ほむら「ジョーカー様呪い、という都市伝説」(543)


「魔法少女まどか×マギカ」×「ペルソナ2」

のクロスSSです。

・書き溜めてますが、見直ししながらなので
投下の間隔が長くなります。ご容赦ください。

・「まどマギ」はテレビ版および映画版完結後、
改変後の世界です。公式情報があまりないため
多分に自己解釈が多くありますが、
人間関係等の設定の根拠は改変前に準拠しています。

・「ペルソナ2」側はギミックが中心で、
出てくるキャラもそう多くありません。
主に、まどマギのキャラが出演します。
ですが、これはペルソナ2に合わせて
『二部作』の予定です。
そちらで出るキャラがいるかもしれません。

「ペルソナ2」がどちらかはおいおいお楽しみいただければ、
と思います。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1360403969


―――なんで? なんでなの?―――


―――どうかした?―――


―――みらいがみえないの、みえなくなったの―――


―――え? なんで?―――


―――わからないの。もやがかかって、まっくらになってて―――


―――おちつきなって、だいじょうぶ、あわてないで―――


―――こわい、こわいよ―――


―――だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。あたしがついてるから―――



―――始まってしまったか―――


―――あの時と同じように―――


―――人の可能性を、試すつもりなのか―――


―――それとも、本当に―――


―――あたしが、なんとか、しなくちゃ―――

―――おんがえし、するんだ―――


美樹さやかが消滅してから数日たった。
魔獣との戦いの果て、愛した少年を残し彼女は導かれた。
「円環の理」に。

それでもなお、魔法少女には立ち止まることは許されなかった。
弓を、銃を使い、今夜も魔獣を撃破していた。
今夜もまた、そんな非日常が日常だった。

「暁美さん、無事ね」

「そちらも、問題ないようね」

互いに傷一つない状態を確認する。魔法少女の衣装に乱れたところは
なく、戦塵のまみれた様子もない。

さやかを失ったショックからか、佐倉杏子は二人の前に
姿を見せなかった。心配する巴マミに代わり、一度QBが昨夜
様子を見に接触を図ったが、にべもなく追い払われたらしい。

「一応食事はとっているし、個体数は少ないが
風見野の魔獣は倒してる。
ソウルジェムの管理もやっていたから、今しばらくは大丈夫だろうね」

「顔を合わせづらいのかもしれないわね」

巴マミは嘆息する。お姉さん気質の彼女は後輩であり弟子のことを
心底心配していた。そこに裏表などあるはずもない。
純粋に心配をしているのだ


「……まどか……」

そのほむらのつぶやきは、マミに聞こえただろうか。

一応の情報交換もできたし、魔獣の撃退も今夜は一区切りついた。
まだ四月、夜の帳に体も冷える。魔法少女とて、寒さは感じる。
それは、人と変わらない。例え、魂を石に替えたとしても。
背後に広がる夜景は、人々の営みの集まり。
それを、彼女たちは守っていた。

「今夜はこれまでにしましょう。貴女も、あまり思いつめないでね」

「ええ、大丈夫よ。おやすみなさい。巴マミ」

(相変わらずフルネームで呼ぶのね)

お互い魔法少女の変身を解いて、家路についた。QBは何も言わず
暁美ほむらの肩に乗るとそのままついていった。
その様子にマミは脳裏によぎる何かを見たが、すぐに消えた。
そのため、気にするでもなく帰宅していった。


翌日、ほむらは時間通り起床し、制服に着替え登校する。
かつて、まどかと過ごした記憶のある、見滝原中学校に。

魔法少女とはいえ、彼女らは中学生だ。日中は世間体もありちゃんと
通学している。していないのは杏子くらいなものだ。
そんな学校生活をそつなくこなすほむらやマミは、周囲からは
優等生めいて評価されていた。しかし、マミはそれなりに学友がいる
のにたいし、ほむらはやや周囲から離れたところにいた。

「ごめん、暁美さん。さやかのこと、何か知らないかな」

放課後、帰宅の準備をする生徒で賑わう教室。そのなかで、
上条恭介に声を掛けられるほむら。その隣には志筑仁美もいた。
二人ともあまり顔色がよくない。親友と幼馴染の失踪に
心を痛めているようだった。
友人の少ないほむらに話しかけるほど、二人は逼迫しているのかも
しれない。

「ごめんなさい。私も、どこにいったかわからないの」

「そう、ですか。申し訳ありません…何度も」

心底申し訳なさそうな顔の仁美。その表情は暗い。
自分の告白が、彼女の失踪の原因ではないかと気に病んでいるから
だろう。


昨日は仁美に、今日は上条に同じことをほむらは聞かれた。藁に
もすがる思い、なのだろう。特に上条はいつも隣にいた幼馴染の
失踪に喪失感を感じていた。
それまで上条を思い慕っていた仁美の告白を拒むほどに。

ほむらが気に病む性質のものではないはずだが、しくしくと心が
締め付けられる。

「何か思い出したり、見かけたりしたら教えてほしい」

「ええ、わかったわ。何かわかったら知らせるわね」

そういって、二人はほむらに携帯番号とアドレスのメモを手渡した。
皮肉にもこれは「前の世界」では受け取ることがなかったものだった。
受け取り指で弄びながらこれを使うことはないだろうな、
とぼんやり思った。

ほむらの視線はその上条の手に集中する。

切羽詰まった二人の表情。さやかの願いは、この上条の
バイオリニストとしての復帰だった。事故で動かなくなったその
左手は、さやかの祈りにより元通りになっていた。

それは、さやかがかつていたことを示す、数少ない証。


校門のそばで、マミが待っていた。胸の前で小さく手を振り微笑むと
合流する。本来ならここに杏子も待っていて、魔法少女絡みのことが
あればこうやって落ち合うことにしていた。
だが、基本的には各々単独行動である。一人では対処しきれない
ほどの魔獣が発生するようなことがない限り、
過度に干渉しないことがお互いのルールだった。

「今夜、一緒にパトロール、どうかしら?」

マミがそんなことを提案する。不安からか、寂しさからなのか
はわからない。とにかくほむらにそんなお願いをする。
だが、ほむらにそれを受け入れる度量も余裕もない。
彼女の根は、あの眼鏡をかけた気弱な少女だからだ。

「いいえ、悪いけれど遠慮するわ」

取りつく島もなく言う。
断られたマミはしょげ返る。だが、ただそこで引き下がる
彼女ではない、執拗に食いつく。その姿は少しいつもと違う
逼迫した何かを漂わせていた。

「美樹さんみたいに、貴女が消えてしまわないか、不安なのよ」

「杏子の心配をするべきだわ。私は心配いらない」

ほむらの返事は、にべもない。


確かに、マミからすればほむらの魔法少女の素質は高い。またどこで
身に着けたのか凄まじい戦闘技術の高さも備わっている。彼女が
魔獣の二十や三十に後れを取るとは思えなかった。

あの夜も、さやかの(理由があったにせよ)単独行動が原因で多数の
魔獣に取り囲まれたため全員での対処が遅れた。
だがあそこにいたのがほむらであれば、
十分に皆の到着は間に合っただろう。

マミの心に闇を落としているのは、後悔。零した魂への悔恨。

「そう……」

「でも、心配してくれて、ありがとう」

ほむらは、微笑こそ浮かべないものの、声色を柔らかくして応じる。

ぶっきらぼうにいうほむらの礼に、マミは一瞬驚く。そして輝く
そこに光明を感じたのか、拒否されてもなお食い下がろうとした時、
まったく別方向から声を掛けられた。

「あのーごめんなさい。ちょっとお話聞いていいかしら」

会話が決裂しかけた二人に、一人の女性が声をかけた。
彼女たちが今まであったことのない、大人の女性だった。


彼女は天野舞耶と名乗った。女性ティーン向け雑誌の編集記者らしい。
二人に名刺を渡し、取材を申し込んでいるつもりなのだろう。
健康的で、爽やかな印象を受ける笑顔だ。

「わお、二人とも可愛いわね。カメラマン連れてくればよかった」

「あの、何か御用ですか?」

人との接触が苦手なほむらの代わり、人当たりのいいマミが応じる。
とはいえほむらも名刺を渡された手前、それを捨てるような礼儀知らず
ではない。
話の腰を折られたことへの不快感を露ほどにも見せなかった。見事と
言えた。

「実はね、今女子学生の間で広まっている噂について取材しているの」

「噂?」

もうほむらは踵を返そうとしている。マミが対応するからと構わない
だろうという姿勢のようだ。それにほむら自身がその手の雑誌に
疎いこともあり、興味をそそられなかった。

「ええ、えっとね。手帳手帳……」

鞄から手帳を取り出して、メモしたことを読み上げる。女子学生が
気に入りそうなくだらない噂だろうと、高をくくっていたときだった。


「ああ、あったあった。【白い猫が契約を迫る】ってやつね」

二人の表情が変わる。だが自分で書いたはずのメモが読みづらいのか
眉をひそめて読み上げているため、その変化に舞耶は気付いていない。
細かい字で書いたのか、はたまたインクがにじんだのか
難しそうな目で読み上げている。

「【何でも願いを叶えてあげるから、魔法少女になって戦ってくれ】
って言う話ね」

ほむらとマミが顔を見合わせる。その内容に訝しがっている。
先を促すよう舞耶の顔を見るが、それに気づかず読み上げるだけだ。

「後はね【ジョーカー様】ってやつね。
【自分の携帯から自分の携帯にかけるとジョーカー様が現れて、
何でも願いを叶えてくれる】っていうの」

舞耶はこの二つが気になったらしい。『何でも願いが叶う』という
共通点に興味をそそられたとのことだった。

「不思議でしょ。同じ時期に、似たような噂が立つなんて。
何か知らない?」

噂が真実か否かはともかくとして、何かあるのではないかという
淡い期待を込めて、こうして聞き込みをしているとのことだった。

誰も読まないような小さな記事の取材。だがそれを口実に
不思議な話が聞けるかもしれないと思ったらしい。
そのため取材をしていると舞耶は言う。以外に図太いらしい。

「片方は日曜朝のアニメみたいな話、一方はお呪いのようなやり方。
ひょっとしたら何か接点があると思ってねー」

にこにこ笑いながら話す舞耶。二人の表情の変化に気付きもしない。
持論を展開しちょっと調子に乗っていた。

二人は、実際自分たちが魔法少女だということを話はしない。
当然だ。信じてもらえるはずがない。
またそれに【ジョーカー様】のほうも初耳だった。魔獣退治に
勤しむあまり、そういった噂に疎いのは否めなかった。
つまり、話せることが何もない、ということだった。

ほむらはともかく、マミですら聞いたことがない。学友との見えない
壁が、見えた気がした。

「そうですか……、でも私、聞いたことがないです」

「あらら、そうなの? 残念ねー」

さして落胆していなさそうな態度。もう、そういう空振りは慣れっこ
なのだろう。さして気にせず笑っていた。


「じゃあさ、君たち読者モデルとか興味ない? 二人ならきっと表紙
飾れるくらいの人気者になれるぞっ。
興味あったらそこに連絡してね。ああ、噂のほうもよっろしくぅ!」

切り替えの早い台詞に、二人は呆気にとられ、口を半開きにする。
その表情は魔法少女からは程遠い、中学生の様相だった。

舞耶は朗らかにいうと、二人に興味をなくしたのか次の『獲物』を
見つけようとした。きょろきょろとあたりを見渡して、足早に移動を
していった
その背中を見送りながら、二人は顔を見合わせる。

「……QBに確認を取りましょうか」

「噂になるほど大々的に勧誘しているのかしら、あの子」

舞耶が手渡した名刺を見つめながらそんなことをつぶやいた。
そこにはマミも知っていて、立ち読みくらいはしたことのある
雑誌の名前が印刷されていた。

予期せぬ情報に、二人はともに行動を開始した。とりあえず
ほむらの部屋にいるはずのQBに話を聞くために。


筆者でございます。

はじめましてとこんにちは。

アトラス信者のまどマギ豚でございます。

前作をご存知の方もいらっしゃるかと思いまして
浅はかとは思いましたが、酉を同じくしました。
またお付き合いくださると幸いです。


感想等お待ちしております。
今夜の投稿はここまでですが、
時間の許す限りお返事いたします。

よろしくお願いいたします。

新作乙でした。
前スレから楽しみにお待ちしておりました。
続きを楽しみにお待ちしています。

完結させたことがある人のssはありがたい
今作はまどほむありますか?


筆者です。

>>16
しばらくでございます。
ご期待にお答えできるかわかりませんが
精いっぱい頑張ります。
「そうくるかぁ!」と言わせたいです。

>>17
改変後ですからね。どうでしょうか。
目標は高く持ちますが、
時間がかかってでも完結させますよ。
それはお約束します。

作品の品質も高くしますけれど。


これから順次投稿予定です。
お付き合いお願いいたします。

一部で「ネミッサの人」という肩書をもらい
ちょっと上機嫌の筆者でした。


「噂に詳しいわけじゃないからわからないね」

ほむらから譲ってもらった座布団に寝ていたQBを叩き起こして話を
聞いたところ、役に立たない返事だけ返ってきた。
寝起きで不機嫌だからではなく、単純に知らないということだ。
このあたりQBは嘘をついたりはしないので便利だ。だが一方で
聞かれない限り答えないという嫌な性質も持っているが。

「だいたい、僕が人間の噂を知ってるわけないじゃないか」

実際、個体同士が一個の生命体のように振る舞い情報を共有している
QBたちは、噂という伝聞系の情報のやり取りなどしたことがない。
伝播も遅く、内容も変わってしまうような不確かな情報交換方法に
興味はなかった。

いっそわかりやすい態度にほむらは嘆息する。

「役に立たない居候ね」

「いつも思うんだけれど、君は僕への当たりが厳しいね」

わざわざ別個体たちにも確認を取ったのに、と不満らしきものを
述べるQBに、もはやほむらは興味をなくしていた。


「マミ、せっかくだし、今夜はパトロールしましょうか」

ほむらがいう。口外に一緒にというニュアンスが含まれている。
マミの表情が明るくなる。

「ええ、よろしくね。暁美さん」

「そのほうがいい。ベテラン二人が戦えば、事故も少ないだろう」

「役立たずは杏子の様子でも確認していらっしゃい」

「本当に君は僕への当たりがきついね。
……わかったよ、行ってくる。きゅっぷい」

ほむらが開けた窓からしぶしぶという調子で飛び降り、姿を消した。

「時間まで少し宿題をやっておくわ。巴マミ、貴女はいいの?」

「ええ、支度をしてくるわね。一時間後、ここに戻ればいい?」

「構わないわ。それまで宿題を終わらせておくから」

そんな、他愛もない一日。魔獣退治という非日常すら日常の
魔法少女の生活。

それが、ずっと続くと思っていた。自分がまどかに導かれるまで。
それまでは、あの子が守りたかった世界を私が守る。
ほむらは、決意をしていたのだから。


翌日も何もない日常だった。日に日に顔色が悪くなる上条と仁美に、
一抹のうしろめたさを感じないわけではないが、ほむらには真実を
伝える勇気はなかった。そう、その勇気がなかった。
あの時も、真実を伝えても、信じてもらえなかった。
魔法少女が魔女になるといくら叫んでも、信じてもらえなかった。

それに伝えてどうなるというのだろう。上条に言うのか。

『さやかは手を治すために魔法少女になって、
戦いで力尽き消滅しました』

そうまでして、わざわざ追い詰める必要があるのだろうか。
知らなければ知らないでいい……。魔法少女にかかわらないなら
それに越したことはないのだから。
そうでなければまどかのような運命になってしまうのだから。

だが、そのうしろめたさが、ほむらに言わなくてもいいことを
言わせてしまった。それは、彼女も魔法少女という生活に、
それなりに疲れていたからかもしれない。

「ねえ、貴方たち。少しいいかしら」

落ち込んでいる二人に声をかける。力なく顔を上げると、
ぼんやりとした目で、ほむらを見返す。


「美樹さやかのことで力になれるとは限らないのだけど
聞いてもらっていいかしら?」

気まぐれに、本当に気休めのつもりで昨日舞耶から聞いた
『ジョーカー様』のことを二人に告げてみた。
噂としてそういうものがあると。情報源はぼかしてみたが。

「くだらない都市伝説だと思うわ。けれど、それでひょっこり
戻ってくれば……いいんじゃないかしら」

家出をした猫が無事戻るというお呪いがある。
百人一首の在原行平の歌を書き、飼い猫の餌皿の下に敷いておくと
無事にその猫が帰ってくる、というものだ。
蛇足だが筆者も実家で行ったことがある。そうすると必ず帰ってきた。
しかし何より『ここまでやったんだから、あとは信じて待とう』
という気になり家族は皆、心の平安を取り戻せた。

同じような効果をほむらも狙ったのだろう。落ち込んでいる姿を
見るに見かねてのおせっかいだった。誰に影響されたのだろうか。
それを聞き、半信半疑ながら二人は頷いた。

「ああ、ありがとう暁美さん……」


ほむらの提案を聞いた二人は、僅かに目に光を戻した。
彼女に気遣いが嬉しかったのか、ほんの少し、笑うことができた。

その日の放課後、習い事を遅らせてでも、上条と仁美は
それを行おうとした。あまり人に見られてもよろしくないので
放課後、人気のない学校の屋上で行う予定だった。
ほむらの気遣いが嬉しかったし、切羽詰まってもいたからだろう。

”試してみるのね”

”ええ。だから今日は少し遅れるわ。
パトロールは一人で行って頂戴”

魔法少女特有のテレパシーで、授業中にやり取りをする。
昨日の時点では今日も合同でパトロールを行う話だったが、ほむらは
それを理由にキャンセルをしようとした。正直に言えば、ほむらは
一人での魔獣退治を好む。そのため相手が誰であろうと共同戦線を張る
ことが苦手だった。マミの人柄や実力を疑う余地はない。むしろその
慈愛は愛すべきものと思っていた。
単純に、ほむらが人づきあいが下手なだけだ。

まどか以外には。


”差支えなければだけど、私も見に行っていいかしら”

”構わないけれど、二人はどう思うかしら”

”直に聞いてみるわ。恥ずかしがるようなら退散するから。
もし帰り時間が合うようなら、ね”

”ええ、放課後は二人でパトロールしましょう”

マミはほむらが受け入れてくれたことが嬉しかったのか、テレパシー
でもそれが伝わってきた。ほむらのほうは、さして感慨はないのだが。
時間が合うなら断るほどの理由はない。一人の時よりはるかに安全で
早く終わるのだから。

まどかが守った世界を少しでも長く守るためには、より安全に
魔獣を倒すほうがいいに決まっていた。
そんな心境の変化も、疲れが原因だったのだろうか。


放課後の屋上で、それは行われることになった。上条と仁美の
許しを得て、マミも同席することになった。マミもまたさやかの
友人ということを知って、二人は喜んでいた。

「こんなに皆に心配させているのに……」

上条はそうこぼした。その顔に魔法少女二人は心が痛む。

自分の携帯電話にその携帯から番号をかける。たったそれだけの
こと。普通なら通話中になってしまうはずだが、呼び出し音が鳴り、
通話できるようになると、その背後に【ジョーカー様】が
現れるという。

「それじゃやりますね」

実際には上条の携帯で行う。幼馴染として一番思いが強いからという
理由だ。
当然登録してはいないので、一度自分の番号を書き出し、
それを手で打ち込んでから発信ボタンを押すというのが手間だ。

緊張の面持ちで、待つ上条。その目は真剣そのものだ。


プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ……

プルルルルルルルルルルル、プルルルルルルルルルルル……

「か、かかった!」

その声に全員が息をのむ。今のただの冗談だと思っていたからだ。
だが実際に噂通りに事が進み、そして……。

カチャッ

耳を離し、慌てて携帯の画面を見る上条。自分の携帯番号にの上に、
通話の文字が表示される。

「つ、繋がりました!」

驚く上条が後ろを振り返る。皆も視線を上条から背後に移す。

そこに立っていたのは……まさに……【怪人】だった。
異形の人物が、そこに立っていたのだった。

非日常の日常が、そこから砕け散る。


筆者です。

今夜の投稿はここまでといたします。
少々短いですがお許しください。

我乍らテンポが遅いなと思いますが
お許しください。
諸事情から投稿も前回ほど多くないかと思います。
それでもお付き合いいただけるようでしたら
お付き合いくださいませ。

それでは、感想、質問等お待ちしております。

汝が後ろに乙


筆者です。

>>28
乙感謝です。

これから投稿いたします。
時間はかかりますがお付き合いください。


全身は闇のような黒のマントと、刺し色に焼けた鉄のような赤。
顔には紙袋を被っている。マントの下は体に合わせた
スーツのような服がちらちら見える。これも黒と赤。
紙袋には、落書きの様に吊り上った口が漫画めいて描かれている。
片目だけ視界を取るようにあけられている以外、表情はまったく
わからない。

「ジョー……カー……さま? なのか」

非現実的な存在が現れたことに混乱する一同。願いを言おうとした
片目では視線がわからない。にもかかわらず、誰を睨んでいるか、
それだけははっきりとわかった。その異様な視線に、一同は飲まれる。

「さっ、さやかに……」

上条は面食らいながらも、願いを言おうとした。だがそれを
当の怪人が遮る。禍々しい口調で、怒鳴りつけたのだ。


『貴様の願いなど叶わぬと知るがいい!
貴様は魔獣との戦いの果てに消滅するのが定めだ!
貴様が生きる限り、俺は貴様を滅ぼしてやる!
それが貴様の犯した罪に対する罰だ!』


上条の言葉をさえぎり、怒りに満ちた声を上げる。
キーの高い声ではあったが、それゆえ性別ははっきりしない。

「なっ、なんなの!? 貴方は誰!?」

『貴様をこれから無数の魔獣が襲う!
汚らわしい獣どもに襲われ死ぬ寸前に
自らの罪により、消滅するがいい!』

そういうと、ほむら目がけて一輪の花を投げつける。それはちょうど
彼女の胸に当たり、足元に落ちる。

それに気を取られたのだろう、一拍遅れて飛び掛かる怪人にほむらは
捕らわれる。他の誰もが対応できないほどの俊敏さだった。
魔法少女であっても、変身しなければ目で追えないほどの素早さだ。
片腕でほむらの首をつかむと絞殺さんばかりに締め上げる。
マントから延びる細腕のどこにその力があるのだろう。頭の上まで
高く持ち上げた。
呼吸ができないほむらは空中で怪人を蹴り飛ばす。
だが、びくともしないまま、ぎりぎりと締め付けた。


「かっ、かはっ」

ほむらの顔が紫色になる。
慌てて上条が持っていた松葉杖で怪人を殴りつける。フルスイングで
叩き込むものの、微動だにしない。仁美もほむらを助けるべく怪人の腕を
引っ張るが効果はない。

その中でマミが体全体を使って体当たりをする。二人の前で変身し戦う
わけにもいかない、だがこの状態でも魔力で体を強化できる。怪人も
予想外の動きにバランスを崩し三人とも倒れ込む。いち早く立ち上がる
マミは、ほむらを助け起こす。

「暁美さん、大丈夫!?」

せき込む後輩を抱きかかえると、怪人から距離を取ろうとした。
屋上から避難しようと二人にも声をかける。だが、上条は足が不自由な
うえに殴りつけた松葉杖は離れたところに落ちている。また、仁美も
慄いているためか身動きが取れない。


だが、上条は意外な行動に出た。怪人にしがみつくと大声で叫んだ。

「先輩! 暁美さんと逃げて!」

『邪魔だ! 離せっっ!』

狙われているのがほむらだと直感したのだろう。身を挺して足止めを
するつもりなのだ。怪人の腰にしがみつき離そうとしない。それに
奮い立った仁美も、松葉杖を拾い上げ、弱弱しいながらも怪人に
叩きつける。
予想外の攻撃だったのか、怪人の動きが鈍る。その隙にマミは
ほむらを担ぎ離れようとする。だが二人の身を案じるあまり
板挟みになったためその躊躇いが見えた。

その躊躇いを見て、嘲りを示す怪人。

『ふん。情けなくも逃げだすか。いいだろう。
だが、貴様は自分の罪からは逃げられんぞ!』

怪人は力任せに二人を引きはがすと、一足飛びにマミたちに肉薄する。

『今は滅ぼしはしない。だが、魔獣は貴様を狙い続ける……
苦しみぬいて滅ぶがいい!』

そう宣告し、次々に魔法少女二人を殴りつけ、吹き飛ぶ姿を見下す。
次いでフェンスを軽々と飛び越え、屋上から姿を消した。


全員が体を起こした時には怪人の姿は消えていた。
その怪人がいた痕跡すら見当たらない。
いや、唯一あるものは、花。怪人がほむらに投げつけた花だ。

「暁美さん、大丈夫ですか?」

喉をおさえながら立ち上がるほむらに皆が駆け寄る。
大きな怪我をしたわけではない。ほむらがその中では明確な攻撃を
受けた形だ。ショックを心配する仁美の顔は暗い。

「え、ええ。心配かけたわね」

喉にくっきりと指のあとが残るほど締め付けられ、皆の顔が青ざめる。
怪人の悪意というか殺意というものが色濃く残っていた。
中学生が初めて向けられた殺意。皆一様にその恐怖に飲まれていた。
マミはほむらをベンチに座らせる。蒼白の顔が痛々しい。


「暁美さん、すこし休みましょう」

「巴先輩、暁美さんをお願いします。私は、上条さんを」

強引にふり払われただけで、大きな外傷のない二人ではあったが、
この事態に心が弱っていた。それゆえ、ほむらを心配しても
何もすることができなかった。仁美は、上条を心配するので
精いっぱいだった。

「少し休ませたら、私たちも帰ります。……お大事に」

マミは二人にどういっていいかわからず、そんな言い回しで濁す。
上条は仁美に支えられ、傷だらけになった松葉杖と共に、歩き出した。
途中二人ともほむらを心配そうに振り返るがかける言葉を
みつけられないまま、そこを後にした。
それを見送り、マミは花を拾う。

「この花……、なんというのかしら。花言葉……?」

理由のわからない攻撃。そして向けられた殺意。そのヒントとして
投げつけられた花。おそらくは花言葉がそれにあたるのだろう。

「洒落ているのかしら、それとも……嘲っているの?」


筆者です。

相変わらず短いですが、今夜はここまでにいたします。
テンポ悪いなぁ、我乍ら。

ああ、あと、>>28さんナイスな乙ありがとうございます。

何しろ、上条は例の台詞言ってないんですよね。
ミスと思われたくないので、補てんしておきます。


また、ご感想等、お待ちしております。

でも、テンポ悪いせいか、食いつきよくないなぁ。
頑張ります。

電波乙

あかりちゃんは出ますか?


そういやこんな感じの始まりだったっけ
ペルソナ2思い出しながら読んでる

このジョーカー様は誰なのか
期待して待ってます

乙であります。

OPのセリフはペルソナ側かまどマギ側かどっちかな?
続きに期待です。
ペルソナ2はニコニコや雑誌記事で流れを知ってるくらいなので、
新鮮な気持ちで読ませてもらいます。


と、言うかネミッサの人って言ったの……俺じゃねーか(笑)
お気に召したなら幸いです。


筆者です。

>>37
『電話電話電話電話電話~俺は電波専門だ。
電話には出られねえぞ!』
ってのがツボだった。中尾隆聖さんだったはず
あかりも契約できたら、イシュキックになって
マミちゃんと組むのでしょう。ノリノリで。
できれば出したいのですけど。


>>38
自分もうろ覚えというか、不確かなところが多いのです。
ただペルソナ2をなぞると大変なことになるので
省略するところは多いと思います。
まさか神託全部やることも、ねえ。


>>39
皆さんなら、もうある程度察してるのでは?
ほかのSSで、謎のようなやり方って
あまりないような気がします。
ジョーカーが誰なのか、推測しちゃってください。
当てられても変えませんから、ご心配なく。


>>40
おお、誘導に来てくださって感謝です。
ストーリーはそこまでなぞるわけでは
ありませんので深く考えず
お付き合いください。

もう、むちゃ気に入りました。
ネミッサの名前使ってる人ほかにいないし、ナイス人選です。
まどマギ談義スレで
「マミちゃんて(常に)呼ぶのは『ネミッサの人』しか知らん」
って書き込みも見つけたことがあったので、それで通してます。
どちらが先かはわかりませんが。



ぶっちゃけ、今悩んでます。
【槍】と【刀】のどっちだそうか、って。
……どっちがいいですか?

当然【槍】ならあの人出すんですけどね。
出しますよ? 当たり前じゃないですか。


筆者です。

ストーリーで躓いていますので
テンポ遅くて済みません。

これからしばしゆるゆると投稿します。

それではお付き合いください。


魔力で首の跡を消し、家路につくほむら。マミは心配して同行を
願い出たが、ほむらはそれを丁重に断った。
それでもなお、家の近くまでマミはついてくる。ほむらは苛立つことも
しなければ、怒ることもしない。ずいぶん淡々としていた。

「油断していなければ大丈夫」

「……気を付けてね」

頑ななほむらにマミは何も言えなかった。だがあの怪人が再びほむらを
襲うかもしれない。一応の備えとしてQBに声をかけることにした。
さやかを失った悲しみは、マミにもある。ほむらがそうならないとは
限らない。
ほむらには内緒で、と家の外からテレパシーで呼び出した。

ほむらの家から少し離れた公園で、二人話し合う。この隙にほむらが
狙われる可能性もあったが、まず現状の把握と連絡が必要だったため
それを優先させた形だ。


「怪人ジョーカー。僕のほうでも調べてみるよ。
噂を聞いているほかの魔法少女もいるかもしれないしね」

「お願いするわね」

「それと、マミが持ってる花はどうしたんだい?」

「ええ、その怪人が暁美さんに投げつけたの。
たぶん、何らかの意味や意図があると思って」

「クロッカスの花だね。花の時期は今頃終わりの時期だから珍しいね」

マミは驚いた。だが、知識として知っていることはあるだろうと
思いなおす。近くの花屋さんに聞こうかと思っていた手間が省けた
形だ。

「こういうの、花言葉が解決のヒントになったりするのだけど」

「? そういう例が今までにあったのかい?」

マミがいうのは物語、創作世界の話だ。だがQBのほうは案の定、
実際の話と誤解した。こういったあたり、QBは融通が利かないと
いうか、女の子と会話がかみ合わない部分でもある。
もっとも、現実と創作世界を混同させているのはマミのほうだが。

「花弁の色にもよるけれど、花言葉は『信頼』、『青春の喜び』、
『私を信じて』、『切望』……」

意外に前向きな言葉が並ぶ。花言葉の線は間違いだったろうか。

「……『愛したことを後悔する』」


ギリシャ神話に登場する青年クロッカスは、羊飼いの娘、スミラックス
と恋に落ちた。婚約まで望んだ二人ではあったが、それを神々に
反対されてしまう。それに絶望したクロッカスは嘆きのあまり自ら命を
絶ってしまう。それを憐れんだ花の神フローラが彼らを花に変えたと
されている。その花が「クロッカス」だ。
そんな逸話が、ネガティブな花言葉の背景にある。

「あとは『あなたを待っています』という意味だね」

QBには知識としてこの情報はあるが、理解ができていないらしい。
先の噂同様、必要な情報は伝えればいいと判断するからで、こんな
回りくどい、曲解や誤解を生む伝達方法が理解できなかった。

「QBにはわからないわよ」

花言葉の暗い意味に心を乱されつつも、平静を装う。
マミはほむらが「愛したことを後悔しろ」と怪人に言われていると
解釈した。

ほむらの家に戻るQBを見送りながら、マミは一人考える。

「愛したことが罪だと…、消滅するほどの罪だというの?」

さやかの祈りを踏みにじられたと感じた彼女は、静かな怒りに燃えた。


ほむらには見当がつかなかった。謎の怪人に襲われる理由が。
あの怪人は、上条にも、仁美にも、マミにすら目もくれず、ただほむら
だけを狙い襲った。首に跡が残るほどの殺意をもって。
唯一考えられること、それは、まどかのこと。

(まどかが救えなかったのが罪だというの?)

あるいはそのために世界を歪め、魔獣だらけの世界にしたことか。
そして、魔獣は自分を狙って襲い掛かってくるという。もしそれが
本当なら、自分は一人で戦うべきだ。マミや杏子を巻き込むわけには
いかない。
後悔が、ないとは言えない。魔女と戦うあの世界で、まどかを
救えなかったことは悔やんでも悔やみきれない。だがだからと言って
まどかが守りたかった世界を見捨てて、我から消滅する気も更々ない。

魔獣狩りの時刻になるころには、ほむらは戦う精神を取り戻していた。
それは無限に続くループの中で手に入れた、心の持ちようでもあった。


魔獣を生み出す源、瘴気が渦を巻く。
夜の見滝原を駆け抜け、矢が走る。異形の魔獣を貫き消滅させる。
魔法少女の力の源であるソウルジェムは魔力を使用するたびに濁り、
濁り切るとその魔法少女は消滅してしまう。そう、さやかのように。
それを防ぐためソウルジェム浄化する。だから魔獣たちを倒した際に
落とす石が必要だった。

魔獣の数は少なくなかった。今日昼間の怪人が言い放った言葉が事実
とでもいうように。
群がる魔獣を矢で射殺す。つがえる余裕がないときは、矢を手に持ち
その切っ先で切り付ける。だが本命はあくまで狙撃だ。

数は多いが、ほむらの敵ではない。ほむらの足元に多数の石を残し、
魔獣たちは殲滅されていった。

もう、夜も深い。魔法少女としての体は睡眠時間を減らすことが
できた。だがそれにも限度がある。明日もまた学校に行かなくては
ならない。杏子のようにする魔法少女もいないわけではない。
だが、ほむらやマミにとって学校生活は、自分がまだ人間である
ということを確認させてくれる、人間としてすがれる杖だった。

やや疲弊した体を引きずり、家路につく。マミと共闘しないときには
確かに魔力や疲労は大きい。だがそれ以上に、今夜の魔獣の数は
多かった。
魔力節約のため、平服のまま歩いていく。そのほむらが歩く街灯の
ない道に、人の気配があった。暗がりで判別がつかない。
ほむらの体に緊張が走る。だがかけられた声は、杏子のそれだった。

「よぉ……、悪いな」

ほむらはそれを魔獣狩りの不参加のことと理解した。
体の緊張を解き、近づく。不良少女の彼女がこんな時間出歩いて
いても、さして不思議ではない。
魔法少女の服装で、槍を携えていなければ。

その目は、明確な殺意で満ちていた。


筆者です。うむむ、筆が重い!

書き溜めてはいるのですが
なかなかうまくいきません。

気になるかもしれませんが、
気長にお待ちください
気合いを入れて作成しますので
お付き合いください。

あと
こちらも自分の作品です。
ネミッサ「デビルサマナー鹿目まどか 対 魔法少女鹿目杏子」まどか「戦うの?」
ネミッサ「デビルサマナー鹿目まどか 対 魔法少女鹿目杏子」まどか「戦うの?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1360757740/)

お暇なら合わせてご覧ください。
よろしくお願いいたします。

少しずつでも進めてくれるのなら待ってるよ
ところで台本形式じゃないからQBって書き方が少し浮いてるかも
キュゥべえって書いた方が文に合ってると思う
すげえ細かいことだけど


筆者です。

>>50
ご指摘ありがとうございます。
うわ、台詞から何から全部QBになってますね。

指摘されて直そうかと思ったのですが
改変後の世界ではお互いが距離を一定に保つという
スタンスにして、このまま行こうかと思います。

でもこれでいいアイディアが浮かびました。
ご指摘感謝です!!

ヤイルカーメン!

返事だけのときは下げ対応、筆者です。

>>52
ヤイルカメーン!(挨拶)

仮面党の四天王全員出すのはさすがに無理そうです。
いや、出すべきなのか、アイツらへの対抗勢力として?


乙であります。

花言葉とか、うまく使える人ってすげえなあと思いますわ。マジで。
展開が全て脳内にあっても吐き出せない、書けない。この苦しみといったら……(涙)
>>1さんも無理はせずに、マイペースで行ってくださいね。応援してます。

あらま。ペルソナ2クロス書きためていた人とうとうスレ建てしたのか
ぼちぼちでいいから定期更新してくれたらそれはとってもうれしいなって
イア! ニャルラトホテプ! 千の貌もつ月霊よ!


筆者です。返信です。
本編は少し待ってくださいね。


>>54
応援ありがとうございます。
花言葉はギリシャ神話などの神話が
背景にあることが多いのです。
その辺はアトラス信者の面目躍如でございますよ。
あと、ネットには花言葉の逆引きもあるので
慣れない人も探せますよ。

頑張って脳内から物語をひねり出します。


>>55
おお、前作の読者さんかな?
頑張って更新いたしますよ~、お付き合いください。
あと、ついでにネミッサのほうも続編やってますよって
そちらもご興味があれば是非。是非是非。
相変わらずあの子はマミちゃんにぞっこんのようです。

「月に吠えるもの」とかセンスがすごすぎて大好きです。



ちらっと見ましたけど、
AAで【ほむらは夢奪う者と呼ばれるようです】ってのが
あるらしいですね。
こちらはギミックを借りてるのでストーリーは違いますが
先こされてちょっと悔しいです。


筆者です。

いあ! いあ! はすたあ!

今夜もゆるゆると投稿します。
なかなか定期的とはいきませんが
なるべく途切れないようにいたします。

途中で大幅にストーリーが変わってしまい
だいぶ難産です。
ゆっくりお待ちください。

あい! あい! はすたあ!


凄まじいまでの突進。真っ直ぐにほむらの胸を狙う一撃だ。全くの
予想外の攻撃だったが、かろうじて回避した。杏子の変身と殺意の
目を見て、わずかに警戒していたことが幸運だった。
盛大に舌打ちするが、刺突は止まらない。ほむらに変身する間を
与えないための連続攻撃だ。

ほむらはその動体視力で槍をつかもうとするが、杏子はそのタイミング
をずらしその隙を与えない。
ならばとほむらは意外な行動に出る。連続攻撃の際、下がる槍に
合わせて突進したのだ。穂より内側に入れば突かれる心配はない。

杏子はそれを読んでいれば薙ぎ払えばよかった。だが完全に畳んだ
腕ではそれはできない。
その躊躇いをついて、槍の穂の根元をつかむ。

「どういうこと? 説明して頂戴」

質問をしつつ変身する。その冷たい声に、ベテランの杏子ですら寒気
がする。杏子が動かそうとするとその逆に力を加えその場に固定する。
杏子は質問に全く答えず、槍を分解する。固定しようとする力を
加えていたほむらはそれにバランスを崩される。
そこに背後から襲撃を受けた。


それが【ジョーカー様】だと気付いた時にはほむらの肩に激痛が走った。
怪人が持つ細身の剣に、ほむらの血が滴る。

(二刀!)

もう一方の手に持った剣を見るや、杏子のわきを走り抜ける。追撃と
挟み撃ちを避けるためだ。鉄鎖鞭となっている杏子の武器は
狭いところで簡単に振り回せるものではない。
出血する腕を無視し、弓と矢を作り出す。だが矢をつがえ射るほどの
距離はない。弓の強度を信じ盾とし、矢を剣の代わりに振り回す。
だが杏子はベテランだ。怪人の技量は不明だが、不利なことには
変わりがない。

「なぜ?」

鉄鎖鞭を再び槍に戻す。そちらに一瞬視線が移るほむら。それと
同時に怪人が踏み込む。それに半歩ずらす形で杏子も攻める。
全く同時ではなく、半歩ずらすことで反撃の隙を与えない方法だ。
切りかかる二刀と槍。間合いの違う武器が二つあることはそれだけ
攻守に忙しい対応が迫られる。そうして集中力でそがれればいつか
致命の一撃を受けることは目に見えていた。


その攻防に気付いたのはQBだ。噂の聞き込みを行って別行動だった。
マミから注意のため、帰りの遅いほむらと合流するため部屋を
出て移動していた。

”マミ、聞こえるかい? ほむらが襲撃されている”

”場所を誘導して! 相手はジョーカー?”

マミはテレパシーで昼間に視た怪人の外見を伝えてあった。
一瞥したQBは是の返事をする。

”ああ、確かに外見は一致する。それに杏子も襲撃に参加している”

その返答に困惑するマミ。

”佐倉さんが?”

”ああ、共にほむらを攻撃している。急いでくれ”

魔獣退治で疲労した体をおして、マミは走り出す。さやかを失った
痛みと、杏子が離反した怒りに引きずられ、疲労を忘れたかのような
疾走を見せる。

(暁美さん……どうかお願い、間に合って!)

なぜ杏子が離反したかはわからない。だが弟子が『余所から来たにも
関わらず協力的な』ほむらを襲うことが許せない。怒りにも似た
思いが彼女を走らせる。


ほむらは劣勢だった。だが大きな怪我はない。まさに紙一重で
躱していた。衣装や肌に切り傷はできるものの、肉や骨に届くほどでは
ない。
ほむらは矢をつがえる余裕すらない。怪人の斬撃、杏子の突撃が
間断なく迫り、二歩分の距離が取れない。無理に距離を取ろうとすれば
杏子の鉄鎖鞭に拘束される。常に槍をさばき続ける必要があった。
しかも肩の傷は武器の動きに障る。痛覚を遮断しているものの
動かしにくいのは確かだ。状況が変わらない限り、いつか槍や剣の一撃
を受けるのは明らかだ。


マミはQBの誘導に合わせ、夜の道を走り続ける。
魔力に問題はないが、精神的な疲労がある。ほむらも同様のはずだ。
それがマミを焦らせる。

”マミ、ほむらも限界だ”

”焦らせないで! わかっているわ!”


怪人の剣が、ついにほむらの弓を切り落とす。左腕を貫き、道路
に縫い付ける。

「あああああああああっ!!」

矢を握る右手を踏みつけ、そちらも縫い付ける。

『手こずらせたな。だがこれで終わりだ。貴様も消滅するがいい、
あの女のようにな』

「な、なぜこんなことを……」

怪人はそれに答えることはなかった。その手のひらに黒い靄を
作ったようだが、それを迷うことなくほむらのソウルジェムに当てる。
ほむらはそれを察した。『穢れ』だと。
穢れがソウルジェムに満ちると、魔法少女は円環の理に導かれ消滅
する。

『せめて消滅するのが慈悲だ』

穢れが注がれると、ほむらに痛みが走るのだろう。痛覚を遮断
しているにも関わらず、激痛に身を捩る。
穢れがソウルジェムに移り、澄んだ色の宝石を濁らせる。

「ああああああああああああああああああああああああああああ!」

その惨状に視ていられず、視線をそらす杏子。


その正確無比な射撃は、怪人の右腕を狙撃する。腰だめに構えた
銃を掴むと走り出す。撃たれた怪人は右腕を抑えほむらから離れる。
暗夜に銃は当たらないたとえだが、それをほむらに当てることなく
命中させるマミの腕が凄まじすぎた。

視線を外していた杏子はマミの登場に気付くのがわずかに遅れた。自ら
に憤慨しマミに肉薄する。
そのマミは、杏子を一切見ずに怪人を殴打する。しかもわざわざ
杏子と自分の立ち位置の間に怪人を入れるように吹き飛ばした。
たたらを踏んで怪人を受け止める形になる杏子。

その隙にマミはほむらを縫い付けていた右手の剣を抜く。
ほむらは躊躇わず自ら左手の剣を引き抜く。痛みは消してあるが、
ソウルジェムが濁り魔力が低下していた。
それを知ってか知らずか、マミは退却を促す。

「逃げなさい!」

「逃がさねえ!」

マミを避けほむらに迫ろうとする杏子。それを銃で牽制するマミ。
弾丸を足元に撃ち威嚇する。だが威嚇と知る杏子が怯むわけがない。
完全に無視して駆け寄る。

「効くかよ!」

「効くわよ!」

牽制の弾丸、それと怪人に撃った弾丸からリボンが生える。
かつて魔女が存在した世界で、薔薇の魔女に行った戦法だ。


完全に拘束させる必要はない。多少足止めをしたり、体勢を崩すくらい
で充分と割り切った使い方だ。弓や銃を撃つ距離を取れればいい。
どうせ二人とも武器は刃物だ。すぐに拘束を切断してしまう。

そしてそれは当たった。腰だめにマスケットを構えるマミ。痛みと魔力
減退に弱っているものの、再度弓を作り、矢をつがえるほむら。
襲撃者二人が拘束を切り裂き体勢を整えたときには、形勢は逆転して
いた。

「説明して頂戴。佐倉さん」

不利を悟ったのか。はたまたこれはある種想定内なのか、襲撃者達は
飛び道具を構える二人から全く目を離さず、後ろに跳躍する。

「説明?」

杏子は昏い目で言う。次いで弾丸を避けるためか結界を作る。
それはマミとほむらの間の心の溝にも思えた。

「あたしは【ジョーカー様】についた。これでいいか!?」

マミが足止め程度にリボンを使ったように、杏子もまた結界を
足止めに使用するようだ。そのまま、マスケットの
人体必中距離から離れるべく、もう一度後ろに跳躍する。

視界から二人が消えたことを確認し、マミは武装を解除する。
出血が止まらないほむらの怪我を治すためだ。

「これくらい……平気」

「せめて出血は止めさせて」

ほむらのソウルジェムの状態を確認し青ざめる。幸いにして
使わずに済んだ石を半ば強引にほむらにあてがい、穢れを吸わせる。
治療に魔力を使うため手持ちがなくなってしまうが、
そうも言っていられない。

「マミ、ありがとう。君がいなければほむらは危なかったよ」

「あなたも、教えてくれてありがとう。暁美さん、大丈夫?」

「もう、平気よ。迷惑をかけたわね」

「そういうときは、なんていうんだっけ?」

「……、ありがとう、でも、構わないで」

ほむらはそういうと、頼りなげな足取りで立ち上がり、帰路に就く。


”マミ、彼女の自宅は知られている”

”私と同じことを考えているのね”

「暁美さん、今日は私の家に泊まらない?」

「結構よ」

「そんな状態で襲撃されたらどうなるかしら? 防ぎ切れて?」

「貴女が敵の可能性もある」

「嘘ね」

ほむらの突き放す言い方が、本心でないと看破した。ほむらはマミを
巻き込みたくない一心で、敢えてこういった言い回しをしたのだ。
短い付き合いではあったが、彼女が抱え込む少女であることを
マミは知っていた。
それが図星であるためか、ほむらは無言。元々不器用な娘である。
こういうお節介に慣れていない。

「信じられないかしら?」

「ほむら。僕からもお願いする。
経験の多いベテランがいなくなることは、僕も困ることなんだ」

「……あなたは、そういう奴だったわよね」

ほむらは溜息をついた。そして僅かに、本当に僅かだが、笑ったのだ。

「私もね、少し寂しいの。美樹さんがいなくなって、佐倉さんも、ね」

「……わかった。お願いするわ……」

「ありがとう、暁美さん」

「普通、お礼を言うのはほむらの方だと思うんだけどね」

ほむらは無言でQBの頭を叩く。

「……本当に、君は僕への当たりが厳しいね」


腕を取られ引きずられるように連れてこられたマミの部屋。
さすがに一度着替えを取りに部屋に戻ったほむらだが、マミはわざわざ
ついてきた。逃げるところを心配しているらしい。

「大丈夫よ、後から行くから」

「いーえ、一緒に行くわよ」

こっそりほむらは溜息をつく。世話好きなのは【前の世界】から
変わらない。そういう部分に救われたこともあるほむらは、それを
強く拒絶することができない。だがそれと同時にこのマミは、そのマミ
とは違うことも感じている。
ありていに言えば、ほむらの感じているものは戸惑いだ。

「さ、いきましょう」

無駄に朗らかにいうと、再びほむらの腕をがっちり押さえている。
ほむらが逃げることが前提の行動だ。これで本気でに逃げようものなら、
次はリボンで拘束されるだろう。それは望ましくない。

「わかったから、逃げないから、離して頂戴」

「だめよ」

ほむらは嘆息する。

「……今手を放してしまったら
私、美樹さんの時の様に後悔するから……だからだめ」

先の言葉を忘れるように精いっぱいの笑顔を見せるマミ。
その顔に、言葉に、ほむらの心は軋んだ。

「手……痛い」


作り置きの夕食を温め直し、テーブルに並べる。
二人分。ほむらは一瞬遠慮しそうになったが、マミの顔を立てて
食べることにした。

ほっとする味だった。今日一日いろいろなことがありすぎて心が
疲弊していたのかもしれない。味が心にしみた。

「美味しい?」

「ええ、そうね」

「お口に合ったみたいね、よかったわ」

「味もそうだけど……」

それは、二人で囲む食事の美味しさ。久しく忘れていた味だった。
最後にこんなふうに食べたのは、体感時間で何年前だったろうか。

安堵したように、屈託なく笑うマミが食事の隠し味。

表情が柔らかくなったことに気付いたのだろう。マミも顔が緩む。
マミからすれば、ほむらの体に力が入りすぎていたように思えた。
年上として何かしてあげられないだろうか、そんな思いがこの強引な
行動になって現れた。
さやかには、してあげられなかったから。


食事が終わり、食器を片づけるマミを手伝うほむら。無邪気に笑う
かつての先輩。見捨て、見殺しにして、ある時は自らの手で殺めた。
にもかかわらず、マミはほむらを見て微笑を浮かべる。
マミやさやか、杏子は覚えていない、にもかかわらず締め付けられる。

「なんだか今日は、表情豊かね」

「そ、そうかしら?」

図星をつかれて狼狽えるほむらを、マミは微笑んで受け入れる。

マミは思う。ほむらは決して悪い子ではない、恐らく今までの生活で
荒んでしまっただけだ、と。高い戦闘能力を有するのは、その生活に
遠因があるのではないだろうか、と。
さやかは救えなかった。だからせめて、ほむらは救いたい。
そんな思いがマミの今の行動の原理だ。

「少しは甘えてもいいのよ」

「無理やり連れてきたくせに」

「一緒にお風呂に入る?」

「……ちょっと。怒るわよ」

「冗談よ」

お風呂をすすめ、ほむらを部屋から追い出すと、QBと連絡を取る。

”QB? そこにいる?”

”いるよ。周囲を警戒していればいいんだね”

”お願いね。暁美さんをゆっくり休ませたいの”

”ジョーカーや杏子が来たら知らせるよ”

QBがマミのマンションを複数体巡回し警戒する。特に、マミの部屋の
ベランダすべてと、玄関には個体を配置。マンションのエントランスと
屋上にも配置した。

”ありがとうQB”

”お礼は必要ないよ。ベテランをむざむざ失うのは僕らとしても
好ましくないからね”

”……それでも、よ”

(相変わらず、ね)


襲撃を警戒し、交互にお風呂に入る。無理に入ることもないかも
しれない。だが体を温めて休めることは大事なことだ。特にほむらは
心身、そして魂も衰弱している。ゆっくり休むことは大事だと、マミは
判断した。

ほむらの長い黒々とした髪を梳るマミ。それを渋々といった顔で
受け入れる姿に、マミも破顔する。
その綺麗なストレートヘアが何とも羨ましい。

「素敵な髪ね」

「貴女のも綺麗だと思うわ」

「私のはくせっ毛だから……」

マミの髪はわずかにウェーブがかかっているため。それをまとめるため
縛った髪をロールにしている。それが面倒というわけではないが、
ほむらの髪に憧れる思いもないわけではない。

「甲斐甲斐しいわね」

「こういうのに憧れていたの」

マミが魔法少女になった経緯を考えればそれは仕方ないことと言えた。
事故で両親を失い、事故から命を繋ぐという契約で魔法少女になった
彼女には、友人たちとの交流は、すべて魔法少女のための戦いによって
望んでも手に入るものではなかった。
学業をおろそかにすれば、彼女は後見人との約束により見滝原を離れ
なくてはならない。
両親と暮らした見滝原を魔獣から守りたい。それが彼女の願いだった。


「い、いやよ! そんなの」

「んー、でも、その方が安全だと思うのだけれど」

マミの提案はほむらを唖然とさせた。

「いいじゃない、一緒のお布団で寝ましょう? そうすれば
貴女に何があってもすぐに目が覚めるわ。
リボンで私たちの周りを囲えば完璧だし」

「窓と入口を封鎖すればいいんじゃないの?」

「あ……」

しゅんとするマミ。
そんなマミに罪悪感すら感じる。一度守ろうと思うとマミはお節介とも
取られかねないほどの態度を示す。それが彼女のいいところでもあり、
ほむらが困るところでもある。

「で、でも壁とか天井を突き破ってきたら?」

「そのときはほかの住民が騒ぎ出すわよ」

マミの部屋は一階でも最上階でも、角部屋でもない。

「それに、二人同時に刺されでもしたらおしまいじゃない」

「う……」

また本気でしょげ返るマミ。よく見たら目が潤んでいるようにも
見えた。ほむらは何かいけないことをしているようにも思えた。
ひょっとしたら、マミが寂しいのかもしれない。長年たった一人で
戦っていた彼女は、そういう意味では依頼心というか、依存心が
強いのだろう。

「わかったわよ……私も寂しいしね」

「うん……」

(涙溜めた目で、微笑まないでよ)

ほむらは、その気もないのにドキっとしてしまった。


マミに抱きしめられて眠ったためか、ほむらの翌日の目覚めは
悪くなかった。
幸いにして、襲撃はなかった。精神的な疲労や肉体的なダメージは
だいぶ回復したようだ。
学校に行くため朝食を向かい合ってとる。簡単に食パンを焼いて
目玉焼きを作っただけのものだが、栄養補助食品で済ますほむらに
とっては、温かい食事というものがそれだけ助けになっていた。

「ありがとう、マミ」

ぱぁっ、とマミの表情が明るくなる。

(ふふ、やっと名前で呼んでもらえた!)

それは、ほむらにとって自然な心境だった。マミが指摘するまで
気付かなかったらしい。それだけマミに救われたということだろう。

「それじゃぁ、また放課後ね? QB、暁美さんと一緒にいてね」

「うん、わかったよ」

「巴マミ。私は部屋に帰るわ」

またフルネームに戻っていて、マミはがっかりした。そういうのが
すぐに顔に出るのがどうも幼い印象を与えてしまう。

「そう……」

「準備をしていくから、パトロール行きましょう」

また顔が明るくなる。ころころ変わる表情に、ほむらは苦笑した。


登校したほむらを、仁美と上条が心配し声をかける。ほむらも
巻き込まれた二人を気にしていたが、向こうから声を掛けられたため
お互いを慮る形になった。

「まるで夢を見ていたようです、ですが……」

松葉杖についた細かな傷が、夢ではないことを物語っていた。魔法で
消したほむらの首の跡は追及されることはなかったが、話題の中心は
やはり昨日の怪人のことだった。

警察に言うこともできない襲撃者を二人は心配したが、ほむらは優しく
返す。このようなことを言っても誰も信じてくれない。実際に遭遇した
四人でなければとても信じられないだろう。

「大丈夫。昨日から巴マミと一緒に住んでいるの。なるべく一人に
ならないようにするわ」

だが、さすがにほむらも杏子という襲撃者がいたこと、それが昨夜
【ジョーカー様】と行動を共にしていたことは、言えなかった。

「でも、大丈夫でしょうか」

「大丈夫よ、二人でいれば、どちらかは人を呼びに行けるわ。
むしろ貴方がたも襲われる可能性もあるの、気を付けて」

ほむらは一応脅しておいた。あの怪人が二人を狙う可能性を
考慮してのことだった。


筆者です。

矢継ぎ早でしたが、今夜はこのあたりにいたします。
ちょっと戦闘シーンがうまくいかなかったので、出来が心配です。

感想等ありましたらなるべく早くお返事します。
お気軽にどうぞ。

ニャル様は人間の悪意の具現だからQBよりもたちが悪いんだよ。その上並行世界とつながってるから滅ぼすとか不可能なんだよな。さてペルソナだからどう日常が非日常に変わっていくのか楽しみだ、一般人の価値観がところが。


>>73
ニャル様に対抗するには「すべてを受け入れて、なお諦めないこと」ですから
「ニャル様が滅ぼせない」ってのも受け入れる必要がある、というバラドクス。
基本不滅。
実際、邪悪っぷりが正直堪らん悪役ですよね。フィレモンも共犯なのが更にエグイ。

そのへんうまく描写できるよう頑張ります。

魔皇「そろそろ起きてもいい?」

>>75
あれ? 君誰?じゃなくて
ごめんなさい。「魔皇」ってなんでしたっけ?
ああ、なんか忘れてたらゴメンナサイ!

カメカメカメーン!

>>77
カメカメカメーン!(ハイタッチ)

仮面党vsラストバタリオンがニャル様のしかけた
茶番だと知った時の絶望感がたまりません。

ニャル様の悪意に対抗できるのは白面の者くらいだと思います。

>>78
>>75の言ってる魔皇は、元ネタのニャル様のおとんじゃない?
作家によっては爆睡中って設定あるし


筆者でございます。
『くっくっく、黄色い青、緑じゃない』
が狂ってて大好きです。


>>79
アザトースのことか!
教えていただいてありがとうございます。
まだクトゥルフ神話群は浅学だなぁ。

信者失格でございました。
頑張ります。


>>75
勉強不足でした。すんません。
アザトースならあれです。
寝ててください。せめて人類がいなくなるまで。

乙であります。

今度はほむマミ(マミほむ?)か。
しかしネミッサの人のマミは母性に溢れておりますことよ。
大変よろしゅうございます。

ニャル様はある意味どう味方につけるかがポイントですからね……
(大体が自作自演。だからどっかに味方になるニャル様がいるのが定番)

あまりコメできずすいません。
自作が長時間張り付いてないと書けないもので……
次回も楽しみにしてます。


筆者です。


>>81
なにをおっしゃいます。
執筆優先で頑張ってください。私も励みになりますから。
お互いコメントしあうと馴れ合いなんて言われそうですけど、
知ったことではございません。
できるときで結構ですよー。

マミちゃんお気に入りかな? ありがたい限りです。
このマミちゃんはハリティーでもペルソナでもってそうな子
ですよね。

さて、ニャル様をどうやって動かそうか……。



というか、皆さん黒幕に気付いてらっしゃる。
こちらも隠すつもりはありませんが!


筆者です。
これからゆるゆると投稿開始します。

徐々に話が展開していきます。

お付き合いよろしくお願いいたしますね。


「もう、落ち着いたから言うけれど」

二人が意図的に避けていた話題だった。だがあまり時間をあけても
良いことなどない。

「杏子のことね。正直なぜなのかわからないわ」

マミからすれば、ほむらはよそ者である。にもかかわらず
対立しなかったため、あまりよそ者を受け入れない魔法少女であっても
ともに戦うことができた。
最初は訝しがっていたが、徐々に受け入れることができた。

「それが今になってどうして対立したのか……」

「貴女が気に病むことではないわ。それにおそらく原因はあの怪人に」

ふぅ、とマミは切なげに溜息をつく。何かがあるとすればあの怪人に
行き着く。そして彼女自身も『【ジョーカー様】についた』とはっきり
言っていた。

「洗脳にせよ、何か事情があるにせよ、今は敵対しているわけね」

「【ジョーカー様】を何とかしてから、考えましょう……」

マミの顔色は優れない。
あれ以来、QBも杏子と接触ができていないらしい。通常でも移動する
人間を補足することは簡単ではないが、まったく捕捉できないことは
異例だった。


それから数日、ほむらはマミとの共同生活を送っていた。なるべく
ほむらを一人にしない。マミがそばにいられないときは可能な限りQB
がそばにつく。それと合わせ、魔獣の退治もマミと共同で行う。

「暁美さん、そっち!」

「任せなさい」

マスケット弾でリボンの足かせを作る。それにより歩みが鈍らせて、
魔獣が「密」になる状況を作り出す。そこをほむらの貫通力の高い矢で
まとめて殲滅する。もちろんこれだけが工夫ではなく、さまざまな
方法で魔獣を次々撃破していった。

魔獣は、その戦闘能力は侮ることはできない。だが戦術や戦法といった
所謂作戦を立てることはない。わらわらと目標に集まり攻撃を仕掛ける
だけだ。
そのため、ほむらやマミほどの実力者になれば効率的に殲滅することは
けして難しくない。

「さすが暁美さんね」

「いいえ、貴女の補助が巧みなのよ。お蔭で楽ができるわ」

あのマミとのお泊り以来、ほむらは大分マミに打ち解けてきた。一人
を好むとはいえ、やはりほむらも寂しく感じることがあるのだろう。
べたべたしない、適度な距離を取りつつ、マミとの共同生活を送って
いた。

だが問題もある。
あの怪人が言った通り、魔獣の数が増えているようだった。
二人であれば殲滅は難しくない。だがもし一人であったなら、
こうも簡単にはいかない。
二人でいるからこその戦果だった。


その間、QBは噂を集めていた。別個体を通じ他の魔法少女や、
まだ契約に至っていない候補生にも聞いて回っていたとのこと。

「しかし【ジョーカー様】の情報はないね。
初耳というのがほとんどだ」

「魔法少女が特別噂に疎いのかしら」

「それと、ついでにというわけでもないけれど、
円環の理についても聞いているんだ」

元々、力を使い果たした魔法少女が消滅するプロセスはQBたちにも
わかっていない。そのため新たな切り口として【鹿目まどか】という
情報を手に入れたため、合わせて聞いて回っているとのこと。

「ほむらの情報が証明できない夢物語に過ぎないとはいえ、
何らかのきっかけになると思ってね」

ほむらは嘆息した。そんなことをしても役に立たないと知っているから
だが、それを止めるつもりはない。好きにやらせるつもりだった。

「好きにしなさい」

「暁美さんが言っていた【まどか】さんのことね」

わかってはいたが、ほむらにとってマミの口からまどかのことを
覚えていないことがこんなかたちで思い知らされるのはつらかった。

(あれだけ、慕われていたのにね)

人知れず下唇を噛んだ。


魔獣狩りを終えた二人にQBが近づく。
今夜もまた魔獣が増えていた。昨日よりも更に増え、二人の負担が
より大きくなっていた。
QBは使用済みの石を回収するためだが、今夜に限ってはそれだけでは
ないようだ。

「二人とも大丈夫かい? 魔獣の数が多い。神経を使いすぎては
戦闘に支障をきたす。気を付けてくれ」

「ベテランが消えたら貴方は困るものね」

「そうだね。だから君らと利害は一致している。
協力する理由には充分だ」

全く悪びれる様子もないQBの相変わらずの姿勢に、ほむらは
心底ウンザリする。

「そうね、そういうやつよね、貴方たちは」

「二人とも、喧嘩しないの。ところで噂の調査はどうなったの?」

マミが仲裁に入り、話題を無理やり変える。マミもQBの態度に時折
苛立つことがあるが、ほむらのそれはマミのそれを超えていた。

「進展というべきか、新しい噂が立ったんだ」

「新しい、噂?」

QBは抑揚もなく淡々という。そこに間を取るとか、溜めを作るとか
そういうことをまるでやろうとしない。

「魔法少女を狙う謎の組織があるという噂だ」


単純に高い戦闘力を魔法少女はもっている。だがその「賞味期限」は
短い。戦闘に魔力を使えばそれだけ消滅に近づく。魔獣を撃破し石を
手に入れない限りは。要は対魔獣戦以外には使えないということだ。

「信じられないわね」

「僕もそうさ。その魔法少女も又聞きらしい。あまり信じてなかったよ」

誰が言ったかわからないとのことだった。たいてい噂というのは
そういったものかもしれない、と。二人はおぼろげに納得した。

「どんな組織なの? 軍隊か何かかしら」

「彼女もそこまで言っていなかったよ。
けれど、そういったオカルトに傾倒した組織そのものは有名らしいね」

「そんな有名な謎の組織ってあるの?」

正直噂に興味がないほむらはあきれ顔だ。そもそも噂の調査自体、
マミが主にお願いしているだけで、ほとんどほむらは関わっていない。

「確かに矛盾するようだが、噂というのは概ねそういうものらしい」

抑揚のない言い回しの中に若干の疲れというか、呆れた音色が混じる。
感情のないQBにとって、感情のある人間との接触はそれなりに
疲労を感じるものなのかもしれない。

「引き続きお願いね」

「マミ、君も僕使いが荒いね。頼まれればやるけれどさ。きゅっぷい」


「あいつらに補足されるとは思わなかったよ」

『怪我は?』

「ああ、大丈夫だ。そっちこそ平気?」

『平気』

「二人の時は、それ外してもいいんだよ。顔見せてくれないの?」

『……』

「そう、いいよそれでも。あたしはあんたについていくって、
決めたんだから。……どこまでもね」

『今夜はここまで。気を付けて』

「……わかった。そっちも気をつけて」

『お互いに……』


「おはよう暁美さん」

QBの報告から数日。教室で恭介に声を掛けられたほむらは振り返る。
何か表情がすぐれない。さやかは未だ戻らないのだから当然だが、それ
とはまた別種の暗さがある。

「あれからなんともないのかい?」

「……ええ、大丈夫よ。心配してくれるの?」

「当たり前だよ。それに、嫌な噂を聞いたから」

「……噂?」

「あの【ジョーカー様】を試した人がいるんだって」

ほむらが息を飲むのがわかった。意識せず、自分の首を抑える。
恭介が話をしたことがない別の学校の女生徒が行ったらしい。願い事の
内容まで噂で伝わっているとのことだ。

「あのお呪いをして、素敵な彼氏が欲しいと願ったそうだよ。
そうしたら……」

数日もしないうちに、理想の男性が現れ交際を始めたとのことだった。
女性の噂に詳しくないはずの恭介が聞いているくらいだから余程のこと
なのだろう。

「それならさ……、暁美さんを襲った【ジョーカー様】って
何者なのかな。なぜ、君が襲われるんだろうね」

ほむらは頭を振り否の返事をする。わかるわけがない、ということだ。

「そうだよね。ごめん。でも気を付けて」

それだけ言うと、不自由な足を引きずって自分の席に帰って行った。


その日の放課後、テレパシーで報告を受けたマミは校門の前で
ほむらを待ち構えていた。

「あのまま諦めてくれるわけではなかったのね」

「杏子も未だ消息がつかめない。まだ終わってないと見るべきね」

魔獣狩りの間、襲撃があるものと警戒していたが、それすらなかった。
少々拍子抜けした感もある。だがそれにより二人は結束を強め、
付け入る隙を与えなかったのかもしれなかった。

「もし、もしもよ?」

マミが躊躇いがちに言う。

「佐倉さんが、あの組織に捕まっていたら……どうかしら」

「その可能性はないわけではないけれど、彼女がそう簡単にいく?」

ほむらはそういって否定しようとしたが、あの【ジョーカー様】が
組織と通じていたらどうか。そういう方向に意識が言った瞬間悪寒が
走った。
不安げなマミにその可能性を伝えると、マミは一瞬驚いたような顔を
して言った。

「断定はできない。けれどそうしたら、佐倉さんは騙されている
ことに、なるのかしら」

暗澹とした顔で呟く。


マミの部屋。食後の紅茶を淹れてるマミと、宿題を終わらせたほむら。
その日常的な空気の中、QBは困った風で現れた。

「困ったことが起きたよ」

全く感情のない顔と声でQBが声をかけたのはそんな時だった。
あれ以来、恐ろしいほどに何もなかったが、QBは噂集めに勤しんで
いたようだ。
あまり興味のないほむらは、マミの紅茶を堪能しながらほとんど無関心
だった。

「何があったの? って聞いてほしいんじゃない?」

マミが、ほむらに耳打ちをする。それを知ってはいるが
全力で関わりたくないほむらはあっさりと言い切る。

「嫌よ」

白々しく溜息をつくQB。

「君は本当に僕への当たりがひどくないかい?」

同じように嘆息してほむらは尋ねる。棒読みで。

「なにがあったの?」

マミも聞く姿勢になったようだ。QBの言葉を待つ。

「魔法少女が減少している。
何人かの魔法少女が、普通の人間に戻っているんだ」

二人が驚きのあまり、返事ができない。

「【ジョーカー様】にお願いして、人間に戻してもらってるようだ。
魔獣が増えたように見えたのはそのせいもあるだろうね」


筆者です。

なんか盛り上がりに欠けるなぁ。
もっとこう、派手な流れにしようかな。
とりあえず、書き溜めた分がひとまず終わりましたので
しばらく間が空きますが、お許しください。

徐々に、地味に、話は進んでおります。


自分で書いていると、隠しているつもりが
バレバレかなーっという部分がありますね。
正直ちょっと不安です。

いつもコメントくださる皆さんありがとうございます。
気長にお付き合いくださいね。

お疲れ様ー
何かこのスレのおかげで自分の中の冒涜的クロスを書きたい欲求が再発してきた
佐倉教会にオリジンのニャル様が講演に来る話
ティンちゃんに追われるおりキリ
チクタクマンと化したメガほむetc…
夢は膨らむ、そのうちしぼむ。


筆者です~。部屋が寒い。

他のスレでやらかしてちょっとへこんでます。
でもこのお返事で持ち直しました。

>>94
膨らんだ夢の中で簡単なものから
書けばいいんですよきっと。
時間城の主がすました顔で講演して
いる姿が思い浮かびました。

冒涜的って響きが堪りません。

魔法少女から戻れるとなればQBも黙ってはいられないよなあ
JOKERの目的はなんなのか
続き決まってます


筆者です。

>>96
前作で『クロス側の力でまどマギ側の問題を解決するのって茶番もいいところだぞ? 』
って言われてたのですが、これなら行けそうです。あのご意見をくれた方には感謝します。

なにしろこうして、あのニャル様を登場させることができるのですから!

頑張って続きかきますね。



解決したように見えるが全ては暇を持て余したニャル様の遊び

ってのが一番怖いところで


筆者です。
うん、勢いで返事書いたら意味不明なこと言ってる!
返事やり直し!

>>96
そうそう、黒幕はわかってる。でも狙いがわからない。
という風にしております。
ただ、答えを知ってる身としては、わかりやすいように思えて
かなりヒヤヒヤしてます。

>>98
あー、それが一番やりたい。
だいたい元も罪→罰の流れはニャル様の思惑通りでしたしね。
只でさえ悲惨なまどマギ世界をニャル様がさらに荒らします。
……私の力で表現できるかわかりませんが。

100円入れてにゃ~

筆者です。

>>100
100レス目になんとも……「ナイス、ですね」
100レス前で止めたら、皆さん狙ってくれますかね?


罰なら1000円になるんですよね……。
最後は1000レス目でお願いシャス!

2だと願いを叶えるてもらえるけど仮面党に入られないといけないし、まさに人を呪えば穴二つの状態でその上実験体になってるからはたしてどんな風にたちの悪い代償あるのか不安になるわ

筆者です。

>>102

罪は仮面党、罰はJOKER化の代償がありますね。
果たしてここではどちらが対価として要求されるのか……。
ノーリスクで魔法少女止められるわけ、ないんですけどね。




筆者です。

書き溜めたものを投下いたします。
皆さんからのコメントで
いろんなアイディアが生まれまして、
話がすこしずつ変わってきております。
ゆえに難産です。

でも楽しいです。
もっとください。


文章は多くありませんが、今夜もお付き合いください。


「ただね、これは異常なんだ」

QBは続ける。彼らが地球に来てかなりの時が経つ。人類が洞穴で
暮らす頃から人類を見守り続けてきた彼らであるが、ある例外を除き
魔法少女が人間に戻ったケースは存在しない。

「魔法少女になる時の願いね?」

「じゃぁ【ジョーカー様】にはそれに匹敵する力があるってこと?」

「そういうことになるね」

「……もう一度魔法少女になることは可能?」

その言葉にマミもQBも言葉に詰まる。暫く考えたのちQBは答える。
別個体と『無線』で情報のやり取りを行っていたのだろう。

「戻っても僕のことが見えていた。だから実際に試してはいないけれど
不可能ではない、と考える」

戻った魔法少女と接触のあったQBは確かにいたらしい。その相手から
情報を聞き出せたということは、知覚することが可能なのだろう。

「願いを叶え放題ね。でもそれが問題になるの?」

「【ジョーカー様】が二度以上願いを叶えられるならね。それに
それだけが問題じゃない」


「はっきり言う。噂が現実になっている可能性がある」

いきなり夢物語的なことを言うQBに二人が眉をひそめる。ほむらに
至ってはQBの耳をひっぱる有様だ。

「寝言は寝ていうことね」

「でもいいかい、今まで願い以外の方法で魔法少女が
普通の少女に戻ることなんてなかったんだ」

QBが人間の噂に詳しくなくとも、魔法少女が人間に戻ればすぐに
気付く。だがそんな事例は今までにない。それが【ジョーカー様】の
噂が出回ってすぐ、同時多発的に発生しているのは事実だ。

「もちろん、因果関係の説明はできないが、状況としてはそれが
可能性として高い。また証言も複数ある」

「信じられないわ」

「僕だってそうさ。でもここまでは事実だ」

【白い猫が契約を迫る】

「もし仮にそうだとしたら、どんな噂が出回るかわからない。僕らに
知覚できないことかもしれない」

【何でも願いを叶えてあげるから、魔法少女になって戦ってくれ】

何かに気付いたのかマミの顔が青ざめる。あの雑誌記者の言葉。
その様子を見てほむらが顔を覗き込む。それに気づかないほどマミは
動揺していた。

「ねえ、可能性の問題なら……、あなたたちも噂の産物ということも
ありえるのではない?」


舞耶から聞いた噂話を思い出したのかほむらの顔色が変わる。
仮にそうならば魔法少女すべての前提がひっくり返ってしまう。

「そうだね。可能性としてはあり得る。何しろ記憶から何から
生み出されていたとしたら、僕らに確認の術はないんだからね」

いつも通り淡々と呟く。

「でも、QBがいたから私たちは発展できたのでしょう?」

「僕らのその記憶自体、捏造されていたらどうしようもない」

だとしたら、とほむらの思考は飛躍する。もし仮に、【前の世界】から
それが続いていて、ほむらたちが知覚できなかったとしたら。

(まどかがあんなことになったのは噂のせいなの?)

ほむらは戦慄し、同時に吐き気を催した。

「あくまで可能性だよ。僕らが実は存在しないとしても、僕は今
ここにいるのだからね。君たちに協力することは変わらない」

いつも通りの淡々とした言いようだった。
ほむらの内心の不安や動揺に気付かない、ただただいつも通りの声色。


「今夜は、大丈夫だな」

『こちらから仕掛けられる』

「あたしはマミ、あんたはほむらだ、いいな?」

『わかってる』

「ヘンな噂も立ってるしな。早く蹴りをつけよう」

『当然』

「あんたの目的、きっちり果たしなよ」

『わかってる、あの時一緒にいた女を使う』

「怪我させるなよ?」

『暴れなければ』

「……信用してるよ」

(何も言わなくていい。あたしは、あんたのそばにいるよ
あんたの力に、なるよ)


二人の動揺をよそに、今夜もまた瘴気が濃い。魔獣が出現する予兆。
それが今夜は特別濃いようだ。それに比例して、数も多い。二人がかり
なら苦戦することもない相手のはずが、物量による飽和攻撃に
手間取っていた。
ほむらは矢をつがえる暇もなく、マミは銃を持ち直す間もない。
遠距離攻撃の弱点とも言えるだろうか。一撃で複数体撃破してもそれを
上回る数が襲い掛かる。石を拾う暇もないほどだった。

マミは、リボンの結界を張り距離を取る。かろうじて拾えた石を使い、
互いのソウルジェムを浄化する。

「数が多いわね。あなたは大丈夫?」

「これも魔法少女の減少が原因なのかしら」

「かもしれないわ。私のリボンが破られる。……くるわ」

マミの結界を破り、魔獣たちが殺到する。それと同時に二人の狙撃が
始まる。
一矢が数体をまとめて貫き、マミの巨大なマスケットが広範囲に魔弾を
撃ち出す。
こういう時、前衛を務めるさやかなり杏子なりがいるとかなり違う
はずだが、ないものねだりをしても仕方ない。魔力の限り打ち続ける。


小一時間ほどの戦いだっただろうか。石を足元に残しながら魔獣は殲滅
された。これまでにないほどの魔獣の数に、さすがに二人は疲弊した。

そこを狙われた。魔獣との戦いに疲弊した二人の前に表れたのは、
三人の人影。


石を拾おうと身を屈めたほむらは一つだけ手に取り、すぐさま
顔を上げる。
殺気、気配、魔力……そういったものを感じ取ったからだ。
石を拾う手を止め、弓と矢を作り出す。

「ここで来るわけね」

「そういうことだ。今度はこっちから行くよ」

「貴女の目的は何? なぜ暁美さんを狙うの?」

『……罪だと言ったはず……』

紙袋をかぶった怪人が雑居ビルの上、夜の闇から滲み出す。
だがその姿に二人は息を飲んだ。
その小脇に見慣れた人物が抱えられていた。その『使い道』を知り
歯噛みする。そして吠えた。

「……その人を離しなさい!」

無言。

「その人を使う準備が必要だったのかしら?」

怪人が縛り上げていたのは、志筑仁美だった。


縛り上げられた仁美をビルの屋上に置き、杏子が鎖の結界で覆う。
あの結界を破るのは難しくないが、そのために時間を取られれば二人
から致命の一撃を受けるだろう。

「逃げなきゃ何もしないよ」

『目的はお前だからな』

杏子は槍を、怪人は両刃の剣をほむらに向けて突き付ける。

「佐倉さん、どうして……」

杏子の行動にマミは心が折られそうになっていた。だが、今はほむらを
守るという意識の元、心に己を入れた。その双眸に映るものは、怒り。
逆にほむらは氷のような冷静さで二人を眺めていた。彼女に取り、仁美
は知人ではある。だが何をおいても守りたいという人物とは必ずしも
言えない。最悪、見捨てることも選択肢に入れていた。

『動くなとは言わない。せいぜい足掻くがいい』

怪人は、魔法少女ですら対応が困難なほどの速度で、ほむらに
襲い掛かった。二刀が煌めく。襲撃に合わせマミが狙撃を行おうと
するが、その前に杏子が立ちふさがる。

「邪魔をしないで!」

「邪魔はさせない!」

マミのマスケットの号砲が、戦いの始まりを告げた。


ほむらとマミが連携取れないように間に入る怪人と杏子。
魔獣との戦闘のため、魔力を消費し回復する間もない二人と、魔力気力
ともに充実している二人。更には人質まで取り、他に策も巡らせている
可能性もある。

ほむらが矢を放つが、それを怪人に躱される。二の矢を作り出すも
それをつがえずに、あの時の様に振り回す。前回の反省も踏まえ、矢と
弓はいつもより威力より強度を優先で高めていた。
また、ほむらにはまだ切り札がある。杏子やマミも知らない切り札が。

マミもほむら同様、一発マスケットを撃つ。今度は杏子の体を狙った
正真正銘の攻撃だ。やはり同じように杏子に回避された。弾は仁美の
結界そばに空しく当たる。
マスケットを鈍器の様に構え、杏子を迎撃する。槍と噛み合う長銃。
杏子が槍を多節棍にしようとするのに合わせ、マミは自分の胸元の
リボンに手を伸ばす。このリボンを伸ばすことで攻防に様々活用する
のが彼女の戦い方である。

戦いにある種の均衡が生まれる。

そんななか、捕らわれた仁美は目を覚ます。だが杏子の固有魔法に
よる幻術でまだはっきりとした意識は取り戻していない。夜の街を
舞台に、魔法少女たちの争いがその眼前に広がっていた。

そのおぼろげな目に映ったものは、友人たちの命のやり取り。


弓と矢が、双剣と噛み合う。そのまま両者ともにらみ合った。紙袋の
空いた穴は昏く、視線はわからない。

「こちらが疲弊したところを狙えば、倒せると思った?」

『何をおいても貴様を消滅させる。そのためなら何でもしてやる!』

怪人は、弓と噛み合う剣の角度を変える。
ほむらの脳裏にさやかのことが思い立つ。だが、刃が射出される
ことはなく、その剣先がほむらの顔を狙うだけだ。
ほむらはすぐさま判断し、怪人を蹴り飛ばす。僅かによろける怪人から
距離を取るとようやく矢をつがえるスキができた。
体勢を立て直す怪人を射抜く。怪人はそれを剣で斬る。だが、矢の強度
や弾性が高かったためか切断には至らず矢じりが怪人の衣服に刺さる。


リボンを捩じって棒状にして硬化させた物を左手に。マスケットの
引き金部分を右手で持つ。

「人質まで取るとは思わなかったわ」

「うるさい! あたしは何があっても、あいつを支えるって……」

気迫をこめて突きだす長槍をマミは両手の武器でなんとか捌く。槍の
長さがマミの動きを封じていた。
だが逆に杏子も動けない。マミがマスケットをいつでも撃てる状態で
もっていることを理解していたからだ。攻撃を止めたらマミの狙撃を
受ける。

「決めたんだぁ!」

槍の穂を使い、石突きを使い、マミの反撃を封じつつ杏子は徐々に
ほむらと怪人の戦場から離れようとしていた。


そして、それを見つめる複数の人影。
魔法少女の戦いを見下ろすその顔には、シンプルでありながら
禍々しい仮面が揃ってつけられていた。仮面だけ統一されていたが
その人々の服装は統一性がない。まるで、その辺の民間人が(警察官の
服もあるが)仮面だけ被っているようだった。

「JOKER様のご命令だ」

「魔法少女を捕えろ!」

「魔法少女を追い払え!」

「あんな危険人物を、野放しにするな!」

さらに、その手には何かのカードが握られている。

「JOKER様から頂いた力で!」

「倒せ!」

「倒せ!」

「倒せ!」

「倒せ!」

気勢を上げる、その一党は……

「倒せ!!」

『仮面党』という一党だった。


筆者でございます。

短くて済みませんが今宵はここまででお願いします。

自分で書いてて背筋寒くなります。こう、わけわからん
仮面つけてる民間人に襲われる魔法少女たちの図って。

前作でもそうですが、マミちゃんの心がヘシ折れそうで
書いてる本人がすでに不安です。
ニャル様の行動を再確認するたびに心が折れそうになる
筆者でした。


またご感想、ネタコメントお待ちしております。
作品の空気に合わないコメントにもばしばしお答えしますので
気軽にどうぞ。

ヒットポイント回復するなら♪

>>116
きずぐすり と 宝玉で♪

私は演歌調が一番好きです。
どこの地区のサトミタダシだったっけなぁ。

こんなに早く噂システムに気が付くとは
キュゥべえが頼もしいというのもキャラの立場上珍しい

筆者です。
まだ、今夜も出来上がっておりません。
ご期待されているかたには、申し訳ありませんが。

ポメラ買おうかな……。

>>118
感想多謝です。
今回のこのQBは魔法少女を長持ちさせようと
するスタンスのつもりなのですよ。
その当たり、本編でちゃんと表現したいんですけどね
難しいかな。

まぁ、それだけじゃないんですけどね。

全レスするなら投下前に一気にやったほうがいいんじゃない?


筆者です

お久しぶりの投稿でございます
遅くなって申し訳ありませんでした

>>120
うむむ、ご指摘ありがとうございます
これから少しだけ投稿いたしますので
お付き合いください

ちょっと難産でした。それではお付き合いのほど
よろしくおねがいします


杏子の石突きが、マミの鳩尾を強かに打つ。気迫で槍の速度に勝った
形だ。肺の空気を奪い体勢を崩したところを斬り付ける。
肩口を襲う槍の刃。

「腕の一本や二本はっっ!」


矢が枷になり、ほむらへの対応が遅れる怪人。ほむらは切り札である
黒い夜のような翼を広げ、跳躍する。ほむらの魔力は『前の世界』より
格段に上昇していた。その魔力を使い、仁美が捕らわれているビルの
屋上まで昇った。その空中で先ほど拾った虎の子の石を使い自身の
ソウルジェムを浄化する。僅かでも充分と割り切る。
その姿を唖然とした風で見送る怪人。だがすぐさま走ると、ビルの
壁面を蹴り追いすがる。

ほむらは矢を放ち、仁美を覆う檻を破壊する。再び矢を作り出すと
後ろ手に縛られた手の拘束を切る。

「志筑仁美。逃げなさい!」

仁美の目の前に、拘束を切った矢を突き立てる。これで足を自由にしろ
という意味だ。それを察した仁美は、脚の拘束を切る。

「暁美さん?」

問いには答えず、ビルを昇る怪人に備える。
仁美は僅かに躊躇う。だが先ほどからおぼろげに見ていた戦いの
足手まといになると判断し、足早にビルから立ち去ろうとした。
手に持った矢を放り捨てて。

仁美が屋上にあるドアを開けようとしたところ、仮面党の人間二人が
駆け込んだ。突然開くドアに押され倒される仁美だが、そのせいか
仮面党の二人には気付かれなかった。二人の目標は、魔法少女の
ほむらだった。


カードを掲げる仮面党の二人。火球をそこから生み出し撃ち出した。
怪人に集中して全く無防備にほむらはそれを背中で受けてしまう。

(爆発物? 炎? 真後ろから?)

焼けるような熱さに呻き、コンクリートに伏す。幸い夜色の翼が
盾となったため、致命傷からは遠い。
その様子に顔色を変えて走り寄る仁美。突然の闖入者に仮面党の二人
もわずかに動揺した。

「暁美さんっ!」

「……逃げろと……言った……わよね」

ほむらは苦しげな表情で睨みつける。だが仁美も負けていない。
ほむらがあの怪人に命を狙われていることは知っている。そしてこの
仮面を付けた連中もほむらを攻撃した。それを無視知るつもりはない。
また全くの直感であるが、ほむらがさやかの失踪に
かかわっているはずと推測した。ゆえにほむらから事情を聴くまでは
離れるわけにはいかない。
命を狙われていれば、猶更。

「……一人で逃げろとは……、言われておりません」

ほむらの返事を待たず、肩を貸して立ち上がる。だがその目の前に
カードをかざした仮面党の二人が立ちふさがった。

「魔法少女が増えたぞ!」

「倒せ! 倒せ!」

二人に対し、仮面党はカードを突きつけ再度魔法を使うべく集中する。
そして放たれる二つの火球。
仁美はほむらに突き飛ばされそうになるが頑なに離れようとしない。
何とかしてともに逃げようと必死だった。


それを阻止したのは怪人だった。空中で剣を投げつけ火球にぶつけ相殺
する。火球の破裂により剣はあさっての方向に吹き飛んだ。
ほむらたちの前に着地すると、猛然と仮面党に殴りかかった。

『邪魔を、するなぁ!』

一人を殴りつけ、もう一方に拳を伸ばす。だが遅れた分だけ距離を
取られ避けられた。殴打された方は昏倒し動かなくなった。
怪人と仮面党が相対する。

「行きましょう、暁美さん!」

仁美に促されたほむらは歩き出す。怪人や仮面党から目を離さないのは
まだ警戒を解いていないからだ。
だが一方で怪人はその二人より、敵対する仮面を相手にするつもりだ。
その状況に乗じて、屋上のドアまでたどり着いた二人は階下へ走った。

怪人は、取り逃がしたことなどまるでどうでもいいという姿勢で
剣を作り出す。むしろ仮面たちにいらだちを感じているようだった。

『何度攻めてきても、あたしたちは倒せない。
もうお前たちの目的なんかどうでもいい!』

怪人は、一般人に刃を振り下ろす。仮面も懐から金属製の武器を出して
対抗する。
高い金属音が噛み合い、夜の街に響く。

『ほむらを、あんたたちにころさせない!』


マミを狙った槍先ははじかれる。無差別に撃ちこまれた衝撃波が
まとめて二人を吹き飛ばしたからだ。
二人に襲い掛かる。仮面党の三人。
その姿を見て、嫌悪感を露わにする杏子。マミの前に立ち槍を構えた。

「またお前らか! おいマミ、とっとと逃げろ!」

杏子は先ほどまで攻撃していたマミに背を向けている。その急変した
態度に困惑する。
それに気づいた杏子は苛立たしげに叫ぶ。

「あたしの目的は足止めだ。命まで奪うつもりないんだよ!」

それは暗に、仮面たちは命を奪いかねないということを示していた。
マミはそれを察するが、矛を収めることはしない。先ほどまで敵対して
いた相手のことをすぐ信じるほど、マミは大人ではない。割り切れない。

「それが信じられると思って!?」

反論のため口を開くが、その声に気付かず杏子は三人に躍り掛かる。

仮面たちはカードをかざし、魔法だろう方法で衝撃波を撃ち出す。
衝撃波を槍で切り裂き、猛スピードで突進する。

マミはその背中に銃口を向けることはできなかった。困惑したまま
その成り行きを見守るしかなった。


そのマミに、ほむらは語りかける。

”マミ? 無事?”

”えっ! 暁美さん? 私は無事よ。貴女は?”

”ビルを降りてそちらに向かっているわ。……治療をお願いできる?”

テレパシーでの会話の端々に、ほむらの痛みが感じ取れたマミは、
彼女の傷の深さを知った。交戦する杏子を一度見やり、ついで該当する
ビルを見つけると、その場を静かに立ち去る。
杏子はそれをなんとなく感じ取ったものの、まったく気にせずに戦闘を
続けていた。
槍を振りおろし、仮面が持つ鉄の杖を切り払う。その脇をすり抜け
マミを追いかけようとする三人を、杏子は阻止する。

「おいおい、あたしらが何度てめえらをぶちのめしたと思ってる?」

槍先で一人の足を払い転倒させる。
石突きで突き吹き飛ばす。
槍先を払いのけぞらせる。
その間、杏子は一撃も受けていない。ベテランの彼女の体捌きに
ただの一般市民に毛が生えたような連中は翻弄され続けていた。

「即席で魔法使えるようになったからって!」

槍の柄が強かに仮面を殴りつけ一人を昏倒させる。頭部を殴打された男
は、深く気絶したのか呻き声一つ出さずに倒れ込んだ。

「あたしに勝てると思うなって、何度言わせるのさっ!」

嘲笑さえ含んだ獰猛な雄叫びが、残りの二人を圧倒する。


刃に血を滴らせ、怪人は倒れた二人を踏みつける。うめき声程度の反応
を確認すると、外傷だけは魔法でふさぐ。しかしそれは助けるため、
というよりは、最低限の応急処置に近い。死なない程度に傷を治す。

『これくらいの怪我は勘弁してよね』

吐き捨てるように言うと、夜の闇深い街を見下ろす。そこには杏子が
仮面党と戦う姿が見て取れた。夜の闇に、杏子の赤い衣装が映える。
そのそばにほむらやマミの姿は見当たらない。それは
取り逃がしたことを示していた。だがそれは仮面党が出てきたケースを
事前に打ち合わせていたため、憤慨も何もない。打ち合わせ通りだった。

『杏子なら苦戦なんかしないだろうけど、さっさと蹴散らさないと』

魔法で作り出した剣を消し、ビルから飛び降りる。
杏子に助勢するために。


杏子の戦場からやや離れたところに着地すると、背後を狙っていた
仮面党の二人に襲い掛かる。
それは戦闘というよりは、一方的な暴力に等しい。仮面党はカードで
魔法を生み出し攻撃をするが、身体能力は対して高くなっていない。
そのため、魔法少女たる杏子や魔法少女と張り合える怪人たちには
なすすべもなく蹴散らされていった。
人数が揃わなければ、彼女たちの敵ではない。

気絶し、昏倒する仮面党を見下し。溜息をつく。

「失敗しちゃったね」

『仕方ないよ。こいつらは魔法少女を目の敵にしてるんだ』

「……。なんでもいいよ。あたしはあんたについてくから、
やりたいようにしなよ」

杏子は、今まで通りの、優しい顔で微笑んだ。

「どこまでも、ね」


合流した三人は、公園のベンチに腰掛ける。襲撃のショック覚めやらぬ
様子だった。特に人質として拉致された仁美は青を通り越し真っ白な
表情だった。
ほむらは背中に受けた火傷を、マミに治療されていた。

「最低限でいいわ。石のストックがないでしょう?」

「いいえ、昨夜までの分が多少あるわ。
穢れ全部取れるわけではないけれど、治療する分には十分よ」

相変わらずの言い方も、もはやマミは慣れっこだ。どうしてもほむらは
人の世話になりたくないというのが根底にあるようだ。
だが慣れっこのマミはそこを強引に引っ張り治療を行う。こう強引に
でもしないと、彼女は素直に応じないことをここ数日で理解していた。

「あ、あの……。お二人とも……、そのお姿は?」

蒼白から立ち直った仁美は、今度は困惑に襲われていた。
確かにそうだろう。目の前で同級生と先輩がコスプレ衣装で戦い、
魔法を使って治療をしているのだ。困惑しないわけがない。
二人は顔を見合わせ、困った表情を浮かべる。巻き込まれた以上説明が
必要だということはわかるが、どう説明するべきかが思いつかない。

やむなくマミは、順を追って説明する。
自分たちが魔法少女だということ、奇跡のような願いと引き換えに
人に仇成す魔獣と戦う宿命を帯びていること、そしていつか、
円環の理に導かれ消滅してしまうことを。

「それまで、戦い続けるのが私たちの役目なの」


突然の非日常な話に、仁美は困惑しついていけない。だが、マミが
嘘をついているようには見えなかった。クスリともしない真剣な表情と
先ほどまでの戦いを目の当たりにした以上、信じないわけにはいかない。

「そ、そうでしたの……。人知れずお二人は、
私たちを守ってくださっていたのですね」

「私たちは自分の願いのために戦っているのよ。
感謝されるためでは……、ないわ」

マミは苦々しくいう。魔法少女はある種自分勝手な望みのため、
戦いに身を置いている。それは魔獣から人々を守るという高尚な理由が
あるわけではない。仁美の感謝は、重いのだ。

その表情に、仁美の思考は飛躍した。

「……ひょっとして、さやかさんも……?」

『奇跡的』に左手が動くようになったバイオリニスト上条のことと
さやかのことが結びついた。
考えてみれば、上条の退院とさやかの不審な行動は時期が一致している
ようだった。少なくとも、仁美にはそう思えたのだ。

「ええ、上条恭介の腕を治す奇跡と引き換えに魔法少女になったわ」

「そして……」

「え、円環の理に導かれ……、消えてしまったんですね……」

深夜の公園で、仁美は泣き崩れた。
二度と会えない親友のことを思い、
最愛の人のために魂を捧げた献身を思い、
その祈りの果てに消滅したさやかの愛の深さを思って。

(私は敵いません。さやかさんの愛の深さには)


ようやく泣き止んだ仁美は、赤い目のまま立ち上がる。

「お見苦しいところをお見せしました」

仁美の涙は、魔法少女たちの代わりの涙だったのだろう。
二人……三人も泣きたくて仕方なかったはずなのだ。中学生の心には
友人の死は、そう簡単に受け止められるものではない。
成人でもそうなのだから、想像するに余りある。

「お、遅くなりましたが……、
助けてくださって、ありがとうございました」

泣きはらした目でぺこりと頭を下げる仁美。無理やり作った笑顔が痛々
しかった。
だからマミはそれを受けることをせず、仁美の肩を抱き帰宅を促す。

「もう、帰りましょう……。
どうやって怪人に誘拐されたか聞きたいけれどそれは明日に、ね?」

マミのいたわるような支えられ方に、仁美はさやかの温かさを
思い出してしまった。また目頭が熱くなる。
と同時に、あることを思い出した。

(そんなことがあるわけが……。けれども、あの手は、確かに……)

「あ、あの、さやかさんは消滅してしまったんですよね?」

唐突に力のある声を出した仁美に、二人は驚く。目の前で消滅したのを
三人が確認した。だからこそ、杏子は傷付き、ほむらたちと距離を
置いてしまったのだから。

「なら、あの怪人は、何者なのですか?」

その質問の意味に、二人は戦慄した。慄き、息を飲む。

「あの抱き方、手の形、忘れるはずがありませんわ!」

仁美の声が大きくなる。何度もじゃれて抱き着かれたことがあるのだ。





「あの怪人は……、あの人は……、さやかさんです!!」


戦場からやや離れたところ、そこにQBが二体いた。
姿形に全くの違いは見られない。一体はもう一体よりも
高い位置から見下すような視線で魔法少女たちを見つめていた。

「確かに君の『証言』通り、噂が現実になっているんだね」

一方の、高みにいる鎮座する方は『せせら笑う』。本来感情を持たない
はずの顔に、邪な表情が浮かんでいた。

『当たり前だ。【キュゥべえ】は嘘は言わないのだろう?』

高いところにいるQB……キュゥべえは傲岸な喋り方を崩さない。

「いくら僕たちに姿形が似てるからと言って性質まで似るとはね」

QBが噂の調査と称し、魔法少女たちに聞き取りをする。その話が
魔法少女の間で話題になる。それが噂として伝播し拡散する。
そして、それが……現実になる。

『暁美ほむらがいたという世界のキュゥべえの噂が広がったおかげで
僕はここにいるのだよ。QB』

「僕は……、いや、僕らは踊らされたというわけかな」

『すべて君らが行ったことだがね』

キュゥべえはせせら笑う。
それをQBはただただ見守っているだけだ。全く感情のない、平坦な
瞳で。

「だから、僕は調査を止めた。
僕の動き一つで世界の理が変わってしまう恐れがあるからね」

『賢明だが、もはや手遅れだよ。僕らがそれを担うのだからな』

QBのそばにキュゥべえが降りたつ。QBを喰らいつくすために。
その光景が、世界のありとあらゆるところで発生していた。


筆者です

矢継ぎ早ですみませんが、いつものことですね
皆さんの推測は当たったでしょうか

また例により、ご感想お待ちしております


私事ですが
前作を『SS製作者総合スレ』で晒し感想を求めました

したっけこき下ろされるかと思いきや
しっかりとした感想や意見をいただけました
非常に良い勉強となったようです
良いことしか書かない反応もあり、嬉しかったものですが
私の配慮のない文章の書き方を巡り、ちょっと荒れてしまった
のが、申し訳なくてしかたありませんでした

次回も少し間が開いてしまいますが
気長にお待ちいただけませんでしょうか

それでは失礼いたします
おやすみなさい

オールドメイド!

乙 更新楽しみにしてます
 原作などでやりたい放題やらかしたQBが噂でニャル様の化身に入れ替わるとかがちで世界の危機だわ。

気づいたら死亡フラグ
気づかなくても破滅フラグ


こんばんは、筆者でございます。
いつも通りレスからいたしますよー。


>>133
「乙」とペルソナな単語を組み合わせて編み出してくれると
期待しておりますよ!
さぁ、さぁさぁ(笑)


>>134
ありがとうございます。
自分で書いてて、かなりいやな方向に動いています。
正直、自分が苦痛です。でも頑張ります。


>>135
QBとキュゥべえの入れ替えのショックが大きくて
ジョーカー様のネタ晴らしがどっか吹っ飛んでますね
まぁ、ある種予想通りだったのかもしれませんが



皆さん、ニャル様に怯えすぎです。私も怖いですけど。

これから少しだけ投稿いたします。
お付き合いよろしくお願いしますね


仁美を護衛し送る道すがら、仁美は二人に状況を説明した。
結果、どうやら杏子が幻術をかけ、夢遊病の様に誘い出したであろう
ことが分かった。
杏子が仁美に目を付けたのは、怪人を通じてだろう。しかし、その怪人
自身が仁美のことをなぜ知っているのか。あれだけ時間があれば
探し当てるのは決して難しくはない。だがそれよりも、怪人がさやかで
あるほうが簡単で理解しやすい。

「今思えば、という点は多いわ」

例えば、声、武器。身のこなしや口調。そして何より杏子が行動を
共にしている。それが何よりの状況証拠だった。

「でも、消滅したはずよ」

「だからジョーカー様呪いをやってさやかさんを蘇らせた?」

「そしてその【ジョーカー様】のために行動している……?」

洗脳か納得づくなのか不明だが、杏子はさやかのために行動している。
それはまあいい。消滅したさやかを友人として償いにも似た献身を
捧げているのは、とても杏子らしい。

そしてそのさやかの目的はほむらを消滅させ、円環の理に導くこと。
そのため、どういう方法か穢れをソウルジェムに注ぎ込むこともした。

「結局【ジョーカー様】の行動理由がわからないわね」

「ええ……。できれば話を聞きたいところだけれど、難しいかもね」


それに対し、仮面の一団の行動は不明だ。

「あれが、QBが言っていた組織のことかしら」

だが、噂を聞く限り組織の目的は魔法少女の捕獲で、殺害ではない。
また、マミが聞いた限りでは、杏子は何度かその仮面の一団に襲撃を
受けているらしい。
ほむらとマミが襲撃を受けなかったのは、怪人たちの襲撃を恐れ、
単独行動をせず、人気のないところへ近寄らなかったからだ。

「暁美さん、今日のところは帰って休みましょう」

ほむらもマミも二種類の襲撃者に疲労が蓄積していた。こうやって
襲撃者への考察を行い、襲撃に備えることは重要ではある。だが
今の二人にそれを澱みなく行うのは困難だ。魔力も精神状態もとても
万全とは言えない。なんとか体を休め、襲撃に備えなくてはならない。
幸いなことに、【ジョーカー様】と仮面の一団が交戦状態にあり、
一種の均衡状態を作っていた。そのため、ほむらやマミは辛うじて
その両者から目がそれていた形になった。

図らずとも、杏子とさやかはほむらたちを守っていたことなる。

疲れた体を引きずり、二人は帰路についた。その背後には
いつのまにか現れたキュゥべえが静かについていった。


翌朝の登校。校内は異様な雰囲気に包まれていた。
ほむらが教室に入るまで、まるで互いが互いを監視するような視線を
感じていた。

「暁美さん、おはようござい、ます」

仁美は昨日のことがあっても何とか登校していた。だが疲労が濃く、
目の窪みの隈が痛々しかった。その隣には昨日のことを聞いたのだろう
上条が支えていた。
昨日ことを仁美から聞いていたらしい。マミは口止めをお願いしていた
はずだが、真倍していた彼には話してしまったようだ。
彼女の身の安全を考えれば魔法少女とは無関係でいるべきだった。
上条の身も危ないのだから。

「暁美さん。昨日志筑さんを助けてくれたって聞いたよ。ありがとう」

だが、上条の言葉は感謝の言葉だけではない。それに続く会話は、
驚くべき内容だった

「それと、貴女が魔法少女だってこともばれないように。危険だから」

「……なぜ?」

「JOKER様呪いをした人たちが……魔法少女狩りを
しているらしいんだ」

苦々しく上条は呟く。そこに、明確な侮蔑と怒りを込めて。


知り合いの音楽団団員、病院のリハビリ施設、そういったところで
上条はいろいろな噂を意図せず仕入れていた。
当然彼も【ジョーカー様】に襲撃されたことがある。そのため、あの呪いを
やろうなどとはもう思っていない。
あの怪人がさやかの可能性があるのだから、同じことをする気はもう
更々なかった。

「『JOKER様呪い』をした人たちはそのあと【JOKER様】から
仮面党に入る様に強制されるんだ」

ほとんどは、願いを叶えてもらった恩から盲目的に入党するらしい。
そこに入党するとカードが手に入り、魔法のような力を発揮する
ことができるとのことだ。

「その人たちが、魔法少女を狩っているの?」

「うん、【JOKER様】が危険視しているらしいんだ」

どこまでも『らしい』がつづく。噂である以上仕方ないことだが、
噂が真実になる。そのことを知るほむらにとり、今の状態ではそれも
重要な情報だ。


昼休み、屋上でのマミを加え四人での話し合い。食事をしつつになるも
皆一様に箸が進まない。暗澹とした気分になっている。

「じゃぁさやかさんが魔法少女を狩っているのですか?」

「いいえ、違うわ。彼女は仮面党とは敵対関係にあるみたい」

これはほむらを無視し仮面党と戦闘に突入したというほむら自身の
証言から明らかだ。

「つまり、【ジョーカー様】と【JOKER様】という別の怪人がいて」

「そしてその二人の怪人は、敵対している。
少なくとも協力関係ではないわ」

上条にしても仁美にしても、ここまでかかわった以上後戻りはしない
つもりだった。そもそも、この街にいる以上、もはや無関係な人間は
誰一人いないはずだった。
なぜなら、誰もが『JOKER様呪い】を行える。そして行った以上、
仮面党に入党させられるのだから。
同じ理由で、素質がある少女は魔法少女としてQBと契約を迫られる
可能性がある。この場合も無関係とは言えない。


そこまで話をしていると、急に屋上のドアが開く。
表れたのは五、六人ほどの生徒と教師。

その顔には、あの仮面がつけられていた。

仮面党だった。


「いたぞ! 魔法少女だ!」

「俺は見たことがある。あいつは夜の街で弓を放ってた!」

「私も見たわ。あいつが夜の空、銃で戦っているのを!」

口々に騒ぎ、ほむらとマミを指差す。なぜそれが広まっているのか、
なぜ二人にたどり着いたのか不明だが、それを詮索する暇はない。

「倒せ! 倒せ! 倒せ! 倒せ! 倒せ! 倒せ! 倒せ! 倒せ!」

それが徐々に熱を帯びてくる。自分たちを高揚させる目的なのか、
不安を払しょくするための陶酔なのかわからない。だがそれをみた
四人は、恐ろしくなった。

「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」

(狂ってる)

そうとしか思えない。なぜ魔法少女が危険なのか、なにが危険なのか
そんな説明をされているのかもわからない。盲信のまま【JOKER様】
に言われるまま、ほむらとマミを狙っている

「魔法少女なんて夢物語をなんで信じてるんですか!」

「【JOKER様】がおっしゃったんだ。間違いはない! 庇うのか!
魔法少女の仲間め!」

「待ってくれ、何を言ってるんだ!」

「止めてください! 彼女たちが何をしたというんですか!」

上条と仁美の必死の声も空しく、六人が襲い掛かる。


「お二人とも逃げてください!」

仁美が叫ぶが、そんなことをすれば逆に仁美たちが暴行を受ける。
いや、最悪殺されてしまうだろう。そんなことを許せるはずがない。
とくに、マミの正義感は。

「志筑さんや上条くんにも危害が及ぶのよ。ただ逃げるわけにはっ!」

「マミ、落ち着きなさい。彼らを殺すつもり?」

「リボンがあれば傷つけずに対応できるわ」

「止めてください! そんなことをすればここにいられなくなります」

それは、彼女たち魔法少女が人間としてすがれる杖を捨てることだ。

「いいえ……、もういられないわ」

マミは、仮面党の中に教師がいることにすぐ気付いた。それは
もはや校内に、上条と仁美以外味方がいないことを意味していた。
それを把握したマミは、瞬時にそれを切り捨てた。
彼女にとって学校生活より守りたいものがあったからだ。

それは、
さやかの祈りそのものである上条であり、
さやかの無二の親友のである仁美であり、
寝食を共にした親友のほむらである

(皆を守るわ! たとえ私がどうなっても!)

マミは、いつになく激怒していた。


だが一方でマミは熟練の戦士である。
二人を守りつつ、相手に傷を負わせずにこの場を乗り切ることは
できないと思っていた。

マミは瞬時に魔法少女に変身する。そしてマスケットを作り出し、
仮面党の一団に突き付ける。いつもは穏やかで優しいからこそマミの
怒りに満ちたその表情は、すべての人間を恐怖によって足止めさせた。

「近づいたり、カードを出したら撃ちます」

昨日見ていた限り、魔法らしきものを使うにはカードをかざす必要が
あったようだった。それを知った上での威嚇だ。果たしてそれは
当たり、一同を心理的に拘束する。

「行きましょう」

ほむらもやむなく変身し、翼を広げる。
マミは上条と仁美をリボンで拘束した。人質に見せて、被害者を装う
のだ。口や手足を拘束し、一人ずつ担ぎ上げる。

「そこを動かないことね。あとで二人は無事に解放してあげるわ」

努めて暗い声でマミは呟く。
背の高い時計台にリボンを巻きつけ、そこを視点にして飛ぶマミ。
それに合わせ、ほむらも夜の翼で飛び上がる。そのまま屋上を後に
して立ち去った。

(さようなら。もう、学校に通えなくなるのね)

それは、マミの人間との決別と言えた。


筆者です。

ちょいと時間がなかったので連続投稿となりました。
情緒もへったくれもございませんが。


また感想や突っ込みをお待ちしております。


内容が暗くなっているので、
皆さんのコメントがないと心が辛くてなりません。
ニャル様を描くのが、こんなに苦しいとは思いませんでした。


マミッサの方でかろうじて心のバランスを取っています。

豆腐メンタルは[ピーーー]

考えてみれば罪では学校(セブンス)なんて2回ぐらいしか行かなかったな

乙であります。

マミさんマジ鋼鉄メンタル、安心感ハンパない。

ニャル・フィレのやることはルシ閣下のそれとちがって愛がないと言うか、
冷笑的と言うか……そんな感じがしますな。

あと仁美が出番多くて嬉しい。
状況はピンチだけど(笑)

次回も楽しみに待ってます。

HP回復するなら傷薬と宝玉で

>>1を応援、投下を讃える「面白かった」と「乙でした!」

乙サイザー!

更新ありがとうございます
そういえばたしかPSの攻略本によるとこの世界の本物のヒットラーもニャルの声が聞かされていたらしい。
続き待ってます。


筆者です。お返事タイムです
ヒャッハー、コメントが多いぜー!

>>146
……?……


>>147
「暗黒ヤング伝説」がインパクト強すぎて
学校で何をしていたか忘れてしまいました
そういや「セブンスの英雄」てのがありましたな


>>148
確かに閣下は「自由意思の尊重」がありますが、
ニャル様は完全に悪意の塊ですからね

ちなみに私にとって仁美は
人間と魔法少女を繋ぐ鎹的なポジです
かなり便利に使わせてもらってます


>>149
おおー、サトミタダシでキター!
南条君も洗脳する電波ソングで替え歌とは
ステキです!


>>150
したっけこっちはアポロの技か
アポロのデザイン大好きです。かっこいい


>>151
ニャル様の手広さには頭が下がります
人を破滅させるためには労力を惜しまない
あたり、邪悪すぎてステキですな




そしてこのまま投下します
これからしばらくは週一度になるかもしれません
気長にお待ちいただけたら幸いです

では、どうぞ


上条を解放したほむらたちは、仁美の屋敷の中にいた。
自宅が知られている可能性のある二人が部屋で待ち伏せをされている
恐れがあるからだ。
仁美は家人に箝口令を敷いた。幸いにして仁美の家にいる家族や
お手伝い(数人いた)たちはJOKER様呪いを行っていない。それは
聞き取りで確認できたし、携帯電話の通話記録で裏付けが可能だった。

「しばらくはここでお過ごしください」

「でも、貴女にも迷惑がかかるわ」

仁美は左右に首を振る。そして、寂しそうに笑うと、こういった。

「街を、人を守ってくれた貴女方にする恩返しと思ってください」

「それは前にも言ったはずよ。感謝することではないと」

ほむらやマミは、仁美を巻き込みたくなかった。はっきり言えばこれは
杏子やさやからしき人物のいざこざが原因だ。つまり身内の不始末の
ようなものだ。だから一般人は巻き込みたくなかった。
マミにしてみれば、ほむらすらも。
なおもほむらたちは食い下がるが、仁美ははっきり次のように言って
黙らせた。

「さやかさんが消滅した経緯をお話しいただけるまでは、帰しません」

きっぱりとそういうと、ついでにっこりと笑う。

「私の中にいるさやかさんを送らせてください」


その夜。三人は、まるで修学旅行のような一夜を過ごした。真摯に耳を
傾ける仁美。苦しいながらもさやかの戦いぶりを語るマミ。その姿を
穏やかに見届けるほむら。
逆に仁美はさやかのことをたくさん話した。マミもほむらも知らない
彼女の素顔。おちゃらけてて、明るくて、向う見ずな彼女の魅力を語る
度に、仁美の眼差しは熱と潤いを帯びる。

改めて思うことは、マミにしろほむらにしろ、仁美にしろ、彼女の
明るさに救われた部分が少なからずあったということだった。
真っ直ぐな性根が、彼女たちの心を打った。

「ふふ、さやかさんは魔法少女となっても、皆さんに迷惑を
かけていたんですね」

泣きながら笑う仁美。それは、故人を偲ぶような語り口である。
仁美の中では、さやかはもう亡くなっている。
怪人はさやかに似た「何か」であるように思えているようだ。

「もし、もしも、あの怪人がさやかさんなら、きちんと二人に話を
していただきたいです。そして可能なら上条さんとゆっくり
お話していただきたいですね……」

遠くを見つめる仁美の視線。そこにある思いは一言では語れない。
二人の心は痛んだ。


ジョーカーや仮面党の襲撃に備え、交互に湯に入る。あの時の様に。
ほむらが湯から上がると、入れ違いにマミが入る。

「広かったわよ。さすがね」

「あら、それなら一緒に入ればよかったわね」

「丁重にお断りするわ」

ほむらも馬鹿丁寧な言い回しで拒否する。それがほむらなりのジョーク
だと知ってるマミは苦笑すると、湯に入る支度をする。
幸い、仁美の手配で下着から何から準備ができていた。しかしほむらは
サイズに若干の不満があるらしい。けれども表だって文句は
言わないつもりのようだ。

「それじゃ、ジョーカー様対策はお願いね」

「あまり気を抜かないでね」

「はいはい」

マミも笑顔でおざなりな返事を返す。着替えをもって立ち上がると
仁美に案内されてバスルームに移動する。
脱衣所で仁美と別れると、いつものように衣服(制服)を脱ぎ、
丁寧に畳むと、脱衣籠に入れる。
その見事な肢体を湯気の中に晒し、髪や体を洗う。いつもの流れ。
泡を洗い流し、湯船に浸かる。その湯の熱さについ声が出る。

それが限界だった。

湯船の水面に滴が落ちる。ポツリポツリと滴るそれがマミの心の叫び
そのままだったようだ。
ほむらや仁美の前だから強がっていたのは先輩としての意地だった。

「なんで、こんなことに……、私たちがなにをしたというの……」

見滝原の魔法少女で唯一の先輩ではあったが、彼女とて普通の
中学生だ。しかも、両親と死別したため、いやがおうにも大人に
なることを強いられていた。辛くないわけがない。後ろにほむらや
仁美がいるからこそ、恐怖に震える体を叱咤し立ち上がれたのだ。

(ここでいいの、いっぱい泣こう。
そうしたら、暁美さんを守る私に、きっと戻れるから)

心のまま、気が済むまでマミは涙を流し続けた。


仁美の配慮を無駄にすることになるが、深夜になると
魔法少女は動かざるを得ない。ソウルジェムは日常の活動でも
僅かずつではあるが濁り、消滅に向かって突き進んでしまう。
だから魔獣狩りを行う必要がある。

夜の闇の危険性を承知したうえで、二人はビルから瘴気の渦を探す。

『やぁ、ここにいれば会えると思っていたよ』

「QB。ごめんなさい、探させたかしら?」

キュゥべえの姿を認め、マミは相好を崩す。数少ない理解者である。
気を緩めても仕方なかった。

『そうだね、自宅にも帰ってなかったからね』

「ごめんなさい。今日は部屋に帰っていないの」

「マミ。それ以上は言わないほうがいいわ」

ほむらが遮る。ほむらは『前の世界』の記憶があるせいか、
QBを全面的に信じきることができない。その態度にQBは
是の反応を示す。

『うん、それが賢明だろうね。僕を通じて情報が漏れる恐れがある』

QBは聞かれたことには正確に答える。それは性質であり義務でもある
わけだが、仮面党に参加している(元)魔法少女に漏洩されては
隠れ家の意味がない。

『けれども、その状態で魔獣狩りをするのは危険じゃないかい?』

「それでも、魔獣は倒さないと」

日常生活でもソウルジェムは濁ってしまう。それゆえ魔獣から
手に入れる石がどうしても必要だった。


『僕としては助かるけれど、無理はしないで欲しいな』

「ずいぶんやさしいのね」

ほむらがわかっていながら嫌味を言う。

『気付いているんだろう?』

キュゥべえのいいようにほむらが呆れる。

「魔獣を狩る魔法少女が減っているから、でしょう。
ベテランにいなくなられては困るわけでしょうからね」

『そうだね。でも、そのための協力は惜しまないよ』

キュゥべえのそのいつもと変わらない言い回しにや態度にほむらは
嘆息する。
逆にマミは変わらない口調や態度に安心感をもっていた。

「もう、二人とも喧嘩しないの、いいわね」

『僕はそのつもりはないんだけれどね』

ほむらは、それ以上口をきくつもりはないらしい。ただ面白くない
という仏頂面で街を見下ろしていた


一方で、ネット上ではこんな文言が踊る。

『仮面党に入党したけれど質問ある?』

『魔法少女を狙ってる組織ってなに?』

『魔法少女を見つけたら通報するスレ』

これは見滝原に限ったことではなく、日本各地のからの書き込みが
そこに集まっていた。
そこは掲示板であり、ブログであり、ツイッターであったりした。
誰が発端か不明であるが、ネット上はそんな話題が拡散していた。

「噂が全国で展開されているってことか」

上条はバイオリンの練習の休憩中、ネットサーフィンをしていた。
彼は自分が参加する楽団やリハビリで知り合った患者や看護師たちから
それとなく情報を聞く役目を負っていた。ほむらたちに強制されたわけ
ではない。怪人がさやかである可能性を聞いてしまった彼は、積極的に
協力を申し出た。だが危険を伴うため、距離を取りつつ情報を集める
ことに集中していた。
だが、彼も知らない。噂が現実になっているなどということを。
だから単純に仮面党のことを調べているに過ぎない。

「僕の手を治してくれたのは奇跡だけれど、
そんな奇跡がありふれてるなんて……」

上条はそんな異常事態に、怯えていた。そのためかこの文言を
見落としたようだ。

『その組織は魔法少女を拉致して超人を作る研究をしているらしい』


ほむらの矢が、マミのマスケットが魔獣を次々に殲滅する。だが、
今夜は無理をするべきでないと、相談していた。そのため、石を最低限
回収しただけで、狩りを切り上げた。

「襲撃に備えて、大目に集めておきたいけれどね」

「けれど、派手に動いてしまってはまた襲撃を受けるわ」

ほむらは多少渋ったが、マミの意見に同意せざるを得なかった。確かに
夜の街ではあっても、魔法少女と魔獣の戦いは人目を引いてしまう。
再び仮面党や、杏子の襲撃を受ける可能性が高くなる。
幸い、魔獣の数は少なかった。日によって瘴気の濃度が異なるため、
必ずしも一定しない。今夜はそのたまにある日と解釈し、ストックを
増やすだけにとどめた。

二人は適当に切り上げ、仁美の家に戻ることにした。正面玄関からは
帰れないので、仁美に携帯でメールをし、テラスから鍵を開けてもらい
部屋に戻ることにした。

仁美は起きて待っていた。心底心配した顔をしていた。

「はぁ……魔法少女のお仕事が大変なのはわかりますが……」

ふうと、ため息をついた。

(そんなところまで、さやかさんに合わせなくても、ねえ)


同時刻、杏子と怪人は、追い詰められていた。
相手は仮面党ではない。

その日、杏子は自らの魔力回復のため、風見崎で魔獣を狩っていた。
まず仮面党が現れた。見滝原でであった仮面党とは違うメンバーだ。
だが、杏子の敵ではなく無造作に蹴散らされていた。そこに怪人も
加わり、瞬く間に仮面党を殲滅した。
仮面党の一人の胸ぐらをつかみ、つるし上げる。もはや戦意喪失して
いる相手に凄んで見せた。

「何度やっても無駄だよ。とっとと帰りな」

釣るし上げた仮面党を放り投げると、そのまま見向きもせず踵を返す。
その杏子の背後に仮面党が飛び掛かる。
一瞬遅れて杏子が振り向き迎撃姿勢を取る。

だがそこに邪魔が入る。

最初は銃撃。マミのような単発のマスケットではない。マシンガンの
ような連射が効く銃器だ。
飛び掛かろうとした仮面党の一人は、銃弾を背中に浴び崩れ落ちる。
初めて聞く銃声に体を竦めた杏子の代わりに撃たれた仮面党はそのまま
倒れる。確認するまでもなく、絶命していた。
杏子も一般人の死は何度も見た。だが人が人を殺す場面など
見たことがない。その悪意に顔を青ざめる。
怪人は紙袋を被ったままのため、表情の変化はわからない。

そこには、自動小銃を構える軍服姿の兵士と、槍を携えた鎧姿の
怪物の一団。


そして、その胸や腕にある印は……、


ハーケンクロイツ

鍵十字

筆者です。

忘れてたわけじゃありませんよ
単純に物語が浮かばなかっただけで

結構な難産なので、結構苦しいですが、
頑張ります

また、コメントや感想をお待ちしていまーす~

あーあ、だれかアバチュのSS書いてくれないだろうか
たのしみにしてるんだけどなぁ

愚か者め、ここは戦場だ!
槍に魔法封じの効果があるなら強敵だ

乙のハネムーン!

乙です
ペルソナは3、4しかやったことないけど、2もやりたくなってくるわぁ

アバチュSSか。これまたまどマギと合わせてもしっくりきそうな気が
アバチュの"他者を喰らってこまめにマグネタイトを摂らないと精神まで悪魔化する"設定とか、まさに「らし」くていいと思う

ポイント136の"王子様の話"も悪い王子をほむら、姫をまどか、良い王子をQBに置き換えて読むとなかなかしっくりきて面白い
ちょっとこじ付けっぽいけど

とりあえず、アバチュSSというからには配役無視して杏子あたりに例のあの台詞を言わせてみたい。

ほむら「…杏子、さっきコイツになんて言ったっけ?」

まどか「確かこうだよ」

杏子「てめぇはミートボールだ!」

グダグダと長文お目汚し申し訳ありませんでした。次回の投下も楽しみに待ってます~

更新ありがとう。ついにラストバタリオン来たが。ここから超展開きますか。原作だとなんだかんだでここで噂が現実になるという恐ろしさが再認識できた。世界の一部でしかなかったが現実の世界を噂がぶっこわしらな

乙であります。

魔法少女の救いになる仁美と恭介。
絶望をもたらす仮面党。
現実を侵食する噂と現実化するナチス……まさにクトゥルフ的展開。

恐怖を表に出すことで、より強靭な精神を保つマミさん。
やはり>>1さんの書くマミさんはカッコいいなあ。

ゾクゾクしながら次回も楽しみにしてます。

こんばんは、筆者です。

一週間のご無沙汰でしたがいかがお過ごしでしょうか
遅くなって申し訳ないです

お返事タイムです

>>162
聖槍騎士団の中に女性人格の個体がいるんですよね
どのNoか忘れましたが

>>163
このころのスキルの名前が秀逸で大好きです
「せつなさみだれうち」が出たのもこのころ
だったはず

>>164
ペルソナ2も面白いですよ。ただ3や4より
作業とかが多いので苦労するかもしれません

アイディア「アリラト」うございます!
「アバチュ×まどマギ」も考えたのですが
ネミッサラブだったのでこっちにしたのです
でも、誰か描いてくれないかなぁ
今は無理なので……

>>165
うむむ、そういっていただけるのは嬉しいですが
反面ハードルが高くて不安です
でも、噂が知覚できないレベルで現実になるって
ヤバいですよね

>>166
マミちゃんを褒めてもらって嬉しいです
向こうじゃネミッサを褒めてもらって
小躍りしました
ご期待に副えるよう頑張ります


これから投下いたします
どうぞご堪能ください


銃声。硝煙の匂い。死の香り。
杏子は回避するので精いっぱいだった。元々槍しか持っていないため、
遠距離戦闘は苦手だ。また、幻術魔法を使用して分身を作っても、
全部に弾を撃ちこまれたら本体も巻き込まれてしまう。
しかも、彼らは仮面党のような戦闘の素人ではない。明らかな軍事訓練
を施されたまさに『プロ』だ。
いくら杏子がベテランの魔法少女とはいえ、人数で勝る軍隊に敵うわけ
がない。

『杏子! 逃げるよ!』

「ちっ、わかった!」

怪人の提案に素直に応じる。その背後で仮面党と軍隊が激突していた。
だが仮面党は魔法を使ってもなお、軍隊に蹴散らされていた。
人数、装備、練度、技術、そして覚悟。どれをとっても一般人に
勝てる要素はなかった。

無造作に撃ち殺される仮面党に憐れみを感じないこともないが、杏子に
なすすべはない。下唇をかみしめながら戦場から離れた。

(くそっ、あんなのが見滝原も?)

「なぁ、あいつら向こうにもいってねえだろうな!」

『そうだね……、二人が危ないかもね……』

怪人の声に不安が混じる。


翌日、ほむらとマミは仁美の屋敷にいた。二人の身を案じた仁美が、
外出を禁じたからだ。それも考えれば当然で、学校なり自宅なりに
仮面党が貼りついていては二人に安息はない。
家人に鍵を預け私物を運んでもらうお願い以外、やることはない。
尾行にさえ気を付ければさして難しくないはずだが、

とはいえ、二人に日中やることはない。仁美とともに朝食をすませると
もう家で座っているしかない。なまじ外出すると顔を知っている仮面党
に襲撃される恐れがある。
また、ジョーカーも杏子もまだ二人を狙っているはずだった。多少窮屈
でも、じっとしているしかない。居所を知られれば仁美も危ない。

「暇ね」

「勉強道具を持ってきてもらわないとね」

「……もう登校できるとは思えないけれど」

マミのつぶやきは重く、暗い。ほむらにしろマミにしろ、学校に強い
思い入れがあるとは言えない。とくにほむらはまどかのいない学校に
執着はない。
だが、無くしてわかる。あの退屈が学校生活が、何より自分たちを人間
たらしめていたと。人間の輪の中にいることを実感する場だと。
魔法少女が人でいていいと、言われていたような気がしたのだ。

だがそれは儚く砕け散った。仮面党のせいで。


「暁美さん、そういえば、花言葉の話をしてなかったわね」

「……ジョーカー様が私に投げつけた花ね」

マミは頷くと、QBから聞いた花言葉の話をしてみた。

「花の名前はクロッカス。『信頼』『青春の喜び』『私を信じて』
『切望』、それと……『愛したことを後悔する』」

マミの顔が曇る。ネガティブな内容が気に入らない。しかしそれゆえに
最後の花言葉である『あなたを待っています』を忘れ、伝えそびれて
しまった。
思い当たることがある? というマミの問いに、頭を振るほむら。先の
ネガティブな内容にショックを受けていたからだ。

(……まどかを愛したことがいけないことなの……?)

そっと下唇を噛み、苦しみと煮えたぎる怒りに耐えていた。
ほむらの表情に、マミは決意を新たにした。

(美樹さんは守れなかった。けれど、貴女は守って見せる。
……何と引き換えにしても)

悲壮な決意。


翌日、ほむらのいないクラスに仁美は一人登校した。
仁美はクラスメイトに心配されていた。昨日仮面党や魔法少女の戦いに
巻き込まれたためだ。

「皆さんには心配かけてしまいましたね。もう大丈夫ですよ」

ここ数日のすぐれない表情に比べ、疲れは残るものの明るさが見える。
だがそれは昨夜ほむらやマミから聞いたさやかの話により、心の中の
さやかを送り出せたからだった。

(もう、帰ってこないものとして考えたほうがよろしいのでしょうね)

級友たちも心配そうにするが、その中に口汚く魔法少女を罵るものも
散見された。

「志筑さんや上条君を攫うなんて最低だよ!
仮面党がやっつけちゃえばいいんだ」

「でも、私は怪我をさせられたりしませんでしたよ」

「僕もそうだよ。仮面党が来るまで普通に食事してただけなんだし」

恭介も擁護に加わる。その行動に仮面党派は訝しがる。しかしそこに
さらに中沢も加わる

「僕も魔法少女が悪い人には思えない。
怪物から助けてもらったことがあるからね」

中沢は、夜出歩いていた時に魔獣に襲われたことがあるらしい。そこを
救ったのは、赤い衣装に槍を持った魔法少女。


その話から、徐々に魔法少女派も声を上げる。仮面党派とほぼ半々と
いったところだろうか。中にはほむらのぶっきらぼうな優しさに触れて
考えを改めた生徒もいた。
一方で、JOKER様の指示を盲信する者もいて、世論や噂は真っ二つ
だった。

その日、何度か仁美の教室を覗き込む生徒が見られた。恐らくは違う
クラスや学年の仮面党員なのだろう。
ほむらやマミが魔法少女であることは昨日屋上に攻めてきた仮面党らに
よって学校内に知れ渡っていた。
彼らの、その濁った視線が、仁美や上条にはとても醜く見えた。

「見つけたらぶっとばしてやる!」

(人知れず皆さんのために戦うあの方たちが、
悪いものであるはずがありませんわ)

仮面党とさやかの友人を比べたら、どちらが信じるに値するか。
仁美には明白だった。

「自分でやればいいじゃん。仮面党でもないくせに!」

「んだと!?」

徐々に殺伐とするクラスメイト。その騒々しさに、
仁美や上条は戦慄した。


――昨日未明、風見崎の市街地で銃声が聞こえたという
通報がありました――

――その弾痕から、使われた銃が軍隊に支給されているものに近いこと
がわかり、警察では調べを進めています――

つけっぱなしのテレビが昨日のニュースが流れている。それが魔法少女
を狙う組織のものだと結びつけることは決して難しくなかった。そして
案じるのは杏子の身だ。あれだけ戦い、命のやり取りをしたのだが、
それであっても、落ち着けばマミは杏子を心配していた。
元々、心優しい子なのだ。

「大丈夫かしら」

「心配しても、私たちには確かめるすべがないわね……」

杏子たちが襲ってくる以上、近づいて確認することはできない。また
QBにも自分たちの隠れ家を知られるのはまずい。QBとも接触が
できなかった。

「マミ、今は自分たちのことを考えましょう」

「ええ、今は私たちが生き残ること……。これが落ち着けばまた
学校にも通えるわよね……」

ほむらにはその問いに答えることはできなかった。


ネット上に蠢く噂。

『見滝原には大勢の魔法少女がいるらしい』

『なんでもその中学校の地下にUFOが埋まってるらしい』

『うそくせー』

『いや、それを狙って、ナチスの残党が動いてるらしい』

『昨日軍隊が使うような武器の弾痕がみつかったぜ』

『じゃぁマジなのか?』

『あのでかい時計台になんか仕掛けありそうだよな』

『しかし魔法少女なんているのか?』

『いるいる。俺変な怪物と戦ってるのみたもん。コスプレ美少女が』

『妄想乙』

『私も見た。あの怪物に襲われてる人助けてたよ』

『でもJOKER様は、危険だから倒せって……』

『仮面党キター!』

無責任な会話が、噂を生み出し、現実を侵食していく。


授業中の中学校に、物々しい車両が迫る。
機能優先の、くすんだ色はそれだけで新しい平和な町には似つかない
禍々しさを含んでいた。その大きな車体で中学校の敷地を封鎖するころ
になっても、校舎内にいる教師や生徒には気付かれていない。

軍靴の音を響かせて、兵士が規律正しく降りてくる。手に自動小銃を
携え整列する。
列の前、校庭の中心に降りたつのは翼とプロペラを背に持つ、鎧姿の
異形の兵士。黒い金属の鎧に身を包んだそれは、手にした槍をかざし、
兵士に無言の指示を出す。
それに合わせ兵士たちが一斉に行動を起こす。校舎の入口すべてを
制圧し、陣取る。
このころになると校舎内にも気づかれる。

『我々は、栄えある第三帝国の精鋭、ラストバタリオンである』

鎧姿の兵士……聖槍騎士団が校庭の目立つところにその異形をさらして
いた。

『校舎内の人間に告ぐ。敷地内すべて我々が制圧した』

放送室も制圧したのだろう。学校内すべてに響き渡る放送が生徒の混乱
を誘発する。

『生殺与奪の権利は我らにあると心得よ』

生徒も教師も青ざめている。冗談と疑い窓を見る生徒の目前に、
ナチスドイツを髣髴とさせる武装の一団が陣取っていた。
それが冗談でないことは見て取れた。恐慌が校舎内を駆け巡る。

『我らの目的は魔法少女と呼ばれる素質を持つ者の拘束である』

恐怖に慄くもの、怒りに震えるもの、混乱し騒ぎ出すもの。戦いに心を
満たすもの……各々がさまざまな反応を示す。

『殺されたくなければ我らに従え』

仁美も上条も噂には聞いていたのだが、まさかそれが自分に降りかかる
とは思っていなかった。
二人とも顔を見合わせ、慄いた。


教師や用務員、生徒たちは体育館に集められた。銃で武装した兵士が
十人ばかり見張りについている。銃を水平に構える威圧感は平和な日本
では体験も想像もできない恐怖だった。

十人のうち数人が生徒を見渡す。そして、素質を見極められた女生徒は
連れ出された。幸い仁美は連れていかれることなくすんだ。彼女は
足の悪い上条の補助として隣にいて、二人だけの会話を誰にも聞かれず
に行っていた。

「先輩と暁美さんは?」

「学校には来ていません。先日のことは不幸中の幸いですわ」

クラスで一人ないしは二人くらいの女生徒が連れて行かれた。最初は
抵抗していたようだが、銃で殴打され大人しくなっていた。
仁美は知らないことだが、連れて行かれた少女の中には、魔法少女の
契約を済ませているものもいた。彼女たちはテレパシーで連絡を
取り合い、反撃の機会をうかがっているようだが、仁美たちにわかる
はずもなかった。

その、素質があるとして集められた少女のそばに、
キュゥべえがいることも。
彼女たちは隙を見て契約し、反撃のチャンスをうかがっていた。
だが、それでもなぜか、「ラストバタリオンを消してくれ」とは
誰も願わない。

それは、彼が選抜しているからに他ならない。自分のためだけに願いを
叶えようとする少女を。
それは、QBではなく、キュゥべえの思惑だった。


仁美の屋敷が慌ただしくなる。どうにも落ち着かなかったマミは
気になってドアを開ける。そこをちょうど家政婦が通りかかる。
顔をはっきり覚えていないが、昨日はいなかった女性なのだろうか。
やや驚いた顔をしてマミを見るが、すぐに思い当ったらしい。

「なにかあったのですか?」

『あ……、はい。見滝原中学校に……、軍隊が押し寄せたそうです』

そこまで言って口ごもる。あまりの出来事に怯えているようだった。
マミや、後ろで聞いていたほむらは思い当たった。
噂が現実になるのか、その組織が元々存在したのか不明だがそれが、
この見滝原に現れたようだった。

「仁美さんは無事なんですか?」

『いいえ、それもわかりません。とにかく混乱しているようです』

それだけ言うと家政婦は慌てた風で頭を下げて走り去った。

「魔法少女を狙う、謎の組織ね。QBの言う通りなのかしらね……」

「皆を助けないと。けど、貴女はどうしますか?」

凛としたマミの声。その決意の目は何よりも美しく、危うい。
だが一方でマミは一度学校を追われた身のほむらを案じているのだ。
愛想を尽かしていても当然なのだから。
だが、ほむらは判断した。彼女を止めても無駄だということを。そして
例え単身でも彼女は行ってしまうことも。

「……どうせ止めても行くのでしょう? 私も行くわ。
私一人の時にジョーカー様が攻めてきたらひとたまりもないから」

「……ありがとう、暁美さん」

「ほむら」

「あ。ええ、ほむらさん」

マミはにっこりほほ笑んだ。

家政婦は、その二人を見て、口の端をかすかに上げて笑った。


「本当か! それは!」

見滝原中学校が襲撃を受けてる。その報を杏子と怪人に告げたのは
キュゥべえ自身だ。何とか二人を補足することができた。

『ああ、間違いない』

キュゥべえは即答した。彼にとっても素質を持った少女が拉致される
ことは歓迎すべきことではない。そのため救援を要請したというのだ。
そのある種身勝手なお願いは、杏子にとっては極めてQBらしかった。
だからそれを受け入れてしまう。

『あの二人も巻き込まれているの?』

『それについてはわからない。僕の別個体が行っているんだけど、
なぜか連絡がつかない。テレパシーが邪魔されてるみたいなんだ』

残念そうに頭を振る。キュゥべえには感情はないが、それらしく
振る舞う人格は有している。そのため、相手を操るのに適した仕草や
行動を取ることが可能だ。

『行こう、杏子』

「ああ、こんな形でほむらに死なれちゃ困るんでしょ? 行くよ」

『僕もついていくよ。近くで別個体に連絡が付けば情報も手に入る』

「邪魔しなければいいよ」

二人は気付かない。杏子の肩に乗ったキュゥべえが
邪な笑みを浮かべていることに。

筆者でございます

書き溜めたものを淡々と投下いたしました

またご感想やご意見よろしくお願いいたします


やはり聖槍騎士団を出すとコメント増えますね~
敵とはいえインパクトありすぎましたしね
当然、あの御仁も出しますよ? そのまんまで

……タブー……? 存じませぬなそんなこと

いきなりラスバタか

乙ミーラバー

innocent sinとはやはり最高のセンスだ。主人公たちの事だけではなくて普通の人々が状況や周りの何の保証がない話に流された結果がああなってしまったんだよな。浮上後にモブに話したら自分は選ばれたんだとか言ってるやついたし。

乙であります。

すでに絶望しか見えねえ……
その分どう逆転するのか楽しみでもある。
やはり仁美・恭介が鍵かな?

次回も楽しみにしてます。


筆者です。

お返事タイムです。

>>181
いきなりというか神託がごっそりありませんからね
飛行船とか難しいのですよー
キングレオとかもねぇ……

言われるまでフォーミーラバー忘れてましたヨ


>>182
もうもう、あのあたりの無責任な発言は思い返すだに
薄ら寒い悪寒を感じます
そんななか、店舗を変えて働く店員たちに逞しさを
感じました。そんなシバルバー浮上


>>183
ここ何回か作品を書いてますが
魔法少女でないキャラというのはそれなりに
私の中では重要です
「力ないものたちができる範囲で頑張る」姿に
私は憧れます


今夜は短いですが少しだけ投稿します
お付き合いください


見滝原中学校がラストバタリオンに襲撃されてすでに数時間。二組の
魔法少女が、学校の敷地内に近づく。周囲を警察機構によって封鎖され
一般人の立ち入りを禁じていたが、彼女たちには意味がない。
監視をかいくぐり敷地内に忍び込む。慣れ親しんだ学び舎だ。その気に
なれば隠れるところなどいくらでもある。
だが逆に、軍隊の方にはいくらなんでもでも見つかってしまうはず。
それが問題なく侵入できたのには、血なまぐさい理由があった。

銃声。ガラスの割れる音。悲鳴。

仮面党員が一斉に蜂起した。合わせて軟禁されていた
素質をもつ仮面党員も契約を済ませ暴れ出す。すでに契約済みの少女は
指輪や中指の爪の印を魔法によって偽装していたようだ。
テレパシーによる同時多発的に武力行使。相手を子供と侮っていた兵士
たちは全くの奇襲を受けた形だ。

奇襲に一般の兵士が倒される。一部の仮面党員は武器を強奪し攻撃を
開始した。だが、相手はプロだ。奇襲による優位性が時間と共に
失われると反撃に移行する。
立て直した兵士たちの反撃が仮面党を減らす。

「くそっ」

『急ごう』

杏子と怪人は交戦中の校舎内に入り込んだ。


一方のほむらとマミは刑事に止められていた。
まだ年若い精悍な刑事は、私服の彼女たちが見咎めた。そして事情を
聞こうとし、その手をつかんでいた。

「君たちも見滝原の生徒じゃないのか?」

彼は、逃げ出してきたものと思っていた。だがそれにしては私服である
ことに気付いた。それゆえ、少年課の管轄と思ったのだろう。
別の刑事に引き渡そうとする。
その表情はとても柔和で、ともすれば見惚れてしまうほどの優しい表情
だった。
そこに銃声である。顔を上げた刑事はすぐさま真剣な表情に変わった。

「周防!」

年上の刑事に一喝され、若い刑事は一瞬逡巡したのちこういう。

「君たち、ここは危険だから離れるんだ、いいね?」

あの刑事は、本当にほむらたちを案じているのだ。その姿勢にマミは
思うところがあったのだろう。唇を噛みしめる。

「あの刑事さんには悪いけれど、ここでじっとしてられないわ」

銃声が、仁美や上条の危険を告げていた。

「刑事さんも危ないのよ。行きましょう、ほむらさん」

(これだからマミは……)

ほむらは、マミを見捨てることができない。


状況はラストバタリオンが有利だった。魔法少女であれば兵士たちを
上回る戦闘能力を持っている。だが、一般の仮面党員は兵士にすら
後れをとる。魔法による反撃も、銃撃には射程も速度も敵わない。
明らかにこと切れているものもいた。
杏子は吐き気を飲み込みながら、血だまりを歩く。その中で息のある
仮面党員がいた。それに最小限の治療を行うのは怪人。

「た、たすけて……」

『あんたも魔法少女を殺そうとしてたんでしょ。ずいぶん勝手だね』

「いい、いこうぜ」

『運が良ければ助かるかもね』

重傷人を見捨て、銃声がするほうへ二人は進む。銃声に怯まないのは
魔法少女の党員だろうか。一般兵士と一対一であれば魔法少女に
分があるようだ。杏子の目の前で短剣二刀流の魔法少女が兵士を
斬り伏せていた。
銃撃をかわし、俊敏な動きで兵士の陣形をかく乱する。それに合わせ
一般党員が魔法や奪った銃器で反撃する。
杏子は知らない。「仮面党が魔法少女を狙っている」という噂が
広まるにつれ、仮面党員に戦闘能力が付き始めていることに。
一般人と思われていた仮面党員も、ラストバタリオンほどでないが
戦闘能力を身に着け、戦線を押し返していた。
だが、そんなことに杏子も怪人も興味がない。

「ここにはいない」

『ヘンな話だけど、無事を確認しないと』

キュゥべえは、戦闘区域に入ったころから言葉を発していない。
二人には別の個体との連絡のためと説明していた。


魔法少女に変身し、慌ただしく動く警察機構の封鎖を潜り抜ける。
二人はほむらのクラスに向かう。
その途中で、負傷してる仮面党員と行き会う。マミはそれを
見捨てられず、近づく。

「あ、巴さん……」

どうやら仮面党とはいえクラスメイトだったようだ。腹部に銃弾を受け
危険な状態だった。それを迷わずマミは治療を施す。魔力の無駄遣いは
できないはずなのにもかかわらず、だ。

「な、なんで……」

「クラスメイトでしょ」

クラスメイトは涙を流し謝罪した。その心が二人に情報をもたらす。

「あの、槍を持ったロボットみたいなやつ……気を付けて」

その彼女が言うには、槍が普通ではなかったらしい。彼女も魔法少女の
ことは多少知っているし、党員にも変身して戦っているものがいた。
だが、その槍に刺されたり切られたりした魔法少女の変身が解除された
というのだ。

「そんなものが?」

「うん、あいつら、『聖槍騎士団』って名乗ってた。
槍は『ロンギヌスコピー』とか言ってた」

ロンギヌスとは、磔刑にされたキリストを刺した盲目の兵士の名前だ。
だがこれは後世の創作であるらしい。
創作をそのまま解説するとキリストを刺した際に流れた血を目に受け
視力を取り戻した。それを契機に洗礼を受けた彼はのちに
聖ロンギヌスと言われるようになった。

創作もまた、噂なのだ。


その槍は神性を帯び、持つものが世界を制覇すると言われている。
これはいわゆるオカルトの噂である。
そして、その槍をナチスが手に入れたということも、また噂である。

「ありがとう。……立てる?」

「うん、なんとか」

完全な治療は拒否された。立って歩ける程度で十分と彼女は言うのだ。

「ごめんね、私たち……巴さんたちを……」

「今の情報で貸し借り無しにしましょう。あなたとは、ね」

仮面党の少女は涙ながらに頷く。マミが許してくれたことに感謝して
いた。
生徒の居場所をほむらに聞かれた彼女はすぐに答える。体育館に
集められているが、今はわからないことを伝えた。全員殺されている
可能性もあると、うすら寒いことを教えてくれた。

「いいの? マミ?」

「ええ。あの子、私にノートを貸してくれたの」

たったそれだけのこと。それだけのことだが、マミにとっては大事な
級友とのやり取りだった。それがどれだけ重要で大事なことか、
今ならほむらにもわかる。

「貴女らしいわね」

その一事をもって、マミは彼女を許したのだ。

筆者です

短くてご不満でしょうが今宵はここまでにいたします

ここから徐々に血なまぐさくなってきます
まどマギのファンに好ましいかわかりませんが
まああれです。メガテンのテイストにお付き合いください

自分がニャル様になり切ってシナリオを描くと
あるはずもないソウルジェムが濁るような気がします

それではまたしばしおまちください

乙。wktkして待つのですぜ

クロ乙フォーチュン!

ロボチガウロボチガウ……


筆者です。補足などでちょっと書きます

>>191
ありがとうございますありがとうございます
嬉しい反面、皆さんが術中にはまっているのを見て
正直昏い笑いが込み上げます。順調にニャル様に侵食されてます


>>192
所謂パワードスーツなんでしょうけど
女学生には見分けつかないから「ロボ」って言わせたんです
また、ダブルミーミングで「中身が人間とは思えない」って
ニュアンスをぶち込んでもいます。
あいつらの中身を考えればそうとれるかな、とね

本編で解説する流れにないので言い訳させてくださいまし

はい

更新お疲れ様。メガテンは家族殺されたりで死ぬ、友達同しで殺し合う、自分が作られた存在、世界が滅んだ、人間じゃ
なくなる、他人として生きる、死ぬとかきついのしかないわ。
でもこの作品の元ネタのは特にきつい。罰の最後とか見てると胸が痛くて切なくなるわ



筆者でございます

最近「コネクト」を聞くと気分が悪くなるようになりました
歌自体はすごく素敵なのですがほむらに感情移入しまくってる
からですね
じゃなかったらネミッサにメアリー・スーなんてさせませんけどね


>>194
うーん、変な言い訳してごめんなさい。気を悪くしないでください
あまり前に出すぎかなぁ


>>195
実際そういう主人公や世界がひどいことになるのはほかにもあるんですが
まどマギみたいに現実世界と地続きになっていると生々しさを感じるんでしょうね
ファンタジーだと他人事というか、余所事に感じるのかな


そして、夜遅いですが投稿します
不定期で申し訳ないですが、お付き合いください


二人が体育館についたころには戦いは終わっていた。地に伏す兵士の間
には、仮面党の亡骸。何人かの生徒や教師が帰らぬ人となっていた。
生徒の見張りに対しそこにいた仮面党は人数が多く、兵士たちを
撃破することができた。だが被害もまた多かった。

「ひどい……」

事切れている生徒や教師のなかに、ほむらやマミも見覚えがある顔が
混じっている。マミは唇を噛みしめている。

「巴先輩、暁美さん! どうして!?」

仁美と上条が二人の魔法少女に近づく。ほむらはマミについてきただけ
というのは強かったが、マミは真っ直ぐに二人を見て言う。

「あなたたちが心配だったのよ……私たちを庇ってくれたから……」

元々垂れ目のマミの目じりがさらに下がる。そうすることでとても
柔和に見える。

「無事で……、でも間に合わなかった人がいるのね……」

物言わぬ級友に胸を痛めるマミをほむらは冷静に諭す。マミは情で
救出の動機を生み、ほむらはそのクレバーさで救出の方法を生む。
とはいえ、ほむらの提示できる方法もそう多くない。


「できるのですか?」

ほむらには翼があり、マミにはリボンでの空中移動が可能だ。
生徒の一人を連れて包囲網と接触。動きを同期させて生徒の脱出と
包囲網の援護を連携させる。

「正直、危なくないわけではないわ。生徒や先生にも危険がある」

「全員を無事に脱出できる保証はない。けれど……」

ほむらの言葉をさえぎるように爆発音と銃声が響く。これは杏子たちが
ラストバタリオンと交戦している音だったが、体育館の人間にわかる
わけがない。

「でもここにいても危ないだけだよね……」

ほむらたちのクラスメイト、中沢が尋ねる。
魔法少女の二人のうち一人が包囲している機動隊たちと接触。
彼らを説得。テレパシーで残った方と連携をとり、脱出とその援護を
同時に行わせる。
魔法少女の能力の中にテレパシーがあることは今ではほとんどの人が
ある程度知っていたため、すんなりと全員が信じる。
仮面党が魔法少女を狙うことが常態化したからだ。

「包囲に接触するのはマ……」

「私はここに残ります。接触はほむらさん、お願い」

ほむらは説得をマミにお願いしたかった。だが、マミはここの守りを
するつもりのようだ。
実際、リボンの結界で出入り口を封鎖すれば、少しの間は体育館に
籠ることができる。さすがにそれはほむらには不可能だった。


それを察し、仁美が震える声で言う。

「わっ、私が一緒に行きます。昨日の様に私を運んでください」

そこにいた生徒たちが瞠目する。途中狙撃される恐れもあるからだ。
しかし、ほむらはその仁美に覚悟を見た。手が震え、足が震え、声も
震えている。だがそれでもなお危険なことに挑む彼女を買った。

「ええ、お願いするわ。私は口下手なの。皆もそれでいい?」

騒ぎ出すかと思ったが、生徒たちは粛々と従った。目の前の戦闘で
気勢をそがれていたのもあったし、そも逆らう気力がなくなっていた。
教師である責任感から和子先生が改めて周りを見渡した。

「暁美さん。志筑さんを、皆をお願いします」

実際、この作戦は穴だらけだ。ほむらにしろマミにしろ、軍事的な
訓練や経験はない。この方法も思いつきに近い。だがそれ以外に
思いつかないし、この極限状態では代案もない。
マミが体育館の入口を封鎖する前にほむらたちは外に出る。

「暁美さん……志筑さんをお願いします」

松葉杖もなく立ち上がる上条。彼はもうすでに、幼馴染を失っている。
ほむらはその真っ直ぐな瞳にこたえることができなかった。

「わかって……いるわ」

(まどかを救えなかったのに、何をやっているのかしらね)

マミを放っておけないという理由はあるが、それ以外に思いつかない。


マミは、結界を張ると一時的に変身を解く。私服ではあったが、
見慣れた彼女の姿に級友たちが顔を綻ばせる。緊張した面持ち。

「あの、巴先輩……ありがとうございます」

「え、私を知っているの?」

「知ってます! ウチのクラスでも有名ですよ。
成績良くてきれいな先輩がいるって」

マミの近くにいた中沢がこれ幸いとまくし立てる。だが一方で緊張の
マミの気持ちを解きほぐしたいという思いもあった。自分たちが
役に立たないと知っていたから。
確かにマミは有名だった。成績は見滝原に残るために頑張っていたし
同じ理由で校則も守る。品行方正文武両道。そして柔らかな美貌。
それを言われマミは照れてしまう。おなじくらいほむらも有名らしい。

「その二人が魔法少女だったなんて。驚きです」

「あ、ありがとう」

「それにさ、昨日あんなことあったのに……助けに来てくれてさ」

他の女子生徒が割り込む。彼女は級友として、ずっとマミと仲良く
なりたかったと言ってくれた。仮面党の級友に襲われてもマミは皆を
助けるべく舞い戻ってくれたことに感謝を述べた。

「ほんと、ありがとうね。巴さん」

涙ながらにいう。周りの生徒たちも口々に感謝を述べる。決して大きな
声は出せないが、皆感謝の気持ちと言葉をマミに送る。


ぽろぽろと、マミは泣き出した。突然の出来事に周囲の人間が慌てる。
マミは涙ながらに微笑みながら、自らのことを話した。自分が
魔法少女になった経緯を。

交通事故に巻き込まれた時QBに出会ったこと。そこで『助けて』と
だけ言ってしまい、両親を助けず自分だけ助かったこと。だからこそ
一人でも多くの人を守ろうとしたことを、生まれて初めて
魔法少女以外の人に語った。

「そんなの仕方ないじゃん!」

「いきなりすぎるよね。あの白い獣って融通聞かないんだね!」

そんなふうに擁護する中、年長者である年配の教師は優しく語る。

「巴さん、ご両親もわかっているはずさ。
子供の幸せを願わない親なんか、世界中どこにもいない。
君は、胸を張っていい。立派に、よく頑張ったね」

頬を流れる涙のまま、笑顔を見せる。その顔に、その場にいた人たちは
見惚れてしまった。
戦う意思を見せる凛々しいマミ、学校での清楚なマミ。
そして今涙ながらに笑う可愛らしいマミ。それらすべてがそこにある。

「はい、ありがとうございます」

その場にいたすべての男子生徒は、彼女に恋をしたと言ってもいい。
それくらい、彼女は魅力的に映った。


マミに限らず、魔法少女の戦いは誰にも知られるものではない。魔獣に
より、一般人も危険になることもあるのだ。だが、魔獣との戦いは
一般の人たちに知られることはない。魔獣たちを知覚できるのは
魔法少女やその素質を持った一部の人に限られるからだ。
だから、彼女の戦いは石以外、何の見返りもないものだった。

それが、今ここで報われた。だからマミは涙が止まらない。

(もう……もう何も怖くない。皆のためなら、私どこまでも強くなる)

「巴さん、正義の味方だね。あの暁美さんもそうなんでしょ」

「見滝原の英雄?」

「えー、女神?」

「天使がいいよ!」

「アテネってどう?」

唐突に聞かれ、涙のあとのままマミは戸惑う。友人たちを遠ざけてきた
時期が、遠くに感じられるほど皆が優しく接してくれている。

「あっ、あの……そういう肩書は……」

照れくさいとも嬉しいとも言えずしどろもどろになる。

戦場と場違いな優しい空気が、マミをどこまでも強くする。


その様子を遠くキュゥべえが見下ろす。

本来なら表情のないはずの白い顔には、マミ達を見下すような
嘲るような、傲慢な表情が浮かんでいた。

『せいぜい浮かび上がるといい。その方が、より深く落ちる……』

『かつて暁美ほむらのいた世界で、インキュベーターが行って
いたことだ。同じことをさせてもらうよ』

『最も、ここでは君らは魔女にはならないようだがね』

『そして、絶望の中で足掻くがいい。それは君たちが望んだことだ』

ネットの書き込みは加速を続ける。


『見滝原中学に軍隊が侵攻した件について』

『中継やべえ、マジ軍隊』

『自衛隊マダーチンチン』

『実況スレがパート18までいってる』

『ウワサの第三帝国が日本をせめとる』

『日本国終了のお知らせ』



そして当然のごとく
『ある特定の人物』に関する書き込みが徐々に増え続ける



『当然総統もいるんだよな』

『あれだと、死んだのもどうせ偽装だしな』

『今頃魔術で生き返って、新生第三帝国指揮してるんじゃね』

『魔法少女の私が願って生き返らせますた』

『私がJOKER様にお願いして生き返らせたんだけど質問ある?』





そして、この文言が踊り出すのに、そう時間はかからなかった。





『なぁ、ヒトラーが復活したってマジ?』


筆者でございます

今回は何も言いません

今宵はここまでにします。おやすみなさい


ジークハイル!ジークハイル!

乙であります。

ペルソナ2発売当時より更に噂が拡がり安くなった現在。
同様の事態になったら阻止は不可能ってのが恐ろしいです。
dies ireなるゲームのせいで聖槍騎士団と言うとラインハルト・ハイドリヒ卿を思いうかべてしまう。
クトゥルフも関係してるから総統より強いイメージなんですよね、ニャル様もどきも出るし。
何かアイディアの助けになれば幸いです。

そして>>192さんへ……
「ロボだこれー!?」ガビーン
「すごいよ! マサルさん」ネタですな(笑)
 
次回も楽しみに待ってます。

このかっちゃんはヒュペリオン呼べるのだろーか。

じわりじわりとQBが這い寄ってきてるな

クロ乙フォーチュン!


持ち上げるだけ持ち上げて一気に叩き落とすのはカダス以来のニャル様の十八番やね
カーターが来い

乙セントミラー!

>>196
いや別にそういう意味じゃないよ
>>207さんの言うとおりネタが通じなくてマジレスされてびっくりしただけ

乙でした。

オルテ帰りのチョビ髭なんぞどうでもいい。
ルーデル閣下はどうした?

遅くなりました
ネタにマジレスかっこ悪い~(自己嫌悪)
そんな筆者でございます


>>206
なんぞ悪の独裁者っぽく言われますが
なんだかんだでドイツを立て直したんですよね
でもその評価もすっかり塗りつぶされたそうです

>>207
アイディア多謝です!
しかしここはクトゥルフやラストバタリオンではなく
ペルソナ2を基盤にしますので私の技量では
うまく扱えないと思うのです。ごめんなさいね

>>208
かっちゃん? ふふ。ふふふふふ。

>>209
ポジション的にはそっくりですが
友人からはQB=ニャル様でも驚かないって言われたので
すり替わって這い寄るようにしました
したっけ、よけい禍々しくなりました

>>210
マミちゃんは好きな子なので落とすのが可愛そうですが
……でもやっちゃうんです
どん底から上がった方がカタルシスありますし

>>211
ひゃほう。マジレスしてごめんなさい
マサルさんは知ってるけど、穴だらけなのです
あと、ダブルミーミングに触れてくれたから興奮して……
シナリオで汚名返上するぞー

>>212
これはペルソナ2なんですよね、
でも出してみたかったりはするんです
カール・ハウスホーファーとか妖しい噂も
ありますしね


これから投稿します
お付き合いください


杏子と怪人が睨みつけるのは、全身駆動する機械鎧を身に纏った兵士。
その周りには一般兵がたむろする。二人は戦闘を行うつもりはない。
だが、ラストバタリオンからすれば魔法少女は標的であり、敵だ。
だから闖入者であれ魔法少女は捕獲対象となる。
怪人の足元には、既に数体の兵士が転がっている。二人にかかれば
仮面党が苦戦する一般兵くらいは造作もない。

だが、それを圧倒するのが機械鎧の兵士だ。まるで魔法少女との戦いを
想定したようなスペックを有していた。それがただのロボットであれば
杏子の脅威足りえない。彼女を圧倒する戦闘技術を持っていた。
あの二人をして距離を取らざるを得ない。

それが、マミが接触した女学生の言うロボ……聖槍騎士団だった。

「無傷で逃げないとな」

『接近戦で一気に仕留められないかな』

「あんたそれで一度失敗してるんだ。やめときな」

杏子が怪人の肩を叩く。校舎内は直線が多く隠れるところが少ない。
教室は入り込んだら逃げ場がない。そのため自動小銃が有効に働く。
槍や剣では近づくこともままならない。


また、接近戦を行えない事情もあった。

先に双剣を携えた仮面党の魔法少女が挑みかかった。名前は知らないが
杏子も何度か見かけたことのある、経歴の長い魔法少女だ。
彼女は痛覚遮断で強引に接近。槍を自身の腕にワザと刺し固定すると、
反撃を試みた。
だが、その刃は届く寸前に消滅する。杏子の見る間に彼女は魔法少女の
変身が解け、ソウルジェムを落とした。
機械鎧は彼女の体を槍で貫き、まるで昆虫の標本の様に固定する。一方
の一般兵はソウルジェムを奪う。更に別の兵士が彼女を拘束。
その一事始終を杏子は見てしまった。ゆえに交戦を避け距離を取った。
痛覚遮断をできず、痛みに悲鳴を上げる仮面党の魔法少女。

(あの槍に何かある。あれに刺されたらマズイ)

『杏子。あの槍に傷一つ付けられないようにね』

「そうだな。ああなるわけにはいかないからな」

拘束され、手当てもされないまま運ばれる少女。ソウルジェムが手元に
なければ彼女に何の力もない。所謂ゾンビであるため、ソウルジェムが
破壊されなければ命を落とすことはない。だが命があれば無事だという
わけではない。
特に、若い女性であれば。二人でも想像のつく惨たらしい扱いが
ないとはいえないのだ。


ほむらは仁美を連れて、屋上へ移動する。自分たち魔法少女であれば
問題はない。だが普通の体の仁美がいる以上警戒を強化し、ゆっくりと
移動する。
幸いにして、仮面党との交戦は校舎の階下が中心のようで、そちらに
意識が集まっていた。だからこそ、先ほどは二人も難なく校舎内に侵入
できた。

「ここから文字通り飛んで移動するわ。しっかり捕まって頂戴」

仁美は緊張した面持ちで頷く。途中の銃声が、自分たちが置かれている
状況を如実に物語っていた。緊張しないわけがない。
筋力を強化し飛び上がる。翼を推進力にして飛翔する。高いところから
降りる分には翼は使わなかったが、飛翔するには必要だ。そしてそれは
その形状からかなり目立つ。狙撃の心配があるということだ。

「もっと近くからではだめなのですか?」

「最近使って分かったけれど、人間二人分の重さを浮かばせるには
かなりの魔力を使うの。狙撃の心配があるけれどしかたないわ」

「わかりましたわ。すみません、口を挟んで」

「いいのよ。さ、行きましょう」

ほむらが闇色の翼を広げると、仁美にしがみつくよう促す。そして
念のため弓と矢をだし、攻撃に備える。

仁美は唇を噛みしめ、首に手を回し体重をかけた。


杏子たちは兵士から逃走を続けていた。ラストバタリオンの本隊とも
いうべき人数である。さすがの二人も抗しきれない。別行動をしていた
数体の兵士を蹴散らすしかなかったが、それが同じものを敵とする
仮面党の勢力に有利に働いた。
そのため、ある程度戦線は膠着し、ほむらたちの脱出の一助になって
いた。
兵士のいない方へいない方へ移動する二人。本隊が校庭の真ん中にあり
そこにトラックなどの車両が集まっている。
そこから遠ざかるため、また生徒が拘束されているところを探すため
体育館まで移動したのは偶然ではない。

体育館の入口で何事かしている兵士。その挙動に不審なものを感じ
瞬時に蹴散らす。その際、仮面党のような手心を加えるつもりも余裕も
ない。なぜなら、少なくとも杏子は仮面党を無造作に撃ち殺した連中に
怒りを感じてたからだ。

「ここになんかある……まぁ、生徒がいるのか」

『二人もここにいるかもよ』

「あんだけドンパチやってて? さっき魔法少女は集められてた……」

『マミさんなら、皆を見捨てたりしないよ』

「ちっ……そうだよな。あの甘ちゃんはな」


ドアに手をかけると何かの魔力を感じた。それが先ほどの怪人の発言の
裏付けになったのだろう。杏子はにやりと笑った。

「マミが無事ならあいつも無事だろ」

『そう、だろうね』

「顔合わせてもまともに会話なんかできねえしな」

『そう……だろうね』

ドアから手を離し、その場を立ち去ろうとする。何をするかわからない
にせよ、マミたちが生徒を見捨てるはずはない。方法は不明だが
恐らく逃がすつもりだろう。

「何する気かわかんねえけど、軍隊の方を攪乱してやればいいよな」

『たぶんね』

その中で思いついたのはあの聖槍騎士の存在だ。あの槍の危険性を
マミやほむらは知らない。そのためかなり危険ではあるが、あの槍の
注意をマミやほむらから逸らす。

つまりは陽動だ。


屋上のフェンスを飛び越え飛翔する二人。高いところからであれば
推進力だけのため、魔力の消費は抑えられている。眼下には校舎と校庭
を見下ろし、中空を飛ぶ。
慣れない浮遊感。仁美はもっとそれを感じているだろう。バランスを
とるのに精一杯で背中の仁美を思いやる余裕もない。この状態では弓を
番えることもできないだろう。そんな状態で狙撃されたらと思うと
ほむらは気が気ではなかった。

仁美はほむらを尊敬していた。
学業と習い事を両立させる自分が大変だと思っていた。だがそれ以上に
大変だという言葉すら軽いことを、素知らぬ顔で行っているほむらに
驚いていた。
そして、なにより学校を追われたにもかかわらず、こうして学校に戻り
皆を救いに来た。
もちろんそれはマミの意思であり、ほむらはそれについてきただけだ。
だがそれを仁美が知ったとしても、評価は変わらなかっただろう。

交戦の音は散発的にだがまだ続いていている。それが運が良かったの
だろう。大きな障害もなく、二人は学校の敷地外に着地した。
ほむらは翼を収め、弓矢をしまう。緊張のあまり顔色の悪い仁美を
慮る暇もなく、手を取って刑事を探す。

「さっき私たちを押しとどめようとした刑事さんを探すわ」

「はっ、はい」

「確か、すおう……と呼ばれていたわ」

なんの確証もないが彼に渡りをつける。彼がどれだけ警察組織内で
発言力があるかは不明だが、何としてでも生徒の救出に協力させないと
ならなかった。
ほむらは未だ魔法少女の姿のままだ。恐らく噂が流れているため、
そのほうが事情が説明しやすいと判断したためだ。


果たしてそれは当たった。あのとき二人を止めた刑事と出会うことが
できた。その若く精悍な刑事はほむらを認めると些か怒気をはらんだ
声で話しかけてきた。ほむらの身を案じてのことだ。

「君! どこにいって……。その姿は?」

「この方は魔法少女です。私たちはあの包囲から逃げ出して
まいりました。見滝原中学校の生徒です」

「……どうやって?」

「この方、暁美ほむらさんが魔法少女の力を使って、です」

「君も、なのか?」

「いいえ、私は違います。皆さんに助けを求めにまいりました」

刑事の応対にかなりの早口で応じる仁美。それだけ緊張もしていたし
切羽詰まってもいたからだ。
ほむらは内心、信じてもらえないだろうと諦めていた。だからせめて
仁美だけでも保護してもらえたらいいと思ってはいた。
その思いを知ってか知らず科、仁美は早口で続ける。
皆が体育館に集められていること。仮面党として一部の生徒や教師が
襲撃した軍隊と戦い始めたこと。一般生徒にも仮面党にもかなりの
死者がでていることを。
そして、体育館から生徒や教師を逃がす手伝いをしてほしいことを。

若い刑事は黙って聞いていた。

「信じてもらえるかわかりませんが……」

「……いや、信じる。経験があるからな」


二人は瞠目している。たかが中学生の言葉を信じ実行に移そうとする
ことに。
仁美は父親を通し、大人の世界を見続けていた。何につけても動きが
遅いことが多々あったから。それは保身などではなく、人との繋がりで
がんじがらめになることが多いからだ。そのうえで無理をお願いする。
それが大人の世界だと解釈していた。

一方のほむらは諦念があった。まどかを救うため、皆を救うため真実を
伝えたにもかかわず、願いとは真逆の方向に運命は流れて行った。
そのため斜に構えた見方で世界を見ていた。

「あ、ありがとうございます」

「突入の人員を集める。タイミングを君に一任すればいいんだな」

「ど、どうして……」

「志筑さんといったね、君が必死なのがわかった。だからだ」

確かに仁美は必死だった。あの中にまだ上条がいるのだから当然だ。
あの体育館が爆破でもされようものなら、たとえマミがいても皆を
守りきれるものではない。その守りきれなかった中に、上条が
含まれないとも限らないからだ。

「ありがとう、ございます、刑事さん」

準備をするつもりなのだろう。周囲の人員に声を掛けようとした。
そこを遮る形になってしまったが、仁美は尋ねた。

「お名前を聞いてもよろしいですか」

「周防……」

振り返り言葉を続けようとするが、そこで一端詰まった。理由は
ほむらたちにはわからない。

「周防、達哉」

かつて反発していた兄と同じ道を歩み出した彼は、憧れた兄に連絡を
とった。


筆者でございます

そりゃぁ、周防刑事ならかっちゃんって思いますよねぇ
でも克哉が堅物すぎて、言うこと聞いてくれなそうなので
「向こうの世界」で直接戦ってますしね

しかし、これが作者的に吉凶いずれにでるか
ご期待ください

また一週間ほどかかります。
遅くなってすみません。おやすみなさい

乙 つ◆
よく眠れるように輝くトラペゾヘドロン置いときますね



なぜかいつまでたってもロワゾー・ド・フーの名前が頭から消えないんだが

乙でした。

刑事になれたのか、達哉……。

タッちゃんだったか。してやられたぜ

グランドクロ乙!

>>223
それ>>1がニャル様at闇を彷徨う者形態のご飯になるじゃないですかやだー
・・・よく眠れるように、ってそういう意味ですか


筆者です
クトゥールの勉強に「ニャル子さん」を読んでみようか。
そんな間違った努力をしそうな夜にこんばんは


>>223
そんな禍々しいものは持って帰ってください
続き書けなくなるじゃないですかやだー

>>224
火喰い鳥のことですね
私はBGM「幼女(が)虐待」のメロディが頭から
離れません。プップー♪

>>225
ねんがんのアイス……刑事になれました
まぁ、刑事になるには結構年数かかるんですよね
最年少で23歳だとか。もっと普通はかかるそうです

>>226
ちゃんとそのことに意味はあります
多少ショッキングですけど意味を持たせました
怒られそうな気もしますが

>>227
なんかむしろ未来永劫眠れなくなりそうですけどね
正気度がだだ下がりしたほうがサイケな作品を
作れるのでしょうか


『わかった。任せろ。だが、無理をするな』

「今無理をしないでいつ無理をするんだ。救いを求められているのに」

電話越しに話す兄の言葉が詰まる。反論ができなかった。慌てて話を
変える。自分が声をかけて動員できる人数の話になった。それを受け
二言三言話をかわす。互いに納得し通話を切ると、仁美に向き合う。

「兄は増援を連れてきてくれる。だが間に合わない」

仁美が言葉に詰まる。ほむらもやや不安げに達哉を見つめていた。
散発的に鳴り響く銃声が、状況が差し迫っていることを教えてくれる。

「だから自分が行く。大丈夫だ。連れていける人数も多い」

「あ、ありがとうございます」

「まだ礼は早い。準備ができたら知らせるから、少し待ってろ」

拳銃を確認し、防弾チョッキを準備する。これでどこまで軍隊の重火器
に対抗できるか不明だが、一警察官に準備できるのはせいぜいここまで
だろう。ましてや組織のバックアップもない。

にもかかわらず、彼は戦いに赴くのだ。

仁美はその行動に、覚悟に涙した。


促され、いわゆる『制服組』に保護される仁美。一度ほむらも
保護されそうになったが、魔法少女を理由に拒絶した。マミのことも
あるし、突入のタイミングはほむらが握っている。ここで保護されて
いるわけにはいかない。

「貴女はここで待っていなさい。いいわね」

「はい、皆さんを……上条さんをよろしくお願いいたします」

包囲から離れたパトカーに乗せられて首を垂れる。さすがに仁美がこの
突入に際してできることはない。

「なんとかするわ。もう、失わない」

仁美にはその言葉の意味は分からなかった。問いただす前にほむらは踵
を返し歩き出す。
そのほむらの視線の先には、周防刑事と、武装した警察官。暴動鎮圧
などに使いそうな盾や武器をかき集めたようだ。かなりの人数が、
ぎらぎらとした視線をほむらにむけていた。

「さぁ、準備はできた。そちらはどうだ?」

「今向こうと連絡をつけるわ」

警察官を無能扱いする人は決して少なくはない。だが、こういう有事の
際に奮い立つものこそ警察官たりえるのだろう。自らを省みず戦う
彼らを、ほむらは見直した。


テレパシーによる連絡を受け、マミは皆に声をかける。その顔に陰りが
見える。周囲の生徒たちはその反応に固唾を飲む。

「人数は多くありませんが、警察官が動いてくれるそうです」

生徒たちから安堵のため息が漏れる。だが、そこに不安の色もにじむ。

「裏門から警察官たちと脱出します。ほむらさんは正門を攻撃し陽動」

計画に様々な反応をする。喜びの声を上げるもの、成功を訝しむもの、
そして……ほむらの身を案じるもの。
クラスメイトの上条が不安の声を上げる。

「暁美さんが陽動? 一人で?」

「……ええ……。そうです……」

マミは唇を噛みしめる。彼女の行動に不安がある。マミたちと知り合う
前、ほむらは一人で戦い続けていた。そのときの排他的な戦い方や
思考が今のこの作戦の元になっているのではないか、という危惧だ。
大雑把にいえば、彼女が死ぬつもりで無茶な陽動をやるのではないか
と疑っているのだ。あるいは彼女が自らの高い戦闘能力を頼みに陽動を
するつもりでいるのなら、危険なところまでは戦うことはない、はずだ。
マミは自分に言い聞かせた。


戦闘は再度小康状態に陥っていた。仮面党と合流した杏子たちが
共同戦線を張り、協力姿勢を見せたからだ。だが、全幅の信頼を
仮面党に持ったというわけではなく、あくまで一時休戦、といった
スタンスだ。

「あたしらを襲ったことは忘れてないからな」

にしても奇妙だと、杏子は思う。仮面党は魔法少女を襲っていたはず。
にもかかわらず仮面党の中には魔法少女そのものも、素質を持ったもの
すらいる。殺すつもりではなかったのか。

彼女たちは気付かない。素質があっても契約するつもりがない少女が
ラストバタリオンや仮面党の襲撃によりやむなく契約していることに。
今回のラストバタリオンの襲撃で、抵抗すべく魔法少女になり戦いに
身を投じた少女が大勢いたのであった。

『見てたやつもいるかもしれないけど、あの槍は危険』

「遠距離武器のあるやつで戦わないとだめだな」

仮面党の中からは罠の設置を提案する者もいた。だが相手の方が戦闘は
上手だ。漫画やアニメの様にはまるとは思えない。最初のころ、
油断している状態ならいざ知らず、今はもう本気でかかってきている。


そこはどこかの事務所。薄暗い部屋に一組の男女がいる。

「ちっ、なんだこれは。あんときと同じ……それ以上か」

「なに? ……ひょっとして、これ……全部?」

「ああ、『噂』だ。あのときと同じような、な」

画面を見つめる男と、その相棒の女性。この二人と、あの刑事の兄弟、
そしてある一人の女性が世界を救ったと言ったら、いったい誰が
信じられるだろうか?

「魔法少女、キュゥべえ、第三帝国……。今度は新世塾の代わりが」

「あの軍隊ってことなのね」

「ラストバタリオン。オカルトじゃ有名なネオ・ナチス。眉唾だな」

実際、ラストバタリオンは「最後の大隊」と直訳される。概ねオカルト
でヒトラーが残した「UFOを持つ戦闘部隊」「超人たちの戦闘集団」
的な意味合いを持っているようだ。もちろん当時からあるいわゆるデマ
であったりするのだろう。だが

「あの時みたいに噂が現実になるってんなら、
これも現実になったんだろうな」

「見滝原市か。行く?」

「あの刑事たちにも呼ばれてるんだ」

「多分……またあいつが裏で手を引いてるんだろしね」


パトカーに乗せられ、見滝原の正門に移動するほむら。テレパシーは
辛うじて届くようで、その間マミに散々心配された。

嬉しかった。

見殺しにし、殺し、見捨てた人からの好意が重く感じたこともある。
けれど、マミはほむらを案じ助けてくれた。それが本人の寂しさから
くるものであったとしても、ほむらはそれに救われたのだ。
動機が何であれ、それに感謝してはいけない理由は……ない。

「これから突入して暴れます。そうしたら、刑事さんに連絡を」

「わかりました。お気をつけて」

”暁……ほむらさん、どうか無事で”

歩きながら変身し、土嚢で陣形を作る軍隊に近づく。
その背中には巨大な闇色の翼が広がる。それは陽動に都合のいい、
派手な演出だった。そんな派手さは彼女の性格にはそぐわないのだが。

弓を引き絞り、魔力を込める。前の世界での貧弱な魔力ではない。
隣にマミもいない。陽動のため、派手に魔力を使う。出し惜しみもない。

魔力を込めた矢を放つ。
土嚢に着弾したそれは弾けるように土嚢を吹き飛ばす。

「魔法少女が突入を開始しました!」

『了解! こちらは裏から突入するぞ!』


「なんかおっぱじめやがったな」

『マミさんは体育館だから、ほむらかな』

二人はほむらの実力の高さを知っている。だがそれが軍隊に匹敵する
ものか自信がない。
それに基本陽動というものは危険を伴う。更に、ほむらは一人だ。
バックアップや支援として、誰かがいるわけではない。
だが、杏子や怪人が向かって、果たして協力することができるか?
答えは否だ。あれだけ攻撃を繰り返しておいてできるわけがない。

「二人同時に行けば多分駄目だ……」

「なら私たちが行くよ。貴女達は体育館に行って」

陽動の方が派手に戦う分、おそらく出てくるのはあの聖槍騎士だ。
槍や剣を使う二人には分が悪い。そして仮面党の魔法少女は何人か
銃器などの飛び道具を武器とする者がいる。

「私らがその暁美さんを援護すりゃいいんでしょ。
暁美さんが逃げたら私らも逃げればいいし」

一般の仮面党は杏子たちと共に体育館に移動する。仮面党とはいえ
生徒だ。そちらを護衛し一般生徒たちと合流することで同意した。
軍隊から奪った銃器を、カードを握り締め戦いに臨む仮面党。彼らも
心は一般市民と変わらないはずだが、戦いに心を染めている。
全幅の信頼を置くわけにはいかないが、杏子はそれに頼らざるを得ない。


とにかくほむらが奇妙に思ったのは、一部の警察官がこの陽動に
『率先して』参加したことだった。皆一様に体が大きいが、若かった。
所謂『今どきの若者』として揶揄されるはずの彼らが、最も危険な
役割に積極的に参加していたのだ。
そのため、思ったよりもほむらは『安全に』陽動を行えていた。

しかし、それでも直接的な攻撃力はほむらにしかない。拳銃程度の火器
では、ラストバタリオンのボディアーマーらしきものを突破できない。
それでも銃は銃。当たり所が悪ければ危険であるため、辛うじて
牽制として機能をしていた。

(だめね、これじゃ陽動にはならない)

軍隊の経験がないほむらでも、これで注意を逸らせるとは思えない。
内心臍をかんでいた。やはり自分たちには無理だったかと思ってしまう。

そこに魔法少女の一団がラストバタリオンの背後から襲い掛かる。
ほむらも自分の思考の盲点に気付き、呆気にとられる。
何も自分たちでやらなくても、仮面党の魔法少女を巻き込めば
よかったのだと。だが、仮面党に襲われたほむらやマミにそれを求める
のは、酷ではなかろうか。

果たして、ラストバタリオンの正門防衛部隊は挟み撃ちの形になった。
正面はほむらと警察官。背後には魔法少女の一団。
ほむらはチャンスとみて、攻勢に転じる。


一方のマミたちは結界の一部を解き、脱出を図る。前衛はマミと
仮面党の党員。手にカードや奪った銃器を持ち周囲を見渡しながら
一般生徒を誘導。殿にも党員と教職員がつく。
その視線の先には周防刑事率いる突入部隊。
体育館自体、ラストバタリオンには優先順位が低かったのだろうが
そこにいるはずの兵士は多くなかった。
けれども、その動きを察知されないはずはない。側面から襲い掛かる
ラストバタリオン。それに気づいたマミは真っ先に飛び出す。

「皆さんは先に! 私がここで食い止めます!」

無数のマスケットを召喚し、一斉に放つ。今更ながら、陽動には
マミの方が適任だったかもしれない。だがこれはこれでマミにしか
できない戦い方だ。
雨の様に放たれる弾丸が兵士を足止めする。何発かは直撃して倒した。
だが残った兵士は怯むことなく全身を続ける。離れた距離から撃たれる
弾丸が偶然一般生徒たちに届いた。距離があるとはいえ当たれば危険
である。恐慌を着たし移動速度が上がった。

そこに取り残されるのは足の悪い上条と、それを補助する中沢。二人は
中央の生徒たちから徐々に後れを取ってしまっていた。

「僕はいいから先に行って!」

「っざけんな!」

極限状態でそんなことが言える二人を褒めるべきであろうか。しかし
有事にはそれは美徳とは言い切れないのではないだろうか。
恐怖に蒼白になりながらも友人の補助を止めない中沢に、最後尾の
仮面党が近づく。
徐々に倒される仮面党。後方から数は少ないながらもラストバタリオン
が近づく。

迫るのは硝煙と、死の匂い。


魔法少女の一団は、土嚢に阻まれ身動きが取れない兵士たちに
襲い掛かる。痛覚を消し銃弾をものともしない彼女らはほとんど死兵と
化して突っ込んでくる。互いに二十名ほどの戦闘は、魔法少女優勢
のまま押し切れるようだった。

そこにさらにほむらである。仮面党の魔法少女を巻き込まぬよう、
射線を下げているため、矢が土嚢に刺さり吹き飛ばす。それが混乱を
呼び、援護としての機能を果たす。

そこにポリカーボネイトの盾を持った警察官が突っ込む。軍隊の銃に
対しどれほど効果的かは不明だが、その威圧感は無視できない。
血気にはやる若い警察官達は、ほむらを追い抜こうと速力を上げる。
それを愚かと片づけるには彼らは若すぎた。 彼らには自分たちより
年若い少女たちが命を懸けて戦っている姿に、触発されたのだ。

その突進は、彼らの死を持って止められる。

騒ぎを聞きつけたのか、聖槍騎士が現れ空中から掃射を行った。
かろうじてそれに反応できたものはよかったが、頭上からの銃弾に
数人の警察官が犠牲になった。
突進を止めたことで良しとしたのであろう。その聖槍騎士は魔法少女の
一団の前に着地する。

『魔法少女どもめ。この槍ですべて標本にしてやる!』

その口調は怒りではなく、蔑みが大いにこめられていた。


筆者です
うむ、ちょっとばかり気力が落ちております

なので、あの二人を出して、自分へのテコ入れをしました
口調を半分くらい忘れてるので……自信ないんですけど
自信ないなりに動かして見せます


それでは、透明な何かに頭から喰われないように
気を付けて。おやすみなさい

乙でした。

警官に殉職者でちゃったか……。
救世経験者の援軍が間に合いますように。



盲目の者「呼ばれた気がした」
星の精「同じく」
ハスター「喚んだかい?」

盗聴バスターと化粧美人もきたか
ヘルメット御曹司も出てきてほしいところ

灼熱乙炎!


こんばんは、筆者です
週一回を目標にしておりますが、いつも締切ぎりぎりです
ごめんなさい

>>240
大概この手の作品だと警察は動きの遅い無能的に描写されるので
正義の味方としてかっこよく表現したかったのです
あと、殉職も物語的に意味があったりします

>>241
呼んでませんし喚んでません。
>>241さんが責任もって還してくださいお願いします

>>242
あの二人、人探し稼業で手を組んだんですよね
そのあと進展があったんでしょうかねぇ。
そして、うふふ。ふふふ……。


とりあえず頑張りました
ご賞味ください


魔法少女の一団と正対する聖槍騎士。その槍先は二十名ほどの少女たち
に向けられている。その風貌から滲む威圧感に怯む少女たちを尻目に、
土嚢をはさみ矢をつがえるほむらを見る。

「――んちょうの者には今は手を出すべきではないが、さて」

(私のこと? )

ほむらはそれが自分に向けられた言葉だと察した。だが戦場の喧騒に
紛れ、上手く聞き取れなかった。
それを振り払うように弓を構える。真っ直ぐ聖槍騎士を狙う。その周囲
にはまだラストバタリオンの兵士が半分ほど残っている。
さらにほむらの周囲にはこれまた十数名の警察官が事切れた同僚を
気遣う余裕もなく立ちふさがっている。

「魔法少女どもは任せ、お前たちは彼の者の足止めをせよ」

号令とも命令とも取れない淡々とした指示に従い、兵士が土嚢を超えて
ほむらたちに迫る。それに合わせ聖槍騎士は槍を構え、背中の
プロペラを回転させ浮遊する。突進にその推進力を上乗せするつもりの
ようだ。高速で移動し、槍による一撃離脱の攻撃を行う準備をする。

陽動作戦の第二ラウンドが始まった。

罰以上の罪の再現やってるけど詳細を知ってるたっちゃん向こう側に帰ってるんだよな。
まだ冒頭の彼女らはいつ出てくるのか


徐々に倒される仮面党。決して数は多くないがラストバタリオンたちは
ひたひたと生徒たちを追い詰めていく。生徒たちの速度が上がったため、
先頭を走る(文字通り走っていた)生徒たちは達哉率いる警察官と合流
することができた。
それでもなお、ポリカーボネイトの盾の内側である。拳銃程度なら
いざ知らず、手りゅう弾や大口径の銃器には抗しきれない。まだまだ
安心はできない状態だ。

後方の仮面党はラストバタリオンの銃弾に倒されつつも、なんとか敵の
数を減らしていった。だが遅れて列からはみ出した上条と中沢の二人に
追いつく兵士が現れる。走り込みながらのため、拳銃ではなく大ぶりの
ナイフをかざし振り下ろそうとする。
中沢はなんとか上条の松葉杖を振り回しそれを追い払う。だが兵士に
そんな雑な攻撃が当たるわけもなく、小ばかにするような動きで
避けられてしまう。

「早く行ってくれよ!」

「ふざけんなよ! 志筑さんが悲しむだろ!」

重ねて言う。彼の行為は平時では美徳である。だが、有事の際にはそう
とは必ずしも言えない。けれども、それを彼に求めるのは酷だ。
彼は兵士でもなければ戦士でもない。
もっと別の、もっと尊い、気高い魂と勇気を持つ『何か』だ。

その気高い魂が、勇気が、時間を作った。


もうかれこれ三十人の兵士をたった一人で屠りつづけていた。
実質これは彼女にとって殺人行為ではあったが、それを受け入れていた。

(皆を助けられるなら、私……、どんなことも怖くない……)

穢れ、汚れ、堕ちることを良しとした。皆を守れるなら修羅道も
畜生道も恐れない。そういう覚悟と魂の輝きがあった。
マスケットを大量召喚し、兵士の一団に魔弾の雨を降り注ぐ。更に
撃ち終わったのマスケットを兵士の前に突き立て、接近を阻害する。
まだある。兵士に当たらず地面に当たった弾からはリボンが生えて、
進行を更に邪魔する。

ライフルのような銃器を持つ兵士の狙撃。単発の銃声が響き、マミの
太ももに当たる。あまり動かず、遮蔽物もないグラウンドで銃撃に
専念していた弊害であろう。それを見た生徒から悲鳴が上がる。
だがマミは一切怯まない。リボンを止血の包帯代わりに使い、痛覚を
遮断すると再び攻撃に転じる。

「私は大丈夫よ! 皆の前なら、私、絶対負けないっ!」

強がりでもあろう、虚勢でもあろう。けれどもそれはマミの覚悟であり
宣言のごときものだった。
その言葉のまま、戦線を押し返すべく前進する。そうすることで戦線と
生徒たちの距離を作り、安全な逃走を確保しようとしたのだ。
それは当然、兵士たちとマミの距離が短くなることを表していた。

無数の銃声がマミに迫る。


残った兵士たちがほむらに襲い掛かる。人数もさることながらその練度
も侮れない兵士。それが十数名、ほむら目がけて攻撃を行った。
その兵士の足止めに、警察官が盾を頼りに防衛を行う。近距離での
軍用の銃撃にそう何度も耐えきれるわけではないが、兵士たちの狙いが
ほむらだとはっきりわかった以上、退くことはなかった。

「止めて! 下がりなさい!」

ほむらの叫びも空しく、兵士とぶつかる警察官。気迫だけで兵士を押し
返す。手に持った拳銃で反撃を行うも、一人、また一人と倒される。

「いやっ! 止めて! お願い! 逃げてぇ!!」

無限とも思えるループで、ほむらは散々人が死ぬところは見てきた。
それゆえ、見て見ぬふりをする心の持ちようは身に着けることはできた。
だが、今まさに目の前で『自分のため率先して戦い死ぬ人たち』を
見て見ぬふりはできなかった。
それをしてしまったら、ほむらは本当に人であることを捨てることに
なるから。それを知っているから。

「俺たちよりガキに命かけさすんじゃねーぞ!」

「応!」

リーダー格の青年の激励に全員が喜び応じる。
ほむらは歯を食いしばって矢を放つ。聖槍騎士と戦う魔法少女の援護
よりも、目の前の警察官の命を救うべく攻撃を行った。

それが聖槍騎士の目的、作戦だと知っても、だ。


『きょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉすけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

怪人は神速の勢いで兵士たちをなぎ倒す。一刀で兵士を切り倒し
全く足を止めることなく走り抜けた。
上条や中沢に襲い掛かった兵士に追いつくとその体を剣で両断する。
生徒たちを後ろから追いかけていた十数名の兵士たち。その半分を
怪人一人で斬り伏せていた。
だが怪人も無傷とは言えない。斬りかかる際の隙に銃弾をナイフを受け
ところどころ刀傷や銃創を作る。

上条の頭上で肩で息をする呼吸音が聞こえる。頭部の紙袋にも裂傷が
見られ、そこから頭髪が見え隠れする。
上条はそれを見て瞬時に判断する。

「さやか! さやかなんだな!」

その声にびくっとする怪人。同じく動揺する中沢。礼よりなにより
口からこぼれた言葉。それが怪人を締め付ける。

「消滅したって聞いたよ! けど、生きていたんだね!」

「美樹さんなのか?」

『そんな奴は知らない!』

だが上条は確信していた。
紙袋の裂傷から除く頭髪に、音楽記号であるフォルティシモの髪飾りが
あった。
それがさやかの証拠であるわけではない。そんな髪飾りを付けてたこと
などない。にもかかわらずそれが彼の確信を呼ぶ。
更には声質や体つき、そして何よりあの声がさらに確信を深めさせた。

「さやか! 顔を見せてくれ!」

『うるさい! 早く逃げろ!』

(見せられるわけないじゃない! 『こんな顔』)

涙を『流せない』ことにわずかに感謝しながらもラストバタリオンに
相対する。決意と怒りを内に秘めて。


ほむらの前で、一人、また一人と倒される警察官。そして仮面党の
魔法少女。無力な自分に怒りと虚無感を感じつつも弓を引き絞り兵士を
射殺していく。
一中一殺。かつて友人だった魔法少女を殺したこともあった。あの時の
感情を思いだし吐き気すら催す。それらを飲み下し狙撃を続ける。

更にその視線の先では、魔法少女たちが一人ずつ槍に倒されていった。
幸い槍によって変身が解除されても、ソウルジェムを拾う兵士が少ない
ためか、全員が全員捕獲されているわけではないようだ。
だがそれでも、一人、また一人と倒されるのはこちらの警察官と同じ
だった。

歯噛みするほむらの背後に、一人の男性が立つ。三十がらみだが、その
顔は若々しく精悍だった。特徴的な四角い小さめの眼鏡をかけている。
その眼鏡を左手で直しつつ叫ぶ。

「ペルソナ!」

その声に気付いたほむらは驚いて振り返る。その男性の背後に、
霊のような不可思議なものが見えた。

その霊が放つ轟音と灼熱の炎が、警察官を避け、ほむらを避けて
兵士だけを包み込む。
ほむらも彼らも炎の高熱を盾で避けるので精いっぱいの熱量だった。
兵士の何人かを焼き尽くし、周囲の酸素を使いきり炎が収まると、
その男性はほむらの肩を叩く。ほむらは咳き込んでいて、返事がすぐに
できない

「遅くなって済まない。……何人か間に合わなかったか」

今さっき超常現象を引き起こしたとは思えないほど、合理的で理性的な
顔立ち。その顔は彼によく似ていた。その美麗な顔が悲しみに歪む。

「君が暁美ほむら君だね。僕は周防克哉。生徒の方には部下を行かせた」

それで説明は終わりとばかりに言葉を切り、僅かに残った兵士に視線を
向ける。


突入した警察官と同じくらいの人数が達哉の後ろから生徒たちに走り
寄る。それがすぐに克哉の集めた人員だと気付いた達哉は生徒たちの
保護を任せ、要救助者の一団の最後尾に走り抜ける。

その視線の先には、怪人……美樹さやかにすがりつこうとする上条。
上条の腕を取ると中沢とともに逃走を促す。

「だめです! さやかが! さやかが戦ってるんです!」

「今の君に何ができる! 彼女たちの邪魔になるだけだ!」

確かにあの怪人がさやかであれば、上条を庇おうとするだろう。戦いに
集中できなくなれば、彼女の身が危うい。彼女を思うならここは逃走の
一手だ。少なくとも達哉はそう判断した。
幸い、もう一人の魔法少女である杏子も追いつき、さやかと挟撃する
形でラストバタリオンを攻撃している。二人の戦力であれば、殲滅は
時間の問題だった。
その杏子は槍を巨大化し、さらに鉄鎖鞭に変化させ薙ぎ払う。
その威力で数人の兵士をなぎ倒し、戦闘不能にする。
杏子も猛っていた。

「さやか! 待ってるから! ずっと、君を待ってる! だからァ!」

達哉に引きずられつつも大声で叫び続けた。何度も、何度も。
その叫び声が、さやかの心に傷を与えつつも、最愛の人を守る
無敵の力を与えてくれていた。

(恭介……、ごめんね……)


マミが四発目の銃弾を受けてとうとう倒れる。
魔法少女として手練れの彼女がいくら工夫しても、多数の訓練を受けた
兵士たちに敵うはずがない。それでもなお撃破した五十人という数字は
驚嘆に値するだろう。
体を半身にすれば最悪右腕を残し戦うことはできた。だが彼女は皆の
盾となるべくまっすぐに立ちふさがっていた。その背中に生徒たちは
祈るような思いを込めていた。
警察官に保護された生徒の中には、助けを求め大人に食って掛かったり、
盾や武器を奪ってマミに助勢しようと騒ぐものもいた。

そのマミを助けたのは克哉の部下たちだ。完全武装した彼らの中で
特に命知らずの大馬鹿者たちが、盾ごとラストバタリオンの集団に
側面から体当たりをかける。
その背後からもう一列が襲い掛かる。殺害を厭わない攻撃はもはや
鎮圧などという状態ではなかった。相手の武器を奪い、乱射する。
彼らはマミのその献身的な戦いに逆上していたのだ。

一時気を失っていたマミはすぐさま覚醒する。そして、自分が警察官に
守られていることを知る。
彼らが自分を顧みない戦い方をしていることにも。

(あの人たちも、誰も死なせない! 私は、正義の味方なんだ!)

マミは昨日かき集めた石を使い、魔力を回復させると再びマスケットを
乱立させる。それを乱射させながら血まみれの体を前進させる。
その小脇には一際巨大な銃を携えて。

「ティロ・フィナーレ!」

裂帛の気勢と轟音が、複数の兵士をなぎ倒す。
血に塗れてもなお美しい戦乙女の姿が、警察官たちの士気を上げる。


兵士という遮蔽物が減ったため、ほむらは直に聖槍騎士を狙い撃つ。
高ぶった精神が魔力を高め、通常よりも高い威力を示す。
何らかのセンサーでそれを把握したのであろうが、回避が間に合わず
直撃する聖槍騎士。大きくぐらつき体勢を崩す。

「ぐぅ……さすがに彼の者の魔力か」

それまで単体で魔法少女と戦って消耗していた聖槍騎士は、
前後に挟まれる不利を理解した。そして、奥の手を繰り出す。

槍先に集まる電流を、槍を振りぬきながら解き放つ。広範囲にわたり
高電圧の電撃がほとばしる。さすがの魔法少女たちも雷より早く動ける
わけではない。感電し、僅かに動きを阻害されてしまう。
だが、聖槍騎士の方もそれが精一杯だったようだ。また、ほむらからやや
離れた位置から近づく、異能を持つ克哉の存在が大きかった。

聖槍騎士は克哉に威嚇の銃撃を向け、かろうじて足止めをすると照明弾
らしきものを複数打ち上げる。

それが退却の合図だったようだ。

積極的な攻撃から一転、警察官たちを寄せ付けない戦い方に変更した
兵士たちは距離を取りながら下がり出した。
血気にはやる警察官たちは追撃しようとしたが、一丸となって退却する
兵士たちに近寄ることもできなかった。


漣の様に、引いていく兵士たち。校庭内に置いたままのトラックに
乗りこむと、凄まじい勢いで逃走を始めた。事切れた兵士を捨て置き、
包囲をしていたパトカーを体当たりで吹き飛ばして。

ほむらたち魔法少女はそれを追う気力すらなかった。魔獣たちとは違う
人間との戦いに心も体も疲弊しそれどころではなかったのだ。
魔力はともかく、精神を消耗したほむらは気を失い、克哉に
抱き抱えられる。

血まみれのマミは警察官に背負われながら、生徒たちの祈りの中
運ばれていく。口々にマミの容体を案じながら警察官に並走するものも
いた。

杏子は比較的ダメージが少なく、生き残った仮面党たちに
簡単な治療魔法を施す。すでに事切れているものも少なくない中、
慣れない魔法を使う。そこにさやかも合流した。杏子以上の
治療魔法の使い手の彼女は、自分の怪我も省みずに治療に当たる。
それでもなお、助けられない命は数多くあった。


警察官の殉職者も十六名を数え、生徒教師の死者も四十名余り。
負傷者に至っては百名を超えた大参事である。

そして何より、魔法少女そのものやその素質を持つ少女たちの行方不明
が数多くいた。
その多くはラストバタリオンに連れていかれたものと思われた。


だがこれでラストバタリオンの脅威がなくなったわけではない。
今日、この日この時から、見滝原は戦場と化した。

どこからともなく集まるラストバタリオン。そしてそれを憂慮する
人々。

「Kei? 今どこに?」

『君は見滝原か。残念ながら、今すぐにはいけない』

「私は仕事を抜け出して移動しています」

『今向かっているところだ。君が先につくはず。周防刑事と合流を』

「わかっています。Keiも急いでください」

『代わりにだが、こちらの手の者も支援に行かせている』



そしてまた別のところでは……。

「やっと見つけた」

「誰だあんたは」

「探偵だ。力を借りたいと言う人間がいる。あの時の再現だとさ」

「ちっ。少しばかり指先が器用なただの営業になにを期待してんだあいつ」

「さぁな。俺はお前にこれを渡すように依頼されただけだ」

「あの野郎……。しかたなねぇ、受け取るよ」

「確かに渡した。無理はするなよマジシャン。……あばよ」


筆者です
色々テコ入れしました。概ね自分のためです
彼らを出してコメントが増えれば
書かざるを得ないと思ったからです


>>245
そうです。達哉も罪世界の再現とは気付かないんです
だから盗聴バスターもあのときの再現とばかり思っております
それがどういう意味か。最後までお付き合いください

さー、次はサマナーの方だっ

乙でした。

完全に『君は生き延びることができるか』って感じの戦争になってるーーー!!!

フィレモン系のペルソナ使いは大人になっても能力が消えないから3以降のペルソナ使いと違って、
頼れる大人の異能者って感じがしますね。

乙乙

・噂で復活
・学校がピンチのとき助けに現れる

以上のことからさやかがハンニャ校長ポジであることは確定的に明らか
しかし暗黒ヤング力が足りないばかりに苦戦する羽目に

ニャル様を降魔できる包丁のセールスマンか……

妖雲乙落!


筆者でございます

正直イラついております


>>257
小説が苦手なスピード感を出す代わりに戦争のような
やり取りをやってみました
「影武者徳川家康」っぽくやれたらいいなぁ、と

>>258
邪龍ワーム二体並んでるように見えますね

>>259
セブンスの英雄はどっちかというとマミちゃんですが
決して髪型がドリルだから、という理由からではありません
「金色ヤング伝説」がきっと必殺技です

いや、ごめんなさい。マミちゃんdisるのは止めるつもりだったのに……


これから投稿いたします。お付き合いください。


ほむらやマミは、その場で魔法少女による治療を受けていた。
特にマミは外傷が激しく、大量の血液を失っていたため意識が朦朧と
していた。
精神的な疲労から立ち直ったほむらは温かい飲み物と毛布を
渡され、無傷のパトカーの後部座席に座っていた。

そのほむらに駆け寄ったのは仁美だ。半ば制服組を振り切り助手席側の
後部ドアを開けて入ってきた。そして、そのままほむらの首に
かじりついた。

「ご無事だったのですね……、よかった……よかった……」

はらはらと涙を流す仁美。あれからずっと座ったままだったらしい。
爆発音や銃声、さらには遠い悲鳴が響くたびに、身を焦がすような
焦燥感にさいなまれ続けていた。
今までほむらは受け取ったことのない、感謝というものを彼女自身が
持て余していた。

「上条さんも、中沢さんも、和子先生もご無事と聞きました」

「……助けられなかった人も大勢いるわ」

ほむらの声色は昏い。自分を責めているようにも聞こえ、仁美は声を
荒げた。

「でも、助けられた人も大勢いらっしゃいます。貴女のおかげで!」

けれどもほむらは唇を噛みしめる。自分のために笑いながら死んだ
警察官たちを思って。

「何より、貴女が無事でよかった……」


一方のマミは簡易寝台の上で目を覚ます。止血用の包帯の上から治療の
魔法をかけられていたため、あちこちがぐるぐる巻きにされている。
けれども、ほとんど外傷は塞がっているが本格的な治療は翌日にという
ことで後回しだ。
トリアージという形だろうか。ほかにいる重傷者に治療が優先された。
包帯は魔法による治療の前に血止めなどに使っていたもので、
拘束にもなっていない。そのため外そうと思えば外すことはできたが、
応急処置に近い治療や疲労困憊の状態では動く気にはなれなかった。

意識を取り戻したところに、周防達哉が現れる。手には某かの資料を
持っていた。

「目が覚めたか」

「あ、周防さん。……み、皆さんは!?」

「意識がはっきりして最初がそれか。大丈夫、君のお蔭でほとんどの
生徒が保護できた。良くやってくれた。ありがとう」

やや上から目線とも取れる言い回しだが、達哉にはこういう言い方しか
できないのが玉に傷だ。

「では、亡くなった方もいらっしゃるんですよね。警察の方も?」

「ああ、殉職者は十六名。だが大規模な戦闘状態では……」

達哉の慰めが始まる前に、マミは涙を流した。

「うっうううう……、た、助けられなかった……。正義の味方なのに
皆を……助けたくて……魔法少女を……続けてるのに……」

包帯ばかりの手で顔を覆い、声を上げて泣き出した。その姿は戦うもの
というよりは、自分の大きすぎる夢に苦しみ、裏切られ、苦悩する
只の中学生の姿だった。

マミを庇い、三人の警察官も死亡した。けれども彼らは一様に笑って
励ましていた。その中の一人、一番年若い警察官はとんでもないことを
言ってのけた。

「ねえ、君可愛いね。この後デートしないか?」

致命傷を受けた彼の、それが最後の言葉になった。 
彼が笑顔を向け、マミの心労を和らげようとした。その優しさが
マミの心を打った。


事情聴取と称し、杏子とさやかは保護されていた。紙袋は捨てられ
顔をさらしたさやかは、目を閉じたまま俯いていた。
事情聴取とは名ばかり。実際には周防達哉の保護下にあるのが正しい。
あれこれ事情を知らない警察官の手に渡ってはどうなるかわかったもの
ではない。
特に彼らには独自の情報網があり、彼女たちの事情を把握していた。
仮面党が跋扈し、魔法少女を狙っていると知ってから古い知人に渡りを
つけ、情報のやり取りを行っていた。

「君たちが魔法少女だということは知っている。
それがどういうものかも」

そのため、魔法少女はすべて達哉の管轄だ。婦警を手伝いに要請し、
彼女たちの保護と世話をさせていた。そしてそこに克哉がもぐりこみ
事情聴取と称してケアを行っている。

「ここで無断で立ち去れば指名手配の可能性も出てくる。だから
今はここでじっとしていてもらえないかい?」

克哉としては脅す意味ではない。そうならないよう全力を尽くすという
意味だった。だから事情聴取も急いでやるつもりはない。怪我の治療を
優先するという名目でなるべく遅らせるつもりだった。

「ああ、わかったよ。他の魔法少女もいるんだろ」

杏子の問いに克哉は一言、そうだ、と答えた。そっけない言い方だが
そこには優しさが含まれていた。


魔法少女の治療を終えたマミの部屋に生徒たちが集まる。達哉が制止の
声を上げる間もなく、簡易寝台の周りに人だかりができる。

「巴さん! よかった。無事だったのね」

あのノートを貸したクラスメイトだ。激しい銃撃やマミの怪我を聞き
保護されたところから慌てて抜け出したとのことだった
マミにすがりつくと、大きな声を上げて泣き出した。感謝の言葉を
続け、嗚咽を上げながら。自分の死も怖かったが、マミの怪我も同じ
くらい怖かったと、涙ながらに伝えながら。

脱出ができた生徒たちも同様だ。彼らは特に銃撃され崩れ落ちるマミを
直に見てしまっていた。血まみれで運ばれるマミに顔面蒼白で見送った
生徒も一人や二人ではない。

「ほら言ったじゃん! 巴先輩が、し、死ぬはず、ない……ってぇ……」

後輩の女子生徒の言葉が途中で涙声に変わった。それを皮切りにその場の
嗚咽が始まる。マミの無事を喜び、感謝の声を上げて。

「君が自分を責めるのはわかる。だが、これが君の守り抜いたものだ」

達哉は淡々と、だがはっきりを言う。

「君は誇っていい。見滝原の生徒を守ったのは……、君だ」

それは『別の自分』ができなかったことをやり遂げた、英雄への最大の
労いの言葉だった。
その心は、マミに届いたのだろう。微笑みつつ泣きじゃくりながら
クラスメイトと抱き合い、互いの無事を喜び合った。


日も落ち、やや薄暗くなる街。だが夜なお喧騒が残る見滝原は、
不気味なほど沈黙していた。やはりそれは、ラストバタリオンのせいで
あり、まるで戦時下のような不安感のせいだろう。

「さて、ここは安心していい。交代で警邏の人間が付く」

杏子とさやかが最後に入ってきたことを確認すると、達哉は集めた
魔法少女たちの前で静かに言う。事情を聴きたいということで、マミの
簡易寝台の前に集まってもらったのだ。もちろん、相互に戦闘行為を
しないことを条件に、だ。

「君ら魔法少女に、あの仮面党や軍隊について知ってることを
教えてほしい。あまり時間がないんだ、協力してほしい」

本来なら調書を取るために、少人数や一人一人聞くのが普通なのだが
今回はそうも言っていられない。もはやここは戦場で、敵は軍隊だ。
悠長なことができる時間はないのだ。

そうして、魔法少女たちはぽつぽつと自分たちの状況を説明する。
概ね仮面党の魔法少女たちは、仮面党に襲われた時や今回の戦争行為
において身を守るついでに自分の願いを叶えてもらった口だった。

一方で、一部ベテランの杏子、マミ、そしてほむらは事情が違う。
そして何よりさやか自身も、だ。事情を聴く流れでほむらたちは杏子に
気付いたが、俯いたままのさやかまでは目が届かなかった。

「なるほどな。そして君らはあの『噂』が出る前に、契約したほうか」

「あの『噂』?」

鸚鵡返しの様に杏子が問いかける。それにあわせ達哉が溜息をついて
返す。

「JOKER様呪いだ」


魔法少女たちに事情を聴く内容が『JOKER様呪い』に及んだ。

「ひょっとして、『噂が現実になる』って話ですか」

マミが横たわりながら呟く。キュゥべえを通じ、魔法少女のほとんどに
伝わっている情報だ。ほとんどの魔法少女はあまり信じていないように
思えたが、達哉の顔は真剣だ。

「やっぱり君らはそれを知っているんだな。誰から聞いた?」

「そんなこと、本当にあり得るんですか?」

別の魔法少女が尋ねる。キュゥべえから聞いていたとしても半信半疑と
いうのがほとんどだったからだ。いや、半分も信じてはいないだろう。
自分たち魔法少女というものがあるにせよ、そんな奇想天外なことを
誰が信じるだろうか。

「それが、ありえるんだよね」

「実際にあったんだから、しかたねえよな」

達哉より年上の泣きぼくろが特徴の女性と、腰まで伸ばした長い髪の
いかつい男性が現れる。

「二人とも、すまない」

「人使いが荒いってんだよ。あいつに渡すのに結局探偵頼んじまった」

「またそうやって愚痴る。しょうがないじゃん」

「ん? ああ、すまない。この二人は協力者なんだ」

「一応『ペルソナ使い』だ」

いかつい男――パオフゥと名乗った――が丸いサングラス越しに、
しれっとそんなことを言う。


一方の女性、芹沢うららは名乗りながらパオフゥをたしなめる。

「そういうことあっさりばらしていいの?」

「いいんじゃねえか。どうせ隠すまでもなく見せることになるさ」

うららの非難の声もどこ吹く風だ。それを溜息一つで諦める達哉。

「それに、信じてもらえるかどうかわからん。どっちだっていい」

「私は見たわ。あの周防克哉刑事が、『ペルソナ』と言って……」

ほむらが言葉をはさむ。自分が見た超常現象のことを伝えた。
霊のような不思議なものを召喚し、魔法少女でもあり得ないほどの火力
でラストバタリオンを一掃したこと。
兄がそういうことをしたということで多少頭を抱えることもあるが、
それだけ非常事態だったということだろう。

「見たなら話が早い。俺たちはそれを使って……ある事件を解決した」

ここから少し離れた地方の珠閒瑠(すまる)市で起った事件。天誅軍
と新世塾が引き起こした大災害。だがそれは大地震と隠蔽された事件。
だが彼らはそれの多く語らなかった。かつていて消えたある少年の
罪と罰であり、彼を弄ぶんだ加害者がいることだけを伝えた。

「で、その加害者なり黒幕なりが
今回も同じことをやってんじゃないか。ってことなの」

うららがまとめ、言葉を切る。


その事件の際も『噂が現実になる』ということがあったため、それが
再びここでも起ってもおかしくない、というのだ。
そんな非現実的なことを受け入れる大人たちを、魔法少女のほうが
受け入れることができない。

そんな状況を見かねて、パオフゥはもっていたノートPCを見せる。
そこに映っていたのはネット上の掲示板。そこにはありとあらゆる噂が
飛び交っていた。
「仮面党」や「第三帝国」や「ラストバタリオン」そして、あの総統の
ことなどが書かれていた。

「正直あのときより厄介だぜ。口コミの噂より広がるのは早い」

「けれど、それはこっちも同じ。逆手にとってやることもできるよ」

パオフゥの悲観的な言い方に対し、うららは自信ありげに反論する。
マミはその彼らの『手慣れた』様子から、あることに気付いた。
解決したというならば、当然、知っているはずだ。

「なら、今起っていることの首謀者……黒幕も知っているんですね」

マミが呟く問いかけに、うららが頷く。その名前を伝えようとしたその
瞬間、全く同時にその名を言うものがいた。

「『ニャルラトホテプ』ってやつ……よ……?」

その名を呟いたのは、ジョーカー様に扮していた美樹さやかだった。


その声に、マミとほむらが瞠目する。

「美樹さん? 美樹さんなの!?」

声に悲鳴が混じる。包帯だらけの体を起こし、立ち上がろうとする。
魔法による治療は終わっているが、とても完治とは必ずしも言えない。
バランスを崩し寝台から落ちそうになる。
だがそうなってもなお、さやかは顔を上げようとはしない。俯いたまま
顔を隠している。

「お願い! 顔を見せて!」

必死に懇願するマミをうららが抑える。興奮し落下する恐れがあるから
だが、マミの形相に不安を覚えたからだ。

「マミ落ち着け! こいつは確かに……美樹さやかだ……」

「どういうこと?」

うららがマミに尋ねるが、興奮状態のマミは聞く耳を持たない。半ば
錯乱している。そのため、事情を知るほむらが口下手のまま話を受ける。

「彼女は美樹さやか。魔獣との戦いで、『円環の理』に導かれ……
消滅したはず、でした」

事情を知り察したパオフゥが飛躍した

「消滅したはずのそいつを、呪いか契約で甦らせた……てところか」

つまらなそうにいうパオフゥをやはりうららが窘める。彼にとって
簡単でつまらない推理であっても、呪いなり契約なりはつまらないこと
ではない。
少なくとも魔法少女にとっては。


『顔なんて、見せられるわけありません』

辛うじてさやかが言えたのはその言葉だ。苦しそうにいうそれは
明らかに彼女の言葉であり、あの紙袋から発した禍々しい言葉では
決してなかった。

「マミ落ち着け。こいつは……あたしが呪いで……蘇らせたんだ」

大人たちの表情が変わる。そこには何か理解し、察したような色が
浮かんでいた。さすがに彼らがそれを口に出すことはない。それは
余りにも、禍々しすぎた。

そしてその甦ったさやかが、あのジョーカー様と同じコートを
着ている。それが何を意味するか馬鹿にだってわかる。

「そう……、そして私たちを……、いいえ、ほむらさんを襲わせた」

マミの声色に詰問の音が混じる。その視線は鋭く真っ直ぐに杏子を
射抜いていた。

「ま、まってくれ! あんたたちを襲いたくて蘇らせたんじゃない!」

杏子も必死だ。ふたりしてマミの容体を心配しこの集まりに参加して
いたのだ。気付かれなければそのまま立ち去るつもりだったのに、
なぜかさやかが敢えて気付かれるようなことをしてしまったのだ。

「ではどういうつもりなの?」

「そこのさやかが、ほむらを襲わせた、ということか」

達哉がまとめ、それをマミが頷き肯定する。だが何のために、という
部分に疑問が残る。


『クロッカスの花言葉』

とだけいうとまた口をつぐむ。

「『愛することを後悔する』と言いたいのね」

マミの言葉に鋭さが増す。まさかさやかがほむらにあのような言葉を
投げつけるとは思ってもいなかった。

だが、マミは誤解していた。花言葉の意味を。まさにQBの言うとおり
情報の齟齬が発生するのだ。だがそれは仕方ないことと言えた。

「花言葉は『信頼』『青春の喜び』『私を信じて』『切望』
『愛したことを後悔する』……」

うららが呟く。彼女は習い事をいくつもしており、その中で花言葉に
ついても学ぶ機会があった。それでなくても、彼女は多少そのあたりに
詳しい。

その一つ一つに首を左右に振り否定するさやか。まるで彼女は喋れない
かのようだった。

「そして『あなたを待っています』だね」

そこで大きく頷き、観念したかのように顔を上げ、目を見開く。
その顔を見た魔法少女は悲鳴を上げ、大人たちを溜息をつく。

『こんな顔、見せられるわけ……ないですよ』

あの可愛らしいさやかの顔がすっかり変わっていた。可愛らしい風貌は
変わってはいない。
唯一変わったのは、その眼下に眼球はなくがらんどうの黒い穴が
開いているだけだった。

「ニャルラトホテプに魅入られたか」

パオフゥは怒りの表情で唇を噛みしめた。


――『あなたを待っています?』――

――誰を? 花を投げつけられたのは私……私を? 待っていた?――

――誰が、誰が私を待っていたの? さやかが?――

――いいえ、それでもないわ。待っている相手を消滅させる?――

――さやかはどこからきたの? 彼女はいつも、誰かのために――

そして、ほむらはそこにたどり着いてしまった。

――待っていたのは……――


――私の、最高の、友達――




「……鹿目……、まどか……」


筆者です。
今宵はここまでです。

さやかちゃんは好きです。真っ直ぐでかわいいですよね
嫌いだからこうなったわけじゃないですよ
悪いのはあいつです。月に吠えるやつです


pixivのほうはいったん全部消しました


ただひとつ言わせてもらえば、あれでイラついてたら身がもたないぞ


筆者です

>>274
お気づかいありがとうございます
でも、もう少しじかんをください
すみません

乙でした。

最近はフォークとか忍者戦士とか致命的な弱点持ってる這い寄る混沌もいるけど、
ここの這い寄る混沌そういう噂はとりこんでなさそうだな……。

こんばんは。今夜も迷妄のチャネリング、筆者です。

>>276
いわゆるガチなニャルさまですよって
萌えポイント的なギャップはありませぬ
というか外見はQBとかなのでフォークでも刺せます
いくらでも生えてくるけど

そんなこんなでお送りします。では、どぞ


精悍な顔のセールスマンが、女性向け雑誌の編集部を訪れる。あまりに
場違いなところのため非常に気が進まない。だがここには旧友がいる。
その人物に渡りをつければ、問題なくことが進むだろうと思い、それを
期待していた。

「すんません~。包丁のセールスの城戸玲司って……」

「あんたね! こんなところで包丁なんて……って城戸!?」

「なんだ。黛かよ。なら話がはやい。これ知ってるよな」

城戸玲司に黛ゆきの。共に同じ高校の出身であり、共にペルソナ使い
でもある。高校時代とある大事件に遭遇し、その渦中にてペルソナの
能力を得た。
また、同じ事件に遭遇した玲司の友人二人は達哉たちと一時共に戦い、
ニャルラトホテプの計画を阻止することに協力した。そうした繋がり
から今回玲司は彼らの要請を受け、女性ティーン向け雑誌の編集社に
足を運んだ。

玲司から渡された名刺を受取り、はっきりと顔色を変える。それだけで
もはや彼が何をしに来たか、何を確認しに来たかをゆきのは察した。

「……知ってるも何も……」

そのゆきのの口調に怒りと悲しみが混じる。それは『かつて』
相棒としてともに仕事をしていたこともある女性の名刺。

「なら、いくか?」

「当たり前だ」

ゆきのが、青白い怒りに燃えて文字通り立ち上がる。


「これで首謀者がはっきりしたな。やつの標的もな」

パオフゥのまるで慮るつもりのない言葉。うららが睨むがそれも流す。
あの時の事件では、ニャルラトホテプは達哉を標的にした。彼の心に
付けこみ、幼馴染らとの関係を利用し、世界を破滅に導こうとした。
そして今回、その標的が暁美ほむらになった。

「あのとき、君と同じように噂で蘇らせられた男がいた」

神取鷹久。あの事件の更に前、大企業セベクの最高責任者であり、
セベクスキャンダルの首謀者であった男。その男の知識を求め新世塾は
噂により蘇らせた。
その時の彼にも、眼下に昏い穴があるだけだった。

「今度は、君が狙われている。かつて、僕が狙われたように」

達哉はパオフゥの話を受けて、ほむらに向き合う。
その真摯な目は、優しさと共に、悪意の者に対する怒りも見えた。

「やつの手口はわかってる。君や仲間の心の弱い部分を揺さぶり……」

「……嘲笑い、弄び、君と世界を破滅に向かわせる」


魔法少女は言葉にならない。話が飛躍し続けてまるでついていけない。

『じゃ、じゃあさ、こんなことになったこの暁美ほむらのせい?』

「そ、そうだよ! こいつがいなければこんなことにはさ!」

一人目の言葉を受け、友人を失った魔法少女が激する。その言葉に
顔面蒼白になる杏子。そしてさやか。

「ちがう! 悪いのはあたしだ! あたしが呪いなんかするから……」

彼女の目に怒りが灯る。身勝手ないいように感情が高ぶる。

「そこのバケモノ蘇らせちゃったのがいけないんじゃん!」

ともった炎は燃え上がり膨れ上がった。

「なんとかしろよ! 私も友達が死んだんだぞ!」

壁を殴りつけるうらら。大きな音がして、壁が陥没する。彼女もまた
ペルソナ使いである。さらにボクシングの経験もあり、その威力は
魔法少女に引けを取らない威力をもっていた。
その威力と音に、場が静まり返る。魔法少女が例え歴戦の戦士で
あってもしょせんは子供だ。大人の明確な怒りに抑えつけられた。

「うるさい! その子も被害者なんだ! そういう仕組みなんだよ!」

「誰のせい、なんて妄想吐いたって何も変わらねえ。
ならよ、その気持ちを問題解決に費やすべきだろうよ」

「狙われている君が体験したことを、教えてくれないか」

達哉が努めて優しく穏やかに問いかける。


最初は口ごもり、話す言葉を探すほむら。それを受けてマミが
代わりに説明する。包帯で動きにくい体を起こし、皆に説明した。

転校生のほむらがマミたちと見滝原で魔獣と戦っていたこと。
その戦いでさやかが円環の理に導かれたこと。そのショックで杏子が
二人と距離を置いたこと。
そして、話しかけられた雑誌記者の女性から聞いたあの呪いを、親友と
幼馴染を失ったほむらのクラスメイトに教えたこと。

うららの顔色が変わる。それに気づかずマミは続けた。

幼馴染がジョーカー様を呼び出したこと。そしてそれに襲われたこと。
そして……。

「ちょっと待ってくれ。その雑誌記者とは?」

「ティーン向けの雑誌の編集者って言ってました。名前は……」

名刺が手元にないので、と言葉を濁す。

「あまのまや、だろ。あたしにも話しかけたやつと同じ奴だ」

と言って私服のポケットからくしゃくしゃになった名刺を出す。それを
みた魔法少女たちも一様に驚いた風だった。

「あ、たぶんそれ、私も貰った」

私も私も、という言葉が続く。その言葉の中名刺を達哉に渡すと、
顔色が変わった。うららも覗き込み、表情を変えた。


「ふっざけやがって……、ここまであいつの予定通りってことか」

パオフゥが怒りを露わにする。

「お知り合いなんですか」

マミはその様子に不安を感じる。彼らの知り合いがこの件に
かかわっていることはわかった。だがそれだけでここまで激高するか。
それがわからなかった。

「ああ、知り合いも知り合いだ。そいつもペルソナ使いだった」

とパオフゥは語る。彼女と達哉、そして彼の幼馴染が標的となり
苦しめられたという。

「信じられないかもしれないが、この世界は新しく作られたらしい」

ペルソナ使いたちが俗にいう【向こうの世界】はニャルラトホテプの
策略により滅んだという。その原因は、達哉とその女性。そして彼らの
幼馴染が遊んだ記憶だという。そのころから、噂は現実になっており
世界の端々に影響を与え続けていた。

「詳しい話は端折るけどよ。それが原因で世界が滅んだから……」

「その記憶を消して、新しい【こちらの世界】を作った」

それがもう六年も前の話だという。当時達哉は高校生だった


「そんなこと……信じられません」

「信じるかどうかはどうでもいいんだ。
俺たちはこっちの世界で生きて、ニャルラトホテプの野郎と戦った」

「そして、そいつがそれを今ここで再現しようとしているの」

そんな途方もない話を信じろというのか。魔法少女たちは訝しんだ。
だがそんな魔法少女たちの心を無視するかのように、達哉は尋ねる。

「その、名刺を渡したあまのまや、っていうのはこの人じゃないか」

携帯電話で撮影した女性の写真を回し見させる。魔法少女一人一人に
回させるたびに上がる言葉は、大人たちの顔色を変えさえた。

「あ、そうそう、こんな人」

「たぶん間違いないよ。こんなふうににこにこしてたもん」

「エネルギッシュっていうか、すごく元気だったよね」

青くなるもの、赤くなるもの、白くなるもの、様々だった。
だが、その意味は同じだった。

怒り。


しばしの沈黙ののち、克也も合流する。彼がその部屋のドアを開けた
ときに感じた重苦しい空気が、事態の重さを物語っていた。皆が一様に
無言。どこからか手に入れたレンズ部分の大きなサングラスを無言で
さやかに渡す。色の濃い、さやかには必要なサングラスだ。

「達哉、どうした」

俯いていた顔を上げる弟の返事を待つ。パオフゥもうららも言葉を
発することすらできない。
無言で名刺を渡す達哉。受け取るまでもなく目を落としたそれに克哉も
驚きと、怒りを表す。

「ああ、俺だ。……ああ、そうか。『新しく刷った記録はない』んだな」

タイミングよくかかってきた電話をパオフゥが切る。深い溜息をついて、
周防兄弟に向き合う。その佇まいが変わっていないため、これから何を
起こすかが魔法少女たちにはわからない。

「あの編集社は、あれ以来その名刺を新しく刷ったことはないそうだ」

「そりゃそうよね……。『死んだ人』の名刺をわざわざ印刷なんかね」

うららも暗澹とした声を出す。再び拳を握り震える怒りに耐えていた。

「な、なんなんですか?」

マミがその様子に怯える。パオフゥは冷め切ったような声でいう。

「天野舞耶は二年も前に死んでるんだよ。当然死んだ人間の名刺なんて
会社は印刷なんかしない。面倒の元だからな」

「舞耶姉の姿を騙って、君らを罠に落とし込んだんだっ!」

達哉がはっきりと怒りを露わにした。自分の姉のような存在を使い
弄ぶ存在……ニャルラトホテプの画策だった。


「大方、噂について聞いて回る雑誌記者がいる、とか噂流したんだろ」

ニャルラトホテプが噂を現実にする際、実在の人物であればその人の
過去に関係なくその内容が事実になる。実在しなかったり故人であれば
その人物にニャルラトホテプ自身が成りすます。

「じゃ、じゃぁ……美樹さんも?」

『そうなるよ。私はそういう役割を振られた、ただの人形なんだ』

サングラスに顔を隠したまま、俯いて答える。そういう意味ではさやか
の立場は、ラストバタリオンの兵士たちと大差ない。あの学校での
戦争状態は、ニャルラトホテプが仕組んだ茶番に等しい。

「そんなことねえよ! 
さやかは、さやかは今も、今でもあたしの……友……達で……」

克哉が自分の苦しみを押し殺して、杏子の肩を抱く。きつめだが真摯な
視線が、杏子の憤りを緩やかに押さえつける。それによってなんとか
心のバランスを保つことができた。

そして全員が気付く。あの戦闘での死は、すべて茶番の結果なのだと。
ニャルラトホテプの奸計により発生した、無駄な死だったと。

ほむらの願いを無視して死んだ若者。上条を救うためさやかが止む無く
見捨てた仮面党員の生徒。マミを口説きながら笑って死んだ好青年。
杏子の目の前で銃殺された仮面党の教員。ニャルラトホテプから見れば、
それらすべてが茶番による無駄な死だったわけだ。


「許せない……」

マミのそれまで挫けた心に灯が燈る。それはゆらゆらと燃え上がり、
次第に大きくなる。

「ああ、そうだろうな。こっちもさ。
知り合いを出汁にされてキレてるやつが何人もいるんだよ」

マミが必死になって救おうとした人々。そして救えなかった人々に
涙まで流した。それがすべてその首謀者の嘲笑を伴う茶番によるもの
だと気付いてしまっては、許せるものではない。

「なぁ、あたしもなんとか……手伝え……手伝っていい、かな」

マミの怒りを知り、身をすくめながら杏子は尋ねる。青白くゆらゆら
燃えるマミの怒りを彼女は知っている。それは本気で怒った時のマミの
怒り方だと。一時行動を共にしていた時にあったそれは杏子やさやかを
竦み上がらせるのに十分なものだった。

「美樹さん、佐倉さん、協力しなさい。いいわね」

マミが静かに吠える。その異様な威圧感に二人は頷くほかなかった。
だが二人は気付いているだろうか。マミが二人を許し、受け入れようと
していることを。

「私らも協力するよ。舞耶を出汁にしてコケにされたのに……、
黙ってられないよ」

マミ同様、うららも燃え上がっていた。


「けれども、その黒幕はどこにいるの? 何が目的なの?」

「居場所はわからない。けれど、嵯……、パオフゥたちが調べて
狙いがある程度わかるはずだ」

克哉の視線の先には、パオフゥが持ってきたPCがある。そこには
あの時なら霧散して消えてしまうはずの、噂の影が残っている。
掲示板、チャット、ツイッター、ブログetcetc……。それらは視認する
ことが難しくはなっても、ログとして残り続ける。
つまり、どんな噂が立ち上がって広まっているか掘り起こすことが
時間と人員を駆使すれば不可能ではないというのだ。

「あのお坊ちゃんの組織にも力を貸してもらってる。
そこから察するに……」

『なんでもその中学校の地下にUFOが埋まってるらしい』
『あのでかい時計台になんか仕掛けありそうだよな』
『当然総統もいるんだよな』
『あれだと、死んだのもどうせ偽装だしな』
『今頃魔術で生き返って、新生第三帝国指揮してるんじゃね』
『その組織は魔法少女を拉致して超人を作る研究をしているらしい』
『魔法少女の私が願って生き返らせますた』
『私がJOKER様にお願いして生き返らせたんだけど質問ある?』
『なぁ、ヒトラーが復活したってマジ?』

「目的は、見滝原中学校。場所は時計台……そして敵は」

そこでため息交じりに言葉を切る。そこには苦々しさが滲んでいた。

「甦ったアドルフ・ヒトラーと第三帝国。
そしてそいつらが作った超人どもだ」


モデルのような美女が夜の見滝原を歩く。途中まで車で移動していたが
軍隊に気取られることを恐れ、徒歩での侵入を余儀なくされた。
彼女もまたペルソナ使いである。桐島英理子。やはり城戸玲司や
黛ゆきのと共にあの異変と戦い、達哉たちと共に悪意と戦った女性だ。

手慣れた、本当に鮮やかな手並みでラストバタリオンの兵士たちを
倒し、指定された合流地点へ移動する。そこに待っていたのは、やはり
旧知の知り合いだった。
だが彼女はそこに、知らされていない人物がいることに気付き驚く。

一人は、バラエティに引っ張りだこのユーモア溢れる友人、上杉秀彦。
彼もまたペルソナ使い。
そして、もう一人もまた、ペルソナ使いである。これであの大事件に
遭遇した高校の出身者のほとんどが集まったことになる。

「あ、あなたは……」

「でひゃひゃひゃ。その顔が見たくて、俺様が呼んどいた」

お調子者な言い回しに、英理子は困ってしまう。何しろ、今なお彼女
の心に燃え残っている小さな灯の原因だからだ。
彼はあの頃の表情のまま、ニコリと笑った。

その耳には、出会った当初から変わることのない特徴的なピアスが
付けられていた。

絶望と希望。筆者です

自分で書いてて、ニャルさまに怒りを覚えました
ショッキングな展開でこっちが怒られそうですが
でもね。彼らが来ればきっと何としてくれるかな
なんて自分でも思いつつ、登場させたんですのよ

それではまた感想をお待ちしております

乙でした。

ああ、かつての救世経験者が、英雄が再び、密かに集う……。
盛り上がってきたって感じがすごくする!!

舞耶姉死んでたんですか!?
ショックです…………

舞耶姉ぇ…… キングインイエローなんか貰うから……

なんでJOKER占いの噂を聞いて回ってるのかと思ったらそう言う事だったのか
下手に聞き込みなんかしたら噂の拡散に一役買うだけだろと思ってたら、広めるのが目的だったのね

ヒエロス乙ペイン!

うぉー!
異聞録面子が出てきてるのが地味に嬉しい!
なおりんはやっぱヴィシュヌさまかちら

筆者です。ギリギリです

>>291
こういうのドキドキしますよね。反面べた過ぎてないかと不安ですが

>>292
こう言ってはなんですが、罰勢を舞台に引き出すにはこうでもしないと
「あいつらの戦いだろ」と傍観決め込みそうだったのです
それではニャルさまどころかヒトラーにも勝てなそうなので

>>293
そです。冒頭の舞耶姉は中身がニャルです。芸幅広いですよね
名刺まで偽造してばらまく当たり徹底してますよね

>>294
一応各種ペルソナは考えてますが
あまりそこを描写しちゃうとくどくなりすぎそうなので
今から悩んでます。一応専用ペルソナでまとめる予定です

そしてここから投下します。またぎりぎりです。


その夜、戦いに疲れ果てた人々は各々体を休めていた。その中で
警察官は休むことなく哨戒を続けている。その警戒の外側は不気味な
ほど静まり返っていた。本来なら夜も人が多い見滝原の市街地のはずが
人っ子一人いない。
もはやそこはただの街ではない。戦場だった。
ほとんどの住人が仕事を早く切り上げ、家族の無事を確認した。
専業主夫の知久が子供のタツヤと共に出迎える。

「あー、うちは無事か」

鹿目詢子。キャリアウーマンとして経済雑誌にも取材される才色兼備の
女性で、二児の……一児の母でもある。
だがそんな彼女も、今日の見滝原の不穏な空気に不安を感じていた。
しかも、先ほどまで友人である見滝原の教師の無事が確認できずにいた
のだから、その不安たるや相当なものだっただろう。

「あの子……ほむらちゃんは大丈夫だったかねぇ」

「そうだね。見滝原に通っていたんだろう。心配だね」

彼女とは、一時河川敷でタツヤと出会い遊んだことがあった。そのとき
に見滝原の中学生だということを聞いていたし、その美貌と品の良さは
好感が持てた。

そこに一台の大型バイクが通りがかる。ライダースーツとヘルメットに
身を固めた美丈夫が夫婦に声をかける。

「失礼。このあたりの警察署の所在はご存知でしょうか」

「あ、ああ確かこの先に……。大雑把で良ければ」

知久が説明する。彼も詳しいわけではないがなるべくわかりやすく
伝えていた。
こんな街の状態だ、この美丈夫の知り合いがこの街にいれば安否確認に
どうしてもそこに行きたくもなるだろう。知久は自分の状況を棚に上げ
心配した。

「ご丁寧にありがとうございます。また近くに行って人に尋ねます」

礼儀正しく一礼し再び鉄馬にまたがると、法定速度を超える速度で
走り去った。

詢子と知久は、この街の行く末を案じた。


ライダースーツの彼、南条圭。彼もまた過去の異変に巻き込まれ、
ペルソナ能力を得た。そして克哉たちと協力しニャルラトホテプの奸計
を打ち破ることに協力した人物の一人だ。
彼は今回財閥としての自分の力を使い、見滝原にいる住民の安全確保に
乗り出した。財閥の人脈を使い、陸自などに影響を与えたり、非合法な
人物たちに協力を要請したのだ。先ほど彼が道を尋ねた夫婦も保護
されることだろう。

「あの時は後手に回ったが、今回は違う。好きにはさせん」

彼の組織の口添えもあり、一部の陸自が独自行動を起こしている。
本来なら内閣の指示がなければ災害派遣などもできないはずだ。だが
財閥のコネクションを使い、現場に直接働きかけた。だが、そんなこと
は自分一人でできるわけではない。自分の部下に指示をだし働きかけを
おこなったのだ。

そのバイクの前に、ラストバタリオンの哨戒任務でもしているのだろう
一団が見えた。
彼は迷わず速度を上げ、突っ込む。迎撃態勢を取る兵士たちに全く
怯む様子はない。

「ペルソナっっ!」

彼のバイクの横に並走するように機械仕掛けの翼をもつ老人の霊が
浮き上がる。老人は、手に持った薙刀のような武器を振るい一撃で
兵士を薙ぎ倒す。
それで十分とばかりに高速で通り過ぎていった。


警察官たちは他の魔法少女を各々休ませる。
マミの周囲の魔法少女はほむらと杏子、そしてさやかだけになった。

マミはさやかに事情を聴きたかった。だが彼女の容体では詰問は難しい
であろう。だから、歯噛みする思いでさやかを見つめていた。
そのさやかは意外な行動をした。自らマミに近づいたのだ。

「まてっ、さやかっ!」

一同が一触即発の事態を想定したが、動きが不自由なマミの体に
触れると、魔法による治療を施す。

「こんなことで許してくれるとは思いません。ですけど……」

マミは、さやかの治療を受け入れる。回復魔法の効果は
よく知っている。この魔法もあの時と変わらないほど効果が高い。

「貴女、まどかの記憶があるのね」

ほむらの問いかけに魔法に集中しつつ頷くさやか。マミや杏子もほむら
から聞いている。夢物語とも思える、彼女の【前の世界の記憶】だ。

「……暁美さんを消滅させようとした、といったね」

ほむらがそれを受け頷く。さやかは表情のない顔で治療を続けている。
その魔法はあのときと変わらない回復量を見せていた。

「喋れないんだ」

ぽつりとつぶやく。

「わたし、言っちゃいけないことは喋れないんだ」


苦々しげに言いながら、治療を止めようとはしない。おそらくそういう
風にニャルラトポテプに作られてしまったのだろう。杏子の願いを
叶えるという口実を使って。

「だから、花言葉を……」

彼女の魔法で花を作ることは簡単ではない。けれどもそれを作ることで
言葉にできない事情を説明するために、クロッカスの花を使った。

「ほむらさんを消滅させたいんじゃなくて、
まどかさんに会わせようとしたの?」

さやかが辛うじて頷く。

「なのに、何も言わないのに、杏子は協力してくれたの。
だから……私は許さなくていいから、杏子は許してあげて」

「そんなのかんけいねーよ! あたしだってさやかと同罪だ!」

マミは治療を受けながら険しい表情を崩さない。じっとさやかの治療を
見つめていた。その流れ、魔力の使い方、指先の仕草などなど……。
どれを見ても、あのさやかにしか見えない。

「あなたはどう? ほむらさん」

ほむらはただただ黙っていた。自分が狙われることには正直慣れっこ
だった。マミに、さやかに、杏子に、はてはまどかに武器を向けられる
ことがなかったわけではないからだ。
それに、許すの許さないもない。自分が償えない過ちをしたのだ。
だれを責められようか。

「二人が私たちを攻撃しないというなら、いいわ」

「そう、決まりね。私はね、その黒幕が許せないわ」

マミの青白い怒りが燃え上がる。
察したさやかはうなずく。

「わかった。協力する。もし、信じられなくなったらいつでもいい。
私を撃ち殺していいから」

「おい!」

杏子が声を上げる。だが言われてみれば納得できる話で、
ニャルラトホテプによって作られた人形がいつ裏切るかなどわかるわけ
がない。
それを信頼してもらうには、自らを投げ出すほかないではないか。
杏子は止める手だてが思いつかず、それ以上言葉を発せなかった。


英理子は内心の動揺を隠しつつ、二人と共に行動を開始する。やはり
目的地は警察署。すでに上杉の相棒も警察署に向かっているという。

「相棒?」

ピアスの青年は苦笑交じりに思い当たる人物の名を言う。

「Keiと相棒に? いえ、それはいいのですが……」

「そーそー、あっちから連絡あってさ。警察署で落ち合う予定だ」

またさらに彼らには役割があるらしい。お笑い芸人と、モデルとしての
人脈を使って欲しいとのことだ。その打ち合わせのために一度合流し
その後目的地に移動する。
その役割にすぐ気付いた英理子だが、逆に彼はどうするのだろう?

「まぁ、このルックスならへーきなんじゃねえの。
俺には及ばないけどな」

あの時と変わらない軽口に彼も英理子も苦笑い。だがこの混乱した
空気の中では、彼のその抜けの明るさが何よりも頼りになる。だから
相棒も、彼を指名し、協力を要請したのだろう。

そして何より、彼がそばにいる。それが英理子にも上杉にも安心感と
心強さを与えてくれる。寡黙だが、じっと真っ直ぐ見つめる彼の眼が
後ろにあるとそれだけで自信がわいてくるのだから、奇妙だった。


傷がすべて塞がり、行動に支障がないとわかると包帯を取る。力任せに
引きちぎってもよさそうなものだが、丁寧に外すあたり彼女の気性が
見て取れた。
包帯の下はほとんど半裸。その上に病衣を着せられていた。包帯を解き
きると、自分の体の具合を見るべく、あちこちを確認する。体を捩じる
艶めかしいポーズは、それを見る三人の視線を泳がせた。

仁美から融通してもらっていた衣服は血に塗れている。魔法少女の衣装
から元に戻る際、出血が触れ、汚れてしまったためだ。

「さ、行きましょう?」

「え、どこへ?」

「決まってるわ。中学校の時計台よ。そこにいるらしいのだから。
協力するのでしょう?」

さやかと杏子は受け入れてくれことに安堵した。と同時に奇妙なことに
気付いたが、尋ねることはできなかった。

「マミ、今から行くというの?」

ほむらが制する。ややもすると激高しかけてるマミを抑えないと
彼女は持前の正義感であらぬ方向に転がってしまう。今はとくに、
今までないほど怒っていた。

「全裸で?」

いつのまにか立っていたうららが、ため息をつく。廊下で騒ぎを聞き
ドアのそばで待機していたのだ。


一瞬顔が赤くなるマミだが、すぐに気を取り直す。魔法少女の衣装なら
復元するのだから問題はない。そう思い変身する。

「これなら平気です。止めないでください」

衣服のことを口実に、足止めをしようとしたとマミは判断した。

「魔法が解けたら全裸でしょ。適当に見繕ったからこれ着なさい」

彼女は下着メーカーに勤めていた経緯がある。そのため、ある程度で
あれば女性の体であれば目測でサイズがわかる。またその時のつてを
使い、マミの衣類を探してきたのだという。
そんな形で手に入れた衣服を紙袋で受け取る。気まずそうに着替える
マミに対し、うららは呆れたようにつぶやく。

「いいスタイルしてるわね。まだ中学生なのにさ」

「そ、そうですか?」

赤面しつつも場違いな言葉にマミは腹を立てる。自分のスタイルが
あれこれ言われることが多く、正直げんなりしているのだ。
……などというと、世の女性たちを敵に回しそうな気もするが。

「でも、あんたら中学生なんだ。もうちょっと大人を頼ってよね」

とポケットをまさぐり、何かを探している。煙草の箱だ。だがそれが
空だと気付くと手の中で握りつぶす。いつかやめようと思っていはいる
のだが、なかなか踏ん切りがつかない。

「こっちで準備してるんだ。明日まで待ってくれないかい」

泣きぼくろがセクシーな瞳で、ウィンクした。


続々と警察署に集まる面々。魔法少女たちは克哉たちに任せ、達哉は
旧知の友人を一堂に集めていた。
もっとも、彼にはあのときの戦いの記憶はない。すべて伝聞系だ。だが
のちのちに聞いた事情から、彼らが信用のおける人間だときかされて
いる。それと信じ、事情を話す。

南条圭、桐島英理子、黛ゆきの、城戸玲司、上杉秀彦……そして、彼。

事情を知り、飲み込み、そのうえでなお戦おうという、ペルソナ使い。
彼らはもはや学生ではない。社会に某かの責任のある大人だ。
ゲームや漫画の様に、救世主ごっこに現を抜かす年齢ではない。
ではないにも関わらず、こうして協力に応じてくれている。

「来てくれて、ありがとうございます。力を貸しに来てくれて……」

達哉が口火を切り、頭を下げる。見知った顔、見知らぬ顔に。

「礼は、すべて終わってからにしよう。
これから皆に各々にお願いすることがある。頼めるだろうか」

南条が礼を遮った。彼はパオフゥから連絡を受け、いち早く行動を
起こした人物である。
戦場となる見滝原住民の保護や敵が狙いそうな施設、行動原理などの
情報を集め、それによる対策を立てていた。


南条の組織がまとめたところ、やはり噂は見滝原中学校を中心に
広がっている。曰く、地下に何かある。曰く、時計台が怪しいなど。
それが確定するのであれば、おそらく奴らは再び見滝原を襲うはずだ。
幸い、先の襲撃で警察が封鎖をしている。だがそれが軍隊に抗しきれる
とは限らない。多少の抵抗はあるだろうが突破され破壊されてしまう
ことだろう。

「だからパオフゥたちに予防線を張ってもらっている。
これが成功すればかなり時間を奪えるはずだ」

「だが封鎖を簡単に破られるわけにはいかねえよな」

「それともう一つ。『噂が現実になる』なら狙うところがあるだろう」

「そっちが俺たちの担当だな」

「そうだ。業界人二人と、君なら上手くいくのではないかと思う。
幸いこちらの手の者も何人かはいりこめている」

「それじゃ残ったメンバーで……」

「ああ、軍隊を殲滅しつつ、住民を保護する。
確約はできないが自衛隊にも干渉している。上手くいけば」

「当てになるのかい? 動きが鈍いのが相場だろ」

「……先の震災の教訓もある。それに骨のある奴に話を付けた」

南条は、まったく笑わずに言う。

「今度こそ、息の根を止めてやる。ニャルラトホテプ」


『自衛隊は相変わらず動かないな』

『そりゃトップが駄目駄目だしな』

『でも、命令無視した隊長とかいなかったっけ』

『懲罰喰らうの覚悟で動くのってかっけー』


『やっぱり見滝原中学校になんかあるのか』

『なんかあるなら来るよな、ヒトラーとか』

『つか魔法少女拉致って何すんの? ヒトラーの趣味?』

『超人作ってんじゃね? 漫画みたいにさ。こう、頭に電極ぶっさして』

『リョナ駄目リョナ禁止』

『きめええええええええええええ!』


『見滝原の生徒守った魔法少女がいるらしいな』

『黄色い服で銃打ってる女の子でしょ。むちゃかわいい子』

『ロリ乙』

『いいえレズです』

『生徒を守った巴マミのクラスメイトだけど質問ある?』

『嘘乙』

『いやマジ。俺今日ガッコサボった。不幸中の幸い』

『不謹慎』

『人がしんでんねんで!』


「ちっ、無責任な噂流しやがって」

「だからこそこっちだってそれに乗れるんだよ」

忌々しげなパオフゥをうららが窘める。これはもう何度目かのやり取り
だろうか。さすがにそろそろその斜に構えた態度を改めてほしいもの
なのだが。

「まぁ、それもそうだな。こっちも南条のところに合わせて……」

「「噂を流させてもらう」」


『ヒトラーが魔法少女を集めているのは、超人を作るだけじゃない』

『魔法少女が、鍵になっているから』

『魔法少女じゃなければ開けられない』

『だからそれまでは拉致られた魔法少女は無事のはず』

『友人を誘拐された魔法少女が反撃するらしい』

パオフゥと南条のネットワーク担当が打ち合わせ方向性を決めた噂だ。
これが全部通るとは思いにくいが、それでも時間稼ぎにはなるはずだ。

かつて、噂は一日二日では広まることはなかった。だが先の戦闘により
全国区で注目されている、見滝原を舞台にした噂はネットワーク
の中を駆け巡る。


筆者です。慌ただしいですがここまでです

あと、読者の皆さんには申し訳ないことをしました
出しゃばってすみません
危うく、自分で自分の作品を駄目にしてしまうところでした
今後自重します。失礼いたしました。

おつおつ
外野の囀りなんか気にせず納得のいくようにやってください
だが1つだけ、ブラウンはタレントですw

乙でした。

頭に血が登ったマミさんのストリーキング!?
惜し……ゲフンゲフン、危ない所でしたね。

反撃の予兆のような雰囲気で、次回が楽しみです。

筆者です。
完走に向けて頑張っておりますよ
まぁ、ご覧の方が気付いているか存じませんが
仕込んでるものあるんですけどね

>>308
あ、やべ。タレントでしたね。失礼しました
こっからさきはタレントで統一します
微妙に細かい部分忘れてるようです
ブラウンの本名も忘れてたことは秘密だ!

>>309
え、あ、ほら、マミちゃんは志筑家のお風呂の
シーンがありますよって
サービスシーンじゃなくて、一人になれる大事なシーンですけどね
ホントですよ?

それでは、どうぞ


明朝、皆がそれぞれ動き出す。魔法少女は目覚め身支度をする。
とはいえ、彼女たちの武装は変身だけだからせいぜい普通の
身だしなみ程度だ。
彼女たちのどこが気に入ったのか、うららはマミやほむら、さやかに
杏子の髪を甲斐甲斐しく梳る。特に、素材がいいのに手入れをしない
杏子を弄っていた。

「舞耶も、こんなんだったなぁ」

彼女のいわゆるだらしなさは、憧れていた達哉ですらドン引きするほど
だった。一方でルームメイトのうららはきちんとしており、彼女が
いなければ舞耶は化粧水一つどこにあるかわからない有様だった。

「これから、戦いに行くんだぞ」

「戦いだけじゃないよ。終わった後のことも考えな」

それはうららの気遣いではあった。だが魔法少女としての戦いに
終わった後などない。いずれは力尽き消滅する宿命だ。
愛するパートナー(敢えて男性とは限定すまい)と添い遂げて、
白髪の生えるまで生きることなどできはしない

「生きて、帰ってくるんだよ。
……そうしたら、お化粧のやり方、教えたげる」

そのうららの思いを、彼女たちはくみ取れただろうか。


一方のペルソナ使いたちは早々と行動を開始した。上杉たち三人は
業界人としての顔を駆使し、テレビ局へ。そこを抑え、噂の現実化に
一定の歯止めをかける。迂闊な噂を流させないためだ。

南条、玲司、ゆきのは、南条家の私兵とともに魔法少女らが拘束されて
いる地点をあぶり出しそれを奪還する役目だ。ラストバタリオンは
あれだけの大部隊だ。隠れるところなどそう多くはない。
ほむらたち以外の魔法少女も友人の保護のため、協力を申し出るものが
多くいた。

パオフゥ、うららはほむらたちと共に見滝原中学校へ潜入する。一応の
監視と実況見分という名目で周防兄弟が魔法少女たちを中学校へ連行
するという形を取っている。

南条グループのバックアップの元、周防兄弟に共感した(あるいは
同僚の遺志をついだ)警察官やペルソナ使いたちは武器を用意された。

「ここ、日本のはずなんだけどな」

タレントとしてお茶らけた姿勢を崩さない上杉は、その物々しい武器に
呆れかえりつつも、かつて使ったマシンガンや槍を懐かしそうに眺めて
いた。

「もはやここは日本ではない。よく似た市街戦の戦場だ」

大袈裟なため息交じりに呟くと、テレビ局組に合流した。


ここまで自分の意思を発していないほむらだが、彼女もまた怒りを
持っていた。あのまどかを出汁にされたことが、逆鱗に触れたに
等しいからだ。
だが、逆に感じるのはそれが何らかの罠ではないかということだ。
彼女が特別クレバーだというわけではない。マミの(ほむらを慮り、
生徒たちの死に対する)怒りを目の当たりにして自分が一歩冷静に
慣れたというのが正しい。
それと同時に感じるのは、なぜ、ということ。なぜ自分が狙われる
のか、まどかとかかわりがあるから?

それに、聖槍騎士が言っていた言葉も気にかかる。ほむらを指して
『――んちょうの者』と言っていた。それは……

「さぁ、ほむらさん、行くわよ」

マミに声を掛けられ思考を遮られる。準備ができた三人に近寄り
声をかける。

「あのときのことは今は忘れてあげる。
けれど、すべて許したわけではないわ」

「ああ、それでいい」

『私が先頭に立つ。回復能力もあるし。罠とかの見極めにつかって』

さやかはそれが償いの形だと信じているようで、昨夜からそれを主張
して譲らない。杏子の心配をよそに、だ。


未だ、警備で封鎖されている見滝原中学校。自分たちの学び舎に銃創が
あり、ガラスが砕かれている様子にマミは心を痛めた。さやかも同じで
あったのだろう。サングラス越しの顔が歪む。

「周防さん、その子たちは……」

「実況見分だ」

克哉はにべもない。それで説明は終わりと言わんばかりにすたすたと
歩き去ろうとする。その後ろにコスプレ衣装の美少女達が歩いていく姿
は何とも形容しがたい雰囲気だった。
昨晩ほとんど寝ていないであろう達哉もまたそのあとに続く。
人間にしてはタフだな、と杏子は思った。

そのまま実際には戦場になっていない、つまり実況見分とは無関係な
場所に行く。もうそれが口実であるとは明白ではあったが、
周防刑事たちの自信に満ちた態度や姿勢に口をはさめる制服組は
一人もいない。

そして一行は時計台へ。マミもほむらも立ち入ったことはない。さして
理由がないこともあるが、基本的に立ち入り禁止になっているからだ。

「噂通りなら、ここに何かがあるわけだ」

「そんで、ここから地下にある何かのところに行けるんだね」

「ああ、あいつらが狙っている何かがここにある」

だが、彼らは気付いているだろうか。まるで何かに吸い寄せられる
ように、ここにきていることに。それが奸計だということに。


パオフゥはPCとにらみ合っている。ほとんど眠っていない。専ら噂
対策をしている。

「まぁ概ね、こっちの期待する噂は流れてるようだな」

「じゃぁあそこに鍵はかかったのかな」

「そう思うんだがな。あとは周防兄弟の連絡まちだ」

ネットの話は危機感がない。何しろ先の襲撃事件ですらショーの様に
報道されていたからだ。まるで他人事である。だが彼らは気付かない。

日本各地に魔法少女は存在し、それを狙ってラストバタリオンが動く
可能性があることに。
たまたま、どういうわけか見滝原に魔法少女が多くいるため、最初に
狙われただけだ。

日本各地がどこでも戦場になるということに気付き、逆に噂として
広まってしまったら……。
ペルソナ使いたちのの危惧はそこにある。
なんとか噂を見滝原だけに封じ込めなくてはならない。そのための
英理子や上杉の行動である。

かつてワンロン千鶴がJOKER呪いを広めたときの様に。だが
逆に、前向きな噂が流せれば。それは戦いに有利にすることができる。

「頼んだぜ」

初対面であるはずの、左耳にピアスをしたあの男の頼りがいに期待した。


時計台に入り込んだ一行。中の構造は学校関係者でも資料がすぐに
用意できないらしく、鍵もすぐに準備できなかった。そのため銃器など
で破壊するつもりでいた。だがすでにそこは破壊されていた。恐らくは
ラストバタリオンが破壊したのであろう。火薬による破壊が行われて
いた。

「やはりか」

苦々しい口調で呟く克哉。だが、侵入方法に噂で鍵がかかっている以上
ラストバタリオンも易々と入り込むことはできないはずだ。

少なくとも、聖槍騎士のあの巨体は時計台のドアをくぐることは
できない。一般兵や高官が入り込む程度であれば、魔法少女の敵では
ないはずだ。ただ問題は、ヒトラーら高官が、かつての神取や千鶴の
ようなペルソナ使いである可能性。

「決して楽観視はできないが、パオフゥたちも後で合流する予定だ」

「そんなに、強いんですか?」

実際にペルソナ使いの戦いを見ていないマミの、当然の疑問。
彼らペルソナ使いは悪魔を飼い馴らす、という方法でペルソナとして
降魔させている。つまり、人非ざる魔の力をその身に降ろしていると
いうわけだ。その超常の力が魔法少女を上回る可能性が十分にある。

「信じられません」

説明を受けたマミが呟く。

「僕らもそうさ。魔法少女……その驚異的な身体能力に驚いているよ」

彼女たちの力は魔獣と戦うため。自らの願いのため契約をした彼女たち
はその身体能力を魔獣たちのために使っていたはずだ。
それがいつのまにか、全く別のものを攻撃するものとして使われている。


時計台は、歯車が張り巡らされているわけでもなく、いたって
シンプルな『塔』の形をしていた。
そうしてしばらく、時計台の捜索が行われた。杏子やさやかは罪滅ぼし
のためか、必死になって探していた。マミもリボンを駆使し不審な
ものがないか探している。

「だめだな。塔の中にはこれといったものはないね」

疲れたように杏子が呟く。しばらくして中を確認し続けたが見つかる
様子はなかった。

「見つかりやすいのなら、噂にはならないからな」

克哉は納得したかのように言う。確かにすぐ見つかるようならば噂には
ならず、ただの常識や事実にしかならない。ゆえに見つかりにくい、或いは
簡単な方法ではいくことができない場合に限られる。

「けど、上の方まで探した。それでないとすれば……」

「下ですね」

言うが早いか瞬時にリボンを取り出しそれを素材にして巨大な銃を作る。
先にラストバタリオンに撃ちこんだのは小脇に抱えられるほどだったが、
今回のそれはまるで大型バイクのようなサイズで……。

「ちょ、ちょっと待ちなさいマミ!」

「ティロ・フィナーレ」

ぼそりと呟くと、砲撃を床に打ち込む。魔力の弾丸であるため跳弾の
恐れがないようにすることは可能だろうが、飛び散った破片が危ない。
本来のマミであればそこまで考えて撃つだろうが、若干激昂している
ためか些か性急な行動がみられた。


もうもうと立ちこめる土煙のなか、ぽっかりと空いた穴の先に空洞が
見られた。案の定と言ったところか。さすがにラストバタリオンたちも
足元を破壊するのは最後の手段にしたのだろう。それを行う前に
ほむらたちの陽動作戦があり、最後まで調査が行われなかったのかも
しれなかった。

そして案の定、そこには通路のようなものも見える。明らかに人工物と
わかるものだ。

「ちょっとマミ。ずいぶん荒っぽいじゃない」

「なんかマミじゃないみたいだ」

「昨日からそうだが、彼女は少し怒っているようだ。
君も友達なら、少しフォローしてあげてくれ」

「あ、ああ、分かったよ刑事さん」

杏子のつぶやきを拾う克哉。その彼は杏子の肩に手を乗せ応じただけで
あとは達哉がパオフゥあたりと連絡を取っている姿を見ていた。
連絡がつき次第、突入する。

その連絡を待たず、マミが飛び降りる。やはり頭に血が上っているようだった。
後をほむらがため息交じりに追いかけ、さやかと杏子も後に続いた。

その勝手な動きを見て、克也は溜息をついた。


『やっぱりあれか。見滝原中の地下にUFOでも埋まってるのか』

『第三帝国が火星に行くとか噂もあるしな』

『で、やっぱ魔法少女が鍵なんだ? だから集めてたんだろ』

『モウスグセカイハオワル』

『さぁマジで盛り上がってまいりました』

『火星でなにするんだろうな』

『凡人にはわからないことするんだろうぜ』

『UFOノアの方舟説』

『オワリノトキハチカヅイテクル』

『ああ、ずいぶん前そんな都市伝説あったよな』

『珠閒瑠市のことだろ。大地震の前後にUFOが飛び立ったとかなんとか』

『どうせたいしたことないって』

『つかカタカナだけで書き込む奴こええって』


パオフゥの狙った通り、噂が流れ鍵がかかったようだった。入口発見の
のあとの連絡でそれが確認できた。通話を切りうららに話しかける。

「さて、今度は俺たちが行く番だな」

「あの時は後手後手だったけど、今回は先んじていける」

「噂の通りならラストバタリオンがもう一度見滝原中を攻めるはずだ」

そこを、ペルソナ使いの一部や魔法少女たちで迎撃する。その間に
ほむらや周防刑事達がUFOを抑え無力化する。
また余計な噂を垂れ流すTV局もおさえる。これでできることはほとんど
のはずだ。
二人は武装して、迎撃を行うために立ち上がる。

だが、この二人にしても知らないことがある。

第三帝国とヒトラーが、このUFOらしきものを狙っているという噂に
自分たちが侵食されていることに。
それが「なぜ?」という部分にあまり意識が向かっていないことに。
彼らが狙っているからそれを防ごう。そう考えるあまり理由やその整合性
に考えが向かっていない。

ペルソナ使いですら視認できないキュゥべえが、PCの横に鎮座
していた。
そこにQBではありえない、邪悪な笑みを浮かべて。

筆者です。

これから徐々に反撃となります
いつもと逆に、ほむらたちが先に入る形です
ちなみに、シバルバーという名前は噂に上がらなかったので
今のところUFOで通してます
マイヤの神託がないので固有名詞が出しづらいのです

住民避難要員にトロも出したいんだけどなぁ
あいつ結構有能みたいだし

乙でした。

マミさん暴走しかかってる?!
病ミさんにならないように気をつけてねマミさん。

確か中年女性向けのフェロモンだっけか
ヒス起こしそうなの抑えるのにいいかもね


こんばんは、筆者です

全レス止めます。

>>322
ちょっとマミちゃんが暴走気味です
自分がそうさせてるというよりは彼女がそうなってるだけのようでス
相変わらずキャラが勝手に動きます。なぜなのよさ

>>325
なんだかんだで重要人物ですしね彼
ただ、あまりこれで登場人物増やすと収束しないので
控えるつもりです


それでは、ちょっと品質に自信がありませんが、
どうぞ


さやかや杏子は、先ほどからのマミの行動に驚きを隠していない。
性急な行動。周囲を省みない砲撃。いつもの彼女らしくないその行動が
信じられないのだ。

「……彼女はいつもああなのかい?」

克哉が訝しげに尋ねる。長い通路を歩きながら。途中、パオフゥが
追いかけることができるよう目印を忘れない。
それに対し杏子が応じる。

「いや、あんなんじゃなかったはずだ。もうちょっと……」

優しかった、という言葉を飲み込んだ。こうなった原因がそもそも自分に
あるのかもしれないのだ。それをいうには、彼女の罪悪感は大きすぎた。
だが、それを克哉はくみ取ることができた。

「そうか。いつもと違うようなんだね。
……今すぐ切り替えるのは難しいかもしれない。だから君らがフォローを
してあげてほしい。彼女のためにも」

杏子は頷き答えた。それが償いになるかもしれない淡い期待を抱きながら。
先ほどまで俯いていた杏子が顔を上げる。克哉はそれを見て彼女の心が
上向きになったことを理解した。落ち込んだままで戦闘を行わせるわけには
いかないからだが、それ以上に大人として子供を導いてやりたい、そんな
老婆心が働いたからだ。

そして、それはさやかにも届いた。彼女もまた同じ苦しみを感じていた。だが
彼女が杏子と違うのは、自分がマミのために何かをすることができる存在なのか、
わからないという点だ。
咄嗟にマミを助けようとしても『できない体』なのではないかという危惧だ。


ずいぶん歩いたであろう距離の果てに、入口らしいものが見つかる。らしいと
いうのは、そこが扉ないしは門のように閉ざされているからだ。
周防刑事達はそこでいったん止まり、パオフゥの到着を待った。
連絡では先を越されている様子がないと意見が一致した。あとはここで
ラストバタリオンを迎撃するだけだ。だがパオフゥの意見はそれより
一歩先を行く。

「パオフゥは先に侵入しこれを破壊してしまおうということなんだ」

当然、可能ならという但し書きつきだ。だがそれによりニャルラトホテプが
何をたくらんでいようと、ヒトラーがUFOを何に使おうとも動かなければ
用をなさない。

「確かにそのほうがいいっちゃいいよな」

希望が出てきたのが嬉しいのか、杏子の声が弾む。それにより、全員の雰囲気も
僅かながらによくなったようだ。
その中で、ずっと思案顔なのがほむらだ。
彼女はずっと考えていた。当然、まどかのことだ。まどかが待っている、という
ことが頭から離れない。それについて、さやかは喋ることすらできないという。
まさかまどかが、ほむらの死……すなわち消滅を望んでいるということだろうか、と。

「ほむらさん。まだ固くならないで。私たちで、解決しましょう」

朗らかにいうマミ。先ほどまでの性急な態度が少し収まっているようだ。さすがに少々
反省したらしい。少しだけ恐縮していた。

「それはいいけれど、先ほどみたいな砲撃をするときは、一声欲しいわね」

「う、わ、わかったわ……、ごめんなさい」

「貴女なら大丈夫だと思うけれど」


ほむらは結局、さやかに問いただすことはできなかった。話しかけづらい話題
ではあったが、単純にさやかが苦手だからだ。なんとなく声をかけるのを憚る
というか、躊躇う。それはほむらの性根の問題でもあるし、前の世界からの
確執(ほむらからの一方的なそれではあるのだが)のためでもあった。

「もうすぐ後続が着く。彼らを待って突入しよう」

一方のさやかも問題がある。罪悪感から項垂れ落ち込んでいるからだ。というのも
先の戦いにおいて、彼女は上条に会ってしまった。さやかを心配する彼の声が、
彼女をほむらを狙う刺客としての気勢を奪ってしまったようなのだ。
上条の前でさやかは、クラスメイトを消滅させることができなくなってしまった。
そのため、もはや彼女にほむらを狙う意思や気力はない。むしろ今は杏子の
罪滅ぼしを手伝う意思の方が強い。

「達哉はここで戻れ。ここから先はペルソナがなければ危険だろう」

マミは先ほどまで滾っていた怒りが少々収まってきている。黒幕への怒り、
茶番により殺された生徒たちへの悲しみ。自分の無事を泣いて喜んだ級友への
感謝。それらを束ねてここに挑んだわけだ。だが先の砲撃をし八つ当たりを
済ませると、その後に自己嫌悪が襲い掛かってきた。
また、うららが戻ってきたときに化粧を教えてくれるという。そんな気遣いを
思いだし、自分が逆上していたことを恥じた。

「いや、行く。舞耶姉を出汁にされて……引き下がれるわけがない」

克哉の気遣いも意固地な彼には効果がなかった。だが克哉にしても天野舞耶を
出汁にされて黙っていられない。彼も彼なりに、彼女の人柄を好いていたからだ。


そんな空気の中、パオフゥたちが到着した。うららは真っ先に達哉のことを案じたが
聞き入れるはずもない。パオフゥは彼の憤慨を受け入れており、それを止めるつもりが
全くなかった。

「どうでもいい。いくぞ。だが……どうやってここから入るんだ?」

頭をひねるペルソナ使いたちの前で、一度顔を見合わせる魔法少女たち。よく見ると
皆一様に顔色が悪い。なにか、青ざめているかのようだった。示し合せ、マミが一人
すたすたと入口らしき所に近づく。まるで、開け方を知っているかのようだった。

「確かに、噂が現実になる、というのは本当のようです……」

先の怒りの状態から落ち着いたマミが手をかざす。

「その、自分でも戸惑っているのですが……。
頭の中に、やり方が浮かび上がってくるんです。知らないことなのに……」

それがどういうことか理解できると、ペルソナ使いたちは青ざめる。自分たちのように
事情を知っているはずのものですら、噂が現実になるということの影響を受けている
ということだった。

確かに噂が現実になるならば彼女たちに開け方がわかってしかるべきではある。
だがそれが自分たちにも影響し開け方がどこからか焼き付けられるという状況に
恐怖を感じずにはいられない。
これが事情を知らない人間たちにはどう感じられるのだろうか。

その『焼き付けられたやり方』に従い、一同は入り口をくぐる。


そこは、異様な空間だった。四本の柱に囲まれた狭い空間。それ以外は
真っ暗で何も見えない。地平線すら。そこを囲うように魔法少女たちが
立っている。まるで、中央に立つ役者を見守るかのように。

「ここが、UFOのなか? なの……?」

マミが不安げに周囲を見渡す。同じように杏子もほむらも辺りをうかがう。
UFO、宇宙船というならばもっと機械的なものを想像した。だがこれは
まるで、何かの悪夢のようだった。
よく見ると、そのまわりの何かが流れるように動いていた。

「ん? さやか? それにおっさんたちがいねえ」

「えっ? は、はぐれてしまったの?」

『そうではない』

その声にならない声が響き、三人の中央に奇妙な蝶が浮かび上がる。鱗粉の
ような光をこぼし、あわあわと頼りなげに浮かぶ。

『ここはUFOの中ではない。意識と無意識の狭間の世界だ』

「な、何のこと?」

『わからなくてもいい。私はフィレモン。意識と無意識の狭間に住まう者だ』

動揺し混乱する魔法少女を気遣うふうでもなく、フィレモンと名乗る蝶は
淡々と話す。

『本来ならば君たちに試練を課し、困難に立ち向かう力を与えるのだが……』

あわあわと力なく床に舞い降りる。飛び上がる力もないかのようだった。事実
フィレモンには力がないようで……。

『その試練を与える力すらない。ゆえに君たちには言を持って助力するしかない』

「試練? 力? 何のことだ?」

「ひょっとして、ペルソナの力?」

『そうだ。だから君たちにはこれだけしか言えぬ。き奴に立ち向かうには……』

声もだんだん小さく弱くなっていく。心なしか明滅する蝶の光も弱く薄くなって
いるようだった。魔法少女たちの目にもそれとわかるほどに。それは魂の輝きの
消失。

『すべてを受け入れたうえで諦めないこと。君らが困難に立ち向かえることを……』




――油断ならぬやつめ――


「……うした? 君たち?」

ほむらたちの聴力視力が戻る。立ったまま気を失っていたかのように
たたらを踏むほむらたち。心配そうに見つめるうらら。声を掛けようとした
瞬間、別方向から声がする。

『どうしたんだい? 気を失っていたかのようだったよ』

キュゥべえがいつの間にかそこにいた。昨日の戦闘中、杏子たちの視界から
いなくなって以来だった。何事もなくいつものように杏子の肩に乗る。

「あれ、QB、いつの間に? 一緒に入ったの?」

「お前どこに行ってたんだよ」

『僕の別個体を探していたんだ。すでに破壊されていたけれどね』

「ん? 君たち大丈夫か」

心配そうに克哉が声をかける。ペルソナ使いたちには彼女たちが虚空に
話しかけているようで心配していた。

「いえ、大丈夫です。私たちを魔法少女にしたQBと話をしているんです」

マミが説明する。QBと契約することで魔法少女になること、その素質が
ないと、QBを知覚することができないことを語った。
釈然としないまま、ペルソナ使いたちは納得してくれたようだった。


次いで、先ほどの奇妙な体験を話す。フィレモンの存在。見知らぬ空間の
話。マミが語る間、ほむらも杏子も同じ体験をしていたことに気付いた。

「あの野郎。相変わらず役に立たねえな」

克哉も説明する。フィレモンなる人物は、ある特定の呪いをすることで
その人の夢に現れる存在だ。ある試練を課したのち、それに打ち勝つと
ペルソナの力を与えられる、というのだ。
そもそもフィレモンというものは、ユングの夢に現れた老賢人の名前である。

「あなたたちも会ったことが?」

それとなく全員が頷く。ペルソナ能力を持っていることから察するに
嘘ではないように思われた。

「すべてを受け入れたうえで諦めないこと……か」

それができなかったゆえに、ニャルラトホテプに膝を屈した者たちがいた。
耳触りのいい言葉に惑わされ、受け入れがたい現実から目をそらした。

「それが奴に対する敗北なんだとさ」

パオフゥが苦々しく呟く。それを皮切りに、幾何学模様が描かれた船内に
歩き出す。それに続くペルソナ使い。そして、魔法少女。
ちぐはぐな心の動きのまま、ばらばらに歩き出す。


『彼らは何者なんだい?』

「ペルソナ使い、と言っていたわ。この一件の黒幕と敵対するもの、とも」

些か頼りなげなほむらの言いよう。確かにことが動きすぎ、ほむらも完全に
理解しきれていない。彼女が辛うじてわかることはこの首謀者が人非ざるもので
少なくとも、自分を標的にしていることだ。そしてその首謀者と敵対する彼らと
共に、その首謀者に一矢報いるためここにいるのだと、説明した。

『ニャルラトホテプ……ナイアーラトテップともいう、創作された神話の神だね』

それをペルソナ使いたちに律儀に中継するマミ。QBが知覚できない彼らに取り
虚空と話をする彼女らに一抹の不安を覚える。
パオフゥの答えは『その神話になぞらえてそう名乗ってる、別の何かだろう』との
ことだった。

『そういうことなら僕も協力するよ。幸いここの中でも別個体へ連絡は着く。
他の魔法少女となら連絡することが可能だ』

「便利な連絡網だね」

何気なくほむらの肩に移動して呟くQB。誰にも見られないその顔は
隣にいるほむらを見下すような表情をしていた


『もうUFOのなかに入ってんじゃね』

『攫った魔法少女たちに無理やり開けさせるだろうしな』

『やっぱりUFOで火星に行くのかな』

『火星が幸せのうちに統治した』

『キバヤシキター』

『話はwww聞かせてもらったwww人類はwww滅亡するwwwwww』

『ノストラダムスの予言はずれまくりの件について』



『円環の理とまどかってなんかつながりあんの?』

『なにそれ』

『魔法少女に広まる噂だって。まどかってやつが円環の理の神様らしいよ』

『日本語でok』

『つか魔法少女がネットやってる暇あんのか』

『釣られてやんよ』


同じころ、TV局やいくつかの倉庫で戦闘が始まる。南条家の私兵とベテランの
ペルソナ使い。彼らがラストバタリオンとの戦闘に突入したのだ。銃声と
魔法の爆発音。悲鳴、怒り、怒号。それらがないまぜになっていた。


TV局にいた三人は受付で押し問答をしていた。許可がないものが入れない
という厳重なセキュリティに四苦八苦しているところ、局の駐車場に物々しい
軍用車が入ってくる。
それを見て迎撃に入る二人。上杉はロビー内の人を避難させようとする。

「ペルソナ……」

彼の男性は真っ先に飛び出す。隊列を組む前の兵士たちに躍り掛かり
ペルソナを発動させる。その背後には、インド系の装飾がまばゆい、男性神。
それが刀らしき何かを振りかぶると一閃させる。たったそれだけのことで
軍用車の荷台を真っ二つにする。
それに合わせるように英理子もペルソナを呼び出す。そのペルソナが行使する
大量の水が隊列を組む直前の兵士を薙ぎ払う。

駐車場で待機していた南条の私兵と何人かの魔法少女もラストバタリオンに
襲い掛かる。
見る見るうちに撃破し殲滅していく中、空中から三体の異形の機械兵が飛来する。
その手にはあの魔性の槍を持って。

ベテランペルソナ使いと、聖槍騎士が戦闘に突入した。


一方の南条は大多数の魔法少女たちと共に捕らわれた魔法少女の奪還に
動いていた。見滝原中学校からほど近い、廃工場だ。
かつてそこは、さやかのデビュー戦となった、あの場所だった。

迫りくる兵士を殴り倒す玲司。それを援護するゆきの。そして魔法少女と
私兵を指揮する南条。全くの無傷とは言えないが、ペルソナ使いの力もあり
徐々にラストバタリオンを撃破していった。
だが、友人たち奪還に燃えていた魔法少女の何人かが銃に撃たれ倒れる。
私兵たちが保護し後方に引きずろうとしたその前に、聖槍騎士が佇立する。
こちらも三体。それぞれが整然と並びながら銃を撃ち、反撃している。

「魔法少女は下がれ! 遠距離攻撃できるもの以外は兵士を狙え」

南条の慇懃な指示に渋々従う魔法少女たち。それを納得させるのは彼ら
ペルソナ使いが、聖槍騎士と戦うからだ。

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」

それぞれがペルソナを繰り出す。魔法の力が奔流となり襲い掛かる。
迎撃すべく構える聖槍騎士。一体が距離を詰めて突進してくる。後方の
二体が銃撃で援護する形のようだ。

「槍に注意しろ。あれに刺されたらペルソナが使えなくなる!」

「「その前に、ぶっ潰せばいいんだろ」」

「……ったく……」

荒っぽい返事を行う二人に南条は溜息をついた。


という感じで筆者です

ちょっと不満なのはフィレモンのキャラがつかめてないこと
ペルソナ使いたちの能力を上手く表現できないことです
難しかったな。もうちょっとやりこんでからの方が……うーむ

脳内に聖槍騎士団のテーマを流しながら読んでいただけたら
ええなぁ……

それではおやすみなさい

乙でした。

ついにフィレモンも出てきてラストダンジョン突入?って感じかな?
あと情報操作しているであろうQBがパソコンでカキコしてる姿を想像すると微妙に間が抜けててカワイイかも。

UFOといえば宇宙人、まどマギで宇宙人(?)といえばQB
ネット上に円環の理が出てきたか、おまいらにあることないこと脚色されるのは時間の問題だな

乙エンドブレイカー!

乙です
この後が期待高まるなあ

こんばんは、筆者です

ネミッサの方は週一回できませんでした、ごめんなさい
そのかわりこちらを投稿します

>>343
たぶん、QBのほうが勝手にほむらのPCを弄り、キーボードに白い毛が挟まるとかして
怒られるんでしょう

>>344
ニヤリ(真4風)

>>345
ありがとうございます。期待させて申し訳ないですが
ちょっといろいろ考えています
もうすぐクライマックスです



そしてごめんなさい、訂正です
>>298

さやかのセリフすべて

「こんなことで許してくれるとは思いません。ですけど……」
→『こんなことで許してくれるとは思いません。ですけど……』

「喋れないんだ」
→『喋れないんだ』

「わたし、言っちゃいけないことは喋れないんだ」
→『わたし、言っちゃいけないことは喋れないんだ』

要は全部二重カッコです



>>334 のすべて
 QB → キュゥべえ

他は脳内補完できるかもしれませんが、この辺矛盾になるので
訂正します。ごめんなさい


彼女らはUFOの船内を歩く。前衛をさやかと杏子が務め、その後ろをパオフゥと
うらら。達哉を庇うように克哉が立ち、最後尾はマミとほむらだ。とくにマミは
後方からの攻撃を意識する。克哉とほむらを守る形の陣形だ。

「罠なんかもあるかもしれないからね」

とは杏子の弁。さやかもソウルジェムが無事であれば即死はしない。仮に
大きなけがをしても、強力な回復魔法で治してしまう。それも自動でだ。
だが、許容量を超える傷を自動で治すために魔力を使いすぎてしまうことがあった。

「魔力を使いすぎなければいいけれど」

「魔獣相手のときみたいに全魔力を使い切るなんて無茶はやめてね」

『大丈夫、今度は同じ失敗はしないよ』

「そうかぁ?」

『……ここには、恭介はいないからね』

さやかが消滅することになってしまったときは、自らの魔力をすべて攻撃にあて、
それを使い切ってしまったから。そういう無茶をしてしまった過去がある。
そのような無茶をした背景にあったのは上条の存在だ。偶然彼のコンサート会場近くで
魔獣が多数発生したのだ。彼を魔獣から守るため
彼女は自らをかえりみず戦った。
だから今はそんな無茶をする理由はない。さやかはそういっているのだ。

(どうだか)

魔法少女三人の気持ちそのままだったのだろう。全員が全員、同じタイミングで
溜息をついた。

大人たちもそんなことをなんとなく嗅ぎ取ったのだろう。だがさして気にするでもなく
そのままにしておいた。
彼らにも、若気の至りはあったし、経験もしたからだろう。


「ところで、その魔獣というのは?」

ペルソナ使いたちは悪魔達との戦いの経験が豊富だ。その中に魔獣という
カテゴライズされるようなものと戦ったこともある。有名なケルベロスや
フェンリル、はては象の姿をした魔獣もいた。

「ええっと、……なんて説明したらいいのかしら……」

マミが困惑するなか、ほむらがキュゥべえからの伝言形式で伝える。このあたり
キュゥべえの姿が視認できないのが面倒ではあるが仕方ない。掻い摘んで
説明する内容を、ほむらが咀嚼して伝えた。

「なんだか要領を得ない話ねぇ」

「その辺は俺も集めた情報と一致する。魔法少女が戦う相手ってところだろ」

漠然とした説明で理解を諦めた者もいれば、事前に知っていたと納得する者もいた。
魔法少女たちとて魔獣に対し明確な理解をしているわけではない。ひどい話だが
かつての魔女の時の様に『倒すべき敵と理解していればいいじゃないか』という
お気楽な理解をする者もいた。
だが問題は、魔獣たちがここに発生しかねない雰囲気があるという。それは
瘴気と言われる得体のしれない空気が薄く延ばされたように漂っているらしい。
ただ、それをほむらはある種覚悟していた。というのもジョーカーでありさやかが
言っていたからだ。

「魔獣が増えるってことね」

「そういう予想を当ててほしくないんだけどな」

そういって槍を構える杏子の視線の先には、その魔獣出現の兆候が表れていた。


テレビ局前の駐車場は戦場になっていた。駐車している車を遮蔽物とし、上手く
身を隠しながら前進するラストバタリオン。それに対し訓練されてるとはいえ
練度低く防衛が精一杯の私兵たち。
けれどもその私兵の士気を補って余りある魔法少女たちの動きが目覚ましい。
人数は少ないながらもその特異な戦闘方法が功を奏し、押し返していた。

「どいて! 車ごと、ぶっつぶしちゃうから!」

巨大なハンマーを繰り出しゴルフスイングの要領で車を殴りつけ、間にいた兵士を
挟み込む。身動きが取れなくなった兵士に銃弾が放たれた。
また車のガソリンタンクに銃弾が当たったのか、そこから炎上する。燃え盛る炎は
払暁の薄闇にまぎれる兵士たちを明々と照らす。
また、ペルソナ使い三人が聖槍騎士を三体抑え込んでいることが大きい。
巧みにペルソナを使い兵士と聖槍騎士を分断。さらに槍を警戒し距離を取りつつ
装甲にダメージを与え続けている。

『ぐうう、たかが一般人にこのような力が……』

私兵たちも徐々に負傷者が増えている。だがそれ以上に戦闘不能になる兵士も
多い。戦局はペルソナ使いたちに有利になっている。

その様子を、物見高いテレビスタッフが撮影している。それを阻止しようと
南条の息のかかったスタッフが押しとどめる。理由は危険だということと
お茶の間向きではない殺伐とした映像だからということだ。生中継で無いにしろ
こんな映像が出回ってしまってはどんな噂が流れるかわかったものではない。

『おい、こんなことしていいと思ってんのか! スクープだぞ!』

「弾が飛んでくるんだぞ! さっさと逃げろ!」

『邪魔を……すんなっての!』

数か所で押し問答が続く。


さやかが魔獣の最後の一体を切り伏せる。隣には散らばった石を集める
杏子の姿。一個ずつ拾うのがまどろっこしいのかマミが作ったリボンを
塵取り代わりにして一か所にまとめている。

「あれが魔獣か」

うららの呟き。なるほどあれは説明しにくいわけだ。
不思議なことに、他の大人たちにも視認できるようだった。ほむらは
それを魔女の結界と同じことと解釈した。魔女のくちづけにより
結界に誘われた哀れな被害者は魔女を視認することができる。それは
おそらく魔女たちが結界内で実体化しているからであろう。魔女たちは
自分たちの姿を某かの理由で被害者に見せる必要がある。
魔獣たちが魔女の代わりとして存在するのであれば、同じ理屈で
結界内で実体化しているのではないだろうか。

魔獣たちはほとんどさやかが斬り伏せた。杏子やマミは中・遠距離で
さやかのサポートに徹し、魔力を温存できた。また大量の石を得たため
今後ラストバタリオンとの戦闘にも余裕が生まれた。

「僕たちの攻撃も通るみたいだな。ペルソナの力に限らないようだ」

克哉が務めて冷静に判断している。彼らが放つ力により魔獣たちは
簡単に撃破されていた。それも当然で、彼らは非常に強力な悪魔を
ペルソナとして降魔させている。精神力の疲労も大きいが出力も
かなり大きい。魔法少女の攻撃に勝るとも劣らない火力で魔獣を
殲滅してしまった。


廃工場ではほとんど戦闘が終わっていた。怒りに燃える魔法少女たちにとって
ラストバタリオンの一般兵など物の数に入らないからだ。瞬く間に防衛ラインを
分断し殲滅させた。
それもこれも、聖槍騎士とペルソナ使い三人が膠着状態を演出しているためだ。
南条は、相手をすぐさま倒すつもりではない戦い方を指示していた。
一般兵の救援に聖槍騎士たちを行かせないように仕向けていたのだ。
血の気の多い玲司やゆきのは歳経て相応の落ち着くを手に入れていたため、
激昂したふりをしていたのだった。

(さすがに老獪だねえ)

ゆきのは南条の軽妙な指揮に感心していた。玲司もゆきのも従える理屈と
戦術は、相手を一般市民と侮った兵士たちを次々に撃破する。
相手が侮らざる相手だと気付いた時には遅かった。

『おのれ貴様ら!』

「フン。侮ったお前たちの不明を呪うのだな」

南条が召喚するペルソナと彼の大剣が、聖槍騎士の一体に襲い掛かる。
それを槍で捌くのが精一杯だった。ペルソナ使い一人につき聖槍騎士一体。
それは決して彼らには重いノルマではない。槍先の電撃も克哉からの情報で
把握済み。空中に浮かぶ戦法もペルソナが撃ち落とす。
もはや聖槍騎士たちの有利は崩れ去っていた。

「おい。こちとらお前らのせいでノルマ未達成になっちまったんだ。
八つ当たりくらいさせろ」

玲司は完全に私怨をぶつけるつもりのようだ。手で槍の柄を掴み綱引きをしている。
それにあわせ、ゆきのと南条がペルソナを呼び力を解き放つ。これで先ず一体。


魔獣たちを殲滅し進む。最初はさやかがあらぬ方向に誘うことを危惧していた
が、通路は一本道。どこかに隠し通路くらいあるかもしれないが、それを
探す時間的余裕はない。さやかにしても後ろを心配しながら前をゆっくり歩く。
どこかに誘い出すという意識ではなさそうだった。

ところどころ罠らしい罠もあった。とくに細くなった通路の両脇から矢が
飛び出す仕掛けはそれだけで難儀した。だが結局踏んだ床に反応することが
わかると、マミが作ったリボンの橋で難なく通り抜けることができた。

魔獣、罠、魔獣、罠……。決して楽とも簡単ともいえないが、脱落者を
出すことなく、無事に進めている。
途中念のためとマミと杏子による結界を張った。これは後方から追いかける
であろう敵の侵攻を阻害する目的だ。また結界が破られればマミなり杏子なりは
感知できる。どこまで敵が迫っているか把握できるのだ。
こんなことができるのも石が大量にあり、力を存分に発揮できるからだ。

「魔法少女の魔法ってのは便利なんだな。人探しに使えねえかな」

「どうだろう。そんな都合のいい魔法なんてあるのかな」

「どうでしょう? あまりそういったことに使ったことはありませんから」

感心しきりのパオフゥとうららの態度に困ったような笑いを浮かべるマミ。

ほむらにとって魔法少女の異能を易々と受け入れていることが驚きだ。
彼らが、彼らが普通に異能を持っているから、だろうか。そんなことを
思いながらも作り出した弓を持て余しつつ後に続く。


ややあって、何もない広い部屋にたどり着く。やはりそこも一本道で
特に迷うことも困ることもない。またそこは魔獣が現れるような瘴気も
ない。どれだけ戦い、歩いたか。徐々に全員の疲労の色が見て取れた。

『こういうところで襲われたら困るのだけど、ここで休まないか?』

キュゥべえの提案をほむらはそのまま伝える。さすがに全員がこのまま
突き進んでもいいわけがない。魔力の温存は石が相当数確保できていため
問題はない。だが魔法少女の体とて痛みは遮断できても疲労はそうはいかない。
めいめいが腰を下ろし、息を整える。なんとなく言葉少ななほむらが気になる
うららがそばに近づき腰を下ろす。

「ちょっとお邪魔するよ」

「どうかしたんですか」

「何も。ただあんたがちょっとだけ心配になったのさ」

それはそうだろう。終始思案気な顔をしているほむらの異常に、大人たちは
気付いていた。だが、それがなんなのかわからないため、遠巻きに見守るしか
なかったのが大人の男性たちの限界だった。
それをさっし、うららが口火を切った形だ。だがほむらは口をつぐみ、ただ
黙っているだけだ。

「その、『まどか』って子のこと?」

うららが核心に切り込む。その言葉にほむらは髪の毛が逆立つほどの怒りを
見せる。だがそれは瞬時に納まり、鉄面皮をそこにさらす。
そんなほむらのガードの硬さにうららが辟易する。だがここであまりつついても
意味がないことを察していた。そのため話題を切り替えようとした、その時だ。

「あの、その『まどかさん』ってなんとなく覚えてるのだけど。いえ、違うわね。思い出してきたの」

「ああ、あたしもだよ。ぼんやりおぼろげだけどさ……。小柄な、女の子だろ」

ぴしり。何かがひび割れる音がした。


さやかは何も聞こえていないらしい。マミと杏子が結界を張ったドアを睨み
そこを守る立場でいるようだった。先に進まない限り敵は後方からくる。
そのため、彼女は敵から皆を守る盾になろうとしていた。

「ね、もう一回教えてほしいの。彼女のこと……」

「ただの夢物語よ。証明するすべはないわ」

「それでもだよ。なんだかさ、忘れちゃいけないことを忘れてる気がするんだ」

二人にそう穏やかに言われてはほむらも断りきれない。というのもほむら自身が
それを語りたくて喉に言葉が詰まっていたのだ。それがうららが感じるほむらの
思案気の表情のそれだった。
ため息交じりにほむらは再び語る。かつてQBに話した通りまどかのことをもう一度。

うららにはその表情があまりにも懐かしそうだった。何か遠い日になくした思い人を
懐かしんでいるような、そんな表情にも見えた。だからほむらのやや熱を帯びた語り
口調を眩しい思いで見守っていた。
魔女、魔法少女、QBの陰謀。自分が守りたかった人たちの死。世界の改変。
そしてまどかの消滅。助けたかったまどかは概念となり人間に知覚できない
存在となってしまった。

「今思えば、その円環の理というものに、まどかはなっているのかもね」

生まれる前に魔女を消し去る願い。ゆえに魔法少女は魔女にならず消滅する
のではないだろうか。少なくともほむらはそうと信じて戦っていた。

「そっか。全部が全部信じられるわけじゃないけど……」

「いえ、いいわ。むしろこんなことを信じられる方がおかしいもの」




ぴしり


それが生じたのは大人たちの目の前。壁が引き裂かれるようにひび割れる。

「私にとっては、大事な友達だった。いいえ、今も大事な友達よ」

ぴしり

「ああ、なんとなく……思い出してきたかな……」

ぴしりぴしり

「不思議ね。私もよ。ひょっとしたら、これも噂の効果なのかしら」

ぴしりぴしりぴしり

「あの入口のときのこと?」

あの入口での記憶の書き込みは魔法少女たちを戦慄させるに十分なものだった。
それは、前後の脈絡なく情報が書き込まれたからだ。だが今回は違う。
前後のつながりある『記憶がある』ため、そこにまどかの記憶が書き込まれても
全く不自然はない。

ぺりぺりぺりぺりぺり

「でも、その……彼女の記憶を噂する奴なんていないだろう?」

そんな具体的な噂など流れるはずがない。ましてやまどかは誰の記憶にも
残っていないのだから。だからこれはほむらは、小さな奇跡だと理解した。
いや、そう思い込もうとした。

ぱりん


一際大きな音がして、壁が砕け散る。大きな音に全員が振り向いた。

どさり、という音がして壁から何かが落ちてくる。

それは小柄な人の形をした何かだった。

それぞれが不思議がるその中、ほむらがひきつったような声を出す。

めったに聞かれないほむらのその声にマミも杏子も、さやかですら振り向く。

わなわなと唇を震わせて、一歩ずつ小柄な少女に近づく。

皆はその様子を黙って見守っていた。いや、見守らざるを得なかった。

ほむらの顔が、大きくゆがんでいた。今にも泣き出しそうな苦しそうな
見たこともない表情だった。

その倒れている、眠っているようなそれを抱き上げる。しばしその顔を
見つめている。

そして確信したかのように抱きしめる。

「……まどか……」

ほむらが抱きしめているのは、――だった。

その声に反応したのか、その少女はうっすらと目を開けてほむらを見返す。

その瞳はまっすぐほむらだけを写していた。

「……ほむら……ちゃん?」

彼女の名前は、鹿目まどか。


筆者です

頑張りました。伏線回収? です

でも、まだ仕込んでるものもあります

それでは感想等お待ちしております

乙でした。

まどかがここに来たって事は……、
あっちの分霊とかでなきゃ、もしかして円環の理が止まる?

もしかして魔女復活しちゃう?

乙エンドクラッシュ!

メガテンの悪魔は普通は分霊扱いというかいくらでもいるから大丈夫
Limited悪魔は本体らしいけど

そしてこんばんは
筆者です

今回レスは投稿後にいたします

それではどうぞ


ほむらが抱きしめているのは、最愛の友人だった。

ほむらが抱きしめているのは、守りたかった人だった。

ほむらが抱きしめているのは、失ってしまった人だった。

ほむらが抱きしめているのは、円環の理、そのものだった。



まどかが苦しむくらいきつく抱きしめるほむら。その姿はマミも杏子も
見たことがない。ここまで感情を発露させている姿に驚いていた。

「……ごめんなさい……」

「貴女……本当のまどかなのね」

「うん、そうだよ。ほむらちゃんが知ってる……鹿目まどかだよ」

それだけ聞いて納得するとさらに深く抱きしめる。
ずきり、マミの心がわずかにきしむ。だがそれを飲みほして声をかける。

「貴女が……まどかさん、なのね。ほむ……暁美さんが言っていた」

まどかはこくりと頷く。杏子も異口同音に尋ねたかったことなのだろう。
まどかとマミを交互に見やり納得したように溜息をついた。
マミにしろ杏子にしろ、まどかのことを覚えていなかった。だがこうして
目の前にいるのが自分たちが覚えていないまどかだと、おぼろげながらに
感じていた。

周囲の大人たちは堰として言葉が出せない。突然現れた存在に驚きと
不安を感じていた。何らかの罠ではないかと。

「まどか……ごめん……私……」

サングラスをかけたまま、まどかに歩み寄るさやか。
その口元は歪み悲しみに耐えていた。
まどかは首を左右に振った。

「いいんだよ……。だってわるいのは、あの顔のないかみさまなんだから」


まどかはぽつりぽつりと事情を話す。自分が願った願い、そして
自分の存在が世界に溶けてしまったこと。誰にも、両親にも忘れ去られて
しまったこと。そして……

「私にはみらいがみえるはずだったのに。急に見えなくなっちゃったの」

世界の改変直前に、ほむらに語った言葉だ。時間を超え、世界の垣根を越え
宇宙の法則を超え、ほむらが通った地獄とそのみらいを知覚していた。
だが、それが突然見えなくなった。今まで見えていたものが見えなくなり
まどかは混乱し、そばにいた人にすがった。
それが先に導かれ消滅したはずのさやかだった。

「さやかちゃんはね、杏子ちゃんが生き返られてくれるって知ってたから……」

だからほむらを連れて行こうとしたという。まどかが寂しくないように。
さやかでは、自分ではまどかの不安を癒せないことを知っていたから。

「そう、さやかがやってたことは、やはり貴女のためだったのね」

そして喋れない思いの代わりにクロッカスの花を作り投げつけた。
『あなたを待っています』という意味を込めて。だがまどかのため、という
思いのほかに、さやかには別の感情もないわけではなかった。
情けない話だが、ほむらに嫉妬していたのだ。
隣にいるさやかではなく、ほむらを思って泣いている幼馴染の親友に。


「いいわ。こうして事情が分かった以上。もうさやかを責める気はないから」

『ありがとう、ほむら』

まどかを抱きしめたまま立ち上がると、ペルソナ使いたちに向き合い事情を話す。
彼らにしても理解しがたい世界ではあったが、理解できないものをそのままにして
納得するという方法で飲み込んだようだ。

「その子はどうする? いったん戻って制服組に保護させるか」

『それは困るな。ここにいてもらわねば』

一同が振り返る。そこに立っていた人物を見た瞬間鳥肌が立つ。どこかで、
見たことがある風貌。そして特徴的な服装。周囲を圧倒するようなカリスマと
それ以上の禍々しさを称えている男性。
そして、その人物の周囲に降り立つ聖槍騎士たち総勢七体。それぞれが手に
槍を持ち、守る様に立ちふさがる。中央の一体が白銀の鎧のほかは、物々しい
鈍い金属の色をしていた。その重厚な体が威圧感を強める。

「なっ、なんで先にっ!」

『噂だよ。すでに入っているんじゃないか。そう噂してくれた者どものおかげだ』

その人物、アドルフ=ヒトラーは自らも槍を携え、サングラス越しに
魔法少女とペルソナ使いを睨みつけた。見下した、と言った方が
いいのかもしれないが。


噂が広まると、それが実現可能かどうかをまるで無視しそれが現実になる。
過去の歴史や本人の人格、事実すら無視し、その『設定』だけが定着し発露する。
この場合は、入口が入れなそうという事実を無視し、すでに侵入しているという
噂だけ現実になった。

「何が目的だ!」

血気にはやり克哉が吼える。だがそれはいわゆる時間稼ぎ、戦う意思を皆の
心に入れるための時間を作るためだった。

『もう達成しているのだよ』

こともなげにヒトラーは言う。

『しかし、時間稼ぎなどしていいのかね。後ろからは兵士どもが来るぞ』

白銀の聖槍騎士が笑いながらいう。つまり彼らは挟撃されているのだというのだ。
手の内をばらしても問題ないほどの必殺の陣形と言えよう。

『総統閣下。ここは我々が足止めを』

『ふむ、頼んだぞ。もう恩寵の者も殺しても構わん。好きにやるがいい』

六体の黒金の聖槍騎士たちが槍を掲げる。その統率のとれた動きが練度の
高さを如実に表しているようだった。
それを見て満足したヒトラーは笑みを浮かべると、建物の奥に歩いていく。
それに続いて白銀の聖槍騎士が続く。

「達哉はまどかくんを! 我々はコイツらを抑える」

「ほむらくん、奴を追うぞ」

達哉がほむらに話しかける。聖槍騎士は任せ、二人……三人でヒトラーを追う。
そう提案しているのだ

『良かろう。閣下にはリーダーがつく。こちらにはロンギヌスコピーの力を見せてくれよう!』

槍を水平に構える。
一方のペルソナ使いたちも武器を構える。
マミ、さやか、杏子も各々の武器を生み出し戦いに備える。

「お前はあの男を追え! 俺たちが道を作ってやる! いいな!」

パオフゥのドスの効いた声が響く。それが開戦の合図だった。


うららのペルソナが放つ疾風が敵全員に襲い掛かる。その颶風は鎧を
吹き飛ばさんほどに荒れ狂い、足を止める。また気圧の変化で鎧を超えて
本体にダメージ行く。
その間隙をついて三人が走る。まどかを達哉が背負い、戦場から離すように
駆け抜ける。ほむらは達哉の後ろにつき、追撃に備える。

風の中心からやや離れたところにいた騎士は体勢を立て直し槍を振りかぶる。
それをさやかが神速で飛び込み抑え込む。噛み合う武器。そこにほむらの矢が
飛び、騎士への牽制とする。矢を嫌い鍔迫り合いを避ける聖槍騎士。

さらに杏子がそこへ飛び込みさやかを一人にさせまいとする。だが聖槍騎士も
銃を撃ち杏子を足止めする。飛び込んだため敵陣に一人になったさやかに
別の聖槍騎士が迫る。

「美樹さん、飛んで!」

言うが早いか飛びのいたところにマミが中空から飛び掛かる。空中で
マスケットを乱立させ二体に目がけ乱射する。例のリボンの拘束を伴う弾だ。

だが、マミの追撃は四体目に阻まれる。嵐を避けるため飛行した個体が
マミ目がけて突進。槍を振りぬいた。マスケットと噛み合い刃は避けたものの
マミはバランスを崩し地に叩きつけられる。

マミのフォローに向かおうとした克哉とパオフゥの前に立ちふさがる
二体。顔は見えるわけがないが、仮面の下がにやついているのが感じ取れた。

「「じゃまだっ!」」

二人のペルソナ使いの咆哮が木霊する。


廃工場での戦いはもはや決着がつくところであった。
少女たちの監禁場所を知った魔法少女がそこに突入。いかんなく力を
発揮し、一般兵たちを殲滅(文字通りの意味だ)した。

一方の聖槍騎士はすでに一体が活動停止。残りの二体に三人が襲い掛かる
という状態になっていた。動かなくなった個体から槍を奪うと肩に担ぎ
無造作に振りぬく。ペルソナの力と彼の剛腕そのものにより受け止めた
聖槍騎士が吹き飛ぶ。
ゆきのが召喚した地母神が放つ炎と雷の魔法が吹き飛ばした個体に
直撃。動作不良を起こした。そこに南条のペルソナが薙刀を振りかぶり
叩きつけ、こちらも活動を停止した。

「ふん。こんなものか」

『く……。さすがはあのフィレモンの手のものか』

「さぁ、戦闘能力を奪って拘束させてもらう。抵抗は止めることだ」

「こっちとしちゃぁ、動かなくなるまで殴らせてもらいたい……」

「もんだがねぇ」

どちらが悪役かわからないほどの口調で威圧する。そんななか魔法少女
たちから悲鳴が上がる。それからしばらく遅れて南条の部下から報告が
上がる。その彼の顔は怒りに赤くなっていた。

「どうした」

聖槍騎士から目を離さず聞く。このあたり歴戦の戦士の風格だ。

「魔法少女たちの脳に『細工』がされていました……」

その言葉に反応した玲司は生き残った聖槍騎士の顔面を拳で撃ちぬいた。

「よせっ!」

気持ちを理解しつつも南条は玲司を止める。だが彼が破壊した頭部にあたる
部分の下から、何やら肌色が見える。その内容に気付き息を飲む。

「なんてことを……」

ゆきののうめき声が全員の意見を代弁していた。


地に叩きつけられたマミにうららが駆け寄る。空中から迫る聖槍騎士に
風の魔法を叩きつけ吹き飛ばす。マミには特に外傷はなかったが、高さと
打撃の衝撃に軽くめまいを起こしていたようだった。

間もなく同じくマミを心配し集まるさやか。彼女と殺陣を繰り広げていた
二体が追いすがる。その二体にはマミのリボンがいばらの様に広がり
足元にからみつく。同時にマミとうららが放つ遠距離攻撃が二体に襲い掛かる。

「ここは、慣れてる者同士で組んだ方がいいみたいだね」

うららの提案に頷く魔法少女たち。うららが走りだし向かった先は杏子を
牽制する個体。それに突進し殴りつけようとする。だが当然聖槍騎士の方も
気付き槍を振って接近を阻害する。だがそれは完全に陽動で杏子とスイッチを
目的とした行動だった。
地を転がる様に槍を避けるうららに気を取られたため、杏子がフリーになる。
杏子はテレパシーでも受けたのか、迷わずマミのところに集まる。

振り下ろされた槍を掴み、にらみ合ううららと聖槍騎士。拳打で銃口をそらし
やはり疾風の魔法で吹き飛ばす。

「つえーな。あの人……」

『マミさん、指示をください! 私たちが前衛に立ちます』

「ああ、あんたはあたしらが守ってやる。スクラップにしてやるからな」

リボンの拘束を破り迫る聖槍騎士と空中の個体が三人の魔法少女に迫る。


一方のテレビ局では小康状態が続いていた。遮蔽物を使い身を隠し
長期戦を覚悟する兵士たち。それに対し、能力が高くても練度が低い
魔法少女たちはやや焦れてきていた。その背景には、聖槍騎士三体と
見事な立ち回りをするペルソナ使いたちの派手な戦い方によるものが
あるのだろう。

ピアスの彼を中心に、二人の男女が息の合った戦いをこなす。片手剣を
槍を、レイピアを駆使し聖槍をしのぐ。銃器や魔法で遠距離から的確に
ダメージを与える。一般人とは思えないほど精通した戦いぶりに
ストレスが溜まってきたようだった。

「ああもう。むこうかっこいいなぁ」

(さすがに待つ戦いは苦手、なんだろうなぁ)

南条の部下もそのあたりを察している。散発的に銃声がする以外は
攻撃の雰囲気もなくなってきている。こういうとき逆に奇襲をかける
こともあるのだが、南条の私兵たちの練度は低くない。その警戒をし
魔法少女のフォローをしていた。

だが違っていた。ラストバタリオンの、ニャルラトホテプの狙いは
全く違うところにあった。
それゆえ、小康状態すらも演出していたのだ。


――緊急速報です、これは映画ではありません……――

戦闘状態の誰もが気付かないことではあったが、テレビ局のクルーが
彼らの戦闘を撮影し全国放送をし始めたのだ。
その撮影を阻害しようとした南条の息のかかったスタッフもいたが
その一派が制圧されていた。
南条すら把握していなかったがすでに内部に入り込んでいた
ラストバタリオンが存在していた。もちろん。それとも関係ない社員も
いたことはいたが、それらすら制圧していたのだ。

――彼らはラストバタリオンを名乗り、魔法少女たちを拘束するため
各地で活動をしている部隊です――

――魔法少女とは、契約によって人々に害をなす魔獣たちと戦う
少女たちのことで……、ま、まだ読むの?――

――チャキ タァン――

その銃声とキャスターの最後まで全国放送された。


派手な爆炎と精密な射撃。克哉とパオフゥの攻撃は他の誰をも圧倒する
火力を秘めていた。外見より激情家の克哉を上手くフォローするパオフゥと
いう組み合わせが功を奏しているようだ。
パオフゥの武器は指弾だ。単純に人間が使っても急所に当たれば危険な
ものを悪魔の力を上乗せすることで、拳銃並みの威力をほとんど
ノーモーションで実現できる。恐るべき武器だった。

槍をそらし、銃口をそらし、両手に構えたサーベルで立ち向かうさやか。
そのやや後ろを守る杏子。そして決め手となる必殺技を持つマミの連携は
聖槍騎士団を上回る。数合噛み合う間にマミのマスケットが吼える。

そこまでしてようやく、聖槍騎士たちからほむらたちへの注意がそれた。
それにあわせ、キュゥべえもほむらに合流する。

「QB、走るわ。背後の警戒をして」

『わかったよほむら』

ほむらの肩に飛び乗ると背後を監視する。敵の攻撃があればそれを伝える
役目だ。テレパシーは単語や文章を伝えるだけとは限らない。それ以外にも
映像を伝えることでジョーカー様の風貌を伝えられるし、今の様に攻撃の
種類や速度も伝えられる。

三人と一匹はヒトラーの後を追うべく、姿を消した入口目がけて走って行った。


一人、彼はそこにいた。先日の戦いの恐怖は心にあったが、それ以上に
それを塗りつぶす勢いであったのは、無くしたはずのものとの再会。
それは思った以上に、彼の心を揺さぶっていた。
無くしてから気づく大事なもの。それは古今言われ続けてきたことでは
あったが、それが自分の身に降りかかりここまで痛烈に感じるとは思わなかった。

(だからこそみんな歌うんだな。昔から)

仁美の言葉も届かないほど、彼は落ち込んでいた。さやかを失った悲しみに。
そして、再会した時の自らの喜びようから、自分がどれだけさやかを大事に
思っていたか理解してしまった。失った時は友人を失った悲しみだとばかり
思っていた。だが、こうして再会した時の喜びは、友人のそれはとは全く
異なっていた。

(僕は……さやかが好きだったんだ)

だが、彼、上条にさやかへ男女の情があったとは確定しづらい。彼もまた恋愛に
疎い少年であったから。そして何より家族同然の付き合いをしていたさやかに
恋愛感情を持つことは難しかった。

時に心理学的な『錯覚』と言われるケースが近いかもしれない。
彼には妹なり姉なりはいない。だがあまりに日常的に歳の近い異性がそばにいる
環境が続いたため、さやかを妹(ないしは姉)と『錯覚』してしまった。
だがそれを失ったため『錯覚』が解けた。
そこへさやかが甦り自分を守った。フィルターのない目で見たさやかは美少女である
ことには疑いはない。また身を挺して守るその気高さに、心を奪われた。

(でも、もし、また失ってしまったら……僕はどうなってしまうんだろう)

さやかは顔を見せることすら拒絶した。
それは彼が彼女の思いに気付かなかったからと解釈した。
後悔と、自分を責める気持ち。



そこに這い寄る悪意がいた。




『さて、これで不具合が生じたはずだ』

『恩寵の者と、コトワリの神。き奴らすら、噂からは逃れられぬ』

『しかし便利なものだ』

『奴らが黒幕だと噂をしてくれるおかげで、力が戻ったのだからな』

『もう一押し……』

こんばんは、そんなこんなで更新しました
筆者でス

そしてお返事を

>>358
一応ですが、ここのまどかと『まどか』は
別の存在です。じゃないとややこしくなりますので
ただ、スレイヤーズとロストユニバース的な繋がりは
ちょっとだけ検討しました。

>>359
>>1より
ヒント・【これはペルソナ2に合わせて 『二部作』の予定です】

>>360
嗚呼、わかっててフォローくださる優しさが辛い(笑)


うーん、予想を裏切る展開をやりたかったんだけど
このあたりが自分の限界ですね

それではご感想お待ちしております

乙でした。

ロストユニバースに出てくる宇宙船の名前が、スレイヤーズ世界の神話に出てくる異世界の神や魔王の武器と同じだったっけ?

あちらこちらにヤバそうなフラグがチラホラしてて続きが気になります。

乙です
続きも楽しみにしています

2部構成とな?
SJクリア直前で止まってるからクリアしておこう

タワー乙フェルノ!

こんばんは、筆者です

先ほど書き上げましたので投稿いたします

>>373
そうですね、あれは作品同士が近いっていう設定ですね
けど今回に関しては別物と思ってください

>>374
ありがとうございます。期待にそえるようがんばります

>>375
なぜSJなのですか。もう世間は真4ですよ?w
乙シリーズはさすがにネタが厳しそうですネ



玲司が砕いた顔らしきそれはコードや機械が詰まったもので、そこに
人間の頭部があるわけではなかった。そこから延びるコードは下の
魔法少女の頭に繋がっていた。
聖槍騎士の中身は、操られた魔法少女。

『なるほどね、興味深いね』

どこからともなく表れたキュゥべえが呟く。それをわざとその場にいる
魔法少女たちに伝播させていた。

『ソウルジェムが魔法少女の体を動かしてはいるけれど、実際に
命令を受けて肉体の活動に変換するのは脳だからね。そこを弄れば
魔法少女も支配下におけるわけだ』

そのあまりの現実に嘔吐する魔法少女もいるなか、当たり前の様に
分析するキュゥべえ。

「こ、これが……、魔法少女を使った『超人のつくりかた』かっ」

「ねえ! QB! これ、元通りにできないの!?」

友人である魔法少女たちのなれの果てを見て、悲しみに打ちひしがれる
少女に対し、相変わらず淡々と応じる。まるで、いつものQBの様に。

『無理だろうね。現代の外科手術ではどうにもならないだろう』

「じゃぁ、皆を助けるって願いをすれば!」

『かなりの素質がない限り、この人数を救うことはできない。
そして、昨日今日の戦いで……、素質のある少女も契約してしまったし
……それ以外もほとんど殺されてしまった。数が合わないよ』

絶望し涙にくれる少女たち。そのやるせない姿を見て、大人たちは
自らの無力さを呪った。


銃弾の雨の中、さやかは一人突っ走る。迎撃すべく三体の聖槍騎士は
槍を繰り出す。そのさやかは絶妙のタイミングで横に跳び、マミの砲撃を
回避する。巨大なマスケットの直撃を受け仰け反るところに杏子が
斬りかかり、腕を切断する。ロンギヌスコピーが腕ごと明後日の方向に
吹き飛んだ。

「さすが連携取れてるわ」

「こっちだって負けていられないってことだ」

「そうだな。……ペルソナっっ!」

克哉の気迫に合わせ、灼熱の炎を操る神が顕現する。その大きな動きに
聖槍騎士が反応するが、その芽を指弾が潰す。さらばと銃を向ける騎士には
うららが飛び込み狙いを付けさせない。ペルソナを生み出しながら拳を
繰り出す。

「バカやろう! 近寄りすぎだ!」

パオフゥが召喚しつつあったペルソナの指示を変え、魔法を撃ち出す。
指弾をさらに上回る狙撃が騎士に直撃した。だがその際に繰り出された槍先が
うららの腕をかすめる。生み出されつつあったペルソナの召喚が阻害され
霧を散らすように消滅する。

「くっ、かすめただけでもっ……」

だが克哉の魔法は完成した。爆炎が三体の騎士に襲い掛かった。うららは
地に伏せ炎を避ける。息を止め、高熱の空気で肺を焼かれないようにする。
炎の衝撃で吹き飛ぶ先頭の騎士から、ほうほうの体で離れるうらら。

爆風がおさまったころには、うららも二人と合流する。その間パオフゥに
頭をはたかれていたが、肩のかすり傷以外に大きな外傷はなかった。

「少しの間下がってろ、いいな!」

炎の中から、三体の聖槍騎士がゆらりと立ちふさがる。


街頭のテレビがその放送を伝える。それを知った南条のスタッフは各方面で
戦闘を繰り広げているスタッフへ報告を行った。連絡を密にしそれぞれの
戦場での情報交換を密にするためのものだった。

私兵から伝えられる情報に、顔色を変える三人。すぐさま駆け出す
ピアスの彼。そしてそれを追う聖槍騎士と、彼の殿を守る二人。
テレビ局の中の異常に気づき、侵入を試みる。それを理解して彼らは
その援護を行う。まるで示し合せたかのようだが、あの戦いを潜り抜けた
ゆえのチームワークと判断だった。

「アイツはな、自分の『出』ってやつをわかってるんだよ。
空気読めない奴は、テレビ業界じゃ生きていけないんだぜ」

「彼の邪魔は……させません」

軽口を言う上杉の顔は笑っていない。一般視聴者には思いも
よらないほどの怒りに満ちた表情だった。逆にエリーは極めて冷静な
面持ちでいる。
二人がペルソナを召喚し力をふるう。それに対し三体の騎士が襲い掛かる。

同時に、兵士たちも突入を開始する。まるでそれを待っていたかのような
タイミングに魔法少女たちに動揺が走る。だがそれを支えたのは大人たち。
彼らが叱咤したため、何とか迎撃姿勢を取ることができた。
また、彼女らはその放送の危険性にすぐに気付かなかった。だから
目的を果たせなかったことやアナウンサーが銃殺されたことは悔しいし
怒りを覚えたが、それまでだった。

そう、少なくとも日本各地にラストバタリオンが何の前触れもなく発生し
魔法少女狩りを始めていたことに気付いていなかった。


ヒトラーを追う三人。精悍な達哉に背負われているまどかは落ち着かない。
父親の知久以外の男性に抱き上げられたことなどなかったからだ。
驚いたように強張り身をすくめている。

暫く進み、ドアを何度か潜り抜ける。その間、かなりの距離を進んだ
はずだった。だが前を行く二人には追いつけないのか、姿は見えない。

「まどか、貴女は変身はできないのね?」

予てからの疑問を尋ねるのはほむらだ。彼女がほむらの知るまどかならば
変身することが可能のはずだ。

「うん……。どうしてかわかんないけれどだめなの」

「君も魔法少女なのか?」

「あ、はい。ごめんなさい。私鹿目まどか、っていいます」

律儀に自己紹介をする。そこがUFOの中で、達哉の背中の上でなければ
ちゃんとお辞儀をする姿が見えただろう。

「僕は周防達哉だ。さっきの髪の短い方の男が兄。二人とも刑事だ」

襲われる心配があるため、走ることなく歩く。だからか、ついまどかも
緊張感のないことを言ってしまう。

「私にもタツヤっていう弟が……」

最後まで言えず、言葉を飲み込む。つらそうなまどかの背を、ほむらが
労わるようにさする。まどかの記憶であれば確かに弟なのだが、今ここに
いる詢子、知久には彼女の記憶は、おそらくない。それを思い出してしまった
から。


『すげー、何あれ特撮?』

『スタンド出てる! すげーかっけー』

『つかマジ鍵十字』


『にげてー、にーげーてー(笑)』

『あれエリーじゃん。モデルもスタンド使いか』


『魔法少女の衣装が可愛い件について』

『武器がとってもバイオレンスだけど。なんでハンマーなんだよ』

『つかマジで少女なんだな』


『ブラウンかっけー。つかスタンドがなまらシブい』

『ブラウンさんはやればできる子。槍うめえ』


『あのイケメンつええ。あ、テレビ局入ってった』

『あのロボが強そう。でもあの二人ももっと強そう』


動かなくなった聖槍騎士……魔法少女だったそれを拘束し運ばせる。
また捕まっていた魔法少女も保護している。その中のほぼ半数が、
ラストバタリオンの処置が施されていた。

他の、候補生を含む無傷の魔法少女たちはめいめいがマイクロバスに分乗し
保護されていった。
そして、そんな彼らの元にもその報告が届く。

「彼らでも間に合わなかったか」

怒るでもなく淡々という。玲司とゆきのは多少苛立ってはいたがそれで何かに
当たるような真似はしなかった。
それだけ彼らが大人になっているということだろう。自分が最善を尽くしても
必ずしも望む結果が得られるとは限らない、ということを知っているのだ。

「仕方ない。もはや元凶を潰すしかあるまい。これで諦めたら奴の思う壺だ」

「俺たちもテレビ局行くか?」

疲れを微塵も出さずに玲司はいう。そのタフネスさに南条も期待はしていたのだが……。

「それよりも……あの放送のおかげで噂が広まったはずだ」

「町中で魔法少女と軍隊がぶつかるね」

恐らく仮面党もだ。つまりほとんど三つ巴の戦争が始まるということだ。
そして、彼らは行動を起こす。その市街戦を少しでも早く制圧するために。


三人は周囲を警戒しつつ歩く。だがその先に、白い鎧が見えた。
聖槍騎士、ロンギヌスのリーダーだろう。その一見すると美麗にすら
見える体に禍々しさを称えながらその場に立っていた。

「時間稼ぎか」

『総統の命令だ。『恩寵の者』と『特異点』の殺害がな』

相変わらず機械を通しての声でも、そこに嘲りが見て取れる。常に相手を
他者を、そして絆を見下すその姿勢は、やはり這い寄る混沌の姿勢に
酷似していた。

『お前に思い出されても困るそうだ。面倒なのだよ』

槍先で達哉を指し笑う。彼にも多少、あの時の記憶がある。だが違うのは
ほとんどすべて伝聞系であること、そしてペルソナ能力がないことだ。

「ずいぶんと余裕ね。私は数に入らないかしら?」

怒るでもなく淡々と弓をつがえるほむら。真っ直ぐ狙うその魔力は
まどかの知る、時間停止を武器にしていたかつてのほむらとは違うものだった。

そして何より、とても美しかった。

「まどかが守りたかった世界を、よくもめちゃめちゃにしてくれたわね……」

その青臭い怒り方をリーダーは鼻で笑った。それをほむらは受け流す。
当たり前だ。彼女は何十年分もの戦いを、たった一人でやっていたのだ。
それくらいで激高してしまうような軟な精神をしていない。

それくらいならとっくにもう自我が崩壊している。
それだけの地獄を潜り抜けたのだから。

達哉とQBはまどかを庇うように下がった。
ほむらの矢が解き放たれる。それの矢じりを正確に槍で斬り落とす。
下手に払うと矢の弾性であらぬ方向に跳ねて体の一部に当たることが
あるからだ。

それが開戦の合図。


『少年、その娘が気になるか』

「あ、あなたは?」

「上条さん!」

突如現れた男に、警戒する少年少女。
もはやぼかす必要もない。船内にいるはずのヒトラーが、上条と仁美の
前に現れていた。

『お前を想い、人としての形を失った娘を忘れられないか、
と聞いているのだ』

「さ、さやかのことか」

「駄目です、話を聞いてはいけません。
さやかさんはもう亡くなっているのです!」

だが、仁美は知らない。上条がさやかに出会ってしまったことを。
仮に知っていても彼の心の衝撃までは思いが至らないだろう。それを
彼女に求めるにはあまりにも若すぎて幼すぎた。

そして上条もそれは同じだ。さやかの最後を二人から聞いていた仁美の心を、
彼も知る由もない。

『お前の腕を直し、未来を繋げた少女。健気ではないか。
それを忘れるなど……、男として許されることなのかな?』

揺さぶる。

『私が絵を描いていたことくらいは知っているだろう?
当時の私が絵筆を持てなくれば、同じくらい苦しむだろうな』

仁美が上条の腕にすがりつきその袖をしっかりつかむ。連れて行かれまいと
必死なのだ。そう、彼の言葉は上条を誘惑しているのだと、気付いたのだ。

『そしてその腕を治してくれた女性に対して、私もお前と同じくらい
感謝をしてしまうだろうな』

そのカリスマめいた顔が笑う。そこに邪悪さがないのが余計に、仁美には
禍々しく見えた。その裏に潜む悪意が見え隠れしていたのだ。

『何よりお前は私などよりその腕を認められていたな。
羨ましい限りだ。ならばなおのこと感謝も大きかろう、な』

それはまさに悪魔の誘惑だった。


そして、各地で動く軍隊は人を街を飲み込みながら広がり魔法少女を
捕えるべく行動を開始する。
それを辛うじて抑えていたのは自衛隊だ。南条グループの警告を受け
すでに準備してはいたのだが、初動の遅さが目立っていた。

だがそれが逆に幸いした。活動を開始したラストバタリオンに対し
専守防衛とはいえ行動を開始したのだ。
駐屯地から離れ見滝原に行っていれば、空洞化したそこが無防備に
なっていたであろう。

街を魔法少女を守るため戦う彼ら。決して人数は多くないが、その練度や
装備においてラストバタリオンにも引けを取らない。
携帯火器やボディアーマー程度の装備であっても充分に対抗していた。
幸い、見滝原以外には聖槍騎士は現れない。

だがそれでも無尽蔵に溢れる兵士たち。そして雲の合間から現れる巨大な
飛行船。空の巨人ともよばれるそれが、空港などのレーダーを全く無視し
現れる。そこからも溢れ出す兵士たち。
日本国内に鍵十字が広がっていく。



そして、最後の異変が始まる。
戦いに力尽きた魔法少女たちに訪れるはずの安らぎが、来ない。
心が折れ、絶望した彼女たちを救う御手が現れない。



『この国では成長途中の女のことを少女と呼ぶのだろう?
……ならば、やがて魔女になるお前たちのことは、魔法少女と呼ぶべき、だよな』

ソウルジェムを濁らせてしまった少女の前で呟くキュゥべえ。




ぱきん

といった形でお届けしました

筆者です

なんだかここ調子よくないですね

なので手短ですがこれで失礼します

おやすみなさい

乙でした。

やっぱり円環の理止まっちゃった~!!
魔女VSラストバタリオンVS日本の三つ巴戦争?
グリーフシードの使い方知ってる魔法少女って外にいたっけ?

続きを楽しみにお待ちしています。

普通の火炎系魔法ならまだしも核熱系魔法使ったらやばいよな。現実的に考えて

利剣乱舞・乙!



>『無理だろうね。現代の外科手術ではどうにもならないだろう』
ペロッ これは冥王星帰りのカニキノコフラグ…?

乙であります。

混沌の罠、えげつねえ……
しかし絶望のドン底からの復帰こそ爽快感が増すというもの。
今後の展開に期待です。

あとコメント久々になってしまい申し訳ない……
いつも自分のSSにコメントありがとうございます。
自分も続き頑張ります。

こんばんは筆者です

矛盾がないか不安ではありますがどうぞご賞味ください


>>387
恐らく、グリーフ・シードのことを知ってる(覚えてる)のは
キュゥべえだけでしょう。それを伝えるとは到底思えませんが


>>388
ゲーム中は意識しなかったけど核熱やっぱりアトミックなんでしょうか
ちゃんと調べたほうが良かったなぁ


>>389
いやね、ほら、素質ある人はいるでしょ他にも……。


>>390
>えげつねえ……
ニャル様を演じ切る側としては「最高の褒め言葉」ですわ。ふふふ。

そしてお帰りなさい。執筆楽しみにしてます
コメントなんてできるときイイんですヨ


それでは、今夜もお付き合いクダさいまし


「何が目的なのですか!」

仁美が眦を決して叫ぶ。さやかも失った。そのうえ上条まで失っては
彼女はもはや立ってはいられない。必死だった。上条の腕にすがり
奪われまいとしていた。

『お前を救ったものが窮地に立たされている。としたらどうかね』

ヒトラーは全く仁美に取り合わない。真っ直ぐに躊躇わず上条だけを
見つめている。そこでわずかにでも笑えば疑いを持つこともできたかも
しれない。だがニコリともせず、真面目な顔で話を続ける。

『その娘は今戦っているよ。己の罪悪感からな。
それは己が体を滅ぼしかねないほどのものだ。見ていられんよ』

本気で同情するような声色と表情をする。これがヒトラーの正体を
知っているものであれば、演技だと看破することもできるだろう。だが
上条にしても仁美にしても、この男を邪と跳ねのける力はなかった。
圧倒的なカリスマに裏打ちされた説得力にのまれていたのだ。

「やめてください! お願いします! 私から上条さんを奪わないで!」

だが辛うじてそれが邪悪な誘惑であると気付いた仁美は耳をふさぎ絶叫する。
さやかから上条を奪い、さやかから上条を奪った彼女には苦痛でしかない。
当の本人たちがどんなに否定しても、彼女はそれに囚われていた。
強く袖を握り締め、上条にすがりつく。

『奪うとは心外だな。
同じ芸術を志した身としては、その心が気になるというだけなのだがな』

上条は言葉を発することができなかった。

『絆を、失いたくは、あるまい?』


ぱきん

それに最初に気づいたのは南条達救出部隊だった。
まず拘束した聖槍騎士を搬送させ、そののち保護した魔法少女や候補生を
搬送する。そんな手順を取る予定だった。そのための指示を出しテキパキと
行動する南条。そして無事な魔法少女やペルソナ使いたちは銃器の補充と
簡単な食事をとり見滝原各地の戦場を回る予定だ。

だが、結果的にはそれはできなかった。

聖槍騎士を搬送する大型のトラックを準備している間にそれは起った。
何か硬いものが破裂するような音が聞こえたのち、聖槍騎士三体を中心に
周囲の風景が一変する。
それは南条達がかつて体験した、悪魔の結界に似ていた。

そう、結界。

私兵や魔法少女、そしてペルソナ使いを飲み込み肥大化するそれは
異様な光景だった。
シュルレアリズムのような、誰かが見た悪夢のような。狂気の風景。

「な、なんだこれは!?」

「狼狽えるな! 全員集まれ! 非戦闘員を囲め!」

「外側は魔法少女たち、頼んだよ!」

「最前列は俺たちが立つ。背後のフォローをしろ!」

円陣を組み、その異常事態に備える。


白い鎧が真っ直ぐほむらに襲い掛かる。槍を振り降ろす。二度、三度と
切り返したのち、ほむらの弓と噛み合う。動きを止めたところで銃口を
向け、躊躇わず発砲した。
それを思い切って躱すほむら。近接戦においては弓は不利だがほむらに
とってはそれは全く問題ではなかった。なぜならば、彼女の後ろには
まどかがいるから。守りたい、最愛のひとがいるから。

『躱すのだけは上手いようだな』

「でくの坊の動きならね」

二人の鍔迫り合いが終わったところを見計らい達哉は拳銃で狙撃する。
警察の支給品ではない。南条が用意したファイアパワーのある外国製の
拳銃だ。弾もかなりの量譲り受けている。それでほむらの戦いを補佐
していた。

そんな二人の戦いをまどかはただおろおろとみていただけだ。彼女は
恐らく生身の人間と変わらない。銃声がするたびに、機械音が響くたびに
身をすくめ怯えていた。
一方の聖槍騎士はまどかなど眼中にないかのようにひたすらほむらを
攻撃する。それも当然で、補佐の達哉の火力ではその鎧を突破できない。

一方のほむらも必死だ。一撃でも槍を受ければ魔法少女の変身が解かれる。
そのためかなり大きく槍先を避けなくてはならない。そのための余分な
回避行動が攻撃の隙を減らしてしまう。防戦一方になっている。
だが、ほむらは諦めない。真っ直ぐに敵を睨みつけて攻撃のチャンスを
狙っていた。


分断させたことが仇になった形だ。聖槍騎士と兵士に挟撃され、魔法少女
たちはやや混乱している。それを押しとどめているのは南条の私兵と、
上杉の明るさだ。かろうじて聖槍騎士を足止めし、局内に入った彼を
追わせないようにできていた。

また、挟撃されたために魔法少女たちが聖槍騎士に挑むことができたため
二対三という状況が崩れていた。魔法少女たちは(極論さえ言えば)槍に
かからなければ致命傷には程遠い。

銃弾を魔法少女がその身で受け止める。振り下ろすハンマーで槍先を
抑えきると、その背後から英理子のペルソナが魔法で襲い掛かる。
ただの水流どころではない。その威力で鎧をへし曲げるほどの水圧が
かかっていた。

ぱきん

かくしてそれは起るべくして起こったと言えよう。聖槍騎士たちが
戦闘の小康状態を演出していた。それゆえ、『彼女ら』のソウルジェムの
限界が近づいていた。
水圧から立ち直り、反撃を試みる聖槍騎士の動きが止まり前のめりに倒れる。
受け身すらとらないその動きに訝しがるも残り二体が攻撃に加わる。
だが、それすらも数回噛み合っただけで倒れた。その後、ピクリとも動かない。

「な、何が起きた?」

「わかりません。ですが今は背後の兵士たちを!」

大天使のペルソナを呼び出し、回復と攻撃を指示する。上杉も
それにならい振り返ったそのとき、それは起きた。



彼らもまた結界にのまれたのだ。


さやかがその魔力を使い、強引に聖槍騎士を持ち上げる。槍を失った
その個体は銃撃をさやかに打ち込むが、超回復を発動する彼女には
意味がなかった。
だが、その一方で無謀な戦法に青ざめるベテラン魔法少女。

「馬鹿野郎! 無茶すんじゃねえ!」

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

渾身の力を振り絞り、さやかが投げつける先には二体の聖槍騎士。一体は
それを避けきれず受け止め体勢を崩す。だがもう一方は離れていたせいか
俊敏に回避する。
体勢を崩したところにマミが必殺の一撃を放つ。ティロ・フィナーレは
まさに必殺技にふさわしい威力で、投げ飛ばされた個体を貫き、
もう一体にも浅くない損害を与えていた。

無理な肉体強化と傷の修復を行ったため、さやかの魔力が大きく
減っていた。
そこに残った聖槍騎士が槍をかざし襲い掛かる。自己修復を誘発させる
銃撃と共に、突撃槍の要領で突っ込む。迎撃姿勢が取れないさやかは
それをもろに受け止めてしまう。遠くに吹き飛ばされるさやかを見て
杏子は激怒した。

「てめええええええええ!」

ソウルジェムごと吹き飛ばされたさやかは昏倒しているのか動かない。
マミがそれに駆け寄るのを視界の端にとらえながら、杏子は猛然と
聖槍騎士に襲い掛かった。


銃弾と矢。その十字砲火を受けつつもリーダーたる個体は余裕を崩さない。
銃弾を受け止め、矢をかわし、執拗にほむらに迫る。その戦いに怯える
だけなのがまどかだった。

(ほむらちゃん……頑張って)

だが、まどかにはいつもの元気がない。この祈りも本来なら声に出す
くらいのはずだ。影を落とす理由は自分がここにいるから。

『やぁ。君が鹿目まどかだね』

「QB!?」

『やっぱり僕が見えるんだね。ということは素質があるということなんだ』

「ね! 私にはすごい素質があるんだよね!?」

かつて世界を変える願いを願い、まどかは世界に溶けた。それを思いだし
今ここで再び魔法少女となってほむらの戦いに加わろうと思っていた。
それが、ほむらを蔑ろにする願いだと気付かずに。
彼女が魔法少女でないのは、ほむらが無意識にそう願ったからだ。だから
今契約が可能なのは、彼女の、ほむらの望みではなかった。

『いや、ないね』

ばっさり切り捨てる。おそらくは、とQBは続ける。

『ほむらの話では君は一度契約して世界を改編したんだ。
そこで素質は使い切ってしまったと言っていい。
使い切るという表現は適切じゃないかもしれないけどね』

まどかは項垂れた。そして辛うじて顔を上げ、ほむらを見守った。


ペルソナ使いたちの火力は聖槍騎士を大きく上回る。本音を言えば
パオフゥ当たりは手ごたえのなさを感じてさえいた。

(こいつらなんだ? こんな軟だったか?)

比べているのはX-1と言われる兵器と戦ったことを思い出していた。
それにきわめて似ていると。だがそれに比べるとこの聖槍騎士は
弱かった。その意味に気付くことなく、彼は攻撃を続ける。
だが、それでも戦いは簡単ではなかった。苦戦をしないというだけで
槍の効果はやっかいだし、銃撃も決して楽に受けられるようなものでは
ない。

(本気で戦ってない……? 何かあるのか)

それがわからない。だから相手の策略に乗らず、一気呵成に倒すこと。
それが一番大事だと思っていた。それでもなおペルソナや魔法少女の
能力を封じる槍は厄介だったし、専守防衛を意識されての戦いに時間を
取られていた。

「もう一度行く! フォローを」

「ちっ。わかったよ」

斜に構えた態度ではあったが克哉の行動に同意する。その頃には
ペルソナ能力を復活させたうららが戻り、戦いに加わる。

「「「ペルソナ!」」」

外装を爛れさせた聖槍騎士に魔法が襲い掛かる。


ピアスの彼が局内に入り込むと、兵士たちが襲い掛かる。職員に扮し
平服でいるものが多かったため、彼一人の侵攻を止める者はいなかった。
インド神話の神が敵を撃破するなか、スタジオに到着した彼の前には
血に染まったデスクと、そこに突っ伏すキャスター。

その惨状にたたらを踏みつつも、彼はその場にいた兵士の殲滅に乗り出す。
彼を責めるわけではないが、これは悪手だった。なぜならば、その場は
まだ中継されていたからだ。
未だそれを冗談やフィクションだと思っていたところに、見知らぬ男性が
ペルソナまで召喚し襲い掛かったのだ。



一方の駐車場は、聖槍騎士を中心に結界が広がっていた。鎧の中の
魔法少女の魔女化だった。

「あ、あれ……QB……ひょっとして……」

『うん。どうやらほむらが言っていたことが正しかったようだね』

「じゃ……円環の理は……」

テレビを見ていた魔法少女の顔色が青ざめる。その隣にはキュゥべえが
同じように見つめていた。QBのシステムは全個体が同じ情報を持ち
お互いを補完しあう。それと同じ方法でキュゥべえも情報を持ち、それを
魔法少女たちに伝播させていた。
何より、聖槍騎士の中身が魔法少女だということも伝えていた。

『何が起きたかははっきりしないけれど……。鎧の中の魔法少女が
魔女になってしまったようだね』

隣にいる少女のソウルジェムも、濁り出した。


「ねえ! 起きてよ! なんで? なんで目を覚まさないの」

各地で広がる魔法少女の絶望。

「嘘でしょ! ソウルジェムはどこ? どこにいったの?」

目の前で友人が怪物に堕ちるさまを見てしまった彼女たち。

「私信じないよ、あんな……あんな化け物になっちゃうなんて!」

それはQBが広めてしまったほむらの作り話が現実になったことを表していた。

「いやだ、いやだぁ! あんなのになりたくない!」

項垂れるもの、錯乱するもの、壊れるもの……さまざまな態度を示していた。

「そうだよねまほうしょうじょがせいちょうしてまじょになるんだよ」



自衛隊の隊員が、魔法少女を保護する。彼はラストバタリオンから
それらしい衣装の女性を保護していた。彼女を抱き上げると、重装備の
まま軽々と走りだし自衛隊基地に運び込もうとする。

「大丈夫だからな。絶対に君を死なせない!」

「……りだよ」

その零れた言葉を隊員は聞き逃した。

「わたしまじょになっちゃうんだもん。むりだよ」




彼女は自衛隊基地内で堕ちた。


ほむらは戦いに集中している。おそらくキュゥべえの言葉も届かないだろう。
だから、キュゥべえは、事情を知っているであろうまどかに声をかける。
それが何よりも強烈な毒だと知って。

『まどか。君は魔女を知っているんだよね』

「え、うん。し、知ってるよ」

キュゥべえが何を言いたいか、何を言いだすかわかっている彼女は慄いた。
喉が渇き心臓が破裂しそうなほど鼓動する。恐怖を感じていた。

『各地の僕から連絡が届いた。あちこちで魔女が発生している』

蒼白な顔で、膝を折り地面に手をつく。まどかが恐れていたことが現実に
なった。そして、それはこの場にいるほむらたちも魔女になることを
表していた。それに気づいているであろうほむらや、事実を知ってる
さやかはまだいい。だがマミも杏子もそれと知らず、あの恐ろしい敵と
戦っているのだ。

ヒトラーがUFOを狙っているという噂に引きずられここに
集まっただけの彼女たちも。そもそもそれをして何をするか、本人が
そういったわけではない。にもかかわらず彼女らはそれと信じ行動し
ここに来ていた。

彼女たちもまた噂の力から逃れられなかったのだ。


そして、仁美は一人途方に暮れていた。

ヒトラーと上条が消えた虚空を、生気を失った目で見つめていただけだ。
凄まじい喪失感と、絶望。さやかを、上条を零した手。
そして今戦っているクラスメイトと先輩も失ってしまうかもしれない。
彼女はそれを自分への『罰』と理解した。さやかを失った上条に付け入る様に
告白したことを悔やんでいた。

(アア、ワタシハオカシクナル。オカシクナルンダ)

どこか自分を客観的に見つめる別の自分がいるように感じていた。
そのあまりに情けない状況に、別の自分が侮蔑の笑いを投げかける。
けれどもその笑いは結局仁美の口からこぼれ、はた目には彼女が
錯乱したように笑っている風にしか見えなかった。

その横には、キュゥべえが静かに鎮座していた。

真っ白な顔に禍々しい表情を浮かべながら。



とこんな感じで投稿しました。筆者です

うん、自分で書いてて胸がむかむかするね。さすがニャル様
でももっとえぐいことやればよかったかなぁ……とか、黒いこと考えてたりするんです


それではご感想お待ちしております
第一部完結までもう一息です。お付き合いください

乙でした。

魔女の同時多発出現とか、一気に莫大なエネルギーがキュゥべえに入るんじゃね?
宇宙のエントロピーの方に使わず何かやらかす気か?

その前に人類が滅びそうだけど。

乙であります。

第一部、ということは『罪』のおわりかたをするということか……
腹はくくった、一心不乱のバッドエンドをよこしたまえ。

QBもエイリアンだけどニャル様も宇宙的存在なんだよね。
『対人類・地球生物』のためにナイ神父やら闇に吼えるものの姿とってるだけで。
つまりインキュベーターもニャル様の『娯楽』の対象になりうる。

そもそもアザトース目覚めて大丈夫そうなの女神まどかくらいか? 無理か?
 

どの作品の設定を参考にするかで違うだろうけど
アザトースの元ネタをダンセイニ卿のマアナ=ユウド=スウシャイに求める考え方なら
アザトースの目覚め=全集合であるヨグの消滅、でムリポ

他の作家の設定は凡々ブログにでも聞いて

筆者です
お詫びコメントなのでsageデス。持病悪化でダウンしてました
片方はなんとかやりとげましたが、こちらは無理でした
いつもご覧になってる方、すみません。ニャル様になりきるエネルギーが足りませんでした

コメント返信は投稿時にいたします
エタったりはしませんので、気長にお待ちください
それでは……


こんばんは、筆者です。微熱が引きません。微熱戦記。
お待たせして申し訳ありませんでした
謝りついでに今週末は更新が難しい状態です。両方ともお休みの可能性があります
ご容赦ください


>>404
ああご明察。まー、シナリオをわざとなぞられてるからだけど
バレバレっすねー。ほらペルソナにもエネルギー必要なの、あったじゃないすか、ほらあれ

>>405
最初から決めてたのでスが、あれよあれよといろいろ詰め込んだら
こんなにになりました。結末は見えてるでしょうが
なるべく頑張って、ニャル様を演じてみます

>>406
ここのニャル様はクトゥルフ神話のそれじゃなく、その姿と名前を借りた
人間の悪意と試練の体現ですから、アザートスさんは起きないと思います


『うん、これならノルマはすぐに達成できるね』

愛嬌たっぷりにつぶやくキュゥべえだったが、
それがすぐに禍々しい笑みに代わる。

『などと、当時のあ奴ならいうのだろうな。だがこれだけのエネルギーを
宇宙の熱量死を防ぐためになど、使うものか』

魔法少女が絶望し魔女になるその時に得られるエネルギー。それを宇宙の
ために使うのがQB即ちキュゥべえの役目であったが、このキュゥべえには
そんなつもりは微塵もなかった。

『宇宙の法則すら捻じ曲げるほどの力は確かに魅力だ』

『だがそれにより、人類そのものが滅んでは意味がない』

『この試練を乗り越え』

『人類の新しい目覚めを促す』

それがニャルラトホテプの望みだった。


マミの砲撃をまともに受けた個体は活動を停止した。残り二体。ここまで
くればあとはなし崩しに倒せるはずだ。だが一方のさやかも魔法少女の
変身が解けてしまっている。
駆け寄ったマミの目の前でさやかが目を覚ます。マミは見慣れた制服姿に
心を痛めた。

「さやかさん。大丈夫?」

『へ、平気です。でも、ソウルジェムが』

腹部にある体と一体だったはずのソウルジェムが地面に転がっている。それを
先に見つけたのは聖槍騎士。その個体はマミの砲撃を受けた際、後ろにいた。
だから損傷しつつも行動していたのだ。そして、さやかのソウルジェムを
見つけた。行動に障るほどにはダメージを受けているのだろう。頼りなげな
動きで足を振り上げ踏み抜こうとする。

それに気付いたのは杏子だ。一瞬そちらを見るが救出には行けない。正面に
まだ戦える聖槍騎士がいる。後ろを振り向こうものなら槍の一撃を受け彼女も
変身が解けてしまう。
だからマミが走り抜ける。スクラップ寸前の相手にリボンをのばした。拘束と
ソウルジェムの確保のためだ。
だが半壊していても銃器は無事なのだろう。マミに向かいめくら撃ちをする。
肩に、脚に、腹部に、胸に吸い込まれる銃弾。だがマミは怯まない。そのまま
リボンを伸ばし確保と拘束に成功する。

『マミさん! 止めてください! 逃げて!』

目の前で血まみれになる先輩。ついこの間まで自分たちが戦った相手を
マミはかばったのだ。

さやかは涙が流せない自らを呪った。


白い聖槍騎士はもはや達哉をも無視し出した。大口径とはいえ拳銃程度
では彼の装甲は突破できない。またほむらに近づけばそれすら発砲が
できないからだ。
近づけば槍、遠ざかれば銃や雷。無尽蔵の体力で繰り出す攻撃に、
ほむらは徐々に追い詰められていた。かつての様に弓と矢を剣と盾に
見立て攻撃をしのいでいた。だがとうとう弓が槍に切り落とされる。

腹部を貫く槍。ほむらの変身が解け、仁美が用意した服装になってしまう。
左脇腹からは出血しその服を汚す。そのまま昆虫の様に地面に
縫い付けられてしまった。
左手に一体化していたソウルジェムが転がり落ちる。

『恩寵の者もこんなものか。オリジナルの出番などなかったな』

その言葉に疑問を感じつつも、ほむらは意識が混濁していった。
本来なら痛覚を遮断することも可能なのだが、魔法少女の能力を
封じられてはそれはできない。痛みと出血が彼女の思考を阻害する。

「ほむらちゃん!」

思わず駆け寄ろうとするまどかを、キュゥべえが前に立ちおさえる。
今の彼女が行っても何もできないと知っているから。

「じゃまをしないで!」

『そういうわけにはいかないよ。君には……』

まどかの動く先に立ちふさがる。その表情はまどかからは見えない。

『……死んでほしくないからね』


それを救ったのはペルソナだった。
スマートな体に炎をモチーフにした仮面。燃えるような赤と純白に
彩られた炎の神。それが拳で聖槍騎士を殴りつけた。
その凄まじい威力に仰け反り吹き飛ばされる聖槍騎士。かろうじて体勢
を直す。

「なるほどな……。シバルバーのときと同じということか」

かつて、『達哉』が今と同じようラストバタリオンを追い、宇宙船……
シバルバーに乗り込んだことがあった。
そのとき同行していた幼馴染の一人が思い描いた父親が敵として現れ
た。メタルダディ、などというふざけた名前で。あるいはアメノトリフネ
でもメタルマムという形で現れたこともあった。

まどかがその二人と似ているならば、ここもそれと同じと理解したのだ。

――ここは噂が現実になる中枢。そしてここでの思念は現実になる――

追いつかないと思えば追いつかないし、追いつくと思えば追いつく。
勝てないと思えば勝てないし、勝てると思えば勝てる。
そんな精神論根性論が通じてしまう信じられないような空間。
それがここでも展開されていたのだ。

兄克哉が放つ炎に匹敵する魔法を放ち圧倒する。
聖槍騎士のミスは、一介の魔法少女とほむらを侮ったこと。一般人の
達哉を疎かにしすぎたことだ。

そして、ペルソナの力を見せられた達哉は、自分にも使えると言い聞かせ
……結果発動させた。


周囲をバイクが駆け巡り、綿毛の存在が鋏を打ち鳴らす。その外側には
何らかのオブジェのような置物が鎮座する。
南条達は知らないが、これが魔女というものだ。見たこともない怪物に
動揺する私兵と魔法少女。だがその中でペルソナ使いたちはある程度
冷静に事態を見つめていた。
はっきりいえば、見たこともない怪物との戦いなど何度も経験している
からだ。知らないからといってもそれに後れを取るわけにはいかない。
そんな戦い方をしてきたからだ。

「バイクは網を張れ! 浮いてるやつは銃で追い払え! 長柄の武器で
石像を近づけるな! 動きを止めたら我々が片づける!」

きびきびと指示を出す南条。
鞭のような武器を使う魔法少女が、バイクに攻撃を仕掛ける。その速さに
何度も躱されてしまう。だがそれが一本や二本ではない。十本を超える
本数の縄が絡みつく。そこに玲司の拳が唸りを上げて叩きつけられる。

空中の髭の使い魔は飛び道具で迂闊に近寄れない。接近戦を主体とする
部隊は、外側の石像が近づくのを長物で追い払う。それでもかいくぐって
きた連中を南条らが攻撃、殲滅する。


駐車場に現れた結界は、お菓子と、空と、鳥かご。ポップな地獄絵図。
そこに少女特有の悪夢が現れていたが、それと気づくものは皆無だった。

「Surrealisme……のようですわね。少々悪趣味ですけど」

「……俺には明確な悪意が見えるよ。胸が悪くなる臭いだ」

かつて使い魔と言われていたそれをペルソナ使いが易々と倒す。だが
本体である魔女はまだ行動に移してはいない。
そもそも彼らには、この怪物たちがどうして現れたか全くわかっていない。
まさかソウルジェムが濁りきった結果などとは夢にも思っていない。
だからまだ魔法少女たちにも若干の余裕があった。

やつが現れるまでは。

『やぁ。みんな無事かな』

いつの間にかそばにいたキュゥべえが魔法少女のそばに座る。結界化が
始まる前にそこにいれば当たり前の存在ではある。そのためそこに違和感を
誰も感じない
しかも素質を持たない大人たちには、姿も声も確認できない。だから
キュゥべえに反応する魔法少女たちが、錯乱してしまったものと思って
しまう。

「そっか、素質がないと見えないんですね」

『仕方ないね。彼らに伝えてほしい。あれは魔女。魔法少女のなれの果てだと』


拳銃とペルソナの力で白い鎧を圧倒する。一方で我慢できなくなった
まどかはキュゥべえを振り切りほむらに近寄る。途中足元にあった
ソウルジェムを拾い、届けることも忘れない。

「こふ……、まどか……危ないから……」

「大丈夫。達哉さんが戦ってくれてる。……立てる? 逃げよう」

「か、彼も……、ペル、ソナを?」

『喋らない方がいい。今ここにはマミもいないんだ。治療ができないよ』

ほむらの言葉にまどかはかろうじて頷くだけだ。涙を浮かべながら致死量の
出血を続ける友人を抱きしめ壁際に移動する。幸い……、というべきなのか
魔法少女であるため、能力を封じられていてもほむらは死ぬことはない。
だが出血による傷の苦しみによってか、ほんの少しずつソウルジェムが
濁りつつあった。

魔女になりつつあった。

「あ、あなたは……魔法……少女に……なっては駄目よ」

ほむらはまどかの考えを看破しそう言い切った。苦しそうに呻きながらも
微笑みを浮かべたのだ。
まどかは泣きたくなった。こんなときに自分を思いやるほむらの気持ちに。
呪いをかけた自分の愚かさに。そしてこんなときに自分のことしか考えない
ほむらに。
だが、キュゥべえは言う。まどかの素質はほとんどないと。かろうじて
契約できる程度しかないと。


爛れた装甲を貫く銃撃が止めとなった。大きな音を立てて崩れ落ちる
騎士を捨ていたままパオフゥは振り返る。残り二体に対峙する二人の
フォローに向かう。やはり手応えのなさを感じはしたものの、倒して
しまえば何事もない。彼はそう判断してしまった。

槍をかいくぐり、至近距離で銃撃。跳弾の恐れがあるがそんなことは
言っていられない。
だが相手も楽はさせない。槍を振りぬき電撃を発生させる。克哉はそれを
上手く躱す。合気道などにある、相手の脇の下をくぐる方法で背後に
逃れた。電撃など空気中では指向性はほとんどない。それを標的に
当てるには、イオンなどで通り道を作ってやる必要があるらしい。

「そんな器用な真似をしてはいないはずだっ!?」

つまりその電撃は大雑把な範囲攻撃であり、自身に影響が出ないように
背後や槍の内側は安全と判断したのだ。それは当たり、無傷のまま
電撃をやり過ごすことができ、そこからペルソナを召喚できた。
轟音と爆炎が騎士を包み込む。
炎上し地に伏す騎士。
そして、うららが戦っていた相手も頭部を破壊され動かなくなる。

「片付いたね。あとは、あの子たちの方か」

「二人で行く。力使いすぎだ。余力とっとけ」

パオフゥに諭され素直にうなづくと、壁際にもたれかかる。広範囲に
及ぶ魔法を使いすぎ疲弊していたのだ。


「てめえええええええええええええええ!」

組み合う聖槍騎士を振り払い杏子が迫る。マミに無慈悲に銃弾を
加え続ける個体に跳躍し、全体重をかけて槍を突き刺す。
胴体を貫かれ、『大量の血液を鎧から滲ませて』活動を停止する。
その杏子に、聖槍騎士が銃を向ける。だがそれよりも早くマミは
マスケットで狙撃。一撃で吹き飛ばす。

「佐倉……さん。無茶よ……」

「そっちのほうが無茶だよ! 危ない真似して!」

杏子の声は悲鳴に近い。泣き出す寸前のくしゃくしゃな顔でへたり込む。
その顔にも銃創がある。美しいその顔も、見るも無残な状態だった。
あとで傷一つなく治すことが可能とはいえ、杏子には見ていられなかった。
だが誰も、マミすら知らない事実がある。彼女は死なない。

噂だ。

同級生たちが願った願いが噂となり、彼女は死ぬことも、負けることもない
無敵の魔法少女となっていた。少なくとも、見滝原中学校の生徒である、
さやかの前では。
顔の傷を自ら治療しながら、左手には巨大なマスケットを作り出す。

「私はね、もう絶対に負けないの。何があっても……正義の、味方だから!」

轟音と共に放たれる最終射撃が、最後の個体を撃ち貫いた。


「助けるまでもなかったか。……すげえ怪我だな」

「大丈夫です。自分でも治せますし、魔力も回復できます」

『それよりも急ごう。ここから離れないと!』

さやかが急ぎ提案する。確かに後方からラストバタリオンの一般兵が迫る
可能性がある以上、ここで長居はしていられない。マミたちの結界が
あるとはいえ、それを無視して出現する可能性もあるのだ。

「雑兵に煩わされるのはごめんだな」

『それだけじゃ……ないんです』

「どういうことだい?」

戦闘が終わったため、壁際から近づくうららの問いかけ。彼女の疲弊も
大きいが、脱落者なしでここを突破できたのは大きい。

『さっき、まどかがここに来ていましたよね。あの子が魔法少女を救う、
円環の理の根幹なんです』

そこまで言えた自分に、さやかは青ざめる。これは言える情報なのだと。
そして、それはここにいる人間にとって、悪い情報だと、直感した。

『と、とにかく、あの鎧のやつから離れなきゃだめです。理由は説明
しますから』

「説明できるということは、ニャルラトホテプにとって、僕らに
知ってほしい情報ということか」

さやかは、唇を噛みしめながら頷いた。


魔法少女が、円環の理に導かれずに魔女になる。

その情報は瞬く間に日本中に広まった。そして生まれた魔女の数は
ほとんど減っていない。
なぜならば、殆どの魔法少女はその事実にショックを受け、戦うどころで
なかったから。魔獣以上に不規則な戦いをする魔女に遅れを取ったから。

よしんば倒すことができても、グリーフ・シードの使い道を知るものもいない。
倒した少女もまた、ソウルジェムを濁らせて魔女になっていく。
そして、周囲の悪意を吸い、グリーフ・シードは再び魔女になる。

悪循環だった。

そして、魔女化するさいに得られるエネルギーは、すべてキュゥべえに集められる。
QBが広めた、ほむらのインキュベーターの噂によって、かつて魔法少女をだまし
エネルギーを搾取する黒幕の能力を、発揮できていたのだ。

『さぁ、ヒトラー。これでこの船は浮くよ。
魔女によって人類は追い詰められるだろう』

『ここに残った我々は、魔女の脅威が収まるまでそれを眺めつづければいい』

『そして、活動期を過ぎた魔女たちを君たちの騎士が倒すんだね。
けれど、大部倒されたようじゃないか』

『あのようなもの、魔法少女がいればいくらでも作れる。貴様が契約すれば
幾らでも増えよう?』

その傍らに、目の光を失った上条がぼんやりと立っていた。



筆者です。お届けしました。
あとはもう皆さんのたぶん、ご想像通りです

それじゃいけないんですけどねー

まぁ、結末をどうするかがまだ定まってないので
そのあたりで、いろいろ騙したいです

それではおやすみなさい。窓から覗く何かにはお気をつけて

乙でした。

魔女戦の経験者が現在重傷のほむらだけじゃ、どうしようもないね。
ただ、聖槍騎士は夜クラスの魔女に勝てるのかな?
もしそうだったらロンギヌス・コピーの一本なりとも超力戦艦に届けたい……。

乙。くれぐれもご自愛の程をー


こんばんは、何とか仕上げました筆者です

>>421
魔女にロンギヌスは発想がなかったです。アイディアに使ってもいいですかね(汗)

>>422
ありがとうございます。豆腐メンタルなのにストレスに凄まじく弱くなってます
でも完結させます、させてみせます!


マミの血まみれになった顔をうららが拭う。その甲斐甲斐しい仕草には
年頃の女性を思う柔らかさがあった。大人たちとはいえしょせん男たち
にはできない芸当である。
ロンギヌスコピーの封印も自動的に解除され、さやかも自らの治療を
行う。そればかりか全員の怪我も治してしまう。この期に及んで彼女を
疑う者がいるわけはない。ただ一人を除いて。

それは、さやか自身。

彼女が自分を信じてはいない。先のことにしてもそうだ。自分が話せる
情報は常にニャルラトホテプにとって伝えてもらいたい情報だと知って
いるから。
だから彼女が必要と思い喋ろうとすることが必ずしも皆にいい結果を
もたらすとは限らないわけだ。
彼女は自らに疑心暗鬼になっていた。

一方で、大人たちはそれを理解したうえで彼女の情報を咀嚼するという
方法をとっていた。鵜呑みにしたりするのではなく、それを伝える意味や
メリットデメリットなどを考える。

「そんなに気にすることじゃない。とにかく今はここから離れる。
それでいいんだろう」

その綺麗な顔を取り戻したマミを視界の端に視ながら、克也は淡々と
いう。それに同意したのだろう。皆無言でついていった。

その背後には、ヒビの入ったソウルジェムが転がっていた。


ほむらを追い、次の部屋に赴くときにはすでに白い聖槍騎士は動かなく
なっていた。そのそばには、ペルソナ使いとして強引に覚醒した達哉が
いる。
ほむらの怪我に顔色を変え、マミとさやかが治療に当たる。重傷だが
致命傷には程遠い。二人でかかる必要もないだろうが、魔力の消費を
偏らせないようにするためだ。

「これは……、ほむらが? いや、刑事さんか?」

「ああ。強引にだけどペルソナ能力を発揮させた」

達哉は説明する。ここは人の精神が現実に作用する場だと。あの噂が
現実になる中心だと。それはかつてのシバルバーなりアメノトリフネで
起った事情と同じだという。それを踏まえ自らがペルソナを使えると
思い込み信じ込むことで強引に発動させたとのことだ。

『なるほどね、興味深いね』

その声に「全員が」振り返る。

『自分の姿と声をみんなに伝えたいと願えばそれが現実になるんだね』

ペルソナ使いにすら視認できる状態になったキュゥべえが語る。

『そうすると、今の状況も説明がつくね』

「どういうこと?」

マミの問いかけに応じる形で語るキュゥべえ。
今、少なくとも日本中の魔法少女が怪物になっているという。本来ならば
魔力を使い果たしソウルジェムが濁り切った魔法少女はという円環の理に
導かれ消滅する。それが消滅には至らず、ソウルジェムは砕け散り『魔女』
という怪物になってしまうという。


『そして、聖槍騎士の魔法少女が使われていた。さやか、君の判断は
正しかったよ』

いつもの調子で淡々と褒める。そしてさらに語り続ける。

『ここからも離れた方がいいね。その白い聖槍騎士もいずれ魔女になり
君らを襲うだろう』

それは全員の言葉を奪う衝撃だった。

「あの鎧が……魔法少女?」

キュゥべえは相変わらずの言い方で語る。他の個体が倒した聖槍騎士の
ボディの中から脳を弄られた魔法少女が出てきたこと。そしてキュゥべえが
見ている間にソウルジェムが砕け、そこから魔女が生まれたこと。

『恐らく、ソウルジェムを百メートル離して仮死状態にしてから脳手術を
行ったんじゃないかな。いくらソウルジェムが無事でも、命令を実行する
脳が操られていては意味がないからね』

抑揚も何もない言い回しに全員が吐き気を覚える。まどかに至っては顔色が
真っ青になっている。それをうららが抱きかかえる。

「なんてことを……」

怪我を治すため横臥したままほむらが呻く。
だが、それを待っていたかのように言うキュゥべえ。

『ずいぶん他人事だけど、今の状態がどうして起こっているか。
君はわかるだろう?』


ほむらは問われ、険しい表情でいた。だが、どういうことか思い当たっては
いないらしい。

『先ほど、彼は自らの意思でペルソナ能力を発動させた。
……意識的か無意識的かは別にして、思いが噂の様に現実に影響を与えた』

はっとする表情のまどか。その表情のまま不安げにほむらを見つめる。
そのほむらはほとんど無表情だ。まだキュゥべえの真意に気付いていない
らしい。
同じくさやかも唇を噛みしめている。だがここで彼女が言える言葉はない。
言えないのではなく、言う言葉が見つからないのだ。

『わかっていないふりをしているのかな』

『やめろ、キュゥべえ!』

サーベルの切っ先を突きつける。その行動にマミが慌てだす。だが一触即発
の雰囲気の中、彼女が動くということはそのまま戦闘に突入するという
ことだ。

「落ち着け。何が言いたいんだてめえは」

パオフゥに諭されそれ以上威圧させることができないさやか。だがそれでも
敵意は静まらない。サーベルを収めようとはしないのがその証拠だ。

『ほむらが望んだんじゃないかな。
……円環の理の要たる、鹿目まどかに会いたいと。
そのせいで円環の理の仕組みに不具合が生じたんじゃないかな』

かつて、ほむらはQBに語った。過去現在未来の魔女を生まれる前に
消し去りたい。そんな願いでまどかは魔法少女になったことを。
そして彼女は知っていた。円環の理そのものが彼女だということを。


『そんな状態でまどかに会いたいと思ってしまったら、どうなるか
わかりそうなものだけどね』

「やめてQB!」

ほむらの顔が真っ青になる。それを見ていられずまどかは叫んだ。

『君の身勝手な願い、祈りが、彼女の願いを踏みにじったんだ』

「やめて! ほむらちゃんを責めないで!」

『責めてなんかいないよ。むしろ僕としては、魔女のシステムの方が……』

最後まで言えず、さやかのサーベルに切り裂かれるキュゥべえ。
怒りに任せ何度も何度も刃を突き立てる。細切れになり血があたりを
真っ赤に染めても彼女は止めない。肩で息をするほど切り刻むそれは
憎悪の表れだった。
さやかが離れたため一人で治療をしていたマミが、それに怯える。

「みっ、美樹さん……、なんてことを……」

『まったくだ。ひどいじゃないか。この体だって只じゃないんだよ
大丈夫だマミ。僕は心配いらないよ。前の記憶だって残してるんだ』

そして再び現れるキュゥべえ。これを暴力で黙らせることなど不可能だった。
自らの死体を喰い、処理をする姿に全員が嫌悪感を覚えた。

『まぁ要は、暁美ほむらの祈りによって、鹿目まどかの願いは
不具合を起こした。結果、地上には魔女という通常の方法では
太刀打ちできない怪物が溢れ出てしまった、ということさ』

ほむらは真っ青になって倒れそうになる。それをまどかが必死に支える。
まどかが未だ握っているソウルジェムは徐々に濁り出していた。


魔女との戦いは決して難しくはなかった。少なくともペルソナ使いたちは
未知の敵との戦いに、慣れっこだったからだ。だが問題は魔法少女たち。
キュゥべえによりもたらされた情報に動揺し、統率に欠けた。
そして、最後の魔女を倒したとき、それは起った。

ぱりん

魔法少女の一人が前のめりに倒れる。それを抱きかかえる友人の悲鳴。
そして生み出される魔女。それが先ほどから何度も起っている。
歴戦の戦士である南条たちも、これだけの連戦に消耗していった。

「ったく……何が起こってやがるんだ」

「わからん。だが……魔法少女が倒れることと関係があるのかもな」

「目が覚めた子から事情聞こう?」

ゆきのの提案は、的外れではあったが、それと事情を知らない限り
常識的な判断だった。二度と彼女が目を覚まさないということを
知らないのだからやむを得ない。
再び戦闘に入るペルソナ使い。残った魔法少女も壊れる心と戦いながら
武器を取る。未知の怪物、魔女と戦うために。

もはや魔法少女たちの人数は半分に減っていた。


テレビ局の局内を制圧したピアスの彼は、南条の手のものを解放しあとを
任せると駐車場に戻った。だがそこには誰もいない。かろうじて戦いの
跡らしきものはあるが、それ以外は何もない。
燃え上がる車両や、抉られたアスファルトなどはあるものの、
英理子や上杉、そして魔法少女たちの姿がない。

唯一残っていたのは、駐車場の片隅にいた魔法少女。
何があったか尋ねる彼に、彼女は虚ろの表情で答える。

『みんな……けっかいみたいなのにひきずりこまれました。
たぶんまほうしょうじょなら、いりぐちをあけられるとおもいます』

それを頼まれると、魔法少女は操り人形のように頷き立ち上がる。
ふらふらと頼りなげに何もないところまで歩くと、ソウルジェムをかざす。
そこには黙視できない結界の入口があり、そこをこじ開けようとしていた。
ソウルジェムからの光によって、そこに揺らぎが生じる。

『これではいれます』

言うが早いか、彼はそこに躊躇なく飛び込んだ。相変わらずの果断さである。
それを見送った魔法少女はにやりと笑う。

『……一名様、ご案内……』

その後、ピアスの彼を追いかけてきた南条の手の者は、先の魔法少女を
確認することができなかった。


奥の部屋から現れたヒトラー。そのカリスマめいた表情には余裕がある。

『全くだ。気に入らなければ恩人も切り刻むのかね。戦友たる日本人の
末裔とは思えんなぁ』

「へっ、何言ってやがる。そんな流暢な日本語喋るヒトラーが本物かよ」

杏子が噴き出しそうになりながら言う。彼が所謂まがい物だと
看破しているからだが、それでもヒトラー自身は素知らぬ顔だ。

『だからなんだと? 今の問題は、君らがここにいて、その相手が私だと
いうことではないかな』

と語るヒトラーの手には、左右に三つずつのソウルジェム。その数が
何を意味するか。
それを見てキュゥべえはにやりと笑う。

『それの孵化を待つまでもない。この乗り物は浮上する。魔女化の
エネルギーをふんだんに使ってね』

傷が癒えたものの、心のダメージが大きいほむらは、かろうじて上体を
起こすだけだ。絶望から蒼白になった顔で、怒りの視線をキュゥべえと
ヒトラーに向けるのが精一杯だ。

そして、部屋が揺れる。徐々にその揺れが大きくなると、部屋の中から
でもわかるほどの浮遊感が全員を襲う。
地鳴りが響き、何かの砕ける音がする。根を千切り、道路の水道管などを
破壊し、地面から見滝原中学校とその周辺が浮上する。


『なぜ、ここが見滝原という地名が付いているか、知っているかな』

確かに妙な名前である。滝という以上、そのあたりに山がなければならない。
だが、ここには滝が見えるような切り立った山はない。仮にあったとしても
原……平地から見られるはずがない。

『天に浮かぶ巨大な船。そこから降りるヤコブの梯子を、光り輝く滝に
見立て、ここを見滝原と呼称したそうじゃないか』

それも、噂だ。事実はどうあれその話が口移しに伝わる伝説……噂として
機能していれば、この見滝原にUFOらしきものが埋まっているという噂も
あってもおかしくはない。
それが事実かどうかなど関係ないのだ。

緩やかに浮上するそれは、決して大きくない。だが街の一部を引きちぎるように
浮かび上がり、外界との接触を遮断する。まるで羅針盤の様な巨大な輪が船体を
囲うように移動する。それがまるで天体の運動を模しているかのようだった。

「ちっ、間に合わなかったってことか。こんなもの動かして何が目的だ!」

『目的? すでに終わっているのだがね。円環の理は不具合を起こした。
魔女化のエネルギーによりUFOは浮上し、この船に選ばれた人間は、
魔女の脅威から逃れている。あとは地球上の魔女たちが人間を喰らい満足する
まで、ここで時を過ごせばいい』

『活動期が終わったのち、僕が契約した魔法少女たちで魔女を倒す』

『これが試練。我らの目的だよ』


皆、堰として言葉が出せない。
それをにやにや笑いながら講釈するのがキュゥべえには楽しくて
たまらないらしい。もはや正体を隠そうとしない。あの嘲笑うような
表情と声で延々と講釈する。

『そして、ここにある七つのソウルジェムであのワルプルギスの夜を
生み出し君らを葬れば……ことは終わる。円環の理も、恩寵の者も、
特異点の者も、フィレモンの手の者も抹殺できるというわけだ』

ワルプルギスの夜の強さを知っているほむらには絶望しかなかった。
この人数がいても、魔女との戦いを知らないマミたちや、ペルソナ使いが
束になっても、やつを倒せる保証はない。また仮に倒せたとしても
地を覆うほどの魔女の群れと戦う力はほとんどない。

『これが運命、というやつだよ』

「諦めてんじゃねえよ。小娘が」

パオフゥが平手打ちの様に言葉を叩きつける。

「達哉に言ったことを、君にも言うべきかな」

克哉はその場にありながら、酷くにこやかな声で言う。

「あれは……結構効いたよ」

達哉は苦笑いだ。

「相変わらず、同じことしか言えねえのか、てめえはよ」

「暁美くん、運命なんてものは、後出しの予言のようなもんさ」

「なにかがあったあとでこう言えばいいんだって」

うららの声は、とても穏やかで優しい。それは人生の先輩からのエール。

「「「全部運命だったってな」」」


ほむら、まどか、マミ、そして杏子は顔を強かに張られたような衝撃を
受けて目を見張る。

『ならば、あの時の様に運命に打ち勝ってみせるがいい!』

ヒトラーは怒りの表情を見せると、ソウルジェムを頭上に浮かばせる。
そしてそれが一瞬にして消滅する。
ヒトラーが槍で差す先には、大地がえぐられた場所が映し出される。
そこはかつて中学校があった場所。いまのUFOの真下に当たるところだ。
その場所に、今にも孵化しつつあるソウルジェムが七つ浮かんでいる。

ヒトラーは、自らの槍を振りかざし、キュゥべえに近づく。
それはキュゥべえにとって、想定外だったようだ。

『何をするんだ!』

『フン、貴様に二度も三度も操られるものか。己の意思で人間に試練は
与えてやる。だがそこに貴様はいらん! 試練も進化も人間の手で
成されるべきなのだよ!』

神殺しのロンギヌスに貫かれ、キュゥべえは絶命した。本来なら
そのまま復活し、自分の死体を喰いに来るはずだ。だが能力を封じられた
状態では、できないようだった。
彼は、己の意思でニャルラトホテプの呪縛を打ち破った。結果としては
同じ行為ではあるのだろうが、彼の意思で『叛逆』したのだった。

『さて、どうする。望めばワルプルギスの夜の元に送り届けてやろう。
存分に戦うがいい。だがここにいれば新たなる進化を見届けることができる。
どうせあの怪物は百年周期で街を一つ破壊する程度だ。自然災害と思えば
看過できる範囲ではないかね』

それは真意の読めないヒトラーの誘惑。


筆者です、帳尻合わせでなんとか投稿しました
ご賞味あれ

もうね、病気でテンション下がってるとニャルになりきれないのね
邪悪になるにもエネルギーが必要なんですよきっと

というかたちで今夜はおしまいです
熱帯夜に体力を奪われないように気を付けて、おやすみなさい

乙でした。

孵化する前に濁りきったソウルジェムを破壊して、夜になる前に彼女達を幾人か介錯できればワンチャン?
と思わせるのも罠の内なのかな?

魔女にロンギヌス・コピーはどういう効果があるのかなど、超力死界も撃たずに沈んだ某艦を惜しんでのとっさの思いつきなので、
どうぞご自由にお使いください。

次回、まさかの見滝原受胎

乙の晩餐!

こんばんは、筆者です
今夜もまたお送りします

>>436
いえねー、能力封じられた魔女ってイメージしづらくて……
まぁでもアイディアいただきますね。ありがとうデス

>>437
真3とクロスならそれイケますけど
まどか「見滝原が消えて私が生まれた……」
とか?


「私は行くわ」

間髪入れず答えたのはマミだ。正義の味方を標榜する彼女は凛々しくも
美しく、まっすぐ立っていう。

「けど待てよ。さっきの戦いで石なんかほとんどねーぞ」

杏子は魔力の残りを心配している。だからといって戦わないつもりでは
なく、戦士としての発言だ。
先の戦いと回復で魔法少女たちは消耗している。それはペルソナ使いも
同様だ。消耗した精神力を回復する方法がないわけではないが、今すぐ
元通りなどとはいかない。

「それなら……、回復する方法がないわけではないわ」

ようやく外傷が言えたほむらが参加する。彼女もまた戦う意思を持ち
力を持つ。まどかが守りたかった世界を蹂躙されることを良しとしない。
そして何より、彼女には罪の意識がある。
罪そのものがある。この世界を滅茶苦茶にしたのは他ならぬ自分の
浅はかな祈りだったから。

「ほむらちゃん……」

それを心配しまどかはほむらの手を握る。彼女もまた罪に苛まれていた。
いくらほむらが望もうとも、まどかが同意さえしなければそう思わなければ
円環の理に支障が出るような具現化の仕方はしなかったはずだ。

まどかもまた、ほむらに会いたかったから。だからほむらを責めることなど
できなかった。


「怪物……魔女を倒すとグリーフ・シードを落とすことがあるわ」

かつて巴マミから教えてもらったことをそのマミ自身に説明する。そこに
一抹の感傷を持たないわけではないが、それを飲み干す。
グリーフ・シードを魔獣が落とす石のように使用すれば穢れが取れる。
ほむらは端的にそう説明した。

「なら、それを使えば回復しつつ戦えるわけね」

「それと……グリーフ・シードは……」

「わかるわ……もともとソウルジェムなんでしょう?」

マミは寂しそうに言う。さやかが言わなかった真実。そしてほむらと
まどかの顔から、それを察した。

「元に戻す方法はないのかよ!」

「ないわ」

切り捨てるようにほむらがいう。彼女が言わなければさやかなりまどか
なりが言わざるを得ないからだ。汚れ役を買って出た形だ。

「ふざけんな! あたしやマミをかばったやつだっていたんだぞ!
それが怪物になったってのに……言い方ってもんが!」

「やめて杏子ちゃん! 違うの。ほむらちゃんは……」

「ほむらは、嫌われるの覚悟でほんとのこといっただけなんだ。
私らの代わりに」

そこまで言われ、ようやく杏子も納得したのか口をつぐむ。
怒りが収まったわけではないが、さやかの言葉に収めざるを得ない。
代わりに、怒りをすべて魔女にぶつけると誓った。


『話はまとまったかな。お前たち超人なら、新たな世界に行くことも
可能かもしれないのだがな』

「魔法少女が進化の証、だとでも!?」

明かなマミの怒り。彼女が魔法少女になった経緯をしれば自ずとわかる
はずの怒りだ。彼女はそれと望んでなったわけではないのだから。
それを知ってか知らずか、見下すような視線を崩さず、ヒトラーは
嘲笑う。

『ソウルジェムが健在である限り、肉体に損傷があっても蘇生する。
その肉体自体も強力な魔力を備え戦えるのだ。超人以外になんという?』

「いいからとっとと運びなさい。」

『ワルプルギスの夜を倒したら、次はアンタらだからね』

「覚悟しとけよテメエ」

それに合わせペルソナ使いたちも立ち上がり同行しようとする。なにも
言わなくてもその姿勢やしぐさでほむらには理解できた。
だが懸念もある。結界の外にいる魔女を、果たして魔法少女以外の人間が
知覚できるかどうか、ということだ。

「なんだい、なんかあたしらがいくのが問題かい?」

「いえ、ひょっとしたらあなた達では戦えないかもしれないのです」

と誤解されそうな言い回しでほむらは説明する。彼女がこの中で
魔女との戦いの経験が最も多い。だからすぐに思い立った。
魔女は素質がなければ視認できない。

「だったらなんだってんだ。役に立たねえってか」

見えないなら見えないなりに戦い方がある、彼らはそういっているのだ。
直接戦闘にかかわれないのならばそれ以外の戦い方をする。

「君は一人で抱え込むことが多いようだね。無理をしなくていいんだよ」

それは大人たちからの助言。


結界からまさに命からがら脱出できたのは全体の半分ほどだ。ほとんどの
魔法少女は力をなくし動かなくなっている。かろうじて生き残った少女も
ソウルジェムが限界に近い。

「ご、ごめんなさい……ゆきのさん……私限界です」

力なく、ゆきのに背負われた少女が呟く。彼女のソウルジェムもまた
殆ど濁り切っていた。

「諦めてんじゃないよ。いいかい、なにか手はあるはずなんだ。
今起きてることを調べれば……」

「駄目なんです。魔法少女が……さっきの怪物になるんです。これが
濁り切るときに……」

「さっきそれをきれいにする方法があるっていってたじゃないか」

確かに、石があればそれを浄化することは可能だ。だが、それもほとんど
ない。仮にあったとしても、彼女が絶望している以上、穢れは加速する。

「先ほど拾った丸い宝石のようなもの、あれはなんだ?」

同じように南条が背負っている少女に尋ねる。それはそのままキュゥべえに
中継されている。先の結界内で大人たちが感知できない存在のキュゥべえを
知った南条が、混乱する少女に代わり質問をするためにとった措置だ。

「あれは、グリーフ・シードっていうそうです。あれなら濁りを
取ることができる、そうです」

だが、キュゥべえは知っている。グリーフ・シードがなんであるか。
それも濁り切ったときにどういうことが起こるか。そして、そのために
魔女の個体数が決して減らないことに。
質問されなければ答えない。それがキュゥべえの性質だということに。


最後の魔女を打ち倒し、駐車場に戻ってこれた彼らは疲労困憊だった。
辛うじて最後に登場したピアスの彼により、不利な戦局をひっくり返す
ことができた。

「ほらな、こいつは自分の出番ってのをわかってんだよ」

「ええ、さすがです。助かりましたわ」

あちこちに傷を作った二人に、息も絶え絶えの魔法少女たち。かろうじて
生きているという程度の私兵たちもいる。決して楽観はできないが、
なんとか危機的状況は脱出できていた。
無事な私兵が後方支援の仲間に連絡し、救護班を要請する。明らかに
事切れている友達を抱えた魔法少女たちは一様に暗い。

『やぁ、君たちは助かったみたいだね』

気軽に話しかけるキュゥべえに魔法少女が反応する。かろうじて心を保って
いる彼女が、血相を変えて話しかける。その様子に怒りも感じ取れた。

「ねえ! あれは何!? ソウルジェムが割れたらなんかでてきたよ!」

『うん、それを伝えようと思ってね』

いけしゃぁしゃぁというキュゥべえ。そして爆弾を投げ込む。それが
どういう効果を持っているかを知っている。

『以前君には伝えたよね。暁美ほむらの言っていた、円環の理のことだ。
彼女がいう鹿目まどかが現れて、円環の理が不具合を起こしたからなんだ』

「な、なにをいってんのさ!」

『君たち魔法少女のソウルジェムが濁り切ると、魔女になるんだよ』


ヒトラーは一人部屋に立ち尽くす。彼以外には誰もいない。それは
総統の理想を誰も理解しなかったこという意味だった。
予想していたのかいないのか。その表情は窺い知れない。

『理解はされんか。まぁやむを得まい。やつらが魔女と刺し違えれば
……』

ほむらと魔女たちをぶつけ、残った方に新生聖槍騎士団をぶつける。
ほむらたちが残ってもヒトラーには切り札がある。魔女たちには戦術や
戦略などない。聖槍騎士や兵士たちが戦えば多少の被害はあるだろうが
殲滅することは造作もない。
だが、やはりというべきか、彼の思想は誰にも理解されていない。
苛立つように持っていた槍を投げ捨てる。
彼はわからないだろうが、まさに『投げやり』という状態だ。

『お前の腕は残したかったものだがな。……それを望んだりせぬか』

「……はい。僕には、曲を聞かせたい人が、いますから」

『同じように、あ奴の呪縛から逃れたあの娘か』

ヒトラーは、さやかを使い上条を連れ去った。だが、彼はさやかゆえに
また戻るというのだ。それは仁美を蔑ろにした行為ではあったが、彼の
心はさやかで精一杯だった。
それだけ彼は音楽に対し良く言えば真摯、悪く言えば妄執していた。
何も言わず、足を引きずりながら歩く上条。ヒトラーが手放した槍を
支えに立ち上がる。それにヒトラーは何も感じていないのか溜息をつき
上条もまた、元いたところに送り出す。


上条を送り、疲れたよう立ち尽くすヒトラー。独裁者とはいえその手腕で
ドイツを立て直した彼は再び孤独になったわけだ。

『だが、やることは残っている。聖槍騎士を再編し……』

一つの作戦を必殺として全力を注ぐ人物ではない。二つないし三つの
作戦を淡々とこなすことが大事と知っている。

『ラストバタリオンを使い優秀な人材を集めればよい』

幸い、空の巨人と言われたヒンデンブルクも健在だ。それを使いUFOに
優秀な人間を運び入れる。そうすることで魔女から守り超人類として……。

『我々が協力すると思っているのか』

そのヒトラーの背後に立つキュゥべえ。そこには怒りの表情が浮かんで
いる。

『槍を作るためにお前を蘇らせただけだというのだ。それを手放して』

『貴様らの思惑には乗らんよ。あ奴らもまたそうだろうな』

苦々しい表情をサングラス越しに向ける。それを見るキュゥべえは涼しい
顔で受け流す。そして笑う。



『だが、お前も知らんだろうが、それすらこちらの思惑通りだ』


『やぁ、君にも、僕が見えるようだね』

「ええ、ふふふ、見えますわ」

どこか焦点の合わない目で、仁美はキュゥべえをみていた。初めて見る
異様な存在が話しかけることも、意に介していないようだ。そのまま
仔猫をあやすように頭を撫でるほどに。

『それなら君にも素質があるということなんだね。
それじゃ僕と契約して……』

抑揚は辛うじてある。感情らしいものを持っているかのように振る舞う
こともしている。それが時にほむらや杏子を苛立たせることになって
いても、だ。

「ええ、私も暁美さんのようになれるのですか?」

彼女の心はほとんど崩壊している。親友を失い、思い人を奪われ、
憧れのクラスメイトもいなくなった。それらすべてが自分の勝手な
行動……親友から思い人を奪おうとしたことに起因すると、思い込んで
しまったから。
そしてまたあの戦いによって、心労を来してしまったのだろう。

『世界を救う、魔法少女になってくれないか』

筆者です
ネミッサの方に力入れすぎたカナー

でももう少しです、頑張ります。お付き合いくださいまし

それでは、また……

乙でした。

人を熱狂させる演説が得意だったのに、誰ものせられなかったか……。

仁美嬢は、別のキュゥべえが話してる魔法少女の末路の解説聞くまで契約待って~!!

こんばんは、筆者です。ご無沙汰しておりました

>>448
えー、こればかりはたぶん自分の技量不足……というか
ほむらたちのように確固たる意思を持つ人にはきかないんじゃなかろうかと

「うふふ、わたくしもなれるのですね」

どこか虚ろな仁美に話しかけるキュゥべえ。その顔にはあるまじきほどの禍々しい
笑みが浮かぶ。かつても今もQBたちには感情も悪意もない。だがキュゥべえには
それらがある。邪悪とも呼べる悪意を持って人間に試練を課す。
それがキュゥべえ≒ニャルラトホテプの目的であり手段であった。

「そうだよ。その代わり、どんな願い事でもかなえてあげられるよ」

「まぁ、それはすてきですわ……うふふ」

焦点の合わない目が不気味さを漂わせる。あの生き生きとした瞳はもはや戻らないの
だろうか。さやかを失い、上条を失い、そして今己の心すら失っている。
ゆらゆらと頼りなげに体を揺らし、へらへら笑っている姿は、彼女を知るものにとっては
信じられないかもしれない。それだけ常軌を逸していた。

「ねがいごとですか? ふふふ……」

「上条に会いたいとか、さやかに会いたいとかでもいいんだよ」

「そうですわね……、あいたいですわ。まっすぐで、むこうみずで、あかるくて……」

ゆらゆらと揺れる体が止まる。そして、笑いながらキュゥべえを見る。
同じようにキュゥべえもまた笑っている。邪悪を形にしたような笑い。それに
仁美はまったく気づいていない。おそらく目に見えて写っていないのだろう。

「わたくしにやさしくて、けんかまでしてくださって、そして……。
かみじょうさんのためにしょうめつしてしまった。さやかさんに、あいたい」


七つのソウルジェムは、更地のようなそこに浮いていた。頭上にはUFOの底が見える。
周囲には禍々しい魔力が集まってきている。かつてほむらが戦ったワルプルギスの夜は
影のような魔法少女を繰り出し攻撃してきた。それと、今ここに存在するワルプルギスの
夜が似通ったものだとしたら……。

「ワルプルギスの夜は、複数の魔法少女の成れの果てが集まった存在かもしれない」

転移させられたほむらたちは、油断なく睨み付けている。特にほむらは一言言うと
迷うことなく弓を放った。ソウルジェムのまま破壊しようとしたのだ。
誰も止める間もないほどの早業であった。だがそれが阻害される。
魔力の塊が意思を持つように弓をはじいた。
だが塊もただではすまないらしく、砕けてほどける。

「焦んなよほむら。あたしたちだっているんだ。」

槍を構える杏子、剣を生み出すさやか。そしてマスケットを大量に生み出すマミ。

「孵化する前に破壊すればいいってことね」

ペルソナ使いたちもそれに従う。各々が放てる最大の魔法を使うつもりでいた。
彼らの悪魔――むしろ神々か――が顕現し思い思いの魔法を発動させる。
一度は彼らもニャルラトホテプの姦計を打ち破ったものたちだ。その彼らが放つ力は
決して魔法少女に劣るものではない。むしろ場合によっては上回るはずだ。

「君たちはあの魔力の塊を破壊するんだ。ソウルジェムは僕らが」

それは彼女たちの重荷を持たせないための配慮。
だがほむらは思う。自らの手を汚す覚悟は全員が持っていると。
もうすでに皆人の命を奪っているのだ。それが仮面党にせよ、聖槍騎士にせよ。
あの人を守ることを第一に考えるマミですら、たたかいを選んでいる。

「出し惜しみするなよ。一瞬で焼き尽くてやれ」

そして皆が唱和する。それが攻撃の合図になった。

「「「「ペルソナっ!!」」」」

その一斉攻撃の閃光は南条からも、上杉からも見ることができた。
結界の外で、ペルソナの魔法による治療を施していた。その視線の先には
浮遊する巨大なUFOの姿。それがどうしたところで目に入ってしまう。それが
苛立ちを伴っていた。

「戦えそうなやつはなんとかなったな」

「けど、これじゃぁ……」

だが、キュゥべえの爆弾により自ら命を絶ったため、魔法少女の人数は三割まで
減っていた。ほとんどが魔女になるという事実に恐慌をきたしたためだ。
ゆきのが背負っていた少女もまた、物言わぬ骸になっていた。それをゆっくりと
横たえると、苛立たしげに帽子を地面に叩きつける。ゆきのの背中で、彼女は
自らのソウルジェムを砕き自害した。それがゆきのの心をどれだけ傷つけたか。

「先生の様には、いかないのかな」

「黛、落ち込んでいる場合ではないぞ」

南条は怒りにも似た眼差しで一斉攻撃の光源を見つめていた。あれがおそらく
周防刑事たちの戦いによるものだと漠然と感じたからだろう。
まだ彼らが戦っていると知ったのだ。ならば、自分たちのすることはひとつしかない。

「街の住人の保護だ。さっきの怪物、魔女なるものから人々を守る」

「そうだね。おちおちヘコんでられないっての!」

「ゴタクはいい、行こうぜ」

頼りがいのある級友たちとともに、歩き出す。南条の脳裏には道を尋ねた家の
家族の面影があった。あの善良で親切な住民を守る。それが彼らの戦いだ。

まさに命からが結界から脱出した彼らもまた、キュゥべえがもたらす姦計に苦しめられた。
ほとんどが錯乱している。そして攻撃的なそれが外に向くか自らに向くかの違いだけで
ペルソナ使いたちには手を出すことができなかった。
かつてのマミのような状況だった。かろうじて正気を保った少女が暴れだす少女を
拘束ないしは殺害し、ようやく鎮圧することができた。

「大丈夫ですか?」

「は、はい」

(大丈夫そうじゃねえって)

友人を撃ち殺して平気なものがいるはずがない。ましてや互いに少女だ。錯乱し
襲い掛かったとしても、それは友人だったはずだ。現にその心労から
嘔吐するものもいた。かろうじてその少女は魔女にならずにすんだが、
まともに戦えるようなものはほとんどいない。
その中でピアスの彼が指示を出す。これから皆で地域住民を保護すること。
戦えない者は魔法少女に限らず撤退し後方支援に専念すること。
戦えるものはラストバタリオンにその怒りをぶつけることなどを声高に言う。

「おいおい、煽るじゃねーよ」

上杉はその指示に面食らったが、それもひとつのアイディアかもしれないと思い直す。
皆が冷静にならないのならば、そのままで戦闘に突入させる。そうすることで
余計なことを考えずにすむという効果を狙ったのだ。
また、これからの戦闘はラストバタリオンから人々を守る戦いだ。
正義の味方という題目を使うわけだ。

それが功を奏したのだろう。人を守るという気持ちでこの戦いに参加した少女も
多かった。そのため、心を折られそうになろうとも戦いに赴くことができた。

「ま、あの兵士くらいなら俺一人でもなんとかしてやっからよ」

「期待していますわ」

間や空気を狙ったその見事なタイミングの軽口が、皆の笑いを誘う。

その攻撃をそれは耐え抜いた。周囲の魔力の塊は除去されたが、ソウルジェムは
未だ健在だ。そしてそれが次々と破裂し砕け散る。それはかつての杏子が
見たはずのさやかが魔女に堕ちるときのそれと同じだった。
本来ならソウルジェムひとつにひとつの魔女というのが普通なのだろう。
だがそれに限っては違った。周囲の魔女が結びつき絡み合い、歯車を持つ逆さ吊り
の魔女となった。ほむらの知る、ワルプルギスの夜と呼ばれる魔女だ。

けたたましい高笑いを何度聞いただろう。そのたびに怒りと苦痛と憎悪を持った。
何度も立ちふさがり、何度もまどかを殺し、何度もマミを、杏子を殺してきた。
その感情がほむらの整った顔を歪める。それをそばで見ていたであろうまどかの心に
暗い影を落とす。

(ああ、わたしのせいでほむらちゃんはあんなかおになっていたんだ)

憎しみの顔。まどかが願った願い事。それにほむらは忠実だった。なんとしても
キュゥべえに騙される前に救おうと必死だった。
結果から言えばまどかは望んで契約し魔法少女になった。だがそれは真実を知り
ほむらの苦しみを知り、自ら決意して契約したゆえ。だからまどかは騙されずに
覚悟して契約をしたといえる。
けれども、その道のりに至るまでほむらは傷つき続けた。苦しみ続けた。

(わたしのせいで、あんなにきれいなかおが……)

「まどか、危ないから離れていなさい。いいわね」

先ほどの憤怒の顔もどこへやら、まどかを見るほむらの眼差しは柔らかく優しい。

(ほむらちゃんには、くるしいおもいをしてほしくない)

それは彼女の新たな、優しい、そして身勝手な祈り。

『さぁ、君はどんな願いでそのたましいを輝かせるんだい?』

キュゥべえの言葉が聞こえているのかいないのか、仁美はぶつぶつ呟いている。
そこに先の一斉攻撃の閃光。その光と音に気づいた仁美は顔を上げる。そして
何かに気づいたように立ち上がり歩き出す。

「あそこにみなさんいらっしゃるんですね、いかないと」

頼りなさそうな足取り。そこに軍隊がいるとか危険なことなどないといわんばかりに。
キュゥべえはそれを指摘するでもなくとことことついていく。まるでアニメの魔法少女の
マスコットのように従順で、かわいらしく。もっとも、その中身は元のQB以上に
禍々しい意思に満ちてはいるが。

その仁美をとある一団が保護する。その一団とラストバタリオンが交戦する真っ只中に
歩いてきた。それに一同は面食らい、慌てて取り押さえ自陣に引き込む。

「あら、じゃまをしないでください。わたしくはあそこにいかなくてはいけなんです」

含み笑いすらしながら、淡々と言う。それが彼ら仮面党の人間すら気後れするほどの
表情。焦点の合わない目と薄ら笑いに寒々しいものを感じていた。

「い、いやだめだ! あっちは軍隊がいて危ないんだ! ここにいなさい!」

「それはこまりましたわね。ではキュゥべえさん、けいやくします」

仮面党の非戦闘員は仁美を柔らかく拘束しながら、その言葉に戦慄する。

「わたしをかみじょうさんとさやかさんのもとへいけるようにしてください」

キュゥべえは笑った。

『君の願いはエントロピーを凌駕した』


街の住人はパニックになっていた。

空中に浮遊する巨大なモノ。そしてあふれ出す軍隊と、
魔女により行方不明になる人々。見滝原は未曾有の混乱に陥っていた。
公的機関も機能をほとんど停止している。
管内で軍隊が動いていればどうしてもそうなる。ならざるを得ない。

無造作に人々を殺害する軍隊に逃げ惑う人々。かろうじて建物に入っても
入り口をこじ開けられ侵入される。そして、候補生を見定めるとそれを強引に
捕まえ引きずり出す。それに抵抗する大人たちは次々と撃ち殺された。
さすがの女傑の詢子も足が竦み、知久に抱きしめられていた。
それでも気丈にも立とうとする。二児の母親は弱くはないが、今の状況では
どうしようもない。
髪をつかまれ引きずられる女子中学生と、それを無慈悲に行う兵士を、
ただただ怒りに満ちた目でにらみつけるだけだ。

そこに一人の少女がふらりと現れる。兵士が無言でその少女に手を伸ばした。
瞬間、無造作にハンマーで殴打され吹き飛ばされ、詢子のそばに落下する。
首があらぬ方向に曲がっていた。
そして、無言で始まる戦闘。銃弾をものともせず戦うコスプレ少女。溶岩のような
怒りに燃えてただ一人兵士をなぎ倒す。ご丁寧に地に伏した兵士の後頭部を
殴りつけ、地面にめり込ませる。
後続の大人たちが来るまで、地面にハンマーを打ち付けていた。

「もういい! 十分だ! 怪我魔法で治すからじっとしてろ」

「皆さん、無事ですか。これから皆さんを保護し移動させます」

ピアスの彼も案内し、マイクロバスやかき集めたトラックに案内させる。
傷だらけ汚れまみれの住人は不安げにしながらものろのろとついていく。
そんななか、上杉のことに気づいた住人がいた。タレントとしての顔の広さと
その優しげなキャラが皆の興味を引いた形だ。

「あ、あんたブラウン?」

「へへっ、そうだよ。
俺たちについてきてくれ、人が大勢いるところに避難させるからよ」


「上手くいった……わけじゃないようだな」

「何かわからないけど、何かが生まれたのはわかる」

ワルプルギスの夜を視認できるのは魔法少女だけのようだ。ペルソナ使いたちは
それを感じ取れず、漠然とした何かとしてのみ理解していたようだった。それは
ほむらたち魔法少女の体の緊張が取れていないことが裏付けている。

「ここは私たちに任せてください!」

マミが目を離さず吼える。
それで理解したのだろうペルソナ使いたちは行動を開始する。すなわち増援を呼ぶこと。
方々の魔法少女をかき集めて戦いに向かわせようというのだ。

「応援を呼ぶ。それまで持ちこたえてくれ」

達哉は叫ぶが、内心無理だと思っていた。今魔法少女は物凄い勢いで魔女になって
しまっている。その状態で残っている魔法少女が何人いるのか、それが皆戦えるか、
当てには出来ない。ほむらたちが戦えるのは偶然に近い。

「いくぜワルプルギスの夜さんよぉ!」

自らの槍のほかに、聖槍騎士から吹き飛ばした腕についていたロンギヌス・コピーを
ふるって吼える杏子。それを皮切りに、やはり槍を一本携えたさやかが飛ぶ。
マミとほむらは援護射撃に入る。
かつてのメンバーがそろった形だ。

「あんたどうするんだい? ここに残るってなら私が守ってあげる」

見届けたいんだろう? といううららの問いに、まどかははっきりうなづいた。

(がんばって、みんな!)

こころのなかでいのりをほえた


「その格好は!?」

「うふふ、やっとあえましたね。だいじょうぶでしたか」

「ああ、うん。心配かけてごめん。着いて行かないでとあんなに言われたのに……」

「いいんですよ。あなたのこころのなかにわたくしはいないようですから」

「そ、そんなことは!」

「でもわたくしはあなたがだいすきです。ですからあなたをさやかさんにあわせます」

「さ、さやかが!? どこにいるんだ!」

「いっしょにまいりましょう。さやかさんのもとへ。ともえせんぱいもいらっしゃいます」

「う、うん。先輩も無事なんだね?」

「はい、あけみさんもぶじですわ」

「その力で、連れて行ってくれる。そうなんだね」

「はい」



「そこでわたくしとさやかさんとどちらをえらぶかきめてくださいな。ふふふふふ……」

筆者です。今夜はここまでです
正直申し上げると、うん、自分でも出来が悪いと思うとレス減りますね。皆さん正直デス

そして仁美嬢のファンには悪いけど、ニャル様節でやりました

それでは、おやすみなさい

乙です。うわあ、確実に状況が悪いほうへ悪いほうへ転がっていってますな……
仁美も魔法少女になってしまったけど、我に返れるのかこれ……?

乙でした。

他の魔女は見えてたみたいだったけど、ワルプルギスはペルソナ使いには見えないのか……。
結界でもまとってるのかな?


筆者です。読者サンの中にコミケ参加してるひとはいらっしゃるのかな?
明日もがんばってくださいまし

>>460
どうでしょう……? 自分にもわかってなかったりします
このへんもニャル様の思惑通りなのでしょう


>>461
結界の中だと魔女や使い魔も素質がなくても視認してる(っぽい)描写が
おりこマギカであったのでそれに倣ってます

あるいは「結界内だとみんなに姿が見られてしまうので、それがいやで奥深くに隠れてる」
んじゃなかろうかと解釈しました


『彼女の力は限定的な瞬間移動のようだな。しかしこのシステム使いづらいこと夥しい』

キュゥべえは一人愚痴る。この願いのシステムはかつてのQBたちですら把握しきれて
いないものだ。キュゥべえたちもまた全容を掴めずにいた。願いによる固有魔法の顕現。
それがどのような結果をもたらすかも同様にわかっていない。
願いを束ね奇跡を起こす代わりに周囲に絶望をばらまく。希望と絶望が正負の表裏一体
だとしたら、それは確かに熱力学のように帳尻が合うようになっているのだろう。

『しかし絶望をまき散らすのは、まさに運命の縮図か』

狂いながらも魔法少女となり、自らの身勝手な希望即ち欲望を果たしに仁美は消えた。
上条の元に瞬間移動し、次にさやかの元にいくのだろう。それが自らの願いと信じ。
或いは、思い込み。

愛。それは正しく発揮されれば人を良い方向に導くはずだ。人が人を慈しみ癒していく
それは、時にそして常に人の心を揺さぶる行いとなるはずだ。
だが幼い心には、愛は貪るものになる。幼子が母親に縋るように。仁美が上条に
縋るように。さやかが上条の腕を治したように。
さやかが見返りを求めず契約したなど大嘘だ。彼女とて、どこかでそれを望んだはずだ。
だから彼女は消滅した。
彼女は間違えたのだろうか?

違う! 断じて違う! 祈りそのものが過ちでは、断じてない!

それは当たり前のことなのだ。彼女の過ちはそれを否定し、無視したこと。
飲み干す心の強靭さを持っていなかったこと。その幼さゆえに。
一度は誰もが通る道を、誰がそれを責めることをできようか。

だがそれは超常的なものに頼ったゆえに狙うものがいた。
それは心を弄ぶものであり、ニャルラトホテプであり、かつてのキュゥべえだった。

警察署。そこにいるはずの警察官すら不在だった。かろうじて南条の手のものがおり
ペルソナ使いたちの情報センターとして機能させていた。だが、情報が錯綜し混乱し、
機能不全を起こしていた。ラストバタリオンの妨害を想定していた無線連絡も、魔女の
結界に閉じ込められたペルソナ使いたちには届かなかった。

「圭様。ご無事で」

「現状はどうだ」

思わしくない、というしかない。自衛隊基地は人員の二割が行方不明。前後の
事情から察するに魔女に捕らわれたものと思われる。そして辛うじて自衛隊員の
銃器で撃破し辛うじて結界から逃れた隊員からの証言から把握できたことだ。

「魔女は知覚できるのか?」

遅れて合流した克哉たちの証言と食い違う。あのUFOの下で、今なお戦っている
魔女は視認できなかった。そのため、魔法少女を掻き集め応援を送り込もうと
しているのだが……。

「結界の中と外で事情が異なるのかもしれん。彼女らは戦っているのだろう」

「ああ、理屈はわからん。だができないとあればできる人員を派遣するしかない」

周囲を見渡し、パオフゥは暗に人員がほとんどいないことを示唆していた。
魔法少女が魔女になるのならば、何かの拍子に敵に回ることもある。そもそも、
なぜ魔法少女が魔女になるのかもわかっていない以上、誰でもいい
というわけではない。

「あ、あのっ。あてというか……。私の友達に連絡を取ってみます、か?」

一人の魔法少女が大人たちに意見する。それは光明指す一手なのか、
巧妙な罠なのか。

「仮面党に入った魔法少女の友達がいます」

「可能なのか!?」

「テレパシーで連絡を取ればいけます。でも」

「ああ、行ってくれるとは限らん。だが一人でも多くそれを伝えろ。
『複数の魔女の集合体がいる』と伝え、増援に向かわせるんだ」

納得した魔法少女は中空を見つめつつ何かつぶやいている。
それを見届けた大人たちは
次に自らができることを探し立ち上がった。それは住民の救助だ。

その少女の機転がどういったことに繋がるか、彼らは気づかない。
それだけ疲弊したという意味でもあるし、少女たちの伝達方法、
すなわち噂を軽視していたという意味であった。
だがそれを責めるのは酷ではないだろうか。

彼らももはや、拾える命に限りがあることを知っていたのだから。

さやかと杏子が前衛を務め、マミとほむらが援護射撃をする。それはかつて行っていた
連携そのものだった。だが悲しいかな、ほむらにその記憶はない。
いや、あるにはあるのだが世界の改変に立ち会った彼女の記憶は、さやかの消滅から
始まっていた。そのため彼女の記憶には同じ時間帯で違う記憶が存在する。
ループを繰り返した彼女にとってそれを受け入れることは造作もないだろう。
だが常人であればそのような記憶は混乱と破綻の元だ。

『七人分ってのは、伊達じゃないね』

「元々選ばれた人たちですもの、強いはずよ」

聖槍騎士に選ばれた時点ですでに強力な魔法少女だったのだろう、とマミは
言いたいのだ。それを裏付けるように、凄まじい攻撃を仕掛けるワルプルギスの夜。
それがほむらの知るそれとまったく同一かどうかは不明だ。だがそれに匹敵する猛悪さを
秘めていた。
マスケットを巨大にし、三脚すら組み合わせたそれをマミは正確に撃つ。魔獣相手では
ここまで巨大な攻撃力は必要なかった。だが相手の巨体から必要と判断し使用している。
魔獣同様、避けるような行動をとらないせいか、面白いように当たる。だが当たるだけで、
実際には効果があるかがまったくわからない。外装に傷がまったくつかないからだ。
身の丈を優に越える巨大な槍に乗り杏子が突進する。逆さまにぶら下がる人形部分に
かろうじて突き刺さったものの、こたえている様子はない。

「ダメージになってんのかよ!」

「諦めないで! 皆さんがきっと応援をつれてきてくれるわ!」

マミの叱咤が飛ぶ。年長者としての立場もあるだろうが、彼女の言葉で皆が
動くのも確かだ。彼女の英雄として、正義の味方としての意思が徐々に
強くなっていった。

応援の連絡は、生き残った魔法少女たちに次々に伝えられた。それに呼応し
立ち上がる魔法少女も確かにいた。
むしろ仮面党にいる魔法少女にとっては奮い立つ知らせだった。なぜならば、
そこに巴マミがいて、すでに戦っていると聞かされたから。
仮面党にとっても、巴マミは正義の味方だった。戦闘力・魔力・経験値の高さ、
美貌や品位ですら有名だった。そもそも、見滝原を守りきった英雄として
仮面党員の間ですら女神と崇めるものがいたくらいだ。

だからであろう。応援の連絡により、ワルプルギスの夜の力が強まるのと同時に、
マミの魔力もまた高まっていた。

『強い魔女がいて、それを倒すために応援を求めている』
『その強い魔女に、英雄巴マミと暁美ほむらが立ち向かっている』
『それは複数の魔女が集まって出来た強力な魔女だ』
『二人とともに戦う魔法少女も正義の味方だ。だから死なない』

そんな相反する噂が広まっていた。それが広まれば広まるほど、
ワルプルギスの夜の力も、あの魔法少女たちの力も強まっていく。
ワルプルギスの夜から溢れ出す使い魔。ほむらたちが撃ち漏らすそれがあちこちに
暴れ周り、被害を拡大させていく。

仮面党と南条の部下が合流する。南条の部下と違い、組織的な訓練を受けていない
仮面党は連携をとることができない。だがかろうじて目的は一致している。そのため
双方の勢力はともに住民の救助を優先し協力することできた。
ラストバタリオンをペルソナ使いや南条の軍隊が攻撃し、魔女や使い魔を仮面党が
撃破する。非戦闘員や魔女を視認できない党員たちは、住民の避難に集中する。

けれども、ほむらたちに救援に迎える魔法少女はいない。
自分の周囲を守ることで精一杯だったからだ。
だから、噂だけが徒に広まっていくだけだった。
ただ一人の援軍を除いて。

何度目かの特攻を防がれる。最前線のさやかと杏子は満身創痍。
魔力も心もとない。ほむらの見たワルプルギスの夜であれば、ビルをなぎ倒し
それを投げつけてきたりした。今回は周囲にそれらしきものはない。
そのため、直接的な攻撃を繰り出すことはしていたが、連携さえ取れていれば
回避は決して難しくない。
だがこちらにも決め手はない。ましてやまどかに因果の力は絡み付いていない。
地力で倒さなければならない。

「頑丈ね……これだけ直撃させても倒せなかったのは初めてよ」

マミが苦しげに言う。彼女の巨大化させたマスケットをもう十発以上耐え抜いている。
それだけではない。さやかや杏子、ほむらの攻撃も避ける気配はない。
にもかかわらずけたたましい笑い声を上げて漂っているだけだ。
そう、夜は気まぐれに攻撃を仕掛けてくるだけだ。使い魔もあふれ出てくるが
どこか動きに統一性がなく、夜を中心に放射線の動きで街に向かうだけ。
それをほむらが矢で迎撃する。さすがに普通の人間に見えない象のような
使い魔が街で歩こうものならそれだけでパニックになる。

(まどかが守ろうとした世界を、壊させはしない!)

それと同時にうららの隣で不安と恐怖に怯えつつも祈り続けるまどか。
うららには使い魔も魔女も視認できない。だがまどかは使い魔がいない方向に
指示を出し移動している。うららにできることは、そう多くない。
かろうじて南条や克哉からの連絡を待ち、応援の有無を知らせることくらいだろうか。

「皆、死ぬんじゃないよ。教えたいこと、いっぱいあるんだから」

それは、人生の先輩からの祈り。

見滝原各地で起こる戦闘。ラストバタリオンと、南条の一団と仮面党。
住民を避難させ保護する目的の後者たちは、専守防衛を目的としてた。
ラストバタリオンたちと交戦を避けつつ、人々を収容する。仮面党もそれに加わり、
未だ孤立する住民を探す。
一方のラストバタリオンたちはまだ魔法少女の候補生を探している。
そのせいか、見境なく攻撃をするという形ではない。ただそこにいる人間が資格を
有さない男性やその時期を過ぎた女性だとわかると容赦がない。

『日本オワタ』
『UFOの上にいる俺勝ち組』
『回線繋がってんのかよ!?』
『つか妹帰ってこえねえんだけど!』
『お前妹いないだろ』
『それなんてえろげ』
『【拡散希望】仮面党に守ってもらえ【軍隊マジやべえ】』
『【ブラウン】スタンド使いつええ!【エリー】』
『見滝原には近づかないようにしてください』
『日本中すでに軍隊があふれてる件について』
『自衛隊も動けねえて(基地側の住人より)』
『なんやて!』

そんな中、薄気味悪い笑いをして歩くのは仁美。
そして彼女につれられて歩く上条。
時折ラストバタリオンが二人に気づくようだが、近づかれる寸前に姿が消える。
瞬間移動をして接触を避けているのだ。

「これが、魔法少女の力。さやかも……」

「ええ、そのようです。さやかさんもまほうしょうじょなんですよ」

くすくすと、何がおかしいのか笑いながら答える。
上条の独り言じみたつぶやきすら反応するあたり、やはり穏やかではないらしい。

「それですぐにさやかのところに行かないのかい?」

「さやかさんのいばしょがわからないとだめなんです。うふふ、でももうすぐです」

そして、とうとうたどり着いた。二人はさやかの下に。
ワルプルギスの夜と魔法少女の戦場へ。

『恭介!? そ、それに仁美!?』

一同驚きを隠せない。その中にはまどかも含まれてる。仁美は覚えてすらいない
だろうが、まどかにとっても仁美は親友だった。彼女の行動によりさやかが
魔女になった世界があろうとも、それを責めるつもりにはなれなかった。
だが、魔法少女になっていることは予想の外だった。まどか知る世界の中では
一度も彼女は魔法少女になってはいない。それはほむらも同じだったのだろう。
驚きをもって彼女の魔法少女の姿を見ていた。

「ふふ、さやかさん、みなさん、こんにちは」

その虚ろな目に気づいたうららは戦慄した。せざるを得ない。

(正気を失ってる?)

その中で仁美に接点の少ない杏子だけが吼える。雄叫びを上げ鉄鎖鞭を
振り回し夜に叩きつける。その轟音と咆哮によってかろうじて皆我に返った。

「ああ、さやかさん。おあいしたかったですわ。けれどもあのおおきなのが
じゃましていますわね」

『仁美! なんで魔法少女に!?』

さやかの戦きも理解できる。魔獣と戦う世界においての魔法少女ではない。
今は魔法少女は魔女になってしまう世界なのだ。つまり、仁美は魔女になるか
その前に死ぬしかない。
上条を諦めるざるを得ないことを知っているのだろうか。

仁美は上条をそこに残すと、ふらふらと歩いていく。その足取りは浮ついていて
確かなものは何もない。それを引きとめようと駆け寄るさやか。だが彼女の手が
仁美をつかむ直前、その手は空を切る。

「おにごっこはあとでしましょう」

使い魔の突進も、杏子やマミの拘束も、すべてすり抜ける。
正確には触れられると同時に瞬間移動し離脱しているのだ。ほむらの時間停止は
接触しているものには効果がなく、拘束などに弱い。だが仁美のそれは自分と
自分の願うものを転移させるものであるらしい。いかに掴もうとも拘束しようとも
彼女の歩みをとめることは出来ない。

全員気づいた。彼女はワルプルギスの夜を転移させるつもりなのだ。どこにかは
不明だが。宇宙空間など戻ってこれなそうなところに送ってしまえば、倒す必要も
ないだろう。
だが、それは簡単にいくのだろうか。問題は魔力の消費である。距離や転送する
相手の質量のようなものに比例するとしたら。

『まって! そんなことしたら!』

魔力を使いきってしまう恐れもある。

「くそ! やめろ! やめろ!」

腕や足を狙い、ロンギヌスコピーを繰り出す。だが接触する直前に消え回避される。

もはや彼女らに出来ることは、仁美のソウルジェムが濁り切る前に、浄化することである。



筆者です。仁美にヘンな固有魔法つけてしまいました
あと、彼女の武器は決まってません
何が一般的(?)なんでしょうか

それでは今夜はここまでです。おやすみなさい

乙です。うわあ、仁美、手がつけられない……。
偽槍が役に立たない以上、非接触型の能力封じか空間使いでもないと止められないぞこれ。
杏子なら「やりようしだいで」ワンチャンあるかもだけど、今の状況じゃそれに思い至るかは望み薄だし、
さらに仁美は「爆弾」を抱えてる状態だし……うう、次回が怖い。


>>472
>仁美がもし魔法少女になった際の武器
ハルバードか、長柄の大鎌か、あるいはムチあたりをイメージされることもあるとか。

乙でした。

仁美が特攻して宇宙に夜を投棄したとしても、遠い未来に強力な宇宙魔女が二体襲来するだけになりそうな……。
正しい星辰の向こうとかの、ニャルラトホテップの同類の神々の寝てる辺りにでも放り込めればワンチャン?

そういえばまどポの謎の魔女結界に出てくるQB顔の魔女…針の魔女と忘却の魔女だったっけ?
アレも確か、インキュベーターが地球とは別の、ヨソの星でだまくらかした魔法少女の成れの果てだった気が……。

>>474
仁美ひとりじゃ、どう頑張らせてゲタはかせても地球圏がいいとこな気が……。
それこそニャル様の(異世界における)愛しの怨敵なロリコン旧神およびその相棒と愛機なスーパーロボットにお願いしないとキツいかと。

それにしても、今の状況、イゴールさん&マガレさん&ベス様&テオ君総動員とかなら何とかなるかもだけど、
その上司のフィレモンが働かない状況だからなあ…。

こんばんは、筆者です

向こうを無事に書き上げたら気が抜けました
遅れてしまいましたが投稿します
ぶっちゃけ、スランプデス
ちょっと短いですが、お付き合いください


>>473
止める方法ならあるじゃありませんか。アレデスヨアレ

いろいろアイディアをもらいましたが鞭から派生したイメージを
使わせてもらいましたヨ。多謝でございます

>>474
ほほほ、捨てるところならいいところがありますよ
すぐにわかっちゃいそうですけど

>>475
フィレモンはクリームヒルトでもでないかぎり
直接は手出ししないのではなかろうかと

そして、P3P4の彼らは出ませんぜ
あの子達はペルソナライブに出てくれればいいんです
……入り口のテオくんにベス様、カッコ可愛かった


その場に居合わせている上条は全く頭がついていっていない。ただただ仁美に引きずられ
さやかに会いたい一心でついてきた彼は、素質がない。魔女を視認できない。

「君! こっちへ!」

うららに腕をつかまれ、戦闘の範囲外に引きずり出される。
そこは(彼がそれとわかれば)戦場全体を俯瞰できる位置だ。ほむらが、マミが、杏子が
おのおの武器を振り回し、見えない何かを撃破している。
そして、鮮やかな蒼い衣装を身にまとい、戦場を駆け巡る少女。

「さやか……」

そのさやかは、目に見えて動きが悪くなっていた。仁美と上条という意外な闖入者に
動揺していたからだ。ちらちらと上条を見て集中が出来ていない。

”美樹さやか、貴女は上条恭介の保護に回りなさい”

ほむらに看破され、ますます動きが悪くなる。だがこのままでは杏子の背後が危険だ。
ほむらとスイッチする形でしぶしぶ下がり、うららたちにむけて走り抜けた。
マミは戦場を圧縮しうららたちを守るため前進する。体育館から生徒たちを助け出した
時と同じ理屈だ。その横を走り抜けるさやかを見て決意を新たにする。

自分は正義の味方だと。

”佐倉杏子、今は魔女に集中して”

”あ、ああ”

ほむらに策はない。その場にいる誰もが何も出来ない。仁美のふらふらした歩みを
誰もとめることが出来なかった。

「上条くん……」

「君は、さやかの友達かな。僕を知っているの?」

その言葉にまどかは俯く。覚えているはずがない。ほむらが覚えていること自体奇跡
だというのに、これ以上何を望むのか。

(私が、望んだからいけないんだ。ほむらちゃんが覚えてくれているのだけで
満足していなきゃいけなかったんだ)

ほむらが望んだからといって、望んではいけなかったと、自らを責めた。その結果が
自らの願いの消失であり、魔法少女たちの絶望であり、今の惨状の結果である。
だからまどかは懊悩してしまう。

「あんたはあの子の知り合いかい? 物凄い勢いでこっちにくるよ」

視線の先にはさやかの姿がある。使い魔を途中途中で切り伏せてまっすぐに
上条に向けて走っていく。それは彼女の本音の表れだった。だがうららにはわかった。
その走りに迷いがあることを。ためらいがあることを。その様子にうららは二人が、
ただの知り合いではないことを察した。

『きょ、……恭介』

肩で息をしながら三人に歩み寄る。その間に流れる微妙な空気をどう表現するべきか。

「さやか……本当にさやかなんだね」

「錯覚」がとけ、腕の怪我という枷も外れた上条にとって、さやかはもはや異性だった。
しかも、長年一緒にいたばかりか、一番つらい時期を支えてくれた恩人だった。

だが、まだ不幸はある。このさやかはこの上条が知るさやかではない。それを内包こそ
するが、彼女の本質はそれとは決定的に異なっていた。
そう、魔女がいた世界のさやかだった。

仁美はただただ歩いているだけだ。夜の砲撃も瞬間移動でかわす。そのため、
夜の注意が仁美に集中してた。だから杏子やほむらはそのあいだ自由に
動くことができた。
せいぜい使い魔が思い出したように動くのを撃破するだけだ。

「あいつを何とかしねえと! さやかの友達なんだろう」

「ええ。……彼女も魔女になってしまう」

仁美は魔力の消費を意識せず魔法を使い続けている。その結果魔女になって
しまう可能性を知らずに、だ。ほむらは歯噛みするような焦燥にかられていた。
彼女が魔女になるということは、魔女が増えるという意味だけではない。
その惨状を見て衝撃を受けるまどかのことを思っていた。同じように杏子も
さやかがどうなるかが問題だった。

だが、二人には接触を瞬間移動で回避する仁美を止める術が思いつかない。
最悪ほむらは殺害することも考えていた。だが先ほどの杏子の攻撃すら
回避するのを見るに、接触した瞬間自動で回避する仕組みなのだろう。
彼女には戦闘経験がない。そのための策と言えなくもない。

その中で、しばらく黙っていたマミが口を開く。その声に眼力に怒りがある。

「それなら、志筑さんが何かをする前に倒してしまえばいいのよ」

その怒りに満ちた言葉に全員が奮い立った。

一方で、魔女の姿を感知できない上条は、皆との温度差に気付かない。

「さやか……、僕は君に謝らなくては……」

『やめて! 今はそんなことやってる場合じゃない! 早くしないと……』

早くしないと仁美も魔女になってしまう。例え恋敵であろうとも、異世界の
存在であろうとも、さやかにとって仁美は親友だった。
何より、自分亡き後上条を愛し支えることができるのは仁美を置いて
他にいない。少なくともさやかはそう信じている。

「そうだよ上条くん。何とかしないと仁美ちゃんも魔女になっちゃう」

「魔女?」

「魔法少女が魔力を使い切るとね。魔女、怪物になるんだって」

「え? え?」

突然そんなことを言われ、上条に飲み込めるはずがない。狼狽えている
だけだ。魔法少女はまだいい。魔女とは何か。素質がなく視認ができない
上条にはわけがわからない。
足の悪い彼の松葉杖の代わりにヒトラーが渡した槍が握られていた。

仁美を追い越そうと、三人が突っ込む。
遠距離戦を得意とするほむらとマミですら、だ。だがマミは友人としての仁美を
救いたいという思いがある。一方のほむらは少し違う。
酷い話だが、まどかが悲しむからという理由だ。二人との温度差がそこにあった。
それでもなお、三人は戦いを挑む。仁美を守るため、街を守り戦うために。

銃を槍を巨大化させ叩きこむ。ほむらも弓を的確に撃ち込む。
それをどうも仁美はぼんやり見ているだけのようだ。先ほどまでの行動との
一貫性がない。

「うぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!」

杏子が雄たけび夜に斬りかかる。それに対し夜は反撃する。その攻撃に杏子は
気づいていない。
杏子の視界が突然開ける。槍は空を切り、何もないところの着地する。直後、
彼女がいたところに魔力の塊が降り注ぎ大地を抉り取る。

「あ、あいつか?」

仁美が杏子を強制的に転移させたようだった。触れていなければ不可能と
思われたが、彼女の手にはメイスが握られている。中世ヨーロッパの儀礼用の
飾りのついた杖をイメージしてもらえばよいかもしれない。その先端の錘部分が
鎖でつながっている。それが杏子の体に触れたようだった。

「うふふ、きをつけてくださいね」

近寄る使い魔をメイスで軽く叩くだけであちこちに転移させる。
だがそれは、悪戯に彼女の魔力を使わせるだけだ。
その笑顔に、ぞっとする何かを感じたのは、杏子だけではないだろう。

『仁美! もう止めて!』

さやかの悲鳴も彼女の心には届かない。距離だとかそういう問題ではない。
彼女の心は砕けてしまっていたから。

「魔法少女が魔女になる? そういう噂、聞いたことがあるよ」

その上条の言葉に全員が振り返る。噂?
彼が言う。彼はほむらやマミのため噂を自分なりに集めていた。そのときに
ほむらが発端の『前の世界の話』の噂を聞いていた。だが当時はそれがほとんど
受け入れられておらず、懐疑的な噂であった。だがそれがここにきて現実味を
帯びた。

「志筑さんもなってしまうんだね。なんとかしないと!」

信じてくれた。さやかは腰が抜けそうなほど安堵していた。さやかが言っても
無理なら上条が言えば仁美は思いとどまってくれる、そう思ったからだ。
彼の声であればきっと届く。さやかはそう理解した。

『なら恭介が説得して! あのままじゃ仁美が……』

「……でも、彼女には、僕の声は届かない」

先ほどまで何度も上条は引き返すことを提案してた。皆の邪魔になるというのが
理由だった。だがその声も言葉も、思いも届かない。

なぜなら仁美は、さやかと上条を失ったと思い込んでいたから。

「じゃぁどうするんだい!」

「こうします!」

上条の提案は、皆の発想の外にあった。
それは彼が噂を調べ続けたが故の、結論だったのかもしれない。

戦いは奇妙だった。致命傷足りえる攻撃を仁美が回避する。それが決め手となる
攻撃を強引に回避させてしまうため、杏子にしてもほむらにしても
好機をはずされてしまう。
一方の夜も攻撃が当たらないため、膠着している。
そういう意味では仁美に戦場を支配されているようだった。

プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ……

プルルルルルルルルルルル、プルルルルルルルルルルル……

その仁美を睨み、さやかは使い魔を屠る。上条が行うことを見守り安全に
行わせるために。それが彼のやさしさからくるものではあるのだが、さやかの
心中は複雑だ。

上条は自らの携帯電話を取る。あのラストバタリオン襲撃の際、なぜか彼らは
通信機器の代名詞である携帯電話を取り上げるような真似をしなかった。
もちろんジャミングがかけられていたことも要因として挙げられるが、基本は
取り上げる必要があるはずだ。
理由は明白。窮地を脱するためにジョーカーに縋る人間を期待してのこと。
そして双方が泥沼になる戦いを行う。それも試練のはずだった。だがジャミング
されている状態で携帯電話をいじることを思いつく人間は少なく、気づいても
マミたち魔法少女の助力により行わずにすんだ。

「ジョーカー様、ジョーカー様、おいでください」

それは上条が調べた、『正式な』ジョーカー様呪いのやり方だ。

「どこにいますか」

うろ覚えのセリフであっても、それは効果があったようだ。噂がいい加減なのか
ジョーカー自体がいい加減なのかは不明だが。

「汝が後ろに……。我はジョーカー……。
夢に煩う汝が引いた、最後の切り札。汝、理想を述べよ……」

筆者です
短くてすみません、そして切のよいところなので
ここまでにします

自分のところの読者さんって、あれこれ書いてくれて
嬉しいですね。刺激にもなりますし、ヘタなモノをかけないと
身が引き締まる思いです

それでは、

内なるヤマアラシの針に心を痛めつつ赤き山々の影に音無き音の向こう側でむしろ汚らしい男の言葉によって開く扉を超えさらに進んで行く……行く……い、いやむしろ進まれる……物心のついたカタツムリの殻の裏側に住み着いた小人によってしか作られることのない重さ5億トンの墓石に刻まれたその名前……

その名前に気をつけて、おやすみなさい

き、黄色い青……緑では無い……

乙です

乙でした。

本物のジョーカー様は、最後の切り札になるのか?
続きを楽しみにお待ちしています。

筆者です
メンタルがやばいです

>>485
初登場のシュゴスのインパクトはすごかったです、よね

>>486
最後の切り札なのか、奈落への片道切符なのか
はてさて

彼は必死に調べていた。本当のジョーカー様の噂を。なぜならば、それにより
魔法少女が人間に戻れることを知ったから。噂では死者すら蘇るという。
ならばと上条は飛躍した。

(さやかも生き返るかもしれない。普通の『女の子』として)

そして彼女を普通の女の子として見たかった。それは美少女である彼女を
異性として意識する下心がないとは言わない。だがそれと同じかそれ以上に
彼はさやかに会いたかった。謝りたかった。
ずっと支え、助け、そして腕を治してくれた彼女に。

だが調べるうちに『影人間』なるものがいることも知った。
ジョーカー様を呼び出したはいいが、心からの願い事を言えないがため魂を
奪われ存在が薄くなってしまった人間のことだ。
影人間になると、周囲の人間から認識されなくなる。
当の本人も放心状態になりほとんど自我がなくなる。自ら声を発することなく、
誰からも認識されなくなり、やがて「いなくなる」。
だからジョーカー様への願いは心からの願いでなくてはならない。

「僕の願いは――」

何度目かの突撃をかわされて、杏子は地面に激突する。
体勢を立て直す体力もなくなってしまっていた。
ほむらやマミも武器を作り出す魔力がほとんどない。それでもなお、
夜は高笑いを続けている。心に絶望がよぎる。

「さやか、志筑さんと冷静に話し合いをする機会が欲しい。
三人でまた話し合える場を望む!」

それを待っていたかのように仁美は動く。
メイスともフレイルとも鞭とも取れる武器をかざしワルプルギスの夜に接近する。
相変わらず夜の攻撃を瞬間移動で回避しながら。狂いながらも計算していたのか、
魔法少女たちの身動きが取れなくなったところを動き出す。

メイスの先端を夜に巻きつけ、薄ら笑いを浮かべると、彼女は夜ともども消えた。

夜が消え去り、そこには耳が痛いほどの静寂が訪れる。
間に合わなかった。その悔恨だけが薄くその場に延ばされる。
さやかはひざから崩れ落ち、杏子も立ち上がれない。マミもマスケットを
抱えたまま身じろぎひとつしない。

かろうじて心を保っていたのはほむらだけだ。だから淡々と、まどかのために
矢を放つ。使い魔を殲滅するために。

「まだ終わってないっ! マミさん!」

その激励に我に返るマミ。崩れかけた心を必死に立て直しつつ使い魔目掛けて
銃撃する。杏子、さやかもかろうじて立ち直り、槍で、剣で攻撃する。
仁美を救えなかった悲しみをぶつけるように。

発生源たる魔女がいないせいで、その戦いはさして時間もかからずに収束した。
だが、魔力はほとんど枯渇している。激戦に次ぐ激戦の上、結果が伴わないと
あれば、その心労は計り知れない。

膝を突きうな垂れる少女たちにまどかは走りよる。だが、彼女たちにどんな言葉を
かけていいかわからない。それはマミたちも同じだった。
失敗したこと、守れなかったことを笑えばいいのか、悲しめばいいのか。
それこそ彼女らが魔女になってしまうほどの絶望が広がっていたのだ。

その彼女らの頭上で大きな音がする。建物が瓦礫になる音だ。そして回転する何かに
物が挟まって動作不良を起こしているような音がする。

『なるほどな、ここに連れてくれば被害も及ばぬということか』

「はい、そういうことです。このままこのUFOは火星まで行くのですよね」

ヒトラーの前に仁美は静かに立つ。その目にははっきりとした意思の光が宿って
いた。冷静さを取り戻した彼女は、自らの武器を握り締め、悲しい独裁者と対峙
する。

「どうかお願いします。彼女たちを暴れまわる悲しい魂にしないでください」

『ジョーカー様の呪いで冷静さと聡明さを取り戻したか。
だがこちらにも事情がある』

ヒトラーとて簡単に首を縦にふれるはずがない。たとえキュゥべえが
協力しなくとも彼らにはキュゥべえを捕獲し脳に手を加えることで、
強制的に契約をさせることが可能だ。
現に、素質を持たないラストバタリオン一般兵が魔法少女の素質を感知
できるのも、首だけになったキュゥべえが探知機になっていたからだ。
その状態でも、テレパシーを発信することで契約をすることができるらしい。

「もし、不可能でしたら……」

『何か考えがあるのか? お前のような小娘に』

仁美のソウルジェムはほとんど濁りきっている。もう、長くないことを知っていた。
だから、彼女は携帯電話を取り出して脅迫する。

「私もジョーカー様呪いを行います。
このUFOを地球でないどこかに運ぶことをお願いするつもりです」

その中でほむらだけは、まどかを慮る。

「まどか、怪我はない? 大丈夫かしら」

「ほむらちゃんの怪我のほうが大変だよ!」

満身創痍のほむらが無傷のまどかを心配している。自慢の美しい黒髪が
無残にも焼き切られていた。痛覚遮断をしていた指もあらぬ方向に曲がって
いる。足を引きずっているのも、同じ理由であろうか。

『安心してまどか。ほむらの怪我は治すから』

「いえ、結構よ。さやかも魔力が残りないのでしょう?」

『私はもうどうなってもいいよ。まどかとあんたが悲しい顔するのは見たくない』

有無を言わさずさやかが治療する。ほむらも最低限の治療だけと断り受け入れた。
まどかの目もあったからだが、それ以上に彼女の損傷が酷かったからだ。

「けれど、上条恭介はどうするの」

ほむらの問いに、さやかは淡々と応じる。

『わかってるでしょ。私はこの恭介が知ってるさやかじゃない。
あんたがいた世界のさやかなんだ。別人なんだよ』

ひび割れたサングラス越しにはがらんどうの眼窩。その表情はうかがい知れないが
声に混じるのそれはほむらにだって読み取れる感情だ。
だから消極的にその意見を受け入れた形だ。

『だから、私がいなくなっても、構わない。そう思ってたんだ』

仁美が人間として生きて、上条の隣にさえいれば。

ヒトラーは心底つまらなそうに、正方形の石をつまみ上げ仁美に投げつける。

『使うがいい。所詮扇動できるのは熱狂に酔う連中だけか』

落としかけて不器用に受け取る。それは魔獣を倒したときに手に入る石だ。
ほむらたちが倒した魔獣たちが落とし、拾い損なったものだった。雲霞のごとく
せまる魔獣たちの殲滅に気を取られたためだろうか。

「貴方は、あの国の経済を立て直した方だと伺っています。
ただ戦争に邁進した独裁者だとは思えません」

その仁美の評価を鼻で笑う。教科書でしか歴史を知らぬものが何を言うか。
そういった表情がありありと見て取れた。
だが一方で、彼の手腕を評価する意見がないわけではない。失業者を半減させた
功績は無碍には出来ないはずだ。

だが一方で彼はヒトラーその人ではない。ヒトラーというものを空想し作られた
似てもいない別人である。そういう意味ではさやかと同じといえた。
だからこそ、ニャルラトホテプの呪縛から逃れようとした。自分は噂によって生まれたが
ヒトラーその人ではないと自らに証明するために。
それこそが狙いだと気づきもせずに。

『所詮、人類の進化など夢か』

その呟きを仁美が理解したかどうか。

『ふん。あの巨大な怪物は連れて行く。せいぜい貴様はジョーカーの呪いに従うがいい』

それは上条の願い。

地上では、それがゆっくり浮上していることに気づかず、各々の
治療を行っていた。だが魔力もほとんど限界で、動くこともままならない。
横臥する杏子。地べたに座り込むさやか。マミこそ立ってはいるがその足元は
おぼつかない。
そこに、うららと上条が近づく。最初はうららは思うところがあり、彼を近づかせる
ことに躊躇いがあった。だが彼の動きに押し返される形でずるずると近づかせて
しまった。

「……さやか……」

『はは、きょ……、お前間に合わなかったな』

「もういいよ、さやか。君が『僕の知ってるさやか』だってわかってるから」

その視線に熱や湿り気があることにさやかは気づいた。そしてそれが『彼女に』
向けられたものでないことにも。
そして告げられる、残酷な告白。

「ごめん、僕は君をこれまで女の子として見てなかった。
ずっと隣にいる兄弟だと思ってた、思い込んでいたんだ」

『いや……』

「けれど、君をなくして気づいた。君は……異性なんだって。
僕のことをずっと支えてくれていた、女の子なんだって」

『やめて……、やめて……』

ほむらたちにはそれの意味がわからない。さやかがなぜ苦しんでいるのか。
まどかですら、だ。
上条が語る言葉を欲していたのはさやかだった。だが今この言葉は、
魔獣と戦い消滅したさやかに向けられたものであって、ここにいるまがい物の
さやかへ向けられたものではなかった。

だから、ソウルジェムが濁っていった。

突如腹部を押さえてうめきだすさやか。回復に力を使いすぎたところにこの
言葉は彼女を絶望させるに十分だった。上条の言葉の途中で崩れ落ちる。

「だから、一度、志筑さんと少しでも……どうしたんださやか!」

『やめてぇぇぇぇぇぇぇ!』

「上条恭介離れなさい!」

上条の胸を押しのける。ほむらはかろうじて残っていた石を探そうと夢中だった。
正直に言えば、さやかを嫌っていた。繰り返すループの中で何度も忠告を無視し
魔法少女になり、魔女になり、まどかに悲しみの傷跡を残してきた彼女が。
けれど好きだった。魔法少女がらみでなければ。引っ込み思案の自分を
まどかと一緒に手を引いてくれる彼女が。CDショップにも、ファーストフード店にも
誘ってくれた。
だから、これからさやかがする願いを、彼女は受け入れるつもりだった。
それを漠然と察していたから。

「美樹さん!」「さやか!」

二人とも直感していた。このままでは彼女は魔女になると。だがソウルジェムを
浄化する石はほとんどない。かろうじて仁美に残していたそれを使い浄化を
試みるが、さやかがそれを止める。

『だ、だめ! それは三人で使って! 私は、もう、いいから』

――まがい物だから――

そして、さやかは変身を解き、ほむらにそれを手渡す。
どす黒く濁ってきた、ソウルジェムを。

ほむらは理解した。唇をかみ締めていた。

『やめてよ、そんな顔しないで……クールなあんただから頼むんだよ』

「さっ、さやかちゃん……?」

まどかもその行動の意味を察したらしい。顔色が真っ青になる。そして
それを止めるすべがないことに気づいた。

(契約しようにもキュゥべえがいない……携帯電話も……ない)

ほむらやマミは持っているかもしれない。だがたとえ浄化しても
彼女の心が救われるとは思えない。どういう願いなら救われるのか
まどかには見当もつかない。

『ね? 私のこと、嫌いでしょ。だから、思い切ってやっちゃって』

目に見えてほむらの表情が歪む。崩れ落ちそうな何かをこらえて
必死になっていた。
さやかの願いを叶えてあげたい。だがそれはまどかを上条をマミを
杏子を傷つけることになるだろう。

『私もまどかを傷つけたくないんだよ……お願い』

涙を流せないさやかは言う。

『魔女になる前に、私のソウルジェムを壊して……』

ほむらは血がにじむほど唇を噛み締める。そして、さやかの魂を握り
振り上げる。足元にはかろうじて残っていたコンクリート片。

「……それしか、ないの?」

「あっ、諦めてんじゃねーよ! どこかからグリーフ・シード? 
を手に入れればいいんだろ!」

ほむらとてさやかを殺したいわけではない。だが明らかに間に合わない。

「待って今連絡してる。届けてもらうから!」

うららも先ほどから連絡をしているらしいが、現場が混乱しているためか
伝わっていない。避難させた住民が多く、その対処に追われているからだ。
呼び出しに出ない回線も多く、焦燥に駆られながらもうららは番号を変えて
かけ続けている。

『いいんだ、もう、間に合わない……。ごめん、ほむら』

「いいえ、いいのよ。こちらこそ、貴女を嫌って、ごめんなさい」

弱弱しく首を振り笑うさやか。今わの際になってようやく二人は和解した
のかもしれない。
その微笑に意を決して再びこぶしを振り上げる。だがその手はどうしても
振り下ろせない。

「待ってほむらちゃん! 何とかならないの? 私が契約しても?」

『まどか! ほむらが誰を救いたかったか考えてあげて!』

さやかがほむらとまどかを慮るほど、ほむらの手は硬直する。

「やめてくれ!」

それまで混乱していた上条が吼える。手には杖代わりだった槍を握り、
おぼつかない足で立っていた。その槍先は足もとの悪さと緊張で
ぶるぶる震えている。

『お前! 何を!』

「さやかを殺さないでくれ! さっきジョーカー様にお願いしたんだ!」

上条は知っていた。ジョーカーの願いはわずかにタイムラグがある。
魔法少女のそれと違い、少しだけ遅れて叶う。素敵な彼氏が欲しいと
願った女性の元にその彼が現れたのは翌日のことだった。

「三人で冷静に話す場を願った。だから志筑さんが来るまでは
間に合うはずなんだ!」

だがほむらがそれを信じられるわけがない。彼女の経験上ここまで
濁ってしまっては、孵化するまで時間がない。
うららも魔女のことに関してはわからずに言葉が出せない。それは
誰もがそうだった。

「いいえ……。無理よ。それに彼女もどこに行ったのかすらわからないのに」

『ほむら! やって!』

拳を振り上げ、一気に振り下ろす。上条に人を刺す度胸がないと
思っていたし、槍に刺されたとしてもしばらくすれば魔法少女の封印は
解けると知っていたから。

「さやかを奪わないでくれ!」

その瞬間、彼の左足が折れる。リハビリ中の足が崩れて前のめりになる。
それを立て直そうとするがそのまま一歩前に出る。
振り下ろしていたほむらはそれに気づいても対処が遅れた。そもそも
ロンギヌスコピーなら刺されてもすぐに治る。それに、上条の怒りを
わずかでも引き受けるべきだと思ったから。

だからマミのリボンも、杏子の手も、うららの静止も間に合わなかった。

オリジナルロンギヌスは、ほむらの心の臓を正確に刺した。

さやかのソウルジェムが砕けるのと、同時に。

筆者です。今夜はこんな感じです。おやすみなさい

乙です。
……カタストロフへ転がり落ちる下り坂の傾斜がキツくなったなあ……なんてことに……。

乙でした。

オリジナルの総統とも違う、新しい自分自身として在りたかったのか……。

夜はもう、鉱物と魔法の中間の存在と化して、未来永劫宇宙を彷徨って欲しい。

いくら不死身の魔法少女といえど、心臓にロンギヌスの槍を受けてしまったら……。

こんばんは、筆者です
諸事情で短いですが投下します

>>499
うん、書いててつらいのデス(嘲)

>>500
これは自分なりの解釈でして、歴史にあるヒトラーが
そんなこと考えて戦争やったわけじゃないって思ったので
罪のヒトラーの行動原理として書きました

ほむらが気がついたときには、まどかの腕の中だった。
自らの胸から滴る大量の血液がまどかの衣服を朱に染める。
肺にも傷がついているせいか、まともに喋ることもできない。

「どうして!? どうして血が止まらないの!?」

「普通ならとっくに封印も解けてるってのに!」

「ほむらちゃん! ほむらちゃん!」

大粒の涙が顔に当たり、ようやく自分が仰向けになっていることに気づいた。
ほむらの変身は解除されていて、平服に真っ赤な血が染み込んでいる。
まどかがほむらを抱きしめ、手を握り締めている。

「ま、まど……」

「喋らないで! だめ、どうして魔法で怪我が治らないの!?」

「クソッ、ソウルジェムが濁ってきやがった。痛みのせいか?」

そのそばでは血まみれの槍を持ち、放心状態の上条がいた。その顔は赤く
腫れ上がっている。ほむらが見るに、杏子あたりに殴打されたものと思われた。
マミのリボンや魔法でも、彼女の出血は止まらない。血圧が下がったため
ほむらのまぶたが閉じかける。だが彼女の体は魔法少女だ。ありったけの
血液が抜かれようとも、心臓が壊されようとも死ぬことはない。
ただ魔法少女の特性としての痛覚遮断ができない。そのため死にもせず胸の
痛みに苦しまなくてはならない。

それにしても奇妙なのは、ほむらの『封印』が解かれないことだ。うららも
体験したが、ロンギヌスコピーで傷を受けるとペルソナ能力が封じられる。
それと同じように魔法少女の変身も封じられ、能力が使えなくなる。
だが、時間とともに解除されるはずのものが未だ解除されない。
ほむらの呼吸も細く弱弱しくなる。

「ほむらちゃん! ほむらちゃん! お願い! しっかりして!」

血まみれの手を握り、まどかは泣きじゃくっている。涙をぬぐう際にそれが
ついたのであろう。頬にもこすったような血のあとがついていた。

「ま……まどか……、けがは、ない?」

気がついて最初に話しことがそれかと、杏子は唖然とした。だが同時にそれだけ
ほむらがまどかを文字通り愛していることに気づいた。それは自分がさやかに
感じていた親愛の情に近く、そして決定的に違うものだということにも。

「喋らないで! マミさんが今治してくれてるからね」

「けどダメなの! ほむらさんの血が止まらないの! なんで!?」

『杏子なら知ってるんじゃないか』

いつの間にかキュゥべえがそこにいた。かつてのQBのような無表情ではない。
邪な笑みのまま、文字通り『浮遊』していた。ご苦労なことにその状態で
全員を見下していたのだ。

「なんのことだ!?」

杏子にこのキュゥべえの片棒を担いだ記憶はない。だから共犯者に
されかねないこの発言に怒りを感じた。

『本物のロンギヌスの槍に刺されたキリストの体から
止めどなく血と水が溢れ出し続ける……』

その言葉にハッとする。キリストの聖槍について聞かされたことのある
一言だ。それは聖書を多少知ってさえいればなんとなく知っている
ことでもあるはずだ。

『君たちが連綿と伝えている神話であり、伝承であり、噂だ』

噂ではヒトラーが聖槍を手に入れたことになっている。また各地に
ロンギヌスのレプリカがある。
そして本物はどこにある?

「僕が、ヒトラーから……譲られた。杖の代わりに……」

『神殺しとしての封じる力、そして溢れ出す血と水……まさに神話のとおりだ』

そしてこの封印が永遠に続くかどうかはわからない。だがキリストは三日後に
槍の傷から甦った。それにあわせれば少なくとも三日間、ほむらは苦しみ続ける
ことになる。
彼女の思考は停止せず、気絶もせず苦しみ続けることになる。
このままではソウルジェムは濁り続け、魔女になることだろう。

『円環の理からの寵愛を一身に受けた、恩寵の者が魔女になったら……』

まどかの顔色が真っ青になっている。いや、青を通り越して蒼白だ。

『どれだけエネルギーが得られることだろうな。楽しみだ』

「杏子……、マミ……、おね…がい……私の……ソウルジェムを……」

「ふざけないで! まだそうなると決まったわけではないわ!」

マミが吼える。その目に涙をためて。歯を食いしばり、嗚咽を噛み殺しながら。
杏子も同意見だ。さやかは救うことは出来なかった。仮に石やグリーフ・シードで
穢れを払っても、あのままでは救えなかった。だからほむらの手を汚させることに
なった。
だが彼女は違う。穢れさえ、傷さえ治せば生き残れる。あとはまどかが支えれば
いいはずだ。

だがそこに、不思議な三人の女性が現れる。丁度、皆を取り囲むようにたち、
ゆるゆると近づいてくる。
それにはじめて気づいたのはほむらだ。キュゥべえから目線をそらし、そちらを
見やる。
一人が手からリボンを生み出すと、杏子の手の中にあったほむらのソウルジェムを
ひったくる。そんなすばやいことが出来るのは……。

『そうよ。私のほむらさんを殺させはしないわ』

ありえない表情で見下す『マミ』と

『お前ら、本気でほむらを殺したいわけじゃないだろ?』

邪悪な笑いで美貌をゆがめる『杏子』と

『自分が犯した【罪】の償いは、生きて背負うべきだわ』

狂気を孕んだ微笑を浮かべる『ほむら』。

その姿を見て歯噛みするうららだけが、彼らの正体を知っていた。
かつて、自分たちの内面を、後ろ暗い心の闇が実体化したもの。
影、シャドウ。そういったものと彼女らは戦った。

「気をつけて、こいつらはあんたらの心の影から生まれたやつらだ。
ヘタに否定して拒絶しちゃダメだ。受け止めな!」

うららの忠告が果たして届いたであろうか。自分の禍々しい似姿を
見せられて、マミも杏子も心穏やかではない。
シャドウたちはそれを察したのか、口々に自分に向かって語りかける。

『お友達が欲しかったんでしょう? 庇って甲斐甲斐しく世話したのは
お友達が欲しかったからで、相手は誰だってよかったのよね
美樹さんも杏子さんも失って、一人ぼっちだったものね』

『あんたもそうだよな。一人がいいなんて嘯いて、
結局はさやかが欲しかった。だからやばいと思ってもジョーカー様を
したんだ。そうだろう?』

『貴女はわかっていたはずよ。噂の力を使えば、まどかに会えるかも
しれないと。そうして出会えたまどかがここにいれば、円環の理に
不具合が出ることもね』

自分の影の言葉に全員が顔色を失う。只でさえ魔力を使いソウルジェムは
濁りかけている。そこに自らの心の闇を暴く言葉だ。それが簡単な
どこにでもあるありふれた言葉であっても、自身の口からこぼれるそれは
凄まじい衝撃を与えていた。

うららは激昂しペルソナを呼び出す。広範囲の疾風魔法だ。
皆が一様にシャドウの言葉に苦しんでいることに激怒したのだ。

「あんたら! 自分をしっかり保ちな! そして乗り越えるんだよ!」

極大の疾風魔法がシャドウたちを包み込む。だがそれをリボンが防ぐ。

マミが全くの無意識でリボンを取り出し、それを阻害したのだ。
自身も気づいていないのだろう。驚いた面持ちでいた。だがすぐに
理由に気づき、戦慄した。

『見滝原の英雄は守るだろうな。
見滝原の生徒に危害を及ぼそうとするものがいれば、な』

キュゥべえは小馬鹿にしたように言う。嘲笑と言うに相応しい声色で。
それはとりもなおさず、うららにすらシャドウは倒せないということだ。

『自分のための戦いなのに、
志筑さんは貴女たちをを聖者のように言っていたわ』

『そればかりか、巴マミについてきただけの自分の無事を泣きじゃくって
心配してくれた』

『親友を見殺しに……、いや二度目は自ら殺めてしまったのにね
ここにいなくて、親友殺しを見られなくほっとしてるでしょ』

シャドウたちの言葉に、彼女らのソウルジェムはにごり続けていく。

短いけど今夜はここまでです
うん、ちゃんとプロット考えてたけどここまで酷いとあれだね、書くのが苦痛ですね
そして、間違えて本編はsageちゃったのでこれであげときます

乙。 ……次から次へと手札がふさがれていきますな。SHIT。

さやかは死に、ほむらもオリジナルロンギヌスで貧血と体力精神力魔翌力低下で戦闘不能。
それを治せるモノは、チョビ髭伍長を倒してない今の一行には……。
マミも杏子も、シャドウマミ・シャドウ杏子・シャドウほむらのイヤミ口撃で参ってしまって戦闘に移れる精神状態じゃない。
うららの攻撃も、噂に操られてマミの体が勝手にオートガードしてしまうので通らない。
マミと杏子が影の自分の厭味口撃を乗り越えて何とかできれば一番なんだが、まず今のコンディションで自力克服は無理くさい。

……そこで呆気にとられてるパンピー約二名と、遠巻きにしてはいても一緒にいるはずの達也一行はどう動く…?
そしてこの苦境をあの世へ一抜けしたさやかは、この状況を彼岸から「がんばれー」と手を振って見ているだけなのかねえ…。

乙でした。

ここでシャドウか……。
ここで受け入れても、流石にさらにペルソナ能力に目覚めそうになさそうだな……。

こんばんは、筆者です

>>509
いつも同じ方なのか早くないですかね? たいてい一時間以内に返信があるようですけど……
ちゃんとまとまってるし。ありがたやありがたや

「もうやめて! 皆を苦しめないでキュゥべえ!」

『僕は何もしていないよ? UFOの中に入った彼女たちのシャドウが
勝手に言っているだけだ。僕にはどうすることも出来ない』

いけしゃぁしゃぁというキュゥべえを睨み付ける。かつてまどかは
キュゥべえをも救おうとしていた。だが、このキュゥべえは彼女が
救おうとしたそれとはかけ離れた異形の存在だった。

激昂し自らのシャドウに襲い掛かる杏子。怒りに支配された短慮とも
いえる行動だ。それを待っていたかのように『杏子』は結界を開き誘う。
それにあっけにとられていたマミも『マミ』が拘束し結界に連れ込む。その
後に残ったのは、ほむらのソウルジェムを握る『ほむら』自身。

『あの二人は任せるとして……貴女はこのままでも魔女になりそうね』

ソウルジェムを弄びながらからかう。顔かたちが全く同じ。だがその狂気の
表情が美貌を大きく損なっていた。だが、声も、顔も全く同じ『ほむら』が
高笑いをしている姿は見ていられない。

『放っておいてもいいのだけれど。浅はかな祈りで大事な人の祈りを
踏みにじった、とっても愚かな人の最後の顔は見ておきたいわね』

喋ろうとするたびに苦痛で歪むほむらには、言い返す気力すらない。
それを庇うようにまどかはほむらを背に『ほむら』と向き合う。

『鹿目まどかに出会えるという希望を持っていたのがそもそも間違い』

「そんなことない!!」

まどかは叫んだ。

――希望を抱くのが間違いだなんて言われたら――

「ほむらちゃんの希望が……間違いなはずない!」

『けれど、そのせいで今どうなっているのかしら?』

――私、そんなのは違うって、何度でもそう言い返せます――

「そんなの絶対違う!」

『言うのは勝手だけれど……』

――きっといつまでも言い張れます――

「何度でも言える! 希望を持つのが間違いだなんて、絶対ない!」

うららが驚いた顔をしている。気弱な外見に反した力強い言葉に好感を持った
形だ。それまで止めていた指を動かし、必死に携帯をかけ続ける。
皆と連絡を取るために、グリーフ・シードを持ってきてもらうために。

そこに、仁美が再び現れた。そして上条に駆け寄る。その瞳には先ほどにはない
力強い光が灯っていた。そして自分のしたことに戦く上条を抱き支える。

「申し訳ありません上条さん。私……」

「あ、志筑さん……」

仁美が思いを告げたにもかかわらず二人は相変わらず苗字で呼び合う。
逆に思いを告げなかったさやかとは、名前で呼び合う。

「あんた、落ち着いたね?」

うららは気づいた。仁美が先ほどの精神状態ではないことに。そして
あの力があればほむらが救える可能性が出てきたことに。

「はい、ご迷惑を……」

「説明してる暇はないんだ!
石でもグリーフ・シードでもいい、かき集めてきてくれない!?」

うららはほとんど叫んでいた。

『ならどうにかしてみることね。貴女の希望で、現状があるのよ。円環の理さん?』

まどかが言葉に詰まる。例えほむらがどれほど願おうとも、まどかが
この世界に実体化はしない。少なくとも円環の理に支障をきたす
ほどのことにはならないはずだ。
だがまどかは願ってしまった。
自分のために無間地獄を歩いた少女に会いたい、抱きしめたい、笑顔が見たいと。

『それが貴女の罪なのよ。罪には罰を。当たり前でしょう』

『ほむら』はまどかを見下ろしていた。その色には嘲りが乗っている。
その背後では、上条を連れて仁美が転移するのが見えた。

『悪あがきかしらね。何をしても無駄よ。私が浄化させなければいいのだから』

『ほむら』が手の中のソウルジェムを握り締め嘲笑う。その締め付けが苦痛なのか
ほむらは胸の傷以上に身悶える。

『それに、もう間に合わないわ』

「うるさい!」

うららが携帯から離れ魔法を放つ。それを無防備に受けた『ほむら』は
あっけなく吹き飛ぶ。手にしていたソウルジェムはあっさり手から零れ落ちて
まどかの足元に転がる。
地に叩きつけられた『ほむら』は立ち上がり、服の埃を払う仕草をする。
効き目がないとでも言うようにだ。

まどかは慌ててそれを拾う。ソウルジェムを大事そうに抱えほむらのもとに
戻る。ますます血の気をなくすほむらが痛々しい。

「ほむらちゃん、もう少しだから、もう少しだからね」

「い、いいのよ……。もう、間に合わない……」

血の混じる声に、まどかは涙が止まらない。自分の浅はかな頼みでほむらを
苦しめ、自分の愚かな願いで世界はめちゃくちゃになっている。そして何より
その願いの果てに、ほむらは死に瀕している。

『ふふ、いいわ。それは返してあげる。どう使うかは……任せるわ』

そういうと、『ほむら』は姿を消した。もう役目は終わったといわんばかりに。
そしてキュゥべえも全くの無言でいる。
まどかは大事にほむらのソウルジェムを握り締めている。
ようやく『ほむら』の言う意味に気づき愕然とした。ここにいるのは自分と
ほむら、そしてうららだけ。ソウルジェムを破壊できるのはうららか自分だけだ。

「キュゥべえ! 私契約する! 願いは、ほむらちゃんの怪我を綺麗に治すこと!」

意を決し、まどかは祈りを吼えた。

「何言ってるんだい!? 今までこと、知らないわけじゃないだろう!!」

ぴしり

「や、やめ……て……。ま……まほう……しょうじょ……なっては……」

二人の声が聞こえないかのようにまどかは吼えた。あの時以上の祈りで。
それがほむらの意思とはかけ離れていても、だ。

「さぁ! 叶えてよ!!! インキュベーター!」

だが、あのときのQBよりもこのキュゥべえは邪悪だった。せせら笑って言う。

『え、君とは契約しないよ? だって大したエネルギーにはならないしね
このほむらが魔女になったほうがよほどいいエネルギーが得られる』

虚を突かれ戸惑うまどか。うららですら伸ばしかけた手が途中で止まる。
それだけ意外な言葉であったのだろう。だが考えればわかる話で
このキュゥべえが魔女の世界のそれであるとすれば、エネルギー以外は
まるで眼中にないのだ。

ぴしり

『それに君程度の素質では、はるか昔から連綿と続いた噂による力を
覆すほどの力はないよ。残念だけどね』

ジョーカー様でも同じことだ。町ひとつの噂程度では、世界中で広がる
神話級の噂などに対抗できはしない。
キュゥべえはつまらなそうに毛づくろいをしている。

もうまどかに打つ手はない。石やグリーフ・シードを待ってるだけだ。
だがその間も徐々にソウルジェムは濁る。
かろうじてその進行が遅いのは、おそらくまどかがいるから。
ほむらにとってまどかは、唯一の信じて縋れる道しるべ。

ぴしり

うららが絶望しつつもペルソナを変えて、治療の魔法をかける。
心臓の修復こそ出来ないものの、かろうじて喋れる程度には
治ったようだった。

ほむらは、血塗れのソウルジェムとまどかの手を握りうっすらと微笑む。それが
最後の別れとでも言うように。

「いいのよ。貴女は魔法少女になってはいけないわ。ね?」

ぴしり

まどかは涙が止まらない。徐々に魔女になっていくほむらをただ見ているだけ
しかないのがあまりにも苦痛だった。

「貴女には、酷いことをお願いすることになるでしょうけれど、間に合わなければ
……お願いするわね」

長い髪は焼き切れ、顔は血の気を失い、白い肌は血で染め抜かれている。
美貌は見る影もなく、眼窩の窪みは黒ずんでいる。

ぴしり

「そんな! そんなの……!」

だがまどかにはほむらに同じことを頼んだ記憶がある。ほむらの手でまどかの
ソウルジェムを砕かせた記憶が。
まどかに、ソウルジェムを壊せと、ほむらは言うのだ。

徐々に濁るソウルジェム。そしてうららにそれを代わってもらうことはできない。
ほむらからの願いでもあるし、うららが希望を捨てないからだ。
だが円環の理であるまどかの眼からすれば、もはや間に合わないことは明白だ。

それでも、それでもなお、まどかは動くことが出来ない。
苦痛に顔を歪めるほむらを前にしても、彼女の手を握るしか出来なかった。
それは傷の痛みからだけのものでないと、知っていても。

ぴしり

ほむらを殺すことなど出来ない。
最高の友達の、最後の願いだとしても。
最高の友達の、最後の願いだからこそ。

ややあって、空間の裂け目から杏子がマミが現れる。手にそれぞれ
自分に良く似た人物を抱きかかえて。

『お、まだ頑張ってるのか?』

ぴしり

『ふふ、誰も壊せる人がいないものね』

それは『マミ』と『杏子』だった。
二人が力なく崩れる様の意味するところはひとつ。
彼女らは敗北したということだ。

『どうやらマミの噂も、自分自身には効果がなかったようだね』

ぴしり

ましてや肉体的な攻撃ではなく、精神的なものだ。
それに彼女が守るべき見滝原の生徒も結界の中にはいない。

ぴしり

雄叫びが上がる。新たな魔女の誕生を示していた。
全員を結界に飲み込むと、二対の魔女がそこにいた。
おめかしの魔女と武旦の魔女。

ぴしり

そして、そして、仁美は間に合わなかった。

筆者です。む、タイミングが

>>510
シャドウは取って置きです、ですがもうちょっと『エグる』追い詰めるようなセリフを
書きたかったのですが、これが腕の限界です。残念

それでは、お会いできるそのときまで、ごきげんよう……

乙……とうとう主要魔法少女の3人もか。まさに絶望END…。
そういえば2のシャドウ(ニャル印)は、3のニュクス印、4のイザナミ印とも仕組みが違うのか?
本体の魂がこんなことになってもへーぜんとしてるってことは……。


……しかしほむほむのこの末路を考えると、フィレモンから声がかかるのはあの子か?
どちらに声がかかるにしても、「ひっぱたく」だけの気骨はなさげだが…。

乙でした。

キャンデロロ、オフィーリア、ホムリリィ来ちゃったかー……。
まどかは因果を消費しきってたのか。

絶望の続きを楽しみにお待ちしています。

しかし『間に合わない』と地の文で書かれちゃったとはいえ、
この状況、グリーフシードやグリーフキューブ(作中で言う『石』)を
かき集めにいった仁美からして望みがすっげ薄そうだな……

他人に分けてもらおうにも、魔女化パニックで、魔法少女はどいつもこいつも魔女になりたくなくて必死通り越して半狂乱だろうし、
平時ならともかくこんな状況では一億円より『石』一粒の方が貴重だから仁美の「お嬢様」という社会的強みも役に立たない。
自分で稼ぐにしても、戦闘の地力はなりたてド素人なだけにお察しだし、彼女の固有魔法はルーラかバシルーラ。
移動時間や回避はどうにかなっても、「殺さなきゃ手に入らない」グリーフシードを稼ぐ上では……
魔女への殺傷力は一緒にいる恭介のオリジナルロンギヌスだけが頼りか。

さらに街中には魔女や魔法少女だけでなく、まだ『ニャル印』最後の大隊の残存兵もいる。
「最短ルートを進むだけ」だった行きと違い、浄化アイテムを探して「うろつく必要がある」状況でこれは……
うわ、並べるだけで胸焼けが。

……もはや敗戦処理投手が滅多打ちに遭うのを見ているだけなレベルの絶望ですが、
とりあえずどんな『敗戦処理』になるか、待ってます。


こんばんは筆者です。一応最終回です。少し最後が駆け足ですが、どうぞ最後までお付き合いを

>>520
このシャドウの外装はともかく、中身はニャル様です。

>>521
絶望と希望と絶望をお楽しみに……、んでも、もうちょっとエグくできたかなと

>>522
淡々と書いてるけどかなり酷いことになってます
でもネの字のほうのおかげで「まどマギが嫌いで意地悪してるんじゃない」って多分理解してもらってる
と思うのでそういう意味では助かってます

雄叫びを上げる二体の魔女に挟まれながらも、まどかはただ泣きじゃくった。
その胸には事切れたほむらを抱きしめながら。魔女となりたましいの形を
失ったほむらは、もう笑うことはない。
だが、彼女はそれで終わらなかった。

ほむらの魔女が二体の魔女と対峙する。それはまどかを庇うように位置し
威嚇しているかのようだった。見る者が見ればわかる。それはまどかを
守るためのもの。
まだ彼女はまどかのために戦おうというのだ。魔女に堕ちても。

燃え盛るような槍を繰り出し、攻め立てる人馬一体の魔女も、
リボンを駆使し拘束しようとする人形のような愛らしい魔女も
此岸の魔女には抗しきれなかった。巨大な闇色の翼が広がり
すべての攻撃を受け止め飲み込むと、そこから魔女そのものを

――食い尽くし始めた――

たましいの共食い。それに気づきうららが吐き気をもよおす。まどかも
呆然自失となりながらも、此岸の魔女の真意に気付いた。
真意というには馬鹿馬鹿しい。それは魔女の本質であり性質だ。

「ほむらちゃん……まだ戦うつもりなの!?」

まどかたちが見守る中、友人たちの影となれの果てを喰らい尽くすと
弓(らしきもの)を生み出した。それを天に向かい引き絞ると、黒い矢が生じる。
放たれた矢は解けて誘導されるように自由に飛翔する。その先にあるのは
魔女の結界。魔女の結界をこじ開け真っ直ぐに魔女そのものを貫く。

『さすが恩寵の魔女だね。そんなこともできるんだ』

「何が起きているの?」

『ありとあらゆるところにいる魔女をすべて吸収するつもりのようだ』

まどかが概念となった時は、同じ弓の動きであらゆる時空の魔法少女を救済した。
魔法少女たちの祈りが絶望で終わらないように。
だがこの恩寵の魔女は違う。まどかの救った世界を守るために、魔女を一つ所に
集めようとしているのだ。
かくして放たれた矢が魔女を集めて引き寄せる。彼女の悲しいところは
未だ魔法少女を維持している少女たちのことを考えていないことだ。魔女が落とす
グリーフ・シードがなければいずれ魔女になってしまう。
世界を救おうとするも、それは永遠に叶わない。それがカルマであるかのように。

「そ、そんな……なんで?」

『君のために決まってるじゃないか』

恩寵に支えられた魔女の体は、魔女を吸収しても爆ぜることはなかった。むしろ
ますます巨大化し強力になっていく。

ひとしきり吸収して満足したのか、恩寵の魔女は上昇を始める。
目的はワルプルギスの夜。あれすら飲み込もうというのだろう。それが世界を
落ち着かせる方法と信じて。

「ほむらちゃん! まって! 行かないで! お願い!」

だがなおも上昇し、UFOの底を回避し見滝原中学校校舎に向かう。
そこには校舎とUFOの羅針盤のような回転する輪に挟まれたワルプルギスの夜。
霊的な何かを備えたUFOを透過することは魔女にもできないらしい。
挟まったままもがいていた。
それにほむらの魔女は近づく。素質が高いとはいえ、たかだが七人分の魔女だ。
今地上にいる多くの魔女を喰い散らかした恩寵の魔女の魔力と比べるべくもない。
闇色の翼が夜を包み込み飲み干した。

「あ……ああ……。間に合わなかったの……ですね」

かろうじてかき集めた石を手に膝から崩れ落ちる仁美。目を閉じたほむらに
号泣するまどかに、結末を理解した。
やむなく自らのソウルジェムに石を近づけ浄化する。今そうしなければ自分が
危ないことを理解していたから。

「なんで、なんでこんなことに……どうして……」

ほむらは魔女となり自我を失いながらも魔女をかき集めていた。それはおそらく
まどかのため。発狂しながらも彼女はまどかを愛し続けていた。それがまどかには
締め付けられるような心の痛みを伴う。それは狂った愛の証。

(これが罰なんだね。私が願ってはいけないことを願ったから)

(これが罰なんですね。私が上条君に告白をしてしまったから)

けれど、それを責めることが出来る人間がどれだけいるであろうか

夜を飲み下した恩寵の魔女はさらに巨大な魔女となって浮遊する。世界中に
散らばっている魔女をすべて『救済』するために。
そう、それはかつてほむらが何度も見、まどかも知っているまどかの魔女の
姿に似ていた。

『あれだけ多くの魔女を吸い込んだんだ、
そろそろ自我も溶けているんじゃないかな』

キュゥべえのいうとおりだった。
此岸の魔女は肥大化し救済の魔女となりつつあった。
UFOから大地に佇立するほどの高さにまでなったそれは、ゆるゆると歩き出した。

ほむらが何度も見た、世界の破滅の形だ。

『このままでは世界は破滅だね』

嘲笑う声。キュゥべえの嘲りを含んだ声がうららの癇に障った。瞬時にペルソナを
召喚し、疾風魔法を放つ。それの直撃でキュゥべえはあっけなく消し飛んだ。

『困るなぁ。この体も只じゃないんだ。』

すぐさま復活したキュゥべえは、自らの死体を食う。うららの反応を見ながら、
ニタニタ笑っている。醜悪な笑いだった。

音もなく動き出すほむらの魔女は、何かを捜し求めているかのように彷徨う。
その巨体にラストバタリオンは攻撃を仕掛けた。戦場に突然現れた魔女に
銃撃する。それに対する行動なのか、魔女は自分に良く似た使い魔を放ち
反撃する。
それが戦場を一変させた。見滝原を流離うほむらの魔女からあふれる使い魔は
人間を全く無視してラストバタリオンのみを攻撃する。
なぜなら、それがほむらの望みだからだ。

その強さから魔法少女に魔女と勘違いされ、あまつさえ攻撃されても無抵抗で
使い魔は消滅する。だがラストバタリオン相手のときは別だ。ローブの中から
生み出した銃器やバズーカ、果ては迫撃砲を用いて反撃する。
そしてその使い魔は、キュゥべえをも目の敵にしていた。
まさにかつてのほむらの行動の再現だった。

だが、これが続いてもラストバタリオンは無限に沸いて出てくる。そこかしこで
魔女と軍隊の戦争が繰り広げられるだけの、荒廃した世界が広がるだけだ。
事実、その巻き添えを食い亡くなる住民も数多くいた。

かろうじてつながった携帯からうららはそれを知った。

「ぜんぶ、あいつの思う壺ってことか」

瓦礫を殴りつけやりどころのない怒りをぶつけるしかなかった。完敗だった。

そこに、もう一体のキュゥべえが現れる。外見は違うところが見当たらない。
唯一違う点は、真っ赤な目が青々としているところだろう。ほむらやマミがみれば
気づいたかもしれないが、それはあの蝶と同じ色だ。

『ふん。今更実体化したのか』

『魔女化のエネルギーを流用させてもらった。だがこれでも不完全だ』

「その声、フィレモンかい?」

『QB』の姿を模したそれはニャルラトホテプと対を成す存在だった。それが
かつてのフィレモンと看破した。

『この期に及んで何の用だ。もはや勝敗は決した。お前が選んだもの共は試練に負けた』

『わかっている。彼女らはお前の試練に負け、心を絶望に塗り固めた』

『円環の理もこれで学んだであろう。いかな神でもどうにもならぬことがあることをな!』

それは、人の心の危うさ。例えまどかが神となり魔法少女を救おうとしても、人間の心が
救済を拒む。それが具体化したのが今の結果だった。

『望み? 祈り? 願い? 希望? それらを得ようとしもがく自由は確かにある!
だが、それが互いに食い違ったときに争いが起き、私が生まれる!
それが人間の業だ、罪だ』

キュゥべえは高笑いを続ける。まどかとほむらの願いが食い違ったために、円環の理は
不具合を起こし、歪み、破綻した。そして地にあふれる魔女は人々を襲う。

「うるさい!」

うららが再び魔法を放つ。それを回避すると、中空に浮いたまま姿を消した。

茫然自失となるまどか、仁美。そして無力感にさいなまれるうらら。
特に、ほむらに会いたい一心で理を離れた自分への自責の念は大きかった。

「そんな、そんなのって……」

もはや涙も出ないほど心に傷を負い、まどかは崩れ落ちている。

「ヘコんでんじゃないよ。あんたにだって、できることがあるだろ。
あたしはいくよ。まだ軍隊はうろついてるんだ。ぶっ飛ばしてやる!」

うららは振り向きざまに言う。それは彼女を見捨てる動きに見えたが違う。
奮い立たせるためあえて放置したのだ。

「戦うつもりならおいで、武器を取らなくたって戦う方法はいくらでもあるんだよ」

そういってうららは戦場に走り出した。それが自分に出来ることだと信じて。

『ひとつだけ、現実を変える方法がある』

その言葉にまどかと仁美は顔を上げる。フィレモンはQBの姿のまま淡々と
語る。

『き奴が君に目をつけたのは、彼女が転校するあの日からだ』

それはほむらのループの最初、とも言えるだろう。実際のほむらのループは
それより数日前から始まっているが、因果が絡みだしたのはあの日からだ。
まどかが、ほむらの夢を見た日から。

『その一点を消し去れば、新たな宇宙が分岐する。
このような悲劇が起きぬ宇宙が生まれる』

「そのようなことができるのですか。ひょっとして……」

『噂の力に頼らずとも、人の心ではそれが叶う。
元々現実を変える大きな力が君たち人間の心にはあるのだ』

まどかは知っていた。数ある宇宙を垣間見る力のある彼女は、見ていた。
だが、あるときからそれが見えなくなった。今まで見えていたものが見えなくなる恐怖。
それに恐慌をきたした彼女を救うため、さやかはほむらをまどかに会わせようとした。
杏子はさやかに会いたい一心でジョーカー様を行った。
だがそれは友達を守ることを心に決めたマミにより失敗した。
そして、ほむらとまどかの願いどおり、まどかもこちらの世界に現れてしまった。

誰が悪いわけではない。皆が一つ一つ掛け違った結果だった。だがそれを最大限
増幅させ利用したのはニャルラトホテプだった。

「そんな! 私がほむらちゃんのことを忘れないといけないの!?」

『……具体的にはそうだ。君と彼女が出会うことが因果の始まりなのだ。
それを断つには、消し去るしかない』

「そ、そんな! 他に方法はないのですか!?」

『き奴の力が強いこの世界ではどうにもならない。
絶望に浸ろうとする人の心が奴の力だ』

魔女があふれるこの世界では、他に方法がないのだという。世界中の
人間の、魔法少女の心が変わらなければ、ニャルラトホテプに克つことは出来ない。
フィレモンはそういうのだ。

『き奴に勝てる人々がいる世界が生まれることを君が願うのだ』

「わかりました……どうやればいいんですか」

『あのUFOのなかで強く思い描くのだ。新しい世界の形を』

あのUFOは、人の無意識層と深く結びついている。それゆえ人の意思が具現化する。
その場で強く願えば、現実を変えることが出来る人の心の力は、因果すら変えて
しまうことができる。
仁美はそれを了承すると、二人を連れてUFOへ転移した。






――いやだよ、でもだめだよ――





「リボン、どっちかなぁ」

「こっち」

「ええー! 派手すぎない?」



「ママ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい。おいしい紅茶淹れるから
早く帰ってらっしゃい」

「うん!」



「お祈りはいいけど、そろそろ時間だよ」

「あ、やべ! い、行って来ます!」

「言葉遣いに気をつけなさい。モモが真似をしてしまうからね」

「はぁい」



「おはよー」

「おはようございます」

「まどか遅ーい。……おっ。可愛いリボン」

「そうかな」

「とてもお似合いですわ」


「やっと退院ね。よく頑張ったわね」

「ありがとうお母さん。来週から学校行けるね」

「でも無理はダメよ」

「うん、わかってる。でも頑張らないと」



――いやだよ、でもだめだよ――




「ん? お母さん何か言った?」

「んーん? 何にも? ほらこっちいらっしゃい、髪結ってあげるから」

「もう、自分でも出来るよ」

「ねぇねぇ。隣のクラスに転校生だってさ」

「男? 女?」

「女の子だって。なんか入院してたのが最近退院したんだって」

「へぇ」

「こぉら恭介、鼻の下伸ばしてるんじゃないぞー!」

「あらあら、お二人とも仲が良いですわね」



「は、はじめまして。あっ、暁美ほむら……です」

「可愛い~♪」

「髪長い~♪」

「なんか守ってあげたくなるね」

「皆、男子から暁美さんを守るよっ!」

「「「オーっっ!」」」

「なんでそうなるんだよっっ!」



「お、ほらあの子だよ。長いおさげ髪の子。うわぁ。かなり可愛いわ」

「……」

「どうしたの……、って何? 何で泣いてるの」




『そしてまた、繰り返す』

以上で、第一部完です。二部のプロットは真っ白で何も決まってません

最後はえらい抽象的なので説明が必要かもしれませんが
まぁあれです。ぼかしといてください

大きな矛盾がなければよいのですが。
それでは第二部まで、ごきげんよう

乙でした。

ホムリリィがクリームヒルトもどきに成ったのか……。
罪編完結おめ!!

続きを楽しみにお待ちしています。

ぶん殴るは無しか
ひとまず完結おめでとう
罰も楽しみにしてるよ

乙でした。長いが辛い、辛い結末でしたなぁ、罪編……。
そしてやはりナイアルラトホテップはあのセリフをいい、フィレモンはあの手段を提示し、
願いに縋った少女たちは……。まどかのあの悲痛な心の声、早くもビターなかほりが……。

そんでもってペルソナ2の原作からすれば、これでもまだこの罪編の世界、原典の罪編よりは
(スズメの涙程度、何の慰めにもならんですが)マシ、なんですかねえ……。
ニャルが人類破滅の最後のダメ押しをするかしないか、
それがホムリリームヒルト(仮)か、原作のアレかの違いでしかないですが。


……罰編、お待ちしております。変えて見せろ、超えて見せろ。
“黒いの”には殴るところがなくなるまで、ついでに“青いの”にも一発くらいは。
この子達のほうから、ニンゲンとして、カマしてくれるといいなあ…。

筆者です。内容的にはおめでたくないですがひとまず完走

>>537
まどかの寵愛≒魔力で強力に+『まどかのために魔女を全部引き受ける』のイメージです
どっかにワルプルギスの夜ほむらの魔女説みたいなSSがあったのでその影響かもしれません


>>538
ぶん殴る気力はさすがにないでしょうね。完全敗北ですし、まどかですし


>>539
ひょっとして『まおゆう好きでいい酒を飲める』方かな?
世界が滅んでいないだけマシという意味でしょうが
UFOに残ってる人は少なく、下界は恩寵の魔女とバタリオンが殺しあう世界です
そんなところで生きながらえられるのはペルソナ使いと、ごく少数の魔法少女だけ
これなら進化も狙えそうだというのがニャル様の狙いでして

罰編は……ビターで済むのかわかりませんねぇ(ニヤニヤ


あと、業務連絡ですが、SS速報同人部さまに寄稿いたしました
「アバタール・チューナー」×「ストレンジ・ジャーニー」という女ッ気のカケラもない
題材のクロスです。サンクリに行かれる方は気が向かれましたらどうぞ
自分も当日伺う予定です

罪編完結ご苦労様です。罪だからやっぱこうなりますよね。

しかし地球が停止してないだけましだろ。憑依したキョウジやたまちゃんというサマナーもいたりするから
クズノハあたりと協力しればなんとかなる。しかしそれでも人類の大多数が死に絶えるのは確実だろう。
一番近くイメージしてるのは大破壊後の世紀末世界が来るな。

ふと思ったがまどマギの世界で心がもじどおりの狂人はかずみのルカやおりこにでてきたあの子しかいないな


HTML化の申請しときました 筆者です

>>541
イメージ的には真4の人外ハンターのかわりに魔法少女やペルソナ使いなんかが
戦ってるイメージです。かろうじてホムリリームヒルト(仮)が魔女と戦っていて
なんとなかってる、感じかな

まぁそれもこれも、前作のとき茶番とか言ってた人のおかげなんですけどね
いいアイディアを貰って感謝ですよホント

で、続き考えてたらまどマギ×メガテン始めた人がいますね
私の考えてるのより面白そうで、ちょっとだけへこんでます

では、また第二部で……

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