P「小鳥さんが倒れた!?」(285)

春香「…えっ!?」

律子「本当ですかそれ!?」

P「あ、ああ、今、社長から電話があった…」

P「…過労だそうだ」

律子「はあ!!!??」

亜美「うそだああああああ!!」

真美「ピヨちゃん昨日パソコンで天鳳やってたよ→!!!」

響「ありえないさー…」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1373123186

P「でも…社長が…」

千早「声真似じゃないかしら?」

真「ああ…」

雪歩「録音かもしれませんー」

伊織「小鳥が過労なら私たちはとっくにあの世にいるわ!」

やよい「心配ですー…」

あずさ「音無さんに電話かけてみるわ~」

貴音「小鳥嬢はそのような事はしないと思いますが…」

あずさ「…繋がらないわ~」

P「ちょっと病院行ってみるよ」

美希「とりあえず美希は寝直すの」

やよい「ダメですー!みんなで病院行かないとー」

律子「ないわね、ないわ」

亜美「ないないない」

真美「アリエッティだよ」

伊織「どうでもいいけど引き出しに薄い本があったわ」

P「行かなくてもいいか」

貴音「私は行ってみますが…」


とはいえ全員で行くわけにもいかず、

俺は仕事のある竜宮組、春香、

電話対応のために千早を

あとは迷惑にならないように、

騒ぐ心配のない貴音、やよい以外を残して病院へと向かうことにした

やよい「大丈夫でしょうか……」

貴音「小鳥嬢とて人である以上疲れは溜まるでしょう」

P「そうだな……」


少なくとも、律子達が疑っていたような嘘ではなかったらしい

見慣れない病院支給の服を着た小鳥さんがベッドで横になっていた

小鳥「あ、プロデューサー……それにやよいちゃん、貴音ちゃんまで」

P「大丈夫なんですか?」

小鳥「平気よ。ちょっと無理が祟っただけだから」

いつものような笑顔をみせながら、

小鳥さんは小さな笑い声を洩らした

やよい「ほんとにほんとですか?」

小鳥「そんなに心配しなくて平気だから安心して。ね?」


貴音「……して、身体の具合は」

小鳥「ただの過労だから1日ゆっくりすれば良いらしいわ」

P「1日ですか……事務仕事が溜まりますね」

俺は冗談のつもりで言ったのに、

やよいは頬を膨らませて睨んでるのか見つめてるのか、

視線を向けてきた

やよい「プロデューサー、みんなで手分けするんじゃないんですかっ?」

P「まぁそれが妥当だな」

小鳥「別に良いのに、意外と大変なのよ?」

貴音「それを小鳥嬢は一人でこなしている。それが過労の原因なのでは?」

小鳥「それはそうかもしれないけど……事務員はあたしだけだし」

P「社長に申請しておきましょうか? あと1人か2人事務員が欲しいって」


小鳥「ううん、大丈夫ですよプロデューサー」

小鳥「1人だとちょっと大変だけど、2人3人では多いくらいだから」

P「そうですか? でも、小鳥さんはそれで倒れたんですよね?」

やよい「そうです! 多いとしてもあと1人は入れるべきですよ!」

やよいの押しの強さに困った表情を浮かべつつも、

小鳥さんはそれを拒絶した

小鳥「あたしからそれ取ったらなにも残らないし」

貴音「ではしっかりと休息をとるように致しましょう」

貴音「いえ、取らせましょう。多少強引にでも」

小鳥「そ、そんな必要は……」

貴音「駄目です小鳥嬢。座り続けていたり、」

貴音「こんぴゅーたーにずっと向かっていてはまた悪くしてしまいます」

小鳥「貴音ちゃん……」


最終的に貴音とやよいの勢いに負け、

しかし少しは自分の要望も通し、

2時間に1度は休憩

その中でパソコンとにらめっこは最長1時間半となった

小鳥「仕事終わらないかも」

P「俺も出来る限り手伝いますし、律子は……竜宮のプロデュースで無理かもですけど」

P「とにかくサポートしますよ」

小鳥「ごめんなさい、ダメな事務員で」

貴音「小鳥嬢がダメな事務員だとしたらみんなダメな事務員でしょう」

小鳥「そんなことはないと思うけど……」

ここまで


やよい「とにかく、今日はゆっくりしてください!」

小鳥「うん、言葉に甘えるとしようかな」

P「小鳥さんの無事も判ったし、事務所に戻るか」

貴音「はい。あまり長居するのもお邪魔でしょうから」

小鳥「明日は事務所に行くからねー」

過労なんて嘘とでもいうかのように、

小鳥さんは元気よく手を振り、俺達を見送ってくれた


765事務所

貴音「大事には至らず、問題は無いそうです」

千早「そう……嘘とかではなかったのね」

申し訳なさそうに呟き、

千早はソファに深々と座り込んだ

真美「お姫ちん、いつ戻ってくるって?」

貴音「明日には戻れるとのことですが……話しておきたいことがあります」

貴音は安堵の雰囲気を一転、

緊張の走る空気に変えると、それに合う声で告げた

貴音「明日から極力小鳥嬢に迷惑になら無いようにしましょう」

亜美「ど→いうこと?」

P「過労で倒れたのは仕事のせいもあるが、俺含めて」

P「みんなが小鳥さんに迷惑をかけてるからだと思うんだ」

雪歩「そうですね……騒ぎすぎたりして、それも負担になって……」

春香「亜美と真美は特に……って私の転ぶ癖も直さないと」

やよい「出来る限り心配かけずに、むしろお手伝いするんです!」


響「解った、ピヨ子にはかなり世話になってるからな。協力するぞ」

千早「そうね。また倒れられたりしたら嫌だもの」

みんなが小鳥さんのために行動しようとしてくれている。

本人が知ったらどんな顔するのだろうと思いつつ、

簡単に想像できてしまって、

思わず笑ってしまった

本当に、良い事務所、良い社長、良い事務員、良いアイドルだなぁ。

と、内心、喜んでいた


小鳥「おはよう、みんな」

翌朝、小鳥さんは言葉通り元気な姿を見せてくれた

といっても、昨日の時点で元気そうだったけども

美希「おはようなの、小鳥」

律子「おはようございます、小鳥さん」

真美亜美「おはよ→ピヨちゃん」

雪歩「おはようございます、音無さん。今お茶いれます」

小鳥「……う、うん?」

みんなのいつもとは違う接し方に、

小鳥さんは困惑しているようだった

そりゃもうBBAだからさ…

>>25

早苗「あ?」
ちひろ「もう一回言ってみろ?」
菜々「埋めるぞ?」


小鳥「一体何が……」

P「貴音がみんなに話したんですよ。気遣うようにって」

小鳥「そんな大袈裟な……ただの過労なんですよ?」

小鳥さんははにかみながら言うと、

照れ臭そうに頬をかいた

小鳥「……でも、嬉しいかな」

そんな呟きに反応したのは伊織だった

伊織「感傷に浸るのも構わないけど、貴音達に仕事のやり方制限されてるんじゃないの?」

小鳥「それもそうね。心配ありがとう、伊織ちゃん」


伊織「ば、ばっかじゃないの? 私はただ小鳥の仕事の遅れで迷惑をかけられたくないだけよ」

やよい「心配なだけだよね?」

伊織「や、やよい!?」

真美「いおりん照れてる→」

伊織「うっさい!」

あずさ「あらあら……」

いつもの765プロだった

少し騒がしい。でも、嫌な騒がしさではなく

心地良いような……

小鳥「……良いアイドル達ですよね」

隣にいる小鳥さんはまるで母親のように嬉しそうにそう呟く。けれど、

その表情には、少しだけ別のなにかが含まれているように思えた


響「おーいピヨ子、休憩しないと駄目だぞー」

小鳥「あとちょっと、もう終わるから!」

雪歩「音無さん」

小鳥「はーい……あと5分」

P「小鳥さん」

小鳥「わ、解ったわ……休憩しますから」

今日は貴音達がいないためか、

小鳥さんは好きあらばオーバーワークを企んでいるようで、

貴音の指示で響達が定期的に止めるという流れが繰り返されていた


響「自分もそろそろ仕事にいかないといけないんだけど……」

響はそう言いながら、

ソファに横にされている小鳥さんを見つめた

響「プロデューサーはピヨ子を頼むぞ。自分や貴音がいないからって甘やかしちゃ駄目だぞ」

仕事をさせることが甘やかすとは何か変な気がするが、

別に間違いじゃないのが凄い

雪歩「私もそろそろ出ますね」

かなり売れてきている765アイドルは基本的に事務所には居られない

本当ならプロデューサーである俺もみんなの所に行ったりしなくちゃいけないのだが、

そうすると小鳥さんを止める人がいなくなるため、

俺だけは事務所に残っているのだ


小鳥「みんな行っちゃいましたね」

P「そうですね、少しだけ寂しいですよ」

売れる前は朝から晩まで騒がしかった事務所も、

今ではキーボードを叩く音だけが主な音源になっていた

みんなにアイドルとして輝いて欲しかった

でもいざこうなると、正しいことなのに間違えてしまったような、

そんな不安が頭の片隅に出てくる

小鳥「……プロデューサーさん」

P「はい?」

小鳥「いつもはあたし1人なんですよ」

事務員である小鳥さんはデスクワークが基本であり、

社長でさえ出払っていることの多い最近では、

事務所で独りになってしまっているわけだ

小鳥「これであたしまで居なくなったら……事務所は無人なんですよね」


P「え?」

言葉に驚いて小鳥さんを見ると、

小鳥「あ、ああ別に辞めたりしませんよ!?」

小鳥さんは慌ててそう否定した

P「で、ですよね。ビックリしましたよ……急に居なくなったらなんて」

小鳥「ごめんなさい、いつも寂しいから。つい」

そう言って笑い、そして不意に真面目な声で呼んできた

小鳥「プロデューサーさん」

P「どうかしました?」

小鳥「もしあたしが居なくなったら寂しいですか?」

P「はい?」

小鳥「ほら、寿退社とかとかとか」

伊織達が聞いていたら、

間違いなく笑われていただろう

でもそれは表面であり、

もし小鳥さんが本当に居なくなるとしたら、

みんなは寂しいだろうし、引き留めるだろうな

……それじゃ、俺は?


P「そうですね……」

寿退社とかどうとかはともかく、

もし小鳥さんが退職してしまうとしたら、

P「寂しいと思います」

小鳥「そ、そうですかっ」

小鳥さんの嬉しそうな声が聞こえた。けれど、

俺はそこで止められずに続けた

P「だから止めますよ。退職なんてさせません。辞表なんて破ります」

小鳥「プ、プロデューサーさん、あくまでもしもですから! ifです!」

そのもしもを考えるのさえ嫌だった

でも、そうは言えない


P「釘をさしておこうかなと」

俺が冗談めかしてそう返すと、

小鳥さんは少し赤くなりつつ、

俺を見つめてきた

そのせいか視線がぶつかり、

こっちまで恥ずかしさで赤くなってしまう

しかしここはやはりと言うべきか

小鳥「釘じゃなくて唾つけても良いんですよ?」

P「あ、それは良いです」

小鳥「ですよねー」

黙ってれば可愛いのに。と、

呆れ半分のため息をついてしまった

ID変わりすぎだね
一応識別として酉作成しておきます

そしてここまで


小鳥「お茶いれますけど、プロデューサーさん飲みます?」

P「小鳥さんのいれたお茶ですか……」

小鳥「どうかしたんですか?」

思えば、雪歩が来てからというもの、

いつもお茶をいれるのは雪歩であり、

そうでなくてもほぼ毎日あちこちに出向いていたせいで、

小鳥さんがいれたお茶を飲むのはかなり久し振りだった

P「いえ、ありがたくもらいます」

小鳥「はい、待っててください」

小鳥さんはそう言い残し、急騰室へと向かった

×急騰→○給湯


そして、擬似的にとはいえ、

俺は事務所の一室で一人きりとなった

P「確かにこれは……」

寂しいと思った

すぐそばの部屋にいると解っていても、

自分の打つキーボードの音しかしない

P「……いつもこうなのかな」

出来る限り事務所に戻ろう

出来る限り事務所に寄ろう。そう思った


やがて、小鳥さんは戻ってきた

雪歩が使うおぼんに2人分のカップを持って……けれど、

俺達がそれを口にすることはできなかった

P「ありがーー」

お礼を述べようとした瞬間、

小鳥さんの体はなにかに躓いたかのように前のめりに倒れ込み、

お茶は見事、床に流れていってしまったからだ

それを気にするよりも、俺はすぐに小鳥さんに駆け寄った

P「こ、小鳥さん!? 大丈夫ですか!?」

小鳥「……うん、ごめんなさい。これじゃ春香ちゃんを笑えないかな」

小鳥さんは困った笑みを浮かべていた


P「やっぱり、まだ疲れが取れてないんじゃないですか?」

小鳥「ううん、ただ躓いただけですよ」

P「何もないのにですか?」

床に物を置くわけがなく、何かに躓いたわけはない

それでも小鳥さんは首を振り、

自分の足に引っ掛かった。と、唯一あり得そうな言葉を返してきた

小鳥「だから平気です」

P「……そうですか」

ここで無理に問い詰めても無駄だと判断した俺は、

小鳥さんの言い分を認めた上で、言い放った

P「今日はもう仕事止めです」

小鳥「そ、そんなことは出来ません!」

P「小鳥さんが出来なくても俺がさせます」

小鳥さんの困惑した表情が向けられ、

しかし俺は真面目な表情のままに小鳥さんを見つめた


それは単純に小鳥さんを心配してのこと

小鳥さんに倒れられたりしたら困るから……なのに

小鳥「プロデューサーさん!」

小鳥さんは怒鳴った

聞いたことのない怒声

俺だけでなく、小鳥さん自身もそれに驚き、戸惑い、

申し訳なさそうに俯くと、

小鳥「ただ転んだだけですから……」

まるで独り言のように小さく呟いた


それからは会話も少なくならざるを得なかった

小鳥さんが自分で二時間おきに休憩するようになり、

休憩になれば美希のようにソファで横になるの繰り返しだった

P「……小鳥さん」

小鳥「……どうかしました?」

P「いえ、その……辛ければ言ってください。出来ることならしますから」

いつもなら、さっきまでの小鳥さんなら

ふざけた回答だったかもしれない

でも、小鳥さんは少し躊躇ってから首を振った

小鳥「プロデューサーさんに出来ることは多分ないですよ」

P「そんな頼りないですか?」

小鳥「……どうでしょうか」

小鳥さんはそうやって曖昧に答えると、

仕事に戻ってしまった


そのやり取りから。

俺は小鳥さんに対してどう接するべきかを見失い、

黙りこむしかなく、そんな気まずい空気を破ったのは、

わざわざ事務所に戻ってきてくれた貴音だった

貴音「只今戻りました。あなた様、小鳥嬢」

小鳥「貴音ちゃん……わざわざ?」

貴音「小鳥嬢が心配だったのです。わざわざなどと思っていませんよ」

貴音の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべたが……

気づかないほどの一瞬、小鳥さんは悲しそうに見えた


貴音「あなた様、小鳥嬢はしっかりと休ませていますか?」

P「ん? ああ、ちゃんと休んでるよ」

貴音「ありがとうございます……時に小鳥嬢」

貴音は話題を一気に転換し、

小鳥さんを観察するように眺めた

小鳥「なに?」

貴音「何か不安なことでも有るのですか?」

小鳥「え?」

貴音「わたくしの勘違いであれば嬉しいのですが、そうでなく何かあるのならば」

貴音「わたくしやぷろでゅーさー、他の誰かにご相談して頂きたいのです」

その言葉に対して、

小鳥さんはまるで用意してあったかのように、

笑顔で頷いた

小鳥「頼りにさせて貰おうかな」

貴音「……………………」

それゆえに、貴音は厳しい表情になっていた


小鳥「……貴音ちゃん?」

小鳥さんは首をかしげ、

貴音の名を呼び貴音は返事ではなくやや強い口調で言い放った

貴音「……であれば、何か言うべきことが有るのではないのですか?」

小鳥「今は特にないですよ?」

どこか引っ掛かる答えではあった

しかし貴音は頷き、小鳥さんを見つめた

貴音「話せるときは来るのですね?」

小鳥「貴音ちゃんが男の人と付き合ったりしたら頻繁に相談するかも」

冗談でしかない回答

でも、それこそが普段の小鳥さんだったからこそ、

俺達はなにも追求はしなかった


それから数日経ったある日のこと、

765事務所を揺らしてしまうような大声が轟いた

伊織「アンタ、いい加減にしなさいよ!」

小鳥「い、伊織ちゃん……」

怒鳴ったのは伊織

怒鳴られたのは小鳥さん

普段のツンとしたものではなく、

本気で怒っているようだった

伊織「最近話を聞いてないこと多すぎるのよ! 電話だって取り逃しそうになるし」

伊織「もう妄想に浸ってました。なんてのは聞かない、信じないから!」


真「伊織、言い過ぎだよ。小鳥さんだって……」

伊織「真は黙ってて!」

伊織の剣幕に押され、

さすがの真黙り混むしかなく、

こう言うときに何とかしてくれそうな

律子もあずささんも貴音も春香もいない

いるのは俺と真、伊織と小鳥さんだけなのだ

小鳥「その……最近悩んでることがあって……」

小鳥さんは困ったようにため息をつくと、

その悩みを話してくれた

一旦ここまでにします

100もいかないと思う


小鳥「実はね……」

その神妙な面持ちに、

俺達は息を飲んだ……にも関わらず、

それはなんというか、

答えを返しにくいものだった

小鳥「高校の同級生が結婚するって……」

P「……………」

真「……………」

伊織「………はぁ?」

伊織のため息が嫌に大きく聞こえた


伊織「なにそのくだらない理由」

P「ちょ、も、もう少し言葉をだな」

伊織「選びようなんて無いわよ」

小鳥「伊織ちゃんには解らないわ……あたしの苦しみなんて」

大袈裟な感じにため息をつきながら、

小鳥さんは虚空を見つめていたが、

変に似合ってしまっていた

伊織「だとしても、仕事を疎かにするなんておかしいでしょ」


小鳥「ううっ……プロデューサーさん」

P「擁護のしようがないです」

小鳥さんの救援要請をばっさりと切り払い、

俺は仕事へと戻ることにした

小鳥「……貴方様はいけずです」

P「貴音の真似ですか?」

小鳥「どうです? 似てません?」

伊織「全然似てないから」

これまた伊織に強く言われ、

小鳥さんはしゅんっと気落ちした表情で呟いた

小鳥「ごめんね」

その一言。たった一言は変に優しく、

怒っていたはずの伊織でさえも怒りを忘れ、

伊織「わ、解ってくれれば……それで良いから」

そう返すことしか出来なかった


アイドル達がみんな出払った昼

俺は小鳥さんを誘い、

事務所の下にあるたるき亭に行くことにした

小鳥「いつものですか?」

P「そうですね……」

いつものばかりだと飽きてしまう

P「今日は小鳥さんのオススメにしますよ」

小鳥「それだと……」

メニューを見つめながらどうするべきかと悩む姿を見る限りでは、

そこまで(結婚について)悩んでいないように思える

もしかしたら、前々から結婚願望はあるんですけどね。と、

寂しそうに語っていたし、

今回の件で完全に割りきったのかもしれないが


そんな中、

いまだメニューを決めていないのにも関わらず、

小鳥さんは衝撃的なことを平然と言い放った

小鳥「あたし事務員辞めるんです」

P「そうで……?」

最初は理解できずすべてが固まり、

聞き返したわけでもないのに再び言われた言葉で

小鳥「辞めるんですよ。765プロを」

世界はガラスのように砕け散った

中断


P「ま……」

P「待ってください!」

ようやく絞り出せた声は大きく、

いきり立ったことで倒れた椅子の音が

店内に響き、周りの客たちからの視線が集まったが、

そんなことは全く気にはならず、

俺は少ししか驚いていない小鳥さんを見つめた

小鳥「そんな驚かなくても……」

P「驚くに決まってるじゃないですか」

あれは冗談のはずだ

もしも。の話だったはずだ

なのに……

P「どういうことですか……?」


俺の問いに対し、

小鳥さんは複雑な表情で小さく笑うと、

定食を二つ注文し、水を口に含んだ

答えに迷っているのか、

答えを探してるのか、

なんだか先延ばしにしているようにも見えた

P「言えないんですか?」

小鳥「そういうわけではないんです……でも、怒ると思うし」

なら怒られるような理由で辞めなければいいだけ……なんて理不尽だろうか?

そもそも言えないなら辞めるなんて言わなければよかったんだ

……それで急にいなくなったら、

それはそれで怒ると思うけど。


P「……………」

小鳥「………」

黙り込み、

周りの喧騒が大きく聞こえるような、

そんな静かな時間

小鳥「予定が早まっちゃいまして」

P「予定ってなんの予定ですか? 期間はどのくらいなんですか? 辞めないといけないようなものなんですか?」

小鳥「質問が多すぎますよ、プロデューサーさん」

小鳥さんにクスッと笑われ、

だんだんと熱は下がっていく

それでも思考回路はまともに機能しそうにもない


P「だって小鳥さんが辞めるなんて言うから……」

小鳥「……ごめんなさい」

P「いや、別に怒ってるわけじゃないですよ」

小鳥さんの申し訳なさそうな表情のせいか、

追求しようとした意志が消えていく

しかし、小鳥さんは1つ……いや、2つだけ答えてくれた

小鳥「辞めないとダメなくらい長い用事です」

P「………………」

どんな用事ですか? と、

もう一度聞くべきだったはずだ、答えてもらうべきだった

でも俺は聞くことができず、

小鳥さんも言えないのか、

運ばれてきた定食を、作業のように食べることとなった


それからは残酷なほどに気まずかった

小鳥さんが765プロを去っていく……

誰よりもこのプロダクションを助けてくれていた人がいなくなってしまう。なのに、

何も言えなかった

加えて、小鳥さんもその用事については中々言えないらしく、

楽しもうと思っていた昼食は面白さのかけらもなくなってしまった

そんな悪い空気を破るように、

小鳥さんはいつもとは少し違う笑みを浮かべながら何かを言おうとした

小鳥「プロデュ―――……」

言おうとしただけで何も言えなかった

言わなかったのではなく、言えなかった

小鳥さんは意識を失い、病院へと運ばれることになった

ここまで、中断


P「ど、どういうことですか!?」

どうもこうもない。

ただ小鳥さんが嘘をついていただけと言う事。

でも怒鳴らずには、何かにぶつからずにはいられなくて、

俺は医師を問い詰めるように睨んでいた

医師「……ご説明した通り、音無小鳥さんが倒れたのは過労ではなく、心臓腫瘍によるものなんです」

心臓腫瘍。つまりは心臓癌

でも、癌って言ったって治せないわけじゃない

そんな希望はいとも容易く壊されてしまった

医師「残念ですが……覚が非常に遅かったために手術をして助かる可能性は0だと思います」

本当に残念そうな表情だった。絶望しきった表情

それが医師のものではなく、自分のものだと気づくのに時間がかかるほど、

俺は何も解らなくなっていた


P「……前回倒れた時点で判ってたんですか?」

医師「…………………」

医師が黙り込んでしまうのも無理はない。

けれど、急かさずにはいられない

反射的に机を叩こうとした手に力が篭り、

それに気づいた医師。ではなく若い看護師が答えてくれた

看護師「判ってました。もう、手遅れだってことも……」

P「っ……小鳥さんはそのことを知ってるんですか?」

知ってるだろう。だから辞めるなんて言ったんだ

医師「知っています」

P「解ってます」

知ってたってあの人は笑う

優しい人だから、それでいてずるい人だから

誰にも言わずに、黙って死ぬつもりだったんだと、

苛立ってしまうほど簡単に理解できた


目が覚めましたよ。と言われてすぐに部屋に向かうと、

小鳥「あ、プロデューサーさん」

小鳥さんは相も変わらず素知らぬ顔で迎えてくれた

小鳥「ごめんなさい、迷惑かけちゃって」

P「……小鳥さん」

小鳥「やっぱりまだダメでした」

えへへっと子供っぽく笑い、

小鳥さんは言葉を続けた

小鳥「そういえば……お昼代返しますね」

P「小鳥さん」

小鳥「いくらでしたっけ」

P「小鳥さん!」

何度呼んでも逃げるように小鳥さんは話を続けていく

小鳥「500円で――」

P「音無小鳥!!」

だから俺はカバンに伸びた小鳥さんの手を掴んだ。逃げないように――でも、

それは逃げられないことを現すかのように震えていた


互いに黙り込み、

最初に口を開いたのは小鳥さんだった

小鳥「……嫌ですよ。プロデューサーさん」

いつもの元気さはそこになく、

明るさもなにもなく、

暗く沈んだ悲しげなものだった

小鳥「急にされたら対処しきれないじゃないですか」

P「……なんで黙ってたんですか?」

小鳥「………………」

小鳥さんは黙り、俯き。

少ししてから意を決したかのようにため息を付いた


小鳥「実は、あたしは元アイドルだったりするんです」

問いとは関係のない話。

けれど俺はそれを聞くことにした

P「やっぱりですか……なんとなく解ってました」

小鳥「あのバーで歌ってるのバレちゃいましたもんね」

社長に言われて765プロ総出で向かったとあるバーで、

小鳥さんは歌っていたし、

容姿の事もあり、なんとなくそうじゃないのかとは思っていた

小鳥「でも、大動脈弁狭窄症っていう病気で心臓の片方が人工弁になっちゃいまして」

小鳥「踊ることが出来なくなっちゃったんですよ。だからアイドルは辞めて」

小鳥「あたしのプロデューサーだった社長と一緒に765プロを設立したんです」

小鳥さんは懐かしそうに儚げな表情で天井を見つめると、

その理由を告げた

小鳥「あたしができなかったこと、見たかったものをほかの誰かと一緒に見せてあげるからって」

その結果、倒産しかけたりした……と。

P「社長も無茶しますね」

小鳥「スカウト方法の時点で無茶苦茶だから仕方ないかな」

P「それもそうですね」

でも、そのおかげで俺はプロデューサーとしてスカウトされ、

小鳥さんやみんなと出会うことができたのだ


小鳥「社長がプロデューサーさんを見つけてくれたから」

小鳥「プロデューサーさんが頑張ってくれたから」

小鳥「みんなが一生懸命頑張ってくれたから」

小鳥「だから、あたしは見たかったものが見れたんです」

本当に嬉しそうな笑顔……でも、俺はそれに悪寒を感じていた

まるで自分のすべてを話しておきたいというような、

そんな感じがしてならない

小鳥「ありがとうございます、プロデューサーさんのおかげです」

P「……小鳥さん」

言葉が見つけられず、

そんな俺を待たずに小鳥さんは続けた

小鳥「だから言いたくなかったんです。恩を仇で返すような気がして――でも、もしもの話で必死になられて」

小鳥「どうしようか迷って……そうこうしてる間に段々と壊れてきちゃって」

小鳥さんは乾いた笑いを漏らし、残念そうに呟いた

小鳥「いざ言おうとしたら言えなくて、結局こんな形でバレちゃいました」

P「…………」


いつ死ぬのかわからない

でもそれは限りなく近い将来のこと

そんな絶望的で怖くて震えている小鳥さんに対し、

俺は励ましたりすることはできなくて、

そんな無力な自分が嫌で……

俺は掴んだままだった腕を放し、

小鳥さんのことをまっすぐ見つめた

P「何かして欲しいことありますか?」

小鳥「え?」

P「何が出来るか解らないですし、なんて言えば良いかも解らないので……」

P「小鳥さんの望むことならなんだってしますよ」


小鳥「なんでも?」

P「なんでも」

小鳥さんは驚いて聞き返し、

俺はそのまま言葉を返した

小鳥「じゃぁ……」

少し赤くなって、

小鳥さんにしては珍しくもじもじとして呟いた

小鳥「あたしと結婚してくれませんか?」

P「良いですよ」

刹那の間も空かない即答だった


ここまで


小鳥「な、なんで即答出来るんですか!?」

小鳥さんはそれが気にくわなかったのか、

不意に怒鳴ってきた

小鳥「2x歳ですよ!? 消費期限ぎりぎりですよ!?」

P「全然そんなことないですよ。それに」

そして俺はそれを笑顔で否定した

2x歳なんて別に問題はない年齢だし、

小鳥さんならまだまだ前半

むしろ19、18辺りでも行けるんではないだろうか

などと思っていたりもしたし。

何より、面白くて、優しくて、明るくて

一緒にいるだけで元気になれそうな小鳥さんのことが

P「俺は好きですから」

小鳥「プ、プロデューサーさん……」

恥じらいを持ち、

正しく女の子としてここにいる小鳥さんは

なんの迷いもなく、可愛いと思えた


小鳥「でも、みんなに怒られちゃうかな……」

P「話せば解ってくれると思いますよ?」

小鳥「話すべきなのかしら。ただ家庭の事情で辞める。それだけじゃダメ?」

小鳥さんは悲しげな表情で俺を見つめ、

その心境を言葉にせずとも伝えてきた

みんなとは離れ離れになりたくない

でも、離れなくちゃいけない

出来るならその理由をごまかさずに伝えたいけれど、

それがもしも影響あったらと考えると……

でも、果たしてそうだろうか。

あのアイドル達が悲しみにくれて活動できなくなってしまうだろうか?

P「後で真実を知るよりはマシだと思いますよ」

みんなのことだ

小鳥さんが辞めたからと縁を切ることは絶対にせず、

無理やりにでも休みを取って会いに行こうとするだろう

そう伝えると、小鳥さんは呆れ混じりの笑みを浮かべ、

小鳥「それもそうですね……そういう子達ですからね」

と、嬉しそうに返してきた


そして俺達はそれをみんなに伝えた

何一つ包み隠さずに、すべてを。

ほぼ全員に怒られた、嘘だ。と問い詰められた

わざわざタクシーを使ってまで確認しに来た子もいた

会いに来て、聞いて、泣いてしまう子もいた

事情を話してから結婚するということを伝えると、

誰しもが、あの美希でさえも、

二つ返事で許可をし、祝福してくれた

小鳥「あの、プロデューサーさん」

P「はい?」

小鳥「大好きです」

P「俺も大好きですよ」

二人して恥ずかしげもなく言い合う。

そんなバカみたいな時間は、最高に幸せな時間だった


そして翌日。

俺達は以前あずささん達の撮影で使った教会を無理言って借り、結婚式を挙げることにした


ここまでで中断

100以内は無理かな。これは


律子「なんて言えば良いか……複雑です」

P「俺もですよ。望んでることではあったし、いつかはと夢見てはいた」

P「でも、こんな望まない形でってなると素直に喜ぶべきか解りません」

律子「どうしようもないんですか? 本当に? 日本じゃ無理でも海外ならできるんじゃないの?」

律子さんの必死な言葉に、

俺は黙って首を横に振った

どうしようもないのだ。

国内だろうが、海外だろうが、

ゴッドハンドと言われるような医師がいたとしても、

悪性で末期な心臓腫瘍を手術し救うことは、

『ほぼ』不可能ではなく、『確実に』不可能なのだから

千早「プロデューサー、準備は良いですか?」

ドア越しに千早の声が聞こえ、

俺達はその嫌な空気をかき消した

律子「小鳥さんがしたかったことするんですよね? なら、明るく行きましょう」

P「言われなくても――解ってますよ」

俺達はチャペルへと向かった


急遽借りたことで、

本来は準備をしてもらえることを、

全て自前で準備するというかなり手間のかかることだった

だけれど、

みんなが頑張ってくれたおかげで、

ささやかながらもかなり良い式場になっていた

P「本物に負けず劣らずだな」

新郎が新婦を待つ

その合間に、神父を請け負ってくれた真に話しかけた

真「本物ですよ、この結婚式は」

P「……そうだな」

真「はい。無事に滞りなく終わってくれることを願ってます」

おそらく意地でも終わらせるだろう

終わって倒れるとしても。この結婚式だけは、

絶対に終わらせるはずだ

だからこそ、終始笑顔で、明るく――

あずさ「来ますよ~」

やよい「はいっ」

あずささんの合図でみんなが新婦入場を歌う

全て自分たちで。

そんな結婚式も悪くはないと思える良いものだった


真「 汝は、この女、音無小鳥を妻とし、良き時も悪き時も」

真「富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み」

真「他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い」

真「妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

P「誓います!」

はっきりと言い切り、

小鳥さんも、真も少し嬉しそうに微笑み、

誓いの言葉が小鳥さんへと移った

そして……止まってしまった

真「――富める時も、貧しき時も……」

病めるときも健やかなる時も……その言葉が言えなかったのだ

健康になることはない

もうすでに病み死を待つだけなのだ


でもそれでも、

小鳥さんは笑顔で告げた

小鳥「良いわよ、真ちゃん」

真「っ……」

なにかを言いたそうに、

けれど言えずに真は言葉を飲み込み

しかし表情は隠せずに泣きそうだった

真「や、病めるときも健やかなる時も……」

続いていく。終わりへと向かっていく

真「神聖なる婚姻の契約のもとに誓えますか?」

小鳥「誓えます」

小鳥さんもまた笑顔で言い切った


真「……誓いの、キスを」

指輪の交換は残念ながら出来ず、

次に来たのは誓いの口付け

思えばこれがファーストキスだったりするわけで、

小鳥さんも照れ臭そうにはにかみつつ俺と向き合っていた

小鳥「みんなの前でがファーストキス……ですね」

P「……そうですね」

恋人という過程を飛び越えての結婚

本当なら恋人になりたかった

もっと親睦を深めたかった

遊びにいったり食事したり……デートしたかった

でも、そんな余裕があるかも解らないから

小鳥「プロデューサーさん」

小鳥さんは瞳を閉じ、じっと俺を待つ

今はここにいる、目の前で待っていてくれる

それを逃したくなくて、慣れていないからぎこちないものだったけれど、

小鳥さんの唇に自分のそれを重ねた


柔らかい感触

初キスはなんとかの味というが、

正直に言えば無味だった

けれどそのなにもない空間を埋め尽くすように小鳥さんが入ってきて

けして上手いとはいえないものだったけど、

十分に満足のいくキスだった

小鳥「……プロデューサーさん、愛してます」

P「先に言わないでくださいよ……」

キスを終え、終わってしまう結婚式

このあと他の人の予約がある上に、みんなは仕事

仕方ないと言えば仕方がないが、

出来ることならすべてをやりたかった

小鳥「ブーケを取るのはだーぁれ!」

それでも、小鳥さんのやりたがったブーケトスができたから良しとするべきだろう

美希「私が取るの!」

響「いや、自分が取るぞ」

あずさ「あらあら」

律子「今日見なさそうに見せてかなり張り切ってるわね」

小鳥「行きますよーっ!」

投げられたブーケはまるで意思を持っているかのように、

春香達の手をかわし、貴音の腕の中へと落ちた


貴音「……これは」

小鳥「音がないあたしから、音のある貴音ちゃんへ」

小鳥さんは冗談っぽくそう言うと、

貴音に対して微笑んだ

小鳥「頑張れ、貴音ちゃん」

春香「な、なんで私たちじゃないんですか!?」

千早「任せられないと思ったからじゃないの?」

単なるブーケトスなのに、

みんなはその結果を重視していたらしく、

かなり残念そうにしている人もちらほらと見えた

P「なにかあるんですか?」

小鳥「いろいろあるんですよ、プロデューサーさん」

小鳥さんは結局それを教えてはくれず、

結婚式は終わり、俺達は2人で買い物へ。つまりはデートをすることにした

中断


小鳥「なんかおかしいですね」

P「まぁ……仕方ないですよ」

結婚式のあとに婚約指輪を買おうとしているのだから、

順序が滅茶苦茶で笑えてくる

P「これなんかどうですか?」

そこで指差すのは、

大きくもなく小さくもないダイヤの指輪

それでも値段は結構するらしく、

小鳥「高いのは止めてください」

と、小鳥さんには首を振られてしまった

P「そこは普通、もっと良いのにして。じゃないんですか?」

小鳥「だって、あたしは……」

もうすぐ死ぬ。

だから無駄になる。だから安物でいい

それが分かってしまって、だから意地になる

もう一つ上の値段の指輪を俺は指差した

P「これください」

小鳥「プ、プロデューサーさん!?」


小鳥「ダメですよ! 高すぎます!」

高い。確かに高すぎる買い物なのかもしれない

だけど、それでも。

P「値段なんてどうでもいいです。滅茶苦茶高かろうが買います」

小鳥「そんな必要は――」

P「あります!」

言葉を遮り、言い放つ

小鳥さんの言おうとしていること躊躇している理由

判るし、理解できる。でもだからどうした

P「無駄になったていいです、小鳥さんが失う何十年分に尽くすはずのお金なんですから」

それは結局失うであろうお金

障害をかけて小鳥さんに費やす予定だったお金

それをただ前借りするだけのこと

P「一つ一つに、俺は一生分のすべてを込めますよ」

俺はそう言う事に、躊躇することはなかった

中断


P「さて。指輪も買いましたし、なに買いに行きます?」

小鳥「あたしは……その、物を買うより思い出が欲しいです」

俺がいきなり高額な買い物をしたことで萎縮してしまったのか、

小鳥さんはつぶやき程度の声でそう答えた

P「お金は気にしなくていいんですよ?」

小鳥「そうじゃなくて、プロデューサーさんとの物じゃない思い出が欲しいんですよ」

小鳥さんはそう言い、

不意に腕を組んできた

P「小鳥さん?」

小鳥「街中で腕組んだり、手をつないだり、買うわけでもなく街を歩いたり……」

小鳥「そんな思い出が良いんです」


顔を赤くし、

それを隠すためかほんの少しうつむき気味になった小鳥さんは、

俺の腕を組むでもなくさらに抱きしめて、

体を寄せてきた

P「こ、小鳥さ……」

さながらバカップルのような感じもする

恥ずかしくて、赤くなって、溶けていく思考の中で考えついた行動

P「………それじゃ、映画でも見ますか?」

小鳥「はいっ」

デートといえば映画だろう。

なんかの雑誌の受け売りだが、

小鳥さんは不満を言うわけでもなく。

嬉しそうに答えてくれた

歩きにくい姿勢だったけれども、

その分長く続けることができるその時間は、

かなり長く、でも短すぎる時間だった


小鳥「プロデューサーさん」

P「なんですか?」

周りの視線を受けながらも、

俺達は我関せずと道を行く

普段イチャイチャしすぎじゃないかと思って奇異の視線を向けていた者としては、

ああ、本人たちには自覚がないんだあろうな。と、

認識を改めざるを得なかった

小鳥「あたし、今すごく幸せです」

P「俺も幸せですよ」

小鳥「そうですか?」

P「そうですよ」

2人だけの世界。

もしもこの世界にだけいることができるのなら……

そう考えそうになった思考を振り払い、

見る映画を求めて一覧を眺めた


ここまで

誤字脱字が多くて申し訳ない

>>110

障害→生涯

P「無駄になったて良い~」→P「無駄になったって良い~」

ほかにもたくさんありそう


小鳥「あ、これ雪歩ちゃんが出てるやつじゃないですか?」

P「天元突破ですか……でもこれアクション系ですよ?」

小鳥「デートでアクションっていう選択肢はなしかな?」

いや、なしとは言えないが、

基本的にデートは雰囲気を作るためのものであり、

熱血系とかは正直合わない。らしい

もちろん、そういったのが趣味の2人なら話は別だろうけど。

P「ホラーとかラブロマンスとか……基本そういう系じゃないですかね」

小鳥「そうすると……半ホラー&ラブロマンスの『貴女はそこにいますか?』とかどうですか?」

P「あぁ、貴音が出てるやつですよね確か」

事務所のアイドルが出ている場合、

大抵ネタバレされるのだが、

貴音の場合は「とっぷしぃくれっと」になるため、

終始ワクワクで見れるのだ


P「いいですね、そうしましょう」

結局、俺達はそれを見ることにした


小鳥「……なんていうか」

P「そうですね」

元々悲恋ものであるという感じはしていたのだが、

想像以上に物悲しく、

それでいて自分たちに類似していたせいか、

終わってから暫くしても席を立つことができなかった

P「……あの、小鳥さん」

小鳥「良いんです、良いじゃないですか」

小鳥さんは俺の言葉を遮り、笑顔で続けた

小鳥「物語はハッピーエンドでしたし、あたしたちだってハッピーエンドで終われるはずですから」

P「……………」

確信を持って言えないことが物語り、でも、何も言えず、

俺は小鳥さんの手をとって導く

P「次、行きましょう」

小鳥「……はい、どこまでも付いていきますよ」

俺たちを追う太陽は、徐々に姿が見えなくなってきていた


小鳥「夕方ですよープロデューサーさん」

P「そうですね、もう夕方です」

もう18時に入る頃だが、

夏ということもあってまだ少し明るい空色だった

そんな光を浴びて、

黄金色に染まる街並みを眺めながら、

俺達はベンチに座り込んでいた

小鳥「……あたし、今日はもう幸せいっぱいでした」

P「喜んでもらえたなら嬉しいです」

小鳥さんの嬉しそうな声に合わせて、

俺は笑って答えた

小鳥「無理だと思ってた結婚ができて」

小鳥「みんなに祝福されて」

小鳥さんはどこか懐かしんでいるような、

そんな瞳で俺を見つめていた

小鳥「プロデューサーさんとデートができて……凄く嬉しかった」

普段の小鳥さんからは想像できない、

純粋な意味での乙女な感じがして

ああ、やっぱり好きだな。と再三以上に納得し、

そんな人と結婚できたことが嬉しくて、

けれど、そんな人が早く死んでしまうような世界に絶望して、

嘆いて、悲しんで。でも、こんな人を生み出してくれる世界に感謝して……

おもむろに最初に買った指輪を取りだし、

そして――小鳥さんを見つめた


P「結婚式挙げた後ですけど……」

小鳥「……………」

小鳥さんもやろうとしていることを理解してくれているのか、

真剣な表情で俺の言葉を待っていた

P「初めは変な人だと思ってました」

小鳥「あはは……ごめんなさい」

P「いえ、でも? いや、だからこそ面白い人だなって思って」

そう。

飲みに誘ったら面白いだろうなって思って

それから仲良くするようになって……だから

P「変な人で居てくれたことに感謝してます」

小鳥「ごめんなさい、凄く複雑です。それ」

小鳥さんは困ったように笑い、

俺もつられて少しだけ笑うことができた


P「もちろん。それだけじゃないですよ?」

優しくて、明るくて、

面白くて、お茶目で……でも仕事はかなり凄くて、

真面目なときの小鳥さんは普段とのギャップで輝いて見えて

P「……つまり、その、俺は小鳥さんの全てが好きなんです」

頬を掻きつつ。でもはっきりと伝え、続ける

P「俺は小鳥さん、いや、小鳥が好きです」

小鳥「プロデューサー……さん……」

P「俺と……結婚してくれませんか?」

過程を踏まずに行った結婚式

でもそれだけじゃ嫌だった、これこそ最大の思い出になると思った

だからこそ、遅かろうとプロポーズをしたのだ


小鳥「プ、プロデューサーさん、ぁ、あたし……」

小鳥さんの目尻に涙が浮かぶ

小鳥「変な女ですよ?」

P「そんな貴女が好きです」

小鳥「酔っ払うと面倒な女ですよ?」

小鳥さんの頬を涙が伝う

P「そんな面倒くさい部分も好きです」

小鳥「っ……もう30近いおばさんですよ?」

P「愛さえあれば年齢なんてどうでもいいです」

小鳥「すぐ怠けようとする駄目女ですよ!?」

小鳥さんの頬を流れていく涙が落ちていく

P「小鳥さんのお世話なら1から100まで歓迎します」

小鳥「……こんな、こんなあたしで良いんですか?」

胸元で自分の手を握りしめ、小鳥さんが問う

でも、考える必要はない、答えならそこにある

P「当たり前じゃないですか。それが音無小鳥という女性でしょう?」

小鳥「……馬鹿なプロデューサーさん」

P「そんな馬鹿な俺と結婚してくれませんか?」

もう一度、問う

そして指輪を差し出すと、

小鳥さんはその指輪を受け取り、指に嵌めた

小鳥「はいっ喜んで!」

夕暮れは俺達を照らし、

風に揺られた木々のざわめきはまるで祝福のように――優しかった

またあとで


プロポーズを終え、

日の沈んだ夜といっても良い時間

俺達は月明かりと人工灯の明かりの中を練り歩いていた

P「夕飯はどうしますか? 小鳥さん」

小鳥「………………」

P「小鳥さん?」

小鳥「………………」

名前を呼んでも返事は来ず、

小鳥さんは寂しそうな瞳で見つめてきた

P「な、なんですか?」

小鳥「……小鳥って呼んでくれないんですか?」

P「え……」

プロポーズでは勢いがあったからこそ言えたのだ

冷静になった今、

そう呼ぶのは非常に恥ずかしい


小鳥「呼び捨てはしてくれないんですか?」

小鳥さんの懇願するような瞳に迫られ、

俺は耐え切れず、小鳥さんから視線を外してしまった

小鳥「あっ……」

そこに聞こえた悲しそうな声

そうなればもう、

恥かしいだとかどうだとかは消えてなくなる。それに――

P「こ、小鳥」

小鳥「え?」

P「小鳥、小鳥小鳥小鳥小鳥………」

連続で言えばいい、そうすれば大丈夫

よく解らない結論に至った俺が名前を連呼すると、

小鳥さんはみるみるうちに真っ赤になり、

俺の腕にしがみつくようにして顔を隠した


小鳥「ななななんですか」

P「小鳥……さ、そ、その!」

小鳥「はいっ」

バカみたいに初々しく、

付き合って初日みたいな雰囲気になりながらも、

俺は小鳥を、

小鳥は俺を見つめ、恥ずかしいと思いつつも目を逸らすことはなく。

小鳥「あの!」

P「あの!」

2人して同時に声をかけ、でも譲りはしない

きっと言葉は一緒だから

P・小鳥「家に行きましょう!」

その結果、

俺達は一番近い小鳥さんの家に向かうことにした


ごめん、またあとで


小鳥「思えば、2人きりで来るのは初めてですよね」

P「そうですね……誰かがいるならともかく、2人きりは勇気がなかったんで」

そんな弱い自分自身に呆れた笑いをこぼすと、

小鳥は「そんなことはないですよ」と嬉しそうに笑った

小鳥「あたしも勇気がなくて誘えませんでしたし」

思い返せば誘ってくれたのは、

いつも小鳥に誘われたアイドル達だった

P「……俺、嫌われてるんじゃないかって悩んだんですよ? 割と」

小鳥「ふふっごめんなさい」

P「別に怒ってませんし、怒る理由もないです」

今はこうして一緒にいる

結婚して、2人きりで家に来ている

だから――幸せだ


小鳥「それでですね、一応……手料理を振舞おうかと思いまして」

P「こ、小鳥さんのですか!?」

思わずいつものように呼んでしまうと、

小鳥は少しむっとした表情で見つめてきた

小鳥「やっぱり止めます」

P「ま、待って下さい、小鳥の手料理は是非とも食べたいんです」

好きな人の手料理を食べるのは男の夢

そのチャンスを棒に振るなんて許されない

小鳥「作らないなんて嘘に決まってるじゃないですか」

そんな必死だったのだろうか、

小鳥は笑ってそう言うと、こほんっと咳をした

小鳥「お帰りなさい、アナタ。ご飯にする? お風呂にする? それとも……あ・た・し?」

そんな冗談じみた言葉

最後のが一番気になるのは俺も男だから仕方がない

でもまずは。

P「ご飯が食べたいです」

小鳥「春香ちゃん達に習った腕前……見せてあげるわ!」


小鳥がエプロンをつけているというのは、

かなり新鮮な景色というかなんというか。

家に来た時はいつも食事のあとだったり、

なにか出前を頼んだりするだけで、

小鳥が料理をすることはなく、

それが残念に思えていたことは言うまでもない

小鳥「そんなに見ないでください。失敗しますよ?」

P「たとえ物体Xでも小鳥の料理なら問題ありませんよ」

小鳥「なる可能性あるって思ってません?」

小鳥の物悲しそうな瞳が俺に向く

だって春香達があまり上手ではないって言ってた。なんていうのは野暮だろう

P「例えですよ」

そんな俺のフォローは無意味だった

小鳥「まぁ、否定できないんですけどね」

P「……きょ、極力邪魔はしません」

小鳥「お願いします」

小鳥も真面目に美味しいのが作りたいらしく、

そこからは基本的に無口だった


小鳥の楽しそうで、嬉しそうな鼻歌と、

リズミカルな包丁の音等がBGMとして部屋に響く中で、

手持ち無沙汰だった俺は、

近くのテレビ下の収納のDVDを手にとった

P「……小鳥ライブ?」

そこに書かれた気になる文字

俺はそれを持ってキッチンへと向かった

P「あの、小鳥」

小鳥「はぁい――ぃやぁぁぁぁぁ!」

P「うゎ!?」

小鳥は俺の手にあるそれを見て悲鳴を上げ、

即座に奪い取った

小鳥「ダメですよ!? ダメなんですってこれは!」

P「ものすごく見たいんですが……」

小鳥「それでもダメ! 恥ずかしいっ」

絶対にダメ。らしい

非常に残念だが……諦めることにした


ここまで


暫くして、

見た目は豪華、味は未定な料理の数々が食卓に並んだ

小鳥「どうですか?」

どやっと自慢げな表情で見てくる小鳥に対し、

子供ですか貴女は。などと感想を抱きつつ、

2人向かい合って座った

小鳥「えっと、まずは……」

P「お酒はダメですよ?」

小鳥「……シャンパンで」

P「小鳥さん」

小鳥「止めるからさんはなしで……」

俺が少し力強く言うと、

小鳥は悲しそうに方を落とし、

乾杯はサイダーで代用することになった


小鳥「ふ、不束者ですが。何卒宜しくお願いします」

P「こ、こちらこそ……宜しくお願いします」

挨拶を終え、グラスを握る

新婚さんの初めての夕食。いや、晩餐?

小鳥「2人の結婚を祝して!」

P「乾杯!」

カシャンッと小さな音が響き、

俺は最初の一口へと箸を伸ばしたが、

口元へはすでに一つ目が待ち構えていた

小鳥「あ~んですよ、あ~ん」

P「ひ、必要ですか?」

別に必要はないだろう

それでなくてももの凄く恥ずかしいからできれば。と思った

でも、小鳥さんは。

小鳥「あたしがやってみたいからじゃ……ダメですか?」

そう言ってただ待つ。

P「……あーん」

そして俺は負けた


小鳥「ど、どうですか? 美味しいですか!?」

基本的な料理の卵焼き

塩と砂糖、その量

焼き加減さえ間違えなければ問題ない料理

でも、これは

P「まさかの半熟!?」

小鳥「焦がすのが怖いって言ったら半熟なら良いんじゃないですかって」

グッジョブ春香!

小鳥「もしかして嫌でした?」

P「そんなことないですよ、好きですよ」

塩加減も間違いはなく、

噛めば……いや、挟んで圧縮するだけで、

その薄皮を裂き、トロッとした中身が口に広がる

最高の卵焼きだった

前から気になってたが心臓病な方が好きな人と結婚したりして初夜って可能なんかな
心臓病だからなんか危険な感じするんだがさすがに無理だよな?


小鳥「もっと凝ったものが作れれば良かったんですけどね」

P「いえ、十分ですよ」

色に偏りはなく、型崩れもない品々

それに小鳥ブランドの名が入るのだから、

十分に豪華なものだ

小鳥「もっと色々作ってあげたかったです」

P「何言ってるんですか、まだ死なないでしょう? 死にませんよね?」

俺は箸を置き、

小鳥を睨むように、脅迫でもするかのように、問い詰めた

小鳥「解らないんですよ。死にたくはないです。でも、寝てしまえばもう目を覚まさないかもしれない」

小鳥は自分の体を抱きしめ、その身を震わせた

小鳥「今日という日がだんだんと終わりに近づくたびに怖くなる、不安になる……」

小鳥「でも、どうすることもできないから、悔いがないようにしようって! そう思って……だけど」

P「………………」

小鳥「死にたくない、死にたくないです……あたし、死にたくない……」

そう嘆き、涙と声を漏らす小鳥を、

俺はただ抱きしめてあげることしかできなかった……


一旦中断


>>160

どうだろう?
いつ死ぬか解らないからこそ、多少無理してでも全力で楽しもうとするかもしれないし


P「大丈夫ですか?」

小鳥「……ごめんなさい、弱気になるべきじゃないのに」

P「仕方ないですよ、俺だったら半狂乱になってるかもしれませんし」

実際に小鳥みたいな状況になった時、

俺が落ち着いていられるかどうかと聞かれたら、

それは多分無理だ

そう考えれば、

今までこんなふうに弱気にならなかった小鳥がおかしいのだ

P「ご飯……食べられます?」

小鳥「……大丈夫です」

完全に沈んだ声

無理もないし、これが普通だろう

そんな小鳥に大して俺ができるのは、

小鳥が俺に望むことくらいしかない

俺は箸でおかずを摘み、小鳥に差し向けた


小鳥「プロデューサーさん……?」

P「小鳥もして欲しいんですよね?」

何もできなくて歯がゆい自分

それを笑顔の裏に押し隠し、俺は訊ねた

小鳥「…………」

小鳥は泣いたせいで赤くなった瞳で俺を見つめ、

また悲しそうな表情になり、けれど……嬉しそうに微笑み、

小鳥「はいっ」

そして、俺の差し出したおかずを口に含んだ

P「美味しいですよ?」

小鳥「美味しいです」

ご飯は進んでいく

俺が765プロ来る前の話、

765プロにきた時の話、

765プロに来てからの話

もう全部知ってるはずなのに、

なぜか盛り上がっていた


P「これからどうします?」

小鳥「そうですね。もう夜ですし……」

普通なら、いつも通りならここで解散して、

帰宅するところなのだが、

俺達は一応、夫婦だしそうでなくても――

小鳥「帰っちゃうんですか?」

小鳥の少しだけ遠まわしな言い方

P「いいんですか? 泊まって」

小鳥「何言ってるんですか、ここもプロデューサーさんの家と同じようなものですよ?」

そう言われたなら、そう言われなくても、

P「そうですね。今日は一緒ですよ。ずっと……一緒です」

俺はそう返していただろう

明日になったら――と小鳥の言葉がフラッシュバックし、

俺は辛い表情を隠し笑う


小鳥「じゃぁ、お風呂も一緒ですか?」

P「えっ」

斜め上すぎる言葉に、

俺はたじろぎ、それを見て小鳥は笑った

小鳥「冗談です」

P「へぇ……」

俺は嫌味な笑みを浮かべながら、

小鳥の両肩を掴んだ

P「入りましょう、一緒に。大歓迎です」

小鳥「え、えっえぇっ!?」

赤くなり、顔をそらしても横目がぶつかる。そんな距離

P「小鳥が言ったんですよ?」

小鳥「だ、だからそれは冗談で……」

P「まぁ、俺もそんな勇気ないんですけどね」

小鳥「で、ですよねっ!」

安心したのか、それとも残念なのか、

小鳥は小さく笑った


中断


小鳥「じゃぁ、プロデューサーさんお先にどうぞ」

P「いいんですか?」

小鳥「あたしの方が長いですから」

小鳥は女性だし、時間かかるんだろうなと思いつつ、

髪の長さはそんなに関係ないんだろうか。と、

新しい疑問が浮かんだ

P「それなら……お先に失礼します」

小鳥「はい、どうぞ」

小鳥の笑顔に送られて風呂へと向かう。

なんて新婚生活

ずっと憧れていた生活がここにあるのだ

夢だったら続いて欲しい

いや……夢なら。

夢なら覚めて欲しい


P「小鳥さん――小鳥が使う風呂……」

変なことを考えちゃいけないと思うが、

心頭滅却なんていうことはちょっと出来そうにない

伊織だったり千早だったり。

うちのアイドル達がCMをやっているシャンプーやらリンスやら、コンディショナーやらが並んでいる

そして、それらをあの人がいつも使っているのだ

P「……無心になれ、無心だぞ」

シャワーの流れる一定のリズムに任せ、

自分の心のリズムも一定に保つ

しないなんて無理ではある。

でも、だからといって自分一人そんなふざけた気分になるなど、

許せなかった


P「いつも感じる匂い……」

朝会う時、すれ違った時

香水に混じる匂いの正体

子供みたいに僅かながら心を躍らせていたことを思い出すと、

恥ずかしくて、バカみたいで、

洗い終え、浴槽に使っていた俺は大きくため息をついた

P「本当……バカみたいだ」

そんな時も、彼女の体は蝕まれていた

こうなるまで勇気を出せなかった自分が憎い

彼女を苦しめる世界が憎い

でも……どうすることもできやしない

P「……早く出よう」

今こうしている間も、

彼女は死に近づいているのだから

少しでも長く、少しでも多く……一緒にいたいのだ


小鳥は結局俺の倍くらいの時間をかけていた

だからといってどうこう言ったりはしないけど。

小鳥「ごめんなさい、長くて」

P「全然問題ないですよ」

風呂上りという妖美な雰囲気の小鳥を直視できず、

首を変な方向に曲げつつ答えた

小鳥「すっぴんお断りですか?」

P「いや、そんなことは全然」

ちらっと見えた限り、

すっぴんはすごく綺麗だった

小鳥「見てください、あたしを」

P「え?」

小鳥「プロデューサーさんには見て貰いたい。逸らさないで欲しいです」

そう言われ、直視する小鳥の素顔

綺麗だった可愛かった

P「可愛いですよ」

小鳥「本心ですか?」

P「本心ですよ」


小鳥「なら、プロデューサーさん」

P「はい?」

少し赤い表情で、

小鳥は俺を見上げてきた

小鳥「……キス、しませんか?」

そして問われる言葉

キスとは、キス

結婚式でしたファーストキス

これは2人でする誰にも見られないファーストキス

考える必要もなく、彼女の口元へと近づく

優しく、柔らかく、暖かな感触が広がっていく

そしてそれは少しだけ深くなる

舌と舌が触れ合う深いキス

小鳥「ふふっ」

なんだか筆舌にし難いものだった


小鳥「……………」

P「………………」

そんな経験をしたせいか、

心と体が行為を求めるように赤くなっていく

P「も、もう寝ましょうか!」

でも、できるわけがない

いつ死ぬか解らない彼女にそんな行為はさせられない

理性で抑えてそう訊ねながらも、

俺は用意されていた布団へと横になろうとした

けれど小鳥は服の裾を掴み、止めてきた

小鳥「ダメですか? プロデユーサーさん」

P「でも……」

小鳥「これが最後にしたいこと、貴方としかしたくないことなんです、だから……」

多少無茶だって良い、無理だっていい

やらないままに死ぬのは嫌だからと、願ってくる。求めてくる

P「……解りました」

拒否なんて、拒絶なんて。できるはずもなかった


小鳥「実を言うと、あたし――」

P「いえ、言わなくて平気ですよ」

小鳥「へぇ……プロデューサーさんは経験豊富なんですか。そうですか」

小鳥に睨まれ、

否定しようとも思ったが、

すぐに悪い部分が割り込んだ

P「俺が経験者だったらどうします?」

小鳥「失望しちゃいます、キスが素人なのに経験アリだなんて」

普通に返されてしまった

P「すいません、嘘です」

小鳥「知ってますよ」

なんか傷つく一言だった


小鳥「……えっと、まぁそういうわけなので」

和んだと思えば、

またそんな雰囲気に戻ってしまう

P「そう、ですね……」

思春期を経験した一人の男としては、

ちょっとあれな画像やら動画やらを見たことがないといえば嘘になる

かくいう小鳥も経験はなくてもそういう知識を持っていたりするわけで

P「電気、消します?」

小鳥「消してできるほど慣れてないのに?」

P「面目ない」

小鳥「年上のあたしの方が。ですよ」

彼女は笑うと、

着ているパジャマのボタンを外した

P「こ、小鳥s……」

小鳥「見て下さい、あたしの全てを」


いつも着ている業務服の上からでもわかるほどに、

小鳥のスタイルは凄く良い

それが今、何も纏う事なく目の前にいる

それだけで大喜びしてしまいそうなものなのに、

彼女は俺の手を掴むと、それを自分の胸に触れさせた

小鳥「結構自信あるんですよ? まぁ、そろそろ垂れそうですけど」

困った笑みを浮かべつつ、彼女は言う

小鳥「触って良いですよ、掴んでも握っても、揉んでも。何しても良いんですよ」

P「っ…………」

理性はある。でも、

そう言われて拒絶できるほどに俺は馬鹿じゃなかった

柔らかい感触が手のひらから、指から、その間から。

手全体から伝わってきて、俺はどうしようもなく高ぶり、

けれど優しく、繊細にそれを撫でた


小鳥「控えめなんですね」

P「し、仕方ないじゃないですか!」

思わず語尾が強くなってしまう

悪いが童貞である。

よってどうすればいいだとかは解らない

ちょっとアレなものに映る人たちは手馴れているだけで、

参考にしようとしてできるわけではないのだ

小鳥「なんていうか……もう、枠に囚われるの止めませんか?」

P「はい?」

小鳥の急な言葉に首をかしげると、

不意に視界が一転し、俺の体は小鳥に覆い被さるような形になっていた

小鳥「したいようにして良いですよ。あたし、攻められる方が好きです」

P「って言われても……」

戸惑っていると、小鳥は俺の頭をつついた

小鳥「何のための妄想、シュミレーションですか?」

小鳥「こうなったらこうしたいとかああしたいとか、考えたことないんですか?」

確かにあるにはあるし、参考になるものがない以上、

そう言うのに頼るしかないのも事実だ

P「良いんですか?」

小鳥「お願いします」

そして、俺はもう一度彼女の口を塞いだ


中途半端だけど今日はここまで


200までにはと思ったけど無理だった


さっきよりも長いキス

こうすれば良いのか。と、

少しだけ解って上手くなった……ような気がする

小鳥「っは……ぁ」

P「……はぁ、はぁ」

熱いと息がぶつかって、

ただでさえ熱い体が更に熱くなっていく

けれど、それを気にする余裕はない

小鳥「プ……プロデューサーさんはキスがお気に入りですか?」

少し切らした息で問われ、

P「まぁ……初めてしたことですし」

俺は少し考えて答えた

正直、キスから先に進みたいけど進めないだけだったりする

そんな俺の気持ちを理解してか、小鳥は薄く笑った

小鳥「怖いんですか?」

P「うっ……」

小鳥「じゃぁ、まず見ることから始めましょうか」

そう言い、彼女は最後の下着を外し、その全てを晒した


P「ちょ、ちょっと……」

小鳥「逸らしちゃダメですって、プロデューサーさん!」

動かそうとした頭は、

彼女の両手で抑えられ、俺は思わず目を瞑ってしまった

小鳥「画像とかで見たりしてないんですか?」

P「修正入ってるじゃないですか、そういうの」

小鳥「へぇ……見たんですか」

女性となんていう話をしてるんだろうか……

そんな思考を遮るようにじとっとした視線を感じ、口が曲がった

P「お、俺も男ですし……」

小鳥「じゃぁあたしも見てください」

P「好きな人のはまた一段と恥ずかしいというかなんというか……」

小鳥「ならプロデューサーさんの見ちゃいますよ?」

その言葉のあとに自分の下着が少し動かされたのに気づき、

目を開かざる負えなく、すべてが視界に映った


小鳥「ふふふっ、ちょっと強引でした」

P「っ……もう、優しくしませんよ?」

初めて見るその姿

好きな人の、小鳥の全裸体が視界に映る

押さえ込むための理性までが、

そちら側へと興味を移す

小鳥「そう言いつつ優しいのが貴方じゃないですか」

P「信頼されてますね、俺」

彼女の笑みと共に届いた言葉を、

俺は嬉しく思いながら、彼女の胸へと触れる

P「上手く出来るか解らないですが、やらせてください」

小鳥「お任せします」

その言葉で始まる行為

胸を撫で、揉み、

彼女の全てを記憶に刻み込むかのように全身をくまなく撫で回す

忘れないために、永遠に生きていて貰うために


そしてやがてその手は彼女の恥部へと触れる

小鳥「んっ……やっとですか?」

待ち焦がれていたというような、

そんな瞳で彼女はつぶやき、微笑む

P「俺、好きなものは最後に食べる派なんですよ」

小鳥「食べるなんて……そんなぁ」

いつもの調子の言葉

でも、それは少し淫美な空気を含んでいた

P「えっと、その……」

小鳥「あー……えっとですね」

知識のない俺の為にか、

彼女は自分の指で、自分の感じやすい場所に触れた

小鳥「んっ……っ……」

小さく声を漏らし、彼女はおかしそうに笑いをこぼし呟く

小鳥「プロデューサーさんに見られてると……倍増ですっ」

その声は淫美な空気を持ち、恥ずかしさや嬉しさも篭ったものだった

それを聞いてもなお、何もしないなんていうのは俺でなくてもたぶんきっと不可能だ


好奇心かなんなのか、

俺の手は小鳥の指が触れる場所へと伸び、

ぎこちなさこそあるものの、躊躇なく触れた

小鳥「っ!?」

P「大体解りました」

いきなり入れるのは凄く痛いと聞いたことがある

だからこそこの前戯は重要なわけで、

ちゃんとできないといけない

小鳥「ま、待ってプロデューサーさん!」

今まで誘い続けてきて。

今さら止めてで止まれるわけがなく

少し突起した彼女のそれを軽くつまみ、弄る

小鳥「ぁっぷ、プロっ」

俺の腕を掴んだ彼女の手に力が入り、

少しだけ痛いと思いながらも止めはしない

P「このまま……」

小鳥「だ、駄目っ……ぁっ」

手にかかるほんのりと温かい液体

P「おしっ」

小鳥「ち、違いますよ!」


小鳥「馬鹿なんですか!?」

真っ赤になりながら怒る彼女を珍しいな。なんて思いつつ、

可愛い……と、呟く

小鳥「もうっ聞いてますか?」

P「聞いてますし、一応解っての冗談でしたから」

小鳥「デ、デリカシーを養う必要がありそうですねっ!」

怒っても怖くない、むしろ可愛いから怒らせたいと思ってしまう

そんな悪い思考を払って彼女を見つめた

P「……ラスト、行きますか?」

凄く痛いと聞くその先

でもそれをしなければ中途半端だし、

行為をしたとはいえないだろう

小鳥「……………」

小鳥は少しだけ不安そうに考え、

俺を見つめて答えた

小鳥「……優しくしてくださいね?」

遠回しなゴーサイン

P「解りました」

そして行為は最終段階へと進んだ


縦に割けたその奥に見える入り口らしきものは2つ

困惑する俺に対し、小鳥は下の方を指した

小鳥「こっちですよ。上は入りません」

こういうときにリードするべきなはずなのに、

完全にリードされているという残念な状況に、

内心泣きそうだった

P「……本当に入るんですか?」

どうみても小さい場所

入れれば避けてしまうじゃないかと畏縮する

けれど、彼女は笑って答えた

小鳥「大丈夫ですよ。ここから子供が出るくらいですから」

思えばたしかにそうだ

P「な、なら失礼します……痛かったら言ってください」

小鳥「もっとリラックスした方が良いんじゃないですか?」

色々な理由で緊張している俺の頬を、

彼女の手が撫で、少し落ち着く

小鳥「楽しみましょう? 今を」

冷静になって見える、小鳥の目尻に溜まる涙

P「……………」

思わず言葉が消え、思考がリセットされ……気づけば笑っていた

P「そうですね、初体験ですから!」

小鳥「この歳でって話ですけどね」

2人して笑い、心が落ち着く

そのままに、俺は小鳥の中へとそれを進めた


思った以上に狭くてきつく、

中々奥へとは進んでくれないし、

それだけでなく小鳥の表情は少しだけでなく辛そうだった

P「ぬ、抜きますか?」

小鳥「だ、だぃっ……大丈夫っ……です、からぁっ」

明らかに大丈夫そうではなく、

問答無用で抜こうとしたが、

腕を強く捕まれ動きが止まる

小鳥「最初はそんなものですからっ……慣れれば、行けますからっ」

P「っ……」

彼女のその必死な訴えに、

痛みを伴ってなんかいない俺が逆らうなんて出来るわけない

P「ゆっくり入れますからね?」

小鳥「はいっ……」


少しずつ、少しずつ。

でも、確かに進んでいく

そして、やがてそれは儚く脆い夢の壁にぶつかった

P「っ」

小鳥「痛っ……」

掴まれた腕に痛みが走る

でも、小鳥の痛みはそれ以上であることは感じなくても解った

ここで引いた方が良い?

いや、痛みが長引くだけなはずだから……

P「行きます、先に」

小鳥「んっ、っ、はぃっ」

苦悶の中の僅かな笑顔

大丈夫ですよ。という意味を持つそれに対し、俺は微笑んだ

そして小鳥のその壁を突き抜け、

俺の腕の皮膚も、彼女の爪痕が残るくらいに食い込んでいた


中断


小鳥「はぁっ……っ……」

P「大丈夫ですか?」

小鳥「……かなり痛いですよ」

痛みを感じないことが妬ましいのか、

小鳥は少しだけ睨みをきかせてきた

P「やめますか?」

小鳥「喪失だけなんて嫌です」

小鳥の強い言葉

小鳥「ここで終わるなんて嫌です、プロデューサーさんっ」

それは行為か、自身の人生か

俺はそれをなんとなく解って、

だからこそ、頬を流れていく彼女の涙を拭った

P「続けましょう。少し間を置いて慣らしてから」

繋がったまま一息つく

なんて異様な光景なんだろうと頭の中の傍観者は目をそらす

小鳥「ごめんなさい、プロデューサーさん」


P「はい?」

不意を付く謝罪に思わず首をかしげてしまう

小鳥「あたしがもしも勇気を出していたら、もっと早くこうなれたのに」

P「それは俺の台詞ですよ、小鳥」

そう、男である俺の台詞

そして、彼女はそこに続けた

小鳥「そうだったら……子供くらい残せてたかもしれませんね」

P「っ……そんな、のは……」

子供ができるまでの期間ですら生きられないと、

彼女はきっと悟っている。未定の死。けれど確定の死が近いことを、

体が警告でもしているのだろう。だから倒れた……2度も

小鳥「子供はかっこよかったかな? それとも、可愛かったんですかね……」

かなわぬ願いに思いを馳せる姿は、

同情さえも許さない、そんな薄幸なものだった

P「きっと……可愛くて格好良い。凄い子です」

泣くのは止めたい。泣きたくないです

そう言い聞かせる体は逆らって、ポロッと一雫を彼女の体に零す

小鳥「……ごめんなさい、プロデューサーさん」

もう一度、彼女は呟くように告げ、その唇を俺へとぶつけてきた


小鳥「大好きです、大大大っ好きですよ、プロデューサーさんっ」

彼女も泣いていた。

けれど、それはとびきりの笑顔で影って消えていく

笑ってくれと彼女が言う。

言葉にせずとも心が伝わる

P「馬鹿ですね、そういうのは男が先に言うもんですよ?」

笑う。笑ったけれどそれは小さくて、

小鳥の両手が優しく包んできた

小鳥「じゃぁ、言ってくれますか?」

その問いに、微笑む

P「大好きですよ、小鳥。俺は貴女を永遠に愛します」

小鳥「あたしも、永遠に貴方を愛します」

言い合って、自然と消えていた痛み。

俺は優しく行為を進め、

小鳥の中に自分を、自分の中に小鳥を――刻み込んだ


ここまで。

もうすぐ終わると思う


終わってみれば呆気なく、

それでも時刻は既に深夜という長くて短かった行為

その中で消耗した体力は普段の仕事の半分くらいだった

そのせいか、

終わってからも暫く荒々しい呼吸は整うことはない

P「け、結構疲れるんですね……」

小鳥「休みの日にしかやりたくないですね、これ」

未経験者だった俺たちは、

そんな感想を述べつつ瞳を閉じる

そばで聞こえる呼吸、そこにいるという証

それを感じることができることが嬉しく、

それが急に消えてしまうことが恐ろしくて、泣きそうになって、押さえ込む

P「あの……小鳥」

小鳥「なんですか?」

P「いえ……」

呼べば帰ってくる言葉、返してくれる言葉

P「一緒に死んじゃダメですか?」

血迷った言葉、返ってこない言葉。

けれど、ため息がぶつかった


小鳥「何馬鹿なこと言ってるんですか」

P「だって……」

小鳥「あたしはそんなの嬉しくありません」

そんなことは分かっている

そんなことは理解できている。だけど……

女々しいと言われようが、馬鹿らしいと笑われようが。

P「俺は貴女と一緒にいたいんですよ!」

思わず怒鳴って、

よこにある小鳥の顔が俺を見つめていることに気づいて、

飛び起きてしまった

それを追う小さな笑い声

振り向けば、彼女も半身を起こして俺を見ていた

小鳥「素直に嬉しいです」

彼女はそういい、続けた


小鳥「でも、死んで欲しくないです」

P「っ」

小鳥「頑張ってる貴方が好きです、楽しそうにしてる貴方が好きです」

小鳥は泣きそうになるのを我慢しながら、

それでも目をそらすことなく言い放つ

小鳥「嬉しそうな貴方が好きです、がっかりしてる貴方が好きです。全部の貴方が大好きです」

P「俺だって――」

小鳥「だから!」

言葉を遮る大きな声

自然と黙り込むしかなかった

小鳥「だから、これからもそんな貴方でいてほしいんです、あたしは」

小鳥の願い。

そんなことを言われて、死にますなんて言えない

泣かないことなんてできない

涙を零す彼女を強く、強く抱きしめた

P「解りました――小鳥の願い、ちゃんと……聞きます」

そして抱き合ったまま眠りについた



翌朝――……彼女が目を覚ますことはなかった


ここまで

そうだ!未来のタヌキじゃなかったネコ型ロボットを喚ぼう!やつならその道具でなんとかしてくれるはずだ!

                          〈       . ’      ’、   ′ ’   . ・
 あああぁぁぁぁ! >>228の家が!!! 〈      、′・. ’   ;   ’、 ’、′‘ .・”
                          〈       ’、′・  ’、.・”;  ”  ’、
YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY´     ’、′  ’、  (;;ノ;; (′‘ ・. ’、′”;

                              、′・  ( (´;^`⌒)∴⌒`.・   ” ;
::::::::::::::::::::::   ____,;' ,;- i                、 ’、 ’・ 、´⌒,;y'⌒((´;;;;;ノ、"'人

::::::::::::::::::   ,;;'"  i i ・i;                _、(⌒ ;;;:;´'从 ;'   ;:;;) ;⌒ ;; :) )、___
:::::::::::::::  ,;'":;;,,,,,, ;!, `'''i;.               / ( ´;`ヾ,;⌒)´  从⌒ ;) `⌒ )⌒:`.・/\
:::::::::::  ,/'"   '''',,,,''''--i                / :::::. :::    ´⌒(,ゞ、⌒) ;;:::)::ノ. _/    \
:::::::::  ;/  .,,,,,,,,,,,,,,,,,   ;i'⌒i;         /    ノ  ...;:;_)  ...::ノ  ソ ...::ノ__/       \
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P「っ……」

小鳥は亡くなってしまった

俺たちの目の前から居なくなってしまった

今日は葬式。

仕事のあるなしに関わらず、

765プロのみんな、

そして小鳥のご両親や友人たちが集まってくれた

伊織「馬鹿……早すぎるでしょうが……」

やよい「小鳥さんだって死にたくて死んだわけじゃ……」

伊織「解ってるわよ! だから、だから馬鹿なんでしょ!」

やよい「い、伊織ちゃん……」

あの伊織でさえ平常心が保てず、

やよいに対して怒鳴ってしまっていた

あずさ「伊織ちゃん、奥の部屋で休みましょう?」

あずささんの優しい声が伊織を撫で、

少しだけ心を落ち着けた

伊織「っ……ごめん。やよい」

やよい「ううん、良いよ……私も凄く悲しいもん」


雪歩「小鳥さん……私、貰ったもの何も返せてないのに……」

千早「みんなそうよ。萩原さん。何も返すことが出来なかったわ」

真「そうだね。何もしてあげられなかった。してあげたかった。なんて後悔するのさえ苛立ってくるよ」

真や千早、雪歩もまた、

小鳥の死を嘆き、悲しんでいたし、

いつも眠そうな美希や、いたずら好きの亜美真美でさえ、

変な素振りは一切見せず、

小鳥のことを心から大切に思っていてくれたんだな。と、

改めて感謝する。そんな俺の肩を、貴音が叩いた

貴音「大丈夫でしょうか?」

P「貴音……」

あの結婚式のブーケを受け取った少女、四条貴音

彼女は心配そうに俺を見つめ、訊ねてきた

P「………………」

大丈夫なんて言えなかった。

言葉なんて何も言えなかった

そんな俺を、貴音の暖かさが包んでくれた


貴音「堪える必要などありません。悲しいときは泣いて良いのです」

P「貴音っ……」

貴音「わたくしは小鳥嬢より後を任されました……ですから、良いのです」

貴音自身も悲しそうな表情をしながらも、

涙を堪えて俺を見つめ、言う。

貴音「あなた様は泣いて良いのです。泣かねばならぬのです」

P「そんな、こと」

貴音「一番悲しいあなた様が泣かずに、誰が泣くことができましょうか?」

P「…………」

いいえ、できません。と貴音は俺が何かを言うよりも先に答えた

正直に言えば泣きたい。でも、泣けずにいた

それは小鳥を笑顔で送りたいから。

でも、無理だ。ごめん……小鳥

寂しいんです、悲しいんです、悔しいんです、辛いんです、苦しいんです

P「小鳥いぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

抑えきれずに涙声で名を叫ぶ

貴音「それで良いのです……あなた様……」

貴音は俺の頭を撫でながらも、

俺につられるようにして涙をこぼしていた


変に重いので今日はやめておきます

朝にできれば……明日には終わるかも


暫くして落ち着き、俺は貴音から離れた

貴音「もう、良いのですか?」

P「……ああ、ごめんな」

迷惑をかけた、心配をかけた。

なのに貴音は嬉しそうに微笑んだ

貴音「あなた様のお役に立てたのならそれで満足です」

響「ぴよ子……って呼ぶのはもうダメだな」

P「いや、小鳥ならいつもの呼び方の方が嬉しいと思うぞ」

みんなと同様に悲しそうにうつむく響きに言うと、

今にも泣きそうな表情で俺を見つめてきた

響「ぴよ子は幸せだったんだよな? 自分、ぴよ子を困らせてばっかりだったのに……」

真美「ひびきん。真美達も迷惑ばかりだった……だけど、」

亜美「いっとも楽しそうで、嬉しそうで……幸せだって、そう言ってたよ」


みんな悲しんでくれていますよ、小鳥

みんなが貴女をこんなにも思っていてくれましたよ

みんなが貴女をこんなにも好きでいてくれましたよ

静かに眠る彼女の横顔を見つめながら、心の中で教えてあげると、

小鳥の嬉しそうな姿が目に浮かんで来て

俺も少しだけ笑うことができた

P「……ありがとうございました、小鳥……さん」

さん付けはダメだって言ってたけど、

でも、やっぱりこの方がしっくりくるんですよ

今までお疲れさまでした

今までありがとうございました

もっと早く貴女と出会いたかったです

もっと早く貴女と恋をしたかったです

……………。

P「貴女と結婚できて、貴女と1日限りでも2人で居られて良かったです」

俺は凄く……幸せでした


小鳥さんはもう居ない

でも、誰ひとりとして引きずることはなく、

数日経った今日までも、今日も。

みんなは明るく、元気に過ごしていた

P「それで伊織、あの小鳥さんのライブDVD今どこに行ってるんだ?」

伊織「それなら家にあるから……あとで返すわ」

小鳥さんが見ちゃダメだと言ったCDは、

伊織達に見つかり、

全員が回し見るというまさかの自体に陥り、

今は伊織が所持しているとのことだった

俺でさえ見てないのに……と、ちょっと残念な気持ちになる

P「そっか」

伊織「それでなんだけど……一つお願いがあるの」

P「ん?」

伊織からの願いは珍しいことではないが、

今回は真剣なものらしく、伊織の表情は少し険しかった


伊織「これから始まる全員参加の生放送、5分だけ最後に時間が欲しいの」

P「え?」

千早「せっかくだし、全員で歌を一曲。とかしたいんです。どうにかできませんか?」

千早達の気持ちはわかるが、

今回の生放送はほかの出演者も多く、

765だけがそんなことはおそらくできない

けれど、いうだけはいってみるべきか……

P「解った、話してみるよ」

伊織「悪いけれど、お願いね」

伊織はそう言い残し、撮影へと向かった

P「プロデューサーの手腕が試されるな」

俺が頑張らなくちゃいけない

最後の5分。

765だけのアピールタイム

難しいかもしれないけど……

P「あの、すみません」

「ん?」

P「実は、今日の最後に5分だけ――」

「ああ、大丈夫。むしろ問題ないですよ、765さん」

まさかの返答だった


P「どうして……」

「いや、実はこの放送の後にジュピターのライブの放送があるんだけどねぇ……」

ジュピターと言えば961プロだ

なにか仕掛けて来そうな気がしなくもないが……

身構える俺に対し、ディレクターは困ったように首を傾げると、

その理由を答えた

「少し手間取っているらしくて、空いちゃう可能性があるんだよ」

P「その埋め合わせをうちが?」

「そういうことになるかな。そちらさんと利害も一致するし」

ねがってもないことだ

P「解りました、時間を頂きます」

そして終了間際、

TV画面の方には次の番組の遅延情報がでているころ、

MC側にそれがカンペで伝わった


「次のジュピターさんが遅れているということで、ここは……」

美希「美希達が頑張るの!」

MCの言葉を遮って美希が飛び出す

「ええ、では新曲の――」

あずさ「いえ、実はお話ししたいことがあるんです」

千早「すみません、MCさん」

「い、いえ……」

765アイドルたちの物悲しげな空5気に、

スタジオ全体が暗くなってしまう

そこでようやく、何をするつもりか気付いた

春香「先日、私達765プロの事務員であり元アイドルの音無小鳥さんが亡くなりました」

やっぱりだ……

みんなはここで小鳥さんについての自分達の心境を吐露するつもりなのだ

元アイドルということもありすでにニュースにはなっているが、

ここでもう一度……という魂胆だろう

春香「私達を影で支え続け、沢山の恩恵を与えてくれた小鳥さんはもう居ません」

真「ボク達はその恩返しも込めて一曲披露しようと思います」

一曲?

俺はなにも聞いてないから、

持ってきているものには限りがあるぞ?

そんな心配をよそに、

伊織は一枚のCDを出した

伊織「これは小鳥……彼女がアイドルだったときに出すことができた最初で最後の曲」

それを出した後のライブで不良を訴え、

あの大動脈弁狭窄症というものが発覚し、引退した


いや、そうじゃなくてあいつらいつ練習を……

今や大人気の765アイドル達に練習する時間はほとんどなかったはず

P「……あ」

もしも手本となるものがそばにあれば、いつだって練習できる

そしてそれは、伊織が回し見るといった……

貴音「実は特別げすとも来ています」

「え?」

それは誰も聞いていない

少なくともアイドル達は全員知っているようだが……

伊織「今日限りの復活よ、小鳥」

伊織の笑み混じりの言葉

それは冗談でもなんでもなく、

小鳥「皆さん、お元気ですかー?」

真実として目の前に存在していた


P「こ、小鳥さん……?」

小鳥「今日はあたしの歌を披露しようと思います」

彼女の姿が見える

俺だけに見える幻覚ではなく

彼女の声が響く

俺だけの幻聴ではなく、全員に聞こえる声だ

貴音「本日限り、このお方とともに歌いたいと思います」

小鳥「みんな、よろしくね?」

やよい「はいっ」

千早「はい」

響「任せて欲しいぞ!」

それぞれが嬉しそうに答えを返す

小鳥「では、聞いてください! 音無小鳥で……空」

あのバーできいた曲

それをいまここで、小鳥さんが、みんなが……歌う


ここまで


>>264

真実として~の前に

突然現れた彼女は   ←追加で

真実として目の前に存在していた


みんなは歌も踊りも完璧で、

その中で主役として踊る小鳥さんはもっと素敵で。

かなり輝いて見えた

そんな言葉にし難い曲も、

5分という短命に終わりを迎えてしまう

曲が止まり、みんなが止まり、

湧いた歓声にみんなが、小鳥さんが。嬉しそうに笑う

小鳥「ありがとう、ございました!」

そこでようやく、

それが本人ではなく、ホログラムという立体映像であることに気づいた

汗をかいてはいるが、それが現実の床に落ちることがなかったから

小鳥「それで……なんですけど。大切な報告があります」

小鳥さんはそう切り出し、呼吸を整えた

小鳥「あたし、音無小鳥は本日を持ってアイドルを引退します!」

P「これって……」

音声は小鳥さんの引退ライブのやつなのだろうか?


小鳥「本当はもっと踊ったり、歌ったり。みんなに見せたいな。なんて思っていたんですが……」

その小鳥さんは悲しそうに言うと、続けた

小鳥「あたしの体はもう踊れません。今だって死にそうです。だから、これでアイドル音無小鳥は死ぬかもしれません」

その時の実際の観客の姿が、

今いる現実の観客とダブって見える

そのくらいに、お客さんや、アイドル達も悲しそうだった

そんな俺たちをよそに、

やはりというか……彼女は満面の笑みを浮かべた

小鳥「でも、あたしは小鳥です。ただの小鳥じゃありませんよ」

P「小鳥さん……」

思わず名を呼ぶと、

一瞬、彼女が見つめてきた気がしてたじろぐ

小鳥「あたしは小鳥は小鳥でも不死鳥ですから、いつかまた。必ず帰ってきます!」

そう宣言し、頭を下げた

小鳥「今までありがとうございました!」

光が消え、彼女もまた消えていく。

残された俺たちは一瞬の沈黙の後、

拍手喝采、賑やかな世界へと変わった

ここまで


小鳥さんがしたくてもできなかったことを、

アイドルたちは、いや、伊織が出来るようにしてくれたのだ

あとで聞いた話、

ホログラムという立体映像を作るためにあのライブのDVDなどが必要だった。とのこと

そして、資金源は主に水瀬財閥である

そのことについて伊織に話したのだが、

返ってきたのは、

伊織「何も返せなかったから。だからせめて、お別れぐらいはさせてあげたかったのよ……」

といういつもの刺のある言葉ではなく、

伊織自身の純粋な心遣いだった

それについて怒ったり、何かを返そうというのはおそらく失礼な行為になるだろう

貴音「ようやく……本当のお別れができました」

いつの間にかとなりに来ていた貴音は、

少し嬉しそうに呟いた


小鳥さんは何も言えずに去っていってしまった

確かにあの夜、

俺は小鳥さんにいろいろと言われた。

けれど、別れの言葉は一言もなかった。

死ぬのが怖いというだけで、

さようならという言葉はなかった。

でも、今、ここで

ようやく、小鳥さんは俺だけでなく、

アイドル時代のファンや、

765プロのみんなに別れを告げることができた

P「……ありがとうございました。か」

またしても先に言われてしまった

いつもいつも先を超えていく。

鳥のように自由な人

P「今まで、本当に……ありがとうございました」

声は届いただろうか、歌は届いただろうか。

俺は心の中でそう訊ね、貴音や、アイドル達みんなを見つめた


P「みんな。小鳥さんはいつまでも……一緒だ」

貴音「ええ、わたくしたちの記憶、心、軌跡。その全てに小鳥嬢はいます」

だから、忘れることはない。

だから、もう泣いたり、嘆いたりなんてしない

大丈夫。貴女がいなくても俺たちは笑っていける

いつも明るい事務所、明るいアイドルでいることができる

P「だから見ていてください、安心して」

もう心配させませんから。

美希「ハニー、嬉しそうなの」

千早「貴女もね」

春香「みんなだよ。みんな嬉しいんだよ」

雪歩「そうだね、みんな嬉しいですよね」

P「よしっ帰ろう……事務所に!」

大切な人を、たいせつなものを。

失っても、世界は動いていく。

だから……俺は小鳥さんの願い通り

前向きに、明るく生きていきます

そう、約束しましたからね


一応終わりです

誤字脱字多かったけれど
気にせず読んでくれたことに感謝です

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