芳佳「イージス護衛艦『みらい』……?」 その2 (1000)

ストライクウィッチーズ×ジパングクロスのSSです
ベースはSW一期ですが、かなり改変されています
書き込みが1,2か月ない場合もありますが、たぶん生きてます

あと>>1はにわかミリオタです


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1395838693

前スレ
芳佳「イージス護衛艦『みらい』……?」
芳佳「イージス護衛艦『みらい』……?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi?bbs=news4ssnip&key=1342702050&ls=50)


ブリタニア ポーツマス海軍基地

密かに入港した扶桑の伊四〇〇。
そのドックで、積み荷の積み出し作業が行われていた。

船員「水密扉開放確認」

船員「格納庫ハッチ開け!」

船員「ハッチ開放確認! 作業かかれ!」

艦長「………」

滑走路を滑るように出てくるその「積み荷」
その積み荷を、艦橋から見つめる艦長。

副長「丁寧に扱えよ。 特一級品の扱うつもりでな」

船員「はっ!」


「積み荷」がクレーンでつり上げられる。

向けた先には、武装した歩兵と、2人の将校、さらに数人の技術者と騒々しい雰囲気。
さらにその後ろに、武装したトラックと装甲車の姿さえあった。

その将校の一人、トレヴァー・マロニー空軍大将が呟いた。

マロニー「とうとう届いたか」

副官「予定より1日遅れですが、あのネウロイの中よくやったほうでしょう」

マロニー「計画に支障がないならかまわん」

マロニー「予定通り、技術研究所へ運べ」

副官「了解」





水測長「副長、聞きました?」

副長「ああ、休暇の話なら聞いた」

副長「まァ、あれだけ長い間潜っていたんだ。 上もわかってくれたんだろう」

艦長「水測長は何か予定でもあるのか?」

水測長「扶桑だったら馴染みと飲んでもよかったんですがねぇ」

水測長「ブリタニアじゃなかなか……」

副長「艦長はどうなされるんです?」

艦長「そうだな。まぁまずは……」


艦長「ウマいもん食って、寝る」


数日後 海軍基地内

休暇の日。
やることもなかった艦長は、基地内をウロウロしていた。

そこに、声がかかる。

「こんなところで会うとは珍しいですね」

艦長「ン?」

振り向くと、そこには同じ扶桑海軍の人間。


草加「深町中佐、お久しぶりです」

深町「草加……お前もここにいたのか」


とある喫茶店

昔からの知己である二人は、再会を喜び近くにあった喫茶店に入った。

深町「駐在武官か……」

深町「お前も、出世しやがって」

草加「あなたは相変わらず、潜水艦のようですね」

草加「少し匂います」

元々軍人も多く立ち寄る故、あまり違和感の臭いではあったが、やはり臭うものだ。

深町「陸で風呂には入ったつもりなんだがな」スンスン

深町「やはり扶桑の風呂でないと取れん」


しばらくの談笑。
それから、互いの話になってくる。

深町「今回も、長い時間潜りながら荷物を運んできたんだがな」

深町「それが奇妙なもんで、どうも気に入らんのだ」

草加「奇妙なモノ?」

深町「中身はわからんが、航空機格納庫いっぱいいっぱいの荷物だ」

深町「移送作業も、妙な科学者連中が一緒の作業だ」

深町「タダもんじゃねぇことは確かだ」

草加「ふむ……」

なにやら考える草加。


深町「ところで、最近噂の奇妙な艦を見た」

草加「また奇妙か」

深町「こっちははっきりしてるがな」

深町「あの赤城を救い、ブリタニア艦の救助もした」

深町「あの英雄の艦だ」

草加「……!」

草加(まさか…「みらい」か!?)


草加「その艦側面には、182の番号がなかったか?」

深町「ン……ああ、たしかにあった」

深町「それでだ、最初はリベリオンかブリタニア艦かと思ったが、乗員は扶桑人だった」

草加「そうか、お前もそれを見たのか……」

深町「なんだ? 知ってるような口ぶりだがよ……」

草加が時々意味深な発言をするのを、深町はよく知っている。
また始まったなと軽く受け止めた後、深町は自分の紅茶を飲み干した。

以上、幕間の小話でした。

次話もできるだけ早く投下できるよう頑張ります

>>1を待つ間の妄想

~もしこのSSに他作品が紛れ込んだら?~

1.紺碧艦隊(『紺碧の艦隊』)
活動の場はあるが、見せ場は少なそう

2.旭日艦隊(『旭日の艦隊』)
みらい出現により既存艦隊が性能向上する可能性があり、優位性は長く保たなそう

3.霧の艦隊(『蒼き鋼のアルペジオ』)
ネウロイに間違えられそう

>>33

4.沈黙の艦隊

同じ「やまと」の名を持つ艦が2隻

>>34
宇宙戦艦ヤマトも混ぜて三隻にしよう

>>35

超弩級戦艦(大和)に、原子力潜水艦(独立国やまと)、宇宙戦艦(ヤマト)か……ネウロイ涙目www

ハルナ「しゅくたい 臨界・・・」
キリシマ「さっさと消えろ浮翌遊物が」
ネウズ「超~重~力~砲~( ゚д゚)」
ネウロイ終了のお知らせをいたします

もうやめて!ネウロイのライフはゼロよ!

草加が説教くさくなったりなど、いろいろ展開合わせに時間かかってしまいました
投下します


ブリタニア ポーツマス沖

「みらい」CIC

戦闘は終わり、改めて扶桑の艦隊が目的地へと向かう。
スクリーンに写る多数の光点は規則正しく陣を組んで北上していた。

青梅「前方10km、501基地を確認」

CIC員「周囲に未確認の機影艦影なし」

青梅「艦隊分かれます。「大和」以下3隻はこのまま501基地の海域へ」

青梅「その他は別の港へ向かうようです」

尾栗「流石に501にあれだけの軍艦は入らないからな」

角松「だが、旗艦だけでも入ろうとするのは……」

梅津「なにか、あるのだろう」


通信士「港より入港許可がおりました」

通信士「「大和」は沖合にて停泊、よって「みらい」が先行し、入港するようにとのこと」

角松「ほぅ……」

梅津「沖合に停泊か」

尾栗「サイズ的に見れば入らないこともないが、流石に作業するには人手が足りないか」

菊池「いや、そうではないかもしれん」

青梅「といいますと?」

菊池「元々ここに寄った理由が修理補給などではなく……」

菊池「人を運んできただけだとしたら」


CIC員「水深変わらず、両舷開きともに異常なし」

菊池「作業員は甲板へ集合、係留作業開始!」

ガチャ!ドタドタドタドタ!

甲板員「係留作業急げー」

作業員が展開し、「みらい」の係留作業が始まる。
艦橋に出ていた尾栗が、大和から何かが出てきているのを見つけた。

尾栗「ん? 短艇か」

沖に停泊している「大和」からやってきているのは、小さな短艇。
その中には、士官らしい人間が多数。

柳「全員は見えませんが、搭乗員の大半が佐官クラスです」

双眼鏡を覗いていた柳が報告する。

尾栗「扶桑艦隊代表のお出ましってわけだ」

やがて桟橋につき、続々と上がっていく扶桑士官たち。
ミーナと、同じく扶桑士官服の人物が出迎えていた。


501基地 港

杉田「長い旅路、お疲れ様です」

杉田「よく「大和」を守ってくれました」

出迎えに来ていた杉田が、短艇から上がってきた大野を出迎えた。

大野「ありがたいお言葉です」

大野「しかし、彼らの助けがなければ我々も危険でした」

そう振り返った先には「みらい」と、そこから降りてくる梅津と角松の姿。

杉田「ミーナ中佐、もしやあの方々が……」

ミーナ「はい、「みらい」の艦長と副艦長です」


梅津「お初にお目にかかります。海上自衛隊「みらい」艦長、梅津一等海佐です」

角松「同じく副長、角松二等海佐です」

杉田「扶桑皇国海軍大佐、杉田です」

大野「海軍中佐、大野です」


杉田「こうして実際にお会いするのは初めてですね。梅津一佐」

杉田「あの時、宮藤さんや坂本少佐とともに赤城を救っていただいたこと、感謝しています」

杉田が感謝を述べると、思い出したのか梅津がはっと顔をあげた。

梅津「赤城……ではあなたが」

杉田「はい、あの艦長は私です」

杉田「そして彼が大和の艦長です」

大野「先の航海、大変感謝いたします」

改めて大野が敬礼をした。

杉田「しかし、これで扶桑はあなたがに大きな借りが二つも、いえそれ以上にできました」

杉田「我々にできることがあれば、すぐにでも返せる用意があります」

梅津「は……」


大野「……それでは大佐、艦隊指揮権の移譲の方を」

大野「そして大和の指揮権を移譲します」

杉田「はい、確かに」

杉田「……これで、ようやく扶桑の戦力がそろいました」

ミーナ「大反攻作戦の時も近し……ということですね」

そう尋ねたミーナに、杉田は黙って頷き返した。

梅津「扶桑海軍の象徴であろう大和を出撃なさるとは、並大抵の作戦ではないようですな」

杉田「ええ、これは決戦です」

杉田「各国の海軍戦力、そしてウィッチによる大規模な攻撃作戦……」

杉田「現在も具体的な行動は決まっていませんが、各国がありとあらゆる戦力を結集させています」

角松「すべての国が、ですか」

杉田「そうです」

杉田「我々の敵、ネウロイを倒すために」


大野「しかし、杉田大佐」

大野「本来ならば武蔵も投入すべきかと思われるのですが……」

惜しげに言う大野を杉田

杉田「それは仕方があるまい。扶桑に出現が確認された以上、本国をおろそかにするわけにもいかん」

その言葉に、梅津と角松が反応した。

梅津「扶桑にもネウロイがいるのですか?」

杉田「……実は、奇妙な事件がありましてな」

大野「よろしいのですか? 話しても」

杉田「十二分に信頼できる相手、そのうえ501に協力している立場となればなおさらだ」

角松「………」

杉田「未だに本国では箝口令の敷かれている話ですが」

杉田「約一か月ほど前のことです……」


ブリタニア 喫茶店

深町「扶桑にネウロイだと!?」

草加「緘口令はまだ生きています。そう大きく声に出さないでほしい」

深町「………」

深町「扶桑海異変以来の大騒ぎ――にはなっていないようだが」

草加「特に危害もないただの事件で誤魔化すことのできた程度だ」

深町「報道管制ってやつか」

草加「『横須賀沖に突然現れた幽霊軍艦。実態はリベリオンの除籍軍艦』」

深町「で、本当はどうなんだ?」

草加「実際のところ、ここまでは事実だ」

深町「ん? なんだそりゃァ」

深町「ネウロイがでてこねぇじゃんか」

深町が口をへの字に曲げ、疑問を露わにした。


501基地 坂本個室

シャーリー「未確認艦にネウロイの痕跡があった!?」

芳佳「あの日の新聞って、そういうことだったんですか」

同時刻、坂本の部屋に呼び出された宮藤とシャーリーに告げられたのがこの事実だった。

坂本「太平洋側にネウロイが出現するのは極稀……」

坂本「それも主戦場とは海の隔たりがあるというという絶対的な確信があった」

坂本「それだけに、扶桑とリベリオン両国においては報道管制で不安を煽らないよう措置をとった」

シャーリー「なるほどねぇ」

坂本「そしてより詳しい事情を知るために呼んだ」

視線を、部屋の隅にいた土方に目を向けた。

坂本「土方、説明を頼む」

土方「はっ」


土方「事件の始まりは当日早朝、憲兵が地元漁村の住人より不審船の通報を受けました」


事件当日の扶桑。

慌てた様子で駆け込んできたその住人は、自分の遭遇した軍艦のことを話した。
見たこともない形の上、近づいても何の反応もなくやけに静かだったという。

土方『この通報を受け哨戒機が偵察に出たところ、通報通り不審な軍艦が一隻漂っているのを確認、報告』

機上で、洋上にポツンと浮いている軍艦を指さす無線士。
奇妙なことにボイラーは始動していないようで、黒煙も出ていない。

土方『第二水雷戦隊の「五月雨」「春雨」の二隻が急行』

土方『「春雨」に同乗していた海軍陸戦隊により強行制圧が展開されました』

不明艦の左舷ギリギリにまで近づき、素早く乗り込む陸戦隊隊員たち。
次々と艦内へ押し入っていく。

艦橋、士官室、食堂、機関室、主倉庫、あらゆる場所が開放され兵士がなだれ込んだ。

土方『しかしその艦内には』

土方『誰一人としていませんでした』

艦内を隅々探す隊員であったが、誰一人見つかることはなかった。


※海軍陸戦隊:武装した海軍水兵。

          元々は臨検などを行うための応急的な戦力であったが、
          時を経て砲や戦車、陸上部隊を持つなどの汎用即応部隊となることもあった。


芳佳「誰もいないって……やっぱり流れてきたんですか?」

土方「火が入ってないことや乗員のいない状況からすれば、確かにそう考えることもできますが」

土方「リベリアン本土から離れているハワイでさえ約6700km以上離れており、哨戒網にかからず移動するのは考えにくいです」

土方「調査していくうちに、奇妙なものが見つかりました」

そういってそして土方が取り出したのは数枚の写真。
中央には、何かが溶けて固まったようなものが写っていた。

坂本「これは……」

シャーリー「艦のボイラーですね。それもウチ(リベリオン)の」

シャーリー「しかしこのドロドロしたのは何だ? 装甲が高熱でとけたわけじゃないようだけど」

土方「それに関してはよくわからないのですが」

土方「これを見てください」

そのうちの一枚が差し出された。
ボイラーの一部が拡大されたものであったが、ところどころ見覚えのある模様に変化していた。

黒地に広がっている網目のような。

芳佳「あれっ、この六面体模様って」


坂本「典型的な、ネウロイの表面だ……!」


土方「それ以外にも」

さらにもう一枚。
今度は床に散らばった破片のようなもの。

土方「後に分析してわかりましたが、これはネウロイの破片」

土方「コアが破壊された際に飛び散る、あの破片のようです」

シャーリー「………」

土方「ウィッチを交えた部隊を派遣、続けて捜索しましたが、コアとなるものは見つかりませんでした」

他にも艦内中の写真が広げられる。

土方「なお、リベリオン政府に確認をとったところ……」

土方「その該当艦「エルドリッジ」はすでに除籍済みで、標的艦としてブリタニアへ引き渡してある艦であり」

土方「ブリタニアの回答としては、すでに沈没済みであるとのことです」

坂本「沈没したはずの軍艦、か」

芳佳「ほ……本当に幽霊船……?」


土方「ネウロイの扶桑領内侵入を危惧した上層部は即時撃沈を下命」

土方「工作部隊が艦内に徹底した爆破処理を施した後」

土方「駆逐艦二隻の砲雷撃により、完全に 破壊 されました」

写真を見ると、沈没ではなかった。
砲撃の際に艦内各所に設置した爆発物が誘爆し、そのまま艦橋構造物が吹っ飛んでいる。
その姿に誰も言葉を出せなかった。

坂本「これでひとまずは片が付いた……わけでもないようだな」

土方「はい」

土方「戦艦「大和」以下第二次遣欧艦隊の出航直後の出来事だったこともあり、海軍省、大本営は大慌てです」

土方「皇国海軍は、現在扶桑に停泊しているすべての軍艦をかき集めています」

土方「大和型戦艦二番艦「武蔵」を旗艦とした主力艦隊を再編成」

土方「再び大陸・太平洋両方面の対ネウロイ警戒を強めるとのことです」


坂本「……ご苦労だ、土方」

土方「はっ」


シャーリー「消えたはずの船」

シャーリー「もしくは存在しないはずの船とも言えますが」

シャーリー「……なーんかにたようなのに覚えありません?」

シャーリーがカーテンをめくり、外を見る。

坂本「「みらい」か」

坂本「……そういえば、土方は見るの初めてだったか」

土方「ええ、ネウロイ遭遇時に」

土方「事実は現実より奇なりとはよく言ったものです……」


坂本「しかし「みらい」には乗組員がいて、しっかり動いている」

坂本「例えネウロイに汚染されてればコアが現れ、我々ウィッチが気付くだろうし」

坂本「破片であったって、細かく点検するはずの乗員が見つけるはず」

坂本「流石にこれが関連しているというのは無理があると思うが」

シャーリー「まぁこじつけですけどね」


ペリーヌ『坂本少佐、聞こえますか?』

耳のインカムに連絡が入る。

坂本「こちら坂本。感度良好」

ペリーヌ『ミーナ中佐が戻ってくるようですわ』

坂本「わかった」

坂本(箝口令が出されている以上、下手に話すわけにはいかない)

坂本(用心には用心を重ねないとな……)

無線を切り、部屋から出る一同。
その部屋の前では、ペリーヌが双眼鏡で外を覗いている。

坂本「悪いな。見張りのようなことをさせて」

その声に気付いてペリーヌが勢いよく振り向いた。

ペリーヌ「いえ、他ならぬ坂本少佐のお願いですから!」

坂本「ありがとう、ペリーヌ」

ペリーヌ「はいっ!」

ペリーヌ(まぁ坂本少佐のお願いということもあるのですが)

ペリーヌ(シャーリー大尉がいるとはいえ、ここまで警戒してあの豆狸と二人っきりなんて心配でたまりませんわ!)


大野「杉田大佐、そろそろ……」

杉田「む、時間だな……」

梅津「この後何か?」

杉田「ええ、少々込み入った話と……」

手元に抱えていた箱を掲げた。

杉田「実は宮藤さんにお土産がありまして、同時にお礼を言いに行こうかと」

それが赤城乗組員による選定だったことなどの話をすると、間をおいてつづけた。

杉田「……梅津一佐、角松二佐」

杉田「あなた方のおかげで、決戦を前にして、大和そして優秀な乗組員を失わずにすみました」

杉田「今一度、お礼申しあげます」

梅津「我々は、我々にできることをしただけです」


杉田「……実のところを言えば、「みらい」にも大反攻作戦に参加していだたきたいのですが」

杉田「あなた方にはいろいろな事情があることでしょう。 我々から無理強いはできません」

杉田「ですが願わくば、もう一度あなた方と共に戦えることを」

杉田「それでは、失礼します」

杉田と大野が敬礼し、その場を去って行った。






翌日 「みらい」甲板

補給作業をせっせと行う「みらい」。

隊員A「こっちの箱はなんだ?」

隊員B「えーっと、コーヒーです。 その隣が紅茶」

隊員A「コーヒーに紅茶っと……」

上甲板から尾栗がその様子を眺めていた。

尾栗(食料も燃料も、困ってはいない)

尾栗(この安定さがどこまで続くもんか……)

時折501の作業員が手伝ってくるようになるほどに、この補給作業は恒例行事のような存在になっていた。
こうして甲板から眺めることの多い尾栗も、一部の手伝い隊員の顔を覚えてしまうほどに。

尾栗(……ん?)

見たことある面影がいた。
普通の作業員ではない。だが、どこかで出会った。

尾栗(誰だったか……)

必死に思い出しいていると、その男はわずかにこちらをチラ見した。

尾栗(!)


やがてその男は作業をすることなく立ち去って行ってしまう。

尾栗(なんだ、今の……)

その時、下から声がかかった。

隊員A「航海長、来客が来てます!」

尾栗「来客? 誰だ?」

草加「………」スッ

その隊員の隣にいたのは、草加少佐であった。
しかしそんな予定は入っていない。

尾栗(草加少佐?)

尾栗「とりあえず艦長室に通すよう言ってくる」


隊員A「それが、副長に用があると……」


「みらい」 士官食堂

話を聞いた角松は、そのまま草加を士官食堂へと通した。

草加「突然の訪問、お許し願いたい」

角松「……それでどういったご用件で?」

草加「一つ、お話をしておきたいことがあります」

角松「話?」

草加「後日改めて知らされると思われますが」

草加「ブリタニアのトレヴァー・マロニー空軍大将、近々面会を希望なさる予定です」

角松「!?」

ブリタニア空軍大将。 ストライクウィッチーズを従えている人物でもある。
その人物が面会を求めるというか。

角松「そのような件であれば艦長に伝えるべきかと思われるが……」

草加「私が来たのは、伝令としてこの話をするためではない」

草加「もう一つ、話が」


草加「予測される面会内容としては、二つ」

草加「一つは、「みらい」大反攻作戦への参加」

ここまでは角松の想定していた範囲であった。
気になったのは、次の言葉である。

草加「そしてもう一つ―――」

草加「「みらい」の連合軍もしくはブリタニア軍への編入」

角松「我々の、編入!?」

草加「ええ」


角松「……編入とは、連合軍もしくはブリタニアの指揮下に入ると?」

草加「作戦参加の話を持ちかけるというのならば、彼はこの期を逃す人物ではない」


草加「元々あなた方は、この世界において異質な存在……」

草加「属するべき国は別のところにあり、この世界ではない」

草加「この世界の特定の国に付くことを良しとしないあなた方は、『協力者』という立場をとった」

草加「各国のウィッチが集まっているこの第501戦闘航空団……」

草加「一国のみに協力ではなく、この世界全体に協力することを示すのに非常に適した場所だ」

先から、角松は草加の話に妙な違和感を感じていた。
この男、何のつもりか。

草加「我々にしても、あなた方にしても、特定の場所に属するというのはよいものではない」


草加「そうは思わないか? 角 松 さ ん?」

角松「!」

草加「今回は皇国海軍少佐としてでなく」

草加「ただ草加拓海個人として、話をしたい」





ブリタニア 扶桑海軍駐屯地

水兵A「草加少佐ですか? 今日は見てませんね」

水兵B「誰か知ってるか?」

水兵C「確か501の方へ行くと言ってた気がします」

深町「501だと?」

未だに休暇である深町は、消化不良のまま終わったあの話を聞こうと草加を捜していた。
喫茶店でのんびり話していた以上はてっきり同じく休暇のようなものかと思えば、どうでもなかったようだ。

水兵C「ここだけの話ですが……」

水兵C「どうやら草加少佐、あの未知の兵器を使う不明艦の担当になっているようで」

水兵C「津田大尉と一緒に目まぐるしくあっちこっち走り回ってますよ」

深町「ヤロ……何考えてやがる……」

何を考えているのかわかりにくい奴が、どんな行動を始めたのか……。
面倒なことになりそうだ、と深町は思った。


ブリタニア ポーツマス 技術研究所

ウルスラ「………」カチャカチャ

このポーツマスの一角にある軍の研究所に、ウルスラ・ハルトマンがいた。
ノイエ・カールスラントから前線近くブリタニアに飛ばされたと思いきや、こちらで新兵器の開発を続けろとのことであった。

ウルスラ「……あ、こっち」カチ

予算や資材が増えたとはいえ、機器の勝手が違うためちょっと不満を覚えていたりもする。
勝手に試作品が運ばれた時など、壊れやしないかヒヤリとした。

ウルスラ「魔力供給パイプはここ」

ウルスラ「となると補助用アルコールタンク増設は不可……」

疲れた頭で考えてもなかなかはかどらず、一息ついた。

ウルスラ「ふぅ……」

そこに同僚の技術者ウィッチがやってきた。

技術員A「ハルトマン中尉、テストタイプX-11のデータ収集、完了しました」

ウルスラ「お疲れ様です。どうでしたか?」


技術員B「想定以上の数値です。従来の数倍を超えます!」

そう興奮気味言いつつ、レポートを手渡した。

技術員B「ストライカー本体の方はどうですか?」

ウルスラ「最終試験モデルは、ほぼ組み終わりました」

ウルスラ「収集データを基に再調整すれば、稼働もできます」

技術員A「試験飛行はどうしましょう?」

ウルスラ「できれば実践飛行同様の形をとりたいですが……」

そこにまた別の技術者が現れた。

技術員C「ハルトマン中尉、お手紙が届いてますよー」

技術員C「妹さんからです」

渡された紙には、確かに姉のエーリカの字が書かれている。
しばらく中身を読むと、自室へ戻って行ってしまった。

技術員A「あれ?ハルトマン中尉?」

技術員B「中尉~! 実験はどうするんですかー!?」

困り果てた外の二人をよそに、ウルスラは自室で何やら数式と設計図を書き始めたのであった。


501基地 食堂

リーネ「芳佳ちゃん、ニンジン切り終わったよー」

芳佳「うん、ありがとうリーネちゃん。 こっちももうすぐ切り終わるから」

リーネと料理を作りながら、宮藤は昨日の話を思い返していた。
少しばかり扶桑の事が心配になる。

芳佳(大丈夫……だよね?)


エーリカ「ミーヤフジッ! リーネッ!」ガバッ

芳佳「ひゃっ!?」

芳佳「は、ハルトマンさん!?」

リーネ「あ、ハルトマン中尉」

突然後ろから抱きつくエーリカ。

エーリカ「……うん?どったの宮藤?」

そのまま腕を宮藤の首に回してほっぺを突っつく。

エーリカ「何に悩んでるかわからないけど」

エーリカ「元気にしてないとおいしい料理できないぞぉ~」プニプニ

芳佳「く、くしゅぐったいでしゅ……」


エーリカ「おっ、今日はカレー?」

芳佳「はい」

鍋いっぱいに放り込まれた材料とカレースパイスの香りで見事に察知した。

リーネ「実は前、「みらい」の人にカレーのレシピを教えてもらったんです」

エーリカ「おー、じゃあこれはさしずめ「みらいカレー」なんだ」

芳佳「次はジャガイモを用意して……」

エーリカ「イモ!?」

芳佳「はい、入れちゃいますよー」

リーネ「……あっ、芳佳ちゃん! ここのイモ切らしてた!」

エーリカ「えっ、じゃあイモなし!?」

芳佳「大丈夫ですよ、別のところに保存してますから」

そういって隣の部屋のドアを開ける。

芳佳「確かこの辺に―――」


ガサ……

芳佳「?」

宮藤が何かが動いた音に気付いた。

芳佳「な、なにかいる……?」

リーネ「えっ?」

芳佳「り、リーネちゃん、今何か音がしなかった?」

照明のスイッチはどこだったか。
外の光もあまり入らない少しばかり薄暗いこの部屋では、十分すぎるほど無気味であった。

エーリカ「………」

エーリカは冷静に辺りを見渡し、ある一点に狙いをつけた。

エーリカ「――そこだぁーっ!」


ルッキーニ「に゙ゃーっ!」

積んである食料の隙間に飛びかかるや否や、叫び声とともにルッキーニが飛び出してきた。

リーネ「ひゃあっ!」

芳佳「ルッキーニちゃん!?」

ルッキーニ「だ、脱出!」ダッ!

脱兎のごとく逃げ出すルッキーニ。
その口にはたまらずつまみ食いしたらしい跡が。

芳佳「ま、まってー!」

追いかけるも、ドアを一つだけはさんだだけなのにもかかわらずルッキーニの姿は消えていた。

芳佳「あ、あれ?」

エーリカ「無理だよミヤフジー。ココでルッキーニを捕まえようだなんて」

芳佳「確かにルッキーニちゃんは早いですね……」

エーリカ「この基地はルッキーニの庭みたいなもんだからね」

エーリカ「いろんな抜け道を知ってるんだと思うよー」

芳佳「抜け道?」

リーネ「ここは元々昔のお城で、それを改築したものだからあってもおかしくないと思うな」

芳佳「へぇー」

エーリカ「そうそう、案外すぐ近くにあったりするのかもね」

ちらり、とエーリカが視線を向けた先には、乱雑に隠された木の板があった。


その後、つまみ食いがばれたルッキーニがシャーリーにちょっぴり叱られたとかそうでないとか。






数日後 ブリタニア

正式な連絡を受け、梅津と角松がマロニーの元へ出向いた。
だがそこに各国将官の姿はなく、ただマロニーとその副官一人だけであった。

手早く互いの紹介を済ませ、話はさっそく本題へと入る。

マロニー「今回あなたがたをお呼びしたのは他でもない」

マロニー「大反攻作戦における共同戦線をより最大限に行うため、「みらい」には」

マロニー「人類連合軍として、我がブリタニア軍揮下へと入っていただきたい」

角松「………」

マロニー「今の所属が明確でいない状態は、とても好ましくないのだ」

草加の予想通りである。
やはり彼は、この提案をするために招集したのか。

梅津「マロニー大将殿」

梅津「残念ですが、我々「みらい」はそれを受け入れることができません」

梅津「帰る国がわからないとはいえ、依然として我々の所属は日本なのです」

梅津「指令なく他国の指揮下に入ることはできません」


マロニー「梅津一佐、我々も軍人だ」

マロニー「所属する国、指揮系統の大切さは重々承知している」

マロニー「だがこれから発動される大反攻作戦には、ぜひあなた方の力を借りたい」

マロニー「そのためには、綿密な連携を取るためには、どうしてもあなた方にこの世界の軍の指揮下に入ってほしいのだ」

マロニー「そうしなければ君らの補給も厳しいものになる」

角松「………」

やはりそうくるか、と角松は思った。
「みらい」相手に生命線を断つ要求というのは、一番きく脅しだろう。

梅津「それでも、我々は日本の海上自衛隊なのです」

マロニー「………」

ここまで意地でも貫き通すのは、まさに無理矢理平行線に乗せる感覚である。
しかし、向こうも早々に切り捨てるような発言もない。

梅津(あくまで味方意識のある以上は安易に発言できない、か……)

内心冷や汗をかきながら梅津が考える。


マロニーもそれを感じ取ったのか、しばしの間が開く。
頃合いを見て、角松が梅津に目配せ、そして切り出した。

角松「では、我々より代案があります」

マロニー「代案?」

妥協案か、と予想するマロニー。

角松「我々としては、例え傘下に入らずとも大反攻作戦に参加する用意があります」

角松「しかしそれができないというのなら、他の協力手段を提供したい」

マロニー「ふむ、それは?」


角松「我々「みらい」の、我々の時代の技術の一部を」

角松「―――ミサイル兵器を、そのサンプルとして譲渡します」

マロニー「!?」

かつて草加から技術協力は得られないと聞いていた分、衝撃的な言葉であった。






数日前 「みらい」 士官食堂


「「みらい」部隊編入の拒否!?」

長い時間話込んだ末、草加は帰った。
夕食後、梅津、角松、菊池、尾栗が集合し話し合いが行われていた。

そして今しがた、草加が話してきたことを伝え終わったところであった。


尾栗「おいおい、待てよ」

尾栗「それじゃァ、俺たちは大反攻作戦とやらに参加せず指をくわえてみてるだけっていうのか!?」

角松「いや、今まで通りの立場を維持しながらの参加を試みる」

尾栗「そんな都合のいいことできるのか?」

梅津「ふむ……」


尾栗「だがよ、何故草加少佐はそのようなことを俺たちに持ちかけてきたんだ?」

尾栗「この時代にとって有益なことを否定しにくるってぇのは……」


菊池「人類――連合軍も一枚岩ではないということですね」

先ほどまで黙っていた菊池が口を開いた。

菊池「いくら一つの目的を共有しようとも、所詮人間は人間」

菊池「事の先を見据え、他者と違う結果になってしまえば、衝突するようになるのも当然だ」

尾栗「人間の嵯峨、か」

こんな時にもとは嫌になるな、と吐き捨てながら背もたれに思いっきりかける。

菊池「その者達の思惑の中に、「みらい」が含まれているということですね?」

角松「ああ」


角松「ブリタニア空軍大将、トレヴァー・マロニーは「みらい」を利用するつもりだそうだ」

梅津「………」


菊池「トレヴァー・マロニー……」

梅津「ブリタニア空軍の統括者にして、501の責任者か」

角松「どうやら、彼はウィッチを思っていない」

角松「現に、時折501の活動に対して妙な圧力をかけ」

角松「そして人間によるネウロイ撃破を主軸に考えているという噂もあるようだ」

尾栗「ウィッチに頼らざるを得ない時に……」

菊池「だからこそ、じゃないか?」

菊池「ウィッチの台頭を崩す為、この「みらい」を欲している、と」

角松「そう草加は予測している」


角松「正式な通達は明日……」

角松「会見の日時はそれから数日以内には入るようです」

尾栗「やけに早いな」

菊池「焦っているのかもな」

菊池「扶桑艦隊の到着、大反攻作戦の準備が整い始めている」

菊池「「みらい」を取り込む理由に一番いいのがこの作戦だ」

角松「………」

草加同様の予想。
菊池の冷静な分析はかなり的確であった。

尾栗「だが状況がわかったところで、どう手を打つ?」

尾栗「補給も港も、この世界に頼りっぱなしのいわば『居候』だ」

菊池「ある程度協力していることで相殺しているとはいえ、変わらずとも我々は特殊な立ち位置だ」

菊池「カードは、依然として向こうにある」


角松「その手についてだが」

角松「逆にこちらから交渉を持ちかけるというのはどうだ」

尾栗「交渉?」

角松「こちらが編入を拒否する、つまり協力を拒否すると取られるのなら」

角松「それ以上に価値のあるものを提供する」

菊池「代替案か」

尾栗「しかし、代わりになるものって何があるんだ?」

角松「………」

その問いかけに、角松が静かに答える。


角松「……技術だ」


菊池「!?」

尾栗「技術って……お前!」

角松「彼らの狙いがウィッチ勢力以外の力を欲しているというのなら」

角松「我々が指揮下に入るという代わりに」

角松「この「みらい」の使っている技術もしくは兵器についての情報をこちらから進んで与える」

角松「技術者側としては戦力としての「みらい」よりも、自分たちで使える可能性のある技術を求めるはずだ」

これも草加の提案である。

だが、元々このようなことに好意的ではなかった菊池が反論する。

菊池「わかっているのか洋介」

菊池「向こうに渡したシステムは、我々の手を離れる」

菊池「この世界で手に入るはずのない技術がこの世界にどのような影響をもたらすか」

菊池「下手をすれば世界の技術、軍事バランスが崩れてしまう!」


尾栗「だが菊池、渡す情報はこちらで取捨選択可能」

尾栗「ある程度検閲し、場合によっては機能中枢を破壊して流せば、そんなことには……」

菊池「その侮りが足元をすくうんだ!」

梅津「落ち着きたまえ砲雷長」

珍しく声を上げている菊池をなだめる梅津。

梅津「言う通り、これは軽々しく決められるものではない」


梅津「……副長、我々「みらい」がマロニー大将個人の手に収められようとしているのは確かなのかな?」

角松「草加の話を聞く限りですが、ズレもなく信憑性も高いです」

角松「マロニー大将が反ウィッチの兆しがあることは、501から少なからずとも確認が取れました」

梅津「フム……」


しばし梅津が考えた後、口を開いた。

梅津「よかろう」

「!」

梅津「向こうが先の事柄を要求してきた場合、技術提供を以って交渉する」

梅津「あくまで悪い事態に備えて、だ。状況により判断する」

菊池「………」

梅津「そして提供する技術についてだが……」

梅津「砲雷長に選別を頼みたい」

菊池「事態を懸念している私が一番適任……というわけですか」

梅津「君の言うことも一理ある」

梅津「だからこそ、だ。頼めるか?」

菊池「は、了解しました」


梅津「時に副長」

話も終わりそれぞれが持ち場へ戻ろうとした時、梅津が声をかける。

角松「は?」

梅津「君は草加少佐をどれだけ信用しているのかな?」

梅津「いや、少佐としてではなく彼個人としてとでも言おうか」

角松「個人としての信用、ですか?」

梅津「うむ」

角松「………」

角松にはよくわからない問いかけであった。
公私を分けた場合?

梅津「……先から、君が彼の事を「少佐」ではなく「草加」と呼ぶことが多くてな」

梅津「君は、思ったより草加少佐を信頼しているのかもな」

そういえば、と尾栗と菊池が思い当った。






会談の翌日 501基地

501整備員「オーライ!オーライ!」

大きなコンテナがトラックに積み込まれ、基地にやってきた。
そしてウィッチが、「みらい」の一部乗員がそこに集まっていた。

エーリカ「あ、ウルスラ」

ウルスラ「こんにちは、姉様」

コンテナの後ろから現れたのはウルスラ。

ミーナ「今回、新型ストライカーの実用試験を行いたいということなの」

ミーナ「中身、出してもいいかしら?」

ウルスラ「はい」

そう言って二人がコンテナに手をかけた。

ゲルト「ほぅ」

シャーリー「おおっ!」


出てきたのは、従来のストライカーとは違うタイプ。
魔力プロペラが出現する場所がなく、代わりに先っぽに穴が開いてある。

ウルスラ「試作型ジェットストライカー『Me262』です」


ミーナ「速度は従来のストライカーユニットの数倍」

ミーナ「理論上は音速を超えることも可能だそうよ」

シャーリー「音速!」

速さを求めるシャーリーが聞き逃すはずのない言葉であった。

ミーナ「さらに専用の兵装もあるみたい」

ミーナ「50mmカノン砲1門、30mm機関砲4門……」

ミーナ「まさに空中要塞ね」

その仕様書に一瞬目を離していた間の事であった。

シャーリー「あれには私が乗る!」

ゲルト「何を言っている。カールスラント軍所属の私が乗る!」

坂本「また始まった……」


そんな光景をよそに、ウルスラが角松達のほうを向いた。

ウルスラ「それと「みらい」から技術提供を受けるように言われたのですが」

表情が少ないながらも、目を輝かせるウルスラ。

尾栗「あれ? それウルスラちゃんのことだったのか」


「一応、担当者は私ですが」

尾栗が問いかけたとき、後ろから声がかかった。

角松「!」

振りかえれば、見慣れた海軍士官服。

菊池「やはりあなたでしたか、草加少佐」

草加「上はあまり関係者を増やしたくないようです」

草加「「みらい」に接触する人員もかなり制限されており、基本的に私か津田大尉を通すように、と」

草加「もっとも、あなた方の活動で様々な噂となり、知れ渡っているようですが」

角松「………」


ウルスラ「それで、品物の方は?」

商売人のような口調でウルスラが尋ねてきた。

尾栗「今作業をしていてな。もう少し待っててくれ」

親指で指した先の「みらい」では、前甲板の方で何やら忙しくやっているようだった。
それを興味津々に眺めるウルスラ。

ウルスラ「……前甲板にクレーン?」

作業中の場所に見慣れない構造物がいつの間にか立っていた。
見るに自走式のようなものでもない。

尾栗「ああ、あのクレーンで作業をしているんだ」

尾栗「なんなら見るか?」

その言葉にウルスラが反応した。

ウルスラ「はい、ぜひ」

菊池「………」


「みらい」 前甲板VLS

前甲板VLS上に、1つのクレーンがいつの間にかあらわれていた。
普通はお目にかかることはない。

隊員A「オーライ!オーライ!」

隊員B「よーし、発射機開け! 間違えて発射すんなよー!」

VLSの1セルが開き、そこにクレーンのフックが垂らされる。

隊員A「切断よし、懸吊よし!」

隊員C「よし、引き揚げろー!」

ガガガガガ、というモーター音とともに、ミサイルを格納しているボックス(キャニスター)が引き上げられる。


尾栗「お、やってるな」

米倉「あ、航海長!」

尾栗「どれくらいで終わりそうだ?」

米倉「この作業はあと10分ほどあれば完了すると思われます」

米倉「その後、基地格納庫を借りて分解・ミサイル本体を取り出す予定です」


米倉「しかし、まさかこのクレーンを使う日が来るとは思わなかったです」

米倉「洋上補給なんてしないと思っていたんですが、こう使うとは」

尾栗「俺もだ」

二人してクレーンを見上げる。

草加「このクレーンは?」

尾栗「これは元々補給艦からミサイルを受け取る用のクレーン」

尾栗「最も実用性に難ありで、後継艦からはなくされてしまった代物なんだが……」

尾栗「お、なんだ、メモ取ってるのか。マメだな」

ウルスラ「はい」カキカキ


隊員A「よーし、ゆっくり降ろせー!」

引き抜かれたキャニスターが、桟橋で待機中のトラックに乗せられる。

隊員B「フックはずせー! クレーン収納用意!」


※VLS用クレーン:再補給用にVLSに設置してあるクレーン。普段はVLSの内3セルの中に格納されている。
            しかし洋上における再補給の実用性に疑問点が出たためか廃止、ミサイルセルが増やされた。
            原作「みらい」には設置されている模様。


やがて格納庫で解体作業が始まる。
ミサイル部分がキャニスターから引きずり出された。

ウルスラ「これは……」

菊池「VLA、アスロック対潜ミサイルだ」

菊池「弾頭として魚雷を内包し、遠距離の潜水艦へ素早く攻撃できるようつくられた」

草加「魚雷をロケットで飛ばすようなものか」

菊池「簡単に言えばそうです」

ウルスラ「なるほど」カキカキ

考えたな、と尾栗は思った。

尾栗(基本的にネウロイは対空目標)

尾栗(水中に現れない以上、対潜兵器の必要は薄い。これなら「みらい」戦力の削減にはつながらない)

尾栗(さらに誘導機能も備えているとはいえ、短SAMやスタンダードに比べればオマケ程度……実質撃ちっぱなしのロケットに近い)

尾栗(仮に、万が一解析されてもそこまで脅威にはならずに済む)


菊池「それと、これもあります」


いつの間にか横に並べられていたのは、1つのコンテナ。
中を開けると、ロケットランチャーのようなもの。

菊池「91式携帯地対空誘導弾、通称ハンドアロー」

尾栗「陸自支援用物資として積み込まれていたやつか」

菊池「赤外線誘導式の携帯ミサイルで、射程は約5km」

菊池「発射機1つと弾頭3つ供与します」

ある意味ウィッチに渡した方が有用なのかもしれないな、と菊池が一人つぶやいた。
確かに、洋上艦から撃つ機会などあるだろうか。


これらの兵器群には、ウルスラだけではなく他のウィッチ、果てまでは整備兵も関心を示していた。

ペリーヌ「照準以外にも……これはアンテナですの?」

なんの意味があるんでしょう、と考え込むペリーヌ。

エーリカ「よっと!」

エーリカがハンドアローを抱え、構えポーズをとった。


※91式携帯地対空誘導弾:スティンガーの後継機として日本で開発された携帯対空ミサイル。
                 赤外線に反応し、熱源を追尾する。最新型には画像追尾機能もあるとか。
                 陸上自衛隊に部隊兵装として、空・海にも基地防衛として配備されている。しかし艦載されているという話は聞かない。
                 「みらい」に搭載されていたのは、サジタリウス時に使用した対戦車砲と同じく陸自支援用か?


ウルスラ「見返りというわけではありませんが」

ウルスラ「私からも一つ提案があります」

尾栗「うん? なんだ?」

ウルスラ「実は姉様から、「みらい」の方でIFFについて困っていると聞きました」

菊池「!」

尾栗「まさか、なんとかなるのか?」

ウルスラ「機器の互換性も望めない以上、現状では仮設の段階ですが……」

そういって彼女がつけていたインカムを外す。

ウルスラ「これはウィッチの使用するインカムです」

ウルスラ「通常と異なっており、電気ではなく魔力を使って電波交信を可能にしてあります」

菊池「それでバッテリーなどの外部機器が不要だったわけだ」

渡されたインカムを興味津々に眺める。
正直な話、魔力が何処から入るのかすらわからなかったが。

ウルスラ「これを応用し……」カキカキ

ウルスラ「各ウィッチのストライカーに同様の無線電波発信機を装着」


手の平サイズながらも、丁寧なスケッチを伴った解説を書き込んでいく。
ストライカーに書き込まれた発信機は、インカムを一回り程度大きくしただけのもの。運用に支障が出るものではないらしい。

ウルスラ「「みらい」のレーダー波を感知し、個体ごとに異なった値を返すことで一種の目印にします」

尾栗「原理はIFFと同じだな」

ウルスラ「単純な電波発信なら特に魔力消耗もしません」

ウルスラ「特に暗号化の必要もないので傍受自体は簡単と思われます」

ウルスラ「後は電波発信源をマークしレーダースクリーンに投影すれば、少なくとも個体識別くらいは可能かと」

ウルスラ「「みらい」の電波処理能力がわからない以上は仮説に過ぎませんが」

尾栗「どうだ菊池、これ行けるんじゃないか?」

菊池がメモとインカムを見ながら考える。

菊池「確かに……」

菊池「本艦に新しい機器を増設する必要もなく、戦闘を妨げることもないようだ」

菊池「あとで青梅一曹や各部署に相談してみよう」

菊池「可能な場合は協力を頼みたいが……」

ウルスラ「私は実験でしばらく501にお世話になる予定ですので、その時は……」


話が進んでいる双方をよそに、角松と草加は一歩離れたところで見ていた。

草加「やはり、未来の技術というのは果てしないものだ」

並んでいた草加が言った。

草加「この携帯ミサイル一つ取ってみても、我々の想像しがたい技術が詰め込まれているのだろう」

草加「ゆえにあなた方は、この世界から一歩、常に隔たりを保っていなければならない」

草加「特に、一国に偏ってしまえば事は大きく傾く……」

角松「………」

草加「私の助言が役立ったのかどうかは別に、双方に良い結果となったのではないかな?」

角松「さて、どうだか……」

角松なりに皮肉、嫌味を込めた返答だった。
まさに彼の言うとおりになった、いいようにされたという感があったからだ。

角松「一つ聞きたい」

それを踏まえ、角松が口を開いた。


角松「何故、俺だった?」

草加「……あなたはまだ迷っている人間であったから」






角松・草加会談時

草加「……この話を聞き、どう取るかはあなた方が決めることだ」

草加「それでは、失礼する」

そう言って席を立とうとする草加。

角松「草加少佐、一つお聞きしたい」

角松「なぜ艦長ではなく私に?」

帽子をかぶり、草加がその問いに答える。

草加「……私はこの艦の乗員を見て思った」

草加「以前、あなたは『人々を救う』ということがあなたのするべきことだと言ったが」

草加「彼ら皆その確固たる志を同じくしながら、各々この世界に対して評価を持っている」

草加「菊池三佐は過度な接触を避け、そのままであるべきと」

草加「尾栗三佐は積極的な交流をし、共に協力を惜しむべきでないと」


草加「だがあなたは違った」

草加「だが、この世界にどう接するべきか、どういるべきか」

草加「この世界に対する判断を留めていない」

草加「あなたの掲げた人命救助の理念において、この世界でどう関わる? どこまで関わる?」

角松「………」

草加「決定とは、迷うものが行うものだ」

草加「素直に言えば我々もあなた方の技術をいただき、ネウロイの撃退に役立てたい」

草加「だがあなた方は道具ではない。一人一人、我々同様人間だ」

草加「だから、我々もあなた方を尊重したい」

草加「角松さん。この話を一人捨てるのも、全員で拾うのも、あなたの自由だ」

どこまで本音でどこまでが上っ面なのか。
腹を割って話そう、と言ったときにはどちらも感じた、






現在 501基地

梅津『君は、思ったより草加少佐を信頼しているのかもな』

あの時梅津の言った言葉を思い出した。
怪しいと思いつつ、どこかで彼を信頼しているのか?

草加「この選択をした以上、あなた方今まで通りいわば『外の人間』だ」

草加「これからも厳しい選択を迫られるかもしれない」

角松「………」

ジェットストライカーとミサイルに集まっているウィッチたち。
そろそろ頃合いとみたか、ミーナが皆を集める。

草加「……それともう一つ」

草加「あなた方は常に狙われている特異な存在であることを、お忘れなきよう」

そう含みのある言葉を言い残して、草加は皆の方へ向かって行った。






ブリタニア ???


マロニー「これが本体か」

技術者A「はい、鹵獲したサンプルの一つです」

技術者A「運よくノイエ・カールスラントに飛ばされたものが回収できました」

技術者B「実験としては失敗ですが、貴重なデータが得られました」

マロニー「ほう、これは……」

技術者B「この理論に則ることで、外部からの人為的制御が可能になるはずです」

マロニー「母体の方はどうか?」

副官「すでに最終段階に入っています」

副官「1か月以内には零号機が完成するでしょう」

マロニー「ならばいい」


マロニー「「みらい」から受領した『ミサイル』の解析も急がせろ」

マロニー「使えるものは全て吸収のだ」

副官「はっ」

にやり、と怪しげな笑みをつくるマロニー。
目の前にある『サンプル』の入ったガラス管にそっと触れた。

マロニー「これが完成すれば、この新兵器さえ完成すれば」

マロニー「我がブリタニアはこの世界のイニチアチブを握るだろう!」


マロニー「我々はついに手に入れたのだ」

マロニー「……ネウロイの力を!」

水の中で弱く赤く光るそれは、まさしくネウロイのコアであった。

なんか今日重かったなぁと思いつつ、本日分は以上です
草加さんあっちこっち飛び回って大忙し……

あと大和やジェットストライカーなどを見てお分かりと思いますが
ストーリー→一期 技術→二期となっており、一部技術進歩などに破たんが生じてます
>>1に書いたベースもクソもなくなってしまいましたが、そういうものだとしてください

>>137
渡すなら127mm砲弾を渡せばよいのにとは思った
いずれ砲弾はコピー品を作ってもらう必要が出てくるだろうし、
127mm砲がすごいのはFCSで、砲弾そのものは加工精度や火薬の成分程度

たぶん宮藤さんをみらいに盾役に配置して、主砲撃ってれば大和より強い

>>139
火薬って作るためには難易度くそ高えぞ?まずは海軍の127mm砲弾に使われている専用のダブルベース火薬から作らなきゃならない。
それには膠化剤、安定剤、緩燃剤、焼食抑制剤、消炎剤などを添加し、さらに
エロージョン防止のために威力を落としたり火薬形状を工夫して燃焼速度も調整しなきゃダメ。そうしないと護衛艦に合わないし、下手したら艦砲が破損したりして使えなくなる。
んな超手間がかかることを1940~50年代に一朝一夕でやることなんて絶対無理。

あと近接信管な、これも真空管→トランジスタ→ICと開発しないと使えない。

結果、「砲弾は無理」
だったらここのように構造が簡素なロケットなりを提供して全体の戦力をあげた方がいいと思う。

>>139
火薬って作るためには難易度くそ高えぞ?まずは海軍の127mm砲弾に使われている専用のダブルベース火薬から作らなきゃならない。
それには膠化剤、安定剤、緩燃剤、焼食抑制剤、消炎剤などを添加し、さらに
エロージョン防止のために威力を落としたり火薬形状を工夫して燃焼速度も調整しなきゃダメ。そうしないと護衛艦に合わないし、下手したら艦砲が破損したりして使えなくなる。
んな超手間がかかることを1940~50年代に一朝一夕でやることなんて絶対無理。

あと近接信管な、これも真空管→トランジスタ→ICと開発しないと使えない。

結果、「砲弾は無理」
だったらここのように構造が簡素なロケットなりを提供して全体の戦力をあげた方がいいと思う。

なんか二重投稿してた、ごめん

>1 名前: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga] 投稿日: 2012/07/19(木) 21:47:30.57 ID:YfWZgPbGo
( ゚д゚)

( ゚д゚ )

出来るだけ早く書き上げたいです
と言いつつ2ヶ月一度更新が当たり前になってますが……

即死回避用に1レス予告


机に並べられた、細かに分解されたアスロックとハンドアロー。

ウルスラ「やはりこれは私たちの手に余る代物だった」

基地に降り注ぐ雨。

シャーリー「油槽船と良い扶桑増援と良い、それだけを狙うなんて出来過ぎてやしないか?」

レーダースクリーンに映る大量の機影と、それを見つめる菊池の後ろ姿。

ゲルト「ネウロイが知恵を身に着け始めている、とでも?」

ネウロイに対し機銃を連射する宮藤とウィッチーズ。

梅津「これが、現代艦としての戦い方か」

露天艦橋に向かって叫ぶ尾栗。

角松「この「みらい」は、格好の標的になる」

光線を発射するネウロイ。

菊池「我々は、後戻りできないところに来ていることを改めて自覚するべきだ」


次回『1+7 vs 200 overs』


納豆を宮藤に突きつけるペリーヌ。

ペリーヌ「こればかりはっ!我慢なりませんのっ!」

※この予告は変更される場合があります


ブリタニア ポーツマス 技術研究所

501でのジェットストライカー実験が終わり、ウルスラはポーツマスへと戻っていた。

ウルスラ「………」

ジェットストライカーの実験は惜しくも失敗に終わった。
魔力供給の制御装置がベテランウィッチの魔力に耐えきれず、シャットアウト出来なかったようだ。

それはさておき、その研究所は今ごった返していた。
多数の同僚ウィッチのベテラン技術員により、未知の兵器の解析が行われていたのだ。

技術員A「えーと、アスロック弾頭の魚雷切り離し完了しました」

技術員B「後部ロケット分離作業進みませーん!」

技術員C「もうちょっとこっちのキューイチシキに人手ください!」

技術員D「レシーバー部分の構成の展開図は取ったら、向こうに置いておいて」

技術員E「ちょっと、これリベリアンのインチ規格ネジじゃない……誰かドライバー持ってる?」

目の前の作業用の大きなテーブルには、解体されたばかりのハンドアローの部品が所狭しと並んでいた。
リベットやネジの一本にさえも細かな情報タグがつけてあり、細かに分類がされている。
そして詳細な設計図が作成され、様々な推測情報が随時書き込まれていく。


技術者A「このシートに埋め込まれている金属で電気を伝えていることは間違いないだろう」

技術者B「ではこのシリコンをどう説明するかね」

技術者C「中に線状の物体が通っています。これを調査すれば……」

技術者D「リベリオンとカールスラントに、こんな電導物質の可能性を示す論文があった気がするな」

技術者E「ふむ、ならばそれを当たってみよう」

こちらはロンドンから派遣された研究者たち。

草加『彼らには十分気を付けた方がいい』

帰路を同じくしていた扶桑海軍少佐が言っていたことを思い出す。
その少佐も結果さえ聞かずにそそくさと帰って行ったが。

ウルスラ(怪しいというのはあの空軍大将の配下ということ……)

技術は盗むもの。それは相手とて同じこと。
ウィッチから科学という優位な点を稼ぐなら絶好のチャンスだ。

ウルスラ(最も、盗むことができるならということですが)

その難解さは立ち会っている自分が一番わかっていた。


技術員B「ここにも……」

技術員B「このケーファー(虫)プラスチックはなんなのよ?」

持ち上げたのは、ハンドアローの弾頭からサンプルとして強制的に基板から切除されたIC。

ウルスラ「かなり突飛な話になりますが」

ウルスラ「ある種の演算装置……」

技術員A「演算……?」

技術員B「ま、まさか」

技術員C「真空管もコード配置も使わずに航路計算ができるとしたら、それこそ技術革命ですよ!」

ウルスラ「声が大きいです」

技術員C「あ、すみません」

新設された「ロケット新兵器開発部門」として隔離されているこの場所。
ウルスラ自身少しばかり顔も広くなったことから、秘密を守れる信頼のある部下だけを集めることにしている。

まぁ、すでにその部屋に手先がいそうではあるが。


技術員A「ですがこのチップのようなもので計算なんてできるんでしょうか」

一人が切り取られたICを持ち上げる。
ケーファーと名付けられたように、無数の金属が足のように見えている。

技術員B「この小さい板をどう開くかが問題ね」

技術員C「こんな薄いの作った人間はどんな神経をしているんだか……」

ウルスラ「あまりそれにこだわらず、別の部分を模索した方がいいのかもしれません」

そっぽを向きながらウルスラが呟く。

技術員A「え?どういうことです?」

ウルスラ「……その機器の力は本物ですが」

ウルスラ「今の我々には手に余り過ぎる代物です」

そう言って、ウルスラゆっくり自分の個別作業部屋に戻って行った。


技術員B「……ハルトマン中尉?」


めでたいのかそうでないのか、この計画の主任となったウルスラ。
彼女は以前からのジェットストライカー計画を受けており、その兼任となる。

急なことが続きに続いたこともあり、失敗作や試作品で部屋がごった返している。
姉のことも言えないな、という表情になった。

ウルスラ「……ふぅ」

ウルスラ(やはり、技術の壁というものはすごい)ヒョイ

一足先に分解していたICを眺める。
多数の金属ラインが中央のチップに集まっており、外観からはどのような働きをしてるかさえも不明だ。

再現はほぼ不可能。
そのようなことは、最初に「みらい」を査察していた時からわかっていたことだった。

ウルスラ(でも、この技術は本物)

それをわかっているのもウルスラ自身であった。


ふと、周りを見渡すウルスラ。

ウルスラ(………)

ウルスラ(誰も来ていない、入った形跡もない)

確認した後、散らかった山の中に足を踏み入れる。
実はこう見てても中は的確に分類されてあった。

ウルスラ(木を隠すなら森の中)

ひときわ堅い箱が手に触れる。
山が崩れないようそっと引き抜く。

ウルスラ「あった」

箱はこれと言って封もされていない、ふたがあるだけの箱。
ふたをとり、中身を取り出す。

ウルスラ「……機械を隠すなら、ガラクタの中」


その手にあったのは、関数電卓。


この時代にあるはずのない、小型太陽光パネルを備えた電卓。
「みらい」にIFFを実装したささやかな礼として、菊池からもらったものだった。

ウルスラ(中に入っているのは、先のチップと同じもの)

適当な計算式をタップする。

ウルスラ(たとえ複雑な計算も、一定の式さえあらかじめ組み込まれいれば瞬時に弾き出す)

「=」のキーを押すと、間を置かずすぐに答えがでた。

まだすべての扱いに慣れたわけではないものの、試行錯誤しながら覚えた。
なかなか使い勝手のいい代物である。

ウルスラ(菊池三佐は技術譲渡に好意的でないと聞いていましたが)

あまり解析し甲斐のない兵器を渡した謝罪の意も入っているのだろうか?

ウルスラ(……次は、弾頭部分を再計算してみましょう)

理由は関係ない、もらえるものはもらっておこう。
そう考えた彼女は、作業に取り掛かる。

正確に模写され、改良がくわえられた設計図。
かねてより構想し、ジェットストライカー仮完成を期に着手した新兵器の製造に乗り出したのだった。


「みらい」CIC

立花『CIC501、こちら立花二尉』

立花『通信機器に異常なし。全て正常に作動中』

青梅「こちら「みらい」CIC、了解」

青梅「通信状態は極めて良好」

通信終了後、レーダーに光点が現れた。
この時点の光点は未確認機体のままである。

青梅「機影確認、501基地より3つ」

菊池「IFFはどうだ?」

青梅「確認します」

青梅「……ESM探知。信号を受信しました!」

探知して数秒と経たないうちに、アンノンだった光点の表記が変わる。
それぞれに固有名がついた。

菊池「よし、いいぞ」


青梅「全機501所属のウィッチです」

青梅「前方坂本少佐機」

青梅「その後方ビショップ軍曹機、宮藤軍曹機を確認」

訓練の予定はすでに達されていた。
それと照合し、誤りのないことを確認する。

青梅「……仮設IFF、うまくいきましたね」

ひと段落、と青梅が背もたれに体を預けた。

菊池「これで、効率的な戦術情報処理ができる」

実のところ、効果自体はすでに確認済みであった。
しかしジェットストライカーの試験で暴走という一騒ぎがあったこともあり、再度確認に入った。

青梅「誰だ誰かわからないと、とっさな時に補助すらできませんからね」

IFFの利点は通信相手を選べるだけではない。
ウィッチにはそれぞれ特性の魔法がある。
効率よく戦闘を行うには、それぞれの把握が必要となる。


501基地 上空

坂本「急上昇!」

芳佳「はいっ!」

坂本「急降下!」

リーネ「はいっ!」

坂本の掛け声のもと、指示通りに動く宮藤とリーネ。
そしてテラスでは、それを見ながら評価シートを付けるペリーヌ。

エイラ「やっぱり宮藤は急降下が遅いな」

ペリーヌ「そのようですわね」

ペリーヌ(急降下に未だ難あり……と)サラサラ

エイラ「評価シート?」

エイラがペリーヌの手元を覗く。

ペリーヌ「坂本少佐とバルクホルン大尉の指示ですわ」

ペリーヌ「たるまないように定期的に訓練で評価をつけろとのことです」


501 ブリーフィングルーム

ここにカールスラント三人組とシャーリーが集合していた。
正面黒板に張り付けられた地図には難破船型のマグネットがあり、ネウロイに輸送船が沈められたポイントを示している。

ゲルト「数週間、これだけ集中していた輸送船団に対するネウロイの襲撃報告だが」

ゲルト「アフリカ西から北上、ブリタニア南部に接近したのを最後に……」ザザザーッ

マグネットをすべて落とすバルクホルン。

ゲルト「パタリとやんだ」

ミーナ「私たちの手元にあるタイムスケジュールから推測するなら」

ミーナ「ちょうど扶桑の第二次艦隊がここに到着した前後ね」

ミーナ「まるで彼らを狙ってきたかのように」

ゲルト「ネウロイが私たちの戦略を先読みするほどに知恵を身につけ始めている、とでも?」

エーリカ「それは頭よすぎなんじゃない?」

ミーナ「微妙なところね」

ミーナ「扶桑艦隊だけではなく、輸送船団を含めた支援の寸断……」

シャーリー「ネウロイが大反攻作戦を感知……出来過ぎてる気がするなぁ」


ミーナ「いずれにしても、アフリカ方面の輸送は正常に戻ったわ」

ミーナ「ノイエ・カールスラントからの輸送も同様ね」

ゲルト「次はブリタニアに直接攻撃か?」

ミーナ「そのつもりなら、今度はここを休みなく攻撃するでしょう」

エーリカ「それってつい先日までの事じゃん」

シャーリー「来てないところを見ると、ネウロイも疲れたんじゃないのか?」

ゲルト「お前らは……」

楽観的ともいえる二人に頭を抱えるバルクホルン。

ゲルト「とにかく、警戒シフトは現状維持が望ましいだろう」

ミーナ「ええ」パタン

報告資料を閉じ、ミーナがため息をついた。

ミーナ「いずれにせよ……」


ミーナ「私たちに残された時間はあとわずか、というわけね」


「みらい」艦橋

角松「……14:30、訓練終了」

角松「ウィッチーズ全機帰投します」

梅津「ふむ」

報告書を受け取り、梅津が確認した。
視界の隅にウィッチらしき機影が遠ざかる。

菊池『艦橋CIC、ウィッチーズの訓練終了を確認しました』

菊池『14:30、全機帰還を確認』

梅津「うむ、こちらも肉眼で確認した」

梅津「本艦はこれより予定航路に向かい、定期警戒にあたる」

角松「了解」

角松「取り舵一杯!針路2-1-0!」

尾栗「取り舵いっぱーい!針路2-1-0!」

操舵員「ヨーソロー!」


「みらい」CIC

梅津『時に砲雷長、彼女たちの持ってきたIFFはどうか?』

菊池「はっ、全て正常に作動」

菊池「メインモニターの識別信号とリンクさせ、あらかじめ登録した信号と照合させています」

梅津『使えそうか』

菊池「はい。敵味方の識別だけでなく、個体識別ができることが有用です」

菊池「それぞれの個体に必要な情報を与えることができ」

菊池「さらに、ウィッチはそれぞれ特有の能力を持っています」

菊池「その特徴を把握し適切に支援をする、それが可能になるでしょう」

梅津『これが情報処理を主とする、現代艦としての戦い方か……』

菊池「……はい」

梅津『わかった。引き続き警戒を続けてくれ』

菊池「アイサー!」






翌朝 501基地


ザアアアアアアアア……

リーネ「大変芳佳ちゃん!雨が降ってきたよ!」

芳佳「えーっ! さっきお洗濯物干したばっかなのに!」

窓に駆け寄る宮藤。
外はわずかに薄暗くなっており、かなりの雨が降っている。

芳佳「リーネちゃん、取り込みに行こう!」

リーネ「うん」

二人が大急ぎでかけだす。


ルッキーニ「くしゅん!」

ルッキーニ「うじゅっ!あにゃーっ!」ドシャッ!

木の上に寝ていたルッキーニがくしゃみで落ちてきた。
雨の中にいることに気付いた彼女もまた駆け足で室内へ戻る。

ルッキーニ「うー寒いよ~!シャーリー!」バシャバシャバシャ


その日、501基地近くのブリタニア南東部は雨雲に覆われていた。


洗濯ものは雨風に曝されずぶ濡れであった。

芳佳「回収~!」

わっせわっせと洗濯物を取り込む二人。
しかし数が多いので時間がかかる。

芳佳「撤収~!」

リーネ「ひゃ~」

洗濯ものだけでなく、自分たちまで相当びしょびしょになっていた。
屋根のあるところへ早々に避難する。

芳佳「天気予報は晴れるって言ってたのに」

芳佳「合羽でも着て行けばよかったかなぁ」

リーネ「ブリタニアの天気はきまぐれだから……」

リーネ「でもこういうとき扶桑の制服は水はけが良くていいね」

芳佳「でも上は着替えなきゃ」

芳佳「脱衣所いこう、リーネちゃん!」

リーネ「え、う、うん……」

水気でぴったり引っ付いているリーネの服をガン見している宮藤に気付かないリーネ。
二人はそのまま風呂場へと向かっていった。


「みらい」艦橋

ザアアアアアアアア……

尾栗「降ってきたな」

合羽を着た航海科の見張り中、露天艦橋で尾栗が呟く。

柳「雲はそこまで厚くないですね」

柳「風速も気圧もいたって強力なものではありませんし……」

尾栗「ああ」

合羽で覆われていない部分に雨が入ってくる。

尾栗「………」

珍しく見張り員が静かなのを感じ取る二人。
それぞれが何を考えているか、尾栗には想像がついていた。


角松「異常はないか」ガチャ

艦橋内から角松が出てくる。

尾栗「特には」

角松「そうか……」

彼もまた、そのまま外の雨雲を見つつ雨に打たれていた。


「みらい」CIC

青梅「対空対水上、ともに異常なし」

定時報告を済ませた青梅が、長く座っていた自分の態勢を直す。

CIC員A「青梅一曹、交代の時間です」

青梅「お、そんな時間か」

そろそろ腰がきつくなってきたという頃に、代わりの当直が現れた。

CIC員A「CIC一番、交代します」

CIC員B「同じくCIC二番、交代します」

菊池「砲雷長了解。交代確認した」

青梅「じゃ、後は任せたぞ」

代わりに座った要員の肩をたたき、早々に立ち去る。

青梅「フゥ、この季節は冷房が体に染みるな」

現在の気温は18度。
日本より北に位置するここでは少々冷えるものであった。


「みらい」CPO室

青梅(コーヒーでも飲むか)ガチャ

CPO室では、同じく砲雷科の芦川二曹が雑誌を読んでいた。

芦川「あ、青梅一曹」

青梅「芦川二曹、お前も非番か」

芦川「まぁ雑誌読むくらいしかやることありませんがね」

芦川「自分はほとんど読みつくしてしまいましたが……読みますか?」

青梅「ン?」

青梅に渡された雑誌に大きな題字が書かれている。

青梅「『消えたF35、バミューダトライアングル再び』『再録、フィアデルフィア実験』……」

青梅「おまえ、こんなオカルトモノ好きだったのか」

芦川「まぁ、結構面白いです」

※CPO室:先任海曹室とも。大先輩・大ベテラン乗組員の部屋。
       下士官は言わずとも、若手幹部さえも入る事が恐れ多いとか。
       報告からゴマすりまで交流の盛んな一室らしい。


青梅「ならこの状況も悪くはないとかそんなんか?」

と、口に出したところで気付いた。

芦川「………」

青梅「……悪い、お前も家族持ちだったな」

海に出て長く戻ることのない海上勤務ではあるが、今となっては状況が違う。
その不安さを知っているのは、同じく妻子のいる青梅自身でもあった。

立ち上がり、給湯器からお湯を注いで2人分のインスタントコーヒーを作る。
本来なら給仕担当か下の階級がやることであるが、詫びも意味も含めて青梅がそれを置いた。

芦川が礼を言い、口を付ける。

芦川「……俺たちがこっちに来て、もう三ヶ月経とうとしてます」

芦川「俺達、帰れるんでしょうかね」

芦川「こんな天気に会う度、ふとまたあの嵐に会うんじゃないかって思って……」

おそらく誰もが思うことを口にする芦川

青梅「………」

青梅「さぁ、わからん」

青梅「だが帰るためには、生き残らなきゃいかん」

青梅「俺たちにできることは、ただできることを完璧にこなすだけだ」

そして彼もまた、コーヒーを啜る。

※インスタントコーヒー:カレーに足すとコクが増すという海自護衛艦の必需品。


501基地 格納庫

坂本「182!183!184!……」ブン!ブン!ブン!

雨が降っている中、屋根のある格納庫で竹刀を振る坂本。

坂本「200!」ピタッ!

坂本「……少し休息をとるか」

手拭いで汗を拭く。
そこへタイミングよくバルクホルンが現れた。

ゲルト「流石は少佐、この雨の中でも訓練とは」

坂本「おお、バルクホルンか。お前も一振りするか?」

ゲルト「いや、遠慮しておこう」

ゲルト「そろそろ朝食の時間だということで宮藤が呼んでいた」

坂本「む、もうそんな時間か」

竹刀を肩にかけ、外を見る坂本。
つられて見上げるバルクホルン。


ゲルト「お、雨が……」

坂本「止んだな」


501基地 食堂

食卓のそばにて、ペリーヌが手鏡を見てを髪を弄っていた。

エイラ「なにやってんだツンツンメガネ」

ペリーヌ「湿気で毛が崩れてしまいますの」

ペリーヌ「あーもう、これだから雨の日は……」

ぶつぶつと髪に櫛を通し、整える。

エイラ「雨が上がっても、すぐに湿気がなくなるわけじゃないからナ」

エイラ「まぁいいや、サーニャ、座ろう」

エイラが紳士なりにイスを用意する。

サーニャ「ありがとう、エイラ」

向かい側では、シャーリーがルッキーニの頭を拭いている。
落ちたときのタンコブはすでにひいた様だ。

シャーリー「ほら、濡れたらすぐ乾かしておかないとこうなっちゃうだろ」

ルッキーニ「~♪」


芳佳「ご飯の時間ですよー!」


リーネ「おかわりもありますよー」

そこに並ぶのは典型的な扶桑料理。
なかなか豪華である。

エイラ「魚か」

エーリカ「ポテ~トサ~ラダ~♪」

各々が配膳トレーに食器を載せていく。
そして格納庫にいた坂本とバルクホルンも合流する。

坂本「おお、朝からアジの開きとはなかなかだな」

芳佳「あ、坂本さんおはようございます」

ゲルト「ふむ、いい匂いだ」

全員がテーブルに着いたのを確認した後、ミーナが立ってまとめる。

ミーナ「はい、取り終わったら席についてくださいね」

ミーナ「……それじゃ、いただきましょうか」

ミーナの号令でそれぞれが食べ始めた。


ルッキーニ「骨が多いー」

シャーリー「まぁ魚だから仕方ない。刺さらないように気を付けるんだぞ」

わいわいと食べ始める一同。
しかしその中でペリーヌが一言もの申した。

ペリーヌ「……ところで宮藤さん、お一つよろしいですか?」

芳佳「はい、なんでしょう!」

わなわな震えているペリーヌを見ながらも、どういうわけかニコニコする宮藤。


ペリーヌ「私はこの腐った豆は結構といったはずですわ!」

ペリーヌが宮藤の目の前に突き付けたのは納豆。
以前それでケンカになったこともある代物だ。

坂本「む、ペリーヌは納豆嫌いか」

坂本「好き嫌いはよくないぞ」


ペリーヌ「申し訳ありませんが、いくら坂本少佐のお言葉と言えどこれだけは……」

ペリーヌ「この臭い!味!粘々!」

ペリーヌ「勘弁なりませんわ!」

カンカンである。

芳佳「ふふふーん」

しかし自信満々の笑みである。

ペリーヌ「……なんですの、その笑いは」

芳佳「実は今日、ペリーヌさんの納豆嫌いを克服する新兵器があるのです!」

ドン!と宮藤がテーブルに持っていたビンを置く。

ペリーヌ「……?」


芳佳「かつおだしです!」

眉をひそめるペリーヌをよそに自信満々に放った。

ペリーヌ「は、はい?」


ペリーヌ「かつおだし……?」

芳佳「「みらい」の炊飯長さんから聞いたのと扶桑のレシピを合わせた、私特製の納豆たれです!」

芳佳「こうやってちょろっと混ぜるだけで」トポッ

納豆にたれをかけ、ぐるぐる混ぜる。

ペリーヌ「ちょ、ちょっと……」

芳佳「ほら、癖のある香りもおなじみのかつお風味になるんですよー」グルグル

芳佳「これできっと、ペリーヌさんの納豆嫌い克服の第一歩になるはずです!」ネバー

ペリーヌ「まだ私食べるだなんて何も……」

坂本「はっはっは!よかったじゃないかペリーヌ!」

坂本「軍人何でも食べることが一番!嫌いなものも克服できて一人前ということだ!」

ペリーヌ「うぅ……」

ここまで気迫に押されてしまっては、反論することさえできなかった。

ペリーヌ(まぁでも、確かに臭いは薄れてますわね)

慣れた扶桑人にしてはかつおに消えてしまっているのかもしれないが、慣れない臭いはまだまだ残っている。


ペリーヌ(あの姿さえ見なければいけますでしょうか……)

ペリーヌ「……ふんっ!」

芳佳「おおっ!」

気付けば皆が注目していた。
決心し、宮藤の手から納豆をとりあげた後、目を瞑りながら口の中へ入れる。

ペリーヌ「……あら」

ペリーヌ(意外にあの独特の味が薄くなってますわ)

ペリーヌ(それでいてカツオ味がうまく重ね合っている)

ペリーヌ(未だ食べらたものではありませんが、幾分かは……)

ペリーヌ(これをわざわざ……)

目の前で結果を聞きたそうにしている宮藤の顔をみる。

ペリーヌ「ま、まぁ、少しはマシ、になったんじゃありませんこと?」

顔をそむけながらぼそぼそと呟く。

芳佳「やったぁー!」

リーネ「よかったね、 芳佳ちゃん!」


※納豆のたれ:主な市販納豆には大抵付属しているたれ。なかなかマッチする。
          ただし納豆嫌いの人がこれをかけることで好きになるかは、当然ながらその人次第。


サーニャ「芳佳ちゃん、それ私にも味見させて?」

芳佳「うん、はいどうぞ」

エイラ「サーニャ、ネバネバには気を付けろよ」

納豆のたれが気になるのか、次々に回されていった。


『ウウウウウゥゥー!』


「「!?」」

ゲルト「敵襲!?」

警報が鳴り響き、放送が流れる。

立花『08:37、「みらい」より入電!』

立花『グリッドF-6にて、ネウロイ捕捉!』

坂本「総員、出撃準備にかかれ!」

「「了解!」」

皆が箸や食器類を置いて駆け出す中、一人戸惑うペリーヌ。

ペリーヌ「ちょ、ちょっとお待ちくださいまし!」

ペリーヌ「と、とれない……」

慣れない糸引きで絡まる。
さらに扱い慣れていない箸捌きが余計に糸を引くことになった。


ペリーヌ「このっ……ネバネバはっ……!」

ペリーヌ「ああん、んもう!」

すみませんが、時間と分量の関係で一旦ここで切らせてもらいます
できれば明日、無理な場合は可能になりしだい投下します


「みらい」CIC


CIC員A「三分前に、突然現れました!」

報告に慌ただしくなるCIC。

CIC員A「方位1-7-0、距離150km、高度一万五千!」

メインのレーダースクリーンにはっきり写っている機影。
南ガリア方面からやってくるそれは徐々にブリタニアへ向かってくる。

梅津「対空戦闘用意!」

菊池「アイサー、対空戦闘用意!」

カーンカーンカーンカーン!

角松「対空戦闘用意、総員配置につけ!」

CICの扉が開き、青梅をはじめとした主要CIC員が配置につく。

青梅「配置よし!」

ヘッドセットをつけ、モニターを確認した青梅が声を漏らした。

青梅「……なんだこいつは!」

青梅「目標推定規模、300m!」


角松「300m……!」

モニター上に写ったデータを見る。
確かに他の航空機などの反射波よりも大きい。

菊池「これまでにない大きさだな」

青梅「反射波から推測するに、形は立方体のようです」

青梅「毎時600kmで進行中」

光点が少しずつ移動する。

菊池「あと10分ほどでスタンダード射程圏内……」

梅津「舵をとりつつ、様子を見よう」

角松「了解、取り舵いっぱい!」

尾栗『アイサー、取り舵いっぱーい!』

青梅「501より機影確認、ストライクウィッチーズ発進!」


501格納庫

ドドドドドドドドドド……!

ストライカーユニットのエンジン音が響く。

ゲルト「エンジン出力安定、異常なし」

坂本「今回はルーチンに従ったメンバーで行く」

坂本「シャーリーとルッキーニ、エイラとサーニャは基地にて待機」

ルッキーニ「おっ留守っ番~♪」

坂本「目標は南より近づいている」

坂本「我々はそれを直接迎え撃つ」

エーリカ「まぁ、ようはいつも通りってことだね」

茶化すエーリカをよそに、出撃がはじまる。

ゲルト「拘束具解除!」

ミーナ「それでは、発進します!」


ドーバー海峡 上空

ゴオオオオオオオ……

目的地に向かうしばらく飛行するウィッチーズ。

ゲルト「まだ確認できないか?」

坂本「「みらい」からの座標を元にすれば、接敵まであと三分ほどだ」

ミーナが空間魔法で索敵を開始する。

ミーナ「………」キュイイイイン

ミーナ「……左前方10km、敵影1確認!」

前方に集中していた坂本が敵影に気付いた。

坂本「目標視認!」

ミーナ「タイプは?」

眼帯をめくり、魔眼を使う。

坂本「300m級、単機だ」


その瞳にサイコロ状のネウロイが写った。

坂本「情報に誤差なし、フォーメーションはどうする?」

ミーナ「バルクホルン隊、そのまま前面に展開」

ゲルト「了解」

ミーナ「ペリーヌ隊は左翼から援護を」

ペリーヌ「了解」

ミーナ「宮藤さんは私と一緒に坂本少佐の直援に回って」

芳佳「了解!」

情報を元に的確な指示を出すミーナ。

坂本(「みらい」がちょうど西から接近している)

坂本(なるほど、三方から囲む作戦だな)

坂本「よし、全機散開だ」


全機急降下。

合図にそれぞれが分かれる。
バルクホルンとエーリカはそのまま直進する。

ゲルト「ペリーヌとリーネが位置に付いたら先手を打つぞ」

エーリカ「わかった」ガチャ

コッキングレバーを軽く引いて、装填されていることを改めてチェックする。

エーリカ「いつでもオーケー」

ペリーヌたちが迂回して回り込むまでを待つ。

ゲルト「……配置についた。いくぞ」

エーリカ「うん」

両手で構え、MG42の照準を合わせるエーリカ。

その時、ネウロイに変化が起きた。

エーリカ「……えっ!?」

ゲルト「なにっ!?」


「みらい」CIC

青梅「ウィッチーズ接敵まであと3分!」

離れた海域にて、接近しながら見守る「みらい」。
そのレーダーにはウィッチーズの個体識別名、そしてネウロイのマーク。

CIC員A「目標のスタンダード射程圏内まで、あと2200!」

青梅「攻撃はどうします?」

角松「スタンダードの射程に入るよりも、ウィッチーズの接触の方が早い」

接近するウィッチとネウロイの光点の距離を見て角松が言った。
確かにウィッチからすれば視認圏内にはすでに入っているはずだ。

梅津「ならば、現在捕捉している目標は彼女たちに任せよう」

菊池「それよりも戦闘海域外の警戒にも重点を置け」

菊池「以前のように囮でないとも限らん」

青梅「了解」

CIC員A「ウィッチーズ、散会します」


青梅「バルクホルン大尉以下一機はそのまま直進」

青梅「クロステルマン中尉以下一機、針路北東へ」

青梅「回りこみ包囲する模様です」

CIC員A「先頭バルクホルン大尉機、接敵まであと20秒」


その時だった。

青梅「レーダーに感!」

青梅「!?」カチャカチャ

ピ ピ ピ ピ ピピピピピ……

青梅「な……なんだこれは!?」

青梅「第一目標分離!」

レーダーに映る新たな機影群。
その数……


青梅「識別、マーク中……数200以上!」

「「!?」」


菊池「200だと!?」

正面のレーダースクリーンに次々とマークされるアンノン機。
そして順々にネウロイのマークが設定される。

菊池(マズイ……)

菊池の顔に汗が浮かぶ。

青梅「目標群分かれます、現在2つ!」

青梅「目標群アルファ、そのまま北上!」

青梅「目標群ブラボー、針路東へ! クロステルマン隊の前に出ます」

青梅「そのほかは散開、周期的旋回を続けている模様!」

光点の群れが2つに分かれた。
その他は綺麗に円を描くようにその周囲を飛んでいた。

角松(何かを警戒しているかのようだが……)

報告をもとに状況を整理する一同。

CIC員B「幸い、こちらにはまだ気づいていないのでしょうか」

CIC員B「こちらに向かう動きはない模様です」

梅津「対空見張りを厳となせ」


ドーバー海峡上空


ガガガガガガガガガ! バキイン!

銃声とネウロイの破壊音が響く。 

エーリカ「7つ!」

ゲルト「こっちは8つだ!」

大量の薬莢をばらまきながら大量の敵を仕留めていく2人。

ペリーヌ「いいですこと? あなたの銃では速射は無理です」

ペリーヌ「正確に、落ち着いた射撃をしなさい」

リーネ「はい」

ペリーヌ「私の背中、任せましたわよ」

急降下をかけるペリーヌ。

ドンッ! ドンッ!

その後ろについていたネウロイが爆散する。

ペリーヌ「……やるじゃない」

ペリーヌ「私も、負けてはいられませんわ」ガガガガガガ!


ミーナ「コアはどう?」

一旦後退し、コア捜索の状況を尋ねるミーナ。

坂本「ダメだ、見つからん」

ミーナ「まさか、また囮?」

以前のネウロイを思い出す。

坂本「いや、気配はするんだ」

坂本「それに囮だとすればすでに「みらい」が捕捉していてもおかしくない」

そのネウロイの時も、「みらい」のレーダーにより本体は捕捉されていた。
しかし報告はない。

ミーナ「数の中に紛れているわけでもなさそうね」

ミーナ「ほかの群れがいるのかしら?」キュイイイン

再び空間魔法で周囲を探る。
その網に何かが引っかかった。

ミーナ「!?」

振り返ると、ウィッチの包囲網から逃れた少数のネウロイ。
ブリタニアへの針路をとっている。


ミーナ「方位西、下方距離500!」

ミーナ「離脱中のネウロイ!」

坂本「しまった!」ダダダダダダ!

振り向きざまに撃つもののなかなか当たらない。
同じく見つけたペリーヌも応戦に当たる。

ペリーヌ「リーネさん!」ガガガガガ

ボルトを引き、空薬莢を吐き出させる。

リーネ(残弾は……2つ!)

そして呼吸を整え、一気に撃ちこんだ。

ダァン!ダァン!ガチッ!

リーネ「リロード!」

対戦車ライフルに見られる箱型弾倉を取り換える。

ペリーヌ「群れはまだ10以上……」ダダッ!ダダダッ!

バーストで応戦するもなかなか届かない。

ペリーヌ(ここは離脱して追うべきかでしょうか……)



ミーナ「―――!?」

ミーナ「「みらい」のミサイル攻撃が来るわ!気を付けて!」

その時、不意にネウロイの群れが爆散する。
群れの半分が吹き飛び、残りがリーネの狙撃で破壊された。

坂本「来たか」

まだ姿は見えない。
だがミサイルの残した航跡が、近くにいるという証拠になっていた。


坂本(しかし先の群れにもコア持ちはいない……)

エーリカ「いえーい! ナイスフォロー!」

ゲルト「浮かれるな。まだ終わったわけじゃない!」

エーリカ「わかってるっ……て!」

ヴォンッ!

突撃してきたネウロイの群れを同時に回避する二人。

ゲルト「フンッ!」

エーリカ「おりゃあっ!」

ダラララララララ!

その後の十字砲火により次々に破壊される。

ゲルト「次は……」

エーリカ「……トゥルーデ! あれ!」


ペリーヌ「トネール!」

周囲にまきちらされた電撃が、一帯のネウロイを破壊する。

ペリーヌ「はぁ、せっかくセットした髪が……」

リーネ「ペリーヌさん、周りのネウロイがいなくなりました!」

ペリーヌ「結果は上々ですわね」

ペリーヌ「次行きますわよ!」

リーネ「違うんです。あれを見てください!」

ペリーヌ「え?」

目を向けると、高高度に上昇するネウロイの一団。
よく見ると、周りのネウロイが集合しているようにも見える。

リーネ「強行突破する気でしょうか」

ペリーヌ「相手がどうしようと、やることは変わりませんわ」

ペリーヌ「行きますわよ!」

リーネ「はい!」

だが、二人にはその先に何があるのかが見えていなかった。


ミーナ「!」

ミーナ「ネウロイの陣形が変わるわ」

皆が気付いた、新たに形成されつつあるネウロイの群れ。
鰯の群れのようにぐるぐると渦を巻き上にあがる。

芳佳「坂本さん! ネウロイの群れが……!」

坂本「あれは……」

やがてその群れはある方向へと向かう。

ミーナ「方向を変えた?」

坂本「ブリタニアではないのか?」

轟々と群れを成すネウロイが向かう先。

芳佳「さっきの噴煙をたどってる……?」


坂本「まさか!」

魔眼で先を見る坂本。
その煙の先には、当然発射元の艦がいた。


「みらい」CIC

青梅「スタンダード着弾」

青梅「トラックナンバー2103から2108まで撃墜を確認」

レーダー上に写っていた別動隊のネウロイは半分に減っていた。
そして残りも随時減っていく。

菊池「次弾発射の要はなしかと」

角松「流石エース部隊というところか」

さらに光点の数は減っていく。

角松「この調子でなんとか行けそうです」

梅津「そうだな……」

梅津「このまま、ウィッチーズの撃ち漏らしを迎撃する」

梅津「引き続き警戒せよ」

菊池「はっ」


ピピピ……

青梅「ン?」

モニターを見ていた青梅が、ネウロイの陣容変形に気付く。


青梅「目標に変化有り!」

青梅「各目標群集合中、移動開始します」

光点が徐々に一か所に集まる。
やがてその群れはある針路へと変え始めていた。

青梅「これは……!!」

変更後の針路を見て、青梅が驚いた。

角松「どうした」

青梅「敵進路変更……2-1-0!」

菊池「2-1-0……!!」


青梅「目標は、本艦と思われます!」

「「!!」」


レーダーに映るネウロイ。
魚の群れを思わせるそれは、着実に「みらい」の方へ向かってきていた。

青梅「目標群アルファ、機影数112!」

青梅「さらに接近します! 距離97km!」

角松(112!?)

角松「まだ残っているたのか」

目の前のウィッチを無視し、こちらに大群が来るというのは想定外であった。
そして、最も恐れていた事態でもある。

尾栗『CIC艦橋、針路変更の要ありと具申します!』

艦橋にいる尾栗から針路変更の具申が入る。
それに呼応し、梅津が指示を下す。

梅津「面舵いっぱい! 針路1-7-0!」

梅津「対空戦闘用意!」

あくまでもブリタニア本土から引き離す航路に出た。
ウィッチと早く合流し、援護を受けやすくもなる。


菊池「イルミネーターで同時に誘導できるシースパローは……」

菊池「わずか12発」

菊池「ウィッチによる攻撃で
半数が減ったとはいえ、いまだ100を超過している」

菊池「あの大編隊に対してはあまりにも無力だ」

個艦防空のキャパシティをオーバーしかねない戦闘。

これが僚艦のいる艦隊編成ならば対処可能、イージスシステムをフルに活用できるものだが。
それこそその気になれば僚艦のミサイルを誘導し、ものの数十秒で全滅させることさえ可能だろう。

だがここにいるのは「みらい」単艦だけである。

角松「そして装甲が薄く、航空機と比べ速度も遅い軍艦……」

角松「この「みらい」は、格好の標的になる」

その言葉に、CIC全体に動揺が走る。


菊池「……だが今どう動こうと、我々はこの敵を避けることは不可能だ」

震えていた腕を止め、インカムを固定し指示を出す。


その後の菊池の判断は素早かった。

菊池「前甲板VLSよりスタンダード2セル」

菊池「後部VLSよりシースパロー12セル!」

菊池「接近する中で最も驚異の高いものロック」

菊池「発射は手動にて設定、二段階発射とする!」

CIC員A「VLS諸元入力開始!」

CIC員B「発射管制手動に変更!」

その指示に、CIC員が対応する。
これで目標が接近しても時間は稼げる。

菊池(理想的なのはシースパローによる連続攻撃)

菊池(その後一定の距離をとりつつ主砲による各個撃破……)

菊池(そしてウィッチの援護を受けることが最善の策か)


菊池(だが、この「みらい」でどこまで逃げ切れる!?)


菊池「………」カタタタ

まただ、と自分の震えに気付いた菊池。

レーダーに広がる無数の機影が群れを成して「みらい」へと向かってくる。
これほど密集しているのなら爆発による同時撃墜を見込むこともできるが、あくまで良ければの話だ。

青梅「目標接近! 距離80km!」

艦首カメラ最大望遠にて捉えられた映像。サイズは米粒程度。
向こうが見えているのかどうかは不明だが、着実に向っている。

角松「撃つか? 砲雷長」

菊池「可能ならば遠距離のうちに少し削るという手もある」

菊池「……スタンダード発射、後に回避行動を開始を具申します」

それもどこまで効果があるかはわからないが。

梅津「良かろう」


菊池「前甲板スタンダード、発射準備!」


ドーバー海峡上空

坂本「「みらい」だ! ネウロイは「みらい」を狙っている!」

各々が機銃弾をばら撒く中で叫ぶ坂本。

ミーナ「たったいま支援要請を受信したわ」

坂本(やはり「みらい」とてあの数は厳しいか)

その時、魔眼の視界に輝くモノが見えた。

坂本(……あれは!)

坂本「コア発見! あの群れのど真ん中にいる!」

魔眼でとらえた、轟々と渦巻くネウロイの中に輝く赤い光。

ミーナ「……全隊員、前方のネウロイ集団を各個撃破!」

ミーナ「「みらい」の支援を、そしてコアの破壊してください!」

「「「了解!」」」

ミーナ「美緒、あなたはコアを見失わないよう捕捉し続けて」

坂本「分かった」

一旦上空へ退避する。


ゲルト「正面6!」

ガガガガガガガガガガガガ!

エーリカ「まだ来るよっ!」

群れを成していた一段の後方がバルクホルン隊の迎撃に当たる。

エーリカ「Neu laden!」ガチン

手持ちの予備弾倉を付け替えるエーリカ。

ゲルト「くっ! このままじゃ数で押される……」

ゲルト「弾も武器も足りなくなるぞ!」

銃身が焼けはじめたMG42を見て呟くバルクホルン。

エーリカ「……ミサイル!来るよ!」

ゲルト「下がれっ!」

「みらい」のスタンダードが一列に並んでいた4つのネウロイを一掃する。


「みらい」艦橋

CIC員A『目標、さらに接近!』

CIC員A『現在距離40km!』

CIC員B『短SAM防空圏内に侵入!』

CICからの報告に身構える艦橋員一同。

尾栗「来るか……!」

尾栗「総員警戒しろ!」

見張り員A「アイサー!」

尾栗(ここまで接近されるのは初めての事じゃぁない)

尾栗(だが、この数は……前代未聞だ)

艦橋の窓ごしに、遠く光る戦火を見る。

麻生「目標視認!」

麻生「艦左前方50度! 敵影多数!」

双眼鏡で警戒していた麻生が報告する。


菊池『第二射用意! CIC指示の目標!』

CIC員B『アイサー! シースパロー発射! サルボー!』

ババババッ!

後部のVLSからシースパローが放たれる。
艦橋から多数の軌跡が飛んでいくのが見え、その後爆発が起こった。

麻生「シースパロー全弾命中確認!」

麻生「しかし依然として目標接近中!」

爆炎の隙間からさらにやってくるネウロイ。

柳「目標陣形、変形!」

柳「左50度、12度に分かれます!」

菊池『主砲発射用意!』

尾栗「取り舵10度! 敵群を主砲旋回角内に捉えるんだ!」

操舵員「取り舵10度!」

横に見えていた敵影が、徐々に艦橋窓から全て見える位置に入った。


尾栗「砲撃戦だ……備えろよ!」


「みらい」CIC

青梅「目標再び分かれます」

青梅「目標群アルファ、左50度」

青梅「目標群ブラボー、左12度より接近!」

青梅「距離およそ20km!」

「みらい」の左舷側を覆うように展開するネウロイ。
カメラを通し、その群れはCICにも見えていた。

菊池「目標ブラボーに対し主砲発射用意!」

菊池「自動発射管制にて、接近した目標を迎撃開始!」

CIC員A「アイサー、主砲発射用意」

CIC員A「データリンク・オールグリーン!」


CIC員B「取り舵10度、機影主砲の旋回角に入ります」

角松(尾栗の判断か)

角松(どのみち、ここまで接近されてしまえばこの足では逃げられん……)

角松「単独接近する機体を見逃すな!」


一方で、気になっていた梅津がウィッチと連絡を取っていた。

梅津「目標のコアは見つかりませんか」

ミーナ『特定は完了しました』

坂本『だが、群れの中にいてピンポイントに狙うことができない』

ミーナ『こちらもできるだけの支援はしますが』

角松「分かっている」

青梅「情報によるならば、コア持ちは目標群ブラボーにいるようです」

菊池(数は50を切ったが……)


青梅「目標、主砲射程圏内に入ります」

梅津「……主砲、撃ち方はじめ」

菊池「トラックナンバー2672から2682」

菊池「主砲、撃ち方はじめ!」

発射員がトリガーを引き、主砲弾が発射される。


ドンッ!ドンッ!ドンッ!

複数個体で飛翔するネウロイに、主砲弾が撃ち込まれる。

ネウロイ「!?」

グワアッ! ドオッ!

近接信管が作動し、周りのネウロイをも巻き込んだ。

バキィン!パキィン!

CIC員A「トラックナンバー2672から2676まで撃墜」

青梅「新たな目標340度」

青梅「目標群ブラボーより4、接近!」

主砲塔が旋回し、新たな目標に狙いを定めた。


ドンッ!ドンッ!ドンッ!

排出された薬莢が次々に甲板に落ち、少しずつ凹みをつける。


「みらい」10km圏内


主砲で撃ち落とされたネウロイの破片が海中に没していく。

「みらい」の左舷側海域には多数の黒煙が浮かんでおり、その数を思わせていた。

リーネ「すごいです……」

スコープを覗いていたリーネが息を呑む。
その隣にいたペリーヌも同じだった。

ペリーヌ「見とれてる暇はありませんわよ!」

そこに、インカムから無線が入る。

ゲルト『中尉、聞こえるか?』

ゲルト『私たちが先行するから、そっちは後方支援を頼む』

ペリーヌ「了解しましたわ」

ペリーヌ「リーネさん、聞きましたわね?」

リーネ「はい!」

リーネ(残り弾数も少ない……慎重に行かなきゃ)


ミーナ「……見て!」

ミーナ「目標がまた別れたわ」

コア監視のために上空待機していたミーナがいう。

坂本「複数から同時攻撃をする気か」

芳佳「「みらい」は主砲が一門だけです」

芳佳「大丈夫かな……」

坂本「向こうにはミサイルもある、大丈夫だろう」

その瞬間、「みらい」後方からシースパローが2発撃ちあがる。
後方から急接近していたネウロイを破壊した。

ミーナ「けど数が減ったとはいえ、近接戦闘を考慮していない「みらい」は……」

坂本「………」

見学の時に見た対空兵装は、一門の主砲とミサイル、そして自動機銃。

坂本(性能的に貧弱とはいいがたいのだろうが……)


坂本「……コアが出た!」

今まで味方に覆われていたコアが少数単位の群れに分かれた。

坂本「チャンスだ、ミーナ」

ミーナ「そうね」

ミーナ「バルクホルン隊、「みらい」支援と同時に多数目標を牽制」

ミーナ「ペリーヌ隊はそのまま両方の支援を」

ミーナ「我々はコアを破壊します」

ミーナ「宮藤さん、援護をお願いね」

芳佳「はい!」

坂本「行くぞ!」

その掛け声を合図に、三機が飛び出した。


「みらい」 CIC

CIC員A「トラックナンバー2822から2824撃墜!」

CIC員B「砲身冷却開始!」

砲撃の合間に冷却を開始する主砲。
砲身から冷却水が流れ出し、数秒と経たずに冷却を済ませた。

青梅「!」

そこで光点の一部が後方より急速に接近したのを見つけた。

青梅「トラックナンバー2831から2833、左120度より急接近!」

角松「しぶとい……」

またくるか、と角松が思った。

菊池「シースパロー発射はじめ! サルボー!」

ズバアアアッ!

あらかじめ諸元入力しておいたシースパローを開放する。
最も近く接近していた後方のネウロイに向かう。


ズガアアッ!

CIC員A「2831から2833、撃墜!」

青梅「残存ネウロイ約30!」

菊池「くっ……」

菊池(まだ30もいるのか)

菊池の顔に焦りが見え始めた。

菊池(この戦闘だけで、どれくらいの弾薬を使った?)

菊池(ミサイルの使用は極力避けたつもりだが、主砲も通常以上に酷使している)

30分も経っていないこの短時間で、すでにその量は菊池の予想を超えていた。

菊池(弾薬もそうだが、それ以上に部品の疲労も考慮しなければならない……)

そこへ吉報が入る。

青梅「ウィッチーズ、接近します」

青梅「バルクホルン隊が本艦の直掩に、ヴィルケ隊がコア個体を追尾中」


ウィッチの光点が「みらい」に近づく。

梅津「来たか」

ネウロイがさらにばらけ、ウィッチの応戦に当たる。
「みらい」に向かう目標は少なくなっていた。

レーダー上から徐々に反応が減っていく。

主砲が迎撃を継続するが、砲声の数が減っていることは明らかであった。

角松(いけるか)

菊池(間に合った……)

包囲戦で数を減らしてくれてもよかったが、こちらの方が「みらい」自身の弾薬を減らさなくてすむ。
そう考えている角松と菊池であった。

が、同時に不甲斐無さに似たなにかも感じていた。

菊池(これが、我々の取れる最善の策だったのか)

らしくもない、と気を持ちなおす菊池。




その後一瞬の出来事であった。


青梅「トラックナンバー2841、急接近!」

青梅「高度5000、急降下!」

一際大きく発せられた言葉に、菊池がモニターに目を向けた。


角松「!?」

菊池「なっ……!」

菊池(いつの間に!?)

左30度から、高高度より接近する数個のネウロイの群れ。
バルクホルン隊とヴィルケ隊の方から、二人の気を引きつつ少数ずつが集まっていた。

距離はもはや目と鼻の先、2km。

菊池(短SAMはもう間に合わない!)

一刻一刻と迫る。

菊池「前部CIWS射撃開始!AAWオート!」

一瞬にしてこの判断。
CIWSによる迎撃が始まった。


「みらい」艦橋

艦橋員A「艦橋1番!」

艦橋員A「敵左30度、まっすぐ突っ込んでくる」

尾栗「っ!!」

CICと見張り員の報告に、艦橋の空気が一気に変わった。


ウィーン!

艦前方のファランクスの起動スイッチが入れられる。
内蔵された独立レーダーが迫りくる目標をとらえ、最大仰角を取った。

ヴォオオオオオオオオオオオオオ!

20mmのタングステンの弾が毎秒60発の猛スピードで吐き出される。

ファランクス射程は約1km。
敵ミサイルに対する最終防空圏内である。
ここを破られれば、後はない。

ネウロイ「!!」

ガガガガガンッ! パキィ!

ひとつのネウロイが直撃を受け、海中に落ち、爆散した。
しかし別の方向よりほかのネウロイが接近する。

フィーン……ヴォオオオオオ!

旋回、左20度に修正。
角度を調整し、コンピューターで追跡と補正を繰り返しながら射撃を行うファランクス。


だがその処理にも限界があった。
ひとつしかない前部CIWSに対し、敵は多方向から接近してくる。

CIC員A『目標さらに接近!』

梅津『取り舵いっぱい! 左停止、右いっぱい急げ!』

角松『総員衝撃に備えー!』

尾栗はその指示を瞬時に理解した。

尾栗(舵をいっぱいとり、ネウロイの下に回り込もうというのか)

相手は急角度で接近しているならば、直撃は避けられるが……。

尾栗「取り舵いっぱい!左停止、右いっぱい急げ!」

尾栗「見張り員退避!」

ありったけの声で指示を出す尾栗。

操舵員「くっ……」

操舵員「俺達の「みらい」を……やらせるかよっ!」

懸命に舵を切る操舵員。
急いで避難を始める露天艦橋の見張り員。

だが、敵はすぐそこまで来ていた。


艦橋員A「き……きたっ!」

艦橋員B「うわァッ!」

取り舵に対応するかのように、急降下をかけたネウロイが、とてつもない立体起動をかけた。
艦橋真正面上空にポジションをとり、その体を赤くする。

麻生「梨田ーッ!」

露天艦橋に半身を出して叫ぶ麻生。

尾栗「伏せろ!」

尾栗がその体を引きずり込んだ。



カッ!



光線が発射されるまでの、その一瞬。
他のネウロイの処理を終えたファランクスが自分の真上にいるネウロイを捕捉、射撃を始めた。

ヴォオオオオオオオオオオオオオ!

ファランクスの銃弾がネウロイの右半分に直撃する。
それは光線の軌道をわずかにずらした。

ズアアアアッ!

凄まじい熱線が、「みらい」を襲った。
同時にネウロイの体が破壊される。


バババババッ!

ネウロイの光線が左露天艦橋を溶かした。
そしてその近くにあるESM装置、衛星通信アンテナ、左舷側装甲全体に一筋の傷をつける。
水に接した熱線は、「みらい」の船底近くで凄まじい水中爆発を起こした。

そして被害は艦橋本体にも及んだ。

バキャアアアアッ!

艦橋員A「わああっ!」

ファランクスによって粉砕されたネウロイが四散する。
その破片が「みらい」の艦橋を襲った。

バキャッ!バリイイインッ!

風防のガラスは意味をなさず、ほとんどが割れた。
銃弾と同等か、それ以上の勢いで飛び込んでくるその破片。

ガガガガガッ

艦橋員B「ぎゃああっ!」ドザァッ

尾栗「ウオッ……!」

とっさに装備品を盾に身をかがめる一同。
だが一部の隊員が揺れに耐えきれず、その身を晒してしまう。

尾栗「――――ッ!」


「みらい」が、損害を受けた瞬間であった。


「みらい」 CIC

ドオオオンッ!

菊池「くっ!」

「みらい」の船底が水面から若干浮き上がるほどの爆発。
その爆発の衝撃は、揺れの少ないはずのCICにも伝わった。

青梅「敵弾本艦に接触! 接触場所、本艦左舷!」

CIC員A「艦橋より被害報告ーッ!」

簡易ダメージ報告にあふれるCIC。

角松(ダメージはどうなって……)


ガンッ!

そこに響いた、鈍い打撲のような音。


角松「っ!」

CIC員A「か、艦長!!」

梅津「………」

その音に一同が振り返ると、コンソールに横たわる梅津の姿。
揺れの衝撃で一度背もたれに頭を打った後、正面の計器類に再び打ち付けたようだ。

CIC員B「血が……」

CIC員A「だれか看護師を!」


角松「戦闘は続いている!!」


そこに入ったのは角松の一喝。

それに怖気つき戸惑っていた隊員たちが我に返り、素早く戻る。
そのまま角松が艦長の体を起こし、様態を見ながら指示を出した。

角松「医務室艦橋、艦長負傷!搬送求む!」

角松「各部、受け持ち区画の状況報告!」

青梅「……!」

青梅「左前方、2番SPYレーダーに異常!ノイズ発生!」

青梅「正常に作動していません!」

菊池「なっ……」

まずいことになった、と菊池は思った。
4面ある以上、完全に目がなくなったわけではないが、これは明らかに深い傷である。

菊池「左前方SPY停止」

菊池「ほかの面で全力を挙げて補え!

青梅「アイサー」

インカムを掴み、他の部署の状況を確かめる。

角松「応急指揮所、状況を報告せよ」


「みらい」応急指揮所


「みらい」の損害を確認することができるこの部屋で、今までにない緊張が走っていた。

応急員L「艦橋応急室、艦左舷に敵光線命中!」

応急員L「艦橋風防に被害発生」

応急員L「ECM、衛星通信ドーム故障!フィードバックなし!」

応急員L「負傷者報告多数、現在集計中!」

角松『艦橋了解、続けて確認続行せよ!』


応急員L「被害状況、情報収集急げ!」

応急員A「ソナー室より連絡! 通路側より浸水確認!」

応急員B「担当員、確認せよ!」

応急員C「艦内各所にて断線多数」

応急員C「漏電による火災の可能性あり!」


応急員A「機能テスト開始! 急速探知行え!」

応急員B「了解!各部急速探知行え!」

そしてさらに報告が入る。
それまで全て正常を示していたパネルやコンソールが、次々に異常を示す表示に変わる。

応急員C「左舷吸気口、小規模火災発生」

応急員C「艦橋より報告!人的被害、負傷者多数!」

その声に、いつも冷静に訓練をしていた静けさ消えかけていた。
皆怒号に近い声をギリギリに抑えている。

応急員B「……!」

応急員B「左最高軸機、温度上昇中!」パチパチ

応急員A「補助冷却、一号冷却起動!」

応急員B「了解、一号冷却起動する!」

応急員B「よーい、てーっ!」

ガチリ、と冷却水を送るパイプのスイッチをひねる。

応急員B「一号冷却起動!」

応急員B「……駄目です!左最高軸機温度、依然として上昇中!」

ジリリリリリリリリ!
怒号の中に警報が鳴る。

応急員C「左最高軸機温度、60度警報!」


応急員A「応急冷却はじめ!」

このままでは停止に、最悪使用不能になる可能性さえある。
それだけは避けなければならない。

応急員A「どうだ……?」

応急員B「左最高軸機温度下がりだした、現在58度!」


そこへ原因の報告が入る

応急員C「第二主機室通路より報告!」

応急員C「左軸、冷却海水入口管に亀裂発生」

応急員C「幅5mm、長さ7cm、現在も漏水中!!」

応急員L「飛散防止処の後に修理せよ!」

応急員C「了解!」


ジジジジジジジ!と新たな警報がなった。

応急員B「フレーム30に浸水確認!」

受話器から報告を受けていた隊員が報告する。

応急員A「担当応急員はすみやかに防水準備!」

応急員A「耐火防護服、作業具一式を持ち作業を開始!」

応急員B「アイサー!」

応急員C「左軸、冷却海水入口管の修理完了!」

応急員A「了解!各部通水テスト開始!」

応急員A「よーい てーっ!」


「みらい」船底 フレーム30

応急員D「ここか!」ガチャ

ドザアアアアアアアアアア!

扉を開けると、どこからか勢いよく水が流れてくる。

応急員D「ウオッ!」

応急員E「破孔確認!」

応急員E「舷側、幅5cm、長さ24cm!」

応急員F「足りん!楔もう一セット持ってこい!急げ!」

応急員F「毛布あて、箱パッチ当てろ!浸水限界になるぞ!」

その時、隊員の一人が水に浮いた何かを見つけた。

応急員G「員長!機関科の亀井二曹です!」

応急員G「頭部より出血!意識不明!」

応急員F「亀井二曹!しっかりしろ!」

応急員E「看護員!今すぐ医務室へ!」


「みらい」周辺

エーリカ「トゥルーデ!「みらい」が!」

高高度より「みらい」に襲いかかる3つのネウロイを見つけた。

ゲルト「……やられたっ!」

ゲルト(いつの間にあの高度に!?)

急行する二人。
CIWSが迎撃するも、ついに「みらい」が被弾する瞬間を二人が目にした。

エーリカ「あっ!」

露天艦橋の一部がごっそりなくなった「みらい」。
その左舷側には黒い融けた跡が

エーリカ「ひどい……」

ゲルト「ミーナ!「みらい」が!」


エーリカ「まだネウロイが残ってる!」

ゲルト「なにっ!?」


他のネウロイがさらに接近する。
その援護に二人が駆け付けようとした時、別の方向から雲が一つ引いた。

エーリカ「あれは……」

ゲルト「宮藤!?」

そこで飛び出したのは宮藤だった。
道中妨げに入るネウロイを機銃で薙ぎ払いながら行く。

グオオオオオオオオン!

芳佳「間に合ええええええ!」ガガガガガガ

芳佳「!?」ガチッ!

その時宮藤の銃が弾詰まりをおこす。

芳佳「……ごめんなさいっ!」

そのまま銃を放棄する宮藤。
そして軽くなった分が加速し、一気に「みらい」へ向かう。

ネウロイが「みらい」に追い打ちをかけようとする前に、宮藤が滑り込んだ。

芳佳「はあっ!」パアアンッ!

光線が宮藤持ち前のシールドに弾かれ、「みらい」が被弾することはなかった。

だがその後ろで、作動中のCIWSが狙いをつけていたこと宮藤は気づかなかった。


芳佳「!?」

挟み撃ちの状態になった時、目の前のネウロイが撃ち抜かれた。

芳佳「……リーネちゃん!」

リーネ「芳佳ちゃん! 後ろ!」

芳佳「えっ?」

ファランクスの銃身が回転を始める。

ヴォオオオオオ……ガガガガガンッ!!

その後ろにペリーヌが割り込み、ファランクスの銃撃を防ぐ。

ペリーヌ「この莫迦!あなたという人は!」ヴォン!

ペリーヌ「装備を捨てたり対空砲の目の前に飛び出したり、どういうつもりですの!?」

芳佳「す、すみませ~ん!」

数秒も経たないうちにシステムが落とされ、ファランクスが射撃をやめる。


坂本『宮藤!そっちにコアが行った!』

ミーナ『十字砲火をかけます!』

芳佳「はっはい!」

芳佳「あれ?じゅ……銃は?」

ペリーヌ「全くこの人は! さっき捨てましたでしょう!!」

ペリーヌ「射線を開けてくださいまし!」ガガガガガガ!

ガンガン! パキンッ! パアァァァァァ

ペリーヌがそのままコアを撃ち落とす。
それに続き、周りのネウロイもすべて崩壊した。

ペリーヌ「ふっ、まぁざっとこんなもんでしてよ」

ペリーヌ「それより宮藤さん!」

芳佳「ひゃいっ!」

ペリーヌが詰め寄った。

ペリーヌ「いくらあなたのシールドが強力とはいえ、簡単に飛び出しすぎです!」

芳佳「は、はぃ……」


エーリカ「まぁそう攻めてやるなよ」

エーリカ「確かに短絡的な行動ではあったけどさ……」

エーリカ「おかげで、「みらい」が沈む事態だけは避けられたんだ」

視線を横に向けると、煙を出しながら漂う「みらい」。
痛々しい傷跡が見えた。

ゲルト「艦橋脇がやられたか」

ミーナ「……現時刻をもって、戦闘を終了します」

ミーナ「宮藤さん、まだ魔法力は残ってるわね?」

芳佳「は、はい!」

ミーナ「では、「みらい」の救助支援に当たってください」

芳佳「……はい!」

ミーナ「リーネさんは一度帰投して医療器具を用意して」

リーネ「了解!」

ミーナ「私たちは整備兵に「みらい」受け入れと支援の用意をさせます」

踵を返す前に、各々がふと「みらい」を見る。

そしてウィッチの編隊が分かれた。


「みらい」CIC

CIC員A「CIWS停止、間に合いました!」

菊池「………」

被弾直後のネウロイの追撃には肝を冷やしたが、それ以上に宮藤の突入は予想外であった。
CIWSの旋回が間に合うかわからなかった以上、この突入は吉と出てきたが……。

青梅「全ネウロイ、沈黙」

青梅「レーダーから消えます、対空対水上目標なし」

角松「対空戦闘用具収め!」

角松「被害状況を集計、各部処置急げ!」

『対空戦闘用具収めー』


菊池「っ……」

顔から汗が垂れ落ちる。

菊池(この最新鋭のイージス艦……全ての能力を解放すればこの敵は容易かった)

菊池(だが、我々の置かれた状況下はそれを許さない)

菊池(弾薬消費の恐れか?「みらい」を失う不安か?)

菊池(……いや、どちらもだ)

菊池(やはりこの力なくして、この世界で生きることはできないのだ)


菊池(その考えが揺らいだ結果、この有様か)


「みらい」艦橋

尾栗「予備応急隊!衛生班!艦橋へ!」

尾栗「負傷者多数!補充員頼む!」

負傷者の応急手当てをする尾栗。
ネウロイの破片が体を切り付け、出血がおびただしい。

包帯を巻き終えた後、脇の舵輪と主計器をみる。

尾栗(右軸左軸ともに正常に戻った)

尾栗(舵、推進器に異常はない……)

尾栗(「みらい」はまだ生きている!)


隊員A「航海長……!」

駆け付けた隊員の見たのは、艦橋の惨状だった。
無事だった隊員も、少なからず何らかの跡が残っている。

尾栗「止血したら戻る、それまで頼むぞ」

隊員A「は……」

重傷の隊員をかつぎ、医務室へ向かう尾栗。


艦橋の扉から下層へ向かう。
ちょうどその脇を衛生員が通り過ぎた。

隊員B「しっかりしろ、すぐ連れて行くからな」

艦内で倒れていた同僚に応急処置をする隊員。

隊員C「医務室はすでに満員!?」

艦内電話で医務室に問い合わせていた隊員が聞き返す。

隊員C「手当ての必要な軽症者は科員食堂へ搬送!了解、連絡終わり!」ガチャン


隊員D「航海長、手伝います」

急なラッタルに差し掛かったところに手伝いを申し出る隊員。
だが彼自身も怪我をしている。

尾栗「いや、大丈夫だ。お前はお前で自分の脚で医務室へ行くんだ」

隊員D「は……」

ここだけでなく、艦内では多数の場所で防水作業や応急処置が行われていた。

「みらい」の戦闘は、まだ続いていた。






ブリタニア ロンドン某所

とある一室にて、草加が電話を取って話していた。

草加「それは本当か」

『はい、私自身が確認はしていませんが……』

『ドックへの命令や整備員の話から察するに、「みらい」が損傷を受けたのは確かなようです』

『医療品を持ちだすウィッチを見た人員もいることから、死傷者の可能性も』

草加「……わかった、諸君らはそのまま任務を継続」

草加「特にこの件で関与はするな」

『了解』

通話を終わらせ受話器を置く。


ふと窓の外を見る。
雨がざあざあと降り続くその町は、雨雲に覆われて薄暗い。

窓のそばに立ち、考えにふける草加。

草加(……いつかこのような事態になるとは思っていた)

草加(やはり「みらい」とて完全ではない)

さて、ここからが面倒だ。

草加(すでにマロニーの耳には入っただろう。彼の「みらい」への評価が)

草加(それに伴い「みらい」の扱いがどう変わるか……)

草加(注意しなければな)

ガチャ、ジャーコジャーコ……

再び電話機に歩み寄り、受話器を取る。
そしてダイヤルをまわし、再び電話を掛けた。




ブリタニア ロンドン 某所

草加の予想通り、すべてはマロニーの元へと伝わっていた。

マロニー「「みらい」が被弾?」

マロニー「ダメージの程度は?」

副官「詳細は不明です」

副官「単艦で航行できている以上、致命的なものではないかと」

マロニー「……中佐はどうでた?」

副官「基地付設のドックで修理補給を行う模様です」

副官「……いかがいたしましょう」

副官「こちらから資材供給が無ければ、ろくな修理は不可能と思われますが」

マロニー「……ドックに入るのか」

しばらく考え込むマロニー。

マロニー「よい、そのまま修理をさせろ」

副官「はっ」

マロニー「魚は生け簀にいるうちに調べておかなければな」






「みらい」医務室

日が落ち、海面が赤くなる。
エンジン安定を維持するため、速度を落とし帰投する「みらい」。

医務室にはベッドが足りず、重症者が多数椅子や床に横たわっていた。
その中に、頭に包帯ネットがかぶせてある艦長の梅津一佐の姿もあった。


角松「艦長の容態はどうか?」

桃井「出血を伴う頭部打撲、意識不明でしたが」

桃井「現在は意識も回復し、薬で寝ています」

桃井「しかし、やはり陸上での検査を要請します」

角松「そうか……」


そこで梅津が目を覚ます。

梅津「……そこにいるのは、副長か」

角松「お目覚めですか、艦長」

梅津「なんとか、な」

か細くなった声で返事をする梅津。


それから周りを見渡し、角松に顔を向けた。

梅津「どうやら「みらい」は生き残ったようだな」

角松「はい」

梅津「あれから、どうなった」

角松「艦橋左に敵光線が被弾するものの戦闘を継続」

角松「その後ウィッチの支援にてコアを破壊、ネウロイは全て崩壊しました」

そうか、と天井に向きなおす

梅津「……被害は?」

角松「左露天艦橋、同構造物の一部が損壊」

角松「また左側面の装甲から喫水線下にかけて一部融解、現在応急処置を施してあります」

角松「左前方SPYレーダーに障害、現在検査中ですが使用できる可能性は少ないとのこと」

角松「そして乗員ですが……」


角松「重軽傷者23名」

角松「死者7名です」

梅津「……7人も、か」


ふと角松が顔をあげた先に、机に伏せて寝てしまっている場違いなセーラー服の少女が目に入る。

角松「彼女はたしか……」

桃井「501の宮藤軍曹です」

桃井「彼女が持ち前の治療魔法で私たちの手助けを」

桃井「おかげで艦内治療がままならない隊員たちも多数助かりました」

桃井「それで疲れてしまったようで、後ほど私の部屋に案内します」

角松「魔法か……」

桃井「しかしそれでも、やはりある程度限度があるようです」

梅津「……魔法も老いには勝てぬ、か」

梅津「退官間近までやってきたが、もう潮時なのかもしれんな」

角松「艦長……」


梅津「角松」

角松「はい」

梅津「私がいない間、お前に「みらい」を任せる」

角松「……はっ!」






「みらい」艦橋

ジジジジジジ!バチンバチンバチン!

隊員A「補給科ー!ナットが足らん!」

隊員B「ついでにこっちにも持ってきてくれ」

隊員の声と小型溶接機の音。
その艦橋に麻生と角松が立っていた。

麻生「艦載部品だけでは、大半の部分が修理不可能です」

麻生「特に電子機器に至っては絶望的と言えるでしょう」

麻生「ドック入りした後、断線箇所を通常以上に細かくチェックする必要があるかもしれません」

艦橋脇の規制線代わりに張られたロープに向かう。

角松「ひどい有様だな」

左の露天艦橋は大きく融け、削げていた。
光線の熱で溶かされた後の残る断面が、その惨状を物語る。

麻生「ここです。我が隊の梨田一曹が『消えた』のは」

『消えた』と表現したのは、彼の遺体が残っていなかった故だった。
光線は梨田一曹もろとも消し去り、放り出された彼の双眼鏡だけが遺品として残された。

麻生「本当に一瞬のことでした」

目の前で光に包まれた梨田一曹の事を伝える。


角松「掌帆長」

麻生「はい」

角松「梨田は、何か言い残していたか?」

麻生「……いえ、なにも」

角松「そうか」

それほど一瞬の出来事であった。

麻生「……ただこうしてみると」

麻生「自分が生きているのはほんの偶然だと思いましたね」


隊員A「よーし、この区画はこれでいいな」

隊員B「せめて直せるところは直しておけよ、扶桑の整備兵に笑われるぜ」

隊員C「よーし、食堂行って席取りしとくか!」

隊員A「掌帆長、副長、応急班交代入ります」

麻生「ん、ご苦労」

互いに敬礼を交わす。
作業着が汚れたままぞろぞろと向かう。

角松「……ん?」

艦橋からギリギリ見える後部甲板に、見慣れない人の姿。

麻生「あれ、青梅一曹じゃないですか」

麻生「走り込みに参加するなんて珍しいですね」


青梅だけではなく、後部甲板には多数の隊員が走っていた。

麻生「……自分も、チェックが終わったら一回りしてきます」

角松「そうか」

麻生「では、失礼します」

敬礼をし、艦橋奥へと戻る麻生。
しばらくして角松も艦橋を後にした。

角松「………」


通路を歩くといつも以上に隊員を見かける。
ある者は修理をしていたり、ある者はただ話をしていたり。
科員食堂では作業上がりの隊員や非番の隊員が食事や談笑をしている。

角松(仲間を失って意気消沈するものも現れると思ったが……)

彼らの顔に笑顔こそ見られないが、仲間を失い絶望に満ちた顔を見せているわけでもない。

角松(……いつしか、我々は『上の立場』にいると思い込んでいたのか)

この時代には並外れた力を持つ「みらい」。
今まで戦闘における死者を出すことがなかった「みらい」。

故に、どこかで慢心に近い錯覚を覚えていたのかもしれない。
それが現実に否応にも引き戻され、隊員たちは自覚し始めたのだ。

角松(自分たちは今戦っている、軍人であるのだと)


左舷甲板へと出る。
脇に光線で融かされた跡が生々しく残っていた。

隊員A「おーい、陸が見えたぞー」

後部甲板で走っていた連中が足を止めてブリタニアの島影を見た。

上空では護衛として付いていたリーネ飛んでいる。
ちょうどエイラとサーニャが交代するために合流したところでもあった。

リーネ「エイラさん、サーニャちゃん」

エイラ「夜間哨戒ついでに交代に来てやったぞ」

サーニャ「もうすぐ港につくから、私たちで変わるね」

分かれるリーネ。

サーニャ「……ひどい怪我ね」

エイラ「ああ……」

一筋の傷跡を見て二人が呟く。

エイラ「だけどさ、あの猛攻を生き残っただけでもすごいと思う」

サーニャ「そうね」フリフリ

エイラとサーニャを見つけた隊員が手を振り、それに振りかえすサーニャ。


重軽傷者23名。
死者7名。

傷付き、多くを失った「みらい」はゆっくりと港へ戻って行った。

長くなりましたが今回は以上です
昨日に続いてギコナビがほぼ毎回timeout返してくるほどに重かった……

プラモデル用の写真集ってのが、細かい写真多くて情報いっぱいなのに驚き
プラモデルつくらないもんでちょっとなめてました

相変わらず未完成ながら、次回予告を


「みらい」隊員が甲板に整列し、半旗が掲げられる。

坂本「戦闘におけるはじめての殉職者だそうだ」

格納庫の近くにひっそりたたずむプレハブ小屋。

草加「組織の全体を完全に把握できている者など、実際はほんの一握りしかいない」

水の抜けた乾ドックで、その全体が露わになる「みらい」。

ゲルト「スペックダウンは免れない、か……」

武器庫から拳銃を取り出す隊員。

角松「ドック入りの間、当直警戒員に拳銃の武装を許可する」

ネウロイに関する文書を読む菊池。

ウルスラ「ネウロイのエネルギーは、時に理不尽なまでに常識外の現象をおこします」


次回『転換点』


「みらい」に対して敬礼をする梅津。

梅津「諸君らは扶桑の軍でもなく、ブリタニアの軍でもない」

梅津「日本国の自衛隊なのだ」

※この予告は変更される場合があります

また次回はいつもより少なくなるかもしれません

海江田「久しぶりだな諸君。」


海江田 「あまり時間がないのでシーウルフとの戦闘は省略だ。宣言だけする。」

海江田 「我が国(このSS)に対する有効な攻撃手段はもはや存在しない!」

海江田 「今後我々の戦闘(カキコ)は人類共通の真の敵(各自が考えてね)に対するものである!」

海江田 「この戦闘に勝利した時人類は長き戦いの歴史(誹謗中傷合戦)に終止符を打つのである。以上!」


彼はCICにいた。
ただひたすらに指示を続けているが、敵がかまわず襲い掛かる。

『α目標分裂!』

『レーダー探知!目標100超過!』

『シースパロー発射!サルボー!』

『目標さらに接近!』

『CIWS停止!前部後部ともに残弾ゼロ』

『目標左30度!真っ直ぐ突っ込んでくる!』

『敵弾本艦左舷に命中!船体に大激動!』

『SPYレーダー機能停止!』

『短SAM弾庫で爆発!左舷に破孔ーッ!』

『現在艦傾斜左10度!排水追いつきません!』

『総員退艦!総員退艦!』

『艦橋正面!目標―――!』


ジャアアアアア―――ッ

「みらい」の洗面所の一室。
そこで菊池雅行はふと我に返った。

菊池「ハッ、ハッ、ハッ……!」

顔を洗い、洗面所の水が出しっぱなしであることに気付いた。

蛇口を締め、水を止める。

菊池「ハァ……」

コンコン、と戸口を叩く音がする。

尾栗「雅行、そろそろ時間だ」

尾栗「艦長も洋介も既に甲板も出ている」

菊池「……ああ、すぐ行く」

尾栗「………」

カン、カン、カン……
尾栗の足跡が遠ざかっていく。

鏡を見直して濡れた顔を拭くと、そのまま部屋を出て自室へ向かった。
そしていつもの紺色の作業着から、白色の礼装へと着替えた。


501基地 港

その甲板に、当直員以外の「みらい」乗員が整列していた。

カッ、カッ、と甲板を固く突く音が響く。
杖をつき、支えられながら梅津が現れる音だった。

隊員「……!」

隊員達が思わず目を見張る。
頭に巻いた包帯が、彼の負った怪我の程度を表していたからだ。

梅津「……皆、そろっているようだな」

落ちた体力を振り絞り、話を始める。

梅津「先の戦闘で、皆はよくやってくれた」

梅津「怪我をした者、仲間を失った者、多数いることだろう」

梅津「だが、今日まで本艦があったのは君ら自身のおかげだ」


カッ、と杖を突き直す。

梅津「……本題に入ろう」

梅津「角松二佐より、話は聞いていると思う」

梅津「私は本日をもって退艦」

梅津「陸上の施設に入院することとなった」

梅津「どれくらい離れることになるかはわからないが……」

梅津「その間、本艦の全指揮権を本日12:00をもって―――」

梅津「副長の角松二佐に委譲する!」

声を上げる者は誰もいない。

梅津「新艦長の元、変わらず任務に励んでほしい」


梅津「……さて、先の戦闘で倒れた仲間に、別れを告げよう」


「みらい」 医務室

狭い医務室の中、整然と並べられた7つの棺。
しかしそのうちの一つに、遺体は入っていない。

手前の台には線香が供えられている。

隊員A「………」

隊員B「梨田一曹、亀井二曹、皆……」

数人の隊員が、彼らを運び出すために医務室へと集まっていた。

隊員A「悔やむ気持ちもわかるが、後だ」

隊員A「ゆっくり運べよ」

隊員B「ハッ」

隊員C「せーのっ!」

ガチャ、ガチャ……

一つ一つの台が甲板へ運び出される。


甲板に現れる棺。
運び出された遺体を囲み、隊員が整列し直す。

隊員A「捧ーげ、銃!」

梅津「………」サッ

角松「………」サッ

菊池「………」サッ

尾栗「………」サッ

ザザザッ!

号令と共に、幹部をはじめ総員が敬礼をする。
同時にラッパ隊が葬送曲を奏でる。

隊員A「弔銃発射、よーい!」

着剣した89式小銃を構える担当員。

隊員A「てーっ!」

タタタタターン!

空砲が斉射され、硝煙と音だけが残る。


タタターン! タタターン!

さらにもう二回、弔銃が斉射される。

隊員A「黙祷!」

空砲の響きだけを聞きながら、総員が黙祷する。


黙祷が終わった後、棺が艦の外に運び出される。
桟橋の向こうには扶桑の儀仗兵、そしてミーナと坂本がいた。

それぞれが敬礼をして、彼らの棺を見送る。
それに角松をはじめとする幹部が同行する。

船外ラッタルを降り切り、棺を並べる。

坂本「……確かに、身柄を預かった」

坂本「本来ならばあなた方生まれの国に返すべきなのだろうが、現状では不可能のようだ」

坂本「こちらでできうる限り、あなた方の仲間は丁重に葬らせてもらう」

舷側からその棺を見送る隊員。


隊員A「そうだ……」

隊員A「俺たちは、死んでも日本には帰ることができないんだ」

隊員B「死んで別の世界に骨を埋めなきゃいけないなんてな」

隊員C「誰も知らない世界で戦って、死んで、満足できるもんなのか……?」


そのつぶやきが聞こえたのか、ただ察したのかはわからない。
梅津が「みらい」の乗員たちを見上げ、こういった。

梅津「きっとこれからも、この世界にいる限り皆戦いに直面することだろう」

梅津「本艦が軍艦である以上それを免れることはできない」

梅津「そして戦えば、いつか必ず傷を負うこともあるだろう」


梅津「だがどんな苦難にあっても、どうか海上自衛隊であるということを捨てないで欲しい!」

梅津「諸君らは扶桑でもなく、ブリタニアの軍でもない。日本国の自衛隊なのだ」

梅津「それがこの世界で、我々が我々であると確認できる唯一の手段だ」


梅津「たとえ我々と無縁であったこの世界で活動をしても、決して無駄ではない」

梅津「人を救えた、その事実は変わらんよ」

梅津「それを忘れなければ、きっと胸を張ってこの世界で任務に当たれるはずだ」

乗員たちは黙ったままである。
しかし各々がその言葉を受け止めているようだ。

梅津「……っ!」

声を張りすぎたのか、よろける梅津。
それを支える桃井一尉。


梅津「皆、角松二佐の元「みらい」を頼むぞ」

そして梅津は「みらい」にむけて敬礼をした。

「「………!」」サッ!

「みらい」の乗員たちが無言で敬礼を返す。

角松らに支えられ、梅津は501基地内部にある医務室へと入った。


501基地 ミーナ執務室

ミーナ「彼らの処遇については、あなた方の一向に任せたいとおもいます」

角松「最適な便宜、感謝します」

坂本「このブリタニアの地に埋葬するもよし、もしくはこの海に海葬をするのもいい」

坂本「必要な用意はこちらでしよう」

坂本「希望するなら、扶桑に3日後発の二式大艇で搬送」

坂本「横須賀の扶桑海軍墓地に埋葬することもできる」

七つの棺、それも一つは空。
それをわざわざ空輸してまで扶桑まで届けてくれるとは、サービスが過ぎないか。

角松「航空機で扶桑に……?」

坂本「私も驚いた」

坂本「これは杉田大佐の申し出だ」


角松「杉田大佐……」

空母赤城艦長である彼を思い出す。

坂本「我が扶桑は「みらい」に度々借りがある故、如何様なことでも協力したいと」

坂本「「みらい」がここに入港する前にはすでに連絡があった」

ミーナ「それともう1つ」

ミーナ「今回のドック入り修理にあたり、扶桑からの資材・人員支援も行われるということです」

角松「ブリタニアではないので?」

坂本「合議のあげく半々折半、だそうだ。上の考えることはわからん」

角松「……?」

話を聞くに、扶桑側の準備はすでに整っているという。

角松(情報が少しばかり早すぎる気がするが……)

ミーナ「元々ここのドックも、あまり設備の大きいものでもありませんので」

ミーナ「この支援は助かったともいえます」


ミーナ「なお、病院の手配についてはすでに終わっているそうです」

角松「先の件と言い、ずいぶん対応が早いようだが……」

あくまでも「みらい」はこの世界で公には認められていない軍艦である。
もっともその活躍からフー・ファイターとして、一部ではどこかの国の特務艦として認知されているようだが。
いずれにしても、事を大きくしたり動ける存在でないことは確かだったはずだ。

坂本「……裏で、動いている人物がいる」

角松「……!」

その言葉で角松はすべてを悟った。

角松「草加……少佐ですか」

ミーナ「ええ」

坂本「「みらい」が関わるとなると、あの男動きが素早くなる」

ミーナ「今回に関しては、純粋に感謝したいけれど」

角松「………」


※フー・ファイター:元々は第二次世界大戦中、連合軍兵士が見たというUFOや不思議現象、不可解な敵などを指す。
          その正体はドイツ軍の色付き照明弾だったり、金星の見間違いだったりと解明されたものもあるが
          一方では戦場伝説として広まったままの例もある。
          原作「みらい」や、映画「ファイルナルカウントダウン」の空母ミニッツ等もそう伝えられているようだ。






ブリタニア ロンドンの病院

シーツの取り替えられたベッドに横になった梅津。
その横で草加が看護師と手続きなどについて話していた。

ひと段落つき、そばにあった丸椅子に座る。

梅津「戦乱で人の多い中、わざわざ個室まで手配をしてくれるとは」

大部屋でなく個室をあてがわれた梅津。

草加「ここロンドンは未だ比較的余裕があります。その点はご心配なく」

草加「それに残念ながら、これはある種の処置になります」

草加「上は、出来るだけ他者との密な接触を避けたい考えのようで」

梅津「……いずれにしても、ありがたいことだ」

梅津「感謝する、草加少佐」

草加「………」


草加「兎にも角にも、あなたには生きていてもらわなければなりません」

草加「我々にとっても、あなた方「みらい」にとっても」

梅津「「みらい」にとっても、か」

草加「………」

草加「「みらい」は、海上自衛隊というのは、よくまとまった組織であると感じます」

草加「この過酷な状況下におかれても、あなた方はその本分を見失わないでいる」

梅津「それは隊員たちの賜物です」

皆を信頼している梅津らしい言葉であった。

草加「しかし、その根底にあるのはあなたです。梅津一佐」

草加「あなたという灯火があったからこそ、あれほどまとまっているのですよ」

梅津「……昼行燈、と揶揄されていた私が灯火とはね」


上に向けていた顔を草加の方へと向ける

梅津「草加少佐、もしやあなたは「みらい」が離散するとでもお考えか?」

草加「……正直に話すならば、あなたにはあの艦を降りてほしくはなかった」

草加「しかしこうなってしまった以上、仕方のないことです」

梅津「……草加少佐、どうか彼らを信じてやってくれ」

梅津「角松二佐、彼ならしっかりやってくれると私は信じている」

そして柔らかく笑って見せた。

梅津「なぁに、「みらい」は変わらんよ」

草加「……では、私も信じましょう」

そういって、草加は立ち上がる。

草加「私はこれで失礼します」

草加「ここには扶桑人スタッフも多数いますので、何かあれば彼女らに」

草加「では」

帽子をかぶり直し、そのまま一礼して立ち去った。



カツ、コツ、カツ、コツ

梅津『隊員たちの賜物なのです』

梅津『どうか彼らを信じてやってくれ』

草加の耳に先の梅津の言葉が反芻する。

草加(確かに、彼らは信用たる人物)

草加(しかし私が憂いているのはそこではない、梅津一佐)

草加(信用し、あなた方のことを深く知ったからこそ、心配なのだ)

病院の外では、津田が車のところで待っていた。
互いに敬礼をし、車内に乗り込む。

草加「監視はどうか?」

津田「は、かねての通り」

草加「万が一の時に備えろ。『相手』はどんな手を使ってくるかわからん」

津田「は……」

草加の『相手』という言葉に違和感を感じながらも、返事を返した。

津田「それと、「みらい」がドック入りしたという報告を受けました」

津田「午後には修理のため検査を開始する予定です」



草加「……伴う動きは?」

津田「大きく目立った報告はありません」

津田「しかし外部からの人員が若干増えているという報告は受けています」

草加「制限を設けるとはいえ、ドック入りの間は必然的に関与人員が増える」

草加「怪しい動きは見逃すな」

津田「……しかし、我々が監視せずともいずれ発見されるのでは?」

津田「向こうも曲りなりに特務機関とはいえ、ここまで人員が増えるとなると何かしら引っかかるはずです」

草加「……組織の全体を完全に把握できている者など、実際はほんの一握りしかいない」

草加「自分の下にある場所さえ、それが巨大に複雑になると把握はしきれないものだ」

草加「「みらい」という介入者が入った今、501は良くも悪くも人が入り乱れる状況下に入った」

草加「だからこそ君の機関員も入れているだろう」

津田「は……」


501基地 「みらい」乾ドック

水の抜かれた乾ドックに佇む「みらい」。
船底が枕木で支えられ、倒れないようになっている。

片桐「はぁ~」パシャパシャ

ドックの壁部分から写真を撮る片桐。

片桐「これが「みらい」の全体像」

柳「一般では船の底を見ることはほとんどありませんからね」

船底まで見えている姿が珍しいのか、よく写真を撮る。

片桐「修理しているときは無防備な部分が多いですからね」

片桐「舷門が一つしかなかったところが、点検用に多数の足場も追加されてますし」

作業の為、あらゆる場所から「みらい」の甲板への足場が伸ばされている。

柳「艦内には人員もいますし、そういったことは心配ありません」

片桐「それならいいんですね」パシャ

そういって、ひたすらに写真を撮り続ける。
そのカメラのファインダーが、「みらい」左舷の『傷』を捕えた。


片桐「……ひどいですね」

柳「ええ……」

片桐「柳一曹はどう見ます?この被害は?」

柳「そうですね」

柳「あまり大きな声では言えませんが……」

柳「まず大きな痛手となったのが、左前方のSPYレーダーの喪失です」

柳「このフェイズド・アレイ・レーダーは、それぞれの面が90度ずつ探査しているわけです」

片桐「つまり「みらい」の左前方はがら空きに……」

柳「まだ異常を感知したのみで喪失が確定したわけではありませんが、正直望みは薄いでしょう」

柳「幸い、主戦場となるここドーバー海峡周辺は50kmから200km程」

柳「ある程度は他面のレーダーや機器でカバーすることは可能です」

片桐「後は隊員の練度次第、ですか」

柳「はい」


※フェイズド・アレイ・レーダー:レーダーの方式の一種。イージス艦と言えばこの一種のSPY-1レーダーを装備したのを想像する人が多いだろう。
                  レーダーと言えばくるくる回るアンテナのイメージが多いが、これだと向いていない方向に対し秒単位の探知ラグが生じる。
                  しかしこのタイプは一定方向を定点カメラのように監視するため、素早く精密な隙のない探知が可能。
                  内部には大量の電子素子が内包されていて、これを調整することで多数目標の同時処理(イージス)、一点集中処理(BMD)といった使い方もできる。
                  反面高性能な素子や使用時の消費電力、ベースとなる処理プログラムが必要など、採用に必要なハードルは高い。


柳「取り返しのつかないのが、隊員たちです」

片桐「7人、でしたね」

柳「はい」

「みらい」のその向こうを見上げる柳。

柳「これで、全員での帰還という希望は潰えました」

片桐「この程度で済んだのは幸いか……」

片桐「次は自分、いや「みらい」そのものかもしれない、と」

柳「あの偶然はもはや奇跡です」

片桐「二度は起こりませんか」

柳「小型ネウロイと言えど、光線がまともに当れば―――」

柳「ただでさえ装甲の薄いこの「みらい」は、一撃で沈むでしょうね」

柳「二度も起こりえないような同じ奇跡を願って、頼りにはできません」

片桐「………」






数日後 「みらい」乾ドック

バチバチバチ! ジャアアアア!

用意はすでに終わり、修理が始まっていた。
あちこちで溶接機の音が響く。

隊員A「あちぃ……」

麻生「左舷艦橋、どうか?」

見回りに来た麻生が作業員に声をかける。

隊員A「まだまだかかります!」

隊員A「何分全部手作業、ブロック替えも効きませんから」

麻生「フム……」

隊員B「扶桑とブリタニアの方に細かな発注をはしてますが、どこまで精度よくできるか……」

麻生「扶桑にもか?」

隊員B「扶桑は技術人員の派遣のようです」

隊員B「なんでも、海軍基地の方で融通が利くとか」

麻生「………」


甲板を降り、「みらい」を降りる。
外に設けられた作業用通路を通って下へと降りる。

麻生「船底の方はどうか?」

木材で支えられた船底を細かにチェックする隊員たち。

隊員C「排水も終了し、現在清掃中です」

隊員C「幸い、致命的な電子機器の破損などは認められませんでした」

隊員C「海水の流入は通路側のみで、初期防水が手際よく行われたおかげで量も少なかったようです」

溶け開いた縦長の穴の周りをなぞる隊員。
その跡ははるか上にも続いており、穴は開いていないにしろ黒い傷をつけていた。

隊員C「材料が届き次第、穴の修復を急ぎます」

隊員C「発注した材質と元の材質に大きな誤差が無ければいいんですが」

麻生「艦の底は速さとバランスの要となる」

麻生「作業は丁寧にな」

隊員C「はっ!」

どうも重くて投下もとんでもなくかかりそうなので、明日か明後日の夜に改めて再開します

一応理由づけしていたと思ってましたら、投下できてなかった部分がありました


>>325

坂本「とにかく、彼らの処遇はあなた方の判断に任せる」

ミーナ「次に梅津一佐についてですが……」

ミーナが書類をめくりながら話を進めた。

ミーナ「医師の話によると、ここよりも都市部の大型病院への転院を勧めています」

角松「それほど重体ということで?」

坂本「怪我自体は深いものではないようなのだが」

坂本「どうも怪我を負ったことによる体力衰弱が激しく、長期的な療養を推奨しているようだ」

角松「………」

そのことは、角松から見てもわかっていたことであった。
演説の時も杖を突いていたし、よろけることもあった。

坂本「……辛い話にはなるかもしれないが」

ミーナ「しばらくの間、「みらい」の艦橋には戻れないそうよ」

>>326


「みらい」艦橋

隊員「ふく……いえ艦長!」

変更に対し思わず間違えた隊員。

隊員A「13:32、扶桑整備員より確認用書類を受け取りました」

角松「ああ、ご苦労」

立ち去るのと行き違うように、尾栗が入ってくる。

尾栗「なかなか様になってんじゃないか、ええ?」

尾栗「無事ドック入りも終わり、修理に入ることもできた」

角松「どれくらいかかると思うか?」

尾栗「発注した物品の納入次第ってところだな」

尾栗「一月かかるかかからないか、くらいか」

角松「………」


尾栗「ところで、飛行科から返事が来たぞ」

尾栗「お前の提出した飛行スケジュールで問題はないようだ」

角松「そうか」

ここで提出していたスケジュールというのは、「みらい」の代わりの警戒航行についてであった。

尾栗「メインは「海鳥」を使うか」

角松「交互にローテーションを組む予定ではあるがな」

角松「シーホークは対潜メインのレーダーだ。高高度の敵を見落とすかもしれん」

角松「さらに運動性能も戦闘を目的としたものではない故、奇襲を受ける危険もある」

尾栗「あくまで『対潜』哨戒がメインだからな。対空は母艦の仕事だ」

尾栗「そして今回は「みらい」の索敵支援が不可能、だからか」

角松「……佐竹一尉以下「海鳥」にはきつい仕事を強いることになる」

尾栗「高給取りの飛行科だ。帰って賞与がとんでもない額になってたら、上の連中飛び上がるぞ」

尾栗が冗談交じりに言い、少しばかり角松の笑みを誘う。


角松「だが、当然だが「海鳥」一機をあまり酷使するのもよくない」

尾栗「消耗・交換部品がどれだけ変えが効くかわからないからな」

書類をめくりながら話す二人。

角松「……ところで、菊池はどうした?」

尾栗「雅行か」

尾栗「あいつなら今頃寝てるんじゃないか」

角松「寝てる?」

意外であった。
真面目な菊池が既定の時間以外で寝るというのは聞いたことがない。
というよりも

角松「当直はどうなっているんだ?」

尾栗「俺が頼んで変えてもらったよ」

角松「………?」

尾栗「先の戦闘もある。アイツは自分の戦闘指揮に責任を感じている」


尾栗「結果あれが最善の判断であっても、犠牲を出したことに苦しんでいるんだ」


「みらい」士官居住区

同期の尾栗と共有している士官居住区の一室、
士官用の居住区は科員のそれと異なり、2人一組の広い部屋である。
もちろん幹部ゆえ事務作業用の個人用の机もあり、なにかと設備が整っている。

その二段ベッドの下の段で、菊池は横になっていた。

菊池「………」

菊池(やはり眠れないな)

規則正しいとはいえないものの、サイクルが染み付いた護衛艦生活。
突然「いいから寝とけ」と促されて休めるものではない。

菊池(処方された鎮静剤の分は眠れたようだが……)

気づけば着替えを始めている自分。
いずれにしても、このまま横になっているのは落ち着かない。

菊池(書類でもまとめるか)

戦闘損害に見舞われていたせいで、日常業務に遅れが出ていたものがあったはずだ。

そう考えた菊池は自分の机へと向かう。


菊池「……ハァ」

目の前の様をみて頭に手を当てる。

菊池(康平、アイツだな)

机の上の書類がキッチリ終わらせてある。
もちろん部署の関係上そのままのもあるが、一部が代筆されていた。

菊池(洋介の奴がどう言うか……)

残りを終わらせるために書類の文面を見る。

菊池「……一枚不足しているな」

菊池「CICに行くついでに、修理状況を見に行くか」

砲雷長という立場上、持ち場が気になる。
そのまま仕事モードへと切り替えた。

ドア近くにかけていた、同期3人の集合写真を収めた額縁が目に入る。
それをちらりとみて、菊池は部屋を出た。


「みらい」 CIC

CIC員A「応急班より連絡」

CIC員A「左前方SPYレーダーの断線修理終わり、以上」

青梅「さァ、頼むぞォ」

青梅「使える電力も少ないからな」

そう言って一面だけSPYレーダーを起動させる青梅。

しかしモニターに映ったのはノイズのひどいレーダースクリーンであった。

CIC員B「やっぱダメっすか……」

青梅「こりゃ根本がイカレちまったな」

青梅「素子が吹っ飛んだか、基盤が死んだか……」

そう結果を残したあと、青梅がレーダーを切る。

CIC員A「これ以上分解しても、見込みはないでしょうね」

青梅「貴重な装備が一つ消えたな……」


ガチャ、とCICのドアが開く。

青梅「ン?」

青梅が振り返ると、休んでいるはずの菊池がいた。

青梅「砲雷長、非番だったんじゃありませんか?」

菊池「非番は非番でも、仕事の最中だ」

菊池「空いてる時に少しでも事務仕事を終わらせておかないとな」

そういって書類をまとめ始める菊池。

菊池「ところで、レーダーの方はどうだ?」

作業を続けていた青梅に、思い出したかのように聞く。

青梅「駄目ですね」

青梅「ノイズが走りますし、晴れてても時折変な光点を生み出します」

青梅「使い物にならないどころか、混乱要素になりかねません」

菊池「修理の望みも薄いか……」

青梅「まともな電子工学の設備がないですからね」

青梅「艦載部品でどうにかなるレベルだったらよかったんですが」


菊池「……わかった」

菊池「状況が好転するまで、左前方SPYレーダーは停止とする」

菊池「幻影に攻撃することがあってはいかんからな」

青梅「了解」

菊池「ハァ……」

ため息をつく菊池。

菊池(一面のみとはいえ、対空レーダーを失ったのは痛い) 

菊池(……過ぎたことは教訓、後悔をしても仕方はないか)

分かってはいても、考えてしまう。

菊池(CIC(ここ)なら少しは落ち着けるとは思ったんだがな……)

海の見える艦橋も好きだが、他の佐官組とは違って菊池はCICにいることが多い。
静かで、不要な情報が入らないここは落ち着いて考えることができるここは好きだ。

菊池「……ハァ」

二度目のため息をつく。


青梅「……砲雷長」

青梅「こいつはおせっかいかもしれませんが、もう少しお休みになられたらどうです?」

菊池「自室で十分に休息は取った。心配ない」

青梅「いや、そうじゃなくてですね、こう気晴らしというか……」

青梅「たまには陸に上がってゆっくりしてみるってのは?」

背もたれに腰掛け、後ろを振り返った青梅が提案した。

菊池「陸に?」

CIC員A「そういえば、砲雷長は初回の半舷上陸以降陸に上がってませんでしたね」

思い出したように他のCIC員が相づちを打つ。

青梅「どうせ本格的な修理が始まれば、ここですることはほとんどありません」

青梅「ここは任せて、一度陸に上がられてみたらどうです?」

菊池「………」


501基地 ドック付近

外観からは足場に覆われていて見えにくい「みらい」
それを高所から双眼鏡で観察するシャーリーの姿があった。

シャーリー「はー……」

シャーリー「船はあんまりわからないけど、改めてみると変わってるなぁ」

彼女は小高い城壁の上にいた。
古城の名残を残すこの基地には未だに城壁も残っており、そこに上れば「みらい」の姿を見ることができた。

シャーリー「………」モゾモゾ

しかし壁は壁である。整備もされていないそこは凹凸でいい心地はしない。
さらに高さを目指したシャーリーは、人が上ることをあまり考えられていない縁に身を置いた。
細く座ることもままならない場所でシャーリーはルッキーニに倣い、シーツを敷いて横になり、肘で体を支えた。

魔法を使って耳を生やせば、まさにバニーガールである。

シャーリー(しっかし、この傷は……)

などと考えていると、後ろから声がかかった。

ゲルト「そんなところで何をしているんだ、大尉」

シャーリー「うひゃっ!」


シャーリー「びっくりしたぁ!」

シャーリー「危ない危ない、落ちるとこだった」

ゲルト「後方の警戒を怠るとはウィッチとして弛んでいるぞ」

ゲルト「……で、お前は何をしているんだ」

シャーリー「「みらい」見てたんだよ。入渠してるから」

ゲルト「見てて楽しいのか?」

シャーリー「興味深くはあるね」

シャーリー「見てみる?」

持っていた別の双眼鏡を軽く見せる。
バルクホルンが受け取る態勢に入ったのを確認して、投げ渡した。

ゲルト「どれ」

そのまま城壁の上で立ったまま見るバルクホルン。


ゲルト「左舷の被弾箇所は、相変わらずひどいようだ」

シャーリー「私たちの軍艦よりははるかに装甲が薄いみたいだしな」

シャーリー「あの程度で済んだのが幸運ってもんかもしれない」

ゲルト「………」

ゲルト「しかし、私たちの時代の技術で直せるのか?「みらい」の装甲は」

シャーリー「私も小耳に挟んだ程度だけど……」

シャーリー「素材はどうも今のとあまり変わらないみたいだ」

ゲルト「ふむ……」

シャーリー「ただ溶接とか製鉄精度とかは未来の方が上だろうし」

シャーリー「そこを考えると、不純物が混ざるような結果になりそうな気もする」

ゲルト「いずれにしろ、スペックダウンは免れないか……」

双眼鏡の視点を下におろす。
多数の労働者が行き来している中、一人見覚えのある人物が目に入った。

シャーリー「あれ?「みらい」の砲雷長じゃないか?」


「みらい」ドック周辺

菊池(……こうして自分から陸に上がったのは久しぶりだな)

ドック端から「みらい」を眺める。

ドックでは「みらい」の乗員を主として各自が作業に当たっていた。
ちらほら扶桑整備員も見かけるが、あくまで周辺で手伝いをしているのみで許可のない内部進入は基本許されていない。


菊池「……!」

そんな中、彼の目に入ったのが白人の水兵である。
手伝いかと思えばそうでもないようなその水兵は、警備員のように立って周りを見渡していた。

菊池が近寄ると、向こうが頭を下げた。

水兵「どうしましたか?」

菊池「!」

驚いたことに、その水兵が話したのは日本語であった。
英語で声をかけようとした菊池であったが、そのまま日本語で返す。

菊池「……ああ、基地の入り口を聞きたいんだが」

水兵「それでしたら向こう側の……」


口頭での案内を受けた菊池は、そのまま立ち去った。
振り返ると、彼はまだこちらを見ている。

菊池(………)

何かぬぐいきれない違和感を感じた菊池。

菊池(基本的に共用語としては英語のようだが)

菊池(日本語を話す、もとい扶桑に携わる業務の人間にはその後に適した人員を送るのか?)

菊池(コミュニケーションが円滑になれば仕事もはかどるだろうが)

再び考えに飲めり込むが、この騒音と日の当たる場所ではなかなかまとまらない。

菊池「ここまで来たはいいものの」

考えてみれば、上陸してどこに行くかはまるで考えていなかった。
徒歩で街に出るには時間もかかるだろうし、なにより今はその気ではない。

菊池(康平にでも何か聞いておくべきだったか)

菊池(……資料室があったな)

以前柳一曹に向かわせた基地付設の資料室を思い出す。
その場所なら、以前聞いたことがある。

ここにいても仕方がないので、その方向へと足を向けた。


501基地 資料室

菊池「ここが、資料室か……」

そこは、静かな空間であった。

菊池「………」

適当な本を手に取って開いてみる。

どうやらここに蔵書してあるものは大半が英語のようだ。

菊池(まぁブリタニアにあるわけだからな)

中ほどに来て、案内板を見つける。
やはり軍事基地というだけあって報告書や資料集などが多いようだ。

そこで一つの項目に目が行く。
「ネウロイ・研究叢書他」

菊池(独立したコーナーになっているのか)

結局陸に上がっても仕事に関係することに触れてしまう。
職業病というか、真面目な菊池はそちらへむかう。


『欧州・ブリタニア戦果報告 1939.7~1944.6』

目についたもので気になったのを取り出し、中ほどにあったテーブルで読み始める。


菊池(……第二次ネウロイ大戦以降、敵の種類が爆発的に多様化することとなった)

菊池(さらにネウロイは人類の技術や兵器を吸収し進化する)

「1939年、欧州上空に巨大なネウロイの巣が出現」

「同日、ホーカー・ハリケーン2機が迎撃に上がるも音信不通となる」

飛行場より迎撃に上がる二機の戦闘機の写真。

「その後、巣より本大戦初の機械型ネウロイが出現、戦闘状態へ突入」

二つの戦闘機がつながったようなネウロイが攻撃を仕掛けている瞬間をとらえた写真。

「目標名は機体にちなみ「ホーク」と呼称、同日夕に撃墜」

「しかしこれをきっかけとして多数の機械型ネウロイが観測され、欧州は大打撃を受けた」

真っ赤に燃え上がる都市、逃げる住民、上がる対空砲火。
それをもろともせず赤い光線を発する複数のネウロイ。


「何かお探しですか?」

菊池「……!」

ここまで読んだとき、菊池の後ろから声がかかった。

ウルスラ「こんにちは、菊池三佐」

菊池「……ウルスラ・ハルトマン中尉、でしたね」

ウルスラ「はい」

ウルスラ「お向かい、失礼します」

そのまま多数の書類とともに向かいに座るウルスラ。

ウルスラ「先日はありがとうございます、おまけもいただきまして」

菊池「我々からもIFFの提供に感謝したい。そのお礼だ」

ふとウルスラの書類に目を向ける。
ドイツ語でよくはわからないものの、単語を推測するにジェットエンジンのようだった。


菊池「……ところで、あなたはなぜここに?」

菊池「ポーツマスの技術研究所付きと聞いていたが」

ウルスラ「はい、通常はそちらの方で業務をしています」

ウルスラ「今回は501の方々に以前の改良ストライカーのお願いをしてきました」

菊池「ジェットストライカー、といってたものか」

ウルスラ「ええ、以前は欠陥があったのと、追加で収集したい情報がありましたので」

ウルスラ「菊池三佐は、調べものですか?」

菊池「そんなところだ」

菊池「ネウロイや魔法、外の世界の我々には知らないことがまだまだある」

ウルスラ「汝の敵を知れ、というわけですか」

ウルスラ「お役に立てることがあれば、お手伝いします」


菊池「仕事中ではないのか?」

ウルスラ「いえ、これは休憩時間の間に済ませようとした私事です」

目の前の資料とノートの走り書きは、菊池の眼には私事には見えなかった。
開発者というものにとっては当たり前なのだろうか。

菊池「君もウィッチだったな」

菊池「……やはりネウロイと戦ったことはあるのか?」

ウルスラ「ええ、スオムスの欧州戦線の方で」

ウルスラ「「いらん子中隊」と呼ばれていたこともありましたが、それなりに経験はあります」

当時の自分を思い出したのか、少々顔を隠すように俯き加減になるウルスラ。
しばらく間をおいて、菊池が尋ねた。

菊池「君たちウィッチが戦闘を行う際して、気にかけているというのはあるか?」

ウルスラ「気にかけていることですか」


ウルスラ「まずはコアの早期発見です」

ウルスラ「小型であればもろとも破壊すればいいのですが、大型はそうはいきません」

ウルスラ「コアの位置を特定し、そこを狙わなければネウロイは倒せません」

もっともな話である。
足止めにはなるだろうが、無駄弾を控えたい「みらい」にとっては重要だ。

菊池「コアの特定はどのように?」

ウルスラ「一つは肉眼で。これは外見からコアが見られるもしくは推測ができるネウロイに限られます」

ウルスラ「他には固有魔法による探知です」

ウルスラ「501だと、坂本少佐の『魔眼』がそれにあたりますね」

菊池「ふむ……」

さらさらとメモに書き取る菊池。


そしてさらに質問を続ける。

菊池「ネウロイはコアを破壊しない限り回復するというが」

菊池「これに限界はないのか?」

返ってきたのは、驚きの返答。

ウルスラ「……今のところはないとみていいと思います」

菊池「……!」

菊池の顔が険しくなる。
無限のエネルギー、永久機関―――それは未来においても夢の技術であるからだ。

菊池「つまりネウロイは無限のエネルギーを有する、と?」

ウルスラ「現在のところ、ネウロイのエネルギーは無限と推定されています」

ウルスラ「出力こそ大きさに比例すれど、消費エネルギーを完全に自己完結で補えているようです」

ウルスラ「光線と回復、この二重の消費においても敵のエネルギーは尽きません」

ウルスラ「中には瞬間移動―――ワープ能力をもった個体もいると聞きます」

菊池(瞬間移動!?)

驚きを隠せない菊池。



ウルスラ「あの動力を、私たちが手に入れられてたら……!」

その一方で、恨めしそうに下唇を噛むウルスラ。


菊池(手に入れられて?)

未遂を仄めかす過去形だった言葉が気にかかる。

菊池「それはどういうことだ?」

ウルスラ「……一年ほど前の話です」


『ネウロイのコアが手に入った』


ウルスラ「そんな噂が流れてきました」

菊池「……!」

驚きを隠せない菊池。

菊池「コアが……一体どうやって?」

ウルスラ「詳細は分かりませんが」

ウルスラ「複数のコアを宿していたネウロイの一つが落下、回収されたということです」

菊池の読んでいた本をウルスラが捲り、そのネウロイを見せる。

ウルスラ「……後日、それは落下した破片の塊ということが伝わりました」

ウルスラ「サンプルとしては劣化が激しく、そのまま破棄されたと聞いています」


めくられたページのネウロイの写真を見る菊池。
爆撃機の四発エンジンを思わせる翼が、それぞれ赤く輝いていた。
これが肉眼で確認できるコアか。

菊池「いつの時代も、永久機関は夢のまた夢ということか」

ウルスラ「私たち技術者のもっとも熱望する技術の一つです」

ウルスラ「この技術が実用化された暁には、魔力など凌駕する可能性さえ秘めています」

ウルスラ「今のウィッチと合わせれば、あるいは……」

祖国を奪われた技術者のうなだれ。


一方で、菊池はその話を聞いて一つの可能性を考えていた。

菊池(無限の回復を行える永久機関)

菊池(そして瞬間移動をするネウロイ)

菊池(もし、もしネウロイが手に入ったとするのなら……)


菊池(人為的に元の時代へ帰ることも可能なのか……!?)


菊池(可能性……ネウロイのエネルギーを利用するなど途方もない話だ)

菊池(だが、もしそれができていたら……)

菊池(この状況から、脱せるのかもしれない)

淡い希望、それでも手を伸ばしたい希望であった。
再び、そのネウロイの項目を読み返す。

識別名「フライングフォートレス」
そう呼ばれるネウロイの項目は、他のに比べて分量が少なかった。
そしてその末尾にはこう書かれていた。

「一つのコアを分断落下させるも、致命傷には至らず」

「対策の再検討を要するものなり。また以降の消息は不明」



「一部の証言に、目標は緑色の光があふれ出した後に消えたとあるものの、未だに確定情報はない」


数日後 ブリタニア ロンドン 病院

梅津「……フゥ」

杖を突き、病院の共用休憩所で一息つく梅津。
以前ほど杖に頼る必要もなくなったものの、一応ついている。

梅津「………」

この病院には様々な国の人が入り混じっている。
前線からの帰還兵らしき人もいれば、ごく普通に病気を患っているような人もいた。

ぴらり、と梅津の足元に何かが落ちてきた。

「Excuse me!」

梅津が拾い上げると、休憩室の向かい側通路から訛りのある、慣れてないような英語の声がかかった。
女の子がこちらに駆け寄ってくる。

梅津「……これは」

拾い上げた写真を見て、少し驚いた。
そのまま手の平で制して、梅津の方から向かっていく。


クリス「Danke, Sir.」


やはり似ている。

梅津「失礼ですが、ゲルトルート・バルクホルンさんの妹さんではないですか?」

英語で話しかける梅津。
相手がカールスラント語話者でないことに気付き、そのまま英語で返す。

クリス「はい、でもどうして……?」

梅津「このカラー写真に見覚えがありまして」

さっき落ちた写真。
それは「みらい」艦内での集合写真であった。

クリス「あ、もしかして「ミライ」の人なんですか?」

どうやら話は聞いているらしい。

梅津「私は艦長をやっていましてね」

写真に写っていた自分の姿を指さす。

梅津「あなたのお姉さんやその仲間と、一緒に戦ったこともあります」

クリス「……お姉ちゃんは、私がいなくてもちゃんとがんばれていますか?」

梅津「ええ」

梅津「とても立派で、頼りがいのある軍人です」

自分が接してきたバルクホルンの事をいろいろ話す梅津。


梅津「そして誰よりも、あなたを大切に思っている人でしょう」

クリス「私をですか?」

梅津「ええ、とてもかわいらしい妹がいらっしゃると」

梅津「話に聞いていた通りです」

ちょっと照れるクリス。

クリス「もう、お姉ちゃんったら……」

クリス「忙しいはずなのに、最近突然来るようになって」

梅津「それほど大事に思われてるのです」

にこやかに笑う梅津。

看護師「クリスティアーネ・バルクホルンさーん、健診の時間です」

クリス「あ、行かないと」

看護師が呼ぶ声が聞こえた。

クリス「えっと、ウメヅさん、お姉ちゃんのこと教えてくれてありがとうございました」

梅津「いえいえ、こちらこそ話に付き合ってくださってありがとうございます」

互いに別れを言い、そのままクリスは部屋へと戻っていった。


501基地 ブリーフィングルーム

大テーブルの上に置かれたジェットストライカー。

ゲルト「これが、その改良品か」

ウルスラ「はい」

そのジェットストライカーは、以前よりも外見が変わっていた。
外付けの測定装置らしい機械が目立つ。

ウルスラ「前回の失敗を踏まえ、今回は強力なリミッターを仕掛けてあります」

ウルスラ「故に、現段階では音速以下にとどまるような設定です」

シャーリー「そんなぁ~……」

楽しみにしていたシャーリーがうなだれながら残念な声を出した。

ウルスラ「そう落ち込まないでください、イェーガー大尉」

ウルスラ「このデーター収集を積めば、いずれ最適なリミッターがかけられるはずです」

ウルスラ「ご協力お願いできませんか?」

シャーリー「……よし、そういうことなら大歓迎だ!」


わいのわいのとやっているなか、エーリカが積んであった書類を眺める。
その中に、ストライカー以外のロケットの記述を見つけた。

エーリカ「あれ?こっちもロケット」

設計図らしいそれは、どうみてもストライカーではなかった。
しかし携帯火器にしては大きすぎる。

ウルスラ「……いえ、そっちはまた別の計画になります」

ゲルト「ほぉ、これはどんなのなんだ?」

ウルスラ「大型ロケットの弾頭に多量の炸薬を搭載」

ウルスラ「ナイトウィッチの通信を介して誘導、『大型目標』へ突入させる計画です」

芳佳「そんなことができるんですか?」

エイラ「サーニャに不可能があるわけないだろ」

なぜか我が物サーニャ顔、といったように威張るエイラ。

ウルスラ「まだ机上の理論です」

ウルスラ「これからデータを収集して、不可能であれば事前設定した地点へ向かうようになるかと」


ミーナ「コンセプトはまるで「みらい」のミサイルね」

坂本「しかし、これは理想的な兵器だな」

坂本「今の航空戦力では用いることのできなかった高い攻撃力を与えることができ」

坂本「さらに無人で遠隔操作が可能……」

坂本「その気になれば、敵本拠地への直接攻撃さえ可能になる」

その言葉にウルスラが黙ってうなずいた。

ゲルト「もう名前は決まっているのか」

ウルスラ「仮称ですが、一応は決まっています」

ウルスラ「大型対空ロケットV-1」

設計図の左上に書かれた“V”の文字。

ウルスラ「その意味は……」



ウルスラ「――Vergeltungs(復讐)」


それは、自分たちの祖国を蹂躙した、ネウロイへの復讐。
本来V-2ロケットと呼ばれていたその大型ロケットは、地対空用爆弾としてこの世界へ現れたのだった。

すみませんがまたここで切らせていただきます
続きはまた明日に


夕暮れ 「みらい」

日も暮れ、「みらい」へと帰ってきた菊池。
その舷門で尾栗と角松が話しているのが見えた。

菊池「何をしているんだ?」

尾栗「雅行、どこ行ってたんだ?」

菊池「少し資料室にな」

菊池「ところで、なんか話をしていたようだが」

尾栗「……最近、不審者の目撃報告が相次いでいる」

菊池「不審者?」

角松「当直員から、しばしば不審な人物が艦付近をうろついていると報告が上がってな」

菊池「………」

菊池に、少しばかり思い当たる節があった。

菊池「副長、ドック作業員の割り当てはどうなっていますか?」

角松「どう、とは?」

菊池「地元への協力はどう要請しましたか?」


角松「扶桑とブリタニア双方だ」

角松「地理的観点から、部品などはブリタニアの工場へ発注をせざるをえない」

角松「だが意思疎通の観点から、携わる作業員については扶桑海軍の人員を派遣してもらっている」

菊池「……ブリタニアの水兵は?」

尾栗「基本的にはないな」

尾栗「発注品の輸送すら、扶桑のトラックで運ばれてくるようなサービスだ」

角松「なにか、あったのか?」

菊池「資料室に向かうとき、やたら日本語のうまい白人水兵に出会った」

菊池「だが何か作業をしている様子もなく、ただ「みらい」を見ているだけのようでな……」

その言葉が尾栗の何かに触れた。

尾栗「「みらい」を見ている……?」


夜 「みらい」甲板

夜も修理の音が響く「みらい」ドック。
当直でもないにもかかわらず、尾栗は艦橋から外を覗いていた。

菊池『ただ「みらい」を見ているだけのようでな』

そんな作業員に、尾栗は心当たりがあった。

尾栗(いつ来るのかわからないが……)

艦橋から作業場を見下ろす。
せわしく歩き回り、道具を運ぶなど様々に動いている。

尾栗「……!」

その中で一人、不自然な扶桑人の男を見つけた。
このくらい夜に、ただ一人で資材を運び込んだ後、そのままうろうろとして居座っている。

しばらくしたのち、荷物に何やら書き残して立ち去る。

尾栗(……なるほど)

そのまま、尾栗も「みらい」を降りて行った。


ドックを抜け、そのまま港の隅の方へと行く。
その後ろを離れてつける尾栗。

やがてたどり着いたのは、小さなプレハブ小屋。
カーテンが閉められているものの、明かりが漏れていることから人がいるのは確実だ。

先の男がそのまま入る。

尾栗「………」

物陰から見る尾栗。

尾栗(追ってきてなんだが、さてどうするか……)

武器の類など当然持っているはずもなく、丸腰だ。
周りを見渡しても、他に誰もいる様子はない。

尾栗「迷ったときは敵中突破、かな」

迷うよりも腹をくくる、というよりも突っ走る。
そのまま足を踏み出した。


ザッザッザッザ……

尾栗「………」

小屋の方へ堂々と進む。
プレハブ小屋は最近たてられたようで、比較的きれいである。
周りには洗濯後らしい作業服が干されていた。

扉の前に立ち、ノックをしようとしたときにだった。

「とまれ。誰か」

後ろから声がかけられる。
同時に、カチッと銃の安全装置を外したような音が聞こえた。

一人の扶桑海軍らしい男が拳銃を構え、尾栗の後ろに立っていた。
周りの警戒はしておいたはずだが、どこに隠れていたのか。

尾栗(さすがはプロというわけか)

そのままゆっくり両手を挙げる尾栗。
そしてこうあいさつを返した。

尾栗「まぁまぁ落ち着け。怪しいもんじゃない」

尾栗「ちょっと挨拶をしに来ただけさ」


「清水一等水兵、入ります!」

ガラッ

プレハブ小屋の扉が開けられると、中で多数の扶桑人水兵がこちらを見て構えていた。
外の声で警戒していたのだろうか。

「……そこの見かけない者は、「みらい」のか?」

奥に座っていた長らしい男が口を開いた。

尾栗「海上自衛隊「みらい」航海長、尾栗康平三等海佐」

帽子を脱いで、それを見せることで証明としてみた。

尾栗(……!)

そうだ、この男だ。
以前幾度も「みらい」の作業中に見かけたのは。

河本「……河本です。兵曹長をしています」

河本と名乗ったその男は、その大きな腕をテーブルに置く。

河本「どのような御用ですかな、尾栗三佐殿」

どうやら向こうも気づいているらしい。


そのまま椅子を引き、遠慮なくドカッと座る。

尾栗「こっちの事を知っているなら単刀直入に聞こう」

尾栗「……なぜ「みらい」を監視している?」

尾栗「それもただの整備員じゃない。この類を専門とする特務機関じゃないか」

尾栗「あんたらは、一体何もんだ?」

テーブルを囲って問う尾栗。

河本「………」

河本「我々は、津田大尉揮下の特務機関員」

河本「「みらい」とその周囲の警護を命令されている部隊です」

尾栗「津田大尉……」

「みらい」の査察に来た草加少佐と共にいた大尉将校を思い出す。

尾栗(その裏には草加少佐、か……)

尾栗(しかし『警護』とは予想外だな)



河本「……三佐殿は、トレヴァー・マロニー空軍大将をご存知でしょうか?」

尾栗「マロニー……ああ」

『よからぬ人物』とフィルタリングされたその人物が頭に浮かぶ。

河本「何を目的としているのかは知りませんが、直属手勢の工作員を差し向けており」

河本「そして「みらい」を常時監視下に置いている」

尾栗「ブリタニアの工作員……」

河本「特にドック入りを期に、その数は増えています」

河本「やけに扶桑語を流暢に話すブリタニア水兵を見たことはありませんか?」

菊池の言っていた白人水兵の話を思い出す。

河本「我々は万が一の時に備え、補給整備の監督員として活動しながら「みらい」とブリタニアの工作員の監視を行っています」

尾栗「抑止力にもなるわけだな」

ウィッチ勢力排除のために「みらい」を使うマロニー。
そしてそれを抑える扶桑……もとい津田大尉・草加少佐。

尾栗「全く、人気者は辛いな」



それからは特段深い話をすることはなかった。
話題が話題を呼び、ただの談笑へと変わる。
そしてしばらく話したあと、尾栗はその小屋を出た。

尾栗「………」

河本「尾栗三佐」

それを河本が引き止める。

河本「一つ、質問してもよろしいでしょうか?」

尾栗「なんだ?」

河本「あなた方の艦、「みらい」と言いましたか……」

河本「詳しい話は聞いてませんが、名の通り未来の異世界から来たとか」

尾栗「まぁ、そういう話になるな」

河本「そんな艦の幹部が、こうやって怪しげな集団の元に武装もなしに一人でやってくるとは」

河本「本当に軍人かどうか、失礼ながら疑わしいもんです」

尾栗(軍人……軍人ね)


尾栗「なァに、俺もただ何の用意もなく来たわけじゃない」

尾栗「仮に俺が捕まれば、まず疑いは作業関係者の扶桑やブリタニアに向けられる」

尾栗「そうなれば協力関係に亀裂が入り、少なくとも今みたいな監視はやり辛くなるだろ?」


河本「はァ……」

現役諜報員の彼からしたら、それはあまりにもばかげている方法なのだろう。
それに構わず続ける。

尾栗「何でも疑ってしまっちゃ敵を作るだけってもんだからな」

河本「……我々を信用してみた、と?」

何も言わず、ただ笑い返す尾栗。

尾栗「そして俺は間違ってなかったと思う」

河本「そうですか……」

尾栗「それに、俺は昔っから腕っぷしには自信があってな」

袖をめくってその筋肉質な腕を見せる。

河本「ほぅ、それはそれは」

尾栗「なんなら、試してみるか?」

近くにあった手ごろな台に肘をつく。

河本「腕相撲ですか……お相手しましょう」

河本「自分も、海軍では負けなしですが」

同じように肘をつき、手が握られる。
第一戦目が始まった。


「みらい」菊池・尾栗士官居住区

「みらい」へ戻った菊池は、分隊の報告を受けた後に日誌を書いていた。

菊池(修理は予定に誤差なく進行中)

菊池(発注した左ウィング用の資材は3日後に到着の予定)

菊池(しかしここ一ヶ月は悪天候の続く予報が出ており、作業に支障をきたす恐れもあり)

菊池「………」

ペンを置き、傍らに置いておいた本へと手を伸ばす。
隊員が趣味で持ち込み、スペースの関係上資料室に寄付したと思われる文庫小説だ。

決まった運命から抜け出すため同じ時間を繰り返すという、典型的なタイムトラベル小説である。
だがまさか持ち込んだ隊員も、自分がタイムスリップするとは思っていなかっただろう。

内容はさておき、菊池の目を引いたのは作中にある「タイムトラベル11の理論」という部分だ。
どうやらこの部分は実在する説を基に書いているようだ

菊池(これらの理論に則れば、タイムトラベルは可能になるというが)

菊池(いずれも特殊な物質、莫大なエネルギーを要する故に実現は不可能と言われている)



菊池(だがもし、後者において、そのエネルギーが補えるとしたら……)


菊池(……いや、よそう)

専門でもなしに、聞きかじりの知識で期待を抱くのは危険だ。



※タイムトラベル11の理論:タイムトラベルの可能性を示すという理論
             「ブラックホール」「特殊相対性理論」「ディラックの海」など、どこかで見たことある言葉が多い
             ちなみにこの類の学問の理解は素人レベルなので誤解があるかもしれない
             (この語自体はSteins;Gate発祥なのか、ぐぐってもそれ以外の資料がなかなかが見つからない……)


そのまま部屋を出る菊池。
道中に科員食堂を横切ると、非番の隊員たちが大富豪で盛り上がっていた。

杉本「よし、なら俺は宮藤芳佳ちゃんの一枚をかけよう!」

柏原「じゃあ俺はこのサーニャ、エイラペアを一枚!」

杉本「いいのか?今回の俺の手札ツイてるぞ」

青梅「おーおー、威勢のいいことだ」

どうやら賭け事をしているようで、「一枚」というのは携帯電話に保存された画像を指している。
片桐や隊員が撮影したものが、このようなゲームを通じ取引されている。
このように価値ある通貨の代替えとして、娯楽の景品として機能しているとか。

写真でないのは、単純にインクや用紙、保存性の問題だ。
データであれば、機器の電力以外に必要なものはない。

菊池(さながらプロマイド写真か……)

菊池(まぁ犯罪にならないうちは目を瞑るが)


柏原「おっしゃ、ならおれがこのスペードKのペアで流すぞ」

場の主導権を握るためとカードを流そうとする柏原を、杉本が制した。

杉本「待った待った、俺の2のペアだ」

杉本「そして、革命っ!」ババババッ

げぇっ!という声が周りから漏れる。

杉本「そして、ハートの3だ」

強さが逆転する革命の中最強であるカードの上に、一枚が置かれた。
ジョーカー、出したのは青梅だった。

青梅「……やっぱり持ってたな」

青梅「流して、革命返しだ」

切った後に4つの革命カードを並べる。

杉本「ウヘっ……!?」

青梅「切るのが早すぎたな、杉本」

青梅「期を見切らねえと足元掬われるってもんだ」

「「ハハハハ……」」


「みらい」艦長室

そのまま食堂を後にする菊池。
日誌と各種報告書を提出するために、角松のいるであろう艦長室へ行った。

菊池「失礼します」

菊池「……何かお話し中で?」

すでにそこには尾栗がおり、机を挟んで座っていた。

角松「ああ、少し口頭注意をな」

角松がそのまま菊池が差し出した報告書を受け取る。

菊池「なにをやらかしたんだ?」

角松「先の不審人物を、非番中に備考し面会したらしい」

菊池「……よく無事でいられたな」

尾栗「だからいったろ、扶桑側は信頼できるって」

菊池「………」

半ばあきれたような表情を見せた二人。


菊池「その扶桑側が自分のいいように偽っている可能性もあるが?」

尾栗「確かに、だが……」

尾栗「信じる信じない、いずれにしても何らかの対策は取っておいた方がいいぜ」

尾栗「事実工作員の監視はそこまで来ているんだ」

尾栗「なめられるだけじゃなく、実際に行動を起こされたら……」

菊池「今の俺たちではひとたまりもない、ということか」

菊池「陸に上がった河童だ。「みらい」を動かせないうちにやられたら、まともに抗えまい」

角松「格好だけでもつけるのが吉か……」

菊池「向こうの意図に勘付いている節を見せてやれば、大きな行動はやり辛くもなるだろう」

菊池「万一の場合も、行動がとりやすくなる」

万が一の時に備えての対策。
思案する角松。


角松「当直警戒員に通達」

角松「歩哨の際、小銃並びに暗視装置の携帯を命ずる」


ブリタニア東部 某防空司令部

中央に巨大な地図が広げられ、周りには駒を動かす人員が待機していた。
多数の情報が飛び交うブリタニア防空システムの要の一つである。

通信員A「第三レーダーサイトより入電、17:38、未確認機影探知」

通信員A「ポーツマス南部の海上を南西へ移動中」

不審な機影は逃さず報告される。
盤上の駒がその報告に沿って動かされた。

通信員B「あ、それはアレだ。空軍の実験兵器らしい」

隣に座っていた別の通信員が話しかけてきた。

通信員B「でしたよね、司令」

階上の将校に呼びかける声に返事が返ってくる。

司令「その通りだ、追跡のみで迎撃・報告の要はない」

通信員A「了解!」

その旨をレーダー観測所に伝え、電話を切る。


通信員A「しかし新兵器か」

通信員A「これでネウロイをどうにかできればいいんだけどな」

通信員B「けどなんかさ、この頃変なことが多くないか?」

通信員B「こういう実験だって、普通なら予定表の一つや二つ渡されるだろ」

通信員A「それほど機密性の高い兵器なんだろ」

通信員B「機密性ねぇ……」

通信員B「そういえば最近、ネウロイを圧倒する新鋭駆逐艦が現れたって聞いたことないか?」

通信員A「あー、聞いたことあるな。海軍の駆逐艦も助けられたとか」

通信員B「だが聞いた話じゃ、その艦を見た奴ってのはほとんどいないし、どこの海軍も認めてないらしい」

通信員A「噂に尾ひれがついてるってか?」

通信員B「尾ひれまでとは言わんが、あいまい過ぎるんだよな」

通信員B「まるで幽霊軍艦だ」


通信員A「幽霊ね……」

通信員A「戦争が長引けば、そういう噂も絶えず広がるってもんだな」

通信員B「ん?なんかほかに話があるのか?」

話好きなのか、詳しく聞きたいと仕事をしつつ耳を寄せる。

通信員A「レーダーサイトに付設されてある通信網があるだろ?」

通信員A「時折、欧州大陸方向から奇妙な通信が入るらしい」

通信員B「ほう、どんな?」

通信員A「通信というか、歌のような音楽が入ってくるんだと」

通信員A「もっとも通信状態が悪すぎてまともに聞き取れないらしいがな」

通信員B「単なるノイズじゃないのか?」

通信員A「実際に聞いたわけじゃないし、俺にもわからんよ」

通信員A「ただよくある話として、カールスラントで無念のうちに死んでしまった歌姫の幽霊だとか言われてるな」

通信員B「嘘くさいなぁ、それ」


通信員B「しかし歌姫かぁ」

通信員B「そういえば、501のミーナ中佐って凄く歌がうまいらしいな」

通信員A「ああ、その話も聞いたことがある」

通信員A「撤退作戦中に亡くした彼氏共々、音楽家志望だったって話だ」

通信員B「ほう、それはそれは」

通信員B「はーっ! 一度でいいから、その歌聞いてみたいもんだね」

通信員A「結構お偉いさんの披露宴とかに出てるらしいぞ」

通信員B「ちぇっ、特権振りかざしやがって」

通信員A「随伴とかすれば、運が良ければ見られるかもな」

通信員B「そんなチャンスなかなかないだろ……」


その時、無線通信が入る。

通信員B「おっと……なになに?」

通信員B「第七レーダーサイトより定時連絡」

通信員B「ブリタニア東部に未確認飛行物体は確認されず」

通信員A「りょーかい」

そして別の通信機からも通信が入る。

通信員A「他のところからも来始めたな」

通信員B「よし、じゃあもうひと頑張りすっか!」

その時、二人は気付いていなかった。
その電話口から、かすかな異音が混じって聞こえていたことに。



『オ……ォォ…オォ……オォォ……』


星空が輝く中、一人飛び立つサーニャ。

エイラ「聞こえるか?次はいよいよサーニャの番だ」

フリーガハマーを構えるサーニャ。

エイラ「ああ、月下の凛々しいサーニャ」

魔導針を光らせるサーニャ。

エイラ「細い美曲線の体をしているサーニャ」

ベッドで寝るサーニャ。

エイラ「あんなサーニャやこんなサーニャ!」

月をバックに微笑むサーニャ。

エイラ「今こそ立ち上がるんだな諸君!ああ、サーニャ!サーニャ!!」

次回『サーニャによるサーニャのためのサーニャのお話』


※この予告は変更されます

多々中断がありましたが以上となります

しかしウィッチーズの割合がどんどん減っていく……


次はあのサーニャを真似るネウロイなのかね
順序が違ってることを考えると、一期ベースならそろそろ終わり目か

乙-
どうでもいいけどみらいは巡洋艦扱いじゃなかったっけか

>>403
脳内の構想通りいけばあと3、4回ほどで終わるかと思っております
それでもかかり過ぎだとは思いますが、これからも読んでいただけたら幸いです

>>405
「みらい」は巡洋艦(クルーザー)クラスと作品中でも言われてましたね
まぁ噂の伝言ゲームでずれていったということで……

以下本当の次回予告となります


雨のなか飛行するJu52。

ゲルト「仕損じたネウロイが連続して現れる可能性も極めて高い……」

ボードに貼られた数枚のカラーと白黒の写真。

ミーナ「『ネウロイとは何か』。それがわからない以上、どんな敵が現れてもおかしくないわ」

破損個所が修復され、かつての姿を取り戻した「みらい」。

麻生「その程度のペナルティを背負うことになるかは、実際に動かさないとわかりませんね」

誘導灯以外が闇に包まれた滑走路。

米倉「存在できる立場のない軍事力なんて、どうやって存在できるかわからない」

ヘルメットのスクリーン越しに移るネウロイの影。

柳「その姿形が、あまりにも一致し過ぎているような気がします」

異なる色に点滅するサーニャの魔導針。

坂本「これが、ネウロイの声……」

次回『暗中の空』


翼を折り、急上昇する海鳥。

佐竹「機体急上昇、これよりウィッチーズを援護します!」


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          |::,'::::/l::::,' -―    リ-―‐-':;:::::: ヽ|
         V:::/:::!/|  -     ‐   ';::ヽ::::';   はい、そこまで!
.        /::/::: |:N __     ィ==-、 }::い :|

.        |::ハ/^{:|〃´⌒`       ,, ハ|∧:l   次すると……

           |,'ハ(小. ''     '      ー/  ';!
           |!  `、:ーヘ、     v ァ    イ:,′ j|
            \:::l> _     , イ/:::i
.             ';:::|::::r|> ー '´|::Ⅳ:::::|
r-、             .|:::L:八    |/│::::|
.\\   fヘ-―t―ェェ|:::|<\\ //;>|::::::l>、
.  \ヽ__ |│ヘ   ̄ ̄.j::∧\>ィ介ト<;/∧::::|丶、辷>、_
.   /'´ヘl│ '、    .|/ ヽ{ ̄{{_} ̄}/ ヽ:|     / |
   { ヘ'.} ∨ ∨  ./   `7/{{ヘ匕.   丶   / │

雑談は大いに結構ですが、板のルール・了解や限度を踏まえたうえでお願いします
投下時以外半分放置な自分も自分なのですが……


「みらい」 武器庫

ガチャ、と武器庫の扉が開く。
見張り員の見ている中、歩哨当直員が銃を取り出す。

隊員A「………」ゴクッ

隊員B「訓練では触っていても、こうして持つと緊張感あるな……」

手にしたのは89式小銃。
陸自メインに支給されていたのが、ようやく海自の護衛艦にも満足いくよう配備されたようだ。
奥手には数合わせ用の古い64式小銃も見える。

番号を確認し、脇の別の棚から弾倉をとる。

隊員A「安全装置よし」

隊員A「分解点検入ります」

手慣れたとは言えないものの、教育隊で叩きこまれた腕で素早く分解をする。

隊員B「使うことは避けたいもんだ」

ガッ、ガシッ!

そして再度組み立てたあと、弾倉を銃本体へ差し込んだ。

※89式小銃:現在の自衛隊の正式採用銃。
        前代の64式の後継に当たるが、海自特に護衛艦への配備は遅れており64式が大半だとか。


ブリタニア上空 Ju52機内

この日、ブリタニアは曇り空、一部で雨が降り始めていた。

その中には、ミーナ、坂本、宮藤が乗り込んでいた。
坂本の顔は険しい。

ミーナ「不機嫌さが顔に出てるわよ、坂本少佐」

坂本「呼び出されて何かと思えば、予算の削減なんぞ言われたんだ。顔にも出る」

坂本「「みらい」分の予算さえこちらで割譲しろなど、とんだ無茶を言う」

ミーナ「修理費はいつの時代も嵩むものね」

ミーナ「「みらい」が501にある以上、これは避けられないわ」

ここで改めてミーナの立場を思い出す坂本。
すまない、と言った。

ミーナ「別にいつものことだから……」

ミーナ「そう、彼らも彼らで焦っているのよ」


坂本「奴らが見ているのは、自分の足元だけだ」


ミーナ「戦争屋なんてあんなものよ」

ミーナ「……もしネウロイがいなかったら、なんて思うけど」

ミーナ「あの人達、今頃人間同士で戦いあっているのでしょうね」

坂本「さながら世界大戦、か」

笑えん話だ、と思ったのは「みらい」を見てきたからに他ならない。
あの艦は、この時代とは違う『戦争』のために作られたのだ。


坂本「……すまなかったな、宮藤」

電車の子供よろしく窓から空を眺めている宮藤に声をかけた。

芳佳「ほえ?なんですか?」

坂本「せっかくロンドンまで連れ出したというのに、観光の一つもさせてやれなくてな」

芳佳「別に大丈夫ですよぉ」

芳佳「こうやって、ストライカーなしでゆっくり雲の上も見えるんですから」

坂本「そうか……」

芳佳「それよりも会議の方が大事ですし」

ミーナ「……確かに、大事かもしれないわね」

坂本「どちらかというと大事(おおごと)だな」


ミーナ「先行きが不安ね」

ミーナ「この前のトゥルーデが受け取った脅迫文といい、明らかに動き始めてるわ」

ぴっと取り出したのは、一枚の封筒。
この脅迫文は、妹の見舞いにいったバルクホルンとエーリカの乗っていた車に挟まれていたものだ。

坂本「あの稚拙な脅迫文か。おそらく差出人はあの空軍大将だろう」

坂本「……しかし、このタイミングで強請りをかけてくるとは」

坂本「やはり焦っているのか、それとも」

ミーナ「なにか余裕ができたのかしら……」

不穏な会話の中、外を眺めていた宮藤の眼に何かが写った。

芳佳「あ、坂本さん!」

坂本「どうした?」

芳佳「海鳥ですよ!」


坂本「海鳥?ここまで高高度を飛ぶような鳥は……」

そう言って窓から外を覗く。

坂本「……ああ、こっちの「海鳥」か」

雨雲から抜け出したその鳥が現れる。


佐竹「フォーチュンインスペクター・シーフォール、目標のJu52に合流」

佐竹「これより基地上空まで護衛を行います」

「みらい」艦載機の「海鳥」は、そのまま上昇しJu52の傍へ随伴する。
射撃手の森が周りを見渡す。

森「周囲に機影艦影の反応なし。哨戒を続行します」


機長「妙な護衛とは聞いていたが、確かに奇妙だな……」

事前に説明は受けてあったので、あまり動揺はしないJu52機長。


そのまま基地へ向かっていると、レーダーにかすかな反応。

森「佐竹一尉、レーダーに反応」

佐竹「IFFが反応しているな。識別コードは……」ザザ

佐竹「ン?」

その時、ヘッドセットから歌声が聞こえてきた。


『ラ…ラララ……ラ…ラララ……ラ…』


芳佳「あれ?この声って……」

坂本「サーニャの歌だな。基地が近い証だ」

ミーナ「迎えに来てくれたのね」


雲からサーニャが抜けてきたのが見えた。
優雅気ままに空を舞う姿に、宮藤も佐竹もつい見とれてしまう。

宮藤が手を振ると、サーニャはそれに振りかえした後に雲へ隠れてしまった。


芳佳「あっ、行っちゃった……」

宮藤がちょっと残念そうな顔になる。

芳佳「すこし照れ屋さんなんですよね、サーニャちゃん」

ミーナ「おとなしいけど、とてもいい子よ。歌も上手だし」

元々歌を志していたミーナが言う。
未だに流れ続ける歌に耳を傾ける宮藤。

芳佳「いい歌ですね」

その歌が、ふと止まった。

芳佳「……あれ?」

坂本「どうした、何かあったかサーニャ?」

その返答が双方向から同時に返ってきた。


サーニャ『シリウスの方角に所属不明物体の反応あり。ネウロイです』

森『佐竹一尉、レーダーに感!』

佐竹『こちらシーフォール、レーダ不明機探知!ネウロイと思われます!』


坂本「私の眼でも見えん。雲の中か」

芳佳「ど、どうするんですか?」

ミーナ「ストライカーがない以上、今の私たちにはどうしようもないわね」

芳佳「えーっ!?」

坂本「なら気休めに機銃座についてみるか?」

後ろにある頼りなさそうな機銃を指さす。

ミーナ「……まさかこれを狙って」

サーニャ『高速で接近中、接触まであと3分』

坂本「……サーニャ、援軍が来るまで時間を稼げるか?」

ミーナ「時間が稼げれば十分よ、できるだけ単独での交戦は避けて」

サーニャ『はい、これより目標を引き離します』

そういって機体より離れるサーニャ。


角松『こちら「みらい」、了解した』

角松『上昇して距離を取り、目標の捕捉追跡を続行せよ』

角松『万が一の場合を除き、極力戦闘は避けるように』

佐竹「了解」

相手にもよるが、戦闘機ではない海鳥には空対空戦闘は難しい。
通信を終えた海鳥は上昇、引き続き警戒へと当たった。


バシュッ!バシュゥッ!

サーニャの持つフリーガハマーのロケット弾が雲の中へ吸い込まれる。
爆発で一帯の雲が吹き飛ぶ。

坂本「流石サーニャだ。この距離で撃つか」

芳佳「えっ……サーニャちゃんには見えてるんですか?」

坂本「ああ、サーニャは魔導針を持つナイトウィッチだ」

坂本「その気になって成層圏ギリギリまで上がれば、地平線の向こうだって見えるだろう」

坂本「この『目』の良さは「みらい」にも劣らないぞ」


バシュゥッ!バシュウッ!

サーニャ(反撃してこない……?)

サーニャ(いえ、当たってない)

さらに追撃をする。
雲の中で爆発が起こるも、ダメージが入っている雰囲気ではない。

その離れた後方に海鳥が上昇する。
その様子を援護するポジションにつくが、あくまで用意である。


坂本「……これだけ撃てば十分だろう」

ミーナ「基地も近いし、大丈夫そうね」

坂本「サーニャ、もういい。戻ってくれ」

サーニャ「でもまだ……」

ミーナ「ありがとうサーニャさん、よくやってくれたわ」

ミーナ「今回はもう大丈夫」

サーニャ「……了解」

Ju52に付き添うサーニャ。

一方、そのまま上の方で旋回を続けていた海鳥。

佐竹『目視による目標の視認は未だにできず』

森『レーダー圏内より光点消失、目標ロスト』


「みらい」艦橋

角松「こちら「みらい」了解」

角松「引き続き、対象の帰還まで護衛を続けてくれ」

佐竹『海鳥了解。針路戻し、再度警戒に付きます』

無線機を置き、脇にあるレーダースクリーンを見る。
レーダーは大量の電力を消費するため、電源を切っていて何も映っていない。

アナログなやり方で記録を行う隊員。

尾栗「501より援護のウィッチーズが出撃しました」

角松「了解」

角松「対象のJu52は見えるか?」

尾栗「……見えました、左舷後方20km!」

雨雲より降下してくるJu52。

その後ろに海鳥とサーニャがついているのが見えた。






翌朝 501基地

ずぶぬれになった援護班が着替え、他が寝起きのまま集っていた。
ルッキーニはまだ寝ている状態だ。

ゲルト「……となると、今回のネウロイはサーニャ以外誰も見ていないのか?」

ペリーヌ「ただの見間違えじゃないですこと?」

エイラ「サーニャがそんなミスするはずないダロ!」

非難を真っ向から弾くエイラ。

ミーナ「今回のは「海鳥」のレーダーにも映っていたそうよ」

ミーナ「そしてガンカメラの映像にも入っていたみたい」

プリントアウトされた紙は、フルカラーの写真だった。
補正がされているため若干色が不自然だが、それははっきりわかった。

雲と雲の間に、赤黒のネウロイらしい姿が写っていた。
翼のようなものがついていて航空機に見えなくもないが、平たい。

坂本「よく取れたな」

ミーナ「動画で撮っていたみたい。必要なら見せる用意もあるそうよ」

シャーリー「映像からワンシーン取り出したわけか……」


エーリカ「ねぇさーにゃん、ネウロイは一発も撃ち返してこなかったの?」

その問いに、こくりと頷くサーニャ。

ゲルト「こちらに向かっておきながら反撃してこないとは、妙だな」

サーニャ「ずっと雲の中を飛んでいました」

サーニャ「爆発で雲が消えた時ぐらいしか見ることはありませんでした」

シャーリー「偵察型?」

ゲルト「あり得ない話ではない」

ミーナ「『ネウロイとは何か』……」

ミーナ「それがわからない以上、前のように知恵を使ったネウロイが現れたりしてもおかしくはないわ」

ゲルト「仕損じたネウロイが連続して現れる可能性も極めて高い……」

坂本「……ともかく、この一帯にネウロイが確認されたのは事実」

坂本「目標は夜行性だと推測される」

坂本「現在も「みらい」は修復後の最終点検中、依然レーダーを使った早期発見が不可能だ」


坂本「そこで夜間哨戒を増員し、防空強化に当たる」

坂本「誰か夜間哨戒を希望する者はいるか?」

その問いに、大きく手を挙げるエイラ。

エイラ「ハイハイハイ! これは私にしか務まらない!」

坂本「やっぱりお前が来たか」

ミーナ「まぁ予想通りだけどね」

ミーナ「けど今回は遭遇から迎撃を視野に入れた、即応力の高い部隊にしておきたいの」

坂本「引上げ命令を出したのもあるが、先の戦闘では逃げられてしまったからな」

坂本「よって3人以上のロッテとしたい」

エーリカ「えー、夜でるの?」

ゲルト「わからんから予め手を打っておくんだ」

エーリカ「私はむりーっ」

椅子で丸くなるエーリカ。

坂本「ふむ……」

周りを見渡して、坂本は一息だけつき、こういった。


坂本「なら宮藤、お前が夜戦部隊に同行しろ」

芳佳「わ、私ですか!?」

予想外の指名に驚いた宮藤。

坂本「お前はまだ夜戦の経験もない」

坂本「いい機会だ、慣れている二人に教えてもらえ」

坂本「頼むぞ。サーニャ、エイラ」

二人の方を向く。
サーニャは「はい」と、か細い返事をして宮藤の方に向いた。

サーニャ「よろしくね、芳佳ちゃん」

芳佳「うん、よろしくね、サーニャちゃん」

エイラ「ミヤフジか……」

エイラ「分かってると思うけど、足は引っ張るナヨ?」

芳佳「は、はい!」


リーネ「あの、こっちの写真は何なんですか?」

リーネが指差したのはその隣にあった白黒と緑の写真を指す。

坂本「これは暗視装置を使って撮ったそうだ」

坂本「肝心のネウロイがほとんど見えないため、資料としては使えないがな」

芳佳「暗視装置……?」

ミーナ「光を増幅して、夜間でも視野を効かせるようにできる機械よ」

ミーナ「カールスラントでも開発中のようだけど、可視距離が短いという欠点」

ミーナ「そして機器がストライカー以上に大きくなるという問題から、あまり研究は進んでいないようね」

芳佳「こうしてみると、技術の進歩を先取りされている気がしますね」

ペリーヌ「いずれこの世界も、このような機械を作れる日が来るのでしょう」


坂本「ナイトウィッチでない隊員の夜間哨戒は、目の利き方が重要だ」

坂本「そこでお前たちにも、これを付けてもらう」

ゴトッと置かれたのは、出っ張りのあるゴーグルだった。






「みらい」科員食堂

米倉「……あれ?なんだこれ」

夕食を終えて食器プレートを返そうとした米倉が、なにかが大量に盛られている皿を見つけた。
札には「ご自由にどうぞ」とある。

柳「ブルーベリーだそうです。ブリタニア産の」

そばのテーブルで本を読んでいた柳が答えた。

柳「航海長が暗視ゴーグルと引き換えにいただいたとか」

杉本「となるとあの時の坂本少佐ですかね」

後ろに並んだのは杉本一曹。

柳「?」

杉本「ゴーグルつけて夜間歩哨してたら、声をかけられたんです」

杉本「そいつはなんなんだ、って」

ゴーグルをつけているかのように自分の頭を指す杉本。


柏原「それって正式な貸与?」

さらに後ろから返しに来た柏原が聞く。

柳「そうみたいですよ。艦長や砲雷長も顔合わせてましたし」

米倉「ふーん」

そういってブルーベリーを一つまみする。

柏原「でも、いいのかな。ここまでいろいろやって」

柳「我々だって支援を受けているわけですし、その返しと考えれば十分な気もしますが」

柏原「だけどアスロックやハンドアローを渡している」

柏原「あるはずのない技術を渡して、あるはずのない兵器を貸す」

柏原「俺たちと同じように使えないとしても、事実上介入しているのと同じじゃないか」

柏原「明らかにこの世界の歴史に、大きな一石を投じている」

そこへ杉本が返した。

杉本「ダメなんですかねぇ、一石投じちゃ」

杉本「人よりも世界の流れを重視するってのはいかがなもんですかね」


米倉「それに、僕らが人のこと考えられる余裕ってのもなくなっている」

米倉「僕らがこの世界にいられるのも、こうして力の行使ができるからだ」

米倉「この世界で役割を持ててるからこそ、存在できる立場がある」

米倉「理由のない他の軍事力なんて、どうやって存在できるかわからない」

こうやって未知の世界にしがみつけているのも、ネウロイに対抗できるほどの「みらい」の力あってこそ。
それを活かさずしてこの世界に居続けることは、軍艦としての立場を保てない。

柳「生き生かされている、というわけじゃないですけど、わかります」

柏原「まぁ確かにそうだが……」

一部に納得する柏原。
だが皆が皆、柏原の意見に反対しているわけではない。

杉本「でもまぁ、こうやって飯が食えるだけでもありがたいっすよ」

杉本もブルーベリーを一つまみする。
そしてプレートもそれぞれ流しに返していく。


杉本「しかし、変わりましたね。米倉一尉」

米倉「えっ?」

杉本「失礼ですが、てっきり一尉はそういう行動的な人物とは思えませんでしてね」

確かに、米倉はその臆病気味な性格ゆえ他の隊員からなめられる感じさえあった。
しかし今の彼は、そうは見えない。


柳(戦いが、皆を変えていくのか……)


夜 「みらい」前甲板

パシャッ!パシャッ!

麻生「左前方フェイズド・アレイ・レーダー」

麻生「スーパーバード通信衛星ドーム」

麻生「NOLQ-2・ESMなどの精密電子機器については……」

麻生「部品調達不能の為、外観のみの修復となります」

修復が終わった「みらい」の外観を撮る片桐に解説をする。

片桐「となるとつまりこれは……」

片桐「ハリボテ」

パシャッ、とまた写真を撮る。

麻生「ま、「みらい」1944年版といったところです」

違和感のないように修復された破損部分は、外見のみの修復。


麻生「船底外装の破損部分は、ブリタニアの工場に資材と製造を依頼」

麻生「現在のところ、目立った材質の差は見受けられません」

ぴったりと塞がった船底の傷跡。
若干浮き出た溶接跡が、そこに穴があったことを示していた。

麻生「左舷甲板も同様の修理となります」

麻生「幸い内部の電子機器はほとんどが無事、もしくは完全な修復が可能な程度でした」

麻生「内部に関しては隊員による手作業溶接となりましたが……」

片桐「しかし大変じゃないんですか。専門職ではないんでしょう?」

麻生「科員は万一の事態に対応できる技術を持ってます」

麻生「しかしここまでかかったのは、やはり圧倒的な人数不足ですね」

片桐「この時代に任せられるわけでもないですしね」

麻生「探せばあるのかもしれませんが。我々には選り分ける余裕がありません」


片桐「しかし被弾ですか……」

片桐「誰も経験したことがない事態ですよね」

麻生「ええ、せいぜい事故を経験した隊員がいるかどうか……」

訓練で幾度も想定していたとしても、実際に起きるのとはまたわけが違う。

麻生「……あの光線を受けてこれだけで済んだのが幸運です」

麻生「まともに食らえば、まず浮いてはいられないでしょう」

その言葉を聞いて、もう一度「みらい」を見上げる片桐。

片桐「………」

片桐「ところでどうです。「みらい」は今まで通りで出航できますか?」

麻生「フム……そうですね」

麻生「レーダーや通信機器の喪失はありましたが、他は何とか元に戻してあります」

麻生「実際どこまで運用できるかは、出航後の訓練でわかるでしょう」

片桐「いつごろになりますかね」

麻生「補給と最終チェックを終わらせ、約二日といったところです」


「みらい」後部甲板

修理の合間を縫いながら「みらい」後部甲板では艦載機の離着陸の作業が行われていた。

整備員A「哨戒機発艦用意!」

整備員B「主翼展開よし、作業員退避完了!」

佐竹「了解。発動機回転開始」

両翼のプロペラが回転を始め、離陸の用意ができた。

森「発艦用意よし」

佐竹「テイクオフ!」

機体が浮き上がり、海鳥が離陸した。
暗い闇が「みらい」は小さくなっていく。


森の視界の隅に、ぽつぽつと明かりがともったのが見えた。
滑走路の誘導灯だ。

佐竹「夜間飛行用の誘導灯か」

森「そういえば、宮藤軍曹は初めての夜間飛行だそうです」

佐竹「初めてか、そりゃこええだろうなぁ」

森「佐竹一尉も初めては怖かったんですか?」

佐竹「……こわかねぇっつたらウソになるな」

佐竹「滑走路を飛んだら、手元以外は全部真っ暗」

佐竹「上下もわからなくなる感覚、初めては怖いもんだ」


501 滑走路

真っ暗だった闇の中に、ぽつぽつと誘導灯が灯る。
辛うじて方向がわかる程度のちっぽけな光は、足元をともせているのかすら怪しい。

芳佳「わわっ……」

宮藤の口から怯えた声が漏れる。

エイラ「怖いか?」

芳佳「夜の空が、こんなに真っ暗だなんて……」

サーニャ「リラックスして、芳佳ちゃん。こういうのは一気に飛ぶ方が一番いいんだよ」

そういって、サーニャが宮藤の手をつないだ。

エイラ「えっ、サーニャ……?」

サーニャ「ほら、エイラも」

エイラ「……さっさと行くゾ!」

ぶっきらぼうな声でガッと宮藤の手を取るエイラ。

芳佳「さ、サーニャちゃん?」

サーニャ「さぁ、行きましょう」

両脇の二人がストライカーの出力を上げる。

芳佳「わわわ、まってぇ~!」

一足遅れた宮藤が引っ張られるように夜空へと飛び立った。


先日からの雨雲が、未だに夜空の大半を覆っていた。

芳佳「暗い……」

エイラ「これ、つけてみたらどうだ?」

自分の頭の上にある暗視ゴーグルを指さす。

芳佳「えっと……」

不格好なゴーグルを目の位置にかけ、指示されていたスイッチを入れる。
キュイーンという音の後に、視界がぼんやり明るくなった気がした。

芳佳「緑色……なんだ」

エイラ「ケドこれでも見づらいな。月が隠れてるからか」

うっすらと雨雲を通り抜けた月明かりを増幅し、視界を開く。
しかしあまり反射物のない空の真っただ中ではあまり変わらない気がした。


しとしとしと……

エイラ「ゲッ!雨が降ってきた!」

サーニャ「エイラ、上ろう」

エイラ「そうだな」

芳佳「え、ど…どこまでのぼるのぉ!?」

サーニャ「雲の、上まで」

芳佳「えーっ!?」


三人が分厚い雲の中を通り抜ける。
その中は冷たい。

芳佳「何も見えないよぉ!」

エイラ「しっかりつかまってろよ」

ギュッと二人の手の握り方が強くなる。

エイラ「大丈夫だ。私たちにはサーニャがいる」

エイラ「目が見えなくなるこの雲の中でも、サーニャなら道がわかる」

横を見ると、ゴーグルが何かの光に反応していた。
サーニャの魔導針の光だった。

サーニャ「もうすぐ抜けるわ」

エイラ「よーし!いくぞー!」

芳佳「わっ!」


視界が突然開けた。


芳佳「わぁっ……」

雲の上の世界。
そこには、真ん丸に満ちた月と満点の星空の輝きが広がっていた。

エイラ「ミ、ヤ、フ、ジ」

エイラ「せっかくの夜空だ。ゴーグルなんか外してから見ろよ」

頭を指すエイラ。
宮藤がゴーグルを外し、感嘆の声を漏らす。

芳佳「すっごおい……!」

エイラ「あ、おい!」

芳佳「あはははは!」

二人の手を離れ、大空を飛び回る宮藤。


『夜空の旅へようこそ』

どこからか入った無線に耳を傾けてみると、同じく雲の下から一機の航空機が現れた。

エイラ「海鳥、か」

高度を合わせ、平行して飛行する海鳥。

佐竹「はじめての夜間飛行はどうですか?宮藤軍曹」

芳佳「すごく気持ちがいいです!」

芳佳「夜の雲の上って、こんな風になっているんだぁ!」

縦横無尽に、宮藤が飛び回った。


森「このあたりは、先日ネウロイの目撃があったところです」

森「気を付けてください」

佐竹「特に雲が厚いと視界が効かない」

佐竹「レーダーがあるとはいえ、油断は禁物」

芳佳「は、はい!」

さっと姿勢を戻した宮藤を見て、少し笑みを見せて敬礼をした。

佐竹「それじゃ、良き夜空の旅を!」

佐竹「海鳥、予定航路に復帰する」

森「了解!」

海鳥は横滑りをしながら下降していく。
そして雲の中へと消えて行った。


「みらい」艦橋

隊員A「連絡、海鳥は予定航路へ。哨戒任務を継続」

隊員B「補給作業、あと10分ほどで終了します」

角松「ご苦労」

隊員の報告を聞き、露天艦橋から甲板を眺める。
甲板にはまだ物資が残っているものの、片付けの段階に入っていた。

尾栗「これだと予定の時間には間に合いそうだな」

菊池「テストを兼ねた訓練と同時に、先の夜間型ネウロイの警戒か」

菊池「ちょうどいい話だ」

角松「特に訓練時には隊員たちに勘を取り戻してもらわないといかん」

尾栗「修繕した艦の調子にもな」

角松「CICの様子はどうなっている?」

菊池「定期的に点検はさせてある」

菊池「出港準備が整い次第、いつでも出せる」

角松「そうか」


「みらい」CIC

青梅「さて、もうすぐだ」

椅子に腰かけ、まだかまだかと待つ青梅一曹。

青梅「ふてくされちゃあいないだろうな」

電源の入っていない計器を撫でる青梅。

CIC員A「点検はちゃんとしてありますし、大丈夫だとは思います」

CIC員B「それよりも、先の戦闘のダメージが支障ない程度であってほしいんですけどね」

青梅「まァ一通り修理はしたんだ。問題なかろうよ」

青梅「無線は調子いいんだろ。なんとかなる」

CIC員A「最低限確保ということで艦橋脇の無線室は電気が通ってるんですよね」

CIC員B「まぁ臨戦態勢が欲しいくらいだからなぁ。今の状況」

青梅「いつ出てくるかわからない敵さんか……」

青梅「休む暇ってのが怖くなるな。戦争ってもんは」


ドーバー海峡上空

雲の上をゆっくりと飛ぶ一行。
静かな夜、ストライカーのエンジン音以外は何もない。

芳佳「実はね、今日私の誕生日なんだ!」

エイラとサーニャが僅かに驚いた顔をする。

エイラ「なんで黙ってたんダヨ!」

芳佳「……私のお父さんの命日でもあるから、なかなか言いづらくって」

サーニャ「お父さん……」

エイラ「あのな、そういう時は楽しいことを優先するべきなんだよ」

芳佳「そうなのかなぁ……」

エイラ「人を偲んで悲しみに暮れるのもいいけどさ、やっぱり楽しく過ごしていてもらいたいもんさ」

エイラ「そのほうが、宮藤のお父さんだって喜ぶ」

サーニャと宮藤をそれぞれ見やりながらエイラが逝った。

芳佳「……うん!」


サーニャ「芳佳ちゃん、耳を澄ませて」

芳佳「えっ?」

サーニャの魔導針が少し光る。
すると耳の無線機から、別の音が聞こえてきた。

ヒューィン…ザザ…ザザザ……


『……Расцветали…яблони и…груши』


聞こえてきたのは、なにやら音楽のようだった。

芳佳「何か聞こえてきたよ?」

エイラ「ラジオの音……」

エイラ「この高さならいろんな電波が集まってくる。「みらい」なんか目じゃない」

ふてくされた声で返すエイラ。

サーニャ「今日みたいに静かな夜は、こうやって遠くの電波も聞こえてくるの」

芳佳「サーニャちゃん、こんなこともできるんだ!」


エイラ「二人の秘密じゃなかったのカヨ?」

不満げなエイラがサーニャに詰める。

サーニャ「ごめんね。でも今夜だけは……」

エイラ「ちぇっ、しょーがないなーっ」

ぐるぐると二人の周りを翔るエイラ

エイラ「サーニャに感謝しろよ。お前のための誕生日プレゼントなんだから」

芳佳「うん。ありがとうサーニャちゃん!」

エイラ「ちがうちがう、ちゃんとお前もお返しをするんだよ」

今度は宮藤に詰め寄るエイラ。

芳佳「え?」

エイラ「今日はな―――」


ドーバー海峡上空 海鳥

佐竹「フォーチュンインスペクター・シーフォール」

佐竹「定時連絡、哨戒圏内に異常なし」

宮藤たちより少し離れた空域を、海鳥が哨戒していた。

森「静かな空ですね」

佐竹「ネウロイなんて出てこないのが一番いいもんなんだが」

佐竹「……ン?」

すると、ヘッドセットから妙な通信が入ってきた。

『……Поплыли…туманы……над…рекой』ザザッ

『サーニャちゃん…すっごぉ~い……』

佐竹「なんだこりゃあ」

森「ロシア語の歌……ラジオようです」

森「混線、というより受信して流している感じですか」

音楽の後ろで、うっすらとウィッチたちのやり取りが聞こえる。
「みらい」の通信室でも聞いているのだろうか、と思いつつ2人はラジオを聴いていた。

佐竹「しかし夜のネウロイか……」

森「何か気になるんですか?」


佐竹「夜戦、それも空中戦ってのはこの時代難しいもんだったんだ」

佐竹「ナイトウィッチという役割がある以上、この世界じゃ結構経験があるようだがな」

佐竹「逆を言えば、夜は夜間戦闘機に当たるナイトウィッチだけが便りな時代に近いかもしれん」

佐竹「そうとなれば、絶対数が少ない故かなり負担がかかってもおかしくないじゃないか、とな」

森「心配ですか?」

佐竹「当たり前だ。あんななりでも女の子なんだ」

佐竹「本当なら友達と仲良くよろしく笑ってもいいと思うんだがな」

森「……でも、大丈夫だと思います」

佐竹「なんだと?」

森「ほら、無線から聞こえてくるじゃないですか。仲のいい声が」

耳を澄ますと、ちょっとしたなんでもない会話が聞こえてくる。

佐竹「……それもそうかね」




その時、レーダーに新たな光点が現れた。

森「……!佐竹一尉、レーダに反応!」

佐竹「噂をすればなんと何とやらか……!」


「みらい」艦橋

通信員A「警戒中の海鳥より入電!未確認目標探知!」

「「!?」」

通信員A「第一目標、方位本艦1-3-5、700km/hにて接近中!」

突然飛び込んできたその通信に、「みらい」全体が一気に慌ただしくなった。

尾栗「こんな時に……!」

角松「対空戦闘用意!」

『対空ぅー戦闘用意!』カーンカーンカーン!

鳴り響く警報と同時に、総員が持ち場へと駆け出す。

角松「「みらい」の状況はどうなっている?」

その問いに艦橋脇にいた麻生が答えた。

麻生「すでに作業用足場などの撤去は終了しました」

菊池「幸い、作業のためにほとんどの隊員が起床済みです」

菊池「すでに総員配置は終了」


角松「予定を早める」

角松「ドックへ注水、出港用意!」

角松「速やかに戦闘態勢へ移行せよ!」

「「ハッ!」」

菊池「501の整備員に連絡、ドック注水の用意をさせろ」

通信員A「了解」

艦橋脇の通信室で連絡を取る。

尾栗「航海科見張り員は艦橋にて待機!」

尾栗「注水作業に備え!」

艦橋に見張り員があつまる。
同時に501からも警報が聞こえ始めた。


隊員B「ドック内クリア、作業員退避完了!」

隊員C「注水開始1分前!」


「ドック注水開始!」

ドドドドドドドドド!

空になっていたドックに海水がなだれ込む。

尾栗「注水量増やせ!時間が惜しい!」

尾栗「流水揺動に注意!」

徐々に満たされていくドック。

じれったい時間を待ちながら艦内は戦闘態勢を取り始める。

通信室では、CICの代わりとして情報収集に全力を挙げていた。

菊池「発見できていない?」

その奇妙な報告に、菊池が眉間にしわを寄せる。

通信員A「はい」

通信員A「現在、501のレーダーにネウロイの姿は見えていないようです」

菊池(……妙だな)


「水門開放!」

角松「機関始動!微速後進!」

尾栗「微速後進!」

艦が外に出るまであと少し。


「みらい」CIC

CIC員A「ドック内満水!機関始動します!」

そしてCICへの電力供給が開始される。

青梅「ヤロ……」

パッパッパッ……

青梅「元気に目覚めやがれ!」

CICのスクリーンにレーダー画面が投影される。
次々に浮かび上がる光点。

角松「状況報告!」

艦橋から下って来た菊池と角松がCICへ入る。

青梅「レーダー探知、夜間哨戒チーム他第一目標光点1確認!」

青梅「本艦との距離約70km!哨戒チームとの距離10km!」

菊池「第一目標をネウロイと識別する」

青梅「了解」


海峡上空
 
サーニャ「ッ……!」

同じころ、サーニャの魔導針が激しく点滅を繰り返す。

エイラ「サーニャ、どうした! 敵か!?」

芳佳「ネウロイ!?」

サーニャ「……二人とも避難して!」ジャキ!

一人でフリーガハマーを構えるサーニャ。

芳佳「そ、そんなことできないよ!」

エイラ「そうだ!何を言っているんだサーニャ!」

サーニャ「敵の狙いは……私!」

エイラ「なん……」

その時、通信に凄まじいノイズが走り出した。

エイラ「コレは……!?」


『ウゥ…ア……アアア……アァ……』


エイラ『nんだ……こrは……』

芳佳『kれ、歌…dよ…』

エイラ『う…tだっテ……?』

『オ……ォォ…オォ……オォォ……』


その怪現象は、周辺を警戒していた海鳥にも表れていた。

佐竹「……!」

ザザザーッ!キーザザザー!

森「佐竹一尉、通信機器に異常発生!」

同時にレーダースクリーンに目をやる。

森「レーダーにもノイズが走っています!」

佐竹「落ち着け。幸いすべての計器がイカレているわけじゃない」

佐竹(これが、このネウロイの能力なのか)


「みらい」CIC

同時刻、「みらい」のCICも混乱に包まれていた。

青梅「……!」

先ほどまではっきりと見えていた光点が点滅し始める。
やがてはスクリーン全体にノイズが走り始めた。

青梅「SPY-1対空レーダー、スクリーンにノイズ発生!」

CIC員A「反応の識別不能!」

角松「!?」

CIC員B「対空レーダーだけではありません!」

他の隊員からも報告が入る。

CIC員B「対水上レーダーにもノイズが!」

角松「何が起きている……!」

角松「まさか、先の被弾のダメージか……?」


その反応に、菊池は冷静に反論した。

菊池「それはないはずだ」

菊池「損傷したのは対空レーダーのみ。それも一面だけだ」

菊池「他面のSPYや水上レーダーが同時に故障するとは考えにくい」

青梅「ではコイツは……」

菊池「考えにくいが、電波妨害だろう」

青梅「ネウロイが電子戦を……」

菊池「ネウロイは我々も、この世界の予想すら凌駕する」


ノイズの走るレーダースクリーン。
静寂に包まれたCICで、その怪奇な声だけが響いた。

『ア……ァ…アァ……ア……』

CIC員A「無線に障害発生! 未確認の電波をキャッチしています!」

CIC員B「ESM、探知出来ません!」


「みらい」艦橋

雨雲で満月は覆われ、月明かりは漏れない。
その海を、ドックから抜けた「みらい」は

艦内放送に乗ったその声は、尾栗のいる艦橋にも流れてきた。
警戒に当たっていた者も皆がこの異様な音を聞いていた。


『オォ……ォ…ォォ…』


見張り員A「歌……?」

見張り員B「航海長、これは……」

尾栗「ネウロイの声、なのか……」

露天艦橋へと飛び出し、まだ見えるはずもないネウロイを凝視する尾栗。
外は雨が強く降っていて、夜の闇も加わり何も見えない。

尾栗「雨雲はまだ分厚いな……」


柳「航海長、左20度に爆発炎!」

隣の柳がさした方向に、一瞬うっすらと爆発が見えた。


501基地 司令塔

『オ……ォォ…オォ……オォォ……』

ミーナ「これがネウロイの……」

坂本「声……?」

基地で一番高い展望台に設けられた司令部で、その声を聴く二人。

坂本「サーニャを真似ているのか?」

はっとした坂本が確認する。

坂本「……サーニャは!?」

ミーナ「今は夜間哨戒のシフトのはず……」

ミーナ「宮藤さんたちと一緒よ」

坂本「……すぐ呼び戻せ! 敵の狙いはサーニャだ!」


ミーナ「そんなの無理よ!」

ミーナ「レーダーがこんな状態じゃ、どこにいるかすら……!」

目の前にあったレーダーは、全く使い物にならなくなっていた。
たまらずにそばにあった無線機に呼びかける、

坂本「サーニャ!エイラ!宮藤!」

坂本「聞こえるか!返事をしろ!」

無線から聞こえるのは奇怪な音声のみ。

坂本「……「みらい」はどうなっている!?」

立花「ダメです、通信できません!」

隣で無線を操作していた立花二尉が答えた。
だが「みらい」の無線も雑音がひどく、ほとんど聞こえない。

荻島「立花二尉、ひとまず受信状態で待ちましょう」

荻島「「みらい」のほうで周波数を変えているはずです」


海峡上空

シュバアッ!バアッ!

サーニャのフリーガハマーが雲の中に吸い込まれる。

エイラ「……サーニャ! 右に避けろ!」

サーニャ「っ!」

一筋の光線が雲の中から飛び出てくる。
それを間一髪で回避したサーニャ。

だが、それはロケットを撃ちこんだところから離れている場所であった。

芳佳「……もしかしてサーニャちゃん、敵が見えていないの?」

エイラ「そんなことあるわけないだろう!サーニャは……」

サーニャ「……芳佳ちゃんの言う通りなの、エイラ」

その言葉に驚いた表情を見せるエイラ。

サーニャ「わからないの。あちこちに変な電波が飛んでいて……頭が……」

サーニャの魔導針が絶え間なく点滅する。

エイラ「アイツのせいか!」

ガチャ!ダダダダダダダダ!

エイラが銃を構え、先ほど光線が飛んできたところへ撃ちこんだ。


「みらい」CIC

尾栗『CIC艦橋、左20度上空に爆発炎らしきものを確認!』

艦橋からの報告も、今のCICでは確認できない。
レーダーのスクリーンには未だにノイズが走ったままだ。

菊池(これはおそらくECM攻撃に近いものだ)

菊池(あの通信電波らしきものを、ある周波数帯もしくはランダムな帯域に発している)

菊池(発信源がわからないのが奇妙だが……電離層の反射を利用してか?)

菊池(なら、こちらにもやりようもある)

それを見やって、菊池が指示を出す。

菊池「ECCM戦(対抗電子戦)用意! レーダー周波数を変更、走査開始」

青梅「了解、周波数パターンの変更開始……」

手元のダイヤルをまわし、レーダーに使われる周波数帯を細かく変えていく。

菊池(夜間哨戒の通信の一部が聞こえている以上、大出力による全帯域妨害ではないはずだ)

そうでない事を願いたい、菊池は思いつつ結果を待った。



※ECCM:Electric Counter-Counter Measure=対電子妨害対抗手段。つまりECMに対抗する手段である。

    ECMなどの妨害に対し、レーダーなどが即座に妨害から抜けらるように周波数を変更するなどの手段・機能を指す。
    電子戦は特に重要な部分であるためか、なかなか情報が見つからない……。


青梅「……とォ」

青梅「砲雷長、穴を見つけました」

菊池「あったか」

青梅の席に駆け寄る。
ダイヤルを合わせると、レーダー画面のノイズがぐんと減った。

CIC員A「各種レーダー、通信機器、機能正常に戻ります!」

CIC員B「まだ多少のノイズは入ってますが、これなら戦闘は可能です!」

青梅「思った通り、奴さんはただ四方八方に電波をばら撒いていただけのようです」

菊池「軸になったのは、リトヴャク中尉の無線電波か」

「歌のようだ」という発言から察した菊池。
これはネウロイの試行錯誤の結果なのではないか。

時折ぶれる画面の中にポツポツと光点が現れる。

青梅「目標再確認……」


青梅「ネウロイ、夜間哨戒部隊と戦闘状態に突入しています!」

菊池「……ここまで接近していたか!」

光点は宮藤たちの周りを高速で移動していた。


角松「利用可能な周波数帯を使い、海鳥と501へ通信を呼びかけろ」

角松「「みらい」で割り出した妨害のない周波数パターンへの変更指示を出せ」

CIC員A「ハッ!」

一方で、菊池は支援の方法を考えていた。

菊池(スタンダードの射程圏内にはもう入っている)

菊池(だがいつ妨害が起こるかわからない不安定な電波状況の中、それもこれほど接近している状況で当てられるかどうか……)

まだ出航後の性能試験も終えていないことに、多少の不安があった。
戦闘は、万全を期さなければならない。

そこへ一つの通信が入ってくる。

CIC員A「……海鳥より通信! チューニングを終了したようです」

佐竹『フォーチュンインスペクターシーフォール、「みらい」応答願います』

角松「こちら「みらい」CIC。そちらの状況を報告せよ」


海峡上空

佐竹「先ほど電波障害より回復、機器に異常はなし」

佐竹「ユーテライネン中尉と宮藤軍曹の援護を受け、現在リトヴャク中尉が迎撃中」

佐竹「本機は一定距離を保ちつつ監視を続行中」

遠くの方でロケット弾の火球のような爆発が見える。

角松『ネウロイとの戦闘の様子はどうだ?』

佐竹「芳しくないようです」

佐竹「目標が雲から出ず素早く動いてるようで、なかなか攻撃が当たっていません」


そこで、前席の森が気付いた。

森「佐竹一尉、もしかしてリトヴャク中尉……見えていないのでは?」

佐竹「見えてない?」

森「中尉のも一種のレーダーだと聞きました。もしかしたら同じく妨害を受けているのでは?」

佐竹「妨害のないチャンネルに気付いていないということか……」

森の死亡フラグがそろそろ


森「自分たちはすでに把握しています!」

森「どうにか伝えることができれば……」

佐竹「だがどうやるってんだ。無線が使えないんじゃあ」

はっとして顔をあげる。


佐竹「……フォーチュンインスペクターシーフォール、海鳥より意見具申」

佐竹「目標に対して援護射撃を許可願います!」

佐竹「同時に発光信号による周波数の調整の交信を試みます」

角松『……それがどれほど危険なことかわかっているのか、佐竹一尉』

佐竹「もちろん理解しています」

菊池『天候不順の視界の利かない空で、敵と交戦している中に飛び込むことになる』

菊池『危険すぎる』

角松『今501と連絡を試みている!援軍が出るまで少し待て!』

森「通信ができなければ、遠距離の作戦行動もできません!」

森「状況は切迫しています!」


「みらい」CIC

森『許可を!』

その提案に、CIC全体が沈黙した。

青梅「……目標、夜間哨戒部隊とさらに接近」

青梅「501まで残り50km」

モニターの光点同士の距離がさらに狭まる。
互いにけん制し合うように激しく移動している。

菊池「……目標の速度は?」

青梅「依然変わらず、700km/h前後で移動中」

菊池(海鳥の最高速度は450km/h……)

菊池(捕捉されれば、まず振り切ることは無理だ)

菊池(だが一方、ウィッチの援軍はまだ来ない)

時折ノイズの混じるモニターを睨む。

菊池(間に合うか……!?)


一刻一刻が静かに過ぎていくCIC。

角松「………」カチッ

その隣で、角松が無線のスイッチを入れた。

角松「海鳥へ、ナイトウィッチの直接支援を許可する」

菊池「!」

角松「ただしこちらは圧倒的に不利だ。極端な戦闘は避けよ」

佐竹『それは重々承知しています。負け戦はしません』

角松「目標より一定距離を取りつつ、ウィッチより後方で作戦を遂行せよ」

角松「少なくとも標的にされる確率は減るはずだ」

佐竹『了解!』

佐竹『機体上昇、これよりウィッチーズを援護します!』


CIC員A「501との通信、回復しました!」

隊員の一人が報告する。

荻島『立花二尉、繋がりました!』

角松「こちら「みらい」」

角松「立花二尉、501の状況はどうか?」

立花『通信が可能になったということで、現在ウィッチの出撃作業を進めています』

立花『しかしこの時間帯と先の混乱のせいもあり、少しばかり時間がかかりそうです』

後ろの方ではせわしく指示を出すミーナと坂本の声がする。

角松「無線の調整は?」

立花『出撃部隊のほうの無線は調整しました』

立花『しかし夜間哨戒の方が未だ連絡がつかず……』

角松「その心配はいい。こちらで何とかする」

角松「引き続き通信の維持を続けろ」

立花『了解!』


角松「できる手は打った」

菊池「あとは、間に合うかどうか……」


海峡上空

佐竹「目標の詳細位置はわかるか?」

森「本機右30度前方20km……」

森「このまま雲を突っ切れば、ちょうど双方が見渡せるくらいの位置に出ます」

佐竹「依然としてネウロイは雲の中か……」

佐竹「雲の下を進んで、上昇中にコンニチハじゃ世話ねえ」

レーダーを注視し、位置を割り出す森。


その光点の一つが、ふと消えた。

森「……佐竹一尉! リトヴャク中尉のIFFが消失!」

佐竹「なっ……!?ロストか!?」

森「いえ、光点はありますが……」


佐竹「落ちているわけじゃないようだが……」

佐竹「何かあったのは間違いない」

佐竹「いくぞ、森!」

森「了解!」

佐竹「ティルト変更60度……80度!」

そのまま一気に急上昇する海鳥。
雨雲のなかを一気に抜け、星空の下へと出てきた。

森「……右前方!確認!」

前方に移動物体を視認する。
MG42の小さな発砲炎がわずかに目立っていた。

だが状況はよくわからない。

佐竹「どの道この距離だと発光信号は届かんだろう」

ヘルメットのバイザーを下げ、操縦桿を握り直す。

佐竹「少しばかり前に出るぞ、注意しろ」

森「了解!」



エイラ「くそぉ! 宮藤、サーニャを頼む!」

芳佳「は、はい!」

サーニャ「うぅ……」

左足に被弾し、片側のストライカーを喪失したサーニャが宮藤に寄り掛かる。


ガガガガガガガガ!

エイラ「よくもサーニャに当てたなああああ!」

怒ったエイラが銃を乱射する。
だが姿の見えない相手になかなか当たるものではない。

エイラ「ちょこまかと……」

エイラ「すこしは止まれってンダ!」

サーニャ「ダメよエイラ……逃げて……」

エイラ「何言ってんだ!そんなのできるわけないダロ!」

エイラ「ミヤフジ!サーニャの頭痛を抑えられないのか!?」

芳佳「む、無茶言わないでくださいよぉ!」

芳佳「こんな状況じゃ何が原因なのか……」


芳佳「……!」

銃声の狭間、宮藤の耳に別の音が聞こえた。
サーニャも気づいたようで、同時に振り返る。

芳佳「海鳥!」

エイラ「なんだ?援護ならウィッチが欲しいんだがナ!」

牽制射撃を続けながらエイラも振り返る。
そのまま敵の攻撃がない隙をついて前に出、注意を引く。

チカッ!チカッ!チカッ!


サーニャ「発光……信号?」

芳佳「………」

繰り返し発される信号を見つめる3人。

エイラ「周波数……変更?」

芳佳「無線の周波数だよ!きっと聞こえるようになるんだと思う!」

エイラ「こ、こうか……?」

ザザザザザザ……

先ほどまで雑音にまみれていた無線に声が乗り始める。


同時に海鳥が併走し、前線より退避する。

佐竹『こちら海鳥、応答願います』

芳佳「宮藤です!聞こえます!」

森『リトヴャク中尉の状況の報告をお願いします』

森『識別信号が消えたので被弾したのかと思ったのですが』

エイラ「勝手にサーニャを殺スナー!」

サーニャ「私は無事です。左足に被弾しストライカーを喪失」

サーニャ「でも、なにも見えなくて……」

息が荒くなっていくサーニャ。

森『リトヴャク中尉、魔導針の周波数調整できますか?』

エイラ「なおせるのか!?」

森『妨害されていない周波数に合わせれば、リトヴャク中尉の魔導針も回復するはずです』

サーニャ「……やってみます」


無線を通して周波数が伝えられる。

サーニャ「………」ヒュイイイイイ

魔導針が二、三度点滅し、やがていつもの淡い緑へと戻る。

サーニャ「見えた!」

芳佳「ひぇっ!?」

バシュウッ!バシュウッ!

そのままフリーガハマーを構え、ロケット弾を撃ち込む。

サーニャ「はっ……はっ……」

しかし未だに先の頭痛が抜けていないのか息はまだ荒い。

エイラ「無理をするなサーニャ」

エイラ「サーニャが位置を教えてくれれば、先読みできる私が相手をする」

サーニャの持っていたフリーガハマーをもつ。

サーニャ「エイラ……」


エイラ「アイツは独りぼっちだけど、サーニャは一人じゃない」

エイラ「サーニャにはこの私がいるし、宮藤がいる」

エイラ「それに、よくわからない「みらい」のヤツもいる」

エイラ「私たちはチームなんだ」

背負っていた宮藤がにっこり笑う。

芳佳「大丈夫。私たち、きっと勝てるから!」

サーニャ「………」

横では、海鳥のコクピットで佐竹が親指を立て励ました。


サーニャが目を閉じ、魔導針で敵の位置を探る。

サーニャ「……ネウロイは雲の中を泳ぐようにしてこちらの出方を伺ってる」

サーニャ「距離、約3200」

エイラ「フリーガハマーはあと1発……」

エイラ「雲の中はやり辛いな……」


佐竹「なら、こっちで燻りだしてやるまでです」

佐竹「森二尉、機銃用意」

森「了解」

森もバイザーを下げ、戦闘準備に入る。

森「バルカン砲、アイリンクシステム接続」

カチッと機器を操作すると、バイザーにモニタが投影される。
同時に機体下部に格納されていた20mmのバルカン砲が現れ、森の視点と連動して動作する。

森「接続確認」

森「赤外線カメラ、暗視装置オン。目標を捜索します」

佐竹「垂直上昇!」

佐竹が海鳥を上昇させる。
十分見渡せる範囲まで登ったところで、森が目標を発見した。

森「赤外線カメラに反応、ネウロイです!」

雲の中を進んでいく熱源。
レーダーの反応を見るに、これがネウロイのようだ。

佐竹「右20度旋回、構えろ」

森「目標、ロックオン!」


※アイ・リンク・システム:統合ヘルメット装着式目標指定システム・JHMCSとも。
               文字通り、射撃手のヘルメットの視界通りに銃が指向するシステム。
               最近のヘルメットはバイザーにHUD投影とか当たり前らしい。もはやSF。


森「ファイア!」

ダダダダダダダダダダダ!

薬莢をばらまきつつ、20mmの弾丸が雲の中へと吸い込まれていく。
囲むように撃ち込まれた銃撃はネウロイのルートを徐々に限定的にする。

ダダダダダダダ!ガンッ!

森「……手応え有り!」

赤外線カメラにひときわ強い反応が出る。
恐らく被弾で弾けた部分の熱と思われるが、ネウロイはいまだに健在だ。

サーニャ「でてくる!」

エイラ「こい!」ジャキ!

敵に備え、エイラがフリーガハマーを構えた。


ネウロイ「キィイイイイイイイイ!」


雲を突き抜け、ネウロイがその姿を現した。

バババババババ!

エイラ「っ!」

破片をばら撒きながら、最後のあがきをするかのように光線を放つ。


佐竹「くっ、後方退避!」

海鳥が射撃を止め、後方上空へと下がる。
どうやらネウロイは海鳥ではなくウィッチを狙っていたようで、光線は飛んでこなかった。

芳佳「えい!」ヴォン!

とっさのところを宮藤がシールドで防ぐ。

エイラ「気が利くな、宮藤」

芳佳「今のうちに、コアを!」

エイラ「言われなくても!」

光線を持続的にぶつけながら逃げようとするネウロイ。
しかしエイラはその先をしっかり読んでいた。


エイラ「ソコッ!」ガチ!

バシュウゥッ!

ネウロイ「!」

飛び出した先へ正確に撃ちこまれるロケット弾。
そのまま直撃し、コアもろとも破壊した。


バキャアアアアッ!

ドオオオオオオオオオオオ!


芳佳「くぅっ……」

破片を含んだ爆風がウィッチへと吹き付ける。


ゴオオオオオ……

あたり一帯の雲を吹き飛ばしつくす。


その様子を、退避した海鳥が離れた位置で確認していた。

佐竹「……こちらシーフォール、目標の撃墜を確認」

佐竹「後方にウィッチの増援を確認、護衛の要なしと判断」

佐竹「これより帰投します」

角松『「みらい」CIC、了解』

雨雲にぽっかりあいた穴を見て、森が言葉を漏らす。

森「これが、ネウロイの最期ですか……」

佐竹「奴さんがどういう原理で動いているのかは知らんが、あのエネルギーの爆発だ」

佐竹「「みらい」の時のように小型ならまだしも、中型になるとウィッチ以外撃墜しにくいわけだな」

森「………」

無線からかすかに聞こえるピアノの音と歓声が、戦闘終了を物語っていた。


数日後 501格納庫

パン!パン!パン!パン!


「「芳佳ちゃんサーニャちゃん!ハッピーバーズデー!」」


格納庫に呼び出された二人は、盛大な歓声とクラッカーで迎えられた。
目の前のテーブルにはそこそこな食事が、ケーキが並べられていた。

サーニャ「わっ……」

芳佳「わあっ!どうしたんですかこれ!」

尾栗「二人が同じ誕生日だって聞いたからさ、遅めの誕生パーティだ!」

そこには501の皆だけでなく、尾栗をはじめとした「みらい」の隊員が多数集まっていた。

杉本「酒がないのは残念ですが」

柏原「ばっか。こんなところで飲めるかっての」

柏原「いつものピッチで飲んでたら、お前しでかすかわかんないからな」

杉本「そりゃないッスよー!」

ハハハハハ!


テーブルの上にならんだブルーベリーと紅茶。

柳「まだこんなにあるんですか」

リーネ「私の実家から大量に送られてきて……」

桜井「これは……マリーゴールドですか?」

ペリーヌ「あら、よく御存じですわね」

ペリーヌ「我がクロステルマン家に代々伝わるハーブティーですわ」

ルッキーニ「あんまりおいしくないけどね」

ペリーヌ「それはあなたが子供だからですっ!」


脇には肝油。ただ一人だけのために置いてある。

坂本「……うまいか?」

ミーナ「ええ、美緒もどう?」

軽く注がれた肝油を揺らす。

坂本「一杯だけもらおう」クイッ

コップを手に取ると、隣の席に座った。


坂本「……今回のネウロイは、明らかにサーニャを真似ていた」

坂本「そして通信妨害という新たな手法……」

ミーナ「手段にこだわったのかサーニャさんにこだわったのか」

ミーナ「いずれにせよ、ネウロイの認識を改める必要があるわね」

自分のコップにもう一杯注ぐ。

坂本「上の連中、どこまで知っていると思う?」

ミーナ「さぁ……」

ミーナ「ただ、私たちより多く掴んではいるでしょうね」

坂本「うかうかしてはいられない、か」コッ

そのままコップを置くと、別のテーブルへと回って行った。

ミーナ(誰も彼も、余裕がなくなっているのね)

ミーナ(だからこそ、こうして息抜きをする……)


ミーナ(でも、どうしてみんなこれを飲まないのかしら……)


賑やかなところから少し外れた場所で、砲雷科の榎本二曹が本を読んでいた。

榎本「えーと……」

杉本「こんな時になに読んでんだァ榎本」

肩に手を回して覗きこんでみると、それは英会話の教本のようだった。

柏原「えっ、お前立入検査隊の技能員じゃなかったか?」

柏原「あそこじゃ普通以上に英語必須だろうに」

榎本「そりゃ検査や有事で必要な事は話せますけど……」

榎本「やっぱりもっといろいろなこと話してみたいじゃないですか」

ある者はウィッチと話しながら、ある者は食べて笑いながら、それぞれがパーティを楽しんだ。


ゲルト「全く、本来ならこんな時にするものではないのだがな」

エーリカ「でもでも、さーにゃんや宮藤もあんなに喜んでるし、たまにはいいじゃん」

ゲルト「……まぁ、たまにはいいか」

ふっと少しばかり笑った。



エイラ「……私は静かな方がいいって言ったんだけどな」

シャーリー「いいじゃないか、こうやって騒ぐのだって」

シャーリー「ほら」

わいわいと話が盛り上がる一同。
あのサーニャにも、少しばかり笑顔が浮かんでいた。

エイラ「………」

それをエイラが複雑そうな表情で見つめる。


片桐「それじゃあ!写真撮りますよー!」

片桐が大声で呼びかける。

杉本「オッ、俺たちも入れてくれ!」

片桐「まずは主役からでしょう、1枚目は501の方々だけです」

フレームに収まるように座るウィッチーズ。
合図の後、フラッシュが焚かれる。


片桐「よーし、撮れてる撮れてる」

片桐「二枚目行きますよー!」

その途端に大勢の隊員が詰めかけた。
押すな押すな詰めろ詰めろと、背景があわただしくなる。

「入らねーだろうが!」

「見えん!」

片桐「もう撮りますよ!」

片桐「3,2,1!」

パシャッ!




翌日、基地の端にある宮藤博士の墓標に一枚の写真が添えられていた。
そこには、扶桑語で手書きの文字が書かれている。

『今日、15才になりました』

『サーニャちゃん、14才です』

『「みらい」の人達 とっても元気でいい人たちです』

宮藤とサーニャを中心とした写真。
その後ろには、他の写真にはなかった「みらい」の隊員たちが詰め合って写っていた。

以上本日分の投下を終わります

コメントを見返してますと、時折展開が読まれてる部分もあってドキッとすることがあります
皆考える動かし方は同じなのだろうかと思ったり、自分が単純すぎるのかと思ったり
もちろん予測は大歓迎です

ところでスオムスの制服ってすごくいいデザインですよね
ベルトとかタテセタとかベルトの見える小物入れとか
ええ、それだけです

                          刀、           , ヘ
                  /´ ̄`ヽ /: : : \_____/: : : : ヽ、
              ,. -‐┴─‐- <^ヽ、: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : }
               /: : : : : : : : : : : : : :`.ヽl____: : : : : : : : : : : : : : : : : : /
     ,. -──「`: : : : : : : : : :ヽ: : : : : : : : :\ `ヽ ̄ ̄ ̄ フ: : : : :/

    /: :.,.-ァ: : : |: : : : : : : : :    :\: : : : :: : : :ヽ  \   /: : : :/
    ̄ ̄/: : : : ヽ: : : . . . . . . . . . . .、 \=--: : : :.i  / /: : : : :/
     /: :     ∧: \: : : : : : : : : : ヽ: :\: : : 〃}/  /: : : : :/         、
.    /: : /  . : : :! ヽ: : l\_\/: : : : :\: ヽ彡: : |  /: : : : :/            |\
   /: : ィ: : : : :.i: : |   \!___/ ヽ:: : : : : : :\|:.:.:.:/:!  ,': : : : /              |: : \
   / / !: : : : :.ト‐|-    ヽ    \: : : : : l::::__:' :/  i: : : : :{              |: : : :.ヽ
   l/   |: : :!: : .l: :|            \: : : l´r. Y   {: : : : :丶_______.ノ: : : : : :}
      l: : :l: : :ト、|         、___,ィ ヽ: :| ゝ ノ    '.: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /
      |: : :ト、: |: :ヽ ___,彡     ´ ̄´   ヽl-‐'     \: : : : : : : : : : : : : : : : : : イ
        !: :从ヽ!ヽ.ハ=≠' , ///// ///u /           ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      V  ヽ|    }///  r‐'⌒ヽ  イ〉、
              ヽ、______ー‐‐' ィ´ /:/:7rt‐---、       こ、これは乙じゃなくて
                  ィ幵ノ ./:/:./:.! !: : : : :!`ヽ     ポニーテールなんだから

              r‐'T¨「 |: | !:.∨:/:./: :| |: : : : .l: : : :\   変な勘違いしないでよね!
               /: : .|: :| !:.!ィ¨¨ヾ、:.:/ !: : : : l: : : : : :.\

ジパングで好きなキャラが森ニ尉だから
できれば殺さないで欲しい(〒^〒)

今後の展開に期待してます!

>>566
本物の三佐陸等は偽物が出ても動じないんですね

>>567
あんなのほっとけばイイんですよ
荒らしは無視!
そもそも名前欄を書いている時点でアホ丸出しwwww

佐竹死亡=クーデターの前兆

続きか待ち遠しいー!!!

森ー!死ぬなー森!
お前の生年月日は何年何月何日だ!

という展開にだけはなってほしくない!

『みらい』って「こんごう」と「あたご」を合体させたような物だよね
だけど日本の艦艇にはまだトマホークは搭載されてないし
いつ輸入するんだろう?

>>574は偽者だよ
本物は俺
自衛官と言っても予備自衛官だから
普段はバイトなんだよね。
国から給料は貰ってるけど
普通の自衛官よりは安いよ。

すまん、この話やめよう
また荒れたら悪いし。

どうやら俺が偽物扱いされてるようだが
正直どうでもいいので譲るよ。
国を守ってる俺から言わせてもらえば
幼稚園でしかないよね。
俺が偽物です。

そう言えば今日トラトラトラの日だった

>>582
やめよ、スレが荒れる、その話はお開きにしよう
お互いのためにも無かったことにしよう
俺からは以上だ。

あけましておめでとうございました

大掃除中、こんな懐かしいものを見つけました
http://i.imgur.com/y9CpOvw.jpg
どんなのだったか覚えてない……
PS2どこやったかなぁ

そんなこんなで以下予告です


地図に書かれた大規模な作戦図。

高官「戦力の9割はすでにブリタニアにあるにもかかわらず、なぜ作戦実行に移さんのだ!」

誰もいないミーナの執務室。

ミーナ「けど、こうして漏れたのは事実よ」

総員で出撃を行うウィッチーズ。

マロニー「何の為の統合戦闘航空団なのかね?」

基地内に響く銃声。

坂本「いかん!宮藤!見るな!!」

テレビ画面を見つめる各国の高官たち。

角松「攻撃・撤退の判断は、現場のお前の判断を優先する」

欧州沿岸に立ち上る巨大な黒雲。

ゲルト「あれを破壊しようと多くの仲間が攻撃したが、誰一人と近づけさえしなかった」

コクピットで歯を食いしばりながら操縦桿を握る佐竹。

芳佳「あきらめちゃダメです!最後まで、あきらめちゃ……!」


次回『折れた翼』


後部甲板でたたずむ角松と尾栗。

菊池「どうやら俺たちは、ジョーカーを早く切り過ぎたようだ」


※この予告は変更される場合があります

海江田「みんなの艦長、海江田四郎だ。」

海江田「ビッグコミックで私を生み出した作者かわぐちかいじ先生がまた新しい漫画を書いた。興味があれば見てみるといい。」

連絡です
月末が凄まじく忙しくなり、どうやっても今月中の完成は無理なようで、もう半月~一月ほど延長します
2月中旬、最悪「2月31日」までには完成すると思いますので

スマホでSSが書ける人が羨ましい

少しばかり予定を変更して、この話を前後編に分けて投下したいと思います

決して間に合いそうにないからではありあせん
大本営発表なので大丈夫です


ブリタニア ロンドン

その日、各国軍の上級幹部が一堂に会していた。
軍事関係者だけでなく、政府代表も集まっていた。
そしてそれぞれの戦力が読み上げられる。


「カールスラント帝国海軍」

「戦艦ビスマルク以下重巡2、装甲艦3、駆逐艦3、潜水艦2」

「空母グラーフツェペリンは建造途中、また艦載機が確保できておらず、航空戦力投入の目処は不明」


「次に、ブリタニア海軍」

「戦艦キング・ジョージ5世以下戦艦2、駆逐艦6、軽巡3」

「空母アーク・ロイヤルと航空機20機、さらに新たな戦闘航空団を投入予定」


「ヴェネツィア海軍」

「戦艦リットリオ以下重巡3、駆逐艦3、重巡2」

「航空戦力投入は未決定」


「リベリオン海軍、戦力増強中のため派遣は少数」

「戦艦ノースカロライナ以下駆逐艦2、重巡1」

「航空戦力として空母エンタープライズ及びワスプ、240機以上の航空機供給を予定」


「そして、扶桑皇国海軍」

「戦艦大和以下戦艦2、駆逐艦12、重巡5、軽巡4」

「航空戦力として空母赤城と航空戦力50機を予定」

「またさらなる艦載機として、新型の零式艦上戦闘機をリベリオン経由にて輸送中」


「総計します」

「空母4、戦艦6、重巡13、軽巡10、駆逐艦26、装甲艦3、潜水艦2」

「航空戦力は300機以上」

「以上が、現在各国の大反攻作戦参加戦力となります」

空母四隻、戦艦六隻を含む大艦隊。

「おお……」

「まさに海を埋める、かつてない規模の戦力だ」

主力国の主力軍勢がそろう。
担当者が読み上げ終わると、周りからどよめきが起きる。

政府高官A「作戦布陣等はどうなっておるのでしょうね?」

副官「それにつきましては、私の方からご説明させていただきます」

立ち上がったのは、マロニーの副官。
部屋の中央に巨大な地図がしかれ、その上を駒と印が移動する。


「まず、海上戦闘に長けた扶桑・ブリタニア海軍を中心とした突入本隊を編成」

「後方支援としてヴェネツィア海軍を配置」

ネウロイの巣南方に本隊フラッグ、北東に陽動のフラッグが立つ。

「そして陽動部隊として、リベリオンとカールスラントを主力とした空海軍が先行」

「航空機による戦闘で敵をおびき出しつつ、戦艦の砲撃にて大型を迎撃」

北東の駒が移動され、航空機集団が前面に押し出される。

「陽動部隊にある程度引き付けた後で、本隊が深部へと侵入」

「限界ラインギリギリまで接近、急速反転を取りつつ中心部へと総砲撃を開始」

「そして同時にウィッチーズが巣へと突入、これを破壊します」

巣を取り囲むように予想された「限界ライン」。
南から本艦隊が攻め上げていった。

「破壊に成功すれば、隙を与えず空母艦載機による地上攻撃を随時開始」

「夜間は戦艦による超長距離射撃を継続」

「連日の砲爆撃を行い、地上部隊の揚陸が整うまで牽制を続けます」


政府高官A「これは……」

政府高官B「まさに総力戦であるな」

各国の持てる戦力を投入したこの作戦であった。

マロニー「このガリア一帯を制圧している巣さえ破壊すれば、大規模な地上部隊の揚陸が可能になります」

マロニー「そして再び欧州に橋頭堡を確保し、反攻を開始するのです」

ここぞと重要性を力説するマロニー。

政府高官C「しかしそう言いましても、本当に大丈夫なのかね?」

政府高官C「敵の数は未知数。その巣の構成すらわからずに有効な砲撃が取れるかどうかすらわからぬ」

政府高官C「本隊にしろ陽動にしろ、損害はどれほどになる?」

副官「それは我々も懸念している課題です」

副官「威力偵察によるデータ収集を計画しておりますが……」

政府高官A「気を付けねばならんな。戦力の過小評価は、以前の欧州上陸作戦の二の舞になりかねん」

政府高官B「うむ」


そこでカールスラントの政府高官が不満を漏らす。

独高官「だが、すでにこれだけの戦力がある」

独高官「その9割はすでにブリタニアに集結しているのだ」

独高官「にもかかわらず、作戦実行に何故移さん!」

副官「先の通り、まだ偵察等の前準備が完了していません」

独高官「偵察の不備なんぞ、作戦大綱以前の話ではないか!」

ガン!と机を叩く。

マロニー「先月頃の海上輸送がネウロイに阻害されていたために、戦力の調整が効かんのです」

一応、嘘ではない。

独高官「そうですかね、マロニー殿」

独高官「話によれば、あなた方は「ミライ」とかいう未確認ながら強力な艦を手に入れたそうじゃないか」

独高官「優れたものを使わねば、それはただの宝の持ち腐れですぞ!」

マロニー「………」


会議終了後 議場外

マロニー「歯痒いな」

副官「変に勘ぐられ始めてますね」

会議は終わり、マロニーと副官が外へ出ていた。

副官「反攻作戦への期待もそうですが」

副官「あの「みらい」への懐疑と妙な期待が付いて回っているようで」

副官「各地での活躍、この情報統制を敷いているにもかかわらず多数の人間に広がっているようです」

マロニー「人の口に戸は立てられぬ、か。仕方があるまい」

マロニー「だが「みらい」が『私の指揮下にある』としてある以上、面倒事は避けねばならん」

他国に「みらい」を譲れるわけはない。
私情でもだが、今「みらい」の所有権争いなんということは止めておかなければならない。
そんなことは始まれば、作戦が各国の思惑で歪められ、失敗するかもしれない。

マロニー「それこそ、人類全体の危機に成り得る」

副官「そういう方針をとる方としては、いささか面倒な状況です」

副官「先が読めない"不確定要素"かと」



マロニー「……諸刃の剣だな」

副官「は?」

マロニー「「みらい」だよ。よく切れる、諸刃の剣だ」

空を仰いでつぶやいた。

マロニー「戦力としては申し分ない。人類にとって有益なものだ」

マロニー「だが、実際のところ我らの手中にない。これは問題だ」

副官「飼い犬に手を噛まれることはなくとも、餌付けした野生の狼はそうとも限らない、と?」

マロニー「首輪すら付いとらんよ、「みらい」はな」

マロニー「人間のテリトリーに迷い込んだ狼をどう使い続けるか……」

マロニー「そして近所にどう『飼い犬』として誤魔化すか」

副官「各国に対する「みらい」の影響力は僅かながらあります」

マロニー「ブリタニアの配下にある……見せかけだけであろうと、それは維持せねばならん」

マロニー「"不確定要素"といえど、使えるものは使わせてもらわねばな」

マロニー「あれが完成するまでは」


マロニー「……ところで、零号機の進捗状況が遅れているのはどういうことだ」

副官「は、技術的な課題が生じているとのことです」

脇に抱えていた書類のうちから一つを取り出す。

副官「ネウロイのコアの出力から得られるエネルギーは、予想をはるかに凌駕しています」

マロニー「素晴らしいではないか」

副官「しかし、現在予定している大型プロペラを用いた方法では強度が足りず、音速手前でオーバーロードしてしまうようです」

副官「かといってリミッターをつけると、機体自身の重さがレシプロで支えられなくなるという予想がでています」

マロニー「一筋縄ではいかぬ、か……」

副官「現在プロペラの設計を新規に行い、どうにか音速を越えられる形状を模索しているようですが、どうなるか」

副官「もしくは代わりとなる機関があれば……」

マロニー「機関……」

その言葉に、マロニーは思い当たる節があった。


マロニー「確かカールスラント技術局の極秘資料、諜報部にあったな?」

副官「は?」


501基地 ミーナ執務室

コンコン、と少しばかり強めのノックがした。

坂本「坂本だ」

ミーナ「美緒?入っていいわよ」

珍しく書類の束を抱えた宮藤と坂本が入ってきた。

坂本「すまんな、いいように使って」

芳佳「いえ、これくらい、へっちゃら、ですっ!」

のっしのっしとゆっくり確実に歩く宮藤。
宮藤が段ボールいっぱいに入った書類を机に置く。

坂本「情報分析部からの報告書だ。こんな時間に届いた」

ミーナ「あら、珍しいわね」

内容は一貫して、サーニャを真似たあのネウロイについてだった。

坂本「あの時、ブリタニア全域で謎の電波障害が発生していた」

ミーナ「あのサーニャさんを真似た声かしらね」

坂本「ああ。やたらめったらに飛ばしていた周波数こそ違えど、その内容はサーニャの歌とよく似ていた」


「みらい」 士官食堂

角松「―――同時に、あの不可解な電波も散発して傍受されたと報告も入っている」

その報告書は501を経由して「みらい」にも伝えられていた。

尾栗「てぇと、あれは本当にネウロイが歌ってたってわけなのか?」

菊池「簡易ながら波形照合を試してみたが、リトヴャク中尉のと相当酷似していた」

菊池「意図して発したものと考えて間違いない」

角松「………」

三者各々腕を組んで考え込む。

尾栗「しかし、ネウロイがウィッチの……人間の真似とはなぁ」

角松「これまでに例を見ない変化のようだ」

角松「一部じゃ、ネウロイの常識がまた覆るんじゃないかと噂されているらしい」

尾栗「怪異が変異たぁ、ありがちながら厄介なもんだ」

角松「ネウロイがこの変化を維持するかはわからんがな」


角松「だが、現在のところ根本的な対策は練られていないようだ」

尾栗「敵がネウロイなら情報戦の経験も薄いだろうからな」

ギィ、と背もたれに腰掛ける尾栗。

角松「無線やレーダーによる電子戦が一気に進んだのは今大戦がきっかけになったのが大きい」

角松「無理もない」

尾栗「これからはネウロイも電子戦をする時代か」

尾栗「……菊池、今度あの攻撃を受けた場合でも「みらい」は大丈夫だよな?」

考え込んでいた菊池に話を振った。

菊池「あ、ああ」

菊池「現代戦は電子戦も重要な戦術だ。先の例を元に、対電子戦に備え501との連携も強化した」

菊池「我々同様、妨害時の周波数変更パターンを伝え、無線保持者が各々切り替えれば孤立状態でも対処が可能だ」

菊池「少なくともこれと「みらい」の支援さえあれば、ここにおいて二度同じ手は通用しない」


501基地 ミーナ執務室

ミーナ「けれどこうしてみると、やっぱりここ最近のネウロイの変化はおかしいわね」

坂本「ああ、何かあるな」

芳佳「そんなに昔のネウロイと違っているんですか?」

ミーナ「……そうね。宮藤さんは、この多様性が当たり前に感じているかもしれないけど」

ミーナが引き出しから少数の書類束を取り出す。
宮藤が来る以前の501で撃退してきたのネウロイの資料だ。

坂本「機械化し、コアを持ったネウロイが現れたのは今大戦から」

坂本「だがそれ以上の発展といえば、『各々が』特徴ある能力を持っているのがほとんどだった」

ミーナ「けれどここ最近、『一機多数』といった集団行動が目に留まるようになってきたの」

ミーナ「ウィッチのようにチーム戦術を仕掛けてくるほどにね」

芳佳「チーム……」

宮藤の脳裏に、「みらい」を被弾させたあの多数のネウロイの群れが思い浮かぶ。


坂本「これまでのパターンから、例え巣が同じでも、ネウロイ同士の組織的な繋がりはないと考えられていた」

ミーナ「けれど、ここまで来ると否定ができなくなってきたわ」

ミーナ「ウィッチではなく「みらい」を狙い、夜間哨戒のサーニャさんを狙って真似る」

ミーナ「事前に私たちの事を知っていないとできない行動だわ」

芳佳「ネウロイが、私たちを知ろうとしている……?」

坂本「ありえなくもない、な」

コンコン

そこまで話した時、再び部屋がノックされる。
ミーナが返事をすると、ペリーヌが入ってきた。

ペリーヌ「失礼しますわ……」

ペリーヌ「あ、少佐までいらしまして……お話し中でしたか?」

坂本「いや、かまわん。どうした」

ペリーヌ「その……」


ペリーヌ「トレヴァー・マロニー空軍大将がお見えになっていますわ……」


501基地 ブリーフィングルーム

副官を携えたマロニーが501へとやってきていた。
呼ばれたミーナ達が面会する。

そして同様に呼ばれた「みらい」の幹部も、そこへ集っていた。

角松「………」

菊池「………」

尾栗「………」

少しばかりの沈黙の後、ミーナが話を切り出した。

ミーナ「……ずいぶん急のようですが。何の出迎えもできず」

マロニー「かまわん。事態は急を要するのでな」

マロニー「ところで角松二佐(コマンダー)、先の「みらい」修理に要した詳細だ」

マロニー「一応、目通しをしておいてもらいたい」

角松「拝見します……」

そこに書かれていた額は、途方もない金額。

菊池(180万……!)

菊池(零戦30機分……我々の時代なら、10億ほどか)


ゴホン、と咳払いをして話を始めた。

マロニー「……先日、大反攻作戦の大綱が決定した」

マロニー「作戦名は『オペレーション・ジェリコ』」

角松「ジェリコの壁……」

菊池「聖書の一説だな」

ミーナ「決して崩れることのない欧州への壁を越えよう、ということですか」

マロニー「伝記通りにただ踊るわけではないがな」

簡単な要綱の一覧が配布され、流し見する。

尾栗「コイツは、すげぇ……」

菊池「たった一つの敵拠点に対し、空母と戦艦の大艦隊を複数も投入……」

尾栗「加えて、501以外のウィッチ部隊の予定まであるときた」

尾栗「大盤振る舞い、本気だな」

角松「それだけ、敵が強大というわけか」

坂本「今とて、ここと海峡があるからこそブリタニアは助かっているようなものに近い」


マロニー「一度は失敗した欧州上陸だ」

マロニー「二度目を失敗すれば、三度目はない」

マロニー「そのために、我々は「みらい」に協力を要請したい」

角松「それは指揮下に入る、ということで?」

マロニー「あくまで外部協力となる」

そういって、正面に止められていたブリタニア・欧州付近の拡大地図を示す。

マロニー「今回の作戦は、素早い航空戦力と大火力の艦艇戦力双方を利用する」

マロニー「陽動及び小型は航空戦力、中・大型は支援を受けた戦艦とウィッチによる加重攻撃による破壊」

マロニー「これが肝となる、が」

欧州各地に点々とする赤い丸の一つに、トンと指を置く。

マロニー「我々は未だ、この『巣』の全容を知らんのだ」

そしてその下に貼られた轟々しい黒い渦の写真が、「みらい」組の目を引き付けた。


尾栗「これが、ネウロイの巣なのか」

ミーナ「唯一、至近距離で全影を捕えることのできた写真です」

マロニー「ただ写真一枚、それほどまでに巣への接近することさえ困難なのだ」

マロニー「おそらく現段階のまま突入すれば、まず2/3を失うのは間違いない。失敗は目に見えている」

マロニー「事前偵察を行おうにも、ガンカメラを搭載可能な航空機では力不足―――」

マロニー「ウィッチが携帯可能な物になると、ブレや品質がダメだ」

マロニー「……一方、君たちの艦載機は高性能なカメラを搭載していると聞いた」

ここで、マロニーが二枚の写真を取りだした。

角松「!!」

菊池(なぜ、これがここに!?)

見たことのあるカラー写真が机に置かれた。

尾栗(これは、海鳥の撮ったあのネウロイの写真……)


それは、サーニャを真似したネウロイの写真。
501に提供され、譲渡に制限をかけたうえで保管されているはずだった物だった。

ミーナ「………」

角松「そこで我々……海鳥の偵察飛行を要請したい、と?」

マロニー「その通りだ」

マロニー「艦載機による映像偵察、並びに各国将官への公開を求めたい」

尾栗(本気かよ……)

無茶だ、という顔をする尾栗。

ミーナ「待ってください!いくら未来の兵器とはいえ、速力は爆撃機や水偵程度」

ミーナ「単機ネウロイの巣に対して偵察を行わせるのは危険すぎます!」

反論するミーナに対して、マロニーが強い口調で返した。

マロニー「何の為の統合戦闘航空団なのかね?」

ミーナ「!」

珍しくミーナが気迫に押される。

マロニー「本作戦には、501の全ウィッチを護衛として出撃させる用意がある」

坂本(勝手に決めてくれるな……)


ミーナ「だからと言って……」

マロニー「この偵察は作戦の命運を左右する!」

マロニー「切り捨てきれん要素なのだ、中佐」

ミーナ「………」

マロニー「頼めないか、角松二佐」

角松「………」


しばしの間をおいて、角松が答えた。

角松「分かりました。お引き受けます」

菊池「………」

尾栗「洋介……!」


角松「ただし、条件があります」


マロニー「条件、か」

角松「一つ、この作戦一切の指揮権は「みらい」側にあること」

角松「海鳥、本艦の乗員の安全だけは確保させていただきます」

角松「そのための現場判断はこちらにあると考えていただきたい」

マロニー「その点については問題ない」

予想はしていたのか、あまり驚かないマロニー。

角松「そして一つ、各国将官の扱いに関して」

マロニー「!」


角松「設備の問題上、映像の公開が可能なのは本艦艦内のみ」

角松「よって作戦中に中継するものとし、同乗していただくことを条件としたい」

「「「!!」」」

マロニー「作戦行動する艦に同乗せよ、というのかね」

角松「はい」

角松「当然ながら「みらい」は支援のために作戦海域へ随伴しますが……」

角松「この条件を踏まえたうえでというなら、お引き受けします」


こちらは予想外だったのか、マロニーは返答に詰まった。

マロニー「君らは先の被弾を忘れたわけではあるまい。危険すぎるだろう」

角松「だからこその配慮です。「みらい」が危険ならば、海鳥はさらに高い」

角松「我々の支援が無ければ、それこそこの時代の戦闘機に任せた方が良いでしょう」

マロニー「………」

尾栗(なるほど。死なばもろとも、リスクを共にして裏を見るというわけか……)

尾栗(これなら万が一やましい狙いがあっても、うかつに動けやしないだろう)

菊池(だが、そうはいってもこの作戦は厳しい)

菊池(ウィッチの護衛があるとはいえ、これは……)


そしてマロニーが返答した。

マロニー「……わかった、各将官には後日伝えよう」

ミーナ「!」

マロニー「作戦実行日は一週間後、詳細は追って連絡する」

角松「了解しました」





「みらい」科員食堂

食堂の一つのテーブルで、一つの塊ができている。
二人用通信ケーブルにさらにケーブルをつなげるスタイルで4人用ゲームをしていた。

柏原「しかし、そろそろ袖を下さないと厳しいな。あ、このドアでいいのか」

見てみると、周りの作業服姿の隊員は皆袖を下している。
暑いときは袖をまくっている隊員をちらほら見たものだが、今はもう見かけない。

杉本「イギリスは日本以上に北、天気も安定しないですしなァ。そこ敵いますよ」

米倉「あっ、もうちょっと早く言ってほしかったなぁ」

米倉「……でも冬かぁ。甲板作業の多い航海科や砲雷科は厳しそうだ」

桜井「元々ハワイでしたもんね。冬用装備も載ってますけど、もうちょっとコートとか欲しかったり」

柏原「まぁ無理は言えん。今あるだけでもありがたいもんさ」

杉本「それもそうですが……」

米倉「けど、ハワイかぁ」

ゲーム画面から目を離し、天井を見つめて呟く。

桜井「太平洋が、懐かしいですね……」


角松『あ、達す』

「「?」」

突然入った放送に耳を傾ける隊員。

角松『一週間後の12:00より、ウィッチと合同の大規模偵察を行う事が決定した』

角松『詳細説明の為、各分隊長ならびに航空科の佐竹一尉と森二尉は18:30に士官食堂へ集合せよ』

角松『以上』

放送が終わると、再び隊員同士の話が始まる。

杉本「大規模偵察……って、こっちからネウロイに打って出るってことですかね」

米倉「威力偵察、とかじゃないのか?」

桜井「航空科が呼ばれてたってことは、海鳥メインかな」

柏原「さぁな、どちらにせよ」

柏原「なんかやな予感がするな……」






501基地 ミーナ執務室

ゲルト「本当に「みらい」はそれを引き受けたのか」

坂本「ああ、条件付きではあるがな」

坂本「しかし驚いたのは、その条件をあの大将が受け入れたことだ」

ゲルト「各国将官の前線艦への同乗、か」

シャーリー「確かに、普通に考えたらとんでもない話だ」

ゲルト「だが、あいつはその条件を飲んだ」

ゲルト「すべての参加国の将官を説得することなんて、容易なことじゃない」

坂本「そこまでして今回の作戦を実行に移したかった……」

シャーリー「なんかよくわからないけど、焦りらしきものを感じるね」

ミーナ「それだけじゃないわね」

ミーナ「今回の事、やけに引っかかることが多いわ」

シャーリー「……あの写真ですか」

ミーナ「ええ」


ミーナ「「みらい」から譲渡されて厳重に保管していたはずだったわ」

そう言って執務室横の引き出しを開ける。
だがそこには鍵がされており安易に開けられるものではない、はずだった。

ミーナ「それが、この有様」

鍵の見かけそのままだが機能しておらず、簡単に開いていた。
その中には、あるはずの書類などが一部消えていた。

ミーナ「海鳥のカメラのことだって、本来なら機密事項のはずだったのに……」

坂本「奴らがどうしてそれを知りどうして手に入れたのか、なら見当はつくがな}

ゲルト「スパイがいる、ということか」

坂本「それしか考えられなかろう」

シャーリー「けどここは、男はおろか女ですら関係者以外入ることはできない場所ですよ」

シャーリー「各国混成の憲兵が周りをうろちょろしてますし」

ミーナ「けど、こうして漏れたのは事実よ」

ミーナ「まず事実を受け止めて、それから探ってみなきゃいけないわ」

はぁ、とため息をついてもう一言。

ミーナ「……そしてもうひとつ」


坂本「草加少佐」

坂本「「みらい」あるところにいる男が関与していないのが、妙に引っかかる」


「みらい」士官室

角松「―――以上のように、ウィッチの護衛を伴った海鳥を中心とし」

角松「ガリア沿岸部に確認されている『巣』への偵察を行う」

複製した巣の写真を指差す角松と、それを海鳥の二人が聞いていた。

佐竹「蜂の巣を突っついて相手の出方を観察する……」

佐竹「つまるところ、海鳥を使った威力偵察ですか」

作戦の真意を掴んだ佐竹が聞く。

角松「そうなる」

その返事を聞いて「やっぱりか」と納得したようだった。

菊池「だが威力偵察といえど、海鳥自身が攻撃を行う必要はない」

菊池「必要があれば機動性の高いウィッチに任せる予定だ」

尾栗「ま、そもそも近づくだけで迎撃個体が出現するって話だからな」


角松「もちろん海鳥の安全は確保する」

角松「護衛に対しては501ウィッチの全部隊員を派遣」

角松「今回限り、ウィッチに対する指揮権を我々は得ているため、多少の融通が利く」

角松「そして早期撤退の判断については現場判断……」

角松「佐竹一尉、その場で一番階級の高いお前に一任する」

角松「ただし、私からの撤退指示には従うように」

佐竹「は……」


一息つき、佐竹の正面に立って角松が尋ねる。

角松「……非常に危険な任務だ、やってくれるか?」

佐竹「誰に言っているんですか、艦長」

佐竹「海鳥を使った任務なら、俺と森の二人にしかできない事ですよ」


失礼します、と佐竹と森、他の幹部が退室する。

尾栗「……全く、とんでもねぇ作戦だ」

尾栗「佐竹はああ言ったが、本当なら俺は反対だ」

角松「だがそうもいくまい」

角松「厚かましく見せつけた修理の明細書、お前だって見ただろう」

尾栗「金は働いて返せってか」

菊池「対価はいつの時代も必要……だ」

菊池「指揮下にない対等な立場にいようとするならばな」

尾栗「へっ、対等ね」

尾栗「寄り掛かりが必要なのをいいことに無茶押し付けるあたりそうは思えんがな」

腕を組んで思いっきり背もたれに掛ける尾栗。


菊池「……本音を言えば、俺だってこの作戦は反対だ」

菊池「航空戦力としての海鳥は脆い。危険すぎる」

角松「「みらい」が自立しつつ生き残るには、この世界との協力が必要だ」

角松「だが、今の「みらい」に戦闘以外で協力できることは……ない」

尾栗「……早めの技術協力が裏目に出た、ということか」

彼が言ったのは、いつぞやのアスロックやハンドアローを渡した時のこと。

尾栗「あの判断は悪くないと思ったんだがな」

菊池「未来の技術というものは」

菊池「科学の時代に生きる人間ならばいつでも求める対象」

菊池「……それを、すでに使ってしまったんだ」


菊池「俺たちは、ジョーカーを早く切り過ぎてしまったのかもしれない」


角松「それよりも問題は、あの写真が漏れたところだ」

話は海鳥の撮影したはずの写真に移る。

尾栗「あれはどういうことだ?譲渡なしを条件に提供したんじゃないのか?」

角松「そのようにしていたはずだ」

角松「……だが501のヴィルケ中佐によれば、彼女らの方も身に覚えがないそうだ」

角松「ではなぜあの大将の元に渡っていたか、となるが……」

尾栗「まァ、十中八九マロニー側のスパイだろうな」

尾栗が河本兵曹長の話を思い出す。

菊池「お前が接触した草加少佐の機関はどうしたんだ」

尾栗「あくまで「みらい」の護衛と言ってたからな。501には目が行ってなかったのかもしれん」

菊池「……いずれにせよ、現段階では機密情報がダダ漏れな状態だ」

角松「ああ」

角松「何か、対策を練らねばな」


未明 501基地 格納庫

朝日がまだ顔を出さず、多数の人間は就寝している時間。
格納庫に、二人の白人の男がいた。

A「いけそうか?」

B「なんとか」

鍵穴に奇妙な工具を挿しこみ、少しずつ回転させていく。
がちっ、と噛み合うような音がし、ロックが外れたドアをゆっくり開く。

A「………」

二人が入ったのは格納庫奥にあるデスク部屋。
元々設計などの作業をする部屋はほかにあるため使う者はおらず、長い間空き部屋であった。
そのためウルスラが入った後、そのまま専用部屋とされた。

B「………」

引き出しや本棚を漁る男達。
暗い中ながら明かりを使わずに内容を読み取るその姿は、こういった仕事に手馴れているようだった。


A「どうだ、見つかったか?」

B「いや、らしいものはいくつか見つけたが」

そうして漁っているうちに、目的のものを見つけたようだ。

A「……あった」

B「こっちもみつけた」

互いに手にした書類を見せ合う。
対象物であると確認すると、カバンに詰めて素早く片付ける。

A「予定より時間がかかった。朝日が昇っている」

B「よし、ずらかるぞ」

鍵をかけ直し、何食わぬ顔で外へ出る。
格納庫を出て、そのまま基地出口を目指して歩く。

日が昇り、視界が広がると、心なしか足が速くなる。


「そこの、誰か」

基地外周を歩いている中、後ろから声をかけられた。

憲兵「見かけない顔だな」

憲兵「ここ一帯は関係者以外立ち入り禁止だ。身分証を見せろ」

警備を担当している扶桑人の憲兵だった。
形式的ながらも扶桑刀を帯刀し、今は懐中電灯の必要ない明るさ故両手は手ぶらである。

反応しない二人に対して憲兵が距離を詰めた。

憲兵「扶桑語もブリタニア語もわからんのか。身分証を見せろ」

憲兵「おい!」

怪しんだ憲兵が拳銃を取り出しつつ構えようとした瞬間、男の一人が突然向かってきた。

憲兵「!?」


ドッ!

憲兵「グッ……!!」

憲兵の脇腹にナイフが突き立てられ、じわりじわりと赤い血が染み渡る。
そのまま崩れ落ちた姿を見た後、そそくさと立ち去る二人。


パァン!パァン!パァン!


B「ガッ!?」

致命傷を受けながらも放った憲兵の拳銃が、一人の足を打ち抜く。
その突然のことに対応できず、撃たれた一人がそのまま崖下の植え込みの中へと落ちていった。

A「……くそっ!」

もはや助けられる見込みも助かっている保証もない。
そう確信した残りの方は逃げて行った。

銃声を聞きつけ、基地中から人々が集まる。

「なんだ、何事だ」

「……誰か刺されて倒れてるぞ!」

「憲兵隊に通報しろ!急げ!」






翌朝 501基地食堂


芳佳「うぅ……さっきの音なんだろう……」

朝食準備のために早く起きていた宮藤はその音を耳にしていた。
気になるところではあるが、少しばかり用意が遅れているのでそちらに集中する。

リーネ「芳佳ちゃん、おはよう」

芳佳「おはようリーネちゃん。もうお米の準備はできてるよ」

リーネ「じゃあ私は野菜を用意するね」

芳佳「うん、おねがい」


コトコトと鍋が吹く音がする中、何やら騒がしい足音がし始める。

土方「はっ…はっ……」

芳佳「あれ?土方さん?」

食堂を横切って走るのは、坂本の従兵の土方だった。

土方「……! すでに起きられていましたか」

リーネ「何かあったんですか?」


土方「ええ、少しばかり……」

歯切れの悪い切り方をする土方。

土方「それよりもお二人方、いましばらくの外出はなさらないようにお願いします」

リーネ「外出禁止……?」

土方「禁止ではありませんが、必要があれば複数人でお願いします」

土方「問題はすぐ解決します。心配はいりません」

土方「では、失礼します」

軽く敬礼をした後、再び駆け足で通り過ぎていく。

芳佳「な、なんなんだろう……」

宮藤はボウルを持ったままその後ろ姿を見ていた。
いつもと違っていたのが、その腰に拳銃入れが釣り下がっていたことだった。


その直後、不安は的中する。

「いたぞ!」

「こっちだ!」

「「!?」」

芳佳「ふぇ!?」

再び後ろからどたどたと足音が響く。

ゲルト「拳銃類の使用は許可してある。が、できるだけ生かして捕えるんだ」

ゲルト「余罪も吐かせろ。501にたて突いたのが運の尽きだと思い知らせてやる」

衛兵「はっ!」

シャーリー(いつになく本気だなコイツ……)

その中には、衛兵を連れたバルクホルンやシャーリらが紛れていた。

芳佳「バルクホルンさん!?シャーリーさん!?」


パァン!


リーネ「じゅ、銃声!?」

ゲルト「……しまった!」

いの一番にバルクホルンとシャーリーが駆け出した。


501基地 外

そこには武装憲兵らを主とした人員で囲まれていた。

シャーリー「うっ……」

ミーナ「これは、潔い自決……ハラキリの一つとみていいのかしら」

目の前には布をかけられた死体。
壁には飛び散った血痕、手元に拳銃があることから拳銃自殺したようだ。

坂本「自分の口を封じるために死んだだけだ。切腹と一緒にしてもらっては困るな中佐」

ミーナ「……ごめんなさい」

つい心無いことを言ってしまったこと、ミーナはため息交じりに謝った。
しかし、重要な作戦の前だというのに彼女もここ数日寝ることができていないのだ。

シャーリー「さっきの写真もこのスパイの仕業か」

ゲルト「諜報部は何をやっていた!」

ミーナ「ウィッチの区画に侵入できるほどの腕前よ。無理もないわ」


そこへ異変を感じた宮藤とリーネがやってくる。

芳佳「坂本さん!なにがあったんですか?」

坂本「宮藤!? いかん!来るんじゃない!」

芳佳「へっ?」

制止される声に思わず立ち止まる宮藤とリーネ。

坂本(人一倍感受性の高い二人だ。作戦前に見せるわけにはいかん)

坂本「バルクホルン、シャーリー、宮藤たちにしばらく付いていてくれ」

坂本「他の皆もここには近づかないようにしろ」

坂本「……お前たちなら、万が一があっても皆を守れるだろう」

シャーリー「わかりました」

ゲルト「……了解」


二人が宮藤らを連れて立ち去るのを見て、現場に一足早くいた土方が現れる。

土方「坂本少佐」

坂本「土方、状況はどうだ」

首を振って否定の返事を表す。

土方「被害者はブリタニア系の男性。膝に銃傷、全身に打撲を負っています」

土方「血痕からして、銃で撃たれた拍子に崖から落ち、ろくに動けなくなり自決かと」

土方「素性は手慣れたスパイのようです。身元を示す証拠は一切残ってません」

坂本「だろうな」

土方「目撃者の証言によれば、相手は二人」

土方「もう一人は未だ消息がつかめておりません」

土方「また、追跡していたと思われる扶桑憲兵の遺体を発見しました」

坂本「……くそっ!」


土方「現在も捜索中ですが、おそらくもうここにはいないでしょう」

坂本「念のため警備を指示してあるが……」

ミーナ「「みらい」隊員にも伝えた方がよさそうね」

頭を抱えるミーナ。

ミーナ「なにか残ったものはなかったの?」

土方「死ぬ前に所持品の焼却処分を試みていたようで、ほとんど残っていません」

坂本「徹底的だな」

土方「ただ一つ、焼け残った文書がありました」

そう言って焦げ付いた紙切れを渡した。
ところどころ黒くなっているが、いつか見たことがある記述に覚えがあった。

坂本「……これは」

ミーナ「いずれにしても、また一仕事増えそうね……」


501基地 食堂

芳佳「えっと、朝ご飯……です」

少しばかり空席のあるテーブルに配膳していく宮藤とリーネ。
ただ異様に何か暗い雰囲気である。

ゲルト「ん、すまんな」

シャーリー「………」

芳佳「……何があったか、聞いてもいいですか」

ゲルト「すまないが、私からは答えられない」

シャーリー「それに……宮藤たちは知らない方がいいと思う」

いつになくシャーリーが真面目な顔で答えた。

ゲルト「これは私たち上の問題だ」

ゲルト「お前たちは次の作戦に備えて、しっかりしておくことだ」

芳佳「次の、作戦……」


エーリカ「おはよー」

バルクホルンが起こしに来ないため、一人で起きてきたエーリカがやってくる

エーリカ「……って、あれ?」

いつもと違う雰囲気を感じ取った彼女は少しばかり緊張する。

エーリカ「えと、なにかあったの……?」

ゲルト「……いや、なんでもない」

ゲルト「それよりもさっさと席につけ。朝食だ」

普通通りに振舞うよう努力しているバルクホルンだが、どこかぎこちない。

エーリカ「う、うん」

エーリカ(何を隠してるんだろ)

聞きたかったが、エーリカの勘はそれを拒否した。
何の根拠もないが、割と当たるのでそれに従おう。必要な時に彼女が教えてくれるはずだ。

エーリカ(……今は、それでいいんだよね。トゥルーデ?)






同日 昼ごろ
ポーツマス 兵器実験場

海に面し、管制塔と小屋がある以外はまっさらな広大な実験用の敷地に、巨大なロケットがけん引されてきた。

技術員A「しかし、とんでもないな」

技術員B「この実験機か」

技術員A「設計から超短期間での組立だ」

技術員A「金と人員、どれだけ無尽蔵に使われてるかって話さ」

技術員B「けど聞いた話じゃ、設計はほぼハルトマン中尉だけって聞いたぜ」

技術員A「またあの人か……前ジェットストライカー作ってなかったか?」

技術員B「ほんと、天才ってのはどこにでもるもんだな」

車から降り、実験の用意を始める。
構想・設計からわずか一月半、驚異的な速さで完成させられたV-1"ロケット"の試作機があった。


ウルスラ「急に呼び出してしまって申し訳ありません」

ウルスラ「今日はわざわざご足労いただき、ありがとうございます」

ウルスラ「……ハイデマリー大尉」

雲が多いものの晴れの日、眼を眩しそうに細めながら、ハイデマリー・W・シュナウファーは返した。

ハイデマリー「いえ、私にお手伝いできることだということで」

ハイデマリー「同じナイトウィッチでも、501のサーニャさんは忙しいでしょうし」

油圧式のジャッキが、ロケットを固定した荷台を垂直にしていく。

ハイデマリー「これが、新兵器ですか」

ウルスラ「まだ試作段階の第一作ですが、計算通りにいけば魔導針を通しての遠隔操作が可能なはずです」

ジャッキが垂直になり、作業員が拘束具を取り外し始める。
計測機器を周辺に置き、散らばっていった。


ロケットの周囲、そしてウルスラらがいるところの近くにも簡易な障壁が置かれる。
そのまま二人は管制塔へと入る。

技師「V-1試験A1型、設置完了しました」

ウルスラ「はい、ありがとうございます」

ウルスラ「……では大尉、これをお願いします」

そういってウルスラが長い布を手渡した。

ハイデマリー「これは?」

ウルスラ「目隠しです」

ハイデマリー「目隠し……ですか」

ウルスラ「はい」

そして勝手に巻きつけ始めるウルスラ。
器用に眼鏡を避けながら、目を覆っていった。

ウルスラ「将来的には有視界外の操作を念頭に考えてますので、その準備も兼ねて」

ハイデマリー「あっ、中尉、まって……」

ぐるぐるぐるぐる。


ぴょん、と反射的に魔法を使いだすハイデマリー。

ウルスラ「大丈夫です。しばらくはそのまま座っているだけで構いません」

カチャカチャと機械をいじる音がする。
そばで話す声が聞こえる。人が走っている気配がする。

目隠しされたまま、ハイデマリーはおとなしく座って待っていた。


ウルスラ「では大尉、これから概要を説明させていただきます」

目隠しをされたまま説明を受けるハイデマリー。

ウルスラ「まず、ここから20kmほど先のに、阻塞気球を転用した標的がみえますか?」

ハイデマリー「……はい、見えます」

ウルスラ「これから誘導ロケットV-1を垂直に打ち上げ、予め指定した自動管制でおおよその方角へ曲がります」

ウルスラ「私が合図をしましたら、大尉が誘導を開始してください」

ハイデマリー「あの、誘導はどのようにすれば……?」

ウルスラ「簡単です。ロケットに対して「右10°」「俯角2°」と無線感覚で送ってください」

ウルスラ「ロケットが電波を受信、指示通りの制御を試みます」


ウルスラ「それでは、燃料の注入をお願いします」

ガコンガコンとポンプらしい騒々しい音がするとともに、アルコールの匂いがかすかにしてくる。

ウルスラ「打ち上げ時、巨大な噴射音がしますので備えてください」

ハイデマリー「はい」

技師『燃料注入、完了しました』

ウルスラ「では、打ち上げ用意」

『打ち上げ用意!』

『発射作業員は屋内へ退避せよ!』

ウゥウウウウウウウウ―――!

それを合図にけたたましい警報が鳴り響く。


ウルスラがマイクをとる。

ウルスラ「Funf Sekunden vor dem Shoot」

ウルスラ「Vier, Drei, Zwei, Eins」

ウルスラ「...Feuer!」


シュッ!ヴォオオオオオオオオ!!


凄まじい爆音を発しながら「V-1」は飛翔した。


観測員A「V-1上昇、本体、観測装置に異常なし」

観測員B「機体、安定高度へ」

管制塔の観測員が計器をにらみつつ報告する。

ウルスラ「第一次信号送信」

観測員A「了解。第一次信号送信」

パチンとスイッチをはじく音が響く。

観測員B「……V-1、受信信号を確認できず」

観測員B「ただし観測用信号は依然受信中」

観測員A「予定高度超過。内蔵ジャイロによる自動方向転換開始」

ウルスラ「やはり受信できませんか」

ウルスラ「観測続行、第二次信号送信」

ウルスラ「大尉、誘導をお願いします」

ハイデマリー「はい」

魔導針が淡く光り始めた。

観測員B「制御切り替え、ウィッチによる誘導へ移行します」


噴き出す噴煙を見るウルスラ。
そしてハイデマリーが操作を始める。

ハイデマリー「ロケット確認……目標確認……」

ハイデマリー「相対距離およそ17km……方位誤差約20度」

激しく点滅を始める。
心なしか、息が荒くなり始めた。
それを心配し、ウルスラが声をかける。

ウルスラ「大丈夫……ですか?」

ハイデマリー「はい、まだ……なんとか」

額に汗が浮かび始める。
膝の上で握っていた拳が少しきつく握られた気がした。

ハイデマリー「距離、残り10km」

ウルスラ「最終突入段階へ入ります」

ウルスラ「観測、続けてください」

観測員A「V-1、順調に航行中。最終修正コースへ」


ウルスラ「目標突入まであと少し……」

安定した直線飛行を描いて目標へ近づいていくV1ロケット。
順調かのように見えた飛行だが、徐々に弾道がぶれはじめたのが見えてきた。

ハイデマリー「……!?」

そのブレは大きくなり、やがて目標から逸れ蛇行を描き始める。

ハイデマリー「右20度……30度……!機首上げ……!」

指示を一生懸命出しているのにもかかわらず、V-1はコースに戻らない。

観測員B「修正可能域離脱、高度低下!」

ハイデマリー「修正できません……落ちます」

安定した浮力を失ったV-1が、先端を地面に向ける。


ォオオオオオ……ドゴオオオン!


遠くからでも確認できるような土埃を上げ、V-1は海岸の砂浜へ激突した。
調査回収の為に出動した回収班の車両が大急ぎで向かう。

ハイデマリー「すみません。せっかくの実験機を……」

ウルスラ「いえ、これはこちらの不具合です。実験に失敗はつきものですから」

ウルスラ「こちらこそ、ご負担をかけてしまったようで」


ウルスラ「ところで、今回の実験での感想を伺いたいのですが……」

ウルスラ「操作中に感じたことなど、些細なことでも構いません」

ハイデマリー「感じたこと、ですか……」

思い返すように、遠くに転がるV-1の残骸を見つめるハイデマリー。

ハイデマリー「まず思ったのは、少しばかり負荷がかかるということでしょうか」

ハイデマリー「目標とロケットの位置把握まではいいのですが、計算しつつ誘導指示というのは少しばかりきつい仕事になります」

ハイデマリー「加えて飛行中となると自機の事も気にしなければならないので、さらに余裕がなくなるかと」

ウルスラ「現状、一人での運用は厳しいようですか」

ハイデマリー「二人一組というなら楽になるかもしれませんが」

ハイデマリー「この状態では、先のような突発的なトラブルに対応するのも困難と思います」

ウルスラ「……なるほど、わかりました」

手元のフリップにすらすらとまとめていく。
そしてそのまま、数人の見知った同僚が集まっている事故現場へと足を進めた。

技術員A「ハルトマン中尉、こちらです!」


ウルスラ「何か分かりましたか?」

技術員A「はい。どうやら先端部のジャイロスコープが破損しています」

技術員A「墜落の原因は、まず間違いなくこれでしょう」

未だ熱を帯びている残骸から器用にかき分けだした該当部分を見せる。

技術員B「外部ケースに目立ったダメージはありますが、スコープ自身は墜落時の衝撃で破損したわけではないと思われます」

技術員A「こっちの制御部分も、通電ヒューズが切れてます」

技術員B「それが命令を受けなくなった理由かしら……」

技術員C「発射時、もしくは飛行中の衝撃でしょうか?」

技術者同士で様々な推測が議論される。

技術員A「理論設計のロケットがうまく誘導できたもんだから初っ端成功かと思いましたが……」

技術員B「ここまで進んだだけでも大成功ってもんよ」


技術員A「理論はほぼ完ぺきです、あとは設計と技術さえ追いつけば……」

ウルスラ「それもそうですね」

ですが、と言葉を区切る。

ウルスラ「まだこの子は基礎構造以上に、実用性に欠ける部分がまだ多いようです」

発案者の苦悩。
そう言って、手に持ったペンをくるくると器用に回転させた。


「ウルスラ・ハルトマン中尉!」

遠くから一切れの電文を持って駆けてくる通信兵がいた。

通信兵「501より、電文が届いています」

ウルスラ「501から?」

なにか設置していた装置に不具合でもあったのだろうか?
電文を受け取り、内容を読む。

ウルスラ「『貴官の紛失書類を発見。至急急行し確認されたし』」

ウルスラ「……???」


501基地 通信室

荻島「拳銃携帯の許可……」

荻島「こっそり持ってきたものが、本当に使うことになるかもしれないとは思いませんでした」

その手にあるのは、「みらい」からの派遣時に持たされた9mm拳銃。
先ほどの通信は、事件の通報を受けた「みらい」 から基地内での拳銃携帯を許可されたことだった。
そして同時に、501からの許可も受け取った。

荻島「スパイが一人逃走中とのことですが、まさか残ってはいないですよね」

立花「念には念を入れておけってことだろう」

立花「万が一、が起きてからでは遅い」

立花「交代員の奴らにも伝えておけ」

荻島「はっ」

荻島「……ただ、使わずに済むことを祈るばかりですが」

立花「………」

ガチッと銃に弾倉を差し込んだ、に安全装置が掛かっているのを確認する。

立花(本当に、そんなことにならなければいいが)






翌朝 ブリタニア 扶桑海軍駐屯地

草加「「みらい」がマロニー大将の依頼を?」

草加「その話は確かか」

津田「河本兵曹長を経由した話です。信用はおけます」

暗号電を携えた津田の話を確認する草加。

草加「やはり動いたな……」

軍刀に手と顎を載せて答えた。

津田「は?」

草加(もっとも、これほど早く動くとは思わなかったが……)


草加「いずれ必要に迫られた時、私を介さずに動くことは予想できていた」

津田「なるほど……」

だが、ここで津田が疑問を持つ。

津田「しかし、マロニー大将は事実上草加少佐を「みらい」専任に割り当ててました」

津田「一方では自分の手中にある使者として差出し、もう一方では信頼を得ている人物としての使者」

津田「いくら急な作戦とはいえ、少佐を介さなくなったことに理由があるのでしょうか?」

信頼されている人員の進言の方が、作戦の要求だって通る確率が高い。
仮に事実上解雇されたとするのなら代替員とかが入っていいはずだ。

草加「単純な話、大反攻作戦を前に焦っているだけだ」

草加「ただそれに伴って、彼の考えている計画が最終段階に入ったとみていいだろう」

草加「我々にも関与させたくない部分に触れ始めたということだ」

津田(マロニー大将の計画……ウィッチから戦争の主導権を奪い、独占すること)

草加の予測ではそう聞いていた。

津田(何が、彼をそこまでさせるのか)


津田「では、この機をつけば計画の挫折も……」

草加「だが、まだ明白でない事はある」

草加「未だ彼の手の内が見えない以上、うかつに手は出せない」

津田「手の内というと……」

草加「仮にも自分だけで打倒ウィッチを狙っているのなら、少なくとも切り札を持っているはずだ」

草加「それこそ、ウィッチ以外の方法でネウロイを倒せるような手段をな」

ウィッチに頼らないネウロイの殲滅。
果たしてそんなことが一大将の元でといえど、あるのだろうか

津田「……以前少佐は、マロニー大将が「みらい」を手にしたうえで通常兵器による台頭を狙ったとおっしゃっていましたが」

草加「私を切ったのは信用による「みらい」の取り込みを切った、もしくは主戦力としないと考えていいだろう」

草加「もし自分の手だけでネウロイを殲滅できる『何か』ができたのなら、他人の手にある「みらい」など不用になり下がるだろう」

津田「「みらい」の能力をも凌ぐ兵器……」

津田「そんなのが可能なのですか?」

草加「半分は憶測だ……が、心当たりはある」


草加「君に命じた諜報活動はどうなっている」

気になったというのは、草加の知己深町が運んだという"荷物"。

津田「その件に関して、少しばかり興味深い情報が得られています」

津田「草加少佐のおっしゃった日のポーツマス海軍基地の記録でしたが……」

海軍基地の入出記録を探らせるという膨大な仕事。
そもそも可能かどうかわからない仕事ではあったが、やはり無理があったか、と草加は少し思った。
しかし津田の答えは意外だった。

津田「どうやら職員の不手際により、記録がまるまる紛失している……との報告が入りました」

草加「紛失……か」

草加(その日全体の記録をなくせば、仮に原本を発見してもどれが重要なのかはわからない)

草加(向こうは一歩先を行っているな)

津田「別方面で記録を調査中ですが、正直見つかるかどうか」

津田「私の独断で動かせる機関員が501、ロンドン、ポーツマスと散らばっているため、手一杯の状態です」


そこへ駆け込む男の姿があった。

水兵「津田大尉、草加少佐!」

それは津田配下の水兵で、主に伝令を任せていた人物だった。

津田「何事か」

水兵「501にて殺傷事件が発生したとの報告が!」

津田「!?」

人的な殺傷事件とは無縁、と思えた501で血が流れた。
その事実は二人を驚愕させるが、さらなる事実が追い打ちをかけた。

水兵「なお被害者はブリタニア系スパイ、おそらく大将閣下揮下の「みらい」監視員です」

水兵「追っていた扶桑憲兵が一人刺され、間もなく死亡が確認されました」

草加「………」

津田「河本兵曹長からの連絡は!?」

水兵「先ほど二日前の事件当時についての暗号電が入りましたが……」


津田「二日前だと!?」

水兵「スパイがいたという事実で、検閲が非常に厳しくなっています」

水兵「電話は傍受され、無電で暗号電を打つのも難しいとのことで……」

津田「くっ……」

水兵「また加えて、501基地全体に警備員の配置・増員が指示」

水兵「詳細は未確認ですが「みらい」乗員に対しても基地内における武装が許可された、と」

報告を聞いて一息ついた後、草加が尋ねる。

草加「他に情報は入っていないか?」

水兵「スパイの奪ったと思われる情報の一部を確認できました」

草加「それは?」


水兵「ウルスラ・ハルトマン中尉の兵器開発資料です」


501基地 ブリーフィングルーム

ここでは少々遅れて、偵察作戦の説明が行われていた。

坂本「……以上のように、海鳥の映像技術を利用した偵察活動を行う」

ミーナ「私たちの主な任務は、予想される迎撃型ネウロイの撃破」

ミーナ「また海鳥や将官方の乗艦する「みらい」の防衛」

ミーナ「必要なら撤退時の支援を行います」

説明を聞いて一息吐くシャーリー。

シャーリー「改めて聞くと、無理を通す作戦だな」

シャーリー「全員出るといっても苦戦必至だぞこりゃあ」

ゲルト「怖気着いたかシャーリー」

その姿にバルクホルンが煽りをかけるかと思ったが、今回は違っていた。

ゲルト「……これは、成功させなければならない作戦だ。覚悟を決めろ」



坂本「失敗すれば「みらい」を失うだけでない」

坂本「最悪、ネウロイの巣を刺激した反動……大規模な報復が来る可能性もある」

坂本「だが成功すれば、火力で奴らの巣を破壊する『オペレーション・ジェリコ』への重要な第一歩になるはずだ」

芳佳(オペレーション・ジェリコ……)

芳佳(これが成功すれば、欧州のネウロイをやっつけることができるのかな……)

ミーナ「作戦日は5日後の12:00」

坂本「それに備え、明日「みらい」と合同演習を行う」

坂本「各自、しっかり備えるように」

「「了解!」」

ミーナ「以上、解散」

その顔つきは、まさに決戦を前にする顔であった。


「みらい」後部格納庫

佐竹「………」

後部格納庫にいた佐竹はパイロットスーツを着ておらず、ただ海鳥を眺めていた。

整備員「なにか問題でもありましたか、佐竹一尉?」

佐竹「ああ、いや」

佐竹「なんとなく……見てただけだ」

なにかと作戦がある時、機体を眺めるのが彼の癖だった。
特にこちらの世界に来てその頻度は上がった。

佐竹「……次の作戦は俺たちが主役だ」

佐竹「変わらず、いい整備を頼むぞ」

整備員「はっ!」

整備員の肩をポンと叩き、佐竹は艦内へと戻った。

以上本日分を終わります
予想以上にストパンらしくない血生臭い話になってしまった

後編はまた少しばかり時間がかかりそうです

あと少しばかり謝罪を

実は前回の話で、取り返しのつかない時系列の矛盾を設定してしまいました
今までも細かい時系列ミスはしていたのですが、今回は後から書き換えられないほどに大きなミスです
「鼻っから時系列なんか気にしてねぇよ」というのでしたらいいのですが
もしも時系列までしっかり見てくださっているような方がいらっしゃいましたら、この場でお詫びします……

前中後の三編に分ければよかったと、区切りの微妙さを見ながら少し後悔しつつ投下


ブリタニア ロンドン 病院

病院にいる梅津は、自分の個室の窓から西洋式の建物が並ぶ外を眺めていた。

梅津(こう長くいると、見慣れぬ景色にも慣れてしまうものだな……)

一人で横になっていたその部屋に、軽いノックが響く。
来客とは珍しい。

梅津「どなたかな?」

角松「角松です」

梅津「おお、入ってくれ」

失礼します、と見慣れた海自礼装の角松が部屋に入ってきた。
そのまま帽子を脱ぎ、見舞い用の椅子に腰をかける。

梅津「……わざわざロンドンまで見舞いに来たわけではあるまい?」

角松「はい」

角松「少しばかり連合軍と会議がありましたので、その帰りに……」


偵察作戦に向けた細かな打ち合わせ。
そのためにロンドンへやってきた後、その帰りにふと立ち寄ったのだった。

そして角松が今までの経過を話す。

梅津「そうか、共同の偵察任務を……」

角松「はい」

角松「……残念ながら、我々はいま追い詰められているのかもしれません」

角松「その中で「みらい」としての自立を保つには、こうして飲みつつ主導権を取るしかありませんでした」

梅津「そうか……」

天井に視線を戻した梅津がポツリとつぶやく。

梅津「この世界で「みらい」が「みらい」たること……」

梅津「やはり、容易いものではないな」


梅津「我々がすべきことは人を守ることだ」

梅津「だがそれはこの世界において、ネウロイとの戦いを意味する」

梅津「そして世界は軍艦である「みらい」に戦いを強要する……」

角松「………」

梅津「敵はネウロイ、人間ではない」

梅津「これは隊員たちに戦闘を簡単に納得させてしまう事実だ」

梅津「人ではない、我々の時代ではない、それらが自衛隊である我々が戦いに赴ける理由になってしまう」


梅津「……気を付けろ、角松。戦いに飲み込まれてはいかん」

梅津「戦いはいずれ皆を取り込み、「みらい」をこの世界の一つとしてしまうやもしれん」

梅津「こんな状況にあろうと、我々は自分の故郷、自分の所属を忘れてはならんのだ」

梅津「艦長たるお前が「みらい」を導け」

角松「……はい」






翌日 501基地上空

501の全員がストライカーユニットを付けて上空に集合した。
その下では「みらい」が、海鳥が発進の準備をしていた。

芳佳「……でも、空で偵察訓練って言ったって何をするんですか?」

こう宮藤が言ったのは、事前に説明を受けずにとりあえず集合した感じである。

リーネ「巣に行くわけにはいかないだろうし……」

まさかそんなことはあるまい、ということで尋ねるリーネ。

坂本「今回は戦闘訓練というよりも、チーム行動の訓練を行う」

芳佳「チーム行動の訓練、ですか?」

坂本「護衛の際に重要なのは、護衛対象の動きをよく知っておくことだ」

坂本「敵と出会ってどのような回避行動を取り、取ることが可能なのか……」

坂本「我々護衛する側がそれを知っておくことで、より確実な未来予測に基づいた行動をとることができる」


独特のプロペラ音がする。
発艦し、ウィッチーズ達と同高度に達した海鳥が現れた。

坂本「来たか……」

海鳥の姿を確認すると、バルクホルンに指示を出す。

坂本「バルクホルン、予定通りに頼む」

ゲルト「了解した。先行する」

坂本「敵影は確認されていないが、十分に気を付けろ」

ゲルト「私も軍人だ少佐。同じ轍は踏まない」

そう言ってひとり飛び去って行った。

エーリカ「あれ、またトゥルーデは敵役?」

坂本「良くも悪くも、あいつは聡明なカールスラント軍人」

坂本「ゆえにどんな動きが必要か心得ているはずだ」


坂本「……先に言った通り、これからお前たちには海鳥の性能を覚えてもらう」

坂本「宮藤やサーニャ、エイラは見覚えがあるだろうが、あの機体の運動性能は特徴的だ」

坂本「速度は我々より遅い分、その独特の機動性で利を得ている」

垂直上昇してくる様を見つつ、皆がなるほどと納得する。

坂本「これからネウロイに扮したバルクホルンが攻撃を仕掛けてくる」

坂本「勿論回避行動は連携を取って行う……が」

坂本「急な強襲、突発的なトラブルにおいて連絡が取れない・余裕がないときも出てくる」

坂本「その時どのように海鳥が行動し、我々がどこまで各自カバーできるか、それをしっかり掴んでくれ」

「「了解!」」


坂本「……それでは頼む!」

佐竹『ラジャー!』


「みらい」 CIC

通信を聴きつつ、時計を見て呟いた。

角松「……砲雷長、時間だ」

菊池「了解」

菊池「青梅一曹、訓練開始だ」

青梅「はっ」

青梅「……レーダー探知、30°」

青梅「仮想目標α、距離70km」

CIC員A「先行する海鳥より報告」

CIC員A「目標視認、距離20km」

角松「教練、対空戦闘」

CIC員B「教練対空戦闘用意!」


レーダー上で光る多数の光点。
仮想標的にマークされたバルクホルンが海鳥に接近する。

CIC員A「仮想目標α、海鳥に急速接近!」

CIC員B「イェーガー隊援護に回ります……目標撃破!」

CIC員C「……新仮想目標探知!仮想目標β、海鳥下方より侵攻中!」

菊池「スタンダード、諸元入力」

CIC員A「前甲板VLS、スタンダード、発射!」

ガチ、とスイッチを押すとスクリーンにスタンダードの疑似機影。
やがて光点とぶつかり、撃墜判定がでる。

CIC員B「仮想目標β、撃墜」

CIC員A「海鳥より通信、限界ラインへ侵入します!」

CIC員C「新目標探知!本艦80°距離50km!急接近!」

菊池「探知遅いぞ、乱戦で混乱するな」

角松「………」






501基地 港

訓練がひと段落し、休憩の時間へと入る。
肌寒くなってくる季節にもかかわらず、時折このあたりには太陽がさんさんと降り注ぐ。

尾栗「おいせっ!おいせっ!」

せっせと男衆が運んでいるのは瓶が大量に入った箱。
地面に置かれると、待ってましたとばかりに次々に手渡される。

芳佳「よっ!」

カコッ!
慣れた手つきでフタを押し、ビー玉が落ちてぶわっと中身があふれ出すのを眺める。

そして一気に飲み始めた。

んぐ、んぐ、んぐ


尾栗「くっ!」

芳佳「はァーっ!!おいしーッ!!」


杉本「いい飲みっぷりだね芳佳ちゃん!」

やんややんやと、同じくラムネを飲んでいた「みらい」乗員の声援を浴びる。

尾栗「いやー、ここでラムネを飲めるとは思わなかったな」

芳佳「赤城とかでもよく出してくれてました。中に工場があるそうなんです」

尾栗「そうなのか?」

隣の輪で同じく飲んでいた柳一曹に話を振る。

柳「ええ、特にこの時代では多数の艦で親しまれていたものと言っていいでしょう」

柳「消火装置の炭水を味付けしてできる手軽な嗜好飲料として、日本海軍の乗員に人気でした」

芳佳「柳さんって、海軍のことに詳しいんですね」

尾栗「うちの柳一曹は太平洋戦争時の日本海軍……この時代の扶桑海軍の生き字引だからな」

尾栗「ネウロイが絡まないなら、多分知らない事はないだろうよ」

芳佳「すごーい!まるでみっちゃんみたい!」


リーネ「わっ、ラムネだぁ!」

ペリーヌ「しかし、相変わらずはしたない飲み方ですのね、宮藤さん」

そこにリーネとペリーヌがやってきた。

芳佳「ペリーヌさん、これは豪快に飲むものなんですよ!」

尾栗「チビチビ飲むもんじゃないからな、ラムネは」

そしてドヤ顔でラムネを渡す宮藤。

ルッキーニ「ねぇねぇよしかぁ、これどーやってあけるの?」

フタをひたすらに引っ張ろうとするルッキーニがやってきた。

芳佳「これは開けるんじゃないんだ。こうやってフタを押すんだよ」

と、フタを押す宮藤だったがビー玉が押し込まれない。

芳佳「あれ?」



尾栗「あー、こりゃフタを開けようとして浮いてしまった感じだな」

杉本「ああ、やり方がわからない頃やってましたよ俺も」

やったやった、と「みらい」の面々から同意の声が上がる。
口部分を見るとふたががっつり浮いてしまっていて、玉押しがビー玉が押し込めていない

ルッキーニ「飲めないの?」

芳佳「割りばしか何かで押せばできると思うけど……」

不安げに聞くルッキーニに宮藤が答える。
そこで尾栗が手拭いをだした。

尾栗「なに、引っ張って開いたなら押し込んでやるまでさ」

そう言って瓶を固定し、手拭いクッションにした左手を思いっきり押し込む。

芳佳「わっ!」

ガチン!とふたが元の位置に戻る音と同時に、ビー玉が落ちた。

ルッキーニ「出た出たぁ!」

少しばかり噴き出てくるラムネを眺めて喜ぶルッキーニ。


芳佳「私が押した時は全然動かなかったのに……」

尾栗「陸ほどでなくても、自衛隊の護衛艦乗りは力あってこそよ」

尾栗「腕相撲なら、負けなしだ」

そう言って自分の腕をまくって見せる。


エーリカ「おーっと、力比べと言ったらカールスラントも負けちゃいないよ」

エーリカ「強化魔法もさながら、地の力も百倍のバルクホルン!」

ラムネを飲みながら何故かノリノリでバルクホルンを指さす。

ゲルト「勝手に人を持ち上げるな」

そんなこともお構いなしに机をバンバン叩く。

エーリカ「さぁさ、張った張った!」

どうやら腕相撲をやれということらしい。
両者とも自然と歩み寄る。

ゲルト「まぁ男とはいえ魔法アリではアンフェアだからな。素の力で行ってやろう」

尾栗「正々堂々手加減なしってところか。だが、後悔してもしらねえぜ?」


少し離れている場所で、ミーナと坂本がその様子を眺めていた。

坂本「……少し目を離した隙に、すっかり休憩を通り越して遊びの時間になってるな」

坂本「ところで、あのラムネはどうした?」

ミーナ「さっき、杉田大佐からいくつか受け取ったわ」

ミーナ「私たち501と「みらい」に対しての作戦前の激励品……としてだそうよ」

ミーナ「赤城で作ったレモネードと、大和で作ったアイスクリームですって」

坂本「流石は杉田大佐、粋なことをする」

ミーナ「粋なことをしてくれる味方は少ないわ」

坂本「全く、ネウロイ以外にも敵が多いな」

坂本「憎まれっ子世にはばかる、とは違うが」

坂本「……しかし、大和産のアイスの姿が見えないな」

坂本「あのアイスは陸のものにも負けん一級品だと認めているんだが」


ミーナ「明日まで隠しておくつもりよ。冷蔵でね」

坂本「む、それはいただけんな」

坂本「冷蔵設備があるとはいえ、元々日持ちしない物だ。早めに食すべきだろう」

ミーナ「だって、この状態じゃティータイムにしゃれ込む勢いよ?」

坂本「まぁよかろうじゃないか。この訓練が終わったら配ってやれ」

ミーナ「よかろうって……」

ミーナ「あなたねぇ、「みらい」の梅津一佐や尾栗三佐の影響を受けすぎなんじゃない?」

昼行燈と揶揄されていると聞いていた梅津一佐と、わいわいはしゃぐ中心に何時もいる尾栗の顔が思い浮かぶ。

坂本「はっはっは! かもな」

ミーナが呆れつつ、ふと目線をあげると扶桑の従者がこちらへ駆けてきた。


土方「坂本少佐、ウルスラ・ハルトマン中尉がご到着なされました」

坂本「……わかった、すぐ向かう」





501基地 ミーナ執務室

ウルスラ「……ええ、確かに私のアイデアスケッチです」

燃え残った資料を見てウルスラが答えた。

ミーナ「どんなことを書いていたか、聞いてもいいかしら?」

ウルスラ「……過去作改良部分のまとめ」

ウルスラ「そしてかなり初期のものですがV-1ロケットの構想もありました」

坂本「重要そうなものを……すまない」

詳しくは聞いていないものの、新兵器につながる資料のはずである。
それを盗まれたことに若干の負い目を感じていた。

ウルスラ「いえ、いずれも写しを持っているので大丈夫です」

自分のポケットからそれらしき紙を出した。

ウルスラ「それより、そのスパイにどの資料を盗まれたのか……」

ウルスラ「その把握が重要です」


坂本「だがご丁寧なことに奴らは荒らした形跡をほとんど残していない」

坂本「この量、ひっくり返すのは大変なことになるぞ」

見渡す限り、いつの間に持ち込まれたのか多数の文書や器具で埋まった部屋。
三人で歩きつつ見渡す。

ウルスラ「……!」

ふと立ち止まったウルスラが一つの引き出しを漁る。

ウルスラ「………」ガサガサ

ウルスラ「なぜ、これが取られて……?」

数枚の書類束を確認すると、疑問形でぽつりとつぶやいた。

坂本「なにか別のが盗られていたのか?」

ウルスラ「ええ」

ウルスラ「1つはV-1ロケットに使うロケットエンジンの詳細な設計書」

ウルスラ「もう1つが、ジェットストライカー用の魔力伝達機構」

ウルスラ「……ウィッチ以外には必要さなそうなもの、です」






夜 「みらい」 資料室

訓練が終わり、作戦日に備える「みらい」。

柳「………」

柳一曹はその資料室で、これまで収集したネウロイやこの時代の軍事力を独学で勉強していた。
そしてもう一人が扉を開けて入ってきた。

菊池「……君も勉強か、柳一曹」

柳「あ、砲雷長」

人がいることに驚いた菊池。
この部屋に椅子と机は一組しかないため、それを柳が譲ろうとする。

柳「席使いますか?」

菊池「いや、このまま立って読む」

そう言われるならと、柳はお言葉に甘えて使い続ける。


菊池「ところで、君は何を調べているんだ?」

柳「あ、いえ。ここは大西洋、ということで欧州戦線を勉強しておこうかと」

柳「……それと、特にこれといったものではないのですが少し気になることがありまして……」

菊池「何が?」

柳「どうも、似すぎている気がするんです」

含みを持つ言い方に興味を惹かれる菊池。

柳「これを見てください。以前、海鳥が撮影したネウロイです」

あのカラー写真を見せる柳。

柳「似てると思いませんか?」

隣に差し出したのは別の本の写真。
それは、現用戦闘機の写真集だった。

菊池「……F35?」

米軍の次期主力戦闘機として名高いF35。
写真は光の加減もあり分かりにくいが、確かに主翼らしき形や尾翼の方も何となく似ている気がしないでもない。



※F35ライトニング:アメリカのロッキード社を中心として開発している、日本でも採用された次世代機。
            ステルスや垂直離着陸など機能を持つが、膨大な予算に計画の遅れなど伴う問題は多い。
            なおどうでもいい話、BattleField 2に登場していたので、てっきりその当時(2005年)から制式採用・運用済みかと思っていた。


菊池(確かに、その表面はステルス形状を意識した平面の機体)

菊池(特徴的な羽の形も、似てるといえば……)

柳「これだけでなく、我々が遭遇したネウロイにもステルス機やこの時代にはない兵器に似たものがありました」

柳「推進力を持つ子機を弾頭のように撃ちだすネウロイなど、まるで発想が現代的になりつつあるようなもの」

柳「もちろん現代兵器のきっかけはこの時代の試作品であったりするので、一概に言い切ることはできませんが……」

そういえば、とここに来たばかりの事を思い出す。

菊池(たしかに、初めて出会ったネウロイはどこか全翼機の形だった……)

柳「見てみると、ここ最近になってこのような近未来的なフォルムを帯び始めているんです」

柳「何か関連があるのではないかと思っていた矢先に、このF35似のネウロイ」

柳「なにか、奇妙な偶然を感じまして……」

写真を見比べる菊池。
しかし見た目、それもはっきりしない写真が「似ている」というだけあって、確たる証拠はない。


菊池の脳裏に少しばかりの考えがふと横切る。

菊池(すべてではないが、記録された多くのネウロイを見てきた……)

菊池(兵器化してきたのは今大戦以降、だがそれは大戦時の兵器を模ったものでとどまっている)

菊池(このように現代兵器的な形状は……「みらい」の出現以降が初めてだ)

菊池(そして最近のネウロイにおける急激な変化……)

菊池「「みらい」の他にも転移した兵器があった……?」

柳「!?」

ふと、頭をよぎった可能性を口に出した。

柳「我々以外にも現代から転移し、ネウロイに捕らわれ吸収された戦闘機がいた……と?」

菊池「………」

まさか、とは思うが。


菊池「……いや、ただの偶然だろう。航空機は基本構造が似通っている分、そう見えやすいだけだ」

柳「やはり、そうでしょうか」

柳の顔が下がる。

菊池「根拠の薄い推論は混乱を招く」

菊池「作戦前だ。調べるのもいいが、業務に支障をしたさない程度にな」

柳「は……」

そのまま二、三冊目的の本を取り出すと、貸出記録に記名した後に菊池は資料室を後にした。


だがその道中、菊池は考え直す。

菊池(……偶然。これを偶然と捨てておけてしまえるのだろうか)

菊池(現代艦(みらい)の転移に現代機らしいネウロイ……ただの偶然なのだろうか?)

菊池(仮にあのネウロイが捕らわれた現代機であるなら、我々と同じような『転移』が別の場所で発生していた可能性がある)

菊池(もしなんらかの『偶然』が重なって、あの『転移』が複数回起こっていたとしたら……?)







作戦日 501基地 港


キキッ!バムバム!

少しばかり乱暴なブレーキとドアの開閉の音が何回もする。

「みらい」がやってくるまでは閑散としていたこの港に、かつてない来客が訪れていた。
軍御用達の高級車が続々と止まり、いかにも上客であるというイメージがつく。

その先頭車から、見慣れた将官が出てきた。
そして他の車両からも将官が出てきて、それぞれに数人の参謀が付いてきている。

マロニー「これが「みらい」か」

実際、こうして全体像を目にするのは初めてである。

将官A「たしかに、変わった艦だ」

将官B「それでマロニー殿、信用できるんでしょうな?」

マロニー「……ええ、当然ながら」


舷門前までやってきた。
その前に、角松、尾栗、菊池が迎え出ていた。

角松「ご足労感謝します」

角松「『海上自衛隊』護衛艦「みらい」艦長二等海佐、角松です」

菊池「同じく三等海佐、菊池です」

尾栗「同じく三等海佐、尾栗康平!」

一人だけはきはきとフルネームを名乗りつつ、互いに自己紹介を終える。

角松「これより、皆様方に用意させていただいたモニタのある部屋へご案内します」

角松「こちらへ」

マロニー「ではみなさん、行きましょう」

角松が舷門を差し、案内を始める。


艦内通路各所では隊員が作戦に備えて作業をしていた。
その中を、将官の一列が堂々と通る。

隊員A「……!」サッ!

隊員A(大名行列だ……)

マロニー「うむ」

隊員が敬礼し、それに対して返していく一同。
すっかり通り過ぎた跡で手を下ろす。

隊員B(しっかし、他人の艦で偉そうなヤツだなぁ……)

隊員B(まるで自分の艦だと言いたいかのように)

隊員C(観閲指揮官気取りかよ……)

妙な不満が隊員に沸々と現れる。

だがその不満もあながちただぶつけられるものではなかった。
先頭を行く「みらい」幹部の後ろで軽い案内者のような振る舞いをしている。
名前だけで見ず知らずの人に言われてみれば、そう思うのも仕方ないのかもしれない。


「みらい」 士官食堂

士官の作業をも考慮されたこの士官室には、そこそこの設備がある。
テレビも同様に置かれており、追加のためにもう一台が科員食堂から運ばれてきている。

菊池「本艦艦首の艦外カメラの映像が左モニタ」

菊池「偵察する海鳥のガンカメラの映像が右モニタに出力されます」

菊池「基本的に音声は通信音声のみとなります。ご了承を」

案内され着席していく将官たちに対して説明を行う菊池。

角松「作戦中は基本的にこの部屋でお願いします」

角松「また艦内の行動に関しても我々の指示に従っていただきます」

マロニー「わかっているとも、角松二佐」

菊池「………」


「みらい」艦橋

一足先に行列を抜けた尾栗は持ち場の艦橋へ足を運んだ。

尾栗「よし、そろってるな」

麻生「はい、すでに甲板作業は終了しているようです」

露天艦橋に出て下を見下ろす。
先ほどの高級車が整然と駐車されていて、いつもと違った雰囲気を感じる。

尾栗「……違和感バリバリだな」

麻生「は?」

尾栗「いや、なんでもない」

尾栗「それよりも、お客さんがちゃんと乗った」

尾栗「そろそろ出航するぞ。準備を万端にしておけよ」

麻生「了解!」


角松『出航用意!』

艦内スピーカーから角松の指示が聞こえる。

尾栗「そらきた」

尾栗「出航用意!艦内哨戒第1配備だ!」

艦橋員A「出航用意!」

『一番離せ!』

「みらい」の船体が少しずつ岸から離れる。
そして機関が艦の制御を握り「みらい」は出航した。
流れてくる潮風が艦橋員の鼻をくすぐる。

尾栗「いいか、これは演習じゃねーぞ」

尾栗「今までのようにやられてばっかじゃない、こっちから行くんだ」

尾栗「いつも以上に引き締めていけ!」

「「はっ!」」


柳(そうだ、今回の作戦は攻め)

柳(防戦一方だった人類連合軍が挽回するための一石……)

柳(そしてそれは「みらい」にとっても同じ……)

ふと、同じく露天艦橋にいる同僚の姿を見る。

艦橋員A「ネウロイの巣、ね」

艦橋員B「いよいよ、俺たちから打って出るってことだな!」

柳(誰も彼も、燃えている。偵察といえど明らかな『先手』の作戦)

柳(守りの「みらい」が攻めの一歩を踏み出すことになる、この作戦に……)

柳(そして誰も疑問を出すこともなくなってしまった)

柳(「専守防衛」「自衛隊」―――それらの戦いの意味を議論することもない……)


柳(皆、戦いを通じて変わっていく)


「みらい」後部甲板


海鳥が発進準備を始める
その前で、角松と菊池が佐竹と森に作戦を改めて説明する。

角松「先の通り、任務はあくまで偵察だ」

角松「危険な戦闘行為はできるだけ避け、帰還を最優先任務とせよ」

佐竹「わかってますよ。負け戦はしません」

角松「また『巣』付近では人体に有害とされる『瘴気』の存在が確認されている」

角松「万が一瘴気影響があれば予備の酸素マスクを使用、ただちに反転するように」

佐竹「了解っ!」

『哨戒機発艦用意』

ベアトラップが海鳥を格納庫から甲板へと引き出す。
コクピットで佐竹が二人にサムズアップを向けた。

『ベアトラップ展開確認、発艦用意!』

『甲板作業員は総員退避!』


※酸素マスク:基本的に酸素マスクは高高度を飛行する戦闘機などに搭載される。
         高高度をめったに飛行しないヘリにはほとんど載っていないので、海鳥も同様と思われる。
         (スペックに高度の設定が見当たらないので、戦闘ヘリと同程度の作戦高度と仮定)
         が、耐Gスーツがあることをちらりと仄めかしていたのでなくもないかもしれない。
 


佐竹「主翼展開……」

佐竹「発動機運転開始!」

プロペラが回転し始め、機体が浮き上がる。

佐竹「テイクオフ!」

そして完全に浮力を得た海鳥は「みらい」甲板を飛び立った。

角松「………」

菊池「………」

それを甲板でただ見つめる二人。

菊池(LINK14を用いた映像の送受信、偵察だけならば滞りなく行くだろう)

菊池(だが今回はただの海上ではない、土俵は相手の巣だ)

菊池(仮に攻撃されて退却を開始しても、果たして逃げられるか?)

菊池(……いや、もう遅い。賽は投げられた)


菊池(海鳥は、ネウロイのどんな情報を持ちかえることになるのか……)

菊池(この飛行が、価値あることだと願うだけだ)


501基地

ヴォオオン!ヴォン!ヴォオオオン!

ストライカーの拘束具が外され、ウィッチが次々に飛び立つ。


坂本「全員そろってる……な」

ある程度の位置に達したところで点呼を取る坂本。

坂本「………」

全員の表情を確かめると、ミーナが改めて指示を出す。

ミーナ「今回の作戦は偵察……」

ミーナ「防衛以外の戦闘は控えてください」

ミーナ「くれぐれも、不必要に『巣』を刺激しないように」

「「了解」」

エーリカ「ま、好き好んでそんなことする人はいないけどねぇ」

苦笑いを浮かべながらエーリカが呟く。


海鳥の機体が下の方に見えると、あっというまに上昇してくる。

佐竹「フォーチュンインスペクター・シーフォール、予定合流地点へ到達」

佐竹「現在高度500m、雲量2、視界良好」

角松『こちら「みらい」CIC、了解』

角松『準備が整い次第作戦を開始せよ』

佐竹「了解」


ゲルト「左前方、海鳥視認」

坂本「よし、来たな」

坂本「総員戦闘用意、フォーメーションを組むぞ」


坂本「バルクホルン、ハルトマンは前衛だ」

ゲルト「了解した」

エーリカ「りょーかいっ!」

海鳥を追い越し、前面へ出る二人。

坂本「シャーリー、ルッキーニは左右へ展開」

坂本「敵遭遇時には邀撃として出てもらう」

シャーリー「了解っ!」

ルッキーニ「らじゃー!」

横滑りをしながら左右に分かれる。

坂本「ペリーヌとリーネ、サーニャとエイラ」

坂本「お前たちは2班で後衛につけ」

ペリーヌ「了解ですわ」

リーネ「はい!」

エイラ「りょーかい」

サーニャ「了解……」

ちらっと互いに目配せをすると、読み取ったかのように左右反対の位置へ着く。


坂本「宮藤は私とミーナと共に海鳥の直掩に回れ」

芳佳「はい!」

海鳥を囲むように配置されたウィッチーズのフォーメーション。

坂本「こちら坂本、総員配置完了した。いつでも行ける」

佐竹「了解」

佐竹「これより上昇、高度1000mまで行きます」

坂本「よし、全員上昇開始だ」

佐竹「ティルト変更70°」

翼が曲がると結構急な角度で上昇を始める。
それに遅れることなく、ウィッチ全員が続いた。


「みらい」艦橋

麻生「海鳥上昇、高度約1000mへ」

尾栗「おお、全員付いていけるとはな」

柳「ストライカーユニットは我々の航空力学の常識を逸してます」

双眼鏡をのぞきながら柳が話す。

柳「高速の直線軌道から、急速制動直後の直角に近い急上昇」

柳「この時代はもちろん、現代航空機でも難しい即応性を持ってます」

尾栗「海鳥以上の機動性」

尾栗「そしてベテランエースのパイロットの最強のコンビというわけか」

麻生「そして海鳥の機動にたった一回の訓練でほぼ付いて行っていますからね」

麻生「501がこの最前線を支えているというのを、改めて実感できます」


「みらい」CIC

青梅「海鳥、501と合流」

青梅「編隊行動に移ります」

青梅「……綺麗な編隊を組んでいますな」

菊池「………」

そこへ海鳥からの通信が入る。

佐竹『こちらシーフォール、定時連絡』

佐竹『現在高度1000m、予定航路を飛行中』

佐竹『これより機首ガンカメラの映像を送ります。確認願います』

角松「こちら「みらい」CIC、了解」

CICのメインモニターに海鳥のカメラ映像が流れる。
カラーの映像は広い海と雲、そして先頭を飛ぶエーリカとバルクホルンを写した。

どういうわけか、カメラに気付いたらしいエーリカがピースをする。


「みらい」士官食堂

隊員A「……士官室了解、連絡終わり」

隊員A「映像がでますので、もうしばらくお待ちください」

電話をおいた隊員がそういうや否や、砂嵐状態だったテレビに映像が映る。

将官A「!!」

将官B「これは……!」

鮮明で色鮮やかに、それもリアルタイムに送られてくる映像に目を見張る。
写真を見て話には聞いていたマロニーも、少しばかり驚きの表情を見せていた。

マロニー「………」

角松『CICより海鳥、映像は極めてクリア』

角松『そのまま任務を続行せよ』

佐竹『海鳥了解、通信終わり』






海峡上空

徐々に警戒をしながら大陸まで近づいていく。

エーリカ「ここまで来るのは久しぶりだね……」

ゲルト「ああ」

二人の視界の端にはうっすらと見える欧州の大陸。

坂本「見えるのに手も足も出ない場所、か」

森(あれが……欧州……)

森が海鳥の射撃手席の広い視界から覗き見る。

シャーリー「今や人の立ち入ることのできない場所……」

シャーリー「歯痒い話だよ、本当に……」

海鳥の左にいて森の動きが見えていたシャーリーがつぶやく。


ミーナ「……みえたわ」


ミーナの声に一斉に反応するウィッチーズ。

森「気象レーダーに反応」

佐竹「ただのバカデカい積乱雲のようだが……」

森「……目標、インサイト」

白い雲の中、その間に雨雲より黒い何かが見えてくる。

ミーナ「総員減速、一旦停止」

ある程度近づいたところでミーナが発する。

佐竹「減速、ティルト変更90度」

佐竹「ホバリングヘ移行します」

海鳥の停止距離に合わせてゆっくりと止まる編隊。


森「確かに巨大な積乱雲にも見えますが、これは違います……」

佐竹「ラピュタに出てきた『竜の巣』そっくりだ」

佐竹「なるほど、『巣』と呼ばれるわけだな」


「みらい」 CIC

その映像は「みらい」にもしっかりと届いていた。

青梅「確かに変な積乱雲だと思ってましたが、これは……」

菊池「これが、ネウロイの巣……」

角松「………」

佐竹『最大直径2kmはあるかと思われます』

佐竹『高さもかなりのもの……威圧感が凄まじいです』

角松「内部の撮影は可能そうか」

佐竹『……情報によれば、下方から内部は観察可能ということです』

角松「行けるか?」

佐竹『できるところまで、やって見せますよ』

CICにいる人間が息をのむ。

巣の付近 上空


シャーリー「こうして近くで見るのは初めてだけど……」

坂本「これが欧州に巣食う、ネウロイの本拠地だ」

ゲルト「多くの仲間がこの巣に立ち向かい、傷ついた」

ゲルト「幾度も破壊しようと試みたが、誰一人として近づけなかった」

憎悪の眼差しで睨むバルクホルン。

ミーナ「………」

坂本「……先も言った通り、一撃離脱に近い方法で行くぞ」

坂本「ルートは事前に伝達した通りだ。いいな?」

「「了解!」」


ミーナ「総員戦闘準備」

ミーナ「海鳥を護衛しつつ『巣』へ突入します!」


佐竹「さァ行くか……」

佐竹「高度500mまで降下」

佐竹「突入針路確保、一気に突っ込むぞ」

森「了解!」

ビイィィィィィイ!

海鳥が降下し、滑り込むように速度をあげつつ進む。
それに遅れないように続くウィッチーズ。

やがて雲がなくなり、はっきりと巣の全貌が見えた。

森「まるで台風を逆さまにしたような雲です」

計器をチェックしながら佐竹も続けて報告する。

佐竹「ただ気圧風圧の変化といったものは感じられない」

佐竹「飛行にこれといった支障はなし」


「みらい」士官食堂


CIC員A『海鳥、限界ライン到達まで300m!』

CIC員B『対空対水上目標、未だ確認できず』

同じくしてこの部屋にも映像が流れている。
そして全員がその映像に興味を示していた。

将官A「確かに、これなら十分な情報収集は可能だな」

参謀A「限界ラインを越えての反応が注目点ですな」

参謀B「数で来るか大型で来るか……」

将官B「戦艦にどの弾種を多く積むかが結果次第で変わっていくだろうな」

将官C「艦載機も、作戦後の爆撃機よりも戦闘機を優先するべきかもしれん」

マロニー「………」


巣の付近洋上 限界ライン


森「限界ラインまで100m」

森「現在のところネウロイは確認されていません」

レーダーをスクリーンを見ながら森が報告する。
飛行は順調だった。


サーニャ「……限界ライン、突破します」

サーニャの報告を聞いて、一層緊張感が強まる。

坂本「ここからは足を踏み入れた者すらほとんどいない」

芳佳「誰も、なんですか」

ペリーヌ「いくらエースウィッチといえど、敵本拠地に行くのは自殺行為……」

ペリーヌ「今のこの戦力さえ心許無いほどに感じるほどですわ」

ペリーヌ「あなたも、いつも以上に気を引き締めてくださいな」

芳佳「は、はい!」


そのまま接近し、下から口の中が覗けるほどになった。

森「内部は台風の目のように空洞になっています」

森「中心部に強い反射波があることから、内部に巨大な空間か何かがあると思われます」

森「雲で隠れて見えませんが……」

初見者は、誰もが食い入るようにその『巣』を見た。
宮藤とて例外ではない。

芳佳(こんなのがネウロイの巣だったなんて……)


芳佳「……え?」

視界の端に、なにかがちらりと見えた。
他の人は気付いていないようだったが……。

芳佳(人……ウィッチ?)

巣の足元にあったその点は、よく見ると四肢が生えているようにも見える。
だが少し目を離すと、それは消えてしまっていた。

芳佳(気のせい、だよね……)


肉眼とガンカメラの望遠ズームを併用して内部を観察する。

森「……!」


そのカメラの端に、ちらりと赤い何かが写った。

森「レーダーに反応、ネウロイです!」

佐竹「巣とはいえポッと現れるもんだな」

佐竹「お客さんだ、森二尉。機銃用意」

森「了解」

森「バルカン砲、アイリンクシステム確認」

機体下部のバルカン砲が稼働する。



カッ! バババーッ!

その直後に光線が一筋飛んできた。
回避もままならない中、思わず目を瞑る。

森「ワッ!」

ガァン!

芳佳「はっ!」

とっさの判断で動いた宮藤のシールドによって光線は塞がれた。

ゲルト「いいぞ宮藤!その調子だ!」

ゲルト「邀撃隊、出番だ!」

シャーリー「ほいほい!」

ルッキーニ「りょう~かい!」

ゴオオオオオオオオン!
そして両脇に控えていたシャーリーとルッキーニが迎撃に向かう。

坂本「目標の数は?」

サーニャ「……中型1を核として、小型が3つ」

坂本「まるで分隊行動だな……」


シャーリー「目標1撃破!」

ルッキーニ「小っちゃいのひとーつ!」

早速向こうからネウロイの撃破された閃光が見える。

エーリカ「この調子だとまだいけるね」

ゲルト「ミーナ、少佐、まだ偵察は可能だと思うがどうか?」

楽観視するエーリカとは対照的に、上官に意見具申を行うバルクホルン。

坂本「何が起こるわからん以上、無理矢理突っ込んでやられては元も子もない」

坂本「無事に帰れば、また来られる」

ミーナ「………」

その言葉になにやら顔をしかめるミーナ。

坂本「当初の予定通り、一回の突入で撤退が望ましい」

坂本「海鳥、どうだ?」

佐竹「突入からの中心部撮影、そして急速反転……十分です」

佐竹「了解、援護願います」


シャーリーらが邀撃をしている中、海鳥一隊はそのまま中心部へと進んだ。
水面付近から急上昇をする形でその中を見る。

リーネ「これが、ネウロイの巣の中……」

上昇する海鳥のカメラもそれを写す。

サーニャ『……ネウロイ、さらに出現!』

ミーナ「!!」

中心部から吐き出されるように出てくる数個の小型ネウロイ。

森「佐竹一尉!」

佐竹「まだ撃つな、こっちから撃つんじゃない」

佐竹「撃てば、今狙われていないこっちまで狙われる」

そういって落ち着きを促す。

佐竹「ネウロイの出現パターン例、レーダーによる内部構造……十分情報は取った」

佐竹「後は映像を取りながらで十分だ。さっさと離脱するぞ!」

上昇中の機体をうまく回転させつつ撤退針路をとる海鳥。
それを見逃さず護衛の編隊を組むウィッチーズ。


少し離れた位置でカバーをしていた二人にもネウロイが襲いかかる。

サーニャ「敵残存個体、中型1、小型12!」

エイラ「ウワ!こっちにも来た!」

ダダダダダダダダダ!

ゲルト『エイラ、サーニャ。撤退だ。援護してくれ』

無線で掩護要請を受けるも、すでに周りの敵で手いっぱいであった。

エイラ「了解……って言いたいトコだけど、先回りされて面倒なことになってんぞ!」

そこにシャーリーらが応戦に来る。

シャーリー「そら道開けたー!」

ルッキーニ「あけたあけたぁー!」

小型ネウロイが撃破され、また別のネウロイが散らばる。
バラバラに海鳥を狙ってくるため、対応も厳しい。

ミーナ「……海鳥の上方!2つ!」

ペリーヌ「そこっ!」

ガガガガガ!

リーネ「海鳥左!二体です!」

ドンッ!ドンッ!


サーニャ「……別方向より反応!新手です!」

サーニャ「大陸方面より海鳥本隊へと迂回中、個数3!」

坂本「なんだと!?」

坂本「バルクホルン!新手が接近している、食い止めろ」

ゲルト「了解した」

ゲルト「前に出るぞ、ハルトマン」

迎撃要員のシャーリー達は後方で追っ手を食い止めている。
前衛の二人が海鳥に辿り着く前に迎撃を試み、目標の進路上へ出る。


佐竹「まずいな……」

森「どうしたんです?」

佐竹「編隊がきれいに崩れていきやがる……」

海鳥を全速で飛ばしつつ、周りの様子を見て佐竹はそういった。


シャーリー『こちらシャーリ―、中型が固くてそっちに逃した!』

パァン!と新手を弾いた後ろに接近する機影をみたバルクホルン。
振り向きざまに感じ取ったビームをうまくシールドで防ぐ。

ゲルト「ええい、シャーリー何をやっている!」

サーニャ「火力なら私が……」

バシュゥ!バシュゥ! 
シャアアアアアアー!

独特の噴射音を出すサーニャのフリーガハマーが中型ネウロイに吸い込まれる。
それと同時に、「みらい」からのスタンダードが飛来する。

ネウロイ「キャアアアッ!」

バゴォ!と中型ネウロイの一部が爆発した。

エーリカ「よっし!」

煙を吐きながら徐々に高度を落としていくネウロイ。
高高度にいたそれも、やがて海鳥と同じほどになる。

ゲルト「この攻撃でも重傷か、止めを刺すぞ!」

ガガガガガガガガ!

そこへ徹底的な機銃掃射が加えられ、ネウロイは破片と化した。





坂本「違う!本体はそいつだ!!」


その声にネウロイの爆発跡を見直す。

破片がゆっくり落ちる中、フッと一際黒いものが落ちてきた。

リーネ「コア!?」

ペリーヌ「さっきのは外殻……!?」


佐竹「!?」

偶然か否か、その本体は海鳥のコース上へと落ちる。
浮遊し、その体を赤く発光させる。

森「―――ッ!」

だが、バルカンシステムをリンクしていた海鳥に隙はなかった。
森がそのネウロイを目にしていた時点でねらいは定まっていた。
反射的に狙いを精査し、引き金を引く。

ダダダダダダダダダダダ!

20mmの弾丸が次々に食い込み、装甲などほぼ皆無なコアはあっけなく潰れた。

パァン!バババババ!



が、海鳥に致命傷を負わせるにはその塊で充分であった。


森「ウワッ!」

自身の爆発で撒き散らされる破片と、その中に高速度で向かっていく海鳥。
「みらい」の時以上の破片を浴びることとなる。

佐竹「グッ!」

バリバリバリンッ!

ガラスはあっけなく割れ、計器に身を隠す佐竹。

ガリガリガリッ! ゴッゴッ!

ガリガリと機体を削る音が機内に響く。
いくもの破片がヘルメットに刺さったり掠ったりしているのを感じる。


収まって、顔を上げる。


角松『海鳥、映像途絶!状況を報告せよ!』

佐竹「グッ……アッ!」

佐竹(機体の状況は……)

腕に刺さったそこそこの破片を抜き、計器に散らばった破片を払いのける。
そして機体状況を把握するために計器をチェックした。

佐竹「燃料タンク異常なし、レーダーOK……」


ガクン!と機体が不自然に振動する。

佐竹「!?」

振りかえると、海鳥の右翼がボロボロに引き裂かれていた。

佐竹「右の安定が……!」

ガガ、ガ、ガガ……

何かが軋んでいる音の中、ベテランの腕でなんとか立て直し続ける。

佐竹「エマージェンシー!シーフォール被弾、右翼に重大な損傷を受けました!」

角松『シーフォール全作戦を中止、即時帰投せよ!』

佐竹「了解!わかってます」

佐竹「森二尉、高度を取って降下しながら速度を稼いでいくぞ―――」

と口にしたとき、目の前の射撃席に広がっている光景に絶句した。


佐竹「―――森ィイイイ!」


「みらい」CIC

被弾報告を聞いたCICに緊張が走った。

角松「どうした佐竹一尉!森二尉がどうした!?」

そして佐竹の絶叫を聞いた角松がインカムに向かって問い続ける。

CIC員A「海鳥が被弾……」

菊池「青梅一曹、士官室のテレビ映像を切れ」

青梅「は、はっ」

これ以上は必要ないと判断した菊池がそう指示した。
これからは「みらい」の戦いだ。

そして通信機から佐竹の細い声が聞こえた。

佐竹『こちら、シーフォール……』

佐竹『射撃手被弾……意識不明……』


海峡上空


サイドミラーからみえたその状況は、まさに惨状であった。

佐竹「森!返事をしろ!!」

破片が多数突き刺さり、おびただしく出血している。
幸いなことに、人体急所の部分は計器などで守られていたのか刺さっている部分は少ない。

森「う…ぅ……」

佐竹「!!」

確かに、プロペラの爆音の合間に聞こえたうめき声。
それはまだ森が生きていることを示した。

佐竹「いいか森!死ぬんじゃない!しっかり気を持て!」

森「佐竹……一尉……」

佐竹「ああ、俺だ!」

佐竹「なんとしても帰るぞ!「みらい」に!」


だが、そこへ新たな障害が立ちはだかる。

ガコン!ゴ、ゴ、ゴ……

佐竹「……ッ!」

佐竹「右エンジンに異常……!?」

ダメージを受けたせいか、右側のプロペラの回転数が減っている。

佐竹(まずい、ローター自体が弱っている!)

破片の力が強かったのかプロペラ自体が耐え切れないだけだったのか。
回るたびにプロペラの角度が歪んでいっている。
同時に回転数が減って行ってるため、それはよく見えた。

ガ ガ ガ ガ ガ!

さらに可動部分の根元からも軋みが聞こえてくる。ダメージを受けているかわからない。

佐竹(機体のコントロールが維持できない……)

佐竹「オオオオオオ!」

懸命に操縦桿を引き、機体を安定させようと試みた。


坂本「聞こえるか!着水するんだ!」

やがて追いついたウィッチ一団の中から坂本が呼びかける。

佐竹「着水は……」

風防がなく直接かかる風圧を耐えながら、佐竹は考えた。

この制御不安定の中、無事に着水できるとは思えなかった。
さらに右翼の強度の心配もある。着水時の衝撃で吹っ飛べば、制御の利かない機体が転覆する可能性もある。
オートローテーションの真似事すら期待できない状態だ。

佐竹(なにより、森の意識が持たない……)

もし着水時の衝撃で意識を保ったとしても、自力でのコクピットからの脱出は不可能だ。
この状況下では自分が手伝って助かる見込みもない。

佐竹「着水は、無理そうです」

坂本「くっ……」

ゲルト「だがこのままではいずれ失速、墜落は必至だ!」


そこに通信が入る。

角松『佐竹一尉!ベイルアウトで脱出せよ!』

角松『人員こそが最優先だ!海鳥は破棄してかまわん!』

海鳥の放棄、その言葉に少し安心する。
だが、それは着水よりもきつい選択肢であった。

佐竹「……ダメです。まだ森二尉が生きてます!」

佐竹「このまま射出すれば、森二尉はパラシュートなしで落下することになります……!」

角松『そのままではきりもみで落ちるぞ!』

それは誰の目に見ても明白な状態。

右側の回転数が落ちて行き、機体を安定させるために左の出力も徐々に落とさなければならない。
機体が減速して高度を維持するのも難しくなる。

佐竹(くっ……)


その時、不意に右翼の推力が上がった。

佐竹「!?」

何が起きたのかわからなかった佐竹がサイドミラーを覗く。


ゲルト「―――宮藤!」

そう叫んだバルクホルンが見たのは、海鳥に向かっていく宮藤の姿。

芳佳「壊れないように、そっと……」

そしてゆっくりと右翼を押しているのだ。
まるで自分自身が海鳥のローターであるかのように。

ゲルト「よせ!ペラに巻き込まれるぞ!」

芳佳「ここならまだ巻き込まれません!」

芳佳「それにこうすれば、少しでも安定して飛べるはずです!」

坂本「無茶だ!」

懸命に押す宮藤。
だがその速度は安定しない。


シャーリー「宮藤!」

その後ろから来たのは、迎撃から駆けつけてきたシャーリーだった。

シャーリー「よくやった、いい考えだ宮藤」

シャーリー「私の方がこういう調整には慣れてる、チェンジだ!

芳佳「は、はい!」

シャーリー「いいか、ゆっくりいくぞ」

宮藤が手を離すのと同時にそっと押し始めるシャーリー。

シャーリー「宮藤、ガンナーの様子を見てやってくれ」

芳佳「はい!」

シャーリー「佐竹一尉!調節はこっちで行う!」

シャーリー「安定できる速度まで自由にあげてくれ!」

佐竹「ラジャー……!」

シャーリー(回転数……1000rpm……内側とズレを考慮して調整……)


その横で宮藤が操縦の邪魔にならないよう並行してコクピットを覗く。

芳佳「!」

その様を見て宮藤は思わず口を押える。

ミーナ『宮藤さん、彼の容態はどう?』

芳佳「………」

触診どころか患者の位置さえ動かせない状態で診察を試みる。

芳佳「えっと、破片による多数の切創、刺創があります」

芳佳「特に左上腕よりおびただしい出血……」

芳佳「もしかしたら動脈を抜いてる、かも」

坂本「有効な生命維持法は?」

芳佳「と、とにかく風を受けないようにしてください。風圧のせいで傷口が広がる可能性もあります!」

芳佳「破片がさらに食い込んで、別の血管を傷つけるかもしれません」

坂本「風か……」

坂本「風防はほぼ吹き飛んでいるが……」


ルッキーニ「芳佳芳佳、風を防げばいいんだね?」

芳佳「うん、そうすれば少し軽くなると思う……」

ルッキーニ「んじゃ、これもってて!」

といってと自分の銃を宮藤に渡した。

ルッキーニ「体の小さいあたしな行ける!」

海鳥の鼻っ面にゆっくりと乗っかり、多重シールドを展開させた。

坂本「持ち技で疑似的に先端を作り上げたか」

シャーリー「これなら風も防ぐことができ、さらに抵抗を流して安定させることもできる」

シャーリー「ナイスだルッキーニ!」

ルッキーニ「にっひひ~!」


シャーリー「―――って上!上!」

ルッキーニ「にゃ?」


いつの間にか追いかけていたらしい小型ネウロイ個体。
海鳥に気を取られていた隙に、その直上へとポジションを取っていた。

ルッキーニ「に゙ゃああああああ!!」

上ががら空きで銃も預けたルッキーニに抵抗する術はない。
さらに撃ち落とすには距離がまずかった。
この距離で破壊すれば、破片が海鳥に降り注ぐことの二の舞になるだろう。


ゲルト「ふん!」

ルッキーニ「はぅあ!?」

そのネウロイを見ていたルッキーニに映ったのは、ネウロイがMG42に吹き飛ばされる姿。

ゲルト「そこだ!」

銃身の熱を考慮してか、手に持っていたのはストック側。
殴った衝撃で銃身がひん曲がった一丁を投げ捨て、もう一つの射撃で破壊する。

殴られて遠方に飛ばされたネウロイは、破片の範囲外で四散した。

ゲルト「今のうちだ。さっさといけ!」

シャーリー「言われなくっても!」


エーリカ「……さぁーて、用意はいい?」

ペリーヌ「中尉に合わせます。いつでもよろしいですわ」

距離を取って即席の殿チームを務めている二人が構える。
その二人の元へ、巣から出てきた残りが一斉にかかる。

エーリカ「数で勝てると思わないでよね」

エーリカ「シュトルム!!」

技名を叫ぶと同時に、突き出した腕の周りの空気が渦巻き、その中心へネウロイが引き寄せられる。
そのタイミングを狙いペリーヌが追い打ちをかけた。

ペリーヌ「トネール!」

電撃が渦を伝い、閉じ込められていたネウロイを瞬時に粉砕した。

エーリカ「やりーぃ!」

エーリカ「やっぱりこれは多数に無勢の時に使えるよ」

ペリーヌ「髪の毛がくずれるのであんまり使いたくはないのですが……」

ペリーヌ「それに、海鳥みたいな機械の塊が飛んでると被雷しそうでやり辛いと思いますわ」

エーリカ「わかってるって。殿か突撃用だね」

そして踵を返した二人は海鳥の元へと戻る。


「みらい」CIC

この事態において、今まさに奇跡的な状況が出来上がっていた。

青梅「海鳥、高度を維持しつつ230km/hで接近中!」

菊池「ウィッチのおかげで……墜落は免れそうです」

現実なら墜落必至なこの状況を、ウィッチの手助けで生きながらえている。

青梅「しかし、着水も脱出も不可……このままではどうしようもありません」

しばしの沈黙の後、角松が切り出す。

角松「……佐竹一尉、「みらい」まで持ちこたえられるか!?」

佐竹『この状態でホバリングの着艦作業は……』

角松「着艦ではない、後部格納庫に滑空不時着だ」

角松「水上よりも艦上の方が助かる可能性がある。行けるか?」

佐竹『……どの道それしか手はありませんや』

佐竹『なんとか、維持して見せます』


菊池「しかし、後部格納庫の長さは50mもない」

菊池「幅に至っては20m……」

菊池「制御不安定な海鳥が不時着するには、あまりにも危険です」

通信を終えた後に菊池が言った。

角松「……佐竹の腕を信じるしかない」

角松「今の海鳥は飛行能力を失いつつあるほどの損傷だ」

角松「とてもではないが、その状態で501に帰ることはできそうにない」

角松「海鳥乗員両名が生きているなら、これしか手はあるまい」

菊池「………」

角松「仮に落ちても、「みらい」の隣であれば即座に救助要員を用意できる」

生きている以上、一人として見捨てることはできない。


そこへ一つの通信が入った。

ゲルト『バルクホルンより「みらい」へ』

ゲルト『海鳥を着艦するなら手伝えることがある』

角松「手伝える……だと?」

ゲルト『不時着時の滑走距離を少しでも短くできる』

ゲルト『私の着艦許可と、格納庫内をできるだけ空けて被害軽減処理を願いたい』

菊池(一体、どうするというのか)

だが、それを聞いている暇はない。

角松「了解した。申し出を感謝する」

角松「航空科へ通達!シーホーク緊急発艦!ウィッチの着艦用意!」

角松「後部格納庫を少しでも開け、海鳥の不時着に備え!」

角松「発艦後は併走、万が一の溺者救助を!」

角松「艦回頭180度、海鳥の軌道上に合わせるように航行せよ」


「みらい」後部格納庫

突然の指示に大慌てになる後部格納庫。
大きく旋回し揺れ動く中でも、隊員たちはきびきびと動いていた。

隊員A「発艦準備急げ!」

柿崎「救助要員、潜水員の搭乗完了!」

林原「ベアトラップオープン!テイクオフ!」

シーホークが飛び立ち、空いた格納庫の保護作業が行われる。

隊員A「可燃物、特に液体系は全部艦内に入れろ!」

隊員B「ダメコン用の毛布を持ってっこい!全部だ全部!」

狭い通路を経て大量の毛布、木材があげられる。

海鳥が来るまで10分もない。
すこしでもと、格納庫入口の周りや破損しやすそうな部分の防護にかかる。

航空科員『ウィッチ着艦!』

その放送と共にバルクホルンが格納庫内へと進入する。
素早い制動で止まり、余裕の間隔を残して着艦した。


来るのは三度目だろうか、何かと縁のあるバルクホルン。

ゲルト「格納庫防護の方はどうか?」

隊員A「はっ!応急処置程度ですがあと五分ほどで!」

ゲルト「わかった。ストライカーを頼む」

隊員A「は……」

そういって脱いだストライカーを渡す。
子供の脚につけているものとはいえ、なかなかな大きさの機器だ。

地に足をつけ、コンコン甲板を足で突く。

隊員B「衛生班は水密扉裏で待機!」

隊員C「消火班は格納庫上部の放水器を用意!」

隊員D「飛行甲板端の軽油タンクを撤去だ!ぶつかったら引火するぞ!」


「みらい」後部格納庫上甲板

シーホークが横を通り過ぎる。

その甲板の上で、赤い設置式の消火ホースを構えている。
そこへ露天甲板から駆け付けた尾栗たちがやってきた。

尾栗「海鳥は見えたか!?」

隊員A「いえ、まだ!」

尾栗「まだか……」

双眼鏡を構え、いないかと探す。

柳「CICによれば到達まで5分ほど……」

柳「そろそろ見えてもおかしくはないはずです」


その双眼鏡の向こう、雲の裏に編隊が見えた。

柳「……海鳥、視認!」

尾栗「来たか!」


若干の煙を吐きながら、ウィッチに支えられた海鳥。
ゆっくりと、しかし着実に向かう。

尾栗「直進以外の細かい制御は効かないか」

尾栗「こっちで舵を切って当ててやるしかねぇな」

柳「エエッ!?「みらい」といえど、艦と航空機の舵の利き方には差が……」

尾栗「バカヤロ、やるしかねえんだよ!」

尾栗「取り舵10!……すぐ戻せェ!」

自分の眼で針路を確認しつつ艦橋の操舵員に指示を出す。


隊員A「来るぞ!甲板作業員は退避だ!」

海鳥が来る。その姿が甲板にいる誰もの目に留まった。


尾栗(海鳥、佐竹、森)

尾栗(―――帰ってこい、貴様らのデッキへ!)


「みらい」付近洋上


佐竹「「みらい」まであと5km」

シャーリー「……「みらい」だ!」

洋上の点がだんだんとはっきりした形を帯びてくる。
もう少しだ。

シャーリー(甲板に行けばバルクホルンがなんとか……)

ガタ、タ、タ、タ、タ……

シャーリー「おいおい、うそだろぉ……」

だがあとわずかというところで、ローター内の一枚の軋みが激しくなった。

シャーリー(まずい……これ取れたら直撃する――!)

シールドを張ろうとする暇もなく、そのペラが折れる。
どうか逸れてほしい、と目を瞑る。



バキッ―――パァン!!


しかしそれはシャーリーに当たらず、何かに弾かれた。
その方向を見上げ、正体に驚愕するシャーリー。

シャーリー(狙撃!?この一枚を……まさか……)


エイラ「ヨシ、当たった!」

リーネ「はぁ、はぁ……」

まだ経験の浅いリーネにとって、これは今までで一番緊張する狙撃の瞬間であった。
いや、これほど困難で特殊な狙撃を経験することがこれからもあるだろうか?

リーネ「あ、あたった……」

緊張による心臓の動機はまだ収まらない。同時に達成後の脱力感に襲われる。
あとちょっとでも気を抜けば、ふらっと海へ落ちるほどに。

エイラ「いったろ、私が予測するからお前がその通りに撃てば問題ないって」

リーネ「そ、そんなに簡単なことじゃないです……」

ローターの限界を見越していたエイラがこの提案をしたのだ。
プロペラが千切れ、シャーリーに当たりかもしれない可能性。
これをエイラが予知し、千切れて空中にある瞬間に予測狙撃をするものだった。

海鳥も絶えず動いており、少しずれればシャーリーに当たりかねない。
まさに多分ゴルゴもビックリな、至難な技であった。


「みらい」CIC

菊池「機影はどうだ」

青梅「アンノン目標はなし、今なら安全です!」

CIC員A「後部甲板より、海鳥がアプローチに入りました!」

カメラの向こうの海鳥が不時着の態勢に入る。
高度を下げ、滑り込む形だ。

その映像を、菊池が見つめる。

菊池(航空機は翼を得て初めて飛ぶことができ、それを失うのは墜落と同義)

菊池(だがどうだ。あの少女たちはそれなしに飛び、あまつさえ海鳥を支える行動さえ可能にしている)

菊池(海鳥、その隊員の喪失という絶対的運命を、ウィッチという存在が回避した……)


角松「甲板作業員は退避!」

角松「総員、衝撃に備え!」


「みらい」後部甲板

尾栗「来るぞ!」

後部CIWSの隣で叫ぶ尾栗。

柳「……あれは」

その横にいた柳が、退避指示が出たはずの甲板に誰かがいるのを見た。
自衛隊の服装ではない、カールスラント系の服だ。

尾栗「バルクホルン大尉……そういうことか」

何か勘付いた尾栗と、それに気付いていない隊員が呼びかける。

隊員A「バルクホルン大尉!危険です!」

ゲルト「私を誰だと思っている」

ゲルト「海鳥を、止めるためにここにいるんだ」

体全体に魔法力のオーラがあふれ出る。
そしてシールドが、甲板表面と触れあう様に展開された。

ゲルト「シャーリー、こっちはいいぞ!」


シャーリー「わかった、もう少しで到達する!」

そして無線を終えて佐竹へと向ける。

シャーリー「アプローチは任せた」

佐竹「了解!」

ひび割れたバイザーを覗きこみながら腹を決めた。

シャーリー「ルッキーニ、合図をしたらそこから離れるんだ」

ルッキーニ「風塞ぎはいいの?」

シャーリー「ずっと防ぐのはどの道無理だ。それより危ない」

ルッキーニ「わかった!」

佐竹「回転減少、減速開始」

減速、そして失速ギリギリまで回転を弱める。

目の前に後部甲板が迫る。
格納庫上の隊員たちの表情さえ見えてきた。

シャーリー「……たのむぞっ!」

シャーリー「ルッキーニ!今だ!」

接触する前のところで、失速ギリギリまで回転を落としていたシャーリーが離れる。
同じくシャーリーの合図を聞いたルッキーニも離れ、シャーリーに掻っ攫われる。


佐竹「……ランディング!」


うまく失速した海鳥は乗っかるように「みらい」へ滑り込んだ。

ガガガガッ!と機体の前輪が接触する。
凄まじい衝撃が海鳥、そして「みらい」を襲う。

佐竹「オオオオオッ!」

摩擦抵抗を増すために車輪は出していない。
そのため制御はほぼできない、が、少しでも足掻いてみる。

ゲルト「ハッ!」

ガッと力が加わった。
バルクホルンが魔法力を全開にし、海鳥を受け止めたのだ。

ゲルト「グッ……アアアアア!」

勿論すぐ止められるわけもなく、どんどん押されていく。
足元のシールドが甲板表面と擦れ合い、摩擦抵抗を生む。
だが滑りはじめ、手が悲鳴を上げ始める。

ガガッ!と機銃を格納している部分が、バルクホルンの脚が、格納庫入口下床に組まれた木材に引っかかる。
ダメコン用の木材は、少しでも折れにくいよう田の字で組み合わせられていた。

ゲルト「ここでっ……」

この一瞬で稼ぐため、力を最大限に出すバルクホルン。


バキィ、と木材のうちの一つが折れる。
だが確実に減速していきながら海鳥が格納庫へと入った。

隊員A「翼が接触するぞ!」

ローター回転はほぼ停止した両翼が、口の小さな格納庫の端にぶつかる。

ガガッ!ギリリリ……!


ゲルト「……っはァ!」

柳「……と」

尾栗「止まったァ!」

「「オオオオオオオオオオ!」」


接触した翼がそのまま海鳥を引きとめた。
なんとか減速が間に合ったのか、翼は折れることを免れている。


尾栗「応急班!衛生班!ただちに後部格納庫へ!」


佐竹「ハァ!ハァ! 不時着……完了……」

停止を確認してエンジンを切る作業を冷静に行う佐竹。
そしてベルトを外して射撃手の席へと向かう。


佐竹「森!しっかりしろ!」

その呼びかけに、森が答えた。

森「ここは……「みらい」……?」

佐竹「ああ、帰ってきたぞ!「みらい」に!」

森のベルトを外し運びだし、そのままゆっくり床に載せる。


その甲板にもう一人のウィッチが降り立つ。

芳佳「怪我の人を見せてください!」

いても経ってもいられなくなった宮藤だった。


ヒュイイイイイイ……

寝かされている森の元に駆け寄り、ヒーリングを始める。

芳佳(破片があるから治癒は無理だけど、悪化を遅らせる程度なら……)

そして格納庫裏の扉から衛生員が駆け付ける。

衛生員A「佐竹一尉!宮藤軍曹!」

衛生員B「あとは我々が!」

手慣れた動作でしっかりと担架に載せると、すぐに運ばれていく。

芳佳「私も行きます!」

それに宮藤も同行した。


佐竹「森二尉、もう少しだ!

佐竹「だから……まだ死ぬなッ!」

そのまま自分の傷を抑えつつ、佐竹はその担架と共に医務室へ向かった。

今回の合言葉「ウィッチに不可能はない」

本日分は以上です
いやぁ長かった

あとラムネ飲む芳佳ちゃん可愛いです

>>783
乳ガンダム(にゅーがんだむ)は、伊達じゃない!

乙でした!

あまり気にしない方がいいのかもしれないけど
上の「取り返しのつかない矛盾」ってのが気になる

作者さんもしかしてYouTubeの『スト魔女部屋模様替え 春編』のup主さん?

そろそろ最終部だというのに繋ぎの足が進まない

>>811
角松「「みらい」で海鳥を受け止めるんだよ!」
……う~ん、乳がうますぎて追いつけない

>>823
エイラ「サーニャと宮藤(と静夏ちゃん)の誕生日と「みらい」の滞在期間を比べてみるんダナ……」

>>826
ではないですね
実はグッズ系はあまり集めない派だったりします

以下次回予告です


病室に横たわる森二尉。

桃井「ネウロイの『瘴気』。我々に未知の汚染が、回復を阻んでいます」

後部格納庫に鎮座する、半壊した海鳥。

尾栗「死にはしなかった。が、確実に傷を負って追い詰められているんだ」

駆逐艦から小型ネウロイに向けて撃ち上げられる対空砲火。

草加「作戦発動の有無にかかわらず、決戦の時は近いと推察します」

巨大な格納庫と、そこに置かれている人型の何か。

マロニー「決戦は近いのだ」

工場で組み立てられる、改良型V1ロケット。

坂本「決戦は近し、か」

格納庫脇に置かれているデータ収集用のジェットストライカー。

ミーナ「決戦は目の前、ということよ」

次回『荒波の中で』


空の上で『何か』と対峙する宮藤。

芳佳「ねぇ、あなたは……誰なの?」

すみません
どうも期日中の完成は無理なようなので、また半月~一月ほど延長します……

ラスト周回スタート早々息切れしてる感じ……

作者さんに質問
スゴい今更なんだけど草加ってこの作品では味方なの?

3か月目になってしまいました
投下は今週末を目処を予定してます

確認次第では前項に分けるかもです

>>843
“どちらかといえば”「みらい」派です

では少しばかりスローですが投下します


「みらい」医務室

衛生員A「意識よし、心音確認、呼吸よし」

衛生員B「左上腕より出血確認!」

桃井「圧迫止血、後に破片摘出!」

桃井「ネウロイの破片が何かわからないから、扱いに気を付けて」

衛生員A「はっ」

血が止まった場所からピンセットで抜かれていく。
そして再び垂れてくる血を止血する。

森「ハァ、ハァ……」

桃井「しっかり、もう少しよ!」

桃井「部位麻酔、血清投与!」


「みらい」艦橋

尾栗「怪我のほどはわからないが早いほどに越したことはないはずだ」

尾栗「すっ飛ばすぞ」

角松「ああ」

尾栗「針路2-1-0!両舷全速!」

艦橋員A「針路2-1-0、両舷全速!ヨーソロー!」

角松「作戦終了、これより本艦は501基地に帰投する」

角松「全速だ!」

艦橋員A「アイサー!」

キイィィィィィイイイ!

ガスタービンエンジンの高い音が響く。
そして「みらい」急回頭をして海域を離脱し始めた。






数十分後 「みらい」艦長室

そこへ、応急手当てを終えた桃井が報告に来ていた。

桃井「致命傷に近かった破片の数は約十三……」

桃井「幸い全て摘出は無事に終了しました」

桃井「出血多量による意識混濁、ショックによる機能不全が見受けられます」

桃井「現在応急処置として輸血と血清を投与していますが……」

角松「容態は?」

桃井「良いとは言えません。この程度の応急処置で死を免れたのが幸いでした」

桃井「そして、どういうわけか出血が止まりにくくなっています。長く見れば大変危険です」

尾栗「出血が止まらない?」

桃井「傷自体は小さく、応急処置の圧迫止血でも止まりそうなものなのですが、なぜか固まることなく流れています」

桃井「処置で止めてはありますが、同時に感染症の心配もあります。早急に地上での手術が必要かと」


角松「艦内では、無理か」

桃井「……私は看護師であり、医者ではありません」

仮に医師でも、艦内設備では圧倒的に足りない。
尾栗が張り付けられてあったブリタニア周辺の地図を見やる。

尾栗「全速で飛ばして一時間前後、それ以上に……」

桃井「はい、一刻も惜しい状態です」

尾栗「艦長、ヘリはどうです。航続距離は釣りがくるほどに十分足ります」

角松「……わかった、ヘリで先行して搬送させる」

角松「飛行科に連絡、シーホークに運送要請」

角松「随伴のウィッチにも護衛を要請せよ」

隊員A「は!」






「みらい」後部甲板

甲板へ続く通路を通りつつ、指示を受けて現場監督に赴いた麻生。
慌ただしく往来する甲板員を気にしつつ、同じく通路を駆けてきた隊員に状況を聴く。

隊員A「先任!」

麻生「あと10分で搬送開始だ、ヘリの準備はどうか?」

隊員A「それが……」

報告を聞きながら後部甲板への最後の水密扉を開けた。

麻生「……!」

目に入ったのは、未だ片づけることもままならない海鳥の機体。
羽を曲げられないのか格納庫内部に収容することができていない。

麻生(これでは、シーホークが着艦できない……!)

その機体は飛行甲板の半分以上を占めており、シーホークは入りそうにない。

麻生「どうにかならんか?」

隊員A「無茶言わんでください!ベアトラップにはさめない今、手作業で固定が精一杯なんです」


格納庫の外側を見ると、大勢の甲板員がロープやワイヤーで海鳥をがんじがらめにしていた。
庫内に入れられないため、舵取りによる落下の可能性があった。

麻生「いかんな……」

もう搬送準備は整っている頃だろう。
だがそんな麻生の不安をよそに、フライトデッキからの報告が入った。

飛行科員A「先任、シーホークより通信!」

麻生「内容は」

飛行科員A「着艦可能態勢を維持しているので、三分前に許可をくれとのことです!」

麻生「なに!?」

それはすなわち、この状態で着艦するということだ。
この報告は自信の表れか。そう受け取るしかないか。

麻生(できるのか、林原!)

麻生「……艦長に報告後、医務室に連絡を」

飛行科員A「ハッ!」


「みらい」艦橋

尾栗「減速、両舷前進微速!舵そのまま!」

操舵員「両舷前進微速、ヨーソロー!」

指示を出した後、自分もウィングへ出る。

尾栗「いいか!針路上の浮遊物、ゴミ一つ見逃すんじゃねえぞ!」

尾栗「ちょっとでもズレたらアウトだ」

尾栗「目を皿にして見張れ!」

柳「はっ!」

ウィングにいた見張り員たちが双眼鏡を構えて水面を監視する。

そして、シーホークのローター音が近づいてきた。


「みらい」後部甲板

ガラガラガラガラ!

桃井「急いで!」

森二尉が乗せられた担架が後部甲板へ向かう。
海鳥の機体を素早く抜け、ギリギリの高さで飛んでいるシーホークにたどり着いた。
静止に近い状態で減速されているとはいえ、「みらい」の微妙な移動についていけているシーホーク。

バン!とそのドアが開かれる。

林原「左からの風微弱……問題ない」

林原「風が弱い今のうちだ。負傷者搬入急げ!」

柿崎「了解!」

担架が慎重ながら素早く運び込まれていく。
そして同乗者として桃井一尉も乗った。

柿崎「……搭乗終了、ドアよし!」

林原「テイクオフ!」

発動機の回転数を上げ、シーホークが飛び立った。



マロニ「………」

それを甲板の方でみるマロニー一同の姿があった。






第一日目 

ブリタニア ポーツマス 技術研究所

うずたかく積まれた書類群と大量のガラクタと化した試作品。
それらは部屋の半分を占めてしまっている。

ウルスラ「すぅ、すぅ……」

その中に埋もれるように、ウルスラが机の上で眠っていた。
そこに部屋がノックされる音が響く。

コンコン。

技術員A「すみませーん、ハルトマン中尉」

ウルスラ「……? どうぞ」

その音に気づいたのかウルスラが目を覚ました。
ドアを開けると、一人の同僚が書類を手にやってきていた。

技術員A「あ、おやすみでしたか?」

ウルスラ「いえ、ただの寝落ちです」

寝癖がついたままの頭で出迎える。


ウルスラ「それで、今日はどんな用件で?」

技術員A「これを、届けに着ました」

そう言ってウルスラに一束の書類を渡す。

技術員A「先日のV1打ち上げ実験の……」

ウルスラ「調査報告書ですか」

寝起きでたれ目だった目が少しばかり開き、資料を読み始めた。
詳細に調査されたその報告書を見て、ウルスラは改めて頭の中で改善点を整理し始める。

技術員A「予想される原因としては、材質の強度不足から設計初期段階のミスまで、32768通り……」

技術員A「各種要因の複合化が失敗を招いたようです」

ウルスラ「やはり、最初からあの未完技術のカタマリを一気に飛ばすのは無理があったようですね」

技術員A「中尉……」

ウルスラ「……ま、繰り返し時間をかけてやっていけばいいのです」


技術員A「そこで朗報があるんです!」

ウルスラ「?」

はしゃぐように言った彼女がもう一つ別の書類を差し出した。

技術員A「V1ロケットの開発の追加予算、あっさり通りました」

ウルスラ「それは……」

確かに朗報だ。

技術員A「あと一週間後くらい我慢すれば、お金が入ります!

大助かりだ。開発において予算がいくらあっても足りない。
自分の勝手で始めたような研究にもかかわらず、軍に持ち上げられた上にこの予算はありがたい話だった。

技術員A「一方で、ジェットストライカーの予算が減っています」

ウルスラ「!?」

技術員A「この減った分がV1に行ってるわけではないようですが」

渡された紙には確かにその予算が減っていることを示していた。
今までの所要経費を考えると、自由にはできなくなりそうだ。

技術員A「ここまで減らされてると、評価をもらえてない感じでちょっと残念です……」


ウルスラ「……しかしウィッチ一人を危険に晒してしまった事故があったのは事実です」

ウルスラ「評価が足りなかったのは、確かでしょう」

技術員A「でも、これじゃあ……」

これからの事を考えると若干顔が暗くなる技術員。

ウルスラ「なにも開発が中止になったわけではありません」

ウルスラ「進歩は遅れると思われますが、まだ完成はさせられるはずです」

技術員A「そう、ですよね!」

少しばかり笑顔が戻った彼女を見て、ウスルラは考え直す。

ウルスラ(しかし、それにしてもこの減り方はひどい)

ウルスラ(すでに最終テストにこぎ着けているジェットストライカーのほうが有用性、実現性もはるかに高いはず)

ウルスラ(にもかかわらずここまで減らされた理由は……?)

いずれにて頭痛の種が一つ増えた、とばかりに頭を抱えるウルスラ。

ここにある予算と脳内の必要経費から算出した数字は、赤い。






501基地 医務室

その静かな廊下に、時計の秒針音が響く。

佐竹「………」

角松「………」

尾栗「………」

「みらい」が戻ってすぐ駆けつけた三人が、待ち合い用の長椅子に並んでいた。
佐竹も包帯でまかれた傷を気にすることなくそこで待ち続けていた。

ガチャ、と医務室の扉がゆっくり開かれた。

桃井「………」

「「!」」

担当医と話をしていた桃井一尉が出てきて、3人は報告を今かと期待した。

佐竹「桃井一尉、森二尉は……」

桃井「これより、報告します」


桃井「結論から申しますと、手術は成功。傷も命に別状があるものではありませんでした」

尾栗「生きてるんだな!?」

桃井「はい」

ほっとした空気が流れるが、桃井の険しい顔が別の何かを感じさせた。


桃井「……ただ、自衛隊員としての復帰はかなり後になると思います」

佐竹「!」

尾栗「なっ……」

その言葉に少しばかり動揺する面々。

角松「悪いのか?」

桃井「今のところ回復には向かっているので、なんとも」

桃井「ただ……」

そういって取り出したのは分厚い透明な小袋。
中には何かの破片が入っている。


尾栗「破片……まさか」

桃井「「みらい」では取れなかった、森二尉の体内外から摘出した――」


「「ネウロイの破片!」」


渡された厚手の軍手をつけ、尾栗が袋を受け取る。

尾栗「ガラス片に見えなくもないが、何の材質かさっぱりだな」

透明のような曇っているような、その破片を慎重に扱いつつ観察する。

桃井「あくまで推測の域を出ませんが……」

桃井「ネウロイの放出する『瘴気』、これはネウロイ本体が消滅してもなお、しばらくは破片からも出ていたようです」

桃井「そのせいか本来止血するところも止まらず、大幅な自然治癒能力の低下がみられます」

桃井「宮藤軍曹の治癒魔法も効果が薄く、長期的な療養に任せるしかない、と」

効力の高い彼女の魔法でさえ、汚染の影響を抑える程度でしかないという。

角松「この時代でも、汚染の治療法はないのか」


桃井「重度に汚染されて帰還する例がそもそも少ないようです。症例が少なければ対処法もとりにくい」

桃井「それに加え、我々はこの時代の人間より進行度が早いそうです。もしかしたら特有の免疫といったものがあるのかも知れません」

桃井「……まさに、未知の汚染です」

どうしようもないと言いたげにネウロイの破片を見つめる。

角松「……森二尉は今どこに?」

桃井「病室で寝ています。話はできませんが、お会いになりますか?」

そういってドアを開けると、医務室のベッドの一つに森の姿があった。

桃井「意識は今のところはっきりしていますが、起こさずに休ませて回復に専念させた方がよいでしょう」

包帯が多数巻かれ、その胸はゆっくり上下していることから呼吸が確認できる。
その姿を隈のできた目で見つめる佐竹。

佐竹「………」

角松「……佐竹、責めるなら俺を責めろ」

佐竹の横に並んだ角松がつぶやく。

角松「この危険な任務を「みらい」維持のためとはいえ、受けて指示を出したのは俺だ」

佐竹「………」


しばしの間をおいて、佐竹が答えた。
ただその声に力はない。

佐竹「別に艦長を恨んだりはしちゃいません」

佐竹「結果的に森は助かった――甘いかもしれませんが、俺はこれだけで十分です」


そして、ひときわはっきりした声でつづけた。

佐竹「艦長、「みらい」がその身をもって知ったように、俺達も今回の被弾でよくわかりました」

佐竹「俺達がいるのは紛れもない戦場、いつやられてもおかしくない場所なんです」

佐竹「『完璧な作戦』『リスクのない行動』……平時でできるそんな『犠牲のない選択肢』は多く選べない……」

尾栗「佐竹……」

佐竹「ですから艦長」

佐竹「あなたこそ、自分の選択の結果出た犠牲……それに囚われ過ぎないでください」

角松「………」


だがその言葉に、角松が凛として返した。

角松「……私は艦長だ。艦長は艦の運用と乗員の安全に責任を負う義務がある」

角松「作戦を立てる上では無駄な犠牲を出さない指示を出さなければならない」

角松「そしてその結果起きた犠牲、それを受け止めなければならん」

角松「『戦時下』という言い訳を使い、自分の指示で出た犠牲を流すことはできん」

尾栗「………」

佐竹「………」

その言葉をどう捉えたのか、二人は何も言わなかった。

角松「航海長、俺はこれからヴィルケ中佐と話してくる」

角松「それまでしばらく頼んだ」

尾栗「は……」

角松が表情を変えずゆっくりと立ち去っていく。

佐竹「大丈夫、ですかね」

尾栗「この作戦で誰も死にはしなかった。が、確実に傷を負って追い詰められているんだ」

尾栗「アイツもかなり頑固だからな……ああいうところは譲れないんだろうぜ」






第四日目

501基地 上空

ルッキーニ「~♪」

シャーリー「………」

先の偵察作戦――成功か否かはわからないが――が終了した。
作戦終了に伴い、報復を警戒した上層部はウィッチによる哨戒任務を劇的に増加することとなった。
予想はできていたが、かなりのハイローテーションだ。

そしてこの昼過ぎ、それを終えたシャーリーとルッキーニが戻ってきた。

ルッキーニ「本日は晴天なれどもー」

シャーリー「異常なし、か」

シャーリー(巣を突っついて無事に過ごせるとは思えないんだがな……)

今回の哨戒任務は何事もなく終わった。
平和な空の中、一際緊張した状態で警戒を続けていたが何も起こらず、基地が見えてその緊張の糸は切れかけていた。


実際作戦直後より、ブリタニア沿岸で多数のネウロイが目撃されていた。
戦闘報告こそ少ないが、確実に何かしらの行動をとりはじめている。

故に、このウィッチ哨戒にかからないのは少しばかり不気味だった。

ルッキーニ「……あれ?」

手慣れた要領で滑走路に降り立つ二人。
そしてストライカーをしまおうと格納庫内に入ると、見慣れない機体が鎮座していた。

ルッキーニ「シーホークだぁ」

シャーリー「なんでここにあるんだ?」

その機体を見て、本来あるべきはずの「みらい」を振り返る。
するとなんとなく、その理由がわかった。

シャーリー「……ああ、なるほど」

停泊している「みらい」の後部。
その後ろに、いまだ収納できずにいる海鳥の姿が見えたからだ。






第六日目

ブリタニア 扶桑海軍基地 大和艦内

『大和ホテル』と揶揄されるその艦の士官居住区は、入るだけで快適さが実感できるものだった。

海流によって温暖に近い気候帯であるとはいえ、位置的には扶桑の北海道と同じ緯度。この季節、それも海の上で寒くないはずがない。
しかしこの部屋は空調がよく効いており、外の寒さを感じさせない。

その一室で、杉田と草加が対面していた。

杉田「君とこうして話をするのは久しぶりだな」

草加「はい。一昨年以来かと存じ上げます」

杉田「そうか、もうそんなになったか……」

杉田が昔を懐かしむように顔を上げた。
そして再び顔をもどし、草加に向き直る。

杉田「本当ならゆっくり昔話でもしたいところだが、こんな状況だ」

窓際に歩み、舷窓から外を覗いた。


杉田「知っての通り、先日に「みらい」の艦載機を使った偵察作戦が終わったよ」

杉田「情報収集の首尾の方はうまくいったようだ」

杉田「今朝、画像と映像を見せてもらった……」

ここで『成功』と言わないあたり、その結果を知っていると思っていい。
草加も海鳥の被弾を耳にはしていたが、まだ正式な報告は受け取っていない。
情報管制だろうか?いずれにしても何かと面倒である。

杉田「凄まじいものだな、「みらい」の技術は」

草加「兵器以上に、彼らは情報分析の面においても優れています」

杉田「ああ、改めて実感させられたよ」

杉田「鮮明な映像と巣の内部、一度ながらも襲撃パターン……これは有用な情報だ」

杉田「それと引き換えとしてだが……」

草加「ネウロイの報復行動、ですか」

杉田「被害は少ないようだが、現に頻出してきている」

杉田「それもどういうわけか、501の眼を抜けるような場所に……」


杉田「ともかく、我々は急がねばならん」

草加「大反攻作戦――オペレーションジェリコ、早急に決着を付けなければ」

草加「この戦い、人類に勝利はないでしょう」

杉田「人類の総力をつぎ込む作戦だ……どの道、この戦いで負ければ勝ち目はあるまい」

杉田「賽は投げられたのだ。巣の奥深くへに偵察を仕掛けた時点で」

一層険しい表情をしながら、こちらへ振り向き直る。
それに返すよう、変化が薄いながら草加もまっすぐに返す。

草加「人類の総力ですか……」

草加「ですが私には、それだけでは足りないと思っています」

杉田には草加の言わんとしていることが分かった。

杉田「「みらい」か……」

草加「はい」

杉田「あの索敵、そして防空能力」

杉田「たしかに、作戦には戦場を正確に把握できる力」

杉田「そして艦隊全域をカバーできるあの艦の防空能力が必要だ」

杉田「長く接してきた君にならわかるだろう」

草加「は……」


杉田「だが問題は不信を持っている各国将官連中だ」

杉田「彼らが『黒船』の参戦を、やすやすと認めると思うかね?」

草加「使えるモノを使わなければ、人類に未来はありません」

杉田が草加の方へと向き直り、言った。

杉田「……できるのか、君に。「みらい」を参戦させることが」

草加「大佐のお力を借りることができるのならば」

それにまっすぐ返す草加。

杉田「一艦隊司令とはいえここは他所だ。できることは少ない」

草加「人類連合艦隊の扶桑艦隊代表とすれば、十分だと思いますよ」

杉田「ほう……」

その皮肉めいた賛辞に草加の余裕をくみ取ることができた。

杉田「では、何を望むか」


草加「ここ数日以内に開催されるであろう大反攻作戦会議」

草加「そこの席に、私も加えていただきたいのです」

杉田「……む」

ここで杉田が少しばかり驚いたような顔をした。

杉田「君もはみ出し組か?しかし、実質「みらい」代表の君を外すとは……」

草加「私は会議はおろか偵察作戦に呼ばれておりません」

草加「しかし『君も』とは……」

杉田「私も、別の方面で一悶着あってな。代わりを行かせることになった」

杉田「まぁ、今回の会議には出る。私の推薦ということにしておこう」

草加「は」

草加「……ところで、もう一つお願いが」

杉田「む?」


日が沈み始め、横から太陽の光が照り付ける。
舷窓にもその光が入り、草加と杉田の横顔を照らした。

草加の話に、杉田が不穏な表情を返す。

杉田「その日が、そのような日が、来るというのか?」

草加「願わくば」

杉田「ぬぅ……」

舷窓へと振り返り、沈みゆく夕日へ顔を向ける。

杉田「我々にとっては好ましくもあり、ある面では彼らにとってもよいことであろう」

杉田「だが、本当のところでは絶望でしかあるまい」

草加「私は、彼らの救い主にでもなろうと申しているわけではありません」

草加「我々のための、一つの道です」

杉田「………」


杉田「同じ船乗りとして、荒波の中で漂流することの恐ろしさはわかっているつもりだ」

杉田「だが……だからこそ、私は、そのような事にならないよう願いたいよ」

その話を否定したいのか、苦い顔をする杉田。

草加「ならなければ吉、でしょうか」

草加「私もそう願いたいですが、いずれにしろ確率以前の問題」

草加「我々に手を出せることと言えば、このようなセーフネット程度です」

杉田「………」

一息大きく息をついたあと、杉田が返した。

杉田「わかった。私から本土へ掛け合ってみよう」

杉田「幸い長官は頭の固い人ではない。話は通じるかもしれん」

草加「ありがとうございます」

杉田「……だがどのみち、それは作戦の後だ」

杉田「ここまで来るならば、よもや彼の艦を失うわけにいかん」

杉田「草加少佐、君の任務はさらに重要なものとなるぞ」

草加「もとより、そのつもりです」

一礼し、草加が部屋から退出する。


それを、ふと何かを思った杉田が呼び止めた。

杉田「……草加少佐。一つだけ聞かせてもらいたい」

草加「は」

杉田「君は「みらい」とずいぶん長く接触し、よく知る人物となった」

杉田「今回の作戦に対する「みらい」の反応の確信も、その経験からくるものなのかな?」

少し間をおいて、草加が答えた。

草加「……みらいの人間への信頼、でしょうか」

杉田「信頼、か」

杉田「それほどまでに足るのかね。彼らは?」

草加「はい」

その答え方には強い確信が込められる。

草加「今日まで自分の信念や意志を貫き通してきたこと」

草加「これに惹かれた……のかもしれません」


草加「元艦長梅津一佐、そしてその艦の乗組員」

草加「特に現艦長の角松二佐……私は、彼ほど芯の強い人物を知りません」

杉田「彼か……」

港で会った、梅津の横にいた男の姿を思い出す。

草加「彼らの信念は人命尊重」

草加「そして『日本』の『盾』たること」

杉田「『矛』としての軍ではなく『盾』としてのとはな……」

草加「不思議な方々です」

草加「それゆえに、この人類の命運をかけた一戦を避けることはない――そう踏んでいます」

杉田「作戦に参加するのは自国の揮下を離れることになる。自分の信念を曲げることにならんかね」

草加「連合軍の指揮には組み込みません」

草加「現状と同じの、形だけの501所属。そして協力者としての席を置けばいい」


杉田「独立部隊、とでも?」

草加「多少の齟齬はありますが」

杉田(なるほど、な)

杉田と草加は全く縁がないわけではない。
ただ話に聞く彼の冷静さ、それを改めて実感する瞬間であった。

杉田「うまくいくといいが」

草加「神にでも、祈りますか」

その言葉に目を丸くした。
そんなことを言う人物だっただろうか。

草加「……では、失礼します」

バタン、と扉が閉じる。
そしてひとり、再び舷窓から夕日を眺めて考えた。

杉田「変わったな、彼も」

草加は昔から頭の切れる冷静な人物であった。
そして今、その才能が遺憾なく発揮されている。

だが、その冷静さ故に広く物事を見る彼が、ここまで一つのことにこだわるのは珍しい感じがしていた。

杉田「……そしてこの作戦が、これからの全てを変えるのか」






第七日目

「みらい」後部格納庫


雁字搦めにされていたワイヤーやロープは外され、代わりに多数の電線が繋がれている。
整備員が周りを取り囲み、その状態を検査していた。

整備員長「主翼、そして右翼とローターが大きくダメージを受けています。このまま飛ぶことはまず無理でしょう」

整備員長「システム面においても、胴体着陸のせいもありますが、機体全体が大きい損傷を受けています」

整備員長「特に前部・下部はネウロイの破片で大きく損傷、機銃は歪んだ上に一部電子機器が破損しています」

その機体のそばで、麻生と整備員長が話し合っている。

麻生「直せそうか?」

整備員長「詳しい検査をしなければ分かりません」

海鳥を振り返り続けて言った。

整備員長「ただ、私が思うに問題は『今の海鳥は修理するに適うか』どうかだと思います」


その言葉に麻生が疑問を覚えた。

麻生「適うかどうか、とは?」

整備員長「……今回の損傷で、確実に機銃が使用不能になりました」

整備員長「未確認ですが、この状態だとガンカメラやレーダーも怪しい状況です」

海鳥前方に回ると、そこ一帯は凄まじい数が穴が開いていた。

整備員長「それに対潜ヘリより機動性が上であるとはいえ、両翼は大規模な修復が必要でしょう」

整備員長「仮に修理可能だったとしても、この時代の技術と材料で、デリケートなこの機体の性能をどこまで保持できるか……」

麻生「………」

整備員長「場合によっては、供用可能パーツをシーホークの維持に回しておいた方が良いかもしれません」

整備員長「現状でも、収容できない海鳥がシーホーク格納の障害になっている訳ですから……」

そのせいで着艦がができないため、現在は501の格納庫に止まっている。


麻生「現有している唯一の航空戦力のシーホークが入れんのは痛いな。どうにかならんか?」

整備員長「簡易修理後に両翼の格納を試みます。それさえできれば後は普通通りです」

整備員長「問題はそれができなかった場合ですが……その時は本格的に廃棄を検討する可能性も……」

麻生「修理の限界、か」

整備員長「まぁそれを決めるのは上の判断ですがね」

麻生「フム……」

見上げるとボロボロになった海鳥のコクピット。
射撃手席は既に取り換えられており、血痕は計器に一部飛び散っているにとどまっている。

整備員長「貴重な航空戦力を失うことは「みらい」にとって大きな痛手でしょうが」

整備員長「一番つらいのは……」

麻生「愛機を失ったパイロット、か……」






第十日目

501基地 医務室

森「ぅ……」

目を覚ましてみたが、いまだにまだ慣れない。
体がだるく、傷が痛んで起きる。

エーリカ「あれ、起きた?」

森「ハルトマン中尉……?」

そこには脇の椅子で本を読んでいたエーリカがいた。

エーリカ「今回は1日か。一応昏睡時間は短くなってきてるね」

エーリカ「お水飲む?」

隣のテーブルにあった水差しからコップに一杯注いで渡す。

森「ありがとうございま……グッ」

だが上半身を起こすだけで、まだかなりの痛みが出てきた。

エーリカ「まだ無理しちゃだめだよ」


意外にも手慣れた手つきで上半身を起こす手伝いをする。

森「すみません、手をかけてしまって……」

エーリカ「親も医者で、これでも医者志望だからね」

エーリカ「ま、いい実地演習ってところでさ」

ニシシ、と椅子の背もたれに顎をかけて笑う。

森「……そういえば中尉はどうしてここに?」

エーリカ「ウィッチのみんなは訓練兼偵察で、医務室の先生はほとんどが昼食休憩」

エーリカ「ちょうどいいから交代してたってわけ」

森「ああ、つまり……」

ここはサボるのにちょうどいい場所だったわけである。

エーリカ「あー、ひどい言われようだな―」


水を飲み終えた森が一息つき、尋ねた。

森「そういえば、偵察作戦はどう終わりましたか?」

未だにはっきりとした事を聞いていない事を思い出す。

エーリカ「成功裏に終わった、と言えるのかな」

エーリカ「海鳥以降の被害はゼロだったよ」

エーリカ「酷な言い方すると、ネウロイの巣に突っ込んだ被害が海鳥だけでよかった……ってね」

少しばかりおどけた感じでエーリカが話す。
気を使ってくれながら話しているせいか、悪い気はしない。

エーリカ「まぁそゆことだからさ、やることは私たちだけで十分。病人早く寝ておくこと!」

エーリカ「瘴気がまだ体に残ってるみたいだし」

立ち上がった後くるりと一回り。

森「は……」

エーリカ「じゃ、一応宮藤と先生呼んでくるから、ゆっくりしててねー」

そう言ってエーリカが部屋を出て行った。






第十二日目 

エイラ「……まだここに置いてあったのか」

なにもやることがないので散歩ついでに格納庫に向かっていると、入ってすぐにシーホークの姿が目に入った。
未だに「みらい」へ戻っていない。
別に置いてある分はいいが、随伴しているのが整備員のみというのは不用心じゃなかろうかと思う。
まあ一応小銃とか拳銃を持っているとは聞いたが……。

まあいいや、と気にせず先へ進むことにした。

エイラ「……ン?」

格納庫の隅に見慣れないストライカーが置いてあるのを見つけた。
見慣れないとはいえ、どこか既視感があった。

エイラ「どこかで見たことあるようナ」

エイラ「……あ、シャーリーの奴が履いてたやつか」

プロペラの出る場所がないストライカー、ジェットストライカー。
ここにあるのはウルスラから譲られた試作品だ。



エイラ「でも、なんでこんなところにあるんだ?」

一応実験は終わり、使用させることはなくなったはずだった。
前みたいな暴走はなかったとはいえ実験機。実戦使用には許可がいる。
故にしっかり管理されているはずなのだが……。

サーニャ「シーホークの邪魔になるから、どかしているみたいよ」

とぼとぼとやってきたのはサーニャだった。

エイラ「サーニャ……起きて大丈夫なのか?」

サーニャ「最近は昼型になっちゃったわ……」

エイラ「まったく、哨戒の呼び出しも馬鹿にならないな」

サーニャ「ネウロイの襲撃も頻発し始めたみたいだから、仕方ないわ」

目をこするサーニャに近寄り、ハンカチで目元を拭いてやる。

エイラ「非日常なのが日常なのは慣れたけど」

エイラ「もうちょっと考えてやってきてほしいもんだ……」

特有の勘か、能力が無意識に感じ取ったのか。
いずれにしても、しばらくは元の日々に戻れそうにない。


501基地 ミーナ執務室

薄暗く、中央に地図と各種書類が電灯一つで照らされている。
カーテンが占められたその部屋で、ちょうど手空きだったメンバーでネウロイの考察をしていた。

ミーナ「七日前は北回り……」

ミーナ「三日前は大きく南を迂回してきたわ」

ミーナ「どういうわけか、ここを避けるルートを取っている」

ゲルト「私たちの実力に恐れをなしたか」

坂本「だといいがな……」

坂本「逆を言えば、我々に対して恐れを抱き、それを『学習した』と取ることもできる」

シャーリー「こいつ以上の力馬鹿だ。加えて知恵をつけられちゃたまりませんね」

ゲルト「む……」

半ば名指しでからかわれたが、今はそれを買う時ではない。

ミーナ「そもそもおかしいのよ。この襲撃、明らかにネウロイの活動範囲を上回ってるわ」


坂本「いずれも最短ルートを捨て、わざわざ海上を迂回している」

ミーナ「お世辞にもここから近いとは言えない場所……」

ミーナ「私たちが全力で駆けつけても、逃げられるわ」

坂本「しゃらくさいやつらだ」

ミーナ「北方の襲来は該当地区の航空隊で追い返し」

ミーナ「南方はワイト島の分遣隊で撃退できたそうだけど」

ミーナ「……これじゃ501、ストライクウィッチーズの面目、丸潰れね」

頭を抱えてため息をつくミーナ。

シャーリー「いやいや、悪いのはネウロイの入り方であって、こっちじゃどうにもできないですし……」

ゲルト「だから『仕方ない』とでもいうのか?」

ゲルト「ブリタニアの壁である以上、襲来するネウロイは倒さねばならんのだ」

シャーリー「………」






第十五日目

ブリタニア 連合軍総司令部

各国将官が一室に集まり、「みらい」偵察資料を基に激しく議論を交わす。
バンッ!と誰かが激しく机を叩いた。

高官A「敵の邀撃体制は明るみに出た!」

高官A「今こそ全力を以って敵を殲滅するべきだ!」

高官B「いや、どうかな」

高官B「艦船の個艦対空防御力は低い。ここは航空戦力、ウィッチが充実するまで待ってみるのはどうだ」

高官C「確かに。現状501と各地の小分隊しか目処が立っておらん」

高官D「どうですここは。もう一つ統合戦闘航空団を作ってみては」

高官E「オラーシャの方から借りれんかね。502があっただろう」

高官A「それでは間に合わんと言っておる!」

激しい議論と慎重な議論が混ざり合う。

マロニー「………」


そんな中、ただ一人沈黙している男がいた。

草加「………」

呼んでもいないのに突如杉田大佐の推薦で参加した草加である。
議論を聞いているのかいないのか、ただ静かにそこにいた。

高官A「対空戦闘におけるリスクは承知の上!」

高官A「そのために多数の戦艦の対空兵装を改修してきたのではないか!」

高官A「扶桑の大和を見てみろ!あの弾幕を抜けられるものがあるか!」

高官B「それでもまだ足りないと言っているのです!」

高官C「大体その大和さえ、ここに来る途中に被弾したというではないか」

高官A「我々も彼らも軍人だ。同じ轍は踏まぬ」

高官D「さらに今回は大船団だ。火力は数倍に跳ね上がる」

高官B「希望的観測の話をしているわけではない!」

議論は過熱する。
ネウロイに対する不安と恐ろしさが、不毛な論議へと駆り立てさせ混乱へ陥れる。


草加「………」

その中、やはり草加は沈黙していた。
半ば乱入に近い彼は、この会議で何を考えているのか。
傍から作戦に対する議論を気にしていなかったマロニーはそちらの方が気になり始めた。

マロニー「……対空戦力、航空戦力の増強もこの作戦において欠かせない要素である」

マロニー「だがその火力の支えとなるものは海軍の戦艦群」

マロニー「特に扶桑海軍、主力となるのは君らの艦艇だ」

マロニー「今回の作戦に臨んで、不足とするところはあると思うかね。杉田大佐」

杉田「……この大和型戦艦一番艦「大和」は、扶桑海軍の威信をかけて造った戦艦です」

杉田「主砲の口径に対空兵装、どちらにおいても最強を目指した艦――不足はありません!」

胸を張り堂々と答える杉田に対して、別の高官から声が飛ぶ。

高官C「しかし現に、遠洋航海中に被弾しているではないかね」


そこへ返したのは、杉田ではなかった。

草加「傷を負わぬ戦闘など、いつの時代もありません」


意外な人物の発言に、場が静まり返る。

草加「戦艦大和――」

草加「扶桑の威信をかけて造ったこの軍艦は、まさに洋上の城と言えるでしょう」

草加「ですがやはり軍艦。空中を飛翔するネウロイに対しては分が悪いところは多数あります」

草加「これは時代が進化し少しは克服すれども、その差は埋まりがたい」

杉田「進化、か」

マロニー「………」

草加「あなた方は、軍艦の対空能力の少なさによる大和を含めた攻撃主力の戦艦群に大被害を懸念なさっているが」

草加「ご存じのはずです。それを補うことのできる存在を」

マロニー「……「みらい」かね」

思わずそこへ返してしまうマロニー。

草加「はい」


この時を待っていた。
自分が同じ土俵へ堂々と乗り上がれる瞬間を。


草加「彼の艦の索敵能力は我々をはるかに凌駕します」

草加「そしてそれに伴う情報処理能力。おそらく予定作戦域すべてをカバーできるでしょう」

マロニー「協力を得られるのかね?彼らは作戦参加に対して否定的であったが」

草加「こちらがある程度の指揮権を妥協すれば可能と思われます」

草加「連合軍傘下ではなく、別働隊としての指揮を与えれば十分かと」、

高官B「それで素直に聞いてくれるというのか」

高官C「そのような不確定なものに頼らず、もっと我々で軍備を整えるべきだ」

否定意見を前に、草加が一拍おいて反論を始める。

草加「……そのような時間が、我々に残されていると思っているのですか」


その作戦室へ一人の将校が駆け込んできた。

通信員「報告します!防空司令部並びに501基地より入電!」

通信員「グリッドG-7にてネウロイ捕捉!予想上陸地点、ロンドン!」

その言葉に緊張が走る。
予想上陸地点。この言葉が使われているときは、かなりの接近を許しているということだった。


数分前 ブリタニア南部 洋上

「みらい」後部格納庫

整備員A「両翼を収納、後部格納庫に引き入れることができました」

整備員A「これでなんとかですが、「みらい」を通常運行させられますね」

整備員B「とはいっても、まだボロボロなのには変わりない」

整備員B「帰港して時間ができたら音波測定をするか」

整備員A「後回しってことは、お役目御免も近いってことッスかね」

整備員B「……お前、それ間違えても佐竹一尉や飛行科員の前では言うんじゃないぞ」

あっ、と自分の失言に口を閉じるもう一人の整備員。
気まずい雰囲気になり、しばしの沈黙が流れた。


カーンカーンカーン!

そこへ突然の警報が鳴る。

『対空戦闘よーい!』

「「……ネウロイ!」」

突然の警報に驚きつつも態勢を整える一同。


「みらい」CIC

『対空戦闘用意!』

警報に慌ただしく動く「みらい」。
菊池と角松がCICに入り、ヘッドセットを付けながらモニタへ駆ける。

角松「どこだ!」

青梅「不明機探知、40度120km!」

青梅「第一目標、高度500」

青梅「欧州大陸グリッドG10より南西へ侵攻」

角松「面舵一杯、針路0-5-0!」

艦橋員A『面舵一杯!』

スクリーンの光点に情報が記されていく。
徐々にブリタニアへ向かっていくその機影は、見慣れたネウロイの反応に酷似していた。

角松「よりによって南に出ているときに北か……」


CIC員A「全速で向かえばスタンダードの射程圏内にギリギリ入ります」

CIC員A「スタンダードで迎撃しますか?」

角松「……いや、間に合わんだろう」

レーダースクリーンを見ていた角松と菊池がほぼ同時に思い至る。

菊池「レーダー圏内とはいえ、相手は島の向こう側だ」

菊池「いくら今見えていようと、この距離ではいずれ島影に隠れてしまう」

そのまま西へ進む光点は、突如として消えてしまった。

青梅「衛星……とまでは言わず戦術リンクシステムでもあればよかったんですがね」

菊池「海鳥があれば、ギリギリスタンダードを誘導できたかもしれないが……」

だが、被弾した海鳥はもう飛べる状態ではない。
低速のシーホークで出すのはむしろ危険だ。


角松「どの道ここから探知圏内に戻るには時間がかかる」

角松「501への連絡は?」

脇に待機していた通信の隊員に向ける。

通信員A「すでに行っています」

通信員A「先ほど同基地、それとブリタニア防空司令部から警報が発令されました」

青梅「……501よりウィッチーズ出撃を確認」

青梅「機数5!」

菊池(囮、複数同時展開を考慮しての判断か)

「みらい」よりも近い場所から出た5つの点が、ネウロイのいた場所へと向かっていた。


ブリタニア マーゲイト北部沿岸 上空


静かだったその海に、複数の砲声が響く。

ドドン!ドォン!

港の 沿岸を警戒していたブリタニアの駆逐艦が一隻、中型ネウロイと遭遇していた。
だが、その砲弾は当たらない。

乗員A「取り舵一杯!」

乗員B「対空弾寄越せ!はやく!」

ドドッ!ドドッ!ドン!

陸上の軍事施設や小さな監視所からも牽制の対空砲火が上がり始める。
空中で砲弾が炸裂するが、ネウロイには届かない。

駆逐艦の機銃座に替えの弾倉が取り付けられ、大雑把な狙いで射撃を始めた。

ダダダダダダダダ!


乗員C「何してるんだはやく落とせ!」

乗員B「当たれ!当たれ!」

四連装の12.7mmの機銃がネウロイを追う。
だが中型にしては速いその高機動、そして距離故の小ささについていけていない。
そしてネウロイがこちらへと針路を変え、その体を赤く光らせる。

乗員A「うわっ――!」


ガンッ!

「!?」

誰もが状況を理解できていなかった。
そこへ一直線に飛んできた対戦車弾がネウロイを貫いており、ネウロイの体を半分吹き飛ばしていた。

乗員B「―――ウィッチだ!」


ヴォオオオオン!

坂本「コアは外れたか」

リーネ「す、すみません!」

坂本「いや、ナイス一撃だ」

ミーナ「けれど、これならもう少し足の速いメンバーにしておくべきだったわね」

ゲルト「中型にしては機動性が高いな」

坂本「何、相手は半壊状態だ。コアも見えている」

坂本「だが敵は満身創痍とはいえ本土に近い!一気にカタを付けるぞ!」

芳佳「はい!」

ミーナ「行くわよ……ブレイク!」

それを合図にそれぞれが分かれていく。


ガガガガガガガ!

ミーナ「素早いわね」

ゲルト「高度を高く取り始めた。当たらん……!」

坂本「リーネ、もう一度だ!」

坂本「コアは狙わなくていい、翼を撃って安定を崩せ!」

リーネ「翼……ここ!」

ダァン!とリーネの放った銃弾がネウロイの翼らしい部分を破壊する。

バキャッ!

「キイイイイイイ!」

両翼を失い、ネウロイが失速していく。

坂本「今だ!一気に畳み掛けるぞ」

芳佳「こ、こっちに!」

ウィッチの方向へ徐々に落下するネウロイに対し一斉射撃を加える。
うっすら見えているコアだが、なかなか破れない。

芳佳「……固い!」

坂本「撃ち続けろ!」

連続的な発砲音と共に、銃身が熱して銃全体に熱が伝わり始める。
だがネウロイは止まらない。徐々に制御不能のまま近づいてくる。

そのうち、一発がコアを打ち抜いた。


ガリッ!
銃弾が食い込み、コアを割る。

芳佳「当たった!」

ッパアアアアアアア!!

リーネ「やったぁ!」

ゲルト「撃墜確認、よくやった」

コアがはじけ、破片がまき散らされた。
各々がシールドを展開し、その破片を防ぐ。


バスッ


その時、坂本のこめかみを何かが通り過ぎた。

坂本「っ!」

ミーナ「美緒?」

痛みはなかった。
ただ、何かが通り過ぎた。その感覚だけを坂本は感じ取った

坂本「………」

パラッ、数本の髪の毛が落ちていき、切れた眼帯の紐がぶら下がる。
それは明らかに先のネウロイの破片だった。


ブリタニア 連合軍総司令部

通信員「501より報告!テムズ川東部にてネウロイの撃破を確認!」

通信員「陸上施設の被害は極めて軽微!」

通信員「一部重要研究施設にて爆発が起こるも関連性は不明。現在調査中!」

マロニー「……!」

報告を終えた通信員が立ち去る。
十分もかからなかった短い戦闘を終えて、改めて会議の場が静まる。

誰も話を進められない雰囲気の中、草加が立ち上がり、口を開いた。

草加「これでお分かりになったはずです。もはや我々に時間はない」

ドアが開き、誰かの従兵が報告書をスラスラと回していく。

草加「……作戦を立案する立場の者として我が方の被害を考慮するのは結構」

草加「しかしそれ以前に、我々は追いつめられている側であることを忘れてもらっては困ります」

場の空気が全て草加の方へと向いた。


草加「改めて我々の状況を確認します」

草加「偵察作戦の影響か否か、どちらにせよ、ネウロイがこれまでにない方法で襲来」

草加「最短ルートではなく、防衛の要たる501の活動範囲を避けるかのようなルートで『予報』を完全に無視」

草加「日に日にスパンが短くなるこの傾向では、押されることは必至……」

この場において低い階級であるにもかかわらず、恐れずむしろ堂々と、テーブルに手を置き力説する。

草加「作戦発動の有無にかかわらず、決戦の時は近いと推察します」

草加「後に出来上がるであろう完璧な軍備を破壊される前に、今の強力な手札で決戦を挑むべきかと」

草加「我々はすでにキングやエースを持っています。反攻の機を逃してはならない」

草加「そしてジョーカーも……そうではありませんか、閣下?」

マロニー「………」

そう、こうなった以上は急がねばならない。ジョーカーを使ってでも。


草加「我々に残された時間は、あと僅かかと」


ブリタニア マーゲイト北部沿岸 上空


坂本(そうか、もう……)

シールドに小さな穴が開いている。
徐々に修復していく小さな穴だが、その戻りは遅い。

坂本(……決戦は近い、か)

彼女の言う決戦は、はたしてどのことなのか。
必要のないシールドを、穴を隠す意味も含めて解除する。

芳佳「……どうかしたんですか、坂本さん?」

坂本「いや、なんでもない」

坂本「それよりも周りを警戒しろ。残存がいないようなら帰投するぞ」

芳佳「はい!」

ミーナ「………」

やり切った顔をする二人とは対照的に、その静かな被弾を目撃したミーナだけが、険しい顔で彼女を見つめていた。

そろそろ限界なのでいったんここで切らせていただきます

少々言い訳をさせてもらいますと、先日母艦PCが突如として原因不明のご臨終をなされました。享年六歳。
幸いデータはOnedriveの方にあったので無事でした。クラウド様々です。
新型購入の目途が立つまでは予備機で執筆投稿をしていますが、XP32bit、Pen4、512MBメモリ、ガリガリHDD、などとかなり古い……
動作も漢字の変換すらも遅いので少しばかり堪忍を。

続きはできれば数日以内に

数日以内とか言いながらこの様です
少しばかり続きを






第十七日目

ブリタニア ポーツマス 技術研究所

ゴウンゴウンゴウン、と空調設備の音が絶えないこの工場区画。
照明に照らされているのは、複数のV1ロケットらしきもの。

技術員A「これはまた……」

技術員B「豪勢に立てましたね」

一基ですらかなりの金額・時間を要するこのロケット兵器。
それが一気に複数も、しかも実験機として作り上げられていたのだった。

ただしその大きさは、改良がくわえられたこともあって一回り小さい。

ウルスラ「予算も増えましたので」

ウルスラ「本来なら慎重に調べて行きたいのですが……」

ウルスラ「それぞれで実験を並列して行って、一気にデータをサンプリングしたいと考えています」

一気に使っていいのだろうか、と不安になる周り。


ウルスラ「まぁジェットストライカー用の予算も使ってますから」

ウルスラ「ついでにそっちのデータ取りもしています」

技術員A「えっ!?」

技術員B「予算減らされたんですよね……大丈夫なんですか?」

ウルスラ「監査が入っても、それっぽく誤魔化してゴチャゴチャにしてしまえば分かりっこありませんよ」

技術員C「は、はぁ……」

フフフ、となんか乾いた笑いをだすウルスラに、若干引き気味の二人の同僚。
眼鏡の反射で目がみえなくなっているのがその不気味さを増す。

技術員A(は、ハルトマン中尉どうしたんですか?)

技術員B(自分の研究開発をいろいろ振り回されてるから……)

技術員C(いろいろキテるのかも……)


ウルスラ「まぁいずれにせよ、大反攻作戦に間に合うようつくらなければ」

技術員A「えっ、どういうことですか」

ウルスラ「予算割増しの理由、どうやらV1を大反攻作戦までに完成させろということらしいです」

技術員B「き……急な納期指定……」

ウルスラ「昨晩速達で届きました……私もそんな話聞いていませんでしたが……」

ウルスラ「前もって作業を始めててよかったです。下手したら間に合わなかったかも」

頭が痛くなり始める。
今までが結構ラフな研究だったことが普通じゃないのだが、こういきなり言われるとキツイ。

技術員C「けどお金くれる代わりと考えると仕方ないんですかね」

技術員C「本当に急な話ですが」

技術員A「どうして予算案決定の時に伝えてくれなかったのか……」

ウルスラ「……皆、余裕がないんですよ」

けれども、とウルスラは考える。


ウルスラ(この急な動き、まず先日行われたという作戦会議の結果が影響してると考えて間違いない)

ウルスラ(どのような結論に達したかはわからないが、それによりV1の納期を決められた)

ウルスラ(完成できるかわからない開発品にここまで期待をかけられるものなのか)

そもそもこの計画はウルスラ独断の副次研究として細々と長期的にする予定だったものだ。
それをどこで見つけ出したのか、連合軍上層部がこの計画を買い上げた。
予算を正式に受け取れる分は幸運だったと言えるが、こうして口出しされる分の悪さもある。
だが今回は、それが変だ。

ウルスラ(むしろジェットストライカーの方が期間内に確実に配備可能、対ネウロイなら専用武装の50mmの方が大きな戦力になるはず)

そして何より、V1は海上での発射方法の目処すら立っていないというのに。

ぐるぐると頭の中を考えがめぐる。
昔に比べて柔らかい頭になったものだ、と思ったりもした。

ウルスラ(作戦が変更された、ということ……?)

ウルスラ(まぁいずれにしても、作戦の内容を知ることができない以上私から口出しできることはない、か)

開発者は兵器を作ることに集中すればいい。
そう切り捨てることにして、頭を切り替えることにした。



技術員A「そういえば、その納期っていつなんですか?」

一人がその締切を確認するために尋ねた。

ウルスラ「書類によれば」

ウルスラ「――“一月半後”を目途に、ですね」

「「……え?」」

しばしの沈黙と冷えた空気がその場を流れる。

技術員A「ひ、ひとつきはん?」

技術員B「冗談……ですよね?」

ウルスラ「『当初の仕様以下の試作品でもいいからとにかく目標に当てられるもの』という猶予付ですがね」

ウルスラ「だから『時間がない』ということでこういう方法を取っているんですよ」

後ろにならぶ複数のV1を振り返り、ウルスラがそのまま足を進めていった。

技術員C「改修じゃなくて未知の領域の開発を、この期間で……」

技術員B「で、でも一応基礎設計と動作成功のモデルはあるから何とか……」

技術員C「工期はどうすんのよ!実質この実験機で本番のデータ決めなきゃなんないのよ!」

技術員A「徹夜、必至だ……」

徹夜してできるものなのか。それすらわからない。
絶望に満ちた顔をして、三人の少女たちがウルスラの後をとぼとぼとついて行った。






ブリタニア ロンドン 扶桑海軍基地

津田「では、本当に「みらい」へ協力要請を?」

草加「そうだ」

基地施設の廊下を歩きながら二人が話す。

津田「……「みらい」は受けるでしょうか?」

草加「受けるだろう。事前の承諾も取れている」

津田「!」

何時の間に……と津田が驚く。

草加「技術提供に向けて会談をリークした時に、な」

あの時すでに、角松に対して作戦への関心を聞いていた。
まさかこの日を意図していたのか。

津田(すでに、あの時から少佐は「みらい」の取り込みを……)

草加「もちろん改めて正式な承諾を得には行く」


草加「前回の上陸作戦の失敗は巨大飛行型ネウロイの襲撃」

草加「だがあの戦艦の布陣であれば攻撃力は十分―――」

草加「事前に察知したうえで砲撃を加えれば、ウィッチの掩護がなくとも撃破できてる可能性があった」

草加「さらに今回は敵の本拠地。敵の航空兵力の見落としは艦隊の壊滅に繋がるのは必至だ」

草加「すべては『たられば』だがな」

そして津田が意図を察する。

津田「そこで「みらい」の電探……」

草加「探知距離ももちろんだが、あの艦の情報処理能力は我々をはるかに上回っている」

草加「欲を言えば「みらい」を旗艦に立て作戦司令部を置きたいが……流石に無理だろう」

草加「だが戦場全体の把握を随時行い、そのチャンスを逃すことがあってはならない」

津田「………」

この人は、どこまで考えているのだろう。
ただ勝つだけではない。その先も、この人は考えている。


草加「決戦の日は近い」

草加「作戦で出さざるを得ない手札を迫られて、大将は焦っているはずだ」

草加「近いうちに必ず動きがある。見逃すな」

津田「将官クラスの監視となると厳しいものがありますが……最善は尽くします」

草加「ポーツマスの方は下げていい。対象の監視に回せ」

津田「は……」

その指示を記憶にとどめ、後に続く。



津田「ところで、その大反攻作戦の期日はいつなんですか?」

草加「―――作戦可能な状態になる“二ヶ月後”だ」

草加「年を越す前に、ガリアへ乗り上げる勢いだ」






第十八日目

501基地 医務室


コンコン、というノック音と共にドアが開かれた。

芳佳「失礼しまーす」

森「あれ、宮藤軍曹?」

呼んでいた本をゆっくり起き、その方向へ振り向く森。
宮藤は、いつもの扶桑制服に看護婦用のエプロンを着ていた。

芳佳「先生に代わって検診に来ました」

芳佳「何か痛いところや気分悪くなったとかはありますか?」

森「今のところは、何も問題ないです」

芳佳「本当ですか?よかったです!」

一応体を起こし、読書程度なら問題ないほどに回復をしていた。
しかし依然として一人で日常動作をすべてこなすのは難しく、また悪化の可能性もあるので要安静だ。

そしていつも通り、治癒魔法で治療を開始する。


森「宮藤軍曹も、いつもありがとうございます」

森がここまで回復できたのは、宮藤の治癒魔法による効果が大きい。
瘴気という自分たちに未知の汚染を少しずつ治してくれていた。
こればかりは魔法がなければどうにもならなかっただろうと、主治医の先生も大層安堵していたのを覚えている。

芳佳「いえ、これが私のやるべきことなんです」

芳佳「だからむしろどんどん頼られたいというか……」

ちょっと調子に乗りすぎましたかね、えへへ、と頭をかいて笑みを浮かべる宮藤。
その笑みは森に安心を与えたが、言葉がのしかかることとなった。

森「……宮藤軍曹、俺がいない間、何かあったりしましたか?」

芳佳「ネウロイの襲来が少しばかりありました。2体は逃げていったみたいで、うち一体はちゃんとやっつけました」

宮藤が手慣れた動作で脇に置いてあった小道具類を整理する。

森「海鳥がどうなってるかっていうのは……」

芳佳「海鳥は……ちょっとわからないです」

芳佳「でもつい最近まで、格納庫にヘリコプターがあったのを覚えてます」

恐らくシーホークだろう、と森は察した。


シーホークの陸揚げ、つまりつい最近まで海鳥が甲板を占拠していたということだろう。
それが格納されたということは、修理ができたのだろうか。
もしくは……

森「宮藤軍曹、一つお願いできませんか?」

芳佳「……海鳥のことを聞きに行くというなら、聞けません」

森「………」

思ってもなかったその凛とした返事に、森はたじろいだ。
宮藤は優しい性格であると通っていたので、てっきり聞いてくれると踏んでいたのだが。

芳佳「まだ病人なんです。ちゃんと寝ていないとだめです」

確かにそうである。
今復帰したとしても、傷の重いこの腕で射撃手は務まらないだろう。


芳佳「……戻って戦いたいんですか?」

森「え?」

芳佳「以前のバルクホルンさんもそうでした。不調なのは明らかなのに無理に出ていって……」

バルクホルンが掩護を待たずに無理をして落ちかけ、「みらい」へ運ばれた話だ。
よく覚えている。

芳佳「軍人さんは、みんな一生懸命になりすぎて無理をしてる人が多すぎます!」

宮藤が必死な目で訴える。


森「……焦り、じゃないですか?」

森が少し考えてそう返した。

芳佳「焦り……」

森「人が戦うとき、それは確かに命令を下されたからかもしれません」

森「でも、心のどこかに、何かしら戦う理由があるはずなんです」

森「祖国を一日でも早く助けたい、バルクホルン大尉はそう考えていたんじゃないですか」

森「だから皆、無理をしてでも戦おうとしている……のかもしれないです」

宮藤は納得いかないような顔をし続けている。
元々軍人気質ではない彼女にとって、理解しづらいものなのかもしれない。

芳佳「……じゃあ、森二尉もなにか理由があるんですか?」

芳佳「そこまでして戦わなきゃいけない理由が」

森「………」

その答えに詰まった。
いや、自分では理解しているのだが、いざそれを表せと言われて詰まっている。


森「『守るため』」

そして出てきた答えがこれだった。

芳佳「……「みらい」を、ですか?」

森「なにを、かは漠然としてよくわからないですが」

森「ただ、俺たちはこの世界でないずっと遠くから来ました」

森「『日本』を守る俺たちなのに、ここにはその故郷もなくて……」

森「どこへどうやって帰れるかもわからない。そんな俺たち唯一の家が「みらい」なんです」

森「けど「みらい」だけが助かればいいだけではない。日本のないこの世界だって、人が生きている」

森「そのために艦長や皆は戦っています。そして俺も、佐竹一尉も」

森「けどこうやって今、俺は無力なまま、横たわっているだけ……」

自分の未だ自由には動けない体を見て力が抜ける。

森「……やっぱり俺も焦っているだけなのかもしれませんね」

森「やれるはずの事をやらずに失敗するのは、きっとひどい後悔だと思いますから」

その不意に出た森の苦笑いを、宮藤が見つめていた。





第二十一日目

「みらい」士官居住区


その一室で、菊池が報告書を書いていた。

菊池(先日、草加少佐より大反攻作戦――オペレーション・ジェリコ――への参加要請が来た)

菊池(角松艦長はこれを承認。作戦への支援が決まった)

菊池(これはこちらの提示した条件がほぼ無条件に飲まれたことで、協議は驚くほど順調に進んだためだ)

菊池(以前の偵察作戦以上に重要な作戦にもかかわらず、草加少佐の権限で譲歩を行うなど、疑問点は多くあったが……)

菊池(いずれにしても、我々の行く先は決まったことになる……)

ペンを置き、背伸びをしてちょっと気を抜く。
そこへ同居人の尾栗が部屋へ入ってきた。

尾栗「……毎夜報告書の作成か」


尾栗「501にでも提出するのか?」

菊池「習慣みたいなものだ」

冗談を真面目に返す菊池。
そんな気の知れた仲である。

菊池「尾栗、お前はこの作戦参加、どう思う?」

尾栗「俺か?」

そうだな、と剃ったばかりの顎を擦る。

尾栗「良いと思うぞ。なんたって人類の命運をかけている作戦、それを支援できるんだ」

尾栗「前線でなくとも、「みらい」のレーダーと防空能力をフルに発揮してやればいい」

意気込むように自分の拳同士を勝ち合わせる尾栗。

菊池「そうか……」

そう報告書に目を落とす菊池を、尾栗が察した。

尾栗「不安か?」

菊池「当たり前だ」


菊池「……これまでの通り、俺たちはもう『超越者』ではいられなくなった」

菊池「兵器の性能こそ異次元だが、完璧な存在ではない」

菊池「傷も負えば、死にもする―――それを俺達も、向こうも実感している」

尾栗「だが、どの道この戦いを抜けなきゃ人類はまた一歩追いつめられる」

尾栗「俺たちだって同じだ。人類が追いつめられれば、よそ者の俺達なんか立つ瀬がない」

尾栗「……もう、この世界と俺たちは一蓮托生なんだよ」

菊池「………」

尾栗「もちろん俺だって、無条件によしとするわけじゃない」

尾栗「当分の間はこの世界とうまく付き合っていこうって話さ」

尾栗「ま、そこらへんは洋介に任せるが」


菊池「……洋介の奴も、同じことを考えていると思うか?」

尾栗「そうなんじゃないかね」

尾栗「今回の件だって、うまいこと俺達の条件をトントンと持ち込ませてたじゃないか」

菊池「………」

菊池には、あれには裏――というほどでもないが何かがある、そう感じ取っていた。

菊池「隊員たちはどうだ」

尾栗は一番目に見て隊員に接している。
だからそのことを聞いた。

尾栗「あいつ等か……」

少しばかり口がまごつく。
「みらい」の被弾、海鳥の被弾、二つとも直に感じたのは一般隊員が多いからだ。

尾栗「あいつらも自衛隊員である前に一人の人間だからな……」


「みらい」科員食堂


航海の中、やることを終えた隊員は相変わらずここに集まる。

杉本「……なんか、やる気でないっスね」

柏原「ま、最近は接敵さえ少ないからな……」

杉本「なんかシカトされてるってか、避けられてるって感じですね」

テーブルの一角に麻雀牌が広げられているが、今は誰も遊んでいない。
ただなかなか盛り上がるといったこともなく、ただ話をしているのが細々といるくらいだった。
もしくは一人で読み飽きた本や雑誌を読む程度だ。

榎本「戦いがないのはいいのかもしれませんが」

榎本「やることもないと、やる気すらなくなるってことですね」

柏原「やれることがわかってきたから、かもな……」

ふぅ、とため息をついた。

青梅「なんだなんだ、湿っぽくなってやがる」

そこへCICから休息に入った青梅がやってきた。

杉本「いやァ、なんかこう、穏やかな海だと虚しいっつうか」


青梅「なら連日ネウロイの襲撃が来てほしいか?」

杉本「ウヘェ、それはそれで勘弁して下せえ」

杉本「こっちは海鳥も――」

青梅「………」

杉本(オッ……と)

また一際雰囲気が沈む。


そしてその声が聞こえるか聞こえなかったかのタイミングで見慣れない男が入ってきた。

佐竹「ヨッ、元気にしてるかお前ら」

杉本「佐竹一尉!?」

予想外の人物に驚く。
そもそも飛行科の隊員が食事以外で来ることはなかなか見なかったのもある。

青梅「病院にいるはずでは?」

佐竹「なぁに、かすり傷さ」

腕に巻かれた包帯を見せながら、そこをバンバン叩いて無事を見せつけた。

佐竹「海鳥があんな状態じゃ、呼び出しかかっても出られんからな」

佐竹「ブリーフィングルームでいるのも何だし、こっちに来たってだけさ」

「「………」」

やせ我慢なのか本当に気にしていないのか、返答に困る。


青梅「そういえば佐竹一尉、海鳥は修理できるんです?」

沈黙破るかのように青梅が尋ねた。

佐竹「どうだろうな。整備員の話じゃ、無理ではないって事だが……」

佐竹「一応修理はする予定ではあるらしい」

佐竹「ま、艦長あたりの明確な指示が出るまでは、後回しってだけさ」

杉本「……大反攻作戦には、間に合いそうですかね」

佐竹「どうだろうな……」

佐竹「どの道海鳥が戻っても、森二尉が射撃手に戻らんと飛べはせん」

佐竹「林原の奴もセンスはいいが、専任じゃないからな」

杉田「でも、助かっただけマシですよね」

佐竹「あたりめえだ、バカヤロウ」

そしてこつんと冗談半分に頭を小突く。


柏原「助かった、か」

柏原「ホント、芳佳ちゃんには感謝しなきゃな」

杉本「ですね」

杉本「そういえば「みらい」被弾の時、桂木一曹の怪我も直してくれたんですよ」

杉本「息絶え絶えの致命傷だったのに、今じゃ普段通りに艦内作業してるからなぁ」

青梅「宮藤様々、だな」

榎本「俺達は科学の力でオーバーな攻撃をかけられる以上に、あの子たちの魔法に助けられてますからね」

榎本「特に助けられた恩は返したいもんです」

杉本「……恩返し、か」

榎本「いつか、みんなでパーティでもしたいですね」


その言葉に皆が「おっ」となる。

杉本「イイっすね、ここでも貸し切って、食事会でもしますか」

杉本「炊飯長、どうです!?」

奥で準備をしている炊飯長に投げかけた。

炊飯長「材料と幹部連中の許可が下りたらな!」

青梅「航海長はいいとして、砲雷長をどうにか丸め込まないとな」

柏原「と言うか杉本、お前はただ合コンもどきをしたいだけだろ」

青梅「相変わらずだな、杉本一曹」

「「ハハハハハハ!」」

柏原「……どの道、そんなことは作戦が終わってから、だな」

ふぅ、と息を吐いて背もたれに腰掛ける。


榎本「しかし作戦日まであと二ヶ月……ですか」

杉本「どうなるんすかねぇ……」


「みらい」艦内 医務室前通路

尾栗「桃井一尉!」

桃井「あら、尾栗三佐」

医務室へ入ろうとした桃井を、丁度いいタイミングに出会えた尾栗が呼び止めた。

尾栗「さっき佐竹を見たが、本当に腕は大丈夫なのか?」

科員食堂へ向かう佐竹を見つけた尾栗はそれが気になっていた。

桃井「様子を見る限りは大丈夫だと思います」

桃井「元々傷は浅い刺し傷程度だったので、森二尉に比べれば問題ありません」

桃井「無理さえしなければ、翌週には機の操縦もできるくらいには完治してるでしょう」

尾栗「そうか……」

一安心、といったように息をつく。


桃井「……でも、まだ安心できる場合じゃないんじゃないですか」

尾栗「?」

桃井「艦の雰囲気、振れが多いとおもうんですが」

そのまま二人で医務室に入り、適当に話を続ける。

尾栗「食堂の連中か?あいつらの事ならよくある話だろ」

何かと浮き沈みが激しいのを尾栗はよく知っている。
しかし任務においてはその変動の影響をほとんどうけない優秀な隊員であることも、よく知っている。

が、返ってきたのは予想とは違う答え。

桃井「幹部の人たちですよ。特に菊池三佐」

尾栗「雅行?」

桃井「悩んでません?あの人」

尾栗「悩み……」


先の士官個室での話を思い出す。

尾栗(作戦について聞いてたのはそういう事だったのか……)

尾栗「よく気づいたな」

桃井「これでも、カウセリング兼任ですからね」

桃井「参っているわけではないようですけど」

尾栗「悩んでいるというのは的確だな」


桃井「あの人、頭は切れるけどどこか弱いから」

桃井「何かするにしても、自分が納得できる『意味』みたいなものを求めてしまう……」

桃井「計算を正確にできる分、目指す答えや公式がないと弱いのかもしれない」

尾栗「頭が回る故の弱さか……」


尾栗「雅行の奴も、悩んでいるならはっきり言ってくれりゃいいんだがな」

桃井「しっかりしてくださいよ?」

桃井「角松二佐と尾栗三佐、一番あの人に近いのはあなた方なんですから」

尾栗「学生長やってた洋介に任せたいもんだが、あいつも不器用だからな」

そんなことを話しているうちに時間がたったのか、艦内放送が流れる。

『航海長、至急艦橋へ』

尾栗「っと、そろそろ交代か」

そう挨拶だけして尾栗が退出する。
扉が閉じたのを確認した後、ぼやいた。

桃井「指揮官が弱音を吐けるわけないでしょう……」

桃井「それに、不器用なのはあなたもでしょうに」

桃井「大変ね、オトコの人って」






第二十五日目

501基地 格納庫


『定時哨戒、発進用意!』

増加された哨戒のために出撃準備が行われる格納庫。
ミーナに搭乗員割りされた通り、ペリーヌがストライカーを履いて待機していた。

ペリーヌ「遅いですわよ、宮藤さん」

芳佳「ご、ごめんなさぁーい!」

駆け込む宮藤を呆れた目で急かした。

とっとっとっと、慣れた足取りで拘束具の上を歩き、ストライカーユニットへ足を滑り込ませる。

ヒュイイイイイン ピコッ!

ペリーヌ「発進、よろしくて?」

芳佳「発進よしです!」

『西の風、やや弱い風』

『雲量4、積乱雲が確認されています。注意してください』

ペリーヌ「了解。拘束具解除、発進します!」

芳佳「はい!」

管制の指示の後、二人が発進した。






ドーバー海峡 上空

ゴオオオオオオオ……


天気はいいものの、高い雲の多い空。
その上を二人は飛んでいた。

ペリーヌ「異常は見当たらなくて?」

芳佳「なんもないです。雲が多いけど静かな空です」

芳佳「ネウロイが本当に来ているなんて、思えないほどに……」

ペリーヌ「油断大敵。そうだからといって、警戒を緩めるのは禁物ですわよ」

ペリーヌ「最近のはどこからくるかわかりませんから」

そして耳の無線をつなぎ、報告を始める。

ペリーヌ「……ペリーヌです。定時連絡、異常なし」

リーネ『て、定時連絡異常なし!了解しました!』

ペリーヌ「あら?」

しかし向こうから帰ってきたのは上官の声ではなかった。


芳佳「あれ?リーネちゃん、無線士になったの?」

リーネ『何かいろいろあるからって、ミーナ中佐から突然任されちゃって……』

ペリーヌ「任されたからには、ちゃんと仕事をこなしておいてくださいな」

リーネ『は、はい!』

無線機の向こうから書類をめくって書く音がした。
余程慌て始めてるのか、どたばたしている。

ペリーヌ「まったく……」

芳佳「リーネちゃんはちょっと慌てんぼなところもありますから……」

ペリーヌ「あなたも、ですわよ。しっかりしてくださいな」

芳佳「は、はいぃ……」

戒められてしゅんとする宮藤。


しばらく何もない空。
警戒を続けつつ北の空へ哨戒航路を取る。

芳佳「……ねぇ、ペリーヌさん」

ペリーヌ「なんですの?」

芳佳「ペリーヌさんの故郷ガリアって、ネウロイに占領されてるんですよね」

ペリーヌ「……ええ、そうですわ」

いきなり何の話をしているのか、と思いつつ適当に返す。

ペリーヌ「それが、どうしまして?」

芳佳「ペリーヌさんは、やっぱりガリアを取り返すために戦っているんですか?」

ペリーヌ「そうよ、何を当たり前のことを……ああ、そう」

ペリーヌ「あなたにはそういうはっきりした理由、なかったんでしたわね」


少しばかり嫌味らしくいうと、宮藤が少しばかりしょげる。

芳佳「理由は……あります」

芳佳「誰かを守りたいってだけじゃ、ダメですか?」


その反論にペリーヌが目を丸くする。

ペリーヌ(戦う事すら嫌っていた子が、ここまではっきりと……)

ペリーヌ(……成長した、と言ってもいいのかしら)

少しばかり、この豆狸に対する認識を改めていいのかもしれないと思った。
狸、狐あたりに進化させてもよさそうか。

芳佳「でも、確かに私にはそういうはっきりした使命というか具体的な目標みたいなものはなくて……」

芳佳「やっぱり、寂しくて、命以上をかけても取り戻したい……んですよね」

ペリーヌ「……生まれ育った故郷、家族、友人」

ペリーヌ「それらを失って、悲しまず、怒りに震えない人などいて?」

ペリーヌ「自分の身に置き換えて考えてみなさいな」

芳佳「うっ……」

ペリーヌ「……祖国――帰る場所を失うのは、その国に住む者にとってとても辛いこと」

芳佳「だから、みんな必死なのかな」

ペリーヌ「当たり前のことでしょう」


芳佳「でも、わかりません」

芳佳「それで死んでしまったら、意味ないじゃないですか」

ペリーヌ「任務を遂行して、祖国奪還の礎や壁となる」

ペリーヌ「それが私たち軍人でしょう」

芳佳「………」

人間、自分で直に感じない限りわからないことがあるものだ。
他人に感情移入しやすい彼女も、戦争に命を懸けることは理解しがたいのだろう。

ペリーヌ(自己犠牲という観点から見れば、危険を顧みず助けに行くあなたと同じに思えるのだけど)

だからこそ、忠告する。

ペリーヌ「いつの時代であろうと、片方が無傷でいられる戦いはない―――これまででよくわかっていると思いますが」

ペリーヌ「ましてや双方傷なく、なんて夢物語」

ペリーヌ「もしそんな甘いたわごとをまだ持ち続けてるのなら、今すぐ捨てなさい」

ペリーヌ「このままウィッチを続けて戦うのなら、その現実を受け入れることよ」

芳佳「………」


ウウウゥゥゥゥゥウウウウ!!

「「!?」」

リーネ『……け!警報です!』

その無線と同時に、全域まで聞こえるほどの警報がなった。

芳佳「ネウロイが出たの!?」

リーネ『「みらい」から入電!ネウロイ発見!』

ペリーヌ「位置は?」

リーネ『えっと、場所は……グリッド東23です!』

ペリーヌ「かなり北寄り……また「みらい」が南に出ているときを狙って……!」

芳佳「少し遠いけど、ここからなら基地よりは早いです!どうしますか?」

ペリーヌ「リーネさん、とにかくミーナ中佐に連絡して指示を―――」

ミーナ『その必要はないわ』

そこへ無線の主が変わるのが聞こえた。

ミーナ『事情は把握しました。あなたたちはどこに?』

ペリーヌ「哨戒航路E-6、基地からそこまで離れてません」


ミーナ『そう、わかったわ。コース予測によれば一直線に――』

その後ろから足音、その音に反応するかのようにミーナが振り向く音がした。

ミーナ『ちょっと……美緒!?』

ミーナ『え、援軍をすぐ出すわ!二人はその場で待機!』

プッと無線が切られる。

芳佳「ペリーヌさん!」

ペリーヌ「聞いた通りよ、しばらくはここで待機」

芳佳「……あれ?」

宮藤の視線の先の雲の向こうに、黒い影が見えた。

ペリーヌ「宮藤さん?」

芳佳「ペリーヌさん、あれ!」

ペリーヌ「……ネウロイ!?まさか!」

先の報告位置とは遠く離れている。
しかしたしかに、そこに黒く赤い場違いな物体が飛行していた。

芳佳「わたし、先に行きます!」

ペリーヌ「ちょ、ちょっと!」

命令違反の発言にたじろいでしまうペリーヌ。


芳佳「理由はともかく、もうすぐそこまで来ているんです!」

芳佳「倒せはしなくても、足止めくらいなら……」

芳佳「このままじゃ、ブリタニアの人たちが危ない!」

ヴォオオオン!

ペリーヌ「お待ちなさい!!命令違反ですわよ!」

そのままペリーヌの制止を振り切り、宮藤が先行した。

リーネ『ペリーヌさん!「みらい」から入電で別のネウロイが近くに―――』

ペリーヌ「すでに肉眼で確認しましたわ」

ペリーヌ「それより、宮藤さんが独断で先行よ」

リーネ『芳佳ちゃん一人だけですか!?』

ペリーヌ「止めたのだけどね……」

ペリーヌ「私はこのまま宮藤さんを追います。ミーナ中佐に報告を!」

リーネ『は、はい!』


「みらい」CIC

『対空戦闘用意!』

警報に慌ただしくなる「みらい」。
いつものようにレーザーが探知した機影を処理していく。

角松「新目標の距離方位は!?」

青梅「第一目標、方位0-4-0、本艦との距離110km」

青梅「グリッド東23を西へゆっくり移動中」

青梅「第二目標、方位0-1-5、距離20km」

青梅「針路2-1-0、ブリタニア方面です」

菊池「501へ連絡は?」

青梅「先ほど入れました。現在本隊が出撃準備中とのこと」

CICのモニターに浮かぶ二つの目標光点。

菊池「目標、いやに小さいな」

青梅「横幅こそ違いますが、ウィッチに近いかそれ以下の大きさですね」

青梅「もう一つは、ウィッチとほぼ同じ大きさです」

すると、光点が素早く動き始める。

青梅「……第二目標増速、哨戒班に急速接近!」

青梅「早い!」

その動きは平均的なウィッチより早く、あっという間に接近する。


そして停止したままの哨戒班のすぐそばまで近づいた。

角松「まずい、哨戒班に直接緊急連絡だ!」

青梅「……いや、これは」

レーダー上の変化にいち早く気付いた青梅が言葉を濁す。
先ほどまですさまじい速さで進んでいた光点がピタッと止まった。

青梅「……第二目標反転!針路0-8-0!」

角松「変針……!?」

止まった点は不意に反転、元の方角へと引き返していく。
ただ、その速度は先と比べてゆっくりだ。

菊池(不意打ちに近い行動のこのタイミングで……なぜ?)

ネウロイの目的が奇襲であるとするならば、なぜここで引く。
一撃離脱型のネウロイ―――であるならば先ほどの速さで離脱するべきだろう。
なのに、まるで撃ってくれと言わんばかりの遅い退き方。

意図を読めない行動に何か不審に思う菊池。
その光点の方向に向かう別の光点に目を引いた。


青梅「第二目標を追尾する目標有……」

青梅「ウィッチ、哨戒班のウィッチが第二目標を追跡開始!」

角松「!」

菊池「信号は?」

青梅「……識別信号、哨戒班の宮藤軍曹機です!」

角松「宮藤軍曹!?」

菊池「待機命令がでていたはずじゃないのか!?」

先ほどの指示無線は聞いていた。
哨戒組の二人には待機命令が確かに出ていたはずだ。

角松「クロステルマン中尉が同行しているはずだ。彼女は?」

青梅「依然として待機……いえ、追跡開始しました」

青梅「ですが航路的に宮藤軍曹を追ってるように見えます」

菊池(独断…専行……!)

角松がインカムのマイクを手にし、宮藤に向けて通信を開いた。

角松「宮藤軍曹、聞こえるか」


海峡上空


芳佳「はい!」

角松『君には待機命令が出ているはずだ』

角松『単独での会敵は危険だ。戻れ!』

芳佳「もうそこまできているんです!足止めくらいなら……!」

角松『足止めは我々で十分だ、至急に―――』

ブッと音声が切れる。「みらい」との通信が切れたのだ。

芳佳(あれ?どうしたんだろう)

気になりはしたが、今は目の前の敵を把握しておかなければ。

芳佳「これくらい、私にもできる」

芳佳「私がしないと、みんなが危なくなる、間に合わなくなるかもしれない……」

芳佳「だから、今―――!」

宮藤は妙な自信と使命感、責任感を持っていた。
ただ、それは『焦り』でもあるということを彼女は感じていなかった。

だから、彼女は自分の位置がブリタニアから離れる方向へ誘導されていることに気付かなかった。


「みらい」CIC

青梅「こちらからは発信できています。受信側に障害があるかと」

突如切れた通信に不安を抱いていた。
だがそれ以上に、菊池は目の前の問題に不安を抱いていた。

菊池(まずい……)

菊池(向かってる方向は間違いなく『巣』の方角……)

菊池(あのネウロイ、おそらく誘導用の囮だ)

菊池(単機だと無警戒についてきたところを一気に叩かれる可能性も……)

徐々に狭まる二つの光点。

角松「砲雷長、二機の接触する前にスタンダードを第二目標に当てられないか?」

菊池「……両機の接触予想時間は?」

青梅「約3分後!」

菊池(マッハ3で飛行するスタンダードなら一分以下、十分間に合う)

菊池「今撃てば、十分かと。許可を」

角松「許可する。第二目標を撃墜し、第一目標及び宮藤軍曹機との会敵を阻止せよ」

菊池「アイサー」

菊池「前甲板VLSスタンダード1セル、諸元入力!」

菊池「発射!」

CIC員A「スタンダード、発射!」

ガチ、という音と共にスタンダードの光点が目標へ向かっていった。


501基地 司令室


その高い位置にあるため、エレベーターが設けられている指令室。
その手前で、ミーナと坂本が対峙していた。

ミーナ「本気なの?」

坂本「嘘は言わんさ」

ミーナ「嘘ばっかりよ、あなたは」

ミーナ「シールドを維持できるほどの魔法力もないのに、どうして……」

坂本「……私も二十歳だ。魔法力が限界になりつつあるのも知っている」

坂本「その拳銃の弾さえ受け止められるか怪しい」

ミーナが右手にそっと持っていた銃をみて微笑みながら返した。

坂本「だからこそ、今やれることをやっておきたいんだ」

ミーナ「……宮藤さんのこと?」

坂本「飛ばなくてはならんのだ。あいつのためにも」

ミーナ「あの子だって時期に一人前になるわ。あなたはもう十分……」

坂本「いや、まだいけるさ」


坂本「まだまだ宮藤は高く飛べる。私はそう信じている」

坂本「だからこそ、空の上で見ていたいんだ」

ミーナ「………」

坂本「そしてその時まで、私はそのそばで飛び続けたい」

坂本「たとえ、この体にガタがきてもな」

ミーナ「……あなた、いつか言ってたわよね。『無事に帰れば、また来られる』って」

ミーナ「でもそれじゃ自分で自分の言ってること、何もわかってないじゃない!!」

坂本「馬鹿者と言われても仕方ない」

坂本「だがわかっているからこそ、無茶に走ることもあるのさ」

坂本「わかってくれ、ミーナ」

ミーナ「わからないわよ……言ってる事めちゃくちゃよ……」

坂本「……心配するな。それを見届けるまで、私は飛んでいるさ」


チン、と背後にあったエレベーターが到着する音が聞こえる。

ミーナ「………」

ミーナの銃を構える姿勢が強くなる。
腰だめでとどめていた構えを解き、照準を顔の前に持ってきて狙いをつけ始める。
片手で十分なほど密着に近い距離にもかかわらず、両手で持ちつつ足を開いてしっかりした姿勢にしているのは、狙いを外さないためか。

カチ、と今までかけてあった安全装置を外す。
互いに動きもしない一瞬の間。


その時、リーネが駆け込んできた。

リーネ「大変です!芳佳ちゃんが勝手に一人で先行を!」

ミーナ「なんですって!?」

思いがけない報告にリーネの方を見る。

リーネ「新しい目標がブリタニアすぐ近くを通って、それを見た芳佳ちゃんが焦って……」

ミーナ「そんな、単機でなんて……美緒!」

目を少しばかり離した隙に、エレベーターの格子状のドアが閉まる。
その場にいたはずの坂本がいない。エレベーターの中だ。

坂本「悪いな。宮藤のところに行かねばならん」

ミーナ「待って!――美緒!!」

それにかまわず、エレベーターが下降していった。


ウィイイイイイ……

エレベーターが降りる機械音だけが響く。

拳銃を持った腕をだらりとたらし、涙目になる。
状況を把握できていないリーネが戸惑いつつ指示を仰ぐ。

リーネ「えと、ミーナ中佐……」

ミーナ「………」

ミーナ「夜間哨戒組を除き、至急に全員を招集」

ミーナ「宮藤軍曹と坂本少佐に合流、援護に回って。私はここで連絡兼指揮を取ります」

リーネ「りょ、了解!」

放送機材のある方へかけていくリーネ。
それを見送った後、自分の拳銃のマガジンを外す。

ミーナ「………」

スライドを引くと、薬室内に装填されていた一発が吐き出されて落ちていく。

ミーナ「美緒……」

手元のマガジン、その中に弾は入っていなかった。


海峡上空


分厚い雲が広がる空、宮藤は目視だけを頼りにネウロイを探していた。

芳佳「どこいったんだろう……こっちのはずなんだけど」

ドォン、とどこかで小さい爆発音が聞こえた気がした。

芳佳「ん?なんだろう」

対空砲にしては、一発なのが不思議だ。

だが目視していない中、この音が「みらい」のスタンダードが雲の下でネウロイを一つ落とした音だということに宮藤が気付くはずがなかった。

芳佳「早く見つけないと……」

一面に広がる雲。そのおかげで下が見えない。
今すでに宮藤は海上に出ており、ブリタニアから離れつつあった。

芳佳「逃げちゃったのかな」

そう思うのもつかの間、視界の端に赤い反射が見えた。

芳佳「……みつけた!」

一気に加速し、雲に紛れつつ相手の方へ接近した。






ゲルト「少佐、夜間哨戒班とミーナ以外は全員集合した」

坂本「よし」

基地より少しばかり離れたところで機動しながら隊列を組む。
そして先行していたペリーヌと合流した。

坂本「ペリーヌ、宮藤は一人で先行したんだな」

ペリーヌ「はい……」

坂本「どのあたりに行った」

ペリーヌ「それが、積乱雲と乱気流に阻まれて、雲に入られた後見失ってしまいました」

坂本「乱気流?どこにもそんな気配はないが」

シャーリー「突発的な気流だったかもしれません」

シャーリー「こんな雲の多い空、どんな方向に流れが変わってもおかしくない」

奇妙だと言わんばかりの顔をするシャーリー。
その通りに、今日の空は快晴ながら、分厚い雲がところどころに点在していた。



ペリーヌ「すみません、わたしくしが止められなかったばかりに……」

坂本「その件は後だ。まずはネウロイと宮藤が先だ」

無線を切り替え、別の方へ向ける。

坂本「「みらい」聞こえるか。宮藤たちの位置を教えてもらいたい」

角松『こちら「みらい」CIC、了解』

角松『……貴部隊より東のおおよそ同高度に10km、確認できないか?』

坂本「だれか視認できないか?」

リーネ「ダメです、雲が多くて……」

エーリカ「こりゃ遠方を探すのも一苦労だよ」

坂本「くっ……」

魔眼を通しても、宮藤の姿は見えない。
ここはいったん視界を広げるか。

坂本(上に出るか、下に出るか……)


501基地 司令室


エイラ「宮藤に直接無線をかけることはできないのか?」

ネウロイの反応に起きてきたサーニャとエイラが寝癖を付けたままやってきていた。

ミーナ「それが、妙な積乱雲のせいなのか電波障害が起きてるみたいなの」

ミーナ「よりにもよって、こんな時に……」

エイラ「妙なネウロイと電波障害を起こす積乱雲……出来過ぎじゃないか?」

エイラが妙な顔をしてレーダー画面を見ると、その一部に変な反射波が映り込んでいた。
雲らしいが、それにしてはぐちゃぐちゃしている。

サーニャ「「みらい」の電子戦サポートは……?」

ミーナ「宮藤さん側が障害に気付いて無線を切り替えればできるけど……」

ミーナ「対策といったって周波数変更だもの。そう早く根本的な無線強度は変えられないわ……」

エイラ「アイツ一旦走り出すと周り見えなくなるからな……」

エイラ「切り替えなんて、ゼッタイ頭に残ってないぞ」

サーニャ「芳佳ちゃん……」






「みらい」CIC

角松「やはり宮藤軍曹と連絡は取れないのか」

部隊には繋がるも宮藤だけにつながらない。
先の切れた通信を不審に思い、調べさせていた。

青梅「先の通信直後より、対象付近に異常障害を感知」

青梅「どうもあの積乱雲が電気をため込んで空電ノイズを起こしているようです」

角松「こちらからは手出しできないか……」

青梅「我々の無線出力ならいけるかもしれませんが、この時代の無線だと……」

それに付け加えるかのように菊池が補足する。

菊池「アナログとデジタルを相互変換できる装置を、我々は持っていない」

菊池「ウィッチの無線との同調でやっていることは『基地での中継』―――トランシーバーと電話の受話器を重ね合わせてるようなものだ」

菊池「無線の性能自体はこの時代のと同等になる」

応急とはいえ、これが施せる処置の限界でもあった。


青梅「デジタルでない以上、雷の影響は回避困難……」

青梅「特に魔力通信と言えど、音声通信は影響の少ない帯域へ変更しない限り難しいでしょう」

ダイヤルを回しつつ青梅が答える。

角松(我々にできるのは、向こうが気付いて同調してくれるのを待つだけか……)

だが、その気配はない。

角松「もう一つの目標はどうだ?」

青梅「ダメですね。スタンダードの射程圏外をギリギリで浮遊しています」

菊池(そもそも今回の出現さえ、我々が南に出た時にタイミングよく北に現れた)

菊池(そしてこの距離のとり方。まるでこちらの眼を伺っているかのようだ……)

まさかそんなことはあるまい、と思うが。

青梅「……しかし、このまま宮藤機が進めばいずれ会敵します」


菊池「だが、手前のネウロイは落とした」

角松「これであきらめて帰ってくれればいいが……」

スクリーンを見つめつつそうつぶやく。
だがその期待に反し、残ったままのもう一つのネウロイ光点が動き始めた。

青梅「……!! 気づきやがったな……」

青梅「第一目標変針、宮藤軍曹機へ向かいます!」

青梅「宮藤軍曹機も同じく変針」

青梅「双方真直ぐ向かう……速い!」

第二目標の速度か、それ以上の速さで

青梅「会敵まであと1分!」

角松「スタンダードはどうか?」

青梅「間に合いません!撃てば巻き込みます!」






海峡上空


あれから宮藤は逃げるネウロイを追い続け、やがて追いついた。

芳佳「ねぇ、あなたは……誰なの?」

だがそこにいたのは、おおよそネウロイと取る事のできない形容をしたものがいた。

芳佳(ウィッチ……?)

芳佳(でも、コアみたいなのがあるよね……)

ネウロイ「キュィィィ……」

人型、それもまるでウィッチを象ったような様子だ。

芳佳(……以前現れたネウロイは、サーニャちゃんの歌を歌っていた……)

芳佳(もしかして、ネウロイは私たちの真似をしているのかもしれない)

そして何より気になったのが、これほど接近―――触れ合っていながら攻撃するそぶりを見せないこと。
手を伸ばせば、コアを殴り倒すこともできるかも―――。

芳佳(それは無理かな……)


すっかり気の抜けたことに気付かない。
でも、それは向こうも同じだ。

芳佳(ほら、こうやって手を繋いで……)

掌はないためこちらが掴む形になるが、それでも嫌がる様子はない。
スロットルを弱めて、回転しながら自由落下。

ぐーるぐーるぐーるぐる。

芳佳「あはは、はははは!」

芳佳(ネウロイもこうして触れ合える。だったら……)

なにも、この背中に背負っている武器だなんて―――









「何をしている、宮藤!!」






.


芳佳「坂本さん!?」

積乱雲を突破し、無線が通じたため耳に大きく響く。

坂本「戯れをやめろ!すぐに撃て!」

芳佳「待ってください!この子は―――!」

編成を抜け出してこちらへ殺意を向けながら向かってくる。
その勢いに押され、とっさにネウロイを庇う体制を取る。

坂本「そいつは敵だ!惑わされるな!」

芳佳「でも―――」


坂本「撃たぬなら……」

銃を正面に構える。宮藤越しの敵のはみ出た部分を狙う。
そして、引き金を引いた。

坂本「そこをどけえええええええ!!」

ダダダダダダダダダダダダダ!


それに気づいたネウロイが宮藤のガードを抜け、戦闘状態に入る。

坂本「おのれえええええ!!」

照準を上にずらしていくが、急上昇する敵に追いつけない。

さらに身軽なネウロイは、上昇反転する。
そして両腕から光線を放ち、一直線に坂本の方へと向かっていった。

坂本「……くっ!!」

パアアアアアアッ!

防御のためにシールドを展開する。
二本束ねた光線とはいえ、その威力は並の光線―――シールド一枚で防げる程度の物だ。

パリリリッ―――

坂本「しまッ―――」

シールド全体に、かつてない大きさのヒビが一気に入る



そして、砕けた。



バリイィン!


坂本「―――!」

熱線は直撃を避けた。
だが、銃への直撃を免れることはできなかった。

銃が短時間で極度の高温に晒された九九式が、爆発に近い破裂をした。
当然、所有者はひとたまりもない。

バリッ、バアァァン!!

破片がはじけ飛び、爆発が坂本を襲う

坂本「っアアアアアアアア!!」

芳佳「坂本さんっ!!」

至近距離の爆発になすすべもなく吹き飛ばされる。


体から血が垂れ、風に流され宙を舞う。
魔力の制御を失い、ストライカーから浮力が失われ、そのまま落下していった。



そして跡から追いついてきた一同も、その一部始終を目撃してた。

ルッキーニ「……シャーリー!あれ!」

シャーリー「――まさか!?少佐!?」

エーリカ「嘘っ!」

リーネ「っっ!」

ゲルト「少佐ッ!」

ペリーヌ「坂本少佐ぁ!!」

全速でとばし、その体を受け止めようと駆けつける。
海面まで、あと数メートル。


完全に停止したストライカーから音は出ず、ただ黒い煙が出ている。
代わりに、無線機からミーナの叫び声だけが響いていた。

ミーナ『美緒!?どうしたの?応答して!美緒!!』


ミーナ『美緒――ッ!!』

今回の投下は以上です
またかなり長くなった……

いよいよ大詰めな雰囲気ですが、このペースでいつ終わることやらです
予測変換のありがたみを改めて思い知りました

私のお財布はカツカツになりました
早く新PC届いて欲しいです

生存報告
毎度のことながらなかなか進みません……
このままじゃもう少し詐欺だ

以下、予告です


背を向けたまま宮藤に言い渡すミーナ。

ミーナ「出撃停止処分、いいですね?」

ベッドに横たわる坂本。

エーリカ「魔力が回復しても、戦えるかどうかは怪しいよ」

浮上したまま入港する伊号潜。

深町「これじゃあ陸で持って行ったほうが早いぜ、まったく」

炎上するポーツマスの技術研究所。

ウルスラ「試作品の行方は、未だわかりません」

埠頭で海の向こうを見る宮藤。

芳佳「それでも、私にはそうは思えなかったんです」

レーダー画面を高速で移動する光点。

青梅「ジェットストラ……いや、これは戦闘機(ファイター)!」

ボラードに腰かけて「みらい」を見つめる角松。

角松「昔日本人は、世界を相手に戦って―――負けたんだ」


次回『乾坤一擲』


マロニー「現時刻をもって、五〇一統合戦闘航空団ストライクウィッチーズは解散とする」

すみませんが、なかなか進みません
が、あまりにも空きすぎて落ちる予感もするので「ここはもう修正しないだろう」という部分を少々投下します

芳佳「イージス護衛艦『みらい』……?」 その3
芳佳「イージス護衛艦『みらい』……?」 その3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445770219/)

というわけで次スレです
こちらは後程埋めとします

埋め忘れ

うめ

しゃけ

おかか

めんたい

わかめええええええ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2019年03月13日 (水) 19:12:10   ID: Hx_4HS4G

本編とあんま関係なくて恐縮だけど140(6WPgIvrn0)のウンチク、砲弾にはあんな詳しくツッコミ入れる割にVLAの理解が雑すぎて草。砲弾が無理ならハンドアローは勿論VLAなんか論外なんだが。
コイツの知ってるVLAは砲弾より「簡素」らしいから多分無誘導魚雷を無誘導ロケットに詰めて垂直に打ち出す物なんだろう。一体何を攻撃するんだろうな。

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