勇者「……美味い」

エルフ「そうですか？　良かったです」

勇者「……」ｼﾞｯ

エルフ「な、なんですか？　そんなに見つめて」

勇者「お前、実は天才だったのか」

エルフ「は、はぁっ！？」

勇者「こんなにうまい食べ物は初めてだ」

エルフ「お、大げさですよ！」

勇者「毎日でもお前の飯が食いたい」

エルフ「ちょっ///」

勇者「さて野宿なわけだが」

エルフ「はい」

勇者「テントは俺が持っている一人用のヤツ一つしかない」

エルフ「はい」

勇者「無理矢理入れば二人入れないこともないが……どうする」

エルフ「え……あー……」

勇者「……俺は外で見張りをするからお前が使え。寝袋も一つしかないしな」

エルフ「え、でも……」

勇者「気にするな」

エルフ「気にするなって言われても……うぅ」

エルフ「なんだか申し訳なくて眠れない……」

エルフ「勇者さん？」ｿﾛﾘ

勇者「どうした」

エルフ「あの、少しお話しませんか」

勇者「眠れないのか」

エルフ「はい」

勇者「……手短にな」

エルフ「……勇者さんて時々デリカシーないですよね」

勇者「？？？」

エルフ「気にするなって言われても……うぅ」

エルフ「なんだか申し訳なくて眠れない……」

エルフ「勇者さん？」ｿﾛﾘ

勇者「どうした」

エルフ「あの、少しお話しませんか」

勇者「眠れないのか」



エルフ「勇者さんはどうしてそんなに強いんですか？」

勇者「勇者だからだ」

エルフ「相当修行したんですか？」

勇者「そうだな……いや、修行という点では恐らく人並みだろう」

エルフ「え？　それじゃあ」

勇者「言っただろう。勇者の特性みたいなものだ」

エルフ「ほえ～、勇者ってすごいんですね」

勇者「お前の魔法も見事だった。あの瞬間、僅かな時間であの水や風を扱う魔法は得意と称するだけはある」

エルフ「私の場合は……精霊に助けてもらってですけどね」

勇者「精霊？」

エルフ「ええ。エルフは精霊を使役できるんです。普通、自らの魔翌力だけで使う魔法はすぐに限界が来ます。ですが私たちは自然界の力を借りて使うことが出来ます」

勇者「なるほど」

エルフ「でも勇者さんみたいな規格外もいたんですね。外の力を一切借りていないのにあんな力を出せるなんて……どうやって絞り出しているのか気になっちゃいましたよ」

勇者「……俺は」

エルフ「勇者さん？」

勇者「……いや、なんでもない」

エルフ「？」

エルフ「さて、話しこんじゃいましたね。私もそろそろ寝ます」

勇者「ああ」

エルフ「あ、そうだ。私気にしないんで一緒にテントで寝ますか？」

勇者「お前がいいならそうするが」

エルフ「あ、はいいいですよ……って、え？」

勇者「そうか」

エルフ（あれ？　冗談のつもりだったのに）

エルフ「せ、せま……」

勇者「仕方がない。本来一人用だからな」

エルフ「勇者さんさむくないですか？」

勇者「少し冷えるが問題ない」

エルフ「一緒に寝袋に入りますか？　あ、やっぱりダメ」

勇者「どっちなんだ」

エルフ（だって今日一杯汗かいたのにまだ水浴びしてない……）

勇者「……」

エルフ「すーすー」

勇者「寝たか」

勇者「……」

勇者「……さっさとこの娘を街へ送り届けて先を急がないと」

勇者「俺には、暇が、時間がないんだ」

エルフ「う、ぅ、にいさ、ん……」

勇者「……」

エルフ「ふわぁ……あ！？」

勇者「zzz……」

エルフ「あ、そっか。一緒のテントで寝たんだった。にしても顔が近い……」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

エルフ「あ、私匂ってないかな！？」

エルフ「う～、気になる！」

エルフ「よし！」ｻｻｻｯ

エルフ「起きない、よね？」

勇者「……」

エルフ「テントから出て、と」

エルフ「少し離れて……この辺でいいか」

エルフ「『水の精霊よ』」

エルフ「わぁっ！　出た出た！簡易式水浴び場！」

エルフ「～♪　～♪」

エルフ「まずは服を脱いで……うわ、なんか匂ってるかも。べっちゃり」

エルフ「」ｷｮﾛｷｮﾛ

エルフ「誰もいないよね？　よし」

エルフ「」ﾇｷﾞﾇｷﾞ

エルフ「あんまり、胸は大きくならないな……」

エルフ「『精霊よ、我に降り注げ』」

エルフ「きゃっ！？　冷たい！　でもきもちいー……天然シャワー♪」

勇者「……む、朝か」

勇者「エルフ？」

勇者「何処かに行ったのか？」

勇者「む、外から声が」ｽﾀｽﾀ

勇者「こちらからだな」

勇者「おいエル、フ……」

エルフ「～♪……えっ？　勇者さん！？」ﾊﾀﾞｶ

勇者「……」

エルフ「……」

勇者「……すまん」ｸﾙﾘ

エルフ「今の間はなんなんですかあ！？」

ごめんなさい、今日はここまでにします。
リハビリのつもりで書いたらダメダメだった

仮に勇者が自身の命を削って戦っているとしよう
つまり、過去の勇者たちはみな、命を使い果たして死んだことになるが
みな四天王の一人目に到達する前に死んだってことかい？

>>25
いいえ、その辺は今後明らかになっていきます。
ここで言うと物語の核心の一つに触れちゃうのでオフレコで。

ちょっと投下

エルフ「……」

勇者「……」

エルフ「……」

勇者「……すまん」

エルフ「……もう良いですよ、わざとじゃ無かったんですし」

勇者「そう言ってもらえると助かる」

エルフ「でも」

勇者「？」

エルフ「あの間はなんだったんですか？」

勇者「……」

エルフ「？」

勇者「……さあ先を急ごう」

エルフ「ちょっと！？」

エルフ（なんなんですかあの態度！？）

エルフ（絶壁！　とか思っているんですか！？）

エルフ（それとも可愛くないとか？）

エルフ（うぅ、女エルフのステータスは胸ですからね……）

エルフ（大きければ大きいほど美人ですけど私は……）

エルフ（うぅ……勇者さんのばかぁ……）




勇者「……」

勇者「おいてくぞ？」

エルフ「！？」


勇者「？」

エルフ「あの間はなんだったんですか？」

勇者「……」

エルフ「？」

勇者「……さあ先を急ごう」

エルフ「ちょっと！？」

間違った




エルフ（なんなんですかあの態度！？）

エルフ（絶壁！　とか思っているんですか！？）

エルフ（それとも可愛くないとか？）

エルフ（うぅ、女エルフのステータスは胸ですからね……）

エルフ（大きければ大きいほど美人ですけど私は……）

エルフ（うぅ……勇者さんのばかぁ……）




勇者「……」

勇者「おいてくぞ？」

エルフ「！？」

勇者「」ｽﾀｽﾀ

エルフ「あ、そう言えば何処に向かうんですか？」

勇者「言っただろう。三日はかかる次の街へ行く。ここからだと四日はかかるか。」

エルフ「そこでお別れ、なんですね」

勇者「そうだ」

エルフ「どうしても私を連れていっては下さらないんですか？」

勇者「ああ」

エルフ「……必要ないから？」

勇者「…………そうだ」

エルフ「……」

エルフ「じゃ、じゃあ私が必要になったら連れていってくれますか」

勇者「ダメだ」

エルフ「どうして！？」

勇者「……リスクの方が高いからだ」

エルフ「それを補ってあまりあるメリットなら！？」

勇者「……勇者に付き人は必要ない。これは王国の判断だ」

エルフ「……っ！」

勇者「足を止めるな。到着がその分遅れるぞ」

エルフ（……して）

勇者「……」

エルフ（どうしてそんなに冷たい言葉ばかり……！　助けてくれたのに！）

勇者「………」

エルフ「……」ﾋﾟﾀｯ



勇者「……置いていくぞ」ｽﾀｽﾀ

エルフ「～～～～っ！！！」

勇者「ここで休憩にする」

エルフ「……」

勇者「……」ｺﾞｿｺﾞｿ

勇者「干し肉だ、食べろ」

エルフ「……」

勇者「いらないのか」

エルフ「……」

勇者「夜まで持たなくても知らんぞ」

エルフ「……」

勇者「休憩は終わりだ、行くぞ」

エルフ「……」

勇者「……」ｽﾀｽﾀ

エルフ「……」ﾄｺﾄｺ

勇者（付いてはくるが、話さない、か。遠回しの抗議のつもりか？）

エルフ「……」

勇者「……」

勇者（悪いが期待には応えてやれない）

勇者「今夜はここで休む」

勇者「テントはお前が使え」

エルフ「……はい」

勇者（ようやく口を開いたか）

勇者（しかし相当に疲労しているな、やせ我慢して昼を抜くからだ）

勇者「……」

勇者（俺が口を出すことでもない、か）

勇者「夕食はここに置いておく。食べたければ食べろ」

エルフ「……」

勇者（食べずに寝たか）

勇者（どういうつもりだ？）

勇者（……まあいい、あと数日の旅の共。気にしてもしょうがない）

勇者（それはエルフの自由だ）

勇者（……今夜はテントに入らないでおくか）

勇者（朝も気をつけないとな）

エルフ（……）

エルフ（私、凄く意地はっちゃってます……）

エルフ（お腹も空きました）

エルフ（……）

エルフ（でも私はどうしても魔王城に行かないと）

エルフ（兄さん……ｸﾞｽ）

エルフ（……）

ﾁｭﾝﾁｭﾝ

エルフ（朝……？）

エルフ（あれ？……勇者さんは？）

エルフ（テント内にいない？　まさか！）ｶﾞﾊﾞｯ

エルフ「ゆうしゃさ……え！？！？！？！」ﾊﾞﾊﾞｯ

勇者「！？　エルフ！？」ｼﾞｮﾛﾛﾛｰ

エルフ「あ、あああう……///」

勇者（なんでよりによって小便でたき火を消してる時に出てくるんだ！？）ﾊﾟｵｰﾝ

エルフ「……///」

エルフ「……」

勇者「……」

エルフ「……あの」

勇者「なんだ」

エルフ「ごめんなさい」

勇者「何がだ」

エルフ「そ、そのお、おといれ……///」

勇者「トイレに行きたいのか？」

エルフ「ち、ちがっ！？」

勇者「冗談だ」

エルフ「からかわないで下さい！」

勇者「昨日の朝は俺もやらかした。おあいこだろう」

エルフ「そ、そうかもしれませんけど……なんでよりにもよってあんな近くで……」

勇者「たき火を消すためだ」

エルフ「水を使えばいいじゃないですか！」

勇者「もったいない」

エルフ「……うぅ」

エルフ「そういえば」

勇者「なんだ」

エルフ「昨夜はテントで寝なかったんですね」

勇者「……今日はよくしゃべるな」

エルフ「……っ」

勇者「別に黙ろうと黙るまいと俺の対応が変わるわけではない」

エルフ「……どうすれば、私は連れていってもらえるんでしょうか」

勇者「……」

エルフ「……」

エルフ「……なんでもしますから」

勇者「……逆に聞こう」

エルフ「えっ」

勇者「お前はどうすれば俺に付いていく事を諦める？　俺に出来ることならなんでもしよう」

エルフ「そ、そんなっ！　諦められないからこうやって……」

勇者「同じだ。俺も連れて行けないから言っている」

エルフ「……」

勇者「お前にも事情があるのはわかる。それも込み入ったものだろう」

勇者「だが俺にも事情がある」

勇者「お互いに妥協できないことはあるものだ」

エルフ「……」

勇者「……」

エルフ「……」

勇者「……」

エルフ「……」

勇者（あれからだんまりか）

エルフ「……」

勇者（余程何かあるのだろうが、聞かない方がお互いの為だな）

エルフ「……」ﾌﾗｯ　ﾊﾞﾀﾘ

勇者「！？　おい！」

エルフ（あれ？）

エルフ（私どうしたんでしたっけ？）

エルフ（あ、そうか。勇者さんに断られて、正論を言われて何も言えなくなって……）

エルフ（疲れてきて、視界がぼやけてきて……）

エルフ（気分が悪くなって……）

エルフ（でも、なんか暖かい……）

エルフ（揺れてる？　良い匂いがする……んぅ）ｷﾞｭｯ

勇者「……」

エルフ「ん……」

勇者「目が覚めたか」

エルフ「え……？　あれ？　私……あ、勇者さんにおぶられてる……？」

エルフ「ご、ごめんなさ……！」

勇者「急に暴れるな。いいからもう少しこのままでいろ」

エルフ「でも……」

勇者「お前は軽い、問題ない」

エルフ「……///」

エルフ（辺りは真っ暗。すっかり眠っていたみたい）

勇者「疲労と空腹で倒れたんだろう。飯を食わないからだ」

エルフ「っ！　それは……」

勇者「とりあえずこれでも食べておけ」つ干し肉

エルフ「……またそれですか」

勇者「手っ取り早く栄養補給できる」

エルフ「今回は頂きますけど、次から食事の用意は私がしますね」ﾊｱ

勇者「……というとまたこの前のような美味い飯が食えるのか？」

エルフ「まあ、美味しく作るよう努力はしますけど……口に合うかどうかは食べてみてもらわないと」

勇者「大丈夫だ、お前の手際は良かった。期待している」

エルフ「あ、ありがとうございます///」

エルフ「あ、あの、やっぱり降ろして……歩けますし」

勇者「問題ない。お前一人担いで夜通し歩く程度なら」

エルフ「そ、そういう問題じゃあ……」

勇者「それに休まず進んだ方が早く到着出来る」

エルフ「……やっぱり降ろして下さい」

勇者「問題ないと言ってるだろう」

エルフ「今から食事作りますから」

勇者「……」

エルフ「私の得意料理です」

勇者「……」

エルフ「今休んで食べれば、到着は確かに若干遅くなりますけどその分私の御飯が多く食べられる可能性がありますよ」

勇者「……」

エルフ「いかがです？」

勇者「……わかった、降ろす」

エルフ（意外にすんなり……？）

とりあえずここまで

途中で1日空いて失踪したのかと思ったわ

>>51-52
ごめん、一昨日はここまでって書き忘れた。

見てくれてる人がいて良かった。ありがとう。
ちょっと投下します。

勇者「……」

エルフ「～♪」

勇者「……」ｼﾞｨ

エルフ「～♪　……？　何ですかジロジロ見て」

勇者「いや……今まで料理など気にしたこともなく、調理も見たことが無かったからな」

エルフ「そうなんですか」

エルフ（調理が珍しいのかな？）

エルフ（その割には顔に視線を感じるけど）

勇者「……美味い」

エルフ「えへへ、どうですか！」ｴﾍﾝ

勇者「最高だ。俺が今まで食べていた物はなんだったんだ」

エルフ「いつも干し肉と野菜だけだったんですか？」

勇者「長持ちするからな。補給済ませた直後はパンも食べるが今は切らしている」

勇者「他には旅の途中で捕まえた獣たちや虫を食べていた」

エルフ「ふんふん……ん？」

エルフ「今何を食べていたって……」

勇者「……？　パンだが」

エルフ「その後です」

勇者「捕まえた獣」

エルフ「……その後です」

勇者「虫」

エルフ「虫！？」ｿﾞｿﾞｿﾞ

勇者「ああ、色々食べたぞ。あいつらは生で食えるのとそうでないのが……」

エルフ「いやぁぁぁぁぁ！？」

勇者「……」

エルフ「……うぅ」

勇者「火炎魔法で焦がして食べると殻がこうﾊﾟﾘｯと」

エルフ「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ！？！？」

勇者「伸びた長い脚が口からはみ出てな」

エルフ「やああああああああっ！？」

勇者「翅があるヤツは」

エルフ「きゃああああああああああああ！？」

勇者（おもしろいな）

エルフ「ぜぇ、ぜぇ……」

勇者「……」

エルフ「遊ばないでください……！」ｷﾞﾛ

勇者「他には」

エルフ「！　これ以上言ったら今日の御飯なしですっ！」

勇者「！？」

勇者「す、すまない……」

エルフ「わかればよろしいのです」

勇者「さて、出発しよう」

エルフ「え？　今夜はここで休まないんですか？」

勇者「こんな草原のど真ん中でか？」

エルフ「そりゃ目立ちますけど……良いじゃないですか」

勇者「夜盗に狙ってくれ、と言ってるようなものだぞ」

エルフ「動いていたってそれは変わらないでしょう？」

勇者「……」

エルフ「それに、こんなに星が綺麗じゃないですか」

勇者「星？」

　　＋　　　　　ﾟ　　.　＋　　　　　　　　　　　　.　.　．ﾟ .ﾟ。ﾟ　。　,ﾟ．。ﾟ.　ﾟ．。　.。
　　　．　.　　　ﾟ　　.　o　　　　ﾟ　　。　　.　　,　.　.o 。　*　.ﾟ　+　。☆　ﾟ。。．　　.
　　　　　　　　　　　　　　　。　　　　　 　｡　　*。,　+　。.　o　ﾟ,　。*,　o　。.
　　ﾟ　　o　　　.　　。　　　.　　.　　　,　　.　,　ｏ　。ﾟ.　,ﾟ　。　＋　。　。,ﾟ.。
　ﾟ　,　　　,　。　.　　　＋　　ﾟ　　　。　　。ﾟ　.　ﾟ。,　☆　*　。ﾟ.　o.ﾟ　　。　.　。
。　.　　．。　　　　o　　　．.　。　ﾟ　 ﾟ　,　。.　o　。*　。　.　o．　。　．　.
　　　　　　　　。　　　.　　　。　　．　.ﾟo　。　*．　。　．.　☆　.　＋.　.　　.
　。　.　　．　.　　　.　　　．　　。　ﾟ。,　☆　ﾟ.　＋　。　ﾟ　,。　.　。　　,　.。
　　　　ﾟ　　。　　　ﾟ　　.　　+。　ﾟ　*　。.　,　。ﾟ　+.　。*。　ﾟ.　　　.　.　．　　.
　。　　.　　　.　。　。ﾟ.　。*　。,　´。.　　☆。。.　ﾟ。+　。　.。　　.　　｡　　　.
　　.　　　。　　ﾟ　ﾟ。　。,　.。o　☆　+　,ﾟ。　*。.　。　。　.　　　　。　　　　.
　ﾟ　.ﾟ　ﾟ　　。ﾟ　+　。.　+。　*　。ﾟ。ﾟ.,　,+　。ﾟ.　。　.　.　　　,　　　　,　　　.
ﾟ。ﾟ+ﾟ`,　o。。.ﾟ*。ﾟ　。.ﾟ　。　☆＋。。ﾟ.　°　。　.　　　,　　　　　　ﾟ　　　　ﾟ
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　ﾟ.　ｏ　*　。ﾟ。ﾟ.。ﾟ。+ﾟ　。　。　ﾟ。 ﾟ　。　　ﾟ
ﾟ`　.ﾟ　.ﾟ.　ﾟ.　.　ﾟ　　.　　ﾟ　　.　　　,　　.　　　　　.　　.　　　。　　　　　　ﾟ　.
　.　　.　　　　　.　,　　　　　。　　　　　　　.　　　　　　　　　　　.　　,　　　　.
　　　　　　。　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾟ　　　.　　　　　　　　　　　。
　,　.　　　　　　　　.　　　　　　　　　　　,　　　　　　　.　　　　　.

勇者「……」

エルフ「ね？」

勇者「……そうだな」ﾌｯ

エルフ「あ……」

エルフ（勇者さんが笑った？　そういえば初めてかも）

勇者「……この綺麗な空の為に、僅かに浪費するのも良いかもしれない」

エルフ（……時々勇者さんて変な言葉使うなあ）

エルフ「そうだ勇者さん」

勇者「？」

エルフ「ちょっとそこに座ってもらえますか？」

勇者「こうか」

エルフ「はい」

勇者「これがどうし……っ！」

エルフ「……」ﾋﾟﾄｯ

エルフ「こうやって、背中合わせに座ったら、綺麗な空を見つつ楽できるじゃないですか」

勇者「……ああ、そうだな」

ここまで

ほう

>>64-65
ありがとうございます。
少し投下します

エルフ「ん……あさ……」

エルフ（えっと、昨日は勇者さんと一緒に背中合わせのまま夜空を眺めて……あれ？）

エルフ（その後が思い出せない……）

エルフ「ここは……テントのなか？」

エルフ「私に寝袋がかかって……あとは勇者さんの装備が置いてある」

エルフ「先に起きてるのかな」

エルフ「っていうかまた私寝ちゃったんだ……」

エルフ「勇者さんは外かな」

エルフ「よいしょ、と」

エルフ「うん、今日も良い天気！」

エルフ「勇者さんは……あ、離れた所で剣を振ってる……凄い」

エルフ「目で追いきれない……」

エルフ「……朝から鍛錬かな」

エルフ「よし！　勇者さんのために朝も美味しいモノを作ってあげよう！」

エルフ「確かテントの中に……ん？」

エルフ「勇者さんの装備の上に……これは首飾り？」

エルフ「ああ、そういえば前の街で勇者さんが勇者の証みたいなこと言って見せてましたね」

エルフ「わぁ、凄い。金細工かなこれ」

エルフ「綺麗……」ｽｯ

勇者「おい」

エルフ「！？」ﾋﾞｸｯ

勇者「それに触るな」ｷﾞﾛﾘ

エルフ「え、あ……」

勇者「……」ｷﾞﾛ

エルフ「ご、ごめんなさ……」

勇者「……」

エルフ「……」

エルフ（あれから勇者さんは一言も喋ってくれません）

エルフ（余程大事なものなんでしょうか）

エルフ（でもあそこまで恐い勇者さんは初めて見ました……）

勇者「……」

エルフ（……気まずいです）

エルフ（今朝は食事に舌鼓もうってくれませんでしたし）

エルフ（緊張感でピリピリします……）

エルフ（こんな時に魔王城まで連れて行ってください、なんて言ったら……）

エルフ（間違いなく断られます）

エルフ（いえ今まで毎回断られていますけど）

エルフ「……はぁ」

勇者「……」

エルフ「あ、あの勇者さん」

勇者「……」

エルフ「え、えと……今日は良い天気ですね！」

勇者「……」

エルフ「あ、あはは……」

勇者「……」

エルフ「うぅ」

勇者「……」

エルフ（これじゃこの前と逆です……）

ﾎﾟﾂ

エルフ「ん？」

ｻｱｱｱｱｱｱ

エルフ「雨……？」

エルフ（天気よくないじゃないですか！）ｶﾞﾋﾞｰﾝ

エルフ「う、さむい……」

勇者「……」

エルフ（勇者さんに変化はない）

エルフ（凄いなあ、寒くないのかな）

勇者「……」ﾁﾗ

エルフ「？」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

勇者「……」ｶﾞｻｺﾞｿ　ﾎﾟｲｯ

エルフ「あ……上着……」

エルフ（なんだかんだ言って優しいなあ勇者さん）

エルフ（それにしても雨やみません）

エルフ（もう数日ずっと降り続けてます）

エルフ（あれから勇者さんとはほとんど口をきいてません）

勇者「見えてきた。町だ」

エルフ「え……？」

エルフ（久しぶりに勇者さんの声聞けたのはいいけど、着いちゃったんだ……）

エルフ（えーと何々？　雨の町……？）

エルフ（もしかしてこの町の近くはずっと雨が降ってるの？）

衛兵「ようこそ雨の街へ……やや！？　　貴方は勇者様では！？」

勇者「……そうだが」

衛兵「やはり！　ではお手数ですがわが町の王国駐屯地へお向かいください！　王国の王より勇者様が来たら連絡をするようにとのお達しです！」

エルフ「……」

衛兵「おや？　お連れの方ですか？」

勇者「……いや、こいつは」ﾁﾗ

エルフ「そ、そうです！」

勇者「おい」

衛兵「そうですか、聞いていた通りですね。ではお二人を案内いたします」

勇者「！？」

勇者「まて」

衛兵「はい？」

勇者「どういうことだ？」

衛兵「と申されますと？」

勇者「何故俺に連れがいることになっている」

衛兵「王国からそのように連絡があったのですが……」

勇者「なんだと？」

エルフ「……？」

衛兵「詳しくは駐屯地にてお聞きください。そこには通信結晶もございます」

衛兵「王自らお話ししたいとのことでした」

勇者「……わかった」

駐屯地兵「これはこれは勇者様！」

勇者「ああ」

駐屯地兵「お疲れ様です！　王から連絡があったことは既にお聞きに？」

勇者「ああ、話があるとのことだそうだが」

駐屯地兵「はい！　この通信結晶にていつでも待っているとのことです」

エルフ（通信結晶かあ、ニンゲンにしては珍しいもの持ってるなあ、どこで手に入れたんだろう？）

エルフ（あれはエルフの秘宝でしか作れないと思っていたけど）

勇者「王とはすぐに話せるか？」

駐屯地兵「可能です、どうぞお使いください」

勇者「わかった」

※通信結晶は電話みたいなものです。
王の声は勇者にしか聞こえない会話です。


勇者「勇者です」

王『来たか、勇者よ』

勇者「はい、お久しぶりです」

王『うむ、火の化身をやったそうだな』

勇者「はい」

王『ご苦労だった。これで前に倒した地の化身と合わせて四天王も残るところ二つか』

勇者「はい」

王『もっとも歴代勇者のほとんどは四天王戦で使い切ることは稀だ、そのことはわかっているな？』

勇者「……はい」

王『残りはどれくだいだ？』

勇者「……八割ほどかと」

王『そうか、なかなかのペースだな』

エルフ（何の話してるんだろう？）

王『四天王は魔王がいる限り復活する、人間社会の為に今度こそ悪しき魔王を倒せ。君には期待している』

勇者「はい」

王『さて、今回連絡をしたかった理由はわかっているな？』

勇者「……はい」

王『既に火の化身によってお前には連れがいることが広まっている』

王『牢獄の街の人間も広めていたのでそちらは手を打ったが』

勇者「もうしわけありません」

王『何故そうなった？』

勇者「魔物に襲われていて、行きずりの関係から次の町まで安全に同行するだけの予定でした」

エルフ（……）

王『なるほど。では牢獄の街で……ああそうか。お前には嘘を付けない制約（ギアス）をかけていたな、なるほど……』

王『相手が悪かったのもあるか。しかし今度からはそれを考慮して『調整』せねばなるまい、ふむ』ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

王『どちらにしても今回の調整は失敗だったか』

勇者「……」

王『まあよい、ところで既に聞いておろう、連れのことは』

勇者「はい、どういうことですかこれは」

王『普通の人間ならもみ消すが、相手がエルフだそうだからな』

王『エルフは貴重だ。その秘術の力、是非とも王国に欲しい』

王『そこでだ。お前はそのエルフを連れとして旅を続けろ』

勇者「しかし」

王『魔王を討伐した後は連れて戻って来てほしい』

勇者「……諒解しました」

王『うむ、少しそのエルフと代われ』

勇者「……はい」

勇者「王が話があるそうだ」

エルフ「え？　　私にですか！？」

勇者「ああ」

エルフ「え、えー……も、もしもし？」

王『貴方がエルフかな？　可愛らしい声だ。映像付きの通信結晶ではないのが悔やまれるな』

エルフ「え？　いやそんな///」

王『もう少し大きい街ならそういうのもあったのだが……まあいい。さて、君は何故勇者についていってるのか聞かせてもらえないかね？』

エルフ「っ！　それは……」

王『君は既に勇者の連れ、として世界中に広まりつつある』

王『これがどういうことかは既に勇者から聞いているだろう？』

エルフ「足手まとい、ですか」

王『そうだ。だから君の真意を聞いておきたい』

王『君に勇者の邪魔をする気があるのか否か』

エルフ「そんなつもりはありません！　ただ、私も魔王城へ行かなければならないんです」

王『魔王の肩入れをするためにかね？』

エルフ「！？」

王『見くびってもらっては困る。エルフは中立と言いつつ魔王に肩入れしている』

王『先日も魔王に一人のエルフが献上されたな』

エルフ「……」ｷﾞﾘｯ

王『もし勇者の邪魔をするなら、君にはしかるべき対処を取らなくてはならない』

エルフ「……」

王『しかしその気がないなら……勇者の仲間になってもらいたい』

エルフ「！？」

王『エルフはｓの秘術が非常に強力かつ利便性が高いものばかりだ』

王『勇者、ひいては我々人間にも良いものをもたらせてくれるだろう』

エルフ「取引、ということですか？」

王『そうとってもらっても構わない』

エルフ「……わかりました。それでいいです」

王『では君に頼みがある』

エルフ「なんですか？」

王『もし勇者が魔王を倒したら一緒に我が王国へ来てくれ。その時にいくつか力を貸してもらいたい』

エルフ「わかりました」

王『そして、これは最悪の事態だが……』

エルフ「？」

王『勇者が死んだ時だ』

エルフ「！？」

王『その時は、勇者の遺品を我が王国に届けてもらえないだろうか。その時勇者の最後も聞かせて欲しい』

エルフ「縁起でもないですね」

王『わかってはいるが、必要なことなのだ』

エルフ「わかりました」

王『では君を王国が正式に旅の共として認める。そうそう、くれぐれもエルフだとわからぬように』

エルフ「それはわかっています」

王『なかなか聡明な御嬢さんのようだ。それではいつか会う日を期待している』

エルフ「はい」

王『勇者にも既に君のことを共にするよう先ほど言わせてもらった。詳しい指示は勇者に受けてくれ』

エルフ「はい」

王『それでは』ﾌﾟﾂｯ

エルフ「ふぅ……緊張したぁ～」ﾍﾛﾍﾛ

エルフ「でもこれで……勇者さんは私を連れていってくれるんですよね？」

勇者「……そういうことになるな」

ここまで

見てるから完結はしてくれよ

>>87　ありがとうがんばる。見てる人まだいて良かった




エルフ「これからもよろしくお願いしますね勇者さん！」

勇者「……ああ」

エルフ「？　何ですか？　やっぱり気が進まないんですか？」

勇者「……こうやって関わることになったからには一度だけ聞いておこう」

勇者「言いたくないのならそれでも構わない」

エルフ「……？」

勇者「お前の目的はなんだ？」

エルフ「！？」

エルフ「目的って……」

勇者「何故魔王城を目指すのか、だ」

エルフ「ああ、そういう……」

勇者「？」

エルフ「私はてっきり勇者さんに敵だと思われていたのかと」

勇者「敵なのか？」

エルフ「ち、違いますよ！」

エルフ「ただよくあるじゃないですか、何の目的で俺に近づいた！　みたいな」

勇者「……ふむ。おい」

エルフ「？」

勇者「何の目的で俺に近づいた？」

エルフ「……」

勇者「……」

エルフ「勇者さんて意外と天然さんですか？」

勇者「お前にだけは言われたくないな」

エルフ「私も今日全く同じこと思ってます。勇者さんほどじゃないです」

勇者「……」

エルフ「……」

エルフ「で、目的ですけど」

勇者「ああ」

エルフ「場所変えませんか？」

勇者「構わないが」

駐屯地兵「ﾁｯ」

勇者「……確かに変えた方がよさそうだ」

エルフ「じゃあどこか邪魔の入らない場所へ行きましょう」

勇者「そうだな」

駐屯地兵（二人きりで邪魔の入らない所へ？）ﾊｱﾊｱ

エルフ（きもいです）

勇者（なんだこいつは？　息が苦しいのか？）

勇者「とりあえず宿屋でいいか」

エルフ「構いませんよ」

宿屋「いらっしゃい」

勇者「部屋は空いてるか」

宿屋「すいませんねえ、シングル一つしか空いてないんですよ」

勇者「それで構わない」

エルフ「え」

宿屋「まいど」

エルフ「えええええええ！？」

エルフ（一人部屋に二人でって……）

エルフ（勇者さんて実は結構オオカミだったんですか！？）

エルフ（あうあうあ……）

勇者「どうした？　行くぞ」

エルフ「うぅ///」

エルフ（何考えてるんですかあ……）

勇者「ここか」ｶﾞﾁｬ

エルフ（うわ、やっぱりベッドは一つ……予想以上に部屋も狭い）

勇者「さて、では話せ」

エルフ「え？」

勇者「何をとぼけている。お前の目的だ」

勇者「それとも話す気が無いのか？」

勇者「それならそれでいいが」

エルフ「あ、そのことですね。いいえ話しておきます」

エルフ「もともと簡単に説明はするつもりでしたし」

エルフ「私が魔王城に向かう理由は兄を助ける為です」

勇者「兄を？」

エルフ「はい、私の唯一の肉親です」

勇者「……そうか」

エルフ「ニンゲンの王は既に知っていたようですが、何百年かに一度、エルフ族は魔王に仲間を献上させられます」

勇者「……何のためにだ？」

エルフ「それは……言えません」

勇者「そうか、続けてくれ」

エルフ「はい。献上と言っても半分強制なんです。魔王からの要請があると勝手に周りが魔王へこのエルフを引き渡すって決めちゃうんです」

エルフ「でも私は兄と離れたくなかった。兄に魔王のところへ行ってほしくなかった。そうなるくらいなら私が行くとも思ってました」

勇者「兄が大切なんだな」

エルフ「はい。でも……結局兄はつれていかれてしまいました」

勇者「なるほど」

エルフ「ですが私も何もしなかったわけではありません」

エルフ「精霊魔法によって兄のいる場所へ転移しようと思ったのです」

勇者「……待て。精霊魔法、それも転移だと！？」

エルフ「はい」

勇者「転移は勇者のみに扱える魔法と聞いたが」

エルフ「そうですね、正しく転移と呼ぶならそうでしょう。ですが瞬間移動という点においてなら他に方法が無くもないのです」

エルフ「それが精霊魔法の一つ、マーキングを付けた先へ一度だけ転移できる限定転移です」

勇者「限定転移……」

エルフ「私達エルフはごくまれに限定転移を使えるものが生まれます。私と兄は偶然その使い手でした」

エルフ「この魔法はあらかじめマーキングした先へ一度だけ瞬間移動できるという一方通行の転移魔法なんです」

エルフ「マーキング箇所も一か所のみしかできず、そのマーキングを消す、つまりそのマーキング先へ転移しないかぎり新たなマーキングもできない」

エルフ「使い勝手としては転移魔法と呼べない代物です」

エルフ「勇者さんのは確か一度行ったことのある場所へは瞬間移動可能、という凄いものですよね？」

勇者「ああ。使用は王の許可がいるが」

エルフ「え？　そうなんですか？　なんでです？」

勇者「消費……消耗が激しいからだ」

エルフ「ほえ～確かにすごい魔法ですもんね」

勇者「……ああ」

エルフ「で、話を続けますけど、私は兄の服に転移マーキングを付けておいたんです」

勇者「それで連れて行かれた兄のもとへ転移したのか」

エルフ「ええ、まあ。結局できませんでしたけど」

勇者「どういうことだ？」

エルフ「さすがは魔王、というところでしょうか」

勇者「魔王の魔力に弾かれたのか」

エルフ「いいえ」

勇者「？　では何故」

エルフ「……」ﾜﾅﾜﾅ

勇者「おい……？　どうした？」

エルフ「魔王……っ」ｷﾞﾘ

勇者（な、なんだ？　どす黒いオーラが……）

エルフ「魔王は姑息な手を使ったんです」

勇者「魔王が？　姑息？」

エルフ「ええ、いやさすがは魔王と褒めるべきでしょうか」

勇者「いまいち状況が飲み込めないんだが」

エルフ「魔王は私がマーキングした兄の服を捨てていたんです」

勇者「ああ……なるほど」

エルフ「私の兄のブリーフを！」

勇者「待て」

エルフ「おにいちゃんのブリーフにマーキングするの大変だったのに！」

勇者「待て」

エルフ「おのれ魔王！　私のおにいちゃんに何をしたあああああああああ！！　何故脱がしたアアアア！！！」

勇者「いろいろ待て」

ここまで

おお、こんなにレスが……！
ありがたやありがたや。
ちょっと投下いきます。

エルフ「フゥーッ！　フゥーッ！　あ、あれ？　私……」

勇者「落ち着いたか」

エルフ「すいません。少しばかり取り乱してしまいました」

勇者（少し？）

エルフ「そんなわけで兄さんのブ……服が落ちていたのが勇者さんと会った森の近くだったのです」

勇者「なるほど、お前はあそこに転移してきたのか。それなら綺麗な足も納得できる」

エルフ「綺麗だなんて……///」

勇者「……」

エルフ「そんなわけで私は魔王城へ向かい兄さんを取り戻したいんです」

勇者「お前の事情は分かった、だが一つ言わせてくれ」

エルフ「はい？　なんでしょうか」

勇者「……お前が兄好きなのはわかった」

エルフ「えへへ///」

勇者「だが……」

エルフ「？」

勇者「何故よりにもよってブリーフなのだ？」

エルフ「はい？」

勇者「兄というからにはお前の兄もそれなりの年のはずだ」

エルフ「はあ」

勇者「ブリーフは卒業していてしかるべきだろう」

エルフ「人それぞれじゃないんですか？」

勇者「いや、おかしい。俺はどうにもそこだけが腑に落ちない」

エルフ「はあ、他に気になる点は？」

勇者「特にないが」

エルフ「そうですか」

宿屋「いやおかしいだろ」

勇者・エルフ「！？」

勇者「宿屋の親父か。いつから聞いていた？」

宿屋「聞いていた……ってあんなに叫ばれれば嫌でも聞こえますよ。もっと静かにしてくださいね。それでは」ﾄﾞﾀﾄﾞﾀ

エルフ「あぅ……私何故か兄のこととなると人が変わるって言われるんですよね」

勇者「……まあ、確かにそうだった」

勇者「そもそもさっきから呼び名も安定していないが」

エルフ「え？　何がです？」

勇者「お前が兄のことを呼ぶときの言い方だ。安定していないな」

エルフ「あ、あ～」

エルフ「私普段は兄さんって呼んでるんですけど興奮するとついお兄ちゃんって呼んじゃうんですよ。兄さんもその方が悦ぶし」

勇者「そうか」

宿屋（ツッコミたい……！）ｺｿｯ

エルフ「しかし……」

勇者「？」

エルフ「問題は魔王が何故兄のブリーフを脱がしたのかです」

勇者「お前のマーキングに気付いたからだろう」

エルフ「可能性はゼロではないですが、目に見えないですし魔力だってほとんど帯びていません。兄がエルフであることを考えれば些細なこととして気にしないと思うのですが」

勇者「つまり、お前は何が言いたいんだ？」

エルフ「魔王の目的はマーキングを捨てることではなく兄のブリーフを脱がすことにあったのでは、と」

勇者「……ますますわからないのだが」

エルフ「いいですか？　目の前に私に兄を想像してください」

勇者「会ったこともないから無理だ」

エルフ「じゃあ恰好いい男性をイメージしてください」

勇者「お前の兄は恰好いいのか？」

エルフ「ええ」

勇者「恰好いいと言われてもな、想像がつかない」

エルフ「えーと、じゃ……この際あの通信した王様でもいいです」

勇者「ふむ」ﾎﾜﾎﾜ

エルフ「その兄さ……王様の下半身が露出していると思ってください」

勇者「ふ、む……？」

エルフ「見えますか？　どんな感じです？」

勇者「……いや、急に想像したくなくなったんだが」

エルフ「いいからしてください」

勇者「……」

エルフ「そこには下半身が露出した人がいます。となるともう一人が取る行動は……なんですか？」

エルフ「ムラムラ、きませんか？」

勇者「……自分のズボンを渡す？」

エルフ「何でですか！？」

エルフ「そこにいるのは兄さんなんですよ！？」

勇者「俺が見たのは下半身露出した王だ」

エルフ「あ、そっか……」

勇者「王がそのような身なりをしていては問題だろう。幸い俺は下着も穿いている。ならズボンを提供くらいする」

エルフ「むぅ……上手く説明できませんでしたね」

勇者「変なたとえはいらない。ハッキリ説明しろ。正直想像したものがものだけに吐きそうだ」

エルフ「何を想像したんです？」

勇者「お前が王の露出した下半身を想像しろと言ったんだろう！？」

エルフ「あはは……すいません。私の中では兄だったもので」

勇者「それで？」

エルフ「えと、はい。もし下半身露出した兄がそこにいたら襲われるんじゃないかと」

勇者「襲われる？　魔物にか？」

エルフ「状況的に魔王意外ありえないじゃないですか」

勇者「しかし魔王は何かの目的の為に連れて行ったのだろう？」

エルフ「それはそうですけど」

勇者「お前は結局言わなかったがその目的もわかっているのだろう？」

エルフ「……一応は」

勇者「その目的を果たすために襲うことは必要なことなのか？」

エルフ「いえ……必ずしもそうでは」

勇者「それならばその心配はないと思うが」

エルフ「でも……じゃあなんでこのブリーフ脱がしたんですか！　脱がしたらやることなんて一つじゃないですか！」

勇者「俺が知るか！……ってお前、その手に持ってるのはまさか」

エルフ「兄のブリーフ（使用済み）です」

勇者「さっさとしまえ」

エルフ「いや、証拠をと思ったんですが」

勇者「必要ない」

エルフ「そうですか……」

勇者「そもそも使用済みってなんなんだ……」

エルフ「あ、それは……」

勇者「いい、言うな。聞きたくない」

エルフ「？」

勇者（こいつは思ったより変態だったようだ……とんでもない意味に違いない）

エルフ（転移済みでマーキングは消えてるって意味だったんだけど……まあいいか）

勇者「とりあえず話は終わりだな」

エルフ「まあ、一応は」

勇者「当面お前は敵でないとわかったが……ある意味近寄りたくなくなったな」

エルフ「ちょ、それは失礼じゃないですか！」

勇者「まあいい。それじゃあな」

エルフ「え？　どこに行くんです？」

勇者「？　ここは一人部屋だ」

エルフ「ええ」

勇者「なら当然俺は何処かに行くべきだろう」

エルフ「あ、そういうことだったんですね……」

エルフ（やっぱり勇者さんは優しいという紳士だったんだなあ）

宿屋「別のところに行くのは構いやしませんが」

勇者「まだいたのか」

宿屋「何処も今日は一杯だと思いますよ」

勇者「そうなのか」

宿屋「ええ、さっき知り合いの宿屋からも連絡が来て」

勇者「なら野宿することにしよう」

エルフ「ええ！？」

勇者「部屋が無いのなら仕方あるまい」

エルフ「そんな……私だけちゃんとしたお部屋なんて……」

勇者「気にするな、それではな」

エルフ「ま、待ってください！」

勇者「なんだ？」

エルフ「い、一緒の部屋でも私はいいですよ？」

勇者「いや、しかしシングルでは」

エルフ「ひ、一人用テントで一緒に寝た仲じゃないですか」

勇者「……いいのか？」

エルフ「女に二言はありません！」

勇者「そうか。わかった」

エルフ（うわあぁ……言っちゃったよぉ……どうしよう///）

エルフ「///」

勇者「お前はベッドを使え、手狭だが俺は床で寝る

エルフ「え？　でも狭いから十分に横になれないんじゃあ」

勇者「俺はその気になれば座ったままでも寝られる」

エルフ「で、でも……」

勇者「気にするな」

エルフ（自分だけ気持ちよく寝て他人にそんなことさせるなんて……）

エルフ（でもでも！　一緒にベッドで寝ようなんて言ったら私……）

エルフ（あ～でもでも！）

勇者（なんだ？　随分百面相してるな）

勇者「お前が気に病む必要は無い」

エルフ「勇者さん……」

勇者「さて明日に備えて寝よう」

エルフ「勇者さん……あの！」

勇者「やめておけ」

エルフ「っ！？」

勇者「そういう言葉はもっと別の時にとっておけ」

エルフ「勇者さん……」ｼﾞｰﾝ

宿屋「盛り上がってるとこ悪いが」

宿屋「シングルに二人で止まるなら宿代もう一人分払ってください」

ここまで。
ちなみにうちのエルフはひんぬーです。
エルフ族の中では胸が大きいことがステータスで、大きいほど美しいという美的感覚があり、ひんぬーな当エルフは非常にコンプレックスに思っています。
でも人間からするとめちゃめちゃ美人です。
という設定があったりします。

なんか兄の話が出てから、エルフが残念すぎてかわいく思えなくなってしまった…

みなさんありがとう！　>>131ごめんね。ただ長い目で見てもらうと少し印象変わる……と思う。
今日もちょっといきます。




宿屋「昨夜はお楽しみでしたね」

勇者「何の話だ？」

エルフ「な、何もしてませんっ！」

宿屋「そうですか。それは掃除が楽そうで良かった」

勇者「……？」

エルフ「い、いきますよ勇者さん！」

宿屋「ありがとうございましたー」

勇者「俺たちのことか？」

？「そうだよ。見たところ旅人さんだね？」

勇者「そうだが貴方は……傘売り？」

傘売り「そう、わたしゃ傘売りさ。二人ともそんなフードをかぶって雨を凌ぐより傘を買わないかね？」

勇者「傘か」

傘売り「この町一帯はずっと雨だ。あって損はないと思うよ」

勇者「ふむ、そうだな。一つもらおう」

傘売り「毎度！」

エルフ「え？一つだけなんですか？」

勇者「あまり荷物になっても仕方がないだろう。ああそのでかい奴をたのむ。二人で入れそうだ」

傘売り「お兄さんやるねえ」

勇者「何がだ？」

傘売り「いやいや、なんでもないさ。若いっていいねえ」

勇者「？　よくわからないが」

傘売り「はいどうぞ、傘だよ」

勇者「ああ」

勇者「よっと」ﾊﾞｻｯ

エルフ「ほ、ほんとに二人で入るんですか！？」

勇者「なんだ？　お前は傘に入らないのか？」

エルフ「い、いえ正直傘の方がいいですけど……」

勇者「なら、問題ないだろう」

エルフ「勇者さんて時々すごく大胆ですよね」

勇者「何がだ？」

エルフ「いえ……いつか刺されかねないと思いまして」

勇者「刺し傷など何度も負っているが」

エルフ「……はぁ」

エルフ「勇者さんて本当に残念な人ですね」

勇者「何故だろうか、お前にだけは言われたくないが」

エルフ「もう……」

勇者「さて、この町で用事を済ませにいくぞ」

エルフ「用事？」

勇者「決まっているだろう。装備を整えるのだ」

エルフ「ああ」

勇者「そろそろ干し肉も切れてきたしな」

エルフ「……食事は私が管理します」

八百屋「らっしゃい！」

勇者「適当に長持ちする新鮮な野菜を詰め合わせて」

エルフ「ストップ」

勇者「なんだ？」

エルフ「買い物から私が管理します」ﾊｧ

勇者「……わかった」

八百屋「ハハハ！　お兄さん尻に敷かれてるねえ」

勇者「何故今朝のことを知っている？」

エルフ「わああああああああああ！？　何言ってるんですか！？」



宿屋「……何か電波が」

エルフ「あれは寝ぼけて転んだだけです！」

勇者「その言い訳は何度も聞いた」

八百屋「ハッハッハ！　お盛んだねえ！　よっしゃ若い恋人同士に安く売ってやろう！」

エルフ「恋人じゃないです！」

八百屋「ハッハッハ！」

エルフ「ところでどれだけ安くしてくれるんです？」

八百屋「ハッハッハ……」

八百屋妻「また勝手なことして……その分はアンタの小遣いからひかせてもらいますからね！」

八百屋「はっはっは…………はぁ」

肉屋「よっ、仲良さそうだねえ！」

エルフ「今日はどこいってもそんなノリですか……」

肉屋「なんだお嬢ちゃん、彼氏に料理を振り舞うのかい？　なら良い肉入ってるよ！」

エルフ「彼氏じゃないって……」

肉屋「よーしサービスしてやろう！」

エルフ「いやー彼にあれを作ろうと思って！　あ、あとこれも安くなりませんかねえ？」

肉屋「若いのにやるねえ！　よしいいだろう！」

エルフ「きゃあオジサマステキ！」

勇者（なんだこれ）

エルフ「ニンゲンは早とちりが多いですが基本的に優しいのですね」

勇者「いや……もう何も言うまい」

エルフ「なんですか？」

勇者「ああいや」

エルフ「それはそうとさっき何処かに行ってませんでした？　人が値切りしてる間に」

勇者「ああ」

エルフ「何処にいってたんですか？」

勇者「パン屋だ」

エルフ「パン屋？　また無駄遣いしてないでしょうね？」

勇者「またとはなんだ」

エルフ「いえ、勇者さんの最初の買い物の仕方を見ているとなんとなく」

勇者「失礼な奴だな。ほれ」

エルフ「え？　これは……」

勇者「人気の甘いパンだそうだ」

エルフ「わあ！　いいんですか？」

勇者「ああ」

エルフ「ありがとうございます」ﾊｸﾞﾊｸﾞ

エルフ「甘くておいしー！」

勇者「さて、準備も一通り整ったので出発する」

エルフ「え」

勇者「え、じゃない」

エルフ「今日はゆっくりして明日からでも……」

勇者「そんな暇はない」

エルフ「そ、そんなあ」

勇者「嫌なら置いていくだけだが」

エルフ「で、でも王様に私を連れて行くよう言われたんですよね？」

勇者「短い付き合いだったな」ｽﾀｽﾀ

エルフ「わーん待ってくださいー！　きゃあ！　濡れる濡れる！　傘に入れて！」

エルフ「もう……少しくらいゆっくりしてもいいじゃないですか」

勇者「俺にそんな暇はない」

エルフ「勇者さんて時間に変に厳しいとこありますよね。女の子に嫌われますよそういうの」

勇者「俺にはそんなことにうつつを抜かす暇もない」

エルフ「もう……」

勇者「それにお前は速く兄に会いたいのだろう」

エルフ「それは、まあ……」

勇者「今日ゆっくりしたせいでお前の兄が大変なことになっていたらどうする」

エルフ「なにやってるんですか、早く出発しますよ」

勇者「……」

勇者「出発する前にいくつか言っておく」

エルフ「なんですか？」

勇者「俺と旅をすることについてのルールだ」

エルフ「ルール？」

勇者「ああ。まず前提として俺は王に進言すればお前の共を止めさせられる。これは覚えておけ」

エルフ「ええー……」

勇者「安心しろ、王命である以上、よっぽどがない限りこれは行わない」

勇者「俺がお前に約束させることは三つ」

勇者「俺に必要以上に関わるな、困ったら言え、俺の首飾りには触るな、だ」

エルフ「……勇者さんてホント上げて落としますよね」

ここまで

ごめん！

>>132と>>133の間にこれが入る。




エルフ「雨、やんでませんね……」

勇者「この辺はほぼ雨がやまないそうだ」

エルフ「ええー……」

勇者「雨は嫌いか？」

エルフ「あまり好きじゃないです。体はべとつくし髪も傷みますし」

勇者「たしかにぬかるみや視界不良で戦いにくくはあるが」

エルフ「そういうことじゃないんですけど……もういいです」

エルフ「農家さんにとってはありがたいのでしょうね」

勇者「そうでもないだろう、これだけ水が多いと根腐れを起こしやすいだろうしな」

エルフ「言われてみれば」

？「ちょっとそこのお二人さん」

今日は跳ばないように気を付けます。






勇者「ふっ！」ｽﾞﾊﾞｯ

魔物「ｸﾞｷﾞｬｧｧｧｧｧｧ!!!」

エルフ（凄い……前に何度か戦闘を見てるけど、本当に強い）

エルフ（魔法だけじゃない、スピードや攻撃力も並じゃない……）

エルフ（でも何？　何かおかしい）

エルフ（勇者さんの力は、普通とは違う……）

エルフ（強すぎる……それが異常）

エルフ（強いなら強いなりにそれに裏付けされたものがあるはず）

エルフ（魔法ならそれは特に顕著だ）

エルフ（でも、勇者さんは自然法則を無視しすぎてる……）

勇者「……」

エルフ「あ、お疲れさまです」

勇者「疲れてなどいない」

エルフ「はいはい」

勇者「……行くぞ」

エルフ「あ、待ってください」

勇者「？」

エルフ「髪びしょぬれじゃないですか」

エルフ「もう」ﾌｷﾌｷ

勇者「……別に問題ない」

エルフ「はいはい」ﾌｷﾌｷ

勇者「……」ｽﾀｽﾀ

エルフ「雨やみませんねー」

勇者「奥の方に雲の切れ目がある。そこまで行けばやんでいるだろう」

エルフ「あ～早くお日様に会いたいです」

勇者「そうか」

エルフ「ええ」

勇者「……」

エルフ「……」

勇者「……」

エルフ「あの」

勇者「なんだ？」

エルフ「会話が続かないんですけど」

勇者「だからどうした？」

エルフ「つまらないじゃないですか」

勇者「俺はお前を楽しませるためにいるわけじゃない」

エルフ「そりゃそうでしょうけどどうせなら楽しくいきたいじゃないですか」

勇者「暴れると傘から体がはみ出て濡れるぞ」

エルフ「う～！」

勇者「それに楽しくある必要などない」

エルフ「もう……またそんなこと言うんですか」

勇者「俺には」

エルフ「何かを楽しむ暇なんてない、でしょ」

勇者「……」

エルフ「せっかく二人でいるなら一人では出来ないことをしたってバチはあたらないでしょう」

勇者「興味がない」

エルフ「じゃあ興味があることを探しましょう！」

勇者「そんな暇はない」

エルフ「～～～～～っ！」

勇者「俺と一緒にいきたくなくなったらすぐに言え。認めるのにやぶさかではない」

エルフ「……ひょっとしてそのためにわざとそんな態度とってるんですか？」

勇者「いや、そういうわけではない。俺はもともとこうだ」

エルフ「ああそうですか！　もう……」

勇者「イライラしているといざと言うときに動けないぞ」

エルフ「誰のせいですか誰の！」

エルフ「もう少し楽しい旅をイメージしていたんですけど」

勇者「この旅はそんなものではない」

勇者「そんな幻想は早々に捨てないと後で辛いぞ」

エルフ「イジワルですね。そんなこと言うならもうご飯作りませんよ」

勇者「……………………………………………………構わない」

エルフ「長かったですね」

勇者「俺は美味しいものを食べることを目的としていない」

エルフ「強がりですか？」

勇者「……強がりではない」

エルフ「ふ～ん……そうですか」

勇者「そろそろ休憩にする」

エルフ「わかりました」

勇者「食事の支度はお前がすると言っていたが」

エルフ「そうですね、準備します」

勇者「ああ」

エルフ「出来ました」

勇者「早いな」

エルフ「はい、どうぞ」

勇者「うむ………む？」

勇者「干し肉のみか」

エルフ（どうだ勇者さん！　少しは反省して……）

勇者「」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

エルフ（……そういえばこの人もともとそういう食生活しかしてないんだった）

勇者「」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

エルフ（くぅ！　こうなったら……！）

勇者「」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

勇者「よし今日はここまでにしよう。ようやく雨の地帯も抜けたしな」

エルフ「そうですね」

勇者「ここに簡易テントを張る。二人入れる大きいものを先の街で調達した」

エルフ「わかりました。私は食事の用意をします」

勇者「頼む」

エルフ（遠回しな抗議で今日の夕食は勇者さんのだけすっごく辛くしましょう！）

エルフ（この！　このこのこの！）ﾊﾟｯﾊﾟｯ

勇者「テントの用意が出来た」

エルフ「丁度こちらもできました」

勇者「そうか」

エルフ「どうぞ」

勇者「ああ」

エルフ「」ｼﾞｨ

勇者「？」ﾓｸﾞ

勇者「！？」

エルフ（フフフフフ）

勇者「……」

エルフ（あれ？　黙っちゃった。ちょっとやり過ぎたかな）

勇者「……」

エルフ（うう、やっぱりこういうことはいけないかも。今なら謝れば……）

勇者「ちょっと席をはずす」

エルフ「あ、はい……」

エルフ「……」

エルフ「ごめんなさい勇者さん……」

エルフ（戻ってきたら謝って普通のを渡そう……）

勇者「戻った」

エルフ「あ、勇者さんすいませえええええええええええええ！？」

勇者「どうした？」

エルフ「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃっ！？　ゆ、ゆ、勇者さん！？」

勇者「なんだ」

エルフ「そ、そ、その手に持っているものはなんですか！？」

勇者「巨大ダンゴムシだが」

エルフ「いやあああああああああっ！？」

エルフ「それをどうする気ですか！」

勇者「作ってもらって悪いが口に合わなくてな、自分で夕食を調達しようと」

エルフ「え、まさかそれ食べるんですか！？」

勇者「ああ、焼けばいける」

エルフ「ちょ、」

勇者「火炎魔法・小」ﾎﾞｳｯ

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ

ダンゴムシ「ｸﾞｷﾞｬｱｱｱｱｱ」

エルフ「いーーーーーやーーーーーー！！！！！！！」

エルフ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい！」

エルフ「私が悪かったです謝りますだから許してください」

エルフ「もう二度とこんなことしません誓います」

エルフ「だから」

勇者「ん？」ﾓｸﾞ

エルフ「ｈｙわｈっがｈｈｊはがいｌｇ！？」

エルフ（勇者さんの口からダンゴムシの体が……）ﾌﾗｯ

勇者「おーい」

エルフ「うう」

勇者「気付いたか」

エルフ「あれ？　勇者さん？　私……」

勇者「お前は昨日気を失ったんだ」

エルフ「え？　どうしてですか？」

勇者「知らん」

エルフ（えーと確か昨日は……夕食作って、わざと辛くして、そしたら勇者さんが虫を……うえ）

勇者「？」

勇者「お前が起きるのが遅かったからな、丁度今朝食を用意した」

エルフ「え」

エルフ（まさか……まさか？）

勇者「ほら」

エルフ「いやああああ……あ？」

勇者「どうした」

エルフ「パン？」

勇者「そうだが」

エルフ「よ、良かったあ！」

エルフ「おいしいですねこれ」ﾊｸﾞﾊｸﾞ

勇者「そうか」

エルフ「ええ！　このパンに塗ってるものが甘くてさらにグーです」

勇者「そうか」

エルフ「はい！　ところでこれは何を塗ってるんですか？」

勇者「それは今朝捕まえたクイーンハートネットの体液だ」

エルフ「え」

勇者「あのどでかい蜂モンスターの体液はハチミつっぽくてなかなかいける」

エルフ「……」ﾌﾗｯ

勇者「おーい？」

勇者「またか。今朝はさっさと出発したいのに。こいつ低血圧なのか？」

エルフ「……」ｼｰﾝ

エルフ（勇者さんのばか……）

ここまで

エルフ「うぅ～」

勇者「……」

エルフ「暑いですねえ……」

勇者「言うな、余計に暑く感じる」

エルフ「雨の町を過ぎれば砂漠地帯だなんて……」

勇者「どちらかと言うとそのせい、なんだろうな。地形的に」

エルフ「そうなんですか？」

勇者「恐らくだが。ここで降る雨のほとんどが雨の町で降っているのだろう」

エルフ「ええー……半分くらいここで降ればいいのに」

勇者「自然に文句を言っても仕方がない」

勇者「それよりももっとちゃんと肌を隠せ」

エルフ「えー？　なんですか？　あ、もしかして///」

勇者「火傷するぞ？」

エルフ「俺に近寄ったら火傷じゃすまないぜ！　なんて言う人本当にいたんですねー」ｱﾊﾊ

勇者「忠告はしたからな？」

エルフ「はいはい」




エルフ「うわーん！　腕や足がヒリヒリしますぅ！」

勇者（だから言ったのに）

エルフ「はぁ、はぁ……」

勇者「大分日差しが強いな……」

エルフ「水、のんでもいいですか……」

勇者「……このペースではいつ町が見つかるかわからない。もう少し我慢してくれ」

エルフ「うぅ……のど渇きます……」

勇者「！　何か近づいて……砂嵐だ！　砂嵐が来るぞ！」

エルフ「！？　きゃあああああっ！？」

勇者「！　おい！」

エルフ「きゃあああああっ！？　と、飛ばされるぅ！」ｺﾞｵｵ!!!!

勇者「掴まれ！」ｻｯ

勇者（この砂嵐、自然のものか？　少しおかしいような……）

勇者「くぅっ！　なんて強い砂嵐だ！」ｺﾞｵｵ!!!!

エルフ「く、くちに砂が……うえっ」

勇者「とにかく姿勢を低くしてやり過ごすんだ！」

エルフ「は、はい～！」

勇者「……っ！」ｺﾞｵｵ!!!!

エルフ「……っ！」ｺﾞｵｵ!!!!

勇者（やはりおかしい！　この砂嵐、俺たちの場所から動かない！）

エルフ「こ、これ何かおかしいですよね、ゆうしゃさ……へっ！？　きゃああああ！？」

勇者「おい！？　馬鹿、何故手を離したっ……！」

勇者（あいつが舞い上げられていく！　やはりこれは自然発生じゃない！）

エルフ「きゃあああああああ！？　たぁぁぁぁぁぁぁぁぁすぅうぅぅぅぅぅぅぅぅけぇぇぇぇぇぇっぇてぇぇぇぇぇ！！！！」

勇者「まずい！　かなり高く巻き上げられた！」

エルフ「ひゃわわわわ！？　た、高いです！　落ちたらしんじゃいますぅぅぅぅぅぅぅぅ！！！！」

勇者「受け止めてやる！　こい！」

エルフ「！　ゆうしゃさ……」

ｶﾞｼｯ

エルフ「ｶﾞｼｯ？」

大鳥「ﾔｱ」

エルフ「！？」

勇者「！？」

大鳥「～～♪」ﾋｭﾝ

エルフ「ひゃああああああああ！？」

勇者「鳥が、連れて行った……！？」

勇者「細工を感じるな」

勇者「恐らくは人為的」

勇者「目的はあいつ、か」

勇者「どうする？」

勇者「今からあいつの魔力を検知して追いかければ間に合うかもしれない」

勇者「しかし、それは余分なことだ」

勇者「浪費もいいところだ」

勇者「……どうする」

勇者「いや、俺には関係ない」

勇者「そんな余分なことをする時間は俺に残されていない」

勇者「王にはそう言えば問題ないはず」

勇者「……俺は…………」

エルフ「う、う～ん……」

盗賊「お、気付いたか」

魔導師「気絶してただけだしね」

盗賊「大事な商品に傷つけられちゃたまらないからな」

エルフ「！？　こ、ここは……」

盗賊「へっへっへ！　ようこそわが盗賊団のアジトへ！」

エルフ「盗賊のアジト！？」

エルフ（見たところ周りはまだ砂漠）

エルフ（ここは砂漠の岩石地帯？）

エルフ（でもアジトって言う割には馬車が二台あるだけじゃ……）

魔導師「アジトって言っても移動式でしょうに。はあ、早く街に戻って砂を落としたいよ」

盗賊「まあまあ。こいつを売れば大儲けだから」

魔導師「確かにね」

エルフ「売る？　私を？」

盗賊「そうさ！　こんな美人なエルフとくれば買い手には困らない」

エルフ「え？　美人ですか私？」ﾃﾚﾃﾚ

魔導師「変わってるねこの子、誘拐されたのに」

エルフ「誘拐！？　私誘拐されたんですか！？」

盗賊「いやなんだと思ったんだよ」

エルフ「砂嵐に巻き上げられ、大きな鳥さんに運悪く掴まった私を助けてくれたのかと」

魔導師「ははっ、こいつは傑作だね。来なよ大鳥！」

大鳥「────！」

エルフ「あの鳥！？」

魔導師「こいつは僕が魔法で使役しているのさ」

魔導師「ちなみにあの砂嵐も僕の魔法だよ」

エルフ「ええ！？」

エルフ「じゃあ私本当に誘拐されて……」

盗賊「まあそういうこった」

エルフ「ひょえええええ！？」

盗賊「驚くのだいぶ遅いな」

エルフ「こ、困ります！……あれ？　力が、入らない……？」

盗賊「俺が調合した薬を嗅がせたからな。しばらくは体は自由にうごかねぇぜ」

エルフ「なら精霊を……！？　そ、そんな精霊が呼び掛けに応じない！？」

魔導師「無駄だよ。君を誘拐するって決めた時点でそれなりの準備はさせてもらった」

魔導師「今君が付けてる腕輪は全ての魔法を打ち消すものだ。正確には魔力を発しても全て外部に垂れ流されてしまうという代物だ」

魔導師「高価だけど驚くほど珍しいってほどのものじゃない。魔族奴隷にはよく使われてるし」

エルフ「ど、どうして……？」

魔導師「ん？」

エルフ「どうしてこんなこと……」

盗賊「金の為に決まってるだろ」

エルフ「そんな……だって、こんな凄いことできる人たちが、どうして誘拐なんか！」

盗賊「……黙れよ」ﾅｲﾌ

エルフ「ひっ！？」

魔導師「おい傷つけるなよ」

魔導師「まあ気持ちはわかるけどさ」

盗賊「ふん」

エルフ「いったいどうして……そもそも準備したって……」

魔導師「まあせっかっくだから話してあげるよ」

魔導師「僕らは牢獄の町の知り合いから君のことを聞いたのさ」

エルフ「！？」

魔導師「結構情報は規制されていたけど、そこは蛇の道は蛇ってね」

魔導師「エルフなんて、捕まえれば一生遊んで暮らせる額の儲けが出る」

盗賊「そのためにいろいろ準備したってわけよ、大枚はたいてな」

エルフ「で、でも！　あんな砂嵐を作れるくらいの魔法が使えるなら！」

魔導師「……おめでたいね。あんな砂嵐をポッと出せると思ってるの？」

エルフ「え？」

魔導師「あれは何日もかけて成長させた砂嵐だよ」

魔導師「もっとも成長させすぎると制御がきかなくなるけど」

魔導師「そうやっていくつも砂嵐を僕はここで作ってきたんだ、ここでね」

魔導師「いつもそうやってキャラバンを襲って獲物をとっていたけどそんなせこい商売もこれでおしまいだ」

盗賊「最高の賞品が手に入ったからな」

盗賊「後で牢獄の町の奴にも分け前をやらないと」

エルフ「一杯砂嵐を作ってるって……制御できなくなるって……それで関係ない人たちにどれだけの被害が……」

魔導師「知るかそんなこと。他の奴の事より自分たちの明日の方が大事だ」

エルフ「……」

魔導師「ありゃりゃだまっちゃった。まあ今後の自分の心配でもしてればいいよ」

エルフ（狂ってる……これがニンゲン……）

エルフ（里でニンゲンは汚いって聞いてたけど……良い人もいるって思ってたのに……ニンゲン……）

エルフ（勇者さんも、こういう人達と同じなの？）

魔導師「！　おい盗賊！　魔力レーダーに侵入者検知だ！」

盗賊「！？　チッ、旅行者か！？　見てくる！」

魔導師「頼んだ！」

エルフ「……」

盗賊「！？　ありゃエルフと一緒にいた男か！　勇者だな！」

魔導師「どうだった？」

盗賊「勇者だ！」

エルフ「！」

魔導師「やっかいだな。やれそうか？」

盗賊「ここは俺たちのホームグラウンドだぜ？」

魔導師「移動式の、な」

盗賊「罠はバッチリだ」

エルフ（罠……？）

エルフ（今なら大声で叫べば勇者さんに罠があることを教えられるかも）

エルフ（でも、勇者さんはニンゲン……）

勇者「……」

勇者「このへんだな。あの岩場の辺りか」

勇者「……」

勇者（何をやっているんだ俺は）

勇者（これは余分なことだ）

勇者（必要ないことだ）

勇者（無駄な浪費だ）

勇者（……くそ、イライラする……！）

盗賊「ヘイ！」

勇者「！」

盗賊「ノコノコこっちのテリトリーに入ってくるなんてな」

勇者「やはり誘拐か」

盗賊「やっぱわかってたか。あのエルフの嬢ちゃんがお花畑すぎるんだよな」

勇者「……あいつは？」

盗賊「さてね？　教える義理は無いな」

勇者「隠しても無駄だ。そこにいることはわかっている」

盗賊「……腕輪はしてあるはずだが」

勇者「腕輪？　ああ、あの魔力を外部に垂れ流す装置か。馬鹿だな、あれは装備者が魔力による現象変化を起こせなくなるだけで魔力を消すものじゃない」

盗賊「……チッ、ぬかったぜ。俺は魔法は専門外だからな。魔導師も気付けよそういうことはよ」

魔導師「いや、知らなかったよそんなこと。というよりこれだけ広範囲にわたって特定の魔力探知できる人が異常だって。流石は勇者かな、化け物だよ」

勇者「……」

勇者「御託は良い、彼女を返せ。今なら見なかったことにしてやろう」

盗賊「ハッ！　ジョーダン！」

勇者「なら、覚悟しろ」

盗賊「バカが！」ｼｭﾊﾟﾊﾟﾊﾟｯ

勇者「ナイフの雨か、器用だな」ｶﾝｶﾝｶﾝ

盗賊「全部剣一本でかわしますか、やるねえ」

魔導師「僕もやるとするか。氷結魔法！　氷の槍の雨を食らえ！」ﾄﾞｶﾞｶﾞｶﾞ!!!

勇者「……くだらん」ｻｻｻｯ

魔導師「全部かわして……」

エルフ（戦いの声が聞こえる……）

エルフ（う、まだ痺れてるけど……ゆっくりなら少し動けそう……）

エルフ（どうなってるんだろう……）

エルフ（……）ｺｿｺｿ

エルフ（勇者さんが氷の雨をとナイフの雨をかわしてる）

エルフ（あれなら余裕そう）

盗賊「今だ！　魔導師！」

魔導師「おう！」

エルフ「え」

勇者「！？」

勇者「電気、トラップ？」

盗賊「ほお？　口が聞けるのかい。その電気の縄に捕まって」

勇者「ぐ……」

魔導師「化けものだねほんと。常人なら気を失うほどの強い電流が流れてるのに」

盗賊「流石は勇者様ってか。ケケケ！　でも油断大敵だったなあ！」

勇者「……ぐぅ……！　う、ああああ……っ！」ｽﾞｽﾞｽﾞ

盗賊「！？　お、おいこいつ動いてるぞ！」

魔導師「そんな馬鹿な！」

盗賊「お前の魔法でもっと出力上げろよ！」

魔導師「これで全開だよ！」

エルフ（ああ、勇者さんが……！　あの時、私が罠の事を言っていれば……！）

盗賊「てめえそれ以上動くんじゃねえ！　殺すぞ！」ﾅｲﾌ

勇者「……やって、みろ」

盗賊「は、はあ！？　てめえ電気で頭イカレやがったか！？　それとも殺せねえとでも思ってやがるのか！」

勇者「……やって、みろ……！」

盗賊「こ、この野郎……！　お望み通り殺して……っ！？」ﾌﾞｼｭｩｩ!!!!

勇者「……あまり、俺を……なめるなよ…………！」

盗賊（こ、こいつ自分からナイフを掴んできやがった！）

勇者「……節約をかんがえなきゃ、この程度……！」ﾎﾞﾀﾀｯ

盗賊「イ、イカレてやがる……！」

勇者「彼女を、返してもらおう……！」

エルフ「ゆ、勇者さん……」

勇者「本当は、こんな浪費……したくなかったが……」

魔導師「だ、だめだ！　や、破られる！」

勇者「く、ぬぅぅぅぅぅうぅぅっ！！！」ﾊﾟｧﾝ！

盗賊「う、ウソだろ……！　あの罠を自力で……！？」

盗賊「う、うわあああああああっ！？」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞ

魔導師「ま、待てよ盗賊！　一人で逃げるな！　大鳥！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞ

大鳥「──！」ﾋｭｯ

勇者「……鳥で逃げたか」

勇者「雷げ……」

エルフ「ゆうしゃ、さん……！」

勇者「！　無事だったか」

エルフ「そ、それよりも勇者さんのほうが……！　うっ！」

エルフ（肉の焦げた匂い……勇者さんの体が焼けて……！

エルフ（私のせいで……私のせいで……！）

エルフ「うっ、ｸﾞｽ」

勇者「何故泣く、助かって安心したか」

エルフ「ちがいます！　そ、それより治療しないと！」

勇者「問題ない、すぐに治せる」

エルフ「治せる？　ってことはやっぱりこの間からのも自分で治療して？　なら尚の事私が治療します！　回復魔法大」ﾎﾟｩ

勇者「いや、自分で……」

エルフ「やらせてください！」

勇者「……」

エルフ「ごめんなさい、ごめんなさい」

勇者「お前が謝ることなどない、俺が勝手にやったことだ」

エルフ「ちがう、ちがう……！」

勇者「……とにかく、無事で良かったエルフ」

エルフ「え？　あ……」

勇者「？」

エルフ「初めて名前で、呼んでくれましたね」

勇者「そう、だったか……？」

エルフ「はい。いつもお前とかおい、としか呼んでませんでした」

勇者「何度かあった気がするが」

エルフ「初めて会った時は種族名でしたし」

勇者「いや、確か水浴び……」

勇者（まてよ、あの時は慌てていたし聞こえていなかったか）

勇者「あ、そうだ、火を消していた時……」

エルフ「ッッ！！　あれはノーカンです！　デリカシーないです！」

勇者「……」

エルフ「それにしても……こんなになるまで無茶して」

勇者「目的を果たす前に使い切らなければ……死ななければ問題ない」

エルフ「問題大ありです！」

エルフ「そんなこと言って……本当に死んじゃったらどうするんですか……！」

エルフ「こんなことしていたらいずれ死んじゃいます……」

勇者「俺は……」

エルフ「何ですか！」ｸﾞｽ

勇者「……いや」

エルフ（本当に火傷が酷い……手の切り傷も）

エルフ（こんなになるまで私を助けようとしてくれたの？）

エルフ（ニンゲン……）

エルフ「どうして……こんなになるまで」

勇者「……王命だからな」

エルフ「え？」

勇者「言っただろう、よっぽどのことが無い限り王命には逆らわないと」

エルフ「だからって……こんなことしてたら死んじゃいますよ！」

エルフ「自分の命が惜しくないんですか！？」

勇者「……命なんて安いものだ、特に俺のは」

エルフ「っっっ！」ﾊﾟﾝ！

エルフ「馬鹿！　変なことも休み休み言ってください！」

エルフ「時と場合を選んでください！」

勇者「……」

エルフ「自分の命が安いとか、簡単に言わないでください……」

勇者「お前が気に病む必要はどこにもない」

エルフ「そういう問題じゃないです……」

エルフ「治療、終えました」

勇者「すまない」

エルフ「……何の謝罪ですか」

勇者「それは……」

エルフ「自分の命を軽んじていることの謝罪なら受け付けます」

勇者「……」

エルフ（……勇者さん、貴方って人は死が怖くないの？）

勇者「……」

エルフ（勇者さんが何も言わない。ずっとそうやって生きてきたんだろうか。だとしたらその生き方は酷く歪んでいる）

エルフ（そんな考えいつかは考え直してほしいけど、とりあえず今は……この空気をなんとかしないと）

エルフ（私はまだ、助けてもらったお礼も言ってないし）

エルフ「ごめんなさい、私も言い過ぎました」

勇者「……ああ」

エルフ「それと、ありがとうございます。助けてもらって」

勇者「言ったはずだ、気にする必要は無いと」

エルフ「それでも伝えておきたかったんです」

エルフ「あ、そうだ、それとさっきの……」

勇者「？」

エルフ「私が高く舞い上げられたとき、受け止めてやる、って言ってくれましたよね」

勇者「ああ」

エルフ「あれ、なんかすごくうれしかったです」

勇者「……そうか」

エルフ「……はい、とても恰好良かったです」ﾆｺ

勇者「そうか」ﾌｯ

エルフ（……本当に、ドキッときちゃった）

ここまで

エルフ「あ、あの勇者さん」

勇者「なんだ？」

エルフ「今日のご飯はどうでした？」

勇者「いつもと変わらず美味かったが」

エルフ「いつもと変わらず、ですか」

エルフ（むむ、お礼のつもりで少し腕によりをかけたのに）

勇者「？」

エルフ「あ、勇者さん」

勇者「なんだ」

エルフ「荷物持ちましょうか？」

勇者「問題ない」

エルフ「じゃ、じゃあ何か手伝えることはありませんか？」

勇者「いや」

エルフ「……そう、ですか」ｼｭﾝ

勇者「？？？」

勇者「はあ！」

魔物「ﾌﾟｷﾞｬｰ！」

エルフ「大丈夫ですか勇者さん！」

勇者「問題ない」

エルフ「でもさっき相手の攻撃がかすってました、治療を……」

勇者「もう治った」

エルフ「……」

エルフ（何やってるんだろう私）

エルフ（せめて勇者さんの力になって恩返ししようと思うのに）

エルフ（全然なにもできない……）

勇者「町が見えてきたぞ」

エルフ「あ……」

勇者「宿屋に行く前に少し酒場に行くぞ」

エルフ「え？　あ、はい」

エルフ（勇者さんてお酒飲むんだ。これまで見たこと無かった）

勇者「ここだな」ｷｨ

マスター「いらっしゃい」

バニー「あら～？　かっこいいおにーさん！　サービスしちゃうわよぉ！」

エルフ（胸が、おっきい……！）

勇者「少し聞きたいんだが」

バニー「何？　バストサイズ？　お兄さんになら特別におしえちゃおうかしら？」

エルフ（む、勇者さんに随分なれなれしいなこの人）

勇者「それよりお尋ね者について尋ねたい」

バニー「あちゃあ、そっちの話かあ、終わったら私と飲みましょうね！　

勇者「何故だ？」

バニー「イ・イ・コ・ト・教えてあげるから！　それじゃまたね！」

勇者「ああ、わかった」

エルフ「！」ﾑｽｯ

マスター「それでお尋ね者のことだって？」

勇者「ああ、砂漠で襲われてな、逃げられたがあいつらは既に登録されているのか気になった」

マスター「そうかい、これがお尋ね者ブックだ。一応あらかたはその辺の壁にも貼ってあるし向こうの掲示板には最新のも貼ってあるからそっちを見た方が速いかもしれないがな」

勇者「いや、助かる」

勇者「フム、こいつだ。盗賊と魔導師の二人組み。特徴も一致している」

マスター「……おいおい、アンタらこいつらに襲われて無事だったのか？　運がいいな」

勇者「どういうことだ？」

マスター「ここらじゃあ有名な奴らでな、とにかく腕が立つから泣き寝入りする奴らばかりさ」

勇者「だろうな」

マスター「被害は？」

勇者「ない。追い払った」

マスター「ほう、たいしたもんだ」

勇者「そんなことよりこの町から砂漠を抜けるにはあとどれくらいかかる？」

マスター「二日もあればいけるんじゃないか」

勇者「水の都は近い、か」

マスター「お前さん水の都に行くのか」

勇者「次の目的地はそこのつもりだ」

マスター「そうかい。なら一つ頼まれてくれないか」

勇者「内容によるな」

マスター「水の都の酒場のマスターにこの金を届けてもらいたいんだ」ﾄﾞﾝ

勇者「結構な額だな」

マスター「まあな。ここんとこのが溜まってるから」

勇者「というと？」

マスター「今言った二人組が出たせいで送るに送れなかったんだ」

勇者「なるほど」

マスター「もし上手くいけばこの中身の一割をお前さんにやる。その旨手紙をいれておくから」

勇者「しかし俺が猫糞しないともかぎらないぞ」

マスター「そんなことを考える奴はそういうことは言わねえさ。まあ長いこと人を見てきた勘があんたなら大丈夫って言ってるんだ」

マスター「それに誰かに頼んでも二人組に盗られるなら結局は同じだ」

勇者「そうか」

マスター「引き受けてくれるか？」

勇者「成功の確約はできない。それで良ければ」

マスター「助かる。お礼の前払いの一部としてこの町の宿屋には話を通しておこう。泊まっていってくれ。それも俺持ちだ」

勇者「すまないな」

マスター「なに、あの二人をおっぱらったってんだ。少しの間は平和かもしれないと思うとこれくらい安いもんさ」

バニー「お話終わったあ？」

勇者「ああ」

エルフ「！　勇者さん、もう行きましょう」

バニー「あ～ん待ってよお！」ﾀﾕﾝﾀﾕﾝ

エルフ（この……爆乳娘！　でかい乳を勇者さんに擦り付けて……！）

バニー「ねえ？　イ・イ・コ・ト・しましょう？」

勇者「そういえばさっきも言ってたな、良いことを教えてくれると」

バニー「ええ」

エルフ「だ、だめですよ勇者さん！」

勇者「何故だ？」

バニー「もーう、邪魔しないでよ、見苦しいなあ」

エルフ「！　も、もう勝手にしてください！」

勇者「……」

エルフ「……」

エルフ「勇者さんも結局大きい胸の人がいいのかな……」

エルフ「あれ？　私何言ってるんだろう。別に勇者さんのことなんかなんとも思ってないのに」

エルフ「でも……勇者さんがバニーの話に乗り気だったのを見るのは、なんか嫌だったな」

エルフ「はあ」

勇者「溜息を吐いてどうした」

エルフ「ひゃわっ！？」

勇者「？」

エルフ「ゆ、勇者さん！？　酒場でバニーと一緒だったんじゃ」

勇者「良いことを教えるというから有益な情報があるのかと思ったらどうやらそうではないようだったからな」

勇者「出てきた。そもそも酒は嫌いだ。酒は脳細胞を破壊する」

エルフ「え？　そうなんですか？　聞いたことありませんけど」

勇者「愚かな……長生きしたければ酒は飲まないことだ」

エルフ「なんか、珍しいですね」

勇者「なにがだ？」

エルフ「勇者さんが長生きのことを語るなんて」

勇者「……そうだな」

エルフ「でも嬉しいです。勇者さんが大きい胸に惑わされなくて」

勇者「大きい胸？」

エルフ「バニーすごく大きかったじゃないですか。だから」

勇者「だからなんだ？」

エルフ「いや、勇者さんもああいうのが好きかな、って」

勇者「何故だ？」

エルフ「だって胸が大きいんですよ？」

勇者「よくわからないが」

エルフ「エルフでは胸が大きいほど良いっていうステータスがあるんですけど人間にはないんですか？」

勇者「さあ、俺は世間については少々疎いが聞いたことは無いな」

エルフ「え……」

エルフ「じゃ、じゃあ勇者さんも？」

勇者「これといって思うことは無いが」

エルフ「そ、そうですか！」ｳﾌﾌ

勇者「あえて言うならむしろ小さい方がいいだろう」

エルフ「！」

エルフ「え、えへへ///」

勇者（大きいと動きにくそうだからな。戦闘には向かなそうだ）

エルフ（勇者さんの好みはちっぱい。えへへ///）

ここまで

エルフ「勇者さーん！　あれあれ！」

勇者「なんだ？」

エルフ「美味しそうです！」

勇者「そうか」

エルフ「買っていいですか？」

勇者「好きにしろ」

エルフ「わーい！」

勇者「……」

勇者（急にエルフが馴れ馴れしくなったな）

エルフ「♪」

勇者「おい」

エルフ「なんですか？」

勇者「あんまりはしゃぐとフードが取れる」ﾎﾟｻｯ

エルフ「あ……」

勇者「気をつけろ」

エルフ「は、はい、ありがとうございます……」

勇者「……美味かったか？」

エルフ「え？　あ、はい」

勇者「良かったな」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

エルフ「あ……にいさ……」

勇者「？」

エルフ「いえ、すいません。なんだか勇者さんが兄さんみたいで」

勇者「……そうか。気にするな」

勇者「魔王は倒す。何があってもな」

勇者「それが……それだけが俺の意味だからな」

勇者「そうすればお前の兄も戻ってくるだろう」

エルフ「……あの」

勇者「ん？」

エルフ「魔王、どうしても倒しちゃうんですか？」

勇者「……どういう意味だ？」

エルフ「勇者さんは確かに強いです。普通では考えられないくらい」

エルフ「その力があれば確かに魔王は倒せても不思議じゃないかもしれない」

エルフ「でも……」

勇者「そこまでだ」

エルフ「え」

勇者「お前が何を言いたいのかはわからない」

勇者「だが俺は“立場上”魔王側に付く者は斬らねばならない」

エルフ「っ！！」

勇者「これ以上魔王擁護の発言が続けばお前を置いていく」

エルフ「そんな……だってよっぽどのことがないとって……」

勇者「それはよっぽどのことだからだ」

エルフ「そんな……」

勇者「俺は魔王討伐の為に存在している」

エルフ「で、でも……！」

勇者「それ以外の意味を俺は持たない。持つ必要も無い」

エルフ「そ、そんなの悲しいじゃないですか！」

勇者「俺には悲しいと感じる暇など、許されていない」

エルフ「ッッッ！」

エルフ「なんでいつもいつも……」

エルフ「そんなに自分を蔑ろにするんですか……」

エルフ「そんな、いつ死んでもいいみたいな言い方……ダメですよ！」

勇者「俺はいつ死んでも構わない」

エルフ「！？」

勇者「人はいずれ絶対に死ぬ。遅いか早いかの違いでしかない」

エルフ「っ！」

勇者「可能であれば魔王討伐まで持って欲しいが」

勇者「そうだな、最悪領土拡大は成し遂げねば」

エルフ「それで、それで勇者さんは本当に良いんですか！」

勇者「そうだ」

勇者「俺の代わりなど……いくらでも生み出される」

エルフ「～～～～っ！　バカ！　そんなわけないじゃないですか！」

エルフ「そんな事をご両親が聞いたらきっと悲しみますよ！」

勇者「俺に両親はいない」

エルフ「え」

エルフ「……ごめん、なさい……」

勇者「謝る必要はない」

エルフ「でも……」

勇者「それに……お前が思っているのとは少し違う」

エルフ「え？　それってどういう……」

勇者「……なんでもない」

エルフ「？」

勇者「宿に行くぞ……エルフ」

エルフ「……はい」

勇者「今日はもう休む。明日は早くから出発する」

エルフ「……わかりました」

勇者「……」

エルフ「あの……何か？」

勇者「いや」

エルフ「では……おやすみ、なさい」

勇者「……」

勇者「おい」

エルフ「はい？」

勇者「寝坊したら置いていくぞ」

エルフ「……はい」

勇者「それじゃあな。しっかり休め」ﾊﾞﾀﾝ

エルフ「……」

エルフ「はぁ……」

エルフ「私一人ではしゃいじゃって……バカみたい」

エルフ「早く寝よう」

エルフ「勇者さんなら本当に置いていきそうだし」

エルフ「でも……置いていってもらった方が、いいのかな……」

エルフ「やっぱり、私はいない方がいいのかも……」

エルフ「勇者さんが魔王を倒せば、兄さんはきっと戻ってくる」

エルフ「まだ、『残ってれば』だけど……」

エルフ「……」

エルフ「そうしちゃおっか、な……」

エルフ「……でも」

エルフ「……何故か勇者さんとお別れしたくないよぉ」ｸﾞｽ

エルフ「うぅ……どうして？」

エルフ「どうしてこんなに、寂しいの……？」ｷﾞｭｳｯ

エルフ「枕……柔らかい」

エルフ「でも……冷たい」

エルフ「……」

エルフ「……」

エルフ「……」

─────

ｺﾝｺﾝ

勇者「……？　入れ」

エルフ「……」ｶﾞﾁｬ

エルフ「……おじゃま、します」ｷﾞｭｳ

勇者「エルフか。どうした、眠れないのか。枕など持って」

エルフ「……はい」

勇者（随分元気が無いな）

エルフ「こ、このままじゃ、眠れそうになくて」

エルフ「寝坊したら、嫌なので」

エルフ「ここで寝てもいいですか？」

勇者「構わないぞ」

エルフ「！」

エルフ（い、意外とすんなり？）

エルフ「あ、ありがとうごさいま……」

勇者「じゃあ俺は隣の部屋に行くから」

エルフ「へ？」

勇者「なんだ？」

エルフ「えっと、勇者さんがとなりへ？」

勇者「ああ」

エルフ「そ、それじゃ意味無い……」

勇者「？」

エルフ「い、一緒に、寝てくださ……い」

勇者「俺は別にお前と夫婦ではない」

エルフ「め、めお……///」

勇者「どうしても発情したというのなら他を当たってくれ」

エルフ「そ、そういう意味じゃありませんっ！」

エルフ「ただ、傍にいてくれれば、それで……」

勇者「……」

エルフ「だめです、か……？」ｷﾞｭ

勇者「……わかった」

勇者「……」
エルフ「……」

エルフ（勇者さんが、近い）

エルフ（暖かい……）

エルフ「ちゃ、ちゃんと起こしてください、ね？」

勇者「……一度で起きろよ」

エルフ「努力します」

勇者「ああ」

エルフ「おやすみ、なさい……」

勇者「……」

勇者「……寝たか？」

エルフ「……」ｽｩｽｩ

勇者「……」

勇者「……」ｷﾞｼｯ

勇者「……」ｶﾁｬｶﾁｬ

勇者「……」ｷｨ

エルフ「何処にいくんですか……？」

勇者「！？」

エルフ「私を、置いていくんですか？」

勇者「……散歩だ」

エルフ「嘘」

勇者「嘘じゃない」

エルフ「だったらなんで装備を全部持ってるんですか」

勇者「念のための備えだ」

エルフ「念のための備えが無いと危険な所にいくんですか」

勇者「念のためだ」

エルフ「……」

勇者「……」

エルフ「我が侭言ってるって、わかってます。でも」

エルフ「今夜は、一緒にいてください……」

エルフ「お願い、します……」

エルフ「明日になったら……勇者さんの判断に、任せますから」

勇者「……」

勇者「……わかった」ｺﾞﾄﾝ

エルフ「……」

勇者「……」
エルフ「……」

勇者「おい」
エルフ「なんですか」

勇者「腕にしがみつくな」
エルフ「また何処かにいかせないためです」

勇者「いかないと言ってるだろう」
エルフ「信用できません」

勇者「これではもしもの時に困る」
エルフ「そうなってから言ってください」

勇者「そうなてからでは遅い」
エルフ「それもそうですね」

勇者「いい加減に離せ」
エルフ「いやです」

勇者「……明日起きれないぞ」
エルフ「起こして下さい」

勇者「離さないと起こさないぞ。起きれないと置いていくぞ」
エルフ「そうなったら、諦めます」

勇者「……いいのか、それで」
エルフ「はい」

勇者「……」
エルフ「……」

勇者「……」
エルフ「……」ｽｩｽｩ

勇者「……」
エルフ「……」ｽｩｽｩ

────────────────────



エルフ「……」ｽｩｽｩ
勇者「……」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ



────────────────────

勇者「おい、起きろ」

エルフ「ふえぇ？」

勇者「寝ぼけてないで起きろ。朝だ」

エルフ「おふぁよぉごぁいまぁすぅ……」

勇者「目を覚ませ馬鹿者」ﾊﾞｺﾝ

エルフ「あいたっ！？」

勇者「起きたか」

エルフ「うぅ、痛いです……あれ？　勇者さん？」

勇者「朝だ」

エルフ「どうして……」

勇者「起こせと言ったのはお前だ」

エルフ「でも一回じゃ起きなかったし」

勇者「置いて行かれるとでも？」

エルフ「……」ｺｸﾘ

勇者「……言っただろう。よっぽどのことが無い限り置いてはいかないと」

エルフ「あ」ﾊﾟｱｱｱ

エルフ「勇者さん！」ﾀﾞｷｯ

勇者「抱きつくな、離れろ。やっぱり置いていくぞ」

ここまで。
遅くなってごめんなさい。
いつ来れるかわからなくて……。

エルフ「勇者さん、私……頑張ります！」

勇者「いきがっている所悪いが、お前が何を言いたいのかわからない」

エルフ「いいんです分からなくても」

勇者「では俺に言う意味がない」

エルフ「そんなことありません」

エルフ「とにかく私は頑張るんです！」

勇者「例えば何を頑張るんだ？」

エルフ「えっと……いろいろです！」

勇者「いろいろ……せめてもう少し何か形になる例えを考えろ」

エルフ「じゃ、じゃあえっと……お料理頑張ります」

勇者「よし頑張れ」

エルフ「勇者さん、料理だけは私のこと認めてくれますよね」

勇者「別に料理だけではないが……」

エルフ「え！？　じゃ、じゃあ他にも認めてくれてること教えてください！」

勇者「……む」

エルフ「」ﾜｸﾜｸ

勇者「い、いろいろだ」

エルフ「むぅ～～！　なんですかそれ！　せめてもう少し形なる例えでお願いします！」

勇者「……そうだな、髪が綺麗だ」

エルフ「っ///」

エルフ「え、えへへ……ありがとうございます」

勇者「さて、行くぞ」

エルフ「え、えへへ///」

勇者「呆けるな、置いていくぞ」ｽﾀｽﾀ

エルフ「えへへ///」

勇者「砂漠を抜けるまでは二日か。一日半に縮めたいところだな」ｽﾀｽﾀ

エルフ「えへへ///」

勇者「今日はペースを上げるぞ」ｽﾀｽﾀ

エルフ「えへへ///……あれ？　ゆ、勇者さーん！　ま、まってくださぁい！！！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞ

エルフ「はぁはぁ、酷いですよ置いていくなんて」

勇者「忠告はした。呆けているお前が悪い」

エルフ「もう、昨日の夜はあんなに優しかったのに」

勇者「……」

エルフ「でも、アオシスから離れると途端に暑くなりますね……」

勇者「そうだな。やっかいなのは魔物共よりもこの気候の方だな」

勇者「俺も砂漠では十全に動けぬ心配がある。出来る限りペースを上げるぞ」

エルフ「はい」

勇者「む？」

エルフ「どうしたんですか？」

勇者「魔物、狼系のモンスターの死骸だ」

エルフ「本当ですね……うわあ」

勇者「これはまだ新しいぞ」

勇者「誰かがやったのか？」

エルフ「血がまだ固まりきってないですもんね」

勇者「……妙だな」

エルフ「え？　何がですか？」

勇者「この狼モンスター、この近辺の魔物ではない。それは実際数日砂漠で戦っていてお前もわかるだろう」

エルフ「酒場のマスターさんにも近辺に出没する魔物リストを見せてもらいました。その中にこの種族はいませんでしたね」

勇者「となるとこいつは連れてこられたかここに来る必要があったかのどちらかということになる」

エルフ「基本魔物は自分のナワバリからあまり遠出をしませんし……」

勇者「ああ。となると気になるのはその目的だ」

エルフ「目的？」

勇者「前者の場合、連れてきたヤツにはこいつをここに、もしくは何処かへ連れて行く目的があったはずだ。まあ遠い場所なら何処でもいいって考えもあるが」

エルフ「いえ、恐らくそれは無いでしょう」

勇者「？」

エルフ「この子は死んで間もない。もし何処でも良いところに連れて行く、つまり別の場所への隔離だけが目的ならこの場で殺す意味はありません」

エルフ「手間から言っても先に殺してしまった方が楽なはず。憶測ですけどここまで生きてつれて来られた事には意味があるはずです」

勇者「成る程。エルフ、お前時々鋭いな」

エルフ「え？　そうですか？」ｷｮﾄﾝ

勇者「ああ、そこまでは俺は思いつかなかった」

エルフ「えへへ」ﾃﾚｯ

勇者「となるとコイツは何らかの目的があって自分でここに来て殺された、という可能性が今の所濃厚か」

エルフ「憶測ですけど恐らくは」

勇者「まあ今はこれ以上考えてもわからないな」

エルフ「そうですね」

勇者「先を急ごう」

エルフ「はい」

───────

勇者「……またか」

エルフ「都合、三匹目ですね」

勇者「ああ。だが最初の狼よりどいつも死んでから間があったようだ」

勇者「恐らくこいつらは俺たちとは逆側、今俺たちが向かっている方から来ているんだろう」

勇者「目的は分からないが住処を離れわざわざここまで来て、何者かに殺されている」

エルフ「その何者かを追ってる可能性が考えられますね」

勇者「そうだな……いや待て」

エルフ「？」

勇者「それでいくと俺たちは狼を殺しているヤツと擦れ違ってもおかしくない」

エルフ「あ……」

勇者「だがこれまで誰かと擦れ違いにはなっていない」

エルフ「砂漠は広いですし決まった道があるわけでもありませんから」

エルフ「そんなこともあるのでは？」

勇者「それだ。何故俺たちはピンポイントで狼たちの死骸を見ている？」

エルフ「！」

勇者「考えられる可能性は大きく分けて二つ。偶然そのラインを俺たちが進んでいるか、それともこの辺一体には似たように一杯死骸があるのか」

エルフ「この右も左も砂の世界で同じラインに居続けるなんてほとんどあり得ません。ましてそうなら殺している誰かと擦れ違うと思います」

勇者「俺もそう思う。となると俺たちが見た狼は実は本当はもっといる、という可能性があるな」

エルフ「そうですね……一体何があったんでしょう」

勇者「まだ情報が少なすぎて何とも言えないな」

勇者「見たところどの狼も血だらけで死んでいることしかわからない」

エルフ「あれ？　そういえば死因は何でしょうね？」

勇者「死因？」

エルフ「血は凄いですけど、外傷があったかなって……」

勇者「言われてみれば……」

？「教えてあげましょうか」

勇者「誰だ！」

エルフ「！？」

魔狼「……」

勇者「狼系のモンスター？」

魔狼「私は魔狼、勇者御一行、ですね？」

エルフ「しゃ、しゃべった！？」

魔狼「全ての魔物にも意志や感情はあります。中には話せるものだってね。四天王様達も話せるでしょう」

勇者「それで？　お前は何が言いたいんだ？」

魔狼「魔物であるから私も斬りますか、勇者殿」

勇者「ああ」

魔狼「そうでしょうね、貴方はそのように調整されているのですから」

エルフ「え？」

勇者「余計な無駄口は叩くな、死期を早めるだけだぞ」

魔狼「それは失敬。私にもあと一つやらねばならないことがあるので」

勇者「それはなんだ？」

魔狼「最後の起動キーとなることです」

エルフ「起動キー？　っっっ！？　まさか！」

魔狼「おや？　そちらのお嬢さんは中々に聡明なようですね。ご心配なく、目標はあなた達ではありません」

魔狼「オアシスの都を取り囲むように《自ら息絶えた同胞》、その数六百と六十と五匹。私で六百六十六匹目となる」

エルフ「ダメ！　勇者さん！　その子を止めて！」

勇者「！？　わかった」ｻﾞﾝ！

エルフ「あ、殺しちゃダメです！」

勇者「！？」

魔狼「もう、遅い……！」ｺﾞﾌｯ　ﾊﾞｼｬｯ

エルフ「あ、あ、あ……！」

魔狼「我らの悲願……！」

魔狼「故郷を奪った人間に、復讐を……！！」

魔狼「……ッ！！」

魔狼「」

勇者「死んだ？　殺さぬよう手加減したはずだが」

エルフ「違う、最初から死ぬつもりで……！」

エルフ「始まる……代魔術が！」

勇者「代魔術？」

エルフ「一部の禁忌魔法です。代償を与えることによって生まれる魔術……狼さんたちは殺されていたんじゃなく自分たちで死んでいたんです。自分たちの死骸を魔法陣にするために！」

勇者「どういうことだ？」

エルフ「もう、止められない……！　六百六十六もの命……それと引き替えなんて……！」

勇者「なんだあれは？オアシスの方に黒い、雲？」

エルフ「地獄の、黒炎を召喚したんです」

エルフ「オアシスが、吹き飛ぶ……！」

勇者「！」

───────────────









───────────────

エルフ「……」

勇者「……」

エルフ「……凄い、威力でしたね」

勇者「ああ」

エルフ「オアシスは、多分消し飛びました。命を燃やせば、どんな生き物でもとんでもない力になる」

エルフ「でもそれは自然界の法則を無理矢理ねじ曲げる決していいものじゃないのに……」

勇者「……」

勇者「……何故狼共はあんな真似を」

エルフ「……恐らく、あの狼さんたちの故郷はきっと、この辺だったんでしょう」

エルフ「忘れられている歴史の残骸……」

勇者「なんだそれは？」

エルフ「……言えません」

勇者「何故だ？」

エルフ「この前、言おうとしたら勇者さんに怒られました」

勇者「……魔王擁護に関することか」

エルフ「……」

勇者「わかった。これ以上は聞かない」

エルフ「……はい」

エルフ「みんな死んじゃったんでしょうか。マスターさんとか、バニーさんとか」

勇者「オアシスのマスター、か。そういえば約束があったな」

エルフ「……そうですね」

勇者「……行くぞ」

エルフ「はい」ｷﾞｭ

勇者「……腕を掴むな」

エルフ「……恐いんです」

勇者「……」

エルフ「あの威力も、死を厭わなかったあの狼さんたちも……」

エルフ「恐い……！」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

ここまで

勇者「新しい町だ、いつものお前ならもっとはしゃぎそうなものだが」

エルフ「……綺麗な町、だとは思います」

エルフ「あちこちで噴水が吹き上がっていて水飛沫でキラキラ輝いているし」

エルフ「浄化の魔力を僅かに帯びているので特に清浄した空気」

エルフ「飲むと身体にも良いでしょうし衛生的にもなります」

エルフ「確かに良い町だとは思えるんですけど……どうしても町一つ無くなったショックが……抜けません」

勇者「……お前は元気なのと料理が上手いのが取り柄だ」

勇者「早く元に戻れ」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

エルフ「……はい」

間違った。先にこっち。




勇者「ここが水の都か」

エルフ「……」

勇者「おい、一体いつまでそうしているつもりだ」

エルフ「」ｷﾞｭｯ

勇者「歩きにくい、おかげで到着が半日は遅れたぞ」

エルフ「……すいません」

勇者「謝るくらいなら離せ」

エルフ「……」ｷﾞｭ

勇者「まだ、恐いのか」

エルフ「」ｺｸｯ

勇者「新しい町だ、いつものお前ならもっとはしゃぎそうなものだが」

エルフ「……綺麗な町、だとは思います」

エルフ「あちこちで噴水が吹き上がっていて水飛沫でキラキラ輝いているし」

エルフ「浄化の魔力を僅かに帯びているので特に清浄した空気」

エルフ「飲むと身体にも良いでしょうし衛生的にもなります」

エルフ「確かに良い町だとは思えるんですけど……どうしても町一つ無くなったショックが……抜けません」

勇者「……お前は元気なのと料理が上手いのが取り柄だ」

勇者「早く元に戻れ」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

エルフ「……はい」

勇者「まずは酒場に行くぞ」

エルフ「はい」

───────

勇者「ここ、か？」

エルフ「随分荒れ果てています」

勇者「ほどくボロボロだな、もしかすると移転したのか……いや」

エルフ「？」

勇者「中から人の気配がする」

勇者「邪魔するぞ」

エルフ（……うわっ、中も汚い）

男「あ～？　なんだよお前等。新しい借金取りか？　金ならねぇって言ってんだろ！」

勇者「この酒場のマスターに用があるんだが」

男「ケッ、女連れでこんなトコに来て格好付けか？」

勇者「俺は借金取りじゃない。マスターはどこだ？」

男「借金取りじゃねぇのか。ならまあいいか。俺がマスターだ」

男→マスター「俺に何のようだ？」

勇者「お前がマスターか。届け物がある」ﾄﾞﾝｯ

マスター「おい？　なんだこりゃ？　金じゃねぇか！」

勇者「砂漠の町のマスターから預かったものだ。手紙もある」

マスター「砂漠の町のマスター！？　あんの野郎、中々金をよこさねぇで……遅いんだよちくしょう！」

マスター「ん？　でも砂漠の町は滅亡したって聞いたぜ？」

勇者「ああ、俺たちが町を出た後、魔物達によってな。流石にあれには驚いた」

マスター「そうか、ってことはヤツは、砂漠の町のマスターは死んだのか」

勇者「確認したわけではないが恐らく」

マスター「ふぅん」

エルフ（何この人、知り合いが死んだかもしれないっていうのに……）

勇者「これで依頼は達成だ」

マスター「ああそうだな」

勇者「砂漠の町のマスターはその金の一割を依頼料として俺にくれると言っていたが」

マスター「確かに手紙にはそう書いてある」

勇者「では」

マスター「だがもう砂漠の町のマスターはいねぇ」

勇者「……というと？」

マスター「一割をやる義理は俺にはねえって言ってるんだ」

エルフ（！）

勇者「そうか」

マスター「ああ、あいつはもういねえ。あいつがした約束なんぞ俺には関係ない」

エルフ「この……！」

勇者「やめろ」

エルフ「でも！」

マスター「なんだ嬢ちゃん文句あんのか？」

エルフ「亡くなった人の最期の頼みを無碍にするんですか！」

マスター「へっ、しらねえよそんなこと。金さえあればな」

エルフ「っ！」

マスター「だいたいあいつがさっさと金をよこさねえのが悪いんだ」

エルフ「……」

マスター「どれだけ待ったと思ってやがる」

エルフ「……」

マスター「町が無くなったって聞いてどれだけ焦ったか」

エルフ「……」

マスター「アイツが死んだらこの金がこねえって焦ったじゃねえか！」

エルフ「……」

マスター「んだよその目は」

エルフ「汚い」

マスター「あ？」

エルフ「ニンゲンは汚い……綺麗な町に見えるこの町もニンゲンの町。所詮、見せかけだけなんですねニンゲンは」

マスター「なんだと！？　このガキ！」

勇者「そこまでだ」ﾁｬｷ

マスター「！？」

勇者「俺の連れに手を出せば斬る」

マスター「……」

勇者「もともと報酬を充てになどしていない。だから渡さないというのならいらない。行くぞ」

エルフ「……はい」

エルフ「汚い、ニンゲンは汚い……！」

勇者「落ち着け」

エルフ「でも……」

勇者「俺もお前の言う人間なんだが」

エルフ「っ！　勇者さんは違います！　あんな汚い奴等とは！」

勇者「……そうか」

エルフ「でも、勇者さん以外のニンゲンは嫌いです」

勇者「……」

勇者「宿を探すか」

エルフ「勇者さん」

勇者「なんだ？」

エルフ「町を出ましょう」

勇者「何故だ？」

エルフ「ここには、ニンゲンの町にはいたくありません」

勇者「……この後はこの近くにいる水の化身と戦うことになるぞ」

勇者「それまで補給も無く野宿も続くがいいのか？」

エルフ「……ここにいるくらいならそれでいいです」

勇者「……わかった」