銀時「今にも落ちてきそうな空の下で……」 (94)

あらすじ


艦隊の国-そう呼ばれていたのは今は昔。かつて提督達が仰ぎ夢をはせた横須賀の海には、突如姿を現し台頭した『深海棲艦』の船が入り乱れ、街には深海棲艦達がふんぞり返って歩く。

提督達は船も地位も、そして誇りも失った……。

そんな横須賀の街で万事屋を営む坂田銀時の元にとある軍人らしき人物が現れる。なんでも無くした物を取り戻したいそうだ。

坂田はその軍人に問う。「一体てめぇは何無くしたっつーんだよ」。軍人は答える「我々の誇りと、そして、艦隊」。

一方そのころ、横須賀の片隅ではカ級深海棲艦とその一味が横須賀掌握を目論み策謀を交わしていた……。



※銀魂×艦これのクロスssです


※艦これとクロスしてますが正直艦娘はほぼ出ません……多分







銀時「今にも落ちてきそうな空の下で……」




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こないだのスレはどうすんの?
依頼だした?

>>2
一応だしときました……本当にすいませんでした


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     ・


       

    ・
    ・
    ・   
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    ・


ワーワー……ー

ドゴォーン パラパラパラ……

バラララ バララララララララ

ウ……ワアア……タス……ケ……


――おい、もっと手を伸ばせ!


――くそっ! ダメだ! もっとだ! もっと伸ばせ!


 ガゴン ファンファンファン……


――!?


――お、おい待ってくれ! まだ助けなくちゃいけない奴が大勢残ってるんだ!


――くそっ! あと一歩のところで手が届くんだ! 頼む待ってくれ! 


――俺の友人がまだ大勢残ってるんだ! 頼む! 彼らを置き去りには出来ない!


――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!



……

~横須賀 万事屋 銀ちゃん~

銀時「zzz」グガ-

 
 カチッ……カチッ……カチッ……


銀時「zzz」スピー

 
 カチッ……カチッ……カッ!


ジャスタウェイ「ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリィィィィッィィィ!!!!!!」


銀時「!!!」ビクゥ!


銀時「……」プルプル


銀時「…うるせぇえええええええええ!!!!!!!」バコォーン ドガッ


ジャスタウェイ「……ジ……ジリリ」ドサッ


銀時「……」バッ


銀時「zzz」グガー

    
    ・ 
    ・

    ・

銀時「zzz」スピ-


銀時「zz……」ハッ!


銀時「……」


 
 銀時は、目覚めた



銀時「……今何時だ?」


 
 銀時が時計を見ようと昨夜ジェスタウェイをセットした場所へと目を移すとそこに彼の姿は無かった



銀時「……あれ、どこいった?」


 

 銀時はそう言って部屋を見渡すとちょうど部屋の角の場所に俯きながら9月中旬のセミのようなか細い鳴き声を発する彼の姿を見つけた

 
 その姿は部屋の角の部分であったことも相まってまるで真っ白に燃え尽きたボクサーのようであった





ジャスタウェイ「……ジ……ジリリ」





銀時「」




銀時「ジ、ジャスタウェェエエエエエエエエエエエイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!」





   
 こうして彼の忘れられない一日が始まりを告げた




          ・
          ・ 
          ・



銀時「ったく最低な目覚めだぜコンチキショー……」フワ~ァ


銀時「……」グゥゥウ~


銀時「……腹減った」


銀時「朝飯でも食うとするか」ガチャン


 
 銀時はそういって冷蔵庫の扉を開け、中にあったいちごミルクのパックの飲み口を綺麗な菱形へと変形させると中身をごくりと喉に押しやった。



銀時「……」ゴクゴク 


銀時「プハァ」


銀時「やっぱいちごミルクは世界で一番うまい飲みものだわ、うん」

 
 銀時はそう呟くとまた菱形を彼の口へと運んだ。


銀時「ン。そうだった。今日は来客があるんだったな。……あーホントめんどくせぇな」


 
 銀時はそう言うと慌てて残りを飲み干し、身支度を始めた。


 銀時が寝間着を脱いでいると不意に玄関のチャイムが鳴った。

 ピンポーン





銀時「はいはーい。今出ますよー」ヌギヌギ


 
 ピンポンピンポンピンポーン



銀時「だー! うっせぇな! 今こっちは着替えてるんだって! あのー、すいませーん、今着替えてるんでもうちょっと待ってもらえませんかァー?」ヌギヌギ

 
 
 シーン……




銀時「はい、着替え終了っと。今開けますからねェー」ヨッ


 


 ドゴォォオオオオオオオオオンンンンン!!!







銀時「え」

 パラパラパラ……




銀時「……」アゼン


銀時「……ってオイイイイイイイイイ!! ちょっとォオオ!! 何やっちゃってくれてんのォオオオオ!!?」


銀時「俺ん家の玄関新調してからまだ3か月しか経ってねぇんだぞコノヤロー!!!!」



 銀時が悲鳴にも似た絶叫を上げた次の瞬間、玄関に舞う粉塵の中から純白の制服に身を包んだ大男が中に入ってきた



銀時「――! おめぇは……」



 銀時が次の言葉を言うより先にその大男が銀時に向って気さくな笑顔で挨拶をした。







 提督「やぁ、銀さん」







  銀時はその男を知っていた。というより、知らないわけがなかった。

 
  彼は銀時の旧友であり、親友であり、そして戦友であった――




銀時「……」


銀時「……何しにきやがった」


銀時「この今にも落ちてきそうな木造平屋の下で天下一武闘会でも開く気ですかコノヤロー」ギラッ


提督「いやはや、やはり手厳しいね」ハッハッハ


銀時「手厳しいのはどっちだよっ??!!!」


提督「玄関のことかい? いやぁ、何回も呼び鈴を鳴らしても誰も出てこないからてっきり銀さんが強盗にでも襲われて大変な事態になっていると思って……」


銀時「どんな勘違いだぁああああああああ!!」


提督「いやぁ、ごめんごめん。にしても腰の入った良い正拳突きを打てたなぁ」シュッシュ


銀時「絶対反省してないよねコレ、またやる気マンマンだよねコレぇ!」


提督「まぁ新しい戸はまた僕がA○mazonで注文しとくからさ」


銀時「おい、隠せてねぇよコラ」


提督「実は今日は銀さんに話があってきたんだ」


銀時「あー、ワリィな。俺これから来客があるんだよ。だからまた今度の機会にしてくれ」シッシ


提督「来客?その人は何時ごろに来るって言っていたの?」


銀時「あぁ? えーっと……9時だっけな」


提督「今は何時?」


銀時「何なんだようっおとしいな……えーと」


銀時「9時」


提督「ニコッ」


銀時「まさか来客って……」


提督「YES I AM!」



銀時「」


銀時「……いやいやいや。嘘はいかんぞォ、君ィ」


銀時「銀さんが電話で聞いた限りじゃ来客する予定の人は20代前半の女の子のはずだぞ!」


銀時「実際電話口の声も相当若い女の声だったし」


銀時「こんな見るからにむっさ~い男はお呼びじゃねーんだよ! さっさと帰れ!」ゲシゲシ


提督「ちょ痛いって! いやいや、だからその声の主が僕なんだって!」


銀時「ハァ? 何言ってやがる! 今時そんな声帯変化をできるのはせいぜい未来少年じゃないほうのコ○ナン君だけなんだよぉおおう!!!」ゲシゲシ


提督「銀さんも隠せてないよ!」


銀時「うるせー! とにかく俺はこれから可憐で麗しい婦女子との面会があるからテメェは家に帰りやがれ!」ゲシゲシ


提督「ホントちょっと待って! これを見てくれ!」


銀時「ああ~ん!? ……なんだこの機械?」


提督「それは声帯を変化させる機械だよ。平賀さんの所の工廠に秘密裏につくってもらったんだ」


提督「それを使えば銀さんの言うように未来少年よろしく声を変化させられるんだよ」


銀時「嘘つけ! ならそれを使ってテメェの声を変えてみやがれっ! もし出来たら信じてやる! 出来なかったら即刻俺の家から出ていきやがれっ!」ゲシゲシ


提督「わ、分かったから! 分かったからそんなに蹴らないで!」

銀時「ケッ!」ピタッ


提督「……全く、加減ってものを知らないんだから」


提督「じゃ、じゃあいくよ」


提督「……」スチャ


銀時「……」


提督「……バーロー」


銀時「――!」


提督「ハンニンハ……」


銀時「」


銀時「……え? マジで?」


提督「……これを使って僕が銀さんの所に電話をかけたんだよ」


銀時「……え、じゃあ可憐で麗しい女の子の来客は?」





提督「ない」





銀時「ウソだろォオオオオオオ???!!!!」

     ・
     ・
     ・


銀時「うわぁー無いわーホント無いわー……。今日は来客があるって言うから早起きしたってのによォ……」


銀時「その来客がよりにもよってこ~んなマグマグの実の能力者みたいなヤツなんて……」チラッ


提督「何これおいしそう」ヒョイパクッ


銀時「ってオイイイィィィィィィ??! 何勝手に人ん家の食い物さも当たり前のように食ってんだよォオオ!!!」


提督「ん? あぁ、ごめん。美味しそうだったからつい……」


銀時「つい……じゃねーよ! このバカ!」


提督「まぁまぁ落ち着いて銀さん。今日僕がここに来たのはほかでもない。銀さんにとても重要な話をしたくてここに来たんだ」


銀時「落ち着いてられっか! 来客は思ってた人と違うわ、しかもその来客が海軍の――」






銀時「……」





提督「……やっと勘づいてもらえたようだね」


銀時「エーナニーゴメーンヨクキコエナーイ」


提督「さすがの僕もキレるよ?」ゴゴゴ


銀時「……サーセン」


提督「話を元に戻そう。その前にこの話はとても重要な話だから悪いけど家のすべての鍵をかけてきてもらえるかな?」


銀時「ってかオイ。さっきテメェが正拳突きしたおかげで玄関の戸が粉々だから鍵かけれる状態じゃねェだろうがっ!」


提督「ああそうだったね失敬。うーん、じゃあこの机で代用しようか」ヨッコイセット


銀時「オイイイイイィィィ!!! 俺のデスクは戸じゃねぇええええ!」

      ・
       ・
       ・




提督「……玄関以外のカギはちゃんと掛けてきた?」


銀時「あぁ。かけてきたよ。ったく」


提督「非常口は? 厠は? 天井裏は?」


銀時「全部かけたっつーのっ! しつけーなオカンかお前は」


提督「良し。玄関から深海棲艦に我々の姿が出来るだけ見えないようにもっとこっち側で話そう」チョイチョイ


銀時(結局玄関はカオスなままなんだがいいのかよコレで……)


銀時「まあいいや。んでさっきの続きは何だよ」(もう大体察しはついてるが……)


提督「単刀直入に言おう。僕はなくしたものを取り返したい」


銀時「……はい?」


提督「無くしたものを、取り返すんだ。銀さんと僕の手で。」


銀時「無くしたものって……一体てめぇは何無くしたっつーんだよ」





提督「我々の誇りと、そして、艦隊」ドンッ!





銀時「」


銀時(はいきましたよコレ……)


銀時「……悪ィ、やっぱお前帰れ」ガタッ


提督「あー! 待って待ってストップ! 頼むよ! 話だけでも聞いてくれ! ね! 銀さん! お願い! 300円あげるから!」


銀時「俺は300円程度で釣られる人間じゃねぇんだよ!」


提督「じゃ、じゃあ……20万、って言ったらどうする?」




銀時「」




銀時「……20万ゥ? 別にィ~、欲しいってわけじゃねぇけどォ、……まぁ話だけならァ? 聞いてやらんこともないけどォ?」




提督(チョロい)




提督「……話を続けよう。銀さんも知ってのとおりこの街はあの憎き深海棲艦どもによって無条件で開港させられた街の一つなんだ」


提督「横須賀は軍関係施設がとても整ってたけど何より港がなまじ大きかったせいで深海棲艦たちの格好の標的になってしまった」


提督「深海棲艦たちはこの横須賀の港を自分たちのものとすることで大陸との交易の足掛かりとしたいらしくてね……」


提督「おかげで横須賀の街は様々な地域から来た深海棲艦たちで溢れかえってどこもかしこも深海棲艦だらけさ」


提督「しかも日本政府や軍上層部は深海棲艦たちの圧倒的な戦力の前に完全にビビって深海棲艦たちの要求にただただ頷くイエスマン状態」


提督「今や横須賀は深海棲艦たちの天国と化してしまってる」


提督「横須賀のメディア、電波、金融なんていったものも完全に深海棲艦たちの手に堕ちてしまった」


提督「僕は一度銀さんに手紙を出したことがあるんだけど、その手紙は届いた?」


銀時「手紙ィ? テメェーの手紙なんか届いたとしてもまず読まないから知らねぇ」フンッ!



提督「」



提督「ま、まぁ、良いよ。恐らく届いてないだろうから」


銀時「何でそんなことがテメェに分かるんだよ超能力者気取りですかコノヤロー」ゲシゲシ


提督「ちょ! 痛い痛い!」


提督「分かるんだよ僕には! なぜなら横須賀の軍関係者の出す手紙には必ず深海棲艦の検閲が入るからね!」




銀時「検閲ゥ?」


提督「……」


提督「……深海棲艦たちは横須賀の軍人の発する文書や通信に最近かなり厳しく検閲をいれている。横須賀に潜む深海棲艦に対する反抗勢力を炙り出す為だ」


提督「さっきも言ったように、横須賀は軍関係施設が非常に多い。工廠の数も他の軍港に比べれば段違いだ。設備も非常に整ってる」


提督「……軍関係施設が多いということは当然そこには多くの軍関係者がいるわけだ。当然横須賀を守護していた軍人たちは深海棲艦による横須賀侵略を快く思っていない。むしろ末代まで残る恥とまで考えているものも多いだろう」


提督「つまり、深海棲艦たちはそういった横須賀の軍関係者たちが団結して深海棲艦を打倒しようとするのを防ぐ為に軍人の検閲を強化して横須賀軍関係者たちの連携を防ごうとしているわけさ」


銀時「……つまりテメェがその変声期を使ってウチに電話してきたのはその検閲が最近になってすごく厳しくなったからか?」


提督「うん。今までは電話の会話記録の検閲はプライバシーの観点からあまりやってなかったらしいからごく普通に銀さんに電話してたんだけど……今週から深海棲艦側が反逆分子予防週間ってことでその電話回線の検閲を厳しくするらしいんだ。だから今回は万が一に備えて変声期を使って銀さんと面会の日時を相談したんだ」


銀時(何その予防週間コワイ)


提督「もし僕の家の回線から僕のそのままの声で銀さんと面会の日時を相談してみなよ。下手すると一発で銀さんもろとも僕は逮捕さ」


銀時「そんな恐ろしいことになってんのかよ……」




銀時「え、ちょっと待って。ってことは俺らパンピーの出した手紙とかも深海棲艦の検閲が入ってるワケ?」


提督「……正直分からない。恐らく手紙に関しては明らかに軍人だと分かるもの以外は検閲は入っていないと思うけど、さっきも言ったように今週は反逆分子予防週間で電話検閲が厳しくなるから(そっちは)確実に検閲が入ってると思う」



銀時「」




銀時(ってオイイイイイイイイイ??! てことは俺が昨日ここにデリヘル呼んだこととかもひょっとしたらアイツらに筒抜けなのか!?? やべぇよ俺電話口でめっちゃエグい指名しちまったよ…… 絶対深海棲艦か憲兵に『こいつエグ……』とか思われっちゃてるよオイ……)






銀時「……」


提督「……? 話を続けようか。実は僕たち横須賀海軍の間でいま、その深海棲艦たちが恐れてることをしようとしてる勢力があってね。なんでも深海棲艦を横須賀から駆逐しようとしてるらしい」


提督「横須賀の海に自由を取り戻す為に」


提督「だけど残念なことにその勢力はまだ横須賀の軍人の間ではまだ少数派らしくてね」


提督「いかんせん有能な人材が不足しているらしい」


銀時「……」


提督「……ここまで言えば大体僕が何を言いたいのかもう分かる、よね?」ニコッ


銀時「ムリ」


提督「……え?」


銀時「いや、だからムリ」




提督「」




提督「……本日僕たち深海棲艦打倒派、通称『攘夷派』は銀さんの力を是非借りようと思ってここに来たっ!」





銀時(また始まったよ……)ハァ…



銀時「……オイ何事もなかったかのように話進めんなコラ」


提督「銀さんの力を僕たちに貸してくれ!」ドンッ!


銀時「いや、だからとりあえず人の話聞こーか?」


提督「再び深海棲艦と共に戦い、横須賀の海に自由を取り戻そう!」ドンッ!!


銀時「全く聞く耳もってねェよ、コイツ……」


提督「我々はあの時のように深海棲艦に屈したりはしない……」


銀時「……」


銀時「……その話はもう無しだって何回も言っってんだろーが」ハァー



提督「……銀さんは今の状況を分かっているのかい?」



銀時「……」


提督「わが帝國海軍が誇る最大の軍港が開港させられはや五年……今や横須賀は名も知らぬ異形の怪物たちで溢れかえりそこにもともとあった多くのものが深海棲艦たちの手によって奪われた」


提督「横須賀は、奴らの手によって醜く汚された……」


提督「これ以上あいつらの好き勝手やらせる訳にはいかないんだよ」


銀時「……」



提督「……実はつい先日、『廃艦令』が深海棲艦側から提出された」


銀時「廃艦令?」


提督「廃刀令の軍艦版みたいなものさ……」


提督「……」ハァ


銀時(ん?)


提督「……海軍はこの廃艦令によって今後一切の艦隊戦力の保有が禁止される」


提督「この『艦隊戦力』にはもちろん……『艦娘』も……含まれてる」


銀時「艦娘……」


 ――艦娘


帝國海軍が密かに研究を行っていた人型決戦兵器。


その見た目は一見普通の人間と見紛うほど人間に近い姿かたちをしているが、彼女たちが一般人と決定的に違うのは戦闘を行うためだけに生み出された『兵器』であるということだった。


その戦闘力は凄まじく、帝國海軍が保有していた旧型の軍艦の戦闘能力にも匹敵する力を持っていた。


さらに旧式の軍艦に比べて大幅な小型化・軽量化がなされ、なおかつ非常にローコストで生産できることから帝國海軍は彼女たちを次世代を担う革新的な兵器と位置づけ、その量産を行った。


しかし、彼女たちには致命的な弱点があった。




……それは彼女たち一人一人が知性を持った存在だったということであった。




従来兵器とは知性とは無縁のものだった。それゆえ帝國海軍はこの兵器の扱いに非常に手を焼いた。


なかには「不気味すぎる」との理由で艦娘を自ら破壊・解体する者もいたという。


帝國海軍が艦娘の扱いに手を焼いている一方、深海棲艦たちは着々とその勢力圏を広げていった……




――そして五年前


それはよく晴れた日だった。突如として深海棲艦たちが日本国との正式な交易を求めて横須賀に来襲した。


深海棲艦たちにとってこの日本との正式な交易とは名ばかりで、真の目的は日本の港を奪取しそこを自分たちの大陸交易の拠点とすることであった。


この深海棲艦襲来に帝國海軍の艦隊が横須賀に殺到しこれの迎撃にあたるも、深海棲艦たちの圧倒的な火力の前に艦隊は次々と撃破されていった。


なかでも横須賀艦隊は被害が大きく、ほぼすべての艦が深海棲艦たちの手によって沈められていった……





戦線がジリジリと後退させられる中、海軍司令部はある一つの結論にたどり着いた――





「現状を打破できるのは艦娘しかいない」





そして海軍は未だに運用法が十分に確立できていない艦娘を前線に投入した。


海軍司令部はこの作戦に大きな期待を抱いていた。




……だが現実はそう甘くはなかった。




実戦をほとんど経験していない彼女たちを前線に送り込んだために戦線は混乱を極め、一瞬にして大崩れとなった。


また彼女たちの引き際を知るものもいなかった為に多くの艦娘たちが海の底に沈むこととなった。


帝國海軍には彼女たちを上手く扱える人間がいなかった……


そして奇しくも艦娘という新兵器が戦線をかき乱してくれたおかげで一気に突破口が開けた深海棲艦側は堰を切ったように横須賀軍港に流れ込んだ。


こうして深海棲艦と帝國海軍との戦いは深海棲艦側の圧勝という形で幕を閉じることとなった。




――戦後、海軍司令部は敗北の責任をすべて艦娘になすりつけた。


こんな兵器があったために我々は負けたのだと。


その後、海軍司令部は今後一切の艦娘の製造を禁じ、現存する艦娘に対しても即刻解体処分を命じた。


そんな悲しい運命をたどった兵器が、艦娘――




銀時「……」

 
 
 銀時は昔提督から聞かされた話を思いだしていた。




銀時(確かに俺もあの戦乱には参加したが……俺たち攘夷志士がいたのは陸から近い沿岸の丘陵地帯で、そこで深海棲艦の上陸部隊の撃退をしてたからな……)


銀時(まさかあの時海の上でそんなことが起きてたとはな……)





銀時「……」





提督「……海軍上層部はこの『廃艦令』を受諾し、海軍は今後一切の艦隊の保有が禁止された」


銀時「……」


提督「銀さんもしっての通り……僕は解体されるはずの艦娘を匿っている」


提督「僕個人として彼女たちは決して無能な兵器ではないと思っているからね……解体させるには惜しいのさ」


提督「でも廃艦令がでた以上、海軍人はみな査察を受けることになるだろう……」


提督「もちろんそれは僕も例外じゃない。軍の上層部と深海棲艦側の代表が近いうちに僕の所へ査察に来る」


提督「そうなると彼女たちを匿うことももう……」


 
 
 提督はそう言いかけて言葉を詰まらせた。目には大粒の涙が溜まっていた。





銀時「!」


提督「ア、アレ? なんだかおかしいな……目にゴミでも入ったのかな……」ゴシゴシ


提督「……すまなかった、銀さん。話を続けよう」


提督「って言っても話すことは結局はこれに尽きるんだけどね」ハハッ


提督「……改めて言うよ。銀さん、僕とともにもう一度深海棲艦と戦おう」


提督「横須賀の海に自由を取り戻そう」


銀時「……」


銀時「無理だよ……」


提督「え?」


銀時「……深海棲艦を打倒するなんて大それたマネは無理だって言ってんだよ」


提督「……」


提督「……なんで銀さんはそう思うの?」


銀時「……」


銀時「……」フゥー


銀時「……いいか、提督。時代は変わってくもんなんだ。俺たちが五年前に深海棲艦たちに敗れて横須賀を明け渡した時点で……俺たちは」





銀時「もう……死んでんだよ」





銀時「死んだ者は……この世から消え去るのがルールだ」



銀時「時代が、俺たちじゃなく深海棲艦を選んだんだ……」



銀時「もう俺たちはこの世にいちゃいけない存在なんだよ……」



銀時「俺たちの役目は終わったんだよ……提督」



提督「………」



提督「……だから銀さんはこんな歓楽街の片隅でご隠居生活決め込もうって思ってるのかい?」



提督「銀さんは……悔しくないのかい?」



銀時「……」


提督「……僕は悔しい。すごく悔しい。思いだすだけで涙があふれてくる」


提督「今でも毎日あの日の光景が夢に浮かんでくる」


提督「深海棲艦の攻撃で何隻もの味方の艦が沈み、沈みゆく艦の友人たちを救助しようと僕がその手を伸ばした時。彼らの手をあと一歩で掴めるその寸前でいつも夢から醒める」


提督「僕は……友人たちを救えなかった」


提督「いや、正確には救わなかった……」


提督「僕は畏怖していた。今まで見たことのない異形の怪物たちが彼らの何倍もの質量と重量を持つであろう帝國海軍の戦艦をいともたやすく屠ってゆくさまは……鬼神以外の何物でもなかった」


提督「……」


提督「僕は撤退命令を下した」




提督「沈みゆく仲間たちと……艦娘を見捨てて……」





銀時「……」


銀時「……すまねぇな、提督」


銀時「確かにお前さんの言うことも良く分かる」


銀時「だがな、どれだけやっても……」


銀時「……」






銀時「横須賀の海は俺たちの元に……もう戻ってこねぇんだよ――」






提督「―――!!!」



提督「……そう、か」



提督「……」



提督「やっぱり……そう、なんだよね……」


銀時「……」

 
 

 銀時にはなぜか提督が安堵の表情を浮かべているかの様に思えた




提督「……」ハァー


提督「……銀さん。ありがとう。銀さんの力を借りることは……結局できなかったけど、色々と吹っ切れたよ」


銀時「そうか」


提督「今日は色々と悪かったね。戸は破壊するわ、無理な相談持ちかけるわ……」


銀時「別に気にしてねぇよ」


提督「フフッ。本当に銀さんは素直じゃないね」


提督「あ、あとこれも銀さんに渡しとくよ」


銀時「……ってオイ。なんだこの札束は」


提督「最初に言ったでしょ。20万円あげるから話聞いてって」


銀時(マジで話聞いてただけだぞオイ……)


提督「まぁ、戸の修理費用にでも充ててよ」


銀時「……まぁテメェがくれるってんなら貰っといてやるよ」フンッ


提督「……フフッ」


銀時「……なんだよ」







提督「銀さん……本当にありがとう」グスッ






銀時「!!!!!」







提督「……」ダッ






タッタッタッ……




銀時「……」



~横須賀歓楽街 大通り~



怪しい客引き「フワ~ァ……」


怪しい客引き「やっぱり朝は人少ないデスネー……」ボー


怪しい客引き「ハァ……こんなんじゃノルマ全然達成出来ないヨー」


怪しい客引き「そもそも、こんな人が全然いない時間帯に客引きさせる店長も店長デス!」


怪しい客引き「何が『更なる売上アップの為に午前中から営業するから客引きよろしく』ダヨッ!」


怪しい客引き「私たちの扱いが雑すぎるヨっ!」


怪しい客引き「……ン?」


怪しい客引き「誰か向こうから走ってきマス……」


怪しい客引き「アレハ……」



提督「……」タッタッタ


提督「……」タッタッタ





――横須賀の海は、もう戻らない……――






提督(……)タッタッタ


提督「…………」タッタッタ


提督(そう、だよね……)タッタッタ


提督(横須賀の海はもう……戻らない……)タッタッタ


提督(そんなことは……とっくの昔から……)タッタッタ


提督「…………」タッタッタ


提督「やるしかない……」タッタッタ


提督「これしかもう方法は……ない」タッタッタ








怪しい恰好の客引き「Hey!そこの提督サン!」


怪しい恰好の客引き「ドウ?これからワタシとイ・イ・コ・トしませンカー?」ギュッ





提督「……」


提督「……悪いね、今はそんな気分じゃないんだ。また別の機会にしてくれ」


怪しい客引き「Oh、ソレは残念デース……」


怪しい客引き「提督サンとってもNiceガイだから、いぃーぱい特別サービスしようと思ったノにー……」


怪しい客引き「……」チラッ



提督「……」


提督「君は……見たところまだ成人してはいないようだね」


怪しい客引き「Yes! まだピッチピッチのハイ・スクール・ガールですヨー!!」


提督「……そうか」


提督「……君はもっと自分の身を大切に扱いなさい」


提督「君はまだ若い。確かに色々経験することも大切だけど……世の中には経験しない方が良いことも沢山ある」


提督「どういうことかはまだよく分からないと思うけど、とにかくこういうことはもうこれっきりにしておきなさい」


提督「……」ガサゴソ


提督「……」ピラッ



怪しい客引き「――!」



提督「このお金を使って好きな所に行きなさい。君はこんな所にいつまでも縛れるべきじゃない。もっと自由な所に行くんだ」


提督(そう、こんな不自由な場所なんかじゃなく……もっともっと自由な……)


怪しい客引き「………」


怪しい客引き「い、良いんデスカー?」


提督「ああ。どうせもう僕にはもう持っていても意味のないただの紙切れだしね」


怪しい客引き「あ、ありがとうございマス! 海軍の提督サンはみんないっぱいお金くれるから大好きって店長サンも言ってたネ!」


提督「ハハハ、そうか。だけど大切に使うんだよ。なんたってこのお金はお店に対してじゃなくて君自身に対してあげたんだからね」


怪しい客引き「ハイ! わかりまシタ!」


怪しい客引き「このお金は絶対に無駄にしたりしまセン!」


提督「うん。いい返事だ」


提督「……では僕はそろそろ失礼するよ」


怪しい客引き「ハイ! どうもありがとうございまシタ! どうもネ、提督サン! また会おうネ!」


提督「うん。またどこかで」タッ


    




タッタッタッタッタッタッタッ 





提督「……」タッタッタ


提督「……」タッタッタ


提督(さっきの娘……)タッタッタ





提督「……いや、まさかな。僕の思い違いだろう」タッタッタ




提督「…………」タッタッタ







       ・
       ・
       ・






~横須賀 カ級深海棲艦大使館裏手の雑木林~


提督「……」ガサゴソ


提督「……さてどうしたものか」





提督「……」ビクッ





提督「――!」




提督「……」


提督(……何をビビってるんだ僕は。もう決めたことじゃないか……)


提督(もう……後には、引けない)


提督(僕たち横須賀艦隊は……カ級に殺された)


提督(カ級に名誉も、友人も、そして艦娘も奪われた)


提督(だから深海棲艦どもに一矢報いようって考えた時、多くの深海棲艦の中で真っ先にカ級のことが頭に浮かんだ)


提督(僕もカ級に一矢報いるんだ……あの戦乱で散っていった友人、そして艦娘の為にも)


提督(今度は決して逃げたり、しない)



提督「……」



提督(……やることはすでに決まってる。カ級深海棲艦の大使館に潜入。潜入した後、中にいるカ級姫を誘拐して人質とし、カ級の親玉との会談を要求する)


提督(カ級の親玉を上手く引きずりだしたあと、僕諸共この隠し持った爆弾で……逝ってもらう)





提督「フッ」


提督「いいねぇ。まさに地獄へ道連れってわけか」



提督「良しっ。そうと決まったらまずはカ級の大使館へどうやって侵入するかなんだが……」


提督「……やはり簡単には侵入させてもらえそうにないな」キョロキョロ


提督(まず警備の数が圧倒的に多い。四方余すところなく目を光らせれてたんじゃ大使館内への侵入は難しいか……)





提督「……」



提督「だー!! くそ! 全然方法が思いつかない!」






提督「っていうかこの時代警備の方法もっと他にあるでしょ? 赤外線センサーとか監視カメラとか!」


提督「なんで警備員がこんなに必要なんだよ?」


提督「絶対人件費の無駄遣いだよこれ……」


提督「……」


提督(ん)


提督(待て今なにかもの凄い重要なことを言ったような気が……)


提督「――!!」


提督「見つけた……見つけたぞ……」



提督「あの大量の警備を掻い潜る方法を!」



提督「でもこの方法だと今日すぐ突入は無理だな……色々と準備も要るし」



提督「ここはいったん日を改めよう……」ガサガサガサ……


提督「ばれませんように、ばれませんように……」ガサガサガサ


提督「……」タッタッタッ

 
    ・
    ・
    ・



三日後

~横須賀 カ級深海棲艦大使館前~


ザワザワ ザワザワ



提督「……」カツカツカツ


提督「……」カツカツカツキュッ!


提督「……現在時刻11時27分34秒」チラッ


提督「大使館の様子は普段とほぼ変わらず。大使館の周りを巡回する警備員の数も通常どおり」


提督「正門には門番が左右に一人ずつ。 それ以外は特に警備員は見受けられない」


提督「ただ、左右と裏手の警備は尋常じゃない力の入れようだな……」


提督(まぁ、そりゃ正面から堂々と入ってくる泥棒はそうそういないだろうから当然っちゃ当然か)






提督「……時刻11時28分20秒」


提督「……」スー・・・・・・フゥー


提督「よし。作戦開始」


提督「まずは正門に向かって移動を開始する」


提督「……」カツカツカツ


提督「……」カツカツカツ





左門番「ふわーぁあ……眠い」


左門番「ん?」




提督「……」カツカツカツ




左門番「おいそこのお前、止まれ」




提督「……」ピタッ



左門番「ここはカ級深海棲艦の大使館だ。用のない無い者の立ち入りは固く禁じている」



左門番「見たところお前は横須賀の海軍の軍人らしいが……ここへ立ち入りたくばまずは名を申せ」



提督「……」



提督「はい。わたくし提督という者でございます」



左門番「ほう。では提督よ、貴公は今日は如何なる用でここへ来た?」



提督「はい、今日はカ級の大使殿とお話させて頂きたくここへ参った所存です」



左門番「ふむ。 では一度確認しよう。そこでしばし待たれよ」スタスタスタ……



提督「はい」



提督「……」チラッ



提督(……現在時刻午前11時32分50秒)



提督(そろそろのはずなんだが……)



提督(……来た!!)




出前「……」キーコーキーコーキュッ


出前「……よっと」


出前「こんにちはー出前を届けに参りましたー」


右門番「あぁ。ご苦労さん。代金は……」


出前「980円になりますー」


右門番「んーじゃぁ1000円札で」


出前「はい。えーと……20円のおつりになりまーす」


右門番「はいはいどうもね。またよろしくね」


出前「はいー。こんごともごひいきにお願いしますー」





出前「……」ガチャ


出前「……」キーコーキーコーキーコー……



右門番「フゥ……」


右門番「……まったく。姫様は何故こんな見るからにまずそうな飯を毎日好んで食べるのだろうか……」ヨット


右門番「アー。アー。こちら正門右門番。姫様、ランチのゼリービーンズ丼が届きました」スチャ


カ級姫《まぁ! ソレが早く食べたくてウズウズしてましたのよ! 早く運んできなさい!》


右門番「ハッ」ピッ


右門番「……」カツカツカツ


右門番「……」ピッピッピ


右門番「……」シモンニンショウ


右門番「……」セイモンカクニン


右門番「右門番」


  ガチャン


右門番「……」スタスタスタ


右門番「よっと」ギギギギ……




提督「……」


提督(今だっ!)ポチッ!




 


 ドゴォオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!!!!!






右門番「!?」


右門番「何事だ!」バッ


右門番「アー。アー。こちら正門右門番。今しがた大きな爆発音を確認したが、何が起きた?」


裏口警備員《こちら裏口警備員。どうやら裏手の雑木林内に爆発物が仕組れていた模様》


右門番「何ィ?」


裏口警備員《現在警備員総出で消火活動に当たっているものの、爆発物が仕組まれていた周辺に枯草が多かったこともあり消火活動が追いつかない。更なる応援を要請する》


右門番「チッ! 待ってろ今すぐ向かう!」ダッ



タッタッタッタ……


……



提督「……」ポツーン
   





提督「……」


提督「道は、開けた」


提督「……さぁ行こう」ダッ

 

   
    ・
    ・
    ・




~カ級大使館内~


提督「……」ポツーン




提督「見事に人がいない……」




提督「どうやら大使館内の警備員も爆発の件で駆り出されてるみたいだな」



提督「よし、この隙に一気に本丸をせめ落として……っ!!!???」







海軍中将「ム?」






提督「」




提督「くっ!」シュババッ







海軍中将「……」



海軍中将「……貴様、こんなところで何をしておる?」ゴゴゴ



海軍中将「それに……なぜ今ワシの姿を見て慌ててその柱の陰に隠れた?」





提督「ハッ!」





提督(し、しまった条件反射でつい……)



提督「……」




海軍中将「貴様、まさかワシがこの大使館の守護の任に着いていることを知っての狼藉か?」




海軍中将「……」スゥー







海軍中将「者共、であえ、であえー!!!!!! この曲者をひっとらえぇええええええいいいいい!!!!!」







提督(く、くそ!)ダッ


 
アッチニニゲタゾー! オエー!

ワー! ワー!


   

    ・
    ・
    ・


オエー! シタダ、シタノカイダ!



海軍中将「……」



海軍中将(フン、ワシの守護するこのカ級大使館で盗みを働こうとするなど言語道断!)


海軍中将(アヤツには特別に重い罰を与えることとしよう!)


海軍中将(そういえば風の噂でアヤツは深海棲艦を横須賀から駆逐しようとする攘夷派一派の筆頭と聞いたことがあるな……)



海軍中将「――!」



海軍中将「提督よ……下手をすればおぬし、もうここに戻ってくることも出来んくなるよもしれんのぉ~」ニタァ









カ級深海棲艦姫「あらあら、ひょっとして横須賀の海軍のところの中将様ではございませんか?」







海軍中将「――!!」




海軍中将「こ、これはこれは姫様。本日もとてもお麗しゅうございます」


カ級姫「フフフ、ありがとう。それにしても何かあったんですの? 先ほどのけたたましい爆発音といい……まさか、テロリストどもに攻撃されて……」


海軍中将「!」


海軍中将「い、いえ! とんでもございません!」


海軍中将「どうやら警備の者が少し目を離している隙に鼠が外から入り込んだようでして……」


カ級姫「まぁ、不潔!」


か級姫「全く。わたくしが鼠が大嫌いなことぐらいあなたも存じ上げておられるでしょう? ゼリービーンズ丼がもし鼠に齧られていたらどう責任をとってくれますの!」


海軍中将「ハッ! 誠に申し訳ございません……ですがすぐにその鼠をひっ捕らえさせますので、もう少々お時間を……」


カ級姫「一刻も早くその鼠を捕まえて処分なさい! 全く、鼠と同じ館にいると思うだけで寒気がしますわ!」


カ級姫「わたくしはいつまでたってもやって来ませんのでゼリービーンズ丼を取って参りますわ。全く、あれほど早く持って来いと命令しましたのに! 右門番にはキツ~イお仕置きが必要なようですわね! フンッ!」スタスタスタ……


海軍中将「ハッ!」ペコー


海軍中将「……」


海軍中将(処分、か……)ニヤッ

    
     ・
     ・ 
     ・


ワーワーコッチニニゲタゾツカマエロー!……




提督「ハァハァ……」


提督「えぇい! なんてことだ!」ハァ……ハァ……



提督「計画がめちゃくちゃじゃないか!」ハァ……ハァ……




提督「くそっ!」ドスッ




提督「……」ハァ……ハァ……




提督(ここが限界、なのか……)




――もう、横須賀の海は……戻らない――




提督(……)


提督(もう横須賀の海は、戻らない)


提督(そんなことは……前から分かってたんだ)


提督(だけど……認めたくなかった)


提督(僕ら横須賀の軍人があんな奴らに全く歯が立たないなんてことを……認めることが出来なかった)


提督(何よりこんな簡単に深海棲艦に屈したら、あの戦乱で死んでいった仲間たちに顔向けができないと思っていた)


提督(アイツらは最後まで勇敢な横須賀の『守護神』として海に散っていったんだ……)


提督(なのに……なのに僕は……)



提督「……」



提督「叢雲……」




提督「……」ウルッ


提督「――!」ウルッ


提督「アレ? なんでだろう? 急に……目に涙がいっぱい……」ウルッ


提督「もうやるって決めたのに……どうして今更……」


提督「……」


提督「ああ、やっぱり僕はとんでもないぐらい臆病者だったんだなぁ……」


提督「いざっていう時になんにもできない、臆病者のクソ提督だったんだ……」


提督「僕が臆病者だったせいで仲間たちも、艦娘も、みんな救えなかった」


提督「艦娘を匿ってたのも本当は散っていった艦娘たちへのせめてもの罪滅ぼしだった、なんて言ったら銀さんに絶対怒られるだろうなぁ……」



提督「……」



提督「なんなんだよ……なんで……なんで……こんな時になってまで……」



提督「僕がアイツらを匿ってるのは……あの戦乱のさなか、実戦経験もロクに無いままに戦線に投入させられて訳も分からないままにその命を散らしていった兵器たちへのせめてもの罪滅ぼしの為だったはずだろ!」



提督「なのに……なんで……」






提督「なんでアイツらの可愛くて、愛おしくてたまらない顔が浮かんでくるんだよ!」






提督「!!!!」



提督「……そうか。やはり僕は……艦娘たちを……」


提督「…………」


提督「……銀さん」


提督「銀さんなら僕がこの前銀さんの所に行った本当の理由も気づいてるのかなぁ……」





ヤツがイタゾー!トッツカマエロー!


ウォオオオオオオ!




提督「――!」


提督「クソッ! こうなりゃ強行突破だ!」バッ






提督「どけえええええええええええぇえええええええええええええええええ!!!!!!!」ダダダダ




グワァアアァ!


ウ、ウエノカイニニゲタゾォォォ! オエー!






提督「待ってろよ……大深海棲艦……」タッタッタッ

 



ワー ワー

オエー! ニガスナー!





カ級姫「……」スタスタ


カ級姫「……はて、こちらの階段でしたわよね」スタスタスタ


カ級姫(あぁ、私の愛しいゼリービーンズ丼! 今行きますわよ!)シュタタタタ……




提督「……」



提督「……」ガバッ



カ級姫「――っ!?」



カ級姫「ンー!? ンンー!」ジタバタ





提督「やっと見つけたぞ……カ級姫」
            


提督「悪いが、お前の親父さんを呼びつけるためにはこれしか方法が無いんだ」


提督「しばらく僕の人質になってくれ……」


カ級姫「ンー!? ンンー!」バタバタ



……



  ・
  ・
  ・

    ・
    ・
    ・
 

~横須賀 商店街前~



山崎「♪」


山崎(今日は非っ番♪非っ番♪フンフンフンフンフンフフー♪)


山崎(あんパンっが食ーべーたくなるー♪)


山崎(いやーやっと久々の非番だ!)


山崎(ここんとこずっと沖田分隊長に仕事横流しされてロクに休む暇がなかったから大変だったけど……)


山崎(やっと非番が回ってきた!)


山崎(よーし今日はここの商店街の名物の横須賀あんパン食べまくるぞ!)


山崎「フンフンフンフンフンフフー♪」


……
     


~横須賀 中央商店街~


ザワザワ ザワザワ

山崎「………」ザワザワ



山崎(……せっかくの非番だから最近全然食べれてなかった横須賀あんパンを食べようと思って商店街に来てみたものの)ザワザワ



 
 
 ザワザワ ザワザワ






山崎(なんか今日人多くね?)ザワザワ


山崎「……何か事件でもあったのかなぁ」ザワザワ



 
 キャー




山崎「!?」



山崎「悲鳴!?」


山崎「やっぱり何か起きてるのか……?」


山崎「……」


山崎「でもあんパン……」チラッ

 
 

 山崎は横須賀あんパンのあの独特の薄皮から生まれるなめらかな舌触りと上品なあんの香りを思い浮かべていた。




山崎「……」ポワァ~


 
 
 しかし彼のあんパンを欲する欲求は己の憲兵という仕事の誇りとプライドに勝ることは……無かった。



 山崎はあんパンより軍人の誇りを取った




山崎「……」



山崎「……憲兵隊の一員としては自分のことよりも仕事が優先、だもんな」ギュッ



山崎「悲鳴が聞こえたのはあっちか?」ダッ




      ・
      ・
      ・

 
 

山崎「……」タッタッタ


山崎「……あーくそっ!」タッタッタ


山崎「あんぱーん!!!!!」タッタッタッタ



……


~横須賀 カ級深海棲艦大使館前~


ザワザワ ザワザワ


山崎「どうやらここみたいだな……」ハァハァ


 
 ――ヲオロセ!……ナクバ……モコロス!――



山崎「――っ!」


山崎「おいおい、相当やばい状況なんじゃないのこれ」


山崎「はいはーい! 憲兵だからちょっとごめんね、通してねー!」


山崎「はい、通してねー! ……っと、ふぅ、やっと前まで行けた」


山崎「……って、うわ! なんだこの状況!?」
 


 


 
 提督「銃を下ろせぇえええええええええええええええ!!!!! さもなくばコイツ諸共爆死するぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

 
 

 カ級姫「ンー!ンンー!!」バタバタバタ







山崎「」



山崎(……ってオイイイイイイイイ!!!!)


山崎(何しちゃってんのぉおおおおおおおおおおお???!!!)


山崎(え? あの人質とってる奴どうみても海軍の軍人だよね?)


山崎(しかもアイツがとってる人質って……)




 

 カ級姫「ンー!ンンー!!」バタバタバタ





山崎「」





山崎「あぁ……終わった」ズゥーン


山崎「日本終わった……」


山崎「よりにもよって……今横須賀で一番人質にとっちゃダメな深海棲艦ランキング第一位のヤツ人質にとっちゃった……」


山崎「……」


山崎(カ級深海棲艦姫……横須賀にいる数多の深海棲艦の中でも一番の軍事力を持つ武闘派として恐れられているカ級深海棲艦たちの親玉の娘……)


山崎(もしこの事件がカ級の親玉の耳に入れば……横須賀、ひいては日本は深海棲艦との全面戦争にまで発展しかねねぇぞオイ……)


山崎「ん?」






海軍中将「あ……あ……ああ……」


海軍中将「お、終わった……」ドサッ


海軍中将「圧倒的にヤツを追い込んでいたのにも関わらずに……」


海軍中将「大深海棲艦様に……もしこのことが知れたら……」




ア……アアアア……



パタッ





山崎「……」



山崎「……そっとしといてあげよう」



……アーアーアーマイクテスマイクテス



山崎「――!」



山崎「あの声は!」







近藤「あー。あー」


近藤「良し」ズイッ


近藤「……おほん」


近藤「……」スゥー


近藤「聞けッ! そこのテロリスト! 御用改めである!」


近藤「おとなしく姫を開放し、今すぐ投降しなさい!」





山崎「隊長!」




提督「嫌だね! 今や深海棲艦どもの犬と成り下がった貴様ら憲兵隊など恐るるにたりぬっ!」


提督「こちらの要求はただ一つ! 大深海棲艦との会談だ! それが達せられない場合はこのカ級姫諸共吹き飛ぶ!」



カ級姫「フー……フー……」ガタガタガタ








近藤「チッ!」


沖田「どーしやす、近藤さん。いっちょロケランでもぶっぱなしますか?」


土方「馬鹿かおめーは! アイツは体中に爆弾くくりつけてんだぞ! んなことしたらアイツともども姫も消し炭と化しちまうだろーが!」


土方「あ、土方さんいたんですかい。すいやせん、全然気が付きやせんでした」


沖田「ちょうどいいや。土方さん。焼きそばパン買ってきてくださいよ。あ、あとついでにジャンプも。もちろんてめーの金でな」


土方「あぁ゛~?ぶっ殺されてぇのかゴラァアアアアアア!」


近藤「オイ! トシ、総悟! こんな時になァにやってんだ!」


近藤「今は目の前のテロリストのことに集中せんか!」



沖田「……チッ」


土方「……」





山崎「お~い! 隊長!」





近藤「ム……。おぉ、ザキ! お前も来てたのか!」


近藤「ってあれ? お前今日招集かかってたっけ?」


山崎「いえ、俺は今日非番で商店街で買い物をしようと思ってたんですけど……ちょうどこの近くの通りを歩いてる時に悲鳴が聞こえたもんで……」


近藤「そうか。お前も災難だな……」


山崎「いつものことですからもう慣れましたよ」


山崎「それより、現状はどうなってるんですか?」


近藤「……見ての通りあまり芳しくない」


近藤「どうやってかは知らんが……海軍のとある軍人が単身カ級の大使館に乗り込んで大使館ごと占拠したらしい」


近藤「そして大使館内にいたカ級姫を誘拐、人質としてる」


近藤「さらに悪いことに犯人の体に大量の爆発物が巻き付けられててな……こちらからむやみに発砲できない状況だ……」


近藤「犯人の要求はどうやらカ級のボスとの会談らしいが……」



山崎「……」






隊員1「隊長!!」バッ






近藤「なんだ」


隊員1「憲兵司令部より伝令です!」


隊員1「今すぐ憲兵隊を撤兵させよ、とのことです!」


近藤「!」


近藤「……何ィ? テロリストを目の前にして、今すぐ撤兵しろだと?」


沖田「オイオイ、そりゃねぇぜ……犯罪者を目の前にして退くなんて……どれだけ俺たち憲兵隊が深海棲艦たちの都合のいい犬と化したって、俺たちはそこまで腐っちゃいねぇ……」


沖田「それに久しぶりの出動なんだ……ロケランの一発や二発撃たねーと気が収まらねぇ……」


山崎(それはテメェが俺に仕事横流ししてたからだろーがっ!)


近藤「その通りだ! 俺たち憲兵隊の役目はこの横須賀の平和と秩序を守護することだ! こんな危険な奴を放っておいて撤兵など……」

 





???「キミたちの役目は終わったんじゃよ、近藤君」

 
 
 

 近藤の言葉に割って入るようにして一人の年老いた深海棲艦がドスの聞いた低い声で近藤に話しかけた





近藤「――!」


近藤「あ、あなた様は……」







近藤「だ、大深海棲艦様!」ペコォ






山崎(大深海棲艦……?)



カ級大深海棲艦――


現在、横須賀には様々な深海棲艦たちが入り乱れ日々しのぎを削っているが、その数多いる深海棲艦の中でも最大の武闘派集団と呼ばれるカ級深海棲艦たちの頂点に君臨する、横須賀深海棲艦の四天王の筆頭。


10年前よりカ級深海棲艦たちのトップに君臨し、それまで交易を生業とし商業的な性格が強かったカ級深海棲艦たちを自分の治世で有無を言わせぬ武装集団に見事に変貌させ着実にその勢力圏を伸ばしてきた実績を持つ。


先の攘夷戦争(深海棲艦側の呼称は横須賀戦争)時もこれに参加し活躍。 日本国政府に横須賀を無条件で開港させたのも、ひとえにこのカ級大深海棲艦とカ級深海棲艦たちの活躍と軍事力に依る所が大きい。


その功労の甲斐あって横須賀開港以来、他の深海棲艦たちよりも常に一歩リードする形で横須賀支配に乗り出し、横須賀の多くの機関を掌握した。


現在横須賀を裏で仕切っている者の多くも、このカ級大深海棲艦とその一派出身の者だと言われている――





大深海棲艦「良い、良い。 そう堅苦しくせずとも」


近藤「ハッ!」バッ


大深海棲艦「うむ」


大深海棲艦「して近藤君、現状は?」


近藤「ハッ! 現在テロリスト一名がカ級大使館前で人質を取り、我々に大深海棲艦様との会談を要求しております!」


大深海棲艦「フム……その人質というのは?」


近藤「……」


近藤「……姫様であります」


大深海棲艦「……」



 大深海棲艦は一呼吸間を空けてから近藤に呟いた



大深海棲艦「近藤君……君たち憲兵隊はもう撤兵しなさい」


近藤「! しかし姫様をこれ以上危険な状態に……」


大深海棲艦「近藤君、我々カ級が陸軍にどれほどの影響力を持っているか……分かっておらぬわけではあるまい?」ゴゴゴ


近藤「!!!」ビクゥ


近藤「……」



 ――近藤は知っていた。横須賀開港以来、カ級が帝國陸軍に一番強い影響力を持っていることを。

 
 
 また、自分たちの地位や立場がいまやカ級深海棲艦たちの手によって簡単に操作させられてしまうことも……




近藤「……」


近藤「……了解、しました」


大深海棲艦「分かればよろしい」





山崎(オイオイ、とんでもないことになってきたぞ……)


……



~カ級深海棲艦大使館内 会議室~



大深海棲艦「……これで良いかの」

 

 そう言うと大深海棲艦は自分が今身に着けている艦装をすべて取り外し、これ以上何も武装を持っていないことをアピールするかの様に両手を宙に挙げた



提督「……えぇ」


提督「……」


提督(遂に……遂にこの時が来た……)


提督(コイツが横須賀を陥落させた……あのカ級の大ボス)


提督(コイツのせいで、僕たち横須賀海軍の名誉は地に堕ち……)


提督(そして何より……コイツのせいで何人もの友人と艦娘が殺された……)




大深海棲艦「……」


大深海棲艦「なんだか今日は暑いのォ。何か飲み物でもいれるとするかの」


大深海棲艦「ヌシは何にする? 何か冷えたものは……おお! 今朝取れたての重油のミックスジュースなんてどうじゃろう? キンキンに冷えとるぞ?」


提督「……」


提督「麦茶でお願い致します」


大深海棲艦「ハハ、すまんの。どうも我々深海棲艦の嗜好は人間と相容れんようでのぉ……いやぁ、失敬失敬」コトッ



提督「……」



大深海棲艦「……」


深海棲艦「……すまんがヌシのその大量の爆薬も外してくれるとありがたいのじゃが……」





大深海棲艦「いくらワシとて艦装をすべて外した状況で至近距離で爆風を受ければひとたまりもないからの。フォフォフォ」




提督「――!」



大深海棲艦「それにそのようなものを大量に付けたままではワシが怖がってしまってロクな話し合いが出来んじゃろ?」フォフォフォ



提督「……いいでしょう。大深海棲艦様のおっしゃることにも一理あります。爆弾は全て取り外しましょう」



 提督はそう言うと自らの体に巻き付けてあった大量の爆発物を一つ一つ外していった



提督「……これでいいでしょうか?」


大深海棲艦「ふむ。いいじゃろう」



大深海棲艦「……それで話というのは何かの?」


大深海棲艦「なにせワシの娘を人質にとってまでのことじゃ。万が一つまらない話であったら……どうなるか分かっておろうな?」ゴゴゴ


提督「……このような騒動を起こした時点で、私はもう軍人失格です」


提督「今更どのような処罰を受けようが構いません」


大深海棲艦「フォフォフォッ! 軽いジョークじゃよ! 大丈夫。ヌシにはワシの特例でどんな処罰も受けさせん。なにせヌシは横須賀海軍の期待の星じゃからの!」フォフォフォッフォ!


提督「……」


大深海棲艦「まぁじゃが何事にも実直な態度で当たるヌシのことじゃ……やはり余程の事情があってのことであろう?」


提督「えぇ……」


提督「……大深海棲艦様は攘夷戦争という言葉をご存じですか?」


大深海棲艦「攘夷戦争?」



大深海棲艦「……ああ! 知ってるとも! 横須賀戦争のことじゃろう?」


大深海棲艦「前にとある横須賀海軍の友人から聞いての。なんでも日本人はあの戦争のことをそう呼ぶらしいではないか?」


提督「ええ……。そうです」


提督「……」


提督「私はあの戦乱に参加したのですが、今でも思いだすだけで鳥肌が立ちます」


提督「敵の何倍もの大きさを持つ軍艦が瞬く間に深海棲艦の砲撃で次々に沈み、沈みゆく船員たちの叫び声で海上が埋め尽くされるさまは……」


提督「……まさに地獄以外の何物でもありませんでした」


提督「……」


提督「……私はあの戦乱のさなか恐怖のあまり逃げ出しました」


提督「次々と沈められてゆく仲間の艦と当時海軍の秘密兵器だった『艦娘』を見捨てて……」



提督「……私は今でも夢に見るのです」


提督「次々と沈みゆく仲間の艦。そしてその艦に乗っている友人たちが必死に助けを求めている」


提督「私はその夢の中で彼らに手を伸ばす。しかしその手は友人たちに届くことは……決してありません」


提督「そして私の視界が深い闇に切り替わり、その闇に自分が飲み込まれそうになるところでいつも目が醒めます」


提督「……」


提督「大深海棲艦様……私は五年前に既に死んだはずなのです」


提督「いや、死ぬべきだったのです!」


提督「でも……こうして生きながらえてしまっている……!」




提督「私が仲間たちを見捨て、臆病にも逃げ出したためにっ!」





提督「……私は認めたくありません」


提督「認めたくないのです……我ら誉ある帝國海軍が、名も知れぬ異形の怪物共に全く歯が立たなかったということに」



提督「そして何より――あの戦乱のさなか仲間たちを見捨て、今もこうしてのうのうと生きながらえている自分自身を」





大深海棲艦「……」



提督「……今日私がこのような形で大深海棲艦様との会談を要求したのには……実は大深海棲艦様にあるお願いがあってのことなのです」



大深海棲艦「お願い?」


提督「……」


提督「……ええ。大深海棲艦様……」



提督「どうか……今ここで……」













提督「私と共に――逝ってください」ダッ











大深海棲艦「――!」








 僕は……覚悟を決めていた


 
 5年前に死ぬべきだったあの日から




――時間が止まったような気がした


 
 僕は懐に隠し持っていた手榴弾のピンを抜き――大深海棲艦に向かって駆け出した



 ヤツとの距離は約5m……この至近距離で爆風を浴びればらいくらヤツとてひとたまりもない


 
 やった、僕の勝ちだ

 
 
 みんな、敵は……とったよ

 

 

 





 

 


 パァン



 

 

 

 一発の乾いた銃声が大使館に響いた――



……



~横須賀 万事屋 銀ちゃん~


……エー、シカイノクサノヒトヨシト……



銀時「……」ポリポリ


銀時「……」


銀時「……」ポチッ!



……チャイマンガナ! ソウデンガナ!



銀時「……」


銀時「ハァ……」ポチッ ツゥーン……


銀時「……」ポケー



 銀時は自分の家の天井を何をするでなく仰ぎ見て呆けていた


 すると不意に先日の提督との会談のことが頭によぎった



銀時(……そういえば)


銀時(なんかアイツ……変だったな)


銀時(今まで何度もアイツに攘夷派への参加を持ちかけられてきたが)


銀時(そのたびにその誘いを全部断ってきた)


銀時(だから今回もそこまで深く考えないで断ったつもりだったが……)


銀時(アイツの……どこか踏ん切りがついたような目は………)





銀時「……」




 銀時は言い知れぬ違和感を感じていた。




銀時(……何なんだこの感覚……俺が誘いを断ったことがそんなに恨めしかったのか?)



銀時(アイツのことだ。2、3日すればまた俺の所に性懲りもなく来るんじゃないのか?)



銀時(それをまるで今回が最後みたいな――)





銀時「――!」



 
 
 銀時が何か勘づいた時、頭の中に提督の言葉が浮かんだ。







――やっぱり……そう、なんだよね……


――銀さん……本当にありがとう






銀時「――――!!」
 






銀時「まさか……アイツ!」ダッ


……


~横須賀 提督宅~



銀時「はぁ……はぁ……」




 銀時は提督の家にいた。




銀時「はぁ……はぁ……」


銀時(ここにはいない、か)ハァ…ハァ… 
 


銀時「……」ハァ…ハァ…



銀時(ふざけんじゃねーぞ……お前にはまだ守るもんがあんだろーが……)ハァ…ハァ…



銀時(お前がいなくなったら……誰がアイツらのことを……)ハァ…ハァ…


 

 
 ヒラッ





銀時「ん?」



 
銀時「……」ピラッ





銀時「――っ!!!」



 ダッ





  銀時は、駆け出した

  


――


ワーワー……ー

ドゴォーン パラパラパラ…・・・

バラララ バララララララララ

ウ……ワアア……タス……ケ……



   ん? ここは……一体



――おい、もっと手を伸ばせ!!!


――くそっ!! ダメだ! もっとだ! もっと伸ばせ!!!!

   

   僕は会議室にいたはずじゃ……


 
ガゴン ファンファンファン……



――!?


――お、おい待ってくれ!!! まだ助けなくちゃいけない奴が大勢残ってるんだ!!!


――くそっ!!!あと一歩のところで手が届くんだ!! 頼む待ってくれ!!!


  
   誰かの叫ぶ声が聞こえる……



――俺の友人がまだ大勢残ってるんだ!!! 頼む!! 彼らを置き去りには出来ない!!!


――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





男は絶叫していた






僕は見た






その男と同じ顔の男が船を発進させていた



……


~横須賀 カ級大使館内会議室~






提督「……」





大深海棲艦「……」









大深海棲艦「……すまんかったのォ」



大深海棲艦「ヌシの願いを、ワシは叶えられんかった」


大深海棲艦「……」


大深海棲艦「……ワシはいかんせん臆病者での……」


大深海棲艦「ヌシのような勇敢な者と面と向かって対峙することは、怖くて怖くて仕方なかったんじゃよ……」





大深海棲艦「一対一でなくて……本当に悪かったのォ」





シュタッ



カ級侍従「……」




大深海棲艦「……ご苦労じゃった」



カ級侍従「ハッ」


 
カ級侍従「大深海棲艦様、お怪我は?」



大深海棲艦「大丈夫じゃよ、至ってどこも健康じゃ」



カ級侍従「左様でございますか」



大深海棲艦「すまんかったのぉ」



カ級侍従「何がです?」



大深海棲艦「いや、こういう真似はあまりさせたくなかったんじゃがのォ……」



カ級侍従「………」



カ級侍従「大深海棲艦様がお気に病むことではございません」


カ級侍従「私の命は命をかけて大深海棲艦様をお守りすることですから」




大深海棲艦「……」


大深海棲艦「……」フゥ





大深海棲艦「本当に……惜しい男を失くしてしまったことよ……」



……


~横須賀 カ級大使館前~




銀時「はぁはぁ……」タッタッタ




――ありがとう……



銀時「――!」タッタッタ


銀時(……ふざけんじゃねーぞ)タッタッタ


銀時(俺は絶対に……お前を……)タッタッタ










ザワザワ ザワザワ








銀時「……ここか」





銀時「……」ツカツカツカ



左門番「……ム」


左門番「そこのお前、止まれ」


左門番「ここはカ級大使館だ。用のないものの立ち入りは……」





銀時「……」ツカツカツカ
  



左門番「おい! とまらんか!」




銀時「……」ツカツカツカ




左門番「現在大深海棲艦様とテロリストが会談を行っている最中だ! 如何なる理由があろうとこの中に立ち入ることは許されていない!」



左門番「早々に立ち去られ……」



 ドゴォォォォン!!!



左門番「!!?!?!??!」グヴォ



左門番「……」ドサッ



 
 銀時は徐に腰の木刀を振り抜き、制止する門番を吹き飛ばした





銀時「……どけ」



銀時「俺のダチが……待ってんだよ」




 
 パァーン!





銀時「!!!!!」



銀時(まさか……もう……)



銀時「クソッ!」ダッ



~横須賀 カ級大使館会議室~



提督「……」


大深海棲艦「……」


カ級侍従「……」






大深海棲艦「……」


カ級侍従「……」


カ級侍従「……開戦なさる、おつもりですか?」


大深海棲艦「――!」



カ級侍従「この事件はもう多くの人の目に触れてしまいました」


カ級侍従「おそらく横須賀に住まう多くのカ級たちは腸が煮えくり返る思いでしょう」


カ級侍従「カ級たちの世論が開戦に傾くのは時間の問題かと……」




大深海棲艦「……」



 ドゴォォォォン!!!



大深海棲艦「――!」


カ級侍従「――!」スチャ


大深海棲艦「何事だ!」


カ級侍従「……」



大深海棲艦「……どうした! 何が起きておる!」スチャ


警備員《き、緊急事態です! 正門が何者かによって破壊、突破されました!》

 
警備員《現在犯人は会議室前の通路まで侵入。会議室に侵入するのも時間のも……グ、グワァァァ!》


大深海棲艦「!?」


大深海棲艦「応答せよ! ええぇい、応答せんか!」




 シィーン……




大深海棲艦「……」


カ級侍従「……」


 

 ドゴォォォォォオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンン!




大深海棲艦「!!」


カ級侍従「!」




ツカ……ツカ……ツカ……






銀時「……」ゴゴゴ




大深海棲艦「――っ!」ビクッ!



カ級侍従「大深海棲艦様、お下がりください」スッ



カ級侍従「……」スゥー




カ級侍従「貴様何者だっ! このお方が大深海棲艦様と知っての狼藉かっ!!」




カ級侍従「……」グッ





銀時「……」



銀時「……」ユラ~…ユラ~…


銀時「……」ユラ~…ユラ~… 



銀時「……」ユラ~…ユ…




銀時「!!!!!!」






  提督「…………」






銀時「て、提督?」



銀時「提督!」





 提督「……ウ……ウウ」  


 
 提督「ぎ、銀……さん……?」ヒー…ヒー…






銀時「提督ううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!」




 ダッ




カ級侍従「――っ!?」


カ級侍従「貴様、待っ――」ガシッ



 大深海棲艦「……」



カ級侍従「!?」


カ級侍従「大深海棲艦様! 奴を止めなくてはっ!」



 大深海棲艦「……」



銀時「あ…ああ……あ……」



銀時「……」ドサッ



提督「銀…さん…」ヒー…ヒー…


提督「来ちゃ…ダメって……書いていった……じゃないか」ヒー…ヒー…


提督「銀さんは……約束を……破らない男だって聞いて……そうしたのに……」ヒー…ヒー…


銀時「こ……こんな……こんなこと……」



提督「……」ヒー…ヒー…



提督「なァ、銀さん……この前は嘘……ついたりして……悪かったね……」ヒー…ヒー…




銀時「喋るな」





提督「……本当は……僕は……分かってたんだ……深――」




銀時「喋るなって言ってんだろうがっっっ!!!!」




提督「……」ヒー…ヒー…





提督「ウグゥ!?」ガハッ





銀時「――!!」



銀時「おいっ! しっかりしろっ!」



提督「はぁ……はぁ……はぁ……」



提督「……」ヒー…ヒー…



提督「……銀さん……僕は……僕は結局何もできなかった……」ヒー…ヒー…



提督「仲間……たち……も艦娘も……守れなかった……」ヒー…ヒー…



提督「オマケに……その……仲間たちと……艦娘の……敵をとることさえ……でき……な……かった」ハ…ハハ…



提督「本当は……分かってた……んだ……深海棲艦……を倒す……なんてことは……無理だって……」ヒー…ヒー…



提督「でも……僕は……そこで……アイツらに屈したら……散っていっ……た……友人たちに……ウグッ!……も、申し訳がつかないと……思ってた」ヒー…ヒー…


提督「だから……今の今まで……攘夷……派として……深海棲艦……に立ち向かって……きた……」ヒー…ヒー…


提督「……」ヒー…ヒー…


提督「でも………廃艦令……が……でた時……すべてが……もう……どうでも……よくなった」ヒー…ヒー…



提督「なん……で……だろうね……艦娘は……ただの兵器……なのに……」ヒー…ヒー…



提督「艦娘……なんて……ただの……道具……として……しか……見てないはずなのに……」ヒー…ヒー…



提督「……」ヒー…ヒー…



提督「なァ……銀……さん。最期に……一つ……お願いが……あるんだ……」ヒー…ヒー…



提督「まぁ……銀……さんは約束……破りだから……信用……は出来……ないけど……」ハ…ハハ…



銀時「……」



提督「……どう……か……」






提督「どう……か……アイ……ツ……ら……を……守っ……て……や……っ……て……く……れ……」ヒー…ヒー…









提督「ガハァ!!」







銀時「!!!」



銀時「て、提督!?」



銀時「……提督っ!? 提督っっ!!」






 提督「……」





銀時「あ……あ……ああ……」



銀時「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



銀時「……」ドサッ



銀時(俺が……殺して……しまった)



銀時(俺が……あんな……ことを……言っちまったせいで……提督は……死んでしまった)


銀時(やっと……分かった……提督が……俺の所に来た理由が……)


銀時(アイツ……は最後の……一押しが……欲しかった……んだ)


銀時(アイツの覚悟……を……納得させる……最後の……一押しが)




銀時(……)



銀時(俺が……殺した……)



銀時(俺が……提督を……殺してしまった……)




銀時「……」



銀時「……」スッ



銀時「……」ユラリ




カ級侍従「――っ!!」



カ級侍従「くっ!」スチャ



銀時「……」ユラリ ユラリ


銀時「……」スッ



カ級侍従「……」グッ




カ級侍従「――!?」





銀時「……」ブルン



銀時「……」ブルン



カ級侍従「……」



カ級侍従「……」


カ級侍従「……」スッ


銀時「……」


銀時「……」ユラリ


銀時「……」ブルン


カ級侍従「……」


カ級侍従「……」スッ


銀時「……」


銀時「……」ユラリ


銀時「……」ブル…


 パシッ


カ級侍従「……」グググ…


銀時「……」グッ…グッ…



カ級侍従「……フンッ!」



 バギィ!


銀時「……」


銀時「……」ユラリ


銀時「……」スッ…



カ級侍従「しつこい」



 パァン! 


 キィィィィッィン!



銀時「……」


 銀時が提督の懐から抜き去った短刀は、侍従によって弾き飛ばされ後方の壁へ突き刺さった



銀時「……」



カ級侍従「……」


カ級侍従「……」スタスタスタ


カ級侍従「……」スチャ


銀時「あ……ああ…」ブルブル

  

 侍従は銀時のこめかみにピストルを当てた。


 するとおもむろに大深海棲艦が彼女の肩を掴んだ。



大深海棲艦「……」


大深海棲艦「……もうよい」グッ


カ級侍従「――!!」


カ級侍従「……ですがっ!」




大深海棲艦「もうよいっっっ!」




カ級侍従「――!!!」ビクッ


カ級侍従「……ハッ」スチャ



大深海棲艦「もうよい……」






大深海棲艦「もう……全て終わったんじゃよ……」






銀時「あ…あ…ああ」






銀時「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」







  

 彼のあまりにも長すぎる一日が、終わった――


……


~横須賀 とある浜辺~


ザザァ…… ザザァ……


銀時「……」


銀時「……」


 
 銀時は砂浜に座り、横須賀の海に寄せる波の音を聞いていた。



銀時「……」


銀時(提督……)


銀時(お前が逝ってから……もう2年も経つのか)


銀時(時間が流れるのは本当に早いもんだな……)


銀時「……」


銀時(あの事件の後……カ級深海棲艦側は日本国との全面戦争には突入しなかった)


銀時(恐らく開戦しない方がメリットが大きいと踏んだんだろうな……)


銀時(カ級深海棲艦たちはこの事件でますます横須賀における発言力を増し、ついに本格的な横須賀支配に乗り出した)


銀時(横須賀の海は今も、ますます混迷を深めるばかりだ……)


銀時「……」




銀時「なァ、提督……」


銀時「多分お前は、自分は何も護れなかったと思ってただろうが……」


銀時「お前は…決して何も護れなかったわけじゃないんだぜ…」


銀時「お前は…立派に艦娘を護ったじゃねぇか」


銀時「提督……お前は立派にやったんだぜ……」


提督「そう……アイツらが誇りに思うくらい立派にな……」



――銀時ィー! 早く行こうよぉ!


――全く、こんな所で何してるのよアンタは! ほら、さっさと行くわよ! 


――あの……銀時さん……早く行きましょう




銀時「あぁ、今行くさ」


銀時「……提督






 
 銀時「お前の護りたかったものは……俺が必ず護ってみせる――」









どうもありごとうございました。>>1です。


これにてこのSSは終了です。


まだ全然書き慣れていない面も多々あり、皆様が期待して頂いていたものとは程遠い出来になってしまいました……申し訳ございません……


僕としては……色々と前作の反省点を活かしながらこの作品をかいたつもりだったのですが……やはり僕にはまだまだシリアスは早すぎたようです……


今後はこれに懲りずまた色々な作品を書いていきたいと思っていますので是非これからもどうぞよろしくお願い致します


最後まで読んでいただき本当にありがとうございました







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