世界に存在しない新物質。
『未元物質』はその特性上あり得ない挙動をするが……この世に出現した時点で世界の一部には変わりない。まさか)

一秒を極限まで引き伸ばしたような時間の中で、垣根の頭脳は動き続ける。
少しづつ紐を手繰り寄せていくように、真実へと近づいていく。
辺りには耳を劈くような爆発音。どうやら木原病理が機関銃やら何やらを所構わず乱射しているらしい。
いつここも吹き飛ばされるか分からない中で、尚垣根は思考を止めず、むしろ加速させていく。

垣根帝督。『未元物質』。性質。新物質。木原病理。科学。共通性。分子。
世界の要素。教科書の法則。異物。一方通行。そして垣根帝督の立てていた学園都市への反抗計画。

(―――なるほど)

一つの解答に辿り着いた垣根は笑う。だとしたら木原病理は相当にとんでもないことをしている。
致命的な欠陥とでもいうべきだろうか、それに木原病理はどう対応しているのか。
とはいえその予想は立っている。立っているが、そうだとしたらとてもではないが正気の沙汰ではない。
自分の命を捨てているようなもの。文字通り自殺でしかない。
如何に木原病理といえど、子供たちをモルモット扱いする『木原』がそんなことをするとは思えないが……。
木原病理は垣根の想像を更に超えてイカれていたということだろう。

「掴んだぜ、木原ァ!!」

垣根は身を起こし、辺りに乱射する木原病理の前に躍り出る。
だが問題は解決していない。タネは分かってもそれを打ち破る方法がないからだ。
しかしそれも垣根の想定通りに行けば打開し得る。
木原病理の手品のタネを見破ると同時に、垣根は対応策を考えていた。


―――『未元物質』といえど、素粒子であることに変わりはない。












「アハ、ハハハハハハハハ!!」

愉快そうに高笑いしながら番外個体は美琴を攻め立てる。
対する美琴は一切の抵抗をしない。できない。
番外個体に蹴り飛ばされた美琴がごろごろと床を転がった。
だがおかしい。番外個体は明らかに手加減をしているが、それでも蹴りの威力が高すぎた。

妹達は軍用クローンだ。大人の男と比べても身体能力は極めて高い。
しかしそれだけでは説明できないほどに力が強い。
加減されている状態でも一撃食らうだけで胃の中のものが吐き出されそうになる。

何かが頭にひっかかる。
自分はこれを知っている、ような気がした。いつか、どこかで、見たような―――。


    ――『……!! 酷い怪我……。ちょっと、大丈夫!? っていうか、もしかして……これ、アンタがやったの?』――


頭にいつかの記憶が蘇る。やはり美琴は知っている。


    ――『ああ、ちょっと鉄拳制裁してやっただけだ。
       後はソイツの自滅だぜ? なにせ「発条包帯」なんてモン使ったんだからな』――

(発条、包帯……!!)

聞き覚えのあるその単語。一体どんなものだっただろうか。
美琴は記憶を再度探る。


    ――『「発条包帯」って何よ?』――


    ――『駆動鎧みてえに身体能力を増幅させるモンだ。
       だが小型化の代償として、駆動鎧にはある安全装置がねえから体に負荷がかかるんだよ、こいつみてえにな』――


「……待って、アンタまさか、『発条包帯』を……っ!?」

「へえ、知ってるんだ。そうだよ、ミサカは『発条包帯』を装備してる」

それは美琴対策の一つだった。
だが一番の目的は違う。それを使用している最大の理由はもっと別のところにある。

「なんで、そんなの……っ!! だってあれは体に大きな負担がかかるって……!!」

「うん、そうだね。確かにさっきから体がギシギシ言ってるし、痛くて痛くてたまらないよ」

御坂美琴と番外個体では状況は五分ではないし、互いの勝利条件も全く違う。
美琴は番外個体を一切傷つけずにこの状況を切り抜け、テレスティーナを倒し、第三次製造計画を停止させなければならない。
対して番外個体側の勝利条件は至ってシンプル。美琴を破壊すれば、それだけで勝ちだ。

「そんな……ッ!!」

何も美琴本人を痛めつけることだけが方法ではない。
御坂美琴という人間の性質上、“番外個体は自分自身を傷つけることでも美琴にダメージを与えられる”。
それだけ。ほんの僅かでも美琴に与える苦しみを増やすためだけに、テレスティーナは『発条包帯』を装備させていた。

「つーかさ、アンタ一体何がしたいわけ? ミサカたちを守りたいんだっけ?
全くお姉様は冗談が上手いね。え、冗談じゃない? あっそうなの。ぎゃは」

「―――っ」

倒れている美琴の髪をむんずと掴み、強引に持ち上げる。
髪を引っ張られる強い痛みに美琴は顔を顰めた。
番外個体はそんな美琴の顔に鼻がつきそうなほどに自身の顔を近づけ、呪詛を並べるように吐き捨てる。

「誰も望んでないんだよ、そんなこと。よく考えてみろよ。
一万人もミサカたちを殺しておいて、全ての元凶の癖に何ほざいてんの?
結局アンタはそうやって自分に酔ってるだけだよ。自分が楽になりたいだけ。
本当に分かってんのかな。一万人が死んだんだよ、アンタのせいで」

「ぁ、あぁぁぁあぁぁ、ぅううう……」

何よりも。これまでに経験した何よりも、それは御坂美琴を焼いた。
赤の他人とは違う、他ならぬ妹達から叩きつけられる拒絶と怨嗟。
ある程度の関係は築けていたと思っていたからこそ、少女の心は悲鳴をあげる。

「自己満足と自己陶酔を押し付けないでくれるかな、お姉様。
オナニーは一人で勝手にやってればいいよ。結局さ、許されるはずなんてないんだよ。
アンタは一万殺しの大罪人なんだから。諸悪の根源なんだから。
ある意味では一方通行よりもお姉様の方がよっぽど悪党だよね」

その言葉に意味は必要ない。
ただ適当に、それこそ何でもいい。
文脈がおかしくても、筋が通っていなくても、多少事実と食い違いがあっても。
番外個体がそういった言葉を連ねるだけで確実に美琴の心と精神は磨耗していく。
御坂美琴が勝手にその言葉に意味を付与し、形を与え、自分を責めるから。

「あぁぁあぁあぁぁぁ、ぅあぁぁぁああ……」

ポロポロと美琴は両目から透明の雫を流す。
もはや美琴にまともな思考能力は残っていなかった。
番外個体から否定の言葉が出てくる度に美琴の根幹部分を支える柱にヒビが入っていく。
今の美琴は超能力者でもなく、超電磁砲でもなく、お姉様でもなく。
ただの歳相応の、未成熟な精神が剥き出しになった中学生でしかなかった。

「みっともなく泣いてないでよ。アンタのせいで死んだ一万のミサカはそうやって泣くこともできなかったんだから」

「―――ッ」

そうだ。九九八二号も、一〇〇三一号も、泣くことなんてできなかった。
そんなことは許されなかった。ただ抗うことすら許されず大口を開けた死に呑まれていくだけだった。
だから。彼女たちの死の原因を作った自分に。
一万人を殺した自分に。一万人を救えなかった自分に。
何もかも全ての元凶である自分に。……涙を流す権利なんて、ありはしない。

「だからさ、逃げ回ってよ。無様に命乞いしてよ」

番外個体の言葉を受け止めて律儀に涙を止めた美琴を見て、番外個体はその顔を残虐に歪める。
御坂美琴を破壊するためだけに生み出された少女は、美琴を砕くことに躊躇いを覚えない。
そのためだけに作られた以上、迷う必要などありはしない。

「アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上殺してきたんでしょう?」

ずぶりと。胸を深々と剣で刺し貫かれるようだった。
赤の他人から無責任に投げかけられる言葉とは意味も重みも全く違う。
何も言い返せない。的確に真実を突いていた。

(そう、私はあの子たちを万も殺した―――)

「普通の人間が普通に死んでいくんじゃなくてさ。
最低でも一万倍は人権を踏み躙らないと帳尻が合わない。
言っておくけどこれは最低ラインだよ。利子も含めば三倍返しじゃ済まないからね」

(だからそんな私が普通に生きていることが、おかしい)

「ねえ。そもそもおかしいと思わなかったの?
何でミサカたちはお姉様のせいで一万人も、一万回も死んだのに、誰もアンタを責めないんだと思う?
答えは簡単。ミサカたちは聖人君子じゃない。清く正しいお姫様でもない。
……自分の意思で恨まなかったんじゃない。ただそれを理解し表現するだけの感情が、その処理方法が芽生えていなかっただけ」

しかし。これはテレスティーナ=木原=ライフラインが用意した罠だ。
こうして美琴を追い詰めて、壊すことが目的なのだ。
先ほどからテレスティーナ本人ではなく番外個体が美琴をいたぶっているのは、自分がやるよりその方が美琴を苦しめられるとテレスティーナが分かっているからだ。
本当は自分の手で嬲りたいだろうに、それを抑えてまで美琴を苦しめたい。
そんな腐った思考。テレスティーナの狂ったような笑いだけはずっと聞こえている。
これらは全て演出。用意された言葉。だからいちいち真に受ける必要はない。

だが。どうしたって、何をしたって、美琴は番外個体の悪意を無視することができない。
番外個体の言葉は全て正しい。美琴のせいで『実験』が始まり、美琴のせいで妹達が作られ、美琴のせいで妹達が死んだ。
そんな彼女たち。多少違えど妹達の一人である番外個体の言葉を無視することは、できない。

それは彼女の持つ当然の権利だから。
美琴が一方通行を糾弾したように、妹達には御坂美琴を糾弾する権利と理由がある。
だから美琴は耳を塞いではいけない。どんな悪意をぶつけられても、全てを受け止める義務がある。
自分のせいで命を弄ばれた妹達から『逃げる』ことは許されない。
絶対に自分の楽な方向へ流れてはいけないのだ。

だから美琴は軋む心を、悲鳴をあげる心を押さえつけて番外個体の言葉に耳を向ける。
たとえその行動が自身を壊すものだとしても。

「ぎゃははははは!! ミサカたちは少しずつ『人間らしく』なってきている!!
自称『姉』らしいお姉様も知ってるんじゃない? 以前と比べれば格段に感情を手に入れていることに」

当然だ、と美琴は思う。
もともと妹達は『人間』だ。誰がなんと言おうと美琴はそう考える。
御坂妹も感情豊かになってきているし、一九〇九〇号は更に感情豊かだった。
打ち止めに至っては天真爛漫そのもので人間以外の何物でもない。

だから美琴はそれを喜ばしく感じていた。
妹達が自分を手に入れていることに、人間らしく成長していることに。
それはとても素晴らしいことで、

「でも『人間らしく』ってのは何もプラスにだけ働くものじゃない。
感情を獲得するにつれ、直に多くのミサカが正当な復讐の権利について考えるようになる!!
憎悪に気付くようになる!! 誰のせいで自分たちがこんな目に遭ったのか、誰のせいでクローンなんて歪な形で生まれてしまったのか。
所詮アンタがやってることは矮小な自己満足。それにミサカたちの憎悪を減らす効果は、全くない」

「…………」

美琴はもう涙を流すことはなかった。
そんな機能はまともに働いていなかった。自分で抑えてしまっていた。
妹達に恨まれる。それはとても哀しいことだ。だけど、

(……当然よね。あの子たちは私が殺したんだから)

やがて妹達は御坂美琴への抑えきれぬ憎悪に気付き、復讐を始めるのだろう。
その行為はどこまでも正当なもので、当然の帰結だと思う。

「この先アンタは全てのミサカから『人間らしく』恨みを抱かれ、命を狙われる。
それが成功してアンタが死ぬか、それともアンタが全部返り討ちにして皆殺しにするか。
今この場でアンタがこのミサカに殺され、全ての妹達が処分されるか。
それともアンタがこのミサカを殺すか。でもそうしてもそこで終わらない。このミサカが死んでも次が来るよ。
いつかそれに耐えかねて殺されるか、やっぱり返り討ちにして皆殺しにしちゃうのか」

選択肢自体は多数ある。

「殺すにしても簡単には行かないと思うよ?
お姉様ほどじゃないけどミサカだって四億ボルトくらいまでなら何とかなるんだし。
大体大能力者の最上位クラスになるのかな、お姉様の半分以下でも」

だがどれを選んでも行き着く場所はたった一つしかない。

「いずれにしろお姉様の望む甘い未来はやって来ない。
誰もが笑って誰もが望むハッピーエンドなんて存在しない。
仮にそんなものがあったとしても、そこにアンタの居場所なんてない」

言葉と共に靴のつま先が飛んでくる。
腹を中心に何度も何度も蹴り飛ばされながら、美琴は無抵抗だった。
避けようと思えば避けれる。反撃しようと思えば反撃できる。
いくら性能がアップしていようと、所詮は欠陥電気。オリジナルの劣化でしかない。

けれどそういう問題ではない。
そういった行動をしようという思いが欠片も湧いてこない。
決定的に何かが折れかけていた。取り返しのつかないほどに、壊れ始めていた。
どれだけ御坂美琴の精神力が強靭であろうと、彼女が一四歳の中学生であることに変わりはないのだから。

「残念だけど、ミサカの言葉は既に証明されてしまっているよ。
だってこのミサカがそうなんだから。ミサカは他のミサカと違って負の感情を表に出すようになっている。
そういう風に脳内物質の分泌パターンを調整されている。
ネットワークに遍く『お姉様への負の感情』だけを抽出するようになっている。
……もしもミサカたちがお姉様を恨んでいないなら、悪意が表面化するこのミサカもアンタを殺したいと思ったりはしない。
けど実際は違う。このミサカの悪意が妹達がアンタを恨んでいることを証明している。ただそれを表現できないだけ」

負の感情というものはどういうものを指すのだろうか。
誰かを憎む心、誰かを殺したいと思う心。たしかにそれらは明確で分かりやすい負だろう。
だが負の感情とはそれだけではない。もっと小さな負だって存在する。

たとえば嫉妬。たとえば卑屈。
妹達はお姉様のようにはなれない。
お姉様のように強い意思を持って、自由に羽ばたくことなんてできない。
そんな活発で強くて凛々しくて優しいお姉様。
完璧な御坂美琴への、ありとあらゆる全てにおいて自分たちの遥か先を歩くお姉様への嫉妬。

妹達はクローンだからオリジナルである御坂美琴は超えられない。
たとえクローンが認められ、人間の感情を手に入れても永遠にお姉様の影でしかない。
どれだけ成長してもクローンである事実は変わらないし、御坂旅掛と御坂美鈴の娘ではないことも変わらない。
美琴が時間をかけて築いた人間関係も美琴だけのもので、周囲の人間は妹達を認識すらしていない。

いつまで経っても御坂美琴には勝てない。自分たちは所詮そういう存在。
そんな感情と、自分たちに優しく接してくれる美琴に対してそんな醜い感情を持っているという自己嫌悪。
それは潜在レベルのもので、妹達のほとんどが自分がそんな気持ちを持っていると気付いてはいないだろう。
だが番外個体はそういった負も抽出する。それが美琴に対する負の感情の正体だった。

たとえそれぞれが一の悪意しか持っていなくとも。一万人から抽出すればそれは一万もの悪意になる。
〇、一だとしても全員から集まれば千の悪意になる。

以前打ち止めが感じていたミサカネットワークに対する違和感はこれだった。
番外個体はこの仕組みを適用するために第三次製造計画のネットワークではなく、現行のネットワークに繋がれた。

しかし美琴はそんなことなど知る由もない。
だから妹達が自分に対して負の感情を持っていると聞かされれば自分を憎んでいると思い込む。
番外個体の言葉によってそういう風に誘導される。

(……そう。やっぱりそうなんだ。あの子たちは、私を殺したいほど憎んでるんだ)

それは当然だと思うし、正当な権利だとも思う。
けれど胸にぽっかりと大きな穴が空いたようなこの空虚さは何だろう。
一日後か一ヵ月後か一年後か。いずれは妹達が美琴を表立って憎むようになる。
御坂妹が、一九〇九〇号が、打ち止めが自分を付け狙うようになる。
その顔を憎悪に歪め、ただ美琴を殺すために。

どうしてだろう。当然だと思っているのに、彼女たちとの思い出が走馬灯のように頭を駆け抜ける。
恨まれて、憎まれて、命を狙われて当然だと分かっているのに、枯れたはずの涙が流れそうになる。
対する番外個体は蹴りをやめ、ニヤニヤと悪意の透けて見える笑みを浮かべた。
わざわざその場にしゃがみ込んで美琴に視線を合わせる。

「それは今いるミサカたちだけじゃないよ。
お姉様のせいで死んだ一万のミサカも同じ。―――九九八二号も、ね」

鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。
美琴にとって九九八二号は特別な個体であり、墓参りも行っている。
そう。妹達が美琴を憎んでいるのなら、当然九九八二号も同様で。
胸を締め付けられる感覚。息が苦しくなる。

「だって当然でしょう? アンタは九九八二号を―――このミサカを助けてくれなかったんだから」

「―――……え?」

思わずそんな声が漏れる。
番外個体は一体何を言っているのだろう。どういう意味なのだろう。

まさか。まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。
美琴の中を悲劇的な何かが埋め尽くす。たとえようのない絶望感と悲壮感が溢れ出す。
そんなはずはない。そんなことはあり得ない。いくら何だって馬鹿げてる。
けれど。……番外個体の左足は一目で分かる義足で、服の裾にはゲコ太の缶バッジがついていて。

叫ばなかったのが奇跡だと思った。
それほどのものが御坂美琴を襲った。
そして番外個体はそんな美琴を見て満足げに口元を三日月のように歪ませる。
テレスティーナ=木原=ライフラインと番外個体の策に、美琴は壊れ始めていた。










削板軍覇が床を蹴る。
たったそれだけの動作。しかし莫大な推進力を得た削板の体は音の速度を超えて放たれる。
世界最大の『原石』、学園都市第七位。絶対的な超能力者という力の権化。

しかし五人の少女たちは動じない。
元より音速以上の速度で進む第七位や、超高速の飛び道具を自在に扱う第四位や第三位とも戦うことを想定している彼女たちには、単純な速度はそれほど脅威を与えない。
削板の前方地点の床から突然黒い槍のようなものが何本も飛び出した。
このまま進めば自ら剣山に突っ込むようなもの。

だがナンバーセブンが拳を突き出すと、圧倒的な烈風が吹き乱れた。
それは黒い槍をあっさりと破壊し、進路上にある障害を消し去った。
しかし、その先に少女たちはいない。それに気付いた削板が慌てて急ブレーキをかける。
それは失策だった。削板はそこで止まるべきではなかった。

「今のあなたがどこまでやれるんかね?」

五人の少女が先ほどのように動きを止めた削板へと飛び掛る。
それぞれがタイミングや速度をずらし、死角を潰す。
壁や空中通路を使い跳弾するように円を描き、不可避の状況を人為的に作り出す。

垣根帝督が去ったために能力の制御権は戻っている。
『油性兵装』のドレスの強固さは更に増し、先の程度の爆発ならば問題なく切り抜けられる力を得た。
細魚がオイルを集約・固定させた拳で殴りかかる。
コンクリートだろうが簡単に破壊するほどの力を秘めたそれは、しかし削板に左の掌で受け止められる。

「いい拳だ。だがまだ根性がちっとばかし足りてねぇ」

真紀が可燃性オイルを利用したミサイルのようなものを、削板が細魚の攻撃を受け止めた瞬間に放つ。
左腕を封じられた状態でそれに対応する必要に迫られた削板は右手を使ってそれに対処した。
だが五人は間髪入れずに怒涛の勢いで攻め立てる。
子雛が人体程度なら容易く切断する黒い剣の形をしたものを生成、的確に削板の首を目掛けて斬りかかる。

「お命頂戴ってね!!」

削板は細魚を投げ飛ばすことで左手を自由にし、即座にその場に足を折って体を沈める。
屈伸するように、しゃがみ込むようにして子雛の一撃を回避した削板だったが、すぐさま友莉による追撃が襲う。
またも床から飛び出す黒い刃。それはしゃがみ込んだことで頭から床までの距離が短くなっていた削板を猛烈に射殺す。

「うおっ!?」

慌てて上体を大きく後方へ仰け反らせ、脳天を貫かれる事態を回避する。
その隙を相園は見逃さない。子雛と同じ黒い刃を生成、それを削板の心臓へと突き立てる。
普段のナンバーセブンならば回避できていたかもしれない。
だが怪我のせいでその実力にある程度の制約がかかっている今の削板は完全には避け切れない。
大きく全身を横方向に逸らし直撃を回避するも、僅かに漆黒の剣がわき腹を掠めた。

如何に銃弾に耐えるナンバーセブンといえども、車やコンクリート、人体までを豆腐のように切断するあの刃をまともに受けては無事では済まないらしい。
掠った傷口から僅かな出血。だがそんなことに構っている暇はない。
体勢を立て直した細魚と子雛が能力によって圧倒的破壊力を得た蹴りを叩き込んでくる。
普段の削板ならば反応できたかもしれない。
しかし今の削板は人数を生かした怒涛の連続攻撃に対処し切れず、その蹴りを受けて吹き飛ばされる。

圧倒的に人数差だった。超能力者とはいえ手負いが一人、対して超能力者用に作られた大能力者五人。
一人一人が大能力者の中でも上位の実力を有するのに、それが五人も連携を取って攻めて来る。
加えて『白鰐部隊』という特性上、、超能力者との戦い方を熟知している。
非常に厄介な相手だった。対して削板はダメージのせいで実力を出し切れない。けれど、

「第二位に頼まれちまったからな。もともとあいつを助けようと思ってたことだし。
だからここはちょっと根性出す。頼まれたことくらい果たせねぇと超能力者は名乗ってられん!!」

カツッ、という音がした時にはもう遅かった。
たった一歩で距離を〇にまで詰めたナンバーセブンの体は和軸子雛の懐に潜り込んでいた。

「……は、」

子雛がそれに対して何らかのリアクションを起こす前に。
和軸子雛の体がぐるぐると回転するように吹き飛ばされた。

「がぁぁあああああああっ!!」

念動砲弾。実際に起きる現象としては念動力に極めて近いその力が子雛の全身を襲った。
腹を基点に全身にダメージが浸透していく。
『油性兵装』のドレス装甲によってダメージは軽減されたものの、衝撃までは防げない。
宙を舞い、やがて床をごろごろと転がって動きが止まる。

「ガハッ、何だ、今の感覚……?」

『油性兵装』の装甲によってダメージは軽減された。
だがおかしい。計算に合わなかった。
一〇の力を五にまで抑えられるのに、七までしか削れなかった。
たとえるならそんな感覚だった。
『説明のできない力』。やはり中々にわけのわからないものらしい。

「女の子をあまり殴んのは根性がねぇから、一撃で終わらそうと思ったんだが。
流石っつぅのか? 思ったより効いてないな。良い根性だ」

「学園都市の暗部相手に男も女もねえっつの。
あたしらはもともとあなたみたいな超能力者を始末するための部隊。
フェミニスト気取りで独りよがりの自己満に浸って悦に入るのもいいけどさ、死んでも知らんぜ?」

「つか能力者に男も女も関係ないですけどねぇ。
……子雛、大丈夫ですかにゃ? いい様ですぜ?」

けたけた笑う相園のからかいの言葉を尻目に、子雛は腹を手で押さえながらゆっくり立ちあがった。
失敗すれば消し飛ぶとはいえ、ちゃんと“受け止め”れば超電磁砲にも耐える彼女たちがこの程度の一撃で倒れるはずがない。
それでも派手に吹き飛ばされたのは威力の問題ではなく、ナンバーセブンの念動砲弾のわけの分からない特性によるものだろう。
流石にこの念動砲弾の一発の威力が超電磁砲以上というのはあり得ない。

「うるせー。相手は超能力者だぜ?
アンタだって食らってたら私と同じように吹っ飛んでたって。
つか第七位の馬鹿しかオトコいねぇってのにブリブリしてどうすんのよ」

「美央は第七位みたいなのがタイプなんスかね?」

「引くわー……。男見る目ないってレベルじゃないでしょ」

「冗談じゃないっての!! 気持ち悪くなってきますよ!!
あんな昭和の熱血馬鹿みたいなヤツには流石に興味ないですって!!」

戦闘中にギャーギャー騒ぐ『白鰐部隊』の少女たち。
これが垣根だったら容赦なく攻撃を仕掛けるだろうが、削板は違った。
何気にボロクソ言われているのが気になったのか、むしろ会話に混じり出した。

「おい、お前ら!! よく分からんがオレのことを馬鹿にしてないか!?」

「うるせえよ黙ってろ馬鹿!!」

「酷いなお前ら!?」

「……つか、もういいでしょ。そろそろ終わらせよう。ナパーム準備しな」

場違いな会話をしながらも、削板軍覇を排除するために『白鰐部隊』が新たな戦術を模索する。










一方通行は鬼神の如き形相で木原から“離れた”。
理解の範疇を超えた方法で『反射』を破ってくるような奴相手に律儀に接近戦をやってやる義理はない。
ダン、と床を蹴り一息に大きく距離をとった一方通行は近くにあった本棚を掴みあげる。
綺麗に背の順に並べられていた書籍がバラバラと落ちて床に散らばるも、二人ともそんなことは気にも留めない。

「オラ派手にぶっ飛べや!!」

一方通行は自身の背丈ほどもあるその本棚を軽々と振り回し、大きく腕を振って木原数多へと投げつけた。
キャッチボールでもしているかのような軽い動作。
だが異能の力による後押しを受けたそれは超スピードと相応の破壊力を持って木原へと迫る。
如何に木原が一方通行の風の制御を乱す術を持っていようと、『反射』を殺す技術を獲得していようと。
木原数多自身は科学者に過ぎないことに変わりはない。

よって木原はそれを防ぐ術はなく、避けることもできずに吹き飛ばされる。
そのはずだった。そうでなければおかしかった。
しかし、

「甘甘だぜぇ一方通行!! そんなんじゃ糖尿病になっちまうぞ!?」

木原の体が突如消えた。そしてダン、という壁を蹴るような音が続けて響く。
そしてそれは事実だった。一歩、二歩、三歩。
短い時間だったが確実に木原は壁を走っていた。
そしてそのまま壁を大きく蹴り、その反動で一方通行に飛び掛る。並の身体能力では到底為せる業ではなかった。

「何ッ!?」

「しっかり口閉じてねえと舌噛んじまうぞぉ!?」

その速度自体は相当に早くはあったが、一方通行からすれば対処は可能な速度域だ。
だがまさか木原にそんなことができるとは思わず、不意を突かれた形となり反応が僅かに遅れる。
その僅かの間に木原は自身の射程内にまで入り込み、一方通行の顎をアッパーするように下から殴りつける。

「ガッ、ハァ!?」

倒れた一方通行の腹を靴底で思い切り踏み潰す。
そのまま踵でグリグリと踏み躙ると一方通行の口から潰されたカエルのような細い声が呼吸と共に漏れた。

「ま、さか、オマエ……『発条包帯』を……」

「おお、そうだよ。とはいえこいつは改良型だ。
従来のものよりちっとばかし性能は下がるが、代わりに肉体への負荷はほとんどない」

『発条包帯』。それは駆動鎧の運動性能を体一つで得られるものだ。
だが駆動鎧にはある安全装置がないためにその莫大は負担は全て自身の体へと跳ね返ってくる。
そんな諸刃の剣である『発条包帯』を改良したものを木原は装備していた。
木原のただの科学者にはあり得ない先ほどの動きは、これによって為されていたのだ。
ぐりぐりと腹を踏みつけながら、木原は壁に取り付けられたモニターを指して言った。

「おいおい、話になんねぇなあスクラップ野郎が。もうちっと強いのかと思ったんだがな。
あれでも見てちったぁヤル気出してくれよ」

『自己満足と自己陶酔を押し付けないでくれるかな、お姉様。
オナニーは一人で勝手にやってればいいよ。結局さ、許されるはずなんてないんだよ。
アンタは一万殺しの大罪人なんだから。諸悪の根源なんだから。
ある意味では一方通行よりもお姉様の方がよっぽど悪党だよね』

そのモニターから聞こえてくるのはそんな言葉だった。
番外個体と名乗った少女が倒れている御坂美琴を蹴飛ばしている。
やはり美琴は無抵抗で、されるがままになっていた。

(違ェだろォが)

思う。自己満足に浸っているのは自分だと。
一万殺しの大罪人は紛れもなく一方通行であって、命を投げ出してでも妹達を救おうとしていた美琴に向けられていい言葉ではない。
諸悪の根源も一方通行に決まっている。自分の意思で『実験』を受け、自らの意思で妹達を殺し続けたのだから。
そんな進んで妹達を殺し続けた自分以外に誰が元凶だというのか。

『アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上殺してきたんでしょう?』

(それは、俺のことだろォが)

「見ろよ一方通行。超電磁砲の奴無抵抗だぜ?
くー、美しいねぇ愛情ってのは。やっぱ人形にも愛着ってのは湧くもんなのかね」

「クッソがァァァあああああああああ!!」

本当に人の神経を逆撫でし苛立たせるのが上手い。
ベクトルを操作・変換し、直立に体を起き上がらせる。
即座に能力を生かしてその場からの離脱を試みた。
『一方通行』という能力によって行われたそれはまさに一瞬の出来事で、『発条包帯』を使っていようと反応し切れるものではない。
なのに、一方通行の鼻っ柱をゴン!! と木原の拳が容赦なく襲った。

「ぐ、が……っ!?」

動きが止まった一方通行の全身を木原の連撃が襲う。
顔、肩、足、腹、胸、肩、顔、顔、顔。
木原数多は『反射』の膜に触れるぎりぎりのところで拳を引き戻すことで攻撃を有効化させている。
ならば『反射』のパターンを組み替えればそれだけで済む話なのだが、

(さっきからやってンだよンなこたァとっくに!!
なのにそれが分かってるみてェにこいつの動きも微細に、顕微鏡クラスで調整されやがる!!)

再度倒れこんだ一方通行の顔面を容赦なく踏みつけにする。
普通なら『反射』されて足が折れるだけだが、木原のそれはそのまま一方通行の顔を変形させ痛覚を強烈に刺激する。

「無駄だよ。こちとらテメェの特徴、計算式、『自分だけの現実』、全て把握済みだ。
伊達にテメェのその力ぁ開発してねーぞ」

ただ拳を引き戻す手法をマスターしただけではない。
文字通り一方通行の全てを識る人間だからこそ実行可能な戦法。
思考を読み、動きを先読みし、対処する。木原数多にしかできない戦い方だった。
先ほど反応できるはずのない一方通行の動きに反応したのもそういうことだろう。
あれは反応したのではない。その動きを先読みしていたのだ。

『ぎゃははははは!! ミサカたちは少しずつ「人間らしく」なってきている!!
自称「姉」らしいお姉様も知ってるんじゃない? 以前と比べれば格段に感情を手に入れていることに』

「テメェさあ、もしかして自分で自分のこと凄げぇかっこいいとか思ってんのか?」

『でも「人間らしく」ってのは何もプラスにだけ働くものじゃない。
感情を獲得するにつれ、直に多くのミサカが正当な復讐の権利について考えるようになる!!
憎悪に気付くようになる!! 誰のせいで自分たちがこんな目に遭ったのか、誰のせいでクローンなんて形で生まれてしまったのか。
所詮アンタがやってることは矮小な自己満足。それにミサカたちの憎悪を減らす効果は、全くない』

「たった一人で学園都市の暗部に立ち向かって、哀れな人形共を助けるために奔走してよぉ」

一方通行の中にどうしようもない屈辱感と憤りが爆発的に広がった。
番外個体の言葉は全てそのまま自分に向けられるべきものだし、木原を殺すこともできていない。
妹達が誰のせいであんな目に遭ったのか? 誰に対して憎悪を抱き復讐したいと思うのか? 矮小な自己満足をしているのは誰か?
それは間違っても御坂美琴などではなく。

「ンなもン……全部俺に決まってンだろォがァァああああああ!!」

一方通行の必死の反撃も木原には軽くいなされる。
動きは全て先読みされ、思考や演算パターンは全て読まれ、『反射』も破られて。
どんな速度でどんな動きをしようとも、初めからそれが知られていれば容易く対策されてしまう。

「そうやってヒーロー気取りかぁ!? そんなもんでテメェの人生全部チャラにできるとでも思ってんのか!?
ぎゃははははははは!! ふざけんじゃねえよ!! テメェは一生泥ん中だ!!
何度這い上がろうとしても結局何かを掴むことなんざ出来やしねえんだよ!! だったらそのまま沈んでろ!!」

そんなことは、思っていない。
永遠に抱えた負債はチャラにできないし、間違っても物語の中のヒーローになんてなれはしない。

(分かってンだよ、一生泥の中だってことぐれェ……)

「けどよォ、それでも足掻き続けるって誓ったンだよ……」

ゆっくりと、けれど確固とした意思を込めて一方通行は立ち上がる。
どれだけみっともなくても、無様でもいい。それでも足掻くと一方通行は決めた。

「あぁ?」

『いずれにしろお姉様の望む甘い未来はやって来ない。
誰もが笑って誰もが望むハッピーエンドなんて存在しない。
仮にそんなものがあったとしても、そこにアンタの居場所なんてない』

御坂美琴が苦しめられている。あまりにも理不尽に、一方通行を少しでも苦しめたいという木原数多の考えのせいで。
もっとも残酷な方法で、もっとも下衆なやり方で、御坂美琴が傷つけらている。

「地獄に落ちるンだとしてもそこへ行くのは俺たちみたいな奴だけでいい」

とにかく殺せ。木原数多を殺せ。それでとりあえずは安心できる。
一方通行に対して有効なのは対一方通行専用の戦法を極めた木原数多のみ。
ならば木原を排除すれば後は楽だ。

「そこにオリジナルを巻き込むンじゃねェよッ!!」

一方通行の獣のような咆哮を受けて、木原数多は怯まない。
ただ嗤って、無様な一方通行を嘲って、迎え撃つ。

はーいそこ、それ以上一言でも喋りやがったら投下終了ですよ?

いよいよ戦いも終盤になってきました
そして軍覇サイドは次で終わります、アイテムサイドは一度だけ出る予定

次はていとくんサイドから

    次回予告




「どんな気分ですか? 自分に手を伸ばしてくれたあなたの希望が手も足も出せずに、身も心もぐちゃぐちゃに蹂躙されている光景は」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理




「―――――――――!!!!!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「何、その手? その手でミサカを攻撃するの?
いいよ、やればいい。そして殺せばいいよ。一万三一回ミサカを殺したみたいにね。
もう一万殺してるんだ、今さら一人くらい増えたってどうってことないでしょ?」
『妹達(シスターズ)』・第三次製造計画(サードシーズン)で作られた美琴のクローン―――番外個体(ミサカワースト)




「―――う、ああ、あぁぁぁぁああぁぁぁああああ……!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「ひゃは、はははははははははは!! ホンットに情けねぇな一方通行!!
何だよそのザマァ!! 超電磁砲も災難だねぇ。テメェの罪を押し付けられてよぉ」
一方通行(アクセラレータ)の能力開発を担当した『木原』一族の一人―――木原数多




(違げェンだ!! オマエたち妹達が糾弾するべきは俺なンだよ!!
必死に足掻いて妹達のために命も捨てようとしたオリジナルと、自分の意思で一万の妹達を殺した俺。
どっちが悪いかなンて、どっちが責められるべきかなンてガキでも分かンだろォがッ!!)
『闇』から『光』を掴んだ学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)



次回予告にソギーがいないということは、なんか無茶やってくれるんだろか

11時頃に投下します
今回はちょっとアレな回なんで

私は超えてみせる!! この忌々しい投下の全てを!!

……しかしあんな展開を一体誰が予想しただろうか
ミコっちゃん……あの姿はアカンて……なんで翼じゃなくて角生えちゃうの……
げんなまさんを許すな

>>104
そういうことではなく、ただ今回はお休みなだけですw


もう、いいよね。

「テメェは俺の『未元物質』の粒子を一つ一つ毟り取ってやがったんだな」

木原病理の前に姿を現した垣根が、言いながら木原病理の手を確認する。
そこにはやたら小型化されているがやはり予想通りの物があった。

「あらら。分かっちゃいましたか」

そう言う木原病理の声は軽かった。
まるでちょっとした悪戯がばれた、とでも言うように。

「そりゃあテメェがつけてるソレはもともと俺が使おうと考えてたもんだしな」

垣根が指差したのは木原病理の左手に嵌められているグローブのようなものだ。
その人差し指と中指から伸びるガラスの棒のサイズは本来のものより格段に小さくなっていて、指サックのように見えるが間違いない。

「超微粒物体干渉用吸着式マニピュレータ、通称『ピンセット』。たしかに『未元物質』は素粒子だからな」

原子よりも小さな物体を『吸い取る』方式で掴むためのアイテム、それが『ピンセット』だ。
もともとは素粒子工学研究所という場所で使われていたものだが、木原病理はそれを小型化や性能アップなど改良したらしい。
垣根は本来この『ピンセット』を使って『滞空回線(アンダーライン)』を解析するつもりだったのだが……。
使い方によってはこれでこの場に漂う『未元物質』を全て除去することも可能だろう。

垣根がどれだけ『未元物質』を使おうと、それは発動した瞬間から改良型『ピンセット』により取り除かれる。
その速度や精度は『木原』が手を加えたためだろう。
そのため白い翼もすぐに消えてしまったのだ。当然あの翼は『未元物質』の塊であるため、逃れることはできない。

「それで、それが分かったあなたはどうしようと?」

木原病理が歌うように問う。
そう、仕組みは分かっても具体的な対処法は思い浮かばないのだ。
早い話が『ピンセット』を破壊してしまえば済む話なのだが、それは非常に難しい。
能力を封じられた今、木原病理に無闇に接近すれば間違いなく殺される。

「さてな。観念して念仏でも唱えてみるかね」

だが垣根帝督の顔には不敵な笑みがあった。
木原病理の対抗策を打ち破り、木原病理を確実に死に至らしめるための方程式が第二位の頭の中で組み上げられていた。
能力を封じられ、僅かな武器も木原病理には届かない。
そんな状況でも真に垣根帝督を特別にしているものは健在だった。

即ち頭脳。
『未元物質』という強大な能力もそこから発生している。
垣根帝督を他と隔絶した圧倒的存在たらしめているのはその頭の出来なのだ。
『未元物質』の所有者だからこそ分かることもある。木原病理を殺すための策が。

そんな余裕すら見せる垣根に木原病理は不機嫌そうに顔を歪めた。
もともと他人の希望を砕き、へし折り、挫折させ、絶望させることが大好きという歪みに歪んだ人間だ。
この状況においても希望を持った顔をしている垣根が気に食わないのだろう。

「では死に物狂いの抵抗を。その希望を全力で折りますので諦めてください」

「ハッ、やってみろやコラ」

絶対的に不利な状況で、やはり垣根の余裕は崩れない。
まるで確実な勝利の未来をその手で掴み取っているように。
木原病理の顔が更に歪む。だがやがて不気味な笑みを湛え、

「仕方ないですね。同じやり方をするのは面白みに欠けて好きではないのですが、この際仕方ないでしょう」

木原病理がどこからともなく取り出したのは大きなタブレットだ。
怪訝そうにこちらの様子を覗う垣根を尻目に、木原病理は昏く笑ってタブレットを操作する。
画面はすぐに表示された。監視カメラか何かの映像なのか、隅に小さく『LIVE』と表示されている。
そしてそこに映っていたのは、

『みっともなく泣いてないでよ。アンタのせいで死んだ一万のミサカはそうやって泣くこともできなかったんだから』

「――――――は?」

少女。二人。同じ顔? 御坂美琴。妹達? 無抵抗だ。
蹴り飛ばしている。何故? クローン? 第三次製造計画?

『だからさ、逃げ回ってよ。無様に命乞いしてよ』

フリーズした思考が再起動する。
状況は、理解できた。要するに『木原』を侮っていたわけだ。
まさかここまでするとは予想外だった。というより、『誰に』やるかが想定外だった。
美琴が何もできないことを、手を出せないことを分かった上で、こいつは、こいつらは。
よりにもよって美琴の信念に、優しさに、彼女たちの信頼や絆につけ込んで。

「どんな気分ですか? あなたの希望が手も足も出せずに、身も心もぐちゃぐちゃに蹂躙されている光景は」

『アンタはミサカたちを一万人以上、一万回以上殺してきたんでしょう?』

「―――――――――!!!!!!」

もはや言葉もなかった。
何かが胸の奥からせり上がって、膨張して、弾けて、頭は真っ白に染まって。
心は軋むほどに悲鳴をあげて、精神はぐらぐらと激しく揺れて。
木原、と絶叫したかった。けれど声すら出てこない。
その正体が怒りだとか、憎悪だとか、殺意と呼ばれるものだと気付いた時には既に垣根帝督の体は動いていた。

走る。『未元物質』を存分に使えない垣根のその速度は一般人の域を出ない。
精々足の速い人間程度。その目は暗く沈んでおり、けれど轟々と手がつけられぬほどに激しく燃え盛る炎があった。
深海のような、泥沼のような、濃く、濃く、濃く、どこまでも濃厚に凝縮された純粋なる殺意。

かつて美琴を侮辱した馬場芳郎を怒りのあまり殺したことがあったが、遥かにそれ以上。
人生で初めて経験する感覚だった。心の拠り所を、希望を、祈りを、願いを。
最低最悪の下衆なやり方で御坂美琴を踏み躙られた垣根帝督は、神すらも食い殺す狼だった。

けれど精神論だけで実力差はひっくり返らない。
バチン!! という音と共に木原病理の下半身のパジャマが弾ける。
そこから顔を覗かせたのは生足ではなく、足全体を覆う合成樹脂の機械だった。
膝裏のモーターの駆動音と共に車椅子に座っていた木原病理が立ち上がる。

そのことに垣根は驚かない。そんなことはどうでもよかった。
木原病理の死は決定した。それは誰にも覆せぬ確定事項だった。
たとえこの場で垣根が死んだとしても、如何なる方法を使ってでも垣根は木原病理に死を届ける。
垣根帝督が殺すと言った以上、木原病理の死は絶対だ。

『未元物質』がまともに使えずとも。
垣根帝督には手がある。ならば撃ち殺してやればいい。
腕があるなら喉を押し潰せ。足があるなら蹴り殺せ。
叩き潰せ。切り刻め。切り裂け。噛み千切れ。食い殺せ。
己の中にあるあらゆる能力を全て注ぎ込め。考えうる全ての殺戮方法を実行しろ。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ!!

「形状変化、イエティ参照」

熱した鉄板に冷水を滝のように浴びせたような、そんな感覚。
木原病理の冷たく短い一言は、確実に垣根の敗北を後押しするものだった。
太く毛むくじゃらな巨大なシルエットが木原病理から飛び出した。
あまりにも木原病理の体の大きさには不釣合い。

垣根がその異様な光景にようやく少しばかりの冷静さを取り戻した時には、遅い。
木原病理は真上から巨大な拳を垣根帝督に叩き込む。
ベゴォ!! という轟音。木原病理の一撃は垣根諸共全てを押し潰した。










「久しぶりだね、お姉様」

「……九、九八二、号……?」

番外個体は一変して穏やかな笑みを湛える。
それは消えたはずの命。もう会えないはずの存在。
御坂美琴の目前で死んでしまったはずの個体。

「……何で、アンタが……?」

「どうしてお前が生きてるんだって? 酷いね」

「―――ッ、そうじゃなくて……っ!!」

死んだ者は生き返らない。
それは絶対だ。ならば今目の前にいる番外個体と名乗る少女はどういうことなのだろう。
そう、死んだら終わり。それは確かに間違いない。
如何にゲテモノの揃った学園都市でも、魔法と区別のつかないほどの科学に溢れたこの街でもそれは変わらない。

だが。逆に言えば死んでいない限りは問題ないのだ。
たとえ全身をミンチにされようとも、脳さえ残っていれば復元できてしまう。
要するにそういうことだった。

「そうだね。ミサカはやられた。デカイ車両に押し潰されて。
でもさ、あの時の一方通行って今みたいに細かくないよね?
いちいち相手がちゃんと死んだかなんて確認はしない。
ならぎりぎりのところで命を繋いだミサカがいてもおかしくはないと思わない?」

あり得るのかもしれない、と美琴は幻のように曖昧に揺れる思考の中で思った。
そこには多分に願望が含まれている。生きていてほしい、という。
けれどたしかに一方通行の戦い方は荒くて。そういう『取りこぼし』があっても不思議ではないと思ってしまう。
だから九九八二号は生きていた。生きているんだと。

「そうやってミサカは復元されて、“生き返った”。
お姉様のために、お姉様のためだけにね」

その言葉には黒い感情が込められていて、気付けば穏やかな笑顔は剥がれ落ちていた。
それだけで美琴は思い知らされる。九九八二号が復元されたのは、自分を更に苦しめるためだということに。
もはや簡単な計算すらも解けないほどに美琴の思考力は低下し、精神はボロボロで、心は砕けかけていた。
だからこそ。

御坂美琴は番外個体の言葉が全て嘘であることに気付けない。

美琴は気付かない。
番外個体は番外個体という新たな妹達であって、決して九九八二号などではないことに。

美琴は気付かない。
そもそも妹達を二万体、二万通りの戦闘シナリオで『殺害』することで成就するあの『実験』においてそんな『取りこぼし』など起きるはずがないことに。

美琴は気付かない。
そんなことがあれば『実験』のシナリオは崩れてしまうことに。だからこそ確実に一方通行と戦った妹達は死んでいることに。

美琴は気付かない。
たとえそうして生き残っていたとしても、その体が今に至るまで丁寧に保管などされているはずがないことに。

全ては美琴を破壊するためのテレスティーナ=木原=ライフラインの策略だった。
自分の手で美琴を痛めつけたいという欲望を我慢してでも、味あわせたい地獄だった。

「ミサカたちはアンタのせいで生み出された。別に生まれたくもなかったのに、無理矢理に生み出されてしまった。
挙句死んでも死なせてもらえずに強引に蘇生された。アンタを殺すためだけに生き返らせられた。
最終信号からの信号を遮断するために、皮膚を切り開いて『シート』や『セレクター』を埋め込まれた。
この左足だって一緒に再生されたのに、お姉様のためだけにまた切断された」

生まれたくもなかったのに、生み出されてしまった。
それはお前のせいだ。お前のせいでこんな目に遭っているんだ。
番外個体……美琴からすれば九九八二号から吐きかけられたそんな言葉は、既に限界だと思っていた心を更に深く抉る。
一緒に過ごして、一緒に食べて、一緒に笑って。
そんな妹達からかけられる拒絶と怨嗟。

「―――……ぅ、あ、ああぁぁあぁ、あああぁぁぁあぁあぁぁぁ……」

お願いだから。お願いだから、やめてくれ。
これ以上は、駄目だ。もう耐えられない。

「アンタさえいなければこんなことにはならなかった。
アンタがそんな選択をしなければこんなことにはならなかった。
アンタがDNAマップを渡さなければ。アンタがそんな大きな力を持っていなければ。
……アンタが生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。
生まれてくるにしてもこんな未来のない生まれ方じゃなかった」

番外個体の口から出てくる言葉は、一つ一つが鋭利な針のように美琴を突き刺す。
そのドロドロとしたものに塗れた言葉が耳を打ち、その悪意が衝撃となって美琴の全身を打ちのめす。
これが学園都市の『闇』。これが『木原』。美琴は、何も分かっていなかった。
どこかで決め付けがあったのかもしれない。
いくらこの街の連中とはいえ、そこまではしないだろうと。

過去幾度か垣間見た学園都市の『闇』。
それでも死者まで利用したりはしないと思っていたのかもしれない。
だが『木原』はそんな美琴の考えを平気で踏み越えていく。

「なんで妹達は死んだのに、アンタは生きてんの?」

九九八二号の仮面をつけた番外個体は悪意の弾丸を次々と撃ち出していく。

「ミサカたちじゃなくてアンタが死ねばよかったのに」

御坂美琴を完全に、文字通り完璧に破壊し尽すために。

「お姉様に分かる? 生まれた日には既に死ぬ日が決められていた気持ちが」

そこで、ついに美琴の精神力が根負けした。
もともと人間には防衛機能としてこういう時には心を閉じる能力がある。
それ以上の傷を受けないために、心を保つために。
美琴はそれを強靭な精神力によって無理矢理に抑え付けていた。

そこにあるのは莫大な自責の念と燃え上がるような自己嫌悪。
全て、何もかも全部が自分のせい。だから番外個体の言葉から耳を背けてはいけない。
第一位が妹達から親しげにされることが苦痛ならば、美琴は妹達に拒絶されることこそが苦痛。
一方通行に言ったように、つらい道から逃げてはいけない。
その一心で何とか抑えていた。

「だからミサカには糾弾する権利がある。このミサカを助けてくれなかったお姉様を殺すべき理由がある」

だがついに。ついに美琴の精神力が打ち負けて。
人体に備えられた防衛機能が働いた。
これ以上のダメージを防ぐための一番簡単かつ効果的な方法は何か?
そんなこと、決まっている。

番外個体を排除する。

「…………ッ!!」

いや、殺す必要はない。ただ気絶させるだけでいい。
美琴の体が本人の意思とはほとんど無関係に動く。
ばっ、と勢いよく右腕を振り上げる。
番外個体の言っていることは全て正しい。
美琴は九九八二号を助けられなかった。だから殺されても仕方ない。

それでも、もう擦り切れてズタズタに引き裂かれて瓦解した美琴の心と精神は、まともな判断能力を発揮できない。

自分は殺されれば、今生きている妹達が殺される。一万人全員が殺される。
つまり、一方通行と再会した時と同じだ。
誰も死なせずに場を収めることなど不可能。
突きつけられた選択肢は以下の二つ。

今いる妹達を守るために、番外個体を殺すか。
番外個体を殺さずに、一万人の妹達が殺されることを許容するか。

一方通行と再会した時と、同じだ。
もう、諦めるしかないのだ。
それ以外の道を探そうなどという気力はもうなかった。
御坂美琴は一四歳の女の子で、思春期を迎えた中学生でしかないのだから。
ここまで徹底的に追い詰められて、嬲られて、まともでいられるわけはない。

だからこそ。御坂美琴は半ば無意識に、振り上げた腕を番外個体へと振り下ろす。
気絶させるために。攻撃するために。妹達を傷つけるために。
四億ボルトの電撃だろうが、妹達の一人だろうが、所詮はオリジナルの劣化でしかない。
たかが雑魚の一匹二匹でどうにかできるわけがないのだ。学園都市第三位が本気になればその程度は容易い。

けれど。

「怖いよ。助けて。痛いのはもう嫌だ」

「―――……っ!!」

それだけ。たったそれだけの言葉で、精神が擦り切れたはずの御坂美琴の腕がピタッ、と止まった。
その茶色い二つの瞳からは流さないはずの透明な液体が零れている。
右腕を振り上げたまま固まってしまった美琴に、番外個体は容赦なく追い討ちをかける。

「何、その手? その手でミサカを攻撃するの?」

怯えた子供のようにポロポロと泣きながら震える美琴に、とどめを刺す。
とてもではないが一四歳の女の子に耐えられるような衝撃ではなかった。
いや、そもそもまともな人間の精神力で凌げるものではない。
御坂美琴という人間の性質を理解した上で、ダイレクトにその衝撃を叩きつけたのだから。

「いいよ、やればいい。そして殺せばいいよ。一万三一回ミサカを殺したみたいにね。
もう一万殺してるんだ、今さら一人くらい増えたってどうってことないでしょ?」

その言葉は、完全に美琴を叩きのめした。
もう美琴には番外個体に攻撃するなんて出来なくて。
ただ絶望した。何でもいい、何でもいいから何かに縋りつきたかった。

「―――う、ああ、あぁぁぁぁああぁぁぁああああ……!!」

目の前に蜘蛛の糸一本でも垂らされれば、躊躇なく掴むだろう。
徹底的に打ちのめされて、壊されて、傷つけられて、美琴の心は死んでいった。
もはや美琴の強靭な精神力は見る影もない。
歳相応、いや、それ以下。あまりにも狂気的な暴力は御坂美琴の心を破壊し尽くしてしまった。
どれだけ強い精神力を持っていようと、どれだけ強靭な心を持っていようと、どれだけ真っ直ぐな信念を持っていようと。
人間である限り、必ず限界はある。

そんな美琴に番外個体は態度を一変させ、優しく美琴の頬を手で撫でる。
そしていっそ不気味なほどに穏やかな声色で言った。

「ねえ。お姉様は一億もの負債に対して一円ずつ返していっている。
けどそれじゃ一生かかっても払い切れやしない。
一億を返す方法があるのならすぐにでも飛びつきたい。違う?」

美琴は泣きながら、嗚咽を漏らしながらただこくこくと頷いた。
それはあまりにも痛々しい光景で。完全に心を砕かれた少女の姿がそこにあった。

「あるよ。一億の負債を一括で返済する方法が」

それは、今の美琴にはあまりに魅力的な誘惑だった。

「―――な、っに、それ、教え、て」

言葉すらももうまともに紡げない。
番外個体は美琴の耳元で、甘い声で誘う。




「決まってるじゃない。お姉様はミサカたちを殺したんだから、今度はミサカがアンタを殺すんだよ。
それでいいよ。妹達でありお姉様のせいで死んだ九九八二号だったこのミサカが言うんだから。
―――ミサカのために死んで、お姉様」




それはある二人の男女を唆した蛇のような狡猾さ。
あまりにも甘く、魅力的で、思わず手を伸ばさずにはいられない甘美な誘惑。
極限の飢餓状態の人間の目の前にパンを置かれれば、理由もなく手を伸ばしてしまうのと同じ。

いつもの美琴ならば断ち切れるだろう。だが今の美琴は憔悴しきっている。
善も悪も一も二もプラスもマイナスも何も判断できないほどに、追い詰められている。
そんな中で美琴は精一杯考えた。残されたちっぽけな思考力をかき集めた。

(そもそも何であんな『実験』が行われたんだっけ)

お前のせいだ。

(あの子たちが作られたのは……)

お前の不注意のせいだ。

(この子が無理矢理に再生させられたのは)

お前がいたからだ。

(あの子たちが一万人も死んでしまったのは)

お前が原因だ。

(……あれ。全部、私なんだ)

結局これまで起きた全ての悲劇は。これから起きるあらゆる悲劇は。
全部御坂美琴がきっかけで、御坂美琴のせいで起きる。

生きていても周りに災厄しかもたらさない。
死んだ方が平和になる。少なくとも妹達はそれを望んでいる。
これまで妹達のお願いを聞いてやることはほとんどできていない。
一万人を助けることも、できなかった。

それでも。これは叶えてやれるんじゃないか。
自分が死ねば妹達の望みは叶えられる。

(―――なんだ、簡単じゃない)


死ねばいいんだ。


美琴が超能力者じゃなければ、美琴がこんな強い力を持たなければ。
美琴がDNAマップを渡さなければ。美琴が学園都市に来なければ。
美琴が選択を誤らなければ。……御坂美琴がこの世に生まれてこなければ。

(そうなら全部、上手くいってたんだ。この子がこんなに苦しめられることもなかったんだ)

だから、御坂美琴は今ここで死ぬべきだ。
自分は生きていてはいけない存在なのだ。
生まれるべきではなかった命なのだ。
世界からその死を望まれる人間なのだ。
……まるで、死神。

(私が死ねば、いいのか)

勝手に作られ、下らない『実験』に使い潰された妹達はどれほど生きた。
三ヶ月、四ヶ月? とにかくたった数ヶ月で死を迎えた。
それに比べて美琴はどうだろう。
自分は今、何歳だっけ?

(……ああ、そういえば一四だっけ)

道端に落ちているゴミと同じような感覚。
もはや今の美琴にとって自分の年齢などそれと同じくらいどうでもよかった。
とにかく一四歳だ。御坂美琴がこの世に生まれて『しまって』一四年が経った。

(あれ。何で私、こんなに長生きしてるんだろう)

たった数ヶ月で死んだ妹達と比べて、それはあまりに長い月日。
春が過ぎ夏を迎え、秋が去って冬が来る。そんな春夏秋冬を一四度も過ごした。
誕生日は一四回も迎えたし、幼稚園は卒園して小学校も卒業し、中学校に入学もした。

(もう、十分だよね)

もう十分生きた。

一四年も人生を過ごした。

もう、いい。これ以上生きていたいとは思わない。

誕生日も、正月も、クリスマスも、夏休みも、節分も、七夕も。
全部全部経験した。一四回も経験した。
もういい。一五度目の誕生日なんていらない。七夕も正月も一四回で十分だ。

(長生きした)

一四年も生きた。

だからこそ。

崩れて壊れて擦り切れた少女は。
学園都市の悪意と『木原』の狂気が、御坂美琴に最悪の決断を下させた。













「――――――分かった。アンタに殺されるなら、むしろ本望よ」
















結局、御坂美琴は学園都市の悪意に打ちのめされて。
『木原』には、勝てなかった。





「よく言ったね。それでこそミサカのお姉様だよ」

醜く顔を歪め、番外個体は美琴の顔を殴りつける。
美琴は抵抗しない。それどころか完全に全身から力を抜いており、だらりと四肢は投げ出されている。
番外個体はそんな美琴の顔を、肩を、胸を、腹を、足を。
容赦なく殴りつけて、蹴り飛ばして、踏みつけていく。




御坂美琴の心は完全に死んでいた。













「くくっ、何が足掻くだよ廃人野郎が。テメェがんなことしても無駄に終わるに決まってんだろ。
ちょっとばかし盛り上げてやるからよ、もっとイイ面見せてくれや」

木原数多が取り出したのは小型の拳銃だった。
何の変哲もないただの銃。指先一つで人を殺せる凶悪な武器。だからこそ、

(……何考えてンだコイツ)

疑問を感じざるを得ない。
当たり前に人を殺せる武器だからこそ、撃たれればそれはそのまま木原本人へと跳ね返るだろう。
『反射』。それは鉛弾一つでどうにかなるものではない。
あれを撃てば傷つくのは一方通行ではなく木原で、けれど何か拭いきれない嫌な予感。

改めて銃身を観察した一方通行は気付いた。
黒光りするそこに『Made_in_KIHARA』という文字が刻印されていることに。

そもそもの話。
一方通行を能力開発した張本人である木原数多が。誰よりも第一位を知り尽くす木原が。
拳を引き戻すという特殊な術を編み出したり、演算を的確に乱す音波を用意していた木原が。
一方通行に向けて銃口を向ける意味を、理解していないなんてことがあり得るか?

(―――まさか)

そう思った時には既に引き金は引かれていた。
パァン!! という発砲音。対する一方通行は能力を全開にし、これをぎりぎりのところで回避する。
そう、“回避”だ。木原がこの後に及んで銃を取り出した意味に感づいた以上食らうわけにはいかない。
大きく身を捻る。銃弾は外されてその後ろにある壁にめり込んだが、同時に一方通行の体勢も不安定な形に崩れる。

そしてそれを木原は見逃さない。
ほとんど一瞬で距離をゼロにまで詰め、その無防備に晒された顎をつま先でアッパーのように蹴り上げる。
あまりにも動きが滑らかすぎる。やはり一方通行の行動を先読みできるという事実が、圧倒的に木原を優位な立場へと押し上げていた。

「どうしたよ一方通行、ずいぶん無様じゃねぇか。これじゃ全然面白くねぇよ、もっと本気でやってくれや」

もはや何度目か分からない。床に倒れ込んだ一方通行に木原はその冷たい銃口を向けて引き金を引く。
一方通行はそのままごろごろと床を転がる形でそれを回避し、ベクトルを操作することで不自然な挙動で一瞬で立ち上がった。
だがその瞬間に左肩に鈍い衝撃。今までの一撃とは違う、鈍器で殴られたような感覚だった。

「がァァァあああああ!!」

「あっれぇー、それとも本気でやってこの様だったかなぁ!?
ごっめんねぇ、だったら悪いこと言ったなぁ。許してくれや。ぎゃははははは!!」

木原の手には拳銃。それで殴られたのだ、と一方通行は瞬時に理解する。
どうやら木原数多の『反射』をすり抜ける術は拳だけではなく、武器でも可能らしい。
だが一方通行は今度は倒れない。力ずくで痛みを押し留め、反撃する。
咄嗟に放った右手が木原の持つ銃身に触れた。その瞬間、拳銃がいくつものパーツに分かれてバラバラに砕け散った。
これで危険な武器は潰した。木原はそれに驚いたのか動きが止まっている。

(これで終わりだクソったれ!!)

その隙をついて一方通行は左の毒手を突き立てる。
それで終わりだ。一方通行の能力はありとあらゆる『向き』―――ベクトルを操ること。
毛細血管から血流を、体表面から生体電気の流れを逆流させれば木原数多は文字通り弾け飛ぶ。

「あのよ、まだ分かってねぇみたいだからはっきり言ってやろうか?
無駄なんだよ、俺に勝とうなんて。テメェなんかがどう頑張ったって」

だがそもそも木原の顔には焦りがない。
一瞬見せたはずの動揺はいつの間にか消えていて、それが演技であったことを理解させた。
腹に重い膝蹴り。思わずその膝を基点にして体をくの字に折り曲げると、その背中を思い切り殴打される。

「あの銃はブラフだバーカ。『反射』対策も何もねぇ、ただの銃だ」

「な……ッ」

つまりもし一方通行があの銃弾を受けていれば。
いつものように『反射』していれば。
そのまま木原に風穴を空けられていたということか。

だが一方通行はすぐにその可能性を否定する。
圧倒的優位に立つ木原がそんな分の悪い賭けをするはずがない。
木原数多は分かっていたのだ。『反射』を破られ、風を封じられ、動きを先読みされ。
その状況でいかにもと言った風に木原印の銃を取り出せば必ず一方通行は警戒して避ける、と。
一方通行を知り尽くしているからこその絶対の自信。一〇〇パーセントの確信を持っていたのだろう。

「ひゃは、はははははははははは!! ホンットに情けねぇな一方通行!!
何だよそのザマァ!! 超電磁砲も災難だねぇ。テメェの罪を押し付けられてよぉ」

「どの口が、ほざきやがる……。だったらあいつを俺に差し向けりゃよかっただろォが。
そォするべきだったンだ。それをオリジナルに押し付けたのはオマエだろォが!!」

木原は答えない。モニターに映っている美琴の惨状を見て、ニヤニヤと笑っていた。
御坂美琴はボロボロにされていた。肉体的な意味だけではなく、何よりも精神的に責められている。
一方通行や垣根が危惧していたことが起こってしまった。
しかもそれがどう考えても一方通行に向けられるべきものだということが一層苛立ちを掻き立てる。

『そうだね。ミサカはやられた。デカイ車両に押し潰されて。
でもさ、あの時の一方通行って今みたいに細かくないよね?
いちいち相手がちゃんと死んだかなんて確認はしない。
ならぎりぎりのところで命を繋いだミサカがいてもおかしくはないと思わない?』

モニターの中の番外個体が自らの正体を語る。
自分は九九八二号で、学園都市によって復活させられた個体なのだと。

「……馬鹿げてやがる。ンなことあり得るわけねェだろォが」

『絶対能力進化計画』は一方通行が二万通りの戦闘シナリオで、二万体の妹達を『殺害』することで成就するもの。
かつての第一次実験―――初めての『実験』の時も妹達が死ぬまで戦えと指示されたのをはっきりと覚えている。
取り逃がしなどあってはならない。だからこそ、一方通行は確実に殺してきた。
たしかに番外個体の言う通り当時の一方通行の戦い方は荒かったが、そこはきっちりとこなしていた。

『そうやってミサカは復元されて、“生き返った”。
お姉様のために、お姉様のためだけにね』

だから、あり得るわけがない。
九九八二号といえば途中で御坂美琴が介入した時だ。
その出来事が記憶に強く残っていたため覚えている。
一方通行は九九八二号を車体で押し潰した。確実に死ぬように計算した。
なのに番外個体がこう言っているということは、

「木原、オマエ……ッ!!」

「おお、怖ぇ怖ぇ。んな目で睨むなよ、俺じゃねぇっつうの。
テレスティーナ=木原=ライフラインっつう超電磁砲に復讐したがってる別の『木原』のやり方だよ」

ま、面白いからいいけど。
そう楽しそうに呟いた木原に一方通行の頭が沸騰しそうになる。
この男に殺意を感じるのはこれで何度目だっただろうか。

『アンタさえいなければこんなことにはならなかった。
アンタがそんな選択をしなければこんなことにはならなかった。
アンタがDNAマップを渡さなければ。アンタがそんな大きな力を持っていなければ。
……アンタが生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。
生まれてくるにしてもこんな未来のない生まれ方じゃなかった』

(だから……っ、それは全部俺に向けるべき言葉だっつってンだよ!!)

『だからミサカには糾弾する権利がある。このミサカを助けてくれなかったお姉様を殺すべき理由がある』

(違げェンだ!! オマエたち妹達が糾弾するべきは俺なンだよ!!
必死に足掻いて妹達のために命も捨てようとしたオリジナルと、自分の意思で一万の妹達を殺した俺。
どっちが悪いかなンて、どっちが責められるべきかなンてガキでも分かンだろォがッ!!)

しかもそのために九九八二号だなんて嘘まで吐いて。
そうまでしてあの少女を苦しめたいのか。

「いい顔するじゃねぇか一方通行。超電磁砲だって大喜びだ」

身を焼くような怒りに任せて一方通行は攻撃を仕掛ける。
が、木原は踊るような軽快な動きであっさりと回避し、カウンターを顔面に入れられる。

「ちょっと大人しくしてろ。今いいとこだろ?」

悪意の透けて見える顔で木原は笑う。
自分も相当トンでいる自覚があったが、それにしてもこいつら『木原』はレベルが違う。
人格破綻者という言葉はこの一族にこそ使うべきだと一方通行は本気で思った。

『ねえ。お姉様は一億もの負債に対して一円ずつ返していっている。
けどそれじゃ一生かかっても払い切れやしない。
一億を返す方法があるのならすぐにでも飛びつきたい。違う?』

「おお?」

『あるよ。一億の負債を一括で返済する方法が』

「おいおいおいおい。まさか山場かぁ!?」

「―――ッ」

何となく、予測できてしまった。
番外個体が何と言うつもりなのか。そして美琴がどう答えるのかまで。

『―――な、っに、それ、教え、て』

間違いであってほしいと心から思った。そう思わずにはいられなかった。

『決まってるじゃない。お姉様はミサカたちを殺したんだから、今度はミサカがアンタを殺すんだよ。
それでいいよ。妹達でありお姉様のせいで死んだ九九八二号だったこのミサカが言うんだから。
―――ミサカのために死んで、お姉様』

だが現実は非情だった。予想は的中した。的中してしまった。
御坂美琴は答えない。何か逡巡しているようにも見える。
だがその顔を見ればどんなことを考えているかなど、一目で分かってしまった。

「―――おい、待て、ふざけンなよ」

頼むから、今度こそ予想が外れてほしい。
それでもあまりにもボロボロにされた美琴を見ていると、どうしても最悪の可能性が頭をよぎる。
御坂美琴という人間だからこそその選択をしてしまう危険性が高かった。

しばしの静謐。
一方通行も木原数多も、どちらも言葉を発さない。
双方共に食い入るようにモニターの中の御坂美琴を見つめていた。
もっとも二人の浮かべている表情は完全に真逆のものであるが。

どれほど静寂が続いただろうか、その沈黙は美琴が言葉を紡ぐことによって破られる。
美琴の唇が動く。番外個体の言葉に対する返事が紡がれる。
一方通行は己の心臓が破裂しそうなほどに早鐘を打っていることを自覚した。
唇は乾いていて、その聴覚は極限まで研ぎ澄まされている。今なら一キロ先の物音でさえ聞き取れそうだった。


『――――――分かった。アンタに殺されるなら、むしろ本望よ』


獣のように。世界の果てまで届くほどに咆哮しそうになった。
それを押し留められたのが奇跡だとさえ思った。
あまりにも美琴の答えが予想通りすぎて、砕けるほどに歯軋りする。
そこにあるのは憤怒に屈辱、絶望に悲哀。
結局、御坂美琴はここまで壊されてしまった。

だが。そいつは、違った。
その男は、木原数多は。笑っていた。
御坂美琴が、一人の少女が徹底的に蹂躙され精神を犯しつくされ壊れたのを見て。
限界を超えた重圧に押し潰された末のその言葉に、楽しそうに、愉しそうに、タノシソウに、笑って、嗤っていた。

「……ぎゃっはははははははははははははははははははははっ!!!!!!
おいおいマジかよおい!! 聞いたかよ一方通行ぁ!! あひゃはははははは!!
やっべぇ、俺死ぬんじゃねぇか!? 笑いすぎて死ぬっつぅの!!
本望だってよ、息ができねぇよマジ!! ははははははははははは!!」

こいつは自分とは違う世界の住人なのではないかと、一方通行は思った。
木原数多は顔の形が変形しそうなほどに笑う。
一人の少女の終わりを祝福して笑う。

「くくく、超能力者ってのはギャグのセンスもレベル5だったのかぁ!?
芸能人でも目指してんのか超電磁砲は!? センスありすぎだろおい!!
間違いねぇよ、超電磁砲は芸能界で成功するって!! 俺が約束してやる!!
笑い死にさせるつもりかっての!! やべぇ、俺どうやっても超電磁砲に勝てないんじゃねぇか!?」

狂ったように、壊れたように、弾けたように木原数多は笑う。
御坂美琴の全てがこの男の薄汚い言葉で汚されていく。
あまりの衝撃のせいかそれは一拍遅れてやってきて、そして爆発した。

「アアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!!!!
こっ、殺すッ!! オマエは殺す、殺してやるッ!! 絶対に殺す!!
逃がさねェ、生まれたことを後悔させてやる!! 死んでも殺す、オマエの痕跡髪一本すら残さねェッ!!」

何か決定的なものが弾けた気がした。
唇は勝手に動き、ろくに言葉としてまとまってもいない音が吐き出される。
他者に伝達するために意味内容が形に変換される前。
生の感情が爆発していた。こうして少しでも吐き出さなければ、いや吐き出していてもどうにかなりそうだった。
一方通行は血の涙を流し、宣言するように、もう何度も口にしたその言葉を叫ぶ。

「オマエだけは絶対に殺すッ!!」

投下の終了に、人の脳を使う必要なんてあるのかしらね?

戦いもいよいよ佳境といったところでしょうか

次は軍覇サイドから

    次回予告




「ほーら見ろ。やっぱり根性論なんかでどうにかできるわけないじゃん」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――兵頭真紀




「『表』に行くのはいいが、その温かさに馴染めずまた堕ちるのが怖いんだろ。
一度持った希望を失ってより強い絶望を味わうのが怖いんだろう」
学園都市第七位の超能力者(レベル5)―――削板軍覇




「まあここら辺で死んでもらいましょうか。可愛いジョシコーセイに殺されるなら本望じゃないですかにゃ?」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――相園美央




「分かっちゃいたけど、ほーんとにずいぶん劣化してんだね。
ムカついて仕方ないけど、本物の第二位は比較にならないほど強かった」
新生『アイテム』構成員・学園都市第四位の超能力者(レベル5)―――麦野沈利




「結局さ、慣れてないんだよね。第二位の『未元物質』製って言うだけあって確かにそれは強力だよ。
でもそれを扱う肝心のアンタらが全く使いこなせてない。それじゃ宝の持ち腐れってヤツよ」
新生『アイテム』構成員―――フレンダ=セイヴェルン




「大丈夫だよ、ふれんだ。私はそんな風に調子に乗って失敗するふれんだを応援してる」
新生『アイテム』構成員・『能力追跡(AIMストーカー)』の大能力者(レベル4)―――滝壺理后




「超こんなはずじゃありませんでしたか?」
新生『アイテム』構成員・『窒素装甲(オフェンスアーマー)』の大能力者(レベル4)―――絹旗最愛




「おやおや。第三位が死んだらあなたはどうなるんでしょうね?
中途半端に得た希望が摘み取られた時、あなたがどこまで堕ちるのか。これは見物ですね」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理




「……や、めろ……っ!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督

しまった、ミスった
次回予告に以下が抜けていました




「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! 馬鹿じゃねえの!? 馬ッ鹿じゃねえのぉ!?
すげぇ、マジで抵抗しないよこいつ!! ちょーすげぇ!! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
いいの!? ねぇお姉様ぁ、アンタ最高だよ!! ほら、ほらぁ!!
アンタなんて足だけで十分だよ!! 抵抗しないと死んじゃうよ?」
『妹達(シスターズ)』・第三次製造計画(サードシーズン)で作られた美琴のクローン―――番外個体(ミサカワースト)




『ぎゃっは、ははっ、はははははははっ!!!!!! 笑えるなぁ、えぇ? 超電磁砲。全部無駄だったんだよ!!』
御坂美琴への復讐を企む『木原』一族の一人―――テレスティーナ=木原=ライフライン




(もう、何も分からないや。もう、何も―――……。
私はもう、空っぽだから―――……)
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴

木原のターンが長いな

この状況で上条さんが出ないってホントに空気になってんだなぁ...
なんかすごいことなっとるΣ(・□・;)

美琴、生きろ。 超生きろ。

科学の発展に投下は付き物だよ

>>146
基本的にはずっと木原のターンです

>>159
美琴「生きねば」

ここからが反撃の時。

あたりに独特の臭いが立ち込める。
ナパーム。元々は、ナフテン酸とパルミチン酸を混合したアルミニウム塩を指す。
『白鰐部隊』では戦いの際によく使用されるもので、極めて広範囲を焼き払い、破壊することが可能だ。
そして異変に削板軍覇が気付いた時にはもう遅い。

「グッバイ、根性馬鹿。次はもうちょっと優秀な頭の持ち主に生まれ変われるといいね」

夜明細魚の、和軸子雛の、相園美央の、坂状友莉の、兵頭真紀の『油性兵装』が容赦なく起爆する。

熱風とガスが吹き乱れた。『白鰐部隊』によるナパームがあっという間に酸素を食らい尽くし、この空間を炎で彩った。
そしてそれとほぼ同時にゾン!! と壁に閃光が走り、バラバラと壁が破壊されていく。
ナパームによるものではない。一酸化炭素を始めとする有毒物質の充満するこの空間に、新鮮な酸素を引き入れるためだ。
当たり前だが彼女たちは自分の攻撃で自身を殺すような間抜けなことはしない。

急激に、大量に入り込んだ空気が有毒気体を希釈させていく。
同時にそれにより炎が更に勢いを得て燃え盛るが、ズァ!!と吹き荒ぶ烈風がそれをあっさりと吹き消してしまう。
それは『白鰐部隊』によるものではない。この場において考えられるのは一つだけ。
炎の向こうに陽炎の如く揺らめく人影が一つ。そしてその炎さえもあっさりと吹き消されてしまった。

「なんでー。生きてやがんの。折角決め台詞まで考えてたのにさ」

「さっきのが決め台詞だったんじゃないの?」

「あれとは別にもう一個、一度言ってみたいのがあったんだよ~」

「ほら、馬鹿はしぶといのがお決まりスから。多分体育以外何もできないでしょうし」

彼女たちの高火力ナパーム攻撃に耐えられる人間などまず存在しない。
だが逆説、少数ではあるがそれを凌げる人間も学園都市には存在する。
たとえば学園都市の頂点に立つ七人など。“この程度”ならば力技でどうとでもしてしまうのが超能力者たる由縁。
学園都市第七位の超能力者、削板軍覇はナパームによって荒れ果てた空間にしっかりと立っていた。

両腕を顔の前でクロスさせ、分かりやすい防御体勢を取っている。
それでも流石に無傷ではいられなかったのか体のあちこちに火傷を始めとする傷がついている。
しかしそれだけだった。ナンバーセブンは決して折れず曲がらず、強い意思の込められた瞳で五人を射抜く。

「……つかさ、あなたどうやって私たちの攻撃を防ぎました?
見てたんですが全然分からなかったんですが」

「ただ熱き根性を乗せてガードしただけだぞ?」

当然のことながら、腕で顔を庇ったくらいであれを凌げるはずがない。
腕もろとも全身吹き飛ばされるのがオチだ。
だが実際問題削板はそれに耐え切っているのだから、そこには第七位の誇る能力が働いているのは間違いないのだが……。

「……もういいや。聞いた私が馬鹿だったようです」

本人の言うところの「超すごいガード」。
相園はさっさと理解を放棄した。彼女たちはこいつは想像を遥かに超える馬鹿かもしれないと本気で思っていた。

「もう攻撃は終わりか? なら今度はこっちから行くぞ!!」

ナンバーセブンが拳を前に突き出す。
それだけの仕草で目に見えぬ衝撃波が繰り出される。
念動砲弾。削板風に言ってしまえば「すごいパンチ」である。

「それなりにマジな戦いのはずなのにこいつが相手だとどこかギャグテイストが入っちまうぜ。第二位との戦いが懐かしい」

「ともあれアンタのそれは言ったように現象としては念動力と変わらない。だから対処も可能」

ひらりと軽快にステップを踏むようにして回避する少女たち。
削板はそれを見越していたのか、かわした直後の隙を突くように一人に突撃する。
そしてその狙い通り回避の直後に生まれた僅かな隙を突かれたことで、削板の攻撃はヒットするように見えた。
だが逆にその隙を突くようにして残りの四人が一斉にあらゆる方角から襲い掛かる。

「ぬぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」

「戦いってのはターン制じゃあないんだぜ。TCGじゃねえんだっつの!!」

黒い刃を生成し、削板を射殺さんとその黒光する鋭利な切っ先を突き出す。
人体だろうが車だろうが関係なく切断し穴を穿つそれ。
まともに食らえばダメージは免れない。
しかし削板は見た目に似合わず器用に体を動かし、二本の黒刃を両腕と両脇に挟むようにして受け止める。
更に残り二つの切っ先をナンバーセブンは両手で“受け止めた”。

「マジかよこいつ!?」

当然彼女たちの刃は人体を切り裂くことから分かるように、驚異的な切れ味を持っている。
その刃を手で掴めば逆にその五指が落ちるのが道理。
にも関わらず削板の指は血が滲んでいるものの、しっかりと押さえ込んでいた。

「やってることがっていうよりこいつの勢いがとんでもねぇな!!」

「だぁらぁぁぁっしゃあああああああ!!!!!! そうりゃあああああああ!!!!!!」

ナンバーセブンは脇に挟んで受け止めた二人を蹴り飛ばすと、手で掴んだ二人をそのままぶんぶんと振り回して放り投げる。
しかし投げ飛ばされた友莉と子雛も空中で器用に体勢を整え、そのまま壁に綺麗に着地する。

「こ、この馬鹿め。何だこいつの暑苦しさは。そういう能力なんじゃないのか」

「これ以上こんな馬鹿に付き合ってられるか。さっさとケリ着けるよ!!」

「らじゃーでーす」

五人の少女の意思に応じて周辺のオイルが一斉に蠢く。
何本もの黒い帯が生み出され、その端が空中通路や壁や天井に次々と固定されていく。
中央の部分がU字に折られおり、見ようによっては数十メートルサイズの得体の知れない花や巨大なパチンコにも見えた。
だが垣根帝督にも見せたそれは実態は全く違う。

「おおっ!! なんだ、すげぇな!!」

体は動くのだから妨害もできたはずだが、削板は魅入られるようにそれを黙って見ていた。
おそらくはこれが少女たちの切り札の一つであると理解した上で。

「『複合手順加算式直射弾道砲(マルチフェイズストレートハンマー)』。
ゴムの反発力、可燃性オイルの爆発力、超高速のプロペラなんかを組み合わせた高速砲弾よ」

「…………?」

「もともとは八人ワンセットで作るもんだから多少の威力減退は避けられないだろうけど、この際仕方ない。
複数の方角から超音速の大質量砲弾を放って確実に仕留める、第三位・第四位用の対抗手段。
当然七人の超能力者と戦うことを想定する『白鰐部隊』だから第七位用の戦術もあるけど、それは条件的に残念だけど今は使えない。
……けど、そんなことは関係ない。『複合手順加算式直射弾道砲』ならどこへ逃げたって確実に撃ち抜ける」

ミヂミヂミヂミヂ!! と分厚いゴムの軋む音が響く。
薄く笑いながら、冷たい声で真紀は告げる。

「既に結構ガタが来てるようだけど、お得意の根性論でどうにかしてみせろ。
それができなきゃ大人しくここで死ね」

削板が何か言葉を返すのを待つこともせず。
ただ冷徹に、機械的に、五人の『白鰐部隊』はその砲弾の戒めを解く。
ギチギチと十分に力を蓄えた弾丸は音さえ置き去りにして猛烈にナンバーセブンへと迫る。
ズボァァアアア!! と。耳を劈くような轟音を伴って、圧倒的な衝撃がもたらされた。

『複合手順加算式直射弾道砲』。
個としての超能力者を群としての大能力者が上回るために開発された攻撃方法。
その実態は意図的に空気抵抗を強め、途中で砲弾を分解させることで面としての爆発的な衝撃を叩きつける。
その圧倒的な範囲が回避という選択肢を潰し、しかしその派手さとは裏腹に一撃で敵を仕留めるためのものではない。
『複合手順加算式直射弾道砲』に超能力者を一撃で絶命させるほどの性能はない。

ただ部分的にでも当てて標的の体力を削り取り、まずは素早い動きを封じる。
その後は連射。ひたすらに連射。分かりやすいほどのワンパターン、その単純動作の繰り返し。
地味で、安定して、そして確実に標的を始末する戦法。
徐々に、少しずつ標的の体力は削られて追い詰められていく。いずれは崖の端にまで追いやられ、それ以上下がれなくなる。
そうなれば後はその息の根を止めるだけ。

そしてその作戦通りに削板軍覇は追い詰められ始めていた。
爆発的な衝撃から現れたのは相変わらず理解のできない方法で攻撃を凌ぎきったナンバーセブンの姿。
しかしもともと垣根に叩きのめされた時の傷が効いているのもあり、その頑丈すぎる体に隠しきれないダメージがあった。
あまりにも想定通り。並の能力者程度なら四肢をもぎ背景ごとすり潰せる攻撃ではあるが、超能力者相手ではこれでいいのだ。

「ゲホッ、ふぅ……。何だ今の? すげぇ根性だったな」

「ほーら見ろ。やっぱり根性論なんかでどうにかできるわけないじゃん」

「やっぱそうやって平気そうにしてられるあたり、第七位も大概化け物だよね。
けどもう駄目だよ。後はひたすらに連射するだけで全ては終わる」

ギチギチと砲弾が力を蓄え、そして射出。
その砲弾は途中で自己分解し、面としての巨大な衝撃波となってナンバーセブンの全身を容赦なく打つ。
削板はただそれに耐えることしかできなかった。
その圧倒的な攻撃範囲が回避という選択肢を許容しない。

おそらく削板軍覇は選択を誤ったのだ。
回避するのなら初撃。それを確実に回避するべきだった。
初撃を食らった時点で削板の機動力は削られ、二撃目の回避の難易度を吊り上げる。
そして二撃目のダメージが三撃目を確実に食らわせる手伝いをする。
それが『白鰐部隊』の理詰めで確実で安定したワンパターンの繰り返し。

何度も、何度も、一切の加減なく『複合手順加算式直射弾道砲』が放たれる。
まずナンバーセブンの体は垣根との戦いで負ったダメージが尾を引いている。
そしてナパームによる攻撃など、その体力は確実に削られていた。
対して『白鰐部隊』側にもダメージはあるものの、削板のものよりは確実に少ない。
超電磁砲すら受け止められる彼女たちに生半可な攻撃は通用しない。

そしておそらくこの場で一番削板を縛っているものはその能力の質だ。
たとえばこれが御坂美琴や垣根帝督ならば、その多様な応用力を生かして突破口を探ることができた。
だが削板の能力には第三位以上に見られる応用力はない。
勿論だからといって削板の能力が劣悪というわけではないが、少なくともこの状況においてはそれが致命的とも言えた。

「ホントーにしぶといスね。いい加減死んどいてほしいところッスけど。脳筋は伊達じゃないみたいスねぇ」

「つーかさ、あなたは何のためにそこまでしてるの? そもそも何しにこんなとこまで来たわけ?」

何発目だか分からない『複合手順加算式直射弾道砲』を撃ったところで、細魚と真紀がそんなことを言った。
油断すると折れそうになる膝をまさに根性で支えながら、削板軍覇は答えた。

「第二位や雲川に頼まれちまったからな。
それによ、お前たちをそのままにしとくわけにもいかねーだろ」

「はぁ? 何言ってんだこいつ。馬鹿を更にこじらせた?」

「たしかに俺は頭が良くない。他の超能力者はみんなすげぇ頭が良いらしいが、俺は体育以外は成績もあまり振るわねぇ!!
だがな、それでも分かることはある。先生が言ってたんだよ、自分に注意してくれる人がいる内が花だって」

「要するに?」

「お前らを引き上げようと思う人間がいる内に、その手を掴め。
たしかにお前たちの世界はドロドロとしていて深い『闇』なんだろうさ。
でも誰かが手を伸ばしてくれりゃ、たった一本の糸が垂らされればそれを掴んで引き上げてもらうことはできるはずだ。
言っただろ、お前たちは『こっち』の味を一度知るべきだ。だからオレがその糸を垂らしてやる。
引き上げる役目は俺じゃない他の誰かだろうがな」

返事は『複合手順加算式直射弾道砲』という暴力となってすぐに返ってきた。
圧倒的な衝撃波に襲われながらも、尚ナンバーセブンは倒れない。

「下らない綺麗事を言うね。私たち『白鰐部隊』に向かって」

「大体さ、何も知らないくせに何偉そうに語ってんの?
一度旨味を知るとこれまでのもんはもう食べられなくなるしね」

「……要するに、お前たちは怖いのか」

「はい?」

「『表』に行くのはいいが、その温かさに馴染めずまた堕ちるのが怖いんだろ。
一度持った希望を失ってより強い絶望を味わうのが怖いんだろう」

「…………」

返事はまたも分かりやすい『複合手順加算式直射弾道砲』という名の暴力となって返される。
何発も何発も食らって、流石のナンバーセブンも限界が近づいていた。
『白鰐部隊』の地味で安定した確実な戦術が功を奏し始めているのだ。
だがその小さく震える膝とは対照的に、その双眸に光るのは熱く燃えるような強い意思。
絶対に曲がることのない、不屈の闘志だった。

「やってみろよ。文句も何もやってみてから言え。
足掻いて、努力して、根性出して。それでも駄目だったなら、また堕ちそうになったなら。
何度だってオレがまた手を伸ばしてやる。だからお前たちは安心して目の前の光を掴んでいい」

「不愉快だね。くたばれ脳筋」

「偉そうに上から目線でぺちゃくちゃ垂れ流しやがって。私たちはそこまで『人間』ってもんを持ってない」

「そうか。ならそれでいい、オレが一人で勝手にお前ら全員連れ戻す!!」

「細魚、美央、子雛、友莉」

ギラついた瞳で真っ直ぐに射抜く削板軍覇に、真紀が仲間たちの名前を呼ぶ。
一見威圧的に見えて、会話を遮断するのはいつだって不利な側のすることだ。
それ以上相手の言葉を聞きたくない。何も言い返せない。
だから無理矢理に暴力で黙らせる。

「着実に削り取って血の海に沈める。曖昧な希望が入り込む余地はないよ」

「まあここら辺で死んでもらいましょうか。可愛いジョシコーセイに殺されるなら本望じゃないですかにゃ?」

既に何度も放たれた『複合手順加算式直射弾道砲』が真紀と相園を中心としてまたもギチギチと力を蓄える。
安定したワンパターン。その繰り返しが確実に標的を押し流す。

「……根性で何とかしてみせろ、って言ったよなお前。いいぜ、見せてやるよ、本物の根性ってヤツを!!」

「…………」

彼女たちはまともに取り合わなかった。
ズボァァアアア!! と施設の一部を丸ごと揺るがすほどの轟音が炸裂した。
淀んでいた空気が攪拌される。だがそれは巨大な面としての衝撃波が全てを薙ぎ払ったことによるものではない。
ナンバーセブンが念動砲弾で砲台に利用されている分厚いゴム板を固定している、空中通路や床、天井などを破壊したのだ。
強大な力を蓄えたゴム板が支えを一つ失えば、そのゴム板は金属の重たい破片を携えたままもう片方の支点へ向かって飛んでいくのは自明の理。

つまり。砲弾を構えていた兵頭真紀と相園美央に向かって複数の錘が殺到する。

「「……は?」」

二人がそんな声をあげる。
その直後に自身の『複合手順加算式直射弾道砲』が圧倒的速度で突き刺さる。

「「がァァァあああああああああああ!?」」

『油性兵装』による強固な装甲がなければ呆気なく絶命していただろう。
真紀と相園は派手に吹き飛び、強かに壁に叩きつけられそのまま力なくずるずると崩れ落ちる。

「、っの野郎……ッ!!」

何らかの力で全身を包んだ削板はそのまま進む。
一歩、二歩で絶対的な距離をあっという間にゼロにまで詰めていく。
対する友莉、細魚、子雛は予想外の事態に戸惑い反応が遅れた。
そのディレイは致命的だった。二発目の念動砲弾を食らった子雛は再度錐揉み回転しながら吹き飛ばされる。
今度こそ、子雛のダメージは甚大だった。的確に急所を突かれた子雛は叫ぶこともできずに意識を落とす。

「たしかにオレは馬鹿だけどな。あれだけ考える時間があれば、一つくらい対策も思いつくさ」

削板はただ一方的に削られていたわけではない。
それを利用して必死に打開策を探っていたのだ。
突然の戦況の変化。唐突に傾きを始めた天秤に二人は動揺を隠せない。

「クッソ!! 行くよ細魚!!」

「チッ!!」

半ばヤケクソ気味に突っ込んでくる友莉と細魚。
だがそんな彼女たちは隙だらけで、削板にとっては格好の獲物でしかなかった。
あっさりとその攻撃を受け流し、右手と左手でそれぞれを捕らえるとそのまま振り回し、二人を互いに激突させる。

「ごっ、ふ!?」

「ぐぁっ!?」

続けて彼女たちを思い切り投げ飛ばし、追い討ちに念動砲弾を放つ。
ここまですれば流石に彼女たちも動けなくなる。
意識はあるようだがもはや立ち上がることすらできなかった。
これで全滅かと思われたが、『複合手順加算式直射弾道砲』により薙ぎ払われた真紀と相園が立ち上がる。
だがもはや勝敗は明らかだった。立ち上がることも出来ぬ三人に、相園と真紀も膝がガクガクと震えている。

「これが根性だ。お前らも『表』に来ればきっと分かるさ。人間誰しも『絶対負けちゃいけねぇ時』ってのがあるもんだ」

「これだけ言っても分からねえのかよ!? 私たち『白鰐部隊』にそんな人間性はねぇんですよ!!」

「大体私たちがどうなろうとあなたには関係ないでしょ!! 何をそんなに拘ってんだよ!!」

その叫び声は削板には心の悲鳴に聞こえた。表面の悪意だけを読み取るのではない。
本当は助けてほしいのに助けの求め方すら分からない。思い込みもあるかもしれないが、少なくとも削板はそんな印象を受けた。
そして削板軍覇は笑う。まだ戦いは終わっていないのに、爽やかに笑った。

「もしお前たちが本当にどうしようもない外道だったら、もしかしたらここで殺してたかもしれないな。
だがお前たちには助かろうという気持ちがあるように見えるぞ。ただやり方が分からないだけだ。
……だから、ここら辺で倒れとけ。その方がお前らのためだ」

相園美央と兵頭真紀は答えない。
ただ最後の力を振り絞って足元のオイルを操作・点火し、爆発的な推進力を得て高速で削板へと突撃する。
その手には長大になりすぎて刃というよりはもはや槍と形容すべき黒い武器。


「曲がらず腐らず正面を行く男は、たとえ赤の他人でも困ってる女の子のために戦うことができるんだ!!」


人影は三つ。一瞬の踊るような交錯。


倒れた人影は二つ。もう一つは倒れない。決して、倒れない。


「ふぅー……」

深く息を吐くと、勝者はどかっとその場に座り込む。

「流石に、疲れたぞーっ!!」

何だかんだで削板のダメージは甚大だ。
しかしそれを忘れさせるような大声をあげると、削板は満足げに笑う。
まだ第二位は何かと戦っているのだろうか。
だとしてもそれは垣根の領域であり、きっと自分が踏み込んではいけないところだ。
削板はそのままごろりと寝転がると、小さく呟く。

「頼まれたことは果たしたぞ、第二位。負けるなよ」










「何だ何だぁ!? そーんなもんなのかよおい!!」

『粒機波形高速砲』が襲撃者に食らいつく。
仮にも『未元物質』製である以上、もしかしたら麦野が不調ならば防ぐことくらいできていたのかもしれない。
だが今の麦野は万全、とは言えないが一方通行や垣根と比べたら遥かに傷は浅い。

「ふっ!!」

襲撃者の白い翼が焦げ付き始め、僅かな硬直状態が生まれる。
その隙を突いて絹旗最愛が懐に潜り込み、襲撃者の鳩尾に容赦なく拳を突き入れる。
所詮女子中学生の拳だ。だが同時に絹旗は『窒素装甲』という大能力者でもある。
窒素の鎧を身に纏うその能力は銃弾を弾き、壁に容易く穴を空ける性能を発揮する。

当然そんな力での攻撃を受けた襲撃者は耐えられるわけがなく、あっさりと吹き飛ばされる。
その絹旗の攻撃直後の隙を突こうとした別の襲撃者は突然巻き起こった爆発によってあっさりと地に伏した。

「甘い甘い。結局、なんで私が遅れて来たと思ってるわけ?」

フレンダ=セイヴェルンの爆弾。
美琴との戦いでも披露したように、今回も例に漏れずフレンダはあちこちにトラップを設置していた。
そこに麦野沈利の『原子崩し』が炸裂し、圧倒的な力でまとめて薙ぎ払う。
白い翼で防御した者も複数いるが、滝壺理后が麦野の能力に干渉し助力する。
その結果、虫眼鏡で太陽光を集めて紙を焼くように白い翼は『原子崩し』によって貫かれる。

『アイテム』とEqu.DarkMatterたちの戦い。
楽勝と思われていた戦いだったが、実際には『アイテム』勢に想定外の劣勢を強いられていた。
そこにあるのは隠し切れぬオリジナルとのスペック差。
実際、襲撃者たちの白い翼による防御は異常な固さを誇っており、絹旗が全力で拳を振り抜いたとしても傷一つつけられなかった。
それを破るには原子崩しを持ち出す他ない。

だが致命的だったのは所詮それは『翼の硬度』によるものだったことだ。
垣根帝督と違い、翼に守られていない腹部などに鉛弾一発撃ち込めばそれだけで倒せてしまう。
だからこそ本来手も足も出ないはずの絹旗やフレンダでも戦えてしまうのだ。

「クソッ、まさかこれほどの性能とは……!!」

「分かっちゃいたけど、ほーんとにずいぶん劣化してんだね。
ムカついて仕方ないけど、本物の第二位は比較にならないほど強かった」

適当に『原子崩し』を射出しながら、麦野は冷たく笑う。
数こそ多いものの一体一体は大したことはない。
そこにあるのは単なるスペック差だけではなかった。
何よりも、圧倒的に襲撃者たちには経験が足りなかった。
一方の『アイテム』はこれまで多くの死線を潜り抜けてきた実力者。隙を突くのはそう難しいことでもなかった。

「まあ私も第二位にやられちゃったし。だから今はその分も暴れるってわけよ!!」

「大丈夫だよ、ふれんだ。私はそんな風に調子に乗って失敗するふれんだを応援してる」

「勝手に失敗するって決め付けないで!?」

「……様式美……」

「まぁ超フレンダですしね」

そんな会話をしながらも、襲撃者たちは確実に削られていく。
性能的には麦野はともかく絹旗やフレンダ程度簡単に殺せるはずなのに、どうしてかバタバタとこちらばかりがやられていく。

「結局さ、慣れてないんだよね。第二位の『未元物質』製って言うだけあって確かにそれは強力だよ。
でもそれを扱う肝心のアンタらが全く使いこなせてない。それじゃ宝の持ち腐れってヤツよ」

あらゆる道具を使いこなして戦うフレンダだからこそそれがよく分かった。
それでも適当に振り回すだけでも戦えるほど『未元物質』の装備は強力だった。
だがその使い手の未熟さ加減はこういう時に如実に表れてしまう。

「クソッ……!! こ、こんな……!!」

襲撃者の白翼による斬撃を、倒れている他の襲撃者の白い翼を使って防御する。
たしかにこの白い翼ならば絹旗の誇る『窒素装甲』を破ることはできる。
だが絹旗の使ったものは当然襲撃者のものと同じだ。
故に『未元物質』製の斬撃も、『未元物質』製の盾を使えば凌ぎきることができる。

「超こんなはずじゃありませんでしたか?」

全力で攻撃を行った襲撃者の体は、想定外の衝撃に弾かれてバランスを崩す。
そこに狙い澄ましたような絹旗の回し蹴りが炸裂し、襲撃者は倒れこむ。
見てみればフレンダも同じ戦い方をしていた。爆弾で翼の隙間を狙い、敵の攻撃は倒れた奴の翼を使って防ぐ。
麦野は攻撃も防御も『原子崩し』で済ませ、滝壺はその麦野の背後で『原子崩し』の補助を行っていた。

「まぁそんなに落ち込むなよ、私だって驚いてんのよ。
いくら劣化品とはいえここまで第二位の力をコケにできるなんて」

麦野沈利は実に楽しそうに口元を歪める。
みるみる内に襲撃者の数は削られていき、ついに最後の一人がフレンダと絹旗のコンビネーションによってドサリと倒れ込む。
その絹旗とフレンダが多少の手傷を負っているものの、終わってみれば彼女たちの快勝だった。

「や~っと終わったぁ!! 数多すぎでしょ結局!!」

額を袖で拭って文句を垂れるフレンダに、絹旗は心の中で同意しながらふぅ、と息をつく。
滝壺も緊張が解けたのか、どこか弛緩した表情で麦野への補助を打ち切る。

「むぎの、これからどうするの?」

「んー、こいつら以外にも敵はいっぱいいるでしょ。
あいつらの邪魔をさせないように綺麗にゴミ掃除していきましょ」

「りょーかい」

「……しかし、学園都市全域に第一級警報(コードレッド)が超発令されているのはどういうことなんですかね?」

絹旗が腕を組んで考え込む。
この学園都市には四つの警備強度(セキュリティコード)がある。
正常を表すコードグリーン。
その一つ上の第三級警報(コードイエロー)。
テロリストなどの侵入の疑いのある第二級警報(コードオレンジ)。
そしてテロリストの侵入が完全に確定した第一級警報。

これに従うのならテロリストがこの街に侵入したということだろうが、どうもそうは思えなかった。
暗部にそんな情報は回ってきていないし、また風紀委員や警備員も動いている様子がなかったからだ。

「……学園都市規模で何かが起きてるってことかな」

「まー何にせよ私らが頭悩ますことじゃないでしょ。ほら行くわよ」

「あ、ちょっと待ってほしいわけよ~!」










「ガハッ、っは……っ!!」

ぎりぎりのところだった。あと一瞬でも反応が遅れていれば死んでいただろう。
木原病理の一撃を防ぐための『未元物質』の生成。
だが当然それはすぐに消える。しかし逆に言えば一瞬は壁として機能するということ。
そのおかげでダメージを緩和できた。

「んだ、あの変化……っ!! どこのC級映画だっつうの!!」

口から血を吐きながら悪態をつく。
あんなものを見せられれば嫌でも冷静にならざるを得ない。
そもそもの話、『未元物質』が使えない以上まともにやり合っても勝ち目はないのだ。
それでもそこに活路を見出さんとするならせめてその頭を十分に回転させるべきだろう。

(つってもまあ、木原のアレに心当たりがねえわけじゃねえんだが。
にしても本気でそこまでやるとはな……っつか『未元物質』ってのはそこまでのモンなのかよ?)

木原病理は『未元物質』を使うことによって自身の足を修復している。
だからこそ本来なら立てないはずの木原病理が虎も蹴り殺せるレベルの脚力を得ているのだ。
しかし、木原病理が『未元物質』の恩恵を得ているのはそれだけではない。
そもそもが。木原病理は心臓を潰されようが肝臓を破られようが、ボタン一つで修復できるのだから。

そこに根付いているのは木原病理独自の『未元物質』の制御技術だ。
もともと垣根帝督の能力開発を担当していた木原病理は、その過程で『未元物質』を得ている。
あろうことかそれを木原病理は暴走のリスクを知った上で体内に取り込んだのだ。
踏み込んでこそ『木原』、前人未到の闇を切り開いてこその『木原』なのだから。

「中々に諦めが悪いですね。とはいえそういう人間を『諦め』させるのは大好きですが」

木原病理はくすくすと柔和に笑う。
そこにあるのは垣根帝督は絶対に自分に勝てないという自信だった。
そして垣根はそれを下らないと一蹴できない。
こんな状況に追い込まれること自体、本来あり得ないことなのだから。

「うるせえよババァ。そんなに諦めさせたきゃまずテメェがそれを諦めろ」

「いえいえ、他人を諦めさせるというのは色々諦めてきた私が唯一諦めたくないスタイルですので」

あんな化け物に銃など通じない。
この研究所にあるものを用いた科学的攻撃というのも考えたが、すぐに却下する。
相手が科学に精通していない人間ならともかく、今対峙しているのは『木原』だ。
科学の代名詞。科学を極めその領域の外にまで突き抜ける者。
試すまでもなく通用しないというのは分かる。

「形態変化、スカイフィッシュ参照」

木原病理の腕からプラスチックに亀裂が入るような、嫌な音が響く。
『未元物質』を取り込んだ木原病理は修復の域を超えた改造にまで手が届く。
右腕の側面にひだのようなものが生まれた。
高速で飛び回るスカイフィッシュという未確認生物の推測構造を取り込んだ木原病理は、軽く鉄釘を放るだけで一〇〇メートル先のものを正確に射抜くこともできる。

そしてそれを木原病理は実現する。
その右腕で鉄釘を放る。まるでダーツのような仕草だった。
だがそれだけで恐ろしい速度を得た鉄釘は、正しく垣根帝督の眉間を狙った。

「チッ!!」

立ち上がっている時間はない。
垣根は倒れたままごろごろと横に転がってそれを避ける。
だがそこで終わらない。木原病理の鉄釘は次から次へと飛来する。
『未元物質』の防壁によってそれを防ぎ、その隙に垣根は立ち上がる。

だがその先に続くものがない。
たとえ木原病理の攻撃を垣根が凌ごうと、木原病理が死なない限り垣根に勝利はない。
これはただ負けないように粘っているに過ぎない。
このままでは木原病理にじりじりと削られてやがて倒されるのは容易に想像できた。

しかしこの時、垣根帝督の脳内では木原病理に対する勝利の方程式が組みあがっていた。

立ち上がった垣根は走り出し、その場から離れる。木原病理から逃げた。
恥も何もない、敵に背中を見せての逃走。けれどそれは『逃走』ではあっても『敗走』ではない。
木原病理もそれが分かっているのだろう、漫画のこれからの展開を心待ちにする子供のような笑みを浮かべた。

木原病理がしばらく逡巡した後、その後を追おうとした時だった。
突然辺りを激しい白煙のようなものが覆った。
垣根が何かを使ったのだろうが、こんなものは目くらましにしかならない。
あまりに激しく立ち込める煙のようなものは視界を完全に奪うが、やはりそれだけだ。

「何のつもりです? 今更こんな目くらましなど」

一方の垣根は木原病理の背後に突然降り立った。
ここは吹き抜けになっており、上階へと上った垣根が目くらましを行った後に飛び降りたのだ。
完全に木原病理の背後をとった垣根はニヤリと笑う。その手には白い何かが握られていた。

「これで終わりだ木原!!」

白い何かを一切の加減をせずに木原病理の頭部目掛けて突き出す。
その木原病理は垣根の持っているものが白い―――『未元物質』製であることにすぐに気付いた。
だからこそ木原病理は余裕を崩さない。

「『未元物質』は無効だということをもう忘れたんですか?」

その言葉通りに、あっという間に垣根の『未元物質』は消失していく。
消えて、剥がれて―――“その下から出てきたのは先端が潰れて刃物のようになっている鉄パイプだった”。
そう、垣根は『未元物質』で鉄パイプをコーティングしただけであって、『未元物質』そのものを使ったのではなかった。

「しまっ……!!」

当然木原病理の策は『未元物質』に対してのみ有効なのであって、鉄パイプには何ら効果はない。
そして油断していた木原病理にもはやそれを避ける時間も防御する暇もない。
だからこそ、

「死ね」

ズブッ、と。垣根帝督の突き出した鉄パイプは木原病理の頭を貫いた。
完全に貫通した。頭蓋骨も脳髄も、その全てに孔を空ける。
当然ながら、脳を破壊されて生きていられる人間など存在しない。
一方通行が脳に障害を負って能力に制限がかかったように、どんな強力な存在でも脳が破壊されれば活動を停止せざるを得ないのだ。
そして木原病理も当然例外ではなく、

「形状変化、リトルグレイ参照」

脳を穿たれて尚、木原病理は滑らかな言葉を紡いだ。
その事実に垣根の笑みが凍りつく。
当たり前だ。頭を貫かれて生存できる人間などいるわけがないのに。
どういうわけか、木原病理はあるはずのない例外だった。

木原病理の左手の五本指の先端がボゴン!! と膨れ上がる。
幼児の頭蓋骨程度の大きさに。それは紛うことなく人の脳だった。
脳を穿たれても死なないどころではなく、今度は脳の製造までやってのける。
そのあまりの異常さに、流石の垣根も完全に動きと思考が停止した。
そして脳を製造できるという事実。そこから派生して“ある可能性”に垣根は行き着けなかった。

ズボァ!! と。直後に不可思議な『能力』が発動し、垣根帝督は凄まじい爆発に巻き込まれた。

「ごっ、がァァァああああああああああああああああッ!!!!!!」

『未元物質』による一時的な防御は間に合わなかった。
木原病理のあまりの異常さに思考が停止していた隙を突かれ、為す術もなく垣根は猛烈な勢いで吹き飛ばされた。
強かに背中から鋼鉄の壁に叩きつけられ、肺の中が空になる。
僅かな間だが確実に呼吸が止まった。

「ごっ、ぱぁ……!?」

せり上がる血の塊を何とか吐き出して気道を確保。
肉が削ぎ落とされるような感覚が全身を襲っている。
立ち上がろうとするも全身がボロボロでろくに力も入らなかった。
対して木原病理は垣根のその様を見て満足そうに笑う。

「もともとは脳だけで能力を使えるかという実験の産物なんですが、脳は肉体の一部品に過ぎないようで。
まあ失敗したわけですが、それでもこうした使い方はできるんです。異能力者と強能力者の間くらいの力なんですがね。
そんな程度の『念動力』でも効率よく五人分を束ねれば人体の処分くらいはできるんです。それは身を以って知ったと思いますが」

悔しいがその通りだった。
垣根の体は悲鳴をあげていて、まともに動けない。

「テ、メェ……俺の『未元物質』で、そこまで……ッ!?」

一方通行との戦いで負った傷が一気に開いたのだろうか。
垣根の全身は限界を迎えていた。
だが垣根はまだ諦めてはいない。木原病理を殺す策は今も水面下で進行している。
途切れ途切れに話すのは言葉を発することもままならないからであるが、他にも少しでも時間を稼ぐ意味も含まれていた。

「まあ『未元物質』の細かい制御法は私の独占技術ですけどね」

『未元物質』は究極の創造性を持つ。
それを木原病理は最大に生かしていた。

「あなたはもう終わりですが……どうせなら最後まで徹底的に諦めてもらいましょうか」

そして取り出したのはタブレット。
それがどういう意味か垣根はもう分かっている。
木原病理はまたアレを見せつける気なのだ。あの地獄絵図を。

「……や、めろ……っ!!」

声に張りがなかった。搾り出すような、掠れた声。
木原病理はむしろそれを聞いて楽しそうに笑う。
笑って、躊躇なくそれを垣根へと突きつけた。

『ミサカたちはアンタのせいで生み出された。別に生まれたくもなかったのに、無理矢理に生み出されてしまった。
挙句死んでも死なせてもらえずに強引に蘇生された。アンタを殺すためだけに生き返らせられた。
最終信号からの信号を遮断するために、皮膚を切り開いて「シート」や「セレクター」を埋め込まれた。
この左足だって一緒に再生されたのに、お姉様のためだけにまた切断された』

画面の中では番外個体と御坂美琴が戦っている。
いや、その言い方は正しくない。あまりにも戦況は一方的だった。
番外個体が美琴を圧倒している。美琴は抵抗する素振りすら見せなかった。
嗚咽を漏らしながらただ暴力に耐えているだけ。

「―――クッソ野郎が……ッ!!」

その痛々しい姿に垣根は歯軋りする。
見たくもない光景。味あわせたくなかった経験。
美琴の心につけ込んだあまりに最悪なやり方に、垣根帝督は憤る。

『アンタさえいなければこんなことにはならなかった。
アンタがそんな選択をしなければこんなことにはならなかった。
アンタがDNAマップを渡さなければ。アンタがそんな大きな力を持っていなければ。
……アンタが生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。
生まれてくるにしてもこんな未来のない生まれ方じゃなかった』

番外個体が淡々と美琴に恨み言を連ねている。
だが垣根には納得できなかった。番外個体の言っている言葉もそうだが、何より。

「こんなもん……全部一方通行が受け止めるべき言葉だろうが!!
なんで御坂なんだよ!! アイツは一方通行に差し向けるべきだったんじゃねえのか!? あァッ!?」

そうだ。番外個体の言葉はどれもこれも嬉々として『実験』を行い、高嗤いしながら妹達を虐殺した第一位に向けられて然るべきだ。
なのにどうして一方通行ではなく御坂美琴なのだ。
……本当は分かっているのだ。あえて美琴にしたことに大層な理由など存在しない。
ただ、少しでも苦しめたかったから。たったそれだけのことだろう。

だからこそ垣根は納得できない。
思わず正論を突きつけてしまうほどに。

『ねえ。お姉様は一億もの負債に対して一円ずつ返していっている。
けどそれじゃ一生かかっても払い切れやしない。
一億を返す方法があるのならすぐにでも飛びつきたい。違う?』

「ええ、まあ普通ならそうでしょうね。でもあの人たちの性格の良さは私以上ですし」

『あるよ。一億の負債を一括で返済する方法が』

番外個体が美琴の耳元で甘い声で囁いている。
それは今の傷ついた美琴にとってどれほど甘美な誘いに聞こえているだろうか。

『決まってるじゃない。お姉様はミサカたちを殺したんだから、今度はミサカがアンタを殺すんだよ。
それでいいよ。妹達でありお姉様のせいで死んだ九九八二号だったこのミサカが言うんだから。
―――ミサカのために死んで、お姉様』

何か考えるような間。
垣根帝督には美琴が何を考えているかなど手に取るように分かった。
外れてほしいと願う反面、その予想が当たっている確信もあった。

『――――――分かった。アンタに殺されるなら、むしろ本望よ』

「―――、」

画面の中の美琴は、そう言った。
自らの死を受け入れると。
それで全てが解決すると。自分が死んでどうなるかなんてどうでもいいと。

「……ッざけてんじゃねえぞッ!!!!!!」

思わず、落雷のように咆哮していた。
分かっている。美琴はこんな答えを出さなければならないほどに壊されてしまったのだということは。
だがそれでも個人的な感情として、一発ぶん殴ってやりたかった。
そして。何より『木原』のクソ野郎共を一人残らず皆殺しにしてやりたい。
全身の血管が破裂しそうだった。握り締めた拳は砕けそうで、これ以上口を開けば言葉にもなっていないおぞましい咆哮が飛び出しそうだった。

「あらあらあらまあまあ。聞きましたか?」

対して木原病理は冷静なまま。
いや、違った。笑っている。おかしくてたまらないという風に、くすくすと笑っている。
垣根にはそれが失笑にさえ見えた。冷静を装って腹の中では爆笑しているのだろう、隠し切れぬそれがニヤニヤと顔に出ている。

「おやおや。第三位が死んだらあなたはどうなるんでしょうね?
中途半端に得た希望が摘み取られた時、あなたがどこまで堕ちるのか。これは見物ですね」

「……殺す。俺が、この手で、殺す」

その比較的短い言葉の中に、「殺す」という至極シンプルな悪意の表現に、一体どれだけのものが凝縮されているのだろうか。
何も知らない人間が触れれば心の臓までたちまちに毒されるほどの濃密な負。
聞く者を骨の髄まで凍て付かせる絶対零度。

垣根帝督は立ち上がる。限界を迎えているのに、気力を振り絞って立ち上がる。
眼前の敵をただ食い殺すことに全てを捧げ、あらゆる力を限界以上に振り絞れ。

「テメェは絶対確実に俺が殺す。逃げ切れると思うなよ、地獄の果てまででもな。
テメェが死んでも逃がさねえ。あの世に行っても俺はテメェを殺し続けてやる……ッ!!」










「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! 馬鹿じゃねえの!? 馬ッ鹿じゃねえのぉ!?
すげぇ、マジで抵抗しないよこいつ!! ちょーすげぇ!! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

番外個体は一切動かなくなった美琴を何度も何度も足蹴りにしていた。
顔を、腹を、肩を、腕を、足を、容赦なくつま先が抉る。
相当の痛みが美琴を襲っているはずなのに、恐ろしいくらいに美琴は動かない。
まるで眠っているようにすら見える。

「いいの!? ねぇお姉様ぁ、アンタ最高だよ!! ほら、ほらぁ!!
アンタなんて足だけで十分だよ!! 抵抗しないと死んじゃうよ?」

何もかもを投げ出して、投げ出さざるを得ないほどに壊された美琴は動かない。
ただ蹴られる度にその衝撃で体が揺れるだけ。
しかし番外個体はそんなことは関係ないとばかりに攻撃を休めない。

『ぎゃっは、ははっ、はははははははっ!!!!!! 笑えるなぁ、えぇ? 超電磁砲。全部無駄だったんだよ!!』

もう十分だと判断したのか、今まで傍観に徹していたテレスティーナ=木原=ライフラインが口を出す。
テレスティーナは今幸せの絶頂にいた。あまりにも目の前の光景が愉快で愉快でたまらない。
それを全て自分が仕組んだこと、病的なまでに徹底して御坂美琴を破壊し尽くしてやったことが面白くて湧き上がる悦びを抑え切れなかった。
だがまだだ。まだ足りない。テレスティーナはまだ満足はしていない。

何故ならばまだ美琴は生きている。へし折って押し潰して、それでも最後にはやはりきっちり死んでもらわなければ。
超能力者は七人しかいないこととその有用性から、『木原』一族とて超能力者を解体したことは一度もない。
御坂美琴にはその記念すべき第一号となってもらおう。

(くくくっ。さあどうしてやろうか、意識は最後までしっかり保たせてやらねぇとな。
自分の体が『削られて』いくとこをまざまざと見せ付けてやる)

勝った。終わった。
テレスティーナ=木原=ライフラインは御坂美琴を完膚なきまでに叩きのめしたのだ。
復讐は間もなく成就する。これほど愉快なことはない。

『おい番外個体。完全には殺すなよ。瀕死になったらこっちに連れて来い』

「あいあいっと」

番外個体は軽い調子で返事をしながらも、美琴をいたぶるのを止めはしなかった。
能力を使わないのはその生の感触を楽しむためなのか。
いずれにせよそのおかげで御坂美琴はまだ生きていた。
……そのせいでまだ死ぬことができないでいる、と言った方がいいのかもしれないが。




―――……暗い。深い。
御坂美琴の意識は一切光の差さない深海にあった。
時が経つごとに、一秒が経過する度に、ゴボゴボと音をたてて美琴の意識は更に沈んでいく。
海の底へ。闇の奥へ。学園都市の『闇』へ。

もはや何も聞こえない。番外個体の声も、テレスティーナの声も、何も聞こえない。
今も美琴の体を襲っているだろう痛みも何も感じない。
ただどうしようもなく体が重くて。抗えぬ睡魔に瞼が閉じようとしていく感覚に似ていた。

(……これが、『死』)

妹達はこの重みを、この冷たさを、一万回以上味わったのか。
自分がこれを一万回以上経験させたのか。

(……ああ、そりゃ憎みもするわね)

どこまでも深く、海の底へと沈んでいく美琴の心。
ほら、もう海底が見えてきた。あそこが極点だ。
あそこまで行けばゴール。この冷たさも暗さも全てが消える。
完全な死を迎えるという形で御坂美琴は解放され、永遠の安息を手に入れる。

もう少しばかり沈めば死んでしまった一万人の妹達と会える。
そう思って、美琴は即座に否定した。

(天国だの地獄だのが本当にあるのなら、私は絶対に地獄だから……会えないか)

もうどうやっても会えない。
向こうが帰ってくることはできないし、こっちが行っても会うことはできない。
ごぼっ、と空気の泡が口から漏れる。その気泡は水中を漂い、細かく弾けながら消えていく。
それが最後だった。御坂美琴の最後の未練。それを吐き出したのだから、当然―――。

海底。沈んで、落ちて、堕ちて、そこまで辿り着いた。
そしてまさに美琴の体が底へと接触する瞬間。
ぐい、と。何かに引っ張られる感覚がした。
まるで体に括り付けられた紐を引っ張られるような、そんな感覚。

(ああ、もう何なのよ)

やっと終わりそうだったのに。
気持ちよく寝ていたところを無理に起こされたような苛立ちを覚える。
耳元では何か雑音まで鳴り始めた。
何だか知らないが、邪魔をしないでほしかった。
もう、終わらせてくれ。

『―――、』

聞き取れない。けれどそれでいい。眠らせてくれ。

『―――!』

眠っている時に布団を剥がされたような感覚。
何だ。もういいじゃないか。もう、休んだって、


『御坂ッ!!』


そんな気持ちとは裏腹に、ノイズははっきりとした音になっていた。
呼んでいる。誰かが眠ろうとしている自分を起こそうとしている。

(……うるさいな)

『御坂ぁッ!!』

(ミサカ、みさか…御坂? 御坂、美琴? ……ああ、そんな名前だった)

『何してんだ、起きろよ!! お前は何しにここに来た、お前の妹たちを助けるためじゃねえのか!!
ここで諦めんのかよ!? 木原のクソ野郎に全部思い通りにさせたままで終われんのかよ!?』

誰だろう。この声の主は誰なのだろう。
分からないし、どうでもいい。どうせもう全て関係なくなるのだから。
もはや心地良さすら覚えてきたこの暗さと冷たさに身を委ね、ただその時を待つだけだ。

『悔しくねえのかよ!! まだまだホントのガキだったお前を騙してDNAマップを奪い取って!!
勝手にクローンなんてもん作られて、勝手な『実験』で殺されて!!
そして第三次製造計画だぞ!? そこにいやがる木原はお前の妹の命を弄んでんだぞ!!』

だというのに、この声が邪魔をする。
あと少し。あと少しなのに、その少しを絶対に許してはくれない。

『そんなんでいいわけねえだろうがッ!! なあ、そうだろ御坂美琴!!
お前は妹達の、あいつらの「お姉様」なんじゃねえのかよ!!』

(―――うるさい)

姉なんて、なれるはずがなかったのだ。
妹達は自分を憎んでいた。殺したいほどに憎んでいた。
垣根帝督はそれをまるで分かっていない。

……垣根?
ああ、と御坂美琴は思った。この声は垣根の声だ。
垣根帝督。自分の友人。でも本当にそうだったか?

(もう、何も分からないや)

『待てよ、ふざけんな!! お前は俺に言ったんだぞ!!
これからも俺の足掻きを手伝ってやるって、そう言ったじゃねえか!!
なのにお前一人だけ何全部諦めて死のうとしてんだよ!! ふざけんじゃねえッ!!』

(もう、何も―――……)

『んだよ、救うだけ救っといて自分は退場なんて認めねえぞ!!
お前にはまだまだ生きてもらわねえと困るんだよ!! 分かってんのか!!』

(私はもう、空っぽだから―――……)

『オリジナル!! ふざけンなよ、何考えてンだオマエは!!』

また別の声。垣根ではない、誰かの声。
そう、たしか一方通行。そんな名前だったはずだ。
この男も邪魔をするのか。どうして静かに眠らせてくれないんだ。

『オマエが死ンでどォなンだ!! 誰かが救われるのか!?
違げェだろォが!! オマエが死ンだら一体何人が涙を流すと思ってンだ!!』

『白井と約束したんだろうが、無事に帰るって!! お前が死んだらあいつがどれだけ悲しむと思ってんだ!!
佐天涙子も初春飾利も、何も思わねえとでも思ってんのか!? 俺なんかよりお前の方がよほどあいつらのこと知ってんじゃねえのかよ!!』

なんで、この二人はこんなに必死なんだろう。
薄れゆく意識の中で美琴はふとそんなことを思った。
美琴は世界から死を望まれている存在なのに。
生まれてきたことそのものが間違いだったのに。
自分が死んで嘆く人などいないのに。

『打ち止めを泣かせたら許さねェって、オマエは言ったな。
なのになンだよ、オマエが打ち止めを泣かせる気かよ!!
あの一〇〇三二号も、他の妹達も悲しみのドン底に叩き落すつもりか!!
オマエはそれが嫌で、妹達がそンな目に遭うのが嫌だからあの時俺に挑ンで来たンじゃねェのかッ!!』

『一九〇九〇号との約束はどうするつもりだ!! 他の妹達とも遊ぶって、そう約束したんだろ!!
全部すっぽかすつもりか!? あいつらを泣かせることをお前は良しとするのかよ!?』

ほんの僅かな光が暗く淀んだ意識の中に生まれた。
もしかしたらいるというのか。自分が死んで悲しむ人間が。

『俺を見張らなくていいのかよオリジナル!! もしかしたら俺は全部捨てて逃げ出すかもしれねェぞ!?
打ち止めを泣かせて、放り出すかもしれねェンだぞ!!』

『上条だってッ!! お前が死んだら絶対に泣く!!
上条を、白井を、佐天を、初春を、妹達を、―――俺を!! 何だと思ってんだ!!
大体お前は俺に死ぬなっつっただろ!! なのに約束を破る気かよ!?』

白井黒子。頼りになる後輩だった。
変わった部分はあるものの誰よりも自分の信念に真っ直ぐで、頑張り屋で、優しい子。
御坂美琴の唯一無二のパートナー。

佐天涙子。明るく元気な友人だった。
その実繊細な面も持っていて、けれど人の心に敏感でさりげなく気を使ってくれる子。
誰よりも友達想いで本当に良き友人。

初春飾利。正義感の強い友人だった。
甘いものが大好きで、けれど何気に毒舌な面もあって、その信念の強さは人一倍。
彼女の情報処理能力に助けられたことは一度や二度ではなく、頼れる友人だった。

みんなみんな良い人で、優しい人たち。
もし自分が死んだと知ったら彼女たちは何を思うのだろう。
何も思わない? 悲しまない? それはあり得ない。
そんな考えは彼女たちを馬鹿にしている。

(泣くわね。絶対泣く。特に黒子なんかは「お姉様ぁ……」なんて言ってもうビービー泣くわね)

灯された小さな光が輝きを増していく。
御坂美琴の擦り切れた精神が少しずつ回復していく。

(それにしても……垣根が泣くですって。一方通行も出来もしないこと言っちゃって)

もう美琴のいるそこは暗く冷たい海の底ではなかった。
体の感覚は戻っているし、あまりのダメージにかなりの痛みは走るものの動かすこともできる。
気付いたのだ。自分はここで死ぬわけにはいかない。
帰ると約束した人間がいる。待っててくれている人間がいる。
生まれてくるべきではなかったなんて両親に聞かれたら何て言われることか。
殴られるかもしれない。もしかしたらそれさえなくただ泣かれるかもしれない。

『その番外個体っつゥ妹達を人殺しにする気か!?
オマエは!! オマエはそォいう奴じゃねェだろォが!!
俺はオマエに!! 妹達の「お姉様」であるオマエに……生きててほしいンだよッ!! だから!!』

『……頼む、御坂。死なないでくれ。やっと掴んだんだ。
ようやく掴んだ俺の居場所には、お前がいないと駄目なんだよッ!! だから!!』

御坂美琴には死ねない理由がある。
戦わなければならない理由がある。
帰らなければならない理由がある。
一度折れたといえど、何度でも立ち上がる意思がある。

(だから)

「―――立て」

そう呟いた。
自身を奮い立たせるように。自分に命令するように。

『『立てェェェェえええええええええええええええええええええええッ!!!!!!』』

叫ぶ。一方通行と垣根帝督。二人の超能力者が、学園都市の頂点に立つ双翼が。
御坂美琴へ向けて叫ぶ。対する美琴の顔には、笑み。
それは普段見せるような勝気で不敵な笑みで、まさしく誰が見ても御坂美琴だった。

「言われなくても、分かってるわよッ!!」

散々番外個体の攻撃を受け続けたせいで体はもうガタガタだ。
目の辺りもやられたのか視界も酷く曖昧で、ぼやけている。
腕は上がらないほどに痛みが走るし、それどころか体のどこか一箇所でも動かせばそこから全身に刺すような痛みが伝播する。
それでも。御坂美琴は二本の足で立ち上がり、毅然と立った。

その凛とした瞳は真っ直ぐに番外個体を映す。
負けられない。必ず勝つ。絶対に生き延びる。そして番外個体も助け出す。
それが御坂美琴の選択だった。

『第一候補』に隠れたアレイスター君のお気に入り。
その眠れる投下を終了させる起爆剤に使うというのはどうだろう

以前あと一ヶ月ほどで完結すると言ったな、あれは幻想だ
ミーシャが一掃発動並の事がリアルで起きてるんで、もっとかかりそうかも
でもあと二回くらいの投下でvs木原は終わります

>>158
上条さんは……やっぱり本筋には出ないですねw
影も形もないはまづらぁは次回作で結構活躍するんでそれまでお預けですね

    次回予告




「そんなことをしても無意味ですよ。散々『諦め』させてきたから分かります。
本当の意味で打ちのめされた人間は絶対に立ち上がれません。もう第三位は終わったんですよ。
それともまさか第三位なら絶対折れないとでも?」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理




「あいつ一人じゃ無理だろうな。だが他の奴が手を貸してやりゃ何度でも立ち上がれんだよ、ああいう種類の人間は。
どれだけ落ちたって、力を貸せば御坂は必ず戻ってくるよ。テメェにゃ分からねえだろうよ。もっとも今までの俺もそうだった。
這い上がる距離が長ければそれだけ、落ちた分だけ強くなって戻ってくる」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「……へえ。そういうこと、言っちゃうんだ。なら仕方ないよね」
『妹達(シスターズ)』・第三次製造計画(サードシーズン)で作られた美琴のクローン―――番外個体(ミサカワースト)




「何で……っ、どうしてよ……!! 何で……能力が暴走してるのよ、アンタ!?
ねぇ、お願いだからやめて!! アンタの体が……持たないッ!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴



上条ォ...

病理はマジで強いな
原作ではどうやって倒したんだっけ?
木原一族の光の加群さんと相討ちで



どうなることかと思ったけれど
希望の光が見えてきて良かった

>>200
番外個体が本当に9972号だと思いこまされてたとしたらどうだ?

憎しみのパロメータがMAXぶっちぎる様に調整されてたら?

ほかに思考が行かないように学習させられてたら?

木原ならやるぞ?

学園都市が異常な頻度で人災に見舞れるのも、鉄壁(笑)のセキュリティが突破されるのも、どれもこれも木原って奴のせいなんだ

>>206

Ω <「つまり、全ては木原一族の陰謀だったんだよ!」

ΩΩ<「な、なんだってー!!」

乙!
病理ちゃんこあいこあーい
美琴に関しては希望が見えてきたけど垣根は病理ちゃんどうすんのよ
垣根ならミンチになっても元気に復帰できることだしまあどうにかなるぺか

>>207
一方通行のロリコン病もあまたんから感染ったみたいだしな
垣根が童貞天使な風潮も裏で木原が手を引いていて美琴が自販機蹴るのも木原が仕込んだのだろう
アレイスターも木原に洗脳されてああなったに違いない
万物万事は木原が根源

今日の夜投下します

待ってる☆

そんじゃー始めますか暇つぶし!!
ちょいと変則的になりますがロシアン投下のお時間でぇーっす!!

全然関係ないんですけどテレビでドラゴンボールについて語ってるヤツがあったんですけど、
どうせちょっと読んだくらいだろ……と思ってたら以外と良いところに反応してて驚きましたね
フリーザ様の「私の戦闘力は53万です」。これはネタでもなんでもなく、マジの絶望シーンなんですよ……
当時の悟空は精々18万ちょい位なんで圧倒的ですよね
数字化したことによって分かりやすいインパクトを与えることに成功してるんですよね

「変身をあと二回残している」といい「20倍界王拳かめはめ波に50パーセントの力、しかも片手で耐える」とか
「フルパワーの元気玉を食らって生き延びる」とかほんとフリーザ様は読者を恐怖のどん底に叩き落したキャラなんですけど
やっぱり個人的一番の絶望シーンは「今使っておるのがその10倍界王拳なのじゃ……」ですね

何の話してんだ俺長々と

>>197
ネッシーになって加群さんに頭貫かれて死んだ気がします

>>201
希望の・・・光……?

>>204-205
木原がやったって何をでしょうか?
番外個体の後処理についてはそんなに深く考えてませんでしたね……
とりあえず番外個体は自分が9982号じゃないことは知ってます
またネットワークに繋がってるので当然9982号の記憶も持ってます

>>208
おのれ木原!!

>>211-212
ツンデレさんもありがとうございますw
是非あとで感想レスしてやってください
ギニュー特戦隊みたく狂喜乱舞します

さよなら。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

垣根帝督は荒い息を吐く。
胸は張り裂けそうで、軋む体は悲鳴をあげている。キハラビョウリ
それでも辿り着いた。楽しそうに追いかけてくる追跡者から逃げて、逃げて、逃げて。
ここがどこなのかは分からない。だが施設中に音声を流せる、いわゆる放送室のような場所であることは確認済みだ。
それでいい。まさにその機能を求めて垣根はここに行き着いたのだから。

カタカタと血の痕を残しながら機器を操作し、目的の機能を起動させる。
これで施設全体に垣根の声を届かせることが可能となる。
更に血に汚れた指でキーを幾度か叩くとモニターに美琴と番外個体の映像が映し出された。
それを確認すると、マイクのようなものを荒々しく掴んで垣根は叫ぶ。
もうそんな声を出す気力もないはずなのに、それでも必死に声を張り上げる。

「御坂ッ!! 御坂ぁッ!!」

その声は確実に美琴のいる部屋にも流れているはずだ。
だが、美琴には届いていない。死んだように無抵抗な美琴は身動き一つしない。
それを見て、垣根は導火線に着いた火がじりじりと迫ってくるような焦りに身を焦がす。

「何してんだ、起きろよ!! お前は何しにここに来た、お前の妹たちを助けるためじゃねえのか!!
ここで諦めんのかよ!? 木原のクソ野郎に全部思い通りにさせたままで終われんのかよ!?」

自分の言葉が美琴に届くのだろうか。
届いたとして、それは美琴がまだ生きていようと思えるほどのものだろうか。
疑問はあってもそれに悩んでいる暇などありはしない。
このままでは美琴は番外個体と『木原』に殺される。
ならば一パーセントでも可能性があるならやってみるしかない。

「そんなんでいいわけねえだろうがッ!! なあ、そうだろ御坂美琴!!
お前は妹達の、あいつらの『お姉様』なんじゃねえのかよ!!」

御坂美琴は動かない。
おそらく、美琴や上条のような人間には「命を大切にしろ」というようなことを言っても無意味だろう。
だからこそ垣根は手を変える。

「待てよ、ふざけんな!! お前は俺に言ったんだぞ!!
これからも俺の足掻きを手伝ってやるって、そう言ったじゃねえか!!
なのにお前一人だけ何全部諦めて死のうとしてんだよ!! ふざけんじゃねえッ!!」

他人を絡める。たとえ美琴が自分で自分の生に意味を見出せずとも。
美琴が死ぬことで悲しむ人間がいると分かれば、踏みとどまるのではないか。

『オリジナル!! ふざけンなよ、何考えてンだオマエは!!』

一方通行の声。それが唐突に響いたことを理解した途端、背後から超速で鉄釘が迫る。
即座に反応した垣根は『未元物質』を生成してそれをやり過ごし、しつこく追いかけてくる木原病理を睨む。

「……しつけえババァだな。ストーカーかよ」

「そんなことをしても無意味ですよ。散々『諦め』させてきたから分かります。
本当の意味で打ちのめされた人間は絶対に立ち上がれません。もう第三位は終わったんですよ。
それともまさか第三位なら絶対折れないとでも?」

「いいや」

たしかに御坂美琴は強いと垣根は思う。
けれどやはり彼女は女の子で、中学生で、人間だ。
当然限界はある。かつてRSPK症候群を起こした時のように。
だから垣根は美琴なら屈することがないなどとは思っていない。ただ、

「あいつ一人じゃ無理だろうな。だが他の奴が手を貸してやりゃ何度でも立ち上がれんだよ、ああいう種類の人間は。
どれだけ落ちたって、力を貸せば御坂は必ず戻ってくるよ。テメェにゃ分からねえだろうよ。もっとも今までの俺もそうだった」

垣根帝督は今や知っている。ああいうヒーロー性を持った人間を。
あの種の人間は絶対折れないのではなく、何度でも立ち上がる人間だ。
折れない強さよりも折れても立ち上がる強さの方が尊いこともある。

「這い上がる距離が長ければそれだけ、落ちた分だけ強くなって戻ってくる」

垣根はそう言うと、木原病理に背を向けて美琴に呼びかけ続ける。

『オマエが死ンでどォなンだ!! 誰かが救われるのか!?
違げェだろォが!! オマエが死ンだら一体何人が涙を流すと思ってンだ!!』

木原病理の攻撃を『未元物質』でいなしながら垣根は叫ぶ。
ただ御坂美琴にもう一度立ち上がってほしい。それだけを込めて。

「……頼む、御坂。死なないでくれ。やっと掴んだんだ。
ようやく掴んだ俺の居場所には、お前がいないと駄目なんだよッ!! だから!!」

美琴の体が動いた。唇も動いた。
立ち上がろうとしている。散々に打ちのめされて、尚這い上がろうとしている。
それを見た垣根は僅かに笑みを浮かべ、最後の一押しを力の限り叫ぶ。

「立てェェェェえええええええええええええええええええええええッ!!!!!!」

美琴が、立った。
震える足で、膝を折りそうになりながら、それでも立った。
言われずとも分かってる、と言いながら“らしい”目つきと共に。

「……そうだ。それでいい」

それを確認した垣根は不敵に笑い、木原病理に向き直る。
散々美琴の再起を否定していた木原病理の鼻を明かしてやったようで、僅かばかりの優越感と共に。
だが垣根の表情は優れなかった。理由は簡単だった。

単に、木原病理が相変わらずくすくすと楽しそうに笑っていただけのこと。

「……何笑ってんだテメェ」










「ねえ。一つだけ、アンタは勘違いしてる」

しっかりと立ち上がった美琴は、もはや怯まない。
自らの罪をありありと体現する少女に向かって真っ直ぐに立ち向かう。

「……何?」

対する番外個体はどこまでもつまらなそうな顔でぞんざいに答えた。
彼女としては美琴がまた立ち上がるなんてつまらない展開は願い下げなのだ。
あのまま無様に潰れてくれなければ面白くない。
そんな不満がその表情に分かりやすく表れていた。

「アンタはこう言ったわね。『一万人も殺しておいて許されると思っているなんて傲慢だ』」

「それが?」

「私は許されるなんて思ってない。アンタの言う通りただの自己満足よ。許しを乞うためじゃない」

「…………」

「だから私は自分勝手にやる。ただの自己満足でアンタも守る」

もはや美琴は死のうなどどとは考えない。
限界を超えて精神を陵辱され、擦り切れていた先ほどとは違う。
死んだら悲しむ人間がいるし、身勝手な償いもできなくなってしまうのだから。
御坂美琴は敗けられない。敗けてはいけない。

「……へえ。そういうこと、言っちゃうんだ。なら仕方ないよね」

番外個体が取り出したのは、分かりやすく言えばシャープペンシルの芯の入っているケース。
そんなケースの中に入っているのは白い粉末。
白い粉末というとどうしてもドラッグを連想させ、美琴はそれに良いイメージを抱かなかった。
だが番外個体はそんな美琴の気持ちなど意に介さず、ケースを開け左の手の甲に中身を一振り二振りする。

「……何よ、それ」

美琴が止める間もなくまるで砂糖か塩でも舐めるように、番外個体は甲の粉末を舐めた。
効果は即座に表れた。番外個体の全身がドクンと震える。
ギチギチと動かないものを無理に動かすような不自然な動作で顔をあげる。
美琴はその目を見てゾッとした。その開ききったような瞳は、以前どこかで見た覚えがあった。

「ぎ、ひ、ひひひひひ……」

不穏な気配。敏感にそれを感じ取った美琴は番外個体に駆け寄り、その肩を掴んで―――。

炸裂。

番外個体を中心に光が爆ぜた。
美琴はそれの直撃を受けて吹き飛ばされ、壁に強かに叩きつけられる。

(っつぅ……! 一体何が……)

背中の痛みを無理矢理に抑え付け、顔をあげた美琴は絶句した。
番外個体が『炸裂』している。そう表現するしかなかった。
四方八方、ありとあらゆる全方向に莫大な電撃が迸っている。
一時のものではなく、永続的に。

「何で……っ、どうしてよ……!!」

近寄ることもできぬ圧倒的な破壊の嵐だった。
もともと人間を消し炭にするくらいわけもない出力だった番外個体の力。
それが更に引き上げられ、文字通り僅かの隙間もなく番外個体を中心に荒れ狂っているのだ。
それがどういう現象か。『これと似たような経験』のある美琴はすぐに答えを弾き出す。

「何で……能力が暴走してるのよ、アンタ!?」

「きひ、ひひひひひひ……」

そう。目の前の番外個体の状態は、RSPK症候群を起こした時の美琴の様子に酷似していた。
どう見たって能力の制御権が番外個体の手を離れている。
だが能力の暴走というのはそう簡単に起こるものではない。
少なくとも番外個体にそれが起きるような理由は何もなかったはず。

そこまで考えて美琴はハッとする。
理由なんて一つしかあり得なかった。
先ほど番外個体が舐めた、白い粉。あれが能力の暴走を誘発させたとしか思えない。

(ただ、あれ……どこかで見たような……)

白い粉を舐めて力を暴走させた番外個体。
白い粉を舐めて力を発揮した少女。



    ――『滝壺、あんたはもういいわ。「体晶」の使いすぎよ。二人と一緒に下がってなさい』――


    ――『むぎの……。うん、分かった』――


    ――(『体晶』……?)――


記憶に蘇ったのは『アイテム』所属の少女。
名前を滝壺理后という。
『アイテム』とは二度交戦したが、どちらにおいても的確に美琴の居場所を掴んで見せた少女だった。
記憶では滝壺は何かの粉末を舐めて力を発動させていたと記憶している。
やや結果は違うが、番外個体の現状もそれによるものと考えられた。

「待って、待って……アンタまさか、『体晶』を……ッ!?」

「ぎひひ……知ってるんだ。そう、それだよ」

「何でよ……ッ!! やめてよ、そんなことしたらアンタ……ッ!!」

「……ミサカは、ここまで捨てたよ。アンタを殺すために」

「ねぇ、お願いだからやめて!! アンタの体が……持たないッ!!」

美琴は『体晶』というものについて何も知らない。
だが今の番外個体を見れば相当な劇薬であることは一目で分かる。
また麦野が滝壺に言った「『体晶』の使いすぎ」という言葉、滝壺の疲労。
それらからも『体晶』の悪い面は浮き彫りにされていた。

何故番外個体がそんなものを持っているのか。
彼女はあくまでクローンであり、誕生から今に至るまで全てを管理されていたはずだ。
そんな番外個体が『体晶』を手に入れる機会などあるはずもない。
それにそもそも『体晶』だってそう簡単に入手できるものではないだろう。
自然と答えは絞られた。可能性は一つしかなかった。

「テレスティーナ=木原=ライフラインッ!!
何でこの子に『体晶』なんてモン渡したのよ!! どういうものかくらい分かってたんでしょ!!」

番外個体が近づいてくる。それから逃げながら、その電流を自分の能力で無効化しながら美琴は憤る。
だが分かっていたことだ。御坂美琴の勝利条件と番外個体の勝利条件は同じではないのだと。
そう、番外個体は『自分を傷つけることでも美琴にダメージを与えられる』。
テレスティーナがそこを利用しないはずがない。

『おいおい、何キレてんだよ。「体晶」もテメェを殺すためのもんだぜ?
テメェがいなかったらこうはならなかったと思わねぇか?』

「ふざけんなッ!! 答えなさい、どうしたら止められるのよ!?」

『そうかそうか、そんなに止めてぇか』

「当たり前でしょッ!!」

美琴は怒鳴りながらもジリジリと番外個体に追い詰められ始めていた。
もとより美琴は彼女に手を出すことができない。
これはあまりに大き過ぎるハンデだった。
今の番外個体を止めようと思ったら生半可な力では果たせない。
よほど思い切らない限りは。
いや、もしかしたら本気でその気になっても出来ない可能性すらある。

だからこそ、美琴は他に番外個体を止める手段を求めた。
たとえばこの状態がいつまでも続くとは思えないので、時間切れを狙って逃げ回るなど。
しかし。

『だったら止めてやるよ』

御坂美琴は、そもそものところから勘違いをしていた。
何故自分を追い詰めるテレスティーナの策がもうないと思ったのか。
番外個体による精神攻撃だけだと思ったのか。

そう、まだあった。

こんな事態になっても確実に美琴を破壊するために。
学園都市は、『木原』は想像を超えた狂気を見せたが、それより更にどうかしていた。
番外個体が御坂美琴のトラウマを突き、それを利用して殺したとしても。
美琴が番外個体に手をあげて打ち倒したとしても。
それどころか引き分けようが和解しようが、第三位としての力を振るって殺さずに事を収められるような事態になったとしても。




確実に御坂美琴を貫き殺す槍があった。
















ぶちゅり。












そんな小さな音だった。
番外個体の体の中に埋め込まれた『セレクター』が、破裂する音だった。
同時、激しく荒れ狂っていた電撃が嘘のように収まっていく。
まるで雷雨が突然降り止んだように。そして、そのまま番外個体は鮮血を散らせながらばたりと床に倒れた。













「――――――……は?」












もしかしたら、今後はもっと何かがあるかもしれないとは思っていた。
番外個体自身が言っていた。ここで自分が倒れたとしても、次が来ると。
だが今後はどうであれ、美琴はとりあえず現在番外個体という悪夢を乗り越えた。
だから、これで終わりだ。少なくとも今はこれ以上の心のダメージはない。
そう思っていたからこそ、御坂美琴の思考は完全に停止し、あらゆる感情は平坦になった。

目の前の事態がテレスティーナ=木原=ライフラインによって引き起こされたのは明らかだった。
事実番外個体を破裂させたテレスティーナは腹が捩れるほどに爆笑している。
だが美琴にはその癇に障る声がどこか夢のような、現実味を欠いているように思えた。
声だけではない。何もかもが停止した御坂美琴の見ている世界には、そもそも色がなかった。

何もかもが白黒。何もかもがテレビの向こうのように非現実的。
あまりにリアルさに欠けていて、テレスティーナの笑い声などほとんど耳に入っていなかった。
だが全てが白と黒の中に、場違いな色が一つだけ。

赤。紅。番外個体の首から後頭部にかけての辺りが裂けていた。
そこからドクドクと決して少なくないおかしな赤い液体が流れている。





あレは、ナんダロウ?




いったイ、ナにがオキた?




こレハ、どうイうこトナンだ?




しかし、そこで事は終わらなかった。
まだ終わらない。テレスティーナの狂気は止まらない。
ブチブチ、と肉を引き裂くような音がした。
あまりにも生々しい人体が裂ける音。

番外個体の左足が、根元から千切れていた。

左足は義足だったはずだが、あれは見せかけだけで実際にはちゃんとした足が再生されていたのか。
それとも義足であってもここまで本物と遜色ない中身になっていたのか。
そんなことはどうでもいい。

そこから見えるのは赤黒い肉と白い骨。
そして濁流のように止め処なく流れ出る赤い血液。
千切れたのは左足だった。よりによって『左足』だった。
右足でも、右手でも左手でもなく。『左足』。

美琴の頭に嫌でも蘇るのは、九九八二号の最期の姿。
血塗れで、『左足』を失った痛々しい光景。
千切られて、肉体から独立してしまった番外個体の左足。
何をどうしたってその二つの光景が重なってしまう。

九九八二号。
彼女が左足をもがれるのはこれで二度目だった。

9982ゴウ
番外個体は血塗れで笑っていた。
まるで負の感情によって顔が塗り固められたような、そんな邪悪で歪な笑顔だった。
口だけが動いていた。ぱくぱくと、魚が呼吸するように口だけが動いていた。
掠れるような声で、彼女はこう呟いていた。













「……ア、ン、タ、の、せ、い、だ」
















世界が急速にリアルな色彩を取り戻す。




その言葉はかつて夢の中で九九八二号に言われた言葉と同一で。




『超電磁砲。テメェ九九八二号を殺すのはこれで二度目だな』




そんな、テレスティーナの声がとどめとなって。




吐寫物を、撒き散らすかと思った。










「―――あ、」




「……あ、あ……ああ……」












「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!」







腹の底の底から、魂の一欠片まで。
御坂美琴という人間のありとあらゆる全てを、余すことなく凝縮した負の咆哮。
その叫びだけで天が割れ大地が揺るぎそうだった。
世界の果てまで、世界七〇億全ての人類に届く絶望だった。


聞く者の精神すら破壊しかねないほどに。


見る者の心さえすり潰しそうなほどに。


世界に溢れる負を全て一点に凝縮したような、絶叫。
とてもではないがこれが一四歳の少女……いや、一人の人間から発せられているとは到底信じられなかった。
絶望。憤怒。諦め。嘆き。拒絶。否定。悲しみ。恐怖。孤独。憎悪。
この世の黒いものが一つ残さず詰め込まれていた。

命を懸けても守りたかった。
世界というもの全てを敵に回してでも味方でいたかった。
そのために死のうともした。
御坂美琴という未成熟な少女の、守るべきものの筆頭に名が連ねられていた。

その一人。そんな守るべき妹達の一人が、血溜まりに沈んでいる。虫の息になっている。
一度。一度心を砕かれて、けれど美琴は再度立ち上がった。
だからこそ、今度の今度こそ美琴の心はほぼ完全に砕け散る。
最初からの絶望よりも、一度希望を掴んだ上での絶望の方が遥かに重い。

もう駄目だ。『木原』は本当にどうかしている。あんなのには付き合えない。
それどころかそれによる恩恵を受けている学園都市、更にはそれで繁栄しているこの世界にさえもう付き合えない。
どうせこれで終わりではない。
もしこれで美琴の心が完全に砕けなければ、テレスティーナ=木原=ライフラインは何度でも次の手を打つ。
今度は上条当麻や白井黒子辺りが利用されるのか、打ち止めの姿をした妹達でも仕向けてくるのか。

いずれにしても、ここが限界だ。
これから絶対に『木原』はこれ以上の痛みを与えてくる。
それは駄目だ。そんなものには間違っても耐えられない。挑戦したいとも思わない。

御坂美琴は叫び続ける。
壊れるように叫ぶ。叫ぶように壊れる。

喉よ裂けろ。
声よ枯れろ。
体よ弾けろ。

もう何もかもが許せない。
白も黒も一も二もプラスもマイナスも大人も子供も男も女も超能力者も無能力者も悪党も善人も知人も他人も好きも嫌いも利も害も、全部全部全部何もかもがどうでもよかった。
全てが等しく憎悪の対象で、全てが等しく破壊衝動の対象だった。
何もかもを薙ぎ払いたい。片っ端から破壊したい。

世界は、絶望に満ちている。
現実は優しくない。どこまでも残酷で、狂気的だった。

こんな世界など必要ない。
こんな狂った世界などなくなってしまえばいい。
どうせこの世に生きている連中は何も知らずにこんな奴らの恩恵を受けている奴らだ。
消えてしまえ。何もかも一つ残らず跡形さえなく。

何もかも、消えてしまえ。

だが。そんな美琴の視界に何かが映る。
番外個体だった。血の海に沈んだ番外個体が蛆虫のように僅かに身動ぎした。
しかし、その動作は確実に番外個体がまだ生存していることを表している。

御坂美琴の目が血走る。
ほんの、本当にちっぽけな目標が生まれる。
僅かばかりの彼女を突き動かす何かが芽生えた。

「……舐めんなぁぁぁあああああああああああああああッ!!!!!!」

番外個体の元へ向かい、その体に触れる。
御坂美琴の能力はあらゆる電気を操ることを可能にする。
それは一〇億ボルトもの高圧電流や雷撃の槍といった攻撃の形ばかりにしか使えないわけではない。
そう、垣根帝督にやったように生体電気に干渉することで健康状態もある程度読み取れるし、治療の真似事だって出来る。

「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなッ!!
いつまでもいつまでもいつまでもッ!! ただ操られるだけのコマだと思ってんじゃないッ!!
頭のイカレたクソッタレ共、今からそのふざけた余裕のツラを粉々にしてやる!!」

番外個体を使って確実に御坂美琴を破壊する。
そのためにどう足掻いても番外個体は死亡する。
それが『木原』の筋書きだった。
ならば、自分が番外個体を助けてしまえばどうか?
それはこのクソッタレのクソッタレのクソッタレ共の筋書きを覆すことにはならないか?

「今からアンタらに見せてやる……私の力は誰かを救えるものだってことをッ!!」

御坂美琴の双眸に明確なる意思が宿る。
一人の少女の、ちっぽけな反抗が始まった。










「アハッ」

壊れたような哄笑が弾けた。
御坂美琴の、ものだった。
その近くには倒れ伏して動かない番外個体の姿。

結論から言って、無理だった。
御坂美琴では番外個体は助けられなかった。

「あは、はは。ひゃははははは」

美琴の能力で可能なのは電気の操作。
だから彼女は生体電気や筋組織などに限界まで働きかけ、再起を促した。
けれど、それだけ。そこまでが限界。
所詮は自然治癒の大幅な促進程度が限界で、ここまでの傷に自然治癒など当てになるはずもない。
ドクドクと溢れる夥しい出血を止めることさえ、美琴には出来なかった。

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

狂ったような声で笑う。
御坂美琴という少女にはあり得ない笑い方で、笑う。
泣いたような、世界の終わりのような、絶望と諦めに塗り固められた表情で笑う。
その表情と声があまりに不釣合いだった。

もしかしたら。第一位の超能力者ならば、助けられたかもしれない。
あらゆるベクトルを操作する一方通行にとって、血の流れを操作して出血を食い止めることくらい造作もないはずだ。
あるいは第二位の超能力者ならば、助けられたかもしれない。
創造性を有する垣根帝督にとって、『未元物質』で傷口を塞ぐくらいできるはずだ。
あのわけの分からない能力ならばそれ以上のことだって出来るのかもしれない。

だが、一番どころか二番にもなれない少女では、力不足だった。
散々に利用され、万の命を作られ、万の命を散らされ、壊され、抗って。
最後の最後に立ち塞がったのは、単純な『力不足』という三文字。

何の比喩でもない。心の強さなどでもない。
シンプルな、そのままの意味で美琴には強さが足りなかった。
ここまで来て。実力不足というこの上なく分かりやすい現実が美琴の反抗を砕く。

「アハ、あひゃひゃひゃひゃ。駄目、もう駄目。あははははははは」

声の高低が安定しない。掴んだと思った希望を二度潰された美琴の声はもう死んでいた。
普段の美琴からは想像も出来ないような笑い声で、何かが崩壊していく。
何が姉だ。何が超能力者だ。何が第三位だ。何が超電磁砲だ。
そんなもの、何の価値もありはしない。

そして。こんな狂った世界さえも、価値などない。
もう駄目なのだ。もうやってられない。
こんなものに付き合ってなどいられない。

美琴の中にある何かが弾ける。
それは行き場をなくして暴走し、やがて明確な形も取らずに無茶苦茶に吐き出された。

「あは、ははっ、はははははははッ!! もう抑えられない!!
がはっ、は、はははは!! 全部全部壊れろ。消えろッ!!
こんな世界に何の価値がある。あははははは……あァァァあああああああああああああああッ!!
ちくしょう、呪われろッ!! 一人残らず!! こんな最低最悪な世界ごと滅びろ!!」

その雄叫びは。本当に世界全てを呪ってしまいそうなほどに絶望に満ちていた。
それをきっかけにこの星が死の星になるほどの大魔術を発動させてしまうのではないか。
本気でそんなことを考えずにはいられないほどに、空気をびりびりと震わせる。

『イイね、最高にいいぜぇ超電磁砲!! それだよ私が見たかったのは!! オラもっと絶望しろや!!』

テレスティーナのそんな嘲笑は、耳に入らなかった。
もはやテレスティーナだろうがただの通行人だろうが、美琴にとってはどうでもいい。
ただ壊したい。何もかもを投げ出して、崩壊してしまいたい。
そんな気持ちしか残されていなかった。

ねえだろそんな都合の良い話! いくらなんでも、このタイミングで、何の脈絡もなく!
ヒーローみてぇに投下が終わるわけねぇだろ!

いよいよラストが近いです
次回は美琴サイドから

    次回予告




「テメェらはみーんなただの実験動物なんだよ!!」
御坂美琴への復讐を企む『木原』一族の一人―――テレスティーナ=木原=ライフライン




「――――――、」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「なあ一方通行。知ってるか?
人間ってのはよ、最初からの絶望より上げて落とされる方が何倍もくるんだよ」
一方通行(アクセラレータ)の能力開発を担当した『木原』一族の一人―――木原数多




「キィハラァァァァァァあああああああああああああああああッ!!!!!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)




「さあ、どうします? 死に場所くらいは選んでもいいんですよ?」
『諦め』を司る『木原』一族の一人―――木原病理




「ちくしょう……ッ、このイカレたクソ野郎が!! どこまで弾けりゃ気が済むんだテメェらは!?」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督

嘘やろ
あの引きの後でこんなことになるとか予想外すぎ
進撃の巨人で「俺達の進撃はこれからだ!」みたいなノリになった直後に
エレンの班が全滅したの見た時と近い心境
乙です

乙!!
>>1がどS過ぎて正直読んでてしんどいわ。
他のクロスオーバーssで御坂と妹達がなかよくしてたのを読んだ後だから尚更。
続き楽しみに待ってます!!○

御坂「第三次製造計画だと!?おいアンタ!ふざけた事いってんじゃ…」

垣根「止めろみこっちゃん!!!」

待ってる

―――俺の投下は、この世界でどこまで通用するんだ?

今更ながらドラゴンボール超画集を手に入れてご満悦の>>1です
初めて見る絵ばっかで本当に良いものです

遅れましたがようやく投下していきます

>>243
ミーナが死んだことは今でも許せません
近いうちに>>1の大好きなあの人も……泣きたい

>>245
木原ならこれくらいはするかなー、と

決着。―――だがその遺産は。

御坂美琴という少女は、終わった。
だがその瞬間、ヒュンという聞き覚えのある音と共に突然誰かが姿を現した。
普通にやって来たのではない。文字通り誰も、何もない空間に『出現』したのだ。
美琴はその現象に見覚えがあった。

『空間移動』。

そしてその人物は。赤い髪を二つに結って、サラシを巻いた露出度の高い女性は。
『グループ』のメンバーである大能力者、『座標移動』の能力を持つ結標淡希はこう言った。

「まだ、絶望するには早いわ」

「結標、淡希……」

結標の出現に何か希望でも感じたのか、奇跡的に美琴の口から明確な意図を持った『言葉』が紡がれる。
そういえば結標は一方通行と同じく『グループ』とやらの一員だと言っていたな、と美琴は思い出す。
そんなことを考えられるほどに思考力が戻っていた。
結標淡希の登場。想像もしていなかったイレギュラー。
このイレギュラーが、この狂った世界に光を指してくれるのではと期待せずにはいられなかった。

「その子はまだ死んでいない。私の能力があればすぐに病院に運び込めるわ」

結標淡希の能力を使えば、遥かに早く番外個体を連れ出せる。
番外個体はまだ死んでいない。だがこのまま放置すれば間違いなく死ぬ。
しかし同時に、結標を信用していいのかも分からなかった。
何しろかつて『残骸』を用いて悪魔の頭脳を再建しようとしていた人間なのだ。

「貴女の決断次第でその子は助かるのよ。こんな世界でも、希望はある」

その言葉に美琴は反応する。
あそこまで行って、もしかしたら尚美琴は完全には壊れきってはいなかったのかもしれない。
人としての大事な何かが、欠片ほどでも残っていたのかもしれない。

もしこれが一方通行だったならば。垣根帝督だったならば。
きっとこうは行かなかっただろう。たとえ番外個体が助かるとしても、もはやそこで止まれなかっただろう。
彼らのような人間と美琴のような人間。その差。
それこそがこの結果を生んだのかもしれない。

『おいおいおい、ナンだテメェはよォ!? 感動の場面に水差してんじゃねえよクソが!!』

良いところを邪魔されたテレスティーナは一気に不機嫌になる。
テレスティーナが何かをしているのか、金属質な物音を聞いた結標はその顔を分かりやすい焦りに染めた。

「早く!! 奴が来る!!」

「…………」

美琴は答えない。あまりに突然降って湧いた希望。
絶望しかない世界に突如現れた光。
崩れていく美琴の心を繋ぎとめるもの。
どこまでも非現実的だった。あそこまで行った美琴にとってそう簡単に信じられるものではなかった。
その希望に反応するし、掴みたいとも思う。だがあと一歩踏み出せない。

結標はそんな美琴の様子に業を煮やしたのか、ずんずんと歩み寄ってパン!! と美琴の頬を掌で叩いた。
頬に伝わるじんじんとした痛み。僅かに皮膚が赤くなる。
だがそれでも美琴は動かない。結標は美琴の襟を荒々しく掴む。

「いい加減にしなさい。いい、その子は助かる。
貴女はあの子たちの姉なんじゃなかったの? 諦めるの?
なんで私がお説教なんてしなくちゃならないのよ。こんなの、まるっきり立場が逆でしょうが。
『残骸』の時は散々私に綺麗な理想を語っていたくせに」

結標は手を離して、至極シンプルな二択を美琴に問う。

「貴女、その子を死なせたいの? それとも助けたいの?」

美琴の心は、動いた。
そんなもの決まっている。ずっと前から決まっている。
ぎりぎりと軋む心を強引に動かして、美琴は言葉を紡ぐ。

「……助けたい。私は、あの子たちを助けて、守りたい!!
もう、一人だって傷ついて、死んでほしくない……!!」

頭を抱えて美琴はこの上なく単純な答えを吐き出した。
そう、何を悩んでいるのだ。守りたいのだ。死んでほしくないのだ。
ならばどうするべきかなんて明白で。迷っている暇などありはしない。
一秒無駄にするごとに番外個体の命が削られていくのだ。

結標はその答えに満足したのか大きく頷いて、

「私を信用できないのは当然でしょうけど、これも仕事なのよ。
だからそこは大丈夫よ。大体その子に何かしたら第三位と第一位、下手したら第二位まで敵に回すことになるのよ。
そんな命知らずなことはしないわよ、私も」

なるほど、と美琴は思った。
たしかにそれなら下手に綺麗事を並べられるよりよほど信用できる。
それにどうせこのままでは番外個体は死ぬのだ。
ならば一パーセントでも可能性のある方に賭けるべきだろう。

「……分かった。この子をお願い」

結標は頷くと、軍用ライトを一振りする。
それに呼応して番外個体の体が消え、結標の腕の中に現れる。
わざわざ能力を使ったのは手間の省略もあるだろうが、おそらく一番には番外個体の体をあまり不用意に動かさないようにだろう。
傍目には以前と同じように見えるピンクの駆動鎧を着込んだテレスティーナが現れた時には、結標と番外個体はその姿を一一次元へと消していた。
残っているのは目に光を取り戻した御坂美琴のみ。

「……おいおい。ねーェェェだろ。んだぁこの世にもつまらねぇ展開は!?」

結標淡希の登場。それはそのまま番外個体の生存の可能性へと繋がり、それが美琴の希望となった。
こんな狂った絶望しかないと思っていた世界にも、ちゃんと希望はあったのだ。
だがそんなものはテレスティーナにとってはあり得てはならないことだ。
散々に美琴を壊し尽くし、あとは解体していくだけだったのだ。
その計画をいよいよ大詰めというところで台無しにされたテレスティーナは憤る。

「……はは。残念だったわね。結標淡希は空間移動系能力者。
もうとっくに離れたところに行っちゃってるでしょうよ」

「そんなこたぁどうでもいいんだよ!! 何なんだよこりゃあ!!
テメェの心と精神はグッチャグチャにしてやった!! テメェにできるのは全てを呪って無様に果てることだけだってのに……。
なんだってテメェはんな涼しい顔して私に楯突いてやがるんだよォォォォ!?」

醜く顔を歪めて獣のように吠えるテレスティーナに、美琴は同じく顔を歪める。
そこにあるのは圧倒的な憤怒と憎悪。
他の人間を重圧で押し潰すほどのプレッシャーを放ちながら美琴は目の前の存在を呪う。

「『涼しい顔して』? ふざけんな、ここまでされて誰が平然としてられるか!!
どれだけ今私の腹ん中煮えくり返ってると思ってんの!? ここまでキたのは一方通行の時以来よ。
散ッ々に私の妹の命弄んでくれやがって。アンタ自分が何したか分かってんの?
あの子たちの命を好き勝手に利用した落とし前はきっちりつけさせてもらうわよクソ野郎」

抑え切れぬ怒りが迸る電撃となって美琴を包み込む。
湧き上がる激情を抑えるのに必死だった。
勝手に妹達を作って、爆弾まで仕込んで、使い捨ての道具にして、それを見て高笑いして。
いい加減にブチ切れそうだった。人の形をした悪魔ではと本気で思いたくなるほどに、やることが同じ人間とは思えない。

「途端にイキがりやがってモルモット風情が。
あの人形共だけじゃねぇ!! テメェらはみーんなただの実験動物なんだよ!!」

「……あの子たちは―――人形なんかじゃないッ!!」

「超能力者だって例外じゃねぇ。絶対能力者になれねぇ出来損ないなんだからよォ!!
知ってんだぜぇ? テメェが幻生のジジイに実験台にされて、絶対能力者になり損ねたってことは。
『エクステリア』だのネットワークだのを使っても所詮はそこが限界。
人の身にて神の領域にまで辿り着けねぇテメェらはみーんなただの使い捨ての実験動物だ!!」

『絶対能力者』。神の答えを知る者。学園都市の最終目標。『SYSTEM』への足がかり。
御坂美琴はその領域に手をかけたことがあった。
木原幻生の手によって。『絶対能力者進化計画』の提唱者にして、どこまでも絶対能力者に固執する『木原』。
あの時のことは思い出すだけでゾッとする。あの姿、あの感覚。二度と思い出したくはない。

美琴は怒りのままにスカートのポケットから何かを取り出す。
それは武器。音速の三倍に加速させて撃ち出す、超電磁砲の使用の合図。
目の前の巨悪を穿つための最終兵器だった。

「ハッ、もういいわ。分かったよ。だが甘えよ。そんなんじゃ私のこれにゃ勝てねえ」

テレスティーナは持っている巨大な大剣のようなものを美琴に突きつける。
それは花が開くように展開され、何かを撃ち出す発射機構が姿を見せる。
それは色や形こそ違うものの、以前MARで戦った時にも使用した擬似超電磁砲に非常に似通っていた。

「こいつはテメェの能力を解析して作った以前のものより、遥かにパワーアップさせたもんだ。
ファイブオーバーのガトリングレールガンは既にテメェのものより威力は上だが、それを更に強化したのさ。
万に一つもテメェに勝ち目はねぇ。たとえテメェが想定以上の出力を出したとしても、こいつはそれを叩き潰すに余りある」

御坂美琴の超電磁砲を遥かに上回るもの。
そこまでして、以前擬似超電磁砲を破られたにも関わらずそれに固執するのはテレスティーナの歪んだ嗜虐心によるものだった。

「まあテメェも、テメェの力で死ねるなら本望だろ? テメェの命は今日尽きる!! これは“確定事項”だ!!」

「――――――、」

自分の力で殺される、その屈辱感。
それを御坂美琴に叩き込みたい。
学習していないのではなく、あえてテレスティーナはそれを選んでいた。
以前と違う、十分なパワー。たとえ美琴が想定以上の力を撃ったとしても、それを捻じ伏せられるオーバースペック。

「バラバラに吹っ飛ばしてやるよォ、レェェェルガァァァァァァァァァン!!」

紫電が走り、莫大なエネルギーが集約される。
あれが一度放たれればたちまちに美琴もろともこの施設の一区画を消滅させてしまうだろう。
分かる。あれはヤバい。前とはまるで違う。
前回と同じように超電磁砲で迎え撃ったところで、勝負にすらならないことが直感で分かる。
だからこそ、

「―――甘いわね」

チャリン、と。

美琴は親指に乗せたそれを弾いた。

「そんなんじゃ私のこれには勝てないわよ」

それは独特の軌道を描いて宙を舞う。
やがてその高度は頂点に達し、重力に引かれて落下を始めた。

「ここまで憎んだのはアンタと一方通行くらい。本ッ当に、ふざけた真似してくれた」

それはそのまま差し出された美琴の左の親指に吸い込まれるように落ちていき、

「だから、相応の礼はさせてもらう!!」

美琴の指が、それを弾く。
網膜を焼き尽くさんばかりに迸るオレンジ色の閃光。
圧倒的な輝きはこの空間からあらゆる色を奪い、ただその力の片鱗で全てを燈色に染める。
明確な指向性を持って放たれた弾丸は、絶対の破壊の槍となって標的を貫き殺す。

「くッたばりやがれェェェェェェェェ!!!!!!」

「私をここまでさせたのはアンタ。もう後悔しても遅すぎるわよッ!!」

美琴のものと全く同時、テレスティーナの擬似超電磁砲が爆発的な衝撃波を伴って発射される。
ただでさえ美琴の超電磁砲を上回るガトリングレールガンを更に超えたもの。
まともに撃ち合えば間違いなく美琴は負ける。

そして、御坂美琴の能力名にも冠される第三位の切り札『超電磁砲』と、テレスティーナ=木原=ライフラインがその科学力を注ぎ込んで作り上げたオリジナルを超えるレールガン。
その二つが二人の中心地点で激突した。

もとより勝敗など分かりきっていた。
たとえ何らかのイレギュラーが起きて美琴の超電磁砲が強まったとしても、それでも及ばないほどテレスティーナのものは強力だ。
それを正面からぶつけ合えばどちらが押し負けるかなど誰でも分かる。
そして現実はその通りに推移し、二束のオレンジ色の輝きは決して拮抗などしなかった。
拮抗できるほどのエネルギーの差ではなかった。

そう、圧倒的に―――御坂美琴の超電磁砲が勝っていた。

「ッな!?」

一瞬だった。二つの高エネルギーが接触した瞬間、美琴の超電磁砲がテレスティーナのものをあっさりと食い破る。

「『      』」

そしてそれは勢いそのままにテレスティーナへと食らい付き、戦果として耳を劈くような轟音と衝撃波を撒き散らす。
壁は完全に破壊され、その奥の一画まで崩落していたが確実に超電磁砲は主に勝利を届けていた。
分かっていたことだ。御坂美琴の超電磁砲、その特性を考えれば。

美琴の超電磁砲は『ローレンツ力で加速して砲弾を撃ち出す』ものだ。
射程距離はおよそ五〇メートル。速度は音速の三倍ほど。
だが。それらは全て『弾体にメダルを選択した場合』の話。

そう、美琴の切り札は弾丸の種類を限定しない。
彼女は好んでゲームセンターのコインを使用しているが、それだけしか使えないわけではない。
以前テレスティーナと戦った時には巨大な駆動鎧のパーツを撃ち出している。
それどころか学芸都市では砂鉄でコーティングすることで導体に変え、『雲海の蛇(ミシュコアトル)』を射出したこともあった。

必然、超電磁砲の速度や威力はその弾体に依存する。
たとえばコインでは射程距離は五〇メートル程度が限界だが、『雲海の蛇』を弾に使用した時には水平線を超えて見えなくなるほどの距離を飛ばしていた。
テレスティーナはそこを見誤った。テレスティーナの考えた『超電磁砲』とは、メダルを使用した超電磁砲だったのだ。
ファイブオーバーもそれは変わらない。ガトリングレールガンが超えているのはあくまでメダル使用の超電磁砲だ。

とはいえ、たとえそういった別の弾体を撃ちだしたところでテレスティーナの強力な擬似超電磁砲には打ち勝てなかったかもしれない。
それこそ『雲海の蛇』ほどの巨大なものならともかく、その他のものでは出力が足りなかったかもしれない。
美琴の周囲にあったようなものでは勝てなかったかもしれない。
だが、美琴の使った本当の『切り札』ならば話は全く別。

「ふぅ……。さっすがリアルゲコ太ね。仕事がいちいち確実だわ」

それは美琴が冥土帰しに事前に用意してもらったとっておきであり保険。
超電磁砲専用の、弾体。
専用のものを使うのは今回が初めてだが、結果は十分だった。

テレスティーナは血を流して気絶しているが、決して死んではいない。
美琴がそういう風に調整したからだ。
ここで見逃せばきっとまたテレスティーナは美琴の前に立ち塞がるだろう。
その際に利用されるであろう命を考えれば、ここで殺しておくのが正しい選択なのかもしれない。
だがそれでも。テレスティーナを嫌悪しているからこそ、『人殺し』という彼女と同じものには成り下がりたくなかった。
そういう『らしさ』を彼女は取り戻していた。

それ以上に美琴の頭を占めているのはもっと違うことだ。
美琴の放った超電磁砲がテレスティーナを貫く瞬間、彼女が呟いた六文字の単語。
聞き覚えのないその言葉を、美琴は舌の上で転がして吟味するように声に出して確認する。




「『八段階目の赤』……ね」













御坂美琴が死を受け入れた。
その事実は一方通行にとって到底耐え難いものだ。
しかし。あの少女の心に漬け込んでそこまで追い詰めて、それを見て爆笑している木原数多は生きている。
その現実の方が遥かに耐えられない。
木原数多がこうして息をして、世界に存在していることそのものが受け入れられない。

一方通行は暴れた。もはやまともに思考する余裕は残っておらず、ただ怒りに任せて力を振るった。
だが冷静であっても勝てなかった木原に、そんな興奮状態で勝てるわけもない。
いい様にあしらわれ一方通行は何度も地を舐める。

その時、垣根帝督の声が聞こえた。
一言で言ってしまえば美琴を励ますもの。美琴の再起を促すもの。
それを聞いた一方通行も即座に反応し、同じく美琴への呼びかけを始める。
木原と戦いながら必死に言葉を並べ、想いを吐き出した。
そのかいあってか美琴は立ち上がり、いつものあの眼を取り戻していた。

「どンな気分だよ木原。もォオリジナルは完全に復活しちまったぜ?
残念だったな、アテが外れて」

木原数多は一方通行を最大限に苦しめるために美琴を追い詰めた。
つまり美琴が立ち直ればそれに連動して一方通行の精神状態も回復するということ。
ならば今この状況は木原にとって酷く都合の悪いもののはずだった。
モニターの中では番外個体が能力を撒き散らしているが、今の美琴ならば対処は可能だろう。
だと言うのに、木原数多は相変わらずニヤニヤと笑っている。

押し寄せる嫌な予感。
そしてそれを肯定するように木原は言った。

「なあ一方通行。知ってるか?
人間ってのはよ、最初からの絶望より上げて落とされる方が何倍もくるんだよ」

一方通行は木原のその言葉に何も返すことができなかった。
何か言い返す前に、その言葉の意味を知らされてしまったから。
ぶちゅり。そんな何かが潰れるような、弾けるような、生理的嫌悪感を掻き立てる音がモニターから聞こえてきた。
つまり美琴と番外個体のいる部屋からだ。一方通行はその音に覚えがあった。
何度も何度も聞いたことのある、立てたことのある音だった。

『―――……は?』

画面の中の美琴が一方通行の心境を代弁する。
番外個体という少女のうなじの辺りが裂けている。
当然美琴は何もしていないし、するわけもない。
かといって番外個体本人が自爆したようにも見えない。
ならば答えは一つだった。

『……ア、ン、タ、の、せ、い、だ』

血塗れの番外個体が呪うように呟く。
当然その言葉の矛先は美琴だ。
ここまで追い詰めらて、一度立ち上がった美琴が間髪入れずこんなものを見せられればどうなるか。

「うし、当たり前だがちゃんと動作したみてえだな」

「キィハラァァァァァァあああああああああああああああああッ!!!!!!」

番外個体を弾けさせたのは間違いなく『木原』だ。
その口ぶり、「番外個体に手を加えた」という言葉からして大方木原が爆弾か何かを仕込んだのだろう。
勝手に妹達を作って、道具のように利用して、御坂美琴を傷つけて。
それだけで一〇〇回殺しても足りないほどだが、この男はこれで明確に妹達に手を出した。

一方通行は自身を構成する柱が砕ける音を聞いた。
中心から末端までがドロドロとした感情に染まった。
ついに、これでもかと叩き込まれた悪意が一方通行の心の許容量を超えた。

モニターの中の御坂美琴が世界全てを呪うような、その声だけで人間の精神を犯し尽くし壊してしまいそうな咆哮をあげる。
それを受けて木原数多は獰猛に笑う。嘲る。

「イイねぇ、最高じゃねぇか!! やっぱあのアマじゃねえがこういう瞬間ってのはどうしても滾っちまうなぁオイ!!」

木原数多の「一方通行を極限まで追い詰める」という策は完全に成功した。
その目的通り第一位の精神は激しく揺さぶられ、圧倒的な苦痛を刷り込まれた。
だが。木原数多にはたった一つだけ、誤算があった。

―――木原数多の策はあまりにも“効き過ぎた”。

あまりの衝撃に、右脳と左脳が割れた気がした。
切り開かれたその隙間から、何か鋭く尖った物が頭蓋骨の内側へ突き出してくる錯覚が確かにあった。
脳に入り込んだ何かはあっという間に一方通行の全てを呑み込んでいく。
ぶじゅっ、という果実を潰すような音が聞こえた。両目から涙のようなものが流れた。
それは涙ではなかった。もっと赤黒くて薄汚くて不快感を催す、鉄臭い液体でしかなかった。
涙腺から零れるものすらも、既に嫌悪感しかなかった。

「ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

背中が弾け飛んだ。
そしてそこから二対の黒い、黒い、漆黒の翼が激しく噴き荒れる。
翼というよりは墨の噴射という方が正しいか。
一瞬で圧倒的な規模にまで展開された黒い翼は、壁や天井をいとも簡単に突き崩す。
当然それに伴って瓦礫などが雨のように降り注ぐが、それも黒翼を一振りすると悉く薙ぎ払われて消える。

その絶望の双翼は垣根帝督との戦いで開花した力。
学園都市第一位の秘めたる力。
木原数多を死に至らしめる力。

その悪魔の如きシルエットを見て、常に状況を掌握していた木原が初めて顔色を変えた。
それは一方通行が木原の想像の外に出たことによる驚き。
あまりに異常な光景に、木原は隠しもせずに動揺を露にする。

「……どうなってんだよ、その背中から生えてる真っ黒な翼はァあああ!?」

光さえも吞み込む純粋な漆黒。
木原数多は一方通行の能力を開発したからこそ、その思考も演算も『自分だけの現実』も読み取ることができる。
事実木原はそうやってこれまで第一位を圧倒していた。
にも関わらず、木原には目の前の現象が読めない。一方通行が何をしているかが決定的に分からない。

「そ、れが……第二位との戦いで得たとかいう力かよ!?」

とにかく何かしなければ。
そう思ったのか、木原が体を動かそうとする。
だがその瞬間。ぐしゃり、と。木原数多の体が莫大な力を受けて壁にめり込んだ。

「がッ……バ、ァ!?」

何が起きたのか、木原数多は理解できていないはずだ。
一方通行はその黒い翼を動かしていない。
ただ緩やかにその手を動かしただけで何らかの力が作用し、木原の体を薙ぎ払った。
ブチブチ、という音を立てて木原の左腕が根元から千切れる。
全身の骨もめちゃくちゃに折れていた。

もはや勝敗は決した。
絶対に負けることのないはずの木原数多は倒れ、一方通行だけが立っている。
だが今の木原はそんなことを考えてはいない。
木原の頭にあるのは一方通行に負けた悔しさではない。死への恐怖などでもない。
あるのはただ目の前の現象を解析して理解したいという、究極に科学的な欲求。

        ク リ ア ラ ン ス
(新たな制御領域の拡大の取得だと。こいつ、『自分だけの現実』に何の数字を入力した……。
一体どことの通信手段を確立しやがったんだ!?)

一方通行の能力はベクトルを操ること。
ならばこの現象もそれによって引き起こされていると見るのが妥当だ。
しかし。この翼も、今の攻撃も、並の力で起こせるものではない。
真っ先に思いついたのは風だった。
大気ならばたしかにこの空間にも満ちている。だがそんなものであの黒い翼は到底説明できない。

そこで、木原数多は思いつく。
この学園都市の最大の特徴は何か。それは紛れもなく能力者の存在だ。
彼らは無能力者であっても例外なく“ある力”を発している。
この学園都市に満ちる力の代表格と言えば。

(AIM……。おい、ってことは……あの黒い翼の正体は!?)

ははは、と木原数多は笑う。
この一方通行という存在はそこまで行ったのか、と。
不可思議な翼の正体を暴いた感覚も、もっとこの現象を調べたかったという思いに掻き消されていく。
ただそれだけが木原数多の心残りだった。
だがしかし。それでも木原という人間は、最後まで一方通行を絶望させることをやめはしない。

「……『八段階目の赤』。残念だったな、スクラップ野郎。テメェらはみんな死ぬんだよ」

だが一方通行はそんな言葉に耳を貸さない。
まさに悪鬼としか言い様のない表情で一方通行は木原数多を鋭く見据える。

「ihbf殺wq」

圧倒的な虐殺が始まった。
響くのは肉を打つ音。まるでハンバーグをこねるような粘着質な音が耳を叩く。
ぐちゅ、ぐちゅ。ぐっちゃ、ぐっちゃ。
木原の顔は既になかった。プレス機で押し潰したように平らになっていて、ただ赤やピンク色の物体だけがべちゃりと床に張り付いている。

「あああァァァァァあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

狂ったように叫ぶ一方通行によってその体も次々と叩き潰される。
体が裂け、はみ出した臓器も押し潰され、餅つきのようにその粘性を増していく。
それらがついにもはや固体ではなく液体に変わりだしたころ、ようやく一方通行は次の行動に移った。
彼の掌から説明不能の不可視の力が溢れ出し、木原数多の肉片を跡形もなく消し飛ばす。

殺した。

木原数多をついに殺した。

その事実をようやく認識した一方通行は動きを止め、その場に力尽きたように座り込む。
黒翼が消え、ほとんど残っていないチョーカーを切ったところで一方通行はその不穏な言葉を思い出す。
木原数多が死に際に残したその遺言は。

「『八段階目の赤』、ね……。たしかこれは……チッ、洒落になンねェぞクソが……!!」

木原数多は死んだ。この手で殺した。
だがそれでも一方通行の心は晴れない。それほどのことをあの男はやった。
あんな程度では全く足りないのだ。しかし記憶が確かなら、そんなことがどうでもよくなるほどにこれはマズい。
一方通行は晴れぬ心境のまま、ろくに休みもせずに再度動き出した。










『ぶちゅり』。
そんな肉が弾けるような、聞き慣れた音を垣根は聞いた。
発信源は木原病理も持つタブレット、つまり御坂美琴のいる空間からだ。
何が起きたのかすぐに分かった。
番外個体の首筋が裂けている。そこからドクドクと鮮血が流れ出し、赤い水溜りを作っている。

それが何を意味しているのか。
勿論それは『木原』によるものだろうし、番外個体の生命活動を停止させるものだろう。
だがそんなことはどうでもいい。垣根にとって番外個体の生死自体ははっきり言ってどうでもいいのだ。
垣根は単に自分の世界を守るためだけに戦っている。
美琴や上条といった存在はその世界にいるために失ってはならない人間だが、番外個体はその居場所にはいない。

「……おい」

しかし番外個体の死は垣根にとって無視できない事態を引き起こす。
常識的に考えて。ずっと妹達に手を出すことを拒んでいた美琴が。
目の前でこんな光景を見せられて、耐えられるだろうか?

咆哮が轟いた。木原病理の持つタブレットが砕けるのではというほどの叫び。
一瞬誰の声だか分からなかった。それほどに御坂美琴は腹の底から吠えている。
耳を塞ぎたくなった。これ以上その声を聞いたらこっちの精神まで犯されるような気すらした。
とてもではないが美琴、というより人間が出している声とは思えなかった。

「……あああああああああッ!! あァァあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

まるで美琴の悲鳴を掻き消すように垣根は叫んだ。
もう美琴は大丈夫だと思っていた。
だが違った。『木原』は最初からここまで用意していたのだ。
何があっても確実に心の柱を砕くための策を。

滅茶苦茶に『未元物質』を撒き散らす。能力が無差別に発動する。
それが鬱陶しかったのか、木原病理はイエティの推測構造を取り込んだ腕を水平に払う。
それだけで垣根の体はあっさりと薙ぎ払われ、無理矢理に叫び声も止められる。
ぐしゃりと壁に叩きつけられ崩れ落ちる垣根だったが、がくがくと震える腕で立ち上がろうとしていた。




……おかしい。木原病理はその様子に疑問を感じていた。
そもそもがその前から変だった。
念動力を食らわせた直後辺りから僅かに感じていた疑問が明確な形を取る。

(妙ですね。もう垣根帝督に立ち上がることなどできないはず。
いや、そもそもまだ生きていることがあり得ない)

あの時の念動力も人間が食らえばまず絶命するレベルのものだった。
それを垣根は防御することも出来ずにまともに食らったのだ。
にも関わらず垣根は立ち上がり、ここまで移動し、そして今更なる一撃を食らって尚立とうとしている。

明らかな異常だった。
精神論の問題ではない。人体の構造的にもう立てるはずがない。
科学の頂点に立つ『木原』である木原病理はそれをよく知っている。
間違いなく垣根帝督はもう立てない。仮に生きているにしても既に虫の息のはずなのに。

(だというのに、何故動けるのです? 何か、タネがあるはず―――)

「よ、お……」

垣根帝督が、血塗れの垣根がこちらを見る。
そこには不敵な笑みがあった。
今にも倒れそうで、けれど明確な意思さえ感じられた。
木原病理には理解できない。

「んな、に……不思議、かよ? 俺が、生きてるのが……」

ついに垣根は立ち上がった。
ふらふらではあるが、二本の足で立っている。
あり得ない現象だった。目の前の現実が計算とまるで合わない。

「あり得ないっ……。あなたはもう立てないはず!! なのに、どうして……!?」

「ハッ。ヒントを、与えたのは……他でもねえ、テメェだろうが……。
今の一撃の……おかげで、また冷静になれた」

ヒント? 木原病理はその垣根の言葉を脳内で猛烈に分析する。
木原病理が垣根に見せたものは何か。
考えられるものは一つしかない。木原病理はある一つの可能性に行き着いた。

「まさか、あなた……『未元物質』を使って人体細胞の構築を!?」

木原病理はずっと取り込んだ『未元物質』を使って戦っていた。
二本足で立ち上がったのも、異常な再生能力も、その域を超えた改造も、全て『未元物質』を利用したものだ。
だが本来『未元物質』という能力は垣根帝督の所有するもの。
第二位の『自分だけの現実』から生じ、第二位の演算能力によって形を得る能力。

ならばこそ。木原病理にできることが、垣根帝督にできない道理はあるのか。
垣根の言う通り、ヒントはいくらでもあった。
ずっと木原病理は『未元物質』を使って戦っていたし、垣根はずっとそれを観察していた。
その異常とも言える学習速度は流石としか言い様がないが、他に考えられる可能性はなかった。
木原病理によって削ぎ落とされた体。だがその欠陥部位を多少なりとも『未元物質』で補っているとするならば。

「その、通りだ、クソッタレ……。本当、テメェなんだぜ、答えを教えたのは」

ここに来て掴んだのは『未元物質』の新たなる進化の可能性。
自分が垣根帝督に進化のきっかけを与えたという事実に木原病理は歯噛みする。
だがかといってそれがどうしたと言うのだ。もはや戦況は覆らない。

「いずれにしろあなたはもうふらふらです。このまま畳み掛ければ間違いなくあなたは死ぬ」

「……分かってねえな、テメェ」

その言葉に木原病理は何も言葉を返さなかった。いや、返せなかった。

何故か。

突然木原病理の体がボゴン!! と膨張し、全身をおぞましいほどの激痛が駆け抜けたからだ。

「ぁ、は……っ!?」

何が起きたのか理解できなかった。
垣根の『未元物質』は封じたし、それ以外の攻撃も受けていない。勿論第三者によるものでもない。
不可解な現象だった。体のコントロールがほとんど効かない。
そしてそれを見て笑うのは血塗れの垣根帝督。
垣根がこれを引き起こしたと感じた木原病理は垣根に吠える。

「あなた、一体……一体何をしたんですか!?」

「疑問だったんだ」

垣根は告げる。隠していた木原病理の恐れを。

「俺の『未元物質』を使ってそれほどの自由度を得ていながら、何故テメェは木原病理という人間の形でいるのか。
……単純にビビってるわけだ。そりゃそうだよな。テメェは『未元物質』を御しきれてねえ。
何をどうしようと、俺が作り出したものには俺の痕が残る。
万人に啓蒙する科学技術と違って、『未元物質』はあくまで俺だけの能力。
そんなモンを体内に取り込めば待っているのは拒絶反応だ」

「……っ」

「こうしている今もテメェは自分の形を見失い始めてるはずだ。
それでもテメェは俺を殺すために、殺されないために『未元物質』に頼らざるを得ない。
たとえそれが危険だと分かっていてもな。
とはいえテメェほどの奴なら後で肉体の修復は可能だろうよ。
だがな、木原。テメェは決定的なミスを犯した」

「……まさか、そういう、ことですか……ッ!!」

「テメェは俺の『未元物質』を封印するために『ピンセット』を使用した。
そいつで素粒子の一つ一つを毟り取るという方式を採用したんだ」

だがこのやり方には一つだけ問題点があった。
たしかに『ピンセット』ならばそうやって『未元物質』を処理することもできるかもしれない。
しかし。これはあくまで『未元物質』をその場から排除するだけであって、『未元物質』を消滅させるわけではない。
では『ピンセット』で掴み取った『未元物質』は一体どこに流れるのか。

「量が少なければ掴み取った『未元物質』を容器か何かに入れておけるかもしれねえ。
だがそうでなければ『未元物質』は行き場所を失う。かといって外に出しちまえば本末転倒だ。
……そこで気付いた。テメェは『ピンセット』で掴んだ『未元物質』をそのまま体内に取り込んでるってな」

木原病理の体はこうしている今も『崩壊』を続けている。
最初から、垣根はこれを狙っていた。

「ずいぶんと苦労したぜ。俺はずっと『未元物質』を発動させていた。
テメェの攻撃を防ぐ時だけじゃねえ、ずっとだ。
そして今、ようやくテメェの体内の『未元物質』が許容量を超えたってわけだ」

「あ、がっ……ぎ、は……っ!!」

度を超えて『未元物質』を取り込んだことによる対価。
垣根はみるみると形をなくしていく木原病理からタブレットを取り上げる。
そして少し操作すると木原病理が設定していた美琴のいる部屋の映像が映し出される。
そこに映っていたのはまたも復活を果たした御坂美琴の姿だった。

何があったのか、何がきっかけとなったのかは垣根には分からない。
だがそんなことはどうでもいい。美琴はまたもあの絶望から這い上がったのだ。
これで二度目。やはりああいう種類の人間は違う、と垣根は思った。
垣根はその映像を木原病理に見せ付けると、すぐにタブレットを破壊してしまった。

「何でかは俺も知らねえが、御坂はまた立ち直った。
残念だったな、木原。これでテメェの企みは全部失敗だ。
いつまでもテメェの思い通りに俺たちを動かせると思ってんじゃねえ」

垣根を殺すことも。
美琴を利用して垣根を絶望させることも。

 カーテン・フォール
「……閉幕だ」

そして垣根帝督は勝利宣言をする。

「アンコールはないぜ?」

木原病理は正しく自らの敗北を理解する。
もはや死は避けられない。
だが、かといって木原病理にただで死んでやるつもりは全くなかった。
垣根はここまで来てまだ木原病理を―――『木原』を侮っていた。
『木原』の狂気はこんなものではない、とでも言うように。
木原病理は絶望を告げる。

「……たしかに私の死はもう避けられません。それは認めましょう。
ですが、あなたの死もまた同様に確定しています」

「負け惜しみか?」

「『八段階目の赤』」

「――――――ッ!?」

木原病理の口にした単語。垣根帝督は思わず絶句する。
それほどにその言葉の持つ意味は大きかった。

「ウソだろオイ……まさか、マジかよテメェ……!?」

             マ グ ネ テ ィ ッ ク デ ブ リ キ ャ ノ ン
「そのまさかです。『地球旋回加速式磁気照準砲』。
あれは既に私たちの頭上を、地球の周囲を旋回しながら力を蓄えています」

正式名称HsMDC-01『地球旋回加速式磁気照準砲』。通称『八段階目の赤』。
学園都市が打ち上げた衛星、『ひこぼしⅡ号』に搭載されている軍事テスト兵器。
その実態は大質量の砲弾を軌道上に放り出し、地球の自転の力を借りて超高速の運動エネルギーを得る。
そして砲弾を使い捨ての小型宇宙船の電磁力で軌道を捻じ曲げて地表へと落とす、というものだ。

砲弾のサイズは一〇段階に分けられており、八段階目以降が地球に着弾した場合。
周囲数十キロをクレーターにし、地下にある核の直撃にも耐えうる軍事級避難所すら丸ごと抉り取り吹き飛ばす都市壊滅レベルの破壊力を生み出すことになる。
だが『八段階目の赤』は地球の自転エネルギーを使って加速するもの。
地球の衛星軌道上をぐるりと周回することでようやく最大威力を発揮できる。
つまり、撃ってすぐに地表に着弾するわけではない。

『地球旋回加速式磁気照準砲』は既に発射されている。
そして間もなくこの学園都市目掛けて落ちてくる。
―――許せば、学園都市諸共全てが跡形なく消滅するだろう。

「しかもあなたの『未元物質』も使って私たち『木原』が手を加えました。
さあ、どうします? 死に場所くらいは選んでもいいんですよ?」

第一級警報の発令。
これは『地球旋回加速式磁気照準砲』が発射されたことによるものだったのだ。
砲撃までもう時間がない。

『木原』は初めから確実に一方通行、垣根帝督、御坂美琴を殺すための策を用意していた。
その精神面から叩き潰すだけではない。
たとえ引き分けに終わったとしても、敗北したとしても、それとは無関係に彼らを死に至らしめるための方法を。
その結果学園都市が丸ごと消し飛んでも。『外』も巻き込んで滅んでも。何百万の無関係の命が消えるとしても。
『木原』はただ自分の殺したい相手を殺せるなら、それで良かったのだ。

「ちくしょう……ッ、このイカレたクソ野郎が!! どこまで弾けりゃ気が済むんだテメェらは!?」

まさか『八段階目の赤』なんてものが使われるなんて完全に垣根の想像の外だった。
止めなければならない。でなければ何もかもが滅ぶ。
だが具体的な方法が全く思いつかなかった。そもそもそんな方法は『木原』共が事前に潰しているに違いない。

「『八段階目の赤』だと。そもそもありゃ厳重なプロテクトがかかってるはずだろうが!!
プロジェクトチームの上位研究員の脳波をキーにしてるはずだ!!」

「く、くくく……。知らないのですか? あれは普通にニュースにも取り上げられましたが」

「何を……」

そして垣根帝督は何かひっかかりを感じた。
何か、自分は大事なことを見落としていたような気がする。
『八段階目の赤』。その使用には限られた人間の脳波を使うしかない。
そのプロジェクトに『木原』は関わっていないはずだ。ニュース?
この違和感の正体を明らかにすべく垣根の頭が猛烈に回転する。

記憶の海へと意識をダイブさせ、手探りで探っていく。
如何に超能力者として抜群の記憶力を有していようと、決して完全記憶能力者ではないのだ。
だから思い出せない可能性も高かったが、木原病理の言葉をヒントに垣根は何とか目当ての記憶を見つけることに成功する。
あれはずいぶん前のこと。四人で行ったとある喫茶店で、何気なく目をやったテレビでアナウンサーはこう読み上げていた。





    ――『一〇月九日の学園都市独立記念日に、第三学区の国際展示場で講演を行う予定だった一澤暁子氏が誘拐された事件の続報です―――……』 ――




「ッ!?」

頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
そうだ。あの時たしかにそういうニュースが報道されていた。
あれは『木原』によるものだったのだ。

(クソ……ッ、なんであの時に気付かなかった!? ボケすぎだちくしょう!!)

一澤暁子。その脳波。『地球旋回加速式磁気照準砲』の封印を解く鍵。
既に『木原』はキーを遥か前に手に入れていたのだ。
何とかしなければならない。もはやお喋りしている時間はなかった。

「こちらからも一つ質問があるのですが」

崩れた体で、木原病理は平時と変わらぬ表情を浮かべていた。
死に恐怖しているようには見えなかった。
おそらくそれは、垣根帝督が『八段階目の赤』によって死ぬことを知っているから。

「……何だ」

「あなたの『未元物質』。いくらあなたが常に『未元物質』を散布していたとしても崩壊が早すぎるように思いますが」

「ハッ。んなことも分かんねえのか。知らねえなら冥土の土産に教えてやるよ」

垣根帝督の背中に天使の如き六枚の白い翼が顕現する。
『未元物質』。木原病理の対抗策が無効になった今、何の問題もなくその能力は発動する。
垣根は翼を木原病理に向けて構え、無表情に言った。













「俺の『未元物質』に、常識は通用しねえ」












無慈悲に白翼が断頭台の刃のように振り下ろされる。
そしてそれは狙い違わずザン!! と木原病理の首を切り落とした。
ごろごろと転がる木原病理の首。
垣根はそれを靴底でぐしゃりと容赦なく踏み潰した。
脳が潰され、ピンク色の脳の破片が水と共にあたりに飛び散った。

だが垣根はその程度では止まらない。
残された木原病理の体の四肢を切り落とす。
腹を掻っ捌き、ハラワタを抉り出す。
それらを徹底的に潰す。ぶちゅり、ぶちゅりと。

消えてなくなるまで。床と一体化して汚い染みになるまで。
『八段階目の赤』に意識を持っていかれていたが、垣根の中にある木原病理への憎悪と殺意は欠片も衰えていない。
木原病理は絶対にやってはいけないことをした。
だから殺す。木原病理がこの世に存在した証すらも消す。

本来垣根は人を殺すことはあっても、自分の邪魔をしたり仕事だったりという理由によっていた。
単なる快楽殺人者ではなかった。だから、殺すにしても死体まで傷つけたりはしない。
だが。木原病理だけは違った。この女だけは完全完璧に消し去らなければ気が済まなかった。
御坂美琴の無残な姿が頭から離れない。

垣根帝督は震えるような声を漏らしながら、いつまでも木原病理の残骸を踏み潰し続けていた。













―――『地球旋回加速式磁気照準砲』が地表に着弾するまで、残り四〇分。












投下終了ってのは、必ずしもプラスに働くもんでもねえんだな

「常識は通用しねえ」は何気に今まで一度も言わせてません
今回満を持して勝利宣言です
伏線も二つ回収

>>259-264
バカたれ、ピンチになってから来た方がドラマチックじゃろが

……すいません、次回はもっと早く来れるように頑張ります

    次回予告




「ここで見逃せば、こいつは必ずまたお前の前に現れる。
このクソは今回だけでもあれだけのことをした。次は絶対にこのレベルを超えてくる。
今のうちに殺すのがベストだ。分かったか馬鹿」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「私だって理屈の上ではアンタが正しいんだってことは分かってる。
そうやって全部含めて考えた上で合理的な決断を下せるのが大人ってモンなんでしょうよ。
……でも、そうして理屈で人の命を切り捨てられるのが大人なら、私はずっと子供でいい」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「もォいいか?」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)




『……なんだか穏やかじゃなさそうですね。一体何を目的に?』
学園都市の『風紀委員(ジャッジメント)』―――初春飾利

乙  長くしのばせた伏線だったなぁ
あと40分の攻防に初春が参加するかもってのが正直楽しみ


垣根もう美琴にゾッコンラブだろ
ヤンデレるまで時間の問題……いや既にそうだったわ
やはりというか垣根はヤンデレが似合う

―――さあ。久方ぶりの楽しい楽しい投下タイムだ

魔琴が思ったよりずっとやばくて吹いた
アレイスターさん狙われすぎィ!!
あれで二パーセントとかテレポとかもう何がどうなっちゃってるの……

まあそれよりも火野の人気っぷりに驚いたけどな!!
>>1は相変わらず日々美琴と垣根に交互に入れてますよ……

>>295
ごめんなさいぃ……

>>297
一体どんなSS読んできたんですかw

悲劇では終わらせない。

垣根帝督は、ある人間の目の前に立っていた。
その人間は全身から血を流し、けれど確かに生きている。
テレスティーナ=木原=ライフライン。
御坂美琴に二度目の敗北を喫し、気を失っている。

「……甘い。甘すぎる」

テレスティーナが生きているということは、美琴が死なないように手を加えたということになる。
あれだけのことをされて。妹達まで弄ばれて。
まだ見逃そうというのか。
あまりにも甘すぎて、垣根は思わず笑ってしまう。

その甘さこそが御坂美琴の魅力なのだと知りつつも。
垣根には美琴と違ってテレスティーナを見逃そうなどという考えは僅かもなく。
きっとそこが自分のような存在とヒーローの違いなのだろう、と垣根は何となく思った。

「じゃあな。ま、善人にやられるよりかは惨めじゃねえだろ」

振り上げた右腕を下ろす。それだけの動作。
しかしそれはテレスティーナにとどめを刺すには十分すぎる動きだった。
テレスティーナは絶対にやってはならないことをした。
木原数多も、木原病理も、テレスティーナ=木原=ライフラインも。
漏れなく全員を殺さなければならない。

ここで殺さなければ、逆にこちらがこれから先殺し尽くされるかもしれない。
そして死神の鎌がテレスティーナの命を奪わんというところで、

「駄目!!」

視界の外からそんな女性の声が聞こえた。
振り向く前に背中に衝撃を感じた。
その女性が後ろから飛びついてきたのだ。

「殺しちゃ駄目よ!!」

御坂美琴。そこにいたのは第三位の超能力者だった。

「……御坂。お前が一番分かってるはずだ」

「ええ。こいつを殺しちゃいけないってことがね」

美琴がそんなことを言った。
誰よりもテレスティーナの狂気と危険性を理解しているはずなのに。
あれだけのことをされて尚、何故そんなことが言えるのか。
垣根には理解はできても納得はできなかった。

「ここで見逃せば、こいつは必ずまたお前の前に現れる。
このクソは今回だけでもあれだけのことをした。次は絶対にこのレベルを超えてくる。
分かるか? 誰が利用されるかも分からねえ。何をされるかも分からねえ。
今回こそ何とかなったが、この次もそう上手くいくとは限らねえ」

「…………」

「今回だってお前はぎりぎりまで追い詰められた。
いや、完全に限界を超えたはずだ。今度こそ死ぬかもしれねえんだぞ。
こいつらは人間じゃねえ。人の形をした別の何かだ」

テレスティーナは、絶対に諦めたりはしないだろう。
だからここで殺すべきだ。殺さなければならない。

「今のうちに殺すのがベストだ。分かったか馬鹿」

「分からないわね」

だが美琴がそれを否定する。
一番テレスティーナを憎んでいるはずの美琴が。
垣根から決して目を逸らさずに、真っ直ぐな瞳でこちらを射抜いてくる。

「私はこいつが嫌い。大嫌い。はっきり言って憎んでる。
でもだからこそ、こいつを憎む人間としてこいつと同じところまで堕ちたくはない」

「だから俺がやるっつってんだ」

「目の前のそれを見過ごしたら結局同じことよ。
それに、私はアンタにももう人を殺してほしくない。最低でも私の前ではね」

「こいつを見逃すということがどれほどの危険を孕んでいるのか、理解した上でか?」

「ええ」

美琴に退く気は一歩もないようだった。
垣根はチッ、と舌打ちする。
だがそれでも垣根はテレスティーナを見逃すべきとは思わない。
完全な考えの相違、立場の相違だった。

「つまりお前はまた妹達が利用されようと、最終信号が使い潰されようと。
白井たちが殺されても上条が実験台にされても一向に構わないと」

「そんなことは絶対にさせないわ」

「分かってんだろ。『木原』はその程度当たり前にやるぞ。
こいつは殺したくない、でも他の連中が利用されるのも嫌じゃ話になんねえ。
お前が言ってることはただの綺麗事だ。正しいかもしれねえがあまりに現実性がない」

「そうね。分かってる。私の言ってることは子供のわがままよ」

理屈で言えば垣根帝督は正しいのだろう。
テレスティーナが次に美琴の前に立ちはだかる時、彼女は一体どれほどの災厄をばら撒くか分からないのだ。
今殺さねば逆にこちらが殺されるかもしれない。
そのために関係者も無関係者も巻き込まれるかもしれない。
もしかしたら美琴の両親すらも利用されるかもしれない。

テレスティーナ=木原=ライフラインという存在はあまりにも危険だ。
情に流されて生かしておけば取り返しのつかない事態を引き起こしかねない。
その時になって後悔しても、もう遅すぎる。

だが倫理的に言えば正しいのは美琴なのだろう。
理屈も何もない、ただ人を殺すのはいけないことだ。
ただそれだけの愚直な、しかし紛れもなく『正しい』理由。

一体この場でどちらを優先するべきなのか。
垣根帝督はずっと理屈の世界で生きてきたし、御坂美琴はずっと倫理の世界で生きてきた。
だから二人の考えはいつまでも平行線。

「そりゃ私だって理屈の上ではアンタが正しいんだってことは分かってる。
そうやって全部含めて考えた上で合理的な決断を下せるのが大人ってモンなんでしょうよ」

でも、と美琴は区切って、

「そうして理屈で人の命を切り捨てられるのが大人なら、私はずっと子供でいい」

そう言う美琴の眼は揺るがぬ決意に満ちていた。
垣根は嫌というほど思い知る。こんな奴を説得するなんて絶対に無理だ。
どうやら御坂美琴という人間は思っていたよりずっと頑固だったらしい。
一方通行の時も。麦野沈利の時も。そして今も。
結局美琴は最後まで“殺人”という行為を拒み続け、絶対にその選択肢を許容しなかった。

「……ハァ。分かった分かった。だがな、お前のその選択は危険極まりないぜ?」

垣根がそう言うと、美琴は分かりやすく顔を綻ばせて頷いた。
……だが。実は垣根はそれでもテレスティーナを見逃すつもりは欠片もなかった。
なのに美琴の言葉に折れたのは、他に方法を見つけたからだ。
今ここで自分が手を下す以外の方法を。

美琴と垣根は連れ立ってその部屋を去っていく。
だがその際に、垣根はとある一点に目線を向ける。
その視線の先にあるのは白い、白い人影。
垣根の目と紅い目が合った。それだけで意図は伝わった。




この日。テレスティーナ=木原=ライフラインは死を迎えた。













一方通行、垣根帝督、御坂美琴。
学園都市の頂点に君臨する超能力者、そのトップスリー。
それぞれが『木原』との戦いを乗り越え、妹達に関係するありとあらゆる全てのデータを物理的に完全消滅させた三人が再度集結していた。

『中央制御室』。
その広い部屋に彼らはいた。
どうやら『八段階目の赤』もここから制御されていたようだ。
彼らは壁と溶接されているコンソールを操作しながら美琴に『八段階目の赤』について説明していた。

「……つまり、こいつを何とかできなきゃ全部綺麗さっぱり消し飛んじまうってことだ。
それほどに『地球旋回加速式磁気照準砲』はやばい」

「ウソでしょ、そんなの……。で、でも、もうその『地球旋回加速式磁気照準砲』は発射されてるんでしょ!?
もし私たちが負けてたら『木原』は自分で自分を吹っ飛ばすことになってたわよ?」

「何か策を用意してたンだろォな。たとえばリモコンで操作できる自爆装置とかな。
あれだけのエネルギーを持った砲弾なら、完全に破壊せずとも亀裂が入れば自壊する」

「なら、それを探せば……」

「あいつらがンなモン残してると思うか?」

学園都市を狙う『地球旋回加速式磁気照準砲』。
その事実を知った美琴は改めて『木原』に畏怖していた。

「でも一方通行には『反射』があるじゃない。それじゃ確実に殺せないんじゃ……」

「どうだかな。『木原』がそれを考えなかったわけはねえし、更に改良したとも言っていた。俺の『未元物質』すら使ってな」

「今や『八段階目の赤』がどォなってるかは誰にも分からねェ。
分かってンのはおそらく数十分後にはこの地表に落ちてくるだろォってことだけだ。
『木原』が俺たちにあまり時間を与えるはずはねェからな」

「……見つけた。あと二〇分ほどで『八段階目の赤』が落ちて来るぞ」

垣根がキーを叩く指を止めると、備え付けられた小さなモニターに何らかの情報が英文で表示された。
それはリアルタイムで『八段階目の赤』を追っているのか、現在の高度や速度、そして着弾までの時間が示されていた。
とはいえそれはあくまでそういった情報を閲覧できるだけで、ここから『八段階目の赤』に何か働きかけることはできないらしい。
つまりここからではどうやっても『地球旋回加速式磁気照準砲』を止めることはできないということだ。

「二、二〇分!?」

「別に驚くことでもねェだろ。すぐに落とすだろォってのは読めてたしな。
それにたとえ三日あったとしても学園都市の住人全員を避難させるなンてできねェンだ。
三日だろォと二〇分だろォと大して変わンねェよ」

「御坂、初春飾利に連絡を取れ。一つだけ『地球旋回加速式磁気照準砲』を止める方法に心当たりがある」

「え、本当!?」

「第二位のことだ、どォせ期待は出来ねェよ」

「可能性は低いがな。それと一方通行は死ね」

美琴は何故初春飾利なのか疑問に思ったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
そんな時間もない。携帯を取り出して初春に電話をかけると、幸いにも彼女はすぐに出てくれた。
飴玉を転がすような甘ったるい声が返ってくる。
美琴は一言断ってから垣根に携帯を渡した。

「聞こえるか? 初春飾利。垣根帝督だ」

『あ、垣根さん。お久しぶりですね。あの風紀委員の時以来ですか。
でも一体何の用事なんですか? 垣根さんが私になんて』

初春が親しげに声をかけてくるが、残念ながらそれにまともに取り合っている時間はない。
垣根は簡潔に用件だけを叩きつける。

「お前、『守護神』なんだってな。なら今すぐクラッキングをかけろ」

『「守護神」? 何ですかそれ』

何を言っているのか分からないという感じの声だった。
とぼけているようにも見えない。垣根は美琴から病院で聞いた話しか知らない。
だからもしかしたら人違いという可能性もあったが、そこは重要ではない。
垣根が必要としているのは『守護神』ではなく、そう称されるほどの腕を持つクラッカーなのだ。

「何でもいい。いいから早くクラッキングしろ。二〇分以内だ」

『……なんだか穏やかじゃなさそうですね。一体何を目的に?』

そして垣根は『地球旋回加速式磁気照準砲』を止められるかもしれない希望の名を言った。

「『デブリストーム』。学園都市の試作型防空宇宙兵器だ。
こいつをどんな方法を使ってでも起動させろ。この街の軍事中枢クラウドを攻撃するんだ。
躊躇ってる暇ぁねえ。学園都市を滅ぼしたいなら話は別だがな」

『学園都市が滅びる!? ……分かりました。事情は何も聞きません。御坂さんもいることですしね』

「話が早くて助かる」

垣根はピッ、と通話を切ると携帯を美琴に投げて渡す。
美琴はそれを受け取りながら垣根の言ったその兵器の名を反復するように繰り返す。

「『デブリストーム』……?」

「太陽風を操って地球の周りのスペースデブリをベルトごと動かすモンだ。
誘導に成功すれば秒速数キロで動く数万のデブリが砂嵐みてェな塊になって、不審物を片っ端から叩き落す。
だがありゃァあくまで試作型だったと思ったンだがな」

「たしかにあれはあくまで試作品。大規模な電波障害を起こす可能性もある。
だが確実性には欠けるとはいえ、もし『八段階目の赤』を止められる技術があるとすればこれくらいだろうよ。
起動すりゃUFOだろうが弾道ミサイルだろうが、それこそ世界最大規模の弾道ミサイル防衛網になる。
完成すれば百発百中の最強の防衛システムになるだろうな」

ほえ~、と美琴はしばしこの状況を忘れて間抜けな声を漏らす。
そんな兵器があったのか、と美琴は驚きを隠せない。
この街のとんでも技術は様々なところで見てきたが、これはまたスケールが違う。
『八段階目の赤』だの『デブリストーム』だの、やはり学園都市の科学力はぶっ飛んでいる。

「……でもさ、そんなもの当然一般には秘匿されてるものでしょ?
それを動かすなんて初春さんでも二〇分で出来るとはとても思えないんだけど」

「問題はそこだ。俺も二〇分でやれるとは思ってねえ。
あくまで『デブリストーム』は選択肢の一つ。当然他に本命を用意する必要がある」

「あと二〇分で?」

「出来なけりゃ死ぬだけだ」

地球の自転の力で超エネルギーを得て地表へ放たれる『地球旋回加速式磁気照準砲』。
着弾すれば最低でも学園都市は丸ごと消し飛んでしまう。
宇宙空間から放たれるそんなものを、残りの僅かな時間の中でどうやって止めろというのか。

そんな時、手がかりを探してキーを叩いていた美琴が何かを発見する。
体は震え、冷や汗を流し、手はじっとりと汗をかいている。

「ウ……ウソ、でしょ……。何考えてんの……ッ!?」

美琴の目は大きく見開かれていて、まるで幽霊でも見たかのような反応だった。
それほどに信じがたいものがそこには表示されていた。
その様子に気付いた垣根と一方通行が不審そうな顔をしてやってくる。

「どォした?」

「何か見つけたか?」

そして美琴の見ている小さな液晶画面を覗き込んだ二人から、ヒュ、という息を呑む音が聞こえてきた。
そこにあったものは、

「『地球旋回加速式磁気照準砲』が……“二つ”ある……っ!!」

残り時間はあと僅か。学園都市を狙う『地球旋回加速式磁気照準砲』。
だがそれは一つではなかった。もう一つあったのだ、全てを滅する破壊の槍が。

「馬鹿な……ッ、『八段階目の赤』が二つあるなんて聞いたこともねえぞ!? どうなってやがんだ!!」

「……『木原』だ。あいつらはとことンまでやるつもりだったンだ。クソったれが、どこまでイカれてンだ……!!」

おそらく『木原』はこう考えたのだろう。
勝とうが負けようが確実に殺すために『地球旋回加速式磁気照準砲』を用意しよう。
だがそれだけでは確実性に欠ける、と。
だから一〇〇パーセントの確率で殺せるようにもう一つを用意した。

この三人を殺せるのみならず、学園都市ごと吹き飛ばすということは更なる意味も持つ。
打ち止めや上条らを始めとする彼らの大事なものも纏めて奪えるのだ。
『木原』としてはうってつけの方法だったに違いない。

三人は必死にその頭をフル回転させた。
超能力者としての知恵と知識を総動員させてこの危機を乗り越える方法を模索する。
だが誰も一言も喋ろうとはしない。三人とも何も思いつかないのだ。
一秒が惜しまれるこの状況で、無常にも無為に時間だけが流れていく。

いや、それは正しくない。
実は三人とも一つだけ方法を思いついていた。
だがそれはあまりにも正確さに欠けていて、もはや妄想と言ってもいいほどで出来ることなら避けたいものだ。
そして永遠に続くかとさえ思える沈黙を破ったのは、美琴の携帯から流れる軽快な音楽だった。
着信。相手は『初春飾利』。

告げられた答えは『失敗』だった。

『申し訳ありません、御坂さん。
桜坂さんとも協力して全力は尽くしたのですが、異様に強固なプロテクトがかけられていて……。
あれをどうにかしようと思っても圧倒的に時間が足りません……』

おそらく、いや間違いなくそのプロテクトとやらを仕込んだのは『木原』だろう。
初めから『デブリストーム』を使用不能にしていたのだ。
『木原』三人が仕込んだ防衛網となると、如何な初春飾利と桜坂風雅のタッグといえど一筋縄で行く相手ではない。
時間さえあれば何とかなったかもしれないが、肝心のその時間がない以上どうしようもない。

桜坂風雅。初春をも敗北させた彼女がいることに美琴は驚いたが、それ以上にその桜坂を以ってしても不可能だったという事実にショックを受けていた。
やはり時間だ。圧倒的に時間が足りない。
初春飾利と桜坂風雅以上の逸材を美琴は知らない。仮にそんな人間がいたとして、協力してくれたとして、それでもやはり時間の壁に阻まれるのだろう。

美琴は半ば放心状態のまま通話を一方的に切る。
そんな美琴を見ていた垣根と一方通行も初春の失敗を静かに悟る。
だがだからといって初春を責めるのは筋違いもいいところだ。
初春と桜坂は、きっと文字通り全力で取り掛かってくれた。
もともとが時間がなさすぎたのだ。失敗するのは想定の範囲内。
そのはずだったのに。

『デブリストーム』はあくまで保険。本命は別に用意する。
そのつもりだったのだが、絶望的に方法が思いつかない。
いつの間にか三人の中では保険だったはずの『デブリストーム』が本命に変わってしまっていた。

『デブリストーム』の起動失敗。
それはそのまま本命を叩き折られたことを意味していた。

「……この状況で全てを守るには、どうすればいいんだろうな?」

「……もう、やるしかないわ。私が『地球旋回加速式磁気照準砲』を止める」

美琴が考えた破滅を食い止める方法。
それは自分の力で砲弾を止めることだった。
『デブリストーム』のような科学技術を使用できないならば。
その身に宿る能力でどうにかするしか、ない。

「なンだと? ふざけてンのか?」

一方通行の目つきが変わる。だが美琴は動じない。

「どうするつもりだ? 『八段階目の赤』は並大抵の兵器じゃねえ。何か策でもあるのか?」

そして美琴は机上の空論の切り札の名を告げる。

「―――『荷電粒子砲』よ」

高速の荷電粒子を撃ち出す兵器である荷電粒子砲。
それはあくまでサイエンスフィクション上の兵器であり、現実には実用化されていないものだ。
砲弾として用いられる荷電粒子(電子、陽子、重イオンなど)を、粒子加速器によって亜光速まで加速し発射する。
これが現実に相応の規模で放たれた場合どうなるか、様々な憶測があるが『八段階目の赤』を止められる可能性はあると踏んだのだ。

荷電粒子砲そのものは現代の技術力で十分に実現可能な兵器である。
ただ粒子加速器の小型化が進まないのと、地球上では必要なその莫大な電力を用意できないのだ。
しかし。御坂美琴ならばどうだろうか。
第三位の超電磁砲ならば、そのSF上の産物を現実のものに出来るのではないだろうか。

だがこれにはあまりにも穴があり過ぎた。
一方通行はそこを容赦なく指摘していく。

「荷電粒子砲だと? 馬鹿も休み休み言え。
たしかにそれなら『地球旋回加速式磁気照準砲』を止められるかもしれねェよ。
だがな、実際問題そんなモンが撃てると思うのか?
いくらオマエでもそこまでの馬鹿げた電力を賄えるのか?
ただ大気中で真っ直ぐ粒子を飛ばすってだけでも一万メガワットの電力が必要だ。
放たれた時に撒き散らされるだろォ電磁波による被害、大気による減衰、莫大な反動。
問題は山ほどある。仮にオマエに荷電粒子砲を撃てるとしてもだ。
そンな立ってるのがやっとなほどボロボロな今のオマエに出来るとは到底思えねェ」

「『八段階目の赤』を破壊できるほどの威力で撃てたとして、それで実際に『八段階目の赤』を止められたとしてだ。
もう一つはどうするんだ? もう一回荷電粒子砲を撃つのか?
無理だな。撃てるとしても二連発なんて絶対に不可能だ。
超電磁砲も無駄だ。そんな都合の良い砲弾はどこにも存在しない。
第一、一方通行の言う通りだ。お前はもうボロボロじゃねえか」

まるで出来の悪い生徒の解答を片っ端から訂正していくように、欠点を連ねる一方通行と垣根。
だがそんなことは美琴も分かっているのだ。
自分のやろうとしていることはいくつもの不確定要素や欠陥を孕んでいる。
『地球旋回加速式磁気照準砲』を止める、どころかそもそも撃つ段階から不可能である可能性の方が高い。
しかし、

「なら……っ、どうしろって言うのよ!! このまま諦めろって言うの!?
私たち自身も、私たちの大切なものも、私たちの居場所も、全部大人しく奪われろって言うの!?」

このままでは一〇〇パーセントの確率で学園都市諸共全てが滅ぶ。
ならばたとえ〇,一パーセントでも可能性があるなら懸けるべきだと思う。
『地球旋回加速式磁気照準砲』が地表に着弾するまで残り僅か五分ほど。

もはや考えている時間も、論争してる余裕もない。

だが垣根は笑っていた。不敵な表情で、傲岸不遜に笑っていた。
それは諦めた者の浮かべる笑みではなかった。
決して諦めず、困難に抗おうとする反抗者の顔つきだった。
そしてそれは一方通行も同じ。

「落ち着け。そうじゃねえ、簡単な話だ。
第三位で無理なら―――それより上の奴がやればいいだけのこと」

「俺たちがやる」

美琴は思わず息を呑む。
一方通行と垣根帝督。たしかに彼らは美琴より上に立つたった二枚の双翼だ。
だが、そんな二人であっても『八段階目の赤』を止められる確証などどこにもない。
あれはもともと学園都市を消すほどの威力を持っていたのに、『木原』が更なる改良を加えている。
今や一体どれほどの破壊力を有していることか。

「……何言ってんのよアンタたち。そもそも、アンタらだってもうボロボロじゃない!!
一方通行はともかく、垣根なんて立っているのがやっとどころか、立つことすら無理してるくせに……!!」

あくまで殴る蹴るの暴行で済んでいた一方通行はまだ良かった。
骨も折れているしあちこちが重傷であったが、それでもマシだった。
だが垣根は違う。木原病理による念動力や獣の腕による薙ぎ払いなど、熾烈な攻撃を受けた垣根は本当に限界だった。
加えてそのせいで一方通行と戦った時の傷まで開き、悲惨な有様だった。

「そんな状態で、そんなことしたら……絶対に死んじゃう!!」

美琴は垣根を止めようとした。
他に方法などないと分かっていても、止めたかった。

「なら、諦めておとなしく全部奪われろと?」

しかし自分の言葉をそのまま返されて、思わず美琴は言葉に詰まる。
それは、駄目だ。この学園都市には大切な人間があまりにも多い。
壊されたくないものが多すぎる。

だが一方で、垣根を失いたくないのも事実だった。
相反する二つの願望、しかもそれを上手く擦り合わせるための時間すらない。

「だからって……ッ!!」

「俺だってこんな不確定なやり方はしたくねえが、他に方法はねえ。
『デブリストーム』が頼りにならない以上、こうしない限り皆仲良くお陀仏だ。
……壊されたくねえんだよ。『木原』のクズ共なんかに、俺の掴んだモンを。
思い知らせてやるさ。俺の世界はそう簡単に壊れやしないってことをな。
ハッ、以前の俺が聞いたら吐き出しそうな台詞だがな」

「一方通行……!! アンタだって、死ぬわけにはいかないでしょ!?」

縋るように美琴は一方通行を見る。
だが一方通行も垣根と同じく、既に決意を固めた眼をしていた。

「死ぬつもりなンかねェよ。そこのクソメルヘンと同じだ。
俺の大事なモンを守りてェ。ただそれだけだ。
安心しろよ。オマエも、打ち止めも、妹達も、その居場所も。
まとめて『木原』の下衆から守りきってやる」

そう言った一方通行の背中から、突如漆黒の翼が噴出した。
陽炎のように揺らめく極大の破壊の力。
だが今回に限り、その黒い翼は破壊以外に使われる。

「バッテリー残量能力使用モードで三〇秒。楽勝だな」

それを見て、垣根の背中にも同様に白い翼が展開される。
『未元物質』。その無機質な輝きは守りのために振るわれる。

「『八段階目の赤』は二つあるんだ。テメェがしくじったら終わりだぜクズ」

「オマエの方こそ失敗しねェよォに祈っとくンだなゴミ」

「……待って、待ってよ。何か他に方法が……」

「あると思うか?」

「―――っ!!」

頭では分かっている。だがかといってすぐに割り切れるほど、美琴は優秀ではない。
結局、自分は何も出来ない。妹達を殺し、番外個体も救えず、今もこうして人の力に頼ることしか出来ていない。
あまりの情けなさに死にたくなる。

(……なんて、無様)

「それは違げえよ。お前がいなかったら今の俺はなかった」

美琴の内心を読み取っているかのように垣根は言う。

「大丈夫だ。これが終わったら、またカラオケでも行こうぜ」

「……それ、死亡フラグよ」

美琴が僅かな笑みを浮かべて精一杯の明るい声を絞り出す。
それを聞いた垣根は一瞬驚いたように目を開いて、

「……んだよ、フラグの意味知ってんじゃねえか」

「調べたのよ。気になってね」

垣根は笑って、ふわりと宙に浮き上がる。
美琴はその体を繋ぎ止めるように、垣根の服を掴む。

「嫌よ……」

「…………御坂、」

美琴は消え入りそうなか細い声で呟く。

「アンタも、あいつも、黒子も、佐天さんも、初春さんも。
みんなみんな大切なのに。私は、誰か一人だって欠けてほしくない……っ!!」

「そうだな。俺も、ずっと一緒にいたいと思ってる」

垣根が信じられないほど穏やかに笑う。
その瞬間、垣根の翼に明確な変異があった。
ゴッ!! と輝いたと思ったら、一際翼が肥大しその輝きが更に増した。
それはかつて垣根帝督が開花させた力。
第一位との戦いで目覚めさせた、『未元物質』の覚醒。

「……あの“約束”、絶対に守ってもらうからね」

「“約束”?」

「もォいいか」

白い髪の超能力者がチョーカーのスイッチを能力使用モードに切り替え、問いかけてくる。
垣根は美琴の指を一本一本丁寧に外していき、一方通行に答えた。

「ああ」










その瞬間。ドン!! と第一位と第二位は空へと飛び上がる。
天井を砕き、地面を突きぬけ、勢い良く地上へと舞い戻りそのまま遥か天まで駆け上がっていく。
それはまるで神に弓引く堕天使のようでもあった。
空の果てに妙な光を認めた。
おそらくはあれが『地球旋回加速式磁気照準砲』なのだろう。

「怖ェかよ、第二位」

一方通行がこんな時でも変わらぬ調子で問いかけてくる。
垣根も変わらぬ調子で、口の端を吊り上げて傲慢に答えた。

「誰に向かってモノ言ってやがる」

一方通行がハッ、と嗤う。直後だった。
平行して上昇していた一方通行と垣根が、Yの字のようにある一点で二手に分かれた。
『八段階目の赤』が二発放たれている以上、どちらか片方でも失敗すればもう一方によって学園都市は壊滅する。
だがそれがどうした、と垣根は思う。そんなもの、失敗しなければいいだけの話だ。
失敗すれば御坂美琴も上条当麻も死ぬ。ならば垣根は必ず成功すると断言できる。

(場違いだろうが何だろうが、そんなことは問題じゃねえ)

『八段階目の赤』が見えてきた。
間もなく衝突するだろう。

(俺は第二位だ。自分勝手な男だ。だからこそ!! 勝手に俺から何かを奪うのは許さねえ!!
御坂も、上条も、俺自身も、その世界も!! 何一つだって渡してやるか!! 欲しいなら力ずくで奪ってみろッ!!)

ここに来るまで、色々なことがあった。

そもそもの始まりが嘘をついた偽りの関係からのスタートだった。

上手く少年と少女を騙して漬け込んだと思った。
三人で洋服を買いにセブンスミストに遊びに行った。
その後はゲームセンターで熱くなったし、美琴を死なせないために『アイテム』や第一位の超能力者と対峙した。
四人で行ったカラオケは楽しかったし、強盗を捕まえたり本屋で下らないことをしたりした。
初めての人助けは意外と悪くなかった。二度目のゲームセンターでは上条に勝ちもした。
スキルアウトやそのボスと乱闘しながらもその頼みを聞いたこともあった。
一日風紀委員は新鮮だったし、妹達におかしなあだ名をつけられたり、第七位の超能力者と戦いもした。
最近では暴走した美琴を止めたこともあった。鉄橋ではその美琴と腹を割って気持ちを晒しあった。
第一位とは死闘を繰り広げたし、美琴に救われてからは統括理事会の一人にも喧嘩を売った。

そして今。短かった、と思う。
たった一ヶ月の間の出来事。まだ足りない。一ヶ月では短すぎる。
垣根帝督は、これからもあの世界で過ごしていたいと思っている。
だから、死んでやるつもりなど一切ない。

(俺は帰る。“帰る”んだ、あの場所に。こんなモンに壊させるわけにはいかねえ。
こんなとこで、俺は止まってらんねえんだよ!!)

『地球旋回加速式磁気照準砲』はもう目の前だった。
頬をピリピリとした衝撃が叩く。
やはり相当のエネルギーだ。『未元物質』すら組み込んで改良されたこれは、どれほどのものになっているのか。

ちらりと一方通行の方へ目を向ける。
彼は一足早く“激突”したらしい。圧倒的な衝撃波と赤い光があたりに吹き荒れている。
その際、一方通行の翼の色が白く見えたのは気のせいだろうか。

(関係ねえ)

一方通行にできて自分にできないわけがない。

「いいぜ。俺には誰一人、何一つ守れないっつうなら、まずはそのふざけた常識を――――――」

垣根の覚醒した翼が数十メートルにまで肥大化する。
圧倒的な力を携えて、垣根帝督は凄絶に哄笑した。




「俺の『未元物質』に、常識は通用しねえ―――ッ!!」




上空八〇〇〇メートル。
眼下に広がる地を覆うような雲海を見下ろして、垣根は更に加速する。
垣根は初めて自分以外のもののために、何かを守るためにその力を解放する。
もっとも、それも結局は自分のため、に還元されるのだが。
夜空に輝く赤い大きな彗星。全てに絶対の破滅をもたらす赤い輝きに、垣根帝督は牙を立てる。




そして。




二つの巨大な力と力が激突した。
















―――『地球旋回加速式磁気照準砲』、着弾。


















第五章 科学という闇の底で Break_Your_Despair.



The End






……そうか、私という生き物は月並みに投下を終了しているのかもしれん

これにて第五章終了、つまり本編終了?
散々第三章が長いと言っていましたが、確認してみたら第四章以降が全体の半分以上を占めてましたw
第五章だけでも前スレの700辺りからだから、大体一スレ第五章だけで使ってたんですね

桜坂さんと知り合ってるのにデブリストームを知らなかったのは気付かなかった振りしてください
きっとあれとは全く違う知り合い方をしたんです

さて、あとは消化試合。次からは終章に入ります
予告はなし。予定ではあと三回の投下で完結です。ようやくだぜヒャッハァー!!

原作のネタをふんだんに盛り込んで禁書への愛を感じるッ!

ところでこんな危険極まりないモンぶっぱなす相園なんやねん
学園都市の学生アクティビティすぎwwwwww


このssも毎日確認するのが習慣になってたから
これから最終章だと思うと少し寂しいけど
残りの投下も楽しみにしてるよ

戦闘パターンだのデッキだのじゃない。投下っていうのはこういうものだ

短いですけど投下します
今回含めてあと五回の投下で完結っぽいです

>>330
恋する乙女パワーシャレにならんでぇ……

>>332
なんと嬉しいお言葉を
是非次回作も見てやってください、まだ完結してないんですけどね……

君へ。





一〇月三〇日。




この日学園都市で、この街の命運を決する大きな戦いが終結した。




三人の超能力者と三人の『木原』。
科学の頂点に立つ者同士の、大きな戦いが。




しかしその戦いは人知れず行われ、学園都市の住人たちは何も知らずに今も日々を過ごしている。
その戦火の中で全てを救った一人の青年のことも、誰も知るところにはなっていなかった。




それを知っているのは極一部の人間のみ。
そう、青年は見事守りたいものを守りきってみせたのだった。
相応の代償を払って―――。













終章 彼が願うは遥かなる幻想 Song_For_You.












学園都市第七学区にあるとある総合病院。
神の手を持つとすら評される名医、冥土帰しのいる病院。
その効果も手伝ってか、いつ来てもこの病院は人が多い。

今日も今日とて受付には人が溢れていた。
母親に連れられて泣きじゃくっている少年や怪我をしている学生、大人や一部には老人まで。
看護師も来院者の対応に追われ、忙しなく動き回っていてずいぶんと賑やかだった。
今日はクリスマス・イヴだというのに、あまり変わりのない光景だ。
病院でクリスマスを過ごすというのも何だかな、と思わなくもない。

日本は世界でも特に宗教色の薄い国である。
クリスマスを主なるイエスの降誕祭と祝うこともなく、ただクリスマスというイベントにかこつけて騒ぐだけだ。
このような日には学生たちのタガも外れやすいようで、風紀委員や警備員も普段より多く回されている。
もっとも、クリスマスに仕事を入れられる風紀委員の学生たちはたまったものではないだろうが。

この病院のロビーには大きめのクリスマスツリーが置かれていた。
だがそれだけで、とりあえずツリーを置いておけばクリスマス感を演出できるだろう、という魂胆が見え見えだった。
とはいえここはあくまでも病院なので、そこまで派手にしても問題だろう。
クリツマスツリーを置くくらいが丁度いいのかもしれない。

そういえばクリスマスツリーは中世ドイツの神秘劇でアダムとイヴの物語を演じた際に使用された樹木に由来してるんだった。
何となく頭の中でそんな役にも立たない薀蓄を垂れ流してみる。

見てみるとツリーの周りには子供たちが何人か集まっていた。
飾り付けられたイルミネーションや飾りに興味を示しているのかもしれない。
中にはツリーなどそっちのけで夢中で窓を覗き込んでいる子供もいた。
関東では非常に珍しいことに、今日はこの時期に雪が降っているのだ。
それも結構な大雪で、ここまで来る途中にも雪だるまを作っている子供や雪合戦をしている子供も見ていた。

とはいえ雪自体はそれほど珍しくもない。
一月二月になれば関東でも雪は降る。
今日の雪が殊更に人々の興味を引き、テレビでも取り上げられているのは偏に今日という日が特別だからだ。

クリスマス。正確に言えばクリスマス・イヴ。
信仰心などまるで持ち合わせていない日本人も今日という日は特別で、様々なメディアで大きく取り上げられている。
特にクリスマスケーキなどは飛ぶように売れているらしく、年末というのもあって各メーカーは裏でしのぎを削っているようだった。
バレンタインデーはチョコレート会社の戦略だ、などというのをよく聞くがクリスマスももはや似たようなものでは、などと身も蓋もない感想を抱く。
敬虔な十字教徒にでも聞かれたらありがたい説教をもらいそうだ。

ともあれ、今日はクリスマスなのだった。
そこに時期外れの大雪となれば、もう世間はホワイトクリスマスだなどと大騒ぎである。
もっとも、個人的にもホワイトクリスマスというものに感動しなかったと言えば嘘なのだが。
今までのそう長くない人生の中では初めての経験だ。

ホワイトクリスクマスに感激している子供、巨大なツリーの近くに屯している子供。
病院のロビーは非常に賑やかだ。この空間が温かく感じるのは、単に暖房のおかげというわけではなさそうだった。
中にはさりげなく子供からサンタに何を頼むのか聞き出そうとしている親もいて、心の中で「頑張れ」と応援してあげた。
そんな人たちの間を縫うようにして、世のお父さんは大変だな、などと適当に考えながらするすると慣れた様子で進んでいく。

そんな時、ドン、と肩を誰かにぶつけてしまった。
ずれたマフラーを巻きなおしていて注意が疎かになっていたようだ。

「あ、すみません」

ここを訪れるのは初めてなどではなく、もはや数え切れないほどの回数となっていた。
相手はそんな中ですっかり顔馴染みになってしまった看護師だった。
清潔な白いナース服に身を包んだ二〇代後半の女性だ。
ぶつかった拍子に落ちてしまった紙を拾うのを手伝っていると、看護師は相変わらず一〇〇点満点の笑顔を向けてくる。

「あら御坂さん。いつもいつも大変ね、ほとんど毎日通い詰めで。クリスマスにまで」

「いえ、好きでやってることですから」

美琴は拾い終わった書類を看護師に手渡し、埃のついてしまった常盤台の制服をぱんぱんと払って笑う。

「あの人も幸せ者ね、あなたたちみたいな良いお友達に恵まれて。
そういえば御坂さん、もう少しで卒業じゃない? 高校はもう決まってるの?」

「まあ、大体は。でもあと少し絞りきれてないんですよね~。
もうみんなとっくに決まってて、先生にも呆れられてるんですよ。
この時期になってまだ志望校が決まってないのはお前くらいだー、って」

「まあでもあなたなら長点上機だろうと霧が丘だろうと楽勝でしょ」

「たしかに長点上機や霧が丘、それ以外の色んなところからも『是非うちに来てください』って言われてはいるんですけど……。
やりたい研究ができないと意味ないんですよね。やっぱ設備の整ったところとなると長点上機とか……。
でもあそこ良いイメージないんだよなぁ。なんか黒い噂もあるし。いっそもっと専門的なところの方が良いのかな……」

「……流石超能力者。学園都市の最高ランクの学校から頭下げて来てくれと言われるレベルか。
みんなが必死こいて目指すところを好きに選り好みできるとか、なんて贅沢な悩みなんだこの野郎。
……あ、そういえば上条くんもさっき来てたわよ。もう帰っちゃったけど。
にしても、あなたといい上条くんといい、本当にマメねー。
私だったらもう心が折れちゃうわよ」

「何言ってるんですか、看護師として絶賛活躍中じゃないですか。
クリスマスにまで、ねぇ? 仕事に生きる女って感じですか?」

「あ、なんだこの野郎ニヤニヤしやがって!!」

「いえいえ、別に寂しいなーとか思ったわけじゃありませんよ?」

「おのれ、言うようになったな小娘…・・・っ!!
大体そう言うあなたはどうなのよ、人のこと言えるわけ!?」

「わ、私はまだ中学生ですし節度ある学生生活を……。
ほ、ほら、そろそろ仕事に戻った方がいいんじゃないですか?
またゲコ太先生に怒られちゃいますよ?」

「またって何よ、一度も怒られたことなんてないわよ!
でも、うん。逃げられるのは癪だけどそうするわ。それじゃ御坂さん、また今度」

「はい」

友達の如く親しくなってしまった看護師と別れた美琴は、そのまま三階へ向かう。
途中看護師と擦れ違う度に挨拶をし、時には返していく。
あまりに通い詰めてしまった結果、美琴だけでなく上条もなのだが、ほとんど職員全員と顔見知りになってしまっているのだ。
とはいえ大抵は顔を合わせれば挨拶をする程度で、先ほどのように談笑する相手はほんの数人であるが。

「こんばんは、御坂さん。メリークリスマス」

「こんばんは。メリークリスマス」

こうしているとまるで妖しげな呪文か何かのようだ、と美琴はどうでもいいことを考える。
そんな具合に対応していると、あっという間に目的の病室まで辿り着く。
美琴はノックもせずに無遠慮にそのスライド式のドアを開け、中に入る。
ノックをする意味がないからだ。

美琴は壁に立てかけてある来客者用の折りたたみ式の椅子を広げ、腰を下ろした。
肩から提げていたカバンを床に下ろして一息ついた美琴は少し長くなった髪を後ろへ流し、悪戯をする子供のような、どこかいじらしい笑みを見せる。

「やっほー。今日も今日とて美琴センセーが来ちゃいましたよっと」

美琴の視線の先には、病院着を身に纏い、人工呼吸器をつけている青年がベッドに寝かされていた。
普段なら絶対に見せないだろうその酷く無防備な表情を美琴はまじまじと見つめる。

(色々あったなぁ……)

美琴はそんな友人を見て、マフラーを外してこれまでをしみじみと思い返してみた。

Gめ、やはり投下を終えた者は高慢になるのが世の常なのか……

かなり短いですけど今回はこれで終わりです
次は一応美琴の回想という形で過去編に
先に言っておきますと予告にいるあの方たちは一言二言の出番しかありません

ペトラさんが死んで力が出ないですがあと少し、何とか頑張ります
おのれ○○……絶対に許さんぞ!!

    次回予告




「お願いします……ッ!! こいつを、助けてください……!!
先生―――……!! お願い、します……っ!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「俺、ちゃんと生きるよ。お前に顔向けできるように、お前に恥じないように。
しっかり真っ直ぐ生きるから。だからさ、お前も早く帰って来いよ」
学園都市の無能力者(レベル0)の学生―――上条当麻




「申し訳、ありません……私は、無力です……」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師―――神裂火織




「僕たちは回復系の魔術には長けていないし……。脳の話となるとこれは科学サイドの領分だ」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師―――ステイル=マグヌス




「一番無力なのは私なんだよ……。一〇万三〇〇〇冊も何の役にも立たない。
魔術のことなら何でも知ってる気でいたけど、ていとく一人起こしてあげることも出来ないんだよ……」
禁書目録を司るイギリス清教のシスター ―――インデックス




「変わったのね、あなた。御坂さんに感謝しなくちゃ。
もし今のあなたと昔のあなたが会ったら、昔のあなたに殺されてたでしょうね」
『スクール』の構成員―――ドレスの少女




「……意味が分からないな。お姉様、アンタ正直不気味だよ。
ミサカたちにそこまでして、アンタに何のメリットがあるわけ?
それともミサカたちを助けることで自己陶酔にでも浸ってんの?」
妹達(シスターズ)・第三次製造計画(サードシーズン)で作られた美琴のクローン―――番外個体(ミサカワースト)

乙でござる 垣根ちゃんと元気になれよ! このSSが日々の楽しみだったから終わったらどうしよう辛い 最後まで楽しみにしてる 心のスキマを埋めるためにも俺も何か書いてみようかな……時間無いけど

いよいよだなぁ
完結したらもう一度最初から目を通すのが楽しみです

一年以上昏睡状態なのか垣根ェは
せめてこのSSでくらいは垣根に幸せになって欲しい

つーか、何だか小さくなっちまったなあ、俺の投下ってヤツは

まさかのテレスティーナ登場で公式のそげぶを食らった>>1ですがなんともないぜ

>>349
是非何か書いてください、需要はいくらでもあると思いますので

>>352
やめて! 冒頭から第三章の姉妹デート辺りまでは今見ると酷すぎて黒歴史になりかけてるから!! やめてあげて!!

>>353
そうですね、一年強昏睡してます

あの時、あの場所で。










御坂美琴は記憶の海にダイブする。
今より一年と二ヶ月ほど時は遡る。
それはまだ御坂美琴が中学二年生だった時のこと。

昨年の一〇月三〇日。
その日、第七学区の総合病院に三人の人間が運び込まれた。
一人の少女と二人の少年。
その少女は医師の白衣を乱暴に掴み、今にも泣き出しそうな表情で一方的に言葉を叩きつけた。

「お願いします……ッ!! こいつを、助けてください……!!
先生―――……!! お願い、します……っ!!」

神の手を持つと評される初老の男性はただ一言だけ。「大丈夫だ」とだけ告げた。
すぐさま二人は中へ運び込まれ、医者たちによる戦いが始まった。
二人の内一人が倒れているのは立てないほどの怪我をしているとかそういうことではなく、少し特殊な理由によるものだった。
だがもう一人。その青年の容態は深刻で、すぐに緊急手術が行われた。

手術は数時間に及んだ。医者たちは大いに奮闘し、その結果見事その青年は一命を取り留めた。
だが、その代償は大きかった。

一〇月三〇日。この日から青年は長い眠りにつくこととなったのだった。
以下の出来事は、全て一年ほど前に起きたことである。










「つまり、植物人間、ってこと、ですか」

冥土帰しから告げられた重い事実に、美琴は崩れ落ちそうになる体を支えるのが精一杯だった。
垣根帝督は命こそ繋ぎ止めたが、遷延性意識障害になってしまった。
遷延性意識障害とは重度の昏睡状態を指す病状だ。
つまりは美琴の言った通り『植物人間』である。

「いや、正確には植物人間とはまだ言えない。
植物人間には六つの定義があって、それが三ヶ月以上続いた場合を植物人間とみなす。
垣根くんが意識を失ってまだ一日しか経っていない。
明日、いや今この瞬間にも起き上がる可能性はあるんだよ? だから落ち込むにはまだ早いんじゃないかな?」

たしかにそうなのかもしれない。
だが二度と意識が戻らないかもしれないと思うと冷静でなんていられなかった。
そんな可能性があるという事実を認めたくなかった。

何故、と美琴は思う。
世の中は不平等だ。そんなことは知っている。身を以って味わった。
たしかに垣根は悪人かもしれないが、少なくとも今回の彼の行動は褒められて良いもののはずだ。
今学園都市が残っているのは垣根のおかげなのだ。

その行動の結果がこれか。
垣根帝督が望んだのは今までの世界での暮らし、及び彼の世界にいる人間の安寧。
それはそこまで無理な願いだったのか。叶いはしない幻想に過ぎなかったというのか。

「実際に昏睡した患者がふとしたことがきっかけで……。
たとえば恋人や家族の献身的な介護で目を覚ました、なんてこともあるんだよ?
人の脳っていうのは不思議なものだね?」

その言葉がきっかけだった。
この日から御坂美琴らの次なる戦いが始まった。










冥土帰しは本当に頑張ってくれている。
その確たる実力の元、たった一度の例外を除き敗北を跳ね除けてきた男が二度目の敗北を喫そうとしているのだ。
冥土帰しはそれを変えるためにあらゆる手段を試してくれている。

以前には脳科学を専攻し、美琴とも関わりのある木山春生という女性が尋ねてきたこともあった。
彼女は優秀な科学者であり、現在冥土帰しと協力して垣根の蘇生に手を尽くしてくれている。
だがあまりそれは芳しくなく、垣根は現在も眠りについたままだ。
その垣根の病室に御坂美琴はいた。

「トリックオアトリート♪ お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ~」

今日はハロウィンということで、明るい声で垣根に呼びかける。
だが返答はまるでない。

垣根の目は開いている。
眼球は小刻みに動いているのだが、その目はきっと何も捉えてはいない。
それが植物人間の定義の一つらしかった。

「アンタね、何が『一緒にいたい』よ。だったらさっさと起きろっつーの」

パイプ椅子を広げ、乱暴にどかっと座り込む。
まるで拗ねたような顔で垣根の顔を覗きこむ。

美琴は一切何も返ってこないことを承知で話し続けた。
自分なりに遷延性意識障害について調べてみたのだ。
具体的な治療法が存在するわけではないようだが、本当に所謂『愛の力』なんてもので目を覚ましたなんて事例があることに驚いた。
こればかりは医療の世界であっても精神論が通用してしまう稀有な例らしい。

「……待ってるから」

ふとした瞬間、何でもないようなちっぽけなことがきっかけで意識が戻る可能性がある。
それを知った美琴は科学路線は冥土帰しや木山春生に任せ、こうした路線で行くことにしたのだ。
ちなみにこれは冥土帰しにも提案されたことでもある。

今美琴が、学園都市の全住民が今も生きていられるのは垣根のおかげだ。
今の生活は、今ある命は垣根と引き換えに得たものだ。
美琴はそのことを胸に刻み込み、ただ静かに感謝する。
謝罪はしなかった。こういう時は謝るのではなく、礼を言うべき場面だと思ったから。

美琴は一方的に話し続けた。
何も答えがなくても、それが垣根の心に響くことを信じて。










「よう、垣根。色々とさ、謝りたいことがあるんだ」

上条当麻は垣根の病室にいた。
来客用の椅子に腰掛けて、“独り言”を言う。
その表情は引き締まっていて、普段の弛緩した様子はどこにも見られなかった。

「悪かった」

そう言って上条は頭を下げた。
そんなことをしてもそれを見る者などどこにもいないのに、上条はしっかりと頭を下げた。
それほどに上条は罪悪感と無力感を感じていたのだ。

「……俺、何も知らなかった。御坂やお前がずっと戦ってたなんて想像もしなかった。
御坂から大体は聞いた。お前がいなかったら、俺たちがこうして生きてることもなかったんだな」

上条はそんなことも知らずに日々を過ごしていた自分に自己嫌悪していた。
実際上条には何ら非はないのだが、それでも自分で自分を許せなかった。
上条は座ったままぐっとワイシャツの裾を強く握り締める。
だがどれだけ後悔しようと時間は戻らないし、目の前の現実も変わりはしない。

垣根帝督は昏睡してしまった。
それが学園都市とそこに住む人々、それらを守った代償。
そして自分たちはそんな垣根の犠牲の上に生きているのだ。

上条はその現実を受け止めた上で、真っ直ぐに生きることを選択した。
もしここで自分が折れてしまったら、そこまでして全てを守ろうとした垣根の気持ちを無駄にしてしまうから。
だがかといって上条は垣根のことを諦めたわけではない。
美琴と同じだ。この領域に限っては愛だの友情だのが本当に通用してしまう。現実にそういう例がある。
ならば上条はいつか垣根が目覚めるその時まで、ずっと支えていようと決意したのだ。

「俺、ちゃんと生きるよ。お前に顔向けできるように、お前に恥じないように。
しっかり真っ直ぐ生きるから。だからさ、お前も早く帰って来いよ」

上条は優しく微笑んで、垣根の手を自身の右手で握手するように掴んだ。
だが幻想殺しは何も砕かない。目の前の光景が幻想であったら良いのに、と上条は思った。
その手でギュッ、と垣根の手を握り締めて上条は宣言する。

「いつまでも、待ってるからな」










「申し訳ありません、インデックス……。私たちでは力になれそうもありません」

「僕たちは回復系の魔術には長けていないし……。脳の話となるとこれは科学サイドの領分だ」

神裂火織、ステイル=マグヌス。
イギリス清教第零聖堂区、『必要悪の教会』所属の魔術師だ。
二人はその中でも、いや世界全ての魔術師で見ても極めて強大な力を持っている。

一人は弱冠一四歳にして現存するルーン文字を全て完全解析し、新たなルーン文字さえ生み出した天才。
教皇もかくやという大魔術『魔女狩りの王(イノケンティウス)』さえも習得した絶対的な強者だ。

一人は生まれた時から『神の子』と共通する身体的特徴を持ち、『偶像崇拝』の理論によってその力の一端を得た『聖人』。
世界に二〇人といない選ばれし者。名の通り神を裂く術式、『唯閃』まで所持する『聖人』という魔術サイドにおける核兵器。

『聖人』は視力、反射神経、身体能力、全てが人間離れした力を持つ。
平然と音速を超えた動きを見せる『聖人』だが、その真に恐るべきはその速度域で針に糸を通すような精密な戦闘を行えることだ。
神裂火織に対して勝利を収められる可能性があるのは科学サイドの超能力者でも第一位と第二位だけだろう。

ステイル=マグヌスは本来の領分である防衛戦では他と一線を画す実力を見せ付ける。
いくつもの魔術結社を単身で壊滅に追い込み、その戦果は『必要悪の教会』の中でもかなりの上位。
しかも彼は一度全く専門外の治癒魔術も行使に成功したことがある。

それほどの戦闘力。それほどの才能。それほどの優秀な魔術師。
ならばこそ、彼、彼女ならばあるいは垣根帝督を救い得るのではないか。
一〇万三〇〇〇の汚濁をその内に抱える魔道書図書館、インデックスはそう思ったのだ。
本当はそんな可能性などまずないことは理解している。それでも諦めたくはなかった。

だが返ってきたのはやはり不可能という言葉。
そんなことは予想できていたはずなのに、こんなことを言うのは完全に筋違いだと分かっているのに、インデックスはその言葉を止められなかった。

「そんな……っ!! かおりは聖人なのに!!
すているだって凄い魔術師なのに!! なんで出来ないの!?」

思わずそんな馬鹿馬鹿しい言葉が喉を突いていた。
だが二人はそんなインデックスの気持ちを正面から受け止めて、無力感に震えていた。
彼らは垣根のことなど知らない。ただインデックスの望みを叶えてやれないことに、力になれないことに怒っているのだ。

「すまない……」

「申し訳、ありません……私は、無力です……」

極東の聖人神裂火織がその胸に刻んだ誇り、戦う理由。
『Salvare000(救われぬ者に救いの手を)』。

そんな神裂と、ステイルを見てインデックスは壮絶な自己嫌悪を覚えた。
一体自分は何を言っているのだろうか。八つ当たりもいいところだ。
大体聖人なのに、優秀な魔術師なのに、なんて言ったところでそれは結局インデックスにもそのまま当て嵌まってしまう。

「ごめんなさいなんだよ、二人とも……。
かおりもすているも、助けてくれようとしてるんだよね。
それに、一番無力なのは私なんだよ……。一〇万三〇〇〇冊も何の役にも立たない。
魔術のことなら何でも知ってる気でいたけど、ていとく一人起こしてあげることも出来ないんだよ……」

インデックスは何も出来ない自分を呪った。
そんなインデックスの様子にいたたまれなくなったのか、おずおずと言った様子で神裂が尋ねた。

「あの、『彼』は魔術的攻撃を受けたというわけではないのでしょう?
ならばやはり科学サイドからのアプローチが一番適切で可能性が高いのでは?」

「馬鹿なことを言うな神裂。そんなことはもうとっくにしているはずだ。
でなきゃ、あの子が僕たちを頼ったりするものか」

ですよね……としょぼくれる神裂を尻目に、インデックスは一つの決意を固めた。
結局自分では垣根を目覚めさせることは出来ない。
ならば自分に出来ることはただ一つのみ。
上条や美琴のように。垣根が起きるまでずっと支えてやることだけだ。

「待ってるからね」










「変わったのね、あなた。御坂さんに感謝しなくちゃ」

垣根の病室に、一人の少女がいた。
赤い高級感漂うドレスはひたすらに病院という場所にマッチせず、明らかな異物として存在していた。
だが少女は自らが浮いていることを理解していながらもそれを気にする素振りはない。

「ふふっ。あなたがこの街を守ってこうなったなんて、昔のあなたが知ったらどうしたかしら。
もし今のあなたと昔のあなたが会ったら、昔のあなたに殺されてたでしょうね」

けれど、その変化はきっと悪いものではなかった。
これでもう垣根が『スクール』に戻ってくることはないだろう。
目を覚ましても、自分と一緒にあれこれ作戦を考えたりすることはない。
垣根の柔軟な発想に驚かされることもない。

もう垣根帝督は心理定規の手の届かないところにまで行ってしまった。
だが彼女は悲しんだりはしない。
そんなことは分かっていたし、それを覚悟して、それを望んでいたのも心理定規だ。
だから、心理定規は垣根が今の居場所を掴んだことを喜ぶべきだ。
垣根に守りたいものが出来たことを讃えるべきだ。

それは頭では分かっている。だが、同時に僅かな心残りがあることも確かだった。
こうなることを望んで美琴に話したのに、土壇場で迷う自分に心理定規は自嘲する。

(……未練がましいわね。馬鹿馬鹿しい)

心理定規は椅子から立ち上がり、折りたたんだ椅子を元あった位置に戻す。
これ以上ここに留まっていると歪んだ願望が頭をもたげて来そうだった。
そしてそのまま病室を後にしようとドアを開けようとしたところで、その動きをぴたりと止める。
一瞬の空白の後に彼女はゆっくりと振り返り、小さく、本当に小さい声で誰に言うでもなく呟いた。

「これでもうあなたと会うことはない。大丈夫よ、あなたには支えてくれる人がいるんだから」

そして赤い優雅なドレスをたなびかせ、心理定規は垣根の病室を静かに去っていった。

その後、二度と心理定規がこの病院に姿を見せることはなかった。










視界がぼやけていた。
けれど、確かにそこに視界はあった。
番外個体はようやく自分が生きていることを理解する。
白い清潔なベッドの上に横たわり、輸血用であろうチューブが腕に繋がれている。

体内で爆発した『セレクター』は粉々の破片となり、体内の奥深くまで潜り込んだ。
加えて左足は根元から千切れ、頭部の傷と合わせてあまりに大量の血を失っていた。
普通なら、いや医療設備の整った病院であっても助からない。

その運命を覆そうとした御坂美琴も、力及ばず番外個体を救うことは出来なかった。
だが。今こうして番外個体は生きている。
冥土帰し。その神の手を持つ最高の名医によって彼女の命はぎりぎりのところで繋がっていた。
いつまで経っても明確な死はやってこない。
それどころかすっかり落ち着いて、体が安定しているのが分かる。

「生き残っちゃったよ……。ぎゃは、ミサカもしぶといねぇ」

何故こうして生きていられるのか、番外個体には分からなかった。
そもそもが『セレクター』が破裂した直後辺りから記憶が途切れてしまっている。
まさか学園都市第三位の超能力者は、あれだけの悪意と狂気に打ち勝つことが出来たとでも言うのか。
負の感情が表面に出やすい番外個体としては信じ難い話だったが、現に死ななければならなかった自分はこうして生きている。

番外個体はしばらく沈黙していた。
その静寂は負の感情ばかりを受け入れるように作られた彼女にとっては戸惑うものであり、同時にどこか心地の良いものでもあった。
しばらくして番外個体の意識が戻ったことに気付いた医師たちが駆けつけ、様々な検査が行われるも彼女は何一つ抵抗することはなかった。

そして。その翌日、番外個体の病室に一人の客がやって来た。
番外個体としてはあまり歓迎出来ない客だった。
だがその客はそんなことは気にする様子もなく、ずんずんと近づいて来た。

「……何の用かな、『お姉様』?」

「姉が妹の様子を見に来るのはいけないこと?」

精一杯の悪意に顔を歪めて口の端を吊り上げ、出来る限りの皮肉を込めてその客を睨みつける。
だがその客―――御坂美琴はもはや動じない。
あまりにいも自然な調子で返されて、番外個体はチッと舌打ちして逃げるように顔を背ける。
どうも気乗りしなかった。昨日目が覚めた時から、決定的に自分の本質であるはずの悪意が湧いてこない。

「お望みの品は何かな? 分かってるけどね。
わざわざアンタがミサカをあの状況で助けたのだとしたら、価値は情報くらいしかないもんね」

ただし正確には、以前ほどの悪意が湧いてこない、というべきか。

「私はそんな利か害かでアンタを助けたわけじゃない。分かってくれると嬉しいけど。
っていうかアンタ、九九八二号じゃないんだってね。死んでまで勝手に利用されずに済んだと喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか正直複雑だわ」

またも一蹴される。
以前戦った時とは違い、今の美琴にはこちらの言葉がまるでダメージになっていないようだった。
どうも調子が狂う。番外個体はまたも思わず舌打ちした。

「助けたいから助けたとでも? 馬鹿馬鹿しいね。
ミサカに何かを要求したり、押し付けたりするなら相応の悪意を差し出してくれないと。
お涙頂戴の善意や博愛に訴えるなんて方法はミサカには全く合わない」

「そうかしら。アンタの悪意は全部じゃなくても、大部分は作られたものでしょう?」

「…………」

「ネットワークとか、そんなものとは関係なしに本当にアンタ自身が私を恨んでるなら。
その悪意は私に向けてくれて構わないわ。全部受け止める。
でもアンタはそれだけじゃないでしょ。アンタはこの世界に生まれてきた。
生まれたくなかったかもしれないけど、私のせいで生み出されてしまったのかもしれないけど、今アンタが生きてることはどうしようもない現実。
私が言えた立場じゃないかもしれないけど、どうせ生まれてきたなら楽しく過ごしたいと思わない?
そんな悪意とか、復讐とか、そんなものだけに人生全部捧げるのも馬鹿らしくない?」

「……ミサカにはそれしかない。ミサカはそのためだけに作られた。そのためだけに放り出された」

「なら、これから一緒に目標を探していきましょう」

それはかつての御坂妹……ミサカ一〇〇三二号と同じ悩みだった。
『実験』のためだけに生み出され、殺されるためだけに作り出され、一方通行を絶対能力者にするためだけに死んだ妹達。
だが生まれて間もない少女たちは真っ白で、『学習装置』などで“そう”教え込まれればそれが自分の価値なのだと思ってしまう。
だからこそ上条当麻のおかげで『実験』が凍結した際、御坂妹は生きる目標を見失ったと吐露していた。

御坂妹はそれを焦りすぎ、精神的に不安定になったこともあった。
その時美琴は約束した。御坂妹の、妹達のそれを手伝うと。
御坂妹には世界に溢れる楽しいことを一つ一つ知っていけばいいと言った。
番外個体だって美琴からすれば例外ではないのだろう。彼女もまた、紛れもなく妹達なのだから。

「……意味が分からないな。お姉様、アンタ正直不気味だよ」

だが。番外個体には、そもそも理解ができなかった。

「ミサカたちにそこまでして、アンタに何のメリットがあるわけ?
それともミサカたちを助けることで自己陶酔にでも浸ってんの?
もし本当にアンタがただの善意でやってるっていうならそれでもいいけど」

それならそれで分からない、と番外個体は言った。

「ネットワークの悪意とかそういうの抜きにしてさ、ミサカ個人の意見として。
お姉様がそこまで妹達に入れ込む理由が全く分からないよ。
ミサカたちが作られた発端故の罪悪感? だからそれが理解できないのさ。
そもそもお姉様がDNAマップを提供した時、六歳だか七歳だか、知らないけどそんなもんでしょ?
そんなガキに汚ねーやり口覚えてる大人の考えなんて見抜けるわけないじゃん。
アンタの力で困ってる人が助けられます、なんて言われたらそんなガキはそりゃ協力するでしょ。騙されてる可能性なんて考えられない」

「…………」

美琴は一切余計な口を挟まなかった。
番外個体はただ純粋に、思っていた疑問を問いかける。
美琴と戦った時、番外個体は最大限に自身を利用した精神攻撃を行った。
だがあれはそもそも美琴が妹達を何より大切に想っている、という前提があってこそ成り立つものだ。

「ミサカみたいなヒトもどきでも分かるよ。
散々これでアンタをいたぶったけどさ、幼いお姉様がDNAマップを提供したから妹達が一万人も殺された。だからアンタが悪い。
これって物凄い暴論だよね。殺人犯の母親に向かって『お前が子供を生んだからこいつに殺された人がいる。ふざけるな』って言うのと何も変わらない。
そもそも普通の子供なら『そんなことは知らなかった、だから自分は悪くない』って保身するでしょ。そしてその通りなんじゃない?」

番外個体は区切って、核心を突く。

「アンタは『あの実験に限っては』何の罪もないんじゃないの?
別に妹達や『実験』を見てみぬ振りしたわけでもなし。
まあ普通の中学生なら見てみぬ振りして当然だと思うけどね、警備員に届けてもこっちが捕まるわけだし。
なのに、どうしてお姉様はそこまで妹達を気にかけるのさ。
あれで『全部自分が悪い』って考えるのはもはや自傷レベルだと思うんだけど。
それとも何? 自分の周りで犠牲者が出るなんて認めない、なんつーカワイソーな頭してんの?
そうやって聖人気取りですか? 自分が欠点なんてない完璧な聖人君子だとでも思ってんの?」

「たとえ私が何も悪くないとしたって」

美琴はそこで初めて言葉を返した。
番外個体の目を見て、はっきりと。

「理屈だけじゃ人って納得できないよ。私はそれを嫌ってほど知った。
結局出来た大人とかじゃなければ感情がどうしても優先されると思うんだ。
だから、仮に私が何も悪くないとしてもそれでアンタが、アンタたちが納得できるかどうかよ。
もしアンタたちが『私のせいで』って思うなら、いくらでもぶつけてちょうだい」

あくまでも『仮に』だ。美琴はやはり妹達や『実験』について自分が悪いと思ってるらしい。
妹達には御坂美琴を糾弾する理由と権利があると美琴は言う。
結局のところ、番外個体には何も理解できないのだった。

「わけ分っかんねー。ドMかよアンタ。
何で素直に自分は悪くないって言わねーんだよ。
多分あの『実験』に関しては一〇〇人に聞いたらまあ九〇人くらいはそう答えるだろうに。
つーか、結局なんでそこまで妹達に入れ込んでるのか答えを聞いてないんだけど。
そもそもあそこまでいたぶったこのミサカにこんな態度取れる理由からもう分からないんだけど」

おそらく自分が美琴の言葉をまるで理解できないのは、その本質が違うからだろうと彼女は思う。
もともと悪意ばかりが表面化するように作られた番外個体。
美琴に限らず、こういう種類の人間のことは理解できないのだろう。
逆に一方通行や垣根の打算に裏打ちされた行為や言葉はよく理解できるに違いない。

話に聞く第一位を倒して『実験』を止めたという無能力者。
彼のような人間ならば美琴の言葉を理解できるのだろうか。
いずれにせよ自分にはどこまでも無縁だと思う。

「他の子には言ったんだけどね。……あれ、でもアンタもミサカネットに繋がってるんだっけ。
じゃあ知ってるのかな。まあいいか、実際に聞くのとじゃ違うだろうし……」

「なぁにぶつぶつ言ってんのさ。念仏でも唱えてんの?」

「アンタの質問に対する答えなんだけどね。……妹だから、ね」

そして美琴はかつて第一〇〇三二次実験で、あの操車場で。
御坂妹と一方通行に向けて放ったあの言葉をもう一度繰り返す。

「アンタたちは、私の妹だから。ただそれだけよ」

至って真面目な様子でそんなことを言う美琴を何故か直視できなくて、番外個体は再度顔を背けた。
眩しいのだろうか。恥ずかしいのだろうか。番外個体自身にも分からなかった。

「……馬っ鹿じゃねえの。ホンット、わけ分かんねー……」

ははは、と恥ずかしそうに顔を搔く美琴に番外個体はもはや理解を放棄した。
どうせこんな馬鹿の考えなんていくら考えたって分かりゃしないだろう。
それともこれから人並みに過ごしていけば、いつかは分かるようになるのだろうか。
とはいえ当面は目標もクソもないので、とりあえずこんなことを要求しておいた。

「今度、ミサカにもクレープとか服とか奢ってよ。おねーたま」

「……!! うん、任せて!!」

「おねーたま、顔ちょっと赤い」

本当に嬉しそうな美琴を見て、番外個体はもう一度小さく「ホント、わけ分かんねー」と呟いた。










「悪かったな。何も知らなくて、何も出来なくて」

上条当麻と、冥土帰しの今日のカウンセリングを終えた御坂美琴は例の自販機のある公園のベンチに腰掛けていた。
二人の手には缶ジュースが握られているが、上条のものはとっくに空になってしまっている。
それでも上条はその空き缶を握ったままだった。

本当に申し訳なさそうに項垂れる上条に、美琴は苦笑する。
あまりに上条らしい反応だった。

「なーに辛気臭い顔してんのよ。私たちが何も話さなかったんだから、アンタが入って来れるわけないでしょうが」

美琴は足を組んだまま上条の背中をパンパンと叩く。
それが上条当麻なのだとは知っていても、上条が自分を責めるのはおかしいのだ。
今回の一連の事件について、美琴も垣根も何も上条に話さなかった。
意図的に黙っていた。故に上条がこちらの事情を知る機会は一切なかった。

だから、上条が何も出来なかったのは当然なのだ。
出来ないようにしていたのだから、上条には何も非はない。
だが上条はそう簡単には割り切れない。自分の知らないところでずっと友人が戦っていたのだ。
それがいかにも「らしい」な、と美琴は思う。

「そうは言っても、やっぱりな……」

「ねえ。アンタ、世界全ての事件を自分の手で解決しないと気が済まないの?」

「……? 何のことだよ?」

「今この瞬間にも学園都市内で、東京で、北海道で、イギリスで、カナダで、モロッコで、タイで。
事件なんて絶え間なく起きてるじゃない。アンタはそれをテレビで見る度に『何も出来なくてごめん』って謝ってんの?
……今回のことはアンタとは無関係に起きたこと。そりゃまぁ、垣根のことに関してはアンタも関係あるけどさ。
息つく間もなかったのよね。別にさ、アンタが必ずしも介入しないといけない決まりなんてないじゃない」

上条当麻は完全無欠のヒーローではない。
世界全ての人間を救済する救世主でもない。
この広く、様々な思惑の渦巻く学園都市で上条の知らぬことなど腐るほどある。
今回のこともそうだった。ただそれだけなのだ。

上条の知らないところでも美琴はいくつもの戦いに身を投じていた。
それは『幻想御手』事件であったり、『乱雑解放』事件であったり、ロシアでのデモンストレーションであったり。
『絶対能力者進化計画』や大覇星祭の一件も上条が知っているのは最後の一部分だけだ。
そんな戦いが一つ増えた。それだけのことだ。

「大体、アンタにそういうこと言われる筋合いはないわね。
いきなりフランスだのイギリスだのから電話かけてきたりしたじゃない。
あの説明を私は受けてないし、第二二学区でズタボロになってたのも私は何も詳細を知らないわよ」

「それは……」

けれど、そもそも上条当麻が参加した戦いは御坂美琴のものより遥かに多く、そしてそのほとんどを美琴は知らない。
一〇万三〇〇〇冊の魔道書を使いこなす事実上の魔神。錬金術師。ローマ正教の一部隊。
聖人。カーテナ=オリジナルを持つ英国第二王女。『神の右席』。そんな連中と上条は死闘を繰り広げてきた。
第二二学区で美琴に説明を要求された時でさえ、美琴が協力を申し出た時でさえ、上条はそれを拒んだ。

何も説明を受けていないのだから、美琴は上条が何と、何故戦っているのか分からない。
だがそれでも分かるのだ。上条がずっと戦い続けていること。そしてその目的も、何となく。

「私はよく知らないけど、それでもアンタは一人で頑張りすぎてると思う。
ちょっとくらい私が引き受けたっていいんじゃない?」

『絶対能力者進化計画』や大覇星祭の時のように、上条の手を借りたこともある。
だがそうでなくても上条は誰かと常に戦い続けているのだ。
ならば出来るだけ上条には安易に頼りたくはないと思う。

それに、おそらく上条が今回の戦いに参戦していたとしてもそれほど大きな戦力とはならなかっただろう。
相手は『木原』。能力者でもなければ魔術師でもなく、純粋な科学のみを振るう連中だ。
『木原』一族の特性故にあらゆる敵対者を動揺させてきた上条の言葉や信念はまるで意味を成さず。
右手に宿る幻想殺しも何の役も立ちはしない。
相性は最悪と言えるだろう。

ともあれ、美琴は少しでも上条の負担を減らしてやりたかった。
その結果垣根が昏睡してしまったが、それでも美琴は今回上条の協力を仰がなかったことが間違いだったとは思わない。
上条がいたとしても結果が変わっていたかは分からないし、何より垣根自身も上条を巻き込むことを拒否していたから。

「御坂……」

上条はそんなことを言われたのは初めてだった。
彼はどちらかと言えばいつも有無を言わさずに巻き込まれる立場だった。
もちろん中には上条自ら身を投じたことも何度かあった。
だが強制的に外国送りにされたり、協力を要請されたり、『神の右席』のように明確に上条を狙ったものさえあった。

協力を仰がれることはあっても、こういうことはほとんどなかったのだ。
おそらく後方のアックアが攻めてきた時くらいのものだろう。
あの時は神裂火織を始めとする天草式十字凄教が上条の代わりに戦ってくれた。

お前の力なんていちいち借りる必要なんかない。
こっちのことはこっちでやるから引っ込んでろ。
要するに、それが美琴や垣根の今回のスタンスだったのだった。

「なんつーか……ありがとな。でも、やっぱ何かあったら教えてくれよ。
言ってくれれば出来る限り力になるからさ」

「はいはい、全く同じ言葉を返してあげますよっと」

「うぐっ……」

美琴に鮮やかなカウンターを決められ、言葉に詰まる上条だったがすぐに表情を変えて、

「言えば力になってくれるのか? 俺のために? 俺のためだけに? ……なーんてな、冗談に決まって……」

「ふぇっ!? ちょ、ちょちょちょっと、アンタ何言ってんのよ!? アンタのためだけって……!?」

これに一変して顔を真っ赤にしたのは美琴だ。
逃げるように上条から顔を背け、触ったら火傷しそうなほど赤い顔を必死に隠そうとする。
ちょっとした冗談のつもりが予想外の反応を返された上条の動きがぴたりと止まる。
上条的には「はははー何言ってんのアンタ」「冗談だよ」「何だ冗談かー」みたいなほのぼのとしたやり取りを期待していたのだ。
美琴の様子を訝しんだ上条は美琴の顔を覗きもうと体を動かす。

「あのー、御坂さん……? なんでそんなに顔を赤くしてるんでせう?」

「う、うるさぁい!!」

上条に真っ赤な顔を覗かれそうになった美琴は、逃げるようにベンチから立ち上がり上条から距離を取る。
ただでさえこんな顔は見られたくないというのに、上条が覗き込んだせいでやたら顔の距離が近くなってしまった。
頬にかかる上条の息がまた美琴を混乱させ、わけが分からなくなった美琴はとりあえず電撃をぶち込んでみた。
バチッ、という音と共に美琴から放たれる細い稲妻。

「久しぶりィ!?」

慌てて上条は右手を突き出し、バキィン!! という幻想殺し特有の音をたてて紫電は消滅した。
だがその上条の顔に余裕は欠片もない。むしろ心の底から安堵したと言った表情だった。
以前から美琴の電撃を定期的に受けていた上条だが、美琴は垣根と初めて会った際に垣根を誤射してしまったことがあった。
それからというもの美琴はぱたりと上条や白井に対しても電撃を撃たなくなっていた(代わりにメキメキとダーティな戦いの腕が上がっていったとは白井談)。

おおよそ一ヶ月ぶりに味わう美琴の電撃。
久しぶりすぎて上条は以前のようにすぐさま反応出来なかったらしい。

「おまっ・・・…、危うく食らうところだったぞ!!」

「アンタ、反射神経とか落ちてるの?
これからのためにも定期的に私が電撃食らわせて鍛えた方が良いんじゃない?」

普通に考えれば何を言っているのか分からない言葉である。
だが呼吸をするように死線を潜っている上条は、一瞬「確かに」と美琴の言葉に内心賛成してしまった。
そして上条は一秒後に少しでもそんなことを考えた自分自身に死にたくなっていた。

一瞬でもそんなことを高校生が考えてしまう時点で上条の不幸っぷりが嫌というほど理解できるというものだ。
とりあえず土御門やステイルを始めとする魔術サイドの皆、特に『神の右席』の連中は今すぐ上条に土下座すべきであろう。

「うう……上条さんはもう普通の学生には戻れないというのか……。
既に戦闘民族的な何かにジョブチェンジしてしまったとでも言うのか……っ!?」

頭を抱えてしくしくと悲愴な涙を流す上条に、美琴は思わず追撃の手を止める。
何故泣いているのかは全く分からないが、あまりにも上条が全身から悲しみのオーラを放っていたのでとりあえず適当に背中を叩いて慰めておいた。

「……うぅ……、ミコっちゃん……。俺、もしかしたらもう取り返しのつかないことになってるかもしれない……」

「誰がミコっちゃんだコラ」

そして容赦なく放たれる二撃目の電撃。

「やめてぇ!! お願いだからもうやめて!? 俺は人間をやめるつもりはないの!!
そんな戦闘民族にもなるつもりは……やめてくださいお願いだからァァああああああああ!?
いや、むしろ咄嗟に反応できちゃうのが悔しい!! よく考えたらまずそこがもうおかしいよね!?」

逃げ出す上条。それを追う美琴。
懐かしい光景だった。最初は泣きそうな顔だった上条にも、いつの間にか笑顔が戻っていた。
結局はこれが「らしい」光景なのだった。

そんな理由で投下を終了できるお前は、もはや正真正銘の悪党だよ

さてさて、終わりが見えてきました
神裂さんとヤニ神父は少しでも出したかっただけです

あと何人か書かなきゃいけない人たちが……

    次回予告




「なーんかすっげー馬鹿らしいんだけど」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――坂状友莉




「ちゅーかですよ、そもそも一体誰を連れてくる気なんすかねえあの脳筋」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――相園美央




「まあ面くらい拝んでみても良いんじゃないスか?」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――夜明細魚




「あ、私にもポテスちょうだい」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――和軸子雛




「なら私は三本!!」
対超能力者(レベル5)用のプロジェクト・『白鰐部隊(ホワイトアリゲーター)』のメンバー ―――兵頭真紀




「全く……まぁた貴方は階段から落ちでもしたんですの?」
学園都市・常盤台中学の生徒―――白井黒子




「―――……私の、せいなんです……。
私が、あの時、失敗したから……っ!! だから垣根さんは……っ」
第一七七支部の『風紀委員(ジャッジメント)』―――初春飾利




「ま、まぁ? アナタがどうしてもって言うなら? 考えてあげないこともないけどぉ?」
学園都市・第五位の超能力者(レベル5)『心理掌握』―――食蜂操祈




「アンタ……なんでそこまでするわけ?」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴





「ん? ……あれ、あの人ってもしかして……」
学園都市・無能力者(レベル0)の少女―――佐天涙子




「超逃げるが勝ちです!!」
新生『アイテム』構成員・『窒素装甲(オフェンスアーマー)』の大能力者(レベル4)―――絹旗最愛




「とりあえずこの件はこれで解決。だがまだ気は抜けないけど。
我々の前にはやらなければならないことが山積しているのだからな」
学園都市・統括理事会のブレイン―――雲川芹亜




『自覚が出て来たようで何よりだ』
統括理事会の一員―――貝積継敏




「まあ……この殿方がお二人がお世話になったという……」
学園都市・常盤台中学の生徒―――婚后光子




「垣根様……なんてことなのでしょう……」
学園都市・常盤台中学の生徒―――湾内絹保




「一日でも早く目を覚まされるよう、お力添えしたいと思いますわ」
学園都市・常盤台中学の生徒―――泡浮万彬





「……チッ」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)




「ていとくん……ってミサカはミサカはしょんぼりしてみる……」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号にして司令塔―――打ち止め(ラストオーダー)




「一体いつまで寝ているつもりなのでしょうか、とミサカは頬をぷにぷにと突いてみます」
妹達(シスターズ)・検体番号(シリアルナンバー)一〇〇三二号―――御坂妹




「あなたが起きてくれないと、ミサカはいつまで経ってもあの時の約束を果たせないのですが、とミサカはクレームをつけます」
御坂美琴の軍用クローン妹達(シスターズ)の一人―――検体番号一九〇九〇号

1年強昏睡か
直死の魔眼が発現するなwwww

洗脳されてたわけでもなく、実験に関しては美琴は悪くないと知りつつだからなぁ
原作で一方通行にやったのとは訳が違うし、筋も違うんだが

とはいえ、この話の妹達は美琴を嬲るための舞台装置だし今さらか
打ち止めも幼害と言ってもいいレベルの見るに堪えないシロモノだったし
妹達の立場を利用した善意の押し付けか悪意の押し付けかの違いでしかない

そもそも御坂に番外ぶつける展開なんて他のSSでも既に使われてるんだからそんなに突っ込んでやるなよ…

……問題の最終投下、一体いつになると思います?

新約八巻で垣根の扱いに大打撃を受けている人がかなり多いようですね……
何故かはよく分かりませんが、いやまあ相手が相手でしたし、あの台詞もあくまで言わされたものですし>>1は全然大丈夫でした
それよりも一瞬で『船の墓場』多い尽くしたのを見て『未元物質』の展開速っ、とか数百メートルの翼とか殺戮の檻とかに驚いてましたw

まあ一番驚いたのはミコっちゃんの異常な身体能力ですけどねw
インさんを抱えて高速移動したり、挙句の果てには片手でそれぞれ上条さんとインさんの二人を持ち上げるとか只者じゃないですわ
まあロベルトさんを片手で支えてた時点であれでしたが……零距離原子崩しを全弾回避とかしてましたし

408Pのオティヌスの台詞を読んだ後、カラーページのオティヌスを見てみましょう
「さあ、羽ばたく時が来たぞ。今から世界に見せてやる。これが、オティヌスだ!!」

完全に痴女宣言です本当にありがとうございました

しかしオティヌスさん、高笑いはフラg……いや何でもない

>>388
「生きているのなら、常識だって殺してみせる」

>>394
打ち止め含め妹達は生後数ヶ月ですし

>>406
ああ……うん。そりゃね、ネット上には禁書SSなんて腐るほどあるわけじゃん?
だからそういうこともあると思うわけよ。別に? 「美琴に番外個体ぶつけるとか他にはない斬新な設定じゃね」とか思ってなかったし?
ちげーし、知ってたし。先駆者がいることくらい分かってたし。……ちくしょうォ!!

そして時計の針は現在へ。

「なーんかすっげー馬鹿らしいんだけど」

「言うな、友莉。誰もが思ってることではある」

「ちゅーかですよ、そもそも一体誰を連れてくる気なんすかねえあの脳筋」

「まあ面くらい拝んでみても良いんじゃないスか?」

「はっきり言ってその人が不憫に思えるわ」

『白鰐部隊』所属の五人の少女。
坂状友莉、和軸子雛、相園美央、夜明細魚、兵頭真紀。
以前の三人の『木原』と三人の超能力者の戦いと平行して削板と交戦し、そして敗北した少女たち。
彼女たちは削板軍覇に連れられて名門中の名門、長点上機学園の一室にいた。

とはいえ彼女たちも、削板も長点上機の生徒ではない。
削板が自らの通う学校の教師に相談し、その教師がまた別の教師に呼びかける。
そんな具合にいくつかの過程を経てようやく適任者が見つかったらしい。
その適任者とやらが長点上機の人間だったためにここに来ているのだ。

指定の椅子に座りながら椅子の前脚を浮かせ、後ろに体重をかけてグラグラと体を揺らしながらぶーたれる五人の少女。
一応敗者という立場であるため、とりあえずは削板に従った彼女たちだがその削板はというと既に姿を消してしまっていた。
もともと絶対安静だったところを勝手に抜け出していたらしい。
つくづくとんでもない奴である。子雛辺りが「不死身め」と愚痴っていたが、あながち間違っていないように見えるのが恐ろしい。

そもそも五人はここで一体誰を待っているのかというと、それは彼女たちにも分からないのだった。
削板曰く「お前たちを引き上げてくれる奴」らしいのだが、そもそもそんな人間などいないと彼女たちは思っている。
嫌というほど学園都市の『闇』に塗れた五人は曖昧な希望など存在しないということを知っているのだ。
故に「さっさと帰りてーなー」的な気持ちを隠すこともなく露にし、不満たらたらなだらけ切った態度でいるのだった。

「どんな奴が来るっていってたっけ」

「なんかスクールカウンセラーとか言ってたけど。あ、私にもポテスちょうだい」

ポリポリと学校の、しかも通っているわけでもないところでスナック菓子を食べながら待つ舐めきった態度を取る真紀と子雛。

「スクールカウンセラーねー。私たちの相手なんかしたらすぐに胃に穴が空きそうだね、けけ」

「つーかポテスなんていつ買ったんですか。私にも一本」

仕舞いには相園は勝手に冷蔵庫を開けて中のミネラルウォーターを飲み始める始末である。
もはやもしかしなくても完全にアウトである。
だが残念なことに彼女たちにそんなことを気にするような感覚は存在しない。

「私にも一本!」

「なら私は三本!!」

「五本!!」

「九本!!」

盗みに入った家でそのままパーティーをしているような騒ぎになってきたところで、ようやくそのスクールカウンセラーとやらがお出ましになった。
「失礼するよ」と一声かかって、ガラッ、とドアが開かれる。
そこにいたのはスーツを着込んだ男性だった。はっきり言ってあまり特徴のない顔だった。
五人はぴたりと動きを止め、一斉にそちらへと目を向ける。
少女たちの合計一〇の眼差しを受けたその男性は思わず一瞬怯む。

「うわ、地味っ。普通っ」

この上なくストレートに毒づく相園。
ちょっとはフィルターに通したりはしないのだろうか。
流石の先生も少々傷ついたらしく、ポリポリと頭を掻いてしまった。
だがすぐに握り拳を口元に当ててごほん、と咳をすると今度こそ毅然とした態度で五人に向き合い、一人一人に目を合わせていった。

「初めまして。僕は君たちのスクールカウンセラーを勤めることになった西東颯太。よろしくお願いするよ」

西東颯太。それがこの男性の名前だった。










「お邪魔しまーす……」

「どーぞですの」

「ここはアンタの部屋じゃあないっつの」

「病室ですよ白井さん」

垣根帝督の病室にやって来たのは四人の少女だった。
御坂美琴、佐天涙子、白井黒子、初春飾利。
だが四人の様子は一様ではなく様々だ。
美琴は普段通りと言った感じだが、白井はどこか呆れたような色を見せている。
佐天は理解できないというような困惑を見せ、初春は非常に気まずそうだった。

ベッドに横たわり動かない垣根を見て、佐天が小さく息を呑む音がした。
初春は何かを堪えるようにスカートの裾をグッと握る。
美琴はマイペースにカバンを置いてパイプ椅子を広げ、どかっと座り込む。
白井はベッドのすぐ近くに壁に背中を向けて寄りかかり、腕を組んでため息をついた。

「全く……まぁた貴方は階段から落ちでもしたんですの?」

いつもならすかさず毒に塗れた辛辣な言葉が返されるだろうに、垣根は何も答えない。
そんな垣根を見て白井は何を思ったのか、目を逸らした。
漂う重い空気の中で、遠慮がちに口を開いたのは佐天だった。

「あの……そもそも垣根さんは、どうしてこんなことに……?」

そして再度重苦しい静寂が病室を包み込む。
何か重大な失言をかましたかと思った佐天は、思わず「えと・・・…」と言葉を濁す。
いつもの四人組なのに、度々訪れる病院なのに、明らかに空気が異質だった。

「それはわたくしも最初から気になってましたの。一体何があればこうなるんですの?」

「―――……私の、せいなんです……」

か細く、震える声で訴えたのは初春だった。
血が滲みそうなほどに握り締めた拳は震えている。

「……どういうことなの? 初春」

「私が、あの時、失敗したから……っ!! だから垣根さんは……っ」

「それは違うわ、初春さん」

罪悪感に塗れた言葉を苦しそうに吐き出す初春を止めたのは、先ほどから黙っていた美琴だった。

「あの時は時間が足りなかった。でも他に方法がなかったから、それでも初春さんに頼らざるを得なかった。
初春さんのせいじゃない。私たちが最初から不可能なことを無理にやらせただけなの。
……ごめんなさい。軽率な判断であなたに余計な重荷を背負わせちゃったね」

泣きじゃくる初春に、美琴は立ち上がってその頭を優しく撫でる。
あの時は極限の状況下だったとはいえ、浅慮だったのかもしれない。
初春飾利は人一倍正義感が強く、優しい少女だ。
ちょっと考えればこんな風に背負い込んでしまうことが分かっただろうに。

必要のない罪悪感、的外れな自責。
自分が初春にそれを押し付けたという事実に、美琴は情けなくなった。
一方で置いてけぼりの佐天と白井は顔を見合わせ、

「……あの、申し訳ありませんが説明をお願いしますの……」

「ごめん。それは出来ない」

今回のことについて、正確に言えば垣根の昏睡について話そうとすればどうしたって学園都市の『闇』に触れることになる。
それでもきっと彼女たちはそこに踏み込んでも美琴の力に、垣根の助けになってくれるだろう。
実際、彼女たちは過去にも暗部の表層に触れたことはある。

だが、美琴は見たのだ。この学園都市に巣くう『闇』の深さを。その狂気を。
一連の事件で骨の髄までその深さを理解した。理解させられた。
この街の『闇』は底なしだ。想像できる領域を二段階も三段階も飛び越えた狂気を見せてくる。
とてもではないがこの三人に関わらせられるものではない。

掛け替えのない友達やその友情。
たしかにそれは大切なものだし、それに救われたことだってある。
それどころか友情を優先し、三人に暗部について一部話して共に戦ったことさえある。
しかし学園都市の『闇』はそんなあやふやなものが通用する場所ではない。
今までが運が良かっただけなのだ、と美琴は嫌というほど理解した。

『アイテム』、『スクール』、『グループ』。統括理事会、そして『木原』。
過去美琴がこの三人と一緒に暗部に触れた時、もし麦野沈利率いる『アイテム』がやって来ていたらどうなっていただろう。
もし垣根帝督が敵として美琴たちの前に現れていたら。一方通行が姿を見せていたら。
果たして今四人は無事に生きていられたのだろうか。

潮岸のような統括理事会を敵に回していたら、暗部でもなくそれに立ち向かえるほどの力もない彼女たちはどうなっていただろう。
もし恋査が立ちはだかっていたら。もし『木原』を相手していたら。

かつてテレスティーナと戦った時はまだ良かった。
あの時はあくまでテレスティーナの目的は『能力体結晶』の完成にあり、美琴たちを潰すことを目的としていたわけではなかったからだ。
だが一度。一度スイッチの入ったテレスティーナが―――『木原』がどこまでぶっ飛ぶかを美琴は知った。
徹底的に、病的なまでに人の尊厳を踏み躙り、人が超えてはならぬラインを高笑いしながら踏み越え、一人を殺すために数百万の命を消す。
木原数多も木原病理も、『木原』とはそういう連中なのだ。科学という人類共通の基盤を用いていながらその領域の外にまで突き抜ける。
いつの日か、本当に笑いながら科学で神さえ殺しそうな一族。

要するに学園都市の暗部はそういう場所なのだ。
一方通行が現れていたら、白井黒子は生きていられただろうか。
垣根帝督が立ち塞がっていたら、佐天涙子は五体満足でいられただろうか。
統括理事会や恋査が敵となっていたら、御坂美琴は笑っていられただろうか。
『木原』と本気でぶつかっていたら、初春飾利はまともな感情を持っていられただろうか。

それを痛いほどに理解したからこそ、今までの認識があまりに甘かったことを知ったからこそ。
美琴はたとえ何と言われようと一切を黙秘すると決意した。
テレスティーナによる番外個体を利用した一連の悪夢。
あれを実際に経験した身として、あれを白井や佐天、初春に経験させるわけにはいかない。
そんなことになれば彼女たちが“壊れる”ことは明らかだから。

別に彼女たちとて生半可な気持ちで暗部に関わろうとしているわけではないだろう。
その気持ちは本物であると美琴も分かっている。
だがしかし。実際にその身で触れない限り、暗部の恐ろしさが実感で分からないのだ。
死ぬかもしれない。相手のレベルが違う。どれほどの言葉を重ねたところでそこには決定的に実感がない。

そしてそれはこれまでの美琴もそうだった。
『量産型能力者計画』で学園都市の『闇』を垣間見た。
『絶対能力者進化計画』で『闇』の深さと規模を知った。
大覇星祭や『乱雑解放』、一方通行との再会、鉄橋にて聞いた垣根の話、今回の騒動を通じてようやく正しく理解したのだ。

「ごめんね。どうしても話せないの。
……それなのに勝手だけど、良かったらたまにでいいからこいつに会いに来てやってくれない?
いつかひょっこりと目を覚ますかもしれないしね」

結局は隠し事だ。
白井にも、佐天にも、初春にも、事情は話せない。
どれだけ願われたとしても、もはや美琴は絶対に『闇』に関わる話をしないと決めている。
その上で彼女たちに助力をお願いする。
本当に自分勝手なことだ、と思う。けれど事態が事態だし、勝手に垣根のことについて話すのも躊躇われた。

「……分っかりました、あたしたちにお任せください!!」

元気よく引き受けてくれたのは佐天だった。
頼んでおいて何だが、あまりにあっさりすぎて拍子抜けしてしまう。

「良いの? 佐天さん。これってかなり勝手なお願いよ?」

「垣根さんにはあたしも借りがありますし。
それに、全部を知らなくたってあたしたちは友達ですよ!!」

その言葉に同調するように、初春と白井も佐天に続いた。

「分かってます。言われなくてもそのつもりでいます」

「仕方ないですわね。あの方にはまだまだ言いたいこともありますし」

なんて良い子たちばかりなのだろう。
美琴は本当に良い友人たちに恵まれていると思った。そして、垣根も。
こんなにも。自分は物心ついた時から化け物で、恐れられて嫌われるのが垣根帝督だと言っていた青年は。
こんなにも、多くの人間に。こんなにも、想われている。
美琴の考えに間違いはなかった。もはや垣根は一人などでは決してないのだった。










「あの、さ。その、あ……あり、が……」

「蟻? 夏休みの自由研究かしらぁ?」

「んなわけあるか!! 大体今は冬だっつーの、あの馬鹿と全く同じ反応しやがって!!」

学舎の園にあるとある高級感漂うカフェに彼女たちはいた。
片や世界の四つの基本法則の一つを統べる学園都市第三位の超能力者。
片や人の思想や信条を軽々と神の気まぐれのように捻じ曲げる学園都市第五位の超能力者。

『超電磁砲』と『心理掌握』。
御坂美琴と食蜂操祈。
学園都市の頂点に立つ七人の超能力者の二人。

そんな彼女たち。恐ろしいほどの力を秘め、ただ二人が並んでいるだけで何か恐ろしい陰謀すら感じさせる超能力者。
……なのだが、実際に行われているのはなんてことのないやり取りだった。
そもそも美琴と食蜂が一緒にカフェにいるという光景がまず異常だった。
事実、二人は数日前には常盤台にて衝突寸前まで行ったこともあった。

きっかけは美琴からだった。
いつものように派閥メンバーを引き連れてぞろぞろしていたところを、美琴が呼び止めて誘ったのだ。
そんな食蜂は今目の前で優雅に紅茶を飲んでいる。
網目模様のデザインされた白いレースの手袋のようなものをはめた手でカップを持つ。
ただそれだけの仕草だが、どこか気品が漂っていた。
この派手なシャンデリアが下がり、多くが鮮やかな紅や金で統一されたやたらと豪華なカフェに何ら違和感なく溶け込んでいる。

美琴も普段は全く見せぬお嬢様モードで紅茶を一口飲んで自身を落ち着かせる。
食蜂がカップを戻したのを確認して美琴は切り出した。

「あの時。私にあの男を使って道案内させたの、アンタでしょ。
あん時は事態が事態だったし混乱してたけど、落ち着いて考えりゃアンタしかいないもんね」

食蜂はくすりと笑って、

「まあ隠すことでもないわねぇ。そうよぉ、私の洗脳力、見事だったでしょぉ?
でも私も私で大変だったんだから。何だっけ……乱数とかいう『木原』と戦うことになっちゃってねぇ。
私は面と向かっての勝負をするタイプじゃないのに。ああいう幻覚力のかけ合いは初めてだったわぁ」

「……アンタ、『木原』と戦ったの?」

静かに肯定する食蜂に美琴は戸惑っていた。
食蜂が『木原』と戦っていたという事実もそうだが、それ以上に。

「アンタ……なんでそこまでするわけ? ……やっぱりドリーのこと?」

「もちろん、それはあるわぁ」

でもぉ、と食蜂は区切って、

「アナタは言ったじゃない。人の気持ちなんて心力で理解するもの。
私なりに考えてみたのぉ。私には信じられる人間なんて一人しかいない。
アナタみたいに何を考えてるのか読めない人間となんて関わっていたくない。
でも、きっとそんなだから私は孤独なんだって」

食蜂は初めて自身の心境を吐露していた。
こんな風に内心を語るのは初めてのことだった。

「別にそれでも構わないと思ってたわぁ。
何考えてんだか分からない人間と関わって馬鹿を見るのは間抜けだと思ってたから。
……でも、私だって初めからこうだったわけじゃない。
素直に人を信じられるアナタみたいな人への憧れ、懐古力。きっとそういったものねぇ。
あの時、中庭で大胆に啖呵力を切ったアナタを見て、考えて。思っちゃったの。
―――もう一度くらい、人を信じてみても良いんじゃないかって」

「…………」

「あの時、私の理屈力は正しかったはずなのに何故だかちっぽけに思えた。
逆にアナタは何の根拠力も伴ってない綺麗事だったはずなのに、何故だかやけに大きく見えた。
堂々と人を信じるって言えるアナタが輝いて見えたのよぉ、困ったことに。
そして今回の妹達の一件を見て思ったの。私が人を能力抜きで信じられるとしたら。
そんなことはまだ無理だけど、その可能性があるとしたら。……アナタしかいないってねぇ」

そう言う食蜂は恥ずかしいのか顔が僅かに赤くなっていた。
それを隠すように紅茶の入ったカップに口をつけ、ちびちびと飲んでいる。

「だから……ま、まあ? アナタがどうしてもって言うなら? お、お友達になることも、考えてあげないこともないけどぉ?」

「いや、その理屈はおかしい。勝手に私が頼んだみたいに捏造すんな」

数秒前までの自らの発言を綺麗さっぱり忘れてしまったかのような食蜂に、美琴はすかさず突っ込みを入れる。
けれど、内心美琴はあの食蜂からこんな言葉が出て来たことに驚いていた。

「でも……そうね、アンタが望むなら考えてあげる」

「な、なんですってぇ!?」

「自分の言葉で言ってみなさいよ。ほら」

「うう……御坂さんの鬼!! 悪魔!! 人でなし!! 『心理掌握』しちゃうわよぉ!?」

「なんとでも」

「阿婆擦れ短パン!!」

「何つった貴様!!」

涼しい顔で食蜂の言葉を聞き流していた美琴だが、その一言に怒りを露にする。
かつてある子供に同じことを言われたことがあったが、美琴にとって大切な何かにこの言葉は触れてしまうらしい。
椅子から半ば立ち上がって大きくテーブルに身を乗り出し、向かい側に座っている食蜂の頬を両手で掴み左右へ引っ張る。

「生意気言うのはこの口かー?」

「ひゃ、ひゃめてみふぁかさ~ん」

食蜂がぺちぺちと腕を叩いてくるので、それをギブアップの合図と受け取った美琴は手を離した。
はあ、とため息をついて、頬をさすっている食蜂に向けて、

「ま、最初からハードル高かったか。ああ言えただけで大進歩ね、うん」

「黙りなさぁい!! いつまで経ってもツンデレ力全開の御坂さんに言われたくないわぁ!!」

「わ、私はツンデレじゃない!!」

若干赤くなっている顔を誤魔化すように握り拳を口元に持っていきこほん、と咳払いする。

「それより食蜂。代わりと言ったらなんだけど、お願いがあるの」

「なにを不利になった途端シリアス力に持っていこうとしてるのかしらぁ?」

「……お願いがあるの」

「強引に押し切ったわねぇ。でもぉ、アナタの頼みは分かってるわよ。残念だけど私にはどうにも出来ないわぁ」

へ? と美琴は思わず間抜けな声を漏らす。
どうして、と追求する前に食蜂が説明を追加した。

「あの医者に頼まれたのよぉ。えーっと……垣根帝督、だっけぇ? 第二位の。
御坂さん、一体いつの間に第二位なんてビッグな奴と知り合ってたのよ」

「はは……まあ、色々あってね。本当に、色々と」

「ふぅん……まぁそれはいいんだけどねぇ。
それでぇ、あの医者には私も恩があるし、第二位さんを私の天才力で起こそうとしたんだけど……失敗しちゃったんだゾ☆」

「最強の精神系能力者(笑)……冗談よ、冗談だから拗ねんな」

「ふん……とにかくあれは完全に脳科学とか医学でどうにかするべき分野よぉ。
能力とかで手を出して、っていう領域じゃないわ。
でもぉ、男前な御坂さんがキスでもすれば一発なんじゃないかしらぁ?」

「ぶっ飛ばすわよ。そんな童話みたいなメルヘン展開があるわけ……。でもメルヘン、か……」

メルヘン野郎のメルヘンな翼を出したメルヘンな姿を実際に見ている美琴は僅かに言葉に詰まる。
ともあれ、食蜂の『心理掌握』を使うというのは失敗のようだった。
だが美琴に落胆はあまりない。想像は出来ていたし、焦っても仕方ないと思ったからだ。
どうせ常識の通用しないあの男のこと。最後には普通に起き上がることだろう。

「ふーん。じゃあ私がキス力を発揮しちゃおうかしらぁ?」

「どうぞどうぞ」

「そこはノってよぉ!?」

果たしてこんな会話をしている御坂美琴と食蜂操祈は、傍から見たらどういう関係に見えていたのだろうか。










佐天涙子と絹旗最愛は二人並んで街中を歩いていた。
ちなみに目指している場所は映画館。
自分の隣で笑っている佐天を見て、絹旗はニットのセーターの裾を掴んで全力で頭を回していた。

(一体何が超起きてるんですか……。なんで私がこの子とこんなことに……)

そもそものきっかけから意味が分からなかった。
絹旗は痛む頭を手で抑えて数分前の出来事を回想する。

あれは『アイテム』のメンバーで街を歩いていた時のことだった。
フレンダと下らないやり取りをし、滝壺の無気力さに呆れ、麦野の言葉に同調する。
そんないつもの風景だったはずなのだが、

「ん? ……あれ、あの人ってもしかして……」

そんなことを言いながらこちらを見てくる一人の少女が現れたのだ。
絹旗はその顔を見て、心の中でうげっ、とらしからぬ悲鳴をあげた。
佐天涙子。それはかつて『アイテム』が美琴を誘き出すために利用した少女だったのだ。
当然、そんな少女と堂々と顔を合わせられるはずもない。
絹旗は焦り、思考に僅かな空白が生まれた。それが致命的だった。

気付いた時には他の『アイテム』メンバーは全員どこかへと逃げてしまっていたのだ。
フレンダも、麦野も、そればかりかちゃっかりと滝壺までいなくなっている。完全に置いていかれていた。
だが絹旗にはそれに対して怒りを見せる間もなかった。すぐに佐天が声をかけてきたからだ。

「やっぱり!! 久しぶりですね、絹旗さん!!」

「あ、え、ええ……」

しどろもどろになる絹旗。
一体どんな顔をして、どんな風に接すればいいのかがまるで分からなかった。
しかし対する佐天はそんな絹旗の悩みなどどこ吹く風で、極めて明るくフレンドリーに接してきた。

「一人ですか? どこに行こうとしてたんですか?」

「え、えっと、映画を観に……」

今日はついに説き伏せた『アイテム』メンバーたちを連れて前から気になっていた映画を観る予定だったのだ。
もしかしたら彼女たちは佐天から離れる以外にも、映画を回避するためにも逃げたのかもしれない。
とりあえずフレンダ超殴る、などと考えながら素直に答えてしまう。

「映画ですか。じゃあ行きましょう!!」

「は? え、ちょっと……!?」

佐天に腕をぐいと引っ張られ、半ば強制的に連れ出された。
そして今に至るというわけだ。

「……佐天さん。貴女、何を超考えてるんですか?」

絹旗には佐天の思考がまるで読めなかった。
自分を攫った人間に何故声をかけようと思ったのか。
何故こんなにも明るく接してこられるのか。
何故自分に着いてくるのか。疑問は多い。

「ん? 何が?」

きょとんとした顔で疑問符を飛ばす佐天に、絹旗はますます疑念を深める。

「私たちが貴女に何をしたか、超忘れたわけじゃないでしょう?
それにあの時も超お話しましたが、私たちは貴女と違って……」

「あー、ごめん。別にそういうのはいいんだ」

「へ?」

言葉途中に佐天に割り込まれ、絹旗は思わずそんな声を漏らす。
そういうのはいい、とはどういう意味なのだろう。
少し考えてみるもまるで見当もつかなかった。
だが少なくとも、

「あたしはもう全く、全然、これっぽっちも気にしてないから。
それにあなたたちの事情にも深く関わるつもりはないよ。気にならないって言ったら嘘になるけど。
……あたしはただ、絹旗さんと友達になりたいだけなんだ」

―――こんな言葉は、完全に想定になかった。

結局のところ、全く立場の異なるこの二人が友人になれたのかは分からない。
ただ間違いなく言えることは、この日絹旗のアドレス帳に『佐天涙子』という文字列が追加されたこと。
そして絹旗お勧めの映画を観た佐天が映画館から出て来た時、佐天は精も根も尽き果てていたということだけだ。










「とりあえずこの件はこれで解決。いやー、疲れたな」

気だるげな声をあげながら、下着姿のままベッドへごろりと転がったのは雲川芹亜だった。
髪は少々乱れていて、表情にもどこか力がなくその疲労具合が多少なりとも覗える。
大の字に手足を広げベッドに深い皺を作る。その女子高生としてあまりよろしくない格好にも気にする様子はなかった。
ふへー、と息を吐く雲川に答えたのは携帯越しに話している統括理事会の一員、貝積継敏だった。

『どうせまた下着姿なのだろう。いい加減に風邪を引くぞ』

「余計なお世話だけど。それよりお前分かっているのか。
今回の潮岸包囲網を完成させたのは私なんだぞ。一体どれだけの手間をかけたことか。
限りなくセーフに近いアウトな手段も取らせてもらった。
そんな最大の功労者である私をもっと労わってほしいものだけど」

『感謝はしているさ。君の助力なくして第三次製造計画は打倒し得なかっただろう。
だが最大の功労者は君ではなく、あの三人だと思うのだが』

その言葉を聞いた雲川は上半身だけをむくりと起こし、深いため息をつく。
一度ベッドのシーツをぐっと掴み、すぐに力が抜けたように離す。
右足を体育座りのように折りたたみ、携帯を左から右へ持ち直す。

「……御坂美琴。結局巻き込んでしまったけど」

『あれは君のせいではないだろう』

「いいや、潮岸にばかり囚われて他への注意を疎かにしていた私のミスだ。
まさか別口で第二位までが動いていたとはな。
御坂美琴を監視でもしていれば一発で気付けたというのに、彼女に関わることを恐れて一切の手出しをしなかったのが裏目に出たか。
結果的には無事だったようだが、彼女は今もあの医者のカウンセリングを定期的に受け続けているようだけど」

『……精神的なショックが大きかったのだろうな。どんな力を持っていても、彼女はまだ一四歳の中学生に過ぎん』

「『絶対能力者進化計画』は知っていたが止められなかった。
妹達が消耗品のように死んでいくのを見ていることしか出来なかった。
だから今度こそ止めようと思った。雲川芹亜個人としてのリベンジ戦として。
その結果がこれだ。〇点とは言わないが、赤点を免れたかどうかは怪しいな」

珍しく自虐的になっている雲川に貝積は慰めにも似た言葉をかける。
そもそもが雲川に多くを任せざるを得ず、最後の詰めを学生にやってもらうしかなかった貝積とて己の無力感を嘆いていたのだ。
そしてそれはこの場にいない親船最中も同様だった。

『だが結果的に第三次製造計画の犠牲は最小に食い止めた。
唯一作られてしまった妹達も助かった。御坂美琴も無事に生きている。
相手が『木原』だったことを考えれば十分な結果じゃないか』

「まあ、そうとも言えるが……。第一位はまあどうでもいいけど。
どれだけの犠牲を受けようがあいつの場合は自業自得、因果応報としか言いようがないからな。
第二位は、まあ似たようなものだけど。奴とてこれまでしてきたことを考えれば仕方ないとも考えられる。
そうなると結局、御坂美琴か。よくもまああれだけのやり方を思いつくものだ。『木原』の執念には流石の私も頭が下がるけど」

『……そういえば、第七位はどうしたんだ?』

貝積が訊ねると、雲川はまるでどうでもいいことを思い出したかのようにああ、と前置きして、

「奴なら病室から脱走しようとしては見つかってを繰り返してるけど。
あの馬鹿、どうやら絶対安静という言葉の意味が理解できていないと見える。
アドレナリンでも出まくってたのか知らんが、何度も死んで当然のダメージを負っているというのにな」

『もし彼に死なれでもしたら、君が悲しむものな』

貝積があまりにも自然にそう言ったためか、雲川はは? というような顔をして動きを止める。
そして数瞬の後にその意味を理解し、雲川は必死になって反論した。

「な、ち、違うぞ!! 誰があんな脳筋の心配などするものか!!
私はただ自分の体の調子もろくに把握できないあいつの馬鹿さ加減に呆れているだけだけど!!」

その精一杯の反論もはいはい、と言った風に軽く貝積にいなされ、雲川は珍しく悔しそうに顔を歪める。
やがて何かを隠すように雲川はわざとらしく咳払いし、「と、とにかくだな」と呟いた。

「どうあれ今回の件はこれで終了だが、まだ気は抜けないけど。
我々の前にはやらなければならないことが山積しているのだからな」

『自覚が出て来たようで何よりだ』

雲川は通話を切断し、気だるそうにむくりと上体を起こす。
ふあ、と口を大きく開けて盛大にあくびをするとデスクの椅子の背もたれにかけてある服を手にとり、するりとベッドから下りる。

「さってと、まずは……着替えてからあの馬鹿のしけた面でも拝みに行ってやるとするかな」










「ていとくん……ってミサカはミサカはしょんぼりしてみる……」

「一体いつまで寝ているつもりなのでしょうか、とミサカは頬をぷにぷにと突いてみます」

分かりやすく沈んだ表情をしている打ち止め。心なしかその聳え立つアホ毛までが垂れているように見える。
そんな打ち止めとは対照的に、御坂妹はいつもと変わらない、つまりは無表情だった。
そんな二人の妹の正反対な様子に、美琴は苦笑する。

開け放たれた窓から吹き込んでくる少々冷たい風と、燦々と輝く太陽の日差しをその身に浴びる美琴はシャンパンゴールドの髪を風に靡かせる。
椅子に座って買ってきた林檎を紙袋から取り出し、片手にナイフを持つ。
丸々とした鮮やかな赤の色彩を放つ林檎を、綺麗にナイフで皮を切りながら美琴は適当な調子で言った。

「さあねー。よっぽど睡眠不足だったんでしょうねこいつも。一体どれだけ寝れば満足するのやら」

そんなことを言いながら、美琴は器用に一度も皮を切らずに林檎の皮を剥き終える。
裸になった林檎を更にカットし、その一つを口の中に放り込むと「食べる?」と打ち止めと御坂妹に林檎を差し出す。
御坂妹は勿論、しょんぼりしていた打ち止めもしっかりと林檎を頬張っているのを見て思わずこちらの頬まで緩んでしまう。

「一九〇九〇号も来ていましたね、とミサカは記憶を引き出します。
『あなたが起きてくれないと、ミサカはいつまで経ってもあの時の約束を果たせないのですが、とミサカはクレームをつけます』などと言ってしましたとミサカは報告します」

「へぇ……」

あの時の約束というのは垣根と三人でいた時の話だろうか、と美琴が考えていると、

「……お姉様、ごめんなさいってミサカはミサカはぺこりと頭を下げて謝罪してみる」

「へ?」

見てみると御坂妹もいつの間に頭を下げていて、美琴は突然の事態に混乱しぴたりと動きが止まる。
思わず林檎を喉に詰まらせてしまい、呻きながら、そして胸を叩きながらペットボトル入りの烏龍茶を慌てて喉に流し込む。
すると今度は烏龍茶が妙なところに入ってしまい、げほごほ咳き込む美琴の背中を慌てて打ち止めと御坂妹が摩った。
しばらくして、ようやく復活した美琴は今さっきの醜態をなかったことにして佇まいを直した。

「……それで? 何のことよ、一体。私、謝られるようなことに心当たりないんだけど」

「さらりと情けない姿をなかったことにしたお姉様パネェ、と思いながらミサカはとりあえず普通にスルーします」

「ミサカたちが言ってるのは第三次製造計画のことだよってミサカはミサカは白状してみたり。
……ミサカたちミサカの問題だったのに、何も知らないであの人やていとくん、そしてお姉様に全部押し付けちゃったからってミサカはミサカは……」

打ち止めのその言葉を聞いた美琴はぽかんとした表情を浮かべる。
その顔は言ってることが理解できていないとかそういうものではなく、「なんだ、そんなことか」と言うようなものだった。

「そのことなら私らが勝手にやったことだから、気にすることないわよ。
大体アンタたちに何も話さなかったのは私なんだし、ね」

「それでもミサカたちがお姉様に全てを任せてしまったことは事実です、とミサカは反論します。
それに、それだけではありません。むしろこちらが主題とも言えるのですが……番外個体のこと、です、とミサカは歯切れ悪く後を濁します」

「……うん」

その御坂妹の言葉だけで美琴は静かに全てを悟る。
目の前の二人の妹が一体何を言わんとしているのかを。
打ち止めが服の裾をギュッっと握り締め、言いづらそうに、しかしはっきりと言った。

「お姉様……多分、ミサカたちの一部は自分でもそうとは気付いてないかもしれないけど。
……きっと、お姉様に嫉妬してるんだと思うってミサカはミサカは打ち明けてみる」

「私に?」

「お姉様はミサカたちの姉になってくれた、優しい人ですから。
きっとミサカたちにはそれが……とミサカは適切な言葉を見つけられません。
ですがこれはミサカたちの意識の問題であり、お姉様の問題ではありません。
何であれ一つだけ断言しておきたいのはミサカたちはお姉様を恨んでなど決してない、ということですとミサカは強い調子で宣言します」

「うん、それだけはほんとのほんとだよってミサカはミサカは下位個体の言葉を保障してみる!!
一万のミサカたちはそれぞれに個性が生まれて、考えも多様化してきてるの。
たとえば一〇〇三二号みたいにあの人を恨んでないっていう個体もいれば、……残念だけどあの人を強く恨んでるミサカもいる。
でも、それでもお姉様を恨んでるミサカは一人もいないよってミサカはミサカは満面の笑顔で断言してみたり!!」

もしかしたら。そう思っていられるのは今の内だけかもしれない。
だが、それでもそう言ってくれる二人の妹の気持ちがありがたかった。
美琴はしゃがみ込んで、目の前にいる打ち止めを包み込むように、優しく抱き締めた。
ありがとう、と呟いてその頭を撫でてやると、打ち止めは蕩けたような表情で甘い笑顔を浮かべた。

「大好きだよ、お姉様ってミサカはミサカは大胆告白!!」

よだれを垂らしそうな表情でえへへ、と笑う打ち止めを解放すると、今度はどこかそわそわしている御坂妹をしっかりと抱き締める。
その未だ感情の起伏の浅い顔を仄かに赤くして、ただ姉の抱擁を受け入れる。
やがて御坂妹は抱き締められたまま美琴の耳元にそっと口元を寄せ、打ち止めには聞こえぬよう、美琴だけに届くようその言葉を口にする。

「お姉様、大好きです、とミサカは率直な心情を吐露します」

美琴は感極まって、胸から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
嬉しかった。純粋に、嬉しかったのだ。
それ以上にこの感情を的確に表現する言葉など見つからなかった。

「ありがとう。私もアンタたち全員、大好きよ」

満面の笑みで心からそういってやると、虫歯になりそうなほど甘い笑顔を浮かべて打ち止めが胸に飛び込んでくる。
優しく受け止めて再びしっかり抱いてやり、御坂妹も美琴が一声かけるとすぐに甘えてきた。
同じ顔。同じDNA。オリジナルとクローン。本来歪ではあるけれど、それでもそうしている彼女たちは姉妹、もしくは母子にすら見えた。

「まった下らないこと言ってるし。アンタ本気で馬鹿なんじゃねぇの?」

そんな時、突然第三者の声が響いた。
いや、第三者という表現は誤りかもしれない。何故ならその声は今ここにいる彼女たちと全く同じものだったからだ。
ドアの方を確認した美琴の視界に映ったのは自分と同じ顔をした少女だった。
未だ全身に治療の痕が見え、痛々しい姿ではあるがしっかりと二本の足で立っていた。
その左足は数日前に失われているのだが、冥土帰しによって本物と遜色ない性能の義足が取り付けられていた。

その少女に名前はなかった。
名前とは本来大勢いる人間たちの中で、互いを区別するためのものだがその少女にその必要はなかったのだ。
しかし少女は便宜上、番外個体と名乗っていた。

「あ、アンタ。勝手に出歩いて大丈夫なの?」

「やっほう、おねーたま。一応許可は出てるよ。
しかし、相変わらずムカつく面してるねぇ。殺していい?」

番外個体は美琴の軍用クローン『妹達』の一人だが、その仕様は少々特別なものになっている。
このように美琴に対して毒を吐くのも呼吸をするように行われているのだ。
そしてそれを知っていて、受け入れて、慣れている美琴はあっさりとその言葉を受け流す。
それに対して番外個体が腹を立てる、というのが定番になっているのだった。

「はいはい。でもまだ本調子じゃないんだから気を付けなさいよ」

「というより、ミサカたちは全員同じ顔なのですからその発言はおかしいのでは、とミサカはあくまで冷静に指摘します」

「もう、お姉様にそういうこと言っちゃ駄目!! ってミサカはミサカはお姉ちゃんとして末っ子を窘めてみたり」

「ぐっ……」

同じ顔をした三人に次々と突っ込まれ、劣勢に追い込まれる番外個体。
美琴は当然として、御坂妹や打ち止めも番外個体とは初対面ではなかった。
彼女たちだけでなく一九〇九〇号を始めとするこの病院にいる他の妹達とも面識があり、そして全員に妹扱いされているのだ。

「納得行かないんだけど!! アンタら全員ミサカよりお子ちゃまのくせに!!」

「ふっふっふ、製造番号的にミサカの方がお姉ちゃんなのは自明なのだってミサカはミサカは勝利宣言!!」

「もうあなたはミサカたちの妹的立場からは逃れられないのです、とミサカは宣告します」

「すっかり可愛がられてるわねー。おとなしく諦めなさいよ」

「うっせえ死ね貧乳!!」

「奥歯カタカタ言わせんぞコラ!?」

その後もしばらくの間そんなやり取りが続いた。

切れた番外個体が美琴を殺そうとしたり。
「胸が抉れてる、マジきめぇ」とか言って美琴のみならず御坂妹と打ち止めの怒りまで買ったり。
「アンタムカつくから殺していい? いやどっちにしろ殺すんだけどさ」ととりあえず美琴を殺そうとしたり。
御坂妹、打ち止め、番外個体の間で林檎の取り合いが勃発したり。
美琴が快く自分の林檎を譲って姉の貫禄を見せつけ、それに悔しがった番外個体が美琴に暴言のシャワーを浴びせるもスルーされたり。
御坂妹と打ち止めに言ったのと同じく、美琴が番外個体に「大好きだ」と言ってあげたり。
どう反応していいのか分からず混乱する番外個体を見て御坂妹と打ち止めがニヤニヤしたり。
番外個体が美琴を殺そうとしたり。

そんなこんなで大騒ぎして、今美琴は一人椅子に座っていた。
御坂妹も、打ち止めも、番外個体も、もう去ってしまっている。
楽しかったなあ、と思いながら美琴はぼーっと垣根の整った横顔を見つめる。
これからもあんな楽しいやり取りがいくらでも出来る。それはこの垣根帝督のおかげなのだ。

「ったく。すぐ隣であんだけ騒いで起きないって、ほんとにどんだけ熟睡してんのよアンタ」

垣根はこんなに寝起きの悪いタイプなのだろうか、と美琴は疑問に思う。
実際どうかは知らないが、性格的に寝顔を見られるのは酷く嫌いそうなものだが今はこうして無防備にその顔を晒している。

「写メっちゃうぞくのやろー」

足をバタバタさせながら美琴はいつものように話し続ける。
もはや完全にこれは日課となっていた。
美琴は物言わぬ垣根に笑顔で、一方的に話しかける。

「結局、“約束”は守れそうもないわねアンタ。けど来年には守ってもらうわよ」

美琴はそのまま時間を忘れるほどに語った。
気が付いた時には相当の時間が経過しており、もう夜になっていた。
窓から差し込む闇を晴らす月光が垣根を照らし、どこか幻想的な光景を作り上げる。
これじゃ本当にメルヘンだな、と美琴は苦笑しながら窓とカーテンを閉める。

「それじゃ、もう帰るわね。また明日」

垣根に手を振って、美琴はドアをスライドさせ……る前に、ドアがガラッっと開いた。

「わっ!?」

美琴はまだドアを開けていない。
だが美琴が驚いたのは勝手にドアが開いたからではなかった。
単に、突然目の前に現れた白髪紅目の男の顔に驚いただけだった。
一方通行。彼はそう呼ばれていた。
学園都市第一位の超能力者が外からドアを開けたのだ。

それにしても、突然ぬっとこんな顔が現れてはたまったものではない。
それだけで人を殺せそうな凶悪な顔立ちをしているのだ、少しはそれを自覚してほしいものだ。
だが驚いたのは一方通行の方も同じだったらしく、彼はしばしの間フリーズしたように一歩も動かなかった。
互いの硬直が解けたのはほぼ同時。しかし先に口を開いたのはこれまでと違って一方通行だった。

「……悪ィ」

「……別に」

やはり、二人の間に漂うのは重い沈黙なのだった。
二人の関係を考えれば至極当然のことであるが、これでも以前と比べるとかなりマシにはなっているのだ。

「アンタが垣根のお見舞いに来るなんてね。明日は雪かしら?」

「……チッ」

一方通行は隠しもせずに舌打ちし、

「クソガキがうるせェンだよ」

「ふーん。ま、何でもいいけどね。
……それより、一応、礼は言っとくわ。私の妹を助けるの手伝ってくれて」

三人の超能力者と三人の『木原』の戦い。
そして『地球旋回加速式磁気照準砲』。

もともと妹達関連に限っては一方通行を信用すると決めていたし、妹達のためなら個人のわだかまりなど捨てる気でいたが、それでも。
本当なら美琴は一方通行の力など借りたくはなかった。協力などしたくなかった。必要以上に関わりたくもなかった。
けれど事実は事実だ。本当に癪だが、一方通行の力が助けになったのは紛れもない事実なのだ。
一方通行は僅かに顔を顰める。美琴に礼を言われるということをどうも一方通行は嫌っているようだった。

「なァンでオマエが礼なンてするンだよ。ありゃ俺が勝手に自己満足でやったことだ」

「それでも、アンタの力に助けられたのは本当だから。それと結標淡希にも同じこと伝えといて」

「……あァ」

美琴はあの戦いの中で結標淡希に助けられるという想定もしていなかった事態に直面した。
かつて『残骸』を用いて神の頭脳を再び蘇らせようとした人物。
『実験』の再開を拒む美琴と幾度か対峙しているが、そんな彼女がいなければ今回番外個体は助からなかっただろう。
美琴本人だって絶望に呑まれたままテレスティーナ=木原=ライフラインの手によって死を迎えていたかもしれない。
だから感謝すべきなのだろう、と美琴は思う。

結標淡希にも、一方通行にも。
自分の妹を一万人以上も殺した男に対して。

「でも、それでも」

美琴は一歩を踏み出し、一方通行の隣を通る。
その瞬間、一方通行の真横をよぎるまさにその瞬間に、美琴は一方通行にしっかりとした声で宣告した。

「私はアンタを許さない」

それ以上美琴は何も言わなかった。振り向きもしなかった。
一切後ろを向かず、前だけを見て美琴は歩いていく。
一方通行にはそれはまさに美琴の生き様のようにも思えていた。










「……許されたって俺も困るけどな」

一方通行は美琴の後姿が曲がり角を曲がって消えるまで見送ると、ぼそりと呟いた。
それ以上一方通行はそこに留まることはなく、カツカツと杖を突いて室内へと入った。
当然と言うべきか、その部屋は個室だった。
隅々まで清掃が行き届いているのか、リノリウムの床には目立ったゴミや塵は見当たらない。

窓際には何らかの花が活けてあった。
ゴミ箱を見てみると林檎の皮やその他、色々な物が入っている。
それは明らかに誰かが定期的にここを訪れている証拠だった。

室内の一部を占領しているベッドには男が横たわっている。
意識を失った植物状態でありながら、尚その顔立ちは整っていると言える。
だがその金に近い茶髪は心なしか若干くすんで見えた。
その男は一方通行に何の反応も示さない。ただ静かに眠り続けていた。

「よォ、第二位」

一方通行が適当に声をかけるも、やはりその男は答えなかった。
だが一方通行は無視して言う。

「前からメルヘンな野郎だとは思っていたが……随分と滑稽になっちまったモンだ」

学園都市第二位、『未元物質』の垣根帝督。
その男は七人しかいない超能力者の中で、更に頂点に立つ二枚の双璧の片割れだった。
だが垣根は一方通行の挑発するような言葉にも何ら反応を示さない。
あり得ないことだった。普段の垣根なら、百にして返してくるはずなのに。

「眠り姫ってかァ? どこの童話のヒロインだよオマエは。……今ならオマエを殺すのも容易いが、つまらねェな」

実際のところ、第一位にとっては第二位がどうなろうと興味はなかった。
むしろ永遠に起きないでくれた方が、死んでくれた方が個人的には嬉しくさえあった。
だが。それでも一方通行には見過ごせない理由がある。

「オマエがどォなろォと俺はどォでもいいンだがよ。
……クソ面倒なことに、全員が全員そォ思ってるわけじゃねェらしい。
クソガキはうるせェし、妹達も気にはしてるみてェだし。
何よりあの無能力者とオリジナルは、今でもオマエが目を覚ますと信じてる」

大体、と一方通行は区切って、

「どンだけオマエはオリジナルに手間かけさせりゃ気が済むンだよ。
普通ならとっくに死刑だ。そォしねェのは、他の連中がそれを望まねェからだ。
目が覚めたら真っ先にオマエが世話焼かせた奴らに会いに行くこったな。
っつゥかよォ、オマエ本当に起きるンだろォな。これ以上アイツら悲しませたらマジで殺すぞ二番目」

そンだけだ、と一方通行は言うとさっさと垣根に背を向けて出口へと歩いていく。
お見舞いなどという大層なものではなかった。
だがそもそも、一方通行が垣根帝督の元を訪れるということ事態が異常なのだ。

「あばよ、垣根」

そう言って一方通行は闇に溶けるように姿を消した。
一方通行が姿を現したのはこの一度切きりだった。
その後、二度と彼が垣根の元を訪れることはなかった。










「仕方ないのでまた来てあげましたわよ。いい加減に起きたらどうですの?」




「まあ……この殿方がお二人がお世話になったという……」




「垣根様……なんてことなのでしょう……」




「一日でも早く目を覚まされるよう、お力添えしたいと思いますわ」




「こんちわー。元気してますかー? ……って、そういうのも変か。
私は最近気になる噂がたくさんあって大変ですよー。
『第一九学区で工場が突然崩壊』とか、明らかに人為的なものらしいんですよね。
第七学区の一角が更地みたいになっちゃったのも、高位能力者同士の戦いじゃないかって。
『空を飛ぶ二つの白い影』なんて目撃情報もありますし、まあ一番は例の『世界の終わり』ですよね。オカルトの臭いがぷんぷんしやがるぜ!!」




(あはは……それ全部私が関係してますなんて言えないなぁ……)




「おはようございます、垣根さん。垣根さんのおはようはいつになるんですかね?」




「おっすー。ちょろっとアンタ、一端覧祭終わっちゃったわよ。一緒に回るって“約束”はどうしてくれんのよ、ったく」

「メリークリスマス、垣根。今日はちょっと重大報告があってな。……わたくし上条当麻は、何とか進級できそうです!! うれしー!!」




「今年も今日で最後だねってミサカはミサカは激動の一年を振り返ってみたり。ていとくんはどんな一年だった? ってミサカはミサカは質問してみる」




「あけましておめでと。いや別にそんなめでたくもないんだけどね、誰かさんが起きないせいで」




「おみくじというものを初めてやってみたのですが、凶でした。これもあなたが起きないせいでは? とミサカは前代未聞の責任転換を試みます」




「上条さんはですね、まあ今更語る必要もないというか、例によって大凶でしたよちくしょう!! 美琴は大吉だったのに!! 超能力者は運もレベル5なのか……」




「まあ、今日はバレンタインなわけだけど。アンタにも一応用意したんだけど……義理よ? 全っ然起きないわね。このチョコどうすんのよ?」




「この世界は残酷なんだ……バレンタインなんて駆逐してやる!!
当たり前ですけどチョコを一つももらえなかった世界非モテ連盟会員№1の上条当麻はバレンタインデーの廃止を提唱します!! もう去年やっただろいい加減にしろ!!」




「今日は『ひなまつりー』って日なんだよ!! 『ひなあられー』って食べ物がとっても美味しいからていとくも食べるといいかも!!」




「今日は私の誕生日なのよね。だからアンタもとっとと起きて盛大に私を祝えこの野郎。
黒子とか佐天さん、初春さんはあんなに祝ってくれたのに……あの馬鹿も。う、嬉しくなんてなかったんだからな!! 変な勘違いするんじゃないわよ!?」

「はっはっは、大覇星祭が近づいてきたな!! お前がいないのは何とも残念だ。
スポーツマンシップに則り、堂々とお前と熱い根性をぶつけ合いたかったぞ!!」




「夏休みといえば学生の青春!! 一度しかない中学校生活、楽しまなくっちゃ損!!
ってわけで『二メートルくらいの長刀を持つ露出癖のある性人』っていう噂を調べてたんですけど……。
白井さんたちに『そんな変態が学園都市にいるわけないだろー、変なことに首突っ込むな』って怒られちゃいました。絶対いると思うのになぁ」




「聞いてくださいよ垣根さん。佐天さんったら、何度も何度も変なことに首を突っ込まないでくださいって口を酸っぱくして言ってるのに。
なんと今年もまたおかしな事件に巻き込まれてるんですよ!? 一体どういうことなんですか!!」




「今年の盛夏祭も無事終了。でもちょっと酷いと思わない?
『去年の評判がすこぶる好評だったから』って話し合いも何もなく即決でまた私が代表よ? 流石に胃が痛いっつーの」




「けっけっけ。今年の大覇星祭は見事わたくしたち常盤台が栄光の頂に登りましたわよ!!
まあ、貴方がいたら長点上機はより手強くなっていたでしょうが……なんであれ優勝ですわ!! ざまあみろですの!!」




「ミサカも競技に参加したかったって、ミサカはミサカは不満を漏らしてみたり。
それでね、ていとくんも見た? お姉様の活躍。すっごく格好良かったんだからってミサカはミサカはお姉様を自慢してみる!!」




「今日という日、ついに我々純白の白組は怨敵である赤組を打ち破りましたよ!!
御坂も同じ白組だったんだけど、長点上機は赤組だったな。もしお前が参加してたらお前が敵に回ってたのか……怖っ」

「秋と言えば食欲の秋!! 食欲の秋!! そして食欲の秋!!
だって言うのにとうまと来たら全然ご馳走してくれないんだよ。あんまりかも。
ていとくの『ぶらっくかーど』ってやつでお腹いっぱい食べさせてくれると嬉しいな♪」




「一端覧祭なるものが今年も開かれるようです、とミサカは内心の興奮を隠せません。
そういえばお姉様があなたを引っ張り出すと騒いでいましたが大丈夫なのでしょうか、とミサカは疑問を口にします」




「はあ……一端覧祭終わっちゃったわよ。去年も今年結局約束守らないんだから。いいわよ、来年も再来年も時効はないからね」




「今年は何事もなく一端覧祭を楽しめましたよ。なんだか後で反動が来そうで怖いなぁ。
まあお前がいなかったのは残念だけど、来年こそは御坂と三人で回ろうな」




「さあさあ、今年もクリスマスが近づいてきましたよーっと。
アンタ、そのメルヘンな能力使えばサンタになれるんじゃない?
『どんなものも一つだけプレゼントしてやろう。望みを言え』『容易いことだ』みたいな?」




「クリスマスか…・・・ 今年ももう終わりだな。俺もいよいよ高三だよ。留年しなかったのが奇跡に近いと自分でも思いますよ」

当ててやる。あと二回か四回、または五回以上で最終回だ

過去回想は終了、次からは現在へ戻ります
これにて食蜂さん攻略完了 ミコっちゃんマジレベル5キラー

西東先生vs小萌vsオルソラ、聖人対決 フャイッ!!

    次回予告





「……うん。本当に、色々あったよ」
学園都市・第三位の超能力者(レベル5)『超電磁砲(レールガン)』―――御坂美琴



乙  ここにきて禁書も超電磁砲もアニメもすごい展開をみせてるから、それ反映させるのもひと苦労だよね

約一名、駆逐系男子が紛れ込んで…

ここの美琴ちゃん、人が良すぎて生きるのが辛いです。

番外個体に対する態度が、ぐう聖すぎる。
「[ピーーー]」発言を受けながらもスルーするなんて、煽り耐性ハンパないね。

と思いきや、胸の事をいじれた瞬間にブチ切れwwwwww
流石にそれだけは許せなかったのねwwwwwwww

>>471

木原は妹達なんか使わないで「ドキッ!巨乳だらけのパーティー」に、
一人放り込めばそれはそれは大ダメージだったろうにね

あ、妹達を残らず巨乳にすれば美琴が精神崩壊する可能性が微レ存…?

>>472

もしテレスティーナにとどめを刺さずに生かしておいたら、大変なことになっていたかもしれないってことだね。

美琴への復讐と称して「ドキッ!巨乳だらけのパーティー」が開催されるか、もしくは「妹達を残らず巨乳化計画」が
実行されてしまっていたかもしれない。

でも、それもテレスティーナを葬ったことで未然に防がれた・・・・とりあえず一方通行、色んな意味でグッジョブ!!

>>475

馬鹿だなぁ、俺は両方イケるってだけさ

まずは、そのふざけた投下をぶち殺す!!

進撃の巨人の二期はもうそろそろ始まってもいい頃だと思うんだ
禁書三期もな!!

>>464
いえ、アニメはちょっと敵が……

>>467
美琴が腹筋系女子である可能性が微レ存……?

>>469
相手が妹達だから、ですね

>>472-473
食蜂「」ボイーン
オルソラ「」ボイーン
神裂「」ボイーン
吹寄「」ボイ-ン
オリアナ「」ボイーン
滝壺「」ボイーン
五和「」ボイーン
ビバリー「」ボイーン
風斬「」ボイーン
麦野「」ボイーン

美琴「こんなの……人間のやることじゃないッ!!」ツルーン

>>473
>>476
本当に妹達が好きだったんなら、ミコっぱい以外は邪道だと胸を張って言わなくちゃいけなかったんだ。
……これより貴様を四〇年ほど空転させる。ユダの陥った『己自身に対する失望』を長く味わい、その未熟な精神を今一度研磨し直すが良い

この空の下に、彼を祝福する場所は―――










「……うん。本当に、色々あったよ」

美琴は儚い笑みを浮かべると、そっと垣根の手に自身の手を重ねる。
結局、垣根は一年以上経った今でも目を覚ましていない。
けれど、誰も諦めていなかった。一人だって投げ出していなかった。
美琴や上条は毎日のようにこうして垣根の元を訪れるし、白井や佐天、初春も定期的に姿を見せる。
妹達も、冥土帰しも。多くの人間が今も彼の回復を待っていた。

勿論、美琴もそれを誰より強く願う一人。
美琴は立ち上がり、窓から学園都市の夜景を覗き込む。
ネオンでライトアップされた街並みが闇を照らし、そこに舞い散る羽のような雪が相まって幻想的な美しい光景を作り出していた。
光を受けて雪が煌き、それはさながらダイヤモンドダストのようにさえ見える。

「綺麗ね……」

美琴は素直にそう思う。
ホワイトクリスマスなど、滅多に見られるものではない。
是非この機会に存分に堪能しておきたかった。
そして、垣根にもこの美しい光景を見せてあげたい。

「ねえ、垣根。ちょっと屋上行かない?」










御坂美琴と垣根帝督は、病院の屋上にいた。
本来なら意識のない患者を無闇に動かすなど論外なのだが、そこは冥土帰し。
特製の車椅子に乗せ、そしていくつかの条件をクリアすることで短時間ではあるが許可を貰えたのだ。
入念に調整が行われ、安全面は何ら問題ないようだった。

どうもあの医者はこうした交流に関しては非常に寛容に見える。
垣根が目覚める可能性に賭けて、なのだろうか。
実際そうなのだろう、と美琴は思う。
垣根の意識を戻せないことに、あの医者は口や表情にはあまり出さないものの相当の悔しさを感じているはずだ。
もっとも、一年前のあの日にここに運び込まれた垣根はどんな医者でも匙を投げるような状態だった。
その命を繋いでみせたのは冥土帰しなのだから、彼に対して不満などあろうはずもないのだが。

美琴は片手で車椅子を押し、片手で大きめのビニール傘を差していた。
一年前は肩にかかるかどうか、といった長さだった髪は今ではすっかり肩下まで伸びている。
そのシャンパンゴールドの髪が凍えるように冷たい風に靡かれ、鼻先をくすぐる。
突き刺すような寒さに美琴は身をぶるっと震わせ、マフラーをしっかりと巻き直す。

「大丈夫? 寒くない?」

車椅子に乗せられている垣根の防寒対策は当然しっかりと為されていた。
だがそれでもこの寒さだ。あまり長居するべきではないだろう。
風に乗って傘を掻い潜り、垣根の髪に小さく溜まった雪を美琴は手で払ってやる。
まるで幼子の世話をしているようで、美琴は小さく笑った。

もし垣根に意識があったならぶっきらぼうに「殺すぞ」とでも言うのだろうな、と思う。
しかし現実には今の垣根は美琴にどれだけ子供のような扱いを受けても抵抗することができない。
少しばかりの悪戯心が湧いてくるが、それをぐっと堪えて美琴は垣根が濡れないように気を付けながら傘を差し、車椅子を押していく。
当然と言うべきか、小さなビオトープのようになっている屋上には誰もいなかった。
いるのは美琴と垣根の二人だけ。この幻想的な光景を独占しているようで、ちっぽけな満足感を感じる。
足元にだいぶ雪が積もっており、美琴の足跡と垣根の車椅子の車輪の跡だけがまだ誰も踏み込んでいない新雪に残る。

まっさらな雪に最初に踏み入ったことに、子供のような喜びにも似た何かを僅かに覚える。
それを確かに感じながらも、自分はここまで子供っぽい感覚の持ち主だっただろうかと考える。

屋上の淵には落下防止用の鉄柵が敷設されており、美琴はそこで歩みを止めた。
眼下に広がるは広大な学園都市。眼前にあるは光を受けて輝く舞い散る純白の羽。
日々の悩みとか、疲れとか、不満とか、そういったものが問答無用で全部吹っ飛んでしまいそうな景色だった。
自然と科学のコラボレーションは見る者の意識を丸ごと攫ってしまう不思議な力があった。

「――――――……」

言葉では形容できない、荒々しい、暴力的とさえ比喩できるような衝撃が襲ってきた。
それは真の意味で『良い』絵画を見た時にも似ている衝撃。
どんな高名な画家が描いたとか、それを描くに至るまでにどれだけの積み重ね、ストーリーがあるとか、どんな素晴らしい技術が使われているとか。
おそらく本当に『良い』絵とはそういうことではない。むしろそれらの知識などない方が良いのだ。
そういったものを知ってしまうと、その背後にある重みを感じて嫌でも感動しなければいけない気になってしまう。
それに感動できない自分の感性が鈍いのではと、作られた虚構の感動を演出してしまう。

それを見た時に、一切の予備知識などなくとも心に強く響く何か。
その人間の感性にダイレクトに叩きつけられる、どうしようもない衝撃。
それこそが本当の『感動』だ。

美琴は今、まさにそれを味わっていた。現象としてはただの雪に光が照り返っただけのもの。ダイヤモンドダストの紛い物。
だがその程度の現象が、美琴の感性をどうしようもなく刺激していた。

それを表現する言葉など存在しない。表す必要さえない。
それは美琴の中だけで生まれ、そして完結する感動。
すぐ隣にいる人間、全く同じ光景を見ている人間とすらそれを共有できるとは限らない。
御坂美琴の持つ感性だけが感じ取ることの出来る、美琴だけの衝撃。

舞い散る穢れのない純白の輝きに包まれながら、極限まで美琴の内で膨れ上がったもの。
美琴は溜まりきったそれを解放するための手段を『歌』に求めた。
何故かは分からない。ただ、気が付いた時には自然とそうしていた。
一度目を閉じて、そしてゆっくりと薄く目を開ける。




「―――ve、 Ma――a」




美琴の唇から声が漏れる。それは明確なる歌だった。
体内が震え、腹の底から出てくる歌声。けれどそれはただ大声を張り上げるものではない。
明らかに普段の美琴の声色とは違っていた。
ほんの些細な衝撃で失われてしまいそうな、酷く繊細で祈るような声。
儚く、それでいて力強い。そんな矛盾した表現が的確だろう。

美琴はただ静かに、そして荘厳に歌う。
旋律に乗った言霊は風に高く運ばれ、白い空の果てまで祝福を届かせる



 ungfrau mild,


 Erhöre einer Jungfrau Flehen,


 Aus diesem Felsen starr und wild


 Soll mein Gebet zu dir hinwehen


 Jungfrau mild, Erhöre einer Jungfrau Flehen,


 Aus diesem Felsen starr und wild


 Soll mein Gebet zu dir hinwehen.


 Wir schlafen sicher bis zum Morgen,


 Ob Menschen noch so grausam sind.


 O Jungfrau, sieh der Jungfrau Sorgen,


 O Mutter, hör ein bittend Kind! Ave Maria!


学園都市を聖歌が包み込む。
それは絶望の底からも救う乙女の祈り。
奇蹟を起こすような歌とはまた違った。
どこまでも純粋な『歌』そのもの。

雪に覆われて、美しく輝く学園都市。
まるで街ごと抱擁するような祝福の歌。
穏やかで、優しい歌声は生の質感を持って静かに科学の街を満たしていく。

御坂美琴は聖歌を歌い終え、しかし再び口を開く。
まるでこの程度では到底収まらない、とでも言うように。
この時御坂美琴が何を思い、何をその歌に込めていたのか。それは彼女にしか分からないことだった。
けれど、確実に『何か』は込められている。理屈ではない。聞けば誰でも感じることだった。

祈りの時は終わらない。再び美琴の唇が動く。
腹の底からこみ上げるそれに逆らわず、美琴は厳かに、しかし静謐さを持ってただ詩(ことば)をメロディに乗せる。




「Ama――ng、Gra―――e」





美しい次なる響きが、少女の口から漏れ出した。



 how sweet the sound


 That saved a wretch like me.


 I once was lost but now am found,


 Was blind but now I see.


 'Twas grace that taught my heart to fear,


 And grace my fears relieved,


 How precious did that grace appear,


 The hour I first believed.


 Through many dangers, toils and snares


 I have already come.


 'Tis grace hath brought me safe thus far,


 And grace will lead me home.



 The Lord has promised good to me,


 His Word my hope secures;


 He will my shield and portion be


 As long as life endures.


 Yes,when this heart and flesh shall fail,


 And mortal life shall cease,


 I shall possess within the vail,


 A life of joy and peace.


 The earth shall soon dissolve like snow,


 The sun forbear to shine;


 But God, Who called me here below,


 Will be forever mine.


 When we've been there ten thousand years,


 Bright shining as the sun,


 We've no less days to sing God's praise


 Than when we'd first begun.

今度は許しの歌が学園都市を包み込む。
その歌声と詩に込められた力は聴く者を魅了する。
道行く子供が、学生が、主婦が、サラリーマンが、老人が、ふと足を止めてつい聴き込んでしまう。
剣を持って戦っている兵士が思わず剣を取り落としてしまう。
そして気が付いた時には何分もの時間が経過している。これはそんな祈りだった。

神秘的で、どこか神々しいとさえ言える旋律が白く染まる。
全てを覆い隠そうとするほどの雪。如何なる闇であろうと切り裂いて晴らしそうな歌。
どんな罪人だろうとすぐに涙を流しそうな、不思議な力があった。
もともと歌にはそういう力がある。一時間の説教に動じない人間でも、一分の歌に涙を流すこともある。

白く輝くこの景色の、なんと綺麗なことだろう。
それはまるで神の恵みのようでさえあった。
聴く者全て、等しく純白のベールに包まれて喜びと安らぎを得る。

旋律は止まって尚残滓として残り、それは余すところなく学園都市を飛び回る。
どこまでも純粋な神への捧げ物はこの科学の街にあって、しかし確かな力を持っていた。

「―――やっぱ、良い歌だな」

「……似合わないわね、メルヘン野郎」

「心配するな。自覚はある」

冷たい風に髪が流され、僅かに雪のかかった髪が鼻先や目元、口元をくすぐる。
美琴はそれをゆったりとした動作で耳にかけ、どこか意地の悪い笑みを浮かべた。


「でも、もう閉幕。カーテン・フォール。……アンコールはないわよ?」

現実離れした煌きを見せるビル群から目を離さずに、美琴はそう言った。
ダイヤモンドダストのように輝く学園都市。これほどまでに美しい風景を美琴は見たことがない。

「チッ、ケチな奴」

「どうしてもって言うなら考えてあげないこともないけど」

美琴は決して目を離さない。まるでこの景色を、この時を、この日を、脳に強烈に焼き付けようとしているかのように。

「……じゃあどうしても、だ」

「はいはい。お客さん、リクエストはどちらで?」

「どっちも。そうだな。―――じゃあ、祝福の歌から」

美琴は微笑んで、再びその旋律を街に放つ。
それはもしかしたら、少女からの聴く者全てへのクリスマスプレゼントだったのかもしれない。





 Ave Maria,ungfrau mild,


 Erhöre einer Jungfrau Flehen,


 Aus diesem Felsen starr und wild


 Soll mein Gebet zu dir hinwehen


 Jungfrau mild, Erhöre einer Jungfrau Flehen,


 Aus diesem Felsen starr und wild


 Soll mein Gebet zu dir hinwehen――――――




御坂美琴の祝福が学園都市を再度包み込む。
ありとあらゆる不幸を払い、約束された祝いを届ける聖歌。
続けて許しの歌が、もう一度。
その旋律と想いは天の彼方まで昇って行く。










この日。少女は人生最高のクリスマスプレゼントを得た。










投下終了って知ってるか?

植物状態に関しては現実でも明確な治療法はないようで
回復したケースも十年以上昏睡してた人でも家族の献身によってとか、ふとしたきっかけでとかが多いようです
なのでいわゆるご都合主義がかえって一番現実的かな、と
脳マジ人体の神秘

いよいよ完結です……って、だいぶ前からずっと言ってる気がする。終わる終わる詐欺

あ、ちなみにAve Mariaは
ttp://www.youtube.com/watch?v=2bosouX_d8Y

Amazing Graceは
ttp://www.nicovideo.jp/watch/nm6051094?ref=search_key_video

です。一番好きなAmazing Graceはここしか見つからなかった……
是非聞いてみてください、心が洗われるようですよ

歌はいらないんだよなぁ・・・

引っ張った割には冴えた演出って程でも・・・
まあこのSSは虐待描写が悪趣味すぎて、感動・仲良し系の展開が相対的に寒いんだけど

ちょっと無理やり感はあったけどメルヘンな演出は垣根らしさが出てると思う

寒いのは季節の描写のせいだと納得しとくw

高二病のすくつかここは!?俺も昔はね、なんでも寒いって言いまくってたよ

垣根きゅんペロペロが起きるのめでてえなあ
でも昏睡中の垣根きゅんをペロペロしたいです
昏睡レ○プ!野獣と化した俺

つべのURLがいきなり貼り付けられてるってシュールすぎんだろ……
あたはなんばいいよっとね
俺だったらキスで目覚めさせるというギップルが臭死くらいの
恥ずかしい展開しか思いつかないかったなー
誰にキスさせるかで3秒くらい悩んでやっぱ一方通行かな……とケツ断

次回予告を忘れたことに今更気付いた俺参上
完結まで後二回です(ようやく確定)
次とその次で本筋完結、そして全く読む必要のない番外編というか後日談的なものを一つで全部終了です
長かった……

次はラッキースケベ回
何気にこのSSでは一度もラッキースケベ起きてないことに初めて気付きました
一年ぶりに目覚めて早々ラッキースケベ回とか……

>>497-498
まあそういう意見の人もいるとは思いますが、>>1はそうは思いません
メルヘンなていとくんにはメルヘンな演出を、ということでやりたかったものですし
今でもこれで良かったと思ってます、やっぱ書きたいものを書きたいですね

>>502
原作でも妹達編の美琴、ロシアでの一方通行と相当エグイ描写はありますし
まあ、相手が木原でしたから……
むしろ悪趣味の頂点って感じじゃないと木原らしくないと思います
そういや円周って結局死んじゃったんだろうか……唯一さんが木原を四人失ったとか言ってたけど……

>>503
やっぱメルヘン野郎のていとくんですからね、メルヘンじゃないと駄目なんですよ

>>504
後ウホッのアッークアとウホッのフィアンマが探してましたよ

>>511
???「やっぱ垣一ですよね垣一!!」

    次回予告




「ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!!!?
いやあああああああ!! 来るなああああああああああ!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「そもそも、何で俺とお前が第二位と第三位に分けられてるか知ってるか。
―――その間に、絶対的な壁があるからだ。……この俺に常識は通用しねえ。……俺は悪くねえ」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督




「その壁を超えて禁断のエリアに入ったんですね分かります。
……今のは『かみなり』じゃねぇ……『でんきショック』だ……」
学園都市の無能力者(レベル0)の学生―――上条当麻




「いやほンと俺は関係ないンすよ。マジそこのクソメルヘンが調子乗っただけで、……いやマジで!!
マジでそォなンだよ!! 別に俺は一切関係……ちょ、やめ、話し合おうじゃねェか!!
軽率な判断は悲劇しか招かねェぞ!! 待っ……よせェェええええええ!!」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市最強の超能力者(レベル5)――― 一方通行(アクセラレータ)

垣根のケツでも掘りながら待つのだ

俺様はこのスレを(html化から)救う。そのためには、最早保守は不要なんだよ。
本来俺様の右腕にはスレを丸ごと救う力があるのだからな

もしもの……話をしようか。
残り僅かなこのSSを置いて……次のSSを構想し書き溜める……。
それが>>1の流行りだとしたら……どうする

というわけで生存報告を
いや気付いたらこんなに時間が経って……本当にすまないと思っている(キリッ
リアルが忙しかったりベスネル鍾乳洞をマラソンしたりメテオのために竜の卵を殲滅しようとして瞬殺されたりEDで泣いたり……
一週間以内には何とか来れると思います
とりあえず自重しない羽目を外しまくった回になってしまったので注意

別に今までの中身に文句をつけるつもりはないけど、
ここにきて急に日常とか無理にやる必要あるのか?
それに御坂、垣根、上条はともかく一方通行まで巻き込んでとなると
気持ち悪い慣れ合いにしか思えないわ
ずっとシリアスが続いての脈絡のないラッキースケベとか薄ら寒いし

投下する気があるなら拳を握れ!! 投下する気がないなら立ち塞がるな!!

>>524
垣根ェ……

>>546
仕方ないんや、ずっとシリアスで来て次のSSもクソ重いからたまには下らない寒いやり取りも書きたくなるんや
正直今回の話は全く読む必要はないので飛ばしてもらっても一向に問題はないです
やりすぎた感が否めないが反省も後悔もしていない

ヒーローたちの下らないやり取り。

「はっ、はっ、はっ……!!」

息が上がる。ペース配分など考えずに無闇に走ってきたせいか、横腹が痛い。
スタミナには相当の自信があるのだが、朝食もろくに摂っていないのが効いているのだろうか。
ともあれ、御坂美琴は走っていた。道行く人たちに度々不審そうな目で見られるも、それを気にする余裕はない。
以前と比べれば長くなった髪が乱れ、美琴は鬱陶しそうに髪を後ろへ流す。
そして逆にずれ落ちそうになるマフラーはしっかりと固定。
これだけ走っていてもやはりこの時期の寒さは並大抵のものではない。

数分後、美琴がやって来たのは第七学区の総合病院だった。
もはや完全に見慣れてしまったその病院には美琴の大切な友達がいるのだ。
バクバクと上がっている心拍数を落ち着け、深呼吸して呼吸の乱れを整える。
二〇秒もしただろうか、ある程度落ち着きを取り戻した美琴は病院の中へと歩みを進める。

この病院には冥土帰しという反則的存在がいるために、基本いつでも問答無用で混雑している。
だが流石にこの時期になると人はかなり減るようで、普段と比べれば遥かに人数が少なかった。
一年以上毎日のようにここに通っていた美琴が言うのだから、それは間違いない。
いつもなら満席近くにはなっているはずの待機用の椅子も、ぽつぽつと人が見られる程度でしかなかった。

もっともそんなことは美琴には関係ない。混雑していようと閑古鳥が鳴いていようと関係はないのだ。
完全に顔見知りになってしまっている受付の人に一声かけると、それだけで何も用件など口にしていないのに意思が伝わった。
先ほども述べたように、美琴は一年以上ほぼ毎日通っているのだ。
しかもずっと全く同じ目的で、である。嫌でも覚えられるというものだ。
もはや料理店の「おっちゃん、いつものお願い」「はいよ!!」みたいな会話のようなものなのだ。

目当ての部屋は三階。そこに垣根帝督がいる。
ようやく目を覚ましてからというもの、当たり前だが垣根の体は以前のように自由には動かなかった。
いくら看護師による運動があったとはいえ、一年以上も寝ていれば間接が固まったりなど色々あるものだ。
本人は乗り気ではなかったものの、そうして垣根のリハビリ生活がスタートしたのである。
とはいえ、もうリハビリも終局を迎えていていよいよ今日で退院なのだが。

(にしても、いよいよ日常って感じだわ。やっとすぎる……)

友人たちの、一人でも欠けることがあればそれだけで日常は色褪せる。
垣根がいないこの一年はやはり何か歯車が欠けている感じが拭えなかった。
たとえるなら一ピースだけ足りないジグソーパズルを目の当たりにしているような。

その、欠けていた最後の一ピース。
それがこのドアの向こうにはある。

「入るわよー」

美琴はそう言うとガラッとドアを開ける。
そして一歩足を室内に踏み込んで、ピタリと動きを止めた。
いや、その表現は正しくない。美琴が自身の体の動きを止めたのではなかった。
当然、美琴の身体は美琴だけのもので、他からの制御など出来はしない。
けれど今、大いなる別の何かが美琴の体の制御権を奪っていた。

(―――嘘、でしょ)

人は圧倒的な恐怖や信じられないものに直面した時、体が硬直して動けなくなることがある。
美琴の顔は完全に青ざめ、冷や汗すら流しているようにも見える。

何故だ、と美琴は思う。
それは垣根に対してだけではない。自らに対しても、だ。
甘かった。もはや認めざるを得なかった。完全に、考えが甘かった。
第三位を誇る美琴の頭脳がようやく回転を始める。
その圧倒的な演算能力によって高速で駆け巡る思考は後悔ばかりだった。

それほどに目の前の光景は凄惨だった。
垣根帝督はこの時間は間違いなくこの病室にいるはずなのだ。
受付にも確認はしたのでそれに関しては間違いない。
そして、事実垣根はちゃんとその部屋にいた。

ただし。それは、決していつもと同じ光景ではない。
決定的な違いがあった。致命的な違いがあった。
―――そう。そこに広がっていたのは美琴を安心させる光景ではなく。見る者の精神を汚染し破壊する、『原典』だった。

もし。美琴に耐性があったなら、話は別だっただろう。
魔術師が聖書を読み込み、数多の魔術知識に触れ、築き上げた宗教防壁で『毒』を阻むように。
そういったものに対しての免疫さえあれば。
だが、美琴はそれを有していなかった。むしろそんなものとは正反対の立ち居地にいる人間だったのだ。
もっとも美琴の年齢を考えれば、それも至極当然のことではあるのだが。

「……あ? 御坂、か?」

話を戻そう。その『原典』について。
部屋の中にある物は何も変わったところはない。
そこにいる人間も、垣根帝督ただ一人。




ただし。―――有り体に言って、垣根帝督は全裸だった。





丁度着替えようとでもしていたところだったのだろうか。
理由は分からないし、そして今はどうでもいい。
問題なのは。垣根が一糸纏わぬ生まれたままの姿を晒していることだ。

普通着替えるにしろ、鍵もかけずに全裸になることなどそうないだろう。
しかし悲しいかな、常識の通用しない男垣根は正真正銘、完膚なきまでに全裸だったのだ。
だが不幸中の幸いと呼ぶべきか、垣根は美琴に対して背中を向けている。
つまり美琴はまだ垣根の尻しか見ていない。いや、それだけで謝罪と賠償を要求したいレベルではあるのだが。

しかし、悲劇は更に加速する。
第二位に君臨する垣根帝督にはやはり常識は通用しないのだ。
あろうことか、垣根は―――咄嗟に、ではあろうが―――美琴の方へと声に反応して振り返ってしまったのだ。

だが、よく考えてみてほしい。
今、垣根はあられもない卑猥な姿を晒している。
当然の如く下半身に関しても何も纏ってはいない。
その結果。

垣根の『コア』が、美琴の視界を掠め――――――。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」

美琴は則巻アラレを超えるかのような速度でその場から全速力で逃げ出した。ついには光速で逃げ出した。
直視などしていない。ほんの一瞬、ちらりと、おぼろげに視界を掠めただけだ。
だが『原典』というものは非常に強烈で、その程度であっても激しい精神汚染を引き起こす。

「いやあああああああ!! 来るなああああああああああ!!」

もはや美琴は涙すらその瞳に浮かべていた。
速攻で記憶から消去を試みるが、あまりに強く脳裏に焼きついてしまっていて簡単には行かない。
繰り返すが、美琴は『コア』をはっきりとは見ていない。おぼろげに輪郭が視界の端に、一瞬映りこんだだけだ。
しかしそれでも、それは美琴にとっては十分すぎる衝撃であった。

そして一人病室に残された垣根はというと、とりあえず戦闘民族ではない方のトランクスを着用してじっと立ちつくしていた。
今、一体何が起きたのか。第二位の演算能力は現実を正しく認識できていなかった。
ゆっくりと、時間をかけて一つ一つ噛み砕いて咀嚼していく。
やがてようやくこの状況を飲み込んだ垣根は、猛烈な後悔に苛まれていた。

何故、ここで鍵もかけずに着替えてしまったのか。
何故、美琴の声に反射的に反応してしまったのか。
何故、全裸になってしまったのか。
何故、何故、何故……。

「俺が悪いってのか……?」

これは事故だ。最悪のタイミング、悪夢のような偶然。
神の気まぐれのような引き合わせがこの状況を作り上げてしまった。
これでもう垣根は変態の烙印を欲しいままにしてしまうだろう。
美琴からはゴミを見るような目で見られ、上条からは失望にも似た視線を向けられる。
そして垣根の高価な陶磁器より繊細(笑)な心はそんな想像に耐え切れない。

「俺は……俺は悪くねえぞ。こんなことになるなんて知らなかった。誰も教えてくれなかっただろ。
俺はただ着替えようとしただけだ。ちょっと振り返っちゃっただけだ!!
俺は悪くねえっ!! 俺は悪くねえっ!! 悪いのは一方通行だ!! そうだ、一方通行が全部悪いんだ!!」

一方通行が一体何をした。

だが、ここにいると馬鹿な発言に苛々させられるとばかりに美琴は去ってしまった。
「あまり、幻滅させないでほしいわね……」という美琴の声が、そして上条の声が脳内で勝手に再生される。
待ってくれ貧乳、違う。俺は変態じゃない。見られて悦ぶ趣味はない。
あるのかないのか分からないような断崖絶壁に興味はないんだ。
そんな垣根の嘆きは、しかし誰にも届かなかった。

美琴ではなく、垣根の全裸。
そして美琴には一切それを喜ぶ理由がなく、また垣根にもそのような性癖はない。
結局、誰も幸せにならない嫌な事件になってしまったのだった。










病院の中庭に上条当麻と御坂美琴はいた。
美琴はぶつぶつと見ただの見せられただの見られただの、そんなことを呟いていた。
一体何があったのか。上条は適当に美琴を慰めながら、垣根が美琴の着替えシーンでも“覗いた”のだろうと当たりをつける。
“見た”ではなく“覗いた”である。垣根が故意にやったと上条は根拠もなく思っているのだ。
流石に酷い。自分も何度もそういうイベントを起こしているくせに、垣根には容赦のない男である。

そんな時に、垣根が姿を表した。
当然ではあるが全裸ではない。しっかり衣服を着用している。
先ほどまで絶望したような表情だったにも関わらず、開き直ったのか悟りを開いたのか何なのかは知らないが、いつもと同じ顔つきに戻っていた。
しかし一安心である。もしここでもう一つの『未元物質』を晒していたら上条によるゲンコロが発動していたかもしれない。危ないところであった。

「垣根ぇ……。お前、一体何したんだよ?」

上条が半ば呆れ顔で問うと、垣根はフッ、と不敵に笑った。
ファサッ、と前髪をかきあげて、

「―――この俺に常識は通用しねえ」

そう言うのだった。殴りたい、この笑顔。

「…………」

垣根と美琴の目がばっちり合った。
その美琴の視線、目からは何も感情を読み取ることができない。

「そもそも、何で俺とお前が第二位と第三位に分けられてるか知ってるか。
―――その間に、絶対的な壁があるからだ」

「その壁を超えて禁断のエリアに入ったんですね分かります」

「あ? 入ったって何がだ。別に俺は覗いたりとかしたわけじゃ、っつかむしろ覗かれて―――」

垣根の言葉は最後まで紡がれなかった。
美琴がすたすたと垣根に近寄って、

「疾ッ!!」

鋭い掛け声と共に、華麗なる美琴の回し蹴りが超音速で垣根の『未元物質』に叩き込まれたのだ。
ぐちゃ、という世にもおぞましい音が響く。
『コア』に深刻なダメージを負った垣根の目玉が飛び出して、もう何と言うかとにかくヤバい顔になっていた。
それを見ていた上条も思わず下条さんを手で押さえてしまう。
あれはまずい。二度と『竜王の顎(ドラゴンストライク)』できなくなってしまう。

「oh……this way……」

思わずそんなことを呟く上条。
しかし『原典』を見せられた美琴はそこで止まらなかった。
垣根の肩にぽん、と手を置くと容赦なく電撃を流し込む。
痛みに意識が飛びそうになりながら垣根は咄嗟に『未元物質(ちゃんと能力)』で防壁を張るも、あっさりと貫かれてしまった。
序列の壁をトラウマを負わされかけた怒りが上回った瞬間である。

「がああァァァァあああああああああああああああ!?」

こんがりと良い塩梅に焼けた垣根はぷすぷすと黒煙を上げて倒れそうになる。
だが、美琴がそれを許さない。
垣根が倒れるよりも早くその両手首を手錠を繋がれたように合わせる。
そしてそのまま美琴は縦にしたその双掌を垣根の胸に思い切り叩き込んだ。

エルステッド流の奥義を食らった垣根は無様に吹き飛んでいく。
ふう、と息を吐きパンパン、と手を叩く美琴。

「今のは『かみなり』じゃねぇ……『でんきショック』だ……」

残された上条はブルブルと子犬のように震えるのだった。










吹き飛ばされた垣根のダメージは甚大だった。
そりゃあんな風に電撃を食らえばそれも当然であろう、と思われたが……。

「こんなもの……ッ、こんな、もの……!! こんなっ……!!」

股間を両手で押さえ、ピョンピョンしながら叫ぶ垣根。
電撃などより美琴の回し蹴りの方が遥かに第二位を追い詰めていた。
自己暗示のようにぶつぶつと呟くが、一向に効果は見られない。
今、垣根帝督は生まれて初めて本気でピョンピョンしていた。

「さ、流石の俺も今のは死ぬかと思った……。この俺が死にかけたんだぞ!!」

しばらくの後、ようやくある程度回復させることに成功した垣根。
一先ず『竜王の顎』出来なくなったり『超電磁砲』が撃てなくなるという事態は避けられたようだ。
とはいえ、当分は戦線復帰できないかもしれない。
股間を押さえたまま叫ぶと、

「……何やってンだオマエ……」

すぐ近くにゴミを見るような目をした一方通行がいた。
本当に、心の底から見下げ果てたといった風な目。
だが今の垣根にそんなことを気にしている余裕はない。

「ア、一方、通行……」

「え、オマエなンで股間押さえてンの? ちょっとマジで気持ち悪いンで死ンでもらえませンかねェ?」

「う、るせえよキョンシー野郎が……。股間の一方通行をベクトル操作出来るお前にゃ分かんねえだろうよ……」

「……不能?」

「誰がだコラァッ!!」

垣根がムキになって叫ぶと、その声を聞きつけたのか上条と美琴が歩いてきた。
上条は蹲る垣根を見て同情したように小さく何度も頷いていた。
同じ男同士、悲惨さが理解できるのかもしれない。
対して美琴は一方通行を見て「え、なんでこいつここにいんの?」みたいな目を向けていた。

「……つーか垣根、よく生きてられたな。あんなえらいのもらったらグッバイしちまいそうだ」

「ちょっと加減しすぎたかしら……?」

美琴が自分の手を見ながら恐ろしいことを言い始めた。
もう一発あれを食らったら本当に垣根帝子が爆誕しかねない。
そんな世界の歪みを生むわけにはいかない。垣根は咄嗟に叫んだ。

「待て御坂!! いや美琴さん!! 全部一方通行の指示だったんだ!!」

「アァッ!?」

「一方通行にやらされたんだ!! セクハラしないと殺すって脅されたんだよ!!」

「何やってンだオマエェッ!? つゥか、はァ!? 意味分かンねェこと言ってンじゃねェぶっ殺すぞ第二位ィ!!」

いきなりわけの分からない汚名を着せられた一方通行は必死になって反論する。
当たり前である。完全な変態の烙印を今まさに押されようとしているのだ。
しかも全く身に覚えのないことで。が、

「……そう、やっぱりアンタだったのね、一方通行」

「やっぱりって何!? え、なンなの!? 本当なンなの!?
何であっさり信じてンだよォオリジナル!! おかしいだろォが!!」

「アンタより垣根の方が何倍も信用度高いし」

「クッソ、オリジナルからすれば正論すぎて何も返す言葉がねェだと……ッ!!」

歯噛みする一方通行に美琴はさらりと告げる。

「それにアンタだったら別にいいやと思ってるし。実際そうでしょ?」

激しく取り乱す一方通行を、上条は微笑ましげに見つめていた。
過去同じような不幸を何度も味わっているが故かもしれない。
一方、一方通行に全てを押し付けた垣根はそんなことは気にもせず、ただ冷や汗を流してごくりと唾を飲み込んでいた。
垣根は静かに美琴の将来が半ば本気で不安になっていた。

(恐ろしいぜ第三位……。御坂の奴、スゲェドSになってやがるだと……。
一体俺が寝ていた一年の間に何があったって言うんだ……!?)

「いやほンと俺は関係ないンすよ。マジそこのクソメルヘンが調子乗っただけで、……いやマジで!!
マジでそォなンだよ!! 別に俺は一切関係……ちょ、やめ、話し合おうじゃねェか!!」

スッ、と身構えた美琴に一方通行は慌てふためく。
明らかにその美琴の構えは洗練されており、鋭く狙いを定めていた。
勿論その矛先は一方通行の一方通行である。
名刀なのかなまくらなのかはこの世の誰も知るところではないが、九九,九パーセント後者であろう。

「語る言の葉はないわ」

「軽率な判断は悲劇しか招かねェぞ!! 待っ……よせェェええええええ!!」

全力で叫ぶ一方通行。悲しいくらいに残念な第一位がそこにいた。
が、現実は非情である。情け容赦なく刑は執行された。

「破ッ!!」









……グチャッ









「おーい、ってミサカはミサカは勝手にはぐれたあなたをようやく見つけて駆け寄ってみた、り……?」

「あくせられーたー、お腹減ったんだよーってインデックスはインデックスは食事を要求してみるん、だよ……」






「ミンチより酷いんだよ」







第一位だったものを放置、いや垣根が一度蹴りを入れて美琴と垣根は病室へ戻っていた。
上条はと言えばインデックスに捕まってしまったので、今ごろは滝のような勢いで財布が軽くなっていることだろう。
ちなみにこの二人は上条を置いてさっさと逃げていた。
あのシスターに捕まるとろくなことにならないことを知っているのだ。
見捨てられた上条の潤んだ瞳を見て、垣根は内心涙を禁じえなかったという。見捨てたけど。

「アンタ、退院の準備は出来てんの?」

「とっくにな。まあ最後の仕上げだけ残ってるか」

それにしても、と垣根は美琴にちらりと目をやる。
以前肩にかかる程度だった髪は完全に肩下まで伸び、その長い髪も手伝ってか幾分大人びて見える。
美琴は一年前より綺麗になっていた。いたのだが、

(胸が……な。いや、垣根スカウターによると多少大きくなってはいるんだが。
何と言ってもなぁ。如何せん元が、)

「まだ生きてたいでしょ?」

「はい」

女神のような温かな微笑をたたえて問うてくる美琴に、垣根は本能的に生命の危機を感じていた。
ちなみに垣根スカウターとは選ばれしジャパニーズ紳士のみが使用可能なE難度の技であり、それを使えるのは垣根の他には二〇〇〇万人ほどいるという。

「そういやアンタ、能力はどうなったの?」

「問題ねえ。ほぼ全快だ」

垣根帝督は一年前の『木原』との戦いで昏睡状態に陥った。
その期間は一年にも及び、周囲の人間を大いに心配させた。
そしてある時ようやく目が覚めたのだが、後遺症とでも言うべきものが残っていたのだ。
一つは体の不自由。一年も寝たきりだったのだから当然だ。
そして一つが能力についてである。

目覚めてすぐに垣根は自身の能力『未元物質』が行使できないことに気付いていた。
よって通常のリハビリと平行して(むしろ優先して)『未元物質』を取り戻すリハビリに取り組んでいたのだ。
流石第二位というべきか、独自に組んだ取り戻すための演算式やリハビリ法は効果覿面で、みるみると垣根は元の力を取り戻していた。
そして今では完全ではないものの、ほとんど以前と変わらぬところまで回復していたのだ。

「アンタがこのまま能力使えなかったら私が第二位になってたのに」

「そんな繰り上がりで嬉しいんかよ、お前」

「凄く不本意だわ」

「だろうな」

そんな話をしていると、いきなり現れた長い金髪に常盤台の制服、鞄を肩から提げた少女が、

「トゥットゥルー。みさきちでぇす☆」

とか言っていた気がしたが、多分気のせいなので二人は普通にスルーした。










一人ぽつんと残された少女(匿名希望)は俯いたまま顔を赤くして、ぷるぷる震えていた。

「無視したわねぇ……。この私がここにいるのよぉ?
無視したわぁ……!! 目に入らなかったとでも言うのぉ!?
恥ずかしかった、私だって恥ずかしかったのよぉ!!
でも初対面のインパクトは大事でしょぉ!? なのに何よぉ第二位さんだけならともかく御坂さんまでぇ!!」

「あ、あの、どうされました? 大丈夫ですか?」

「アナタ……私のこのやるせない気持ちを分かってくれる?」

「は、はぁ……。事情を話していただければ……」

「アナタなんかに私の何が分かるって言うのよぉばーか!!」

少女は涙目でどこかへと走り去っていった。

投下終了だから。投下は、終了だから。ただそれだけよ

もう一度言うが反省も後悔もしていない(キリッ
でも本当はトゥットゥルーって言われた直後に

美琴「トゥットゥルーッ!!」バチィッ!!

垣根「(物理)キタコレ」

みたいな展開だったんですが、流石に酷でぇと没に

んで、美琴と一方通行ですがここはギャグシーンなんであれですが基本的には一年前と距離感は変わってません
街中で会うと無言で無視し合ってたのが「何してんの?」「別に」「あっそ」で別れるくらいにはマシになってるかもしれませんが
たまにはこんなカオスも書きたくなるのよ

次回、最終回
最終回なのに予告が重いのはきっと気のせい
でも最終回の後に番外編を一つ書くよ!! 別に読む必要はないけど読んでくれると嬉しいんだよ!! お腹減ったんだよ!!

    最終回予告




「よく復讐は何も生まない、なんてクソみてえな綺麗事を耳にする。
が、俺はそうは思わねえ。復讐することで少なくともそいつは満足できる。
……なあ、もし妹達と第一位の繋がりがなかったら。―――お前は、どうしてた?」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督





「人を殺す。『殺人』っていう行為は、結局そういうものなんだと思う。
命だけは取り戻せない。命だけは償えない。
だから人殺しが許されるなんてことは絶対にあり得ない。
私は永遠にアイツを許せないし許さない。私も永遠に許されることはない。
そもそも私たちを許せる人間は、もういないんだもの。
それを分かった上で……私もアイツも、せいぜい素敵な悪足掻きを」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「俺は一方通行が昔のあいつじゃないって知ってる。
でも同時にあいつがしたことも、どれだけ美琴が傷ついて一方通行を憎んだかも知ってる。
別に仲良くする必要なんてない。嫌いなままでだって良い。
ただ、あいつが存在することを、償おうとしてることを認めてやれたら良いなって、そう思うんだ」
学園都市の無能力者(レベル0)の学生―――上条当麻

久々にきたら完結まであと少しなのか。
そういや次の話の構想は出来てたんだっけ?(チラ

美琴「超電磁砲二期だとか選挙一位だとかこのラノ五連覇だとか、そんなつまんないものじゃない、そんな最強じゃ全くつまんない。
私が欲しいのはその先なのよ。挑戦しようって思うことが馬鹿馬鹿しくなるくらいの、私に挑もうと思うことすら許さないほどの絶対的な人気、『無敵(でんどういり)』が欲しいのよ!!」

そう近くないが遠くないうちに投下できるよう前向きに検討していきたい
ヒョォー!! ジーサン可愛いと思った>>1は末期ヒョォー!!

>>582
次で完結ですね、んで番外編
次のSS? そうですねぇ……
次はプロット完成・現在書き溜め中
次々はプロット完成済み・あとは書くだけ
次々々は現在構想中・設定を詰めているところ
そして上の三つの他更に五つ六つほど妄想しておりますが何か?(ニッコリ)

面白いし楽しめたけどテーマが重い

落差がアレすぎて、まどマギ見てる気分

大地よ……海よ……空よ……そしてこのスレを見てくれてる全てのみんな……
ほんのちょっとずつでいい、オラに時間を分けてくれぇ……!!

早くしろー!! (年明けまでに)間に合わなくなっても知らんぞー!!

>>597
十円ッ!!!(延滞料金)

不毛な喧嘩はやめましょう?

もうここまでだ!! このスレ諸共SSをHTML化してやるーッ!!

と、いうわけでお待たせしましたが最終回です

>>594
>>1は重いの好きだからね、仕方ないね
まどマギって見たことないんですがひぐらしみたいなもんでしょうか

>>603
何をおかしなこと言ってる!! 証拠はどこにあるんだ証拠は!!

>>606-607
クリリンのことかーッ!!

これからの日々に想いを馳せて。

少ない荷物を纏めている垣根が、来客用のパイプ椅子に腰掛けている美琴に問うた。

「もしかしてお前さ、俺が眠ってた一年の間に第一位のクソと打ち解けたりしたのか?」

「……笑えない冗談ね」

美琴の顔が不快そうに顰められる。
当然である。一方通行と打ち解けるなど想像するだけでゾッとする。

「よく復讐は何も生まない、なんてクソみてえな綺麗事を耳にする。
が、俺はそうは思わねえ。復讐することで少なくともそいつは満足できる。
……なあ、もし妹達と第一位の繋がりがなかったら。―――お前は、どうしてた?」

垣根の問いに、美琴は素直に答えた。

「―――どう、だろうね。私は本気でアイツを殺そうとしてた。
でも、その前は本気で殺そうとしてたのに結局できなかった。
……分からないかな。こればっかりは、その時になってみないと分からない。
でも、殺してた可能性も低くはないかもしれないわね」

実際、そうなっていたらどうしてただろうか、と美琴は思う。
そうであったら自分は道を踏み外してしまっていただろうか。
それをあり得ないと一蹴できないことに、美琴は自分という人間の限界を悟る。

「私は、善人なんかじゃないから」

ただ一言、そう言うのだった。

「でも、そうならずに済んで良かったって今は思うよ」

「ん?」

「人を殺す。『殺人』っていう行為は、結局そういうものなんだと思う。
命だけは取り戻せない。命だけは償えない。
だから人殺しが許されるなんてことは絶対にあり得ない。
私は永遠にアイツを許せないし許さない。私も永遠に許されることはない。
そもそも私たちを許せる人間は、もういないんだもの。
それを分かった上で……私もアイツも、せいぜい素敵な悪足掻きを」

動きをぴたりと止めていた垣根は美琴の言葉を聞くと。
ハァ、と。大きな大きなため息をつくのだった。

「……本当に。自分に厳しいなぁお前は」

「そうかしら」

「じゃあ、俺はどうなんだよ」

垣根は右手の親指を立て、自身の胸を指し示す。

「俺も一方通行と同じ、数え切れないほどの人間を殺してきたクズだ。
しかも俺はお前みてえに必死で償っていこうとか、そんなことも考えちゃいねえぞ」

「それを糾弾するのは私のやることじゃないでしょ?」

垣根の声に自嘲するようなものはない。
ただひたすらに疑問を消化するような問いに、美琴も淡々と答える。

「アンタは人殺しかもしれないけど、私の周りの人間には手を出していない。
でも一方通行は私の妹を殺した。それは決定的よ、私にとってはね」

命とは、主観において等価ではない。
別に美琴に限った話ではない。自身の妻を、夫を、恋人を、兄弟を、姉妹を、両親を、子供を殺した人間に対して感じる憎悪と。
全く関係のないところで、たとえば遠い外国で起きた殺人事件の犯人に対して感じる怒りは果たして同じだろうか。
もしかしたらそんな人間も世界にはいるのかもしれない。
だが普通の人間なら確実に前者の怒りの方が比較にならぬほど強いはずだ。同じ人の命にも関わらず。

自分の知らぬところで、誰かを殺したらしい垣根。いつ、どこで、誰を。そんなことも何も知らない。
それを実際に見たわけでもなく、当然殺された人間のことなど知るわけもない。
対して一方通行は一〇〇三一人もの大事な妹を手にかけた男だ。
その瞬間を二度も目撃していて、美琴の主観において二人の罪は釣り合うはずもない。

客観的に見ればそれはおかしいのかもしれない。
けれど人間は主観的で感情的な生き物だから、必ずバイアスがかかるのは避けられない。
そんな美琴を歪んでる、という人間もいるかもしれない。構わない、と思う。
しかし垣根帝督とは既に友人として過ごした時間の積み重ねがあるのだ。
そして御坂美琴は、善人ではない。

「アンタを糾弾する人間は間違っても私じゃない。
もしかしたらこれから先、アンタが殺した人間の家族なり何なりが出てくることもあるかもしれない。
アンタを糾弾する権利があるのはその人たちだけで、アンタはその時否が応にも過去と向き合うことになる」

美琴が一方通行と再会し、自らの過去と罪とに向き合ったように。
一方通行が美琴と再会し、自らの過去と罪とに向き合ったように。

「……そうかい。そりゃ怖ぇなあ。今の内にあのクソシスターにでも懺悔しとくか」

「似合わないわね」

「心配「心配するな。自覚はある」

「……オイ」

言葉の途中で割り込んできた美琴に、垣根は不服そうな目を向ける。
しかし当の美琴はどこ吹く風で、わざとらしく視線を窓の外に投げ口笛を吹いていた。

「つうかよ、さっきの女第五位だろ? なんでいるんだ?」

「さあ。第七位も来てるらしいわよ?」

「げっ……」

露骨に嫌そうに顔を顰める垣根。
思わず動かしていた手まで止まっていた。
よほど第七位が嫌いなのだろうか。

「何、どうしたのよ。まあ私も第七位にあまり良い思い出はないけど」

「……オマエ、あいつの能力が何なのか知らねえのか?」

「知らないけど……」

「……『人の話を聞かない能力』、だ。しかも超能力者だぞ。あいつある意味学園都市最強だから」

「Oh……」










「―――見つけたぞ第二位ィィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

「うわっ、来やがった!?」

荷物を纏めた垣根と美琴が中庭で上条を待っていると、どこからか酷くボリューム調整を間違った声が聞こえてきた。
ここが病院であるということを失念しているとしか思えない。
まるで地響きが起きているかのような錯覚さえ伴って突然空から鉢巻を巻いた時代錯誤な男が降ってきた。
明らかに登場の仕方がおかしい。声量がおかしい。ついでに服装もおかしい。
愛と根性のヲトコは一年経っても何も成長していなかった。

ダン!! と垣根のすぐ近くに降り立った削板は自らの奇行を気にする素振りも見せずに笑う。
笑って、実に馴れ馴れしく垣根の肩を叩いた。

「よう!!!! 今日退院なんだってな!!!!!! よし、いっちょ根性入れてメシでも食いに行こうぜ!!!!!!」

「何? 何なの? ホント何なの? オマエ俺を労わるつもり欠片もねえだろ?」

「そうか!!!! それでこそ男だ!!!!」

「俺何も言ってねえから。OKしてねえから。相変わらず会話が異次元で成立しねえなオマエ。それとちょっと黙ってろ」

削板の大音量ボイスに鼓膜が震え、垣根は隠しもせずに心の底から嫌そうな表情を浮かべる。
だが削板には通じない。謎のスマイルでごり押ししてくる。

「まあまあ!! 男二人仲良くしようじゃないか!!!!」

「だからうるせえんだよ脳筋野郎!! ……っつか、二人?」

垣根が辺りを見回してみると、気が付けば忽然と美琴の姿が消えていた。
一体いつの間に移動したのか。素早く危機を察知し垣根を残したまま去ってしまっていた。
随分と強かになったものだ、と思いながらも、

「オイ待て御坂ァ!! オマエ一人だけ逃げようったってそうはさせねえぞ!!」

既に視界から消えかけている美琴の背中に向かって叫ぶも、全く反応はない。
見捨てられた垣根ががっくりと項垂れると、削板が美琴に気付き、

「ん? おお!? ありゃナンバースリーか!!!!
いやああいつの根性は凄かったぞ!!!! あれほどの根性を持ってる熱い男はそういないぞ!!!!!!」

「テッメェ……!! うるせえっつってんだよブッ殺すぞコラ!! ……ん? 男……あれ」










上条当麻と御坂美琴は、その光景を遠くから我関せずといった様子で眺めていた。
削板が「超すごい何ちゃら」とか言って拳を突き出すと変なビームみたいのが出たり。
空を舞う垣根を削板がどういうわけか普通に一五メートルくらい垂直にジャンプして追いかけたり。
垣根の翼が杭に変じ、人体程度形を失いドロドロした粘液レベルにまで変えてしまうほどの一撃を躊躇いなく削板に見舞ったり。
要するにドンパチやっていた。

「……どうするんですかあれ」

「私は関わらないわよ、面倒くさい。アンタが行けば?」

「やめてください死んでしまいます」

流石にあの二人も本当に病院を破壊してしまうほど馬鹿ではないだろう。
その証拠に削板の攻撃も建物には一切向けられていないし、垣根もその全てを白い翼で易々と防ぎ周囲に被害が拡散しないようにしている。
それでも病院の中庭で超能力者同士の戦いをおっぱじめるあたりまともではないのだが。
というか流石に本気の潰し合いではないだろう。
被害が出てないとはいえ、冥土帰しが顔面蒼白になっていることを彼らは知らなかった。

「……お前さ、一方通行と一応和解したんだっけ」

「―――またその話か」

「俺は一方通行が昔のあいつじゃないって知ってる。
でも同時にあいつがしたことも、どれだけ美琴が傷ついて一方通行を憎んだかも知ってる。
別に仲良くする必要なんてない。嫌いなままでだって良い。
ただ、あいつが存在することを、償おうとしてることを認めてやれたら良いなって、そう思うんだ」

「……そうね。結局その辺りが私とアイツの限界なのよ。
それでいい。その先へ行こうなんて思いもしないわ。
それに、もうこれ以上あんな野郎のために頭を割きたくない。脳細胞の無駄遣いよ」

「ははっ、酷でえなぁおい」

そう言って二人は笑った。
この一年で、というよりその前からだが美琴は比較的上条と普通に話せるようになっていた。
丁度垣根と知り合ったころからだろうか。彼を通して男との対話に慣れたのかもしれない。
それは良い変化だと美琴は感じていた。

と、垣根が二人の方へスタスタと歩いてきた。
何やら物凄く美琴を睨みつけているように見えるのは気のせいだろうか。
多分気のせいだろうと美琴は考えないことにした。

「……おう垣根。軍覇はどうしたんだ?」

垣根は無言のままに自身の後ろを親指で指して上条の問いに答えた。
二人がそちらを覗いてみれば、そこには愉快なオブジェが鎮座していた。
地面から足が二本生えている。一瞬何が起きているのか理解できなかった。
つまるところ、削板が上下逆さまになって上半身が丸ごと地面に突っ込んでいるのだ。
まるでYの字のように開脚された二つの足がシュールだった。

「……やりすぎじゃね? 死んだんじゃね?」

「あいつは無駄に頑丈だから大丈夫じゃねえの? 知らんけど。俺はうるせえから黙らせただけだし?
つうか美琴ちゃん? ちょっとお話があるんだけど」

「な、何よ。ちょっと記憶にないわね。ワー、キットショクホウノシワザダワー」

「……イイ度胸してるじゃねえか。流石に男女は言うことが違うなー」

いっそ清々しいまでの棒読みで弁解する美琴だったが、垣根のその言葉にぴくりと肩を震わせる。
上条は敏感にその気配を察知して退避した。

「男女……? ごめんね、ちょっと耳が遠くなっちゃったみたいで聞き間違えたみたい。もう一回言ってくれるかしら?」

ゆらり、と幽鬼のように立ち上がる美琴に上条は更にザザザ、と後ずさって距離を取る。
この辺りの危機察知能力は流石というべきであろう。
長い髪で顔が隠れているあたりも恐怖感を煽っていた。
しかしそんな某呪いのビデオに出てそうな様子の美琴にも垣根は怯まない。

「あそこで埋まってる馬鹿が言ってたが」

「よし私ちょっととどめ刺してくる」

「待て待て待てぃ!? 一度落ち着こうか!?」

上条が慌てて美琴の手首を掴んで止めに入る。
こんなことで殺人事件を起こすわけにはいかないと必死になる上条だが、すぐに掴んだ手首を離した。
そんな上条の様子にちょっとしか不信感を覚えた垣根は上条の襟首を掴み、ずるずると引き摺っていく。

「な、何だよ垣根」

「一つ聞くが、お前ら……お前と御坂って付き合ってんの?」

「は、はぁっ!?」

ぎょっとしたように大声をあげる上条に、美琴が少し離れたところから不審そうな目を向けてくる。
上条は慌てて自身の口を塞ぎ、

「何言ってんだお前!? なんでそうなる!?」

「……付き合ってねえんだな?」

「お、おう。上条さんに彼女なんているわけないじゃないですか。……言ってて悲しいけど。
大体俺と付き合うなんて、俺は良くても御坂が嫌がるだろ」

「よーく分かった。とりあえずお前は後でラリアット十連発な」

「何ゆえ!?」

美琴の元へ戻りながら、一見普通に見える垣根は大変混乱していた。

(えぇー……付き合ってねえの? こいつらマジか?
何なの? 馬鹿なの? 一年経ったんだよな? 俺一年寝てたんだよな?
一年だぞ? まだ御坂の奴告白してねえの? っつかまだ上条は何も気付いてないの?
どうしたの? 一体何が起きてるっていうの? ねえ何なの?)

こんな具合に。
勝手に既に二人は付き合ってるものと思い込んでいた垣根からすれば結構衝撃の事実だった。
というか勝手にもうやること済ましてると思っていた。
だが垣根のそんな下世話な思考を断ち切るように、わけの分からない大声と共に何かが突っ込んできた。
削板軍覇である。

「っっっしゃあぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「不死身が……っ!! よし御坂、お前があいつに触れて生体電気を片っ端から逆流させるんだ!!」

「いややらねえから。できるけどそれは流石に死ぬから、冗談抜きで」

何が「しゃあ」なのか分からないが、ノリの悪い美琴に失望しながらもとりあえず垣根は冷静にドン、と上条を前に突き飛ばした。

「え、おい」

そして突然突き飛ばされた上条はわけも分からぬまま前方を見遣る。
そこにあるのは高速で突進してくる謎の前時代物体。
上条は咄嗟に右手を突き出し、そしてバキィン!! という何かが砕けるような音が響いた。

削板は異常な身体能力を持つが、当然それは彼の素のスペックではない。
彼自身はあくまでただの凡人であり、その力は全て正体不明の能力によるものだ。
それを幻想殺しによって打ち消されたことにより削板は急激に減速し―――。

そして能力を失った削板の体を、垣根が飛んできたボールをフルスイングでホームランを決めるように白い翼で薙ぎ払った。

「―――ああァァァあああああああああああああああああああああ―――……」

声は徐々に遠のき、削板は中庭まで見事に吹き飛ばされた。

「いやいやいやいやいや!! 死んだだろ!! これは死んだだろ!!」

上条が顔を青くして叫ぶ。
幻想殺しによって能力を打ち消され、ただの常人と変わらないところにまで落ちた状態での垣根の一撃だ。
耐えられる道理などなく、上条が焦るのも当然というものである。
しかし、

「……あ、大丈夫よ。ほら、手ぇ動いてるわ」

「不死身だな……」

「あいつガチの化け物だから。マジで殺しときてえよ」

翌日、削板は普通に歩き回っていたという。










「よし、このまま退院祝い行くか!!」

「お店予約しといたわよ?」

「とりあえずゆっくりしたいという俺の意思は無視ですかそうですか」

ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、ようやく三人は病院を出た。
ちなみに削板は無事冥土帰しの元に届けられたらしい。
そんなわけで、美琴と上条は垣根の帰って寝るという意見を即時却下し勝手にこれからの行動予定を決定する。
元々今日が退院日というのは分かっていたため、既に店の予約は済ませていた。

その店とはすき焼き屋である。
勿論、美琴が目利きした店なのでそのグレードは並ではない。
学園都市にあるあらゆる店舗を合わせた中でも最高級ランク。
当然その値段も最高級ランクなのだが。

そんな店に行くというのに上条がはしゃいでいるのは、ひとえにそれが美琴の奢りだからである。
今度美琴の言うことを可能な限りで一つ聞くという取引ではあるが。
それにしても、と垣根は思う。

(……楽しいねえ、ホント)

やはりこの二人といると、楽しくて楽しくて仕方がない。
もう血生臭い戦いは終わった。目も覚めた。三人が揃っている。
これからは毎日こんな楽しい日々が送れるかと思うと、柄にもなくわくわくした。
明日が楽しみでならない。今日はこんなに楽しかった。明日はもっと楽しいのだろう、と。

垣根が死に物狂いで掴み、必死にしがみついた居場所にはやはりそれだけの価値があった。
二人に気取られぬよう、垣根はふっ、と笑う。
以前からは考えられぬ光景。想像もつかぬ環境。
だがそれこそが今の垣根帝督の世界だ。

(……さってと。それじゃあ、俺は一年経っても進歩のないお二人の恋のメルヘンキューピッドになってやりますか。俺翼生えるし。
よし、とりあえず『未元物質』で上条の目の前で御坂のスカートを捲り上げて……。
短パンとかいう最終兵器があったか。だが俺の『未元物質』に常識は通用しねえ。慎重に演算を組み上げて……。
落ち着け。冷静になれ。超精密演算にミスは許されねえ。二人に、特に御坂に気付かれたら終わりだ。バレねえように、確実に……)

ビュオッ、という小さい風が吹いた。垣根は自身の組み上げた演算式に狂いがないことを確信する。
世界で一番の『未元物質』の無駄遣いを本気で行っていると、

「何やってんの、アンタ」

美琴が天使の笑顔で問いかけてきた。

「…………ッ!!」

投下終了だから。ただそれだけよ

というわけで、完結です、やっと
まさかスレ立てしてから一年以上も続くなんて想像もしてませんでした……
しかし何とかここまでこぎつけることができたのも皆さんのレスにやる気をもらったからです

さて、これにて本編は完結です
あとは番外編を後日投下し、あとがき(笑)と今構想してるSS一覧的なものと次SSの長ったらしい予告を張って全て終了となります
既に本編は終了しましたが、どうかあと数日お付き合いくださると嬉しいです

    番外編予告




「……馬鹿野郎。ばっかやろうが!!
ああ、たしかに俺は不幸だった。この夏休みだけで何度も死にかけたよ、一度なんか右腕を丸ごと切断されたこともあった。
そりゃクラスメイトを一列に並べて比べりゃ、こんなに不幸な夏休みを送ってんのは俺だけだろうさ。
けどな、俺はたった一度でも、後悔してるなんて言ったか?
こんなに『不幸』な夏休みは送りたくなかったなんて言ったかよ!!
冗談じゃねぇ、たしかに俺の夏休みは『不幸』だった。だけど、それが何だ? そんな程度で、この俺が後悔するとでも思ってんのか!?
たしかに俺が『不幸』じゃなければ、もっと平穏な世界に生きられたと思う。
この夏休みだって何度も何度も死にかけるようなものにはならなかったはずだ。
けど、そんなもんが『幸運』なのか? 自分がのうのうと暮らしている陰で別の誰かが苦しんで、血塗れになって、助けを求めて、そんなことにも気付かずに!!
ただふらふらと生きていることのどこが『幸運』だって言うんだ!?
惨めったらしい『幸運』なんざ押し付けんな!! こんなにも素晴らしい『不幸』を俺から奪うな!!
この道は、俺が歩く。これまでも、これからも、決して後悔しないために!!
『不幸』だなんて見下してんじゃねぇ!! 俺は今世界で一番『幸せ』なんだ!!」
学園都市の無能力者(レベル0)の学生―――上条当麻




「西東颯太がどう思ってるか、なんて台詞は吐かない。
それは西東って人だけが言うことのできる切り札だから。
だから私は私の言葉で言う!! アンタの復讐はここで止める。
たとえアンタの信念を折ってでも、それがアンタの絶望に繋がるのだとしても!!
そういったもの全部ひっくるめて、アンタを『闇』の中から引き摺り上げてやる!!」
アンタには力がある。アンタには意思がある。それを無駄遣いなんてさせない!!
アンタが目を向け、手を伸ばすべきなのは保護者でもなければ私なんかでもなく、西東先生でしょう!!
私は本当の西東先生なんか知らない。だから、それを知ってるアンタは、ここで、私が止める!!」
アンタにはそれをやるだけの力があって、それをやるだけの意思があった。
……でも西東先生のためにって想いは、本来だったらそんな風に使っちゃいけなかった。
アンタは西東先生のために何かをしたかった。でも、その時には西東先生はどこにもいなかった!!
だから、行き場を失った想いが別の逃げ道を求めた。それだけだった!!
だったら、その力をこんな所で無駄遣いするな!!
西東先生のための力は、西東先生のためだけに使え!!
アンタの復讐とかアンタの暴虐とか、そんなもんのために浪費するな!!
諦めんな!! まだ何も終わってなんかいない!!
たしかに、これはアンタの復讐だったかもしれない。でも、全ては西東先生から始まってる。
その復讐に使った努力を違う方に向けていれば助けられたのかもしれないのに……。
だからこそ今、それをやるべきなのよ!!
西東先生は、きっとアンタを待ってる。アンタが西東先生を救わなくちゃ意味がないのよ!!
そして、アンタにはそれができる。アンタには力があるじゃない!!
その力こそ、西東先生を救うことができるのよ!!」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)―――御坂美琴




「濡れた」
『闇』から『光』を掴んだ学園都市第二位の超能力者(レベル5)―――垣根帝督

最終回じゃないぞよ、もうちっとだけ続くんじゃ

え゛ 番外編ていつの話になるんだこれ そしてどれくらいのボリュームになるの?! いやすごい楽しみだけど
あ、本編完結乙! 

ていとくんどこが濡れちゃったの俺が綺麗にその液体を舐めとってあげるからさあこっちへおいで

西東先生ってえと超電磁砲のゲームの方かな?
なんにせよ楽しみだww

うわぁ、これは超長期連載フラグですね・・・間違いない

>>625
ふざくんな
帝督のヌレヌレはワイのもんや

予告編ってか、ほぼ元ネタの抜粋と焼き直しじゃん
またこのパターンか

明日番外編投下しまする、つまり明日でこのスレも完全終了でお役御免

>>624
なんか勘違いさせてしまったみたいで申し訳ないんですけど、普通に短編です
いつもの三人組が初詣に行く話ですね
ほのぼのとギャグで構成されており本編のようなシリアスは欠片もありません

>>625,>>629
これは一体どういうことなんですかねぇ……(困惑)

>>626
西東先生は禁書界でも一、二を争う聖人 異論は認めない

>>627
もうちっとだけ続くんじゃから結果的にあと10年も続くんじゃになった作品とは違い、こちらは本当にあと20スレもあれば普通に終わりますww

>>630
番外編はただのギャグですから……何も考えずに見ていただけると
予告のヒーロー共の説教も勿論ギャグです、普通に考えたら時系列も相手もおかしいですしね

20スレだと……
四スレでだいたい一年だから番外編は五年に渡る本編を大幅に上回る大長編確定か

えー、本当申し訳ないんですが結局番外編はやめることにしました
まあ理由としては皆さんの意見というのもあるんですが、それ以上に中身のなさ(ただ馬鹿やってるだけですし)
これまで以上にただの自己満足であること、そして何よりやっと本編が終了したことですし、早いとこ次SSに取りかかりたいということです

だったら最初から言うなよとか優柔不断なんだよカスとかはっきりしろよカスとか何なのこいつ? 馬鹿なの?とか色々あるとは思います
その不満はもっともですし何も返す言葉もないです、>>1のその時々の勝手な発言で見てくれてる皆さんを振り回すようなことになってしまい本当に申し訳ないです
以後はこのようなことがないよう気を付けたいと思います、その分次SSを頑張りますので

今日の夜に次SSの予告とか落としてそれで全て終わりたいと思います、勝手な行いですがどうかお許しください

>>632
これは重大なミス 死んでしまうww





美琴「ここからはぶっちゃけコーナー的な何かよ。そういうのいらねえからって人は即時退避を強く勧めるわ」




垣根「ダラダラと無駄に長いのも注意な」




垣根「やーっと終わったなぁおい! 最後尻切れトンボってレベルじゃねえけど」

美琴「まさか一年以上も続くなんて思いもしなかったわ……」

垣根「一番驚いてんのは>>1自身だからな」

美琴「まあ数年に渡って続き、大ダメージを与えた第一次世界大戦も双方共に一ヶ月で終わると思って始まったわけだし?」

垣根「例えが悪ぃよ馬鹿野郎」

一方通行「……なァ」

垣根「あんだよ? さっきから黙りやがって」

一方通行「俺の出番が少なくねェ?」

美琴「ほら、モヤシとセロリには旬がないからアンタの出番の少なさも納得だってたしか3スレ目辺りで誰かが言ってたじゃない」

垣根「上条と比べたらマシなんじゃね? 考え方次第では」

一方通行「あァー……。たしかアイツはキャラが濃すぎて全部持っていっちまうから脇役になったンだっけか」

美琴「垣根との対峙シーンも説教してそげぶして終わりそうだし」

一方通行「中途半端に絡められないンだよなァヒーローェ……全部食っちまう……」

垣根「でもまあ最初の予定では最後に出る予定だったらしいぞ。御坂がテレスティーナに追い詰められたところで」

一方通行「流石ヒーローだァ!!」

垣根「血管破裂するほどブチ切れた上条が2巻のアウレオルス=ダミーよろしくテレスティーナをフルボッコにする予定だったとか」

美琴「でも登場させる切っ掛けっていうか、なんで来るのかってのが上手く繋げられなくて没に」

一方通行「ヒーローォ……」

垣根「そういや俺と一方通行の戦いでは、覚醒した俺の翼が12枚に増える予定だった」

美琴「なんで?」

一方通行「ただのノリらしい」

美琴「没ね」

垣根「だから没になったんだよ……そういうこと言うなよぉ……」

一方通行「最後俺と戦うのも黒夜の予定だったンだよな」

美琴「でも恋査っていう凄い丁度良いのが出て来たから速攻で予定変更。新約7巻が発売されて結構早い段階で早速恋査の登場となったわけね」

垣根「ただ恋査って演算どうしてんのかってのだけが全然分からねえんだよな。噴出点を作ったところで演算なきゃ能力は使えねえぞ」

一方通行「脳もそいつと同じに組み替えてるとか推測はできても本当のところは永遠の謎だわな」

美琴「それで、話を戻すとこのSSを書くにあたってやりたいことが三つあったのよね」

一方通行「というかやりたいことがあったからSSを書いたンだがな、当然だが」

美琴「一つは私と垣根の絡み、一つは私と一方通行の問題、一つは垣根vs神裂火織。見れば分かるように最初期は魔術サイドも絡む予定だったのよ」

「ふざけないでください。あんなメルヘンぽっぽが私に敵うわけないでしょう。瞬殺ですよ瞬殺」

垣根「露出狂ごときが俺に勝てるわけねえだろ。圧勝過ぎて勝負にならねえよ」

一方通行「ン? 今何かいたよォな……」

美琴「気のせいよ」

一方通行「なンだ気のせいか」

美琴「で、実際どうだと思う?」

垣根「マジ回答すると人間状態の俺ならほぼ互角だと思う」

一方通行「流石に不死状態は考慮外の方向で」

美琴「アンタついに抜かされちゃったしねww」

一方通行「やめろォ!! まだ白翼あるし!! 大丈夫だし!!」

美琴「でも垣根が変化したことによって魔術のクワガタ科学のカブトって関係ができあがったわね。クワガタはもう故人だけど」

垣根「オイ」

一方通行「西の服部東の工藤みたいな感じか」

垣根「オイ」

美琴「そういやアンタ、15巻の最後で言ってた一方通行の役割って何だったの?」

一方通行「『未元物質』の本質ってのも何だったンだ?」

美琴「アレイスターに反旗を翻そうとした理由とか、ちゃんと全部話してから死になさいよ勝手な奴ね」

垣根「何で俺こんな扱いなの?」

一方通行「……で、俺とオリジナルの問題。これは新約3巻がきっかけだったなァ」

垣根「オマエのあの不用意な発言でどれだけの物議を醸したと思ってるの?」

一方通行「俺は悪くねェッ!! 俺は悪くねェッ!! ここにいる俺とあの俺とは世界線が違げェンだ!!」

美琴「世界線が違うなら仕方ないわ」

垣根「で、俺と御坂の絡み。これは単に一番好きな女キャラと一番好きな男キャラを絡ませてみたいっつう安直な発想だったな」

一方通行「まァ俺とオリジナル、俺と第二位は既に原作で繋がりがあるからなァ。オリジナルと第二位の線を繋げてやればイイ感じに三角形ができるしな」

垣根「あ、それと何気に驚いたのは兵頭真紀とか坂状友莉とか桜坂風雅とかに誰だそいつらって突っ込みがなかったことだな。絶対あると思ってたんだが」

美琴「[ピザ]リストームとかも何それって突っ込まれるかと思ってたんだけどね。みんな意外とコアなファンだったみたい」

一方通行「このSSも長かったなァと思って容量を確認してみたら1692KB。でも初めてだからこれがどォなのか分かンねェ。それと第三章の途中までは黒歴史になりかけてるンで読み直すのは勘弁してやってくれ」

垣根「何文字なのかも知りたいところだが確認方法が分かんねえ。文字数を調べる方法を知ってる人、いたら是非教えろください」

一方通行「さァ、そろそろ次の話題だァ。長いなァこの談笑」

美琴「まあスレ余りまくってるし許してほしいわ。現在構想中のSSは以下の通りよ」

1.次書く予定のもの
2.美琴と上条メインのもの
3.垣根メインのもの
4.美琴禁書(美琴で1巻再構成)
5.食蜂禁書(食蜂で1巻再構成)
6.佐天禁書(佐天さんでry)
7.美琴と佐天さんの百合
8.美琴とアリサの百合
9.美琴と上条さんのいちゃラブ
10.テイルズオブエクシリア2とのクロス
11.サイレントヒルとのクロス
12.デスノートとのクロス
13.パラサイトイヴとのクロス
14.シュタゲのキャラを禁書キャラに置き換えただけのもの

垣根「この馬鹿は一体何十年かけて書くつもりなの?」

一方通行「これ一つに一年以上かかってるってこと忘れてねェ?」

美琴「まあ実際に全てを書くことはないでしょうよ。いくつかは結局お蔵入りになるはずよ。まあ一つずつ見て行きますか」

垣根「まず1の次に書くやつについて。これはあとで予告落とすからそっち参照」

一方通行「2は次の次に書くヤツだなァ。もォプロットは完成してる。1スレ以内に収まる(収める)予定だァ。3はまだ構想とは言えねェが書くンじゃねェ?」

垣根「御坂で再構成ってもうあるわけだが」

美琴「展開変えれば万事OKよ!! 食蜂禁書はありそうでないはず。今ここでこうやって言っておけば誰かに先にやられても言い訳ができるわ」

一方通行「やること小っちゃいなァ……。佐天禁書は完全に妄想。ステイルとか神裂とか首輪とか全部どォすンの?」

垣根「まだ何も考えてねえが面白そうだしやってみたいとは思ってる。二つの百合はやれ、絶対に(キリッ)」

一方通行「オマエ百合厨かよ……。唯一健全なカプと、目下最大の敵はエクシリア2クロスだな。これは壮大な長編になるぞ」

美琴「正しく料理できれば、ね。高級食材をフライパンの上で真っ黒に焦がす未来が見えるわ。しかもクロスだから凄いのはエクシリア2よ」

垣根「まあクロスと言ってもテイルズキャラは一人も出ねえからな。あくまで設定だけを禁書に当てはめるモンだ。エクシリア2は名作。泣いた」

一方通行「現在全力で構想中だがメチャクチャ難しいわ。でも分史世界の設定で好き勝手できてマジ面白そォ」

美琴「苦戦中だけどこれは絶対にやるわ。断言していいわね。早く書きたくて仕方ないけど設定作りが難しすぎて進まないというジレンマ」

垣根「サイレントヒルとのクロスはストーリーを考えるのが難杉。でもやりたい。最高傑作は2、異論は認めない」

一方通行「3の病院は頭がおかしくなるかと思った。また日本製作に戻してほしいなァ。ちなみにクロスと言ってもサイレントヒルのキャラは一切登場しねェ」

美琴「デスノートとのクロス。まあクロスと言ってもデスノートのキャラは死神を除いて登場しないわ。キラ役はまさかの初春さん」

垣根「謎の人選だな。だが致命的な問題に気付いた」

一方通行「精神系能力者どォすンだ? っていうな……」

美琴「キラとか速攻バレます本当にありがとうございました」

垣根「精神系能力者への対策が思いつかねえ限りデスノクロスは書けねえわな。精神系能力者をなかったことにするかとか考えたけどそれも流石にな」

美琴「次、パラサイトイヴとのクロス。これはただの思いつきで書くかどうかはかなり怪しいわね。なおクロスと言ってもry」

一方通行「まァやるとしたらAya役はオリジナルだが、つまりそれは活性化したミトコンドリアの影響で成長が止まっちまうンだよな」

垣根「おっぱいも小さいまま成t」ズドォーン



         トv'Z -‐z__ノ!_

        . ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
      ,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
    rュ. .:{_ '' ヾ 、_カ-‐'¨ ̄フヽ`'|:::  ,.、
    、  ,ェr<`iァ'^´ 〃 lヽ   ミ ∧!::: .´
      ゞ'-''ス. ゛=、、、、 " _/ノf::::  ~
    r_;.   ::Y ''/_, ゝァナ=ニ、 メノ::: ` ;.
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       ゙ ::,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ:::  ._´
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          _  .. ,、 :l !レ'::: ,. "
              `’ `´   ~

一方通行「し、死ンでる……」

レベル6美琴「不用意な発言は寿命を縮めるのよ? 汚いから片付けておきなさいよ、そのボロクズを」

一方通行「……ま、まァ次に行こォじゃねェか」(怖ェ……)

美琴「シュタゲの置き換え。書いといてなんだけど多分これがやらないわね、うん」

垣根「るか子ポジションが一方通行になって『……お、女の子になりたいんですぅ……!!』とか言うんだろ? 完全に原典だろ」

一方通行「生き返りやがったよコイツ」

美琴「まあほとんど不死だし……。それにしても『俺の右腕が疼く』とか機関がどうこう言ってるあの馬鹿は見たくないわね」

垣根「右腕に関しては割りとガチなのがまたな」

一方通行「で、ここには書いてねェがサイコブレイクとのクロスも書けたら書きたいと思ってる」

垣根「サイコブレイクってのは2014年にPS3やPS4で出るホラゲーだ。マジで期待している」

美琴「ホラゲーばっかなのは完全に>>1の趣味ね。当然サイレントヒルとかやる以上、サイレンとのクロスも書きたいんだけど……」

一方通行「未完とはいえ偉大な先駆者がいた件」

垣根「話もどうしても似通うしな。オカルト系はやっぱりどうしたってあのクソシスターが中核になっちまう。天地救之伝とかまんまだ」

美琴「てなわけでやりたかったけど断念せざるを得ない形に。浜面禁書とかまだなくね? チャンスじゃね? とか思ったりもしたけど」

一方通行「やっぱり偉大な先駆者がいたことに割と最近気付いた件」

垣根「ホラゲーと言えば零とのクロスもやってみたいな。まあ零やったことないからどうしようもないけど」

美琴「PS3辺りで続編なりHDリマスターなりが出て、やれそうだったらやりたいわね」

一方通行「ンで禁書じゃねェンだがドラゴンボールのSSも1つ2つ考えてるらしい。長編じゃねェけど」

美琴「ネットでベジータがヘタレキャラにされてるのは本当に許せないわね。ヤムチャだってネタにされてる(してる)けどクリリンと並んであれほど良い奴は他にいないわ」

垣根「たしか劇場版の監督がベジータが嫌いだったとか。仕事に私情を持ち込んだ結果があの扱いだよ!」

一方通行「一方鳥山さン本人が手がけた神と神ではベジータは素晴らしく輝いた。あれが原作者との意識の差か」

美琴「作中でベジータがヘタれたことなんて一度もないっての。あれは改悪の極みだわ」

垣根「フリーザ戦のもヘタれたのとはちょっと違うしな。何より劇場版で出たオリキャラとフリーザは重みが全く違う」

一方通行「ガキの時から10年以上ずっと支配されてきて、いつかはと思い続けた因縁の相手だもンなァ。サイヤ人の仇でもあり、悟空以上にその手で仕留めたかったはずだ。あの涙には10年分以上の屈辱が詰まってる」

美琴「やっぱりドラゴンボールのラスボスはフリーザね。伝説の超サイヤ人になった悟空が全サイヤ人の恨みを晴らし宇宙最強を討つ。フィナーレには完璧じゃない」

垣根「まあそんな具合だ。あとバーローの長編SSも考えてたんだが、SS速報のバーローSS見て心が折れたらしい」

美琴「何なのよ……っ、光彦くんが一体何をしたっていうの!? ふざけないでよッ!!」

一方通行「カオス過ぎて流石の俺も閉口したわ。普通に組織を潰すまでのガチシリアスを考えてた>>1には衝撃がでかすぎた」

垣根「まあ、もしかしたら書くかも知れねえから組織のボスを誰にするつもりだったかとかってのは一応伏せとく」

美琴「あの方候補としてよく挙がるのはジェイムズ・ブラック、大黒連太郎、烏丸連耶、工藤勇作とかかしら?」

一方通行「阿笠博士は公式で否定されてるから論外。まァ工藤勇作があの方で組織名がナイトバロンってのはちょっとおォって思った」

垣根「烏丸も何か微妙かなって感じだ。大黒連太郎は普通にあり。全然あり得ると思うぜ。人魚の名簿にジンやウオッカ、宮野志保とかと一緒に名前があったのも伏線っぽいしな」

美琴「ジェイムズ・ブラックはミスリードっぽいわね。名前のブラックも安直だし、世良が女だって一瞬で気付いたのもその場で他キャラから突っ込まれている時点で」

一方通行「バーローは組織編だけ見れば相当のシリアスだよなァ。目的も分かンねェし」

美琴「薬開発してるかと思ったらベルモットは板倉……あ、左方のテッラじゃないわよ。板倉に何かのソフトを作らせてたし。人類のために断念したとか板倉が言ってたけどどんなソフトよ」

垣根「薬の目的も灰原の時の流れに人は逆らえない、それを捻じ曲げようとすれば罰を受けるとかベルモットの時の流れに逆らって死者を蘇らせようとしているとか見れば死者蘇生っぽいんだが……」

一方通行「ベルモットが年を取らないってとこから考えると不老不死っぽくもある」

美琴「でもそれらは灰原の薬の目的は夢のあるものじゃなく、人類のほとんどはその価値を見出せないようなものって台詞と矛盾するのよね。不老不死とか死者蘇生ならそれは夢のようなものだし」

垣根「不老不死を解除する薬、とかか? ベルモットはその実験台にされて、不老ではあるが不死ではない。だからそんな薬を作った灰原の両親、そして研究を受け継いだ灰原を憎んでる、と」

美琴「それならたしかにほとんどの人間にとって無価値ね。ただ灰原ってあの方についてただでさえ信じられない人物が浮かび上がってくるかもしれないって言ってたけど、明らかにあの方が誰か知ってると思うのよね」

垣根「それを言わない理由。いや、言えない理由? 事故死したとされてる宮野厚司か宮野エレーナ、つまり両親のどっちかがあの方とか?」

一方通行「……話が逸れたってレベルじゃねェな。まァとにかく今後考えてるのはこンなモンだ」

美琴「いつになるか分からないけど、エクシリア2とのクロスが終わったらシンフォニアとのクロスを書くらしいわ」

垣根「まあクロスとry。ゼスティリア楽しみです」

一方通行「長々と無駄に語ったが、よォやく終わりだ」

美琴「じゃあ次SSの予告だけ落としていくわ。ただそのメインヒロインは絶対に誰にも予想できないと思うわね」

一方通行「自分自身でもなンでそォしたのか全く分からねェ謎のチョイスだからな」

垣根「当てられた奴いたらそいつは只者じゃねえ。もしかしたら謎すぎて受け付けないって人もいるかもしれねえが是非見てやってほしい」

美琴「五人の主人公の五つのシナリオで話が進んでいくわ。まあ五人の主人公ってのが誰かは……予告で簡単にバレちゃうでしょうね」

垣根「それじゃ、いつスレ立てするか分からねえが見つけたら頼むぜ。あ、とある科学の超電磁砲は読むべきだがとある科学の一方通行は読まなくていいぞ」

一方通行「ぶっ[ピーーー]ぞ?」

美琴「……じゃ、じゃあ本当にこれで終わりよ。これまで見てくれた人たちは本当にありがとう!!
スレ見つけたら読んであげてちょうだい。人選びまくる内容だけど。あ、さっき挙げた構想中SSの中でこれは読んでみたいってのがあったら遠慮なく言ってね!! 参考にするわ!!」





The next SS is……








Welcome to survival horror.














このSSには暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています










THE DEAD WALK!!








The door to safety is shut.
There is no turning back……









「ああ。……ほら、これ羽織っとけ。ちょっとはマシだろ」

「……ありがと。でもこれも濡れてるから冷たいよ」

「そりゃあ忘れてたな。じゃあ返してくれ」

「だーめ。やだよ」

「……何があったって言うの?」

「もしかして何も気付いてねえのか、このクソつまらねえ状況に」










Fear can't kill you.
But……








「オーケーオーケー。色々と言いたいことはあるけど今はいいや。
とにかく祭りに参加できるってんならその他は置いとこうか」

(違、う。あれは、違う。ただの見間違いに決まってる。
その人のことを考えていたからそう見えただけ。そう、そうよ)

「ならばウィルスや薬品という結論を導くのは超当然の帰結です。
それなら人間以外が感染するのも超納得できますし」

「早く、どこかに行かねぇと……。美琴はどこに行っちまったんだ……。
俺の知り合いはどこにいるんだよ……!!」









Are the faint sounds of footsteps those of suvivors……









「あれ……もしかして、これって力が一つじゃない……? ってミサカはミサカは分析してみる」

「が、ああァァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

「今学園都市を徘徊してるのはゾンビだけじゃない。変異種とか、色々いる。
今はまだ数はかなり少ないみたいだけど、時間が経つにつれてどんどん増えていくと思う」




「――――――やめろォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」









There is still evil in this place……






(……お、落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け!! 落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け―――ッ!!)





In the darkness lies your fears.


  「―――何だ、よ。こりゃあ」

             「――――――――――――――――――!!!!!!」

    「……見ないでいいの」                 「……警備員が、全滅だと?」

        「どうして……こんなことになっちゃったんですか……?」

                       「大丈夫だ。必ず生きて帰ってくる」

   「このクソ緑が、スクラップにしてやらァ!!」          「―――行きますか」

                (な、んだ、これ……音圧!? 叫び声だけでこんな……っ!!)

「―――ああァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」



The cries of the anguished are heard.


              「この……ッ!! ラリッてんじゃねえぞォォォおおおおおおッ!!」

(どっ、どうする……!? 何がどうなってんだ何だよこれどうすりゃいいんだよッ!?)

                              「……大丈夫、きっと大丈夫ですわ」

    「この右手で……!!」   「みんな……何も悪いことなんてしてないのに……」

  「結局、他に道なんてねぇのか……」     「……クソ、クソクソクソクソ!! なんでだ、なんでなんだ!! やっと終わりだと思ったのに!!」      

            「私が逃げたから―――……その罰、なのかな」

        「う―――ぐ、げ、ぇええええ……っ!!」         「……こんなの、どうすればいいんだろうね」

                   「仕方ないですね。ま、昔の『仕事』だと思ってやりましょう」



They have taken everything from me. Everything……


                 「あいつらに遭ったら殺るか殺られるか、二つに一つよ」

  「オマエも、生き延びたいだろうな……。
   せっかく生まれたんだ……。だが……。それは俺たちも、人間も同じだ……!!」

                          「……どうやら一度殺したくらいじゃ足りなかったみたいだな」

 「……ああ、死んだんだ」        「……頭を弾けばこいつらを殺せる。大事な情報よね」

          「何を躊躇うの!! 私はもうすぐ歩く死体になる!! 今の内に、早く殺すのよッ!!」

「……ごめん、肉の話はしないで。朝から『肉』ばっか見てるんだから吐きそうになる」

      「おーおー、まるで映画みたいなシチュエーション。で、どうするの?」      「はいはい、そういうのいいから」

              「でも、ただ篭っていたって助けなんてこない。生き残るためには自分から動くしかないんだ!!」

     モ   ル   モ   ッ   ト
「脆き人の子から出られぬ者共よ」        「……気に入らねェンだよ、やり方がよォ!!」

     「……っけほ、けほ……っ。ちょっと、一体何なのよ……」         「っあぁー……。やりすぎたかね。酷ぇことになってるわ」

   「……マジかよおい」                「来るよ。ほら、もうすぐそこにいる」

             「悪ィなァ。こォなっちまったらオマエらはもォ終わりだ」

         「―――え?」                    「外の状況を分かっているのか!? わざわざ死にに行くようなものだ!!」

 「あげるわ。幸運のお守りよ」           「―――あァ――大丈、夫だ―――」

     「感染者は? もしいるのならすぐに隔離すべきだと思うけど」     「えへへ……初めて、怒られちゃいましたね」

                 (もう嫌、嫌よ、嫌……ッ!!)     「―――う、あ……」

                            「ッ!? 悲鳴!?」



Into the darkness,all will fall.


 「Fear of death is worse than death itself」

               (―――どうしようもないクズ野郎だと笑えばいいさ)

      「パパとママに会えなくて寂しい?」       「その女は十中八九『感染』している。身内から生きた死体が出るのは避けたいんでな」

    「―――何者だ、テメェ」     (―――俺、は――――――)

                「……聞こえねえのか。やめろと、言っている」           「着火を!!」

        (し、死ぬ、本当に死んじまう!! 本当に、この化け物に―――っ!!)   「守るから」

  「これならどうだよ……っ!!」          「……ぅぅぅぅ、うわぁぁあああああああッ!!!!!!」
              
                      「私の手、温かいでしょ?」              (どうする、どうする、どうする……っ!?)

     「……安心しろ。俺がオマエを確実に、丁寧に、殺してやる。
      二度はねえ。今度こそその呪われた螺旋から解放してやる。だから―――オマエは何も心配しなくていいんだ」

               「……遅いのよ、馬鹿」           「―――……あなた、」

「ま、まだ成長……いや、進化するって言うの!?」      「がはっ……!! ごっ、うぇえええええ……!!」

                    (ああ、いや―――本当に死に切れないんだっけか)                 「当然よ。私は人間だもの」

  「私を殺して」                「ああ―――大丈夫だ。もう一度、俺が殺してやる。何度でも、何度でも。確実に」

          「アンタが生き残るか、私たちが生き残るか……。それが、答え……!!」         「……冗談じゃねえぞ」

       「――――――くは、」              (……さぁて、果たして上手くいくか)

           (この吐き気を催させる嫌な臭い……血の臭い)   (……また、殺すのか)

                            「大丈夫だ。必ず生きて帰ってくる」

「何だ……? ちくしょう、嫌な予感しかしやがらねぇぞ!!」                        「―――できるはずない」
   
       「お、ォォおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」     「――――――――――――おやすみ」

   「……本気で言ってる?」            「な、っによ、こいつ……!?」

                「―――もうやめろ」

                          「死の塊が……。私の前に立つんじゃないッ!!」



The last breath of hope fades away.








「――――――……ゆーびきーりげんまん……」








「――――――うーそついたーら針せんぼーんのーます―――……」








The creatures of fear spread their grasp.














「そいつはもう――――――……死んでるんだッ!!」














Fight your fears and survive.










汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate














Farewell to my life.
Farewell to my home.


















               バイオハザード
―――とある都市の生物災害―――













スレが余っているからということで無駄にレスの嵩んだ予告も終わり
ではこれにて全て完全終了となります
一年以上もの間見ていただいた方、途中から見ていただいた方、本当にありがとうございました!!

スレ立て未定ですが良ければ是非そちらでまたお会いしましょう
あ、先ほども言いましたが構想SS一覧の中で見てみたいなーというのがもしもあれば是非言ってくださいな

乙  一年余に亘って楽しませてもらってありがとう
ここの垣根と美琴と上条さんのトリオ好きだったわ  垣根vs神裂は見てみたかった
バイオクロスおおいに期待してるから早目にスレ立てお願いします あと2、3、9あたりも読んでみたいんでよろしく
   

おつでした~
次回作も楽しみっていうか5人の主人公とメインヒロインわからんわw

個人的には垣根美琴一方上条さん好きだからそれらが活躍するSSならみんな読みたいけど2、3かな
あと佐天禁書は無理ゲーすぎてどう調理するのか興味あるw

乙!長らく楽しませてくれてありがとうございました
ガン掘りたいくらい垣根を愛してるので垣根がいっぱい出るDELL出まくるSSが読みたいです隊長

佐天禁書かな

わがまま言えば魔術サイドメインもの

予告乙  ゾンビに有効な能力と無効な能力がありそうだな  面白い

食蜂禁書っていうか、みさきちが出る前の、心理掌握禁書ならあった気がする
佐天さんで原作3巻の再構成ってのもあったな。未完だけど。最近再構成にはまってるからこの二つは期待
あと俺上琴厨だから2とか9とか楽しみだ
そして次回ssのメインヒロインはフロイラインと予想

美琴「また始まりましたこのコーナー」

一方通行「もォいい加減引っ込めよ」

垣根「本編なんかよりこれ書いてる方が10倍以上楽しいんだってよ。筆が乗って乗って仕方ないらしい」

美琴「それはそれでどうなの? まあこれで正真正銘引っ込むらしいけど」

一方通行「例によってこれを読む必要は全くねェぞ」

垣根「>>685、俺と性人ババァのバトルはエクシリア2クロスでがっっっつりやる予定だ。あともしかしたらまた俺と御坂と上条の三人のSSを書くかもしれねえ」

美琴「ほのぼの短編集みたいになると思うけどね。私と垣根とあいつの三人、もしくは私と垣根が絡んでたら多分そのSSの作者はこの>>1よ」

一方通行「いじめイクない。こォいうとこから亀裂が入っていくンだァ……」イジイジ

垣根「オマエ最近良いトコないもんな、ざまあ。新約6巻では二人がかりで俺に手も足も出ない上に結局勝てなかったのに俺が自滅した途端強気wwしかも総体に説教ww」

美琴「フロイラインから打ち止めを守り損ねるという大失態、そして黒垣根に助けられるという展開。なお恋査には黒翼も白翼もコピーされた模様」

垣根「新約7巻でも恋査だが白い俺にあっさり反射を破られるという。黒翼でも俺一人を仕留めきれず。あれ俺単体だったからな? 新約6巻みたいな増殖状態じゃなかったからな?」

一方通行「俺叩きはやめろよォ……謝るからさァ……。本当イジメないでェ……。同じ超能力者同士仲良くしよォぜ……。俺だってメルヘン野郎に抜かされてショックなンだよォ……」

美琴「何と言う豆腐メンタル。大体仲良く、って……。アンタ私の妹に何したか分かってんの!? ッざけんじゃないわよッ!!」

垣根「御坂御坂、今そういうのいらないから」

美琴「あ、そう? てか一瞬土御門かと思ったわ」

垣根「上げちまったクソッ」

美琴「こんな用済みスレ上げてどうすんのよ」




一方通行「大体バレーボールにゴチャゴチャ言われる筋合いねェンだよォ!!」

垣根「グハァ……!! テメ、人の古傷抉るんじゃねえこのキョンシー野郎が!!」

美琴「かませに定評のある垣根。15巻では高笑いした挙句あっさり潰される。新約6巻では一方通行を圧倒したはいいものの白いカブトムシとかいうわけの分からないものに乗っ取られる」

一方通行「新約7巻では完全にカブトムシに全てを取られる。ヒーローとの共闘とかやられちゃう垣根くン」

美琴「新約8巻では見事にバレーボール。しかも女体化。正確に言えばあれは未元物質で作った人形だけどさ」

垣根「やめて……やめて……。で、でもよ、新約8巻で元人格に近いっぽい俺が出たってことは作者も完全にかつての俺を切り捨てるつもりはないってことだよな?」

一方通行「それは確かに朗報だったなァ。あれがなかったら完全に白になってた可能性も。槍の中から逆襲とかに期待だな」

美琴「今のオティヌスが持ってる主神の槍は自分で作ったものだから垣根は……」

垣根「もうよせェェえええええええええええええええ!!」

美琴「まあ一瞬で『船の墓場』覆った翼とか殺戮の檻とか、何か凄くパワーアップしてるっぽかったけどね。流石無限の可能性」

一方通行「俺ら最近酷ェ目にばっか遭ってンなァ……」

美琴「一方私に隙はなかった」ドヤッ

垣根「たしかにオマエは輝いてるよなあ。神裂と互角の聖人と一進一退の攻防を繰り広げ、聖人には瞬殺されるという幻想を跡形もなくそげぶした」

一方通行「超電磁砲連射で地の底這う悪竜瞬殺したり、新約8巻の『任せて』も良かったしなァ。超電磁砲では絶対能力者の可能性まで出てきて、投票やこのラノなンかでも優勝ときた」

美琴「ごwwwめんwwねwwwwww隙wwwwなくてwwwwごめんねwwww格上のwwwwwwwお二人とww違ってwwwww輝いてwwwごめんねwwwww
wwwwwあwwwwwwwwバレーボールとwwwwww『元』wwww最強さんでしたっけwwwwwwwwごめんねwwwwwwほんとwwwwwwwwwwごめんね?wwwwwwwwww」プギャー

一方通行「うっぜェェェええええええええええええええ!!」

垣根「こいつマジでぶっ殺してえ……ッ!!」イラッ

一方通行「新約1巻では素養格付の限界が仄めかされてるくせによォ……!!」

垣根「でもあれは限界突破フラグにしか見えない現実。それよりも御坂は新約3巻でえらく不吉なフラグが立ってるわけだが」

美琴「……そんなものはなかったわ」

一方通行「は?」

美琴「なかったのよ」

垣根「……うん、そうだな。なかったな」

一方通行「辛い現実から目を背けるのも時には勇気だァ……」

美琴「アンタがそれを言うか。オマエもk」

一方通行「それ以上いけねェ。あれは俺が素直じゃなかっただけで、後々がっつり掘り下げられるに決まってる。うンうン、そォに違いねェ!!」

垣根「辛い現実から目を背けるのも時には勇気だよな……」

美琴「>>687、五人の主人公は予告で大体分かると思ったけど、まあ言っちゃえば原作での四人の主人公+αよ」

垣根「誰がαだ誰が」

一方通行「誰もオマエのことだなンて言ってねェだろォが」

美琴「……あ、でもほら。垣根アンタ愛されてるじゃない。アンタを好きだって人がいるわよ?」

垣根「なに!? どこの嬢ちゃんだ!?」クワッ

一方通行「つ>>688。ケツ穴塞いどいた方がイイぞ」

垣根「愛が重ぇ……愛が重ぇよ……」

一方通行「>>689、魔術サイドはエクシリア2クロスでがっつり出るらしい。悪ィがそれまで全裸に靴下ネクタイ着用で正座しててくれ」

美琴「うわあ……」ドンビキ

垣根「うわあ……」ドンビキ

一方通行「…………」イジイジ

美琴「>>693、幻想殺しが無意味すぎて泣きたいってあの馬鹿が言ってたわ」

垣根「ほんとアイツ途中までただの無能力者と変わんねえよなぁ生物災害じゃ……」

一方通行「はァ? ゾンビだろォが何だろォが全員そげぶだろ? 流石ヒーローだァ!!」

垣根「オマエのその上条信者っぷりは何なの?」

美琴「前にこんなのをどこかで見たことがあるわ」

第一位 上条さんにぞっこんラブ
第二位 上条さんと共闘
第三位 上条さんにそっこんラブ
第四位 上条? 誰そいつ?
第五位 上条さんにぞっこんラブ
第七位 上条さんと共闘

流石むぎのんや!!

垣根「おお……。たしかに麦野スゲェな……」

一方通行「第六位が男であることを願うしかねェな」

美琴「青ピとか本気でやったら潰すわよ?」

一方通行「>>696、ざァーンねンっ!! オマエの考えはてンで的外れなンだよォ!!」

美琴「つーかフロイラインなら生物災害でも絶対生き残ってるでしょ」

垣根「むしろゾンビ共を食ってそうだもんな……」

一方通行「生物災害のメインヒロインは絶対分からねェだろォよ。フロイラインなんて誰でも予想できる答えじゃねェ」

垣根「フロイラインはそう予想できないだろ……結構斜め上の答えだろ……流石童貞は想像力が豊かでいらっしゃる」

一方通行「どっ、どどど童貞ちゃうわ!!」

美琴「予想できないキャラねぇ……モックルカールヴィとかでよろしいか」

一方通行「よろしくねェよ。斬新なンてレベルを遥かに超えた異次元の発想じゃねェか」

垣根「パトリシアとかヴォジャノーイとか縦ロールとかジャーニーとか?」

美琴「アンタのそのマイナーキャラを挙げる滑らかさが怖いわよ。パトリシアくらいじゃないまともなの」

一方通行「フェブリじゃなくてジャーニーな辺りもこいつの異常性を示してやがる」

垣根「カテリナとか切斑芽美とか海原美月とか?」

一方通行「ちょっと黙ってろ」

美琴「多分みんなそのメインヒロイン自体は知ってるはずよ。でもなんて名前かは知らないって人も多いんじゃないかしら」

垣根「存在は知れてるのに名前は知られてないかもしれない、そんな謎キャラを何故メインヒロインにしようとしたのか。それは>>1含め誰にも分からねえ」

一方通行「実はさっき垣根が羅列したキャラの中にある意味でそのメインヒロインに近い奴がいるなァ。良い子のみンなならもォ分かっただろ?」

美琴「普通は分からないって」

垣根「あ、そういや皆の意見を見た結果俺メインのSSは書かれることになったらしい」

一方通行「まァ大体のあらすじは既にできてンだけどな。一つデカイ問題があって、それをクリアできれば書くってよ」

美琴「あとは佐天禁書。これはねぇ……やりたいんだけど、ねえ」

垣根「何も考えてねえよ……どうすんのマジで?」

美琴「佐天さんが魔女狩りの王ごとステイルをバットで殴り飛ばし、神裂の唯閃をバットで防御して殴り飛ばし、ペンデックスの竜王の殺息をホームランする展開になるがよろしいか」

一方通行「だからよろしくねェよ。強すぎだろ佐天さン。何者なンだよ」

垣根「佐天さんは佐天御剣流の使い手だからな。天翔ける苺の閃き。3巻再構成では金属バットで余裕の木原神拳」

一方通行「そンなやられ方絶対に納得できねェわ」

美琴「佐天さん『もういい? この辺りがあなたの幻想の引き際だよ。世界を救ってやるなんて思ってる奴に、この世界は救えない。そんな奴に救われなきゃならないほどあたしたちの世界は弱くなんかない』」

垣根「フィアンマ『……何故、受け止められる。それほどの性能か!? たかがボールを打つだけの道具だろう!! ものを殴るだけの道具だろう!!』」

美琴「フィアンマ『俺様が神の子の奇跡や恩恵を最大限に利用して様々な現象を起こそうとしているのに、この女、お構いなしだ!? 幸運も不幸も関係ない。こいつはそういった曖昧なものを全部自分の足で踏破する力を持っていやがる―――ッ!!』」

垣根「佐天さん『あなたがそんな方法でないと誰一人救えないって思ってるんなら、まずは、その顔面を叩き潰す!!』」

一方通行「なンでオマエらそンなに佐天さン大好きなの? つか22巻まで佐天さンで進ンだの? スゲェよマジで。アックアとか正面から潰したンだろォな。そして佐天さン意外と鬼畜だなオイ。聖なる右に耐えるバットについてはもォ何も言えねェわ」

美琴「そういえば湾内禁書とかフィアンマ禁書とかも考えたらしいわよ」

垣根「湾内禁書とはまた佐天禁書よりもわけが分からねえな。需要がどこにあるかも全く分からねえ」

美琴「フィアンマ禁書はまじめに考えた結果20レスもあれば完結しそうだから断念したって」

一方通行「聖なる右ェ……」

垣根「あと考えたのは禁書のベリーハード版。イージー版ってのはあったからそのパクr……逆バージョン」

一方通行「ベリーハードって具体的にはどンな感じなンだ?」

美琴「最初のステイル&神裂コンビがフィアンマ&オッレルスコンビ。勿論フィアンマは『神上』仕様となっております」

一方通行「バァーカ、オマッ、オマエ、バァーカ!! そンなンがずっと続くのか!? アレイスターかエイワスじゃねェと無理じゃねェか!!」

垣根「最初のコンビはそのアレイスター&エイワスコンビでもいいかもな」

一方通行「カカロットとベジータコンビ呼ンでこい」

垣根「御坂とアリサの百合が良いという声もあがってるが……」

美琴「私はノンケよふざけんな」

一方通行「>>1の好みでもある」

美琴「だから私を黒子と一緒にすんな!!」

垣根「『あ、あれ?』 その時、美琴は胸に何かがつかえたようなすっきりしない感覚に見舞われた。
たとえるなら魚の骨が喉に引っかかったような、しかしそこに息苦しさはない。不思議に胸を締め付ける悲しいような何かに美琴は戸惑いを隠せなかった。
それが表情に表れてしまっていたのだろう、アリサが美琴の白い手をぎゅっと握って不安そうな顔でこちらを覗き込んで来る。
『大丈夫? 美琴ちゃん。寒い? ごめんね、こんなことに付き合わせちゃって……』
『あ、ううん。大丈夫だから心配しないでいいわよ? それじゃ、次どこ行く?』
馬鹿だ、と美琴は一人思う。こんな良い子の笑顔を他ならぬ自分が暗ませてどうするというのだ。
全身を撫でる寒風に白い息、防寒着を纏っていてもその下の皮膚は寒さに震えている。
そんな中で、唯一アリサの可愛らしい手と触れている自身の手だけが温かい。
それは単なる体温だけの話ではない。もっと違う、美琴を温かくする不思議な何かが伝わっていた。
このままではおかしくなる。直感的にそう悟った美琴は咄嗟にアリサの手を振りほどいてしまった。それが失敗だった。
『……あ』
『あっ……い、いや、違うのよ……そうじゃなくて、』
必死に言い訳しようとするも何も言葉が出てこない。当然だ。何故アリサの手を振りほどいたのか、自分でも分かっていないのだから。
『その、美琴ちゃんは……嫌、だった?』
ショックを受けたようなアリサの表情にドキッとした。
隠しているつもりなのだろうが丸分かりだ。美琴に拒絶されたと思っている顔だ。
美琴は何故か高鳴る鼓動に困惑しながらも、そっと唇を動かす。
『ねえアリサ―――』―――がァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」



         トv'Z -‐z__ノ!_

        . ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
      ,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
    rュ. .:{_ '' ヾ 、_カ-‐'¨ ̄フヽ`'|:::  ,.、
    、  ,ェr<`iァ'^´ 〃 lヽ   ミ ∧!::: .´
      ゞ'-''ス. ゛=、、、、 " _/ノf::::  ~
    r_;.   ::Y ''/_, ゝァナ=ニ、 メノ::: ` ;.
       _  ::\,!ィ'TV =ー-、_メ::::  r、
       ゙ ::,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ:::  ._´
       ;.   :ゞLレ':: \ `ー’,ィァト.::  ,.
       ~ ,.  ,:ュ. `ヽニj/l |/::
          _  .. ,、 :l !レ'::: ,. "
              `’ `´   ~

一方通行「し、死ンでる……」

美琴「死すべきして死んだ存在だったのよ」

一方通行(筋金入りの百合厨だったのか垣根ェ……)

美琴「さあ、汚物を消毒したところで次に行きましょ」

一方通行「まァ墓くらい作ってやるかァ……」

垣根「―――貴様らの墓をか?」

一方通行「不死身かよマジでオマエ……」

垣根「さ、流石の俺も今のは死ぬかと思った……。この垣根様が死にかけたんだぞ!!」

美琴「ていうか死んでたでしょ」

垣根「貴様らを許すと思うか? 一匹たりとも生かしては帰さんぞ!!」

一方通行「おゥッ!?」グーン

垣根「ダメージは食らっても貴様らを片付けるくらいわけないぞ!!」

一方通行「オリジナルゥゥーッ!!」

美琴「知らね」

垣根「そこは乗れよ」

一方通行「……っつかもォいい加減終わろォぜ。いつまで続ける気なンだ」

美琴「そうね、終わりにしましょうか」

垣根「では以後HTML化されるまで生物災害のヒロイン予想なり構想中SS一覧から見たいもの挙げるなり一覧になくてもこんな話読みたいな~(チラッ)ってのをひたすらに挙げて>>1にネタ提供するスレ」

一方通行「一覧にあるのなら意見が多けりゃ書くかもしれねェ。一覧になくてもこんな話を読みたいってのを挙げてもらって、面白そうで実現できそうだと思ったら書くかもしれねェ」

美琴「皆にネタをもらって>>1が書く。感動の連携プレーね」

垣根「要するに自分で考えられねえだけだろ」

美琴「元気玉と同じ理屈よ。皆で協力するのよ!!」

一方通行「元気玉安っぽくなっちまったなァ……」

垣根「やっぱりこれが一番書いてて楽しいという何とも言えない結果になったから、やっぱりいつか俺と御坂と上条のほのぼのみたいな短編集を書くと思う」

一方通行「そォだな、俺とオリジナルとヒーローのほのぼの短編集な」

美琴「それはない」

一方通行「ちょっとロープ買ってくる」

美琴「行ってらっしゃい」

垣根「逝ってこい」

艦娘のサルガッソー

帝督「よくもみんなをォォ!!くらえ殺戮の檻!!!!!これがLAIGNT WINGだッ!」

オティヌス「はい御愁傷様DEATH?☆刹那で殺しちゃった☆まあいいかこんな帝督☆」

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