芳佳「イージス護衛艦『みらい』……?」(999)

・ストライクウィッチーズ×ジパングクロス
・数か月前にVIPで乗っ取ったスレの書き直し
・変更、原作崩壊してるところも多々あり
・超不定期更新

・あと>>1はにわかミリオタです


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1342702050

横須賀の海上自衛隊基地。
その港には、数隻の軍艦と、派遣反対の横断幕を持った人々がいた。


船員「出港用意!」

船員「舫放てー!」

ザバァ……


レポーター「南太平洋における、米軍との演習に向け、海上自衛隊の第一護衛艦隊が参加します」

レポーター「派遣艦は旗艦「ゆきなみ」以下「はるか」「みらい」、補給艦「あまぎ」の計四隻」

レポーター「ハワイ沖で米海軍と合流すべく、今出港しました!」


出港二日目 南鳥島沖

護衛艦『みらい』 CIC

青梅「………」

「CICの主」と呼ばれる青梅一曹は、あらかじめ渡されていた訓練用の紙を確認していた。
そして時間になり、訓練通り操作を始める。


青梅「ESM探知、120度!」

梅津『教練、対空戦闘用意』

無線で艦橋から、艦長の梅津三郎一佐の指示が飛んでくる。
それに伴い、艦内があわただしくなる。


艦橋では、航海長の尾栗康平三佐が回避運動の指示をしていた。

尾栗「対空戦闘用意!取り舵20度、第二戦速!」

艦橋員B「とーりかーじ!」

艦橋員C「第二戦速!」


CIC員A「敵ミサイル探知!距離10万!」

CIC員B「ミ……ミサイル・シーカー波、完全にロックされています!」

菊池「落ち着け。確実にやるんだ」

CIC員B「はっ……!」

緊張した隊員を見て鼓舞するのは、砲雷長の菊池雅行三佐。

CIC員A「シースパロー発射用意!」

CIC員A「後部VLS解放、イルミネーターリンク!インレンジ5秒前!」

CIC員A「……3,2,1,撃てーっ!」ピ


撃墜したか?
そんな期待とは裏腹に、艦橋からの報告が飛んでくる。

麻生『第一目標撃墜、第二目標接近』

菊池「CIWS右舷攻撃はじめ、AAWオート!」

CIC員B「CIWS、右舷AAWオート、うちーかたはじめ」

艦前方、艦橋下に設置してあるCIWSが自動迎撃モードに入る。
さらに艦橋員の報告が続く。


艦橋員C「敵ミサイル、左90度で真っ直ぐ突っ込んでくる!」

麻生「敵ミサイル、本艦左舷に命中。柳一曹負傷、と」

掌帆長の麻生先任曹長が手元のフリップに負傷者として、隣にいた見張り員の名前を書く。

柳「えっ?」

そしてその本人は予想もしなかった言葉に驚いていた。


ミサイル命中報告の後、応急班が被弾想定箇所に駆けつける。

応急員A「フレーム30に浸水!」

応急員B「急げ!ダメコンをして水を止めるんだ!」

応急員C「ぐずぐずしてたら海の底だぞ!」


応急員D「この木材を持ってくぞ」

応急員E「ちょっとま……」ガッ!

応急員E「アウチ!」


艦橋

訓練終了を報告するため、艦橋に副長兼船務長の角松洋介二佐が入る。

角松「艦長、報告します。19:30、訓練終了しました」

角松「なお、ダメコン中に応急員が一人手を打撲したとのこと」

梅津「五分遅れか……」

梅津「一ヶ月前の十分に比べればよくできとるよ」

角松「は……」

梅津「何事も、気を張り過ぎちゃ身が持たんよ」

梅津「緊張もほどほどに、な」



兵員室

柳「このイージス艦『みらい』は、『こんごう』型の発展型『ゆきなみ』型の三番艦です」

訓練が終わり、当直員以外の各々が各兵員室に戻った。
その時、戦史オタで有名な航海科の柳一曹が、同乗したジャーナリスト片桐のインタビューに答えていた。

柳「こんごう型と大きく違うところは、後部にヘリの格納庫がある点ですね」

柳「対潜哨戒ヘリ『シーホーク』、さらに変向翼機『うみどり』を搭載することで対潜行動がさらにとれるようになります」

片桐「なるほど……」

片桐「では次に……うおっと!」ドッ!

突然艦が大きく揺れ、思わず片桐は後ろによろめいてしまう。

片桐「結構揺れましたね」

柳「どうも天候がよくないみたいです」


艦橋

ザアアアアアア……

尾栗「すんげぇ雨だな……」

角松「艦長、ミッドウェー島北西に低気圧有。気圧965hPa。なお勢いを増しているとのこと」

梅津「予報にはなかったな……。時化に備え、荒天準備となせ」

角松「了解!」

梅津「航海長、僚艦との距離を4kmに設定」

尾栗「はっ!」


艦内各部に角松の放送が響く。

角松『荒天準備。移動物の固縛を厳となせ!」

隊員A「うん?」

突然の放送に身を固める隊員たち。

隊員B「艦がよく揺れてるしな。時化か」

隊員C「まぁいいさ。部隊長にどやされる前に、早く行こうぜ」

ダッダッダッダ……

隊員が駆け出し、配置につき始める。


青梅『艦橋CIC、前方に巨大な積乱雲を確認』

尾栗「なんだぁ、あの雲は……」

柳「ここまで離れてても見えるほどですから、その大きさは……」

みらいの前方3km、そこには巨大な雲が立ちふさがっていた。
激しい雨と相まって、僚艦の姿は完全に見えない。


梅津「海にでて三十五年と数か月……」

梅津「こんな巨大な雲は見たことがない、な」


ゴロゴロ……ビカア!

突然、激しい落雷がみらいを襲った。


尾栗「うおっ!」ドカッ!

柳「わっ!」

柳「い……今のは!?」

尾栗「落雷か!?」

艦内電話を素早く手に取る角松。

角松「応急指揮所!艦内の損傷を報告せよ!」チャッ!


応急員『電気・油圧・その他すべて正常』

応急員『艦内各部、異常なし!』

角松「了解!」ガチャン


CIC

青梅「……!?」

青梅「ば……馬鹿な」

菊池「どうした?」

青梅「た……対水上レーダー、反射波をとらえられません!」

青梅「僚艦をロスト!」

菊池「なんだと!?」

菊池「レーダーが効かないわけがあるか!出力を最大にしろ!」

青梅「……ダメです。反射波確認できず!」


菊池の報告を受け、艦橋とCICの間でせわしく通信が行われる。

角松『そんな馬鹿なことがあるか!』

梅津『僚艦との通信は?』

青梅「二番艦『はるか』との交信不能」

青梅「『ゆきなみ』『あまぎ』ともに返信ありません」

CIC員A「全交信可能周波数域、完全に沈黙!」

菊池「衛星は!?」

CIC員B「フリーサット、軌道上に確認できません!」

CIC員C「アンテナに異常なし、機能正常!」

菊池「衛星が……存在しない……?」


艦橋

梅津「とにかく、失踪した僚艦を全力で探せ」

梅津「沈んだわけではあるまい」

角松「はっ……?」

艦橋の窓から見える光景に、角松は目を見張った。


柳「航海長、これって……」

尾栗「まさか、ここはハワイ沖だぞ」



柳「ですが、これはどうみても……オーロラ、です……」


目の前一面に広がるオーロラ。
それはまるで別世界に入ったようだった。

尾栗「……コンパスが!」

柳「え?」

艦橋そばのウィングに備え付けてあるジャイロコンパスが、目まぐるしく回転している。

角松「どうなっているんだ?」


『各種計器に異常発生!』

『制御不能!』

艦内電話から、続々と異常の報告が入る。


梅津「オーロラとなると、強力な磁気嵐に入ったのかもしれん」

梅津「CICはどうなっている?」

角松「CIC、状況を報告せよ!」


CIC

CIC員A「各種システムに異常発生!」

CIC員B「レーダースクリーン、ホワイトアウトしました!」

CIC員C「通信機器のノイズがひどく、艦内電話すら機能していません!」

事実、菊池のつけているインカムにもノイズが走っていた。
艦橋の角松の指示も届かない。

『ほ……ょう……う…せよ』ザザザザ

菊池「この艦は最新鋭艦だぞ」

菊池「こんなことがあって……たまるかっ!」ガッ!


異常事態に巻き込まれながらも、ようやくオーロラを後にした。
嵐は過ぎ去り、曇った空の下をみらいは航行していた。

ノイズが走っていたCICのモニターも、徐々に回復していく。

CIC員A「各種計器、正常に戻ります!」

CIC員B「レーダー、モニター、復帰しました」

菊池「異常ないかチェックしろ」

CIC員C「通信機器も回復!」

角松『僚艦とのコンタクトを再開しろ』

CIC員C「了解!」


青梅「うおっ!?」

菊池「ん?」

青梅「なんだ……これは……」

レーダーに光る、多数の光点。

青梅「全周に目標多数!艦隊のど真ん中です!」

菊池「艦隊だと!?」

青梅「駆逐艦クラスが艦数六隻、陣形を組んでいます」

梅津『真珠湾の米艦隊かもしれん。確認しろ』


青梅「……返信なし。SIF、応答ありません」


艦橋

青梅『新たな反応1!』

青梅『……目標接近!大型――正規空母クラス!』

青梅『本艦艦首!2500!』

角松「空母!?」

霧の中から徐々に姿を見せ始める不明艦。

梅津「……面舵一杯!」

艦橋員A「面舵いっぱぁい!」


梅津「私の目が、狂ってしまったのだろうか」


尾栗「おいおい、ありゃ一体……」

柳「航海長、あ……あれは……」




柳「太平洋戦争中の空母『赤城』です……」




つづく

以上一話はここで終わりです。
ジパングを知らない人は多そうなので、出だしはこちらメインということで。

基本的にストライクウィッチーズの一期をなぞっていこうと思ってます。
VIPでセリフのみの戦闘シーンは難しいと感じたので、ちょっとした地の文付きでやります。

あと、VIPでやった時用語がわからない人が多かったようですが
そういう言葉の用語集みたいなのはあった方がいいでしょうか?

ではちょっとした補足を


>>3
CIC:戦闘指揮所ともいう。近代軍艦の中枢で、艦の戦闘はここで操作する。

ESM:電子戦装置。ジャミングとか逆探知などを行う。

>>4
ミサイル・シーカー波:ミサイルを誘導するために発されるレーダー誘導電波。

シースパロー:中距離対空ミサイルの一種。

VLS:ミサイルを垂直に発射する装置。『みらい』には前甲板と後部格納庫上に設置してある。

>>5
CIWS:シウスともいう。近接防衛火器のことで、対ミサイルの最終防衛ライン。レーダーと射撃式装置が母艦とは別に内蔵されている。
    「みらい」に搭載されてるのは20mmのファランクで、スターウォーズのR2D2にガトリングがくっ付いたような姿。
    かわいい。

AAWオート:対空戦(Anti-aircraft warfare)の事。


>>19
SIF:敵味方識別装置の事。

なんかミスありましたら指摘してください……。

敵味方識別装置ってIFFじゃない?


CIWSのフォルムをかわいいと言う>>1は訓練されたミリオタ

>>26
昔はIFFと呼ばれてもいましたが、今の軍事用信号はSIFと呼ぶらしいです
はやくも>>1のにわかさが……

>>30,31
ファランクスはかわいいです。
しかも他の構造物と違和感ないように馴染んでますし。


角松「赤城……だと!?」

柳「左舷後方に駆逐艦……陽炎型の浜風と思われます!」

柳「さらにその前方に天津風……」

柳「これはどうみても、旧海軍連合艦隊の艦艇です!」

尾栗「どうしてこんなものがここに?」


青梅『後方の駆逐艦2、回頭します』

角松「艦長……」

梅津「状況がわかるまで、逃げの一手でよかろう」

角松「了解」


角松(相手はどうみても旧式のボイラー艦)

角松(こっちの加速にはついてこれない……なら)


角松「機関最大戦速!舵そのまま!

角松「追尾駆逐艦を一気に振り切るぞ!」

「了解!」

「機関最大戦速!」

キイイイイイイ!

機関音独特の高い音共に、追尾してきた駆逐艦2隻がみるみるうちに遠ざかった。



青梅『……アンノン艦隊、そのまま離れます。後方40kmへ』

角松「………」


ほどなくして、艦橋に各士官が集められた。

角松「真夏のオーロラ」

菊池「電子機器の異常」

尾栗「21世紀に現れた空母『赤城』……」

尾栗「間違いないな、柳一曹」

柳「はっ!見間違えではありません」


柳「しかし……」

尾栗「どうした?」


柳「先ほど遭遇した艦隊の配列ですが……」

柳「『赤城』にあのような行動歴はなかったはずです」

角松「というと?」

柳「駆逐艦を前面に展開。しかも空母を最後尾に位置していました」

柳「対潜警戒を考えていない、もしくは前方から敵が来るのをわかっているかのような配列」

柳「さらに、太平洋での代表的な行動といえば真珠湾ないしミッドウェー」

柳「それらにしては艦隊の配列が違いますし……」

柳「これは余りにも歴史的事実と矛盾しています」


状況がつかめない中、騒ぎ始める士官たち。

「となると、どっかの金持ちが再建でも?」

「バカいえ、そんなのニュースになるぜ」

「映画でも撮ってんじゃないのか?」

「だったら無線封鎖するか?こっちの無電を聞いた時に返してくるだろ」


そんななか、CICから青梅一曹の放送が届く。

青梅『艦橋CIC。砲雷長、準備が整いました』

すかさず艦内インカムで返事をする菊池。

菊池「了解」

菊池「……艦長、CICにお越し願いますか?」


CIC

菊池「できたか、青梅一曹」

青梅「はっ、正面モニターに出します」

出されたのは、みらい周辺のレーダー図。

角松「これがどうかしたのか?」

菊池「これはさっきまでレーダーがとらえた周辺の地形をレコードしたものだ」

菊池「……見えるか?北の方にかすかな島影がある」

角松「!?」


菊池「俺達が航行していたミッドウェー沖……」

菊池「その航路上に、この大陸は存在するはずがないんだ」

梅津「………」

青梅「次のレコードに切り替えます」

レーダーの画面が少し変化し始める。

角松「これは……」

青梅「……海域データ、大陸地形データほぼ一致」



青梅「ここは、南アフリカ大陸南端、南大西洋です!」


梅津「何てことだ……」

尾栗「嵐を抜けた先に喜望峰とは……」

尾栗「俺たちは平成のバルトロメウ=ディアスかっての」

尾栗「しかし、これからどうする?」

角松「……今さら針路を太平洋に向けたところで、残っている燃料では戻れまい」


菊池「仮に戻れたところで、果たして無事に入港できるものかな?」

角松「どういうことだ?」

菊池「時計を見ろ」

そう言って、菊池がCICのデジタル時計をさした。




『1944年6月5日』



角松「1944年……!?」

「そんな……」

尾栗「タイムスリップって奴か」

柳「ただのタイムスリップではないでしょう」

柳「赤城は1942年に沈没……1944年に赤城は存在しないはずです」


角松「となると、俺達は全く別の世界に来たのか」

菊池「ああ、我々と全く接点のない世界に」


尾栗「というか、ウチのデジタル時計は1900年代のカレンダーも内蔵してんのな……」

柳「航海長……」


一挙に騒々しくなるCIC。

「じゃあ、俺達はずっと戻れないってのか!?」

「永遠に、この世界を漂流するんだ……」


尾栗「……なぁ、元来た針路を戻るってのはどうだ?」

角松「どういうことだ?」

尾栗「この世界に来たのは、どうみてもあの嵐、オーロラのせいだ」

尾栗「あれにもう一度巻き込まれれば元来た時代に戻れるんじゃないか?」

角松「……たしかに一理あるな」



菊池「何の望みもない以上、それに賭ける以外にはないか……」

角松「艦長……」

梅津「そうだな」

梅津「可能性があるなら、それに賭けてみるのもいいかもしれん」


梅津「面舵一杯!針路2-7-0、西へ針路をとれ!」

角松「了解!」

尾栗「面舵いっぱぁい!針路2-7-0!」



※針路・方位〇-〇-〇:北を0度としてあらわす。たとえば1-8-0なら南となる。

  しかしジパングでは艦首を0度と見たシーンが多々ある。作者のミス?


食堂

隊員A「しかし、これからどうなるんだろうな」

隊員B「あの海域に戻るつっても、100パーセントってわけじゃないだろうし……」


炊飯員「炊飯長、1944年って……」

炊飯長「昭和19年の事だ」

炊飯員「そんな……俺達どうなるんです!?」

炊飯長「どうなるかわからんがよ、腹は減るからよ、飯はたくんだよ!」

炊飯長「チキンが焦げてんぞ、バカヤロー!」

炊飯員「は、はいっ!」


翌日

菊池「………」

青梅「レーダー探知!」

菊池「!」チャ

目を閉じて半分仮眠状態に入っていた菊池がインカムを手にする。

青梅「方位3-2-0、距離200km!」

青梅「艦影計7隻を確認」

菊池「詳細はわかるか?」

青梅「駆逐艦クラスが6、大型艦が1……」



菊池「……以前の艦列と同じだな」

青梅「……! 艦隊前方に、巨大な反射波!」

レーダーに現れたのは、空母を覆いそうなサイズの光点。

青梅「空母よりも大きい……なんだこれは?」

菊池「雲か?」

青梅「いえ、それにしてははっきりとした反射波です」

青梅「このままですと、5分後には艦隊と接触します」


青梅「……巨大光点、艦隊と接触しました!」

青梅「駆逐艦群の陣形乱れます。回避運動を取ってる模様です」

菊池「巨大光点が空母と重なっている……空中を飛翔しているのか?」


青梅「空母から機影10以上!迎撃機のようです!」

青梅「……迎撃機光点、次々に消失。撃墜されつつある模様」

菊池「飛翔する巨大物体でありながら、空対空能力が恐ろしく高い兵器……」

菊池(そんなもの、果たしてこの時代に存在していたか?)


艦橋

梅津「本艦の進路と重なりそうか?」

菊池『このままいきますと、約30分後に接触します』

角松「回避することも、できますが……」

梅津「………」


梅津「状況確認のため、接近しよう」

梅津「針路3-2-0にとれ。対空、対潜の警戒を厳にせよ!」

角松「はっ!」

続きます

次回はいよいよウィッチーズとの遭遇なわけですが……
ジパングとストライクウィッチーズの世界を絡めるに当たり、かなり無茶しています。
速度と距離などめちゃくちゃになったりしてますが、生暖かく見守ってください。

乙。
この世界では、みらいの技術を分析させない理由が其処まで無いんだよなぁ。
どうすんのかな

現役だとこういうのはゾクゾクするな

>>56
そうなんですか、よかったです。

>>56
はてさて、みらいの技術はどうなることやら

>>61
現役……?
まさか自衛官の方ですか?


数分前

欧州派遣艦隊の空母『赤城』
その甲板の上で、扶桑皇国海軍軍人の坂本美緒は、正体不明の敵『ネウロイ』の接近を察知していた。


坂本「敵襲!12時方向!距離4000!」

杉田「全艦に下命!対空戦闘用意!」

船員A「対空戦闘用意!」

杉田「付近にウィッチーズの部隊は!?」

樽宮「いません!ブリタニアの501を呼ぼうにも、この距離では到底……」

杉田「奴め……それを狙ってきたな」


エイのような姿をした巨大なネウロイは悠々と空を飛び、艦隊へと接近。

艦隊右前方に位置していた駆逐艦『浦風』では、すでに12.7センチ主砲弾の装填作業が終了していた。

艦長「第一射!てーっ!」

「うちかたはじめーっ!」

ドオンッ!ドオッ!……ゴオオオン!

爆音とともに、数発の主砲弾が雲の向こうへと消えていく。
ただし目視し距測した射撃ではないので、どれだけの確率で当たるかどうかはわからない。

船員A「やったか!?」


ゴオオッ!ズバアアアッ!

「うわああああっ!」

その瞬間、ネウロイの発したビームが浦風を直撃した。


「浦風被弾!応答ありません!」

「艦橋後部より出火!大破炎上中!」

杉田「……針路を風上に!戦闘機を全機発艦させろ」

杉田「奴に窮鼠猫を噛むという意味を教えてやる!」

樽宮「了解!」

樽宮「戦闘機発艦準備急げ!」

樽宮「駆逐艦群は発艦支援に全力をあげよ!」


赤城のエレベーターから続々と上がってくる九九式艦上戦闘機。

「対空砲火やめ!」

「回避運動中止!」

「甲板作業員退避せよ!」


「発艦準備完了!一番機発艦せよ!」


ずらずら甲板にならぶ戦闘機の先頭には、ストライカーユニットを付けた坂本の姿があった。

坂本「坂本美緒、発進する!」

グオオオオオオン……!


みらい CIC

菊池「発艦から五分足らずにして……」

青梅「その半数が落ちています」

青梅「……?」

青梅「一機だけ、凄まじい運動をしている機体がいますね」

菊池「光点が小さいな。まるでまとわりつく鳥のようだ」


青梅「……! 駆逐艦の光点1、消失!」

菊池「これで2隻目だ……」


そして一つの光点がスピードを上げ南下し始めた。

青梅「……小光点、本艦へ向け急速接近!」

菊池「なに!?」

青梅「その後ろを巨大光点が追尾中……」

菊池「艦隊から切り離すつもりか」

菊池「本艦との遭遇時刻は?」

青梅「現針路と速度が変わらなければ、約5分後に」


艦橋

角松「見張り員、何か見えるか?」

尾栗「今のところは……」

備え付けの双眼鏡で監視していた柳一曹からの報告がきた。

柳「……航海長!艦前方に飛行物体!距離1000!」

柳「急速接近!」

すかさず手持ちの双眼鏡で見る尾栗。

尾栗「っ!」サッ!


徐々に近づくエンジン音と、得体の知れない奇妙な音。

青梅『本艦上空通過……今!』

グオオオオオオオン!

尾栗「うおっ!」

柳「!?」

一瞬にして艦の上を通過した物体を見て、二人を含む見張り員全員が絶句していた。



尾栗「副長、女の子です!女の子が空を飛んでいます!」

角松「!?」


角松「ふざけたことをぬかすな!正確に報告しろ!」

柳「旧海軍の……第二種軍装を着用し、眼帯した少女が一人……飛行していました」

尾栗「こっちは全員見たんだ」

尾栗「……旋回してまた戻って行った!」

角松「どうなっている……」

菊池『艦橋CIC、巨大物体も接近します!』

菊池『あと30秒で視認圏内に!』


オオオオオ……

尾栗「おい、なんだありゃァ……」

柳「艦左前方20°!未確認巨大物体を確認!」

尾栗「……この大きさ、まるでSF映画の空中戦艦だな」

柳「形状から見ると、大型のステルス機にも見えます……」

尾栗「もっとも、レーダーにバッチリ映ってるようじゃステルスもくそもないが」


その時、ネウロイの巨体の一部が光った。


柳「!」

尾栗「――急速転舵!面舵一杯!」


艦橋員A「面舵一杯!」

キュアアアッ!―――ドウッ!

舵を切った瞬間、みらいが元いた位置に凄まじい光線が着弾し、水柱をあげた。

見張り員A「敵味方不明弾、左後方50mに着弾!」

尾栗「くっそ!問答無用で攻撃か!」

柳「砲弾や爆弾にしては早すぎます!大戦後期のロケット弾だとしても……」

尾栗「ビームとか光線とか、ますますSFモンじゃねえか……」

尾栗「CIC艦橋!菊池、今のレーダーに映ったか!?」

菊池『いや、突然衝撃が襲っただけでわからなかった』

尾栗「となると、俺達艦橋員の目が便りなわけだな」


CIC

青梅「大光点小光点、ともに本艦から遠ざかります」

青梅「針路3-4-2。艦隊へ戻る方向です」

菊池(あの物体は有無を言わずこちらへ攻撃してきた)

菊池(これは、敵とみなすべきなのか)

菊池(それとも干渉せず、遠ざかるべきなのか……)

レーダーの動く光点を見ながら、菊池はインカムを手に取った。

菊池「………」カチ


菊池「艦長、先ほどのアンノン物体の撃墜を進言します」


艦橋

梅津「……砲雷長、その判断は早急すぎではないか?」

『昼行燈』のあだ名を持つ梅津一佐らしい解答。

菊池『しかし、こちらへの意図的な攻撃を仕掛けました。これは明らかな敵対行為です』

梅津「………」

尾栗「自分も賛成です!」

尾栗「艦と乗員を守るためにその武力を行使するのは、正当な自衛権です!」

梅津「……角松、どうか」

角松「はっ」

角松「尾栗の言うとおり、これは正当な自衛権の行使かと」


梅津「総員、対空戦闘用意!」



角松「対空戦闘用意!」

梅津「機関全速!針路3-4-0!」

尾栗「了解!機関全速!針路3-4-0!」

梅津「航海長、敵の攻撃に対する回避運動は見張り員である航海科の判断に任せる」

尾栗「了解しました!」

梅津「角松、砲雷長と共に戦闘指揮を頼む」

角松「了解」


CIC

角松『CIC艦橋、目標の位置は?』

菊池「艦から遠ざかったとはいえ、いまだスタンダードの射程圏内だ」

青梅「圏外脱出にはまだまだかかりますね」

菊池「大光点――目標αに対する対空ミサイルの使用を具申します」

角松『許可する。お前に任せよう』

菊池「了解」


菊池「前甲板VLS、スタンダードミサイル発射用意!」

※スタンダード:長距離対空ミサイル。シースパローよりも射程が長い。「みらい」搭載型はSM-2。
          北朝鮮のミサイル発射時によく言われた「SM-3」というのは、これの発展版。


菊池「目標αをマーク!」

CIC員A「射撃管制オールグリーン!」

CIC員B「前甲板VLS,スタンダード発射準備よし!」

CIC員C「砲雷長……」


菊池「………」

菊池「スタンダードミサイル、発射!!」


ガコン!ズバアアアアッ!

主砲後ろに設置されたVLSが開き、そこから一基のスタンダード対空ミサイルが放たれた。

続きます。
思ったより時間がなかなか取れないので、結構小刻みになりそうです。


赤城上空

ガガガガガガ!

美緒の九九式機関銃がネウロイに向けて火を噴くが、大した効果は見られない。

坂本「くっ!なかなか硬い……」

サイトから視線を外して距離を取ったその瞬間、見慣れないものが目に映った。


ゴオオオオッ――――!

坂本「――あれは!?」


赤城 艦橋

艦橋員A「艦長!後方上空より何かが高速で接近してきます!」

杉田「なにっ!?」

樽宮「ウィッチの援軍でしょうか?」

杉田「だとしたらありがたいが……」

樽宮「最悪、ネウロイの増援ということも……」

杉田「考えたくはないが、ありえない事もない」


赤城の上空を、一発のスタンダードが駆け抜けた。
その正体を知らない乗組員はそろって目を見開いていた。

艦橋員B「何だありゃ!?」

艦橋員C「……! 真っ直ぐネウロイに突っ込む!」

杉田「―――!?」

ネウロイの黒い巨体に、白い矢が突き刺さる。

ドオオオン!


ネウロイ「キャアアアアアア!」

甲高い音と共に、その巨体の一部が崩れていく。


船員A「おおっ!」

船員B「やったか!?」


坂本「いいや!まだだ!」

落下し始めたと思ったネウロイであったが、すぐに態勢を立て直す。
被弾した個所も、徐々に回復してるようにも見えた。

樽宮「今のは一体……?」

杉田「わからん。わからんが……」

杉田「今は目の前の敵に集中するのだ!」

樽宮「はっ!」


みらい CIC

青梅「スタンダードの命中を確認」

レーダーからスタンダードの光点が消える。

菊池「……なぜだ」

だがしかし、いくら見てもネウロイの光点は依然として消えない。
速度、行動ともに変化も見られない。

菊池「いくらあれだけの巨体とはいえ、スタンダードを受ければそれなりのダメージがあるはずだ」

青梅「装甲が強固だったのでは?」

菊池「あれだけの巨体を浮かせているうえに、重装甲」

菊池「この時代にそんな技術があったとは思えん」


青梅「ですが、実際に今だ飛行中です」

菊池「こいつをどうやって落とすか……」

CIC員A「さらにミサイルを撃ち込むというのは?」

菊池「無駄にミサイルは使えん」

CIC員A「砲雷長……?」

CIC員B「イージス艦の主兵装はミサイルです。それを使わないというのは……」

菊池「だからこそ、だ」

菊池「使用をやめるわけではない、だが使うならば慎重に判断せねばならん」


菊池「我々は今、理解しがたい状況下にある」

菊池「帝国海軍の艦船が存在する世界、現在位置は大西洋」

菊池「さらに未知の飛行物体に空飛ぶ人間、だ……」

菊池「どれだけいるのか、帰り方もわからない」

菊池「それらから身を守るための力を易々と使い、消耗することは生存率の低下につながる」

青梅「先のことを考えて、ですか」


菊池「補給があるのならまだしも、効果があるかどうかわからない攻撃を続けたところでそれはただの無駄弾だ」

青梅「確かにミサイル系は弾数が限られてます」

菊池「……青梅、どうして彼らは駆逐艦を選んだ?」

青梅「理由、ですか?」

菊池「さらに艦橋からの報告では、目標の相手をしていた空飛ぶ人間はごく一般的な機関銃だそうだ」

青梅「それが?」


菊池「……破壊は可能なのだ。たとえ小火器であっても」


青梅「ですが現にスタンダードの直撃を受けても怯んでません」

青梅「小銃よりも威力が高いのは目に見えてます」

菊池(何かがあるはずだ)

菊池(敵の装甲は強力。にもかかわらず小銃の使用……)

菊池(連続的な攻撃か?なら……)

菊池「射程圏内に入り次第、後部VLSより短SAMを2基照準!」

CIC員A「了解!」


※短SAM:シースパローのこと。


青梅「……砲雷長、待ってください!」

青梅「目標αへ小光点二つが接近!戦闘状態に入ります!」

菊池「……!」

菊池(もはや光点同士が重なり合っている状態……)

菊池(これほど接近していると、ISFすら持たない状況では小光点の方を撃ち落としかねない)

菊池(どうすれば……)



CIC員A「あと90秒で主砲射程圏内に入ります!」

菊池「……これだ!」


艦橋

尾栗「……見えた!」

尾栗「水平線上に多数の黒煙視認!」

柳「前方に大型艦……正規空母クラス!」

尾栗「いるな、あのデカい奴も」

柳「その大きさだけに、ひときわ目立ってますね」

角松「艦橋員、敵の攻撃に注意せよ!」

尾栗「了解」


赤城上空

坂本「宮藤、これはお前が使え!」ポイ!

美緒が自分の持っていた九九式を芳佳に渡す。

坂本「私が陽動をし、敵の攻撃を逸らす」

坂本「その間にコアを撃ち抜け!」

芳佳「は……はい!」

坂本「いくぞ!」

芳佳「はいっ!」


ネウロイの周りをぐるぐる回りながら、攻撃をそらす美緒。

グオオオオオオ……

ネウロイ「キャアアアア!」バシュシュシュ!

だがネウロイは全方位攻撃に、その陽動はあまり効かないようだった。

芳佳「わっ!」バアッ!

とっさに展開したシールドでギリギリのところを防いだ。


芳佳(こ……これじゃ、まともに撃てない……)


CIC

梅津『左砲戦、用意!』

菊池「127mm砲、射撃準備!」

CIC員A「射撃管制装置、データリンク・オールグリーン!」

梅津『左対空戦闘、CIC指示の目標』

梅津『主砲、うちーかたはじめ』

菊池「127mm砲、うちーかたはじめ」

ドンッ!

その指示のもと、艦前方に設置されていた127mmの速射砲が火を噴いた。


赤城

艦橋員A「後方より接近する不明艦有!」

杉田「周辺国の増援か!?」

艦橋員A「いえ……見たことない艦影です!」

樽宮「新型艦でしょうか?」

艦橋員B「……不明艦、発砲!」


ドンッ!ドンッ!

芳佳「坂本さん!あれ!」

坂本「!?」


「みらい」の主砲弾が見事に命中する。

ゴウッ―――ドオオン!ドオオン!ドオオン!

この時代に比べて一発あたりの威力は低いものの、その正確さと連射で確実なダメージを与えた。

坂本(砲撃!?)

坂本(あの艦が、あの距離から撃ったのか?)

坂本(そんな正確な―――いや、今はそれよりも)

坂本「コアが見えた!今だ、宮藤!」

ガガガガガガガ!


バキャッ!



ネウロイ「ギャアアアアッ!」

バラバラバラ……


みらい 艦橋

尾栗「目標α、空中で四散!」

尾栗「主砲弾が致命傷ではなく、その後の応射が効いたようだな」

双眼鏡に、雪のようにふる破片が映る。

柳「すっげー!」


菊池『艦橋CIC、目標αの光点の消失を確認』

梅津「よし、対空戦闘用具収め―――」

青梅『待ってください!小光点1南下、本艦へ接近中!』

梅津「!」


グオオオオオ……

坂本「……確かに見たことがない艦影だ」

坂本「側面に艦名はなく、『182』の数字」

坂本「上部にはアンテナと思われる部分が多数、兵装は主砲一門のみ……」

坂本「味方、なのか?」


角松「どうしますか?」

梅津「向こうは単機、敵意はないようだが……」

梅津「……航海長、発光信号を」

尾栗「はっ!」

続きます

VIPでは勢いでやってたけど、こうやってみると難しい……

はっきりと「撃たれてから回避した」とは書いてないし、光る≠発射と考えれば、
発射準備・予兆(光)を察知→回避行動→照準修正が間に合わず外れる
みたいな解釈もできなくはない、かな?
あるいは、元から回避しなくても当たらないコースだったとか

まあよくある演出だし、気にせず読むのが一番だな


尾栗「探照灯、発光信号用意!」

艦橋員A「発光信号……ですか?」

柳「時代が違うといえども、モールスで打てば通じるはずです」

柳「内容はどうしますか?」

尾栗「そうだな……」カチャ

尾栗が探照灯を構え、発光信号の態勢に入った。

チカチカ……


「こちら海上自衛隊護衛艦『みらい』」

「当方に敵意なし」


チカチカ……

坂本「発光信号?」

坂本「カイジョウ……ジエイタイ……?」

坂本「聞いたことがない隊だな」

坂本「………」

坂本「……攻撃の意志がないと言っている以上、大丈夫そうだが」

探照灯のあった「みらい」左舷側へ迂回しながら接近する美緒。


グオオオオ……

角松「銃器を収めています。向こうにも敵意はないようです」

梅津「よし、後部格納庫に誘導せよ」

尾栗「両舷減速!航空機着艦に備え!」

梅津「副長、同行してくれ」

角松「はっ!」


後部ヘリ格納庫

坂本「見るところ航空機格納庫のような気がするが……」

坂本「十分な長さの滑走路もなければ、カタパルトすらないが……あのシャッターの奥に収納しているのか?」

坂本「なんだろう、この艦は……」

ガチャ

坂本「!?」

坂本「この艦の艦長か?」

梅津「海上自衛隊護衛艦『みらい』艦長一等海佐、梅津だ」

角松「同じく副長二等海佐、角松です」

梅津「ようこそわが『みらい』へ」


坂本(一等海佐……?まぁ軍艦の艦長ということは大佐ないし中佐クラス……上官だろう)

坂本「連合軍第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』所属、扶桑皇国海軍少佐」

坂本「坂本美緒です」


梅津「連合軍……?」

梅津「この時代、日本はアメリカ側についているのだろうか?」


その質問に対し、美緒は怪訝な顔で聞き返した。

坂本「ニッポン、アメリカ……とは?」

角松「!?」


梅津「なんてことだ……」

角松(そういえばこの少佐、さっき『フソウ皇国』と……)

梅津「この世界に、日本、アメリカ、両国は存在しない……のかな?」

坂本「私は聞いたことない国です」

梅津「……これでまた、一つ追い詰められたな」

角松「燃料も食料も、この漂流状態ではあとどれだけもつか……」


坂本(……漂流?これほどの軍艦がか?)

坂本「なにか、事情があるようですね」

坂本「見るところあなた方も扶桑の方だと思ったのですが」


梅津「……言っても信じがたいかもしれないが」



梅津「我々はこの時代ではない、六十年後の未来からやってきたのだ」

坂本「六十……年……?」

坂本「あなた方はタイムトラベルをしてきたとでもいうのか!?」

角松「理解しがたいであろうが、そういうことになる」

坂本「………」

あり得ないであろう事実を聴いた美緒。
それからしばらくの沈黙の間、目を瞑って考えをまとめていた。


坂本(タイムスリップとは、またとんだ話だ)

坂本(しかしあの主砲弾の命中精度、ロケット弾のようなモノ)

坂本(そしてこの艦……今の時代のものでないことは明白だ)

坂本(……信じてみるか)


坂本「……話し込むようでしたら、一度陸の方でどうでしょう?」

角松「我々を受け入れてくれるところが、あると?」

坂本「ここから先、ブリタニアという地に我々の基地があります」

坂本「どこまで、とは明確に申し上げられませんが、多少のお力にはなれるでしょう」


坂本「代わりと言ってはなんですが、基地に着くまで本艦隊の護衛を願いたい」

坂本「ネウロイ―――あの化け物が再び来るとも限らないので」

梅津「我々でよければ、同行しよう」

坂本「感謝します」

坂本「では私は本隊に報告、伝達をしに戻りますので―――」

そう言って戻ろうとした時だった。


坂本(しまった!この距離では離陸ができない!)

坂本(着陸はギリギリで減速させることで何とかなったとはいえ、カタパルトがない以上は……)


坂本「この艦に射出機はないのでしょうか?」

角松「本艦には装備されていないが……」

坂本「むぅ、どうしたものか……」

梅津「何か不都合でもあったかな?」

坂本「実は、ストライカーユニットが離陸するにはこの甲板では距離が足らないので」

角松「ストライカーユニットというと……」

坂本「これです。魔法で動かす飛行装置といったところでしょうか」

と、美緒が一組のストライカーユニットを示す。
先ほどまで履いていて、甲板に着地するときに脱いだものだ。


角松(エンジンをつけられそうなスペースもない……)

角松(ましてやこれで空を飛ぶなど……やはりここは違う世界か)

梅津「ふむ……」

梅津「ならば、貴官を本艦の艦載機で届けようではないか」

坂本「よろしいのですか?」

梅津「客人は丁重にもてなさなければな」

梅津「副長、航空科にシーホーク発艦準備を通達」

角松「了解しました」


『シーホーク発艦用意!』

後部格納庫のシャッターが開かれ、中から艦載機のSH-60Jシーホークが姿を現す。
折りたたまれていたメインローターが広げられ、飛行する準備が進められた。

坂本「これは……」

呆然とする美緒をよそに、ローターの回転が始まった。

キュンキュンキュンキュン……

柿崎「発艦準備が完了しました! 搭乗員を載せてください!」

副操縦士の柿崎一曹がドアを開いて受け入れの準備をする。

梅津「『赤城』の艦長に、よろしく伝えてもらいたい」


※SH-60J シーホーク:対潜哨戒ヘリコプター。搭乗員は三名~五名まで。
              http://ja.wikipedia.org/wiki/SH-60J_%28%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F%29



赤城 艦橋

ネウロイが去り、艦隊は速度を落としてはいるもののゆっくりとブリタニア方面へ航行していた。

杉田「坂本少佐が不明艦の偵察に行って三十分……」

樽宮「一定の距離を保ちながら追尾してますが、攻撃する素振りも見せませんね」


その時、一人の伝令が艦橋へやってきた。

船員「不明艦より入電です!」

杉田「何っ!?」

船員「読み上げます。宛 遣欧艦隊空母『赤城』」

船員「本艦は貴艦隊と敵対するものでなく、攻撃する意思もないことをここに宣言する」

船員「またこれより、貴艦の乗組員である坂本美緒少佐を本艦艦載機にて輸送する。受け入れられたし」

船員「発 海上自衛隊護衛艦『みらい』艦長 梅津三郎一佐」


その報告を受けながら、艦長らが双眼鏡を使って後方に小さく見える「みらい」を眺めていた。

艦橋員A「……! 不明艦より艦載機発艦!」

艦橋員B「なんだあれは……見たこともない機影です」


バババババババババ……

美緒を乗せたシーホークが徐々に近づいてくる。
甲板に出ていた、あるいは艦橋付近から外を見ていた乗組員たちは、見たこともない航空機にくぎ付けだった。

樽宮「あの航空機は一体……」

杉田「………」

杉田艦長の双眼鏡に、シーホークの右舷ドアから若干体を出した美緒の姿が映る。
そして機内から拡声器でこう告げた。

坂本『あ~、こちらは坂本美緒少佐だ。これより当機はこれより赤城に着艦する!』


樽宮「どうしますか?」

杉田「受け入れないわけにはいかないだろう。甲板員に伝達せよ!」


シーホーク機内

坂本(しかし、このヘリコプターという航空機は凄まじいな……)

未だかつて体験したことのない乗り物を味わう美緒。

同じく操縦士の林原一曹も、経験したことのない場所への着艦行動に緊張していた。

林原「速度、調節完了」

林原「オートローテーションに入ります」

坂本「空中線に注意だ」

林原「了解」

キュンキュンキュン……

徐々に車輪と甲板の差が小さくなっていく。


林原「着艦!」

こうして浮いていたシーホークの機体は完全に赤城へと着地したのであった。


みらい 艦橋

林原『シーホークより「みらい」へ。坂本少佐の「赤城」移乗に成功』

林原『これより離陸、帰投します』

角松「こちら「みらい」、了解」

そこに通信士が入ってくる。

通信士「空母「赤城」より入電!」

艦橋員A「これからの艦隊行動についての通信です!」


梅津「さて、一仕事だな」

梅津「面舵20度!針路3-4-0へ!」

梅津「航海長、艦隊の後方40kmに。これより艦隊の護衛を行う」

尾栗「了解しました!」



それから数日が経ち、扶桑海軍の欧州派遣艦隊並びに「みらい」はブリタニアへと到着する。

航行中は極めて穏やかな天気が続き、巨大な低気圧に会うことも、オーロラを見ることもなかった……。

続きます。

坂本少佐の権力と技術が高すぎる?デフォです。
やけに杉田艦長の柔軟性が高い?デフォです。

力関係ってむずかしい……。

乙、ストライカーは一応VTOL可能だぞ、二期3話とかでやってたしな。

ただ垂直離陸は魔法力の消耗が激しいから緊急時のみだが。

乙!

オートジャイロは陸軍が保有してたけど海軍じゃマイナーだったんじゃ?
カ号観測機も配備は1941年以降と記憶してたんだが



軍事の知識ないからわかんないんだけど
>>19は目標であってんの?反応じゃなくて?
そんな感じで所々気になるけど面白いです

なかなか時間が取れず……

>>141
ほんとだ、VTOLしてましたね
もっと穴が開くほど見ないと……

>>144
カ号が艦船に搭載される計画もあったようですがポシャったようですし
知ってる人しか知らないという感じでしょうか?

>>146
多分目標でいいと思います
反応との違いがあいまいですが……


イギリス海峡 とある無人島

みらいの甲板にて、同期三人が骨を休めていた。


尾栗「よくこんな都合のいい場所があったな」

尾栗「船の往来も少なく、航空機もこないと来た」

角松「ああ、隠れるには絶好の場所だ」

菊池「しかし、坂本少佐が報告、説得するためにここで待機して三日目」

菊池「そろそろ反応があってもいいはずだが……」

尾栗「一杯喰わされたんじゃねぇの?」


菊池「もしそうなら、事態は深刻だ」

菊池「結局元来た針路を戻っても現代に帰ることはできなかった……」

菊池「こんな世界に放り込まれ、精神の状態が限界に近い隊員もいる」

菊池「仮にこのまま一人旅という状態になれば……」

だが、その菊池の予想を打ち消すように扉を開く音がその先を遮った。


ガチャ

梅津「おお、角松。二人もここにいたか」

角松「どうしましたか、艦長」

梅津「坂本少佐……彼女の所属する501統合航空団から連絡がきた」

尾栗「やっとか」


梅津「本日14:00より、501の基地での補給の許可が下りた」

梅津「またそれに先駆け、『みらい』入渠前に双方の幹部同士で会談を行いたいとのことだ」

菊池「それについてはどうするおつもりで?」

梅津「うむ。わたしと角松の二人で行こうと思う」

角松「分かりました」

梅津「航空科には私から伝達しておく」

梅津「航海長と砲雷長、入渠するまでの船の指揮を頼んだぞ」

尾栗「了解しました」

菊池「了解」

敬礼を終えた後、梅津は艦内へと入って行った。


ウィッチーズ基地

いい匂いの漂う食堂では、数人のウィッチーズが食事の用意をしていた。

ゲルト「そういえば、今日は扶桑から軍人が来るそうだな」

エーリカ「ん?宮藤なら一昨日くらいに来たけど?」

ゲルト「あの新人ではない。何でも坂本少佐が出会った艦の乗組員らしいが……」

シャーリー「なんだそりゃ」

ゲルト「昨日から少佐とミーナが話し込んでるのを聞いてな」

芳佳「私、その艦見ました!」

芳佳「遠くから主砲で何回も命中させて……」

芳佳「それとなんか見たこともない物も飛ばしてました!」

リーネ「なんだろう……?」


そんな風にそれぞれが話していると、ミーナ中佐が部屋へと入ってくる。
とはいってもその場の雰囲気はあまり変わらない。

ミーナ「あら、まだ食べてないの?」

ペリーヌ「皆さんがそろうのをお待ちしていたのですわ」

ミーナ「あら、美緒と私は用事があるから先に食べてていい、といってたはずだけど……」

シャーリー「中佐、まだルッキーニが来てない」

ゲルト「全く……食事に遅刻するとは!」

ミーナ「あらあらまぁまぁ」


サーニャ「はぅ……」

エイラ「サーニャ、だいじょうぶカ?」


ドタバタドタバタ

外の廊下からなにやら騒がしい音が聞こえる。
バァン!と扉を勢いよく開けるルッキーニ。

ルッキーニ「みんなみんな! 外!外!」

ゲルト「フランチェスカ少尉! 静かに!」

シャーリー「落ち着けルッキーニ。どうしたどうした」

ルッキーニ「シャーリー!見たこともないヒコーキが飛んでる!」

シャーリー「うん?」

ゲルト「軍用機か?」

ルッキーニ「わかんなーい!」

ババババババ…

ルッキーニ「ほらきた!」


気になったのか、ウィッチたちが続々窓の外を覗く。
そこへシーホークが着陸し、その隣に美緒が降り立つ。

ババババババ……

シャーリー「おお、あれオートジャイロじゃん!」

ルッキーニ「なにそれ?」

シャーリー「短い滑走路でも離陸できるヒコーキだ」

シャーリー「たしかカールスラントで開発中って言ってなかったっけ?」

エーリカ(そういえばウルスラがいってたような……)


サーニャ「エイラ……この音なに?」

エイラ「ああ、サーニャが起きちゃったじゃナイカ」


基地の外

彼女たちが見ていた窓の外。
そこではちょうど、林原一曹が着陸作業を終えて、角松が機のドアを開けているところだった。

梅津「どこかでみたことあると思えば……」

角松「世界遺産のモン・サン・ミシェルによく似てます……」

すると正面脇にあったドアが開き、ミーナが出てくる。

ミーナ「美緒、その方たちが?」

坂本「ああ。そうだ」


ミーナ「ストライクウィッチーズ隊長、カールスラント空軍中佐 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケです」

梅津「日本国海上自衛隊海等一佐 梅津だ」

角松「同じく海等二佐 角松です」

ミーナ「それでは私の部屋までお願いします」


ミーナの部屋

坂本少佐同席のもと、ミーナ中佐と「みらい」幹部による話し合いが行われていた。

ミーナ「貴艦の活躍により、欧州派遣艦隊が到着できました。感謝します」


ミーナ「美緒――坂本少佐から受けた報告では、いろいろ事情があるとの事ですが……」

梅津「誠にすまないが、いろいろ確認したいことがあるのだが」

ミーナ「なんでしょう?」

梅津「我々の祖国が存在しないこの世界」

梅津「この時代は、一体どんな時代なのだろうか?」

ミーナ「……わかりました。ご説明致します」


話を始めるミーナ。

この世界の事、ネウロイの事、ウィッチの事……。

梅津「怪異――ネウロイ……」

ミーナ「それに対抗するための、ストライクウィッチーズです」

梅津「我々は全く違う世界に来たというわけだな」

角松「………」

ミーナ「それはどういう……」

坂本「……信じられないかもしれないが」


坂本「彼らは、未来……それも異世界の未来から来た住人だ」





みらい CIC

多数のモニターに囲まれたCICで、菊池は順調に予定を消化していた。

菊池「異常はないか?」

青梅の眼前に映るレーダーには、イギリスとヨーロッパの大陸以外の反応はない。

青梅「対空、対水上レーダー、ともに異常ありません」

菊池「この調子で行けば、一時間後には着くな」

青梅「ええ」

菊池「燃料も、ギリギリというわけでもないが心許なくなってきている」

青梅「発電量が規制されてしまえば、さらに厳しくなりますね」

菊池「無事に補給を受けられるように、祈るだけ……」


再び ミーナの部屋

こちらの部屋では、引き続き会談が行われていた。

ミーナ「……以上が、今回行うことのできる当方の補給です」

梅津「真水、生鮮食料、燃料……かたじけない」

ミーナ「あと、燃料の補給についてですが……」

坂本「あなた方の燃料は軽油だとのことだったな」

角松「ええ」

ミーナ「この時代は基本重油……艦へ補給する程の軽油はここに備蓄しておりませんでしたので」

ミーナ「申し訳ないのですが、現在、燃料については十分といえる量を補給はありません」

梅津「む……それは仕方ないか……」


坂本「それで、あなた方はこれからどうするつもりで?」

梅津「どう、とは?」

坂本「あなた方の目的は知らないが、これからどうしていくのかと思いまして……」

角松「我々は、自分たちの意志でこの時代に来たのではありません」

坂本「……! なら……」

ミーナ「もしかして、帰り方も……」

角松「ずっと彷徨っているのです。目的もわからずに……」

坂本(それであの時『漂流』と……)


坂本(………)


坂本「……なぁミーナ、「みらい」と協力するというのはどうだ?」

その途方もない発言に、ミーナが目を丸くした。

ミーナ「美緒!?あなた何を言いだすの?」

坂本「ウィッチと違うとはいえ、科学技術に関してはこの時代を大きく逸脱している」

坂本「現に、先の戦闘ではネウロイをあと一歩のところまで追い詰めた」

坂本「対ネウロイ戦闘に対して、これは大きな戦力になると思わないか?」

坂本「そしてその見返りに、我々は補給物資を、帰還の方法に関する情報を提供する」

角松「………」


ミーナ「たしかに、双方ともに有利な条件ではあるけれども……」

ミーナ「上の許可もなくそんなことは……」

坂本「ミーナなら説得できるさ」

坂本「戦力は多いに越したことはないだろう?」

ミーナ「確かにそうだけれども……」

坂本「さて、どうだろう?

坂本「大……いや、梅津一佐殿」

角松「艦長……」

しばらく間をおいて、梅津は口を開けようとした


その時だった。
廊下を急いでかける音がした。

ダッダッダッダ! バッ!

「失礼します!」

大急ぎで入ってきたのは、基地の衛兵を伴った柿崎一曹。

梅津「何事か!?」

柿崎「11:45、「みらい」より入電!」



柿崎「欧州大陸より、本島に向けて侵攻する未確認物体を確認したとの事!」

角松「!!」

坂本「……ネウロイだ!」

続きます。

進みも執筆も遅いですが、何とか頑張ります。


一期の基地のモデルはイギリスのモン・サン=ミシェルこと、セント・マイケルズ・マウントじゃねえかなーと

物資の譲渡とか、ミーナの裁量権的に無理じゃね?
501の予算はブリタニアが出してるっぽいし。
もっと上との話になる筈。
マロニーとかダウディングとか、或いは各国の高官が出張って技術提供の交渉とか

Googlemapをフル活用してみるも想像を絶するほど難しい……

>>187
そっちだったのか!
知ってると思ってることももう一度見直す必要がありそう……

>>200
今回は基地内に貯蔵してあるもので、何とかなったということで……


数分前 みらい CIC

順調に航行していると思われた「みらい」。
が、CICの青梅一曹は欧州大陸に一つの妙な光点が移動しているのを見つけた。

青梅「砲雷長、レーダーに光点が」

菊池「ん?」

レーダーモニターに目を移す菊池。
たしかにそこには、海岸線付近をを移動する何かの機影が。

菊池「およそ北緯51度0分 東経2度20分のあたりか」

菊池「時々反射波が途切れるのによく見つけたな」

青梅「ええ。ヘンな反射波ですし、速度も早いですから」

菊池「航空機ではないな」

菊池「小型ではないから、まず飛行少女でもないだろう」


青梅「となると、これもネウロイという奴でしょうか?」

菊池「かもな」

菊池「目標の針路は?」

青梅「現状のままですと2-5-0といったところです」

菊池「……! シーホークの現在位置へ向かっている!」

青梅「やはり……」

青梅「攻撃しますか?十分にスタンダードの射程圏内ですよ?」

菊池「待て。まずは状況を報告だ」

菊池「シーホークを通して会談中の艦長に伝えろ」

青梅「アイサー!」


再び ミーナ私室

敵襲の警報が鳴り響く。

角松「目標の現在位置は?」

柿崎「方位0-8-5、距離86km!」

ミーナ(対岸側の、障害物も多い陸の敵を探知したというの……?)

角松「ここから直線上に伸ばして……フランスの北部か」

ミーナ「フランス……ええと、ガリアの事ね」

坂本「この方位から来るとなると、やはりネウロイか」

角松「航空機……という可能性は?」

坂本「まずないな」

ミーナ「そうね」

梅津「なぜ、そこまで断言できるのだろうか?」


ミーナ「……ガリアを含め、現在欧州大陸の大部分がネウロイによって制圧されています」

ミーナ「当然その地域は危険、航空機は当然ながらウィッチすらその近くを飛ぶのを控える場所……」

坂本「単機で行くなんて言うのは自殺行為だからな」

角松「なるほど……」


梅津「それで、どのように対抗なされるのだろうか?」

ミーナ「ウィッチーズをすぐに向かわせます」

ミーナ「少佐、宮藤さんとリーネさん、夜間哨戒組を残して迎撃に」

坂本「わかった」

そういって美緒は部屋を出て行った。
あらためて別の警報が鳴り響き、下の階があわただしくなる。


角松「艦長、我々も」

梅津「うむ」

角松「林原一曹に、シーホークの離陸を伝達」

柿崎「了解!」

敬礼を返してヘリへと急ぐ柿崎。


梅津「それと、これを」

ミーナ「これは……?」

差し出したのは、梅津が携行していた無線機。

角松「我々の無線機です」

角松「シーホークを通じて「みらい」とも通信ができます」


数分後 みらい CIC

角松『こちらシーホーク角松。聞こえるか?』

菊池「こちら「みらい」CIC、聞こえてます」

角松『目標の現在位置は?』

青梅「すでに大陸を脱しています」

青梅「針路、速度変わらず南西へ移動中」

角松『わかった。シーホークが離陸次第、指示を出す』

菊池「了解」


みらい 艦橋

ウィングでは相変わらずの二人が見張りをしていた。

尾栗「待機命令か……」

柳「そのようです」

尾栗「もう十二分にスタンダードの射程圏内だってのにな」

柳「少し早いとはいえ、音速を超える目標も撃墜可能なスタンダードなら十分……」

柳「艦長副長と“この世界”の打ち合わせが十分でないから手出しができない、とか?」

艦橋員A「あるいは弾薬の節約を最優先に考えてるとか?」

尾栗「……どうだかな」

尾栗(化け物相手とはいえ、やっぱ気が進まねえのか……?)


ドーバー海峡上空:シーホーク機内

林原「雲量5、視界が少々不鮮明ですが、航行に異常はありません」

柿崎「先ほど、本機のレーダーもネウロイの反射波をキャッチしました」

柿崎「また、501基地より機影多数。先のウィッチーズと思われます」

林原「……左90度、編隊接近」

窓から見下ろすと、きれいに編隊を組むウィッチーズが見えた。
だがそれも一瞬、すぐに別の雲へ消えてしまった。

角松「あれが……ウィッチ……」

林原「艦長……やはり自分は、いまだに信じられません……」

梅津「私とて、夢だと思っていたい」

梅津「こうして見ると認めざるを得ないだろう……」


柿崎「……! ウィッチーズとネウロイが接触!」

柿崎「数秒後にはドッグファイトに入ります!」

梅津「………」


同じくドーバー海峡北上空:ネウロイ遭遇地点

坂本「……見つけた!」

坂本「11:53、ネウロイ発見!」

坂本「12時方向、距離1000!」

ゲルト「あれか、行くぞハルトマン!」

エーリカ「うん!」

先鋒にバルクホルン、エーリカが飛び出した。
そしてそれに続くシャーリーとルッキーニ。

ゲルト「はっ!」ガガガガガガガ!

エーリカ「おりゃあ!」ガガガガガ!

二人のMG42が火を噴くも、なかなかネウロイのコアは見えない。


シャーリー「よっ!」カカカカ!

ルッキーニ「かたい~!」ドドドドドド!

ペリーヌ「……?」

すると、ペリーヌがネウロイの進路が少しずつ変わっているのに気付いた。

ペリーヌ「少佐、ネウロイの進路が変わってますわ!」

坂本「……北へ逃げる気か」

坂本「シャーリー、ルッキーニで頭を押さえろ。挟み撃ちだ!」

シャーリー「りょーかい!」グオオオン!


みらい CIC

青梅「ネウロイ針路変更、3-4-0へ」

菊池「目的地がずれたか……」

青梅「スタンダードの射程圏外に出ますが、追いかけますか?」

菊池「……いや、この様子だとこちらから手を出す必要もなさそうだ」


青梅「……お」

青梅「ネウロイの速度・高度ともに低下します」

CIC員A「やったのでしょうか?」

菊池「いや、まだだろう」

菊池「先の戦闘と変わらないのなら、大破すれば四散するはず」

菊池「まだダメージを与えただけだ」


青梅「いずれにせよイギリス――ブリタニア本土には届かないでしょう」

青梅「この調子ならもう援護する必要もないかと」

菊池「シーホークから艦長の指示がない以上、な」

青梅「自分としては何事もなくてよかったですが」

菊池「………」


ひと段落できる、とCICの空気が軽くなったその直後だった。

CIC員B「……青梅一曹!」

青梅「!」







「レーダーに感! アンノン機、方位1-4-0より高速接近中!」






シーホーク機内

角松「たしかか!?」

柿崎「はい! 北緯49度0分 東経0度8分にて感知!」

柿崎「700km/hで高速接近中!」

突如大陸から現れたその光点は、急速に北上をしていた。

角松「700km/h!?」

梅津「針路は?」

柿崎「0-1-0です! このままですとイギリス本土へ!」


梅津「……「みらい」の現在位置は?」

林原「シーホークより南西、距離35km」

梅津「角松、さっきの無線でヴィルケ中佐にネウロイの襲来を報告だ」

角松「了解」

梅津「柿崎一曹、「みらい」に通信を」

柿崎「はっ!」


回線を開き、無線機の向こう側で菊池の応答が聞こえるのを確認すると、ただ一言。

梅津「……砲雷長、対空戦闘用意だ」


ドーバー海峡北上空

ゲルト「おりゃああああ!」バコォッ!

エーリカ「ナイス、トゥルーデ!」

一か所に攻撃を集中されたためか、耐えきれなくなったネウロイの右側で爆発が起きる。

シャーリー「おお、落ち始めたな」

ルッキーニ「やたっ!」

しかし迎撃組の歓声とは裏腹に


坂本「……囮!?」

ミーナ『ええ、もう一つのネウロイが現在も高速で北上中よ』

ペリーヌ「やはり北に行ったのは私たちを引き離すため……」

ミーナ『私たちで迎撃に上がるけど、できるだけ早くお願い』

坂本「わかった」


基地 ブリーフィングルーム

ミーナ「目標は700km/h程で進行しているとのことです」

エイラ「早すぎダロ……」

ミーナ「すでに100km圏内を突破しています。急がないと……」

ミーナ(この速さだと、美緒たちじゃ間に合わない……)

地図に張り付けた、敵に見立てたコマを忙しく動かすミーナ。

ミーナ「サーニャさんは出れるかしら?」

エイラ「夜間哨戒で魔力を使い果たしてる」


エイラ「ムリダナ(・×・)」


ミーナ「……仕方ないわ」

ミーナ「私とエイラさんで出ましょう。すぐに用意を」

エイラ「ワカッタ……」



「待ってください!」



エイラが返事をするのと同時に、勢いよく扉が開いた。
そこには息切れの二人。

芳佳「私達にもいかせてください!」

ミーナ「でもまだあなたたちは……」

リーネ「二人なら、一人分くらいにはなります!」

ミーナ「……わかりました。すぐに支度をしてください」


みらい 艦橋

尾栗「取り舵20°! 針路0-6-0」

尾栗「機関最大戦速!」

艦橋員A「とーりかーじ」

艦橋員B「最大戦速!」

ザザザザザ……

柳「艦長からの対空戦闘指示……」

柳「いよいよ、ですね」

尾栗「……ああ」

尾栗(雅行、正念場だ!)


みらい CIC

青梅「目標ネウロイβ、針路・速度変わらずブリタニア本土へ接近中」

CIC員A「本土到達まで、あと約10分!」

CIC員B「ブリタニアより光点4、待機していたウィッチーズが出撃したようです!」

菊池(やはり迎撃には向かった)

菊池(だが敵機の速度が700km/hに対してウィッチはせいぜい500km/h前後)

菊池(目標はすでにスタンダード圏内だ。確実に当てられる、が……)

菊池(どうする?)


青梅「先鋒のウィッチ2、目標と接触します!」


イギリス海峡上空

ミーナ「あれね……」

エイラ「どうスル?」

ミーナ「後ろに回って速度を合わせるわよ」

エイラ「わかった」

ネウロイの後ろに回り込む二人。

ミーナ「今よ!」ガガガガガガ

エイラ「オラッ!」ドドドドドド!

二人の銃から放たれた弾がネウロイに命中する。
頑丈そうに見えたネウロイであったが、撃ち続けているうちにそこへヒビが入り始めた。

パキパキッ……

エイラ「ンな!?」


みらい CIC

青梅「ん?」

青梅「こ……これは……」

青梅「目標β後部より光点1を確認!」

菊池「なに!?」

急ぎレーダーのモニターへ駆け寄る菊池。

菊池「分離したのか?」

青梅「本体の反射波も小さくなんてますし、そうかと」


だがしかし、その光点は一瞬にして消えてしまった。

青梅「……新目標、消失」

菊池「消えた?」

今さっきあらわれていたはずの光点が、もう一度目を向けたときには消え去っていた。

CIC員A「元々の飛行高度が低かったので、そのまま海面に突っ込んだかと思われます」

菊池(……いや、これは)

ネウロイの不自然な行動に違和感を感じる菊池。

青梅「海に落ちるなんぞ、バカな奴だ」

そしてその予想は当たった。


青梅「……!」

青梅「目標β増速! 1000km/hを超えます!」

菊池「な!?」


青梅「正確な速度でます……1035km/h!」

青梅「先方のウィッチーズ2を引き離して行きます!」

菊池「残り時間は!?」

CIC員B「このままですと……」

CIC員B「到達まで約5分!」

菊池(迷っている暇は……ない!)


菊池「対空戦闘用意! 後部VLSから2セル、諸言入力開始!」

菊池「目標、高速飛行中のネウロイβ!」


CIC員A「イルミネータースタンバイ!」

CIC員B「諸元入力完了!」


菊池「……シースパロー、発射はじめ!」

CIC員A「後部VLS解放!」

CIC員A「シースパロー発射はじめ! サルボー!」


ガコッ! バシャアアアアアアッ!

発射ボタンが押され、後部格納庫上のVLSが開く。
そして2つのシースパローがネウロイに向けて飛び出して行った。



※サルボー:『撃て』の意。特に複数同時発射の事を指す。


再びイギリス海峡上空

エイラ「ダメだ中佐、全速飛ばしても追いつかないゾ!」

ミーナ「このままじゃ……」


ミーナ「……? 何かが来るわ!」

エイラ「え?」

ネウロイの横から、その速度を上回るシースパローが2発、ネウロイに突き刺さった。

ドドォン!

エイラ「ウワ!」




ミーナ「大丈夫? エイラさん!」

エイラ「にゃろ~! あぶないダロー!」

エイラ「……ネウロイは!?」

煙が晴れ、遠くにネウロイの姿が再び現れる。


ミーナ「……ダメージは大きいようだけど、依然として飛行してるわ」

ミーナ「このまま追って間に合うか……」

その心配をよそに、エイラは落ち着いた顔でこう答えた。

エイラ「……いや、その必要はないようダ」

ミーナ「え?」


みらい CIC

青梅「……シースパロー、着弾!」

菊池「どうだ?」

青梅「目標β、依然健在」

青梅「しかし速度は低下しました。現在150km/hへ」

菊池「生きてるか」

菊池「シースパロー、次弾発射用意―――」


その時突然、ヘッドセットに無線の音声が届いた。


『後は任せてください!』

菊池「!?」


ドーバー海峡上空 基地寄り

芳佳「私がこうやって支えているから」

芳佳「どうかな?」

リーネ「は……はい、ボロボロでコアもはっきりと見えます」

リーネ(速度も遅いし、回避できないようだからここからでも!)

ドオン!ドオン!ドオン!

ズガァアッ!

リーネのボーイズライフルから放たれた銃弾が見事命中した。

ネウロイ「ギャアアアアア……!」


パリンッ! バアアアン!

リーネ「やったぁ!」


みらい 艦橋

柳「お……、航海長」

柳「ネウロイが四散しました!」

尾栗「すげぇ、あの向こうにいるの女の子だろ?」

艦橋員A「あの子が撃ち落としたようですね……」

柳「すっげー!」

尾栗「……CIC艦橋、ネウロイの撃墜を目視にて確認!」

菊池『こちらCIC、こっちもレーダーで確認した』

尾栗「了解」


リーネ「……芳佳ちゃん、あれ!」

芳佳「軍艦……かな?」

リーネ「見たことある?」

芳佳「扶桑もいろいろな軍艦作ってるけど、見たことないなぁ」

芳佳(みっちゃんに聞いたらわかるかな?)


ミーナ「宮藤さん、リーネさん」

エイラ「無事カ?」

芳佳「ミーナ中佐、あれ!」

ミーナ「……来たようね」

エイラ「じゃあ、あれが……」



坂本「そうだ」


芳佳「あ、坂本さん!」

坂本「ギリギリ、追いつけなかったようだな」

その後ろから次々とウィッチーズが続いてくる。

ゲルト「あれが少佐の言っていた艦か」

シャーリー「武装が……主砲一門だけ?」

ペリーヌ「少し貧弱すぎる武装じゃありませんこと?」

エーリカ「へぇー、あれか」

ルッキーニ「なになにあれー?」


みらい 艦橋

柳「前方1km、機影?が多数接近中!」

尾栗「女の子の編隊だ……」

菊池『艦橋CIC、501より入港の許可が出た』

尾栗「了解」

尾栗「よし、予定航路に復帰だ」

艦橋員A「予定航路に復帰!」

艦橋員B「ヨーソロー」


かくしてその後、「みらい」は第501統合戦闘航空団の軍港へと入港するのだった。

サーニャ「続く……」zzz...

こだわり過ぎると時間もかかるし、ボロがでるわでアレですね
http://i.imgur.com/2cvgH.jpg

その画像は1942のMODか?

まともな補給がないと
ジリ貧だな

どこかの基地を丸ごと転移させよう

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>>259
はい、SWMODとFCDを掛け合わせました

>>265
そりゃまた豪快なw


ブリタニア

「扶桑からの補給、無事に届いたそうだな」

ミーナ「はい、予定通りに宮藤軍曹並び坂本少佐、そして各種補給品を受け取りました」

「予定通りではないだろう」

「国籍不明の巡洋艦を一隻連れているとの報告があるが……」

ミーナ「………」

ミーナ「報告に間違いはありません」

ミーナ「坂本少佐の証言によれば、ネウロイの襲撃中に援護を受けたとのことで」

ミーナ「現在は本基地の軍港にて停泊中です」

「ふむ……」

「戦力としては申し分ない、か」


「それで、分かったことは?」

ミーナ「彼らはこの世界のどこの国にも属していないということです」

「……どういうことかね?」

ミーナ「こちらも現在、正確に事情を把握できていないため詳しいことは申し上げられません」

「敵対する意思は?」

ミーナ「今のところこちらに対しての敵意はないようです」


「……その艦に、我々に協力する意思は?」

ミーナ「不明です」

ミーナ「ですが、後日要請を行うつもりであります」


ミーナ「つきましては、本件を私たちに一任していただきたいのですが」

「そういう事務的なことはこちらの方がいいのではないかな?」

「キミたちにはネウロイの襲撃にいつでも対処できるようにいてもらわなければならん」

ミーナ「だからこそです」

ミーナ「前線に近い基地の方がいつでも出撃可能」

ミーナ「それに、本土の軍港よりも人目に付きにくいために無用な混乱を避けることもできます」

「む……」

「……まぁよかろう。この艦の件は君に一任する。下がってよい」

ミーナ「はっ!では失礼します」


「未確認の兵器をもつ国籍不明艦か……」

「よいのですか?あのまま任せてしまって」

「結果が出せればそれでよい。戦力増強になるなら使うまでだ」

「全ては人類のため……と」

「ウィッチーズには大きく期待を寄せている」



チャーチル「それはもちろん君にもだ、マロニー空軍大将」

マロニー「はっ……」

チャーチル「人類をネウロイから解放するため、我々は戦わねばならんのだ」


その後 基地内ブリーフィングルーム

ここにいるのは501のウィッチ全員と、艦に残った菊池と当直員を除いた「みらい」の主要幹部。
「みらい」の係留作業終了後、一同はこの部屋に集まり顔合わせをしていた。


ミーナ「……以上、これが双方の事情をまとめた説明です」

シャーリー「待て待て中佐、つまり彼らは未来人……いや、異世界人ということに……」

ミーナ「………」

尾栗「そういうことになるな」

エーリカ「こりゃ驚いた」

ゲルト「驚いたで済む問題か?」


ミーナ「先ほどの戦闘、美緒と宮藤さんは2回……」

ミーナ「「みらい」はネウロイに対するかなりの戦力になりうる、と私は考えるわ」


ペリーヌ「つまり、協力関係を結ぶ……と?」

ミーナ「ええ、察しが早くて助かるわ」

ミーナ(上層部があんなにあっさり承諾してくれたのは予想外だったけど……)

坂本「そんなわけだ。どうだろうか?」

ミーナ「この中で異論のある人はいますか?」

「「「………」」」

ミーナの問いに答えるものは誰もいなかった。

ミーナ「……では、満場一致ということで」

ミーナ「私たちと「みらい」は協力関係を結ぶことにします」


みらい

艦にもどり、艦長室のマイクを取った梅津は、静かにこう告げた。

梅津『艦長の梅津だ』

梅津『本日の会談で決まったことを総員に達そうとおもう』


梅津『まずは501との協力関係を結び、本艦の最低限の生存が確保されたのを喜びたい』

隊員A「おお、ついにか」

隊員B「やっと食料のめどが立ったな」

艦のあちこちから乗員の歓声が上がる。

梅津『よって明朝07:00より補給物資の積み込みを行う』

梅津『各員しっかりと自分の任務をこなしてもらいたい』


梅津『また、上陸についても現在交渉中である』

梅津『時間はかかるものの、城下町であればある程度の自由行動ができるということだ』

隊員C「よっしゃあ!」

隊員D「陸地に上がれるぞお!」

梅津『また、上陸時の一部の軍事施設の共用、資料の閲覧なども検討中だ』

隊員A「この世界の、魔法とやらについても知れるのかね?」

隊員C「だったら元の世界に帰る方法も見つかるかもしれないぞ」

この世界における自分たちの立ち位置を確保し、ある程度の安心を得た隊員たち。
それを見透かしたかのように、改まった口調で続ける艦長。


梅津『……我々は、この世界にいきなり連れてこられてきた』

梅津『誰から命令されたわけでもなく、その理由を知らないままにだ』

梅津『我々の母国と遠く離れてしまったこの場所で、我々は何をすべきなのか』

おそらく「みらい」全員が思っているであろうことを代弁するかのように。


梅津『おそらく、これからも数々の困難が待ち受けていると思われる』

梅津『だがどうか、我々が日本という国の自衛隊であることを絶対に忘れないでもらいたい』

梅津『各員一人一人がそれを自覚することで、たとえ如何なることがあろうとも』

梅津『我々はきっと、日本の海上自衛隊として胸を張って行動することができるだろう』

梅津『以上』


艦長室

放送を終え、マイクのスイッチをオフにする。

梅津「……さて、ここからが大変だな」

角松「ええ」

梅津「世界が違うのは、ただ時代が違うのとまたわけが違う」

梅津「分隊長からの報告で、一部の隊員は事態を飲み込めず不安定なものもいるらしい」

角松「当然なのかもしれません……」

角松「士官会議でも、皆とりあえずは賛成という感じでしたから」

それはウィッチーズと会談を行う前の士官会議の事だった。
本来なら幹部士官のみであるはずだが、今回は特別に非番の隊員の参加も許されたりもした。

だがその決まり方は、少しばかり消化不良な終わり方であった。

梅津「皆、やはり不安なのだろう」


「みらい」甲板

たまの休憩時間に、尾栗は甲板を歩いていた。

尾栗「海鳴りが声を消し去って~」

尾栗「……ん?」


菊池「………」

尾栗「よぉ雅行。お前が甲板にいるなんて珍しいじゃないか」

菊池「康平……」

手すりに肘をかけている菊池。
尾栗はその隣に立った。

尾栗「よっと……」


尾栗「で、どうしたんだ?」

菊池「どうした、とは?」

尾栗「なんか悩んでんじゃないのか?」

菊池「………」

尾栗「何年同期やってきたと思ってる。それくらいわかるんだ」

菊池「……ま、いろいろな」


菊池「ところで、隊員たちは今回のことどう思っている?」

菊池「皆お前になら本音を話すだろう?」

それは、下士官からの人望も厚い尾栗であるからこそ聞けるものでもあった。

尾栗「……ま、あっちこっちで雁首揃えてるってところだな」


「みらい」 CIC

変化のないモニターを眺め続け、ため息をつく青梅。

青梅「入渠中はやること少なくて暇だな」

CIC員A「ですね」


CIC員A「……青梅一曹」

青梅「ん?」

CIC員A「俺達、これでこの時代に介入することになるんですよね?」

青梅「……ま、そういうことだろうよ」

CIC員A「なんか変な感じですよね」


CIC員A「俺達、自分たちの国を守るための軍隊なのに」

CIC員A「巻き込まれたからと言って、知りもしない世界を守る手助けだなんて」

青梅「人助けは悪いもんじゃないだろう?」

青梅「それに、以前だってイラクとかに行もしたじゃねえか」

CIC員A「それはそうですけど……」

CIC員A「本当に守りたかった自分たちの国を守れずに死んでしまったら、それこそやりきれないというか」

青梅「……だいたい、今さらなんだってんだ」

CIC員A「え?」

青梅「俺たちは自衛隊だ」



青梅「日本のためのものなのか、でっけえ同盟国の手ゴマなのか……」

青梅「そんなこともよくわからんまま上の言うままに動いてきたんだ」

青梅「今さら考え事をしろったってな」

CIC員A「………」

青梅「これからどうするだとか、何のために戦うだとか」

青梅「そこらへんは砲雷長や上に任せるさ」

青梅「俺たちは言われたことをやればいい」

CIC員A「そう、割り切れるもんなんですかね……?」

その問いに答えないまま、青梅はモニターへと向き直った。


「みらい」食堂

柳「補給の目途が立ったとはいえ、実際に補給するまではこの味気ない食事ですね」

麻生「そうだな」

柳「イギリスと言えばあまり味がよくないということで有名ですが……」

麻生「それは料理の話だろう」

麻生「「みらい」の炊飯員にかかればアッと言う間にうまいメシの出来上がりだ」

柳「ですね」


麻生「……これから、どうなると思う?」

柳「1944年の欧州と言えば、枢軸国の敗退の兆しが強い頃ですが」

柳「根本的に違うこの時代では何とも……」

麻生「そうじゃない。俺たちがだ」


柳「ネウロイ、敵と戦うんですよね」

柳「この間も「みらい」の能力で倒せるということはわかりましたが……」

麻生「現代兵器の弾薬の問題もある、と」

柳「ええ」

柳「食料、燃料、寄港する場所は確保できましたが」

麻生「……港、か」

柳「え?」


麻生「仮にネウロイを全部倒したとして、俺たちに帰る場所はあるのかね?」


翌朝

「みらい」の脇にある桟橋には、大量の補給品が積み上げていた。
そこでは「みらい」の補給科員と501の作業員が手分けして積み込みを行っていた。

補給員A「生鮮食料6トン!」

補給員B「各種缶詰届きました、約8トン」

補給員C「ミザ一月分、積み込み終了しました」

501水兵「米を積み込みます!」

尾栗「よし、後部ヘリ甲板を開けろ」

補給員B「アイサ―!」

クレーンの機械油と男たちの汗臭さが潮風と混じっていた。

尾栗「………」


基地 ベランダ

ゲルト「基準排水量9000tといったところでしょうか?」

坂本「それは少し大げさすぎる、せいぜい8000tぐらいだな」

ミーナ「でも、変わった船ね」

シャーリー「アンテナ多いなー。電子機器たっぷり積んでんのかなー?」

ルッキーニ(あそこに新しい寝場所つくろっかな~?)

シャーリー「……あそこで寝ちゃだめだぞ、ルッキーニ」

ルッキーニ「うじゅ!?」

ペリーヌ「朝から騒がしいと思ったら、この音でしたのね」


芳佳「おまたせしました!」

リーネ「みなさん、朝ごはんできました~」


※基準排水量:燃料や積載物などを抜いた状態で、船を水上に浮かべた際に押しのけられる水の重量(=船の重量)
         海水の比重を使って計算される。
         逆に燃料、水、積載物を満載した状態でのことを満載排水量という。


食堂

坂本「突然だが、昼から「みらい」との合同演習を行おうと思う」

シャーリー「また急だな、少佐」

坂本「最近は予報も当てにできなくなっている、油断はできん」

ゲルト「常に戦えるように万全の連携を作り上げておくことこそが大切なのだ」

ゲルト「分かったか、リベリアン」

シャーリー「おーおー、これだからカールスラントの堅物軍人は」

坂本「……ゴホン」

坂本「よって本日14:00、ハンガーに集合だ。遅れることのないように」


「「「了解」」」

エイラ「つづくんダカンナー……」zzz

飛ばし過ぎなのか、ゆっくりすぎなのか
とりあえずもうちょっとペースあげたい……


異世界な分みらいの乗組員に迷いが少ないのが面白いな。当面の問題はやっぱ弾薬か

ウィッチの服装には誰も反応しないのかwwwwww

で、草鹿さんマダー

>>311
柳あたりは反応しそうなんだけどなwwww

かなり遅くなっているうちにかなり伸びていたようで……。
スレの題材上、荒れない程度の軍事談義は大いに結構です。
>>1の勉強にもなりますし

>>301-304
はたして武器はどうなるのか

>>308
ま た 忘 れ た
ずっと入れようと思ってるのに

>>313
柳の場合 赤城>>>ズボン です

あと>>309の草加さんですが、実はまだ入れようか迷ってる段階です
だってあの人原作はチートだけど改変望まなかったらただのイケメン将校だもん


翌日 ドーバー海峡


「みらい」 CIC

青梅「……レーダー探知!」

青梅「方位1-3-0、高度400mを600km/hで飛行中」

菊池「艦長、識別判断を」

梅津「うむ、ヴィルケ中佐に確認を打電せよ」


ミーナ『……該当空域に飛行中の航空機はありません』

ミーナ『よってネウロイと断定いたします』

梅津「教練、対空戦闘用意」


『対空戦闘よーい!』

しばらくして、レーダーに多数の荒天が現れる。

CIC員A「501基地より機影6」

CIC員B「迎撃に向かったウィッチーズと思われます」

梅津「………」

菊池「確認した機影をイージス上に味方機としてマークせよ」

CIC員A「了解!」

CIC員B「先頭よりa,b,c,とマークします」

梅津「ふむ……」


同じくドーバー海峡上空

部隊のインカムを通して「みらい」との無線を聞いていたシャーリー。

シャーリー「……ひぇーっ、もう気付かれたのか」

シャーリー「でも、うっかりネウロイ役引いちゃうなんて運悪いなー」

ハンガーにて行われたネウロイ役を決めるくじ引きで見事に外れを引いてしまったのだった。

シャーリー「どんな方法使ったのかは知らないけど、もう逃げてもいいよなぁ?」

シャーリー「おっかない堅物軍人だけには捕まらないようにしないと」ヒョイッ

ヴォオオオオ……

軽い身のこなしの動作を決め、素早く位置を離れた。


再び 「みらい」 CIC

ふと光点が移動し始める。
だが「みらい」は仮想標的―――シャーリーが移動するのを見逃さなかった。

青梅「仮想標的α、移動開始」

青梅「700km/hで北西へ移動中」

CIC員A「グリッド東07に侵入しました」

菊池「よし、迎撃にでたウィッチに報告せよ」

CIC員A「了解」

梅津「………」


ミーナ「目標が動きました」

ミーナ「針路を4時方向に!回り込みます」

エーリカ「へー、もうわかったんだ?」

坂本「サーニャがいないときはある程度近づいてミーナの魔法で探知していたが……」

芳佳「すごい……」

ゲルト「早く探知できる分、迅速な行動が可能になったか」

坂本「よし、ロッテを組み直して針路を修正する」

坂本「バルクホルンと宮藤、リーネとペリーヌでロッテを組め!」

坂本「全員突入!」


「「「了解!」」」



シャーリー「ふ~んふふ~ん……」

シャーリー!

シャーリー「ん?」


ルッキーニ「シャーリー見つけた!」

ゲルト「見つけたぞ、リベリアン!」

シャーリー「げ! うっそぉ!?」

シャーリー(結構予想進路の裏をかいたと思ったんだけどなぁ……)

シャーリー「こうなったら一旦逃げるぞ!」

グオオオオオオン……

ゲルト「先行するぞ、新人。ついて来い!」

芳佳「えっ? わっ……はい!」


坂本(………)

ミーナ「……トゥルーデ」






「みらい」 艦橋

艦橋員A「報告します!」

艦橋員A「15:30、501との合同訓練終了しました」

梅津「うむ、ごくろう」

菊池「時間通りですね」

角松「指揮官はかなり優秀のようです」

尾栗「一部の嬢ちゃんたちはまだ飛行練習を続けてるみたいだ」

尾栗がウィングの双眼鏡を覗きながら返す。

尾栗「上手に飛んでるこって」


艦橋員B「しかし、なんたってあんな恰好をしてるんでしょうね?」

艦橋員C「丸見えってのがまた……」

角松「それが彼らの文化だろう」

艦橋員A「は?」

角松「小さいころ、親父に東南アジアへ連れて行ってもらったことがあるが」

角松「日本と全く違うところもあった」

角松「どうやら女性は下着姿でいることが、この世界特有の文化らしい」

角松「意識してしまうのもわかるが、ほどほどにしておけ」

艦橋員B「は……」

尾栗(んな事言われたってよぉ、簡単に割り切れるもんかよ……)

尾栗(99%が男のこの艦内じゃ無茶だっての)






ハンガー前

日も落ちかけた頃、訓練を終えた二人は倒れこんでいた。

芳佳「ふぅ、ふぅ……」

リーネ「疲れたね、芳佳ちゃん……」

ゲルト「この程度でくたばるとはだらしがない」

芳佳「バルクホルンさん早すぎです~……」

ゲルト「全く……」

ゲルト「明日も合同訓練がある。せめて足を引っ張らないようにな」

リーネ芳佳「「はぁ~い……」」

二人を片目に基地へと戻った。


501基地

坂本「今日の訓練、どうだ?」

ミーナ「そうね。今までより断然効率のいい作戦行動がとれるわ」

ミーナ「敵の早期発見は時間の余裕を作ってくれるし」

ミーナ「……だけど問題は、「みらい」との通信手段よね」

坂本「今現在通信可能な方法と言えば、渡されたこの無線機だけ」

未来からもたらされた電話サイズの無線機。
だがそれでも、いくつかの欠点があった。

坂本「小型であるため、一定距離に中継するオートジャイロもしくは「みらい」本体の支援が必須」

坂本「さらに個数が一個だけのために基本的にまとまった行動を余儀なくされる……か」


ミーナ「後者に関しては、無線機所持者が私たちの共用無線で伝達すればいい話だけど」

ミーナ「それでもやはりタイムロスがね……」

坂本「それに、全員で情報を共有できてこそ、最適な行動がとれるということだ」

坂本「あの艦の情報処理能力を生かせば、さらなる戦略の向上につなげられる」

ミーナ「………」

ミーナ「後日予定している第二回合同訓練のあと、報告会があるわ」

ミーナ「その時にもう一度「みらい」の方々と掛け合ってみましょう」

坂本「ああ、よりよくあの艦と共同戦線が張れるようにな」


ミーナ「それと美緒、もうひとつ気になっていることがあるんだけど……」


その時、ミーナの部屋のドアが開いた。

ガチャ

ゲルト「ミーナ、訓練終了の報告だ」

ミーナ「あっ……お疲れ様、トゥルーデ」

坂本「バルクホルン、お前にとって今回の訓練はどうだった?」

ゲルト「やはり二人とも新人でどうも動きが……」

ミーナ「宮藤さんとリーネさんではなくて、「みらい」との訓練よ」

ゲルト「ああ……」

ゲルト「たしかにあの艦の索敵能力は感心せざるを得ない」

ゲルト「かなり広範囲をカバーでき、正確な情報を処理できるようだ」

ゲルト「さらに弾数は限られているものの、ネウロイに通じる強力な兵器を持っていることもまた一つ」


ミーナ「……流石、よく見ているわね」

ゲルト「というと?」

坂本「いやなに、実は私たちもそう考えていたところだ」

坂本「なにか他に気になったところはあるか?」

ゲルト「……いや、特には」

ミーナ「そう……」

ミーナ「報告ご苦労様、今日はもう休んでいいわ」

ゲルト「……では、失礼する」

バタン


坂本「……大事なところを見落とすとは、らしくないな」

ミーナ「………」


「みらい」 CIC

菊池「どうだ?」

青梅「………」

先の訓練直後より、なにやら計器とにらめっこばっかりしている二人。

青梅「やはり無理ですね」

菊池「そうか」

青梅「反射波だけでウィッチそれぞれの個体を判別するというのは結構困難です」

青梅「時に判別できる時もありますが、高速機動時にはとても……」

菊池「そうか……」


ガチャ

角松「……やはり難しいか?」

青梅「あ、副長」

菊池「先ほどからやってみてはいるが、想像通りだ」

青梅「あれほど小型ですとさらに困難になりますから……」

CIC員A「出撃時に編成を報告してもらうというのは?」

青梅「バカ、手間がかかり過ぎだ」

CIC員B「IFFでもついてればいいんですがね」

青梅「あったら苦労しねぇんだが……」


翌日 ドーバー海峡

第二回目の合同演習。
今回仮想敵役を引いてしまったのはバルクホルンだった。

ゲルト「………」

ゲルト「私がネウロイ役をすることになるとはな」

ゲルト「まぁくじで決まった以上仕方ない」

ゲルト「部隊の練度向上につながるなら、それでいいさ」

ふと視線をあげる。
天候が良いためか、目の前にはかすかに欧州大陸が見えていた。


ゲルト(カールスラント、いつか必ず……)


「みらい」 CIC

青梅「レーダー探知、方位1-3-2、距離50km!」

梅津「教練、対空戦闘用意」

青梅「反応を仮想標的αとマーク」


青梅「501より、ウィッチーズの出撃を確認」

菊池「判別可能か?」

青梅「待ってください……」

隊列を組む光点を見ながら青梅の返事が返る。

青梅「やはりダメですね。どれも似たようなもんです」

菊池「そうか……」

菊池(個体の識別が難しいとなると、情報処理を行う方としては少し厳しいな)



ピコ…

青梅「……ん?」

突如として現れた不自然に大きな光点。

青梅「レーダー探知、アンノン1! 400km/hで接近!」

菊池「なに!?」

青梅「方位1-3-5より接近中! 距離約70km!」

青梅「このままでは仮想標的と交差します!」

梅津「訓練予定にある項目ではない……な」

青梅「反射波より、大きさは50mを超える大きさと推定されます!」

角松「見るからに人ではない……な」

レーダーに映った反射波は、比べるまでもなくウィッチの反射よりも大きい。


梅津「副長、訓練中止だ」

素早く艦内インカムを取る角松。

角松「……CICより総員に達す。状況中止!」

角松「対空戦闘用意!総員配置につけ!」


梅津「しかしまずいな……」

菊池「あの近くの海域には、仮想標的役のウィッチが単機……」

角松「連絡は!?」

菊池「ヴィルケ中佐に先ほど敵発見の連絡はしたが……」

菊池「出撃したウィッチが該当地域に到着するまで約10分ほどはかかる」


※状況中止:訓練を中止すること。他にも『状況開始』『状況終了』がある。
      これらは訓練開始終了を指す意であり、実戦では用いない。


角松「……本艦のシースパロー射程圏内に入るまでの時間は?」

青梅「本艦が針路を変更し全速で向かえば20分で入ります」

角松「艦長、針路を」

梅津「うむ。全速にて向かえ」

角松「了解!」

角松「面舵一杯! 機関最大戦速!」


キイイイイイイ……

「みらい」が大きく揺れ、独特の機関音とともにネウロイ出現地点へと向かって行った。

ペリーヌ「続きますわ」

ペースを上げたいのは山々なんですが、やはり私情が忙しいとそうもいかず……。
これまでのように数週間音沙汰なしもあるかもしれませんが、たぶん生きてます。

一ヶ月経とうとしてますが、>>1は元気です。
実は先週より完成していたのですが、なぜか投稿できず……。

では、始めます。


ドーバー海峡上空


ミーナ「まずいわね……」

ペリーヌ「こんな時に来るなんて……」

エーリカ「はやくトゥルーデに教えないと!」

ミーナ「そうね」

ミーナ「バルクホルン大尉、聞こえますか?」

ゲルト『ああ、状況は把握している』

ミーナ「ネウロイはあなたの航路上にいるわ。至急こちらに戻って」

ミーナ「訓練装備から実戦装備に切り替えて再度出撃します」


ゲルト『いや、その必要はない』

ゲルト『私がここで足止めをするから、他は装備を整えてきてくれ』

ミーナ「でもいくらあなたでも一人では……」

ゲルト『このまま全員下がっていてはネウロイの侵攻を放置するのと同義』

ゲルト『ブリタニア本土を危険にさらしてしまう』

坂本「確かに一理あるが……」

ミーナ「………」

ミーナ「わかりました。大尉は敵の侵攻を阻止してください」

ミーナ「ですが身の危険を感じたらすぐに離脱、援軍の到着を待つこと」

ゲルト『……了解』ピッ


芳佳「バルクホルンさん、一人で大丈夫なんですか?」

エーリカ「大丈夫だよ、トゥルーデだもん」

ミーナ「もちろんあの子ひとりにしておくわけにはいかないわ」

坂本「万が一に備えて、私とミーナは訓練中にも予備の実弾銃を持っている」

訓練用に塗装されていたマガジンを、いつもの黒いマガジンに入れ替える。

ミーナ「今回は単独行動ということでトゥルーデも持ってるわ」

坂本「そこで武器回収組と、今ある戦力で向かう即応部隊に分ける」

坂本「向かうのは私と宮藤、お前だ」

芳佳「えっ!?私ですか?」

坂本「そうだ。お前のシールドは見るところがある」

坂本「増援到着まで援護してくれ」

芳佳「わかりました!」


坂本「他は各自全速で武器を取りにいくこと!」

ペリーヌ「了解ですわ!」

坂本「ミーナ、宮藤に貸してやってくれ」

ミーナ「気を付けてね、宮藤さん」

ミーナのMG42が芳佳に渡される。

芳佳「わっ……重い……」


ミーナ「……美緒、トゥルーデを頼むわ」

ミーナ「最近のあの子、どうも焦ってるみたいだから……」

坂本「ああ、わかっている」


坂本「では、各員散開だ!」


「みらい」 CIC

青梅「無線からの報告を合わせるに」

青梅「反転したのはヴィルケ中佐以下のウィッチ」

青梅「向かっているのが坂本少佐と宮藤軍曹の模様」

青梅「ただネウロイ針路上のウィッチ……」

青梅「バルクホルン大尉は離脱しない模様です」

青梅「両者接触まであと5分!」

停止している光点と、それに向かっている光点を見比べる青梅。


CIC員A「どうします? 接触する前にスタンダードを撃ちこむ手も……」

角松「いいや、それはあまり意味がないだろう」


角松「レーダーの反射波から見て、目標は50m以上という大きさ」

角松「緒戦の様に、あの型の目標に対して、スタンダード一発で与えられるメージはたかが知れている」

角松「弾数の少ないスタンダードの使用は控えるべきだ」

菊池(過去の二戦でここまで……)

梅津「では、どうする?」

菊池「……主砲並びにシースパローのサルボー射撃による連続的な攻撃を進言します」

梅津「副長、どうか」

角松「私も同じ意見です」

梅津「よろしい」

梅津「現場海域までは?」

尾栗『あと1分でシースパロー射程圏内に入ります!』


青梅「目標、針路高度変わらず」

角松「よし、砲雷長」

菊池「……後部VLS 3から5セル、諸元入力!」

CIC員A「諸元入力完了!」

CIC員B「イルミネーターリンク!」

菊池「シースパロー発射はじめ!」

CIC員B「後部VLS解放!」

CIC員A「シースパロー発射はじめ!」

CIC員A「サルボー!」

バババアアァッ――――!

後部VLSより、計三発のシースパローが放たれた。


ドーバー海峡 ネウロイ合流予測地点

ゲルト(予測によれば、敵はここら辺のようだが)

ゲルト(どこだ……)

雲が多い空の中、一筋の航跡を引く何かを発見したバルクホルン。

ゲルト「あれは……!」

やがて光は3つに増え、そして小規模な爆発を起こした。

ドドドドド……


ゲルト「誘導弾……「みらい」のロケット兵装か!」

ゲルト「ならばネウロイもあそこに……」

グオオオオオオ……


やがて、バルクホルンの視界に黒いネウロイの姿が浮かび上がってくる。
ロケット状の形をし、胴体から周りに三本の足が出ており、それがくるくる回転していた。

先ほどのシースパローの効果があったのか、どうやら一部を修復中らしい。
緩やかながらも元に戻っている。

ゲルト「目標約50m級……」

ゲルト「近寄らずとも当たる距離だが、これほど離れていては威力が減退してしまう」

ゲルト「やはりここは一撃離脱を取るべきだな」

ゴオオオオン……

ぽつりつぶやくと、バルクホルンは向きを変え一気に上昇をする。
そしてかなりの高度まで上昇したのち、急降下をかけた。

ゲルト「いっけええええええ!」

MG42独特の凄まじい連射音が鳴り響く。

ダラララララララララ!


ガガガガガガッ!

ネウロイ「ギャアアアア!?」

突然の奇襲に驚いたのか、全方位にビームを放つネウロイ。

ゲルト「なんだ、気づいていないのか」ヴォン!

シールドでビームを受け止めるバルクホルン。
だがそれだけではなく、ビームを受けたときの反動を利用して後退、下降。

ゲルト「そこだ!」

ダララララララ!

続いて下方からの攻撃。

断続的な攻撃を続けながらバルクホルンはネウロイの侵攻を止めようとしていた。


だが、いくら攻撃をしてもネウロイは怯むそぶりも見せない。

バルクホルン(マズイ……)

バルクホルン(これほど当ててもダメージが通らないとは)

バルクホルン(このままではいずれ……)

ネウロイ「キャアアアッ!」

バアアッ!

バルクホルン「はっ!」ヴォン!

ガン!ガン!

反動を活かし再び上昇、急降下。

バルクホルン「くらえっ!」


ダラララララララ!

ゲルト「いっけえええええ!」

ガガガッガガッガガ!



ガチッ!

ゲルト「……!?」

ふと、続いていたMG42の連射音が止んだ。

ゲルト(弾が!)

残弾の確認を怠る。
ウィッチ――軍人として致命的すぎるミスだった。


ネウロイ「キャアアアアアアッ!」

バババババッ!

ゲルト「しまっ……!」ヴォ

急降下からの急接近の最中。急ブレーキは効かない。
シールドを張るも、すでに間に合わなかった。

バキャッ!

持っていたMG42が溶ける。
それらのうち、シールドで塞がれて溶けずじまいの部品は激しく飛び散る。

そして大きな破片の一つがバルクホルンに直撃した。

ガンッ!

ゲルト「っああああああ!」


「みらい」 CIC

青梅「……!」

青梅「バルクホルン大尉機、失速!」

青梅「高度下がります!現在高度1000!」

菊池「なにっ!」

角松「被弾か!?」

青梅「相手の攻撃手段がレーダーに反射しない以上は状況が……」


隊員A「……ヘリを偵察に出せば確認できます!」

菊池「馬鹿者、この状況下で艦載機を出せるはずが無かろう」

菊池「シーホークより機動性の高い「海鳥」ならまだしも、それでも空対空戦闘を念頭に置かれてるわけではない」

菊池「非常に危険だ」

隊員B「ですが負傷者ありの場合は……」

うかつに手が出せない状況の中、無線が響いた。

尾栗『CIC艦橋!』

尾栗『方位1-3-0、ネウロイ視認!』


「みらい」 艦橋


ウィングで監視していた艦橋員が見つけた。
付設の双眼鏡で見ても点にしか見えないが、明らかにネウロイだった。

尾栗「やっと見えるところに出てきやがったぜ……」

尾栗「いいか!いつヤローが光線を撃ってくるかわからんから、全員目を見開いて監視しろ!」

艦橋員「「「アイサー!」」」


多数の監視員が返事する中、柳一曹だけは双眼鏡を覗いたままだった。

尾栗「柳、どうした?」

柳「……ウィッチです!二人のウィッチが落ちていく一人を追っています!」

柳「左舷30度、現在高度約500ッ!」

尾栗「……あれかっ!」バッ


ドーバー海峡 上空

グオオオオオオオオ!

坂本「―――バルクホルン!」

芳佳「バルクホルンさん!」

ちょうど応援に駆け付けた二人が、落ちていくバルクホルンを追う。
急降下に伴い、独特の風切音が響いた。

芳佳「……えいっ!」

下から芳佳が支えるように、上から美緒が引っ張るように受け止めた。

芳佳「わっ……ひどい怪我をしています!」

坂本「馬鹿者、一人で突っ込み過ぎだ」


ネウロイ「キュアアアアア!」

ババババババ!


芳佳「わっ!」ヴォン

とっさの攻撃に反応した芳佳がシールドで応戦する。

坂本「ぐっ……!」

美緒の方はバルクホルンを背負うので手いっぱいであり、応戦ができずにいた。


坂本(マズイな、私はバルクホルンを支えるので手一杯)

坂本(下は海、最寄りの陸地も遠く見えない)

坂本(何よりも宮藤を一人で戦わせるのはキツイ。慣れないMG42に手間取っているようだ)

坂本(かといって宮藤にバルクホルンを渡し、担当を交代する隙もない)

坂本(ヤツは完全に我々を捕えた。背中を見せた瞬間容赦なく撃ってくる)

坂本(このままでは防戦すら……離脱を視野に入れても難しいぞ)


「みらい」 CIC

尾栗『CIC艦橋!目視にてウィッチの負傷者を確認!』

尾栗『現在他のウィッチが負傷者を抱え、もう一人が防戦中』

尾栗『詳細は不明なれど、容態は意識不明の模様!』

ざわっ……!

青梅「やはりあれは……」

角松「被弾していたのか」


梅津「……他のウィッチの応援は?」

CIC員A「先ほど501基地を発ちました!このままの速度で約8分!」

菊池「ダメだ、遅すぎる!」

菊池「負傷者を抱えたまま長く戦えるはずはない」


菊池「無線に割り込んで、撤退を促すことができれば……」

青梅「ヘリなどの中継がなく、現在はヴィルケ中佐を介しての連絡もできません」

梅津「対空ミサイルはどうか?」

菊池「十分射程圏内ですが、彼女たちを巻き込む危険が十分にある以上……」


青梅「……発光信号はどうです?」

何気なくはなった青梅一曹の言葉に角松が反応した。

角松「……航海長、発光信号が伝わるギリギリの距離は?」

尾栗『よく見れば互いが見える距離です』

尾栗『今でも十分いけます!』


ドーバー海峡 上空


ダララララララララ!

芳佳「はぁっ……はぁっ……」

芳佳(だめだ、やっぱり私一人じゃ火力が足りない……)

ネウロイ「キャアアアアア!」

ババババババッ!

芳佳「くうっ……」ヴォン!

芳佳(坂本さんはバルクホルンさんを抱えるから撃てない)

芳佳(それにさっきの傷、結構深くて危ない傷……)

芳佳(どうしたら……!)



チカッ!

芳佳「!」

懸命にシールドを張る片隅に、かすかに光るものを見つけた


チカッ!チカッ!チカッ!

芳佳(あれって確か……)

芳佳「坂本さん!あそこ見てください!」

坂本「なに?」

チカッ!チカッ!チカッ!

坂本「艦か……!?」カッ

眼帯をめくり、魔眼を発動させて遠くを見る美緒。

チカッ!チカッ!チカッ!



坂本「……「みらい」だ!」


芳佳「なんて言ってるんですか?」

坂本「負傷者を回収するといっているが……」

坂本「なるほど、そういうことか」

坂本「宮藤、シールドを張りながら後退するぞ!」

芳佳「でも、ネウロイが……」

坂本「そいつは「みらい」に任せろ!」

芳佳「わ……わかりました」

ネウロイを警戒しながら、ビームを塞ぎながら、二人は少しずつ離れて行った。

ルッキーニ「続くよー!」

バルクホルン編の残り……もとい前編はもう少しで終わるので、今までよりスパンは短いと思います。
もうすこしで「みらい」とウィッチーズの本気が……。

しかし思ったより空戦シーンとか難しい……。
ところで戦闘で『ここでああしたらすぐ済むんじゃね?』とかあると思いますが、気にしないでやってください。

酉ちゃんとつけられてるかな?
投下します。


「みらい」 CIC

青梅「ウィッチーズ3、ネウロイより離れます!」

梅津「左対空戦闘、CIC指示の目標」

菊池「主砲発射管制変更、光学照準機にリンク」

CIC員A「発射管制、手動に変更!」

菊池「目標の先端部を狙え。集中的な着弾の衝撃で針路をずらす!」

CIC員B「主砲、FCS-2リンクオールグリーン!」


梅津「主砲、うちーかたはじめ」

CIC員A「うちーかたはじめ!」カチッ!



※射撃管制装置の光学照準機:通常の射撃であれば、自動で射撃管制装置(FCS-2など)によって計算・調整→発砲という手順であるが
                    意図的に外す、警告射撃などを行う場合は外付けの光学機器による手動照準の射撃も行える。


ドンッ!ドンッ!

短い間隔で発射される127mmの主砲。

ゴアッ!ドゴッ!

ネウロイ「ギャアアアアアアッ!」

この時代にしては小さい部類の砲弾とはいえ、機銃弾ははるかに強力な127mm。


尾栗「いいぞ、撃ち続けろ!」

尾栗「回避運動開始、少しずつ遠ざかれ!」

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

ネウロイ「ギャアアア!」

ゴンッ!ドォン!


芳佳「すごい、圧倒してる……」

坂本「いや、これはあくまでも牽制射撃だ」


やがて「みらい」の上空に達するウィッチ。
そのころにはすでにネウロイとの距離も開いており、減速状態に入っていた。

また、後部甲板にはすでに飛行科の隊員や衛生科の隊員が待機していた。

飛行科員A「CIC発着艦指揮所、負傷者を抱えたウィッチが到着しました」

飛行科員A「着陸許可願います」

梅津『この状態での着陸は可能か?』

飛行科員A「はい、強行する模様です」

梅津『よし、許可する』

飛行科員B「航空機着艦用意!」

飛行科員C「とはいってもヘリじゃなくて人間だけどな……」


※発着艦指揮所:飛行甲板の右舷前方に設けられている、ヘリの離着陸などの指揮をする場所。
           いわば護衛艦の小さな航空管制室。


坂本「宮藤、おまえは艦への着地に慣れてないだろうからよく聞くんだ」

坂本「基地と似たような線があるだろう、あそこに降りろ」

芳佳「あ、あんな狭いんですか!?」

坂本「臆することはない。ギリギリのところでホバリングをした後、ゆっくり足を下すだけだ」

坂本「ただ艦は前に進んでいるから艦に合わせて微速前進、そして足につける前に後ろの余裕を確認だ。いいな?」

坂本「私はこのままネウロイを食い止める」

坂本「バルクホルンを、頼むぞ」

芳佳「……はい!」


その頃、「みらい」唯一の女性隊員にして衛生士である桃井一尉は、後部甲板の上で負傷者収容の待機をしていた。

桃井(あんな子が、あのネウロイと戦ってるなんて……)

ウィッチをこの目で見るのは初めてであり、驚きを隠せない。


航空科員A「甲板作業員、配置よし」

航空科員B「誘導開始!」

格納庫上部の電光板が光り、隊員が手旗信号を送る。

とは言いつつも、どれくらいが有効で通用するのか未だに確認が取れていない。
よって拡声器による音声誘導を行っていた。

航空科員A「そのまま水平に、艦左舷側へ!」


芳佳(前に進みながら、バランスを崩さないように……)

グオオオオオオォォ……

スタッ

徐々に高度を下げ、甲板に降り立つ。

芳佳「ふぅ……」

芳佳「……わっ!」

気を抜いたせいか、肩に背負っていたバルクホルンの体重が一気にかかってしまった。
よろける芳佳を支える桃井一尉。

桃井「早く担架で、医務室に運んで!」

芳佳「あ、私も行きます!」


「みらい」 医務室

バタンッ!

桃井「血圧は?」

衛生士A「徐々に低下中、出血も続いています!」

桃井「胸部より出血多量……すぐに処置を!」

桃井「これほどひどい怪我だと、すぐに設備の整ったところに移送した方がいいけど……」

桃井(果たして間に合うか……)

棚を漁り、必要な薬品等を出す桃井一尉。

芳佳「……私も手伝います!」

桃井「経験はあるの?」


芳佳「ちょっとした治療の経験もありますし……」

芳佳「治癒魔法も使えます!」

桃井「治癒……?」

その言葉に一瞬戸惑う隊員たち。
それを気にせず、ベッドに寝かされているバルクホルンに触れる芳佳。

ヒュイーン……

衛生士A「わっ!」

衛生士B「魔法…陣……?」

部屋にあふれる青い光と魔法陣に驚く一同。

桃井(まるで昔見た漫画のような光景……)

桃井(傷口が塞がっていく)


傷が少し収まり、バルクホルンの意識が戻る。

ゲルト「宮藤……」


芳佳「バルクホルンさん、もうすこしです……」

ゲルト「私に構うな、その魔力をネウロイに使うんだ……」

芳佳「いやです、絶対にバルクホルンさんを見捨てたりしません!」

ゲルト「馬鹿を言うな……この怪我の治癒にどれだけかかると……」

芳佳「絶対に…救ってみせます……!」ハァハァ

大量の魔力を消耗しているせいか、芳佳の呼吸が荒くなる。

芳佳「たとえ、みんなが無理だとしても……」

芳佳「目の前にいるバルクホルンさんだけでも、ぜったいに……」


ドサッ

衛生士A「あっ!」

桃井「……大丈夫、気を失ってるだけ見たい」

桃井「すこし寝かせてあげて」

ゲルト「魔力を使い過ぎたんだ。無茶なことを……」


ゲルト「そういえば基地でも話したことが……」

ゲルト「やっぱり無理なんだよ、全員を救うなんて……」

バルクホルンが悔しそうにシーツを握るのを見る桃井一尉。

桃井「……たしかに全員は救えないかもしれないけどね」

桃井「そこであきらめてちゃそもそも話にならないでしょ?」

桃井「この子だってそう、目の前に見える人の事だけは絶対に救ってやるってのよ」

桃井「あなたも、若いけど立派な軍人。もっとシャキッとしなきゃ!」

ゲルト「………」

突然かけられた言葉に目を丸くするバルクホルン。


ゲルト「……未来の女性は、強いんだな」

桃井「少なくとも、この艦の男よりはね」


「みらい」 艦橋

柳「………」

柳(まるであれは、ナチスドイツの秘密兵器、トリープフリューゲル)

柳(そういえば、あのエイの敵も見てみればナチスのステルスモドキに似ているような……)

柳(確かホルテン……いや、でも形が……)


同じく艦橋にてネウロイの方向を見張る麻生先任曹長。

麻生「……!」

麻生「艦橋一番、敵ネウロイ回頭を確認!」

尾栗「ちっ、気の早い奴だ」

カッ!

尾栗「……っ!」


※トリープフリューゲル:ナチスドイツが設計したジェット戦闘機。
              後のVTOL研究のベースになったらしい。
              http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%83%E3%82%B1%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%95_%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%AB
 
※ホルテンHo229:ナチスドイツが設計した全翼型戦闘爆撃機。

            ステルス機のような外見をもったジェット機でもあった。
            http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%B3_Ho229


「みらい」 医務室

ドオオンッ! グラグラグラッ!

突然の衝撃によろめく医務室員一同。

衛生士A「あぶなっ……!」

衛生士B「攻撃!?」


『艦橋CIC、ネウロイより攻撃を確認!』

『左舷100mに着弾!』


衛生士A「また始まったか……」

桃井「そこ、モタモタすんじゃないよ!」

桃井「傷は塞がったから、次は……」


「みらい」 CIC

ドオオオ……

艦の中心であるCICにも、ネウロイビームの着弾の振動が伝わる。

青梅「敵弾左舷15度、距離100mに着弾!」

青梅「……目標変針します! 3-1-0へ!」

菊池「まずい……」

菊池「敵の先端部分はすでに主砲の死角へと入った」

角松「砲撃による針路変更は無理か……」


梅津「……しかし奇妙だな」

青梅「何がです?」

菊池「敵の着弾率、ですね?」


角松「あれほど安定した弾道と威力を持つビーム」

角松「であるのにもかかわらず、この四発全て左舷側の海に着弾している」

菊池「敵にも射程距離がある……ということ」

青梅「直線弾道ならそのまま飛ばせばいいでしょうに……」

青梅「イマイチわからないですね、ネウロイという奴は」


菊池「ともかく、この推測が正しいのなら敵の射程距離は」

菊池「約10km」

角松「主砲の射程時の距離も約10km。先の砲撃時に攻撃されなかったのが幸運だな」


青梅「……とォ」

青梅「増援ウィッチーズ、間もなく到達します!」


海域上空


グオオオオオオ……

エーリカ「みえた!」

ミーナ「……あれね」

シャーリー「「みらい」に攻撃を仕掛けてるみたいだ」

ペリーヌ「幸い距離が遠いようですけれど……」

ミーナ「でもこのまま進めば攻撃圏内に入るわ」


ミーナ「シャーリーさんとルッキーニさんで先行、ネウロイをかく乱させて」

シャーリー「了解、待ってましたぁっ!」

ルッキーニ「いっくよーっ!」

足の速い二人が編隊から別れ、先に行く。

ウォオオオオオン……


「みらい」 艦橋

ドオッ!

麻生「敵弾、左舷20度90mに着弾!」

尾栗「くそ、どんどん近づいていやがる」


柳「お……」

柳「航海長、ウィッチーズの増援を確認!」

柳「先頭2つ編隊から離脱、接近します!」

尾栗「ようやく来たか」

尾栗「頼むぜ、魔法使いさんよ」


シャーリー「よーしルッキーニ、このまま突っ込むぞ!」

ルッキーニ「らじゃー!」

ルッキーニ「いっけー!!」

ダダダダダダダ!

ネウロイの周りをぐるぐる回る二人。
ルッキーニのブレダ、シャーリーのBAR機関銃が火を噴く。

ミーナ『二人はそのまま高速機動による攻撃を』

ミーナ『私たちは坂本少佐と合流してコアを探します』

シャーリー「了解っと!」

ドドドドドド!


坂本「ミーナ!」

ペリーヌ「少佐、ご無事で!」

ミーナ「美緒、あの子は?」

坂本「現在「みらい」の中で治療中だ」

坂本「宮藤もそこにいる」

リーネ「ほっ……」


坂本「ともかくここは、ウィッチによる戦闘に切り替えて「みらい」を離脱させるべきだろう」

後方でネウロイとの距離を取り始めた「みらい」を見て美緒が呟く。

ミーナ「そうね。コースがずれた分、距離は案外余裕があるし」

ミーナ「ここまで時間を稼げてよかったわ」


ガガガガガガ!

シャーリー「了解、「みらい」の離脱を支援だな」

シャーリー「ルッキーニ、ネウロイの右舷だけを攻撃だ」

シャーリー「「みらい」に当てるなよー」

ルッキーニ「合点承知ぃー!」

ネウロイの右側に攻撃が集中し、「みらい」側への攻撃がやむ。


坂本「リーネ、私がコアを見つけるから、そしたらすかさずに狙い撃て」

リーネ「はい!」チャッ!

そう言って美緒は眼帯をめくり、魔眼でネウロイのコアを探す。


坂本「……見つけた!」

坂本「リーネ、中心部の回転してるところだ!」

リーネ「はいっ!」

ドウッ! バキャアッ!

リーネの弾丸が見事に命中し、コアが現れる。
その時、ネウロイが先端部を上に向け上昇を始めた。

エーリカ「……ネウロイが!」

ペリーヌ「立った……?」

ミーナ「離脱する気かしら……」

やがて上昇は止まった後、胴周りが一周赤くなり、下向きにビームを発射した。

ババババババ!

ルッキーニ「うじゅっ!?」ヴォン!

シャーリー「っぶな!」ヴォン!

リーネ「きゃっ!」ヴォ!


ビームをとっさのシールドで受け止めるウィッチーズ。
めげずにシャーリーとルッキーニが攻撃を再開する。

シャーリー「お前の相手はこっちだー!」

シャーリー「なんで回ってるところにコアがあんだよー!」

ガガガガガガ!

だがネウロイは気にとめず全方位射撃を続けていた。

ネウロイ「キャアアアアア!」

ババババババババッ!


そのうちの一発が「みらい」の近くにも着弾、それもかなり近い位置に。

ドオッ!

尾栗「うおッ!」

柳「敵弾左舷30度、40mに着弾!」

尾栗「くそっ、頭働かせやがって」

尾栗「ウィッチの包囲網を破ってどうしても本土に行きたいのか、奴は!」


「みらい」 後部ヘリ甲板

航空科員A「至近弾が来るらしいぞ、気を付け……」

ドオッ! ザッバアアアッ!

航空科員A「うおっ!」

『左舷30度、40mに着弾!』

航空科員B「ぺっぺっ! 鼻に海水が入りやがった!」

ドオオッ!

その時、ひときわ大きな衝撃が甲板をゆすった。
うっかりバランスを崩した隊員が格納庫内へ飛ばされる。

航空科員C「おわっ!」

ガンッ!

航空科員A「っおい!」


「みらい」 医務室

プルルルル

桃井「はい医務室」

『後部甲板より、負傷者あり!』

『頭部打撲が一名、意識……不明!』

桃井「了解、至急向かいます」

桃井「後部甲板に意識不明の重症者、至急向かうわ」

衛生士A「了解!」

桃井「あなたも、安静にしておくのよ」

ゲルト「………」


ガチャ、バタン


ゲルト「行ったか……」

ゲルト(どうやらミーナ達が戦っているようだな)

ゲルト(窓が無くて戦況が確認できないのが残念だが)


ドオッ……ガタガタ……

芳佳「すぅ……すぅ……」


ゲルト(……どことなくクリスに似ているな)

ゲルト(あの時の私は、クリスを守れなかった)


ゲルト(……こんなところで何をしているんだ、私は)


ゲルト(こんなところにいていいのか、バルクホルン!)


ガタッ! バアン!

何を思ったか、ストライカーと芳佳に渡されていたMG42を抱えて外に出るバルクホルン。

ゲルト(海の匂いだ……)

ガラガラガラ……

前方より、担架を連れてくる桃井一尉とすれ違う。

ゲルト(さっき後部甲板に出向いたはずだから、こっちか!)

桃井「……あ、ちょっと!?」

そのまま横を通り過ぎるバルクホルン。
丁度解放されていた水密壁を通り過ぎ、後部甲板へと向かった。


「みらい」 後部甲板

ドタドタドタ

ゲルト「すまない、退いてくれ!」

航空科員A「うおっと!」

航空科員B「……あれ、さっき運ばれた子じゃないか!?」


ゲルト(滑走路は短い、垂直離陸で行くしかないか)

ドゥルッ!ドドドドドドド……

ストライカーのエンジンを始動、下にシールドを展開させ、魔力を集中させる。

ゲルト(今度こそ、守って見せる!)


ゲルト「いっけええええええ!」

込めていたパワーをに下向きにシールドに叩きつける。
凄まじい衝撃と共に、バルクホルンは飛び立った。

ドンッ!


「みらい」 CIC

ドオン!

突然起きた強い衝撃に驚く一同。

菊池「後部に衝撃!?」

CIC員A「被弾!?」

角松「各員、状況を報告せよ!」

『CIC発着指揮所、ウィッチが発艦しました!』

角松「なにっ!?」

青梅「……本艦後部に機影1を確認! 飛翔中!」


青梅「反射波は……ウィッチです!」


坂本「くそっ、コアが回転しているせいでタイミングがつかめない」

ダダダダダダ

ミーナ「……!」

ミーナ「後ろからウィッチ!?」

目を向けると、猛スピードで突っ込んでくるバルクホルンの姿が目に移った。



ゲルト「ハルトマンァァァアン! そいつを寄越せえええ!」

エーリカ「ほいきた!」ブンッ!

そう言って肩に背負っていたもう一つのMG42を投げ渡す。

エーリカ「結構重かったんだからねー!」


ダダダダダダダダ!

バルクホルン得意の2丁重機関銃が炸裂する。
弾薬量2倍のその攻撃は、回転でコアが隠れる隙を与えない。

ネウロイ「ギャアアアア!」

ガキガキガキキキキキ!

パキンッ! パアアアアアン!


やがてネウロイのコアが粉々に砕かれ、その巨体も空中に四散した。

ルッキーニ「やたーっ!」

シャーリー「おお、決めたなー」

エーリカ「いえーい! ナイストゥルーデ!」


ゲルト「はぁ、はぁ……」


ミーナ「トゥルーデ!」

ゲルト「ミーナ……」

パン!

平手を一撃食らわした後に抱き着くミーナ。

ミーナ「あれほど無茶はしないでって言ったのに……」

ゲルト「すまない……」


ミーナ「……お帰りなさい」

ゲルト「ああ」

ゲルト(みんなを救う……か)

ゲルト(それを思い出させてくれたことを、いつかお礼を言っておかなきゃな……)


「みらい」 CIC

青梅「目標光点、消失しました」

梅津「ふぅ……」

菊池「乗り切ったか……」

角松「………」

やけに静まる「みらい」のCIC。
各々、何を考えているのか……。


青梅「……お」

青梅「ウィッチーズ、編隊を再編、変針。帰投します」

梅津「よし、本艦も帰投針路をとれ」

角松「……了解」

角松「艦回頭180度! 針路3-1-0!」

そして「みらい」とウィッチーズは自分たちの守った場所へと帰って行った。


♪ストライクウィッチーズ予告BGM

芳佳「基地の港に「みらい」への補給する一隻の輸送船が来ました」

芳佳「男の人たちがみんな一生懸命働いています。ご苦労様です」

芳佳「……あ! あの白い海軍服、扶桑の士官服だ!」

芳佳「よく見えないけど、佐官かな……? 一体何なんだろう?」


芳佳「次回、『交流』」

思ったより長くなってしまった。
さらに前半で削った部分がやはり仇になってしまうという情けなさ。

一部現実にあるまじき部分がありますが、毎度のことながら見逃しを。

「……スレ内に機影なし」

「よし、メインタンク・ブロー!」

「アイアイサー! メインタンクブロー!」


というわけで、遅れに遅れた投下です


ゴオオオオ……


朝日が昇り始めた空、一人のウィッチが飛んでいた。

サーニャ「ふぁ……」

夜間哨戒の帰りであるサーニャ・V・リトヴャク中尉は少し小さなあくびをする。

その時ふと、頭の魔導針が反応する。

サーニャ「……ブリタニア国籍、Ju52」

サーニャ(ブリタニアからの定期便……)

若干寝ぼけはじめた頭で考え、さりげなく追い抜く。


サーニャ「……あ」

見えてきた司令部の軍港に鎮座している「みらい」
そのわきには、さっきとは別のJu52が今まさに着水していた。


ォオオオオ……


艦橋員A「右舷30度、航空機視認!」

柳「あれは……Ju52です!」

尾栗「さっきも飛んできなかったか?」

艦橋員A「隣に着水しましたね」

柳「若干ペイントが違うところから、別の基地から来たのでしょう」

尾栗「また別のが一機来たわけか」

柳「生で見れるなんて……」

柳「すっげー!」


グオオオオ……ザッパアア

凄まじい水しぶきをあげながら着水するJu52。

柳「機体、無事に着水!」


基地内ブリーフィングルーム


坂本「……サーニャ以外、揃ったようだな」

エーリカ「うーい」

エイラ「夜間哨戒上がりで寝てるナ」

坂本「ではエイラ、後でお前が伝えておいてくれ」

エイラ「ワカッタ」


ミーナ「では、これより説明を始めます」

シャーリー「これまた急だな」

ゲルト「事態は刻々と変わっていくものだ」

芳佳「やっぱり大変なんですね……」

ペリーヌ「楽して平和が守れるのなら、世話ありませんわ」


ミーナ「こほん」

ミーナ「それでは、本題に入ります」

ミーナ「明日12:00より第二回目の「みらい」補給が行われます」

ミーナ「司令部に要請した補給が裁可され、今回は正式な補給となります」

ミーナ「また、ブリタニア本土より燃料輸送用の大型船が一隻来航予定です」

ミーナ「港付近は大変混雑が予想されますので、気を付けてください」

シャーリー「駅のアナウンスだな」

リーネ「お邪魔にならないようにしないと……」


坂本「……それと、もう一つ重要な話がある」

ゲルト「ん?」


坂本「扶桑の将校が二人、その船に同乗する」

芳佳「扶桑の将校さんがブリタニアにいるんですか?」

坂本「ああ、今の対ネウロイ戦線の司令部はブリタニアだ」

坂本「扶桑だけじゃない。あらゆる国の軍人がブリタニアにいるんだ」

坂本「お前の乗ってきた遣欧艦隊もその一環だ」

坂本「元々島国同士だけあってブリタニアと扶桑は交流もあるしな」

リーネ「私もブリタニアでたくさん扶桑の人見たことあるよ」

芳佳「へぇ~」


ゲルト「となると、宮藤たちと一緒に来た艦隊の将校か?」

坂本「少し違うな」

ミーナ「……最近、連合軍で『大反攻作戦』が計画されているんだけど」

坂本「先も言ったように、それに伴った各国軍司令部の一部がブリタニアに移動中だ」


芳佳「大反攻作戦……リーネちゃん知ってる?」

リーネ「うーん、聞いたことはあるけどよくは知らないなぁ」

ゲルト「今までの戦いのように小さなものでなく、近いうちに大攻勢に出ようというものだ」

ゲルト「だが、まだよく決まってないんだろう?」

ミーナ「ええ、大まかにしか決まってないのよ」

坂本「各国海軍の艦砲の飽和射撃を露払いとし、各国ウィッチの連携による総力戦だ」

エイラ「ずいぶんと豪勢ダナ……」

坂本「そうでもしないと倒せない敵、というわけだ」


ペリーヌ「でも、まだ骨組みの状態ですのね」

ミーナ「そう、各国の事情があるのよね……」


ミーナ「では、本題に戻りますが……」

その前にルッキーニが大きく手をあげ、話をさえぎる。

ルッキーニ「ねぇ中佐、その人たちは何の用があるのー?」

シャーリー「こらルッキーニ、本題にもどれないだろ」

坂本「いや、ちょうど本題にも関係あることだ。今言っておいた方がいいだろう」

エイラ「話まとめろヨナー……」


気を取り直し、ミーナが続ける。

ミーナ「本日の補給作業と同時に、「みらい」を視察されます」

エーリカ「「みらい」を視察? なんのために?」

坂本「ちょっと上の方で一悶着あってな……」

シャーリー「……なぁ中佐、私たちが知らないうちにいろいろ進みすぎやしないか?」



―――――――――――――――――

数日前 ブリタニア 某所

報告などの業務のため、ミーナはブリタニアへと赴いていた。
そして例のごとくチャーチルとマロニーに面会する。


チャーチル「ところで、「ミライ」への補給を要請したようだな、ミーナ中佐」

ミーナ「はい」

ミーナ「軍艦には特殊な、軽油燃料の大幅な補給」

ミーナ「並びに「みらい」乗員への各補給物資の要請を行いました」

マロニー「その要請だが……」

やはり一筋縄で閣議の通過は無理だったか……。
代案、もしくは説得を―――と考えていたミーナであったが、意外にも出された言葉は肯定の意であった。

マロニー「無事、審議を通過した後承認されたよ」

マロニー「かなり疑問の声が上がる議題ではあったがね」

ミーナ「………」


マロニー「よってその疑問点をなくすべく」

マロニー「補給と同時に、こちらが派遣した軍人による「ミライ」の立ち入り検査を行う」

ミーナ「!」

立ち入り検査……その言葉にミーナは不安を覚える。
マロニーがこれを提案したとすれば、その目的は……と、嫌なシナリオが脳裏をよぎる。


ミーナ「……臨検を行う、とおっしゃるのですか?」

マロニー「臆することはない、単なる視察だよ」

ミーナ「………」

チャーチル「あの艦の活躍は先の通りよく聞いている」

マロニー「だが全ての国が、君たちの様に簡単に彼らを信用し仲良くわけではないのだよ」

ミーナ「「みらい」側の承諾を得ずとも?」

チャーチル「もちろんこちらは視察をさせてもらう側だ。彼らの意向を尊重する」

ミーナ「………」


―――――――――――――――――――


ゲルト「それで、「みらい」側は?」

ミーナ「ええ、了承したわ」

ミーナ「燃料を主とした補給と引き換えになっている以上、仕方ないでしょうね」

断る理由もない……ではなく、断れないということ。

シャーリー「結構えげつないなぁ……」

ペリーヌ「ですが、それくらいは当たり前のことではありませんこと?」

坂本(やはり、未だ不信はぬぐいきれず……か)

やや暗い雰囲気。
見切りをつけたミーナは、話を続ける。

ミーナ「次に、視察員として同乗する技術士官を紹介します」

入ってきたのは、どこかでよく見た顔。



ミーナ「ウルスラ・ハルトマン中尉、どうぞ」


「みらい」CIC

光点に包まれたここでは、先ほど戻ってきた菊池に報告が行われていた。

青梅「先のJu52二機は予定通りに着水しました」

菊池「一機がロンドン、もう一機が南米……ノイエ・カールスラントからか」

菊池「欧州は大半を制圧され、カールスラントの中枢がそこに移転したと聞いた」

青梅「となると、こっちの航空機にいるのは」

菊池「派遣されるという技術顧問だろうな」

青梅「……あんまり乗り気じゃないみたいですね」

菊池「ああ、こういうのは苦手だ」

機器の丈夫な部分に体重をかけ楽にし、考えに浸る菊池。

菊池(出た案が案だけに……な)


――――――――――――――――――――――――――


数日前 「みらい」士官食堂

「みらい」士官数人は、ミーナから知らされた通達について考えていた。
それは連合軍総司令部からの、補給についての交換条件。


角松「海軍士官二名の乗艦、視察」

菊池「そして技術士官への情報提供」

梅津「……以上が、燃料補給との引き換えに連合軍より要請されたものだ」


尾栗「はーっ、思い切って来たもんだな」

ギシッ、と背もたれに体重を預ける尾栗。

尾栗「隙あらばじゃないが、やはり抜かりない」

菊池「使える手を打ってきた、ということか」

菊池「技術士官の派遣という面から、向こうの思惑は見え見えだ」


角松「だが断るわけにもいかないだろう」

角松「本艦の燃料も、残るところ僅かとなった」

梅津「これからの事を考えるに、いつまでも501を介しての補給というわけにはいくまい」

尾栗「ジョーカーは向こうか……」

梅津「皆はどう思う?」


角松「私は、あくまで視察のみ……」

角松「我々の自衛隊としての体制や指揮系統に何ら影響のないのなら、賛成します」

尾栗「自分も賛成です」

尾栗「本艦の生存権を確約するためにも、補給の手はずを整えておかなければなりませんや」


だがここで一人異を唱える者がいた。

菊池「俺は、もう少し厳しくするべきだと思う」

尾栗「……菊池?」


角松「それで、厳しくするとは?」

菊池「別に視察自体を断るわけではない」

梅津「視察の対象を厳しく制限する、ということか」

菊池「はい、その通りです」

菊池「向こうの目的はこちらの情報収集」

菊池「技術士官派遣ということを見る限り、本艦から少しでも何かを得ようという算段でしょう」


尾栗「いやいや、流石に俺らだってそのことは考えてるぜ?」

尾栗「一から十までペラペラしゃべるわけじゃない」

尾栗「せいぜい横須賀での軍艦の一般公開ぐらいに……」

だがそれを制する菊池。

菊池「それよりも、と言っているんだ」


菊池「魔法力という未知なる力があるとはいえ、この時代にとって我々は驚異的なものだ」

菊池「特に技術的な面で見れば、途方もなく進んでいる」

菊池「あまり信用ならない相手なのなら、こちらの優位性を保っておく必要もある」

角松「優位性?」

菊池「こちらのアドバンテージを向こうに知られないようにする」

菊池「対「みらい」用の作戦を少しでも練りにくいようにだ」


やや過激なようにも聞こえる菊池の主張。
だがこれも、冷静にこの世界との安全な距離を彼なりに考えての事だ。

角松「……ならばどこまで削る?」

副長角松が問う。

菊池「主要兵装の性能は公開しない」

菊池「迫られた場合、使用素材や機関などを公開し、射程や搭載数、威力は厳重に守るべきだ」

菊池「我々は所詮異世界人。敵対しない確たる保障などない」

厳しい口調で論ずる菊池。

尾栗「いずれバレるもんだとは思うがなぁ」

柔らかく反論する尾栗。

菊池「遅らせるだけでも意味はある」

角松(雅行はあくまでもこの世界と中立・一線を引くか……)


尾栗「だが、それもどうだかな」

尾栗「だいたいこれだけ近くて、すべてを隠し通すなんて無理なんだよ」

尾栗「遅かれ早かれバレる。場合に寄っちゃ、いっそのこと信用を得る手段として情報を開示すればいい」

尾栗「そして向こうからもこっちに使える情報を引き出して行けばいいんだよ」

あくまで開示の方向を強く主張する尾栗。

菊池「その安易さが危険だというんだ」

尾栗「だがな、菊池。こっちから腹を割らないと向こうは割ってくれないぜ」

角松(康平はこの世界との部分的な協調か)

二人の議論は、時に角松や梅津を混ぜながらしばらく平行線をたどった。

―――――――――――――――――――――――――


そして出された結論は、両者の間を取るという判断。
下した梅津艦長らしい決断だった。

菊池(適度なところで折り合いをつけるというのが、どれだけ難しいかということか)

菊池「こういうのは苦手だ」

ぼそっとつぶやいた菊池の言葉が、敏感な青梅の耳に入る。

青梅「え?」

菊池「いや、なんでもない」

菊池「それより、予定通りに頼むぞ」

菊池「来るのは別世界の見学者だからな」

青梅「了解」


同じ頃 ブリタニア

港町のタンカーの甲板の上で、二人の海軍将校が会話を交わしていた。
その船体に描かれている艦名は、「東進丸」。

「艦船に給油するため、本艦に満載されたのは全て軽油……」

「なるほど確かに、話通り奇妙な艦なようですね」

大尉の階級章を付けた将校が隣の少佐に話しかける。

「だから我々が派遣されるのだろう」

「これも、草加少佐の有能さゆえ抜擢されたのでしょう」

おだてられた、草加と呼ばれた若い将校が軽く笑い返す。

草加「ははっ」


草加「買いかぶり過ぎだよ、津田大尉」

草加「艦の乗員は扶桑人によく似ているらしい」

草加「彼らは「日ノ本の人」、日本人というようだ」

草加「少しでも警戒心をなくそうと、我々を選んだのだろう」

津田と呼ばれた、草加の部下が答える。

津田「警戒心を? 何のために……」


草加「津田、我々の任務はなんだ?」

津田「不明艦の査察であります」

草加「ではなぜ、上は不明艦を査察させたと思う?」

津田「協力的ではあるものの、信頼できる相手か見極めるためではないでしょうか?」



草加「はたしてそれだけだろうか?」

津田「は?」

草加「信頼するためには、相手の事を知らなければならない」

草加「相手の事を知る……つまり、情報だ」

津田「情報……」

草加「より情報を引き出すためには、少しでも警戒心というのは解かなければならない」

草加「情報を扱う参謀として、大切なことだよ」

津田「は……」


ボ―――――――!

汽笛を鳴らし、タンカー『東進丸』は501基地へと向け出港した。


翌日 501基地

その日、501メンバーは港に出て『東進丸』の入港を眺めていた。

シャーリー「おおー、あれが補給用の船かー」

エーリカ「宮藤ー、あの扶桑語なんて書いてるのー?」

芳佳「艦名のところですか? 『とうしんまる』ですね」

ルッキーニ「トーシンマル!」


芳佳「それにしても、ハルトマンさんって双子だったんですねー」

昨日のウルスラ・ハルトマンの紹介をされた時の事を思い出す。
あの時の、カールスラント出身者以外のみんなの驚き方と言えば……と一人ほくそ笑む宮藤。

リーネ「私も知らなかったなぁ」

ゲルト「いつもだらけてるコイツとちがって、ノイエ・カールスラントの技術局にいたんだ」

サーニャ「私が使っているフリーガハマーも、そこで作られたって聞いたわ」

エイラ「へー、そうなのカ」


坂本「……1万トン級のタンカーとは、またデカいものを寄越したな」

ミーナ「軽油が約3000トン、またその他食料などの補給品も積み込んでいるみたいよ」

坂本「「みらい」の給油量から見て約二回分か」

ペリーヌ「労働者の方も乗り込んでいますのね」

ミーナ「こちらの整備員に手間をかけさせないようにという配慮かしら?」

坂本「……だといいんだがな」

坂本(このチャンスを前にして、奴が何も考えていないとは思えん)

ぺリーヌ「少佐?」

坂本「いや、なんでもない」

坂本「それより下に降りるぞ。挨拶をせねばならんからな」


「みらい」 甲板

艦橋員A「左舷30°距離300、東進丸確認!」

艦橋員B「東進丸より手旗信号!」

尾栗「貴艦ノ左舷ニ接舷ス、許可ヲ求ム……だとォ?」

尾栗「舵効きの悪い輸送タンカーが、タグボートもなしになぁ……」

角松「可能か、航海長?」

尾栗「向こうがミスらなければ、こっちは行けます」

梅津「無謀なのか、よほど自信があるのか……」

梅津「まぁよかろう。接舷用意だ」

角松「了解!」

角松「航海長、接舷用意!」


尾栗「アイサー! 左舷、横付け用ー意!」

航海科員A「左舷横付け用意!」

航海科員B「航海科の担当科員は左舷に集合!」

ダッダッダッダッ!
前甲板や後甲板など、甲板という甲板に「みらい」の航海科員が集まる。

尾栗「接触面にクッションを展開!」

尾栗「距測を厳に!」

航海科員C「クッション展開急げ!」

防舷物が次々に「みらい」の左舷に吊るされる。

航海科員D「防舷物展開完了!」

尾栗「接舷要員、配置につけ!」


※防舷物:船が横につけ、艦艇に傷をつけないように、ぶら下げる緩衝材。


航海科員B「各部要員配置よし!」

東進丸船員A「サンドレッド送れ!」

ブンブンブン……バアッ!
砂袋の巻き付いたサンドレッドが「みらい」の左舷に投げ込まれる。

東進丸船員B「一番巻けーっ!」

「みらい」側の航海科員が飛んできたサンドレッドをボラードにひっかる。
そして先の合図とともに巻き上げる。

ギィッ、ギィッ、ギィッ、ギィッ……

ボスッ!という音とともに、東進丸と「みらい」の距離が埋まる。
その間は人が軽く超えれるほどに狭まった。

それを見て、「みらい」と東進丸両方の船員が一息つく。


航海科員A「全く、タグボートなしの接舷なんて初めてだぜ。よくやるなァ」

無意識に笑みを漏らしあう双方の船員であった。




※サンドレッド(細索):船同士や陸に接舷するために使うロープ、いわゆる舫(もやい)の前に渡すヒモ。
            舫よりも細く投げやすく、これを通した後に巻き上げるとのこと。

※ボラード:港などにある舫を巻きつける、足を乗せたくなるアレ。


隣り合わせに軍艦とタンカーが停泊するなか、三方が顔を合わせる。

ミーナ「カールスラント空軍中佐 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケです」

ウルスラ「ノイエカールスラント技術局一課、ウルスラ・ハルトマンです。よろしくお願いします」

梅津「日本国海上自衛隊海等一佐 梅津だ」

角松「同じく海等二佐 角松です」

草加「扶桑皇国海軍少佐、連合軍付参謀 草加拓海です」

津田「同じく皇国海軍大尉 津田一馬であります」

草加「今回連合軍総司令部からの指示により「みらい」の視察に参りました」

草加「これが、あなた方の艦ですね」

梅津「うむ」

角松「ご案内します、こちらへ」


「みらい」から降ろされたタラップに登る一行。
そしてその上には尾栗が待っていた。

尾栗「海上自衛隊三佐、航海長の尾栗です」

尾栗「今回、自分が「みらい」を案内させてもらいます」

草加「ああ、よろしく頼みたい」

尾栗「ではまず……」

案内を始めようとした時、下からの声に尾栗の耳が反応する。


ルッキーニ「いーなー」

ルッキーニ「あたしものりたいー!」

シャーリー「わがままを言うんじゃないぞ、ルッキーニ」

ルッキーニ「芳佳やバルクホルンも入ったのにー!」


尾栗「……どうです? 艦長」

梅津「なにかな?」

尾栗「興味のあるウィッチたちも艦内を見学させませんか?」

隣にいた菊池が即座に反論する

菊池「尾栗、何を考えている?」


尾栗「……菊池、いい機会だ」

尾栗「隊員たちは、いい刺激に飢えてたりもする」

尾栗「いつ帰れるかもわからず、死ぬかもしれない航海にな」

尾栗「だから新しい刺激を与えようってんだ」

菊池「それで彼女たちまでも艦に案内するのか?」

尾栗「これから同じ土俵で戦っていくんだ。知り合って損はしない相手だろ?」

菊池「………」


梅津「どうだろう、副長」

角松「………」

角松「それを決めるのは、我々でなく彼女たちでしょう」


タラップから見下ろした先には、先の提案について話すウィッチたち。

ルッキーニ「乗りたい!」

シャーリー「確かに、未来の技術って見てみたいなぁ!」

エーリカ「ウルスラ、どんなのかわかる?」

ウルスラ「お姉さま、それは中を見ないとわかりません」


ミーナ「困ったわね……」

坂本「まぁいいじゃないか、ミーナ」

ミーナ「美緒?」

坂本「せっかくの招待だ。無為にするのは失礼というもの」

ミーナ「だけど……」


躊躇うミーナに、バルクホルンが声をかける。

ゲルト「私も少佐の意見に賛成だ」

ミーナ「トゥルーデ?」

ゲルト「私が「みらい」の艦内に運ばれたことがあっただろう?」

ゲルト「たまたまあの時は艦内に入る者がいたから出口が分かったが」

ゲルト「それが無ければ、艦内の通路がまるで分らなかった」

ゲルト「だが、これからも戦うということは、私のようになる可能性も否めない」

ゲルト「最悪、彼らの戦闘行動を乱してしまう可能性さえある」

説得にかかるバルクホルン。

坂本「ミーナ、仲間内なら適度な交流は必要さ」

ミーナ「………」

流石のミーナも押されたのか、承諾することとなった。

そしてウィッチたちは、「みらい」に続くラッタルへと足を進めた

以上今回の投下を終わります
忙しかったといえど2ヶ月以上開いてしまった……

話的にも進展が少なく申し訳ないです

東進丸って漢字と一緒にローマ字でTOSHINMARUって書かれてなかったっけ?





ルッキーニ「うじゅあー! いこっ!シャーリー!」

シャーリー「落ち着けルッキーニ。船は逃げやしないさ」

リーネ「芳佳ちゃん、私男の人苦手で……」

芳佳「大丈夫だよリーネちゃん。きっとみんなやさしいよ」

「みらい」へ続くタラップを上るウィッチたち。

最初は3人だけであったはずの「みらい」艦内ツアーは、途中で起きたサーニャを含めすべてのウィッチが参加した。

尾栗「そうだ、柳。医務室に行って桃井一尉を呼んできてくれ」

柳「はっ」

尾栗「念を入れるにこしたことはないだろう?」

なるほどたしかに、彼女たちはまだ十代の少女である。


艦首側のタラップを上り切った一行。
まず目に付くのが主砲のオットーメララ127mm速射砲である。

坂本「127mm……駆逐艦クラスの口径だな」

芳佳「赤城の高射砲くらいの大きさかなぁ」

尾栗「確かに火力はこの時代の戦艦にゃかなわんが……」

尾栗「命中精度と連射速度は折り紙付きだ」

ミーナ「たしかに、それらは過去の戦闘で十分に立証されてるわね」

ペリーヌ「ですが、連射は装填手の技量に左右されるんじゃありませんこと?」

尾栗「ああ、この中は無人なんだ」

芳佳「ええっ?」

ゲルト「つまり、これの動作はすべて機械がやっているのか……」

尾栗「まぁ、下の弾倉に装填するのだけは手動だが、戦闘中は基本無人になる」


尾栗「そしてここがMk41VLSだ」

主砲の背後に広がる、網目のようなミサイル発射装置を指す。

尾栗「ここの蓋が開いて、ミサイルが飛ぶわけだ」

草加「ミサイル……とは?」

ウルスラ「おそらく、報告にあったロケット誘導弾のことを指すと思われます」

ウルスラ「ジェットを推進力として飛翔し、驚異的な命中率、追尾性能を持つとのことです」

尾栗「ま、簡単に言えばそういうこった」

ルッキーニ「ねーねー、開けていーい?」

シャーリー「いや、だめだろう」

尾栗「はっは、流石にそれは菊池に怒られるからな」


続いて左舷側のドアから艦内に入る一行。
日差しが遮られ、少し涼しい。

坂本「これは……」

津田「かなり装甲が薄い……」

エーリカ「ところどころ光が漏れてるよ……」

エーリカ「がんばったらトゥルーデの魔法で破れるんじゃない?」

ゲルト「………」コンコン


すると前方から、柳と桃井一尉が現れた。

桃井「お呼びですか、尾栗三佐?」

尾栗「すまん、ちょっと案内につく合ってくれ」

桃井「私が…ですか?」

尾栗「一人じゃ足りないしな、女の子ばかりだから女性がいた方が心強い」

桃井「了解しました」

尾栗「それじゃあ次のところ行くか」


エーリカ「なんかこの中すずしー!」

芳佳「ほんとですねー」

細いパイプが張り巡らされた艦内通路をゆっくり進む。
その通路を津田はきょろきょろしながら見ていた。

津田(……あれは、消火栓?)

ただの消火栓が気になったわけではない。

津田(……!)


『平成14年度検査済』


見たことのない年号。
そして同じく、坂本少佐もそれを見ていた。

坂本(疑っていたわけではないが)

坂本(なるほどたしかに、彼らは未来からやってきたのだな)


時折、艦内作業を行っている隊員とすれ違う。
そして一行を見、全員の首にある階級章を見るや否や、こちらに敬礼をする。

船務科の柏原一尉もその一人であった。

柏原「!」サッ

同じくその場にいたほかの隊員も敬礼をする。

草加「………」サッ

そしてそれに敬礼を返す草加たち。

コツコツコツ……。


柏原「ふぅ……」

船務科員「驚きましたね」

柏原「三佐が連れてた将校サンだけじゃなく、あの子たちのほとんどが尉官以上だったとはな……」

船務科員「どうみてもまだ十代ですよ」

柏原「俺達からしてみたら、変な感じだな……」


出会うのは当直の隊員だけではない。
男ばかりのこの艦に女性が来るとなれば、そりゃ一目見たいと誰もが思う。

杉本一曹もその一人で、持ち場の扉を開けっ放しにしておき、今か今かと待つ。

杉本「……お」

続々と通り過ぎる一団。
女の子だけというわけではなく、その姿に目を奪われついつい目で後を追い続けてしまう。

そのうち、宮藤とリーネが彼らの存在に気付き、頭を下げる。
つられて頭を下げてしまう一同。

船務科員「いいっすね、女の子」

杉本「ああ、まったくだな」


班長「おいコラッ! お前ら何やっとるか!」

杉本「ゲッ! やばいぞ!」

船務科員「見つかっちまいましたね」

そしてついたのはCIC前の扉である。
ここは一般的に立ち入り禁止であり、入れることは少ない。



          注 意

許可を受けないでこの中に立ち入ることを禁止する。

以上の通り、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法施行令第5条の規定により提示する。

平成XX年 3月12日 防衛省



芳佳「許可なしの立ち入りを禁ず……」

津田「重要な区画というところですか」

坂本「何かしらの法で適用されている以上、そういうことだろう」

シャーリー「なんかよくわかんないけど、物々しい雰囲気だな」

草加「ふむ……」


草加(日米相互防衛援助協定……か)


尾栗「この通り、普通なら艦内の人間すら立ち入りを制限される区画だが……」

尾栗「今回は特別でな、ちゃんと菊池や艦長たちの許可が下りている」

尾栗「規定ラインを超えないというなら、中に入れるそうだが、どうする?」

津田「!?」

ルッキーニ「みたいみたい!」

エーリカ「確かに、こうやって隠されるときになるねぇ」

ゲルト「見られるものは見ておいて、損はないだろう」

ミーナ「……そうね」

扉の向こうにわくわくする一同―――ただし、佐官組を除く。

尾栗「それじゃあ、行くか」


ガチャ。

尾栗が扉を開けると、そこからひんやりとした空気が流れてきた。


「みらい」 CIC

ルッキーニ「うひゃー! シャーリー、ここすずしー!」

ペリーヌ「風で髪が……」

シャーリー「こりゃ空調がガンガン効いてるな」

ゲルト「まったく贅沢じゃないのか!」

シャーリー「おいおい大尉殿、ここまできてそんな堅いこと言うなって」

シャーリー「きっと他に理由があるんだよ」

ウルスラ「……おそらく、機器の温度上昇を防いでいるのだと思われます」

ゲルト「そんなに熱を発する機器とは一体……」

数歩足を進めると、視界が開いた。

シャーリー「……うお! すっげー!」


扉を抜けたその先には、多数のモニターと光点に覆われたCICの姿が広がった。


エイラ「なんか星空みたいダナ」

サーニャ「それにしてはまぶしいわ」

草加「これは……」

津田「すごい……」

シャーリー「壁面のでかいスクリーンに、見たこともない機械がいっぱいだ!」

ゲルト「少しは落ち着かんかイェーガー大尉。ここは軍艦だぞ」

シャーリー「んなこといったってよぉ、これ見ろよこれ」

珍しく興奮気味のシャーリーをなだめるバルクホルン。

ウルスラ「戦闘被害の少ないパートにあらゆる情報を集め、情報処理を一括にて行う」

ウルスラ「ブリタニアやリベリオンで構想されている最重要区画、CICですね」


菊池「その通りだ」

そのウルスラの解説に反応したかのように、奥から菊池がやってきた。

菊池「海上自衛隊三等海佐「みらい」砲雷長の菊池です」


草加「菊池三佐、ここは見たところかなり重要なところだそうだが」

草加「入ってもよかったのかな?」

菊池「ここCICは本艦の中枢……大変重要な区画です」

菊池「普段なら本艦の隊員さえ立入が制限される場所ではあるが」

菊池「今回は特別です。そこのライン上からでなら自由に見ていただいて結構です」

菊池「……もちろん、写真撮影などの行為は禁じますが」

足元を見ると、確かにテープで引かれた簡易的なラインがあった。

ルッキーニ「ん~、ん~!」

そこにつま先立ちをし、一生懸命に先を見ようとするルッキーニ。

エーリカ「ウルスラ~、何か分かった?」

ウルスラ「今更なようですが……」

ウルスラ「確かにこの艦は、この世界に存在するのもではありません」


菊池「先の通り、我々の時代の軍艦は、ここCICが主な戦闘指揮を担っています」

菊池「前方スクリーンには、主としてレーダーを図式化したものを表示」

菊池「また電子的な情報による敵味方の識別や、コンピューターによる目標への自動攻撃を行わせることが可能です」

芳佳「シャーリーさん、こんぴゅーたーってなんですか?」ヒソヒソ

シャーリー「簡単に言えば、計算をする機械だ」

シャーリー「扶桑自慢のソロバンよりもすごく速い」

シャーリー「カールスラントでも進んだものを研究中って聞いたけど?」

ウルスラ「はい、違う部署なので私は詳しくは知りませんが……」

ウルスラ「空間座標を計算でき、誘導補助を行える電子計算機の開発を進めているようです」

シャーリー「へぇー?」

シャーリー(なんに使うんだろ)


ゲルト「あのミサイルとやらも、ここで制御しているわけだな」

シャーリー「おや、機械に弱いお前が興味を持つとは」

ゲルト「うっ、うるさいな!」

すみません、行けると思ってましたが今日は無理っぽいです
中断します

シャーリーの「なんに使うんだろ?」が意味深すぎる、、、


菊池「ここにある機器の大半は、精密な電子部品によって作られており」

菊池「例えばこのレーダー画面にしても、裏側にはさまざまな技術が詰まっている」

菊池「そしてそれを制御するための機器にもです」

菊池「故に、『この時代よりもはるかに複雑』になっています」

菊池「もちろんこれを扱う人間はそれらの機器について精通していなければならない」

菊池「つまり―――」


草加「その機器を身近に触れているあなた方の中でもまた一部」

草加「かなり熟練した技術者でなければ扱えない、と」

菊池「……その通りです」

菊池「この時代で代えることのできない隊員のおかげで、この艦は動いているということです」

草加「 『この時代の人間には無理』 ということだな」

菊池「ええ」

芳佳「すごーい……」


それからも少しずつだけではあったが、菊池によるCICのレクチャーが行われた。
特にウルスラ、シャーリーの2人は興味津々に耳を傾ける

そして一通りの話が終わった後、尾栗が呼びかける。

尾栗「さて、そろそろ次行くぞー」

尾栗にせかされ、CICを出る一同。
そしてふぅ、とため息を吐く菊池。

菊池「……なんとか、やり過ごせたな」

青梅「代えのきかない隊員……」

青梅「確かに嘘は言ってませんなァ」

珍しく回りくどいことを言った菊池に話す青梅。


菊池「……あの草加という少佐、かなりの切れ者だな」

青梅「ええ、勘もいいようで」

菊池「こちらの発言の意図を一瞬で理解した」

青梅「この発言が、効いてくれればいいんですがね」

菊池「………」


長居も避けたいCICを退出し、再び通路を歩き始める。

そしてついた先は、後部格納庫だった。
現在、ここでは艦載機が点検中である。

ゲルト「ほう、ここか」

坂本「初めて「みらい」に来たところだな」

芳佳「……あっ、あのヘリコプターがありますよ!」

草加「ほう、これが……」

津田「報告にもあったオートジャイロですね」

エーリカ「あれ?プロペラが折りたたんでる……」

目の前には、点検中のシーホークが鎮座していた。
作業中の整備員がちらちらこちらを見る。

そんなことにかまわずシーホークに近づく機械好きと元気っ子。

シャーリー「すげー! こうしてみると不思議な形してんなー」

シャーリー「なぁなぁ、これなんだ?」

整備員「え、あ……これは吊り下げソナーで……」

突然の質問に戸惑いながらも答える整備員。
一方、ルッキーニの方はバルクホルンの制止する声を聞かずに走り回っていた。

ルッキーニ「うじゅ?」

何かに気付いてふと足を止める。


ルッキーニ「シャーリー、シャーリー、こっちにも何かあるよ!」

シャーリー「ん?」

それはシャーリーのいるシーホークの向かい側。

芳佳「あ、ほんとですね」

そこにはシーホークとは似ても似つかない感じの航空機が鎮座していた。

ウルスラ「複座の艦載機に見えます」

ペリーヌ「これも、ヘリコプターとやらなのですの?」

「おう、そんなところだ」

その裏から出てきた、パイロットらしき男。

尾栗「お、佐竹一尉」

佐竹と呼ばれた「海鳥」のパイロットはヘルメットを脱ぎながら一団に敬礼を返した。

佐竹「どうも、航海長。しかしずいぶんにぎやかなお客さん方ですな」

尾栗「まぁな」

佐竹「んで、次はここの見学ですかい?」

尾栗「そんなところだ」


エーリカ「ねぇねぇ、サタケもパイロットなの?」

ゲルト「おいハルトマン、失礼だぞ!」

佐竹「ああ、おれはこの「海鳥」の操縦士だ」

自分の愛機の側面を撫でながら言う佐竹。

佐竹「もう一人射撃手の森三尉がいるんだが、今は奥のブリーフィングルームで待機して……」

そして思い出したかのように時計を見、

佐竹「おっと、時間がねえんだった」

佐竹「それじゃ航海長、自分はこれで」

尾栗「おう、お疲れさん」

そうとだけ言うと佐竹は奥の方へとかけ出して行った。


尾栗「さて、ここも忙しいみたいだし、ほどほどに俺たちも行くか」


尾栗「お次はここだ」

着いたのは先ほどの後部格納庫の上。
外だけあって日差しがよく当たる。

ゲルト「先ほどのVLSとやらがあるな」

ゲルト「それと……」

目の前にぽつんと立っているファランクス。

坂本「多銃身砲がついているところを見るに、対空火器か」

尾栗「ファランクスという、全自動近接防御火器だ」

尾栗「有効射程は1km、連射速度は毎秒60発!」

ゲルト「毎秒60発だと!?そんなんではいくら弾があっても足りんぞ!」

尾栗「だから普段はミサイルで対応する」

尾栗「コイツはミサイル防衛圏をくぐり抜けた敵を相手する、いわば最終防衛ラインだ」

尾栗「だから一度起動すると、レーダーは敵味方の区別なく近づくモノ正確無比に撃つ」

シャーリー「どんな中身してんだコイツ……」


そして隣にあった探照灯や誘導パネルを見ながら艦内へ戻る。

ルッキーニ「つぎどこいくのー?」

尾栗「んー、そうだな」

尾栗「……そういや、みんなお昼はどうしてるんだ?」

芳佳「あ、これが終わったら基地に戻って作るつもりです」

リーネ「ちょうどお昼時だから、ご飯がまだ食べれてないんだもんね」

尾栗「そうか」

尾栗「だったら、ここで食っていくか?」

ルッキーニ「やたー!ごはん!」

芳佳「いいんですか?」

尾栗「まぁまぁ、「みらい」のメシを食っていけって」

リーネ「船の料理かあ……」


科員食堂

ここでは普段、非番の隊員が話したり、食事をする場所である。
今はすでに人払いがされており、少し寂しい空間になっていた。

そこの二つのテーブルでは、見学会の一団が食事をしていた。

芳佳「すごい、おいしいですこれ!」

炊飯長「どうだ、「みらい」のメシは」

ペリーヌ「これも扶桑の料理ですのね」

ルッキーニ「おかわり!」

シャーリー「船の上でこんなにうまい飯が作れるとは驚きだなぁ」

芳佳「シャーリーさん、長い船旅の中でのおいしい食事というのはとっても重要なんですよ!」

シャーリー「へぇー?」

尾栗「長期の航海になると、仕事があるにしても娯楽の少ない船内生活はきつい」

尾栗「だからメシがその日の楽しみになるんだな」

坂本「例えば扶桑の軍艦では、週に一回カレーライスを食べるところもある」

芳佳「あ、私たちが乗って来た赤城もそうですね」


炊飯長「来るのが金曜だったらうちでも出せたんですがね」

津田「この艦でも、カレーの習慣があるのか?」

尾栗「海上自衛隊の艦は、毎週金曜にカレーが出るんだ」

尾栗「先週はカツカレーだったな。洋介のヤローもうまそうに平らげやがって」

芳佳「残念です。食べたかったなー」

ペリーヌ「相変わらず食い意地が張ってますのね」

芳佳「船によって味が違うからおもしろいんですよ!」


エーリカ「あむあむ…… あ、これおいしー!」

ゲルト「なるほど、飽きがこない味だ」

エーリカ「う……でもこっちのは酢がききすぎだよぉ……」

ミーナ「え? おいしいとおもうけど……」


角松「ここにいたか、航海長」

そこへ角松が現れる。
そのわきには珍しく、カメラマンの片桐もいた。

尾栗「あ、副長。片桐さんも。どうしたんです?」

角松「いや、実は片桐さんが写真を撮ろうといってな」

ゲルト「ほう、従軍記者か」

片桐「いえいえ……あ、でもこの世界じゃそういうことなんですかね」

角松「そういうわけで、あなた方の方で問題がなければぜひ取らせていただきたいのだが……」

ミーナ「写真ねぇ……」

坂本「いいじゃないかミーナ」

気付けば各々が好きなポジションに移動していた。

ルッキーニ「あたしシャーリーのまえー!」

ゲルト「さぁさぁミーナ、お前は隊長なんだ。真ん中に」

ミーナ「ちょ、ちょっと……」

流されるままに座らされるミーナ。


片桐「それじゃ、行きますよー」

パシャッ!とシャッターの音がした。


―――――――――

食事が終わり、締めくくりにと、尾栗が全員を艦橋に案内する。
すっかり日も暮れ、海に夕日がきれいに反射している。

芳佳「うーみーはーひろいーな大きいーなー」

リーネ「あ、扶桑の童謡だね、芳佳ちゃん」

芳佳「うん、そうなんだー」

エイラ「どうした、サーニャ?」

サーニャ「エイラ、この子、私と同じ感じがするわ」

エイラ「あー、この下レーダーだっていってたナ」



ウィングから尾栗と梅津監督の元はしゃぐ一同。
その一方で、角松と草加は艦橋の中から海を見ていた。

草加「きれいな海だ……」

角松「………」

草加「角松……二佐。この度は粋な計らい、礼を言う」

角松「自分ではない。尾栗が言いだしたことです」

草加「尾栗三佐か、なかなか面白い方だ」



草加「……あなた方は、不思議な方だ」

角松「?」

草加「この強大な力を、どうして自分たちのために活かさないのか」

草加「限りがあれども、使い方次第では……」

草加「この時代の軍として、一時的にでも正式な編入をすれば、あなた方はまさに官軍だ」

草加「この艦の戦力があればネウロイ打倒の日も遠くはない」

草加「そうすればあなた方はこの世界の英雄の一人だ」

なるほど最もな事でもある。
だが、角松は否定する。

角松「……我々は、救世主になるために自衛隊に入ったわけではない」

角松「ましてや英雄、官軍といった着飾りの名誉を狙うために艦を動かしてはいないのだ」

草加「………」


草加「私は以前、自分の同乗していた駆逐艦がネウロイの攻撃を受けたことがあった」

しばしの沈黙の後、懐かしむように語り出す草加。

草加「前線から連絡将校の任を受けていた時だった」

草加「友人や同期もたくさんいたが、大半が爆発や瓦礫に巻き込まれてしまったよ」

草加「不幸なことに、攻撃を受けた個所が短艇格納庫で、4艘のうち3艘が吹き飛んだ」

草加「火を免れ残っていたゴムボートに乗ろうとしたその時、私は追撃の衝撃で海に投げ出されてしまったのだ」

草加「情けないことに、扶桑海軍の士官だというのに泳ぎが不得意でね……」

草加「捕まる漂流物もなく、着水の衝撃で意識も朦朧としはじめ、ここが私の死に場所と覚悟した」

草加「ネウロイの攻撃はやまないうえ、海は渦を巻き始めた。救助は絶望的」


草加「……だが、私は助けられた」

草加「気が付けば、一人の小さなウィッチに抱えられていたのだ」

草加「あの子達と変わらないくらいの子にな」

角松はつられてちらり、とウィングの方を見る。


草加「話を聴くに、彼女は魔力切れを覚悟してまで、ここまでネウロイを追ってきたそうだ」

魔力が切れる。
それは飛べなくなること意味するというのを、角松も承知していた。

草加「そこまでしてなぜ助けるのか、と聞いたらこう答えたよ」

草加「『かつて自分を助けてくれた海軍の兵隊さん、次は自分が助ける番だ』とね」


草加「……私には扶桑を、同盟関係にある様々な国を守るという使命がある」

草加「そして彼女たちにもそれぞれが目的を持ってこの世界で戦っている」

草加「この祖国とは所縁もない異世界で、名誉や地位、ましてや利益すら顧みない」


草加「あなた方は一体、何のために、こうしてウィッチたちと共に戦っているのか?」

草加「あなた方は一体、何者なのだ?」

角松「………」


角松「我々は、なんのこともない……ただの海上自衛隊の自衛官だ」

何者か、その答えはわかっている。
だが何のためにこの世界に存在するのか、それはわからない。

角松「その一人である「みらい」の副長の俺がするべきことは」

角松「この艦のクルーを一人残らず現代へ帰還させること……」


角松「だがそれ以前に、我々は自衛官として成さねばならない事がある」

草加「……それは?」



角松「ただ一人でも多くの人々を助ける」

角松「異世界だろうが人は人に変わりはない」

角松「理由はそれだけで十分だ」

これがただ一つ、今分かること。
それを草加にだけでなく、まるで他の人にも語りかけるように話す角松。
その様子を梅津と尾栗が納得をした顔をして聞いていた。


そしてもう一人、CICから出てきた菊池だけは怪訝な、顔をしてみているのであった。

遅くなりました
以上で投下終了です

>>529
そりゃそうだった
書いてないわけがかなったです……

>>562
シャーリーはきかいにくわしいよ!

深町(待ち望んでいる人たち) 「なんでアップ(トリム)しないんだ!」

海江田(このSSの作者) 「ははは、深町、私は潜水艦の艦長であると同時に国家元首なのだ、そう簡単に浮上したら叩かれる(物理的に精神的にも)だろう。」

深町 「くっ…。」

海江田 「SSを作れば分かるだろう…。」

海江田 「世界規模の超国家軍(SS作者連盟)の創設!」

竹上(サイトのトップ) 「な、なんだってー。」

竹上 「確かに、今世界はあちこちで紛争(SS叩き)が起こっている。が、その争いの調停は武力(他のSS叩き)ではなく話し合い(SSを創設して話し合い)をするべきだ。」

海江田 「それでは遅すぎる…。」


東進丸 船室

津田「津田大尉、入ります」

草加「入れ」

津田「「みらい」の査察、無事終了しましたね」

草加「そうだな」


草加「大尉、君は「みらい」を見てどう思った?」

津田「は……。私から見てみれば、彼らはまだいろいろなことを隠しているようです」

津田「もちろん機密である以上は仕方ないのでしょうが」

津田「やはりここは探りを入れて手に入れてみるべきです」

津田「この船員には私の息のかかった特務機関員がいます。可能ならば諜報も……」

だがこの言葉をやんわりと取り下げる草加。

草加「まぁそう焦るな、津田大尉」


津田「しかし!」

草加「残念だが、いくら優秀な特務機関員と言えども狭い軍艦では活動できることが限られる」

草加「むしろ相手の信用を下げることになりかねない」

津田「………」


草加「それに、まだ滞在期間はある」

津田「は?」

草加「まだ明日の「みらい」への補給、本国への連絡、本船の整備などに時間がかかる」

津田「しかし、その程度でしたら少なくとも明後日までには終わると思われますが」

草加「そこで君の特務機関員の出番だろう」

含み笑いを見せる草加を見て、何かを感じ取る津田。

津田「少佐、あなたはまさか……」


草加「時間は、まだある」

草加「機を待とうじゃないか」


翌日

早朝より「みらい」への大量の補給品積み込みが行われた。
前回同様、かなりの隊員が働いている。


補給科員A「缶詰2トン!」

補給科員B「確認、後部甲板に運べ!」

補給科員C「さて、リストにあるものはこれで……」

ふと、軍人以外の人がうろうろしているのが目に入った。

補給科員C「記者さーん、そこ危ないですよー!」

記者というのは、一緒にこの航海に同行していた片桐のこと。
写真を撮っていたようだが、ぶっちゃけ作業員にしてみれば邪魔である。

片桐「あ、すいませーん!」


片桐「……しっかし、前よりも補給量が多いな」

片桐「これで、「みらい」も正式に認められた……」

片桐「ことなるといいんだけど」


しばらくし、補給作業の大半が終わる。
人もまばらになり、日も暮れてきた。

片桐「もう撮るところはないかな」

デジカメのメモリ残量を確認し、一息つく。

片桐「艦にもどるには時間がまだあるしなぁ」

そこで暇つぶしに、持ってきていた雑誌を埠頭で読むことにした。

片桐「どれどれ……」

雑誌には世界の名車や高級車が並んでいる。
どれも有名な海外メーカのものばかりで、結構な値段であった。

片桐「やっぱ買うなら外車がいいよなぁ」

片桐(一か月の航海まとまった金を手に入れたら、買おうと思ってたけど……)

片桐「今じゃ帰れるかわからない状況だしなぁ……」

退屈な航海中に散々見尽くしたページをペラペラめくりながら、一人そんなことを考えていた。


「少し見せてもらってもいいかな?」

片桐「?」

そんな片桐に声をかけたのは、あの時「みらい」で出会った草加少佐であった。

片桐「えーと……、草加少佐でしたっけ」

草加「覚えてくれてくれてるとはうれしい限りだ」

片桐「しかし、こんな雑誌を見せてほしいとは?」

草加「未来の車というものに興味があってね」

どうぞ、と片桐が雑誌を手渡す。
すると草加はのめりこむように読み込んだ。

草加「………」

片桐(そんなに興味深いのあったかな)

することがなくなった片桐は、その隣で空を見上げた。


埠頭の端に座る二人に潮風が吹く。

やがて一通り読んだ後、草加が片桐に話かけた。

草加「とても興味深いものだったよ、ありがとう」

草加「ここで一つ頼みがあるのだが……」

片桐「頼み?」

草加「そうだ」

やけに真剣な表情で語りかけてくる草加に、片桐は戸惑う。


草加「どうかこの雑誌を私にくれないだろうか?」

片桐「この雑誌をって……」

片桐「ええーっ!?」

突然の話に驚く片桐。

草加「代わりに、私にできることならなんでもしよう」

草加「この時代のものなら大体融通は利く。それなりの金銭でもいいだろう」


片桐「これにそんな価値があるものなんですかねぇ」

草加「本というものは知識の宝庫だよ」

草加「たとえこの娯楽向けの雑誌でもね」

片桐「はァ……」

軽く尋ねたことを大真面目に返されてしまった。


草加「それで、貴方は何をお望みかな?」

片桐「ええーっと……」

突然の話に片桐は答えられずにいた。
ただの雑誌といえど、自分の持ち物であるし、まだ読みたかった。

片桐「!」


片桐「そうですねぇ、私の独占インタビューに答えてくれるというのなら考えてもいいですよ」

ここでジャーナリスト魂に火がついた。
旧海軍少佐の独占インタビューなど、めったにめぐる機会ではない。

草加「私でよろしければお答えしよう」

この提案で片桐は一転、雑誌を譲ることにした。


「みらい」艦橋

角松「艦長、報告します」

角松「17:35、全補給作業終了しました」

夕暮れ、作業を終えたことを報告しに角松が艦橋に現れた。

梅津「早かったな」


報告を終えた丁度その時、尾栗が顔をのぞかせた。

尾栗「艦長! 501より入電を預かりました!」

角松「上陸許可が下りたか」

尾栗「そうなんっスよ副長! やっとみんな陸に上がれます!」

梅津「それで、詳しい予定はどうなっておるのか?」

尾栗「はい、ここに……」


「みらい」食堂

食事時間に、ここ食堂では多くの隊員たちが列を作っていた。
そして一つのテーブルには、柳と麻生の二人が座っていた。

柳「物資の再補給と燃料補給線の確保」

柳「それも連合軍正式な裁可の元のようです」

柳「とにかく、この艦が生き残る道だけは確保しましたね」

麻生「未だに心配なのは武器弾薬だけか……」

麻生「……柳一曹、この時代で「みらい」の兵装をコピーすることはやはり難しいのか?」

柳「はい、とんでもなく難しいでしょう」

柳「ミサイル兵装は言うまでもありません。主砲弾も、127mmというこの時代にも存在する口径ではありますが」

柳「似ているようで全く技術的な面で仕組みも違うところが多く、仮に生産できても今のようにはいかないでしょう」

柳「望みがあるのは、せいぜい小銃の弾とCIWSの20mm弾でしょうか」

麻生「………」


麻生「……ん?」モクモク

麻生「炊飯長、米変えました?」

トレーの皿に盛られたご飯をつまんでいた麻生が尋ねた。

炊飯長「お、流石は麻生先任曹長」

炊飯長「昨日まではイギリスからのインド産米やタイ米が多かったが……」

炊飯長「今回の補給で、なんと扶桑米の定期補給が入りましてね!」

杉本「それじゃ、今週のカレーは!?」

横から聞いていた杉本一曹が口を挿む。

炊飯長「おう、期待しとけ!」

おおおっ、という声が食堂中から湧きあがった。


炊飯員「そういえば、ノイエ・カールスラントからもジャガイモが届いているとか……」

麻生「ますますカレーに期待が高まるな」


『あ、達す』

突然の艦内放送に身構える隊員たち。

梅津『艦長の梅津だ。これより、この度決まった上陸日程について放送する』

隊員A「上陸!?」

隊員B「陸に上がれるのか!?」

先ほどまで静かだった食堂が騒がしくなり始める。

梅津『今週末、土日の二日に分けて、半舷上陸を行う』

杉本「半舷……」

柏原「上陸!」


「「おおおおおおおおおお!!」」


この言葉で、扶桑米以上の歓声が響いた。

角松『詳しい日程は後ほど分隊長に達する』


角松『なお航海科の柳一曹は、20:00に士官室へ来るように』

柳「……え?」


士官室

柳「柳一曹、はいります!」

梅津「来たか」

艦長副長、そして砲雷長と航海長と、「みらい」トップがそろっていた。
その中に一曹が一人はなかなか気まずい。

梅津「実は、今回の上陸について一つ話がある」

角松「二日間の上陸は聞いての通りだ」

角松「本艦は軍艦であり、さらにこの世界が戦闘下にある以上艦を空けるわけにはいかない」

角松「ゆえに乗員を二つに分け戦闘可能な状態を維持するわけだが……」

角松「柳一曹、お前には二日間とも上陸してもらう」

柳「は……」

まさか特別休暇ではあるまい、何かあると勘付く柳。

梅津「初日は君いるの班が上陸する予定だが……」

梅津「柳一曹、君には二日目に501基地に付設されている資料室でこの時代について調べてもらいたい」

梅津「もちろん施設使用の許可は取ってある。その辺を心配する必要はない」

尾栗「この時代に詳しいという、俺の推薦だ」

航海長がにかっと笑う。


菊池「調べる対象、まず一つ目に兵器・技術レベルだ」

菊池「この時代、例の飛行ユニットが活躍している分『魔法』という技術が発達しているようだ」

菊池「現代科学を超越するところがある分、もしかすると帰還への手掛かりがあるかもしれん」

柳「元の時代への……ですか」

角松「もちろんその通りだ」


梅津「……そして次に重要なのはネウロイについてだ」

菊池「我々は、今までネウロイというものを数回しか目撃・接敵していない」

菊池「種類はいずれも大型ネウロイのみ」

菊池「まだ見ぬ敵の多様性に対応するため、過去のデータが必要なのだ」

菊池「どのような種類だったか、攻撃方法、そして撃墜時の情報までを集計してほしい」

柳「そこまで詳しい記録が残っているでしょうか……」

尾栗「そこは、資料室次第ってところだな」

尾栗「ウィッチたちが情報を確認できるようある程度揃ってるって話だが……」

菊池「とにかく、我々の行き先を決める重要事項だ。頼むぞ」

柳「アイサー!」


角松「また情報収集の際に必要と思われる私物、艦内備品の持ち出しも許可する」

角松「ただしパソコンなどの電子機器、艦内資料室の資料については検閲を行った後に、だ」

柳「……我々の時代のことを知らせないために、ですか」

菊池「そうだ。この世界と我々の歩んできた道は違う」

菊池「我々の技術を安易に渡しては……何が起こるか予想がつかない」

梅津「……ともかく、持ち出す情報にも気を付けねばならん」

梅津「検閲は副長らに任せてある」

角松「よって、金曜日迄には持ち出すものを決めておけ」

尾栗「この件はすでに分隊長に達してあるから報告の心配はないからな」

柳「了解!」

角松「よし、下がれ」


バタン


柳が出たのを確認し、再び話を始める一同。

尾栗「菊池、本気で全部の資料を検閲するのか」

神経質な菊池に意見する尾栗。

菊池「用心に越したことはない」

尾栗「用心たってなぁ……そんな本の一冊二冊で」

菊池「現実に開発できてしまったものをアイデアとして取るだけでも危うい」

尾栗「………」


菊池「『核開発』は、ヨーロッパ物理学者の発見から始まった」

菊池「枢軸側が技術や資源不足などで完成出来なかったのに対し、ただ一国、大陸の向こうのアメリカだけが完成させた」

菊池「それにはナチスドイツの迫害から逃れたユダヤ人物理学者の功績もある」


菊池「ウィッチが対ネウロイの有効打とされているためか、幸い現時点でこの世界に核兵器は確認されていない」

菊池「……だが、この世界はあらゆる国の技術が集まっている」

菊池「各国の協調次第では、この世界にも核がもたらされる可能性も十分にある」


尾栗「おいおい菊池、それは突飛すぎやしないか?」

菊池「余計な可能性は潰すものだ!」

再び強く反論する菊池。

菊池「都市一つ分を一発で破壊できる兵器……この時代に漏れてみろ」

菊池「量産、運用方法さえ確立すれば、ネウロイと言えども短期間で殲滅も可能と思われる」

菊池「そしてネウロイのいなくなったその後、その矛先が向くのは……」

尾栗「同じ人類、ってか?」

尾栗「俺は、ちょっと考え過ぎな気もするがねぇ」


角松「……人類全体が協力するのに必要な要素として、対立する第三の敵があげられる」

角松「それは決して間違いではないと、この世界を見て思う」

角松「人が死んで土地が追われている国もあるから一概には言えないが」

角松「それでも、人間同士が残虐な殺し合いをしていた時代よりは、ましな時代だと思う」

角松「そんな世界に、俺は核兵器なんか持ち込みたくはない」

角松「いいか、俺たちはこの時代に介入して改革しに来たわけじゃないんだ」

角松「考えることは、ただ一人でも多くの人を救うことだ」



菊池「………」


柳一曹上陸日二日目

隊員A「久しぶりの陸だ!」

隊員B「店はイギリスの日本人町だっけか?」

杉本「厳密に言えば扶桑人街らしいがなー期待できっかなー」

隊員C「初日に行ったやつの話じゃ、期待できそうですぜ」

杉本「そりゃ楽しみだな!」

隊員A「あんまりはしゃぎ過ぎないでくださいよ杉本一曹、止めるのも大変なんですから」

ハハハハハ……


柏原「……ん?隣の東進丸、まだ出航していなかったのか」

隊員C「ホントですね」

隊員A「どうやらエンジントラブルで出航が遅れているようです」

杉本「査察に来た将校さんも暇なようでな、たまに話もしたぜ」

隊員B「マジですか、杉本一曹!?」


柳「みんな元気だ」

尾栗「久しぶりの陸だからなぁ」

柳「あ、航海長」

尾栗「俺は今日このまま休暇を楽しむが……」

尾栗「お前は重要な任務だ。昨日楽しんだ分、任務を全うしてくれよ!」

尾栗「お前のもたらす情報は、「みらい」の先を左右するもんだ。いいな?」

柳「はっ!了解しました」


隊員B「航海長、お早くー!」

杉本「おいていきますよー!」

尾栗「おっと、それじゃ柳一曹、頑張れよ!」

そう言って送迎トラックに乗り込んだ尾栗は、一同と共に基地を離れて行った。




501基地内部

柳「聞いてたより広いようだ……」

柳「もらった地図によれば図書室……もとい資料室は」

「あれ?」

柳「ん?」

突然後ろからかかった声に振り向く柳。


芳佳「あの、「みらい」の人ですよね? こんにちは!」

柳「あ、こんにちは……」

柳「宮藤芳佳軍曹……ですか?」

芳佳「はい! わぁ、覚えてくれてたんですね!」

柳「自分は海上自衛隊「みらい」航海科、柳一等海曹です」

芳佳「一等海曹っていうと……一等な曹だから曹長さんなのかな?」

柳「この時代の階級だと、軍曹に当たりますね」

芳佳「そうなんですかぁ、じゃあ私と同じですね!」

柳(この子元気だなぁ……)


芳佳「あ、ごめんなさい」

芳佳「初対面の年上なのにこんな口のきき方をしてしまって……」

はっと我に返ったように謝る宮藤。

柳「あ、自分は別にかまいませんが……」

芳佳「そういえば何か用事があったんですか?」

柳「ここの資料室で、いろいろ調べるようにとの指示がありまして」

芳佳「そういえばミーナ中佐が言っていました」

芳佳「私も時間がありますし、案内します!」

柳「はっ、助かります」

芳佳「ここ、お城みたいに広いですから」

再びすみません
本日はここでいったん中断させていただきます。

あと投下して気付いたのですが
>>638
>芳佳「一等海曹っていうと……一等な曹だから曹長さんなのかな?」

>柳「この時代の階級だと、軍曹に当たりますね」

はちょっと変ですね(旧海軍階級に軍曹がなく混乱したのをそのままにしてしまったものか)
失礼しました。

北海での大滝提案まで割愛

大滝 「やまとに莫大な保険を…。」

海江田 「軍艦(スレ)に保険はかけられないと聞いている。しかもやまとは今や世界最強だ一体どこの…以下略」

中略

海江田 「しかし同盟国日本がわが国に対して保険をかけることは何ら支障はない。」



やまと保険成立

次は春の祭典まで飛ばします。(テストの補習があるので…。)


資料室


芳佳「ここです」

大きい両扉のドアを開けると、薄暗い中大量の本棚が広がる部屋に出た。

柳「これは広い……」

柳(資料室というより図書室だ……)

芳佳「結構いろいろな本がありますよ。私もたまに料理の本を見に来たりするんです」

柳「なるほど……」

芳佳「何を調べるんですか?」

柳「主にネウロイの事についてです」

柳「今まで出現したウィッチや、その襲来などを細かいデータにして艦長に提出します」

芳佳「へぇー……」

芳佳「私も手伝います!」

柳「え、あ、じゃあお願いします」

柳(こんなに小さいとはいえ、この子もウィッチなんだなぁ)


とりあえず二手に分かれて資料を探す二人。

柳「戦史、報告書関係は……こっちか」

柳「『1940年欧州戦線記録』『ダイナモ作戦経過報告書』……」

柳「『1937扶桑海事変』……扶桑でもネウロイの被害はあったのか」

柳「だけどとりあえずは欧州近海のネウロイデータを集めた方が……」ブツブツ

柳「まぁ、手始めにこれから始めよう」ドサッ

持ってきたリュックからノートパソコンと筆記用具一式を取り出す。

芳佳「な……なんですかそれ……」

奥の書架から戻ってきた宮藤がパソコンを覗き込む。

柳「ノートパソコンと言います」


柳「これで、いろいろな作業ができるんですよ」


シャーリー「ほほう、それでそれで?」

ゲルト「なんだこれは……さっぱりわからん」


芳佳「しゃ……シャーリーさんにバルクホルンさん!?」

芳佳(なんだか珍しいコンビだ)

シャーリー「いやなに、なんか見慣れないのが入ってきたから怪しいもんじゃないかと」

ゲルト「嘘を付け嘘を」

ゲルト「『「みらい」の乗員だ、何か面白いことがあるぞ!』と私の手を引っ張ったのは誰だ」

シャーリー「実際そうだろ? 現にこうやって見れてるんだし」

シャーリー「でさでさ、これでどんなことができるんだ?」

柳「文書の編集やグラフなどの作成など……」カタカタカタ

シャーリー「こんなに薄いのに、映写機なしでどうやって写してんだ……」

芳佳「あはは……」

芳佳(シャーリーさんがとんでもなく輝いてる……)

PCと言えばチューリングマシンって今頃には理論が出来てるんだっけか?


ゲルト「リベリアン、あまり邪魔をするな」

ゲルト「彼だってここには遊びに来たわけじゃない。任務で来ているんだ」

シャーリー「わかったわかった、そんなにカッカすんなって」

ゲルト「まったく……だいたいお前はいつもいつも」


柳「大尉の方々はいつもあのような感じなのですか?」

芳佳「ええと、まぁ……」

柳(結構自由な雰囲気なんだ、この部隊って)



ゲルト「……と思われているぞ! 恥を知れ恥を!」

シャーリー「わかったわかった落ち着けって」






柳(これが今大戦のきっかけになった大型ネウロイか)カタカタカタ

柳(しかしそれ以前から人類は『怪異』というネウロイの前身と呼ぶべきものとも戦ってきた)

柳(第一次大戦後、ネウロイの攻撃が顕著化してきたのが扶桑海事変)

柳(欧州戦線に及んだのが……)

柳(……しまった! これはドイツ語の資料!)

柳(一応単語レベルならわかる部分もある……だが文法無視の辞書だけで読めるだろうか)ガサゴソ

柳(インターネットが生きていれば翻訳サイトというものがあれど……)パラパラパラ

柳「これは……この単語の変化系で……」


ゲルト「そういえば、お前は何を調べているのだ?」

柳「はっ、今までに出現したネウロイやその戦闘記録などを第一に、この世界を調べに」

ゲルト「なるほど、確かにお前たちにとって未知の敵と戦うには情報が大切だ」

シャーリー「ちょうどいいじゃん、教えてあげなよ大尉殿」

シャーリー「読んでるのもカールスラントの資料らしいし」


ゲルト「ふん、どれ……」

柳が訳に手間取っていた報告書の一つを手に取るバルクホルン。

ゲルト「エルベ川防衛戦の記録か。激しい戦いだった」

ゲルト「この後、ベルリンが……」

柳(ベルリンの名と年代と思しき数字を見るに、陥落したのは1941年頃)

柳(史実のベルリン陥落は1945年の5月……)

柳(出現位置がカールスラント近郊だったせいもあるが、やはりはやい)

ゲルト「いいか、私が話してやるからしっかり聞いておけ」

ゲルト「事の始まりは、帝政カールスラント皇帝がノイエ・カールスラントへの遷都を決めたことだ……」

訳と解説を行いバルクホルンと、それに続いてまとめを始める柳。

柳「1941年6月に遷都を決定……」カタカタカタ

ゲルト「このとき戦闘要所に配備された兵器は、8.8cm砲が15門に……」


※8.8cm砲(8.8 cm FlaK):どこぞの少佐も大好きな、アハト・アハト(8.8)の名で知られるドイツ軍の代表的高射砲。
             本来は対空運用が想定されていたものだったが、対地攻撃でも大きく活躍した。


ガチャ

ペリーヌ「あら、珍しく人がいますのね」

ペリーヌ「そして殿方まで……」

芳佳「あ、ペリーヌさん」

ペリーヌ「あなたまでここにいるなんて……こんなこともあるものですわね」

ゲルト「ちょうどいいクロステルマン中尉。中尉の経験したネウロイ戦闘を彼に教えてやってはくれないか?」

ペリーヌ「ネウロイとの戦闘……ですの? それでしたらこの書架に記録がありますでしょうに」

ゲルト「まぁそれもそうだが……」

ペリーヌ「申し訳ありませんがわたくしも少し忙しいですので、失礼させていただきますわ」

そういうとペリーヌはスタスタと奥へ行ってしまった。


ゲルト「まったく、少しぐらいは手伝ってやってくれてもよかろうものを」

シャーリー「まぁそういってやるなよ、お前の言い方がきつかったんじゃないのか?」


柳「クロステルマン中尉とは、あまり仲がよろしくないのですか?」

なかなかウィッチ同士の会話に入れなかった柳が口をはさむ。

ゲルト「協調性が足りないというのか、少々な」

シャーリー「実力はあるんだしさ、それくらい許してやりなよ」

ゲルト「軍という組織は常に規則と協調性が求められるものだ!」

ゲルト「一人の独断専行は全体を危機にさらすことだってある」

シャーリー「前に無我夢中で突っ込んだのは誰だったっけー」

ゲルト「ぐっ……」

シャーリー「だけどあいつ、少佐にはすっごいなついてるもんな」

柳「少佐というと……」

芳佳「坂本さんのことです。ペリーヌさん、私が朝練しているときによく会ったりするんです」

シャーリー(あれは影から覗いているのが見つかったのが多々らしいけどな)





ゲルト「さて、ひとまずこんなものか」パタン

日が暮れ、月がのぼっていた。
宮藤が夕食を差し入れをしてくれたりしたおかげで、かなりの量を終わらせることができた。

柳「はい、かなりまとまりました。ありがとうございます」

するといつの間にか外に出ていたらしい宮藤が入ってくる。

芳佳「あ、お疲れさまです」

芳佳「これ差し入れのおにぎりです。よかったら食べてください」

そこには2つのおにぎりが並んでいた。中身の具は鮭。
礼を言い、一つづつ食べるバルクホルンと柳。

ゲルト「ふむ、魚がいい味を出している……」

柳「自分も、鮭は好きです」


ゲルト「ところで宮藤、リベリアンはどこに行った?」

芳佳「シャーリーさんならルッキーニちゃんと向こうの椅子で眠ってます……」

バルクホルンが後ろを振り返ると、エンジン関係の本を立てたまま寝落ちしてしまったらしいシャーリーの姿があった。
そして夕食後にやってきたときについてきたらしいルッキーニも一緒であった。

ゲルト「全くあいつらは、こんなところで……」


そこへ思わぬ来客が訪れた。

尾栗「お、ここにいたか柳一曹」

柳「航海長!?」

そこに現れたのは航海長の尾栗だった。

芳佳「こ、こんばんは」

尾栗「おう、宮藤芳佳ちゃん……だな」

芳佳「はい!」

尾栗「全くかわいらしい嬢ちゃんたちに囲まれた中で仕事とは、羨ましいぜ」

柳「どうしてこちらへ?」

尾栗「いやなに、メシも早いうちに開きになってな。町探索ついでにこっちに寄ったんだ」

尾栗「それで、作業の方はどうだ?」

柳「はい、かなりまとまりました」

柳「主にネウロイの出現タイプと過去の戦闘における人類側の兵力等はすでにデータ化済みです」

柳「後は艦内で、各種情報の分類と細かい整理ですかね」


尾栗「すげぇ量の資料とデータだな……」

尾栗「これを一人でやってのけたのか」

柳「いえ、バルクホルン大尉や宮藤軍曹、イェーガ―大尉に手伝っていただきました」

尾栗「そうだったのか」

尾栗「部下の補助をしていただき、ありがとうございます」

ゲルト「我々はネウロイを倒すために手伝ったまでです。気にする必要はない」

尾栗が述べた謝辞に返事を返すバルクホルン。

尾栗「若いのに、しっかりしてるな」

柳「流石はカールスラント軍人ということでしょうか」



ガチャ

エーリカ「あれ?トゥルーデ?」

そこへ入ってきたのはシャツ一枚のエーリカ・ハルトマンだった


隠すところは隠しているとはいえ、本を片手にうろつくその姿はまさに警戒心ゼロ。

ゲルト「は……ハルトマン!? なんて格好でうろついてるんだお前は!?」

ゲルト「せめて上着を着れ上着を!」

芳佳「ハルトマンさん……」

エーリカ「だってあついし……」

エーリカ「ん、「ミライ」の? こんばんわー」

ゲルト「呑気に挨拶している場合か! さっさと着替えるぞ!」グイグイ

エーリカ「えー」

エーリカ(本戻したいんだけど……)

そう言って押されながら出ていくエーリカとバルクホルン。
まるで嵐が去ったかのように静まる一同。


尾栗「ま、まぁ個性があるってことだな……」

芳佳「あはは……」



やがて戻ってきた二人。

ゲルト「みっともない姿を見せて申し訳ない」

同僚の失態を恥じるバルクホルン。
当の本人といえば、当初の目的通り本の返却するするべき場所を探していた。

エーリカ「えーと、これはここだっけ?」

書架のうち高いところに本が抜き取られたスペースを見つけたエーリカ。
しかし背伸びをしても届かない。

エーリカ「うー、入らない……」

尾栗「どれ、俺が入れてやるよ」

と、エーリカが手に持っていた本を取り元の位置に入れる尾栗。

エーリカ「ありがとー! オグリー!」

ゲルト「はぁ……」

もはや注意する気も失せてしまったのか頭を抱えたバルクホルン。


しばらくおしゃべりの場と化した資料室。
やることも終わり、柳は片づけを始めていた。

柳「この資料の写しは取ったし、こっちがあの書架で……」コツン

柳「ん?」

目の前のテーブルの上に、何かの缶が置かれた。

尾栗「ほれ」

何時の間にやら尾栗が大量のコーラ缶を抱えてやってきていた。
目の前に置かれたのは、そのうちの一本だった

柳「航海長、これって「みらい」の自販機の……」

おそらく艦内自販機か売店で買ってきたものだろう。
この類は出港時に既に品薄になっていることが多いので、かき集めてきたとなれば結構なことである。

尾栗「みんなには内緒だ」

尾栗「ほら、みんなも飲め飲め」

尾栗「こっちはここにいない子に渡してやってくれ」


抱え込んでいたコーラをテーブルの上に広げる尾栗。

シャーリー「おーっ、コーラじゃん!」カシュッ!

ルッキーニ「つっめたーい!」

こちらもいつ起きたのかシャーリーとルッキーニが飛び出してきた。

芳佳「これがコーラなんですかー」

エーリカ「炭酸?」

ゲルト「おい、こういうのは上官より早く飲むものでは……」

尾栗「まぁまぁ」

尾栗「俺は博多の出身でね、あんまり堅苦しいのは好きじゃないんだ」

尾栗「今くらい軍人としてじゃなくて、気軽に話してみようじゃないか」





シャーリー「で、その時にルッキーニが寝ていた場所ってのが……」

シャーリー「あそこの塔のてっぺんだったんだ」

尾栗「スゲーなルッキーニちゃん。そんなところで寝ていたのか」

ルッキーニ「シャーリー! それ言わない約束ー!」

芳佳「ルッキーニちゃんはいろんなところで寝ているんですよー」

ゲルト「まったく。テーブルの上さえをも寝床にするとは……」

ゲルト「そんなところで寝られるのはあとハルトマンくらいだろう」

エーリカ「えっ! 私はベッドじゃないと寝れないよ」

ゲルト「上が散らかりすぎてベッドと呼べる代物ではないぞあれは!」

ゲルト「寝具は起きたら一度畳んでそろえることだ!」

エーリカ「じゃあ私一日寝てるからこのままでいいや」

ゲルト「いいわけあるかっ!」

「「「ハハハハ……」」」


尾栗「……こうしてみるとさ」

少女たちの談笑を聴いていた尾栗が小さな声でつぶやく。

柳「は?」

尾栗「魔法使って銃持って、デカい化けモンと戦ってる、あの子たちだって」

尾栗「こうやって笑いあっている姿を見ると、やっぱり年頃の女の子なんだよなって思える」

柳「ええ、まだ若い子供たちです」

尾栗「そんな子たちが人類の命運の一端を担ってるって、すげぇ話さ」

柳「守りたいものがある、あの子達はそういっていました」

尾栗「守りたいもの、か……」


ルッキーニ「コーヘー! 芳佳の持ってきたお菓子食べよー!」

尾栗「ん? おお、うまそうだな!」

この小さな宴会は、また通りかかったペリーヌに注意されるまで続いた。



東進丸 船室

尾栗たちが和気あいあいとしている一方で、こちらでは二人の将校が静かに話をしていた。

津田「草加少佐、そろそろ出航遅延工作も厳しくなってきました」

津田「日程が大幅に遅れています」

草加「そうだな。これくらいで十分だろう」

津田「……少佐は、今までに一体何を?」

草加「情報収集、だよ」ドサッ

テーブルに乗せられたのは、雑誌、写真類。
だが津田が違和感を覚えたのは、扶桑語で記述されているのに、文字の読み方が逆なのである。
さらに、ほとんどがカラーコピーである。


津田「これは……まさか」

草加「「みらい」乗員たちとの交渉で手に入れた、未来の資料だ」


津田「しかしこんなにどうやって……」

草加「おそらく「みらい」には、それなりの情報統制が敷かれてあると想像するのは容易だ」

草加「だがしかし、彼ら自身この世界への対応に追われている……」

草加「どうやら末端の隊員にまで厳格な情報統制の指示は未だ出ていないらしい」

草加「我々と接触があるというのは、あまり考えなかったのかもな」

津田「………」

草加「そうすればあとは簡単だ」

草加「補給作業後、あるいは船近くで休息を取っていたりする隊員に話しかけるだけだ」

草加「未来から来た彼らとて、いつまでも軍艦に籠っているということもできない」

草加「我々が一番よく知っているはずだ」

津田はただ、その話を聴いていた。
これが自分の尊敬する草加少佐であったのだと。


津田「……しかし、この雑誌から一体何がわかるというのですか?」

積まれているのはいずれも娯楽系の雑誌。
服や車などが半数を占めていた。

草加「情報というものは思わぬところに隠れているものだよ、大尉」

車関係の雑誌を手に取り、ぺらぺらとめくる。

草加「たとえば、この一文だ」

『この車の製作に携わった米国の大手企業ZM社は、今年で100周年を迎えました。

 ZM社は1929年の世界恐慌を耐え米国一に、戦時中も戦車・軍用車を生産し、戦後には世界TOP3に入るという驚くべき経歴をもちます。

 この新車は、その技術が結集した一台ともいうべきものです』

草加「戦時中・戦後という文字から、おそらくこの『米国』という国は戦争をしたのだろう」

草加「そして1929年のあとに戦時中という文字が来ることから、戦争の始まりは1930年以降……」

草加「ネウロイが存在しない世界、何かしらの争いが起きるとすれば人同士の戦争……」

草加「そして偶然か否か、第二次ネウロイ大戦の前触れともいえる扶桑海事変も、1937年だ」

草加「乗員の一人が言っていた」

草加「『この世界は我々の世界に似ていて、とても違う』と」


津田「つまり、我々がネウロイと戦っているこの時代……」

津田「彼らは人間同士で争いをしていた、と」

草加「もっとも、ネウロイという脅威が存在しない以上は人間同士が争うのは想像に難くないものだが」

草加「一文を紐解くだけで、これほどわかるということだ」

まるで探偵が推理を披露するように話す草加。


草加「そして彼らの時代を見て確信した」

草加「人は、歴史は、いつの時代も変わらない」

草加「例えネウロイがいなくなっても、人の世から争いはなくならない」

一つ小さな声でつぶやく。

草加「そして世界の主導権を握るのは、戦いの終止符を圧倒的な力で打った者が得る……」

津田「少佐……あなたは一体……」

その問いには答えず、ただ薄ら笑みを浮かべる草加であった。


翌日 「みらい」士官食堂

朝早くからこの士官食堂に士官が集められていた。
収集したデータをもとに、これからの事を話し合うためである。

菊池「これが、柳一曹の収集してくれたネウロイに関する資料だ」

菊池「もちろん今大戦全てのものとはいかなかったが、それなりのデータはある」

梅津「ここまでよく集まったものだ……」

前のホワイトボードにはグラフや資料が所狭しと貼り付けられている。

菊池「これを見るに、やはり小型のネウロイというものも存在していたようだ」

菊池「このタイプのネウロイは耐久性もなく、この時代の戦闘機で迎撃できるようだ」

菊池「よって、主砲・シースパロー一発でも破壊可能と思われる」

菊池「だがその反面移動速度も高いため、用心も必要だ」


菊池「次に中・大型ネウロイだ」

菊池「これは我々が体験したとおり、10m級から50m以上のものまである」

菊池「そしてこれら個体は回復力も高く、対空兵器では力不足だ」

菊池「と言えども、一部の個体は戦艦クラスの主砲を耐えるものもあるようだ」

菊池「本艦のシースパローやスタンダード、主砲での対処もむずかしい」

士官A「対艦ミサイルは?」

角松「たしかに対艦ミサイルなら有効かもしれないが、敵が浮遊体であり命中する可能性が不明だ」

角松「弾数の問題もある。安易な使用は控えるべきと考えている」


菊池「また敵の攻撃手段である光線についてだが……」

菊池「ここに、欧州上陸作戦時の航空機撮影映像がいくつか残されていた」

ここで一つの動画の再生が始まる。
画面の向き、背景が不自然なことから、これがパソコン付属のWebカメラで撮られた映写機の動画というのが分かる。

陸で応戦するシャーマンとティーガー。砲撃の向こうには、四足で歩くネウロイ。
奥の方で炸裂する地面。艦砲射撃で多数のネウロイがダメージを追うもすぐに回復してしまう。
一両のシャーマンにビームが直撃し、爆発する。隣のティーガーにも当たるが、こちらは履帯が吹っ飛んだのみ。

画面が暗くなる。カメラの視点が上に移ると、そこに巨大な飛行ネウロイの姿が浮かび上がる。
発射された数十のビームが地上部隊を襲う。巨大な爆発が一面で起こり、巨大なクレーターのみが残った。
やがて逆向きの艦隊の方にカメラが向く。主砲塔が旋回するも間に合わず、照射されたビームで次々と沈んでいく。
急速反転する航空機。まわりで僚機と思しきものが撃破される中、辛うじてこの機体は生き残ったようだ。

ここで映像は終わっている。


菊池「これを見るに、ネウロイの攻撃は概して一種の熱光線のようなもので」

菊池「大型の個体が使うものになると、この強力な光線を重ねて使用することもあるようだ」

先ほどの映像からキャプチャした、大型ネウロイの画像と、推定されたビーム幅が示される。

菊池「だが小型のものになればその威力・飛距離が小さくなることもわかる」

比較対象となった陸戦型ネウロイのビーム幅。


菊池「これらを考慮した結果、我々の取る戦闘行動を以下のようにした」

菊池「まず第一に、本艦は主に索敵・情報処理を主な任務とする」

菊池「イージスの広範囲レーダーを活かした敵の早期発見と、長距離射程を活かした敵の侵攻阻止だ」

菊池「しかし、メインの攻撃、撃破はウィッチによるものとする」

ここで聴いているもの達の顔色が変わる。
本格的な戦闘を避ける、とも取れる言葉であったからだ。
そのような反応が返ってくるのは、菊池をはじめ艦長以下もわかっている事であった。

角松「……我々には戦艦クラスの攻撃力もなければ装甲もない」

角松「この「みらい」は、ネウロイを正面から相手にできるものではないのだ」

角松「だからこそ、我々は我々の戦い方でこの世界の人々を守る」


角松「……これは、決して逃げではない!」


501基地 食堂

芳佳「お昼ごはんですよー」

リーネ「今日は扶桑の料理に挑戦してみました」

エーリカ「イモっ!?」

芳佳「お味噌汁に入ってますよ」

ルッキーニ「芳佳ー、あたしごはん大盛り!」

シャーリー「お、えらいなルッキーニ。食べる子は育つぞ」

エイラ「デ、育った結果がソレカ」ジトー

ペリーヌ「……あら? そういえば坂本少佐は?」

ゲルト「ミーナもいないな。昼食だというのに」

ゲルト「呼んでくる。皆は先に食べててくれ」


ミーナ室前

ゲルト「ミーナ、昼食の用意が……」コンコ…

「……に……ロイ……」

「……そう……まさか……んな……」

何やら二人の話し声が聞こえる。

ゲルト(ん?しまった、少佐と話し中だったか?)

だがノックと声は聞こえていたのか、扉が開く。

ミーナ「あら、トゥルーデ。わざわざ呼びに来てくれたのね」

ゲルト「いや、こちらこそ話し中にすまなかった」

ゲルト「宮藤には冷めないよう取っておいてくれと伝えて……」

ミーナ「いえ、話はちょうど終わったところだけど……美緒は」

坂本「先に食べててくれ。私はやることができた」

ミーナ「分かったわ……」


部屋の奥で受話器を抱えていた坂本の表情は、どことなく険しいものであった。

今回の投下は以上です
ちょっとジパング成分が濃くなってきた

そして時間が、時間が欲しい……

>>654
そこらへんはあまり詳しくありませんが
コンピューター、プログラムはこの時代に生まれたとも聞きますね

やっとでけた
今回は少し短めですが


ブリタニア

マロニー「その「ミライ」は、単艦で空母機動部隊に匹敵する……と?」

草加「彼らには。我々よりもはるかに優れた索敵レーダーがあります」

草加「そして長射程の誘導兵器は、小型、あるいは中型ネウロイならば視認せずとも撃墜できるでしょう」

草加「また確認はできませんでしたが、戦艦クラスの威力を持つ誘導兵器を保有している模様です」

草加「彼らがその気になれば、大型ネウロイさえも撃破可能かと」

マロニー「ウィッチなしで、さらに一隻のみでここまでの能力を持つ軍艦とは……」

マロニー「少佐、彼らからの技術支援は受けられそうかな?」

草加「………」

草加「現時点では、あり得ないといってよいでしょう」

草加「同行した技術士官によれば、今の技術で再現可能な兵器はないとのことです」


マロニー「くっ……」

マロニー「彼らは一体何者なのだ。戦闘支援はすれども技術は渡さんとは……」

なにやらイライラしている表情を見せるマロニー。

草加「……お言葉ですが、閣下」

草加「このように支援を受けているだけでも、まだ運がいいものであると思われます」

マロニー「少佐、それはどういう意味か」

草加「……彼らは、強大な力を持っています」

草加「ですが、その力はネウロイに対して作られたものではないのです」

マロニー「まさか……」


草加「そう、彼らは我々とは違い、人同士の争いのためにあのような力を手に入れました」


草加「ですが、ここで不思議なことが一つあります」

マロニー「不思議なこと、とは」

草加「私は彼らの、『日本人』の異常なまでな献身的な態度を幾度となく目撃しました」

草加「彼らは自身を『自衛隊』と呼んでいました」

草加「自分たちが生き残るためではなく、ただ人を助けるためだけに行動する集団」

草加「人同士が争う世の中であるにもかかわらず、一の軍隊がどうしてここまで1つの人命に重きを置けるのか」

草加「それも見たこともない人間たちの命を、自分たちの命を賭してまでどうして救おうとできるのか」

草加「彼らを突き動かすその衝動は、おそらくまだ我々には理解できないのかもしれない」


草加「仮にこれが人同士の戦争であったならば、彼らはどの陣営にも協力しなかったのかもしれません」

草加「もしくは、単艦でひっそりと人の命を救っていたのかも……」


一方、その外では津田大尉が待機していた。

そして話が終わり、草加が出てくる。

津田「報告はどうでしたか?」サッ

草加「ああ、無事に終了した」スッ

草加「事実を伝えつつ、私の想像を織り込んでおいた」

こういう報告をするとは事前に聞いていたが、やはり津田には分らなかった。

津田「少佐、なぜそのようなことをするのです?」ガチャ

門前に止めてあった軍用車のドアを開け、草加を乗せる。

草加「この話を信じたなら、マロニー大将は「みらい」に対する評価の方向を替えねばならんだろう」

津田「は?」

車が出、扶桑海軍の駐屯地へと向かう。


草加「……君は、マロニー大将を知っているな?」

津田「ええ、ブリタニア空軍大将で501を統括する……」

草加「彼はその責任者であるにもかかわらず、何かと501部隊に口出しをしているようだ」

草加「はっきり言うなら、彼はウィッチを快く思っていない」

草加「501という、ある種の独立した指揮系統を持った組織ができてしまえばなおさらその不快さは増すだろう」

草加「ますます彼の手から離れていってしまう」

津田「しかし、ウィッチを快く思っていないとは……」

津田「彼女たちは、ネウロイに対して最も有効な手段のうちの一つです」

津田「それをなぜ……」

草加「個人的な思想なのか、それ以外なのかは我々にはわからんよ」


草加「だが事実、ネウロイとの戦闘に置いて活躍しているのはウィッチだ」

草加「敵が敵である以上、現段階の通常兵器で対抗するには限界というものがある」

津田「だからこそ、ウィッチに重点が置かるのも当然です」

草加「大方ここだろう。彼が不快なのは」

草加「ともかく、ウィッチに対抗するならば『ウィッチ以外の戦力』を活躍させればいいことだ」

津田「しかし通常兵器では……」

ここで津田が気付く。

津田「現段階の通常兵器では……なら……!」

草加「未知の技術を持つ「みらい」に期待をしてもおかしくない」

草加「実際、彼は「みらい」の技術を早々にほしがっていた」


草加「まぁここまでは『人類のため』という言い訳でまかり通る」

草加「だが、これが彼個人の思惑とすれば話は別だ」


津田「思惑……?」

草加「まだなにも確証はない」

草加「だが、今回の査察の権限がすべて大将が握っていたこと」

草加「また私の報告が大将のみに伝わるようにされていたこと……」

草加「まるで「みらい」の秘密は彼の手中だけに収めたいかのような動きだ」

津田「つまり、少佐は……」

津田「マロニー空軍大将自身が「みらい」を手に入れようとしていた、とお考えで?」

草加「私がそう思っているだけだよ」

草加「今のところ、これといった証拠もないし、ただの憶測でしかないのだ……」


草加「ところで、私が頼んでおいた件はどうなっているか?」

津田「はっ、なんとかなりそうです」


津田「501基地に特務機関員数名を」

津田「ウルスラ・ハルトマン中尉の件も、現在作業を進ませています」

草加「流石大尉。無茶にもこたえてくれる」

津田「しかし、これは私以外に頼んだ方が効率が良かったのでは……」

草加「ブリタニアに扶桑士官はいくらでもいる」

草加「だが、君以上に信頼できる士官はいないと私は思っている」

津田「は、光栄であります」

キキッ、とブレーキ音。


「少佐、草加少佐!」

たどり着いた扶桑海軍の駐屯地より、一人の水兵が駆け寄る。

草加「何事か」

水兵「扶桑本国より、緊急電です!」


501基地

昼食を終え、当番の二人は後片付けをしていた。

芳佳「坂本さん、お昼ご飯も食べに来なかったなぁ」

リーネ「なにか急用があったのかも」

芳佳「でも、坂本さんがご飯を抜くなんて……」

エーリカ「ミヤフジー、扶桑の新聞届いてるよー」

扶桑の新聞も、ロンドンの支部を通して501に配達されている。

芳佳「あっ、ハルトマンさんありがとうございます」

エーリカ「たしかに渡したよっ、じゃねー!」

芳佳「行っちゃった……なんか今日の新聞は遅いなぁ」


『怪奇!横須賀沖に出現した軍艦!

 ×日、陸海軍大本営部発表
 △月○日、横須賀沖にて突如異様な物体が接近していると憲兵隊が通報を受け、
 同日午後3時、リベリオン国籍と思しきの駆逐艦(キヤノン級)を海軍偵察機が発見せり
 リベリオン政府承認の元、待機中であった第二水雷戦隊所属「五月雨」「春雨」により沖へ曳航、
 同艦の砲雷撃により撃沈せり、翌日、該当するリベリオン艦は退役済みの「エルドリッジ」と発表
 「大和」以下第一艦隊出航に伴い、我が皇国海軍のより赫々たる実力を垣間見れたり』

芳佳「なんでリベリオンの船が……?」

芳佳「流れてきたのかな?」


シャーリー「おーい宮藤」

芳佳「あ、シャーリーさん」

シャーリー「みたか? 今日の新聞」

芳佳「やっぱりリベリオンの新聞でもこの記事があったんですか?」

シャーリー「そうそう、ウチの駆逐艦が流れちゃったみたいだけどさ」

シャーリー「ただどうも気になるんだよなぁ」

シャーリー「ってわけでさ、ちょっと記事を比べてみてくれないか?」

芳佳「いいですよー」

芳佳「……特に違いはないですね」

シャーリー「そっかー」

シャーリー「両国一致とあったら、信じるしかないなぁ」


エーリカ「まるで幽霊船だね」

シャーリー「おっ、ハルトマン」

芳佳「あれ、ハルトマンさん戻ってきたんですか」

エーリカ「やることもないしねー」

エーリカ「でもでも、これなんかおもしろそうじゃん?」

芳佳「確かに変ですね」

エーリカ「あんな重い船が流されることなんてあるのかな? ねぇウルスラ?」


と、振り向いたエーリカにつづいて2人も振り向くと、そこにはなにやら大きな機械を抱えたウルスラがいた。

ウルスラ「確かに錨を下ろしていなければ、船も浮かんでいるものですから、波で少しずつ流される可能性はあります」

ウルスラ「ですがリベリオンや扶桑の哨戒網にかからず、それも短期間で両国の距離を流れるというのは……考えにくいです」

エーリカ「そっか……うおっ! なにそれ!」

興味を抱えている機械に奪われたエーリカが駆け寄る。

ウルスラ「「みらい」の副デジタル無線機だそうです」

ウルスラ「これをこの基地に設置、通信を中継することで、みなさんの無線機と通信ができます」

シャーリー「はーっ、これが未来の無線機かぁ」


ゲルト「無線が共有できるとなれば、更に「みらい」と連携を密にすることができるな」

芳佳「バルクホルンさん!」

エーリカ「げ、トゥルーデ」

ゲルト「何が『げ』だ。さっさと戻って部屋の片づけをするぞ!」

ゲルト「全く逃げ足だけは早いやつめ」

エーリカ「やだやだー! めんどくさいー!」ダッ

ゲルト「こら、走るな!」

エーリカ「片付けやだもんね!」

ドタバタドタバタ

シャーリー「おーおー、大尉殿も頑張る」

ウルスラ「では、私はここで失礼します」

ウルスラ「……あ、それとイェーガー大尉、できればいくつかあなたの部品を使わせていただきたいのですが……」

シャーリー「使わないものだったら別にいいぞ? よし、手伝ってやろう」

芳佳「がんばってくださーい」


「みらい」 CIC

梅津「準備はどうか?」

青梅「は、こちらの準備は完了しました」

菊池「あとは向こうか」

無線の問題を解決するために、501基地にある無線機とこちらの予備の無線機を同調させる作戦。
これにより、「みらい」から数人の人員が基地へと送られていた。

菊池「同行した荻島一曹からの連絡は?」

青梅「現在のところありません。順調に進んでるとみていいでしょう」

角松「この時代の無線にも詳しいアイツなら、なんとかできるとは思うが」

青梅「どうでしょうね、はたしてこの時代の無線機とどう互換性をとるか……」

菊池「通信テストまで、あと5分」

菊池「これが成功すれば、「みらい」はイージス艦としての能力をさらに発揮できる」


ザザザー

青梅「同調する無線電波をキャッチ」

『通信テスト中、「みらい」応答願います』

「来たっ!」

菊池「こちら「みらい」CIC。貴官の所属を述べよ」

『こちら…第501統合戦闘航空団基地……』

立花『「みらい」通信士、立花二尉』ザザザ

ノイズ交じりの通信に、船務科の立花二尉の声が入る。


青梅「……とォ」カチカチカチ…

青梅「若干音質の劣化やノイズ等がありますが、通信状態はおおむね良好」

梅津「よし……まずはそちらの状況を報告せよ」

立花『はっ』


立花『荻島一曹が地元技師協力の無線機移設作業を開始』

シャーリー『おー、ちゃんと聞こえる聞こえる』

突如入るシャーリーの声。
しばし空く間。

シャーリー『あ、失礼ー……』プチッ

立花『……技術的に困難な部分はイェーガー大尉、ハルトマン中尉の協力で乗り越えたようです』

菊池「実用できそうか?」

立花『この通り、通信機能的には問題がありませんが……』

立花『今あるものでしか組み合わせていないゆえの不安定さのため、万が一のための保守点検要員が必要です』

立花『やはり当初の予定通り、通信士もしくは電子整備士をここに派遣するのがいいと思われます』


菊池「「みらい」乗組員を派遣、か」


ミーナ執務室

坂本「とうとうこの基地に駐留することになったか」

坂本「ウィッチと男の接触を好まないミーナが認めるとは珍しいな」

ミーナ「「みらい」の乗員といったって、今度は一通信士に過ぎないわ」

ミーナ「もちろん普段は他の男性整備士と同じように移動制限がつくし」

坂本「まぁミーナがいいならそれでいいが……」

坂本「ところで、「みらい」の大まかな予定ができたと聞いたが」

ミーナ「予定といっても、今までとあまり変わらないわ」

ミーナ「ドーバー海峡とその周辺海域の哨戒」

ミーナ「可能なら……軍艦や一部民間船のエスコート、くらいかしら」

坂本「最近はアフリカやガリア近海のネウロイ出没の報が後を絶たないからな」


ミーナ「……ねぇ美緒、先の連絡の件だけど」

坂本「やはりミーナも気になるか」

坂本「現在詳しい調査を行っている最中な以上、何とも言えん」

坂本「我々が気にするのは、その後だ」

ミーナ「………」


格納庫

無線機の調整が終わった後、シャーリー達は格納庫で片付けをしていた。

シャーリー「いやー、楽しかったな」

ウルスラ「お手伝いをしていただいて、ありがとうございます」

シャーリー「いやいやいいって。むしろきっかけを作ってくれたお礼を言いたいくらいだよ」

そこへエーリカとバルクホルンが現れる。

エーリカ「あれ? おわった?」

ウルスラ「ええ、終わりました」

ウルスラ「……お姉様こそ、部屋の片づけは終わりましたか?」

エーリカ「えーっと……一応」

ゲルト「このままじゃ終わる気配がなくてな、一時的な戦略撤退をしてきた」

ゲルト「また明日攻撃を再開するぞ」

エーリカ「えー!」


エーリカ「ねぇ、ウスルラも手伝ってよー」

ゲルト「無茶を言うな。彼女は任務でここに来ていたんだから忙しいだろう」

ゲルト「数日もすれば、ノイエ・カールスラントの技術省に戻るんじゃないか?」

ウルスラ「そのことなんですが……」

ウルスラ「先ほど異動辞令がありまして、しばらくはブリタニアにとどまることなりそうです」

エーリカ「あれ?そうなんだ」

ウルスラ「詳しいことは知らされていませんが、ロンドンやポーツマスなどで活動するようです」

エーリカ「うへー、転勤族だ。大変だね」

ウルスラ「おそらくこちらにも来ると思うので、その時に」


「みらい」 資料室

柳(ネウロイが近代兵器の形をし始めたのはそう昔のことではなかった)

柳(彼らは金属を取り込み、外見をコピーする性質を持つ)

柳(ネウロイの巣が現れた時、迎撃に向かった二機のホーカー・ハリケーンは帰還せず)

柳(代わりに機体をつなげ合わせたようなネウロイが出現したことから、この可能性は高い……)

柳「だが、「みらい」が接敵したネウロイの中にはこの世界に実在しない兵器の形のネウロイがいた」

柳(不定な形なら納得できるが、知られていない兵器をコピーしたような外見のネウロイ)

柳(たまたま、だろうか?)


柳(杞憂なら……)


「みらい」 士官食堂

菊池「本艦の副デジタル無線機の移設は無事終了しました」

菊池「またそれとは別に、予備の中継アンテナを尖塔に2か所ほど設置」

菊池「これで501部隊との連絡手段が確立されました」

尾栗「前みたいなはぐれ部隊員にもちゃんとリアルタイムで連絡できるわけだな」

梅津「だが同時に、本艦からの人員派遣の必要性も迫られておる」

菊池「扱いの異なる無線である以上は、仕方のない措置と言えるでしょう」

菊池「基地間の連絡ならば通常でも可能ですが、飛行部隊との音声通信のメリットは落とし難いものです」

梅津「仕方ない措置……」

梅津(我々はこの「みらい」の力なくして、この世界で生き残ることは無理だろう)

梅津(だが、その力を使う我々にはある種の大きな責任がのしかかっているのかもしれん)

梅津(自分たちの時代に影響がないと言えど、むやみな使い方をすればこの世界に影響を及ぼすのは確実だ)

梅津(この力がこの世界を救う剣となるのか、世界を狂わす悪魔となるのか)

梅津(はたして我々に、正しい使い方をしていくことはできるのだろうか……?)



ガチャ

隊員A「失礼します」

隊員A「総員配置完了、出航準備完了しました!」

角松「艦長、艦橋へ」

梅津「うむ」

こうして、再び「みらい」は海へと旅立っていった。

これで来て20レスとは微妙なり
無線機移設の話を書く上で、図書室などでいろいろ調べてみたけど
どこから手を付けていいのかさっぱりだった……

あと、自分が半分放置なせいもありますが
以降も荒れる要因になるのであれば、age,sageや名前欄について口出しするかもしれません




※ジパングの次巻予告風に

 沈 み ゆ く 艦 の 運 命 は

ブリタニアの南、アフリカ戦線への海上補給路の哨戒圏内に入る「みらい」。
そこで見たのは、大破漂流した一隻の駆逐艦だった。
僚艦もなく、救助船はもう間に合わない。
ただ、「みらい」だけがそこにいた。

いつの間にか続き来てた。

ただ、ちょっと気になったのはウルスラはエーリカのことを「姉様」で呼んでたはず……
いや、まあ、だからなんなんだよって話だけども

遅くなりました
始めます

>>772
聞き直したらそうだった……
失礼しました


ルッキーニ「く~」

エーリカ「おー……」

滑走路脇に寝転んでいる二人。
陽気が心地いいのかルッキーニは眠っている。

エーリカ「………」

エーリカ「まるで、平和みたいだ……」

エーリカ(世界中が、みんなこんな景色だったらいいのに)

そこにバルクホルンの影ができる。

ゲルト「何が平和だ」

エーリカ「あ、トゥルーデ」

ゲルト「まったく何をしているのかと思ったらこんなところで……」


ゲルト「最近予報が当たらず、ネウロイの襲撃がないからと気が抜けてないか?」

エーリカ「でも、ここに敵がこないと私たちの出番ないよ」

ゲルト「だからと言ってこんなところで寝る者がいるか!」

ゲルト「カールスラント軍人たるもの、1に規則、2に規則……」

エーリカ「うー……わかったよ戻るよー」

ゲルト「ルッキーニ少尉もだ!」

ルッキーニ「んー……うじゅ?」

バルクホルンについてハンガーに向かいながら、もう一度振り返るエーリカ。

エーリカ「んー、ほんといい天気だ」


501基地 ミーナ執務室

ミーナ「ええ、はい……了解しました」ガチャン

書類整理の中、ミーナはなり続ける電話に悩まされていた。

坂本「……またネウロイか?」

ミーナ「ええ、ブリタニア発アフリカ行の輸送船が接敵の通信を最後に音信不通……」

ミーナ「これで6隻目よ」

坂本「確かにここ数日のネウロイの活動は異常だ」

坂本「ブリタニアに現れなくなったと思ったら、今度はどういうわけか大西洋方面に出るときた」

坂本「そして、まるで補給路を断つように狙って輸送船を攻撃している」

ミーナ「欧州戦線等で連携行動をとるネウロイが確認されてはいるけど」

ミーナ「確かに、ここまで大規模な戦略的行動を行うのは考えにくいわね……」

坂本「やはり、何かが変わってきている……」



「みらい」 CIC

青梅「フム……」カチカチ

青梅「レーダーに感なし、静かな海です」

尾栗「波も荒れず、穏やかな海だ」

尾栗「ソナーCIC、なにか聞こえるか?」

ソナー員『CICソナー、かすかに前方に感あり』

ソナー員『方位2-1-0、距離は不明』

尾栗「よしきた! 両舷減速!」

尾栗「手空きの者は甲板へ向かえ! これより『F作業』を許可する!」

艦橋から後ろを見ると、次々と乗員が後部甲板へと出ていくのが見えた。
その手には何やら小道具を抱えていた。


杉本「おっしゃー!釣るぞー!」

こうして「みらい」におけるF作業が始まった。



※F作業

  Fishing作業、つまりは釣り。
  非公式業務ながらも実際にこのような作業、放送は存在するようで、乗員としては楽しみの一環らしい。
ただし実際に艦載ソナーが魚探の代わりになるのかは不明(できたとしてもそんな使い方はしなさそう)




菊池「隊員にリラックスをさせるのもいいが」

菊池「あまりCICの機能を無駄に使わないでくれるか」

尾栗「いやいや、無駄にはならないぜ雅行」

尾栗「うまくいけば取れたての魚が夕食になるんだ。これは逃せないぜ」

菊池「あくまで任務中だ。それもいつ敵が来るかわからない中の、だ」

尾栗「それはわかってるさ」

尾栗「だがそんな中にいるからこそ、こんな時間も必要なんじゃないか?」

尾栗「今の俺達には、逃げ道がこの艦しかねえんだ」


「みらい」艦長室

コンコン

角松「船務長、角松二佐入ります」

梅津「おう、入れ」

角松「失礼します」ガチャ

角松「10:43、501からの通達通りに予定航路を南へ変更」

角松「13:00、尾栗航海長の元 F作業を許可」

角松「その他以上なし、報告は異常です」

梅津「F作業か、尾栗らしいな」

角松から受け取った報告書に軽く目を通す。

梅津「……うん、まぁ座れ」

角松「は」ガタ


梅津「航海予定は、なんとかなったな」

角松「ええ、航海長によれば問題はないと」

梅津「問題はない、か」


あれから数日、「みらい」は順調に予定を消化していた。
ブリタニア周辺の海域を添うようにして哨戒を継続。

だがここで、ミーナより哨戒区域の変更が下された。

角松「ブリタニアとアフリカ前線を繋ぐ補給路……」

角松「しかしなぜ、ウィッチーズは我々をここに向かわせたのでしょう?」

梅津「シーレーン防衛が目的なのは間違いなかろう」

梅津「『予報』に反して501基地周辺にネウロイが出現していないようだが、周辺海域での目撃例は多発しているらしい」

梅津「実際にこの海域で攻撃を受けた船もいるようだ」

梅津「我々のレーダーをもってすれば、敵が護衛対象の船に接触する前に反応することも可能だろう」

角松「我々に適した任務であると」

梅津「……なぁ角松、我々はどこまで戦えると思う?」

角松「は?」

梅津「本当に成すべきことも、行く先さえもわからず、まだ見ぬ海への航路を設定し、船出する」

梅津「『軍艦』の我々にとって、とても過酷な航海になるぞ」


※シーレーン防衛
 海上の主要な輸送路・交通路を維持防衛すること。
 太平洋戦争中の日本はこれをあまり重視しなかったために、占領地・前線への輸出入を幾度となく米軍に妨害されていた。
 この経験からも、島国の日本はこのシーレーン防衛に重視を置いている


「みらい」後部甲板

隊員たちがぞろぞろと列をなして糸を垂らしていた。

隊員A「おーい、そろそろ時間だぞ」

隊員B「ハハハ、オレは3匹釣ったぞ!」

隊員C「うわ、マジか! これじゃボウズだぜ」

佐竹「落ち着け、ここで焦ったら魚が逃げちまう」

その時、佐竹一尉の竿に反応が来る。

佐竹「おっ、これは来たか!?」

佐竹「とりゃっ!」ザパッ!

勢いよく引き上げた釣竿には、ぼろぼろの軍手が引っかかっていただけであった。

佐竹「畜生!軍手かーッ!」バシッ

甲板に軍手をたたきつける佐竹。
笑いが起こる一方、離れたところにいた杉本一曹の竿にも引きが来る。

杉本「ウオ!きたァ!」ザバッ!


「みらい」 食堂

『釣果報告! 航海科杉本一曹、サバ 41cm!』

艦内放送で大々的に放送された釣果に、参加していない隊員から驚きの声が上がる。

麻生「ほう、なかなかの大きさだな」

柳「よく釣れるもんですね」

麻生「こりゃ、今日の夕飯に期待だな」

『飛行科佐竹一尉、軍手!』

この発表に驚きが笑いに変わる。

『二曹、サバ 30cm……』

次々に発表がなされるなか、突然放送が止まった。


カーンカーンカーンカーン!

「「「!!」」」ガタッ!

『総員、対空戦闘用意!』


突然鳴り響く警報。
戦闘配置に、艦内がすべて慌ただしくなった。


「みらい」CIC

青梅「レーダーに感! 11時方向!」

CIC員A「アンノン機、172度、80マイル!」

菊池「対空見張り、厳となせ!」

ガチャ

角松「状況は?」

青梅「第一目標、600km/hで飛行中、針路1-0-5」

青梅「これはガリア方面へ向かっていますね。本艦との針路交差はありません」

青梅「該当空域の飛行予定なし、反射波も航空機のそれと異なります」

モニターに、欧州大陸へ向かう小さな光点が表示されている。

菊池「大陸に戻る……妙な針路だ。ネウロイの可能性が高い」

菊池「まだこちらを見つけてはいないのか」

青梅「ええ、それらしい動きも見えません」

青梅「このままですと、30分後にSPY探知圏外へ出ます」

菊池「何事もなく過ぎ去ってくれるとありがたいが」

角松「どうかな……」


「みらい」艦橋

尾栗「下手に逃げたらこっちが見つかるかもしれんからな」

尾栗「針路変更の要はなし、か」

尾栗「舵そのまま、目標の急激な変針に備え!」

柳「このまま過ぎ去ってくれますかね?」

尾栗「奴さんがなんの目的でうろついてるかは知らんが……」

尾栗「こっちとしてはあまり戦いたくないもんだな」

尾栗「ウィッチの嬢ちゃんたちの援護なしで、どこまでこの「みらい」が戦えるか……」

柳「それでも、もし向かってきたら……」

尾栗「そんときゃ、やるしかないな」


艦橋でも、CICでも、艦中が息を呑みながらそのネウロイの行方を見守っていた。






「みらい」CIC

青梅「………」

あれから30分経った。
光点が欧州大陸に差し掛かり、レーダー上から消えた。

青梅「第一目標、SPY圏外へ離脱」

青梅「他周囲に反応なし」

菊池「なんとか気付かれないで済んだようだな」

角松「対空戦闘用具収め」

『対空戦闘用具おさめーっ』

角松「砲雷長、引き続き警戒は続けろ」

角松「戻ってこないとも限らん」

菊池「了解」

角松がCICを出ようとドアに手をかける。



青梅「……!」

青梅「ESM探知! 微弱な通信電波をキャッチしました!」

角松「!」

菊池「周囲に機影、艦影は!?」

青梅「対空対水上ともに反応なし」

菊池「ESMによる発信元位置の特定、急げ」

CIC員A「座標特定しました、ポイントα!」

CIC員B「本艦10時方向、距離200km!」

菊池「対水上レーダーの圏外か、となると艦船か?」

角松「通信内容は?」

青梅「出力が弱く、はっきりとは……」カチカチ

青梅「いや、これはモールスか!」

青梅「そしてこの周波数は……」カチ

ツツツ ツーツーツー ツツツ……


菊池「もし、この艦が先のネウロイと接触していたとしたら……」

菊池「そしてほかの個体がうろついていないとも言えません」

梅津『よかろう、海鳥の発艦を許可する』

角松「航空科に伝達! 海鳥発進用意!」

角松「同時にシーホークも即時発艦可能にせよ!」

角松「航海長、海鳥発艦後は速やかに両舷全速、該当地域へ針路をとれ!」

尾栗『アイサー!』

菊池「モールス、無電の探知は続けろ。どんなメッセージも聞き逃すな!」

青梅「ハッ!」

角松「総員各部署に戻れ!再び対空見張りを厳となせ!」

一個抜けてました
>>799

角松「SOS信号!」

菊池「間違いないか」

青梅「はい、確かに」

青梅「しかしそれ以外の情報がはっきりとせず……」

菊池「民間の船か、軍艦か……」

角松「……艦橋CIC」カチ

角松「艦長、艦載機の発艦許可を願います」

菊池「救助に向かう気ですか、副長?」

角松「助けを求めている者を見過ごすことはできん」

菊池「……なら「海鳥」ですね」

梅津『救助ならばシーホークの方がよいのではないか?』

菊池「いえ、まずは対象の調査」

菊池「そして周辺海域の偵察を行ってからでなければ、シーホークの飛行は危険です」


>>800


「みらい」後部甲板

搭乗員である佐竹一尉と森二尉が海鳥へ乗り込む。
ヘッドセットを介して、CICにいる角松の声が入った。

佐竹「佐竹一尉他一名! 14:40、ポイントαへ向け出発します!」

角松『任務はポイントの状況と、その周辺海域の偵察だ』

角松『艦の国籍、被害状況を判別。可能ならば映像を送ること』

佐竹「了解!」

「哨戒機、発艦用意!」

「ベアトラップ、展開! 甲板作業員は総員退避!」

海鳥が格納庫から甲板へ出てくる。
折りたたまれていた主翼が広がり、プロペラが回転し始める。

佐竹「主翼展開! 発動機運転開始!」

佐竹「回転確認……テイクオフ!」


後部甲板から海鳥が飛び立つ。
みるみる「みらい」から遠ざかるその機影。


※「海鳥」

  正式には「MV/SA-32J 多目的哨戒偏向翼機」
  珍しく、この機は実在しない架空機。
  オスプレイを輸送ヘリとするならば、海鳥は攻撃ヘリというべき存在。

  設定上は対空ミサイルから対艦ミサイルまで(!)搭載が可能だが、母港が「みらい」のみの本編では生かされていない。
  ttp://en.wikipedia.org/wiki/File:Umidori-2.jpg
 


「みらい」CIC

佐竹『海鳥発艦、飛行に異常なし。視界クリア』

佐竹『これよりポイントαへ移動します』

佐竹『約30分後にはポイントへ到達予定』

角松「こちら「みらい」CIC、了解」

青梅「海鳥とのデータリンク確認」

青梅「対水上レーダーをリンクします……」

青梅「オッ…!」

森『レーダーに感、本機より11時の方向』

佐竹『依然目視による確認はできず』

佐竹『これより向かいます』






ケルト海上空

佐竹「現在高度850mにて航行中」

佐竹「ポイントαまであと120km」

森「……佐竹一尉、2時方向に漂流物!」

佐竹「あれは……ボート?」

佐竹「いや、それにしては大きすぎるな」

佐竹「森二尉、機首のガンカメラで映像を使え」

森「了解!」

パネルを操作し、搭載されているカメラをズームする。

佐竹「コイツは……」


佐竹「こちら海鳥、国籍不明の軍艦1隻を確認」

佐竹「周囲に多数の乗組員と思しき人影とボートを確認。現在大破沈降中!」

佐竹「映像は届いていますね?」

菊池『ああ、映像はクリアに届いている』


菊池『周辺海域と上空の様子を映してくれ』

佐竹「ラジャー! これより旋回機動に入ります」

海鳥がポイント上空を旋回する。

佐竹「周囲に機影、艦影はなし」

森「佐竹一尉、彼らを見てください」

ボートの上に浮かぶ彼らの中には、海鳥をみて様々な反応を見せていた。
不安げな表情を見せる者、手を大きく振っている者。

森「一刻も早く彼らを助けるべきです」

佐竹「落ち着け。それを決めらるのは、俺達じゃない」

佐竹「海鳥よりCIC、ポイントに要救助者を多数確認」

佐竹「速やかなる救助を進言します」

角松『……わかった、すぐシーホークを発艦させる』

角松『海鳥は現在位置にて待機。防空支援に当たれ』

佐竹「ラジャー!」


「みらい」CIC

柳「失礼します!」

艦橋から呼び出された柳一曹が入室する。

角松「柳一曹、あの軍艦の詳細がわかるか?」

柳「は……」

モニターに近寄り、じっくり眺める柳。

柳「破損状況や沈没部分の様子がわからないことには何とも言えませんが……」

柳「おそらく、英海軍のE級駆逐艦あたりかと思われます」

角松「ブリタニア海軍に連絡は?」

CIC員A「すでに艦長が501を通じて打電済みです」

CIC員A「現在、ブリタニア南部プリマス沖を警備中のブリタニア駆逐艦2隻が救援のため出航しました」

角松「到着予定時刻は?」

青梅「飛ばして……約4時間半以上!」



※E級駆逐艦:イギリス駆逐艦のクラスの一種
       艦名がEから始まるのが特徴


菊池「4時間半……」

角松「シーホーク、状況はどうだ!?」

柿崎『こちらシーホーク、現在救助要員が搭乗中』

角松「ゴムボートはギリギリまで積み込め! ボートに乗り切れていない者もいる!」

柿崎『了解!』

角松「SOS通信は続いているか?」

青梅「いえ、先ほど途切れました」

菊池「無線機が水没したか、打電を止めたか」

角松「……同一の周波数で、救援信号受諾の打電を繰り返し発信せよ」

青梅「はっ!」


柿崎『こちらシーホーク、これより発艦します』

林原と柿崎、補助要員の航空科、そして衛生員を乗せたシーホークが飛び立った。


501基地 ミーティングルーム

ミーナ「ええ、わかりました。あとはこちらで……」

「みらい」からのネウロイ、駆逐艦発見報告後、501では警戒のため隊員が待機状態に入っていた。

ミーナ「ガリア西側、ビスケー湾一帯に警戒態勢が言い渡されたわ」

ミーナ「航行予定表から見るに、該当するのはブリタニア艦の「エンカウンター」ね」

リーネ「………」

シャーリー「私たちも「みらい」のポイントに出るんですか?」

ミーナ「いえ、私たちはあくまでもここの防衛ラインよ」

エーリカ「そっか」

芳佳「大丈夫かな……?」

ルッキーニ「芳佳ぁ、どうしたの……?」

芳佳「すごい船って言っても、やっぱり「みらい」一隻で大丈夫なのかなって……」

ペリーヌ「……余計な心配は無用ではございませんでして?」

芳佳「ペリーヌさん?」

ペリーヌ「世界は違えど、扶桑と同じ軍人でしょう? それにあのミサイルでしたっけ……そんな兵器も持ってる」

ペリーヌ「あなたの国の諺の『鬼に金棒』といったところでしょうに」

エイラ「大丈夫だって……ホラ、戦車の正位置――勝利の可能性だ」ペラ

エイラのタロットには、たしかに戦車の絵が描かれていた。






ポイントα上空

「みらい」から発艦したシーホークがポイント上空へ到達する。

柿崎「こちらシーホーク、ポイント上空へ到達」

柿崎「左前方200m先に要救助者を確認」

林原「……海鳥を目視で確認」

上空を旋回する海鳥。

角松『英語での呼びかけの後、救助活動に入れ』

林原「了解。シーホーク、これよりホバリングに入る」

シーホークが高度を下げる。
はっきりと救助対象の姿が見えた。

菊池『向こうの通信機器はすでに使用不能のようだ』

菊池『またヘリで救助できるのは数人が限界だろう。本艦の到着まで、重傷者からの救助を行え』

柿崎「こちらシーホーク、了解」


柿崎「まずは救命用のゴムボートの投下します!」

放送機器を使い、英語で呼びかける柿崎。
ボートの上にいた指揮官らしい人物が、腕を使い大きく丸を描く。

柿崎「投下!」

ザバン!

パラシュートにつながれたカプセル型が投下され、近くの海に落ちる。
中には膨張式の救命ボートが入っているため、それで少しは何とかなるだろう。

柿崎「一番重症の方を艦に運びます! 降下した隊員に教えてください!」

ここで、彼らの表情が少し躊躇ったような表情に変わったのが、柿崎には見えた。
だが周囲の士官らしき男と話した後、再び丸の合図を送った。

柿崎(まだ完全に「みらい」のことは知れ渡っていはいない……当たり前か)

柿崎「救護員は右から降下!」

林原「北風がやや強い。突風、風向きの変更に注意」


「みらい」CIC

ヘリからの救助報告が上がる中、「みらい」もその地点へ到達しつつあった。
そして収容数に達したシーホークは「みらい」へ戻る。

尾栗『対象視認、右30度!』

航空科員『シーホーク着艦作業終了。重傷者を艦内医務室へ搬送開始』

角松「こちらCIC。シーホーク、ポイントの状況は?」

柿崎『重傷者、特にすぐにでも治療が必要な者もいます』

柿崎『この後すぐに再発艦します』

角松「了解」

角松「……よし、右舷内火艇下ろし方用意!」

角松「このまま接近、内火艇による救助活動を行う」

菊池「よろしいのですか? このままいけば本艦の姿を晒すことに……」

角松「いずれは見られる。そう秘匿しておくものでもあるまい」

菊池「………」

角松「内火艇の使用可能圏内に入り次第―――」


青梅「レーダーに感!」

「「!?」」

青梅「第一目標 240度、距離300km!」

青梅「針路1-6-0、600km/hにて接近中!」

青梅「反射波一致、先ほど接近してきたネウロイと同一と思われます」

菊池「気づかれたか、気まぐれなのか……」

梅津『内火艇下ろし方やめ! シーホークも発艦中止』

梅津『針路0-4-0、機関全速!』

青梅「本艦直上通過まで……約30分!」

角松「ウィッチは早くても1時間……到底間に合わん」

菊池「だが陽動で引き付け続けるのも無理がある」

青梅「……やるんですか? ウィッチの援護がないまま」

角松「彼らを助けるなら、それしかない」


菊池「目標の大きさは?」

青梅「反射波からみて、30m前後と推定されます」

菊池(以前よりは小さいが……)

その時、艦橋から梅津がCICへ戻ってきた。

梅津「状況は、芳しくないな」

角松「艦長」

梅津「この状況下で取ることのできる選択肢は一つしかあるまい」

梅津「砲雷長、いけるか?」

菊池「はっ」

菊池「……対空ミサイルによる目標の迎撃を進言します」

梅津「よかろう、任せる」

梅津「対空戦闘用意!」

「対空戦闘用ー意!」カーンカーンカーンカーン

菊池(このままの速度で来ると、スタンダードの射程圏内に入るまで後15分……)

菊池「前甲板VLSを2セル、スタンダード発射用意!」

菊池「目標のスタンダード攻撃圏内にインレンジと同時に開放」

CIC員A「アイサー!」


レーダー上の光点が「みらい」に近づいてくる。

CIC員A「目標、インレンジ5秒前!」

CIC員A「5,4,3,2,1……」

菊池「前部VLS開放!」

菊池「スタンダード発射、サルボー!」

バシュゥッ!バシュゥッ!

前甲板VLSから2つのスタンダードが発射される。
それは遠くのボートからでも確認ができた。

青梅「前甲板VLS開放、スタンダード飛翔中」

青梅「目標到達まで、あと30秒!」


レーダー上のネウロイ光点にスタンダードの光点がぶつかる。

青梅「スタンダード、着弾」

菊池「目標はどうなっている?」

青梅「……反射波に大きな変化なし」

菊池「FCS、カメラを最大望遠で目標を捜索!」

レーダーではダメージが正確にわからないため、菊池としてはその状態をしっかり把握しておきたかった。
「コア」の存在を資料で発見した今、可能なら確実にコアを狙い、消耗を避けたい。


菊池「そのほか変化は?」

青梅「速度が少々低下、あと……!」

青梅「新たな目標探知!」

青梅「第一目標と同位置……ネウロイが分裂したのか!」

青梅「大きさは約10m!」

CIC員A「第一第二目標、ともに50km圏内に侵入します!」


角松「これ以上近づかれれば視認可能圏内に入る」

角松「そして、敵が沈没中のブリタニア艦に向け攻撃してくる可能性も……」

菊池「……後部VLSより4セル、シースパロー諸元入力開始!」

菊池「第一目標に2セル、第二目標に残り2セルをセット」

菊池「射程圏内に入り次第、発射」

菊池「その後は127mm砲を自動発射管制で攻撃を行う!」

CIC員A「アイサー、シースパロー諸元入力開始!」

CIC員B「127mm砲、発射管制を自動に変更!」


菊池(シースパローの防空圏は約25km……)

菊池(この攻撃で決めなければ、本艦かブリタニア艦、どちらかが攻撃を受けるだろう)

尾栗『艦橋1番! 目標視認!』


「みらい」艦橋

露天艦橋から艦内に下がった尾栗が窓越しに双眼鏡を構える。

尾栗「目標を肉眼で確認……!」

尾栗「来た!」

「みらい」の右前方を高速で移動する物体が見えた。

『目標インレンジ!』

『後部VLS、CIC指示の目標!』

『後部VLS開放、シースパロー発射!』

シュバアアアアッ!バアアアッ!

轟音とともに「みらい」からシースパローが放たれる。
凄まじい発射炎と煙に、思わず前方の艦橋にいる尾栗も目をつぶってしまう。

マッハ4で飛行するシースパローが、20km先のネウロイに当たるのに約15秒。


吸い込まれるようにネウロイへ向かう2つのシースパロー。

シャアアアアアア―――

ネウロイA「!!」

ドゴオッ!ドォッ……バキャアアッ!

小さいネウロイに2つのシースパローが直撃し、ネウロイは爆散した。

続けて大型ネウロイに向けて2発、しかしこちらは生きてる。


尾栗「くっそ、シースパローじゃ威力は足りないか……」

尾栗「CIC艦橋、第二目標撃破を確認!」

尾栗「第一目標の撃破は未だ確認できず、ダメージのみ!」

菊池『艦橋CIC、了解!』

菊池『ネウロイに赤い発光部分は見えるか!?』

露天艦橋に出て、設置されている大型の双眼鏡で見る尾栗。

尾栗「あれが……コアか!」

尾栗「CIC艦橋、目標のコアを確認!」


「みらい」CIC

菊池「スタンダードにシースパローの連続ダメージは重かったようだな」

菊池「FCS、カメラ最大望遠!」

菊池「映像を正面モニターに投影」

FCSから送られる映像には、赤いコアをさらけ出したネウロイの姿が見えた。
しかし、徐々に回復を始めている。

菊池「主砲、射撃準備!」

CIC員A「127mm砲、第一目標に対し射撃準備」

CIC員B「FCSとのデータリンクを確認!」

菊池「射撃目標、ネウロイのコア!」

菊池「CIC指示の目標、うちーかたはじめ!」


『うちーかたはじめ!』

ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

艦内放送に響く号令ののち、主砲塔が素早く旋回、127mmの砲弾を放った。
毎分45発の速度で打ち出される砲弾が、寸分の狂いもなく当たる。

ドワッ!ドワッ!ドワッ!

ネウロイ「キイィィィィィィ!」

至近距離で破裂する砲弾がネウロイを傷つけ、コアに迫る。

尾栗「当たれーッ!」

そのうちの一発が、むき出しになったコアの正面で爆発した。

バキッ! パアアアンッ!

コアを失ったネウロイは爆散し、白い破片になった。



柳「あ、当たった……」

艦橋員A「みろ! 敵が!!」

艦橋員B「や……やったァ!」

「「「オオオオオオオッ!!」」」

艦橋、そして艦内の一部でしばしばの歓声が上がった。


「みらい」CIC

尾栗『CIC艦橋! 目標の撃墜を確認!』

まもなくして、対空レーダーから一つの光点が消えた。

青梅「レーダー目標をロスト、第一目標撃墜!」

「オォ……」

「………」

誰もが信じられないという状態でこの結果を聞いていた。

菊池「………」カタカタカタ


角松「各種レーダーに、その他の反応はないか?」

青梅「……は! 艦影機影なし」

梅津「対空戦闘用具納め!」

梅津「本艦は引き続き、ブリタニア艦乗員の救助に当たる」





数時間後 501基地

ミーナ「……ええ、その件はこちらで処理を」

ミーナ「各国海軍との連絡は……ええ、お願いします」


エーリカ「ほんとに勝っちゃった」

ゲルト「たった1隻で、ネウロイを2つも破壊したか」

エイラ「ほらな? 私の言った通りだったろ宮藤?」

ペリーヌ「ちょっとエイラさん! 初めに言ったのは私でしてよ!」

エイラ「私だって占いで当てたんだゾー」

エイラ「ナ、サーニャ?」

サーニャ「そうね、エイラ」


「みらい」艦橋

尾栗「左舷70°、ブリタニア艦変針」

尾栗「0-2-0、プリマス軍港へ舵を取ります!」

負傷者を回収した2隻のブリタニア駆逐艦が、同行していた「みらい」より離れていく。

その時、その甲板で何かが動いているのを見つけた。

柳「……!」

尾栗「あれは……」

尾栗「艦長! あれを!」




「All crew, salute!(総員、敬礼!)」ザッ!



それは「みらい」に向けての敬礼だった。
助けた乗員のうち動けるものは皆、怪我を負っている者さえ参加していた。

梅津「……総員に達す。手空きの者は左舷側に集合せよ」

梅津「総員、返礼用意!」


ザザザザザザ!

「みらい」の乗員が次々に集まる。

角松「総員、ブリタニア兵に敬礼!」

尾栗「………」ザッ!

菊池「………」ザッ!

柳「………」ザッ!



隊員A「あそこにいる、あの船に乗っている人間、みんな生きている……」

隊員A「俺達が、やれたんですよね」

隊員B「ああ、あの場にいた俺たちにしかできなかったことだ」

隊員C「この世界で、ネウロイを倒して、人を救った……」

隊員D「俺たちは、この世界でやっていける力がある……!」

この敬礼は、互いが小島に遮られて見えなくなるまで続いた。

今回は以上です

さぁ、長くなるぞこれは……

英海軍駆逐艦のエンカウンターといえば史実では日本の駆逐艦が乗員を救助したエピソードで有名だな
だいぶ前にアンビリーバボーでやってた話は感慨深かった

ひでぇ…http://pic.twitter.com/ixQ3L3R8Lc

みらいの全ミサイル搭載数を原作読んで計算してきた
前部Mk.41 VLSはスタンダード14発、アスロック12発、トマホーク3発を搭載。計29セルでスペック通り
主砲弾数は連射が多くて不確定ながら315発かそれ以上。ハープーン8発。短魚雷12発
後部Mk.48 VLSのシースパローはスペック上48セルなのでキャニスターの型にもよるが最大96発搭載。
しかし原作描写では36発しかない。原作者のミス?
あとサジタリウスでVLSからハープーンが発射されているが、4連装発射管のものとしてカウント(スペック上ありえない描写。アニメ版で修正)

>>864
気付いてくれる人いてよかった
やった後に補足するの忘れてました……

駆逐艦「雷」と「エンカウンター」の話はとてもいい話ですので、一度調べてみることをお勧めします。

>>884
艦これやってないけどこれはワロタ

>>895
おお、ありがとうございます!
弾数計算ができるようになる半面、適当なことができなくなる(ry


ミーナ執務室

角松「艦隊護衛の任、ですか」

坂本「実は、扶桑より別の艦隊がこちらへ向かっている」

坂本「本来なら別のウィッチーズが護衛につくはずだったのだが、いろいろあって到着時期が遅れてな」

坂本「内陸方面の防衛事情の変化により、予定していた護衛がつけられなくなってしまった」

梅津「そこを我々で補いたい、と」

坂本「あなた方はこれまで何度もネウロイと戦闘し、単艦で切り抜けた例もある」

ミーナ「現在大反攻作戦準備中のために、むやみにウィッチや艦隊を動かすことができません」

ミーナ「ですので、こうしてお願いをしたいのです」

梅津(大反攻作戦……)

坂本「計画としては……」パラッ

坂本「出航の後に大西洋を南下、こちらのポイントにて艦隊と合流していただきたい」


「みらい」 士官食堂

角松「そういうわけで、3日後には合流地点へ出航する」

角松「航海長、よろしく頼む」

尾栗「了解しました」

そう返事をした後、なにやらほくそ笑む尾栗。

角松「なんだ、その笑みは」

尾栗「いえ、なんかもう当たり前のように受け入れてるもんで」

角松「当たり前に?」

尾栗「この世界に来て早くも一月以上が経とうとしている……」

尾栗「違和感ってもんがなくなってる感じがしませんか?」

角松「………」

尾栗「まぁ、この世界に来てこれだけ経てば無理もないですかね」


『対空戦闘用意!』カーンカーンカーンカーン

角松「!」

突然鳴り響く対空戦闘の警報。

青梅『501より敵発見の緊急電を受信!』

青梅『アンノン目標1、方位1-4-0、450km/hにて接近中!』

角松「CIC艦橋、了解! SPYレーダ起動、走査開始!」

角松「作業員は艦内へ退避!」

梅津「本艦の戦闘準備までにかかる時間は?」

角松「エンジン始動自体は一分かからずにできます」

角松「しかし、補給作業中である故、満足に戦えるかどうか」

菊池「現状でもミサイルによる攻撃は可能ですが……」


戦力に不安を覚えていると、続報が入る。

青梅『哨戒中のウィッチが接敵、交戦状態に入りました!』


ドーバー海峡上空


ガガガガガガガ!

基地を出撃したウィッチたちが出会ったのは50m級のネウロイ。
すでに接触開始直後より激しい戦闘が行われていた。

ゲルト「今だ!リネット軍曹!」

リーネ「えいっ!」ダァン!

バルクホルン指示のもと、リーネの狙撃がコアをさらけ出す。

ペリーヌ「今ですわ宮藤さん!コアを!」

芳佳「いっけえええええ!」ガガガガ!

宮藤の銃弾がコアに当る。
ネウロイはそのまま崩壊し、4人の任務は完了した。

芳佳「はっ…はっ……」


ゲルト「よくやった、2人とも」

ゲルト「動きといい射撃といい、以前よりも動きがよくなっている」

ゲルト「そう思わないか、クロステルマン中尉?」

ペリーヌ「まぁ、これも坂本少佐の訓練の賜物ですわね」

ペリーヌ「それに、最近は出撃の頻度が多いわけですし」

ペリーヌ「本当に、異常なほど……」

リーネ「そういえば、最近出撃が多いですね」

ゲルト「ああ、確かにこの頃のネウロイ出現のスパンはおかしい」

ゲルト「規模こそ大きくないものの、連日の襲撃が当たり前になりつつある」

ゲルト(……なにか、異変が起きつつあるのか?)


「みらい」艦橋

中断していた補給作業を再開し、終了した「みらい」。

菊池「わざわざ緊急発進の用意をすることもなかったな」

各種処理を終え、CICから戻った菊池が呟く。

尾栗「全く、停泊中の襲撃は肝を冷やすぜ」

角松「ここは戦場だ。いつ襲撃があってもおかしくない」

角松「停泊中も気を緩めないように徹底だ」

菊池「了解」

尾栗「敵さんも、少しはこっちのこと考えてくれたらいいんだがねぇ」スッ

角松「どこか行くのか?」

尾栗「目的地までの航路の様子を調べるついでに、下の奴らの様子を見にな」

角松「下?」

尾栗が艦橋から退出する。
気になって露天露天に出てみる菊池と角松。

菊池「……?」
 
なるほどどうも騒がしい。
どうやら非番の隊員達がウィッチ達と話しているようだ。


そこに、エイラの姿があった。
ひと儲けしようとしてるのか、お得意のタロットカードで運勢占いをしている。

エイラ「お前の今日は……力の逆位置ダナ」

エイラ「賭け事とか挑戦に失敗するゾ。あまり無茶はしないようにナ」

杉本「うっそ!マジかー!」

柏原「これで、今回は杉本一曹以外の誰かがアイスを手にするってわけだ」

「「「ハハハハ!」」」


ペリーヌ「ちょっとエイラさん、あなたまさかお金とってやっていますの!?」

つられてやってきていたペリーヌが問いかけるが、それをあしらうエイラ。

エイラ「固い事言うなって。この世界じゃ使えないお金だから軍規に抵触するわけじゃないゾ」

エイラ「なんならツンツン眼鏡も占ってやるよ」

ペリーヌ「私は遊びに来たわけではありませんでしてよ!」

エイラ「じゃあ仕事終わらせずにここにいるわけダナ」フゥ

ペリーヌ「ムキーッ!」




角松「最近は、ウィッチと隊員の交流が増えているようです」

菊池「一応ほどほどにとは言い渡してありますが……」

梅津「ミーナ中佐も、はじめは快く思ってなかったようだが……」

梅津「今ではそうでもないようだな」


梅津「皆、狭い艦内生活で疲れていることもあるのだろう」

梅津「始めは不安を抱えておった者も、今ではこうして立ち直っている」

梅津「この世界で目的を見出し、そしてそれが実現できると実証したからだ」

角松「たしかにここ数日、隊員たちは達成感にあふれているようです」

梅津「それもいい……だが、この世界で目的を持つことに少なからず不安があるのも事実だ」

菊池「不安、ですか」

梅津「目的を据えるのはいい。だがこの世界にかかわっていく以上、その関係は深いものになるのは間違いなかろう」

梅津「いつの日か、我々が海上自衛隊であること、日本人であることが薄れてしまうかもしれない」

角松「まさか、そんなことは」

梅津「私は、今日まで戦い抜いてきたこの「みらい」全員、立派な海上自衛隊員だと思っている」

梅津「しかしその優秀さゆえ、自分たちの事をこの世界に置き去りにしてしまうやもしれんのだ」


角松「元の世界に戻らず……戦い続けるものも出てくると?」

梅津「いずれ、我々は辛い選択を迫られることになるぞ」

梅津「絶えず戦い続けながらも、帰還の希望を捨ててはならん」

菊池「………」


菊池(艦長が心配しているのは、後戻りができなくなるということだろう)

菊池(仮に元に戻る方法が見つかっても、世界は戦いの最中だ)

菊池(我々だけ逃げるという、ある種の強迫観念に駆られ、帰還を躊躇ってしまう可能性もある)

菊池(戦いを終わらせるか、つながりが甘いうちに見つけ出すか……」

角松「ん?」

菊池「いや、なんでもない」


隊員「失礼します!」ガチャ

隊員「艦長、クロステルマン中尉より、航行海域の情報を受け取りました」

梅津「向こうから届けにきたか」

菊池「尾栗は……ちょうどすれ違ったようですね」


501桟橋

尾栗「えっとぉ、基地に入るにはまず……?」

手書きしておいた基地への入り方を見ながら歩く尾栗。
気をとられていたため、その時左から人が来るのに気付かなかった。

尾栗「おっと!」ドッ

「うわっ!」ドッ

激しくぶつかる二人。

尾栗「いてて……すまん、けがはないか?」

「いえ、こちらもよそ見をしていましたので」

見たところ、扶桑の整備員らしい男であった。

「……! それでは失礼します」

しかし何を急いでいるのか、尾栗を見るや否や、帽を深くかぶり直した後にすぐ去ってしまった。

尾栗「……?」


3日後 「みらい」艦橋

「みらい」出港のため、係留していた桟橋がいつも以上に慌ただしくなる。


梅津「両舷前進微速」

尾栗「両舷前進びそーく!」

角松「本艦はこれより、大西洋沖にて扶桑艦隊と合流を目指すべくランデブーポイントへ向かう」

角松「周辺海域では、未だに多数のネウロイ目撃情報も確認されているようだ」

角松「総員、対空及び対水上警戒を厳となせ!」

隊員A『右桟橋、水空き800!』

隊員B『水深変わらず、異常なし』


梅津「該当海域到着まで、およそ3日ほどだ」

梅津「皆、頼むぞ」



大西洋 アフリカ大陸沖

ネウロイの活動圏外である、普段は静かなこの海域に、扶桑の海軍艦艇が展開していた。

欧州における大反攻作戦の扶桑皇国参加。
第二次派遣による戦力増強は、一次派遣後、早々に大本営にて可決され、すぐさま艦隊が編成された。

見て取れるだけでも、駆逐艦7、重巡5、軽巡4、戦艦1、油槽船3、計20隻。

うち一つ、前面に位置する駆逐艦「島風」の甲板に、あの男がいた。

土方「………」

坂本美緒少佐の従兵を務めていた土方である。

立石「急な召集で大変だったな。兵曹」

土方「……! これは立石少佐」

そこへやってきたのは「島風」艦長、立石良則少佐であった。

土方「いえ、なんとか間に合いましたのでそれほどでも」

立石「あの士官にこの従者あり、か」

立石「話には聞いていたが、なるほどなかなかな人物なようだ」


立石「しかし残念だったな」

立石「もう少し早ければ、君もこんな小さな駆逐艦ではなく、戦艦あたりには乗れただろうに」

立石「大型格納庫をもつ「大淀」以外はすでに艦載機格納庫はいっぱいだったようだ」

ここに土方がいるのは、坂本少佐の急な呼び出しである。
派遣は早々に許可され、水上機で飛び立った。
そして艦隊に合流したのち、「大淀」回収され、空きのある「島風」に移乗したのだった。

土方「いえ、とんでもありません」

土方「たしかに海の男は戦艦や空母に憧れるものではありますが」

土方「新型高圧ボイラー搭載により40ノットの速度を実現したこの「島風」に乗れるとは思いませんでした」

それを聞いた立石は少し嬉しそうに表情を緩めた。

立石「裏を返せば、敵に近づく可能性のあるということだ」

土方「ネウロイが怖くて、皇国海軍軍人は務まりません」

立石「……いい答えだ」



※駆逐艦「島風」:某界隈で人気の日本海軍の駆逐艦。
           特徴的なのは最高40ノットに及ぶその速力である。
           しかし、高コストと実用の疑問性により、姉妹艦が作られることはなかった。

※軽巡洋艦「大淀」:日本海軍の軽巡。最後の連合艦隊旗艦になった艦艇でもある。
             後部に大型格納庫を持つ。


大西洋 「みらい」艦橋

出港して一日、「みらい」は予定に誤差なく進んでいた。

柳「現在我々は、ガリア西のケルト海を南西へ下っています」

麻生「前にブリタニア艦が攻撃を受けているあたり、気を付けるポイントだ」

麻生「「みらい」に広範囲のレーダーがあるといえど、どう攻めてくるかはわからん」

露天艦橋にて、何気ない会話を交わす二人。


その視界に端に、何かが見えた気がした。

柳「……!」

柳「航海長! 右30度、距離6500!」

尾栗「ん?」チャッ

尾栗「あれは……!」


「みらい」CIC

その時、CICに報告が入った。

青梅「……ソナー探知! アンノン1!」

菊池「!?」

ソナー員『CICソナー!水中二軸推進音探知!』

ソナー員『方位2-1-0! 距離6500!』

角松「潜水艦だと!?」

角松「目標の詳細は?」

青梅「α目標、推定針路0-4-0、毎時4ノットにて接近」

青梅「針路交差の可能性あり!」

角松「面舵一杯!」

『おーもかーじ!』

菊池(この戦争で潜水艦……)

菊池(ネウロイが水を嫌う以上、目標がネウロイと言う可能性も低い)

梅津「事前に報告は受けていないな……」


尾栗『CIC艦橋、目標の潜望鏡らしきものを視認!」

青梅「正面モニター、最大望遠で出します」

モニターが切り替わり、前方カメラの映像が現れる。

青梅「目標の潜望鏡を視認!」

青梅「……ン?」

角松「なんだァ、艦橋も見えて……」

海面に見えていたのは潜望鏡だけではなかった。
艦橋の上部分も見えている。

そしてそれは少しずつ上がってきた。

ソナー員『CICソナー! 目標より排水音を探知!!』

ソナー員『浮上する模様です! 推定深度20m!』

角松「何を考えている……」

菊池「艦長、対潜戦闘の用意を具申します」

角松「砲雷長、その判断は早急すぎないか?」

菊池「万が一敵であった場合、その時になっては間に合わん!」


梅津「……対潜戦闘用意!」

角松「!」

菊池「対潜戦闘、アイサー」

菊池「前甲板VLS19番、アスロック諸元入力開始」

梅津「砲雷長、これはあくまでも予防だ」

梅津「むやみな刺激は与えたくない。他の武装は動かすな」

菊池「は……」

菊池「主砲、魚雷発射管はそのまま!」

水雷長は米倉一尉。
自分の出番に戸惑りながらも通常通りに操作をこなす。

米倉「方位210°、距離6400」

米倉「アスロック、諸元入力完了!」

尾栗『CIC艦橋! 目標、完全に浮上します!』


※アスロック:対潜ミサイル。

         ロケットの先に魚雷を装備し、遠距離への素早い対潜攻撃を可能にする。
         そしてアスロックと言えば米倉である。


「みらい」 艦橋

ザッパアアアア!

麻生「潜水艦浮上確認! 距離6000!」

尾栗「しかしこいつはデカイ……」

遠目にあらわになる潜水艦。
しかしそれはかなりの大きさ。

柳「……!!」

双眼鏡で確認した柳の顔が変わる。

尾栗「柳、あの潜水艦の型はわかるか?」

柳「わかるも何も、原潜が登場するまで類を見ないあの大きさ」

柳「艦橋付近の航空機格納庫、カタパルト」

柳「どういうわけか側面の番号が消されていますが、あれは……」


柳「日本海軍最大の潜水艦、伊四〇〇です!」



※伊四〇〇型潜水艦:日本海軍の潜水艦。
              当時としては最大の全長122m(米軍のガトー級が95m、ドイツのUボートが60-70m程度)。
              航続距離も、浮上時ならば37500海里(地球の約1.5周分)を誇る。
              艦載機による米本土爆撃を想定していたが、本型では実行されることなく終戦を迎えた。


尾栗「伊四〇〇……」

尾栗「航空機を搭載した、あの潜水艦……」

柳「……ん?」

柳「航海長、艦橋に人影が!」

尾栗「人影!?」

改めて双眼鏡を構えなおすと、浮上したての潜水艦に数人の見張りが展開する
そしてその中に、士官らしき人物。

尾栗「士官……まさか艦長か?」

柳「階級章……」

柳「海軍中佐! 艦長で間違いないと思われます!」

尾栗「オイオイ……」

その艦長らしき人物は、ただ「みらい」を眺めていた。


しばらく、ただすれ違いを待つかのように進み続ける2隻。
そこへ、CICで映像を見ていた角松がやってくる。

柳「あ、副長」

角松「……あれが、浮上した潜水艦か」

尾栗「みてみろよ、かなりデカいぜ」

角松「流石、世界最大の大きさとは言われているわけだ」

角松「……あの艦橋の上にいるのが」

柳「ええ、おそらく潜水艦の艦長かと」


こちらの視線に気づいたのか、潜水艦艦長もこちらへ向く。
そして、艦橋へ向かって敬礼をした。

角松「………」

あっけにとられる見張り員をよそに、角松は敬礼を返した。


「みらい」 CIC

そのまま「みらい」と伊号はすれ違っていった。
やがて互いの見える大きさが小さくなる程の距離まで離れる。

ソナー員「前方より注水音」

ソナー員「扶桑潜水艦、潜航します」

ソナー員「現在、艦後方120°距離1200」

梅津「対潜戦闘用具収め」

米倉「……ふぅ」

ボタンを押すことなく役割を終えたことに一息つく米倉。
そこを菊池は見過ごさない。

菊池「油断はするな。引き続き警戒は続けろ」

米倉「はっ!」


梅津「……不明艦を前に浮上する、あの堂々たる仕草」

梅津「誰かに似ておると思わんかね?」

菊池「は?」


伊四〇〇 艦内

副長「潜航用意!」

船員「潜航ー用意!」

船員「見張り員は艦内へ!」

慌ただしく入る中、一際慣れた手つきで滑り降りてくる艦長がいた。

船員「ハッチよし!」

艦長「よし、このまま潜れー!」

副長「潜航! 深度30につけ!」

船員「メインタンク注水、ベント開け!」

船員「深度30!」


副長「おかえりなさい。ずいぶん楽しんできたようですネ」

艦長「バカいえ、偵察だ偵察」

副長「ただの興味本位の好奇心、でしょ」


行動の塊である艦長を見て、副長が皮肉る。

副長「未確認艦を見るだなんて、何をトチ狂ったかと思いましたよ」

艦長「噂のトンデモ艦を見れるチャンスを逃す手はないだろう」

副長「撃たれるかもしれないリスクを抱えて、ですか?」

艦長「奴は撃たない、実際そうだったろ?」

自信満々に発言する艦長。
まぁ、この潜水艦ではいつものことだ。

副長「はァ……確かにそうでしたが」

副長「こっちは沈められて任務失敗するかとヒヤヒヤしていたというのに、この人は……」

艦長「たまの浮上になっていいじゃねえか」

艦長「いい音も聞けただろう、水測長?」

投げかけた質問に、脇で聴音機を弄っていた水測長が答える。

水測長「ええ、そりゃァ聞いたことない推進音のオンパレードでしたよ」

水測長「後生聞けることのない艦の音ですぜ、ありゃあ」


副長「未確認艦もいいですけど、この輸送任務も忘れないでくださいよ」

艦橋の下層へ降りる二人。
この下は「本来なら」艦載機格納庫であるはずの場所である。

艦長「本来の任務、ね……」

艦長「コイツばかりはどうもいけ好かん」ギィッ

水密扉を開けたそこには、水上機の姿はない。
代わりに、がっしりと固定されたコンテナがあった。

副長「荷物運びは潜水艦の特許ではなかったんですか?」

艦長「バカヤロー、任務がじゃねえ。この荷物だよ」コンコン

副長「ノイエ・カールスラントからの直送便、ネウロイを避けての長期間配送」

副長「期限こそいざ知れず、よくあることでしょう」

艦長「フン! どうもイヤな勘が騒ぐ!」コンコン

イラつくようにコンテナを叩く艦長。
たしかにそのコンテナは、妙な音が聞こえるという噂もある。

副長(艦長の勘、たまにバカにならないからなぁ)

だが今さら捨てることなんてできるわけもない。
よくわからない物を載せたその伊号は、そのまま目的地のブリタニアへと向かった。


数日後 「島風」 艦橋

順調に航行を続ける扶桑艦隊。
しかしここ数日、霧と雲に覆われる天候不良が続いていた。

立石「視界もほとんど確保できていない」

立石「そろそろ合流予定時刻だが……」

船員A「ここまでネウロイと出会わなかったのは幸運でしたね」

船員B「全くだ」

立石「警戒を怠るな」

立石「むしろネウロイに遭遇しやすいのはこの先だ。気を引き締めろ」


『艦長!旗艦より入電!』

『ネウロイ探知! 方位0-8-5! 距離60000!』

『対空戦闘の指示が出されました!』

立石「さっそく来たか……」

立石「総員、対空戦闘用意!」

『対空戦闘用意!』


ヴーッヴーッヴーッ! ドォッ! ドガアンッ!

土方「……! ネウロイ!?」

仮眠をとっていた土方が警報と爆音に気付き飛び起きる。

「「高雄」被弾! 主砲塔爆発!」

「「足柄」減速します!」

さらにそこへ、聞いたこともない巨大な砲声が追い打ちをかけた。

ガアアァンッ!ガアアァンッ!ガアアァンッ!

土方「この砲声は……!」

甲板に飛び出すと、接近する大型のネウロイに対して行う艦隊の全力射撃が目に入った。
この「島風」も例外ではない。

ドカドカドカドカ! ドドドドドド!

『主砲射撃用意!』

『全主砲、方位0-8-5、仰角40°!』

『目標、大型ネウロイ! 撃ち方始め!』

ドンッ!ドンッ!

土方(駄目だ。12.7cmではとても叶わない……)


土方(だが、あの艦の46cm砲なら……)


一方、旗艦の戦艦では、艦長の大野大佐が指揮を執っていた。

大野「主砲第二射、射撃用意!」

砲術長「方位0-8-5、距離20000!」

大野「撃ち方始め!」

『撃ち方はじめーッ!』

この艦自慢の46cm砲全門が時間差で放たれる。
適切に合わせられたその時限調整は、ネウロイの目の前で爆発、散弾を撒き散らした。

大野「どうだ、この新型の三式弾の威力は!」

砲煙が晴れた先には、回復中のネウロイの姿。
しかしその回復力はかなり早い。

大野「やはり単体では効果が薄いな」

大野「砲術長、二段戦術だ」

砲術長「はっ! 了解しました!」

砲術長「一番砲塔、弾種三式通常弾! 二番砲塔、弾種一式徹甲弾!」

砲術長「撃ち方始め!」


※三式通常弾:対空用の砲弾。内部に996個のゴム弾が入っており、時限装置にてそれを空中にばら撒く。
          史実では航空機の編隊に対して多少の効果を上げたようであるが、すぐに対策を取られたようだ。

※一式徹甲弾:徹甲弾の一種。大鑑用に開発された九一式徹甲弾の改良型。


グワァッ!

まず一番砲塔が火を噴く。

『弾着3秒前!』

砲術長「続いて二番砲塔、撃ち方始め!」

グワァッ! ドオォッ!

そして次に二番砲塔が火を噴いた。
同時に第一射がネウロイに対して着弾する。

ネウロイ「キャアアアア!」

最初の三式弾の着弾により表面に大穴が空く。
そこへ次の一式徹甲弾が追い打ちをかける。

ドゴオォッ!

ネウロイ「ギャアアアッ!」

それが決定打になったのか、ネウロイで大爆発が起きた。
ネウロイの左半分が吹き飛ぶ。

船員「おおおっ!」

船員「やったか!?」


土方(まだだ! コアに届いていない!)

「島風」の甲板から見上げていた土方。
その通りで、コアには届いていないせいか再び回復を始めるネウロイ。


大野「これでもダメか!」

砲術長「艦長、第三砲塔にも砲撃させましょう」

大野「頼む」

見張り員「報告! ネウロイより小型機が分離!」

大野「なんだと!?」

双眼鏡を手に覗く大野艦長。
先の崩れた部分の反対側から、小さなミサイル状のネウロイが分離した。

見張り員「小型機2機、右90度!」

見張り員「距離6000! 真っ直ぐ突っ込んでくる!」

大野「右舷対空砲火にて迎撃せよ!」

ダダダダダダダダダダダダダダ!

この艦自慢の、ハリネズミとも言われる対空火器が火を噴く。
しかし普通の航空機よりも速く、小さいネウロイにはなかなか当たらない。

対空射撃員「当たれ!当たれ!」ガガガガガガ

見張り員「さらに近づく、距離3000!」

見張り員「ダメだ! 接触するぞ!」


その時だった。

観測員「電探に感! 前方より接近する物体あり!」

大野「何!? 新手か!?」

見張り員「右10°、距離―――はやい!」

それは一瞬にして見張り員の脇を通り過ぎた。

見張り員「うわっ!」

ドオオオッ! ドオッ!

やがてまっすぐ飛んできたそれは、危うく船体に当たるところのネウロイ子機を撃破した。
さらにそれはもう一つ飛んできて、もう一つのネウロイの子機を破壊した。

船員「おおおっ!」

船員「助かった……」


大野「気を抜くな!」

「「「!!」」」

大野「まだ本体は生きている。主砲、斉射準備!」

砲術長「一番砲―――」


ピカアッ!ズドオオオオッ!

子機に気を取られている間に、ほとんどを回復したネウロイのビームが艦隊を襲う。
そしてこの艦にもビームが当たる。

船員「艦後方部に被弾!」

大野「っぐ!」

大野「被害は!?」

伝声管を通じて、ありとあらゆるところから被害報告が届く。

船員「「大淀」に直撃! 後部格納庫より出火!」

船員「本艦右舷上甲板に敵光線接触!」

船員「第三、第四対空機銃座、蒸発! 火災箇所の消火急げ!」


船員「……報告! 主砲射撃盤、正常に作動しません!」

砲術長「なんだと!?」

船員「おそらく、先の被弾の衝撃が原因かと」

砲術長「後部距測儀で手動照準だ!」

砲術長「……しかし艦長、これでは正確な射撃による同時加重攻撃は不可能です」

大野「くっ……」


観測員「報告、前方より接近する艦艇あり!」


一方、艦隊前面に出ていた「島風」。

「修正、旋回プラス5°、仰角プラス2°!」

「旋回プラス5°、仰角プラス2°!」

「撃ち方始め!」

持ち前の足の速さを活かし、回避運動を行いながら艦隊を支援していた。
そしてちょうど、未確認艦の艦影を見つけていた。

見張り員「前方に艦影見ゆ!」

見張り員「左10°、距離25000!」

砲撃の最中、双眼鏡をのぞく立石。

立石(なんだ、あの艦は?)

立石(今の攻撃はあの艦から撃たれたものに間違いなかろう)

立石(まさか、あれが……)

見張り員「未確認艦、発砲!」


「みらい」 CIC

青梅「シースパロー命中、トラックナンバー2675、2676撃墜」

青梅「護衛対象に被弾なし」

CIC員A「目標ネウロイ、依然として進行中」

CIC員B「主砲射程圏内インレンジまで、あと10秒!」

青梅「ネウロイと護衛対象群αの距離、約5000!」

CIC員B「目標インレンジ5秒前!」

CIC員B「目標、インレンジ!」

菊池「主砲、撃ち方始め!」

CIC員C「撃ちー方はじめ!」グッ


ドンッ!ドンッ!ドンッ!


「島風」艦橋

吸い込まれるように命中する砲弾。

立石「………」

立石だけではなく乗員全員が目を疑っていた。
装填速度、命中精度、どの国の軍艦にもない性能だった。

連続で発射された砲弾が全て命中し、コアを抉り出し、破壊する。

パキイィィィン!

船員「おお……」

船員「やった! 今度こそ……!」

艦内が完成であふれる。
甲板上で、いつの間にか手伝いをしていた土方も一息つき、前を見た。


土方(見たこともない艦、常識を逸する攻撃力……)

土方(これが坂本少佐の言われていた「みらい」……!)


「みらい」 艦橋

尾栗「ヒュー……」

尾栗「ギリギリで間に合ったな」

遠目に見ていた尾栗が口笛を軽く吹く。

麻生「前方に艦影多数。扶桑艦隊です」

柳「戦艦をはじめとした日本――扶桑海軍の代表艦が勢ぞろい」

柳「史実の太平洋戦争よりは少ないですが、それでも、まるで扶桑海軍の威信をかけているように見えます」

尾栗「大反攻作戦、とやらの招集だろう」

尾栗「ここまで集まるとは、やはり人類の命運をかけてると見える」

尾栗「特に、あの旗艦を見れば一目瞭然だな」


尾栗「巨大な攻撃力を誇る46センチ砲を搭載した、世界最大の戦艦……」

尾栗「まさかこの目で見られるとは思わなかったぜ、「大和」」

巨大艦を前にして、そう呟く尾栗。


扶桑艦隊の旗艦。
その艦は、被弾しながらも堂々たる姿を見せる「大和」であった。

以下、アニメジパング風予告


係留される大和と、その傍に並ぶ「みらい」。

杉田「大反攻作戦には、ぜひ「みらい」にも参加していただきたいものです」

不敵な笑みを浮かべるマロニー。

草加「彼はこのネウロイすらも利用する」

VLSより引き上げられるミサイル。

菊池「この一発が革新をもたらすのか、たかが知れる程度の影響なのか……」

次々に「みらい」に積み込まれる物資と、それを眺める一人の男。

草加「あなた方は常に狙われている特異な存在であることを、お忘れなきよう」


次回『合流しだした河』

貼り付けられたロケットの設計図の数々と、その前に立つウルスラ。

ウルスラ「カールスラントの科学力は世界一ィィィィ!」


※この予告は変更される場合があります

以上投下を終わります
この時間にしてやっと役者がそろった、という感じです

ちなみに伊四〇〇の乗員はゲスト出演です

ああスレの残量も時間もヤバい

埋め用の小話を挟んで次スレ立てます



ゲルト「ルッキーニ、フランチェスカ・ルッキーニ少尉はいるか!」

ルッキーニを探し、基地をウロウロしているバルクホルン。
やがてその声は、回転中のエンジンを止めた格納庫にいるシャーリーの耳に入った。

シャーリー「あれ? バルクホルンがルッキーニ探すって珍しいな」

ゲルト「む、リベリアンか」

ゲルト「ちょうどいい、ルッキーニを知らないか?」

シャーリー「ん~、またどこかで寝てるんじゃないか?」

シャーリー「で、どうしたんだ?」

ゲルト「いや、宮藤から昼食の時間のために招集を頼まれたんだが……」

ゲルト「どこに行ってもルッキーニがいなくてな」

ゲルト「しかしお前でも知らないとなると……」

ゲルト「基地中を山狩りのごとくに探すしかないか」


あきらめたようにため息をつき、外へ向け歩き出すバルクホルン。

シャーリー「放送で呼び掛けたらいいんじゃないのか?」

ゲルト「すでにかけた」

シャーリー「あれ?あたしは聞こえなかったけどな」

ゲルト「さっきまでストライカーを回していたからだろう」

シャーリー「あー、その時かー」

ここでようやく、バルクホルンはいつの間にかシャーリーがついてきているのに気付いた。

ゲルト「……何故ついてくる」

シャーリー「だって、ルッキーニが行きそうなところなんてお前知らないだろ?」

ゲルト「たしかにそうだが……」


シャーリー「あれ? なんだありゃ?」


「みらい」を係留している桟橋で、なにやら人だかりができていた。
その中で、ルッキーニの大声が響いた。

ルッキーニ「あーっ!」

慣れない手つきで遊んでいたゲーム機に向かって愕然とする。

杉本「今の惜しかったなー」

米倉「さっきのコンボが決まったら、ルッキーニちゃんにもチャンスがあったんだろうけどなぁ」

柏原「見事なコンボキャンセルだったからな」

大人げねーぞ、など冷やかされているのは、「みらい」きってのゲーマー、桜井二曹。
持ってきていた2つのゲーム機で、格闘ゲームの対戦をしていたようだ。

桜井「いやでも、今の俺も危なかったですよ」

桜井「全く触ったことないのに、少尉の飲み込みの速さがすごいです」

ルッキーニ「えっへへーん、もっと褒めてもいいよ?」


「規則正しい生活も飲み込んでくれたら助かるんだがな、少尉?」

ルッキーニ「に゙ゃっ!?」


ルッキーニが振り向くと、そこには仁王立ちで睨むバルクホルンの姿。
その後ろにはシャーリーもいる。

ゲルト「昼食の時間だ。はやくもどれ」

ルッキーニ「えー、あともういっかいー!」

ゲルト「駄々をこねるな。遊びで食事を損なえば、いざというときに戦えんぞ」

ルッキーニ「えーっ」

シャーリー「まぁまぁ、落ち着けって」

シャーリー「ルッキーニも、今日でお別れじゃないんだからまた頼もうな?」

ルッキーニ「うじゅ……わかった」

ルッキーニ「サクライ! 次は負けないからね!!」

桜井「楽しみにしていますよ、少尉」


隊員A「しかしこう見てると、まるで親子だなぁ」

米倉「あっ、確かにそんな感じがする」

米倉「イェーガー大尉の接し方って、お母さんっぽいもんな」

シャーリー「そういわれるとなんか恥ずかしいな。あたしまだ16なんだし……」

ゲルト「基本甘やかしてばっかりの気がするがな」

杉本「そういうバルクホルン大尉は厳しめ、と……なんか相性がいいですな」

ゲルト「バカをいえ! どこをどうみれば私とリベリアンが相性がよく見えるのか!」

顔を真っ赤にして否定するバルクホルンをシャーリーや皆が笑う。

そこに、パシャッ!っとシャッター音が響いた。


片桐「桟橋が賑やかなんで何事かと思いましたが、いい絵が取れました」


カメラを構えて満足げな顔を見せる片桐。

片桐「ちょうどよかったです大尉。皆にこれを渡してくれませんか?」

ゲルト「ん? これは……」

片桐「「みらい」見学の時の写真です。どうぞ」

ゲルト「ああ、あの時の……!」

「みらい」の食堂で撮った集合写真が人数分渡される。
だがその写真を見て、バルクホルンは驚いた。

ゲルト「カラー写真……それもここまで鮮明なものは見たことない」

ゲルト「これをこんなにもらってもいいのか?」

片桐「いやぁ、俺たちの時代じゃカラーが当たり前ですからね」

ゲルト「流石は未来の技術……カラーが安価に手に入る時代か」

片桐「艦内で印刷が限られてるとはいえ、まだ手持ちに余裕はありますし」


ゲルト「余裕が、あるのか?」

片桐「へ? まぁ、インクも見た感じは」

片桐(ただ資料室のだから堂々とは使えないんだけど)

ゲルト「……なら、少し頼みがある」

基地食堂

芳佳「あ、バルクホルンさんおかえりなさい」

調理後の片づけを終え、割烹着姿のままの宮藤が出迎える。

芳佳「ルッキーニちゃん見つかりました?」

ゲルト「まぁ、なんとかな。今頃テーブルで待っているだろう」

ゲルト「時に宮藤、少し、いいか?」

芳佳「どうしたんですか?」

ゲルト「ちょっと写真を撮りたいと思ってな」

手に持っていたのは、この時代では見慣れない小さなカメラ。
片桐から借りた、デジタルカメラだ。

芳佳「写真ですか? いいですよー」



芳佳「あ、割烹着脱ぐんでちょっと待っててください」

手を後ろに回し、紐をほどこうとする宮藤をバルクホルンが制止する。

ゲルト「いや、そのままでいい」

芳佳「えー、このままですか!?」

ゲルト「何気ない1シーンを撮りたいんだ」ピッピッピ

教えられた手順を思い出しながら、カメラを操作する。

ゲルト「さぁ行くぞ!」

芳佳「え、ひゃー!ちょっと待ってください~!」

恥ずかしがる宮藤に構わず、バルクホルンがシャッターを切った。

パシャッ!





しばらくして ミーナ執務室

ゲルト「ミーナ、少し相談があるんだが」

ミーナ「どうしたの?トゥルーデ」

ゲルト「実は、2日の休みが欲しい」

その休暇の申し出に、ミーナは少し驚いた。

ミーナ「あらあら、あなたが休暇って珍しいわね」

ミーナ「またクリスさんのお見舞いに行くの?」

ミーナ(最近みんな頑張ってるもの、休暇くらいは許可してあげないとね)

ゲルト「いや、それもあるんだが……もう一つ頼みがある」

ゲルト「休暇のうちの1日に、私情でストライカーを使わせてほしい」

ミーナ「そう、ストライカーを……」


ミーナ「えっ?」


後日 格納庫

ドゥルン…… ドドドドドドドド!

エイラ「ン?」

エイラ「あれ? 大尉今日非番じゃなかったのカ?」

ゲルト「ああ、非番だ」

エイラ「なんでストライカー付けてんだ?」

エイラ「しかも銃じゃなくてカメラ持って」

いつものMG42は背負っておらず、

ゲルト「ちゃんとミーナに許可は貰っている。気にすることじゃない」

エイラ「……ソウカ」

ヴォオオオオオオオ!
エンジンの回転数がさらに増し、声が聞こえ辛くなる。

エイラ「あっ、あまり基地の周り飛ぶなヨ! 今サーニャ寝てるんだからナー!」

ゲルト「善処はする!」

そう言って、バルクホルンは飛んで行った。


大空を翔るストライカー。
幸いにもその日は晴れていて、なおかつ程よく雲がある天気だった。

ゲルト「よし、撮るか」

上昇し、手慣れたホバリングで揺れの少ない安定した姿勢を確保。
ある程度のブレはカメラで自動補正をしてくれるから、問題ない。

カメラを構え、水平線に向かって一枚。

ブリタニアに寄り、遠くに小さく見える都市部を一枚。

山間部に接近し、森の木々や小さく写る動物を一枚。

基地を俯瞰し、滑走路で坂本少佐のトレーニングを受けている3人組を一枚。

暮れてきた眩しい夕日も一枚。

月をバックに、哨戒に出てきたエイラとサーニャの横顔も一枚。


ゲルト「さて、戻って選ぶ作業に入るか」




ゲルト「行くぞ、ハルトマン!」

エーリカ「そんなに急がなくても病院は逃げないよ」

ゲルト「面会時間が無くなってしまうではないか!」

エーリカ「今出てもだいたい2時間前には着く予定なんだけどなぁ」

ゲルト「その間にお菓子でも何でも買ってやる! 急げ!」

エーリカ「あ、今の忘れないでよねー!」


芳佳「バルクホルンさん、なんか張り切ってますね」

エイラ「確かに、ここんとこ様子がおかしかったナ」

坂本「妹の見舞いに行くそうだ」

芳佳「あ、坂本さん」


ミーナ「ずっと病室にいるクリスさんに、外やみんなを撮った写真を見せてあげるそうよ」

ミーナ「ウィッチの彼女が見てる空の景色も見せたくて、だからストライカーを使いたかったのね」

ペリーヌ「休暇中に大尉が飛んでいたのはそのためでしたのね」

坂本「特に宮藤、どうやらお前のことはお気に入りになったそうだ」

芳佳「私がですか?」

坂本「ああ、お前のことを話したら、ぜひ会いたいと言っていたそうだ」

坂本「近々、会えるかもしれないな」

芳佳「バルクホルンさんの妹かぁ……どんな人なんだろう」

ミーナ「あの子が溺愛するのもわかるくらい可愛い妹よ」

ミーナ「宮藤さんに、ちょっと似てるのかもしれないわね」

芳佳「そうなんですかぁ……会ってみたいなぁ」


ミーナ「それにしても、カラー写真ってずいぶん鮮明になったものね」

渡された集合写真を見て、微笑むミーナであった。

しまった
埋めネタとか言いながら全然埋まってない

次スレって、立てるだけ立てるっていいんですかね?
まだ投下は少し先になりそうです

新スレを立てて、さらに即興で小ネタを投下することにしました

芳佳「イージス護衛艦『みらい』……?」 その2
芳佳「イージス護衛艦『みらい』……?」 その2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi?bbs=news4ssnip&key=1395838693&ls=50)

なにか疑問があったら、スレを埋めるついでにどうぞ
ただ伏線に触れるものだったり、深く考えてなかったものは答えないかもしれないです……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月07日 (金) 01:34:15   ID: v78v8qZ_

死んでないよな?
まだうp主生きてるよな?

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