上条「俺がジャッジメント?」初春「3!」(498)
~注意~
・知らない人は初めまして、覚えている人はごめんなさい
・以前投げてしまった
上条「俺がジャッジメント?」
上条「俺がジャッジメント?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/kako/1310751369/)
上条「俺がジャッジメント?」初春「2です!」
上条「俺がジャッジメント?」初春「2です!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/kako/1319179519/)
の続き
・上条×初春
・週二刊(火・土)を目指す
・多分シリアス(時々甘々)
より再開してこーかと思います!
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1353290257
よくぞ帰ってきてくれた!!
とりあえずなんで投げたか理由を述べよ
ここまでの大まかなあらすじをざっと
上条さんジャッジメントを目指す→初春と出会う
ジャッジメント試験を受ける→一方通行とタイマンはって二人揃って病院送りに
一方通行主催の合格記念焼肉パーティ→上条さん、初春と黒子がいる第一七七支部配属へ
初仕事
初春DQN集団にさらわれる→ぶちギレ上条さんが討伐
セブンスミストで一方通行と美琴が邂逅、一騒ぎ起きる
土御門、学園都市にて魔術の感知を知らせる→神裂、五和達と共にそれの対処へ
浜面、垣根を復活させてしまう→打ち止めをターゲットに自我のない垣根が襲い掛かるが一方通行が撃退
上条さん、道端で倒れていた垣根を介抱→垣根が自我を取り戻すも、記憶がない状態←今ここ
ざっとこんなもんかな
>>2
展開思いつかなくて投げたというよりも逃げた
でもこのままじゃ俺が納得しないので、今回こそは完結を目指す事にしました
初仕事と初春さらわれる、の間に盗撮事件もあるのを忘れてた
以下再開しますー
初春「当麻さぁん」
佐天「当麻さんっ」
上条「おー、初春さんに佐天さん」
初春「……」ジロ
佐天「あは」
今日もジャッジメントは出勤日だ。
例の如く上条が柵川中学校の前を通ると、初春がすかさず上条の胸の中に飛び込まんとタタタっと駆け寄る。
その前に、愛しの彼を下の名前で呼んだ佐天をジト目で睨みつけるのを忘れなかったが。
初春「えへへ」
上条「いい天気だな」
初春「そうですね」
上条の隣に並ぶと、初春は嬉しそうに微笑む。
距離にしても肩と肩がぶつかりそうな、そんな距離。
それは初春が上条に対する心の距離を表すメタファーでもあり、今にも腕に引っつかんとする彼女であった。
佐天「ひゅーひゅー」
初春「ちゃっ、茶化さないで下さいっ」
上条「あはは……」
初春「っていうか佐天さん、当麻さんと近いですよ!」
佐天「えー、いいじゃん別にー。初春が上条さんの右腕を取るなら、私は左腕ーって感じで」
初春「」ギロッ
佐天「あは」
そんな初春に「ほう……」と感心しつつも、ちゃっかり自分も上条の横をキープしている。
佐天の場合は、初春を焚きつけよう! といった思惑もあるのだが、それだけだろうか。
黒子「」プルプル
初春「あ、白井さん。こんにちは」
佐天「こんにちはーっ」
上条「お、白井……どうしたんだ? そんなに震えて」
支部に近付いていく道中、なぜかこちらに視線を向けるや否や俯いて震え出す黒子の姿があった。
どうしたんだろうと上条は首を捻るが、黒子はそのままでいる。
初春と佐天も互いに顔を合わせ、「?」マークを貼付けていた。
黒子「うふふ」
初春・佐天「」ゾクッ
上条「?」
唐突に笑みを浮かべ、横並びにして歩く三人に近付く。
不穏な空気に初春と佐天の二人は背筋を凍らせるが、上条はやはり相変わらずだ。
黒子はそのまま手が届く距離にまで歩くと、初春と佐天の肩に手を置いた。
シュン。
その瞬間、初春と佐天の二人の姿はその場から消えていた。
上条「んあっ!?」
初春・佐天「わわっ──!?」
そして次の瞬間、二人は彼らがいた5m先の道端に縺れ合って倒れ込んでいた。
黒子「うふふ、貴女達だけにいい思いはさせませんの────
上条「こら」ズビシ
黒子「あう」
上条「危ねーじゃないか、いきなり空間転移させるなんて。そりゃあしっかり者の白井はちゃんと確認した上での行動だとは思うが、もしそこに突然なにかが降って来たらどうするつもりなんだ」
黒子「な、なにかがって……」
上条「例えばビルの屋上から看板が外れて落ちて来るとか、ペンキにぶちまけられるとか配達の蕎麦屋さんの手元が狂って蕎麦をぶちまけられるとかだな……」クドクド
黒子「うぅ……」
初春「あ、あの……」
佐天「わ、私達は大丈夫なので……」
友達になんてことしてんだと説教を始めた上条。
黒子もチョップされた頭を押さえながら少々涙目になって上条の言葉を黙って受け止めている。
ただ例えの内容がやけに具体的だったのはまあいいだろう。
初春と佐天はこれが別に初めてのことでもないし、大丈夫大丈夫と上条を宥めようとしたのだが。
上条「全く最近丸くなったと思った…………ら……」
上条の視線が一度チラッと初春と佐天に向く。
次から次へと流暢に流れ出ていた上条の言葉は、そこで止まった。
二人はいまだ縺れ合っているまま。
セーラー服の紺色と、肌の色の配色の比率が若干いつもより違う。
すらーっとした計四つの細長いなにかがあって。
そしてその先には水色に白の水玉模様と薄ピンクがこんにちはしていて。
簡単に言うと、まあ。
つまりは二人揃ってスカートが大胆にめくれ上がっていた。
上条「Oh Yeah……」ジー ドキドキ
初春「わわわああああああああああっっ!!??」ババッ
佐天「ひゃあああああああああああっっ!!??」ババッ
黒子「ぶっ!? ふ、ふたり共早く隠しなさあああああああい!! せいっ!!」ガッ!
上条「ぶっ!? ぐはあああああああっっっ!!」
黒子「ああっ! ついやってしまいましたわ! 当麻さ──────ん大丈夫ですの──────!?」
慌てふためいた黒子は上条に延髄斬りをくらわせ、上条の意識をつい刈ってしまう。
その際に見えた、黒子のアダルティな下着も上条の記憶に残ったかどうかは定かではない。
一方通行「テメェが復活させてやがったのかよ……」
浜面「……スマン。まさかDMリカバリデバイスが第二位の事だとは思わなかったんだ」
やや重たい空気が黄泉川家のリビングを包む。
一方通行の溜息がやけに大きく反響し、それがどれほど場が沈黙に覆われているのかを物語っていた。
DMリカバリデバイス──。
未元物質、ダークマターをリカバリーするもの。
それはこの学園都市にとって、利用価値が230万超の中でも二番目に高いものである。
利用価値の為だけ。
その第二位の人間性云々は抜きに、能力を吐き出すだけの骸に近い姿だとしても、学園都市はこの世にそれを繋ぎとめておいた。
そんな『脅威』を復活させてしまった。
その牙を『親友』とも言える少年の大切な者達に剥かせてしまった。
一方通行「……」
浜面「……わりぃ」
再度、謝罪は告げられる。
しかしその言葉に返ってくる言葉はない。
それが自身がやった事の重大さを表しているかのようだった。
それもそうだった。
『アイテム』にとって全員が死寸前にまで追いやられ。
そして『一方通行』にとっては大切な守る者が危険に晒されたのだ。
別室にいる芳川と打ち止め、番外個体を除いた面子は全員、第二位の男に何かしらの因縁を持っている。
それは浜面としても重々承知している事であった。
浜面「……」
この事は、アイテムには昨日話しておいた。
しかし、麦野達の返答は予想外にも
『……そう』
だけであったが。
罵声を浴びせられ、非難も浴びせられる覚悟でいたのに。土下座でさえもするつもりであった。
『アイテム』の団結を揺るがした敵を復活させてしまったのは紛れもなく自分。
アイテム追放……も、心苦しいが甘んじて受けるつもりだった。
それほどの相手を、知らずとはいえ復活させてしまったのだから。
一方通行「まァ、一昨日第二位のクソヤロウは俺がぶっ飛ばしてやっといたが」
麦野「え?」
浜面「ぶっ飛ばした……? 一方通行、第二位に会ったのか?」
舌打ちをし、コーヒーに口をつけて一方通行は足を組み直す。
アイテムの面々の視線を浴びながらコーヒーカップをテーブルに置いた。
一方通行「一昨日だがな。クソみてェな色の白衣を着た野郎が引き連れて打ち止めをターゲットに暴れやがったからよォ、ぶっ飛ばしておいた」
麦野「……打ち止めちゃんがターゲットに?」
浜面「それじゃ、第二位は」
一方通行「……クソ忌ま忌ましくも、アンチスキルが取り逃がしやがったよォだ」
浜面「……、そうか」
絹旗「……」
滝壺「……」
一方通行の言葉に麦野も表情を変える。
憎き相手と同じ顔の筈なのだが、寄せる感情はまるで違い心配の色を滲ませていた。
『しずりん』『打ち止めちゃん』と親しみを込めて呼び合う仲になっていて、もはや麦野からしてみても小さな友達は守るべき存在であった。
一方通行「チッ。奴が今どこで何をしてやがンのかは知らねェ。ただ見つけた時には……」
だが守る以上の意義を持っている一方通行は言う。
「ぶち殺す」
『親友』に位置づける彼がここまで感情を露にするのは、今だかつて見たことがなかった。
神裂「土御門」
土御門「ん? あー、ねーちんか」
神裂「どうしました? 元気がないように見えますが」
土御門「あー、そうかにゃー? いつも通りだぜい」
神裂「……そうですか」
日も落ちる夕暮れ時、上条の部屋の前でばったり会った土御門に神裂からの声がかかる。
心なしか、いつも土御門が纏う雰囲気と違った事に神裂は怪訝に感じていた。
いつもの「にゃー」「ぜい」の語尾も織り交ぜてはいるのだが、それはどちらかというと『仕事時』の土御門に近いような、そんな雰囲気。
土御門「カミやんは?」
神裂「彼なら風紀委員なるものの仕事で、帰りはもう少しかかるようです」
土御門「そうかい。ちとな、こっちも報告しなきゃならんことがあるんだにゃー」
神裂「……なにか掴めたのですか?」
土御門「そうだにゃー。その事も含めて、カミやんが帰ってきたら纏めて報告するぜい」
神裂「そうですか、わかりました。では私達は上条当麻の部屋で待機しています」
土御門「また後でにゃー」
がちゃり、という音を立てて土御門は自室の扉を開ける。
どうやら舞夏はまだ戻ってはいないようだ。
日が落ちるのが早いこの時期の夕暮れ時は少し心配になるのだが、しっかり者の義妹を信じて帰りを待つことにしている。
土御門「……」
ため息を吐きながら、アイデンティティのサングラスを一旦外し目元を揉む。
基本的に陽気である彼をそうさせる要因は、これから彼が一~二時間後に報告するであろう内容が絡んでいるのだろう。
もう一度ため息を吐くと、再びサングラスをかけ携帯電話を操作し始めていた。
固法「で。調書の取り方は以上ね」
上条「ふむふむ」ナントナク
和やかな雰囲気が流れる風紀委員第一七七支部室。
この中で唯一の男で、最も新人である上条当麻は支部長を務める固法美偉から本日もレクチャーを受けていた。
今日は、長所の取り方。
様々な事件、事故、相談等に対する対処の仕方を教えてもらいながら、上条は「ふん、ふん」と頷いていた。
覚えなければならない事はたくさんある。
それをゆっくりと、丁寧に教授してゆく固法には上条も頭が下がるばかりであった。
さすがは初春と黒子の上司だ、と思った。
初春はまだいいとして、超問題児である黒子(←上条目線)を立派なジャッジメントに育て上げただけの事はあるのだろう。
上条の頭が故に度重なってゆくミスも寛容に許してくれていて、上条としてはこの支部に来れた事は幸運の事であった。
よく初春と目が合うし。
その度に顔を赤くされ、ちょっぴり上条も恥ずかしげに頭をかく。
その度に黒子が「うー」と唸るのだが、そこまで触れる事でもないのだろう。
何故かいる佐天にはニヤニヤされるし。
固法「うん、じゃあ今日はここまでにしよっか」
と、固法の声がそこで支部室に響いた。
上条は時刻を見る。そして首をちょこっと捻った。
上条「あれ? まだ5時になってないっすけど」
時刻は、いつもの終了時刻までまだ40分ほど残している。
とんとんと資料の束を纏める固法に視線を送った。
後ろでは、「はーい」なんて言いながら早速帰る準備を始めている初春と黒子と佐天の姿があったのだが、いいのだろうか。
固法「うん。別に今日はそんなにやる事もなかったし、今日の分はもう終わらせちゃったし」
上条「ほえ、そうなんですか」
固法の言い分によると、こんな日もあるらしい。
事件や事故が起きて出動する事があればそうはいかないのだが、本日は特にない。
警邏もなく、もっぱら書類整理を学んだ日であった。
固法「ジャッジメントだからって、働いてばっかじゃイヤじゃない? しっかりと自由時間も作らなきゃね」
上条「まあそれもそうっすね」
固法「私も今日は友達と遊ぶ約束してるしね」
んーっ、とふくよかな何かを主張しながら伸びをする固法。
出動部隊の黒子と自分とは違い、固法と初春はもっぱら情報処理部隊。
固法の場合は多岐に渡って活動してはいるのだが、現場では優秀な白井黒子がほとんど解決してしまえる為、机に向かっている時間が自然と長くなる。
腰とか肩とか、どうにも凝りが気になるらしい。
年r
佐天「初春ーっ、帰る?」
任務時間中も関係なしにおしゃべりしていた佐天が初春に尋ねる。
少し早く終わったようで、時間も完全下校時刻には少々余裕がある。
それならばと帰りに初春誘って何処かへ、なんて画策していたのだが初春の様子を見て少し考え込んだ。
初春「……ぅ……」チラッ チラッ
上条「ふんふーん」
何かの歌を口ずさみながら、帰り支度をしている上条にチラチラと視線を送る初春。
その様子を見て、初春がなにをしたいのかを瞬時に悟った。
初春の方は既に支度を終えた様で、なにかを上条に向けて口に出しかけては「あぅ……」を繰り返している。
一緒に帰りたいんだろーなー。
黒子「それでは、帰るといたしましょうか。初春に佐天さん、とう……上条さん」
初春「」ギロッ
上条「もうちょい待ってくれー」
佐天「ふむ」
黒子が途中まで言いかけた何かに初春が睨みをきかせる。
あは。
佐天「初春、初春」
初春「は、はいなんですか佐天さん?」
佐天「(帰り、どこか寄ってこうか。ほら、上条さんも誘ってさ)」ボソボソ
初春「!」カァァ
上条「?」
黒子「……」
佐天「(あ、それとも二人っきりがよかった?)」ニヤニヤ
初春「さ、佐天さん!///」
上条「わっ、びっくりした」
初春「えぅぅ……///」
黒子「……なにを話してたんですの? そこの二人は」
もう初春の顔は真っ赤だ。
楽しい事好きのお茶目な佐天としては、親友が慌てふためくのを見るのもまた好きなのであった。
上条「戸締まりオッケーっと。んじゃ帰りますかー」
初春「はいっ」
黒子「それでは、わたくしはお姉様との用事がありますので」
佐天「白井さん、また明日ー」ブンブン
黒子「ええ、また明日、ですの。それと……初春」
初春「な、なんですか?」
黒子「節度ある行動を、ですわよ」
上条「?」
初春「わ、わかってますよ! ほら白井さん、早く行った方がいいんじゃないですか? 御坂さん待ってますよ?」
佐天「(……厄介払いしてるようにも見えるのは気のせいなのかな)」
ビルの間に吹き抜ける風は冷たく。
ブルッと身を震わせる様な温度に少し身体が震えた。
初春は上条の隣を位置取り、彼の顔を見上げる。
白い息をほーっとしながら遊んでいる様にも見えて、クスッと微笑んでいた。
そんな自分の視線に気が付くと、「ん?」なんて笑いかけてくれた。
初春「はぅ……///」
彼を見る度、胸がきゅんきゅんとときめく。
心臓が暴れ出すという表現も合っているくらい、揺れ動く。
外だし、まだ学生達はたくさん出歩いているし佐天もいるし。
くっつきたい、手を繋ぎたい、抱きしめたい、抱きしめられたいといい衝動をなんとか抑え、初春は息を整えていた。
「あれ、涙子ー? 初春もいるじゃん」
初春「ふぁい?」
佐天「おーっ、アケミ、むーちゃん、マコちん」
上条「ん?」
第一七七支部室を後にし、少し歩くとそんな声がかかる。
そこにいたのは、初春と佐天のクラスメイト達であった。
いつも三人仲良しでいて佐天とも仲がいい。
自分はというと、話したりはするのだが。
佐天ほど、という訳でもなかった。
佐天「どしたの? 三人ともこんなとこで」
アケミ「それがさー、聞いてよ涙子ー」
上条「友達?」
初春「はい、クラスメイトなんですよ」
上条「ほー」
納得した様な上条の声。
そのイマドキの女子中学生パワーに少々押された様子がその声色に混ざっていた。
ペチャクチャなんやかんや、えーっ!? とはしゃぐ四人に、初春と上条は苦笑いをする。
するとそこで、三人の内の一人がこちらにやってきていた。
アケミ「初春、お仕事お疲れ様っ」
初春「はい、ありがとうございます」
アケミ「どもどもー」
上条「どもども」
軽い会釈を済ませると、アケミは感心した様子で初春に笑いかけていた。
なにやら、嫌な予感がする。
いや、嫌ではないのだが何となく自分が赤面してしまいそうな予感が。
アケミ「なるほどねぇ。初春、聞いたよ」
初春「えぅ、な、なにをですか?」
アケミ「……そこの彼と、いい感じなんでしょ?」ボソッ
初春「っ!?///」ポンッ
上条「?」
佐天「」ニヤニヤ
耳打ちで聞かされた言葉に、初春の顔は一気に真っ赤に染まった。
やっぱり。
佐天がなにかを吹き込んだらしい。
じとーっと佐天を軽く睨むが、どこ吹く風とやらでぴゅーっと口笛を吹いていた。
妙に上手いし。
アケミ「イケメンさんだね。しっかりと掴まえておかなきゃね?」ニヤニヤ
初春「!!///」
上条「うわっ、顔真っ赤じゃん。どうした、風邪でも引いちゃったか?」
佐天「さすが上条さん」
彼は状況が掴めてないらしく、自分を心配してくれる様に気遣ってくれる。
それは嬉しいけど、察してほしいという気持ちもちょっぴりあって。
初春「だだだ、大丈夫ですっ///」
まあでも、やっぱり嬉しいという気持ちが強いのだが。
佐天「じゃーねー、初春ーっ。また後で、ね」
アケミ「またねー、ごちそうさま」
むーちゃん「またねー」
マコちん「また明日ー」
初春「また明日、です///」
上条「気をつけてなー」
ネエネエ マエニイッテタ トシデンセツッテアルジャン?
オー イッテタネー
アレノネー 「ドンナノウリョクモ キカナイオトコ」 ッテ ジツハホントウダッタカモ
エッ!? マジデ!?
ナニソレ ドウイウコトー?
上条「あはは……」
初春「///」
なにやらとんでもない事を話している様子が、去って行った四人から聞こえてきた気がしないでもない様な気分に浸りながらも、初春と上条の二人は四人を見送る。
上条は苦笑いに対して、初春の方からは頭から煙が出そうな程顔が茹だっていた。
二人っきりになった。
ここ最近、上条と二人でいる事も少なくはない。
少なくはないのだが、それでも初春は馴れる事はない。
バクバクと緊張を伝える心臓と、嬉しさ恥ずかしさを伝える頭と。
ちょっぴり、大胆になる行動力と。
初春「と、当麻さんっ///」
上条「ん?」
ぎゅ。
上条「わっ」
初春「えへへ」
大切な時間。
彼といられる、世界で最も幸せな時間。
自分の右手を包んでくれる、左手。
温かくて、大きくて、優しくて。
大好きが、溢れ出していた。
いつの間にか、寒さは感じなくなっていた。
鐘が鳴る。
チャペルの、愛の鐘が──鳴る。
ここまで来るのに経験したのは、楽しい記憶だけではなかった。
喧嘩したり、勘違いしたり、泣いたり、悲しんだり。
でも。
仲直りしたり、気付いたり、笑ったり、喜んだり。
どんな時だって、他の人には目もいかなかった。
彼との幸せな時間一直線で、ここまで頑張ってきた。
紆余曲折。
色んな事があった。
スキルアウトの人達に追いかけ回されたり、レベル5と対峙したり、謎の能力者と出会ったり、入院した彼を見舞ったり、一晩中看病したり。
モテすぎる彼に危機感を抱いたり、モチ焼いちゃったり。
電話したり、遊園地に行ったり、動物園へ行ったり、ゲームセンターへ行ったり、記す事のできない事もしたり。
それも全部、彼との時間。
他のものなんて何もないくらい、一緒に時間を過ごした。
でも、まだ足りない。
もっともっと欲しい。
いつまでも、一緒にいたい。
この扉を開ければ、左右にはたくさんの長椅子が並んでいて。
綺麗なステンドガラスの窓があって、蝋燭が並んでいて。
親友、友達、知り合いの人達がいっぱいいて。
神父さんがいて。
そして、白いタキシードに身を包んだ彼がいて──。
『飾利』
『当麻、さん……』
彼も緊張した様な表情をする。
一生に一度だけの晴れ舞台だ、それは痛いほどわかる。
だって自分なんて、きっとそれ以上に緊張しているんだから。
『えぅ……』
『ん、なんつーか、その……なんだ……』
付き合ってみてわかる事、彼も結構な恥ずかしがり屋だった。
好きだ、とかは言ってくれるんだけれども、それもいつもちょっぴり恥ずかしそうにしている。
それが可愛くて、でもかっこよくて、愛しくて。
『……綺麗、だぞ』
『……!///』
何よりも嬉しい彼からの賛美。
とめどない愛が、ダムを崩壊させる。
それから神父さんからお言葉があって。
『誓います』
迷いなく、言ってくれた。
それがまた嬉しくて。
『誓います』
だからこそ、自分もはっきりと告げる。
彼だけを愛し続ける事を、彼だけに一生恋い焦がれる事を。
そして二人は、永遠の愛の誓いのキスを──────
初春「んー……」
上条「またか……」トンジャッテル
初春「はっ! こ、ここは!」
上条「ん、公園だ」
初春「えぅ……///」
初春が気付いたのは、公園のベンチに腰を下ろして彼にもたれ掛かっていた時であった。
肩が暖かい。
そちらの方に視線を向けると、「お、気付いたかー?」なんて優しく頭を撫でてくれている彼の顔があった。
距離にして恐らく10~20cmと言った所か。
恥ずかしさと幸せがごっちゃ混ぜになっていて、でも決して嫌な気持ちではない。
上条の膝の上に置かれていたもう片方の手を取ると、自分の前まで持ってきてぎゅっと握り締める。
上条「寒くないかー?」
初春「暖かい、です……」カァァ
暑いくらいだ。
指を絡めたり、皮をひっぱってみたり手の大きさ比べをしてみたり。
後ろから抱きしめられる様な体勢。
手、肩、背中で彼の温度を感じながら。
しばらくの間、そうしていた。
上条「ええ匂いやった……」
初春を送った帰り道の途中で、上条は呟く。
さっきまでの感触がまだ残っている。
柔らかい感触と、甘い匂いと。
実は、内心いっぱいいっぱいだった。
冷静を装いながらドキドキしていた。
幸い彼女がもたれ掛かっていたのは右胸の方で、その心臓の主張がばれなくてよかった──とは思う。
まあ、別にどっちだっていいのだが。
最近になって、急激に距離が縮まっている気がする。
手も繋いで、抱きしめて、一度だけキスをして。
上条「……」
『大好き、です────────』
そういえば、そのキスをしたのもその公園。
なにかとこの公園に縁があるのかはわからないが。
ふう、と白い息を吐く。
冷たい風にさらわれて、夜空の海に溶けていった。
上条「……俺も、覚悟を決めなきゃ、かな」
その呟きも、誰にも聞かれる事なく白い息と共に浮かんでは消えた。
上条「だけどまあ、気にはしていないようだったな」
桃色回想とは違う、また別の案件を脳裏に上条は呟く。
土御門に今朝聞かされた、あの事。
─第二位に、襲われた─
グッと手を握り締める。
以前上条のジャッジメント試験の後、運ばれた病院にて一度耳にした。
打ち止めがターゲットにされ、それを守った初春が傷付けられ、一方通行が撃退した、というが。
一方通行と共に、守るべきと決めた妹達の一人が狙われた────も、そうなのだが。
『初春が傷付けられた』という事実が、上条の頭に根強く残っている。
優しくて、可愛くて、恥ずかしがり屋で、健気で、友達思いで、芯は強くて。
守りたくて。
上条「……」
会う度に、段々とその思いは強くなっている。
そんな子を、第二位という超能力者は傷付けた。
そして、またしてもその魔の手が及んでしまった。
つい最近起きた、誘拐事件もそうだ。
自分が傍にいれば、自分が目を離さずに見ていれば。
上条「……ふう」
言いようのない怒りを堪え、上条はいつの間にか止めていた足を再び動かそうとするが────。
「幻想殺し、だな?」
上条「っ!?」
野太い声が、帰り道の途中のあの公園で上条を呼び止めた。
ばっと振り返ると、そこには…………。
上条「なんだ……!?」
ゴウッッ──────!!
という、大きな音が公園内に響き渡った。
今日はここまで!また次回ー
インデックス「おなかすいたんだよー……」
神裂「上条当麻が戻って来たら夕餉に致しましょう」
インデックス「えー、もうご飯は出来てるんだよね? 先に食べようよ!」
五和「ダメです。上条さんと一緒ですから」
インデックス「いつもならそろそろ戻ってくる時間なんだよー」ブー
オルソラ「なら準備しておいていいのでございましょうか?」
インデックス「ごっはん! ごっはん!」
神裂「この子は……。上条当麻には苦労をかけさせてしまっていますね」
五和「なんなら、私が上条さんの家にすすすす、住み込みでいても」
神裂「」チャキ
五和「」
オルソラ「あらあら」
時刻は完全に夜の帳が落ちる頃。
完全下校時刻も後十分程で迎える時間だ。
男子寮ではまず聞く事の出来ない黄色い声が、上条当麻の住まいとするこの一室で賑わいを見せている。
……いや聞く事は出来ない筈なのだが、上条という男の部屋だけは違うか。
空腹を訴えるインデックスの自由奔放っぷりに神裂は頭を抱え込みたい気分であった。
部下の一言には七天七刀を刃をすぐさま見せるのだが。
インデックス「でもとうま、ちょっと遅いかも」
神裂「そうなのですか?」
いつもならこれくらいの時間には帰ってくるのだが、それは補習を受けざるを得なかった日。
ジャッジメントに属する事によって、補習免除という特待を得た上条の帰りは、それよりも帰宅の時刻は早くなった筈だった。
しかし前者の方の時間になってもまだ姿を見せない上条に、インデックスはふと一声を上げた。
──────────
そこで、一同は突然動きを止めた。
神裂「今のは……!」
五和「魔力……!?」
突如の魔術の感知に先程までの空気が一変する。
この一室の全員が、息を飲んだ。
土御門「ねーちん!」
神裂「土御門!」
土御門「場所は第七学区、第五学区の境目にある公園だ! ねーちんは先に向かってくれ! 五和はここで禁書目録の護衛を頼む!」
すぐさま隣の部屋にいた土御門が上条の部屋に飛び込んでくると、それだけで各々の準備が整う。
神裂は今すぐに現場へと向かう準備にて七天七刀を手に。
五和はこの一室を拠点とし、イギリス清教の優先護衛対象である禁書目録の護衛にて槍を手に。
事前に作戦で話し合った訳ではない。
しかし。
それぞれが緊急事態において、自分の力量、性質、できる事を把握している。
「必要悪の教会」「天草式」
お互いのやるべき本分を、何があろうとやり遂げる。
余分な言葉はなくとも、確かな連携がそこにはあった。
上条「っ!?」
咄嗟に右手を突き出す。
目の前まで迫っていた「何か」は、上条の聞き慣れた音を上げて消え去っていた。
それを見ると、上条は目線を上げる。
上条「な……なんだ?」
それを見た瞬間、上条の口から思わずそれが出ていた。
大の大人一人包み込むには十分なくらいの煙が纏まり、渦巻いている。
そしてその煙は、下の方から順に晴れてゆく。
野太い足。
動物の様な毛。
腰周り100センチは優に超える身体。
丸太の様な腕。
そして。
犬の、頭────。
上条「っ!」
上条は、事態を瞬時に把握した。
これか。
コイツが土御門の言っていた、「魔術によって黄泉返った者」か。
そしてそれを重ね掛けによって姿を変えられた────
────妖怪。
「驚いたようだな?」
その犬の妖怪の後ろの方から声がかかり、上条はそちらに意識を向けた。
スラッとした体型で、漆黒のジャンパーにジーンズという出で立ち。
やや長めの髪は黒く、手入れも無造作のような。
ジーンズのポケットに手をつっ込んでいる、男がそこにはいた。
上条「お前、魔術師だな?」
「あらゆる異能の力、神でさえも消し去る右手、か」
上条の言葉に答えるでもなく、男は呟く。
興味津々と言った様子だが、それはこの右手。
男は面白い、とグニャッと表情を歪ませた。
「……」
上条「……」
身長にして、2・5~3mはあろう犬の頭の化け物の後方で、男はまだ上条の言葉に応えない。
陽も完全に落ちきった冬の冷たい風が、三者の間を吹き抜けた。
視界も暗い。
この公園内を照らすのは、街灯と月明かりと少し離れている公園外の街明かりと、いつもの自販機の明かり。
制限された視界に加えて、相手共は全身の色が漆黒に覆われている。
男の手がスゥっと、ゆっくり動いた。
掌を地面と平行に、人差し指と親指が直角に曲がった状態で、それを上条に指し示す。
パチンッ──────!
「ガアアアアアアアアッッッ!!」
上条「!」
男が鳴らしたフィンガースナップの音と同時に、犬の化け物は上条に襲い掛かった。
その丸太の様な腕が上条に迫る。
それを屈む事によってかわし、上条はその右手を犬の化け物の鳩尾に叩き込まんとする。
以前、上条は土御門が持ってきた件の魔術で構成された「動物の毛」を打ち消した事がある。
この右手が犬の化け物に当たりさえすれば、相手はたちまち消える────
上条「っ!?」
が。
犬の化け物は上条の右手を素早く横にかわすと、上条の頭目掛けて尖った爪を振るう。
瞬時に、肘から手首までの前腕を左腕で受け止めた。
「ヌグウウウウウウウウ」
上条「ぐ……!」
その巨躯に似合わぬ、素早い身のこなし。
一瞬虚をつかれたが、幾度も経験した戦いの中で精練された上条の反射神経はそれを防いだ。
しかし、相手はやはり「化け物」。
単純な腕力は、人間である自分とはやはり違った。
「ヌグワァアアッ!!」
上条「くっ!」
身体ごと薙ぎ払われ、上条は10数m横に吹き飛ぶ。
右手を地面につけ、一回転して着地するや否やすぐさま構えを直す。
犬の化け物は、その10数mの距離を一瞬の一っ飛びで縮めた。
上条「ちぃっ!」
間髪もなく再びその巨体が迫る。
当たれば一たまりもないだろう、化け物の振るう腕が飛んできた。
ドガンッ────!!
まるで隕石が激突した、耳の鼓膜を震わす様な大きな音が公園内に響き渡った。
クリスマスは、近い。
自分が暮らす部屋の机に飾ってある、小さなカレンダーを手に取った。
一枚めくる。
手書きのハートマークが、24、25日に記されていて、恋というものに憧れる乙女の心境を表していた。
初春「……」
自分の唇に手を触れる。
涙が出た、嬉しかった、愛しかった、もっと好きになった。
幸せだった、そんな感触。
それは、彼からでしか感じれない。
自分にそれ程の温かさを与えてくれるのは、彼だけ。
初春「当麻、さん……」
日に日に強くなっていく想い。
今日だって彼に触れたのに。
手を繋いだのに、腕を抱いたのに、指を絡めたのに。
まだまだ、足りない。
下着を見られたのはちょっぴり恥ずかしかったけれど。
とにかく、上条が好きで好きで仕方がなかった。
地面にクレーターが出来ていた。
上条の背中に、一筋ツーッと冷や汗が垂れる。
上条(超こええ……!!)
そのクレーターの中心に拳を突いているのは、ヒトの形をした犬の化け物。
上条はその化け物の一振りを、後方へ跳ぶ事によって避けていた。
とんでもない威力だ。
もしそれが身体に当たっていたとしたら、上条はゾッとした。
頑丈さを自負する上条としても、さすがにその一撃は受けきれまいだろう。
「……ヌ?」
先程までの咆哮とは違い、今度は犬の化け物はまた違った声を出した。
コンクリートの地面に突き刺した腕をそのままに、何やらジタバタもがいている様だった。
……どうやら、手が抜けないらしい。
上条は、好機を掴んだ。
その瞬間に上条は犬の化け物に右手が触れる距離まで飛び込み、その右手を振るった。
しかし。
パチンッ────!
その音が、上条の耳に届く。
化け物を携えていた男が、指を鳴らしていた。
その音が鳴り響いた瞬間、犬の化け物の身体が一瞬震える。
いや、身体ではなく……
その、毛皮────。
上条「!?」
犬の化け物を覆う毛が逆立つ。
頑丈な針の様に、ピンと逆立った無数の毛が。
上条に向けて、放たれた。
上条「っ!? ちっ!!」
一瞬その変化に気を取られてしまった上条は、数m後方へ下がりながら右手を上から下へと一閃させる。
パキーン────!!
異能を打ち消した音が、鳴り響く。
しかし、「毛の針」の範囲は広すぎた。
上条「ぐあ……っ!!」
右手で消しきれなかった針が、肩、左腕、脚に突き刺さった。
声を上げ、上条は膝を地面に付かせる。
痛みが全身にジンジンと響く。
迂闊だった。
まさか、飛び道具があったとは。
「なかなかやるようだな、幻想殺し」
拍手も交えて、歩み寄りながら男が口を開く。
賞賛の声色と、勝ち誇った声色が混ざっていた。
くくく、と喉が鳴っている。
男はもう一度指を鳴らすと、犬の化け物は地面から一気に腕を引き抜いた。
あの腕を引き抜こうとする行動は、フェイクであったのか。
犬の化け物は再び立ち上がり、上条に視線を合わせる。
しかし男は化け物の横に並ぶと、犬の化け物の前に腕を上げた。
「まさかコイツ相手に、そこまでやるとはな。その右手以外、全く生身の人間なのだろう?」
上条「それが……どう、した……!」
痛みによって、少し声が掠れる。
いまだ立ち上がる事も出来なく、膝と右手を地面についた状態で上条が睨みつける様に男と犬の化け物に視線を戻した。
上条「テメェが、土御門が言っていた……魔術、師……だな?」
「土御門……か」
男はピクリと反応を示す。
土御門を知っているのか。
息を切らしながら、上条はその様子を窺う。
男は少し考え事をしている様な少しの逡巡を見せると、その眉を歪ませた。
「幻想殺し。お前はそいつと知り合いのようだったな……ふん、あの誇り高き一族の裏切り者めが……」
上条「……あん?」
男の最後の方の呟きは聞こえなかった。
しかし、この男が土御門を知っているという事は確かな様であった。
どういう関係であるのだろうか。
多重スパイであると以前言っていた土御門は、「表」もそうなのだが「裏稼業」でも知り合いはたくさんいるのであろう。
しかし、それは穏便な間柄などでは恐らくない。
騙し、騙され。
そういう世界で生きてきた──と、前に上条は聞いた事がある。
この男との関係も、きっと上条には想像できないものがあるのだろうと上条は感じていた。
上条「テメェの……目的は、……なん、だよ……?」
「目的? ああ、そうだな。答えてやろう。
この学園都市をぶっ潰し、我ら一族がそれを乗っ取る────」
上条「一族、だ……?」
「その為にまず幻想殺しをこの世から消し、『魔導図書館』を手中に入れる」
上条「……!」
魔導図書館──禁書目録。
つまりは、インデックスだ。
頭の中の10万3000冊を付け狙う魔術師、魔術結社はまだ多く。
結局は、この男もそうであったのか。
上条「ふー……だけど、いいのか……? あいつを守るつええ奴は、いっぱい、いるんだぜ?」
「今現在、魔導図書館を護衛している『天草式』、『必要悪の教会』の事か?」
上条「……趣味、わりーなてめぇは……覗いてやがったのか……?」
やはりか。
この男は情報を掴んで来ている。
神裂達が日本にきてまだ日は浅い。
それを知っているという事は、どこかしら見られていたという認識で合っているか。
「ふん、おしゃべりは此処までだ。なにしろ、時間がないのでね」
上条「……あ?」
「とっととお前には、舞台から下りてもらう事にしようか」
上条「く……!」
パチン! と、男は三度指を鳴らした。
犬の化け物はそれに応じて、上条に一歩近付いていく。
苦虫を噛む。
ここでやられる訳にはいかない。
とはいえ、肩や脚へのダメージが比較的多く、思うようにも動かせない。
一歩、一歩。
ゆっくりと犬の化け物は近付いてくる。
絶望への、カウントダウンの様。
諦めたくはない。
ここで自分がやられてしまったら、インデックスはどうする。
学園都市にかけられた、魔術はどうする。
いや────
初春『当麻さんっ』
二度と、彼女に会えなくなる────
上条「うおおおおおおおおおおおッッ!!」
「なにっ!?」
「ヌグアアアァァァ……?」
力を振り絞る。
立ち上がるだけでいい。
この右手を、振り抜くだけでいい。
絶望という幻想など、ぶち殺してしまえばいい。
バキッッ────!!
鈍い音を立てて、上条は拳を犬の化け物のどてっぱらに喰い込ませた。
思い切り、最後まで。
「グガアアアッッ!!」
化け物は数m吹っ飛び、倒れる。
腹部に皹が入り、ボロボロと崩れ落ちた。
しかし────────
「――場ヲ区切ル事。紙ノ吹雪ヲ用イ現世ノ穢レヲ祓エ清メ禊ヲ通シ場ヲ制定。
――界ヲ結ブ事。四方ヲ固メ四封ヲ配シ至宝ヲ得ン」
上条「っ!?」
その瞬間。
男は一瞬で倒れた化け物の後ろに回り、恐らく魔術の詠唱であろう詩の様な言葉を口にする。
行書体の漢字が書かれた、ひし形の白い紙を化け物に投擲した。
「――生ヲ弄ブ事。禊ヲ用イテ囲炉裏ヲ通リ、温メ薬湯ヲ以テ鼓動ヲ呼ビ戻セシ」
白い紙が瞬く間に崩れた腹部の細胞になり、血肉になり、そして毛になる。
犬の化け物は閉じていた眼をギンッ!と開け、再び立ち上がった。
上条「……ぐ」
上条は顔を歪ませた。
一人と一体は、視線を再びこちらに向け、男は今にも再度指を弾こうと上条を指差していた。
犬の化け物の腹は、完全に元に戻っていた。
腹に穴が開く前の、完全な姿に。
化け物を構成する魔術は、ステイルのイノケンティウスの様にルーンの刻印で成り立っているのか、それともシェリーのゴーレムの様に作り上げた事によって成り立っているのか。
わからない。しかし感触としては後者の方が近いのであろう。
ならば、どうする。
この右手さえ当たれば、勝機はある。
しかし、今の痛む身体では満足に動けやしない。
化け物を再びぶん殴った所で、男の方の行動を制御せねばならないのだ。
「初めてお目にかかったが。その右手には驚かされた」
そのままの体勢のまま、男が呟く。
男の吐いた言葉に嘘偽りはなく、実際に驚いているようであった。
生身の人間が、こいつを相手取り一撃を浴びせられるとは──と。
一部を除いたこの街の開発された能力者達であろうとも、この化け物は難なく退けてしまえるのだろう。
男からはそんな自信が滲み出ていた。
「神の右席、各勢力首脳陣が一目置いたその存在。
劇的な撃破をしてきたお前だが、案外あっけなかったようだな」
上条「っ……せえよ……!」
「なに、すぐ殺しはしないさ。幻想殺し、お前を生け捕りにし天草式、必要悪の教会の奴らから叩き潰す」
上条「なん、だと……!?」
「少なからずとも、お前はそちらさんからすれば重要な存在だからな。
お前を質に取れば、そいつらの動きも制限ができる」
白い息を吐きながら、上条は目を見開き男を睨みつける。
男の言葉に、情に義理堅い面々の顔が思い浮かんだ。
『冷徹』を装いながら、実は互いを思いやり互いの為に死力を尽くしてきた『仲間達』。
禁書目録の件、クーデター、第三次世界大戦。
それだけではない。
きっと上条も知らない裏でも、様々な件に互い助け合いながら乗り越えてきたのであろう、あの仲間達。
それを、この男は卑劣な手で引き裂こうと言うのか。
上条「てめぇ……!!」
「ふん、お前には少し眠ってもらうとしようではないか」
男が、指を鳴らす。
化け物が、動いた。
「少しの間、よい悪夢を────」
上条「くそ…………!!」
刹那。
「よ、上条」
犬の化け物の巨体が、吹き飛んだ────。
早速>>1に書いた事を覆すけど
・火・土の週二刊行
・書き上がったら順次投下
どっちがいいかな
どっちにしろ火・土には必ず投下!という制約は自分自身にぶっかけております
また次回!
>>57
自分は火・土の定日でいいと思うよ!
火・土の何時くらいから投下する予定?
ありがとう
俺の今までのステイルで、書き上がったら順次投下ってのが性に合ってるみたいだからそうしていこうと思う
ただ火・土には必ず投下にくるよ!
>>58
夜の10時くらい!
ステイルじゃないスタイルだ
>>1
そういや、姉ちゃん元気か?
「ヌグアアアアッッ!?」
「なっ!?」
上条「!?」
化け物の目の前に展開された、『理解不明なモノ』。
それが化け物の突き出した爪に当たるや否や
ガギンッ──!
という音を立てて吹き飛んでいた。
「なんか騒がしいと思ったら見知った顔がいたぜ」
上条は、その声がした方に目をやる。
ファー付きの細めのジャケットに、カジュアルなスーツ姿に身を包んだ茶髪の男が、上条に軽く手を上げていた。
上条「垣根……!?」
垣根帝督。
昨日、道端で倒れていたのを介抱した男だった。
垣根は化け物が吹き飛んだのを見ると、上条に手を差し出す。
上条は状況を確認しながらそれに掴まると、ゆっくりと立ち上がった。
垣根「大丈夫か? って、結構やられてんなおい」
上条「垣根……、今のは、一体……?」
上条は驚く。
あの化け物が、突然なにかに吹き飛ばされた。
その吹き飛んだ距離を見るに、威力も推して量れるであろう。
それを、垣根がやったのか。
垣根「あいつはお前の敵、でいいのか?」
上条「あ、ああ……」
「ちぃっ、小賢しい!」
男は吹き飛んだ化け物の方へ視線を送る。
垣根へともう一度視線を寄越すと、苛々しげに口元を歪めた。
舌打ちをしながら、ジャンバーのポケットからひし形の紙を取り出すと、倒れ伏した化け物へと投げつける。
光が、浮かび上がった。
垣根「にしても、なんだあ? あいつは。能力者、とはちょっと違うみてえだな」
上条「垣根、記憶が……戻った、のか……?」
左肩を押さえながら上条は窺う。
垣根は、記憶がない──と言っていた。
その返答として、頭をかき。
垣根「……いや、まだ思い出せねえ。だが、能力の使い方ってのをどうにもこの頭は覚えているらしい」
そして、ニィっと笑って見せた。
少し予定が狂った。
幻想殺しを質に取り、敵となる「天草式」「必要悪の教会」らを無力化するのが当初の予定であった。
少なからずとも、幻想殺しに信頼、友愛の情を抱いている面々にはこの手は効果的な筈。
そして、その幻想殺しの範囲は右手だけだ。
いくらでも勝算はあった。
あの「聖人」相手だと少々手こずってしまう可能性はあり、だから幻想殺しが一人の時を狙った。
多少の能力者が助力に入っても、脅威にはならない筈であった。
しかし、イレギュラーは存在した。
「――――――――――」
男は再び詠唱する。
例えその『能力者』がいたとしても、化け物に対処できるのはそうそういまい────
そう、踏んでいた。
「ヌガアアアアアッッ!!」
化け物が、この場にもう一体召喚される。
最悪の場合の「保険」をまさかここで使う事になるとは。
男が用意したのは勿論それだけではないのだが、今この場で出せるのはそれだけ。
垣根「上条、下がってろ」
上条「……!? だけど、垣根……!」
突如現れたもう一人の少年の背中に、白い翼が現出する。
「!?」
上条「翼……!?」
その様子に、言いようのない焦燥感にかられた。
能力者というのを一応どういうものか聞き及んではいるのだが、情報にはないその能力者の持っているであろう力にたじろいだ。
垣根「この俺の前に立つ事を」
指を鳴らし、二体の化け物を襲わせる。
垣根「絶望しろ」
ヒュンヒュンヒュン!
「ヌグアアアアアアアッッ!!」
「グガアアアアアアアッッ!!」
手駒の化け物二体は、その白い翼の餌食となった。
ガチャ。
佐天「うーうぃーはぁーぅ」
初春「わっ」
午後の9時を回った所で、初春の部屋の扉が開く。
今からお風呂にでも入ろうかなと着替えとバスタオルを持って浴室に行こうかと行った所で、突然の佐天の登場に初春は吃驚していた。
初春「あ、あれ、佐天さん? か、鍵は?」
佐天「へっへーん。あたしと初春の愛の扉には鍵なんか掛けられてないよんっ」
初春「……」ジロ
佐天「あは」
ごまかす様にして佐天は舌をちょこっと出す。
ズカズカと入ってくる親友に対して、初春は少しだけ溜息を吐く。
慣れたものではあるが。
佐天「お、初春お風呂入るとこだったの?」
初春「そうですけど。佐天さんはなにか用事があるんですか?」
佐天「わかってるくせにぃ」
クスクスと笑いながら佐天が初春に近付く。
佐天の来訪にて一旦持っていた物は置き、現在はベッドに腰掛けている状態。
前髪を上げて束ね、部屋着姿の佐天は一直線にこちらの方へと向かって来ていた。
全く、今日は何を企んでいるのやら。
と、思いきや。
佐天「……」
初春「……佐天さん?」
佐天は何も言わず、ただ距離を縮める。
2m、1m。
もう手を伸ばせば届く距離だ。
一体何をしようとしているのか、「?」と首を傾げて佐天をじっと見ていた。
佐天「せいっ」
初春「わ、わわっ!?」
すると、突然佐天が飛び掛かってきた。
そんな佐天に初春は驚き、佐天共々ベッドの上へと二人して倒れ込む。
初春は非力な女の子だ。
自分よりも背丈のある、佐天の身体を支える事も出来ずにそのまま組み敷かれる体勢となった。
初春「佐天、さん……?」
初春のボブショートの髪型が乱れる。
前髪も上がり、おでこが露わになってまたちょっと違った魅力を醸し出していた。
上から見下ろす形の佐天の長い髪が初春の頬を撫でる。
それをくすぐったそうに、初春はそっと手の甲でのけた。
佐天「ねえ、ちゅーしよっか」
初春「佐天さん……」
そう言いながらも、佐天はその端正な顔を近付ける。
季節は冬だ。
外は寒い風が、俺は強いんだぞ、何でも冷やしてしまうんだぞという主張を今でも続けている。
窓が、カタっと震えた。
だが、部屋の中は春だ。
二人の熱い吐息が、お互いにかかる。何でも愛してしまっているんだぞという主張を今でも送り続けている。
柔らかい感触を、ふにゅっと感じた。
佐天「っていうのはどう?」
初春「そんな白井さんみたいな話を私に振らないで下さい」
佐天「あは」
ある寮の一室で、緑茶のいい香りが漂う。
二人は何時までも尽きないおしゃべりを繰り返していた。
学校の事、勉強の事、クラスメイトの事、行事の事、街の事、お店の事、ファッションの事、小物の事。
そして、恋の事。
話題は当然、彼の事に行き着く。
佐天「それで、初春。どーだったの? 今日は」
初春「ど、どーだったって……。べ、別に何もありませんよ」カァァ
佐天「そんなに顔を赤くしちゃ何もなかった事なんてないでしょーに」
ニヤニヤしながら佐天は初春をつっつく。
初春はと言うと焦りを落ち着かせる為に緑茶に口をつけていた。
とは言えまだまだ熱く、ふーっ! ふーっ! と息を吹き掛けるだけであった。
だが焦りを隠す故に少々強く吹いた為、跳ねっ返りを受けて「あつっ!」なんて更に慌てる羽目になった。
初春「ぅ……/// きょ、今日は手を繋いで、抱きしめてもらって……///」モジモジ
佐天「あんたらいい加減付き合えや」
初春「でも……まだ、やっぱり」
佐天「ん?」
初春「自信が、ないなぁ……」
佐天「ふむふむ」
以前、固法にも話した事を口にする。
『大人の女性』というものに憧れを持っているこの初春は、まだまだ成長しきってない自分に対して少々コンプレックスに思っている所があった。
憧れの女性と言えば、そう。
前に知り合ったあのレベル5の麦野の様な。
包容力があって、スタイルよくて、綺麗で、優しくて。
(それは『裏』の顔で、『表』を知れば印象はガラリと変わってしまうのだが)
初春「妹、みたいな感じだったら……やだなぁ」
佐天「ふむふむ……妹、ね。
いいんじゃん? なっちゃえば」
初春「えっ?」
佐天が諭すように口に出した言葉に初春は反応する。
自分が抱えている悩みを後ろからひょいっと抱え上げられる様な、そんな感じ。
でも、でも。
自分が求めているのは『兄妹』という様な関係ではなくて。
『恋人』というものなのだ。
好きで好きで仕方がなくて。
手を繋いだり、抱きしめたり抱きしめられたり。
キスもしちゃったりやる事やっちゃったり。
当然、自分にはまだ早いっていうモノもあるのだが、興味がない訳ではない。
ブラクラだとわかっていても、興味本位であえて自分から踏みに行って飛ばされた先のwebページを見てドキドキしちゃったり、読んでいたweb漫画が急すぎるカオス展開で突然そういう雰囲気のモノを見てドキドキしちゃったり。
以前、何気無しに検索してみたら大量に出てきて保存してしまった彼の画像をコラする寸前でハッとなったり。
佐天「ほら、前から妹ブームが続いてるじゃない? だから妹みたいな存在って思われたとしても、そういう雰囲気に持っていって迫っていっちゃえば上条さんも堕ちるって」
初春「佐天さんまた変なもの読んだでしょう!」
人の事を言えない気もするのだが。
佐天「でも、兄妹かー……あ、そういえば上条さんって兄弟はいたりするのかな?」
初春「あ……どうなんでしょう……聞いて、ないです」
佐天の言葉に初春もそういえば、とハッとなる。
今まで色々な会話をしてきたのだが、不思議とそういう話にはならなかった。
聞きにくい、という訳でもないのだが、上条からも身の上の話はあまり口にしない。
ただそれは、上条からしてみれば過去の自分を『知らない』のだから仕方がないという部分もあると言えよう。
佐天「でも、私にもお兄ちゃんっていう人がいればあんな感じなのかなあ? 弟はいるけどさ」
初春「む……」
佐天「っていうか、お兄ちゃんなら私もやっぱり当麻さんがいいな」
初春「」ギロッ
佐天「どうどう、これは真面目な話。ほら、当麻さんって自分の信念っていうのかな? それが凄く強いじゃん。
それにやっぱり優しいし、道を踏み外そうとする人にはキチンと叱ってくれたりさ。
危ない目にあったとしても、身体を張って守ってくれそうで。
悩んでる時とかも親身になって聞いてくれそうだし、頑張って元気づけてくれたり」
初春「……」
佐天「結構お兄ちゃんにしたいって言ったら、ああいうタイプの人がいいって言うコ多いんじゃないかな?
でも二人兄妹だとしたらやっぱり、なんていうかどっぷりハマっちゃいそうだしストッパー役としてもう一人二人妹か弟か……絹旗ちゃんとかいいかも」
初春「」ワナワナ
佐天「三人か……それもいいけどまた違うスパイスでもう一人……白井さんとかどうなんだろ。
長男、当麻さんで長女、白井さん。次女、私。三女、絹旗ちゃんみたいな──あれ? なんか受信した」
初春「」プルプル
佐天「あ、そうしたら初春を『義姉ちゃん』って呼ばなきゃいけないのか」
初春「」フルフル ン?
初春「……」
初春「///」ポンッ
余所様から何かの電波を受信したらしい。
矢継ぎ早に繰り広げられるマシンガントークに、初春は途中まで震えながら聞いていたのだが。
最後に耳にした言葉に一気に顔を真っ赤に染めた。
初春「おおおお、義姉ちゃん……///」
『みんなーっ、ご飯出来ましたよーっ』
『はーい!』
『超今すぐに行きます!』
『はいですの』シュンッ
『おい黒子! 家での空間移動は危ないから禁止だっつったろ! ま、飾利のご飯は美味いから気持ちはわからんでもないけど』
『あ、あああ、あなたったら……もぅっ!//////』ボシュウウゥゥ
初春「ぅぇへへへへ……///」シュウウゥゥ
佐天「あ、なんかいけないスイッチ押しちゃったみたい」
佐天「それでさ、初春。アピールとかはしてんの?」
初春「あああ、アピール、ですか///」
佐天「そんないつまでも赤面してないでさ」
佐天としては至って真面目である。
この親友がしている、恐らくの初恋はやはり応援したいものであって。
楽しみたいという気持ちも持ちつつも、成功してほしいっていうのが大部分であった。
初春の上条に対するアプローチは、佐天が驚くほど積極的だった。
自分から手を繋いでいったり、胸の中に飛び込んでいったり。
時折見せるフリーズは恐らく妄想世界へ旅立っているのだろう、そこには深く突っ込まないでおくが。
佐天「ほら。好き、とか愛してる、とかさ。直接的には言えなくても、そんな感じの言葉は仄めかしてるの?」
初春「ほ、仄めかしてるというか……」
佐天「ん?」
初春「ぁぅ……、そ、その。大好き……って言っちゃったり……
ちゅ、ちゅーもしちゃったり……」カァァ
佐天「うんうん」ウナズキ ン?
佐天「……」
佐天「は?」
ちょっと待って、今目の前の親友はなんと言った。
文字通り目を真ん丸にしながら、人差し指をコネコネと合わせている初春に思わず絶句したのは仕方のない事であろう。
──あれ、確かまだ恋人同士じゃないんだよね? でも恋人がやるAまでいってる?
初春「ふ、雰囲気と勢いで、その……あぅ」モジモジ
佐天「……」
驚いた。今年一番驚いた。
落ち着きを取り戻すために緑茶を喉に流し込む。
甘い。
誰だ砂糖を入れたのは。
というか、前の日曜日に初春の部屋に訪ねていった時、寝言で言っていた事はどうやら本当だったらしい。
相談に乗っていたつもりが、いつの間にか惚気花畑に導かれていた。
佐天(……帰ったらコーヒーでも飲もっと)
上条「垣根……すまん、助かった」
垣根「まあ俺もお前には世話になったからな」
自分達以外の人の気配が消えた、静かになった夜の公園に声が響く。
男は二体が倒されるや否や、この場から姿を消していた。上条は痛む身体をゆっくり動かしながら、ピクリともしなくなった二体の化け物の傍にまで寄る。
垣根はそんな上条を後ろから見ていた。
垣根「上条?」
上条「なんだこりゃ……焦げてんのか?」
垣根「ん、まあ法則を捩曲げて熱量を上げてだな……ん? なんで俺、んな事知ってるんだ……?」
なんだそりゃ、と上条は思った。
どうやらその能力ぶりを見るに、相当上の能力者だった様だ。
でなければ、こんな化け物二体を相手取り瞬殺できる筈がない。
なんだかふと考え込む様な垣根に上条は「?」と感じたのだが、今はそれよりもやる事がある。
土御門が言っていた、『禁書目録の様に、直接身体に施された魔術』────
屍の様な動かない巨躯に、右手を置いてみる。
パキン、パキン────
触るごとに、その部位が変化を起こした。
頭、腕、脚、腹、そして胸。
詳しくは、心臓の位置。
パキィィィン────
一際大きな音がすると、化け物の姿は見る見る変わっていく。
上条「……くっ」
垣根「おい……、なんだよ、これは……」
そこに現れたのは、自分達よりも少し年上なのだろう、大学生と思われる『人間』の死体に成り果てていた。
上条は思わず表情を歪ませる。
この死体が先程の男の手によって作られたものかはわからない。
しかし、以前目にしたニュースの事が頭を過ぎる。
『大学生が、変死体で発見され────』
やはり、殺されたのか。
そして身体を利用され、人間とは掛け離れた化け物の姿になって使われていたのか。
上条「……」
開いていた目を手でそっと閉じさせると、上条はもう一体の方へと向かった。
神裂「上条当麻! 無事ですか!?」
上条「神裂」
神裂「無事でしたか……。これは……!」
空から神裂が下りて来る。
そして上条が手を置いていたモノに目をやると、神裂も目を見開かせていた。
上条「垣根が助けてくれてな。垣根、サンキュ」
神裂「そうなのですか……ありがとうございます」
垣根「おおよ。しかし、こいつはなんなんだ?」
垣根の訝しむ声が届く。
上条は神裂の顔を見ると、神裂もどうしましょう、という表情を貼り付かせていた。
垣根は、恐らく相当な能力者ではあるのだが、魔術関連の人間ではない。
無関係である垣根を巻き込むのも、二人としてはなるべく避けたい事態だ。
しかし、実際に場面を目にさせておいて、「なんでもない」という言い訳も通用しないのであろう。
と、ここで上条と神裂としてもいい助け舟が入る。
こちらへ向かって来る人間を目にすると、上条はどことなく安心感を覚えた。
土御門元春────。
魔術関連、学園都市関連様々な人間関係をうまく立ち回ってきた男だ。
土御門ならこの場も切り抜けられるのだろう、と上条は一息ついていた。
だが、上条は知らない。
『裏』を渡ってきた彼が故に、この邂逅がどんな意味を持つのかを。
上条は知らない。
垣根帝督という男が、学園都市の第二位であったということを。
土御門「カミやん! 無事か……にゃ…………
!!??」
垣根「ん?」
土御門「垣根、帝督……だと!? 何故……貴様がここにいる!!」
上条「土、御門……?」
神裂「どうしたのですか?」
垣根「……なんだ?」
公園内には、冷たい風が吹き抜けていた。
>>67
いつかその話を振られると思ったよwwww
超元気にしてるよ
また次回へどーん!
土御門「どういうつもりだ」
垣根「あ? なにが、だ?」
上条「おい、土御門……?」
土御門「カミやんは下がってろ」
土御門が神裂、そして上条を庇うように、垣根を睨みつける様にして前に立った。
上条からは訝しむ声がしたが、土御門はそれを途中で割り込むが如く下がれと言う。
一体、この男は何をしにここにきた。
学園都市統括理事長のアレイスターとの直接交渉権を求めるが為に、『暗部』を揺るがせた男が何故。
今、この場に親友と位置づける少年と共にいるのか。
土御門「何故お前が今ここにいる。脳みそを三分割され、能力を吐き出すだけの機械になったお前が、どうやって生身の身体を取り戻し姿を現した」
神裂「……?」
上条「……!?」
垣根「……」
ジャケットの内ポケットに仕込んだ折り紙を気にしながら、土御門は言葉を続ける。
『暗部』が解体された今でも、この男の能力によって生み出された便利な『道具』が学園都市の深い闇の中では暗躍している。
アレイスターでさえも気にかける程の存在の男が、何故、今にして。
上条「おい……土御門……! どういう事だよ……!」
少々掠れた声で上条は土御門を止めようとする。
何処かしら傷付いているのだろう、出し辛そうにしていた。
さてどうする。
恐らく、相手方も自分の一つの正体を知っている筈。
『元』となったが、スクールのリーダーであった垣根帝督。
そして自分は、『元』グループの構成員。
互いに学園都市によって組まれた、言わば汚え組織。
能力としては学園都市第二位の未元物質、それに比べてレベル0の肉体再生。
かつての土御門は、陰陽博士として最高位にまで上り詰めた魔術師だった。
それも、恐らくではあるのだが、垣根と同等に戦える程の力で。
しかし、彼の魔法名が指す様に今までしてきた行動が故にそれに大きく制限を受ける事となった。
『背中刺す刃・Fallere825──嘘をついてでも、何かを裏切ってでも目的を果して見せる』
陰陽の歴史は「裏切り」の歴史。
目的の為に、敵を欺き仲間を欺き、相手を欺き自分を欺き、能力を欺き魔術をも欺いた。
スパイとして潜入した先で受けた脳開発が魔術に欺きもしたが、それでも土御門は目的の為なら何の躊躇いもなく行使をする。
所詮は自然の摂理と超越した科学。
やはり魔術と能力は相容れないものなのか。
それをも見越してアレイスターという魔術師は、この学園都市を造ったのかもしれない──
いや。
今はそんな事などどうでもいい。
テメェの目の前にいる男から、目的を最良の結果で打開できる親友を如何に守れるか。
その為なら、何だってする。
土御門「カミやん、知らないのか?」
上条「何が、だよ」
垣根「……」
土御門「前に、『子猫ちゃん達が襲われた』っつったよな?」
上条「……っ! それが、どうしたんだよ……!」
土御門「襲ったのは……コイツなんだよ」
上条「……っ、なん……だと……!?」
垣根「……」
土御門「超電磁砲、妹達を襲った──学園都市・第二位『未元物質』ってのは、コイツなんだよ。なあ? 垣根帝督!」
上条「垣根、が……!?」
垣根「……!」
決定的な言葉を、土御門は口にした。
公園内を静寂が包む。
場にいる四者は、口を開かない。動かない。
互いの動きを確認しながら、空気の行く末を見守る。
チラッと上条を見る。
先程土御門が彼にかけた言葉を反芻する様に、垣根の方へと視線を向けていた。
上条「……土御門」
土御門「……カミやん、とりあえずお前は病院へ行け。俺はコイツに話がある」
垣根「……」
土御門が上条に帰れと促す。
それを眺めていた神裂も、上条が今怪我をしているのを見てそれが今やるべき事だと判断していた。
神裂「上条当麻。土御門の言う通り、我々は戻りましょう。貴方は怪我をしているのでしょう?」
上条「……だけど!」
土御門「カミやん。その傷、誰にやられた。こいつか?」
上条「……それは、違う」
垣根「……」
神裂「……行きましょう、上条当麻。私も病院まで着いて行きますから」
上条「でも……!」
垣根という昨日知り合った男は、口を開かない。
どういう事情があり、第二位の能力者という事情が何を辿って行くのかはわからない。
しかし神裂にとって、今懸念すべき事柄は上条の身体の安否。
ただならぬ恩、以上の想いを感じている彼に対して、放っておく事などできやしなかった。
垣根「上条」
土御門「……! 動くな!」
そこで、渦中の男が声を出す。
十分な警戒をしている様子がひしひしと伝わる程、土御門の声色は棘が含まれていた。
自分の腕に支えられる様にしている上条が、そこで彼に再び視線を向けた。
垣根「……そこの金髪が言う通り、お前は病院に行ってろ」
上条「……」
土御門「……」
垣根「お前には借りがあったからな。礼を言うぜ」
上条「……っ」
神裂「……行きましょう」
何かを言いかけようとしたが、それを喉で飲み込んだ様に言葉を詰まらせた様子の上条を、神裂はその肩を支える。
並々ならぬ事情があるのは察していたが、今は最優先すべき事がある。
そうして、神裂は黙りこくってしまった上条と共に病院へ向かう事にした。
──わかんねえよ……。
自分がどうしたらいいのか、わからない。
「いいヤツ」という第一印象を持っていて。
自分もそうだから、記憶がないというのもなんか親近感が湧いて。
そして自分を、魔術師と化け物から救ってくれて。
でも、助けた男が、大切な人を傷付けたという第二位の超能力者で。
上条「……っ」
神裂「上条当麻……? 大丈夫ですか?」
上条「あ、ああ……すまん、神裂。大丈夫だ」
肩越しに自分を心配してくれている声が響く。
病院まで、もう少しの距離。
とりあえず今は治す事が先決なのだろう。
インデックス「えっ? とうま、今病院にいるの?」
五和「!?」
オルソラ「!」
インデックス「……うん、……うん。わかったんだよ」
五和「か、上条さんは大丈夫なんですか!?」
インデックス「病院にいるみたいなんだよ。帰ってくる途中で、魔術師に襲われたって」
五和「……!」ワナワナ
オルソラ「……大丈夫、なのでしょうか」
インデックスが電話を切ると、五和が焦りも隠さずにインデックスに問い詰める。
魔術が感知され、ハラハラとしていた所で嫌な予感は的中していた。
事情を聞いたインデックスは、そんな重苦しい雰囲気の五和より幾分か軽い口調で続けた。
インデックス「大した事はないって言ってたんだよ。もう治療も終わって、これから帰る所なんだって」
五和「そ、そうなんですか……よかった……」
傍目から見てもわかるくらいの安堵っぷり。
しかしそれは次第に闘志の色へと変化を見せて行った。
槍をいつもの五割増しで握り締めているのがわかる。
五和「……誰がやったんですか」
インデックス「例の魔術師かも。とうまが『犬の化け物』みたいなのに襲われたってかおりが言ってたんだよ」
オルソラ「犬の、ばけもの……ですか」
五和「……」プルプル
インデックス「落ち着くんだよ。後30分くらいしたら帰ってくるって言ってたんだよ」
オルソラ「でも今日戻ってこられるのなら、されたお怪我というのも一安心でございますね」
インデックス「うん」
ホッと一息つくオルソラだが、勿論インデックスもそうであった。
それを電話口にて聞かされた瞬間、やはり彼女も気が気でなかった。
いまだにぷるぷる震える五和を宥める。
粗方、上条の身体を診たのは幾度となく彼の身体を治してきたあのカエル顔の医者なのだろう。
その医者が大丈夫と言うのなら、大丈夫なのだ。
ふー、ともう一度安堵の溜息をインデックスは吐いていた。
あれから身体の色々な所へ包帯を巻いた上条が神裂と共に男子寮へ戻り、少し遅めとなった夕食を全員で摂ることとなった。
ドアを開けた瞬間、上条を待っていたのはいつものラッキースケベとその代償であった。
まずインデックスと五和が文字通り飛んできて勢いに圧された上条が足を滑らせ、後ろにいた神裂のとっっても柔らかい胸へと顔面から飛び込み、それを見たインデックスが条件反射で噛み付こうとするも上条の怪我に途中でハッとなり、しかし飛び掛かった身体をどうする事も出来ずにいた所を五和が何とかインデックスをキャッチするも、段々と近くなってゆく上条の顔に緊張して足元にあった槍を踏ん付けてしまいそのまま上条の顔を神裂のそれと負けないくらいの胸で挟み込んだ以上。どーん。
ピクピク、ピクピクと天草式団子の中から外に出した指を引き攣らせている様だが、傍から見れば幸せ以外の何物でもない。
神裂と五和の二人は顔が真っ赤になってフリーズしているし、インデックスもインデックスでイライラっとしたのだが、上条の身体を気遣ってその出た指を甘噛みしている。
オルソラ「あらあら」
その様子を見て微笑むオルソラ。
頬っぺたに手を当ててニッコリとしている彼女だが、この場に於いては上条を助けるという選択肢はなかったらしい。
ほんの少しの「いつも」を取り戻した上条当麻であった。
これ終わったら次は小萌先生話でも書いてみたいなって思ってみたり
小萌先生も可愛いよね!
まだこのスレには出てきてないけどさ!
ちょい短いけど今日はここまで
次は土曜日の夜10時くらいに出没する予定っす
また次回!
上条「オルソラ、ご馳走様」
インデックス「ごちそうさまなんだよ!」
神裂「相変わらずの腕ですね。ご馳走様でした」
五和「私ももっと修業しなきゃ……あっ、ご馳走様です」
オルソラ「お粗末様でございました。で、この国の挨拶は合ってるんでございましょうか?」
インデックス「うん、合ってるかも!」
相変わらずの礼儀正しさに、日本の風習をなぜかインデックスが答える。
しかし完全記憶能力を持っているが故に、間違いはないだろう。彼女が正しく理解しているか、の条件付きではあるのだが。
オルソラ「それでは、お片付けを致しますね」
五和「洗い物は私がやりますよ」
上条「んじゃ、俺もっと……いつつ」
神裂「あなたは怪我人なのですから、じっとしてて下さい。食後のお茶でもお持ちしますので」
後片付けを始めるオルソラ、神裂、五和を見て上条も立ち上がろうとしたのだが神裂にそっと止められる。
インデックスも自分の使った食器をてててーっと台所まで持って行っていた。
上条「いや、ここの家主は俺なんだし、さすがにそこまでしてもらうのも」
神裂「ならば家主らしく、ドカッと座ってればいいのです。あなたに動かれると、逆にこちらが落ち着きません」
上条「う」
五和「女教皇様の言う通りです。皆、上条さんを心配しているんですから」
上条「……ん、じゃあよろしく頼むな。さんきゅ」
五和「……///」
こうでも言わなきゃ上条は動いてしまう。
少々強い口調だとしても、やはり心配しているのだ。
それを悟った上条は彼女達の言葉に従う事にする。
その時の笑いかけた顔が、何よりもの労いになっていたのは彼女達だけの秘密であった。
オルソラ「貴方様のお怪我はどれほどのものなのでしょうか……?」
上条「ん? あー、大した事はないよ。明日には包帯も取れるし、診てくれたのがあの先生だからな……」
もはやクラスメイト達並に顔を合わせているあの医者を思い浮かべながら上条は苦笑する。
実際に大した事もなく、入院するまでの程でもなかったのが幸いだった。
ずずずっとお茶を飲む。うん、美味しい。
それにしても、やる事がない。
すると自然に考え事へと意識は移っていく。
上条「……」
それはやはり、先程までの事。
倒れていた所を介抱した男が、土御門は第二位の能力者であると言った。
打ち止めに襲い掛かった。
美琴達に襲い掛かった。
そして、初春を傷付けた。
しかし、垣根には記憶がない。
『お前には世話になったからな』
その男に、助けられた。
インデックス「……とうま?」
上条「……ん? あ、ああ、どした?」
インデックス「大丈夫? なんか怖い顔してるかも」
上条「……ん? おー……おう。すまんな、考え事してた」
不安げにこちらを見るインデックス。
自分の頭を悩ます、第二位の件はインデックスには関係ないはずだ。
気分を落ち着かせる為にもう一度湯呑みに口を付ける。
お茶は、もう入ってなかった。
ピンポーン──
すると、そこで客人の来訪を告げる部屋のベルが鳴る。
上条「……!」
土御門元春。
あの時、場を託した男であった。
今現在、隣に位置する自分の部屋にいる人影はない。
神裂、五和、オルソラ、インデックスに土御門舞夏を加えた五人は近くの銭湯にて揃って入浴中なのであろう。
上条を残して入浴など、という反論があったのだが土御門がうまく言いくるめ、しぶしぶ彼女達は外へ出て行ったという。
それは恐らくこの土御門の事だ。
魔術師の動向も踏まえての提案だったのだろう。
相手を知っている、という雰囲気をも滲ませていた。
この部屋では、舞夏が煎れたコーヒーの香りが漂っている。
だが正直、今それをゆるりと味わっていられる心境でもなく。
部屋のあちこちに置かれているトレーニング機材を視界に収めながらコーヒーから立ち込める湯気の行方を追っていた。
コチ、コチと壁に掛けられた時計は一秒毎の静寂を破いている。
音を発するのは、それだけだった。
魔術の件については今はまだ猶予がある。
その前に、上条にとって気にかかるあの事について話しておこうと土御門は自室に上条一人だけを招いていた。
土御門「ふぅ。さて、カミやん」
上条「……おう」
土御門「垣根帝督とどういう関係だ。何があった」
上条「……ああ」
上条は話す。
介抱をし、その際に異能を消す力が働いた事。
目を覚ました垣根が、記憶がないと言っていた事。
そして、間一髪の所で助けられた事。
総て包み隠さず、上条は話していた。
土御門「幻想殺しが反応した、だと?」
一つのワードに土御門は反応を示す。
頭を抱えた時に、確かにこの右手は反応をしていた。
それによって虚ろだった目に生気の様な色が戻った事も踏まえ。
その言葉に、上条は黙って頷いた。
土御門「……そうかい」
上条「それで……あの後どうなったんだ?」
土御門「ああ。カミやん達が病院に向かってすぐに飛んでいきやがった」
上条「……飛んだ? っていや、それよりもどこに」
土御門「文字通り、背中に翼を出してバッサバサと。どこに行ったのかは知らん」
上条「……」
土御門「記憶がないっていうのも引っ掛かる。確かにそんな感じでもあったんだにゃー」
土御門としては戦闘をも覚悟していたらしい。
だが予想と違った展開に、少々拍子抜けというか戸惑ってもいる様子であった。
口調も次第に、いつもの土御門に戻ってきていた。
第二位と言う男はどういう男なのか。
実力的には暗部組織をたった一人で壊滅させる事が出来る程のもの。
『メンバー』を潰し、『アイテム』をもたった一人で追い詰めた様を見ると推して量れる。
能力が展開する『未元物質』は本人でさえもよくわからないものであったらしい。
しかし、あの第一位との戦いで更なる自分を高める事となった。
もはやこの学園都市にて彼と対等に戦えるのは、ただ一人。
例外が一人いるのだが、それは完全に未知数。
誰かが持っている、『素養格付』をしても、上限は見当たらない。
そんな男──垣根帝督とは、一体どういう人間なのだろうか。
「うぅ……ぐすっ、おがぁざん……っ」ポロポロ
垣根「……」
非情?
垣根「一緒に探してやるよ。っつかこんな夜遅くに小さい子を一人にするなよな……」
「ありがとー、えっと、ほすとさん?」
垣根「ちょっと待てその言葉を覚えるにはまだ早え」
それとも、人間くさい?
「す、すみませんありがとうございますっ!!」ペコペコ
「ほすとさん、ありがとーっ」バイバイ
垣根「もうはぐれんなよ」
垣根「……」
垣根「さあて。さっきから俺を付け回してるストーカー野郎。何処のどいつですかねえ」
「……」
垣根「御大層な格好しやがって。やけに重装備だなあ、おい?」
それは、彼だけにしかわからないのであろう。
「あれ? シスターさん?」
「あれ? わー、奇遇だねってミサカはミサカは手を振ってみる!」
インデックス「あれ? らすとおーだーにわーすとなんだよ」
打ち止め「シスターさん達もお風呂? ってミサカはミサカは尋ねてみたり!」
番外個体「やっほう」
湯気が立ち込める大浴場にて、見知った小さな友達の声が響き渡った。
その隣では彼女の姉(身体的には)? もいる。
二人ともタオルで隠そうともせずにその瑞々しい身体を晒していた。
一人は、無邪気に。
一人は、悠然と。
インデックス(むぅ……)
自然と大きい方のそれに目が行き、羨ましいとも思ってしまうのはやはり彼女も女性であるためだろうか。
ここに引き連れて来たイギリスから来た友人達にもチラッと視線を送る。
五和「」ボイン
神裂「」ボイン
オルソラ「」ボイン
同居人には常におねだりをしているという我が儘を実は自覚してはいるのだが、この時ばかりは神にもおねだりをしてもいいと思った。
舞夏「おー、シスターの友達かー?」
インデックス「まいか……」キラキラ
料理上手のこの友達とは、もっと仲良くなれそうな気がした。
インデックス「二人で来たの?」
打ち止め「ううん、たまにはって事で家族みんなで来たの。ヨシカワとヨミカワは、多分今頃サウナにいるんじゃないかなってミサカはミサカは予測を立ててみる!」
インデックス「そうなんだ。あくせられーたも?」
打ち止め「うん、一緒に入ろうよって言ったら「さすがの俺も性犯罪者になンのはごめンだ」って言ってたけど」
インデックス「……そ、そうなんだ」
番外個体「第一位は今頃男湯の方で一人寂しくしてんじゃないかな。それとも女の子に見えなくもないくらいの細い見た目だし、飢えに飢えたおっさん共の慰め者とかになってたりしたら笑っtyおえええええええええ」
打ち止め「ちょ番外個体変な妄想しないで! ミサカにも反映されるんだかrおえええええええええ」
インデックス「」
可愛いらしい姉妹の唐突の嗚咽にインデックスは言葉を無くす。
番外個体の相変わらずの平常運転っぷりに巻き込まれた形の打ち止めに周囲の視線が集まっていた。
例の彼女達の繋がっているネットワークは大荒れだったのは言うまでもない。
「チッ、ガキ共騒がしくしてねェだろォなァ」
舌打ちをしながら真っ白い髪の毛を丁寧に洗っているのは学園都市第一位である。
能力によって常日頃から有害物質を反射している少年の肌には、シミが一つもない。
それは女性達が羨む程の美白で、壁一つ隔てた向こう側にいる『悪意の塊』が口にした、
『女の子に見えなくもない』
というのも、常に眼鏡をかける必要がある程の視力の者からすれば、浴場では外していて更に湯煙で霞んだ視界からのその少年の姿は勘違いをしてしまいそうな程である。
ふぅ、と男にしては長めの白い髪の毛をかき上げ、タオルを手にした。
『冥土返し』特製の防水、防ショック、耐熱、その他諸々の特殊加工がなされたチョーカーにも、一通りの手洗いを施し湯舟に浸かるためその場を立つ。
オエエエエエエエ
一方通行「……あン?」
シスターサン、アッチイコウヨッテ ミサカハミサカハ テヲヒッパッテミル!
チョットマッテホシイカモ、ラストオーダー
すると、壁の向こうで何やら甲高い騒がしい声が耳に届く。
打ち止めの子供独特の声は、キーが高く耳につきやすい。
しかもやたらと声が大きいものだから、それが浴場という場所であってもこちらの方まで届いてくるのだ。
そしてその声に混ざって、聞いた事のある声も混ざっている事に気が付いた。
一方通行「この声、暴食シスターかよ」
やたらキャッキャキャッキャとはしゃいでいる声に溜息を吐きながら、一方通行はファミレスの時も焼肉屋の時もそのブラックホール胃袋に絶句させられた少女の顔を思い浮かべた。
打ち止め共々こちらにまで響いて来る大きな声でやいのやいのはしゃいでいる様子に、上条にも同情を禁じ得ない。
ン? そのシスターがこの場にいる。
一方通行「っつゥ事は、三下も来てやがンのかァ?」
本人は否定するが、すっかり仲の良くなった知り合いのヒーローの姿を探す。
キョロキョロと視線を動かし、湯煙の中あのつんつん頭の少年の姿を探していると。
「グモモ……グベベ……」
一方通行「」
一心不乱に浴場の床を舐めている、ざんぎり頭の人間の様な『物体』がそこにはあった。
今日はここまで!
次は火の定例投下日。の前に一回くらい投下しに来るかも
支援ありがとう、また次回!
http://mup.vip2ch.com/up/vipper39409.jpg
>佐天「三人か……それもいいけどまた違うスパイスでもう一人……白井さんとかどうなんだろ。
長男、当麻さんで長女、白井さん。次女、私。三女、絹旗ちゃんみたいな──あれ? なんか受信した」
作者さんあっちのスレ見てるだろwwww
あとお気に入りのかざりん画像
>>121
GJだコノヤロウ!
おかげでデータフォルダの容量いっぱいになっちまったじゃねーかありがとね!
見てんぜwwwwwwww
あっちのスレみんな可愛くて大好き
上条「俺がジャッチメント?」白井「ですの!」
↑だれか書いて下さい
──……なンだ、コイツは。
赤い瞳を収めた目がひくひくと引き攣る。
ここまで引いたのは、実に久しぶりかもしれない。
自分に勝負をふっかけてきたスキルアウト達、能力者達が次元の違いを見るや否や小便を垂れ流そうが糞便を垂れ流そうが、顔色一つ変えなかった少年がその時には見せなかった表情をここでは見せている。
『変態』と言われる人種も当然その中にいた。
己の命が惜しいが為に、突然変態行為をして狂った様に見せかける輩も、少なからずその中にはいた。
しかし、それでもかつての一方通行は愉快に表情を歪ませるだけであった。
だが、今自分の目の前にいる『それ』は常軌を逸している様に見えた。
──……気持ちわりィ。ほっておくのが吉か。
人間の身体にしては少しおかしい所も気にかけながら、一方通行は避ける様にして湯舟へと向かう。
チラッともう一度そちらの方を見た。
「グゲ……グゴゴっ」
一方通行「」
見なければよかった、と一方通行は思った。
いつの間に移動したのであろうか。
『それ』は、自分の使っていたプラスチックの風呂椅子を舐めている。
喜々として、満足そうに。
一方通行「だァァァァッッ!! 何なンですかァテメェは! 気持ちわりィにも程があンぜ!?」
それには流石に我慢ならなく。
思い切りツッコミをいれざるを得なかった様だった。
しかし、そのツッコミに『それ』は変化を見せる。
「グギ?」
こちらを見て、首を傾げていた。
どうにも様子がおかしい。挙動がおかしい。
そして、身体がおかしい。
一方通行「……!」
気分的に視界に入れたくなかった為によく見てなかったのだが、『それ』をよく見ると一方通行は目を見張った。
それは──足、手。
その末端の、爪。
人間ではおおよそ有り得ない程の長さを有していて、実に鋭利で。
人間であるならば靴を履き、何かをするにも手を使う。
しかしその長さは、それらを真っ向から否定していた。
思わずチョーカーに手をかける。
打ち止めに危害が及ばぬ様。
番外個体に危害が及ばぬ様。
家族に危害が及ばぬ様、これ以上の不審な動きを見せればと牽制をしていた。
「ああ~、実は親船先生は俺の天使~♪っと」
すると、脱衣室と大浴場を隔てる開き戸が開き、やたらとガタイのいい上機嫌な男がその肉体を惜し気もなく晒して入ってくる。
すると、こちらを見ていた『それ』────『垢嘗』は、そのゴリラな顔をした男に。
「グベッ!!」
「のわっ!? なんだ!?」
飛び掛かっていた。
一方通行「」
『垢嘗』
主に古い風呂屋に出現し、風呂桶や風呂場に付着した垢を嘗め取って喰うとされる妖怪。
出は江戸時代にて別名『垢ねぶり』とも言われ、その名の通り垢を嘗めるだけというものだ。
特に直接的な害を為す訳でもないのだが、見た目、行動は果てしなく気持ちが悪い。
あくまでも『架空』上のものとされているが、流布されたという当時はそれが家にやって来ぬ様、どの家も必死に綺麗に風呂場を磨いたという。
垢=穢れとされ、
『身も心も綺麗にしておけ』
という教訓も出来上がったという。
上条達が一通り調べた文献の中の一つに、そう記されていた。
これは放っておいた方がいいのだろうか。
「うわっ、なんだやめろ! そんな趣味はない!」
悲鳴めいた声が響く。
一方通行に狙いを定めていた『垢嘗』は、そのゴリラ顔の男の身体を舐め始めていた(よっぽど垢が溜まっていたのだろうか)。
一方通行「……ゥぷ」
裸の少年(?)の様な『垢嘗』がゴリラ男に覆いかぶさっている。
一見、禁断の情事の様にも見え。
だからこそそれがまた異色の気味の悪さを際立たせていた。
無視貫徹。
そんな四字熟語はないが、今すぐ文部科学省に殴り込んでその言葉の承認を認めさせたいくらいに関わりたくないという気分に浸りながら、一方通行は湯に浸る。
まるで自分の身体を隠すように。
口元まで浸かり、ぶくぶくと泡を作りながら沸き上がる嘔吐感と必死に戦い、なるべくそちらを見ないように視線を外す。
一方通行「……」
「やめ、くすぐって! やめろって!」
「グペー、グギギ」
一方通行「……」
耳にも入ってくるその青少年に有害的な何かを匂わす悲鳴、声を、ベクトル操作にて遮断しようとする。
だが、万一。
『それ』がゴリラ男に満足し、今度は女湯に忍び込む様だとしたら。
女湯の何処にいるのかは把握はしていないが、家族に────
黄泉川、
芳川、
番外個体、
そして、打ち止めに。
もし、襲い掛からんとする事態に発展したとしたら。
ぐわんぐわん。
一方通行「……ぶっ潰す!!」
気が付けば一方通行はチョーカーに指を掛けていた。
黄泉川「暑いじゃん」
芳川「暑い……」
番外個体「暑い……」
オルソラ「暑いのでございますね……」
五和「……」マダダイジョウブ
神裂「……」ヨユウ
舞夏「暑いなー」
インデックス「熱いんだよ……」
打ち止め「」グデー
一方、こちらでは何故か我慢大会に近いものが開催されている。
優勝者には──いや特に何もないのだが、何となくであった。
まあそうだとしたら恐らく神裂の圧勝であるのだろうとは思うが。
とはいえ、黄泉川もまだまだ余裕じゃんっ。という表情をしていた。
黄泉川「打ち止めー、大丈夫かじゃん?」
打ち止め「み……みしゃかはみしゃかはぁ~」
番外個体「ダメだね」
芳川「そろそろ出た方がよさそうね」
インデックス「わたしが連れてくんだよー……。らすとおーだー、いこ?」
打ち止め「やっと……出られりゅってみしゃかはぁ……」
舞夏「おー、シスター私も出るぞー」
五和「だ、大丈夫でしょうか」
神裂「あの小さい子には少々酷だったのかもしれませんね……」
黄泉川「悪いなじゃん。水風呂はまだちょっと心配だから出たら少し温めにした水を掛けてやってくれじゃん」
舞夏「わかったんだぞー」テクテク
インデックス「わかったんだよー……」フラフラ
打ち止め「ふぃ~」フラフラ
バタン、とサウナ室のドアが閉められ、この中の一番目と二番目と三番目に小さい三人がこの場を後にした。
インデックスはまだ大丈夫そうであったが、足取りが完全におかしくなっていた打ち止めに一同の心配が向く。
ワヒャアアアアアアッッ ツメターーーーーイ! ッテミサカハミサカハ! モー!
シントウメッキャクスレバ ヒモマタスズシ ナンダヨ!
ソノヘンニ シトイテヤッタラドウダー シスター?
しかし閉め切られたサウナ室の壁を超えて届いたその声から察するに、どうやら心配はいらなさそうであった。
五和「上条さんは大丈夫でしょうか……」
神裂「土御門もいるので恐らく大丈夫なのでしょう」
黄泉川「ん?」
サウナ室に取り付けられた、分厚いガラスの向こう側のテレビを観賞していると、五和が少々心配そうな声色で呟く。
それに返答した神裂が口にした名前に黄泉川は反応し、視線を二人の方へと向けた。
黄泉川「おたくら、上条と土御門の知り合いかじゃん?」
神裂「え、ええ。そちらも?」
黄泉川「黄泉川おねーさんは上条達の学校の教師やってるじゃん」
オルソラ「学校の先生だったのでございますね」
神裂「そうでしたか。これはこれは、あの二人がいつもお世話になっております」
互いに軽い会釈を済ませる。
そういえば先程黄泉川もシスターと言っており、インデックスとも知り合いだったのだろう。
知り合いの知り合いの初顔合わせがサウナ室という初っ端からの裸の付き合いに神裂と五和は少々恥ずかしそうにしているが、向こう側の三人は全然気にしていない様子であった。
一人は一人でタオルで肢体を隠そうともせず、腰に手を当てて仁王立ちでテレビに没頭しているし。
それも、カエルのキャラクターが出ているCMに。
番外個体「あ、そういえばあの時あそこにいたね」
神裂「あ、ええ、確かそうでしたね」
CMが終わった途端、学園都市でも人気絶頂のイケメン俳優が液晶に映ったのだがそれには全くの関心も寄せずに唐突にこちらの会話に入り込んで来る。
苦笑いをしながら神裂は頷いた。
あの時。
セブンスミストで、一方通行と美琴が邂逅した日だ。
神裂と五和とオルソラは上条に用があり、探していた所を偶然鉢合わせあの騒ぎを目にしていた。
学園都市で起きた人間関係の問題で、魔術サイドは見守るだけであったがその場に確かにいたのをお互い覚えている。
番外個体「みんなあのヒーローさんの知り合いなんだね」
五和「上条さん……こんな可愛い子にも、フラグ立ててるんでしょうか……」
芳川「凄いらしいじゃない、彼」
番外個体「ミサカはそんなんじゃないけどね。まだちょっと苦手意識持ってるし」
五和「はぁ」
神裂「ヒーロー、ですか?」
黄泉川「なぜか打ち止めとか番外個体は上条をそう呼んでるじゃん。一方通行も節々でそう呼んでたな、確か」
オルソラ「あの方にはお似合いなのでございますね」
とは聞いてみたものの、神裂はおおよその予想はしている。
どうせいつものお節介お人好しが乗じて、起きた問題に首を突っ込んで手助けやら解決やらしてしまったのだろう。
例え大怪我を負ったとしても、彼は止まらない。
困難に真正面からぶつかって、突破していくのだ。
自分の知らない所でもそれは揺るがない。
少なからずとも悪い印象ではない事に少々嬉しく思いながら、神裂はそんな彼を思い浮かべてふっと微笑んでいた。
以前の一方通行なら何も言わずに一瞬の内に物言わぬ骸にしていたが、今は違う。
あのヒーローの行動観念に沿う様に、ヒーローの周りが幸せになっている様に。
あのヒーローの様な行動をすれば自分の周りも幸せになる、という考え方が無意識の内に出来てきていた。
やり方は自分なりに────ではあるが、心の奥底で実は慕っているヒーローの背中を追う様に。
だからこそ、打ち止めは自分について来てくれる。
だからこそ、番外個体も自分について来てくれる。
それは恐らく間違いはないのだろう。
だからこそ、まず一方通行が取った行動は声をかける事であった。
「グベベ……グババ……」
「」ピクピク
一方通行「おい、テメェ」
「グベ?」
一方通行「うっ……」
とはいえ、あまりものその醜態に一方通行は心底嫌悪感を抱き、たじろいでしまうのは仕方がないだろう。
ぐでんぐでんになっているゴリラ男の横で、『垢嘗』はこちらに振り向いた。
人間にしては長すぎる舌もそのままに、キョトンとした表情で首を少し傾げていた。
段々と、一方通行の中で疑念は積もっていく。
人間とは思えない長い舌、長い爪。
そして、それとは逆に人間とは思えない手足の短さ。
不幸な先天性の病か何かでそういうのもあるのかもしれない。
しかし、コイツは何かが違うという一方通行の第六感が告げている。
今日は能力を使用する様な事は起きておらず、充電はまだ十分過ぎる程残っている。
「グベェ……グボベ」
一方通行「……」
言葉を解する事が出来ないのであろうか、『垢嘗』は先程から『鳴き声』とも取れる声しか発していない。
どうやら質疑応答は期待出来そうになかった。
『垢嘗』は行為を再開させる様に再びゴリラの方へと向く。
その時、チラッと見えた赤色に一方通行は眉を顰めた。
一方通行「コイツ──────!?」
「グベェ……デロ……」
血を────啜ってやがるッ!?
「グベラッッ!!」
ベクトル操作にてアタックポイントを定めた蹴りをその脇腹に入れる。
女湯と隔てた壁へと吹き飛び、衝撃で付けられた鏡に亀裂を作った。
「いてぇ……なんだよ一体!」
一方通行「!」
ゴリラ顔の男から声が響く。
かじられた箇所なのか、筋肉質の腕の方から血が少し滲んでいるがどうやら大した事はなさそうだ。
しかし。
一方通行「……ッ!? チッ、どこ行きやがったァ!」
その一瞬の目を逸らした隙に、『垢嘗』は姿を消していた。
あの蹴りを受けて動けるという事は、やはり奴は只者ではない。
常人であるならば肋骨が軋み、そうそう動ける様なダメージではなかった筈であった。
視線を動かして奴の姿を探す。
周りには、驚いた他の客がこちらの様子を窺っていた。
大浴場には湯気が立ち込めてはいるが、しっかりと隅の方まで見え問題ではない。
しかし、見渡せるというのに奴の姿が見当たらないという事はどういう事であろうか。
一方通行(あの一瞬で消えやがった……? 『空間移動』系統の能力持ちか……、いや『視覚阻害』か他の何かか)
学園都市第一位とて全ての能力を把握している訳ではない。
個人個人の脳波、資質、精神によって発現する能力は千差万別であり。
似通った能力はあれど、他人で全て同じ能力というのは遺伝子レベルでの全くの同一でもなければ有り得はしない。
少しでも違いが生じれば、著しく変化が見られるというものであった。
しかし一方通行はそれでも殆ど全てのものを解し、解析してしまえる。
少々手子摺ったが、それこそ『未元物質』の様な別次元のものでさえも、だ。
そんな、第一位の頭脳が加速する。
大浴場には湯気が立ち込めている。
湯気のベクトルなど既に解析済みだ。
ほんのちっぽけの湯気の動きだとしても────些細な変化は、位置、距離、体勢、形の把握などまるで真っ白い部屋から黒色の靴を探すよりも容易い。
一方通行「そこかァっ!!」
備え付けの風呂桶を飛ばす。
放たれたそれは、目標へと一筋の直線を描いていた。
「バゴラッ!?」
スパコーン────!!
浴場独特の残響音を響かせ、同時に悲鳴も轟く。
地面に落ちたそれへと、文字通り一瞬で駆け付けると即座にその身体を足で踏み付ける。
当然それもベクトル操作付きで、完全に動きを固めていた。
ゴリラ顔への傷害の事実もある。
これで後は、ジャッジメントなりアンチスキルなり──────
「ぎゃあああああああああああっっ!!」
「やだやだやだこっち来ないでええっっ!!」
一方通行「っ!?」
そこで、壁一枚を隔てた向こう側の、その『大切な家族達』の悲鳴が一方通行の耳に届いた。
一方通行「クソッ!?」
咄嗟に足元のものの首根っこを掴む。
何が起きたのかはわからないが、確認という『時間の無駄』な手順を一方通行はしない。
この壁も関係無しに、物理的に最短距離の一直線の軌道へと乗る。
一秒でも早く、一歩でも早く守るべき者の元へ────
「さ、Salvare000っっ!!」
ズガン────!!
「ゴベボゲエエエエエエエエエエエッッ!!!」
一方通行「!?」
壁の向こう側からやけに焦った様なラテン語、轟音、そして悲鳴が響き。
コノ ハレンチヤロウガッ!
ウワアアァン ミラレター! ッテミサカハミサカハ!
ウワ ナニコレキモチワルッ!
ユルサナインダヨ!
ドウドウトノゾキター イイドキョウジャン?
などという声が響いていた。
次は火の定日夜10時くらい!
また次回!
>>123
期待
一方通行「打ち止めァ! どォした!?」
打ち止め『あ! あなた! なんかね、おかっぱの変な生物? がいたのってミサカはミサカは教えてみる!』
一方通行「怪我とかはしてねェか?」
打ち止め『うん! すっごい美人さんがぶっ飛ばしたよってミサカはミサカは心配してくれた事に喜んでみたり!』
──結局そっちにもなンかがいやがったってのかよ……それに、さっきのは。
壁の向こう側の打ち止めの言葉に、一方通行は掴んでいるそれに目を向ける。
おかっぱ。変な生物。
自分が手にしているこいつと、同じかもしくは何か関係があるものか。
ぶっ飛ばしたというすっごい美人さんが誰なのかはわからないが。
それは恐らく、この学園都市の人間ではなく魔術サイドの人間なのだろう。
先程感じられた『違和感』。
ラテン語が聞こえた瞬間に感じ取った一方通行の能力がそう伝えていた。
そちらさんは何かを知っているのだろうか。
その事を頭に、一方通行は気絶した様に動かないそれを掴んだまま大浴場から出る事にした。
土御門「そうか、わかったんだにゃー」pi
上条「神裂か?」
土御門「ああ。ねーちん達が行った銭湯で、例のモンが出たらしいにゃー」
上条「……まじかよ」
土御門「ねーちんが血祭りに上げたらしいけどにゃー」
上条「ち、血祭りて……」
携帯電話をポケットにしまいながら、土御門はもう片方の手で残っていたコーヒーを喉に流す。
大分温まってしまってはいるが、最愛の義妹が煎れてくれたものだ、残すのは道理ではないだろう?
という上条からしてみればよくわからない心境も混ざっているのだろう。恐らく。
大切だって思える人からの心こもったものならっていう事はわかるが、兄と義妹という関係を考えるとなあ。
土御門は純粋なんだぜい、とのたまうが。
土御門「しかし、予想が外れたんだにゃー」
上条「ん?」
土御門「本来ならばしばらくは動きを見せない筈なんだが、実際向こうで問題が起きたって事は」
上条「……神裂がいるんなら心配はいらなかったんじゃないか?」
土御門「それもそうだが、本来なら起きる筈のない時期に起きた。術式の関係上、向こうがまだ動ける状況ではなかったにも関わらず、だぜい」
術式の行使にて準備するものは多い。
ましてや『禁術』などという余計に複雑な物ならば、尚更だ。
当然必要物の調達やら、月の満ち欠けや日の登り等の時期的やらで時間を要する筈。
しかもその禁術の独特な術式故に予め準備をしておくというのは極端に難しく、現場調達をしていかなければ発動はなかなかに難しい。
禁書目録が脳内に保管しているそれは、上条達にそう伝えていた。
それらを吟味し、それらが意味するものは。
上条「つまりは、単独犯ではない……という事になるのか?」
土御門「……察しがいいにゃー、カミやん。どうにも、俺にも知らないやっこさんもいるらしい。もしくは」
土御門は、心底面倒臭そうな厄介だという様な表情を作った。
土御門「『増えた』か『増えていた』か。それも、相当な実力の奴が」
神裂「す、少し取り乱しましたが! これでよし、と」
五和「男湯の方に出た方も捕縛完了です、女教皇様」
インデックス「この! この!」ゲシ ゲシ
黄泉川「そこまでじゃんシスター。やりすぎるとしょっぴいていかなきゃならないじゃん」ドードー
打ち止め「怖かったよー! ってミサカはミサカは実はそんなにそうでもなかったけどあなたに抱き着いてみる!」
一方通行「……チッ」ナデナデ
打ち止め「むふー」
番外個体「やめてあげなよ、ちゃんと乾かしてないから変な癖が付いちゃうよ」
一方通行「ベクトル操作で水分飛ばしたから問題ねェ」
番外個体「過保護め……」
『垢嘗』二体を引っ捕らえ、一方通行はインデックスが引き連れていた事情を知っていそうなすっごい美人さんにそれを託していた。
先程感知した魔術の出も、恐らく彼女からなのだろう。
凛としたその雰囲気は、なるほど、確かに美人ではある。
と一般人はそう思うのであろうが一方通行はそれには関心も示さずにただ打ち止めの頭を少々乱暴に撫でぐり回していた。
一方通行「で。コイツらはどォいう事なンだ」
神裂「……」
五和「……」
目を細めて一方通行は問う。
恐らく、『それら』はそのすっごい美人さん達が関わっている魔術の産物────なのであろう。
ぱっと見ではあるが、そちらの中で一番のお偉いさんであろうすっごい美人さんに視線を定めた。
答えあぐねている様子だが、実際に打ち止め達に危害が降り注ごうとしていたのだ、引く訳にはいかない。
一方通行「チッ。ならシスター、お前に聞く。コイツらは何なンだ」
インデックス「これは『垢嘗』っていうものだね。江戸時代発祥で、架空のものとされた妖怪なんだよ」
一方通行「妖怪だァ?」
神裂「ちょ……ちょっと待ってください」
インデックス「あくせられーたに隠し事は無駄かも。何でもかんでもすぐ見抜いちゃうから」
打ち止め「そーだそーだ! この人はなんと学園都市第一位なんだからねってミサカはミサカはまるで自分の事の様にエッヘンって披露してみる!」
五和「学園都市、第一位って……」
オルソラ「では、このお方が」
神裂「あなたがそうだったんですか」
一方通行「あン?」
自分を知っているかの様な視線に一方通行は少々不快な表情をする。
いやそれは学園都市第一位ともなると当たり前であるのだが、少しだけそれより反応が違う様にも思える。
稀有、されど畏怖、厳然と。
230万人の中の第一位といえば、誰もが畏れ多いと隔たりを作る。
別に友好関係を築こうなどと思った事もないし、どうでもよかった。
それに自分を第一位と知る者達とは敵対関係ばかりであったのだから。
だがここにいる者達は、それとは全然違う視線を自分に向けている気がする。
それは、とてもフレンドリーの様な。
神裂「あなたのお話は聞いております」
一方通行「あァン? 誰からだよ」
神裂「上条当麻からです」
一方通行「……あいつか」
五和「なんでも、超強い親友がいるんだぜだの、悪ぶってるけど実はすんげえいい奴だの」
一方通行「……」ピク
オルソラ「守ると決めた方達には、それはもうものすごい優しそうな目で見られるとか」
一方通行「……」ピク ピク
番外個体「……ププ」
打ち止め「」ルンルン
黄泉川「」ニヤニヤ
芳川「」ニヤニヤ
──おいコラ、三下ァ。何を吹き込みやがってンですかァ? テメェは。
あの三下ヒーローには、勝手な事をほざきやがった罰として適当に八つ当たりしてやろうと一方通行は決めた。
一方通行「かァみじょォくゥン、あっそびっましょォ!!」
ドガーン──!
上条「のわっ、なんだ!? って一方通行! なに人ん家のドアぶっ壊してやがりますか!?」
一方通行「あァン? 部屋間違えたか?」
上条「いやそっちは確かに俺の家で合ってますけども!」
不機嫌な様子の聞いた事がある声の持ち主が上条宅を襲撃した所で、その声と同時にとんでもない不幸そうな音が自分の部屋から聞こえてきた事に上条は土御門の部屋から飛び出して来ていた。
見れば、ドアに足を突き刺している一方通行の姿と、その後ろにインデックス達の姿があるのではないか。
いや、人数的に少し多い。
インデックス、神裂、五和、オルソラ────
そして何故かそれにプラスして、黄泉川の姿もあった。
上条「あれ、黄泉川先生?」
黄泉川「よっ。怪我は大丈夫かじゃん?」
インデックス「銭湯でね、あくせられーた達に会ったんだよ」
上条「そっか。怪我は一応大丈夫っす。てかなんでウチに」
一方通行「ウチのもンが危険な目にあったンだ、その筋に関係ありそうな輩に話を聞くのは当然ってもンだろォが」
黄泉川「ちと事件があったし、事情聴取も当然じゃん?」
上条「あー……」
一方通行「チッ」
神裂「……すみません、どうしても止められませんでした」
上条「うーん……まあとりあえず来ちゃったんだし、お風呂上がりなんでしょ? 湯冷めするのもいけないから……
つか一方通行! このドアどうしてくれんだ! 隙間風が入って来るっていうレベルじゃねーぞ!?」
一方通行「その事も含めてキッチリ話付けてやンよ。なァ? 土御門よォ」
土御門「……あーあ」
上条「あれ? ひょっとして二人ともお知り合い同士?」
またしても近所から苦情が届きそうな慟哭を上げつづける上条。
突然の状況に混乱する頭の中でまず決めたのは、一方通行にドアを弁償させる事であったらしい。
直してくれるかの不安は余所にして、とにかく部屋に招く事にした。
案外段ボールというのは風を凌げるらしい。
玄関への視界が立てつけられた段ボールのおかげで少々みずぼらしい事に情けなさを感じながらも、段ボールの思った以上の有用さを噛み締めながら上条は暖かいお茶を口にする。
先程から水分を摂りまくっている気がするが、客人として伺う度頂き、招く度振る舞うのだから仕方がない。
今現在一方通行は土御門とどうやら隣で話をしている様だ。
二人は知り合いだったのかと関心を寄せていた。
上条「んで。ここに来たって事はやっぱり」
神裂「ええ、先程あなたが出くわした『あれ』が銭湯にも出たのです」
上条「さっきのあの化け物だったのか?」
神裂「いえ、あなたが遭遇したものとは全く違う身の毛もよだつ様な気色の悪いものでしたが」
インデックス「キモかったんだよ」
上条「……、でも大丈夫だったんだな?」
黄泉川「そうじゃん。一方通行とそちらの神裂サンがやっつけてたじゃん」
上条「ん? という事は打ち止め達も……」
黄泉川「ああ。それでこっちにも来るって言ってたけど、心配だから家に置いてきたじゃん」
上条「……そうなんですか」
無事だという情報を得られた事に上条は安堵の表情を見せる。
一方通行は上条が置かれている状況を知っていて、「妹達の事は全て任せろ」と言っていた。
しかし全てを知っている訳でもないにしろあの実験を知っている立場として、一方通行と同様に妹達の幸せを願う者として危険な目にあったと聞かされれば上条としても黙ってはいられない。
手の届く範囲だけでも、悲しんでいる者がいるのならば手を差し伸べる。
それが上条の本質であり、常に持っている『己の掲げた正義』であった。
黄泉川「まだ詳細は知らないが、こちらも学園都市に起きそうな事をチラッと聞いたじゃん。アンチスキルとして黙ってられないじゃん」
上条「まあ、そうですけど……」
黄泉川「学園都市だって一枚岩じゃない。私も知らない不穏な事を企んでる輩だって上層部にはいくらでもいる。だが、それで生徒達が傷付いたり利用されたりしていい理由にはならないじゃん」
上条「……」
黄泉川「教師にしてもみんながみんな小萌みたいなバカ正直ないいセンセばっかじゃないし、保身の為に生徒を売るクソみたいな教師だっているし。生徒達が笑って暮らせる為なら、私もなんだってするじゃん」
上条「黄泉川先生……」
アンチスキルとして、恐らく色々な事件と向かい合ってきたのだろう。
それは生徒達が起こす問題だけではなく、生徒達を導く立場の筈の人間が起こした事件も沢山見てきていて。
黄泉川が言い放った、「なんだってする」────それは例え上層部を相手取ったとしても、自身の立場が危うくなっても生徒達を守るという覚悟は決めているのだろう。
黄泉川「それがジャッジメントだとしても、私からしてみれば大事な生徒。上条、お前の事も含んでじゃん。
守るために何か危ない事に立ち向かうんなら、それを支えてやる────ってのが大人じゃん」
上条「……」
ああ、なるほど。
一方通行が黄泉川家に身を置く理由がわかった気がする。
打ち止めも番外個体も、誰でもかれでも黄泉川はまるっと受け入れてしまう。
そして本当にそれが大事だと思っていて、守ってしまう。
一方通行も、黄泉川を信用していて。
きっと、黄泉川の影響を一方通行は思い切り受けている。
打ち止めも番外個体も笑顔でいられる理由の一つは、黄泉川によるものが大きいのだろう。
神裂「……」パチパチ
五和「……」パチパチ
オルソラ「……」パチパチ
黄泉川「え、な、なんじゃん? いきなり」
インデックス「あいほ……感動したかも」ウルウル
上条「」ウンウン
黄泉川「そ、そうか? 当たり前の事を言っただけじゃん」
一方通行「なァに和みやがってンですかねェ」
土御門「カミやんちに黄泉川先生がいるなんてすっげー違和感だけどにゃー……」
上条「お、話終わったのか? おかえり」
とは言え、和やかな空気は今日はここまでなのだろう。
連日の作戦会議メンバーに、一方通行と黄泉川の二人を加えた八人は、土御門が口を開くと佇まいを居直していた。
黄泉川「……にわかには信じられないけど、魔術、か」
土御門「黄泉川先生、くれぐれもこの話は内密にお願いしたいんだにゃー」
黄泉川「んー、納得いかない部分もあるけど……あれ? 確か地下で前にあのでかい土人形みたいなやつ暴れてたな。危ない所を上条に助けられたが」
上条「ああ、ゴーレムってやつですね。あれも魔術らしいす」
一方通行「あァン? おい黄泉川、俺はそンな話聞いてねェぞ」
黄泉川「ん? ああ、まあ大丈夫だったじゃん。ふふ、心配してくれてるのか?」
一方通行「ケッ。今度そいつの顔見たらすぐ俺を呼べ。ぶっ飛ばしてやるからよォ」
神裂(シェリー……)
土御門(シェリー……)
五和(シェリーさん……)
オルソラ(シェリーさん……)
上条「(シェリー……)ま、まあそれで。銭湯に出た二体ってのはどうしたんだ?」
神裂「術式を解除をした所、モグラの死体がどうやら使われていた様でした」
上条「モグラ、か……」
土御門「脅威にならないものを試験的に呼び出した可能性が高いにゃー。恐らく、俺が見立てた奴じゃない方が行使したんだぜい」
ある意味開き直った様に土御門は黄泉川の前でも魔術について話す。
それは黄泉川を信頼しての事か、それとも大した問題にはならないと踏んでの事か。
上条は、ふとそこで思いついた様に、ん? と声を上げた。
上条「俺の幻想殺しじゃなくても術式は解除できるのか?」
神裂「私、五和ならばそれくらいは出来ます。尤も彼女の知恵を借りて、ですが」
神裂はそこでチラッとインデックスの方へ視線を向けた。
魔導図書館の異名を持つインデックスのその知識量は淀みない。
幻想殺しではなくとも、魔力の持たない者でも出来る「強制詠唱」の様な対策法もあるにはあって、凌ぐ事も出来るのであろう。
しかしそれはやはり簡単ではない。
術式についての知識をしっかりと身につけており、またタイミングというのも問題になってくる。
「強制詠唱」は必ずしも万能ではない。
簡単に言うと魔術をキャンセルや暴走させるもので、下手をすれば自身に方向が向き、危害が降り懸かる危険性も十二分にあるのだ。
「強制詠唱」をカテゴライズするならば、魔力を必要としない魔術。
能力者だとしてもリスクなしで出来るには出来るのだが、『科学で全て証明されている』をモットーに教育を受けている学生達からすれば眉唾物であろう。
つまり、危害から学園都市を守るにはやはり早めに本堂を叩くしかない。
それに実際に被害者が出始めている以上、悠長としていられもしないのだ。
黄泉川「幻想殺しって何じゃん?」
上条「あ、はい……んー、黄泉川先生ならいいか。俺の右手の事です」
黄泉川「右手?」
上条「はい。なんでも異能の力ならばなんだって消せるもので」
黄泉川「ああ……それであの土人形の時」チョイミセテ
上条「そうすね」ドーゾ
神裂「……」ジー
五和「……」ジー
インデックス「……」ジー
オルソラ「あらあら」ジー
上条「……」
土御門「」ニヤニヤ
一方通行(フラグ立てすぎなンだよ、バ上条ォ)
ふむ、と黄泉川は上条の手を取ってまじまじと見る。
上、下、斜めからとまるで鑑識の捜査をされている様な気分に浸りながらされるがままにしていた。
……少々女性陣からの視線が気になったが、不穏な空気になっていた為見ない振りをしておいた。
黄泉川「それで上条、お前襲われたって言ってたな。どういう奴だったじゃん?」
上条「ええ、そうですね、髪は少し長めで、黒のジャンバーにジーパンを履いていて……」
黄泉川「ふむ。それならばその情報を元にアンチスキルを回させるが」
土御門「ちょっと待ってほしいんですたい」
黄泉川「ん?」
黄泉川の言葉を遮る様にして土御門が割り込む。
心なしか、サングラスの奥から感じる視線は強まっている気がした。
土御門「アンチスキルに動かれると、ちと困るんだにゃー」
黄泉川「……あ?」ギロ
土御門「ひっ……そ、そういう事じゃないんですにゃー」
……気がした。
土御門「向こうが、アンチスキルの様な手練れの警護隊でさえも手駒にしちまうのは容易い事なんだにゃー。
例え重火器持ちだろうが駆動鎧を着込もうが、あくまでそれは能力対策であって、魔術師相手となると今回の様な相手にゃ問答無用で死体にされちまうんだにゃー」
一方通行「……だろォな。法則が違えば戦い方も違う。ましてやアンチスキルは能力もねェ言わば一般人だ。
なンの対策も講じずに真正面からぶつかるなンざ、俺からすれば『どォぞ、殺してください』っつってるよォなもンだぜ」チラ
上条「うっ……」
神裂「ええ。今回の件は全て私達に委ねてほしいのです」
黄泉川「だがそれが定石だとしても、アンチスキルとしては黙ってられないじゃんよ」
土御門「……今回起きてる魔術は、対象を死に至らしめ、それを利用して手駒を増やしていく厄介なものなんだにゃー。黄泉川先生としても、アンチスキルの人間に学生達を襲わせたくはないんだぜい?」
黄泉川「……」
少々黄泉川にはきつい言い方をする土御門。
だが、その気持ちは痛いほど分かる。
体育の授業でひいひい言わされてはいるのだが、学生達を思っている気持ちは確かなのだ。
土御門もそれをわかっていて、あえて語気を強めて言っているのだろう。
一方通行「……黄泉川」
黄泉川「ん?」
一方通行「お前が大切にしてェもンってのは、俺もわかってるつもりだ。ガキ共含めて、俺達は随分お前に世話になっている」
黄泉川「……」
上条「……」
一方通行「俺だって守りてェもンはある。打ち止め、番外個体、芳川……黄泉川、もちろンお前もだ。
『家族』を、俺だって守ってやりてェ」
黄泉川「一方通行……」
一方通行「今回の件は、俺達に任せろ。お前は『家族』と一緒に待ってやがれ」
上条「……」
黄泉川「……ふぅ、わかったじゃんよ。そこまで言われちゃあな。だけど、一方通行。せめて学生達の安全の確保、これくらいはやらせてもらうじゃん。これ以上は譲歩はできん」
一方通行「ケッ。まあそォ言うと思ってたぜ」
黄泉川「……一方通行。くれぐれも、無理はするな、じゃん。打ち止めも、番外個体も芳川もお前を心配してるからな」
一方通行「俺を誰だと思ってやがンだよ。第一位をなめンなよ……っつゥかよォ……
なァにテメェらは目をうるうるさせてやがンですかァ!?」
上条「お前って奴は……」ホロリ
土御門「不覚にも感動しちまったんだぜい……」ホロリ
神裂「……」グス
五和「……」グス
オルソラ「……」グス メヲユビデ クイ
インデックス「あくせられーた、とうまみたいだったかも!」
一方通行「あァン!? こ、こンな奴に似たかねェよ!」ウガァァ
ともあれ、方向性は決まった。
『必要悪の教会』『天草式』に『学園都市第一位』を加えた面子は、そうそう劣る事はないだろう。
上条はもう一度、強く頷いていた。
「ほう、こっちもやられたのよ」
「運が悪かったですね」
ある廃ビルの一室にて、女と男の会話が聞こえる。
その一室には複雑な紋様らしき円と文字が所狭しと描かれ、点々と赤い液体も小さな水滴として地面に落ちていた。
女は目にしていた本の一ページを捲り、再びそれに視線を落とす。
そのままの目線で、女は口を開いた。
「『犬神』とやらは残念な結果に終わったが。『垢嘗』……まああれはよいとして。しかし、お前には心底驚かされたわ」
「この学園都市の能力者というのも侮れぬかもしれませんね。しかし、一度目にしただけで術式を我が物にした貴女の方が僕からしてみれば驚きでしたよ」
「ふふ、そうかえ?」
「ええ。さすがは『太陽の巫女』と謳われただけのお力がある。しかも、古来より伝わる伝記、古書よりもはるかにそれを凌いでいられる」
「当時は言われ慣れた世辞ではあるのだが……ぬしに言われると、少し恥ずかしいやもしれぬ」
「それに、美しい」
「……」
いつしか、女の目線は男に注がれている。
男は女が座っている椅子の前で跪いている体勢で、そっと女の手を取ると、その手の甲に唇を付けた。
「……ふふ、わらわを抱く事を許可してやってもよいぞ?」
「それはまた今度の機会に致します。総てが終わった後で、ゆるりと」
「その時を楽しみにしておるわ」
男が口に付けた手の甲を、少し愛おしそうにしながら女は再び書物に目を落とす。
男は、その女の仕草一つ一つに心を奪われていた。
そろそろ甘々が書きてえな……
まあそれはまたどっぷり書きまくるつもりだけどね!
次は土曜日の夜10時ーの前に木曜辺りに一度投下挟むかも
また次回!
>>158
さんくー!
これ佐天さんの位置的に絶景ポジだよな
ふぅ……
授業も終わり、別れを告げられた恋人の様な潤んだ目をした小萌の抱擁を丁重にお断りしつつ上条は本日の勤務へと赴く為教室から出た。
今日もジャッジメントの仕事はある。
土御門から「今はまだ日常を味わっておくんだにゃー」などというお言葉を頂いていて、激化しつつある問題を勿論念頭に置きながらも上条は第一七七支部へと足を向けていた。
まだ昨日受けた怪我は治りきってない。
恐らく柵川中学校の前で初春に会い、頭にも巻いた包帯を見るや否や泣きそうな表情で色々聞き出されるんだろうなという予想をして上条はどうしたもんだか、と頭を悩ませていた。
悲しそうな顔を見るのは辛い。
でも内情を伝えて、心配は掛けさせたくない。
うーん、と頭を捻らせながら校門出口に差し掛かると、意外な人物と出会った。
一方通行「よォ、三下」
上条「あれ、一方通行? こんな所でどうしたんだ?」
真っ白い髪、大分細めの身体に杖。
石造りの校門の壁にもたれ掛かりながらポケットに手を突っ込んだ一方通行の姿がそこにはあった。
珍しいなこんな所で、と上条は思いながら手を上げる。
その少し変わった外見に下校途中の学生達の視線を集めていて、それを鬱陶しそうにしながら一方通行は上条と共に歩き出していた。
一方通行「話がある」
上条「なんだ?」
一方通行「昨日話し損ねた話だ。歩きながらでいい。ついて来い」
上条「今からジャッジメントの仕事なんだが、すぐに終わりそうか?」
一方通行「……チッ」
お前の予定など知ったこっちゃないし、ここじゃ話し辛い、とも言いたげな雰囲気だ。
上条の言葉に舌打ちだけを返すと、一方通行は先に歩き出す。
ただ、それは恐らくあの事だろうなという予想はついていた。
佐天「初春ーっ、今日も仕事だったよね?」
初春「はい。佐天さんも来ます?」
佐天「遊びに行く、一緒に行こうよ」
初春「私は仕事をしに行くんですけどね」
もはや支部に用事がない筈の佐天が行くという事に何の違和感も抱かない初春。
別に問題ないし、いつもの事だしと快く返答をすると、へへっと笑いながら佐天は初春に駆け寄る。
クラスメイト達に挨拶を済ませながら教室を出ようとすると。
初春に告白してきたあのメガネ君が、おどおどとした様子で声を掛けてきた。
メガネ君「う、初春さん、あ、あの!」
初春「……はい?」
佐天(初春、心なしかメガネ君には声の温度が二度、三度下がるよね)
メガネ君「あっあの、うっ……その……」
初春「……」
佐天(「早くしてくれませんかね」とか思ってそうだわこれ)
──……むぅ、早く当麻さんに会いたいのに。
佐天の考えていた事は見事的のど真ん中を射る。
一秒でも早く彼に会いたく、この時間帯の初春の動きはいつもより二割増しの速さであり。
まるで恋人との待ち合わせの時間に待ち切れなくて早めに落ち合う場所に行こうという乙女の発想であった。
だからこそ余計な邪魔に時間を取られたくない、と言葉は悪いがそれに近いような心境であったりもしていた。
メガネ君「そ、その! こ、今度遊びに行きませんか!?」
初春「すみません。ジャッジメントの仕事や他の事で忙しいですので。それでは、さようなら」
メガネ君「」
佐天(瞬殺ッ!)
初春「佐天さん、行きましょう! 当麻さんが待ってます!」
佐天「う、うん(かわいそーに)」
憐れみの目を向けている佐天の手を引っ張る形で初春は教室を後にする。
うなだれるメガネ君の事はもう視界には入っていないようであった。
上条が待ってるかどうかもわからないのに、脳内では既に待ち合わせムード一色のようだった。
アケミ「初春、頑張りなよ!」
初春「は、はいっ……///」
メガネ君「諦めないぞ、僕は……」ボソッ
佐天「うーん……」
大好きな人との時間一直線な、そんな初春であった。
そりゃ、悪いとは思ったけど。
でも今は、彼に会えるという喜びの感覚を濁らせたくはなかった。
一番大切だって胸を張って言える人。
一番大好きって伝えたい人。
切ないほど狂おしいほど、大好きって言葉以上に大好きで。
恋人同士という関係ではないのだが、彼との時間を思うと自然に顔が綻んでいた。
美琴「あ、初春さん、佐天さん」
黒子「こんちには」
佐天「あれ? 御坂さんに白井さん」
初春「本当だ。こんにちは」
校門を出る少し手前の辺りで聞き慣れた声がし、目を向けると初春と佐天の親友達の姿があった。
笑顔で元気よく手を振る美琴と上品に手を振る黒子。
周囲も、超が付くほどのお嬢様学校の二人を物珍しげな目を送っている。
注目が集まるのはそれもそうであろう、特に美琴はこの学園都市の第三位という事で有名だ。
学園都市の広告塔でもある電撃姫・超電磁砲は、その容姿からもさりげなくファンも多いらしい。
この柵川中学校にもファンクラブがあるというのを聞いたことがある。
その美琴と仲がいいという事で話を聞かれた事も結構あったりもしていた。
初春「お二人はどうしたんですか? いえ白井さんは仕事ですからわかりますけど」
美琴「うん、今日暇だから私も一七七支部にお邪魔しようかと思って」
黒子「全くお姉様は。ジャッジメントは遊びじゃありませんのよ?」
佐天「とか言いつつ嬉しそうに腕を組んで、説得力ありませんよー?」
黒子「うふ」
美琴「恥ずかしいから離れなさいっつーのに」
黒子「お断り致しますの」クスクス
美琴がいるからか、随分と黒子の機嫌が良さそうに見える。
微笑ましいその様子に、初春も自然と笑みが零れていた。
美琴「んじゃ行こっか」
黒子「あ、ええ……ですが」
佐天「ですね」
美琴「ん? どうしたの?」
初春「じ、実は……その」
佐天「待ってるんだよね。ねー?」
初春「は、はい……///」
美琴「?」
四人揃った所でさあ、と美琴は歩きだそうとするが、三人はその場で立ち止まっていた。
なんだろう、と首を傾げてみる。
初春「その……ジャッジメントの日は、ここで待ってるんです……///」
美琴「誰を? ……ってアイツか」ピコーン
初春「は、はい///」
勘の鋭い美琴は、初春のその様子で何を待ってるのかを把握した。
最近ジャッジメントになったというアイツ。
絶望の淵に立たされていた所を、死にそうな目に合いながらも助けてくれたアイツ。
ここ何日かは忙しかったり色々あったりで、顔を見ていなかったが。
正直、顔を合わせづらいというのもあった。
あのセブンスミストの時。
第一位と仲良くしてて、訳わからなくなって話も聞かずに自暴自棄に怒鳴り散らしてしまった。
黒子、初春、佐天の三人も第一位を知ってて、仲良さそうにしていて。
何もかも信じられないと、あの時は思ってしまった。
でも上条から、打ち止めからの第一位というのを聞いて。
初春に慰めてもらって。
黒子も佐天もいつも通り接してくれて。
頭ごなしだった自分の一人相撲だったのかな、と今では思う。
佐天「支部でも会えるのに、早く当麻さんに会いたいからって。ねー?」
初春「さ、佐天さん!///」
黒子「む……」イラ
美琴「……」
まあ、それと同じくらい考えなきゃいけない事はここにもあるのだが。
上条「で。話って?」
一方通行「土御門から聞いた話だ。三下、お前第二位のクソ野郎に会ったのか?」
上条「……。ああ、会った」
一方通行「……チッ」
放課後を満喫する学生達の声に紛れ、一方通行の舌打ちの音が空気に溶ける。
飲み慣れた筈のブラックコーヒーを苦そうな表情をして喉に流し込む一方通行を見て、上条も難しい顔を貼り付けていた。
垣根帝督、第二位、未元物質。
大切な人を傷付けた。
死にそうな所を助けてもらった。
それが、上条の頭を悩ませている。
一方通行に奢ってもらったコーヒーに苦味が増す。
一方通行「お前はどォするつもりなンだ?」
上条「……俺は」
一方通行「奴は今記憶がねェらしいな。俺にゃ、ンな事関係ねェが」
上条「俺は。あいつともう一度話がしたい」
一方通行「……」
上条「俺の知ってる垣根は、記憶がねえのに笑ってて俺を襲った化け物をぶっ飛ばして。『借りを返す』っつって、俺を病院に行かせるようにして。
……それしか知らねえんだ」
一方通行「だが花子に手をかけたのも事実だ。私利私欲の為に、妹達を狙いにして、だ」
上条「……っ。それは、そうだとしても……!」
一方通行「……」
中身の無くなったコーヒーの缶が潰れる。
自分だってどうすればいいのかわからない。
このままだと感情だけで動いてしまいそうで。
内面に関わらず敵だと決め付けて。
どうしてしまうのか、わからなかった。
一方通行「まァいい。お前はどォしたいのかゆっくり考えろ。俺は見つけたらぶっ殺すつもりだがな」
上条「……」
一方通行「……チッ、しけた顔してやがンな。おいおい、こりゃ立派な犯罪予告だぜ? ジャッジメントとして捕まえなくてもいいのかよ?」
上条「あ……そう、だったな」
一方通行「ケッ、その事も忘れるなンざ、よっぽど花子が大事なンですかねェ」
上条「なっ……! お前!」
一方通行「……お前は考えろ。自分がどうしたいのか、どうすればいいのか。テメェにはできるンだろ? 誰も悲しまねェで救うのが」
上条「一方通行……」
そこで一方通行が自分を元気付けてくれている事に気が付いた。
大切な者が危険な目に遭う事の胸の痛さを知っている。
辛さを知っている。
自分だってインデックスが何度もそういう目に遭い、わかっているつもりであった。
しかし今回の事は、それとは何かが違うのを感じていて。
大切だと思うベクトルが違うのかもしれない。
大切だと『想う』人────だからなのかもしれない。
一方通行「クカカッ。おい、土御門から連絡がねェ限り今日俺ァ暇してンだ。テメェがジャッジメントしてる姿を見てやってもいいぜェ?」
上条「部外者お断りだ。本当なら。それに打ち止めはどうした打ち止めは」
一方通行「番外個体のヤロォとカナミン見るっつって家から出やがらねェンだよ」
「あっ、当麻さーーーーーーーーーんっ!!」
一方通行「あン? ケケ、あそこにいンのはテメェの大切な花子じゃねェ……か……………………げっ」
上条「お? もう柵川中学んとこまで来てたのか………………あ」
黒子「ごきげんようですの、当麻さん。あら? 一方通行さんも」
佐天「あ、一方通行さんだ。こんにちはー」
初春「当麻さんこんにちは! ……って、あ」
美琴「………………」
一方通行「…………」
上条「よ……、よっ。御坂もいたのか」
あらー。
柵川中学校から次々と出てくる生徒達の流れを余所に、校門前でまた違う空気が流れた。
次は土曜の夜10時
また次回!自壊!
>>165
こんちにはになってるよ
初春「とっ、当麻さん! その怪我はどうしたんですか!? だ、大丈夫ですか!?」
上条「おー、……昨日、ちと階段で転んじまってなー」
黒子「お、お怪我の具合は……」
上条「ん、大丈夫だ。明日には包帯も取れるし」
初春「当麻さぁん……」
上条「心配すんなって」ナデナデ
黒子「……む」
柵川中学校の校門前に着くと、纏っていた雰囲気が変わった二人を残し、上条の状態を見た初春と黒子は真っ先に飛びつくように不安げな表情を見せていた。
上条の頭に巻かれた包帯は実に痛々しそうに見える。
冬の季節故に着込んでいる服の下にも所々包帯は巻かれているのだが、上条の言う通り見た目より大した事はなかった。
今朝もクラスメイト達に散々質問攻めにあった。
特に小萌に至っては休み時間の度に何かする事はないか、手伝う事はないかと突撃されていて、その都度大丈夫ですからと苦笑いをしたのはいい思い出。
クラスメイト達への返答と彼女達への返答も変わりなく、上条はそう告げる事にしていた。
余計な心配を掛けさせる事はない。
不安がらせる事もない。
特に、彼女の顔に悲しげな表情を作らせたくなかった。
涙を堪えているような彼女の頭を撫でる。
笑っていてくれれば、それでいい。
初春「それならよかったです……。それで、あちらの方は……」
上条「ああ……」
初春に向けていた視線をもう一つの問題の方に向ける。
その二人は、黙ったまま動く気配はなかった。
一方通行「……」
美琴「……」
周囲の喧騒を余所に、お互い口を閉じたまま動かない。
会いたいと思っていなかったし、顔を合わせるつもりもなかった。
上条について来ればこんな事もあろうという予想は出来た筈。
自分の思慮の浅さに少々辟易する。
──……チッ。
美琴から視線を外した一方通行は、ポケットに手を突っ込んで心の中で舌打ちをする。
目の前の被害者は今、何を思うのだろうか。
やけに雑音が大きく聞こえた。
美琴「……ねえ」
一方通行「……」
沈黙を破って声を出した美琴に一方通行は逸らしていた視線を戻した。
その憂いを帯びた消え入るような声のどこかに儚さも感じながら、一方通行は次の言葉を待つ。
美琴「……その、あのさ」
一方通行「……」
何かを言いあぐねているような、そんな様子。
何を言おうとしているのかはわからない。
わからないが、一方通行は自分から話そうという気はなかった。
許しを乞おうなどという考えも頭からない。
被害者なら被害者らしく、怒りをぶちまけてもよかっただろう。
今なら演算補助のスイッチも入れてないし、反射する気も毛頭ない。
妹達を守ると決めていても、オリジナルに会う事ももうないだろうと思っていたから。
美琴は一度上条に視線を向け、再び視線を戻していた。
そんな美琴に痺れを切らすように、一方通行は口を開ける。
方向は、事情を知っている三人目の男。
一方通行「……おい、三下ァ」
上条「……なんだ?」
一方通行「テメェは花子達連れて先行ってろ」
上条「だけど……よ」
一方通行「いいから行け。仕事始まンのに時間ねェンだろ? ほら、とっとと行けよ」バシ
上条「いてえよ。……ああ、わかった。んじゃ、先行くぞ?」
手に持っている杖で上条の太股の裏辺りを軽く叩く。
上条達がいなくなれば、これで美琴も好きな事言えるのだろう。
溜息と同時に吐き出された言葉に素直に従う上条の背中を見る。
初春と黒子と佐天に支えられるように歩きだそうとした上条はもう一度こちらを見て、ゆっくりと頷いた。
──……ったく、心配性なンだよ、テメェは。
クソッタレな自分にも気にかけてくれる。
行き過ぎた部分もありそうなのが、それがまた実に上条らしい。
それでも結局、誰もが笑っていられるハッピーエンドってヤツにしてしまうから。
上条達が去った後、少しの時間が流れる。
通行人の学生達も幾分が通りすぎていく。
柵川中学校指定らしき制服に身を包んだ学生達、スーツ姿の中年、メガネをかけた少年、大学生と思しき若者達。
やがて目の前の被害者は、意を決するように口を開いた。
美琴「……アンタ、さ」
一方通行「あン?」
美琴「アイツと、仲いいのね」
一方通行「ンな訳ねェだろ」
美琴「……」
一方通行「あンなお人好しヒーローの事なンざ何とも思っちゃねェし」
美琴「お人好しヒーローって……やっぱ仲いいんじゃん」
一方通行「……あの後。変わりはねェか」
美琴「……別に」
研究者が第二位を引き連れて美琴達を襲撃した件。
自分が来る前、少しの時間戦闘になってたと打ち止めから聞いていた。
しかしその口ぶりと身体の様子に、大した怪我や影響はないようであった。
一方通行「そォか。ならいい」
美琴「……アンタは。あの実験の後────妹達と、どうしてるの?」
一方通行「……」
美琴「打ち止め。あの時にいたでかい妹。アンタは、その子達とどういう関係なの?」
一方通行「……」
美琴「あの時は……私も言いすぎたわ。ちゃんと話も聞かない上でアンタが悪いと決め付けて────
一方通行「待て」
美琴「な……何よ」
次に来る言葉は、恐らく自分にとって聞きたくない言葉だ。
一方通行「お前が俺にぶつけるべき言葉は、それじゃねェ筈だ」
美琴「……っ」
美琴の言葉を遮るように一方通行は口を挟む。
あの実験の事を忘れた事など一度もないし、被害者である美琴の言い分には耳を傾けるつもりではいた。
しかし、そんな美琴から告げられるべき言葉はそれではない筈。
ごめん────
自分はそんな言葉を望んではないし、その資格もない。
何より、自分が一番自分を憎んでいるのだから。
それを真っ向から否定されるような、被害者からの言葉など受けたくない。
黙って憎しみをぶつけてくれればいい筈なのに。
一方通行「……俺から言う事は何もねェよ。聞きたきゃ打ち止めに聞けばいい。あの三下が俺に普通に接してるからって、お前はそれを忘れちゃいけねェ筈だ」
美琴「……」
一方通行「ただ、これだけは覚えておいてくれりゃいい。犠牲になったアイツらの事は、俺は墓場まで持っていくつもりだ」
美琴「……!」
一方通行「この先打ち止めや妹達に会う事があれば、たまにゃ姉らしい事をしてやれ────カカッ、何言ってンだよ俺は……」
嘲笑うように髪をくしゃっとさせて口角を釣り上げる。
らしくない。
そもそも、らしい自分というのも見当たらない。
こういう時の一般的な身の振り方など知らないし、興味もない。
胸に去来する言い様のない複雑な心境に、一方通行は自分自身に嘲笑していた。
美琴「んじゃあさ。こう言っておくわ」
一方通行「あァン?」
美琴「あの時、助けてくれて、妹達を打ち止めを守ってくれて。ありがとう────」
一方通行「……っ」
その言葉が、やけに胸を抉った気がした。
本日の仕事は、昨日と同じ書類整理。
上条の状態を見た固法もやはり皆と同じ反応で、それに対する返答もまた同じであった。
初春「……」
黒子「……」
というか、両隣でピッタリくっついて離れない雰囲気の二人をどうするべきであろうか。
初春については、怪我をしている当麻さんのお手伝いをする。
黒子については、それを牽制する気持ちもありながらやはり初春と同じ。
元々警邏の予定であったが、固法が予定を変更していた。
昨日起きた件についてはどうやら誰も知らないらしく、黄泉川は土御門達に任せて個人で処理したらしい。
佐天「はい、コーヒーどうぞ。熱いので気をつけて下さいね」
上条「おお、ありがとう」
第一七七支部の給仕係となりつつある佐天が上条のテーブルの上にコーヒーを置くと、早速一口目を頂く事にする。
美味い。
五臓六腑に暖かさが染みるのを感じ、ふぅと一息ついていた。
上条「大丈夫かな、あいつら」
初春「……御坂さん達、ですか?」
上条「御坂の奴、電撃ぶっ放してなきゃいいんだけどな」
黒子「お姉様は人に向けてそう易々と電撃を浴びせたりはしませんわよ?」
上条「嘘だ!」
黒子「え?」
上条「ん?」
『はーい、元気だったー?』
「何の用だよ」
『開口一番冷たい声ね。最近ほら、私達話してなかったじゃん。世間話でもしようかなって電話したワケ』
「なに言ってんだテメェ。私らそんな仲じゃなかった筈だけど? それに顔も知らねぇ奴と話をするほど私は暇じゃないんだけど」
『つれないわねー、相変わらず。ま、いいわ。仕事の話を持ってきたわ』
「……仕事だ? こっちはあんたらと手を切った筈なんだけど」
『はぁ、平和っていうのに浸かると温まって仕方がないわね。あんた、学園都市の闇で繋がれた関係がそんなので切れると思ってたの?』
「……んだと?」
ピクリ、と電話を持つ手に力が入る。
みしみしと精密な機械が悲鳴を上げているが、そんな事など関係なかった。
かつての直属の上司らしきこの電話の相手に、噛み付くように一層声に冷たさが篭る。
『ここまではOK? それじゃ続けるわよ』
「ちょっと待てよ」
『なによー、こっちも忙しいんだから早くしてくれない?』
「さっき世間話でもとか言ってたじゃねえかテメェ。それよりも、仕事とはどういう事だ」
『なに、学園都市の暗部が解体されたからって仕事はもうないと思ってたの? そんな甘い話が通じる訳ないじゃない』
「……」
『確かに暗部は一度なくなったわ。だけど、そんなのでこの学園都市の秘密裏が止まると思う? はっ、とんだ甘ちゃんになっちゃったわね。
新しくまた作られれば話は別。取引先が増えるなんて下請業者からすれば嬉しいもんだと思うんだけど?』
「……クソが」
『それに、仕事内容はあんたらにとって関係のない話でもないわよ』
「どういう事だよ」
『未元物質────とでも言えば、わかるかしら?』
「……!」
目が見開かれる。
その瞬間、自分と仲間達を傷付けた男の顔が浮かんだ。
前に第一位の家でも話し合った渦中の男。
なんとなく、仕事の内容というのが掴めてきていた。
『どうやったのかは知らないけど、未元物質は自分の身体を取り戻して研究所から姿を消したわ。
それで、一度騒ぎも起こしてる』
「……」
あれか。
小さな友達となった打ち止めがターゲットにされた、あの件。
第一位がまたしてもぶっ飛ばしたらしいのだが、姿を消したという事を第一位本人から聞いていた。
『第二位に姿を消されたっていうのは困った話でさ。訳分からない能力によって作られた製品ってのが裏では大人気なのよ。知ってるかしら?』
「それで、私ら『アイテム』に第二位を生け捕りにしろと?」
『話が早くて助かるわ。脳さえ動けばどんな状態でも構わないってのは付け足しておく。
とは言っても、あんた達は一度負けてるからね。借りを返すにはもってこいなんじゃないの?』
「誰がテメェの話に乗るかっての」
『あら────断れるとでも思っているのかしら?』
「……っ」
電話の相手の語気が強まった。
そう、『裏』というのは目的を遂行する為ならばなんだってする。
なんだって犠牲にする。
躊躇いもなく、残虐に。
断れば自分にとって大切なものがどうなるかなど想像に難くなかった。
ピッと電話を切る。
無性に能力をぶっ放したい気分だ。
こんなクソッタレなのは実に久しぶりで。
過酷な、温情もない残忍な世界。
だがそこに身を置いてきたのは、確かに自分。
絹旗「麦野、どうしたんですか?」
麦野「なんでもない」
絹旗「……そうですか」
麦野「それよりも、お腹すいた。ご飯でも食べに行かない? 滝壺と浜面も呼んでさ」
絹旗「超いいですね。連絡してきます!」
でも、もう一度汚れるのは。
自分だけでいい。
>>177-178
それはあれだよ、黒子渾身のギャグ……ごめんなさい単なるタイプミスでした
指摘感謝です><
次は火曜夜10痔、また次回!
美琴「ここをこうして、と」カリカリ
上条「こら御坂。人の仕事に横槍入れるな」
美琴「いいじゃない別に。アンタ紙一枚に時間かけすぎなのよ」
上条「へーへー、どうせ上条さんは馬鹿ですよ」
美琴「だ、誰もバカとは言ってないじゃない、バカ」
上条「馬鹿って言う方が馬鹿なんですぅ!」
佐天「あははー……」
初春「むぅ……」チラ チラ
いつもよりも人数が多くなった第一七七支部室で、賑わった声が響く。
賑わいというのも、会話の節々がまるで喧嘩腰のように見えるのだが本人達が楽しそうに見えるからで。
自分の好きな人が他の女の子と仲よさ気にしているその雰囲気が、やはりこの少女は気になってしょうがない。
一方通行「このコーヒーうめェ」
黒子「お口に合ったのでしたらよかったですの」
固法「そういえば、これどこで買ってきたの?」
黒子「常盤台の近くにあるお店ですの。コーヒーは普段飲みませんが、通る度に美味しそうな香りがしていましたので興味はありましたの」
一方通行「ほォ。今度寄ってみるか」
こっちはこっちで割と楽しそうにしていた。
何故学園都市第一位である一方通行がここにいるのかというと、暇だったからというのが本人の弁。
本来ならば部外者お断りの筈であったが、ジャッジメントではない佐天も美琴もいるのならそれを拒否する事は出来ないのであろう。
いやそれよりもまず。
一方通行がいる空間に、美琴がいる。
大丈夫なのだろうか。
あの後、二人の間でどんな会話がなされていたのかは分からない。
しかし二人揃ってこの第一七七支部室に姿を現し、自分達の目を丸くさせた。
特に、上条についてはあんぐりと口を思い切り開けていた。
ここに来てから、二人は互いに直接話かけたりはしていないのだが敵対という感情は薄れている。
特に、美琴。
お互いを少し避けるような雰囲気は確かにあるのだが、それはちょっと喧嘩したクラスメイトが教室で口を聞けない、そんな雰囲気に似ている。
全く驚きだ。
あの時の美琴とは大違いだ。
あの時の激しい美琴の怒り、悲しみ、戸惑いはもうなくて。
いつものお姉様の姿を取り戻せるのは、やはり彼の存在があるからなのかもしれない。
チラッと黒子は騒がしいそちらに目を向けた。
美琴「だからここは違うって言ってんでしょ! バカ!」
上条「むきーっ!!」
初春「と、当麻さん落ち着いてください……こ、コーヒーでもどうぞ」ドーゾ
上条「……」
上条「そうだな、落ち着こう……ふぅ、美味い! ありがとな初春さん」ナデナデ
初春「はぅ……えへへ///」トローン
美琴「ななな、なにやってんのよアンタはああああああああああっっ!」
上条「お前も落ち着けよ御坂」
初春「……///」ギュッ
美琴「初春さんから手を離してモノを言えゴラアアアアァァァッッ!! って初春さんもなに抱きついてんのっ!!」
佐天「煎れたの私なんですけどね」チョットイイナーアレ ワタシモウイハルト
黒子「」ガタッ
それどころではなかったが。
一方通行「騒がしいなアイツら……いつもこンな感じなのか?」
黒子「……お姉様は、上条さんが絡むといつもこんな感じらしいですの」ハァ
一方通行「……そォかい。元気そうでなによりだ」
固法「賑やかでいいじゃない」
黒子「はー……」
固法「白井さんも行ってくればいいじゃない、そっちに」
黒子「いいんですの」
まあ、美琴がこうして元気になっている。
それは間違いなく喜ばしい事であった。
固法「よし、今日はこれでおしまいね」
上条「お疲れ様ー」
初春「お疲れ様です、当麻さんっ」
黒子「お疲れ様ですの」
終了規定時刻になり、固法の言葉で一同は帰り支度を準備する。
それがまたなかなかに統率の取れた動きのようにも見え、美琴はアイツも慣れたのかなという感想を漏らした。
包帯を巻いた上条の姿について美琴はしつこく尋問していたのだが、返ってきた言葉は階段でコケたらしく。
運動神経抜群なアイツがね、と少々疑問を漏らしていたのだが深くは追及しないでおく事にしていた。
身体の動きを見るに、どうやら大した事は本当にないらしい。
初春「当麻さんっ、お、お家までお送りします」
上条「へ? いやいや普通は逆だろ。今日も俺が送ってくよ」
美琴「なっ」
初春「いえ、だって、お怪我されてますし……」
上条「本当に大した事ないって。それに、女の子を一人にする方がよっぽど危険だし」
初春「と、当麻さん……」
美琴「……」
この二人……どこまで進展しているのだろうか。
送る送らないというか、二人で帰るというのがあたかも当たり前で前提かのようなその会話。
チクッと刺さる胸の痛みは、きっと幻想なんかじゃなかった。
一方通行「ほォ……三下と花子はいつも二人で帰ってンのか」ニヤニヤ
佐天「私もたまに一緒に帰ってますよ。私が来ない日は多分二人で、ですけど」ニヤニヤ
黒子「途中までならわたくしも監視の目を光らせておりますが」ブス
美琴「……むぅ」
佐天と一方通行はなにやら二人を応援しているようにも見えるし、黒子は……よくわかんない。
なんだか胃がムカムカするような思いに駆られながら美琴も帰り支度を始める事にした。
固法「ところで、あなたは今日なんで支部に?」
一方通行「おォ、三下の野郎がちゃんと職務を果たしているのかどォかを見に来た」
上条「お前は俺の保護者かっての。単に暇で暇でしょうがなかったんだろ?」
一方通行「あァン? ご生憎様だ、俺は毎日忙しい日々を送ってンだよ。合間を見つけて見に来てやったンだ、感謝しやがれ」
上条「はぁ? さっき同居人が家でカナミン見てて構ってくれなくて暇だって言ってたじゃねーか。素直になれよ」
一方通行「テメェちょっと表出ろ」
黒子「もう表には出ておりますが」
一方通行「決めた。今までテメェに奢ってやった分請求するわ」
上条「ごめんなさい!」
一方通行「頭が高ェよ、地面に頭擦りつけるンなら考えてやるが」
上条「ははーっ、神様仏様一方通行様!」
初春「ホントに仲いいですよね、お二人」クスクス
佐天「ねー」ニシシ
固法「なかなかいいコンビね。今度学園都市で漫才大会あるらしいから出場すればそこそこいい線行くんじゃない?」
美琴「……本当に、仲いいんだ」
第一七七支部室からの帰り道。
コントのような会話がなされる二人に、生暖かい視線を送る五人の姿があった。
全員特にこれから用事があると言う訳ではなく、一同共に帰路についていた。
最初は怪我をした上条を送ると初春は言っていたのだが、上条が必死に大丈夫だからと遠慮をしていた。
まあそれは心境的に、そりゃそうだろ家には今現在四人の女の子がいるんだしと冷や汗をなんとか隠し。
ただ誠死ねの気分に自分自身を当てはめながら丁重にお断りをしていた。
一方通行も、花子にそれ見せたらどうなるのかなという期待もあったのだがそれは口に出さずにしていた。
基本、一方通行は花子応援派。
打ち止めを命を賭して助けた恩人だからというのもあるのかもしれないし、上条の気持ちを見透かしているからなのかもしれない。
とはいえ実はそこに美琴も捩込んでみたい気持ちもちょっぴりある。
自分で気付かない贖罪の気持ちか、それともドロドロな関係に塗れる上条を見て笑い転げたいという遊び心か。
当の相手からしてみればたまったもんではないが。
「あっ、いたー!」
一方通行「ン?」
上条「お?」
美琴「あ──」
打ち止め「見つけたー! ってミサカはミサカはあなたに猛タックルをくらわせてみる!」
一方通行「ぐほっ! おい、何故テメェがここにいやがンだ!? っつゥか危ねェから勝手に家出ンなっつっただろォが!」
番外個体「最終信号があなたの帰りが遅いからって探しにきたんだよ。全く、付き合わされるこっちの身にもなってよ……ってなんだ、ヒーローさん達も一緒だったんだね」
上条「よっ」
打ち止め「よっ! ってミサカはミサカはヒーローさんにハイタッチしてみる! ってあれ、花子さんも一緒なんだ」ニヤニヤ
初春「こんばんは、打ち止めちゃん」
佐天「癒されるのう」
固法「花子がすっかり定着しちゃってるわね」ププ
黒子「小さなお姉様と大きなお姉様……相変わらず、お麗しい……」
打ち止め・番外個体「「ひっ」」ビクッ
一方通行「俺の後ろに隠れろォ!」
黒子「このやり取り二回目ですの!」
更に二人を増やしたこの集団の騒がしさは、道行く学生達の視線を集めていたのは言うまでもないだろう。
番外個体「………………ん?」
「ちっ、ムカつくったらありゃしねぇぞクソ」スタスタ
番外個体「むむ、なんだか機嫌悪そうだね。ちょっとついてってみようかな☆」
「あぁんもう! ムカつく!!」ガッ
番外個体「やっほう。機嫌悪そうだね」
「あぁ? 誰だよクソ……って、番外個体じゃない」
番外個体「何してるの? しずりんは」
麦野「……ちょっとね。野暮用よ」
勝手に集団を抜け出し、知り合いが偶然歩いているところを見かけた番外個体はその人物に声をかける。
その第四位の手には、少しゴツめのキャリーバッグが存在感を放っていた。
痔は辛いよな、うん。俺痔じゃないけどね!痔じゃないよ!
次は土曜日す!また次回!
痔じゃないよ!
電話の向こうから聞こえる自分を苛つかせる声は、こう言っていた。
『第二位の情報。昨日、私も知らない組織の構成員と思わしき人物と接触、だけどそいつをぶっ飛ばして放置したらしいわ。
そいつは次の日の朝早くに公園の噴水で裸でガタガタ震えている所を保護されたらしいけど。よくもまあこの時期にその恰好で生きていたわね。
それ以降は足取りは掴めず』
麦野「……」
たった、それだけ。
少なすぎる情報に麦野は思わず溜息を吐いていた。
それでどーやって探せ、と聞き返したくなったのだが。
どうせ一言二言愚痴を付け加えながら『だから探すのがアンタの仕事』と言われるのがオチだろう。
ふぅ、ともう一度溜息を吐きながら隣に立つ見知った顔に声をかける事にした。
麦野「ってか番外個体はここで何してたの?」
番外個体「ん? あー、家で可愛いキャラのアニメを見てたんだけどさ。見終わったら最終信号に外出てった第一位を探すって連れ回されてたんだよう」
麦野「ふーん。それで第一位は見つかったの?」
番外個体「うん。さっきヒーローさん達と一緒にいる所を見つけてさ。ミサカはしずりんが歩いてたのを見て抜け出してきちゃったけど」
麦野「抜け出したって。第一位、心配してるんじゃないの?」
番外個体「あの人が? さあね……ぎゃは、必死に血眼になってミサカを探すの想像してゾクゾクしちゃった☆」
麦野「あんたって本当に第一位には当たりきついわよね」
番外個体「えー、だってあの色白モヤシだよ? 同じ家でずっと凶悪面振り撒かれてたらそりゃ愚痴の一つもカップ麺の待ち時間間隔ごとに出来上がるよ」
麦野「ふふ、それはあれじゃない? ほら、好きな人には意地悪したくなっちゃう気持ちのあれみたいな」
番外個体「」ピク
番外個体「……」
番外個体「!」
番外個体「ないない! ミサカに限ってそんなのないない!」ブンブン
麦野「そんなに首を振り回すと頭クラクラしちゃうわよ?」
番外個体「にゃ、にゃいんだから~」フニャ ポテ
麦野「おっと。ほら言わんこっちゃない」グイ
ヘロヘロになった番外個体の身体を麦野が支える。
目を回している様子だが、まあそれはすぐに治るのであろう。
しかし、麦野と番外個体が正面から抱き合う形になっており。
麦野も番外個体も傍から見れば相当な美女であり、道行く者達の視線がそこで一気に背徳系の色へと変わる。
そんな空気を肌で感じた。
「へい、お姉さん達可愛いね。どう、俺らとちょっと遊びに行かない?」
「退屈はさせないぜ~?」
こういうのが勝手に釣れるものだから、困ったものだ。
はぁ、と麦野はもう一度深く溜息をついていた。
打ち止め「えっ、お姉様あそこのゲコタストラップをゲットしてたの? ってミサカはミサカは目をキラキラさせながら尋ねてみる!」
美琴「ふふん、この美琴サマからすればあんなの一発だったわよ」
打ち止め「いいなー、いいなーってミサカはミサカは指をくわえて羨ましがってみたり」
一方通行「汚ェからくわえちゃいけませン」
上条「保護者め」
黒子「保護者ですの」
佐天「保護者ですね」
一方通行「テメェらは少し黙ってろ」
美琴「……ぷ。そうだ、打ち止め。今度一緒に行く? 取ってあげるわよ」
打ち止め「えっ行きたい行きたい! ってミサカはミサカは期待してみる! だけど」
一方通行「ン? おォ、行ってこい行ってこい。ガキの面倒見なくて済む」
打ち止め「またまた、本当は寂しいんでしょ? ってミサカはミサカは肘でつんつんしてみるけど許可が取れた事に喜んでみたり!」
一方通行「明日のプリンは抜きだ」
打ち止め「うわああああああああああん! ごめんなさあああああああああい! 言い過ぎましたってミサカはミサカはああああああああ!」
上条「こうやってまた一つ」
黒子「小さいお姉様は」
佐天「世の渡り方を覚えていくんですね」
美琴「……ぷ」プルプル
初春「うー……」モジモジ
わいわいがやがやとした集団の中で、初春は一人唸っていた。
いつもの帰りならば、二人で手を繋いだりお店でお買い物だったりと何気ないちょっとした放課後デートというものが日課でもあった。
それは当然二人の時だけ、というものであるのだが、一番機会が多い佐天との三人の時は、佐天も気を回してくれるし自分も上条に対してちょっぴり大胆にいける。
黒子がいる時は、控え目になり互いに牽制球を投げ合う形になるが。
手を繋いだり、抱きしめ合ったり。
もうそれが生活の一部となっていて、彼に触れていないこの手と身体が寂しく感じるようになってしまっている。
それが本日は、まさかの大所帯で初春はまさに指をくわえて見るしかできないでいた。
隊列は、前から美琴、黒子。
その後ろに上条、一方通行の間に挟まれるように打ち止めがいて。
そして後ろには自分、佐天、固法という形。
この時点では、こっそり抜け出した番外個体に誰も気付かないでいた。
「ひぃぃぃっっ! ご、ごめんなさいいいいいいぃっっ!」
「こ、怖いぜ~っっ!」
麦野「ふぅ」
パンパン、と手を叩いて邪魔者を追い払い麦野は一息つく。
こういう輩の扱い方は熟知しているようだ。
忙しいってのに手間取らせんなよと一瞥をするだけで、もう去って行った軟派野郎の事など頭にはなかった。
番外個体「ってかしずりん、その手に持ってるカバンは何?」
麦野「ああ、これ?」
ふーん、ああいう時は能力ぶっ放せばいいのかと麦野から学んでいた番外個体だが、ふと麦野の手に握られていたそのカバンについて触れる。
見た目、刑事ドラマやら任侠物やらで使われていそうなそのキャリーバッグというか、アタッシュケースは一際存在感を放っている。
番外個体が興味を示すと、麦野は少々困ったような表情を貼付けていた。
麦野「仕事でね、ちょっと」
番外個体「お仕事?」
麦野「そ」
与えられた仕事は、『妹達』の一人でもある番外個体にも関係性のある第二位についての事。
内容を伝える訳もなく、言葉を濁すようにして麦野はカバンに目を向けながら少し考える仕草を見せた。
麦野「そういえば。さっき言ってたヒーローさんって誰なの?」
番外個体「ヒーローさん? ああ、あの人と仲がいいヒーローさんだよ」
麦野「第一位と仲がいい? 浜面以外にもいるんだ」
番外個体「しずりんもそう思うよね? あの凶悪面でもお友達が出来るなんてミサカもびっくりだし」
麦野「……ふふっ、そこまで悪い顔してる訳でもないと思うわよ? 名前とかは?」
番外個体「名前は上条当麻って言うんだけどね」
麦野「あー、あのつんつん頭の」
番外個体「しずりんも知ってるの?」
麦野「うん、前にちょっとね」
番外個体「ほー。ヒーローさんは顔が広いんだね」
ただまさか上条にイギリスの王室までも顔見知りの範囲が広がっているとは夢にも思うまい。
妹達である番外個体も知っていて、レベル5の中でも第一位、第三位、第四位と顔見知りの無能力者というのもなかなかいない。
本当に単なる無能力者? と疑いたくなるのだが浜面という男を思い出して、そんなもんかととりあえず疑いに句読点を打つ事にした。
ふと、そんなこんなでぽつりぽつりと会話をしながら歩いていると。
スガアアアアアアアン────!!
突如、轟音が街中を襲った。
麦野「!?」
番外個体「!?」
「きゃああああああああああああっっ!!」
「うわああああああああっっ、なんだあれ!?」
「ば、化け物!!??」
「ふむ、手駒を増やすにはもってこいの賑わいではあるな」
「うまくいきますかね?」
「ま、試し感覚でいいのではないか?」
「ふふ、そうですね」
「ふしゅるるるるるるるるるる──────」
麦野「なん……だ……? あれ……」
番外個体「二日連続で災難かよー……」
土埃と逃げ惑う学生、街中の人達。
その騒ぎの中心には、古風な着物に身を包んだ女と今時のカジュアルな服装に身を包んだ男と。
そして見た事もない化け物が一体、そこにはいた。
お前らwwwwwwwwwwww
そういえば今日、初春 上条で画像検索したら、風邪をひいた初春を美琴から追われていた上条さんがかついで逃げるという漫画っぽい画像があってかなり燃えまくった
次回は火曜に来るぜ、今回ちょっと短いけど次大量投下できるように頑張るわー
>>218
何それ詳しく
http://mup.vip2ch.com/up/vipper39632.jpg
画像探したが見付からなかった…代わりに初春の笑顔にやられてる上条さんを
乙
風邪初春→ういはるうらら
ってやつかな?
たしかにありゃ素晴らしい同人誌だ
>>219
あらこの話の逆パターンね
しかしこうして見ると上条さんイケメンだよねwww
>>218
個人サイトさんのっぽいから貼るのは控えたけど>>223-224様が素晴らしき情報を下さったぞ!
ってかそれでググってみたら俺幸せ過ぎてやばい死んだ
破壊された建物の一角のテナント。
ブティックにいた店員と客、そして通行人がわななき逃げ惑う。
爆発が起きたような轟音と、騒然とする騒ぎの中に似つかわぬ落ち着き払った男女の声が麦野と番外個体の耳に届く。
麦野と番外個体の目に映った男女と、間に挟まれるように佇んでいるそれは。
子供向けに描かれた絵本、図鑑のような絵空事としか思えぬモノがあった。
一人の人間にしてはデカすぎる身体。
格好は時代劇でよく見る帯刀した侍。
電柱よりも太い筋肉質の力強い手足。
「うわああああああああ、なんだあれ!!??」
「逃げろおおおおおおおおおおおおっっ!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「ふぇええええええぇぇんっっ!!」
「ああっ! ウチの子がっ!」
麦野「お……に…………?」
番外個体「……テレビでこういうの、見た事あるよ」
そして、絵に描いたような鬼の顔がそこにはあった。
壮絶な人生を送ってきた麦野といえども、ここまで開いた口を塞ぐ方法が解らなくなった状況はなかった。
暗部の仕事として、数々のクソッタレ共を粛清してきた。
男から女、年老いた者から同年代のものまで老若男女も問わず。
中には赤子の手を捩るよりも容易な無能から、レベル5である自分も手こずるような相当な実力者まで。
学園都市製の最新駆動兵器を身に纏った敵と対峙した事もあった。
そのどれもこれもは、麦野の持つ『原子崩し』の餌食となりその姿を消されていった。
麦野とて最強を自負している訳でもないが、レベル5としてのプライドと裏付けされた実績というものがある。
そうそう負ける事などないという自信を持っていた。
ただ、それは。
あくまでも、相手が人間であった時の話。
「ふしゅうぅぅぅ…………ふしゅうぅぅぅ…………」
麦野「……なんなんだよ、あいつは」
空想世界にいつの間にか取り込まれていたかのような錯覚に陥っても仕方がないだろう。
ゲリラで行われている戦隊物の特撮かと疑っても、どこにもカメラはない。
飛び散ったガラス、砕け散ったコンクリート。
怪我人も何人か出ているようだった。
番外個体「ひょー。ミサカ達あそこにいたら危なかったね……」
麦野「……そうだね」
まさに破壊された箇所は10秒程過去の自分達が歩いていた場所。
煌びやかだった店の明かりも消え、ブティックは無惨な姿へと成り果てている。
怪我人を必死に手当する人や、瓦礫の下敷きになった人間を助けようとする人。
そして、その近くにはあの『鬼』がいる。
「『酒呑童子』と言ったかえ? なかなか屈強な面構えをしておるな」
「お褒めに与り光栄ですよ。元は鬼の形相ではなく絶世の美男子、でありましたがね。
余りにもの惹き付けるその容姿に数々の女子が彼に恋い焦がれた様子でしたが、彼はそれを全て断っていたようですね」
「ふむ、とても今のあの形相からはそうは思えぬが」
「まあ、様々な説があります。女子達の想いが込められた恋文を何となしに燃やした所、怨みの篭ったその煙にまかれて鬼の形相になったとか。
生まれ持ち過ぎた天賦の才に『鬼っ子』と呼ばれ自分もそう思い込んでる内にそうなってしまったとか。
人肉を貪るのが好きで、斬り殺しては喰うを繰り返している内にそうなってしまったとか」
「おお、何と恐ろしき事か。されど、ぬしが『空想憑依』にて具現化させたのものは」
「ええ、刀を持っている所を見ればお分かりになるでしょう。腐った世間を正すには、劇薬の方がいい」
「面白き奴やの。ぬしも、あの『妖怪』も」
番外個体「!」
その中の一説を『空想憑依』させた男が喉奥をくくっと鳴らす。
より残忍な、より狂暴な。
目的を果たすのは当然ではあるが、その過程をより愉しみたいという思いが女にも伝わる。
寧ろ、過程を愉しむのが目的であるかのような。
そんな表情を男は作っていた。
麦野「番外個体? どうしたの?」
番外個体「妖怪……」
麦野「とか言ってたわね、アイツら」
一つのワードに反応を見せたのは番外個体。
そのワードは、昨日番外個体は聞き及んでいた。
昨日、訪れた銭湯にて番外個体自身の身にも降り懸かりそうになったあの『気持ちの悪いモノ』。
場に居合わせていた知り合いのシスターさん一行が言うには、それも『妖怪』の類いのモノであった。
素っ裸のまますんごい美人さんが番外個体の動体視力を軽く凌駕して一瞬の内に討伐していたのだが、それと今目の前にいる『鬼』は同じモノという事であろうか。
番外個体「昨日ね、その『妖怪』ってのをミサカも見たんだよ」
麦野「そうなの?」
番外個体「うん、あれとは全然違うもっと気持ちの悪いモノ……
「きゃああああああああああああああっっっ!!」
番外個体「!」
麦野「!」
会話を切り裂くように、突然の甲高い悲鳴が耳をつんざく。
二人はバッとそちらに目を向けると、その『鬼』の腕を全身で掴んでいる女性の姿があった。
麦野「逃げないで何してんだあのオバサン」
番外個体「ちょっと待ってしずりん! あいつの手に……!」
麦野「っ!」
その『鬼』の手には、片足を掴まれ逆さ吊りになっている4~5歳程の小さな女の子がいた。
「あれは流石に可哀相ではないかえ?」
「幼子であろうと、この街の人間。あの幼子がとんでもない能力持ちであったならばを考えると放っておく訳にもいかないでしょう」
「考えうる余分な異分子は消しておくとな?」
「まあ、どちらにしたってこの街の人間の半分程は消えてもらう予定です。『酒呑童子』としての『鬼』の本分を全うしてもらう事にしましょう」
「ふむ」
「ふふ。貴女には余裕のない男と映っているのかも知れませんね、僕は」
「完璧主義だと自負する所ではないのかえ?」
「貴女を前にすると些か自信家でもいられなくなる。慢心した結果、甘い脇の男と思われたくはありませんので」
「謙虚、されど冷徹じゃな。今の所は」
「もっともっと評価を上げたい所存ですよ」
「いい男だとは思っているぞ?」
「……ふふ。ありがとうございます」
『鬼』は女性の抵抗を物ともせず、男の方に視線を向ける。
まるで電子記号に操作される機械のように。
まるで餌を目の前にして主人に許可が下りるのを待っている犬のように。
どちらにも見える。
女性の必死な抵抗にも微動だにしない『鬼』。
その小さな女の子も、逆さまながら必死に女性に手を伸ばして助けを求めている。
きっと、親子なのだろうと推測できた。
「ふしゅるるる……?」
主人からの号令を待つ『鬼』。
ご馳走を目の前にし、涎もダラダラと地面に染みを作っている。
数秒間のしつけとも思える時間を置き、主人であるその男は手を突き出し。
「よし」
パチンッ────!
ペットに許可を下すような、指を鳴らした音が響き渡る。
「ふしゃああああああああああッッッ!!」
「ああああああああああああああっっ!!」
ズバッッ────!!
「ふしゃあああああ…………?」
麦野「さすがにそれは看過できないかな」
『鬼』が女の子の肢体を口の中へ押し込もうとしたその瞬間。
鋭く、まるで光線銃のような細く尖った光が『鬼』の腕を切り飛ばしていた。
番外個体「ナイスだよ、しずりん!」
肘の部位で接点をなくしたそれが地面へと叩き付けられようとしたそこに、番外個体が滑り込むように落ちていく女の子の身体を受け止める。
そして瞬時に『鬼』から距離を離さんと足元に電撃を撃ち込み、番外個体は女の子を抱えて後方へと跳んで下がった。
番外個体「あなたも下がって!」
「あっ……は、はいっ!!」
何が起きたのかがわかっていないのか、呆然とする女性に番外個体は檄を飛ばす。
番外個体の腕に抱えられたものを再度目にしてハッとなった女性は咄嗟に駆け寄ると、女の子の身体を抱きかかえるようにして受け取った。
番外個体「ちょっと待って……うぅ、これ剥がれない」
「みお……みおぉ……っ!」
「おがあさん……おがあさんっ!」
女の子の足を掴む力が強かったのか、ちぎられたその手を剥がそうとするがこれはどうやら少し時間が掛かりそうだ。
番外個体はその腕の持ち主であった『鬼』に視線を送る。
「ふぅぐしゅるるううぅ…………?」
何が起きたのか今だ理解できていないのか、肘から先がなくなったそれをじっと見つめている。
溶けたような、焼け爛れたそれから次第に血が滴ってくる。
疑問符を頭に張り付かせながら自分の身体の一部であったそこにも視線を送った。
「ふしゅうううぅぅぅぅぅ…………?」
麦野「アンタもナイス。やるじゃない」
番外個体が取った一連の行動に麦野も賛辞を送りながらも『鬼』の一挙一動から視線は外していない。
いつでも『原子崩し』を撃ち込む用意は当然していた。
やがて、『鬼』は理解する。
自分の腕がちぎられた事と、誰がやったのかを。
「ぬがあああああああああああああああああああああッッッッ!!!」
麦野「ッ!?」
番外個体「くっ!」
パリンパリーン────!!
おおよそ人間が出す事の出来ない声量の咆哮を『鬼』は上げる。
ドン! と空気が震え、それに呼応するように建物のガラスが割れる。
騒然としていた場は更に混乱を催す。
兵器であるかのような音の衝撃波とその割れたガラスに巻き込まれ傷を負った人間の数が増えたようであった。
麦野「来る!」
「がああああああああああッッ!!」
番外個体「うそ、動けるの!? ミサカの電撃ブチ当てたのに!」
レベル4同等の威力を持つ番外個体の全力の電撃を当てた筈。
だがそれをものともせず、『鬼』はその脚で番外個体達の前方にいた麦野へと襲い掛かる。
しかし、当然一手先の手など残さない麦野ではない。
麦野「番外個体! ここは任せてアンタはその子達連れて後ろ下がってな!」
番外個体「わかった!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
◆ ◇ ◆ ◇
初春「すごい音しましたけど……なにかあったんですかね?」
佐天「ね、びっくりしちゃった。結構近いみたいだよ」
打ち止め「どーんっとか、がしゃーんっとかだったねってミサカはミサカはその音を口で再現してみる」
美琴「爆発? のようなそんな音だったわね」
それは当然こちらの集団の耳にも届いていた。
ここからだと少し距離がある場所であったのだが、音の規模、物々しさは一同に緊張を与える。
それはこの集団だけでなく、周りの通行人、学生達も同様であった。
一方通行「おい、三下」
上条「なんだ?」
一方通行「……恐らく奴らだ」
上条「なんだと……?」
忌ま忌ましそうな表情を浮かべた。
この感覚が告げているのは、魔術だ。
そしてそれは昨日銭湯で感じられたそれと非常に酷似している。
その感度は比べものにならないが。
一方通行「チッ! 土御門の野郎から連絡は来てねェよな?」
上条「ああ、来てない……」
一方通行「なにサボってやがンだよ、あいつは!」
黒子「お二人とも、どうなされたんですの?」
初春達と少し離れて聞こえないように会話をしていた所、黒子が割って入ってくる。
黒子はジャッジメントの証を付け終えた所か、腕章をパンパンと落ちないか叩いて確かめていた。
一方通行「……三下、どォすンだ?」
上条「どうするかって、行かなきゃいけないだろうが。神裂も五和もいない今、沈めるには俺の右手じゃなきゃダメだろ」
一方通行「それもそォなンだがよ、花子達にはどォやって説明つけるつもりなンだ?」
上条「あ──」
一瞬言葉が詰まる。
そうだった。
昨日、黄泉川達を加えた作戦会議で話し合った一つの中に、取り決めを上条はしていた。
『平穏を脅かさせずに解決に動く』
己の守りたい者に危害が及ばぬように。
己の守りたい者に心配をさせぬように。
二つの思いを胸に、そう決めていたものがあった。
不安そうでも、打ち止めを安心させようとする表情を作っている初春を見つめる。
彼女がこの話を聞き及んでいたのならば、十中八九力になりたいと申し出をする筈。
しかしその事により、もし彼女の身に何かが起きようと言うのならば──を考えると、上条は居ても立ってもいられなくなるだろう。
だからこそ、この件に関して口を閉ざすつもりでいたのだが。
自分が動かない訳にもいくまい。
しかし動けばどういう事かと説明を求められるに違いない。
こういう時の回らない頭の悪さに辟易しながら上条は拳を握り締める。
どうすればいいのか、頭を悩ませる所であるのだが時間がなかった。
黒子「……上条さ────
打ち止め「あれっ!?」
一方通行「おい、どォした?」
すると、何かに気が付いたかのように打ち止めが叫ぶ。
キョロキョロと周りを見渡し、そして視線を一方通行に送った。
打ち止め「いないの!」
一方通行「あァン?」
打ち止め「番外個体がいないの!」
一方通行「──────っ!?」
打ち止めの言葉に、一方通行も視線を散らし番外個体の姿を探す。
しかし、やはり見当たらない。
舌打ちをしながら一方通行はチョーカーのスイッチを入れる。
一刻も早く向かわなければならない、そんな予感が襲い掛かってきていた。
一方通行「どこ行きやがったアイツ!!」
上条「マジかよ……! 一方通行、行くぞ!」
黒子「わたくしも向かいますの! ジャッジメントとして放っておく訳にもいきませんわ!」
初春「当麻さん! 私も行きます!」
上条「だけど……!」
一方通行「三下、時間がねェぞ!」
美琴「……何を隠してるのかは知らないけど、後で説明してもらうわよ!」
そうして一同は、『風紀委員』としての大義名分を元に現場へと駆け出していた。
◆ ◇ ◆ ◇
麦野「これで終わり、と」
「ぐあああああああああああああああっっ!!」
自分よりも一回り以上の大きさの身体が吹き飛ぶ。
耳をつんざくその悲鳴は、麦野がこれまで葬ってきた数々のクソッタレ共のそれと同じ。
聞き慣れた断末魔は、絶命の合図だ。
特に脅威となるものでもなかったわね、という感想と一瞥を送ると次にそれを使役していたと思われる男と女へと視線を送る。
一体何者であるかはわからないが、恐らくこの学園都市の人間ではないとだけ推測はできた。
それだとしたら、この『鬼』は一体なにか。
番外個体「ふぅ、やっと剥がれたよ。それにしても。ひゅー、しずりんやるー☆」
「あっ、あの! あ、ありがとうございました!」
「おねえちゃん、ありがとー」
番外個体「ふふん、ミサカは『大人』だからね。小さい子を守るのは当然だよ」ナデナデ
麦野「ふふっ」
そんな中、背中から聞こえる和気藹々とした会話に麦野の表情が思わず緩む。
自分と同じ『可愛いものは正義』の趣味の持つ番外個体にとってはその小さい子も対象だったのだろう。
あーあ、なんで手助けなんかしちゃったんだろとわかっていながら心の中で呟く。
それはきっと、それは麦野にも当てはまっていたからであろう。
麦野「それでさ。アンタら……何者?」
さて、『鬼』を吹き飛ばした所で。
やる事はまだある。
表情をもう一度引き締め、突然街中を混乱に陥れた元凶らしき二人を睨みつけるように麦野は問った。
こいつらのせいで自分に課せられていた仕事の時間を奪われたのだ、問いただすのは当然の事だろう。
吐かす為ならどんな手段も厭わないつもりである。
手足をもぎろうが、舌を引っこ抜こうが○○○を焼こうが。
あ、舌は引っこ抜いたらダメか、と麦野の口角が吊り上がったのだが。
「ふむ、やられたか」
「全く、この街の能力者とやらは。幻想殺しといい昨日の能力者といい、そうそう簡単にはやらせてもらえませんね」
「ぬしの慢心さからかえ?」
「ふふ、まあこれくらいは想定内ですよ」
麦野「……ああ?」
まるで気にしちゃいないといった二人の様子に、麦野の眉間にシワが寄る。
恐怖に怯える表情が見られると思いきや、二人の顔は真逆。
それが無性に腹が立ったが、それよりも。
なんだか、嫌な予感がしていた。
男はおもむろにジャンバーの内ポケットからひし形の白い紙を取り出すと、それを倒れ伏した『鬼』に投げつける。
そして女は、また男とは違う動きを見せた。
男の白い紙より少し大きめの紙を空中に放り投げ、それを苦無で射止める。
「――生ヲ弄ブ事。禊ヲ用イテ囲炉裏ヲ通リ、温メ薬湯ヲ以テ鼓動ヲ呼ビ戻セシ」
「どれ、わらわもやってみようかの」
麦野「何言って──────」
番外個体「……しずりん! 臥せて!」
麦野「っ!?」ガバッ
ブウンッッ────!!
その番外個体の言葉が聞こえるのと同時に麦野は咄嗟に身を臥せる。
その僅か数cm上、空気を切り裂く音が響き渡った。
番外個体「はっ!」
バチバチッッ────!!
そして麦野の頭上を番外個体が放った電撃が迸り、それが命中した音も麦野の耳に届いた。
『何か』が一瞬怯んだ隙に麦野は体勢を起こし、一度後方へと下がり距離を取る。
そして麦野の目に飛び込んできたのは────。
麦野「増えた……だと……?」
番外個体「もー、なんなのこれ!」
先程の『鬼』とは少し違う、しかしやはり『鬼』と思われるものと。
そして土手っ腹に穴を開けた筈であった、『鬼』の万全なる姿がそこにはあった。
次は土曜夜に来るよ!
また次回へずつく
ピッと頬に感じた細い痛覚と、パラパラと地面に落ちるウェーブのかかった自分の髪の毛。
もし。
番外個体が気付かなければ、自分の判断が一瞬でも遅れていれば。
恐らく、命はなかったであろう。
麦野「……なんなんだよ……テメェらは!!」
よくも乙女の顔に傷を作ってくれたな、と番外個体の横に並び麦野は激を飛ばす。
戦闘体勢を再び整え、もう一度状況を確認した。
「ふしゅうううううううううううううぅぅぅぅぅ」
「ふごおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ」
やはりそこにいたのは、『鬼』。
確かに葬った筈の一体と、そして新たに出て来たもう一体の二体だ。
そしてその後方には今風な男と古風な女。
「ふむ、躱されたか」
「躱されましたね」
余裕綽々と言った様子だ。
麦野の頬に、冷や汗と付けられた刀の掠り傷の血が滲んでいた。
「『茨木童子』とやらは『酒呑童子』と少々似ておるな」
「家来だったらしいですよ。『酒呑童子』の」
「ほう」
「呼び出した側からすると、逆ですね。僕たちの関係と」
「ぬしを家来、などと思った事はないがの」
『茨木童子』
酒呑童子の家来と謡われたそれにも様々な説がある。
酒呑童子と同様、産まれながらにして歯が生え髪が生え。
そして産まれもった天賦の才に恐れをなした両親は赤子であった茨木童子をある床屋の前に捨て、そして拾われ。
幼子ながら体格や力を大人のそれを凌駕していた茨木童子だったが、疑問に思われながらも床屋の子として育った。
ある日、床屋としての仕事中につい客の顔に切り傷を作ってしまう。
指に着いた血を舐め取って綺麗にした所、血の味というももに魅了されてしまった。
それ以来、故意に傷を作っては舐め、傷を作っては舐めを繰り返している内に鬼のような形相へと変化してしまった────という、一つの説があった。
「ふごおおおおぉぉぉぉぉぉ、ふごおおおおおぉぉぉぉぉぉ……」
「ふふ、血の味が恋しいのかえ?」
番外個体「気持ちわるぅ……」
麦野「……」
血によって錆び付いた刀を懐かしむようにベロッと『鬼』は舐める。
目尻が下がり、まるで赤ん坊がなんでも口にくわえたがるそれのような。
刀身の先から鍔まで、じっくりとねぶっていた。
気持ちが悪い。
麦野とて、番外個体と気持ちは同じ。
今まで散々醜悪な輩は目にしてきたつもりではあるが、こうも胸糞が悪くなったのは実に久しぶりだ。
いつもならば、そんな気分になる前にターゲットをこの世から消し去ってきていたから。
『人間外』と言える相手は今宵が初めて。
人となりがそれの外道であったとしても、今まで敵対してきたのはやはり姿形は人間であって、このような化け物なのではない。
しかし、そうであったとしても。
レベル5としてのプライドは────負ける事を許さない。
麦野「……ケッ。バケモンが何だってんだ。こちとら第二位とかいうバケモンを知ってんだ」
番外個体「ミサカは第一位っていうチートをね」
男と女が同時に手を前に突き出す。
チャキッ────という音が鳴り、『鬼』達は刀を構えた。
そして、冬の渇いた空気に渇いた音が弾けた。
「ふごおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
「ふぐああああああああああああああああああっっ!!」
◇ ◆ ◇ ◆
街明かりが光を落とす夜の学園都市。
帰路につく学生達でごった返す第七学区の栄えた街路の一角に、一際騒がしい人集りが見えた。
大道芸人の見世物が客を引いているような、人気のストリートミュージシャンがそこでライブをしているような。
しかし、実際はそんな生暖かい視線を送るようなものではなかった。
ギャラリーの中に傷を負った者もいて。
腰を抜かして動けなくなったような者もいて。
表向きは平和な学園都市の中で、その一角は異質な空間を匂わせていた。
上条「! あそこか!?」
一方通行「えれェ騒ぎになってやがンじゃねェか!」
美琴「なにが起きてるっていうのよ!」
身体能力の高い三人がまず先に現場に到着する。
その騒然たる状況に、上条は思わず苦虫を噛んだ。
建物のガラスは割れ落ちていて、コンクリートにもヒビが入っている。
血を流して横たわる者もいて、鉄骨に足を貫かれてる者見えた。
阿鼻叫喚。
「ひぃっ……ひぃっ……!」
「いてぇよ……いてぇよお……っ!」
「足が……痛い……」
上条「……っ!」
美琴「ひどい……!」
騒ぎが起きたのは恐らく先程のあの轟音からか、それよりも少し前か。
アンチスキルや救急車もまだこの場にはいないようであった。
今、自分のやるべき事は二つある。
一つは、怪我人の介抱。
そしてもう一つは、その張本人となった者の制圧。
ジャッジメントとしての立場はどちらを優先すべき事なのか。
しかし、迷っている暇など今はどこにもない。
上条「く……! 御坂! すまん、怪我人の介抱を頼む!」
美琴「アンタはどうするのよ!?」
上条「この騒ぎを起こした奴をぶっ叩く!」
美琴「ちょっと! どういう事なのよ!?」
事情を何も知らない美琴は怪訝な顔をして上条に突っ掛かる。
当然であろう、何も話してないのだ。
この状況が事故であるのか、それとも故意に引き起こされた事件であるのかさえも知らせていないのだから。
一方通行「番外個体ォッ!! どこだァッ!!」
美琴「ああもう、わかったわよ! そのかわり、後でキチッと説明しなさいよ! あとアンタは怪我してるんでしょ! 無茶をしない事を約束しなさい!」
上条「すまん! 頼んだぞ御坂!」
上条と一方通行の切羽詰まった雰囲気を感じ取って美琴は今は余計な詮索を入れずに承諾する。
悪い! と一言付け加えて一方通行と共に特に集中する人だかりの中へと飛び込もうとするが──────
「うぅ……」
怪我を負った男子学生が肩を押さえてふらつきながら休める場所を探して歩く。
なぜか妙に嫌な予感がして、上条は思わず声を出そうとしたのだが。
「なんなんだよ……クソ痛ぇ……」
上条「お、おい! ちょっと待t──────
キュウウゥゥゥ──────
その男子学生が『そこ』に足を踏み入れた瞬間、耳鳴りのしそうな妙に甲高い音が突如場を包んだ。
「ん……? な、なんだこれ……身体があちぃ……!」
そして、黒い霧が男子学生を一瞬で包む。
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」
上条「っ!?」
一方通行「!?」
美琴「な!?」
ブシュ──────!
果物を握り潰したような音がして、そして辺りに血が飛び散った。
「うわあああああああああああああっっ!!」
「きゃあああああああああああああっっ!!」
人間が『破裂』したその現場に、更に悲鳴が飛び交う。一層騒ぎを増した騒然たる場は、もう収集が付かなくなるほど混乱を極めた。
一体、何が起こった。
まるで身体に仕込まれた爆弾が爆発したような、そんな現象に上条は一瞬気を取られていた。
美琴「な……なによ……これ……」
目の前で起きた事が信じられないといった様子で、美琴が震えた声を上げる。
生まれて此の方十数年。
しかしその年数の数倍も努力して上り詰めたレベル5の第三位という肩書にも、様々な経験というオプションも付いていた。
あの『実験』だけではない、超電磁砲組と言われた自分達が絡んだ数々の事件。
それは美琴を人間的にも成長をさせてきたのだが。
しかし、やはり一人のか弱い女の子という部分は拭い去れていない。
目の前で人が、弾け飛んで死んだ。
身体の震えが押さえきれない。
膝ががくがく笑っている。
恐怖という感情は、一人の女の子を冷たく突き放すのも躊躇いはなかったが。
上条「落ち着け、御坂────」
美琴「……っ」
ポン、と頭に暖かい感触を感じた。
隣に立ったその暖かさの元を見上げると、自分を落ち着かせてくれるような表情の彼の顔があった。
その顔に、暖かさに。
何度自分は助けられてきたのだろうか。
彼を助けたい、という思いで彼の隣に立つ覚悟をしたのに、気付けばまた助けられていて。
能力や肩書ではない、自分にない何かを彼は持っているのだ。
上条「大丈夫だ。御坂も俺が守るから」
美琴「……うん」
抽象的とも言われそうな言葉ではあるが、何よりもの力強さを感じる。
そうだ、彼と一緒ならば、同じ道を歩むつもりならば。
何だって、信じられる。
上条は美琴から離れ、男子学生を死の闇に追いやった『それ』に右手をかざす。
パキーン──────!
美琴も聞き慣れた音が木霊する。
地面に描かれた不思議な紋様────魔法陣は、水に塗り立ての絵の具で描かれた絵のように滲んで消え去った。
上条「な? 大丈夫だろ?」
美琴「……うん」
目の前で同じ惨劇を見て、正義感が人一倍強い彼とて辛いはず。
しかし気丈に振る舞って自分を元気付けようとしてくれている。
同じ気持ち、同じ時間を共有しているという事が、不思議と美琴を落ち着かせていた。
一方通行「三下」
上条「一方通行。俺はやる事ができた。多分この辺りに描かれまくったコレを消さなきゃなんねえ」
一方通行「だろォな。なら奴は俺に任せろ」
上条「一方通行、お前は『空想憑依』を剥がせるか?」
一方通行「昨日一回見て俺なりにも解析してみた。問答無用なお前の右手とは違うが、俺もできねェ事はねェ。一体一体の術式構成が違うっていう可能性も拭い去れきれねェけどな」
上条「……頼めるか?」
一方通行「じきに花子達も到着すンだろ。打ち止めもいるンだ、テメェはさっさとその危なっかしい地雷を撤去してやがれ」
上条「わかった。頼んだぞ一方通行」
一方通行「おォよ」
再び首元のチョーカーに指をかけて一方通行は飛び去る。
その刹那、一瞬だけ一方通行は美琴を見つめた。
それは、「お前も無茶はすンな」────
そう言っているような気がして。
そうだ、あの子達の姉として────無茶はしない、でも無様な姿も見せたくはない。
パン! と一度美琴は頬を叩き気合いを入れ直した。
◇ ◆ ◇ ◆
とは言え、人間外だとしてもこの世に留まっている以上、肉体を持ち化け物と言えども当然それに準ずる物質を持つ。
麦野にとって、第一位~第三位を除いてではあるがどんな相手であれ消し飛ばす事など容易い事だ。
第二位には訳のわからない膜で弾かれ、同系統である第三位には電子を逸らされ、戦闘をした事はないが第一位にはどうせベクトルを返される結果にはなるのであろう事を麦野は知っている。
彼らに麦野の能力が当たる事はないだろう。
しかしそれは、裏を返せば当たれば一たまりもない程の破壊力を秘めている事になるからであって。
逸らす方法を知らないであろう、『鬼』にもそれは当てはまる筈だ。
麦野「消えな」
拡散支援半導体を用い、収束した光の塊の光線を『鬼』へと放つ。
それで総ては終わる──────かと思われたのだが。
「ふがああああああああああああああっっ!!」
「ふしゃあああああああああああああっっ!!」
麦野「!?」
番外個体「避けた!?」
秒速約30万kmの光速とも言える、二体のターゲットに向けて放たれたその原子崩しを『鬼』共は素早く身を翻す事によって躱していた。
先程一度『鬼』が倒れ伏すのを見ていた番外個体からも驚きの声が上がった。
番外個体「! 来るよ、しずりん!」
麦野「ちぃっ!!」
そしてそのまま目にも止まらぬ速さで手にしていた刀を振り下ろすのは先程とは違う方の『鬼』。
知りはしないが歴戦の結果か、錆び付いた刀身では恐らく身を切断される所まではいかないのであろうが、当たればたちまち戦闘不能にはなってしまうのであろう。
番外個体「やらせないよ」
しかし、やはりそれは刀。
時代によって製法は異なってきているのだが、結局は鋼の内の玉鋼と呼ばれるものを使い、鉄を使い銑を使う。
鉄の収集方法については、磁石を用いて砂鉄を集めたものだ。
故に番外個体の能力の電気など、もろに影響を受ける。
「ぬがああああああ……?」
振り下ろされる途中で出鱈目な磁力を展開させ、その刀身を麦野とは逆方向へと引き寄せる。
『鬼』は、不思議そうな表情を浮かべた。
麦野「オッケー、番外個体」
そしてすかさず、一瞬動きが止まったその身体に麦野は原子崩しを撃ち込んだ。
「ふがあああああああああああああっっ!」
麦野「もう片方!」
番外個体「せいっ!」
「うがあああああああああああああっっ!」
そして残った一匹にも、刀の自由を奪い麦野が原子崩しを撃つ。
まさに一瞬であった。
「……ほう?」
「……ふむ」
息の合ったコンビプレイを傍観していた後方の二人から、感嘆の溜息が聞こえる。
先程の訳のわからない方法で蘇らせ、もう一体を召喚したのを目にしており、放っておくと何をしでかすかわからない。
麦野「色々聞きたい事あんだけど、もういいや。死ね」
番外個体「おいたが過ぎたね」
ならば術者をぶっ叩く! と麦野と番外個体は揃って能力をそちらに向けて放った。
「これは危険なのではないか?」
「ふふ、もう準備は出来ていますよ」
麦野「……ああん?」
突如、麦野と番外個体の目の前に『壁』が出来る。
放った能力が当たると、その『壁』の途中まで食い込んでいき、そして止まってしまった。
番外個体「な、なに……これ……」
麦野「ちぃっ!! 面妖な!」
妙な圧力を感じる。
『壁』の高さは麦野の身長と同程度、横幅は人七、八人分くらいか。
その『壁』には歪な曲線があり、その左方向には三本のラインが引かれていた。
そして左の先、下から順に短、長、長、短の妙な形をしていて。
これは、『壁』──────?
いや、『壁』ではない。
番外個体「し、しずりん…………これって…………」
その『壁』に見えたものの右方向へと視線を向ける。
繋がっていて上に上がっていって。
さすがの麦野も、目を疑った。
麦野「…………にん、げん……?」
番外個体「で、ででで、でかっーーーーーーー!!」
そこにいたのは屈んだ体勢の『人』の形をしたもの。
そのスケールは、立てば恐らく十階建てのビルを優に超えているだろう。
状況を理解した麦野、番外個体。
そして遠巻きのギャラリーから、一際大きな悲鳴が上がっていた。
番外個体「あ……やばいしずりん!」
麦野「げ!?」
そして、その大きさからの攻撃が来る。
そのビルのような大きさの足が、蟻を踏み潰さんと麦野と番外個体へと振り落とされた。
◇ ◆ ◇ ◆
「うわああああああああああっっ、なんだあれ!!??」
「きゃああああああああああっっ、お助けえええええええ!!」
「逃げろおおおおおおおおおっっ!!」
一方通行「……信じらンねェ光景だな、おい」
番外個体の姿を探し回っていた一方通行にも、勿論その光景は目に飛び込んでいた。
夜の街の一つ向こうの通りの方だ。
学園都市の明るいビルの光と街灯に照らされ、そのてっぺんの方まで暗くはあるがしっかりと映っている。
ビルよりもでかそうなそれは、二本足があって手があって。
まるで怪獣映画に出てくるそれのようにも見えた。
一方通行「打ち止めも喜ばねェぞ……ンなもン」
どうやら騒ぎの中心はそこ。
化け物から逃げる通行人の波が押し寄せて来る。
それとは逆に、一方通行は走り向かっていた。
一方通行「! あそこかァっ!」
その化け物の足元にいる人物、番外個体の姿を一方通行は目にした。
その瞬間、一目散に目にも止まらぬ速さで一方通行は飛び込む。
一方通行「っ!? やべェっ!!」
動けないような番外個体へと、その化け物の隕石のような足が振り落とされる。
身体に最大限のベクトル操作を入れ、一方通行は飛び込んだ。
目の前で、これ以上妹達を犠牲にさせてたまるか。
自分自身に悪意を持つそれであれ、今は大切な家族の一人。
打ち止め同様、特に大切とも思える者をあの化け物は踏み潰そうとしている。
守りたい、守りたい、守りたい!
一方通行「やらせるかあああああああァァァァッッッ!!」
番外個体「あっ!」
麦野「第一位!」
そして地球をも震わせる威力の拳を、その化け物へと振るった。
俺がジャッ痔メント!
もういいや、痔で
次は火曜日、また次回!
ドーンッッ────!!
一方通行「怪我ねェか、番外個体ォ!」
巨体という言葉ではとても言い表せない、まるで要塞のような『化け物』の身体が吹き飛ぶ。
第七学区を横切る、片側二車線の国道にその巨体が横たわった。
キキーッ! と何台かの車が急ブレーキをする音がしたが、巻き込まれた車はどうやらないらしい。
番外個体「あなた……来てくれたんだ」
一方通行「たりめェだ。原子崩し、テメェもいたのか」
麦野「……うん、助かったわ」
顔の向きはその『化け物』の方向のまま、横の番外個体と麦野に一瞬だけ視線を向けると返事が返ってくる。
その声からするに、どうやら二人とも無事なようであった。
一方通行「テメェらは下がってろ。後は俺がやる」
麦野「助けられた私が言うのもなんだけどさ、横取りする気?」
一方通行「ケッ、あれにゃあれなりの倒し方っつゥのがあンだよ」
麦野「……説明してよ。あれは何なの?」
番外個体「……」
一方通行「……ちっ、どォやらンな時間はくれなさそうだぞ」
一方通行としても最大級の威力を振るったつもりであったが、その『化け物』の耐久力は尋常ではないらしい。
ピクリ、と倒れ伏したその巨体の指先が動いていた。
「む?」
「ふむ。新たなる、能力者とやらかえ?」
「ええ、そのようですが……」
「『だいだらぼっち』がやられるのは想定外だったかの?」
「……まだやられてませんよ。しかし、あの巨体が吹き飛ぶ事については想定外でした」
『だいだらぼっち』
特に説明は必要ないのであろうが、一言で言うなればでかい。
ただただ、でかい。
これについても様々な諸説があり、書かれた文献によりその説は違う。
しかしそのどれもが、その大きさはやはり巨大で『だいだらぼっち』の足跡で出来た湖や沼、川などがあるらしく、それは今の日本各所にも形を変えて残っている。
大太郎法師と漢表記され、小さな身体で知られる一寸法師とは真逆の存在であった。
しかし『だいだらぼっち』といえば。
人の味方として語り継がれており、子供と遊んだり、工事を手伝ったりと友好的な『妖怪』であったはずなのだが。
番外個体、麦野達の前に現れたそれは、裏返された歩のようなそんな凶暴性を醸し出している。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお……」
出す声は低く、そのブーストされた重低音により足元から振動が届く。
ここら一帯の高層ビルの窓ガラスが揺れた。
こんな大きなものは今だかつて相手にした事がないし、見た事もない。
しかし、それでも一方通行の戦い方は変わらない。
打ち止め、番外個体、家族達に危害を加える可能性があるのならば、排除をするだけだ。
番外個体「第一位、どうするの?」
一方通行「番外個体。お前らが相手していたのはコイツだけか?」
番外個体「ううん、今さっき違うのと戦ってた」
一方通行「ちっ! 他にも居やがってたっつゥのか」
麦野「そっちは私達がぶっ飛ばしたけどね」
一方通行「そいつはどこにいやがる?」
番外個体「あっちだよ…………って、いない!?」
麦野「!」
番外個体の声が大きくなった。
麦野と共に吹っ飛ばし、この世から消し去ったと思われた筈の二体の『鬼』の姿がない。
どてっぱらに穴が開き、二度と動く事がないと思っていたのだが、どういう事かその場から姿を消していた。
一方通行「気をつけろ! そいつは殺しても黄泉がえってくる!」
麦野「さっきのもそうだったってのかよ……!」
番外個体「なんなの、もー!」
そういえば! と麦野と番外個体の二人は、先程一度倒した筈の『鬼』が再生し再び起き上がったのを目にしていた。
男がなにやら不可思議は方法を用いて、一瞬で復活させていたのを思い出す。
糞が、と麦野は地団駄を踏む。
少し考えればわかる事であった。
しかし、今まで相手にした事がない、目にした事がない敵と術らしきものに気を取られていた。
一方通行「とにかく俺はこのデケェのを片付ける。お前らはまたそいつが現れたらもう一回ぶっ飛ばせ。そうしたらすぐに俺に知らせろ」
麦野「……わかったわ。後で色々吐かすからね」
一方通行「いいか、危ねェと思ったら構わず逃げろ。怪我すンじゃねェぞ」
番外個体「え? ……う、うん」
いつもならば憎まれ口を叩くような一方通行が、自分を気遣うように告げた言葉に番外個体は一瞬目をぱちくりさせる。
珍しい、どうしたんだろうかと一方通行を見ると、今までに見た事がないような真剣な表情をしていた。
いや、それはあの時見せた表情に似ているのかもしれない。
ロシアで初めて会った、あの時の顔に。
その時の一方通行は、打ち止めのために奔走し死ぬほど切羽詰まっていたという。
そんな中で一方通行を殺す調整をされた自分と出会い、精神的にも更に追い詰めてしまった自分だったが。
そんな自分でも、一方通行は『守るべき妹達』の一人として決して自分を傷付けるような事はしなかった。
悪意の塊である、自分に。
それは、本当に守りたいと思っている時の顔。
心配している時の顔。
黄泉川に引き取られ、共に生活し始めてまだ日は浅いのだが、なんとなくそんな一方通行の顔がわかってきていた。
いつもならば、なにをするにも面倒臭そうにしかめっつらをしているのだが、今の表情は違う。
今この場で起きている状況は、そんなにも大変な事なのか。
と、番外個体は一方通行の真剣な表情に圧されながらも頷いた。
番外個体が頷いたのを見ると一方通行は、何十mもの高さから手を振り上げている『だいだらぼっち』の鳩尾へと一瞬で距離を詰める。
ブオオオオオンッッ────!!
「うわあああああああああっっ!?」
「きゃあああああああああっっ!!」
麦野「くっ!」
番外個体「っ!」
その大きな山とも言える高さからの威力のある攻撃は、周囲に風圧をもたらし周囲の人間達から悲鳴が上がる。
それが地面に激突し、来るであろう大型地震を思わせる地響きに備えて麦野と番外個体は身を構えていたのだが。
一方通行「おらあああああああァァァァッッ!!」
ドゴォンッッ────!!
「ふごおおおおおおおおおおおっっ!!」
それよりも先に、一方通行の拳が鳩尾にめり込む。
高層ビルでさえ、ベクトル操作でそのままごっそり動かす事も出来るその能力だ。
山が、浮いた。
一方通行「……供給される魔力の『核』となるもンがあるらしいなァ」
空中のまますかさず一方通行は胸の辺りまで移動し、その胸部をかっさばく。
ブチブチィッ! という肉と骨を割く際に感じる感触もそのままに、一方通行はその巨体の真中心へと手を伸ばした。
「むがああああああああああああああっっっ!!!」
より一層大きな叫び声が轟く。
この至近距離ではその大きすぎる声で聴覚が失われてしまう可能性も既に一方通行は考慮しており、ベクトル操作にて遮断していた。
しかしそれでも肺、臓器の動きから悲鳴を上げている事がわかる。
一方通行「ケッ、テメェのようなバケモンでも痛みは感じるンだなァ……あった」
まるで世間話でもしているかのような言葉を吐きながら、一方通行はその核を掴んだ。
未知の法則を解析し、操作する。
土御門が言うには、ただ剥がすだけでは意味がない。
供給される『核』を引っこ抜いた所で、今その身体に起こっている『空想憑依』は残ってしまうらしい。
どうすれば、と考えた。
なら『空想憑依』の『核』へと、その魔力のベクトルを戻せばどうなるのか。
一方通行「……rovushfnvoぐsこuhf────ぐ!」
ブゥゥン────
一方通行の能力と魔術が交差する。
化学反応が起きたようなそんな感覚。
一方通行の身体に、一瞬だけ黒翼が現出した。
グシャ────!!
核を握り潰し、一方通行は『だいだらぼっち』の体内から抜け出す。
全身が血で真っ赤に染まっていたのだが。
ピっ! とその付着した血を一瞬で全て飛ばす。
自身の身体に施していた反射能力が血と生臭さを弾いた。
一方通行「あァ……こりゃ確かに他の人間には出来ねェな」
『核』は、対象を選ばない。
埋め込まれた肉体を『だいだらぼっち』へと憑依させていたのだが。
それは実のところ、埋め込む必要もない。
魔力供給は身体に触れていれば作動し、変貌させる。
つまり、それを触った者は『空想憑依』させられてしまうという事であったのだ。
憑依した『化け物』を倒す作業が一つ。
供給を『核』へと、ベクトルを逆流させて憑依をストップさせる作業が一つ。
『核』を触った瞬間、自分へと襲い掛かる憑依を防ぐ作業が一つ。
『核』を壊す作業が一つ。
その四つの作業が必要になってくるのだ。
一方通行「……あァ、しンどいな。三下の右手が羨ましくなるぜ」
恐らく、この学園都市でそれが出来るのは幻想殺しを持つ上条と自分だけ。
魔術というものを知っていなければ、出来なかったであろう。
ロシアで一度、行使をした際に魔術の流れを身体で覚えていた。
「ふがああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」
一方通行「……」
『だいだらぼっち』の身体が崩れ落ちる。
空気中に溶けていくように段々とその巨体は霧となって雲散霧消していき。
そして、『だいだらぼっち』の元となる知らない人間の死体に変わっていた。
◇ ◆ ◇ ◆
初春「当麻さんっ!」
一つ向こうの大きな国道に見えた大きな巨人。
言いようのない恐怖に駆られ、初春は先に駆け出して行った上条の姿を探した。
建物は崩れ、数多くの血を流し倒れている人がいる。
彼は無事か、怪我はしていないか。
ただでさえ、怪我をしているのだ。
状況はいまだ把握出来てはいない。
ジャッジメントとしての本分は忘れてはいないが、それよりも彼の安否が気にかかっていた。
佐天「これは……ひどい……」
固法「アンチスキルと救急車は手配しておいたわ。白井さん、初春さんは怪我人の介抱を!」
黒子「ええ……しかし、上条さんとお姉様は……」
打ち止め「あの人も……」
美琴「黒子!」
黒子「お姉様!」
打ち止め「お姉様! あの人はどこ?」
初春「御坂さん! 当麻さんはっ?」
上条達と共に一足先に到着し、怪我人の介抱をしていた美琴から声が掛かると、一同は一先ず安堵の表情を見せる。
それと同時に初春と打ち止めが尋ねると、美琴は頷いて見せた。
美琴「一方通行は番外個体を探しに行ったわ。アイツはやる事があるって言ってた。とりあえず無事みたい」
初春「そうですか……よかったです」
打ち止め「そうなんだ……あの人なら、大丈夫だよねってミサカはミサカは心配だけど納得してみる」
美琴「あと皆、地面とか壁に変な模様を見つけたらそれに絶対触っちゃダメよ。見つけたら教えて」
佐天「変な模様、ですか?」
美琴「うん。黒色でぐねぐねって描かれた変な模様よ」
黒子「ええ。了解致しましたの」
美琴の言葉に一同が頷く。
状況はわからないが、美琴がそう言うのならばなにかあるのだろう。
固法「とにかく、今は皆を安全な場所へ誘導させましょう。救急車もじきに到着するわ」
黒子「ええ、了解致しましたの!」
初春「はい!」
そして風紀委員第一七七支部長の号令に全員が声を上げた。
◆ ◇ ◆ ◇
上条「一方通行、やってくれたんだな」
あれからいくつかの魔法陣を消していた上条の目に、巨人の姿が崩れ落ちそして溶けていく様が届いた。
どうやら一方通行が『空想憑依』を壊したみたいであった。
一通り、この辺り一帯の目に見える魔法陣は全て消しておいた。
しかし、目に見えない所にも施されている可能性も十二分にある。
もうすぐ神裂達も到着するらしい。
上条「……ふう」
しかし、許せない。
なにが目的なのかは知らないが、何の罪もない人々を犠牲にし、更にそれを利用している。
未来を生きる道の途中で落とし穴を仕組まれ、歩もうにも歩めなかった犠牲者達の無念さは計り知れない。
その人達にも大切に思っている人達、逆に大切に思ってくれている人達もいた筈なのに。
上条「……」
上条はその右手を、グッと握り締めていた。
◇ ◆ ◇ ◆
麦野「……」
番外個体「……」
あの『鬼』二体を待ち構えている二人に緊張感が流れる。
先程倒れ伏していた場所にその姿はなく、そしてまだ姿を現していない。
敵の正体も、どんな能力を持っているのかも掴めていない。
もしかしたら姿を消すおかしな力も有しているのかもしれない。
自分の物差しでは量れない。
後手に回ざるを得ない事が無性に腹立たしかった。
そんな中、あのバカでかい『だいだらぼっち』の身体が崩れ落ちていくのが見えた。
番外個体「ひょー。あの人やったんだね」
麦野「やっぱタダモンじゃねーな、第一位は」
番外個体「だって第一位だしね」
麦野「おーおー、嬉しそうにしちゃって」
番外個体「……ミサカ、嬉しそうにしてた?」
麦野「うん」
番外個体「なんだかなぁ……複雑な気分。あ、戻ってきた」
一方通行「あっちは終わった。そっちはまだか?」
麦野「まだね」
一方通行「そォかい」
ズドンッッ────!!
すると、そこで何かが激突をしたような音が響く。
そちらの方に目を向けると────
その『鬼』が宙を舞っていた。
番外個体「へ?」
麦野「っ!」
一方通行「あァン? あいつかァ?」
ズサーッと三人の前に吹き飛んでくる。
三人は身構え、戦闘体勢を整えるのだが。
その『鬼』は、ピクピクとするだけで動かない。
余程のダメージを与えられたみたいなのだが、一体誰が。
しかし、その胸に付けられたその拳の傷痕を麦野は知っている。
麦野「これは、まさか」
番外個体「なになに?」
一方通行「あァ?」
絹旗「あ、いましたよ!」
浜面「しかし、なんだよこりゃ……って一方通行もいるじゃねえか」
滝壺「大きなみさかもいるよ」
麦野「アンタ達……どうしてここに?」
そこには、麦野の仲間達────『アイテム』の面々の姿があった。
麦野「なんでここにいるのよ?」
つい一時間前程、麦野はその三人と食事をしていた。
いつものファミリーレストランで、和気藹々と。
自身に課せられた仕事の事は口には出さなかった。
今この場で起きた『これ』とは違うのだが、アイテムが危険に晒される可能性があるのならば、と麦野は口を閉ざしていたのに。
なのに、何故。
絹旗「しらばっくれないで下さい」
浜面「お前、さっき思い詰めた顔してたじゃねーか」
滝壺「みんな気付いてたよ。むぎのを心配してた」
麦野「……」
気付かれているとは思っていなかった。
いつも通りの振る舞い、いつも通りの顔をしていたつもりだったのに。
絹旗「麦野が超何かを隠していたのは知っていますよ」
麦野「なんで」
滝壺「わかるよ」
麦野「……」
浜面「お前が何を隠しているのかは知らねえけどさ。でも、お前が何かを思い詰めている事なんざわかるさ」
巻き込むつもりはなかった。
しかし、その決意の顔が逆にアイテムの面々にはそう伝わっていたのか、と麦野は溜息をつく。
それならば空気を読んで、大人しくしてろ、触れるな、と口に出そうとしたのだが。
浜面「麦野。前に言っただろう? 俺達は『五人』で一つなんだって、何をするにも一蓮托生だって。お前が抱えている物を周りが引き受ける、手伝う。
そう決めただろうが」
麦野「……アンタ達」
絆は揺るがない。
様々な事柄を経て固めた結束は、麦野が思っている以上に強かったようだ。
ふう、と麦野は一息つく。
もうここで隠し事をするのは無駄だと悟った。
番外個体「あ!」
麦野「ん? ……アイツ!」
するとそこで番外個体が声を上げる。
一同が番外個体に目を向け、番外個体が指を差した先へと視線を動かした。
そこにいたのは、この騒動を引き起こした男と女、そしてもう一体の『鬼』がいた。
「実験も成功したし、この場は一先ず退散させてもらうよ。」
「ふふ、ぬしらの力量には少々驚かされたが、これで終わりとは思うておるまいな?」
「次に会う時はこの学園都市が『終焉』の時」
「抵抗するのならば抵抗してみい、足掻いてみい。ぬしらの奮闘、楽しみにしているぞよ」
麦野「待てやクソ野郎共がッ!」
原子崩しを撃つ。
しかしその瞬間に姿を消し、その先の看板に穴を空けるだけであった。
番外個体「やっかいだね」
浜面「学園都市が終焉だぁ?」
滝壺「実験ってなんだろう」
絹旗「麦野、これは一体なんですか?」
麦野「私も知らないのよ、それが」
絹旗「? そうなんですか?」
麦野「さてと……じっくりと聞かせてもらおうじゃないの────第一位」
一方通行「……三下達と落ち合うかァ」
そして、事件は佳境を迎える。
練り直しだ、と一方通行一行にアイテムも加わり、一同は上条がいる場所へと向かう事にした。
皆も風邪には気をつけるんだぞ
次は土曜日、また次回へつつく!
◆ ◇ ◆ ◇
神裂「上条当麻!」
怪我人を介抱しながら辺りを見渡してた上条に、文字通り空から声がかかった。
どれくらいの高さから飛んできたのかは知らないが、身軽そうに着地をすると神裂は上条へと駆け寄った。
神裂「ご無事でしたか!」
上条「ああ、俺は大丈夫だ」
神裂「そうですか……」
先程連絡した際に電話口でも話はしたのだが、改めて上条の無事を確認すると神裂は一通りの安堵の表情を浮かべている。
しかし次の瞬間には、その表情は引き締まった。
周りの惨状は余りにも酷く、まるで戦時中であるかのような光景であった。
神裂「遠くからでもあの巨人は見えておりました。ここへ向かって来る途中で崩れ落ちていったのを見ましたが……」
上条「一方通行が片付けてくれたみたいだ」
神裂「あの方が……。本当に、只者ではないのですね」
上条「なんせ第一位だぜ?」
神裂「それもそうですね。後の魔法陣の処理は私がやります」
上条「ああ、頼んだ」
目の見えない所に仕組まれた魔法陣については、神裂の力を頼るしかない。
とりあえずは、とこの辺り一帯の魔法陣は消してはおいたのだが、あとどれくらい残っているのだろうか。
神裂は目を瞑って集中する。
神裂は鞘に収めたままの七天七刀の先でコツっ、と軽く地面を叩いた。
初春「当麻さんっ」
そんな中、背中越しに自分を呼ぶ声が掛かる。
それは、聞き慣れつつある呼び名、そう呼ぶのは彼女だけ。
不思議と自分を落ち着かせる、守りたいと思える声。
上条「おー、初春さん」
クルッと振り向く。
この騒動の中で彼女が無事だった事に安心する。
その声色から察するに、恐らく胸に飛び込んで来そうな気がするが、構わない、寧ろ抱きしめたい。
この抱きしめたくなる衝動に駆られるのはそう、彼女に対してだけであろう。
初春「当麻さん!」ギュ
美琴・黒子「……」ピキピキ
打ち止め・番外個体・佐天・絹旗「」ニヤニヤ
浜面・麦野・滝壺・固法「」ホウ
上条「……ってええっ!? なんか多い!」
一方通行「わりィ、増えた」
そこにいた人影の数に驚く上条に一方通行が平謝りをする。
しかし初春を抱きしめる事をやめようとはしなかった上条であった。
◇ ◆ ◇ ◆
風紀委員第一七七支部室。
風紀委員試験をクリアし、認定証を与えられた限られた者にしか入室出来ないこの部屋であるのだが。
そこには、いまだかつてない大人数の人影があった。
風紀委員組──固法、黒子、初春、上条。
超電磁砲組──佐天、美琴。
黄泉川家組──黄泉川、一方通行、打ち止め、番外個体、芳川。
アイテム組──麦野、絹旗、滝壺、浜面。
魔術組──インデックス、神裂、五和、オルソラ。
計19人もの大所帯がひしめき合う。
ある意味壮観であるのかもしれない。
それもそうだ、この中に230万人の中で7人しかいないレベル5の内の3人が揃い、また世界で20人もいないとされる聖人もいる。
とんでもない実力者達が揃い踏みし、またとんでもない物を秘めている者達が一同に集結してるのだ。
ただ、友好的な関係でない者達もいるというのがネックではある。
美琴「で。……なんで原子崩しがここにいるのよ」
麦野「あぁ? こっちの台詞だ糞売女。テメェの方こそこんな遅くの時間までお外で何やってたんだっつーの。愉快に男共にケツでも振ってやがったのかにゃーん?」
美琴「お生憎様、アンタみたいなオバサンみたいに易々と身体売る馬鹿じゃないわよ」
麦野「おーおー、お股に毛も生えてねえようなクソガキが強がっちゃって。まあテメェみてえな乳臭えガキにゃ誰も見向きもしねえか。あ、一部の趣味の奴らには需要あるのかもしれねえがな、ぎゃはっ」
美琴「男を椅子代わりにしているアンタの趣味の方がよっぽど敬遠されるんじゃないかしらねえ……」
絹旗「浜面、超不憫ですね」チョウカワイソー
浜面「そう思ってくれるんならお前もどいてくれよ!!」
滝壺「大丈夫、私はそんな特殊プレイも甘んじて受け入れるはまづらを応援してる」
浜面「そんな所を応援しないでくれ滝壺おおぉぉ!!」
打ち止め「お馬さんぱっかぱっかだねってミサカはミサカはちょっといいなあって思ってみたり!」アナタモアナタモ
一方通行「思っちゃいけませン興味示しちゃいけませン。っていうかテメェら、打ち止めの教育にわりィ。出てけ」
番外個体「しずりん平常運行ー!」
黄泉川「はいはいそこのお二人さん、やめるじゃん」
芳川「若いっていいわね」
佐天「あの綺麗なお姉さんこわいね……」
黒子「」ポカー
上条「浜面……お前……」
浜面「上条! もっと広い部屋なかったのかよ!?」
上条「ない」キッパリ
初春「私は……当麻さんとくっついていられるなら……ゴニョゴニョ」カアア
神裂「……」
五和「……」
オルソラ「……」
インデックス「とおおぉぉぉぉまああああぁぁぁぁ?」
上条「なんでお前は臨戦体勢なんだよ」
もっとも、各所で同時に話し声、叫び声がこれ以上に上がっているのだがさすがに全ては拾いきれない。
ぎゃーぎゃー騒ぐ係ともっとやれと煽る係、咎めて落ち着かせる係と傍観係、また別のものに集中する係が出来てしまうのはこの大人数の関係上仕方のない事。
この集団をまとめるには相当の労力が必要なのだろう。
しかし。
バゴン────!!
「「「「 !! 」」」」ビク
一方通行「テメェら……話が進まねェだろォがァ……!」ギロ
痺れを切らしたか、一方通行が長机を叩き割る。
その赤い目はいつもより鋭い眼光を発し、常に不機嫌な様子の彼の表情は更に不愉快だと言わんばかりに歪んでいた。
線の細い身体付きではあるのだが、まがりなりにも一方通行はやはり学園都市の第一位だ。
第三位と第二位の間にはとてつもない差が広がっていて、美琴や麦野では逆立ちをしても勝てない存在であり。
未元物質という異質な能力でさえも解析し、退けてしまった実力は揺るがない。
そんな彼のその迫力の前に、誰もが押し黙ってしまった。
美琴「……」
麦野「……」
一方通行「……チッ」
神裂「で、では……落ち着いたみたいですし、説明して参りましょうか」
一方通行「とっとと始めろ」
上条「一方通行。それ後で弁償な」
一方通行「あァ!?」
しかし己を負かした無能力者に茶々を入れられるというのも、それが一方通行という男なのだろう。
麦野「魔術に、妖怪だぁ?」
絹旗「にわかには信じられないですね……」
美琴「なによそれ……」
黒子「人の噂話だけの世界のものではなかったのですね……」
神裂がホワイトボードを使用し、なされた様々な説明に対する反応はやはり昨日に黄泉川が見せたそれと同じであった。
この学園都市では『科学が全てを証明する』という観念を基に教育がなされ、それを受けてきた学生達も教養の根の部分でその考え方や心象は張り巡らされている。
それは各宗教が信仰する神の偶像支配にも似ているのかもしれない。
熱心な宗教家が言う『神が全てだ』という考え方と、学園都市と熱心な勉強家がそのまま『科学が全てだ』という考え方は違っているようで似通っている。
特に幼い頃から能力と向き合ってきた者、努力の末レベル5まで上り詰めた者、能力の発現を夢見る者達にとっては眉唾物の話。
叩き込まれた量子力学の計算法を根本から覆すような話であるのだ。
インデックス「異世界の法則を無理矢理引き出すものだから、この街の能力者達はびっくりしちゃうものなのかも。
逆に能力というのを初めて見たとき私も信じられなかったけど」
麦野「異世界って……」
一方通行・打ち止め・番外個体(胃世界?)
固法「よくテレビでマジックものを見るんだけど、あれもそうなの?」
インデックス「あれはなんかのトリックが多いんだよ。キチンとした術式とか道具が必要だから」
佐天「なんか騙された気分……」
インデックス「私はあんまりそういうの見た事ないけど、もしかしたら本当は使ってる可能性も捨てきれないかもだけどね」
神裂「魔術に関しての知識、技術が必要ですからね。また都合上秘匿とされているので、公の場でおおっぴらに行使することはなかなかありませんが、どうなのでしょうね」
初春「……」
上条「……?」
そんな話を聞いている中、袖が引っ張られるような感覚を覚えて上条はそちらの方に視線を向ける。
自分の肩程の高さの不安げな目がこちらを見ていた。
上条「どうしたんだ?」
初春「……当麻さんも、関わってたんですね。魔術の事とか、私の知らない世界に……」
上条「……そうだな」
以前に初春と夕食を一緒にした時を上条はふと思い出す。
注文した料理を待っている間の会話の種に、インデックスの事について聞かれた時だ。
その時の上条といえば、魔術の世界と関わる事の危険性がある為にはぐらかしていた。
それは、一重に初春の身を案じる為。
大切に思っている者が傷付けられ、危ない目に合うとてつもない焦燥感は味わいたくはなかった。
あの初春が攫われた時、上条の心は抉られていた。
胸が痛かった。
だからこそ、初春には真実を伝えてはいなかったのだ。
それなのに、どうして。
初春「……」
上条「……っ」
初春の悲しそうな目が、こんなにも辛く感じてしまうのだろうか。
右腕の袖を掴む手を、そのまま右手でギュッと握り締めて指を絡める。
初春「ぁ……」
この小さな手が、とても大切だ。
自分を見る目が、とても大切だ。
前にも「危ない事もあるから」と彼女を敬遠させるように言ったのだが、彼女は知ってしまった。
それだったら、まるごと守ってしまえばいい。
この神の祝福でさえも消してしまう右手で、彼女に躙り寄る悪意を消し去ってしまえばいい。
自分にできる事だったら、いや出来なくともなんだってやってやる。
やってみせる。
自分を好きだと言ってくれた彼女を、守り切ってみせる。
上条「危ない事があるからさ、前には言わなかったけど。こういう世界なんだ、魔術ってのは」
初春「……」
上条「だからさ、言わなかったんだ。初春さんに危ない目に合ってほしくないんだ」
初春「……でも、私は」
上条「……」
初春「私は……傍に、いたいです……!」
上条「……ああ。だから、決めた。初春さんを守るって、傍にいるって」
初春「……っ!」
上条「俺も、その……大切だからさ。だから、初春さんには笑っていてほしいんだ」
初春「当麻さん……」
初春が上条の胸に飛び込んで来る。
その胸の中に収まる小さな身体が、どうしようもなく大切だ。
こんな気持ちになったのは恐らく生まれて初めての事だろう。
記憶があるなし関係なく、こんなにも思える人が出来た。
初春が自分を見上げる。
潤んだ瞳、可憐な唇。
そのどれもが大切だって胸を張って言える。
すっと、その目が閉じ────。
佐天「ほう」ニヤニヤニヤニヤ
一方通行「三下ァ、ここがどこかって忘れてねェかァ?」ニヤニヤニヤニヤ
番外個体「うは~」ニヤニヤニヤニヤ
打ち止め「いっちゃえいっちゃえってミサカはミサカはドキドキしながら見てみたり!」ニヤニヤニヤニヤ
絹旗「超乙女じゃないですか、もう!」ニヤニヤニヤニヤ
麦野「……」ドキドキ
黄泉川・芳川・固法「」ニヤニヤ
浜面「滝壺……」
滝壺「浜面……」
美琴・黒子・インデックス「ふんにゅ────────っっ!!」ガクガク
神裂・五和「むがああああああああああっっ!!」ガタガタ
オルソラ「落ち着くのでございますよ~」ガタガタ
上条「あ」
初春「!///」ポンッ
どうやらこの二人には少し周りの目を見るという事が覚える必要がありそうだ。
ちなみに、これでまだ恋人同士という間柄ではなかったりする。
>>289
姉ちゃんとはまああれだ、いつも通りだよさっきも一緒に飯食ってきた
あれから結構経ってるしな、やっちまった時は焦りに焦りまくってもうダメかと思ったわwwwwww
次は火曜日だな、また次回!
乙
>>1なんか他にも書いてた?
すまん
今必死に書き溜めてるんだが、ちょっと今日中に投下は無理そう…
明日の夜に投下します!
>>307
上条「身体が……熱い……」
美琴「……それでさ。これからどうするの?」
上条「この『黄泉がえり』と『空想憑依』の被害者をこれ以上出さない為にも、手っ取り早くその魔術師をぶっ叩くしかない」
神裂「既に『空想憑依』させられた妖にはそれを解除する術式をしなければなりませんが」
一方通行「それができるのはっつゥと。魔術師であるそこの二人と幻想殺しの三下、そして俺か」
番外個体「シスターさんはできないの?」
インデックス「私は魔力を持ってないから出来ないんだよ。『空想憑依』を魔術的に解除するのならそれもまた術式が必要かも」
絹旗「色々と大変なんですね、魔術っていうのも」
インデックス「元々は才能のない者の為に開発されたものだからね。魔力を精製したり草木とか空気、地脈に力を借りるにはそれなりの手順が要るんだよ」
佐天「才能のない者の為に、ですかー……」
黒子「佐天さん、変な事考えていらっしゃいませんこと?」
神裂「ちなみに能力開発を受けている学生が行使しようとすると、魔力精製の段階で能力と魔力が体内で反発しあって死んでしまいますよ」
佐天「え゛」
インデックス「こっちの言い方で言う化学反応? みたいなものかも。身体の中で爆弾が爆発しちゃう感じみたいなんだよ。ポンってなっちゃうんだよ、ポンって」
初春「ぽ、ぽん……」
上条(土御門おおおぉぉっぉぉぉ!! お前そんな無理してたのかよ!!)
麦野「まあ要するに学園都市の開発を受けた人間は使えねーって事か」
浜面「おい、なんか話が脱線してないか?」
滝壺「大丈夫、軌道を戻そうとしているけど結局修正できなさそうなはまづらを私は応援してる」
浜面「……」
番外個体「さりげなく毒吐いたねこの不思議ちゃん」
とまあ紆余曲折しながらもこれから各々すべき事が纏まる。
とはいえアイテムの面々にとっては直接的な被害も関わりもなく、触らぬ神に祟りなしと無視貫徹を貫いている筈であったのだが。
事実、アイテムの行動方針として麦野の気分次第による所が大きい。
暗部だった頃、仕事が断れないのは仕方がなかったが仕事をこなす際、全て麦野の指示でアイテムは動いていた。
気分がいい時はサラっと、悪い時は八つ当たりするかのように残忍と。
面倒な事は嫌いで、基本的には表の人間達と関わりを持つ事は殆どなかった。
あったとしてもそのアイテムの面々の容姿に釣られた欲求不満の男達だらけで、友達というものは一切いなかった。
しかし、ロシアから日本に戻って暗部が解体され。
暇を持て余していた所に番外個体と会い、打ち止めに会った。
あの憎たらしい第三位のDNAを受け継いでいるとはいえ、可愛い物を愛でる趣味は麦野の琴線に触れ。
いつしか、楽しい──という感覚を覚えるようになっていた。
クローンという存在は暗部に属するものであるのかもしれないが、その枠を超えてできたアイテム以外での初めての「友達」。
あのロシアでの一件が自分を変えたのかもしれない。
あの底辺の男の存在が自分を変えたのかもしれない。
浜面「……ん? なんだよ、麦野」
麦野「なんでもないわよ」
番外個体「やーん、しずりんが馬に変な顔で見られてるよ」
打ち止め「ひひーんって鳴いてみてよってミサカはミサカは期待して見てみたり!」
一方通行「……」プルプル
浜面「先に見てきたのは麦野の方だしなんでこの二人も俺に毒吐いてんの!? っつーか一方通行、テメェ笑ってんじゃねーよ!!」
美琴「なんで妹達が原子崩しと仲いいのよ……なによ、しずりんって」
上条「ま、いい事じゃねーか」
そんな和気藹々とした空気に美琴が少々複雑な顔をして見ている。
妹達の交遊関係は案外広いのかも知れない。
以前、番外個体に言われた「お姉様は何も知らないんだね」という言葉がやけに気にかかっていた。
そんな中、一つの携帯電話の着信を告げる音が鳴る。
それに気付いた上条が自分のポケットから取り出し、画面を確認すると。
着信:土御門
と表示されていた。
上条「もしもし、土御門か?」
土御門『お、カミやん無事だったか?』
一方通行「……」
神裂「……」
第一七七支部の外の少し肌寒い廊下で上条の声が響く。
支部の中の騒がしさとは違い、この閑散とした廊下は吐息の音も聞こえる程の静けさであった。
支部の中の声も鉄製のドアと防音性の含まれる壁にて全て遮断されており、その厳重さに改めて忘れてしまいがちな風紀委員という厳格さを匂わせている。
もっとも、その素材も上条の傍で聞き耳を立てているこの二人には全く意味のないものではあるのだが。
そんな事を思いながら上条は話を続けた。
上条「ああ、こっちは無事だ」
土御門『そうかい、それはよかったんだぜい。すまん、大変だったんだにゃー?』
上条「そうだな。今はもう落ち着いてアンチスキルが対応してくれてる。それで俺達は今はジャッジメントの支部室に集まってるんだが」
土御門『俺達? 他に誰かいるのか?』
上条「俺達と神裂達に御坂、一方通行達にアイテムだ」
土御門『んあ? アイテム?』
上条「ああ。たまたま居合わせていたらしい」
土御門『そうか……ちょうどいいかもだにゃー』
上条「ん? どういう事だ?」
一方通行「三下、ちょっと貸せ」
上条「あ、ああ……」
ふとそこで一方通行が上条の携帯を奪い取るようにして耳に電話を当てる。
そのいかにも不機嫌ですオーラを感じ取ったか、上条はされるがままになっていた。
一方通行「よう、土御門くゥン?」
土御門『げ……一方通行……』
一方通行「テメェ……今までどこで何してやがったンだァ?」
土御門『ま、まあ色々だにゃー』
一方通行「色々だにゃァ、じゃねェぞクソが! こっちで何があったかテメェは把握してンだろ!?」
神裂「お、落ち着いて下さい……」
土御門『んー、まあその事も含めてそっちで直接説明するんだにゃー。今そっちにゃ全員集まってるのか?』
一方通行「チッ。なら納得いく弁明をさせてやろォじゃねェか。ああ、集まってンよ」
土御門『了解だにゃー。すぐ到着する』pi
一方通行「あァ? ……チッ、切りやがった」pi ホラヨ
上条「土御門、こっちに来るのか?」ホイ
一方通行「らしィぜ」
神裂「そうですか。では待ってればよろしいのですね」
その説明とやらが納得いかなかった日にゃどうなるかわかンだろォなと言いたげな一方通行に二人は少々心配しながら再び入室する。
そして第一七七支部に来客を告げるベルが鳴ったのは、10分後の事であった。
◇ ◆ ◇ ◆
上条「ふぅ……ったく土御門の奴め」
第一七七支部の鍵を閉めながら溜息を吐くようにして上条は呟く。
先程到着した土御門は、サラっと状況と対策を説明して早々と切り上げ、(一方通行から逃げるような形で)そそくさと第一七七支部を後にしていた。
魔術結社と学園都市をまたぐ二重スパイは流石か、口達者にあの学園都市の名だたる能力者達をうまくかわしていた。
作戦とはいっても、以前に立てたそれと基本方針は変わらない。
それに超電磁砲組、アイテムの面々が加わったという事だけが追加条項であった。
それに強力な助っ人というのも出来たらしい。
出来れば、と初春達には参加しないでほしかったのだが。
初春「当麻さんっ」
上条「あれ。先に外に出てったんじゃなかったのか?」
初春「い、いえ……」
上条「?」
初春「ぇう……そ、その……。傍に、いたいなって……」
上条「……」
もじもじと上条の顔色を伺うようにして初春は見上げる。
彼女も、不安なのだろう。
あまりにも現実離れした光景や話、状況に振り回されたのだから。
そしてそれはまだ終わってはおらず、これから更なる局面を迎える。
あんなのを見せ付けられたら、不安にならない筈がないのだろう。
上条「ん。一緒に帰るか」
初春「は、はいっ!」
ならば、守ってやればいい。
それだけだった。
◇ ◆ ◇ ◆
初春「私にも、何か出来る事はないかな……」
時刻は午後の10時を回った所。
夕食を摂り、入浴も済ませて後は就寝をするだけだ。
しかし、時刻も時刻でまだ眠気は来ない。
いや、今学園都市に起こっている事を聞かされて眠ってもいられない気分だった。
自分は、戦う事は出来ない。
この能力も定温保存という何に使うのかわからないようなもの。
自分の身を守る事すらままならないのだ、誰かの為に────彼の為に戦う力など、自分は有していないのだ。
初春「……」
魔術の事を聞いた。
直接的には聞いてはいないのだが、彼は戦ってきたのだろう。
それもその身一つで、身を削って。
自分と歳など大して変わりやしない。
多感な時期の一年は大きいとは言うが、それもきっとすぐに今の彼の年齢に自分もなる。
彼と出会って、彼を好きになってから一日一日が短く感じるようになった。
彼と一緒にいる時の時間の流れは、やたらと早いような気がして。
彼と一緒にいられない時間は、物凄い長い。
彼と一緒にいられる時間は、物凄い短い。
だからこそ、大切にしたい。
初春「当麻さん……」
ポチッと携帯電話のデータフォルダに指を落とす。
頼み込んで一緒に撮ってもらった何枚かの写真は、初春にとっての宝物だ。
好きで、好きで、好きで仕方がなくて。
助けられてばっかで、助けになりたくて。
でも危ないからと、彼は自分の身を案じてくれていた。
嬉しさを感じると共に、一緒に戦えない寂しさも胸に去来する。
一緒に、戦いたい。
もう一度、想いをキチンと伝えたい。
初春「よしっ」
頬をパチンと叩いてパソコンのモニターに向かう。
自分に出来る事と言えば、情報収集、情報操作、伝達。
これくらいのものなのかもしれない。
でも、少しでも助けになれば──────
初春「あれ……?」
そこでなんだかいつもと違う画面に気付く。
そんなウインドウは開いてないし、壁紙にもした事もない。
そこには丸い円形があった。
複雑な紋様があった。
英字があった。
『変な模様があったら、気をつけて────』
初春「…………っ!!」
バチン────っ!!
何かの音が、その部屋に響き渡った。
年末年始はちょっと忙しいかもだから投下遅れるかも。ただ書き上がったらすぐに来るぜ!
また次回!よいお年をー
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……
明日夜投下しますー
インデックス「とうま、おやすみなんだよ!」
神裂「しっかり休息は取るのですよ。おやすみなさい」
上条「おう。おやすみ」
夜も更けり、草木も眠る時刻。
聖職者として真っ当な生活を送る彼女達は、時差があるこの地でも変わらない。
それに巻き込まれるような形で上条も付き合わされ、まだ瞼が落ちない内に寝室としている浴槽の中へと入っていった。
眠たくない。
当然だ、時刻もまだ10時半にもならない。
毛布を被り、横になって天井を見上げる。
今この学園都市で起きつつある問題は、このままいけば肥大化していく。
それを防ぐ術も力も、この男──上条当麻は有しているのだが。
初春『傍に、居たいです────』
協力すると言った、彼女達──彼女は、もっていない。
何らかの形で彼女に被害が降り懸かれば。
上条はそこで首を振った。
考えたくない、守ると決めた存在だ。
大切な存在だ。
そうしている内に、疲れもあってか自然に瞼が落ちていった。
佐天「初春、遅いなあ……」
柵川中学校のある教室で喧騒溢れる中、佐天は時計と初春の机を見ていた。
もうすぐに始業チャイムが鳴り、担任教師も朝の挨拶に訪れる頃。
ジャッジメントとしてもあるのだろう、模範的な生活を送っている彼女ならばいつもなら既に教室にいるはず。
それが時計の長針が規定時刻まであと1cmというところまで来ても、一向に親友が姿を現す気配はなかった。
佐天「緊急のジャッジメントの仕事が入っちゃったのかな?」
むー、と考え込む素振りを見せる佐天。
極偶にそういう事もあるのだが、それは一学期に一回ないし二回ほど。
遊撃能力はなくとも、情報処理能力がずば抜き過ぎている彼女の力を頼る他の風紀委員支部もあり、それに呼ばれる事も何回かあった。
今回もそれならばいいのだが、と佐天は考える。
昨日、目の前で起きた事件は衝撃的であった。
学園都市で色々な事件と遭遇してきた佐天でもあれほどの事態を見た事もない。
クラス内でもその話題でもちきりになっており、『巨人が現れた!』と男子ははしゃいでいたのだが。
現場に居合わせた者としては、どうにもそんな気にはなれまい。
キーンコーンカーンコーン────
「よし席に着けー」
結局、時間になっても初春は現れず。
佐天はメール画面を開く事にした。
上条「え?」
昼休み。
とある高校の中庭で一つの聞き返すような声が響いた。
携帯電話を耳に当てている彼の、その表情は冴えない。
上条「初春さんが、来てない?」
佐天『そうなんです……心配になってメールや電話をしても返事がなくて……。上条さんの方には連絡来てたりしてますか?』
上条「いや……来てない」
佐天『そうですか……わかりました。あ、初春から連絡来たら上条さんにも電話するようにって言っておきますね』
上条「わかった。ありがとな」pi
電話を切ると、すぐさま初春の方へかけ直す。
昨日のあれだけの事が起きた矢先だ、まさかという嫌な予感が迸る。
出てくれ、出てくれ、出てくれ────。
1コール、2コールと電子音が耳に届くにつれ、段々とその表情も険しくなる。
trrrrrrrrr──trrrrrっ……────
上条「! 初春さ────」
『留守番電話サービスに接続します』
祈りにも似たその心の中の声に、無情にも無機質な録音の声が返ってきただけであった。
キーンコーンカーンコーン────
午後の授業が始まる五分前の予鈴が響き渡る。
何度も、何度もかけ直してもやはり反応はない。
何かが彼女の身に起きた────
上条「……っ!」
頭に過ぎったその予感は、上条を動かすには十分だった。
携帯をポケットにつっこみ、上条は走り出す。
小萌「あーっ、上条ちゃんこんな所にいたのですか! もう授業始まるので教室戻るのですよ。全くもぅ、ご飯一緒に食べようと思っt
上条「すんません、早退します!」
小萌「え? え?」
尊敬すべき担任のロリ教師が視界に入ってきた気がしただけで確認もせず、それだけ言って上条は校門へと向かう。
小萌に届いたのはその声と一陣の風だけであった。
◇ ◆ ◇ ◆
「ふむ」
「相変わらず不思議なものじゃの、カガクとやらは」
カーテンも閉めきった薄暗い部屋の中、薄型の電子機器を操作しながら一人の男が納得したような声を上げる。
電子パッドの照明で見えるその表情はどこか楽しそうにも見えた。
同室にいた一人の女がそれが何をしているのかまるでわからないと声に出すと、男は微笑んで見せる。
「もうどの者にも簡単に扱えるものですよ。この街だけではない、世界中の先進国であるならば」
「ふーん。して、それで何がわかるのかえ?」
「この街の電力の流れ、物流、生産、移り変わり────全てのものがわかりますよ」
「呪術の類いではあるまいな?」
「はは。この街が造り出したものなので、世間一般に浸透している科学ってやつですよ」
男が口にする話の内容もよくわからないか、女は話半分にとりあえず相槌を打っているようだ。
男も当然それに気付いていて、女がさほど興味を示していないものに対しては深く言及したりしない。
長年付き添ってきた間柄のような、そんな雰囲気も醸し出している。
いまだ、『黄泉返って』きて数日だというのに。
「では、そろそろ最後の手段と行きましょうかね」
「準備は整ったのかえ?」
「ぬかりなく。昨晩の釣りも上々なようでした」
「ほう。では行く末を楽しませてもらおうかの」
男は電子パッドに最後の信号を送信すると、それを窓の外に放り投げる。
十階建ての廃ビルの最上階から放り投げられたそれの顛末などどうでもよい、といった雰囲気だ。
男達が使役している妖怪達とて、同じ事。
使い捨てモノの成れの果てなど、知ったこっちゃない。
味がなくなったガムをとっととクズ箱に捨てると同等の事であった。
◇ ◆ ◇ ◆
上条「初春さんっ、いるか!?」
ある部屋の一室の扉を叩く。
一度だけ来た事があるその部屋を上条は鮮明に覚えていて、ここに来るまで迷いはなかった。
時刻も午後の授業真っ最中なのだろう、その寮としている建物内には人一人としていない。
しかし、いないはずのこの建物にこそいてほしい彼女の姿を思い浮かべ、上条は呼び掛けた。
しかし、返事はない。
上条「どこ行っちまったんだ……」
彼女が通う学校にも連絡はなかったらしい。
素行のよい彼女ならば、休む際には当然連絡は入れるはずであり。
それが今回は、ない。
ましてや昨日あんな事があったのだ、上条の心を揺さぶるには十分だ。
上条「……仕事場、か?」
寮にはいない。
彼女がいそうな場所といっても、ここか第一七七支部室かくらいしか心当たりは上条にはない。
しかし足踏みをしている予断など一瞬たりとも許されない。
鍵が閉められた扉に向かって数回呼び掛けた後、上条は次に第一七七支部室へ向かおうと一歩踏み出すと。
prrrrrrrr──────
上条「!! もしもし、初春さんか!?」
まさに一瞬という動きでポケットに突っ込んだ携帯を取り出すとディスプレイをろくに確認もせずに応対する。
『落ち着いて下さいな、上条さん』
しかし聞こえてきた声は、彼女のものではなかった。
上条「……白井か」
黒子『話は佐天さんから窺いましたわ。上条さんは今どちらに?』
上条「ああ……今、初春さんの寮の部屋の前だ。ここにもいないみたいだが」
黒子『そうですか……今、わたくしは支部室にいるのですが、ここにも初春の姿はありませんの……』
上条「支部室にも……いない?」
黒子『ええ……わたくしも先程から何度も電話をしているのですが、出ませんでしたわ』
上条「そう、か……」
胸の動悸がやけに強く感じる。
血の気が冷めるように、手足の感覚もなくなっていくような感覚に陥りそうになりながら、上条はやっとの思いで返事を声に出した。
電話口の向こうの黒子の心配そうな声色も不安を加速させていく。
黒子『とりあえず、一旦落ち合いましょう。空間移動でそちらに向かいますの』
上条「……わかった」
それだけを言うと、上条は背中を預けるように扉にもたれ掛かる。
冬だと言うのに、額には冷や汗が滲んでいる。
『当麻さんっ』
『えへへ』
『その、あの……あぅ……///』
こんなにも胸が苦しい『会いたい』という気持ちになったのは。
記憶がなくとも、生まれて初めての事であったのだろう。
少し時間が空いてしまって申し訳ないす
カイチュー!とまがつきおもすれー
次は火曜日に来ます!
インフルエンザでダウン……
頭回んなくて書けなかった
ごめん、投下は土曜日までにするよ!
書けたらなるべく早く、最低でも土曜日更新します!
◆ ◇ ◆ ◇
─風紀委員第一七七支部─
重い空気が漂う。
第一七七支部に移動した上条、黒子、佐天に、連絡を受け駆け付けた美琴と固法を加えた面子が顔を合わせていた。
あれから少し時間が経つも、初春からとの連絡はいまだつかない。
時刻も放課後を迎える頃になる、冬の陽もそろそろ暮れ出すのであろう。
窓から差し込める少し赤みがかった光が、余計に憂いを秘めさせていた。
佐天「どこ行っちゃったの……初春……」
黒子「……やはり繋がりませんの」
固法「この支部にも来た形跡はないわね……」
揃って初春への心配を募らせる。
基本的にはしっかりした初春だ、今まで連絡もなしに無断欠席や無断欠勤をした事など一度もない。
それは友達同士とのやり取りでもそうだ。
電話をかけた時は、その時は出れなくとも必ずかけ直してくるし、約束を破った事もない。
そんな彼女だから、音沙汰がないという事は何かがあったという事を連想させてしまう。
美琴「……ねえ」
上条「……」
美琴「ねえ」
上条「……」
美琴「ねえって」
上条「……あ? ああ。なんだ?」
声をかけても反応はなく、袖を引っ張った事でようやく上条が声をかけられていた事に気付く。
いつもの道端で声をかける時のスルーがどうのこうのではない。
状況が状況だけに、上条がどれだけ深く考え事をしているのかはわかった。
それは当然美琴自身にも当てはまっている事ではある。
美琴「アンタは、これからどうするつもりなの?」
上条「どうするって、探すに決まってんだろ」
美琴「そうじゃなくて。それも勿論だけど、アテはあるの?」
固法「……そうね。闇雲にくまなく探すよりか、初春さんが行きそうな所を考えながら行動した方がいいわ」
上条「……」
美琴や固法の言い分は当然わかる。
効率の問題として、十分な考慮が必要な時だってある。
効率=早さとして、早期の発見は安全の向上にも繋がる。
それは上条としても十分認識してはいる。
してはいるのだが。
この身体が。
足が、右手が、全身が納得していない。
上条「すんません。やっぱり俺はどうしても頭よりも先に身体を動かさないと気が済まないタイプみたいっす」
固法「上条くん?」
上条「そっちの方は固法先輩お願いします。俺は外行ってきます。何かあったら連絡します!」
美琴「ちょ……ちょっと!」
それだけ言うと、上条は風になって走り去っていく。
目にも止まらぬ速さは誰にも止められはしまい。
美琴「……ったく。まあそっちの方がアイツらしいけど、さ」
美琴の呟きは、彼を知るもの全員の彼へのイメージを代弁するものであった。
◇ ◆ ◇ ◆
暗い暗い場所にいる。
深海に沈んだような浮遊感も感じる。
目を開けど、視点を動かせど、何処にも光はない。
耳に届く音もない。
静寂が逆に耳をつんざく、そんな感じ。
今、自分が何処にいて何をしているのかもよくわからない。
ただその浮遊感に任せて、事が起きるのを待つだけ。
何が起きるのかはわからないが、何かは起こる。
それは確信していた。
纏わり付くは死の気配。
鼻腔をつくは死の匂い。
(私、死んじゃったのかな……)
瞼を閉じても変わらない視界の中で、ただ愛する彼の事だけが頭に浮かんでいた。
◆ ◇ ◆ ◇
上条「……わかった、さんきゅ」
人通りの多い第七学区の繁華街をくまなく探しながら上条は電話をポケットにしまう。
電話先の白髪の友人にも協力を仰ぎながらもう一度走り回る。
とは言えその友人にも抱える者達がおり、そちらを最優先するのはいたしかたない事であろう。
寒い時期だというのに滴る汗を袖で拭いながら上条は走る。
とにかく彼女の無事を祈り、走る。
無神論者である彼でも縋り付きたい程の心境だ。
あらゆる危険から難を逃れてきたこの右手を斬り飛ばして彼女が救えるというのなら、迷わず上条はそうする。
それほどの焦燥感を、上条はただただ感じていた。
上条「……」
電話を再度操作し、今彼女との連絡が取れる唯一の手段を手繰る。
しかし、やはり反応はなかった。
◇ ◆ ◇ ◆
「さて」
「うむ」
科学の最先端をゆく学園都市には珍しい、薄汚い廃ビルの屋上にて男と女は立っていた。
いや、そこにいるのは男と女だけではない。
「……」
「……」
「……」
「……」
数十にも上る──いや、百は超えているのかもしれない。
男と女の傍らには、物一つ言わない人間達の姿があった。
学生らしき者や、中年らしき者。
研究者らしき者や、教師らしき者。
屈強そうに見える男や、制服を着たか弱き少女も。
まるで共通点がなさそうな集まりだが、一つだけ共通点がある。
そのどれもが、生気を漂わせていない。
無機質で、目に光がない。
見た目だけ精巧に作られたロボットのような気さえ感じさせる。
これだけの人数が集まっているというのに、誰もいないかのようだ。
そんな静けさには誰もが戦慄を覚えるのだろう。
しかし男と女は意に介さず、着々と何らかの作業を進める。
「では始めましょうか」
「ふふ。どうなるかの」
「終わりが始まるのですよ」
「楽しみじゃ」
男は口角を吊り上げると、手にしていた白い和紙を離した。
和紙がひとりでに燃え上がり、煙になって空へと消えていく。
「終焉をプレゼントしよう!」
その男の声が合図となり、その場にいた人間達は一斉に動き出した。
入院してたぜもう大丈夫だけど
遅くなってごめんなさい
おやすみなさい(´;ω;`)
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